■ スーパーヒロイン大戦α外伝 / NOCKy
「ねぇ、志貴?」
「なんだ、アルクエイド」
8月初頭。
「あのですね、遠野くん?」
「なんですか、シエル先輩」
朝7時24分。
「……兄さん?」
「どうした秋葉」
気温24℃。湿度60%。
「「「いったいなんなのよぉぉーーー!!!」」」
3人同時にキレた。
なんでこんなところにいるんだろう?
さっきからずっと考えていることだ。
秋葉、アルクエイド、シエル先輩がキレるのは無
理も無いと思った。
思えば、晶ちゃんが
「とっても大きなお祭りがあるんですけど一緒に行
きませんか?志貴さん」
と、誘われたのが始まりで、それを聞きつけた(?)
3人が一緒に行くと言い出したのだ。
もちろん、快く晶ちゃんの申し出を受けて、『大
きいお祭り』ということだったので大勢で行った
ほうが楽しいだろうと、俺がみんなを誘ったかたち
になったのだ。
最初、なんだか残念そうな顔をしていた晶ちゃん
だったが、すぐに明るさを取り戻し、
「遠野先輩やみなさんに手伝ってもらうこともある
ので」
なんてこと言っていた。
よく意味がわからなかったけど……。
そして、今朝、夜も開ける前、自分で奇跡と言っ
てもいいほど、翡翠が起こしに来るより早くに起き
てこの場所に来たのだ………けど、
なんなんだろう、この人間の数は?!
なんの祭なんだろう?
「遠野先輩、騒いではみなさんにご迷惑ですよ」
「……瀬尾、ナゼあなたはそんなに平気なの?」
「えー?これぐらいあたりまえですよ。あと2時間
半もあるんですからじっと座っててください遠野先
輩」
「そうだぞー、秋葉。それにシエル先輩にアルクェ
イド。騒いでちゃ迷惑だぞー」
秋葉の方を見ることなく、たしなめた。
ただでさえ俺達のグループは目立つのに…。
「でも、兄さん『コレ』はいったいなんなんですか
?!始発列車に乗ったと思えば通勤ラッシュばりの
混雑。目的地に着いたと思えば会場が開くまで並ん
で座って待つ。しかも、4時間近く。さらにどんど
ん人は増えて行って座っているスペースは狭くなる
し、気がつけば見渡す限り人の頭しか見えない。ど
こからこんなに人が集まってくるんですか?!」
それは俺も思っていたこと。
「そうだなぁ、七不思議だよなぁ」
アスファルトの地面に座りこんですでに1時間以
上。もう、すでに疲れてしまっていて秋葉達の不平
不満にまともに付き合うほどの体力は無い。
ただ、晶ちゃんだけは電話帳のようにぶ厚い本
(晶ちゃんはカタログと言っていた)を一生懸命見
て、わくわくしながらマーカーで印をつけて、楽し
そうに付箋紙を貼り、目印にしていた。
元気だなぁ、そう思った。
「あぁぁあぁ!!もうだめ、わたししばらくどっか
行って来るね!」
と、まず最初に動き出したのがアルクエイドだっ
た。
ただでさえ一番目立つやつがすごい勢いで立ち上
がり、そのすさまじい跳躍で人の波を飛び越えて行
く。のを引き止めた。
「おい、ばか女。こんなに何万人といる中で人間離
れした事はやめてくれ。何にもしなくてもお前は目
立つんだから」
「むーーー、……わかったわよ。歩いて行けばいい
んでしょ!」
あからさまに不機嫌な顔をして、人と人の隙間を
歩いて行く。
「いてっ!」
「いたぁ!!」
自分の足元を見ないせいか、座っている人たちの
手や足を踏んでいった。
「遠野くん、すいませんが、私も少し列から外れま
す。なんだか、頭が痛くなってきた……」
そういうと、シエル先輩は頭を右手で押さえつつ、
またも人の波からはずれて行った。
うーん、まぁ頭も痛くなるかもしれないけど、あ
のシエル先輩がそれまでとは…。
ふと、さっきから何もしゃべらなくなった秋葉の
が気になった。
「秋葉?どうした…っておい!」
俺の横に座っていた秋葉は完全に頭を垂れてグッ
タリしていた。
「大丈夫か秋葉?」
「あー……兄さん、ええ」
ぜんぜん大丈夫そうには見えない。
「ちょっと横になる…のは無理っぽいから、俺の肩
でよかったら貸すからゆっくり休めよ。もし辛い様
なら帰るか?」
「いえ、大丈夫です…ちょっと休めば……えっと…
それでは、少し肩を借りますね、兄さん」
そう言いながら俺の左肩にもたれかかってきた。
「あっ!?」
急に俺の右側から声が聞こえた。
「?どうしたの晶ちゃん、何かあった?」
こっちを見て晶ちゃんがふるふると肩を震わせて
いた
「い…いいえ、なんでもありません……」
ナゼか考え込むように俯いた。
? よくわからなかったが、何でもないならいい
か。
それにしても開場まで時間がかなりある。
秋葉がこの状態だから、いろいろと動けないし俺
も寝るとするか。
今朝は早かったから、座ったままの状態でもすん
なり眠る事ができそうだ。
それにしても、ほんと、よく起きることができた
よなぁ……。翡翠もおどろいてたしな。
? あれ、なにか忘れているようだけど……なん
だったっけ?
まぁ、いいか。あとで思い出すだろう……う、ん、
眠くなってきた。ちょっと眠ろう、晶ちゃんにも言
っとこう。
「晶ちゃん、ちょっと俺寝るから開場前に起こして
ね」
晶ちゃんの返事も待つことができないほど睡魔が
襲ってきていた。
ゴン!
「いてぇ!!」
後頭部に強烈な痛みを感じて目が覚めた。
「な、なんだ?」
周りを見渡すとすぐ後ろに両手を腰に当て不機嫌
な顔をしているアルクエイドがいた。
「……おい、アルクエイド。いま、殴ったろ?」
アルクエイドをキッと睨む。
「いま殴ったろ、じゃない!なんなの、それ?!」
「はぁ?」
アルクエイドが顎で指した先には、俺の肩にもた
れて寝ている秋葉と、……あぐらを組んで座ってい
る俺の膝の上に丸まって寝ている猫のような晶ちゃ
んがいた。
「え?!あ、晶ちゃん?」
一瞬あっけにとられたが、ゆさゆさゆすって晶ち
ゃんを起こす。
「ぁえ?……あー、志貴さん、おはようございまふ」
「ああ、おはよう。って、そうじゃなくて、なんで
晶ちゃんが俺の膝の上で寝てるの?!」
大きく背伸びをして晶ちゃんはじっとこちらを見
る。
「はい、わたし昨夜寝るの遅くて、更に今朝は早く
に目が覚めてしまったんで、ついうとうとと」
「ついうとうと、ですむ問題ではありませんよ」
いきなり正面に立っていたシエル先輩が怖い顔で
見下ろしている。
はぁ……なんだか、今日一日がすごく疲れそうだ。
なんとか、2人を説得しないとなぁ。
秋葉を起こし、2人を説得し終わったのは開場1
0分前の事だった。
さっきまで全員座っていたのに、数万人という人
間が立ちあがっていた。……いや、10万の桁には
いってるかも。
その時、人の波に埋もれかけた晶ちゃんが俺達を
呼んだ。
「あの、すみません。みなさんにお願いがあるんで
すけど」
「どうしたの?」
「あのですね、今からお願いする本を買ってきてい
ただきたいのですけど」
「本?」
「はい」
俺達4人はうまく状況がつかめずよくわからない
といった状態だったが、晶ちゃんが説明してくれた。
「あの、大変申し訳ないんですけど、いまから渡す
地図の場所にあるサークルの新刊を買ってきてほし
いんです」
「え?さーくる?しんかん?」
アルクエイドにはあまり聞きなれない単語がでて
きたみたいだ。
「はい、まあとにかくその場所にいって『新刊くだ
さい』って言えばいいんですよ。よろしくお願いし
ます」
こちらからの返答を待たずに、晶ちゃんは俺達4
人に地図とお金を渡してきた。
「なんて、私達が瀬尾の使いをしないといけないの
?」
あー、秋葉が怖い顔をしている。笑っているけど
怖い顔だ。
「はい……正直言って、遠野先輩や志貴さんにこん
な事をお願いするのは大変心苦しいんですけど、今
回ばかりは私1人の力ではどうしようもできないの
です。……だって!私の好きなサークルさんが一斉
に新刊を出すんです!」
「は、はぁ。ま、まぁ、とにかくわかったよ買って
こよう。なぁいいじゃないか」
ナゼか異様に力の入った晶ちゃんのよくわからな
い理由に気圧され、承諾してしまった。
「ありがとうございます!!志貴さん」
元気よく深深と頭を下げる晶ちゃん。
「まぁ、兄さんがそう言うんだったら、手伝わない
事もないけど」
「ありがとうございます!遠野先輩」
「しかたないですねぇ、私もお付き合いしますよ」
「ありがとうございます!シエルさん」
秋葉、シエル先輩と俺の言葉で渋々と引き受けて
いるみたいだけど、アルクエイドはどうするんだ?
「アルクエイドはどうなんだ?」
見ると地図をまじまじと見つめていた。
「アルクエイド?」
「ねぇ、本当に行ってきていいの?」
「は、はいっ。おねがいします!」
四たび深く頭を下げる晶ちゃん。
「やったー、そしたら行ってくるよ」
そう言うやいなや、やっと開場して先頭の方がよ
うやく動き出した超長蛇の列をかき分けてずんずん
進んでいった。
「お、おい、アルクエイド!どこ行くんだよ!!ま
だ順番は来てないって…。」
だめだ、もう聞こえないようなところまで行って
る……まぁ、さっきもあんだけ釘を刺しといたから
あんまりヘンな事(人外の力、等)しないだろう。
にしても、えらくうれしそうに行ったなぁ。
「あの人はほっとくとして、私達は順番を待つとし
ましょうか」
と、落ちついた態度をとるシエル先輩。
が、それも長くは続かなかった。
開場して数十分。
「まだ、入れないんですか?!」
もう、かなり強い日差し、それに人の海の中に埋
まって数時間。さすがのシエル先輩も苛立ちが手に
取るようにわかる。
あ、それは秋葉も同じだった。
下を向いて何かを我慢しているようだった。
……いま一瞬、髪が赤くなったような……
「ま、まだかなぁ。ねぇ晶ちゃん」
「そうですねぇ、あと2,30分くらいでしょうか」
さらっと言ってくれる。
が、これを聞いて約2名はますます機嫌を損ねて
いるように感じ取れた。
こう、肌でビリビリと。
はぁ。
なんとかなにも起こらずに無事に会場に入ること
ができた。それにしても、すごい人だなぁ。
「それでは、お願いします。遠野先輩、シエルさん」
秋葉は晶ちゃんがまた深々と頭を下げている時に
俺ですら1,2度見たかどうかの鋭い視線を送った。
「はいはい!わかったわよ、行って来ます」
「しかたないですね、いってきましょう」
「ありがとうございます。集合はあのあそこのベン
チがあるところにしましょう」
2人は、ハイハイと空返事をして、地図を片手に
『西会場』と矢印の書いてある方へと歩いて行った。
「そしたら、俺も行くとするか。それじゃ晶ちゃん」
「はいっ、行きましょう」
「え?」
晶ちゃんは、
ぴょん、
と俺の腕に抱きついてきた。
「晶ちゃん?俺は晶ちゃんに頼まれた本を買いに行く
んだよ。なんで抱きついてくるの?」
「え?だって志貴さんは私と一緒に買いに行くんで
すよ。えっと……荷物持ちと言うことで」
「は?」
「ささ、早く行きましょう!本が無くなっちゃいま
すよ」
ぐいぐいと俺の手を取り、引っ張る晶ちゃん。
やれやれ、しかたないな。まぁ、こんなところで
1人で本のある場所を捜し歩くよりいいか。
俺は、晶ちゃんに引っぱられながら秋葉達と反対
の方向、『東会場』へと向かった。
晶ちゃんと一緒に周っていて本当によかったと思
い知らされた。
もう、人の山・山・山。
どこが通路で、どれが本を買う人の行列か全くわ
からない。
そんななか、晶ちゃんはすいすいと人の間をすり
抜けて行き、目的地までのルートを最短距離で進ん
でいく。まったく俺1人で行かなくてよかった…。
つくづくそう思った。
……だとしたら、1人で周っている秋葉達は……
がんばれよ、と祈るしかなかった。
そんな時、
「あ、志貴さんちょっと待っててください。私あそ
このサークルさんの新刊買ってきますんで」
そう言うと、サッと人ごみの中に消えて行った。
元気だなぁ。素直にそう思えた。
5分くらい経っただろうか。ぼーっと晶ちゃんが
帰ってくるまで待っていることにした。
「お――い」
「お―――――い」
なんだろう?
「お――――――――い」
……どっかで聞いたような声だなぁ。
「お―――――い、と―――の―――――」
え?!俺?だっ誰だ?!
きょろきょろしてたら人垣の方で手を振ってぴょ
んぴょん跳ねているオレンジ色が見えた。
あれは………なんでこんなとこにいる?
人々をかき分け俺のすぐそばまでやって来た。
「いやー、まさかこんなところで会うとは思わなか
ったぜ、親友」
相変わらず馴れ馴れしく肩をポンポンと叩く。
「それはこっちの台詞だ、なんでこんな場所にいる、
有彦」
「なんでって、そりゃあおまえ……」
「お待たせしました、志貴さん」
有彦の言葉を遮るように晶ちゃんが帰ってきた。
「ああ、おかえり晶ちゃん」
「すいません遅くなっちゃって、ってどなたですか?」
と、晶ちゃんは俺の隣にいる怪しい男の存在に気
が付いた。その怪しい男は晶ちゃんの登場で面を食
らっていた。
ちゃんと説明しとかないと怖がるかもしれないな、
「あのね晶ちゃん、こいつは俺のどうきゅ…」
「ああーーーーー!!」
有彦の顔をまじまじと見ていた晶ちゃんが叫びに
近い声を上げた。
「い・い・い・い・犬塚せんせいじゃありませんか
?!」
「は?」
晶ちゃんの突然の発言にあっけにとられてしまっ
た。
しかし、その発言で息を吹き返したのが隣に突っ
立っていた自称親友。
「おうっ、そのとおり犬塚アリだ」
なんだよその犬塚アリって。
「やっぱり!私、先生達の大ファンなんですっ!!
いまからスペースに行こうと思っていたんです!」
「そうか、そうか、それでは一緒に行こうではない
か」
「えっ?!いいんですか?喜んでお供します!」
あぁ…もう2人で何言ってんだか。
「そしたら遠野、」
「それでは志貴さん、」
まるで2人言い合わせたようなピッタリの息で、
「いくナリ!!」
「行きましょう!!」
はぁ。
「「え?!」」
2人が顔を合わせる。
「先生って志貴さんとお知り合いだったんですか?」
「君って遠野と知り合いなの?!」
このテンションに付いて行けないけど、説明はし
ないといけないよなぁ。
「そうだよ。晶ちゃん、こいつは俺の同級生で乾有
彦」
「そうなんですか!」
「親友を付け加えてくれ」
「…はいはい。それと有彦、こっちが瀬尾晶ちゃん。
秋葉の後輩なんだけど、よく遊びにくるんだ」
「そうなのか」
「そうなんです」
2人は何かそれぞれの俺との関係に納得している
みたいだけど、俺はよくわからない繋がりに戸惑っ
たまま。
「では、改めて。いくぞ!」
「はいっ!」
「…はいはい」
いつにも増してハイテンションの有彦に、喜んで
付いて行く晶ちゃん。
しかたない、ついて行くしかないか。
犬塚アリねぇ……ペンネームってヤツか?
? 塚?
何か妙にひっかかったが、とりあえずはぐれない
様について行くしかない。
ヤバイ、2人とも早いぞ!はぐれてしまう、いそがなきゃ。
それと、何かもう1つ。何か、忘れてるような……
その頃――――――――
「姉さん、ここなの?」
「そうですよ、翡翠ちゃん。やっとついたんですよ」
雄々しくそびえる巨大な建物の前にたたずみ見上
げる琥珀・翡翠姉妹。
「大きいわねぇー」
「大きい…それに姉さん、人が異常に多いわ」
「多いわねぇー。テレビで見た以上にすごいイベント
ですねぇ」
「こんなところで志貴さま達を見つけることができ
るの?」
「ほんと、こんな事なら仕事なんかほっといて、志
貴さん達と一緒にくればよかったわねー」
「それはダメです姉さん。秋葉さまに与えられた仕
事はちゃんとこなさないと」
「わかってるわよ翡翠ちゃん。だからこうして仕事
を全部終わらせて着替えもせずに急いできたんじゃ
ないの」
「そうだけど……やっぱり着替えてくるくらいはし
た方が……」
「なんで?」
「なんか、すれ違う人がみんな私達を見ていくんだ
けど……」
「さすがに目立つかー、この格好じゃねー」
「恥ずかしいわ姉さん」
「そしたら翡翠ちゃん、その頭のレースの飾りくら
い取ったらどうなの?」
「え?!それは、その……」
「そうねー、あー私達ってスタッフ思いの姉妹だわ
ー」
「……姉さん……」
そうか、何かひっかかったのはこのことか。
有彦のサークルスペースに来てそれを理解できた。
「あれ?!遠野くん?遠野くん来てたんだ」
「ああ」
君こそどうしてこんなところにいるんだ弓塚?
と言う質問は愚問だと思い知っている。
「遠野くんがイベントに来るなんて知らなかったな」
「まあ、俺もこの子について来ただけなんだけど」
そう言って隣に立つ晶ちゃんを指す。
「は、はい」
ナゼか非常に結構緊張している晶ちゃん。
「あれ、あなたは冬にも来てた……」
「え?は、はい。冬の時も失礼しましたっ!!」
え?冬?
「そっか、遠野くんの知り合いだったんだ。あ、ま
たスケブ描く?」
「は、はい。お願いします!」
弓塚は晶ちゃんの持っていたスケッチブックを受
け取ると、何やらスラスラと書きだした。
と、それを熱心に見つめる晶ちゃん。
俺もちょっと覗きこむ。が、なにかのまんがのキ
ャラクターだとは思うんだけど、テレビとかぜんぜ
ん見てないからわからない。
「これは、みちるちゃんだ」
「!!」
不意に有彦が耳元で囁いた。
「いきなりなんだ、有彦!」
「え?なんだ、って…今、弓塚が描いてる絵の事知
りたかったんじゃないのか?」
「それはそうだけど…いきなり耳元でしゃべるな!」
「それは悪かった。とにかく、これは『マジ・ラヴ
』って言う人気マンガに出てくる『みちるちゃん』
ってキャラクターだ」
ってなこといわれてもわからないモノはわからな
い。そんなことより、もっと不思議に思っている事
がある!
「おい、有彦」
「なんだ遠野」
「だいたい、なんでお前と弓塚さんがいっしょに、
…サークルだっけか?それをやってるんだ?」
「うむ、それは話すと長くなるんだけど、ふとしたキ
ッカケで本を出すことになってなー。それがまた面
白くてネェ」
「短いぞ。それにわからないぞ、そんなんじゃ」
「まぁまぁ、細かい事は気にせずにいこう!ハッハ
ッハー」
……コイツ……
そんなやりとりを有彦としていると、晶ちゃんの
方も終わったみたいだ。
「志貴さんお待たせしました」
「あ、描いてもらった?よかったね」
「はい!とっても幸せです!」
けっこう安上がりの幸せだなぁ。
「遠野くん、ゆっくりして行けば?こっちに来て座
っててもいいよ」
弓塚が手招きしている。うーん、ちょっと休んで
行きたいところだけどなぁ。秋葉たちが来てたらま
ずいし。
「ごめん、今は急いでるからあとで暇になったら来
るよ」
「そっか、……それじゃまたあとでね」
なにか、少し残念そうな顔をしているみたいだ。
でも、秋葉を怒らせる方がコワイからなぁ。
「よしっ、続き行こうか晶ちゃん」
「はい、志貴さん。それでは犬塚先生また!」
「うん、またきてね」
「まってるゾ」
丁寧に挨拶をする晶ちゃんを待ってから、一緒に
次の目的地に向かった。
「あー、やっと来ましたよ遠野くん」
やっぱり、秋葉とシエル先輩は集合場所に来てい
た。……あれ?アルクエイドはまだ戻ってないのか。
「もー、兄さん遅いで……!!」
秋葉の待ちわびていた表情が急変した。
「瀬尾。あなたナゼ、兄さんと一緒なの?」
「あ、はい…えっと…」
さすがに晶ちゃんも、秋葉に睨まれるとカエル状
態になるみたいで、すくんで口篭もってしまった。
「ああ、つい今しがたそこでばったり会ったんだよ
。ね、晶ちゃん」
「は、はいっ。そ、そうなんですよ」
晶ちゃんの表情が明るくなる。
秋葉もいまいち疑いがはれないみたいで、表情が
固かった。
「まぁ、そういう事だったら」
見逃してくれるようだ。ほっと一安心。
ここらで、話題を変えたほうがいいかもな。
「なぁ、アルクエイドはまだ戻ってきてないのかな?」
? ナゼか3人とも不思議な顔をする。
「あの、遠野くん。アルクエイドってここの集合っ
て知ってるんですか?」
「え?………あ。」
そう言えばあのばか女、開場と同時に中に入って
行ったから晶ちゃんのお使いは出来ても、ここの場
所の事は知らないんだった。
「どうしよう、この人間の数じゃ探すのは無理だぞ」
「放送で呼び出してもらったらどうでしょう」
そうか、その手があるか。ナイス晶ちゃん。
「いえ、それは控えた方が。たぶん、放送を聞いた
アルクエイドがどういう行動を取るか……」
「ははっ、大丈夫だよシエル先輩。いくらアルクエ
イドでも、呼び出しの場所ぐらいはわかるだろ。す
ぐにすっとんで来る…」
「来ちゃまずいでしょ、すっとんで」
「そうか……」
確かに、人の波を飛び越えて来たりしたらまずす
ぎる。
「ま、ほっといても自分で勝手に帰るでしょうから
ほっときまし…!」
と、シエル先輩は喋っている途中で目を見開き、
視線をそらした。そして、小さく舌打ちをしたよう
に見えた。
なんだ?何があるんだ?
さっきまで先輩が見ていたほうを見てみると、黒
い人の頭の中に一点だけ金色が混じっていた。
この会場にはかつらなど被っていたり、染髪して
いる人も多いので、金髪自体は珍しくないのだ
が、顔半分飛び出ていて、どう見てもアルクエイド
なのだ。
こういうところは有彦に通じるものが有るなぁ。
でも、なんか楽しそうだぞ。あいつ。あんなに人
ごみにもまれているのに。
人の流れに沿って進んでいるようだったので呼び
止めようとしたが、ふと、かろうじて人垣から出て
いる目がこっちを見ていた。
「あ――――っ!!しぃ―――きぃ―――――」
とてもでかい声と片手を大きく振ってぴょんぴょ
ん跳ねてる。
……まったく、有彦と同じじゃないか……
無理矢理流れを、力で塞き止めてこちらへとまっ
すぐやってくる。
あーあ、まったく。
でも、非人間的な行動を取っていないからよしと
しよう。
「志貴ー、買って来たよ」
相変わらずノー天気さ爆発ってところか。
「ねえねえ、もう買ってこなくていいの?」
「元気だな……アルクエイド」
なんか、ノー天気と言うよりテンション高いぞ。
あ、そうか。アルクエイドは物を買ってくるとか、
経験した事ないのか。
それに、このお祭り騒ぎ出しなぁ。
「あ、はいこれで結構です。ありがとうございます」
アルクエイドの買ってきた本を確認して晶ちゃん
は満足そうだ。
「ほんとにみなさんありがとうございました。ほん
とにお礼の言葉もありません」
「そう、もう終わりなのね」
「はい」
「だったら帰りましょう、ちょっと人に酔ってしま
いましたから」
そう言って座っていたベンチから立ちあがる秋葉。
「あ、ちょっと待ってください!もう帰っちゃうん
ですか?来たばっかりですよ」
来たばっかりって…開場からは2時間ほどしか経
っていないけど、ココにやって来たのは6時間半ば
かり前なんだけど。
「せっかくこれからコスプレスペースに行こうと思
っていたのに」
「コスプレ…ですか?」
「ねえーこすぷれってなに?」
なぜかコスプレに興味を持っているようなシエル
先輩と、なんでも興味があるアルクエイド。
「じゃあ、行って来なさい、瀬尾。シエル先輩とそ
このアルクエイドさんを連れて」
秋葉は晶ちゃんに顔を向けずに座りなおした。
「私と兄さんはここで待ってるから」
え?オレも?
「え?志貴さんも遠野先輩も来ないんですか?」
う、なんか、晶ちゃんがとっても悲しそうな目で
こっちを見ている……。
「あー……コスプレがどんなものかみてみたいなぁ
……」
ガタッ!!
すごい勢いで秋葉が立ち上がり、こっちをまたす
ごい勢いで睨んでる。
「兄さん…………?」
う、雰囲気がヤバイ。
「ま、まぁいいじゃないか。今度はあんなに人ごみ
じゃないんだろ?」
「はいっ!今度は見にいくだけですから。それにあ
んなに人はいませんから」
「な、行こうよ秋葉。人も少ないって言うし、俺と
一緒にすみっこから見てるだけでいいだろ?」
なんだか複雑そうにこっちを見つめる秋葉。
「本当に一緒に見てるだけですね、兄さん」
「ああ、だから一緒に行こう。な、秋葉」
「……もう、兄さんは卑怯です。しかたないわね、
瀬尾、行きましょうか」
「はいっ!ありがとうございます」
ふう、なんとか収まったか。とりあえず、行くと
しよう。
それにしても、やっぱりなにか忘れてる……。
気になるな……
その頃――――――――
「ね、姉さん」
「な、なにかなー翡翠ちゃん」
「ここ、ど、どこでしょう?」
「さぁー」
「360度、どこを見ても人だらけで……目が回り
ます」
「ほんとここまですごいとは、ほんっっっっとに思
わなかった……」
「ねえさん……ちょっと休みましょう」
「大丈夫?翡翠ちゃん?お薬あるけど飲む?」
「…………遠慮しときます」
「どうしてかしら?」
「えっと…とにかく、ここから出ましょう。新鮮な
空気を吸いたい」
「そうね、とにかく出ましょう」
「あれ?姉さんあの人って、志貴さまの…」
「え?あー、志貴さんのお友達の乾さんじゃないで
すか」
「何なさってるんでしょう?たくさんの人が並んで
ますけど」
「たぶん、同人誌を作って販売してるんでしょう。
へぇ、結構人気あるみたいですねぇ」
「ご挨拶したほうがいいのかな」
「いえ、いま声をかけてはかえってご迷惑ですよ。
そうですね、また後ほどお客さんがいなくなってか
ら改めてご挨拶に伺いましょう」
「はい。では、はやくここから出ましょう。このままだ
と本当に姉さんのお薬のお世話になるかもしれな
いから」
「えー、お世話になればいいのに」
「早く行きましょう。姉さん」
「ちょっと、翡翠ちゃん?!待ちなさい」
「瀬尾、確か『あんなに人はいません』って言った
わよねぇ」
「はい」
「じゃあ、さっきの本の販売場所と、どう違うのか
しら。この状況が!!」
秋葉が怒るのも無理はない。ざっと見渡しただけ
でも、数百人はいるんじゃないか?
俺も晶ちゃんの言葉は信用していた。と言うより
は、そうあって欲しいという願いだった。
「少ないですよ」
いや、そう簡単に言うけど、俺や秋葉にとっては
十分多いぞ。この人数は。
秋葉は何かを言おうとしたが、その前に口を挟ん
だばか女がいた。
「ねぇ!なんでみんなあんな鎧とか武闘服とかドレ
スとか着てるの?なんかパーティでもあるの?」
なんでコイツはこんなに嬉しそうなんだ?
なんにでも興味を持つのはしかたないかもしれな
いけど、なんか秋葉の怒りに油を注いでいるような
……。
「はい、あれは『コスプレ』って言って、マンガと
かゲームとかのキャラクターと同じ衣装を着たりし
て姿を真似る事です。一種の仮装パーティです。」
「ふーん、『こすぷれ』かぁ」
…あ、なんかこの展開は…。変な事言うなよアルク
エイド。
「おもしろそうだなー。私はできないの?こすぷれ」
やっぱり。
「そんな事もあろうかと、へへへー。ちゃんと用意
してきたんですよ」
おもむろに、手に持っていた紙袋を差し出した。
そう言えばずっと持ってたなこのでかい紙袋。
「この中に、この瀬尾晶の特別にセレクションした
師玉の衣装が入ってます」
なにが入っているのだろうかと思っていたけど、
そんなものが入っていたのか。
でも、セレクションって……そんなにあるのか?
「アルクエイドさんにはこれをどうぞ」
紙袋の中のさらに小さい紙袋を出してアルクエイ
ドに手渡した。
「シエルさんにも用意していますけど……?」
「え?私の分もあるんですか?」
「はい、……あの、ご迷惑でしたか?」
「いえ、実を言うと私もすこしばかり興味はあった
んですよ」
ぱぁっと晶ちゃんの表情が明るくなった。
「ありがとうございます。では、こちらの衣装をど
うぞ」
また、紙袋の中から違う小さい紙袋を取り出しシ
エル先輩へ手渡した。
アルクエイドとシエル先輩のコスプレか……楽し
みだな。一体どんな衣装だろう?想像するだけでも
楽しいな。
ふと、『秋葉がコスプレしたらどうなるんだろう
?』と考えてしまった。
でも、秋葉のことだから強く拒否されるのは目に
見えているしなぁ。けど一応聞いて見るか。
「なぁ、秋葉。秋葉はコス………」
そう言いながら秋葉の方を向くと、秋葉はこちら
とは別の方を向いている。
何を見ているんだろう?
秋葉の視線を追って見ると、そこにはたくさんの
コスプレをした人たちがいた。
「秋葉?」
「は、はい、なんでしょう兄さん」
「秋葉もしたいの?コスプレ」
「い、いえっ!そんなことないです!出きるわけな
いじゃないですか、あんな恥ずかしい事!」
の割にはかなりコスプレの人達をじっと見ていた
ような…
「いいんじゃないか?これって祭みたいなものだ
ろ、こんな時ぐらいちょっとハメ外したって」
「でも、あんなことできません!したとしても誰に
も見せたくありません!」
「そうかぁ?俺は見たいけど。秋葉のコスプレ」
「え?」
「秋葉なら何を着ても、とっても似合うと思うけど」
「に、兄さん……」
ここまできたらぜひ見てみたいなぁ。
「……わかりました。私コスプレしてみます」
「え?」
まさか秋葉のほうから折れてくるとは思わなかっ
た。
「瀬尾、私の分の衣装はあるかしら?」
「え?……あのぅ、あと私用に作ったものしかない
んですけど……これでよかったら遠野先輩着てくだ
さい」
「いいの?じゃあこの衣装を借りるわね」
「はい、ちょっと大きめに作ってあるから大丈夫と
は思うんですけど。では、更衣室はこっちです。さ
さ、アルクエイドさんもシエルさんも行きましょう」
紙袋ごと衣装を受け取った秋葉の背中を押しなが
ら、アルクエイドとシエル先輩を連れて更衣室へと
向かった。
「では行って来ます、兄さん」
「ちょっと着替えてきますね」
「まっててねー」
いま、すれ違いざまに晶ちゃんが笑っていたよう
な。ニヤリと。
………見間違いだな。
結局、また1人で待つことになるのか。暇だなぁ。
ぼーっとコスプレをしている人達の方を見ている
と、ほんといろいろな格好をしているもんだなぁ。
前に有間の家にいる時にテレビで見た事があるア
ニメのキャラクターのコスプレもいた。
ほうほう、よくできてるものだ。よーく見てみる
とすごい作りになっているもんだなぁ。と、唯々感
心してしまう。
長いなぁ。
もう、30分は経っただろうか?
「お待たせしました!着替えは全部終わりました」
晶ちゃんの元気な声。
その声の方へと振り向くと、晶ちゃんとナゼか白
いマントのようなシーツを羽織っている秋葉、シエ
ル先輩、そしてアルクエイドの3人。
「なんだ?それ、てるてるぼうずのコスプレ?」
ほんとにそう見える。
「いえ、違うんですよ。やっぱりハズカシイらしい
ので、更衣室からここの会場までこれを着て行くっ
て言われて」
「当たり前です!こんな恥ずかしい格好して大勢の
前を歩けますか!」
そんなに恥ずかしいコスプレなのか?
「えー?私はこのままでもよかったんだけどなー」
唐突にアルクエイドは身にまとっていたシーツを
脱いだ。
そのシーツの下には白い毛皮のビキニの上下、猫
手の手袋、猫足のブーツ。居様に露出度の高い格好
だ。ご丁寧に腰の辺りからは2本のしっぽが生えてい
た。
「あ、あと、これを忘れてますよアルクエイドさん」
おもむろに晶ちゃんがアルクエイドの頭に何かを
付けていた。
「あー、ごめんごめん」
猫耳だ。
「あ、晶ちゃん、これなに?」
「え?志貴さんご存知無いんですか?『マジ・ラヴ』
の猫又、たまこさんですよ」
「はぁ、さようで…」
ん?このタイトル聞いたことがあるような?
「どーかなー志貴?似合うかにゃー」
なんだかよくわからんが、役になりきってるつも
りなんだろうか?
「ああ、ちょっと派手だけどいいんじゃないか…な」
「えへへー、やったー」
まぁ、『白』という色がよく似合うアルクエイド
にはピッタリだと思うけど……よくよく見ると水着
そのものだしなぁ。
「それでは次に、こちらが……」
シエル先輩のシーツをはがす晶ちゃん。
「シスターのマリアさんです」
先輩の方は、よく先輩が着ている神父さんの服装
…カソックだったっけ?に似ていたけど決定的に違う
のは、すごい超ミニスカートとう点。歩くだけでも下着が
見えてしまいそうだ。
……膝上何十センチというより、股下数センチと
言ったほうがいいくらい短い。
さらにハイヒールを履いている。
「どうですか遠野君?ちょっと恥ずかしいんですけ
ど遠野君に気にいってもらえれば」
気に入るって……そんなレベルじゃないような…
上半身と下半身の露出度が極端に違いすぎる。『生足
全開!』といった言葉が真っ先に頭に浮かぶ。
「先輩は…いつもの服に似てるけど、そのミニスカ
ートが可愛いと思うよ……」
「そんな、カワイイだなんて……」
手で隠してはいるが、顔が赤くなっているのがわ
かる。
「それでは、おまたせしたいました。いよいよ遠野
先輩の番です」
そう言いながら、秋葉ににじり寄る晶ちゃん。
対する秋葉は同じ歩調で後へさがって行く。
「せっ、瀬尾!な、なにをしたいの?!」
「え?そのシーツを取るに決まってるじゃないです
かー」
「な、なにを!!そんな事は許しません!!」
「でも、せっかく着替えたのに見せないのは…」
「こんな服だとは知らなかったからです!!もうい
いです、元の服に着直して来ます」
「え?!そんな!せっかく一番似合っているのに!」
「そんなこと言っても……!」
「とっても、かわいいのに」
「で、ですから……」
「志貴さんも残念ですよねぇ」
「え?!」
こちらをちらっと見る晶ちゃん。
それにつられて『そうなの?』といった目で見つ
める秋葉。
「うーん、そうだなぁ。見てみたいって言うのが率
直な感想だけど、まぁそんなに無理しなくて……」
「……わかりました。でも、少しだけですよ」
「え?」
そういうと、躊躇いながらもゆっくりとシーツを
脱いでいく秋葉。
その仕草にちょっと色気を感じてしまったけど、
シーツを脱ぎ終えた秋葉の姿を見ての驚きで吹き飛
んだ。
「……どうですか?、兄さん」
秋葉の着ている服は、赤いブレザーの下に白いシ
ャツなんだけども、両方とも丈が胸元までしかなく
おなかの部分が丸見えになっていて、しかもシエル
先輩と同じくらいのミニスカート。この服装の組み
合わせ、どこかで見たような……
「あぁ……とてもカワイイですよー、遠野先輩!!
もう、原作のみちるちゃんそのままです!!」
なにか、ウットリするような表情の晶ちゃん。
『みちるちゃん』?、『マジ・ラヴ』?
そうか、あのとき弓塚が書いていた絵のキャラク
ターか。
「そ、そう?ありがとう瀬尾。……兄さんはどうか
な?私の格好、……変じゃないですか?」
「い、いや、俺もいいと思うよ。けど……ちょっと」
「ちょっと……なんですか?」
「いや、その………露出が多くないか?」
そう、兄としてはちょっとそれは見過ごしてはい
られない。
「や、やっぱりそう思いますよね兄さんも」
「それが、カワイイんですよぉ!」
力いっぱい否定する晶ちゃん。
「そ、そんなものなの?」
「はい、そうです!それに私に合わせて作ったので
ちょっと丈は長くしてたんですけど、ピッタリでよ
かったです!さすがは遠野先輩。スタイルがいいか
らですね!原作のみちるちゃんそのものです!!」
「そ、そう?」
晶ちゃん、べた褒めだ。
……まてよ、晶ちゃんが自分に合わせて作ったって
ことは秋葉って身長こそ違えど、サイズ的には晶ち
ゃんと一緒ってことか?
秋葉も気を良くしていることだし、……これは黙
っておいた方がいいな。
「では行きましょうか」
「「「「へ?」」」」
唐突に晶ちゃんの発言。思わず気の抜けた声を出
してしまった。
「行くって…どこに行くの瀬尾?しかもこの格好の
ままじゃ……」
「その格好だからですよ」
「???????」
やっぱりよくわからない。
「ほら、行きましょう!あそこですよ!」
と、晶ちゃんの指差したのは先程見ていたコスプ
レしている人たちの集まっている場所。
「その中心に!」
「え゛っ!」
秋葉の表情が凍った。
「じょっ、冗談じゃ無いわ!なんで、あんな人だか
りの場所にわざわざ行かないといけないの?!」
「え?だってコスプレした人みなさん集まってます
よ?」
かなり嫌がっている秋葉の手を取り引っ張って行
こうとしている晶ちゃん。でも、晶ちゃんじゃ秋葉
を引っ張って行くのは無理だろうなぁ。
「そっ、そんなことは関係ないで……」
「ほらっ行くよー、妹」
グイッ!!
「なっ!なにするの?!」
またも、異様に嬉しそうなアルクエイドがごねる
秋葉を片手で抱えてコスプレ集団目指して歩き出し
た。
あ、秋葉、見えてるよ。
「やめなさい!こっ、この!ばか女っ!!」
「えっへへー」
アルクエイドはぜんぜん聞いて無いようだ。
それにそんなに暴れるとますます見えるぞ秋葉。
「あ、それでは遠野くん私も行って来ますね、アル
クエイド一人にすると何をしでかすかわかりません
から」
と、俺の正面でペコリと頭を垂れるシエル先輩。
「先輩、秋葉のことも頼みます」
「はい」
そう言い残し、アルクエイドの後を追った。
はぁ。
大丈夫だろうか?……やっぱり気になるなぁ。
……こっそり見に行ってみるか。
俺は4人の姿を見失わないように後を追った。
晶ちゃん先頭でアルクエイド+秋葉、シエル先輩
と並んで人垣を掻き分けて、そこだけ『違う空間』
に入っていく。
ここも、さっきほどではないにしろすごい人だ。
近くに来て気がついたけど、集団の中心は『コス
プレ』した人ばかりだけど、その『コスプレ』の人
たちの周りを取り囲むように普通の格好をした人た
ちがいる。
?カメラを持っている人が結構いるみたいだ。
あ、いけない、秋葉たちを探さないと。
と、その時、
「おおー!」
と低く響く声。
歓声も上がっている。
方方で、
「すごくかわいいみちるーがいる!!」
「あのマリアさん髪の毛ちょっと短いけどメガネが
いいぞ!!」
「あの、たまこは外人じゃないか?!すっげえ!」
な、なんだ?!
その声の方がしているほうを見ると、そこにはさ
らに人垣ができていた。
その中心は……いた。秋葉とアルクエイド、シエ
ル先輩そして晶ちゃん。
……なんか大人気のようだ。
「はい!では順番にお願いしますねー!!」
なにやら晶ちゃんが何かを仕切っているようだ。
「ちょっ!ちょっと瀬尾!!あなたなにを……」
秋葉の言葉を遮るように一斉に鳴り出すパシャパ
シャというカメラのシャッター音。
「な!なにをいきなり断りも……」
そんな秋葉の怒りの声もシャッターを切る音に遮ら
れてかすれている。
さらに秋葉達の周りに人が集まって行く。
す、すごい。
いや、すごすぎる。もうすでに何十人と集まって
いるだろうか、休む間を与えぬほどの撮影が始まっ
ている。
「いやー、すごい人気ですね遠野先輩たち」
「ほんと、すごいなぁ。……って、晶ちゃん?!」
いつのまにか晶ちゃんは俺の横に立っていて、ピ
ョンピョンとジャンプしながら秋葉達の様子を見て
いる。
「晶ちゃん!?秋葉達についてなくていいの?」
「え?はい、大丈夫ですよ。みなさんエチケットは
守ってくれますから」
いや、そういう問題ではないと思うんだが……。
「ねぇ、志貴さん?」
「ん?なに晶ちゃん」
「一緒に他の場所も周ってくれませんか?」
「え…でも、秋葉達をこのまま置いては…」
「だめですか……?せっかくの『お祭り』なんです
……こんな時だけでも……だめですか?」
目にうっすらと涙を浮かべてこちらをじっと見つ
めてくる晶ちゃん。
………そんな顔して…やれやれ、しかたない秋葉
には後から謝っとくか。
「それじゃ行こうか、どこから行くの?」
「あ!は、はい!実はまだ行きたいサークルさんが
あるんで、まずはそちらに!」
めいいっぱいの笑顔で走って行く晶ちゃん。
こっちまで元気になりそうだ。
ふと、秋葉達の方を振り向く。
「瀬尾っ!どこにいったの?!瀬尾っっっ!!!」
「まぁ、まぁ秋葉さん落ちついて下さい。でないと
…見えますよ」
「!!」
「へへー、きれいにとってねー」
「あなたはなんでそんなにノー天気なんですか?!」
「にゃにおー!」
「秋葉さん!見えますって!」
……すまん、がんばれ秋葉。
「志貴さーーん!」
「ああ、今行くよ」
?まてよ、何かを忘れているのを忘れてた。
なんだったかなぁ?
大事な事だったような……
その頃――――――――
「姉さん」
「なに?翡翠ちゃん」
「志貴さまたちはどちらにいらっしゃるんでしょう
か?」
「そーねぇ、やっぱりさっき乾さんに聞いておけば
良かったわねー」
「そうですね。それと、この人の流れはどこに向か
ってるのかしら?」
「そんなの私もわかりませんよ。それに、どこか別
の場所に行くこともできないし、ましてやこの流れ
に逆らって歩くこともできないわねー」
「反対方向への流れはかなり空いているのになんで
こっちはこんなに混んでいるのでしょう…あ、志貴
さまです!姉さん志貴さまがいらっしゃいました!!」
「え?……ほんとだ、志貴さんと隣にいるのは晶ち
ゃんですね。良かった見つかって」
「はい、では、志貴さまのところへ参りましょう」
「そうね、…って、翡翠ちゃんここからどうやって
あっちまで行くの?それに、……どんどん遠ざかっ
て行くんだけど」
「え?、あ、ちょっと待って、あ、すいません通し
てくださいっ。あ、ああっ志貴さまが…」
「どんどん離れて行ってしまうわね。こうなったら
ここから呼びかけるしかないわ翡翠ちゃん」
「はい姉さん」
「いくわよ、せーの、志貴さ――ん!!」
「志貴さま――!!」
「志貴さ――――――――――んっ!!!」
「志貴さまぁ―――――――――――っ!!!」
(大中略)
「ゼェゼェ…じ…じぎ…ざぁまぁ……ぁ……げほっ」
「ハァハァ…ヒ、翡翠ちゃん大丈夫……?…だめ…、
周りがうるさくて志貴さんまで声が届かない……あ
ぁ…志貴さんが、……見えなくなってしまう。……
そ、それにしても翡翠ちゃん、この流れはどこに行
くんでしょう?」
「わ、私に聞いてもわからないわ…姉さん…」
「ん?」
「どうしたんですか志貴さん」
「うん、なんか呼ばれた気がするんだけど……気の
せいかな?」
「やだ、志貴さんたら幻聴ですか?」
「……せめて空耳って言ってくれないか?」
あはははっ、と元気に笑う晶ちゃん。
別に秋葉を否定するわけではないけど、こんな妹
が居ても楽しいだろうなと思った。
秋葉のように美人で、聡明で、いろいろな事をそ
つなくこなし、気丈で、…それでいて寂しがりや。
そして、晶ちゃんのように、元気で、明るく、見
ているこっちまで楽しくなるかわいい子。
2人の妹に囲まれて、楽しく過ごせたら……
「なにニヤニヤしてるんですか?志貴さん?」
「え?」
ヤバイ。おもいっきり顔に出ていたようだ。とい
うか、そんな想像してる場合じゃないか。
「いや…なんでもないよ」
「えー?本当ですかぁ?…もしかして、なにかヘン
なこと想像してたんじゃ……」
う。
「そ、そんな訳ないだろ!…さて、どこに行くんだ
?」
「あ、なんか誤魔化されたような感じだけど…まぁ、
いいです。えっとですねー、……ここから2つ先の
列です」
指差す先は、人の黒山しか見えない。なんとか、
列があるのは確認できる…が…。
「う…この中をあそこまで行くのか?!」
「そうです。では気合い入れて行きましょう!」
晶ちゃんは空手でよく見る『押忍』ふりをした。
俺も同じ動作をおこなった。2人で言葉にはせず、
アイコンタクトで意思を確認して人の塊を掻き分け
ていった。
体力を異常に使う一日だ。
まぁ、アルクエイドやシエル先輩と出会ったあの2
週間ほどでないけれど。
でも、楽しい。楽しすぎて不安になってくる。
普段見ることができない秋葉やシエル先輩のあの
姿。とにかくはしゃぎまくってるアルクエイド。
更に、ここまで生き生きしてる晶ちゃん。
楽しい祭だ。
そうだな…これは『お祭り』なんだからな。
不安を感じることもない。
いつものように、やればいいんだ。そうだよね晶
ちゃん。
「え?何か言いました?」
「ううん、何にも。あとはどこに行くの?」
チラッと腕時計を見る晶ちゃん。
「えっとですねー…そろそろ閉会の時間なんですよ。
だから、もう、だいたいどのサークルさんも片付け
に入ってるんですよねー」
「そうなの?」
さっきまでぜんぜん周りを見ていなかったせいか
改めて見渡すと、テーブルの上にあった本を片付け
て何も置いて無いサークルが何箇所かあるみたいだ。
それに合わせて、人もずいぶん減っている。
「ほんとだね、人も少なくなってるし」
「え?志貴さん気付いてなかったんですか?ちょっ
と前からですよ……もう、またぼーっとしてたんで
しょ?」
「ハハハハ」
もう空笑いするしかなかった。
そんな時だった、館内放送で会場中に響くアナウ
ンス。それと共に会場中に起こる拍手、そして、『
お疲れ様でした』の声がほうぼうから上がる。
「志貴さん」
声のするほう、正面を向いた。
俺と向かい合う格好で、
「お疲れ様でしたー志貴さん」
深深と頭を下げた。
よくわからなかったけど、
「お疲れ様でした。晶ちゃん」
と、返した。
俺の返事に満足したのか、またも満面の笑みを見
せてくれる。
疲れた体も癒されるってものだ。
「さて、今日はほんとに疲れたねぇ」
「はい、でも楽しかったです」
「うん、俺もだよ」
「えへへ」
「ははは」
ぴんぽんぱんぽーん、と呼び出しの放送が、
「お呼び出しをいたします。瀬尾晶様、瀬尾晶様。
お連れの方がお待ちです。至急、女性更衣室までお
越し下さい。繰り返します………」
「え?」
「わっ、わたし?!」
突然放送で呼び出された。驚きの表情の晶ちゃん。
ナゼだろう?と理由が解らないようだ。
「あ」
…思い出した。
「晶ちゃん」
「はい?」
「呼び出しだけど」
「はい。なんなんでしょう?」
「秋葉」
「………………あっ!!」
秋葉のことすっかり忘れてた!たぶん、いや、絶
対怒ってる。
見ると晶ちゃんも少しばかり震えている。生気が失
いかけているその眼には涙が溜まっていた。
秋葉の怖さを知っているからだろう。
「と、とにかく行こうか」
「は、い」
その言葉からは何かに諦めかけているような力の
無さを感じた。
その頃――――――――
「すいませーん、こっちもお願いしますー」
「はいはいー」
パシャパシャパシャパシャ
「こっちも、笑ってくださーい」
「はいはーい」
パシャパシャパシャパシャ
「ちょっと片足を後に上げてくださーい」
「はーいはい」
パシャパシャパシャパシャ
「ありがとうございましたー」
「またおねがいしますー」
「はいはい、またよろしくお願いしますねー」
「姉さん……」
「翡翠ちゃん?どうしたのうずくまって」
「ちょっと人に酔って……それよりなんで姉さんは
そんなに写真撮られるの好きなんですか?」
「別に好きって訳では無いけど、流れに任せてここ
に着いてみなさんがどうしても写真を取らせてほし
いというからかなー。断る理由も無いから」
「そんな理由で…、大体ここはどこなんですか?」
「んー、よくは解らないけど、いろんな格好した人
がいっぱいいたわよねー」
「いたけど…なんだったんでしょう。私達と似た格
好した人も何人かいたみたいだけど」
「たぶん、私が思うに『コスプレ』ってやつですよ
翡翠ちゃん」
「こすぷれ?」
「そうです。普段出来ないようないろいろな服装を
着て楽しむとか言ってたかなー」
「でも、私達のは『こすぷれ』じゃないですよ」
「周りの人たちはそんなことわかりっこないわよ。
まぁ、なにより大人気で良かったじゃない?翡翠
ちゃん」
「大人気って…姉さん、ここに来た目的忘れてない
でしょうね」
「わかってるわよ翡翠ちゃん。志貴さんでしょ」
「わかってるなら早く探しに行きましょう」
「それはそうなんだけど、どうやって?」
「それは……」
ぴんぽんぱんぽーん
「?放送みたいね」
『お呼び出しをいたします。瀬尾晶様、瀬尾晶様。
お連れの方がお待ちです。至急、女性更衣室までお
越し下さい。繰り返します………』
「! 姉さん!」
「ええ、行きますよー翡翠ちゃん」
あん・えぴろーぐ
今日は日曜日なんだけど、最近は秋葉が厳しくて
ゆっくり眠らせてくれない。
翡翠まで平日より強く起こすつもりで俺の部屋に
来ているみたいだ。なにか、気合のようなものが平
日と違うような気がする。
おかげで、日曜の午前中から居間で琥珀さんの煎
れてくれた紅茶を飲みながら読書を嗜むという、と
ても性に合わないことをしている。
秋葉曰く、
「遠野家の人間ならばそれぐらいの趣味を持ってく
ださい!」
……って言われてもなぁ。
秋葉も遠野家の仕事の事で出かけていて、琥珀さ
んと翡翠もいつもの仕事に追われていて、たった1人
でこの居間にいるのはすこし寂しい気がする。
やっぱりテレビがほしいなぁと、最近ちょっと思う。
あの『お祭り』から一月以上経った。
あの後、晶ちゃんは秋葉の大目玉を食らったらし
く、まったく遠野家には遊びに来なくなった。
いつもは月に2、3回週末などにちょくちょく遊
びに来ていたんだけど……。
アルクエイドとシエル先輩はほぼ毎日といってい
いほど来るけど。
秋葉は秋葉で、この間の話どころか、晶ちゃんの
名前を出すだけでもだけでも、とっても鋭い目つき
で睨まれる。
もうしばらく時間を置くしかないんだろうなぁ。
「志貴さん?」
琥珀さんが居間にやってきた。
「あ、よかったここにいたんですね」
「ええ、慣れないことやってますけど…なにか?」
「あのですねー……晶ちゃんが来てるんですけど、
どうしようかと思って」
「え?どうしようかって…ここに通してくれればい
いのに」
「いえ、あのですね……秋葉さまから、しばらくは
晶ちゃんに遠野の敷居をまたがせるなと言われてる
んですよー」
「は?…そこまで…言ってたのか、秋葉は。…いい
よ、ここに通してください」
「いいんですか?」
「はい、秋葉もいないし、もしばれても俺が許した
って言ってくれればオッケーですから」
「ふふふ、わかりました。では、私も秋葉さまには
内緒にしときますね。2人だけの秘密ですねー」
人差し指を軽く自分の唇に当ててそう言い終わる
と、ぱたぱたと居間を出ていった。
そして、すぐに晶ちゃんが琥珀さんに連れられて
やってきた。
「やぁ、ひさしぶりだね晶ちゃん」
「はい、…あの、よかったんですか?私、お家に上
がっても」
「ああ、大丈夫だよ。今日は秋葉もいないし」
「すいません。遠野先輩からお許しがあるまでは遠
野家の敷居をまたいではいけないって言われてたも
んで……」
晶ちゃんにも言ってたのか…秋葉。
「いいって。俺もしばらく晶ちゃんが来てなかった
から寂しかったんだよ」
「ほんとうですか?!」
瞳を潤ませながら喜んでいる。見ているこっちま
で嬉しくなるなぁ。
「ところで、今日はどうしたの?その秋葉の言い付
けまで破る覚悟で?」
「あ、あのですね、この間のイベントの時の記事が
この本に載っていまして、遠野先輩達の写真が出て
ました」
「イベント?…ああ、『お祭り』の事か…って、え
っ?!ほんと?!」
「はい。これです」
晶ちゃんは俺の前に雑誌を差し出し、あるページ
を開いていた。
そこにはでかでかと1ページの半分を使って秋葉
、アルクエイド、シエル先輩の3人があの格好で写
っていた。
ほんと、秋葉いなくてよかった。
ふと見るとその写真の右上には『2位』と書いて
あった。
「晶ちゃん、この『2位』ってなに?」
「あ、これはですね、このイベントでのコスプレ人
気投票の結果なんですよ」
「へぇ、かなり人気あったみたいだったけど、それ
でも2位だったんだ。じゃあ1位はもっとすごかっ
たんだろうね」
「はい…実はそのこともあって今日は来たんです」
「え?どういうこと?」
「はい、これを見てもらえますか?」
なぜか急に控えめになってひとつ前のページをめ
くった。
「!!」
秋葉たちが載っていた前のページを1面丸々使っ
て写っていたのは!!
琥珀さんと翡翠だった。
「……なんで?」
「わかりません。ただ、コメントには、
『何のキャラのコスプレかは不明だったが、
こんな美人姉妹(双子!)が和装と洋装の
メイド服を着ている姿は、他をまったく寄
せ付けなかった!! 閉会直前は彼女達の
独壇場だった。』
と書いてあるんですけど」
コスプレって…これは彼女達の仕事着なんだけど。
それにしても、琥珀さんが『大変でしたがいろいろと
楽しかった』と言ったのは、このことだったのか。
「晶ちゃん、このことはみんなには内緒だよ。秋葉
はもちろん、琥珀さんにも翡翠にもね」
「えっ?!わ、わかりました」
どこから漏れて秋葉の耳に入らないとも限らない
し、ここは俺と晶ちゃんの胸にしまっておいたほう
が丸く収まるだろう。
「お茶が入りましたよー」
ちょうどいいのかわからないようなタイミングで
琥珀さんが居間に入ってきた。
晶ちゃんはすぐさま手に持っていた雑誌をしまっ
た。
琥珀さんは晶ちゃんの目の前にティーカップを置
き、
「はい、晶ちゃんどうぞ。…で、今何を隠したんで
すか?」
「いえ、何でもないですよ!ねぇ、志貴さん」
「う、うんそうだよ琥珀さん」
やっぱり鋭いところをついてくるな、琥珀さんは。
「うーん、なんか怪しいですねー。…ま、それは置
いとくとして、ちょうど晶ちゃんが来てることです
から、お2人これをに見せたかったんですよ」
と、琥珀さんは俺と晶ちゃんがついさっきまで見
ていた雑誌を自分の懐から取り出した。
「「こっ……これ?!」」
晶ちゃんと一緒に声を上げてしまった。
「はい、私達の写真が載ってたんで思わず買ってし
まったんですよー」
は、はは、ははは。なんでこんな時に限って琥珀
さんが手に入れるかなぁ、この本。
そんなことより!今一番の心配事は、
「こ、これ秋葉には見せてないよね」
「え?はい」
「よかったぁ……」
安堵のため息。
「お見せしましたよ」
「え゛!!」
「はい、秋葉さまも肩を振るわせながらこの雑誌を
見てらっしゃいましたよ。よっぽど気に入られたん
ですねー」
ち、違うぞ。それは違うぞ琥珀さん。
「あ、晶ちゃん。秋葉が帰ってくる前に早く帰った
ほうがいいかも…」
「そ、そう…ですね」
心なしか声が震えている晶ちゃん。
「それでは、そろそろ失礼して……」
と、晶ちゃんが言いかけた時だった。
「姉さんここにいたんですか?」
ひょいと翡翠が今に顔を出した。
「秋葉さまがお帰りになられました」
「!!!!!!!」
非情の知らせを告げた
/END