登場人物紹介
絹川健一[きぬがわけんいち]ちよつとHが上手な高校生。ブラトニックラブな関係をクラスメイト・千夜子と続けながら、H依存症の少女・冴子とHだけの関係をつづけて、あと姉の蛍子ともHしたりもして……やりまくり。
八雲刻也[やぐもときや]健一のクラスメイトで、真面目な男の子。健一と同じく幽霊マンションの存在しないはずのフロアー、13階に住んでいる。幼いころからつき含っている彼女、鈴璃とは同じパイト先で働いている
九城鈴璃[くじようすずり]チビで胸だけが大きいことがコンプレックスな女の子。刻也のことをとっても好きでつきあっているのだが、刻也が自分のことをどう思っているのか分からずやきもきすることが多い日々
桑畑綾[くわばたけあや]存在しない13階に住む世界的な天才アーティスト。生活能力はほぼゼロに等しく、食事をとるのを忘れて道端に行き倒れたりする。初対面の童貞・健一に自分の処女を捧げたりする破天荒娘
2006-2(SPRING) ROOM No.1301 私と綾さんと不埒な男
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私は学校の帰り道、憤慨していた。
寄り道したせいなので自分のせいでもあるけど、それでも怒りが収まるわけじゃない。あんな男がいるなんて聞いて冷静でいられるわけがない。
しかもあの女の人みたいないい人に対して、そんな不埒なことが出来るなんて!私だって男には色々な人間がいるってことは知ってる。
ピンキリで上は刻也君から、下は……どこまでも下がいるんだろうってことは理屈としてはわかる。
でも、信じられない。信じたくない。あんな男がいるなんて認めたくない。
「…でも私が理想を高く持ちすぎなのか。」私は煮え立つ感情を抑さえようと少し冷静に考え直してみようと思う。でもやっぱり無理っぽいなと感じる。
理想が高いも何も私惣は観実に立派な男の人を知っているのだ。別に無い物ねだりをしてるってわけじゃない。私の彼氏……のはずの刻也君のように皆が皆なるのは難しいだろうとは思う。
でもだからって信じられない男が多すぎる。相手がそれとわからないからって好き放題なんて……女の敵だ。死んでしまえ!いや死ぬくらいじゃ生ぬるい。子々孫々呪われてしまえばいいんだわっ!って、でもそれじゃその人の奥さんや子供が可愛そうって感じもする。
いや、そんなことはどうでもよくて……。
「鈴璃君?」
私が自分でも何を考えているのかわからなくなった時、現実に戻してくれたのはその声。私の名前を呼んだ相手が誰かはすぐにわかった。
八雲刻也君。私の彼氏……のはずの背が高くてかっこうよくて、勉強も出来て、生まれながらに紳士な人だ。
私とは同じ年だけど、ずっと大人で、一緒に歩いてると申し訳なくなるほどの人。
「刻也君……だよね?」
私は刻也君と比ぺると三十センチくらい背が低い。同じ高校一年生なのにと思うくらいの差なんだけど、そのせいで私は振り返るだけじゃなく、かなり見上げないと刻也君の顔が見えなかった。
「どうしたのかね,・こんなところで会うとは珍しいように思うが」
かんちが刻也君はそう言いながら、自分が勘違いしてるのか不安になったのか辺りを見渡した。
「そう……だね」
でも刻也君の勘違いなんかじやなかった。ここは瓶井戸中央公園。普段なら私が来るようなところじゃない。学校も家も、この近くにはなつうがくろとちゆうい。もちろん通学路の途中という訳でもない。びみようしかも時間もなんだか微妙な感じだった。そろそろ夕暮れ。学校が終わってからバイトでもないのに制服のままでこんな時間までうろうろしているのもかなり珍しい。というのは私は正直、制服があまり好きじゃないからだ。デザインは好きだし、人が着てるのを見てる分にはいい。でも私は背が低い割に……胸が大きいからどうにも不格好に見えてしまう。背だけ見たらSサイズなのに、パストは……ってなんだか話がそれてる。
「何か用でもあったのかね?」
不思議そうに刻也君が尋ねてきた。それはまあそうだろうと思う。私だってなんでこんなことになってしまったんだろうという気もする。
「……ちょっと欲しい本があって。駅前に無かったから他の本屋さんを探しているうちに気づくとこの辺りまで来てたみたい」
「なるほど。で、お目当ての本は見つかったのかね?まだなら本屋にならいくつか思い当たるところがあるし、図書館で良いなら案内できるだろうと思うのだが」
いを刻也君はびっくりするほど優しかった。いつも忙しいはずなのに、こんなところで偶然会った私のためにそんなことを言ってくれるなんて。例の
不埒な男には一パーセントでもいいから見習ってほしいものだと思ってしまう。でも今はそんな場合じゃない。刻也君の不安にちゃんと答えてあげなければいけなかったのだ。
「えっと……もう買えたから大丈夫」
「そうか。ならばいいのだが」
そして刻也君は何か少し考えたような顔になった。きっとそれは他の人にはわからないほど短い時間のことだったけど、私は刻也君のこと謄規てきてた長さでも誰にも負けない。そういう些細な変化だって気づいてしまう。
「……どうかしたの?」
でもその理由までは私にはわからない。ただなんとなく刻也君は私に遠慮してるのかなというのは感じた。
「いや……さきほど話しかける前のことだが」
「うん」
「随分と不機嫌そうに見えたのでね。本が買えなかったということであれば、そういうことなのだろうかとも思ったがというわけだ」
その言葉を聞く限り、刻也君は私を見かけたから話しかけてきたというだけではないみたいだっふレんぱいた。私が負のオーラを発してたので心配してくれたということなのだろう。「……そうだね」
そんな刻也君の優しさに私はどう答えていいものかわからず、煮え切らない返事をしてしまう。
「ということは私の気のせいというわけではなかったということなのだろうか〜」
みの削そして刻也君はそれを見逃さなかった。
「え?うん。でも刻也君に会えたら、どうでも良くなったかな、うん」
言いながら目分でもなんだか恥ずかしいことを言ってるなと思う。でも刻也君はちょっと違うこ
とを感じたみたいだった。
「ということは私が何かまたヘマをしたのだろうか?もしそうなら……」
「ち、違うよ。そういうんじゃなくて……変な人の話を聞いて、そんな人がいるんだっていうのが許せない気分になってて……」
「ふむ」
「でも、どうでもいいよってそう思えたの。刻也君が心配して話しかけてくれたから」
「そうか。それは何よりだが」
そうは言いながら刻也君は難しい顔をする。
「……心配?」
「君が気にしないことにしたのだから私が心配するのも変だとは思うのだが、やはり何が君を不機嫌にさせていたのかは気になってしまうようだ」
「そう……なんだ」私はちょっと意外な気がした。刻也君はそういうことを思っても、今までは言わないで一人で飲み込んでしまうようなところがあった。最近、そういうところで刻也君は柔らかくなってきてるのかもしれない。
「それが君にまた不快なことを思い出させるというのはわかってるのだがね」
刻也君はそう言って申し訳なさそうな顔をするけど、私はむしろ嬉しくなっていた。
「ううん。そんなことないよ」
「そうだろうか?」
コ人で思い出すのは嫌だけど、刻也君がいてく二こるヴよれるなら心強いって感じがする」
「そこまで本当に頼もしければいいのだがね」
刻也君は少し戸惑った様子で、中指でずれたメガネをかけ直す。少し照れてるのかななんて思うと、刻也君も可愛く見えてくる。
「…でも何から話したらいいのかなあ」
それでせっかくだから聞いてもらおうという気持ちになったんだけど、話はけっこう複雑だった。だから私は記憶をずっと遡っていく。とりあえず問題の男の話を聞くことになった原因の原因まで。それはきっと放課後の友達との会話ー。
「なんか面白いことないかなあ」
クラスメイトの美里ちゃんはいつも飢えている。面白いことというやつに。そしてそれは今日もそうだったらしく、美里ちゃんは少し口をとがらせて私に踊〜かけてきた。でも私と美里ちゃんはちっとも趣味が合わないので聞かれても正直困ってしまう。
「この間までのはどうしたの?もう賞味期限切れ?」
だから私は聞き返すのが精一杯だった。
「……この間までのって言うと、シーナ&パケッツのこと?」
「確か、それ。ハーモニカ吹いてる人がバケツかぶっててクールだって褒めてたじゃない。他の人も誘って見に行ってたのに、先に自分が飽きちゃつたの?」
「そういうことになるのかなあ。いやまあ、なんて言うのかなあ。風邪って人に伝染すと治るってそんな話かなあ」
「……どういう話?」
「なんかね。自分より盛り上がってる人を見ちゃうと、ああ自分はここにいなくていいんだなって盛り下がっちゃうんだよね、私はきっと」
美里ちゃんは自分のことなのに他人事のように話していた。
「それはつまり墓穴を掘ったってこと?」
「墓穴なのかなあ……まあ、近いよね。直接の原因はこの学校の娘じゃないけど」
「どういうこと?」
「駅前でさ、ちょっと迷ってる娘がいたからさ、シーナ&バケッツを教えてあげたのよ」
「うん」
「そしたらその娘がさあ……」
美里ちゃんは小さくため息をつく。
「なにかしたの〜」
「シーナとつきあい始めちゃって」
「……はあ」
「しかもトントン拍子。ライブ観た次の日にはもうほぼ決まってたんじゃないかなあ」
「うへ」
私は思わずそんな変な声を上げてしまった。まあ運命の人に出会ったなら、好きになるのに時間はいらないのかもしれないけど、それにしたって随分な展開だ。
「それで、なんとなく私の役目は終わっちゃった気がして、それでフェードアウトって感じ」
「そっかあ」
「でもまあ、シーナの歌が嫌いになったわけじゃないしね。何かきっかけがあれば復帰するかも。というか今日、一緒に行く、鈴璃?」
「私はそういうのはちょっと……」
「まあ、鈴璃は彼氏とラブだもんね」
「……そんなの関係ないし」
「関係ないってことはないでしょ?シーナは美少年だし、バケッツの方も演奏中はバケツかぶってるけど、本当は格好いいんだよ」
「だから?」
「友達の付き添いとはいえ、そういう二人を観に行ったとなると彼氏も妬いちゃうんじゃない?」
美里ちゃんは笑っていたけど、私はちょっと真剣に考えてしまった。
「……どうかなあ」
「そういうみみっちい男じゃないってことですか。もう鈴璃ったら……」
「そういうことじゃないけど……刻也君はあんまりそういうことでどうこう言わない気がする」
「だったらいいんじゃない?」
「だから初めからそんな話してないし。夜歩くの悔いってだけだよ」
「それなら彼氏に頼めばいいじゃない。怖いから一緒に観に来てーって」
「……それはどうかなあ」
それが出来るなら苦労はしない。私はそう思うが、美里ちゃんは自分で振っておいて一人で納得してしまったらしい。
「ま、とにかく鈴璃はパスってことね」
美里ちゃんはそれで諦めたのか、私の後ろでずっと座っていた純ちゃんの方を見た。
「純はどう?興味ある?」
そう尋ねたけど、純ちゃんは反応しなかった。それで私も気になって見てみると、純ちゃんはずっと本を読んでたらしい。文庫本だ。書店のカバーがついているから何を読んでるのかはわからない。
「ね、純?」
不安そうに美里ちゃんがもう一度話しかけた。
「……何?」
それでやっと純ちゃんは自分が話かけられたと気づいたらしい。というか本をぱたんと閉じてから美里ちゃんの方を見たところを見ると、ちょうどキリのいいところまで読んだだけかもしれない。純ちゃんはそういうかなリマイペースな娘だった。その上、長い黒髪に切れ長の目で、あまり話さな
いので、ちょっと怖いイメージもある。でもとっつきにくいだけで、けっこういい娘だというのも私も美里ちゃんも知っている。
「聞いてなかった?」
美里ちゃんは答えのわかっている質問をした。
「……全然」
そして純ちゃんは予想通りの返答。
「ここのところ、シーナ&バケッツを観に行ってなかったから久々に行ってみようかなって」
だから美里ちゃんは話を初めからし直す。
「……うん」
「で、鈴璃を誘ったんだけど、断られたから純はどうかなって話」
「……そう」
「行く?」
「……行かない」
でも結果は回り道をしただけに終わったみたいだった。美里ちゃんもそれはわかっていたらしく、しょうがないなという顔をする。
「ま、そうよね。純はそういうのは興味ないもんね。音楽とかライブとか全然でしょ」
「……うん」
純ちゃんは淡々とそう答えると閉じて机の上に置いた本を見た。続きを読もうかと考えているらしい。私はそれに気づくと、そこまで純ちゃんがこだわってる本に少し興味を持った。
「純ちゃん、それ、なんて本〜」
「……いつものやつ」
「いつものやつ?」
「……『ああんっ!メガネ様☆』」
その名前は純ちゃんから何度か聞いたことのある名前だった。何冊も出てるシリーズ作品で、新しいのが出る度に純ちゃんは人保町までわざわざ買いに行ってるらしい。
「新しいのが出たの?」
「……ううん」
「じゃあ、なんで?」
「…:今度、アニメになるから、おさらい」
「へぇ」
ということは本当に相当な人気作晶なんだなと私は感じた。純ちゃん以外にも同じくらい熱心な人がけっこういるようなそういう作品なんだろうか。そんなことも考えてしまう。
「……鈴璃も読む?」
「へ?なんで?」
「……興味ありそうだったから言ってみた」
「純ちゃんがそこまで気に入ってるっていうなら、ちょっとは気になるけど」
「……けど、なに?」
純ちゃんが不思議そうに小首をかしげた。でも首から下はまったく動かないので、見ててちょっと不安になる。
「でも何冊も出てるんでしょ♪」
「……今出てるのは十冊」
「十冊かあ。長いなあ」
「……うん、長い」
正直、私は本を読むのはあまり得意じゃないのでそんなに読もうと思ったらきっと一ヶ月じゃ済まない。だから錺躇してしまう。
「どんな話なの?」
でも純ちゃんが聞いて欲しそうだったので、切り上げ損ねた感じで尋ねてしまう。
「……タイトルの通り、メガネかけた男の子が主人公。高校一年生。長身で美形。家はお金持ち」
「へえ」
純ちゃんの説明に私は刻也君のことを思い出した。実際、刻池濡蹴そのまんまだから仕方ない。
「……彼には婚約者。背が低すぎるのがコンプレ
ックス」
さらなる説明に私は胸がズキンと痛むのを感じた。ムヱ度は私みたいな気がしたからだ。
「で、どんな話なの?」
私はキャラクター紹介よりもあらすじを聞きたかったが、純ちゃんはそれを許してくれない。
「……でも爆乳」
「うぐっ」
また胸が痛んだ。その作者は私に恨みでもあるんじゃないのかとすら思えてきた。
「……なのに、メガネ様の本命は別にいる」
「へ、へぇ」
私はひどく嫌な予感がするのを感じた。刻也君と私に重ねていたのになんて展開なんだろう。
「……同じクラスの美少年。彼にも彼女がいるんだけど、彼はその娘を愛してない」
私は思わず言葉を失った。でも少し考えてなんだか変だと気づく。
「って、メガネ様って男の子じゃないの?」
「……男の子って私言った」
「でもメガネ様の本命は美少年なんでしょ?」
「……そう。料理が上手で、メガネ様は餌付けされてる」
「餌付けって……」
それ以前になんだか変な話だったのだが、私は力が抜けるのを感じてしまう。
「ボーイズって奴でしょ〜」
そこにずっと様子を見ていたらしい美里ちゃんが話題に入ってきた。
「ボーイズ?」
「ボーイズラブ。少年同士の恋愛物語よ。そういうジャンルがあるのよ」
「……そうなんだ」
ということはそういうのを今度、テレビでアニ
メにして放映してしまうということか。私はアニメはあまり見ないけど、随分と知らぬ間に大胆な世界になっていたらしい。
「……で、読む?」
純ちゃんはそう言ってさっきまで読んでた本をすっと私の方へ押してきた。
「私、そういうのはちょっと……」
全然興味ないというわけじゃないけど、メガネ様に刻也君のイメージを重ねてる私としては、なんだか浮気されてるみたいで落ち着かない気分だった。
「……残念。でも気が変わったら言って」
そんな私の気持ちを理解してるのか、純ちゃんは今度は本を自分の机に入れた。
「うん。まあ、本当に読むなら自分で買うけど」
「……そう。それもいいね」
純ちゃんはそれで小さくうなずくと、鞄を持ってすっと立ち上がった。
「……そろそろ帰る」
「じゃ、帰りますか」
美里ちゃんも立ち.上がる。
「そうだね」
私も慌てて鞄を手に取ると立ち上がった。気づくと教室には誰もいなかった。どうやら私たちは随分と話し込んでいたらしい。
「……失敗したなあ一純ちゃんたちと別れた後、私はちょっと後悔をする羽目になった。純ちゃんに勧められた時は断ったけど、やっぱり気になったので読みたくなってしまったのだ。あの問題の小説を。だから近所の書店に行ってみたのだけど、見あたらなかった。店員さんに聞けば、在庫があったりしたかもしれないけど、内容を聞いてしまった私にはそれをするのにはかなり抵抗があった。だから別の書店へ行けばいいかと記憶を頼りに歩いた。なにせ今度、アニメになるほどの有名な作品なのだ。たまたま無かっただけで、どこにでも基本的にはある。そう思ってた。でも実際にはそんなことは全然なかった。途中の巻があるところはあったけど、一巻がどうしても売ってなかった。何かすごくタイミングが悪かったらしい。こんなことなら純ちゃんに素直に借りておけばよかった。そう思う。
明日言えば貸してもらえるのもわかってるんだけど……私は意地になっていた。私は知っている限りの書店を歩き回った。絶対に今日中に読んでやると心に誓って。
「……ふう」
だからやっと手に入った時は普段は来ないような場所まで来ていた。歩き回って疲れた私は、ふと見かけた大きめの公園に入って休むことにした。入り口にある札によると瓶井戸中央公園という名前らしい。まったくなじみのない名前だが、今はすごくありがたかった。私はジュースを買ってベンチを探すとそこに陣取った。そして苦労の末に手に入れた『ああんっ!メガネ様☆』の一巻を取り出す。十冊あるらしいけど、どうせ読むのに時間がかかるから一巻しか買わなかった。
「……やっぱり似てるよね」
表紙はカバーで見えなくなっていたけど、書店で見た時、やっぱりそこに描かれてるメガネ様らしき人物は刻也君にそっくりだった。私は表紙をめくって扉絵を見る。そこではメガネ様と美少年が抱き合っていた。
「うへつ」
私はまた変な声をあげてしまった。そういう話だとは聞いていたけど、いきなり来るとやっぱりびっくりしてしまう。本を閉じて辺りを見渡す。私がこんな本を読んでることに興味を持ってる人間なんているわけもないけど……やっぱり恥ずかしかった。
「帰ってから読もう……」
私は誰も聞いてないのを確認して、一人そう眩いた。扉絵からしてこんな感じではもっと過激な絵がこの本には隠されているかもしれない。そう
思うととても人前では読めなかった。
「純ちゃんってすごいなあ」
だから私はそう眩いてため息をつくと、家に帰ることにしたのだ。
なのに、私はまだ寄り道することになる。
「ん?」
なんだかおかしな空気。私はときどきそれを感じる。それは大体は私に向けられた興味の視線によるものだった。私が背が百四十ないのに、胸ばっかり大きいからそういう目で見る人がいるのだ。でも、今日はそれとは違ったらしい。私は立ち止まって辺りを見渡すと、違和感の理由を探す。でも誰も私のことを見てはいなかった。
「……あれか」
見られてるのは別の人だった。通りかかったコンビニの中で立ち読みをしている女性。その人にいやらしい視線が向けられていたのだ。私はそれに気づくと買い物をするわけでもないのに、そのコンビニへと駆け込むように入った。
「……そこ、邪魔なんですけど」
そしていやらしい顔の男に向かって話しかけると同時に睨んでやった。
「」
それでその男には十分だった。自分がやましいことをしているという自覚があったらしく、そそくさと雑誌のコーナーから飲み物が売ってる方へと移動していく。
「……まったく」
私は本当に男ってどうしてこうなんだろうとため息をつく。でもホッとした気持ちで改めて見ると、ちょっと立ち読みしている女性の方にも原因があるのか
なと思ったりもした。というのはその人は、随分と奇妙な服装をしていたからだ。それにいかにも目立つ感じだった。まず身長が高かった、女性にしてはだけど。百七十くらいはありそうだった。しかもすらっと背が高い感じで、不思議な迫力がある。そしてやっぱり服装だ。服自体はそんなに珍しくはないかもしれない。ちょっと薄汚れた白衣。それくらいならまあ見かけるだろう。でもその女の人はそれくらいしか着てないみたいだった。少し透けているみたいだけど、その下には何も着てない。そんな風に見えてしまうのだ。いやらしい気持ちはなくても、確かにこれは気になるかもしれない。そう私が思った時、その人が私の存在に気づいたみたいだった。
「何〜」
「……えっと」
私はその人の発する爽やかな雰囲気に言葉が出なかった。この人は間違いなく自分が変な格好をしているとは思ってない。それがわかった。
「何〜」
でもその人は私が固まってる理由を察してはくれなかった。だから、言ってどうなるでもないと思いつつ、ここに来た経緯を話す。
「その……あなたをいやらしい目で見ている人がいたのでおっばらったんですけど……」
「え?あ、そっか……」
それでその人は驚いた様子で自分の服装を確認し始めた。
「どうしたんですか〜」
その仕草の臆味がわからず聞いてしまう。
「うんとね、健ちゃんに白衣だけで外を出歩くなって言われてたんだけど……また出歩いちゃった
みたい」
「……はあ」
健ちゃんとか知らない人の話をされてもよくわからないけど、その人は少しはまともな人らしいなと思う。
「ありがと、助かったみたいだよね」
でもこの人はやっぱりまともではないらしい。なんだか不思議な話の流れになってきた。
「いえ、別に……そういう男の人が嫌いで勝手にしただけですから」
「そう言う男の人って、健ちゃんみたいな人?」
「……いやらしい目で見る男の人です』
「あ、そっか。そっちだよね。つまり管理人さんみたいな人のことだよね?」
知らない人の話をされて同意を求められても正直言って困ってしまう。
「……多分」
「そっかあ。あなたも管理人さんみたいな人は嫌いなんだね」
でもその人はすごく納得したみたいな顔。
「いや、よくわかりませんけど……」
「ああ、それで思い出したんだけどね」
一体どこに話のフックがあったのか、その人はそういって私の顔を見る。
「はいつ」
「あなたは誰?」
「……通りすがりの者です」
「それはそうなんだろうけど、助けてもらったみたいだからお礼をしようかなって思って。でもほら、名前がわからないでしょりだから、なんて言うのかな?わからないつながり?」
「……本当によくわからないんですけど、私は九条鈴璃と言います」
少し躍躇したけど、どうせそうそう来るような
所じゃないからと私は名乗ることにした。
「鈴璃ちゃんね。私は綾。桑畑綾。綾でいいよ」
そのおかげで私はその人の名前を知ることになった。どこかで聞いたことのある気のする名前だなと思うけど、なんでだかわからなかった。
「……じゃあ、綾さんって呼ばせてもらいます」
「うん。で、鈴璃ちゃん、ちょっと時間ある?」
「時間ですか?」
本を探してる間にけっこう時間が経ってしまったみたいだけど、今日はバイトのない日だし、用らしい用はない。
「時間があるんだったら喫茶店ってとこに一緒に行こうよ。お礼に奢るから」
「……喫茶店ですか」
「うん。うちはちょっと無理だと思うし……何もないから」
「……はあ」
随分と狭いところに住んでる人なんだろうか。私はそんなことを思うが、綾さんは別のことを考えていたらしい。
「鈴璃ちゃんは喫茶店がどこにあるか知ってる?なるべく近いところがいいんだけど」
「……この辺りはあまり来ないから、はっきりとはわからないですけど」
「なんとなくはわかる?」
「はい」
「じゃあ、この本買ってくるから、ちょっと待っててね」
そう言って綾さんはさっきまで読んでいた本を持ってレジの方へと向かった。はっきりとは見えみ`なかったけど、綾さんが持ってた本は水着の女性が表紙だった気がした。
「……はい」
でもそんなことより私には考えなければいけな
いことがたくさんありそうだった。なんで喫茶店に行くんだっけ?私はとりあえずそんなことを改めて考えてしまった。
でも喫茶店に着いてもその答えはわからなかった。綾さんはお礼と言ったが、お礼でなんで喫茶店なのかは私にはわからない。
「鈴璃ちゃんは、えっちな男の人は嫌いか?」
そして綾さんは次々に私に新たな疑問を与えてくれた。意外に質問好きなのかもしれない。
「……嫌いです」
「どうして?」
「どうしてって言われても……嫌なんです」
「嫌だから嫌いなんだ」
「そういうことになりますね」
「そっか。そうなんだろうね」
改めて言われると変な話だなと思うが、綾さんは不思議とそれで納得した様子だった。
「綾さんは好きなんですかり」
「私?私はどうかなあ。好きな人はえっちだけど、えっちな人はあんまり好きじゃないかも」
「……ややこしいですね」
「そうかな。健ちゃんはえっちだけど好きだし、もっとえっちでもいいかなあって思うよ」
綾さんはすごく嬉しそうにそんなことを言う。どうやらその健ちゃんという人のことを綾さんは好きらしい。
「そういうものなんですかね」
「鈴璃ちゃんは好きな人がえっちだったら嫌?」
「……私の好きな人はえっちじゃないです」
私はそう答えながら刻也君のことを思い出した。少しもそういうことに興味がないってことはないだろうけど、刻也君がえっちなことを考えているモうぞうというのは私には想像できない。
「真面目な人なんだ」
「すごく真面目な人です」
誰だって刻也君に会えばそう思うだろうと私は自信を持って答える。
「じゃあ鈴璃ちゃんはえっちしてないの?」
なのに綾さんはそんなこと言い出す。
「え?なんですか?いきなり……」
「付き合ってるならそういうことを当然するものなのかなって思ってたんだけど違うんだね」
綾さんは明らかに自分が何を言っているのか理解してないらしく、すごく爽やかにそんなことを言う。
「……そりゃそうですよ」
「鈴璃ちゃんは付き合ってどれくらい,」
「えっと……五年くらいです」
「五年?鈴璃ちゃんって何歳?」
「十五ですけど」
「じゃあ、十歳から付き合ってるんだ」
「……一応」
「ふーん。すごいね」
「……すごいですか?」
「私はすごいと思う」
よくわからないけど、すごいらしい。
「そうですか」
まあ、冷静に考えると人生の三分の一付き合ってるわけで、それはちょっとすごい気もする。
「でさ、鈴璃ちゃん」
「はい?」
「鈴璃ちゃんは彼氏さんが迫ってきたら拒否しちやうの?」
「いい加減、その話題から離れませんか?」
「なんで?いやらしい人が今日のテーマじゃないの〜私、そのつもりで来たんだけど」
「そうだったんですか……」
というか今目のテーマってなんだろう?
「で、どうなの?」
「そうですね……好きな人なら少しくらいえっちでもいいかなって……思いますけど」
言いながら恥ずかしくなる。そして何を言ってるんだろうと我に返った。
「でも、基本的には嫌ってことかな?」
「そうですね。好きじゃない人に嫌らしい目で見られるのは、本当に嫌です」
それを口にすると、なんとなく周りの人が自分を見ているような気がした。結局、綾さんは白衣のままだし、自意識過剰とは思うけど、やっぱり視線が気になる。
「私は……どうでもいい人に見られるのはどうでもいいかなあ」
でも綾さんは気楽な調子のままだ。
「私もそういう風に思えるといいんですけど」
「ああ、でも、苦手な人にいやらしい目で見られるのは、やっぱり嫌かも」
「それはそうですよね」
「そうなんだよね。ああいう感じを鈴璃ちゃんはあちこちの人に思うわけなんだね」
「……ま、多分」
「そっかあ。じゃあ鈴璃ちゃんは、管理人さんには会わない方がいいと思う」
管理人さんーまたその名前が出てきた。そして今度はちゃんと聞いておいた方がよさそうだなと私は思う。
「その管理人さんって……どういう人なんですかり綾さんの知り合いですよね?」
「うん。同じマンションに住んでる人なんだけど、なんだかいろいろ細かいんだよね。あれするな、これするなってすぐ言うんだよ」
「管理人さんってくらいだから、けっこうな年の
人なんですか?」
「ううん。私より年下。健ちゃんと同じクラスって話だから、鈴璃ちゃんと同じ年じゃないかな」
「同じ年ですか……」
なんだか予想していたのとはかなり違う答えが返ってきた。なんで私と同じ年の人が管理人なんて立場にあるんだろう。全然わからない。
「でさあ、細かい癖に、むっつりなんだよお」
「むっつり……」
私はその言葉で今までの細かな疑問は一気に吹き飛んだ気持ちだった。心が沸騰してきたと言ってもいい。この天真燗漫な綾さんのことを、その管理人さんとやらがこっそりいやらしい目で見ているということなのだ。それは私にとっては許し難い。
「健ちゃんはけっこう直球なんだ。えっちの時はびっくりするほど大胆だし」
「……はい」
でもまた話題がそれた感じで少し心の温度が下がるのを私は感じた。
「でも管理人さんは違うんだよね。細かいルールを守らせるから冥面目な人なのかなあって思うでしょ?」
「そうですね」
「でもね、むっつりなんだよ。すごい勢いで睨んできたりすることが時々あってさ、また何かルールを破っちゃったのかなあ……って心配するんだよね。でもさ、後でわかったんだけど、私のこの格好が気になってたみたいなんだ」
そう言って綾さんは白衣の襟を榴んでぱたぱたさせた。それではっきりとわかったけど、やっぱり下には服を導いなかった。
「綾さん……下着は?」
だから私はそれを確認してしまう。
「下着?持ってるよ。健ちゃんと一緒に買いに行ったんだ」
「持ってるとかじゃなくて……今、してないんですか?ということを……」
「ああ。そういう意味か。えっとね……」
綾さんはそう言って白衣の上から自分の体を叩き始めた。
「パンツは穿いてるよ」
「……ということはブラは?」
「してないみたい」
「みたいじゃなくて……した方がいいと思います。特に外に出る時は」
「うん。健ちゃんもそう言ってた。そうそう、健ちゃんはね、下着は黒が好きなんだって」
「じゃあ、黒いのを着てあげた方が」
「でもきついんだ。かゆいし」
「それはわかりますけど……」
私だって無駄に胸が大きいせいで、その辺りに開しては人一倍苦労している。だから、わかる。
「でもやっぱり管理人さんが変な目で見るからちゃんとした方がいいよね」
「そうです。そうです」
やっと納得してくれたと思ったら、綾さんはまたひょいっと話題を変えたらしい。
「そう言えば、管理人さんって言えばさ」
「まだ何か?」
「風呂上がった格好を見られたことある」
「え〜それって……裸ってことですか〜」
「風呂上がりって言うと裸だよね。まあ、私は寝る時も裸だけど」
「……そうなんですか」
「ああ、そう言えば起き抜けで裸のところ見られたこともあったかなあ」
「……なんでそんなことに」
もしかして同じマンションというのは同じ部屋とかそういうことなのかなと思う。
「勝手に入ってきたんだよ、管理人さんが」
でも、そうじゃなかった。
「勝手に入ってきて、裸を見たんですかり」
私はまた心が沸騰するのを感じた。なんて奴だ!うっかり白衣姿で出歩いている綾さんをじろじろ見るだけじゃなく、勝手に人の部屋に上がり込んで裸を見るなんて……。
「うん。最近は他の人がいるからそういうことも無くなったけど、昔はけっこう入ってきてた」
「けっこうって、大丈夫なんですか?」
「でも、管理人さんはむっつりだから見るだけなんだよね」
「見るだけでも十分問題ですっ!」
私は怒りのあまりどんと机を叩いてしまった。そのせいで喫茶店のお客の視線が私たちの方へと向く。
「机壊れちゃうよ?」
なのに綾さんは相変わらずのんきだった。
「……そうですね、気をつけます」
でも私は逆にカッカとしてしまう。その管理人さんとやらは綾さんのこういう性格につけこんで、ちょくちょく裸を見るために部屋に入り込んできたのだ。そんな男、許せるはずがない。
「そんなに嫌いなタイプだった?」
綾さんが困ったような顔で尋ねてきた。
「……ですね」
私はそれに自分でも驚くくらいムッとした気分で答える。
「ごめんね。怒らせるつもりはなかったんだ」
「綾さんが謝る必要なんてないです」
「うーん。でも、私が話したせいで鈴璃ちゃんが
怒ってるわけだし」
「それはそうですけど、許されないのはその管理人さんって奴です。なんて名前なんですか、その人はつ!」
「……なんだっけ〜私、人の名前覚えるの苦手だから忘れちゃった」
「そうですか。とにかくその管理人さんってのは気をつけた方がいいですよ」
「……気をつける?」
「あんまり近づかないようにした方がいいです」
「まあ、あんまり近づかないけど」
「今まで以上に近づかないようにしてくださいっ!何をしてくるかわからないんですから」
「……うん、そうする」
綾さんはびっくりしたような顔をする。それで私は少し冷静になった。
「そうしてください。何かあってからじゃ手遅れなんですから」
「うん。でもね、鈴璃ちゃん」
「なんですか?」
「管理人さんはむっつりだから、そんなに思い切ったことはできないと思うよ」
「……だとしてもです」
「あと、彼女がいるんだって」
「彼女が?本当ですか?」
「私は嘘っぽいなあって思ってたんだけど、本当みたいだよ」
「彼女がいるのにそんなことをするなんて……」
その話に私は想豫していたより、さらに下の人間だったということを理解した。下の下だ。彼女がいて、むっつり。それはつまり、彼女にえっちなことをしたいけど、できないからその分、綾さんにいやらしい目を向けてるってことだ。なんて陰湿で気持ちの悪い奴……。
「ごめんね」
なのに綾さんはすごく優しかった。そんな奴に腹を立てることになった私のことを本気で心配してくれてるみたいだ。
「だから綾さんのせいじゃありませんから」
「……でも鈴璃ちゃんの知り合いってわけじゃないし、する必要のない話だったよね」
そして綾さんは泣きそうな顔をする。さっきまでにこにこしてた人と同じ人とはとても思えないほど、今の綾さんは小さく感じる。
「そんなことないですけど」
私はそう言いながら、でも綾さんの理屈もわかる気がした。私が不機嫌になったのが、綾さんの話のせいというのは確かなことだし。
「でも、ごめんね」
「ちょっと、カッとなっただけですから」
私はそう言って無理に笑うと、出来る限り落ち着いた態度を装うことにした。残っていたコーヒーを飲み干して、もう一度笑う。
「ごちそうさまでした」
「あ、うん」
「それで……申し訳ないんですけど、そろそろ暗いですから、帰らないとかな、と」
私はそこで初めて外を見た。まだあんまり暗くはなかったけど、ここに来てからけっこう経ってるのでそれでよしとする。
「うん、そうだね。お礼で誘ったのに、あんまり楽しくなかったかな」
「いえいえ。綾さんに会えて嬉しかったです。また機会があったらよろしくお願いします」
私はそう言って立ち上がると、綾さんに向かって小さく頭をさげた。
「うん。私もよろしくー」
そしてそれが気に入ったのか綾さんはにっこりと笑ってそう言ってくれた。だけど、私のはらわたは煮えくりかえっていた。無理に押し込めたせいで、さっきよりずっと温度が上がってしまったらしい。だから喫茶店を出る前から、私の心の中で怒りの言葉が繰り返される。
信じられない!信じられない!
信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!.信じられない!信じられないノ.信じられない!信じられない!信じられない!信じられな
い!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!.信じられない!信じられない!.信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない1信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない1信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられないノ信じられない!信じられない!信じられない!信じられないノ信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられないノ信じられない!信じられない!信じられない!信じられない/信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!借じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!信じられない!…と。
「……鈴璃君?」
私は随分と長い時間、
怒りに支配されていたら
しい。気づくと不安げに刻也君が私のことを覗き込んでいた。
「えっと……刻也君に怒ってる訳じゃなくて」
「それは私もわかってるつもりだが、さきほどまでの鈴璃君を見てると、もしかしたら私に怒ってるんじゃないかと不安にもなるよ」
「……そんなに怒ってた?」
「君でもそこまで怒ることがあるのだなと思うくらいは」
「……うう、忘れて欲しい」
刻也君にそんなことを言われて私は悲しく思う。でもその一方でまた怒りがこみ上げてきた。そんな風に刻也君に思われる原因になったのが、あの不将な男、管理人さんという奴だからだ。
「申し訳ない。思い出すだけでそんなに怒るようなこととは思っていなかった」
「……刻也君が悪いんじゃないよ」
私はでもその場は気持ちを収めるしかないと堀う。そのせいでさっきみたいにさらに怒りの圧力が増すとしても、このままでは刻也君に当たってるみたいで、後悔することになりそうだから。
「とりあえず、どこか座れる場所に行こう」
そんな微妙な空気を察してくれたのか、刻也君はそう提案してくれた。
「……そうだね」
それで刻也君が向かったのは公園のようだった。瓶井戸中央公園だ。家のある方とはちょっと逆だけど、刻也君が一緒ならそれでもいいかなって思う。
「コーヒーでいいかね?」
黙って後ろを歩いてた私に刻也君が不意に尋ねてきた。
「え?」
「何か飲み物があった方が良いかと思ったんだが、
別にノドは渇いてないだろうか?」
刻也君は自動販売機の前に立っていた。そんな質問を含めて、私は意外な気がした。刻也君はそういうことはあまりしない人間だと思っていたからだ。刻也君が缶コーヒーを飲むなんてちょっと想像できない。
「さっきまでコーヒー飲んでたから平気」
だから私は正直にそう答えた。
「そうか。なら、いいんだが」
そう言いながら、刻也君は少し考えていた。
「どうしたの〜」
「私だけ飲むというのもなんだか違うなと思ったのだが……どうしたものだろう?」
真面目にそんなことを眩く刻也君は、どこかかわいらしい感じがした。普段はすごく格好いいのに、優しくかわいらしいのも刻也君だった。
「だったら、私も飲む。コーヒー以外のだったらなんでもいいから」
「そうかね〜」
それでまた刻也君は少し考えて、お金を入れるとボタンを押した。
「これでいいかね?」
刻也君が選んだのはスポーツドリンクだった。あまり美味しくないけれど、太る心配はないのでそんなに悪い選択ではないと思う。
「じゃあ、刻也君の分は私が買うね」
そして私はそれを受け取ると、刻也君と自動販売機の聞に割って入る。
「いや、自分のくらい自分で買うが」
「私の話を聞いてもらうんだから、刻也君の分くらい私に買わせて欲しいの」
「……そういうことなら構わないが」
刻也君は少し納得がいかないという顔をしていた。それはきっと私にお金を使わせるのを申し訳
ないと思っているのだろう。でも私はお金に困ってるわけでもないのにバイトをしているし、刻也君は家を出てお金を稼ぎながら暮らしているのだ。これくらい出したって罰は当たらないと思う。
「コーヒーでいいよね?」
私の質問に刻也君は少し驚いたみたいだった。
「どうしてわかったのかね?」
「刻也君がさっきそう聞いたから」
「……む、なるほど。確かにそうだったな」
刻也君は困ったような表情を浮かべながら、私が買ったコーヒーを受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そして私の返事を聞くと、また刻也君は公園に向かって歩き始めた。私はそんな刻也君の後を追いかけながら、綾さんに聞いた不増な男のことを思い出す。比べるのも失礼だけど、刻也君みたいな人がいる一方で、管理人さんとやらがいるというのは本当に信じられない思いだった。生物学的には同じ人間の男ということになるんだろうが、あまりに差がありすぎる。世の中には色々な人間がいる。それはわかってる。平和に生きてる人もいれば、平気で人を殺してしまえる人間がいるのも、理屈ではわかってる。でもダメだ。本当にそういう許し難い人間がいると聞かされると、心が煮えたぎってしまう。そんな女の敵がこの辺りでのうのうと暮らしてるなんて、私に関係ないことでも許しておけない。だからってそいつのところに乗り込んでぶっとばすなんてことをするわけじゃないのが、私も口先だけで情けないけど……情けないけど、許しておけないのだ。
「また思い出してるのかね?」
刻也君の声で我に返ると、公園の入りロ辺りまで歩いていたみたいだった。猛號魔つくと今度は慌てて自転車止めのための障害物をよけなければいけなくなる。
「あわつ」
でも突然のことでバランスを崩してしまう。そんな私に刻也君は手を差し伸ぺて助けてくれた。
「もう少し早く話しかけるべきだったろうか」
「:…ううん。私がぼーっとしてただけだから」
「そうなのだろうか」
刻也君はそれで少し考えるような仕草を見せた。私の言葉に何かひっかかったらしい。
「それにしても、そんなにその許せない人間だったのかね?私には君がそこまで許せないと考える人物像というのが想像つかないのだが」
そのせいなのか刻也君は歩きながら、その話題を始める気になったみたいだった。
「……自分でも不思議なくらい怒ってるかも」
私は刻也君の手前そう言ってから、でもけっこう本心からの言葉かもしれないと思う。
「鈴璃君は自分に対しては厳しいが、あまり人のことをあれこれ言うようには思っていなかったせいかもしれないな」
刻也はそう言いながらペンチの前までやってくると、私に先に座るように手で示す。
「……そうでもないけど」
私はそれで座ることにしたけど、刻也君の言葉が気になってしまった。自分に厳しくて他人に甘いのは私なんかじゃなく、刻也君の方だ。刻也君は自分がそうだから私もそうだろうと、そう思っているのだ。
「それでその問題の人物というのはどういう人間なのかね?」
私と綾さんと不将な男
刻也君はそんな私の気持ちに気づいた様子もなく、普通に私の隣に座る。それで刻也君はもう私服なのに、私だけ制服なのが今更気になった。
「えつとー…」
そのせいもあって私は自分の怒りを刻也君にぶつけることに気後熟牝てしまう。ろくでもない奴のことで刻也君を煩わせてはいけない。.そんなことも思う。
「遠慮することはない。そのために今、私はここにいるのだから」
なのに刻也君はそう言って、静かに笑う。それでも私が話そうとしないので、刻也君はプシッと音を立てて、缶コーヒーを飲み始める。
「今日会った人から聞いた話なんだけどね」
「知り含いなのかね、その人は?」
「今日、初めて会った人」
「ふむ。で、その問題の人物はその初めて会った人の知り合いというわけかね」
「うん。今日会ったその人はモデルみたいに背の高い女の人なんだけど、その人が住んでるマンションにむ……むっつりスケベな人がいるの」
私は言いかけて、なんで刻也君の前でそんな言葉を口にしないといけないんだろうと思う。
「……むっつりかね」
そしてそれは聞いた方の刻也君も妙に思ったらしく、当惑した表情を浮かべていた。
「裸で寝ているその人の部屋に勝手に入ってきたりする覗き魔なんだって」
「それは問題とか以前に犯罪では無かろうか」
「そうなんだけど……その人はあんまり気にしてないみたいで、私は危ないから注意した方がいいよって言ったんだけど」
「あまり真剣には取ってもらえず、今もその人のことを心配しているとそういうわけだな」
「……そこまでは考えてなかったけど、でもそうかもしれない」
腹が立っていたからそれしか考えられなかったけど、少し冷静になってみれば刻也君の言うとおりのような気がする。
「詳しい事情はよくわからないが、なんだかんだ言ってもその人と問題の人物は仲が良かったりするのではないだろうか〜そうでもないのにその状況を放置するなんて考えられないのだが」
「……それは違うと思う」
綾さんは健ちゃんという人が好きなのだし、管理人さんとやらには彼女がいるのだ。
「ではどういう状況なのだろうか〜」
「その人、綾さんって言うんだけど、ほわほわした人なの。だから危機感がないだけなんだと思う」
「……そうなのか」
刻也君はかなり当惑した表情を浮かべた。刻也君みたいなしっかりした人には綾さんのような価値観の人間のことは理解できない。そういうことなんだろうと私は思う。
「それにつけ込んで、綾さんが管理人さんって呼んでる男は好き放題してるってことなの」
「……管理人さんかね」
刻也君はさらに理解できないという顔になった。それは無理もないと思う。管理人さんなんて名前の人間が犯罪と言ってもいいことをしているなんて明らかにおかしい。
「管理人さんは風呂上がりの綾さんを見るために部屋に上がりこんだりもしたんだって。信じられないよね」
「……そうだったろうか」
刻也君はなんだかよくわからないことを咳いたみたいだった。私がそれで心配になって刻也君を
見ると、小さく揺れていた。かなリショックを受?けているみたいだった。
「刻也君?」
だから私はもう別の話題にしようと思う。管理人さんの話は刻也君には刺激が強すぎたみたいだったから。
「……うむ?」
,
「やっぱり男の人ってそういうことしたい生き物なのかな?」
「どうだろうか。実行に移さないまでも考えるくらいなら、それなりにいるかもしれない」
「そう、なんだ」
刻也君の返事に私は少なからずショックを受けた。そして気になってしまう。刻也君はそのそれなりにいる中に入るのかどうか。
「だがそれ以前にさっきの話を真に受けるのはどうかと思うのだが」
そして私が弱気になったせいか、せっかく逸らした話題が元に戻ってしまった。
「どうしてっ」
「君は綾さんに今日、初めて会ったのだろう?その人の意見だけで一方的に決めつけるというのはどうかと思う」
刻也君はひどく苦々しい顔でそう告げた。
「それは……そうだよね」
「綾さんの勘違いかもしれないし、綾さんがその人を嫌いなら少々大げさに言っていた。そういう可能性だってあるだろう」
「……うん」
言われてみればそうだった。綾さんが事実無根のことを言って私の関心を引こうとしてた。そんなことはさすがにないと思う。でもだからって百パーセント真実だとは確かに限らない。私はそんなことにも気付かない自分を馬鹿だなと思う。
「すまない」
なのに刻也君は私がしょげたのを見て言い過ぎたと思ってくれたようだった。
「ううん。そんなことないよ」
「君の愚痴を聞いてあげようと思ったのに、なんだか説教をしてしまったみたいだ」
「そんなことないよ。刻也君の言うとおりだよ」
そして刻也君は優しいなと思う。綾さんが大げさに言っていたとしても、やっぱり管理人さんって人はむっつりスケペには違いない。なのにそう
決めつけずに、ちゃんと人間緊しようとしている。頭に血が上って、感情を爆発させるだけの私とは全然違う。
「私ってそういうことばっかりだよね。勝手に決めつけて、それで刻也君に迷惑ばかりかけてる。今日だってこんな感じだし」
「私はこれが迷惑とは思っていないが」
「……うん」
「だが、あまり遅くなるのは問題かもしれないとは思う」
そして刻也君はすっと立ち上がって、まだ座ったままの私の顔を見た。
「今日は君を家まで送っていこう」
その意味を考えている私に刻也君がそんな言葉を告げる。
「……え?」
「ここでこのまま話しているより、その方が良いかなと思ったのだが」
「ここからだとけっこうあるからいいよ」
そうでなくても予想してなかった私の登場で時間を無駄にしてしまってる。なのに家まで送ってもらうなんて望んじゃいけないことだと思う。
「迷惑かね?」
なのに刻也君はそう尋ねてくる。
「迷惑なんかじゃなくて、嬉しいよ。でも……」
でも、ダメなの。そう言いかけたところで刻也君は先に言葉を続けた。
「余計な時間をかけさせたくないということなら、議諭をしている間に帰ろう。もう送っていくことは決めたのでね」
そして刻也君は私に余計な逮慮はしなくていいと遠回しに言ってくれる。
「……うん」
だから私はもう反論するのは止めて、立ち上が
ると歩きはじめた。いつもより少しだけ前。ちょっと距離を縮めて刻也君の後ろを。もちろん刻也君と一緒に歩けるのは嬉しかった。でもそれ以上に嬉しいことがあった。刻也君は優しい。そしてそのおかげで私も少し優しくなれた。それが管理人さんって言うむっつリスケベがきっかけなのはちょっと引っかかるけど。でも刻也君のおかげでそんなことすら許せてしまう自分が少し誇らしかった。.刻也君は優しい。おかげで私も優しい。そのことを考えながら、私は刻也君の横顔を覗き込む。
「……何かまた私は変なことを言ったかね?」
刻也君は私のそんな視線が気になったらしい。
「ううん」
でも刻也君は変なことなんて言ってない。むしろ良いことしか言ってない。
「信じられないくらい嬉しいだけだから、気にしないで」
だから私は正直にそう答えて、それからすごく恥ずかしいことを言ってしまったと気づく。顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。(あわわ……)なのに刻也君は静かな笑みを浮かべて静かに咳くだけ。すごく冷静で真面目な人なのだ。
「それは何よりだ」
でも私はそれで十分だった。
「うん」
だから私は少し歩く速度を下げて、大人しく刻也君を追いかけることにした。それはいつも通りの距離だったけど、私はそれで十分。十分すぎるほど、幸せだった。
おしまい