フォーチュン・クエスト バイト編2 消えた少女とロングソード
[#地付き]深沢美潮
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)冒険談《ぼうけんだん》
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いまでないとき。
ここでない場所。
この物語は、ひとつのパラレルワールドを舞台《ぶたい》にしている。
そのファンタジーゾーンでは、アドベンチャラーたちが、
それぞれに生き、さまざまな冒険談《ぼうけんだん》を生みだしている。
あるパーティは、不幸な姫君《ひめぎみ》を助けるため、邪悪《じやあく》な竜《りゆう》を倒《たお》しにでかけた。
あるパーティは、海に眠《ねむ》つた財宝をさがしに船に乗りこんだ。
あるパーティは、神の称号をえようと神の出した難問にいどんだ。
わたしはこれから、そのひとつのパーティの話をしたいと思っている。
彼らの目的は……まだ、ない。
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行方《ゆくえ》不明
「パステルおねーしゃん、消しゴムもらってきたデシ!」
みすず旅館の、もっともボロな一室。たてつけの悪い扉を押し開けて、シロちゃんが戻ってきた。
「あれー? ルーミィは?」
「あ、ルーミィしゃんはトラップあんちゃんたちとジュース飲みに行ったデシよ」
「なにそれ。で、シロちゃんだけ帰ってきてくれたの?」
「そうデシ。パステルおねーしゃん、消しゴムないと困るデシ?」
黒い目をくりくりさせ、シロちゃんはわたしを見上げた。
ううう、かわいい。なんてけなげなの?
実は、わたし。自分たちの冒険談を小説にして、それを売って生活費にあててる(といっても、ほんのちょびっと)んだけど。大事に大事に使ってきた消しゴムをなくしてしまったのだ。ううん、消しゴム一個といったって、我々貧乏パーティにはバカにできない。まだ使える消しゴムだったし。
でも、〆切《しめきり》も迫っているし。しかたない、…新しいの買うかと思ってたら、印刷屋の若旦那《わかだんな》(彼がわたしの小説を買い取ってくれてる)が消しゴムくらいあげますよって言ってくれてね。ルーミィとシロちゃんに取りに行ってもらったのだ。
ルーミィとシロちゃんっていうのは……えーと。というか、先に恒例のメンバー紹介、簡単に行きましょうね。
わたしはパステル・G・キング。詩人兼マツパー。でも、少々方向音痴。パーティの財務担当でもある。
そして、このけなげでかわいい……一見白い子犬にしかみえないシロちゃん。彼はなんとホワイトドラゴンの子供なのだ。ちょっとだけなら全長十メートルくらいの巨大な姿にもなれるし、言葉も喋《しやべ》れ、炎と光のブレスも吹くことができる。とあるダンジョンの中で知り合った。
それから、リーダーのクレイ……心優しきファイター。代々騎士の出で、お手製の竹アーマーと手入れの行き届いたロングソードを装備している。
お次は盗賊のトラップ……口が悪くて逃げ足が早い。この口の悪さでわたしたちは何度もトラブルに巻きこまれている。
そして、キットン族のキットン……薬草やキノコ類、それからモンスターに詳しい。後《のち》にキットン族としての能力に目覚め、けっこう鋭い推理とかもするようになるんだけど、レベル1の頃《ころ》は単なる変人(失礼!)だった。
巨人族のノル……気が優しくて力持ち。動物とお話しもできる。
すっごく頼りになる人でね。行方《ゆくえ》不明の双子の妹を捜すために冒険者になった。
最後にルーミィ……エルフ族の子供。レベルの低い魔法が使える、すっごくかわいい女の子。ふわふわのシルバーブロンドで、サファイヤのような澄んだ目をしている。
この合計六人と一匹でパーティを組み、いろんな冒険をしているんだけど。
さっきも言ったように、何せ貧乏!
少しはレベルも上がり、クエストとかに出られるようになった今はまだしも、冒険者になりたてだった頃なんて本当にカッカツの生活だった。
そうそう、みすず旅館になんて泊まれなかったもんね。どうしてたかっていうと、野宿とか農家の人の納屋《なや》に泊めてもらったりとか。
「あれ? この手紙なに?」
シロちゃんの首にくくりつけられた風呂敷包《ふろしきつつ》みを広げてみると、消しゴムと一緒に一通の手紙が入っていた。
「ああ、その手紙はファンレターなんデシって。印刷屋さんが渡してくださいって言ってたデシ」
「ファ、ファ、ファ…・…ファンレター!?」
心臓がいきなりドキドキと高鳴った。
うっそー!わたしにファンレターですって??
早速読んでみると……。
「キング先生へ
冒険時代、いつも楽しく拝見させていただいています。わたしは今まで冒険談というと、レベルの高い勇者たちの物語ばかりかと思っていました。ですから、キング先生のような初心者冒険者たちの冒険談はとても新鮮です。親近感がもてますし、なによりハラハラしていいですね。これからもぜひレベルの低い時のお話をどんどん書いてくださいませ。
エベリン在住 ドン・ミネルバ」
うひゃー! キング先生ですって。
最初、誰《だれ》かと思った。わたしよね、わたし。
ははは、それに『レベルの低い時のお話』って……それしか書けないんだってば。
「パステルおねーしゃん、何書いてあったんデシか?」
「うん……あのね。えーと、普通の冒険談みたいにレベルの高い人たちの話じゃないのがいいんですって」
「へえー、そうデシか。そういえば、今は何を書いてるんデシか??」
シロちゃんが小首を傾《かし》げ、わたしを見上げた。
「ああ、今? わたしたちが冒険者になったばかりの頃の話よ。レベル1とか2とかの時の。まだシロちゃんと出会ってなかった頃だね」
「それは聞きたいデシ!」
「ほんと? うん、いいょ。ちょうど読み直そうと思ってたところだし。じゃあ、聞いててね」
「わかったデシ!」
というわけで。
まだわたしたちがレベル1だった頃、春といってもまだまだ肌寒《はだざむ》い頃のお話。
わたしたちは珍しくちょっと遠出をしていた。いつもお世話になっている農家の人に頼まれ、届け物をしただけなんだけどね。
拠点にしているシルバーリーブ、そこからちょっと南に行ったところにある小さな村……ミネリー村を目指し、歩いていた。
森の街道もそろそろ終わり、もうすぐ村の入口……というところで、ひとりの少女と出会った。
栗色の髪を二つに結わえ、おさげにした髪。彼女は頬《ほお》を赤くし、泣きそうな顔で走ってきた。
こんな森の中で、しかも夕方だっていうのにどうしたんだろう? わたしたちが顔を見合わせた時、彼女もこっちに気がついた。
「あの……もしかして、おねえちゃんたち、冒険者??」
まあ、それほど立派な装備とはいえないけど、一応冒険者らしい格好《かつこう》ではある。
彼女は、わたしたちの身なりを見て、息を整えもう一度聞いた。
「冒険者よね??」
「うん、そうだけど……どうしたんだい? もうすぐ日が暮れるよ。ひとりじゃ危ないだろ」
クレイが優しく尋ねた。
たしかに、こんな森の中って夜になるとモンスターが出てきたりして、女の子ひとりじゃとても危ない。
少女は、半ベソをかきながら、クレイを見上げた。
「そうなの。もうすぐ日が暮れちゃう。そうなったら大変!!ああ、どうしよう!!」
「だぁら、どう大変なんだよ。ちょっと落ち着いて話してみそ」
クレイの横にいたトラップが言った。
少女はトラップの派手な服装(なにせ、カラシ色の上着に緑のタイツ、さらさらの赤毛頭にはオレンジ色の帽子というスタイルだ)に、ちょっと面食らった顔をした。
「まぁまぁ、ちょっと水でも飲んだらどうですかねー」
ボサボサ頭のキットンが、大きな鞄《かばん》から水筒を取り出した。
「水、のむかー?」
と、聞いたのはシルバーブロンドのふわふわヘアー、ちっちゃなエルフのルーミィ。
彼女を抱っこしていたのは巨人族のノル。
少女は大きくため息をついたかと思うと、急に顔を上げ両手を握りしめた。
「お願い! わたしと一緒に来てくれない? 妹が、妹が行方《ゆくえ》不明になっちゃったの――!!」
「あのな。だぁら、まずは事情を説明しろって言ってんだろ? あと、そのタメロ《ぐち》、どうにかなんねーか?」
「トラップ、そんなことはどうでもいいだろ?」
「クレイ、そういうわけにはいかねーだろ。目上の者に対する礼儀ってのは……」
「そういうことを、おまえが言うとは思わなかったぜ!」
トラップとクレイがくだらない言い合いを始めそうだったので、すぐ止めに入った。
「ちょ、ちょっと。二人とも。そんなことで言い合いしてる場合じゃないでしょ?」
でもね。その彼女、そうとう気が動転しているらしくって、どうして妹が行方不明になったかとか、どこに一緒に来てほしいのかとか。そういう詳しい話を聞くまでにかなりかかった。
整理して言うとだ。
この森の、ちょっと奥まったところにミステリーハウスと噂《うわさ》される古ぼけた屋敷があるんだそうだ。
ちょっと前までは誰かが住んでいたらしい。でも、近所づきあいもしない変わった人で。知らないうちに、いなくなってしまった。どうやら引っ越しをしたんだろう。
住む人のいなくなった屋敷は、何となく薄気味《うすきみ》悪く、だから大人は誰も近づこうとしなかった。でも、子供たちにとっては格好の遊び場。大人たちが絶対行っちゃダメと口を酸っぱくして言っても効果はなかった。
彼女……名前はメルリ・リスボンたちは毎日のように行っては夕方になるまで遊んでいるらしい。
で。きょうもきょうとて、朝から三時過ぎくらいまで遊びまくっていたんだけど、さて家に帰るかという時になって妹のジェイン・リスボンがいないこと発覚。
どこをどう捜しても見つからない。たぶん、先に帰ったんだろうと思って家に行ってみたが、やっぱりジェインはいない。友達に聞いてみても知らないという。
両親はちょうど二人して隣町に出かけていて、明日にならないと帰宅しない。
途方に暮れたメルリはひとりでミステリーハウスに戻ってみようと、この森を走っていた……ところにわたしたちと出会った。
というわけで。
もちろん、そんな状態の少女を見捨てるわけにはいかないからして、わたしたちも一緒に屋敷へ行くことにした。
夕方……少し空が暗くなってきた頃《ころ》。森の中で迷っている可能性もあるよねということで、ジェインの名を呼びながら歩いた。
でも、これってけっこう危険。ジェインだけでなく、モンスターたちにまでこっちの場所を教えながら歩いていることになるでしょ。
昼なお暗い森の中、わたしたちは四方八方注意しながら進んだ。
「ねえ、それで。ミステリーハウスっていうくらいだから、何か出たりとかするの? だから、ゴーストとかそういうの」
わたしがメルリに聞くと、彼女は首を傾《かし》げた。
「わたし、見たことないからわかんない。そんなに遅くまでいたことないし。でも、そういう噂はあるよ。屋敷の近くを通りかかった人が見たって。屋敷の中でチカチカと光るものがあったとか、回りを黒いものがふわふわ飛び回っていたとか……」
わたしたちパーティは顔を見合わせ、ため息をついた。
今のわたしたちに、ゴーストやゾンビといったアンデッドなモンスターというのは絶対身分不相応だもんな。
わたしたちが通ってきた街道から少し外れたところに、問題の屋敷はあった。
深い森の中、まわりはうっそうと雑草が繁《しげ》り、誰も手入れをしていないのがわかる。それに、かなり荒れ果てていて、窓の一部なんか壊れていた。
しかし、なんだかそうとう気持ち悪い。屋敷自体が襲《おそ》ってきそうな雰囲気《ふんいき》じゃない?
「ジェイン! ジェイーン!」
錆《さ》び付いたノッカーのついた大きな扉を開けるなり、メルリは大声で妹の名前を呼んだ。
しかし、返事はない。
「中はどういう作りになってるんですかね」
キットンが聞く。
「そうだな。中に入る前に簡単に聞いておいたほうがいいな」
と、クレイ。メルリは泣きそうな顔でこっくりうなずいた。
「一階はお客さんとお話しする部屋とか台所とか食堂とかがあるよ。この玄関ホールの階段上がって、二階は寝室が三つ、バスルームが一つ、本がいっぱい置いてある部屋が一つかなぁ。そうそう、大きな机もあるよ」
「ふむふむ……書斎のことかな。で、外にはないの? 納屋《なや》とか」
わたしが聞くと、メルリは首を振った。
「ないよ。外の庭には噴水があるだけ」
「ふんしゅい、あうのかぁ? ルーミィ、ふんしゅい好きだお」
ルーミィが彼女を見上げてうれしそうに言うと、メルリはクスッと笑った。
「わたしも噴水は好き。でも、ここのはダメ。水、入ってないんだ」
「なんだ、そうなのかぁ」
がっかりした顔のルーミィ。
「じゃ、とりあえず探してみるか。暗くなる前に」
クレイがそう言って屋敷に踏みこんでいくと、
「そうですねえ。ゴーストが出る前に」
と、後ろからキットンが続いて入っていった。
「不吉なこと言うなよ!」と、その後ろ頭をバシッと叩《はた》いたのはトラップ。
そう、とう痛かったんだろう。キットンは、しばらく、そのボサボサ頭を押さえていたが、
「全く。なんですか、いきなり。だいたいトラップは乱暴なんですよ!」
と、食ってかかった。
「うっせー。はえーとこすませて、夕飯にしようぜ。だいたいなぁ、何の報酬《ほうしゆう》もねー、ただ仕事だっつうに…。おっと、そうだ。お嬢ちゃん、あんたんとこって金持ち?」
「ええ??」
トラップに迫られ、困った顔のメルリ。今度はわたしがトラップの背中を叩《はた》いた。
「ちぇ、なんだよ。いつも貧乏だ、貧乏だって騒いでるのはおめぇだろうが」
「あのねぇ!」
わたしとトラップが言い争いを始めると、無言でわたしたちの背中を大きな手で押した人がいる。ノルだった。
そうよね。今はそんな場合じゃなかった。
玄関を入ってすぐ、吹き抜けの玄関ホールになっていた。目の前には、大きな階段。左右に扉がある。
早速、一階も二階も手分けして見て回ったが、どこにもジェインのいる気配がない。
屋敷の中は、どこもかしこもホコリだらけ。床には泥のついた小さな足跡がいっぱいだけど、きっと、これはメルリたちの足跡なんだろう。
「なぁ、入れ違いになったとかねぇか?」
トラップがメルリに聞く。
でも、メルリはきっぱり否定した。
「ここに行く道は一つだけだもん。それに、わたしたち、森で迷うことなんかないよ。小さい頃《ころ》から遊んでるから全部知ってるし」
「けっ、その頑固《がんこ》そうな目! もしかしたらっていう可能性だってあるだろう?」
「ぜーったいない!!」
「おーおー、かわいげのねえガキ」
「んもう、トラップってば。女の子いじめて何が楽しいわけ?」
でも、トラップは素知らぬ顔。
「おれはねー、腹が減ってるの。とりあえずさぁ。いったん村に戻って夕飯食ってくるってのは? んで、明日の朝また探しにくる」
「だーめ!!」
「らーめ!!」
わたしとルーミィが即座に言う。トラップは「はぁ……」と、わざとらしくため息をついた。
と、その時……。
二階のほうから叫び声がした。
「あれ、クレイの声じゃない!?」
トラップは黙ったまま二階を見ている。
クレイとキットンは二階を見て回っていたんだけど……。いったい何があったの?
ま、ま、まさかゴースト!?
「クレイ!!」
急いで二階に駆け上がったわたしとトラップ。後からノルがルーミィとメルリを連れてやってくる。
階段を上がって右手、扉が開きっぱなしになっていて、そこから声が聞こえてきた。
大きめの寝室。大きな窓が開けっぱなしになっている。外はベランダのようになってるんだけど、そこでクレイと黒い大きな鳥(のように見える奴《やつ》)が格闘していた。
カラスに似てるけど、でもぜんぜん大きい。
「ギャア、ギャア、ギャア!」
耳を覆《おお》いたくなるような甲高《かんだか》い声。
「うわ、やめろ。離せ!!」
クレイの竹アーマーを鋭い爪《つめ》でつかみ、大きなくちばしで肩や背中を突っつく。
ロングソードを振り回すのだけど、ぜんぜん当たらない。近すぎるんだ。
「この鳥、わたし見たことない!! こんな恐いのがいたの!?」
ノルの後ろにいたメルリが真っ青な顔で言った。
「ねえ、キットン! あれ、何なの?」
わたしが聞くと、腰を抜かしていたキットンはハッと我に返りわたしたちを見た。
「ああ、パステル! 大変なんです。クレイが大きな鳥に襲《おそ》われてしまって」
「んもー! それは見てわかってるってば。だから、あれは何なのって言ってるでしょ」
「え? あ、ああぁ……そうですねぇ。カラスみたいだけど、そうじゃないですねぇ。羽が四枚ありますし」
「ええ?」
キットンに言われ、よく見てみる。
本当だ亘 黒い大きな羽が四枚もある。
「ねぇ、もしかしてモンスターなんじゃない? キットン、モンスターポケットミニ図鑑《ずかん》、あれで調べたら? 弱点とかあるかもしれないじゃないの」
キットンはここで初めてポンと膝《ひざ》を叩《たた》いた。
「そうでした、そうでした。げヘへ、すっかり気が動転してまして、ははは……わたしとしたことが」
「あぁぁぁ、いいから早く調べてぇー!!」
「わ、わっかりました。今、今すぐ……」
なんて言ってる間にも、クレイと謎《なぞ》の鳥の格闘は激しさを増していた。
ノルが引きはがそうとするんだけど、ぜんぜんダメ。ノルの怪力をもってしてもダメだなんて!!
「おい、クレイ。ちょっとじっとしてろ。おれがパチンコで……」
そう言って、トラップがパチンコで狙《ねら》った。
パチッと音がして鳥の頬《ほお》に命中。
「ギャン!!」
と、悲鳴をあげた鳥はクレイの体から離れ、今度はクレイの腕に取り付いた。
「う、うわぁ。何をする!!」
クレイの顔面に両足キック!! どーっと倒れた時、クレイはロングソードを取り落としてしまった。
鳥はあっという間にそれをつかみ、バサバサと大きな羽音をさせて逃げだした。
「ま、待てぇー。剣を返せ!!」
尻餅《しりもち》をついていたクレイがあわてて後を追いかける。
ベランダに出ると、鳥はロングソードをつかんだまま空中をホバリングしていた。
その何とも憎たらしい目!
わたしたちが騒いでいるのを横目に、屋敷の屋根のほうに飛んでいってしまった。
トラップがすぐに後を追いかけようと、壁をよじ登り始めた。
「気をつけてよ、トラップ」
声をかけたが、彼は返事もしない。するするとサルのように登っていった。
「ああぁ……どうしよう。」冗談だろ? あれは先祖代々伝わる大切なロングソードなのに……」
クレイはがっくり肩を落とし、床に座りこんでしまった。
そうなんだよね。クレイはあのロングソードをそれはそれは大切にしていて。暇さえあれば手入れしていたもん。
「だいじょうぶよ。何とかして取り返そう……」
その肩に手をかけクレイをなぐさめようとして、わたしは思わずプッと吹き出してしまった。
「ク、クレイ……その顔!」     .
「え?」
だってだって、クレイの顔ったら……。さっきの奴《やつ》に両足キックをやられたもんで、顔にくっきり足の跡がついてしまってるんだよね。
部屋にあった鏡に自分の顔を映したクレイ、
「げげ、なんだ、こりゃ!!」
と、両手で顔を覆《おお》った。
「しかし、取り返すのは大変だと思いますよぉ。なにせ、相手は飛んでますからね。もう森のどこかに飛び去った可能性も大きいですし。まぁ、戻ってこないとしても新しいのを買えばいいんでしょうが。我々の経済状態からいうと、それも難しい」
全く。キットンってば、なんて無神経なの!?
「キットン! そんな馬鹿《ばか》なこと言ってないで、早く捜してよ。まだわかんないの?」
でも、彼はまだ小さな図鑑をあーでもないこーでもないとめくり、「はぁ……えーっと、もうすぐ。もうすぐです。近い線まできてると思うんですけどねえ」
「ちょっと貸してみて。わたしが調べる」
「まさか。わたしのような専門家でさえ見つけられないんですよ? パステルみたいなド素人《しろうと》が見つけられるはずないじゃないですか。時間の無駄です、時間の」
「…!!」
わたしは黙ったままキットンの手から図鑑をむしり取った。
「わわわ、何をするんですう。もー、トラップもパステルも乱暴なんだから」
キットンが騒ぐのを無視してパラパラとめくってみる。
鳥の類を見てみるのが早いか……ううん、もしかしてあれだけカラスに似てるんだもん、索引でカラスっていうのを引いてみるのも手かもしれない。
わたしの勘は当たっていた。
「キットン。これじゃないの?」
「パステルなんかに見つけられるはずが……えぇ??」
今度はキットンがわたしの手から図鑑《ずかん》をむしり取った。
「マニアカラス。カラスに似た顔形をしているが、数倍の大きさ。紫色に光る黒い羽で覆われており、鳥と違うのは羽が四枚あること。鋭い爪《つめ》とくちばしが武器。通常攻撃、魔法攻撃ともに有効。たいしてレベルは高くないので落ち着いて倒すこと。別名『ぬすっとカラス』とも呼ばれていて、すぐに相手の持ち物を盗み取る癖がある。通常、単体で行動しており、古い屋敷の天井裏などに住み着く。盗んできたコレクションを巣に持ち帰る習性がある」
「ほぉーらね。これでしょう」
わたしが自慢そうに言うと、キットンは心底《しんそこ》感心したような顔で、「いやぁ、パステル。お見それしました。すごいですねぇ。まぐれ当たりとしても」
「じゃあ、この屋敷の屋根裏に巣があるんだろうな」
ちょっと元気になったクレイが言う。
「うん、そうよ。そうに違いないわ。だったら簡単じゃない? 屋根裏部屋に行けばいいんだから」
「ま、まぁな……そう簡単にいくとは思えないけど」
「やぁねー。またまたクレイってば暗くなっちゃって。物事、もっと明るく考えなきゃ!」
ポーンと彼の肩を叩《たた》く。
「かんぎゃーなきゃ!!」
すぐわたしの真似《まね》をするルーミィ。同じように小さな手でクレイの肩を叩いた。
でも、でもでも。
実はクレイの予感が当たっていたのよね……。
トラップがなかなか戻ってこないんで、どうしたんだろうと心配になってきた頃《ころ》。
一階の玄関ホールのほうから、
「おねぇちゃん! おねぇちゃん!!」
と、かわいらしい声がした。
「ジェイン!?」
メルリは弾《はじ》けるように、部屋から飛び出していった。
どうした、どうした……と、わたしたちも一階に降りていく。玄関ホールで抱き合う姉妹の姿があった。
「その子が妹のジェインなの?」
わたしが聞くと、メルリは泣きながらうなずいた。
「ジェインってば、どこに行ってたの? おねえちゃん、すっごく心配したんだから」
メルリによく似た女の子は、口をとがらせた。
「おねえちゃんてば。わたし、帰りにケンちゃんとこに寄ってくって言ったじゃない? ほら、ゲームを貸してもらいに行くって!」
メルリはびっくりしたような顔。
「えぇー? そうだったっけ?」
「そうだよぉ。お昼のお弁当、食べた時に言ったもん」
「あっはっは。そうだったっけか。やだぁー、わたしったら」
…………。
わたしもクレイも、何にも言えずぼーっと立っていた。
なんじゃ、それ。
今、トラップがいたら、どんな毒舌を言うか!!
「ま、まぁ……無事だったんだから、よかったよな」
情けない声でクレイが言う。
「そ、そうね」
「おにいちゃんたち、本当にありがとう。お世話になりました。このご恩、一生忘れません」
メルリはペコッと頭を下げた。
「ううん、いいのよ、いいのよ。とにかくもう遅いし、早くおうちに帰ったほうがいいよ」
わたしが言うと、彼女たちはコクッとうなずき、手をつないで帰っていってしまった。
「でも、おれのロングソード……」
彼女たちを見送ったクレイがぼそっとつぶやく。
その情けない声。彼の顔にくっきりついたマニアカラスの足形が、さらに哀れを誘う。
その時、ドタドタと足音をさせ、トラップが降りてきた。
「なんだよ、どうしたんだ? おれだけ仕事させて、おめえらはここで休憩《きゆうけい》かよ?」
「違うの。ジェインがね、ほら、メルリの妹。彼女が見つかったのよ」
わたしが事の顛末《てんまつ》を説明すると、トラップはケタケタ笑いだしてしまった。
「あほくさー。そんで、なんだ? 代わりにクレイの剣が行方《ゆくえ》不明ってか?」
「そうそう。さっきのカラスみたいな奴《やつ》。あれの正体がわかったのよ。あれはマニアカラスっていうモンスターでね。別名ぬすっとカラスっていって、人の持ち物を盗んでいく奴なんだって。たぶん、この屋敷の屋根裏に巣を作っていると思うんだけど……」
「ああ、そうだよ。奴、クレイの剣持ったまま屋根裏に入っていった」
「で? 屋根裏へは行けそうなのか?」
クレイが聞くと、その顔を見てトラップはまたまた笑いだした。
「なんだ、その顔。みっともねー!! サーカスにでも就職する気か?」
「あのな。そんなことはいい。早く言えよ。屋根裏へは行けそうなのか?」
トラップは涙を流して笑いながら手を振った。
「だめだめ。おれも屋根を登ろうとしたんだけどさ。ぜんぜん取っ掛かりのねぇ屋根で、ありゃそうとうレベルの高い盗賊じゃねーとダメだな。それか、特殊なアイテムがなきゃ」
「そうか……やっぱりな」
クレイがまた肩を落とす。
「で、でもさ。屋敷の中から行けるとこ、あるって。絶対」
わたしが言うと、
「まぁな。でも、とにかくおれは腹が減った。場所はわかったんだ。日も暮れてきたし、明日の朝、出直そうぜ!」
トラップは冷たく言い放った。
「そ、そうね……」
でも、クレイは動こうとしない。
「わかった。みんなは先に行ってくれ。おれは残って捜してみる」
「そんなぁ。クレイだけ残して行くわけにはいかないよ」
わたしが言うと、ノルもうなずいた。
「そうだな。おれも残る」
「ですねぇ。わたしも残ります。あのマニアカラスのことをもうちょっと調べたいですし」
と、キットン。
「ルーミィものこうよ。くりぇえ、かわいしょうらもん」
ルーミィも残ることを宣言。
トラップはそんなルーミィに言った。
「ルーミィ、腹減ってねーのか? おれと一緒に来れば、うまいもん、たらふくご馳走《ちそう》してやるぜ」
『うまいもん攻撃』に、ちょっぴり心がゆらいだような顔をしたけれど、ルーミィはきっぱり断った。
「らめらもん。みんなで食べなきゃおいしくにゃいもん」
結局、トラップ以外の全員が残ること決定。
「ちぇっ……勝手にしろい!」
トラップはそう言い捨てると、ひとり屋敷から出て行ってしまった。
えぇー? 本当に行っちゃうなんて。
なんて友達がいのない人なの??
「いいよいいよ。さ、早く見つけよう!」
とは言ってみたものの。
でも、こんなからくり屋敷みたいなところ、盗賊のトラップ抜きで……なんて大丈夫なんだろうか?
窓の外から差しこむ夕日は、血を流したように真っ赤。早くしないと、本格的な夜になってしまう。
一抹《いちまつ》の不安を残しながらも、わたしたちの屋敷探索は第二部を迎えたのだった。
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ミステリーハウスの謎《なぞ》
屋根裏へ行く階段かハシゴか……なんだから、当然二階にあるんだろうということで、再びわたしたちは二階へ行った。
でも、ここって元は貴族か何かの屋敷だったんだろうか。よくよく見てみると、どの家具も古びてはいるけれど、けっこういい感じ。それにちょっと手入れしたら住めそう。
「こんな家住めたらいいですねぇ。ほら、寝室が三つでしょう。我我のような大所帯でも楽に暮らせます」
同じことを考えたらしく、キットンがそんなことを言った。
「やっぱりキットンもそう思う??」
「はい。でも、ゴースト付きじゃあ、ちょっとイヤですけどねえ」
そんなバカな話をしていると、一番奥の(つまりさっきマニアカラスの出た部屋とは反対方向にある)寝室からノルの呼ぶ声がした。
「あったぁ??」
「あったか?」
ドタドタと廊下を走り、全員が集まった。
行ってみてびっくり。
ノルが大きな衣装だんすを持ち上げていたではないか。
「どっこいしよ」
かけ声をかけ、彼は大きなベッドの隣にその衣装だんすを置いた。
衣装だんすの置かれていた場所……そこに、ぽっかりと小さな入口があいていた。
「よくわかったねぇ」
わたしが感心すると、ノルは照れたように笑い、
「最初から少し動かしたようなあとがあったから。隙間《すきま》から見てみたら、入口が見えたんだ」
「うまいぞ。やっぱり階段がある!」
入口に頭を突っこんでいたクレイが言った。彼はこっちを振り返り、
「じゃあ、早速上がってみるか……ノル、狭いけど登れるか? さっきのモンスターがいるだろうからね。援護してほしいんだ」
「了解」
「ポタカン、あったよな?」
「ああ、持ってる」
ノルはそう言うと、荷物の中からポタカンことポータブルカンテラを取り出した。携帯に便利なカンテラだ。
ノルからポタカンを受け取ると、クレイはわたしたちに言った。
「じゃあ、パステルたちはここで待っててくれよ」
「わかった。クレイ、ノル、気をつけてよ!」
わたしが声をかけると、彼らは大きくうなずいた。
残されたのは、キットンとルーミィとわたし。
古びた寝台に腰掛けたルーミィに、
「ねえ、ルーミィ。おなかすいたでしょ」
と聞くと、彼女は大きな目をなんとも悲しそうにして、こっちを見上げた。
「そんな悲しそうな顔しないの。ほら、これ。チョコレートあげるから」
パッと輝く顔。すぐわたしのほうにやってきた。
わたしたち冒険者は、いつ何時《なんどき》こういう事態(つまり食事をとれなくなる)になるかわかんないでしょ。だから、チョコレートやキャンディーみたいな簡単に食べられて、しかも元気になるお菓子を持って歩くことが多い。特に、ルーミィみたいなくいしんぼがいると、必需品だもんね。
わたしがあげたチョコを彼女はうれしそうに頬張《ほおば》った。
「キットンも食べる?」
しかし、彼は首を振り、
「いえ、遠慮《えんりよ》しときます。わたしは乾燥キクタケでも食べてますよ。これ、ちょっとした毒があるキノコなんですがね。こういうふうに塩漬けにして完壁《かんぺき》に乾燥させると、うまくなるんですよねえ。パステルも食べませんか?」
「う、ううん。遠慮しとく。わたし、今チョコが食べたい気分でさ」
わたしが断ると、キツトンは「うまいのになぁ」とブツブツ言いながら、その乾燥キクタケを食べ始めた。
キノコというより、まるで大きなミミズのミイラみたい。よくそんなもん、食べるよなぁ。
「あのねぇ、ぱぁーるう。ルーミィ、このチョコ、はんぶんのこしてう。あとでまたたべうんだ!」
口の回り、チョコだらけにしたルーミィ、うれしそうに食べかけのチョコを自分のポッケに入れようとした。
「ああ、ルーミィ。だったら、紙で包んであげるよ。そのままじゃ服が汚れちゃうでしょ?」
わたしがチョコを包んであげると、ルーミィはニーッと笑った。
しばらくして、クレイたちが戻ってきた。
でも、あまり芳《かんば》しくない顔。
「どう? 行けないの?」
わたしが聞くと、クレイは首をひねった。
「いや。たぶん、ここから登るんだと思うけど。頑丈《がんじよう》な扉があってね。鍵《かぎ》がかかってるんだ」
「開かないの?」
「ああ。全くお手上げだな。こういう時こそ、トラップがいてくれればなぁ……」
「あ、そうか。彼なら鍵開けできるかもしれないもんね」
う――む。肝心《かんじん》な時に!!
「やっぱり奴《やつ》の言う通り、今日のところはあきらめて帰るかな。さっきの奴が今夜中に引っ越しをしないことを祈って」
「そうねえ……」
窓の外はもう真っ暗。
わたしたちがふーっとため息をついた時、
「鍵開けできるかもしれないだと? かもしれないとは、どういうことだよ……」
聞き慣れた皮肉っぽい口調。部屋に入る扉のところに片手をかけて立っていたのは、トラップだった。
村に向かいかけたんだけど、考えてみればパーティのお財布を持っているのは、わたしでしょ? だから、宿に泊まったり食事をしたりするお金がないもんで、しかたなく戻ってきたんだとトラップは言った。
でも、自分だって自分のお金くらい持ってるはず。彼のことだから、後でバッチリ請求するだろうしね。
ということは。だから、きっとそれはただの言い訳だと思うんだな。さっきは勢いで出ていってしまったけど、やっぱり気になるんで戻ってきてくれたんだろう。
でもね。結局、トラップでもその鍵は開かなかった。
彼が帰ってきてくれた時には、これで万事解決! と、沸《わ》き立った後だからなぁー。
みんなガックリって感じで、トラップを見た。
「な、なんだよ。おれだってなぁ、全ての鍵が開けられるわけねーんだ。それに、これ、もしかしたら魔法がかかってるかもしんねぇ」
と、憮然《ぶぜん》とした顔のトラップ。
さっきはずいぶんと偉そうなことを言ってたくせに。
でも、魔法ですって!?
「ねえ、魔法ってことは……この屋敷、やっぱりただの廃屋じゃないってこと?」
「そうだな。なんかカラクリがあるに決まってる。だいたい、ただの屋敷なら屋根裏部屋に行く階段をタンスで隠したりするか?」
トラップに言われ、みんな妙に納得《なつとく》してしまった。
そうだよね。そういえば……。
「だいたい……ここって誰《だれ》が住んでたんだろう」
クレイはそう言うと、寝室を見回した。
ここは客用寝室のようで、ベッドと衣装だんすの他、特に変わった物はない。
あるといえば、さっきクレイがマニアカラスに襲《おそ》われた寝室にあったのと同じ、時代がかった鏡くらい。
「こうなったら部屋という部屋を調べまくるしかないな」
同じように部屋を見ていたトラップが言った。
「どうする? また手分けするか」
彼に聞いたのはクレイ。トラップは腕組みをしたまま考えこんだ。
「いや、それは危険だろう。何らかの仕掛けがあるんだとわかったんだ。それにもう日が暮れちまったしな。また変なモンスターが出ねえとも限らねー」
「そうだな。たしかにそれは言えてる。今度は全員固まって移動しよう」
と、いうわけで。
わたしたちは一部屋一部屋、丹念《たんねん》に調べていくことにした。
もちろん、通路の壁にかかっている絵や床に敷かれた敷物などにも注意をして。
昔読んだミステリーハウスでは、主人公たちは壁に生えたカビを拭《ふ》き取ったりもしていた。後は壺《つぼ》の中とか、台所の鍋《なべ》の中とか。変なところに鍵が隠されたりしてたもんね。
「一番怪しいのはこの部屋だな」
トラップはそう言うと、書斎の中に入っていった。
そこはクレイがマニアカラスに襲われた主寝室のちょうど向かいにあたる。
古びた本が本棚にぎっしり詰めこまれていて、キットンは目を輝かせた。
「何か面白《おもしろ》い本があるかもしれませんねえー……」
早速、彼は手近の一冊を取った。それだけで大量のホコリが部屋に舞う。
「け、けほ、けほけほ……」
「うっぷ………たまらんな、このホコリは」
「キットン、そうバサバサやらないでよー」
「は、は、は――っくちょん!…」
全員が抗議する。かわいいくしゃみをしたのはルーミィだ。
ひとり黙ったままだったのは、トラップ。
めずらしいよね! 彼が一番ブーブー言うはずなのに。
彼は、部屋の中央に鎮座《ちんざ》ましました大きな机の引き出しを調べていた。
「くそ。ここにも鍵がかかってる……」
「やっぱり魔法がかかってるの?」
わたしが聞くと、彼は首を振った。
「違うな。これは……何とかこじあけられそうだけど……」
しばらくして、たくさんの本を見ていたキットンがホコリだらけの顔を上げた。
「ここの主人って……魔法に興味があったようですね。もしくは……本人が魔法使いだったのか」
「魔法の書でもあったのか?」
キットンの読んでいる本をクレイがのぞきこむ。
「呪文《じゆもん》を書いた本はないのですが、古今東西の魔法に関する本ばかりですよ」
「ほらな。おれの言った通りだ。よぉーし、開いたぞ……」
トラップの勝ち誇った声。
「ほぉー……」
「さっすがぁ。それで? 何かあった??…」
みんながトラップの回りに集まる。
しかし、引き出しの中は空っぽ。
「なんだよ。期待させやがって……」
トラップがドンと机を叩《たた》いた時だ。ボコッと変な音がした。
「ん、んん??」
トラップは引き出しの奥をのぞきこんだ。
「おや? これは……」
今度は机の下にもぐりこみ、
「あったぞ!!!」
という声と同時に、ドカッという鈍い音。
「い、いってええ……」
思いっきり頭をぶつけたみたいね。
赤毛頭をさすりながら、トラップは机の下から出てきた。鍵《かぎ》のかかった日記帳のようなものを一冊持って。
ううん、実際それは日記帳だった。だって、表紙に『日記帳』って書いてあったもん。よくあるタイプで、ストラップがついてて鍵がかかっている。
「ここの主人の日記かな」
「でも、また鍵よ」
わたしが言うと、トラップは鼻で笑った。
「ふん、こんなもの。クレイ、ショートソード貸せよ」
「あ、ああ。だけど、これでこじあけたりするなよ。今、おれの持ってる唯《ゆい》一《いつ》の武器なんだから」
「誰がこじあけたりするかよ」
と、クレイにショートソードをもらったトラップ。何の躊躇《ちゆうちよ》もなく、日記帳にかかったストラップを切ってしまった。
「あぁーあぁ!」
「いいの? 勝手に」
「そうですよ。誰の物かもわからないのに。器物破損で訴えられますよ!」
わたしたちが口々に言ったが、トラップはぜんぜん気にしてないようす。
「ええーっと??」
ペラペラペラ……と、中をめくってみる。
こうなると、当然中身が見たいよね。わたしたちも顔を寄せて中をのぞきこんだ。
「なんだ、これ」
「読めないよ。キットン、読める?」
「さぁ……わたしも見たことがないですね。こんな文字は」
ズラズラと何かが書き付けられてあるのだけれど、見たこともないような文字なんだよね。読めやしない。
「ちぇ……なんか意味ありげなんだけどなあ………。なんか挟まったりしてねぇーか?」
トラップがバサバサと本を逆さに振ってみると。
一枚のメモのような物が落ちてきた……
「水のあるべきところに水をもどせ。
さすれば光の輪が現れん。
二つの輪が重なる時、我現れん」
「なぁに? これ」
「なんら? こえ」
「謎《なぞ》ですねぇー」
「謎だ」
「この謎を解けば……我現れん……ってことは、ここの主人が出てくるってことか?」
「さぁな。我といったって、人間とは限らねぇぜ。悪魔かも!!」
「えぇ――!?」
わたしたちは顔をくっつけ合ったまま、首をひねった。
でも、こんな意味ありげな言葉……無視できるはずないでしょ? 当然、謎は解かなくっちゃとワクワクしてきた。
何が現れるのか……期待半分、不安半分。
「これだよな! 冒険の醍醐味《だいごみ》は」
トラップは鼻息も荒く、
「水のあるべきところに水をもどせって言うんだから、今は水がないところだ」
と、当たり前のことを言った。
ポン! と、同時に手を打ったわたしとクレイ。同時に叫んだ。
「噴水だ!」
「噴水じゃない?」
トラップはわたしたちの顔に指をつきつけ、
「仲のよろしいこって。そう。おれもそう考えた。さっきのガキが言ってたよな。庭に噴水があるが、今は水がないって」
早速、わたしたちは一階に降り、玄関から庭に出てみた。
幸い、満天の星空で、その星明かりだけでも歩けるほど。
屋敷に向かって左側に回りこんだところに、問題の噴水はあった。
たしかに、もう干涸《ひから》びちゃって何もない。
さらに屋敷の裏に回りこんだところに、井戸もあった。
「うまいぞ。水がある……」
「じゃあ、水を汲んで、噴水を満たせばいいのね?」
「でも、何で運ぶ?」
「台所に鍋《なべ》とかあっただろ?」
「ああ、それに食堂のほうには水瓶《みずがめ》がありましたよ。大きなのが二つも!!」
「よし! じゃあ、みんなでバケッリレーだ!!」
噴水のすぐ右側に屋敷の裏口があつて、入ってみると、そこは台所だった。
手近の鍋やバケツ、食堂にあった二つの水瓶などを集め、井戸から水を汲んだ。
水を汲む役は力持ちのノル。それを水瓶やバケツに入れ、わたし、キットン、トラップ、クレイの順番で並び、バケッリレーで噴水にせっせと水を運んだ。
ルーミィも手伝うと言ってきかなかったが、何とかあきらめてもらった。だって、絶対無理だもんね。取り落としてしまうのが関《せき》の山だ。
どれくらい運んだだろう……。
みんなさすがに疲れてきた。水は半分ほど満たされていたけれど、何も起こらない。
「はぁ、はぁ………ねえ、これどれくらいになればいいの?」
とは聞いてみたけれど、誰も答えられないよね。
「ふう……やっぱさ、違うんじゃないか?」
クレイが額の汗をぬぐいながら言った。
「いんや。たぶん、満杯になるまでやんなきゃダメなんだぜ」
顔を真っ赤にしたトラップが言い、わたしたちはもう一度気を取り直して水を運び始めた。
「ぎゃっ……」
いきなりキットンが悲鳴をあげた。
「な、何!?」
「何かあったか?」
みんなの注目を集めたキットンは、太短い腕を突き出してみせた。
「蚊《か》ですよ、蚊。蚊に食われました……ほら、ここ」
「     」
全員からボコボコ叩《たた》かれ、キットンはもう一度悲鳴をあげることになった。
そうして……。
ついに、やっとこさ水で噴水はいっぱいになった。
何が出るのか? と、みんな噴水の中をのぞきこむ。
でも、いつまでたっても何も起こらなかった。
パチッ!!
派手な音にハッとする。わたしの横にいたクレイが自分の首を叩いたのだ。
「あ……。いや、蚊がね……」
わたしたちが見ているのに気づき、彼は恥ずかしそうにつぶやいた。
やっぱり違うんじゃないか。とすれば、水をもどすべきところというのはどこだ? と、言いつつ。とにかく屋敷にいったんは戻ろうということになった。
たしかに、こんなところにいたらあちこち蚊に刺されちゃう。
わたしは水を捨てるため、手に持った水瓶を傾けた。
と、その時。わたしは妙なものを見つけた。
なんだ? あれは……
だって、屋敷の壁に光の輪らしきものがあったのだ。注意してみなければわからないほど、弱々しい光ではあったけれど。
「これなんじゃないの? 水瓶《みずがめ》……『水のあるべきところに水を満たせ』って……それに水瓶は二つあるんだもん。『二つの輪が重なる時』っていうのもわかるでしょ?」
わたしの発見に、みんな騒然とした。
「しかし、だとしたらマヌケですよねえ。今まで我々は何のために、こんな苦労をして水を運んでいたのか。それも、その問題の水瓶に水を入れて……」
キットンはそう言うと、ゲハゲバと大笑いを始めた。
そのばかばかしく大きな笑い声が、静かな夜の森に響きわたる。
「とにかく重ねてみようぜ」
トラップはクレイの持っていたもう一つの水瓶を取り上げ、水を満たしてみた。
やっぱりこっちからも弱々しい光が出ている。
壁に向け、うまく二つの輪が重なるように傾けてみた。
しかし、やっぱり何も起こらない……。
「なんなんだぁー?」
「でも、絶対これよ。これしか考えられないじゃない? これじゃなかったら、どうして光の輪が出てくるの?」
焦って、わたしが言うと、
「わかってるって。んなに、がなりたてなくたってさ。たぶん、ここで重ね合わせてもダメなんだ」
トラップはそう言って、水瓶を持ったまま裏口へと歩き出した。
「どういうこと? ここじゃダメって」
「さぁな。しかし、置いてあった場所に関係あるかもしんねーぜ」
あ……そっかぁ。
置いてあった場所っていうと、食堂の……。たしか、この水瓶は台座のようなものの上に置かれてあった。
ドヤドヤと、食堂に移動。
トラップの推理は見事当たっていた。
台座に置いた瞬問、光の強さが十倍くらい増したのだ。
「わお!! 大正解っ!!」
「すっげー。これ、こんな仕掛けになってたとは……」
でも、喜んでばかりもいられない。
だって、壺《つぼ》の口は、まっすぐ天井に向いているでしょ。ということはつまり光の輪も天井にくっきり映し出されているわけで。
これじゃ、二つの輪を重ねることは絶対できない。
「ふぅーむ……どうすればいいんだろう。鏡でもあればな……」
と、つぶやいたクレイ。自分で自分の言葉に驚いたように叫んだ。
「そうだ! 鏡だ。上にあったぜ。二つ!!」
大急ぎで、鏡を取ってくる。
主寝室にあったのと、客用寝室にあったのと。
「これを使えば……」
クレイとノルが鏡を持ち(これ、けっこう重いのだ)、壺の口の上に斜めにかざした。
光の輪は鏡に反射し、ちょうど部屋の中央にある大テーブルの上で踊った。
「ノル、そこで固定しておいて」
「了解」
クレイはノルのほうの光の輪に、注意深く自分の持った鏡に反射した光の輪を重ね合わせていった。
「うわぁ――!!」
「ひゃぁ!」
「ま、まぶしー」
うまく合致した瞬間、思わず目をつぶった。光はさらに百倍くらい強くなったのだ。
そーっと目を開けてみる。
ん、んん――!?
人間?
眩《まぶ》しく光る輪の中に、徐々に人が現れた。
しかも寝てる!?
それは、頭巾《ずきん》のようなものをかぶり、ローブを着たおばあさん。
彼女は、大テーブルの真ん中で、くうくうと気持ち良さそうな寝息をたてていた。
「おい、ばあさん。起きろよ!!」
光が消えた時、トラップが大きな声で呼んだ。
「う、うううー」
おばあさんは何かうめくと、バサッと寝返りを打った。
「こら、ババア! 起きろって言ってんのがわかんねーのか!」
さらに大きな声で呼ぶ。
「ちょ、ちょっと。トラップ、もうちょっと言い方があるんじゃない? 失礼よ」
わたしがそう言った時、おばあさんは突然むっくりと起きた。
そして、テーブルの回りで見守るわたしたちを順番に見た。そして、
「おまえさんがたは何者じゃ?」
と、クレイに聞いた。
「あ……あの、ちょっと通りかかった者で……」
急に言われたもんで、クレイってば面食らったみたい。
「ばーか。何が『ちょっと通りかかった者で……』だよ。そうじゃねーだろ。おい、こら。ババア。あのな。ここの屋敷の天井裏に行くところにあるドア、あそこの鍵《かぎ》はどこにあるんだ。出せよ、早く」
もちろん、これはトラップだ。
しっかし、なんちゅう言い方!?
しかも、なんて唐突な。
おばあさんはトラップを睨《にら》みつけ、
「何の話かわからんな。人が気持ちよく寝てるというに、いきなり起こしておいて。なんじゃ、おまえは」
と、節くれだった指を突きつけた。
その途端、トラップは隣の台所のほうに飛ばされてしまった。
「ぎゃー! な、何するんでぇ……」
ドッスンガラガラと、派手な音。何かにぶつかって尻餅《しりもち》でもついたんだろう。ひゃぁー、びっくりした。
この人やっぱり魔法使いなの??
そうよね。いかにも魔法使いっていう感じだし。ううん、それよりこんなふうに登場するんだもん。普通の人のはずないや。
わたしが妙なふうに納得《なつとく》していると、彼女はテーブルの上で座りなおした。
「あんたら、冒険者じゃろ?」
「は、はい……」
クレイが答えると、おばあさんはクックックと笑いだした。
「しかも、レベルの低い冒険者じゃな?」
「あのなぁー!!」
いつの間に戻ってきたのか、トラップがまたおばあさんに食ってかかろうとした。
「いつ戻っていいと言った!?」
またまた飛ばされるトラップ。
ガラガラガッシャ――ンと、前にも増して派手な音。
でも、誰も同情しない。あの人の場合、自業自得といえるからね。
わたしたちが苦笑いをしていると、おばあさんは急に真面目《まじめ》な顔になった。
「まぁ、あんたらでもいい。ちょっと、頼みを聞いてくれんかの。代わりに、屋根裏への行き方を教えてやらんでもない」
ゴクリと喉《のど》を鳴らす音。
たぶん、全員の。
そんなわたしたちを見回した後、彼女の白目ばかりが目立つ目がキラリと光った。
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魔法使いの頼みごと
謎《なぞ》のおばあさんは、意外なほど身軽に大テーブルから飛び降り、スタスタと食堂から台所とは別の出ロへと向かった。
わたしたちもあわててついていく。
扉を開くと、そこは玄関ホールの右にあった大きな居間。応接セットや暖炉があり、部屋の隅《すみ》には小さなグランドピアノがある。
右の壁は大きな窓(足下までの)が並んでいて、そのままテラスへと通じていたが、もちろん今は星明かりしか見えない。昼間は、さぞかし気持ちのよいテラスなんだろうな。
なんて、そんなことはどうでもよかった。
おばあさんは、まっすぐピアノのほうに向かい、ピアノの横でピタリと止まった。
「これから、重要な話をする。いいな、茶々を入れるでないぞ。特に、その赤毛の男。今度、話の腰を折ったりしたら、もう容赦《ようしや》はせん。森の反対側まで飛ばしてくれる」
釘《くぎ》を刺されたトラップは性懲《しようこ》りもなく、また何かを言おうとしたけれど、ノルに羽交い締めにされ、クレイに口をふさがれた。
そのようすを満足そうに見たおばあさん、小さく咳払《せきばら》いをして話を始めた。
「自己紹介がまだじゃったな。わしの名前はグラナダという。おまえらも冒険者なら、一度くらいは聞いたことがあるじゃろう?」
と、言われてもねぇ。
少なくともわたしは知らないよ………と、回りを見てみたけれど、クレイたちも同じらしく、困ったような顔でお互いを見ていた。
「なんじゃ。知らんのか!? ふーむ、なんという勉強不足……顔を洗って出直してこい! と、言いたいところじゃが。まぁ、この屋敷に来て、わしを呼び出すことができたわけじゃから、見どころがないわけでもないんじゃろう……」
おばあさん……えーっと、グラナダだっけ? 彼女は小さな顎《あご》をさすった。
「まぁよい。それでじゃ。困ったことがひとつあっての。この屋敷を引っ越すこともできずにいたんじゃ」
「引っ越しをする予定なんですか?」
クレイが聞くと、グラナダはフムとうなずいた。
「ここもずいぶん老朽化してしもうたからの。もうちょっと気候のいいところに移り住むつもりじゃった。なのに、荷物の整理をしておったところ、ミューがとんでもない物を見つけてしまったんじゃ」
「ミューって誰《だれ》なんですか?」
わたしが聞くと、グラナダは何とも悲しそうな顔をした。
「わしの助手……いや、わしの唯一《ゆいいつ》の家族でな。わしとミューはずっと二人で暮らしておった。しかし、奴《やつ》はあんまりおつむがよくない。うまそうなもんがあったら、すぐに口に入れてしまう」
「ルーミィみたいですねぇ」
ついキットンがそう言うと、グラナダは不思議そうに彼を見たもんで、わたしはあわてて弁解した。
「あ、ああ、すみません。あの、この子がルーミィっていって、エルフの子なんですけど。彼女も大変なくいしんぼなんです」
「でも、ルーミィ、なんでもくちにいれたいしにゃーもん!」
ルーミィはぷくぷくのほっぺをふくらませた。
「ほらほら、グラナダさんの話を聞こう」
と、クレイが注意した。でも、グラナダは気分を悪くしたようすもない。優しそうな目でルーミィを見た。
はぁ……よかった。今度はキットンがどこかに飛ばされるかとヒヤヒヤしちゃった。
「それで、そのとんでもない物ってなんだったんですか? それを食べちゃったんですかねぇ」
こっちの心配なんてぜんぜん知らないように、キットンはグラナダに聞いた。
彼女はふかーいため息。
「そうなんじゃ。いや、わしもうっかりしておった。まさかあのブタを開けられるとは……」
「ちぇ、だぁらなんなんだよ。思わせぶりな言い方しやが……うー、ムグモグ……」
クレイとノルの手がゆるんでたんだろうね。トラップがまたまた失礼なことを言おうとしたもんで、二人はあわてて彼を押さえつけた。
でも、ちょっとだけ鋭い目線でトラップを見ただけ。グラナダは彼を無視して、話を続けた。
「それはな。禁断の薬で……」
「き、き、き、禁断の薬い――!?」
とたん、興奮するキットン。
「そうじゃ。それを飲むと、わしでも手のつけようのない魔力がそなわってしまうのじゃ。その上、厄介なことにそれは本人の意志とは関係なく、悪さばかりをしようとする魔力でな」
「解決方法はないんですか?」
クレイが聞くと、グラナダは彼の目を見据えた。
「ある。魔法を消す札をミューの額に貼《は》ればいい。それだけなんじゃが」
「できないんですか?」
「わしにはな。わしは魔法使いじゃ。魔力を持つものが札を貼っても、魔力同士反発しあってすぐにはがれてしまう」
「ということは、魔力のないものが貼ればいいと?」
「そう! 感心、感心。飲みこみが早いのぉ」
彼女は満足そうにうなずくと、懐《ふヒころ》から一枚の赤い紙を取り出した。
「これじゃ。この紙をミューの額に貼ってほしい」
恐る恐る札を受け取ったクレイ。
わたしたちも顔を寄せあって、その札を見たが、よくわからない文字が書いてあるだけ。
「で、そのミューさんって、今、どこにいるんです?」
わたしが聞くと、グラナダはわたしのすぐ横、ピアノの下を指さした。
「ここの床の下に封じこめてある。わしにはそれしかできんかった。しかし、ミューをこのまま置いて出ていくことはできん。誰か、見どころのある者に頼んで……と思い、しばらく姿を隠しておった。わしを呼び出すくらいはできないとのう。テストのつもりで、謎《なぞ》をかけたのじゃが……。やってくるのは子供らだけじゃ。待ちくたびれておるうちに、ついつい寝てしもうたらしい」
「ついついって、どれくらいなんですか?」
「さぁな。何日か……何か月か……わしにはようわからん」
はぁぁ………。なるほどね。それで、ここの屋敷はこんなに荒れ放題になってしまったのかぁ。
「わかりましたよ。ぼくたちにできるかどうかわかりませんが、とにかくやってみましょう」
クレイが力強く言うと、グラナダはうれしそうに微笑《ほほえ》み、彼の手をしっかり握りしめた。
まずは、行動範囲を広げようということで、クレイとノルがピアノをどかした。
そして、ミューが逃げ出さないように、扉もしっかり閉め、鍵《かぎ》をかけた。
ピアノが置かれてあった床をみんなで囲む。
別に何も切れ目とかなくって、地下室があるようすもない。
「いいな。わしが封印を解く。すぐにミューは出てくるはずじゃ。
どのような姿でも臆《おく》するなよ。落ち着いて、奴《やつ》の額に札を貼るんじゃ」
グラナダは横にどかしたピアノの上に飛び乗り、その上からクレイに言った。
「わかりました」
「用意はいいな?」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
たまらず、わたしは手を挙げた。
「何だ? パステル。はえーとこ、片づけちまおうぜぇ」
トラップがぶーぶー言う。
「で、でもさ。やっぱそれなりの心構えができてないと」
「ふん、そんなこと言って。ほんとは、おめぇ恐いんだろ」
そ、そうよ、そう。そうですよーっだ。
だって、禁断の魔法薬を飲んでしまったっていう人なんだもの。
それに、どんな姿で出てこようと臆するな、ですって。恐がるなっていうほうが無理でしょ。
「よし、深呼吸しよう。気持ちを落ち着かせれば平気だよ。ミューって人が出てきた、その瞬間を狙《ねら》う。たぶん、彼を自由にさせてしまったら、勝ち目がないかもしれない」
と、クレイ。そのクレイにトラップが言った。
「あのさぁ、やっぱおれ思うんだけど。その札を貼《は》るの、おれのほうがよくねぇか? 押さえつけるのはノルとクレイ、二人のほうがいいだろ。身軽さでいったら、おれのほうが身軽なんだし」
「……そうだな。そういえばそうかも」
でも、グラナダは首を振った。
「だめじゃ。赤毛のおまえさん、微々たるもんじゃが、魔力を持っておろう?」
あ、そうだ。そういえば、トラップとキットンって、ほんの少しだけど魔力を持ってた。
魔力を持ってないのは、わたしとクレイとノルだけ。
「そっか。そういやそうだっけ? ヘへへ、んなこと、すっかり忘れてたぜ」
トラップは照れたように笑うと、クレイの肩をポンと叩《たた》いた。
「んじゃ、任せた。クレイが無理な時は、ノル、パステル。おめえらが何とかするんだぜ!」
わたしとノルは顔を見合わせる。
「う、うん……」
小さく返事はしてみたものの、んなの自信ないよぉ。
「だいじょうぶ。おれが何とかするよ。じゃあ、いいかい。深呼吸するよ!」
クレイはそう言うと、すーっと息を吸いこんだ。
わたしたちも気持ちをひとつにして、大きく深呼吸した。
そのようすを見ていたグラナダ、
「用意はいいな?」
と、もう一度聞いた。
「はい……」
全員が答える。
それを聞いて、彼女は静かに目を閉じた。
両手をかざし、ブツブツと呪文《じゆもん》をつぶやく。
しばらくして、指の先が緑色に輝き始めた。プルプルと指を震わせる。指先から緑色の炎のようなものが飛び出し、床に落ちた。わたしたちが囲んだ床のまんなかあたりが光りだす。光が消えた時、代わりにぽっかりと黒い穴が開いた。
さぁて。蛇《じや》が出るか、鬼が出るか!?
わたしたちが緊張しきった顔で見守る中、穴の奥から華奢《きやしや》な身体《からだ》の女の子が飛び出した。
何、何!?
ミューって、女の子なのぉ――!?
「やいやいやい、オババ……いっきなりこんなとこ押しこめちゃってさ。何だってんのよー。超むかつく――!!」
真っ黒なミニのワンピース姿。黒いタイツにハイヒール。赤い色の大きな目をランランと輝かせ、まっすぐグラナダめがけて飛びつこうとした。
「今じゃ!」
「クレイ、今よ」
「ノル、つかまえろ!」
「う、うぎゃ――!!」
ノルが彼女をつかまえる。手足をバタバタさせて、暴れまくるミュー。うわわわ、牙《きば》があるよ! 噛《か》まれちゃう。
「うわ!」
ノルの腕にくっきりと歯形が!
ミューはノルがひるんだその隙《すき》にするりと逃げ出した。
「おっっと、そうはいかねぇぜ!」
トラップが彼女の足首をつかむ。
「ぎゃ! 何すんのよぉー、えっちー!」
「えっちって……おめぇ!」
今度はトラップの顔に強烈なキック。
「うわっぷ、げ、いってぇー!」
すごいよ。なんていうじゃじゃ馬ぶり?
「がんばれ! ミューが魔法を使う前に取り押さえるんじゃ。そして、早く札を貼るんじゃ……」
グラナダの声。
でも、こんな暴れんぼ、どうすりゃいいの?
しかも、ものすごく身軽。するするとわたしたちの手から逃げ、彼女はついにピアノがあったのとは反対の、ソファーの上に飛び乗ってしまった。
「ふん、あたいを捕まえようなんて十年早いよ。それにあんたらねー、何者なのー? なんで、あたいのジャマばっかすんのよぉー」
「ミューよ。目を覚ませ。おまえは薬のせいで変になってしまっただけなんじゃ」
グラナダが言っても、ぜんぜん聞く耳を持たないってかんじ。
「ふんだ。あんたの言いなりになんかならないもんね。これからはあたいの好きなように生きるんだ!」
なんて言って、べーっと赤い舌を出してみせる。
顔はかわいいけど、性格悪ーい。
いやいや、薬のせいなんだよね、これは。ほんとはいい子なんだろうけど。
「さっさとドア、開けろよー! あたい、お腹空《なかす》いてんだからね。
長いこと、何にも食べてないんだから。開けないんなら!」
そう言うと、彼女の赤い目が光った。
「い、いかん! ミューが魔法を使う。この子は魔力をコントロールする術《すベ》を知らんのじゃ!」
グラナダの必死の声。しかし、遅かった。次の瞬間、彼女の立っていたピアノに電撃が炸裂《さくれつ》!
「うわっ……」
グラナダは、間一髪《かんいっぱつ》ヒョイとピアノから飛び降りたので被害はなかった。でも、ピアノは真っ黒焦げ。部屋に焦げくさい臭《にお》いが充満する。
あわや火事になりそう……というところで、グラナダが手の先から白い霧のようなものを出し、消火した。
「ふん、さすがはオババ。腕は落ちてないようだね」
ミューは悔しそうにそう言うと、グラナダの立っている床のあたりに狙《ねら》いをつけた。
次の電撃がくる! と、思った時、何とものどかな声がした。
「おねーちゃん、おなかすいてんのか? ルーミィもおなかぺっこぺこだお。でも、このチョコあげう」
なんてこと!?
ルーミィったら、ひょこひょことひとりで歩いてって、ミューの前に手を差し出してるではないか。
あれは、さっきわたしがあげたチョコ!!
そういえば、半分残しておくんだって言って、大事そうに食べかけをポッケに入れてたっけ。
「ルーミィ! 危ないからこっちに来て……」
必死にわたしが言ったが、ルーミィは言うことを聞かない。
「だいじょうぶらよ。おねえちゃん、おなかすいてんから、ちょっとイアイアしてんだお」
ミューはそんなルーミィを不思議そうに見ていたが、彼女の小さな手の上に乗ったチョコの食べかけに興味を持ったようで。ルーミィに近寄り、ふんふんと臭いをかいだ。
何だか犬か猫みたい。
と、その時だ。
「ほーら、おとなしくするんだ!」
さっとミューの背後に回りこんだクレイが、赤い札を彼女の額にペタリと貼《は》った。
うまいっ!!
とたん、ミューの動きが止まる。まるで、そこだけ時間が止まったように。
そして、すーっと目を閉じたかと思うと、ぐったりとなってしまった。
「ま、まさか……」
死んじゃったの? 顔をのぞいていると、
「ミュー、目を覚ますんじゃ」
グラナダが優しく言った。
ゆっくりとミューの目が開かれる。さっきの攻撃的な赤い目は、きれいな緑の目に変わっていた。
と、ミューの身体《からだ》が光に包まれていった。同時に、みるみる小さくなっていく。
なになに? どうしちゃったの??
わたしたちが呆気《あつけ》にとられて見守っていると、光が消え、真っ黒な猫が一匹現れた。
猫は、にゃーん! と、ひと声鳴き、グラナダの腕の中に飛びこんでいった。
「おうおう、ミューよ。よかったよかった。あんな暗いところに長い間押しこんでおいて、悪かったのお。さぞかし腹が空いたろう。ミルクでもやろうな」
グラナダは愛《いと》しそうに黒猫をなでた。
猫もうれしそうに喉《のど》を鳴らし、グラナダの胸に頭をすりよせる。
そうか……。ミューって、人問だとばかり思ってたけど、猫だったのかぁ。
あれよあれよの展開に、わたしたちも呆然《ぼうぜん》としていたけれど。
グラナダのしわくちゃの顔がほころび、その目にうっすら涙が光っているのを見て、何だかこっちまで泣けてきそうになっちゃった。
ところが!
「わしらは、もう行く。本当に世話になったの」
ミューを連れたグラナダはそう言うと、いきなりボン! と、消えてしまった。
突如起こる一陣の風。
ちょ、ちょっとぉー。
いきなりすぎるんじゃない?
それに、何か肝心《かんじん》なことを忘れているような……。
「おいおい! ちょっと待てよー! 約束はどうなったんだ。屋根裏へ行く扉の鍵《かぎ》はどうなったんだよー!」
そうだ。そうだ。そうだった……
「そうよ。鍵は? ねー、グラナダさ――ん!!」
「おれのロングソード!!」
わたしたちが口々に叫んでいると、どこかから声が聞こえてきた。
「そうじゃったな。つい忘れるところじゃった」
グラナダの声。でも、姿は見えないままだ。
「そうですよ。鍵を開けてくださいよ」
クレイが必死に言うと、しばらくの沈黙の後、
「悪いのぉ。あそこは魔法で鍵をかけたんじゃが……あいにく、解除の魔法を忘れてしもうた」
「ええ――!?」
「なんだよ、それ……」
「そんなぁー!」
「はははは。まぁ、そんなに怒らぬことじゃ。ほれ、これを使って屋根に登ればよい」
と、空中からバサッと何かが落ちた。
フックのついたロープだ。
「屋根に窓があろう。そこにひっかければ簡単じゃ。しかし、あのマニアカラスもそんなに悪い奴《やつ》ではないんでの。できれば傷つけたりはせんでおくれ。たぶん、今頃《いまごろ》は熟睡しておるじゃろうから、欲しいもんだけ取って、さっさと出て行けば何も悪さはせんじゃろうし。じゃあな!」
グラナダの声の後に、ミューの「にゃーん!」という鳴き声がしたかと思うと、窓がバタンと開いた。
ひゅーっと風が吹き抜け、またバタンと閉まる。
いきなり静かになってしまった居間……。
「はぁー……行ってしまったみたいね」
わたしが言うと、トラップが床に落ちていたロープを拾い上げ、「なんだよ、これ! こんなの、おれだって持ってるぞ!!」
と、すごく悔しそうに言った。
こんなことなら最初からロープを使って登ればよかったわけで。
なぜそんなことに気づかなかったのかと、トラップはみんなから責められた。
「ちぇ、んなこと言ったってさぁ。まさか、ただの体力勝負とは思わねーだろ? あーんな意味深なメモまで出てきちゃ」
「まぁ、そうよね。でも、早く取ってきてあげてよ。んで、早いとこ村に行こう。何だかわたしも気が抜けちゃって、お腹空《なかす》いてきた」
わたしが言うと、
「へいへい。でもさ。ほんとにあのマニアカラスって奴、あれ、寝てるんだろうな?」
トラップはこれから登る屋根を見上げて言った。
そう。わたしたちは屋敷の外、玄関の横に出ていた。
星明かりの下、屋根が黒く光っている。
その屋根の二ヶ所に小さな窓がついているんだけど、どちらかにロープをかけ、登るわけだ。
「注意して行ってくれ。もし、マニアカラスが起きていて、ヤバそうだったら一度帰ってくればいいよ」
クレイはそう言うと、トラップの肩に手をかけた。
「頼む。あのロングソードがどれだけ大切か、おまえはわかってるよな。いいか、絶対にあれだけを取ってくるんだぞ。他に何があったって、目移りしちゃダメだからな!」
「な、なんだよ。何を疑ってんだ。ああ、ああ。わかってるって。おれだってカラスの宝を横取りするほど、落ちぶれちゃーいねーって」
なんて言ってるけど、どうですかねー。
だって、トラップったら、やたら張り切ってるんだよ。口ではブツクサ言ってるけど、目が違うもん。
この人、お宝というと俄然《がぜん》張り切っちゃうところがある。そう、お宝と、それからギャンブルにはね。
トラップはヒュンヒュンとロープを鳴らし、狙《ねら》いを定めていたが、さっと屋根の窓めがけて投げた。
右側の窓だ。
カチッと確かな手応《てごた》え。
グイグイとロープを引っ張り、安全かどうか確かめていたかと思うと、すぐにスルスル昇り始めた。
「トラップ、気をつけてよー」
「無理するなよ。危なくなったら、すぐ言えよ!」
わたしたちが声をかけると、トラップは眉問《みけん》にしわを寄せ、
「ばか、静かにしろ。奴が起きたらどーすんだ!」
と、小さな声で言った。
そっかそっか。
わたしたちが黙って見守っていると、彼はあっという間に屋根の上へ昇っていった。
でも、あの窓って開くんだろうか?
ちらっとそう思ったけど、そういや、あのマニアカラス、あの窓から出入りしてたんだもんね。開いてるはず。
果たして。やっぱり窓は開いていたらしく、トラップはその小さな窓から中へと入っていってしまった。
後は待つだけ……。
でも、こうして待ってるだけってのは辛《つら》いよね。
わたしもクレイもヤキモキしな。がら上を見上げていた。
しばらくして、ヒョイとトラップの顔がが突き出た。
「おい、受け取れ」
彼はそう言うと、ロープに縛《しば》りつけたロングソードをスルスルと降ろしていった。
「わーい! よかった。あったのね!?」
「ああ、よかった。一時《いちじ》はどうなることかと思った……」
クレイは心底《しんそこ》ほっとしたようす。ロングソードを受け取ると、早速丁寧《ていねい》に剣を点検。これまた丹念《たんねん》に布でぬぐい、鞘《さや》に納めた。
「マニアカラス、どうやら寝ているらしいですねぇ」
屋根を見上げていたキットンが言う。
「そうね。あーあ、これで万事解決。よかったよかった」
と、言ったんだけどね。
実はこれで終わってはいなかったんだなあ。
だって、トラップったら用事は終わったというのに、一向に帰ってこないんだもん。
「どうしちゃったの?」
「さぁ………」
しびれを切らし、クレイが様子を見に行こうとした時、
「ギャア、ギャア、ギャア!」
という、すごい喚《わめ》き声が聞こえた。
同時に、ドッスンバッタン何かが格闘する音も!
「まずい。カラスが起きたんだ……」
急いで昇ろうとするクレイ。
でも、それより先にトラップが顔を出し、
「うっひゃぁ――!! たまんねー!」
と、言いなががら戻ってきた。
トラップは地面に降り立つと、ハァハァと肩で息をつき、その場にへたりこんだ。
「どうしたの? マニアカラスが起きちゃったの!?」
わたしが聞くと、トラップは、
「ヘへ、まぁな」
なんて生返事。次の瞬間、閃《ひらめ》いたね。
「あぁ――!! わかった。トラップ、やっぱりマニアカラスの宝を物色《ぶっしょく》してたんじゃないの?」
「まぁそう言うなって。宝を目の前にして、何もしねーで帰るなんざ、盗賊の名折れだろう。でも、大したもんは何もなかったぜ。ちったぁ金になるかと思ったのは………」
と、自分の懐《ふところ》を探った。
そして、なぜか顔色を変え、パタパタと服を叩《はた》き始めた。
「どうしたの? 落としてきたわけ?」
わたしが聞くと、彼は何とも情けない声で言った。
「くっそー。あいつ、おれの財布、盗みやがった!!」
トラップはキッと上を見上げ、
「あんの野郎ぉ――っ!!」
と、叫ぶやいなや。またまたロープを昇っていってしまった。
「はぁー……」
「自業自得って奴《やつ》ですかねぇ」
キットンが言う。
「そりゃあ、もう」
クレイも苦笑い。
もちろん、屋根裏ではまたまた格闘が始まった。
「トラップー、おれたち、もう行くぜー!」
クレイが声をかける。
「おめぇら、なんちゅう冷てぇ奴らなんだ。うわ、わー、ばか!!こら、帽子返せぇー……」
トラップの声が静かな森に響く。
降るような星空。ちょうど頭上に丸い月が浮かんでいる。
「ま、しばらく待ってようか」
クレイはその場に腰を下ろし、お月様を見上げながらのんびりと言った。
お腹《なか》も空《す》いたし、すぐにでも宿に行きたいところ。でも、トラップを放っておくわけにもいかないしね。
「そうねぇ。お月見でもしてよっか」
わたしもクレイの隣に座り、空を見上げた。
白い月の模様が、何となくさっきのグラナダと猫のミューみたいに見えた。
[#地付き]END
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あとがき
一年ぶりのミニ文庫です。
早いですねー。パステルたちがまだレベル1だった頃《ころ》のお話、バイト編と銘打っての第1弾「月がふたつに見えた夜」から一年が経《た》ってしまっただなんて。
といったって、今回の「消えた少女とロングソード」と「月が…」の間は一年なんて経ってません。パステルたちの時間では……ね。
じゃあ、どれくらいかっていうと、正確なところはわからない。
たぶん、一、二週間くらいじゃないかな。
彼らは相変わらずの貧乏暮らし。そりゃそうよね。定職も持たず、たいしたクエストもせず(できず)にいるんだから。金持ちの御曹司《おんぞうし》なんてのがいない限り、貧乏で当たり前。
そんな彼らは様々なアルバイトを経験しています。本編に移る前の話だから、そんなにたいそうなダンジョンが出てくるわけでもないし、モンスターだって、かわいいのや情けないのがほとんど。万が一、すごいのに遭遇しても、彼らがかなうはずないもんね。どうやって逃げ出すか、それがが話題の中心、お話のテーマになります。
でもね。わたしはそういうのが大好きなんだな。勇者がかっこよく決める話もいいけど、たまにはこういうのもいいんじゃないでしょうか。
何より、自分に近いでしょ。アルバイトなんてのだって、親近感わくし。
そういえば、わたしの経験したアルバイトで、喫茶店のウェイトレスっていうのがありました。街の平凡な喫茶店でね。ウェイターとかに、暴走族風のお兄ちゃんなんかがいるわけ。生え際には剃りこみ入ってるし、眉毛《まゆげ》ないし、怖い怖い。
最初は、話もできなかったんだけど。だんだんと、そんなに悪い人じゃないのがわかってきてね。お母さんや弟のために、昼も夜も働いて、生活費を入れてるんだなんてことも知って。
人は見かけじゃ判断できないもんだと教えられたのが印象に残ってます。
今回のパステルたちの冒険談。バイトの途中での話なので、正確に言うとバイトの話じゃないけれど、いかがだったでしょうか。
今よりもっとドタバタした感じでしょ。幼いしね。キットンなんて、キットン族として目覚める前だから、ただの変な人。あははは、書いていて楽しかったです。
そうそう。フォーチュンがアニメ化になりまして。大阪の毎日放送で放送していると思います。ぜひ、応援してくださいね。
ではでは、またどこかでお会いしましょう!
このかわいらしい本を手に取ってくださったあなたに感謝を捧《ささ》げつつ。
[#地付き]深沢 美潮