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【テキスト中に現れる記号について】
☆☆☆ 場面が変わるところ
☆☆☆ ☆☆☆ 花札対戦が行われるところ
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「Fate/hollow ataraxia」(present by TYPE-MOON)
トラぶる道中記タイガルート
遡ること半年とちょっと前。
これは異なる世界における、あるサーヴァントとマスターの誕生と友情の物語である。
「きぁーーー、落ちるぅーーー!?」
「……むにゃむにゃ、わたしは今日から二刀流なので金と銀どっちもほしいのです、むにゃ」
「むにゃにゃ……ええいそんな虎柄竹刀など知らぬ、いいからさっさとよこせロリ女神―――ってげぶぅ!?」
「にゅにゅニュータイプの天変地異!?」
「忽然と現れたブルマが、上空から高角度でわたしの鳩尾(みぞおち)にダウン追い打ちを!?」
「あー……ごめんごめん、ちょっと失敗。 呼ばれたから飛んできたんだけど、最後の最後で足をすべらせちゃった」
「さて、とりあえずお礼を言わないとね。 下敷きになってくれてありがとう、肉布団さん」
「むむ、なんかよくわかんないけどダンケいたしまして」
「意外かな、空からやってきた見知らぬ物の怪は礼儀正しいブルマっ娘であった」
「けど肉布団って呼ぶな。あとやっぱり礼儀正しくない」
「いた! いたた、離しなさいこのバカ力、あたた、あたま割れる、割れるー!」
「あ、わかった、さては貴女ゴリラね!?」
「馬とか竜に乗るのはもう古い、ゴリラに乗るまったく新しい騎兵(わ た し)、その名もゴリライダー……!」
「やだ、殺して……!そんな恥ずかしいサーヴァントとコンビ組みたくなーい!」
「ひぃぃ、わたしだってそんなのと戦いたくないわっ!……って、ちょっと待った」
「サーヴァントってなんでよ。呼ばれたのは貴女なんだから、貴女がサーヴァントじゃないの?」
「なに言ってるのよ。わたしはマスターとして呼ばれたの。席が一つ空いてるから、魔術師として参加してくれって」
「で、こっちに来るついでにわたし好みのサーヴァントを召喚したんだけど……」
「えーと、(きょろきょろ)」
「あーと、(きょろきょろきょろ)」
「他に誰もいないし。貴女がわたしのサーヴァントって事は間違いなさそうね」
「ナンセンス!?そんなご無体な、こんなロリっ娘の配下に付けと言うのかバビロニアの神よぅ!?」
「……っていうか、絵づら的にわたしがマスターでロリがサーヴァントにならない普通?」
「んー。まあ一世代前のセオリー通りならね」
「けど新時代は倒錯の世界なの。小が大を制するギャップが一流の萌えってワケ。わかる?」
「むむむ、ロートルにはついていけぬその価値観」
「……お姉さんには難しいんだけど、つまりハルバ○父さんとビッ○たんの時代に戻ったというコトでしょうか?」
「ユーは大人をたらし込む幼○。大食う魔ロリバイキング、みたいな」
「……微妙に相容れないモノが混じってるわね」
「ま、あながち間違いじゃないか。おたがい正攻法が似合うキャラじゃないんだから、大人しく従いなさい?」
「わたしはともかく、貴女は屈折したところで攻めないと生きていけないわよ?」
「う、おっしゃる通りでございます。……このロリ顔にしてこの説得力」
「なんか、わたしもそっちがマスターのような気がしてきました」
「分かればよろしい。それじゃあ自己紹介ね。わたしはイリヤスフィール。長いからイリヤでいいわ」
「貴女は? クラス名は知ってるからいいにして、真名は?」
「む。むむむ。むむむむむむむむむむむむ」
「ちょっと。もしかして貴女」
「うむ。何一つ覚えてない。クラスはきっとセイ……バー……?得意な武器は女……の……魅力……?」
「ないから。セイバーも女の魅力も」
「ひどいマスターねイリヤちゃん!自分のサーヴァントを信じられないの!?」
「サーヴァントっていう点においては100%信用してるわ」
「けど能力についてはこれからってトコね。どんな能力を持った英霊か判ってから信用してあげる」
「で、本当に何も覚えてないの? 自分の名前も?」
「……信じられないなあ。そんなの、たいていは方便って決まってるんだけど」
「う、氷のように鋭い観察眼と人生観」
「け、けど全然わかんないのはホントだもんね! 自分が何のクラスなのか、そんなのこっちが聞きたいぐらいよーだ!」
「へえ、自分が何のサーヴァントだか知らないんだ。……ふふ、それは面白いわ。いつ気が付くか楽しみね」
「知っているのですか。なら教えれ。クラスなんてどうでもいいけど、やっぱり知ってると落ち着くような」
「だーめ、なにごとも等価交換よ。貴女が隠しているコトを教えてくれたら教えてあげるわ。その体に、たっぷりとね」
「く、イっちまいそうなヘルファイヤー(デビルフェイス)……!」
「け、けど隠し事なんてしてないもんね!単に真名は覚えてるけど裏切るつもり満々だから秘密にしてるだけなのだ!」
「………………」
「し、しまった、つい本当のコトを……!」
「けど隠し事ができない正直さがちょっぴり誇らしいので、マスターになる方は今後も安心してくださいネ」
「…………たしかに正直なサーヴァントね」
「よしよし、令呪は絶対に一つ残しておこっと。最後の命令は一生木の回りを走り続けるにするから♪」
「きゃっ☆ 黒ジョークに黒ユーモアで返すなんてさすがわたしのマスター、頼もしいかぎりだわ」
「―――ギギギ、なんとかして令呪を全部使わせてやる」
「……まあいいけど。しょせんサーヴァントとマスターなんてそういう関係だし」
「けど真名も分からないんじゃ作戦の立てようも呼び方も決まらないわ。貴女、得意な戦闘スタイルとか思い出せないの?」
「んー。そうね、あえていうなら虎。そう、虎のサーヴァントと名乗っておきましょう!」
「虎? ああ、タイガーの事ね。じゃあタイガって呼ぶわ」
「ごはっ、なんでそこだけ英語なのぅ!?イリヤちゃんドイツ人なんだからティーゲルって言えばいいじゃない!」
「タイガの方が短いからよ。言ったでしょ、小は大をかねるって」
「じゃあ行くわよタイガ。まずはお約束通り、教会に報告に行かないとね」
「うわあああん!タイガーって呼ぶなー!」
「なるほど。要するにわたしたち以外の連中、六組のマスターを倒せばいいのね?」
「そ。マスターはそれぞれ星のかけらを持ってるから、倒して奪っていけばいいの」
「最終的に七つの星を集めたチームの前に聖杯が現れて、わたしたちの願いを叶えてくれるのよ」
「す、素晴らしい……それじゃ聖杯さえ手に入れれば、個別シナリオなんていう叶わぬ夢もこの手に!?」
「もっちろん!学園もののヒロインだろーと密室殺人劇のヒロインだろーと世界征服劇のヒロインだろーと思いのままよ!」
「……ふ、どうやら願いは同じのようねタイガ。お互い不満はあるだろうけど、ここは目標の為に一致団結しない?」
「オーケー、気に入ったわイリヤちゃん! 聖杯を手に入れるまでわたしたちは一心同体、そこに何の偽りがあろうか!」
「フフフ、念を押すけど聖杯を手に入れるまでだよネ!」
「ええ、当然よタイガ。聖杯はこの世に一つしかないんだから」
「よーしやるぞー! 目標ー、わたしだけの理想郷ー!」
「意義なーし!邪魔ものはとっぱらうぞー!」
「ふふ」
「ふふふ」
「「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……………………!!!!!!!!!!」」
「そういうワケで、わたしとタイガのコンビで戦いに参加するわ」
「令呪もあるしサーヴァントもいるし、文句はないでしょ?」
「…………私から言うべきコトはないな。既にサーヴァントは揃っているが、何処にでも特例はある」
「いいだろう。おまえたちも聖杯を求めるというのなら、その願いをもって他者の願いを食い尽くすがいい」
「? 願いで願いを食べる?えーと、聖杯戦争って相手をやっつけるもんでしょ? なに言ってるのモジャ?」
「それは新しい語尾かなお嬢さん。モジャ……私の趣味ではないが、君には似合っているかもしれん」
「語尾じゃないわよモジャ」
「タイガ、コトミネはね、“いいからワガママはりまくって相手を好きにしろ”って言ったのよ」
「そなの? ふーん。それよりイリヤちゃん、あのモジャどうしてあんな顔してるの?」
「不幸なコトでもあったとか。財布を落としたとか、本編に出番がまったくなかったとか」
「………………」
「しっ! ……だめよタイガ、本人の前で顔がどうとか言っちゃ」
「コトミネはあれが地なの。いつも暗いの。見るからに黒幕なの。なんどセットしても後ろ髪モジャモジャなの」
「まあ、ああいうキャラだからみんな気にしてないんだけど、」
「……………………」
「ほら、本人はちょっと気にしてるっぽいわ。この話題はここまでにしておきましょ」
「そっかー。ないがしろにされている同士お友達になれそうな気がしたんだけど、やっぱり止めときますか」
「そうよねー、出番ない菌が移ったらタイヘンだもんねー」
「……話はそれだけかね?では早々に立ち去るがいい。おまえたちにはルールを説明するまでもなかろう」
「その性根が示す通り、テキトーに町をさまよい、テキトーに他のマスターにイチャモンをつけるがいい」
「サー、イエッサー!その方針気に入った!」
「さすが神父さん!ちょっとしか話してないのにわたしの性格を分かってるわ!」
「いや、それは買いかぶりだ。職業柄人を見る目は鍛えているが、もとから無いものは値付けできんよ」
「ゼロには何をかけてもゼロだ。私程度では、君を計る事などとても」
「いやねえ、照れちゃうじゃない」
「んー、よく見れば神父さんいい男?ちょっとトキメイちゃうかなー」
「どう、このまま出番ない同士で仲良く飲むっていうのは?」
「あとそのモジャモジャ切りてぇ」
「ははは。はははは。はははははははははは」
「―――お嬢さん。未婚の女性が、冗談でもそんな事を口にしてはいけないな」
「……うわあ……コトミネ、握り締めた手から血が出てる……」
「かつてこれほどこの男を困らせた人間がいるでしょうか、いやいない」
「さて。これ以上愉快ではない話を続けても時間の無駄だ」
「衛宮邸に倒しやすいマスターが一人いる。腕試しに戦ってきてはどうかね?」
「あら、情報ありがとう。せっかくの情報、ありがたく使わせてもらうわ」
「―――イリヤちゃん、準備はいい?」
「ええ。私も一番手はそこって決めてたの。コトミネに言われるまでもないわ」
「よーし、それじゃレッツゴー!」
「まったねー神父さん! 聖杯を手に入れたらご祝儀ぐらいあげるからねー!」
「だってさ。私のサーヴァントは欲があるんだかないんだか。そういう事だから、また後でね神父さん?」
「ふむ。期待しないで待っていよう」
「さあて、まずはシロウんとこね」
「目的地はハッキリしてるんだから、暴走ダンプばりの勢いでカチコミに行くとしましょうか」
「同意。わたしは虎なので士郎などという弟分と関係はないのですが、なんとなく真っ先にしめておかねばならないと思うのです」
「つーか、お姉ちゃんをないがしろにした報いを今こそ受けるがいい……!」
「いいこと言うじゃない」
「ええ、シロウには自分の立場をよっく実感してもらうとして―――その前に、軽く腕慣らしをしましょうか」
「ん? どうしたのイリヤちゃん、怖い顔して」
「なに、屈折した愛とか殺気とかぎゅんぎゅんあふれ出しちゃってるの?」
「ええ。私、遊戯は素直に楽しむ性格だから」
「ね、隠れてないで出てらっしゃい、そこのワカメさん」
「ふ―――やるじゃないかお嬢さん。さすがはマスターに選ばれた魔術師、外見はアレだけど中身は一人前らしい」
「けど残念だね。せっかく日本まで来たっていうのに、お嬢さんの出番はここで終わりさ」
「何故って、君のサーヴァントはすぐに僕の物になるんだからね」
「さあ、痛い目にあいたくなかったら大人しくマスター権を譲渡するんだ」
「んー? 誰あれ、イリヤちゃん知り合い? なんか妙に色白な子だけど」
「知らない人。きっとやられ役よ。色ないし」
「チュートリアルみたいなものね。台詞も少ないだろうし、無視しても構わないでしょ」
「そっかー、ただの通行人かあ! なら遠慮なくぶっとばせるわね!」
「良かった良かった、わたしの教え子に似てたから、その子の親戚だったらどうしようかと思っちゃった!」
「100%教え子だよダメ教師! そもそも通行人なら普通に殴り飛ばすのかよアンタ!」
「……だいたいさ、なんで藤村ここにいんのさ? 脇役は脇役らしく、背景も用意されてない藤村邸でミカン食って寝てろよ」
「僕はそこのお嬢さんに用があるんだ。年増に使う時間はないね」
「あはははは。ね、イリヤちゃん、アイツ養殖していい?」
「ええ、好きなようにしていいわ。 ちょうどいい肩慣らしよ、まずはアイツで貴女の力を見せてちょうだい」
「りょーかい。ふ、気をつけなベイビー、わたしの戦いっぷりをマトモに見ると思わず弟子入りしちまうぜ」
「……? あれれ、なんで藤村が襲いかかってくんの? 藤村関係ないじゃん」
「あのさ、これ聖杯戦争だよね? 暴力教師の出る幕ないよね?」
「ふふふふふ。わたしは藤村タイガなどというパーフェクト教師ではない!」
「この身は虎!己が望みの為に他人を食らい倒す虎の英霊よ!」
「ナンセンス!お嬢さん、君のサーヴァントってコイツなの!? ほんと? ふかしじゃなく?」
「うわぁいらないね! 勝っても嬉しくないね!」
「あぁん、もうエロゲFGしろなんて命令しないからライダーカムバークッ!!!」
☆☆☆ ☆☆☆
「ごべぇーーー!!!!!????全身はちょこっとだけ、けど心はすごく痛いーー!?」
「おいダメ教師!どうなってるんだよこれ、僕は花札で負けただけなのに!?」
「ふっふっふ。そのダメージは君自身が生み出した心の弱さなのだった」
「精神と肉体は有機的にではなく神秘的に繋がってるとか言ってみる」
「よーするに、心が折れたら脊髄(せきずい)も三千円ポッキリです」
「うわあー……なんかよく分からないけど、やるじゃないタイガ。竹刀を使わずに相手を叩きのめすなんて」
「いやいや。暴力ばっかりが戦いじゃないからねー!」
「や、戦闘力でも引けはとらないけど、たまにはこう、大人の知性を披露しないともったいないかなーって!」
「それだ! 何がショックかって、藤村に知的ゲームで負けるなんて……!」
「ボ、ボボボボクの頭はどうなってしまったんだ……!?」
「あー。今のはほら、運が絡むというか、知性っていうより直感のゲームのような気が」
「知性ゲームだよ! 頭使うよ! クリックするだけじゃ勝てないよ!」
「くそ、毎年お正月に花札やりたがる爺さんを邪険にするんじゃなかった―――」
「経験さえつめば、ボクだって青タンの一つや二つ出来るんだ……!」
「はっはっは、負け犬はよく吠えるのぅ! ほれ、」
「"姉さぁん、コイツ強いっすよ勝てませんよー、さっさと帰宅(フケ)て別マ読んで寝ましょうよー"」
「なんて捨て台詞を残して去るがよい、色白な子よ」
「色のコトは言うなぁ!」
「……チ、今日のところは引き上げだ! 覚えてろよおまえら、今度はちゃんとルール把握してくるからな……!」
「それとボクは花ユメ派だ、一緒にすんなこの元ヤンが!」
「偏見持ち滅ぶべし」
「さて、軽い腹ごしらえは終わったわ」
「準備はいいイリヤちゃん? ここからは泣いても戻れぬ修羅の道よ。引きかえすなら今のうちだけど」
「愚問ねタイガ。わたしたちは勝つ為にこの町に来た。それ以外に目的はないわ」
「それに、わたしには帰り道なんてないし」
「……? 意味不明だけど、その意気やよしっ!」
「よーし、まずは前半戦!幸せ全開なバカップルどもを叩きのめしにいくわよー!」
☆☆☆
「セイバー、おかわりいるかー?ごはん、半端に余ったから焼き飯にして使いきろうと思うんだけどー」
「余ってしまう、というのでしたら頂きます」
「しかし……今日の昼食は、たいへん凝った煮込みハンバーグでした」
「これでチャーハンまであると、いささか飽食が過ぎる気がしますね、もきゅもきゅ」
「けどもうお茶碗カラだろ? 俺も食べるから、二合分なんてあっというまだ」
「ほら、テーブル少し開けてくれ。さっぱり目のレタスチャーハンにしたから」
「おお、これは―――なんと、眩しい。白く輝くチャーハンに、みずみずしい緑野菜が調和している」
「これならたしかに、もきゅ、あと一杯と言わず二杯は食べられそうです、もきゅもきゅ」
「そっか。ならじゃんじゃん食べちゃってくれ。俺は後片づけしとくから、終わったら道場に行こう」
「なんかさ、聖杯戦争が始まったって教会から電話があったんだ」
「聖杯戦争ですか……? そういえばシロウ、今朝方郵便ポストにこのような物があったのですが」
「なんだそれ。斑模様の水晶玉……?」
「シマウマの模様にも見えますが、何らかの聖遺物でしょう。おそらく、それを奪い合うのが今回の戦いの趣旨なのかと」
「……また厄介な話になってきたな。言峰につっ返しに行くか。人を勝手に参加させるなって」
「もぎゅ!? いえ、それは違うシロウ。 前々から思っていたのですが、貴方には自己中心的な欲求がない」
「いえ、それがシロウの長所なのですが、少しはいい目を見てもバチは当たらない筈ですっ」
「え―――な、なんだよセイバー。 睨まれたってこれ以上おかわりないぞっ」
「そのような話をしているのではありません!」
「いいですかシロウ、貴方はまっとうな人間として確かな願い、即物的な目標を持つべきだと言っているのです!」
「否、私のマスターであるなら、当然あるべきではないでしょうか!?」
「む。箸を握り締めて力説されてもあんまり説得力がないんだが、一応聞いとく。目標って、例えばどんなさ」
「それは―――言うまでもありません。いま現在、シロウの唯一の趣味、生き甲斐は料理をする事でしょう」
「(……あー、そういうふうに見えてたんだセイバー)」
「ならば望むべきは一つだけ!」
「シロウは調理の腕をさらに磨き上げる為、そして間断なく食事を提供する為、理想的な空間を手に入れるのです!」
「つまり、シロウが成すべき事はいつでも料理ができる専門店を手に入れるコト」
「その為ならば私も全力で協力し、勝利した暁には、喜んでシロウの店の品質管理責任者として君臨しましょう!」
「……。えーと、聖杯の力で自分の店を持て、という話かなセイバー」
「はい。(私の)趣味と実益をかねた、有意義な願いです。(キッパリ)シロウは嬉しくないのですか?」
「んー。お店をもったら、それは趣味プラス生き方になるだろ」
「別に料理が嫌いってワケじゃないけど、四六時中向き合うほど好きじゃない」
「第一、それじゃセイバーが食べたい時に作ってやれなくなるだろ」
「俺、料理が好きなんじゃなくて、セイバーが喜んでくれるのが嬉しいだけだし」
「っ。そ、それは、私も同じなのですが、それではシロウだけが損をしていて、私は得をしてばかりだ」
「シロウにも見返りは必要です。これだけの腕を持っているのですから、自分の工房を開こうとは思わないのですか?」
「そんなのとっくに開いてる。お客さんは一人だけだけど、俺にはそれで十分だ」
「なにしろ食べてくれるのは王様だもんな。厨房を任されてる身として、これ以上のコトはないさ」
「シロウ―――」
「―――ええ、私が愚かでした。奇跡で叶える願いは必要はない」
「シロウの料理を口にするのは私だけというのも、贅沢なはな―――」
「くわーーー!それ即ち王様のレストラン!」
「甘いぜ甘いぜ甘くて死ぬぜーーー!もう恥ずかしくてお姉ちゃん見てらんないっ!」
「右に同じ! 何が願いなんてない、よ!へっぽこシロウっ!」
「今のシロウは猛獣に餌をあげるだけの飼育係なんだから!」
「いいかげん、そこのサーヴァントに騙されてるって気づきなさーい!」
「……? どうしたのですタイガ、イリヤスフィール。おかしな格好をしていますが、寒くはないのですか?」
「ノゥ! わたしは藤ねえなどというちょっとお茶目なお色気ムンムン女教師ではない!」
「ユーとミーは聖杯戦争における分かり合えない敵同士よ!」
「む、むんむん? どことなく食欲を誘うその響き、ムンムンとは何ですかシロウ!」
「何って、藤ねえに欠けているものじゃないかな」
「断じてノゥ! 藤ねえなど存在しない! 我々は虎とブルマ! 世のバカップルたちを食い尽くす飢えた獣よ!」
「あー、ちなみにムンムンとは白飯を黒く塗りつぶす万能ふりかけ『昼ですよ』みたいなものよセイバーちゃん」
「……そのあからさまに怪しい言動といい、どっからどう見ても藤ねえだろ」
「はい。おかしな格好をしたタイガとイリヤスフィールです」
「そういえば最近姿を見ませんでしたが、旅行でもしていたのですか?」
「ああもう違うよう! ええい、ここまでいつも通りだといっそ清々しい! こうなったら地球ごと破壊してやるーーーー!」
「うそ……これって、まさか……!?」
「!!!? シロウ、様子が変です!」
「チャーハン、シロウが作ってくれた美しいレタスチャーハンが、奇っ怪なカードに変わっていく……!」
「げ。……まずいぞセイバー。この藤ねえとイリヤ、もしかして藤ねえとイリヤかもしれない……!」
「だーかーらー、どうしてそう物わかりわるいのかしらー」
☆☆☆ ☆☆☆
「合わせて一本! セイバーちゃんと士郎、敗れたりー!」
「ごべきゅー」
「……びっくり。タイガ、ほんとに勝っちゃった」
「ううん、驚くのはそうじゃなくて―――」
「くっ……な、なぜ、聖杯戦争がこのようなルールに……」
「なぜって、そっちのが楽しいからネ!」
「理解が足りなかったわねセイバーちゃん、わたしはわたしが楽しければ他の設定(コト)なんてどうでもいい性格なのYO!」
「……ああ、言われてみればそうでした……恐るべし、藤村タイガ(ガク)」
「すごい……すごいすごいタイガ!」
「今の固有結界じゃない!あんな大技隠し持ってるなんて、いったいどうしちゃったのよぅ!」
「んー? 固有結界ってなにー?」
「なにって、術者の心象世界を具現化させて、一時的に世界のルールをねじ曲げる大魔術よ」
「いま、それを使って勝負形式を花札にしたじゃない」
「あ、今のを固有結界って言うんだ。へー。わたし、お正月はいつも使ってるけどなー。コツさえ掴めばわりと簡単よ?」
「ほんと!? すごっーい!」
「わたしもつかいたーい! 自分好みの不思議空間を展開したーい! そしてエロエロな世界にシロウを引き込みたーい!」
「わははははは。―――てりゃ」
「痛っ! なななによタイガ、サーヴァントのクセにマスターに手を挙げるなんて!」
「教育的指導にマスターもサーヴァントも関係ないわ」
「いいことイリヤちゃん。貴方はロリブルマなだけでスレスレなんだから、あんまり調子のってると刎(は)ねるわよ?」
「う、何がハネ対象なのか聞けない迫力」
「……ちぇっ、いいわ、今回は引いてあげる。それより固有結界が簡単に使えるってホント?」
「使えるわよ? わたし、毎日竹刀振ってたらいつのまにか使えてたもん。んー、そうねぇー」
「どうしてもって言うなら考えてもいいかな。イリヤちゃんがぁ、わたしに弟子入りするなら教えてあげてもいいわよ?」
「―――げ。マジっすか」
「……うう、すごく魅力的だけど、簡単にプライド売り渡せない自分が好き。あー、それはちょっと考えさせて」
「ちぇっ。鍛え甲斐のある弟子が出来ると思ったのになあ。ま、気が変わったらいつでも頭を下げに来なさい」
「それよりイリヤちゃん、次の相手は誰?とりあえず士郎には天誅を与えたけど――」
「………………クスクスクス」
「探す必要はありませんよ藤村先生。敵が欲しいのなら、わたしから出て行ってさしあげます」
「な、この隠しても隠しきれない暗黒のプレッシャー……!おまえは―――!」
☆☆☆
「間桐ッ……!」
「―――素晴らしい戦いぶりでした。お見事でしたよ、藤村先生とイリヤさん」
「桜ッ……!」
「セイバーさんを倒してしまうなんて、藤村先生も隅に置けませんね」
「―――あの邪魔者をどうやって先輩から引き離すかが一番の難問だったんですけど。ふふ、お二人のおかげで得しちゃいました」
「ひぃぃい! 桜ちゃん黒い! すごく黒い!」
「つーか二戦目にしてラスボスなんて聞いてなーい!」
「っ……!謀られたわ、衛宮邸って言えばサクラのフィールドでもあるじゃない……!」
「もう、コトミネはこれだから信用ならないのよ!」
「どどどうしようイリヤちゃん……!桜ちゃん、プレデターみたいに近づいてくるわよぅ……!」
「うぅ、年に一度溜まりに溜まった欝パワーが爆発して怪獣化するって噂はホントだったのね……」
「可愛そうな士郎、腹ぐろ後輩に腹ぺこ外人、意地悪アイドルに邪悪ロリっ娘……」
「ああ、まともなヒロインは年上の美人教師だけなのかっ」
「あら。お喋りをする余裕はあるんですね、藤村先生」
「お化けが怖い先生のことだから、こうしてあげればすぐに降参してくれると思ったのに」
「もしかして、まだ戦う気あります?」
「ない。お化けは大の苦手でござる。というか、正体のないのがダメ」
「相手がゾンビとかなら怖くないんだけど、桜ちゃんってほら、よく分かんない黒いの使うじゃない」
「アレ、気持ち悪くてダメなのよぅ」
「そうですか、私は気持ちが悪いですか。―――藤村先生。口は災いのもと、というのはご存じですか?」
「ひぃ、たた助けてイリヤちゃん!」
「っ……ごめんなさいタイガ、わたしじゃ庇ってあげられないわ。タイガ同様、わたしもあの桜は苦手なの」
「……ううん、天敵とさえ言っていいわ」
「わたしが桜に触れても向こうはノーダメージだけど、わたしは触れただけで汚れちゃうから」
「む」
「ふふ、そういうコトです」
「セイバーさんを倒した手腕は見事でしたが、あれだけの大技、続けては使えませんよね?」
「イリヤさんもわたしには勝てないし、戦えば結果は明らかです。ええ、一飲みに、一瞬でこてんぱんにしてあげます」
「うう、なんという邪悪っぷり。なーんか、見たところ良くないモノに取り憑かれてるっぽいなあ」
「そこんとこどうなのよライダーさん?」
「―――取り憑かれています」
「似合わないので止めるべきだ、と進言したのですが、桜はこれが最後のチャンスだと張りきってしまいまして」
「し、しぃー……!ライダー、それ内緒……!」
「わ、わたしは自分の意志で聖杯戦争に参加したんですっ! 相手が誰であれ、マスターなら手加減しません!」
「あやー、やっぱり取り憑かれてますか」
「桜ちゃんの目的はわたしたちの星よね?いちおう、やられる前に何が望みなのか教えてくれないかなー」
「そんなの決まっています。わたしの望みは本編のイメージの払拭です!」
「聖杯の力で、今度こそ桜激萌え純愛シナリオを作り直してもらうんですからっ!」
「きゃっ……!?」
「あいたたた……影っていっても叩かれると効くぅー」
「タイガ、どうして……?貴方も黒桜は苦手なんでしょ……?」
「んー、苦手だけど死活問題じゃないし。聖杯を手に入れるまでは仲間だもんね、わたしたち」
「タイガ―――」
「桜、これでは逆効果ですね。悪役のイメージが固まる一方です」
「わ、わかってます……!これ以上わたしの株を下げさせません、屋敷ごと飲み込んでやるんだか、ら……?」
「そんな、呪層界が解呪された……!?」
「また固有結界―――ダメよタイガ、続けて使ったら貴女の体が壊れちゃう……!」
「なんでー?さっき桜ちゃんもそんなコト言ってたけど、別になんともないよー?」
「辛いっていったら、みんなの芸風に合わせてる方が辛いし」
「――――――」
「――――――」
「……デタラメですね。桜、戦闘の準備を。どうやら真っ向勝負をしなければならないようです」
「ぁ―――う、うん!行くねライダー……!」
「その意気やよしっ!さあイリヤちゃん、がっつーんとやり返すわよ!」
☆☆☆ ☆☆☆
「うむ、女子供も容赦なし!花札でわたしに挑むには二週間ちょい早かったわね桜ちゃん!」
「二週間練習されたら負けちゃうのね。……もう、素に戻った桜にこの調子じゃ先が思いやられるわ」
「……やっぱりさっきのは気の迷いよ。弱気になってたから、ちょっとカッコよく見えただけなんだから……」
「あいたたた……参りました、わたしの負けです……調子のってすいませんっしたー」
「うむ、反省しているのなら良し。 これに懲りて、黒化するのは四年に一回ぐらいにとどめてほしい。怖いから」
「はい、できるだけ気をつけます。やっぱり、三日間ごはん作れなくて放置されたからって変身しちゃダメですよね」
「あー、そうなんだ、それぐらいで簡単に変身できちゃうんだー」
「……ちなみに、次にハイになりそうな時ってどんな時かな?」
「えーと、人気投票の結果を見たら変身しそうです。かなり高い確率で」
「次もライダーに負けたら、もう何するか自分でもわかりません」
「う。せ、先生は桜ちゃん好きよ? 報われないところなんて親近感わきまくりだし」
「けど、満面の笑顔で人類抹殺宣言をするのはどうかと思うの」
「…………(コクコク)」
「そんなコトしませんよー」
「本編でちょっと、おかしなバッドエンドが増えるだけです」
「さて。わたしたちは負けちゃったし、おとなしく家に帰ってますね。はい、星をお譲りしますイリヤさん」
「あ、二つ目。ううん、自分のを入れたら三つ目ね」
「はい。負けたのは残念だけど、イリヤさんならわたしも応援できます。全部揃えて、新しいルートを作ってくださいね」
「言われなくてもそのつもりだけど……いいの桜? その場合、貴女確実にラスボスよ?」
「あはは、覚悟はしています」
「けど、わたしの時はイリヤさんが犠牲になっちゃいましたから、これも恩返しになるのかなって」
「ふーん……ま、いいわ。遠慮なく貰ってあげる。念願が叶ったら本編で会いましょう」
「はい。それじゃお二人とも、気をつけてくださいね」
「帰っちゃったかあ……さて、これでしばらく休めるかな。さすがに二連戦は疲れたわ」
「そうね、一端タイガの家に戻りましょうか」
「お腹も減ったし、今日はゆっくり休んで次の戦いに備え―――そこにいるのは誰……!?」
「……ふっふっふっふ、見事だったわイリヤ。士郎だけでなく桜まで倒すとはね。けど、貴女の快進撃はここまでよ」
「なにぃ!? どっかの金ピカよろしく、塀の上でポーズとってるバカっぽいそのシルエットは、まさか―――!?」
「そう、名実ともに最強のコンビ、遠坂凛とそのサーヴァント・アーチャーここに参上!」
「さあ、本番はここからよお二人さん!引導を渡してあげるわ!」
☆☆☆
「名実ともに最強のコンビ、遠坂凛とそのサーヴァント・アーチャーここに参上!」
「本番はここからよお二人さん!引導を渡してあげるわ!」
「……って、何してんのよアーチャー。さっき練習したでしょ、ほら決めポーズ決めポーズ」
「う、うむ……天に明星、地に煉獄。儘ならぬ界隈を颯爽と世直し巡る赤い旋風」
「……あー、誰が呼んだか冬木の守護神、ここに参上……だよ?」
「(弱気だ……!)」
「気合いが入ってなーいっ!こうよこう、右手はもっと天を突くように、眼光は敵を射抜くよーに!」
「せっかく高い所にいるんだから、見上げ効果も考える! 視線はやや下方、あごは首もとに合わせるのがベストよ!」
「………すまんがマスター。キャラ的に、私にはこれが精一杯だ」
「む。じゃああの金ピカの真似でいいから偉そうにしてなさい」
「そういうわけでやり直し、っと―――」
「闇夜を切り裂く赤い閃光!混乱の冬木を守るウワサのアイツ、心の税金を取り立てるお金の味方!」
「人呼んでさすらい守銭奴、弓凛みっくすりみっくす……!!!!!」
「「――――――――――――」」
「……ちょっと。なんか言いなさいよ、アンタたち」
「……え? あ、やば、思わず何もかも忘れちゃった」
「えーと、気をつけてイリヤちゃん、今日の遠坂さんはどこかヘンっていうかもはや別人よ……!」
「コ、コイツはシラフじゃかなわねー!」
「……タイガもいい勝負だと思うけど……まあ、たしかにリンとは思えないハラキリぶりね」
「なに、本編であんまりにも出番がないから、ここらで巻き返しを図ろうってコト?」
「あはは。イリヤちゃん、それハリキリハリキリ。でも意味はなんとなく合っているわ!」
「遠坂さん、ヒロインから降板したからってはやまっちゃダメよー」
「そんな気はありませんっ!わたしたちは純粋に、マスターとして貴女たちを叩きのめしに来ただけよ!」
「べ、別に聖杯の力でロンドン編をねじこもうなんて考えてもいないんだから!」
「ありゃりゃ。遠坂さんったら無欲なのね。先生ちょっと感動」
「まさか、冬木市一欲望まみれのリンがそんなワケないじゃない。ね、アーチャー?」
「いやいや、実現しない欲望は無害だからね」
「ま、仮に勝ち残ったところで最後の最後でしくじるのがいつものオチだ。冬木市を混乱に陥れるコトはあるまい」
「あは、さっすがアーチャー、リンのコトよく分かってるー」
「そこ、敵と和まないっ!」
「―――ふん、無駄話はここまでよ。貴女たちの実力はだいたい分かったわ」
「おかしなサーヴァントを連れているけど、固有結界勝負でわたしのアーチャーに勝てると思わないことね」
「む。言われてみれば、なんとなく親近感が」
「……んー、なんだろ、なんか見たことあるような。そこの色黒、前にわたしと会ったコトある?」
「さて。そちらが覚えていないのなら、面識はないという事だろう。他人のそら似だ、気にせずかかってくるといい」
「……むー、やっぱりアーチャーはタイガに甘い」
「わたし知ってるよ。凛ルートでキャスターから逃げた後、凛に『無事か?』って確かめたの、誰に対してだったのかなー?」
「どうだかな。君の想像にお任せするよ」
「だから和むなー!セイバーと桜は脱落、衛宮くんもそこでのびてるし、残るは貴女だけよイリヤ」
「衛宮邸最強は誰なのか、ここでハッキリさせてあげるわ!」
「望むところよ―――って、わたしは!?
わたしはライバルヒロインの枠に入ってないの遠坂さぁぁあーん!?」
☆☆☆ ☆☆☆
「勝負あり!」
「ふ、神から見放された最果てのオマケモードで、まっとうなヒロインが元祖二軍落ちヒロインに勝てると思ったかー!」
「そっか……ここで頑張れば頑張るほど、本編で色モノ扱いされるのね―――ええ、わたしの完敗です藤村先生」
「この願いを叶える星は、脇役である先生にこそ相応しい」
「ふ。その潔さ、嫌いじゃないゼ」
「貴女も強かったわ遠坂さん。今回はこんな結果になったけど、貴女ならいつでも主役に返り咲けると思うの」
「同じ立場の先輩として、先生は遠坂さんだけ応援するわ」
「え……同じ立場って、なんですか」
「うふふ。もう、しらばっくれちゃってコイツぅ」
「さあ、帰りなさい貴女の世界に。わたしと同じ、二軍落ちの遠坂神社にネ☆」
「っこの、覚えてなさいデタラメ教師ーーーーー!」
「これでリンも脱落っと」
「けど、サクラもリンも狡猾よね。前の相手が負けるまで様子を見てて、わたしたちが疲れた頃に出てくるんだもの」
「性根が腐ってるっていうか。ね、そのあたりどう思うアーチャー?」
「…………いや、なんだ。姉妹だからな、行動が似るのはしょうがあるまい。仲の良い姉妹と思えばなんとかなる」
「そうよね。ふふ、シロウもアーチャーもタイヘンだ」
「……まったくだな。我が事ながら、とことん女運がない男だよ」
☆☆☆
「―――さてさて。衛宮邸に潜む三人の鬼を打ちのめした我らがヒロイン、ブルマとタイガ」
「サーヴァントは残り三人」
「アサシン、ランサー、バーサーカーを倒す為、ロリブルマは柳洞宮最上階・若奥様の間を目指すのであった」
「急げブルマ。凶弾に倒れた仲間を救う為!日が沈むまであと三時間!ワシの命はあと三時間……!」
「……ねえイリヤちゃん。なんか、横の林でブツブツせいんと☆矢を音読しているお爺ちゃんがいるんだけど、知り合い?」
「いや、一ミクロンも存在知らないッス」
「それより次の宮が見えてきたぞ! 油断するなよタイガ!」
「任せておけブルマ。どんな相手だろうとこの虎竹刀で蹴散らすまでよ」
「フーシュシュシュシュ(注・笑い)。いざとなれば第七感がビックバンしてエリシュオンだぜっ!」
「フ、敵ながら頼もしいヤツ……! よぅし、この勢いでバカップルに殴り込みだぁー!」
「待たれよ娘。そして野獣」
「な、何ィお前は……!」
「まさか……!」
「佐々木五四六ーッ!!」
「それ佐々木誤字よーッ!!」
「………………全開だな。まあよい。傾きモノよ、この門はおぬしらのような独り者が通るものではない」
「遊んでいる閑があるなら、お見合いの一つでもするのだな」
「うぎゃ、胸に痛いその言葉……!」
「アンタいま口にしちゃあいけねぇコトを言ったよ! もうどちらかが死ぬしかありえねー!」
「ま、待てタイガ、早まるなーー!少年漫画の法則その一、先に手を出した方が負けちゃう不思議ーーーーー!!!」
「宗一郎様……お茶が入りました」
「――――――(かすかに頷く)」
「…………やはり、まだお口に合わないでしょうか? 一成くんに教わって煎れてみたのですけど……」
「……。おまえの茶はおまえだけの味がある。他のものと比べる事はできない」
「しかし……個人的な嗜好で言うのなら、この熱さは私好みだ」
「……!」
「(これよ! 求めていたのはこれなのよ! ありがとうホトケさま、神々なんて嫌いだけど貴方たちは大好きよー!)」
「ウケケケ、ならばお布施を払えぃ!とりあえずその幸福、日本円に換算して豚丼並たまご付きーーー!」
「安っ!」
「じゃなくて、いったい何事です……!」
「あっはっは。すまんキャスター、しくじったー」
「お前か佐々木ィィィ!!」
「ああ、せっかく煎れたお茶とお手製(失敗作)のマロンケーキが私の弟のように……!」
「――――――」
「あぁ、お茶とケーキは宗一郎様に、いえ、宗一郎様がお茶とケーキまみれ、て――――――ぽ」
「――――なぜ照れる?」
「ぬぬ、日本円換算率さらにアップ……!待ちなそこのトンガリ耳、五百円以上の昼飯なんてこのあたいが許さねえぜ!」
「なによ、さっきからうるさいわね。誰かと思えば聖杯もどきとダメ教師じゃない」
「私、貴方たちを呼んだ覚えはありませんけど」
「そっちになくてもこっちにはあるのよこれが」
「……というより、どうしちゃったのキャスターさん」
「聖杯戦争が始まったのよ?いつもみたいに裏から手を回して好き勝手やらないの?」
「別に、そんなの興味ないわ」
「奪ったり騙したり、そういうのはもう卒業したんですの」
「幸福はここにあるんですから、もう無理をする必要はないでしょう?」
「そもそも、聖杯戦争なんて私には合わないものだったし。星が欲しいのなら喜んで差し上げるわ」
「は」
「……なにかしらねアサシン。その、人の神経を逆なでしまくるイヤな笑いは」
「いや、おぬしの苦労がいじらしくてな、つい微笑んでしまったのだ」
「長年培った性格は頑丈だ。とかく、自我というものは永遠の仇敵である」
「―――はは、齢二十○を越えての性根変えは辛かろう」
「え、うそ!? キャスターさん二十○歳だったの!? 葛木先生より年上!?」
「きゃーーーーー!」
「佐々木ぃ、歳のコトは言うなーーーー!」
「はっはっは。これはすまぬ、うっかり口を滑らせてしまった」
「だがそう気に病むなキャスター。宗一郎はおぬしの歳など気にはすまい。姉さん女房というのも中々にいいものだぞ?」
「お、いま佐々木がいいコト言った!そうそう、年の差なんてあんまし関係ないわよキャスターさん!」
「葛木先生は毎日若い女の子たちに囲まれてるけど大丈夫! 年上は年上なりの戦い方を見せてちょうだい!」
「まあ二十○歳じゃヒロインにはなれないけどね!」
「うむ。自慢の魔術で若作りに励むがよい。魔女としての面目躍如というところであろう」
「ふ。ふふふふふ」
「―――決めました。私、聖杯戦争に参加します」
「へ? なに、この異様な空気。暖かいのにピリピリするよ?」
「別に願い事なんてありませんが、唐突に聖杯が欲しくなりました」
「あと貴方たちをアインツベルンの森までふっ飛ばしてあげたくなりました」
「さ、宗一郎様はお堂の方でお休みください。貴方に迷惑はかけません」
「―――いや、休むのならおまえも一緒だ。事が聖杯戦争というのなら、私は役割は決まっている」
「行くぞキャスター。少なくとも、茶と洋菓子の借りは返さねばなるまい」
「宗一郎様……」
「ふ、ふふ、ふふふふふふふふ!さあ、覚悟はいいかしらおバカコンビ! アサシン、とりあえずやっておしまい!」
「そうこなくては。すまんな虎娘。先ほどは加減したが、今度は本気でやらせてもらうぞ」
「キャスターが復活した以上、この後も戦いが控えているのでな」
「……そう、利用されたってワケね。三対二……どうしようタイガ、さすがに不利よ。ここは態勢を立て直して―――」
「その必要はないわイリヤちゃん。相手が何人だろうとわたしは負けないし、イリヤちゃんを傷つけさせないから」
「どどーんと、自分が選んだサーヴァントを信じなさいマスター」
「タイガ―――やば、ちょっと感動しちゃった」
「ええ、これぐらいのハンデ、わたしにはちょうどいいわ! 行くわよキャスター、○の歳の差を思い知らせてあげる……!」
「きぃぃぃいいーーーー!歳は関係ないでしょ歳はーーー!」
☆☆☆
「一網打尽! キャスター&アサシン、討ち取ったりー!」
「負けた……三人がかりで負けちゃった……」
「申し訳ありませんマスター……おもにアサシンが不甲斐ないばかりに、このような失態を―――」
「拙者かよ」
「いや、落ち度は私にある。……つまらぬ芸ばかり磨き、ああいったゲームを知らなかったのだからな」
「え……宗一郎様、花札は初めてだったのですか?」
「そうだ。すまなかったなキャスター。今回の敗北は私の責任だ」
「い、いえ、私もあまり詳しくはありませんでしたし、負けて当然だったのです」
「……まあ、この手の遊びには百戦錬磨だと謳っていた、どこかのタダ飯食らいは言い訳無用ですけど」
「これは手厳しい。だが花札は天性の運が物を言う。おぬしも私も、運勢だけは人並み以下というワケだ」
「いや、時間とはその不条理を覆す為のものだ」
「私も考えを改めた。これからはああいったゲームも精力的に取り組もう」
「メディア。とりあえず、我々だけで実践できるゲームを買いに行くぞ」
「は、はい! マスターがそう言うのでしたら喜んで……!」
「では藤村先生、私たちはこれで。今回の事はいい教訓になりました。このお礼は、いずれまた」
「え? ええっと、あれ?」
「私からもお礼を言いますわ先生っ。先ほどはバカコンビなんて言ってごめんなさいねー」
「あ、う。なんかー、すごくー、悔しいー」
「はっはっは。いや、物事はどう転ぶか分からぬな!」
「あの女狐、どうやら勝負事には負けた方が吉とみえる。なんとも屈折した星の巡りよ」
「はっはっは、じゃないわよ。結局、わたしたちってば貴方に遊ばれたってコト?」
「許せ。なにぶん娯楽が少ないものでな、かっこうの相手が飛び込んできたのでつい調子に乗った」
「いや、存分に楽しませてもらったぞ虎娘と炉利武留間」
「そこ、無理矢理漢字にしなくていいから」
「では私も退散しよう。残るはバーサーカーとランサーか」
「聞いたところによれば、バーサーカーは郊外の森にいるとか。物のついでだ、軽くひねってやるがよい」
「……むー。納得いかないけど、とりあえず星は手に入れたし」
「郊外の森っていったらこの近くだし、次はバーサーカーを倒しにいこっかイリヤちゃん」
「え……? あ、けどバーサーカーは手強そうだから、最後にした方がいいんじゃない?」
「っていうか、ランサーに倒させた方がいいかなーって」
「なんで? 近いんだからバーサーカーにしようよー。それとも戦いたくない理由とかあるの?」
「……別にないけど……いいわ、そこまで言うなら行ってあげるわよ。 ……はあ」
「よーし、決定ー! 残る星は二つ、張りきって行きましょうー!」
「……バーサーカーか……やっぱり逃げられないわよね、わたし……」
☆☆☆
「しっかし深い森ねー。こんなところにバーサーカーがいるのかしら」
「……近くにいるのは間違いないわ。あいつの気配を感じるもの」
「そう? ならこのままどこまでも真っ直ぐ行けばオッケーね」
「今まで黙ってたけど、わたし方向感覚に自信がない人なのであったって、あ痛っ」
「いったあ……なによぅもう、道の真ん中に木なんか植えて、通行の邪魔に―――」
「―――――――――」
「ぎゃあーーーーーーー!」
「マッチョ! マッスルオーラだけで半エーカーの作物を枯渇させるぐらいのマッチョ!」
「こここここれがウワサの、アインツベルンのロリっ娘マスターかぁ!!!!?」
「そんなワケないでしょうバカタイガ!まったく、サーヴァントになってもお脳はツルツルなんだから」
「あれ? どうしたのイリヤちゃん、いきなり着替えちゃって。さっきまでの旧時代的な体操服はどこいったー?」
「ストライク・バカ! よく見なさい、わたしはこっち、偽物はそっちよ」
「ほら、タイガの背中に隠れてないで出てきなさい、居場所をなくした負け犬さん」
「――――――」
「あ、イリヤちゃん。むむむ? どういうコト、なんでイリヤちゃんが二人もいるの?」
「つーか、さっきからそこで固まってる人間城塞は誰ぞなもし?」
「――――――」
「う。今までの相手とは次元違いのこの迫力」
「もしや、Fate本編で唯一ボイスがあてられていたあのお方……?」
「そうよ。わたしが正真正銘のイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「そしてこれがわたしのサーヴァント、バーサーカー」
「人気だけで最強を騙っていたどっかのコンビとは違う、本当の最強コンビなんだから」
「正真正銘……? えーと、なんだ。今までの流れを察するとですね―――イリヤちゃん、いま流行(はや り )の双子キャラ?」
「…………タイガにしては弱いボケね」
「ま、それもしょうがないか。そんな偽物がマスターになってるんだもん、サーヴァントとして精度が落ちるのも当然よね」
「むう、私のスキルはボケだったのですか」
「それはまあどうでもいいとして、えっと、そっちのマジメな方のイリヤちゃん!」
「こっちのイリヤちゃんが偽物ってどういうコト? もしかして、こっちのイリヤちゃんは誰かが変装しているの?」
「変装なんてしてないわ。わたしは本物のイリヤよ。……けど、こっちのイリヤとは通ってきた環境が違うというか……」
「ようするに他の世界から呼ばれたわたしってコトよ、タイガ。時間軸を超越した英霊とは違う、完全に余所の世界の部外者なの」
「そうよね偽物さん? わたしが貴方の世界に行けば偽物はこっちだけど、ここはわたしたちの世界よ」
「悪いけど、自分の世界から追い出された貴方に居場所なんてないわ。偽物は偽物らしく、ここで消え去ってしまいなさい」
「むむ!? ちょっと待った、イリヤちゃんはイリヤちゃんなのにイリヤちゃんを殺すというの?」
「…………そうよ。一つの世界にイリヤが二人もいたら、いずれ世界そのものを二つに分けるコトになる」
「貴方もわかっている筈よね。並行世界の自分が現れたら、その世界の自分は何を尊重すべきかって」
「……自己の優先。わたしはわたしである為に、他のわたしを許してはならない―――」
「そうよね、この世界のイリヤは、余所のわたしを殺さないといけないよね……」
「……良かった。わたしが、ちゃんと道理を重んじられる人間で」
「貴方が自分の世界でどんな経験を積んで、どうやって外に出たかは聞かないわ」
「秩序を維持する為、ここで消えなさいイリヤスフィール」
「……はあ。なんとか誤魔化せると思ったけど、やっぱりこっちのわたしもマスターだったんだ」
「ごめんねタイガ。わたしはここまで。聖杯は諦めて」
「………………いいわ。やって、バーサーカー」
「――――――」
「た、タイガ……!?」
「んー、なんかおかしくない? イリヤちゃんがやられるにしても、それってわたしたちが負けた場合でしょ?」
「まだ勝負もしてないのにヘンよ、貴方たち」
「だ、だからそっちのイリヤは偽物だって言ってるじゃない!」
「どのみちそっちのイリヤは長くは残れないし、タイガが知ってるイリヤじゃないのよ!?」
「それとも、タイガは偽物がマスターでもいいの?」
「……………………」
「よくないっ! バッタもんに興味なし!」
「……………………」
「でしょう? なら大人しく―――」
「でもそれとこれは別問題よ! 正直、本物とか偽物とかどうでもよろしい!」
「つーか、そんな難しいコトわたしに言われても困るのである!」
「イリヤちゃんはイリヤちゃん!」
「たとえ余所のイリヤちゃんでも、わたしを知っててわたしを呼んで、」
「わたしをサーヴァントと言うのならそれでどうでもいいのです!」
「ええ、全人類がイリヤちゃんでもわたしはあまり困りません!」
「なっ―――タイガ、言ってるコトメチャクチャよ!? そんなにまでしてわたしを庇うの!?」
「だってそうしないとわたし消えちゃうからネ!」
「あと、そっちのイリヤちゃんもイリヤちゃんよ!」
「こっちだと偽物だっていうなら、聖杯の力でもう一人分ぐらい自分の席を作り上げなさい!」
「で、でも……わたしじゃ、どうあっても本物には勝てないし……タイガ、負けちゃうよ……?」
「だいじょうぶ、わたしは誰が相手でも気にしないから!」
「ええ、どうせわたしはフツーには生きられない女! それでいいなら付いてきなさい!」
「誰も真似したがらない生き方をさせてあげるわ!」
「タ、タイガ……! なんか拳(こぶし)マスタードみたいな台詞だけど、ホントにわたしでいいの……?」
「うむ! むしろそのブルマがいい!」
「露骨すぎる萌えパワーに憎しみを感じるほどに!」
「……はは。バカ、すごいバカ!でも感動したっす師しょー! わたし弟子入りする!」
「タイガはサーヴァントだけど、ずっと師しょーとして尊敬するっす!」
「え、ほんと? やった、ありがとうイリヤちゃーん! タイガー道場を開いて幾数年、ようやく愛弟子ができたよう!」
「―――――――――」
「……ちょっと。なに笑ってるの、バーサーカー」
「――――――」
「……ふん。言ってなさい、そんなの貴方の勘違いなんだから」
「そこのバカ二人! 茶番はそこまでよ、戦うっていうなら相手をしてあげるわ」
「偽物のわたしとお笑いサーヴァントがどこまで戦えるか、確かめてあげる!」
「く、来るっす師しょー! 準備はオッケーでありますか!?」
「上等っ! 行くわよイリヤちゃん!ここでイリヤちゃんを倒して、ヒロインを一人減らしてくれるわ!」
「……いやあ、どっちに転んでもヒロインは減らないような」
☆☆☆
「すごい、勝っちゃったー! わたしたちの勝ちよタイガ!」
「うぇー、きつかったー。もう堅いの堅くないの、まさに人間城塞。ステゴロには厳しかったわー」
「でもこれで白黒ついたわね。わたしたちが勝ったんだから、もう偽物だの本物だの言わせないわ」
「イリヤちゃんはどっちも本物ってコトでいいわよね?」
「……そうね。どこまでやれるか好きにしなさい」
「このままだとそっちのイリヤは消えちゃうけど、貴方たちなら違う道を見つけられるかもしれない」
「なにしろ、わたしのバーサーカーに勝っちゃうぐらい強いんだから」
「おうさ。残る星は一つだけ、バーサーカーさん以上の敵はいないだろうし、サクっと勝って願い事を叶えるわ」
「油断は禁物よ。最後の相手はあの―――」
「……って、まあいっか。悔しいのはホントだから、これ以上手助けはしないわ」
「それじゃあね、わたしのそっくりさん。せいぜい、こっちのイリヤには出来ないコトをするといいわ」
「行ってしまったか。……けどいいのかなあ。バーサーカーさん、手加減してくれてたでしょ?」
「うん。何も言わなかったけど、どっちのイリヤも守ってくれたのね」
「うむ、敵ながら惚れ惚れする雄度であった」
「やっぱり、ちゃんとしたイリヤちゃんはバーサーカーさんと一緒じゃないと嘘だよねー」
「う。なにげにきつい一言だけど、今回はスルーしてあげる。わたしにはタイガがいるもんね」
「こうして二人のイリヤの戦いは幕を下ろした」
「残る敵はあと一人」
「だが、そこには皆さんお馴染みの困ったちゃん・金ピカくんの影があるのであった―――」
「次回、トラぶる花札道中記最終回!
『出現! 悪徳のカブキ城コトミネキャッスル! 逃げてランサー爆破一秒後!』」
「にシルバーアウツ……!!!!あと、ワシの余命は残り一秒」
「……しっかしアレよね……」
「こっちのイリヤちゃん、最後までブルマにつっこまなかったけど……」
「イリヤちゃんの世界観においてブルマは正義なのかのう……」
☆☆☆
「7のツーペア。ローマ」
「ローマァ? イヤな繋がりだなそりゃ。んじゃマンゴーで8のペアな」
「2のペア。ゴールドで我の勝ちだ。次は三枚組(スリーカード)でいくか。6から始めるぞ。お題はセイバーが好きそうなもの」
「9の三枚組(スリーカード)。美少年」
「ち、どいつもこいつも景気よく出しやがって。オレだけ撤退(パス)できねえじゃねえか」
「―――ジャックの三枚組(スリーカード)。んで、どっかの誰かさんの趣味とは正反対の、質素ながら品のいいショートソード」
「異議あり。セイバーが好むものはすべからく装飾華美である筈だ。今のは無効だ、やり直せ」
「いや、私はランサーを支持する。セイバーの好みそうなもの、というのであれば間違ってはいまい」
「ハ、笑わせるなコトミネ。貴様にセイバーの何がわかる」
「ことヤツの生態において、我以上に熟知した者はおらぬ。どれほどの根拠をもって断言するか」
「先日、凛に突っ返された夜会服を譲ったのだが、目の前で破かれた。純粋な厚意だったのだが、残念だ」
「はははははは! たわけめ、あのセイバーが貢ぎ物など受け取るものか!」
「我でさえ一日に一度は断られるのだ、当然であろう!」
「よかろう、痛快なので許す。根拠としては弱いが、明日から我も控え目な贈り物を選ぶとしよう」
「ところで1の三枚組(スリーカード)。ドル箱。続くものはいるか?」
「パスだ」
「右に同じ。あるワケねえだろ、1を上回る2はおまえが二枚も使いやがったんだから」
「そうか、強すぎるというのも考え物だな。……ふむ。仕方あるまい、おまえたちにも刃向かうチャンスをやろう」
「そら、ハートの3だ。一枚だけならば抵抗しようもあろう。お題はセイバーに似合いそうなもの」
「ハートの6。イヌミミフード」
「(ようやく小さい数で始まったな。ヤロウは残り一枚……、残る絵札はコトミネのヤロウが隠し持っているだろうが……)」
「くそ、みすみす勝たせられるか! 虎の子のエースを食らいやがれ! で、えーとドラ焼き!」
「く、なんだその矮小さは! 虎の子というからには最強の札を持ってこい雑兵!」
「そら、ハートの2、金ピカと慕われる我! 勝負あったな、これであがりだぞ!」
「はぁ!? なにいってやがる、おまえ大富豪のルール知らねえのか!」
「2あがりは厳禁、無条件でドベだって言っただろうが!」
「なにを言っているのかねキミは。我の2の勝ちだ。最強の札を使って敗れるワケないであろ」
「ふざけてんのはそっちだバカ金!ああもう、ビリだビリ! 勝負するまでもねえ、偵察はテメェが行ってこい!」
「……哀れな。どこの地方ルールかは知らんが、自らの敗北を認められぬとは」
「だが、我の国では2あがり超オッケーなのだ」
「そもそもなぜ2であがってはいかんのだ。大本になった原典があるのか?」
「説明できるのなら聞いてやらんコトもないぞランサー?」
「そりゃねえけどよ。逆転要素の一つと言うか、ワンサイドゲームを防ぐ為の足枷と言うか」
「ともかく、一位のヤツを独走させないためのルールなんだよ、それは」
「コトミネー。ここの青いの、自分でもわかっていないルールで偉そうにしゃべってたのだぞー」
「その尊大さに我もビックリ」
「はっはっは。まあ許してやれギルガメッシュ」
「七連続のドベだからな、ランサーもイチャモンの一つもつけねばやりきれないのだろう」
「イチャモンじゃねー! 明確なルールの話をしてるんですよー!」
「つーかそれぐらい守れ! まっとうなルールなしで、毎回絵札と1と2を独占しているそこの金ボケに勝てるかっていうの!」
「私に言われてもな。私とて、おまえと同じようなカードで戦っているのだが」
「常に二番手しか狙ってねえヤツは黙ってろ!」
「―――くそ、いい機会だ、いい加減ここでハッキリさせようじゃねえか」
「便利に使いやがって、オレは戦う為に呼ばれたんだっつの!」
「金にあかして日々食っちゃ寝の自称王様と、」
「用事を全部人に押しつけるぐうたら神父の世話をする為に召喚されたんじゃねえですよー!」
「心外だな。私なりに各々の長所を生かしているつもりなのだが」
「ははは。いいではないか、我たち楽しいし」
「よくねーんだよオレは! オマエらそこに座れ、オレが性根たたき直してやる!」
「オラ、しみったれたカードなんざしまえしまえ。男だったらコレだろコレ」
「ほう、バックギャモンか。―――それにはちとうるさいぞ私は」
「むう、何やらまだるっこしそうなものを」
「我的に、始めから沢山貰えるゲームのがいいのだが。まあよい、ルールを教えるがいい雑兵」
「……ランサーの気配を辿ってみれば、こんな事になってるなんて……」
「コトミネが怪しいのはあからさまだったけど、あんなサーヴァントまでいるなんて―――どうする、タイガ?」
「どうするって、どうすればいいのイリヤちゃん……!?」
「ひぃぃ、怖すぎるわ……!なんであんなところで大富豪やってるのあの人たち……!」
「あ、驚くのそっちッスか師しょー」
「なんてコト―――コココ怖ぇ、正直勝てる気がしねぇ」
「とくにあの金色。なんか、一歩間違えればわたしと同じ芸風な気がして寒気しまくり」
「あー……そっか、タイガって天然系の人と戦うのは初めてだもんね。ただでさえ三対二だし、ここは様子を見る?」
「なんか、ほっとけば仲間割れしそうだし」
「う。んー、漁夫の利という言葉はタイヘン美味しそうなのですが、わたしゃ魚より肉が好き」
「難しいコト考える前に、とりあえず戦ってみましょう!」
「だと思った。ほーんと無鉄砲なんだから」
「む。マスターとして撤退命令だす?イリヤちゃん」
「まさか。それがタイガだもの。地獄の底まで付き合ってあげるわ」
「タイガがおバカであるうちは、誰が相手でも戦っていけるものね」
「う、なんという健気な弟子なのか。ちょっとラブ」
「……けど、そのわりにはこう、なんつーかイリヤちゃん覇気がないような」
「……うーん、実はそうなんスよ師しょー」
「あの金色を見てるだけで心臓のあたりがきゅーっと来るんすけど、これってもしかすると恋なのかな……?」
「なんつーかこー、アイツの心臓えぐりとりてぇ」
「そりゃ微妙に違うっていうか、もしかして新手の吊り橋効果?」
「うう、やはり改心しようと残虐ロリっ娘からは抜け出せぬか……まさに聖杯戦争は殺し愛、愛情イコールキリングよのぅ……」
「はいはい、そこまでよ愉快な三人組!聖杯戦争もこれで最後、さっさと星をよこしなさい!」
「……? おいコトミネ、なんだアイツら。オマエ、また悪趣味な副業始めたんじゃなかろうな」
「いや、彼女たちは私たちの同業だよランサー。先日マスターになった少女とそのサーヴァントだ」
「大方マスター権を放棄し、保護してほしいという相談だろうが―――」
「残念ながらその逆よコトミネ」
「わたしたちはここまで勝ち残ってきたの。逃げ込んできたんじゃなくて、最後まで隠れてた貴方たちを倒しに来たのよ」
「こらこら。物事はもっとわかりやすく言うものだ」
「今の言いようでは、『わたしたちは他の五組を倒してきたワ』と聞こえてしまう」
「そのような結果はあり得ないだろう?すまないが、もう一度言い直してくれたまえ」
「だーかーらー。もう他のマスターは全員やっつけて、残りはアンタたちだけって言ってるのよ」
「ほれ、ちゃんと星六つあるでしょ」
「――――――」
「はあ!? なんだそりゃ、話が違うぞコトミネ!」
「おまえ、始まったばかりで戦いは起きてねえって言ったじゃねえか!?」
「――――――――――――」
「魂が抜けておる……!」
「おーい、帰ってこーいコトミネー。ショックなのはわかるが、そりゃ毎日遊んでいればこうなるのだぞー」
「――――――ハ!?」
「…………………………フ、なるほど。君たちが勝ち残る事は予測済みだったが、まさかこれほど早く辿り着くとはな」
「まずは見事と言っておこうイリヤスフィール。だが所詮は我が思惑の内だ」
「オッケー。すべてオッケー。問題なし。さあ、消耗した体でどこまで戦えるか、存分に楽しませてもらおうか……!」
「……ランサー。我な、唐突にやり残しのRPGをやりたくなってきたのだが」
「……初めて気があったな。オレも、ほったらかしにしていた屋根裏の掃除をしたくなった」
「ハハハ。それ死亡フラグっぽいぞ雑兵」
「テメェも一緒だよ!」
「何をしているランサー、アーチャー!敵は得体の知れぬサーヴァント一人、おまえたちの敵ではあるまい!」
「予定通り、我らの完勝で聖杯戦争の幕を下ろすのだ!」
「何が予定通りか。―――が、契約者の失策を立て直すも我の務めだ。気が乗らぬが手を組むか雑兵!」
「そりゃこっちのセリフだ。出遅れんなよ放蕩王子!」
「っ……! なんか色々必死なコトミネだけど、後ろの二人は本物よ……!タイガ、気をつけて……!」
「わかってる―――この三人組、決死でかからないと倒せない……! 行くわよイリヤちゃん、背中の守りは任せたわ!」
「オーケー、回復は任せてタイガ!大丈夫、どんなにボロボロになっても令呪で無理矢理戦わせてあげるから!」
「ひぃー、背中も油断ならねぇー!?や、やはりこのロリっ娘根っからの悪魔ですよ!?」
☆☆☆ ☆☆☆
「――――――」
「ぃよぉぉぉぉぉし!」
「金ピカとランサー兄さん合わせて一本、場内文句なしでわたしたちの完全勝利!」
「すっごーい! どんどんぱふぱふー、この瞬間わたしたちは人類の歴史を超越したのでしたー!」
「―――ちょろいぜ」
「認めぬーーーー!我は人類最古の英雄王なるぞ、このような遊び、戦いと言えるかものかーーーー!」
「!? うそ、道場が消えていく……!?あの金色クン、なんか本編のノリで殺し合うつもりですよ……!?」
「きゃあああーーー! 甦る本編のトラウマ!」
「師しょー、また心臓がバクバクいいだしました! やっぱり恋っすよコレ!」
「そんな恋いらねー!なんて言ってる場合じゃなくてピンチピンチ!」
「えーい、こうなったらダメもとで虎竹刀に内蔵しておいたプロトンスイッチを押すしかないか……!?」
「たわけめ、火力勝負で我に太刀打ちできると思ったか! カクカクするのは我が先だ!」
「きゃー、恋のニュークリアロマンス!タイガと金色、どっちが先でも冬木市が壊滅しちゃうーーー!」
「もはや人類にまったなし!我と共に死に、我と共に死ねぇい!」
「それかぶってるかぶってる!きゃー、たーすーけー……!」
「―――ぬ。グッバイ我」
「………………ったく。こんなのばっかりだなオレは」
「ランサー……? わたしたちを助けてくれたの……?」
「助けてねえよ。このバカほっといたらオレも巻き添えをくうからな。手前(てめえ)大事さで止めただけだ」
「ほら、それより持ってけお嬢ちゃん。今回はアンタらの勝ちだ」
「いいの……?それ貰ったら、ホントにわたしの勝ちで聖杯戦争終わっちゃうよ……?」
「いいんだよ。オレには聖杯なんぞよりこっちのルールの方が大切だ」
「―――勝者は手に入れ、敗者は失う。……古い人間だからな、そればっかりは誤魔化せねえんだわ」
「ランサー兄貴……アンタ、今回マジいい役ッス。金色の人に続いて、こう胸がきゅーっとしたッス」
「ひぃぃ!? 気をつけてランサー兄さん、殺される、それ以上好感度があがるとイリヤちゃんに殺されるわー!」
「おお、手が空いたら遊びにこい」
「だが、その前に用事を済ませねえとな」
「ほら、コイツが放心している内に行っちまえ。コイツの話じゃ柳洞寺の裏が召喚場所らしいぞ」
「確かに受け取ったわランサー。それじゃあ行ってくるわね。縁があったらまた遊びましょ」
「サラバだ兄さん! いずれ釣りあげたお魚をいただきに参上するわ!」
「おーおー、元気なコトで。さて、オレはどうすっかなー。ま、後片づけしてから考えるか」
☆☆☆
「ついに七つの星は集まった。北の七星そろう時、七賢者により封印されし古代の邪神が甦る―――」
「だが心せよ愛しのブルマ。汝の敵は傍らにあり、タイガマストダイ・タイガマストダイ! 戦いの芽は未だ生きておる……!」
「ああ、人はなぜ裏切るのか。悲しいのう。どうして清く正しく生きられないのかのぅ」
「裏山はこの奥かぁ。もうすぐよタイガ、これでわたしたちの願いも―――タイガ?」
「―――ふん、茶番はここまでね」
「イリヤちゃん、仲良しごっこはここでおしまいよ。死にたくなかったらその星を全部よこしなさい」
「え……な、なに、それ新しい芸風?でもダメよタイガ。だってその冗談、ぜんぜん笑えな―――」
「きゃっ……!?」
「冗談はそっちよイリヤちゃん。まったく、いつまでマスター面しているのかしら」
「わたしを縛る令呪は全部使い切ったっていうのにね」
「え……うそ。う、うそだよね、タイガ……?」
「わたしたちここまで一緒に戦って、弟子と師匠になった、のに」
「くっくっくっく。甘ぇ。甘ぇぜお嬢ちゃん。そんなんだから元いた世界から追い出されるのよ」
「願いを叶えるのはわたし一人よ。この手の話は昔っから、一人しか報酬がないって決まってるんだから」
「そんな―――タイガが、最後の最後で、わたしを裏切る、なんて―――」
「ふっふっふ、いたいけな絶望はたまらんのぅ」
「もはや戦う気力もあるまい、じっくりと痛めつけて、」
「―――はじめっから、ちゃあんと予測していたわ」
「あれ? なんか燃えてる? 本編におけるFateの最終決戦っぽい?」
「ふっ。こんなこともあろうかと、柳洞寺に来た時に結界を張っておいたのよ」
「最後の最後、わたしに楯突く不心得者が出た時を想定してね……!」
「……(あっちゃー)……。あのー、イリヤちゃん? やっぱり、今の冗談にならないかしら?」
「ならないっ! ちょっと見直してプランを変えたわたしがバカだったわ!」
「一番初めの予定通り、ここでコテンパンにしてあげる!」
「―――フ。サーヴァントとマスターは似た者同士というけど、そんなところまで一緒だったとは」
「面白いわ、その腐った性根たたき直してやろーじゃない!」
「こっちのセリフよ! 行くわよタイガァァア!」
「うわーん! 気合い入ってるのはわかるけど語尾を伸ーばーすーなー!」
☆☆☆ ☆☆☆
「ついに七つの星は集まった。北の七星そろう時、七賢者により封印されし古代の邪神が甦る―――」
「そんな大王道な設定で物語は幕を下ろすのであった。聖杯なぞ知らぬ」
「いざ、星を掲げよサーヴァントよ。さあ、願を捧げよロリブルマよ。星は勝者たる汝の末を占うであろう!」
「……とまあ、こういうお話だったのじゃ」
「それじゃ行くわよ―――覚悟はいい、タイガ?」
「もっちろん。ふふふ、神を騙るド畜生めが、どんな無理難題を押しつけてやろうかのぅ……!」
「あ。いい、先にお願いを言うのはわたしだからね。で、まだ願いを叶えられるなら、それはタイガに譲ってあげるから」
「いいわよー。わたしまで回ってこなくても、イリヤちゃんとわたしの願いは同じっぽいし」
「イリヤちゃんの出番、これ即ちわたしの出番なり」
「オッケー―――さあ、一にして全に還れ七つの魂! ここに、勝者たる我らの願いを叶えたまえー!」
「我を呼んだのはオマエかぁーーー」
「きゃーーー! せせせ世紀末に現れなかった期待のアイツっぽいの出たーーー!?」
「そ、そうよ。貴方が聖杯……なの?」
「そのようなものは知らぬ。我は願いは叶えるだけのものだ」
「だが心せよ。一世紀で叶えられる願いは一つのみ。よーく考えて口にするがよい」
「む。やっぱりそうきたかぁ……イリヤちゃん、頼んだわよ」
「うん。……わたし……ううん、わたしたちの願いは決まってるわ。聖杯よ、願わくばわたしとタイガが主役になる―――」
「僕を愛してーーーーーー!!!!!!」
「「はは??」」
「……了解した。汝に一段階上の幸福を与えよう」
「あ―――お、おおおおおおぉおお!」
「すげぇー! 色すげぇー! 今まさにモノクロから256色に脅威の進化を遂げた僕!」
「ハ、見たかおまえたち! これで僕もおまえたちと同じレギュラーキャラさ!」
「……喜んで貰えて幸いだ。では、今世紀の願いはこれにて終了とする―――」
「「ワワ――――――ワワカカメメぇぇ――――――!!」」
「……はぁ、桜ちゃんの気持ちがちょっと分かったわ」
「つーかあの子がまん強すぎ。忍耐ありすぎ。あとオチベタすぎ」
「ふ―――ふふ、うふふふふふ……!」
「いいわ、そんなに色が欲しいならもっと塗りたくってあげる! GOタイガ! ワカメをトマトにしてしまえ!」
「ひゅー! コーブラー!」
「え? なんかもの凄いエネルギー。なにやらあちらから蛇行しながら迫る剣士あり。すげー、藤村イナズマみてぇー」
「抹殺完了。かつてない一方的なキリングゲームに観客は盛り上がっておりますが、勝者であるわたしはなぜか空しい」
「嗚呼、これが他人を蹴落として得た幸福の味なのね……よよよ」
「あーあ、最後の最後であんなのに邪魔されちゃった。……うまくいきっこないってわかってたけど、さすがに堪えるなぁ」
「やっぱり、こっちの世界でもわたしの居場所はないのかなあ」
「待つがよいそこな二人。結末がこれでは、今まで戦ってきた努力が報われまい」
「願いは叶えられぬが、おまえたちが持つ疑問ぐらいは答えてやろう」
「マジ? じゃあしつもーん! この先、わたしがヒロインになれる展開はあるのでしょーか?」
「知らぬ。その質問自体、わたしの能力の範疇を越えている」
「ぐわ、あるかないか聞く段階でダメだと言うのかぁーーーー!?」
「娘よ、おまえはどうだ? 胸を裂くほどの迷いはあるか?」
「……じゃあ一つだけ。わたしはこっちにいていいの? 大人しく、もとのメイドが支配する世界に戻った方がいいのかな?」
「ちょっと待て! なんかいま凄いコト言わなかったか汝!?」
「……今のところ問題はない。いずれ折り合いはつかなくなるが、それは先の話だ。それまでにもう一度、私を探し出すがよい」
「え?」
「さらばだ。百年後にまた会おう」
「消えちゃったかぁ」
「……ま、いっか。これでわたしの仕事も終了だし。聖杯戦争は終わって、晴れて自由の身ってワケなのだ」
「え? タイガ、わたしを弟子にしてくれたんでしょ? ここで消えちゃうの?」
「んー、サーヴァントのルールで言うなら消えるしか」
「でも安心なさい、わたしはいつでもイリヤちゃんの心の中に潜(す)んでいる!」
「ピンチの時はこう唱えなさい、タイガマストダイ、タイガマストダイ!んじゃそーゆーコトで。グッバイ!」
「あれ? なぜ消えないわたし?」
「消えないわよー。タイガはそういうクラスのサーヴァントだもの」
「他のサーヴァントと違って、一度呼び出されたらマスターが許すまで消えられないのよ」
「な、なんですって!? そんなクラス聞いた事ないわよ!? というかぁ、そもそもわたしのクラス名ってなんなの!?」
「なにって、タイガはサーヴァントよ?」
「知っておる! その前にくるセイバーとかビリーバーとかプリズナーとか、そういうかっちょいいカタカナが知りたい!」
「だからぁ、前も後もないの。タイガのクラスはサー(従)ヴァン(者)ト」
「一度マスターを決めたら一生主に仕える、サーヴァントのサーヴァント(・・・・・・・・・・・・・)なのよ」
「ごはぁ!? なにそのトンチ!?つーか奴隷なのに英霊とはこれ如何に!?」
「さあ? 大方、人類が奴隷化した未来世紀で解放運動でもしてたんじゃない?」
「むむむ……言われてみるとなんか思い出してきましたよ?」
「地平を埋め尽くすヒロイン軍団にさっそうと立ち向かうわたし。サブキャラたちのレジスタンス」
「そして、勢いあまって両方とも木っ端微塵にしたわたし」
「納得いった?なら観念してもうちょっと付き合ってよ」
「聖杯戦争は終わったけど、まだ次があるわ。とりあえず、散らばった星を探しに行きましょう」
「あー。ちょっと付き合うって、どれくらいでしょーかご主人さま?」
「とりあえずあと百年。次の聖杯戦争が始まるまでね」
「長ぇーーー! 優に人生二つ分はあるじゃない! ちょっとじゃないわよそれ!」
「ううん、きっとあっという間よ。わたしとタイガなら退屈なんて出来ないもの」
「それにタイガはわたしの師しょーでしょ? これから色々お世話になるっスよ」
「ぅ……それを言われるとぐうの音もでない」
「わかったわよ、とことんまで付き合ってあげるわ!」
「初弟子かつ初マスターという微妙な力関係ですが、まあなるようになるでしょう!」
「それでこそタイガよ!」
「じゃ、まずは大西洋ね。次の戦いはワールドワイド、七つの海を股にかける大冒険なんだから!」
「なんと!? こりゃタイヘンだ、わたしも水着用意しないと!」
「時間の問題で没になったけど、ホントはわたしにもプールイベントぐらいあったのよー」
「ほら、見なさい悩殺ものの虎柄ダイバースーツを!」
「おー、すごいすごい。ゲームモードの仕様上、立ち絵がお見せできないのが残念です」
「あはは、やっぱりね! わたしの水着書き下ろしてる余裕あるならライダーさんのイベント画でも増やしてるでしょうしネ!」
「チクショウ、今に見てなさいよー!わたしたちはわたしたちのやり方で天下とってやるんだからー!」
「その意気っす師しょー!戦いはまだまだ続くっすー!」
−完−