TITLE : リンウッド・テラスの心霊フィルム
リンウッド・テラスの心霊フィルム
大槻ケンヂ詩集
大槻ケンヂ
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角川e文庫
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リンウッド・テラスの心霊フィルム○目次
T
おまけの一日
電波虫
なつみさん
屋上
いくじなし
釈迦
風車男ルリヲ
僕の宗教へようこそ
U
高木ブーの伝説
悲しきダメ人間
モーレツア太郎
愛のリビドー(性的衝動)
屋根の上の猫とボク
夜歩くプラネタリウム人間
KEEP CHEAP TRICK
妄想の男
少年、グリグリメガネを拾う
七年殺し
家族の肖像
岡田ロック
スラッシュ禅問答
ソウルコックリさん
労働者M
V
ノゾミ・カナエ・タマエ
クレーター
福耳の子供
私はみまちゃん
マタンゴ
ララミー
サイコロ小僧
猫のおなかはバラでいっぱい
モンブラン
のんきな兄さん
おおもうけバカボン
W
猿の左手、象牙の塔
孤島の鬼
外道節
ペテン師、新月の夜に死す!
23の瞳
パヤパヤ
夜歩く
イタコ LOVE〜ブルーハート〜
X
世界の果て〜江戸川乱歩に〜
これでいいのだ
踊るダメ人間
パブロフの犬
星の夜のボート
最期の遠足
月とテブクロ
サボテンとバントライン
リンナのこと
じーさんはいい塩《あん》梅《ばい》
生きてあげようかな
Y
ビッキーホリデイの唄
イワンのばか
詩人オームの世界
キノコパワー
サンフランシスコ
アメリカン・ショートヘアーの少年
バカボンの大脱走
電波ブギ
恋人よ逃げよう 世界はこわれたおもちゃだから!
何処へでも行ける切手
パノラマ島へ帰る
また会えたらいいね
人生は大車輪
あとがき
文庫版あとがき
協力・PCM
T
おまけの一日
ルチャドールになるために
猛練習を積んでいた少年が
トペデレベルサの失敗で
短いその命を落としました
憐れに思った神様は
少年におまけの一日をお与えになりました
おまけの一日 さりとて するべき事も無く
なんとなく陽がくれて その夕陽を見ながら少年は
「あ〜 僕の一生こそ おまけのようなものだったな」
と思いました
電波虫
友達の女の子が死んだ。一年半前。投身自殺だった。彼女は僕より三つか四つ年下で、あまり美人ではなかった。かといって頭が良いわけでもなく、性格はまあまあ、いればいたで、いなければいないで、いずれにせよ人の関心をひくことのない娘だった。二月のある日、彼女のアパートを訪ねると彼女は壁にぴったりと耳をくっつけ、大きな瞳だけを僕の方に向けて言った。
「ね、聞こえるでしょ。この壁の中を電波虫が群をなして行進してる音」「デンパムシって何?」「電気で生きる虫よ。ああ……いる……いるいるいる……動いてるわ、何て汚らしい! ね、大槻君もこっちへ来て聞いてみなさいよ」彼女に腕を引っぱられて、僕も壁に耳を当ててみた。もちろん何も聞こえなかった。デンパムシなんているものか。「ああ……いる……いるいるいるいっぱいいるわ……あたしに命令する気なのよ。指令を送る気なのよ!」アハハと笑って彼女の方を振り返ると、彼女の目は僕を見ていなかった。僕の顔に向けられている二つの眼球は、僕を通りこして、窓の外に広がる青空を見ていた……。
彼女が電波虫の妄想にとりつかれた原因についてはよくわからない。進学とか恋愛とか、彼女の年頃によくありがちな事だったのかもしれない。彼女の姉を一度だけ見た事がある。彼女と街を歩いている時にすれちがったのだ。年は僕と同じぐらいだろうか、彼女とちがってちょっとどぎついくらいの美人だった。やせていて、体にピッタリした赤い服。背中まである髪がゆらゆらゆれていた。姉は片足が不自由なようだった。「あの足は私のせいなの。フフ、おかしいわね。姉さん美人なのにヒョコヒョコ歩くのよ……」――三月三日の深夜、彼女は美人の姉さんと一緒に、板橋区のはずれにあるビルの六階から身を投げた。二人の手首はエナメル線で結ばれていた。姉さんの方は、落ちてからもしばらくの間は生きていた。妹を引きずりながら、二〇〇メートルぐらい歩いたところでパッタリ倒れ、それっきり起き上がることは無かった。二日後、彼女が死の直前に僕にあてた手紙が届いた。
「大槻君、お元気ですか? さて空が青いのはあれは一分のスキも無く電波虫がつまってるからなの。奴らは見えないように青い色をしている。くもった日はもっと大変、雲にかくれて見えないのをいいことに、電波虫は飛びかって私に電波を送るの。それはどこに逃げたって私の頭に飛びこんでくる。耳の穴は左右にあるから、電波のよけようがないの。姉さんを殺せって命令するの。姉さんはお前に殺してほしいのだよって、玉置宏みたいな声で私に言うのよ。電波虫が直接、脳の中に入る時もある。私は悲しくなって……。」
その手紙は今も引き出しの奥にあって、時々読み返してみるけれど、何度読んでも……当り前だけど……あまりいい気分はしない。
なつみさん
窓があって、そこから女の子がのぞいていた。
校舎の四階の窓からのぞくその子はクラスの同級生で、なつみさんという人で、とても美人で、僕はもちろんおしゃべりしたこともなかった。そのなつみさんが地上にいる僕をじっとみつめていた。ぽっかりと開いた両の瞳のまんまるでじっと見つめていた。僕は急用を思い出したふりをして一歩二歩三歩と歩いた。七歩目の右足が地面に着いた時、ものすごい音がしてふり向くとなつみさんは地面に倒れていた。
「ダメじゃないかそんな所で寝ていちゃあ!」
自殺未遂直後の同級生に何であんな事を叫んでしまったのか、いまだもって不可解なのだが、それでも彼女は素直に「ハイ、ゴメンなさい」と言ってバネ仕掛の人形みたくピョーンと立ちあがった。朝礼の時の「気を付け!」の姿勢だった。僕もつられて「気を付け!」してしまった。
二人で校舎の裏庭に「気を付け!」をして向いあっていた。夕暮れ時、なつみさんの顔は右半分だけ夕日に染まって金色だ。恥ずかしながら女の子の顔をこんな正面から見つめるのは初めてだった。何と言ったものかと口ごもっているとなつみさんは「帰るよ」と言ってゆらりゆらりと歩いていってしまった。
なつみさんは僕の斜め前の席だった。きのう四階から飛びおりたというのにちゃんと出席していた。でも顔やうなじやスカートとソックスの間のすねとふくらはぎとひざの色がやけに青白かった。指は蝋みたいだ。それにあんまりしゃべらなくなっていた。元からおしゃべりじゃないし、いつも「困ったなあ」って表情の子だったけど、一時間目から六時間目までついになつみさんは一度も口を開かなかった。僕の方をふり向くこともなかった。だまって、「困ったなあ」って表情でうつむいていた。ただ三時間目の古文の授業の時、ふいに両ひざをむねの所まで立てて、鉛筆と消しゴムを手に持った両腕でひざを抱え込み、イスの上でちょこんと「体育ずわり」をしてしまった。初老の教師が「オイ、見えちゃうぞ。」となつみさんに注意すると、なつみさんはひざをおろしたけど、その間も表情は「困ったなあ」のまま。
学校の帰り道なつみさんに声をかけられた。
なつみさんは赤のマフラーをしていて、手袋をしていて、いつのまにかハイソックスにはきかえていて、なつみさんは顔しか見えなかった。
なつみさんが僕の左の薬指をにぎってスタスタ歩き出す。
校舎の裏庭に連れてかれた。
なつみさんは地面にはいつくばる。
はいつくばってはいずった。
オオサンショウウオみたい
なつみさんは何か探しているのだ
草の根
分けて
石の下
花の中
つっこんで
「ねえ私が探しているのはちっちゃい人なの。私の右目の上、おでこの中に入っていたちっちゃい人なの。緑色のちっちゃい人なの。君は授業中ずっと私の事見てたから知ってるでしょう。私が時々目玉をぐるぐるまわすのを。いっつもやらしい目で見てたもんね。私の事。私の目ン玉がぐるぐるまわるの見てたでしょう! 特に退屈な授業ん時はぐるんぐるんぐるん回るの知ってるでしょう! 別にあれは右目だけ回してても良かったのよ。でも右目回したら左目もくっついてくるからしかたないのよあれは! まったくいやらしい目でみていたものね!! なんで回してたか知ってる知らないでしょ、知りたい? 知りたいって言ってごらんよ。あれはねええ、右の目の上の緑色のちっちゃい人が私のおでこの中で私の目ン玉にのって、サーカスの玉乗りみたいにおっとっとって目ン玉を回していたのよ。……だからしかたなかったの……怒ってゴメンね……私がちっちゃい人を初めて見たのはね、修学旅行の記念写真の中なの、ねえホラ、広介君っていたじゃない、うんそう、こないだ食中毒で死んじゃった子。記念写真のあの子の肩の所にいたのよ、緑のちっちゃい人が、葉っぱにかくれてね。だれに言ってもそんなの見えないって言われたわ。みんな私を心配してくれたな、私が広介君のこと好きなのってクラスじゃ有名だったもんね。ねえあなたは私のこと好きなんでしょ、じゃ信じてよ。でね、それからなのよ、ちっちゃな人が私のまわりにあらわれるようになったの。学校、お家、塾、いろんなとこで見たわ。特によく見たのは階段の踊り場、ホントにそこで踊ってんの、笑っちゃった。あと黒板の色にかくれてた、それと電柱……電柱のかげはまず必ずいたな。背は10p ぐらいでね両手はひざの所まであるの。胸のとこにイボイボがあって顔はなんにも……なんにもなくて、頭の上にもういっこなにもない顔の頭があるの。ひざをモモまで上げてマラソンの人みたく歩くのよ。そんで私が広介君のことを思い出してると……泣いてるといつのまにかそばにいて、口の中に入ってきて、舌を長い両うででぎゅっと抱きしめてだんだんだんだんのどのほうに入ってきたの、口の中がそいつでいっぱいになって、でも不思議に苦しくなかったな、のどの奥にゆっくり入ってく時、そいつがスライムみたくトロトロになってるのがわかったの。私、口を開けっぱなしでよだれがタラタラたれてた。そいつはだんだん鼻の方に回ってきてやがて右目の上に来て、そこでもう一度「人」の形にもどって足の裏を私の目ン玉の上に置いたの。そんで玉乗りを始めたのよ。玉乗りされると気持ちよくてねえ。ねえ気持ちがよくてねえ。
あの日も放課後の教室で玉乗りされてたの。もうとろんとしちゃって、そしたら裏庭を広介君が歩いてるんだもん。ククククク……まちがえちゃったの……ククク……君と広介君……私とろんとしてたからね。で、私ウソーとか思って窓から身を乗り出してそしたら広介君……じゃなくて君だったんだけど……ともかく去っていっちゃうじゃない。あわててもっと身を乗り出したの、そしたらちっちゃい人がおもいっきり目ン玉をころがしたの、ぐるんぐるんって……もう何もわからなくなっちゃって気づいたら……落っこってたの。
家に帰って気づいたの、ちっちゃい人が私の中から出てっちゃったって。……私、あの人がいないとだめみたい。……へへへ……」
それから日がくれるまで僕となつみさんは緑色のちっちゃな人を探しまわった。でも見つからなくて、「もしかしたらその人死んじゃったのかもね」と僕が言うと、なつみさんは僕を突きとばし、半ベソをかいたまま走っていってしまった。
まったくわがままな女だ。
その夜なつみさんが僕の家に来た。「借りていたノートをお返しに来ました」と言ってあがりこんできたのだ。僕の母は自分の息子にガールフレンドがいようとは!? と腰をぬかさんばかりに驚いていた。
なつみさんは僕の部屋に入ると、勉強机のイスに勝手にすわって、大人の女の人みたいにひざを組んだ。僕は床に正座した。
なつみさんはポッケから緑色のぐちゃぐちゃした物を取り出して僕の鼻先に差し出し「見つけた」と言った。
それはヘドロのような、つぶれたカエルのような、ゼリーのような、不定形の〓“物〓”だった。
「これを私の口におしこんでよ」と言った。
なつみさんは目を閉じ、くちびるを「O」の字に開いた。
なつみさんの赤茶けてねばついた口の中が見えた。
舌の上に緑色をのせると、ピクンとそいつは反応した。
たまらない気持ちになって僕はそいつをなつみさんの口の中にムニュウとおし込んだ。
なつみさんののどがこくんと鳴った。
なつみさんは静かにまぶたを開いた。
なつみさんの大きな両の瞳が
やがてぐるんぐるんとものすごいスピードで回転を始めた。
屋上
友人に売春婦やってた娘がいました。
「いました」と過去形なのはその娘が死んじゃってもういないからです。
自殺しちゃったからです。
去年のお正月にその娘の家に電話して、初めてその事をお母さんから知らされました。
「本当にこんな事になってしまって本当にもうなんといったら本当にもう。……あの子はバカで本当にもう……。」
すまなそうな声でした。すまなそうな声で娘の死にざまを語ってくれました。
「飛びおり自殺っていうんですか……近所の小学校の上からねぇ……本当にもう……空から女の人がふってきたって子供達が大騒ぎだったそうですよ、『ボク目が合っちゃったよ』なんて言い出す子もいたそうで本当にもう……ねぇ……それでもしばらくは息があったみたいなのよ。ふらふら立ちあがって歩きだしたっていうじゃない、昔から負けん気だけは強い子だったから本当に。それでね、ふらふらしながら通り向こうの喫茶店に入ったんですって……コーヒーなんか注文しちゃってねぇ……ずい分と顔色の悪いお客さんだなあなんてお店の人がしゃべってると、おそるおそる様子をうかがいに小学生のお子さんたちがいっぱいきちゃってねぇ。四十人ぐらいの小学生が遠まきに、でもそのうち近づいてきて、ウインドウガラスにぴたっとほっぺをつけてジロジロうちの娘を見るんですよォ、でね、うちの娘がクルッとふり向いたりするともう本当にギャアアッ!ってクモの子をちらす様に逃げてって、でもまたしばらくするとソロリソロリと近づいて来てねぇっ。だんだん子供の数がふえてくんですよ、七十人八十人てね、店の人がたまりかねて小学校に電話しましてねぇ。電話してる最中にギャアアアア!って本当にもうギャアア!って子供らが騒ぐんで、なんだ!?ってふり向いたら娘が床にたおれてたわけですよ。エエ、うちの子ったら派手なピンクのストールはおってねぇ。死ぬ時ぐらいねぇ本当にもうすこしわきまえたカッコしなさいってねぇ本当に本当にもう。」
そのストールなら見覚えありました。いつだったかその娘のマンションに遊びに呼ばれた時見ました。彼女の部屋は恐しく広くて、恐しくカラッポでした。ベッドとテーブルとラジオと、数冊の本と、それぐらいしかなくて、そのくせラジオは今時めずらしい短波が入るやつだったり、本は赤川次郎と村上龍の『トパーズ』だったり、なんかへんでした。ストールはベッドの上にニョロニョロとあって、最初僕は彼女が飼ってるチンチラかヒマラヤンかと思った。
「ケンちゃんなに正座してるのよ。」
彼女と散歩に出ました。通りは会社帰りのサラリーマンとOLとそんな人達の灰色と紺色であふれていてにぎやかしく、ピンクのショールを巻いたコールガールの彼女はだれの目にも浮いていて、だけどその事がうれしいのか彼女は軽い躁病患者のようによく笑いよくしゃべりつづけました。「夢」「現実的には」「セックス」「わたしはね」という言葉がさかんに使われていたけれど、僕は目立つ彼女といるのが正直恥ずかしかったのでほとんど聞いていませんでした。
それでも彼女はしゃべりつづけていました。
彼女のお母さんも実によくしゃべる人です。
「本当にもうそれでね、出るんですってよ……小学校に、何って決まってますわよ幽霊、ゆーれー、娘の、うちの娘の幽霊が小学校に出るんですって本当にもういやになっちゃう。青い顔してね、焼却炉にゴミを捨てにいった飼育係の女の子がね、クラスで飼ってた亀を殺しちゃったんでこっそり捨てにいくところだったんですけどね。――でね、その子が見たんですって本当にもううちの娘を、青い顔して立ってたんですって。ピンクの……ピンクのストールを首に巻いてね……その子ショックで寝こんじゃってね……あたしの前に出てきたら……ひっぱたいてやるわよバシッ! て。」
いくじなし
フェティシストの兄はいくじなし
フェティシストの兄はいくじなし
それでも僕の姉さんと恋におちました
フェティシストの姉はかわいくて
フェティシストの姉はかわいくて
それでも根性なし男と恋におちました
僕の姉さんは美しかったが若くして死んだ
姉は美しかったがフェティシストだった
空模様の機嫌の悪い日には夕暮れまで近所をうろつきまわった
葬式の夜 姉さんの恋人と称する男がやって来て僕に言った
「ケンジ君、これからはボクを兄さんと呼んでくれ」
その夜 兄さんは僕の手を握ってこう言った
「君の姉さんとは、理解しあっていたよ」
やがて彼は感きわまったのかポロポロと涙を流し始めた
僕の手を握りながらポロポロと涙を流し始めた
その手は妙に暖かく 僕はちょっといやだなァと思っていた
それからしばらくして兄さんは僕の家に遊びに来るようになった
遊びに来るというのは言い訳で 僕の金をせびりに来るのであった
「ケンジ君 ちょっと都合してくれないか、悪い友人にひっかかってしまってねぇ」
などと言いつつ その日も僕の手から金を受けとり 兄さんはテレた笑いを浮かべていたが、ふいに真顔になって僕に言った
「ケンジ君二人で旅に出よう どこか遠い旅に出よう 見たこともない国の風に吹かれたら姉さんの事なんかすぐに忘れられるだろう あまり金にはならないかも知れないけれど まっとうに生きるということはそーいうことなんだなァ」
結局二人でアンテナを売りながら旅を始めた
テレビもないような村でもうれしそうに買ってくれて「ありがたい」とまで言ってくれた
僕も何だか気分がよかった
アンテナは飛ぶように売れて僕達はお金持ちになった それはいい気分だった
一日中ニコニコして暮らした そんなある日僕は行き倒れの女の人を見た
その人は心なしか姉さんに似ていて 気にはなったが助けずに通りすぎてしまった
次の日 結局その人は死んだと聞いた
その話をすると兄さんは僕を怒鳴りつけた
「ケンジ君!ケンジ君! ボクはそんな男に君を教育した覚えはない 姉さんだってあの世で悲しんでいるはずだ ケンジ君! このいくじなしが! いくじなしが! この根性なしが!」
僕と兄さんは鉄棒が好きだった
小学校の校庭開放にいって
二人で鉄棒でグルグルとまわった
グルグルまわっていると いやな事や姉さんの事なんかは不思議と忘れてしまえるのだった
まわりながら兄さんは僕に言った
「ケンジ君、なんだか気持ちがよいねぇ」「なんだかとっても気持ちがよいですねぇ」グルグルグルグルグルグルグルグルグルまわりながら兄さんはこう言った「ケンジ君!ケンジ君! 今思うと君のそしてボクの姉さんの事は とてもいい、思い出だったよねぇ」
兄さん! 兄さん! いくじなしの兄さん!
僕は君と姉さんを「脳髄は人間の中の迷宮である」という観点から
あえて許そう
だから兄さん
百万人のアジテーターが君たち二人を罵倒しようとも
君たちはフェティシストであり続けてほしい
兄さん聞いているのか? 兄さん、聞いているのか?
しかしその後 兄はしがないアンテナ売りで一生を終えた
このいくじなしがっ!
釈迦
トロロの脳髄
トロロの脳髄
丘の上で
一人すわって
古ぼけた娘が
丘の上で
一人すわって
街を見降す
工場では
娘に恋する男
昼も夜もなく
ネジを回す
娘の横で
忙しげに
アンテナ売りが
娘のたのむ
仕事のために
商品の組み立て
アンテナは
その街の
博物館の屋根に
娘はそこの
持ち主の
成り金の孫で
年は十四で
おしゃべりすぎで
だけど可愛いくって
アンテナ売りが
落っこちてきたら
「受け止めてあげるよ」
足が滑り
アンテナ売りは
屋根から落ちる
まちかまえてた
娘の上に
音を立て落ちる
割れた娘の
頭から
はじける脳髄
屋根の上の
アンテナから
飛びでる電波は
シャララシャカシャカ
「けっこういい人だったから
恋してあげてもよかった
けっこういい人だったから
好きになってもよかった けどね」
トロロの脳髄
トロロの脳髄
風車男ルリヲ
人と雲の行く果ては何処だろう
悩み多き者の行く果ては
パノラマの島のあの上にある
月の裏のクレーターかもしれない
確かな事は解らないけれど
楽しかったあの頃に君が戻れないのは
煌々と月の照るホスピタルの上で
観覧車みたいに巨大な風車を
グルグルと回すルリヲがいるから
風車を早く止めなさい
風車男を殺しに行きなさい
今すぐバスに飛び乗りなさい
ルリヲを殺しに行きなさい
待ち人がついに現れないのも
それもやっぱりルリヲのせいで
老人の顔した赤ん坊を背中にしょって
黄金虫は金持ちだと歌いながら風車を回す
風車を早く止めなさい
風車男を殺しに行きなさい
明日の風に吹かれる前に
ルリヲを殺しに行きなさい
ねえ君
だけどルリヲは見つからないよ
聞いたんだよ 風車男には
首がないんだよ
首がないんだ
ルリヲを探す旅に疲れ果てて
君はどこかのつまらない娘を恋して
もしかしてこれが幸せと思う
バカだねルリヲの思うつぼさ
風車を早く止めなさい
風車男を殺しに行きなさい
冬が来る前に旅立ちなさい
ルリヲを殺しに行きなさい
ルリヲを殺しに行きなさい
ルリヲを殺しに行きなさい
庭師を殺しに行きなさい
ルリヲを殺しに行きなさい
僕の宗教へようこそ
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
犬神つきのはびこる街に やって来た男は
リックサックに子ネコをつめた少年教祖様さ
「この僕が街の悪霊どもを追いはらってあげよう」
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
「この僕が、怪しげならあんたら一体、何様のつもりだ!」
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
犬神つきを治したいなら 踊ることが大事
犬神の家にアンテナを立てて踊り続けろ
アンテナだったら僕が持ってる お安くしとくぜ
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
「この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ」
「ハイ ハイ ハイ ハイ ハイ レディース・アンド・ジェントルメン
お父っつぁんアンドお母っつぁん、踊りなさい 踊りなさい。
このアンテナ、そんじょそこらのまがいもんとはちょっと違うよ、
かのアメリカ大統領も愛用したってえスゲー品だ、
成層圏のそのまた向こう、大宇宙にポッカリと浮かぶお月様
その裏側のクレーターから飛んでくる宇宙線を
見事にキャッチしてくれるスグレ物なのよ。
この宇宙線が万病に効く効く、もちろん犬神つきにだって効果覿《てき》面《めん》よ。
さあ アンテナを屋根に立ててごらんなさい
あんたの娘さんも、嘘みたいに元気になって
喜ぶあんたたちの前で、きれいな声で、
ほらほら、オペラを歌ってくれるはずさ!
ほらね」
宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
だが、しかし 少年はペテン師なのさ
アンテナを立てたおうちは崩れていった
少年はネコを連れ町を出て行った
町は崩れて廃墟となった
その様子はまるで月面のようだった
宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
U
高木ブーの伝説
俺は高木ブーだ 俺は高木ブーだ
まるで高木ブーだ 俺は高木ブーだよ
一人で生きろよ つらくとも死ぬな
また会う日まで ごきげんよう
苔《こけ》のむすまで
愛し合うはずの二人が
予定調和の中で
離れ離れになる
何も出来ないで
別れを見ていた俺は
まるで無力な俺は
まるでまるで高木ブーのようじゃないか
俺は高木ブーだ まるで高木ブーだよ
「土曜の夜は二人で高木ブーを見ていた
何も出来ない彼を見ては
二人笑い合ったものさ」
君といつまでも
愛していたかったよ
君といつまでも
ふたりで居たかったよ
春に君と出会い 夏に君と愛し
秋に君と別れた
そして一人の冬が来た
俺は高木ブーだ!
悲しきダメ人間
ダメなボクと
ダメな君が
フラフラ踊ってみたけど
すぐにふたりは足がもつれ
転んでしまうから君は
今度生まれて来るときには
御主人様と犬になろうと言った
でも同じだよー
ダメなボクと
ダメな君が
御主人様と犬になって
お散歩に行くとしても
行くあてはないのだから
海にロケットを 見にゆく人の
混雑にまぎれ はぐれちゃうよ
それっきり あえない
モーレツア太郎
モーレツア太郎
啓蒙してくれよ
狂えばカリスマか!?
吠えれば天才か!?
死んだら神様か!?
何もしなけりゃ生き仏か!?
そんなロックで
子供が踊るよ
モーレツア太郎
ひとつものを教えてあげて下さい
オー ア太郎
墓石もけ倒し
子供の群れの前で
オー ア太郎
老人の声を 気にせず
子供達に歌え
そんなロックで
子供がはねるよ
ちょっとお兄さん
ひとつ教育してあげて下さい
愛のリビドー(性的衝動)
リビドー
我が性的衝動を 捧げようか
我が生涯最大の性衝動の炎を
あまねく全ての人に
夜明けのマゾヒスト
紅のフェティシスト
ああ そんな 私の
リビドー
我が性的衝動を 捧げようか
我が生涯最大の性衝動の炎を
あまねくさまよう人に
月、星、ネコ、夜空
私のエロス
ああ 今 その上
リビドー
我が性的衝動を 捧げようか
我が生涯最大の性衝動の炎を
今夜は愛の、愛のリビドー
忘れない
この時の
私と君を
夜明けのダダイスト
愛のリビドー
我が性的衝動の炎を 今
屋根の上の猫とボク
頭の良い子は 十月の夜に
大好きな猫とふたりで屋根に
セミアコのギター弾いて
猫はボンゴたたいて
ふと見りゃ隣の街の屋根でも
誰かがボクに合わせ笛吹く
ああ
あれはきっとあの街で
いちばん頭の良い子
聞こえてきたよ
各市町村の
頭の良い子が唄っているよ
ああ
バカはやだねぇ
庶民にゃなりたくないねぇ
一緒に唄おう
ボクらは唄おう
猫のリズムじゃ
のりにくいけど
ああ
バカはやだねぇ
庶民にゃなりたくないねぇ
夜歩くプラネタリウム人間
あたしダメよ
この世じゃダメよ
あなたと夜を歩くとしても
いつでも星座に
囲まれてなけりゃ
プラネタリウムになりたい
夜歩く プラネタリウム人間
暗黒の日でも星が見える
僕は好きさ
サカナが好きさ
君と夜を歩くとしても
サルガッソー海に
船を浮かべ
水族館になりたい
夜歩く 水族館人間
山の上でもサカナが泳ぐ
夜歩く 星とサカナの中を
俗な奴等にゃ 二人は見えない
唄おうよ この世をはかなんで
ルルルリララ タラリララ
人間 プラネタリウム
人間 水族館
歩こう 星座を巡って
歩こう 海図は持たないで
歩こう クレーター目指し
歩こう サルガッソー越えて
歩こう アガペー忘れ
歩こう リビドー捨てて
歩こう ムーンリバーに乗り
歩こう ポセイドン!
KEEP CHEAP TRICK
君が寂しい時
すぐに呼んどくれ
僕は青年落語家
笑かすぜ
ちょっと心臓の弱いバアサンなんかは
僕の川柳一つで笑い死ぬ
数珠を持つ間もないねぇ
早く卒《そ》塔《と》婆《ば》に墨入れな
それでも醒めてる
僕は冷えてる
凡庸な人達にいくら褒められても
「見ろよ、あの小咄 その大ボケ
山田隆夫に煎じて飲ませたい」
どうもありがとう
でもね 凡庸な人々よ
笑ってろよ 笑っていろよ
まったく こんな事は早くやめて
缶詰工場にでも就職したくなります
さようなら さようなら
高座から見るとあなたたちは
人の顔にポッカリと空いた穴から
出るに出られない目玉のようです
しかも目玉は二つもあるのです
まったく凡庸です
まったく見るに耐えない
さようなら さようなら
いつかどこかで逢ったら
気軽に声をかけとくれ
僕は今じゃ缶詰工場の工員なのさぁ
ここの人達はみんな
他愛のない事で
狂ったみたいな声で笑うのさ
僕ももちろん笑うよ
キョロキョロしちゃ駄目さ
目を見ちゃ 駄目なのさぁ
妄想の男
ああ「妄想だよ」
ああ「妄想だよ」
ああ「妄想だよ」
ああ「妄想だよ」
ああ「幻聴だよ」
ああ「幻覚だよ」
ああ「もしかしたら」
ああ「本当かもね」
オレをバカにするのにオレを愛さないのか お前 矛盾している
お前に毒電波を送ってやる 待っていろ
タクシー金払えば何処まででも行くぞ
オレをバカにするのにオレを愛さないのか お前 ふざけるな!
文学のようにオレを憎むな!
ドストエフスキーだって オレが電波で動かしてるんだ
妄想の男
お次はキミの番
妄想の男
未来のキミなのさ
現実は夢で夜の夢 本当さ
妄想の男 幸せかも知れない
そしてイガイガの金属物体をオレの心に
埋め込むのはやめてくれ
少年、グリグリメガネを拾う
少年 少年 グリグリメガネ拾う
見えない 見えない 見えない物の見える
なんでもかんでも 中身が透けて見える
不思議な不思議な グリグリメガネかけて
本を捨て 街へ出て
いろんな物を見て歩こう
何かいやな物を見ても
それは人生の修業さ
あの娘 あの娘 あの娘の中を覗《のぞ》こう
グリグリメガネで覗こう
見えるよ 見えるよ あの娘の中が見えるよ
ひしめきあってる そいつは無数の目玉さ
その目玉が涙に濡れ
君をギョロリといっせいに見た
何か嫌な物を見ても
それは 人生の修業さ
ネコ ネコ ネコの中は薔《ば》薇《ら》
老人 老人 老人の中は釘
サラリーマン サラリーマン 彼の中はネズミ
姉さん 姉さん 彼女の中はクレヨン
そんな物がギッチギチと
みんなの中に詰まっていたよ
何か嫌な物を見ても
それは人生の修業さ
とはいえ 本を捨て 街へ出て
いろんな物を見て歩こう
何か嫌な物を見ても
それは 人生の修業さ
喝!
少年 少年 グリグリメガネかけて
月夜に自転車 ペダル踏みしめて走る
光るよ 光るよ 君の上で 三日月
三日月 三日月 月の中は?
七年殺し
不甲斐ない日常に喝を入れようとしないのは何故だ!?
おお 見よ
若い娘らが笑っているぞ
お前の顔を見て笑っているぞ
見よ
娘らが踊り出すぞ
お前も慌てて踊り出すぞ
お前の脳はお爺さんのようだ!!
バカボン バカボン
全ての脳髄 入れ替えろ
不甲斐ない心にイカの血を入れようとしないのは誰だ!?
おお見よ!
サラリーマンがパチンコをするぞ
お前の顔を見て笑っているぞ
お前を憐れんでキャンプファイヤーを始めたぞ!
お前の脳はおはぎのようだ!
バカボンバカボン
全ての脳髄 捨てちまえ
七年だ
七年だ
七年で変われるか
あんた七年で変われますか?
夢は夜開く だけど朝しぼむ七年
指がのびる けれど手のひらちぢむ七年
ヴァイオリンが弾ける タップダンスが踊れる
ジルバもサルサも踊れる
そんなんじゃ駄目なのヨ
イカの血は真ッ黒ヨ
七年たっても真ッ黒なのヨ
そんなんじゃ駄目なのヨ
「……解りました ボクも男です 知り合いにガイジンの空手家がいます 彼に頼んでみます」
オーケー ミーの七年殺しをユービリーブね テキニイーズィーね
七年の後 男は死んだ。
西武新宿線下井草駅前パチンコ屋「原子心母」内に於ての心臓マヒは圧巻であった。
男が倒れた時 隣席にいたのはやはり鈴木ヒロミツであった。
男の死体は解剖され、その検死によって、恐るべき事実が判明した。
あろうことか男の脳髄は二十三年前 井の頭自然動物園の猿山からキャトルミュートレーションによって失踪した猿のそれと入れ替えられていたのだ。
お前の脳はお猿の脳だっ!
家族の肖像
サザエさん
カツオくん
ワカメちゃん
タラちゃん
フネさん
ナミヘイさん
マスオさん
タマちゃん
だけど
ノリスケさん
アナゴさん
イクラちゃん
タイコさん
サンペイさん
ナカジマくん
リカちゃん
ハマさん
だけど
イクラよお前は叫びなさい!
茶の間に向って叫びなさい!
タラオよお前は泣きなさい!
家族に向かって泣きなさい!
マスオよお前は去りなさい!
妻のもとから去りなさい!
カッオよお前は死になさい!
姉さんの前で死になさい!
だけど
サザエさん
だけど
サザエさん
岡田ロック
愛川欽也のうんちくを
岡田有希子に聞かせたかったよ
だけど今さら言っても
しょうがないじゃない
丹波哲郎の地獄の話を
沖雅也に聞かせたかったよ
だけど今さら言っても
しょうがないじゃない
大橋巨泉のたわごとを
田宮二郎に聞かせたかったよ
だけど今さら言っても
しょうがないじゃない
大仁田厚の泣き顔を
円谷選手に見せたかったよ
だけど今さら言っても
仕方の無い事だよ
スラッシュ禅問答
人生つらけりゃ 俳句を読めよ
言葉が足りなきゃ短歌があるぜ
それでも駄目なら詩でもよいし
いかんともしがたきゃ奥の手あるぜ
あれだ 何だろ
禅問答 それが定番
「ならば問う 人生とは何ぞや?」
「イデオロギー無き我が屍《しかばね》を 血祭りにあげるが如し!」
「ならば問う 人生とは何ぞや?」
「演歌歌手の喉《のど》笛《ぶえ》を
ボンテージ女が 血のにじむほど 締めるが如し!」
人生つらけりゃ ジルバを踊れ
ステップ踏めなきゃ スラッシュあるぜ
あれだ 何だろ
禅問答 それで解決
「ならば問う 人生とは何ぞや?」
「サハラ砂漠で狂ったネコの 反復横飛びを見るが如し」
※幾時代かがありまして
茶色い戦争ありました
幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました
さらに十年、そして十年
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
僕等は迷い子
ワラをも掴め スラッシュ禅問答
どうすれば いいのだ
小首をかしげて 禅問答
※中原中也「サーカス」より
ソウルコックリさん
コックリさんに聞かないと
俺は何にもわかんねぇんだ!
テレビもねえ ラジオもねえ
おまけにオレには心がねえ
思い出はあるけれど
トラウマばかりで楽しかねえ
人生の意味さえも
オレには本当にわからねえ
生きるとは何なのさ?
教えてくれるか? コックリさん
明日もねえ ルーツもねえ
おまけに今いる場所がねえ
怒りならあるけれど
ぶつける相手が見つからねえ
人生の意味だけが
今宵もオロロと降りかかる
生きるとは何なのさ
教えてくれるか? コックリさん
この指に願いを込めて
問いかけたけれど 何も答えず
それなのにお帰りにならない
そしてボクはまた途方に暮れる
テレビもねえ ラジオもねえ
よごれちまった悲しみねえ
イマジンねえ ピースもねえ
コンプレックスばかりで オリャ知らねえ
ハートがねえ ボディもねえ
アイデンティティーは何者だ
オレ こんなオレ嫌だ
オレ こんなオレ嫌だ
この指に願いを込めて
何かに頼ろうと思うのです
花の散るように
星々の流れるが如く
調子のいいこと
言っておくれよ
教えてくれるか
コックリさん
我々は真理なんか求め
問いかけたけれど 何も答えず
それなのにお帰りにならない
そしてみんなまた途方に暮れる
労働者M
ダイヤモンドは ただの石
一万円札は ただの紙
アンモナイトは ただの貝
人間とはウスバカゲロウのようなものだ
働け 働け
偉人の言葉も ただの嘘
熱き涙も ただの水
王様の耳は ロバの耳
人間とはシーモンキーのようなものだ
働け 働け
アリストテレスは ただの人
アルチュール・ランボーも ただの人
ニーチェなんかも ただの人
人間とはミトコンドリアのようなものだ!
働け 働け
働け いつもお前は
そうだ働け
死ぬまで働け
北京では オーロラ燃える
だがそれは 君の人生とは関係ない!
だから 働け 働け
「諸君、諸君らに夢はあるか?
あるなら働け 努力だ」
「お言葉ですが先生!
努力で本当に夢が叶いますか?
死んだ恋人が蘇りますか?
日本が印度になりますか?
王様の耳は
ロバの耳ではないんですか?」
ダイヤモンドは ただの石
一万円札は ただの紙
アンモナイトは ただの貝
人間とは一体なんだ
働け 働け
*共作者〓=前島明博
V
ノゾミ・カナエ・タマエ
男の子が一人ぽっち 森へ行った
友達なんかいないから
一人ぽっちで行った
夏の熱い日射しは
男の子にハトの羽のいっぱいついた
ふさふさのコートを着せ
虫かごはあふれ
男の子はうれしくって
うれしくって
友達のいないことも忘れて
いきおいづいて
ポーン と
ジャンプしたひょうしに
沼に落ちた
オニナマズの群れがゴポゴポと浮かんで
ハトの羽根をくわえ
またいっせいにゴポゴポと沈んでいった
男の子のお葬式には
同じ学校の小学生が11人
そのうち女子が3人
お葬式の後
みんなでマクドナルドへ行った
だれも男の子とおしゃべりしたこと なかったくせに
「あいつもあれで結構
いい奴だったよな」
とか
バーガーくわえながら語り合っていた
女子なんか泣いたんだぜ
そこへ
ハンテンをはおった男の子のおじいさんが現れて
マチ針で小学生をつつき出したのだ
なにか口の中でもごもご言ったのだ
低い低い
沼の底のオニナマズの声で言ったのだ
みんな耳をふさいだけど
僕だけには聞こえてしまったのだ
おじいさんは
「ノゾミ・カナエ・タマエ ノゾミ・カナエ・タマエ ノゾミ・カナエ・タマエ ノゾミ・カナエ・タマエ ノゾミ……」
くり返していたのだ。
クレーター
僕がまだちっちゃいころ
(今でも充分 ちっちゃいけどね)
僕のお部屋の机の中に
緑の色の王様がいた
王様はとても ちっちゃくてね
それでも 輝くケープをまとい
「私は誰も愛しはしない
途方にくれる だけさ」
と言った
「雲と人との行く果てを
食事のお礼に
そうだお前に見せてやろう」
僕のお部屋の机の中に
ちっちゃな緑の王様がいた
王様のくせに 気の弱い人
ちっちゃな音にも おびえた目付き
机の奥の
方位磁石
陰にかくれて
ふるえてばかり
「私は何も怖くは無いサ
死ぬ日のわかる だけだ」
と言った
「雲と人との
行く果てを
食事のお礼に
そうだお前に見せてやろう」
僕は今でも ちっちゃいけど
少しはこれでも大人になって
僕のお部屋の机の中に
緑の色の王様はいない
王様はいつか出て行く時に
ちっちゃな指輪を 僕にくれた
「私は誰も愛しはしない
けれどもお前は 何故だか好きだ」
と言った
「雲と人の
行く果てを
最後のお礼に
そうだお前に見せてやろう」
クレーター
クレーター
月まで行くさ
クレーター
クレーター
月まで
行くのさ
福耳の子供
福耳の子供が
いつも私を誘う
学校の帰り道
曲り角を曲ると
僕は幸せ呼ぶ子供
僕がついていれば
お姉さん いつも幸せ
それが子供のいいわけ
福耳の子と ピクニック
おむすびが 転がり
福耳の子も 転がる
「おかしいねぇ」って 笑うと
僕は幸せ呼ぶ子供
僕がついていれば
お姉さんいつも幸せ
それが子供のいいわけ
福耳の子供 耳たぶたらして
福耳の子供 幸せをはこぶ
福耳の子を お家に
おきざりにして きたら
大事にしてた お人形
燃やされて しまった
僕は幸せ呼ぶ子供
僕をおいてゆくと
お姉さん 不幸になるよ
それが子供の泣きごと
福耳の子供が わたしを待っているから
街へ踊りにゆくのも
遠まわりして 行きましょう
だけれど どこへ逃げたって
逃げたその街の どこかで
福耳の子が笑う「遊ぼうよォ」って ほほえむ
福耳の子供 耳たぶたらして
福耳の子供 カルデラを歩むヨー
福耳の子が遊びたいって
ついていって しまおうか
思ったり するけど
思うけど
私はみまちゃん
崩れていくよな遊びが終って
ふと見た鏡の鏡の中は
あまりにみにくい あまりにふとった
ぶよぶよからだの女の子
身動きもせずにじっと見つめてる
身動きもせずにあたしを見ている あ・た・し……
昨日までは普通の少女だった
あたしが今日から異形の少女ね
うぴうぴふるえる脂肪のあたしに
お肉屋さんさえ逃げていく
笑うとみにくい 泣いてもみにくい
どうしてもみにくいあたしの名前は みまちゃん……
お肉のかたまりお肉のかたまり
「あたし、おなかがぶよぶよだわ」
「おしりまでぶよぶよだわ」
おしりだけではないわいな
身動きもせずにじっとしている
あたしのお部屋の扉がたたかれ
テノールの声があたしをさそうの
南の島へ行きましょう
そこではふとった少女がたくさん
だれにも知れずたくさん住んでる楽園……
お肉の楽園お肉の楽園
「あたしでもそこへ行けるの?」
「もちろんですよお嬢さん」
「でもあたしなんか迷感じゃないかしらん」
「なにを言います、あなたなら楽園の女王になれますよ」
そうだお肉の女王だ
お肉の女王お肉の女王お肉の女王
女王だ!
マタンゴ
呪いの館には行っちゃいけねえ!
呪いの館には行っちゃいけねえ!
くどいようだが行っちゃいけねえ!
呪いの館には行っちゃいけねえ!
それでも行くと言うのなら
僕を振り切り行くのなら
ひとつ気をつけてね
タマミちゃんにはね
マタンゴというキノコは人に寄生いたします
あまねく全ての人が
お庭にキノコを植えたら
キノコ人間になってしまった
君の家のタマミちゃんが
目立たなくなるからいいねぇ(いいよね)
おめかしをしてドレスを着せて
パーティーにつれてゆけるからいいねぇ(いいよね)
いくら
頭が良くったって
かわいくったって
キノコ人間じゃあねえ……
マタンゴ
マタンゴ
タパタパタパタパ
タパタパタパタパ
タパタパ胞子を振りまくよ
ララミー
申し訳ない!
君のララミーは
深夜コンビニエンスストアーに遊びに行くような少年によって
なすがままにされてしまった
めんぼくない!
君のララミーは
猫を針山にして遊ぶ少年によって
笑いものにされてしまった!
オー マイ リトル ララミー
こんな娘は牧場の恥だよ
キノコと一緒に穴ほってうめちゃえ!
返す言葉もない!
君のララミーは
毛のない小学生によって
恥をかかされてしまった
オー マイ リトル ララミー
可哀そうだが牧場の掟だ
キノコと一緒に穴ほってうめちゃえ!
オー ララミーは哀しい子だねぇ
オー ララミーは可愛いのにねぇ
サイコロ小僧
「サイコロ小僧」を憶えてる人が今どれだけいるだろうか。僕が小学三年生の頃の話だからもう十五年は昔だし、新聞に載ったわけでもない。それでも当時の中野周辺に住んでいた小学生の間で「サイコロ小僧」の名を知らぬ者はモグリといわれたぐらいだ。クラスに二人か三人は必ず「サイコロ小僧」を見たという奴がいて、給食の時間や休み時間のヒーローになっていた。
僕もその一人だった。
あれは夏休みの二日前。僕はテスト結果のそのあまりの悪さに家に帰るに帰れなくって、街をうろついているうちに道に迷ってしまった。見渡せばそこはどこかの工場の中庭みたいな所で、もう日も沈みかけている。恐ろしくって出口を探そうと必死になればなる程、暗くて錆《さび》ついた場所に出てしまうのだった。今度こそはと思って角を曲がるとそこもまた人間の膝たけぐらい高さのある雑草が生い茂った空き地なのだ。
サイコロ小僧はそこで踊っていた。
アディダスの青いジャージの上下を着ていた。背は低く、手足もちょっと短く、だが胴長短足の上にのっかるその頭のでかいこと。普通人の倍はあるだろう。しかもそれは金属だ。夕陽をあびてにぶく光る金属製六面体、まさにサイコロ型の巨大な箱状頭部を持つ男(女?)。噂《うわさ》に聞いたサイコロ小僧がそこにいたのだ。
サイコロ小僧はそこで踊っていた。
巨大なサイコロ頭を前後左右にゆうらりゆうらり動かして、軽く握った拳を空につきあげて、腰は左右にだけ振って、ステップはまるで東京音頭みたいだった。
次の日学校で踊るサイコロ小僧について語った僕は、当然ヒーローになったのだが、次の日からは夏休みという恐るべき運命のいたずらに翻弄され、華やかな英雄時代はわずか一日で終ってしまった。
それから三年が過ぎ、僕ら小学生の間でサイコロ小僧の名が聞かれなくなったころ、怪人の正体が突如として判明した。
サイコロ小僧の正体は音楽家を志す青年であった。
その年の冬、都立家政の安アパートで青年は死体で発見された。死因は餓死。遺品として彼の残した物は、数枚の楽譜、ジャーマンロックバンド「カン」のレコード三枚。それに金属でできた巨大なサイコロ型。それは底にちょうど人間の首まわり程の穴が開いていてパッカリ二つに割れるようになっていた。その箱はどうやら頭にかぶる金属製の覆面であるらしいのだ。パッカリ割れた箱の内面を、直径1p程の小さな鈴がびっしりと覆っていた。鈴は真ン丸いのや、いびつな形をしたものや星型のものなどさまざまに、千個ぐらい付けられていた。
箱を動かすと千個の鈴がけたたましく笑った。
アパートの大家によると、青年は無口で猫背で汚らしくて真夜中でも平気で洗濯を始めるし友達が訪ねてきた事もないし気味悪いったらありゃしないわよ本当、いつだったかいきなり来て、今ラジオで大家さんに家賃を払えといわれましたのでなんていったりしてねぇ本当に、という様な真に変わった人物であったらしい。
問題の巨大サイコロは彼の製作した楽器だったのだ。内部に千個の小さな鈴をしきつめたその箱をかぶり、彼は自分しか聞く事のできない音楽をその箱型楽器で楽しんでいたわけだ。
僕の見たサイコロ小僧は、それをかぶった〓“ノリノリ〓”状態の青年であったのだ。
青年のサイコロ型楽器に興味を持った高名な現代音楽家が遺族を訪ね、実際にその箱をかぶり「試聴」した。ゆうらりゆうらりと頭を五、六度振った後現代音楽家は鉄の箱をはずし、不安げに見守る遺族に対してこう言ったそうだ。
「別に大した事ないね。」
猫のおなかはバラでいっぱい
ある日 僕は沼に行ってひと泳ぎした
僕の足を引っぱる女の人がいました
「坊やお願い 溺れちゃったの 助けておくれ」
ドキドキしながら女の人を助けてあげた
「坊やありがと とてもイカスわ これをあげるわ
大きな猫と 小さな猫と どちらがお好き?
お前にあげよう」
謙虚な僕は子猫を選んだ
白い子猫は おいしそうだった
ナイフとフォークと小皿を用意して
ドキドキしながら白い子猫をお皿にのせて
サクサクとサックリ、サックリ おなかを切った
猫のおなかはバラでいっぱい
紫のバラがつまっていたよ
そのバラをちょいとあの娘にあげて
それで よろしくやったってわけさ
猫のおなかはバラでいっぱい
猫のおなかはバラでいっぱいさ
バラが枯れるとあの娘は離れていった
そんなものさと悟った僕は沼でひと泳ぎ
「坊やお願い 溺れちゃったの 助けておくれ」
僕の足を引っぱる女の人がいました
もう一度助けて白い子猫をいただいたってわけさ
猫のおなかはバラでいっぱい
バラにひかれてあの娘が来たら
ヒトデのスープで食事にしよう
もちろんスープにゃ 毒をいっぱい入れて
猫のおなかはバラでいっぱいさ
モンブラン
姉さんは夕暮れに帰ってくる。
僕は絵を描いて待っている。
高い高い塔の上に僕と姉さんがいる絵。
塔の上に腰かけ足をぶらぶらさせる。
地上から見たらヘンテコな振子が四本。姉さんの足は僕より長くて、姉さんはきれいだ。姉さんをきれいに描かなきゃと思う。
姉さんの手には小さなパラボラアンテナが握られている、そこからジグザグの電波が地上に向かってのびている。赤、青、ぐんじょう、ビリジアン、茶色に金色。いろんな色のクレパスで線を引く。電波に当った人達を描く、案《か》山《か》子《し》みたく棒立ちで、その目は白い。画用紙の白じゃなくて、ちゃんと白いクレパスで白くぬる。白目の案山子をいっぱいいっぱい描く。
姉さんはきれいだ。姉さんのドレスをぬる。最初に赤、その上から黄色、そしてその上から黒くぬりつぶす。すると僕の手は止まらなくなって、姉さんのドレスどころか画用紙中黒くぬりつぶしてしまう。画用紙がゆるりと裂ける。
姉さんが帰ってきた。
「しづちゃんしづちゃんただいま。良い子にしてたネェしづちゃん。しづちゃんに見せたい物があるの。ホラこれ、フフフ」
姉さんはケーキの小箱を持っていた。
「ケーキだと思うでしょ、モンブランだと思うでしょ。姉さんケーキの中じゃモンブランが一番好きだな。でもちがうのケーキじゃないのよ、この箱をあけるとねーホラ……」
ケーキの小箱からチョコンと子猫の顔がとび出た。ニーと鳴く。
「可愛いでしょ?」
僕の姉さんは美しかったがイカレていた。失恋だかなんだか、そんなくだらない事が理由でいかれちまったのだ。
姉さんは次の日から、ケーキの箱に子猫をいれて街をうろつくようになった。そして道行く人をつかまえて
「ケーキだと思うでしょ? モンブランだと思うでしょ。私ケーキの中じゃモンブランが一番好きだな。でもちがうのケーキじゃないの、この箱をあけるとねー……フフフ」
とやるのだ。
可愛いいけど姉さん美意識が無いよ。狂った女に子猫なんて凡庸じゃないか。姉さん美意識が無いよ。
姉が眠っている間に子猫を殺した。喉《のど》を切るとピーッとホイッスルの音を立てた。ぐったりしたのをテレビの裏に隠し、からっぽになったケーキの小箱には、猫のかわりに、仏壇にそなえてあった〓“おはぎ〓”を一個入れてやった。
次の日、何も知らないきれいな姉さんは、ケーキ箱を持ってまた街に出ていった。
「ね、お兄さんお兄さん、そうよあなたのこと、フフ、何って? これ見て、ケーキだと思うでしょ? モンブランだと思うでしょ。私、ケーキの中じゃモンブランが一番好きだなあ……。」
のんきな兄さん
のんきな兄さん
のんきな妹と
暮らす 二人で 眠る 二人で
のんきな父さんと
のんきな娘の
のんきな息子と
のんきな娘さ
いつか誰かが疑いだしたら
阿呆のふりしよう
阿呆になって
阿呆になって
何も知らぬふりしよう
暮らす 二人で 眠る二人で
「うれしくって
うれしくって
私やりきれない
兄さん
兄さん
兄さん
兄さん 兄さん兄さん兄さん
いつか誰かが疑いだしたら
阿呆のふりしようよ」
ねぇ
おおもうけバカボン
沼にはまった姉さんが
叫ぶよぼくに助けてと
「坊やお願いこのままじゃあたしおぼれて死んじゃうわ」
そいつぁーすげーや こりゃ見《み》物《もの》
ぼくが死ぬとこ見ててやろ
ズンズンしずむよ姉さんが
悲鳴までをも水の中
バカボン バカボン バカボン
沼にしずんだ姉さんの
死体見つけたお金持ち
「坊やきれいな姉さんの死体わたしに売っとくれ」
そいつぁーすげーや こりゃ素敵
金貨千枚でどおでっか?
トントン拍子に売り払い
ぼくも今日からお金持ち
バカボン バカボン バカボン
そいつぁーすげーや こりゃ見物
ぼくが死ぬとこ見ててやろ
たとえその身は売られても
愛しているよ姉さんを
バカボン バカボン バカボン
W
猿の左手、象牙の塔
ただ思うことは
象牙の塔に君が居付いて
もうかれこれどのくらいたっただろう
愛すべき本に囲まれて生きるんだ
それは きっと 素敵なことなんだろ
君のために僕の命 つきたこと
本当は悩んでるんだろう
退屈だろそこは
本を捨ててここへおいでよ
君が言いかけた言葉の中から
本当のことだけのぞいたら
何が残る
何も残らないだろ
残らないだろ そんな言葉は
猿の左手三つだけなら
願いをかなえてくれる
一つ目は君自身に
二つ目は親のためでいい
三つ目はだれのために祈るの
さあ 猿の左手
本を閉じた君の右手で
一体だれのために祈るの
象牙の塔 そのまわりを
マラソン選手が走る
つまらない顔だ
パタリと倒れた
ニガ笑いをしている
孤島の鬼
夜に見る夢 昼に見て
君が一人で 舟に乗る
ひねもす ゆられて日めくられて
夢と うつつは 君に棲む
流れてついたは どこかの島だ
そこで おとなしくしてりゃ いいものを
生まれついての 夢見がち
夢は いつしか人を喰う
君は見果てぬ 夢を見て
いつか迷った 袋小路
うまい話が あるじゃなし
金のなる木の あるじゃなし
僕は ここで見ていよう
君が堕ちてゆくところを
その島は かこまれて
君はもう 動けない
から笑う 孤島の鬼
遊ぶばかりで働かず
君も そのうち みだれてく
僕はここで見ていよう
君が朽ち果てるところを
その島の中でなら
いくらでも 走れるさ
夢を見て もう二度と
目覚めずに 目覚めずに
から笑う 孤島の鬼
外道節
ちょっとそこ行く皆様方よ
私の話を聞いてはいかぬか
お代はいらない聞くだけ得だよ
猟奇ただようあやしい話じゃ
名乗りおくれた私の名前はネコ神博士と申すものです
時は昭和のベビーブームに
ちょいと生まれた三角野郎は
ガキのころから悪知恵きいて
とぼけた顔して巨万の富を
つくりついでにたてた計画が
人を外れた外道のイカサマさ
貧乏なお宅の赤子を引き取り
手足外して人間パズルじゃ
そんな子供を大量につくって
レンカケンバイ! お安く売ります
心の友達 貴方もいかがかな
もはや東京は阿鼻叫喚パニックシチーとなりました
年《とし》端《は》もいかぬ子供になんてことを
極悪非道もここまでくると気持ちがいい
よかねーか
この男の言い分がふざけております
キレーはキタナイ キタナイはキレー
異形をこばむ心こそまちがいだなどと
ヨクユーヨ
しかしこれがなかなか需要があるってんだから
売る方もなんだが買うほーもね
時の総理も困り果て
ついにとある先生におうかがいをたてましたところ
そんな連中は舟にでものせて
どこかとーい国へ流しておしまいなさい
とおっしゃいました
舟は出ていく東京港から
あふれんばかりの子供をのせて
どこへ行くのかだれも知らないよ
行くえ知れずの気ままな旅だよ
もしもどこかで出会うことあれば
どーぞよろしく伝えてちょうだいな
ペテン師、新月の夜に死す!
ペテン師の最期など
だれも見に行きはしない
新月の夜には
ぼくたちは
恋だとかなんだとか
そんなことでいそがしいんだよ
死にかけた男は
夜の校舎にもたれ
ペテン師の最期に見る夢は
十一月の森のむこうへと
新月は
夜を てらさず
ぼくたちの遊びかくし
死にかけた男は
長の年月
夢の中に生き
そんなふうにくらしてきたこと
死にかけた男は
悔いもせずに笑う
ペテン師の最期に見る夢は
ただよう舟の上のマストに
新月にペテン師
死ぬ前のひと眠り
ぼくたちは犬の世界観で生きている
だれを好きだとか愛しているとか
そんなことで忙しいし
日曜日には「サザエさん」だって見たい
勉強だっていちおうしなければならない
死にかけたペテン師を見に行くほど
ひまじゃあない
……けれど
生まれてから死ぬまで夢の中っていうのは
いったいどんなきもちなのだろう
ペテン師の屍《しかばね》は
やっぱり
「狐の 裘《かわごろも》 」
みたいなんだろうかねえ?
「ああ、どうなんだろうかねえ」
最期に見る夢は
いま、夜にうかびながらも
空をてらしはしない この月のもとで
死にかけたひとりのペテン師が
これでおしまいというときに
最期に見る夢は
新月にペテン師
死ぬ前のひと眠り
この夜に星は満ち
死ぬ前のひと眠り
23の瞳
見つめる子供12人 24の瞳
暗い目をした 僕がいるから
瞳は23しかない
11人の友達よ 僕を見ろ
君たちを見られない 僕を見ていろよ
僕の世界が半分だ 目に映る物が
つぶやくような語り声 11の笑顔
11人の友達が 僕を見る
君たちを見られない 僕を見ているよ
23の瞳が! 23の瞳が!
僕の半分に かくれてもいいけれど
楽しく夢見る時だけは
出てきてくれないか
11人の友達よ 僕を見ろ
君たちを見られない 僕を見てくれよ
23の瞳が! 23の瞳が! 23の瞳が!
23の瞳が!
パヤパヤ
わたしの友達
彼女はむかし
厳格な家に
育ったせいでしょ
ひとりでダンスに踊りに行けない
ひとりでダンスに踊りに行けない
「壊れた時計を
なおしてあげよう」
囁《ささや》く紳士が歌う
「可哀そうな子ね
幸せになろう」
微笑む少女が歌う
歌う
パヤパヤルンルン
だけれどとある日
開いた窓から
こぼれる灯りに
誘われたんでしょ
一人でダンスに踊りに出かけた
一人でダンスに踊りに出かけた
「ジルバは踊れる?
ワルツもあるよ」
猫背の男が歌う
「お気をつけなさい
見ていてあげる」
太った少女は笑い
歌う
パヤパヤルンルン
パヤパヤルンルン
夜歩く
夜歩く君と
工場のわきの道を
闇をてらすものが まるでなくて
海の底にいるみたいだった
君の目だけ銀色 その銀色が言う
「もしも私が死んで幽霊になったら
もうこんな夜の闇は怖くないのかしら?」
夜の街を二人歩く
夜になればみんな消えて
君の声と僕の声と
そんなものしか
聞こえなくてうれしい
夜歩く君と
君は僕から
離れぬがよいよ
闇の中は
いごこちがいいけど
みにくいものの
見えないだけだ
こんな深夜に工場の
ポツンと灯りが
ふとともる
「あれはきっと女の人の幽霊で
私と同じ顔をしているんだ」
ぬれた歩道すべるように
君が一人で
高いヒールで
よろめきながら踊るのを見た
指と髪とほほをぬらし
君が一人で
泳ぐみたいに
よろめきながら踊るのを見た
ファントム 夜を歩こう
「もしも私が……」
なんて
まだわかってない
恋人の幽霊と
夜を歩こう
生きてないって
もう気づいた
恋人の幽霊と
イタコ LOVE〜ブルーハート〜
猫の家出みたいな
狂い咲きのように
君が僕を残して
死んでしまったから
CALL YOUR HEART
寒い国から
CALL YOUR HEART
イタコを呼ぶよ
CALL YOUR HEART
君の心
CALL YOUR HEART
呼んでもらおう
僕の好きなもの
君の心 青い心さ
今ここでイタコに
見せてもらおう
君はもういない
だから呼んでもらおう
そしてそのまま
イタコと暮らす
愛は青い心 青い空の 空の下で
僕とイタコと君の心と
X
世界の果て〜江戸川乱歩に〜
ところは浅草
ロック座あたり
うつろう男は狂人気取り
大きな時計を横抱きに
月夜を見上げて にやついている
この世の全てに 飽き果てて
狂いの世界に 憧れて
狂気と自分を結ぶのは
犯罪だけだと考えた
ゆきずり娘を道づれしようか
追われる娘は緑のブーツ
ああ哀れだな 捕まった
狂人気取りは ケラケラ笑い
けれども心は 震えていた
このまま狂おうか それとも生きようか
行こか戻ろか
行こか戻ろか
コチコチとなる
古い時計よ
オレが居るのは
世界の果てさ
このまま狂おうか それとも生きようか
行こか戻ろか
行こか戻ろか
コチコチとなる
古い時計よ
行こか戻ろか
行こか戻ろか
オレのいるのは
世界の果てさ
世界の果てさ
世界の果てさ
これでいいのだ
いわれなき罪によって 無実の僕は 十三年間
檻《おり》の中に閉じこめられていたのであった
星の夜散歩の途中 黒い服の人々によって
手錠を掛けられてしまった
どんな夢も不思議じゃない
僕はいつも思うんだ――いくらつらい事があったって
これでいいのだ これでいいのだ
僕には恋人がいたが 彼女の面前
いわれなき罪を暴かれてしまったのであった
証言台に立った彼女は言った
「私はあなたを愛してはいるわ だけど罪は罪だと思うの」と
非常にキビシー そりゃないぜセニョール
僕はいつも思うのさ いくらつらい事があったって
これでいいのだ これでいいのだ
十三年の刑期を終えて 僕は黒い服の人々に礼を言って
塀の外に出た これからはどこへだって歩いてゆける
この二本の足さえあれば 地の果てだってゆける
十三年目の春の夜 満天の星空の下《もと》 恋人と再会した
「私 毎晩祈ってたわ 悔い改めてくれる事を
ねえ、これからは二人で罪を償う旅に出ましょう」
彼女の手を握り ただ僕は
ありがとう ありがとうと涙した
握った彼女の手はなぜか冷たかった
それからの十三年間を二人で暮した
幸せだった
十四年目の春に彼女は死んだ
僕は満天の星空の下《もと》
泣きながら思った――これでいいのだ
つらくともこれでいいのだ
テレビの男が言う「西から昇ったお陽様が東へ沈む これでいいのだ」
そうだ これでいいのだ!
だが しかし……
だが ……しかし
これでいいのか これでいいのだ
これでいいのか これでいいのだ
これでいいのだ これでいいのだ
これでいいのだ これでいいのだ
だが しかし
踊るダメ人間
子供騙《だま》しのお唄を唄って
そこそこ人気もある僕だけれど
いつも心に仮面の男が
灯台の上から僕に叫ぶのさ
「おごることなかれ
お前の思い言ってやろう
『ダメ人間のはびこるこの世
マイト一発!爆発させてえ!』」3、2、1、0!
ダメ、ダメ、ダメ、ダメ人間
ダメ!人間、人間
コックリさんにたずねてみましょか?
いつかかもめになれるのでしょうか?
もしもかもめになれないのならば
僕は静かな地蔵でいたいな
「お前は老いぼれか!?
心の中を言ってやろう
『ダメ人間はびこるこの世
魚雷一発!轟沈させてえ!』」3、2、1、0!
ダメ、ダメ、ダメ、ダメ人間
ダメ!人間、人間
怒りを込めて振り返る
けれどあなたの後ろの亡霊は振り返らず
あなた 口ずさむ
夢よ夜開け
開く夢などあるじゃなし
枯れる夢などあるじゃなし
「踊っている場合か!
お前の思い言ってやろう
『この世を燃やしたって
一番ダメな自分が残るぜ!』」3、2、1、0!
ダメ、ダメ、ダメ、ダメ人間
ダメ!人間、人間
ダメ人間として
生きるおろかさを
あまねくすべての人に伝えたい
そしてダメ人間の王国をつくろう
王様は僕だ 家来は君だ
パブロフの犬
パブロフの犬だよ 噛《か》まれちゃいけない!
象牙の塔 その上から逃げた
天才がゆえに狂人となった男が叫ぶ
あなた方はパブロフの犬のようだ
条件反射でよだれをたらしている
男は幾人もの人を刺した
まだ若い警官が彼を射った 怯えながら
ふりかえりざまに男が言った
白髪の彼は泣きながらこういうのであった
パブロフの犬だ
パブロフの犬だ
あなた方は
リング・ア・ベルで
よだれをたらして
パブロフの犬だ
パブロフの犬だ
あなた方は
何も知らないで
生きてゆけばいい
私はもういい 去りゆくのみだ
警官は男の言葉が気になった
何をしていても
言葉から逃れることが出来なかった
やがて彼は本を読むようになり
家庭をも仕事さえもかえりみぬ男になっていた
警察官の髪が真っ白になる頃
彼もまた そして、彼もまた!
警官のピストルが火を吹いた
説得にあらわれた少年は彼の孫さ
警官は自分の額にピストルを
濡れた瞳を少年に向けてこう言った
パブロフの犬だ
パブロフの犬だ
おまえも含めて
何も知らないで
生きてゆけばいい
私はもういい 去りゆくのみだ
それでも もしも
おまえが何か
思うことあれば
パブロフの犬に
パブロフの犬に
噛まれてはいけない
走れるうちは
どこまでだって
逃げてゆきなさい
パブロフの犬よ
パブロフの犬よ
私はもういい 去りゆくのみだ
パブロフの犬だよ 噛まれちゃいけない
星の夜のボート
星の夜のボートが 僕の君を乗せて
流れていくよ
追いかけてゆこう
青い月夜に 船は
深い緑の色
夜に溶けてくから
声だけが頼り
追いついたら語ろう いつか行ったサーカスを
星の夜のボートが 海に消える刹那に
振り向いて君は
「いつかまた」と言った
追いついたら語ろう いつか行ったサーカスを
たどり着いた国も 壊れかけているんだろう
追いついたら語ろう いつか行ったサーカスを
河より早く生きられたら 間に合えもしただろう
最期の遠足
GO!ハイキングバス
僕らを乗せて走る
火を噴く山めざし
歌おうよ 声合わせ
ガイドさんも
やーやー
山賊の唄
ノンストップバス
お菓子は400円まで
超えたら隠してゆけ
ほらごらん 見えてきた
ぼくら招くよ
やーやー
火を噴く山さ GO!GO!
トンネルだ ゆくよ ハイキングバス
GOハイキングバス 僕を乗せて走る
GO!GO!GO! ハイキングバス
遠足には猫は連れてけない
いくら仲良しでもお留守番していろよ
だって山じゃ やーやー
死ぬこともある GO!GO!
河越えてゆくよー ハイキングバス
遠足には猫は連れてけない
「先生 遠足に行っている間に猫が逃げてしまったら
僕は どうすればいいんでしょうか?
猫の名前はなんて言うんですか?
テブクロです」
7人の子供が遠足で
先生に隠れてお菓子を食べました
ビスケが ころころ転って
追いかけていった7人の子供は……
はぐれた僕らが2人と5人
その内寂しい瞳の男の子が1人
その子は怯《おび》えて転んでしまい
どこにも行けずに夜の闇の中で1人
夜が明けるまで時間があるから
僕は捜すふりだけしよう
はぐれた僕らは2人と5人
その内寂しい娘が1人いたよ
娘は途中で悲しくなって
やめればいいのに泣き出してしまった
「えー お友達は必ず帰って来ます
みんなで祈りましょう
それが今日の宿題です」
夜が明けるまで時間があるから
僕は捜すふりだけしよう
最後の5人は どこだか山の奥で
ひっそりニコニコ暮していました
だけど今年のこの冬の寒さで
凍ってしまったことでしょう
その時から 我校の遠足は
父兄同伴が義務となった
月とテブクロ
星の黒ネコ 月のテブクロ
僕を捜して 旅に出るネコ
見知らぬ街で
ゆきだおれている
顔を覗《のぞ》いて歩く毎日
黒ネコが疲れたその背
伸ばして見上げる
星の夜 月の空
大切な物 いつかは朽ちる
大事にしても いつもこわれる
そう思う
黒ネコ
ゆらりその手をかざして
星の夜 月の空
黒ネコの爪を折る
黒ネコかすんだその目閉じて思う
星の夜 月の空
黒ネコの爪を折る
サボテンとバントライン
めぬき通りのバクダン騒ぎ ネコがくわえてきたバクダン
間一髪でバクハツしなかった 逃げた男は少年だった
決死の捜査を笑うように 犯行声明が送られてきた
サボテンマークのレポート用紙に
〓“僕はこの世を憎む〓”と書いてあった
少年はサボテンが好きだった サボテンは彼の神様だった
屋根裏部屋の隠れ家で それは緑に輝いている
少年はネコが好きだった ネコの名前はバントライン
バントラインとサボテンと 映画を見ている時だけが幸せだった
ホーイサボテン 緑の光り
バントラインと僕を照らしていて
少年とネコの第二の犯行は 街の大きなムービーシアター
アメリカンニューシネマ「真夜中のカウボーイ」が上映されていた
バントラインがバクダン仕掛け 犯行は大成功と思われたが
映画に見とれていた少年は ムービーシアターもろともふっとんだ
ホーイサボテン 緑の光り
ポッカリと僕を照らしていて
ホーイバントライン
どこまでもゆこうよ 流れてゆく雲の燃えおちても
薄れていく意識の中で少年は カラカラ回る映写機の音を聞いた
スクリーンには西部の荒野 荒野を舞台のこんな映画を見た
住み慣れた街を捨て 少年とネコがゆく
背中にしょってる真っ赤なギター 昔にもらったオールドギター
ホーイサボテン 緑の光り
ポッカリと僕を照らしていて
ホーイバントライン
どこまでもゆこうよ 流れてゆく雲の燃えおちても
どこまでもゆこう この荒野をぬけ
緑に輝く あの丘まで
ホーイサボテン 緑の光り
バントラインと僕を照らしていて
リンナのこと
リンナ
犬はヤクザに飼われ
猫は奥さんに飼われ
共に不幸。
そそうをしたばっかりに犬はお腹をサックと割られちゃった。
ヤクザは後に反省し、愛人に経営させている焼肉屋の店頭に純銅のお犬君を建てた。
おかげでお店は大繁盛、ヤクザはお礼を言いに来た愛人の前でサクサクお腹を切ったとゆう。ホルモンホルモン。
奥さん達は猫を自慢したがる。
「うちのネコちゃん」の話をする時、奥さん達の目はクワァァッと見開かれる。投光機みたいな目で首を45度ずつカクカク曲げながら話す。
「お宅のネコちゃんカワイらしくてのホホホのホ」
「何言うざます(オバさん今時〓“ざます〓”はないだろ)お宅のネコちゃんの方がステキザマスのホホホのホ」
この場合二人共「うちの子の方がいい」と思っている。
おととし出版された『奥さんの友達、その考えていることがわかる本』というベストセラーによって状況は一変してしまった。何せ奥さんの考えてる事がわかっちゃうのだ。「うちの子の方が」と考えてるのがバレちまったのだ。街はもはや「親しき仲にも礼儀ありよ!」と叫びながらひっぱたきあう奥さん達でヒステリー寸前!
キイイイイイッ!
奥さんから逃げて来た猫が一匹、僕のとこにいる。
リンナ、君を好きだからね。
夜になって星が出たら、この街でもお散歩できるからね。
月が出たら奥さんは家の中で赤ちゃんの首にエナメル線を巻きつけてカウボーイみたいにそれをグルングルンゴーカイに回してるんだ。ダンナさんは馬になって奥さんの股の下でうれしそう。赤ちゃんは苦しい苦しい「アーオン、アーオン」鳴きじゃくる。次の朝の井戸端会議で奥さんは
「いやあねぇ春先はネコがさかりついちゃって、アーオン、アーオンってうるさくてねぇ」
って言うんだぜ。
リンナ リンナ 僕もうやだ。奥さんだけじゃない、みーんなみーんな変なんだ。
ヤクザも工員も医者も芸人もサラリーマンも夜になるまで踊りやがって。
サンバサンバで楽しそに
ジルバジルバで楽しそに
踊り踊り踊り踊り踊り踊りやがりやがって!
リンナ リンナ 君が好きだよ。
いつか君の背にバクダンをくくりつけて 二人で一緒に この世界を燃やしにゆこうよ。
猫のリンナ
猫にはみんな
当りとハズレがある
小さな舌の裏
それは書いてある
僕の子猫
やっぱりハズレだけれど
仲良くやろうね
いつか君の背にバクダンをくくりつけて
僕と二人で
この世界を
燃やしにゆこうよ
君の爪を光るほど磨く
僕の瞳 映るほどに磨く
燃えおちる街が美しく映るよにね
君の爪を光るほどに磨く
僕は詩を書いてる
君は猫だもの 寝てる
時に寝言の君に そうだ名を付けなきゃ
〓“リンナ〓”ってのはどうかな
あまり意味もないけど
呼んだら鳴いてくれよ
リンナ君の手は
マッチを持てないから
発火装置は
ボタンにしておくよ
リンナリンナリンナの爪を磨く
僕の指がすべるほどにみがく
燃えあがる空につき立てられるようにね
リンナリンナリンナの爪を磨く
遠くで音がしたね
とても大きな音が
あれはきっと花火さ
気にせずにお眠り
僕の子猫は
やっぱりハズレだけれど
塔上のリンナ
塔の上で
男の子は
得意気に笑った
リュックサックに
子猫をつめて
夜明け前に登った
僕の手に方位磁石
君の背にバクダン
見降す街に翔んで
燃え尽そうよリンナ
塔の上で
猫のリンナは
空の星を見ていた
男の子は
笑い狂って
それに気づかなかった
僕の手に方位磁石
君の背にバクダン
夜明けが来るまえに
輝やかせようよリンナ
男の子と猫と方位磁石は
グルグルまわって落ちてゆく
グルグルまわっていると
嫌な事や悲しい事は円心力の彼岸へ飛んでっちまうんだ
「何だか気持ちがよいねえ……
リンナリンナ何だか気持ちがよいねえ このまま魔の三角地帯、サルガッソーの海の上で、永遠にグルグルまわり続けて止まらぬ方位磁石の針になってしまいたいよ。
ねえリンナ君もそうだろ、ねぇねぇリンナ、君が好きだよ。君と僕とで世界を燃やし尽そうねぇ。」
だがしかし!
方位磁石の針に法則はあっても
猫の目に運命はないのです
あとちょっとで地面にたたきつけられるその一刹那
リンナはバクダンをリュックの中に置いたまま、ポーンと男の子の背を蹴って、逃げ出してしまった。
男の子は笑って、泣いて、また笑って、も一度泣きかけたところで真ッ赤な火の玉になった。
僕の手に方位磁石
君の背にバクダン
見降す街に翔んで
燃え尽そうよリンナ
その後リンナは
テロリスト猫として逮捕され
この一匹の猫をめぐる裁判闘争は
百人もの人命を奪うこととなったのだが
結局リンナは無罪となった。
それからの十三年間、リンナは男の子のお墓で眠り、メシを食い、くらした。
十四年目の春に北からやってきた男がリンナを拾って街を去っていった。
男はアンテナ売りだった。
じーさんはいい塩《あん》梅《ばい》
ひなたぼっこじーさんはな
あの世でいい塩梅
苦労も何にも
下界に置いてきた
ひなたぼっこじーさんはな
あの世でいい塩梅
ひねもす天国の上から
孫娘を見守る
「わが娘よ はかなむな
人生つらけりゃ
お茶飲めよ」
ひなたぼっこじーさんはな
あの世でいい塩梅
今夜もあの世のどこかで
ばーさんとボーリング
生きてあげようかな
次に飛行機を見たら
少女は死のうと決めた
失恋だとか 通俗な理《わ》由《け》
好きな本の間に
カミソリ隠し街へ
空は暮れかけ
飛行機は無く
浮かぶのはイメージ
枯れてくポプラ 沈んだデコイ
悲観的な映画 似てない似顔絵
死んだピアニストの未完成の曲
代わりに私が生きてあげようかな
浮かぶのはイメージ
落ちたヘリコプター 狂った時計
くだらない友達 救えない神様
横抱きのまま売られた子供
代わりに私が生きてあげようかな
思いとどまった少女
だがしかし
彼女の恋するやさ男は
理《わ》由《け》あってすでに天国にいた
ひねもす男は下界の少女を見守っていたのだ
空の上からは少女の頭しか見えない
いいお天気だからもう少し生きてみようと
彼女が天をあおぐその時だけ
瞳を見ることができるのだ
だからなるだけ上を向いてお歩きなさい
それから
あまり甘い物ばかり食べ過ぎぬように
もうすぐ月が出たら
家へ戻ろうと決めた
少女の上を いま飛行機が
静かに横切った
Y
ビッキーホリデイの唄
ビッキー 僕は忘れない
明日は君が戦場に行く日
僕ら夜の森に集い
うかれて踊る フォークダンス
月は夜の真上
ビッキーはつぶやいた
「この世は全て作り物
だから ネェ 仕方ないさ」
ビッキー 僕は忘れない
君が戦場からもどる
僕らみんな迎えに行った
君の好きなワイン持って
だけどビッキー 君は狂っていた
「この世は全て作り物
だから ネェ 仕方ないさ」
仕方ないさとビッキーは言った
仕方ないさとビッキーは言った
ビッキー 僕は忘れない
君が街に火をつけて
燃えあがる教会に登り
「神よ この火消してみろ」
笑う ビッキー 僕に叫んだ
「この世は全て作り物
だから ネェ 仕方ないさ」
ビッキビッキビッキーホリデイ
仕方ないさとビッキーは笑った
仕方ないさとビッキーは笑った
イワンのばか
三年殺しを知ってるかい?
ロシアのサンボの裏技さ
三年限りの命だぜ
ポルカを踊る暇もない
イワンが技をかけられて
サラバとオレにつぶやいた
あれから季節はめぐりゆき
確かに昨日で三年目
楽しんでも苦しんでも
三年の日は流れてゆく
イワンの奴は前者を選んだのさ
イワンのばか!
短い命と知ってから
イワンは生きた自堕落に
貧しい子供を次々と
安い値段で引き取った
イワンの奴めを先頭に
いつしか子供の行列さ
彼らは歩くよ 真っすぐに
シベリヤ鉄道も真っすぐだ
平原越えて 樹海へ
ツンドラの白夜の森
イワンは子供に
この世の裏を教えた
イワンのばか!
この世の裏を知った子供たちは
世をはかなみ
毒を飲んで次々と死んでいった
しかし イワンだけは死ぬことが出来なかった
短い命と知っていながらイワンは死ぬことが出来なかったのだ
さらにイワンのばか! ばか!
ツンドラの大地に
子供たちを埋めてゆく
屍《しかばね》は冷たく
イワンを見てる
「ツンドラの
色が奇麗と
イワン言い」
イワンのばか!
詩人オームの世界
昔、昔のお話です
詩人オームは世界を憎んで
森の奥に住む
若くして死んだ娘のために
詩をつづった
その言葉は風にのって
森をぬけて街にふって
蝶の群れとなり
蝶々の群れは
ムラサキの色に空をおおった
ムラサキの色に触れた者は皆
気がふれてしまった
おびえる者達は 詩人を追った
森をぬけて詩人は海へ ボートに乗って
オーム
私は眉をそって
新月の夜も休まず
詩をつづろう
世界を憎む詩を
詩人はとある小島に 流れ着いた
犬と猫とコウモリとピエロが
彼を迎えた
私はこの世の全てを憎む
憎んでも 憎んでも
まだあまるこの世の全てを
言葉で 燃やし尽くしてみせよう
力を貸してくれ
だが おびえたピエロの密告で
詩人は警官隊の銃弾に倒れた
その夜 犬はワンワンと吠え
猫はニャーニャーと鳴き
そして コウモリは黙して
語ることがなかったのであった
でも 言葉だけは風にのって
いくつもの街を越えて
蝶の群れとなり
オーム
詩人の屍は
海を越え北の国へ
その国の漁師によって
手厚くほうむられたという
キノコパワー
昔 ジェリー藤尾は
遠くへ行きたいと唄って喝采を浴びたが
遠くへ逃げたいと唄う僕を
シスターストロベリーは恥じているようだった
僕が立ち止まった
国境の橋の上で
振り向いたら負けさ
生ける亡者の街を
愛していた君も
ときに嫌いな君も
降るように舞う蝶々の
紫の毒にやられた
リュックサックに子猫をつめて
夜明け前に家を出た
鉄橋の上 妙に静かで
歩みだすと 震えたから
キノコパワー
どこか僕を連れていって
キノコパワー
遠く高く放り投げてくれ
僕は眠りに落ちた
貨物列車に潜んで
夢見るよりも速く
街から僕は離れてく
愛していた君の
ときに嫌いな君の
媚びるみたいな笑顔も
寝返りうてば消えていった
ふいに目覚める
子猫は逃げて
窓の外は 夜
降るように舞う 蝶の群れを
冬の鉄路に見たから
キノコパワー
どこか僕を連れていって
キノコパワー
遠く高く放り投げてくれ
どこか遠くへ逃げよう
遠くへ遠くへ逃げよう
逃げた街で冬には
吹雪に氷ってしまおう
愛していた君が
いつかたずねてきたら
リュックに猫をつめて
今夜はどこへ逃げようか
キノコパワー
どこか遠くへ連れていって
キノコパワー
遠く高く放り投げて
キノコパワー
歩みだすと震えるから
キノコパワー
猫はいつもおびえるから
サンフランシスコ
「さようなら さようなら
こんなに遠い 異国の果てで
お別れするなんて
本当に辛い」
空気女と小人を連れて
街にサーカスが来る前に
ぼくら終ろう
お別れしよう
夏の来る前に
サーカスが来ると
二人がドキドキして
まだぼくは君を
恋してるのかもしれないなんて
思いちがいをして
サンフランシスコ
ほうらごらんよ
プラカードを持ち
小人がぼくらを見ている
「わがサーカス団をぜひごらん下さい
ワニ女もお見せしましょう」
サーカスが来ると
君はドキドキして
「きっとうまくいくわ」なんて
夢みたいなことをいって
思いちがいをして
サンフランシスコ
脳髄は
ものを思うにはあらず
ものを思うは
ものを思うは
むしろこの街
サーカスが来ると
二人がドキドキして
「まだぼくは君を」なんて
「きっとうまくいくわ」なんて
つなわたりみたいに
サンフランシスコ
アメリカン・ショートヘアーの少年
ネコの頭の男の子は
銀の爪切りで爪を切る 夕暮れ
見世物小屋の男の子は
銀のナイフで果てゆく 夕暮れ
金色の夕陽に 昇ってゆくよ
もう一度 生まれて来る時は
銀の横笛 吹いてあげよう
低く静かに
金色の夕陽に 昇ってゆくよ
今 君の為に 銀の笛を吹こう
金色の夕陽の沈むころ
爪切り座はあったかな?
ナイフ座はあったかなァ?
バカボンの大脱走
孤島で売れない
オペラ歌手と暮らす
たのしくもない
孤島で毛のない
サラリーマンと暮らす
たのしくもない
一から出直ししましょう
もいちど二人で遊ぼう
さびついたボートがあるから
ここから二人で漕ぐんだ
孤島で二人の
しょうもない男達がいて
たのしくもない
電波ブギ
マーク・ボランのゆー事にゃ
アリゾナ砂漠に住むピエロ 昔はサイケなロッカーで
ロンドンあたりで 鳴らしたものだよ
だけどかわいいあの娘に 裏切られてからは
道化のメイクを落さず 世界を憎んでいるのさ
アリゾナタワーの アリゾナタワーの
上でピエロは一人
マーク・ボランのゆー事にゃ
アリゾナ砂漠に住むピエロ 高い塔のその上で
世界を壊せと 電波を送るよ
だから晴れた日には 空を見上げないで
お日様ぽっかりの日は 息をつめて逃げろ
電波が走る 電波が走る
ピエロは一人ぼっち
ELECTRIC BOOGIE 電波のブギ
ELECTRIC BOOGIE 電波のブギ
アリゾナタワーの アリゾナタワーの
ピエロは一人ぼっち
アリゾナタワーの アリゾナタワーの上で
ピエロは一人ぼっち
恋人よ逃げよう 世界はこわれたおもちゃだから!
新月
追われた
二人の影を
かくして
ぼくらは
逃げよう
こわれたおもちゃ
世界は
くらく ひくく 流れて
君と ゆくよ
パノラマ島へ
小人よ
ランプで
二人の道を
ともして
炎よ
踊って
蒼い水面
こがして
くらく ひくく 流れて
船は ゆくよ
パノラマ島へ
パノラマの光
プリズムのかげり
「ステキね」とほほえむ
君が ふるえてる
何処へでも行ける切手
怯《おび》えた男は
許しを乞うように
うつろに笑って
両手を差し出し
紅茶の染みた
切手をくれた
これさえあれば
郵便配達の
鞄に潜み
何処へでも行ける
トカゲより早く
かもめより遅く
自転車にゆられ
なだらかな夜に
闇の右手に
宝石のように
時に光るのは
いたずらをして
捨てられてしまった
子供達の楽団
包帯で真っ白な
少女を描いた
切手をもらって
何処へでも行こう
休みの国で
女に出会って
郵便配達は
自転車を捨てた
けれど僕には
切手があるさ
しばらく待てば
郵便配達も戻るだろう
何処へでも行ける
沢山のたわいない
街をゆき過ぎよう
終わりなく続いてる
包帯を追いかけ
闇の、闇の右手に
光り輝く宝石のように
子供達の楽団
もう一度、もう一度アコーディオンを弾いて
お別れみたいにさ
神様に
おまけの一日をもらった少女は
真っ白な包帯を顔中にまいて
結局 部屋から出ることがなかった
神様は憐れに思い
少女を切手にして
彼女が何処へでも行けるようにしてあげた
切手は新興宗教団体のダイレクトメールに貼られ
すぐに捨てられ
その行方は 誰にももうわからない
パノラマ島へ帰る
「誰も詩など聞いてはないし」
この世界がみな作り物なら
港につながれたサーカス団の
あの船に乗って
流れてゆこう
パノラマ島へ帰ろう
船の上では船出の前の
パーティのさなか小人も踊る
青い月夜に緑の色の
マストを拡げて流れてゆこう
パノラマ島へ帰ろう
港につながれたサーカス団の
あーの船に乗って
流れてゆこう
パノラマ島へ帰ろう
また会えたらいいね
僕が僕である事に もう気がつかなくちゃ
君が君である事に もう気がつかなくちゃ
僕も君も騙《だま》されるって もう気がつかなくちゃ
僕と君はひとつじゃないって 気がつかなくちゃね
僕と君とは 達い異国で会った
達い異国のカーニバルで会った
子供達が森で 行方知れずの夜
月も星もすべて空のオモチャ
空気男が子猫をぼくらにくれた
猫はケーキの箱につめて帰った
黒猫が啼く 黒猫が啼いた
僕が僕である事に もう気がつかなくちゃ
君が君である事に もう気がつかなくちゃね
黒い子猫は 朝になると一人で
音もたてずに 逃げて行ってしまったね
追いかけた二人も 離れて行った
いつか二人が 遠い異国で会っても
もしも二人が 地獄なんかで会っても
ゆき過ぎてゆくでしょう 気づきもせずに
黒猫が啼く 黒猫が啼いた
それでもいつか
カーニバルが来て
僕と君がいて
黒い猫もいて
また会えたらいいね
また会えたらいいね
また会えたらいいね
また会えたら
人生は大車輪
生き急げ! 生き急げ!
すべっても
ころんでも
何とかさ
生き急げ! 生き急げ!
ひっかけても
くずれても
何とかさ ネ!
踵《かかと》合わせ進み行く
僕らは軍隊
負け戦と知りながら
真昼の出撃だ
彼方から戦車の
キャタピラ 聞こえる
笑いながら行きましょう
ちっちゃな銃 握りしめ
ウラララ トーチカ燃え
いつしか断末魔
それでも死にはしない
月夜を見るまでは
人生は大はしゃぎ
子犬のように無力
我が友よ はかなむな
ブーツをピカリ磨こう
人生は大車輪
体操のように回る
我が友よ
生き急げ
ブーツをピカリ磨こう
生き急げ!
生き急げ!
生き急げ!
生き急げ!
あとがき
井之頭公園のベンチでこれを書いてます。
隣りには猫がいて、寝てます。
茶色の巨大なおはぎみたいな猫で、呼吸するたびにお腹がふくらんだり引っこんだりしています。ペコペコ。
はたしてこの腹の中には何がつまっているのだろう。古いネジ式の時計が十個も入ってるのかもしれない。赤ン坊の首だけが入っていて、スーハースーハー呼吸をしているのかもしれない。リプトンの紅茶がつまっているのかもしれない。びっしりとイクラでいっぱいなのかもしれない。単に機械油でドロドロしているのかもしれない。一《ひと》サイズ小さくて同じ顔と髭のネコが窮屈そうに入っているのかもしれない。等といろいろ当てはめてみると、のほほんと昼寝の猫もなかなかに深い。
さてさて、はたしてボクのお腹の中には何がつまっているのであろうか?
それこそ、いかりや長介の生首が入っていて、ことあらば「ダメだこりゃ!」と叫んでいるのかもしれない。海産練製品がぎゅうぎゅうにつまっていたら、ちょっとたまらんなあ。とにかくなんだかわからないけど、なんかがつまっているのは確かです。こいつが時々腹の中ではおさまりきれなくなって、のど元まで逆行してくるわけです。ボクはゲロをはくかわりに詩を書きます。詩を書くと「なんだかわからないもの」の動きはとりあえずおさまる。つかのまスッキリします。
そーゆーのをくり返して、この本は出来ました。収められている詩の多くは、ボクのやっている「筋肉少女帯」というバンドのために書いた歌詞です。(この詩にメロディがつくんだよ。笑っちゃうでしょ。)
最後まで読んでくれてありがとう。
それから思潮社のフカツさんにはいろいろ御迷惑かけちゃってゴメンなさいよ。(あー今気付けば、ボクは「フカツ」という字すら知らなかったのだ。重ねてゴメンよ。)
ほんじゃまたね。
「あっ! このネコまだ寝てやがるっ!」
一九九〇年六月某日
大槻ケンヂ
文庫版あとがき
子供のころ、まだ4歳か8歳ぐらいの時です。
夏休みで母方の郷里へ遊びに行っていました。
縁側でジュースを飲んでいました。
すると、どこから入ってきたのか、初老の女がヨタヨタとボクの前に歩み寄ってきて、
「お前、酒か?」
と聞きました。
目がすわっていて、かなり酔っているようでした。いきなりのことにボクが黙っていると、彼女は再び、
「お前、酒飲んでるのけ?」
と茨木なまりで聞きました。
「いえ、ファンタです」
と、当時は正直者だったボクは彼女にそう答えました。彼女は「ケッ」と言って、またヨタヨタと歩いていきましたが、門のところでふりむき、
「あたしを見くびるんじゃないよ。神様の白い肌はあたしの電子計算機で血だらけの真っ赤っ赤だっぺよ」
よく覚えてはいませんが、確かそんなような、アングラ劇の台詞のようなことをボクに言ったのです。そしてニヤリと笑い、
「いしけーなぁ、このガキはよ、でもいつか死ぬ」
と付け加えました。
ボクは恐しくなって、飲みかけのファンタを縁側に置いたまま、半ベソをかきながら家の中に駆けこみました。
……って、なんだか訳のわからない話してゴメンない。
詩を書いていると、時々あのバーさんのことを思い出すんですよ。
ゴゴゴッと詩を書いていて、ふと頭を上げると、目の前にバーさんの顔がボウッと浮かんだりするのですよ。多分、ボクが詩を書く上での、あれは原体験だったと思うのです。
それにしても何だったんでしょーねーあのバーさん。
酔っぱらいのくせに洒落たことを言う。
――そんなこたさて置き、
読んでくれて本当にありがとうございます。
10代のころ、ボクにとって読書といえば、イコール「文庫本」を読むことでした。自分の本が文庫になってさまざまな人々に読んでもらえるなんて、「オレうれしいっスよ先輩!」といった心境です。
文庫化に際し本当にいろいろとお世話になった見城さん、何度も高円寺でお酒を飲ませてくれた杉岡さん、ミスタードーナツまで原稿を取りに来てくれた東中川さん、どーも、お疲れさまです。単行本の時にお世話になった思潮社の方々や、事務所のヒサポン、アトポン、オサムもお疲れさまです。
バーさん、オレはまだ生きている。
一九九二年九月
大槻ケンヂ 本作品は一九九〇年十一月、思潮社より刊行されたものに新たに20編を追加したものです。 リンウッド・テラスの心《しん》霊《れい》フィルム
大《おお》槻《つき》ケンヂ詩《し》集《しゆう》
大《おお》槻《つき》ケンヂ
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平成14年8月9日 発行
発行者  福田峰夫
発行所  株式会社  角川書店
〒102-8177 東京都千代田区富士見2-13-3
shoseki@kadokawa.co.jp
(C) Kendi OTSUKI 2002
本電子書籍は下記にもとづいて制作しました
角川文庫『リンウッド・テラスの心霊フィルム』平成4年10月25日初版発行
平成11年4月10日11版発行