「電撃hp32」覆面作家企画「Who wrote it ?」より
まじょるか。
その朝、待っていたのは最悪の目覚め……。
朝起きると隣《となり》にでっかい芋虫《いもむし》がいた。
――あぁ、なんかこんな小説あったなぁ。でもあれは確か、自分が芋虫になってて……
「ザムザの真似《まね》――」
毛布にくるまったその芋虫が、ひっそりと小声に呟《つぶや》いた。
「う、うわぁ!?」
眼《め》を覚まして異常に気づくなり、俺《おれ》は慌《あわ》てて四畳半《よじょうはん》の隅へと転げる。
――毛布の| 塊《かたまり》が喋《しゃべ》った。中に人がいるのだ。しかも知らない女の声である。ついでに言うと、その毛布にも見覚えがない。薄手で真っ白、模様はなく、表面はもふもふとしている。
昨夜は――別に何もなかったはずだ。
浅野孝道《あさのたかみち》、十六歳、部屋に知らない女を連れ込むような、偏《かたよ》った才能と顔は持っていない。いたって普通の高校生のつもりだし、周りからもそう見られているはずである。
――じゃあ、この声を出した芋虫はなんだろう?
困惑する俺の耳に、階下からいつもの声が聞こえた。
「おばさん、孝道、まだ寝てる?」
「あぁ、悪いけど起こしてやってちょうだい。あの馬鹿《ばか》、昨日は夜遅くまでエロゲーやってたみたいだから」
いつものこととはいえ、そういうことをフランクに話さないでほしいのです、母。
――いやそれどころじゃなくて、ヤバい。非常にヤバい。
今の声は腐《くさ》れ縁《えん》の翔子《しょうこ》だ。こんなところを見られたら、一瞬《いっしゅん》にして誤解される。
たったっと階段を上がってくる足音が、秒読みに聞こえた。
そして響《ひび》いたのは、底抜けに明るい声。
「孝道ぃー翔子姉さんが迎えにきたよー。爽《さわ》やかでうざったい朝だよー。起きないと火ぃつけて髪燃やすよー。ちゃんと今日はライターも持って……」
がらっ。
ごそごそ。
襖《ふすま》が開いたのと、毛布の芋虫が顔を出したのは、ほぼ同時だった。
襖の前に立ち塞《ふさ》がる、セーラー服の翔子。
毛布から顔を出したのは、見たことのないツインテールの金髪娘。
見つめあう二人。呆然《ぼうぜん》と壁際に座り込む俺。
――昨日やってたエロゲーとさほど変わらない展開を前に、俺は為《な》す術《すべ》もなく壁際で縮こまっていた。あのシナリオだと、主人公は確か修羅場《しゅらば》を前にして言い訳に失敗してどっちにも振られて……
襖を開けた翔子が、くるりと俺の方を向いた。こっちは寝起きだってのに、身だしなみには寸分の隙《すき》もない。
「あれ、もう起きてたんだ? そんな隅っこに座り込んで、何してんの?」
ポニーテールに結った髪を軽快に揺らし、翔子は怪訝《けげん》そうに俺を見た。
「あ、いや……」
得体《えたい》の知れない芋虫娘は、毛布にくるまったまま、尺《しゃく》とり虫《むし》のように歩きはじめる。
そして窓から顔を突き出し、「――あー。さー」と、外に向かって一声。
わけがわからん。
「なに? 外になんか見える?」
俺の視線に気づいて、翔子がすたすたと窓辺に歩いた。四畳半の狭い部屋だ。芋虫娘には気づいているはずなのに、まるでそこに誰もいない[#「そこに誰もいない」に傍点]かのように、翔子は平然としている。
「うん、今日は秋晴れってやつね。いい天気。で、孝道? 何が見えるの?」
「いや、そこに……」
――毛布で芋虫の扮装《ふんそう》をした、金髪娘がいる。
窓にもたれるそいつのすぐ背後に立って、翔子は眉《まゆ》をひそめた。
「……青い空と白い雲に何か描《えが》いちゃうほど、現実に不満があるの? 寝ぼけてないで、顔洗って着替えなさいよ。現実から逃げていても遅刻するだけ」
窓辺の芋虫娘は立ちあがり、くんくんと翔子の匂《にお》いを嗅《か》いでいた。顔を真横に寄せられても、翔子の視線は何事もなく俺を見ている。
……見えていない?
やっとそのことに気づいて、俺はこくこくと頷《うなづ》いておいた。
考えてみれば、あんな怪しい芋虫娘には、俺もまったく心当たりがない。
つまりアレはきっと幻覚だ。俺の頭がどうかしちまっただけなら、隠しておく限りはそれほど大した問題じゃないだろう。それにもしかしたら、俺はまだ夢の中にいるのかもしれない。
芋虫娘は、がおー、がおー、と身を乗り出して、翔子の周囲を踊っている。その顔はまったくの無表情だった。
現実感に乏しいシュールな光景を見て、俺の頭は少しだけ冷えた。
瞼《まぶた》を押さえて、とりあえず翔子に向けて呟く。
「……今、着替えるから下に行っててくれ」
「言われなくてもそうする。急いでよ? 運転手のあんたに私の遅刻までかかってるんだから」
自転車にも乗れない驚異《きょうい》の平衡感覚《へいこうかんかく》を持つ翔子は、偉そうにのたまって階段を下りていった。
このあたりから高校までは遠いために、俺は毎朝、こいつと自転車の二人乗りで通学させられている。中学の頃《ころ》からの慣例だ。うらやましがる物好きもいるにはいるが、毎朝となると惰性《だせい》である。
翔子が下に降りた後で、俺は寝起きの眼を擦《こす》りながら、幻覚の芋虫娘を睨《にら》みつけた。
「おい、そこの踊ってる幻覚」
くるくるくる――ぴたっ。
「あ。すみません。御覧《ごらん》の通り、あのお嬢さんには私が見えなかったわけですが、幻覚じゃないんです」
――自己主張されてしまった。
毛布にくるまった無表情の金髪ツインテール娘は、俺にぺこりと一礼した。
「はじめまして。昨晩、傍《かたわ》らでしっぽりと一夜を過ごさせていただきました、マジョルカと申します。偽名《ぎめい》ですけど気にしないでください」
言っていることは微妙におかしいが、日本語としてはまともである。ただ、その声は鼓膜《こまく》じゃなくて頭の中に響いてきた。
寝起きでしばらく混乱していたが――こいつは一体、なんなんだ?
俺は再び両手で眼を擦る。
「……幻覚だろ? 幻覚だよな?」
マジョルカと名乗った金髪は、まるで表情を変えないまま、やれやれと肩を竦《すく》める。
「幻覚じゃないです。現実を見てください。それとも私が選んだ貴方《あなた》は現実と空想の区別がつかない難儀《なんぎ》な人でしたか?」
――今日は学校を休んで病院に行こう、と切実に思った。
それでも翔子は送ってやらないと後が怖いから、とりあえず幻覚を無視して着替えはじめる。
マジョルカと名乗った金髪女は、ぶつぶつと呟きはじめた。
「順応性はそれなりに高め。反応は予測の範囲《はんい》内。凶暴性はなし。埋め込んだチップも精神の抑制に関して正常に稼動中《かどうちゅう》。うん、良好。我が星の科学力は世界一ー。もとい宇宙一ー」
抑揚《よくよう》に欠けた声で、芋虫女はそう言った。
――確かに言った。
「……『埋め込んだ』チップ?」
ズボンを履《は》きながら、俺は幻覚の言葉に反応する。
幻覚が、かっくんと頷いた。よく見るとこいつ、眼が緑色だ。
「私の姿が見えて、声が聞こえるように、少しだけ改造させてもらいました。あと驚《おどろ》いて私を排除しようとしたり敵対しないように脳の具合をちょこちょことちょこちょこと、こう内側からえぐりこむように……」
「待て。ちょっと待て」
着替えを終えた俺は、頬《ほお》を引きつらせながら、そいつに歩み寄った。
マジョルカと名乗った女は、立ってもまだ毛布にくるまったままである。その肩のあたりを引っ掴《つか》むと――そこには、ぐにゃっとした手応《てごた》えがあった。
驚いて俺は手を引っ込める。
「な、なんなんだ? お前……翔子には見えてなかっただろ?」
舌をもつれさせながらも、俺はまぁまぁ落ち着いていた。少なくとも、喚《わめ》いたり、取り乱したり、駆け回ったりはしていない。それがチップ≠ニやらの効果なのかもしれないなどと考えて、思わず自分の頭をまた疑う。
その女――マジョルカは、無表情な緑の眼で俺を見た。
「えーと、私は宇宙から来た人です。フィクションの世界では頻繁《ひんぱん》にあることらしいですが、船が故障して不時着しました。救助が来るまで、しばらく飼ってやってください。よろしくお願いします」
淡々《たんたん》と、その芋虫女はそう告げた。
学校は、いつもとまったく変わらなかった。
授業は退屈で、学級崩壊することもなく概《おおむ》ね平和で、淡々と淡々と時計の針が回り続ける。
ただ一点。
黒板の脇に、変な芋虫女がいる点以外は、まったく正常だった。
古文の間宮《まみや》がつれづれなるままに≠ニか板書する脇で、マジョルカは得体の知れない踊りを踊っていた。
くるりと回って、ひざまずき礼拝することを三回。起きると胡坐《あぐら》をかいて宙に浮かび、浮遊したまま前転をはじめる。
……なんかヤバい宗教の儀式みたいだ。
「浅野くーん。これ、現代語訳してー」
ぼうっとマジョルカを見ていたら、指名された、余所見《よそみ》をしていると思われたらしい。
新任二年目の間宮は、やたらと色っぽい水商売系の教師である。さすがに露出こそ控えめだが、そのスーツ姿はむしろホステスに近い。
俺は黒板を見つめた。
いかにも古文の授業らしく、草書体《そうしょたい》に近い字がのたくっている。音読できるかさえ怪しいのに、現代語訳とは無茶を言う。
「あー……はい。えーと……」
わかりません、と言う前に、少しは答える努力を見せようと、俺は黒板に眼を凝《こ》らした。
すると頭の中に、マジョルカの声――
やることもなくて暇《ひま》なので、一日中、硯《すずり》を前にして、心に浮かぶつまらないことを、とりとめもなく書きつけていると、妙におかしな気持ちになってくる――らしいですよ? 吉田《よしだ》さんて暇人だったんですね
――最後を除いて、それを復誦《ふくしょう》した。
間宮が薄笑いを見せる。やっぱり教師より客商売のほうが向いていそうだ。
「ん、OK。珍しく予習やってたの? じゃあ、余所見したくなる気持ちもわからんでもないかな。さぁて、次の段だけど――」
ホステスもどきの進行で、授業はまったりと進む。
頭の中で、俺はマジョルカに呟いた。
おい、サンキュな=\―
しかし、その声は届かないらしい。マジョルカの返事も返ってこない。
どうも奴《やつ》は、こっちの頭に声を届けることはできても、こっちの思っていることは口に出さないと把握《はあく》できないらしい。
古典の問題が答えられる宇宙人というのも妙な話だと思ったが、これは以外に……便利かもしれない。
やがて昼休みを知らせるチャイムが鳴り、授業が終わった。
うちの高校に給食はない。それぞれが勝手に弁当を用意する。
俺は購買に行く振りをして教室を抜け出すと、こっそりと校舎の裏に向かった。
校舎の中では、マジョルカは天井を逆さに這《は》いながらついてきた。毛布のようなものにくるまって、ツインテールの頭だけを出した、例の芋虫姿のままである。一体どうやって天井に張り付いているのか――あぁ、いや、飛べるんだっけな、こいつ。
校舎裏に回った俺は、人気《ひとけ》のない薄暗い木陰を選んで、そこに座り込んだ。
手にしたビニール袋には、昼飯のカレーパンとヤキソバパン、デザートには丸ごとのリンゴが一つ。あまり豪勢《ごうせい》な昼食じゃないが、だいたいいつもこんなものである。
「さて、マジョルカ……だよな?」
周囲に誰もいないのを確認してから、俺はごく小声で呟いた。
芋虫娘は木の枝から逆さにぶら下がり、ぷらーんぷらーんと揺れている。
「なんですかご主人様」
「……その呼び方やめろ。気持ち悪い」
「あれー。喜ぶと思ったのに」
マジョルカは表情を変えないまま、首だけを傾《かし》げた。顔立ちはけっこう整っているだけに、余計に薄気味が悪い。
「じゃあ孝道。聞きたいことがあるようですが」
いきなり呼び捨てになったが、まぁそれはいい。短い昼休みを無駄《むだ》にすまいと、俺はカレーパンをかじりはじめた。
「聞きたいことは山ほどあるんだが……まず、お前、ほんとに宇宙人なのか?」
「言っておきますが、巨大化したり蛹《さなぎ》をつくったり眼からビームを出すのは、ごく一部の偏見《へんけん》に基づく誤解です」
「偏見て言われるとあれだけどさぁ……一応、お前のその顔、なんか人間ぽいし」
「これは擬態《ぎたい》です」
マジョルカはさも当然のように言った。
「本当の姿を見せたら、貴方はきっと協力してくれないので、仕方ありません。地球の人々は外見で物事を判断します。乳がでかけりゃえっちだと思ったり、そこが平原だったら子供っぽいと思ったりするのは間違っていると思うのです。が、今はそんなことを議論している場合ではないので、私は自ら進んで姿を変えました。第一印象を損なわないための措置《そち》です」
……なんか例えが適切じゃない気がする。
「……まぁいいか。仮にだ、お前がそういう、地球外の存在だとして……どうして地球に来たんだ?」
マジョルカは、少し目を伏せた。
「はい。私は独りで宇宙を旅していました。故郷で失恋し、どこか遠くに行こうと……こちらの言葉ではセンチメンタルジャーニーという行為です」
――中途半端《ちゅうとはんぱ》に語彙《ごい》が古いが、突っ込むときりがなさそうなので、俺は何も言わずに流した。
マジョルカはつらい記憶を思い出したかのように、首を横に振る。
「そして、この銀河系の近くで船に故障が発生してしまい、仕方なく、生存しやすそうな星を検索して、不時着してみたのです。それが一昨日《おととい》のことでした」
「へぇ。つい最近じゃないか。それで昨日の夜に俺の部屋へ来たのか」
俺の何気ない問いに、マジョルカは首を横に振って応じた。
「いえ。一昨日の夜から、孝道の部屋でずっと様子を観察していました。その時は処置を施《ほどこ》していなかったので、私の姿は見えなかったはずですが」
「……まじで」
まったく気がつかなかった。
次の瞬間、俺はあることに気づいて青ざめる。つまりこいつは、一昨日から昨日、今朝にかけての、俺の生活のすべてを覗《のぞ》いて……
枝からぶら下がった芋虫女が、毛布の中で片手を小さくあげた。
「安心してください。私、口は堅い方です。宇宙人|嘘《うそ》つきません。ただ――邪険《じゃけん》にされると、後で誰かお友達につい口を滑らすことがないとも……そうそう、孝道、話は変わりますが、デジカメプリントって便利ですよね?」
「話し変わってないだろ、それ! 脅迫《きょうはく》か!?」
思わず頬を引きつらせた俺を、マジョルカは不思議そうに見つめる。
顔は――可愛《かわい》いと言えなくもない。ただ、いかにも造り物くさい。
外見に騙《だま》されぬよう、俺は睨みを利《き》かせた。
マジョルカはぱくぱくと口を動かしながら、俺の頭に直接、声を届けてくる。口から声が出ていないせいか、なんとなく腹話術の人形にも見えた。
「私は脅迫なんてしていません。デジカメを持っていくと、お店でプリントしてくれるんですよ? 素晴らしいですよね? 思い出は色あせない、まさに至言だと思います。孝道は写真が嫌いですか? たとえば引き出しの裏側に隠してある――」
「わーわーわー。マジョルカさんちょっと待ってください。脅迫は失言でした僕の勘違《かんちが》いです」
――手の平の返し時を間違えないことが、俺の処世術だ。
「ご理解がいただけて、何よりです」
マジョルカはにこりともしない。俺はがっくりと肩を落とし、負けを認めた。どうやら既《すで》に、弱みを握られた後らしい。
マジョルカは何事もなかったように話し続ける。
「そんなわけで、孝道の一昨日からの生活を見たところ、宇宙人の天敵である例の黒い人たちとのつながりもなさそうでしたし、なんとなく信頼できそうだと判断しました。『この人なら力になってくれるかもしれない』とも思い、今朝、接触を試みた次第なのです。それと脳内にインプラントしたチップは基本的に無害ですのでご安心ください。いきなりでびっくりしましたか?」
マジョルカは、かくんと小首を傾げてみせた。
「……したよ。確かにびっくりはした」
無表情で問いかけてくるマジョルカに、俺は若干《じゃっかん》、眼を据《す》わらせて応じた。あれで驚かない奴がいたとしたら、そいつはまともじゃないだろう。
マジョルカは糸でもついているかのように、するすると枝から降りてきた。
そして今度は、俺の隣でうつ伏せに寝そべる。日差しをぽかぽかと浴びていたが、そこに影はできていない。やっぱり幻覚のようだが、触るとこいつはそこにいるのだ。
「びっくりしたかもしれませんが、孝道は私が見込んだ通りの方でした。チップの効果もあるにせよ、さほど取り乱すこともなく、私の存在を認めています。これは素晴らしいことです。報告はやはり正しかったと思います」
「――報告って? なんの報告だ?」
問い返しながら、俺はカレーパンを食い終えてヤキソバパンに取り掛かった。
マジョルカは、わが意を得たりとばかりに頷いた。
「はい。この星域での退避マニュアルに載っていました」
焦点の合わない視線を宙に向ける。
そして彼女は抑揚のない声で明らかにおかしい知識をひけらかしはじめた。
「――人類目ヒト科オタク、特にその若年層は、同種族内では現実と空想の区別がつかないと揶揄《やゆ》されるが、実際には空想を空想として楽しむ術を心得た精神的充足者であり、現実に即応する能力はむしろ決して低くない。彼らの多くは、ある種の突発的な『現実』をも受け入れるに足る素養を持っている。通常では有り得ないとされること、例をいくつかあげるならば、空から少女がふってきたり、朝起きると知らない少女が隣にいたり、宅配便で美少女アンドロイドが届いたり、親の遺産と称してメイドが現れたり、道端で会った少女にこれは運命だと言い寄られたり、地面から湧《わ》いてきた少女に食い殺されたり――」
……最後のはゾンビ映画か?
「……こうした事例に際して、一般人は取り乱し警察という公権力に頼る傾向があるが、オタクの場合には『こんなことは有り得ない』と判断しつつも、しかし目の前に『現実』として突きつければ、意外とすんなりと納得してしまうケースが確認されている。何故《なぜ》ならば、彼らはそうした現象が『有り得ないものである』という認識を持つのと同時に、『もしあったら』と想像する柔軟性をも兼ね備えているためである。そのシミュレーションが為されているゆえに、有り得ないはずのことが現実に起きた場合でも、現実主義の彼らは、その現実を比較的容易に受け入れ、対応することが可能である。むろんそこに個人差はあるが、我々にとってみれば一般人より説得が容易であることは言うに及ばない。なおこれは、日本という国の場合に特に顕著《けんちょ》な例であることも付け加えておく、と――同志の分析《ぶんせき》は、間違っていなかったと思います」
「おい! 宇宙規模でそういう認識なのか!?」
思わず問いかけると、マジョルカはしゃあしゃあと頷いた。
「常識の範囲です。その上、孝道には、朝起こしに来る幼なじみの存在まで確認されました。どちらかというと無個性なところも、オタクが好む作品群の主人公によくあるタイプと合致します。報告内容と重なりつつ、なおかつその要素の一部を現実のものとして得ている――まさに逸材《いつざい》です。孝道、貴方は選ばれたのです。難しい注文かもしれませんが、できれば誇りに思ってください」
「いやそれ、ぜんぜん嬉《うれ》しくないから。むしろ凹《へこ》むし」
胡散臭《うさんくさ》さは限界に達しつつあったが――こいつが他人の眼に見えないのは事実らしい。
さもなくば、クラスの連中と教師が全員で俺を騙《だま》しているかだが、そっちの方がたぶん有り得ない。
俺はがりがりと頭を引っかいた。もうじき昼食の終わった連中が、校庭に出てきてしまう。この校舎裏までは誰も来ないだろうが、万が一ということもあった。
俺はマジョルカに最後の結論を求める。
「……つまり、あれか。お前、レ○ルEとか○ロロ軍曹とか○earSとか、そういう系統?」
「孝道、その判断は非常に好意的で素晴らしいと思います。SF/ボ○ィスナッチャーとか、遊星からの○体Xとかマーズ・○タックとか、そちらの系統で攻められたらどう反論しようかと考えていました」
通じないと思ったら、思いっきり通じている。そのことにも違和感を覚えたが――
「宇宙人に対する偏見はいつの世も激しいです。その偏見への皮肉というわけではありませんが、我々の種族は食べるとエビのような味がするらしいので、その事実に因《ちな》んでこの髪型にしてみました。グドンの餌《えさ》ー」
頭のツインテール[#「ツインテール」に傍点]が、ぴこぴこと勝手に動いた。
――俺はこめかみに筋が立つのを自覚した。
「……なあ、おい。お前、ただの頭のおかしい超能力者だろ? しかも十五、六に見えるけど、実年齢はいくつだ? だいたいあれは地底|怪獣《かいじゅう》であって、宇宙とは関係ない」
その突っ込みも涼しい顔で受け流し、マジョルカは宙に座って毛布の中の両手をあげた。あぁ、なんか仏像でこんなのがあった気がする。
「孝道、誤解です。我々はいろいろと調べて知識を得ただけです。多少の穴や勘違いはありますが、同胞《どうほう》の調査は広く深く様々な知識を網羅《もうら》しています。ともあれ、私は同胞が助けに来るまで、安心して住める場所を求めています。是非《ぜひ》、孝道に力になって欲しいのです。迷惑はかけません。むしろさっきの授業中を見ればわかるように、ある程度は役に立ち――」
淡々と語るマジョルカを胡散臭い思いで見ながら、俺はヤキソバパンを食い終えた。
最後に、袋からデザートのリンゴを取り出す。
丸のまま一個――よく磨《みが》いてあるが、表面には少し傷がついていた。
別にリンゴがそれほど好きなわけじゃない。我が家は一階で青果店をやっていて、傷物になって売れそうにない手頃な果物《くだもの》があると、出掛けに持ってくるのだ。
熟した赤い実にかじりつこうとした、その矢先。
「あ」
マジョルカが、ふと頓狂《とんきょう》な声をあげた。
俺は不思議に思う。
「どうした? 仲間からの電波でも受信したのか」
「いえ。そういうわけでは」
俺はリンゴをかじろうとする。
「あ」
また、声。
今までの感情のない声とは少し違って、何やら哀《あわ》れを誘うような声だった。
俺は手元のリンゴを見る。
マジョルカも、リンゴをじっと見ている。無表情ではあったが、なんか切ない眼差《まなざ》しだ。
「孝道」
「うん」
「私、不時着してから、何も食べていません」
「……食う?」
問うとマジョルカは、毛布に包まれたままの両手を差し出した。
俺は黙《だま》ってリンゴを置いてやる。
「ありがとうございます。孝道」
呟くや、マジョルカはすぐに後ろを向いた。
一瞬、『ぱぎゅっ』という妙な音がして――次に彼女が振り向いた時には、もうリンゴは跡形《あとかた》もなく消えていた。
皮も種も芯《しん》もない。きれいさっぱりなくなって、口の中で咀嚼《そしゃく》すらしていない。
マジョルカは、涼しい顔。
「ごちそうさまでした。美味でした」
「おい! 今、どうやって食った!?」
俺は心持ち身を引かせてのけぞった。マジョルカが首を傾げる。
「女性の食事の様を観察するのは、失礼な行為だと聞きました」
「いや、そういう一般的なマナーの問題じゃなくて!」
毛布の中で、何が起きたのか――その瞬間を見逃した俺は、見たかったような、やっぱり決して見たくないような、複雑な気持ちを味わった。
そしてふと、ある事実に気づく。
「……お前、リンゴが主食なのか?」
「リンゴとは限りませんが、この星で果物と言われているものの多くは、我々の好物だと思います」
マジョルカははっきりと明言した。
さっきも言ったが――うちは、『青果店』をやっている。
「……なぁ。俺のところに来たのって、まさか食い物の調達に便利そうだから……」
マジョルカは首を横に振った。
「それは一つの素敵な要素でしかありません。とはいえ、そのことが私の決断にまったく影響《えいきょう》を及ぼさなかったかと問われれば、答えが否《いな》であることも否定はしません」
俺は盛大な溜《た》め息《いき》を吐《は》いた。
宇宙人に、避難先として認められる≠謔、な資質を指摘されるよりはマシかもしれないが……こうも即物的な理由だと、かえって理不尽《りふじん》さが際立つ。
そして俺は、はた[#「はた」に傍点]とある事実にも思い当たった。
「……でもそれだったら、いちいち俺を通さないで、勝手に食い物を盗《と》っていきゃいいじゃないか。どうせお前、一般人には姿も見えなきゃ声も聞こえないんだろ?」
俺としては、これは当たり前の正論だと思った。
しかしマジョルカは、真顔で、不思議そうに。
「……孝道、万引きは犯罪ですよ?」
――馬鹿っぽい割には、正しいことを言う。でも、こいつは間違いなく馬鹿だと確信した。
かくして俺は、この珍妙な宇宙生物、『マジョルカ』の保護者になった。
マジョルカと俺の怪しい共同生活がはじまって、一週間が過ぎた。
日によって奴の寝る場所は違う。じめじめした押入れを気に入るかと思ったがそこは『未来の世界の猫型ロボットのためのスペース』であると頑《かたく》なに主張し、俺が部屋にいる時はだいたい、床か机の上か天井付近でぼんやりしていた。
その夜。
宿題を適当にやっつけていく俺の脇で、マジョルカは相変わらずの無機質な声を紡《つむ》いだ。
「孝道、凄《すご》い順応性です。たった一週間で私のことを空気の如《ごと》く扱っていますね」
「お前が埋め込んだチップとやらのおかげだろ。その性能の良さを喜んでおけ」
かなり投げやりで適当に返答しておいた。
マジョルカは毛布をつきあげるようにして、けだるそうに両手をあげる。
「ばんざーい。ばんざーい。でも孝道、正直に言ってください。年頃の貴方の部屋で、こんなに若くて可愛い女の子が四六時中|傍《そば》にいたら、なんかこうある種の感情が揺さぶられたりとかしませんか?」
「……いや、お前が女なの、その顔だけっぽいし。その顔もなんか表情がなくて微妙に怖いし」
「じゃあ、この毛布の下に、禁断で魅惑的《みわくてき》なとれたてぴっちぴちーの柔らかい肌《はだ》があるとか夢想しませんか?」
「……食い物を摂取《せっしゅ》する時の音を聞く限りでは、それは有り得ないと思った。」
俺の反応に、マジョルカは首を傾げた。
「孝道。若いうちからそんなに枯《か》れていると、人生を楽しみ損ねますよ?」
「正体不明の宇宙生物相手に、俺は何か人には言えないようなことをしないといけないのか?」
マジョルカが三度ほど続けて首を傾げた。
「チップの効果は絶大のようです」
「断言してもいいが、チップとやらがなくても、俺がお前を襲《おそ》うことは絶対にないと思う」
……慣れはしたけど、中身[#「中身」に傍点]を考えると普通に気味悪いし。
マジョルカは、毛布の中でぽんと手(あるいは触手か何か)を叩《たた》いた。
「あ、それは愛ですか? 純愛ですか? プラトニックですね? 今、貴方は世界の中心で愛を叫んでますよ、孝道」
「お前はつくづく愉快《ゆかい》だなぁ」
くすりとも笑わずにあっさり流して、俺は宿題に没頭した。
この数日間で、だいたいこいつのことは把握できた――ような気がする。うざったい部分はあるが、基本的に無害だ。理解に苦しむことは多々あるが、少なくとも悪い奴でもない。
マジョルカは無表情のまま、俺の前に顔を突き出してきた。
「孝道、気のせいかもしれませんが、愛が足りませんよね? 補給できますか? それはお金で買えるものだと思いますか?」
「……構って欲しいならそう言え」
「構ってください。退屈です」
マジョルカは素直に認めた。こういうところは、可愛いとまでは思えないが、なんとなく微笑《ほほえ》ましい。
――ひょっとしたら、コイツも寂しいのかもしれない。仲間がいない異境に、たった一人で潜伏しているのだ。救援もいつ来るかわからないとなれば、心細くても当然だろう。かなり無理をして好意的に解釈すれば、そのおかしな言動さえも、不安の裏返しかもしれな……いや、それはないか。
俺は大きく息を吐く。なんだかんだいって、俺はこの奇妙な生物がそれほど嫌いじゃない。
「わかった、マジョルカ。じゃあ、あと十分ぐらいで終わるから、それまで静かに――」
『び――――っ! び――――っ! び――――っ!』
――俺の言葉を遮《さえぎ》ったのは、あまりに唐突《とうとつ》な音だった。
「うわたたたっ!?」
狭い頭の中で、百個ほどの目覚まし時計がまとめて鳴っている。うるさいというより、もはや痛い。耳を塞いでもぜんぜん意味がなく、脳味噌《のうみそ》の中でドリルがまわっているような感覚だ。
思わずのたうちまわって転げているうちに、嫌がらせじみた音は数秒で止《や》んだ。
「な、なんだ、今の……?」
唖然《あぜん》として顔をあげるや――真正面には、表情のないマジョルカの顔。
「ごろごろすると楽しいですか? 幸せですか? 生きてるって実感できますか?」
「おい、今のは……」
マジョルカの嫌がらせかと思ったが、俺は言葉をそこで止める羽目になった。警報に続いて、マジョルカのものとは別の声が頭に響き始めたのだ。
今度はそんなに大きな音ではなかったが――
『たーたったかたー。たたたっ。たかたかたったー』
それは、妙にリズミカルな『声』だった。太鼓を叩くような調子だが、あくまで声として聞こえている。言葉にはなっていないが、モールス信号のような規則性もある。
ぐわんぐわんする頭を左右に振りながら、マジョルカに問う。
「……なんだ? この音?」
「あ。これは緊急信号です。チップの影響で、孝道にも聞こえているようですが――今、解読してみます」
マジョルカは視線を中空にさまよわせた。その間にも、不可解な声は続いている。
『たかたかたー。たかったー。たったっ。たー』
「いや。そこはダメ――理性はそう止めるのに、二人は互いの触手を絡《から》め合い、気門から激しい喘《あえ》ぎを――」
「待て待て待て待て。誰が宇宙の官能小説を読めと言った。しかもなんか単語がおかしいし」
「――すみません。変換ミスです。……えー。事故機の信号を確認。黒い人|達《たち》より先に船を回収すべく、これより無人機を向かわせる。場所はたーたかたったーたかたったー。合流時はかたかたかた。不特定多数の原住民に悟《さと》られぬよう、回収は速やかに行う。なお、この惑星においては協定により地上の探索が禁じられているため、遭難者《そうなんしゃ》の捜索を行うことはできない。遭難者が存命中で、この電波を受信し、なおかつ回収を望む場合には、必ず同時刻に同場所にいること。おーばー」
マジョルカは、ぷつっ、と通信が切れる音を口に出していった。
「……だ、そうです」
怪しい意味ではなく、正真正銘《しょうしんしょうめい》、空からの電波だったらしい。マジョルカにとっては朗報のはずだ。
俺は床に胡坐を書いて、腕を組んだ。
「なるほど。つまり、これから迎えが来るってことなんだな? 『たかたか』の部分は?」
「そこは座標と時刻です。地球上の場所と時間で表すと……」
マジョルカはしばらく沈黙《ちんもく》し、『ちーん』と、キッチンタイマーを模した声を漏《も》らした。
「場所は孝道の高校の裏山です。時間は今夜十時です」
「……裏山って、また選んだみたいにベタな場所に……いや、それより十時!?」
柱の時計を見ると――現在は九時十五分である。
俺は慌ててマジョルカに視線を移した。
金髪の娘は毛布にくるまったまま、ぐてっと畳《たたみ》に寝ている。
「孝道。そろそろ寝ますか?」
「寝てる場合か!? 十時ってもうすぐじゃないか。早く行けよ!」
マジョルカがごろりと転がった。
――ごろごろ。ごろごろごろ。
壁際で、ぴたっ。
やけに間が空いた後で、宇宙生物は抑揚のない声で言う。
「えー。せっかくお友達になれたのにー」
――なんだか、台本を棒読みしているみたいだった。
「……いや、そういうお約束の台詞《せりふ》は別にいいから、さっさと行けって。これで帰れるんだろ? 万々歳じゃないか、お互いに」
マジョルカはむくりと身を起こし、首を傾げた。
「孝道は私と別れて寂しくないですか?」
「お前は異文化の生命体に何を求めているんだ?」
俺は率直に疑問を提示した。
むぅ、と、マジョルカは考え込む。
「ですが孝道、データによると、宇宙人と地球人が友好的に触れ合った場合、地球人も宇宙の一種族である≠ニいう結論に達して、両者の間にはコスモポリタニズムに似た連帯感と友情が生まれ、再開の日を約束して涙ながらに分かれる、というのが一つの通例だと認識しています」
「まぁ、その方がおさまりがいいんだろうな」
「そうでしょう。というわけで、せっかくなので私もお見送りを希望します」
感動を自分で演出してはまるタイプらしい。
仕方なく、俺は腰を上げた。
まぁ――たかだか一週間程度の付き合いだし、さして別れが寂しいわけでもないのだが、このまま分かれるのも確かに味気ない。
「わかった。裏山まで送ってやる。だけど俺、自転車だからギリギリになるぞ」
よく考えたら、こいつのだけでなく、迎えに来る宇宙船とやらも見られるかもしれない。決して好奇心|旺盛《おうせい》な方でもないが、一見の価値はあるだろう。
俺が部屋を出ると、マジョルカは面倒臭そうにずるずるとついてきた。
――こいつは『自分のこと』だという自覚があるんだろうか?
俺は親に「コンビニに行く」と嘘をついて家を出る。
学校までは自転車で約二十分の道程だ。こいつの船が裏山のどのあたりにあるかわからないが、もし山頂近くなら、十時までにつけるかどうかは微妙だった。
「なぁ、マジョルカは空飛べるんだし、先に行ってろよ。もし間に合わなかったら大変……」
そう告げながら、自転車にまたがった時だった。
「あ。流れ星!」
マジョルカが夜空を手で示した。
俺は嫌な予感を覚えて、その方向を凝視《ぎょうし》する。
夜空に一条――
いやに赤い光を帯びながら落ちてくる、大きな流星が見えた。
流星は流れ流れて、やや減速しながらもほぼ一直線に、少し先の山をめがけて走る。
しばらくして、山の方で何かが光った。音や震動はなかったが、今の光り方はやや尋常《じんじょう》じゃない。
俺はしばらく立ち尽くす。
「……おい。今、落ちたのって、まさか……」
振り返ると、マジョルカは空に向けて合掌《がっしょう》していた。その手は相変わらず毛布の中にある。
「孝道。願い事は間に合いましたか? 何を願いましたか? 無難に成績アップですか? お約束として現金ですか? 高校生らしく色恋沙汰《いろこいざた》ですか? 人生における新しいフラグですか? あえてギャルのパンティですか?」
「神龍じゃねえぞ、馬鹿! 今のあれ、お前の迎えじゃないのか!?」
マジョルカは宙に浮き、ぼーっとしている。
「無人機らしいですし、爆発したようには見えません。ひょっとしたら衝撃《しょうげき》で少し故障しているかもしれませんが、それはそれで起承転結の転の部分ができていいんじゃないでしょうか?」
「……お前はあれか。是が非でも俺との別れを演出する要素を求めたいわけか?」
「ロマンの前で現実は無力です。孝道、味気ない人生は退屈ですよ?」
またわけのわからんことを。
俺はどうにか頭痛を耐《た》えて、自転車のペダルをこぎ始める。
マジョルカが空を滑って、蝉《せみ》みたいに俺の背中に張り付いた。
「なんだよ? 先に行けって――」
「――孝道、すみません。出発早々に申し訳ないですが、心持ちストップしてください」
「え?」
マジョルカの平坦《へいたん》な声が、ほんの少しだけ緊張していることに俺は気づいた。
そしてこいつは、冗談《じょうだん》だとばかり思っていたある言葉を口にする。
「……『黒い人達』がいます」
田舎道《いなかみち》の遥《はる》か前方。
黒塗《くろぬ》りの外車が五台ほど、固まるようにして道路を塞いでいた。
「……なぁ。あれ[#「あれ」に傍点]って、都市伝説とかの類《たぐい》じゃなかったのか?」
行き止まりの私道に逸《そ》れて、俺は自転車を隠した。先方はまだ、俺の存在には気づいていない。姿は見えただろうが、近隣住人Aぐらいにしか思っていないだろう。
マジョルカは首を傾げる。
「黒い人たち。通称、ブラックメン。映画で言うところのメン・イン・ブラック――宇宙人の捕獲《ほかく》を目的とした社会的組織であるとか、逆に宇宙人が人間に成りすました姿であるとか、諸説がありますが、彼らの正体は――」
「しょ、正体は……?」
少し、ぞくぞくした。オカルト系では既に古いネタだが、いざ目の前にすると妙に怖い。
マジョルカが脳内に囁《ささや》く。
「その正体は……」
「うん」
「……隠しておいた方が、おもしろいですか?」
……いや待てこら。時と場合を考えろ。
「マジョルカ、ぶっちゃけてくれ。でないと俺も、どう対処したらいいのかわからない」
「んー」
マジョルカは不満げである。
「仕方ないですね。ロマンが一つ潰《つぶ》れますが……彼らは要するに、公務員です」
「公務員てことは……やっぱり、アメリカの諜報機関《ちょうほうきかん》とか、そういう系統の――」
「いえ。『検疫《けんえき》』の職員さんなんですが」
マジョルカの言葉を、俺はとっさに理解できなかった。
検疫……輸入品とかに、病原菌とか害虫がついていないかチェックしたりする、あれだろうか?
しばらく思考停止に陥った俺の前で、マジョルカがふらふらと揺れた。
「彼らは地球人の政府と宇宙人の政府の双方から雇われて、地球側では公務員、宇宙側では嘱託《しょくたく》扱いで動いている検疫所の職員です。私のように紛《まぎ》れ込んだ善良な宇宙人をとっ捕まえて、前時代的で理不尽な消毒、殺菌を行います。我々のように文化的で先進的な種族にその必要はないと科学的には立証されているのですが、彼らは慣例に従って全ての宇宙人を平等かつ不当に扱おうと、理不尽な検疫を実行しているのです。しかも私の場合、不法滞在なのでしかる後に強制送還されるわけですが、そのあたりは別の機関の管轄《かんかつ》です」
「……………………へぇ」
なんだか哀《かな》しくなりそうな現実を聞かされて、俺は釈然としないまま視線を逸らした。
「つまり職責に忠実なあいつらは、『雑菌生物』であるお前がこのあたりに潜伏していることをどっかから察知して、その行方《ゆくえ》を捜しているわけだな?」
毒を含ませた俺の指摘に、マジョルカは片手をあげて抗議する。
「あ、雑菌生物とは酷《ひど》いです、孝道。乙女心が傷つきました。法に従って正当な謝罪と妥当《だとう》な賠償《ばいしょう》を要求します」
「とっとと帰れ! この不法滞在者!」
思わず俺は頭を抱えた。万引きをしなかったことは立派だが、さすがにこれはいただけない。
マジョルカは首をぶんぶんと横に振る。
「そんなこと言わずに助けてください、孝道。あの人たち怖いです。袖《そで》の下も通じないらしいですし、こっちのことは問答無用で犯罪者扱いですし……」
「いや、だって実際に犯罪者なんだろ? 不法滞在じゃ……」
「きっと拷問《ごうもん》と称して卑猥《ひわい》なあんなことやこんなことをされて、お嫁にいけない体に」
俺の指摘を無視して、マジョルカは妄想《もうそう》を続けていた。正直なところ、こいつの種族に雌雄《しゆう》の区別があるかどうかさえも謎《なぞ》なのだが、今の問題はまず今後の指針だ。
どうしたものかと思案する。むしろ、道端で待ち伏せるあいつらに、こいつを引き渡した方がいい気もしたが――
こいつは今から、救命艇《きゅうめいてい》に乗って帰る予定なのだ。強制送還と通常の帰還では、いろいろと違いもあるはずだった。
「なぁ、捕まったらお前、前科持ちになったりするのか?」
マジョルカがかくかくと頷く。
「はい。そして強制送還になったら、二度と地球には来られません。不思議なチップを埋め込まれて、全行動を制限されます」
いつもと変わらないようでいて、どことなく、しょんぼりした声だった。
俺はなんとなく、くすりと笑ってしまう。
「うわ。孝道、その笑顔は邪悪です」
「違うって。別に変なことは考えていない。でも、そうだな……あいつらには、マジョルカの姿が見えたりするのか?」
「はい。黒い人たちは、特殊なサングラスで私たちの姿を見つけます。昔、ゼイリブという素敵映画でも――」
「そういう話はいい。とにかくあいつらには見えるんだな。それじゃあ、ここは通れないか」
俺はマジョルカの肩(らしき部分)を押した。
「よし、お前は空を飛んで、先に上から行けよ。俺は一般人の振りをして、後から追いかけるから、現地で――」
そう言い掛けた矢先。
道路の向こう側で、甲高い悲鳴が響いた。
「きゃっ!? な、なんですか! 貴方たち!?」
聞き間違えるはずはなかった。これは翔子の声だ。
私道から顔を出した俺の前で、翔子は黒服の男たちに腕を掴まれていた。
夜に犬を散歩させていたらしく、手にしたリードの先には小犬がつながれている。今年の春先に、翔子がどこかで拾ってきた雌《めす》の雑種だ。飼い主が男達にさらわれそうになって、きゃんきゃんとしきりに吼《ほ》えている。
なんでこんな時間に――あの馬鹿!
「おい、マジョルカ! あいつら、地球人もさらうのか!?」
「それはわかりません。私も地球に来てまだ一週間ですし、こんな辺境の検疫所職員の職務実態について、さほど詳しいわけでもないので」
「さっきは妙にいろんなこと知っていたくせに! わかった、お前は先に行ってろ!」
マジョルカを手で押しておいて、俺は自転車で走り出た。
連中は翔子を車に連れ込もうとしている。夜の田舎道だけに、周囲には他《ほか》の人影もない。
「翔子!」
「え!? 孝道!?」
声をかけると、翔子は驚いた様子で俺を振り返った。
黒ずくめの男達は十人以上いた。身長も高く、何人かは明らかに外国人だ。
自慢じゃないが、俺はまともな喧嘩《けんか》なんかしたことがない。
インドア派のご多分に漏れず、暴力よりも話し合いで――
そして、話し合いよりも逃亡が得意な一小市民で、どっちかというとオタクである。まともにやりあう気は最初からない。
「翔子、乗っかれ!」
車と車の間に、ほとんど隙間はなかった。自転車を急ターンさせる角度で突っ込ませ、俺は黒服と翔子を引き離そうとする。が、そこは相手も手馴《てな》れたもので、逆に翔子をきっちり押さえにかかった。前輪が翔子に当たりそうになって、俺は直前でブレーキをかける。
「この誘拐犯! 十人がかりの変質者か!?」
相手の素性に気づいていない振りをして、大声を張る。翔子を押さえていた男が、わずかに怯《ひる》んだ。
「ご、誤解だ! ちょっと可愛かったからつい……」
「馬鹿! 違うだろ!」
黒服の一人からすかさず突っ込みが飛んだ。――正直というか、なんというか――公務員の不祥事《ふしょうじ》が新聞沙汰になる昨今、あまり洒落《しゃれ》になっていない。
男の手で車のボンネットに押さえつけられた翔子が、必死に声を上げた。
「孝道! 私のことはいいから逃げて!」
あ、なんかそれっぽい台詞だ。
「でもほんとに逃げたら後で恨《うら》むから!」
……うん。まぁ、こういう奴だよな。
飛び出した手前、俺は自転車にまたがったまま、男と揉《も》み合う形になった。すぐに周囲を他の黒服達が囲み始める。よくよく見れば、その中には女もいた。
素人《しろうと》の浅はかさか、『まずったかな』と思った時には、もう囲まれていた。
目の前に立つガタイのいい男が喚く。
「落ち着きたまえ! 我々は怪しい者じゃない!」
……いや、そう主張したいんだったら、まずせめて、その黒ずくめの格好をなんとか――
言っていることはややアレだが、見た目の通りに力は強い。翔子を助けようと飛び出したものの、俺は腕を押さえられて、じたばたと抵抗《ていこう》することしかできなかった。
「森田《もりた》、須貝《すがい》! のんびり見てないでこの子供を押……」
男がそう叫んだと同時に、俺の体に妙な感覚が生まれた。
足元から急に地面の感覚がなくなる。二本の足が浮き上がり、俺がまたがっていた自転車も宙に浮いた。翔子と連れていた小犬も一緒に浮いてくる。
黒服は慌てて彼女を車側に押さえつけようとしたが、その車ごと[#「車ごと」に傍点]宙に浮いてしまい、滑り落ちるようにしてアスファルトに尻餅《しりもち》をついた。
「わ! わ! 何!?」
翔子は空中で小犬を抱えて、歓声とも悲鳴ともつかない声をあげた。
眼下の黒服達と黒塗りの外車がたちまち遠ざかっていく。翔子は見えない力で俺の背後に回り、登校時と同じようにして後ろに乗った。
俺はすぐに気づいた。
マジョルカだ。きっとあいつが何かしたに違……
「孝道、孝道。凄いですよ、ほら。例のシーンを完全再現ー。感動の名場面、今再びー」
……………………芋虫娘はいつの間にか、俺の目前、ママチャリのカゴにすっぽりとおさまっていた。
毛布にくるまった宇宙人。見上げれば満月を背景に、空を飛ぶ自転車――
――俺は今、とてつもなく恐れ多い何かを冒涜《ぼうとく》した気がする。
とりあえず、深呼吸。
背後では、翔子がガキみたいにはしゃいでいた。
「孝道、ほら、飛んでるよ! 凄い! なんで!? うわぁ、高っ! これ気持ちいいー!」
普通は半狂乱になりそうな状況だと思うんだが……長い付き合いだが、こいつもいまいち、よくわからん。
カゴのマジョルカが振り返った。
「このまま船のある場所まで直行です。いけいけごーごー。ほら孝道、この状況下で子供みたいに純粋な笑顔を是非」
じと眼の俺を見つめて、マジョルカは首を傾げた。
「孝道、お気に召しませんでしたか?」
「いや、まぁ……助かったけどな」
俺は照れ隠しに視線を逸らす。
「その……ありがとう。まじで助かった」
マジョルカが両手を軽く叩いた。
「あ。その仕草に愛を感じました。孝道、照れ屋さんですね? 私を狙《ねら》ってますか? 地味な演技で好感度をあげてポイントを稼《かせ》いでますよね? ターゲットロックオン?」
「そういう言い回しはやめろ!」
照れ隠しでまた声を荒《あら》げると、背後の翔子が不思議そうに耳元で呟いた。心なしか、吐息《といき》が熱い。
「孝道? なに叫んでるの? 私、なんかまずいこと言った?」
……そうだ、こいつにはマジョルカが見えないんだった。
「違う、違う。ちょっと小憎らしい妖精《ようせい》さんと会話していただけだ。頼むから気にしないでくれ」
「その表現、さりげなく素敵です。妖精ー。私は妖精ー。気分は花の子ルンルンですよ?」
聞こえない。もうなんにも聞こえない。返事をすると、翔子にまた誤解される。
「あ、そうだ。翔子、悪いけど……俺、山の方に用があるんだ。途中で降りるか?」
翔子はびっくりしたように眼をしばたたかせた。
「降ろさなくていいよ! って、てゆーか……帰りも送って欲しいし――」
少し焦《あせ》ったように、翔子はそう応えた。
……うーん。マジョルカの帰還を見られてもいいものかどうか……いや、それもひょっとしたら一般人には見えないのか?
マジョルカも、特に頓着する様子はない。
翔子の胸に抱えられた小犬が、くんくんとしきりに鼻を鳴らしていた。その黒い眼はカゴのマジョルカを見ている。ひょっとしたら野生の勘とかで、何かいる≠ニ気づいているのかもしれない。
俺達の乗った自転車は、するすると夜空を飛んでいった。
学校の裏山に降りると、俺は翔子にしばらく待っているよう頼んだ。
意外にも、翔子は何も聞かずに頷き、そして俺はマジョルカと最後に話す機会を得た。
俺とマジョルカは、小山の奥へと踏《ふ》み入る。
少ししんみりとして……俺は呟いた。
「……まぁ、短い間だったけど、楽しかったよ」
「うわ。そういう台詞に憧《あこが》れていました。私もです」
あくまで無表情のまま。
マジョルカは、嬉しそうだった。
顔に変化はない。声もいたって平坦だ。それでも、こいつには感情がある――それだけは伝わった。
周囲は夜。
しばらく、俺とマジョルカは何も言わずに視線を交わした。
なんだかこっぱずかしい。
マジョルカが、かっくんと頷いた。
「……別れがつらくなります。ここでいいです」
「宇宙船のあるところまで送るけど……」
「いえ。ここでいいです」
「……そうか」
俺は右手を差し出した。
マジョルカは首を傾げる。
「お別れの握手。そういう習慣はないのか?」
「あぁ。これがあの有名な。確か、握手をした後は一生、手を洗ってはいけないんですよね?」
――間違ってる。その知識は明らかに間違ってる。
マジョルカは毛布を持ち上げて、手のような形の何かを差し出した。
俺はがっちりとそれを握る。
指の感触が人間とあまり変わらないことに、俺はその時、初めて気づいた。
「……じゃあな。またいつか来いよ。今度は事故とかじゃなくてさ」
「はい。孝道、きっとまた会えます。色々とありがとうございました。それでは、あでぃおす、あみーご」
……やっぱり日本語は学び直した方がいいと思う。
俺は苦笑して、マジョルカをその場で見送った。
変な宇宙人だった。
妙な知識に詳しくて、話す言葉は珍妙で、食事の姿を決して見られないようにして……それなりに、楽しい奴だった。
ほんの少しだけ、寂しい≠ニ思ってしまったことは、心の内側に仕舞っておく。
来た道を戻っていく途中で、翔子と合流できた。
「……孝道、用事って済んだの?」
翔子は何故か、詳しいことを聞こうとしない。そのことがありがたかった。
「あぁ。悪かった。たぶん……巻き込んじまったな」
黒い連中がどうして、翔子に眼をつけたのか……俺はそのことを不思議に思っていた。
何か見落としている気はしたが、それは漠然《ばくぜん》とした不安みたいなものである。さして重要なことではないだろう。
ほっとして息を吐く俺を見て、翔子がくすりと笑った。
「そうそう――さっきの孝道、ちょっとかっこよかったよ。なんかフラグ立った感じ」
「お前までそういうこと言うのか……」
苦笑して、俺は視線を逸らした。どうも俺は照れ隠しに、視線を逸らす癖《くせ》がある。
その視界に――
空に昇っていく、淡《あわ》い光が見えた。
人魂《ひとだま》みたいな、妖精みたいな――そんな光だ。
ふと傍らを見ると、翔子も黙って空を見ていた。
ひょっとしたらこいつにも、あの光は見えているんだろうか。
(さよなら。もう故障なんか起こすなよ……)
心の中で、俺は不思議でおかしなかつての同居人に……
「ばいばーい」
すぐ斜《なな》め後ろから、全てをぶち壊す能天気な声。
――既に、見る必要はなかった。
俺は翔子に気づかれぬよう、少しだけ距離をとり、がしっとそいつ[#「そいつ」に傍点]の頭を引っ掴む。
何食わぬ顔をして光の宇宙船を見送っていたそいつ[#「そいつ」に傍点]は、俺の行動にも特に反応を示さない。
「な・に・を・し・て・る・ん・だ? え? マジョルカ――」
金髪のツインテールをぴこぴこと揺らし、芋虫娘は緑色の眼で俺を見た。
「は?」
「は? じゃねぇ! あれ[#「あれ」に傍点]に乗って帰ったんじゃなかったのか!?」
マジョルカは、かっくんと首を傾げる。
「あれは私の仲間の船ではありません。反対方向のタクレティカムブブスンバラの船です。孝道が受信した電波は、単に混線していたものです。あれに乗っていったのは、私と同じくここに不時着し潜伏していた宇宙人のアケミさんでした」
それは翔子の家で飼っていた、雌犬の名前でもある。
そして今――うっすらと涙を湛《たた》えて夜空を見上げる翔子の傍に、その犬の姿はない。
「さよなら、アケミ……元気でね」
翔子が小声で呟いた。感傷に浸《ひた》っていて、マジョルカと話す俺の声など聞いちゃいない。
つまり――黒い連中は正真正銘、翔子とアケミの捕獲を狙って――
「不覚にもマジョルカ、ええぃあぁともらい泣きしてしまいそうです。女同士の友情って素晴らしいですよね? ね、孝道?」
「……おい」
俺は頬を引きつらせて、マジョルカの頬をつまんだ。ふにふにと柔らかい肉を左右に引っ張って、真正面から奴を睨む。
変な顔になったマジョルカは、それでもあくまで涼しい顔。
「……さっきの別れの挨拶《あいさつ》は、あれはなんだ?」
「はい。孝道が混線電波を都合よく勘違いしていたようだったので、この際、いずれ来る別れの日のために予行練習をと思いまして」
「ほぉう……俺は今、この練習の成果を一日でも早く生かしたくて仕方ないわけなんだが」
「あれー? 孝道、意外と皮肉屋さんですか? それともそれは照れ隠しですか? 意地っ張りですね? さては本音を隠して冷たい人ぶりつつ、その実は心で泣くことで、周囲の好感度倍増を狙う心理的戦術ですか? 私を惚《ほ》れさせようとしてますか?」
「……お前の思考は有り得ない方向に飛躍するなぁ」
今の俺の引きつった笑みは、他の奴が見たら間違いなく引くだろう。だが、マジョルカは小憎らしいほど平静である。
そしてこの奇妙な宇宙人は、くるりとその場でターンした。
「まぁ、そういうわけなので、私はもうしばらく、孝道のお世話になります。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします。ご両親との同居も問題ないですよ?」
マジョルカは、ぺこり。
俺は脱力感に襲われながら、そっと視線を逸らした。
かくして俺の奇妙な日々は、もうしばらく続くことが確定した――らしい。
[#地付き]了
Get them ?
[#ここから2字下げ]
今回の「Who wrote it ?」はいかがでしたでしょうか?
つぎのヒントを参考にして、それぞれの作者を当ててね。
作品5 「まじょるか。」の作者
頭は丸坊主だったこともありました……。
[#ここで字下げ終わり]
「電撃hp33」覆面作家企画「The Answer of Who wrote it ?」より
作品5 まじょるか。
[#地から2字上げ] 渡瀬草一郎
作者のつぶやき
あのお話は書いていて非常に楽しかったです。日頃は打ち合わせの関係上、まずプロットを出し、OKをもらってから執筆に入るんです。でも今回は企画物で短編だったせいか、「いきなり書いちゃってもいい」といっていただけたので、学生時代に戻ったような感覚で、勢いのまま好き勝手に書かせていただきました。
普段とは書き方の手順が違った上に、系統というか芸風も今までの作品とは意識して違う物にしてみたのですが――正解率を聞いて微妙なことに。そ、そんなにわかりにくかったですか!? ……すみません。
……いや、でも個人的には、正解率の低さは担当さんの書いたあのヒントにも一因があると思います! だって著者近影をいつもごまかしている僕が「過去に坊主頭だった」ことを知っている人って、そもそも編集部の人か知人関係に限られ――(見苦しく責任転嫁)
[#地から2字上げ] 正解率 2%
[#地付き]校正 2007.10.19