かぐやひめのしゃな
1 |竹取《たけとり》物語
むかしむかし、あるところに、『竹取《たけとり》』『さかきの造《みやつこ》』、『||造麻呂《みやつこのまろ》』、など数々の異名で知られた貫太郎というお爺さんがおりました。野山へ縦横無尽に分け入り、取った竹で困った人を助ける、妙に若く見えるおじいさんです。
「いやあ。実際もう若いと言える年でもないさ」
という風にどことなく|飄々《ひょうひょう》とした、お爺さんです。
その貫太郎はある日常のごとく竹を取りに入った林で、不可思議な光景に出くわします。
「おや、なんだろう?」
親切な台詞回しとともに見たものは根元の光る竹でした。
職能の粋を尽くし、十分な警戒を持って近寄ってみると、斜めに切られた竹筒の中に三寸ばかり(訳9センチ)の小さな、かわいい女ののこがいるではありませんか。
「これは……捨て子、というには奇妙に過ぎるな」
貫太郎は辺りを見回します。もちろん山の中、親の姿どころか人影の端すらない、竹の鬱蒼と生い茂る眺めがあるばかりです。
「ふーむ、山犬や熊のうろつく林の中に放って置くわけにも行かない、か」
朝夕と竹を取りにくる林の中で出会ったのも神仏の取り成した縁かもしれない。そう貫太郎は思い、見つけた小さ子を連れて帰ることにしました。
「我が家には子供もないしな。千草さんも喜ぶだろう」
千草とはいうまでもない彼の妻、同じく妙に若く見えるお婆さんの名前です。
「おっとそうだ」
二巻太郎は気が付いて、愛用のなたをスラリと抜き放ちました。
「もし親御さんが気が付いたときのために、私の所在を竹に彫り付けておこう」
まったく、どこまでも手回しのよい男です。
ともあれ貫太郎は、小さ子を手に包んで大事に持ち帰りました。
その持ち帰られた方……千草お婆さんは、いきなり母となったことに、困惑するどころか大歓迎の面持ちです。授かった子を大事に育てようと請けあいました。
「今になって子供を授かるなんて、夢みたい」
結局、小さ子の親は現れないまま、月日は過ぎてゆきます。その間、貫太郎が竹を取りに行く度、節間ごとに黄金の入った竹を見つけるという不可思議の追加現象まで起こって、たちまちの内に貫太郎・千草夫婦はお金持ちになったのでした。
小さ子は最初こそは三寸でしたが、三ヶ月もすると普通の背丈になって、髪上げや|裳着《もぎ》などという儀式も済ませるほどの少女になりました。この世のものとは思えない。その清らかな姿はお屋敷の暗い場所ができないほど光り輝いているようでした。
やがて、彼女らに名が付けられます。
一人は、輝くような美しさ・力強さを備えていたことから、かぐやのシャナ姫。
もう一人はたおやかさ・しなやかさを纏っていたことから、なよ竹の一美姫。
そう――貫太郎おじいさんが見つけ、育て上げた小さ子は、双子だったのです。
美しい二人の姫は、当然のように人々の噂の的になり、彼女らを妻に迎えたい、と望む貴賎様々の男どもで、お屋敷の周りはごった返すほどとなりました。
これら、ストーカー被害寸前という状況の中、
「君たちは、誰かに嫁ぐ気はないのかな?」
貫太郎が尋ねたところ、かぐやのシャナ姫は(以下シャナ姫)、なよ竹の一美姫(以下一美姫)の答えは、
「うん、ない」
「はい、全く」
という、まことに明確なもので、取り付く島もありません。二人は身持ちがまことに固く、世の常の恋愛、ましてや婚姻などに、欠片も興味を示さなかったのでした。
そんな彼女らの態度にも負けない貴公子も五人、
「姉ちゃんをほかの男に渡せるか、ってアンタおっさんだろ? いい歳してなんだ!」
石つくりの健の御子、
「誰がおっさんだ。俺はまだ二十台だぞ。それより、俺の横にいる奴は一体誰だ?」
くらもちの体育教師、
「本官を侮辱するか、逮捕するぞ。本官のことを言う前に、隣の不審者をだな――」
右大臣あべのカズさん、
「やれやれ、いくらチョイ役だからって、また酷え員数あわせの配役をするもんだぜ」
大納言のガヴィダ、
「俺なんか、出られただけで御の字ですけど。覚えている人、まずいないでしょーうね」
中納言いその川上正太郎、
と、いるにはいたのですが、姫たちが嫁ぐ条件として突きつけた無理難題に等しいリクエストを前に、あるも者は|海魔《クラーケン》に襲われ、またある者は三体の着ぐるみに阻まれる等して次々と脱落。結局、その心を動かし射止めるものは出なかったのでした。
「ええ、これで終わり!? ちょ、姉ちゃ」「俺はおっさんじゃない、二十台だ!!」「ええい、貴様ら公務執行妨害で逮」「さあ、終わりだ。帰った帰った」「それじゃあお疲れ様でしたー」
このように数々の求婚者を袖にし続けた、美しき双子の姫の噂はやがて御所に住まう御門の許にも届きます。
「へえ、そんな綺麗な子たちがいるんだ」
などとフランクな口調で御下問ある当今の御門は、御名をば悠二と申されます。
「普通の文体でいいよ、面倒くさい」
では、御許しを得て普通に。以降は便宜上、地の文では御門悠二と呼称することといたします。
ところで二〇〇六年における「今年の一文字」は皇室の男児の誕生の影響でしょう、『悠』の字が『二』位に選ばれているのであながち無関係というわけでもありません。
「いやだから、話を進めてほしいんだけど」
「かまわず勝手に進めましょう」
というのは廷身の一人、頭中将池速人です。
「その姫様方のことですが、お好きに召し上げてて一人が二人でも后に迎えられれば良いではありませんか。なんせ御門なんですから、ええ」
「……なんか、怒ってない?」
「いえいえめっそうもないははは」
言葉とは裏腹に、池の声は乾いていて、とても恐ろしく感じられます。
御門悠二は目の前、向かい合って二列に並ぶ他の廷臣、ガープやウィネら、そもそも日本人どころか人間なのかすらわからない微妙な面子を見回して、意見か仲裁を求めますが、君子危うきに近寄らず、あるいは馬に蹴られての方か、不干渉を装って誰も口を開きません――と、その中、
「では、私がまず、その姫君方がどんな方か、この目で確かめて参りましょうか?」
良くも悪くも前向きな|内侍《ないし》藤田晴美が手を挙げました。本来は後宮の侍官である彼女が朝議に参席しているわけは在りませんが、御伽噺で細かいことを言ってはいけません。
「というわけで来ました。さっそく評判の姫様の顔を拝ませてください。」
そう、おきなの屋敷を訪れて言う、やや以上に強引な彼女なのでした。
「これはまた、急なお話ですな」
貫太郎は面食らいつつもマイペースに答えます。
「とはいえ、御門の思し召し。お伝えしましょう」
しかし、屋敷の奥でこの意向を聞かされたかぐやのシャナ姫、なよ竹の一美姫、二人の対応は以前貴公子らに接したときと変わりません。
「御門だろうとなんだろうと、知ったことじゃない」
「そんな、私、人にお見せでるような顔立ちじゃ……」
拒絶であれ遠慮であれ、断るという結果は同じでした。
千種が藤田へと、困った風に笑いかけます。
「申し訳ございません。あの子たち、強情なところだけは似たもの同士なんですから」
「はあ……というわけです。如何いたしましょう」
御所に帰って報告する彼女に御門悠二は驚きで返します。
「素早っ――じゃない、ご苦労様。さすが、幾人もの球根を跳ね除けてるだけのことはあるか。でも、そこまで頑固に断られると帰って興味が湧いてくるな」
ますます二人の姫の執心になる御門の姿を見て、
ガープが|奸計《かんけい》を奏上し、
「いえ、あの気性だと小細工はかえって逆効果でしょう」
ストラスが冷静に制し、
「ではいっそのこと、こちらから出向いてはどうです?」
ウィネが積極的に訴え、
「無官の娘のために御門が行幸あるのも、外聞が憚られます。狩に出かけ、ついでに立ち寄る、という名目で翁の屋敷を不意に訪われるのがよろしいかと。これなら、警戒もされないでしょう」
池が臣下として補強します。
「よし、そうしよう」
御門悠二の採決とともに、舞台は再び翁のお屋敷に移ります。
「――」
「……」
「……」
そうして、お屋敷の、風に花の薫る庭で、
「――君たちが、あの?」
「……うん」
「は、はい」
御門悠二と二人の姫の恋が始まります。
三人はたちまちの内に打ち解け、親密な間柄となってゆきました。
その中、御門悠二は折りに触れ、宮中に上がるようなシャナ姫と一美姫に求めていましたが、どういうわけか二人は、それだけはできないと、頑なに拒否し続けました。
ならばと歌を交わしたり、節季の山野を巡ったりと十分に楽しく幸せな日々を三人を送ります。
かくして年月は過ぎ――遂に一つの時節が到来します。
その年の初めから、二人に姫が物思いに耽る姿を、お屋敷の使用人たち始め、貫太郎や千種も見かけるようになりました。夜空にかかる月を見ては奸計物憂げに溜め息を吐き、あるいは涙を零すのです。幾度わけを尋ね戸二人は言葉を濁すだけでした。
が、ある月の明るい夜、
「貫太郎、話があるの」
「千草お婆さんにも、聞いてもらいたいんです」
思いつめた二人は、とうとう秘めていた悩みを打ち明けます。
「いいとも。困った人の相談に乗るのが、私の仕事だ」
「遠慮なんかせずに、なんでもでも言ってくれればいいのよ?」
頼もしく温かく応じる育ての親たちに、姫たちは僅かに潤む目線を一度を合わせて、意を決して告げます。
「もうすぐ、お別れしなきゃいけないの」
「ずっと、言おう言おうと思っていたんですけど……」
貫太郎と千草もさすがに、驚きました。
「……どういうことかな」
「詳しく、聞かせてもらえる?」
そして二人は、驚くべき真実を、変わりばんこに語り始めました。
「私たちは、この世界の人間じゃない。あの空にある、月の都の住人なの」
「古の契約の元、この成果に遣わされて……とうとう帰る時が、来てしまったんです」
「今度の十五夜、本国から迎えがやってくる」
「その別れの辛さを思って、ずっと悩んでたんです」
輝く竹の中から拾い上げたかわいい姫たちが他旅とならぬ存在であることは、貫太郎も千草も分かってました。別れる日がいずれ来る、と覚悟もしてました。今がまさに、その時。
「球根を拒み続けていたのも、そういう事情があったからかい?」
貫太郎の問いに、二人はそろって頷き、
「いつか、帰らないといけなかった」
「だから、誰も近くに寄せ付けたくなかったんです」
また、揃って、でも、と声を合わせます。
「悠二に、出会ってしまった」
「御門を、好きになってしまったんです」
それが二人にとって以下に想定外の出来事だったか、|禁忌《きんき》としりつつ、振り捨てることの出来ない大事なものとなっていたか、全てが声に強く溢れていました。
「私は悠二と、ずっと一緒にいたい」
「御門お別れするなんて、嫌です」
千草は、二人が御門と愛し合いながらも宮中に上がらなかった理由が、来るべき別れの人の板挟み、苦悩の表れだったのだ、とようやく|得心《とくしん》します。
「それは、どうしても避けられないの?」
「うん。もう過去に何度も伸ばしてもらって、今度がその限界の期日なの」
「この数日も、せめて今年いっぱいくらいは、とお願いしてみたんですけど……」
二人に他心通を受信した月の天神からの返事は、冷たいものでした。
<こちら月の都、天神巫女ヘカテー。滞在延期の再々々(中略)々々申請は却下されました>
どうしても、もう少しだけ、と請うた二人に、
<天人軍師ベルペオルよりの通達――『元より下界に遣わされたるは、汝らのの罪を償わす一時的な追放処理に過ぎず。時至った上は、速やかなる御身らの奪還あるのみ』――以上>
さらに|止《とど》めとしての声が、下ったのでした。
<天人軍師ベルペオルよりの追伸――『手向かい無用。天神将軍シュドナイに敵し得る下界の武人なし。穏便なる帰還を切望す』――以上>
そんな進退の窮まった状況を貫太郎は理解し、しかし一言。
「お願いしただけなのかい?」
シャナ姫は僅かに驚きを声に出して、一美姫はハッと息を飲んで、言葉を受け止めました。
貫太郎はさらに言います。
「容赦なく来る、と分かっている物事に、ただお願いしていただけなのかい?」
指摘されて初めて自覚した受け身、恥ずべき姿勢に、二人は絶句するしかありません。
千種が微笑んで、厳しく聞こえた夫の言葉、その真意を翻訳します。
「どんなことであっても、まず相談してくれれば良かったのよ。子供に頼られるのはとても嬉しいことなんだから」
「……うん」
「ありがとう、ございます」
シャナ姫と一美姫は一言ずづ答えて、しかし結局なにも求めず下がりました。
さらに夜も更けたお屋敷の前で、二人は互いの決意を表明し合います。
「決めた。私は、悠二と一緒にいる」
「私も、御門とお別れなんかしない」
「貫太郎の言葉で目が覚めた。みすみす攫われてやる理由なんかなかった」
「そう、だね。どこまでも、月の都に抵抗しよう……私たち自身のために」
「そのための力を、宝具を、集めよう」
「うん。十五夜を、ここでもう一度」
強く頷く合い、それぞれ反対の方角を目指し、二人は進んで行きました。
翌朝、簡潔明瞭な通達文、切々とつづられた置手紙、二つの書面で状況を理解した貫太郎と千草は、苦さと愛おしさを各々微笑として浮かべます
「少々、|発奮《はっぷん》させ過ぎたかな?」
「より良い意味で、受け取ってくれたんだと思いますよ」
姫たちが彼らを頼らず出て行った理由は分かっていました。いざ抵抗するとして、その戦いに自分たちを慈しみ育んでくれたお爺さんおばあさんを巻き込みたくなかったのでしょう。娘たちの思いやりが誇らしくもあり寂しくもある二人でした。
もっとも、貫太郎はその位置に安住する気などありません。
「千草さん、都に上る仕度を」
「御門への上奏を?」
「ああ。付からの使者を迎撃する軍勢を配備していただけるよう、お願いする」
何せ、事は娘一生の大事なのです。彼女らの心遣いを受けてなお……いな、まさにその子供からの心遣いに親として応えるため、可能な限りの手を打つつもりなのでした。
「無駄でも無茶でも、あの子たちを助ける手間を惜しむべきではないだろう」
二人は旅の空の下にある愛しい娘たちに幸運があるよう、ただ願います。
2 桃太郎
行灯の明かりも怪しく揺れる世の影に、密談するものがおります。
「デイヴィッドの守様《かみさま》、これがお約束のクッキーでございます」
「ふっふ、ジェイムズ屋、苦しゅうないぞ。この山吹色……見ていて飽くことがないわ」
豪華で悪趣味な装いの武士と、揉み手で擦り寄る承認、いずれもなぜか西洋人です。
「つきましては、次なる遊郭拡張の折、是非私ども目にご高配を賜りますよう」
「分かっておる。無論、これからも差し入れのクッキーを忘れねばの話――」
ポン! と高く通る鼓《つつみ》の音が襖越しに、一打ち。
「だ、誰だ!?」
デイヴィットの守は慌てて腰を浮かし、障子をストーンと開きます。
二人が目線を注ぐ縁側、その先に広がる夜の庭を、熱い鼓のビートをBGMに、何者かが近付いてきます。それは、群青に燃える炎の猛獣。
その後ろから続く一人目、犬のお面を額に付けた佐藤が、
「一ぉつ、人の世の生き血をすすり!」
同じく後ろに続く二人目、猿のお面を額につけた田中が
「二ぁつ、不埒な悪行三昧!」
さらに後ろに続く三人目、雉《きじ》のお面をつけた緒方が
「三いっつ、醜い浮世の鬼を!」
そして最後、群青の炎をぱっと脱ぎ去り現れた士装のマージョリーが、叫びます。
「退治てくれよう――桃太郎!!」
カカァン! と格好良い効果音とともに四人、見得きりのボーズを取りました
「いよっ弔詞屋!!」
マージョリーの背負ったドでかい本から、マルコシアスの軽薄な歓声が飛びます。
ジェイムス屋はおびえて、デイヴィットの守の裾に取りすがります。
「デ、デイヴィットの守様!」
「ぬう、桃太郎違いが…ええい、者ども出会え出会え!!」
命令一下、刀を抜いた護衛が数十人、パラパラと現れて縁を庭を埋め尽くしました。
対して、桃太郎ことマージョリー・ドーは、子分たちに鋭く叫んで気合を入れます。
「さぁ、ケーサク、エータ、マタケ、黍団子分の働きをして頂戴よ!」
「はいっ!」「おう!」「任せてください!」
意気軒昂の返答とともに、四人の大立ち回りが始まります。中略。護衛をすべて成敗されたデイヴィットの守とジェイムズ屋は顔面を蒼白にして、縁側を後じさりします。
前からずんずん進んでくる四人の気迫に押されてジェイムス屋の声、
「よよよ、用心棒の先生を!!」
「お、おお、そうだ!」
促されてデイビットの守は傍らの襖をスパーンと開け放ちます。
「こういうときのために大枚叩いて雇ったのだ、働いてもらうぞ!」
しかしそこに、
「ッヒヒ、させるかよ!」
「まとめて――成敗っ!!」
二人で一人の桃太郎が、全てをぶっ飛ばす群青の炎弾を、その背後から叩き込みました。
「「あーれー!!」」
悪党二人は、ここだけはギャグ漫画のように、黒焦げになって遠くに吹っ飛んでいきます。
ふん、と鼻を鳴らしたマージョリーは、決めのポーズを取るべく炎に背を向けました。
と、その炎の中にゆらりと揺れる影が――
「マージョリーさん!」「姐さん、まだです!」「後ろぉ!!」
マージョリーは子分たちに言われて振り向き様、身をかわしました。
その数ミリ先を危うく、大太刀の刃が通り抜けます。
「……強者よ」
燃える炎も意に介さず、ズシッ、と重い歩を進めてくるのは、隻眼鬼面の鎧武者。
「て、"天目一個"!? ちょっ、どーいう配役よ!」
「いえまあ、人のことを指摘できる立場じゃありませんけどね」
驚くマージョリーに犬佐藤が冷静なツッコミを入れました。
マルコシアスだけは変わらず笑っています。
「ヒッヒ、|一つ目鬼《サイクロプス》が残ってたってか?」
「うまいこと言ってる場合じゃないだろ!」
「く、来るよ!」
猿田中と雉緒方は慌てて下がりました。
「ジョ、ジョーダンじゃない!こいつ自在法が効かないって、のに――?」
「あん?」
マージョリーはぼやく途中で、マルコシアスともども気付きました。
群青の炎が消えた後、迫る"天目一個"の背後の一人の、場違いにも程がある十二単を纏った少女、かぐやのシャナ姫が、忽然と現れたのです。
「――強」
これを察した下天目一個が体を返して大太刀を横様に振り抜く、その前に
「っだ!」
懐に飛び込んでいたシャナ姫が隻眼の鬼面に強烈な頭突きをぶちかましていました。
バガン、と鬼面が音を立てて砕け、鎧が中身を失ったかのように、力なく倒れます。
シャナ姫は十二単を翻し、強い上にも強く笑いました。
「これで、文句ないわね?」
言って、形見の如く地に付き立っていた大太刀『贄殿遮那』を抜くと、まるで十年の馴染みのように慣れた様子で肩に担ぎ、悠々と去ってゆきました。
この成り行きを唖然呆然と見ていた犬佐藤と猿田中に、
「……一体、なんだったんだ」
「俺たちはどーします、姐さん?」
効かれてようやく、マージョリーは肩をすくめて答えます。
「どーもこーも、桃太郎ってのは宝持って帰るんでしょ? とっとと家捜し始めるわよ」
「なんかそれ、違うような……?」
という雉緒方の突っ込みも、
「細けぇことは気に寸なって。悪滅びてめでたしめでたし、だ。ヒャーッハハハ!」
マルコシアスの強引な締めに流されて、一応の幕は下りたのでした。
3 文福茶釜《ぶんぶくちゃがま》
そのころ、なよ竹の一美姫は、街中にあるお寺の門前で一休憩していました。石段に腰を下ろして、門にある扁額を見上げると|紐糸寺《にゅうよくじ》とあります。
「……?」
と、彼女の耳に、小気味のいいお囃子《はやし》と人々の歓声が飛び込んできます。
境内でお祭りでもやってるのか、と思い、中に入ってみると、そこには大層華やかな見世物小屋が構えられております。おはやしも歓声も、この中から聞こえてきたもののようでした。大きく飾り付けられた看板には『ぶんぶくちゃがまのつなわたり』の文字があります。
「ぶん、ぶく?」
聴きなれない言葉に、一美姫は好奇心を抱き、小屋の入り口―といっても少々手間のかかった天幕程度のものですが―から、中を覗きます。
「わあっ――!?」
|桟敷《さじき》を埋め尽くす老若男女(なぜか魚屋や八百屋など店の看板を掲げています)の前、ではなく上、高い天井の中ほどに張られた綱をわたる、不可思議な存在がありました。
歓声を一身に受けるそれは、首と尻尾と手足の生えた、黒い鋳鉄の茶釜。
両手足は火掻き棒のような鉄製、頭は先端の曲がった計器、尻尾だけが狸らしい大きく膨れたもの、時折鉛色の蒸気まで吹いているという、とんでもなく怪しい物体です。
その物体が細い綱の上で、おはやしにあわせパンと扇子を開き。またクルリと番傘を回す曲芸に、観客たちはやんややんやの喝采を送っているのでした。姿かたちが怪しいとはいえ、確かに見たままの様態は滑稽で、見せる芸能の腕も確か。大流行しているのも頷けます。
「すごい……なんだろう、あれ」
一美姫の、声に出した感嘆に、
「どなた、かな?」
背後から短く深く、貫禄のある男の声が答えました。
見れば、中肉中背を墨染めと袈裟で固めた、頑健そのものという壮年の男が立ています。岩になめし皮をかぶせたような厳つい面相が、
「見世物小屋に縁《ゆかり》のある身分とも思えぬが」
最低限、唇を震わせるように声を発しました。意外に爽やかな、先ほどとは違う声です。
それを不思議に思いつつ、一美姫はぺこりとお辞儀します。
「こちらの和尚様ですか?」
「如何にも。拙僧はイーストエッジ。こちらはケツアルコアトル」
和尚は袈裟から下げた、浮き彫りを施した石のメダルを、ポンと叩きました。
「して御身は、何方の姫君ですかな?」
答えたのは、最初にかけられた声。
紐育寺境内の茶室で、一美姫から事情を聞かされたケツアルコアトルは、
「それは、また難儀なご境涯」
メダルから同情のため息を漏らしました。
姫と小さな炉をはさんで座るイーストエッジ和尚も、同様の思いを声に乗せます。
「何か、力になれればよいのだが、生憎と拙僧にも宝具の持ち合わせが――」
「和尚様!」
と突然、和尚の傍らに控えていた少年が叫びました。見世物でお囃子の太鼓を叩いていた、屑屋のユーリイという少年です。その腰に指された短刀が気だるそうな声で制します。
「ユーリイ、今は和尚様の話の最中よ?」
「だからこそだよ、ウァラク。ここに一人不思議な力を使えるものがいるじゃないか」
「はあ?」「ん、まさか」「ユーリイ、お主」
ウァラクの不審、和尚の推測、ケツアルコアトルの懸念に、ユーリイは頷いて返しました。
「はい! どうだい、アナベルグ?」
「は!? し、しかし、ユーリイ殿」
アナベルグと呼ばれたのは、その隣に正座していた、件の茶釜です。
これはもともと、人間の文明に惚れ込み、茶釜に変化した狐なのでした。茶釜として第二の狸生を歩もうと決めたものの、和尚の手で炉にかけられて熱いと叫び合えなく半端にを正体を現し断念狐たる身と茶釜なる志、二つの板ばさみに悩んだ末文福茶釜《ぶんぶくちゃがま》の芸名で、引き取り先の屑屋の少年と見世物小屋を開く、という妥協点を見出し、日々を送っていたのでした。
そんな、燻り続けていた茶釜に、ユーリイは優しく語りかけます。
「ここで、芸をする茶釜狸として不自由なく生きていくのもいい。でも、君が本当に望んでいたものは、そうじゃない……だから、君は行くべきだ。姫を助け役に立つことで、狸を超えた宝具『文福茶釜《ぶんぶくちゃがま》』として、君は世に名を知らしめることができるんだ」
「……ユーリイ殿……!」
アナベルグは、少年の思いやりにメーターの針が振り切れるほどの感激を覚え、茶釜の体から蒸気を盛大に吹きました。ウァラクも、その中に苦笑のため息を隠します。
蒸気に煙る置くから、変わらぬ調子の和尚とメダルの声が。
「彼らはこう言っているが、・・・・・・どうだろう」
「お供に、加えて頂けますかな?」
一美姫の、否やの言葉のあろうはずもなく、
「宜しくお願いします『文福茶釜《ぶんぶくちゃがま》』さん」
言って深々と頭《こうべ》を垂れるのでした。
4 鶴の恩返し
かぐやのシャナ姫は、雪も降り積もる山奥の一軒家を訪れていました。
「だから、『私が機を織る間、部屋を覗いてはならない』という約定をまず交わして頂かなくてはならないのであります!」
叫んだのは、白ヴァージョンの服に、和風の帯を無理やり締めた、ヴィルヘルミナ、
「そんな決まりごとなど知るか。俺は、見たいと思ったときに見る。その程度の許容すらなしに、夫婦などになれるものか!」
叫び返したのは、猟師風の装いにマントと金冠、という格好のメリヒムです。
間にシャナ姫を置く形で、囲炉裏を囲み、
「そのような強引さを出すべきでないときがある、と言っているのであります!」
「真の自分を隠し偽って築いた間柄に、なんの意味や価値があると言うのだ!」
真っ向から意見をぶつけ合います。
シャナ姫は、目を白黒させているよりありません。
唸って歯噛みするヴィルヘルミナは、
「むむ……このようなときに限って、妙に正論ぶったことを」
「提案無謀」
と頭上のヘッドレスから指摘したティアマトーを、ゴンと殴って黙らせました。くらくらする頭を振りつつ囲炉裏に背を向け、懐から取り出した巻物を広げます。
「この周到緻密な計画が、序盤から頓挫するとは……どこに不備があったのか」
シャナ姫は、知らん振りをして剣の手入れを始めたメリヒムをちらりと見てから、
「計画?」
その計画書らしき巻物を覗き込みました。
『鶴一号作戦・要綱』
一・男に命を助けられる。 二・嫁として押しかける。 三・機を織っているところを見てはいけない、と約定を交わす。 四・機を織って上質の反物を仕上げ、これを売った男に富を授ける。 五・男、好奇心に駆られて機織部屋を覗く。六・鶴としての正体を見せ、行き先のヒントを残して飛び去る。 七・男、ヒントを頼りに嫁を追い、鶴の群れに混じる嫁を見分け、感動の再会を果たす。 八・末永く仲睦まじく暮らす。
これを読んだシャナ姫は、もう一度メリヒムを見ました。
件に続いて、ガラスの盾を磨き始めた彼のムスッとした表情は、あまりに頑なです。
「……結構、実現は難しそう」
それでもヴィルヘルミナは、滅多にない好機を逃すつもりは毛頭ありません。物語の厳正な進行を、断固として主張します。
「難しい難しくないの問題はなく、この『鶴女房』そういう流れになっているのであります。今回の番外編の趣旨に倣えば当然、同様の展開が果たされたしかるべき出あります」
「『鶴の恩返し』、だろう」
作業の手を休めぬまま、メリヒムが投げやりに指摘しました。
ヴィルヘルミナはムッとなって、一部を改めて強調しつつ、再提示します。
「原典の名は『鶴女房』であります」
「そんなもの、学者以外の誰が知っている」
メリヒムは、ようやく盾を置いて指摘します。
「大体、交換に知られてる幕切れは、その除いたかどうかで、鶴が去ってしまうシーンだというではないか。なぜその後の異説まで拾わねばならん」
その、ある意味真っ当な指摘にも、ヴィルヘルミナは耳を貸しません。
「この場に出演しておいて、いまさら不平不満とは往生際が悪いのであります」
「夫婦役と聞いたから許諾したのだ! 俺に娶《めと》わせる女は、唯一人のはず!」
メリヒムの心からの叫びは、しかしかえってヴィルヘルミナに火をけてしまいます。
「あくまで、決められた流れに逆らうつもりでありますな」
「勝手に決められた流れだ!」
「妥当意見」
ゴン、と裏切り者が再び殴られ、その白い姿が、無数の意図となって解けました。糸は眩いばかりの白に、桜色の火の粉を混ぜて膨れ上がり、新たな絵と編み直されてゆきます。
「こうなれば力ずくで、約定の履行を誓わせるのみ」
「ふん、面白い。できるものならやってみるがいい」
剣を取り立ったメリヒムの背にも、七本七色の光線が輝き始めました。見る間にその光は強くなり、やがて光背とも翼とも思える広がりを持って、彼を壮麗に飾ってゆきます。
(――っい、いけない!)
もはや、自分の用に供する力や反故を得るどこではありません。シャナ姫があわてて飛び出した背後で、一軒家は無数の白いリボンに切り裂かれ、二次色の閃光を巻いて爆発しました。
5 笠地蔵
吹雪の中、蒸気を噴射して、宝具『文福茶釜《ぶんふくちゃがま》』ことアナベルグが空を飛んでゆきます。
その上に腰掛けた、なよ竹の一美姫は、場にそぐわない十二単の中に身縮めて、吹き荒ぶ風と雪、双方から齎される寒さに耐えていました。
アナベルグが反故たる己の主に気遣わしげな声をかけます。
「やはり、荒天の飛行は危険ですな。何処かに身を潜め、天候の回復を待ちませんか?」
しかし一美姫は、懸命な微笑とともに首を振りました。
「家、十五夜まで日がありません。求めて得る旅をできる限り続けなければ」
見かけとは裏腹な、主の芯の強さにアナベルグは舌を巻き、
「分かりました。姫の御衣に――おや?」
言いかけて茶釜を中に止めます。
「どうしました?」
メーターの頭を巡らせてアナベルグは先ほど下方に過ぎたもの…… 雪中にある日地らしき影を探しました。そのガラスの表面、へばりつく雪の反転の向こうの、再び人影が。
「まさか……いや、間違いない。この吹雪の中に、誰かおりますぞ!」
「えっ!? もしかして遭難者じゃ――茶釜さん!」
「了解です!」
アナベルグは蒸気噴射の音も高く、人影の許へと急降下します。雪の原に立つ枯れ木、その下で立ち往生する一団が見えてきました。|橇《そり》を引いた、五人ほどの旅人のようです。
「大丈夫ですか!?」
一美姫は叫んで、蒸気をふかして軟着陸した茶釜から飛び降りました。雪の中でボーっと突っ立ったままの旅人たちに駆け寄ります。
「今、助けま――あっ!?」
雪を掃い、抱え込もうと思った姫は、驚きの声を失います。
「姫! どうされまし、た……?」
駆け寄ったアナベルグも、同様に驚愕しました。
そこにあった一団は旅人ではなく、笠をかぶり橇を引く形の、石でできたお地蔵様だったのです、五人はいずれも、ほっそりした長身と言う変り種。前掛けだけが赤に青に気に緑にも桃と、鮮やかに色分けされています――と、その口が一斉に
「「「「「おお、これぞまさしく天の助け!」」」」」
「ひゃあっ!?」
五人合わせて喋ったので、一美姫は雪に尻餅をついてしまいました。
さらに頭上、枯れ木と思っていた長くも太い筒が撓みます。その先端に据えられた、石でできた籠のような頭(笠をかぶっていたので、頭と分かったのです)の中に樺色の炎が点り、ガリガリと耳障りな声が響きます。
「この連れ、ザロービども、が行き黙りに、橇を落とし、難渋して、いた」
「ななっ、おぅわ!?」
アナベルグが驚いて、茶釜のみを雪溜まりに転がしました。ゴン、とその落ちた先でぶつかったものは、なるほど言うとおり、大判小判に米や餅、貴重な品々を山盛りに積んだ橇です。
「「「「「ビフロンスどの、怪力の貴方が適当な方向へと引いたために道から外れてしまったのですぞ?」」」」」「お前の誘導が、下手糞な、のだ」「「「「「なな、なんですとぉ?」」」」」
などと言い合ううちに事情を聞けば、このお地蔵様たちは、自分たちに笠を被せてくれた親切な少年の許にお礼の品々を届けようとしている、とのこと。
「そういうことなら、お手伝いします」
「姫、私が」
吹雪の中にもめげず綱を引く一美姫の健気さに、アナベルグは宝具『文福茶釜《ぶんふくちゃがま》』としての機能で応えました。カパ、と茶釜のふたが開くと、その中に橇の荷が吸い込まれてゆきます。
「届け先で、再び戻せばよろしいでしょう」
そうして、軽くなった橇を引いた一行(一美姫はかえって邪魔になるので、橇に乗せられました)は、目的地たる一軒の家の前で止まりました。
八人皆してコッソリ聞き耳を立ててみると、中から家族のものらしき声が。
「幸雄君、傘を全部売った割に、稼ぎが芳しくないようだが?」
「すいません、お義父さん……売れ残った分は、雪の中で寒そうに立ってたお地蔵様に全部あげてしまいました」
「いいじゃない。こういう優しいところが、浜口君の良さなんだから」
「そうは言うがな、準子。やはり男たるもの、甲斐性がなくては――」
「はいはい、父さんも準子もケンカはやめて。せっかくの家族の団欒なんですよ?」
その中睦まじげな会話に、一美姫は思わす顔を綻《ほころ》ばせます。
「ふふ……ここで間違いないようですね」
と、その眼前にビフロンスが顔を突き出し、虫のような手で橇の荷を指しました。
「ここまで、の礼だ。半分、もってい、け」
「「「「「ご遠慮は無用に願います。どうせ出所不明の宝物なんですから」」」」」
有無を言わせず受け取らせ、別れを告げた一美姫とアナベルグの飛び行く背後、
「「「「「プレゼントキャンペーン当選、おめでとうございます」」」」」
「宝、だ。有り難く、受け取、れ」
吹雪に負けない五十の歓声と、花火のような祝砲が盛大に上がりました。
6 舌切り雀
(なんでこんなことに)
かぐやのシャナ姫は、どことも知れない林の中で困り果てていました。
その隣で揉み合っているのは、
「さぁ、私の可愛い雀……ソラトお兄様を、返して頂きますわよ?」
襟首を締める、雀の飼い主のお婆さん・ティリエルと、
「し、しかし、舌を切られて逃げた方の後を追うのですから、せめて難題を解く程度の逆境踏み越えて頂くかないと物語としての説得力が……」
襟首を締められる、雀のお宿への案内人・メア(少女版)です。
ティリエルは凄艶《せいえん》きわまる微笑で、愛を解《かい》さない案内人、脅迫同然に諭します。
「私以外の女の名前を、言の葉に乗せたんですもの。舌一つで済んで良かった、と思いになりません? そもそも私のお兄様は、私を離れて生きてはいけない……貴方は出迎えに来ただけのこと、余計な手間をかけさせず、黙って案内すればよいのです」
「うぐぐ」
メアは蛇に睨まれた蛙のように、身を竦ませるしかありません。
迫力の勝利をもぎ取ったティリエルは、シャナ姫にも促します。
「さあ、貴方もご一緒に参りましょう。己が愛を守るため宝をお求めとか。私、そういう方、嫌いじゃありませんの」
どこか逆らい難い、確信の姿に手を引かれ、シャナ姫も歩き出します。
「う、うん」
「雀といえど夢幻鏡の端くれ。貴方に供する宝の一つ二つくらいはあるでしょう。「……」
不満の風を隠さないメアを先にたたせて進むことわずか、自然と林が割れて、一見の豪壮な屋敷が現れました。どうやら、これが雀のお宿のようです。
その門前で棒を振って遊んでいた少年・ソラトが妹の到来に驚きの声を上げました。
「あ、ティリエル!?」
「うふふ、お兄様……どうやら、舌も元通りになられたよう――」
「ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
最後まで言わせずソラトは抱きついて、ただ只管《ひたすら》に、すがるように謝り続けます。
その様を|蕩《とろ》けた笑顔で見つめて、ティリエルは金の髪を撫で梳いてゆきます。
「よろしいんですのよ、お兄様。お兄様には私だけしかいないと、分かってさえ頂ければ」
「あ、あの、とりあえず丸く収まったようなので……」
メアがさっさと追い返す手続きとして、お宿の置く間に三人を案内します。
「どうぞ、お土産です。好きな方を選んで、お持ち帰りください」
そこに置かれているのは、大きなつづらと小さなつづら。
大小如何あれ、メアとしては、ティリエルのとった方をお化け入りに、シャナ姫の取った方を宝物入りにするつもりです。思わず本性の道化がちらつくほどの愉悦にほくそ笑みます。
ところがティリエルは、
「お兄様が戻っていらしたのなら、もう他の物に興味などありませんわ。どうぞ、貴方が二つともお取になって。貴方が守るべきもののために」
「うん」
シャナ姫も素直に応じて、メアの止める間もなく、一気に二つとも、この場で開けてしまいます。当然のように大小双方、黄金に珊瑚に輝く水晶など、眩い宝が溢れかえりました。
「あら、嫌がらせでもあるかと疑っておりましたのに」
「わー、きれー」
全て分かっているティリエルと、何も分かっていないソラトの二人に、
「……」
目論見をまんまとかわされたメアに、シャナ姫は念のため、確認します。
「遠慮なくもらう。いい?」
「……どうぞ」
メアは渋い顔で小さく、
「うふふ、一同丸く収まって、これが本当の」
「めでたし、めでたーし!!」
ティリエルとソラトは朗らかな笑顔で大きく、答えました。
7 一寸法師
空をきりきり舞いする『文福茶釜《ぶんふくちゃがま》』アナベルグ、なよ竹の一美姫のすぐ傍らを、
「う、わひゃあっ!?」
「お、降りましょう、茶釜さん! そこの方、待ってください、私たちは――」
絶大な破壊の力、褐色の炎を引く岩塊が掠めてゆきます。それが、二人の上空からひそかに迫っていた金鱗の翼竜を一撃、弾き飛ばしました。
「ぬぎぇーっ!!」
さらに、一美姫が声をかけたなそこの方は、やはり岩塊からなる巨大なつま先で、足元から逃げようとしていた指輪を多数はめた青年を思い切り蹴飛ばします。
「どげぁーっ!!」
べらぼうな破壊力に双方、星になって退場。
アナベルグは、まるで降参するかのようにヘロヘロと、そこの方の前に着陸しました。
一美姫は眼前、岩塊でくみ上げられた巨人を見上げます。褐色の炎を所々に漏らす威容は、不思議と|禍々《まがまが》しさではなく、無骨な神像のような聖性が感じられました。
と突然、その巨人がばらけて、ガラガラと崩れ落ちます。
「ああ、先ほどは要ありとはいえ、乱暴な真似をしてしまいました。大丈夫でしたか?」
濛々と土煙舞う、俄か岩山の頂に立つのは、童形小柄、傷だらけの少年。
「私の名はカムシン。このベヘモットと合わせて、一寸法師と呼ばれています」
かざした手首から中指にかけて巻かれた、異国風の装身具から、穏やかな老人の声が。
「ふむ、鬼の一匹がお嬢ちゃんらを狙っておったのでな。少々手荒な方法を取らせてもらった」
「鬼……?」
荒く蒸気を吹く茶釜を撫でる一美姫は、先ほど退場した二つの悲鳴を思い出しました。
「ああ、このあたりいったいを根城にしていたニティカ、カシャという二匹の悪い鬼です。この姫君たちりに狼藉を働こうとしたので、成敗しました」
少年が平坦な表情で見る先に、巨人の材料にされたのか、天井部のごっそり消えた元洞窟があります。その中に自失状態の、姫君らしき身形《みなり》の少女が二人、立ち尽くしていました。
「どど、どもー」
「こん、にち、は」
戦いの余韻に震える声でようやく挨拶する、長い髪の姫君は浅沼稲穂、短い髪の姫君射は西尾弘子といいました。彼女らは、身に覚えのない罪で家元から追い出されたところを、あの鬼たちに襲われ、さらに一寸法師に助けられたのだそうです。
一美姫はなんとなく、事件の起きるタイミングの良さ、姫を助けたことへの情動の薄さ、鬼の動向についての詳しさなどから、最初からカムシンらが謀って姫を追い出させ、鬼たちを退治するための囮にしたのでは、と思ってしまいました。
(まさか、ね)
苦笑する彼女の前に、少年が一つの物を差し出しています。
小ぶりで塚の短い、装飾の華やかな木槌でした。
「ああ、これは『打ち出の小槌』という、物の大きさを自在に変えられる宝具です。さっきの鬼たちが落として行きました。これを貴女に差し上げましょう。」
「え、でも……」
唐突な申し出に戸惑う一美姫にベヘモットとカムシンは平然と言います。
「ふむ、儂らには不要の物じゃ」
「ああ、私は自力で大きくなれますので」
浅沼と西尾が、顔を見合わせ、首を捻りました。
「打ち出の小槌って、そういうもんだっけ?」
「さあ?」
その会話の陰で、つい、と少年は半歩、一美姫の前に足を滑らせ、呟きます。
「ああ、その代わり、貴女の感づかれたことは、胸の奥に秘めたままにしておいてください」
「ふむ、以降の鬼退治の助力を、姫様方の実家に命の恩人として求めるつもりなのでな」
「は、はい……」
一美姫は頬を引きつらせて、恐る恐る打ち出の小槌を受け取りました。
8 かちかち山
座敷に通された、かぐやのシャナ姫は、
「ふうん、天人と事を構える、か……そりゃまた、気宇の大きな格好いい話ね」
「それほどじゃ、ない」
休息と労いの言葉に、張り詰めた心身を久方ぶりに休めていました。
方綿のどまで麦を搗いているのは、この家に住むマティルダお婆さんです。容貌勇ましく人品に卑しからぬ風の彼女ですが、なぜかこういう庶民的な格好や作業も良く似合います。
「ぐ、ぶ、げあ、あ……婆様、本当に降参、だから、下ろして、くれ」
その横、土間の中ほどで天井からつるされている形容不明の不気味な物体は悪さをしたために彼女の夫・アラストールお爺さんに捕らえられたウコバク狸です。
「駄目駄目。あの程度の腕前で私に挑みかかった罰よ」
実はシャナ姫が訪れる直前、ウコバク狸は「麦搗きを手伝おう」と縄を解いてもらい、その瞬間を隙と見て、まてぃるだに襲いかっていたのでした。もちろん、稚拙な不意打ちなど許す彼女ではありません。手もなく返り討ちに遭い、再び吊るしなおされていたのです。
「しばらくそこで反省してなさい。今度悪さしたら、本当に狸汁にするわよ」
「うう、ぐうぐ、ぐ……」
「さっさと、麦搗き終了! 続いて臼でひいて、牛乳を加えて、焼き固める、と…メロンパンって言っても時代柄、酵母も内パンケーキっぽいものしかならないけど、まあ皆で楽しく食べる分には問題ないでしょ。いつの世も、砂糖って貴重品なのよー」
まてぃるだの強くも軽やかな物言い、自然とあふれる貫禄に触れたシャナ姫は心地よい安らぎに暫したゆたい、しかしそれを次なる旅立ちのための力として、心底に溜めます。
「助力は、いい?」
何気ない誘惑にも、はっきりと迷いなく頷きます。
「うん。私自身のことだから」
「ふふ、それでこそよ」
率直な賞賛に照れくさくなって視線をそらすと、いつの間にか縁側に誰かが端然と座っています。モコモコの兎スーツに包んだ、見慣れない少女でした。
「誰?」
「彼女らが夫婦の古き友たるリャナンシー兎だ。君の知る姿に変わっても良いが?」
射馬に、兎スーツの中身が清げな老紳士に変わります。
「……元の姿でいい」
断って見上げた遠い山並みの上、夕焼けの太陽よりも赤く灼熱に燃え盛る巨体を歩かせて、魔人・アラストールお爺さんが帰ってきます。
9 おむすびころりん
ご馳走並べる上座に据えられた、なよ竹の一美姫は、
「ほう、月からの迎えに対抗する、と?」
「ふう〜ん、見かけによらずいー度胸してんじゃない?」
「いえ、自分のためですから……褒められるようなことじゃ」
隣に座るドレルお爺さんと、その杖から言うハルファスに、遠慮がちな声を返しました。
三人の前で、の目や歌絵に大騒ぎをしているのは、着飾った鼠たち。テトスと名乗った鼠の一座『館』の娘鼠たちの歓待も手厚いものです。
少し前に、時は遡ります。
芝刈りに入った山で弁当を広げていたドレスとハルファスは、うっかりお結びを地面の穴に落としてしまいました。すると「もう一つくださいな」と穴の奥から声が聞こえるではありませんか。催促されるまま、おにぎりを全部上げても、声はまだ聞こえてきます。どうしたものかと、二人して困っていたところに文福茶釜《ぶんふくちゃがま》に乗って飛ぶ一美姫が行き逢ったのでした。
「丁度、親切な方々に頂いた食べ物があります」
一美姫はアナベルグの茶釜から、お地蔵様たちにもらった米や餅の幾分かを取り出し、穴に転がし入れました。途端に穴からの声は途絶。代わりに恰幅のいい鼠が一匹現れて、
「美味しいものをたくさん、ありがとうございました。そのお礼に、是非ともお持て成しを」
と四人を地の底の鼠浄土に誘ったのでした。いかに自発的な助力とはいえアナベルグを働かせすぎている、と気に病んでいた一美姫は、有り難く招待を受けました。その文福茶釜《ぶんふくちゃがま》たる彼は今、上座の奥に秘宝の如く飾られ、グッスリ眠り込んでいます。
「頂いたもののお返し程度には、楽しんで頂けておりますか?」
四人を招待した、他から生徒会長と呼ばれている鼠が前に立って尋ねました。
ドレルは軽く返します。
「ええ、存分に。もっとも私は最初に二つ三つ、おにぎりを落としただけですが」
「そーそー、お礼も気遣いも、こちらの優しい姫様にどーぞ」
ハルファスに言われて、一美姫はあわてて手を振りました。
「家、みんな茶釜さんの力です。むしろ、旅暮らしの私たちを休息させてもらって……」
「何の、その志こそ尊ふべきもの。感謝の念に変わりはございません」
生徒会長に応じて、鼠たちも順番にお礼を述べに来ます。時折、
「いーなー、十二単。一美どころか晴海まで着てるってのに、私がなんでこれ?」
と、不満たらたらな中村公子鼠や、
「私たちなんか登場したのは外伝で、本文には名前もないのよね」「で、やっと登場と思ったらこれだ、ったく」「ちなみに名前は斉藤隆代、宇垣成子《うがきせいこ》、尾崎夕紀乃ですー」「私は黒田|寿子《としこ》なんだけど知ってる人いる?」「俺たちカルトクイズ並みの難易度だな。哲っちゃん」「言うな松岡。虚しくなる」「本官はミッキー(|渾名《あだな》)。やはり本文に名前はなく――」
などの雑音はあるにはありましたが、全体としてはほぼ歓迎ムード一色です。
その嬉しさを得つつも、一美姫の心は既に次なる旅へと飛んでいます。
(十五夜まで、もうあと少ししかない……でも、まだもっと、なにかができるはず)
隣ではドレルが米穀を合法的・効率的に得る手段の講釈を鼠たちに始めていました。
10 猿蟹合戦
爪牙の矛先にかかる天、行進の予感に震える地、
「集いし子らよ!!」
双方に、アシズ(蟹)の怒号が轟きました。
「我がティスに害なす猿どもを――今こそ覆滅する時が来た!!」
蟹に組するモノというモノの軍団が叫喚で返し、戦意は否が応にも高まります。
手を挙げているアシズ(蟹)は、もう片方の手に金環頂く可憐な少女・ティス(蟹)を玉のように大事に、赤子のように優しく、かい抱いていました。
「アシズ様、私の受けた傷はそれほど深くありません。このような戦いは――」
「恐れながら、ティス様」
その傍ら、モレク(荒布)が身を屈めて上申しました。
「猿と講和するとして、紛争の元凶となった柿の実の所有権を承認させるためには、まず一戦して我らの誠意を見せ付けねばなりません。この場一時の擾乱は何卒、ご容赦を」
こういわれるとティス(蟹)としても黙らざるを得ません。
「……分かりました、宰相殿」
彼女が柿を取りに行って猿に襲われたのは、蟹のものと思い込んでいた所有権が実際には猿に限らず他者の蹂躙を|恣《ほしいまま》にする曖昧なものだったからでした。猿たちにきついお灸を据えることで、他の不届き者も、そう容易く柿に手を出せなくなるでしょう。
もっとも蟹軍団に加わったもののほとんどは、柿の所有権よりも自身の腕を振るう戦いの方にこそ、意義と価値、あるいは喜びを見出しているようでした。
その一人、ニヌルタ(包丁)が厳正を以って鳴る彼らしい疑問を口にします。
「しかし通常、この物語で蟹に助勢する者は、栗・蜂・牛糞・臼の四者だったはずでは?」
「この九者編成は異本によるものだ。メリヒムを除いたわれらに符合する数、丁度良かろう」
鎌首を重々しく上げるイルヤンカ(蛇)が、遠く戦場を臨みつつ答えました。
「お前様の命ずる所!」「どこへでも彼らは!」「心一つに付いて行きましょう!」
ジャリ卵の戯言はいつものこととと流して、ソカル(|真魚箸《まなばし》)が嘲笑を漏らします。
「くく、元のままだと牛糞決定の方もおられますからな。異本結構というところでしょう」
「……」
その現に、眉根を寄せて黙り込むチェルノボーグ(熊ん蜂)を気遣い、
「そろそろ、敵も動き出すころでは?」
話を逸らしたアルラウネ(手杵)に、彼女を肩に置くウルリクムミ(立臼)が応じます。
「うむううう、既定の作戦方針に従いい、前衛を進めるとしようううう」
「ほいきた、主の嫁さん虐めたエテ公どもを、とっとと蹴散らしちまおうぜっ――!!」
フワワ(蛸)が狼身を起こし、改選を知らせる咆哮を戦場に渡らせました。
「カールが仕掛けたようですね」
対する猿兵団の本陣では、ゾフィー(猿)が字軍の作戦行動に頭を悩ませていました。
「さて、奇手で先制した勢いを、どこまで引っ張れるか……向こうは王様がカンカンのフルメンバーなのに、こっちは飛車角落ちで戦えとはまったく酷い話です。
その額にある四芒星《しぼうせい》の刺繍から、タケミカヅチ猿が重い声で呟きます。
「いかに一部の届き者とはいえ、同胞(猿)があの蟹を傷つけたのは紛れもない事実。なんともやりにくい戦いですな」
本陣の中ほどで、アレックス(猿)とドゥニ(猿)が地図を眺めつつ、
「つっても、そういう馬鹿のために俺たちが一方的に殺られてやる理由もないさ」
「とりあえず、ギリギリ講和を結べる程度には善戦しなければなりません」
彼ら猿兵団の基本姿勢と最終目標を示しました。
ゾフィー(猿)は深く溜め息をついて、覚悟を決めます。
「それが今の私たちに出来る、せいぜいの限界点でしょうね……世の中って厳しいわ」
そうして始まる死闘、
「イーヤッハー! サルを舐めんなよ!!」「ッハハ! 速い速ーい、速すぎる!」「ッキャアー! やっぱカールって強過ぎー!」
両軍激突する中を疾駆する者、
「フワワの横撃が始まるまででえええ、この丘で持ちこたえるのだああ!」「ソカル様、そちらに敵の主攻を流しても?」「ふん、誰に言っている。構わんから全部こちらに回すがいい」
最前線で断固と踏み堪える者、
「ガァーッヒャヒャヒャ! 蹴散らせえ!踏み潰せえ!戦え戦え戦ええー!!」
狂騒と絶叫とともに乱入する者、
「ちっ、やられた! 右翼は潰乱状態だぞ」「総大将、本陣を一理ほど下げましょう」「仕様がありません……カールに戻るよう伝令を!」「おっと、あわてず騒がず整然と、ですぞ?」
苦戦に対処に大わらわの者、
「主、中軍を進め、追撃体制に移行するご許可を?」「許す。諸将よりの、援兵の要請を見逃すな。ティス、傷に障りはないか」「はい、アシズ様。私は……こうしているだけで」
着々と勝利の道を邁進する者、
「では主、私も参ります。メリヒムの居らぬ分は――ジャリ、お主に空の援護を任せるぞ」「お前が同意するならば!」「贈り物を手にしてくれ!」「お前の盾を赤金で染めよう!」
駄目押しに空へと飛翔する者
「痩せ牛、作戦案に私の分担が見当たらんぞ」「この度は野戦ですから。活躍の場を用意できず申し訳ありませんが痛っ!?」「ふんっ……なら、ここにいるのは当然、なのだな、うむ」
ほんの一時の静穏に安らぐ者、
それら絡み合い縺れ合う、
古来より豊穣の守の果実として祀られる|神からの贈り物《ディオスピロス》――『柿』の争奪戦に、
「――っは!!」
一人の少女が大太刀を翳《かざ》し、十二単を靡《なび》かせて、飛び込んでゆきます。
11 花咲か爺さん
とある村に『教授』の渾名《あだな》を持つ発明家のおじいさんがおりました。
変わり者として有名な彼は、あるとき助手のドミノという犬に「ここほれワンワン」と言われ、自宅裏の畑に穴を掘り始めました。自家製の発明で。
「こぉーれぞっ『科学の結晶エクセレント番外0003―深き杭』っ!!」
外見は、高く聳《そび》える回転式のボーリングマシンにしか見えませんが、ともあれ機械はどんどん、どこまでも、しつこく、延々、掘り進みました。そうして、ドミノが元々目標物としていた宝どころか化石に岩盤までぶち抜いて、遂には深層熱水、いわゆる温泉にまで到達。蒸気と熱水が大噴射を起こして、機械は倒壊し、隣に住んでいたサブラク爺さんの家を直撃、ついでに熱々の洪水でなにもかも押し流してしまいました。
「……確かに、この知れ者に隣り合わせて住処を構えていたのは我が身の不覚と言うよりない。だが、だからといって、このような理不尽を|蒙《こうむ》って良いものだろうか――否!!」
「ッノォォォォォー!?」「あーれー!!」
怒ったサブラク爺さんによる剣と炎の|怒涛《どとう》で、二人は吹っ飛ばされました。
ちなみに村は、温泉街となって大いに栄えたということです。
ところでめげない教授はまたある濾器所巣のドミノ犬に「これつけワンワン」といわれて、崩壊した家の柱から臼を削り出し、餅を搗き始めました。自家製の発明で。
「こぉーれぞっ!『科学の結晶エクセレント番外編0004―速き杵』っ!!」
外見ハウスを抱え込みマジックハンドを無数生やした怪しげな機械ですが、これが意外に高性能で、餅米の準備から丸めるところまで、餅つきの作業を流れるように行いました。出来上がった餅は――金に変わりました。そうして、ドミノが考えていた規模を超えて、機械はどんどん、どこまでも、しつこく、延々、作業を続行。山とあふれた金は、離れた場所に引っ越したサブラク爺さんの新居に直撃、大重量の雪崩でこれを押し流してしまいました。
「……物理的に俺を殺せる攻撃、しかも移住先にまで押しかける狼藉。一度ならば事故と許そう。だが二度目という今、そこに何らかの害意を感じずにいられるだろうか――否!!」
「ッノォォォォォー!?」「あーれー!!」
ちなみに村は、溢れた金で温泉街を整備し大いに大いに、栄えたということです。
それでも、めげない教授は、またまたあるとき助手のドミノ犬にこれまけワンワンといわれて燃え落ちた家の灰を、村中の木という木に撒き始めました。自家製の発明で。
「こぉーれぞっ!『科学の結晶エクセレント番外0005――広き籠』っ!!」
外見は巨大な急吸引口と噴出口、タービンと機関部からなる装置で、見る間に灰を吸い込み、村中に散布してゆきます――すると、灰の触れた種類大小を問わぬ木や枝に、桜の花が咲いてゆくではありませんか。撒かれた灰は、どんどん、どこまでも、しつこく、延々、桜の花を咲かせてゆきました。そうして撒かれた灰は、互いの家も見えない遠方に引っ越したサブラク爺さんが手入れをしていた、秘蔵の黒樫木刀にも、ポン、と花を咲かせました。
「――っ、……」
「というわけなので、今すぐ逃げられた方がいいと思うんでございますで|ふひははは《すいたたた》!?」
「ドォーミノォー! なぁーにをグゥーズグズしていぃーるんです!! さぁーっそく、このェエークセレントな開花現象のメカニズム究明にかぁーかりますぉー!?」
なよ竹の一美姫とアナベルクに説明したドミノ犬、彼をマジックハンドで抓り上げる教授、二人の背後に、どこからともなく顔を巻き布で隠したマントのお爺さんが現れます。
「……もはや、言は弄すまい」
「ひ、姫、こちらに!
「あっ!?」
アナベルグに手を引かれて飛び去る一美姫の直下、無数の剣の中に躍らせる茜色の炎が、怒涛のように湧き上がり、教授とドミノを吹っ飛ばしました。
「ッノォォォォー!?」「あーれー!!」
ちなみに村は温泉や豪華な設備に加え、代わり桜の名所としても知られるようになり、大いに、大いに、大いに、栄えたということです。
12 浦島太郎
海の底にある竜宮城、その玉座にある浦島太郎ことフリアグネが、深く頷きました。
「なるほど、事情は分かった。十五夜も近い、遊ぶ間もないとなれば……いいだろう、私の持つ宝具を、君に進呈しようじゃないか。好きなだけ持っていけばいい」
「えっ、本当に?」
謁見者として玉座の段下に立つ、かぐやのシャナ姫は、あまりにスムーズな交渉の成功に、半信半疑の面持ちです。
無理もありません、海底要塞・竜宮城で数百年、この座に在るという青年が収集した宝は質量ともに半端なものではありません。それを|碌《ろく》な試練や争議もないままに譲ってくれる……欲する側のシャナ姫でなくとも疑いたくなるでしょう。
その疑問を、彼の隣、后たるの座に在る乙姫ことマリアンヌが代わりに口にします。
「よろしいのですか、フリアグネ様? あれほど大切にされていたものなのに」
フリアグネは再び頷き、優雅に立ち上がりました。
「いいんだよ、マリアンヌ。君がずっと傍らにいれば、それでも地上に帰ることは、決してない。宝具を用いて戦うことも。君との永遠こそが、私の全てなのだから」
大きく広げた両手から薄白い波紋が広がって、鯛や平目のお面をつけた家来たち――粗く髪を編んだマペット、ツギハギだらけの兎、掌に乗る可愛い猫、首だけを継ぎ合わせた球、小さな着せ替え人形、天子の輪と羽をつけた熊、三頭身の大きな赤ん坊、プラスチックのダックスフンド、多数のマネキン人形、アクションフィギュア、その部品――全員が、主の喜びに応えて、后の幸福を祝して、華麗に楽しげに舞い踊ります。
「姫、君の愛の成就を、そのための闘いの勝利を私は祈ろう。ここから、皆で」
その賑やかさの中心でフリアグネは言い、愛する者を抱き上げ、さらに高く掲げました。
「それこそが、私たちらしい……だろう? 私の可愛いマリアンヌ」
動かないはずの表情に、喜びを一杯に表して、マリアンヌも愛する者に答えます。
「はい、フリアグネ様」
シャナ姫は、そんな二人の様を明らかな羨望とともに、いつまでも見つめていました。
13 織姫と彦星
手を繋ぐ恋人二人、織姫フィレスと彦星ヨーハンのトンでは跳ねて行く先に、次々とカササギが舞い降り、星の川に橋を作ってゆきます。なよ竹の一美姫とアナベルグも、二人の後を恐る恐る、尾長く翼端に鮮やかな白を広げる鳥たちを踏んで続きました。
ヨーハンが振り返って、鮮烈そのものの笑顔で言います。
「ははっ、怖がらなくても大丈夫、カササギの橋はそんなにヤワじゃないよ」
「ヨーハンが私たちがいつでも会えるように、って編んでくれた橋だもの」
手を繋ぐフィレスも、輝くような笑顔で請け合いました。
本来、二人は愛し合いながらも引き裂かれた間柄だったと言います。互いの仕事をサボって遊び呆けた罰として、天帝ゲオルギウスと金髪の后が、二人の間を天の川で隔て、年に一度、七夕の夜だけに会うよう決めてしまったのでした……が、もちろん(人のことを言えない)天帝らの命令に黙って服す二人ではありません。会いたい一心で、力の限り技の粋を尽くして、年に一度の橋をかけるカササギたちを制御下に置くことに成功したのです。
依頼二人は、睨まれない程度に仕事をしながら、逢瀬を続けているのでした。
「宿運や天命程度で僕らを別っていいわけがないね。この橋は当たり前の結果さ」
一美姫は、自分が最初気付けず、選べもしなかった道を平然と行くヨーハンに、大きな感銘を受けます。
「効果があるか分からないけど、私たちから天帝に話を通してみましょうか」
そして、受けた感銘は、このフィレスの提案に首を横に降らせます。
「いえ……もう、たくさんもらいました」
「そう、じゃあせめて、お守りをあげる」
フィレスはまた笑って隣に在る少年と繋いだ手をを、軽く差し上げます。
不意に琥珀色の風が巻いて、カササギの白く大きな羽が一枚、その手の中に。
「カササギは、勝烏《かちがらす》とも言う、縁起のいい鳥なんだ。持って行くといいよ」
ヨーハンの差し出したそれは、どんな金銀財宝より眩く美しく、一美姫には見えました。
14 竹取物語(後)
遂に十五夜がやってきました。
かぐやのシャナ姫、なよ竹の一美姫、二人の翁がお屋敷に帰り着きます。
「お帰り。無事で何よりだ」
「得たものは、沢山あった?」
門前に、出迎え、屋敷へと導く貫太郎おじいさんと千草お婆さんに答えようとした二人は、
「あっ!?」
「えっ!?」
母屋の縁に立って二人を見つめる、ある人物の姿を認め、驚きに目を見張ります。
「もう会えなくなるなんて、絶対に嫌だからね。僕もここで、君たちと戦うよ」
廷臣を両脇に従えて立つその人物とは、他でもない、御門悠二でした。
「……ん」
「ありがとう、ございます」
二人の姫はそれぞれに返し、身以上に心が引き締まるのを感じました。
程なく、貫太郎お爺さんんの上奏を受け御門のの遣わした、六衛府の軍勢二千人が警護の任に就きます。ペラペラな紙のように見えますが、これでも『四人の|舎人《とねり》』以下、勇猛を以って鳴る精兵たちです。月の都より月の使いが相手と言うことから、その配置も、広大な屋敷を囲む築地塀の上に千人、屋根の上に二千人、という特異なものとなりました。
軍勢の指揮に当たるのは、勅使少将オルゴン。
「ここまで堅固陣を布いているのだ、天人などに後れを取るものか。兵はおろか、蝙蝠《こうもり》や蚊の一匹とて、この空を飛ばせはぬわ」
とまことに頼もしい奮励振りです。
シャナ姫は、そのオルゴン率いる二千の軍勢とお屋敷の屋根に立って、敵襲に備えます。
御門悠二や廷臣たちは、貫太郎と母屋の中に潜んで、天人との交渉への算段を練ります。
一美姫は『文福茶釜《ぶんふくちゃがま》』アナベルグや千草お婆さんと塗籠(寝殿内に設けられた、土蔵上の一郭)に篭り、二人が旅の間に得た宝具や多くの財物による援護や搬出を適宜行います。
それぞれの役割分担を定め、厳重な上にも厳重な警備を続けた子の刻(午前零時)。
俄かに、お屋敷一帯が満月を十ほども合わせた光芒《こうぼう》に包まれました。
シャナ姫が目を細め、オルゴンが帽子の鍔から仰ぎ見る先、架ける月も解けて見えない真っ白き天空から、雲に乗った何者かが降りてきます。
確かめるまでもない、三人の男女を先頭にした天人の一団でした。車を引く馬、羅蓋《らがい》(薄布を張った傘)を指しかける白服の女、減を爪弾く楽師までいます。一団を乗せた雲は、地面から五尺ばかり(約1.5メートル)浮いたところで止まりました。いずれも、この世のものとは思えないほどに美しい装束を纏っておりました。
やがて、先頭にある三人の左手に立つ、三眼の右に眼帯をした美女が口上を述べます。
「姫様方、償いの期限はもう尽き果てました。どうぞ、月の都にお戻りを」
「天人軍師ベルペオル、ね。生憎だけど――断る!!」
シャナ姫は大太刀片手に一喝して、光芒の中、浮き足立つどころか呆然となってしまっていたオルゴン初め六衛府の軍勢を我らに返らせました。
ベルペオルは溜め息を吐いて、自分の右隣へと軽く目をやりました。
「ヘカテー」
「はい」
答えて三人の中央、大きな帽子に白装束と言う少女が手にした|錫杖《しゃくじょう》の石突で雲を軽く叩きました。
シャーン、と透き通った音色が当たりに響き、お屋敷の戸と言う戸、格子に襖、全てがひとりでに開いてゆきます。厳重に閉じられていた塗籠のそれも、例外ではありません。
「姫」
「……お婆さんは、ここにいてください」
気遣う千種に言うと、一美姫は一望の元に晒された戸口に立って、天人に対します。傍らには振りまかれる光にメーターを振るわせるアナベルグも付き従いました。
シャナはオルゴンへの合図として、掌を下に手を振り分け、軍勢に射ち方を準備させます。
その中、縁側に貫太郎が立ち、天人にも臆せず語りかけます。
「天人方、ここにおわす姫様方のお気持ちを、承知の上でお迎えか。御門への想い断ち難きがゆえに|艱難《かんなん》の旅に出、辛苦の末にあくまで抗すと決めた、姫様方のお気持ちを」
「無論、承知の上。いつまでも穢土には這わせて良い方々ではないからの」
ベルペオルは悠然と自分たちを取り囲む軍勢、大太刀の切っ先を向けるシャナ姫、|屹《きつ》と抗いの視線で射る一美姫に、三分の二の目線を巡らせます。そうして、
「フェルコー、お召し物を」
「は、これに」
近侍の天人が、一つの箱を恭しく掲げて進み出ます。
ベルペオルは再び、今度は『天人の証たる衣を纏う』という行動で示すよう、求めます。
「さあ、この天の羽衣を身にお掛けくだ――」
「断る!!」
シャナ姫は再び断固として拒絶し、伏せていた手を勢いよく跳ね上げました。
名を受け、オルゴンは軍勢に一斉射撃を命じます。中庭の中に浮く十数名ほどの天人の頭上から、二千の矢が降り注ぎます。尋常の人間が相手であれば、これでまず勝負はあったでしょう。
しかし、彼らは無論、そうではありませんでした。
「っぬうんん!!」
ヘカテーの右にあったよろい武者が剛槍を一振り、風圧と巨大化した槍そのもので、矢の全てと一帯の軍勢を|薙《な》ぎ払ったのです。さらに間髪入れず二振り、前方のお屋敷を屋根から両断してしまいました。地に付いた穂先は、塗籠の戸口に寸差手前。
屋敷が切り開かれ、塗籠にある一美姫までもが露わになった形です。
「シュドナイ、あまり乱暴にするんじゃないよ」
「こちらの力を見せ付けて、話の進み早くしてやったるもりなんだが――ね!!」
軍しに答えた将軍は、元の大きさに戻した槍を、頭上一文字に差し上げました。
ガン、と振り下ろさせれた大太刀が、槍の柄で火花を散らします。
これは無論、間隙を縫って飛びかかっていたシャナ姫でした。
「姫様ご自身が太刀打ちとは|、聊《いささ》かはしたのうございます、な!」
「ぐっ!」
弾き飛ばされたシャナ姫は、半ば瓦礫と化したお屋敷を背に、再び体制を整えます。その背後からはいつしか、天神の光を遮断するような鉛色の蒸気が、|濛々《もうもう》と上がっています。
「シャナちゃん、こっち!」
「一美!」
呼ばれて、シャナ姫はアナベルグに乗った一美姫の許に飛びました。アナベルグは煙幕のように蒸気をあたりに充満させ、二人の姫を背に、その中を飛び回ります。
小癪な手向かいをシュドナイは笑いつつ、背後の天人たちに命じます。
「オロバス、レライエ、軍師と巫女を連れてや下がれ! フェコルー、守りは任せる! あとロフォカレ羽音を鳴らすな、的にされるぞ!」
程なく、天神の一団が雲ごと下がったのを確認したシュドナイは、煙幕の中から自分を狙っている二人のおてんば姫を、兜のまびさしの下から探ります。
「ここまでされては仕様がないな……今度は少将、乱暴に行くぞ」
軍師の諦め混じりの溜め息を、遠く返答と受け取った瞬間、、その首が膨れ上がります。
「ッゴアアアアアアア!!」
膨れ上がった首は牙剥く虎となり、その虎口は直下の地面に向きました。咆哮の重さ大きさに見合った巨大な炎弾が、放射の瞬間に着弾、自身を中心にした大爆発を起こします。
「っな!?」「うあっ!?「うぉわあ!?」
シャナ姫と一美姫、二人を乗せたアナベルグは煙幕もろともに爆風に攫われ、先の斬撃に加えた倒壊を起こすお屋敷の中に吹き飛ばされました。
「姫!」
瓦礫の中から、いち早く身を起こした御門悠二が駆け寄り、粉塵と火の粉散る中から、二人を抱き起こします。微《わず》かに呻く二人は、最早ボロボロの状態でした。
「くそ、僕のために、こんな――」
「ああ、そうだな。お前がいるから、姫様方はこの穢土に未練があるのだった」
「!!」
二人を抱き締めた悠二の背後に、絶望の使者のようなシュドナイが立ちます。
「その未練を断てば、姫様方も素直にご帰還くださるだろう」
「――っ!!」
御門悠二はこれが最後と覚悟して、抱き締める腕に力を籠めました。
その力を感じる中、一美姫は懐から零れかけるカササギの羽根に目を留め、
「宿運、天命で私たちを……別っていいわけが……ない」
小さく、しかし強く、旅の果てに刻み付けた、想いを確かめる言葉を紡ぎます。
その強い言葉にシャナ姫は朦朧とした意識下、変化のように唱えていました。
「ずっと、傍らにあれば……それが、全て」
呟いた、その自分の声に、シャナ姫は気づきます。
(そう、だ)
頬も触れ合う一美姫に……誓いを求めるように、呟きます。
「一美……絶対に、一緒に、いたいよね?」
「うん」
返答には、迷いなど一欠片もありませんでした。
「!!」
開いた瞬間、シャナ姫は大太刀を握りなおして立ち上がり、二人を背後に隠しました。危うく槍を止めたシュドナイにではなく、遠くから見物するベルペオルに、告げます。
「分かった、月の都に帰る!」
誰もが驚きました。一美姫に御門悠二、千草お婆さん、彼女を助け出した貫太郎お爺さん、命からがら瓦礫から這い出したオルゴン、同じく池や藤田、ストラス、ウィネ、ガープらの廷臣、その誰もが情の強い彼女の降参に驚きました。
「ただし、御門も一緒に連れて行く!!」
今度こそ誰もが――ベルペオルまで――驚きました。
「それなら、もう手向かいはしない! 代価も、あそこにある!」
大太刀が、塗籠の内にある莫大な財物、月の都にもない貴重な宝具の数々を差します。
「ふう、む……」
ベルペオルが思案の声を漏らしました。確かに言われて見れば、彼女が都から受けた命令は『二人の姫の奪還』であり、それ以外については、何もありまん。
「受け入れられなければ、今度こそあそこの宝具も使って、最後まで抗う」
その、まったく事実を告げる静かな宣言が、駄目押しとなりました。
「……分かりました。特段の問題もなし、そのお方を、月の都にお迎えしましょう」
ベルペオルの了承に、ようやく御門悠二は己が立場の急転を自覚しました。
「えっあっ!? み、御門である僕の立場や意見は!?」
「私たちと一緒にいたくないの?」
「私は、お別れしたくありません」
「いや、それは、その、そうじゃなくて、そうなんだけど、なんと、いうか……」
シャナ姫と一美姫に迫られて結局、黙らされる主君に、
「ま、あとは我々が何とか始末をつけときます」
「ますます。どーぞお達者でー」
池と藤田が白々しく言って手を振りました。
他の廷臣たち、ガープ、ストラス、ウィネ、オルゴンらも、
「さてはて、なぜだか納得の仕儀」「ええ。大変なことのはずなのに、不思議と違和感を覚えませんね」「まあ、確かに……なんか、こう、自然な成り行きのような」「御門が月の都、天人方に迎え入れられる、と……うむ、たしかに」
各々したり顔で言い、貫太郎や千草まで規定事実として別れを告げます。
「巣立ちのとき、というわけか」
「あっちに行っても、ケンカしちゃ駄目ですよ?」
とどめにフェコルーが恭しく、天神の証たる天の羽衣を捧げ、
「どうぞ、この銀色羽衣を、御身に」
「……子、この面子が周りにいたのは、こういう罠だったのか……」
完全に外堀を埋められた御門悠二は遂にこれを羽織らされたのでした。
やがてヘカテーの、
「では、参りましょう」
満を持した宣言を受け、予定数に一名を加えた天人たちが、月に都へと帰ってゆきます。
同行する宝具『文福茶釜《ぶんふくちゃがま》』が、シャナ姫を約定どおり、塗籠めに蔵されていたあらゆる宝具を吸い込みつつ、後を追います。その金銀財宝、真白き天空へと舞い上がる様は、まさに絶景の極み。残された全ての人々じゃ、感嘆とともに三人の新たな旅立ちを見送るのでした。
こうして、かぐやのシャナ姫となよ竹の一美姫は、月の都でいつまでも御門悠二と一緒に、幸せに暮らしたということです。
めでたしめでたし。
「……なのか?」
誰がなんと言おうと、めでたし、めでたし。
終わり