■ 白い悪魔 / うといぺんこ
暗い嵐の晩だった・・・
『−−−−−−はぁ・・・・』
遠野志貴は1行書いてため息をついた。
いや1行も書かずにため息をついた、
というのが正解か。
『何をやってるんだろうな、俺は・・・?』
普通の高校生である遠野志貴の
変り映えのしないこの現実世界。
−−−「死のカタチが視える」という事−−−
つまり「直視の魔眼」を持っているというだけの
ちょっぴりお茶目で平凡な存在。
しかも、クラブ活動をしていない為、
日常の有り余る時間と暇を持て余している
絶好の身分。
この自由気ままな状況を利用して、
金儲け出来ないものか?
と考えてはみたモノの
『アルバイトなんかは、
秋葉が許さないだろうしなぁ・・・』
そう、どういう訳か秋葉は
俺がお金を稼ぐ事に賛成してくれない。
『兄さんは遠野家の長男なんですから
そんな事はなさらないで下さい。
必要なモノがありましたらこちらで揃えますから、
どうぞ、おっしゃって下さい』
と、にべもない。
『秋葉、エ○本を買うから金をくれ!』
などとは、口が裂けても言える訳もなく・・・
かといって有彦なんかに金を借りた日には
『いよぅ、遠野。
こないだのエ○本代、いつ返してくれるんだ♪』
なんて、秋葉達の前で言いかねない。
『−−−−−−はぁ・・・・』
しかし、そんな俺を神様は見捨てていなかった!
そう、あれは今日の帰り道。
いつものように繁華街を抜けて
帰宅途中にふと立ち寄った本屋に
救いの手が差し伸べられていようとは。
『時間も早いし、ちょっと寄って暇でも潰そう』
そう思って本屋の店先に立った瞬間、
その字は目に飛び込んできた。
【○ントリー・ミステリー大賞:賞金1千万円】
こう書かれたポスター。
なんて甘美な響きだろう、1千万円・・・・。
遠野家にしてみれば、1千万円なんていうのは、
はした金にもならないだろう。
だが、一介の高校生。
それも小遣い無しの半居候状態の身には
とんでもない大金である。
思わず眼鏡を外してマジマジと確認してしまった。
ついでに「線」まで見えてしまったが・・・
だが、眼鏡をしていようが外していようが
書いてある文字は変わらない。
『−−−−−−1千万・・・・』
改めて口にしてみると、
やはりトンデモナイ金額である。
とりあえずポスターに書いてある事を確認してみる。
どうやらミステリー小説を書いて、
最優秀賞を取ればいい事が判明した。
小説なんか書いたこともなければ読む事もない俺には
殆ど無関係だ、という事まで判明してしまったが。
『いや、まてよ・・・』
そう、俺はこの時閃いた。
例えるなら戦場のア○ロ・レイといったトコロか。
いや、ニュータイ○という訳ではないんだが・・・
とにかく、素晴らしい閃きだった。
『なんてったって、俺の周りには・・』
そう、幸い登場人物には事欠かないときている。
吸血鬼、不死身人間、紅赤朱、魔法使い、
埋葬機関、洗脳探偵、殺人鬼、etcetc・・
これだけ知り合い(?)がいるヤツは
そうそういるハズがない。
ましてやミステリーには付き物の
「殺し殺される」ってのは十八番だ。
しかも外でアルバイトをする訳でもなく、
傍目には勉強しているように見えて一石二鳥。
『ふっふっふ、天は我に味方したぁ−−−!!』
そうして、マッハで屋敷に帰った俺は、
ミステリー小説とやらを書く事にしたのだが・・・・
−−−−やはり現実は厳しかった。
小説なんて思いついた事を書けばいいダケ、
ぐらいにしか思ってなかったのだが、
いざ書き始めようとしても何も思いつかない。
そもそも、最初に何を書いていいものなのか
サッパリ不明である。
なけなしの頭脳をフル回転して思いついた文章が
暗い嵐の晩だった・・・
と、犬小屋の上で
タイプライターを打ってるようなヤツでも
書ける文章しか出てこない。
しかも、続きが思いつかないときたもんだ。
どうしたモンかとうんうん唸っていると
コン♪コン♪
と、軽やかなノックと共に
『志貴さ−ん、入りますよ〜』
と、琥珀さんの声がした。
『−−−−あ、はい、どうぞ』
俺は書きかけのノートを閉じつつ返事をした。
『勉強お疲れ様ですー、
お茶でも飲んで休憩なさって下さいねー』
と、お盆を持った琥珀さんが部屋に入ってきた。
お盆の上には湯飲と和菓子がのっている。
『ありがとう、琥珀さん』
『いえいえ、今日のお茶受けはおいしいですよ。
翡翠ちゃんが依頼を受けて行ってた所が
四国だったので、
そこの名産の「和三盆」っていう和菓子ですよ。
あと、今日の夕食も翡翠ちゃんのお土産で
「讃岐うどん」ですから♪
楽しみにしててくださいねーー』
そうか、翡翠は今回四国に行ってたのか。
探偵家業も大変だなぁ、と思いつつ
『讃岐うどんはおいしそうだね、期待してるよ』
『はい、お任せ下さい!』
琥珀さんは頼もしい言葉を返してくれた。
が、続けて
『そうそう、志貴さん。
さっきテレビで
”白い悪魔”が出てましたよ、
知ってましたか?』
などと、お茶を入れながら
とんでもない事をサラっと言ってきた。
『−−−−−え、”白い悪魔”・・・・』
そう、今更説明不要の吸血真祖、
「アルクエイド・ブリュンスタッド」の事である。
あのバカ女、今度は何をしでかしたんだ−−−。
いや、いつもの事か。
どうせ存在自体が荒唐無稽なヤツだし。
−−−何て納得している場合じゃない。
『スイマセン琥珀さん、ちょっと出かけてきます』
『−−−え、あのちょっと、志貴さん・・・・』
『夕食前には戻りますから。』
と、琥珀さんの横を駆け抜けて、
そのまま屋敷を飛び出した。
『−−−とりあえずは探しださないとな』
それにしたってTVに出てたって事は尋常じゃないぞ、
アルクエイドなら素手で車とか壊しかねない。
しかも笑いながら・・・
でも、
『−−−美人コンテストとかだったらなぁ』
文句なしの優勝だろう、うん。
アルクエイドを思い浮かべて見る。
って、俺は何を赤くなってるんだ−−−−−。
まぁ、自分で好き好んで
TVに出るようなヤツじゃないから
間違っても美人コンテストなんかじゃないよな。
いや美人ではあるんだけど・・・
あ〜もう、また顔が赤くなってきた−−、もう。
−−−−−
−−−−−
『さてと、』
屋敷を飛び出してきたはいいモノの
どこからを探したモノか???
適当に探しても見つからないのは経験済だ。
『−−−−−やっぱ、アソコだよなぁ』
そう呟いて公園に向かう事にした。
−−−−−−−−が、
公園に着くなり
『遠野くん、何をしているんですか?』
と、どこから聞いても
アルクエイドではない声が聞こえてきた。
『逢いたいときにあなたは居ない、って本当だな』
遠い目をしてつぶやいてみた、俺って詩人・・・
『何をブツブツいってるんですか、遠野くん?
ただでさえ中身が怪しいのに、
見た目でも独り言星人みたいで怪しいですよ』
言うに事かいてトンデモない事をさらっと言う。
『怪しいのはお互い様でしょう、シエル先輩』
『遠野くん程、怪しくありません!!』
キッパリ言いきられてしまった。
やっぱり、先輩は先輩だ。
それにしてもこんなトコロで何をしているんだろう?
『−−−先輩、』
『ヒミツです、はい』
何も聞いていないのに、
又も、キッパリと言われてしまった。
『−−−−ところで、遠野くん』
先輩はいつだって唐突だ。
『ハイ?』
『やや童顔で長い髪を両おさげにした娘を
この辺りで見かけませんでしたか?』
−−−−−−−−ハテ?はて?ハテナ?
何か心に引っ掛かってるのはナゼだろう?
スグに思い出さないという事は
たいした事じゃないんだろう、うん。
『−−−−見てないし、心当たりもないですよ』
俺は正直にそう答えた。
『そうですか、この辺りに気配を感じたんですが』
『はぁ・・・』
もう、何の事やらサッパリです。
と、その時、
『遠野くんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ−−−−−−−!』
ん、弓塚さんみたいな声がするなぁ、
うん、そっくり。
『目標を肉眼で確認!パターン青!死徒ね!』
そう言って先輩は臨戦体制を整えてる。
『きゃぁぁ−−、敵影発見!
敵戦力シエル型先輩一機!!』
何かスゴイ事言ってるなぁ、あの娘。
でもよけい分からなくなってきたぞ?
まぁ、とりあえず聞いてみるか。
『先輩?−−−−−』
『鈍感と〜へんぼくの遠野くんは黙ってて下さい!』
何もそこまで言わなくても、ねぇ。
お、弓塚さんのそっくりさんが何か言ってるぞ。
『そこのメガネっ!
なんで私を追いかけまわすのよっ!
遠野くんも遠野くんよ。
こんなにプリチーで
可愛い私がわからないなんて。
ひどい、ひどすぎるっ!
あぁ、神様あんまりですぅ〜』
なんだ、弓塚さん本人だったのか。
暗かったからよく分かんなかったや、てへっ。
ん、という事は先輩が探していた娘って
弓塚さんのことだったのか。
でも、弓塚さんは
『なんで追いかけまわすの?』
って言ってるし?
−−−−−んに?
どういう事だ?
『メガネとは何ですかっ!メガネとは!
これが無いと先輩じゃない、
って言ってくれた人を前にして、
よくもそんなことを・・・』
あぁっ、何も人の嗜好をバラさなくても・・・
『それに私にとってあなたは邪魔なんです!
以上、説明終り。強制排除に移りますっ!』
説明になってない説明を終えた先輩は
おもむろに黒鍵を構えてるし。
『きゃ−!やっぱり私は不幸な娘なんだぁ〜』
弓塚さんは一目散に逃げだしてしまった。
『遠野くん、浮気しちゃダメですからねっ!
私は忙しいのでこの辺で、では。チュ♪』
先輩は俺に投げキッスをしたあと
黒鍵をブンブン振り回しながら
弓塚さんを追いかけて行って行ってしまった。
−−−−−−−それにしてもなんだかなぁ。
遠野志貴は完全中立の立場を崩していないのに
周りの女性陣は俺の事を、
完全に「私のモノ」状態だもんなぁ〜、はぁ。
まぁ自業自得だって事は
よく分かってるつもりなんだけど。
で、俺は何でこんな所にいるんだっけ???
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
おぉ、忘れてた!
早くアルクエイドを探さないと!
『公園じゃないとすると、ドコにいったんだ?』
ひとり呟いてみるが、どうにもならないので
脳味噌フル回転で考えてみる事にする。
アルクエイドのマンション?
夜はアイツの時間だから外に行ってるハズ、
却下。
路地裏?
ここのトコロ平和そのもの。
吸血衝動の出てないアイツが行く必要はない、
却下。
俺の学校?
シエル先輩とハチ会わせする可能性がある場所に
好き好んでいくハズもない、
却下。
ふむ、どうしたものか?
『−−−−しかたがない、ここで待つか・・・・』
確立的にも、公園にくる可能性は非常に高い。
『−−−−まぁ、コーヒーでも飲むか』
のんびりと気長に待つ事に決めた俺は
そう呟いて自動販売機に向かう事にした
−−−−−−が、
自動販売機の側に怪しい人影が2つ。
−−−−−−−−爆裂的にイヤな予感がした。
『奇遇だな、少年。こんなトコロで何をしている』
『よぉ、殺人貴。久しぶりだな』
はぅぅ−−−−、予感的中!
ヤバキチピンチ−−!!
最も会いたくないヤツラに出会ってしまったとさ。
説明するまでもない、"ネロ・カオス"と"遠野シキ"だ。
まさかこんな所でこんなヤツラに出くわすとは。
落ち着け、志貴。ピンチの時はまず落ち着いて、
それから考えるんだろ。
−−−−−−−−−って、考えてみても
こいつらがここに居る理由がさっぱりワカラナイ・・・
仕方がない、話かけたくもないが聞いてみるか。
『よお、2人揃ってこんなトコロで何やってんだ?』
『ん、私に説明を求めているのか、少年?』
『また、珈琲をおごってくれよ、いいだろ?』
『どこから説明したらよいものかな、ふむ』
『なぁ。あの赤い缶々、新製品なんだよ』
『話せば長い事だ。まずは事の始まりからだな』
『なんてったって”唐辛子入り”なんだぜ!』
『昔々あるところに、とても美しい姫が・・・』
『そりゃぁ、目も覚めるってもんさ!』
『で、私はどうやらその姫に恋をしてしまってな』
『珈琲も本望じゃないか!眠気すっきりってな!』
こ、こいつらは!
自分勝手なヤツらに聞いた俺がバカなのか?
『だぁ−−−−−−!!ちょっと黙れっ!』
『何だ、説明をして欲しいのではないのか?』
『どうした殺人貴。カルシウム不足か?』
『うがぁ−−−−!』
落ち着け、落ち着くんだ志貴。ここはガマンだ。
まぁ、すくなくとも片割れは
コーヒーを買ってやればおとなしくなるハズだ。
『とりあえず、コーヒーは買ってやるから
ちょっと黙っててくれ、シキ』
そう言いながら
シキ用のコーヒーを買ってやる事にする。
『この赤いヤツでいいんだな?』
『サンキュ、殺人貴!』
『ふむ、少年。私も檸檬紅茶を頂こう』
はぁ、ネロ・カオス、アンタもっスか。
この金のない俺にたかるとは血も涙もないヤツラ!
が、今はアルクエイドの事もあるし
公園を離れるわけにはいかない。
『ほらよ、シキ。
で、レモンティーね、レモンティーっと』
しかたなしにネロ用のレオンティーも買う事にして、
自分用にもスタンダードなコーヒーを買う。
間違っても”唐辛子入り”なんかは買わない。
『ほらよ、ネロ』
『あぁ、わざわざスマンな、少年。感謝する』
『なんだ、普通のにしたのか、ガッカリ・・・』
カシュッ!
『−−−−−ふぅ』
コーヒーを一口飲んで気持ちを静める。
どうやら落ち着いてきたぞ。
で、どうやってこいつらから事情を聞いたモンか。と、
『−−−−−実はメンツが足りなくてな』
『−−−−−そうそう、困ってたんだよ』
『−−−−−−−−−−−−−、へ??』
『何だ、説明して欲しいのではなかったのか?』
『ちゃんと人のハナシ聞いてんのか?』
どうやら唐突に説明は終わったらしい。
しかも主語抜きで・・・・・
『だから何の?』
半ばあきらめギミに聞いてみる。
『これだ、少年』
『そうそう、これだよ殺人貴』
といって2人は、あるモノを出してきた。
ネロが手に持っているのはどこからどう見ても
−−−−−−−−−−麻雀マット。
という事は、シキが手に持っている手提げ付の箱は
−−−−−−−−−−麻雀パイっすか・・・・
『この東洋の娯楽が妙におもしろくてな』
『そうそう、奥が深いんだぜ!』
『だが、残念な事に2人では面白みに欠けるのだ』
『このジャラジャラ♪って音がまたいいんだよ』
と、いう事はキミ達はメンツを探してたのかね。
こんな夜の公園で。
『こんなトコロでメンツを探したって
誰もこないだろうに。何考えてんだ、オマエら』
『少年、貴様が来たではないか』
『そうだぜ、殺人貴。3人でもできるんだしな!』
−−−−−−−−−−−−あぁ、神様、
私のドコがいけないというのでしょうか。
悪いトコロがあったら今スグ直しますから!
このバカ達をどこか遠くにやって下さい。
−−−なんて願いが神様に届くハズもなく。
『ふむ、これ以上待つのは時間の無駄だな』
『おう!3人でいくぜ!レッドゾーン!!』
あぁぁ〜
何やら、やる気マンマンなんですケド・・・
もはや何を言っても無駄な気がするが
当の俺本人としては、やる気はサラサラ無い。
が、一人公園でブラブラとしながら
アルクエイドが来るのを待っているのも
何やらオマヌケだ。と、
『私達に負けるのがそんなに怖いのか、少年』
『なんだ、根性ねえな、殺人貴』
カチ−−−−−ン!
そこまで言われて引き下がるワケにはいかない。
『いいぜ、その勝負受けた!!』
『ほう、威勢がいいな、少年。』
『負けて泣くなよ!殺人貴!』
『コッキャがれ、バッキャろう!!』
−−−−−−
−−−−−−
かくして一連の流れを無視したまま
世紀の対決が始まった・・・
−−−−−
−−−−−
『ふむ、これでどうだ』
『あ、それポン!』
『ちぃっ!それを鳴かれるとはっ!』
−−−−−
−−−−−
勝負は一進一退の状態で白熱している。
が、ここに来て
『ふははは!無駄無駄無駄ぁ!!!!!』
『ツモれっ!必殺!シャーイ○ング・フィンガー!』
2人のテンションは最高潮だ。
−−−−−−−むう、いかん。
このままでは、
こいつらの勢いに押されてやられてしまう。
俺もここらで一発、何か言わなければ。
だが、あのハイテンション連中に
負けない事を言わなければいけない。
−−−−−
−−−−−
−−−−−よし、
『それ、ポン!
−−−−−ふっ、あんた背中が煤けてるぜ』
−−−−−どうだ。
とっておきの言葉なんだが。
『き、貴様。どこでその言葉を−−−−−−』
『・・・・むぅ、やるな殺人貴』
『心の師匠の言葉を知っているとは、侮れん・・』
『それでこそ俺様のライヴァルだ!』
おぉ、言った本人もビックリするぐらい
予想以上に効果があったんですけど・・・。
−−−−−−−
−−−−−−−
−−−−−−−
−−−−−−−そんなこんなで、もう夜明け前。
いよいよ勝負も大詰めだ。
これをあがったヤツが勝ちというこの状況。
どうでもいい勝負だが、負けるのはシャクだ。
『この勝負、負けるワケにはいかん!』
『勝つのは俺様だ−−−!』
『あ、それ、ドンジャラ』
『ぬぉぉぉぉ!!この私が負けるとはっ−−−!』
『ナゼなんだぁ−−−−−−!』
『よっしゃぁ!』
って、なし崩し的に俺が勝ってしまった。
まぁ、結果オーライだろう。
こんなヤツらに負けていては
人間様が廃るってモンだぜ!
ただ、アルクエイドは現れなかったので
骨折り損ともいうが・・・・
『次は負けんぞ、少年。』
『今日の所は引き分けにしといてやらぁ!』
負け犬2人組は捨て台詞を吐いて帰っていった。
『−−−−−はぁ・・・』
それにしても徹夜はキツイ・・・・
『−−−−−アルクエイドも来なかったし、
しょうがない。屋敷に帰ってひと眠りするか』
そう呟いて、疲れた体に鞭打って歩きだした。
−−−−−−朝日も眩しい7時前。
屋敷に帰りついてロビーに入るなり
『おかえりなさい、志貴さん。
もう、ひと晩中どこい行ってたんですか。
讃岐うどん食べてくれなかったから
翡翠ちゃん怒ってますよ』
スイマセン琥珀さん。
遠野志貴の大バカは
ひと晩中ドンジャラをやってました・・・・・・・
『ごめん、琥珀さん。翡翠には後で謝っておくから』
『ちゃんと謝ってあげてくださいね。
翡翠ちゃんは今、居間にいますから。
そうそう、昨日からお客さんが来てますよー』
とりあえず翡翠に謝るとするか。
『琥珀さん、先に翡翠に謝ってきます。
朝食は後でいただきますから』
『はい、かしこまりました』
居間に入るなり白い物体が目の前をかすめた。
が、今は翡翠だ。
いたいた、
今日は珍しくソファーに座っている。
が、俺の姿を見るなり立ち上がって
『おかえりなさいませ、志貴さま』
『あ、志貴だ、やっほ−−−』
と、ふかぶかと頭を下げてくる。
いつになっても翡翠は変わらないなぁ
と、思いつつ、
『ただいま、翡翠。
それとごめん、せっかくのお土産を』
『志貴様、なんてひどい・・・。
せっかく志貴さまの為に買ってきたのに・・・』
『ね−ね−、志貴』
『だから、ごめんって。今度からは気をつける!』
『わかりました。次回からは気を付けて下さい』
『ね−ね−ね−、志貴ってばっ!!』
翡翠は、やっぱりやさしいなぁ。
どっかの”バ○女”や”先輩”とはえらい違いだ。
もちろん”秋葉”とは比べ物にならない。
琥珀さんは論外だしなぁ・・・・
って、さっきから変な声が聞こえるんですケド?
−−−−−−−−−なんだ、アルクエイドか。
んに?あるくえいど?アルクエイド?
『あ−−−−−−−−−、アルクエイド!!』
ひと晩中探してた、いや探そうとしていた
アルクエイドが目の前にいるのはナゼ??
『んもぅ、やっと気付いてくれたの志貴。
昨日の夜からず〜っと待ってたんだよ』
落ち着け、遠野志貴。
まずは落ち着いてそれからよく考えると。
そうだ、TVだ。
琥珀さんも言ってたじゃないか。
”白い悪魔”がTVにでていたと。
TVにでるって事は相当の事だ。
どう考えても破壊活動しか思いつかないが、
本人に何をしでかしたのかを聞かないと。
なんてったって周りの事はお構いなしだし。
あ−−、もう。
考えただけで頭がイタクなってきた−−。
が、まずは何でここにいるかを聞かないと。
俺は手招きしてアルクエイドを呼び寄せた。
『なになに、内緒話?』
無邪気に笑いながらやってくるアルクエイド。
『・・・あのな、アルクエイド』
『うん、なに?』
せ−のっ
『こんな所でなにやってんだ、
このバカ女−−−っ!』
ばかおんなー、おんなー、んなー、なー・・・
部屋の中、叫び声が反響する。
『いっ・・・・・・・たあ・・・・・・、
んもう、志貴。声大きすぎ−−』
『声大きすぎ−、じゃない!何でここにいるんだ』
『夜は志貴と一緒にいようと思って、ぽ』
何でそこで赤くなるですか?
あぁ〜、翡翠の視線が痛いのはナゼ?
『でも、志貴ったらいないんだもん。
がっかり・・
まぁ、翡翠と琥珀との3人でひと晩中、
志貴の話をしたから退屈はしなかったよ。
そう、いろいろとね・・・』
いろいろって何ですか?いろいろって。
とても怖くて聞けません・・・
ん、3人で?秋葉はどうしたんだろう?
『なぁ、アルクエイド。秋葉とは話をしなかったのか』
『ん、妹と?それがねぇ。私の顔を見るなり
「あなたと話すことはありません。お帰りになって下さい」
って言うんだモン。失礼しちゃうよね−−』
はぁ、キミ達は一生仲が悪いんですね。
居間に秋葉がいないのは
アルクエイドと話をしない為か。
どうりで静かだと思った。
おっと、秋葉の事は置いといて。
アルクエイドが何をしたかを確認しないと。
『ところでアルクエイド、おまえ今度は何をしたんだ?』
『何のこと?私、何もしてないよ−』
『嘘を付けっ!TVに出てたって琥珀さんも言ってたし』
『私がどうかしましたか?志貴さん』
ナイスタイミング!
さっそく琥珀さんに確認だ!
『琥珀さん、昨日言ってたじゃないですか、
TVにこのバ○女が出てたって。
で、アルクエイドは何をしでかしたんです?』
琥珀さんはキョトンとしている。
『はい?アルクエイドさんが何か?』
『いやだから、昨日TVに出てたって−−−』
琥珀さんは首を傾げて考えている。と、
『あぁ、なるほど。志貴さん、勘違いなさってますね』
『−−−−−−−−−−−へ?』
『ですから志貴さん、
私は”白い悪魔”が出てる、
って言ったじゃないですか。
”白い悪魔”はアルクエイドさんの事じゃないですよ。
”白い悪魔”っていったら
連邦軍の”RX−78”の事じゃないですか、
通称:ガン○ム。
志貴さんも有間の家で
見てた事があるんじゃありませんか?』
そりゃ、ガン○ムぐらいは見てましたケド。
『ジ○ン軍に”白い悪魔”として
恐れられていたんですよね−−、ガン○ムは。
でもですね、私はジ○ンの”シャ○”が好きなんですよ〜。
でもでも、特に好きなのは”シャ○”専用の機体ですね。
だってだって赤い色だし−−。
それにキックの反動で
3倍のスピードで移動する事ができるんですよ。
すごいですよね〜・・・』
琥珀さんのウンチクは止まるトコロを知らない。
結局のところ何ですか、
つまりTVでガン○ムを再放送していたって事ですか。
『なんて・・・・・・無様・・・・』
翡翠、そりゃキツイって(泣)
−−−勘違いした俺が悪いんだろうケドさ・・・
琥珀さんも最初っから
”ガン○ム”って言ってくれればいいのに。
ひとり落ち込んでいる俺を尻目に
『ね−ね−、志貴。今日は何して遊ぶ?』
『志貴様、料理のコツを教えて頂く約束は?』
『掃除を手伝ってくれるんですよね−、志貴さん』
あぁ、いつの間にやら
ヤバキチピンチアゲイン−−−−−
こういう時はまず落ち着いてっと、
それからよく考えると。
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−うん、これしかない。
せ−の、
『ゴメン、気分が貧血なので散歩してくるっ!』
そのまま走りだして屋敷をあとにした。
後の事を考えるとトンデモナイかもしれないが
今はこれが精一杯。
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
『ハァハァハァ、ここまでくれば大丈夫だろう』
全力疾走してきた俺はその場に倒れこんだ。
幸い貧血は起きてない。
『ふぅ。』
これからどうしたモンかと思案してみる。
−−−−と。
『君。そんな所で倒れてると危ないわよ』
そんな懐かしい声がした。
『え−−−−−』
『え、じゃないでしょ。気を付けなさい。
あやうく蹴りとばされるところだったんだから』
トランクを片手にもって彼女は不機嫌そうにそう言った。
『−−ふうん。蹴りとばされるって、誰にですか』
横になった身体をわずかに起こす。
『ばかね、そんなの決まってるじゃない。
ここにいるのは私と君だけなんだから、
私以外に誰がいるっていうの?』
腕を組んで、自身たっぷりに彼女は言った。
『毎回、同じ登場方法なんですね。先生』
『ホント、いいかげんにしてほしいんだけどね。
あなたはいつも大変そうね、志貴』
『もう慣れましたよ、こんな生活も』
『そう、ハーレム状態でウッハウハかと思ってた』
先生、その言い方はあんまりですー。
『真祖の姫に、教会の弓。妹さんとメイドが2人。
ル○ルリもどきの同級生もいたわね。
あと、妹さんの下級生にも慕われてるんだっけ』
『−−−−−−−−−なっ』
なんで先生がそんな事まで知ってるですかー。
『まったく、そんな事だから
絶倫超人とか殺人貴とか言われたりするのよ、もう』
『先生、その言い方はヒドイですよ』
ちょっぴり拗ねてみる。
それにしてもエライ言われようだ・・・
『−−−−−拗ねてもだめよ。
まぁいろいろひっくるめて、
今の遠野志貴があるワケだから、しかたないケドね』
『そう言ってもらえると助かります』
少しダケですけどね・・・・・・
と、先生はトランクの角で俺を突付いてきた。
『ほら、志貴、行くわよ。さっさと立ちなさい』
『行くわよって、ドコにです?』
不安を感じつつも、立ち上がりながら聞いてみた。
『ばかね、女にそんな事きくモンじゃないわよ。
一度あなたの相手をしてみたかったのよね♪』
『−−−−−−な・・・』
−−−−−−−超ヤバキチピンチアゲイン!!
一難去ってまた一難とはこの事か・・・・・・
しかも貞操(笑)の危機らしい・・・
「地球が地球が大ピンチ♪」クラスの大ピンチである。
『ほらほら、往生際がわるいわよ。
私あんまり時間がないんだから』
『あぅ−−−−−−−』
先生にズルズル引きずられながらも
自分自身の人生について考えてみる。
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
どうやら
遠野志貴の人生は
”波乱万丈”である事は間違いないらしい・・・
−−−−−
−−−−−
−−−−−
−−−−−
『−−−−−次回予告!
”人間ミサイルランチャー”こと
”蒼崎青子”を前にしてタジタジの志貴兄さん!
はたして貞操(笑)を、コホン。ぽ・・・
え〜、自分自身を守り切る事は出来るのか?
そして、今回出番のなかった私こと、
”遠野秋葉”の見せ場はっ(怒)!!
次回、
閑話月姫 激闘編
”脅威!赤い4連星”
にスイッチ・オン!!
−−−−−−君はシキの涙を見る、
なんてね♪』
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