TITLE : 夜明けあと
夜明けあと   星 新一
夜明けあと
●安政五年―慶応四年(一八五八―一八六八)
安政五年(一八五八)
幕府は、その権限で開国。日米通商条約が成立。英、蘭、露、仏とも。
江戸で福沢諭吉の蘭学塾《らんがくじゆく》が開かれた。
文久二年(一八六二)
在日米国使節の印象。日本人は貿易による利益を知らず。品物の輸出で、民衆は日用品不足。貧者は困窮。交易にむかない国民性のようだ(海外新聞)。心配なことですな。
慶応二年(一八六六)
年末、孝明天皇死去。つぎの天皇は十五歳。
慶応三年(一八六七)
東京・横浜間に電信の計画。この柱と線が全国に及べば、便利になる。いずれは外国人技師の助けなくして、建設や機械の製造も可能となろう(万国新聞紙)。
薩長《さつちよう》に討幕の密勅。徳川慶喜《よしのぶ》、大政を奉還。王政復古の大号令。
アメリカ合衆国、ロシアからアラスカを買い、代金の半分を鉄船ですます。その関係者たち、つぎは日本全土を買おうかと(万国)。さすが、お金持ちの国。
慶応四年(一八六八)
薩長による新政府成立。幼少の天子をかつぎ、政権を奪うのに利用した(中外新聞)。
御門《ミカド》(天皇)と大君《タイクン》(将軍)の戦争に、合衆国は中立を声明(中外)。
横浜ドル相場。一ドル、四十四匁《もんめ》七分《ぶ》にて、とくに異状なし(中外)。
栓《せん》に使うコルクを、黒く焼いて粉にして飲むと、コレラに効く。インドの療法(中外)。
在日外国人で、日本凶徒に殺されるのが多い。死者一名につき、千人を殺せ。最良の防止法だ(英文・横浜新聞)。
「かけまくもかしこき、天《あま》つ神《かみ》、地《くに》つ神の大前《おおまえ》に申さく……」五カ条のご誓文の前文のはじまり(太政官《だじようかん》日誌)。
官軍、関東へむかう(太政官)。
薩摩藩の大久保利通《としみち》の建白。「この際、人心一新のため、浪花《なにわ》(大坂)へ遷都《せんと》を」(中外)。
西郷隆盛《たかもり》、勝海舟の会談で、江戸開城。英国公使パークスの「恭順を表明した慶喜を攻撃とは」の意見で、戦闘中止。
パリ万博に出演した日本の手品師たち、ブダペストでも興行したが、強い酒を日本酒の調子で飲み、酔って大失敗(万国)。
江戸から諸大名の屋敷《やしき》がなくなったら、地価はただ同様だ。商人や地主の代表が集って、対策の相談が必要(中外)。
新政府の神祇局《じんぎきよく》は、高齢者を優遇の方針。百歳以上に三石、九十歳以上に二石、八十歳以上に一石の米を恵むと(行在所《あんざいしよ》日誌)。はたして、何人がもらえたか。
勝海舟、幕府から官軍へ、つぎの四艦を引き渡す。富士、観光、翔鶴《しようかく》、朝陽(公私雑報)。
オランダで二百年後を予想した本が出た。ガラス製の屋根。高性能の望遠鏡。磁石で進む風船。大国は軍備を廃止し、独立国はふえるだろう(公私)。
「もしほ草」という新聞が出た。海水をそそいで、塩を取るのに使う海草。かき集める、書き集めるに通じる。
下総《しもうさ》・結城《ゆうき》の城主、官軍支持を表明。江戸にいたその息子は「三百年の徳川の恩を」と兵と大砲を集め、城へ出撃。城主は逃亡。
それを官軍が知り「不孝不忠なやつめ」と攻撃。三日天下で、息子は逃亡(もしほ草)。いろいろなことの起った時代。
三百年の平穏に対し、薩長は悪者あつかいし、勝手に錦旗《きんき》を動かす。天下のためと自称し、まことに理不尽。世界の各国に訴えたい(もしほ草)。同様な意見は多い。
江戸の人口、約五十四万。所帯数、十三万。ただし、町人についてのみ(内外新報)。しかし、全人口となると、不明。外国人の推測にも、一千万から五千万まで、各説がある(中外)。パリよりの手紙によれば、江戸ほどの大都市は、欧州になしと(中外)。
江東の芸者は若い妓《こ》まで、なぜか漢語がはやっている。「先日ノ金策ノ事件ニツイテノ建白ノ御返答ハイカガ」など。
一方、在日仏人の説。新政府の布告は漢語の文が多く、わかる人は一割ぐらい。教育の水準が低いのか(都鄙《とひ》新聞)。
徳川慶喜将軍は、恭順で政権を返上。人柄《ひとがら》、頭脳、思慮すべてにすぐれ、いずれ大統領として善政をなすであろう(江湖新聞)。
ゴム風船にガスをつめ、宙に浮かしたのを売り、珍しがられる(各紙)。
江戸開城時までの官軍への帰順者(武士)には、勤王証明証を渡す(江湖)。
八幡大菩薩《はちまんだいぼさつ》は、八幡大神と改称する(中外)。楠木正成《くすのきまさしげ》の一族を勤王家とみとめ、千両を支出し、神社を作らせる(公私)。豊臣秀吉《とよとみひでよし》、加藤清正は、その至誠をみとめ、神社にまつるのを許す(太政官)。
官軍の江戸駐留の費用、一日に八千両と米二百俵(東西新聞)。
江戸の上野で幕臣が彰義隊《しようぎたい》を作り、反抗。官軍の大砲のそばに「神社を撃つな」と札を立てる者あり、中止される(公私)。
隊員の、ある戦死者の残した句(此花新聞)。
光るかと見る間に消ゆる花火かな
上野の一帯、ほとんど焼失、大雨もあり、悲しみの声、街に満つ。なげく人、多し。
ある在日米人の話。日本人は勇敢と聞いたが、新政府の前に、会津藩のほかは臆病《おくびよう》そのもの。千人の部下がいれば、この国を支配下においてみせる(そよ吹風)。そう感じた外国人もいただろうな。
すでに上海《シヤンハイ》には、百人を越える日本人がいる(もしほ草)。
延寿と改元のうわさが流れる(中外)。
大坂の旅館に、ひとりの異人が、とめてくれと出現。飯に梅干をのせたのを出すと、食べて悲鳴。役所にとどけた。アメリカ人の男で、放浪のあげく、日本に渡ってきたとのこと(浮世風聞)。
神戸の異人館で、英国人と妻の日本人の間に二人の子があり、高い鼻なり(浮世)。
駐日英国書記官、帰国の時に手品師の波五郎を同伴。紙のチョウを宙に舞わせる芸をやらせ、観客は感嘆(日々新聞)。
いつの日か、ヨーロッパ、アメリカに小さな店を出し、日本の産物を売り、その利益で留学生を呼ぶ。このような時代が来ればいい(中外)。なんと、いじらしい希望。
江戸を東京と改称。西の京と同じく重視との意味。知府事(市長役)をおく。形式上の民政移管(太政官)。
いわき地方。官軍は平潟《ひらかた》より小名浜の賊軍を平定。平《たいら》城を奪う(太政官)。私の父の故郷も、官軍の支配下に入った。
越後《えちご》の賊兵、敗走。平定す(太政官)。長岡藩の奮戦もむなし。私の母方の祖父の生地も、ついに官軍の支配下となる。
支那《しな》政府、米国へ派遣する使節の待遇を以前の日本の使節(幕府からの)と同等以上にするよう申し出る(もしほ草)。
旧暦八月二十七日、京都にて天皇の即位。式典がなされた。また、九月二十二日を天長節(天皇誕生日)ときめ、祝日とする(太政官)。
ハワイへ渡った三百人の日本人たち、待遇もよく、平穏な地で喜んでいる(もしほ草)。当時は独立国で、英語ではサンドイッチ諸島と呼ばれていた。
横浜市内で、立小便が禁止となる。文明国では、五ドルの罰金の行為なり(もしほ草)。
凶作と戦いのため、大坂の米価は上るばかり。輸入をとの声がある。米は日本で最重要の食物。輸入により安くしないと、大騒動が起る。外国米は毒との説は、無知によるものだ(もしほ草)。
アメリカの会社の構想。香港《ホンコン》、上海より日本へ電信をつなぎ、北海道、アラスカへ伸ばし、ニューヨークに連絡。よく学び、輸出をふやせば、日本も進歩する(もしほ草)。努力すれば世界情報の重要地点になれると、はげましてくれたのだろう。
九月八日、明治元年と改元。
●明治元年(一八六八)
天皇、東京へ(東巡日誌)。
かくも東へのお出かけは、日本史上はじめてのこと。同時に、江戸城は東京城と改称された。
五十日後、京へお戻りに(還幸日誌)。
幕府の海軍副総裁・榎本武揚《えのもとたけあき》、船隊を指揮し、函館《はこだて》へ。英仏はロシアの介入を心配し、軍艦を回す(もしほ草)。
当時、ストーブを「へやぬくめ」と呼んだ。それが原因で、外人居留地で火事あり(崎陽《きよう》雑報)。
十二月二十八日、入内《じゆだい》、立后(太政官日誌)。左大臣・一条忠香《ただか》の三女、勝子《まさこ》さまが皇后に。天皇より二歳年長。
この年、タイで十五歳の国王が即位。ベルリンでは、ブラームスの子守唄《こもりうた》の曲が出版された(年表)。
●明治二年(一八六九)
新政府の参与・横井小楠《しようなん》、朝廷よりの帰途に暗殺される(太政官)。肥後熊本の出身で、すぐれた学識の主。しかし、キリスト教に好意的だったので、保守派にきらわれて。
このころの長崎での主な輸出品は、茶、生糸《きいと》、石炭、干物《ひもの》。輸入品は、武器、砂糖、酒(崎陽)。
ドル暴騰《ぼうとう》(もしほ草)。各藩がむやみと武器を輸入したので、金銀の成分不足の通貨が出まわったため。
三月、天皇ふたたび東京へ(太政官)。
東京へ遷都。天皇の居住地となる。しかし、ここが首都との根拠は、ずっと明白でなかった。
さきに大坂への遷都を論じたのは、大久保利通。江戸っ子の多くは、その人のおかげと、ずっと思い込みつづけた。東京を主張したのは、江藤新平であった。
京都の人は、公卿《くげ》から住民まで、東京遷都を好まず、不穏な動きあり(中外)。
あげく、薩長体制をきらい、公卿たちはある宮様をかつぎ、反対運動をはじめた。旧徳川派へも働きかけたとのうわさ。その宮様を芸州浅野家へお預けとし、なんとか処理。
上州岩鼻の清蔵なる男、夜、悪漢に襲われ、鼻を切り落された。一年後、英人の医師ウィリス、ほかの部分の肉を削って移し、鼻をもとの形に戻した(遠近新聞)。整形手術の、第一号というべきだろう。
公議所を神田に作り、国のための意見を求める(六合新聞)。このような制度は、外国ではアメリカ合衆国にしかない(もしほ草)。
「官報・議案録」が発行され、そこでの多くの新しい主張が、掲載された。火葬廃止。通称でなく実名を使え。切腹廃止。罪を家族に及ぼすな。家財を召し上げるな。金銭による年季奉公はよくない。貴賤《きせん》の別をなくせ。利息の自由化を。物品の単位の統一を。
米人スネル、敗れた会津藩の住民を数十人つれ、カリフォルニアに移住させる。米の耕作も可能なり(中外)。これが後世、コメの大量生産となり、日本をおびやかす。
スエズ運河、開通。北米大陸横断鉄道、完成(年表)。日本からの留学生は、サンフランシスコに、すでに十人ちかくいた。
サンフランシスコの人、飛行機械を発明、博覧会に出す。十人は乗れる。いずれ日本でも、東京から長崎へ日帰りで行けるだろう(もしほ草)。ライト兄弟が試作に着手するより、三十年も早い。本当だったのか。
大学南校、東校の呼び方きまる。東大のはじまり。
光圀《みつくに》公に従一位《じゆいちい》が贈られる(太政官)。悪人退治の功でなく「大日本史」の作成に対し。
七月一日は日食のため、参内《さんだい》は差止め(太政官)。
大村益次郎、京都で暗殺される。
官軍の参謀として東海道を進んだ。その時、静岡地方の神官たち、途中で参加し、功を立てる。しかし、恭順の徳川家は、家康ゆかりのその地に移され、旧幕臣も集って住みはじめた。
神官たち、帰りにくい。益次郎は同情し、九段に作られた戦死者のための招魂社(のちの靖国《やすくに》神社)に職を与えた。その徳をしのんで銅像が作られ、いまに残る。彼は陸軍の基礎を作った人で、国民皆兵をとなえ、武士を軽んじたのが殺された一因。
英国より、第二王子、来日。その接待のため、タカ狩りの名手を集める。狐狩《きつねが》りの好きな国だから、喜び、これで楽しむようになるだろう(明治新聞)。
横浜の宣教師が、病身の妻のために車つきの乗り物を作る。和泉《いずみ》要助《ようすけ》ほか二人は、それを改良し、人力車の営業をはじめる。やがて、英国、東南アジアへ輸出。
機械の輸出は、車が最初だった。
日本人は、犯人も、不義の女も、すぐ刀で斬《き》り殺す。ぶっそうな国だ(英文・兵庫新聞)。
この年、ランゲルハンス島、発見さる。発見者のドイツ医学生の名がつけられた。医学上の重要な出来事。
●明治三年(一八七〇)
元・水戸藩士の兄弟、父が京都で殺されたので、犯人をさがし、高知藩士となっているのを知り、殺して仇《あだ》を討つ(太政官)。関係書類がそろっていれば、それで終り。
外国人には、理解されまい。
外国行免許状(パスポート)発行条令きまる。祖国を忘れず、なにかを学んでくること。多くの友を作れ。個人の争いは、国のためにならない(もしほ草)。
米仏両国より、北海道調査の願いが出る(外務省日誌)。金銀銅鉄の豊富な島と思われたらしい。国内でも、旧幕臣、政府内に、大きな夢を抱いていた人が多い。
北ドイツ連邦より来信。桑《くわ》の種子を買い入れたいのだが、質の悪いのが届いたり、包み方が悪かったりだ。よい品の手配を(外務省日誌)。生糸の国産化をめざすのと、そうはさせないとの争いか。
多くの人が種痘《しゆとう》をするよう、布告が出された(太政官)。
米沢藩《よねざわはん》の雲井龍雄《たつお》は頭がよく、幕末維新に各地を旅した。東京で新政府の動きを見て、薩長閥打倒を計画。反乱連判状に三千人の署名を集めた。秘密がもれ、逮捕の寸前に連判状を燃やした。この年末に処刑。
火に消えて助かった人もいた。しかし、本物の署名が何割なのかは、不明のまま。
プロシャ(ドイツ)とフランスが交戦。わが国は中立を声明(太政官)。大げさだが、開港地の平穏のためか。
東京府、六つの寺のなかに、小学校を作った。在来の寺子屋の師の四百軒にも、私立小学校の資格をみとめた。棒で尻《しり》をたたくこともあったが、師弟の情愛は深かった。
国旗、軍艦旗、正式制定(太政官)。
東京で外国人が遊歩できる範囲を示す。社寺庭園など、見物を望んだ場合、問題がなければ立入りを許し、あれば断わること(太政官)。そんな英会話のできるのが、どれくらいいたのか。
平民に苗字《みようじ》を許可。一方、帯刀は禁止とする(太政官)。
工部省、新設。加工業、鉱山、製鉄、灯台、鉄道、電信などを管理(太政官)。行革など、考えもしなかった時代。
名古屋藩知事より、もはや無用のため、城のシャチホコの金の部分をはがし、新政府へ提供の申し出あり(太政官)。ほかにも、城をこわしましょうかなど、ゴマスリの申し出が多い。
一方、酔ったふりをし、大声をあげ、歌い、刀で町人をおどし、犬猫《いぬねこ》を殺す武士も多い(太政官)。日本的性格か。気分はわかるが。
開港所で商品を取引きする時は、必ず書類を作ること。口約束はよくない(太政官)。
中国原産、日本で栽培のスモモが、移民によりカリフォルニアに植えられる。品種改良され、やがてプラム(アンズ)の大産地となる。輸出産業へ成長してゆく。
坂本龍馬《りようま》は海援隊という組織を作った。岩崎弥太郎《やたろう》はその留守居役となり、官軍の物資調達、船舶輸送を一手に引き受け、利益と実績を築き、この年、九十九《つ く も》商会を創立。やがて三菱《みつびし》商会と改称、大財閥に成長する。
寺院の規律が乱れているので、寺院寮という役所を作り、取り締る(太政官)。新政府が神社ばかりをひいきするので、僧侶《そうりよ》たちは面白くなかったのだ。
このころより、牛鍋《ぎゆうなべ》を食べさせる店が繁盛しはじめる。仏教の力が弱まり、肉食が文明の象徴となったため。異人館に牛肉を納入する横浜の中川屋が、東京・芝に一般人用の店を出したのがはじまり。
しかし、調理法は西洋風でなく、イノシシ鍋と同じ。ミソ、ネギ、トウフなどを肉に加え、サンショを少々。関西の「すき焼き」の名に統一されてゆく。セルフサービスでもあり、外国慣習の日本化の、最初にしてみごとな例といえよう。
●明治四年(一八七一)
東京・京都・大阪間に郵便開始、切手発行。廃藩置県。新貨幣制、一両や一貫を一円と称す。戸籍法の方針きまる。
簡単な歴史の本、せめて一家に一冊。
飛騨《ひだ》の高山の農民・清七。独力にて人馬用の二里余(十キロ)の山道を作る。七十歳ではじめ、八十二歳で完成。賞せられ、米を賜わる(民部省日誌)。
漁業をしている青年、希望すれば水兵に採用する(太政官)。
人家のそばでは、軍隊はラッパを吹くのを控えること。人が驚く(兵部省達)。
仙台の北・一関ちかくの農民の、兄弟の少年。八年がかりで父の仇を討つ(太政官)。ああ孝子の苦節、世人の模範なり、役所はなにをしていたのか(新聞雑誌)。
外国人の説。日本人は智巧だが、根気にとぼしい。肉食をしないためだろう。幼時から牛乳を飲めば、心身が向上する(新聞雑誌)。
この年末より、天皇も肉、牛乳を召し上るようになる。また、羊毛のフランス式軍服を日常服とし、革の靴《くつ》をはく。
天ハ自《ミズカ》ラ助クル者ヲ助ク。
英人スマイルズ著 "Self-Help" を中村敬宇《けいう》が訳した西国立志編が発売された。
天皇は和漢の書に加え、この本を最初に、西洋の政治を学者の講義で学びはじめる。
ユリの根が、輸出されるようになる。横浜から、年に十万個も。花もにおいも美しく、香水の原料になると。フランスで一鉢《ひとはち》、八十フラン(約十六円)とか(新聞雑誌)。一円で米が一斗数升、約二十五リットルのころ。
旧大名の藩邸を処分したいが、新政府の信用がなく、千坪二十五円でも買手なし。青山邸はどうしようもなく、墓地にした。現在の青山墓地。
盗みを四回やったら、金額をとわず、絞首刑(太政官)。さらし首、処刑死体、遺族より申し出があれば、下げ渡す(太政官)。
大学生に漢文の読めぬ者がふえ、まず書き下し文で教える(新聞雑誌)。
士族の断髪、廃刀、服装は各人の自由とす(太政官)。平民の羽織《はおり》、ハカマの着用、制限しない。華族と平民の結婚も可(太政官)。
東京城にて正午、号砲一発(太政官)。
江戸時代は貧民の子も、二十歳ぐらいまで働かなかった。最近は中流の子も、十歳ぐらいで仕事につく(新聞雑誌)。
給料。上等通訳、三十日五十円、中等四十円、下等二十五円(兵部省)。
国産ビールに臭気ありと。肥料に人糞《じんぷん》を用いるためか(横浜毎日新聞)。
長寿への祝。八十八歳は三両、百歳は十両に改正(太政官)。
岡山の北の、津山の森のサル。一匹が地面で死んだふり。鳥が舞いおりクチバシで突つくと、ほかのサルたちが木かげや枝から飛びかかり、川に入れて殺す。さすが、開化の世なり(新聞雑誌)。食肉鳥タカへの対抗か。
東京・長崎間に電信。そこから海底電線で上海、香港、ロンドンまで連絡している。
電信用の柱のため、横浜・小田原間の東海道の松並木の多くが切られた。いずれは鉄道も通る。自然は失われる一方(新聞雑誌)。
川へ物を捨てるな。死体の浮いてるのを見たら、届けよ。ほうびを出す(新聞雑誌)。
世はまだ不安定。一部士族や僧の不満で、各地にごたごた発生。奈良の三重塔が十円で売られ、雪舟の絵もただ同様。とくに大名屋敷からの古美術が、安く売り出され、外国へ流出した。
旗本の娘お絹《きぬ》、両親に死なれ、芸者となり、金貸しの妾《めかけ》となる。時間をもてあまし、美男の役者、嵐璃鶴《あらしりかく》を知り、深い仲となる。
乗り換えたいが、金貸しが許さない。そのあげく、毒殺。この年に発覚し、翌年に処刑。よほどの美人だったらしく「夜嵐お絹」と話題になる。
地位を利用し、官員が人民より金銭を取ることを禁ずる(太政官)。
浅草の魚屋の六助。七日ぶっ通しで逆立ちをし、神へ祈願しようとした。大まじめだが、両手での逆立ちは、長くつづかない。倒れる音を聞きつけ、近所の人がやめさせた(蒐集《しゆうしゆう》記録)。
年末、岩倉具視《ともみ》、木戸孝允《たかよし》、大久保利通、伊藤博文《ひろぶみ》ら、欧米へ。のちに女子大を作る津田梅子たち、少女五名、米国に留学のため、同じ船で出発。
米国の人口、三九〇〇万。統一ドイツ、四一〇〇万。英国、二六〇〇万。日本、三三〇〇万。
●明治五年(一八七二)
サンフランシスコ新聞の記事。日本のこの四年間の文明開化は、英国の四百年に等しい。敬愛される天皇は、洋風化の範を示し、士民も旧風を改めはじめた(毎週新聞)。
岩倉使節団のなかの、英語のうまい伊藤博文の働きかけによる、日本PRだろう。
遊郭・吉原の新規定。健康のため、一日一夜以上のいつづけはよくない。お客を、無理に引っぱり込むな(日要新聞)。
獄中で死亡した男、親族に引渡した時に、生き返る。残りの刑期をどうする(日要)。
千葉の小湊《こみなと》海岸に、長さ五間半(十メートル)のイカが打ち上げられた(新聞雑誌)。
大阪の古道具店。外国人にヤカンの値を聞かれ「八百(文)だ」と答えたら、八百両を置いていった。役所に申し出て、相手に伝えたら「不足なのか」と、さらに二百両をくれた(東京日日新聞)。
朝鮮国は国を鎖《とざ》し、日本人の通訳だけに会話を許し、商人に話しかけて捕えられた女がいる。無礼だ。外国人をきらい、牧師を殺害した。これでは国が衰える(東日)。
日本だって、数年前は同じだった。
二月、銀座、築地方面に火事。薩長出身の高官、大火をはじめて見て驚き、レンガ造りの商店街を計画。銀座のはじまり。
断髪。男は未練がましく、長目にしたり、変形ものなどが多かった。
そのうち、女子に断髪がふえはじめ、最初は手入れが簡単と支持された。しかし、流行となり、ハカマに下駄《げた》、腕も露出となる。妙に色っぽく、禁止令が出る。モダン・ファッションの先駆といえよう。
米国への旅行者がふえたが、船室で大声で歌い、ベッドでタバコを吸う。上陸し、ホテルの女性をからかい、壁に落書きをする。新聞にのり、国の恥だ(新聞雑誌)。
浅草寺の山門を借りる契約をし、客をあげて、お茶を出し、望遠鏡を貸し、料金を取る商売をはじめた者あり(日要)。
大阪。米商人が伝書鳩《でんしよばと》を使って相場の変化を早く知り、利益をあげた(東日)。
春画の販売が禁止となる。名匠の浮世絵であろうが(新聞雑誌)。二束三文で外国へ。
横浜・品川間に鉄道開通。すぐに新橋までのび、祝典が行われた。
十人の行者、神のお告げと、太政官へ押しかけ、四人が射殺される。三味線、タイコで神がかって歌う集団が、いくつか出現(新聞雑誌)。伊勢神宮移転のうわさで、反対集会。数十人が逮捕される(名古屋新聞)。
七月末に大きな天変地異で、世界が泥沼になるとのうわさが広まる。山伏《やまぶし》、占師など、開化で商売のしづらくなる者たちの、策略か(日新真事誌)。それは彗星《すいせい》の落下との説も流れる(日要)。なにも起らずにすむ。
生きているうちに遊べで、結果としてもうけたのは、遊郭と料理屋(郵便報知)。
米国より牛七頭、神戸港へ。牧畜の指導者も来る。この分野が盛になれば、食用肉も自給可能にと(開化新聞)。ありがたい好意。
本郷の加賀藩邸のあとが、囚人の作業場となる(日要)。のちに東大が移ってくる。
アイヌ人を東京見物に連れてきたが、驚かない。いわく「お役人がエゾに来た時、集って眺めたら、いなか者とどなられた。ここでは、その何倍もの人が私を眺める。もっと、いなか者だ。なにが開化だ」と(新聞雑誌)。
京都に図書館ができる。和漢、翻訳書、各地の新聞あり、有料(日要)。やがて、東京の湯島にも。
麹町《こうじまち》に住む男。妻と口論し「出てゆけ」と叫ぶ。外出のために着がえ、化粧した妻を見て、美人だったのに気づく。あわてて表と裏の門をしめた(日真)。
熊本に軍隊が駐在することになった。土地の士族たちは、平民の兵隊とばかにし、兵は国の配下といばり、流血さわぎ(日真)。
両国の茶店で休んだ男。みごとな洋服、ボタン穴から銀のクサリ。かがんだために、その先がポケットから出た。懐中時計と思いきや、四角い穴あきの天保銭。見る者、笑いながらも名案と感心(新聞雑誌)。
ペットになり、ふやして売れば利殖にもなると、ウサギの取引きが流行。輸入もされ、黒いの、両耳の黄色いのなど高値がつく。
異常だと、政府は月に一円の高い税をかけた。床下《ゆかした》にかくす者もいたが、ほとんどのウサギは殺され、川に捨てられた。
伊豆のひとり暮しの老女。神棚《かみだな》に十円札を飾っている。海岸で包みを拾い、なかに数十枚あった。お札《ふだ》と思い、一枚だけいただき、あとは海へ戻したとのこと(峡中新聞)。
観賞用植物のオモトが、京都で大流行。五十円どころか五百円の高値がついた。
奈良の若草山を牛の牧場にする計画。外国人から反対意見が出た(新聞雑誌)。
天は人の上に人をつくらず。
福沢諭吉の『学問のすすめ』出版。
よく売れ、複製が出た。福沢、外国の例をあげ、著作権と印税の確立を主張。
横浜で、各国人二百人による射撃大会。鹿児島出身の村田経芳大尉《つねよしたいい》が第一位となり、みな感嘆。賞せられる(新聞雑誌)。
彼はそのあと海外へ留学し、銃の研究をし、小銃の国産化に成功する。この村田銃は世界から評価された。改良産業の先駆。
長州出身の陸軍大輔《たいゆう》(陸軍大臣)山県有朋《やまがたありとも》の昔の部下の野村三千三《みちぞう》、ある日、役所へ来てあいさつ。
「山城屋和助と改名し、これからは商人。陸軍で使う品を扱わせて下さい」
それだけでも大もうけなのに、予算を寝かせておくより、活用して利益をと持ちかけ、フランスで生糸相場をやる。しかし、普仏戦争で負け、大損。残金は酒と女で使いはたした。約七十万円が消えた。
帰国し、割腹自殺。薩摩閥は立腹したが、山県は金をもらっていず、西郷隆盛の力で、なんとかおさまる。
太陽暦となる。十二月三日をもって、明治六年一月一日とする。国家予算の一ヵ月分が節約できた。
天皇誕生日は九月二十二日を、十一月三日に変更。
各所で混乱はあったが、精神的な近代化への、ひとつのきっかけとなった。
●明治六年(一八七三)
前年末に出た徴兵令で、大さわぎ。
士農の差を廃し、青年は共同で国家を防衛といえば無難だったが、解説の告諭に外国語の拙訳「血税」の語を使ったので、血を抜かれると思う者がほとんどだった。
それ以後は使われず、現在の辞書は「負担感の重い税金」が、先にのってるのもある。
新しい店が出来ると、見物人が集り、眺めつづけ。時間の空費は、文明ではないと考える(大阪新聞・投書欄)。
郵便料金、遠近に関係なく、全国均一。
越前のある住職の説。一年十二ヵ月の太陽暦になったが、月の満ち欠けを無視して、一月はおかしい。第一日から第三六五日まで呼ぶのが、合理的だ(新聞雑誌)。
仇討ち、禁止される。殺人者を罰するのは、政府の大権なり(郵便報知)。
石見《いわみ》の万平という男、近くの人妻と浮気。それぞれ、三年の刑。訴えた妻は、好ましからずと、七円半の罰金(郵便報知)。
今度はカナリヤの売買が流行(新聞雑誌)。
天皇、断髪なさる。皇后も少し前に、オハグロをおやめになった。
町の看板に「洋風散髪」や「西洋牛肉」などある。日本人の頭髪、日本の牛の肉ではないか、浮かれるな(大阪新聞)。
新橋で汽車に乗りおくれた子供。父親が品川駅から電信で連絡してもらい、つぎの便で無事再会(東日)。車内の男、窓から小便をして、罰金十円の判決(東日)。
皇居、失火により炎上。赤坂離宮が仮皇居となる。強風にて、太政官の建物も焼失。
駒込《こまごめ》の目赤不動の境内に、兎塚《うさぎづか》を建立。ウサギ・ブームで始末された霊をなぐさめに、多くの人が集った(郵便報知)。
米国政府は、幕末の長州藩との下関戦争で、二万ドルの償金を取った。その金を、日本からの留学生のために使う計画をたてる。偉大な国なり(新聞雑誌)。
夫は人力車、妻は針仕事で生活。ある日、妻が帰りに人力車に乗ったら、引く男が夫。代金は払ったという(新聞雑誌)。
上野の東照宮の祭典に、一般人の参拝が許される。近くの家々は、アオイの紋の提灯《ちようちん》をかかげ、大変な人出。徳川三百年の恩をしのんだ(東日)。
典侍・光子《みつこ》、皇子をご出産。死産にて、三日間の音曲停止(東日)。
静かなはずの町で、音楽をやる邸《やしき》あり。多くの人数。稲荷《いなり》の祭りとかで、奇妙な光景。キツネに化かされたのか(東日)。
葬儀用の人力車、十九台が許可される。上等はミコシの飾りにて、鳥居、花立もつく。棒でかつぐより便利(郵便報知)。
銭湯へ犬を連れてきて入浴させるのが、禁止となる(東日)。
娼妓《しようぎ》解放令を出したものの、どんな仕事をさせたものかわからず、売春が野ばなしで、取り締りようがない。もとの遊郭主たち、場所を限って許可し、税金をかける案を申し出る(郵便報知)。
東京の知事、そのほうがましだと、吉原、品川、新宿、板橋、千住を認可。
米国が、八丈島を捕鯨船の基地として買いたいと。地図にのっている、固有の領土。日本人が開拓すべきだ(新聞雑誌)。
この十月に政変。岩倉具視、大久保利通らと意見が合わず、西郷隆盛、江藤新平らが参議(閣僚)を辞任。外国視察がえり、内政専念派の対立。それぞれ内部での対立。くわしくは歴史の本で。
維新による徳川反対、豊臣の名誉回復。そのムードで征韓論の言葉が生れ、論争のきっかけに使われた。
明年以後、新年の和歌の会の勅題に、一般民衆の参加のお許しを望む(新聞雑誌)。
●明治七年(一八七四)
天皇のお通りの時、平伏しなくてよい。車や馬を下り、帽子をとり、道ばたに直立し頭を下げればいい(東日)。
新橋・京橋間に、線路が作られ、何人も乗れる馬車が走る。鉄道馬車。見る者、進歩を実感する(日新真事誌)。その左右の両側には、歩行者用の部分を作る。歩道のはじめ。
国産の石鹸《せつけん》、セメント、製造(新聞雑誌)。
銀座のレンガ建物を払い下げたが、売上が少なく、分割払いが延期となる(日真)。
女子が通学にハカマをはくのを、非とする論が出た。それへの反論も出た。昔の宮中でも着用されたし、すその乱れもかくせる(郵便報知)。男物の点が、気になるらしい。
郵便を運ぶ者、短銃を携帯すること。現金があると思って襲う者を、防ぐため(日真)。
秋田の士族の子、軽業《かるわざ》を修業し、小虎《ことら》の芸名を名乗る。イギリス人に認められ、渡英。二年の契約が終ると、欧州の各都市を巡業。適応性あり、礼儀ただしく、大人気。
ドイツ美人と結婚、月に千円の収入。やがてアメリカに渡れば、年に十万円は得られるだろうと(東日)。すぐれた人は、いつの世にもいる。
新潟で、農作業にやとわれて働く者たち、密議して給料の値上げを要求。だめなら働かないと(新潟新聞)。
日本橋の芸者たち、値上げを要求し、三日前より、そろって休業(郵便報知)。
政府高官を辞した江藤新平、板垣退助、後藤象二郎ら、民選による議院を作るべきだと、公然と主張。税を払う者には、発言権があるはずと。
佐賀で、不平の人たち征韓論を叫び、あばれる。江藤新平の帰国で、士族たちも勢いづく(東日)。
江藤は維新に功があり、文部大輔となり、司法の独立を主張し、司法卿《しほうきよう》となり、ヨーロッパを視察。頭脳、才能、決断にすぐれていたが、短気な性格。
三井組、レンガ三階建ての社屋を完成。のちの三菱を作る岩崎、湯島の料亭を買収。
天竜川のそばに住む人、私費で橋をかけるのが許される。しばらくの期間、渡り賃を取れる(東日)。
徳川時代、多くの川に橋が禁止されていたが、各所で工事がはじまる。
山梨の県庁内に天皇の写真をかかげたところ、賽銭《さいせん》をあげて拝礼する者おおし。万歳を叫ぶ人も(新聞雑誌)。どうも官製のニュースくさい。
凧《たこ》をあげて、電線に糸をからませた者がいた。十日の刑だが、五歳の子なので無罪(新聞雑誌)。七歳まで刑はなし。
一銭銅貨が発行される。新しいために、金色に輝いて、十円金貨とまぎらわしい。夜の料亭でばらまき、芸者たちをさわがせる者が出た(東日)。
駿河《するが》へ引退させられた十五代将軍・徳川慶喜。陣頭に立って、伊豆の山でユリの根を掘り、輸出。かなり利益をあげた(東日)。
佐賀の江藤新平、さわぎを静めに来たのに、火に油となる。反乱とされ、官軍につかまり処刑される。
すべて、大久保利通の策。
天皇、二十三歳。新しい侍女と深い仲となり、皇后ご立腹。岩倉具視、その和解のために苦心。
なんとかおさまり、酒宴となる。その帰途、岩倉は食違坂《くいちがいざか》で暴徒に襲われ、あやうく命を失うところだった。
清水次郎長、山岡鉄舟のすすめで、囚人を使い、富士山麓《さんろく》を農地にする。
開港した新潟へ、西洋からチャリネ曲馬団が来た。大けがをしたコックのイタリア青年、先へ同行できず、置きざりとなる。
せわをする人があり、レストランを開業。評判となり、その名のホテルは今もある。
佐賀の乱で敗れた賊兵の七人、長崎より米船に乗り、渡米しようとしたが、横浜へ寄港の時に逮捕された(東日)。
浅草・伊勢屋弥兵衛《やへえ》、浜町の美人芸者と結婚。新郎新婦とも洋装、馬車へ乗る。ワインをグラスについで、三三九度(東日)。
函館の米国領事ホース、息子をこの地の医学校へ入れる。初の外人学生(郵便報知)。
本郷の小物屋で働く女、夜に屋外の便所へ行き、ぞっとした感じで、髪の毛が逆立ち、気を失う。悲鳴で集った人が見ると、髪が切られていた(東日)。この怪異は、少し前にも起っている。
麹町から人力車に乗った若い女。車ごと草むらに連れ込まれ、車夫におかされかけた。声をあげて、助かる。
新橋駅から人力車に乗った外国人、車夫に小便をかける。文句を言い、なぐろうとしたら、逆にかみつかれた(東日)。
京都の人の、君側《くんそく》の奸《かん》の四人を斬れとの、激しい建白書が記事になる(新聞雑誌)。ただし、人名部分は、すべて○○になっている。
伊賀のある村の、放火犯の女。車裂《くるまざ》きで処刑。いいのかと聞く者あり。その役人答えて言う。斬罪《ざんざい》にと判決。車による斤《きん》(斧《おの》で割る)だから、そうしたと(新聞雑誌)。
台湾へ出兵。その地へ漂着した沖縄の人が住民に殺されたので、大久保利通は征韓論の勢いをそらそうと、兵を派遣。償金を取って一段落。失業士族、少しうるおう。
仲介した駐清《ちゆうしん》イギリス公使ウェードは「日本は台湾より朝鮮へ進出を。援助もする」とそそのかす。
各地の開港で、長崎はすっかりさびれていたが、台湾の件でやや景気回復(東日)。
川柳  (郵便報知)
勧学 読み書きをせよとの布告読めぬ文字
巡査 針ほどの事にも棒はたちどまり
三尺棒は巡査の持ち物。
本州・北海道間に海底通信(新聞雑誌)。
ある会合で、英国人が関取に「アナタ、タクサン、ビッグ。ワタシ、スモール」と、たどたどしく話しかけた。関取「ワタシモ、スモー」と、相手になるぞと着物をぬぎかけ、英語のわかる人が仲に入った(東日)。
金星が太陽面を通過。英米仏などから、観測隊が来日。なんの役に立つのかとの疑問に、解説の記事がのった(東日)。いま読んでも、わかりにくい文。
函館のドイツ領事ハーバーを殺した犯人、斬刑(郵便報知)。のちに空中窒素《ちつそ》固定法でノーベル賞を受けたハーバー博士は、その甥《おい》。
東京に立教大学、創設。
銀座通りに、多くのガス灯がともる。
この年、アメリカのリーバイス社が、鋲《びよう》つきのジーンズを発売。鉱山師が、ポケットからこぼれないよう、そうしてるのを見て。
●明治八年(一八七五)
年頭なのに、もはや裃《かみしも》の姿を、ほとんど見かけない(東日)。
ある女、西洋医で効果なく、漢方医へ行ったら「汚血《おけつ》を除かねば」と言われ、尻を見られるのはと、逃げ帰った(東日)。
ロシアの新聞にのった説。英国は日支両国を対立させ、もうけるつもりと(東日)。
ロシアも東方へ勢力を伸ばそうと、シベリア鉄道を計画。
清国での説。英人ウェードが日本びいきなのは、日本への貸金の元利を失うのが心配だからだと(あけぼの)。
北海道に屯田兵《とんでんへい》をおく。農業開発をやり、有事には防衛や治安の行動(東日)。
権典侍《ごんのてんじ》、柳原愛子、皇女をご出産。右、布告す。一月二十一日、太政大臣、三条実美《さねとみ》。
横浜で、国産マッチ製造(読売)。
風刺狂歌  (朝野新聞)
馬車はとび 郵便かける世の中に
なにとて電機 高値《たかね》なるらん
神はやり 仏はくちる世の中に
なにとて地獄は つきなかるらん
ガスは照り ランプは光る世の中に
なにとてドロボウ つきなかるらん
昨年末、清国皇帝が死去と発表。死因に不審があると。新帝は四歳。実権は依然として西太后にあり(東日)。
木戸、大久保などの高官が、大阪に集って会議。立法のための元老院、司法の独立、権力の分散など。自分たちの立場を悪くする問題が、まとまるわけがない。
治安がよくなったので、英仏両国、自国民保護の駐留兵を引きあげる(東日)。そんなのが、まだいたとは。
本所の回向《えこう》院《いん》で、鼠《ねずみ》小僧の墓碑を作る。参拝者おおく、官員、芸者、相場師も。寄進の金も集る。いずれ、京の七条河原に、石川五右衛門の神社が出来るか(東日)。
英国領事の説。日本の洋風化は、驚くほど早い。しかし、精神面は、まだまだ。鉱山開発や、タバコの製造輸出など、産業もさかんにしなければ。
大阪。火葬禁止で、火葬場のあった梅田、千日前は、すっかりさびれた。土地の買い手もなく、手品、見世物の人が集り、見物する者でにぎわいはじめた。
この年、火葬は各人の自由となる。
山梨の村で、修験者の娘が結婚し、妊娠。二十三ヵ月目に、大きな男児を出産。なぜか白髪。七日目に、いなくなる。父母は各地の神仏に参拝。三年目に、その子が戻る。
そんな話がひろがっている(あけぼの)。
廃藩置県の時、担当した井上馨《かおる》は、地位を利用し、秋田の銅山の権利を取り上げ、知人に渡した。被害者が訴えた。その取調べをした江藤新平は、すでに処刑されてしまった。
この年、判決が下りたが、井上は罰金三千円で、終り。江藤を惜しむ者、ふえる。
千島列島の日本領確認を条件に、ロシアに樺太《からふと》を渡すと。弱腰の政府め(東京曙《あけぼの》新聞)。
地方官会議、開院。民意を知るためだが、その議員はすべて、政府の任命した各県の、県令。しかし、村長民選も議題となる。その動きは、無視できない傾向にある。
台湾の島民、清国の支配に反抗、戦いをくりかえす。奪取した武器を使い、電信線を切断し、優勢(曙・ほか)。
新聞紙条令が公布され、政府批判がやりにくくなる。
光を利用し、壁に写真を映す幻灯を、外国人がやってみせる。ロンドンの風景などで、人が集る(朝野)。
福沢諭吉の話。在日外国人の、民権や自由はまだ早いとの話を引用する人がいるが、学者と呼べるのは、医学者など数人だ。また、外国を見てきて、外国通ぶる高官も、民権の話となると黙る(郵便報知)。
本紙の編集長、末広重恭《しげやす》、新聞紙条令の批判の投書を掲載した責任を問われ、二ヵ月の刑を受ける(曙)。
愛媛県の人、八十円の紙幣をマスに入れて神棚へ供え、一粒万倍を祈る。留守に、母が米をそのマスで鍋へ移し、ミソを加えてゾウスイにした。
食べ終って、紙幣もと知ったが、豊かな農家なので、笑ってあきらめた。
社説。征韓論も静かになった。われわれは何回も、その非を主張してきた。軽率な行為は、国をほろぼす(郵便報知)。
栗本編集長が、病気退職のため、これが最後と思って書いたのだろう。この問題は、政府内で、微妙だったらしい。
後任の責任者が裁判所へ呼び出され、朝野新聞の成島柳北も。この私、岸田吟香も編集人をやめたくなった(東日)。
夏、浅草に飛泉の店が開業。つまりシャワーで、糸を引くと樽《たる》の水が落ちてくる。
京都の蓮月《れんげつ》という尼の家へ、強盗。金をよこせで、百円を渡す。食事をと言われ、めしも。もっとなにかで、もらい物のお菓子を出すと、食った強盗は死ぬ。尼さんから三百円を借りた人からの品で、毒殺ねらいだった。
蓮月尼は和歌、陶器づくりにすぐれ、この年の十二月、八十五歳で死去。
北海道。高官が視察すると、五十頭の羊の世話に、係が何人も。西洋では、少年ひとりですむ仕事なのに(曙)。
醤油《しようゆ》が西洋で好評。まがいものも作られ、出回っている。文明国にも、たちのよくないのがいる(曙)。
銀座通りに夜店が出て、人がぞろぞろ歩き、にぎわうようになった(郵便報知)。
かな書き、分ち書き表記の提唱者が出て、文例を示す(曙)。いつの世にもいるが、旧かな使いは、そのまま。
ある銭湯。閉店で掃除をすると、着物が残っていた。近所の人のかと預っていたが、何日もそのまま。着物のなくなることはあっても、こんなのははじめて(曙)。
著作権についての法令、発布。ただし、所管は文部省より内務省に移る。
活字製造の先駆者、本木昌造、死去。十四年前に長崎で着手。大借金をしながらも努力し、東京にも製造所を作った。新聞をはじめ、文明開化のかくれた功労者(東日)。
京都。千家の分流の茶道の宗哲という人、椅子《いす》での点前《てまえ》の看板を出した(郵便報知)。
新聞紙条例に悩む各社、共同して内務省へ質問書。記事にできる限界は、どこまでかと。日がたち、法律論をする立場にないと、つまりは返答なし。
まだ征韓論を言う人がいるが、戦いは人命と物品を失うので、よくない(曙)。
日本の軍艦、雲揚が朝鮮の江華湾に入港。測量をはじめると、砲撃され、交戦。無断での行為で、非はこちらにある(郵便報知)。
ここ一年半ほどで、英国へ渡した日本の金貨、千四百万ドル。外国の物品を買い込みつづけると、どうなるか(郵便報知)。
玉撞《たまつ》き(ビリヤード)の店が、各所に開かれ、金を賭《か》ける客も出る(大阪新聞)。
講談の神田伯山、帰宅の途中、若い男が追ってくる。あなたの財布をすったやつを見て、つかまえて、とり戻したと。ご親切にと、酒と食事をおごる。あとで財布のなかを調べると、十銭札が一枚(曙)。
旧薩摩藩、左大臣・島津久光。参議・板垣退助。その職を辞す。政策に不満で。
残った参議、木戸と伊藤は三条派。大久保と大隈《おおくま》は岩倉派。こういう対立は、困ったものだ(曙)。
ある家の床下に、狸《たぬき》が入る。夜、その家の男の子が、火鉢をたたくと、下の狸が腹つづみを打つ。ポコポン、ポコポン。家族は面白がり、近所の人を呼ぶ。しかし、いつまでもつづき、眠れないとどなると、さらに調子づく。文明の世なのに(東日)。
町のうわさ。政府は征韓を口実に兵を召集し、各地の反乱の制圧に備えようとしている。適当な司令官がなく、駐ロシアの公使・榎本武揚を帰国させるとか(評論新聞)。
投稿。神道《しんとう》の振興もいいが、そのためのわかりやすい本を出して下さい(曙)。いわれてみれば、もっともだ。
わが社の末松謙澄、二十歳になったが兵になりたくないので、規定の代人料の二百七十円を出すと申し出ているのに、とにかく本籍地で検査を受けよと(東日)。
こういう記事は、問題にならなかったらしい。不合格なら、金は不用なのか。なお、末松はまもなく官職につき、兵役免除。
宮崎の学校の少年、なめて封のできる封筒で、近郊の父に手紙を書き「飯粒《めしつぶ》なしでも、手紙が出せる」と付記。父は読んで、さぞ空腹だろうと、食事をとどけた。
高杉晋作《しんさく》は長州藩士。経済感覚はないが、熱狂的な性格で奇兵隊を作り、藩論を討幕に統一させ、結核により二十九歳で死去。
それから八年。自分は晋作。死んだことにして諸外国を旅して、いま帰国。英国でとった写真を見せ、これから東京へと語る人がいた(神戸新聞)。いつの世にも、いるものだ。
この年のアメリカ。グラント大統領、バッファロー絶滅防止法案を拒否。
ビゼー作曲の歌劇『カルメン』が、パリで上演される。
●明治九年(一八七六)
関西で人力車がふえ、乗り賃の値下げ競争。東京に、コタツつきの人力車出現(東日)。
相撲《すもう》の親方の多くが、マゲを断髪にする。いずれは力士たちもか(曙)。
政府の新聞の扱いは、不当ばかりではない。郵送料は半額。条例での処罰の時、士族平民を区別しない(読売)。皮肉なのか。
一切の官職を辞し、鹿児島で暮している西郷隆盛。朝廷よりの何回のお呼びにも応ぜず、世の人、いろいろとうわさ(評論新聞)。
朝鮮との戦いとなると、川や井戸へ毒の投入があるかもしれず、兵士も大変だろう(曙)。戦地での仮定だが、のちの大震災の時の流言のもとは、このへんか。
例の自称・高杉晋作、吉田松陰の次男と称する男と温泉地で保養。会ってきた人あり(曙)。沖田総司も出てくるかな。
「結婚、養子の仲介」の看板(浪花新聞)。
条例のため、新聞記事も○○論など、伏字がふえた。それに便乗し「○○亭」という寄席《よ せ》が出来た(郵便報知)。
江華湾の件で、特使の黒田清隆《きよたか》、井上馨らが朝鮮に行き交渉。修好条約が成立。これで平和に暮せる。日の丸を立てて迎えよう(東日)。
日韓の間は一段落したが、不平士族たちはおさまらず、乱を起すだろう(横浜ヘラルド)。平穏なのを、英国は不満らしい。
日曜を休日とする。土曜は午後から休み。
この四月一日は土曜。二日は日曜。三日は神武天皇祭。桜も咲く。初の連休。
廃刀令、公布。
士族のなかには、腰がさびしいので、長いキセルを代りに差すのが流行。
上野の山は整理されて公園となり、桜も植えられ、博物館も建築中。料理店は精養軒と八百善《やおぜん》の二つに限る。物売、音曲も禁止(読売)。
広島にて、斬罪された男。もと力士とかで、手製の派手な化粧まわしを身につけ、ジュズを首に、仕置場へ。あの知恵と勇気でまともに生きればと、惜しまれる(曙)。
ローラースケートの店ができる。オルゴールの音楽つきで滑る(浪花新聞)。
京橋で安物のマッチを買った男。タモトに入れると発火。着物が燃え、ヤケドも。商人は気の毒と、一箱を無料で進呈(曙)。
人糞を大鍋で煮て、粉末肥料を製造しようとした男。あまりの臭気に近所から文句が出て、中止させられる(郵便報知)。
皇太后が亀戸《かめいど》の天神に参拝。五円を奉納。
天皇、有栖川《ありすがわ》宮の勉強好きをほめ、ウェブスター辞書とコンパスを与える(東日・ほか)。
舶来品の店へ来て、客が「コンニャクを」と言う。迷う主人に、この洋酒だと買って帰る。調べると「コグナック」と書いてある。いいかげんな客だ(読売)。
包丁を持った男、妻の不義を知って、殺してやると銭湯へあばれこむ。男も女も、命ばかりはと裸のまま道へ飛び出す(浪花新聞)。
浅草雷門の車引き。男に声をかけると「タダなら乗ってやる」と。面白半分、深川まで乗せる。男は、気に入ったと、酒食おごり、泊ってゆけと。翌朝になり、車代として二円を渡した(郵便報知)。
朝鮮の使節団が東京へ。新橋駅からの行列を見ようと、大変な人出。使節の地位の高い人たち、だれもおそろいの眼鏡。ふしぎな風習だ(東日)。
東海道の三島にある寺の坊さん。ハエが好きで、夏から秋にかけて、一日に五十から百匹も食べる。ふしぎな人だ(読売)。
越後の村で、狐つきになった者が出た。祈祷《きとう》でなおらず、京都の伏見稲荷大社へ電報でお願い。やがて当人、お使いの狐の声で「去れ」と言う。それにて全快(郵便報知)。
江戸の町火消の頭《かしら》、侠客《きようかく》の新門辰五郎《しんもんたつごろう》親分は、昨年九月に七十八歳で死去。その息子の仁《に》右衛《え》門《もん》は親の名を利用し、借金し遊びまわり、周囲は弱りきってる(郵便報知)。
六月。天皇、東北への御巡幸に出発。皇后は千住まで、お見送り(曙)。仙台への途中、会津の民にお言葉があれば。
天皇、函館より軍艦で横浜へお戻り。約五十日の旅。
大阪の米相場を、山頂の人の合図で徳島へ伝える。電信が引ければ終りだが(東日)。
料理屋の代金。不足の場合でも、客の着物をはぐのはやめるようにとの通達(曙)。
人力車の客、車引きを見て、以前に奉公した旗本の若様と知る。おいたわしいと、所持金のすべてをさしあげた(曙)。
福岡のある池から、龍《りゆう》が黒雲中へ昇天したと、県令へ報告があった(東日)。タツマキの一種だろうと、解説する者あり。
生糸の値が高くなり、外国人中に支払えぬ者が出た。横浜の銀行、保証をとって融資。開国後、はじめての例(曙)。ドルも下落。大蔵省が買い支え、少し持ち直す。
当人が希望すれば、清国人の養子になれる(浪花新聞)。
駒込の旧柳沢邸(現・六義園《りくぎえん》)にて、何万ものトンボが、東西に分れて大決戦。かみつき合いは、夜までつづいた(江湖新報)。
上京して学ぶ者、金がなくなり、学資をお貸し下さいと、天皇の馬車に直訴状。有罪とされ、罰金二円二十五銭。
浅草の宿に男女が泊り、翌日、女は近所へと出たまま帰らず、男は首の傷で死んでいた。被害者から、高橋お伝の犯行と判明。
生れは悪くなかったが、男運がよくなく、人生の浮き沈み。娼婦もやる。自立しようと、まとまった金を求めての凶行。よほど美人だったらしく、物語としてひろまった。泣き叫びながら、斬首された。
お菊の幽霊で有名な、麹町・番町皿屋敷のあと五百坪ほどを、安く買った者あり。問題の井戸も埋めた。どう、たたるか(曙)。
清国より借金を申し込まれた政府。米国から金を借り、上乗せの利息をかせごうとしているとのうわさ(中外評論)。
女子師範の女学生たち。学科に不満、教師を替えるな、校則がきびしいなどでさわぐ。校長も大変だ(読売)。
薩摩の島津公、西郷隆盛、南九州を五百年の年賦《ねんぷ》で払い下げを願い出るらしいとの、うわさ(郵便報知)。
熊本の保守的士族の神風連《じんぷうれん》、反乱。鎮台の司令官が殺される。その愛人の元芸者は、東京の母へ電報。「旦那《だんな》はいけない、私は手きず」と。
これを都々逸《どどいつ》にしようと新聞が試み、下の句が集った(郵便報知)。
替りたかった 国のため
そこでおまえは どうおしだ
金のありかは どこである
これが今年のしめくくり
徳島のある村、昼なのに暗くなる。雀《すずめ》の大群が二派に分れ、合戦。夜に終ったが、重傷のが地面にたくさん。それを集め、どの家も数百串《くし》の雀焼きを、新年用に作った(東日)。なにかの予兆でしょうな。
この年、アメリカのベルが電話を発明、建国百年の博覧会に展示。
アリゾナのアパッチの酋長《しゆうちよう》ジェロニモ、部下を指揮し、十年にわたる抵抗を開始。
●明治十年(一八七七)
横浜で数名の米人が、氷すべりで遊ぶ。日本でも、すぐはやるだろう(朝野)。
やはり徳島のある村。農作物の盗まれること多く、投票で犯人をきめる。六十数票のうち、十五がある男に。その男、平伏して自白。法で裁かれるだろう(東日)。
落ちぶれ士族。深川のある家に盗みに入りかけ、さわがれる。床下を逃げまわり、糞壺《くそつぼ》へ落ちる。かけつけた警官も、縄《なわ》をかけるのをためらった(読売)。
天皇、京都へ。この地では行幸と言わず、お帰りになったと喜ぶ人ばかり(東日)。
京橋から新橋へかけての銭湯の主人たち、回数券式の割引き共通入浴券を発売(曙)。
東京郊外の村の、酔いつぶれて凍死した男。本人も残念だろうと、遺族が背の高い棺《かん》を作り、死者を立たせて入れる。妙な葬列で、穴を掘るのも大変。これで終りと申し合わせた(読売)。新しい方法と、だれかが話したのがもと。
築地のお邸。古狸が家具を庭に出すなど、いたずらをする。殺そうかとの相談の時、主人は番犬を飼って餌《えさ》をやると思えばと、残りの食物を出す。狸も恩がえしと、毎日、タキギを持ってくるようになった(郵便報知)。
維新の大功労者の西郷隆盛。鹿児島に引退していたが、周囲の不平士族たちが挙兵し、本意でないのに朝敵にされてしまった。
古い友人で政府の実力者、大久保利通は、農民の乱には慎重に、不平士族は断固やっつけるとの、信念の持ち主。
挙兵は三万の士族。官軍は徴兵された農民の六万。銃砲の差で、官軍が勝ち、西郷は城山で自決。五十一歳。
その少し前、やはり維新の功労者・木戸孝允、病死。うわごとで「西郷、もう大抵にせぬか」と言いつつ。四十五歳。
この戦いで、士族に禄《ろく》の代りに払う大金が減り、北海道開発の資金となる。また、兵士の実戦体験にもなった。政府の計算は合っている(ヘラルド)。
戦争の記事が面白い。いま金を払うから、今後の一ヵ月分を、まとめて渡してくれと社に来た人がある(朝野)。気分は、わかるな。
反乱軍は「勝てば官軍、負ければ賊よ」と歌っていた。江戸開城の時、西郷が勝海舟に言った文句(曙)。
戦争がえりがもてるので、負傷兵をよそおい、花街でばれて罰金(東日)。
反乱軍の作った紙幣を、記念に一枚を安く売れとたのんだが、持ち主は涙して、西郷さまが勝てば本物なのにと断わる(朝野)。
岩崎弥太郎の三菱商会は、千五百万円の利益をあげた。戦費総額の三分の一。
浅草の男、泥棒のための宿をはじめた。安くとめ、盗品を引き取る。ひどいやつだが、まもなくつかまる(読売)。
養子になった男、養母と関係。養父の死後は、こわいものなし。戸籍上も夫婦にしてくれと届け出た。職業は新聞記者。仲間のつらよごしだ(読売)。
山梨で、西洋種のブドウの栽培がはじまった。名産となるか(朝野)。
人力車の走行距離を示す装置の、広告が新聞に(東日)。普及しなかったのは、お客がそれを信用しなかったためか。
開成学校と医学校が合併し、東京大学。
東大理学部の考古学教授、米人モース、大森で貝塚を発見、石器などを採集。
札幌の学校で教えたクラーク博士「少年よ大志を抱け」と言い残して、帰米。在任中に「ライスカレー」を生徒たちに食べさせた。日本で、この名称をはじめて使った人。
エジソン、手まわし蓄音機を発明。
●明治十一年(一八七八)
鉛筆、国産化。輸入もへるだろう(朝野)。
西郷軍に奪われた、乃木希典《のぎまれすけ》指揮下の連隊旗、新しいのが授与された(朝野)。
大阪府下の飴《あめ》売り、鐘をたたいて「おかあさんの銭《ぜに》、持ち出しておいで」と調子に乗って歌い、処罰される。
清国の北部の諸省、大凶作。金銭や米を送ろうと、実業家たちが呼びかける(朝野)。皇室、政治家、一般から、かなり集る。われわれも貧しいとの、不満の声も出る。
神田で大火、四千戸焼失。つづいて駒込の山林、五千坪が焼失(曙)。
宮内省《くないしよう》と工部省に、電話が通じる(朝野)。
電話機の国産に成功した人あり。舶来品に劣らずと(曙)。日本人の才能。
東京電信中央局の開業式、日本ではじめてアーク灯が輝く。
天皇、上野山でお花見をなさる(東日)。
髪形、ハカマ、、カバン。女教師風の美人娼婦が大阪に出現。評判となる(朝野)。
結婚しても、宗旨は変えなくてもいいのかの件。政府は、各人の自由と(曙)。
神戸より西の人力車。すれちがう時に、指で金額を交渉し、客を交換する。少し時間がかかるが、たちの悪いのはいない(朝野)。
五月十四日、参議・内務卿の大久保利通、出勤の途中、斬殺さる。犯人は西郷隆盛の崇拝者で、不平士族。大久保の遺産は友人よりの借金ばかり。その点は清潔。四十九歳。
だまっていればすむのに、自分も大久保利通を殺した一員と、自首した者あり(東日)。
大阪の美人芸者、卵巣の病気で死が近いと知らされる。医学のため死体の解剖をと言い残す。百人以上の学生が見学に集る(朝野)。
ある旧大名、本所より高輪への引っ越し。旗を先に、長持《ながもち》をかつぎ、大名行列を再現した(朝野)。
新宿あたりの田畑で、害虫が大発生。虫を一升、三十銭で買い上げる(東日)。
進化論が大流行。絵入りの本が出たが、春画まがいのもある(かなよみ)。
皇族は、買った切符を、改札口で見せずに汽車に乗ってよろしい。
宇和島のある医師。早目に帰宅すると、妻が浮気中。二人を裸のまま柱にしばりつけ、別室へ人を集めて大宴会。やがてフスマを開き、事情を説明し、棒でひっぱたく。客が仲裁し、離婚にて片がつく。男は裸で追い出された(朝野)。
大阪では盆栽《ぼんさい》の流行が終り、カジカになり、蘭の取引きがさかん(読売)。ねずみ講のようなのは、この時代からあったのだ。
大阪の写真屋。見合い用にと繁盛。男女とも、巧妙に化粧し、美しく修正した上で撮影するから(読売)。
何種もの新聞をそろえた人力車が出現(読売)。だれかが考えつくものだ。
大久保殺しの島田一郎たちの墓。西郷隆盛の一派の墓。大阪の大塩平八郎、静岡の由井正雪の墓など、反逆者への参詣者がふえる(読売)。そんな時代か。
高知の旧士族。自分も暗殺で注目を浴びようと、伊藤博文を目標とする。斬奸状《ざんかんじよう》の書き方を聞いてまわる。拳銃《けんじゆう》を買う金を貸りられず、友人宅から金時計を盗むが、銃の入手法がわからない。
伊藤邸へ忍び込むが、顔を知らず、引き返す。ばかげていると、知人が警察へ告げる。逮捕にむかうと、当人は短刀を手に、二階から脱出、地面で手をくじく。七年の刑となる(東日)。流行なんでしょうな。
竹橋の砲兵を主とする約三百名。西郷軍に勝ったのに、予算不足で減給とはと反乱。たちまち鎮圧され、ほとんどが処刑。
各種の乱があるが、徴兵で集めた連中は、士族ほどの頭がなかったのだ。また、戦いに貴重だったのは、兵士より大砲の時代。
天皇、赤坂の仮御所より、北陸東海のご巡幸に出発。
官軍が江戸へ入った時、本所の金座《きんざ》の一同に、軍資金を献金すれば、造幣の仕事をつづけさせてやると約束。それに従ったが、みな失業のまま。願いの文書を出したが、献金を返せとはなんだと怒られる。あきらめきれない(郵便報知)。よくあることだ。
宮城県の原町《はらのまち》の住民。息子の葬式をヤソ教でやって、罰金二円五十銭。父親、これぐらいの金で、死者を天国へ送れる。みなさんもどうぞと話してまわる(朝野)。
浅草の男。酔って帰り、足を洗わずに寝ようとした。注意した養父母をひっぱたき、手足にかみつき、終身懲役の刑(曙)。家庭内暴力の発生と、再発への対策。
暗殺された大久保利通の愛妾《あいしよう》。男子を出産。利賢《としかた》と名づけられた(朝野)。
神田のある女学私塾で、優秀な生徒に、校名を記した銀色のメダルを与えたいと、許可を願い出た(朝野)。
天皇、ご帰還。計四百二十七里二丁五十五間と数尺の旅。ありがたきこと(東日)。
〓月堂、チョコレートを発売。好評。
この年、米国ダコタ地方で、天然痘《てんねんとう》が流行。勇敢で若い女性開拓者、マーサ・ジェーンは、男装して奉仕活動。カラミティ(疫病神《やくびようがみ》)・ジェーンの名がひろまる。
疫病と戦ったのだから、いまなら聖母《マリア》ジェーンと呼ぶのが適切。
●明治十二年(一八七九)
西郷隆盛の側近で、ともに戦死した桐野利秋《きりのとしあき》。その残された二人の愛人、宮崎で芸者となり、大変な人気(郵便報知)。
横浜のうなぎ屋。妻が若い男といい仲になり、家財を持ち出してかけおち。主人は生活に困り、東京の弟の家に居候《いそうろう》。ある日、男をみつけ、とっつかまえた。それが言うのには「わたしも飽きられ、あの女は別な男と家財とともに消えました」と(横浜毎日)。
名古屋地方で、土地国有のうわさ。公債を地主に渡し、私有できなくなると。地価が暴落。東京では耳にしないが(読売)。
生活のため、売春する女が多く、見ぐるしい。まとめて上海へ連れてゆき、かせがせる案を内務省に出した人あり(朝野)。これが、唐《から》ゆきさんの発想のはじまりか。
懲役十年の囚人。仲間のコレラ患者の看護をし、自分も死亡。父親は表彰され、多額の埋葬料をもらい、感激(曙)。
大蔵省印刷局製肉部。骨からニカワを取る時に出る脂肪で、石鹸の製造を開始(曙)。
英仏の女性に日本のカンザシがはやり、横浜からの輸出がふえた(東日)。
石油の値上りで、石炭からとった油が出まわる。石炭酸がコレラ防止になると聞き、石炭油をまいて火事になる人、飲んで死にかけた人が出た(曙・ほか)。
大阪の民権主張の愛国社の演説会が評判。車引きも芸者も、なにかというと束縛だ、圧制だと叫ぶ(曙)。
新潟のある村で、神前結婚がなされ、奇妙なことと話題になる(郵便報知)。おはらい、のりと、神酒《み き》と、現代と同じだが。
上野の不忍《しのばず》の池《いけ》に、蓮《はす》がたくさん植えられた。花が咲けば、美しいだろう(朝野)。
野津中将、西郷軍との戦いで、松の大木にかくれ、弾丸をよけた。今回、その地に旅して、弾痕《だんこん》の残る木と再会。金をかけて東京へ運び、新築の家の床柱とした(曙)。
マッチ製造機が輸入され、女子作業員三百二十人の仕事が、十人ですむようになる。失業を心配したが、その社は新事業にも乗り出し、問題は解消(郵便報知)。
米国の前大統領グラント、来日。
歓迎の両国の花火に、見物人が大ぜい。夜になって大夕立。大混乱になる(曙)。
金沢の近郊、コレラを追い払おうと、旗、ワラ人形、笛、太鼓で「あっちへ行け」と行列を作って進む。その方向の住民たち、来るなと乱闘となる(曙)。各地で発生。
八月三十一日、権典侍柳原愛子、皇子をご出産(東日)。明宮嘉仁《はるのみやよしひと》。のちの大正天皇。
高崎の銭湯で、芸者は普通の二倍の料金ときめる。文句が出たが、湯を三倍も使うからと。仲介者は考えた上、主人に「湯上りの美人を見ようと、男湯へ来る客もいる」と。もっともだと、以前に戻す。
大阪の没落士族。集団で稽古《けいこ》着姿、商店の前に並び、撃剣会を開くので、番付けを進呈する。ついては、ご協力をと、あたりをにらむ。やむをえず、金を渡す。いずれは、取締られるだろう。
山梨県の村で、落語家が「開化なのに、取締りばかり。いまに屁《へ》でも罰金だ」と言い、警官に制止される。そこで、反論。こちとら、しゃべるのが商売。東京や甲府の演説会では、これ以上の話をしているぞ。署長、ものわかりがよく、警官に謝罪させた(東日)。
関西地方にニセ札が出回っているとのうわさ。長州藩で井上馨と親しかった商人、藤田伝三郎が怪しいと、警察の手入れがあった。
西郷、大久保と薩摩の実力者の消えたあと、長州系がうまい汁を吸うのだろうとの想像が、事実らしさを加えた。
自白めいたものは集るが、証拠品や書類はなにひとつない。うやむやに終る。薩摩系の大警視・川路利良は欧米旅行の帰途、結核で死去。毒殺説も出る。
三年後に、熊坂長庵《くまさかちようあん》という男が真犯人とされ、無期刑の判決が下るが、世間は信用しなかった。各種の仮説が作れる。
姫路の私塾でルソーの「民約論」の講義をした男。警察官に中止させられる。この本は一昨年に、政府の許可で翻訳が出版されたものだと抗弁。読むのはいいが、教えるのはいかんと、妙な命令(朝野)。
棋士に入門し、囲碁を習いはじめたドイツ人あり。いずれ翻訳書を出し、ヨーロッパにひろめるつもりと(郵便報知)。
横須賀の仏人の医師。コンニャクは栄養にならなくても、からだにいいと主張(読売)。
この年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で、サッカリンが発明された。
ロシアの医学者・パブロフが犬を使い、条件反射の実験をした。
●明治十三年(一八八〇)
民権を主張する演説会、各地でさかん。それを取締るための、巡査教習所が開設。
鹿児島で、西郷隆盛の挙兵の三年目と、二月に盛大な祭りが催された(郵便報知)。
大阪では、夜に巡回する警官は、ワラジばきとなる。音を立てないため(朝野)。
地方官会議で「寒いから火鉢をふやせ」の提案があり、すぐに実現。炭酸ガスがこもって、気分の悪くなる者が続出(東日)。
コメを米国へ輸出。もめん布のノリ付には、中国米より仕上りがいいため(いろは新聞)。
名古屋では市内から近郊の農家まで、西洋酒(ワイン)が流行。酒造家は減産。一方、伊丹《いたみ》の酒造家は釜山《ふさん》に支店を出し、好評。上海からも大量の清酒の注文(朝野)。
新潟県の村。村会を開いたが、議案の字をだれも読めず、勉強会となる(新潟日報)。
滋賀の大津の刑務所で、多数が脱走。まじめな囚人は連れ戻そうと追いかけるが、脱走者との区別がつけにくい(朝野)。
三月十八日の夕方、近畿地方の各地で、大きな火の玉の飛ぶのが目撃された。家は地震のように揺れた(朝野)。ヒノキの林では、こすれあって火の玉が出やすいとの説あり。
築地に住む英人ウイルス、在日が長く、端唄《はうた》、どどいつ、かっぽれ踊りが得意。和服を着用し、新内《しんない》をはじめたと(朝野)。
芝の芸者たち、線香《せんこう》ではかる報酬を、一時間いくらにと要求し、そうきまる(東日)。
米、株、金の相場はバクチだとの説。大蔵省と財界人や学者の会議で、合法ときまる。
下谷の八百屋の、ヘソの深さが二寸(約六センチ)が自慢の男。腹が痛んで大さわぎ。医者がさわると、虫が出てきた(朝野)。
甲府地方の絹織物の値が高くなり、作る妻に、亭主は頭が上がらなくなる(朝野)。
清国はロシアとの対立の悪化のため、日本の軍隊に応援をたのみたいと(曙)。
皇后、ドイツ王妃へ、小型犬チンを二番《つがい》、贈呈する(曙)。新任大使が持参。
神田に住む未亡人、夢に亭主が現れ、銀貨のかくし場所を告げられる。さがすと、戸棚の奥にあった。喜び、涙にくれ、なつかしがり、やがて頭がおかしくなった。
熱海で大火。二百軒が焼失。残った旅館は二軒のみ(東日)。
米国で日本製の扇子、生糸、茶が好まれ、輸入額をへらそうと、国産化の計画(曙)。
翻訳物あきられ、漢学の本が売れるようになった。出版する者がふえる(有喜世《うきよ》新聞)。
奇人、芦原《あしわら》将軍、清国の実力者に電報を打とうとして、制止される。三十一歳(東京自由)。このころから有名だったようだ。
小塚原で刑死した人のために、吉原など遊郭の関係者が大供養。酒色におぼれての犯罪が多かっただろうと(朝野)。
文武にすぐれた徳永という巡査。酒ぐせに注意し、禁酒をつづけ、昇進もした。しかし、ある日ふと飲んだ酒でとめどなくなり、吉原で男女七人を殺傷(東京絵入)。
翌年の判決は、十年の刑。条約改正をめざし、死刑をへらす方針のためか。
旧大名の華族たちも、国会開設やむなしの意見。薩摩の島津氏のみ不明(東日)。
天皇。皇居の新築は、民衆の生活が苦しいのだから、急がなくてもよいと(朝日)。
千金丹売りがむやみとうろつき、相手を見て高く売る。にせ物がほとんどで、本家の支店は困っている(朝野)。
六月に開通した、京都・大津間の逢坂山《おうさかやま》のトンネル。女の幽霊が出るとのうわさで、汽車の利用者がへる。客をのせたい、人力車の車ひきの流したデマ(朝野)。
第一連隊の小原伍長、赤坂仮御所の前にて切腹。国会開設を願って(朝野)。
内務省から出る時、一本の傘《かさ》を盗んだ男、四十日の刑。本社の記者なり(東日)。
長崎県のある村。戸長(村長)に当選した男、大喜びで二人の芸者を役所に呼び、飲めや歌えのさわぎ。ために免職。
広告。私、三浦和夫は米国より帰り、改姓した。鳩山《はとやま》和夫(東日)。のちの衆議院議長。その子が鳩山一郎である。
土佐の政治団体、立志社が主張。政府が国会を開かなければ、私立で国会を(東日)。
富山県の魚津で、米の値上りに大ぜいがさわぐ(東日)。のちの米騒動も、ここから。
米価の高値で、都市の民衆は息もたえだえ。一方、農民たちは景気がよく、遊郭、芝居、呉服などに大金を使う(曙)。農村地方へ身売りする東京の女も、ふえる。
京都では生活難で、自殺増加。投身、首つりなど、多い日は市内で十三人も(東日)。
浅草の観音さま、お札《ふだ》を安売り。神仏まで不況なり(東日)。
玉ネギ、札幌地方で栽培に成功。
京都の守護職より朝敵となった、旧会津藩主の松平容保《かたもり》、日光東照宮の宮司に。
この年、ロンドンで最初の電話帳が発行された。のってる人名、二五五人。
ロサンゼルスの人口、一万人を越える。
南ア共和国、英国の支配下で成立。
●明治十四年(一八八一)
東京の神田方面で大火。一万戸が焼失。前年末、大阪では三千五百戸が焼失。
郵便ポスト。不燃の鉄製にする計画。
山口県のある村の男。鶏卵《けいらん》の商売をしようと、許可を求める。役場の人、そんな項目はないと。男は文書をのぞき「この鶏印《とりじるし》がそれに当るのでは」と(朝野)。
例年より寒さがはげしく、隅田川《すみだがわ》に厚い氷がはり、子供が滑って遊ぶ(曙)。
甲府市、火の番を各戸の交替制とする。目の不自由な人、免除を申し出たが、例外はみとめぬと(東日)。
旧大名の華族の夫人。浅草へ外出中、腹痛となる。共同便所に入り、あまりのよごれと臭気で、頭が変になり、療養中(東日)。
滋賀の大津の人力車。下駄ばきの車引きが多く、乗っても早く行けない(朝野)。
勝海舟、友人にたのまれ二枚の揮毫《きごう》をしてから「各所で、この本人よりうまい書を、かけ軸にして売っている。その人にたのんだほうが、簡単だぜ」と(横浜毎日)。
ハワイの皇帝、来日。全人口、五万七千九百八十五人(東日)。国会のある立憲政治。
新橋・横浜間の列車。三等一台の三十人乗りを、四十四人乗りにする(東日)。また、天皇や国賓用の車両の製造も進行中。
大阪で、実母と離別の願いを役所に出した男。父が死に貧しくなり、母は金持ちの実家に戻りたがるため(朝日)。
浅草の平野亭では、家庭むきの牛肉スープを作り、配達もすると(朝野)。
長野の佐久の塩川という人、いちごジャムの缶詰の国産に成功。
新潟県のある村。財産のある四十男の医者が、隣村の貧しい男に「美人の女房をお持ちだが、わが全財産、五歳下の妻、三人の子のすべてと交換しないか」と話し、成立。忠告に耳を貸さない(東日)。いずれが得か。
宮内卿より、華族の子息は軍人になるようにと、お達し(朝野)。
大阪の西成の村。イタチがふえ、ネズミと対陣。双方とも何十万匹が大合戦(朝野)。
官吏が株を持つのはいいが、職務上の関係のある会社のはいけない(朝野)。
榎本武揚、北海道の土地の払下げを買い、十万坪を所有。小樽《おたる》の中心部を含む(東日)。
東京で「ぱあになった」が流行語。ある落語家がはじまりとか(朝野)。
有名な漢方医、浅田宗伯に学び、鳥取で開業した者が「洋服の患者おことわり」の掲示を出した(朝野)。その浅田宗伯は、息子を外国留学へ出発させた(東日)。
北方、エトロフ島に開拓使支庁を置く。
明治生命保険会社、許可が下り正式に営業開始(東日)。この分野の、日本で最初。
ロシアにて、人力による飛行機が発明された(東日)。変な外電も多かったようだ。
森林太郎、東大卒業。医学士となる(曙)。
福島県いわき地方で、良質の炭鉱開発に着手。社長は医師、支配人は剣術師。陣頭指揮の態勢(東日)。
奈良県の老婆《ろうば》。転輪王と称し、深夜に白衣を着て、教えを説く。信者は三百名ほど。妄信《もうしん》か(大阪新報)。のちの天理教の開祖、中山みきについての、最初の記事。
種子《たねが》島《しま》の銃を作る職人たち。仕事がなく困っていたが、村田銃の量産のため、東京に招く。みな優秀で好評(朝野)。
横浜十全病院の、英国製の高性能の顕微鏡が紛失。質屋で発見、犯人逮捕(東京絵入)。
天皇に、英国から手紙。訳すと「同封の紙にサインして下さい」だった(東日)。
印刷局で製造の壁紙は好評で、外国からの注文が多い。洋食の皿の下に敷く紙も、花の模様で作る計画(東日)。
京都の寺の関係者たち、協議。ヤソ教の防止のための、募金と対策をきめる(東日)。
西郷軍と戦い、勲七等を受けたが、病気で金に困る者。それを買いたい者がいる。郡役所に連名で申し出た(東日)。
戸籍局の調査。全人口、三千五百万人。
鹿児島で「西郷隆盛こそ、国会開設の最初の主張者」の説がさかん。遺志を実現との、団体ができた(東日)。
札幌農学校は外国で有名だが、日本で小学校と扱った新聞あり(東日)。
北海道開拓使の長官、黒田清隆。国費で作った事業を、友人の実業家に払下げようとした。きわめて安価で、三十年の無利息年賦。しかも、この地をご巡幸の天皇のお供もしない。批難の声が高まる。
農地局の外人技師。赤坂、麻布、麹町の土は、セメントにまぜるのに適当と(東日)。
新潟県の柏崎《かしわざき》で、演説会。途中、十六歳の美少女が、みごとな口調で男女同権論を展開した。みな驚く(朝野)。流行の傾向。
生糸の高価に、横浜の外国の多くの商社が不満。国内各地での、自由な買付けをみとめよと要求(朝野)。
北海道スキャンダル。政府内の対立。各地の民権論の高まり。十年後の国会開設が決定する。その勅語の一部。
明治二十三年ヲ期シ、議員ヲ召シ国会ヲ開キ、以《もつ》テ朕《ちん》ガ初志ヲ成《な》サントス。
十月十二日付だが、天皇はその前日、北への長い旅から戻られたばかり。
政府の要職の、著名な自由民権論者たち、辞職(朝野)。辞表を求められる者は、福沢の弟子に多いようだ(いろは)。
最初の政党、自由党が結成される。代表に板垣退助が就任。
西郷隆盛、じつはインドで健在、近く帰国との本を売る者が、大阪に出現(郵便報知)。
天候不順で、またも地球滅亡説はやる。
茨城県の人、日本政府の支配はいやと、国籍返上の届を役所に出し、懲役百日の刑を受ける(朝野)。かなり話題になる。
やとわれていた車引きが、主人の一家の四人を殺す。住職一家を殺した事件もあった。いずれも共犯者たちと逮捕され、斬首。
これが最後。翌年からは、絞首刑。
官吏と新聞記者の交際がふえ、好ましくない風潮だ(朝野)。
医学部の教師のベルツ博士、米飯は洋食よりすぐれた食品と、講演(東日)。
飯盛山《いいもりやま》に、白虎《びやつこ》隊の碑が建つ(朝野)。
ヨロイ姿での、アメ売りがふえる(東日)。
アメリカ。総人口が五千三百万人。
ビリー・ザ・キッド、殺人罪で投獄されたが脱獄。しかし、二ヵ月後、保安官パット・ギャレットに射殺される。七月十五日。
OK牧場で、アープ保安官兄弟とドク・ホリデイが、クラントン一家との決闘に勝つ。十月二十六日。いずれも米国の日付。
●明治十五年(一八八二)
軍人勅諭、公布。国民の統一と、国政と軍事の分離のため。
昭和十六年に、東条陸軍大臣が勝手に作った「戦陣訓」と、同一視すべきでない。
東京があり、西京(京都)がある。東北地方の振興のため、北京を作れとの説(東日)。分都論の第一号だが、なんと読むのか。
イザナギ、イザナミの陵《りよう》をさがそうと、出雲地方を三年も歩き回った者あり(朝野)。
三味線の名手が、伊勢で興行。当地の金持ちが一席もうけ、祝儀をはずみ、金屏風《びようぶ》に字をとたのむ。音曲以外はと断わるが、なんでもいいからと。ぬるぬると五行ほど書き、去る。だれにも読めず、がっかり。
ほかの三味線ひきが来た時、話題にと見せると、義太夫《ぎだゆう》のさわりの譜で珍品とのこと。一転し、大喜び(朝野)。
千葉県のある村。盗みが発覚すると、赤い手ぬぐいを頭に巻かせる。ほかの泥棒をつかまえると、はずすのを許される(朝野)。
長野県の松代町。ヤソ教の信者、日曜のため、祭礼に参加しない。けしからんと、交際禁止の申し合せがなされた(朝野)。
東京の近くの村。ワラを自然発火させ、信者を集める者あり。念力か手品か不明だが、防火上危険と、警察へ(東日)。
北海道を函館、札幌、根室の三県に分け、開拓使は廃止となる。
伊豆。太陽暦になじめぬが、旧暦になおすのもめんどう。二月一日を元旦として祝う家が多い(朝野)。月おくれの行事の初め。
伊藤博文、側近と渡欧。憲法研究のため。
大隈重信、改進党を組織する。少しのち、早稲田大学を創立。自由と独立の心を高める教育をめざして。
関西や九州で鉱山がふえ、蒸気機関の技師が不足。機関士を引き抜くので、汽船の欠航がふえる(東日)。
四月六日。板垣退助、岐阜での演説のあと外で、青年に「国賊」とどなられ、短刀で刺された。軽傷。
同行の自由党員は「板垣死すとも自由は死せず」との言葉を聞いたと、政党新聞に電報し、号外を発行。全国の話題となる。
北海道沿岸のラッコ、外人の船での乱獲で絶滅が近い(日本立憲政党新聞)。
長崎で、東洋社会党が結成された。旧藩主をまつる寺院に、額を奉納した。貧民の援助をした徳をしのんで(東日)。
大阪の警察。便利なので親分たちや子分衆を利用していたが、廃止の方針(東日)。
村田銃の発明者、村田中佐、妙技を示す。銅貨、碁石、梅のタネなどを空中に投げ、百発百中。みな驚嘆(兵事新聞)。
某高官、民権派の動きをさぐるのに、芸者を利用したらと提案(郵便報知)。
新潟の農民の甚太郎。財産を米相場ですって、上京。詐欺《さぎ》で服役後、没落旗本の老車夫の養子となり、松平慶承《よしつぐ》と名乗る。
仲間を集めて名古屋に行き、一流旅館に泊り「徳川家の親類だ。銀行をこの地に作りたい」と話す。銀行からのニセ電報を使ったりし、大金を集めて、ドロン。やがて逮捕されたが、面白いやつと、大衆に人気。
三重の農民、太モモに腫《は》れ物が出来、人の顔のよう。口に当る部分、声は出さないが、米飯を与えると食べた(岐阜日日新聞)。
板垣退助、渡欧。旅費は政府が三井に出させたらしいとのうわさ。評判が少し落ちる。
朝鮮。清国の指示に反し、独自に国旗を制定(時事新報)。現在の、韓国の国旗。
福島事件。県令(知事)の三島通庸《みちつね》は、道路工事を企画。県会議長で自由党員の河野広中が反対。対立し、暴動も発生。くわしくは歴史の本で。
佐田介石、死去。六十五歳。仏教を学び、天動説を主張。外国の学説や製品に反対し、全国を講演して回り、名物男だった。
築地の外人居留地の二名の英人、巡査は来ないと、家に人を集めて連日のバクチ。領事に話し逮捕に行くが、すでに逃亡(日の出新聞)。
ニューヨーク・タイムズに、めざましい進歩と、日本特集の記事がのった。
この年。
イタリアの作家コローディ『ピノキオ』を発表。
アメリカ。銀行強盗のジェシー・ジェームズが、賞金ほしさの仲間に射殺される。四月三日、三十四歳。同情者がふえる。
●明治十六年(一八八三)
新年の御歌会の御製。
沖つ波 よりくる舟も としどしに
数そふ世こそ たのしかりけれ
そふは、添うで、加わるの意味。
結婚条例、公布のうわさ。新潟地方で、これにも税かと、幼児の縁談が流行(東日)。
仙台の、伊達《だ て》家につながる名門の美女。町人と結婚。訪れた青年「おいたわしい。せめて出世できる、士族の私のほうが」とくどいて、家財を運び出し、よそで同居(東日)。
千島のクナシリ島で、イオウ採掘産業。
三重県の酒造会社。経営不振のため、葬式をあげた。社名を書いた紙を棺に入れて川に流し、廃業(郵便報知)。
時計の国産化に成功。いずれは輸入しなくてもいい時代が来るだろう(東日)。
清国の海軍、大拡張。英国は「西太平洋は清国の支配下か」と心配(東日)。
上流婦人が犬を愛するのはいいが、肺結核が犬にうつり、それが野良《のら》犬にも。神戸から紀州へと、ひろまりつつある(南海日報)。
名古屋の近郊。女芝居で、弁慶が苦しみはじめる。楽屋へ運び、富樫《とがし》の役の助産婦により、ぶじ出産(東日)。
東京の巡査用のサーベル、製造の見とおしがつき、四月一日より帯剣の予定(東日)。
大阪の銭湯で、政治演説をはじめた男。ひとりが「中止せよ、わしは巡査」と言うが、ニセだろうと、袋だたき。官服を着た時は、みなが逃げたあと(郵便報知)。
銭湯の女湯をのぞこうとする、外人の男。巡査がつかまえた。ドイツ人で、名はオンナスキーだそうだ(朝野)。
新潟県の豪農。民権をとなえるからと、貧民たちの借用証書を、すべて返却(朝野)。
三菱会社は、民権派、政府系をとわず、新聞記者や演説家へ金銭をくばり、酒食のもてなしもする(自由新聞)。
群馬県の村。借金が返済できないので、娘を抵当に差し出す。数日し、娘は逃げ帰り、父親は「期限切れの前に手をつけるとは」と、どなりこみ、ひとさわぎ(朝野)。
兵庫県に、生れつき舌が二枚の人あり。不便なので、病院で一枚を切断。ぶじに退院。喜んでいる(朝野)。
大阪。造幣局の桜の通り抜けが、はじめて許可される。四月二十日。
新潟県のある寺。古い大樹が、夜中になると泣き声をあげるようになった。見張り番をおく。原因は不明(京都絵入)。
在日の英人教授、チェンバリン作の和歌。
夜もすがら 声こそたえね時鳥《ほととぎす》
月もさやけき 有明《ありあけ》の浜
知人に借金返済で訴えてもらい、被告となって、徴兵のがれをする者が出た(東日)。
神田で酒の飲みくらべ大会。一斗八升(約三十二リットル)の人が優勝(東京毎日)。
京都の華族の夫人たち、製糸工場で作業。児《こ》は子もりに世話をさせて(郵便報知)。
広告。酒と女を避けていたが、方針変更。今後は、酒や遊郭へおさそい下さい。訪問の時には、お酒を。中条町、村山(新潟日報)。
七月二日。官報の第一号が発行される。
昨年の福島事件。県会議長、自由党員の河野広中らの東京での裁判。公開で自由に発言させ、大評判。有罪か無罪かの賭けもなされた。薩長閥への、司法関係者の抵抗のあらわれ。河野七年、他は六年の刑。
岩倉具視、死去。公卿の出で、天皇親政、開国論者。維新後は飾り物あつかいだった。
伊藤博文、帰国。憲法作成に専念。
日本で灸《きゆう》の研究をした仏人の医師、帰国して効果ありと発表。治療もはじめる(読売)。
十月三十一日、東北地方で金環食。当日、東京は雨、東北は曇天。新潟では見えた。
悪く書かれた者の代理だと称し、新聞社を「告訴する、金で解決か」と、ゆする者がふえ、連絡所も出来た(郵便報知)。
ニューヨークの日本人たち、交際のため苦楽部《クラブ》を作り、集会(郵便報知)。当時はこう書いた。苦楽を共にでか。
ルター生誕四百年祭。外人教師たち、演説会でカソリックを排撃(朝野)。
鹿鳴館《ろくめいかん》が完成。不平等条約の改正のため、文明向上の実例を示そうと、日比谷に作られた洋風のレンガ二階建て。洋食も出され、舞踏会《ぶとうかい》も開かれる。
本所のカワラ業者の、カマドのなかから声が。呼んでも答えない。焼くぞと言うと、十数人の浮浪者が出てきた。寒さをしのいでいたのだ(東京毎日)。
貸金取立て会社を作った人あり、債務者の家の前で、さわぎたてる(郵便報知)。
東京の荒川へ放した魚、サケの子。大きく成長して戻ってきた(絵入自由)。
この年。パリ・イスタンブール間の、オリエント急行が運行開始。
ジャワ島の西のクラカタウ島、史上まれな大噴火。八月二十七日。数日後、東京の空は異様に暗く、天皇もご心配なされる。
●明治十七年(一八八四)
外国で日本の金魚の人気が高く、昨年の輸出、八万匹(東日)。
ウグイスを清国に運ぶと、百五十倍の値で売れる(東京絵入)。
イギリスから、花の美しいツバキの木を数百本との注文があった(京都絵入)。
碑を建てるのが流行している。山陽のある寺に出来た碑の文に、文句をつけ裁判で勝った人。相手が訂正しないので、そばに判決文を記した碑を建てた(東京絵入)。
昔から四国にキツネはいないとされていたが、そのフンを見た人が出た。買って飼ってたのが、逃げたのでは(日本立憲)。
駐仏公使館員の鈴木貫一。砂糖相場で、多額の公金を使い込む。スイスにかくれたが、自首し帰国。裁判は七年の刑と軽くすむ。
天皇、西郷隆盛に心くばり。遺児あれば、海外留学や官職など、世話をするようにと。聞く者、感涙(開花新聞)。
最後の将軍、徳川慶喜の子、家達《いえさと》。近衛《このえ》家より夫人を迎え男子誕生。竹千代と命名。
英国人、新橋で汽車に乗りおくれる。車引きに「品川で追いつけたら、大金を払う」と言う。引き受ける者あり、四分前に品川着。普通の百倍の料金をもらう(蒐集記録)。
山口県の萩《はぎ》あたりの士族、おちぶれたのが多い。商人、その株を買って得意(朝野)。
宮城県のある村。鉄道が開通、荷物を運ぶ仕事がなくなり、とほうにくれる(朝野)。
ドイツで日本紹介の本が出た。文中「日本人は善良で、子供っぽく、遊び好き。新奇な物に熱中するが、すぐあきる」と(いろは)。
オーストラリア。海底の真珠貝を採取するため、日本人を百五十人やとう(いろは)。
東京近郊の村。飼われているメスのネコ。夜になるとオスのキツネが来て、仲よしになる。ある日、その二匹の死体、井戸のなかで発見される。心中ではとのうわさ(読売)。
高官の夫人や娘、鹿鳴館でバザー開催。
田中平八、死去。信州に生れ、商才、努力、大志で幕末から明治に働き、生糸や茶の貿易で、富を築く。天下の糸平《いとへい》と呼ばれた。
京都でヤソ教の演説会。五百人以上の者やじり、警察の制止に反抗し、大さわぎ(郵便報知)。政府への不満のあらわれか。
兵庫県の刑務所。囚人がふえ、その排泄物《はいせつぶつ》の処理に困る。コレラ予防の消毒剤を入れるので、肥料に売れない。巨大な穴を掘ったが、一ヵ月分にすぎない(郵便報知)。
神田の銭湯。湯上り客のために、上から風を送る。大形のウチワを下げ、番頭がヒモを引いて動かすもの(時事)。
熊本県の天草、大阪府下の村などの農民、生活できないと、家族とともに夜逃げをする者が多い(東京毎日・ほか)。
伊豆にはじまり、神奈川の多くの村、福島県のいわき地方で、借金党を名乗る集会。金貸し会社へ押しかけ、利息なしの五十年で返済を要求。不穏な動き(朝野)。
政府内に対立あり、民権論は理屈だけ。現実の解決のため、政党の形をとってのさわぎとなった。
埼玉県秩父《ちちぶ》にはじまり、栃木、福島、茨城の自由党員。爆弾を用意して暴動を計画。発覚し、指導者たちが逮捕される。
過激と思われてはと、自由党が解散式。
清国が仏国に宣戦(メイル新聞)。ベトナム支配について対立の結果。一年後に講和となり、仏国の植民地と認める。
鹿鳴館の会のため、高官の夫人と娘に、舞踏を練習させる(時事)。
先に羽毛をつけたムチの注文。用途を聞くと、ハエをいやがって馬がはね、落ちるのを防ぐためだと(東日)。
火薬の個人製造を禁止。ただし、マッチ、花火などは例外とする(官報)。
東大前の文房具店。洋行帰りの教授のすすめで、大学ノートを製造、販売。
丸善で、万年筆を購入し、発売。少し前、ニューヨークのウォーターマンという保険業の人が発明した。
この年のアメリカ。
大リーグで、投手が上手《うわて》から投げることが許される。打者は、球の高目、低目を要求できた。
外科医ハルステッドが、南米コカの葉の成分から、コカインを抽出、麻酔に使用。当人はその中毒になり、二年かけてやめたが、その時はモルヒネ愛好者になっていた。
●明治十八年(一八八五)
一月二日は恒例の初荷だが、元日から動いている乗合馬車の上の人間こそ、真の初荷というべし(東日)。
前回の場所で横綱の梅ガ谷を投げた、大関の大達。親方の高砂《たかさご》と口論し、頭をなぐり、破門される(郵便報知)。
東京の銀行集会所の開業式で、四十四個の電球が輝いた。エジソン式発電機による。
学生が集って、大さわぎしたり、奇異な行為をするのを禁じる(官報)。
華族の女性は、名のあとに子《こ》をつけ、省《はぶ》かぬようにと通達(改進新聞)。
土佐の貧しい家に生れ、維新の時にもうけた三菱商会の初代社長、岩崎弥太郎、死去。五十二歳。
盛大な葬式。料理や菓子を六万人分を用意したが、それでも不足。事故はなし(東日)。
京の本願寺の御堂《みどう》再建のため、材木を寄付する者が多い。その運搬には髪の毛の綱《つな》がいいと、新潟の未婚女性たちが献納。十八万人が尼の頭となる。感心だと、縁談も早い。
会合の時刻におくれる人が多い。京都で時間会を作り、遅刻者は除名し、氏名を新聞に公表する規則。会員ふえる(京浜毎日)。
米国での万国子午線会議で、午後一時を十三時と呼ぶのがいいとの提案があったと。そのための時計を試作とのうわさ。いまのは旧式になり、安値になるか(東日)。
浅草でゴム印を作るのに成功した人。軽くていいと、有名な書家、画家から注文あり。
青森県で、金銭などでの失敗者が集って、なぐさめあう会が開かれた(東横毎日)。
六人を乗せて、二人で引く人力車を製造した者あり。調子がいいので、九人を乗せ三人で引くのを作り、横浜・小田原間を走らせると(横浜毎日)。
からゆきさん増加。日本人の娼婦の店、シンガポールだけで三十軒とか(朝野)。
仙台で町ごとの組長の選挙。二十五歳以上の戸主なら、女性にも投票を許した(改進)。
米国へ輸出する日本の扇子、フランス製のに押される。外見は同じだが、丈夫で安く、美しいため(東日)。
夏のムギワラ帽は、外国から注文多い。
軍医・松本良順、大磯《おおいそ》を海水浴に最適と推薦し、旅館を建てる。湘南《しようなん》の発展のはしり。
熊本の本願寺へ、長崎の遊女を身うけし献上した者あり(朝日)。なんの役に立つのか。
西洋にならい、高知に競走健足会が出来、賞を与える(自由灯)。マラソンのこと。
借金党、困民党、貧民党。借金すえおきの運動、各地で、つぎつぎに起る。
天候不順で凶作のため、食う物に困り、犬や馬、草の根まで食べる(朝野・ほか)。それなのに、徴兵のがれがあとをたたない。血税の呼称が、まだたたっているのか。
北海道への屯田兵の志願、各県に平均して千人。ハワイへ、さらに千人が移民(東日)。
本年に入って、海軍はすべて麦飯。脚気《かつけ》患者の発生、ひとりもなし(東京絵入)。
婦人の髪形は手間がかかり、洗うのもめんどう。西洋風の簡単な束髪にしようとの動きがあり、ひろがる(朝野・ほか)。カンザシなど、髪かざりの品の店、今後を心配。
一方、西洋人は従来のを好む(東日)。
鹿鳴館の会合で、和服禁止の規則に、英国人が「不自然」と反対。いまのままとなる(東日)。
また、ある英人「日本人の舞踏は上達したが、欧州の社交界では若い女性に限る。年配の婦人は、遠慮したほうが」と(郵便報知)。
隅田川を上下する蒸気船、営業を開始(読売)。いわゆる一銭蒸気で、かなりつづいた。
降雨が多く、各地に洪水《こうずい》が発生(東日)。一昨年の、クラカタウ島大噴火の影響か。
芦原将軍、気象台に潜入し天空を観察。追い出し、警戒を厳重にする(朝野)。
東大の月謝、一円五十銭に値上げ。医学部は二円五十銭に(東日)。
京橋で文字合せの錠のついた金庫が作られた。鍵《かぎ》を盗まれても安全と、注文が多い。
日本の娼婦、二十数名。上海から強制的に帰国させられる(朝野)。
ある地方の村会。農繁期で議員の半数以上が欠席。村長、役場の者で席を埋め、議事を進める。名案と賛同者あり(朝野)。
値下げ競争でごたついていた、三菱と共同運輸、協力して新会社を創立することとなる。日本郵船会社、発足。
五代友厚《ごだいともあつ》、死去。鹿児島の藩士。幕末に欧州を見学。維新後、多くの事業を育てた。大阪経済界の恩人。五十一歳。
筆の軸にインキを入れる、字を書く道具を作った者あり。売れるかな(京浜毎日)。
ヘチマをフランスへ輸出したら、それで作った夏帽子の見本を送ってきた。来年は買わされるか(時事)。商売のうまい国だ。
欧州へのカナリヤの輸出がさかん(京浜毎日)。大西洋のカナリー島の原産だが、よく鳴くよう教えるのが日本人の特技。だから、ふやしても売れるのは、オスだけ。
東京名所狂歌
団子《だんご》坂の菊
さけさけと きくの莟《つぼみ》の団子坂
下戸《げこ》と見るまに 花は盃《さかずき》
上野の春景色
青天に 赤ひげ白歯黄八丈
花にいろそう 上野黒門
日本橋の繁盛
すごろくを ふり出す雨の日本橋
風が変って あがりにぞなる
相撲の一行、東北・北海道に巡業。宮城、青森は昔からさかんで、見物も多く、祝儀の品も山積み。ただし、四角い土俵(京浜毎日)。
石川島造船所では、事務現場、社員すべてに生命保険をかけ好評(郵便報知)。
上海など清国の都市。日本製の人力車が大流行。東洋車と呼ぶ。ごたごた防止のため、車と着衣の背に、番号を記させる(東日)。
東京の山手線の工事が、進行中。
特許第一号は、さびどめ塗料。
座敷風車で特許を出願した者あり(朝野)。扇風機のアイデアか。
以前よりの希望により、東大の学生たち、欧州風の制服、制帽を制定。慶応の学生も、同様。ペンの交差のマークも作る(時事)。
十二月二十二日。内閣制度を制定。
総理大臣、伊藤博文。外務大臣、井上馨。
逓信《ていしん》大臣、榎本武揚。前日に作られた省だった(官報)。
大臣の年俸、六千円(郵便報知)。
京都では散髪代の値下げ競争で、六銭から一銭にした店もあり(朝野)。
この年。ドイツの技師カール・ベンツの製作した、世界最初のガソリン自動車、走る。
フランスでパスツールが、狂犬病のワクチンを試み、少年を救って評判になる。アメリカでは、手術によって盲腸から虫垂を切除するのに成功。
ニューヨークに、世界最初のセルフサービス・レストランが開店。
●明治十九年(一八八六)
人力車の利用は運動不足になると、禁車会が作られた(東京絵入)。
鳥取の西の村の奇習。新婦が来て、新郎の「なにしに」との問いに「この家で死ぬために」と答え、ともに家に入り、祝宴(太平)。
英国、ビルマに進攻。領土にすると発表。清国は黙認料を取る(メイル)。
水戸の公園に、数千本の梅を植える。名所となるか(東日)。
寒中に水をかぶって神仏に祈るのは、不健康と禁止のうわさ(東横毎日)。
三県に分けた北海道を、もとに戻す。開発事業の統一のため(朝野)。
日本女性と結婚したと称し、出国の許可を取り、海外で稼《かせ》がせる英国人が多い(神戸)。
不便な地方では、官報のとどくのがおそくて、法令の成立日とずれが生じる(東日)。
北関東で、食料難のため、ワラの粉を大量にモチやソバにまぜた食品がはやる。やがて禁止(改進)。センイ質には富むわけだが。
東京府の人口、幕府の最盛期にくらべ、やっと六割ちかくに回復した(朝野)。
三月。ドイツ留学から帰国の小金井良精《よしきよ》。東大教授となり、解剖学の講義をはじめる。
立派な家のそばの、貧しい家はみっともない。それらをどこかにまとめる方針を、東京の知事が立てた(朝野)。
公用には、メートル法を使うことになる。
英国で船員や軍人たちに、氏名やマークの刺青《いれずみ》がはやり、日本の職人が四人、いい報酬でやとわれた(朝野)。認識票の役目。
ある農民。わずかな納税不足で山林が競売され、残金がとどく。思わぬ入金と大宴会。事情を知った時は、手おくれ(山陰新聞)。
馬車に旗を立て、音曲をかなで、宣伝をする会社ができた(内外新報)。
東京で、辞職催促会社を作る計画。役に立たぬ老官吏に、忠告をする(朝野)。
赤鬼の顔と鉄棒の絵のハンテンを着て、旗を持った数名で、貸金を取り立てる会社。来られて、外人がびっくり(内外)。債鬼だね。
逓信大臣・榎本武揚、防火器を発明と、公開実験。小屋は全焼し、失敗(内外)。
浅草のソバ屋で「受取りをくれ」と言う客に、店主「出したことがないが、食べた物を書いて署名したなら」と。客は筆で書き並べて、右、正に飲食と書いた(読売)。
五月一日。条約改正の交渉開始。わが国の論客たちが、泣いて激論し、なげいてきた問題だ。この喜ばしい日を忘れるな(東日)。
日本橋の洋酒問屋。共通切手(商品券)を発売。〓月堂で洋菓子も買える(毎日)。
電灯会社の設立計画。機械をエジソン社に発注。ガス灯の三分の一の価ですむ(毎日)。
樺太から石狩川へ移住した一族。祖先より伝わる文書を、役所に提出。文面は「われ世に出れば、取り立てる。義経」(内外)。
薬の規準を示す、日本薬局方がきまる(官報)。ドイツのものの邦訳らしい。
農家で飼う牛をふやさないと、食肉の大部分を輸入にたよるようになる(郵便報知)。
京都でコックリさん、流行(朝日)。やがて大阪や東京でも。
英人の宣教師、ショー。軽井沢に別荘を作り、避暑。この地の発展のはじまり。
綿布を大量に清国に輸出。子供服に加工され、ドイツで売れてる(内外)。商売上手だ。
撒水《さんすい》会社の計画(朝野)。東京の道路は舗装されたのはなく、乾いた日のホコリは大変なもの。一方、雨の日はぬかるみ。
静岡の銀行に五人組が「政治資金を出せ」と強盗に入る。やとわれた剣術家が二人「さあこい」と刀を抜く。仲間のひとり「帰るがいい」と制止。どさくさで負傷。銀行から多額の礼金をもらうが、一味と判明(朝野)。
清国の軍艦が長崎に寄港。上陸した水兵たち、酔って大あばれ、巡査隊と争う。民衆は屋根からカワラを投げ、応援(改進)。
清国水兵が巡査の官帽を奪ったの文は、官棒に訂正。電報の誤読のため(大阪)。
サンフランシスコで、人力車流行。引く者に困り、日本から人をやといたい(毎日)。
ビン入りの日本酒、発売となる。水や安酒をまぜられる心配が、なくなる(毎日)。
京都の村の、二人の農民。それぞれ相手の女房、相手の馬に目をつける。あれこれあったが、交換成立で幕(改進)。
品川、新宿、板橋、千住。道路を十二間《けん》、約二十二メートルにひろげる(朝野)。道にそった家の裏は、どこも農地の時代。
宣教師で医師の米人、ヘボン。滞日も長く、八年がかりで和英辞典『語林集成』を出版。このローマ字表記が、ヘボン式。
ソロバンは時代おくれ、西洋式の筆算に統一せよと、文部省内で言う人あり(時事)。
英国船ノルマントン号、横浜から神戸への途中で沈没。英人の乗員二十六名はボートで助かり、日本人の客二十三人は、みな水死。抗議の声が高まる。船長は軽い刑(東日)。
寄席で長い落語を、何回かにわたって語る時は、前回までのあら筋を話すこと(東日)。
病弱であっても、当人より年長の者を、財産相続の養子にしてはいけない(内外)。
出雲大社の宮司は千家《せんげ》という姓の家柄。いま八十代目。記録に残る上で、約二千年以上も、男子の血統の絶えたことなし(郵便報知)。
フランスに依頼して作った軍艦、畝傍《うねび》。日本へと出発(内外)。アジアの海で消息不明。砲を多くし、船体を二重にしなかったためか。海上保険つきで、損害はない。
初代ピストル強盗、清水定吉つかまる。侵入、射殺、盗みと、凶悪な犯行を重ねた。翌年に死刑。
この年、各地に婦人会、女学校、看護婦学校など、いろいろと作られた(郵便報知)。あみもの会、洋食の会も。
印刷局がドイツより輸入し、使用していた印刷機。技師の沼井は、それを手本に、改良したものを製作した(朝野)。
この年。アメリカでホールが、フランスでエルーが、ほぼ同時にアルミニウムの製法を発見。年齢も同じで二十三歳。特許はホールを先としたが、おたがいに長所を活用しようと、共同で事業化をすすめる。
コカコーラが発売される。十月、自由の女神像が建てられた。
作家スティーブンソン。SF『ジキル博士とハイド氏』を執筆。
●明治二十年(一八八七)
宴会の流行はいいが、立食式だと食物の奪い合い、急ぎ食いで、戦争のようなさわぎ。みっともない(東日)。
ナショナル・リーダーの海賊版を、各社が出した。米国の出版社より抗議があり、役所は関係者を集め版権を話し「この出版社名を削除しろ」と命じた(郵便報知)。
天皇、京都へ先帝の祭儀のためご旅行。そのお供の人数の少ないのをからかった記事が、清国の新聞にのる。民とともに節倹のみ心が、わからぬのか(高知新聞)。わざわいのもと。
二月十八日。天理教の教祖、中山みき、死去。九十歳。
お寺の下宿営業に、禁止の通達(朝野)。
遊郭での心中者を、同じ墓に埋め、比翼塚など呼ぶと、まねするのが出る(読売)。
相馬事件、はじまる。福島県の名家の当主をめぐり、有名人が何人もからみ、スキャンダル記事が新聞をにぎわす。何年もつづき、当主は死に、真相は不明のまま終る。
大阪。呉服商の大丸。頭の古い番頭たちをなだめ、洋服を扱いはじめる(内外)。
陸軍省では、各種の色を使いわけ、暗号に利用しようと研究(郵便報知)。
政府の官報はわかりにくく、地方官も困るし、反対論も出やすい。そこで説明欄を作って、補足の文をつける(朝野)。
花まつりの日。甘茶をかける仏像に悪口を言い、さらに地面に投げた男がいた。坊さんは怒り、なぐり合い。やがて警官が来て、男を連行(東日)。ヤソ教信者。
大阪の刑務所で、囚人に石をせおわせ、一日に二時間ずつ歩かせる試み(朝野)。そのかわり刑期を短縮なら、一案か。
土佐犬を軍用にと研究(高知日報)。
舞踏会さかん。伊藤博文邸で仮装大会。高官たち、弁慶など奇妙な姿に(やまと)。これもお国の地位向上のためだ。
ショウユが、世界的に好評。ジャワ島製のも、日本産として出まわる(高知新聞)。
大隈重信、板垣退助、後藤象二郎、勝安芳《やすよし》など、それぞれ伯爵《はくしやく》に(官報)。危険性のある人物を、手なずけておく。
手さげ電灯、試作。重さはわずか一貫(約四キロ)なり(東日)。
芝の高利貸の家へ、棺桶《かんおけ》を運び込んだ女。「二年も無給で働かされ、父はくやしさで頭が変になり、死にました」と。来た巡査も困り、埋葬費にと五円を出させた。
新橋の芸者だった花井お梅。付《つ》き人《びと》の峯吉《みねきち》を包丁で殺す。多くの男性関係のあげくだが、美人のため評判になる。裁判にも人が集り、芝居にもなる。無期刑だが、十五年で釈放となる。あとは、不遇な人生。
大橋佐平、他誌の文を無断で集め「日本大家論集」という雑誌を出し、大いに売れる。版権問題となるが、方針を変え成功する。
「ソバはモリかカケか」と聞かれた書生風の客が「どっちでもいい」と。両方を出すと、どっちも食べ、一銭おいて帰りかける。主人が「もう一銭」というと、客「入口に〈もりかけ一銭〉とあるよ」(読売)。
カラカサでなく、布製の洋傘が流行。製造がまにあわない(朝野)。
郡役所での喫煙は、きめられた時間と場所で(千葉新報)。キセルの時代のこと。
丹後・大江山のそばの村。なぜか地租が高い。石川という男。不当を訴えつづけ、投獄にも負けず、十三年の尽力で減税を実現。住民の謝礼も断わり、義人と呼ばれる(朝野)。
足尾銅山が開発され、渡良瀬《わたらせ》川の鮎《あゆ》が全滅した。一万二千人もふえた人の排泄物の流入のせいか(読売)。やがて鉱毒とわかる。
東北地方で百一年ぶりの皆既日食があったが、雲のため、暗くなっただけ(東日)。
地方より中央官庁への報告書のなかで、本県や本年などと書くのをやめ、県名や数字を使うこと(東日)。
宮中に信用があり、華族女学校を作った教育家・下田歌子が小学読本を作る。文学的すぎて実用に不適と悪評。使用中止(朝野)。
盛岡で、納税延期の歎願書を印刷し、売ろうとした者。説諭されて破棄(読売)。
本郷の女の子。宮参りで買った張子《はりこ》の犬、こわれたので親が見ると、その家の祖先が元禄時代につけた帳簿の紙。奇縁(東日)。
浅草の老人。海草からヨード抽出に成功。外国製にまさる純度(郵便報知)。
参謀本部、地図作成のための三角測量を、全国的に開始(官報)。
日本橋で、はじめてアスファルト舗装の道が作られる。長さ一五〇メートル(時事)。
浅草公園に、材木と板で富士山を作る。珍しいと登りたがり、巡査が整理(東日)。大阪の西成にも。費用もかかるが、採算可能と。
盛岡以北の鉄道工事。思ったより平坦《へいたん》で、工事はきわめて容易(朝野)。
船で塩を運ぶ時、俵に竹筒を刺して抜く者が多い。そこで重量での取引きとする(東日)。
保安条例、発布。集会の解散命令など。危険人物とされると、東京の外へ追放(朝野)。
この年。
ポーランドの眼科医ザメンホフ、国際語エスペラントを考案。
英国の医師で作家のコナン・ドイル、小説にシャーロック・ホームズを登場させる。
●明治二十一年(一八八八)
英国での日本美術品の評判、すっかり回復し、よく売れる(朝野)。
浦和へ追放された危険人物、宿泊を断わられる。横浜へ行こうにも、東京の鉄道を利用できず、きわめて気の毒(時事・毎日)。
吉原のある娼婦、客の所持金をぴたりと当て、評判(読売)。占いをたのむ人もふえる。
大隈重信、外相に就任し入閣(東日)。
上野に可否《コーヒー》店が作られる。一杯、一銭五厘《りん》で、牛乳入りは二銭。
所得税、実施。年間収入、三百円以上に、一から三パーセントの累進課税《るいしんかぜい》。これまでは地租と間接税だけでやってきた。
東京見物に来た夫婦。みやげ話にと吾妻《あづま》橋の厚さをはかろうとした。巡査は身投げかと思い「早まるな」と注意(東日)。
外国からの観光客。大阪での淀川《よどがわ》や山々の眺めは優美、京都にまさると(大阪日報)。
サンフランシスコに、日本人用のホテルを作り、移住者の世話もする計画(毎日)。
天気予報をのせる。百発百中ではないが、見ないよりいい(時事)。傘などの絵つき。
大阪の商家の子弟、洋行する者が多い。交易のために(大阪日報)。
電信線を鉄から銅にしたら、調子がいい。いずれ、すべてそうなるだろう。
ビールを生産すれど、ビン不足。その製造会社の開業を待ちかねている(朝野)。
枢密院《すうみついん》が出来、伊藤博文が議長に。後任首相は黒田清隆(東日)。憲法制定のため。
帝国の字をつけるのが流行。大学、工業会社、掃除屋まで。多くておぼえにくい。
日本銀行が紙幣を発行しているが、その裏付けの金銀を見た話を聞かない(朝野)。
福沢諭吉、女優の必要を話し、市川団十郎は、二人の娘にやらせる気になる(東日)。
「君が代」の現在の曲の楽譜。海軍省より外交関係のある諸国に送付。
神奈川の海岸の海水浴。男女の場所を区別して、違反者は罰する(東日)。
会津の磐梯山《ばんだいさん》、大噴火。死者多数。
警察へ電話をとりつけるのは便利のようだが、東北出身の人と、南九州出身の人と、話が正しく伝わるだろうか(東日)。
東京で、洋服姿の女性が半減。胃に悪いらしいと。コルセットになれてない(東日)。
長崎の高島炭鉱の、悲惨な労働条件が問題となる。雑誌「日本人」に、坑夫になりすました者の手記がのり、世に知られた。
米国で発行の邦字新聞「世界の魁《さきがけ》」は、治安を乱す内容があり、輸入禁止(郵便報知)。
九月末。森林太郎ドイツ留学を終えて、帰国。それを追って、エリスなる女性が来日。
大阪で明治浪人会の集りがあった。条例違反、官吏をなぐったなど、反政府の裁判を受けたのが入会資格で、二十二人(東日)。
新皇居が落成。宮城《きゆうじよう》と呼ぶ(東日)。
官報では親王の配偶者を、御息所《みやすんどころ》と称しているが、やがて妃殿下に統一されよう(朝野)。皇室典範は、枢密院でほぼ決定。
新潟県で、四十歳で殺された男の遺族。人生は五十年、十年分の収入に相当する金を払えと犯人を訴え、そう判決が下る(高知)。
日本・メキシコ間で、対等の通商航海条約が調印された。利害関係のないためか。
大隈外相は、関税権など条約改正のため張切り、これが第一号の成果。
資生堂が国産の、ねり歯磨を発売。陶器の容器入り。粉のは以前からあったが、歯を磨く人はあまりいなかった。
クリスマス・カードが輸入される。
山梨県下のブドウ。収穫は多いが運送が不便で、利益が少ない。ブドウ酒の製造に成功したので、産業として伸びるだろう(東日)。
千葉県会の議員。議長に不満で辞職を表明したが、引きとめられる。二日後、会わす顔がないと、ヒョットコ面《めん》で入場(東日)。
この年。スコットランドの獣医ダンロップが、空気入りタイヤの特許を取る。病弱な息子の三輪車用にと。しかし、その権利は安く売ってしまった。
アメリカの電信技師パーカーが、二十四歳で万年筆を改良し、大量生産をはじめる。イーストマンが、コダック・カメラを量産し、写真が大衆化する。
ヨハン・シュトラウスが『皇帝円舞曲』。
ロンドンで「切り裂きジャック」の連続殺人事件。
●明治二十二年(一八八九)
政党大会がふえ、政府は各府県に秘密探偵《たんてい》を置く(東日)。記事になっていいのか。
東京株式取引所。その株主に対して、五割四分の配当(東日)。
造幣局の英人技師、帰国。明治二年以来、やっと日本人だけの運営となる(大阪毎日)。
赤坂に弁慶橋が作られ、擬宝珠《ぎぼし》の飾りがつく。むかし弁慶小左衛門という棟梁《とうりよう》がいて、彼の作った堀の上なので(読売)。
二月十一日。憲法発布。国内、お祝いの声があふれる。国旗は売り切れ、酒も値上り。衆議院議員の選挙は、翌年に。
西郷隆盛は朝敵の汚名が消え、正三位《み》が贈られた。政治犯、追放者も自由となる。
文部大臣・森有礼《ありのり》が西野文太郎に暗殺される。西野もその場で殺され、埋葬役の二人が衣服をはぎ、発覚して逮捕された。
地方の資産家、先祖伝来の田畑を売り、票を買収しようとする者が出る。貧富の差をへらすので、いい傾向との説も(東日)。
東海道の鉄道がつながり、新橋から京都まで、わずか十七時間で行けるようになった。
後藤象二郎は民権派だったのに、逓信大臣で入閣。怒り暗殺しようとした者、逮捕。
その後藤邸にて、蓄音機の吹込みの会。百人一首や笛の音など(郵便報知)。
土地を国民に平等に分配せよとの主張者。過激だと、発言禁止を命じられる(時事)。
東京に馬車会社。製造をし、また臨時や長期の貸し出しに応じる(時事)。
条約改正の大隈外相の案が「ロンドン・タイムズ」に掲載された。外人被告の時、外人判事を使う件で、賛否両論が起る。
幼児を貸す商売が流行。乞食《こじき》や行商の時、連れていると同情してくれるので(都)。
暑さを避け、大ぜいの外国人が比叡《ひえい》山でキャンプ(東日)。文明人らしくなく異様だと。
東京市会、開かる。会期をのばし、収入をふやそうとする市会議員が出るかも(東日)。
大演習を見たドイツ軍人の日本将校の評。事態を安易に考える。末端まで指揮をしたがる。むずかしい言葉を使いたがる(朝野)。
海軍の軍艦旗、制定される(官報)。
新吉原遊郭の賄賂《わいろ》事件の被告たち。落着《らくちやく》の時に、判事、検事、弁護士、新聞社員ら関係者たちの像を、上野に作る計画(東日)。
来島恒喜《くるしまつねき》、大隈外相の馬車に爆弾を投げ、自決。大隈は右足を切断したが、生存。「これで血のめぐりがよくなる」と話す。
コーヒーを宮崎県で育てる試み、不適と判明。種子島でのレモンは生長(東日・ほか)。
日本製のワイン、スペイン万国博で金賞。
金銭の代りに飲食切符を売り、料亭でバクチを催した一味、逮捕される(郵便報知)。
この年。アメリカのオーティス社、ニューヨークのビルに電動エレベーターを設置。シンガー社が、電動ミシンを発売、百万台を売る。「ウォール・ストリート・ジャーナル」が創刊された。
パリ万国博で、エッフェル塔が作られた。
ベルリンのコッホの研究所で、北里柴三郎が破傷風菌を発見。
●明治二十三年(一八九〇)
米人のブライ記者が、日本を通過。『八十日間世界一周』に挑戦《ちようせん》。大西洋、欧亜大陸を横断し、一月七日、横浜出航。七十二日の記録を作る。新聞の読者増をねらって。
新聞用達会社が設立される。通信社と広告代理店を兼ねたもの。
外賓案内会社が設立される。通訳、ガイド、ボーイ、コックを養成する(時事)。
鉄道線路に屋根は採算にあわないと、米国より除雪車を輸入(東日)。
東京・横浜間に電話が開通。貿易会社にすすめたが、まだ加入者がない(中外商業)。
金鵄《きんし》勲章の制度が出来る(官報)。
熊本県のある村の娘。縁談が二つあり、待ちかねた一家が連れ出して三三九度。他の一家が抗議し、ついにくじ引きで(郵便報知)。
キリスト教徒の廃娼運動さかん。在日のベルツ博士は存娼論の演説をした(朝野)。
議会の貴族院議員になりたく、貧乏華族をさがし、養子になろうとする者あり(中外)。
在米邦人の白人女性との結婚に、モンゴル人種だからと役所で許可が出ない(中外)。
日清両国の海軍力。仏国との海戦の体験がある上、質量ともに清国優勢は明白(東日)。
開国の時の話題の女性、唐人お吉。下田の川で投身自殺。
東洋英和女学校に、二人組の賊が入り、カナダ人の校長、ラージ夫人を傷つけ、その夫を殺害。犯人はあがらず。
上野での博覧会の宣伝に、公園内のレール約四百メートル、電車を走らせた。
森〓外《おうがい》『舞姫』を発表。エリスという女性を登場させ、話題性をねらう。
新宿の貯水池で浄化し、市内に供給する水道事業。工事を開始(中外)。
条約改正について、だれも議論しなくなった。衆議院の選挙が先決なのか(東日)。
電球の炭素線、日本産の竹なのに、製造法不明。それに成功した技師あり(朝野)。
電柱への広告。産業振興にもなり、許可を受ければ、やってもよい(時事)。
大阪の骨董《こつとう》店、英米仏へ仁王像を三十六対《つい》も輸出したが、まだ注文があり、新しく彫刻させて売るつもりと(東日)。
大阪の連隊で、ある兵隊。夜の便所でお化けを見て声が出なくなったと、仮病。軍法会議の結果、罪にならずとの判決(東日)。
横浜の娼婦、代金の請求に米人宅へ行くと、出てきた夫人になぐられた。抱え主は商品に傷をと抗議し、金と謝罪書を取る(東京朝日)。
長野県の人、東京は軍艦に砲撃されるおそれありと、松本市への遷都を提唱(朝野)。
七月一日。第一回、総選挙。十五円以上の納税をした、二十五歳以上の男子が有権者。
全国の合計、四万三四七四票。定員の三百名が選出された。
浅草で、蓄音機により役者の声を聞かせ、多くの客が集る(時事)。
米国船にやとわれた渋谷という男。ニューヨークで水夫とけんか、殺害。死刑の判決あり、電気椅子による第一号となるか(毎日)。
浅草にレンガづくり十二階の、凌雲閣《りよううんかく》が完成。見はらしよく、人でにぎわう。
エッフェル塔のまねなり。
芝の家屋に、男が十歳の長女と七歳の長男を連れ、越してきた。夜中に火鉢、鍋など、家具や食器が浮揚し、眠れない(東京朝日)。
十月末、教育勅語(官報)。
議会の召集が近いのと、関連があってか。当時、あまり世の話題にならなかった。
明治時代の詔勅、合計二千を越える。
帝国ホテル、新築されて開業。ライトの設計によるのは、大正十二年に改築したもの。
能面が欧州で好まれ、高い値で流出している(読売)。国内では、さほどでない。
十一月末、第一議会が開会。なれていないので、進行に手ちがいが多い(東日)。
早くも「だまれ」の声が。議席の机に書類をつみ重ねたまま帰る者も。
新聞記事にのると、その自宅の近くで大声で売る。自殺者の遺族など、大迷惑(朝野)。
外国船が、清国から労働者を大量に連れてくるので、横浜での失業がふえる(あづま)。
来日の英人、横浜で気球で上昇し、落下傘《らつかさん》で飛びおり、見物人たちを驚かす(東日)。
世界的なインフルエンザ、日本にも及ぶ。かかる人は多いが、死者は少ない(毎日)。ビールスの知識のない時代、不安だったろう。
この年。
アメリカで乾電池、ピーナッツ・バターが商品化される。サイ・ヤング投手がプロ野球に入り、以後二十三年かけて、五百勝の記録を残す。ロサンゼルスの人口が、五万人に達する。
イギリスで、リプトンが「高級で安い」を看板に、紅茶業界に進出。ロンドンでは、地下鉄が開業。
画家、ゴッホ、拳銃自殺。三十七歳。
●明治二十四年(一八九一)
電話での新年のあいさつ、流行。
壮士におどされる代議士がふえ、護身の拳銃を議場にまで持ち込む者も出る(東日)。
保安条例で、危険壮士を東京から追放。
小鳥の剥製《はくせい》の輸出が、十万羽を越える。農村の産業に成長(国民)。
前年に米国で判決のおりた、殺人犯の渋谷という男、絞首でとの願いもむなしく、エレキ椅子で処刑。史上、二番目なり(毎日)。
評論と文章で名を残した、中江兆民。代議士だが、酔って議席で眠りこむ。
まだ成果をあげないのに、議事堂焼失。衆議院は学校の講堂を借りる(東日)。原因は、電力の消費による高熱との説が出る。
電灯会社は、名誉回復の訴訟を起す方針。
吉原遊郭。高い電気料に困っていたが、これを口実に、石油に戻す店がふえる(都)。
宮中も電灯を廃止。ヒノキ造りなので燃えやすいため、万一を考えて(都)。
電話でも火事になるのではと、問い合せる者が多い。コレラの伝染はとも(郵便報知)。
徳島県のある村、地租の値下げの請願書を貴族院へ提出。三万五千人の署名つき。並べると二里(八キロ)以上になる計算(東日)。
明治美術会で「裸体画と風紀問題」について討論。その二枚の絵は、いずれも幼い男の子の草刈りと、牛にまたがった姿(東日)。
宮中に勤める者。上等な服を制定しなければ、給仕とまちがえられると申し出る。
天皇。給仕の服をさらに質素にすればと。
公卿の出で維新に功績のあった三条実美。インフルエンザに感染。五十五歳の高齢のため、ベルツの手当てもむなしく、死去。
その寸前に、正一位。生存中に受けたのは史上、五人目。ここ千二百年なかったこと。
衆議院は、政府提出案をすべて修正。議事堂再建予算だけは、たちまち通過(東日)。
東京・練馬《ねりま》はタクアンが名産。注文がふえて、肥桶《こえおけ》をも利用。問題となる(都)。
駿河台に、ニコライ堂が完成。のちに震災にあうが、ほぼ同様に修復。現在に至る。
婦人に紺《こん》の足袋《た び》が流行。足の白さをひきたて、品がいいと(国民)。
辻村《つじむら》という男。使い込み、逮捕、脱獄。上京して改名、法律学校で学び、判事の職につく。故郷の長崎に転任となり、発覚(郵便報知)。
シカゴ在住の高峰譲吉博士、日本のコウジで作る酒会社を創立。原価が安くなる。
最初は九州の新聞記事。西郷隆盛の生存説が話題に。敗戦のあと、ドイツ人と船で外国へ。近く来日するロシア皇太子と共に帰国とか。会った人も出るが、否定論もさかん。
天皇。隆盛が戻ったら、西南の役《えき》での勲章を、将校たちから取り上げようかと。
隅田川ぞいの店、国会汁粉《しるこ》を食べさせる。セイフ餡《あん》、シュウセイ餡など(日本)。
ハルという十六歳の美少女。ニューヨークで踊りを公演。好評で、習う者が多い。わかりやすさが特色(朝野)。
壮士は、つまらぬ。美女に演説を教え、政治活動をさせよ。その養成所を作る計画(朝野)。
ロシア皇太子、長崎より大阪、京都へ。各地で歓迎される。大津で、抜刀した津田という巡査に斬りつけられ、頭を負傷。
天皇、ただちにお見舞い。なんとかおさまる。津田は相当する法律がなく、無期刑。
この決定をした児島《こじま》大審院長は、事件の五日前に就任したばかり。
ロシア皇太子のニコライ二世へ、謝罪と慰問の手紙が一万通。日本的感情の翻訳が、大変(朝野)。
この皇太子はのちに皇帝となるが、革命により、家族とともにシベリアで殺される。
丸の内の陸軍関係の建物、移転。岩崎に払い下げられるが、利用案なく、草ぼうぼうの無人の原野。さびしい光景なり(朝野)。
夜中に、宮城内より数発の砲声。ふえすぎたカラスを、追い払うためだった(国民)。
日本で最初の、靴みがき業が出現(国民)。東京は道路がひどかった。
貧しい家庭の婦人の内職、髪結《かみゆ》いのほかは一日ずっと働いて、十銭(朝野)。
総理大臣の年俸、九千六百円(官報)。
タスマニアに旅した日本人、石碑の苔《こけ》を除くと「銭屋五兵衛の領地」の文字あり。英人が来て撤去。五兵衛は徳川時代、手びろく密貿易をし、獄死した人(読売)。
シンガポールで「賃銀の安い日本人の出かせぎ、百人が来る」との広告。東南アジアでのこの現状は、うれうべきこと(国民)。
ネコ会社の計画。ふやして上等なのは輸出に。劣るのは皮は三味線、毛は織物、肉は肥料に。ネズミをとるのは、賃貸し(読売)。
独身ぐらしの男性に、月三円で、土曜から日曜にかけての、女性派遣業がはやる。
十月一日。外国の王族へ危害を加えた行為への刑の法案を作成。同日、犯人の津田、北海道の網走《あばしり》にて死去。
清国の社会が不穏。外国人とキリスト教への反感が高まる。役人の腐敗も一因(東日)。
明治になり昨年までの二十三年間。公布された法律法令、三万を越す。一日に三・五件の割。なんたること(濃飛日報)。
十月末。名古屋地方で、震度八・四の大地震。死者七千、倒壊家屋は十四万戸。名古屋から「岐阜なくなる」の電報あり。
幸田露伴、小説『五重塔』を発表。
このころ「どうする連」が流行。竹本綾《あや》太夫《だゆう》という美人で美声の女義太夫に熱中、書生たちが芝居小屋にかよいつめ、さわりで「どうする」と声をあげる。取締りの対象に。
天変地異の年は、柿《かき》のタネの上下が逆になるとの言い伝え。本年、その傾向があり、珍しさで、柿の実がよく売れる(東日)。
議事堂、新築落成。焼失から十ヵ月。一般に開放したら、見物人、三日で十万人以上。
第二議会、開会。一部で失火。すぐに消したが、念のためにとストーブをやめ、各議員に湯タンポを渡す。
そのかわり、枢密院の本館が全焼。
樺山《かばやま》海軍大臣、答弁で「日本の今日あるのは、薩長内閣の功績」と言い、議員に「天皇と国民を無視」と、かみつかれる(国民)。
ついに、衆議院、解散。
書生にはじまり、尺八が流行。ハーモニカが輸入される。
この年。アメリカン・エクスプレス社が、独自のトラベラーズ・チェックを発行。
ニューヨークにカーネギー・ホールが落成し、チャイコフスキーがロシアから来て、指揮をした。
果物や野菜の高級缶詰が、デル・モンテの商標つきで発売される。もとはホテルの名。
ロシア政府、皇帝の許可を得て、シベリア鉄道の建設に着手。
●明治二十五年(一八九二)
政府支持の吏党の看板は、産業振興。民党のは、冗費節約、民力休養の減税。どっちも悪いと言うのは、あいまい党で、調子のいい側につくつもりの人(郵便報知)。
下賜《かし》された木杯を、自分は禁酒主義と、返上した人がいる(朝野)。
資金に困った民党の首領、長崎のカソリック教会から五万円を借りた。勝った時の、布教の保護を条件に(東日)。
無責任で、許しがたい記事だ(毎日)。
政府、予戒令を公布。粗暴の言論、集会の妨害などを禁ず(官報)。
高知県、石川県をはじめ、各地で政治対立が激化。拳銃、刀などを使う。軍隊も出動。全国の死者、二十五。負傷は四百人弱。
二月十五日の選挙結果。独立や無所属が多く明確でないが、やや民党が優勢。
京の祇園《ぎおん》の美女たち、奈良の大仏へ参詣。よだれかけを寄進。あたしたちを見て、よだれをたらすはずと(読売)。
毎朝新聞の発刊、ご発展を(国民)。こういう名の新聞が実在したとはね。
岐阜県のある村。料理屋にやとわれている女性が、妖術《ようじゆつ》を使う。客の男は魂を奪われたようになって、財産を失い、家族と別れることになるのが多い。
亭主がそこへ入りびたりになった妻が、盗難届を出した。警察の手で、夫を取り戻して下さいと(読売)。
検事や判事など司法関係の高官が、料亭で芸者をまじえ花札で賭博《とばく》をしたとのうわさ。証拠不充分で不起訴だが、辞任者は出た。
その芸者を見たがる客が多く、おかげで思いがけない人気と収入(東日)。
東京で眼鏡が流行。おしゃれ気分だが、眼鏡をかけた赤ん坊の、外人による絵が残る。
はおりや着物の紋、男女をとわず大きくするのがはやる(濃飛日報)。
平清盛《たいらのきよもり》の旗なるもの、徳川家に伝わる。赤い絹に「九億九万七千七百七十二神将」と書かれているが、意味不明(読売)。
狩猟法、成立。ツバメ、ツル、ヒバリ、キツツキなどの鳥と、一歳未満の鹿《しか》が禁猟。
衆議院、条約改正上奏案を決議(東日)。これで進展するのなら、簡単なのだが。
東大寺の大仏殿の修理のため、参詣人が料金を払えば、鐘を一回つかせる(読売)。
福島安正中佐、ベルリン勤務が終り、馬とともに単身でシベリア横断に出発。四八八日の苦労の末、ウラジオストックに到着する。
石鹸や化粧水が流行。各種の品が作られ、売行きも業者が驚くほど(郵便報知)。
壮士のなかに、実業家を攻撃し金銭を要求するのがふえ、取締る法令が出る(時事)。
海軍技師の下瀬雅允《しもせまさちか》。外国の火薬を分析して、製造に成功。下瀬火薬の名が残る。
旧和歌山藩士の、神野という老人。百九歳なのに元気で泳ぎ、みな感嘆(国民)。
在日三十三年、日本の近代化に功のあったヘボン博士、老齢のため米国へ帰る。七十七歳。長命で、さらに九十六歳まで生きる。
大阪で、興信所が開業した。企業や個人の信用調査を、引き受ける。
東大教授・星野恒《つね》「史学雑誌」に、豊臣秀頼《ひでより》は落城後、薩摩へ脱出の説を紹介。
開始された小包郵便は好評で、東京では一日に十個も。人にたのむより、役所を利用したほうが、安くて確実(東日)。
社会に活気を与え、景気向上のため、賭博公認を求める演説会の広告が新聞にのる。
大分県の村で、母の眼病の治療にと、妻を殺して肝臓を取った男。妻の浮気に立腹してとの説もある(朝野)。
仏国製の日本の砲艦、千島。瀬戸内海で英国船と衝突し沈没。死者七十余名(国民)。
衆議院、侮辱する記事を掲載したと、東京日日新聞の告訴を決議する。
議員たち、大臣や役所の悪口は言いたいほうだい。自分が言われると告訴とは、なんだ(東日)。
自称・北斎の三代目。洋酒屋の看板に、グラスから出る幽霊を描くのが得意(読売)。
この年。シカゴのセールスマンのリグレーが、チューインガム販売をはじめる。
イタリア人のカンパリ、食前酒を製造。
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』を発表。
●明治二十六年(一八九三)
京都の三十二歳の男。餅《もち》を元日に七十五、二日に七十六、三日に七十七個も食い「これぐらいで」と残念そうに箸《はし》を置く(読売)。
京都で国会芝居が上演され、大受け。どなり、ヤジ、反対、なぐりあいなど(東日)。
投書。商店の小僧は、一月と七月の二回の休日のみ。道草や、忍び出ての夜遊びをすることになる。ご一考を(時事)。
東京・日比谷の練兵場跡が、公園となる。
ハワイ。米国の影響が増大し、革命でリリオカラニ女王は退位。共和制となる。この女王は「アロハ・オエ」の作者といわれる。
議会で、軍艦予算を削減。詔勅が出て、皇室費を節約し、六年間の援助をと。官吏の給料も一割を提供となる。議会も、そのための予算をみとめざるをえなくなる。
三重県の御木本《みきもと》幸吉。うどん屋の子で、外人相手に商売をし、真珠の養殖に成功。
奈良県のある村の男。墓から幼児の死体を掘り出し、焼いて食う。禁錮《きんこ》三ヵ月(朝野)。
楠木正成の子孫は申し出よと、宮内省。五十名が出現したが、どれも怪しい(東日)。
本当の子孫と思い込む、神戸の男。上京と運動費のため、娘を遊郭に売る(東日)。
広島県のある村。妻が犬神つきとなり、なおらない。夫と息子が、犬神社へ連れていって、焼き殺した。裁判でどうなるか(東日)。
朝鮮で農民が反乱。日本と清国、自国民保護にと、仁川《じんせん》へ二隻《せき》ずつ軍艦を入港させる。
ラフカディオ・ハーン。小泉セツと結婚、日本に帰化し、小泉八雲となる。
ドイツより帰国の北里柴三郎、芝に伝染病研究所設立の計画。住民が反対運動(東日)。
東京弁護士会が創立。予想どおり、発言者が多く、大声ばかりの混乱の会議(東日)。
神戸で、国産の蒸気機関車の第一号。
清水次郎長、死去。遺言「人生で得たのは傷あとだけ。若者は暴力に自省を」(朝野)。
カナダ船の日本人乗員、タルに入れ女性を密輸出しようとし、税関で発覚(東日)。
大分県の男。放火で十三年の刑。再審を求め、十年がかりで無罪の判決を得る(東日)。
祝日大祭日の儀式唱歌。「君が代」が、その第一に選定される(官報)。つまりは国歌。
関西の紡績会社。新入工員を二つに分け、二週間と限っての生産競争。高い賞金で、だれもが熱中。あまりのことに、重役はあわてて、双方に金を与え中止に(東日)。
九月二十九日は、巳《み》の年、巳の月、巳の日で金曜。金もうけの祈願、各地で(東日)。
大阪の高橋という技師、電灯計を発明。使用した電気の時間がわかる(毎日)。外国の発明の流用か。これまで同一料金だったのか。
文学の分野が不振だというが、さかんだった時期などない。これからの問題だ(毎日)。
貴族院のある会派、政府の味方をしても謝礼がないので、反対党になるかと(毎日)。
海軍の郡司成忠《ぐんじなりただ》大尉、千島列島調査隊を作り、東京を出航、長期滞在し、気象観測。
無条約の国の民でも、外人は外人だ。指定居留地に住むべしと指示(東日)。
徳島県のある村の、男の赤ん坊。生れて二十日で下の前歯が生え、飯やイモを食い、酒を与えたら、喜んで飲んだ(読売)。
札幌農学校の管理、開拓使から文部省に移される(官報)。各官庁の行政整理がなされ、わかりやすいものとなる。
赤痢《せきり》が関西から関東へひろまり、全国の患者、十万を越す。治療法不明で、明治時代の死亡率最高の病気。
旧会津藩主・松平容保、死去。五十九歳。京都守護職となり御所を警備し、維新で朝敵とされ、悲惨な敗戦。晩年は東照宮の宮司。
日本郵船、インドのボンベイまで、航路を延ばす。
オーストラリアに出稼ぎの日本人、外国人のなかで、勤勉と清潔の点で、最もまさる。英語を学ぼうとし、農業以外の各種の仕事にも適す(ロンドン・タイムズ)。
米人が横浜に、時計会社を作る。日本人の器用さを活用して製造、輸出も計画。両方の利益となる(東朝)。現地企業の先駆。
警察の密偵は、泥棒、スリ、バクチなどの犯人は捕えるが、政治犯は苦手《にがて》。学識不足の上に、交際費も不足(中央)。
明治八年に開始した、郵便貯金。その人数が百万人を越えた。
この年。
アメリカのシカゴで、万国博。直径八十メートルの、世界初の大観覧車が評判。展示のチョコレート製造機を、ハーシーが買って量産を開始。日本館は、お茶の味を宣伝。
ノルウエーの画家ムンクは『叫び』などが認められ、フランス留学の資金をもらう。
パリでは、ロートレックが石版画のポスターを製作。キャバレー用のと、日本の浮世絵三百点の展覧会のものと。
昨年末より滞米中の、チェコの作曲家ドボルザーク。交響曲『新世界より』を発表。
ニュージーランドで、女性にも投票権。世界で最初の国となる。
●明治二十七年(一八九四)
米国の下院に、ハワイ国統治権の買収案を主張する議員が出現(時事)。
ハワイの人口。原住民、五万。日本人、二万。清国人、一万五千。米国人、二千。
東京市内の紙屑《かみくず》ひろい、約九百人。早朝より深夜まで歩き、生活費とする(国民)。
岩谷というタバコ業者、東京の乞食のなかの健康な男女を、製造職人に採用(読売)。
天皇、皇后。ご成婚二十五年の祝典がなされ、大臣、外国の公使などがまねかれた。
記念切手が、外国人に好評(時事)。
祝典の日に岡山県の村で飛ばした気球、二十日がかりで山梨県の村に落下(時事)。
京都での正午の号砲は、山での反響が大きすぎる。お寺の鐘をつくことに(郵便報知)。
浅草の見世物小屋。防腐剤を注入した、大鯨が陳列された(時事)。
日英の新条約が成立(時事)。不平等条約改正、ひとつ前進。
新橋・上野間に、高架で鉄道を走らせる計画。人馬との立体交差のため(時事)。
香港でペスト流行。北里柴三郎博士、出張し、ついに病原菌を発見する。
韓国の農民が反乱。清国が兵を派遣し、日本も出兵(時事)。日本の政府は議会と対立、何度も解散。国民の目を外にむけさせたいと、苦慮していた。
六月二十日、東京に地震。官庁の洋風建物に、被害が多い(時事)。
京都で飼犬に保険をかける会社、保犬会社が作られた(読売)。
清国。強硬派の意見が通り、韓国にいる日本兵に大軍を進める。軍艦も出動。
八月一日。日本、清国に宣戦。
清国も。わが属邦を保護するためと。
東京湾に、防備のため機雷を敷設《ふせつ》。赤色灯にて、場所を明示する(時事)。
キリスト教徒、戦争への協力のため、全国的運動を開始(郵便報知)。
戦争の絵が売れ、オモチャ屋にサーベル、ラッパが並ぶ。講談や落語で、戦争を大げさに話さないようにと注意がされた(時事)。
広島に大本営を進め、天皇、首相と陸海軍の大臣、その地へ(時事)。
戦争での兵器や艦艇の実情見物に、欧米より二十数人が来日、帝国ホテルへ(国民)。
黄海の海戦で、日本艦隊、清国艦隊に大勝利(時事)。清国の艦は、外見は立派だが、性能でかなり劣っていた。
赤十字の看護行動『婦人従軍歌』(国民)。
火筒《ほづつ》の響き遠ざかる
あとには虫も声たてず……
議会、広島にて開会。天皇より勅語。政府の議案は、一日ですべて通過(時事)。
父の星一《はじめ》、勉学のため横浜より渡米。
日本軍、鴨緑江《おうりよくこう》を渡り、清国領へ。遼東半島《りようとうはんとう》の旅順、大連を占領。
勝利を祝し慶応義塾の学生、タイマツ行列。二重橋まで進み、万歳を叫ぶ(時事)。
この年。米国が、清国からの移民数を制限する。テキサスで油田を発見。
ロシア皇帝、死去。日本で負傷したニコライ二世が、あとをつぐ。
ユダヤ系のフランス陸軍大尉、ドレフュスに、スパイ罪の判決。人種偏見のため。
画家、ビアズレーの本が出版された。
●明治二十八年(一八九五)
清国、講和使節の人選にかかる。日本の反応をさぐるためか、ゆっくりと(東日)。
戦いも順調で、新年ともなり、新橋の料亭は、景気をとりもどす(東朝)。
本年に入って、大勝利、かちどき、万歳などの名のついた商品がふえる(経済雑誌)。
奥様と呼ぶのがはやる。殿様・奥様。旦那様・ご深窓《しんぞう》様。ご亭主・おかみさん。この組合せが正しいのに(経済雑誌)。
社説。坪内逍遙《しようよう》君は、シェークスピアの劇の全部の翻訳をすべきだ(毎日)。
広島県、ある村の男。ヘビ、カエル、各種の昆虫を好んで食べる。変なやつだ(報知)。
神戸から帰っていった清国人たち、あっちはつまらないと、つぎつぎに戻る(報知)。
清国の北洋艦隊、損害多く、降伏。
指揮官、丁汝昌《ていじよしよう》は服毒自殺。
仏国人記者の談。日本軍は規律よく、行動に乱れがなく、優秀だ(報知)。
丁汝昌は、香港の英国生命保険に加入していたが、自殺のため、その三万ポンドは支払われない(毎日)。
戦争以来、各地の写真館は、人物撮影で思わぬ利益をあげた(毎日)。
米国の仲介で、清国から李鴻章《りこうしよう》が講和全権として下関に到着。日本側は伊藤博文首相、陸奥《む つ》宗光《むねみつ》外相。
小山という暴漢、李鴻章を短銃で撃つ。軽傷だが、お見舞いのため勅使が派遣された。
米国は日本の勝利を喜び、婦人たちに和服がはやる。妙な姿だが(国民)。
日本艦隊、台湾の西の澎湖《ほうこ》島を占領。
夜空に大流星。愛媛県に隕石《いんせき》が落下。
第二師団の兵十三人に、逃亡罪で軍法会議が判決。軽禁錮《けいきんこ》三月から三年の刑(日本)。
京都の博覧会で、黒田清輝《せいき》作の裸体画が問題となる。賛否両論あり(東日)。
小学校教員が、自宅で教えるのを禁ずる。不公平になり、運動不足にもなる(日本)。
講和条約成立。朝鮮の独立。遼東半島、台湾、澎湖島を日本領に。賠償金、二億両《テール》。諸外国と同様の貿易の権利。
独、仏、露の三国の干渉で、遼東半島の返還となる。詔勅を発布。欧州諸国は意外と思いつつも、日本の物わかりのよさに好感。
日本陸軍、台湾に上陸。台北に総督府を置く。前途多難か(東日)。
台湾近海で、日独の艦隊が交戦との記事。虚報とわかり取り消し(東日)。
ロシアとフランス、賠償金のため、清国に金を貸す(東日)。
屈辱外交を批判の演説会。どの弁士の発言も中止を命じられる。詔勅を読みはじめても中止となる(日本)。
遼東半島返還とかけて、セミの声ととく。心は、つくづく惜しい(読売)。
女剣舞がはやる。少年少女による楽隊が作られ、制服でマーチ、ワルツなど演奏。各所から呼ばれ、人気がある(女学雑誌)。
ハワイの日本移民、工場でも働く。だが、戦勝でいい気になり、白人にいやがられる。
東京市内に、甘酒の露店がふえる。酒や麦湯だと、許可が必要なので(都)。
山陽鉄道で、列車が海に突入の大事故。百三十名が即死。主に帰還負傷兵(東日)。
鎌倉・七里浜・藤沢間の鉄道建設に着工。のちの江ノ島電鉄。
捕虜の日本兵、清国が十一名と報告。もっと多いはずと、調査を要求(時事)。
富士山頂に測候所を作り、年間の記録が可能となる。野中至氏の私費による(毎日)。
英人十七名の救世軍、来日。軍隊の組織をまねた、キリスト教の一派(日本)。
東京美術学校に、各地から銅像の注文が多い。日蓮上人《にちれんしようにん》、豊臣秀吉など(読売)。
新聞記者と称し、金をせびる男、五人を逮捕。なげかわしい(時事)。
日本橋区に住む人、野犬に残飯を与えていたら、ある日、札束をくわえてきた(東朝)。
町を走る路面電車、京都で開通。日本ではじめて。
東京の神田に、ローラースケート場が出現した。車滑りと呼ぶ。
遺言により、死体を解剖用に提供した者。東大医学部長・小金井博士、骨格を永久保存す。
外国人が株主となるのは禁じてないが、土地の所有は条約でみとめていない。株を持てば、間接的に所有となるのでは(国民)。
三菱合資会社に、銀行部が新設された。
樋口《ひぐち》一葉『たけくらべ』を発表。
かつては岩倉様など敬称をつけたが、最近は首相を呼び捨てにする(経済雑誌)。
青山光子、オーストリア公使のクーデンホーフ・カレルギ伯と結婚。翌年ウィーンへ。
遼東半島の返還の代償とし、清国は日本に三千万両《テール》を支払う(官報)。戦争償金とを合計すれば、二億三千万両。その一割は、すべて小学教育のために使う(国民)。
札幌のある夫婦。本年中に六十八回の別居と、仲直り。どういうつもりか(都)。
この年。米国。ニューヨークにピザの店が出現。ケロッグがコーンフレークを製造。ジレットがかみそりの薄刃を製造。コダック社が小型カメラを発売。ハーストが各地の新聞を買収。
仏国のプジョー兄弟、荷物輸送の自動車を製造。独国のベンツが乗合自動車を製造。ディーゼルが新エンジンを開発。
英国でH・G・ウェルズがSF『タイムマシン』を発表。
●明治二十九年(一八九六)
貴族院議員は上流の人ばかり。歳費不要の提案をした者がいたが、否決(日本)。
特許法を施行して十年。出願は一万に達したが、くだらないものばかり(時事)。
東京の水道料金。世帯の人数を基準にするより、建坪に比例の方が合理的だ(国民)。
日本郵船、欧州までの就航を発表。突然すぎ、乗客は二人で、積荷も少ない(国民)。
歌舞伎座《かぶきざ》で、娘道成寺《どうじようじ》の踊りの音楽に、ピアノを加えた。評判がよくない(朝日)。
正岡子規、ベースボールのルールの解説文を連載(日本)。
島根県で慈善講と称し、私的な富くじを多量に売った連中、逮捕される(東日)。
原料を清国より輸入、ブラシに加工して輸出する産業、大きな利益をあげる(国民)。
酒税法の改正。ミリンも酒なり(官報)。
昨年末にドイツのレントゲンの発明によるX線装置、日本に。東大で魚や小動物、財布などを撮影した写真を展示した(報知)。
女医、好評にて数が増加。医塾を出て開業試験に合格すれば、営業できる(報知)。
小石川の菓子屋。婦人客が米を一合ずつ持ってきて、菓子と交換。あとをつけると、金持ちで倹約家の亭主が、現金を渡してくれないので、子供に泣かれてと(読売)。
反日運動の被害者のため、朝鮮政府に十二万円の要求をする。まずい外交だ(毎日)。
広島市の遊郭に、豪華な便所が作られた。入るとオルガンの音が響く(都)。
浅草公園に、鏡ばかりで作った迷路が作られ、評判となる(報知)。
米国で紙製のヒキガエルの景品が流行。工賃の安い日本に百万個の注文が(読売)。
大山巌《いわお》の長女の信子、結核にて死去。二十歳。小説『不如帰《ほととぎす》』のモデル。
新橋、横浜駅に婦人上等客専用の待合室があるが、入りたがる男が多く迷惑(東朝)。
三陸海岸に大津波。死者は三万に近く、惨状はなはだし(東日)。
小田原・熱海間の、レール上の車を人間が引く、人車鉄道。利用者が多い(国民)。
山陽鉄道は遠くから通学する小学生に、四分の一の値段の割引切符を発行(時事)。
戦争の時、物資納入、相場でもうける人、費用の一部をかすめる軍人は国賊だ(報知)。
肥桶の自分の名の上に、勲八等と書いたのを見た。従軍者なのだろうがね(日本)。
日本軍の下で働き、戦後、日本式の兵営や訓練法の軍隊を作った清国人がいる(報知)。
「よくッてよ」の言葉がはやる。山の手の下層から、屋敷町の令嬢へと(早稲田文学)。
ある代議士。姫路師団設置を知り、仲間と予定地を買収し、不当の利益を(国民)。
ある夏の日。午後三時から四時までに日本橋を渡った数。男、一六八八。女、二一二。鉄道馬車、三三台。人力車、一二一台。荷車、二一台。日本犬、一匹(報知)。
横浜の菓子店。夜中に侵入した賊、金に目もくれず、大マンジュウを六十、餅を九十も食べ、そとへ出た時に逮捕された(時事)。
学齢未満の児童の、小学校にかようのを厳禁する(官報)。託児所ではないのだ。
盛岡に大地震。岐阜に大暴風。三重県の海岸に津波。大阪府下は大洪水(東日・ほか)。
天皇のお好きなバナナ。小笠原《おがさわら》から運ぶよりと、新宿御苑で栽培、結実に成功(読売)。
大阪の天王寺の塔の上から、若い男が投身自殺した。身元不明。仮埋葬(毎日)。
貴族院議員で某県知事の娘、千坂みつ子。美人、頭よく、英語たくみ。金づかいが派手で、離婚となる。男をあさり、詐欺をやり、そのあげくつかまる。三十四歳(時事)。
東京の電灯は、暗い。手術中に光が弱まるのは危険だ。独占事業のためか(時事)。
この年。八幡製鉄所に製鉄所官制公布、鋼鉄の主要生産国をめざす。日本車両製造会社が設立、鉄道関係を国産化する。川崎造船所会社も。日本製粉は、この分野で日本最初。
戦争償金は、産業をも振興させた。
この年。クーベルタン男爵の努力で、第一回近代オリンピック大会が、ギリシャのアテネで開かれた。
アマゾン川の千五百キロ上流の町マナウスに、大歌劇場が完成。自転車、自動車の生産向上で、ゴム園主たちが成金となったため。
●明治三十年(一八九七)
元日号より、尾崎紅葉の小説『金色夜叉《こんじきやしや》』の連載開始(読売)。大変な話題となる。
皇太后、崩御。京都で大葬。大赦もなされる。英照皇太后とお呼びすることになる。
日刊の英字新聞「ジャパン・タイムス」が発刊となる。
千坂みつ子の公判。千五百人が傍聴券を求めて押し合い、けが人が出た(毎日)。
三井・住友両家の婚儀。貨車七両で、箪笥《たんす》二十五ほかの品々を大阪より東京へ(報知)。
足尾銅山の鉱毒問題。請願のため、八百人が上京、不穏な動きとなる(東日)。
人力車の発明者、和泉要助。老いて貧苦の生活。議会で恩給支出の提案が(報知)。
奈良へ出張した役人、勅使河原《てしがはら》という男。宿帳に署名したら、勅使《ちよくし》の河原さまがと、大歓迎され、警官も来る(毎日)。
堕落書生がふえる。また「おい大将」と気安く呼ぶのがはやる(経済雑誌)。
オトウサマ、オカアサマと呼ばせる家がふえた。昔はオトッサン、オッカサン。町の子はチャン、オッカアだったが(経済雑誌)。
軍人のなかに部下の、財産家の出の兵卒から、金を巻き上げるのがいる(時事)。
大阪についで東京で、活動写真が上演された。連日、超満員(風俗画報)。
岡山県のある村。十六歳の娘が、ふっと家出。なんの連絡もないまま、九十年たって帰宅。どこにいたのか(東朝)。
英国はロシアの東洋進出と、日露の協調傾向を、警戒している(国民)。
台湾を視察の報告。すぐに利益の出るものはない。港や倉庫を整備すれば、香港のように交易基地として発展する(東北新聞)。
建物の建築が多いので、レンガとセメントの不足と値上りがつづいている(報知)。
成田まで鉄道が通じ、不動さまへの参詣者がふえ、増発してもまにあわない(報知)。
浅草の凌雲閣が、質屋の所有に(毎日)。
足尾銅山に、鉱毒を排除するよう、政府が命令(中外)。しかし、工事は不完全。
日本橋の白木屋呉服店。六月に入って三日間、朝の五時より営業。客の数はふえないが、売上げは昨年の二割まし(報知)。
米国、ハワイを併合。このままだと、日本領になってしまうと(日本)。
外国航路の日本船の船長は、ほとんど外国人。日本人は二名のみ。養成が必要(東北)。
小石川の貧乏神の神社に、参拝者ふえる。貧乏を預ってくれると解釈して(読売)。
天皇。台湾で最も高いモリソン山は、新高山《にいたかやま》に改称すると告示(報知)。
上京の学生のため、学資保管会社が開業。遊びに使わぬよう、預って監理(報知)。
台湾の住民に、賄賂の風習が残っている。日本の役人に、純金製の名刺を出す(報知)。
タバコ業の村井商会。景品が当ると宣伝して、なにも出さない。怒った群集、店に乱入し、家具や家屋をぶちこわす(日本)。
両国の花火に人が集り、欄干《らんかん》がこわれ、約二百人が川へ落ちる。九十一年前にも、同様の事件が起っている(時事)。
東京で、浪花節を演じる者が出た(太陽)。十年後に、大流行になる。
華族も、品格をそなえていれば、存在の価値がある(日本人)。三宅雪嶺の文。
浅田飴の広告がのる。ずっと使われる「良薬にして口に甘《あま》し」の標語で(東朝)。
葉書《はがき》のあて名のそばに「親展」と書いた人がいる(読売)。
長野県の飯田。精米がおくれ、米価上昇。祭りの酒に酔った連中、米騒動を開始。加わる者がふえて、警官と大乱闘に(東朝)。
植物学者の平瀬氏がイチョウ、池野氏がソテツ。いずれも精子で結実と解明。この研究は世界的に話題となる(時事)。
玩具《がんぐ》会社。米人に十二支を選ばせた。タヌキ、クマ、シカなどが混入(時事)。
手形、小切手。インクだと消せるので、墨《すみ》に限ると、三井銀行が注意(時事)。
シベリアの漁場で作業中の、日本人の漁夫が五名、射殺される(東朝)。
英国で製造の戦艦・敷島、朝日。米仏へ注文の艦も合せ、計十隻がつぎつぎと完成。
ソバが一銭五厘から、二銭に値上げ。銭湯も同様。いつも同一歩調だ。
厘の単位を、切捨てる銀行がふえた。値上げの業種も出たが、国税は減収(国民)。
ドイツ艦隊、自国の宣教師が強盗に殺されたのを理由に、清国山東省の青島《チンタオ》や膠州《こうしゆう》湾に出兵、占領する(日本)。
ロシア艦隊は、旅順を占領(東朝)。三国干渉は、なんだったのだ。
京橋の高利貸。貸金の代りに、妾を取り上げる。食事代がかかる上、手をつけて子がうまれた。養育はどうする(東日)。
資生堂薬局。化粧品の製造、販売を開始。
この年。第一回、ボストン・マラソン。
スーザが『星条旗よ永遠なれ』を作曲。
ニューヨークにアストリア・ホテル完成。
アイルランドでボイコット氏、死去。悪質な地主には、農民は共同して排斥せよと主張し、支配下の農民にそれをやられた。
●明治三十一年(一八九八)
故皇太后の喪中、正月の町に飾りが少ない。
飼犬の税、一頭につき年に二円(報知)。ソバの代金の百倍。
電話交換の仕事に適当とみなされ、多数の女子を募集(国民)。
ドイツ、青島と膠州湾の租借権を得る。
京都貯蓄銀行、倒産。預金者に京都御所の女官が多いが、どうにもならぬ(読売)。
照山鈴という男、学術講演会を開いたら、女弁士と思った客で満員。本人を見て、ヤジと文句。正巳《まさみ》と改名した(読売)。
男どうしの性行為は、犯罪とみなす。
政府はなにを質問されても「ただいま調査中」ですます。便利な言葉だ(東朝)。
愛知県のある村。ベニショウガを製造し、清国、仏国に輸出し好調(報知)。
衆議院議員に軍人がいないので、軍備問題で政府に迫れない。名案はないか(時事)。
乃木希典、行政が苦手で台湾総督を辞任。後任に児玉源太郎。実務を担当する民政局長には、後藤新平。
静岡県の三島の寺。連夜、猫念仏という会が催される。若い男女が集り、念仏のあとで雑魚《ざ こ》寝《ね》する。注意もききめなし(東日)。
旅順、大連を占領しつづけの露国、清国より租借権を得る。ああ(東朝)。
山梨県庁の役人、予算の出張費を年度内に使わなければと、旅行が多い(東日)。
論点数倶楽部が出来た。ローンテニスのクラブ。会員に政府高官が多い(報知)。
多くの新聞に、講談の速記が連載されるようになった。小説より多い(太陽)。
打ち揚《あ》ぐるボールは高く雲に入りて
また落ち来《きた》る人の手の中に  子規
東京へ遷都、三十年。二重橋前で、奉祝。天皇、皇后に、祝辞と音楽、歌、万歳。学生が多い(国民)。ほぼ十万人とか。
内務省は永楽病院を作り、貧民は無料。医術開業試験場に付属する施設なり(東日)。
不良学生が多く、寄宿校舎を作って収容。教育する計画が進行中(東日)。
米国とスペインが開戦。米艦隊、マニラのスペイン艦隊をほぼ全滅させる(東朝)。
雑誌の裸体画、発行禁止がつづく(報知)。多く売ろうと、のせすぎた傾向もある。
神戸では、開港三十年の祝典。内外の関係者、三千人が集り盛会(国民)。
天皇、物価上昇による食料難をご心配。侍従たちに、各地の視察を命じる(京華日報)。
戦死者遺族に下賜金。そのなかの女性の珍しい名を、選び出した人がいた(報知)。
うん、よて、むち、りか、うま、かつを、との、あん、けん、にわ、よえ、あり、他。
大臣の交代の時、次官が辞表を出す例があるが、慣習になってはと禁止(東朝)。
伊藤内閣、総辞職。新首相に大隈重信。内相に板垣退助。国会開設後、はじめて薩長以外の人物での内閣(国民)。
第一回総選挙から丸八年なのに、すでに六回も選挙をやった。
海外へ出て売春する日本女性。北はシベリアから、南はもちろん、西はトルコに及ぶ。
軍医学校長・森鴎外。深夜まで読書の健康法を聞かれ、一日に卵十個、牛乳三合と。作家の斎藤緑雨《りよくう》、試みたがだめ(報知)。
開国の恩人・ペリー提督の孫という男、来日。各地で歓迎会を開いたが、いつのまにか帰国。本物だったかの議論あり(日本)。
日本は花が多いから、蜜蜂《みつばち》の産業に適当だと、英米の組合からすすめられた(日本)。
自転車会の五人の男、神戸から五十三次を走り、五日目に東京へ(国民)。
東京・神田の青物市場、二百年祭。山車《だ し》や飾りを見に、多くの人が集った(読売)。
需要増加のインキ。丸善洋物店が、良質の国産品の発売をはじめた(東日)。
北京《ペキン》の政情が不安定。西太后、強力な行政が必要と摂政《せつしよう》の地位に復帰、実権を握る。
台湾神社を造営。領有の初期に陸軍を指揮し、病死なされた北白川宮の霊のため。
カナリヤ飼育のブームが去り、つがいの値段も、全盛期の二百分の一(東朝)。
野党の時は地租軽減を主張していた大隈内閣、増税の必要を言う(国民)。
北京で改革派が弾圧されかけている。日本は清国政府に、極刑は中止し温和な解決をと尽力。いくらか効果があったようだ(日本)。
清国皇帝の自殺説、暗殺説(国民)。デマ。
東京に市制が適用。市長、助役がきまる。
西欧諸国、中国利権で自分勝手な案を作成。イタリアまで。だまっているのは、日米ぐらいだ。
尾崎行雄・文相。演説会で不適当発言。辞任する。ああ、またも安易な解決(日本)。
閣内の統一を保てず、大隈内閣は行きづまる(時事)。つぎは山県有朋内閣。
ドイツ人の医師ベルツ。日本人は山歩きをし、体育にはげむべきだと講演(太陽)。
伊藤博文の夫人の趣味は、看護。病人がいると、手当てしたがる。赤十字の模範社員。芝居見物は、二年に一回ほど(報知)。
上野の西郷隆盛の銅像、除幕式。集る者、多数(東朝)。犬のモデルは、徳川家の愛犬、外国産のトラの孫とのこと(報知)。
政府案に賛成し、金をもらったと自慢する代議士。なんということ(東朝)。
この年。米国がスペインと交戦。フィリッピン、グアムを領有。
ニューヨーク、三五〇万人の大都市に。
米国の自動車の生産数。前年の百台から、千台に増加。
キューリー夫妻、ラジウムを発見。
アヘンが原料のヘロイン。セキドメの薬として、バイエル社が発売。飲み薬。
ルイ・ヴィトン、自社のマークを登録。宝石商のカルティエ、パリに店を出す。
●明治三十二年(一八九九)
新聞を発行し、十七年。全号を保存していたら、五八貫だ(時事)。二一八キロ。
勝海舟、死去。七十七歳。葬式は簡単にして、その費用を貧民救済に寄付(中外)。最後の言葉は「これでおしまい」とのこと。
男子なく、孫娘と結婚した養子の、徳川慶喜の十男が、あとをついで伯爵に(国民)。
所得税改正。累進の最高が五・五パーセント。利子には二パーセント、法人の利益には二・五パーセント(官報)。
米国に禁酒論者が多い。雇った部下にも飲酒を許さない。日本移民のなかに、酒粕《さけかす》で代用する者あり、輸出がはじまる(報知)。
関東地方で五十件の犯行の、稲妻強盗が逮捕された(時事)。凶悪と、死刑の判決。
群馬県の伊勢崎《いせざき》織が好評。女性の収入が男の倍以上(報知)。カカア天下。
代議士の犬養毅《いぬかいつよし》が「歳費値上げ論だが、実現したら、もっと欲しいとなる。清潔は当人の性格の問題」と(報知)。
大本教の教祖・出口ナオ。王仁三郎《おにさぶろう》を迎えて、布教にはげむ。
巡査はオイやコラを、中流以上の人にはモシモシに改める。中流の基準は不明(日本)。
大阪。寿屋《ことぶきや》が国産の赤玉ポートワインを製造。阪神電鉄の会社設立。住友倉庫が開業。
ある新聞、全能全知の露国皇帝を、無能無知と誤植。号外で訂正した(東日)。
新橋駅の三等待合室に掛時計がなく、懐中時計を持つ上等客待合室には、ある(読売)。
小学生の女の子に、歌舞伎の子供役者の写真を持ち歩くのがはやる(読売)。
近衛師団の軍楽隊。料金を出せば、越後獅子《えちごじし》、かっぽれなどの邦楽の出張演奏もする。
千葉県で、女賊つかまる。力があり、米を三俵せおって盗んだこともある(読売)。
駅の切符発売を、女子にまかせるのが好ましいのではと、検討に着手(東日)。
横浜市、大火。焼失、三千二百戸(時事)。
富山市、大火。焼失、五千三百戸(国民)。
虎の門の東京女学館。学生がふえ風紀の乱れるのを心配。月謝を値上げし、上流の子女だけにする方針(国民)。
内務省。口論のあげく防疫《ぼうえき》課長が、衛生局長をなぐり、逆に椅子でたたかれる(日本)。
森永太一郎、アメリカより帰国し、菓子製造を開始。キャラメルを販売。
銀座通りの新橋ちかくに、ビアホールが出現。広告もかねる。増加の傾向。
パナマ帽がはやっているが、あれは西洋では老人のかぶるもの(読売)。
子爵・桂《かつら》太郎。子の出生届がおくれ、罰金五円。高官からは多く取るのか、まけてくれと執事が役所に交渉。話題となる(報知)。
ヱビスビールを、旅順・大連に輸出しようとしたが、相手にされない。日本では福の神だが、ロシア語では品のない言葉(中央)。
栃木県。強盗に斬られ、両腕のない男。県議選の投票所で、自筆との掲示を見て、筆を足の指の間にはさみ、有効となる(時事)。
鳥取県のある村。集りに勝治という男が来ない。みなで名を呼んだら、火事かと大さわぎ。その家は、やがて洪水にあう(時事)。
東京の市内電車。市営か民営かで、議論がつづく(国民)。
かつては大声で主張の条約改正。やっと実現したが、皇室主催の祝宴ぐらい(日本)。
板垣退助、変型ザブトンを考案。楽にすわる方法の普及をめざす(国民)。
ペスト、神戸に発生。古綿、古着、古紙、古革、古羽毛の南方からの輸入を禁止(国民)。
年賀郵便の特別扱いを開始。元日に配達してくれる(日本)。
東京の水道工事、落成式(中外)。
清国に、各国に分割支配され、文明の向上を望む声がある。虫がいいが、それをやってくれる国はないだろう(中外)。
豊田式の紡織機が全国に普及。好評で、生産がまにあわない(中外)。
この年。英国は金鉱を狙《ねら》い、クルーガー大統領のボーア共和国に開戦。南アフリカ。
米国で、ビン詰めのコカ・コーラが発売。
ハンバーグ・ステーキの呼称が定着。
ドイツの学者が、アスピリンを完成。バイエル社より販売され、超ロングセラーに。
ルノー兄弟、自動車製造に着手。アネッリ、仲間とフィアットを。
『オー・ソレ・ミオ』の歌と曲が完成。
●明治三十三年(一九〇〇)
幸徳秋水、新年の楽しさを語る。この一週間だけは、借金取りも来ず、権力の役所も休み。自由と平等の生活だ(万朝報)。
未成年の禁煙法に、祇園の芸者たちが大反対。キセルなければ、ムードもない(大阪朝日)。
稲妻小僧。処刑執行。被害にあった各地、安心会を催し、餅や酒で祝った(国民)。
ドイツ皇帝、本年より二十世紀と言い、あわてる国あり。わが国は年号と神武紀元があるので、気にしなくていい(東日)。
ペスト防止で、東京市がネズミを買い上げる(読売)。やがて飼育する人が出て、中止。
花札で勝ち、業者から大金を巻き上げた代議士。除名したいが、少額ならやっている者が多く、やりにくい(大朝)。うやむやに。
福本日南の新聞論。国論も大切だが、世界をも考えよ。英国政府は新聞に秘密費を提供し、外交を有利に展開している(日本)。
宗教家の責任ある立場の者への、兵役免除の案が討議されたが、成立せず。
浅草の花屋敷で火事。動物小屋が燃える。やじ馬がさわぎ、高価な大猿《おおざる》一匹が焼死。老人ひとりがショック死(報知)。
横浜。外人案内のガイドに、不適なのがいる。組合か免許で、質の向上を(東日)。
日本橋の岡田小学校は、初の会社組織。商業科があり、昼夜とも授業をする(東日)。
子供がタバコを吸えば、親から罰金。それで親をおどす子供の漫画(時事)。
五月十日。皇太子ご結婚(国民)。
のちの大正天皇。妃殿下は、九条道孝公爵の四女、節子《さだこ》さま。
在米邦人たちが、お祝いにと自動車を献上した。試運転中、ふしぎそうに見とれる老婦人をよけ、三宅坂《みやけざか》の堀に落ちる。宮内省は、使用を中止する。
牛乳はブリキ缶をやめ、ガラスビンに入れることに。また、比重、脂肪量も規定がきまる(官報)。うすめて売った人がいたのか。
二六新聞は、三井銀行は大赤字と、何回も記事にした。新聞紙条例で中止させられる。
義和団が北京に迫る。反キリスト教、反外国の集団。日本も諸外国から、それに対して共同行動を求められる。
国語、国字の改良の件。調査と議論を重ねているが、委員たち、手におえない問題と、やる気をなくしつつある(報知)。
英国より寝台車を輸入。東海道線(読売)。
「汽笛一声新橋を」の鉄道唱歌が作詞作曲されて、大流行。
東京の中央駅の予定地。岩崎氏は坪四十円でなければ手放さないと、ねばる(東日)。
清国政府、西太后の決断で、義和団を支持し八ヵ国に宣戦(中外)。諸国からの要求で、日本も軍隊を派遣(国民)。
落語家の三遊亭円朝、死去。「牡丹灯籠《ぼたんどうろう》」や「文七元結《もつとい》」など、多くの話を作った。
伊藤博文。新政党、政友会を作る。
北京を攻撃。西太后と皇帝は西へ逃亡。事件は一段落。
自転車好きの米人と日本人。富士山の六合目から、そろって麓《ふもと》まで下りた(二六新聞)。
向島の剣舞をやる芸者。調子に乗って、相手をした青年を傷つけた。鳩山和夫など、数十人が見物の席で(東朝)。
夏目漱石《そうせき》、英国留学に出発。
野口英世《ひでよ》、フレキスナーをたよって渡米。
ハイカラの言葉が、はやる(読売)。
上野の展覧会で、黒田清輝作や外国の裸体画の一部を布でおおい、抗議される(国民)。
娼妓の自由廃業制がきまる。吉原では百名もやめ、店は待遇向上に苦心(時事)。
歯科医は全国で四百人。いない県もある。政府は増員策を立てるべきだ(時事)。
軍艦・三笠《みかさ》。英国で進水式、命名式。
ある銀行。二十五年の定期預金を新設。一円が十円にふえる。五十年なら百円(時事)。
東京市の参事会に収賄事件。横浜取引所で商法違反。呉造船所の疑獄(日本・ほか)。
徳川光圀。従一位だったのを、さらに正一位に昇格。勤皇の念があつかったと(東日)。
滝廉太郎《たきれんたろう》『花』を作曲。
春のうららの隅田川……。
漢文の授業。存続論は、日清交流のため必要。廃止論は、むずかしい用語を覚えさせ、生徒が困り、世をまどわす(日本)。
ブラジルのサンパウロ州。補助金を出し、日本から五万の移民を招きたいと。そこの食生活が、あうかどうか(中外)。
自転車の好きな人。京橋では会社に近すぎると、品川へ越した(読売)。
京都の少女劇団、東京で公演。座長が十二歳で、多くは十歳以下(報知)。
この年。米国の人口、七六〇〇万人。都市に住むのは半分以下。平均寿命、四十七歳。舗装か砂利じきの道路は、計二三〇キロ。電話は十三軒に一台の割で普及。
ドイツで、ツェッペリンが飛行船を作る。
精神分析のフロイト『夢の解釈』を出版。
世界の人口、一〇億六五〇〇万人。
●明治三十四年(一九〇一)
新しい世紀。百年前は鎖国の徳川時代。すばらしく進歩したが、これからは列強の圧迫も強まるだろう。いっそうの努力を(時事)。
慶応義塾で、十九世紀を送る会。事件を回想する芝居が、余興として上演された(時事)。
未来予言。鉄道が世界に普及。短時間でどこへも行ける。台風の防止。遺伝操作で知能向上。身長も二割は伸びる。手術で肺臓を出し、消毒できる。動物と会話する(時事)。
満州でのロシアの支配権を、清国がみとめる密約が成立と、外電が報じている(時事)。
軍隊内での敬礼をきびしくすると、下士官になりてがないので、簡略化する(日本)。
福沢諭吉、死去。六十七歳。近代化につくしたが、日常では和服がほとんど。葬儀の柩《ひつぎ》には、一万人が徒歩でしたがった。
言文一致の討論。法律も口語体にとの主張が出て、さらに難航(報知)。
バイカル湖畔で、百年前にこの地で死んだ日本人の墓を発見。仙台の人で、仲間十五人と漂流のあげくらしい(報知)。
司法官の昇給予算が議会で否決。判事検事たち、全員で辞職もとさわぐ(時事)。
将来は広告の時代。意匠と文案が重要視され、米国のように報酬も高くなる(時事)。
頭のはげる病気が目立つ。台湾から来た風土病との説も(毎日)。
寝台車につづいて、食堂車が東海道線に。そのため下級車両がへり、さらに混雑することになる(報知)。一利一害のいい例。
四月二十九日。皇太子妃殿下、男子をご出産。裕仁《ひろひと》親王。のちの昭和天皇である。
伊藤内閣退陣。桂太郎内閣が成立。
ペスト予防のため、東京市内では、ハダシで歩くのを禁止。下駄屋が繁盛する(毎日)。
泉岳寺で、吉良《き ら》上野《こうずけの》介《すけ》の二百回忌(読売)。元禄十四年は、一七〇一年。
神戸・六甲山上に、英人により日本初のゴルフコースが作られる。四ホール。
すぐ廃刊になる雑誌を、三号雑誌と呼ぶ人がふえる。三日坊主からの連想(読売)。
黒岩涙香の論。最近の大新聞は「義」はそっちのけ読者に媚《こ》び、売れ行きの「利」で営業している(万朝)。涙香の経営する新聞。
元衆院議長、前逓信大臣、星亨《とおる》が短刀で殺される。各新聞は大悪党よばわりをしておいて、いま才を惜しむ記事。読書家、私財をたくわえず、など。なお、私の親類でない。
電報通信社が創立される。のちの電通。
軽井沢の手前で、列車が逆行。乗客の日本鉄道の技術長、息子を抱えて飛びおり惨死《ざんし》。ほかの乗客は、みな無事(時事)。
講習会が流行。著名人の名を並べて客を集め、話は代理人というひどいのも多い(時事)。
九州日の出新聞。砲台の記事が、軍機保護法違反とされる。適用第一号(東日)。
日本アルプスの呼称が定着(春秋)。
本をつんどく。この言葉が流行(学燈)。
横浜遊郭で、通行人にからむグレン隊の一団、逮捕(時事)。このころからの呼称か。
三井物産の実力者、益田孝の養子の青年、日光・華厳《けごん》の滝で投身自殺。原因は失恋。女の写真を焼き、笛を吹いてから(二六)。
九歳で舞台へ上った娘義太夫に驚いたら、三歳四ヵ月のが出現。うまい(報知)。
義和団事件、終結の調印。清国は諸国に、三十九年年賦で賠償を。うちロシアには約二十九パーセント、日本には約八パーセント。
その交渉の疲れでか、清国の政治家・李鴻章は二ヵ月後に死去。
国営の八幡製鉄所、作業開始(中外)。
ロシア、旅順港の軍事施設の工事を進行。東洋、日本への脅威が強まる(日本)。
人力車は有望な輸出産業。業者が組合を作り、規格の統一案を作ったが、当局は乗り気でない(時事)。一社だけ大きすぎたからか。
足尾鉱毒問題で、議会開院式より帰途の天皇に、田中正造が直訴する。代議士を辞任しての行為。全文が新聞にのり、不起訴に。
京浜電鉄の新線工事を、人力車の車引き二百名が集って、妨害(東日)。
米国より三菱造船所に、砲艦二隻の注文。フィリッピン海域用に(中外)。
横浜からの生糸の輸出、開港以来の最高の一年となった(国民)。
中江兆民、死去。五十五歳。遺体は医学のため解剖用に提供、告別式は無宗教。
この年。在米の高峰譲吉、共同研究でアドレナリンの分離に成功。
ジレット、安全かみそりの製造に着手。
マルコーニ、大西洋を越えての、無線通信に成功。
シカゴの日系人、加藤悟《さとり》がインスタント・コーヒーを製造。バッファローで開催された博覧会で販売。
第一回ノーベル賞。物理学では、レントゲン。平和賞は、赤十字の父のデュナン。
石油王ロックフェラー、医学研究所設立。
世界の大都市の人口。ロンドン、六六〇万。ニューヨーク、三四四万。パリ、二七〇万。ベルリン、一九〇万。シカゴ、ウィーン、ともに一七〇万。東京、一四五万。
ロサンゼルス、一〇万。ダラス、四万。
●明治三十五年(一九〇二)
上野動物園、ドイツの業者からライオンとダチョウを買い入れる(風俗画報)。
青森県の八甲田山。雪中行軍を強行し、将兵二百九名が凍死する(時事)。
日英同盟、成立。小村外相の努力による。世界の大国と結ばれ、多くの国民が喜ぶ。
軍隊内での賭博が問題になる。経理部の者が主宰した(日本)。
足尾銅山の鉱毒の件で、暴動を起した人たちへの判決。ほとんどが無罪(時事)。
神田で開催の東北青年会の席上、本郷の学生、神田の学生、二派に別れ大乱闘(時事)。
麹町で少年が殺され、尻の肉を切り取られるという、怪事件が発生(時事)。
女学生用に、五角形のベースボールが考案される(読売)。四角のまま、塁間を短くしてもいいように思えるが。
人力車、エジプトに輸出。当地では、ラバに引かせるように改良(大朝)。
滋賀県の米が、米国の博覧会で入賞。日本国内の展示会で、賞状を額に入れて飾る。裸体画つきなので、注意された(時事)。
大阪・中之島で、小男と自認する者が集会を開く。頭は大男に勝ると、大盛会(大朝)。
芝・増上寺の法会《ほうえ》で、大変な人出。そばでキリスト教伝道師たちが説教をはじめ、参詣人となぐりあいとなる(読売)。
漢文読本。象の鼻を肉柱と形容している。変な感じなので、削除すべきだ(日本)。
東宮御所の建築工事。請負った三好組《みよしぐみ》と原田組が、定礎式後の酒宴で、大げんか。百余人が、なぐりあい(時事)。
露国で製造の軍艦も回航してきた。外国へ発注の艦、全部がそろった(時事)。
芸人派遣の、余興《よきよう》社。舞踊、芝居、音楽、邦楽、講談、落語、手品、花火などを(時事)。
姫路師団の将校を、軍服の無頼漢と地方紙が報道。警察が社を調べると、軍隊内からの投書が大量に出た(時事)。内部の紛争で。
皇太子妃が、男子をご出産(宮内省)。のちの秩父宮殿下である。
郵便ポストを黒から赤に変える。評判がよくて、遠くても入れに行く人あり(読売)。
富士登山が盛んになり、新橋からの汽車の切符の、割引券が発売される(風俗画報)。
大隈重信が創立した東京専門学校。以来二十年、早稲田大学と改称。
英国の大辞典。日本人の絵として、まだチョンマゲ頭が描かれている(学燈)。
京都で、でぶの人たちが集り、便腹倶楽部を作る。大きな腹を、自慢しあう(国民)。
千葉で発生した毒のある蝶《ちよう》が、銀座の柳でふえ、小児たちに被害(報知)。
神田の牛鍋店、燃料にガスを使う(時事)。それまでは、木炭を使用。
中央線の、甲府の東の笹子《ささご》トンネル。七年がかりで、やっと貫通(時事)。約四・六キロ。
正岡子規、死去。三十六歳。最後の句は、
をととひの糸瓜《へちま》の水もとらざりき
ロンドンで売り出した日本公債、すぐ全部に買手がつく(時事)。
自転車に下駄での乗車を禁ず。夜間は灯火をつけること(時事)。
横浜。ペストの伝染防止のため、海岸通りの一画の家を焼く。鼠退治が目的(時事)。
明治二十三年、英人宣教師ラージ氏を殺した犯人、刑事の執念で十三年目に逮捕。しかし、わずかな差で時効が成立していた(時事)。
新橋・京都の往復割引券、発売。紅葉見物のための(時事)。
代議士・大橋新太郎、財政整理のためにと歳費を辞退(日本)。博文館の創立者で、経済界でも活躍、資産家だった。
教科書検定に関し、贈収賄。視学官、出版関係者など、取調べを受ける(万朝)。
丸善が「エンサイクロペディア・ブリタニカ」の予約募集。五〇〇セット完売。
この年。ブーア戦争、終る。勝った英国側は、敵の攻撃による死者の、五倍の病死者を出した。
米国の化学者リトルが、レーヨンを発明。
歌手のカルーゾーが、レコードに吹込む。超ロングセラーとなる。
セオドア・ルーズベルト大統領。狩猟で母熊《ははぐま》を射《う》たなかった。それにちなんで、ぬいぐるみのテディ・ベアが作られ、売行き良好。
ハワイでパイナップル栽培会社、設立。
●明治三十六年(一九〇三)
教科書疑獄、逮捕者ふえる。しかし、なぜか国論は沸騰しない(報知)。
明治座で川上音二郎、シェークスピア『オセロ』を上演(都)。大評判、新しいタバコの名かと思い、買おうとした人あり(読売)。
海底事業会社、創立。沈没船の引揚げ、海産物採取、築港工事などをやる(時事)。
静岡郵便局で、貯金箱の貸与を検討。鍵は局があずかる(国民)。
新しい試みの好きな、山陽鉄道会社。三等寝台の車両を入れる(中外)。
大阪で勧業博覧会。駅と会場とは蒸気自動車、つまりバスで結ばれ、日本では初のメリーゴーラウンドが動いた。
またも総選挙。奥田義人《よしと》氏は、横浜と鳥取の両地区に立候補。いずれも当選(時事)。
平凡な事件なのに、号外を発行し、大声で売るのが取締られる(報知)。
浅草公園で噴水を作るため、筆塚の石の亀《かめ》を移す。黒い妖気が出て、空に散ったとのうわさ。調べると、たき火の残りを穴に入れ、土をかけたためと判明(時事)。
西本願寺法主《ほつす》・大谷光瑞《こうずい》。調査隊をひきいての、西域の旅より帰国。
仏教学者・河口慧海《えかい》。ただひとり鎖国状態のチベットに潜入、六年ぶりに帰国。
露国が約束した満州からの撤兵は、なかなか実行されず、逆に兵員を増加させ、石炭や食料を買い占めている(時事)。
各国で使われはじめた無線通信機、海軍で採用される(東朝)。
秋田県の知事に任命された人、方言の会話に困り、上京のたびに何人かを同行。話し方の講習会も開き、改善の傾向(報知)。
露国、満州にて清国兵を多数やとう。清国に、密約を結ぶよう迫る(東朝)。
東京で催眠術教習所がふえた。被害者が多いらしく、取締るための実態調査を(日本)。
大阪の博覧会、八十メートルの高塔が風で倒れ、家三軒つぶれ、死者一名(東朝)。
夜間。ポストから郵便を盗み、為替券を抜き取る犯罪が多い。注意を(東日)。
万世橋のそば、活動写真の看板を首から下げ、うろつく男(読売)。サンドイッチマン。
自動車のベルを、人力車につけるのがふえる。前の人に声をかけずにすむ(読売)。
露国人が、鴨緑江の朝鮮側の土地を買入れようと交渉している。条約違反だ(東朝)。
尾崎紅葉、幸田露伴、森鴎外など、文学博士の候補になったが、すぐれた作家に与える性質のものではないので、考慮中(大朝)。
十八歳の一高生、藤村操《みさお》が日光・華厳の滝で投身自殺。そばの大樹の幹を削り、そこに巌頭之感《がんとうのかん》の一文を書き残した。
歌舞伎座で、着色活動写真を上映。曲芸、火災、自然界などの実写物(中外)。
藤村につづき、学生が自殺。まだまだつづきそう。防ぎにくい流行だ(東朝)。
東京帝大の学位ある教授、七名。満州問題で露国に強硬な主張をと、桂首相に意見書を提出(東朝)。文部大臣より注意があり、記者との会では、あいまいな発言(東日)。
駐日の露国公使、清国の留学生に、日本の立憲制と民権思想は危険。露国で学ぶのが有益と、勧誘している(日本)。
ハワイのパールハーバー。米国は軍港とするための工事を進行(東朝)。
小西本店が、小型カメラを発売。
桂内閣、改造。内務大臣兼、台湾総督兼、文部大臣、陸軍中将・児玉源太郎(官報)。
左側通行の慣習が乱れ、衝突増加の傾向。各警察に、指導するよう内訓(東日)。
日比谷公園の夜間開放は、花や枝を折り取る者のあるため、見あわせとなる(日本)。
見えなくても、電気は物。これを盗めば罪になると、大審院で判決。
日本の対韓外交は、相手の心理を無視し、強引だ。露国の宣伝に利用される(報知)。
国勢調査の法律が成立したが、実行の予算が否決され、いつになることか(中外)。
明治法律学校を、明治大学に改称。
和仏法律学校を、法政大学に改称。
露国内で、日本人は最も不可解との説がひろまり、不安感が高まっている(報知)。
東京の路面電車、営業を開始。まず有楽町と神田橋の間で(中外)。
モルガン財閥の息子、日本で祇園のお雪を見て、熱を上げた。帰国しても、手紙ぜめ。大金を出し、夫人とする。翌年に渡米。
内村鑑三、非戦論を主張。強硬的な対露同志会は、派閥争いで分裂寸前。
東京近郊の村の道で、二十七銭を強奪した男、裁判所で懲役九年の判決(東朝)。
露国の探偵・スパイが増加。軍港の近くを歩く白人、清国人に注意を(報知)。
汽船の東海丸、ロシア船と衝突して沈没。乗船者二百名中、百五十名が死亡(東朝)。
ロシア語を学ぶ学生がふえ、英独語以上。教室に入りきれぬほど(東朝)。
尾崎紅葉、死去。三十七歳。『金色夜叉』は未完となる。
新橋駅で切符売り係、女性四名を採用。好評だが、珍しがっては仕事の邪魔(東日)。
平山博士が観測した小遊星、新しい発見とみとめられ『東京』と命名す(東朝)。
将校の定年。大将、六十五歳。大佐、五十五歳。大尉、四十八歳。元帥《げんすい》は終身(官報)。
十二月より、東海道線の客車に、蒸気で足を暖める設備がつく(中外)。
議会開院式の勅語への奉答文。原案を作成し、なかに政府批判の部分があった。直せ、だめだで、解散となる。翌年三月に総選挙。
東郷平八郎、連合艦隊司令長官になる。
この年。ブロードウェイで、ミュージカルの『オズの魔法使い』上演される。
初の物語性のある映画『大列車強盗』が完成。迫力ある、十二分の大作。
フォード自動車会社、創立。
ニューヨークで、メアリーという女性が話題になる。発病しないが発疹《はつしん》チフスの保菌者で、病気をひろめた。
自転車レースのツール・ド・フランスの第一回が開催された。
野球の第一回ワールド・シリーズも。
ライト兄弟、ガソリン動力の飛行機で、空中を飛ぶのに成功。
シベリア鉄道、バイカル湖ぞいを残して完成。ロシア国内は凶作のため、数百万人が死亡。
●明治三十七年(一九〇四)
小村外相と、露国駐日公使ローゼンの会見で、双方の要求を示し会談。難航(東朝)。
名古屋の九歳の男児が、ためた金を軍に献金。安易な流行になるのが心配だ(万朝)。
露国に国交断絶を通告。陸軍の第一軍、韓国の仁川へ向う。護衛の軍艦は、帰途に交戦し、露国の艦の二隻を沈める。
宣戦布告。詔勅。……露国ニ対シテ戦ヲ宣ス……豈《アニ》朕ガ志ナラムヤ……(官報)。
文部省訓令。献金の精神はいいが、父兄にねだった金では、好ましくない(官報)。
暴落していた株式、大暴騰(中外)。
東京の市民、気分が落ち着かず、旗を持って各所を歩き、万歳を叫ぶ(毎日)。
東郷司令長官戦死の報道あり。混乱による誤報で、わが社の報道は正確だ(時事)。
ハルビンより南へ避難する日本人。男女をとわず、露兵に乱暴され、荷物を強奪され、言語に絶す(東朝)。
東京の路面電車内は、禁煙となる(万朝)。
菓子の老舗《しにせ》・壺屋で、老夫婦と娘が殺される。財産も社会的地位もあるが、複雑な家庭で、だれも品行がよくなかった(報知)。
三月一日。衆議院議員の総選挙。さすがに違反の件数は少なかった(東朝)。
二月八日夜。九州霧島神宮より、無数の火の玉が列を作り、高千穂の峰へ飛んだ。日清戦争の勝利の時にも、それを見た(報知)。
移動のため兵士の一隊が、高輪泉岳寺に宿泊。人数は四十七名。隊長は大石良弼。偶然だが、墓前に努力を誓った(国民)。
義太夫組合、男と女の二派に分裂(都)。人気は女、実力は男か。
露国の巡洋艦ボヤリン号、不注意で味方の機雷に触れ、沈没との情報(東朝)。
軍の需要を期待し、カンピョウを買い占めた人。おもわくはずれ暴落(中外)。
議会、非常時特別税を可決。煙草《たばこ》は政府の専売となる(官報)。軍への感謝決議、法案、なにもかも満場一致で可決。
広瀬武夫中佐、旅順港で戦死。辞世の語。
七生報国 一死心堅 再期成効 含笑上船
日比谷公園の洋風喫茶店。落札により、松本楼が営業を継承することになる(国民)。
露国海軍・マカロフ司令長官、撃沈され戦死(東朝)。しりとり歌に名が残る。
……金の玉、マカロフ、ふんどし……
金銭紛失や身体検査で、女学生を裸体にしたのが二校あり、問題となる(二六)。
蒙古人《もうこじん》に変装し、敵中に侵入、活躍中につかまった横川省三、銃殺さる。自由民権家、新聞特派員、米国留学など、多彩な一生。
日比谷公園で、戦勝祝いに十万の人出。提灯行列、花火、爆竹、軍楽隊。大量の酒の寄付。大混乱となり、死者二十人(東朝)。
社告。重大事件は、電報で通知する。費用負担の人に限る(読売)。安いものではない。
露軍、旅順の海戦で死んだ日本兵、二十六人の死体を葬《ほうむ》る。棺を日本国旗で包み、護衛兵が立ち、音楽も演奏。立派な行為(東朝)。
連合艦隊、遼東半島を封鎖宣言。中立国の船も、通過を許さない(時事)。
戦争記事の新聞に押され、小説や講談本は読まれない(東朝)。新聞は、煙草が専売になり、広告収入が激減して困っている。
常陸《ひたち》丸《まる》は、欧州航路の客船だった。軍用に使われ、将兵を乗せて外洋へ出た時、露艦の砲撃を受けて沈没。千人以上が戦死。
満州方面軍。総司令官に大山巌。総参謀長に児玉源太郎。
大阪市の人口、百万人を突破(大朝)。
輸送船で捕虜になった日本兵。露国の発表によると将校二十六、兵百八十二(日本)。
露国のバルチック艦隊、バルト海から東洋へむかうと。まず五隻編成のが(東朝)。
東大内で、放火犯逮捕。造船の図面を盗んで、露国に売ろうとして(東朝)。前科三犯、教育のない若者、本気だったのか。
文部省訓令。全国の学校で、なるべく多くの植樹をするのが望ましい(官報)。
紫色の鉛筆が、学校で使用禁止。粉が目に入ると、有害との説が出たため(報知)。
ウラジオストックの露艦。津軽海峡や、房総沖に出没、伊豆大島で砲声(東朝)。
戦死と伝えられた椎名《しいな》大尉。遺族の請求で生命保険金が支払われた。やがて捕虜として生存と判明、返還させられた(報知)。
車引きは、ひざから上を股引《ももひき》でかくさなければならない。ほかの仕事の者も(東朝)。
浅草で、旅順陥落と叫び、号外を高く売って消えた者あり。けしからん(東朝)。
劇場、寄席、催物などの広告が、都新聞にのるようになる。便利だ。
東京では、月に約四百の縁日がある。
戦勝を祝し、夜の東京を電球で飾った電車が走る。見物人、歓声をあげる(毎日)。
南満州の戦いで、寺内陸相、福島安正少将の子息が戦死(時事)。
外人が吉原遊郭を見て、治安もよく、秩序があり、子供づれの老人も散歩する。他国に例を見ないと感心(報知)。
日本軍の傷病兵、一万人が帰国し、病院へ収容された(国民)。
千島探検、開発をした郡司成忠大尉、カムチャツカ半島に上陸。日章旗を立てたが敵に囲まれ、捕虜となる(東朝)。
与謝野晶子《よさのあきこ》、弟への詩を「明星」に。
君 死にたまふことなかれ
大阪の四天王寺。戦争でおくれたが、大きな鐘と鐘楼を、やっと完成(大朝)。
日本軍、旅順の水源地を占領。敵軍は飲用水や水力発電に困る(東朝)。
戦死通知は死亡診断書でないと、役所が死亡届を受け付けぬ。法改正の案が(東朝)。
枯草色のカーキ色。軍服に効果あり、量産開始。原料植物は、台湾に自生(日本)。
雑誌「道楽世界」は、よくない。ある娼妓はいいとの記事を見て乗り込み、丸め込まれて借金の山を作った男が出た(東朝)。
渡米、苦学の野口米次郎《よねじろう》(ヨネ・ノグチ)。英語詩人として世界的に。このたび一時帰国(報知)。
脱出した露兵の話。旅順の山腹に日本兵の死体、数千。放置されたまま、腐ってゆく。臭気はなはだしく、悲惨(東朝)。
南満州の戦いでは、日本軍が優勢。敵の総司令官は、クロパトキン。
バルチック艦隊は、日本艦とまちがえ、北海の英漁船の二隻を撃沈。露国の謝罪と賠償とで、決着(東朝)。
神田青年会館の、社会主義協会の演説会は、満員。警官の解散の指示で、大混乱。露国と同じ圧制だとの野次も(毎日)。
平民新聞が、共産党宣言の訳をのせ、発禁となる(東朝)。いくらか売れた。
多くの戦死者を出したが、旅順の二〇三《にひやくさん》高地を占領(東朝)。ここを観測所として、港内の敵艦を砲撃。全滅させた。
三井呉服店、三越呉服店と改称。米国式のデパートに。品種が多く。正札販売。
乃木大将の二人の令息。相ついで戦死。後つぎなくなる。同情と涙を捧《ささ》ぐ(東朝)。
東京。高官や富豪の広大な邸宅は、山林の名義で、安い税金ですませている。
東郷大将、上村第二艦隊司令官は、一時帰京。天皇に戦況を報告(東朝)。
この年。米国が仏国からルイジアナ州を買って、百一年。セントルイスに活気。
同市で万国博。電力の時代がテーマ。ハンバーグ、アイスクリーム・コーン、アイス・ティが、会場で売れる。有害着色料の食品展示コーナーは、人目をひいた。
同市では、オリンピックも。
サイ・ヤング投手、初の完全試合。
ニューヨーク・タイムズ、新社屋へ。その一帯をタイムズ・スクエアと改称。
英国の電気技師フレミング、最初の電子真空管を作る。ロシアの学者パブロフ、条件反射の学説でノーベル賞をもらう。
バリー作の『ピーター・パン』ロンドンで上演。好評で小説にもした。また、マーラーの『交響曲第五番』も初演された。
三重苦のヘレン・ケラー、大学を卒業。
トランプのオークション・ブリッジのルールが、確定された。
●明治三十八年(一九〇五)
旅順の司令官ステッセル将軍、降伏、開城。乃木大将と会見。
旅順の戦利品。砲、五百門。砲弾、八万発。銃、三万丁。銃弾、二百万発(時事)。
露国の首都ペテルスブルグで、皇帝への請願デモ十数万人に、軍隊が発砲。
川上音二郎の実弟・秀二郎は各所で事件を起す困り者。短刀を持ち、貞奴《さだやつこ》に金をねだりに行き、逆に叱《しか》られた(都)。
二十一年わが子で育て
三月《みつき》見ぬ間に国の神(万朝)
鳥取県のある村。地主で金持ちの村長の口調がどもるので、みなそうなる(読売)。
南満州の奉天で、大激戦のあげく勝利。この三月十日が、陸軍記念日となる。
御製  (征露図会)
四方《よ も》の海みなはらからと思ふ世に
などあら浪の立ちさわぐらむ
英国の産業界に、日本警戒論。綿布製造をはじめ、漁業、輸送業、貿易など、先の話だが、現実になりかねない(中外)。
執行猶予《ゆうよ》の法律が成立(官報)。米、英は以前からあり、仏、独は近年になって。
神戸の米人の母娘。日本負傷兵のためにと、芸者になり、収入を献金(報知)。
東京の千住で、社会主義のビラをまく者あり。巡査が調べると、もと救世軍、壮士などの経歴で、さわぎ好きの者(東朝)。
四谷のお岩稲荷。参詣者へったが、復興を考えた者あり。鳥居、狐も作り、芸者たちに大人気。当局が閉鎖を命じた(東朝)。
大阪。阪神電鉄が開通。
日本に文明を伝えたヘボン博士。帰米して現在、九十歳。勲章を贈呈した(日本)。
バルチック艦隊、上海沖を北へ進む。
五月二十七日。敵艦見ユトノ……本日、天気晴朗ナレドモ、浪高シ。
日本海大海戦。敵艦隊三十八隻のうち、撃沈十九、捕獲五。損害は水雷艇三のみ。
米国ルーズベルト大統領、日露の講和を提案。両国に通知(官報)。
野口男三郎《おさぶろう》、逮捕。猟奇的な話題になったが、恋に狂った生活力のない男の、金ほしさの殺人(報知)。ああ世は夢か、幻か。
露国、会談出席を米国に回答。日本も大本営会議で、方針を決定。
七博士、またも集り、沿海州を領土になど、景気のいい話をぶちあげる(日本)。
東京の占い師の団体。日本からの全権大使の前途の運命に心配ありと、代表が伊藤博文に手紙を送った(万朝)。
大阪の六人殺し。愛人の浮気に立腹した男、女の親族をみな殺しにする。巻きぞえの芸者・妻吉は、両腕を失う。結婚もうまくいかず、のちに尼となる(東朝・ほか)。
新橋・下関間に直通列車。三十七時間。
村有財産の運営で、住民の税金負担のない村が、全国に四つだけある(万朝)。
戦勝に関連し、新煙草「ほまれ」が発売される。使用の葉は、日本産のみ(国民)。
講和全権委員・小村寿太郎と一行、見送りのなかを、横浜から出発。
慰問袋が戦地へかなり送られたが、ある女性のは、なんと亭主にとどいた(国民)。
日本軍、樺太を占領(東朝)。
神戸でロシア語の新聞を発行。捕虜たちに、世界の事情を知らせるため(東朝)。
名古屋に収容の捕虜、美男なのがいて、芸者たちにもてもて。静岡に移す(日本)。
大阪では退屈の捕虜たち、裸で雨の中を踊る。そこへ落雷、四名が即死(東朝)。
大連地方、日本から娼妓たちが密航。一方、事業家は、役人から冷遇される(万朝)。
東京・千住の一帯。夕方に白い小さい蝶が数十万、地上ちかくを飛び交《か》った(都)。
両国全権、ボストンのそばのポーツマスで、会談を開始。
七博士のひとり戸水教授。強硬論を主張しつづけ、文部省は休職を命じた(官報)。
清国を亡《ほろ》ぼすのは、日本だろう。在日清国の留学生の雑誌に、このような説をのせた者があり、警察が押収した(東朝)。
露国の体面や経済事情から、交渉の難航が予想される。ルーズベルト大統領、露国側を説得。あるいは決裂か(東朝)。
日本側の大譲歩以外に、講和なし(東朝)。
八月末。日露講和、成立。朝鮮での優越権、遼東半島租借権、南満州鉄道、沿海州漁業権を得る。賠償金はゼロ。
陛下、和議を廃し、戦争続行を(大朝)。
国民は重税も、家族の戦死も覚悟。あくまで賠償を取れ。国民の戦いなのだ(大朝)。
投書から。ひどい話だ。戦時中がなつかしい。講和への旅費は、全権たちが払え。兵役や国債には、もう応じない(東朝)。
大阪での市民大会。内閣の辞職、戦争の継続を決議。小村と満州軍へ電報(大朝)。
東京で国民大会。放火、建物破壊、警官と乱闘、投石、交番襲撃、大暴動(東朝)。
東京に戒厳令。暴動をあおる記事を禁止する。危険物の所持を調べる(官報)。
桂首相の愛妾、お鯉《こい》。小村全権と芸妓、小柳との仲の記事など(大朝)。
在露の日本軍の捕虜。将官五名以下、確認できたのは、計一六二九人(読売)。
佐世保港内で、三笠艦が火災。爆発し沈没する。原因調査に着手。引揚げ計画(報知)。
詔勅。茲《ここ》ニ平和ト光栄トヲ併《あわ》セ獲《え》テ……其《そ》レ善《よ》ク朕《ちん》カ意ヲ体《たい》シ……。
十月。小村全権、帰国。伊藤博文、桂首相、山本海相、横浜に出迎え。暗い雨の日で、旗も歓迎の声もない(東朝)。
百数十隻の連合艦隊、横浜海上で大凱旋《がいせん》式。東郷司令長官、万歳の声をあびて、新橋から皇居へ。大衆は熱狂(東朝)。
上野の山で、海軍の大祝賀会。人出が多く、満員の電車が迷子になる(東朝)。新橋の芸妓たちは、宴会の席で東郷大将の周囲に押し寄せ、大さわぎ(報知)。
軍用の民間船と捕獲船を解除。南洋航路を充実させる計画が進行(東朝)。
『戦友』の歌詞が出版された(文化史)。
ここは、お国を何百里……。
宣教師バチェラー編集のアイヌ語の辞典によれば、一万三千語で、高い文明(国民)。
日本は韓国の皇室を尊重し、その下に統監府をおき、外交の事務をする(官報)。
日露戦争。日本軍の死傷者、病気患者、ともに約二十二万。この比率は、医学の進歩で病気発生の減少を示す(東朝)。
大山総司令官、児玉総参謀長、凱旋。大群衆が万歳で歓迎(東朝)。
捕虜になった郡司大尉、帰国(日本)。
伊藤博文、韓国統監に。文治派の伊藤を遠ざけたと、武断派の連中が喜ぶ(万朝)。
この年。アインシュタインが特殊相対性理論を発表。二十六歳。
南アフリカで、三一〇六カラットのダイヤを発見。世界一。英国の王冠を飾る。
野球のタイ・カップ選手、活躍開始。二十三年間で、〇・三六七の打率を残す。
ノルウエーが、スエーデンから独立。デンマークの王子が王位に就き、統治。
●明治三十九年(一九〇六)
丙午《ひのえうま》の年。大化二年以後、丙午の年は、ほとんど泰平無事。前回は弘化三年で、米艦が浦賀に来た年(東日)。
乃木大将、東京に凱旋。晴天でもあり、最大の人出となる。涙を流す人も(東朝)。
皇居内に侵入した男、逮捕。日時、精神状態、経路、目的など、発表なし(東朝)。
織物の行商人、二人が殺される。盗品の質入れで、犯人の大久保を逮捕。ほかの殺人も発覚、裁判は死刑判決(国民)。
福島県から東北にかけ、大凶作。東京でも、馬の飼料の芋屑《いもくず》を食う人多し(東朝)。
大阪。玉子屋円辰《えんたつ》、三河万歳《まんざい》をアレンジし、お笑い漫才の発端となる。
女権拡張会、別名はオテンバ会。有料演説会は満員だったが、女弁士は一名だけ。男弁士は、反対論。詐欺だ(万朝)。
東京、市内電車に値上げの動き。日比谷公園で反対集会。赤旗と太鼓で行進。ついに値上げは却下となる(東朝)。
小村寿太郎、枢密顧問官に。反対論に伊藤博文は、悪評を一身に受け、戦争の処理をした彼は最大の功労者だと(万朝)。
台湾、嘉義地方で大地震。死者は千人を越え、家屋の倒壊は約四千(東朝)。
ガマ、ヘビ、ナメクジを混合して飲めば妊娠しないと、ひそかに流行(東日)。丙午の年なので、子を作らないようにと。
夏目漱石『坊っちゃん』を発表。
戦勝記念の切手と絵葉書、発売。どこの郵便局も大混雑。気絶者も出る(読売)。
その絵葉書。明治三十七八年戦役の、役が没と印刷されていた。交換することに。
台湾民政長官・後藤新平、自転車競走会で一等、賞金をもらう。喜ばせて賞金以上をおごらせようとの、作戦だった(国民)。
女子参政権。温順貞淑、良妻賢母が望ましく、混濁の政治とは無縁がいい(日本)。
通信社は多いが、本からの引用、作った事件など、怪しげな記事もある(万朝)。
東京市が託児所を計画。図面ではみごとだが、実現はかなり先らしい(報知)。
南満州鉄道会社、設立。露国から取得した鉄道を運営する、半官半民の大会社。
京都。結婚記念の盃を進呈し、格の上の人には失礼と、怒られた人がいた(日本)。
広島県には、海外に移住や出稼ぎの人が多く、そのための学校が出来た(東朝)。
高野山は女人禁制だったが、参拝自由となる。僧の肉食も可(東朝)。
キリスト教信者として尊敬されていた、押川方義《まさよし》。貿易、製鉄などの事業で成功。金銭もまた神聖なりと、大いに語る(東朝)。
新略字の募集に、千も集る。だが、漢字の使用を減らすのが先決のようだ(報知)。
青山斎場、落成。埋葬者の全員と、戦いの死者の供養が、まず執行された(国民)。
児玉源太郎、死去。五十五歳。七男五女の子がある。日露戦で、力を使い果した。
練習艦上。将校二名が口論から抜刀、一名が死亡。ともに歴戦の勇士(東朝)。
日米間が、海底電線で通信可能に。グアム、ミッドウェー、ハワイを経由して。
神社は約二十万。寺院は約十万。多すぎる。放置されているのは、整理が望ましい(東朝)。
三井、三菱などに政府が気を使うことはない。弱味を握って、威力を示せ(万朝)。
天皇、皇后は毎朝、まずコーヒーをお飲みになる。豊太閤《ほうたいこう》の愛用した、黄金の茶釜《ちやがま》でわかしたお湯でとのこと(時事)。
斎藤実・海軍大臣が、帽子で顔をかくして、人力車を走らす。あとをつけた者、不遇な旧友の見舞いと知り、感心(都)。
大連を自由港とする。ここで輸出や輸入する貨物には、関税をかけない(東朝)。
東京で、春画製作所の手入れ。版木五千枚以上を押収。暴利を得ていた(東朝)。
富士登山、流行。八合目に郵便局を開設した。記念スタンプの葉書が人気(東日)。
隅田川に、水上料理店が。川魚を食べ、涼風に当る(万朝)。屋形船のはじまり。
大阪の美人芸者。高橋是清《これきよ》夫人の写真を見て、あまりの美しさに驚き手紙を出す。東京に招待され、夢みる気分(都)。
蓄音機で語学を習う試演会。聞きなおし可能、アクセントも明解で便利(万朝)。
日本娘の評判を聞き、ロシアの男がつぎつぎと来日。主に長崎で、金をばらまいて女遊びをする。連れ帰るのも(万朝)。
電車値上げで、またも反対運動。一万人以上の集団に憲兵が空砲。問題に(東朝)。
無電の完備で、海軍の伝書鳩が不要となる。横須賀で二百数十羽、払下げ(東朝)。
旅順の指揮官・ステッセル。士気高く、弾薬食料あるのに降服したと、悪評。寒村で謹慎生活。奉天の敗戦、海戦の全滅は許されるが、旅順だけは別らしい(報知)。
南満州鉄道の株式。所有したがる人が多く、申込みは千倍を越えた。
関東州のムチ打ちの刑。一回は二十五打以内、一日一回以下とする(官報)。
戦争での死者をしのび、各地で碑を建てる計画があるが、中止を望む。靖国神社だけで充分。寺内陸軍大臣(日本)。
今日までの本年の流行は、エスペラントと浪花節。あと、なにが加わるか(東朝)。
小田原の近くに住む美人。学者の未亡人の才女とか、スリの女親分とか、各種のうわさが立つ。美人なら、文句なし(報知)。
最新技術、秘薬などと、医師が根拠のない広告をするのを、取締る方針(万朝)。
雨宮敬次郎。還暦の祝いに、二百五十人に二日の作業をさせ、庭に富士山を築く。二千人を招待、さすが大金持ち(報知)。
日清製粉会社、設立(国民)。
冷蔵船の会社が新設。各地の美味の魚が食べられるようになる(中外)。
落ちぶれて魚の行商をしていた男。見習って剥製の技術を身につけ、いまや第一人者で、博物館、大学の仕事も(時事)。
野球の早慶戦。本年は応援合戦で不穏になりそうと、中止になる(時事)。
南満鉄道、創立。児玉源太郎の死去のため、初代総裁・後藤新平(東朝)。
秋田の海岸で、機雷をいじり爆発。死者発生。二千発を処理したのに(中外)。
兵庫県。人力車の先に犬をつなぎ、引っぱる助けをさせるのを禁止する(読売)。
乃木大将、驚いた馬から転落。一時、気絶状態、周囲の者あわてる(東朝)。
激戦で軍旗を失った第四十九連隊に、陛下が新品を親授。土肥原賢二少尉、旗手としてそれを拝受(東朝)。
光圀公の着手した『大日本史』ついに完成す。三九七巻、二五〇年を要した(東朝)。
新橋・神戸の急行列車で、車内で元日を迎える人に、おせち料理を用意(国民)。
この年。
サンフランシスコで大地震。市の三分の二が焼失。
ルーズベルト大統領。日露講和の仲介の功で、ノーベル平和賞を受ける。
オーストリアの医師、ピルケがアレルギーという用語を使い、過敏症に代る。
自動車好きの気球家ロールスと、自動車製造業のロイスが、ロールスロイス社を作る。騒音のないので有名になる。
ある雑誌で、五ヵ月間の自動車事故の死者は米西戦争のより多いと。アメリカン・フットボールの一シーズンの少年の死者は、一八人、重傷者は一五四人。
オー・ヘンリー、短編集を出版。
●明治四十年(一九〇七)
長野県・諏訪湖《すわこ》に、スケート場が新設。交通の便、設備、温泉、風光、あらゆる点で、日本最高。さらに発展する(万朝)。
リボンが大流行。輸入をへらそうと、大急ぎで会社と工場を作る(時事)。
新橋駅に高級貸馬車が出現。外国人、外国商会の番頭、婚礼用などに利用(都)。
一月二十一日。新年より上昇一方だった株価、大暴落する(中外)。
乃木大将、学習院長に就任(官報)。
足尾銅山、九百人が大暴動。物価上昇のため、賃銀引上げを要求して(東朝)。
東京の糞尿の引取り料の値上げのため、一ヵ月のストを提案した者あり(万朝)。
兵庫電鉄の株を募集したら、一万三千倍で、処理に名案なく、みな困惑(時事)。
東京の自動車が十六台となり、警視庁は時速十三キロ以下に制限。
ソテツの精虫の発見で、世界的に有名になった池野氏。まだ学位をもらえない。法学博士ばかり乱発している(日本)。
福沢諭吉の創刊の「時事新報」。満二十五周年で、二百ページもの記念号を発行。もっと厚くできるが、郵送の限界で。
北海道、旭川の連隊。三十七名の兵が夜間に外出し、飲酒して大さわぎ(平民新聞)。
義務教育の小学校、四年から六年制へ。
三越デパート。品数を多くし、食堂、写真室を作り、音楽の演奏もやる(東朝)。
平民新聞が「父母を蹴《け》れ」という文章をのせ、廃刊を命じられた(平民)。
最近、金もうけのため、いいかげんな経済情報を流す者がある(東朝)。
日本の全人口、四千六百万人。ただし台湾は除く(報知)。
夏目漱石、朝日新聞に入社。子供が多く講師の給料では、暮すのが大変だ(東朝)。
浅草の芸者・羽田よし。内務大臣・原敬《たかし》とかわした昔の恋文が発覚(報知)。
新華族令公布。板垣退助子爵が華族一代論を主張し、話題になる(東朝)。
東京駅の拡張、検討中。辰野博士の設計だが、完成には年月がかかりそう(東朝)。
露国通の軍人、戦死をよそおって降伏。発覚して退役に。宗谷地方で働いていたがクマの群に食われて死んだ(報知)。
欧米視察より帰った、乙竹岩造教授。性教育の必要性について報告(万朝)。
ある彫刻家、展覧会場にて自作をぶちこわす。審査への不満から(報知)。
西園寺《さいおんじ》首相、有名な作家二十名を、自宅に招待しようとした。漱石の返事(東朝)。
ほととぎす厠《かはや》なかばに出かねけり
国語調査委員会(時事)。慎重に熟慮で、延々とつづいている。
芝の料亭・紅葉館は芸者を入れない。美人に給仕させ、踊り、音曲、英語、教養も教え、評判がいい(都)。
宮中の女官。箔《はく》をつけ、良縁さがしに熱心な、現代風のがふえて問題に(日本)。
浪花節の桃中軒雲《くも》右衛《え》門《もん》。本郷座の公演で、一ヵ月、満員をつづけた。
露国から一流の音楽家たちが来日。演奏会に聴衆百人。ただし、日本人は数人。
ラムネより高級な、サイダーが流行。
オランダのハーグの平和会議。韓国の皇帝が、現状に反対の密書を送る。発覚し退位。日本優位の新協約が成立(東朝)。
隅田川の灯籠《とうろう》流しが復活。無鉛白粉《おしろい》を作った業者が、役者追善と宣伝にと(万朝)。
山手線に電車が走る。それまでは、すべて石炭による蒸気列車(東朝)。
日露戦争で、露軍に協力し、帰化し、教授となった人物。来日して豪遊した。憤激した男に、短刀で刺殺された(東朝)。
ある女学校の関西旅行。精神教育と、夜間、雷雨中などを歩かせた(東日)。
華厳の滝で、大法要。藤村操から、計一八五人(都)。
フィリッピン社会が不安定。米紙に「いっそ、日本に売ってしまえ」との説が。
函館で大火。一万戸が焼失(東朝)。
韓国で断髪令。日本の理髪師が、この時とばかり、かせぎに出かける(福岡日日)。
露国人の土地所有を認める。外人で第一号。シベリアで日本人が土地を所有し、農業をやっているので、やむをえぬ(東朝)。
日露戦争の功での授爵。山県、伊藤、大山は公爵に。乃木、小村は伯爵に(官報)。
旭《あさひ》硝子《ガラス》会社が創業。国産の窓ガラスは失敗の連続。三菱がやっと工業化に成功。
バイオリンの国産に成功。それによる演歌がはやりはじめる(日本)。
中山慶子《よしこ》、従一位局《つぼね》、薨去《こうきよ》。明治天皇の実母。七十三歳(東朝)。
大阪の工場で、廃弾二万発が、一時に爆発、死者多数(万朝)。
実業家は戦争で利益をあげたのだ。爵位を与える必要はない(報知)。
故、団十郎の娘が二人、女優になる。顔をしかめる役者もあったが、同等になったと思えば頭も下げないですむと納得(都)。
地方議会では対立案の投票妨害に、議員を料理屋にとじこめる。缶詰と称す(万朝)。
戦時に参謀で大功績をあげても、中将以下に授爵なし。役人は頭がかたい(万朝)。
浅草に芸者養成の小学校あり。卒業証書を与えたのが発覚、閉鎖となる(東朝)。
京大の学生と職員が、合同で松茸《まつたけ》狩り。蜂《はち》の大群に襲われ、被害者が多数(報知)。
早大で大隈重信の銅像の除幕式。当人の演説あり。この時、七十歳(東朝)。
軍艦・鞍馬《くらま》の進水式。以後、すべての艦船を国内で作ることになる(東朝)。
浅草に新聞閲覧店がふえる。手入れをごまかす、風俗営業。女性をそろえ、当初は矢場、飲み屋となり、いまは新手法(日本)。
箕面《みのお》有馬電気軌道、設立。のちの阪急で、専務取締役が小林一三。
日本蓄音機会社、設立。のちの日本コロムビア。
速記者の若林〓蔵、日本文字用のタイプライターを試作。三年がかり(万朝)。
伊藤統監、梅謙次郎法学博士に、韓国憲法の作成を依頼(京城新報)。この時、併合の方針は、考えていなかった。
男女を問わず、顔を美容する店が増加。客層は広いが、相撲取りはまだ(日本)。
韓国皇帝、国是を公布。その第一条。上下心を一にして盛《さか》んに経綸《けいりん》を行《おこな》うべし。
菊五郎の話。結婚で女性のヒイキは減っても、男性がふえる。気にするな(日本)。
男爵・伊東海軍中将、部下の女性工員と関係。手かげんするなとの説もあったが、証拠不足で、とりあえず左遷(東朝)。
この年。英国の東洋学者スタイン、敦煌《とんこう》で多量の仏画、古文書を発見。
アメリカで株価の変動が激しく、金融が不安定。デマへの警告がなされる。
キャデラックの新車、八〇〇ドル。馬一頭は一五〇から三〇〇ドル。
スエーデンでベアリングの会社が設立。
アメリカの通信社、UPが設立さる。
活躍中の画家。ピカソ、モネ、マチス、ドラン、ユトリロ、ルソーなど。
モレ『黒い瞳《ひとみ》』を作曲。
電気の洗濯機、掃除機が試作された。
アルプスに、常設のスキー教習所が。
ロシアの化学者メチニコフ、ヨーグルトで長命が可能との説を発表。
パリの新聞「ルマタン」の主催で、北京パリ間の自動車大レース。一位は六〇日。
フランスの自動車業者、有人ヘリコプターを作り、一・八メートルに二〇秒浮上。
●明治四十一年(一九〇八)
本年中に、内地の人口は五千万人を越えるだろう(東朝)。
佐久間象山の未亡人、死去。七十三歳。勝海舟の妹で、豪放な性格だった(二六)。
名古屋近郊の男。娘が十八歳の時に男と関係したので怒り、四十四歳の今まで、小部屋に閉じこめていた(東朝)。
東京府の仕事は、大部分が市の関係。千代田県を作り、市外をまかせよ(時事)。
天下に知られた新橋の名妓、ぼん太のおとろえの記事あり(都)。二十八歳なのに。
洋服業、運送業の人も官報を読む。大礼服、転任の注文を早くとるため(経済雑誌)。
派出所の名を、交番に改正。警官の服は陸海軍服の、中間の形に変る(経済雑誌)。
三越がデパートメントの名を使ったのに対抗し、松屋がバーゲンデーをやる(経済雑誌)。
和田垣博士が憲法発布当時を回想し「万歳」を唱えさせたのは自分だと。森有礼は「奉賀」を主張したが、練習で叫ばせると「阿呆《あほう》が」と聞こえ、中止となる(報知)。
日比谷公園で増税反対大会ありと、大ぜい集る。しかし、主催者は出現せず、酔っ払いがさわぎ、妙な形で終る(東日)。
デアボロという遊びが流行。ヨーヨーのようなもの。すぐにすたれた(英学生)。
裁判所で芸者が、印を押せと言われ、忘れたと答えた。拇印《ぼいん》でもと言われ、意味を知らず、そのボインも忘れてきてと(笑)。
第一連隊の兵三十二名。訓練がきついと隊列を作って脱出。二日後に帰る。だれも黙ったままなので、処分しにくい(東日)。
天皇、午前十時から政務。夜まで文書に目を通すことも多い。尊きかな(時事)。
朝日新聞社主催、世界一周旅行の五十七名が横浜港出発。パックツアーの第一号。
湯屋をのぞいた亀太郎、美人に熱をあげ帰途を襲い、さわがれて殺した。歯が出ているので、デバカメと呼ばれる(東日)。
その被害者の女性、野口米次郎の前妻。ただし、英詩人とは同名異人(東朝)。
韓国外交顧問のスチーブンス、米国で日本の政策を賞賛したため、韓国人になぐられ、つづいて狙撃《そげき》されて死亡(東朝)。
静岡のある村で、隣家の豚《ぶた》と関係した男あり。怒られ、高価で買わされて幕。めでたく同居となったわけ(国民)。
三田のあたり、地区整理で由緒のある建物が消えてゆく。惜しい(報知)。
有栖川宮の皇子、盲腸炎で死去。二十二歳。父宮の意見で、医学のために遺体を解剖に提供。新知識を得た(国民)。
本郷の奥井館という下宿。明治十六年より営業。博士を二十一名、出した(東日)。この時の博士総数は、五百五十人ほど。
四月八日夜、花が満開の帝都に大雪。みな、がっかり(東日)。
靖国神社中央の、大村益次郎の像。催しの邪魔だが、移すわけにもいかない(東日)。
東京朝日新聞に「万年筆」と称するコラムがあるが、ルビは、まんねんふで。
自由主義の作品が流行。風葉《ふうよう》や花袋《かたい》などきわどい。首相が招待したからだ(国民)。
六十六歳の警官が引退。大事件を四つも解決し、二千人近い犯人を逮捕した(都)。
小学校に、二人で組んでポルカを踊るのがはやる。明るく楽しいものだ(二六)。
五月。第十回総選挙。私の父・星一、福島県で当選(報知)。三十六歳。
新橋駅あたりに、花売りの少女が出現。かわいく、好評で、よく売れてる(報知)。
田子の浦で、和歌や句を残して、三人の女性が入水自殺。若くなく、動機不明。
国語調査会。酔《ゑ》うは酔《よ》うになどの統一案を出したが、解決はいつのことか(東日)。
丸の内のお堀に、蛍見物の人が多い。戦勝祝いに放ったのがふえた(時事)。
夏は、電車内で客を誘う娼婦がふえる。狙いは銀行会社員、清国留学生も(二六)。
ふざけた死亡広告。西園寺内閣、病状悪化で死去。本人の遺言で、同情は無用。嗣子、桂太郎。後見人、山県有朋(二六)。
帝劇女優養成所、開校。渋沢栄一のあいさつ。三百年、実業家と女性と俳優が軽視されてきたが、これで一つの進歩(都)。
桂内閣となり、後藤新平、逓信大臣として、はじめて入閣する(官報)。
出版社が約束を守らないと、女性が自殺す。父は憤激し、乗り込んで刺す。よく見ると社長でなく、その義父だった(都)。
神田に育つ大銀杏《いちよう》。幽霊が出るとか、供物《くもつ》で願いかなうとか、見物人集る(東日)。
デバカメに、無期の判決(東朝)。数年で出所。噂《うわさ》と自白のみで、冤罪《えんざい》の説が残る。
東京で世界大博覧会の計画。前内閣の意見だが、話がふくらむ一方で、失敗の可能性大。延期と決定(報知)。
侯爵・松方正義。六十歳を越す夫人が男児を出産。役所に庶子としての扱いを依頼し、孫にしたらとか(東朝)。本当の話か。
井上馨、病気。見舞客のため、新橋神戸間の急行を、静岡の興津《おきつ》駅に一分間の停車をさせる(中外)。
日本女子商業で、英語速記と英文タイプライターを教える科が新設された(中外)。
池田菊苗博士、コンブのうま味を分離。量産開始。翌年より「味の素《もと》」の名で発売。
東海道線の急行に、喫煙車両を新設。全面的な禁止は気の毒なので(報知)。
東京・青森間の陸軍自動車の試験は、結果わるし。軍馬を驚かすので、しばらくは導入しない(国民)。道も悪かったのでは。
文部省。再来年《さらいねん》より陰暦を廃止。明治五年以来、定着しないので実力行使(東日)。
清国の実力者、西太后が死去。溥儀《ふぎ》が帝位につく。ラスト・エンペラー。
人造肥料に、砂をまぜたりして、不当にもうけてはいけない(東日)。
浅草のある寺に、煩悶《はんもん》引受所が創立。来訪や手紙で、悩みを相談する人が多い。のろけを並べる人もまざるが(都)。
戊申《ぼしん》の詔書。維新以来、挙国一致と対外交易とで、ここまできた。今後は仕事に熱中、産業の発展を(官報より要約)。
ずっと緊張つづきで疲れ、個人主義が目立ちはじめたので(大百科全書)。
東京で自動車がふえた。これだと、人命や財産に危険が及ぶ。目に見えぬ被害も。いまのうちに対策を(東朝)。
幻の湖、楼蘭などを発見した探検家のヘディン、来日。宮中を訪問(東朝)。
公文書の文字。太政官令で墨に限られていたが、インキでも可となる(東朝)。
北原白秋や上田敏が集り、パンの会を結成。牧神の意味だが、食用パンで労働者のなにかかと、警察は注目した。
東京の路面電車、値上げ。怒った利用者は不乗同盟をやり、ラッシュ時もがらすきとなる。いつまでつづくか(東朝)。
この年。
グランド・キャニオンを保護地区に指定する。ニューヨークの二つの川の底に地下鉄用トンネルが開通する。フィラデルフィアで、母の日の行事がはじまる。
ドイツ。化学者ハーバーが、空気からアンモニアを合成する。物理学者のガイガーが、放射能を探知する計数器を作る。
活躍中の作家。アナトール・フランス。女流作家、コレット。チェスタートン。詩人のリルケ。『赤毛のアン』のモンゴメリー。
メーテルリンクの『青い鳥』初演。音楽はマーラー、ラフマニノフが、交響曲をそれぞれ発表。
東シベリアのツングースカに、巨大な火の玉が落下し爆発。調査隊が出かけたが、隕石の破片もなく、なぞが残る。
●明治四十二年(一九〇九)
内藤鳴雪の句集が刊行。なかの一句。
元日や一系の天子富士の山
自動車、東京だけで、なんと三十八台。うち、国産は八台。馬車、人力車は、ほとんどふえない(国民)。
学校での催し物は、派手。下品にならないように、と文部省訓令(東朝)。
浅草、十二階建ての凌雲閣の上から投身自殺の男。吉原の女にふられて(万朝)。
浅草でヨカロー会の新年会。一種の消費組合だが、交友が優先のようだ(万朝)。
韓国皇帝、国内を巡幸。爆弾などの噂あり、伊藤統監その車両に同乗す(報知)。
香港の華舫《かほう》、いまの水上レストランで爆竹から大火災に。歌妓《かぎ》など三百人が死亡。ほかにも負傷者千名の惨事(国民)。
ピアノの国産化は山葉《やまは》氏だが、バイオリンも鈴木政吉氏が成功(大朝)。
救世軍が太鼓をたたいて行進。老女になにかと聞かれた見物の青年、考えたあげくに「耶蘇《ヤソ》の法華《ほつけ》さ」(万朝)。
神奈川県下の旅館や別荘を荒していた賊を逮捕。美男にて、語学、美術、音楽の才あり。女にもてて金の必要から(東朝)。
日比谷公園にて、憲法発布の二十周年祝賀会。東京市が主催(東日)。
来日外人は、武芸を見物したがる。そのための館を横浜に設立した(東朝)。
陸海軍が外国より軍需品購入に関し、リベートを取ると、議会で問題になる。集団でやるので発覚しにくいと(読売)。
劇場の楽屋への、女性の出入り禁止。妻だ妹だと、勝手に言って入り、なれなれしくて、確認しにくい(都)。
日本橋の呉服店。品物を大量に持ち出した者あり、店員がつかまえる。否定するので、なぐる、ける、ついに死亡(東朝)。
昨年に米仏を回って帰国の、永井荷風。作品『ふらんす物語』が発禁になる。
陸軍、海軍、逓信の各省。それぞれ内密に、無線の改良をしている(東日)。
小説の原稿二重売りは耳にするが、評論にも出現。題のみ少し違い、内容は大差なし。しかも同じ月の雑誌にとは(読売)。
日本橋の柳屋、煙草の密造で手入れ。小さな容器への詰め替えで、徳川五代将軍以来の営業と弁明。どうなるか(読売)。
二葉亭四迷、露国よりの帰途、インド洋上の船中で死去。シンガポールに碑が。
日本海の無人島に小屋を作り、羽毛を製造し、外国へ売った一味を逮捕(東朝)。
両国に国技館、開館。これで雨天でも相撲がとれる(中外)。現在のとは別。
伊藤博文・韓国統監、辞任。後任は副統監だった曾禰荒助《そねあらすけ》(東朝)。
贈賄事件の記事をのせるなの命令書を掲載し、新聞社が起訴される(大朝)。
東京衛生試験所長・田原良純がフグの毒を抽出。テトロドトキシンと命名(薬学誌)。
ロシア・パンが好評。売子としての露人を、各店が争奪しあう(東日)。
隅田川の水防事業を組織化。川岸や船の火事、人命救助、橋の管理など(東日)。
井伊大老の銅像への反対論に反論。歴史教科書に、日本開国の実行者とあるぞと投稿(東日)。ぶじに除幕式が挙行された。
伊藤公帰京、参内。宮中より一旅団の儀仗《ぎじよう》兵が出迎え。暗殺の危険防止より、功績をたたえるために(東朝)。
小学校で、農業、園芸、林業などの植物の実習をさせるのが望ましい(大朝)。
娯楽は活動写真が大人気で、館は増える一方。株や米相場の資金も流入(万朝)。
東京市が米国ワシントンの、ポトマック河畔の公園に、桜二千本を寄贈(大朝)。
横浜での不良少年、堕落学生などの集団の愚連隊。警察が追い散らしたが、今度は不良少女の集団が出現した(万朝)。
京都大学。仙人《せんにん》を自称する男に、電気を流す。一般人なら気絶するほど強度にしても平然。異常体質と認定(報知)。
米の鉄道王、ハリマン死去。ウォール街の株式大暴落。さすが大物(読売)。
政友会十周年の会場で、老壮士が党員を短刀で殺す。恋のうらみのため(報知)。
社会主義者の北山という男。美人に一目ぼれ、同居。同志の平林という男、すきあらばと近づく。決闘は、仲裁が入り中止。美人は仲裁男と消えてしまった(報知)。
米国の新大統領のタフト。サンフランシスコで演説し、今後五十年、いや百年は太平洋が世界最大の問題となろうと(大朝)。
三井財閥。関係者が集り、欧州の財閥を模範に、新方針をきめる(大朝)。
伊藤博文、露国蔵相ココフツォフとの会談のため、満州へ出発(東朝)。
日本の農商務省。鯨の乱獲を規制す。違反者からは罰金、漁具没収。
軍事上秘密を要する特許の件。出願または改訂の書類は、大臣の指示により、特許局長は密封し、封印すべし(官報)。
伊藤博文、ハルビン駅へ到着。列車を降りて歩き出したとたん、韓国人の民族主義者、安重根の拳銃弾を受け、死去(東朝)。
大隈重信の追憶。彼は知識が豊富で、性格が調和的、じつに立派な政治家だった。
尾崎行雄。最初は敵として戦ったが、卑劣な手段での応戦がない。で、考えた。
伊藤博文の国葬。日比谷公園にて挙行され、曇天の下に数十万人が参集。養嗣子の博邦は、井上馨の子で幼名勇吉(東朝)。
北海道の東部から、サンフランシスコに無電を発信。しかし、返電なし(万朝)。
日糖乗取り事件の被告。法廷で裸になって叫び、連れ出すと皇居に向い土下座。帰宅させると、高笑いに号泣。わけがわからん。長期の取調べのためか(報知)。
陰暦を併記の暦を出版。発行の神宮司庁を手入れできず、処理に困る。
東京の山手線、一部開通。烏森《からすもり》(新橋)、浜松町、田町、代々木、上野の五駅。
ある歌会にて、人力車夫のよめる歌。商人を客にした時の気分。
乗る人も乗せて行く身もかけひきの
道にはなやむ浮世なりけり
この年。ボストン美術館、完成。
五大湖でワカサギの養殖がはじまる。
米国のアイスクリーム消費量。十年前の年間五〇〇万ガロンが、六倍に増加。
キューピー人形の意匠登録を買い取り、製造した男。巨万の富を得る。
化学者レービンが、核酸のRNA、DNAを発見した。
●明治四十三年(一九一〇)
米国から七百名の旅行団。鎌倉、新橋、日光などを見物し、各地で大歓迎(国民)。
米国より満州への共同投資の提案。露国がいやがるのでは(大朝)。
相撲の八百長の噂に、誓約文を発表。私情、情実、見苦しき行動を慎む(報知)。
七里が浜で、中学のボート部員が遭難。
真白き富士の嶺《ね》 緑の江の島……
物理学者・長岡半太郎。強力な磁場は光に影響を与えると思うが、実験の条件がそろわず、将来の計画とすると(読売)。
雄弁会主宰・野間清治。雑誌「雄弁」を発行。好評のため、講談社を設立し、雑誌「講談倶楽部」を発行の方針をきめる。
三宅坂よりお堀をへだてて皇居の堤を、午前十時ごろから毎日、子連れの狐が出あるく。見物人がふえる一方(万朝)。
清国、チベットに武力進駐。ダライラマはインドに避難。
韓国。親日派もあるが、反日派もある。集団で日本人を殺傷する事件も(国民)。
小学六年間の教育漢字、一三六〇字に増加される(東朝)。いじるのが好きだね。
武者小路実篤《むしやのこうじさねあつ》が雑誌「白樺《しらかば》」を創刊。
慶大教授となった永井荷風「三田文学」を創刊。
心理学者・福来《ふくらい》友吉。御船《みふね》千鶴子の千里眼を世に紹介しようと、努力する(東朝)。
木曾義仲の後裔《こうえい》、三十三年の恋みのり結婚。新郎は七十二、新婦は四十二歳(東朝)。
第六号潜水艦、訓練中に沈没。艦長・佐久間大尉、詳細な記録を残し絶命(東朝)。
長距離と夜間の電話料金、値下げ。
ハレー彗星、大接近。尾の有害ガスが大気に混入との流言(読売)。夜空は鮮明で壮大な、天体ショーだった。
ロンドンで、日英博覧会、余興として、芸人や職人、百五十人が渡英(東朝)。
陸軍大臣・寺内正毅《まさたけ》が朝鮮統監を兼任。
幸徳秋水ほか、重大事件の疑いで逮捕される(東朝)。詳しくは不明。
株式相場を伝える有線通信、ティッカーが兜町《かぶとちよう》区域に敷設された(国民)。
青山の夜道で、女性に抱きついた男。指を食い切られ、つかまる(東朝)。
韓国の警察事務の実権、日本が握る。
日露協約。相互の利益を確認(官報)。米国が手を出せないようにした。
上野の木が枯れる。汽車の煙ではなく、近郊から追われた鳥のフンのため(都)。
文部省。小学用唱歌を選定。「月」「カラス」「春が来た」「虫の声」など。
淡路島の二ヵ所の要塞《ようさい》。白アリのため使用不能となる(報知)。台湾産の種類とか。
関東、東北に大雨。東京は大洪水。
八月、日韓併合条約調印。呼称を朝鮮とし、皇帝を王とする(東朝)。伊藤博文の柔軟方針も、暗殺で消えてしまった。
朝鮮総督府が新設され、初代総督が寺内正毅。消極派の曾禰統監は、更迭《こうてつ》。曾禰は帰国して、まもなく死去(東朝)。
国語調査会、口語の研究に着手。その歴史と東京弁。うまくつながるか(東日)。
出版界に小型判の文庫が流行。表紙の絵の、銀杏の葉がしゃれている。
奈良軌道が設立。のちの近鉄。
栃木県の煙草耕作者。一枚の葉を私物化したと、有罪判決。弁護士たち、法の本質を論じ、上告し無罪に(東朝)。
戦場で押収した露国の切手。焼却せずに業者に払い下げた。露国で新図案のを発行したため、対策に困る(万朝)。
京都の大広間で、五十畳あまりの白紙に筆で忠魂と書く。世界一の大きさ(報知)。
函館港の日本唯一《ゆいいつ》の灯台船、ついに廃止となる。ガス灯のブイに替る(報知)。
数えで二十歳の頭のいい少女。医術開業試験に合格。しかし、未成年のため、免許は来年になってから(東日)。
選挙違反による失格の法律。成立に日時がかかり、現議員には及ばない(東朝)。
日本最初のエンジンつき飛行機。戸山が原で試験。滑走のみで、離陸せず(東朝)。
在郷軍人会に、海軍は不参加。徴兵での入隊でないと(大毎)。のちに参加する。
郵便振替貯金加入者なら、それで集金ができるように改正された(中外)。
文部省に文芸奨励賞の計画。審査委員はとやかく言われ、森〓外などは不要と言うだろうし、問題がある(大朝)。
不二家洋菓子店が、横浜で開業。コーヒー、紅茶、洋菓子を出してくれる。
本年、十月末日まで、晴天は八十六日。百八十年ぶりに、雨の日が多い(中外)。
井上馨の日本最大の銅像、完成。静岡県興津に運ぶ(東日)。まだ存命なのに。
透視をやる千里眼婦人、今度は丸亀《まるがめ》に出現。学者の前で的中してみせた(東日)。
浅草名物の水族館。人気が落ち、売物となる。活動写真の流行に負けた(やまと)。
白瀬矗《のぶ》中尉の指揮する、南極探検船が東京を出発(報知)。資金援助をしたのは、大隈重信と朝日新聞社ぐらい。
日野大尉。代々木練兵場で、ドイツ製単葉機に試乗。十メートルの高度を六十メートル飛行(万朝)。
やはり代々木で、徳川大尉は複葉機に乗り、高度七十メートルで三千メートルを。
衆議院の委員会の、報道が不正確。その上、記者たちの野次がひどく、今後は、入場と傍聴を禁止(東日)。
株式投機、強気の方針で大損をした証券業者。取引所内にて短刀で自殺(大毎)。
鈴木梅太郎、オリザニンを発見。ビタミンB1で、不足が脚気の原因。
幸徳秋水らの大逆事件。裁判は進行中だが、公開禁止で実情不明(東日)。
この年。米国のコンクリート舗装の道路。十年前の二三〇キロが、一六〇〇キロに。
建築家ガウディ、バルセロナにカサ・ミラを完成。五年がかりで。
ワシントン州で、父の日が祝われる。若い女性が、なき父をしのんで。
ロシアの画家カンディンスキー、世界ではじめて抽象画を制作する。
ストラビンスキーの『火の鳥』が、パリのオペラ座で上演された。
南ア共和国、英領から独立。
アルゼンチン・チリ間のアンデス横断鉄道、完成。チリの埋蔵豊富なチュキカマタ銅山の開発が進む。
●明治四十四年(一九一一)
大阪の梅田駅。新橋に次いで乗降客が多い。入場券の自動販売機が設置された。煙草販売機を改良したもの(大毎)。
米国航路の日本の船舶に、無線の送受信装置がつく。かなりの進歩(国民)。
初場所を控え、関取たちが待遇改善を要求。だめなら土俵に上らぬ気勢で、それをかちとる(国民)。運営が古いままだった。
丸亀の透視女性。学者との実験前に、フイルムが紛失。念力で、線路の南の溝《みぞ》にと予想。的中し、みな驚く(東朝)。
幸徳秋水ら二十四名に、死刑の判決。大逆事件(東朝)。新聞記事では詳細不明。
透視女性の新しい出現で、その第一号の千鶴子は、服毒自殺。人気が落ちたと思ってか、家庭の事情のためか(東朝)。
大逆事件の判決で、うち十二名は無期懲役に恩赦減刑(東朝)。手まわしがいい。
宮中歌会の入選者。政界の圧力、選者の不正などで、悪評がひろまる(東朝)。
幸徳秋水ら十二名、死刑執行。はおり、はかま姿で、落ち着いて台に上る(東朝)。
北満州でペストが大流行。南への移動者が多く、混乱。列車は運休に(報知)。
ハンガリーのブダペストで、日本美術展覧会。入場者、多数(国民)。
歴史教科書。北朝支持派と南朝支持派とで、学者、代議士らが大論争(東朝)。
長野の善光寺に、鉄道便で荷物が。あけると、五十歳ぐらいの女性の死体(東朝)。
東京帝国劇場が落成。三月一日、開場。
有力代議士の人力車ひきが集り、宴会。大演説あり、芸あり、酒も充分(読売)。
夏目漱石に文学博士。出頭せよとの通知に、ただの夏目がいいと、辞退(東日)。
同時に医学博士となった野口英世は、在米中で、ありがたくいただく(国民)。
日米通商条約、更新。関税自主権は回復したが、移民の制限はつづく(東朝)。
日本白十字社、設立。御下賜金により、低所得者の結核防止のための団体(東朝)。
埼玉県の所沢に、二十三万坪の飛行場が完成。東洋一の大きさ。東京住民は、汽車で二時間ほど。大発展を期待(東朝)。
天皇、南朝が正統と勅裁。教科書の文を少し手直しする(官報)。南朝を吉野朝に。
日本橋、近く完成。橋の名には徳川慶喜の書いた字を使用する(大毎)。
白瀬隊。上陸して南極へ進むが、結氷状態の悪化で、途中から引きかえす。
銀座にカフェー・プランタン開業。一般の人には、何の店かわからない。作家や芸術家が会員制にして、常連となる。
警視庁、指紋法実施。
米国に移民流入。南部をのぞく地域で、住民の四分の一が外国うまれ。
吉原遊郭で大火。六千五百戸が焼失。ほとんど全滅(東朝)。移転論も出る(都)。
桂、寺内など、朝鮮併合の功で、爵位が昇格。意味不明で、大反対だ(大毎)。
井上馨を総裁に、維新史の事業開始。薩長本位のものになるにきまっている(都)。
朝鮮総督府、「京城新報」を発禁に、内地の新聞もすべて押収。言論弾圧だ(大朝)。
清国の広東《カントン》地方で、革命党員により、暴動発生。拡大の傾向をたどる(東朝)。
文部省が『小学唱歌』を刊行。「おぼろ月夜」や「春の小川」などを収録。
上野動物園に、カバが加わる(東日)。
ライオン歯磨。チューブ入りのを発売。
北海道。強風で各地に山火事(国民)。
平塚雷鳥《らいちよう》ら青鞜《せいとう》社を結成、雑誌を発刊。
浅草。売春で逮捕した女。調べると、日露戦で戦死した陸軍大佐の未亡人(中外)。
東北七藩。維新史作成について、資料の提供を拒絶(都)。
昨年より低迷をつづけてきた株価、つづいて米相場、急に大はば上昇(国民)。
遊郭反対の団体、結成される(東朝)。
米の買占めの張本人の自宅の塀《へい》に、損をした者が、うらみの文句を落書き(東日)。
日英同盟、再延長。必要ではないが、なくしてしまうのも不安(東朝)。
大阪・中之島公園で、第一回模型飛行機大会が開かれた。
ペルーヘの移民、許可される。約八百名が、年内に出発。砂糖耕作に従事(万朝)。
太田海軍大佐の講演。海軍大臣は文官がいい。経理部に民間人を。軍艦は現状のままで充分。元帥は不要(東日)。
ルーブル美術館の「モナリザ」が盗まれる。二年後に回収。
大逆事件を機に、警視庁に特別高等課を設置。略して、特高。
第二次西園寺内閣、成立。内相・原敬。
三浦環《たまき》が帝劇で公演。美人、派手、好評のため、女優たちが非協力的(東日)。
清国の四川省で暴動。独立を叫ぶ者もあり。戒厳令が布《し》かれる(大朝)。
ヘボン式ローマ字のヘボン氏、米国で死去。九十六歳。この九月二十一日に、明治学院内のヘボン記念館が、焼失(東朝)。
鳩山和夫・法学博士、死去。米国留学、早大学長、衆議院議長、政界の名士。
三越百貨店が、苦情係をおく。
東大文学部の学生、試験に落第し自殺。採点の誤りで、内規の教授会も開かずに。そのため、責任の教授が辞表を(東朝)。
キエフで観劇中の、露国首相ストルイピン。革命家に狙撃され、死亡。
講談を筆記した立川文庫、大阪で発行され、大流行。ロングセラーになる。
反清革命党、支配地域を拡大し、中華民国として独立の声明を出す(東朝)。
岐阜。老婆がぼた餅を奪われた事件。二つの裁判所で、それぞれ別人を有罪とし、懲役に服しているのが判明す(万朝)。
浅草の銭湯。料金は一銭で電話は自由、庭も美しく、お茶も出る。評判に(都)。
巣鴨《すがも》病院の園遊会。芦原将軍の指揮する仮装行列が、派手で大がかりだ(報知)。
星一。着手した製薬業に応援者がつき、十一月三日、株式会社の登記をした。
清国のしたたかな政治家、袁世凱《えんせいがい》。首相に任命される。混乱がどうおさまるか。
清国にて、断髪が自由になる(万朝)。
モンゴル。これはいい機会とばかり、独立を宣言。宗教国家に。
日本でフランス映画『ジゴマ』を上映。怪盗物なので、やがて禁止された。
キューリー夫人、二度目のノーベル賞を受ける。
小村寿太郎、死去。五十七歳。米国に留学。駐清代理公使。外務大臣。日露講和条約を結ぶ。日韓併合。侯爵(東朝)。
電気技師オリベッティが、ミラノの西にタイプライターの設計、製造の会社創立。
米国でパイナップル缶詰の、自動大量生産機が作られる。一分間に九十個を処理。
十二月中旬。ノルウエーの探検家アムンゼンの一行、ついに南極点に到達した。
十六年にわたる亡命生活から、孫文が上海に帰国。十二月に南京《ナンキン》の臨時革命政府により、中華民国臨時大総統に選ばれた。
米国の人口、九四〇〇万人。露国、一億六七〇〇万人。日本、五二〇〇万人。仏、三九六〇万人。中国、四億二五〇〇万人。
●明治四十五年(一九一二)
元日。前日より東京の市電スト。たまに動くので、外出したものか迷う(東朝)。
ドイツの地球物理学者ウェーゲナー、大陸移動説を発表する。
大阪。火災防止のため、ガラス製のランプは、なるべく使わないようにと(大毎)。
上野駅。列車出発を告げる、電気で鳴るベルが、設置される(東日)。
清国で革命をつけるのが流行。革命靴、革命帽子、革命旅館、革命踊り(大毎)。
神奈川県。小学校新築資金を着服した人物。住民たちが連名で書類を作り、村八分を約束する。裁判はどうなるか(都)。
清国最後の皇帝、溥儀。六歳にして退位す。清朝はここで終る(東朝)。
皇帝の退位により、首相の袁世凱、革命軍と取引き。大総統に就任。孫文は、最高顧問の地位につく(東朝)。
某代議士、泥酔し議場で大声。退場と言われても、大あばれ。休憩となり、各派が協議中、当人は控室で大いびき(読売)。
新潟県の高田でスキー、群馬県の榛名《はるな》湖でスケート。大会が開かれる(報知)。
JTB、設立。のちの日本交通公社。
美濃部達吉博士『憲法講話』を刊行。天皇機関説をとなえる。
横山、鳥潟、北村の三技師。無線電話を作製。既存の外国製より、高性能(万朝)。
文部省の文芸委員会。漱石に賞をの意見が出たが、博士を断わったやつはと、否決に。民間からの委員、怒る(東朝)。
米国の福の神、頭の大きいビリケンの人形が、日本で流行。ビリとはと、けなす者もあり、各所で話題となる(都)。
本郷の学生街の食堂。みな高い料理を食うようになった(国民)。そのくせ、米が高くなったとの文句もふえた(都)。
軽く見られる輜重兵《しちようへい》の大隊が、青山で馬や車両への感謝の祭りをした(東朝)。
英国の大型客船、タイタニック号。北大西洋で深夜、氷山に激突して沈没。乗客は約二千二百人。うち、死者は約千五百人。
大阪。吉本せいが文芸館を買い、寄席とする。吉本興業の誕生。
古本屋の主人の嘆き。十年前の学生は本を買ったが、いまは着る物が優先(東朝)。
博士論文は文部省が受付け、国立大学の教授会が審査。趣味にする人は、珍論文を連続して郵送。対策に困っている(東日)。
ロシアで日刊の新聞「プラウダ」が創刊される。共産主義で、豊かな未来を。
第二回学士院賞、アドレナリン発見の高峰譲吉博士ら、五名に授与(東朝)。
那須《なす》に、御用邸が落成(東朝)。
薬の看板や広告の、誇大宣伝を禁止。ニキビ、発毛、性病など特に多い(東朝)。
武蔵野鉄道、設立。のちの西武。
飛行機製作の、ライト兄弟の兄のほう、ウィルバーが死去。四十五歳。
尼崎沖で、女性による和船の競漕《きようそう》。
明治一代女・花井お梅の芝居を上演中、見物席の本物が舞台に上り、無断でやるなと。仲裁が入り、手打ちに(中外)。
米人の操縦する水上飛行機。東京・横浜間を、海上から海上へ(東朝)。
紡績工場の女子労働者。一日十八時間の仕事は苦しいと、投書。六十七通(万朝)。
奇術師の松旭斎《しようきよくさい》天一、二年前より痔《じ》を病み、療養のため各地の温泉を回る。ついに福島の温泉で重態になり、死去(東朝)。
米価値上りで、民衆は買えず、問屋は不安で出荷を控え、米屋は倒産(報知)。
事故多し。左側通行の徹底を(東朝)。
商業学校の校長。問屋から外国米を仕入れ、生徒に安く売る者が出現(東日)。
桂太郎、後藤新平、露国へ出発(読売)。友交と満州の権益の、確認のため。
七月十日。天皇、東大卒業式にご出席。
郵便物、自動車の利用を開始(万朝)。
天皇のご病状。糖尿病に加え、十四日より消化器も悪化。睡眠の増加と発熱。東大より、青山、三浦の医師が拝診(官報)。
ご病気の報道で、株が暴落(中外)。
ご病状は、一日に五回、発表(万朝)。
多数の国民が二重橋前に集り、ご回復を祈願(読売)。夜、芸者と自動車で来て、ラッパを鳴らす者。言語道断だ(東朝)。
勲五等以上でないと、宮中に入れない。看護婦なしで、医師をふやす(東日)。
市電の音、線路に油をさし、低くする。
正午の号砲、場所を市が谷に移す。
ご病状。ご疲労が加わる。はじめて、カンフル、食塩水の注射をおこなう(東朝)。
七月三十日。天皇崩御。午前零時四十三分。六十一歳。嘉仁《よしひと》皇太子、践祚《せんそ》。元号は大正と発表。
暁の号外。市民は二重橋前で、大ぜいが雨のなかでひざまずく(読売)。
元号の原案に「天興」や「興化」もあったとのこと(読売)。
黒の衣服は値上り。犯罪はへる。株式はゆっくり上昇。演劇は休み(読売)。
裕仁《ひろひと》親王、皇太子に(都)。
先帝を明治天皇とお呼びする。御陵は京都の伏見桃山の地に(東朝)。
先帝のご生誕日、十一月三日をどうするか。各界の意見、明治節が多い(国民)。
与謝野晶子の和歌。在パリ(東朝)。
小雨降り白き沙漠《さばく》にあるごとし
巴里《パリー》の空も諒闇《りやうあん》に泣く
明治大学の課長の談。明治をたたえての校名ですから、改称しません。学生に明治という名のがいますが、当人次第(読売)。
芝浦で、写真師と花火師がマグネシュームを実験中、大爆発。死者あり(大朝)。
第一師団が千葉県で、新式野砲の実弾演習中、爆発。死傷者あり(報知)。
英国皇帝の大葬へのご名代、コンノート親王殿下、横浜着。日本の接待役、乃木大将、お迎えに出る(読売)。
九月十三日。大葬。ひつぎは午後八時、号砲とともに宮城を出て、青山祭葬所へ。
その号砲を聞き、乃木希典大将と妻、自殺。希典、六十四歳。静子、五十四歳。
希典の辞世。
うつし世を神さりましし大君の
みあとしたひて我はゆくなり
夫人の辞世。
出てましてかへります日のなしときく
けふの御幸《みゆき》に逢《あ》ふぞかなしき
東郷平八郎の和歌。
見るにつけ聞くにつけてもただ君の
真心のみぞしのばれにける
黒岩涙香・万朝報主筆の和歌。
今日まではすぐれし人と思ひしに
人と生れし神にぞありける
頭山満《とうやまみつる》の談(『小村外交史』)。
「先帝は小村を先供に、乃木を後供にせられて、ご満足でしょう」
新渡戸稲造《にとべいなぞう》の談。
「私はキリスト信者だが、乃木さんの切腹は、純粋な武士道のあらわれだ」
菊池大麓《だいろく》、数学者・学士院院長の談。
「乃木さんの行為は、時弊への清涼剤」
夏目漱石。『こころ』の一部の要約。
「軍旗を取られてから、三十五年間。どれだけ苦しい日々だったか……」
明治天皇の御製のひとつ。
あさみどりすみわたりたる大空の
広きをおのが心ともがな
明治天皇の崩御の年の、生存者の年齢。上より満年齢、人名、職業または地位、業績。一歳以下は略。
人物評価でなく、後世につながる感じを出したく、その方針で選んだ。
77 井上馨(元老)
77 松方正義(財政家・首相)
77 前島密《ひそか》(郵便事業の功労者)
77 カーネギー(米国の鉄鋼王)
75 徳川慶喜(十五代将軍)
75 板垣退助(自由党創立者)
74 山県有朋(陸軍大将・首相)
74 大隈重信(首相・早大創立者)
74 安田善次郎(銀行家)
74 モース(来日して大森貝塚を発見)
73 J・ロックフェラー(石油王)
72 渋沢栄一(多彩な実業家)
72 ロダン(彫刻家)
71 田中正造(足尾鉱毒事件)
70 大山巌(陸軍大将)
65 東郷平八郎(海軍大将)
65 桂太郎(陸軍大将・首相)
65 エジソン(発明家)
63 河野広中(自由民権運動)
63 西園寺公望《きんもち》(首相・元老)
63 ベルツ(東大医学部教師)
62 昭憲皇太后(明治天皇の皇后)
61 大山捨松(米国留学、巌の夫人)
60 山本権兵衛(海軍大将・首相)
60 寺内正毅(陸軍大将・首相)
60 福島安正(軍人・シベリア横断)
60 北里柴三郎(細菌学者)
58 高峰譲吉(化学者、アドレナリン)
57 犬養毅(首相)
57 菊池大麓(東大総長・文相)
57 頭山満(国家・アジア主義者)
56 原敬(首相)
54 小金井良精(医学者、私の祖父)
53 青山胤通《たねみち》(東大医学部長)
53 コナン・ドイル(作家)
52 加藤高明(首相)
51 白瀬矗(南極探検)
51 内村鑑三(宗教家)
50 新渡戸稲造(学者・教育家)
50 牧野富太郎(植物学者)
50 黒岩涙香(万朝報社長、周六)
50 森鴎外(作家・軍医)
49 ヘンリー・フォード(自動車王)
48 ラスプーチン(ロシア宮廷の怪僧)
48 明石元二郎(軍人、対露工作)
46 黒田清輝(画家・帝国美術院長)
46 H・G・ウェルズ(作家)
46 孫文(反清革命の指導者)
45 夏目漱石(作家)
45 幸田露伴(作家)
45 鈴木貫太郎(軍人・首相)
45 豊田佐吉(織機発明者)
44 横山大観(画家)
44 秋山真之《さねゆき》(海軍軍人・参謀)
44 ニコライ二世(ロシア皇帝)
43 マハトマ・ガンジー(インドの指導者)
42 レーニン(ロシア革命)
41 川上貞奴(俳優)
41 ライト弟(飛行機発明者)
40 島崎藤村(作家、『夜明け前』)
39 泉鏡花(作家)
39 与謝野鉄幹(歌人)
39 星一(私の父)
38 市村羽左衛門(十五世・歌舞伎俳優)
38 チャーチル(英・首相)
37 松永安左エ門(電力界の実力者)
37 小栗風葉《おぐりふうよう》(作家)
36 野口英世(医学者)
36 カザルス(チェロ奏者)
34 吉田茂(首相)
34 広田弘毅(首相)
34 与謝野晶子(歌人)
33 嘉仁親王(大正天皇)
33 アインシュタイン(物理学者)
33 永井荷風(作家)
33 スターリン(ソ連政治家)
33 トロツキー(ソ連政治家)
32 松岡洋右《ようすけ》(外相)
32 鮎川義介(日産創立者)
32 米内《よない》光政(海軍大将・首相)
32 マッカーサー(軍人)
31 A・フレミング(ペニシリン発見)
31 ピカソ(画家)
31 モルガンお雪(在米、資産家夫人)
30 五島慶太(東急創立者)
30 種田山頭火(俳人)
30 F・D・ルーズベルト(大統領)
29 鳩山一郎(首相)
29 志賀直哉《なおや》(作家)
29 ムッソリーニ(伊・総統)
28 貞明皇后(大正天皇の皇后)
28 三浦環(歌手)
28 東条英機(陸軍大将・首相)
28 山本五十六(海軍大将)
28 トルーマン(大統領)
27 正力松太郎(読売新聞社長)
27 北原白秋(詩人)
27 尾崎放哉《ほうさい》(俳人)
27 武者小路実篤(作家)
27 尾上《おのえ》菊五郎(六世・歌舞伎俳優)
26 谷崎潤一郎(作家)
26 藤田嗣治《つぐはる》(画家)
26 フルトヴェングラー(指揮者)
25 蒋介石《しようかいせき》(中華民国総統)
24 菊池寛(作家)
24 アービング・バーリン(作曲家)
23 早川雪洲(俳優)
23 ヒットラー(ドイツ総統)
23 チャップリン(俳優)
23 ネール(インド初代首相)
22 古今亭志ん生(落語家)
22 アイゼンハウアー(大統領)
22 ド・ゴール(仏・大統領)
22 ホー・チ・ミン(ベトナム主席)
22 アガサ・クリスティー(作家)
21 ロンメル(ドイツ軍人)
20 フランコ(スペイン総統)
20 吉川英治(作家)
20 芥川龍之介《あくたがわりゆうのすけ》(作家)
20 西条八十《や そ》(詩人)
19 毛沢東(中国主席)
19 ダレス(CIA長官)
18 江戸川乱歩(作家)
18 豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)
18 フルシチョフ(ソ連政治家)
18 徳田球一(共産党指導者)
18 徳川夢声(弁士・俳優)
18 松下幸之助(松下電器創業者)
17 ジョン・フォード(映画監督)
17 ベーブ・ルース(野球選手)
16 岸信介《のぶすけ》(首相)
16 土光敏夫(財界指導者)
16 宮沢賢治(詩人・作家)
15 花菱《はなびし》アチャコ(漫才師・俳優)
15 藤山愛一郎(外相)
14 周恩来(中国首相)
14 東海林《しようじ》太郎(歌手)
14 ルネ・クレール(映画監督)
13 池田勇人《はやと》(首相)
13 田河水泡(漫画家、「のらくろ」)
13 ヒッチコック(映画監督)
13 アル・カポネ(ギャング)
13 広沢虎造(浪曲師)
12 ルイ・アームストロング(音楽家)
12 大宅壮一(評論家)
11 裕仁親王(昭和天皇)
11 ディズニー(映画製作者)
11 スカルノ(インドネシア建国の父)
11 柳家金語楼(新作落語家)
10 小林秀雄(評論家)
10 横溝《よこみぞ》正史(作家)
10 リンドバーグ(飛行家)
10 バイニング夫人(皇室の英語教師)
9 山本周五郎(作家)
9 玉錦《たまにしき》(横綱)
9 嵐寛寿郎《あらしかんじゆうろう》(俳優)
8 古賀政男(作曲家)
8 榎本《えのもと》健一(喜劇俳優)
8 〓小平《とうしようへい》(中国政治家)
8 ジャン・ギャバン(俳優)
8 ビング・クロスビー(歌手)
7 福田赳夫《たけお》(首相)
7 木村義雄(将棋名人)
6 坂口安吾(作家)
6 溥儀(清・満州の最後の皇帝)
6 オナシス(海運王)
5 三木武夫(首相)
5 淡谷《あわや》のり子(歌手)
5 ハインライン(作家)
5 ジョン・ウエイン(俳優)
4 カラヤン(指揮者)
3 松本清張(作家)
3 太宰治《だざいおさむ》(作家)
3 上原謙(俳優)
3 田中絹代(俳優)
3 キャサリン・ヘップバーン(俳優)
3 横山隆一(漫画家)
2 大平正芳(首相)
2 黒沢明(映画監督)
2 ライシャワー(駐日大使)
あとがき
少年時代、私のまわりには明治がたくさんあった。晩婚だった父は、明治六年(一八七三)の生れ、母方の祖父の小金井良精は、なんと安政五年(一八五八)の生れ。
本郷に住んでいて、その家は明治二十九年の建築のもの。家の前は、大名だった土井家の土地が広がっていた。やがて分譲され、住宅が建っていった。夏目漱石の住んだ家も、近くにあった。いまは明治村にある。旧制の一高は、現在の東大農学部の場所にあった。
思い出に残るそれらの光景は、戦争末期の空襲で、ほとんど消滅した。なくなってみて、はじめて、なつかしさが高まる。戦後は品川に住んだが、たまに本郷を訪れ、歩きまわった。地形はそのままだし、古いお寺や神社は、残っているのもある。
そのうち、明治に関する本を、買いはじめた。趣味としてである。それを役立てることがあるとは、思いもしないで。
そのうち、ある編集者から、亡父の星一について書かないかとすすめられた。なんとか『人民は弱し官吏は強し』をまとめられたのは、明治が頭に入っていたおかげだろう。
のちに、父の青年時代を『明治・父・アメリカ』で書いた。明治の中期におけるアメリカの事情なども、いちおう調べた。
また、祖父の小金井良精についても、書いてみたらと言われた。たまたま、ドイツ留学の時からつけはじめた日記がみつかった。死去の一年前まで、毎日である。読むのが大変だったが、明治がさらに身近なものになった。『祖父・小金井良精の記』は、売れ行きは別とし、森鴎外のドイツ人女性の件で新発見の資料となった。
こうなると、亡父と交友のあった人物の十人についても書きたくなる。野口英世や後藤新平などの短い評伝をまとめたのが『明治の人物誌』である。資料を買い込む。厚い伝記を通読すると、新知識も得られる。
ここで、一段落とすることにした。はばをひろげるのは、私でなくてはならない仕事ではない。人生の区切りとして、ショートショート一千編の達成を目ざしたのだ。それも、なんとか仕上った。小説はしばらく休みときめた。
ある日、ふと書庫にあった『新聞集成、明治編年史』という、大判で全十五巻のセットをのぞいた。場所をとる資料だ。こんなものを買ってたのだから、私の明治趣味もかなりのものだ。
ページをめくりながら思いついたのが、本書のような形式である。新潮社の「波」という雑誌に、一九八八年一月号〜九〇年一〇月号まで、二年余にわたって連載した。かなり好評だった。
福島県いわき市の、亡父の知人の弁護士は九十歳で死去したが、その寸前まで「波」のことを言っていたそうだ。遺族は「波」を知らなくて、告別式の時に私に質問した。
おかげで、膨大な量の全ページに、目を通してしまった。楽しい作業なので、苦労はなかった。連載だったのも、よかった。こういうのは、あせったらだめだ。
こんな構成を、どうして思いついたか。途中で気がつき、考えてみて判明した。新潮文庫にある、私の著作の『進化した猿たち』全三巻である。一時期、アメリカのヒトコマ漫画を収集したことがあり、それをテーマ別に分類整理したのが内容である。これも月刊誌での連載だった。
これも趣味のようなものだから、ゆっくりやれば面白い。笑いの文句は、簡潔でなければならない。日本語訳に頭を使った。直訳では、おかしさがない。
その延長上の仕事が、新潮文庫の『アシモフの雑学コレクション』である。その編集と訳をやった。アメリカ人むけのを、除外した。おやっというのを、重点的に残した。科学の知識があったので、変な訳にはなっていないはずだ。
この『夜明けあと』も、テーマはちがうが、過去の体験が役に立った。それがなかったら、だらけたものになったろう。私としても、まとめてよかったと思っている。
つい成立事情を書いてしまったが、読者に楽しんでいただければ、もう、それで充分だ。どう受け取るかは、各人それぞれ自由でいい。政治的事件は、歴史の本で読むべきだと思い、ここでは簡単にすませた。
徳川時代の長い鎖国のあと、文明開化の大変化。普通だと内乱状態だろうが、意外に平静で、ユーモアもある。落語を育てた社会の、つづきを感じる。
ラジオも、テレビも、週刊誌もなかった時代。新聞は、娯楽性を持つ必要があっただろう。悲惨な事件や、理屈の主張は、あまりない。現代のテレビの、ニュース・ショーと共通したものがある。
現代の新聞は、社会の複雑化もあろうが、裏の裏まで解説しようとし、明快でなくなっている。ページを減らし、テレビと共存しても、いいのではないか。野球の結果をテレビで知っていながら、スポーツ新聞を買う人もいる。その数は知らないけど。
テレビ時代になってからの新聞からは、本書のような手法では、まとめられないのではないか。深刻さの比率が、笑いの何倍にもなっている。しかし、これについて論じるのは、私としては好きでない。
明治時代には、夢や、将来への期待や、面白いことが、いっぱいあった。それを知っていただければ、それでいいのです。
平成三年一月
著 者
参考資料
新聞集成・明治編年史(財政経済学会)
新聞集録大正史(加藤秀俊ほか)
新聞資料・明治話題事典(小野秀雄)
明治大正昭和 世相史(加太こうじほか)
実記 百年の大阪(読売新聞大阪本社)
近世日本世相史(斎藤隆三)
明治東京逸聞史1・2(森銑三)
世界史大年表(トレーガー、鈴木主税訳)
20世紀全記録(講談社編・小松左京ほか)
江戸東京学事典(三省堂)
舶来事物起源事典(富田仁)
明治奇談〓・〓・〓(清水谷漫歩)
人物・日本の歴史(読売新聞社)
明治ニッポンてんやわんや(紀田順一郎)
幕末維新人物100話(泉秀樹)
明治大正風俗語典(槌田満文)
近代日本風俗史(雄山閣)
明治東京犯罪暦(山下恒夫)
幕末 明治・女の事件簿(田井友季子)
明治新聞綺談(篠田鑛造)
日本の歴史(中央公論社)
にっぽん裏返史(尾崎秀樹)
文明開化東京1・2(川崎房五郎)
江戸っ子百話上・下(能美金之助)
明治世相百話(山本笑月)
疑獄100年史(松本清張編)
明治大正史・世相編上・下(柳田国男)
東京風俗志(平出鏗二郎)
奇事流行物語(宮武外骨)
絵本明治風物詩(長崎抜天)
この作品は平成三年二月新潮社より刊行され、
平成八年七月新潮文庫版が刊行された。
Shincho Online Books for T-Time
夜明けあと
発行  2001年8月3日
著者  星 新一
発行者 佐藤隆信
発行所 株式会社新潮社
〒162-8711 東京都新宿区矢来町71
e-mail: old-info@shinchosha.co.jp
URL: http://www.webshincho.com
ISBN4-10-861115-2 C0893
(C)Kayoko Hoshi 1991, Coded in Japan