Special Booklet I
キノの旅
―the Beautiful World―
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)金属|鎧《よろい》
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(例)[#ここから目次]
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時雨沢恵一
KEIICHl SlGSAWA
イラスト:黒星紅白
ILLUSTRATION:KOUHAKU KUROBOSHI
[#改ページ]
「卑怯者の国」―Toss-up―
秋の高い空が広がっていた。
どこまでも透き通る香い空間。純白の雲がちぎられた真綿のように浮かび音もなく漂っていた。
その空の下に、公園があった。背の高いビルが並ぶ都市部の一角に、池と遊歩道が造られ、芝生の緑と太い木々の紅祭した資が広がる。
公園中央に、石畳を敷き詰めた平らな空間が設けられていた。そこにはイスとテーブルが並べられ、広々とした野外カフェになっていた。厨房設備を備えたトレーラーハウスが一台乗り入れられ、お客に温かい料理を提供している。
視界を遮る高い建物は離れたところにあり、カフェには柔らかい光がそそがれ、涼しい風が通り抜ける。たくさんの者が穏やかに談笑をして畳食を楽しみ、その中をウエイターだけがきびきびと仕事をこなしていく。
一つのテーブルの脇に、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)がとまっていた。後輪脇とその上に、旅荷物を積んだモトラドだった。
そこはカフェの一番端のテーブルで、そのモトラドの運転手が、イスに座ってゆっくりとお茶を飲んでいた。
運転手は十代中頃の若い人間で、短い黒髪に、大きな目と精悍な顔を持つ。黒いジャケットを着て、腰をベルトで締めて、右側にハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)をホルスターで吊っていた。
運転手はお茶をのんびりと飲んで、カップをテーブルに置いて、高い空を見上げた。ふっと息を吐いて、
「いいところだな」
つぶやくように言った。モトラドが聞く。
「ランチにお茶がサービスでついたから?」
運転手は素直に頒いて、
「うん、それもある。エルメスは?」
エルメスと呼ばれたモトラドは、そうだねえと言って、
「あの分かれ道でコインを投げて決めたにしては、いい選択だったかな。やっぱり歴史がある回は、建物が落ち着いていていいね。キノがお茶を終えたら、見て回ろう」
キノと呼ばれた運転手は、そうだねと言って空を見上げる。
「でも、もうちょっとのんびり。やっとついたからね」
「宿はどうする? キノ」
エルメスが脇から聞いた。
「歴史と格式がありすぎて、そして値段も惑いホテルはいやだな」
「この国は広いし、森の中に施設の整ったキャンプ場があるって番兵さん言ってたじゃん」
「普段と賓わらないよそれじゃ……。熱いお潟が出るシャワーと、真っ白なシーツがほしいな」
キノとエルメスが会話を続ける前で、男が一人、七つ離れたテーブルにやってきて座った。髪をきっちりとまとめた二十代後半ほどの男で、紺のスーツ姿に厚めのアタッシュケースを持っていた。
男はアタッシュケースを足下に丁寧に置いて、ウエイターに声をかけて何かを注文する。
「買い物は? 何か必要なものはあった?」
エルメスがキノに聞いた。
「携帯食料と燃料と、液体火薬が少しほしいな。これらは最後の日でもいいし、城壁の脇の店でも売っていた」
男はウエイターが去った後、アタッシュケースに軽く触れた。そして立ち上がる。人を捜すように、軽く首を左右に振った。視線がキノとエルメスに向いて、キノと日が合って一瞬動きを止めて、すぐに何もなかったかのように視線をそらせた。
男は、アタッシュケースを足下に残したまま歩き出した。テーブルの間を、早足で通り抜けていく。その背中が、すぐに小さくなる。
こつん。
キノがお茶のカップをテーブルに置いた。まだ半分ほど残っていたお茶が揺れる。
キノがすっと立ち上がったのと、
「わざとだね」
エルメスがそう言ったのは同時だった。
キノはエルメスのスタンドを外し、すぐに押し歩いてカフェから離れる。ヘッドライトに引っかけていた帽子をかぶった。
「間に合う?」
エルメスが聞いた。キノはエルメスを数秒押し続けて、それから答える。
「さあ。でも、あの大きさなら」
「キノのとんでもない勘違いだったらいいのにねえ」
「まったくだ。お茶がもったいないけれど」
次の瞬間。
キノの後ろで、カフェの中心で、アタッシュケースが爆発した。
うるさいサイレンを響かせながら、救急車と消防車とパトカーが次々に公園の芝生に乗り込み、タイヤで荒らしていく。
駆けつけた救急隊員は、うめき声を上げている人達を救急車にしまい込み、新しくやって来た車両と互い遠いで出ていった。数人の隊員は、かつては人間だった肉の塊に、青いシートをかぶせていく。
警察官は分担で、現場の写真を何枚も撮ったり、爆弾の破片を丁寧に集めたり、周りにいる人に聞き込みを始めたり、立ち入ろうとする人間を押しとどめたり、それでも入り込んでフラッシュを焚く報道陣を外につまみ出したり、広場に立入禁止の共色いテープを張り巡らし、止めてあったエルメスのキャリアに結びつけよう
としてエルメスに怒られたりした。
公園の水飲み場で手を洗っているキノに、
「せっかく来たのに、いやな思いをさせてすまないね。旅人さんが巻き込まれなくてよかった」
一緒にけが人を介抱した中年の男が話しかけた。キノが水道を譲る。そして男は手を洗いながら、吐き捨てるように、
「くそったれの爆弾魔め……。またやりやがって…」
「また?」
キノが聞いた。
「ああ――。昔からいる反政府主義者さ。“富を公平に分配し貧乏人を救え”だのと実現不可能なことを言って、理解が得られないと今度は人の集まるところで爆弾だ。最近はだいぶ一味が捕まって減っていたんだけど、また始めやがった」
「捕まらないんですか?」
「ああ。うまく逃げ回っていてね。――何の罪もない人を巻き込みやがって。それで社会がどうにかなるとでも思っているのか。奴らは、正々堂々と勝負ができない卑怯者だ」
男が、べっとりとついた他人の血を洗い流しながら言った。
エルメスに戻ったキノに、ジーンズに黒いジャンパー姿の女性がやって来た。二十代後半ほど。ジャンパーには“警察”の文字が入り、右腹にホルスターがあった。リヴォルバーが一丁収まっている。
「あなた達が、居合わせたっていう旅人さんとモトラドさんね。私はライヤ。刑事よ」
キノとエルメスが挨拶を返す。
「あなた達、爆弾を置いた男を見なかったかしら? スーツ姿だったわ」
キノとエルメスは、即答しなかった。ライヤが言う。
「見てなかったならいいわ。せっかく訪れてくれたのに変なことに――」
「見ましたよ」「見たよ」
キノとエルメスが同時に答えた。ライヤの口が止まり、そして彼女は、すぐさま懐から写真を数枚出した。広げて見せる。それらは、同じ年頃の男達の写真だった。全員、身長の目盛りが描かれた壁を背に立っている。
「その男は……、この中にいるかしら?」
キノが見て、すぐにエルメスに振り返る。
「間違いないね」
エルメスが言った。そしてキノは、左から二番目を指さして、
「うん。その人だよ。髪型は全然違うけれど」
エルメスの言業と同時に、ライヤの顔が一瞬で曇った。すぐに写真を懐へと戻した。
「協力ありがとう。ここは閉鎖されるから、公園から出てね。それじゃ」
ライヤは硬い表情で、いたく事務的な口調で言った.そして踵を返し、数人の警官と刑事が話している輪に駆けていった。
「……行くか。もうボクにできることもない」
キノはエルメスのスタンドを外し、押し始めた。
遊歩道を歩き、騒がしい公園から出た直後、
「あ、しまった」
キノが言って、エルメスが下から聞く。
「何さ?」
「さっきの刑事さんに、安ホテルの場所聞けばよかった」
次の日の朝。
キノは夜明けと同時に起きた。ベッドとシャワーのある安ホテルの辞屋で、鏡を前に「カノン」と呼ぶリヴォルバーの抜き撃ちの練習をする。そして分解と整備をして、ホルスターに戻した。
「ふわあ……。で、熱いシャワーは?」
「とっくに浴びた」
叩き起こしたエルメスに荷物を機んで、キノは安ホテルを後にした。
キノとエルメスは、古い建物が多い町の中を走って見て回った。その途中で、ふとキノが言う。
「さっき新聞スタンドで見た。死者三人。負傷者八人だったって」
「危なかったね」
エルメスが、特別なんでもないことのように言った。
「もしボクが何か言っていたら、……少しは減ったかな?」
エルメスはどうだろ? と前置きして、
「逆に増えてたかも。お茶の残りがひっくり返ってこぼれていたのは見た? それに、今さらどうしようもないよ」
キノがつぶやく。
「まあね……」
国のほぼ中央に、湖があった。平坦な国に大きく広がる湖で、そこから国中に太い水路が流れる。湖は紅葉の森に囲まれ、鳳もなく穏やかな水面にその色を映す。
湖畔には道が走り、家が点在していた。白い壁が鮮やかな豪華な家が、湖水の上へ張り出すように建っていた。
「森と湖畔の家か。国の中で自然を満喫できるのは優雅かな。少なくとも、野獣や山賊の心配はいらないし」
「でも、お金持ちだけみたいだけどね」
走りながら、キノとエルメスが言った。
昼が過ぎた頃、キノは湖沿いの砂利道から森の中へエルメスを走り入れた。エルメスを立たせて、その脇に座る。昼食用に買ったサンドイッチを食べて、その間でお湯を沸かす。
キノはゆっくりと腰を落ち着かせて、
「のんびり食べて、のんびりお茶にするよ」
「たしかに、ここなら爆弾破裂させるやつはいないだろうね」
エルメスが冨った。
食事後、キノはエルメスのエンジンをかけた。ゴミや忘れ物がないか、振り返ってもう一度確認する。
キノは森の中から道へと走り出ようとして、
「車一台。猛スピード」
エルメスのその言葉で止めた。
目の前の砂利道を、右側から一台の車が左カープを抜けてきて、高速で通り過ぎた。スポーツタイプのオープンカーだった。細かな砂利を飛ばし、薄く埃を舞い立たせた。その運転手はキノ達に気づいた様子もなく、車は走り去る。
「危なかったな……」
キノがゆっくりとエルメスを出して、走り去った車を目で追う。収まった埃の向こうで、車は一軒の家の前で止まり、やがて壁の中へと入っていった。
キノが、
「さて、ホク達はこっちへ行くか」
車が来た方へエルメスを向けた時だった。
「今の車運転していたの、あの男だね。昨日と今日と、連続して殺されそうになるとは」
エルメスが言った。キノが驚いて、走り出してすぐのエルメスを止める。
「間違いないよ。キノ」
「どうにも……、ボクは運がいいのか悪いのか」
キノが首を回して後ろを見て、つぶやいた。
「どうする? アジト発見、って警察に通報する?」
「そうだな……」
キノはそう言ってから、数秒の間考えて、
「明日出国だし、あまりボク達には関係ないことだから……、一応するか」
「なんで?」
「報償で、何かもらえるかもしれない」
「納得」
キノはエルメスを発進させた。砂利を跳ね飛ばしながら走る。
左側には湖、右側には森。
カープを抜けてすぐ先にあった、湖畔の雑貨店に入った。
「あなただったのね。ありがとう」
中年の刑事と一緒に車を降りたライヤが、キノとエルメスを見つけて、そう言った。
キノが電話を借りた店の前に、駆けつけた数台の車が止まっている。そのうち一台は、警官を乗せて窓枠に格子をはめたバスだった。
車からおりた刑事達とキノが森に入り、茂みの中からこっそりとカープの先をうかがう。双眼鏡で覗くと、締められたカーテンのわずかな隙間から、室内の灯りが見えた。
一度車へと戻り、
「あの家に間違いないのか? もし違っていたら謝って済む問題ではないぞ」
スーツ婆の中年の刑事が、お世辞にも丁寧ではない口調で聞いた。キノが頷く。まだいればね、とエルメスがつけ足した。
やがて一人の警官が、刑事へと駆けつける。警官は、あの別荘の持ち主が今は別の場所にいることが確認されたと報告した。今は誰にも貸していないし、長い間使っていないことも。
ようやく刑事は、
「いいだろうて後は警察の仕事だ。これ以上はいい」
そして結局一言も礼らしい言秦を言わないまま、警官隊が待つバスへと歩いていった。
その後をライヤが追って、
「お前もここにいろ」
振り返った中年の刑事にそう言われた。
「な――、なぜです?」
ライヤは、しばらく中年の刑事と言い争いをした。彼女は突入する警官達と一緒に現場へ行くことを強行に主張し、中年の刑事は却下した。
「何度も言わせるな。新米の女刑事など現場では足手まといだ」
「しかし私は――」
「お前はここにいろ!」
中年の刑事はきつい口調でそう言い残し、他の警官達と一緒に準備を始めた。十五人ほどの警官隊が、防弾チョッキを身につけ、連発式の長いライフルに弾丸を装填していく。
「あの……。ライヤさん」
それを見ながら呆然と立っているライヤに、キノが後ろからエルメスを押して近づいた。ライヤが振り向いた。
「今から、あの家を取り囲んで突入するつもりですか?」
「え? ええ。旅人さんは危険だからここにいてね」
「そのつもりですけれど……」
キノが言いよどんで、エルメスが下からつぶやく。
「一応、言うだけは言えば?」
キノはそうだね、と短く言って、ライヤに話しかける。
「森から近づくつもりだと思いますが、一気に襲撃するには警官の人数が少ないと思います。増援を待った方がいいと思うんですけれど」
「え?」
ライヤが振り向いた。
「あのライフルでは長くて家に突入後やりにくいと思います。ライフル班は援護にして、ハンド・パースエイダーを持った突入班とに分けた方がいいです。そうしないと、被害が出て失敗するかもしれません」
防弾チョッキを着ていた中年の刑事にもそれが聞こえていて、彼は明らかに気分を、それもひどく害した様子だった。二人と一台に近寄って、
「それに――」
「うるさい! これは警察の仕事だ。素人が余計な口を挟むな。――ライヤ。お前は旅人のおもりでもしていろ! そばにいろ!」
喋りかけのキノと、その脇にいるライヤへと、怒鳴りつけた。
「ま、こうなるとは思った」
「……言うだけは言ったし、もういいか」
そう言ったエルメスとキノを、
「……−」
振り向いたライヤが一度睨みつけた。
彼女は何か言おうとして口を開いて、すぐに首を振った。
「旅人さん達に八つ当たりしてもしかたないか……。ごめんなさいね」
中年の刑事が、準備を終えて並んだ警官隊に檄を飛ばしていた。
中にはおそらく複数の、しかし多くても四人ほどのテロリストが潜伏していると考えられること。森の中から近づき家を取り囲み突入すること。班に何人も殺している彼らの逮捕は一切期待せず、家を粉々に破壊してでも一味を殲滅すること。
警官隊が、森へと入っていく。
ライヤはしばらくは何もせず立っていたが、そのうちに、明らかにいらつき始めた。何度か頭を振って、足下の砂利を蹴った。
「…………。くそっ」
そして、突如車から防弾チョッキを取り出して、ジャケットの下に着る。右腰のリヴォルバーの弾丸を確かめて、それを右手に、左側の森に沿ってゆっくりと歩き出した。
ぽつんと取り残された一人と一台は、
「どうする? 刑事さん、行っちゃったよ」
「……ボク達はもういなくなっていいのかな?」
「さあねえ。そうだ、どうせだからl
エルメスが言う。
「キノが正しいか、こっそり見学でもしようか? 道の脇の、カープ手前からならよく見えるハズだよ」
「うーん……」
遠くに漸畔の家が見える、カーブの頂点。
森の木に身を隠して、
「…………」
ライヤが屈んでいた。リヴォルバーを握りしめ、家を睨む。そして家は何事もなく、静かに湖畔にたたずんでいた。
後ろから声がかかる。
「まだですか?」
「まだよ」
ライヤが即答して、すぐに驚いて振り返った。
キノがエルメスを押してきていて、道と森の填ギリギリにいた。
「そんなに緊張しなくても」
エルメスがのんびりと言った。続けてキノが、
「ボクが勝手に来て、ライヤさんが仕方なく見張るためについてきた、ってことでとうですか?」
「…………」
ライヤはしばらく無言でキノを見た後、ふっ、と吹き出して微笑んだ。
「お気遣いどうも」
キノはエルメスをもう少しだけ押して、家が見えるようにする。そして、自分はライヤの脇にしゃがんだ。ライヤが家を見ながら言う。
「旅人さん。あなたさっき、突入が失敗するかもって言ったわよね」
「言いました」
「そうなると、この道に逃げてくるかしらね?」
「…………」
キノは少し黙って、それから聞く。
「そこまでして、あの男の人を自分で捕まえたいのはなぜですか?」
今度はライヤが黙って、そして、
「参ったわね」
そうつぶやいた。
「それは、秘密。後で教えるかも。それより――、どうかしら?」
ライヤが先ほどの質問の答えを聞いて、
「そうですね、可能性はなくはないと思います。でも――」
「でも?」
「ボクだったら、あの別荘をアジトにするのは別の理由からです」
キノがそう言って、ライヤがキノに振り向いた時、家から発砲音が一発響いた。
そして、すぐにそれは激しい撃ち合いの音へと変わっていく。裏路地で爆竹をならしているような乾いた音が続き、家の壁に弾丸が跳ねる煙が見える。そして、警官隊が道から一斉に家へと駆け寄り、壁の前に身を隠す。
「なに? いけそうじゃないの」
ライヤが、期待半分、失望半分といった口調で言った。
「だといいんですが……」
キノが言って、エルメスが後を継ぐ。
「だって、爆弾魔なんでしょ? それに湖畔じゃん」
警官隊が、一斉に家の中へと入っていった.
「そうです。さっき言いそびれましたが、もしボクがテロリストだったら――」
家が爆発した。
大量の赤い炎と共に、壁と屋根が大きく吹き飛ぶ。道にいた警官も飛ばされて、ライヤの視界から消えた。やや遅れて、爆発音が低く長く響いた。
「…………」
目を見開き絶句しているライヤに、キノの冷静な声が届く。
「ああします……。そして軒下からボートですよ。湖に逃げられるようにします」
「!」
ライヤが湖に目をやった。湖水に張り出した家の下、そこから一般のモーターボートが現れた。舶先を大きく上げながら走り出す。
ボートは映った紅葉を白い波で割りながら、湖の中央へと、そしてキノ達のいる方へと疾走する。すぐに一人の男が乗っているのが見えて、さらに、
「まーたあの人だよ」
エルメスが言ったとおりに、それは昨日爆弾を置いた男だった。ライヤは、一度苦い顔をして、そして木の後ろに身を隠した。
キノ遠の前を、ボートは走り去っていく。その時にキノと目が合って、男は楽しそうに微笑んだ。
男は舵を握る右手を離して、ハンド・パースエイダーを振って真横に伸ばすキノに向けて、一発撃った。弾丸は、どこへ飛んだかも分からずに消えた。
「あー、キノ撃たれた」
エルメスが言って、キノは男を見返しながら、
「こんな距離で揺れるボートだ。ハンド・パースエイダーじゃ、向こうもこっちも当たらないよ」
「出し惜っしみー!」
エルメスが、それはもう嬉しそうに言った。そして男は前を向いた。ポートは白い航跡を残して、乾いたエンジン音と共に、どんどんと小さくなっていく。ライヤが、
「…………」
呆然とそれを見送った。ボートは水面の反射に紛れ、すぐに見えなくなった。
道に走り出たライヤが、
「畜生っ!」
怒りながら足下の右を蹴った。
キノが聞く。
「……負け惜しみ”?」
「ううん。才能と弾丸の“出し惜しみ”」
エルメスが答えた。
次の日、つまりキノが入国してから三日目の朝。
キノは夜明けと共に起きた。いつもの訓練の後にシャワーを名残惜しそうに浴びて、昨夜洗って干したシャツを着る。
キノは、荷物をまとめてエルメスに縛りつけた。全ての準備を終えて、窓の外では日の出直前の明るい空が広がる。
キノは一度部屋を出て、安ホテルの隣の部屋のドアを、遠慮がちに叩いた。
しばらくして、猛烈に眠そうな目と、ぼさぼさの髪で、
「ああ。おはよう……てホント早いわね……」
ライヤがドアを開けた。
狭い部屋にベッドがあり、さらにエルメスが止まっている。
キノはベッドに座り、昨日と同じ服装のライヤは、エルメスにほとんど触れながらイスに座っていた。そして二人は、
「感心しないなー。まったくもう」
そうぼやくエルメスのキャリア上の鞄をテーブルがわりにして、朝食を取っていた。お盆には、パンの皿、スープとお茶のカップ、そしてジャムとバターの瓶。
「約束ですよ」
パンをちぎりながら、キノがライヤに言った。
自分のパンにジャムをつけていたライヤが、
「ん? ――ああ、そうね。そうだった。朝ご飯食べながら、全部説明するんだったわね」
そう言ってパンを口に入れた。噛んで、飲み込んで、
「でも、だいたい察しはついているんだとは思うわ。――違う?」
キノは、カップからお茶を飲んで、すぐに小さく頷いた。
「あの男でしょ?」
ライヤがエルメスに、そう、と短く答える。パンくずのついた手を膝の上のハンカチで拭いて、
「あなた達は、一昨日中央公園で彼に見られた。そして昨日、アジトでも見られた。この国で旅人さんの人国情報や出国予定日、出国予定門とかは、誰でも電話で知ることができる」
「だからボク達は、報復で狙われるかもしれない」
「ええそう。『かもしれない』じゃないわ。昨日撃ったのは、“オマエは絶対に殺してやる”ってことよ。あなた達は危ないわ」
ライヤは断言して、スープを喉に流し込んだ。
キノはパンにジャムをつけてロへ運び.エルメスは言う。
「だから、休みを取った刑事さんが、出国まで一緒についてくるわけ?」
「昨日の爆発で警官が一人死んで、負傷者が多数出て……、あの分からず屋は骨折ですんだけれど、この捜査はもっと上の組織に移ったわ。もう普通にやっては――」
「あなたがあの男の人を、自分の手で捕まえられない」
キノが言った。ライヤが、鋭い目つきで頷く。
「そこまでする理由、聞いていいですか?」
キノがパンを平らげて、言いながらスープのカップを手に取った。スープカップをロに当てたキノと、ライヤの目が合った。
「…………」
ライヤは何も言わず.キノがスープを飲み始める。
飲み終えるまで待ってから、ライヤが口を開いた。
「簡単に言えば、知り合いだからよ」
「…………」「…………」
「まだ言うのね? 分かったわよ。――私と彼とは、同じ村で育った、よく知る人間。幼なじみ。貧しい農村で、よく一緒に遊んだわ。幼年学校を出るまではね」
キノは静かにお茶を飲み、エルメスはテーブルとしての役割を果たしながらやはり黙っている。
「私は家族で都市部に引っ越して、しばらく彼とは会っていなかった。だから、彼がブレーキの利かない爆弾魔になっていたって知った時は、私はもう警官でね、できれば――、いいえ、ぜったいに自分で捕まえたいと思ったのよ。このままだと、彼は射殺されるわ。答えになった?」
「はい。ありがとうございます」
キノが言って、でも、捕まったら死刑では? そうつけ足した。
ライヤはほんの少し嬉しそうに、にやっ、と笑った。
「この国に死刑制度はないわ。最高で人生五回の終身刑」
「捕まえることが生かしておく唯一の手段、つてことかー」
「そうよ。彼には、ご両親もいるわ。生きてさえいれば……、面会だってできる
。死んだ人がたくさんいて、その人達の遺族は彼に死んでほしいのも分かってる……。身勝手なのは重々承知しているわ……。でも、なんとしても、逮捕したいの」
「なるほと。分かりました。分かりましたけど……」
キノが言いよどんで、エルメスがかわりに、
「あんな乱暴で危険な男、簡単に捕まる?」
ライヤはすぐに、分からない、と答えた。
「分からないけど……、彼は私が警官だってことを知らないから」
「…………」
キノは無言。エルメスが、ふーんと答えた。
「で、今日の予定は? おじゃまでしょうけど、どこへでもついていくわ」
ライヤが聞いて、
「すぐに出国しますよ」
キノが答えた。
「どうする? キノ」
ライヤが自分の部屋に荷物をまとめに戻り、エルメスがすかさず小声で聞いた。
キノは数秒考え、それからエルメスを見る。
「本当に狙われているとしたら……、国内で面倒は起こしたくない、かな? 警察官がいれば、多少は問題を小さくできるかもしれない。何かあった時、一人よりは二人かもしれない。無事出国できればもちろん言うことはないけどね」
「分かった。でも、ほとんど囮だよ?」
キノが領く。
「分かってる。でも――」
「でも?」
「“常に油断はするな”ってことさ。相手は一人じゃないかもしれないし」
「?」
「だからってトラックなんてね。非道い話だ」
エルメスがぼやいた。
「そりゃまあ、モトラドで走っている時よりは、狙われた時にキノも対処はしやすいだろうけれどさ」
広い国の中、森と畑に挟まれた田舎道を、農業用の小型トラックが走っていた。土に汚れた荷台にはエルメスが乗せられて、ロープで固定されている。
左側の運転席には、ハイキングにでも行くようなラフなジャケットを着たライヤがいた。裾が長めで、腰のホルスターを隠している。左肘を、開けた窓枠に載せている。右側の助手席には、黒いジャケット姿のキノが座っていた。右手を、ドアの脇にある「カノン」のグリップに常に置いていた。
朝の空はきれいに晴れ、紅葉が映える。やや広めで、しかし交通量はまったくない道を、トラックは朝日を背に受けて、ゆっくりと走っていく。
「子どもの頃――」
ふいに、ライヤが口を開いた。
「私は彼とよく遊んだわ。あまり村に同世代の子供がいなかったからね」
「小さな村だったんですか?」
キノが聞いて、ライヤは少し驚いて、キノをちらりと見て、
「ええそうよ。お世辞にも豊かとは言えない土地ね。この国は広いから、いろいろな場所があるわ」
ライヤが前を向く。道は、左側に広がる森の塊に沿うように、左右にうねりながら進む。まだ城壁は見えない。
「それで、その当時に遊んでいたというのが……」
ライヤが、苦笑気味にふっと息を吐いた。
「?」
「皮肉なことに、オモチャのパースエイダーでの撃ち合い。当時人気があった、開拓時代の時代劇映画に夢中で、よくやったわ。コインを弾き上げて、落ちたら抜いて撃つってやつ」
「で、どっちが勝ったの?」
エルメスが、荷台から大声で聞いた。
「あら? 聞こえていたの? ……そうね、ほとんど――」
「勝ったの?」
「負けたわ。ほとんどじゃないわね。“全然”勝てなかった」
ライヤが答えて、とてもだめじゃん、とエルメスの声。
「悔しかったわ。何度も早く抜く練習をしたんだけど、駄目ね。コインが落ちてからの反応が、彼の方がずっと早かったのよ。警察学校で本物のパースエイダーを振ったとき、そのことばかり思い出して、必死に練習したわ」
「今は? 勝てる?」
エルメスが聞いて、
「分からないわ」
ライヤは答えた。
道の端に、小さな店があった。近くの村のための雑貨屋で、細い電線と電話線が繋がる。
だいぶ国の西端に近づき、森の木々の向こうに、城壁の先端が薄ぼんやりと見えた。
簡単な飲み物を左手に、止められたトラック脇で、キノが道を見ていた。一台も車は通らない。
やがてライヤが、店から小走りで戻ってきた。やや複雑な表情で、
「本部に間いたわ。まだ、彼は捕まっていないし、所在情報もない……」
「そうですか。でも、ボク達は後少しですよね」
キノが言った。ライヤが、キノに笑顔を向けて、
「無事出国して、その時は、私は別の方法を考える。――今のうちに言っておくわ。ありがとう」
キノが答える。
「どういたしまして。でも、まだ早いですよ」
雑貨店を後にして、道は狭くなり森の中へと入る。左右に広がる森がまき散らした落ち葉が散乱して、トラックが舞い立たせていく。
カープを一つ抜けた先で、
「ん?」
ライヤがスピードを落とす。道を半分占領して、トラクターが、一台止まっていた。湯気の立ち上るボンネットを開けていた。
「…………」
ライヤのハンドルを持つ手に、力がかかる。そしてすぐに、トラクターの裏から一人の男が出てきた。
「あ……。なんだ」
ライヤが息を吐く。それは、農作業用のオーバーオールを着た、髭を蓄えた老人だった。トラックを見つけて、大きく手を振った。
ライヤがトラックを近くに寄せて、窓から顔を出して叫ぶ。
「おじいさん。悪いけどどけて!通れないでしょ!」
それはないと言わんばかりに、老人が必死に手を振った。
「まったく」
ライヤは一度悪態をついて、トラックの駐車ブレーキをかけた。その瞬間、トラクター脇の老人の背後に男が現れて、老人を後ろから殴って昏倒させた。そしてすぐに、
「二人とも動くなよ!」
大声で叫んだ。それは一昨日、昨日と逃げおおせた爆弾魔の男で、上下黒い服を着て、右腰にはホルスターがあった。そして、
「動くと足下が吹っ飛ぶぞ!」
高くかかげる手には、トランシーバーのような物が握られ、細いアンテナが突き出していた。
「俺がボタンを押すか、これが地面に落ちるかすれば、トラックの下の爆薬が――、あんまり詳しく言わなくても分かるな? 俺を撃ちたきゃ撃てよ!」
男が怒鳴りながらトラックに近づいて、
「…………」
ライヤは右手をハンドルから腰にゆっくりと動かす。
その時、
「おりましょうか? まだ撃たなくても大丈夫ですよ。まずは話しかけてください」
キノが言った。ライヤは一瞬驚いてキノを見て、それから小さく頒いた。
トラックから二人がおりて、男は自信満々の笑みで近づく。しかし、
「お久しぶりね。トルス」
「!」
ライヤの言葉に顔色を変えて、その場に立ち止まった。キノとライヤと、道の真ん中で対峙する。叫ばなくても聞こえる距離だった。
「ライヤか……。コイツは驚いた……。なんで君がここにいる? なにやってんだ……?」
ライヤが、ゆっくりとジャケットの右裾を後ろに開く。ジーンズのベルトにつけられた、ホルスターと警察バッジ。
「まだ言ってなかったけど、私は警官になったの。今は、首都警察の刑事」
「…………」
男が絶句して、静寂の何秒間が過ぎる。
「信じられないな……。まあいいさ。用があるのは君じゃない」
そしてキノを睨み、
「そこの旅人。少しばかり言うことを聞いてもらおうか」
「嫌です」
キノが即答して、男の顔が歪む。右手とアンテナを揺らして、
「なあ? トラックごと吹っ飛びたいか?」
「ハッタリだよ。そんなのがあるわけない」
今度はエルメスが、荷台から言った。キノが引き継ぐ。
「あなたがボク達を狙うとしたら、理由は二つでしょう。一つは復讐で爆殺。そうする気なら、とっくにやっているでしょう。だから違う。もう一つは――」
ライヤが、キノを見た。
「エルメスを奪うこと。そしてボクになりすまして、国外に脱出する。あなたはエルメスがほしいんです。爆破するわけがありません。その発火装置も、偽物でしょう」
キノが淡々と言った。ライヤは呆然とキノを見て、男は顔を歪ませて笑う。そして彼は、手にしていた装置をぽいと投げ捨てた。
「あ……」
ライヤの凝視する前で、それは道路に落ちて、一度かしゃん、と跳ねた。
「へへっ、コイツは参ったな。じゃあなんで俺をさっさと撃たない? 腰のはお飾りか?」
「一応は国の中ですし、まだあなたは抜いてもいません。それに、昨夜のホテル代を出してくれた人に恩義を感じて」
「はあ?」
キノがライヤをちらりと見て、ライヤは頷いて一歩前へ出る。
「このまま、ちょっとお話ししましょうか? トルス」
「なんの用だ?」
「あなたを、たくさんあって言い切れないほどの容疑で、緊急逮捕します」
「はあ?」
「あなたを逮捕して、裁判を受けさせて、刑務所に入れる――」
「まっぴらごめんだ」
「あなたには、発見次第射殺の許可が出ているのよ、トルス。このままじゃ、あなたはいつか蜂の巣にされるわ」
「それでわざわざ旅人さんとご同行か? ……呆れたな」
男は心底呆れた様子を、やや大仰に表情に出した。ライヤが聞く。
「どう?」
「“どう?”って、この俺を、説得でもするつもりか?」
「そうね。どうかしら?」
「こんなこと知ってるか? どんな場所でも、どんな時代でも、最後の議論はいつだって暴力だ。お互い腰に重い物をぶら下げているんだ。それで決めるべきだろ? 君には恨みはないがな」
「そうね――。じゃあ、こう一竃うのはどう?」
そしてライヤは、今ここで二人で、コインが落ちた瞬間にパースエイダーを抜いて撃つ、その方法で決めることを提案した。
男は二秒黙り、三秒ほど何か言おうと口を動かし、それから笑い出した。
しばらく笑って、
「そりゃあいい! ははは、そりゃいい! 傑作だ! いいだろう! ――ところで、君は一度でも、俺に勝ったことがあったか?」
ライヤが言う。
「今だから言うけれどね、私、ずっとずっと、わざと負けていたのよ。あなたを傷つけちゃいけないと思って」
「そんな嘘で、俺がどうにかなるとでも思ったか?」
「あら。ほんとうよ。ごめんなさいね」
「すぐに分かるさ……」
ライヤはジャケットをゆっくりと脱いで、埃まみれになるのも構わずに道に捨てた。
「あなたを逮捕して、病院に連れていく。痛いのは我慢してね」
「君を倒して、俺は逃げるさ。今度は本物だ。死んでも恨むなよ」
紅葉の森の中。まるで映画のように道の真ん中で対峙する二人に、トラックの脇まで下がったキノ。
ライヤが、左のポケットからコインを一枚出した。
それを親指で、高く弾いた。二人の間で、回転しながら高く高く昇っていく。
男の目が、コインを追った。ライヤの目が、コインを追わなかった。
彼女の右手がホルスターに伸びて、リヴォルバーを抜いた。コインが昇りきった時、ライヤは撃った。驚き焦って抜こうとした男の鳩尾に命中し、彼は身をよじりながら倒れる。コインが乾いた音を立てて、地面に落ちた。
ライヤは素早く駆け寄って、男の右側に転がっているパースエイダーを蹴り飛ばした。
「て、テメエ……」
仰向けになった男が、ライヤを睨みながら呻いた。ライヤが両手で男を狙いながら答える。
「どうせ私と同じで、防弾チョッキを着ているんでしょう? 死にはしないわ。お腹、痛かったかしら? ごめんなさいね」
「やり方が汚ねえ……。卑怯者……」
「あなたに言われたくはないわ」
ライヤが平然と言い返した。男が痛みに耐えかねて気絶し、がくっと頭を落とした。
ライヤは振り向いて、キノに話しかける。
「旅人さん。ありがとう。もういいわ。話がややこしくなるまえに。城門はもうすぐよ」
「ええ、ボク達は出国します。エルメスを降ろしますよ。ところで――」
「ん?」
「城門についたら、警察に応援を呼びます。あなたが男を捕まえたって」
「…………。そうね、そうしてもらえると助かるわ」
「分かりました」
キノはそう言って、トラックに振り向いた。ライヤは視線を送ったまま、自分のリヴォルバーをキノに向けた。
森の中に、発砲音が響いた。
森と草原の道を、モトラドが走っていた。
「出し惜しみしなかったね、キノ」
「ん? ――ああ」
「全然油断してなかったのは分かったけど、最後はどうやって?」
「トラックのフロントガラス」
エルメスは、なるほとね、と小さく言った。
「正直言うとね、エルメス」
キノが言った。
「あの国は結構きれいだったから、もっとのんびりして、夕方出国しようかと思っていたんだ」
「それはそれは」
エルメスが言った。真昼の太陽が、天頂で輝いている。
「だから、刑事さんの誘いを断ってもよかった」
「じゃあ、なんでそうしなかったのさ? それに、最後もあんな刑事さんを試すようなことを言わないで、二人を放っておくこともできたじゃん」
エルメスの質問に、
「一つ目は、宿代と食事代が浮いたから。二つ目は、お茶の恨み」
キノが答えた。
草原に響く快調なエンジン音。エルメスはたっぷり数秒黙った後、
「“びんぼーしょー”をもうとっくにかなり通り越してるね。キノ」
かなり呆れた口調でそう言った。そして続ける。
「それ聞いたら、あの刑事さんはキノに絶対こうぎっと思うよ」
「ん? なんて?」
「“この卑怯者−”――って」
「あはは」
次の日。
その国の新聞全てに、一面大見だしの記事が載った。
それは、今まで国民を恐怖に陥れていた爆弾魔の男が逮捕されたニュースだった。
男は西城門そばの人気のない森で農夫に発見され、逮捕された。彼は防弾チョッキの上から腹を撃たれて、気を失って木に縛りつけられていた。これにより、多くの市民に安らかな日々が戻るであろう。
そして奇妙なことに、同じ場所で女性刑事が一人、やはり木に縛りつけられているのも発見された。調べの結果、彼女は彼の同郷で、彼の家族や村人の要望を受けて密かに匿おうとしていたことが判明。すぐさま逮捕された。警察では今回の不祥事に衝撃を受け、責任問題に発展することが必死と見られている。
ところで、彼女は男のものではない弾丸を防弾チョッキに受けていたが、誰がそれを行ったのか、今のところまったく判明していない。
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Special Booklet I
キノの旅
the Beaudful World
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著 時雨沢恵一
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発行 2003年7月25日
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発行所 株式会社メディアワークス
〒101-8305 東京都千代田区神田駿河台1-8
東京YWCA会館
電話03-5281−5213(編集)
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印刷所 図書印刷株式会社
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アートディレクション 鎌部善彦
NOT FOR SALE
EKElICHI SIGSAWA/Media Works 2003
Printed in Japan.
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