霊界物語 第二六巻 海洋万里 丑の巻
出口王仁三郎
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●テキスト中に現れる記号について
《》……ルビ
|……ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天地|剖判《ぼうはん》の
[#]……入力者注
【】……傍点が振られている文字列
(例)【ヒ】は火なり
●シフトJISコードに無い文字は他の文字に置き換え、そのことをWebサイトに「相違点」として記した。
●底本
『霊界物語 第二六巻』愛善世界社
1998(平成10)年06月19日 第一刷発行
※現代では差別的表現と見なされる箇所もあるが修正はせずにすべて底本通りにした。
※図表などのレイアウトは完全に再現できるわけではないので適宜変更した。
※詳細な凡例は次のウェブサイト内に掲載してある。
http://www.onisavulo.jp/
※作成者…『王仁三郎ドット・ジェイピー』
2005年11月18日作成
2008年06月23日修正
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●目次
|序歌《じよか》
|凡例《はんれい》
|総説歌《そうせつか》
第一篇 |伊都宝珠《いづほつしゆ》
第一章 |麻邇《まに》の|玉《たま》〔七六六〕
第二章 |真心《まごころ》の|花《はな》(一)〔七六七〕
第三章 |真心《まごころ》の|花《はな》(二)〔七六八〕
第四章 |真心《まごころ》の|花《はな》(三)〔七六九〕
第五章 |真心《まごころ》の|花《はな》(四)〔七七〇〕
第二篇 |蓮華台上《れんげだいじやう》
第六章 |大神宣《おほみのり》〔七七一〕
第七章 |鈴《すず》の|音《おと》〔七七二〕
第八章 |虎《とら》の|嘯《うそぶき》〔七七三〕
第九章 |生言霊《いくことたま》〔七七四〕
第三篇 |神都《しんと》の|秋《あき》
第一〇章 |船歌《ふなうた》〔七七五〕
第一一章 |言《ことば》の|波《なみ》〔七七六〕
第一二章 |秋《あき》の|色《いろ》〔七七七〕
第四篇 |波瀾重畳《はらんちようでふ》
第一三章 |三《み》つ|巴《どもゑ》〔七七八〕
第一四章 |大変歌《だいへんか》〔七七九〕
第一五章 |諭詩《さとし》の|歌《うた》〔七八〇〕
第一六章 |三五玉《さんごだま》〔七八一〕
第一七章 |帰《かへ》り|路《みち》〔七八二〕
|跋《ばつ》
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|序歌《じよか》
|雲霧《くもきり》|四方《よも》に|吹晴《ふきは》らし  |現《あら》はれ|給《たま》ふ|日《ひ》の|神《かみ》の
|御影《みかげ》|待《ま》ちつつ|竹下《たけした》|氏《し》  |写真《しやしん》|機械《きかい》を|装置《さうち》して
|手具脛《てぐすね》|引《ひ》いて|待《ま》つて|居《ゐ》る  |待《ま》ち|倦《あぐ》みたる|瑞月《ずゐげつ》が
|退屈《たいくつ》|紛《まぎ》れにスパスパと  |燻《くゆ》らす|敷島《しきしま》|二本《にほん》まで
|灰《はい》にしたれど|未《ま》だ|照《て》らぬ  |横《よこ》に|寝《ね》たまま|頬杖《ほほづゑ》を
つくづくレンズを|眺《なが》めつつ  |待《ま》つ|間《ま》の|長《なが》き|鶴《つる》の|首《くび》
|教主館《けうしゆやかた》の|奥《おく》の|間《ま》で  |痺《しび》れを|切《き》らし|待《ま》ち|倦《あぐ》む
|時《とき》しも|思《おも》はず|斯芸琉《しげる》|氏《し》が  パチンと|音《おと》をたてシヤツター
|用意《ようい》の|為《ため》に|今一度《いまいちど》  |写《うつ》して|見《み》ようと|二《ふた》つ|玉《だま》
|敷島《しきしま》|煙草《たばこ》が|又《また》|一《ひと》つ  |灰《はい》になるまでじらされる
|嗚呼《ああ》|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|此《この》|有様《ありさま》をハツキリと  カメラに|収《をさ》め|給《たま》へかし
|現幽神《げんいうしん》の|三界《さんかい》の  |第十巻《だいじつくわん》の|物語《ものがたり》
|口絵《くちゑ》の|種子《たね》を|造《つく》らむと  |心《こころ》|配《くば》るぞ|床《ゆか》しけれ
|朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも  |神《かみ》の|守《まも》りのある|限《かぎ》り
|写《うつ》らざらめや|此《この》|写真《しやしん》  |三角形《さんかくけい》のコンパスを
|眺《なが》めやりつつ|瑞月《ずゐげつ》が  |三《み》ツの|御霊《みたま》の|幸《さち》を|得《え》て
|言葉《ことば》を|写《うつ》す|筆《ふで》の|先《さき》  |頻《しき》りに|走《はし》らす|執筆《しつぴつ》の
|姿《すがた》を|写《うつ》す|竹下《たけした》|氏《し》  |曇《くも》りはてたる|現世《うつしよ》の
|教《のり》の|鏡《かがみ》と|教子《をしへご》が  |漏《も》れ|落《お》ちもなく|書《か》き|留《と》める
『|海洋万里《かいやうばんり》』|丑《うし》の|巻《まき》  |序歌《じよか》の|代《かは》りに|述《の》べておく
|此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|神直日《かむなほひ》  |心《こころ》も|広《ひろ》き|大直日《おほなほひ》
|只《ただ》|何事《なにごと》も|人《ひと》の|世《よ》は  |直日《なほひ》に|見直《みなほ》せ|聞直《ききなほ》せ
ハツキリ|写《うつ》らぬ|其《その》|時《とき》は  |神《かみ》の|仕組《しぐみ》の|宣《の》り|直《なほ》し
よく|見直《みなほ》せよ|諸人《もろびと》よ  |天津御空《あまつみそら》はモヤモヤと
まだ|霽《は》れやらぬ|五月空《さつきぞら》  |晴《は》れ|行《ゆ》く|時《とき》を|松村《まつむら》|氏《し》
|真澄《ますみ》の|空《そら》を|憧《あこが》れつ  |三人《みたり》の|筆者《ひつしや》と|向《む》き|合《あ》ひて
|晴《は》れよ|晴《は》れよと|気《き》をいらつ  |嗚呼《ああ》|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|今日《けふ》は|五月《ごぐわつ》の|十九日《じふくにち》  |月《つき》の|光《ひかり》も|宵暗《よひやみ》の
|明《あか》り|待《ま》つ|間《ま》のもどかしく  |根気《こんき》が|尽《つ》きて|口車《くちぐるま》
|待《まち》ぼけ|坂《ざか》に|留《とど》め|置《お》く。
大正十一年七月十三日 旧閏五月十九日   於竜宮館
|凡例《はんれい》
一、|本書《ほんしよ》は|殆《ほとん》どすべて|歌《うた》より|成《な》つてをります。|読者《どくしや》は|微妙《びめう》な|旋律《せんりつ》の|中《なか》に|巻《ま》き|込《こ》まれつつ|転迷開悟《てんめいかいご》の|誠《まこと》を|悟《さと》り|得《う》ることが|出来《でき》ませう。
一、|本書《ほんしよ》は『|海洋万里《かいやうばんり》』(|丑《うし》の|巻《まき》)ですが、『|霊界物語《れいかいものがたり》』として|数《かぞ》へる|時《とき》は、|第二十六巻《だいにじふろくくわん》に|相当《さうたう》します。
大正十二年五月   編者誌
|総説歌《そうせつか》
(一)
【ひ】の|神国《かみくに》の|中心地《ちうしんち》
【ふ】うふの|神《かみ》が|現《あら》はれて
【み】ろくの|神世《みよ》を|開《ひら》かむと
【よ】つ|尾《を》の|山《やま》の|山裾《やますそ》に
【い】つきの|神《かみ》の|口《くち》をかり
【む】かしの|神代《かみよ》の|有様《ありさま》を
【な】にから|何《なに》まで|説《と》き|諭《さと》し
【や】まと|魂《だましひ》の|養成《やうせい》に
【こ】ころを|尽《つく》し|身《み》をつくし
【と】きは|堅磐《かきは》の|言《こと》の|葉《は》を
|【百】《もも》の|神《かみ》|等《たち》|諸人《もろびと》に
|【千】《ち》から|限《かぎ》りに|宣《の》りたまふ
|【万】代《よろづよ》|変《かは》らぬ|神《かみ》の|愛《あい》
|嬉《うれ》しみ|悦《よろこ》び|奉《たてまつ》る。
【か】みが|表《おもて》に|現《あら》はれて
【む】かしの|神代《かみよ》に|立直《たてなほ》し
【な】らくの|底《そこ》に|落《お》ち|込《こ》みし
【が】き|畜生《ちくしやう》の|身魂《みたま》まで
【ら】く|土《ど》の|園《その》に|手《て》を|曳《ひ》きて
【た】すけむものと|三五《あななひ》の
【ま】こと|心《ごころ》を|振《ふ》り|起《おこ》し
【ち】しほ|吐《は》きつつ|雲霧《くもきり》を
【は】らはせ|給《たま》ふありがたさ
【へ】だてなき|世《よ》の|神《かみ》の|国《くに》
【ま】つの|五六七《みろく》のうまし|世《よ》を
【せ】かいに|照《て》らし|給《たま》ふこそ
|実《げ》に|尊《たふと》さの|極《きは》みなれ。
(二)
【か】みが|表《おもて》に|現《あら》はれて
【み】ろくの|神世《みよ》を|開《ひら》かむと
【か】らの|身魂《みたま》も|諸共《もろとも》に
【を】さめて|救《すく》ふ|神《かみ》の|国《くに》
【も】も|八十国《やそくに》の|果《はて》までも
【て】らす|霊界物語《れいかいものがたり》
【に】しや|東《ひがし》や|北《きた》|南《みなみ》
【あ】まつ|日嗣《ひつぎ》の|御稜威《みみいづ》に
【ら】く|土《ど》と|変《かは》る|四方《よも》の|国《くに》
【は】らし|助《たす》くる|皇神《すめかみ》は
【れ】ん|華台上《げだいじやう》に|鎮《しづ》まりて
【て】ん|地《ち》を|清《きよ》め|世《よ》を|浄《きよ》め
【せ】かい|一度《いちど》にかむばしく
【む】めの|莟《つぼみ》のここかしこ
【と】えうの|紋《もん》の|忽《たちま》ちに
【あ】らはれ|出《い》でて|開《ひら》くなる
【く】に|常立《とこたち》の|大御神《おほみかみ》
【と】きは|堅磐《かきは》に|五六七《みろく》の|世《よ》
【を】さめ|給《たま》ふぞ|有難《ありがた》き
【た】か|天原《あまはら》に|隈《くま》もなく
【て】り|輝《かがや》きし|御光《みひかり》に
【わ】が|身《み》の|雲《くも》を|晴《は》らしつつ
【け】しき|卑《いや》しき|心鏡《しんきやう》を
【る】り|光如来《くわうによらい》に|研《みが》かれて
【こ】こにいよいよ|神《かみ》の|道《みち》
【の】どかに|進《すす》む|春《はる》の|空《そら》
【よ】は|紫陽花《あぢさい》の|七変化《ななかはり》
【お】にも|悪魔《あくま》も|忽《たちま》ちに
【つ】きの|光《ひかり》に|照《て》らされて
【く】に|常立《とこたち》や|豊雲野《とよくもぬ》の
【り】やう|神魂《かむみたま》に|神習《かむなら》ひ
【し】|仁至愛《じんしあい》の|魂《たま》となり
【か】みの|教《をしへ》に|叶《かな》ひつつ
【む】つび|親《した》しみ|五六七《みろく》の|世《よ》
【な】が|鳴鳥《なきどり》の|鳴《な》き|初《そ》めて
【ほ】のかに|開《ひら》く|岩戸口《いはとぐち》
【ひ】の|大神《おほかみ》は|美《うる》はしく
【こ】ころの|儘《まま》に|出《い》でまして
【こ】こに|岩戸《いはと》は|開《あ》けにける
【ろ】|西亜《しあ》|亜弗利加《あふりか》|大洋洲《たいやうしう》
【も】ろこし|山《やま》の|果《はて》までも
【ひ】かり|輝《かがや》く|神《かみ》の|国《くに》
【ろ】く|地《ち》は|水《みづ》に|包《つつ》まれて
【き】たなき|曲津《まがつ》の|影《かげ》もなく
【を】さまり|居《ゐ》たる|磯輪垣《しわがき》の
【ほ】|妻《づま》の|国《くに》もいつしかに
【な】みを|渡《わた》りて|進《すす》み|来《こ》し
【ほ】とけの|教《のり》を|誤解《ごかい》して
【ひ】に|夜《よ》に|汚《けが》れし|現世《うつしよ》を
【た】て|直《なほ》さむと|現《あら》はれし
【た】てと|緯《よこ》との|二柱《ふたはしら》
【な】みに|漂《ただよ》ふ|民草《たみぐさ》を
【に】|本《ほん》の|元《もと》の|大神《おほかみ》の
【こ】ころの|儘《まま》に|救《すく》ひ|上《あ》げ
【と】しも|豊《ゆたか》に|賑《にぎは》ひつ
【も】も|千万《ちよろづ》の|神《かみ》|等《たち》に
【ひ】かれて|遊《あそ》ぶパラダイス
【と】みたる|人《ひと》も|貧《まづ》しきも
【の】どかな|園《その》に|睦《むつ》び|合《あ》ひ
【よ】しとあしとの|岩垣《いはがき》を
【は】らして|暮《くら》す|神《かみ》の|御世《みよ》
【な】がき|命《いのち》を|保《たも》ちつつ
【ほ】まれ|目出度《めでた》き|神人《しんじん》の
【ひ】かり|天地《てんち》にさえ|渡《わた》る
【に】しきの|機《はた》の|御仕組《おんしぐみ》
【み】づの|御魂《みたま》や|厳御魂《いづみたま》
【な】らびて|爰《ここ》に|現世《うつしよ》に
【ほ】ろびを|救《すく》ひ|助《たす》けむと
【せ】き|込《こ》み|給《たま》ふ|大御声《おほみこゑ》
【き】く|人《ひと》さへもあら|風《かぜ》や
【き】ぎのもまるる|有様《ありさま》は
【な】みなみならぬ|風情《ふぜい》なり
【ほ】|妻《づま》の|国《くに》と|謳《うた》はれて
【せ】|界《かい》に|轟《とどろ》く|葦原《あしはら》の
【み】づほの|国《くに》の|民草《たみぐさ》よ
【の】にも|山《やま》にも|神《かみ》の|徳《とく》
【あ】きの|稔《みのり》のいちじるく
【や】|百頴千頴《ほかいちかい》の|稲《いね》の|波《なみ》
【ま】もり|給《たま》へる|尊《たふと》さよ
【ち】しほに|染《そ》むる|紅葉《もみぢば》や
【は】ちすの|花《はな》のいと|清《きよ》く
【の】|山《やま》に|沼《ぬま》にさえ|渡《わた》る
【り】うりう|昇《のぼ》る|旭光《きよくくわう》に
【な】らひて|照《て》らす|神《かみ》の|道《みち》
【ほ】づまの|国《くに》の|精神《せいしん》を
【せ】かいの|果《はて》まで|輝《かがや》かし
|五六七《みろく》の|神世《みよ》を|楽《たのし》まむ。
大正十一年七月十三日 旧閏五月十九日   於竜宮館
第一篇 |伊都宝珠《いづほつしゆ》
第一章 |麻邇《まに》の|玉《たま》〔七六六〕
|三千世界《さんぜんせかい》の|梅《うめ》の|花《はな》  |一度《いちど》に|開《ひら》く|五大洲《ごだいしう》
|豊葦原《とよあしはら》の|瑞穂国《みづほくに》  |中《なか》にも|分《わ》けて|神恩《しんおん》の
|恵《めぐ》み|洽《あまね》き|中津国《なかつくに》  メソポタミヤの|楽園《らくゑん》と
|並《なら》びて|清《きよ》き|自転倒《おのころ》の  |大和島根《やまとしまね》は|磯輪垣《しわがき》の
|秀妻国《ほづまのくに》と|称《たた》へられ  |七五三《しちごさん》の|波《なみ》|清《きよ》く
|風《かぜ》|穏《おだや》かな|神守《かむもり》の  |島《しま》に|名高《なだか》き|真秀良場《まほらば》や
|青垣山《あをがきやま》を|繞《めぐ》らせる  |霊山会場《れいざんゑぢやう》の|蓮華台《れんげだい》
|此《この》|世《よ》を|清《きよ》むる|三《み》つ|御魂《みたま》  |四尾《よつを》の|峰《みね》の|山麓《さんろく》に
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》は  |厳《いづ》の|御霊《みたま》を|分《わ》け|給《たま》ひ
|国武彦《くにたけひこ》と|現《あら》はれて  |五六七《みろく》の|神世《みよ》の|来《きた》る|迄《まで》
|無限《むげん》の|力《ちから》を|隠《かく》しつつ  |花《はな》|咲《さ》く|春《はる》を|松《まつ》の|世《よ》の
|磯《いしずゑ》|固《かた》く|築《つ》きかため  |空《そら》|澄《す》み|渡《わた》る|玉照彦《たまてるひこ》の
|神《かみ》の|命《みこと》や|玉照姫《たまてるひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》を|日月《じつげつ》の
|神《かみ》の|使《つかひ》になぞらへて  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の  |稀代《きだい》の|宝玉《はうぎよく》|集《あつ》めまし
|豊国主《とよくにぬし》の|分霊《わけみたま》  |言霊別《ことたまわけ》の|魂《たま》の|裔《すゑ》
|言依別《ことよりわけ》を|教主《けうしゆ》とし  |錦《にしき》の|宮《みや》に|千木《ちぎ》|高《たか》く
|下津岩根《したついはね》に|宮柱《みやばしら》  |太知《ふとし》り|建《た》てて|伊都能売《いづのめ》の
|幽玄微妙《いうげんびめう》の|神策《しんさく》を  |仕組《しぐ》み|給《たま》ひし|雄々《をを》しさよ
|言依別《ことよりわけ》や|玉能姫《たまのひめ》  |初稚姫《はつわかひめ》の|三《み》つ|御魂《みたま》
ひそかに|神《かみ》の|宣勅《みことのり》  |頸《うなじ》に|受《う》けて|永久《とこしへ》に
|玉《たま》の|在処《ありか》を|秘《ひ》めかくし  |三《み》つの|御玉《みたま》の|出現《しゆつげん》を
|遠《とほ》き|未来《みらい》に|待《ま》ち|給《たま》ふ  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の
|深遠微妙《しんゑんびめう》の|御経綸《ごけいりん》  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|竜宮《りうぐう》の
|宝《たから》の|島《しま》に|遣《つか》はして  |黄竜姫《わうりようひめ》を|楯《たて》となし
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |青赤白黄紫《あをあかしろきむらさき》の
|五《いつ》つの|玉《たま》を|諏訪湖《すはうみ》の  |玉依姫《たまよりひめ》の|御手《おんて》より
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |玉治別《たまはるわけ》を|始《はじ》めとし
|久助《きうすけ》お|民《たみ》の|五《い》つ|身魂《みたま》  |研《みが》き|澄《す》まして|水晶《すゐしやう》の
|輝《かがや》き|渡《わた》る|宝玉《ほうぎよく》を  |授《さづ》け|給《たま》へば|五柱《いつはしら》
|心《こころ》を|清《きよ》め|身《み》を|浄《きよ》め  |押戴《おしいただ》いて|梅子姫《うめこひめ》
|黄竜姫《わうりようひめ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》  テールス|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》の
|研《みが》き|澄《す》ました|神司《かむづかさ》  |無言《むごん》の|儘《まま》に|手《て》に|渡《わた》し
|玉依姫《たまよりひめ》の|御前《おんまへ》を  しづしづ|立《た》ちて|三《み》つの|門《もん》
くぐりて|帰《かへ》る|諏訪湖《すはうみ》の  |金波《きんぱ》|漂《ただよ》ふ|磯端《いそばた》に
|帰《かへ》りて|湖面《こめん》に|合掌《がつしやう》し  |感謝《かんしや》の|折柄《をりから》|中空《ちうくう》を
|照《て》らして|下《くだ》る|八咫烏《やあたがらす》  |黄金《こがね》の|翼《つばさ》を|打拡《うちひろ》げ
|十曜《とえう》の|紋《もん》の|十人連《とたりづれ》  |背《せな》に|乗《の》せつつ|久方《ひさかた》の
|天津御空《あまつみそら》を|勇《いさ》ましく  |雲霧《くもきり》|分《わ》けて|下《くだ》り|来《く》る
|自転倒島《おのころじま》の|中心地《ちうしんち》  |綾《あや》の|高天《たかま》の|空《そら》|近《ちか》く
|帰《かへ》り|来《きた》るぞ|目出度《めでた》けれ  |言依別《ことよりわけ》は|神界《しんかい》の
|知《し》らせに|依《よ》りて|杢助《もくすけ》や  |其《その》|他《た》|数多《あまた》の|神司《かむづかさ》
|八尋《やひろ》の|殿《との》に|招《まね》き|寄《よ》せ  |五《いつ》つの|玉《たま》の|中空《ちうくう》を
|翔《かけ》りて|下《くだ》る|瑞祥《ずゐしやう》を  |祝《ことほ》ぎ|奉《まつ》り|歓迎《くわんげい》の
|準備《じゆんび》をなさむと|遠近《をちこち》に  |派遣《はけん》し|置《お》きたる|神司《かむづかさ》
|使《つかひ》を|馳《は》せて|一所《ひととこ》に  |集《あつ》めて|事《こと》の|詳細《しやうさい》を
|包《つつ》み|隠《かく》さず|示《しめ》しける  |一《ひと》つ|島《じま》より|中空《ちうくう》を
|掠《かす》めて|聖地《せいち》に|降《くだ》り|来《く》る  |十《たり》の|身魂《みたま》を|迎《むか》へむと
|数多《あまた》の|人々《ひとびと》|引《ひ》きつれて  |由良《ゆら》の|港《みなと》へすくすくと
|列《れつ》を|正《ただ》して|出《い》で|向《むか》ふ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|言依別命《ことよりわけのみこと》は|杢助《もくすけ》を|始《はじ》め、|音彦《おとひこ》、|国依別《くによりわけ》、|秋彦《あきひこ》、|波留彦《はるひこ》、|佐田彦《さだひこ》、|夏彦《なつひこ》、|常彦《つねひこ》|其《その》|他《た》の|面々《めんめん》を|引《ひ》きつれ、|東助《とうすけ》に|留守《るす》を|頼《たの》み、|聖地《せいち》を|立《た》つて|舟《ふね》に|乗《の》り、|由良川《ゆらがは》を|下《くだ》りて|由良《ゆら》の|港《みなと》の|秋山別《あきやまわけ》が|館《やかた》に|立向《たちむか》ひ、|梅子姫《うめこひめ》|一行《いつかう》の|八咫烏《やあたがらす》に|乗《の》りて|帰《かへ》り|来《きた》るを|待受《まちう》ける|事《こと》となつた。
|八咫烏《やあたがらす》は|梅子姫《うめこひめ》、|初稚姫《はつわかひめ》、|玉能姫《たまのひめ》、|玉治別《たまはるわけ》、|黄竜姫《わうりようひめ》、|蜈蚣姫《むかでひめ》、|友彦《ともひこ》、テールス|姫《ひめ》、|久助《きうすけ》、お|民《たみ》といふ|順《じゆん》に、|秋山彦《あきやまひこ》の|館《やかた》に|羽撃《はばた》き|勇《いさ》ましく、|広《ひろ》き|庭前《ていぜん》に|降《くだ》つて|来《き》た。|歓呼《くわんこ》|拍手《はくしゆ》の|声《こゑ》は|天地《てんち》も|揺《ゆる》ぐ|許《ばか》りであつた。|館《やかた》の|主人《あるじ》|秋山彦《あきやまひこ》、|紅葉姫《もみじひめ》は|恭《うやうや》しく|無言《むごん》の|儘《まま》|目礼《もくれい》しながら、|言依別命《ことよりわけのみこと》を|先頭《せんとう》に、|杢助《もくすけ》|以下《いか》の|神司《かむづかさ》と|共《とも》に、|梅子姫《うめこひめ》の|一行《いつかう》を|奥《おく》の|間《ま》に|案内《あんない》し、|一同《いちどう》の|労苦《らうく》を|謝《しや》した。|予《かね》て|用意《ようい》の|五個《ごこ》の|柳筥《やなぎばこ》に、|一々《いちいち》|玉《たま》を|納《をさ》められ、|神前《しんぜん》に|安置《あんち》され、|一同《いちどう》|打揃《うちそろ》うて|感謝《かんしや》|祈願《きぐわん》の|祝詞《のりと》を|奏上《そうじやう》し、|終《をは》つて|直会《なほらひ》の|宴《えん》は|開《ひら》かれた。|次《つぎ》の|間《ま》より|襖《からかみ》|押《お》し|開《あ》け、しづしづと、|五十子姫《いそこひめ》を|先頭《せんとう》に|立《た》て、|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》、|国武彦命《くにたけひこのみこと》と|共《とも》に|一同《いちどう》の|前《まへ》に|現《あら》はれ|給《たま》ひ、|愈《いよいよ》|神政成就《しんせいじやうじゆ》の|基礎《きそ》|確立《かくりつ》せる|事《こと》を|喜《よろこ》び|給《たま》ひ、|且《か》つ|一同《いちどう》の|至誠《しせい》|至実《しじつ》の|活動《くわつどう》を|感賞《かんしやう》し|給《たま》ひ、|別室《べつま》に|於《おい》てゆるゆる|休息《きうそく》せよと|宣示《せんじ》し、|又《また》もや|一間《ひとま》の|内《うち》に|姿《すがた》を|隠《かく》し|給《たま》うた。|言依別命《ことよりわけのみこと》、|秋山彦《あきやまひこ》|夫婦《ふうふ》は|後《あと》に|残《のこ》り、|一同《いちどう》は|別館《べつくわん》に|於《おい》て|再《ふたた》び|慰労《ゐらう》の|宴《えん》に|列《れつ》し、|歓声《くわんせい》|湧《わ》くが|如《ごと》く|四辺《あたり》に|聞《きこ》えて|来《き》た。
|素盞嗚尊《すさのをのみこと》は|四辺《あたり》に|人《ひと》|無《な》きを|見《み》すまし、|国武彦命《くにたけひこのみこと》と|何事《なにごと》か|諜《しめ》し|合《あは》せ|給《たま》ひ、|五十子姫《いそこひめ》を|此《この》|場《ば》に|招《まね》き、|無言《むごん》の|儘《まま》、|言依別《ことよりわけ》、|秋山彦《あきやまひこ》、|紅葉姫《もみぢひめ》と|共《とも》に、|柳筥《やなぎばこ》を|次《つぎ》の|間《ま》に|運《はこ》ばせ、|更《あらた》めて|同《おな》じ|形《かたち》の|柳筥《やなぎばこ》を|元《もと》の|神前《しんぜん》に|飾《かざ》らせ|給《たま》うた。
|此《この》|御経綸《ごけいりん》は|国武彦命《くにたけひこのみこと》を|始《はじ》め|梅子姫《うめこひめ》、|五十子姫《いそこひめ》、|言依別命《ことよりわけのみこと》、|秋山彦《あきやまひこ》|夫婦《ふうふ》より|外《ほか》に|絶対《ぜつたい》に|知《し》る|者《もの》はなかつたのである。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 松村真澄録)
第二章 |真心《まごころ》の|花《はな》(一)〔七六七〕
|天火水地結《てんくわすゐちむすび》の|竜宮《りうぐう》の|麻邇《まに》の|玉《たま》の|無事《ぶじ》、|秋山彦館《あきやまひこやかた》に|安着《あんちやく》せし|歓喜《よろこび》と、|感謝《かんしや》を|兼《か》ねたる|荘厳《さうごん》なる|祭典《さいてん》は|無事《ぶじ》|終了《しうれう》し、|直会《なほらひ》の|宴《えん》は|盛《さかん》に|開《ひら》かれ、いよいよ|五個《ごこ》の|神宝《しんぽう》は|聖地《せいち》を|指《さ》して|賑々《にぎにぎ》しく|由良川《ゆらがは》を|遡《さかのぼ》り|送《おく》らるる|事《こと》となつた。それに|就《つい》ては|一同《いちどう》|由良《ゆら》の|港《みなと》の|川口《かはぐち》に|出《で》て|御禊祓《みそぎはらひ》を|修《しう》し、|再《ふたた》び|神前《しんぜん》に|立帰《たちかへ》り|祭典《さいてん》を|行《おこな》ひ、|美《うる》はしき|神輿《みこし》を|造《つく》り、これに|納《をさ》めて|聖地《せいち》へ、|水《みづ》に|逆《さか》らひ、|金銀色《きんぎんしよく》の|帆《ほ》に|風《かぜ》を|孕《はら》ませ|上《のぼ》る|事《こと》となつた。
|茲《ここ》に|一同《いちどう》は|玉《たま》の|安着《あんちやく》を|祝《しゆく》する|為《ため》、|各《おのおの》|立《た》つて|歌《うた》をうたひ|舞《ま》ふ|事《こと》となつた。|先《ま》づ|第一《だいいち》に|秋山彦《あきやまひこ》は|立《た》つて、|神素盞嗚尊《かむすさのをのみこと》、|国武彦命《くにたけひこのみこと》に|一礼《いちれい》し、|許可《ゆるし》をえて、|金扇《きんせん》を|両手《りやうて》に|拡《ひろ》げ、|宣伝使服《せんでんしふく》を|身《み》に|纏《まと》ひ、|悠々《いういう》として|座敷《ざしき》の|中央《ちうあう》に|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ|始《はじ》めた。
『|年《とし》てふ|年《とし》は|多《おほ》けれど  |月《つき》てふ|月《つき》は|多《おほ》けれど
|生日足日《いくひたるひ》は|沢《さは》なれど  |今日《けふ》は|如何《いか》なる|吉日《よきひ》ぞや
|九月《くぐわつ》|八日《やうか》の|秋《あき》の|空《そら》  |四方《よも》の|山々《やまやま》|紅葉《もみぢ》して
|錦《にしき》|織《お》りなす|佐保姫《さほひめ》の  |機《はた》の|仕組《しぐみ》も|目《ま》のあたり
|綾《あや》の|高天《たかま》に|宮柱《みやはしら》  |太《ふと》しり|建《た》てて|永久《とこしへ》に
|鎮《しづ》まりいます|国治立《くにはるたち》の  |厳《いづ》の|命《みこと》や|豊国姫《とよくにひめ》の
|瑞《みづ》の|命《みこと》の|生御魂《いくみたま》  |国武彦《くにたけひこ》や|言依別《ことよりわけ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》と|現《あら》はれて  |裏《うら》と|表《おもて》の|神界《しんかい》の
|仕組《しぐみ》も|茲《ここ》に|仄《ほの》|見《み》えて  |天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる
|竜宮島《りうぐうじま》の|麻邇《まに》の|玉《たま》  |己《おの》が|館《やかた》に|入《い》りましぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|一度《ひとたび》ならずも|二度《ふたたび》も  |三《み》つの|御霊《みたま》の|神柱《かむばしら》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |大御恵《おほみめぐみ》のいや|深《ふか》く
|吾《わが》|館《や》にとまりましまして  |深遠《しんゑん》|無量《むりやう》の|御経綸《ごけいりん》
|心《こころ》の|色《いろ》は|紅葉姫《もみぢひめ》  |唐紅《からくれなゐ》の|大和魂《やまとだま》
|輝《かがや》き|初《そ》めし|今日《けふ》の|空《そら》  あゝ|有難《ありがた》し|有難《ありがた》し
|恵《めぐみ》は|深《ふか》き|由良《ゆら》の|海《うみ》  |清《きよ》き|流《なが》れの|川口《かはぐち》に
|百《もも》の|罪咎《つみとが》|浄《きよ》めつつ  |貴《うづ》の|玉筥《たまばこ》いや|清《きよ》く
|五《い》つの|御玉《みたま》を|納《をさ》めたる  |新《さら》つの|御船《みふね》に|身《み》を|任《まか》せ
|心《こころ》も|涼《すず》しき|神風《かみかぜ》に  |黄金《わうごん》の|真帆《まほ》を|掲《かか》げつつ
|聖地《せいち》に|送《おく》る|尊《たふと》さよ  |三千世界《さんぜんせかい》の|梅《うめ》の|花《はな》
|一度《いちど》に|開《ひら》く|常磐木《ときはぎ》の  |松《まつ》の|神世《かみよ》も|近《ちか》づきて
|海《うみ》の|内外《うちと》の|極《きは》みなく  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|御恵《みめぐみ》の
|堅磐常磐《かきはときは》に|照《て》り|渡《わた》る  |瑞祥《しるし》は|思《おも》ひ|知《し》られけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|波斯《フサ》の|国《くに》より|遥々《はるばる》と  |降《くだ》り|来《き》ませる|素盞嗚《すさのを》の
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|大御神《おほみかみ》  |四尾《よつを》の|山《やま》に|奥《おく》|深《ふか》く
|隠《かく》れて|時《とき》を|待《ま》ち|給《たま》ふ  |国武彦《くにたけひこ》の|御前《おんまへ》に
|心《こころ》の|幕《まく》も|秋山彦《あきやまひこ》の  |賤《しづ》の|男《をのこ》が|真心《まごころ》を
こめて|祝《ことほ》ぎ|奉《たてまつ》る  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
|紅葉姫《もみぢひめ》は|又《また》もや|立上《たちあが》り、
『|月日《つきひ》の|駒《こま》はいと|早《はや》く  |思《おも》ひ|返《かへ》せば|満三年《まるみとせ》
|辛酉《かのとのとり》の|菊月《きくづき》の  |八日《やうか》に|吾《わが》|館《や》に|出《い》でましし
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |尊《たふと》き|御影《みかげ》を|拝《はい》してゆ
|心《こころ》も|赤《あか》き|紅葉姫《もみぢひめ》  |誠《まこと》の|限《かぎ》り|身《み》を|尽《つく》し
|仕《つか》へ|奉《まつ》りし|甲斐《かひ》ありて  |天地《てんち》に|充《み》つる|喜《よろこ》びは
|又《また》もや|廻《めぐ》り|甲子《きのえね》の  |九月《くぐわつ》|八日《やうか》の|今日《けふ》の|空《そら》
|嬉《うれ》しき|便《たよ》り|菊月《きくづき》の  |薫《かを》り|床《ゆか》しき|此《この》|祭典《まつり》
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |古《ふる》き|神代《かみよ》の|昔《むかし》より
|波《なみ》に|漂《ただよ》ふ|沓島《くつじま》の  |巌《いはほ》の|中《なか》に|秘《ひ》めおける
|神秘《しんぴ》の|鍵《かぎ》を|預《あづか》りし  |秋山彦《あきやまひこ》の|表口《おもてぐち》
|黄金《こがね》の|鍵《かぎ》を|高姫《たかひめ》に  まんまと|盗《ぬす》み|出《いだ》されて
|一同《いちどう》|心《こころ》を|焦《いら》ちしが  |漸《やうや》く|島《しま》に|馳《は》せついて
|危《あやふ》き|所《ところ》を|発見《はつけん》し  |高姫《たかひめ》さまを|伴《ともな》ひて
|吾《わが》|館《や》に|帰《かへ》り|来《きた》る|折《をり》  |忽《たちま》ち|腹《はら》に|呑《の》み|込《こ》みて
|雲《くも》を|霞《かすみ》と|逃《に》げられし  |其《その》|古事《ふるごと》を|思《おも》ひ|出《だ》し
|又《また》もや|麻邇《まに》の|此《この》|宝珠《ほつしゆ》  |無事《ぶじ》に|聖地《せいち》に|御安着《ごあんちやく》
|遊《あそ》ばす|迄《まで》は|村肝《むらきも》の  |心《こころ》を|配《くば》り|気《き》をくばり
|送《おく》らせ|給《たま》へよ|人々《ひとびと》よ  |朝《あさ》な|夕《ゆふ》なに|高姫《たかひめ》が
|玉《たま》に|心《こころ》を|抜《ぬ》かれつつ  |隙《ひま》ゆく|駒《こま》の|隙《すき》あらば
|又《また》もや|腹《はら》に|呑《の》み|込《こ》みて  |如何《いか》なる|事《こと》を|仕出《しで》かすか
|計《はか》り|知《し》られぬ|一大事《いちだいじ》  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》が
|天地《てんち》を|救《すく》ひ|助《たす》けむと  |配《くば》らせ|給《たま》ふ|真心《まごころ》を
よく|汲《く》み|取《と》りて|仕《つか》へませ  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|玉治別《たまはるわけ》や|其《その》|外《ほか》の  |百《もも》の|司《つかさ》の|御前《おんまへ》に
|紅葉《もみぢ》の|姫《ひめ》が|老婆心《らうばしん》  |僅《わづか》に|披瀝《ひれき》し|奉《たてまつ》る
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》り|舞《ま》ひ|納《をさ》めた。|初稚姫《はつわかひめ》は|又《また》もや|立《た》ちあがつて|金扇《きんせん》を|拡《ひろ》げ、|歌《うた》ひ|且《かつ》|自《みづか》ら|舞《ま》ふ。
『|遠《とほ》き|神代《かみよ》の|其《その》|昔《むかし》  |日《ひ》の|大神《おほかみ》の|御水火《みいき》より
|生《あ》れ|出《い》でませる|稚姫君《わかひめぎみ》の  |神《かみ》の|命《みこと》は|天《あめ》が|下《した》
|四方《よも》の|国々《くにぐに》|安国《やすくに》と  いと|平《たひら》けく|治《をさ》めむと
|心《こころ》を|尽《つく》し|身《み》を|尽《つく》し  |神《かみ》の|御業《みわざ》に|朝夕《あさゆふ》に
|仕《つか》へ|給《たま》ひし|折《をり》もあれ  |八十《やそ》の|曲津《まがつ》の|醜魂《しこだま》に
|取《と》り|挫《ひし》がれて|妹《いも》と|背《せ》の  |道《みち》を|誤《あやま》り|大神《おほかみ》の
|御教《みのり》に|触《ふ》れて|底《そこ》の|国《くに》  |身魂《みたま》を|隠《かく》し|給《たま》ひつつ
|天《てん》より|高《たか》く|咲《さ》く|花《はな》も  |地獄《ぢごく》の|釜《かま》のこげ|起《おこ》し
|百《もも》の|悩《なや》みを|身《み》に|受《う》けて  いよいよ|心《こころ》を|立直《たてなほ》し
|時《とき》を|待《ま》ちつつ|時置師《ときおかし》の  |神《かみ》の|化身《けしん》の|杢助《もくすけ》が
|妻《つま》のお|杉《すぎ》が|腹《はら》を|借《か》り  |初稚姫《はつわかひめ》と|現《あら》はれて
|国武彦《くにたけひこ》と|現《あ》れませる  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の
|尊《たふと》き|神業《みわざ》に|仕《つか》へむと  |心《こころ》を|配《くば》る|幼年《いたいけ》の
|年端《としは》も|行《ゆ》かぬ|身《み》ながらも  |言依別命《ことよりわけのみこと》より
|尊《たふと》き|神業《みわざ》|命《めい》ぜられ  |三千世界《さんぜんせかい》の|神宝《かむだから》
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |千代《ちよ》に|八千代《やちよ》に|永久《とこしへ》に
|動《うご》かぬ|松《まつ》の|幹《みき》の|根《ね》に  |隠《かく》し|奉《まつ》りて|開《あ》け|渡《わた》る
|天《あま》の|岩戸《いはと》も|五六七《みろく》の|世《よ》  |開《ひら》かむ|為《ため》の|御経綸《おんしぐみ》
|深《ふか》き|心《こころ》を|白浪《しらなみ》の  |高姫司《たかひめつかさ》や|黒姫《くろひめ》が
|玉《たま》の|在処《ありか》を|探《さぐ》らむと  |現界《このよ》|幽界《あのよ》の|瀬戸《せと》の|海《うみ》
|太平洋《たいへいやう》の|荒浪《あらなみ》を  |乗《の》り|越《こ》え|乗《の》り|越《こ》え|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つの|島《しま》に|上陸《じやうりく》し  |隠《かく》せし|場所《ばしよ》を|探《さぐ》らむと
|焦《いら》ち|給《たま》ふぞ|悲《かな》しけれ  |玉治別《たまはるわけ》や|玉能姫《たまのひめ》
|神《かみ》の|司《つかさ》と|諸共《もろとも》に  |高姫《たかひめ》さまを|気遣《きづか》ひて
|荒浪《あらなみ》|猛《たけ》る|海原《うなばら》を  |見《み》えつ|隠《かく》れつ|漕《こ》ぎ|渡《わた》り
|御身《おんみ》の|上《うへ》を|守《まも》りつつ  |妾《わらは》も|同《おな》じ|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つの|島《しま》へ|上陸《じやうりく》し  |人跡《じんせき》|絶《た》えし|荒野原《あらのはら》
|山《やま》を|踏《ふ》み|越《こ》え|谷《たに》|渉《わた》り  |黄金《こがね》の|波《なみ》を|湛《たた》へたる
|玉依姫《たまよりひめ》の|隠《かく》れ|場所《ばしよ》  |諏訪《すは》の|湖水《こすゐ》に|辿《たど》り|着《つ》き
|神《かみ》の|御旨《みむね》をあななひて  |三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》を
|彼方《あなた》|此方《こなた》と|布《し》き|拡《ひろ》め  |弘《ひろ》め|終《をは》つて|八咫烏《やあたがらす》
|黄金《こがね》の|翼《つばさ》に|乗《の》せられて  |朝日《あさひ》|輝《かがや》き|夕日《ゆふひ》|照《て》る
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》にいまします  |玉依姫命《たまよりひめのみこと》より
|天火水地《てんくわすゐち》を|統《す》べ|結《むす》ぶ  |紫色《むらさきいろ》の|麻邇《まに》の|玉《たま》
|無言《むごん》の|儘《まま》に|拝受《はいじゆ》して  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》の|御前《おんまへ》に
|捧《ささ》げ|奉《まつ》りし|嬉《うれ》しさよ  |仰《あふ》げば|高《たか》し|天《あま》の|原《はら》
|雲霧《くもきり》|分《わ》けて|自転倒島《おのころじま》の  |秀妻《ほづま》の|国《くに》の|中心地《ちうしんち》
|外《そと》の|囲《かこ》ひと|聞《きこ》えたる  |由良《ゆら》の|港《みなと》の|人子《ひとご》の|司《つかさ》
|秋山彦《あきやまひこ》が|御館《おんやかた》  |降《くだ》り|来《きた》りし|嬉《うれ》しさよ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|十曜《とえう》の|紋《もん》の|十人連《とたりづ》れ  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》りし|嬉《うれ》しさを  |吾等《われら》|一人《ひとり》の|物《もの》とせず
|高姫司《たかひめつかさ》や|黒姫《くろひめ》の  |神《かみ》の|使《つかひ》の|御前《おんまへ》に
|此《この》|喜《よろこ》びをかき|分《わ》けて  |手《て》を|携《たづさ》へて|天地《あめつち》の
|尊《たふと》き|道《みち》に|仕《つか》へなば  |三五教《あななひけう》の|大空《おほぞら》は
|月日《つきひ》も|清《きよ》く|明《あきら》かに  |厳《いづ》と|瑞《みづ》との|神界《しんかい》の
|機《はた》|織《お》り|上《あ》げて|綾錦《あやにしき》  |輝《かがや》く|宮《みや》に|永久《とこしへ》に
|仕《つか》へて|互《たがひ》に|歓《ゑら》ぎつつ  |教《のり》の|栄《さか》えを|見《み》るならむ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|初稚姫《はつわかひめ》が|真心《まごころ》を  【うまら】に【つばら】に|聞《きこ》し|召《め》せ
|神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の
|分《わけ》の|御霊《みたま》の|御前《おんまへ》に  |畏《かしこ》み|畏《かしこ》み|願《ね》ぎまつる
|畏《かしこ》み|畏《かしこ》み|祈《ね》ぎまつる』
|梅子姫《うめこひめ》は|立上《たちあが》り|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ|始《はじ》めた。
『|父大神《ちちおほかみ》の|神言《みこと》もて  |顕恩城《けんおんじやう》に|現《あ》れませる
バラモン|教《けう》の|神司《かむつかさ》  |鬼雲彦《おにくもひこ》や|其《その》|外《ほか》の
|捻《ねぢ》け|曲《まが》れる|人々《ひとびと》を  |誠《まこと》の|神《かみ》の|大道《おほみち》に
|言向《ことむ》け|和《やは》す|神業《かむわざ》に  |八人乙女《やたりをとめ》は|身《み》をやつし
エデンの|河《かは》を|打渡《うちわた》り  |種々《いろいろ》|雑多《ざつた》と|気《き》を|配《くば》り
あらむ|限《かぎ》りのベストをば  |尽《つく》せし|事《こと》も|水《みづ》の|泡《あわ》
|太玉命《ふとだまみこと》の|神司《かむつかさ》  |顕恩城《けんおんじやう》を|主宰《しゆさい》して
|教《をしへ》を|開《ひら》き|給《たま》ひつつ  |吾等《われら》|姉妹《おとどい》|各自《めいめい》は
|顕恩城《けんおんじやう》を|後《あと》にして  |彼方《あなた》|此方《こなた》と|三五《あななひ》の
|道《みち》を|伝《つた》ふる|折柄《をりから》に  バラモン|教《けう》の|醜人《しこびと》に
|情《なさけ》|容赦《ようしや》も|荒浪《あらなみ》の  |寄《よ》る|辺《べ》|渚《なぎさ》の|捨小舟《すてをぶね》
|波《なみ》に|漂《ただよ》ひ|竜宮《りうぐう》の  |宝《たから》の|島《しま》に|上陸《じやうりく》し
|小糸《こいと》の|姫《ひめ》を|守立《もりた》てて  |五十子《いそこ》の|姫《ひめ》や|今子姫《いまこひめ》
|宇豆姫《うづひめ》|伴《ともな》ひ|地恩郷《ちおんきやう》  |光《ひかり》を|隠《かく》し|黄竜姫《わうりようひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》を|表《おもて》とし  |影身《かげみ》に|添《そ》ひて|大神《おほかみ》の
|尊《たふと》き|御教《みのり》を|説《と》き|示《しめ》し  |心《こころ》|配《くば》りし|甲斐《かひ》ありて
|身魂《みたま》も|清《きよ》き|小糸姫《こいとひめ》  バラモン|教《けう》の|醜道《しこみち》を
|弊履《へいり》の|如《ごと》く|脱《ぬ》ぎ|棄《す》てて  |誠《まこと》の|道《みち》に|服従《まつろ》ひし
|其《その》|嬉《うれ》しさは|如何《いか》ばかり  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》も
|心《こころ》を|尽《つく》し|身《み》を|尽《つく》し  |三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》に
|尽《つく》し|給《たま》へど|村肝《むらきも》の  |心《こころ》にかかる|執着《しふちやく》の
|雲《くも》|晴《は》れやらず|黄金《わうごん》の  |玉《たま》の|在処《ありか》に|魂《たま》|抜《ぬ》かれ
|教《をしへ》の|道《みち》を|外《よそ》にして  |朝《あさ》な|夕《ゆふ》なに|気《き》を|焦《いら》つ
|其《その》|御心《みこころ》の|憐《あは》れさよ  |時《とき》しもあれや|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》の|宣伝使《せんでんし》  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|玉治別《たまはるわけ》と|諸共《もろとも》に  |浪路《なみぢ》を|分《わ》けて|来《きた》ります
|神《かみ》の|柱《はしら》の|高姫《たかひめ》が  |地恩《ちおん》の|城《しろ》に|来《きた》りまし
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》を  |密《ひそ》かに|誘《いざな》ひ|一《ひと》つ|島《じま》
|後《あと》に|見棄《みす》てて|波《なみ》の|上《うへ》  |南洋諸島《なんやうしよたう》を|隈《くま》もなく
|探《さが》し|索《もと》めて|瀬戸海《せとうみ》の  |淡路《あはぢ》の|島《しま》の|司神《つかさがみ》
|東助館《とうすけやかた》に|出《い》でまして  |玉《たま》の|在処《ありか》を|疑《うたが》ひつ
|再度山《ふたたびやま》の|山麓《さんろく》に  |国依別《くによりわけ》を|訪《たづ》ねつつ
|執着心《しふちやくしん》はまだ|晴《は》れず  |彼方《あなた》|此方《こなた》と|彷徨《さまよ》ひて
|玉《たま》の|在処《ありか》を|索《もと》めます  その|御心《みこころ》ぞ|可憐《いぢ》らしき
|地恩《ちおん》の|城《しろ》を|後《あと》にして  |黄竜姫《わうりようひめ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》
テールス|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》を  |伴《ともな》ひ|山《やま》の|尾《を》|打渉《うちわた》り
|深《ふか》き|谷間《たにま》を|潜《くぐ》り|抜《ぬ》け  ネルソン|山《ざん》を|後《あと》にして
ジヤンナの|郷《さと》やイールの|郷《さと》  |玉野ケ原《たまのがはら》を|踏《ふ》み|越《こ》えて
|金砂《きんしや》|銀砂《ぎんしや》の|輝《かがや》きし  |諏訪《すは》の|湖水《こすゐ》の|手前《てまへ》まで
|漸《やうや》う|進《すす》む|折柄《をりから》に  |紺青《こんぜう》の|波《なみ》を|湛《たた》へたる
|波上《はじやう》を|駆《かけ》る|金銀《きんぎん》の  |八咫烏《やあたがらす》やアンボリー
|取《と》りつく|島《しま》もなき|折《をり》に  |黄竜姫《わうりようひめ》を|先頭《せんとう》に
|初《はじ》めて|悟《さと》る|神《かみ》の|道《みち》  |心《こころ》の|空《そら》は|忽《たちま》ちに
|転迷開悟《てんめいかいご》の|花《はな》|咲《さ》きて  |朱欄碧瓦《しゆらんへきぐわ》の|竜宮城《りうぐうじやう》
|玉依姫《たまよりひめ》の|御館《おんやかた》  |奥《おく》の|一間《ひとま》に|参入《さんにふ》し
|一行《いつかう》|五人《ごにん》の|五《い》つ|身魂《みたま》  |初稚姫《はつわかひめ》の|一行《いつかう》と
ものをも|言《い》はずしづしづと  |玉依姫《たまよりひめ》の|御前《おんまへ》に
|月《つき》の|形《かたち》の|座《ざ》を|占《し》めて  |月光《げつくわう》|輝《かがや》く|麻邇《まに》の|玉《たま》
|心《こころ》も|色《いろ》も|紫《むらさき》の  |色《いろ》|映《は》え|渡《わた》る|初稚姫《はつわかひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》はしとやかに  |吾《わが》|手《て》に|渡《わた》し|給《たま》ひけり
|初稚姫《はつわかひめ》の|真心《まごころ》は  |雪《ゆき》より|清《きよ》く|紅葉《もみぢば》の
|色《いろ》にも|優《まさ》る|御姿《おんすがた》  |妾《わらは》は|忽《たちま》ち|感《かん》じ|入《い》り
|無言《むごん》の|儘《まま》に|受取《うけと》りて  |黄金《こがね》の|翼《つばさ》を|拡《ひろ》げたる
|八咫烏《やあたがらす》に|助《たす》けられ  |漸《やうや》くここに|着《つ》きにけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|御心《みこころ》|汲《く》み|取《と》りて
|三五教《あななひけう》に|仕《つか》へたる  |神《かみ》の|司《つかさ》の|高姫《たかひめ》や
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》や  |竜国別《たつくにわけ》や|鷹依姫《たかよりひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に  |玉依姫《たまよりひめ》の|賜《たま》はりし
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》の|神業《かむわざ》に  |仕《つか》へまほしき|吾《わが》|願《ねが》ひ
【うまら】に【つばら】に|聞《きこ》し|召《め》せ  |三五教《あななひけう》を|守《まも》ります
|国治立大御神《くにはるたちのおほみかみ》  |豊国姫大神《とよくにひめのおほかみ》の
|御前《みまへ》に|畏《かしこ》み|願《ね》ぎまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》り、|悠々《いういう》として|吾《わが》|席《せき》に|帰《かへ》り|給《たま》うた。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 松村真澄録)
第三章 |真心《まごころ》の|花《はな》(二)〔七六八〕
|玉治別《たまはるわけ》は|立上《たちあが》り|銀扇《ぎんせん》を|拡《ひろ》げて|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ|始《はじ》めた。
『|吾《われ》は|玉治別司《たまはるわけつかさ》  |天《あめ》と|地《つち》との|三五《あななひ》の
|誠《まこと》を|諭《さと》す|神使《かむづかひ》  |宇都山郷《うづやまがう》に|現《あら》はれて
|樵《きこり》の|業《わざ》や|野良仕事《のらしごと》  |名《な》も|田吾作《たごさく》の|賤《しづ》の|男《を》が
|天《あめ》の|真浦《まうら》の|宣伝使《せんでんし》  |松鷹彦《まつたかひこ》に|三五《あななひ》の
|誠《まこと》の|道《みち》を|教《をし》へられ  |国依別《くによりわけ》と|諸共《もろとも》に
|三国ケ嶽《みくにがだけ》にバラモンの  |教《をしへ》の|館《やかた》を|構《かま》へたる
|此処《ここ》に|在《あ》れます|蜈蚣姫《むかでひめ》  |三五教《あななひけう》の|大道《おほみち》に
|救《すく》はむものと|老木《らうぼく》の  |茂《しげ》る|山路《やまぢ》を|打《う》ち|渉《わた》り
|岩窟《いはや》の|中《なか》に|乗《の》り|込《こ》みて  お|玉《たま》の|方《かた》に|廻《めぐ》り|会《あ》ひ
|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|秘蔵《ひざう》せる  |黄金《こがね》の|玉《たま》を|発見《はつけん》し
|綾《あや》の|高天原《たかま》へ|持《も》ち|帰《かへ》り  |意気《いき》|揚々《やうやう》と|宣伝《せんでん》の
|使《つかさ》となりて|遠近《をちこち》を  |彷徨《さまよ》ひ|歩《ある》く|其《その》|中《うち》に
バラモン|教《けう》の|其《その》|一派《いつぱ》  |鷹依姫《たかよりひめ》の|神司《かむつかさ》
|高春山《たかはるやま》に|居《きよ》を|構《かま》へ  |体主霊従《たいしゆれいじう》の|御教《みをしへ》を
|四方《よも》に|開《ひら》くと|聞《き》きしより  |国依別《くによりわけ》や|竜国別《たつくにわけ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に  |心《こころ》の|駒《こま》に|鞭《むち》|韃《う》ちて
|進《すす》む|折《をり》しも|津田《つだ》の|湖《うみ》  |敵《てき》の|捕手《とりて》に|囲《かこ》まれて
|生命《いのち》|危《あやふ》き|折柄《をりから》に  |杢助司《もくすけつかさ》や|初稚姫《はつわかひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》に|助《たす》けられ  |高春山《たかはるやま》に|立《た》ち|向《むか》ひ
|廻《めぐ》り|会《あ》うたる|天《あめ》の|森《もり》  |竜国別《たつくにわけ》と|鬼娘《おにむすめ》
ヤツサモツサの|問答《もんだふ》も  |神《かみ》の|恵《めぐ》みの|御光《みひかり》に
|煙《けむり》と|消《き》えて|潔《いさぎよ》く  |神《かみ》の|御稜威《みいづ》を|伏《ふ》し|拝《をが》み
|鷹依姫《たかよりひめ》の|割拠《かつきよ》せる  |岩窟《いはや》の|中《なか》に|立《た》ち|入《い》りて
|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》|両人《りやうにん》を  |救《すく》ひ|出《いだ》して|鷹依《たかより》の
|姫《ひめ》の|命《みこと》は|忽《たちま》ちに  アルプス|教《けう》を|解散《かいさん》し
|三五教《あななひけう》の|大道《おほみち》に  |仕《つか》へまつりて|綾錦《あやにしき》
|高天原《たかあまはら》に|連《つ》れ|帰《かへ》り  |黄金《こがね》の|玉《たま》の|紛失《ふんしつ》に
|思《おも》はぬ|濡衣《ぬれぎぬ》|被《かぶ》せられ  |泣《な》く|泣《な》く|立《た》つて|和田《わだ》の|原《はら》
|遥々《はるばる》|越《こ》えて|何処《どこ》となく  |黄金《こがね》の|玉《たま》の|在処《ありか》をば
|探《さぐ》らむ|為《ため》に|親《おや》と|子《こ》が  |海《うみ》の|彼方《あなた》に|出《い》でましぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|恵《めぐ》みの|幸《さち》はひて
|一日《ひとひ》も|早《はや》く|片時《かたとき》も  |疾《と》く|速《すむや》けく|親《おや》と|子《こ》が
|在処《ありか》を|知《し》らせ|給《たま》へよと  |玉治別《たまはるわけ》の|朝宵《あさよひ》に
|祈《いの》る|心《こころ》ぞ|悲《かな》しけれ  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|紫色《むらさきいろ》の|宝玉《ほうぎよく》の  |在処《ありか》|探《たづ》ねて|高姫《たかひめ》が
|又《また》もや|神都《しんと》を|後《あと》にして  |海《うみ》の|内外《うちと》の|区別《わかち》なく
|探《たづ》ねて|廻《まは》る|気《き》の|毒《どく》さ  |神《かみ》の|仕組《しぐみ》を|打《う》ち|明《あ》けて
|当所《あてど》も|知《し》らぬ|玉探《たまさが》し  |諦《あきら》めさせむと|玉能姫《たまのひめ》
|初稚姫《はつわかひめ》と|諸共《もろとも》に  |屋根無《たなな》し|小舟《こぶね》に|身《み》を|任《まか》せ
|遠《とほ》き|浪路《なみぢ》を|打《う》ち|渡《わた》り  |高姫《たかひめ》|一行《いつかう》の|危難《きなん》をば
|救《すく》ひ|守《まも》りつ|竜宮島《りうぐうじま》  |到《いた》りてみれば|高姫《たかひめ》は
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》と  |暗《やみ》に|紛《まぎ》れて|逸早《いちはや》く
|後白浪《あとしらなみ》となり|果《は》てぬ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |高姫《たかひめ》|一行《いつかう》が|執着《しふちやく》の
|心《こころ》の|雲《くも》を|晴《は》らせかし  |一日《ひとひ》も|早《はや》く|真心《まごころ》に
かへらせ|給《たま》へと|太祝詞《ふとのりと》  となふる|声《こゑ》も|湿《しめ》り|勝《が》ち
|玉治別《たまはるわけ》は|是非《ぜひ》もなく  |初稚姫《はつわかひめ》と|諸共《もろとも》に
ネルソン|山《ざん》の|高嶺《たかね》をば  |西《にし》に|渉《わた》りて|山《やま》|深《ふか》み
|谷底《たにそこ》|潜《くぐ》り|種々《いろいろ》と  |百《もも》の|艱難《なやみ》に|出会《であ》ひつつ
|神《かみ》の|恵《めぐみ》を|力《ちから》とし  |誠《まこと》の|道《みち》を|杖《つゑ》として
|石《いし》の|枕《まくら》に|星《ほし》の|夜具《やぐ》  |猛獣《まうじう》|哮《た》ける|大野原《おほのはら》
|夜《よ》を|日《ひ》に|次《つ》いで|進《すす》みつつ  |虎《とら》|狼《おほかみ》や|大蛇《をろち》まで
|吾《わが》|三五《あななひ》の|言霊《ことたま》に  |言向《ことむ》け|和《やは》し|玉野原《たまのはら》
|一眸千里《いちぼうせんり》の|草《くさ》|分《わ》けて  |諏訪《すは》の|湖辺《こへん》に|辿《たど》り|着《つ》き
|社《やしろ》の|前《まへ》に|額《ぬかづ》きて  |善言美詞《ぜんげんびし》の|太祝詞《ふとのりと》
|汗《あせ》に|穢《けが》れし|身体《からたま》を  |清《きよ》き|湖水《こすゐ》に|禊《みそ》ぎつつ
|拍手《はくしゆ》の|声《こゑ》は|中天《ちうてん》に  |轟《とどろ》き|渡《わた》る|折柄《をりから》に
|浪《なみ》を|十字《じふじ》に|引《ひ》き|分《わ》けて  |現《あら》はれ|給《たま》ふ|百《もも》の|神《かみ》
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びつつ  |五《い》づの|身魂《みたま》の|御宝《おんたから》
|携《たづさ》へ|来《きた》る|女神《めがみ》|等《たち》  |吾等《われら》|一行《いつかう》に|立《た》ち|向《むか》ひ
|竜宮海《りうぐうかい》の|麻邇《まに》の|玉《たま》  |汝等《なんぢら》|五人《ごにん》に|授《さづ》けむと
いと|厳《おごそ》かに|宣《の》らせつつ  |身魂《みたま》を|研《みが》けと|言《い》ひ|捨《す》てて
|後白浪《あとしらなみ》と|消《き》え|給《たま》ふ  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|玉治別《たまはるわけ》は|伏《ふ》し|拝《をが》み  |諏訪《すは》の|湖《みづうみ》あとにして
|西北《せいほく》|指《さ》して|進《すす》みつつ  |幾度《いくたび》となく|皇神《すめかみ》の
|深《ふか》き|試錬《ためし》に|遇《あ》ひながら  さしもに|広《ひろ》き|竜宮島《りうぐうじま》
|神《かみ》の|使《つかひ》の|霊鳥《れいてう》に  |救《すく》はれ|無事《ぶじ》に|国人《くにびと》を
|言向《ことむ》け|和《やは》し|神業《かむわざ》を  |略《ほぼ》|了《を》へまつる|折柄《をりから》に
|神《かみ》の|使《つかひ》の|八咫烏《やあたがらす》  |黄金《こがね》の|翼《つばさ》|拡《ひろ》げつつ
|吾等《われら》|一行《いつかう》|五《い》つ|身魂《みたま》  |其《その》|背《せ》に|乗《の》せて|玉依姫《たまよりひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》の|在《あ》れませる  |竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|送《おく》りけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》の|幸《さち》を|蒙《かかぶ》りて
|吾等《われら》|五人《ごにん》は|皇神《すめかみ》の  |教《をしへ》の|道《みち》に|尽《つく》すより
|外《ほか》に|一《ひと》つの|望《のぞ》みなし  |執着心《しふちやくしん》の|雲《くも》|晴《は》れて
|輝《かがや》き|渡《わた》る|日月《じつげつ》は  |心《こころ》の|空《そら》に|永久《とこしへ》に
|鎮《しづ》まりいます|心地《ここち》して  |不言実行《ふげんじつかう》の|神《かみ》の|業《わざ》
|竜《たつ》の|館《やかた》に|仕《つか》へつつ  |時《とき》の|到《いた》るを|待《ま》つ|間《うち》に
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|始《はじ》めとし  |黄竜姫《わうりようひめ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》
テールス|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》が  |黄金《こがね》の|舟《ふね》に|浮《うか》びつつ
|黄金《こがね》の|門《もん》を|潜《くぐ》りぬけ  |現《あら》はれ|来《き》ます|嬉《うれ》しさに
|互《たがひ》に|見合《みあ》はす|顔《かほ》と|顔《かほ》  |嬉《うれ》し|涙《なみだ》はせきあへず
|言葉《ことば》を|掛《か》くる|術《すべ》もなく  |無言《むごん》の|儘《まま》に|奥殿《おくでん》に
|進《すす》む|折柄《をりから》|玉依姫《たまよりひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》は|悠々《いういう》と
|青人草《あをひとぐさ》を|救《すく》へよと  |露《つゆ》の|滴《したた》る|青《あを》の|玉《たま》
ものをも|言《い》はず|玉治別《たまはるわけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》の|掌《てのひら》に
|授《さづ》け|給《たま》ひし|嬉《うれ》しさを  |喜《よろこ》び|畏《かしこ》み|村肝《むらきも》の
|心《こころ》の|魂《たま》の|照《て》るままに  |黄竜姫《わうりようひめ》の|双《さう》の|手《て》に
|漸《やうや》く|渡《わた》し|胸《むね》を|撫《な》で  |不言実行《ふげんじつかう》の|一端《いつたん》に
|仕《つか》へまつりし|折柄《をりから》に  |玉依姫《たまよりひめ》は|奥《おく》|深《ふか》く
|御神姿《みすがた》|隠《かく》し|給《たま》ひけり  |吾等《われら》|一同《いちどう》|勇《いさ》み|立《た》ち
|三《みつ》つの|御門《ごもん》を|潜《くぐ》りぬけ  |黄金《こがね》の|浪《なみ》の|漂《ただよ》へる
|諏訪《すは》の|湖辺《こへん》に|来《き》て|見《み》れば  |忽《たちま》ち|飛《と》び|来《く》る|八咫烏《やあたがらす》
|吾等《われら》を|乗《の》せて|白雲《しらくも》の  |御空《みそら》を|高《たか》く|翔上《かけのぼ》り
|翼《つばさ》の|音《おと》も|勇《いさ》ましく  |漸《やうや》く|当館《ここ》に|帰《かへ》りけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》は  |堅磐常磐《かきはときは》に|松《まつ》の|世《よ》の
ミロク|神政《しんせい》の|基礎《いしずゑ》と  |仕《つか》へまつりて|天地《あめつち》の
|百《もも》の|神《かみ》|等《たち》|百人《ももびと》を  |浦安国《うらやすくに》の|心安《うらやす》く
|守《まも》らせ|給《たま》へ|惟神《かむながら》  |神《かみ》の|命《みこと》の|御前《おんまへ》に
|玉治別《たまはるわけ》が|真心《まごころ》を  |開《ひら》いて|細《つぶ》さに|願《ね》ぎまつる
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》や  |国治立《くにはるたち》の|御分魂《わけみたま》
|国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》よ  |三五教《あななひけう》は|言《い》ふも|更《さら》
|島《しま》の|八十島《やそしま》|八十《やそ》の|国《くに》  |青雲《あをくも》|棚引《たなび》く|其《その》|限《かぎ》り
|天地《あめつち》|百《もも》の|生物《いきもの》に  |平安《やすき》と|栄光《さかえ》と|歓喜《よろこび》を
|与《あた》へ|給《たま》へと|願《ね》ぎまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|自席《じせき》に|着《つ》いた。
|次《つぎ》に|黄竜姫《わうりようひめ》は|立《た》ち|上《あが》り|歌《うた》ひ|始《はじ》めた。
『|大国彦《おほくにひこ》の|神霊《かむみたま》  |堅磐常磐《かきはときは》に|祀《まつ》りたる
バラモン|教《けう》は|常世国《とこよくに》  |大国別《おほくにわけ》の|神司《かむつかさ》
|開《ひら》き|給《たま》ひし|貴《うづ》の|道《みち》  |万里《ばんり》の|波濤《はたう》を|乗《の》り|越《こ》えて
イホの|都《みやこ》に|来《きた》りまし  |教《をしへ》の|園《その》を|開《ひら》く|折《をり》
|三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》  |夏山彦《なつやまひこ》や|祝姫《はふりひめ》
|行平別《ゆきひらわけ》の|言霊《ことたま》に  |鬼雲彦《おにくもひこ》の|大棟梁《だいとうりやう》
|根城《ねじろ》を|抜《ぬ》かれ|是非《ぜひ》もなく  |数多《あまた》の|部下《ぶか》を|引《ひ》き|率《つ》れて
|天恵《てんけい》|洽《あまね》きエヂプトを  |見捨《みす》てて|来《きた》る|中津国《なかつくに》
メソポタミヤの|顕恩郷《パラダイス》  |漸《やうや》く|此処《ここ》に|落《お》ち|付《つ》いて
|堅磐常磐《かきはときは》に|根城《ねじろ》をば  |固《かた》めて|道《みち》を|四方《よも》の|国《くに》
|布《し》き|弘《ひろ》めたる|折柄《をりから》に  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の
|肉《にく》の|宮《みや》より|生《あ》れませる  |神姿《すがた》|優《やさ》しき|八乙女《やおとめ》が
|心《こころ》の|色《いろ》もいと|清《きよ》く  |誠《まこと》の|花《はな》を|開《ひら》かせて
|教《をしへ》の|園《その》を|作《つく》らむと  |忍《しの》び|忍《しの》びに|出《い》で|給《たま》ふ
|鬼雲彦《おにくもひこ》を|始《はじ》めとし  |鬼熊別《おにくまわけ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》
|吾《わが》|足乳根《たらちね》はバラモンの  |教《をしへ》の|道《みち》に|勤《いそ》しみて
|心《こころ》のたけを|尽《つく》しつつ  |仕《つか》へ|給《たま》へる|折柄《をりから》に
|功績《いさを》も|太玉《ふとだま》|宣伝使《せんでんし》  |現《あら》はれ|況《ま》して|言霊《ことたま》の
|珍《うづ》の|剣《つるぎ》を|抜《ぬ》き|放《はな》ち  |誠《まこと》の|鉾《ほこ》を|振廻《ふりまは》し
|薙立《なぎた》て|斬《き》り|立《た》てバラモンの  |教《をしへ》の|疵《きず》を|正《ただ》さむと
|真心《まごころ》|籠《こ》めて|出《い》で|給《たま》ふ  その|御心《みこころ》を|白雲《しらくも》の
|烟《けむり》に|巻《ま》かれて|大棟梁《だいとうりやう》  |鬼雲彦《おにくもひこ》を|始《はじ》めとし
|従《したが》ひ|給《たま》ふ|神司《かむつかさ》  |顕恩郷《けんおんきやう》を|後《あと》にして
|波斯《フサ》の|御国《みくに》へ|出《い》で|給《たま》ふ  さはさりながら|其《その》|以前《いぜん》
|顕恩郷《けんおんきやう》の|神司《かむづかさ》  |幹部《かんぶ》|一同《いちどう》を|従《したが》へて
|花見《はなみ》の|宴《えん》を|開《ひら》きまし  |饗応《うたげ》の|酒《さけ》に|酔《よ》ひしれて
エデンの|川《かは》を|渡《わた》る|折《をり》  |御舟《みふね》の|傍《わき》に|立《た》ち|居《ゐ》たる
|十五《じふご》の|春《はる》の|吾《わが》|姿《すがた》  |酔《ゑ》ひたる|人《ひと》に|撥《は》ねられて
ザンブとばかりエデン|川《がは》  |流《なが》れて|底《そこ》に|白浪《しらなみ》の
|生命《いのち》|絶《た》えむとする|折《をり》に  |従僕《しもべ》の|司《つかさ》の|友彦《ともひこ》は
|身《み》を|躍《をど》らして|川中《かはなか》を  |潜《くぐ》り|潜《くぐ》りて|漸《やうや》くに
|妾《われ》を|抱《いだ》きて|救《すく》ひ|上《あ》げ  |背《せな》に|負《お》ひつつ|吾《わが》|父《ちち》の
|館《やかた》を|指《さ》して|帰《かへ》りましぬ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|神《かみ》の|恵《めぐ》みの|浅《あさ》からず  |二《ふた》つなき|身《み》の|生命《いのち》をば
|神《かみ》の|恵《めぐ》みと|言《い》ひながら  |助《たす》け|呉《く》れたる|友彦《ともひこ》に
|心《こころ》は|移《うつ》る|恋《こひ》の|闇《やみ》  |吾《わが》|垂乳根《たらちね》の|目《め》を|忍《しの》び
|闇《やみ》に|紛《まぎ》れて|顕恩郷《けんおんきやう》を  ソツト|脱《ぬ》け|出《い》で|友彦《ともひこ》と
|手《て》に|手《て》を|取《と》つて|錫蘭《シロ》の|島《しま》  |深山《みやま》の|奥《おく》に|身《み》を|潜《ひそ》め
|一年《ひととせ》ばかり|経《ふ》る|中《うち》に  |妾《わらは》が|心機一転《しんきいつてん》し
|何《なん》の|情《なさけ》もあら|男《をとこ》  |後《あと》に|残《のこ》して|逃《に》げて|行《ゆ》く
|錫蘭《シロ》の|浜辺《はまべ》の|里人《さとびと》の  チヤンキー、モンキーの|両人《りやうにん》に
|艪《ろ》を|操《あやつ》らせ|限《かぎ》りなき  |大海原《おほうなばら》を|打《う》ち|渡《わた》り
|九死一生《きうしいつしやう》の|苦《くるし》みを  |五十子《いそこ》の|姫《ひめ》や|梅子姫《うめこひめ》
|御供《みとも》の|神《かみ》に|助《たす》けられ  |長《なが》き|浪路《なみぢ》を|渡《わた》りつつ
|昼《ひる》は|終日《ひねもす》|終夜《よもすがら》  |三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》を
|心《こころ》の|底《そこ》の|奥庭《おくには》に  |植付《うゑつ》けられてバラモンの
|迷《まよ》ひの|夢《ゆめ》も|醒《さ》めにけり  |五十子《いそこ》の|姫《ひめ》の|一行《いつかう》に
|推戴《すゐたい》されて|竜宮《りうぐう》の  |黄金《こがね》|花《はな》|咲《さ》く|一《ひと》つ|島《じま》
|地恩《ちおん》の|郷《さと》に|顕現《けんげん》し  オーストラリヤの|新女王《しんぢよわう》
|三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》  あらゆる|名誉《めいよ》を|身《み》に|負《お》ひて
|本末《ほんまつ》|顛倒《てんたう》の|境遇《きやうぐう》を  |知《し》らず|識《し》らずに|日《ひ》を|送《おく》る
|心《こころ》の|中《なか》の|浅間《あさま》しさ  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》に
|政務《せいむ》|教務《けうむ》を|打《う》ち|任《まか》せ  ブランジー、クロンバー|相並《あひなら》び
|政教一致《せいけういつち》の|神業《かむわざ》を  |開《ひら》いて|国《くに》を|守《まも》る|折《をり》
|三五教《あななひけう》の|高姫《たかひめ》と  |共《とも》に|来《き》ませし|蜈蚣姫《むかでひめ》
|母《はは》の|命《みこと》に|廻《めぐ》り|会《あ》ひ  |嬉《うれ》し|涙《なみだ》にせきあへず
|心《こころ》を|協《あは》せ|身《み》を|尽《つく》し  |教《をしへ》は|四方《よも》に|輝《かがや》きて
|朝日《あさひ》の|豊栄《とよさか》|昇《のぼ》る|如《ごと》  |歓《ゑら》ぎ|楽《たの》しむ|折柄《をりから》に
|現《あら》はれ|来《きた》る|友彦《ともひこ》が  |夫婦《ふうふ》の|神《かみ》の|来訪《らいはう》に
|喜《よろこ》び|驚《おどろ》き|一時《ひととき》は  |心《こころ》の|海《うみ》に|荒浪《あらなみ》の
|立《た》つ|瀬《せ》なき|迄《まで》|狼狽《らうばい》し  |互《たがひ》に|過去《くわこ》を|語《かた》り|合《あ》ひ
ヤツと|解《と》けたる|胸《むね》の|裡《うち》  |園遊会《ゑんいうくわい》になぞらへて
|昔《むかし》の|交《まじは》り|温《あたた》めつ  |東《ひがし》と|西《にし》と|相応《あひおう》じ
|宝《たから》の|島《しま》を|治《をさ》めむと  |心《こころ》も|勇《いさ》む|時《とき》もあれ
ネルソン|山《ざん》の|空《そら》|高《たか》く  |現《あら》はれ|出《い》でし|蜃気楼《しんきろう》
|如何《いか》なる|事《こと》の|天啓《てんけい》か  よくよく|仰《あふ》ぎ|眺《なが》むれば
|紛《まが》ふ|方《かた》なき|諏訪《すは》の|湖《うみ》  |地恩《ちおん》の|城《しろ》に|仕《つか》へたる
|左守神《さもりのかみ》の|清公《きよこう》が  チヤンキー、モンキー|其《その》|外《ほか》の
|二人《ふたり》の|供《とも》と|諸共《もろとも》に  |荘厳美麗《さうごんびれい》の|玉《たま》の|宮《みや》
|玉依姫《たまよりひめ》の|御前《おんまへ》に  |近《ちか》く|仕《つか》ふる|有様《ありさま》は
|手《て》に|取《と》る|如《ごと》く|見《み》えにけり  ネルソン|山《ざん》の|西《にし》の|空《そら》
|尊《たふと》き|神《かみ》の|坐《ま》しますと  |思《おも》ひ|定《さだ》めて|梅子姫《うめこひめ》
|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》やテールスの  |姫《ひめ》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に
|友彦《ともひこ》さまを|先頭《せんとう》に  |旅《たび》の|枕《まくら》も|数《かず》|重《かさ》ね
|漸《やうや》く|来《きた》る|玉野原《たまのはら》  |金砂《きんしや》|銀砂《ぎんしや》を|敷《し》きし|如《ごと》
|漸《やうや》く|道《みち》を|進《すす》みつつ  |諏訪《すは》の|湖畔《こはん》に|建《た》てられし
|祠《ほこら》の|前《まへ》に|辿《たど》り|着《つ》き  |湖面《こめん》に|向《むか》つて|再拝《さいはい》し
|天津祝詞《あまつのりと》を|奏上《そうじやう》し  |愈《いよいよ》|此処《ここ》に|村肝《むらきも》の
|心《こころ》の|帳《とばり》も|開《ひら》け|初《そ》め  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》の|御前《おんまへ》に
|知《し》らず|識《し》らずに|犯《をか》したる  |百《もも》の|罪咎《つみとが》|詫《わ》びぬれば
|木花姫《このはなひめ》の|懸《かか》らせて  |天火水地《てんくわすゐち》の|大道《たいだう》を
|諭《さと》し|給《たま》へば|小糸姫《こいとひめ》  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》や|一同《いちどう》は
|転迷開悟《てんめいかいご》の|蓮花《はちすばな》  |一度《いちど》に|開《ひら》く|梅子姫《うめこひめ》
|尊《たふと》き|神《かみ》の|御教《みをしへ》を  |心《こころ》の|底《そこ》より|正覚《しやうかく》し
|感謝《かんしや》|祈願《きぐわん》の|折柄《をりから》に  |諏訪《すは》の|湖面《こめん》に|浮《うか》びたる
|浮島《うきしま》|影《かげ》を|悠々《いういう》と  |黄金《こがね》の|船《ふね》に|真帆《まほ》を|上《あ》げ
|此方《こなた》に|向《むか》つて|進《すす》み|来《く》る  その|気高《けだか》さに|驚《おどろ》きて
|湖上《こじやう》を|看守《みまも》る|折《をり》もあれ  |左守神《さもりのかみ》の|清公《きよこう》が
|四人《よにん》の|供《とも》と|諸共《もろとも》に  ものをも|言《い》はず|手《て》を|挙《あ》げて
|乗《の》らせ|給《たま》へと|麾《さしまね》く  |妾《わらは》|一行《いつかう》|五人連《ごにんづ》れ
|直《ただち》に|船《ふね》に|打《う》ち|乗《の》りて  |黄金《こがね》の|浪《なみ》を|辷《すべ》りつつ
|西北《せいほく》|指《さ》して|進《すす》み|行《ゆ》く  |天国《てんごく》|浄土《じやうど》か|楽園《らくゑん》か
|青赤白黄紫《あおあかしろきむらさき》の  |花《はな》は|梢《こずゑ》に|咲《さ》き|乱《みだ》れ
|大小《だいせう》|無数《むすう》の|島嶼《しまじま》は  |彼方《あなた》|此方《こなた》に|永久《とこしへ》に
|浮《うか》べる|中《なか》を|心地《ここち》よく  |勇《いさ》み|進《すす》んで|玉依《たまより》の
|姫命《ひめのみこと》の|在《あ》れませる  |竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|行《ゆ》き|見《み》れば
|月雪花《つきゆきはな》の|御姿《みすがた》に  |擬《まが》ふべらなる|姫神《ひめがみ》の
|十二《じふに》の|神姿《すがた》|立《た》ち|並《なら》び  |玉治別《たまはるわけ》や|初稚姫《はつわかひめ》の
|神《かみ》の|命《みこと》や|玉能姫《たまのひめ》  |久助《きうすけ》お|民《たみ》も|諸共《もろとも》に
|吾等《われら》|一行《いつかう》を|迎《むか》へつつ  |奥殿《おくでん》|深《ふか》く|進《すす》み|入《い》る
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》は|奥《おく》の|間《ま》の  |宝座《ほうざ》に|静《しづか》に|座《ざ》を|占《し》めて
|暗祈黙祷《あんきもくたう》なし|給《たま》ふ  |時《とき》しもあれや|高御座《たかみくら》
|扉《とびら》を|開《ひら》き|悠々《いういう》と  |現《あら》はれ|給《たま》ふ|貴姿《うづすがた》
|玉依姫《たまよりひめ》の|御神《おんかみ》は  |数多《あまた》の|侍女《じぢよ》を|従《したが》へて
|貴《うづ》の|玉器《たまもひ》|携《たづさ》へつ  |十曜《とえう》の|紋《もん》の|十人連《とたりづ》れ
ものをも|言《い》はず|目礼《もくれい》し  |微笑《びせう》を|浮《うか》べてそれぞれに
|五色《ごしき》の|玉《たま》を|手《て》づからに  |渡《わた》し|給《たま》へば|玉治《たまはる》の
|別《わけ》の|命《みこと》の|神司《かむづかさ》  |青《あを》き|玉《たま》をば|授《さづ》かりて
|直《ただち》に|吾《わが》|手《て》に|微笑《ほほゑ》みつ  |渡《わた》させ|給《たま》ふ|尊《たふと》さよ
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |麻邇《まに》の|御玉《みたま》の|其《その》|一《ひと》つ
|授《さづ》かり|給《たま》ひし|喜《よろこ》びを  |私《わたくし》せずに|妾《あが》の|手《て》に
|渡《わた》し|給《たま》ひし|功績《いさをし》を  |建《た》てよと|示《しめ》す|玉治別《たまはるわけ》の
|神《かみ》の|命《みこと》の|志《こころざし》  |玉《たま》を|争《あらそ》ふ|世《よ》の|中《なか》に
|執着心《しふちやくしん》の|影《かげ》もなく  |月日《つきひ》の|如《ごと》く|明《あきら》けき
|其《そ》の|御身魂《おんみたま》|々々々《おんみたま》  |感謝《かんしや》の|涙《なみだ》せきあへず
|感謝《かんしや》は|忽《たちま》ち|村肝《むらきも》の  |心《こころ》の|海《うみ》に|浪《なみ》|起《おこ》り
|進《すす》みかねたる|恋《こひ》の|海《うみ》  |玉治別《たまはるわけ》の|真心《まごころ》は
|天地《てんち》の|神《かみ》も|嘉《よみ》すらむ  |妾《われ》は|賤《いや》しき|小糸姫《こいとひめ》
|恵《めぐみ》の|露《つゆ》に|潤《うるほ》ひて  |今《いま》は|嬉《うれ》しき|宣伝使《せんでんし》
|神《かみ》の|司《つかさ》となりぬれど  |心《こころ》|汚《きたな》き|人《ひと》の|身《み》の
いかで|誠《まこと》を|尽《つく》し|得《え》む  |斯《かか》る|身魂《みたま》も|省《かへり》みず
|尊《たふと》き|玉《たま》の|神業《かむわざ》を  |惜《を》しまず|妾《わらは》に|譲《ゆづ》りてし
|清《きよ》き|心《こころ》は|又《また》と|世《よ》に  |何処《いづく》の|果《はて》を|探《たづ》ぬとも
いかで|例《ためし》のあら|涙《なみだ》  |漂《ただよ》ひ|浮《うか》ぶ|一《ひと》つ|島《じま》
|夫《をつと》なき|身《み》の|独身者《ひとりもの》  |玉治別《たまはるわけ》の|神司《みつかさ》よ
|妾《わらは》は|切《せつ》なき|恋《こひ》の|闇《やみ》  |玉《たま》の|光《ひかり》の|現《あら》はれて
|照《て》らさせ|給《たま》へ|妹《いも》と|背《せ》の  |尊《たふと》き|道《みち》の|誓言《うけひごと》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》や  |国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》の
|尊《たふと》き|御前《みまへ》を|顧《かへり》みず  |心《こころ》のたけを|打《う》ち|明《あ》けて
|幾重《いくへ》に|願《ねが》ひ|奉《たてまつ》る  |黄竜姫《わうりようひめ》が|授《さづ》かりし
|麻邇《まに》の|御玉《みたま》を|妾《わらは》のみ  |私《わたくし》なさず|三五《あななひ》の
|教司《をしへつかさ》の|高姫《たかひめ》や  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》の
|神《かみ》の|司《つかさ》も|諸共《もろとも》に  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|此《この》|度《たび》の
|尊《たふと》き|神業《みわざ》に|参加《さんか》させ  |心《こころ》の|隔《へだ》てを|除《のぞ》き|去《さ》り
|三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》を  |月日《つきひ》|輝《かがや》く|地上《つちのへ》に
|照《てら》させ|給《たま》へ|厳魂《いづみたま》  |瑞《みづ》の|魂《みたま》の|御前《おんまへ》に
|黄竜姫《わうりようひめ》が|真心《まごころ》を  |捧《ささ》げて|謹《つつし》み|願《ね》ぎ|申《まを》す
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|神伊弉諾大御神《かむいざなぎのおほみかみ》  |神伊弉冊大神《かむいざなみのおほかみ》の
|撞《つき》の|御柱《みはしら》|右左《みぎひだり》  |廻《めぐ》り|給《たま》ひて|千代《ちよ》|八千代《やちよ》
|誓《ちか》ひ|給《たま》ひし|其《その》|如《ごと》く  |妹背《いもせ》の|契《ちぎり》を|結《むす》ばせて
|神《かみ》の|教《をしへ》を|四方《よも》の|国《くに》  |夫婦《めをと》の|息《いき》を|合《あは》せつつ
|身《み》もたなしらに|仕《つか》ふべし  |許《ゆる》させ|給《たま》へ|玉治別《たまはるわけ》の
|神《かみ》の|司《つかさ》の|宣伝使《せんでんし》  |心《こころ》の|底《そこ》を|打《う》ち|明《あ》けて
|完全《うまら》に|詳細《つばら》に|願《ね》ぎ|奉《まつ》る  |朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも
|月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも  |仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも
|神《かみ》の|御前《みまへ》に|誓《ちか》ひたる  |妹背《いもせ》の|道《みち》は|永久《とこしへ》に
|変《かは》らざらまし|松《まつ》の|世《よ》の  |尊《たふと》き|神《かみ》の|御心《みこころ》に
|八千代《やちよ》を|籠《こ》めて|願《ね》ぎ|奉《まつ》る  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|祝賀《いはひ》と|喜悦《よろこび》と|恋慕《こひ》とゴツチヤにして|心《こころ》のたけを|歌《うた》ひ|終《をは》り|座《ざ》に|着《つ》いた。|玉治別《たまはるわけ》は|聊《いささ》か|当惑《たうわく》し|直《ただち》に|立《た》つて|黄竜姫《わうりようひめ》の|歌《うた》に|答《こた》ふべく、|再《ふたた》び|銀扇《ぎんせん》を|開《ひら》いて|言葉《ことば》|静《しづ》かに|歌《うた》ひ|始《はじ》めた。
『|神《かみ》の|恵《めぐみ》に|助《たす》けられ  |玉治別《たまはるわけ》と|名《な》を|負《お》ひて
|今《いま》は|尊《たふと》き|宣伝使《せんでんし》  |三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》を
|天地《あめつち》|四方《よも》に|開《ひら》かむと  |山《やま》の|尾《を》|渉《わた》り|川《かは》を|越《こ》え
|潮《しほ》の|八百路《やほぢ》も|厭《いと》ひなく  |進《すす》み|進《すす》みて|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つの|島《しま》に|上陸《じやうりく》し  |心《こころ》も|清《きよ》き|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|玉依姫《たまよりひめ》の|御神《おんかみ》に  |麻邇《まに》の|御玉《みたま》を|賜《たま》はりて
|地恩《ちおん》の|城《しろ》を|治《をさ》めます  |黄竜姫《わうりようひめ》の|玉《たま》の|手《て》に
|渡《わた》して|神《かみ》の|功績《いさをし》を  |高《たか》き|低《ひく》きの|隔《へだ》てなく
|神《かみ》の|御前《みまへ》に|現《あら》はして  |教《をしへ》の|道《みち》を|照《てら》さむと
|心《こころ》を|尽《つく》す|玉治《たまはる》が  |清《きよ》き|身魂《みたま》を|臠《みそなは》し
|妹背《いもせ》の|道《みち》を|結《むす》ばむと  |語《かた》らひ|給《たま》ふ|尊《たふと》さよ
さはさりながら|玉治《たまはる》の  |別《わけ》の|命《みこと》は|其《その》|昔《むかし》
|宇都山郷《うづやまがう》に|現《あら》はれし  |国依別《くによりわけ》が|妹《いもと》なる
お|勝《かつ》の|姫《ひめ》を|妻《つま》となし  |夫婦《ふうふ》|揃《そろ》ひて|睦《むつ》まじく
|神《かみ》の|神業《みわざ》に|仕《つか》ふ|身《み》ぞ  |黄竜姫《わうりようひめ》の|真心《まごころ》は
|己《おのれ》|玉治別《たまはるわけ》として  |無限《むげん》の|感謝《かんしや》に|充《み》ちぬれど
|皇大神《すめおほかみ》の|定《さだ》めたる  |一夫一婦《いつぷいつぷ》の|御規則《おんみのり》
|破《やぶ》らむ|由《よし》もないじやくり  |国《くに》に|残《のこ》せし|若草《わかぐさ》の
|妻《つま》の|命《みこと》の|心根《こころね》を  |思《おも》へばいとど|哀《あは》れなり
|宇都山郷《うづやまがう》の|田吾作《たごさく》と  |蔑《さげす》まれたる|時《とき》も|時《とき》
|卑《いや》しき|身《み》をも|顧《かへり》みず  |尊《たふと》き|神《かみ》の|御裔《みすゑ》もて
|吾《われ》に|仕《つか》へし|貴《うづ》の|妻《つま》  |吾《わが》|身《み》に|一人《ひとり》ある|事《こと》を
|完全《うまら》に|詳細《つばら》に|聞《き》こし|召《め》し  |此《この》|事《こと》のみは|今日《けふ》|限《かぎ》り
|心《こころ》に|放《はな》させ|給《たま》へかし  |汝《な》が|身《み》を|思《おも》ひ|妻《つま》の|身《み》を
|思《おも》ふ|玉治別神《たまはるわけのかみ》  |清《きよ》き|心《こころ》を|汲《く》みとりて
|必《かなら》ず|怒《おこ》らせ|給《たま》ふまじ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|生命《いのち》|二《ふた》つとあるならば  |汝《なれ》をも|娶《めと》り|又《また》もとの
お|勝《かつ》の|方《かた》と|睦《むつ》まじく  |仕《つか》へむものと|吾《わが》|心《こころ》
|汲《く》ませ|給《たま》へよ|黄竜姫《わうりようひめ》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦《くにたけひこ》の|御前《おんまへ》に  |真心《まごころ》|明《あ》かし|汝《なれ》が|身《み》の
|思《おも》ひを|此処《ここ》に|情《つれ》なくも  |科戸《しなど》の|風《かぜ》に|打《う》ち|払《はら》ふ
|黄竜姫《わうりようひめ》の|神司《かむづかさ》  |汝《なれ》が|切《せつ》なる|心根《こころね》を
|仇《あだ》には|捨《す》てぬ|玉治別《たまはるわけ》の  |仇《あだ》に|思《おも》はぬ|真心《まごころ》を
|直日《なほひ》に|見直《みなほ》し|聞直《ききなほ》し  |弥永久《いやとこしへ》に|宣《の》り|直《なほ》し
|吾《われ》に|勝《まさ》りていと|清《きよ》き  |夫《つま》の|命《みこと》を|持《も》たせまし
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|御前《みまへ》に|玉治《たまはる》が
|真心《まごころ》|明《あ》かし|奉《たてまつ》る』
と|妻《つま》のお|勝《かつ》の|宇都山郷《うづやまがう》にありて|神業《しんげふ》に|奉仕《ほうし》し|居《を》れば、|貴嬢《きぢやう》の|御心《おこころ》は|察《さつ》すれども、|到底《たうてい》|夫婦《ふうふ》たる|事《こと》を|得《え》ずとの|旨《むね》を|神《かみ》の|前《まへ》に|表白《へうはく》したのである。|黄竜姫《わうりようひめ》は|愈《いよいよ》|恋《こひ》の|雲《くも》|晴《は》れて|熱心《ねつしん》に|神業《しんげふ》に|奉仕《ほうし》する|事《こと》となつた。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 北村隆光録)
第四章 |真心《まごころ》の|花《はな》(三)〔七六九〕
|玉能姫《たまのひめ》は|立上《たちあが》りて|玉《たま》の|無事《ぶじ》|到着《たうちやく》を|祝《しゆく》する|為《た》めに|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ|始《はじ》めた。
『|埴安彦《はにやすひこ》や|埴安姫《はにやすひめ》  |神《かみ》の|命《みこと》の|開《ひら》かれし
|三五教《あななひけう》の|神《かみ》の|教《のり》  |四方《よも》に|伝《つた》ふる|宣伝使《せんでんし》
|玉能《たまの》の|姫《ひめ》の|名《な》を|負《お》ひて  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|仕《つか》へつつ
|言依別《ことよりわけ》の|神言《みこと》もて  |三《み》つの|宝《たから》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》りて|朝夕《あさゆふ》に  |心《こころ》を|配《くば》る|吾《わが》|身魂《みたま》
|豊国姫《とよくにひめ》の|常久《とことは》に  |鎮《しづ》まりいます|比沼真奈井《ひぬまなゐ》
|神《かみ》の|霊地《れいち》に|程《ほど》|近《ちか》き  |丹波村《あかなみむら》の|平助《へいすけ》が
|娘《むすめ》のお|節《せつ》の|身《み》の|果《は》ては  |三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》
|青葉《あをば》|繁《しげ》れる|若彦《わかひこ》の  |妻《つま》の|命《みこと》と|選《えら》まれて
|袂《たもと》を|別《わか》つ|北南《きたみなみ》  |生田《いくた》の|森《もり》の|神館《かむやかた》
|謹《つつし》み|守《まも》る|折柄《をりから》に  |高姫《たかひめ》さまの|玉探《たまさが》し
|瀬戸《せと》の|荒浪《あらなみ》|打《う》ち|渡《わた》り  |家島《えじま》の|山《やま》の|奥《おく》|深《ふか》く
|迷《まよ》ひ|入《い》ります|心根《こころね》を  |思《おも》ひ|参《まゐ》らせ|樟船《くすぶね》を
|新《あら》たに|造《つく》りて|磯端《いそばた》に  |繋《つな》ぎて|帰《かへ》る|其《その》|後《あと》に
|懸《かか》らせ|給《たま》ふ|木《こ》の|花姫《はなひめ》の  |神《かみ》の|御言《みこと》を|畏《かしこ》みて
|又《また》もや|船《ふね》に|身《み》を|任《まか》せ  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉治別《たまはるわけ》の
|神《かみ》の|司《つかさ》と|諸共《もろとも》に  |心《こころ》の|闇《やみ》を|明石潟《あかしがた》
|波《なみ》も|高砂浦《たかさごうら》|近《ちか》く  |飾磨《しかま》の|海《うみ》を|乗《の》り|越《こ》えて
|小豆ケ島《せうどがしま》や|大島《おほしま》や  |馬関《ばくわん》の|瀬戸《せと》を|後《あと》にして
|大島《おほしま》|越《こ》えてアンボイナ  |南洋一《なんやういち》の|竜宮《りうぐう》に
|高姫《たかひめ》さまや|蜈蚣姫《むかでひめ》  その|他《た》の|人々《ひとびと》|救《すく》ひつつ
|波《なみ》を|隔《へだ》てて|帰《かへ》り|来《く》る  |又《また》もや|吾《わが》|身《み》に|神懸《かむがか》り
|御言《みこと》の|儘《まま》に|樟船《くすぶね》を  |大海原《おほうなばら》に|浮《うか》べつつ
|大海中《おほわだなか》に|漂《ただよ》へる  |魔島《ましま》に|近《ちか》く|漕《こ》ぎ|寄《よ》せて
|高姫《たかひめ》|一行《いつかう》|救《すく》ひ|上《あ》げ  |夜《よ》を|日《ひ》に|次《つ》いで|限《かぎ》りなき
|島《しま》を|縫《ぬ》ひつつ|沓島《くつじま》の  ニユージーランドの|玉《たま》の|森《もり》
|此処《ここ》に|一先《ひとま》づ|息《いき》|休《やす》め  |数多《あまた》の|土人《どじん》に|送《おく》られて
|波《なみ》に|漂《ただよ》ふ|海中《わだなか》の  |竜宮島《りうぐうじま》のタカ|港《みなと》
|目出度《めでた》く|船《ふね》を|乗《の》り|棄《す》てて  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉治別《たまはるわけ》の
|神《かみ》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》を|送《おく》りつつ
|地恩《ちおん》の|郷《さと》の|傍《かたはら》に  |袂《たもと》を|別《わか》ち|峰《みね》|伝《つた》ひ
ネルソン|山《ざん》を|後《あと》にして  ジヤンナの|郷《さと》に|友彦《ともひこ》が
|館《やかた》を|訪《たづ》ね|西北《せいほく》を  |目当《めあて》に|行方《ゆくへ》も|白雲《しらくも》の
|玉野ケ原《たまのがはら》に|着《つ》きにける  |酷暑《こくしよ》の|空《そら》に|焼《や》きつかれ
|椰子樹《やしじゆ》の|蔭《かげ》に|一夜《ひとよさ》を  |憩《いこ》ふ|折《をり》しも|羽撃《はばた》きの
|激《はげ》しき|音《おと》に|目《め》を|覚《さ》まし  |諏訪《すは》の|湖辺《こへん》に|佇《たたず》みて
|尊《たふと》き|神《かみ》の|神勅《しんちよく》を  |畏《かしこ》み|仕《つか》へ|奉《まつ》りつつ
|百《もも》の|試練《ためし》に|遭《あ》ひながら  |神《かみ》の|助《たす》けの|八咫烏《やあたがらす》
|背《せ》に|跨《またが》りて|悠々《いういう》と  |再《ふたた》び|帰《かへ》る|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|眼下《がんか》に|眺《なが》めて|玉依姫《たまよりひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|隠《かく》れます
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|参上《まゐのぼ》り  |常世《とこよ》の|春《はる》を|楽《たの》しみつ
|心《こころ》を|洗《あら》ふ|折柄《をりから》に  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|始《はじ》めとし
|黄竜姫《わうりようひめ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》  テールス|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》の
|五《い》つの|御魂《みたま》の|悠々《いういう》と  |訪《たづ》ね|来《きた》りし|嬉《うれ》しさに
|胸《むね》|轟《とどろ》かし|出《い》で|迎《むか》へ  |玉依姫《たまよりひめ》の|神言《みこと》もて
|奥殿《おくでん》|近《ちか》く|導《みちび》きつ  |三日月形《みかづきがた》に|座《ざ》を|占《し》めて
|暫《しばら》く|時《とき》を|待《ま》つ|程《ほど》に  |玉依姫《たまよりひめ》の|現《あ》れまして
|賤《いや》しき|妾《わらは》の|前《まへ》に|立《た》ち  |心《こころ》も|赤《あか》き|麻邇《まに》の|玉《たま》
ものをも|言《い》はずわが|御手《みて》に  |授《さづ》け|給《たま》ひし|尊《たふと》さを
|私《わたくし》せじと|心《こころ》|付《づ》き  |年波《としなみ》|高《たか》き|蜈蚣姫《むかでひめ》
|神《かみ》の|司《つかさ》の|玉《たま》の|手《て》に  |渡《わた》して|帰《かへ》る|三《み》つの|門《もん》
|浜辺《はまべ》に|出《い》でし|時《とき》も|時《とき》  |空《そら》|照《て》り|渡《わた》る|金翼《きんよく》の
|八咫烏《やあたがらす》に|乗《の》せられて  |世《よ》も|久方《ひさかた》の|天《あま》の|原《はら》
|雲霧《くもきり》|分《わ》けて|自転倒《おのころ》の  |神《かみ》の|鎮《しづ》まる|竜《たつ》の|島《しま》
|綾《あや》の|聖地《せいち》の|外囲《そとがこ》ひ  |由良《ゆら》の|港《みなと》に|名《な》も|高《たか》き
|人子《ひとご》の|司《つかさ》|秋山彦《あきやまひこ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|庭先《にはさき》に
|悠々《いういう》|降《くだ》り|来《きた》りけり  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》の|弥《いや》|高《たか》く  |恵《めぐみ》の|露《つゆ》の|霑《うるほ》ひて
|瑞《みづ》の|御魂《みたま》の|御神業《ごしんげふ》  |仕《つか》へ|給《たま》ひし|玉能姫《たまのひめ》
|吾《わが》|身《み》に|余《あま》る|光栄《くわうえい》を  |担《にな》ひて|又《また》も|竜宮《りうぐう》の
|麻邇《まに》の|玉《たま》まで|拝戴《はいたい》し  |五六七神政《みろくしんせい》の|一端《いつたん》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》りし|嬉《うれ》しさよ  バラモン|教《けう》に|身《み》を|委《ゆだ》ね
|大江《おほえ》の|山《やま》に|現《あ》れませし  |鬼雲彦《おにくもひこ》の|副棟梁《ふくとうりやう》
|鬼熊別《おにくまわけ》の|妻神《つまがみ》と  |現《あら》はれまして|鬼ケ城《おにがじやう》
|厳《いづ》の|砦《とりで》を|構《かま》へつつ  |神《かみ》の|教《をしへ》を|遠近《をちこち》に
|伝《つた》へ|給《たま》ひし|女丈夫《ぢよぢやうふ》も  |三五教《あななひけう》の|皇神《すめかみ》の
|教《をしへ》の|水《みづ》に|清《きよ》められ  |今《いま》は|尊《たふと》き|宣伝使《せんでんし》
|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|御光《おんひかり》  |普《あまね》く|四方《よも》に|輝《かがや》きぬ
|心《こころ》も|赤《あか》き|赤玉《あかだま》の  |光《ひかり》ますます|照《て》りはえて
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》は|四方《よも》の|国《くに》  |伊照《いて》り|透《とう》らひ|隈《くま》もなく
|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|功績《いさをし》は  |自転倒島《おのころじま》は|言《い》ふも|更《さら》
|国《くに》の|悉《ことごと》|雷《いかづち》の  |轟《とどろ》く|如《ごと》く|鳴《な》り|渡《わた》り
|神《かみ》の|御楯《みたて》と|常久《とことは》に  |仕《つか》へ|奉《まつ》らせ|給《たま》ふらむ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|千代《ちよ》も|八千代《やちよ》も|変《かは》りなく  |誠《まこと》の|道《みち》に|仕《つか》へませ
|拙《つたな》き|身魂《みたま》の|玉能姫《たまのひめ》  |心《こころ》を|籠《こ》めて|皇神《すめかみ》の
|貴《うづ》の|御前《みまへ》に|願《ね》ぎ|奉《まつ》る  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|座《ざ》に|着《つ》いた。
|蜈蚣姫《むかでひめ》は【く】の|字《じ》に|曲《まが》つた|腰《こし》を|揺《ゆす》りながら、|銀扇《ぎんせん》を|開《ひら》き|満面《まんめん》に|喜《よろこ》びの|色《いろ》を|湛《たた》へ、|中央《ちうあう》の|席《せき》に|現《あら》はれて|自《みづか》ら|歌《うた》ひ|自《みづか》ら|舞《ま》うた。
『メソポタミヤの|楽園地《らくゑんち》  |顕恩郷《めぐみのさと》を|立《た》ち|出《い》でて
|鬼雲彦《おにくもひこ》と|諸共《もろとも》に  |自転倒島《おのころじま》の|中心地《ちうしんち》
|大江《おほえ》の|山《やま》にバラモンの  |教《をしへ》の|庭《には》を|開《ひら》きつつ
|三嶽《みたけ》の|山《やま》や|鬼ケ城《おにがじやう》  |山《やま》の|尾《を》の|上《へ》や|川《かは》の|瀬《せ》の
|数多《あまた》の|神《かみ》を|寄《よ》せ|集《つど》へ  |神《かみ》の|教《をしへ》を|開《ひら》きつつ
|大国彦大神《おほくにひこのおほかみ》に  |百《もも》の|犠牲《いけにへ》|奉《たてまつ》り
|大神慮《おほみこころ》を|慰《なぐさ》めつ  |教《をしへ》の|花《はな》を|遠近《をちこち》に
|世《よ》に|芳《かん》ばしく|伝《つた》へむと  |心《こころ》を|焦《いら》つ|折柄《をりから》に
|瑞《みづ》の|御魂《みたま》と|現《あ》れませる  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》れる|神司《かむつかさ》  |心《こころ》も|清《きよ》き|大丈夫《ますらを》に
|大江《おほえ》の|城《しろ》や|鬼ケ城《おにがじやう》  |追《お》ひ|払《はら》はれて|鬼雲《おにくも》の
|彦《ひこ》の|命《みこと》と|鬼熊別《おにくまわけ》は  |伊吹《いぶき》の|山《やま》を|乗《の》り|越《こ》えて
|再《ふたた》び|波斯《フサ》の|野《の》を|横《よ》ぎり  |埃及《エヂプト》|指《さ》して|帰《かへ》りまし
|後《あと》に|残《のこ》りし|蜈蚣姫《むかでひめ》  |此《この》|頽勢《たいせい》を|何処迄《どこまで》も
|翻《ひるがへ》さむと|近江路《あふみぢ》や  |丹波《たんば》|若狭《わかさ》の|境《さかひ》なる
|三国ケ嶽《みくにがだけ》に|立《た》て|籠《こも》り  |体主霊従《たいしゆれいじう》と|知《し》りながら
|時《とき》の|勢《いきほひ》|已《や》むを|得《え》ず  |醜《しこ》の|御業《みわざ》を|継続《けいぞく》し
|国依別《くによりわけ》や|玉治別《たまはるわけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》に|退《やら》はれて
|再《ふたた》び|開《ひら》く|魔谷ケ岳《まやがだけ》  |小豆ケ島《せうどがしま》に|名《な》も|高《たか》き
|国城山《くにしろやま》に|身《み》を|転《てん》じ  |教《をしへ》を|開《ひら》き|黄金《わうごん》の
|玉《たま》の|在処《ありか》を|探《たづ》ねつつ  |月日《つきひ》を|送《おく》る|山《やま》の|上《うへ》
|思《おも》ひがけなき|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》の|高姫《たかひめ》や
|友彦《ともひこ》|其《その》|他《た》に|廻《めぐ》り|会《あ》ひ  |小糸《こいと》の|姫《ひめ》の|行末《ゆくすゑ》を
|探《たづ》ねがてらの|玉探《たまさが》し  |名《な》は|太平《たいへい》の|洋《うみ》なれど
|荒浪《あらなみ》|猛《たけ》る|和田《わだ》の|原《はら》  |生死《せいし》の|境《さかひ》に|浮沈《ふちん》して
|数多《あまた》の|島《しま》を|横《よ》ぎりつつ  |高姫《たかひめ》|一行《いつかう》と|諸共《もろとも》に
|一《ひと》つ|島《じま》なる|地恩城《ちおんじやう》  |黄竜姫《わうりようひめ》に|面会《めんくわい》し
|始《はじ》めて|覚《さと》る|吾《わが》|娘《むすめ》  ヤツと|一息《ひといき》つく|間《うち》に
|現《あら》はれ|来《きた》る|蜃気楼《しんきろう》  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|始《はじ》めとし
|黄竜姫《わうりようひめ》や|友彦《ともひこ》や  テールス|姫《ひめ》と|諸共《もろとも》に
|遠《とほ》き|山野《やまの》を|打渉《うちわた》り  |神《かみ》の|経綸《しぐみ》の|秘密郷《ひみつきやう》
|波《なみ》も|輝《かがや》く|諏訪《すは》の|湖《うみ》  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》の|神勅《しんちよく》に
|初《はじ》めて|開《ひら》く|胸《むね》の|中《うち》  |君《きみ》と|臣《おみ》とに|麻柱《あななひ》の
|誠《まこと》を|悟《さと》り|勇《いさ》ましく  |天津祝詞《あまつのりと》を|奏上《そうじやう》し
|歓《ゑら》ぎ|喜《よろこ》ぶ|一行《いつかう》は  |黄金《こがね》の|船《ふね》に|迎《むか》へられ
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|参上《まゐのぼ》り  |四辺《あたり》|眩《まばゆ》き|神社《かむやしろ》
|光《ひか》り|輝《かがや》き|出《い》で|給《たま》ふ  |玉依姫《たまよりひめ》の|御前《おんまへ》に
|進《すす》みし|時《とき》の|嬉《うれ》しさよ  |玉依姫《たまよりひめ》の|御手《おんて》より
|麻邇《まに》の|赤玉《あかだま》|受取《うけと》りし  |玉能《たまの》の|姫《ひめ》の|真心《まごころ》は
|玉《たま》と|光《ひかり》を|争《あらそ》ひつ  |顔色《かほいろ》|黒《くろ》く|腹《はら》|黒《くろ》き
|厭《いや》しき|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|前《まへ》  |玉《たま》の|御手《おんて》をさし|伸《の》べて
|麻邇珠《まにしゆ》の|玉《たま》を|吾《わ》が|御手《みて》に  |渡《わた》し|給《たま》ひし|健気《けなげ》さよ
|思《おも》へば|思《おも》へば|恥《はづか》しき  |執着心《しふちやくしん》の|曲鬼《まがおに》に
|取《と》りひしがれし|老《おい》の|身《み》の  |開悟《かいご》の|花《はな》は|咲《さ》き|出《い》でぬ
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》に|従《したが》ひて  |一同《いちどう》|館《やかた》を|立《た》ち|出《い》づる
|荘厳無比《さうごんむひ》の|三《み》つの|門《もん》  |潜《くぐ》るや|間《ま》もなく|金翼《きんよく》の
|八咫烏《やあたがらす》に|助《たす》けられ  |一潟千里《いつしやせんり》の|勢《いきほひ》に
|心《こころ》の|色《いろ》も|秋山彦《あきやまひこ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|庭先《にはさき》に
|紅葉《もみぢ》|彩《いろど》る|今日《けふ》の|空《そら》  |悠々《いういう》|降《くだ》り|着《つ》きにけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|今迄《いままで》|犯《をか》せし|親《おや》と|子《こ》が  |深《ふか》き|罪咎《つみとが》|宣《の》り|直《なほ》し
|見直《みなほ》しまして|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》の|片端《かたはし》に
|列《つら》ね|給《たま》へよ|瑞御魂《みづみたま》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の  |御分霊《わけのみたま》の|御前《おんまへ》に
|霊魂《みたま》を|洗《あら》ひ|身《み》を|清《きよ》め  |心《こころ》の|色《いろ》も|赤玉《あかだま》の
|曇《くも》り|晴《は》らして|願《ね》ぎ|奉《まつ》る  |朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも
|月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも  |仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも
|教《をしへ》の|君《きみ》の|御前《おんまへ》に  |汚《きたな》き|心《こころ》|二心《ふたごころ》
|孫子《まごこ》の|末《すゑ》に|至《いた》るまで  |夢《ゆめ》にも|持《も》たじと|皇神《すめかみ》の
|御前《みまへ》に|誓《ちか》ひ|奉《たてまつ》る  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへ|給《たま》へかし』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つた。
|久助《きうすけ》は|数多《あまた》の|人々《ひとびと》を|憚《はばか》りながら、|声《こゑ》|密《ひそ》かに|歌《うた》ひ|始《はじ》めた。
『バラモン|教《けう》の|神司《かむづかさ》  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|御教《みをしへ》を
|此上《こよ》なく|尊《たふと》み|敬《うやま》ひて  |妻《つま》のお|民《たみ》と|諸共《もろとも》に
|大国彦大神《おほくにひこのおほかみ》に  |仕《つか》へ|奉《まつ》りて|村肝《むらきも》の
|心《こころ》の|雲《くも》を|明石潟《あかしがた》  |浪《なみ》を|渡《わた》りて|瀬戸《せと》の|海《うみ》
|堅磐常磐《かきはときは》に|浮《うか》びたる  |小豆ケ島《せうどがしま》に|名《な》も|高《たか》き
|国城山《くにしろやま》の|岩窟《がんくつ》に  |心《こころ》を|清《きよ》め|身《み》を|潔《きよ》め
|教《をしへ》の|道《みち》を|歩《あゆ》む|折《をり》  |三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》
|高姫《たかひめ》さまや|貫州《くわんしう》の  |教司《をしへつかさ》の|出《い》でまして
|神《かみ》の|大道《おほぢ》を|宣《の》り|給《たま》ふ  |時《とき》しもあれや|其《その》|昔《むかし》
|吾等《われら》|夫婦《ふうふ》を|虐《しひた》げし  バラモン|教《けう》の|友彦《ともひこ》が
|此《この》|場《ば》に|現《あら》はれ|来《きた》るより  ハツと|見合《みあ》はす|顔《かほ》と|顔《かほ》
|心《こころ》の|曇《くもり》|晴《は》れやらぬ  |吾等《われら》|夫婦《ふうふ》は|友彦《ともひこ》に
|掴《つか》み|掛《かか》つて|恨《うら》み|言《ごと》  |口《くち》を|極《きは》めて|罵《ののし》りし
|己《おの》が|心《こころ》の|恥《はづか》しさ  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》や|高姫《たかひめ》の
|後《あと》に|従《したが》ひ|瀬戸《せと》の|海《うみ》  |国城山《くにしろやま》を|後《あと》に|見《み》て
|馬関《ばくわん》の|海峡《かいけふ》|打渡《うちわた》り  |神《かみ》の|恵《めぐ》みの|大島《おほしま》や
|南洋一《なんやういち》の|竜宮島《りうぐうじま》  |波《なみ》のまにまに|漂《ただよ》ひて
ニユージーランドの|沓島《くつじま》に  |月日《つきひ》を|重《かさ》ねて|辿《たど》り|着《つ》き
|又《また》もや|竜宮《りうぐう》の|一《ひと》つ|島《じま》  タカの|港《みなと》に|船《ふね》|繋《つな》ぎ
|焦付《こげつ》く|様《やう》な|炎天《えんてん》を  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》に|従《したが》ひて
|全島一《ぜんたういち》の|高原地《かうげんち》  |青垣山《あをがきやま》を|廻《めぐ》らせる
|風《かぜ》さへ|清《きよ》き|地恩城《ちおんじやう》  |広《ひろ》き|馬場《ばんば》に|立向《たちむか》ひ
|群集《ぐんしふ》に|紛《まぎ》れて|城《しろ》の|側《わき》  |峰《みね》をつたひてネルソンの
|山《やま》の|絶頂《ぜつちやう》に|登《のぼ》りつめ  |四方《よも》を|見晴《みは》らす|折柄《をりから》に
|空前絶後《くうぜんぜつご》の|旋風《つむじかぜ》  |吹《ふ》き|散《ち》らされて|谷《たに》の|底《そこ》
|名《な》も|恐《おそ》ろしき|曲津神《まがつかみ》  |大蛇《をろち》にまかれて|玉《たま》の|緒《を》の
|息《いき》も|絶《た》えむとする|時《とき》に  |神《かみ》の|恵《めぐみ》の|著《いちじる》く
|三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》  |玉治別《たまはるわけ》の|神司《かむつかさ》
|其《その》|場《ば》に|現《あら》はれましまして  |吾等《われら》|夫婦《ふうふ》を|救《すく》ひまし
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |愈《いよいよ》|揃《そろ》ふ|五《い》つ|御霊《みたま》
|人跡《じんせき》|絶《た》えし|谷道《たにみち》を  |辿《たど》り|辿《たど》りて|日《ひ》を|重《かさ》ね
|虎《とら》|狼《おほかみ》や|鬼《おに》|大蛇《をろち》  |醜《しこ》の|曲津《まがつ》の|猛《たけ》び|声《ごゑ》
|胸《むね》を|躍《をど》らせ|肝《きも》|冷《ひや》し  |神《かみ》の|恵《めぐみ》を|力《ちから》とし
|誠《まこと》の|道《みち》を|杖《つゑ》として  |一望《いちばう》|千里《せんり》の|玉野原《たまのはら》
|金銀《きんぎん》|輝《かがや》く|砂道《すなみち》を  |汗《あせ》をダラダラ|滝津瀬《たきつせ》の
|落《お》つるが|如《ごと》く|搾《しぼ》りつつ  |神《かみ》の|経綸《しぐみ》の|秘密郷《ひみつきやう》
|諏訪《すは》の|湖辺《こへん》に|着《つ》きにける  |初稚姫《はつわかひめ》を|始《はじ》めとし
|一行《いつかう》|五人《ごにん》は|玉依姫《たまよりひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|神勅《しんちよく》を
|畏《かしこ》み|麻柱《あなな》ひ|奉《まつ》りつつ  |教司《をしへつかさ》に|従《したが》ひて
|竜宮島《りうぐうじま》を|廻《めぐ》り|終《を》へ  |神《かみ》の|救《すく》ひの|八咫烏《やあたがらす》
|黄金《こがね》の|翼《つばさ》に|助《たす》けられ  |金波《きんぱ》|銀波《ぎんぱ》の|漂《ただよ》へる
|諏訪《すは》の|湖水《こすゐ》に|翔《か》け|戻《もど》り  |黄金《こがね》の|門《もん》をかい|潜《くぐ》り
|玉依姫《たまよりひめ》の|潜《ひそ》みます  |竜《たつ》の|宮居《みやゐ》の|奥《おく》|深《ふか》く
|仕《つか》へ|奉《まつ》りて|時《とき》を|待《ま》つ  |時《とき》しもあれや|瑞御霊《みづみたま》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |貴《うづ》の|御子《おんこ》と|生《あ》れませる
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|初《はじ》めとし  |黄竜姫《わうりようひめ》や|蜈蚣姫《むかでひめ》
テールス|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》の  |神《かみ》の|使《つかひ》の|宣伝使《せんでんし》
|面《おもて》に|笑《ゑみ》を|浮《うか》べつつ  |徐々《しづしづ》|進《すす》み|来《きた》ります
|其《その》|御姿《みすがた》を|拝《はい》してゆ  |心《こころ》の|駒《こま》は|勇《いさ》み|立《た》ち
|嬉《うれ》し|涙《なみだ》はあふれける  |奥殿《おくでん》|深《ふか》く|進《すす》み|入《い》り
|奥《おく》の|一間《ひとま》に|座《ざ》を|占《し》めて  |月《つき》の|形《かたち》の|簾《みす》の|内《うち》
|十曜《とえう》の|紋《もん》の|十人連《とたりづれ》  |三日月形《みかづきがた》に|並《なら》び|居《ゐ》る
|高座《かうざ》の|扉《とびら》を|押開《おしあ》けて  |四辺《あたり》|眩《まばゆ》き|玉依《たまより》の
|姫《ひめ》の|命《みこと》の|御姿《おんすがた》  |玉《たま》の|肌《はだへ》も|細《こま》やかに
|雪《ゆき》より|白《しろ》き|白玉《しらたま》を  |明石《あかし》の|郷《さと》の|久助《きうすけ》が
|両手《りやうて》に|授《さづ》け|給《たま》ひつつ  |笑《ゑ》ませ|給《たま》へる|崇高《けだか》さよ
|押戴《おしいただ》いて|久助《きうすけ》は  |神《かみ》の|教《をしへ》の|友彦《ともひこ》の
|玉《たま》の|御手《おんて》に|差《さ》し|渡《わた》し  ヤツと|胸《むね》をば|撫《な》で|下《おろ》し
|感謝《かんしや》の|涙《なみだ》に|咽《むせ》ぶ|折《をり》  |玉依姫大神《たまよりひめのおほかみ》は
|吾等《われら》|一同《いちどう》に|目礼《もくれい》し  ものをも|言《い》はず|元《もと》の|座《ざ》に
|玉《たま》の|戸《と》|閉《と》ぢて|入《い》り|給《たま》ふ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|夢《ゆめ》ではないかと|勇《いさ》み|立《た》ち  |心《こころ》も|輝《かがや》く|折柄《をりから》に
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》は|悠々《いういう》と  |御首《みくび》に|宝珠《ほつしゆ》をかけながら
|早《はや》くも|此《この》|場《ば》を|立《た》ち|給《たま》ふ  |一同《いちどう》|御後《みあと》に|従《したが》ひて
|光《ひか》り|眩《まばゆ》き|三《み》つの|門《もん》  |潜《くぐ》り|出《い》づれば|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|朝日《あさひ》に|照《て》りて|金銀《きんぎん》の  |波《なみ》も|殊更《ことさら》|爽《さはや》かに
|天国《てんごく》|浄土《じやうど》の|有様《ありさま》も  かくやあらむと|思《おも》ふ|折《をり》
|御空《みそら》を|照《て》らして|降《くだ》り|来《く》る  |八咫烏《やあたがらす》の|一行《いつかう》に
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|初《はじ》めとし  |吾等《われら》|十人《とたり》の|生身魂《いくみたま》
|列《れつ》を|正《ただ》して|中空《ちうくう》を  |夢《ゆめ》の|如《ごと》くに|翔《か》け|廻《めぐ》り
|名《な》さへ|目出度《めでた》き|磯輪垣《しわがき》の  |秀妻国《ほづまのくに》の|中心地《ちうしんち》
|由良《ゆら》の|港《みなと》に|名《な》も|高《たか》き  |秋山彦《あきやまひこ》の|庭先《にはさき》に
|黄金《こがね》の|鳩《はと》の|降《くだ》る|如《ごと》  |天降《あも》り|来《きた》りし|嬉《うれ》しさよ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|三五教《あななひけう》の|御教《みをしへ》を  |四方《よも》の|国々《くにぐに》|隈《くま》もなく
|教《をし》へ|導《みちび》き|皇神《すめかみ》の  |尊《たふと》き|経綸《しぐみ》の|万分一《まんぶいち》
|尽《つく》させ|給《たま》へ|天津神《あまつかみ》  |国津神《くにつかみ》|等《たち》|八百万《やほよろづ》
|別《わ》けて|尊《たふと》き|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|教《をしへ》の|司神《つかさがみ》
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》や  |豊国姫《とよくにひめ》の|御前《おんまへ》に
|明石《あかし》の|郷《さと》の|久助《きうすけ》が  |心《こころ》も|清《きよ》く|願《ね》ぎ|奉《まつ》る
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|元《もと》の|席《せき》に|着《つ》いた。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 谷村真友録)
第五章 |真心《まごころ》の|花《はな》(四)〔七七〇〕
|友彦《ともひこ》|宣伝使《せんでんし》は|立《た》ち|上《あが》つて|銀扇《ぎんせん》を|開《ひら》き、|自《みづか》ら|歌《うた》ひ|自《みづか》ら|踊《をど》り|狂《くる》うた。その|歌《うた》、
『バラモン|教《けう》の|神司《かむつかさ》  |鬼雲彦《おにくもひこ》の|副柱《そへばしら》
|鬼熊別《おにくまわけ》の|家《いへ》の|子《こ》と  |仕《つか》へ|奉《まつ》りし|友彦《ともひこ》は
|花見《はなみ》の|宴《えん》の|帰《かへ》りがけ  エデンの|川《かは》を|渡《わた》らむと
|宴会《うたげ》の|酒《さけ》に|酔《ゑ》ひ|潰《つぶ》れ  |諸人《もろびと》|騒《さわ》ぎ|立《た》ち|廻《まは》る
|頃《ころ》しも|主《あるじ》の|愛娘《まなむすめ》  |小糸《こいと》の|姫《ひめ》は|過《あやま》ちて
ザンブとばかり|川《かは》の|瀬《せ》に  |落《お》ち|込《こ》み|給《たま》ふと|見《み》るよりも
|身《み》を|躍《をど》らして|川中《かはなか》に  |生命《いのち》を|的《まと》にもぐり|込《こ》み
|溺《おぼ》れながらも|救《すく》ひ|上《あ》げ  |鬼熊別《おにくまわけ》の|御夫婦《ごふうふ》に
|此上《こよ》なきものと|愛《あい》せられ  |抜擢《ばつてき》されてバラモンの
|珍《うづ》の|教《をしへ》の|神司《かむづかさ》  |仕《つか》へ|奉《まつ》るを|幸《さいは》ひに
|深窓《しんそう》に|育《そだ》ちし|小糸姫《こいとひめ》  |隙間《すきま》の|風《かぜ》にもあてられぬ
|一人《ひとり》の|乙女《をとめ》を|友彦《ともひこ》が  |舌《した》の|剣《つるぎ》にチヨロまかし
|手《て》に|手《て》を|取《と》つてエデン|川《がは》  |流《なが》れ|流《なが》れて|錫蘭《セイロン》の
|島《しま》に|漸《やうや》う|辿《たど》りつき  |山奥《やまおく》|深《ふか》く|身《み》を|潜《ひそ》め
|小糸《こいと》の|姫《ひめ》を|女王《ぢよわう》とし  |吾《われ》は|僕《しもべ》の|神《かみ》となり
|此《この》|世《よ》を|誑《たば》かり|居《ゐ》たりしが  |持《も》つて|生《うま》れた|酒好《さけずき》の
|乱暴狼藉《らんばうろうぜき》|末《すゑ》|遂《つひ》に  |小糸《こいと》の|姫《ひめ》に|棄《す》てられて
|怨《うら》みは|深《ふか》き|錫蘭《シロ》の|海《うみ》  |土人《どじん》の|船《ふね》に|身《み》を|任《まか》せ
|印度《つき》の|国《くに》まで|漕《こ》ぎ|渡《わた》り  |難行《なんぎやう》|苦行《くぎやう》の|数《かず》|尽《つく》し
|又《また》もや|流《なが》れて|自転倒《おのころ》の  |敦賀《つるが》の|海《うみ》に|上陸《じやうりく》し
|夜《よ》を|日《ひ》についで|丹波路《たにはぢ》の  |宇都山郷《うづやまがう》に|身《み》をひそめ
|鳥《とり》なき|郷《さと》の|蝙蝠《かうもり》を  |気取《きど》りて|茲《ここ》にバラモンの
|教司《をしへつかさ》となりすまし  |郷《さと》の|老若男女《らうにやくなんによ》をば
|言葉《ことば》|巧《たくみ》に|説《と》きつけて  |教《をしへ》を|開《ひら》く|折柄《をりから》に
|天《あめ》の|真浦《まうら》の|宣伝使《せんでんし》  |現《あら》はれ|来《きた》りいと|清《きよ》き
その|言霊《ことたま》にまくられて  |雲《くも》を|霞《かすみ》と|逃《に》げて|行《ゆ》く
|山城《やましろ》、|大和《やまと》、|紀伊《きい》、|和泉《いづみ》  |浪速《なには》の|里《さと》に|舞《ま》ひ|込《こ》みて
|数多《あまた》の|男女《なんによ》を|誑《たぶ》らかし  |心《こころ》も|暗《くら》き|身《み》ながらも
|神《かみ》を|表《おもて》に|標榜《へうぼう》し  |明石《あかし》の|里《さと》の|久助《きうすけ》が
|家《いへ》に|到《いた》りて|曲事《まがこと》の  |限《かぎ》りを|尽《つく》し|磯端《いそばた》に
|繋《つな》ぎし|船《ふね》を|横奪《わうだつ》し  |力《ちから》|限《かぎ》りに|漕《こ》ぎ|渡《わた》る
|浪《なみ》の|淡路《あはぢ》の|一《ひと》つ|島《じま》  |残《のこ》る|隈《くま》なく|遍歴《へんれき》し
そのいやはてに|東助《とうすけ》が  |不在《るす》を|嗅《か》ぎつけうまうまと
|館《やかた》に|招《まね》き|入《い》れられて  お|百合《ゆり》の|方《かた》を|前《まへ》に|置《お》き
|憑依《ひようい》もせない|神《かむ》がかり  うまうまやつて|九分九厘《くぶくりん》
|忽《たちま》ち|尻尾《しつぽ》を|掴《つか》まれて  |進退《しんたい》|谷《きは》まる|折柄《をりから》に
|死《し》んだと|思《おも》うた|東助《とうすけ》が  |清《きよ》、|武《たけ》、|鶴《つる》の|三人《さんにん》を
|伴《ともな》ひ|此処《ここ》に|帰《かへ》り|来《く》る  |南無三宝《なむさんぼう》と|気《き》を|焦《いら》ち
|少時《しばし》の|猶予《いうよ》と|暇《ひま》どらせ  |廁《かはや》の|中《なか》に|忍《しの》び|入《い》り
|思案《しあん》の|果《はて》は|跨《また》げ|穴《あな》  |潜《くぐ》りて|此《この》|家《や》を|逃《のが》れ|出《い》で
|沖《おき》に|繋《つな》ぎし|屋根無《たなな》しの  |小舟《こぶね》に|身《み》をば|任《まか》せつつ
|生命《いのち》からがら|瀬戸《せと》の|海《うみ》  |力《ちから》|限《かぎ》りに|漕《こ》ぎ|出《だ》せば
|如何《いか》なる|風《かぜ》の|吹《ふ》き|廻《まは》し  |小豆ケ島《せうどがしま》へつけられて
|風《かぜ》|凪《な》ぎ|渡《わた》るその|間《あひだ》  |此《こ》の|浮島《うきしま》をめぐらむと
|脚《あし》に|任《まか》せて|国城《くにしろ》の  |山《やま》の|砦《とりで》に|行《い》て|見《み》れば
|思《おも》ひがけなき|蜈蚣姫《むかでひめ》  |三五教《あななひけう》の|高姫《たかひめ》や
|明石《あかし》の|里《さと》の|久助《きうすけ》に  |出会《であ》つた|時《とき》の|苦《くる》しさは
|此《こ》の|地《ち》の|底《そこ》に|穴《あな》あらば  |消《き》えも|入《い》りたき|心地《ここち》して
|心《こころ》|悩《なや》ます|折柄《をりから》に  |又《また》もや|来《きた》る|東助《とうすけ》が
|捕手《とりて》の|男《をとこ》に|縛《しば》られて  |一旦《いつたん》|淡路《あはぢ》の|洲本《すもと》まで
|連《つ》れ|帰《かへ》られし|苦《くる》しさよ  |地獄《ぢごく》で|仏《ほとけ》の|東助《とうすけ》が
|情《なさけ》の|言葉《ことば》にほだされて  ヤツと|胸《むね》をば|撫《な》で|下《おろ》し
|清《きよ》、|鶴《つる》、|武《たけ》の|三人《さんにん》と  |船《ふね》を|操《あやつ》り|高姫《たかひめ》が
|危《あやふ》き|身《み》の|上《うへ》|守《まも》らむと  |南洋《なんやう》|大小《だいせう》の|島嶼《しまじま》に
|後《あと》を|探《たづ》ねて|周航《しうかう》し  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》や|初稚姫《はつわかひめ》の
|神《かみ》の|命《みこと》にめぐりあひ  |海洋万里《かいやうばんり》の|浪《なみ》の|上《うへ》
|月日《つきひ》を|重《かさ》ねて|漸《やうや》うに  |一《ひと》つの|島《しま》に|安着《あんちやく》し
タカの|港《みなと》を|後《あと》に|見《み》て  |地恩《ちおん》の|郷《さと》に|行《ゆ》き|見《み》れば
|女王《ぢよわう》と|名乗《なのり》る|黄竜姫《わうりようひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》は|小糸姫《こいとひめ》
|過《す》ぎし|昔《むかし》を|懐《おも》ひ|出《だ》し  |心《こころ》を|悩《なや》ます|折柄《をりから》に
|地恩《ちおん》の|城《しろ》の|下人《しもびと》に  |追《お》ひまくられて|城外《じやうぐわい》の
|林《はやし》の|中《なか》に|放棄《はうき》され  |百《もも》の|艱難《なやみ》を|忍《しの》びつつ
|山《やま》の|尾《を》|伝《つた》ひ|峰《みね》|越《こ》えて  |百里《ひやくり》|二百里《にひやくり》|何時《いつ》しかに
|果実《このみ》に|飢《うゑ》をしのぎつつ  ネルソン|山《ざん》の|頂上《いただき》に
|登《のぼ》りて|息《いき》を|休《やす》めつつ  |四辺《あたり》の|景色《けしき》を|打眺《うちなが》め
|心《こころ》を|養《やしな》ふ|折《をり》もあれ  |忽《たちま》ち|起《おこ》る|山腹《さんぷく》の
|黒白《あやめ》もわかぬ|黒雲《くろくも》に  |包《つつ》まれ|咫尺《しせき》も|弁《わきま》へず
|心《こころ》|痛《いた》むる|折柄《をりから》に  レコード|破《やぶ》りの|烈風《れつぷう》に
|吹《ふ》き|捲《まく》られて|中天《ちうてん》に  |空中《くうちう》|飛行《ひかう》を|演《えん》じつつ
|数多《あまた》の|峰《みね》の|彼方《あなた》なる  ジヤンナの|郷《さと》に|顛落《てんらく》し
|息《いき》も|絶《た》えなむ|其《その》|時《とき》に  ジヤンナイ|教《けう》の|人々《ひとびと》に
ヤツと|生命《いのち》を|助《たす》けられ  |鼻《はな》の|赤《あか》きを|幸《さいは》ひに
|数多《あまた》の|人《ひと》にオーレンス  サーチライスと|敬《うやま》はれ
テールス|姫《ひめ》に|思《おも》はれて  |茲《ここ》にメシヤとなりすまし
|言葉《ことば》も|通《かよ》はぬ|郷人《さとびと》に  |出任《でまか》せ|言葉《ことば》を|列《なら》べつつ
|崇拝《すうはい》させて|居《ゐ》たりしが  |妻《つま》の|命《みこと》に|実情《じつじやう》を
|残《のこ》る|隈《くま》なく|打明《うちあ》けて  |夫婦《ふうふ》は|茲《ここ》に|気《き》を|合《あは》せ
|地恩《ちおん》の|城《しろ》に|立《た》ち|向《むか》ひ  |黄竜姫《わうりようひめ》に|昔日《せきじつ》の
|無礼《ぶれい》を|謝《しや》せば|快《こころよ》く  |昔《むかし》の|怨《うら》みを|打忘《うちわす》れ
|東《ひがし》と|西《にし》と|携《たづさ》へて  |竜宮島《りうぐうじま》を|治《をさ》めむと
|宣《の》らせ|給《たま》ひし|嬉《うれ》しさよ  |黄竜姫《わうりようひめ》の|計《はか》らひに
|地恩《ちおん》の|城《しろ》の|馬場《ばんば》にて  |園遊会《ゑんいうくわい》を|開《ひら》かれし
|時《とき》しもあれやネルソンの  |山《やま》の|尾《を》|高《たか》く|蜃気楼《しんきろう》
|現《あら》はれ|来《きた》り|友彦《ともひこ》は  |猿田彦司《さだひこがみ》と|相成《あひな》りて
|一行《いつかう》|五人《ごにん》|蓑笠《みのかさ》の  |軽《かる》き|身装《みなり》を|装《よそほ》ひつつ
ジヤンナの|郷《さと》に|立寄《たちよ》りて  |教《をしへ》の|御子《みこ》に|送《おく》られつ
|山川《やまかは》|渡《わた》り|漸々《やうやう》に  |玉野ケ原《たまのがはら》に|安着《あんちやく》し
|茲《ここ》に|身魂《みたま》を|清《きよ》めつつ  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》に|罪科《つみとが》を
|宣《の》り|直《なほ》されて|潔《いさぎよ》く  |喜《よろこ》び|勇《いさ》む|折柄《をりから》に
|湖《うみ》を|辷《すべ》つて|駆《か》け|来《きた》る  |黄金《こがね》の|船《ふね》を|眺《なが》むれば
|地恩《ちおん》の|城《しろ》に|現《あら》はれて  |左守神《さもりのかみ》と|仕《つか》へたる
|清公《きよこう》さまを|始《はじ》めとし  チヤンキー、モンキー|外《ほか》|二人《ふたり》
|無言《むごん》の|儘《まま》に|船《ふね》の|上《うへ》  |此方《こなた》に|向《むか》つて|麾《さしまね》く
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|始《はじ》めとし  |一行《いつかう》|船《ふね》に|飛《と》び|乗《の》りて
|真帆《まほ》を|孕《はら》みし|浪《なみ》の|上《うへ》  |風《かぜ》に|吹《ふ》かれて|辷《すべ》り|行《ゆ》く
|妙音菩薩《めうおんぼさつ》の|音楽《おんがく》や  |浪《なみ》の|鼓《つづみ》に|送《おく》られて
|玉依姫《たまよりひめ》の|在《あ》れませる  |竜《たつ》の|宮居《みやゐ》の|側近《そばちか》く
|御船《みふね》を|横《よこ》たへ|十柱《とはしら》の  |教《をしへ》の|御子《みこ》は|悠々《いういう》と
|黄金《こがね》の|門《もん》を|潜《くぐ》りつつ  |心《こころ》いそいそ|進《すす》む|折《をり》
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |玉治別《たまはるわけ》の|一行《いつかう》に
|思《おも》はぬ|処《ところ》に|迎《むか》へられ  |又《また》も|十二《じふに》の|姫神《ひめがみ》に
|前後左右《ぜんごさいう》を|守《まも》られて  |玉依姫《たまよりひめ》の|常久《とことは》に
|鎮《しづ》まりいます|水館《みづやかた》  |奥《おく》の|広間《ひろま》に|招《せう》ぜられ
|畏《かしこ》み|仕《つか》へ|奉《まつ》る|折《をり》  |上座《じやうざ》の|玉《たま》の|扉《と》|押開《おしひら》き
|近侍《きんじ》の|女神《めがみ》に|五色《いついろ》の  |玉《たま》を|持《も》たせて|悠々《いういう》と
|現《あら》はれ|給《たま》ひし|崇高《けだか》さよ  |心《こころ》も|清《きよ》き|白玉《しらたま》の
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》の|其《そ》の|光《ひかり》  |明石《あかし》の|郷《さと》の|久助《きうすけ》に
|手《て》づから|授《さづ》け|給《たま》ひつつ  |無言《むごん》の|儘《まま》に|微笑《びせう》して
|其《そ》の|場《ば》に|立《た》たせ|給《たま》ひける  |久助《きうすけ》|玉《たま》を|頂《いただ》きて
|教《をしへ》の|道《みち》の|友彦《ともひこ》が  |手《て》に|渡《わた》しつつ|悠々《いういう》と
|元《もと》の|座《ざ》につき|畏《かしこ》まる  |心《こころ》|穢《けが》れし|友彦《ともひこ》も
|案《あん》に|相違《さうゐ》の|此《この》|始末《しまつ》  うら|恥《はづ》かしく|思《おも》へども
|神《かみ》の|恵《めぐみ》の|露《つゆ》の|玉《たま》  |潤《うるほ》ふ|顔《かほ》に|伏《ふ》し|拝《をが》み
|侍女《じぢよ》の|賜《たま》ひし|錦襴《きんらん》の  |袋《ふくろ》に|深《ふか》く|秘《ひ》めながら
|首《くび》に|確《しつか》と|結《むす》びつけ  |神《かみ》の|恵《めぐみ》を|感謝《かんしや》しつ
|涙《なみだ》に|暮《く》るる|時《とき》もあれ  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》は|座《ざ》を|立《た》ちて
|悠々《いういう》|此《この》|場《ば》を|出《い》で|給《たま》ふ  |十曜《とえう》の|紋《もん》に|因《ちな》みたる
|神《かみ》の|十柱《とはしら》|宣伝使《せんでんし》  |竜《たつ》の|館《やかた》を|立《た》ち|出《い》でて
|八咫烏《やあたがらす》の|背《せな》に|乗《の》り  |雲霧《くもきり》|分《わ》けて|浪《なみ》の|上《うへ》
|渡《わた》りて|漸《やうや》く|秋山彦《あきやまひこ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|庭園《ていゑん》に
|降《くだ》り|来《きた》れる|嬉《うれ》しさよ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|仁慈無限《じんじむげん》の|大神《おほかみ》の  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|罪科《つみとが》|深《ふか》き|友彦《ともひこ》を  |見捨《みす》て|給《たま》はず|竜宮《りうぐう》の
|麻邇《まに》の|玉《たま》をば|授《さづ》けられ  |神政成就《しんせいじやうじゆ》の|神業《かむわざ》に
|加《くは》へ|給《たま》ひし|有難《ありがた》さ  これより|心《こころ》|取《と》り|直《なほ》し
|身魂《みたま》を|浄《きよ》め|夢《ゆめ》の|間《ま》も  |神《かみ》の|恵《めぐみ》を|忘《わす》れずに
|真心《まごころ》|尽《つく》して|仕《つか》へなむ  |錦《にしき》の|宮《みや》に|常久《とことは》に
|鎮《しづ》まりいます|天地《あめつち》の  |元《もと》の|御祖《みおや》の|大御神《おほみかみ》
|瑞《みづ》の|御魂《みたま》の|大御神《おほみかみ》  |力《ちから》なき|身《み》を|憐《あは》れみて
|三千世界《さんぜんせかい》の|神業《かむわざ》を  |過《あやま》ちなしにすくすくに
|仕《つか》へさせませ|友彦《ともひこ》が  |心《こころ》の|限《かぎ》り|身《み》の|限《かぎ》り
|力《ちから》の|限《かぎ》り|真心《まごころ》を  |捧《ささ》げて|祈《いの》り|奉《たてまつ》る
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
お|民《たみ》は|又《また》もや|立《た》ち|上《あが》つて|祝意《しゆくい》を|表《へう》し、|歌《うた》ひ|舞《ま》ふ。
『|此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|大神《おほかみ》の  |五六七《みろく》の|神世《みよ》の|御仕組《おんしぐみ》
|三《み》つの|御玉《みたま》は|永久《とこしへ》に  |自転倒島《おのころじま》に|納《をさ》まりて
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》も|弥顕著《いやちこ》に  |輝《かがや》く|折《をり》しも|竜宮《りうぐう》の
|五《いつ》つの|宝《たから》|麻邇宝珠《まにほつしゆ》  |神《かみ》の|御稜威《みいづ》に|現《あら》はれて
|大和島根《やまとしまね》に|恙《つつが》なく  |寄《よ》らせ|給《たま》ひし|尊《たふと》さよ
|三《みづ》と|五《いづ》との|睦《みつ》び|合《あ》ひ  |三五《さんご》の|月《つき》の|御教《みをしへ》は
|八洲《やしま》の|国《くに》に|隈《くま》もなく  |照《て》り|渡《わた》るらむ|皇神《すめかみ》の
|経綸《しぐみ》の|糸《いと》にあやつられ  |誠《まこと》あかしの|郷人《さとびと》と
|生《うま》れ|出《い》でたる|久助《きうすけ》が  |妻《つま》のお|民《たみ》は|如何《いか》にして
|斯《かか》る|尊《たふと》き|神業《かむわざ》に  |仕《つか》へ|得《え》たるか|尊《たふと》くも
|皇大神《すめおほかみ》の|御恵《おんめぐ》み  |有難涙《ありがたなみだ》に|咽《むせ》びつつ
|神《かみ》の|仕組《しぐみ》の|永久《とこしへ》に  |末《すゑ》ひろびろと|開《ひら》く|世《よ》を
|松《まつ》の|神世《かみよ》と|仰《あふ》ぎつつ  |明石《あかし》の|浜《はま》の|松原《まつばら》に
|打寄《うちよ》せ|来《きた》る|清砂《きよすな》の  |数《かず》|限《かぎ》りなき|神徳《しんとく》を
|尊《たふと》み|畏《かしこ》み|喜《よろこ》びて  |皇大神《すめおほかみ》の|御前《おんまへ》に
|心《こころ》の|限《かぎ》り|身《み》の|限《かぎ》り  |御稜威《みいづ》を|称《たた》へ|終《を》へ|奉《まつ》る
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|玉依姫《たまよりひめ》の|賜《たま》ひたる  |黄金色《こがねいろ》なす|麻邇《まに》の|珠《たま》
|四方《よも》の|国々《くにぐに》テールス|姫《ひめ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|厳身魂《いづみたま》
|輝《かがや》き|渡《わた》れ|永久《とこしへ》に  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つた。
テールス|姫《ひめ》は|立《た》ち|上《あが》り、|又《また》も|祝歌《しゆくか》をうたひ|始《はじ》めた。
『|大海原《おほうなばら》に|漂《ただよ》へる  |黄金《こがね》|花《はな》|咲《さ》く|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つ|島《じま》にて|名《な》も|高《たか》き  ネルソン|山《ざん》の|山《やま》つづき
ジヤンナの|郷《さと》に|現《あら》はれて  ジヤンナイ|教《けう》を|開《ひら》きたる
テールス|姫《ひめ》は|三五《あななひ》の  |道《みち》の|司《つかさ》の|友彦《ともひこ》に
|尊《たふと》き|道《みち》を|伝《つた》へられ  |鬼《おに》をも|欺《あざむ》く|郷人《さとびと》に
|誠《まこと》の|道《みち》を|宣《の》り|了《を》へて  |地恩《ちおん》の|城《しろ》に|名《な》も|高《たか》き
|黄竜姫《わうりようひめ》の|御前《おんまへ》に  |夫《つま》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に
|現《あら》はれ|出《い》でて|村肝《むらきも》の  |心《こころ》の|底《そこ》を|語《かた》り|合《あ》ひ
|力《ちから》を|協《あは》せ|竜宮《りうぐう》の  |一《ひと》つの|島《しま》を|治《をさ》めむと
|語《かた》らふ|折《をり》しも|中天《ちうてん》に  |現《あら》はれ|出《い》でし|蜃気楼《しんきろう》
|諏訪《すは》の|湖水《こすゐ》は|竜宮《りうぐう》の  |麻邇《まに》の|宝《たから》を|取《と》りもたし
|数多《あまた》の|女神《めがみ》いそいそと  いそしみ|給《たま》ふ|其《その》|姿《すがた》
|遥《はるか》に|拝《をが》み|奉《たてまつ》り  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》と|諸共《もろとも》に
|一行《いつかう》|五人《ごにん》|打揃《うちそろ》ひ  |虎《とら》|狼《おほかみ》や|獅子《しし》|大蛇《をろち》
|曲神《まがかみ》|猛《たけ》ぶ|山道《やまみち》を  |神《かみ》の|御稜威《みいづ》に|助《たす》けられ
|月日《つきひ》を|重《かさ》ねて|竜宮《りうぐう》の  |浪《なみ》さへ|清《きよ》き|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|参上《まゐのぼ》り  |四辺《あたり》|眩《まば》ゆき|金殿《きんでん》に
|優《やさ》しき|侍女《じぢよ》に|導《みちび》かれ  |玉依姫《たまよりひめ》の|御前《おんまへ》に
|進《すす》みし|時《とき》の|嬉《うれ》しさよ  |玉依姫《たまよりひめ》のお|手《て》づから
|黄金《こがね》の|玉《たま》を|取《と》り|出《いだ》し  お|民《たみ》の|方《かた》に|授《さづ》けられ
ほほゑみ|給《たま》ふ|折柄《をりから》に  お|民《たみ》の|方《かた》は|慎《つつし》みて
|受取《うけと》り|直《ただち》に|吾《わが》|前《まへ》に  |持出《もちい》でまして|快《こころよ》く
|渡《わた》し|給《たま》ひし|美《うる》はしさ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|神《かみ》の|教《をしへ》を|悟《さと》りたる  |誠《まこと》の|人《ひと》の|心根《こころね》は
|斯《か》くも|美《うる》はしものなるか  |恥《はづか》しさよと|思《おも》ひつつ
おしいただいて|錦襴《きんらん》の  |袋《ふくろ》に|納《をさ》め|神恩《しんおん》を
|感謝《かんしや》し|奉《まつ》る|折柄《をりから》に  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の
|貴《うづ》の|御子《おんこ》と|生《うま》れたる  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》は|悠々《いういう》と
|此《この》|場《ば》を|立《た》つて|門外《もんぐわい》に  |歩《あゆ》みを|運《はこ》ばせ|給《たま》ふより
|妾《わらは》も|御後《みあと》に|引添《ひきそ》うて  |黄金《こがね》の|海《うみ》のほとりまで
|帰《かへ》り|来《きた》れる|折《をり》も|折《をり》  はばたき|高《たか》く|黄金《わうごん》の
|翼《つばさ》ひろげて|飛《と》び|下《くだ》る  |八咫烏《やあたがらす》に|乗《の》せられて
|自転倒島《おのころじま》に|恙《つつが》|無《な》く  |降《くだ》り|来《きた》りし|尊《たふと》さよ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|恵《めぐ》みは|目《ま》の|当《あた》り
|仁慈無限《じんじむげん》の|大神《おほかみ》の  |開《ひら》き|給《たま》ひし|三五《あななひ》の
|教《をしへ》の|道《みち》に|身《み》を|任《まか》せ  |心《こころ》の|限《かぎ》り|永久《とこしへ》に
|生命《いのち》の|限《かぎ》り|仕《つか》ふべし  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦大御神《くにたけひこのおほみかみ》  お|民《たみ》の|方《かた》を|始《はじ》めとし
|此《この》|一行《いつかう》の|神人《かみびと》の  |御前《みまへ》に|感謝《かんしや》し|奉《たてまつ》り
|貴《うづ》の|御玉《みたま》の|恙《つつが》なく  |還《かへ》りましたる|祝言《ほぎごと》を
|喜《よろこ》び|歌《うた》ひ|奉《たてまつ》る  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|座《ざ》についた。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 外山豊二録)
第二篇 |蓮華台上《れんげだいじやう》
第六章 |大神宣《おほみのり》〔七七一〕
|素盞嗚尊《すさのをのみこと》は|儼然《げんぜん》として|立上《たちあが》り、|荘重《さうちよう》なる|口調《くてう》を|以《もつ》て|歌《うた》はせ|給《たま》うた。
『|豊葦原《とよあしはら》の|国中《くになか》に  |八岐大蛇《やまたをろち》や|醜狐《しこぎつね》
|曲鬼《まがおに》|共《ども》のはびこりて  |山《やま》の|尾《を》の|上《へ》や|川《かは》の|瀬《せ》を
|醜《しこ》の|魔風《まかぜ》に|汚《けが》しつつ  |天《あめ》の|下《した》なる|民草《たみぐさ》を
|苦《くるし》め|悩《なや》ます|此《この》|惨状《さま》を  |見《み》るに|見兼《みか》ねて|瑞御魂《みづみたま》
|神素盞嗚《かむすさのをの》と|現《あら》はれて  |八十《やそ》の|猛《たける》の|神司《かむづかさ》
|八人乙女《やたりをとめ》や|貴《うづ》の|子《こ》を  |四方《よも》に|遣《つか》はし|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》を|宣《の》べ|伝《つた》へ  |山川《やまかは》|草木《くさき》|鳥《とり》|獣《けもの》
|虫族《むしけら》までも|言霊《ことたま》の  |清《きよ》き|御水火《みいき》に|助《たす》けむと
ウブスナ|山《やま》の|斎苑館《いそやかた》  |後《あと》に|残《のこ》して|八洲国《やしまくに》
|彷徨《さまよ》ふ|折《を》りしも|自転倒《おのころ》の  |大和島根《やまとしまね》の|中心地《ちうしんち》
|綾《あや》の|高天《たかま》の|聖域《せいゐき》に  |此《この》|世《よ》の|根元《もと》と|現《あ》れませる
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の  |国武彦《くにたけひこ》と|世《よ》を|忍《しの》び
|隠《かく》れいますぞ|尊《たふと》けれ  |此《この》|世《よ》を|救《すく》ふ|厳御霊《いづみたま》
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》と|相《あひ》|並《なら》び  |天地《てんち》の|神《かみ》に|三五《あななひ》の
|教《をしへ》を|開《ひら》き|天《あめ》が|下《した》  |四方《よも》の|木草《きぐさ》に|至《いた》る|迄《まで》
|安息《やすき》と|生命《いのち》を|永久《とこしへ》に  |賜《たま》はむ|為《ため》に|朝夕《あさゆふ》を
|心《こころ》|配《くば》らせ|給《たま》ひつつ  |三《み》つの|御玉《みたま》の|神宝《かむだから》
|高天原《たかあまはら》に|永久《とこしへ》に  |鎮《しづ》まりまして|又《また》もはや
|現《あら》はれ|給《たま》ふ|麻邇《まに》の|玉《たま》  |五《い》づの|御玉《みたま》と|照《て》り|映《は》えて
|三五《さんご》の|月《つき》の|影《かげ》|清《きよ》く  |埴安彦《はにやすひこ》や|埴安姫《はにやすひめ》の
|神《かみ》の|命《みこと》と|現《あ》れませる  |神《かみ》の|御霊《みたま》も|今《いま》|茲《ここ》に
いよいよ|清《きよ》く|玉照彦《たまてるひこ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》や|玉照姫《たまてるひめ》の
|貴《うづ》の|命《みこと》の|御前《おんまへ》に  |納《をさ》まる|世《よ》とはなりにけり
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》と|現《あ》れませる  |三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》
|言霊《ことたま》|幸《さち》はふ|言依別《ことよりわけ》の  |神《かみ》の|命《みこと》は|皇神《すめかみ》の
|錦《にしき》の|機《はた》の|経綸《けいりん》を  |心《こころ》の|底《そこ》に|秘《ひ》めおきて
|松《まつ》の|神世《かみよ》の|来《きた》る|迄《まで》  |浮《う》きつ|沈《しづ》みつ|世《よ》を|忍《しの》び
|深遠微妙《しんゑんびめう》の|神策《しんさく》を  |堅磐常磐《かきはときは》にたてませよ
|神素盞嗚《かむすさのを》の|我《あ》が|身魂《みたま》  |八洲《やしま》の|国《くに》に|蟠《わだか》まる
|八岐大蛇《やまたをろち》を|言向《ことむ》けて  |高天原《たかあまはら》を|治《しろ》しめす
|天照《あまてら》します|大神《おほかみ》の  |御許《みもと》に|到《いた》り|復命《かへりごと》
|仕《つか》へまつらむそれ|迄《まで》は  |蠑〓《いもり》|蚯蚓《みみづ》と|身《み》を|潜《ひそ》め
|木《こ》の|葉《は》の|下《した》をかいくぐり  |花《はな》|咲《さ》く|春《はる》を|待《ま》ちつつも
|完全《うまら》に|委曲《つばら》に|松《まつ》の|世《よ》の  |尊《たふと》き|仕組《しぐみ》を|成《な》し|遂《と》げむ
|国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》よ  |汝《なれ》が|命《みこと》も|今《いま》|暫《しば》し
|深山《みやま》の|奥《おく》の|時鳥《ほととぎす》  |姿《すがた》|隠《かく》して|長年《ながとせ》の
|憂目《うきめ》を|忍《しの》びやがて|来《こ》む  |松《まつ》の|神世《かみよ》の|神政《しんせい》を
|心《こころ》|静《しづ》かに|待《ま》たせまし  |竜宮城《りうぐうじやう》より|現《あら》はれし
|五《いつ》つの|麻邇《まに》の|此《この》|玉《たま》は  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|永久《とこしへ》に
|鎮《しづ》まりまして|桶伏《をけふせ》の  |山《やま》に|匂《にほ》へる|蓮華台《れんげだい》
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |薫《かを》りも|高《たか》き|梅《うめ》の|花《はな》
|木花姫《このはなひめ》の|生御魂《いくみたま》  |三十三相《さんじふさんさう》に|身《み》を|現《げん》じ
|世人《よびと》|洽《あまね》く|救《すく》はむと  |流《なが》す|涙《なみだ》は|和知《わち》の|川《かは》
|流《なが》れ|流《なが》れて|由良《ゆら》の|海《うみ》  |救《すく》ひの|船《ふね》に|帆《ほ》をあげて
|尽《つく》す|誠《まこと》の|一《ひと》つ|島《じま》  |秋山彦《あきやまひこ》の|真心《まごころ》や
|言依別《ことよりわけ》が|犠牲《いけにへ》の  |清《きよ》き|心《こころ》を|永久《とこしへ》に
|五六七《みろく》の|神世《みよ》の|礎《いしずゑ》と  |神《かみ》の|定《さだ》めし|厳御魂《いづみたま》
|実《げ》に|尊《たふと》さの|限《かぎ》りなり  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の
|厳《いづ》の|御霊《みたま》は|今《いま》|暫《しば》し  |四尾《よつを》の|山《やま》の|奥《おく》|深《ふか》く
|国武彦《くにたけひこ》と|現《あら》はれて  |草《くさ》の|片葉《かきは》に|身《み》を|隠《かく》し
|錦《にしき》の|宮《みや》にあれませる  |玉照彦《たまてるひこ》や|姫神《ひめがみ》を
|表《おもて》に|立《た》てて|言依別《ことよりわけ》の  |神《かみ》の|命《みこと》を|司《つかさ》とし
|深遠微妙《しんゑんびめう》の|神界《しんかい》の  |仕組《しぐみ》の|業《わざ》に|仕《つか》へませ
|朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも  |月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも
|仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも  |厳《いづ》と|瑞《みづ》との|此《この》|仕組《しぐみ》
|千代《ちよ》も|八千代《やちよ》も|永久《とこしへ》に  |変《かは》らざらまし|天地《あめつち》の
|初発《なりで》し|時《とき》ゆ|定《さだ》まりし  |万古不易《ばんこふえき》の|真理《しんり》なり
|万古不易《ばんこふえき》の|真理《しんり》なり  |此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|神直日《かむなほひ》
|心《こころ》も|広《ひろ》き|大直日《おほなほひ》  |只《ただ》|何事《なにごと》も|神直日《かむなほひ》
|大直日《おほなほひ》にと|見直《みなほ》して  |天地《あめつち》|百《もも》の|神人《かみびと》を
|救《すく》はむ|為《ため》の|我《あ》が|聖苦《なやみ》  |思《おも》ひは|同《おな》じ|国治立《くにはるたち》の
|神《かみ》の|尊《みこと》の|御心《おんこころ》  |深《ふか》くも|察《さつ》し|奉《たてまつ》る
|深《ふか》くも|感謝《かんしや》し|奉《たてまつ》る』
と|歌《うた》ひ|終《をは》り、|一同《いちどう》に|微笑《びせう》を|与《あた》へて、|奥《おく》の|間《ま》に|姿《すがた》をかくさせ|給《たま》うた。
|国武彦命《くにたけひこのみこと》は|神素盞嗚尊《かむすさのをのみこと》の|御後姿《おんうしろで》を|見送《みおく》り、|手《て》を|合《あは》せ|感謝《かんしや》の|意《い》を|表《へう》し、|終《をは》つて|一同《いちどう》の|前《まへ》に|立《た》ち、|稍《やや》|悲調《ひてう》を|帯《お》びた|声音《せいおん》を|張《は》り|上《あ》げ|歌《うた》ひ|給《たま》うた。
『|天《あめ》の|下《した》なる|国土《くにつち》を  |汗《あせ》と|涙《なみだ》の|滝水《たきみづ》に
|造《つく》り|固《かた》めて|清《きよ》めたる  |豊葦原《とよあしはら》の|国《くに》の|祖《おや》
|国治立《くにはるたち》の|厳御霊《いづみたま》  |御稜威《みいづ》も|高《たか》き|貴《うづ》の|宮《みや》
|高天原《たかあまはら》に|現《あら》はれて  |百《もも》の|神《かみ》|等《たち》|人草《ひとぐさ》の
|守《まも》らむ|道《みち》を|宣《の》り|伝《つた》へ  |神《かみ》の|祭《まつり》を|詳細《まつぶさ》に
|布《し》き|拡《ひろ》めたる|元津祖《もとつおや》  |天足《あだる》の|彦《ひこ》や|胞場姫《えばひめ》の
|捻《ねじ》け|曲《まが》れる|身魂《みたま》より  |生《うま》れ|出《い》でたる|曲身魂《まがみたま》
|八岐大蛇《やまたをろち》や|醜狐《しこぎつね》  |醜女《しこめ》|探女《さぐめ》や|曲鬼《まがおに》の
|怪《あや》しの|雲《くも》に|包《つつ》まれて  さも|美《うる》はしき|国土《くにつち》も
|汚《けが》れ|果《は》てたる|泥水《どろみづ》の  |溢《あふ》れ|漂《ただよ》ふ|世《よ》となりぬ
|醜《しこ》の|曲霊《まがひ》に|憑《つ》かれたる  |常世《とこよ》の|彦《ひこ》や|常世姫《とこよひめ》
|千五百万《ちいほよろづ》の|神々《かみがみ》の  |罪《つみ》や|穢《けがれ》を|身《み》に|負《お》ひて
|木花姫《このはなひめ》の|守《まも》ります  |天教山《てんけうざん》の|火口《くわこう》より
|身《み》を|躍《をど》らして|荒金《あらがね》の  |地《つち》の|底《そこ》|迄《まで》|身《み》を|忍《しの》び
|根底《ねそこ》の|国《くに》を|隈《くま》もなく  さ|迷《まよ》ひ|巡《めぐ》り|村肝《むらきも》の
|心《こころ》を|尽《つく》し|身《み》を|尽《つく》し  |造《つく》り|固《かた》めて|天教《てんけう》の
|山《やま》の|火口《くわこう》に|再現《さいげん》し  |野立《のだち》の|彦《ひこ》と|名《な》を|変《か》へて
あ|真似《まね》く|国内《くぬち》を|駆《か》け|巡《めぐ》り  |豊国姫《とよくにひめ》の|神御霊《かむみたま》
|野立《のだち》の|姫《ひめ》と|現《あら》はれて  ヒマラヤ|山《さん》を|本拠《ほんきよ》とし
|身《み》を|忍《しの》びつつ|四方《よも》の|国《くに》  |夫婦《めをと》の|水火《いき》を|合《あは》せつつ
|世界《せかい》|隈《くま》なく|検《あらた》めて  |再《ふたた》び|来《きた》る|松《まつ》の|世《よ》の
|其《その》|礎《いしずゑ》を|固《かた》めむと  |自転倒島《おのころじま》の|中心地《ちうしんち》
|綾《あや》の|高天《たかま》と|聞《きこ》えたる  |桶伏山《をけぶせやま》の|片《かた》ほとり
|此《この》|世《よ》を|洗《あら》ふ|瑞御霊《みづみたま》  |四尾《よつを》の|山《やま》に|身《み》を|忍《しの》び
|五《い》つの|御霊《みたま》の|経綸《けいりん》を  |仕《つか》へまつらむ|其《その》|為《ため》に
|日《ひ》の|大神《おほかみ》の|神言《みこと》もて  |天《あめ》の|石座《いはくら》|相放《あひはな》れ
|下津磐根《したついはね》に|降《くだ》り|来《き》て  |国武彦《くにたけひこ》となりすまし
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |御供《みとも》の|神《かみ》と|現《あら》はれぬ
|此《この》|世《よ》を|思《おも》ふ|真心《まごころ》の  |清《きよ》き|思《おも》ひは|仇《あだ》ならず
|現幽神《げんいうしん》を|照《て》り|透《とう》す  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の  |貴《うづ》の|宝《たから》は|逸早《いちはや》く
|自転倒島《おのころじま》に|集《あつ》まりて  |三千世界《さんぜんせかい》を|統《す》べ|守《まも》る
|其《その》|礎《いしずゑ》はいや|固《かた》く  |国常立《くにとこたち》となりにけり
|又《また》もや|嬉《うれ》しき|五《い》つ|御玉《みたま》  |波《なみ》に|漂《ただよ》ふ|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つ|島《じま》なる|秘密郷《ひみつきやう》  |金波《きんぱ》|漂《ただよ》ふ|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|底《そこ》ひも|深《ふか》く|秘《ひ》めおきし  |五《い》つの|御霊《みたま》と|称《とな》へたる
|青赤白黄紫《あおあかしろきむらさき》の  |光《ひかり》|眩《まば》ゆき|麻邇《まに》の|玉《たま》
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》や|黄竜姫《わうりようひめ》  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》や
テールス|姫《ひめ》の|御使《みつかひ》に  |持《も》たせ|給《たま》ひて|遥々《はるばる》と
|黄金翼《こがねつばさ》の|八咫烏《やあたがらす》  |天津御空《あまつみそら》を|輝《かがや》かし
|雲路《くもぢ》を|別《わ》けて|自転倒《おのころ》の  |松《まつ》|生《お》ひ|茂《しげ》る|神《かみ》の|島《しま》
|綾《あや》の|聖地《せいち》に|程近《ほどちか》き  |恵《めぐみ》も|深《ふか》き|由良《ゆら》の|海《うみ》
|其《その》|川口《かはぐち》に|聳《そそ》り|立《た》つ  |秋山彦《あきやまひこ》の|神館《かむやかた》
|心《こころ》の|色《いろ》は|綾錦《あやにしき》  |空《そら》|照《て》り|渡《わた》る|紅葉姫《もみぢひめ》
|夫婦《ふうふ》の|水火《いき》も|相生《あひおひ》の  |松葉《まつば》|茂《しげ》れる|庭先《にはさき》に
|十曜《とえう》の|紋《もん》の|十人連《とたりづれ》  しづしづ|帰《かへ》り|降《くだ》り|来《く》る
|其《その》|御姿《みすがた》の|尊《たふと》さよ  いよいよ|茲《ここ》に|五《い》つ|御玉《みたま》
|国武彦《くにたけひこ》も|永久《とこしへ》に  |隠《かく》れて|此《この》|世《よ》を|守《まも》り|行《ゆ》く
|玉依姫《たまよりひめ》のおくりたる  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》は|手《て》に|入《い》りぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |時《とき》は|待《ま》たねばならぬもの
|時《とき》|程《ほど》|尊《たふと》きものはなし  |此《この》|世《よ》を|造《つく》り|固《かた》めたる
|元《もと》の|誠《まこと》の|祖神《おやがみ》も  |時《とき》を|得《え》ざれば|世《よ》に|落《お》ちて
|苦《くるし》み|深《ふか》き|丹波路《たにはぢ》の  |草葉《くさば》の|影《かげ》に|身《み》を|凌《しの》ぎ
|雨《あめ》の|晨《あした》や|雪《ゆき》の|宵《よひ》  |尾《を》の|上《へ》を|渡《わた》る|風《かぜ》にさへ
|心《こころ》を|苦《くる》しめ|身《み》を|痛《いた》め  |天地《てんち》の|為《ため》に|吾《わが》|力《ちから》
|尽《つく》さむ|由《よし》も|泣《な》くばかり  |胸《むね》もはり|裂《さ》く|時鳥《ほととぎす》
|八千八声《はつせんやこゑ》の|血《ち》を|吐《は》きて  |時《とき》の|来《きた》るを|待《ま》つ|間《うち》に
|今日《けふ》は|如何《いか》なる|吉日《よきひ》ぞや  |神世《かみよ》の|姿《すがた》|甲子《きのえね》の
|九月《くぐわつ》|八日《やうか》の|秋《あき》の|庭《には》  |御空《みそら》は|高《たか》く|風《かぜ》は|澄《す》み
|人《ひと》の|心《こころ》も|涼《すず》やかに  |日本晴《につぽんば》れのわが|思《おも》ひ
|瑞《みづ》と|厳《いづ》との|睦《むつ》び|合《あ》ひ  |八洲《やしま》の|国《くに》を|照《て》らすてふ
|三五《さんご》の|月《つき》の|御教《みをしへ》の  |元《もと》を|固《かた》むる|瑞祥《ずゐしやう》は
|此《この》|世《よ》の|開《ひら》けし|初《はじめ》より  まだ|新玉《あらたま》のあが|心《こころ》
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |天津御空《あまつみそら》の|若宮《わかみや》に
|鎮《しづ》まりいます|日《ひ》の|神《かみ》の  |御前《みまへ》に|慎《つつし》み|畏《かしこ》みて
|国治立《くにはるたち》の|御分霊《わけみたま》  |国武彦《くにたけひこ》の|隠《かく》れ|神《がみ》
|遥《はるか》に|感謝《かんしや》し|奉《たてまつ》る  |千座《ちくら》の|置戸《おきど》を|身《み》に|負《お》ひて
|此《この》|世《よ》を|救《すく》ふ|生神《いきがみ》の  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》と|現《あ》れませる
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |仁慈無限《じんじむげん》の|御心《みこころ》を
|喜《よろこ》び|敬《うやま》ひ|奉《たてまつ》り  |言依別《ことよりわけ》の|神司《かむづかさ》
|此《この》|行先《ゆくさき》の|神業《かむわざ》に  |又《また》もや|千座《ちくら》の|置戸《おきど》|負《お》ひ
あれの|身魂《みたま》と|諸共《もろとも》に  |三柱《みはしら》|揃《そろ》ふ|三《み》つ|身魂《みたま》
|濁《にご》り|果《は》てたる|現世《うつしよ》を  |洗《あら》ひ|清《きよ》むる|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へまつらせ|天地《あめつち》の  |百《もも》の|神《かみ》たち|人草《ひとぐさ》の
|救《すく》ひの|為《ため》に|真心《まごころ》を  |千々《ちぢ》に|砕《くだ》きて|筑紫潟《つくしがた》
|深《ふか》き|思《おも》ひは|竜《たつ》の|海《うみ》  |忍《しの》び|忍《しの》びに|神業《かむわざ》を
|仕《つか》へまつりて|松《まつ》の|世《よ》の  |五六七《みろく》の|神《かみ》の|神政《しんせい》を
|心《こころ》を|清《きよ》め|身《み》を|浄《きよ》め  |指折《ゆびを》り|数《かぞ》へ|待《ま》ち|暮《くら》す
あが|三柱《みはしら》の|神心《かみごころ》  |完全《うまら》に|委曲《つばら》に|聞《きこ》し|召《め》し
|天津御空《あまつみそら》の|若宮《わかみや》に  |堅磐常磐《かきはときは》に|現《あ》れませる
|日《ひ》の|大神《おほかみ》の|御前《おんまへ》に  |重《かさ》ねて|敬《うやま》ひ|願《ね》ぎまつる
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|了《をは》り|給《たま》ひ、|一同《いちどう》に|軽《かる》く|目礼《もくれい》し、|其《その》|儘《まま》|御姿《みすがた》は|白煙《はくえん》となりて|其《その》|場《ば》に|消《き》えさせ|給《たま》うた。|一同《いちどう》はハツと|驚《おどろ》き、|直《ただち》に|拍手《はくしゆ》し|天津祝詞《あまつのりと》を|奏上《そうじやう》し、|御神慮《ごしんりよ》の|尊《たふと》さを|思《おも》ひ|浮《うか》べて、|感涙《かんるゐ》に|咽《むせ》ぶのであつた。
(大正一一・七・一八 旧閏五・二四 松村真澄録)
第七章 |鈴《すず》の|音《おと》〔七七二〕
|五十子姫《いそこひめ》はさも|嬉《うれ》し|気《げ》に|満面《まんめん》に|笑《ゑみ》を|湛《たた》へ、|金扇《きんせん》を|開《ひら》いて|満座《まんざ》の|中《なか》に|向《むか》つて|祝歌《しゆくか》を|歌《うた》ひ、|長袖《ちやうしう》|淑《しと》やかに|舞《ま》はせ|給《たま》うた。
『|厳《いづ》の|御霊《みたま》の|大御神《おほみかみ》  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|大御神《おほみかみ》
|八洲《やしま》の|国《くに》に|蟠《わだか》まる  |八岐大蛇《やまたをろち》を|言向《ことむ》けて
|此《この》|世《よ》の|曲《まが》を|払《はら》はむと  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》は
|心《こころ》を|千々《ちぢ》に|砕《くだ》かせつ  |雲井《くもゐ》の|空《そら》の|弥《いや》|高《たか》き
|位《くらゐ》を|捨《す》てて|根《ね》の|国《くに》に  |尊《たふと》き|御身《おんみ》をしのばせつ
|又《また》もや|此《この》|世《よ》を|守《まも》らむと  |天教山《てんけふざん》の|火口《くわこう》より
|水火《すゐくわ》の|艱苦《なやみ》を|凌《しの》ぎつつ  |豊葦原《とよあしはら》の|瑞穂国《みづほくに》
|隈《くま》なく|廻《めぐ》り|神人《しんじん》の  |心《こころ》を|包《つつ》む|村雲《むらくも》を
|科戸《しなど》の|風《かぜ》に|吹《ふ》き|払《はら》ひ  |速川《はやかは》の|瀬《せ》に|浄《きよ》めむと
|百千万《ももちよろづ》に|身《み》を|窶《やつ》し  |悪魔《あくま》の|猛《たけ》ぶ|世《よ》の|中《なか》を
|守《まも》らせたまふぞ|尊《たふと》けれ  ウブスナ|山《やま》の|頂上《ちやうじやう》に
|建《た》ち|並《なら》びたる|斎苑館《いそやかた》  |五十子《いそこ》の|姫《ひめ》は|父神《ちちがみ》の
|勅《みこと》を|畏《かしこ》み|顕恩《けんおん》の  |郷《さと》に|下《くだ》りて|三五《あななひ》の
|誠《まこと》の|道《みち》を|楯《たて》となし  バラモン|教《けう》の|神柱《かむばしら》
|鬼雲彦《おにくもひこ》や|其《その》|外《ほか》の  |神《かみ》の|司《つかさ》に|近寄《ちかよ》りて
|救《すく》ひの|道《みち》を|伝《つた》へむと  |思《おも》ひし|事《こと》も|水《みづ》の|泡《あわ》
|是非《ぜひ》なく|此処《ここ》を|立《た》ち|出《い》でて  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》と|諸共《もろとも》に
エデンの|流《なが》れを|横《よこ》ぎりつ  |踏《ふ》みも|習《なら》はぬ|旅枕《たびまくら》
|雨《あめ》や|霰《あられ》に|身《み》を|曝《さら》し  |醜《しこ》の|魔風《まかぜ》に|梳《くしけづ》り
|彼方此方《あなたこなた》と|神《かみ》の|道《みち》  |開《ひら》く|折《をり》しもバラモンの
|神《かみ》の|司《つかさ》に|捕《とら》へられ  |恨《うらみ》は|深《ふか》し|海《わだ》の|原《はら》
|半《なかば》|朽《く》ちたる|捨小船《すてをぶね》  |主従《しゆじう》|四人《よにん》は|村肝《むらきも》の
|心《こころ》|淋《さび》しく|天地《あめつち》の  |神《かみ》の|御前《みまへ》に|太祝詞《ふとのりと》
|涙《なみだ》と|共《とも》に|唱《とな》へつつ  |果《はて》しも|知《し》らぬ|浪《なみ》の|上《うへ》
|浮《う》きつ|沈《しづ》みつ|竜宮《りうぐう》の  |宝《たから》の|島《しま》に|辿《たど》りつく
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》もタカ|港《みなと》  |御船《みふね》を|捨《す》てて|上陸《じやうりく》し
|鬼熊別《おにくまわけ》の|貴《うづ》の|子《こ》と  |生《あ》れ|出《い》でませる|小糸姫《こいとひめ》
|教《をしへ》の|道《みち》の|司《つかさ》とし  |地恩《ちおん》の|郷《さと》に|現《あら》はれて
|大宮柱《おほみやばしら》|永久《とこしへ》に  |太知《ふとし》り|立《た》てて|賑《にぎは》しく
|教《をしへ》の|園《その》の|花《はな》|薫《かを》り  |実《み》を|結《むす》びたる|秋《あき》の|空《そら》
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》や|小糸姫《こいとひめ》  |其《その》|他《た》の|司《つかさ》に|暇乞《いとまご》ひ
|今子《いまこ》の|姫《ひめ》と|諸共《もろとも》に  |神《かみ》の|恵《めぐみ》の|著《いちじる》く
|屋根無《たなな》し|船《ぶね》に|身《み》を|任《まか》せ  |浪《なみ》|太平《たいへい》の|海原《うなばら》を
|大小《だいせう》|無数《むすう》の|島《しま》を|縫《ぬ》ひ  |漸《やうや》う|此処《ここ》に|自転倒《おのころ》の
|秀妻《ほづま》の|国《くに》の|神島《かみしま》に  |辿《たど》り|着《つ》きたる|嬉《うれ》しさよ
|自転倒島《おのころじま》を|西東《にしひがし》  |北《きた》や|南《みなみ》と|駆廻《かけめぐ》り
|三五教《あななひけう》の|大道《おほみち》を  |四方《よも》に|伝《つた》ふる|折《をり》もあれ
|思《おも》ひも|寄《よ》らぬ|竜宮《りうぐう》の  |一《ひと》つ|島《じま》なる|秘密郷《ひみつきやう》
|黄金《こがね》の|湖《うみ》の|底《そこ》|深《ふか》く  |秘《ひ》め|置《お》かれたる|麻邇《まに》の|玉《たま》
|此処《ここ》に|現《あら》はれ|北《きた》の|空《そら》  |打《う》ち|眺《なが》めつつ|綾錦《あやにしき》
|聖地《せいち》を|指《さ》して|参下《まゐくだ》り  |言依別《ことよりわけ》と|諸共《もろとも》に
|秋山彦《あきやまひこ》の|御館《おんやかた》  |来《きた》りて|見《み》ればこは|如何《いか》に
|焦《こが》れ|焦《こが》れし|吾《わが》|父《ちち》の  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》や
|国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》の  |厳《いづ》の|温顔《かんばせ》|伏《ふ》し|拝《をが》み
|嬉《うれ》し|悲《かな》しの|胸《むね》の|中《うち》  |譬《たと》へむよしも|泣《な》くばかり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|父大神《ちちおほかみ》の|大神業《おほみわざ》  |国武彦《くにたけひこ》の|御経綸《おんしぐみ》
|完全《うまら》に|委曲《つばら》に|成《な》り|遂《と》げて  |堅磐常磐《かきはときは》の|松《まつ》の|世《よ》を
|千代《ちよ》に|八千代《やちよ》に|万代《よろづよ》に  |築《きづ》かせ|給《たま》へ|久方《ひさかた》の
|天津御空《あまつみそら》の|神国《かみくに》の  |日《ひ》の|若宮《わかみや》に|永久《とこしへ》に
|鎮《しづ》まりいます|日《ひ》の|神《かみ》の  |御前《みまへ》を|慎《つつし》み|畏《かしこ》みて
|遥《はるか》に|願《ねが》ひ|奉《たてまつ》る  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|麗《うるは》しく
|厳《いづ》の|御霊《みたま》の|影《かげ》|清《きよ》く  |三五《さんご》の|月《つき》の|何時《いつ》|迄《まで》も
|照《て》れよ|光《ひか》れよかくるなよ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|神《かみ》の|御前《みまへ》に|願《ね》ぎまつる』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|旧《もと》の|座《ざ》に|着《つ》き|給《たま》うた。
|音彦《おとひこ》は|立《た》ち|上《あが》つて|銀扇《ぎんせん》を|拡《ひろ》げ|自《みづか》ら|歌《うた》ひ|自《みづか》ら|舞《ま》ふ。
『ウラルの|彦《ひこ》やウラル|姫《ひめ》の  |開《ひら》き|給《たま》ひしウラル|教《けう》
|名《な》さへ|尊《たふと》きアーメニヤ  |教《をしへ》の|館《やかた》を|後《あと》にして
ウラルの|道《みち》を|開《ひら》かむと  |波斯《フサ》の|海《うみ》をば|浮《うか》びつつ
|僅《わづか》に|四五《しご》の|神司《かむつかさ》  |率《ひき》ゐて|進《すす》む|一《ひと》つ|島《じま》
|三歳《みとせ》|四歳《よとせ》と|身《み》を|尽《つく》し  |心《こころ》を|尽《つく》し|皇神《すめかみ》の
|教《をしへ》を|開《ひら》く|甲斐《かひ》もなく  わが|信仰《しんかう》の|仇花《あだばな》に
|実《みの》りもせない|山吹《やまぶき》の  |黄金《こがね》|花《はな》|咲《さ》く|此《この》|島《しま》も
|何《なん》の|効果《かうくわ》も|荒浪《あらなみ》の  |上《うへ》を|辷《すべ》つて|帰《かへ》り|来《く》る
|時《とき》しもあれや|波斯《フサ》の|海《うみ》  |荒風《あらかぜ》すさび|浪《なみ》|猛《たけ》り
|千尋《ちひろ》の|海《うみ》に|吾《わが》|船《ふね》は  |早《はや》|沈《しづ》まむとする|時《とき》に
|同《おな》じ|御船《みふね》に|乗《の》りませる  |三五教《あななひけう》の|神司《かむつかさ》
|日《ひ》の|出別《でのわけ》の|神人《しんじん》に  |危《あやふ》き|所《ところ》を|助《たす》けられ
|始《はじ》めて|悟《さと》る|神《かみ》の|道《みち》  タルの|港《みなと》に|上陸《じやうりく》し
|波斯《フサ》の|原野《げんや》をトボトボと  |神《かみ》のまにまに|宣伝歌《せんでんか》
|歌《うた》つて|進《すす》む|勇《いさ》ましさ  |弥次彦《やじひこ》、|与太彦《よたひこ》|両人《りやうにん》を
|御供《みとも》の|司《かみ》と|定《さだ》めつつ  |小鹿峠《こじかたうげ》にさしかかる
|時《とき》しもあれやウラル|教《けう》  |目付《めつけ》の|神《かみ》に|取囲《とりまか》れ
|進退《しんたい》ここに|谷《きは》まりて  |千尋《ちひろ》の|谷間《たにま》に|身《み》を|投《とう》じ
|人事不省《じんじふせい》の|其《その》|儘《まま》に  |三途《せうづ》の|川《かは》や|八衢《やちまた》の
|淋《さび》しき|光景《くわうけい》|探《さぐ》りつつ  |日《ひ》の|出別《でのわけ》の|神人《しんじん》に
|呼《よ》び|生《い》かされて|甦《よみがへ》り  |深《ふか》くも|悟《さと》る|神《かみ》の|道《みち》
|皇大神《すめおほかみ》の|御心《みこころ》を  |島《しま》の|八十島《やそしま》|八十国《やそくに》の
あらむ|限《かぎ》りに|伝《つた》へむと  |遠《とほ》き|近《ちか》きの|隔《へだ》てなく
|廻《めぐ》り|廻《めぐ》りて|自転倒《おのころ》の  |島《しま》に|漸《やうや》う|辿《たど》り|着《つ》き
|大江《おほえ》の|山《やま》や|鬼ケ城《おにがじやう》  バラモン|教《けう》の|神司《かむつかさ》
|堅磐常磐《かきはときは》の|鉄城《てつじやう》と  |頼《たの》みて|拠《よ》れる|真最中《まつさいちう》
|吾《わが》|言霊《ことたま》に|吹《ふ》き|払《はら》ひ  |心《こころ》いそいそ|五十子姫《いそこひめ》
|右《みぎ》と|左《ひだり》に|別《わか》れつつ  |神《かみ》の|御為《おんため》|道《みち》のため
|世人《よびと》の|為《ため》に|赤心《まごころ》を  |尽《つく》す|折《をり》しも|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》の|貴宝《うづだから》  |三《み》つの|御玉《みたま》は|永久《とこしへ》に
|神《かみ》のまにまに|納《をさ》まりて  |天《あめ》の|御柱《みはしら》いや|太《ふと》く
|下津岩根《したついはね》に|経緯《たてよこ》の  |機《はた》の|仕組《しぐみ》も|近《ちか》づきて
|教《をしへ》の|花《はな》も|遠近《をちこち》に  |薫《かを》り|初《そ》めたる|秋《あき》の|空《そら》
|又《また》もや|来《きた》る|五《い》つ|御玉《みたま》  |天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》ぶなる
|五《い》つの|御玉《みたま》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|恙《つつが》なく
|集《あつ》まりますと|聞《き》きしより  |心《こころ》の|駒《こま》も|勇《いさ》み|立《た》ち
|錦《にしき》の|宮《みや》の|御前《おんまへ》に  |感謝《かんしや》の|涙《なみだ》|流《なが》しつつ
|三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》  |言依別《ことよりわけ》に|従《したが》ひて
|由良《ゆら》の|港《みなと》に|来《き》て|見《み》れば  |妻《つま》の|命《みこと》の|御父《おんちち》と
|現《あら》はれませる|瑞御霊《みづみたま》  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》は
|聖顔《せいがん》|殊《こと》に|麗《うるは》しく  |身《み》も|健《すこや》かに|神業《かむわざ》に
|尽《つく》させ|給《たま》ふ|嬉《うれ》しさよ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |三《み》つの|御玉《みたま》の|麗《うるは》しく
|五《い》つの|御玉《みたま》の|清《きよ》らかに  |心《こころ》の|空《そら》は|日月《じつげつ》の
|伊照《いて》り|輝《かがや》く|其《その》|如《ごと》く  |雲霧《くもきり》もなく|永久《とこしへ》に
|神《かみ》の|光《ひかり》を|世《よ》に|照《てら》し  ミロクの|神世《みよ》の|礎《いしずゑ》を
|下津岩根《したついはね》に|搗《つ》き|凝《こ》らし  |上津岩根《うはついはね》に|搗《つ》き|固《かた》め
|三五《さんご》の|月《つき》の|御教《みをしへ》を  |守《まも》る|吾等《われら》の|神業《かむわざ》を
|守《まも》らせ|給《たま》へ|天津神《あまつかみ》  |国津神《くにつかみ》|等《たち》|八百万《やほよろづ》
|埴安彦《はにやすひこ》や|埴安姫《はにやすひめ》の  |伊都《いづ》と|美都《みづ》との|二柱《ふたはしら》
|清《きよ》き|御魂《みたま》の|御前《おんまへ》に  |慎《つつし》み|敬《うやま》ひ|願《ね》ぎまつる
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
(大正一一・七・一八 旧閏五・二四 加藤明子録)
第八章 |虎《とら》の|嘯《うそぶき》〔七七三〕
|杢助《もくすけ》は|立《た》ち|上《あが》り|銀扇《ぎんせん》を|拡《ひろ》げて|自《みづか》ら|歌《うた》ひ|自《みづか》ら|舞《ま》うて|見《み》せた。
『|天教山《てんけうざん》に|天降《あも》ります  |神伊弉諾大神《かむいざなぎのおほかみ》の
|御裳《みそ》の|身魂《みたま》と|生《うま》れたる  |魔神《まがみ》を|攘《はら》ふ|時置師《ときおかし》
アルタイ|嶺《ざん》の|山麓《さんろく》に  |人子《ひとご》の|司《つかさ》|鉄彦《かねひこ》が
|僕《しもべ》の|神《かみ》の|時公《ときこう》と  |姿《すがた》を|窶《やつ》し|石凝姥《いしこりどめ》の
|伊都《いづ》の|命《みこと》の|宣伝使《せんでんし》  |三五教《あななひけう》を|開《ひら》かむと
|荒野ケ原《あらのがはら》を|打《う》ち|渉《わた》り  |進《すす》み|進《すす》みてコーカスの
|深山《みやま》を|包《つつ》む|黒雲《くろくも》を  |伊吹《いぶき》|払《はら》ひに|吹《ふ》き|払《はら》ひ
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|側近《そばちか》く  |仕《つか》へまつりし|吾《わが》|身魂《みたま》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |御言《みこと》|密《ひそ》かに|蒙《かうむ》りて
|自転倒島《おのころじま》に|打《う》ち|渡《わた》り  |心《こころ》の|色《いろ》も|丹波《あかなみ》の
|湯谷ケ峠《ゆやがたうげ》の|山麓《さんろく》に  |樵夫《きこり》となりて|身《み》をひそめ
|妻《つま》のお|杉《すぎ》を|娶《めと》りつつ  |神《かみ》の|御水火《みいき》の|幸《さち》はひて
|初稚姫《はつわかひめ》の|御誕生《ごたんじやう》  |蝶《てふ》よ|花《はな》よと|育《そだ》て|上《あ》げ
|五歳《いつつ》となりし|秋《あき》の|空《そら》  |妻《つま》の|命《みこと》は|世《よ》を|去《さ》りて
|後《あと》に|残《のこ》りし|父《ちち》と|娘《こ》の  |此《この》|世《よ》を|果敢《はか》なむ|折柄《をりから》に
|灯火《あかり》を|目当《めあて》に|訪《たづ》ね|来《く》る  |三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》
|玉治別《たまはるわけ》の|神司《かむづかさ》  |愈《いよいよ》ここに|杢助《もくすけ》は
|神《かみ》の|大道《おほぢ》に|躍《をど》り|入《い》り  |高春山《たかはるやま》にアルプスの
|教《をしへ》を|樹《た》つる|神柱《かむばしら》  |鷹依姫《たかよりひめ》を|言向《ことむ》けて
|綾《あや》の|聖地《せいち》に|参向《さんかう》し  |再度山《ふたたびやま》の|山麓《さんろく》に
|教《をしへ》の|館《やかた》を|築《きづ》き|上《あ》げ  |生田《いくた》の|森《もり》の|側近《そばちか》く
|稚姫君《わかひめぎみ》の|生身魂《いくみたま》  |斎《いつ》きまつりて|御教《みをしへ》を
|遠《とほ》き|近《ちか》きに|開《ひら》きつつ  |神《かみ》の|教《をしへ》を|聞《き》きしより
|再度山《ふたたびやま》を|立《た》ち|出《い》でて  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|参上《まゐのぼ》り
|父娘《おやこ》が|尽《つく》す|神《かみ》の|道《みち》  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |年端《としは》も|行《ゆ》かぬ|初稚《はつわか》の
|姫《ひめ》の|命《みこと》は|玉能姫《たまのひめ》  |玉治別《たまはるわけ》と|諸共《もろとも》に
|万里《ばんり》の|波濤《はたう》を|乗《の》り|越《こ》えて  |竜宮島《りうぐうじま》に|打《う》ち|渡《わた》り
|玉依姫《たまよりひめ》の|常久《とことは》に  |鎮《しづ》まりいます|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》に|参詣《まゐまう》で  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|賜《たま》はりて
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》に|献《たてまつ》り  |黄金《こがね》の|烏《からす》に|乗《の》せられて
|雲井《くもゐ》の|空《そら》を|音《おと》|高《たか》く  |渡《わた》りて|帰《かへ》る|由良港《ゆらみなと》
|人子《ひとご》の|司《つかさ》|秋山彦《あきやまひこ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|庭園《ていゑん》に
|一行《いつかう》|十人《じふにん》|恙《つつが》なく  |降《くだ》り|来《き》ませる|尊《たふと》さよ
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》の|一行《いつかう》が  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|携《たづさ》へて
|帰《かへ》り|来《き》ますと|聞《き》きしより  |心《こころ》の|駒《こま》は|勇《いさ》み|立《た》ち
|言依別《ことよりわけ》に|従《したが》ひて  |此処《ここ》に|漸《やうや》く|来《き》て|見《み》れば
|思《おも》ひ|掛《が》けなき|瑞御霊《みづみたま》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦大御神《くにたけひこのおほみかみ》  |聖顔《せいがん》|殊《こと》に|麗《うるは》しく
|現《あら》はれ|給《たま》ふ|嬉《うれ》しさよ  それのみならず|朝夕《あさゆふ》に
|心《こころ》に|掛《か》けて|其《その》|無事《ぶじ》を  |祈《いの》りまつりし|吾《わが》|娘《むすめ》
|初稚姫《はつわかひめ》は|殊更《ことさら》に  |玉《たま》の|顔《かんばせ》にこやかに
|勇《いさ》み|給《たま》へる|嬉《うれ》しさよ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|三《み》つの|御玉《みたま》は|常久《とことは》に  |神《かみ》のまにまに|納《をさ》まりて
|神政成就《しんせいじやうじゆ》の|基礎《いしずゑ》を  |築《きづ》き|給《たま》ひし|其《その》|上《うへ》に
|厳《いづ》の|御霊《みたま》と|称《とな》ふべき  |竜宮城《りうぐうじやう》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》
|又《また》もや|聖地《せいち》に|集《あつ》まりて  |光《ひかり》を|放《はな》つ|其《その》|上《うへ》は
|神《かみ》の|仕組《しぐみ》は|弥《いや》|広《ひろ》に  |弥《いや》|永久《とこしへ》に|動《うご》きなく
|現《あら》はれ|給《たま》ふ|目《ま》のあたり  |神《かみ》が|表《おもて》に|現《あら》はれて
|善《ぜん》と|悪《あく》とを|立《た》て|別《わ》ける  |此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|神直日《かむなほひ》
|心《こころ》も|広《ひろ》き|大直日《おほなほひ》  |只《ただ》|何事《なにごと》も|人《ひと》の|世《よ》は
|直日《なほひ》に|見直《みなほ》せ|聞《き》き|直《なほ》せ  |身《み》の|過《あやま》ちは|宣《の》り|直《なほ》す
|三五教《あななひけう》の|神《かみ》の|道《みち》  |深《ふか》き|心《こころ》を|汲《く》み|取《と》りて
|三《み》つの|御玉《みたま》に|村肝《むらきも》の  |心《こころ》の|玉《たま》を|抜《ぬ》かれつつ
|憂身《うきみ》を|窶《やつ》す|玉探《たまさが》し  |秋《あき》の|御空《みそら》に|天津日《あまつひ》の
|光《ひか》り|輝《かがや》き|給《たま》ふ|如《ごと》  |栄《さか》え|進《すす》むは|目《ま》のあたり
|仁慈無限《じんじむげん》の|瑞御霊《みづみたま》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》の  |御前《みまへ》に|杢助《もくすけ》|慴伏《ひれふ》して
|慎《つつし》み|敬《ゐやま》ひ|願《ね》ぎまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つて|旧《もと》の|座《ざ》についた。
(大正一一・七・一八 旧閏五・二四 北村隆光録)
第九章 |生言霊《いくことたま》〔七七四〕
|言依別命《ことよりわけのみこと》は|立上《たちあが》り|金扇《きんせん》を|開《ひら》いて|自《みづか》ら|舞《ま》ひ|自《みづか》ら|歌《うた》ひ|給《たま》うた。
『|此《この》|世《よ》を|造《つく》り|固《かた》めたる  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》と
|御水火《みいき》を|合《あは》せ|永久《とこしへ》に  |世界《せかい》を|守《まも》り|給《たま》ひたる
|豊国姫《とよくにひめ》の|御分霊《わけみたま》  |助《たす》け|幸《さち》はひ|生《い》かすてふ
|言霊別《ことたまわけ》の|天使《あまつかひ》  |醜《しこ》の|猛《たけ》びに|是非《ぜひ》もなく
|根底《ねそこ》の|国《くに》に|潜《ひそ》みまし  |少彦名《すくなひこな》と|現《あら》はれて
|常世《とこよ》の|国《くに》の|天地《あめつち》を  |守《まも》り|給《たま》ひし|勇《いさ》ましさ
|言霊別《ことたまわけ》の|御分霊《わけみたま》  |皇大神《すめおほかみ》の|御言《みこと》もて
|再《ふたた》び|此《この》|世《よ》に|出現《しゆつげん》し  |三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》
|言依別神《ことよりわけのかみ》となり  |天地《てんち》の|神《かみ》の|御教《みをしへ》を
|神《かみ》のまにまに|伝《つた》へ|行《ゆ》く  |四尾《よつを》の|山《やま》に|隠《かく》れます
|国武彦《くにたけひこ》の|御言《みこと》もて  |錦《にしき》の|宮《みや》に|仕《つか》へます
|玉照彦《たまてるひこ》や|玉照《たまてる》の  |姫《ひめ》の|命《みこと》と|諸共《もろとも》に
|五六七神政《みろくしんせい》の|礎《いしずゑ》を  |朝《あさ》な|夕《ゆふ》なに|村肝《むらきも》の
|心《こころ》を|配《くば》り|身《み》を|尽《つく》し  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の  |珍《うづ》の|神宝《たから》を|永久《とこしへ》に
|神《かみ》のまにまに|埋《うづ》め|置《お》き  |三千世界《さんぜんせかい》の|梅《うめ》の|花《はな》
|一度《いちど》に|開《ひら》く|折《をり》を|待《ま》つ  |時《とき》しもあれや|素盞嗚《すさのを》の
|瑞《みづ》の|御魂《みたま》の|大御神《おほみかみ》  |黄金《こがね》の|島《しま》の|秘密郷《ひみつきやう》
|金波《きんぱ》ひらめく|諏訪《すは》の|湖《うみ》  |玉依姫《たまよりひめ》の|常久《とことは》に
|守《まも》り|給《たま》ひし|麻邇《まに》の|珠《たま》  いよいよここに|現《あら》はれて
|五《い》づの|御魂《みたま》の|功績《いさをし》は  ますます|高《たか》く|輝《かがや》きぬ
|三《みつ》と|五《いつ》との|玉《たま》の|道《みち》  |三五《さんご》の|月《つき》の|御教《みをしへ》は
|二度目《にどめ》の|天《あま》の|岩屋戸《いはやど》を  |完全《うまら》に|委細《つばら》に|押開《おしひら》き
|常世《とこよ》の|闇《やみ》を|打晴《うちは》らし  |天《あめ》にます|神《かみ》|八百万《やほよろづ》
|地《つち》にます|神《かみ》|八百万《やほよろづ》  |百《もも》の|人草《ひとぐさ》|草《くさ》も|木《き》も
|禽獣《とりけだもの》や|虫族《むしけら》の  |生命《いのち》のはしに|至《いた》る|迄《まで》
|洩《も》らさず|残《のこ》さず|救《すく》ひ|上《あ》げ  |上下《じやうげ》|歓《ゑら》ぎて|睦《むつ》び|合《あ》ふ
|誠《まこと》の|神世《かみよ》を|建《た》て|給《たま》ふ  |珍《うづ》の|礎《いしずゑ》|定《さだ》まりぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》が  |宣《の》らせ|給《たま》ひし|大神勅《おほみこと》
|唯《ただ》|一言《ひとこと》も|洩《も》らさじと  |耳《みみ》をそばだて|言依別《ことよりわけ》の
|瑞《みづ》の|命《みこと》は|只管《ひたすら》に  |今日《けふ》を|境《さかひ》と|改《あらた》めて
|世人《よびと》を|安《やす》きに|救《すく》うため  |千座《ちくら》の|置戸《おきど》を|背《せな》に|負《お》ひ
|仁慈無限《じんじむげん》の|大神《おほかみ》の  |尊《たふと》き|御心《みむね》に|神習《かむなら》ひ
|仕《つか》へ|奉《まつ》らむ|瑞御魂《みづみたま》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦《くにたけひこ》の|御前《おんまへ》に  |慎《つつし》み|敬《うやま》ひ|真心《まごころ》を
|尽《つく》して|誓《ちか》ひ|奉《たてまつ》る  |朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも
|月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも  |仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも
|皇大神《すめおほかみ》に|誓《ちか》ひたる  わが|言霊《ことたま》は|永久《とこしへ》に
|五六七《みろく》の|世《よ》|迄《まで》も|変《かは》らまじ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|自《みづか》ら|固《かた》き|決心《けつしん》を|歌《うた》ひ|了《をは》つて|悄然《せうぜん》として|座《ざ》に|帰《かへ》つた。|今後《こんご》の|言依別命《ことよりわけのみこと》の|犠牲的《ぎせいてき》|活動《くわつどう》は|果《はた》して|如何《いか》に|発展《はつてん》するであらうか。
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》は|秋山館《あきやまやかた》の|奥《おく》の|間《ま》に|隠《かく》れ|給《たま》ひしより、|何《いづ》れへ|出《い》でませしか、その|消息《せうそく》を|知《し》るものは|一人《ひとり》もなかつた。
|国武彦命《くにたけひこのみこと》はその|場《ば》に|白煙《はくえん》となつて|消《き》え|給《たま》ひ、|四尾《よつを》の|山《やま》の|奥《おく》|深《ふか》く|神政成就《しんせいじやうじゆ》の|暁《あかつき》を|待《ま》たせ|給《たま》ふ|事《こと》になつた。
|茲《ここ》に|言依別命《ことよりわけのみこと》は|梅子姫《うめこひめ》、|五十子姫《いそこひめ》その|他《た》の|一同《いちどう》と|共《とも》に、|神宝《かむだから》を|由良《ゆら》の|港《みなと》の|川口《かはぐち》より|美《うる》はしき|神輿《みこし》の|中《なか》に|納《をさ》め、|金銀《きんぎん》を|以《もつ》て|鏤《ちりば》めたる|御船《みふね》に|安置《あんち》し、|金銀《きんぎん》の|真帆《まほ》に|秋風《あきかぜ》を|孕《はら》ませ、|由良川《ゆらがは》を|遡《さかのぼ》りて|聖地《せいち》に|勇《いさ》ましく、|船中《せんちう》|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ、いろいろの|音楽《おんがく》を|奏《そう》しながら|帰《かへ》り|給《たま》ふ|事《こと》となつた。あゝ|惟神《かむながら》|霊《たま》|幸倍《ちはへ》|坐世《ませ》。
(大正一一・七・一八 旧閏五・二四 外山豊二録)
第三篇 |神都《しんと》の|秋《あき》
第一〇章 |船歌《ふなうた》〔七七五〕
|由良《ゆら》の|港《みなと》の|川口《かはぐち》より|新調《しんてう》の|御船《みふね》に|神輿《みこし》を|乗《の》せ、|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|守護《しゆご》しながら、|音楽《おんがく》の|音《ね》も|勇《いさ》ましく、|北風《きたかぜ》に|真帆《まほ》を|孕《はら》ませ、|悠々《いういう》として|深《ふか》き|川瀬《かはせ》を|聖地《せいち》を|指《さ》して|上《のぼ》り|行《ゆ》く。
|船《ふね》の|先《さき》にスツクと|立上《たちあが》り、|宣伝服《せんでんふく》を|着《ちやく》したる|国依別《くによりわけ》は、|被面布《ひめんぷ》を|巻上《まきあ》げながら、|声《こゑ》も|涼《すず》しく|節《ふし》|面白《おもしろ》く|歌《うた》ひ|出《だ》した。|其《その》|歌《うた》、
『|三千世界《さんぜんせかい》の|梅《うめ》の|花《はな》  |一度《いちど》に|開《ひら》く|時津風《ときつかぜ》
|天《あめ》の|八重雲《やへくも》|掻《か》き|分《わ》けて  |深《ふか》く|包《つつ》みし|天津日《あまつひ》の
|影《かげ》もやうやう|冴《さ》え|渡《わた》り  |月《つき》の|光《ひかり》も|皎々《かうかう》と
|下界《げかい》を|照《て》らす|世《よ》となりぬ  |此《この》|世《よ》を|洗《あら》ふ|瑞御霊《みづみたま》
|神徳《しんとく》|輝《かがや》く|厳御霊《いづみたま》  |経《たて》と|緯《よこ》との|御経綸《ごけいりん》
|茲《ここ》に|揃《そろ》うて|北《きた》の|空《そら》  |由良《ゆら》の|港《みなと》に|名《な》も|高《たか》き
|人子《ひとご》の|司《つかさ》|秋山彦《あきやまひこ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|御館《おんやかた》
|奥《おく》の|一間《ひとま》に|安置《あんち》して  |玉《たま》を|納《をさ》めし|柳筥《やなぎばこ》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》や  |国武彦大神《くにたけひこのおほかみ》の
|御言《みこと》|畏《かしこ》み|言依別《ことよりわけ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》の|神司《かむづかさ》
|八人乙女《やたりをとめ》の|五十子姫《いそこひめ》  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》のいと|清《きよ》く
|玉《たま》を|守《まも》りて|小波《さざなみ》の  |打《う》ち|寄《よ》せ|来《きた》る|川口《かはぐち》を
ゆらりゆらりと|上《のぼ》り|来《く》る  |科戸《しなど》の|風《かぜ》も|爽《さはや》かに
|吹《ふ》き|払《はら》ひたる|塵《ちり》|芥《あくた》  |曲《まが》の|身魂《みたま》の|影《かげ》|失《う》せて
|尊《たふと》き|神世《かみよ》は|近《ちか》づきぬ  |流《なが》れも|清《きよ》き|由良《ゆら》の|川《かは》
|神《かみ》の|恵《めぐみ》に|上《のぼ》り|行《ゆ》く  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |尊《たふと》き|神《かみ》の|仕組《しぐ》みたる
|誠《まこと》の|花《はな》は|匂《にほ》ひ|初《そ》め  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》りし|国依別《くによりわけ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|宣伝使《せんでんし》
|何《なに》に|譬《たと》へむ|術《すべ》もなく  |喜《よろこ》び|勇《いさ》み|伝《つた》へ|行《ゆ》く
|思《おも》へば|遠《とほ》き|其《その》|昔《むかし》  メソポタミヤの|顕恩郷《けんおんきやう》
バラモン|教《けう》に|身《み》を|任《まか》せ  |教司《をしへつかさ》となりぬれど
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》が  |高天原《たかあまはら》に|上《のぼ》りまし
|天《あま》の|岩戸《いはと》は|閉《とざ》されて  |世《よ》は|常闇《とこやみ》となりしより
|年端《としは》も|行《ゆ》かぬ|幼児《をさなご》の  |親《おや》には|別《わか》れ|兄弟《きやうだい》に
|生《い》き|別《わか》れたる|悲《かな》しさに  |奸《ねぢ》け|曲《まが》りし|吾《わが》|身魂《みたま》
|曲《まが》の|限《かぎ》りを|尽《つく》しつつ  |親《おや》を|探《たづ》ねて|夫婦連《ふうふづれ》
|自転倒島《おのころじま》を|遠近《をちこち》と  |憂《うき》を|三年《みとせ》の|旅枕《たびまくら》
|嶮《けは》しき|山《やま》を|乗《の》り|越《こ》えて  |胸《むね》の|動悸《どうき》も|宇都山《うづやま》の
|川辺《かはべ》に|進《すす》む|二人連《ふたりづれ》  |日頃《ひごろ》|探《たづ》ぬる|吾《わが》|父《ちち》に
|知《し》らず|識《し》らずに|廻《めぐ》り|会《あ》ひ  |武志《たけし》の|森《もり》の|神司《かむづかさ》
|松鷹彦《まつたかひこ》は|吾《わが》|父《ちち》と  |覚《さと》りし|時《とき》の|嬉《うれ》しさよ
それのみならず|吾《わが》|兄《あに》の  |天《あめ》の|真浦《まうら》にゆくりなく
|廻《めぐ》り|会《あ》うたる|嬉《うれ》しさに  |胸《むね》|轟《とどろ》かす|折《をり》もあれ
|妻《つま》の|命《みこと》は|兄妹《おとどい》と  |知《し》らず|識《し》らずに|暮《くら》したる
|吾《わが》|身《み》の|罪《つみ》の|恐《おそ》ろしさ  |神《かみ》に|祈《いの》りて|許々多久《ここたく》の
|罪《つみ》や|穢《けがれ》を|払《はら》はむと  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|参上《まゐのぼ》り
|言依別《ことよりわけ》の|神司《かむづかさ》  |貴《うづ》の|御前《みまへ》に|立出《たちい》でて
|尊《たふと》き|神《かみ》の|御教《みをしへ》を  いと|懇《ねもごろ》に|教《をし》へられ
|罪《つみ》|赦《ゆる》されし|其《その》|上《うへ》に  |実《げ》にも|尊《たふと》き|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》の|宣伝使《せんでんし》  |国依別《くによりわけ》と|名《な》を|賜《たま》ひ
|玉治別《たまはるわけ》や|竜国別《たつくにわけ》の  |親《した》しき|友《とも》と|諸共《もろとも》に
|尊《たふと》き|聖地《せいち》を|後《あと》にして  |名《な》さへ|目出度《めでた》き|亀山《かめやま》の
|月宮殿《げつきうでん》に|参詣《まゐまう》で  |月《つき》|照《て》る|夜半《よは》の|森《もり》の|下《した》
|玉治別《たまはるわけ》にからかはれ  |肝《きも》を|冷《ひや》せし|愚《おろか》さよ
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》も|高熊《たかくま》の  |厳《いづ》の|岩窟《いはや》に|参拝《さんぱい》し
|神徳《しんとく》|更《さら》に|蒙《かかぶ》りて  |堺峠《さかひたうげ》を|打渉《うちわた》り
|足《あし》に|任《まか》せて|法貴谷《ほふきだに》  |道《みち》にさやれる|小盗人《こぬすびと》
わが|言霊《ことたま》に|言向《ことむ》けて  |進《すす》み|行《ゆ》く|折《をり》|千匹《せんびき》の
|聞《き》くも|恐《おそ》ろし|狼《おほかみ》が  |山路《やまみち》を|渉《わた》る|足音《あしおと》に
|木《こ》の|葉《は》|茂《しげ》れる|青山《あをやま》に  |姿《すがた》を|隠《かく》し|進《すす》み|行《ゆ》く
|玉治別《たまはるわけ》の|吾《わが》|友《とも》に  |湯谷ケ谷《ゆやがたに》なる|杢助《もくすけ》が
|館《やかた》に|目出度《めでた》く|廻《めぐ》り|会《あ》ひ  |心《こころ》も|勇《いさ》む|宣伝使《せんでんし》
|津田《つだ》の|湖水《こすゐ》の|水際《みづぎは》に  |袂《たもと》を|別《わか》ち|六甲《ろくかふ》の
|峰《みね》を|伝《つた》ひて|鷹依《たかより》の  |姫《ひめ》の|命《みこと》の|岩窟《がんくつ》に
|一同《いちどう》|漸《やうや》く|廻《めぐ》り|会《あ》ひ  |高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》を
|救《すく》ひ|出《いだ》して|鷹依《たかより》の  |姫《ひめ》の|命《みこと》を|三五《あななひ》の
|誠《まこと》の|道《みち》に|服《まつろ》はせ  それより|進《すす》んで|杢助《もくすけ》が
|生田《いくた》の|森《もり》の|神館《かむやかた》  |留守居《るすゐ》の|役《やく》を|命《めい》ぜられ
|秋彦《あきひこ》、|駒彦《こまひこ》|諸共《もろとも》に  |教《をしへ》を|開《ひら》く|折柄《をりから》に
|玉《たま》に|心《こころ》を|奪《と》られたる  |日《ひ》の|出神《でのかみ》と|自称《じしよう》せる
|高姫《たかひめ》さまを|始《はじ》めとし  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》の
|神《かみ》の|司《つかさ》に|夕間暮《ゆふまぐれ》  |来訪《らいはう》されて|奥《おく》の|間《ま》に
|秋彦《あきひこ》|諸共《もろとも》|忍《しの》び|居《ゐ》る  |高姫《たかひめ》、|駒彦《こまひこ》|門口《かどぐち》の
|戸《と》を|隔《へだ》てたる|押問答《おしもんだふ》  |婆《ば》さまの|声《こゑ》や|娘声《むすめごゑ》
|言葉《ことば》|巧《たくみ》に|操《あやつ》れば  |高姫《たかひめ》さまも|一時《いつとき》は
|迷《まよ》はされたる|可笑《をか》しさよ  |漸《やうや》う|表戸《おもてど》|引開《ひきあ》けて
|教司《をしへつかさ》の|駒彦《こまひこ》と  |暫時《しばし》|争《あらそ》ひ|居《ゐ》たりしが
|奥《おく》の|一間《ひとま》に|煙草《たばこ》|吸《す》ふ  |煙管《きせる》の|音《おと》に|心《こころ》|付《づ》き
|高姫《たかひめ》さまは|忽《たちま》ちに  |襖《ふすま》|押開《おしあ》け|進《すす》み|入《い》る
|南無三宝《なむさんぽう》と|仰向《あふむ》けに  グレンと|覆《かへ》つて|四足《よつあし》の
|憑依《ひようい》せし|如《ごと》|装《よそほ》ひつ  |憑依《ひようい》もせない|大天狗《だいてんぐ》
|再度山《ふたたびやま》の|鼻高《はなだか》と  |早速《さそく》の|頓智《とんち》が|仇《あだ》となり
|高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》に  |真《まこと》の|天狗《てんぐ》と|誤《あやま》られ
|玉《たま》の|在処《ありか》を|知《し》らせよと  |夢《ゆめ》にも|知《し》らぬ|国依別《くによりわけ》の
|命《みこと》に|向《むか》つて|攻《せ》めかくる  |遁《のが》るる|由《よし》もなきままに
|嘘言《うそ》でもよいかと|言《い》ひ|乍《なが》ら  |三《み》つの|玉《たま》の|隠《かく》し|場所《ばしよ》
|近江《あふみ》の|国《くに》は|琵琶《びは》の|湖《うみ》  |波《なみ》に|漂《ただよ》ふ|竹生島《ちくぶしま》
|社《やしろ》の|下《した》に|三角《さんかく》の  |石《いし》の|蓋《ふた》して|隠《かく》し|在《あ》り
|一時《いちじ》も|早《はや》く|片時《かたとき》も  |急《いそ》いで|行《ゆ》かねば|言依別《ことよりわけ》の
|瑞《みづ》の|命《みこと》の|使《つかひ》|等《ら》が  |又《また》も|掘出《ほりだ》す|虞《おそれ》あり
|早《はや》く|早《はや》くとせき|立《た》てて  |三人《さんにん》|共《とも》に|竹生島《ちくぶしま》
|同《おな》じ|所《ところ》に|別々《べつべつ》に  |指図《さしづ》をすれば|三人《さんにん》が
|宙《ちう》を|駆《かけ》つて|走《はし》り|行《ゆ》く  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》は
|虎口《ここう》を|逃《のが》れた|心地《ここち》して  |生田《いくた》の|森《もり》の|館《やかた》をば
|後《あと》に|眺《なが》めてスタスタと  |心《こころ》の|駒《こま》の|逸《はや》るまに
|足《あし》に|鞭打《むちう》つ|膝栗毛《ひざくりげ》  |山野《さんや》を|渉《わた》り|川《かは》を|越《こ》え
|夜《よ》を|日《ひ》に|次《つい》で|綾《あや》の|里《さと》  |錦《にしき》の|宮《みや》に|来《き》て|見《み》れば
|言依別《ことよりわけ》や|杢助《もくすけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》を|始《はじ》めとし
|聖地《せいち》の|役員《やくゐん》|一同《いちどう》は  |由良《ゆら》の|港《みなと》に|帰《かへ》ります
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|迎《むか》へむと  |立出《たちい》で|給《たま》ふ|真最中《まつさいちう》
|喜《よろこ》び|勇《いさ》み|秋彦《あきひこ》を  |伴《ともな》ひ|此処《ここ》に|来《き》て|見《み》れば
|思《おも》ひ|掛《が》けなき|瑞御霊《みづみたま》  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|厳《いづ》の|顔《かんばせ》|莞爾《にこにこ》と  |吾等《われら》を|待《ま》たせ|給《たま》ひけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |恩頼《みたまのふゆ》の|幸《さち》はひて
|今《いま》|此《この》|船《ふね》に|身《み》を|委《まか》せ  |聖地《せいち》に|帰《かへ》る|楽《たの》しさよ
さはさりながら|高姫《たかひめ》や  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》の
|三《み》つの|身魂《みたま》は|嘸《さぞ》やさぞ  |案《あん》に|相違《さうゐ》の|力《ちから》|抜《ぬ》け
|国依別《くによりわけ》の|曲神《まがかみ》に  |尻《しり》の|毛《け》までも|抜《ぬ》かれたと
|面《つら》をふくらし|泡《あわ》を|吹《ふ》き  |随分《ずゐぶん》|怒《おこ》つて|居《ゐ》られませう
|三《み》つの|宝珠《ほつしゆ》は|手《て》に|入《い》らず  |五《いつ》つの|玉《たま》の|神業《かむわざ》は
|又《また》もや|人《ひと》に|勤《つと》められ  |心《こころ》のもめる|事《こと》だらう
どうせ|聖地《せいち》へ|帰《かへ》りなば  |国依別《くによりわけ》は|高姫《たかひめ》に
|胸倉《むなぐら》とられ|一叱言《ひとこごと》  |聞《き》かして|貰《もら》ふ|事《こと》だらう
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|高姫《たかひめ》さまの|腹立《はらだ》ちを  なる|事《こと》ならば|穏《おだや》かに
|和《なご》め|給《たま》へよと|三五《あななひ》の  |道《みち》を|守《まも》らす|大御神《おほみかみ》
|玉照彦《たまてるひこ》や|玉照《たまてる》の  |姫《ひめ》の|命《みこと》の|御前《おんまへ》に
|先《さき》を|案《あん》じて|国依別《くによりわけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》が|願《ね》ぎ|奉《まつ》る
はや|神徳《しんとく》を|河守《かうもり》の  |川辺《かはべ》に|着《つ》いた|嬉《うれ》しさよ
|波《なみ》にせかれて|川中《かはなか》に  |高姫《たかひめ》ならぬいと|高《たか》く
|腹立岩《はらたちいは》も|漸《やうや》うに  |越《こ》えて|嬉《うれ》しき|八雲川《やくもがは》
|落《お》ち|合《あ》ふ|水《みづ》に|颯々《さつさつ》と  |涼《すず》しき|風《かぜ》も|福知山《ふくちやま》
|嬉《うれ》しき|便《たよ》りを|白瀬川《しらせがは》  |波《なみ》を|蹴立《けた》てて|上《のぼ》り|行《ゆ》く
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つた。
|言依別命《ことよりわけのみこと》を|始《はじ》め|一同《いちどう》は|此《この》|歌《うた》に|吹出《ふきだ》し|腹《はら》を|抱《かか》へて|笑《わら》ひこけた。
|船《ふね》は|清流《せいりう》を|八十綱《やそつな》もて|索《ひ》かるる|如《ごと》く、|順風《じゆんぷう》に|真帆《まほ》を|膨《ふく》らせスルリスルリと|辷《すべ》り|行《ゆ》く。
|仰《あふ》いで|空《そら》を|眺《なが》むれば|天《てん》|高《たか》く|風《かぜ》|澄《す》み|渡《わた》る|秋《あき》の|色《いろ》、|忽《たちま》ち|青《あを》、|赤《あか》、|白《しろ》、|黄《き》、|紫《むらさき》の|雲《くも》|満天《まんてん》を|包《つつ》み、|得《え》も|言《い》はれぬ|芳香《はうかう》|四辺《しへん》に|薫《くん》じ、|微妙《びめう》の|音楽《おんがく》|聞《きこ》え、|天人《てんにん》|天女《てんによ》の|中空《ちうくう》に|舞《ま》ひ|狂《くる》ひて|此《この》|船《ふね》を|祝《しゆく》しつつ|送《おく》り|給《たま》ふ|如《ごと》き|爽快《さうくわい》の|気分《きぶん》に|一同《いちどう》|漂《ただよ》はされ、|歓《くわん》|湧《わ》き|興《きよう》|満《み》ち、|勇気《ゆうき》|凛々《りんりん》として|流石《さすが》|長途《ちやうと》の|船路《ふなぢ》も|瞬《またた》く|間《うち》に|聖地《せいち》に|帰《かへ》り|着《つ》く|如《ごと》く|思《おも》はれた。
(大正一一・七・一八 旧閏五・二四 谷村真友録)
第一一章 |言《ことば》の|波《なみ》〔七七六〕
|秋彦《あきひこ》は|漸《やうや》く|聖地《せいち》に|船《ふね》の|近付《ちかづ》きしに|元気《げんき》|益々《ますます》|旺盛《わうせい》となり、|副守護神《ふくしゆごじん》の|発動《はつどう》|気分《きぶん》を|発揮《はつき》し|歌《うた》ひ|始《はじ》めた。
『|四尾《よつを》の|山《やま》が|見《み》えて|来《き》た  |和知《わち》の|流《なが》れは|永久《とこしへ》に
|清《きよ》き|教《をしへ》を|白瀬川《しらせがは》  |生田《いくた》の|里《さと》も|早《はや》|越《こ》えて
|何《なん》の|便《たよ》りも|音無瀬《おとなせ》の  |流《なが》れも|清《きよ》き|由良《ゆら》の|川《かは》
|由良《ゆら》の|港《みなと》に|名《な》も|高《たか》き  |秋山彦《あきやまひこ》や|紅葉姫《もみぢひめ》
|鹿《しか》と|呼《よ》ばれし|秋彦《あきひこ》が  |言依別《ことよりわけ》に|従《したが》ひて
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|迎《むか》へむと  |流《なが》れを|下《くだ》り|来《き》て|見《み》れば
|思《おも》ひ|掛《がけ》なき|瑞御霊《みづみたま》  |八洲《やす》の|河原《かはら》に|誓約《うけひ》して
|清明無垢《せいめいむく》の|御心《みこころ》を  |現《あら》はし|給《たま》ひし|救世主《きうせいしゆ》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |聖顔《せいがん》|殊《こと》に|麗《うるは》しく
|慈愛《じあい》の|涙《なみだ》|満面《まんめん》に  |湛《たた》へいませる|崇高《けだか》さよ
|四尾《よつを》の|山《やま》に|奥《おく》|深《ふか》く  |此《この》|世《よ》を|忍《しの》び|給《たま》ひつつ
|神世《かみよ》をここに|待《ま》ち|給《たま》ふ  |国武彦《くにたけひこ》の|御身魂《おんみたま》
|煙《けむり》の|如《ごと》く|現《あら》はれて  |紅葉《もみぢ》かがやく|秋山《あきやま》の
|館《やかた》に|隠《かく》れ|給《たま》ひつつ  |遠《とほ》き|昔《むかし》の|初《はじめ》より
|黄金《こがね》の|島《しま》の|秘密郷《ひみつきやう》  |諏訪《すは》の|湖水《こすゐ》の|底《そこ》|深《ふか》く
かくれて|神世《かみよ》を|待《ま》ち|給《たま》ふ  |玉依姫《たまよりひめ》の|厳御魂《いづみたま》
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》は|恙《つつが》なく  |八咫烏《やあたがらす》に|送《おく》られて
|天津御空《あまつみそら》を|潔《いさぎよ》く  |秀妻《ほづま》の|国《くに》の|中心地《ちうしんち》
|外《そと》の|囲《かこ》ひと|聞《きこ》えたる  |由良《ゆら》の|港《みなと》に|鳩《はと》のごと
|降《くだ》り|給《たま》ひて|神《かみ》の|世《よ》の  |礎《いしずゑ》|固《かた》くつき|給《たま》ふ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》の|幸《さち》を|蒙《かうむ》りて
|流《なが》れも|清《きよ》き|和知川《わちがは》に  |汚《けが》れし|身魂《みたま》を|洗《あら》ひつつ
|前代《ぜんだい》|未聞《みもん》の|神業《かむわざ》に  |参加《さんか》なしたる|尊《たふと》さよ
|思《おも》ひまはせば|其《その》|昔《むかし》  |兄《あに》の|駒彦《こまひこ》|諸共《もろとも》に
|紫姫《むらさきひめ》に|従《したが》ひて  |花《はな》の|都《みやこ》を|後《あと》になし
|豊国姫《とよくにひめ》の|常久《とことは》に  |鎮《しづ》まりいます|比沼真奈井《ひぬまなゐ》
|瑞《みづ》の|宝座《はうざ》に|詣《まう》でむと  |主従《しゆじう》|三人《みたり》|山《やま》を|越《こ》え
|草《くさ》を|分《わ》けつつ|進《すす》み|行《ゆ》く  |普甲峠《ふかふたうげ》の|手前《てまへ》まで
|主従《しゆじう》|三人《みたり》|進《すす》む|折《をり》  バラモン|教《けう》に|仕《つか》へたる
|三嶽《みたけ》の|山《やま》の|守護神《しゆごうじん》  |名《な》も|恐《おそ》ろしき|鬼鷹《おにたか》や
|情《なさけ》|容赦《ようしや》も|荒鷹《あらたか》の  |曲津《まがつ》の|神《かみ》に|誘《いざな》はれ
|紫姫《むらさきひめ》と|諸共《もろとも》に  |醜《しこ》の|岩窟《いはや》に|捕《とら》へられ
|進退《しんたい》ここに|谷《きは》まりて  |前途《ぜんと》を|煩《わづら》ふ|折柄《をりから》に
|三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》  |悦子《よしこ》の|姫《ひめ》を|始《はじ》めとし
|音彦《おとひこ》、|加米彦《かめひこ》|両人《りやうにん》が  |岩窟《いはや》の|中《なか》に|駆入《かけい》りて
|神《かみ》の|化身《けしん》の|丹州《たんしう》と  |息《いき》を|合《あは》せて|救《すく》ひ|出《だ》し
|茲《ここ》に|三人《みたり》は|三五《あななひ》の  |心《こころ》の|岩戸《いはと》をさらさらと
|開《ひら》き|給《たま》ひし|尊《たふと》さよ  |三五教《あななひけう》の|人々《ひとびと》と
|三嶽《みたけ》の|山《やま》の|峰伝《みねづた》ひ  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|籠《こも》りたる
|鬼ケ城《おにがじやう》へと|立向《たちむか》ひ  |言霊戦《ことたません》を|開始《かいし》して
バラモン|教《けう》の|司《つかさ》|等《ら》を  |雲《くも》の|彼方《あなた》に|追《お》ひ|散《ち》らし
それより|聖地《せいち》に|駆向《かけむか》ひ  |神《かみ》の|大道《おほぢ》を|伝《つた》へむと
|高城山《たかしろやま》の|松姫《まつひめ》が  |館《やかた》をさして|進《すす》み|行《ゆ》く
|堪《こら》へ|忍《しの》びの|花《はな》|咲《さ》きて  |神《かみ》の|御目《おんめ》に|叶《かな》ひしか
|名《な》も|秋彦《あきひこ》と|賜《たま》はりて  いよいよ|尊《たふと》き|宣伝使《せんでんし》
|西《にし》や|東《ひがし》や|北南《きたみなみ》  |神《かみ》の|御教《みのり》を|伝《つた》へつつ
|稚姫君大神《わかひめぎみのおほかみ》を  |祀《まつ》りし|生田《いくた》の|神館《かむやかた》
|国依別《くによりわけ》や|駒彦《こまひこ》と  |三《み》つの|御霊《みたま》の|御教《みをしへ》を
|道《みち》を|求《もと》むる|人々《ひとびと》に  |明《あか》し|伝《つた》ふる|折《をり》もあれ
|玉《たま》を|索《もと》めて|南洋《なんやう》の  |竜宮島《りうぐうじま》まで|彷徨《さまよ》ひし
|高姫《たかひめ》さまの|一行《いつかう》が  |訪問《はうもん》されて|国《くに》さまや
|駒彦《こまひこ》、|秋彦《あきひこ》|三人《さんにん》は  |又《また》も|五月蠅《うるさ》い|玉《たま》|詮議《せんぎ》
さつと|裁《さば》いて|近江路《あふみぢ》の  |竹生《ちくぶ》の|島《しま》に|宝玉《はうぎよく》は
|社殿《しやでん》の|下《した》に|奥《おく》|深《ふか》く  |隠《かく》されありと|出放題《ではうだい》
|其《その》|虚言《そらごと》を|真《ま》に|受《う》けて  |高姫《たかひめ》さまを|始《はじ》めとし
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》は  |時《とき》を|移《うつ》さず|進《すす》み|行《ゆ》く
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》が
|心《こころ》にもなき|詐《いつは》りを  |宣《の》り|伝《つた》へたる|曲業《まがわざ》を
|直日《なほひ》に|見直《みなほ》し|聞直《ききなほ》し  |是非《ぜひ》なきことと|宣《の》り|直《なほ》し
|赦《ゆる》させ|給《たま》へ|三五《あななひ》の  |道《みち》を|守《まも》らす|大御神《おほみかみ》
|埴安彦《はにやすひこ》や|埴安姫《はにやすひめ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|御前《おんまへ》に
|慎《つつし》み|敬《うやま》ひ|詫《わ》びまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|終《をは》つた。
|歓呼声裡《くわんこせいり》に|玉《たま》の|御船《みふね》は|漸《やうや》くにして、|吉美《きみ》の|浜辺《はまべ》の|南岸《なんがん》に|安着《あんちやく》した。
|言依別命《ことよりわけのみこと》を|先頭《せんとう》に、|五十子姫《いそこひめ》、|梅子姫《うめこひめ》、|初稚姫《はつわかひめ》、|玉能姫《たまのひめ》、|玉治別《たまはるわけ》や|黄竜姫《わうりようひめ》、|蜈蚣姫《むかでひめ》と|順序《じゆんじよ》を|正《ただ》し、|錦《にきし》の|宮《みや》の|八尋殿《やひろどの》より|迎《むか》へ|来《きた》れる|数多《あまた》の|信徒《しんと》に|神輿《みこし》を|舁《かつ》がせ、|列《れつ》を|正《ただ》してしづしづと、|微妙《びめう》の|音楽《おんがく》に|前後《ぜんご》を|守《まも》られつつ、|粛々《しゆくしゆく》として|錦《にしき》の|宮《みや》に|帰《かへ》り|行《ゆ》く。
|腰《こし》の|曲《まが》つた|夏彦《なつひこ》は、|嬉《うれ》しさの|余《あま》り|足《あし》も|地《ち》に|着《つ》かず、|千鳥《ちどり》の|如《ごと》く|右左《みぎひだり》、|大道《だいだう》|狭《せま》しと|手《て》を|振《ふ》り|首《くび》を|揺《ゆす》りつつ|祝《いは》ひの|歌《うた》を|高《たか》らかに|口《くち》ずさみながら|帰《かへ》り|行《ゆ》く。
『あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|天地《てんち》を|清《きよ》むる|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|教《をしへ》への|御光《みひかり》は
|四方《よも》に|輝《かがや》く|時《とき》|来《きた》り  |三《み》つの|宝珠《ほつしゆ》を|始《はじ》めとし
|今《いま》また|五《いつ》つの|麻邇《まに》の|玉《たま》  |経《たて》と|緯《よこ》との|御仕組《おしぐみ》の
|錦《にしき》の|機《はた》を|織《お》りませる  |真《まこと》の|神《かみ》を|斎《まつ》りたる
|錦《にしき》の|宮《みや》に|更《あらた》めて  |鎮《しづ》まりますこそ|尊《たふと》けれ
|心《こころ》も|赤《あか》き|秋山彦《あきやまひこ》の  |神《かみ》の|命《みこと》の|真心《まごころ》は
|照《て》り|輝《かがや》きて|紅葉姫《もみぢひめ》  |大和心《やまとごころ》の|厳御霊《いづみたま》
|皇大神《すめおほかみ》は|詳細《まつぶさ》に  |夫婦《ふうふ》が|心《こころ》をみそなはし
|空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》を  |依《よ》さし|給《たま》ひて|永久《とこしへ》に
|誉《ほまれ》を|四方《よも》に|伝《つた》へむと  |神素盞嗚大御神《かむすさのをのおほみかみ》
|国武彦《くにたけひこ》の|厳御霊《いづみたま》  |再《ふたた》び|館《やかた》に|現《あら》はれて
|三五《さんご》の|月《つき》の|大御教《おほみのり》を  |堅磐常磐《かきはときは》に|固《かた》めまし
|神《かみ》の|大道《おほぢ》に|五十子姫《いそこひめ》  |教《をしへ》の|花《はな》は|香《かん》ばしく
|一度《いちど》に|開《ひら》く|梅子姫《うめこひめ》  |花《はな》の|莟《つぼみ》の|初稚《はつわか》の
|姫《ひめ》の|命《みこと》や|玉能姫《たまのひめ》  |玉《たま》の|光《ひかり》はいやちこに
|玉治別《たまはるわけ》と|現《あ》れまして  |神《かみ》の|御稜威《みいづ》もテールス|姫《ひめ》の
|神《かみ》の|司《つかさ》や|黄竜姫《わうりようひめ》  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》や|友彦《ともひこ》の
|鼻《はな》の|先《さき》まで|紅《くれなゐ》の  |赤《あか》き|心《こころ》の|宮仕《みやづか》へ
|暗夜《やみよ》を|明石《あかし》の|久助《きうすけ》が  |海洋万里《かいやうばんり》の|波《なみ》を|越《こ》え
|妻《つま》のお|民《たみ》と|諸共《もろとも》に  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へまつりし|健気《けなげ》さよ  |花《はな》さく|春《はる》も|早《はや》|過《す》ぎて
あつき|心《こころ》の|夏彦《なつひこ》が  |今日《けふ》の|生日《いくひ》の|足日《たるひ》をば
|喜《よろこ》び|祝《いは》ひ|奉《たてまつ》り  |千代《ちよ》も|八千代《やちよ》も|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》の|礎《いしずゑ》は  いや|固《かた》らかに|揺《ゆる》ぎなく
|茂《しげ》り|栄《さか》ゆる|八桑枝《やくはえ》の  |日《ひ》に|夜《よ》に|開《ひら》きのぶるごと
|進《すす》ませ|給《たま》へ|惟神《かむながら》  |神《かみ》の|御前《みまへ》に|慎《つつし》みて
|今日《けふ》の|喜《よろこ》び|祝《ほ》ぎまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
と|歌《うた》ひ|了《をは》つた。
|常彦《つねひこ》は|又《また》|夏彦《なつひこ》の|歌《うた》に|促《うなが》されて|怪《あや》しき|口調《くてう》を|以《もつ》てうなり|出《だ》した。
『ウラナイ|教《けう》の|黒姫《くろひめ》に  |愛想《あいそ》をつかして|三五《あななひ》の
|誠《まこと》の|道《みち》に|救《すく》はれし  |沈香《ちんかう》も|焚《た》かぬ|屁《へ》も|放《ひ》らぬ
|教《をしへ》も|知《し》らぬ|常彦《つねひこ》が  |錦《にしき》の|宮《みや》の|側《そば》|近《ちか》く
|朝《あさ》な|夕《ゆふ》なに|仕《つか》へつつ  |唯々諾々《ゐゐだくだく》と|日《ひ》を|送《おく》り
|三五教《あななひけう》の|隆盛《りうせい》を  |指折《ゆびを》り|数《かぞ》へ|松《まつ》の|世《よ》の
|来《きた》るを|遅《おそ》しと|伺《うかが》へば  |三《み》つの|御霊《みたま》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|綾《あや》の|聖地《せいち》に|納《をさ》まりて  |教《をしへ》の|光《ひかり》|日《ひ》に|月《つき》に
|四方《よも》に|輝《かがや》く|目出度《めでた》さよ  |慶《よろこ》びを|積《つ》み|暉《かがや》きを
|重《かさ》ねて|広《ひろ》き|八尋殿《やひろどの》  |九《ここの》つ|花《はな》の|咲《さ》き|匂《にほ》ふ
|十《たり》の|美世《うましよ》|廻《めぐ》り|来《き》て  |思《おも》ひもよらぬ|竜宮《りうぐう》の
|五《い》つの|御霊《みたま》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉治別《たまはるわけ》の
|神《かみ》の|使《つかひ》|等《ら》|一行《いつかう》の  |清《きよ》き|身魂《みたま》の|働《はたら》きに
|諏訪《すは》の|湖《みづうみ》|空《そら》|高《たか》く  |神《かみ》の|使《つかひ》に|送《おく》られて
|雲《くも》を|圧《あつ》して|悠々《いういう》と  |輝《かがや》き|渡《わた》り|帰《かへ》ります
|今日《けふ》の|生日《いくひ》の|足日《たるひ》こそ  |五六七神政《みろくしんせい》|成就《じやうじゆ》して
|天国《てんごく》|浄土《じやうど》も|目《ま》のあたり  |出現《しゆつげん》したる|思《おも》ひなり
あゝ|諸人《もろびと》よ|諸人《もろびと》よ  |天津神《あまつかみ》|等《たち》|国津神《くにつかみ》
|百《もも》の|司《つかさ》の|神《かみ》|等《たち》の  |御前《みまへ》に|赤《あか》き|心《こころ》もて
|慎《つつし》み|感謝《かんしや》し|奉《たてまつ》れ  |先《さき》に|現《あ》れます|三《み》つ|御玉《みたま》
|神《かみ》の|仕組《しぐみ》を|畏《かしこ》みて  |隠《かく》させ|給《たま》ふ|言依別《ことよりわけ》の
|瑞《みづ》の|命《みこと》の|御指図《おんさしづ》  |仕《つか》へまつりし|玉能姫《たまのひめ》
|初稚姫《はつわかひめ》の|御前《おんまへ》を  |寿《ことほ》ぎ|奉《まつ》る|信徒《まめひと》の
|沢《さは》ある|中《なか》に|高姫《たかひめ》や  |高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》が
|妬《ねた》みの|焔《ほのほ》|消《き》えやらず  |心《こころ》|焦《いら》ちて|西東《にしひがし》
|南《みなみ》の|洋《うみ》の|果《は》てまでも  あてども|知《し》らぬ|玉探《たまさが》し
|出《い》でます|後《あと》に|竜宮《りうぐう》の  |実《げ》にも|尊《たふと》き|麻邇宝珠《まにほつしゆ》
|現《あら》はれ|給《たま》ひて|言依別《ことよりわけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》の|御許《おんもと》に
|納《をさ》まり|給《たま》ふと|聞《き》くならば  |高姫《たかひめ》|如何《いか》に|村肝《むらきも》の
|心《こころ》なやます|事《こと》ならむ  |今《いま》から|思《おも》ひやられける
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|三五教《あななひけう》の|上下《うへした》は  |神《かみ》に|心《こころ》を|任《まか》せつつ
|睦《むつ》び|親《した》しみ|末永《すえなが》く  |歓《ゑら》ぎて|伊都《いづ》の|大前《おほまへ》に
|心《こころ》|平《たひら》に|安《やす》らかに  |心《こころ》の|空《そら》の|雲霧《くもきり》を
|尊《たふと》き|御水火《みいき》に|吹《ふ》き|払《はら》ひ  |堅磐常磐《かきはときは》の|礎《いしずゑ》を
|築《きづ》かせ|給《たま》へ|惟神《かむながら》  |神《かみ》の|御前《みまへ》に|願《ね》ぎ|奉《まつ》る』
|佐田彦《さだひこ》は|又《また》もや|歌《うた》ひ|出《だ》した。
『○○|山《やま》の|頂上《ちやうじやう》に  ○○○に|従《したが》ひて
|空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》に  |仕《つか》へ|奉《まつ》りし|佐田彦《さだひこ》は
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |危《あやふ》き|生命《いのち》を|救《すく》はむと
|音《おと》|高々《たかだか》とおちかかる  ○○|滝《たき》の|麓《ふもと》にて
バラモン|教《けう》の|神司《かむつかさ》  |蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》と|格闘《かくとう》し
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |二人《ふたり》の|神使《しんし》を|救《すく》ひつつ
|波留彦《はるひこ》|諸共《もろとも》○○の  |又《また》もや○に|立帰《たちかへ》り
○○○の|御前《おんまへ》に  |三《み》つの|御玉《みたま》を○○し
ここにいよいよ|谷丸《たにまる》を  |道《みち》の|先頭《せんとう》の|佐田彦《さだひこ》と
|宣《の》り|直《なほ》されて|滝公《たきこう》は  |夏《なつ》の|初《はじめ》と|言《い》ひながら
|名《な》も|波留彦《はるひこ》と|与《あた》へられ  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|一行《いつかう》|四人《よにん》は|慎《つつし》みて  |此《こ》の|世《よ》|彼《あ》の|世《よ》の○の|海《うみ》
|波《なみ》に|浮《うか》べる○○の  |島《しま》に|小舟《こぶね》を|漕《こ》ぎつけて
○○○を○○し  |神《かみ》の|厳《きび》しき|戒《いまし》めに
|折角《せつかく》|来《く》るは|来《き》たものの  ○○○の|隠《かく》し|場所《ばしよ》
|知《し》らずに|再《ふたた》び|漕《こ》ぎ|帰《かへ》る  さはさりながら○○の
○○したる○○は  |確《たし》かにここと|明《あき》らめて
|知《し》つては|居《を》れど|皇神《すめかみ》の  いとも|厳《きび》しき|戒《いまし》めに
|三十万年《さんじふまんねん》|未来《みらい》まで  ○○○にして|置《お》かう
|高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》が  |心《こころ》を|焦《いら》ちて|遠近《をちこち》と
|三《み》つの|宝珠《ほつしゆ》の|在処《ありか》をば  |夜叉《やしや》の|如《ごと》くに|駆巡《かけめぐ》り
|当所《あてど》も|知《し》らぬ|玉探《たまさが》し  お|気《き》の|毒《どく》ぢやと|知《し》つた|故《ゆゑ》
いろいろ|様々《さまざま》|理《り》を|分《わ》けて  |申上《まをしあ》ぐれど|高姫《たかひめ》は
|日《ひ》の|出神《でのかみ》を|楯《たて》にとり  |続《つづ》いて|黒姫《くろひめ》|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまを|標榜《へうぼう》し  |三《みつ》つの|宝珠《ほつしゆ》はどうしても
|系統《ひつぽう》の|身魂《みたま》が|預《あづか》らにや  |完全無欠《くわんぜんむけつ》の|松《まつ》の|世《よ》の
|五六七神政《みろくしんせい》は|成就《じやうじゆ》せぬ  |佐田彦《さだひこ》|言《い》はぬと|申《まを》すなら
|言《い》はでも|宜《よろ》しい|高姫《たかひめ》が  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|神力《しんりき》で
|探《さが》して|見《み》せうと|雄猛《おたけ》びし  |万里《ばんり》の|波濤《はたう》を|乗越《のりこ》えて
どこどこまでも|探《さが》し|行《ゆ》く  |心《こころ》の|中《うち》の|可憐《いぢ》らしさ
|玉《たま》の|在処《ありか》は○○と  |知《し》らして|安心《あんしん》させたいは
|山々《やまやま》なれど○○の  |教《をしへ》はどうも|反《そむ》かれぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |又《また》もや|神《かみ》の|御仕組《おしぐみ》で
|高姫《たかひめ》さまの|居《を》らぬ|間《ま》に  |竜宮島《りうぐうじま》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》
|綾《あや》の|高天《たかま》に|納《をさ》まりて  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》を|初《はじめ》とし
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |再《ふたた》び|尊《たふと》き|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へませしと|聞《き》くならば  |日《ひ》の|出神《でのかみ》も|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまも|肝《きも》ぬかれ  アフンとするに|違《ちが》ひない
|夜食《やしよく》にはづれた|梟鳥《ふくろどり》  むつかし|顔《かほ》を|目《ま》のあたり
|今《いま》|見《み》るやうに|思《おも》はれて  お|気《き》の|毒《どく》なる|次第《しだい》なり
|今《いま》に|高姫《たかひめ》|帰《かへ》りなば  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|向《むか》ふにまはして|一戦《ひといくさ》  おつ|始《ぱじ》まるに|違《ちがひ》ない
|平和《へいわ》|克復《こくふく》|一時《いつとき》も  |聖地《せいち》の|空《そら》に|来《き》て|欲《ほ》しい
|三《み》つの|宝珠《ほつしゆ》や|五《い》つ|宝珠《ほつしゆ》  【ほしう】て|探《さが》す|高姫《たかひめ》の
|心《こころ》はいつか|玉《たま》|脱《ぬ》けの  ラムネの|様《やう》な|気《き》ぬけ|顔《がほ》
|味《あぢ》もしやしやりも|無《な》きのみか  |誰《たれ》が|呑《の》んでも|水臭《みづくさ》い
うすい|憂目《うきめ》にあはしたと  |教主《けうしゆ》の|襟髪《えりがみ》|引掴《ひつつか》み
|金切《かなき》り|声《ごゑ》を|搾《しぼ》り|出《だ》し  |一悶錯《ひともんさく》をなさるだろ
|佐田彦《さだひこ》それが|気《き》にかかり  |一夜《ひとよさ》さへも|安々《やすやす》と
|眠《ねむ》りに|就《つ》いた|事《こと》はない  |三《み》つの|御霊《みたま》に|比《くら》ぶれば
|天地霄壤《てんちせうじやう》に|違《ちが》ひある  |竜宮島《りうぐうじま》の|麻邇《まに》の|玉《たま》
|一《ひと》つ|位《くらゐ》は|高姫《たかひめ》に  |手柄《てがら》を|分《わ》けてやつたなら
|無事《ぶじ》に|解決《かいけつ》つくだらう  |言依別神《ことよりわけのかみ》さまも
お|年《とし》が|若《わか》いで|気《き》が|利《き》かぬ  |私《わし》が|言依別《ことよりわけ》ならば
|今度《こんど》は|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》に  |一《ひと》つ|手柄《てがら》を|指《さ》してやる
さうすりや|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》も  |手《て》の|舞《ま》ひ|足《あし》の|踏《ふ》む|所《ところ》
|知《し》らずに|顔《かほ》の|紐《ひも》をとき  お|多福面《たふくづら》になるだらう
どうしてあれ|程《ほど》|因縁《いんねん》が  |悪《わる》い|方《はう》へとまはるのか
これを|思《おも》へば|高姫《たかひめ》の  |執着心《しふちやくしん》の|雲《くも》|晴《は》れず
|自《みづか》ら|暗路《やみぢ》に|迷《まよ》ひこみ  |大切《だいじ》の|大切《だいじ》の|神業《かむわざ》に
|外《はづ》れて|行《ゆ》くに|違《ちがひ》ない  |心《こころ》|一《ひと》つの|持様《もちやう》で
|善《ぜん》の|御用《ごよう》を|命《めい》ぜられ  |悪《あく》の|御用《ごよう》も|引受《ひきう》ける
|善悪正邪《ぜんあくせいじや》の|二道《ふたみち》に  |迷《まよ》ひ|切《き》つたる|三人連《みたりづ》れ
|三《み》つの|御玉《みたま》は|是非《ぜひ》なくも  |因縁《いんねん》づくぢやと|諦《あきら》めて
|思《おも》ひ|切《き》つたにしたとこで  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》のかくされし
|竜宮《りうぐう》の|島《しま》に|遥々《はるばる》と  |渡《わた》りて|長《なが》らく|住《す》みながら
|玉《たま》の|在処《ありか》を|探《さぐ》らずに  |帰《かへ》り|来《きた》れる|其《その》|後《あと》で
|五《いつ》つの|玉《たま》の|現《あら》はれし  |皮肉《ひにく》な|神《かみ》の|経綸《けいりん》に
|定《さだ》めて|舌《した》を|巻《ま》くだらう  |思《おも》へば|思《おも》へば|可憐《いぢ》らしい
どうして|是《これ》が|事《こと》もなく  |高姫《たかひめ》さまが|聞《き》いたなら
|心《こころ》の|底《そこ》から|勇《いさ》むだろ  |今《いま》から|思《おも》ひやられます
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》が|表《おもて》に|現《あ》れまして
|言依別《ことよりわけ》や|高姫《たかひめ》の  |二《ふた》つ|柱《はしら》が|睨《にら》み|合《あ》ひ
どうぞ|和《なご》めて|下《くだ》さんせ  |三五教《あななひけう》の|佐田彦《さだひこ》が
|真心《まごころ》こめて|願《ね》ぎまつる  |厳《いづ》の|御霊《みたま》の|大御神《おほみかみ》
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|大御神《おほみかみ》  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ』
|滝公《たきこう》の|波留彦《はるひこ》は|佐田彦《さだひこ》の|歌《うた》に|引出《ひきだ》され、|始《はじ》めて|言霊《ことたま》の|口《くち》を|切《き》つた。
『|魔窟ケ原《まくつがはら》に|現《あらは》れし  ウラナイ|教《けう》の|黒姫《くろひめ》が
|幕下《ばくか》となつて|日《ひ》に|夜《よる》に  |口汚《くちぎたな》くも|使《つか》はれし
|体主霊従《たいしゆれいじう》の|滝公《たきこう》も  |普甲峠《ふかふたうげ》の|梅公《うめこう》が
|故智《こち》に|倣《なら》つて|船岡《ふなをか》の  |山《やま》の|麓《ふもと》の|森林《しんりん》に
お|節《せつ》の|後《あと》を|追《お》ひまくり  |一寸《ちよつと》|芝居《しばゐ》を|打《う》つてみた
|悪《わる》い|時《とき》には|悪《わる》いもの  |紫姫《むらさきひめ》の|一行《いつかう》が
|暗《やみ》の|中《なか》より|現《あら》はれて  |折角《せつかく》|仕組《しぐ》んだ|此《この》|芝居《しばゐ》
|蛇尾《じやみ》にされたる|其《その》|揚句《あげく》  |板公《いたこう》さまと|諸共《もろとも》に
|暗《やみ》の|谷間《たにま》へ|蹴落《けおと》され  |腰《こし》をしたたか|打《う》ちなやめ
やうやう|其処《そこ》を|這《は》ひあがり  |帰《かへ》つて|見《み》れば|黒姫《くろひめ》
|大《いか》い|目玉《めだま》に|睨《にら》まれて  |居《ゐ》た|堪《たま》らねば|板公《いたこう》と
|二人《ふたり》は|尻《しり》に|帆《ほ》をかけて  |漸《やうや》う|其《その》|場《ば》を|抜《ぬ》け|出《いだ》し
どこへ|行《い》つてもふられ|蛸《だこ》  |骨《ほね》なし|男《をとこ》と|蔑《さげ》すまれ
|吸《す》ひつく|術《すべ》もなくばかり  お|尻《しり》を|喰《くら》へ|観音《くわんのん》の
|山《やま》の|峠《たうげ》に|佇《たたず》みて  |此《この》|世《よ》を|果敢《はか》なむ|折柄《をりから》に
|三五教《あななひけう》の|常彦《つねひこ》が  |情《なさけ》のこもつた|握飯《にぎりめし》
|押戴《おしいただ》いて|蘇生《よみがへ》り  いよいよ|心《こころ》をため|直《なほ》し
|神《かみ》の|恵《めぐみ》に|救《すく》はれて  |錦《にしき》の|宮《みや》の|門掃除《かどさうぢ》
|塵《ちり》や|芥《あくた》を|掃《は》きちぎり  |心《こころ》の|奥《おく》の|奥庭《おくには》を
|清《きよ》めて|時《とき》を|待《ま》ち|居《を》れば  |尊《たふと》き|神《かみ》の|御恵《みめぐみ》は
|電《いなづま》の|如《ごと》|身《み》に|下《くだ》り  |言依別《ことよりわけ》の|神司《かむづかさ》
|近《ちか》く|吾《われ》をば|招《まね》きつつ  |再度山《ふたたびやま》の……こら|違《ちが》うた
|再《ふたた》びとなき|神業《かむわざ》を  |依《よ》さし|給《たま》ひし|嬉《うれ》しさよ
|杢助《もくすけ》さまの|愛娘《まなむすめ》  |初稚姫《はつわかひめ》を|始《はじ》めとし
|暗《やみ》に|紛《まぎ》れて|縛《しば》りたる  お|節《せつ》の|方《かた》の|玉能姫《たまのひめ》
|因縁者《いんねんもの》の|寄合《よりあ》ひで  ○○|山《やま》の○○に
|五人《ごにん》の|男女《なんによ》は|巡《めぐ》り|会《あ》ひ  |黄金《こがね》の|玉《たま》は○○の
|峰《みね》に○○かくしまし  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|紫色《むらさきいろ》の|御宝《おんたから》  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|滝公《たきこう》さまは|波留彦《はるひこ》と  |名《な》を|賜《たま》はりて|谷丸《たにまる》の
|佐田彦《さだひこ》さまと|諸共《もろとも》に  |帯《おび》を|二《ふた》つに|引裂《ひきさ》いて
|俄《にはか》に|狂《くる》ふ|玉能姫《たまのひめ》  |髪《かみ》ふり|乱《みだ》しどんどんと
|二《ふた》つの|玉《たま》を|肩《かた》にかけ  ○○|山《やま》の|山頂《さんちやう》を
|一目散《いちもくさん》に|駆出《かけいだ》し  |谷《たに》を|飛《と》び|越《こ》え|山伝《やまづた》ひ
|波打際《なみうちぎは》に|立並《たちなら》ぶ  |堅磐常磐《かきはときは》の|松林《まつばやし》
|蜈蚣《むかで》の|姫《ひめ》の|手下《てした》|等《ら》が  |目《め》を|眩《くら》ませて|訳《わけ》もなく
|四人《よにん》は|無事《ぶじ》に|通《とほ》りぬけ  |胸《むね》の|動悸《どうき》も|高砂《たかさご》の
オツト|違《ちが》うた|高《たか》まりて  |息《いき》もせきせき|又《また》|走《はし》る
○○|浜《はま》に|辿《たど》り|着《つ》き  |一艘《いつそう》の|船《ふね》に|二百両《にひやくりやう》
|初稚姫《はつわかひめ》の|御手《おんて》より  |渡《わた》せば|船頭《せんどう》は|仰天《ぎやうてん》し
|忽《たちま》ち|家《いへ》に|駆入《かけい》りて  |中《なか》より|戸口《とぐち》を|押《おさ》へつつ
|違約《ゐやく》させじと|力《りき》み|居《ゐ》る  |頃《ころ》しも|波《なみ》は|高《たか》まりて
|船《ふね》を|出《だ》すべき|由《よし》もなく  ○|月《げつ》|五日《いつか》の|月《つき》|低《ひく》う
|波《なみ》は|愈《いよいよ》|高《たか》くなり  |大海原《おほうなばら》に|永久《とこしへ》に
|浮《うか》びて|立《た》てる○の|島《しま》  |神《かみ》の|恵《めぐみ》に|易々《やすやす》と
|渡《わた》り|終《をう》せて|初稚姫《はつわかひめ》や  |玉能《たまの》の|姫《ひめ》の|二人連《ふたりづ》れ
|二《ふた》つの|玉《たま》を|守《まも》りつつ  ○○|山《やま》の|絶頂《ぜつちやう》に
|堅磐常磐《かきはときは》に|隠《かく》し|置《お》き  |千代《ちよ》の|印《しるし》と○○を
|植《う》ゑて|帰《かへ》りし|勇《いさ》ましさ  |吾等《われら》は○まで|送《おく》れども
○○○は|分《わか》らない  ○○○の|海上《かいじやう》を
|夜《よ》を|日《ひ》に|継《つ》いで|漕《こ》ぎ|帰《かへ》る  |時間《じかん》の|程《ほど》は|分《わか》らねど
どうやら|四十《しじふ》(|始終《しじう》)|一日《いちにち》か  |再度山《ふたたびやま》の…|又《また》|違《ちが》うた
|又《また》と|再《ふたた》び|手《て》に|入《い》らぬ  |此《この》|御宝《みたから》を|恙《つつが》なく
|隠《かく》しまつりし|神業《かむわざ》は  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|大手柄《おほてがら》
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|悪《あく》に|溺《おぼ》れし|滝公《たきこう》も  |神《かみ》の|光《ひかり》に|照《て》らされて
|転迷開悟《てんめいかいご》の|花《はな》|咲《さ》かせ  |名《な》も|波留彦《はるひこ》と|宣《の》り|直《なほ》し
|今《いま》は|聖地《せいち》に|名《な》も|高《たか》き  |神《かみ》の|使《つかひ》の|宣伝使《せんでんし》
|深《ふか》き|恵《めぐみ》を|尊《たふと》みて  |遥《はるか》に|感謝《かんしや》し|奉《たてまつ》る
|朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも  |月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも
|仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも  |三五教《あななひけう》の|御宝《おんたから》
|三《み》つの|御玉《みたま》の|宝《たから》をば  |探《さが》さにやおかぬと|高姫《たかひめ》が
|心《こころ》の|駒《こま》に|鞭《むちう》ちて  |岩《いは》の|根《ね》|木《き》の|根《ね》|踏《ふ》みさくみ
|疲《つか》れ|果《は》てたる|膝栗毛《ひざくりげ》  やがて|高姫《たかひめ》|一行《いつかう》は
|一先《ひとま》づ|聖地《せいち》に|帰《かへ》るだろ  アヽ|其《その》|時《とき》は|其《その》|時《とき》は
|又《また》も|五《いつ》つの|麻邇宝珠《まにほつしゆ》  |心《こころ》に|好《す》かぬ|玉能姫《たまのひめ》
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉治別《たまはるわけ》の  |神《かみ》の|司《つかさ》が|竜宮《りうぐう》の
|玉依姫《たまよりひめ》の|御手《みて》づから  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|受取《うけと》りて
|帰《かへ》りし|後《あと》と|聞《き》くならば  さぞや|御心《おこころ》|揉《も》めるだろ
|国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》の  |早速《さそく》の|頓智《とんち》|再度《ふたたび》の
|山《やま》に|坐《ま》します|大天狗《だいてんぐ》  |小天狗《こてんぐ》までが|現《あら》はれて
|近江《あふみ》の|国《くに》の|竹生島《ちくぶじま》  |玉無《たまな》し|場所《ばしよ》を|知《し》らしたる
|其《その》|天罰《てんばつ》は|目《ま》のあたり  |高姫《たかひめ》さまが|帰《かへ》りなば
|上《うへ》を|下《した》へと|喧《やかま》しく  |又々《またまた》もめる|事《こと》だらう
|今《いま》から|思《おも》ひやられます  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |今度《こんど》|計《ばか》りは|高姫《たかひめ》や
|黒姫《くろひめ》さまの|一行《いつかう》に  |何《なん》とか|一《ひと》つ|花《はな》|持《も》たせ
|執着心《しふちやくしん》の|雲霧《くもきり》を  |払《はら》ひ|清《きよ》めて|村肝《むらきも》の
|心《こころ》の|空《そら》に|日月《じつげつ》の  |澄《す》み|渡《わた》るごと|爽《さはや》かに
|一切万事《いつさいばんじ》|相済《あひす》みて  |和気靄々《わきあいあい》と|共々《ともども》に
|手《て》を|携《たづさ》へて|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|教《をしへ》の|御光《みひかり》を
|四方《よも》の|国々《くにぐに》|島々《しまじま》に  |完全《うまら》に|委曲《つばら》に|布《し》き|教《をし》へ
|五六七《みろく》の|神世《みよ》の|礎《いしずゑ》を  |立《た》てさせ|給《たま》へ|惟神《かむながら》
|尊《たふと》き|神《かみ》の|御前《おんまへ》に  |慎《つつし》み|敬《うやま》ひ|願《ね》ぎ|奉《まつ》る』
と|歌《うた》ひ|了《をは》り、|日頃《ひごろ》の|述懐《じゆつくわい》を|宣《の》べ|終《をは》りて|拍手《はくしゆ》し、|錦《にしき》の|宮《みや》の|方《はう》に|向《むか》つて|暗祈黙祷《あんきもくたう》するのであつた。
|五個《ごこ》の|神宝《しんぱう》を|乗《の》せたる|神輿《みこし》は|無事《ぶじ》に|聖地《せいち》に|到着《たうちやく》し、|言依別命《ことよりわけのみこと》を|先頭《せんとう》に|八尋殿《やひろどの》に|設《まう》けられたる|聖壇《せいだん》に|安置《あんち》され、|聖地《せいち》の|神司《かむづかさ》を|始《はじ》め|信徒《しんと》|等《ら》は|立錐《りつすゐ》の|余地《よち》もなく|集《あつ》まり|来《きた》りて、|神威《しんゐ》のいやちこなるに|感謝《かんしや》の|涙《なみだ》をふるひつつ、|五六七神政《みろくしんせい》の|曙光《しよくわう》を|認《みと》めたる|如《ごと》き|歓喜《くわんき》の|声《こゑ》に|充《み》たされた。
|九月《くぐわつ》|九日《ここのか》の|聖地《せいち》の|空《そら》は、|金翼《きんよく》を|一文字《いちもんじ》に|伸《の》べて、|空中《くうちう》に|〓翔《かうしよう》する|八咫烏《やあたがらす》の|雄姿《ゆうし》|悠々《いういう》として|右《みぎ》に|左《ひだり》に|飛《と》び|交《か》ひ、|妙音菩薩《めうおんぼさつ》の|微妙《びめう》の|音楽《おんがく》は、|三重《みへ》の|高殿《たかどの》の|空《そら》|高《たか》く|響《ひび》き|渡《わた》つた。あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 松村真澄録)
第一二章 |秋《あき》の|色《いろ》〔七七七〕
|松《まつ》の|神世《かみよ》の|礎《いしずゑ》は  |目出度《めでた》く|立《た》ちて|足曳《あしびき》の
|山《やま》と|山《やま》との|奥《おく》|深《ふか》く  |紅葉《もみぢ》|踏《ふ》み|分《わ》け|鳴《な》く|鹿《しか》の
|声《こゑ》|爽《さはや》かに|佐保姫《さほひめ》の  |錦《にしき》|織《お》りなす|秋《あき》の|空《そら》
|雲井《くもゐ》の|空《そら》もいと|高《たか》く  |和知《わち》の|流《ながれ》は|淙々《そうそう》と
|言霊鼓《ことたまつづみ》|打《う》ちながら  |神世《かみよ》を|祝《いは》ふ|尊《たふと》さよ
|天地《あめつち》|開《ひら》けし|始《はじ》めより  |金竜《きんりう》|銀竜《ぎんりう》|二柱《ふたはしら》
|海月《くらげ》の|如《ごと》く|漂《ただよ》へる  |泥《どろ》の|海原《うなばら》|練固《ねりかた》め
|海《うみ》と|陸《くが》とも|立別《たてわ》けて  |山川草木《やまかはくさき》|生《う》ましつつ
|完全《うまら》に|委曲《つばら》に|現世《うつしよ》を  |開《ひら》き|給《たま》ひし|国治立《くにはるたち》の
|神《かみ》の|命《みこと》に|引添《ひきそ》うて  |豊国姫大御神《とよくにひめのおほみかみ》
|厳《いづ》と|瑞《みづ》との|三五《あななひ》の  |錦《にしき》の|機《はた》を|織《お》らせつつ
いと|安《やす》らけく|平《たひら》けく  |神世《かみよ》を|開《ひら》き|給《たま》ふ|折《をり》
エデンの|園《その》に|現《あら》はれし  |天足《あだる》の|彦《ひこ》や|胞場姫《えばひめ》の
|体主霊従《たいしゆれいじう》の|醜業《しこわざ》に  |魂《たま》は|乱《みだ》れて|日《ひ》に|月《つき》に
|弱《よわ》り|果《は》てたる|其《その》|隙《すき》を  |八岐大蛇《やまたをろち》や|醜狐《しこぎつね》
|曲鬼《まがおに》|共《ども》が|忍《しの》び|入《い》り  |常世《とこよ》の|国《くに》の|天地《あめつち》を
|曇《くも》らせ|乱《みだ》す|常世彦《とこよひこ》  |常世《とこよ》の|姫《ひめ》の|二柱《ふたはしら》
|塩長彦《しほながひこ》を|推戴《すゐたい》し  |豊葦原《とよあしはら》の|瑞穂国《みづほくに》
|醜《しこ》の|魔《ま》の|手《て》に|握《にぎ》らむと  |心《こころ》を|尽《つく》し|身《み》を|尽《つく》し
|権謀術数《けんぼうじゆつすう》|限《かぎ》りなく  |醜《しこ》の|荒《すさ》びを|不知火《しらぬひ》の
|地上《ちじやう》に|生《あ》れし|百神《ももがみ》は  |仁慈無限《じんじむげん》の|大御神《おほみかみ》
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の  |開《ひら》き|給《たま》ひし|神政《しんせい》に
|向《むか》つて|醜《しこ》の|鉾《ほこ》を|向《む》け  |常世《とこよ》の|彦《ひこ》を|謀主《ぼうしゆ》とし
|力《ちから》|限《かぎ》りに|攻《せ》め|来《きた》り  |天地暗澹《てんちあんたん》|曲津霊《まがつひ》の
|荒《あら》ぶる|世《よ》とは|成《な》り|果《は》てぬ  |国治立大神《くにはるたちのおほかみ》は
|天津御空《あまつみそら》の|神国《かみくに》の  |日《ひ》の|若宮《わかみや》に|登《のぼ》りまし
|大海原《おほうなばら》に|瀰《はびこ》れる  |醜《しこ》の|雄猛《をたけ》び|詳細《まつぶさ》に
|詔《の》らせ|給《たま》ひて|天《あめ》の|下《した》  |百《もも》の|罪咎《つみとが》|残《のこ》りなく
|償《つぐな》ひ|玉《たま》ひて|天教《てんけう》の  |山《やま》の|火口《くわこう》に|身《み》を|投《な》げて
|世人《よびと》の|為《た》めに|根《ね》の|国《くに》や  |底《そこ》の|国《くに》まで|遍歴《へんれき》し
|野立《のだち》の|彦《ひこ》と|名《な》を|変《か》へて  |忍《しの》び|忍《しの》びに|世《よ》の|中《なか》を
|守《まも》らせ|給《たま》ふ|尊《たふと》さよ  |豊国姫《とよくにひめ》も|夫神《つまがみ》の
|後《あと》を|慕《した》うて|波《なみ》の|上《うへ》  |阿波《あは》の|鳴門《なると》の|底《そこ》|深《ふか》く
|沈《しづ》み|給《たま》ひて|根《ね》の|国《くに》や  |底《そこ》の|国《くに》まで|到《いた》りまし
|野立《のだち》の|姫《ひめ》と|身《み》を|変《へん》じ  |再《ふたた》び|地上《ちじやう》に|現《あら》はれて
|夫婦《めをと》の|水火《いき》を|合《あは》せつつ  |仁慈無限《じんじむげん》の|御心《みこころ》に
|百《もも》の|神人《かみびと》|救《すく》はむと  |黄金山下《わうごんさんか》に|現《あら》はれて
|埴安彦《はにやすひこ》や|埴安姫《はにやすひめ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》の|御経綸《おんしぐみ》
|種々《いろいろ》|雑多《ざつた》と|身《み》を|変《へん》じ  |珍《うづ》の|都《みやこ》を|後《あと》にして
|波《なみ》に|浮《うか》べる|神《かみ》の|島《しま》  |自転倒島《おのころじま》の|中心地《ちうしんち》
|青山《あをやま》|四方《よも》に|繞《めぐ》らせる  |下津岩根《したついはね》の|霊場《れいぢやう》に
|尊《たふと》き|御姿《みすがた》|隠《かく》しつつ  |此《この》|世《よ》の|曲《まが》を|払《はら》はむと
|百千万《ももちよろづ》の|苦《くるし》みを  |忍《しの》び|給《たま》ひて|松《まつ》の|世《よ》の
|安《やす》けき|神世《みよ》を|待《ま》ち|給《たま》ふ  |桶伏山《をけぶせやま》の|蓮華台《れんげだい》
|橄欖山《かんらんざん》になぞらへし  |四尾《よつを》の|峰《みね》の|山麓《さんろく》に
|国武彦《くにたけひこ》と|身《み》を|変《へん》じ  |言依別《ことよりわけ》と|現《あら》はれて
|綾《あや》の|錦《にしき》の|貴機《うづはた》を  |織《お》らせ|給《たま》へる|時《とき》もあれ
|青雲山《せいうんざん》より|送《おく》り|来《こ》し  |黄金《こがね》の|玉《たま》を|始《はじ》めとし
|国治立大神《くにはるたちのおほかみ》の  |沓《くつ》になります|沖《おき》の|島《しま》
|秘《ひ》め|置《お》かれたる|貴宝《うづたから》  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|又《また》もや|聖地《せいち》に|現《あら》はれて  |神徳《しんとく》|日々《ひび》に|栄《さか》え|行《ゆ》く
|高春山《たかはるやま》にアルプスの  |教《をしへ》を|楯《たて》に|籠《こも》りたる
|鷹依姫《たかよりひめ》が|守《まも》れりし  |紫色《むらさきいろ》の|宝玉《ほうぎよく》も
|神《かみ》のまにまに|集《あつ》まりて  |高天原《たかあまはら》の|御宝《おんたから》
|霊力体《れいりよくたい》の|三《み》つ|御霊《みたま》  |此処《ここ》に|揃《そろ》ひて|神界《しんかい》の
|尊《たふと》き|経綸《しぐみ》の|開《ひら》け|口《ぐち》  |天地《てんち》の|神《かみ》も|勇《いさ》み|立《た》ち
|百千万《ももちよろづ》の|民草《たみぐさ》も  |厳《いづ》の|恵《めぐ》みに|浴《よく》しつつ
|神《かみ》の|立《た》てたる|三五《あななひ》の  |教《をしへ》は|日々《ひび》に|栄《さか》え|行《ゆ》く
|錦《にしき》の|宮《みや》はキラキラと  |旭《あさひ》に|輝《かがや》く|美《うる》はしさ
|又《また》も|竜宮《りうぐう》の|一《ひと》つ|島《じま》  |諏訪《すは》の|湖《みづうみ》|底《そこ》|深《ふか》く
|秘《ひ》め|置《お》かれたる|麻邇《まに》の|玉《たま》  |玉依姫《たまよりひめ》の|計《はか》らひに
|目出度《めでた》く|聖地《せいち》に|納《をさ》まりて  |神徳《しんとく》|輝《かがや》く|四尾《よつを》の
|峰《みね》も|黄金《こがね》の|色《いろ》|添《そ》ひて  |機《はた》の|仕組《しぐみ》も|明《あきら》かに
|現《あら》はれたりと|言依別《ことよりわけ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》を|始《はじ》めとし
|錦《にしき》の|宮《みや》に|並《なら》びたる  |八尋《やひろ》の|殿《との》に|集《あつ》まれる
|信徒《まめひと》|達《たち》も|勇《いさ》み|立《た》ち  |老若男女《ろうにやくなんによ》の|別《わか》ちなく
|綾《あや》の|聖地《せいち》に|堵列《とれつ》して  |玉《たま》を|迎《むか》ふる|勇《いさ》ましさ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |尊《たふと》き|神《かみ》の|御計《みはか》らひ
|麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》は|恙《つつが》なく  |清《きよ》く|正《ただ》しき|人々《ひとびと》に
|前後左右《ぜんごさいう》を|守《まも》られて  |八尋《やひろ》の|殿《との》に|造《つく》られし
|宝座《ほうざ》にこそは|入《い》り|給《たま》ふ  かかる|例《ためし》は|久方《ひさかた》の
|天《あま》の|岩戸《いはと》の|開《ひら》けてゆ  |今《いま》に|至《いた》るもあら|尊《たふ》と
|世界《せかい》を|治《をさ》むる|神国《かみくに》の  |瑞兆《ずゐてう》とこそ|知《し》られけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|錦《にしき》の|宮《みや》の|神司《かむづかさ》  |月日《つきひ》も|清《きよ》く|玉照彦《たまてるひこ》の
|厳《いづ》の|命《みこと》や|玉照姫《たまてるひめ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》は|欣々《いそいそ》と
お|玉《たま》の|方《かた》に|導《みちび》かれ  |八尋《やひろ》の|殿《との》に|出《い》でまして
|梅子《うめこ》の|姫《ひめ》や|初稚姫《はつわかひめ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|一行《いつかう》が
|黄金《こがね》の|島《しま》より|遥々《はるばる》と  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|奉迎《ほうげい》し
|聖地《せいち》に|送《おく》り|来《きた》りたる  |其《その》|功績《いさをし》を|賞《しやう》せむと
|聖顔《せいがん》|殊《こと》に|麗《うるは》しく  |所狭《ところせ》き|迄《まで》|立《た》ち|並《なら》ぶ
|老若男女《ろうにやくなんによ》を|掻《か》き|分《わ》けて  |一段《いちだん》|高《たか》き|段上《だんじやう》に
|相並《あひなら》ばして|立《た》ち|給《たま》ふ  |其《その》|神姿《みすがた》の|崇高《けだか》さよ
|三《み》つの|御玉《みたま》や|五《い》つ|御玉《みたま》  |其《その》|宝玉《はうぎよく》と|相並《あひなら》び
|光《ひかり》|争《あらそ》ふ|玉照彦《たまてるひこ》の  |伊都《いづ》の|命《みこと》や|玉照姫《たまてるひめ》の
|瑞《みづ》の|命《みこと》の|神司《かむづかさ》  お|玉《たま》の|方《かた》を|差《さ》し|加《くは》へ
|愈《いよいよ》|此処《ここ》に|三《み》つ|御魂《みたま》  |玉治別《たまはるわけ》や|玉能姫《たまのひめ》
|加《くは》へて|此処《ここ》に|五《い》つ|御魂《みたま》  |三五《さんご》の|月《つき》の|神教《みをしへ》は
|世界《せかい》|隈《くま》なく|冴《さ》え|渡《わた》り  |常世《とこよ》の|暗《やみ》を|晴《は》らすなる
|尊《たふと》き|厳《いづ》の|神業《かむわざ》は  |九月《くぐわつ》|八日《やうか》の|秋《あき》の|空《そら》
|澄《す》み|渡《わた》りたる|明《あきら》かさ  |手《て》に|取《と》る|如《ごと》く|思《おも》はれぬ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|経《たて》と|緯《よこ》との|機織《はたおり》の  |錦《にしき》の|宮《みや》の|神柱《かむばしら》
|玉照彦《たまてるひこ》の|美《うる》はしく  |玉照姫《たまてるひめ》のいと|清《きよ》き
|厳《いづ》の|御霊《みたま》は|天地《あめつち》に  |輝《かがや》き|渡《わた》り|紅葉《もみぢば》の
|赤《あか》き|心《こころ》は|葦原《あしはら》の  |瑞穂《みづほ》の|国《くに》に|隈《くま》もなく
|伊照《いて》り|渡《わた》らす|尊《たふと》さよ  |二人《ふたり》の|玉照神司《たまてるかむづかさ》
|送《おく》り|来《きた》れる|玉《たま》の|輿《こし》  サツと|開《ひら》いて|麻邇《まに》の|玉《たま》
|深《ふか》く|包《つつ》める|柳筥《やなぎばこ》  |弥《いや》|次々《つぎつぎ》に|取《と》り|出《いだ》し
|言依別《ことよりわけ》の|玉《たま》の|手《て》に  |渡《わた》し|給《たま》へば|謹《つつし》みて
|一々《いちいち》|玉筥《たまばこ》|奥殿《おくでん》に  |斎《いつ》かせ|給《たま》ふ|尊《たふと》さよ
|天地《てんち》の|神《かみ》は|勇《いさ》み|立《た》ち  |百《もも》の|信徒《まめひと》|歓《ゑら》ぎ|合《あ》ひ
|御空《みそら》は|高《たか》く|風《かぜ》|清《きよ》く  |人《ひと》の|心《こころ》は|靉々《あいあい》と
|平和《へいわ》の|女神《めがみ》の|如《ごと》くなり  |愈《いよいよ》|此処《ここ》に|納玉《なふぎよく》の
|式《しき》も|目出度《めでた》く|終了《しうれう》し  |言依別《ことよりわけ》の|神言《みこと》もて
|玉照彦《たまてるひこ》を|始《はじ》めとし  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》に|仕《つか》へたる
|神《かみ》の|司《つかさ》は|云《い》ふも|更《さら》  |三五教《あななひけう》のピユリタンは
|老《おい》も|若《わか》きも|隔《へだ》てなく  |男女《をのこをみな》の|差別《けぢめ》なく
|皇大神《すめおほかみ》に|供《そな》へたる  |珍《うづ》の|神酒《みき》|御食《みけ》|美味物《うましもの》
|山野海河《やまぬうみかは》|取揃《とりそろ》へ  |心《こころ》も|開《ひら》く|直会《なほらひ》の
|宴《うたげ》の|蓆《むしろ》|賑《にぎは》しく  |此《この》|瑞祥《ずゐしやう》を|祝《ことほ》ぎて
|歓《よろこ》び|歌《うた》ひ|舞《ま》ひ|踊《をど》り  |聖地《せいち》の|秋《あき》は|天国《てんごく》の
|開《ひら》き|初《そ》めたる|如《ごと》くなり  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |此《この》|歓《よろこ》びは|永久《とこしへ》に
|外《ほか》へはやらじと|勇《いさ》み|立《た》ち  |金扇《きんせん》|銀扇《ぎんせん》|打開《うちひら》き
|天《あま》の|数歌《かずうた》うたひ|上《あ》げ  |金蝶《きんてふ》|銀蝶《ぎんてふ》の|春《はる》の|野《の》に
|戯《たはむ》れ|狂《くる》ふ|其《その》|状《さま》は  |絵《ゑ》にも|描《か》かれぬ|景色《けしき》なり。
|由良《ゆら》の|港《みなと》の|秋山彦《あきやまひこ》の|館《やかた》より、|御船《みふね》に|奉安《ほうあん》し|迎《むか》へ|来《きた》りし、|五個《ごこ》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》は|玉照彦《たまてるひこ》、|玉照姫《たまてるひめ》、お|玉《たま》の|方《かた》の|介添《かいぞ》へにて|教主《けうしゆ》に|渡《わた》し|給《たま》へば、|言依別命《ことよりわけのみこと》は|恭《うやうや》しく|推戴《おしいただ》き、|錦《にしき》の|宮《みや》の|奥殿《おくでん》に|一《ひと》つづつ|納《をさ》め|給《たま》ふ|事《こと》となつた。それより|神饌《しんせん》に|供《きよう》したる|山野河海《さんやかかい》の|美味物《うましもの》を|拝戴《はいたい》し、|酒肴《さけさかな》|其《その》|他《た》|種々《いろいろ》の|馳走《ちそう》をこしらへ、|一同《いちどう》|之《これ》を|頂《いただ》き|十二分《じふにぶん》の|歓喜《よろこび》を|尽《つく》し、|大神《おほかみ》の|御神徳《ごしんとく》を|讃美《さんび》しながら、|各《おのおの》|吾《わが》|住家《すみか》に|引返《ひきかへ》すのであつた。
(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 谷村真友録)
第四篇 |波瀾重畳《はらんちようでふ》
第一三章 |三《み》つ|巴《どもゑ》〔七七八〕
|炎熱《えんねつ》|火房《くわばう》に|坐《ざ》す|如《ごと》く  |恰《あだか》も|釜中《ふちう》に|居《を》る|如《ごと》し
|酷暑《こくしよ》の|空《そら》に|瑞月《ずゐげつ》が  |身《み》を|横《よこ》たへて|述《の》べ|立《た》つる
|廻《まは》すハンドル|力《ちから》なく  |半《なかば》|破《やぶ》れしレコードも
|針《はり》の|疲《つか》れにキシキシと  |鳴《な》り|出《い》で|兼《か》ねしかすり|声《ごゑ》
|妙音菩薩《めうおんぼさつ》の|【山上】《やまがみ》|氏《し》  |傍《そば》に|現《あら》はれましませど
|泣《な》き|嗄《から》したる|時鳥《ほととぎす》  |八千八声《はつせんやこゑ》も|尽《つ》き|果《は》てて
|唇《くちびる》|【加藤】《かとう》|【明】《あ》きかぬる  |珍《うづ》の|言霊《ことたま》|【松村】《まつむら》|氏《し》
|【真澄】《ますみ》の|空《そら》を|眺《なが》めつつ  |此処迄《ここまで》|述《の》べて|【北村】《きたむら》の
|錦《にしき》の|宮《みや》の|【隆光】《たかひか》る  |三五《さんご》の|月《つき》の|神教《みをしへ》を
|守《まも》る|神人《しんじん》|言依別《ことよりわけ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》を|始《はじ》めとし
|玉照彦《たまてるひこ》や|玉照姫《たまてるひめ》の  |瑞《みづ》の|命《みこと》の|聖顔《かんばせ》は
|【外山】《とやま》の|霞《かすみ》|掻《か》き|分《わ》けて  |【豊二】《ゆたかに》|昇《のぼ》る|朝日子《あさひこ》の
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|如《ごと》くなり  |五六七太夫《みろくだいふ》の|【谷村】《たにむら》|氏《し》
|【真】《まこと》の|【友】《とも》と|水火《いき》|合《あは》せ  |汗《あせ》に|眼鏡《めがね》を|曇《くも》らせつ
|万年筆《まんねんひつ》と|口《くち》の|先《さき》  |素的《すてき》|滅法《めつぱふ》に|尖《とが》らせて
|松雲閣《しよううんかく》の|中《なか》の|間《ま》で  |鼻高姫《はなたかひめ》や|黒姫《くろひめ》が
|御玉探《みたまさが》しの|大騒《おほさわ》ぎ  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》が
|帯《お》ばせ|給《たま》ひし|御佩刀《みはかせ》の  |三段《みきだ》に|折《を》りし|誓約《うけひ》より
|現《あら》はれませる|三女神《さんぢよしん》  |市杵嶋姫《いちきしまひめ》、|多紀理姫《たぎりひめ》
|多岐都《たきつ》の|姫《ひめ》を|祀《まつ》りたる  |御稜威《みいづ》|輝《かがや》く|竹生島《ちくぶじま》
|社殿《しやでん》の|下《した》に|瑞宝《ずゐはう》の  |匿《かく》されありと|国依別《くによりわけ》の
|俄天狗《にはかてんぐ》にそそられて  |此処《ここ》に|三人《みたり》の|玉抜《たまぬ》けや
ヤツサモツサの|経緯《いきさつ》を  |筆《ふで》に|写《うつ》して|止《とど》め|置《お》く
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》  |変性男子《へんじやうなんし》の|系統《ひつぽう》を
|唯一《ゆゐいつ》の|楯《たて》と|頼《たの》みたる  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|肉《にく》の|宮《みや》
|嘘《うそ》か|真《まこと》か|知《し》らねども  |天狗《てんぐ》の|鼻《はな》の|高姫《たかひめ》が
|尊《たふと》き|御魂《みたま》を|持《も》ちながら  |肝腎要《かんじんかなめ》の|神業《かむわざ》に
|取《と》り|除《のぞ》かれし|妬《ねた》ましさ  |言依別《ことよりわけ》が|匿《かく》したる
|玉《たま》の|在処《ありか》を|何処迄《どこまで》も  |仮令《たとへ》|火《ひ》になり|蛇《へび》になり
|骨《ほね》になるとも|執拗《しつえう》に  |探《さぐ》り|当《あ》てねば|置《お》かないと
|執着心《しふちやくしん》の|鬼《おに》|大蛇《をろち》  |醜《しこ》の|曲津《まがつ》に|誘《さそ》はれて
|自転倒島《おのころじま》は|云《い》ふも|更《さら》  |明石《あかし》の|海《うみ》や|淡路島《あはぢしま》
|家島《えじま》を|越《こ》えて|小豆島《せうどしま》  |波濤《はたう》に|浮《うか》ぶ|南洋《なんやう》の
|蘇鉄《そてつ》の|茂《しげ》る|大島《おほしま》や  バナヽの|薫《かほ》り|香《かう》ばしき
|南洋一《なんやういち》のアンボイナ  |谷水《たにみづ》|清《きよ》く|苔《こけ》|青《あを》く
|竜宮島《りうぐうじま》と|聞《きこ》えたる  これの|聖地《せいち》を|後《あと》にして
|流《なが》れ|流《なが》れて|一《ひと》つ|島《じま》  |黄金《こがね》の|島《しま》に|上陸《じやうりく》し
|地恩《ちおん》の|城《しろ》に|現《あら》はれて  |黄竜姫《わうりようひめ》に|玉《たま》|抜《ぬ》かれ
|流石《さすが》|剛気《がうき》の|高姫《たかひめ》も  |胸《むね》|轟《とどろ》かし|黒姫《くろひめ》や
|高山彦《たかやまひこ》を|伴《ともな》ひて  |潮《しほ》の|八百路《やほぢ》の|八潮路《やしほぢ》の
|潮《しほ》の|八百会《やほあひ》|漕《こ》ぎ|帰《かへ》り  |淡路《あはぢ》の|島《しま》の|東助《とうすけ》が
|鉄門《かなど》を|守《まも》る|虻蜂《あぶはち》に  |鼻《はな》を|折《を》られて|再度《ふたたび》の
|山《やま》を|目蒐《めが》けて|漕《こ》ぎ|帰《かへ》り  |生田《いくた》の|森《もり》に|名《な》も|高《たか》き
|玉能《たまの》の|姫《ひめ》の|神館《かむやかた》  |執念深《しふねんぶか》くも|訪《たづ》ぬれば
|国依別《くによりわけ》や|秋《あき》、|駒《こま》の  |思《おも》ひも|寄《よ》らぬ|三人連《みたりづ》れ
やつさもつさと|争論《あげつら》ひ  |揚句《あげく》の|果《はて》は|竹生島《ちくぶじま》
|憑依《ひようい》もしない|天狗《てんぐ》の|口《くち》に  |鼻高姫《はなたかひめ》は|勇《いさ》み|立《た》ち
|今度《こんど》は|願望《ぐわんまう》|成就《じやうじゆ》と  |館《やかた》の|裏口《うらぐち》|走《はし》りぬけ
|闇《やみ》に|紛《まぎ》れて|細道《ほそみち》を  |進《すす》み|行《ゆ》くこそ|可憐《いぢ》らしき
|上野《うへの》、|篠原《しのはら》|乗《の》り|越《こ》えて  |秋《あき》の|御空《みそら》も|住吉《すみよし》の
|郷《さと》に|漸《やうや》く|辿《たど》り|着《つ》き  |東《あづま》の|空《そら》を|眺《なが》むれば
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |光《ひかり》|争《あらそ》ふ|朝日子《あさひこ》の
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御姿《おんすがた》  |両手《りやうて》を|合《あは》せ|伏《ふ》し|拝《をが》み
|中野《なかの》の|郷《さと》もいつしかに  |葭《よし》と|芦屋《あしや》の|忙《いそが》しく
|運《はこ》ぶ|歩《あゆ》みも|立花《たちばな》や  |小田郷《をだがう》、|柴島《くにじま》、|淀《よど》の|川《かは》
|漸《やうや》く|道《みち》も|枚方《ひらかた》や  いつしか|廻《まは》り|大塚《おほつか》の
|此《この》|坂道《さかみち》も|高槻《たかつき》や  |山崎《やまざき》|越《こ》えて|美豆《みづ》の|郷《さと》
|河《かは》の|流《なが》れも|淀《よど》の|町《まち》  |銀波《ぎんぱ》|漂《ただよ》ふ|巨椋池《おぐらいけ》
|宇治《うぢ》の|流《なが》れに|下《お》り|立《た》ちて  |飲《の》み|干《ほ》す|水《みづ》は|醍醐味《だいごみ》や
|小山《をやま》、|大谷《おほたに》|早《はや》|越《こ》えて  |逢坂山《あふさかやま》の|真葛《さねかづら》
|人《ひと》に|知《し》らされ|来《く》る|由《よし》も  |嬉《うれ》しき|玉《たま》を|三井《みゐ》の|寺《てら》
ミロクの|神世《みよ》に|大津辺《おほつべ》の  |幾多《いくた》の|船《ふね》の|其《その》|中《なか》に
|殊更《ことさら》|堅固《けんご》な|船《ふね》を|選《よ》り  |高姫《たかひめ》|艪《ろ》をば|操《あやつ》りて
|心《こころ》は|後《あと》に|沖《おき》の|島《しま》  |波《なみ》を|辷《すべ》つて|進《すす》み|行《ゆ》く
|向《むか》ふに|見《み》ゆるは|竹生島《ちくぶじま》  |月《つき》|西山《せいざん》に|傾《かたむ》きて
|闇《やみ》の|帳《とばり》は|水《みづ》の|面《おも》  |四辺《あたり》を|包《つつ》む|大空《おほぞら》に
|閃《ひらめ》き|渡《わた》る|星《ほし》の|影《かげ》  |船《ふね》|漕《こ》ぎ|浪《なみ》を|砕《くだ》きつつ
|浅黄《あさぎ》に|星《ほし》の|紋《もん》つけた  |黒《くろ》い|婆《ば》さまがやつて|来《く》る
|又《また》もや|続《つづ》いて|来《く》る|船《ふね》は  |頭《あたま》の|光《ひか》る|福禄寿《げほう》さま
|弁天《べんてん》さまの|此《この》|島《しま》に  |女布袋《をんなほてい》や|大黒《だいこく》が
|黄金《こがね》の|槌《つち》はなけれども  |土《つち》の|中《なか》より|瑞宝《ずゐはう》を
|探《さぐ》り|当《あ》てむと|執着《しふちやく》の  |心《こころ》の|暗《やみ》に|塞《とざ》されて
|星影《ほしかげ》|映《うつ》る|湖《うみ》の|上《うへ》  |互《たがひ》に|息《いき》を|凝《こ》らしつつ
|進《すす》み|寄《よ》るこそ|訝《いぶ》かしき。
|近江《あふみ》の|国《くに》の|琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》は、|其《その》|形《かたち》|楽器《がくき》の|琵琶《びは》に|似《に》たるをもつて、|此《この》|名《な》ありと|巷間《こうかん》|伝《つた》へらる。|併《しか》し|乍《なが》ら|此《この》|湖中《こちう》に|浮《うか》べる|竹生島《ちくぶしま》に、|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の|佩《は》かせ|給《たま》ひし|十握《とつか》の|剣《つるぎ》を、|天《あま》の|安河《やすかは》に|於《おい》て|誓約《うけひ》し|給《たま》ひし|時《とき》、|瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|表徴《へうちよう》として、|温順《をんじゆん》|貞淑《ていしゆく》の|誉《ほまれ》|高《たか》き|三女神《さんぢよしん》|現《あら》はれ|給《たま》ひ、|此処《ここ》に|其《その》|御霊《みたま》を|止《とど》めさせられ、|時々《ときどき》|竜神《りうじん》|来《きた》りて、|姫神《ひめがみ》の|御心《みこころ》を|慰《なぐさ》め|奉《たてまつ》るため、|琵琶《びは》を|弾《だん》じたるより|琵琶《びは》の|湖《うみ》と|称《とな》ふるに|至《いた》つたのである。|又《また》|一名《いちめい》|天《あめ》の|真奈井《まなゐ》とも|言霊学者《げんれいがくしや》は|称《とな》へて|居《ゐ》る。|今《いま》の|竹生島《ちくぶじま》は|湖水《こすゐ》の|極北《きよくほく》にあれども、|此《この》|時代《じだい》は|湖水《こすゐ》の|殆《ほとん》ど|中央《ちうあう》に|松《まつ》の|島《しま》、|竹《たけ》の|島《しま》、|梅《うめ》の|島《しま》の|三島嶼《さんたうしよ》|相《あひ》|浮《うか》び|三《み》つ|巴《どもゑ》となつて|其《その》|雄姿《ゆうし》を|紺碧《こんぺき》の|波上《はじやう》に|浮《うか》べて|居《ゐ》たのである。|松《まつ》の|島《しま》には|多紀理姫神《たぎりひめのかみ》|鎮座《ちんざ》|在《まし》まし、|竹《たけ》の|島《しま》には|市杵島姫神《いちきしまひめのかみ》|鎮《しづ》まり|給《たま》ひ、|梅《うめ》の|島《しま》には|多岐都姫神《たきつひめのかみ》|鎮《しづ》まらせ|給《たま》ひ、|各島《かくたう》|各《おのおの》|百間《ひやくけん》|許《ばか》りの|位置《ゐち》を|保《たも》つて|行儀《ぎやうぎ》よく|配列《はいれつ》されてあつた。|高姫《たかひめ》は|先《ま》ず|竹《たけ》の|島《しま》の|市杵島姫《いちきしまひめ》を|祀《まつ》りたる|社《やしろ》を|指《さ》して|漕《こ》ぎつけた。
|黒姫《くろひめ》、|高山彦《たかやまひこ》も|期《き》せずして|闇夜《やみよ》の|悲《かな》しさ、|同《おな》じ|竹《たけ》の|島《しま》に|船《ふね》を|寄《よ》せ、|同《おな》じ|社《やしろ》の|床下《ゆかした》に|玉探《たまさが》しの|為《た》め|頭《あたま》を|集《あつ》めた。
|神素盞嗚《かむすさのを》の|貴《うづ》の|子《こ》と  |生《うま》れ|給《たま》ひし|英子姫《ひでこひめ》
|万世《よろづよ》|祝《いは》ふ|亀彦《かめひこ》は  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の
|厳《いづ》の|神業《かむわざ》|詳細《まつぶさ》に  |遂《と》げさせ|給《たま》へと|朝夕《あさゆふ》に
|天津祝詞《あまつのりと》を|奏上《そうじやう》し  |天《あま》の|数歌《かずうた》|潔《いさぎよ》く
|一《ひと》|二《ふた》|三《みい》|四《よ》|五《いつ》つ|六《む》つ  |七《なな》|八《や》つ|九《ここの》つ|十《とう》たらり
|百《もも》|千《ち》|万《よろづ》と|村肝《むらきも》の  |心《こころ》を|籠《こ》めて|祈《いの》る|折《をり》
|磯《いそ》の|彼方《かなた》に|船《ふね》|繋《つな》ぎ  しとしと|来《きた》る|黒《くろ》い|影《かげ》
|気《き》にも|止《と》めずに|一向《ひたすら》に  |祈《いの》る|最中《もなか》に|神《かみ》の|前《まへ》
|忽《たちま》ち|現《あら》はれ|額《ぬかづ》きて  |天津祝詞《あまつのりと》を|奏《の》り|上《あ》ぐる
|暗《やみ》に|確《しか》とは|分《わか》らねど  |皺嗄《しわが》れ|声《ごゑ》は|高姫《たかひめ》か
|執着心《しふちやくしん》に|搦《から》まれて  |当所《あてど》も|知《し》らぬ|玉探《たまさが》し
|見《み》るも|無残《むざん》と|英子姫《ひでこひめ》  そつと|此《この》|場《ば》を|立《た》ち|出《い》でて
|己《おの》が|館《やかた》に|静々《しづしづ》と  |星《ほし》の|光《ひかり》を|力《ちから》とし
|闇路《やみぢ》を|分《わ》けて|島影《しまかげ》の  |清《きよ》き|館《やかた》に|帰《かへ》りけり
|後《あと》に|亀彦《かめひこ》|唯《ただ》|一人《ひとり》  |声《こゑ》を|密《ひそ》めて|御扉《みとびら》を
そつと|開《ひら》いて|中《なか》に|入《い》り  |様子《やうす》|如何《いか》にと|窺《うかが》へば
|神《かみ》ならぬ|身《み》の|高姫《たかひめ》は  |社《やしろ》の|中《なか》に|人《ひと》ありと
|知《し》らぬが|仏《ほとけ》|一心《いつしん》に  |無事《ぶじ》の|安着《あんちやく》|感謝《かんしや》しつ
|拍手《はくしゆ》の|音《おと》も|湿《しめ》やかに  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の  |珍《うづ》の|宝珠《ほつしゆ》を|高姫《たかひめ》の
|両手《もろて》に|授《さづ》け|給《たま》へよと  |声《こゑ》を|震《ふる》はせ|祈《いの》り|居《ゐ》る
|暫《しばら》くありて|高姫《たかひめ》は  |珍《うづ》の|社《やしろ》の|床下《ゆかした》に
|鼠《ねずみ》の|如《ごと》く|這《は》ひ|寄《よ》つて  |黒白《あやめ》も|分《わ》かぬ|闇《やみ》の|中《なか》
|小声《こごゑ》に|神名《しんめい》|唱《とな》へつつ  |探《さぐ》り|居《ゐ》るこそ|可笑《をか》しけれ
|又《また》もや|近《ちか》づく|足音《あしおと》は  |社《やしろ》の|前《まへ》に|手《て》を|拍《う》つて
|心《こころ》の|秘密《ひみつ》を|語《かた》りつつ  |暗祈黙祷《あんきもくたう》|稍《やや》|暫《しば》し
|心《こころ》いそいそ|御社《みやしろ》の  |四辺《あたり》を|密《ひそ》かに|窺《うかが》ひつ
|土竜《もぐら》の|如《ごと》く|床下《ゆかした》に  |又《また》もや|姿《すがた》を|匿《かく》しける
|月《つき》の|光《ひかり》は|無《な》けれども  |星《ほし》の|光《ひかり》に|照《て》らされて
|長《なが》い|頭《あたま》の|唯《ただ》|一《ひと》つ  |闇《やみ》を|掻《か》き|別《わ》け|進《すす》み|来《く》る
|入日《いりひ》の|影《かげ》か|竿竹《さをだけ》か  |見越入道《みこしにふだう》の|大男《おほをとこ》
|又《また》もや|社前《しやぜん》に|手《て》を|拍《う》つて  |感謝《かんしや》の|声《こゑ》も|口《くち》の|中《なか》
|何《なに》か|細々《こまごま》|願《ね》ぎ|終《を》へて  |忽《たちま》ち|社殿《しやでん》の|床《ゆか》の|下《した》
|長《なが》き|頭《あたま》を|匿《かく》しける  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|迷《まよ》ふ|身魂《みたま》の|三《み》つ|巴《どもゑ》  |誠《まこと》の|仕組《しぐみ》も|白浪《しらなみ》の
|沖《おき》に|浮《うか》べる|神島《かみしま》に  |胸《むね》に|荒波《あらなみ》|打《う》たせつつ
|心《こころ》の|鬼《おに》に|爪《つま》|立《た》てて  |無暗《むやみ》|矢鱈《やたら》に|掻《か》き|廻《まは》し
|汗《あせ》をたらたら|三人《さんにん》が  |時々《ときどき》|頭《あたま》を|衝突《しようとつ》し
ピカリピカリと|火《ひ》を|出《だ》して  |四辺《あたり》の|闇《やみ》を|照《て》らせども
|心《こころ》の|闇《やみ》は|晴《は》れやらず  |互《たがひ》に|顔《かほ》を|不知火《しらぬひ》の
|心《こころ》|砕《くだ》くる|思《おも》ひなり  |高姫《たかひめ》|心《こころ》に|思《おも》ふやう
|国依別《くによりわけ》の|云《い》うたには  |言依別《ことよりわけ》のハイカラが
|二人《ふたり》の|使《つかひ》を|遣《つか》はして  |肝腎要《かんじんかなめ》の|神宝《しんぱう》を
|掘《ほ》り|出《いだ》させてうまうまと  |再《ふたた》びどこかに|埋《うづ》め|置《お》き
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |可愛《かあい》や|二人《ふたり》に|鼻《はな》|明《あ》かせ
|折角《せつかく》|立《た》てた|功績《いさをし》を  オジヤンにしようとの|悪戯《いたづら》か
|憎《にく》さも|悪《にく》い|言依別《ことよりわけ》の  |醜《しこ》の|命《みこと》のドハイカラ
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |思《おも》へば|思《おも》へばお|気《き》の|毒《どく》
|吾《わが》|子《こ》の|功績《いさを》を|鼻《はな》にかけ  |高天原《たかあまはら》に|参上《まゐのぼ》り
|総務《そうむ》|々々《そうむ》と|敬《うやま》はれ  |威張《ゐば》つて|御座《ござ》つた|杢助《もくすけ》も
|今度《こんど》はアフンと|口《くち》あけて  |吠面《ほえづら》かわくも|目《ま》のあたり
|嗚呼《ああ》|面白《おもしろ》い|面白《おもしろ》い  さはさりながら|何者《なにもの》か
|此《この》|場《ば》に|二人《ふたり》もやつて|来《き》て  |玉《たま》を|掘《ほ》り|出《だ》し|帰《かへ》らうと
|一生懸命《いつしやうけんめい》|探《さが》し|居《ゐ》る  |何処《どこ》の|奴《やつ》かは|知《し》らねども
|愈《いよいよ》|玉《たま》の|出《で》た|時《とき》は  |変性男子《へんじやうなんし》の|系統《ひつぽう》や
|日《ひ》の|出神《でのかみ》を|楯《たて》に|取《と》り  |此《この》|高姫《たかひめ》が|恙《つつが》なく
|大《おほ》きな|顔《かほ》で|受《う》け|取《と》らう  それにつけても|黒姫《くろひめ》や
|高山彦《たかやまひこ》は|今《いま》|何処《いづこ》  |黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の
|宝《たから》はもはや|分《わか》りしか  |心《こころ》もとなき|吾《わが》|思《おも》ひ
|仮令《たとへ》|小爪《こづめ》は|抜《ぬ》けるとも  |金輪奈落《こんりんならく》|土《つち》の|底《そこ》
|土竜《もぐら》|蚯蚓《みみづ》にあらねども  |土《つち》|掻《か》き|分《わ》けて|探《さが》し|出《だ》し
|吾《わが》|手《て》に|取《と》らねば|措《お》くものか  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|叶《かな》はぬ|時《とき》の|神頼《かみだの》み  |南洋諸島《なんやうしよたう》へ|遥々《はるばる》と
|危険《きけん》を|冒《をか》して|玉探《たまさが》し  |往《い》た|事《こと》|思《おも》へば|一丈《いちぢやう》や
|二丈《にぢやう》|三丈《さんぢやう》|掘《ほ》つたとて  |何《なん》の|手間暇《てまひま》|要《い》るものか
|国依別《くによりわけ》の|云《い》うたには  |三角石《さんかくいし》を|取《と》り|除《の》けて
|下《した》|三尺《さんじやく》の|深《ふか》さぞと  |天狗《てんぐ》に|急《せ》かれて|已《や》むを|得《え》ず
|白状《はくじやう》|致《いた》した|面白《おもしろ》さ  |天狗《てんぐ》の|申《まを》した|其《その》|如《ごと》く
|三角形《さんかくけい》の|石《いし》はある  |早《はや》|三尺《さんじやく》も|掘《ほ》り|終《を》へて
もはや|四五尺《しごしやく》|掘《ほ》りぬいた  されども|玉《たま》は|現《あら》はれぬ
|是《これ》はてつきり|三丈《さんぢやう》の  |深《ふか》さのきつと|間違《まちが》ひだ
|三丈《さんぢやう》|四丈《しぢやう》はまだ|愚《おろか》  |仮令《たとへ》|地獄《ぢごく》の|底《そこ》|迄《まで》も
|掘《ほ》つて|掘《ほ》つて|掘《ほ》り|抜《ぬ》いて  |探《さが》し|当《あ》てねば|措《お》くものか
|苦労《くらう》と|苦労《くらう》の|塊《かたまり》で  |尊《たふと》い|花《はな》の|咲《さ》くと|云《い》ふ
|神《かみ》の|教《をしへ》を|聞《き》くからは  |仮令《たとへ》|百年《ひやくねん》かかるとも
|掘《ほ》らねば|措《お》かぬ|吾《わが》|心《こころ》  |女《をんな》の|誠《まこと》の|一心《いつしん》は
|岩《いは》をも|射貫《いぬ》くためしあり  きつと|掘《ほ》り|出《だ》し|見《み》せてやろ
|目出度《めでた》く|玉《たま》が|手《て》に|入《い》らば  |意気《いき》|揚々《やうやう》と|立《た》ち|帰《かへ》り
|言依別《ことよりわけ》を|始《はじ》めとし  |杢助《もくすけ》お|初《はつ》やお|節《せつ》|等《ら》の
|顔《かほ》の|色《いろ》|迄《まで》|変《か》へさせて  |改心《かいしん》さして|救《すく》はねば
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》の  どうして|顔《かほ》が|立《た》つものか
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
と|心《こころ》の|底《そこ》に|迷《まよ》ひの|雲《くも》を|起《おこ》しながら、|一生懸命《いつしやうけんめい》|汗《あせ》を|流《なが》して|火鼠《ひねずみ》か|土竜《もぐらもち》のやうに|砂《すな》|混《まじ》りの|土《つち》を|掻《か》き|上《あ》げて|居《ゐ》る。
|黒姫《くろひめ》|心《こころ》に|思《おも》ふやう  |再度山《ふたたびやま》の|大天狗《だいてんぐ》
|国依別《くによりわけ》の|口《くち》|借《か》つて  |黄金《こがね》の|玉《たま》の|匿《かく》し|場所《ばしよ》
|近江《あふみ》の|国《くに》の|竹生島《ちくぶじま》  |弁天社《べんてんやしろ》の|床下《ゆかした》と
|確《たしか》に|確《たしか》に|云《い》ひよつた  |国依別《くによりわけ》が|云《い》ふのなら
|些《すこ》しは|疑《うたが》ふ|余地《よち》もある  |天狗《てんぐ》は|心《こころ》|潔白《けつぱく》で
|些《ちつ》とも|嘘《うそ》は|云《い》はぬもの  |間違《まちが》ふ|気遣《きづか》ひあるものか
|天狗《てんぐ》の|仰《あふ》せの|其《その》|如《ごと》く  |言依別《ことよりわけ》のハイカラが
あらぬ|智慧《ちゑ》をば|絞《しぼ》り|出《だ》し  |此処《ここ》に|匿《かく》して|置《お》きながら
|高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》の  |昼夜《ちうや》|不断《ふだん》の|活動《くわつどう》に
|肝《きも》を|潰《つぶ》して|狼狽《らうばい》し  |見付《みつ》けられない|其《その》|中《うち》に
|外《ほか》へこつそり|匿《かく》さうと  |猿智慧《さるぢゑ》|絞《しぼ》つて|態人《わざびと》を
|一足先《ひとあしさき》に|此《この》|島《しま》へ  |掘《ほ》らしに|来《こ》したに|違《ちが》ひない
あの|熱心《ねつしん》な|探《さが》しやう  |如何《いか》に|剛気《がうき》な|黒姫《くろひめ》も
|呆《あき》れて|物《もの》が|云《い》はれない  |宝《たから》|探《さが》しの|神業《かむわざ》は
|唯《ただ》|一言《ひとこと》も|言霊《ことたま》を  |使《つか》つちやならない|神《かみ》の|告《つげ》
|迂濶《うつかり》|言葉《ことば》を|出《だ》すならば  |折角《せつかく》|見《み》つけた|宝玉《ほうぎよく》も
|煙《けむり》となつて|消《き》え|失《う》せむ  |嚔《くしやみ》|一《ひと》つ|息《いき》|一《ひと》つ
ほんに|碌々《ろくろく》|出来《でき》はせぬ  |苦《くる》しい|時《とき》の|神頼《かみだの》み
|祝詞《のりと》を|唱《とな》へて|神様《かみさま》に  お|願《ねが》ひする|事《こと》は|知《し》つて|居《ゐ》る
|云《い》ふに|云《い》はれぬ|玉探《たまさが》し  こんな|苦《くる》しい|事《こと》あらうか
|言依別《ことよりわけ》の|使《つかひ》|等《ら》が  |黄金《こがね》の|玉《たま》を|発見《はつけん》し
|持《も》ち|帰《かへ》らうとした|所《とこ》で  |竜宮《りうぐう》に|在《ま》す|乙姫《おとひめ》の
|鎮《しづ》まりいます|肉《にく》の|宮《みや》  |千騎一騎《せんきいつき》の|此《この》|場合《ばあひ》
|黒姫《くろひめ》|中々《なかなか》|承知《しようち》せぬ  |仮令《たとへ》|地獄《ぢごく》の|底《そこ》までも
|掘《ほ》つて|掘《ほ》つて|掘《ほ》つて|掘《ほ》り|抜《ぬ》いて  |光《ひかり》|眩《まばゆ》き|金玉《きんぎよく》を
|再《ふたた》び|吾《わが》|手《て》に|納《をさ》めつつ  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|持《も》ち|帰《かへ》り
|言依別《ことよりわけ》や|杢助《もくすけ》を  アフンとさせてやりませう
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |叶《かな》はぬ|時《とき》の|神頼《かみだの》み
|頼《たよ》りもならぬ|口無《くちな》しの  |息《いき》をつまへる|鴛鴦《をしどり》の
|番《つがひ》|離《はな》れぬハズバンド  |高山彦《たかやまひこ》は|今《いま》|何処《いづこ》
|紫色《むらさきいろ》の|宝玉《ほうぎよく》は  |何処《いづこ》の|島《しま》か|知《し》らねども
もはや|手《て》に|入《い》れ|給《たま》ひしか  |高姫《たかひめ》さまは|今《いま》|何処《いづこ》
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |首尾《しゆび》よく|御手《おんて》に|返《かへ》りしか
あちらこちらと|気《き》が|揉《も》める  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|叶《かな》はぬ|迄《まで》も|探《さが》し|出《だ》し  |初心《しよしん》を|貫徹《くわんてつ》せにやおかぬ
|苦労《くらう》と|苦労《くらう》の|塊《かたまり》の  |花《はな》の|咲《さ》くのはこんな|時《とき》
|又《また》と|出《で》て|来《こ》ぬ|此《この》|時節《じせつ》  |琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》は|深《ふか》くとも
|闇《やみ》の|帳《とばり》は|厚《あつ》くとも  |三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》が  |言依別《ことよりわけ》に|着《き》せられた
|恥《はぢ》の|衣《ころも》を|脱《ぬ》ぎ|捨《す》てて  |神国魂《みくにだましひ》をどこ|迄《まで》も
|見《み》せねばならぬ|此《この》|立場《たちば》  |何処《どこ》の|奴《やつ》かは|知《し》らねども
|高山《たかやま》さまに|好《よ》く|似《に》たる  |茶瓶頭《ちやびんあたま》がやつて|来《き》て
|又《また》もや がさがさ|探《さが》し|出《だ》す  |慾《よく》と|慾《よく》とのかちあひで
|玉《たま》の|詮議《せんぎ》に|頭《あたま》うち  |火花《ひばな》を|散《ち》らす|苦《くる》しさよ
|仮令《たとへ》|天地《てんち》が|覆《かへ》るとも  |黄金《こがね》の|玉《たま》は|何処迄《どこまで》も
|探《さが》し|当《あ》てねば|措《お》くものか  |岩《いは》をも|射貫《いぬ》く|一心《いつしん》は
|女《をんな》たる|身《み》の|天性《もちまへ》だ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸倍《さちはへ》ましませよ。
とひそかに|思《おも》ひ、ひそかに|念《ねん》じながら、|汗《あせ》をたらたら|搾《しぼ》り|出《だ》し、|一生懸命《いつしやうけんめい》に|砂《すな》を|掻《か》き|上《あ》げて|居《ゐ》る。
|高山彦《たかやまひこ》は|訝《いぶ》かりつ  |心《こころ》の|中《うち》に|思《おも》ふやう
|再度山《ふたたびやま》の|大天狗《だいてんぐ》  |国依別《くによりわけ》の|口《くち》|借《か》つて
|竹生《ちくぶ》の|島《しま》の|神社《かむやしろ》  |其《その》|床下《ゆかした》に|三角《さんかく》の
|石《いし》を|蓋《かぶ》せて|紫《むらさき》の  |宝玉《ほうぎよく》|深《ふか》く|荒金《あらがね》の
|土中《どちう》に|埋没《まいぼつ》せしと|聞《き》く  |三角石《さんかくいし》は|此処《ここ》にある
さはさりながら|訝《いぶ》かしや  |言依別《ことよりわけ》の|使《つかひ》とも
|思《おも》へぬ|節《ふし》が|一《ひと》つある  |闇《やみ》の|帳《とばり》は|下《おろ》されて
さだかにそれとは|分《わか》らねど  |体《からだ》の|恰好《かくかう》|動《うご》きやう
|頭《かしら》をぶりぶり|振《ふ》る|所《ところ》  |高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》に
どこやら|似《に》て|居《ゐ》る|気配《けはい》ぢやぞ  |天狗《てんぐ》は|至《いた》つて|正直《しやうぢき》と
|昔《むかし》の|人《ひと》も|云《い》うて|居《ゐ》る  |滅多《めつた》に|嘘《うそ》は|申《まを》すまい
|高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》に  よく|似《に》た|者《もの》は|世《よ》の|中《なか》に
|一人《ひとり》や|二人《ふたり》はあるだらう  |何《なに》を|云《い》うても|鴛鴦《をしどり》の
|名乗《なのり》もならぬ|玉探《たまさが》し  |実際《じつさい》|俺《おれ》は|言依別《ことよりわけ》の
|神《かみ》の|命《みこと》が|神界《しんかい》の  |仕組《しぐみ》によりて|匿《かく》されし
|宝《たから》の|在処《ありか》を|探《さが》そとは  |夢《ゆめ》にも|思《おも》うた|事《こと》はない
さはさりながら|高姫《たかひめ》や  |黒姫《くろひめ》までが|焦《い》ら|立《だ》つて
|玉《たま》よ|玉《たま》よとやかましく  |騒《さわ》ぎ|廻《まは》るが|煩《うるさ》さに
|己《おれ》も|何《なん》とか|工夫《くふう》して  |玉《たま》の|在処《ありか》を|探《さが》し|出《だ》し
|二人《ふたり》の|婆《ばば》に|執着《しふちやく》の  |雲《くも》を|晴《は》らさしやらうかと
|牛《うし》に|牽《ひ》かれて|善光寺《ぜんくわうじ》  |心《こころ》ならずも|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つ|島《じま》|迄《まで》|駆廻《かけまは》り  |地恩《ちおん》の|城《しろ》にブランヂー
クロンバー|迄《まで》も|勤《つと》めつつ  |数多《あまた》の|国人《くにびと》|使役《しえき》して
|玉《たま》の|在処《ありか》を|探《さが》したが  これ|程《ほど》|広《ひろ》い|世《よ》の|中《なか》を
|土中《どちう》に|深《ふか》く|隠《かく》されし  |玉《たま》の|分《わか》らう|筈《はず》がない
|高山彦《たかやまひこ》も|今日《けふ》|限《かぎ》り  |此処《ここ》で|失敗《しつぱい》したならば
これきり|思《おも》ひ|切《き》りませう  |日《ひ》の|出神《でのかみ》や|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまかは|知《し》らねども  |俺《おれ》にはチツと|腑《ふ》に|落《お》ちぬ
|真《まこと》|日《ひ》の|出神《でのかみ》なれば  |玉《たま》の|在処《ありか》は|何処《どこ》|其処《そこ》と
ハツキリ|知《し》らして|呉《く》れるだらう  |竜宮《りうぐう》の|乙姫《おとひめ》さまならば
|猶更《なほさら》|玉《たま》の|匿《かく》し|場所《ばしよ》  |知《し》らない|道理《だうり》がどこにあろ
|同《おな》じ|名《な》のつく|神様《かみさま》も  |沢山《たくさん》あると|見《み》えるわい
|高姫《たかひめ》さまや|黒姫《くろひめ》に  |憑《うつ》つて|御座《ござ》る|神《かみ》さまは
|神力《しんりき》|足《た》らぬ|厄雑神《やくざがみ》  それでなければどうしても
|俺《おれ》の|心《こころ》にはまらない  |六十路《むそぢ》の|坂《さか》を|見《み》ながらも
|五十女《ごじふをんな》に|操《あやつ》られ  |玉《たま》を|探《さが》しに|何処迄《どこまで》も
|往《ゆ》かねばならぬか|情《なさけ》ない  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|叶《かな》ひませぬから|高姫《たかひめ》や  |黒姫《くろひめ》|二人《ふたり》の|執着《しふちやく》を
|科戸《しなど》の|風《かぜ》に|吹《ふ》き|払《はら》ひ  |生《うま》れ|赤子《あかご》に|立《た》てかへて
|何卒《どうぞ》|助《たす》けて|下《くだ》しやんせ  |竹生《ちくぶ》の|島《しま》の|御神《おんかみ》に
|心《こころ》を|籠《こ》めて|願《ね》ぎまつる  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
と|心《こころ》の|中《なか》に|呟《つぶや》きながら、|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》の|改心《かいしん》を|専一《せんいつ》と|祈願《きぐわん》し、|紫《むらさき》の|玉《たま》は|殆《ほとん》ど|念頭《ねんとう》に|置《お》かぬものの|如《ごと》くであつた。
(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 加藤明子録)
第一四章 |大変歌《だいへんか》〔七七九〕
|折《をり》から|吹《ふ》き|来《く》る|夜嵐《よあらし》に  |湖水《こすゐ》の|面《おも》は|波《なみ》|高《たか》く
|島《しま》の|老木《おいき》の|根本《ねもと》より  |吹《ふ》きも|倒《たふ》さむ|勢《いきほひ》に
|神《かむ》さび|建《た》てる|神社《かむやしろ》  |風《かぜ》にゆられてギクギクと
|怪《あや》しき|音《おと》を|立《た》て|初《そ》めぬ  これ|幸《さいは》ひと|亀彦《かめひこ》は
|社《やしろ》の|扉《とびら》を|打開《うちひら》き  そろそろ|階段《かいだん》|下《くだ》り|来《き》て
|玉《たま》に|魂《たま》をばぬかれたる  |三《み》つ|巴《どもゑ》の|玉奴《たまやつこ》
|身辺《しんぺん》|近《ちか》く|進《すす》み|寄《よ》り  |白衣《びやくえ》の|着物《きもの》を|頭《あたま》より
フワリと|被《かぶ》り|吹《ふ》く|風《かぜ》に  |長《なが》き|袖《そで》をばなぶらせつ
|声《こゑ》も|女神《めがみ》の|淑《しとや》かに  |宣《の》り|出《いだ》せるぞ|面白《おもしろ》き
|天教山《てんけうざん》に|現《あら》はれし  われは|木花姫神《このはなひめのかみ》
その|御心《みこころ》を|汲《く》みとりて  |汝等《なんぢら》|三人《みたり》の|迷人《まよひど》に
|玉《たま》の|在処《ありか》を|説《と》き|示《しめ》す  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |三五教《あななひけう》やバラモンの
どちらか|知《し》らぬが|宣伝使《せんでんし》  |三人《さんにん》ここに|現《あら》はれて
|憑依《ひようい》もせない|天狗《たかがみ》の  |宣示《せんじ》を|誠《まこと》と|思《おも》ひつめ
|長途《ちやうと》の|旅《たび》をエチエチと  |暗《やみ》かき|分《わ》けて|波《なみ》の|上《うへ》
|三《み》つの|御霊《みたま》の|鎮《しづ》まれる  |竹生《ちくぶ》の|島《しま》に|漕《こ》ぎつけて
|隠《かく》してもない|神宝《しんぱう》を  |下《くだ》らぬ|意地《いぢ》に|絡《から》まれて
|探《さが》しに|来《きた》る|愚《おろか》さよ  |鼻高姫《はなたかひめ》や|村肝《むらきも》の
|心《こころ》の|暗《やみ》の|黒姫《くろひめ》や  |頭《あたま》の|光《ひか》る|福禄寿面《げほうづら》
|揃《そろ》ひも|揃《そろ》うた|大馬鹿《おほばか》の  |社殿《しやでん》の|下《した》の|玉探《たまさが》し
たとへ|百丈《ひやくぢやう》|掘《ほ》つたとて  |金輪奈落《こんりんならく》その|玉《たま》は
|出《で》て|来《く》る|気《き》づかひあるまいぞ  |日《ひ》の|出神《でのかみ》や|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまの|生宮《いきみや》と  |威張《ゐば》つて|居《ゐ》たが|何《なん》の|態《ざま》
|女神《めがみ》の|癖《くせ》に|荒《あら》い|事《こと》  |吐《ほざ》くと|思《おも》ふか|知《し》らねども
|決《けつ》して|女神《めがみ》が|云《い》ふでない  |三人《みたり》の|心《こころ》に|憑《うつ》りたる
|副守《ふくしゆ》の|鬼《おに》が|吐《ほざ》くのだ  |要《い》らぬ|苦労《くらう》をするよりも
|吾《わが》|身《み》の|行《おこな》ひ|省《かへり》みて  |玉《たま》の|詮索《せんさく》|思《おも》ひ|切《き》り
|一日《ひとひ》も|早《はや》く|大神《おほかみ》の  |誠《まこと》の|道《みち》を|世《よ》の|中《なか》に
|懺悔《ざんげ》さらして|仕《つか》へ|行《ゆ》け  |先《さき》に|来《き》たのは|高姫《たかひめ》ぢや
|次《つぎ》に|出《で》て|来《き》た|黒姫《くろひめ》が  |言依別《ことよりわけ》の|遣《つか》はせし
|玉掘神《たまほりがみ》と|誤解《ごかい》して  |吾《われ》|劣《おと》らじと|暗雲《やみくも》で
|指《ゆび》の|先《さき》まですりむきつ  オチヨボのやうに|砂《すな》を|掘《ほ》り
いよいよ|味噌《みそ》を|摺鉢《すりばち》の  |糠喜《ぬかよろこ》びの|砂煙《すなけむり》
|何時《いつ》|迄《まで》お|前《まへ》が|掘《ほ》つたとて  |隠《かく》してないもな|出《で》ては|来《こ》ぬ
|高山彦《たかやまひこ》のハズバンド  |婆《ば》さまのお|尻《しり》をつけ|狙《ねら》ひ
|六十面《ろくじふづら》を|下《さ》げながら  ようも|天狗《てんぐ》に|欺《だま》された
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |訳《わけ》の|解《わか》らぬ|奴《やつ》ばかり
こんなお|方《かた》が|三五《あななひ》の  |教《をしへ》の|幹部《かんぶ》に|坐《すわ》るなら
それこそ|勿《たちま》ち|聖場《せいぢやう》は  |地異天変《ちいてんぺん》の|大騒動《おほさうだう》
|亀彦《かめひこ》ドツコイ|亀《かめ》の|背《せ》に  |乗《の》つて|波間《なみま》に|浮《うか》び|来《く》る
|木花姫《このはなひめ》の|御心《みこころ》を  |承《うけたま》はりて|現《あらは》れた
|玉《たま》の|在処《ありか》を|守《まも》り|居《ゐ》る  わしは|誠《まこと》の|女神《めがみ》ぞや
|三《みつ》つの|玉《たま》は|神界《しんかい》の  |御経綸《おしぐみ》なれば|高姫《たかひめ》が
|何程《なにほど》|日《ひ》の|出神《でのかみ》ぢやとて  |現《あら》はれ|来《きた》る|筈《はず》はない
そんな|謀反《むほん》は|諦《あきら》めて  |一時《いちじ》も|早《はや》く|三五《あななひ》の
|綾《あや》の|聖地《せいち》に|立帰《たちかへ》り  |神《かみ》に|御詫《おわび》をするがよい
|九月《くぐわつ》|八日《やうか》の|秋《あき》の|空《そら》  |黄金《こがね》|花《はな》|咲《さ》く|竜宮《りうぐう》の
|一《ひと》つ|島《じま》なる|諏訪《すは》の|湖《うみ》  |玉依姫《たまよりひめ》の|御宝《おんたから》
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》は|由良港《ゆらみなと》
|秋山彦《あきやまひこ》の|庭先《にはさき》に  |鳩《はと》の|如《ごと》くに|下《くだ》りまし
|言依別《ことよりわけ》を|始《はじ》めとし  |梅子《うめこ》の|姫《ひめ》や|五十子姫《いそこひめ》
お|前《まへ》の|嫌《きら》ひな|玉能姫《たまのひめ》  |初稚姫《はつわかひめ》も|諸共《もろとも》に
|神輿《みこし》に|乗《の》せて|悠々《いういう》と  |由良《ゆら》の|川瀬《かはせ》を|遡《さかのぼ》り
|嬉《うれ》しき|便《たよ》りを|菊《きく》の|月《つき》  |今日《けふ》は|九日《ここのか》|四尾《よつをう》の
|山《やま》の|麓《ふもと》の|八尋殿《やひろどの》  たしかに|納《をさ》まる|日《ひ》なるぞや
お|前《まへ》もグヅグヅして|居《ゐ》ると  |後《あと》の|祭《まつり》の|十日菊《とをかぎく》
|恥《はぢ》の|上塗《うはぬ》りせにやならぬ  |生田《いくた》の|森《もり》の|館《やかた》から
|直様《すぐさま》|聖地《せいち》に|帰《かへ》りなば  |前代《ぜんだい》|未聞《みもん》の|盛典《せいてん》に
|首尾《しゆび》よく|列《れつ》して|五色《いついろ》の  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》を|拝観《はいくわん》し
|尊《たふと》き|神業《みわざ》の|末端《はしくれ》に  |奉仕《ほうし》|出来《でき》たであらうのに
|執着心《しふちやくしん》に|煽《あふ》られて  |憑依《ひようい》もせない|天狗《たかがみ》に
だまされぬいて|遥々《はるばる》と  |探《たづ》ねて|来《きた》る|盲神《めくらがみ》
|気《き》の|毒《どく》なりける|次第《しだい》なり  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
それが|叶《かな》はぬと|思《おも》ふなら  |一時《いちじ》も|早《はや》く|立帰《たちかへ》れ
|玉守姫《たまもりひめ》が|親切《しんせつ》で  |一寸《ちよつと》|誠《まこと》を|明《あか》し|置《お》く
そろそろ|風《かぜ》も|強《つよ》なつた  |嵐《あらし》に|吹《ふ》かれて|何時《いつ》|迄《まで》も
ここに|居《を》つては|堪《たま》らない  ウントコドツコイ|高姫《たかひめ》さま
ヤツトコドツコイ|黒姫《くろひめ》さま  |高山彦《たかやまひこ》の|福禄寿《げほう》さま
そんならお|暇《いとま》|申《まを》します  ドツコイシヨのドツコイシヨ
ウントコドツコイドツコイシヨ  ヤツトコセーのヨーイヤナ
アレはのせーコレはのせー  ヤツトコドツコイ|玉《たま》|探《さが》せ。
と|歌《うた》ひ|了《をは》り、|暗《やみ》に|紛《まぎ》れてクツクツ|噴出《ふきだ》しながら|英子姫《ひでこひめ》の|館《やかた》を|指《さ》して|帰《かへ》り|行《ゆ》く。
ここに|三人《みたり》の|玉探《たまさが》し  |汗《あせ》をタラタラ|流《なが》しつつ
|無言《むごん》のままで|一心《いつしん》に  |側目《わきめ》もふらず|土掘《つちほ》りの
|真最中《まつさいちう》に|亀彦《かめひこ》が  |俄《にはか》に|女神《めがみ》の|作《つく》り|声《ごゑ》
|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》、|高山彦《たかやまひこ》の  |福禄寿頭《げほうあたま》の|三人《さんにん》と
|図星《づぼし》を|指《さ》されて|高姫《たかひめ》は  ハツと|驚《おどろ》き|立上《たちあが》り
よくよく|見《み》れば|黒姫《くろひめ》や  |高山彦《たかやまひこ》の|二人連《ふたりづ》れ
アヽ|残念《ざんねん》や|口惜《くちを》しや  |国依別《くによりわけ》の|極道《ごくだう》|奴《め》
|日《ひ》の|出神《でのかみ》や|高姫《たかひめ》や  |竜宮《りうぐう》さまの|生宮《いきみや》を
マンマとよくも|騙《だま》したな  |馬鹿《ばか》にするのも|程《ほど》がある
|十里《じふり》|二十里《にじふり》|三十里《さんじふり》  |痛《いた》い|足《あし》をば|引《ひき》ずつて
いよいよ|今度《こんど》は|如意宝珠《によいほつしゆ》  その|外《ほか》|二《ふた》つの|宝《たから》をも
うまく|手《て》に|入《い》れ|年来《ねんらい》の  |願望《ぐわんまう》|成就《じやうじゆ》と|思《おも》ひきや
|又《また》だまされて|玉探《たまさが》し  わしより|若《わか》い|奴輩《やつばら》に
|馬鹿《ばか》にしられて|口惜《くちを》しい  |黒姫《くろひめ》さまもこれからは
チツとしつかりするがよい  |高山彦《たかやまひこ》も|余《あんま》りぢや
|朝《あさ》から|晩《ばん》までニヤニヤと  |黒姫《くろひめ》さまの|面《つら》|計《ばか》り
|眺《なが》めて|居《ゐ》るからこんな|事《こと》  |流石《さすが》に|尊《たふと》い|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまも|腹《はら》を|立《た》て  |遠《とほ》くの|昔《むかし》に|魂《たま》ぬけの
あとは|盲《めくら》の|守護神《しゆごじん》  |今《いま》までお|前《まへ》を|生宮《いきみや》と
|思《おも》うて|居《ゐ》たのが|情《なさけ》|無《な》い  |思《おも》へば|思《おも》へば|腹《はら》が|立《た》つ
それぢやに|依《よ》つて|初《はじめ》から  |神《かみ》の|誠《まこと》の|御道《おんみち》は
|夫婦《ふうふ》あつては|勤《つと》まらぬ  わしがあれ|程《ほど》|言《い》うたのに
|馬耳東風《ばじとうふう》と|聞《き》き|流《なが》し  |肝腎要《かんじんかなめ》の|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまにぬけられて  その|面付《つらつき》は|何《なん》の|事《こと》
|暗夜《やみよ》でお|面《かほ》は|分《わか》らねど  |定《さだ》めて|夜食《やしよく》に|外《はづ》れたる
|梟《ふくろ》のやうな|面付《つらつき》で  アフンとしてるに|違《ちが》ひない
|私《わし》も|愛想《あいそ》がつきました  |何程《なにほど》|日《ひ》の|出神《でのかみ》ぢやとて
こんな|分《わか》らぬ|守護神《しゆごじん》  |憑《つ》いた|御身《おんみ》を|伴《とも》にして
どうして|神業《みわざ》が|勤《つと》まらう  チツとは|改心《かいしん》なされませ
|性懲《しやうこり》もなく|又《また》しても  |油揚《あぶらげ》|鳶《とび》にさらはれた
|高山彦《たかやまひこ》の|親爺《おやぢ》さま  |六日《むゆか》の|菖蒲《あやめ》|十日菊《とをかぎく》
きくさへ|胸《むね》が|悪《わる》くなる  |再度山《ふたたびやま》の|大天狗《だいてんぐ》
|身魂《みたま》の|曇《くも》つた|国公《くにこう》に  サツと|憑《うつ》つて|世迷言《よまひごと》
|吐《ほざ》いた|言葉《ことば》を|真《ま》にうけて  ここ|迄《まで》|来《き》たのは|情《なさけ》|無《な》や
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|御都合《ごつがふ》と|諦《あきら》めて
これから|大《おほ》きな|面《つら》をして  |正々堂々《せいせいだうだう》|陣《ぢん》を|張《は》り
|言依別《ことよりわけ》のハイカラに  |恨《うら》みを|晴《は》らす|逆理屈《さかりくつ》
|御二人《おふたり》しつかりしなされよ  |神《かみ》の|教《をしへ》を|次《つぎ》にして
|親爺《おやぢ》の|事《こと》や|女房《にようばう》の  |身《み》の|上《うへ》|計《ばか》り|気《き》にかけて
|現《うつつ》を|吐《ぬか》すと|此《この》|通《とほ》り  これこそ|神《かみ》の|御戒《おいまし》め
これで|改心《かいしん》なさつたか  |思《おも》へば|思《おも》へば|馬鹿《ばか》らしい
お|前《まへ》のやうな|没分暁漢《わからずや》  |黄金《こがね》の|玉《たま》を|盗《ぬす》まれて
|在処《ありか》|探《たづ》ねてはるばると  |竜宮島《りうぐうじま》に|二三年《にさんねん》
|留《とど》まりながら|何《なん》の|態《ざま》  お|前《まへ》の|帰《かへ》つたその|後《あと》で
|初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》  |玉治別《たまはるわけ》や|友彦《ともひこ》に
|又《また》もや|麻邇《まに》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |尊《たふと》い|御用《ごよう》を|占領《せんりやう》され
|天地《てんち》の|神《かみ》の|御前《おんまへ》に  |何《ど》うして|顔《かほ》が|立《た》ちますか
|胸《むね》に|手《て》を|当《あ》てつくづくと  |考《かんが》へなさるがよからうぞ
|何程《なにほど》|泣《な》いて|悔《くや》んでも  もう|斯《か》うなれば|是非《ぜひ》は|無《な》い
サアサア|皆《みな》さま|帰《かへ》りませう  |一度《いちど》に|開《ひら》く|梅《うめ》の|花《はな》
|開《ひら》いて|散《ち》りて|実《み》を|結《むす》ぶ  |平助《へいすけ》お|楢《なら》の|両人《りやうにん》が
|腹《はら》から|生《うま》れたお|節《せつ》|等《ら》に  |馬鹿《ばか》にしられて|堪《たま》らうか
|高姫《たかひめ》ぢやとて|骨《ほね》がある  お|前《まへ》のやうなグニヤグニヤの
|蒟蒻腰《こんにやくごし》では|無《な》い|程《ほど》に  |見違《みちが》ひなさるな|高姫《たかひめ》が
|岩《いは》より|堅《かた》い|大和魂《やまとだま》  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》に
お|前《まへ》のやうな|盲神《めくらがみ》  |何《ど》うしてついて|来《き》たであろ
うまい|果実《このみ》にや|虫《むし》がつく  |賢《かしこ》い|人《ひと》には|魔《ま》が|来《きた》る
お|前《まへ》の|忠告《ちうこく》|真《ま》に|受《う》けて  |今迄《いままで》|出《で》て|来《き》た|高姫《たかひめ》も
|余《あんま》り|偉《えら》そにや|言《い》はれねど  |大将《たいしやう》は|素《もと》より|看板《かんばん》ぢや
|側《そば》に|付添《つきそ》ふ|副柱《そへばしら》  こいつに|力《ちから》の|無《な》い|時《とき》は
|何程《なにほど》|偉《えら》い|生宮《いきみや》も  |策《さく》を|施《ほどこ》す|余地《よち》がない
|持《も》つべきものは|家来《けらい》ぢやが  |持《も》つて|困《こま》るは|馬鹿家来《ばかけらい》
こんな|事《こと》なら|初《はじめ》から  お|前《まへ》を|使《つか》ふぢや|無《な》かつたに
|悔《くや》みて|返《かへ》らぬ|今日《けふ》の|首尾《しゆび》  |諦《あきら》めようより|仕様《しやう》が|無《な》い
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
と、|流石《さすが》の|高姫《たかひめ》も|焼糞《やけくそ》になつて、|黒姫《くろひめ》、|高山彦《たかやまひこ》に|八当《やつあた》りの|歌《うた》をうたひ、|胸《むね》の|焔《ほのほ》を|消《け》さむとして|居《ゐ》る。
|星《ほし》の|明《あか》りに|黒姫《くろひめ》は  |高慢《かうまん》|強《つよ》き|高姫《たかひめ》の
|歌《うた》を|聞《き》くより|腹《はら》を|立《た》て  |暗《やみ》をすかして|眺《なが》むれば
|前歯《まへば》のぬけた|膨《ふく》れ|面《づら》  |汗《あせ》をブルブルかきながら
|蟹《かに》の|様《やう》なる|泡《あわ》を|吹《ふ》き  |眼《め》を|怒《いか》らして|睨《にら》み|居《ゐ》る
|黒姫《くろひめ》|見《み》るより|腹《はら》を|立《た》て  こちらも|劣《おと》らぬムツと|顔《がほ》
|声《こゑ》の|色《いろ》まで|尖《とが》らして  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》と
|当《あ》てすつぽうな|名《な》をとなへ  |世界《せかい》が|見《み》え|透《す》く|見《み》え|透《す》くと
|何時《いつ》も|仰有《おつしや》るその|癖《くせ》に  たかの|知《し》れたる|再度《ふたたび》の
|山《やま》に|隠《かく》れた|野天狗《のてんぐ》に  うまく|騙《だま》され|泡《あわ》を|吹《ふ》き
|何程《なにほど》|腹《はら》が|立《た》つたとて  |私《わたし》に|当《あた》るといふ|事《こと》は
お|前《まへ》さまそれはチト|無理《むり》ぢや  |口《くち》に|税金《ぜいきん》|要《い》らぬとて
|業託《ごうたく》|言《い》ふにも|程《ほど》がある  |私《わたし》も|女《をんな》の|端《はし》くれぢや
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》が  |高姫《たかひめ》さまなら|黒姫《くろひめ》は
|矢張《やつぱり》|竜宮《りうぐう》の|乙姫《おとひめ》ぢや  |日《ひ》の|出神《でのかみ》と|引添《ひつそ》うて
|竜宮《りうぐう》さまの|御手伝《おてつだひ》  これで|無《な》ければ|神界《しんかい》の
|経綸《しぐみ》は|成就《じやうじゆ》せぬぢや|無《な》いか  あなたは|何時《いつ》も|言《い》うただろ
その|言霊《ことたま》を|夢《ゆめ》の|如《ごと》  ケロリと|忘《わす》れて|黒姫《くろひめ》に
|熱《ねつ》を|吹《ふ》くとは|余《あんま》りぢや  |私《わし》もチツトは|腹《はら》が|立《た》つ
|私《わたし》|丈《だけ》なら|何《ど》うなりと  |悔《くや》しい|残念《ざんねん》|堪《こば》らうが
|二世《にせ》を|契《ちぎ》つたハズバンド  |高山《たかやま》さままで|引出《ひきだ》して
|悪口《あくこう》|言《い》ふとは|虫《むし》がよい  |神《かみ》のお|道《みち》を|世《よ》の|中《なか》に
|伝《つた》へて|歩《ある》く|高姫《たかひめ》の  |仰有《おつしや》る|事《こと》とは|受取《うけと》れぬ
|真《まこと》の|日《ひ》の|出神《でのかみ》さまは  |余《あんま》り|偉《えら》い|慢神《まんしん》に
|愛想《あいそ》をつかして|御帰《おかへ》りの  あとに|曲津《まがつ》が|巣《す》をくみて
お|前《まへ》の|御口《おくち》を|自由《じいう》にし  そんな|悪口《あくこう》|吐《つ》くのだろ
|油断《ゆだん》も|隙《すき》も|無《な》い|御道《おみち》  |一寸《ちよつと》|慢神《まんしん》するや|否《いな》
|八岐《やまた》の|大蛇《をろち》の|醜魂《しこだま》に  のり|憑《うつ》られて|眼《め》はくらみ
|魂《たま》は|捻《ねぢ》けて|此《こ》の|通《とほ》り  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》の
|身体《からだ》に|憑《うつ》つた|野天狗《のてんぐ》に  チヨロマカされてはるばると
|夜《よ》を|日《ひ》についで|三十里《さんじふり》  |琵琶《びは》の|湖《うみ》までやつて|来《き》て
|寄辺渚《よるべなぎさ》の|離《はな》れ|島《じま》  |隠《かく》してもない|玉探《たまさが》し
お|腹《なか》が|立《た》つのは|尤《もつと》もぢや  さはさりながらお|前《まへ》さま
|胸《むね》に|手《て》をあてトツクリと  |考《かんが》へなさるが|宜《よろ》しかろ
|真《まこと》の|日《ひ》の|出神《でのかみ》ならば  |玉《たま》の|在処《ありか》は|居《ゐ》ながらに
|判然《はつきり》|分《わか》らにやなるまいに  |海洋万里《かいやうばんり》の|島々《しまじま》を
うろつき|廻《まは》る|玉探《たまさが》し  それから|可笑《をか》しと|思《おも》て|居《ゐ》た
|何《ど》うしても|斯《か》うしても|腑《ふ》に|落《お》ちぬ  |口先《くちさき》ばかり|偉《えら》さうに
|頬桁《ほほげた》|叩《たた》く【やくざ】|神《がみ》  |早《はや》く|帰《いな》すがよいわいな
これから|心《こころ》|改《あらた》めて  |三五教《あななひけう》の|神司《かむつかさ》
|言依別《ことよりわけ》の|命令《めいれい》に  ハイハイハイと|箱根山《はこねやま》
|痩馬《やせうま》|追《お》うて|登《のぼ》る|様《やう》に  |神妙《しんめう》に|御用《ごよう》を|聞《き》きなされ
|私《わたし》はこれで|三五《あななひ》の  |神《かみ》の|御道《おみち》は|止《や》めまする
|聖地《せいち》へ|帰《かへ》つて|人々《ひとびと》に  |何《ど》うして|面《かほ》が|合《あ》はされよう
|鉄面皮《てつめんぴ》なる|黒姫《くろひめ》も  |今度《こんど》|計《ばか》りは|何《ど》うしても
|面向《かほむ》け|致《いた》す|術《すべ》が|無《な》い  |変性男子《へんじやうなんし》の|筆先《ふでさき》に
|慢神《まんしん》|致《いた》すと|面《つら》の|皮《かは》  |引《ひ》きめくられて|家《いへ》の|外《そと》
|歩《ある》けぬやうに|成《な》り|果《は》てて  |頭《あたま》|抱《かか》へて|奥《おく》の|間《ま》に
|潜《ひそ》みて|居《を》らねばならないと  |御示《おしめ》しなさつてあるものを
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》を  |無性《むしやう》|矢鱈《やたら》に|振《ふ》り|廻《まは》し
せつぱつまつた|今日《けふ》の|空《そら》  |思《おも》へば|思《おも》へば|御気《おき》の|毒《どく》
|私《わたし》は|同情《どうじやう》いたします  これから|聖地《せいち》へ|立帰《たちかへ》り
|心《こころ》の|底《そこ》から|改《あらた》めて  |今迄《いままで》とつたる|横柄《わうへい》な
|態度《たいど》をすつかり|止《や》めにして  |小猫《こねこ》のやうになりなされ
|仁慈無限《じんじむげん》の|神様《かみさま》の  |尊《たふと》き|試練《ためし》に|遇《あ》ひました
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ
|叶《かな》はぬから|帰《かへ》りませう。
|高山彦《たかやまひこ》はムツとして  |薬鑵頭《やくわんあたま》に|湯気《ゆげ》を|立《た》て
ドス|声《ごゑ》|頻《しき》りに|張《は》りあげて  |高姫《たかひめ》さまよ|黒姫《くろひめ》よ
|日《ひ》の|出神《でのかみ》や|竜宮《りうぐう》の  |乙姫《おとひめ》さまを|楯《たて》にとり
|一丈《いちぢやう》|二尺《にしやく》の|褌《ふんどし》を  |締《し》めた|男《をとこ》を|馬鹿《ばか》にした
|俺《おれ》は|元《もと》からお|前等《まへら》の  |言《い》うとる|事《こと》が|怪《あや》しいと
|思《おも》うて|居《ゐ》たがまさかにも  こんな|馬鹿《ばか》とは|知《し》らなんだ
|男《をとこ》の|顔《かほ》に|泥《どろ》を|塗《ぬ》り  |返《かへ》しのつかぬ|恥《はぢ》かかせ
|日《ひ》の|出神《でのかみ》もあるものか  |尻《しり》が|呆《あき》れて|屁《へ》も|出《い》でぬ
お|前《まへ》の|様《やう》な|年寄《としより》を  |女房《にようばう》に|持《も》つのは|厭《いや》なれど
|尊《たふと》い|竜宮《りうぐう》の|乙姫《おとひめ》が  |肉《にく》の|宮《みや》ぢやと|聞《き》いた|故《ゆゑ》
|高姫《たかひめ》さまの|媒介《ばいかい》で  |波斯《フサ》の|国《くに》から|遥々《はるばる》と
|天《あま》の|鳥船《とりふね》|空《そら》|高《たか》く  |乗《の》つて|来《き》たのは|馬鹿《ばか》らしい
|白《しろ》い|頭《あたま》に|黒《くろ》い|汁《しる》  コテコテ|塗《ぬ》つて|誤魔化《ごまくわ》して
|枯木《かれき》に|花《はな》の|咲《さ》きほこり  こんな|事《こと》だと|知《し》つたなら
お|前《まへ》と|添《そ》ふのぢや|無《な》かつたに  |日《ひ》の|出神《でのかみ》も|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまも|此《この》|頃《ごろ》は  ねつから|当《あて》にはならないぞ
|執着心《しふちやくしん》にそそられて  |国々《くにぐに》|島々《しまじま》かけめぐり
|玉《たま》の|在処《ありか》を|探《さが》し|行《ゆ》く  |二人《ふたり》の|婆《ばば》の|馬鹿加減《ばかかげん》
|俺《おれ》は|愛想《あいそ》が|尽《つ》きたぞよ  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》の
|若《わか》い|男《をとこ》の|憑霊《ひようれい》に  |眉毛《まゆげ》をよまれてこんな|態《ざま》
どうして|聖地《せいち》へ|帰《かへ》られうか  |女《をんな》|子供《こども》に|到《いた》る|迄《まで》
|俺《おれ》の|顔《かほ》|見《み》りや|馬鹿《ばか》にする  かうなり|行《ゆ》くも|高姫《たかひめ》や
|黒姫《くろひめ》|二人《ふたり》の|為《な》す|業《わざ》ぞ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|玉《たま》の|詮議《せんぎ》は|今日《けふ》|限《かぎ》り  すつぱり|思《おも》ひ|諦《あきら》めて
|誠心《まことごころ》に|立帰《たちかへ》り  |三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》
|玉照彦《たまてるひこ》や|玉照姫《たまてるひめ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》の|神人《しんじん》が
|御言《みこと》|畏《かしこ》みよく|仕《つか》へ  |必《かなら》ず|自我《じが》を|出《だ》すでない
|高山彦《たかやまひこ》が|両人《りやうにん》に  |真心《まごころ》こめて|気《き》を|付《つ》ける
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》のまします|此《この》|島《しま》に
|何時迄《いつまで》|居《を》つても|仕様《しやう》がない  |恥《はぢ》をばしのび|面《めん》|被《かぶ》り
|兎《と》も|角《かく》|聖地《せいち》へ|立帰《たちかへ》り  |心《こころ》の|底《そこ》から|今迄《いままで》の
|誤解《ごかい》|慢神《まんしん》|悉《ことごと》く  |神《かみ》の|御前《みまへ》に|御詫《おわび》して
|赤恥《あかはぢ》さらせばせめてもの  |罪滅《つみほろぼ》しとなるであろ
それが|嫌《いや》なら|高姫《たかひめ》も  |女房《にようばう》の|黒姫《くろひめ》|今日《けふ》|限《かぎ》り
|三行半《みくだりはん》の|離縁状《りえんじやう》  すつぱり|書《か》いて|渡《わた》さうか
|今迄《いままで》|男《をとこ》を|馬鹿《ばか》にした  |天罰《てんばつ》|忽《たちま》ち|報《むく》い|来《き》て
こんな|憂目《うきめ》に|遇《あ》うたのだ  |改心《かいしん》するのは|結構《けつこう》だ
|高天原《たかあまはら》の|門開《もんびら》き  |慢心《まんしん》すると|此《この》|通《とほ》り
|世間《せけん》の|人《ひと》に|顔向《かほむ》けの  ならない|様《やう》な|事《こと》が|来《く》る
|今日《けふ》からサツパり|心《こころ》をば  |洗《あら》ひ|直《なほ》して|惟神《かむながら》
【うぶ】の|心《こころ》になるがよい  サアサア|帰《い》のうサア|帰《い》のう
|吹《ふ》き|来《く》る|風《かぜ》は|強《つよ》くとも  |高波《たかなみ》|如何《いか》に|猛《たけ》ぶとも
|仁慈無限《じんじむげん》の|大神《おほかみ》の  |大御守《おほみまもり》を|力《ちから》とし
|杖《つゑ》と|頼《たの》みて|帰《かへ》らうぞ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 外山豊二録)
第一五章 |諭詩《さとし》の|歌《うた》〔七八〇〕
|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》|両人《りやうにん》は  |高山彦《たかやまひこ》と|諸共《もろとも》に
|神《かみ》の|社《やしろ》を|伏《ふ》し|拝《をが》み  |顔《かほ》|赭《あか》らめてスゴスゴと
|乗《の》り|来《き》し|船《ふね》を|繋《つな》ぎたる  |磯辺《いそべ》に|行《ゆ》きて|眺《なが》むれば
|東《あづま》の|空《そら》は|茜《あかね》して  |浪《なみ》に|閃《ひら》めく|美《うる》はしさ
|湖水《こすゐ》の|底《そこ》に|潜《ひそ》みたる  |竜神様《りうじんさま》の|為《な》す|業《わざ》か
|水茎文字《みづくきもじ》の|此処彼処《ここかしこ》  アオウエイ カコクケキ
サソスセシと|現《あら》はれぬ  |三人《みたり》は|船《ふね》に|飛《と》び|乗《の》りて
|艪櫂《ろかい》を|操《あやつ》りシヅシヅと  |浪《なみ》に|浮《うか》んで|帰《かへ》り|来《く》る
|湖水《こすゐ》は|二《ふた》つに|立別《たちわか》れ  |現《あら》はれ|出《い》でし|大竜《たいりう》の
|姿《すがた》は|殊《こと》に|厳《いか》めしく  |黄金《こがね》の|鱗《うろこ》に|太刀《たち》の|膚《はだ》
|雲《くも》を|起《おこ》して|大空《おほぞら》に  |忽《たちま》ち|昇《のぼ》る|凄《すさま》じさ
|三人《みたり》は|空《そら》を|打《う》ち|仰《あふ》ぎ  |眺《なが》むる|間《うち》に|大竜《たいりう》の
|姿《すがた》は|直《ただち》に|雲《くも》と|消《き》え  |涼《すず》しき|風《かぜ》の|共響《むたひび》き
|幽遠《いうゑん》|微妙《びめう》の|音楽《おんがく》は  |何処《いづく》ともなく|聞《きこ》え|来《く》る
|四辺《しへん》は|忽《たちま》ち|芳香《はうかう》に  |包《つつ》まれ|心《こころ》は|清々《すがすが》と
|甦《よみがへ》りたる|思《おも》ひして  |船《ふね》を|進《すす》むる|折柄《をりから》に
ヒラリヒラリと|蓮花《はちすばな》  |雪《ゆき》の|如《ごと》くに|降《ふ》り|来《きた》り
|三人《みたり》が|船《ふね》に|堆高《うづたか》く  |積《つも》り|積《つも》ると|見《み》る|間《うち》に
|蓮《はちす》の|花《はな》は|何時《いつ》しかに  |姿《すがた》|変《へん》じて|美《うる》はしき
|平和《へいわ》の|女神《めがみ》となり|了《を》へぬ  |三人《みたり》はここに|合掌《がつしやう》し
|欣求浄土《ごんぐじやうど》の|弥陀如来《みだによらい》  |弥勒菩薩《みろくぼさつ》の|来迎《らいがう》か
|木花姫《このはなひめ》の|出現《しゆつげん》か  |但《ただし》は|竜宮《りうぐう》の|乙姫《おとひめ》か
|崇高《けだか》き|姿《すがた》と|村肝《むらきも》の  |心《こころ》の|底《そこ》より|恭敬《きようけい》し
|思《おも》はず|頭《かうべ》を|下《さ》げつれば  |女神《めがみ》は|言葉《ことば》|淑《しと》やかに
|三人《みたり》に|向《むか》つてさやさやと  |神勅《みのり》を|伝《つた》へ|給《たま》ひけり。
|天教山《てんけうざん》に|永久《とこしへ》に  |千木《ちぎ》|高《たか》|知《し》りて|鎮《しづ》まれる
|我《われ》は|木花姫神《このはなひめのかみ》  |汝《なんぢ》は|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》か
|高山彦《たかやまひこ》よよつく|聞《き》け  |神《かみ》が|表《おもて》に|現《あら》はれて
|善《ぜん》と|悪《あく》とを|立別《たてわ》ける  |此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|神直日《かむなほひ》
|心《こころ》も|広《ひろ》き|大直日《おほなほひ》  |只《ただ》|何事《なにごと》も|人《ひと》の|世《よ》は
|直日《なほひ》に|見直《みなほ》し|聞直《ききなほ》し  |身《み》の|過《あやま》ちは|宣《の》り|直《なほ》せ
|神《かみ》は|汝《なんぢ》と|倶《とも》にあり  |神《かみ》の|分霊《みたま》を|享《う》けながら
|小《ちひ》さき|慾《よく》にからまれて  |在処《ありか》も|知《し》れぬ|玉探《たまさが》し
|玉《たま》を|探《さが》すは|良《よ》けれども  |天地《てんち》の|神《かみ》の|賜《たま》ひたる
|汝《なれ》が|霊魂《みたま》を|何時《いつ》しかに  |八十《やそ》の|枉津《まがつ》に|抜《ぬ》きとられ
|見《み》るも|穢《きたな》き|醜魂《しこだま》と  スリ|変《か》へられて|居《ゐ》ながらも
|誠《まこと》の|霊《たま》を|他所《よそ》にして  |形《かたち》の|玉《たま》に|目《め》も|眩《くら》み
|遠《とほ》き|海原《うなばら》|乗《の》りきりて  |彷徨《さまよ》ひ|廻《まは》る|憐《あは》れさよ
|汝《なんぢ》|高姫《たかひめ》、|黒姫《くろひめ》よ  |高山彦《たかやまひこ》よ|今《いま》よりは
|生《うま》れ|赤子《あかご》の|魂《たましひ》に  |研《みが》き|返《かへ》して|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》をよく|悟《さと》り  |天地《てんち》に|轟《とどろ》く|言霊《ことたま》の
|貴《うづ》の|宝《たから》を|身《み》に|持《も》ちて  |天地《あめつち》|百《もも》の|神《かみ》|等《たち》や
|百千万《ももちよろづ》の|民草《たみぐさ》を  |安《やす》きに|導《みちび》き|救《すく》はむと
|神《かみ》より|出《い》でし|神霊《かむみたま》  |研《みが》き|澄《す》まして|松《まつ》の|世《よ》の
|五六七《みろく》の|神業《みわざ》に|尽《つく》せよや  |厳《いづ》の|御魂《みたま》の|系統《ひつぽう》と
|心《こころ》|驕《おご》れば|忽《たちま》ちに  |又《また》もや|今日《けふ》の|玉騒《たまさわ》ぎ
|繰返《くりかへ》しつつ|拭《ぬぐ》はれぬ  |恥《はぢ》を|掻《か》くのは|目《ま》のあたり
|竜《たつ》の|宮居《みやゐ》の|乙姫《おとひめ》と  |曲津《まがつ》の|神《かみ》の|囁《ささや》きを
|大和魂《やまとみたま》の|生粋《きつすゐ》と  |思《おも》ひ|詰《つ》めたる|執着《しふちやく》の
|心《こころ》の|鬼《おに》に|責《せ》められて  |苦《くる》しみ|悶《もだ》ゆる|可憐《いぢ》らしさ
|木花姫《このはなひめ》の|神言《かみごと》を  |真《まこと》に|受《う》けて|聞《き》くならば
|天ケ下《あめがした》には|仇《あだ》もなく  |枉津《まがつ》の|襲《おそ》ふ|術《すべ》もなし
|神《かみ》は|汝《なんぢ》と|倶《とも》にあり  |神《かみ》の|造《つく》りし|神《かみ》の|宮《みや》
|心《こころ》を|正《ただ》しく|清《きよ》めなば  |如何《いか》でか|枉津《まがつ》の|潜《ひそ》むべき
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |神《かみ》の|御言《みこと》を|畏《かしこ》みて
|一日《ひとひ》も|早《はや》く|片時《かたとき》も  |誠《まこと》の|心《こころ》に|帰《かへ》れかし
|仕組《しぐみ》は|深《ふか》し|琵琶《びは》の|湖《うみ》  |浪《なみ》に|漂《ただよ》ふ|竹生島《ちくぶじま》
|神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の  |肉《にく》の|御宮《みや》より|生《あ》れませる
|神徳《しんとく》|高《たか》き|英子姫《ひでこひめ》  |万代《よろづよ》|祝《いは》ふ|亀彦《かめひこ》の
|三五教《あななひけう》の|宣伝使《せんでんし》  |竹生《ちくぶ》の|島《しま》にましませど
|汝《な》が|身《み》の|心《こころ》|闇《くら》くして  |其《その》|御舎《みあらか》も|得知《えし》らず
やみやみ|帰《かへ》る|哀《あは》れさよ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|尊《たふと》き|神《かみ》の|御言《みこと》もて  |木花姫《このはなひめ》が|今《いま》|此処《ここ》に
|汝《なれ》が|身《み》の|上《うへ》|憐《あは》れみつ  |天《あめ》と|地《つち》との|道理《ことわり》を
|完全《うまら》に|詳細《つばら》に|説《と》き|諭《さと》す  |朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも
|月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも  |仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも
|我《わが》|言《こと》の|葉《は》は|変《かは》らまじ  |三千世界《さんぜんせかい》の|梅《うめ》の|花《はな》
|一度《いちど》に|開《ひら》く|言霊《ことたま》の  |清《きよ》きは|神《かみ》の|心《こころ》なり
|清《きよ》きは|神《かみ》の|心《こころ》なり  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|永久《とこしへ》に
|鎮《しづ》まりいます|神島《かみしま》に  |神《かみ》の|縁《えにし》に|繋《つな》がれて
|詣《まう》で|来《きた》れる|三人連《みたりづ》れ  |汝《なれ》が|望《のぞ》みし|三《み》つの|玉《たま》
|神《かみ》の|仕組《しぐみ》で|永久《とこしへ》に  |匿《かく》されあれば|今《いま》よりは
|心《こころ》の|底《そこ》より|諦《あきら》めて  |玉《たま》に|魂《たま》をば|抜《ぬ》かれなよ
|汝《な》が|身《み》の|此処《ここ》に|来《きた》りしは  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》の
|魂《たま》に|憑《うつ》りし|天狗《たかがみ》の  |業《わざ》にはあらじ|皇神《すめかみ》の
|尊《たふと》き|珍《うづ》の|御仕組《おんしぐみ》  |心《こころ》を|平《たひ》らに|安《やす》らかに
|綾《あや》の|高天《たかま》にたち|帰《かへ》り  |悔《く》い|改《あらた》めて|真心《まごころ》の
|証《あかし》をなせよ|三身魂《みつみたま》  |三五《さんご》の|月《つき》の|輝《かがや》きて
|錦《にしき》の|宮《みや》の|棟《むね》|高《たか》く  きらめき|渡《わた》る|十曜《とえう》の|紋《もん》
|神《かみ》の|光《ひかり》と|拝《をろが》みて  |心《こころ》を|乱《みだ》す|事《こと》|勿《なか》れ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませと
|雲霧《くもきり》わけて|大空《おほぞら》に  |何時《いつ》しか|貴《うづ》の|神姿《みすがた》は
|消《き》えさせ|給《たま》ひし|訝《いぶ》かしさ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|転迷開悟《てんめいかいご》の|蓮花《はちすばな》  |天教山《てんけうざん》をたち|出《い》でて
|三人《みたり》の|心《こころ》を|照《て》らさむと  |木花姫《このはなひめ》の|御神《おんかみ》が
|心《こころ》を|籠《こ》めし|御教《みをしへ》も  |執着心《しふちやくしん》の|雲《くも》|深《ふか》く
|容易《ようい》に|晴《は》れぬ|高姫《たかひめ》は  |木花姫《このはなひめ》が|何《なに》|偉《えら》い
|日《ひ》の|出神《でのかみ》や|竜宮《りうぐう》の  |乙姫《おとひめ》さまに|比《くら》ぶれば
|物《もの》の|数《かず》にも|当《あた》らない  お|釈迦《しやか》に|経《きやう》を|説《と》く|様《やう》な
|矛盾《ほことん》だらけの|宣言《のりごと》を  |他人《ひと》は|知《し》らねど|高姫《たかひめ》は
|如何《どう》して|之《これ》が|聞《き》かれうか  |馬鹿《ばか》になさるも|程《ほど》がある
|木花姫《このはなひめ》の|御言葉《おことば》を  |今《いま》に|至《いた》つて|聞《き》く|様《やう》な
|優《やさ》しい|身魂《みたま》の|高姫《たかひめ》と  |思召《おぼしめ》すかや|情《なさけ》ない
|変性男子《へんじやうなんし》の|系統《ひつぽう》ぢや  |日《ひ》の|出神《でのかみ》を|何処迄《どこまで》も
|金輪奈落《こんりんならく》の|底《そこ》|深《ふか》く  |信《しん》じ|奉《まつ》つた|高姫《たかひめ》は
そんなヘドロイ|霊《たま》でない  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|何処《いづこ》に|匿《かく》しありとても  |探《さが》し|当《あ》てずに|措《お》くものか
|木花姫《このはなひめ》の|男女郎《をとこめらう》  |富士《ふじ》の|山《やま》から|飛《と》んで|来《き》て
|三人《みたり》の|者《もの》にツベコベと  |訳《わけ》の|分《わか》らぬ|事《こと》|吐《ほざ》き
|雲《くも》を|霞《かすみ》と|逃《に》げ|去《さ》つた  |其《その》|醜態《ぶざま》さはなかなかに
|見《み》るも|憐《あは》れな|次第《しだい》なり  |黒姫《くろひめ》さまよ|高山彦《たかやまひこ》の
|長《なが》い|頭《あたま》の|福禄寿《げほう》さま  この|様《やう》な|事《こと》に|肝《きも》|潰《つぶ》し
|心《こころ》を|変《か》へちやならないぞ  トコトン|迄《まで》も|耐《こば》りつめ
|変性男子《へんじやうなんし》の|系統《ひつぽう》が  |日《ひ》の|出神《でのかみ》と|諸共《もろとも》に
|天晴《あつぱ》れ|表《おもて》になる|迄《まで》は  |私《わたし》の|側《そば》を|離《はな》れなよ
|高姫司《たかひめつかさ》の【へらず】|口《ぐち》  |聞《き》き|度《た》うないかは|知《し》らねども
|袖《そで》|振《ふ》り|合《あ》ふも|多生《たしやう》の|縁《えん》  |躓《つまづ》く|石《いし》も|縁《えん》の|端《はし》
|同《おな》じ|教《をしへ》の|友舟《ともぶね》に  |乗《の》つた|以上《いじやう》は|波《なみ》も|立《た》つ
レコード|破《やぶ》りの|風《かぜ》も|吹《ふ》く  |間《あひま》にや|暗礁《あんせう》に|突《つ》きあたる
|時《とき》には|沈没《ちんぼつ》|逃《のが》れない  それが|恐《こは》くて|三五《あななひ》の
|神《かみ》の|教《をしへ》が|開《ひら》けよか  |臆病風《おくびやうかぜ》に|誘《さそ》はれて
|腰《こし》を|抜《ぬ》かしちやならないよ  |心《こころ》の|弱《よわ》い|黒姫《くろひめ》や
|高山彦《たかやまひこ》の|友舟《ともぶね》は  なんだかちつとも|気乗《きの》りせぬ
|比叡山颪《ひえいざんおろし》に|吹《ふ》かれつつ  |伊吹《いぶき》の|山《やま》を|仰《あふ》ぎ|見《み》て
|荒波《あらなみ》|猛《たけ》る|湖面《うみづら》を  |渡《わた》つて|帰《かへ》る|勇《いさ》ましさ
|仮令《たとへ》|何事《なにごと》あらうとも  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》が
|此《この》|世《よ》にあれます|其《その》|限《かぎ》り  |鬼《おに》が|出《で》ようとも|大丈夫《だいぢやうぶ》
|鬼《おに》に|鉄棒《かなぼう》|大船《おほふね》に  |乗《の》り|込《こ》む|様《やう》な|心地《ここち》して
|跟《つ》いて|御座《ござ》れよ|何処迄《どこまで》も  |今《いま》は|言依別神《ことよりわけのかみ》
|有象無象《うざうむざう》に|抱《かか》へられ  |翔《た》つ|鳥《とり》さへも|落《おと》す|様《やう》な
|偉《えら》い|勢《いきほひ》であるなれど  |驕《おご》る|平家《へいけ》は|久《ひさ》しうない
|桜《さくら》の|花《はな》は|何時《いつ》までも  |梢《こずゑ》に|留《とど》まるもので|無《な》い
|一度《ひとつ》|嵐《あらし》が|吹《ふ》いたなら  |落花狼藉《らくくわらうぜき》|花莚《はなむしろ》
|見上《みあ》げた|人《ひと》の|足許《あしもと》に  |踏《ふ》み|蹂《にじ》られて|亡《ほろ》び|行《ゆ》く
|此処《ここ》の|道理《だうり》を|弁《わきま》へて  |今《いま》は|冬木《ふゆぎ》の|吾《われ》なれど
|軈《やが》て|花《はな》|咲《さ》く|春《はる》が|来《く》る  |私《わたし》の|出世《しゆつせ》を|楽《たの》しみに
|真心《まごころ》|尽《つく》して|来《く》るならば  |仇《あだ》には|捨《す》てぬ|高姫《たかひめ》が
|肝腎要《かんじんかなめ》の|片腕《かたうで》と  |屹度《かならず》|重《おも》く|使《つか》ひます
|何《なん》と|言《い》うても|系統《ひつぽう》ぢや  |高姫《たかひめ》さまには|叶《かな》はない
|是《これ》|程《ほど》|見易《みやす》い|道理《ことわり》が  |賢《かしこ》いお|前《まへ》に|何《なん》として
|分《わか》つて|来《こ》ぬのか|妾《わし》や|不思議《ふしぎ》  |神《かみ》の|奥《おく》には|奥《おく》がある
|其《その》|又《また》|奥《おく》には|奥《おく》がある  |十五《じふご》の|空《そら》には|片割《かたわ》れの
|月《つき》は|如何《どう》して|出《で》るものか  |世間《せけん》の|亡者《まうじや》は|種々《いろいろ》と
|理屈《りくつ》ばかりを|言《い》ふけれど  |三五《さんご》の|月《つき》の|神教《みをしへ》は
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》を  |抜《ぬ》いたら|片割《かたわ》れ|月《つき》ぢやぞえ
|雲《くも》に|深《ふか》くも|包《つつ》まれて  |其《その》|半分《はんぶん》はここにある
|片割《かたわ》れ|月《づき》を|喜《よろこ》んで  |言依別《ことよりわけ》を|始《はじ》めとし
|杢助《もくすけ》|親娘《おやこ》や|玉能姫《たまのひめ》  |国依別《くによりわけ》や|秋彦《あきひこ》の
|訳《わけ》の|分《わか》らぬ|幹部連《かんぶれん》  |今《いま》に|高姫《たかひめ》|帰《かへ》りなば
ビツクリ|仰天《ぎやうてん》|尻餅《しりもち》を  |搗《つ》いてアフンとするであらう
|必《かなら》ず|気《き》をば|腐《くさ》らさず  |夫婦《めをと》|仲《なか》|良《よ》く|手《て》を|曳《ひ》いて
|竜宮《りうぐう》さまの|生宮《いきみや》と  それが|違《ちが》ふが|違《ちが》ふまいが
|初《はじ》めの|言葉《ことば》を|立《た》て|通《とほ》し  |途中《とちう》で|屁太《へた》つちやなりませぬ
|高山《たかやま》さまは|立派《りつぱ》なる  |男《をとこ》の|癖《くせ》に|又《また》しても
|弱音《よわね》を|吹《ふ》いて|高姫《たかひめ》の  |心《こころ》を|曇《くも》らす|弱《よわ》い|人《ひと》
|黒姫《くろひめ》さまも|是《これ》からは  ヘイヘイハイハイ|何事《なにごと》も
|親爺《おやぢ》の|言葉《ことば》に|従《したが》はず  ちつとは|意見《いけん》をなさいませ
あまり|男《をとこ》を|大切《たいせつ》に  |思《おも》ひ|過《す》ごして|神《かみ》の|道《みち》
チト|疎《おろそ》かになりかけた  |此《この》|高姫《たかひめ》が|見《み》て|居《を》れば
|真《ほん》に|目倦《めだる》い|事《こと》ばかり  |終《しまひ》にや|歯痒《はがゆ》うなつて|来《く》る
|女房《にようばう》の|決心《けつしん》|一《ひと》つにて  |男《をとこ》は|如何《どう》でもなるものだ
|甘《うま》い|顔《かほ》して|見《み》せる|故《ゆゑ》  |高山《たかやま》さまが|駄々《だだ》|捏《こ》ねて
|高姫《たかひめ》までも|困《こま》らせる  チツトはお|気《き》を|付《つ》けなされ
チツトやソツトで|神《かみ》の|道《みち》  さう|易々《やすやす》と|行《ゆ》くものか
|日《ひ》の|出神《でのかみ》が|気《き》を|付《つ》ける  |妾《わし》の|意見《いけん》と|茄子《なすび》の|花《はな》は
|千《せん》に|一《ひと》つも【あだ】はない  【あだ】に|聞《き》いてはなりませぬ
|七重《ななへ》や|八重《やへ》や|九重《ここのへ》と  |花《はな》は|匂《にほ》へど|山吹《やまぶき》の
|結実《みのり》の|致《いた》さぬ【あだ】|花《ばな》に  |現《うつつ》を|抜《ぬ》かして|言依別《ことよりわけ》の
ハイカラ|命《みこと》の|花心《はなごころ》  |盛《さか》り|短《みじか》い【あだ】|花《ばな》に
|心《こころ》|移《うつ》しちやなりませぬ  |苦労《くらう》の|長《なが》い|梅《うめ》の|花《はな》
|冬《ふゆ》の|寒《さむ》さを|能《よ》く|忍《しの》び  |雪《ゆき》の|晨《あした》や|霜《しも》の|宵《よひ》
|堪《こら》へ|忍《しの》んで|春《はる》を|待《ま》ち  |万《よろづ》の|花《はな》に|魁《さきがけ》て
|匂《にほ》ひ|出《い》でたる|花《はな》の|香《か》は  |天《てん》より|高《たか》い|高姫《たかひめ》の
|言葉《ことば》の|花《はな》に|如《し》くはない  |黒姫《くろひめ》さまよ|高山《たかやま》の
|峰《みね》に|咲《さ》いたる|松《まつ》の|花《はな》  |手折《たを》る|由《よし》なき|高望《たかのぞ》み
スツパリやめて|高姫《たかひめ》の  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》に
|心《こころ》を|委《ゆだ》ね|身《み》を|任《まか》せ  |昨夜《ゆうべ》の|様《やう》な|馬鹿《ばか》な|事《こと》
|決《けつ》して|言《い》ふちやなりませぬ  |三歳児《みつご》に|説教《せつけう》する|様《やう》な
|気分《きぶん》が|致《いた》して|頼《たよ》りない  |頼《たよ》りに|思《おも》うた|黒姫《くろひめ》や
|高山彦《たかやまひこ》の|弱腰《よわごし》に  |妾《わたし》も|一寸《ちよつと》|泡《あわ》|吹《ふ》いた
|幸《さいは》ひ|此処《ここ》は|湖《うみ》の|上《うへ》  |四辺《あたり》に|人《ひと》の|居《を》らざるを
|見《み》すまし|誠《まこと》を|説《と》いて|置《お》く  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|漸《やうや》くにして|船《ふね》は|大津辺《おほつべ》に|安着《あんちやく》した。アール、エースの|二人《ふたり》は|高山彦《たかやまひこ》の|帰《かへ》り|来《きた》るを|今《いま》や|遅《おそ》しと|湖辺《こへん》を|眺《なが》めて|待《ま》ち|倦《あぐ》みつつあつた。
アール、エースの|両人《りやうにん》は  |永《なが》らく|湖辺《こへん》に|待《ま》たされて
|高山彦《たかやまひこ》のお|帰《かへ》りを  |頸《くび》を|伸《の》ばして|待《ま》ち|居《ゐ》たる
そこへ|荒浪《あらなみ》|乗《の》り|切《き》りつ  |恐《こは》い|顔《かほ》した|高姫《たかひめ》が
|漸《やうや》う|此処《ここ》に|帰《かへ》り|来《く》る  アール、エースの|両人《りやうにん》は
|直《ただ》ちに|側《そば》に|走《はし》り|寄《よ》り  |高姫《たかひめ》|様《さま》かお|目出度《めでた》う
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |何処《いづこ》に|置《お》いて|御座《ござ》りますか
|根《ね》つから|其処等《そこら》に|影《かげ》もない  |大方《おほかた》|貴女《あなた》はお|宝《たから》を
|丸呑《まるの》みしたのに|違《ちが》ひない  |道理《だうり》でお|腹《なか》が|膨《ふく》れてる
サアサア|早《はや》く|帰《かへ》りませう  |私《わたし》も|永《なが》らく|待《ま》ち|佗《わ》びた
|黒姫《くろひめ》さまは|黄金《わうごん》の  |尊《たふと》い|玉《たま》を|手《て》に|入《い》れて
|何処《どこ》へお|匿《かく》し|遊《あそ》ばした  |高山《たかやま》さまも|紫《むらさき》の
|玉《たま》を|首尾《しゆび》よう|手《て》に|入《い》れて  お|帰《かへ》りましたでありませう
サアサア|一同《いちどう》|打《う》ち|揃《そろ》ひ  |逢坂山《あふさかやま》を|乗《の》り|越《こ》えて
|淀《よど》の|川瀬《かはせ》を|川上《かはのぼ》り  |嵐《あらし》の|山《やま》や|保津《ほづ》の|谷《たに》
|神《かみ》の|御稜威《みいづ》も|大井川《おほゐがは》  |観音峠《くわんのんたうげ》を|乗《の》り|越《こ》えて
|聖地《せいち》を|指《さ》して|帰《かへ》りませう  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|神《かみ》の|御霊《みたま》の|幸《さち》はひて  こんな|嬉《うれ》しい|事《こと》はない
|高山《たかやま》さまのお|供《とも》して  |跟《つ》いて|参《まゐ》つた|其《その》|酬《むく》い
|私《わたし》の|肩《かた》まで|広《ひろ》うなる  アール、エースの|両人《りやうにん》は
|綾《あや》の|高天《たかま》に|馳《は》せ|上《のぼ》り  |日《ひ》の|出神《でのかみ》のお|脇立《わきだち》
|立派《りつぱ》な|神《かみ》と|謳《うた》はれて  |聖地《せいち》の|花《はな》と|咲《さ》き|匂《にほ》ふ
|思《おも》へば|思《おも》へば|有難《ありがた》し  |忝《かたじけ》なしと|伏《ふ》し|拝《をが》む
|其《その》|有様《ありさま》の|可憐《いぢら》しさ  |高姫《たかひめ》|答《こた》ふる|言葉《ことば》なく
|黙然《もくねん》として|居《ゐ》たりしが  |黒姫《くろひめ》|忽《たちま》ちシヤシヤり|出《い》で
お|前《まへ》はアール、エールさま  |神《かみ》の|奥《おく》には|奥《おく》がある
お|前《まへ》の|知《し》つた|事《こと》ぢやない  |構《かま》ひ|立《だ》てをばして|呉《く》れな
|由縁《いはれ》を|言《い》うては|居《を》られない  |執拗《しつこ》う|言《い》へば|腹《はら》が|立《た》つ
|言《い》はぬは|言《い》ふに|弥《いや》|勝《まさ》る  |物《もの》は|言《い》ふまい|物《もの》|言《い》うた|故《ゆゑ》に
|父《ちち》は|長良《ながら》の|人柱《ひとばしら》  |雉子《きじ》も|鳴《な》かねば|撃《う》たれまい
お|前《まへ》はお|黙《だま》り|居《を》りなさい  |神《かみ》が|表《おもて》に|現《あら》はれて
|善《ぜん》と|悪《あく》とを|立《た》て|別《わ》ける  |此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|神直日《かむなほひ》
|心《こころ》も|広《ひろ》き|大直日《おほなほひ》  |只《ただ》|何事《なにごと》も|黒姫《くろひめ》が
|羽織《はおり》の|紐《ひも》ぢや|胸《むね》にある  |何《なん》にも|言《い》はずについて|来《こ》い
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|浪《なみ》に|浮《うか》べる|竹生島《ちくぶじま》  |神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の
|隠《かく》れ|給《たま》ひし|仮館《かりやかた》  |守《まも》り|給《たま》へる|英子姫《ひでこひめ》
|三五教《あななひけう》の|神司《かむづかさ》  |亀彦《かめひこ》|諸共《もろとも》|弁天《べんてん》の
|神《かみ》の|社《やしろ》に|拝礼《はいれい》し  |綾《あや》の|聖地《せいち》に|向《むか》はむと
|艪櫂《ろかい》を|操《あやつ》る|舟《ふね》の|上《うへ》  |伊吹颪《いぶきおろし》に|吹《ふ》かれつつ
|心《こころ》は|高天原《たかま》に|沖《おき》の|島《しま》  |左手《ゆんで》に|眺《なが》めて|漕《こ》ぎ|渡《わた》る
|琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》の|浪《なみ》|高《たか》く  |風《かぜ》は|俄《にはか》に|吹《ふ》き|荒《すさ》び
|御舟《みふね》は|将《まさ》に|覆《かへ》らむと  する|時《とき》|忽《たちま》ち|天空《てんくう》を
|照《て》らして|下《くだ》る|一団《いちだん》の  |火光《くわくわう》は|美々《びび》しき|神《かみ》となり
|二人《ふたり》が|舟《ふね》に|現《あら》はれて  |声《こゑ》|朗《ほがら》かに|言霊《ことたま》を
|宣《の》らせ|給《たま》へばアラ|不思議《ふしぎ》  |波《なみ》は|忽《たちま》ち|凪《な》ぎ|渡《わた》り
|荒風《あらかぜ》|俄《にはか》に|鎮《しづ》まりて  |鏡《かがみ》の|如《ごと》き|湖《うみ》の|面《おも》
|辷《すべ》り|行《ゆ》くこそ|勇《いさ》ましき  |今《いま》|現《あら》はれし|神人《しんじん》は
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御化身《おんけしん》  |大津《おほつ》の|浜《はま》に|着《つ》くや|否《いな》
|烟《けぶり》の|如《ごと》く|消《き》え|給《たま》ひ  |何処《いづこ》ともなく|帰《かへ》ります
|英子《ひでこ》の|姫《ひめ》は|伏《ふ》し|拝《をが》み  |神《かみ》の|恵《めぐみ》を|感謝《かんしや》しつ
|亀彦《かめひこ》|伴《ともな》ひ|唐崎《からさき》の  |松《まつ》に|名残《なごり》を|惜《をし》みつつ
|清《きよ》き|神代《かみよ》を|三井《みゐ》の|寺《てら》  |五六七《みろく》の|神《かみ》に|逢坂《あふさか》の
|関路《せきぢ》を|越《こ》えて|大谷《おほたに》や  |伏見《ふしみ》、|桃山《ももやま》|何時《いつ》しかに
|後《あと》に|眺《なが》めて|進《すす》み|行《ゆ》く  |花《はな》の|都《みやこ》の|傍辺《かたほとり》
|浮名《うきな》を|流《なが》せし|桂川《かつらがは》  |二人《ふたり》の|身魂《みたま》も|堅木原《かたきはら》
|足《あし》に|穿《うが》てる|沓掛《くつかけ》の  |関所《せきしよ》を|越《こ》えて|大枝山《おほえやま》
|子安《こやす》の|地蔵《ぢざう》を|右《みぎ》に|見《み》て  |罪《つみ》も|穢《けがれ》も|梨《なし》の|木《き》の
|峠《たうげ》を|下《くだ》り|三間坂《さんげざか》  |夜《よ》は|明《あ》けはなれ|明《あか》けれど
|名《な》は|暗《くらがり》の|宮《みや》|越《こ》えて  |青草《あをくさ》|茂《しげ》る|篠村《しのむら》や
|広道《ひろみち》、|馬堀《うまほり》、|柏原《かしはばら》  |高熊山《たかくまやま》の|霊山《れいざん》を
|左手《ゆんで》に|眺《なが》めてシトシトと  |大井《おほゐ》の|流《なが》れに|沿《そ》ひながら
|羽《はね》は|無《な》けれど|鳥羽《とば》の|駅《えき》  |流《なが》れも|清《きよ》き|室河原《むろかはら》
|小山《こやま》、|松原《まつばら》|早《はや》|越《こ》えて  |花《はな》の|園部《そのべ》や|小麦山《こむぎやま》
|三十三相《さんじふさんさう》|名《な》に|負《お》ひし  |観音峠《くわんおんたうげ》の|頂上《ちやうじやう》に
|息《いき》を|休《やす》めて|二人連《ふたりづ》れ  |須知《しゆち》、|蒲生野《こもうの》や|檜山《ひのきやま》
|神《かみ》に|由縁《ゆかり》の|三《さん》の|宮《みや》  |榎《えのき》|枯木《こぼく》の|峠《たうげ》|越《こ》え
|大原《おほはら》、|台頭《だいとう》、|須知山《しゆちやま》の  |谷道《たにみち》|下《くだ》り|漸々《やうやう》に
|風光絶佳《ふうくわうぜつか》の|並松《なみまつ》に  |二人《ふたり》は|目出度《めでた》く|着《つ》きにけり
|流《なが》れも|清《きよ》き|小雲川《こくもがは》  |並木《なみき》の|老松《らうしよう》|色《いろ》|深《ふか》く
|水《みづ》に|影《かげ》をば|映《うつ》しつつ  |松《まつ》の|梢《こずゑ》に|魚《うを》|躍《をど》る
|綾《あや》の|大橋《おほはし》|右《みぎ》に|見《み》て  |愈《いよいよ》|聖地《せいち》に|着《つ》きにけり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 北村隆光録)
第一六章 |三五玉《さんごだま》〔七八一〕
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》  |黄金《こがね》の|玉《たま》や|紫《むらさき》の
|三《み》つの|御玉《みたま》の|御神業《ごしんげふ》  あらまし|此処《ここ》に|述《の》べておく
|天津御神《あまつみかみ》の|永久《とこしへ》に  |現幽神《げんいうしん》の|三界《さんかい》を
|永遠無窮《ゑいゑんむきう》に|治《をさ》めます  |天壤《てんぜう》|無窮《むきう》の|神宝《しんぱう》は
|金剛不壊《こんがうふゑ》の|宝珠《ほつしゆ》なり  |経済学《けいざいがく》の|根本《こんぽん》を
|岩《いは》より|固《かた》くつきかため  |地上《ちじやう》の|世界《せかい》を|円満《ゑんまん》に
|融通《ゆうづう》|按配《あんばい》|治《をさ》めゆく  |金銀無為《きんぎんむゐ》の|政策《せいさく》を
|実行《じつかう》|致《いた》すは|黄金《わうごん》の  |厳《いづ》の|宝珠《ほつしゆ》の|永久《とこしへ》に
|変《かは》らぬ|神《かみ》の|仕組《しぐみ》なり  |又《また》|紫《むらさき》の|宝玉《ほうぎよく》は
|天下万民《てんかばんみん》|悉《ことごと》く  |神《かみ》の|御稜威《みいづ》に|悦服《えつぷく》し
|神人《しんじん》|和合《わがふ》の|其《その》|基礎《きそ》を  |永遠無窮《ゑいゑんむきう》に|守《まも》ります
|神《かみ》の|定《さだ》めし|神宝《しんぱう》ぞ  |抑《そもそ》も|三《み》つの|御宝《みたから》は
|天津御神《あまつみかみ》や|国津神《くにつかみ》  |天国《てんごく》|浄土《じやうど》の|政治《せいぢ》をば
|豊葦原《とよあしはら》の|瑞穂国《みづほくに》  |五《いつ》つの|島《しま》に|隈《くま》もなく
|神《かみ》の|助《たす》けと|諸共《もろとも》に  |伊照《いて》り|透《とう》らし|万民《ばんみん》を
|安息《あんそく》せしむる|神業《かむわざ》に  |最大必要《さいだいひつえう》の|宝《たから》なり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |深遠微妙《しんゑんびめう》の|神界《しんかい》の
|万世不磨《ばんせいふま》の|御経綸《ごけいりん》  |太《ふと》き|御稜威《みいづ》も|高熊《たかくま》の
|山《やま》に|隠《かく》せし|黄金《わうごん》の  |晨《あした》を|告《つ》ぐる|鶏《にはとり》や
|波間《はかん》に|浮《うか》ぶ|神島《かみしま》の  |常磐《ときは》の|松《まつ》の|根底《こんてい》に
かくし|給《たま》ひし|珍宝《うづたから》  |金剛不壊《こんがうふゑ》の|如意宝珠《によいほつしゆ》
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |紫色《むらさきいろ》の|神宝《しんぱう》も
|愈《いよいよ》|此《この》|世《よ》に|現《あら》はれて  |光《ひかり》を|放《はな》つ|神《かみ》の|世《よ》は
さまで|遠《とほ》くはあらざらめ  |此《この》|世《よ》を|造《つく》りし|大神《おほかみ》の
|水《みづ》も|漏《も》らさぬ|御仕組《おんしぐみ》  |竜宮城《りうぐうじやう》の|乙姫《おとひめ》が
|玉《たま》の|御手《みて》より|賜《たま》ひたる  |浦島太郎《うらしまたらう》の|玉手函《たまてばこ》
それに|優《まさ》りて|尊《たふと》きは  |三《み》つの|御玉《みたま》の|光《ひかり》なり
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|一日《ひとひ》も|早《はや》く|片時《かたとき》も  とく|速《すむや》けく|世《よ》の|為《ため》に
|現《あら》はれまして|艮《うしとら》の  |果《は》てに|隠《かく》れし|元津神《もとつかみ》
|坤《ひつじさる》なる|姫神《ひめがみ》の  |経《たて》と|緯《よこ》との|水火《いき》|合《あは》せ
|神世《みよ》|安《やす》らけく|平《たひ》らけく  |治《をさ》め|給《たま》はむ|時《とき》はいつ
|待《ま》つ|間《ま》の|永《なが》き|鶴《つる》の|首《くび》  |亀《かめ》の|齢《よはひ》の|神《かみ》の|世《よ》を
|渇仰翹望《かつかうげうばう》なしながら  |静《しづ》かに|待《ま》つぞ|楽《たの》しけれ
|波《なみ》に|漂《ただよ》ふ|一《ひと》つ|島《じま》  |黄金《こがね》|花《はな》|咲《さ》く|竜宮《りうぐう》の
|秘密《ひみつ》の|郷《さと》と|聞《きこ》えたる  |果物《くだもの》|豊《ゆたか》な|玉野原《たまのはら》
|一眸《いちばう》|千里《せんり》の|其《その》|中《なか》に  |青垣山《あをがきやま》を|三方《さんぱう》に
いと|美《うる》はしく|繞《めぐ》らせる  |金波《きんば》|漂《ただよ》ふ|諏訪《すは》の|湖《うみ》
|玉依姫《たまよりひめ》の|永久《とこしへ》に  |水底《みなそこ》|深《ふか》く|鎮《しづ》まりて
|守《まも》り|給《たま》ひし|麻邇《まに》の|玉《たま》  |天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる
|青赤白黄紫《あおあかしろきむらさき》の  |玉《たま》の|功績《いさを》を|述《の》べつれば
|世界《せかい》|統治《とうぢ》の|礎《いしずゑ》を  |堅磐常磐《かきはときは》につきかため
|天《あめ》の|下《した》をば|安国《やすくに》と  |治《をさ》むる|王者《わうじや》の|身魂《みたま》こそ
|紫玉《むらさきだま》の|功績《いさをし》ぞ  |王者《わうじや》に|仕《つか》へ|民《たみ》|治《をさ》め
|中執臣《なかとりおみ》と|勤《いそ》しみて  |世界《せかい》を|治《をさ》むる|大臣《おほおみ》の
|稜威《いづ》の|活動《くわつどう》|其《その》ものは  |心《こころ》も|赤《あか》き|赤玉《あかだま》の
|天地《てんち》|自然《しぜん》の|功績《いさをし》ぞ  |国魂神《くにたまがみ》と|現《あら》はれて
|百《もも》の|民草《たみぐさ》|治《をさ》めゆく  |小《ちひ》さき|臣《おみ》の|活動《くわつどう》は
|臣《おみ》の|位《くらゐ》の|水御玉《みづみたま》  |上《かみ》を|敬《ゐやま》ひ|下《しも》を|撫《な》で
|臣《おみ》の|位《くらゐ》を|能《よ》く|尽《つく》し  |上《うへ》は|無窮《むきう》の|大君《おほぎみ》に
|下《しも》は|天下《てんか》の|民草《たみぐさ》に  |心《こころ》の|限《かぎ》り|身《み》を|尽《つく》し
|誠《まこと》を|尽《つく》す|活動《くわつどう》は  |水《みづ》の|位《くらゐ》の|白玉《しろたま》の
|天地《てんち》|確定《さだめ》の|功績《いさをし》ぞ  |神《かみ》を|敬《うやま》ひ|大君《おほぎみ》を
|尊《たふと》び|奉《まつ》り|耕《たがや》しの  |道《みち》に|勤《いそ》しみ|工《こう》|業《げふ》や
|世界《せかい》|物質《ぶつしつ》の|流通《りうつう》に  |只管《ひたすら》|仕《つか》ふる|商人《あきうど》の
|誠《まこと》の|道《みち》を|固《かた》め|行《ゆ》く  |天地《てんち》|自然《しぜん》の|功績《いさをし》は
|土《つち》に|因《ちな》みし|黄金《わうごん》の  |稜威《いづ》の|御玉《みたま》の|天職《てんしよく》ぞ
さはさり|乍《なが》ら|今《いま》の|世《よ》は  |心《こころ》の|赤《あか》き|赤玉《あかだま》も
それに|次《つ》ぐべき|白玉《しろだま》も  |黄色《きいろ》の|玉《たま》も|悉《ことごと》く
|光《ひかり》なきまで|曇《くも》り|果《は》て  |何《なん》の|用《よう》なき|団子玉《だんごだま》
|天火水地《てんくわすゐち》を|按配《あんばい》し  |此《この》|神玉《しんぎよく》の|活用《くわつよう》を
|円満清朗《ゑんまんせいろう》|自由自在《じいうじざい》  |照《て》らして|守《まも》るは|紫《むらさき》の
|神《かみ》の|結《むすび》の|玉《たま》ぞかし  |紫色《むらさきいろ》の|麻邇《まに》の|玉《たま》
|今《いま》や|微光《びくわう》を|放《はな》ちつつ  |心《こころ》の|色《いろ》も|丹波《あかなみ》の
|綾《あや》の|聖地《せいち》にチクチクと  |其《その》|片光《へんくわう》を|現《あら》はして
|常世《とこよ》の|暗《やみ》を|隈《くま》もなく  |照《て》らさせ|給《たま》ふ|光彩《くわうさい》は
|厳《いづ》の|御霊《みたま》の|神司《かむづかさ》  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|神柱《かむばしら》
|経《たて》と|緯《よこ》との|御玉《みたま》もて  |世界《せかい》|十字《じふじ》に|踏《ふ》みならし
|一《ひと》|二《ふた》|三《み》|四《よ》|五《いつ》つ|六《む》つ  |七《なな》|八《や》つ|九《ここの》つ|十《とう》たらり
|百千万《ももちよろづ》の|神人《かみびと》の  |救《すく》ひの|為《ため》に|千万《ちよろづ》の
|悩《なや》みを|忍《しの》び|出《い》で|給《たま》ふ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして  |誠《まこと》の|神《かみ》の|御教《みをしへ》に
|服従《まつろ》ひ|来《きた》る|信徒《まめひと》よ  |綾《あや》の|高天《たかま》に|古《ふる》くより
|仕《つか》へ|奉《まつ》りし|神司《かむづかさ》  |変性女子《へんじやうによし》の|瑞御霊《みづみたま》
|又《また》もや|副守《ふくしゆ》が|発動《はつどう》して  |訳《わけ》の|分《わか》らぬ|気焔《きえん》|吐《は》く
|皆々《みなみな》|一同《いちどう》|注意《ちゆうい》して  |審神《さには》をせなくちやならないぞ
|近《ちか》くに|侍《はべ》る|盲信者《まうしんじや》  |甲乙丙丁戊《かふおつへいていぼ》の|様《やう》に
|迎合《げいがふ》|盲従《まうじう》はならないぞ  |気《き》を|付《つ》け|召《め》されと|鼻高《はなだか》が
|少《すこ》しの|学識《がくしき》|鼻《はな》にかけ  いろいろ|雑多《ざつた》の|小理屈《こりくつ》を
|並《なら》べて|神《かみ》の|経綸《けいりん》を  |紛乱《ふんらん》せむと|企《たく》みつつ
|副守《ふくしゆ》の|悪霊《あくれい》に|駆使《くし》されて  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》に
|外《はづ》れる|人《ひと》も|偶《たま》にある  |同《おな》じ|教《をしへ》の|信徒《まめひと》は
|神《かみ》の|心《こころ》を|汲《く》み|取《と》りて  |互《たがひ》に|気《き》を|付《つ》け|助《たす》け|合《あ》ひ
|慢心《まんしん》|鉄道《てつだう》の|終点《しうてん》に  |行詰《ゆきつま》りたるアフン|駅《えき》
|何《なん》のエキ|無《な》き|醜態《しうたい》を  |暴露《ばくろ》させない|其《その》|間《うち》に
|世人《よびと》を|思《おも》ふ|真心《まごころ》の  |凝《こ》り|固《かた》まりし|瑞月《ずゐげつ》が
ここに|一言《いちごん》|述《の》べておく  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ  |朝日《あさひ》は|照《て》るとも|曇《くも》るとも
|月《つき》は|盈《み》つとも|虧《か》くるとも  |仮令《たとへ》|大地《だいち》は|沈《しづ》むとも
|誠《まこと》の|力《ちから》は|世《よ》を|救《すく》ふ  |誠《まこと》を|知《し》らぬ|智恵《ちゑ》|学者《がくしや》
|此《この》|物語《ものがたり》|見《み》るならば  |軽侮《けいぶ》の|念《ねん》を|起《おこ》すあり
|脱線《だつせん》|文章《ぶんしやう》と|笑《わら》ふあり  |卑近《ひきん》の|俗語《ぞくご》を|列《つら》ねたる
|半狂乱《はんきやうらん》の|悪戯《いたづら》と  |初《てん》からこなす|人《ひと》もある
|冷笑《れいせう》|悪罵《あくば》は|初《はじめ》から  |百《ひやく》も|承知《しようち》の|瑞月《ずゐげつ》が
|神《かみ》の|御言《みこと》を|畏《かしこ》みて  |三五教《あななひけう》の|真相《しんさう》を
|学《がく》と|知識《ちしき》の|評釈《ひやうしやく》で  |取違《とりちが》ひたる|過《あやま》ちを
|直日《なほひ》に|見直《みなほ》し|聞直《ききなほ》し  |宣《の》り|直《なほ》させて|神界《しんかい》の
|誠《まこと》の|道《みち》を|知《し》らさむと  |悪罵《あくば》|熱嘲《ねつてう》|顧《かへり》みず
|口《くち》の|車《くるま》の|転《ころ》ぶまに  |筆者《ひつしや》の|筆《ふで》のつづくだけ
|繰返《くりかへ》し|行《ゆ》く|小田巻《をだまき》の  いと|長々《ながなが》と|記《しる》しおく。
(大正一一・七・二〇 旧閏五・二六 松村真澄録)
第一七章 |帰《かへ》り|路《みち》〔七八二〕
|執着心《しふちやくしん》に|煽《あふ》られて  |玉《たま》の|在処《ありか》を|執拗《しつえう》に
|発見《はつけん》せむと|再度《ふたたび》の  |山《やま》の|天狗《てんぐ》の|囈言《うはごと》に
|心《こころ》を|焦《いら》ちて|高姫《たかひめ》が  |黒姫《くろひめ》、|高山彦《たかやまひこ》を|伴《つ》れ
|思《おも》ひ|思《おも》ひに|竹生島《ちくぶじま》  |古《ふる》き|社《やしろ》の|床下《ゆかした》に
|三角石《さんかくいし》を|取《と》り|除《の》けて  |掘《ほ》つても|掘《ほ》つても|玉《たま》|無《な》しの
|無駄働《むだばたら》きに|眼《まなこ》まで  |三角形《さんかくけい》に|尖《とが》らせて
|肩《かた》を|四角《しかく》に|揺《ゆす》りつつ  |暗《やみ》の|帳《とばり》を|押分《おしわ》けて
いよいよ|茲《ここ》に|断念《だんねん》し  |屋根無《たなな》し|小舟《をぶね》に|身《み》を|任《まか》せ
|琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》を|横切《よこぎ》りて  |大津《おほつ》の|浜《はま》に|安着《あんちやく》し
|高山彦《たかやまひこ》や|黒姫《くろひめ》の  |魂《たま》ぬけ|男女《なんによ》と|諸共《もろとも》に
アール、エールを|引連《ひきつ》れて  |力《ちから》の|抜《ぬ》けた|旅《たび》の|空《そら》
|路傍《ろばう》に|立《た》てる|柿《かき》の|木《き》に  |渋《しぶ》い|顔《かほ》して|村鴉《むらがらす》
|高姫《たかひめ》|一行《いつかう》を|頭上《づじやう》より  |瞰下《かんか》しながら|声《こゑ》|限《かぎ》り
アホーアホーと|鳴《な》き|立《た》てる  |高姫《たかひめ》|小癪《こしやく》にさへながら
|空《そら》ふり|向《む》いて|独《ひと》り|言《ごと》  あゝ|馬鹿《ばか》らしい|馬鹿《ばか》らしい
|烏《からす》の|奴《やつ》まで|笑《わら》ひやがる  これもヤツパリ|黒姫《くろひめ》が
|気《き》が|利《き》き|過《す》ぎて|間《ま》がぬけた  |神策《しんさく》|実行《じつかう》の|報酬《ほうしう》ぢや
|偉《えら》い|家来《けらい》は|欲《ほ》しいもの  ほしは|星《ほし》ぢやが|夜這星《よばひぼし》
|何処《いづく》の|空《そら》か|暗雲《やみくも》に  |脱線《だつせん》するか|分《わか》らない
|高山《たかやま》|低山《ひきやま》|数《かず》|越《こ》えて  |足許《あしもと》|危《あやふ》き|老《おい》の|坂《さか》
|何《なん》の|力《ちから》も|梨《なし》の|木《き》の  |愛想《あいさう》つかした|胸《むね》の|暗《やみ》
|王子《わうじ》|暗《くら》がり|宮《みや》の|下《した》  |明《あ》かして|通《とほ》る|恥《はづか》しさ
|向《むか》ふに|見《み》えるは|亀山《かめやま》か  |雲《くも》に|聳《そび》えた|森林《しんりん》の
|中《なか》にキラキラ|十曜《とえう》の|紋《もん》  あれこそ|確《たしか》に|月宮殿《げつきうでん》
あこには|梅照彦司《うめてるひこのかみ》  |鹿爪《しかつめ》らしい|顔《かほ》をして
|扣《ひか》へて|居《を》るに|違《ちが》ひない  |一寸《ちよつと》|立寄《たちよ》り|高姫《たかひめ》が
|日《ひ》の|出神《でのかみ》と|現《あら》はれて  |三千世界《さんぜんせかい》の|御仕組《おしぐみ》の
|変性男子《へんじやうなんし》の|御教旨《ごりかい》を  |聞《き》かして|改心《かいしん》さしてやろ
|道《みち》に|迷《まよ》うた|亡者《まうじや》をば  |見《み》すてて|素通《すどほ》り|出来《でき》はせぬ
これも|神業《みわざ》の|一端《いつたん》だ  |黒姫《くろひめ》さまはどう|思《おも》ふ
|高山彦《たかやまひこ》の|福禄寿《げほう》さま  |御意見《ごいけん》あらば|今《いま》|此処《ここ》で
|遠慮会釈《ゑんりよゑしやく》は|要《い》りませぬ  |包《つつ》まず|隠《かく》さずサツパリと
|意見《いけん》をお|吐《は》きなされませ  |言《い》へば|黒姫《くろひめ》|肯《うなづ》いて
|実《げ》に|尤《もつと》もぢや|尤《もつと》もぢや  |高姫《たかひめ》さまのお|言葉《ことば》に
|迎合《げいがふ》|盲従《まうじう》|致《いた》します  |高山彦《たかやまひこ》のハズバンド
|貴方《あなた》も|一緒《いつしよ》に|参《まゐ》りませう  |三人《さんにん》|世《よ》の|元《もと》|結構《けつこう》ぢや
アール、エースは|供《とも》の|役《やく》  これは|身魂《みたま》の|数《かず》でない
|三人《さんにん》|寄《よ》れば|昔《むかし》から  |文殊《もんじゆ》の|智慧《ちゑ》が|出《で》ると|聞《き》く
|弁天《べんてん》さまの|床下《ゆかした》で  |馬鹿《ばか》にされたる|腹《はら》いせに
|文殊菩薩《もんじゆぼさつ》となりすまし  |普賢勢至《ふげんせいし》の|三人《さんにん》が
|只《ただ》|一厘《いちりん》の|御経綸《ごけいりん》  |真向《まつかう》|上段《じやうだん》に|振《ふ》りかざし
|言依別《ことよりわけ》に|盲従《もうじう》する  |梅照彦《うめてるひこ》を|言向《ことむ》けて
|聖地《せいち》へ|帰《かへ》る|案内《あんない》の  |猿田彦神《さだひこかみ》としてやらう
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませと
|徳利膝頭《とつくりこぶら》に|大地《だいち》をば  ドンドンドンと|威喝《ゐかつ》させ
|大道《だいだう》|狭《せま》しと|横柄面《わうへいづら》  |月宮殿《げつきうでん》の|片《かた》ほとり
|梅照彦《うめてるひこ》の|神館《かむやかた》  |目指《めざ》して|進《すす》む|可笑《をか》しさよ。
|梅照彦《うめてるひこ》の|神館《かむやかた》  |門《かど》に|佇《たたず》み|高姫《たかひめ》は
もしもし|此処《ここ》を|開《あ》けとくれ  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御入来《ごじゆらい》
|竜宮海《りうぐうかい》の|乙姫《おとひめ》が  |憑《うつ》りなされた|肉《にく》の|宮《みや》
|梅照彦《うめてるひこ》は|在宅《ざいたく》か  こんな|結構《けつこう》な|神人《しんじん》が
|来訪《らいはう》あるのを|知《し》らずして  |奥《おく》に|居《ゐ》るとは|情《なさけ》ない
|天眼通《てんがんつう》も|此《この》|頃《ごろ》は  |曇《くも》つて|来《き》たと|見《み》えるわい
|執着心《しふちやくしん》に|搦《から》まれて  |吾《わが》|身《み》よかれの|信心者《しんじんしや》
|言依別《ことよりわけ》にハイハイと  |迎合《げいがう》|盲従《まうじう》した|罰《ばち》で
|折角《せつかく》|覚《おぼ》えた|天眼通《てんがんつう》  ゼロになつたか|情《なさけ》ない
|一時《いちじ》も|早《はや》く|村肝《むらきも》の  |胸《むね》の|岩戸《いはと》を|押《お》し|開《あ》けて
|日《ひ》の|出神《でのかみ》を|迎《むか》へ|入《い》れ  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神界《しんかい》の
|誠《まこと》の|花《はな》|咲《さ》くお|仕組《しぐみ》を  |聞《き》かして|貰《もら》はうとせないのか
ホンに|身魂《みたま》の|因縁《いんねん》は  |争《あらそ》はれないものぢやなア
|梅照姫《うめてるひめ》も|亦《また》さうぢや  よくよく|揃《そろ》うた|盲《めくら》|共《ども》
|爺《おやぢ》も|爺《おやぢ》|嬶《かか》も|嬶《かか》  |早《はや》う|開《あ》けぬか|開《あ》けぬかと
|皺嗄《しわが》れ|声《ごゑ》を|張《は》りあげて  |力《ちから》|限《かぎ》りに|訪《おとな》へば
|仏頂面《ぶつちやうづら》した|門番《もんばん》は  |不承不性《ふしようぶしよう》に|現《あら》はれて
|主人《しゆじん》の|不在《るす》の|此《この》|家《いへ》に  |門戸《もんこ》を|叩《たた》くは|何人《なんぴと》か
トツトと|帰《かへ》つて|下《くだ》さんせ  |聞《き》くより|高姫《たかひめ》|声《こゑ》をかけ
お|前《まへ》は|此《この》|家《や》の|門番《もんばん》か  |梅照彦《うめてるひこ》は|何処《どこ》へ|行《い》た
|日《ひ》に|日《ひ》に|神界《しんかい》|切迫《せつぱく》し  |千騎一騎《せんきいつき》の|此《この》|場合《ばあひ》
|世界《せかい》の|難儀《なんぎ》を|他所《よそ》に|見《み》て  |夫婦《ふうふ》|二人《ふたり》が|気楽《きらく》|相《さう》に
|紅葉見遊山《もみぢみゆさん》に|往《い》たのだろ  |親《おや》の|心《こころ》は|子《こ》|知《し》らずだ
|神《かみ》の|心《こころ》は|人《ひと》|知《し》らず  それも|俗人《ぞくじん》ならばよい
|宣伝使《せんでんし》たる|身《み》を|以《もつ》て  |館《やかた》を|空《から》にとび|歩《ある》く
これもヤツパリ|言依別《ことよりわけ》の  |醜《しこ》の|命《みこと》のドハイカラ
|深《ふか》き|感化《かんくわ》の|映像《えいざう》か  |不在《るす》なら|不在《るす》で|仕方《しかた》ない
|早《はや》く|此《この》|門《もん》|開《あ》けてくれ  |一度《いちど》|館《やかた》を|検《あらた》めて
|善《ぜん》か|悪《あく》かを|調《しら》べあげ  |神《かみ》に|報告《はうこく》せにやならぬ
グヅグヅしてると|日《ひ》が|暮《く》れる  |日《ひ》の|暮神《くれがみ》ではない|程《ほど》に
|早《はや》く|開《あ》けたが|宜《よ》からうぞ  |開《あ》けよ|開《あ》けよと|急《せ》り|立《た》てる
|中《なか》より|門番《もんばん》|尖《とが》り|声《ごゑ》  どこの|奴《やつ》かは|知《し》らねども
|無理《むり》に|此《この》|門《もん》|開《あ》けよとは  |礼儀《れいぎ》を|知《し》らぬ|馬鹿女《ばかをんな》
|梅照彦《うめてるひこ》の|御夫婦《ごふうふ》は  お|前《まへ》の|言《い》ふよな|人《ひと》でない
|言依別神《ことよりわけのかみ》さまが  |竜宮《りうぐう》の|島《しま》の|麻邇宝珠《まにほつしゆ》
|立派《りつぱ》な|立派《りつぱ》な|五色《いついろ》の  お|宝物《たからもの》が|納《をさ》まつて
|其《その》お|迎《むか》へやお|祝《いはひ》を  |兼《か》ねて|一同《いちどう》|参《まゐ》れよと
|実《げ》にも|目出度《めでた》い|御知《おし》らせに  |千騎一騎《せんきいつき》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》るは|此《この》|時《とき》と  |勇《いさ》み|進《すす》んで|行《ゆ》かれたぞ
それに|就《つ》いても|高姫《たかひめ》や  |黒姫《くろひめ》さまや|高山彦《たかやまひこ》の
|長《なが》い|福禄寿《げほう》の|神司《かむつかさ》  |三《みつ》つの|玉《たま》に|魂《たま》|抜《ぬ》かれ
|阿呆《あはう》が|足《た》らいで|近江路《あふみぢ》の  |琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》の|竹生島《ちくぶしま》
|影《かげ》も|形《かたち》もない|玉《たま》を  |掴《つか》みに|往《い》つた|其《その》|後《あと》で
|肝腎要《かんじんかなめ》の|神業《かむわざ》が  |綾《あや》の|聖地《せいち》で|行《おこな》はれ
|万事《ばんじ》|是《これ》にて|鳧《けり》がつき  アフンとするのは|高姫《たかひめ》や
|黒姫《くろひめ》さまぢやと|云《い》ふ|事《こと》だ  お|前《まへ》は|誰《たれ》かは|知《し》らねども
|長《なが》い|道中《だうちう》する|間《うち》に  |高姫《たかひめ》さまに|出会《であ》うたら
|分《わか》りもせない|玉探《たまさが》し  |心《こころ》の|底《そこ》から|思《おも》ひ|切《き》り
|早《はや》く|聖地《せいち》へ|帰《かへ》れよと  |梅照彦《うめてるひこ》の|門番《もんばん》が
|言《こと》づけしたと|言《い》うてくれ  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|私《わたし》は|叶《かな》はぬ|秋《あき》の|空《そら》  |飯《めし》が|焦《こ》げつく|気《き》が|紅葉《もみぢ》
どれどれ|早《はや》う|奥《おく》へ|行《ゆ》き  |梅照彦《うめてるひこ》の|不在事《るすごと》に
ゆつくり|御馳走《ごちそう》|食《た》べませう  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|叶《かな》はぬなれば|立帰《たちかへ》れ  これで|御免《ごめん》と|門番《もんばん》は
いそいそ|奥《おく》へ|隠《かく》れゆく。
|梅照彦《うめてるひこ》の|門番《もんばん》が  |話《はなし》を|聞《き》いて|高姫《たかひめ》は
|電光石火《でんくわうせきくわ》|雷《いかづち》の  |轟《とどろ》く|如《ごと》く|胸《むね》|躍《をど》り
|心《こころ》に|荒浪《あらなみ》|立《た》ち|騒《さわ》ぐ  |猪《しし》|喰《く》た|犬《いぬ》の|高姫《たかひめ》は
さあらぬ|態《てい》に|胸《むね》|押《おさ》へ  |言葉《ことば》もいとど|淑《しと》やかに
|打《う》つて|変《かは》つた|猫撫《ねこな》での  いやらし|微笑《びせう》を|浮《うか》べつつ
ホンに|浮世《うきよ》は|儘《まま》ならぬ  ヤツパリ|竜宮《りうぐう》の|御宝《おんたから》
|時節《じせつ》|参《まゐ》りて|綾錦《あやにしき》  |高天原《たかあまはら》に|納《をさ》まつて
|神政成就《しんせいじやうじゆ》|待《ま》ち|給《たま》ふ  それに|就《つ》いては|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまの|肉《にく》の|宮《みや》  ここでしつかりなされませ
|天火水地《てんくわすゐち》と|結《むす》びたる  |麻邇《まに》の|宝珠《ほつしゆ》は|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまの|御宝《おんたから》  |初稚姫《はつわかひめ》や|玉能姫《たまのひめ》
|国依別《くによりわけ》が|喜《よろこ》んで  |上《うへ》を|下《した》へと|立《た》ちさわぎ
|勇《いさ》むはヤツパリ|黒姫《くろひめ》の  |身魂《みたま》の|御蔭《おかげ》である|程《ほど》に
|日《ひ》の|出神《でのかみ》は|神《かみ》として  これからお|前《まへ》が|片肌《かたはだ》を
|脱《ぬ》いで|掛《かか》らにやなりませぬ  |肝腎要《かんじんかなめ》の|性念場《しやうねんば》
|三五教《あななひけう》の|黒姫《くろひめ》の  |肉《にく》の|宮《みや》にと|納《をさ》まつて
|修業《しうげふ》なされた|玉依姫《たまよりひめ》の  |貴《うづ》の|命《みこと》はわしぢやぞえ
|永《なが》らく|竜宮《りうぐう》の|一《ひと》つ|島《じま》に  |住《す》みて|居《ゐ》たのは|外《ほか》でない
|今日《けふ》の|慶事《けいじ》を|前知《ぜんち》して  わしの|身魂《みたま》が|活動《くわつどう》し
|五《いつ》つの|玉《たま》を|授《さづ》けたと  |甘《うま》く|言《い》ふのは|今《いま》ぢやぞえ
|肝腎要《かんじんかなめ》の|性念場《しやうねんば》  |空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》だ
|必《かなら》ず|抜《ぬ》かつちやなりませぬ  |高山《たかやま》さまも|其《その》|心算《つもり》
|四角《しかく》い|肩《かた》をなめらかに  |丸《まる》い|目玉《めだま》を|細《ほそ》うして
|険《けん》を|隠《かく》した|地蔵顔《ぢざうがほ》  そこは|体《てい》よくやるがよい
|此《この》|高姫《たかひめ》も|一《いち》か|八《ばち》  |此《この》|手《て》で|行《ゆ》かねばあれの|手《て》で
|早速《さそく》の|頓智《とんち》やつて|行《ゆ》く  これが|全《まつた》く|朝日子《あさひこ》の
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御働《おはたら》き  |只《ただ》|何事《なにごと》も|神直日《かむなほひ》
|心《こころ》も|広《ひろ》く|大直日《おほなほひ》  |直日《なほひ》に|見直《みなほ》し|宣《の》り|直《なほ》し
|身《み》の|過《あやま》ちは|打消《うちけ》して  |正々堂々《せいせいだうだう》|神《かみ》の|為《ため》
|世人《よびと》の|為《ため》に|少々《せうせう》の  |瑕瑾《かきん》はうまく|葬《はうむ》つて
|空前絶後《くうぜんぜつご》の|神業《かむわざ》を  |完成《くわんせい》したる|暁《あかつき》は
それこそ|誠《まこと》の|神柱《かむばしら》  |四方《よも》に|薫《かを》れる|梅《うめ》の|花《はな》
かう|宣《の》り|直《なほ》し|見直《みなほ》せば  |今迄《いままで》|嘗《な》めた|失敗《しつぱい》も
|琵琶《びは》の|湖水《こすゐ》の|泡《あわ》と|消《き》え  |伊吹《いぶき》の|山《やま》の|白雲《しらくも》と
なつて|煙散霧消《えんさんむせう》する  |心《こころ》|一《ひと》つの|持《も》ちやうで
いつも|気楽《きらく》に|暮《くら》される  |笑《わら》うて|暮《くら》すも|一生《いつしやう》ぢや
|悔《くや》んで|暮《くら》すも|亦《また》|一生《いつしやう》  |人《ひと》の|手柄《てがら》を|横取《よこどり》し
ずるい|奴《やつ》ぢやと|言《い》はれうが  |構《かま》うて|居《を》れない|今《いま》の|首尾《しゆび》
|勝《か》てば|善《ぜん》なり|負《ま》ければ|悪《あく》ぢや  |勝《か》つて|甲《かぶと》の|緒《を》をしめりや
あとは|天下《てんか》は|泰平《たいへい》ぢや  あゝ|本当《ほんたう》に|本当《ほんたう》に|面白《おもしろ》い
|結構《けつこう》な|智慧《ちゑ》が|湧《わ》いて|来《き》た  これも|全《まつた》く|竜宮《りうぐう》の
|乙姫《おとひめ》さまの|御手伝《おてつだひ》ひ  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御働《おはたら》き
|天晴《あつぱ》れ|表《おもて》に|現《あら》はれた  ヤツパリ|辛抱《しんばう》はせにやならぬ
|誠《まこと》の|力《ちから》のある|神《かみ》は  トコトン|迄《まで》も|気《き》を|引《ひ》くと
|変性男子《へんじやうなんし》の|筆先《ふでさき》に  |立派《りつぱ》に|立派《りつぱ》に|書《か》いてある
|筆先《ふでさき》|活《い》かして|使《つか》ふのも  |心《こころ》|一《ひと》つの|使《つか》ひ|方《かた》
|筆先《ふでさき》|殺《ころ》して|使《つか》ふのは  あつたら|宝《たから》の|山《やま》に|入《い》り
|裸跣《はだかはだし》で|怪我《けが》をして  |吠面《ほえづら》かわいてメソメソと
|帰《かへ》つて|来《きた》る|馬鹿《ばか》の|所作《しよさ》  ヤツパリ|表《おもて》の|筆先《ふでさき》を
|真解《しんかい》するのはわしぢやぞえ  |変性女子《へんじやうによし》のハイカラが
どうしてお|筆《ふで》が|解《と》けますか  |日《ひ》の|出《で》の|守護《しゆご》と|云《い》ふ|事《こと》は
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》が  |天晴《あつぱ》れ|高天《たかま》に|現《あら》はれて
|何《なに》から|何《なに》まで|落《お》ちもなく  |筆先《ふでさき》|通《どほ》りに|気《き》を|配《くば》り
|指揮《さしづ》をせいと|云《い》ふ|事《こと》ぢや  ここの|道理《だうり》をよく|腹《はら》へ
|締《し》め|込《こ》みおいて|下《くだ》されや  |聖地《せいち》へ|帰《かへ》つてこんな|事《こと》
ゆつくり|話《はな》す|暇《ひま》はない  |道々《みちみち》|誠《まこと》の|御仕組《おしぐみ》を
お|前《まへ》の|腹《はら》に|詰《つ》めておく  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|日《ひ》の|出《で》の|曙光《しよくわう》が|見《み》えて|来《き》た  いよいよ|今日《けふ》から|高姫《たかひめ》は
|千人力《せんにんりき》の|経《たて》の|役《やく》  |瑞《みづ》の|御霊《みたま》を|頭《あたま》から
ウンと|一口《ひとくち》|噛《か》みつけて  |経《たて》のお|筆《ふで》をふりかざし
|言向《ことむ》け|和《やは》して|神界《しんかい》の  |誠《まこと》の|御用《ごよう》をせにやならぬ
|是《これ》を|思《おも》へば|何《なん》となく  |重《おも》たい|足《あし》も|軽《かる》うなり
|沈《しづ》んだ|心《こころ》も|欣々《いそいそ》と  |俄《にはか》に|浮《う》いて|来《き》た|様《やう》だ
あゝ|潔《いさぎよ》し|潔《いさぎよ》し  |千軍万馬《せんぐんばんば》の|功《こう》を|経《へ》し
|高姫司《たかひめつかさ》のある|限《かぎ》り  |三五教《あななひけう》は|千代《ちよ》|八千代《やちよ》
|磐石《ばんじやく》の|如《ごと》|動《うご》かない  |誠《まこと》のお|方《かた》が|現《あら》はれて
|誠《まこと》の|事《こと》を|説《と》いたなら  |体主霊従《たいしゆれいじう》の|身魂《みたま》|等《ら》が
アフンと|致《いた》して|後《あと》へより  |指《ゆび》を|啣《くは》へて|見《み》てをると
|経《たて》のお|筆《ふで》に|出《だ》してある  |尊《たふと》きお|筆《ふで》が|実現《じつげん》し
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》が|屁古垂《へこた》れて  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》が
|天晴《あつぱ》れ|表《おもて》に|現《あら》はれる  |之《これ》を|思《おも》へば|頼《たの》もしい
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましませと
|高姫《たかひめ》|一行《いつかう》|勇《いさ》み|立《た》ち  |足音《あしおと》|高《たか》く|大地《だいち》をば
|威喝《ゐかつ》させつつ|帰《かへ》り|行《ゆ》く  |万代《よろづよ》|祝《いは》ふ|亀山《かめやま》の
|貴《うづ》の|館《やかた》を|後《あと》にして  |船井《ふなゐ》へ|渡《わた》る|千代川《ちよかは》の
|流《なが》れも|清《きよ》き|川関《かはせき》や  |音《おと》に|名高《なだか》き|鳴石《なきいし》の
|旧趾《きうし》を|左手《ゆんで》に|眺《なが》めつつ  |猫《ねこ》を|被《かぶ》つて|虎天《とらてん》の
|堰所《せきしよ》を|越《こ》えて|松並木《まつなみき》  |高城山《たかしろやま》に|立寄《たちよ》りて
ウラナイ|教《けう》の|松姫《まつひめ》が  |幅《はば》を|利《き》かした|表門《おもてもん》
|馬《うま》と|鹿《しか》との|両人《りやうにん》が  |身魂《みたま》の|性来《しやうらい》|現《あら》はれて
|四《よ》つ|這《ばひ》|姿《すがた》で|這《は》ひ|込《こ》んだ  |此処《ここ》が|名高《なだか》い|古戦場《こせんじやう》
|平助《へいすけ》、お|楢《なら》の|両人《りやうにん》が  |腹《はら》から|生《うま》れたお|節《せつ》|奴《め》が
|玉能《たまの》の|姫《ひめ》と|偉相《えらさう》に  |松姫《まつひめ》さまの|後《あと》をとり
|坐《すわ》つて|居《ゐ》たのは|憎《にく》らしい  あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|思《おも》へば|胸《むね》が|悪《わる》くなる  サアサア|早《はや》く|帰《かへ》りませう
|八十八字《はちじふはちじ》の|郷《さと》を|過《す》ぎ  |道《みち》の|広瀬《ひろせ》の|川伝《かはづた》ひ
|翼《つばさ》なければ|鳥羽《とば》の|宿《しゆく》  |小山《こやま》|松原《まつばら》|縫《ぬ》ひながら
|花《はな》の|園部《そのべ》の|大橋《おほはし》を  スタスタ|渡《わた》り|桐《きり》の|庄《しやう》
|観音峠《くわんのんたうげ》の|急坂《きふはん》を  |爪先上《つまさきあが》りの|高姫《たかひめ》が
|一行《いつかう》|五人《ごにん》|汗《あせ》|垂《た》らし  |錦《にしき》|染《そ》めなす|四方《よも》の|山《やま》
|眺《なが》めもあかぬ|此《この》|景色《けしき》  |日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》の
|清《きよ》き|心《こころ》は|目《ま》のあたり  |山《やま》は|錦《にしき》の|衣《きぬ》を|着《き》て
|錦《にしき》の|宮《みや》に|帰《かへ》り|行《ゆ》く  |吾等《われら》|一行《いつかう》|歓迎《くわんげい》する
|御空《みそら》は|清《きよ》く|澄《す》み|渡《わた》り  |大地《だいち》は|錦《にしき》の|山屏風《やまびやうぶ》
これぞ|晴天白日《せいてんはくじつ》の  |高姫《たかひめ》さまの|真心《まごころ》が
|現《あら》はれました|兆候《しるし》ぞや  |黒姫《くろひめ》|続《つづ》けと|先《さき》に|立《た》ち
|須知山峠《しゆちやまたうげ》をスタスタと  |下《くだ》りて|来《きた》る|綾《あや》の|口《くち》
|小雲《こくも》の|川《かは》の|松影《まつかげ》に  |釣《つり》する|男《をとこ》に|目《め》をつけて
これこれお|前《まへ》は|何処《どこ》の|人《ひと》  |三五教《あななひけう》に|仕《つか》へたる
|神《かみ》の|司《つかさ》ぢやあるまいか  |千騎一騎《せんきいつき》の|此《この》|場合《ばあひ》
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|御帰《おかへ》りを  |余所《よそ》に|眺《なが》めて|気楽《きらく》|相《さう》に
|魚釣《うをつ》り|三昧《ざんまい》|何《なん》の|事《こと》  そんな|殺生《せつしやう》はやめなさい
|諸行無常《しよぎやうむじやう》|是生滅法《ぜしやうめつぽふ》  |生滅滅已《しやうめつめつい》の|理《ことわり》を
|知《し》らずに|魚《さかな》の|命《いのち》|取《と》り  |楽《たの》しみ|暮《く》らす|悪神《あくがみ》の
|憑《うつ》つた|悪《わる》い|守護神《しゆごじん》  |其《その》|肉体《にくたい》は|何人《なんぴと》ぞ
あゝ|忌《いま》はしやと|側《そば》に|寄《よ》り  |釣《つり》する|男《をとこ》の|笠《かさ》を|取《と》り
|顔《かほ》を|眺《なが》めて|仰天《ぎやうてん》し  |国依別《くによりわけ》か|国州《くにしう》か
|宗彦《むねひこ》、お|勝《かつ》の|其《その》|昔《むかし》  |巡礼姿《じゆんれいすがた》となり|終《をふ》せ
|宇都山郷《うづやまがう》の|川《かは》の|辺《べ》で  |太公望《たいこうばう》|気取《きどり》の|松鷹彦《まつたかひこ》に
|意見《いけん》した|事《こと》|忘《わす》れたか  |曲《まが》つた|針《はり》に|餌《ゑ》をつけて
|世界《せかい》の|亡者《まうじや》を|釣《つ》らうとは  |余《あんま》り|虫《むし》がよすぎるぞ
|改心《かいしん》なされ|国《くに》さまよ  |再度山《ふたたびやま》の|山麓《さんろく》で
|身魂《みたま》の|曇《くも》り|切《き》つたる|野天狗《のてんぐ》に  |憑《つ》かれた|時《とき》の|面付《つらつき》は
まだ|消《き》えやらぬ ありありと  どこかの|端《はし》に|残《のこ》つてる
|吾等《われら》|三人《さんにん》うまうまと  |欺《だま》して|近江《あふみ》へ|追《お》ひ|下《くだ》し
エライ|憂目《うきめ》に|遇《あ》はしたな  |此《この》|高姫《たかひめ》をうまうまと
|竹生《ちくぶ》の|島《しま》へ|追《お》ひやれば  |万劫末代《まんがふまつだい》|帰《かへ》らぬと
|思《おも》うて|居《ゐ》たのが|運《うん》の|尽《つ》き  |高姫《たかひめ》ぢやとて|足《あし》がある
|石《いし》の|地蔵《ぢざう》なら|知《し》らぬこと  |時節《じせつ》がくれば|帰《かへ》り|来《く》る
サアサア|早《はや》う|帰《かへ》りやんせ  お|前《まへ》に|向《むか》つていろいろと
|言《い》はねばならぬ|事《こと》がある  サアサア|帰《い》のうと|促《うなが》せば
|国依別《くによりわけ》は|微笑《びせう》して  |頭《かしら》を|軽《かる》く|下《さ》げながら
お|前《まへ》は|高姫《たかひめ》|黒姫《くろひめ》か  |高山彦《たかやまひこ》か よう|無事《ぶじ》で
|早《はや》く|帰《かへ》つて|下《くだ》さつた  あなたが|御帰《おかへ》り|遊《あそ》ばすと
|国依別《くによりわけ》の|天眼通《てんがんつう》  |早《はや》くも|悟《さと》つて|御馳走《ごちそう》の
|用意《ようい》をしようと|勇《いさ》み|立《た》ち  |小雲《こくも》の|川《かは》に|竿《さを》たれて
|勢《いきほひ》|鋭《するど》き|真鯉《まごひ》をば  せめて|四五尾《しごひき》|釣《つ》りあげて
|刺身《つくり》にしたり|煮〆《にしめ》あげ  お|前等《まへら》|一行《いつかう》|三人《さんにん》を
|招待《せうたい》せむとの|魚釣《さかなつ》り  |悪《わる》くは|思《おも》うて|下《くだ》さるな
|国依別《くによりわけ》はお|前《まへ》から  |悪《あく》の|身魂《みたま》と|見《み》えるだろ
|心《こころ》の|奥《おく》の|其《その》|奥《おく》に  |誠《まこと》の|血潮《ちしほ》が|流《なが》れてる
そこをば|買《か》つて|貰《もら》はねば  |国《くに》さま|立《た》つ|瀬《せ》がないわいな
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》  |御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|頑迷不霊《ぐわんめいふれい》の|高姫《たかひめ》が  スツパリ|転迷開悟《てんめいかいご》して
|誠《まこと》を|悟《さと》り|今日《けふ》よりは  |憎《にく》まれ|口《ぐち》を|叩《たた》かずに
|神前《しんぜん》|奉仕《ほうし》をさせてたべ  |東《あづま》の|空《そら》を|眺《なが》むれば
|瑞雲《ずゐうん》|棚引《たなび》き|澄《す》みわたる  |今日《けふ》は|菊月《きくづき》|十五夜《じふごや》の
|瑞月《ずゐげつ》|空《そら》に|皎々《かうかう》と  |下界《げかい》を|照《て》らす|瑞光《ずゐくわう》は
|綾《あや》の|聖地《せいち》の|瑞祥《ずゐしやう》を  |寿《ことほ》ぎ|給《たま》ふ|如《ごと》くなり
|厳《いづ》の|御霊《みたま》や|瑞御霊《みづみたま》  |三五《さんご》の|月《つき》の|神教《みをしへ》は
|豊葦原《とよあしはら》の|瑞穂国《みづほくに》  |島《しま》の|八十島《やそしま》|八十《やそ》の|国《くに》
|大海原《おほうなばら》の|果《は》てまでも  |輝《かがや》き|渡《わた》れ|惟神《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましませよ。
|跋《ばつ》
|日輪様《にちりんさま》の|御親切《ごしんせつ》
あつい|情《なさけ》に|包《つつ》まれて
|小田《をだ》の|稲木《いなぎ》はむくむくと
|生《お》ひ|立《た》ち|茂《しげ》る|三伏《さんぷく》の
|暑《あつ》さに|弱《よわ》りむぐらもち
|日見《ひみ》ずの|今日《けふ》も|家《いへ》の|内《うち》
|蚤《のみ》には|刺《さ》され|蚊《か》に|喰《く》はれ
|汗《あせ》をたらたら|拭《ぬぐ》ひつつ
|横《よこ》に|立《た》ちつつ|二十余《はたちま》り
|六《む》つ|目《め》の|巻《まき》の|物語《ものがたり》
|瑞月《ずゐげつ》|現代《げんだい》|流行《りうかう》の
|怠業《たいげふ》|気分《きぶん》に|襲《おそ》はれて
|口述《こうじゆつ》|代用《だいよう》の|歌口調《うたくてう》
|吐《は》き|出《だ》す|糸《いと》は|蜘蛛《くも》の|如《ごと》
|尻《しり》からブウブウ|口《くち》からも
ブツブツ|繰出《くりだ》す|花詩歌《はなしか》の
|止《と》め|度《ど》も|知《し》らぬ|口車《くちぐるま》
|全巻《ぜんくわん》|残《のこ》らずウタウタと
|夢《ゆめ》かうつつか|寝言《ねごと》の|余《あま》り
|暑中《しよちう》|休暇《きうか》の|覚悟《かくご》して
|三《み》つの|神宝《みたま》や|五《い》つ|神宝《みたま》
|高天原《たかあまはら》に|納《をさ》まりて
|言依別《ことよりわけ》の|神司《かむづかさ》
|千々《ちぢ》に|心《こころ》を|砕《くだ》きつつ
|日《ひ》の|出神《でのかみ》の|生宮《いきみや》と
|自称《じしよう》|自認《じにん》の|高姫《たかひめ》が
|執着心《しふちやくしん》の|雲《くも》|深《ふか》く
|迷《まよ》うて|進《すす》む|竹生島《ちくぶじま》
|元《もと》より|玉《たま》なき|神殿《しんでん》の
|床下《ゆかした》|深《ふか》く|掘《ほ》り|上《あ》げて
|性凝《しやうこ》りもなき|玉探《たまさが》し
|述《の》ぶるも|悲惨《ひさん》の|極《きは》みなれど
それの|経緯《けいゐ》の|大略《あらまし》を
|月照彦《つきてるひこ》の|御守《みまも》りに
|写《うつ》す|神代《かみよ》の|語《かた》り|草《ぐさ》
|花《はな》も|実《み》もある|三五教《あななひ》の
|尊《たふと》き|神《かみ》の|大精神《だいせいしん》
うまらに|具《つば》らに|汲《く》みあげて
|水《みづ》の|御魂《みたま》の|神業《かむわざ》に
|仕《つか》へ|奉《まつ》らむ|信徒《まめひと》の
|一人《ひとり》も|多《おほ》く|生《あ》れかしと
|祈《いの》るは|瑞月《ずゐげつ》のみならず
|国常立《くにとこたち》の|大御神《おほみかみ》
|豊国主《とよくにぬし》の|大神《おほかみ》の
|仁慈《じんじ》|無量《むりやう》の|御心《みこころ》ぞ
|卑近《ひきん》な|文句《もんく》|言《こと》の|葉《は》も
|婦女子《ふぢよし》|小児《せうに》に|成《な》るべくは
|徹底《てつてい》させたき|真心《まごころ》ぞ
|如何《いか》に|名文卓説《めいぶんたくせつ》も
|数多《あまた》の|人《ひと》に|解《わか》らねば
|夏木《なつき》に|囀《さへづ》る|蝉《せみ》の|声《こゑ》
|何《なん》の|効果《かうくわ》もあらざらむ
あゝ|惟神《かむながら》|々々《かむながら》
|御霊《みたま》|幸《さち》はへましまして
|瑞月《ずゐげつ》|霊界物語《れいかいものがたり》
|厳《いづ》の|御霊《みたま》の|御諭《みさと》しを
|並《なら》べて|一々《いちいち》|読《よ》み|行《ゆ》けば
|忽《たちま》ち|迷夢《めいむ》は|醒《さ》め|渡《わた》り
|瑞《みづ》の|御霊《みたま》の|世《よ》を|救《すく》ふ
|清《きよ》き|神慮《しんりよ》を|悟《さと》るべし
|団扇《うちわ》|片手《かたて》に|採《と》りながら
|膝《ひざ》をたたいてバタバタと
|巻《まき》の|終《をは》りに|喋舌《しやべ》り|置《お》く。
(大正一一・七・二〇 旧閏五・二六 松村真澄録)
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霊界物語 第二六巻 海洋万里 丑の巻
終り