TITLE : 日英対照実用ことわざ辞典
序文
Proverbs are the children of experience.
ことわざは経験から生まれる子宝なり
聖者・哲人の深い洞察や庶民・大衆の長年の経験から生まれた「知恵の結晶」ともいうべきことわざの中には、人生万般にわたる普遍的な指針となるものが凝縮されている。
本書は、これらのことわざを見出しとし、それと同義ないし類義の英語を対照的に配して、両言語による考え方や処世法の類似点・特異性が、具体的に分かるようにしたものである。
見出しのことわざには、日常生活でよく使われるものを精選し(日本語に深くなじんだ漢籍出自のものも含む)、意味や使用上の注意、由来やエピソードといった蘊蓄《うんちく》的事柄から、現代における処世上の実践的なアドバイスなどにまで言及した。また、類諺《るいげん》欄を設け、類義のことわざ・成句から、反義や関連参考用のものまで、適宜意味の補充もしつつ、多数収録している。
それら全ての英語のことわざに添えた和訳は、可能な限り口調が良く、日本語のことわざふうのスタイルとなるように工夫した。これは、既存の日本のことわざに飽き足らず、新鮮な感じのする別の発想のものを使ってみたいという人に、それらの訳文をそのまま日本語の生活場面に取り入れてもらっても、あまり違和感がないように、という配慮によるものである。
読者のみなさんが本書によって、日本語はもちろん、英語のことわざの「こころ」をも自家薬籠《やくろう》中のものとし、手紙やスピーチ、つきあいやセールストークなど様々な場面で活用され、豊かな言語生活に役立てていただけるようにと願っている。
構成・使い方
《1》
◆見出しの日本語のことわざは、テーマ別に6章に分類し、章ごとの50音順配列にしてある。(ことわざは、表と裏の意味や本来の意味と転義があるなど、多義的なものが多く、6章への振り分けは便宜的なものである)
◆見出しの日本語に対応する英語のことわざは、見出しのすぐ下に、和訳付きで挙げてある。
《2》
◆各章の扉ページには、その章に収められていることわざの意味を象徴するキーワードが、密接に関連するものをひとまとめずつにして示してある。
《3》
◆類諺《るいげん》欄には、類義のことわざや成句類を中心に、随時、反諺《はんげん》(反義のことわざ)や比較参考の例も収録されている。今ではあまり使われないものでも、発想や表現の多彩さを顧みる一助として掲出してある場合もある。
◆収録したことわざ・成句類は、見出し、解説中に引用のもの、類諺欄のものなど、全部で2200余ある(他項目での重複掲出分を除く)。
《4》
◆英語欄には、見出し対応分以外の類義例を中心に、英語としての反諺や比較参考の例も、適宜示してある。
◆英語のことわざにも、英米、その他の地域や、時代によって、語句に違いのあるものが少なくない。本書では、綴りについては、原則として現代の米国式綴りに従った。
◆収録の英語の例は、全部で1500余に及ぶ(他項目での重複収載分を除く)。
◆和訳にあたっては、ことわざとしての「口調の良さ」や「簡潔性」に重点を置き、可能な限り逐語訳は避けた。また同じ理由で、あえて「口語文語混淆《こんこう》・和漢混淆」的なスタイルにした所も少なくない。
《5》
◆非常用漢字には原則として読み仮名を付けた(見出しのことわざでは、全ての漢字に読み仮名が振ってある)。常用漢字でも、読みの違いを明示するために仮名を付けた所もある。
◆ことわざや俳句・和歌などで、連続する仮名と仮名、漢字と漢字の間の区切りが分かりにくいと思われる場合には、読点《とうてん》の代わりに、字間をあける処置をしてある。
《6》
◆ことわざの表示などに用いた記号類
( )……丸カッコは、その部分の語・句の省略可を示す。
――例「弘法(に)も筆の誤り」は、「弘法にも筆の誤り」または「弘法も筆の誤り」を示す。
[ ]……角カッコは、その部分の語・句が、直前の語・句と代替可であることを示す。
――例「歳月[光陰]人を待たず」は、「歳月人を待たず」または「光陰人を待たず」を示す。
《 》……二重丸カッコは、ことわざの意味やその他の説明による補充を示す。
= ……等号は、ことわざの同義性を特記したことを表す。
……反義のことわざの前に付く。
……比較参考用のことわざの前に付く。
/ ……斜線は、併記のことわざ間の仕切りを示す。
リンク色……別項の見出しとなっていることを示し、クリックしてその見出しにとぶことができる。
目 次
序文
構成・使い方
1章 成功と失敗
2章 知と技
3章 愛と美
4章 富と健康
5章 毀誉褒貶《きよほうへん》
6章 自然と世間
見出しのことわざ総索引
参考文献一覧
1 章
成功と失敗
勝ち・負け
幸・不幸
繁栄・没落
意志・意欲
分別・賭け
小事・大事
時機・兆し・緩急
指導・服従
驕《おご》り・油断
用心・備え
駆け引き・要領
将・大人《たいじん》
危機・窮地
当《あ》たって砕《くだ》けよ
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All or nothing.
一か八かの出たとこ勝負
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うまくいくかどうか思案しても埒《らち》があかない時は、とにかく決行してみよ、というすすめ。岩に当たって砕ける波にたとえたもので、失敗しても惜しい物が少なければ、賭《か》けてみる勇気も時には必要であろう。「砕けよ」は、「砕けろ」とも言う。
英語の「オール・オア・ナッシング」(全てかゼロか)は、日本語の表現としても定着している。
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【類諺】男は当たって砕けろ/当たって砕けろ磯《いそ》の波/能《あた》わざるにあらず為《な》さざるなり《できないのは、やらないからだ》/案ずるより生むがやすし/一擲《いつてき》乾坤《けんこん》を賭《と》す《天下を取るか失うか、伸《の》るか反るかの大勝負》
【英語】Make or mar. 成るか駄目か、やってみよ/Either win the horse or lose the saddle. 馬を取るか鞍《くら》を失うか、どっちになるかやってみよ/There is never a victory without a battle. 闘ってみなければ、勝ちもない/Do or die! やって死ね《死ぬ覚悟でやれ》
頭《あたま》でっかち尻《しり》つぼみ
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The mountains have brought forth a mouse.
大山鳴動して鼠《ねずみ》一匹
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「尻つぼみ」は、「尻すぼみ」「尻すぼまり」とも言う。前が大きく後ろが小さい形にたとえて、威勢よく大騒ぎして始めたり、壮大な計画を打ち上げてみたものの、やがて勢いがなくなって、つまらない結末になることをいう。口先だけで実行力の伴わない人や、その言動を指す。また、思わぬ障害が起きて、予定した事が遂行できなかった場合にも使われる。
英語は、有名なイソップ寓話《ぐうわ》に由来するものだが、その和訳は、日本語のことわざとしても定着している。
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【類諺】頭でかの尻腐り/頭がちの尻つぼみ[尻つぶれ]/始め良し後《のち》悪し/竜頭《りゆうとう》蛇尾《だび》/蛇《じや》が出そうで蚊《か》も出ぬ/先勝ちは馬鹿勝ち
【英語】To go up like a rocket and come down like a stick. ロケットのように上がり、棒切れのように落ちる/To go from the sublime to the ridiculous. 出だし立派で尻つぼみ
羹《あつもの》に懲《こ》りて膾《なます》を吹《ふ》く
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A scalded cat [dog] fears cold water.
熱湯でやけどを負った猫[犬]は、冷水も怖がる
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「羹」は、魚肉や野菜を煮込んだ熱い汁物、「膾」は、魚肉や野菜の酢の物である。その羹で口にやけどを負った者は、膾のような冷たい物であっても熱いのではないかと、吹いてからでないと食べられなくなる、という意。一度の失敗に懲りて、必要以上に用心深く、消極的になってしまうことのたとえ。
英語でも、上例や下例で分かるように、日本語とほとんど同じ発想・表現法が取られている。
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【類諺】蛇に噛《か》まれて朽縄《くちなわ》に怖《お》じる/黒犬に噛まれて赤犬[灰汁《あ く》の垂れ滓《かす》]に怖じる/舟に懲りて輿《こし》を忌《い》む《舟の事故の後、駕籠《か ご》も避ける》/幽霊の正体見たり枯尾花/落武者は芒《すすき》の穂にも怖ず
【英語】A burnt [burned] child dreads [fears] the fire. 火でやけどをした子供は火を怖がる/He that has been bitten by a serpent fears a rope. 蛇に噛まれて縄を恐れる
雨降《あめふ》って地固《じかた》まる
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After rain comes fair weather.
雨やんで晴れ
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雨が降った後は、やわらかい土も元どおりに固まって、作業がしやすくなるものである。もめ事が起こって、険悪な事態になっても、それがすんでしまえば、かえって理解が深まり、以前よりも関係が良くなるというたとえ。また、結婚式などの祝い事や新しい門出の日に雨が降っていれば、このことわざを用いて、雨を吉兆に転じるのも一手。
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【類諺】雨の後は上天気/喧嘩《けんか》の後の兄弟名乗り/いさかい果てての契り/煙くとも後は寝やすき蚊遣《かやり》かな
【英語】After a storm comes a calm. 嵐が去って凪《なぎ》が来る/The tree roots more fast which has stood a rough blast. 強風に耐えた木は、しっかり根付く/Broken bones well set become stronger. 折れた骨は、うまく接《つ》げば、一層強くなる/The falling out of lovers is the renewing of love. 恋人同士が喧嘩をした後は、更に愛が深まる
過《あやま》ちて改《あらた》むるに憚《はばか》ることなかれ
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It's never too late to mend.
改めるに遅すぎることなし
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「過ちては、則《すなわ》ち改むるに憚ることなかれ」(『論語』「学而《がくじ》」)から来ている。失敗をするのはやむをえないが、それに気付いたら、ためらわずに改めよという意である。更に、「過ちて改めざる、是《これ》を過ちと謂《い》う」(同書「衛霊公《えいのれいこう》」)と言う。過ちを認めるのは勇気がいることであり、その過失を改めるにはなおさら勇気と覚悟がいるが、それを避けているようでは、仕事を大成させることはできない。
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【類諺】過ちを文《かざ》[飾]るなかれ/過つは人の常/怪我《けが》の功名《失敗が思わぬ好結果を生む》/既往は咎《とが》めず
【英語】Denying a fault doubles it. 過ちを否定するのは、二重の過ち/A fault confessed is half redressed. 過ちを認めれば、半ば償ったも同然なり/To err is human, to forgive divine. 過つは人の常、許すは神の業《わざ》
荒馬《あらうま》の轡《くつわ》は前《まえ》から取《と》れ
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Take the bull by the horns.
雄牛を捕らえるなら角を掴《つか》め
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荒馬の轡は堂々と正面から取らないと危険である。おそるおそる後ろから近寄ると、馬にみすかされて蹴《け》られてしまう。これをたとえに、困難に対しては、小細工を弄《ろう》せず、真正面から大胆に向かっていくのが良い結果を生むという意。
英語は、「雄牛を制するには、急所である角を掴めば確実」の意。これも、大変勇気がいる行為である。
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【類諺】断じて行えば鬼神も之《これ》を避く《果敢にやれば鬼も道を空けてくれる》/蹴る馬も乗り手次第/成敗は決断にあり/阿呆《あほう》[馬鹿]と餅《もち》には強く当たれ《手加減すると増長されたり粘り付かれてやっかい》
【英語】A restive horse must have a sharp spur. 強情な馬には強く拍車をかけるべし/He that handles a nettle tenderly is soonest stung. 刺草《いらくさ》にそっと触れば、かえってすぐに刺《とげ》に刺される《=阿呆と餅には強く当たれ》
嵐《あらし》の前《まえ》の静《しず》けさ
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Coming events cast their shadows before them.
事来《きた》らんとして予兆の影を投ず
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異変の起こるような予感がする不気味な静けさのたとえである。大地震など、自然界の大異変の直前に、鳥や獣が一斉に静かになることがある。社会的事件でも、似たような前触れ現象がある。集団の継続的な動きが、ある時点で突然止《や》んだように見えても、それは、「いよいよ実行」をカムフラージュするためであったりする。クーデターの決起前夜に関係者の動きが止まるのもその例。
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【類諺】山雨《さんう》来らんと欲して風楼《かぜろう》に満つ《雨の前の不穏な風に、事件の不気味な兆し》/一葉《いちよう》落ちて天下の秋を知る/蟻《あり》は五日の雨を知る《五日前に予知し穴を塞《ふさ》いだり移動する》/虫の知らせ
【英語】There is something in the wind. 風の中に何かがある/A man's mind often gives him warning of evil to come. 近付く災いを知らせる人の心《=虫の知らせ》
蟻《あり》の穴《あな》から堤《つつみ》も崩《くず》れる
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A little leak will sink a great ship.
わずかな水の浸入で大船もいずれは沈没する
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堅固で大きい堤が、小さな穴でも重みに耐えず、ついには崩れてしまうことにたとえて、ちょっとした不注意や失敗から大事が駄目になることをいう。『韓非子《かんぴし》』の「千丈の堤も螻蟻《ろうぎ》の穴をもって潰《つい》ゆ」によるが、螻蟻はケラとアリのこと。大きな事業も、ささいな油断・不注意から頓挫《とんざ》してしまう。日常でも、たばこの火の不始末が火災原因の上位を占めているように、まさに「小事は大事」である。
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【類諺】蟻の一穴《いつけつ》天下の破れ/小隙《しようげき》舟を沈む/油断大敵/塵《ちり》も積もれば山となる/小事は大事
【英語】For want of a nail the shoe may be lost. 釘《くぎ》が一本欠けても靴[馬の蹄鉄《ていてつ》]を失う/Of a small spark (often comes) a great fire. 小さな火花から大火事/Many sands will sink a ship. 砂粒でも、沢山積めば船も沈む
案《あん》ずるより生《う》むがやすし
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Better hazard once than be always in fear.
恐れているより一か八かやってみるが良し
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出産は女性にとって、肉体的にも精神的にも、一大事業と言われ、何かと心配するものだが、赤ん坊は案外すんなりと生まれるものである。これにたとえて、物事は実行してみると、思いあぐね、悩んでいたよりは辛《つら》くはないもので、気持ちを割り切ることが肝心だという意。もちろん、何事も、準備万端整えたうえで、平静な気持ちでその時に臨むほうが、良い結果をもたらすものである。
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【類諺】凝《こ》っては思案に能《あた》わず/分別過ぎれば愚に返る/下手《へ た》の考え休むに似たり/下手の長碁《ながご》/当たって砕けよ/一か八か
【英語】You never know what you can do till you try. 何ができるか、やってみなければ分からぬ/He who hesitates is lost. ためらえば負ける/Sink or swim, I'll try. 沈むか、浮くか、やってみよう《=一か八か/当たって砕けよ》
石橋《いしばし》を叩《たた》いて渡《わた》る
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The way to be safe is never to be secure.
安全策とは、もう大丈夫とは決して思わないこと
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木造の橋の多かった時代の石橋は、荷馬車が通行しても壊れない堅牢《けんろう》なものとされた。その頑丈な石橋でも、見ただけでは信用できない、途中で壊れはしないか、と槌《つち》で叩いて調べてから渡ることにたとえて、非常に用心深く対処することをいう。あまりにも慎重になる人を揶揄《やゆ》する場合には、「石橋を叩いても渡らない人」と言ったりする。
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【類諺】浅い川も深く渡れ/石に錠《じよう》/石橋に鉄《かね》の杖/念には念を入れよ/用心に怪我《けが》なし/慎重《しんちよう》居士《こじ》《慎重一点張りの人》/念の過ぐるは不念《ぶねん》《極端な用心は不用心に通ず》
【英語】Look before you leap. 跳ぶ前に注意して見よ/Good watch prevents misfortune. 入念な用心は災いの予防/Good heed has good hap. 用心する手には幸運あり/Make assurance doubly sure. 二倍念を入れて確かめよ
磯際《いそぎわ》で舟《ふね》を破《やぶ》る
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Sometimes as it enters the port, the ship wracks.
港に入って難破あり
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「磯端《いそはし》で船を破る」とも言う。この磯は港のことで、船は意外にも、港の近くまで来たところで遭難しやすいという意。これは経験則によるのだが、港が見えてくると、船員は安心して気がゆるみがちになり、また、港付近には他船の出入りや岩礁など、洋上とは異なる障害が多い。物事は、成就直前になると事故が起きやすく、失敗しがちになるので、くれぐれも注意が肝心という教えである。
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【類諺】ぬか喜びはするな/終りを慎む/遠慮なければ近憂あり《将来への思慮を欠けば遠からず憂事に遭う》/好事魔多し
【英語】Many things happen between (the) cup and (the) lip. カップと唇のわずかな間でも[すんでのところで]不首尾が多々起こる/Do not halloo [cry / shout] till you are out of the woods. 迷った森から脱出せぬうちに快哉《かいさい》を叫ぶなかれ
一毫《いちごう》の差《さ》千里《せんり》の差《さ》となる
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Penny and penny laid up will be many.
一ペニーずつでも、溜《た》まれば大金
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「一毫」は細い毛のことで、僅《わず》かな物でも積み重なれば、大量となり大差となるという意だが、「僅差《きんさ》でも雲泥の差」の意で用いる向きもある。たった一点の差でも不合格、などがそれだ。どちらも小さな事をおろそかにはするなということ。
英語の「一ペニー」はことわざの中では「一円・一銭」といった感じである。
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【類諺】一歩の差千里の差を生ず/一粒《いちりゆう》万倍/一時《ひととき》違えば三里のおくれ/一時《いちじ》の懈怠《けたい》は一生の懈怠/一寸延びれば尋《ひろ》延びる/一日延ぶれば千日に向かう/塵《ちり》も積もれば山となる
【英語】A sluggard takes a hundred steps because he would not take one in due time. 物臭者は、肝心な時に一歩惜しんで百歩歩くはめになる/A miss is as good as a mile. 少しの外れでも、外れは外れ《失敗は失敗》
一事成《いちじな》れば万事成《ばんじな》る
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Nothing succeeds like success.
成功ほど、またぞろ続くものはなし
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良い事は、次々と重なって続くものであるという意。つまり、一つ良い事があると、それをきっかけに多くの吉事が続くものと予想されることである。大家族が当たり前だった時代は、一族の適齢期の者が何人も続いて結婚し、同じころにそろって「めでたい初産《ういざん》」ということもあった。また、良い事があると心身にゆとりができて、つまらぬ事にはかかずらわず、失敗も起きにくくなるという一面がある。
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【類諺】金が金を儲《もう》ける/鴨《かも》が葱《ねぎ》を背負《し よ》って来る《好都合の事が一緒に起こる》/悪い事は重なる/一難去ってまた一難/弱り目に祟《たた》り目/二度ある事は三度ある
【英語】One business breeds another. 仕事が次々仕事を生む/Success breeds success. 成功が成功を生む/An unhappy man's cart is easy to tumble. 不幸者の車は転覆しやすい
一難去《いちなんさ》ってまた一難《いちなん》
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One misfortune comes on the neck of another.
一難に、きびすを接して、また一難
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困難や災難が去ってほっとする間もなく、新たな災難が起きること。世の中は良い事が続くこともあるが、悪い事はもっと続いて起こりがちである。トラブルには、必ず原因がある。現象面だけの対処をしていたのでは、同じ背景のトラブルに見舞われ続けることになる。一難は、「禍《わざわい》を転じて福と為《な》す」ための教訓とすべきである。
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【類諺】虎口《ここう》を逃れて竜穴《りゆうけつ》[竜口《りゆうこう》]に入《い》る/一災起これば二災起こる/小難を逃れて大難に遭う/悪い事は重なる/弱り目に祟《たた》り目/泣き面に蜂《はち》/一事成れば万事成る
【英語】Out of the frying pan into the fire. 鍋《なべ》から飛び出して火の中へ落ちる/To get out of the mire and be fallen into the river. 泥沼から脱出したとたんに川へはまる/One funeral makes another. 葬式すんでまた葬式
一葉落《いちようお》ちて天下《てんか》の秋《あき》を知《し》る
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A straw shows which way the wind blows.
藁《わら》一本の動きでも風向きが分かる
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唐詩にある句で、梧桐《ごとう》(アオギリ)の葉が他の木より早く落ちるのを見て、秋の訪れを知るという意。小さな兆し・変化を捉《とら》えて大勢・全体の動向を察するたとえにされる。自然現象を予知することわざは農林水産に関するものが多いが、これは政治・経済など人間界の形勢、特に実力者・支配者の没落を予測する場合にもよく使われる。「一葉」は「桐一葉《きりひとは》」とも言うが、英語の「藁一本」よりも詩的である。
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【類諺】一華《いちげ》開《ひら》けて天下の春/一葉の秋/霜を履《ふ》みて堅氷《けんぴよう》到《いた》る=瓶中《へいちゆう》の氷を見て天下の寒《かん》を知る《厳冬の到来を知る》/一を聞いて十を知る
【英語】Pluck the grass to know where the wind sits. 風向きを知るなら草を摘め《空中に投げれば分かる》/One swallow does not make a summer [spring]. つばめが一羽飛んで来ても夏[春]が来たとは言えぬ《「夏」は地域によって「春」になる》
一挙《いつきよ》両得《りようとく》
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To kill two birds with one stone.
石一つで鳥二羽を仕留める《=一石二鳥》
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「一挙」とは一度の企《くわだ》ての意。虎退治のために二頭の虎をけしかけて喧嘩《けんか》させる。両方が傷ついて共倒れになったところで、一挙に刺し殺してしまう。これが「一挙にして両虎を兼ぬ」(『戦国策《せんごくさく》』)という故事で、一つのことをして、二つの利益をたやすく得ることを指している。
類諺《るいげん》に、一個の石を投げて二羽の鳥を得る「一石二鳥」があるが、英語と同様、外来のことわざの翻訳である。
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【類諺】一石二鳥/一石三鳥/一箭双〓《いつせんそうちよう》《一本の矢で二羽の鷲《わし》を射る》/一槌《いつつい》両当/両手に花/虻蜂《あぶはち》取らず/漁父[夫]の利
【英語】To kill two flies with one flap. ひとはたきで、蠅《はえ》を二匹殺す/To catch two pigeons with one bean. 豆一粒を与えて、鳩《はと》を二羽捕らえる/He fells two dogs with one stone. 石を一つ投げて、犬を二匹倒す
一将《いつしよう》功《こう》成《な》りて万骨《ばんこつ》枯《か》る
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The pleasures of the mighty are the tears of the poor.
強者の喜びの陰に貧者の涙あり
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出典は中国・唐代の曹松《そうしよう》の詩。一人の将軍が輝かしい功名を上げ得たのは、数多くの兵士が尊い命をかけて戦ったからである。その彼等の犠牲が顧みられず、将軍一人に功績を帰す風潮を批判したもの。現代においても、政治家や上級官僚、企業の幹部などは、自分たちに関わる犯罪が露顕すると、必ずといっていいほど、弱い立場の部下に罪をかぶせて、一向に恥じ入らないものである。
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【類諺】万骨枯れて一将の功/大木《おおき》の下に小木《おぎ》育たず/小の虫を殺して大の虫を助ける/一殺《いつせつ》多生《たしよう》
【英語】A high building, a low foundation. 高い家には深い土台が要る/For whom the bell tolls. 誰《た》がために鐘は鳴る《弔鐘《ちようしよう》は万人のために》/Better one suffer than a million grieve. 百万の人が悲しむより一人が苦しむほうが良い《=一殺多生》
一寸《いつすん》の虫《むし》にも五分《ごぶ》の魂《たましい》
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Tread on a worm and it will turn.
虫けらでも踏み付ければ向き直って来る
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一寸は一尺の十分の一で約三センチ、五分は一寸の半分。ごく小さいものにも、それ相応の誇りや意地があるというたとえ。相手が取るに足らない弱小なものだからといって馬鹿にしていると、大きなしっぺ返しを食らうものである。近松門左衛門《ちかまつもんざえもん》の浄瑠璃《じようるり》に「青蠅《あおばえ》は小さけれども毒あって、腹中に入《はい》って五尺の人の命をとる」(『天智《てんじ》天皇《てんのう》』)とある。
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【類諺】なめくじにも角《つの》/痩《や》せ腕にも骨/匹夫《ひつぷ》も志《こころざし》を奪うべからず《下賤《げせん》の者の決心でも簡単には変えられぬ》/小糠《こぬか》にも根性《小糠は婿養子のたとえ》/山椒《さんしよう》は小粒でもぴりりと辛い
【英語】Even a fly has its spleen. 蠅でさえも、かんしゃくを起こす/No viper so little, but has its venom. いかに小さくとも毒蛇には毒あり/A little body often harbors a great soul. 小さな体にも大きな心が宿ることあり
驕《おご》る平家《へいけ》は久《ひさ》しからず
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Pride will have a fall.
高慢は滅びる定めにあり
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平家一族の盛衰を描いた『平家物語』の「おごれる人も久しからず」から、栄華を極め慢心した生活を送る者は、権勢を長くは保てないという意。「平家にあらずんば人にあらず」とまで思い上がった平家は、頂点に達した清盛《きよもり》の死を境に、急坂を転がるように没落していった。人心を得られなくなった権力者が滅びるのはいつの世でも同じだが、歴史の渦中にいる当事者にはその真理がなかなか見えないもの。
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【類諺】驕(れ)る者久しからず/奢《おご》りは長《ちよう》ずべからず/盛者《じようしや》必衰《ひつすい》/自慢[高慢]は出世[芸/知恵]の行き止まり/治《ち》に居て乱を忘れず/昔の剣《つるぎ》今の菜刀《ながたな》《立派だった剣も今は菜切り包丁》
【英語】Pride goes before destruction and shame comes after. 破滅の前には高慢、後には恥辱/The morning sun never lasts a day. 朝日の輝きは一日中は続かない
鬼《おに》の居《い》ぬ間《ま》に(命《いのち》の)洗濯《せんたく》
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When the cat's away, the mice will play.
猫が留守なら鼠《ねずみ》が遊ぶ
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「鬼の居ぬ間」は、「鬼の留守」「鬼の来《こ》ぬ間」とも言う。怖い人物などが留守の時には、のんびり羽根を伸ばそうという意。「(命の)洗濯」は心のリフレッシュ。職場の上司としては、部下が萎縮《いしゆく》して能率が落ちているようだと察したら、わざと不在にして部下に命の洗濯をさせてやるほどの配慮が望まれる。
英語は、小説や映画・演劇の台詞《せりふ》などにもよく引用されるほど有名である。
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【類諺】鬼の留守に豆を炒《い》る[豆拾い/昼寝]/鬼も寝る間《鬼のような人にも隙《すき》がある》/鬼の目にも涙《冷酷な人でも情に折れることあり》
【英語】The mouse goes abroad where the cat is not lord. 猫が領主様でない所では鼠が出歩く/The devil is not so black as he is painted. 悪魔は絵に描かれているほどに黒くはない《それほど悪者ではない=鬼の目にも涙》
思《おも》い立《た》ったが吉日《きちじつ》
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It is good to take the day before you.
目前の日を取れば吉なり
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「吉日」は、「きちにち・きつじつ」とも読む。何事も「やろう」と決心した時にすぐ実行するのが良いという意。慶事や弔事《ちようじ》以外でも、暦の「仏滅」「大安」などを気にする人があるが、日の吉凶にこだわっていると、折角の気もゆるみ、本当の好機・幸運を逃してしまうもの。
英語の「目前の日を取る」は「その日に取り掛かる」の意。
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【類諺】思い立つ日が吉日/思い立ったが吉月《きちげつ》/思い立つ日に咎《とが》め[人神《にんじん》]なし《人神は暦での忌むべき日》/鳥もとまり時《物事にはふさわしい時機がある》/善は急げ/明日ありと思う心の徒桜《あだざくら》
【英語】One of these days is none of these days. いずれ近いうちにという日は、近いうちには来ない/There is a time [season] for everything. 万事に潮時[旬《しゆん》]あり/Now is the best time. 今こそが好機なり
終《おわ》り良《よ》ければ全《すべ》て良《よ》し
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All's well that ends well.
終り良ければ全て良し
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物事は仕上げが大事で、途中でどんな苦労や失敗があっても、立派な結果がもたらされれば、良い評価が得られるものだという意。しかし、結果重視の「手段を選ばず」で猪突猛進すれば、事が成就しても、周囲・世間の顰蹙《ひんしゆく》を買い、先々マイナスになりかねないので注意が肝心。
英語も日本語と同義だが、もちろん翻訳ではない。
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【類諺】終りが大事/終りを慎むこと始めのごとくんば敗るることなし《最後まで慎重なら失敗しない》/有終の美(を飾る)/細工は流々仕上げをご覧《ろう》じろ/始め良ければ終り良し/磯際《いそぎわ》で舟を破る
【英語】The end crowns all. 全てに花を添えるのは終りの時/It will all come out in the wash. 全てきれいに解決する/Good to begin well, better to end well. 始め良しも良いが、終りを見事に納めるのはもっと良い/A good beginning makes a good ending. 始め良ければ終り良し
飼《か》い犬《いぬ》に手《て》を噛《か》まれる
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He has brought up a bird to pick out his own eyes.
鳥を育てて目を突き抜かれる
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飼い主に忠実な動物と言われる犬に、差し延べていた手を噛まれることにたとえ、日ごろから目をかけたり信用していた部下や使用人などから、思いもよらぬ損害を受けたり、裏切られることをいう。歌舞伎《かぶき》の『仮名手本《かなでほん》忠臣蔵《ちゆうしんぐら》』では、「飼ひ養《か》ふ犬に手を食わるる」という。身近に愛情を注いで育ててきた場合ほど、背《そむ》かれた時の精神的な痛手が大きい。
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【類諺】飼い(養《か》う)犬[虫]に手[足]を食われる/虎《とら》を養って虎に噛まれる/恩を仇《あだ》で返す/尾を振る犬も噛むことあり/後足《あとあし》で砂をかける/煮え湯を飲まされる/獅子《しし》身中の虫/軒[庇《ひさし》]を貸して母屋を取られる
【英語】Don't bite the hand that feeds you. 飼い主の手に噛み付くな/I taught you to swim, and now you'd drown me. 泳ぎを教えてくれた者を溺《おぼ》れさせる/In trust is treason. 信頼の中に裏切り/To render evil for good. 善に悪を返す
隗《かい》より始《はじ》めよ
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Practice what you preach.
君の説く所を、まず君が実行すべし
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「隗」とは中国戦国時代の燕《えん》の昭王の臣・郭隗《かくかい》のことである。隗が昭王から賢者を招く方法を問われて、「まず私のようなつまらない者を優遇しなさい」(『戦国策《せんごくさく》』)と答えた故事によるもの。凡人から始めれば、いずれもっと優秀な人材が名乗り出てくる、というわけである。転じて、大きな計画も手近な所から始めるのが良い、提案した本人からまず着手すべきだ、などといった意味にも使われる。
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【類諺】士を好めば士至る《賢者を重用《ちようよう》すれば賢者が自然に集まる》/君子はもって始めを謀《はか》る《始めの手立てを熟考する》
【英語】He that never begins shall never make an end. 着手せざれば成就なし/First creep, (and) then go. まずは這《は》い方を覚えてから歩むべし/Rivers need a spring. 川には湧《わ》き水が必要《湧き水・源泉があって流れが始まる》
頭《かしら》が動《うご》かねば尾《お》が動《うご》かぬ
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Like (a) master, like (a) man.
ボスがボスなら部下も部下
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上の者が先に立って活動しないと、下の者も働かない。でんと居座っているだけでは、下の者に不平不満が生じてくる。自分がリーダーの器であり経験も見識も備えていることを、実効ある活動を通して部下に示さなければならない。
英語は、「ボスが良ければ部下も良し、ボスが駄目なら部下も駄目。部下はボス次第」ということ。
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【類諺】頭《かしら》が動けば尾も動く/頭が回らにゃ尾も回らぬ/提灯《ちようちん》持ちは先に立て/本直《もとなお》からざれば末《すえ》直からず/水は方円の器に随《したが》う
【英語】An ill master makes an ill servant. 駄目な主人には、駄目な家来が出来る/If one sheep leaps over the ditch, all the rest will follow. 羊が一頭溝を飛び越せば、残りも全部ついて行く/Muddy springs will have muddy streams. 水源が濁っていれば、川の流れも濁る
勝《か》って兜《かぶと》[冑《かぶと》]の緒《お》を締《し》めよ
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In the time of mirth take heed.
歓喜の極みの時にこそ用心せよ
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勝った! もう兜を脱いでも大丈夫、と大喜びして安心するな。いったん退散した敵が、いつまた襲って来るかもしれないから、という戒め。連戦連勝を期待される勝負師や、ライバルの多い事業家などが座右銘《ざゆうめい》にすることが多い。戦乱の続いた室町時代の名将・太田道灌《どうかん》の言葉だが、すでに『荀子《じゆんし》』でも、「敵に勝ちて、いよいよ戒む」と説いている。
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【類諺】勝った自慢は負けての後悔/油断大敵/ぬか喜びはするな/勝てば負くる/治《ち》に居て乱を忘れず/驕《おご》る平家は久しからず
【英語】He that is too secure is not safe. 安心しすぎれば安全ならず/Do not triumph before the victory. 勝つ前に勝ち鬨《どき》をあげるな/In peace prepare for war. 平時にも戦いの備えあれ《=治に居て乱を忘れず》/Take heed of reconciled enemies. 和解した敵にも用心せよ《また豹変《ひようへん》するかもしれぬから》
勝《か》つも負《ま》けるも時《とき》の運《うん》
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The chance of war is uncertain.
戦《いくさ》の勝ち負けはいつも不確実
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勝ち負けは、その時々の運の良し悪《あ》しによるものだから、勝っても驕《おご》らず、負けても自信を喪失してはいけない、という意。また、人の努力には限界があることをいう場合もある。実力が伯仲《はくちゆう》していれば、天候を始め、状況のわずかな違いで勝負の成り行きが左右されたりする。実力に開きがあっても、気力がまさっているほうに運が付くこともある。勝負には、実力と運とがないまぜになっている。
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【類諺】勝負[勝敗]は時の運/勝負は時のはずみ/勝負は競《きお》いのもの《勢い次第》/勝つも負けるも軍《いくさ》の習い/勝敗は兵家《へいか》の常
【英語】The race is not to the swift, nor the battle to the strong. 競走は足の速さのみによらず、闘争は力の強さのみによらず《運にもよる》/Heaven will make amends for all. 天は全ての者に差別なく償いをする《幸運の目は誰《だれ》にもある》
勝《か》てば官軍《かんぐん》負《ま》ければ賊軍《ぞくぐん》
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Success is never blamed.
成功すれば非難を受けず
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戦いの勝ち負けは、本来は、戦う者の正邪とは関係ないはずだが、現実には、勝ったほうが正しいとされ、負けたほうは不正な者とされること。「負ければ賊軍」を省略して言うこともある。明治《めいじ》維新《いしん》の際に生まれた言葉。当時、ともに「正当軍」を名乗った藩などの戦《いくさ》が続いたが、結局は勝者が「正当な官軍」とされ、敗者は「賊軍」として滅び去ったことによる。
英語も「成功者・勝者には非なし」の意。
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【類諺】強い者勝ち/無理が通れば道理が引っ込む/理屈と膏薬《こうやく》はどこへでも付く/弱肉強食/負けるが勝ち
【英語】To the victor belong the spoils. 戦利品は勝者の物/You can't argue with success. 成功した者には口出しできぬ《成功は全てを正当化》/The weakest goes to the pot. 弱者が窮地に立たされる《=弱肉強食》
彼《かれ》を知《し》り己《おのれ》を知《し》れば百戦《ひやくせん》殆《あや》うからず
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He that dallies with his enemy dies by his own hand.
敵を侮《あなど》る者はその手で滅びる
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兵法書『孫子《そんし》』にある言葉で、敵(彼)のことも味方(己)のこともよく知っていれば、何回戦っても敗れない、という意。続けて、己を知って彼を知らないなら「一つは勝ち、一つは負け」、彼を知らず己も知らずに戦えば常に負ける、と述べている。敵・味方のあらゆる情勢を知っているのが望ましいが、敵よりも己を知ることのほうが難しいのである。
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【類諺】敵と己を知る者は勝つ/敵の急所は我が急所/人に勝たんと欲する者は必ずまず自ら勝つ/君子は戦わざることあり戦えば必ず勝つ/謀事《はかりごと》定まりて後《のち》戦う《作戦の問題点を全てクリアしてから決行》
【英語】Know thyself. 汝《なんじ》自身を知れ/Better the devil known than the devil unknown. 知らぬ悪魔より、なじみの悪魔/He is not fit to govern others that cannot govern himself. 己を支配できぬ者は、人の支配者には不適当
既往《きおう》は咎《とが》めず
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Let bygones be bygones.
すんだ事はすんだ事
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既往とは、過去のことで、過ぎ去った出来事をあれこれと咎め立てするよりは、将来を慎むことのほうが大切であるという『論語』の言葉である。失敗や過失をしっかりと反省させ、今後に生かすようにさせることは必要だが、なにかと過去の失策を持ち出して責めるばかりでは、相手の意欲をそいでしまう。「罪を憎んで人を憎まず」の心配りが大事である。
英語も「過去の事は水に流せ」「すんだ事で人を恨むな」の意。
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【類諺】旧悪を念《おも》わず/すんだ事を言うと鼠《ねずみ》が笑う/落花枝に還《かえ》らず/昨日《きのう》は昨日今日《きよう》は今日/昔は昔今は今/諦《あきら》めが肝心[大事]
【英語】Things done cannot be undone. やった事は、取り消せぬ/That's water over the dam. 堰《せき》を越えた水だ《もう元には戻らぬ》/Forgive and forget. 許して、忘れよ
窮《きゆう》すれば通《つう》ず
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Need will have its course.
必要生ずれば道生ず
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『易経《えききよう》』の言葉で、「窮」とは絶体絶命的な所に追い込まれて進退谷《きわ》まった状態をいう。そういうお手上げの事態になっても、まだ手を打つ余地や、打開策を見付けられないものか、駄目でもともと、と捨て身の覚悟で、あらためて事に当たってみるならば、不思議と活路が開けるものである。
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【類諺】窮すれば則《すなわ》ち変ず変ずれば則ち通ず/否《ひ》極まれば泰《たい》に反《かえ》る/陰極まりて陽生ず/人窮して巧《たく》みをなす《窮して良からぬ事を計画する》/窮すれば濫《らん》す《窮して意外な事や悪事に走る》
【英語】Necessity is the mother of invention. 必要は発明の母/Necessity is the best schoolmistress. 必要は最良の女教師/Man's extremity is God's opportunity. 窮地極まれば、神のお出まし《神の配慮あり》/Things at the worst will mend. 最悪の事態に至れば、後は好転/Need makes the naked man run. いざという時には裸のままでも走る《=窮すれば濫す》
窮鼠《きゆうそ》猫《ねこ》を噛《か》む
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A cornered rat will fight like a demon.
追い詰められた鼠《ねずみ》は鬼のように闘う
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追い詰められて逃げ場をなくした鼠が、一転して手強《ごわ》い猫に必死で立ち向かうことにたとえて、弱者も絶体絶命の窮地に立たされれば強者に反撃するという意味。小勢《こぜい》の織田《おだ》信長《のぶなが》軍が大軍の今川《いまがわ》義元《よしもと》軍を撃破した桶狭間《おけはざま》の戦いは有名である。
上の英語と下の第一例は、それぞれ「窮鼠鬼となる」「窮猫《きゆうびよう》獅子《しし》を噛む」と訳せばことわざらしくなる。
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【類諺】兎《うさぎ》も七日なぶれば噛み付く/飢えたる犬は棒を恐れず/窮寇《きゆうこう》は敵を選ばず《窮した者は必死に反抗》/臆病者《おくびようもの》は怖い/苦しい時は鼻をもそぐ《非常時には非常手段》/窮すれば濫《らん》す
【英語】A baited cat may grow as fierce as a lion. 猫も、いじめぬかれると獅子のごとく狂暴になる/Despair gives courage to a coward. 絶望すれば、臆病者にも、勇気が生じる/Need knows no law. 火急の時には法も無視《=窮すれば濫す》
漁父《ぎよふ》[夫《ふ》]の利《り》
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Two dogs strive for a bone, and a third runs away with it.
二匹の犬が争う骨を、三匹目が失敬する
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鷸《いつ》(シギ)が蚌《ほう》(ハマグリ)を食べようとして、 口を挟まれ、 互いに争っているうちに、通りかかった漁師に両方とも捕らえられたという『戦国策《せんごくさく》』の寓話《ぐうわ》によるもので、二者が無駄な争いをしている間に、第三者が利益を横取りすることのたとえ。目先の利害にこだわりすぎると、大局が見えなくなるので要注意。「鷸蚌《いつぽう》の争い(は)漁父[夫]の利」と言うこともある。
英語のたとえはイソップ寓話に由来する。
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【類諺】鷸蚌の争い/犬兎《けんと》の争い(田父《でんぷ》の功)《犬と兎が争い疲れたところで農夫が捕らえる》/犬骨折って鷹《たか》の餌食《えじき》《犬が追い出した獲物を鷹がさらう》/鳶《とび》に油揚《あぶらげ》をさらわれる/濡《ぬ》れ手で粟《あわ》《労せずして得をする》
【英語】One sows, another reaps. 甲が種を蒔《ま》いて乙に刈り取られる/One beats the bush and another catches the bird. 甲が茂みを叩《たた》き、出てきた鳥は乙が取る
空中《くうちゆう》(の)楼閣《ろうかく》
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To build castles in the air [Spain].
空中[スペイン]に城を築く
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「空中に楼閣を築く」とも言う。楼閣は櫓《やぐら》のように高い御殿ふうの壮大な建物で、空中にある楼閣とは蜃気楼《しんきろう》のことをいう。「白昼夢を見る」の比喩であり、転じて、架空の物事や根拠のない議論、実現不可能な無謀な計画などのたとえになった。
英語は「空想にふける、幻想を抱く」の意。「スペインに城……」はフランス語から来ている。
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【類諺】砂上(の)楼閣/空理空論/絵に描いた餅《もち》=画餅《がべい》/雲に架け橋/雲に菜《な》(を)蒔《ま》く/雲を掴《つか》んで鼻をかむ/耳を削《そ》いで鼻をかむ《無茶な事》
【英語】To build on sand. 砂上に築く=To write in water [air / sand]. 水[空中/砂]にかく《徒労に終る》=To plow the air [sand]. 空気[砂]を耕す《不可能な事・無謀な事・無駄な事をする》/He cleaves the clouds. 雲中を行く/A castle [house] of cards. トランプ製の城[家]《机上のプラン》
君子《くんし》危《あや》うきに近寄《ちかよ》らず
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Discretion is the better part of valor.
分別は勇気の大半
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徳のある人は、危険のありどころを心得て、安易に手を出すことはしないもの。逃げ口上として使われることもあるが、本来は「物事の成り行きを良く見て慎重に行動し、身の危険を冒さぬように知恵を働かせるのが賢者」ということ。
英語は「見境のない勇気よりも、分別を働かせるほうが、勇気の名に値する」の意。
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【類諺】賢人は危うきを見ず[求めず]/聖主危うきに乗ぜず/三十六計逃げるにしかず/臭しと知りて嗅《か》ぐは馬鹿/危ないことは怪我《けが》の内[因《もと》]/命あっての物種/虎穴に入《い》らずんば虎子《こし》[児《じ》]を得ず
【英語】The best remedy against an ill man is much ground between. 悪党が相手なら十分な距離を置け/It is best to be on the safe side. 安全な側に立つのが最善/Safety lies in the middle course. 安全は中道にあり
君子《くんし》は豹変《ひようへん》す
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Wise men change their mind, fools never.
賢者は悔い改めるが、愚者は決して改心しない
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『易経《えききよう》』にある言葉で、「豹の文様《もんよう》が、毛が抜けかわって一層鮮やかになるように、立派な人物は、自分の過ちを認めた時には、きっぱりと改善するものである」というのが本来の意味である。しかし今では、「自分の都合が悪くなると、すぐに考えを変えたり、約束を反故《ほご》にしてしまう」、つまり「いい加減」や「御都合主義」の意味に転じて用いられることが多いが、これでは君子が浮かばれないことになる。
英語の例は、本来の意味のほうに相当するものである。
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【類諺】大人《たいじん》は虎変《こへん》す/君子の過ちは日月の蝕《しよく》のごとし《すぐに改まる》/過ちて改むるに憚《はばか》ることなかれ
【英語】Wise men need not blush for changing their purposes. 賢者は目的変更を恥じるべきにあらず/Consistency is the product of small minds. 小物はいつまでもこだわる
家来《けらい》とならねば家来《けらい》は使《つか》えぬ
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One must be a servant before one can be a master.
主人になる前に家来になるべし
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使用人や従業員、部下などの身になって人を使わないとうまくいかないものである、という意。また、人に使われる立場を経験していることが大事、という意に用いることもある。人の使い方が上手な人は、若い時などに、下積みの人間として人に使われながらも、逆に使う人のことをよく観察し学んでいるものである。
英語の「こころ」も、日本語と同じである。
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【類諺】使う者は使われる=人を使うは使わるる[苦を使う]《人を使うには気遣いが大変で、結局は人に使われているようなもの》/若い時の苦労は買ってでもせよ
【英語】No man can be a good ruler, unless he has first been ruled. 支配された経験がなければ良い支配者にはなれぬ/Uneasy lies the head that wears a crown. 王冠を戴《いただ》く頭は安逸ならず
後悔《こうかい》先《さき》に立《た》たず
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Repentance comes too late.
後悔しても手遅れ
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「後悔」は「後の悔い」とも言う。事が終ってしまってから良くなかったと悔やんでも取り返しがつかないこと。後悔が先に立たないのは理の当然であるから、何かやるなら、その前に十分考えておけ、もし後悔するかもしれないと思えるようなことであれば決してするな、という教えでもある。
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【類諺】後悔と槍《やり》持ちは先[前]に立たず/後の祭り/下種《げす》の後思案《あとじあん》[後知恵]/葬式すんで医者話/破鏡再び照らさず/落花枝に還《かえ》らず/覆水《ふくすい》盆に還らず/備えあれば憂[患《うれ》]いなし
【英語】It is too late to grieve when the chance is past. 機を逸してから嘆いても遅すぎる/Everybody is wise after the event. 事がすんでから気付くが常《=下種の後思案》/It's no use crying over spilled [spilt] milk. こぼれたミルクを嘆いても無駄《=覆水盆に還らず》/After meat, comes mustard. 食後に辛子が出る/After death, the doctor. 死んでしまってからの医者
好事《こうじ》魔《ま》多《おお》し
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A good thing is soon caught up.
良い事にはすぐに邪魔が入る
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好事《こうじ》(良い事・吉事)にはとかく邪魔が入るものだ、という意である。良い事があると様々な人が集まって来て、あれこれの思惑が交差し、当人の予想もしない出来事に発展しがちである。好事はできるだけ身内に留《とど》めておくのが無難。
「邪魔」が「悪魔」の仕業たること、下の英語の第三例でも明らかである。なお「物好き」の意味では「好事《こうず》」と読む。
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【類諺】好事魔を生ず/旨《うま》い事には魔が差す/月に叢雲《むらくも》花に風[嵐]《良い事にはけちが付いたり邪魔が入る》/寸善《すんぜん》尺魔《しやくま》《小吉の後に大凶あり》/良い後は悪い/磯際《いそぎわ》で舟を破る
【英語】Good things are hard. 好事は成りがたし/Great happiness, great danger. 大きな幸せに、大きな危険あり/God sends corn and the devil mars the sack. 神が麦を届けてくれても、悪魔が穀袋を破ってしまう
巧遅《こうち》は拙速《せつそく》にしかず
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After a delay comes a stay.
遅延の後に邪魔
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出来が良くても遅いのは、出来が悪くても速いのには及ばない、物事はすばやく決行するのが良いという意。『文章《ぶんしよう》軌範《きはん》』によるが、兵法書『孫子《そんし》』にも「兵は拙速を聞き、いまだ巧みの久しきを見ず」とある。しかし「速かろう悪かろう」になりがちの安易な迅速は、考えものである。豊臣《とよとみ》秀吉《ひでよし》の「中国大返《おおがえ》し」作戦は、大軍を神がかり的な速さで動かしたことで有名だが、事前準備が周到に行われていたのである。
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【類諺】兵は神速《しんそく》を尚《たつと》[貴《たつと》]ぶ/先んずれば人を制す/早いのが一の芸/事が延びれば尾ひれがつく/急《せ》いては事を仕損じる
【英語】Delays are dangerous. 遅延は危険/Procrastination is the thief of time. 遅延は時の盗人/The sooner the better. 早いほど良し/He that runs fastest gets the ring. 最も速く走る者が勝つ《=早いのが一の芸》
虎穴《こけつ》に入《い》らずんば虎子《こし》[児《じ》]を得《え》ず
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Nothing venture(d), nothing gain(ed).
冒険せざれば得るものなし
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大事《だいじ》を成すには、 危険を冒す覚悟がなければ、 駄目である(『後漢書《ごかんじよ》』)。どんな分野でも立派な業績を上げたり大きな貢献をした人物には、あえて「虎穴に入った」人が多い。天然痘《てんねんとう》予防のワクチンの発明で人類を救った医師ジェンナーは、我が子を危険な実験台にまでしたことで知られる。
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【類諺】高い所に上らねば熟柿《じゆくし》は食えぬ/金は危ない所にある/身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ/当たって砕けよ/蒔《ま》かぬ種は生えぬ/苦は楽の種楽は苦の種/君子危うきに近寄らず
【英語】No gains without pains. = No pains, no gains. 苦なくば利なし/Nothing stake [down], nothing draw [up]. 何も賭《か》けなければ得るものもなし/He that fears death lives not. 死を恐れていては命を得ず《=身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ》/The more danger, the more honor. 危険が増すほど栄誉も大
事《こと》は密《みつ》なるをもって成《な》る
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Secrecy is the soul of all great designs.
秘することこそ大計の極意
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物事は秘密のうちに行うことによって成功する。『韓非子《かんぴし》』の「事は密をもって成り、語は泄《せつ》をもって敗《やぶ》る」による。「泄」は漏《も》れることで、いずれも謀《はかりごと》が漏れると失敗を招くという意である。大事な計画が漏れれば、敵やライバルに妨害されるだけでなく、身内や周辺からも批判が出て、計画どおりには遂行できなくなる。どんな些細《ささい》な事にも細心の注意を払え、ということである。住友財閥の祖・住友家の家則に、「機密の事は漏洩《ろうえい》すべからず」がある。
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【類諺】機事《きじ》密ならざれば則《すなわ》ち成るを害す=謀は密なるを貴《たつと》ぶ/隠すことは口より出すな/口と財布は締めるが得
【英語】Thy secret is thy prisoner. 汝《なんじ》の秘密は汝の囚人なり《逃げられないように閉じ込めておけ》/He that tells a secret is another's servant. 秘密を漏らせば聞き手の奴隷
先勝《さきが》ちは馬鹿勝《ばかが》ち
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Win at first, and lose at last.
始めに勝って最後に負ける
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「後《あと》勝ちは千《せん》勝ち」と続けることもある。勝負事では、最初に勝っていても本当の勝ちとは言えない。最終的に勝たなければ意味がない。始めに勝ったも同然になると、つい注意を怠り、大事な勝機を逃して、結局は負けてしまいかねない。慢心せず、気をゆるめずにしっかりやれ、という戒めである。
下の最後の英語例は有名で、日本人でもその訳を口にする人が少なくない。
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【類諺】先勝ちは嘘《うそ》[糞《くそ》]勝ち/始めの[初手《しよて》]勝ちは馬鹿勝ち/始め良し後《のち》悪し/竜頭《りゆうとう》蛇尾《だび》/頭でっかち尻《しり》つぼみ/終り良ければ全て良し
【英語】First winner, last loser. 始めは勝者、終りには敗者/At the game's end, we shall see who gains. 勝負が終ったところで初めて勝者が知れる/He laughs best who laughs last. 最後に笑う者が、最もよく笑う
先《さき》んずれば人《ひと》を制《せい》す
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He that comes first to the mill grinds first.
水車小屋への一番乗りが最初に粉を挽《ひ》く
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人より先に事に当たれば有利になり、後手に回ると制圧される、という『史記』の言葉に由来する。先んずるには、何が先手《せんて》になるのかの見極め、先見の明が必要である。豊臣《とよとみ》秀吉《ひでよし》と明智《あけち》光秀《みつひで》とが天下をかけた山崎《やまざき》の戦いでは、要衝の地たる天王山《てんのうざん》を秀吉側が先に占拠して勝ったと言われている。
英語はパン食民族に必要な製粉小屋の共同利用が背景になっている。
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【類諺】早いが[者]勝ち/先手は[が]万手《まんて》《打つ手が多くて有利》/先手必勝/機先を制す/先勝ちは馬鹿勝ち
【英語】First come, first served. 最初の人が馳走《ちそう》にあずかる/The foremost dog catches the hare. 先頭の犬が兎《うさぎ》を捕らえる/The first blow is half the battle. 第一撃で勝負が半ば決まる/Offense is the best defense. 攻撃は最良の防御
触《さわ》らぬ神《かみ》に祟《たた》りなし
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Far from Jupiter, far from thunder.
ジュピターから離れていれば雷に打たれず
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物事にかかわり合いにならなければ、災いもなく安泰、という意。特別の利害関係もないのに、好奇心やお節介で首を突っ込むと、思わぬ危害に遭いかねないから、身を慎むのが賢明だという教訓。猫は一度火傷《やけど》したストーブには二度と触らないと言われるが、何度でも懲《こ》りない人間は少なくない。
英語のなかのジュピターは、ローマ神話における主神であり、雷の神でもある。
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【類諺】寝る[た]子を起こす/泣かぬ子を泣かす/藪《やぶ》を突《つつ》いて蛇を出す/平地に波乱[波風]を起こす/触らぬ蜂《はち》は刺さぬ/近付く神に罰当たる
【英語】Do not play with edged tools. 刃物を弄《もてあそ》ぶな/Wake not a sleeping lion. 眠れる獅子《しし》は起こすな/Let sleeping dogs lie. 眠れる犬は寝かせておけ/When sorrow is asleep, wake it not. 眠っている悲しみは、そっとしておけ
三度目《さんどめ》の正直《しようじき》
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All things thrive at thrice.
どんな事でも三度目には成功する
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二度までは不首尾《ふしゆび》でも、三度目には間違いがないという意で、勝負事や占いなどの場合によく用いられる言葉。うまくいかないといって、しょげたり気を抜いていては、いつまでもうまくいかない。粘り強く続けていけば勝機は巡って来る。
西欧で、「三度目」に「幸運・成功あり」というのは、古代ギリシア・ローマの「奇数は神が喜ぶ数字」、特に「始め・真ん中・終りの三つを示す数の三は、完璧・完結と神性の象徴」(ピタゴラス)という考え方を反映したものだと言われる。
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【類諺】三度目は定《じよう》の目《三度目は確実》/三度目に芽が出る《目と芽を掛けている》/三度目が大事/失敗は成功のもと
【英語】The third time pays for all. 三度目には全ての支払いがされる《損もなくなって帳尻《ちようじり》が合う》/The third time is the charm. = Third time's lucky. 三度目には幸運あり
三人《さんにん》寄《よ》れば文殊《もんじゆ》の知恵《ちえ》
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Two heads are better than one.
頭二つは頭一つにまさる
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「文殊」は知恵をつかさどる文殊菩薩《もんじゆぼさつ》の略。たとえ凡人でも、みんなで案を出して相談し合えば、思いもよらない良い知恵が浮かんでくるものだ、との教え。中国でも古来「三人にして迷うことなし」(『韓非子《かんぴし》』)と言う。協力して迷いをふっ切れば、解決のきっかけとなるのである。
英語のことわざでの「頭・目」は知恵を象徴することが多い。
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【類諺】三人寄れば師匠の出来《しゆつたい》/三人行えば必ず我が師あり/仕事は多勢/人《ひと》衆《おお》ければ天に勝つ/船頭多くして船山に登る/三人寄れば喧嘩《けんか》のもと/膝《ひざ》とも[枕と]談合《じっくり[一晩寝て]考えよ》
【英語】Four eyes see more than two. 四つの目は二つの目より良く物を見る/There is safety in numbers. 人多ければ安全/Too much consulting confounds. 多すぎる助言は、混乱のもと/To take counsel of one's pillow. 枕と相談する《熟考する》
失敗《しつぱい》は成功《せいこう》のもと
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Failure is the highroad to success.
失敗こそは成功への道
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初めから楽々と成功する者はいない。失敗によって反省・改善することを学び、それがやがては人を成功に導くことになるという意。ラジウムを発見したキュリー夫妻や世界の発明王エジソンにも、辛《つら》い失敗の経験が多々あった。失敗を恐れず、しかし同じ失敗は繰り返すまいの心掛けが大事である。
英語にある「ハイロード」(主に英国)は、「本道、公道」だが、転じて「確実な道」の意となっている。
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【類諺】失敗は成功の母/失敗は成功を救う/しくじるは稽古《けいこ》のため/戻り道は迷わぬ/怪我《けが》の功名/禍《わざわい》を転じて福と為《な》す/三度目の正直
【英語】He that does amiss may do well. 失敗した後はうまくやれる/He that never did one thing ill can never do it well. しくじったことのない者は決して成功しない/Failure teaches success. 失敗は成功への教訓
小事《しようじ》は大事《だいじ》
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From small beginnings come great things.
小事に始まり大事に至る
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些細《ささい》な事でも、油断すると大事《おおごと》になるので、なおざりにせず十分に注意せよ、という意。物事は、計画段階では大まかであっても、実行段階では、細かな事の積み重ねとなる。その一つ一つの小事が、後にどのような役割を担うかを、絶えず考慮しながら進めていくことが大切である。
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【類諺】大事は小事より顕《あらわ》る/二葉《ふたば》にして絶たざれば斧《おの》を用うるに至る《悪い事は早いうちに直しておけ》/蟻《あり》の穴から堤も崩れる/一枚の瓦《かわら》惜しんで棟《むね》くさり《川柳》
【英語】A large fire often comes from a small spark. 大火も小さな火花より生じること多し/Who repairs not his gutters repairs his whole house. 雨樋《あまどい》を直さなければ、家全体を直す羽目になる/The mother of mischief is no bigger than a midge's wing. 災いのもとは、ぶよの羽ほどに小さい
将《しよう》を射《い》んとせばまず馬《うま》を射《い》よ
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Love the babe for her that bore it.
女性を狙《ねら》うなら、まずその人の赤ん坊を好きになれ
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杜甫《とほ》の詩に「人を射《い》んとせば、まず馬を射よ」とある。敵の武将を倒そうとするなら、乗っている馬を先に射止めよ。敵の力が急減したところで攻めれば少ない労力で強敵を倒せる。目的のものを手に入れるには、それが頼りにしているものや弱点を攻めるのが効果的だという教え。
英語は、女性は我が子を好いてくれる男なら憎からず思うという母性本能の常識を踏まえたもの。
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【類諺】蚕《かいこ》を飼えば猫を飼え《蚕の敵である鼠《ねずみ》を退治する猫を飼え》/急がば回れ/近道は遠道/敵は本能寺(にあり)/蝦《えび》で鯛《たい》を釣る
【英語】He that would the daughter win must with the mother first begin. 娘を得んとせば、まずその母親に取り入るべし/For the mother's sake, kiss the son. 母親がお目当てなら、その息子にキスをせよ
雀《すずめ》の千声《せんこえ》鶴《つる》の一声《ひとこえ》
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The king's word is worth more than another man's oath.
王の言《げん》は誰《だれ》の誓いよりも価値あり
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つまらぬ小物の千の発言よりも、優れた人物の一声のほうが価値がある、という意である。実際どれほど議論が沸騰していても、実力者や中心的人物の一言で収まってしまうものである。逆にいえば、場を静められるだけの重みがなくてはリーダー役は務まらない。単に「鶴の一声」とだけ言うことも多い。なお、側近役が場の空気を見計らって、この「鶴の一声」を促すタイミングも重要である。
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【類諺】愚者《ぐしや》の百行《ひやつこう》より知者の居眠り/千人の諾諾《だくだく》より一士の諤諤《がくがく》《立派な人物の直言は千人の唯々《いい》諾々とした態度にまさる》/百星《ひやくせい》の明《めい》は一月《いちげつ》の光にしかず《月光は凡百の星の明かりにまさる》
【英語】Kings have long arms. 王の腕は長い《広い範囲に威力が及ぶ最強者のたとえ》/One grain of pepper is worth a cartload of hail. 胡椒《こしよう》一粒は荷馬車一台の霰《あられ》に匹敵
精神《せいしん》一到《いつとう》何事《なにごと》か成《な》らざらん
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Where there's a will, there's a way.
意志ある所に道あり
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中国の朱子《しゆし》とその弟子との問答を集めた『朱子《しゆし》語類《ごるい》』の言葉で、精神を込めて努力すれば、どんなに困難な事でも成し遂げられるという意。
「精神主義」は日本の専売特許のように言われたものだが、必ずしもそうではないことが、英語の諸例で明らかである。
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【類諺】志《こころざし》ある者は事ついに成る/為《な》せば成る(為さねば成らぬ何事も)/櫓櫂《ろかい》の立たぬ海はなし《どんな難事もなんとかなる》/念力岩を透《とお》[通]す/断じて行えば鬼神も之《これ》を避く/成敗は決断にあり
【英語】Suffer and have thy will. じっと耐えて志を遂げよ/Nothing is impossible to a willing mind [heart]. 勇み進んでやる心には不可能なし/The resolved mind has no cares. 毅然たる心に不安なし/Heaven [God] helps those who help themselves. 天[神]は自ら助くる者を助く
急《せ》いては事《こと》を仕損《しそん》じる
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Hasty climbers have sudden falls.
あせって登れば転落する
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「仕損じる」は「過つ」とも言う。急ぐとあせりから不注意が生じ、失敗につながる。性急な行動を戒めることわざがどこの国にも多く見られるのは、せっかちな人間が多い証拠である。他方、農作物をじっくりと育て、気長に実りを待たねばならない農家にとっては必須の教訓である。
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【類諺】急がば回れ=近道は遠道《危険な近道より安全な回り道を行くのが結局は近道になる》/あわてる蟹《かに》は穴に入れぬ/走れば躓《つまず》く/急行に善歩なし=早かろう悪かろう/早い者に上手《じようず》なし
【英語】Haste makes waste. 急げば無駄を生ずる/More haste, less speed. 急げば急ぐほど事は遅くなる/Make haste slowly. ゆっくり急げ/The longest way round is the shortest way home. 最遠の回り道が最短の帰り道/Fair and softly goes far. 落ち着いてゆっくりなら遠くまで行ける
背《せ》に腹《はら》は替《か》えられぬ
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Near is my shirt, but nearer is my skin.
シャツは身近だが、肌はもっと身近
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腹には命にかかわる大事な五臓《ごぞう》六腑《ろつぷ》が納まっている。その腹を守るために、皮だけの背は犠牲にしてもやむをえないということ。そこから、当面の大切なものや、より重要なもののために、他の事は犠牲にせざるをえないという場合に用いる。
英語の表現は、「シャツに肌は替えられぬ」の意。
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【類諺】背よりも腹/飢えて[たる者]は食を選ばず/痩《や》せ馬は鞭《むち》を恐れず《倒れぬために、鞭を食らってでも休みたがる》
【英語】Needs must when the devil drives. 悪魔に追われて、やむにやまれずやる/Hungry dogs will eat dirty puddings. 飢えた犬は汚れたプディングでも食べる/Better cut the shoe than pinch the foot. 足を痛めるより、靴を切り開くほうがいい/You can't make an omelet without breaking eggs. オムレツを作るなら、卵は割らねばならぬ
千軍《せんぐん》は得《え》易《やす》く一将《いつしよう》は求《もと》め難《がた》し
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Make much of one, good men are scarce.
一人とても重んずべし、人士は稀《まれ》なればなり
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兵士は幾千でも集められるが、それを統率する優れた将軍は一人でも得るのが難しい、という意。中国・元《げん》代の歌劇に出てくる言葉である。千軍を万卒《ばんそつ》とした類諺《るいげん》は、浄瑠璃《じようるり》の『信州《しんしゆう》川中島《かわなかじま》合戦《かつせん》』にある。武田《たけだ》信玄《しんげん》と上杉《うえすぎ》謙信《けんしん》の数度にわたるこの戦《いくさ》では、優れた武将が多数倒れている。指導者は簡単に補充できる人材ではないから、早くから資質を見抜いて、将たる器に育て上げる必要がある。
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【類諺】万卒は得易く一将は得難し/王になるも生まれあい《王者には生来《せいらい》の素質がある》/人ある中に人なし/手は多く頭《かしら》は少ない
【英語】A good man is hard to find. 有能の士は見付け難し/There be more workmen than masters. 職人は多くいても、親方は少ない/Every man cannot be a gentleman [master]. 誰《だれ》でも紳士[頭《かしら》]になれるわけではない
船頭《せんどう》多《おお》くして船《ふね》山《やま》に登《のぼ》る
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Too many cooks spoil the broth.
料理人が多すぎれば肉スープを作り損なう
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船頭が何人もいれば、まるで山に登るようなとんでもない事態を招くという意。指示者が多すぎると混乱に陥ることのたとえ。岸和田《きしわだ》だんじり祭や博多山笠《はかたやまがさ》のように見事な集団行動の行事を見ると、指導者の重要性が良く分かる。
英語は、一つの料理を大勢の料理人で作ると、各自が自分勝手にやるため、変なものが出来てしまう、ということ。
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【類諺】船頭の多き船は山へ乗る/役人多くして事絶えず/三人寄れば文殊《もんじゆ》の知恵/寄り合い事は多分に付け/両雄並び立たず
【英語】Many dressers put the bride's dress out of order. 着付け人多くして花嫁衣装乱る/Where every man is master, the world goes to wrack. みんなが権力者になれば世界は破滅/Everybody's business is nobody's business. みんなの仕事は仕事にならず《みんなが無責任になる》
善《ぜん》は急《いそ》げ
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Make hay while the sun shines.
干し草を作るなら日の照るうち
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良い事はためらわずに急いで行えという意。「悪は延《の》べよ」と付け足すこともある。良い事には、悪い事が続いたり、邪魔が入り込みがちで、のんびりしていると機会を逃してしまう。近世には、自分に都合の良い事なら何でも善であるとして、このことわざを用いるようになった。
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【類諺】善は失うべからず悪は長《ちよう》ずべからず/思い立ったが吉日《きちじつ》/好機逸すべからず/得手《えて》に帆(を揚ぐ)=出船に船頭待たず《追風《おいて》・順風ならすぐ出帆。得意事はすぐやれ》/時を得ば怠るなかれ時は再び来《きた》らず
【英語】Hoist your sail when the wind is fair. 得手に帆を揚げよ/Take time by the forelock, for she is bald behind. 時はその前髪で捕らえよ、後ろは禿《は》げているから《時は過ぎ去ると、毛のない後頭部のように、捕らえられない》/Now or never. やるなら今、さもなくば機会は永遠になし
千里《せんり》の行《こう》[道《みち》]も一歩《いつぽ》より
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A journey of a thousand miles begins with one step.
千マイルの旅も一歩から
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『老子』の「千里の行も足下《そつか》に始まる」に由来。どんなに遠大な事業も、手近な事から始めよとか、物事は少しずつ確実に進めなければ目標に到達しない、などのたとえにされる。
この老子の言葉が、第二次大戦後のアメリカでいろいろに英訳されて使われ始め、ことわざ辞典にも載るようになった。上掲のものはその一例である。
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【類諺】百里の道も一足《ひとあし》から/遠きに行くは必ず近きよりす/五重の塔も下から組む/九層の台《うてな》も塁土より起こる/驥《き》も一日に千里なる能《あた》わず《駿馬《しゆんめ》も一気に遠くまでは行けない》/始めが大事
【英語】Step by step one goes a long way. 一歩一歩が遠くまで/He who would climb the ladder must begin at the bottom. 梯子《はしご》を登るならば、一番下の段から=Step after step the ladder is ascended. 梯子は一歩一歩登るもの
創業《そうぎよう》は易《やす》く守成《しゆせい》は難《かた》し
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One has more ado to preserve than to get.
得るより保持するほうが多大の努力を要す
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唐の太宗《たいそう》が、「創業(起業)と守成(維持・発展)のどっちが難しいか」と臣下に問うと、功臣の魏徴《ぎちよう》が守成と答えたのに由来する。事が成ってしまうと気がゆるみ、驕《おご》りがちになる。やがて創業の苦労を知らない「売家《うりいえ》と唐様《からよう》で書く三代目」(唐風に気取って書いた「売家」の札を貼《は》り出す)が出て、没落することもある。三菱財閥の祖・岩崎家の家憲に、「創業は大胆に、守成は小心に」がある。
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【類諺】土台[初代]より二代/始め良し後《のち》悪し/始めを慎むは易《やす》く終りを慎むは難し/始めを能《よ》くする人はあれど終りを能くする人はなし
【英語】From shirtsleeves to shirtsleeves in three generations. 苦労して身を立てて、三代目でまた苦労《「シャツの袖《そで》」は「苦しい仕事」のたとえ》/A good salad may be the prolog(ue) to a bad supper. 始めのサラダはうまく、後の食事はまずい
備《そな》えあれば憂《うれ》[患《うれ》]いなし
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Fear the worst; the best will save itself.
最悪への備えをすれば最善は自らを守る
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「ただ事々《ことごと》に備えあれ、備えあれば患いなし」(『書経《しよきよう》』「説命《えつめい》」)が出典で、万一起こるかもしれない事態に備えて、よくよく十分な用意をしておけば心配することはないという意。国家・企業・個人を問わず、外敵や災害、経営危機や病気などに対する備えは必須であるが、現代日本の高齢化社会では、老後への備えがますます重要課題になっている。
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【類諺】転ばぬ先の杖《つえ》/濡《ぬ》れぬ[降らぬ]先の傘/暮れぬ先の提灯《ちようちん》/用心に縄をかける/治《ち》に居て乱を忘れず/薬より養生[看病]
【英語】A danger foreseen is half avoided. 危険を予測すれば、半ば避けたも同然/Keep something for a rainy day. 万一に備えて蓄えよ/Though the sun shines, take your cloak. 好天でも外套《がいとう》を持って出よ/For age and want, save while you may. できるうちに、老後と困った時に備えて蓄えよ
大敵《たいてき》を恐《おそ》れず小敵《しようてき》を侮《あなど》らず
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There is no little enemy.
敵に小敵なし
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多数ないし強力な敵でも、恐れてひるんだりせず、また少人数とか弱い相手であっても、軽く見てはいけない、油断は大敵だ、という意。むやみに恐れると敵の力を過大評価しかねず、侮れば自信過剰になって、思わぬ敗北を喫しかねない。恐れや侮りといった情緒・感情を冷静に制御できるように、常々心掛けることが大事である。
英語は「敵に大小の差はない。全て強敵と思え」の意。
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【類諺】大敵と見て懼《おそ》るべからず小敵と見て侮らず/獅子《しし》は兎《うさぎ》を捉《とら》え象を捉えるに皆全力を用う/獅子は小虫《しようちゆう》を食わんとしてもまず勢いをなす
【英語】Though thy enemy seem a mouse, yet watch him like a lion. たとえ敵が、二十日《は つ か》鼠《ねずみ》に見えたとしても、獅子のごとくに警戒せよ/No viper so little, but has its venom. いかに小さくとも毒蛇には毒あり
立《た》つ鳥《とり》跡《あと》[後《あと》]を濁《にご》さず
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Cast no dirt in the well that gives you water.
水を与えてくれる井戸に泥を投げ込むな
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「立つ鳥」は「飛ぶ鳥」とも言う。井原《いはら》西鶴《さいかく》の『織留《おりどめ》』に、「立鳥《たつとり》あとを濁さず、壺《つぼ》洗ふて水まで汲《くみ》入れて帰る」という洒落《しやれ》た文句がある。水鳥が飛び立った後でも水が澄んで美しいことを表現したもの。人も、去り際には自分の居た所をきれいに始末し、世話になった人達に「後足《あとあし》で砂をかけない」ようにしたい。特に、この「恩を仇《あだ》で返さない」ことを、英語では、より分かりやすいたとえで表している。
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【類諺】鷺《さぎ》は立てども跡を濁さず/君子は交わりを絶つも悪声を出《いだ》さず《批判せず》/木陰に臥《ふ》す者は枝を手折《たお》らず《日陰を与える枝に感謝》
【英語】Never cast dirt into the fountain of which you have sometimes drunk. よく水を飲んだことのある泉には泥を投げ込むな/Praise the bridge that carries you over. 自分を渡らせてくれる橋は褒《ほ》めよ《信頼と感謝を示せ》
中流《ちゆうりゆう》に船《ふね》を失《うしな》えば一瓢《いつぴよう》も千金《せんきん》
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A drowning man will catch at a straw.
溺《おぼ》れる者は藁《わら》をも掴《つか》む
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川の真ん中で船が難破した時、ちっぽけな瓢箪《ひようたん》一つであっても、浮き袋になって命を救ってくれるなら、はかり知れない価値あるものになる、という意。危急の際には、あれこれ選《え》り好みしたり、周囲の目を気にしている余裕などはない。たとえ絶望的かもしれないとしても、何でも臨機応変に試してみよ、という教えでもある。「一瓢」は「一壺《いつこ》」とも言う。
一般には、上の英語から転来した「溺れる者は藁をも掴む」を、翻訳とは知らずに使っている人が多い。
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【類諺】窮鳥《きゆうちよう》枝を選ばず/逃げる者は道を選ばず/渇《かつ》する者水を選ばず/出物腫物《はれもの》所嫌わず《おならと腫物は場所をわきまえず》
【英語】Any port in a storm. 嵐《あらし》の時[急場しのぎ]には、船は港を選ばず/A penny at a pinch is worth a pound. 金欠病の時の一ペニーは一ポンドの値打ち
敵《てき》は本能寺《ほんのうじ》(にあり)
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He comes for draff, but drink is his errand.
ビール滓《かす》を求めて来ても、本音は飲酒
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明智《あけち》光秀《みつひで》が毛利《もうり》攻めに赴く途中、「わが敵は本能寺にあり」と方向転換して、京都の本能寺にいた主君織田《おだ》信長《のぶなが》を急襲した史実による。周囲をあざむいて本当の狙《ねら》いは別にある、という意。「敵は本能寺」から敵本《てきほん》主義という言葉も出来た。
英語は、酒が飲みたいという本心を隠し、ビール滓が欲しくて来たと口実を使う人を揶揄《やゆ》したもの。
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【類諺】三十六計騙《だま》すに上なし《騙して勝つのが最上》/事は密なるをもって成る/将を射んとせばまず馬を射よ
【英語】Many a man makes an errand to the hall to bid the lady good day. 女主人にあいさつをしたくて、館《やかた》へ出向く用事を考え出す男が多い/He that wipes the child's nose kisses the mother's cheek. 子供の鼻を拭《ふ》いてやるという男は、その子の母親の頬《ほお》にキスするのが目当て
飛《と》んで火《ひ》に入《い》る夏《なつ》の虫《むし》
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Fools rush in where angels fear to tread.
愚者は天使が恐れて行かない所へも飛んで行く
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灯火に近付いて身を焼かれる夏の虫のように、無防備のまま自ら危難に向かってしまうこと。『源平《げんぺい》盛衰記《じようすいき》』に、「知者は秋の鹿《しか》鳴きて山に入り、愚人は夏の虫飛んで火に焼く」とあり、「愚人夏の虫」とも言う。危険と知りつつ誘いに乗って身を滅ぼすのは愚の骨頂である。しかし日ごろの修練で技を身に付けていれば、危難は避けられよう。
英語も「怖い物知らずの無謀な愚行」の意。
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【類諺】夏の虫[飛蛾《ひが》]の火に入《い》る[赴く]がごとし/馬鹿者怖い物知らず/蓑《みの》着て火事場へ入《い》る=薪《まき》を抱きて火を救う《自ら災いを招く》
【英語】The moth that plays too long by the candle singes his wings at last. ろうそくのそばで長く戯れる蛾は、ついには羽を焦がす/Who perishes in needless danger is the devil's martyr. 余計な危険に遭って死ぬ者は悪魔の犠牲者
生兵法《なまびようほう》は大怪我《おおけが》のもと
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A little learning is a dangerous thing.
生半可な知識は危険のもと
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生かじりの技しか身に付けていない武術を鼻にかけて敵に立ち向かうと、大失敗しかねないとの戒め。「生《なま》」は「未熟・中途半端」の意。「大怪我」は「大疵《おおきず》」とも言う。老子の「知らない事は知らないと言え。知っていると思っている事も知らないものと思え」という意味の言葉も、同様の教えである。
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【類諺】生兵法は知らぬに劣る/生物《なまもの》識《し》り川へはまる[堀へ入る]/未熟(者)の芸誇り《下手《へ た》の自慢話》/小知《しようち》は菩提《ぼだい》の障《さわり》《半可通は悟りの邪魔》/好漢惜しむらくは兵法を知らず/人生字を知るは憂患《ゆうかん》の始め
【英語】He that is wise in his own conceit is a fool. 物知りだとうぬぼれるは愚者/Zeal without knowledge is fire without light. 知識の伴わぬ熱意は明かりなき火/It is magnificent, but it is not war. 堂々なれど戦いにならず/Much learning, much sorrow. 博識すぎれば憂いも多し
二度《にど》ある事《こと》は三度《さんど》ある
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What has happened once can happen again.
一度あった事は、またありうる
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同じような事が二度あれば、必ずまた起こる。特に、悪い事は再発しがちだから注意せよ、の意で使われることが多い。結果には必ず原因があり、それが悪因であれば、改善したり排除しないと、悪果が何度も発生してしまう。「二の舞を演ずる」(以前の、あるいは他人の失敗を、同じように繰り返す)ことのないようにしたいものである。
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【類諺】一度ある事は二度ある/ある事三度/何事も三度/朝ある事は晩にもある/昔は今の鏡《過去は現在を判断する指針》
【英語】Everything comes in threes. 何事も続けて(三度は)やって来る/No chance but comes again. 好機は再来する/History repeats itself. 歴史は繰り返す/Today is the pupil of yesterday. 今日《きよう》は昨日《きのう》の教え子《昨日に習う》/The past is the father of the present. 過去は現在の生みの父
盗人《ぬすつと》を捕《と》らえて縄《なわ》をなう
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To lock the stable when the horse is stolen.
馬が盗まれてから馬小屋に錠
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「盗人《ぬすつと》」を「泥棒《どろぼう》」、「捕らえて」を「見て」とも言い、また「盗人」は「ぬすびと」とも読む。事が起きてからあわててその対策を考えること。ふだんの備えを欠いて場当たり的に行動しても、手遅れである。このことわざは「泥縄《どろなわ》」と略されて、さまざまな局面で用いられるが、辛辣《しんらつ》でどぎつい言葉なので、実際に使う時には注意が必要である。
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【類諺】軍《いくさ》[敵]を見て矢を矧《は》ぐ《戦いになってから矢を作る》/渇《かつ》して[に臨《のぞ》みて]井《い》を穿《うが》つ《咽《のど》が渇いてから井戸を掘る》/火事後《あと》の火の用心
【英語】Have not thy cloak to make when it begins to rain. 雨が降り出してからコートを作らせるな/It is too late to close the well after the goat has fallen in. 山羊《や ぎ》が落ちてから井戸を埋めても遅すぎる/Dig the well before you get thirsty. 井戸を掘るなら咽《のど》の渇かぬうち
念力《ねんりき》岩《いわ》を透《とお》[通《とお》]す
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Faith will move mountains.
信念山を動かす
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専心努力すれば、どんな難事でもできるという意。中国の諸書に「虎《とら》と思って放った矢が岩を貫く」という話がある。危険な虎を射《う》ち損なったら大変だから、一矢《いつし》で仕留めんと、一心・入念に放ったので岩をも貫通したのである。このように、目標に向けて思いを集中させることが成功の秘訣《ひけつ》である。
英語は、類諺《るいげん》中の「愚公《ぐこう》山を移す」と同趣旨同形式である。
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【類諺】心頭《しんとう》を滅却《めつきやく》すれば火もまた[自ら]涼し/石に立つ矢《虎と思えば石をも射抜く》/一念天に通ず/精神一到何事か成らざらん/愚公山を移す《一途《いちず》な行いはいつかは山をも動かす》/女の一念岩をも透[通]す
【英語】It's dogged that does it. 事を成すは不断の執念/Set hard heart against hard hap. 難事には固い決意で当たれ/He can who believes he can. できると信じればできる/Love will go through stone walls. 愛は石壁をも貫く/Women will have their wills. 女性は思い込んだら意志を通す
軒《のき》[庇《ひさし》]を貸《か》して母屋《おもや》を取《と》られる
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Give him an inch and he'll take a mile.
一インチ与えて一マイル取られる
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軒先を貸したところ、上がり込まれて居座られ、母屋まで乗っ取られてしまう。一部を貸与したら、次第に付け込まれ、本体まで取られてしまうこと。「母屋」は「主屋」とも書く。
英語にある「一インチと一マイル」や「指と手」は、「一部と全体」つまり「軒[庇]と母屋」の関係に相当する。
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【類諺】貸家[借家]栄えて母屋倒れる/鉈《なた》を貸して山を切られる/膝《ひざ》に乗せれば肩という/手を引けば肩に乗る/おんぶにだっこ/下手《したて》に出れば付け上がる/手が入れば足も入る/恩を仇《あだ》で返す[返される]
【英語】Give him a finger and he will take a hand. 指を与えて手を取られる/When the fox has got in his head, he will soon make the body follow. 狐《きつね》は頭を突っ込んだら、胴体まで入れる《=手が入れば足も入る》/Kind hearts are soonest wronged. 情けをかけてもすぐに仇となる
喉元《のどもと》過《す》ぎれば熱《あつ》さを忘《わす》れる
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Danger past, God is forgotten.
危険が去れば神様を忘れる
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熱い飲食物を口にしても、熱さを感じるのは飲み込むまでである。苦しい目に遭ったり、困った時に恩などを受けても、苦境を脱出すると、きれいに忘れてしまうことのたとえ。そのために、同じような災難に備えての予防策を講じることを怠りがちになる。同じ苦労を何度も繰り返さないためには、まず前の苦難を忘れないことである。
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【類諺】病《やまい》治り[癒《い》え]て医者[薬師《くすし》]忘れる/雨晴れて傘を忘れる/暑さ忘れて陰忘れる/苦しい[困った]時の神頼み/羹《あつもの》に懲《こ》りて膾《なます》を吹く
【英語】Vows made in storms are forgotten in calms. 嵐《あらし》の時の誓いは凪《なぎ》になると忘れる/Once on shore, we pray no more. 上陸すれば、お祈りがやむ/The chamber of sickness is the chapel of devotion. 病室は信心の礼拝堂《病気の時の神頼み》/Benefits are soon forgotten. 恩はすぐに忘れ去られる
乗《の》りかかった舟《ふね》
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Never do things by halves.
中途半端にはするな
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乗り込んで岸を離れた舟からは、降りたくなっても降りられない。いったん始めた事が途中でやめられなくなったり、かかわったからには貫徹しよう、といった場合などに用いる。無理にやめれば周囲に迷惑や損失を与えることになる。始める前によく考え、始めたら覚悟してやり抜け、である。
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【類諺】乗りかかった馬/渡りかけた橋/井戸を掘るなら水の出るまで/断機《だんき》の戒め《学問を中断すると、布を織る機《はた》を途中でやめるように何にもならない》/初心忘るべからず
【英語】Once out and always out. いったん出たら引っ込むな《着手したなら徹底してやれ》/Drive the nail to the head. 釘《くぎ》を打つなら頭まで打ち込め/To go through stitch with a business. 仕事をするなら徹底的に/Don't change horses in midstream. 川の真ん中で馬を乗り換えるな《途中で指導者・方針を変えるな》/The die is cast. 賽《さい》は投げられた
敗軍《はいぐん》の将《しよう》(は)兵《へい》を語《かた》らず
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He who excuses himself, accuses himself.
自己弁護は自責行為
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『史記』に、「敗軍の将は以《もつ》て勇《ゆう》を言うべからず」と言い、『呉越《ごえつ》春秋《しゆんじゆう》』にも、同趣旨の表現がある。戦いに敗れた将軍は、もはや兵法について語るべきではない。戦場の露と消えた部下に思いを致して瞑目《めいもく》するのみである。転じて、大人物は失敗しても、あれこれと言い訳をすべきではないという教え。
英語は、「負け惜しみの弁解は、結局は自分の至らなさを思い知って、己を責めることになる」の意。
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【類諺】敗軍の将は敢《あ》えて勇を語らず/敗軍の将は再び謀《はか》らず/大人《たいじん》は大耳《おおみみ》《大人物は瑣事《さじ》には耳をふさぐ》
【英語】It is the part of a good general to talk of a success, not of failure. 成功は語っても、失敗は語らぬのが、優れた将軍の資質/Masters should be sometimes blind, and sometimes deaf. 大家《たいか》は、時には見ぬ振りや聞こえぬ振りをすべし《=大人は大耳》
背水《はいすい》の陣《じん》(を敷《し》く)
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To burn one's boats [bridges] (behind one).
(背後の)船[橋]を焼く
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川や海を後ろにして、これ以上後に退《ひ》くことは不可能、という絶体絶命の窮地に自ら身を置いて戦うこと。漢の韓信《かんしん》が川を背に陣取って、決死の覚悟で戦った故事による。
英語にもあるように、船や橋がある場合には、それをあえて沈めたり焼き払ったりして、己《おのれ》の退路を断ち、覚悟のほどを敵にも味方にも示すのである。一か八かの勝負や、一般には、全力を尽くして事に当たる場合に使われる。
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【類諺】糧《かて》を捨て[釜《かま》を破り]舟を沈む=川を渡り舟を焼く=井《い》を塞《ふさ》ぎかまどを平《たい》らぐ《生きて戻らぬ覚悟》/薄氷を踏む《危険を冒す》
【英語】Who draws his sword against his prince must throw away the scabbard. 主君に楯《たて》突いて刀を抜くなら、鞘《さや》を捨てよ《刀が元の鞘に戻らぬように決死の覚悟で当たれ》/To walk on eggs. 卵の上を歩く《=薄氷を踏む》
走《はし》り馬《うま》にも鞭《むち》
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A good horse often needs a good spur.
駿馬《しゆんめ》にもしばしば拍車が必要
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走っている馬に鞭を入れれば、勢いを増して走る。仮名《かな》草子《ぞうし》の「はしる馬に策《むち》、帆かけ船に艫《とも》を押すがごとく」(『為愚痴物語《いぐちものがたり》』)から来たもので、何事も良い上にも一層良くすることをいう。調子が良い時には、弾《はず》みを少し与えるだけで勢いを増すが、過ぎたるは及ばざるがごとし。馬でも人間でも、鞭を当てすぎて潰《つぶ》してしまわないように。
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【類諺】駆け馬に鞭/吠《ほ》える犬にけしかける/火に油を注ぐ/帆かけ船に艫[船尾]を押す/錦上《きんじよう》花を添う《立派な物を更に引き立てる》
【英語】All lay load on a willing horse. 働き馬にはみんながこぞって重荷を負わせる/To pour oil on the fire. 火に油を注ぐ/Never spur a willing horse. よく走る馬でも拍車をかけすぎるな/Don't overwork a willing horse. 働き馬とて働かせすぎるな《潰れて駄目になりかねない》
匹夫《ひつぷ》も志《こころざし》を奪《うば》うべからず
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Will will have will, though will woe win.
悲しい目に遭うとも、意地っ張りは意地を通す
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『論語』の「大軍で守られた大将は討ち取り得ても、一人の男の志を奪うことはできない」による。取るに足らない凡人でも、その志は誰《だれ》にも無視できない。志のある者を侮ってはいけないということ。
英語も、「意地を張って排斥され、不運な目に遭っても、意地は貫く」の意。やはり人の意志を高く評価したもの。
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【類諺】一寸の虫にも五分の魂/針は小さくても呑《の》まれぬ=針は包まれぬ《小物でも馬鹿にはできぬ》/山椒《さんしよう》は小粒でもぴりりと辛い《小さいものにも取り柄がある》
【英語】You can lead a horse to the water, but you can't make him drink. 馬を水辺へ引いて行けても、無理に水は飲ませられない/Little head, great wit. 小さな頭にも、大きな知恵/Little bodies have great souls. 小さな体にも、大きな魂
百里《ひやくり》を行《い》く者《もの》は九十里《きゆうじゆうり》を半《なか》ばとす
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Look to the end.
終りに注意せよ
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何事も仕上げに最も困難が伴うもので、行程の九割の所まで来て、やっと半ばと考えるのが良い(『戦国策《せんごくさく》』「秦策《しんさく》」)。特に長期にわたる事業などでは、関係者の交替や戦略戦術の変更、その他の突発事故も起こりうるため、ゴールに近付くまでは、「もう半分すんだ」などと安心してはならない。マラソンでは、この教訓が劇的な形で見られる。
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【類諺】九仭《きゆうじん》の功を一簣《いつき》に欠く《最後の一袋の土が不足して築山が不完成》/終り良ければ全て良し/勝負は下駄《げた》を履くまで分からぬ《「下駄を履く」は終ること》/油断大敵/磯際《いそぎわ》で舟を破る
【英語】One hour's cold will spoil seven years' warming. 七年間暖めたものを一時間冷やして駄目にする《どたん場の油断で失敗》/The tortoise wins the race while the hare is sleeping. 兎《うさぎ》が眠っている間に亀《かめ》が勝つ《イソップ寓話《ぐうわ》から》/Danger is next neighbor to security. 安心の隣に危険あり
負《ま》けるが勝《か》ち
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Stoop to conquer.
勝つために譲れ
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一見負けているようでも大局的には勝っている、あるいは、相手に譲歩しても結局は得をすることになる、という意。また、相手の力が強い時は、損害を少なくするために負けたように見せて、自分の力を温存する。
英語は、「相手の顔が立つように譲れば相手も譲る」の意。
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【類諺】負けて勝つ/負けて勝ち取れ/叩《たた》かれた夜は寝やすい《加害者より被害者でいるほうが気が楽》/逃げるが勝ち/三十六計逃げるにしかず/逃げるが奥の(一)手/損して得取れ/命あっての物種
【英語】Sometimes the best gain is to lose. 損しても、一番の利となることあり/He who fights and runs away may live tofight another day. 闘いになっても、逃げておけば、生き延びて他日闘うこともできる/Every man for himself, and the devil take the hindmost. みんな自分をかばえ、最後のやつは悪魔に食われよ《我先に逃げよ=命あっての物種》
待《ま》てば海路《かいろ》の日和《ひより》あり
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Everything comes to him who waits.
何事も待つ人のもとへやって来る
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空模様が悪くても、待っていれば、いずれ航海にふさわしい好天になる。焦って飛び出してもろくなことがない。準備はしたうえで、機会が来るまでは、我慢して待つことが大切だ、ということ。「待てば甘露《かんろ》の日和あり」から転じたことわざ。甘露は古代中国の神々が不死になる飲み物であり、天子の仁政《じんせい》によって天から降る甘い蜜《みつ》液のこと。
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【類諺】待てば甘露の雨を得る/果報は寝て待て/待てば会う時あり/石の上にも三年/踏まれた草にも花が咲く
【英語】There is a good time coming. いつかは良い時節が来るもの/Long looked for comes at last. 待つこと久しい願いは最後には叶《かな》う/He that can stay obtains. 待つことができれば得る物がある/There is luck in leisure. 暇《ひま》の時に幸運あり/In space comes grace. 時がたてば天恵あり
物《もの》には始《はじ》めあり終《おわ》りあり
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Everything must have a beginning.
万事に始めあり
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人間がやる事であれ、自然界の存在や現象であれ、どんな事にも、必ず始めがあって、終りがあり、「永遠に続くものなどはない」ということ。また、「物事は開始の段階・順序をへて、終りに至る」ことも意味する。特に「物には始めあり」とだけ言う場合などは、「着手してみないことには、終り(目的実現)もない」の意味で使われることが多い。
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【類諺】始め有るものは必ず終り有り/生ある者は必ず死あり/物に本末あり《物事には始めと終りがある》/始めを言わねば末が聞こえぬ《順序立てぬと事が分からぬ》
【英語】Everything has an end, and a pudding has two. 万事には終りが(一つ)あり、腸詰め《ソーセージ》には二つある《「終り」は「端《はし》」も意味することからの洒落《しやれ》》/The longest day [night] must have an end. どんなに長い一日[一夜]にも終りあり
柳《やなぎ》の下《した》にいつも泥鰌《どじよう》はいない
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A fox is not caught twice in the same snare.
狐《きつね》は同じ罠《わな》に二度は掛からない
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柳の下の水辺で泥鰌を捕まえたからといって、いつもその場所で泥鰌が得られるわけではない。これにたとえて、いつも同じ方法でうまくいくとは限らないことをいう。獣《けもの》も同じ罠には掛からない。同じ戦法は読まれて逆襲される。また、偶然を必然のように思い込む愚かさをもいう。
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【類諺】柳の下の泥鰌/いつも柳の下に泥鰌はおらぬ/株《くいぜ》を守りて兎《うさぎ》を待つ《切り株《かぶ》に兎が衝突する偶然を待ったり旧習にこだわるのは愚か》
【英語】Christmas comes but once a year. クリスマスは一年に一度しか来ない《良い事はまれ》/There are no birds of this year in last year's nest. 去年の巣に居残っている鳥はいない《たいていは巣立ってしまう》/God sends good luck and God sends bad. 神様は幸運も不運も与える/Lightning never strikes in the same place. 雷が同じ所に二度落ちることはない
勇将《ゆうしよう》の下《もと》に弱卒《じやくそつ》なし
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Such as the captain is, such is the soldier.
隊長が勇士なら兵も勇士
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勇敢な大将のもとには弱い兵士などはいない。指導者・責任者が立派であれば、部下も見習って自然と強くなっていく。『孫子』や詩人蘇軾《そしよく》[蘇東坡《そとうば》]の言葉に由来することわざである。集団を統率する人間の個性や能力が部下に与える影響の大きさを指摘し、その大切さを説いたもの。三井財閥の祖・三井高利《たかとし》の家憲には、このことわざに続けて、「賢者能者を登用するに最も意を用いよ」とある。
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【類諺】強将の下に弱兵なし/この将にしてこの兵あり/主《しゆう》が主《しゆう》なら家来も家来/犬猿《いぬさる》も主《あるじ》に従う《畜類でも飼い主を見習う》
【英語】Such captain, such retinue. この隊長にしてこの部下あり/Such master, such man. 主人が主人なら家来も家来/A good master, a good scholar. 師匠が良ければ弟子も良し/Jack is as good as his master. 男の良し悪《あ》しは主人次第
弱《よわ》り目《め》に祟《たた》り目《め》
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Misfortunes never come singly.
不幸は決して一人では来ない
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困っている時に、何かに祟られたように悪い事が重なり、一層ひどくなること。不運に見舞われると弱気になり、注意力も落ちて、また災難を呼び込みがちになる。何事も気の持ちようで、落ち込んだ状態から脱出するにも、必ず好転するはずだという信念を持つことが大事である。
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【類諺】泣き面《つら》に蜂《はち》/痛む上に塩をぬる/痛む上の針/病む目に突き目/鬼は弱り目に乗る/弱みに付け込む風(邪)の神/転《こ》けた上を踏まれる/踏んだり蹴《け》ったり/悪い事は重なる/一難去ってまた一難
【英語】One misfortune comes on the neck of another. 不幸は不幸に接してやって来る/If a man once fall, all will tread on him. 一度倒れると、皆が踏み付ける/To kick a man when he is down and out. 倒れ果てた人を足蹴《あしげ》にする/To add insult to injury. 傷付けたうえに侮辱する
両雄《りようゆう》並《なら》び立《た》たず
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Two kings in one kingdom cannot reign at once.
一国に二王は君臨しえず
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中国の古典に「両雄は必ず争う」「両雄倶《とも》に立たず」とある。英雄が二人出ると、一人が退《ひ》かなければ収まらないという意。集団に実力者が二人いると乱れの原因になる。豊臣《とよとみ》秀吉《ひでよし》は、徳川《とくがわ》家康《いえやす》が自分と並び立った時、「平和のために臣《しん》として従ってくれ」と家康に直接会って懇願したという。力のある人間ほど自己主張が強く、膝《ひざ》を交えて話し合っても、折り合いにくいものである。「両雄」は「両虎」とも言う。
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【類諺】両虎[竜虎]相闘う=者《しや》と者《しや》の出会い《大物同士の勝負》/一淵《いちえん》両蛟《りようこう》あらず《同じ淵《ふち》に竜二匹は棲《す》まぬ》/天に二日《にじつ》なく地に二王なし
【英語】Two suns cannot shine in one sphere. 一つの天体に太陽は二つ輝かぬ/The great would have none great. 偉人は偉人を欲《ほつ》したがらず/Diamonds cut diamonds. ダイヤモンドがダイヤモンドを切る《強敵同士の闘い=両虎相闘う》
2章
知と技
教育・教養・修養
才能・特技・職能
経験・修業・訓練
困難・試練・忍耐
癖・習慣・本能
師弟・老幼・賢愚
心・徳・知恵
青《あお》[紺《こん》]は藍《あい》より出《い》でて藍《あい》より青《あお》し
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The scholar may be better than the master.
師匠にまさる弟子もあり
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青色の染料は、原料の藍よりも色が濃くなることにたとえて、弟子が師よりも優れていることをいう。『荀子《じゆんし》』に「学はもって已《や》むべからず、青はこれを藍より出だせど、藍より青く、冰《こおり》は水これをなせども、水より寒《つめた》し」とある。弟子は師を、後輩は先輩を、子は親を超えることを目標として励めば、大成の道が開け、また恩返しにもなる。
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【類諺】出藍《しゆつらん》の誉《ほま》れ/鳶《とび》が鷹《たか》を生む/後《あと》の烏《からす》が先《せん》を越す=後《あと》の雁《かり》が先になる=後舟《あとぶね》かえって先となる《後発者・後輩が先行者・先輩を追い越す》/本木《もとき》にまさる末木《うらき》なし《始めのもののほうが後のものよりも良い》
【英語】An ill cow may have a good calf. 虚弱な牛が良い子牛を生むことあり/A black hen will lay a white egg. 黒い雌鶏《めんどり》が白い卵を生むことあり/The stream can never rise above the springhead. 川は水源より高い所へは行けぬ
頭《あたま》剃《そ》るより心《こころ》を剃《そ》れ
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The cowl does not make the monk.
僧服だけでは僧になれぬ
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「頭《あたま》」は「かしら」とも読む。『方丈記《ほうじようき》』で有名な鴨長明《かものちようめい》に「そりたきは心の中の乱れ髪、つむりの髪はとにもかくにも」の歌がある。髪を剃り上げて僧侶《そうりよ》になっても、求道《ぐどう》心がなければ何にもならない。法然《ほうねん》上人《しようにん》も、「染めばやな心のうちを墨染めに、衣の色はとにもかくにも」と詠んだ。つまり、外面よりも精神を磨き修養することが大事だというたとえである。「求道」はキリスト教では「きゅうどう」と読む。
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【類諺】衣を染めるより心を染めよ/衣[珠数《じゆず》]ばかりで和尚はできぬ/椀《わん》より正味《入れ物より中身》/心は身の主《あるじ》/人は見掛け[上辺]に拠《よ》らぬもの/浮世は衣装(が)七分《しちぶ》《内容よりは見掛け》
【英語】The mind is the man. 心こそが人なり/What's a man but his mind? 人から心を除いたら何になる/The body is the socket of the soul. 体は心の入れ物にすぎぬ
雨垂《あまだ》れ石《いし》を穿《うが》つ
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Constant dropping wears away the stone.
水も不断に落ちれば、石をも磨《す》り減らす
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雨の雫《しずく》でも長い間には石に穴を開けてしまうことにたとえて、どんなに小さな力でも根気よく続ければ成功につながるという教え。「泰山《たいざん》の霤《あまだれ》は石を穿つ」から来ている。なお、「落下による極めてわずかな衝撃力」を与えるにすぎない水滴でも、「時間がたてば」石でも穿つことができるという事実から、逆に発想して、「高圧をかけ、高速で噴射」させる水流を利用した金属切断機が生まれたと言われる。
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【類諺】点滴[水滴/小水《しようすい》]岩[石]を(も)穿つ/蟻《あり》が塔組む/愚公《ぐこう》山を移す《一途《いちず》な行いはいつかは山をも動かす》/塵《ちり》も積もれば山となる
【英語】Little strokes fell great oaks. 樫《かし》の大木も何度も斧《おの》を振るわれれば倒壊/A mouse in time may shear a cable asunder. 鼠《ねずみ》でもやがては太綱を噛《か》み切る/Spit on a stone, and it will be wet at last. 石に唾《つば》を吐き続ければ、ついには湿る
石《いし》の上《うえ》にも三年《さんねん》
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He that stays does the business.
じっと持ちこたえれば事が成る
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硬く冷たい石の上でも、三年も座り続けると、暖かく居心地が良くなる。 つまり、 じっと我慢して努力し続ければ、 いつかは必ず報われるという教えである。地方によっては「石の上にも十年」と言う。井原《いはら》西鶴《さいかく》も『織留《おりどめ》』で、「商人職人によらず、住みなれたる所を替《か》ゆる事なかれ、石の上にも三年と俗語に伝へし」と、土地と人と仕事の長年の縁を重視している。
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【類諺】火[茨《いばら》]の中にも三年/商い三年/辛抱する木に金が生《な》る/抜かぬ大刀の高名《こうみよう》《我慢してけんかをしないのが良い評判のもと》/面壁《めんぺき》九年《壁に九年面座して悟りを得る》
【英語】Patience is a virtue. 忍耐は徳なり/He that endures overcomes. 辛抱する者は勝つ/Care and diligence bring luck. 気配りと勤勉で運が来る/He that shoots oft shall at last hit the mark. 何度も撃てばついには当たる
一《いち》を聞《き》いて十《じゆう》を知《し》る
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A word is enough to the wise.
賢者は一語で十分
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『論語』の「顔回《がんかい》は、一を聞いて十を知る」に基づく。顔回は「孔門《こうもん》の十哲」の一人で、聡明・徳行で知られた儒者。物事の一部を聞いただけで、その全体まで悟ってしまうほど、頭脳の働きが鋭く賢いことをいう。同じく十哲の一人の子貢《しこう》は、「一を聞いて二を知る」人物とされている。
頭の回転の良さのたとえは、英語でも同じ発想である。
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【類諺】一をもって万を察す[知る]/一を挙げて三を反《かえ》す/一斑《いつぱん》をもって全豹《ぜんぴよう》を卜《ぼく》す《斑《まだら》一つを見て豹と判断する》/一を知りて二を知らず/葦《よし》の髄から天井(を)覗《のぞ》く[見る]
【英語】Half a tale is enough to a wise man. 賢者は話の半分聞けば、理解が十分/You may know by a handful the whole sack. 一掴《つか》み取って、穀袋の中身を全部知る/The fox is known by his tail. 尾だけで狐《きつね》と知れる/By the little is known the much. 少をもって多を知る
一升桝《いつしようます》に二升《にしよう》は入《はい》らぬ
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You can't get a quart into a pint pot.
一パイント用の壺《つぼ》に一クオートは入らぬ
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「桝」は「徳利」とも言う。一升用の器に二升も入らないのは当然で、能力には限度があることを表す。清少納言《せいしようなごん》の『枕草子《まくらのそうし》』では「一升瓶《ひとますかめ》にふたますは入《い》るや」とある。凡人は大物になろうという無理はせず、分相応に対処するのが良いということ。
英語の一クオートは約一リットル(六合弱)で、一パイントはその半分。日・英の「そっくり表現」の例である。
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【類諺】一升入る壺には一升/一升入る瓢《ふくべ》は海へ入れても一升《一升入る瓢箪《ひようたん》で海水を汲《く》み尽くそうとしても一升しか汲めぬ》/田舎の一升は江戸でも一升/蟹《かに》は甲(羅)に似せて穴を掘る
【英語】A penny soul never came to twopence. 一ペニーの小物が二ペンスの小物になった例《ためし》なし《まして大物にはならぬ》/The greatest vessel has but its measure. 最大の器でもその容量しか入らぬ/A man can do no more than he can. 能力以上のことは不可能
井《い》の中《なか》の蛙《かわず》大海《たいかい》を知《し》らず
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They think a calf a muckle beast that never saw a cow.
親牛を見ざる者は子牛を巨獣と思う
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「井の中の蛙《かわず》」は「井蛙《せいあ》」とも言う。井戸の中に住む蛙《かえる》は大きな海を知らない。つまり、広い世間を知らず、独りよがりな考えや狭い知識にとらわれていることのたとえ。広い世間に出よという意と、知ったかぶりをするなという裏の意がある。
英語における「子牛」と「親牛」は、日本語の「井」と「大海」のたとえに相当する。
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【類諺】天水桶《てんすいおけ》のぼうふら/井の中の鮒《ふな》/夏の虫氷を笑う/井に座して天を観《み》る/葦《よし》の髄から天井(を)覗《のぞ》く[見る]/一を知りて二を知らず《一面しか知らぬ》
【英語】Home-keeping youths have ever homely wits. 家に閉じこもっている若者の知恵は、平々凡々なり/He that stays in the valley shall never get over the hill. 谷底に居続ける者は、ついぞ山を越えることなし
上《うえ》には上《うえ》がある
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The fox knows much, but more he that catches him.
狐《きつね》は利口だが、狐を捕る者はもっと利口
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最も優れていると思っていても、更に上の人が必ずいるものだという意。「まだ、上には上がいるのか」と言えば、自分こそ一番に違いないとうぬぼれていたが、ほかにもっと上手《うわて》がいて驚いてしまうニュアンスである。「どうせ、上には上がいるものだから」なら、諦《あきら》めの心境吐露の含みとなる。また、対句的に「下には下がある」と続ければ、中庸が大切で、高望みはしないほうが良いという意味が強くなる。
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【類諺】上見りゃ限《きり》ない下見りゃ限ない/上見れば程《ほど》なし/駕籠《か ご》に乗る人かつぐ人そのまた草鞋《わらじ》を作る人《貧富・地位・能力など、人は様々》
【英語】The hare runs well, but the dog that catches her better. 兎《うさぎ》は速いが捕る犬はもっと速い/No man so good, but another may be as good as he. これ以上なし、というほどの善人なし/Look high, and fall low. 高望みすると破滅する
氏《うじ》より育《そだ》ち
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Nurture is above nature.
生まれより教育
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この場合の氏は血統・家柄・素性などのことで、人間は家柄や身分よりも、育てられ方や教育の有無のほうが大事だ、という意。生まれついた家柄や血筋の良さを誇ってみても、本人の実力とは言えず、むなしいものである。どのような境遇でどのように成育してきたかによって、その人の人間性が評価される。環境と教育の重要さを説いた言葉。
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【類諺】生まれつきより育てが第一/家柄より芋茎《いもがら》《無形の家柄より栄養になる芋がまし》/瓦《かわら》も磨けば玉となる/艱難《かんなん》汝《なんじ》を玉にす/人人にあらず知るをもって人とす/瓦は磨いても玉にならず
【英語】Birth is much, but breeding is more. 生まれも大事だが、育ちはもっと大事/Education makes the man. 教育が人を作る/Better unborn than unbred. しつけてもらえず、ほったらかしにされるのなら、生まれて来ないほうがまし/The best bred have the best portion. 最良の教育は最上の財産分与
嘘《うそ》も方便《ほうべん》
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The end justifies the means.
目的は手段を正当化する
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事を円満に運ぶための手段として、実害のない嘘を言わねばならぬ場合もあるという意。元は、「衆生《しゆじよう》を救うためには、便宜上、たとえ話や作り話が必要な時もある」という仏教の言葉から来ている。相手を「知らぬが仏」にしておいたほうが良いと配慮して、あえて真相を伏せておくことも、方便の嘘の一種である。例えば、癌《がん》の「非告知」とか、妊娠中の妻に、身内の不幸を黙っていることなどである。
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【類諺】嘘は世の宝/嘘も追従も世渡り/嘘も誠も話の手管《てくだ》/仲人七嘘/嘘は後ろから剥《は》げる《すぐにばれる》
【英語】A white lie. 白い嘘《善意の、または、居留守を使うなど、罪のない嘘》/A lie does good how little a while soever it be believed. 嘘も束《つか》の間でも信じられている間は、役に立つ/Lies have no feet. 嘘に足なし《逃げられず赤恥をかく》
内弁慶《うちべんけい》
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Every dog is a lion at home.
どの犬も家では獅子《しし》
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外では意気地《いくじ》がないのに、家では強がっていること、またはそのような人という意。弁慶は、源《みなもとの》義経《よしつね》に仕えて武名を上げた武蔵《むさし》坊《ぼう》弁慶《べんけい》で、強い人の代名詞的存在。「内天下」「影[陰]弁慶」「口弁慶」とも言う。また「外地蔵・外鼠《ねずみ》・外幽霊」などと対にした言い方も多い。
英語も、「弱虫でも自分の縄張りでは威張っている」の意。
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【類諺】内広がりの外窄《すぼ》まり[外すわり]/内踏ん張りの外引っ込み/内はまぐりの外しじみ/小人《しようじん》の勇/痩《や》せ[負け]犬の遠吠《ぼ》え/我が門で吠えぬ犬なし/痩せ馬の声嚇《おど》し/臆病者《おくびようもの》の空威張り/弱虫の強がり/家泣きの外笑い《外では愛想良く、家では愚痴るばかり》
【英語】At home an elephant, abroad a cat. 家では象、外では猫/A dog is stout at his own door. 門前の犬は勇敢/The cock is bold on his own dunghill. 雄鶏《おんどり》は自分の糞《くそ》山では大胆/Dogs barking aloof bite not at hand. 遠吠え犬は近くで噛《か》まぬ
生《う》まれながらの長老《ちようろう》なし
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No man is born wise.
生まれながらの賢者なし
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長老とは、長年の経験を積んだ人、高僧などの人格者をいう。物事には始めがあり、順序もある。長老と呼ばれるようになるには、長い年月をかけて、さまざまな修練や学業を積まなければならない。一朝《いつちよう》一夕《いつせき》になれるものではない。凡人は、ちょっと齧《かじ》っただけで物事が分かった気になり、賢者ぶりたがるが、実にみっともないことである。
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【類諺】沙弥《しやみ》から長老にはなれぬ《若い修行僧から一足飛びに長老にはなれぬ》/生まれながらの貴《とうと》き者なし/仏《ほとけ》も昔は凡夫なり/生来《せいらい》の賢者碩学《せきがく》なし/始めよりの和尚なし/下学して上達す
【英語】None is born master. 生まれながらの巨匠なし/No man is his craft's master the first day. 手始めの日からの名職人はいない/Great oaks from little acorns grow. 樫《かし》の巨木も小さなどんぐりから生長する/Learn to say before you sing. 歌えるようになる前に、口の利《き》き方を学ぶべし
瓜《うり》の蔓《つる》に茄子《なすび》はならぬ
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Eagles do not breed doves.
鷲《わし》から鳩《はと》は生まれぬ
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瓜にはやはり瓜しかならず、ほかのものはできない。平凡な親から、非凡な子は生まれない、また、親から受けた本性は変わらないことのたとえ。突然変異などはめったにあるものではない。一般に「子は親に似る」と言うが、その親がはたして平凡かどうか、財産・学歴・職歴などの見掛けではうかがい知れない、ということをよく認識しておくべきである。
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【類諺】蛙《かえる》の子は蛙/鳶《とび》の子鷹《たか》にならず/烏《からす》は百度洗っても鷺《さぎ》にはならぬ/無患子《むくろじ》は三年磨いても黒い《無患子の実は追羽根の玉に使われる》/鵠《こく》は浴せずして白し《鵠は白鳥。天性は変わらぬの意》
【英語】We may not expect a good whelp from an ill dog. 性悪《しようわる》犬から良い子犬は期待できぬ/Of evil grain no good seed can come. 駄目な穀物から良い種は得られぬ/Crows are never the whiter for washing themselves. 烏はいくら洗っても白くはならぬ/Blood will tell. 血は争えぬ
老《お》いたるを父《ちち》とせよ
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Old age is honorable.
高齢は敬うべし
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「老いたるを父母《ちちはは》[親]」とも言い、続けて「若きを子弟《してい》」とも言う。年長者を敬い、その教えを学び、年下の若者は子弟のように導けという教えである。今後の高齢化社会で、敬老精神がどのように変化してゆくのか問題であるが、高齢者自身の意識改革も必要とされよう。
英語でも分かるように、敬老は儒教の専売特許ではない。
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【類諺】鳩《はと》に三枝《さんし》の礼あり《子鳩は親鳩より三つ下の枝に止まる》/年寄りの言う事は聞くもの/老犬虚《きよ》に吠《ほ》えず/老いたる馬は路《みち》[道]を忘れず[知る]/老馬の知(用うべし)/亀《かめ》[蟹《かに》]の甲より年の劫《こう》[功]
【英語】If you wish good advice, consult an old man. 知恵を借りるなら老人に聞け/An old dog does not bark for nothing. 老犬は無駄な吠え声は立てぬ/It is good to follow the old fox. 老いた狐《きつね》に従うは賢し/An old horse always knows its way home. 老いた馬は帰り道を知っている
老《お》いの手習《てなら》い
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Never too old to learn.
学ぶに年の取りすぎなし
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晩年になってから、習い事や学問などを始めること。「老いの学問」「晩学」「六十の手習い」「七十の手習い」、近年では更に「八十の手習い」と言うこともある。平均寿命が延びているから、老後の人生がずっと長くなる。多様なカルチャーセンターもあり、大いに再学習に挑戦してみるべきであろう。特に、稽古《けいこ》事などで手指を使うと、脳への刺激になって、惚《ぼ》け予防にも大変役立つと言われている。
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【類諺】老い(て)の学問/老いての後学/年は薬/老いてますます壮《さかん》なるべし/老い木は曲がらぬ/老いて再び稚児《ちご》になる
【英語】Better late than never. 遅くてもしないよりまし/An old dog will learn no new tricks. 老犬は新芸を覚えず《=老い木は曲がらぬ》/Old men are twice children. 老人はもう一度子供になる《=老いて再び稚児になる》
負《お》うた子《こ》に教《おし》えられて浅瀬《あさせ》を渡《わた》る
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Dwarfs standing on the shoulders of giants.
巨人の肩に乗った小さな人間
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背中の子供のほうが遠目がきいて浅瀬が良く分かるので、親が子供に教えられながら無事に川を渡って行けること。老練者や賢者と言われる人たちも、未熟な年少者に教えられ導かれることがあるものだという教えでもある。
英語は「巨人の肩に立つ小人は巨人よりも遠くが見える」という言葉から来ている。偉大な人の発明・発見も、無名の先人の知恵や仕事のおかげだ、という教えである。
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【類諺】三つ子に習《なろ》うて浅き瀬を渡る/愚者も一得/知者も[千慮の]一失《知恵者の熟慮の末の行いにも失敗はある》
【英語】The weak may stand the strong in stead. 弱者が強者を助け起こすこともある/A mouse may help a lion. 鼠《ねずみ》が獅子《しし》を救うこともある/A woman's advice helps at a pinch. 女性の忠告でも窮地を救う《女の浅知恵と馬鹿にするな》
陸《おか》[岡《おか》]に上《あ》がった河童《かつぱ》
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Like a fish out of water.
水から出た魚のごとし
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河童は、池や川に棲《す》む伝説上の妖怪《ようかい》。水中では強いが、陸に上がって頭の皿に水がなくなると、霊力がなくなってしまうという。これにたとえて、場所や環境が変わったり、自分の得意でない分野の仕事につかされて、本来の力が発揮できなくなった者をいうことわざである。
英語は、「手も足も出ない状態に陥る」ことを表す慣用句。
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【類諺】木から落ちた猿/陸《おか》に上がった船頭/魚の水を離れたよう/水鳥の陸《おか》に惑う/干潟《ひがた》の鰯《いわし》/進退これ谷《きわ》まる/二進《につち》も三進《さつち》も行かぬ/万事休す/俎上《そじよう》の魚/俎板《まないた》の鯉《こい》
【英語】To be out of one's element. 得意な分野にあらず/Between the devil and the deep blue sea. 悪魔と青き深海の狭間《はざま》で《身動きならぬ》/At the end of one's rope. 綱の端に(身を置く)《絶体絶命の状況》/Go forward and fall, go backward and mar all. 進めば倒れ、戻れば全部台なし
教《おし》うるは学《まな》ぶの半《なか》ば
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We learn by teaching.
教えて学ぶ
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中国の『書経《しよきよう》』にある言葉で、人に教えるということは、教える者にとっても勉強になる、という意。教えていると、どこが難しいかが分かり、また、新たな発想のヒントや研究を展開していくきっかけが得られたりすることもある。「半ば」とは、修辞的な表現で、教える者や教える内容によっては、教えることが、すなわち学ぶことと同じという場合もある。「教うる」は「教える」と口語で言うことも多い。
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【類諺】教学は相長ず《教えることと学ぶことは相応じて双方を伸ばす》/学びて厭《いと》わず教えて倦《う》まず/習うは一生
【英語】Teaching of others teaches the teacher. 人を教えるとは教える者も教えられることなり/In doing we learn. 事をやりつつ学ぶもの/By doing, a body learns experience. 実践によって経験が身に付く
下学《かがく》して上達《じようたつ》す
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There is no royal road to learning.
学問に王道[近道]なし
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学問というものは、順序立てて構築されているもので、順を追って、基礎から着実に学んで行くべきものである(『論語』)。途中を省略して一足飛びを狙《ねら》っても大成しない。
英語は、幾何学の祖ユークリッドに学んでいたエジプト王のプトレマイオス一世が、「学ぶのに簡単な方法はないものか」と問うたのに対して、師が答えた言葉に由来する。王だからとて特別な方法や楽な近道はないということである。
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【類諺】学問と大木《おおき》は俄《にわか》にできぬ/学者と松茸《まつたけ》は山奥にできる《人知れず時間をかけて育つ》/高きに登るは卑《ひく》きよりす/生まれながらの長老なし/日に就《な》り月に将《すす》む《日進月歩する》
【英語】First creep, then go. まずは這《は》い方を覚えてから歩むべし/If at first you don't succeed, try, try, try again. 始めにうまく行かぬなら、何度でもやってみるべし
河童《かつぱ》に水練《すいれん》
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We must not teach a fish to swim.
魚に泳ぎ方を教えるなかれ
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水界の妖怪《ようかい》と言われる河童は元来は水神《すいじん》という説もあって、いわば水泳の達人。水練は、水泳またはその練習。「水練を教える」とも言う。その道を知り尽くしている人に教えようとすることが、いかに無駄で愚かなことかを、河童に水泳を教えることにたとえたもの。
英語も「魚に水練」だから、同じ発想のものである。
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【類諺】釈迦《しやか》に説法[経《きよう》/心経《しんぎよう》]/孔子に論語[悟道《ごどう》]/猿に木登り/仏の前の経を言う/極楽の入り口で念仏を売る/人を見て法を説け
【英語】Don't teach your grandmother to suck eggs. 祖母に卵のすすり方を教えるな/To teach one's father to get children. 父親に子供の作り方を教える/Goslings lead the geese to water. 鵞鳥《がちよう》のひなが親鳥を水辺へ連れて行く/The scholar teaches his master. 弟子が師に教える
髪結《かみゆ》いの乱《みだ》れ髪《がみ》
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The cobbler's wife goes the worst shod.
靴職人のかみさんの靴が一番粗末
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近世には男女のほとんどが髷《まげ》を結うようになったので、髪結い業が繁盛した。その髪結い職人自身が乱れ髪でいることにたとえて、他人のためには精を出しても、自分のことになるとおろそかにしがちであるという意。「乱れ髪」の代わりに、「茶筅《ちやせん》髪」(後ろ髪を簡単に紐《ひも》で束ねた格好のもの)、「水髪《みずがみ》」(水でなで付けただけのもの)などとも言う。
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【類諺】髪結い髪結わず/紺屋《こうや》の白袴《しろばかま》《染物屋が自分の物は染めぬ》/駕籠《か ご》かき駕籠に乗らず/易者の身の上知らず/医者の不養生/椀《わん》作りの欠け椀/大工の掘っ立て/坊主の不信心/儒者[学者]の不身持《ふみも》ち
【英語】The tailor's wife is worst clad. 仕立屋の女房の身形《みなり》が一番ひどい/Bells call others to church, but enter not themselves. 鐘は人を教会へ呼び寄せながら、自分は教会のなかへ入らない《=坊主の不信心/駕籠かき駕籠に乗らず》
亀《かめ》[蟹《かに》]の甲《こう》より年《とし》の劫《こう》[功《こう》]
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Older and wiser.
年を経るほど賢くなる
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長生きする亀の甲羅より、人間の長年の経験や知恵のほうが貴重であるという意。昔、亀の甲を用いた占いがあったが、その知識より実際の経験のほうが優れているという解釈もある。どちらにしても年配者・長寿の人を称《たた》えるのに適している。「劫《ごう》」は「永劫《えいごう》」に見るように長年月を、「劫《こう》」は「劫《こう》を経る」と言うように長い間の経験を意味する。
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【類諺】伊達《だ て》に年は取らぬ/老いたるを父とせよ/古い物には功がある/百になって百事覚ゆ/長生きはするもの/命長ければ蓬莱《ほうらい》を見る《幸運に遭う》/無駄に鳥居の数を潜《くぐ》らぬ/酸いも甘いも噛《か》み分ける
【英語】Years know more than books. 歳月は書物より物知り/Years bring wisdom. 歳月は知恵をくれる/Experience is the mother of wisdom. 経験は知恵の母/In time one gets experience. 時を重ねれば経験が身に付く/They who live longest will see most. 一番の長命者が一番多く見る
彼《かれ》も人《ひと》なり予《われ》も人《ひと》なり
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What(ever) man has done, man can do.
人がしたことは自分にもできる
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彼も自分も同じ人間で、たいした違いがあるものではない、彼にできたことなら、自分にもできるはずであるという意。たいていの人は似たり寄ったりだから、一生懸命にやれば人並みのことは達成できるはずで、同じようにできないとすれば、努力が足りないからだ、もっと頑張ろう、という自分への励ましとしてよく用いられることわざ。出典は『韓愈《かんゆ》』だが、『孟子《もうし》』も、「彼も丈夫《じようふ》なり、我も丈夫なり」と説いている(丈夫は男子の美称)。「予」は「我」とも書く。
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【類諺】彼も人なり是《これ》も人なり/人の下に人なし/人に高下《こうげ》なし心に高下あり/下駄《げた》も阿弥陀《あみだ》も同じ木の切れ
【英語】A cat may look at a king. 猫でも王様を見られる《皆同等。誰《だれ》に関心を持つも自由》/All men are made of the same metal. 人は同じ物で出来ている《人に違いなし》
艱難《かんなん》汝《なんじ》を玉《たま》にす
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No cross, no crown.
十字架を負わずして栄冠なし
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艱難は辛《つら》く苦しいこと。原石を何度も研磨して宝石に仕上げていくように、苦労は人を磨いて立派にする、という意。古来、凡人を瓦《かわら》や石に、優れた人を玉にたとえることが多く、修養を積んで自分自身を「疵《きず》のない完全無欠な玉」、すなわち、「完璧な人間」へと磨き高めていくことが尊ばれてきた。
英語の「十字架」は苦難のシンボルである。
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【類諺】玉磨かざれば光なし/瓦も磨けば玉となる/可愛《かわい》い子には旅をさせよ/若い時の苦労は買ってでもせよ/人学ばざれば道を知らず/疾風に勁草《けいそう》を知る《困難に遭って意志の強さが知れる》/氏より育ち
【英語】Misfortunes make us wise. 不幸を経験すると、賢くなる/Calamity is the touchstone of a brave mind. 災難は勇気の試金石/In adversity men find eyes. 逆境に目が開く《物事が分かる》/The tree roots more fast which has stood a rough blast. 強風に耐えた木は、しっかり根付く
堪忍《かんにん》は立身《りつしん》の力綱《ちからづな》
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Perseverance overcomes all things.
忍耐は万事に勝つ
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「堪忍」は「辛抱」とも言い、苦しみを我慢することだが、他人に対する怒りを堪《こら》えて許すことでもある。辛抱強く対処していくことが物事成就につながり、立身出世の助けにもなるという意。大願成就まで世を忍んでいなければならない赤穂《あこう》浪士《ろうし》の神崎《かんざき》与五郎《よごろう》が、馬子に喧嘩《けんか》を売られてもじっと我慢する場面なども、堪忍の例に入るであろう。
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【類諺】堪忍は身[一生]の宝/堪忍は(無事)長久の基《もとい》/御意見五両堪忍十両《忠告は重要だが忍耐はもっと大事》/忍の一字は衆妙の門《忍耐は万事の根本で、何事にも用立つ》/堪忍に価《あたい》なし《辛抱の価値は無限》
【英語】Patience is the best remedy. 忍耐は最良の薬/Sufferance gives ease. 耐えて忍べばごたごたは起きず/Patience and application will carry us through. 忍耐と熱意があれば成就する/He conquers who endures. 耐える者は勝つ
聞《き》くは一時《いつとき》の恥《はじ》聞《き》かぬは一生《いつしよう》の恥《はじ》
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Better to ask the way than go astray.
道に迷ってしまうより聞くがまし
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下《しも》句の後半は「末代の恥」とも言う。知らないことを人に尋ねるのはその場限りの恥にすぎないが、聞かずに知らないまますごすと、一生恥ずかしい思いをすることになるという意。知ったかぶりをしていると、いつか必ず失敗をし、大恥をかくものだが、それだけではすまず、失敗が周囲に迷惑を及ぼして顰蹙《ひんしゆく》を買うこともありうる。知らないことは積極的に聞いてもらうほうが、周囲にも有り難いもの。
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【類諺】問うは一旦《いつたん》の恥問わぬは末代の恥/下問《かもん》に[を]恥じず《下の者に聞くことを恥じるな》/迷者《めいしや》は路《みち》を問わず《賢者ぶって聞かねば後悔》
【英語】If you don't ask questions, you'll never learn anything. 問わざれば何事も学ぶを得ず/Better to ask twice than go wrong. 間違うより二度聞くがまし/From hearing, comes wisdom. 聞けば知恵が付く
愚者《ぐしや》も一得《いつとく》
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A fool's bolt may sometimes hit the mark.
愚人の矢でも時には的に当たる
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どんなに愚かな人でも、時には名案を出すことがある、という意。「知者も千慮《せんりよ》に必ず一失《いつしつ》有り、愚者も千慮に必ず一得有り」という『史記』の言葉から来ている。凡人の言うことだからと頭から馬鹿にしていては、折角名案が出た場合でも、取り逃がしてしまう。名射手が時には的をはずすことがあるのとは反対に、下手《へ た》な者でもうまく当てることがありうるのは、まさに英語が言うとおりである。
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【類諺】阿呆《あほう》[馬鹿]にも一芸/馬鹿にも取り柄/千慮の一得/能なしの能一つ/人屑《くず》と縄屑は余らぬ《何でも不要なものはない》/負うた子に教えられて浅瀬を渡る/下手《へ た》の金的[真星《しんぼし》]
【英語】The wise may be instructed by a fool. 賢者が愚者に教えられることあり/From the mouths of babes come words of wisdom. 子供の口からでも賢い言葉
口叩《くちたた》きの手足《てた》らず
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A long tongue has a short hand.
口達者の手足らず
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「口叩き」とは、おしゃべりや手前勝手なことを言う、大言壮語を吐く、つまり口達者という意で、「手足らず」は腕前(技)や能力が劣っていること。口数が多くて自慢ばかりしている者ほど、実際の仕事はろくにできないものなのだと説いている。逆に、口下手《べ た》、寡黙でありながら、意外にも仕事は良くできる人がいることも銘記すべきである。
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【類諺】能なしの口叩き/身(の程)知らずの口叩き/口自慢の仕事下手/口上手の商い下手/未熟(者)の芸誇り/物言わずの早細工/黙り者壁を破る/口(も)八丁手(も)八丁
【英語】Great talkers are no good doers. 多弁の能なし/To keep a cackling and lay no eggs. コッコッと鳴き続けても卵は生まない/Much talk, little work. 多弁なれど、仕事下手/He that is silent gathers stones. 黙り者が、せっせと石を集める《事を成す》/Least talk, most work. 寡黙な者ほどよく働く
鶏口《けいこう》となるも牛後《ぎゆうご》となるなかれ
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Better the head of a dog than the tail of a lion.
獅子《しし》の尾より犬の頭になるがまし
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『史記』の「蘇秦伝《そしんでん》」にある言葉で、「鶏口」は小さな団体の長、「牛後」は大きな団体で人に使われる者を象徴している。つまり大集団でおとなしく人に従うよりも、小集団のトップになるほうがいいというたとえ。最近のベンチャー系の企業では、いずれは独立したいと思っている、やる気のある鶏口型の人材を募集するところが少なくない。
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【類諺】鶏口牛後/鯛《たい》の尾より鰯《いわし》の頭《かしら》/大鳥《おおとり》の尾より小鳥《ことり》の頭《かしら》/芋頭《いもがしら》でも頭《かしら》は頭《かしら》/寄らば大樹の陰[下《もと》]/鰯の頭《かしら》をせんより鯛の尾に付け
【英語】Better be first in a village than second in [at] Rome. ローマでの二流より田舎《いなか》での一流/Better a big fish in a little pond than a little fish in a big pond. 大池の小魚より小池の大魚/Rather the tail of lions than the head of foxes. 狐《きつね》の頭よりも獅子の尾になるがまし
蛍雪《けいせつ》(の功《こう》)
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To burn the midnight oil.
深夜に灯をともす
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中国の晋《しん》の時代に、貧しくて灯油の買えない車胤《しやいん》が「蛍《ほたる》」を集めた光で、孫康《そんこう》が窓際の「雪」の明かりで、それぞれ勉強をし、のちに出世したという故事に因《ちな》む。大変な苦学や、またその成果のことをいい、「蛍雪の功を積む[を積もる]」と使う。小学唱歌『蛍の光』(元は『蛍』)には「蛍の光、窓の雪」とあり、学童の送別歌として普及した。原曲はスコットランド民謡。
英語は、「夜ふけまで勉強に励む」の意。
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【類諺】蛍を集め雪に映ず/蛍窓《けいそう》(雪案《せつあん》)/車蛍《しやけい》孫雪《そんせつ》/円木《えんぼく》警枕《けいちん》《転がる丸木を枕にし、目を覚まして苦学する》/頭《かしら》を懸《か》け股《また》を刺す《梁《はり》に頭を懸け、股に針を刺して眠気を払う》
【英語】It smells of the candle. ろうそくの臭いがする《ろうそくの臭いが染み付くほどの勉強家》/To keep one's nose to the grindstone. 砥石《といし》に鼻をくっつける《こつこつと研鑽《けんさん》を積む》
芸《げい》は身《み》を助《たす》く
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Learn a trade and earn a living.
手に職を付ければ生計が立つ
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何か芸があれば、困った時の助けになる、という意だが、この芸は、技術習得・資格検定に限らず、生計に役立つものなら何でも良い。反義のことわざが多いのは、芸に頼りすぎては大成しないという含みがあるからである。しかし、いざという時のための芸の一つや二つは身に付けておきたい。失職してからあわてても、芸はすぐには身に付かない。
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【類諺】芸は身を救う/一芸に名ある者は必ず用いらる/芸は身の仇《あだ》/芸は身を破る/粋《すい》が身を食う《風流事がすぎて破滅》/昔取った杵柄《きねづか》
【英語】Learn a trade, for the time will come when you shall need it. 手に職を持てば用を弁ずる時が来る/Learned men carry their best treasures about them. 学ある者は、最上の宝の持ち主/He who has an art has a share everywhere. 芸があれば、どこへ行っても分け前に有り付ける
弘法《こうぼう》(に)も筆《ふで》の誤《あやま》り
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(Even) Homer sometimes nods.
ホメロスも時にはこっくりする
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書聖・弘法大師《こうぼうだいし》空海《くうかい》でも書き損なうことがあるように、どんな名手・達人・巧者でも間違えることがある。特に、上手を過信している者ほど、思わぬ仕損じをしやすいもの。
英語のホメロスは古代ギリシアの大詩人で、「大名人でもうっかり失態をすることがある」のたとえ。
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【類諺】河童《かつぱ》の川流れ/泳ぎ上手は川で死ぬ/川立ち川で果てる《川育ちが川で死ぬ》/上手の手から水が漏《も》る/釈迦《しやか》にも経の読み違い/文殊《もんじゆ》も知恵のこぼれ/猿も木から落ちる/良き仏師にも斧《おの》の躓《つまず》き
【英語】The wisest man may be overseen. 最高の賢者にも失策あり/Good swimmers at length are drowned. 泳ぎ達者もついには溺《おぼ》れる/A good horse stumbles. 良馬も躓く/Even a priest may err at the altar. 司祭も祭壇でしくじる/A good marksman may miss. 射撃の名人も撃ち損なう
弘法《こうぼう》(は)筆《ふで》を選《えら》ばず
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The cunning mason works with any stone.
熟練の石工は石を選ばず
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真言《しんごん》宗の開祖・弘法大師《こうぼうだいし》空海《くうかい》のように書の上手な人は、使う筆の良し悪しを問題にしない。腕の立つ人は、どんな道具でも使いこなすが、下手《へ た》な人は道具にとらわれ、出来のまずさを道具のせいにしてしまうものだというたとえ。
材料についても同じことで、上の英語はそれを指している。仕事でも道楽でも、道具や材料に凝る人がいるが、実力は実地の修業によってしか上がらない。
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【類諺】能書[名筆]は筆を選ばず/善書は紙筆を選ばず/下手の道具調べ/下手の伊達《だ て》道具/藪《やぶ》医者の病人選び
【英語】A bad workman quarrels with his tools. 下手な職人は道具を愚痴る/A wise man will make tools of what comes to hand. 賢者は手に入るどんな物でも道具に仕立てる/A wise man never wants a weapon. 賢者は手段に困らず
獅子《しし》身中《しんちゆう》の虫《むし》
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To nourish a snake [viper] in one's bosom.
懐に蛇[毒蛇]を飼う
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獅子に寄生して生きていながら、その庇護《ひご》の恩を忘れて獅子の身を食う虫のこと。仏教では、仏徒でありながら仏法を害する者を言い、一般的には、味方を裏切る者や、いざという時に見て見ぬ振りをするような、上辺《うわべ》だけの友を指す。不実の友は、いわば目に見えぬ内部の敵で、明白な外敵よりもかえって始末が悪い。厳しい競争社会を生き抜くには、外はもとより、内にも背にも眼を持たねばならない。
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【類諺】敵に味方あり味方に敵あり/悪人の友を棄《す》てて善人の敵を招け/飼い犬に手を噛《か》まれる/頼む木の下《もと》に雨漏る/恩を仇《あだ》で返す
【英語】Better an open enemy than a false friend. 不実の友より公然の敵/As good a foe that hurts not as a friend that helps not. 助けてくれぬ友よりも害を加えぬ敵がまし/Save us from our friends. 我等を友面《ともづら》の輩《やから》より救いたまえ
正直《しようじき》の頭《こうべ》に神《かみ》宿《やど》る
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Honesty is the best policy.
正直こそ最善の策
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正直とは、言動に嘘《うそ》偽り、陰《かげ》日向《ひなた》のないことである。正直な生き方をしていると、いつか神の助けがあり、幸運がもたらされる、という意。神は正直者を賞《しよう》し、悪人を罰する公平な存在であるという思想・願望が背景となっている。現実には不正直な者、ずるい者が得をすることがあるが、それは一時的で、歴史が「悪は栄えず」を教えている。
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【類諺】神(様)は(お)見通し/天道《てんどう》善に福《さいわい》す/正直に敵なし/正直の儲《もう》けは身に付く/正直は一生の宝/悪は栄えず/悪は一旦《いつたん》の事なり/正直者が馬鹿を見る/正直は阿呆《あほう》の異名/正直貧乏
【英語】Fortune waits on honest toil and earnest endeavor. 幸運の女神は正直な働きとまじめな努力に仕える/Honesty is best in the long run. 正直が結局は一番/Plain dealing is a jewel. 正直は宝石/Honesty pays. 正直は引き合う《損しない》/Honesty is ill to thrive by. 正直は繁盛の邪魔
辛抱《しんぼう》する木《き》に金《かね》が生《な》る
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Patience opens all doors.
辛抱は全ての扉を開く
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「木」に「気」を掛けた表現で、欲を抑えて忍耐強くやり抜けば、必ず豊かになるはず、という意。○×式の受験勉強に漬かった世代ほど、趣味や遊びには熱中するが、仕事には根気が続かないと言われる。努力・辛抱の成果が見えやすく、それゆえに喜びが感じられるような作業プロセスの設定が、管理者の今後の課題と言われる。
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【類諺】辛抱(の棒)が大事/辛抱する床《とこ》に花が咲く/辛抱は金《かね》挽《ひ》き臼《うす》は石《臼の芯棒《しんぼう》が鉄《かね》のように、金持ちになるには辛抱が必要》/辛抱に追い付く貧乏なし/踏まれた草にも花が咲く/堪忍《かんにん》は立身の力綱
【英語】Patient men win the day. 辛抱すれば勝つ/All succeeds well to him who has patience. 辛抱すれば万事順調/Patience is a remedy for every grief. 辛抱はどんな悲しみもいやす/Patience is a plaster for all sores. 辛抱は傷の万能膏薬《こうやく》/He that can stay obtains. 耐え得る者は獲得する
酸《す》いも甘《あま》いも噛《か》み分《わ》ける
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A man of the world.
世事人情をわきまえた人
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「辛《から》いこと、酸いこと、甘いこと」が入り混じった様々の経験をして、世間の微妙な裏表に通じ、義理人情にも厚いことをいう(「辛酸をなめる」は、「甘さ抜きで」苦労ばかりを経験すること)。こういう人が、「人生の達人」として信頼される。
英語では「経験豊富な者」を老猿・老鳥・老狐《こ》などにたとえたことわざが多い。
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【類諺】酸いも甘いも知り抜く/酸いも辛いも御存じ/亀《かめ》[蟹《かに》]の甲より年の劫《こう》[功]/老いたるを父とせよ/海に千年山に千年=海千山千/一筋縄ではゆかぬ/一癖も二癖もある
【英語】To have had many ups-and-downs in life. 人生の苦楽浮き沈みをたくさん経験している/An old ape has an old eye. 年を重ねた猿に老練の目あり/Old birds are not caught with chaff. 老鳥はもみがらでは捕《つか》まらぬ/An old fox understands a trap. 老狐は罠《わな》に通じている
好《す》きこそものの上手《じようず》なれ
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Nothing is hard to a willing mind.
進んでやる気があれば困難なし
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どんな事でも、好きであれば進んで取り組むものであり、その結果として上達するようになるものだという意。歌舞伎《かぶき》浄瑠璃《じようるり》の『菅原《すがわら》伝授《でんじゆ》手習鑑《てならいかがみ》』に、「好きこそ物の上手とは、芸能教えの金言」とある。好きなら上達しやすいとはいっても、継続しなければ駄目である。好きなことに手を染めると、始めは人よりも上達が早いため、次第に慢心して練習を怠りがちになる。それでは「下手《へ た》の横好き」で終ってしまう。
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【類諺】好きは上手のもと/道は好む所によってやすし/好きの道に辛労なし/精神一到何事か成らざらん/我が物と思えば軽《かろ》し笠《かさ》の雪
【英語】What we do willingly [What our own self wills] is easy. 喜び勇んでやることならば苦労はなし/Who likes not his business, his business likes not him. 仕事を喜んでやらない者は、仕事のほうから見放される
雀《すずめ》百《ひやく》まで踊《おど》り忘《わす》れず
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What's learnt in the cradle lasts till the tomb.
ゆりかごの中で覚えた事は墓場まで
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巣立ってから死ぬまで、楽しく飛び跳ねている雀の本能・習性にたとえて、人間も、子供のころの癖が直らないとか、年を取っても道楽ごとから抜けられないことをいう。いったん身に付いたことをやめるのは、容易ではない。
英語も、「幼児期に自然に身に染み付いた習性は、墓に入るまで、つまり、死ぬまで抜けない」という意。
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【類諺】三つ子の魂百まで/頭禿《は》げても浮気はやまぬ/噛《か》む馬は終《しま》い[死ぬ]まで噛む/持った病は治らぬ《悪習・悪癖は直らぬ》/昔取った杵柄《きねづか》《昔身に付けて今でもできる技能》
【英語】What is bred in the bone won't out of the flesh. 骨の中で育った事は体から出ぬ《忘れぬ》/What youth is used to, age remembers. 若い時の習慣は、老いても覚えている/A leopard can't change its spots. 豹《ひよう》は斑点《はんてん》を変えられぬ
栴檀《せんだん》は二《ふた》[双《ふた》]葉《ば》より香《かんば》し
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It early pricks that will be a thorn.
いばらになる運命のものは早くから刺す
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このことわざの栴檀は、南方産の香木の白檀《びやくだん》の異名で、発芽の時から芳香を放つと信じられたことにたとえて、優れた人物は幼時から人並みはずれた素質・才能を発揮するものだ、という意。偉人や天才には実例が多数あるが、子供の優れた資質の開花には、教育・家庭環境の影響も大きい。なお、植物学者によれば、白檀は二葉のころにはまだ芳香を発しないという。
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【類諺】蛇《じや》は寸にして人を呑《の》む《大蛇には小さい時から威風がある》=竜は寸にして昇天の気あり/王になるも生まれあい《王者には生来《せいらい》の素質がある》/実《み》のなる木は花から知れる/なる木は花から違う
【英語】Timely crooks the tree, that will good cammock be. 上等なホッケー杖《つえ》の木は、若木の時に曲がっている/Garlands are not for every brow. 花冠は誰《だれ》の額にも合うとは限らず/Flowers are the pledges of fruit. 花を見れば実が分かる
大器《たいき》晩成《ばんせい》
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Rome was not built in a day.
ローマは一日にして成らず
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『老子《ろうし》』の言葉で、大器とは、大型の鐘や鼎《かなえ》のような器。大器が出来上がるには、長い時間がかかる。同様に、器量の大きい人物へと成長するにも長い年月がかかる、という意。
英語は和訳とともに有名だが、昔のラテン世界のことわざに由来する。かつてローマが欧州大陸全土に及ぶ帝国の中心になるまでに長年月を要したことを象徴している。
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【類諺】一朝《いつちよう》一夕《いつせき》の故《こ》にあらず《長年月を要すること》/大きい薬罐《やかん》は沸きが遅い/後生《こうせい》畏《おそ》るべし=若木の下で笠《かさ》を脱げ=若木に腰掛くるな《大器の可能性のある後輩や若者を侮るな》/栴檀《せんだん》は二《ふた》[双《ふた》]葉《ば》より香《かんば》し/小鍋《こなべ》はすぐ熱くなる/早熟れの早腐り
【英語】Great oaks from little acorns grow. 樫《かし》の巨木も小さなどんぐりから生長する/A little pot is soon hot. 小鍋はすぐ熱くなる/Soon ripe, soon rotten. 早熟れの早腐り
大魚《たいぎよ》は小池《しようち》に棲《す》まず
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Great fishes are caught in great waters.
大魚は大海で捕れる
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大きい魚は小さい池や狭い海では十分に泳げないことにたとえて、大志を抱《いだ》く者や大人物も、それにふさわしい立派な地位や立場が与えられるべきである、という意。
下の英語の第一例は、「大船は浅瀬では座礁してしまう」を裏返した言い方。
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【類諺】呑舟《どんしゆう》の魚《うお》は枝流《しりゆう》に游《およ》がず《舟を呑《の》むほどの大魚は細流に棲まぬ》=虎《とら》は千里の藪《やぶ》に棲む《大物には広い活躍場所が必要》/君子は径路を行かず《堂々と大道を行く》/虎の心猫知らず=燕雀《えんじやく》いずくんぞ鴻鵠《こうこく》の志《こころざし》を知らんや《小物には大物の心は分からない》
【英語】A great ship asks deep waters. 大きい船には、深い海が必要/A high building, a low foundation. 高い家には、深い土台が要る/Only the eagle can gaze at the sun. 太陽を見うるのは鷲《わし》のみ《小鳥などには大それたことはできぬ》
大《だい》は小《しよう》を兼《か》ねる
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The greater embraces the less.
大なるは小なるを包含す
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大きい物は小さい物の代用にもなる、という意。大皿は小皿の、茶碗《ちやわん》は盃《さかずき》の、それぞれ代わりになりうる。子供の成長を考慮して少し大きめの服を購入すれば、数年はもつ。かといって、何でも大きい物が良いというわけではない。長刀が髭剃《ひげそ》りにはならないように、物には限度がある。なお、逆は真ならずで、小さい物が大きい物を代用するのは難しい。
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【類諺】大は小を叶《かな》える/大きな物は細《こも》う使われる/牛刀《ぎゆうとう》鶏《にわとり》を割《さ》くべし鶏刀《けいとう》牛を屠《ほふ》ること難し《牛刀でも鶏を割けるが、鶏刀では牛をさばけぬ》/杓子《しやくし》[熊手]は耳かきにならず/長持ちは枕にならず
【英語】Wide will wear, but tight will tear. ゆったりなら着られるが、ぴったりだと破れかねぬ/Store is no sore. 豊富にあるのは、苦にならぬ/A handsaw is a good thing, but not to shave with. のこぎりは有用だが、髭剃りには向かぬ
畳《たたみ》の上《うえ》の水練《すいれん》
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Practice is better than precept.
説教より実践
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略して「畳水練」とも言う。畳の上でいくら手足を動かして泳ぎのまねをしてみても、実際に水の中での練習をしなければ泳げるようにはならない。理論を詳しく知っていても、実践が伴わず、実地に応用できないため役に立たないことを批判したことわざ。受け売りの知識を自慢するだけで、自分では考えず、実行もしない人への戒めである。
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【類諺】畳の上の陣立て/炬燵《こたつ》[座敷]兵法/紙上に兵を談ず/炬燵[畠《はたけ》]水練/鞍《くら》掛け馬の稽古《けいこ》/木馬の達人/机上の空論/書をもって御する者は馬の情を尽くさず/知って行わざれば知らぬも同然/論より証拠
【英語】Knowledge without practice is nothing. 実践せざる知識は、無知も同然/Experience without learning is better than learning without experience. 験《ため》してみない知識より、知識はなくとも、経験してみるほうが良い/A mere scholar, a mere ass. 知識があるだけの者は、ろばも同然
達人《たつじん》は大観《たいかん》す
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All troubles welcome to a resolved mind.
どんな困難も、達観した者には困らない
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達人は、細事にとらわれず、物事を公平かつ大局的に観察して判断するので間違うことがない、という意。達人とは「学問技芸の大家」だけではない。「人生の達人」という言い方もされるように、道理を究めた揺るぎない心の持ち主も指す。世事に通じ、自分には厳しく他人には寛容の心を持って柔軟に対処する、いわゆる大人《たいじん》である。
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【類諺】大人《たいじん》は大耳《おおみみ》=大人《たいじん》は小目《こめ》を遣わず《大人物は瑣事《さじ》には耳をふさぎ、目をつぶる》/大行《たいこう》は細謹《さいきん》を顧みず《大事を成すには小事を気にせず》
【英語】The resolved mind has no cares. 毅然たる心に不安なし/One eye of the master sees more than ten of the servants. 主人の目一つは、使用人の目十以上に匹敵/Wink at small faults. 小さな過失は見て見ぬ振りをせよ/Lose a fly to catch a trout. 鱒《ます》を釣るなら毛鉤《けばり》を惜しむな
矯《た》めるなら若木《わかぎ》のうち
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Best to bend while it is a twig.
小枝のうちに曲げるのが最善
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「矯める」とは、良い形になるように向きを直すこと。枝ぶりを整えるなら若木のうちにするのが良いということにたとえて、人も、性格や習慣が固まってしまわない、柔軟性がある若いうちに矯正すべきだ、という意。教師や父母はもとより、企業の新人研修担当者なども、そのような肝心の時機を逸しないように注意すべきである。
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【類諺】好機逸すべからず/老い木は曲がらぬ/二十《はたち》過ぎての子の意見と彼岸《ひがん》過ぎての肥《こえ》は効かぬ
【英語】Strike while the iron is hot. 鉄は熱いうちに打て/An old dog will learn no new tricks. 老犬は新芸を覚えず/Youth and white paper take any impression. 若さと白紙にはどんな刻印もできる《影響を受けやすい》/Train up a child in the way he should go. 子供の時に歩むべき方向にしつけよ
使《つか》っている鍬《くわ》は光《ひか》る
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Iron not used soon rusts.
使わぬ鉄はすぐ錆《さ》びる
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毎日畑を耕すために使われている鍬は、ぴかぴかに輝いている。しかし、使われないと、すぐに錆びてしまう。これをたとえに、いつも仕事に励んでいる人は、本人が黙っていても、外から見て、自然に分かるものだ、という意。たゆまず努力している人は、充実した精神が表面に現れる。表情が生き生きとし、態度もきびきびしている。
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【類諺】使う鍬は錆びぬ/使わぬ鍬は[鉄は使わねば]すぐ錆びる/人通りに草生えず/繁盛の地に草生えず/流れる水は腐らず/転がる石に苔《こけ》むさず/宝の持ち腐れ
【英語】The used key is always bright. 使っている鍵は、いつも光っている/Drawn wells are seldom dry. 使用中の井戸は、めったに涸《か》れない/Too much rest is rust. 休みすぎれば錆となる/Idleness turns the edge of wit. 怠け心は、知恵の刃《は》を変える《なまくらにする、鈍らせる》
角《つの》を矯《た》めて牛《うし》を殺《ころ》す
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Burn not your house to fright away the mice.
鼠《ねずみ》退治のために家まで焼くなかれ
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牛の角の歪《ゆが》みを直そうとして牛を殺してしまうように、一部の欠点を改善しようとして、全体を駄目にすること。本末転倒、事の軽重を誤る行為である。子供のしつけでも、度がすぎて傷付けたり、無気力にしてしまっては何にもならない。
英語も、「鼠を煙でいぶり出そうとあせって火事を引き起こすような愚行をするな」の意。
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【類諺】磨く地蔵(の)鼻を欠く《磨きすぎて鼻がもげる》/枝を切って根を枯らす/枝を撓《たわ》めて花を散らす/付き合いなら家でも焼く
【英語】The cure may be worse than the disease. 治療して一層悪くなることもあり/Better a snotty child than a noseless. 鼻を拭《ふ》いて鼻欠けになるより鼻たれのままがいい/Kill not the goose that lays the golden eggs. 金の卵を生む鵞鳥《がちよう》を絞《し》めるな《腹の金塊が取れると早合点した愚をおかすな》
流《なが》れる水《みず》は腐《くさ》らず
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A pool that stirs never stinks.
水が動いている水溜《た》まりは臭くない
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「流れる」は「流るる」とも言う。出典は中国の『呂氏《りよし》春秋《しゆんじゆう》』にある「流水腐らず、戸枢《こすう》螻《むしば》まず」で、いつも流れている水は、淀《よど》んで腐ることがなく、いつも開け閉めされる扉の戸枢(軸の部分)は、虫に食われない、という言葉から来ている。いつも活動している者は、堕落したり沈滞することがない、というたとえ。集団や組織でも、配置替えをしたり人事の刷新をはかるなど、活性化が必要である。
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【類諺】流水腐らず/淀む水には芥《ごみ》溜まる/精出せば凍る間もなし水車《みずぐるま》/使っている鍬《くわ》は光る/心の隙《すき》に魔がさす/小人《しようじん》閑居《かんきよ》して不善をなす
【英語】Standing pools gather mud. 淀む池に泥溜まる/By doing nothing we learn to do ill. 無為から悪事を学ぶ/An idle brain is the devil's workshop. 怠け者の頭は悪魔の仕事場/Idleness is the root of all evil. 怠惰は諸悪の根源
無《な》くて七癖《ななくせ》
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A good garden may have some weeds.
良い庭にも雑草は生える
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癖など一つもないと言われる人でも、よく探してみれば、七つはあるという意。後に続けて、「有って四十八癖《しじゆうはつくせ》」と誇張した言い方をすることもある。同様に、取り入る隙がないような、完全無欠に見える人物にも、なんらかの短所や弱点が必ずあるものだ。また、人それぞれに、趣味や習慣の違いが必ずあり、それが日ごろの営業活動や付き合いを深める糸口になることを心得ておくべきである。
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【類諺】人各各《おのおの》一癖《いつぺき》[能あり不能]あり/人に人癖馬に馬癖/人は知れぬもの/名馬に癖[難]あり/玉に瑕《きず》/(新しい畳《たたみ》でも)叩《たた》けば埃《ほこり》が出る
【英語】Every man has his faults. 人に短所あり/Every man has a fool in his sleeve. 誰《だれ》の袖《そで》にも阿呆《あほう》がいる《弱点あり》/There's good and bad in everything. 万事に長短あり/There are spots in the sun. 太陽にも黒点《=玉に瑕》
習《なら》い(は)性《せい》となる
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Once a use and ever a custom.
慣れれば癖になる
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何度も繰り返してやれば、次第に身に付いていき、ついには生まれついての性質のようになってしまうこと。中国の『書経《しよきよう》』にある言葉で、そうなることを「不義」であるとみなしている。習慣があまりに染み付いてしまうと、環境や状況の変化に適応しにくくなるものだからである。しかし、粘り強く習い続けて天性のもののように修得できるのであれば、悪事は別として、賞賛に値することだと言えよう。
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【類諺】習慣は自然のごとし/習慣は常[自然]となる/塩を売れば手が辛くなる/門前の小僧習わぬ経を読む
【英語】Habit [Custom] is a second nature. 習慣は第二の天性/Old habits die hard. 長年の習性は抜けにくい/A good candleholder proves a good gamester. 博奕《ばくち》打ちの手元を上手に照らす係は良い博奕打ちになる《自然に博奕に精通する》
習《なら》うより慣《な》れよ
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Practice makes perfect.
実践によって完成に至る
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ただ本で読んだり人から教えられるより、実際に自分で経験して慣れていくほうが、よく身に付くということ。昔の職人は、見よう見真似《まね》の実地作業で、自ら試行錯誤を重ねつつ、仕事を体得していったものである。道具の刃《は》一つ研《と》ぐのも、実作業で切れ具合を試してみなければできない。今でも机上の学習だけでなく、実習も通して修得すべきであることに変わりはない。「慣れよ」は「馴《な》れよ」とも書く。
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【類諺】習おう[習わん]よりも慣れ[馴れ]よ/亀《かめ》[蟹《かに》]の甲より年の劫《こう》[功]/耳学問=口耳《こうじ》の学《受け売りの知識》
【英語】Custom makes all things easy. 慣れれば万事がやさしくなる/Use makes mastery. 慣れは熟達への道/Experience is the best [the greatest / a hard] teacher. 経験は最良の[最も卓越した/勤勉な]教師
ならぬ堪忍《かんにん》するが堪忍《かんにん》
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No remedy but patience.
辛抱以外に妙薬なし
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「堪忍」は「耐える」ことで、「堪忍できないことを我慢するのが本当の堪忍」という意。もう我慢できない、と爆発寸前になっても踏み止《とど》まるのが堪忍で、至難のことではある。
英語も、対人関係を営む上で、「辛抱が一番の妙薬」と言っている。家族を抱えた社会人は、何人分も我慢しなければならないのである。
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【類諺】この世は堪忍世界/能《よ》く恥を忍ぶ者は安し/堪忍は立身の力綱/短気は損気/辛抱する木に金が生《な》る/堪忍は一生の宝/堪忍は万宝に代え難し/堪忍袋の緒が切れる/物には七十五度《しちじゆうごたび》
【英語】The longer we live, the more we have to endure. 命長らえれば、耐えるべきこと多し/When you enter into a house, leave your anger at the door. 怒りは、入口に置いてから入るべし/Patience provoked turns to fury. 我慢も、逆なでされると激怒へ転化する《=堪忍袋の緒が切れる》
何《なん》でも来《こ》いに名人《めいじん》なし
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Jack of all trades, and master of none.
何でも屋の中途半端
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何でもできるという人に、名人と言われる人はいない。どんな事でも器用にこなすが、力が分散して一芸に優れることができないのである。多くの分野に通じて「博学」と言われても、結局は「雑学の大家」に終ってしまい、学問的に深める所まで行かない人も多い。しかし器用な人が身近にいれば、便利で重宝だから、相応に遇するのが賢明である。
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【類諺】多芸は無芸/知る者は博《ひろ》からず/八方手を出す人は身が持てぬ/百芸は一芸(の精《くわ》しき)にしかず/万能足り[達し]て一心足らず《万能者だが心の修養・徳が不足》/君子は多能を恥ず/器用貧乏
【英語】A little of everything, and nothing in the main. 何でも齧《かじ》りの専門なし/Better master one than fight with ten. 十芸と取り組むより、一芸に熟達するがまし/Good workmen are seldom rich. 腕利きの職人に金溜《た》まらず《=器用貧乏》
能《のう》ある鷹《たか》は爪《つめ》を隠《かく》す
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Cats hide their claws.
猫は爪を隠す
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実力のある者は、それをひけらかすことはしないという意。裏返せば、自慢している者ほど、いざとなるとからきし駄目であるということ。戦国大名の北条《ほうじよう》氏直《うじなお》は、戦う力もないのに虚勢を張って豊臣《とよとみ》秀吉《ひでよし》に挑み、滅ぼされた。
英語の「猫」は「鼠《ねずみ》を捕る猫」のことで、同じ形式のものが日本語の類諺《るいげん》にもある。
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【類諺】上手の鷹が爪隠す/鼠捕る[上手の]猫は爪隠す/吠《ほ》える犬は噛《か》み付かぬ/知る者は言わず言う者は知らず/大賢《たいけん》[大智《たいち》]は愚に似たり/知恵は小出しに
【英語】Wear a horn and blow it not. 角笛を持っていても吹くな/Hide your light under a bushel. 灯《あか》りは桝《ます》の下に隠せ《才能を自慢するな》/Who knows most, speaks least. 多くを知る者は言葉少なし/Tell not all you know, all you have, or all you can do. 持てる知識・能力の全ては口にはするな
武士《ぶし》は食《く》わねど高楊枝《たかようじ》
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Better go to bed supperless than rise in debt.
朝起きて借金に追われるより、夕食抜きで寝るがまし
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体面を重んじる武士が、貧乏で飯を食べていなくても、いかにも満腹しているといった風情《ふぜい》で、悠然と楊枝を使って見せること。気位や誇りが高いことの表現だが、要するに、見栄《みえ》っ張りの痩《や》せ我慢である。
英語は「空腹でも夕食のための借金をせずに寝てしまうほうが、翌朝借金取りに叩《たた》き起こされるよりもいい」という意。
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【類諺】鷹《たか》は飢えても穂を摘まず/虎《とら》は飢えても死肉は食わぬ/渇《かつ》しても盗泉の水を飲まず《貧しても正直》/食わず貧楽《ひんらく》高枕《たかまくら》《清貧は安楽》/伊達《だ て》の薄着/痩せても枯れても武士は武士
【英語】Eagles catch no flies. 鷲《わし》は蠅《はえ》を捕らず《けちな事はせぬ》/A proud mind and a poor purse are ill met. 自尊心と乏しい懐は折り合いが悪い/Poor folk fare the best. 貧者の生活が最高/Pride feels no cold. 見栄坊の寒さ知らず
下手《へ た》があるので上手《じようず》が知《し》れる
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There would be no great, were there no little ones.
小物あらねば大物あらず
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下手がいるから上手が引き立つのだという意。つまり比較されるものがあってこそ、その違いや優劣が明らかになる。
下手と上手が小物と大物に入れ替っている表現が上の英語である。なお、下手の発想や意見が、上手のそれを引き出す助けになることがあることも忘れてはならない。
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【類諺】下手は上手の飾り物/馬鹿があって利口が引き立つ/下種《げす》ない上臈《じようろう》はならず=下臈《げろう》なくては上臈もなし《下位がいるから上位者もある》/夜昼あって立つ世の中/悪人あればこそ善人も顕《あらわ》る
【英語】Contraries being set the one against the other appear more evident. 反対のものをセットに[対置]すれば、違いが明瞭になる/The great and the little have need of one another. 大物と小物は互いを必要とする/Vice makes virtue shine. 悪徳があればこそ、美徳が輝く
吠《ほ》える犬《いぬ》は噛《か》み付《つ》かぬ
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Great barkers are no biters.
大げさに吠える犬は噛み付かぬ
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弱い犬ほど吠えるが、噛み付いてはこない。逆に強い犬は吠えずにいきなり噛み付くもの。大口叩《たた》きで度胸のない者は無視して良いが、黙っている者には要注意、のたとえ。真に実力のある者は、何事にも空騒ぎをせず、じっと機会を窺《うかが》って力を隠している。取引でも、相手側の誰《だれ》が決断力・決定権を持っているのか見極めないと失敗を招く。
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【類諺】食い付く犬は吠え付かぬ/能ある鷹《たか》は爪を隠す/能なし犬の高吠え/痩《や》せ[負け]犬の遠吠え/痩せ馬の声嚇《おど》し/負け惜しみの減らず口/空樽《あきだる》は音高し/黙り者の屁《へ》は臭い/臆病者《おくびようもの》の空威張り
【英語】Beware of a silent dog and still water. 吠えぬ犬と音無し川には気を付けよ《静流には外からは見えぬ危険な深みがあるもの》/The stillest humors are always the worst. だんまり屋の気性は一番始末に負えぬ《扱いにくい》
実《みの》るほど頭《あたま》を下《さ》げる稲穂《いなほ》かな
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Full ears of corn hang lowest.
コーンが一杯出来た穂は一番低く垂れる
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稲の穂が実ると垂れ下がるように、人も、学問や徳が備わり人から尊敬されるようになると、謙虚になるものだという意。しかし、偉くなるにつれて尊大不遜《ふそん》になる者もいる。多くの人によって自分が生かされているという感謝の念が足りないからである。「頭を下げる」は「頭の下がる」とも言う。
英語の「コーン」は、イギリスでは小麦、アメリカではトウモロコシを指す。
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【類諺】実るほどに穂は垂れる/人間は実が入《い》ると仰向《あおむ》く菩薩《ぼさつ》は俯《うつむ》く/恭者《きようしや》は侮《あなど》らず《「恭者」は謙虚な人》/衣食足りて礼節[栄辱《えいじよく》]を知る
【英語】The boughs that bear most hang lowest. 実の一番多い枝が最も低く垂れる/Modesty sets off one newly come to honor. 謙遜は栄誉を受けた人を引き立てる/The more noble, the more humble. 立派になるほど謙虚になる
名馬《めいば》に癖《くせ》[難《なん》]あり
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Great men have great faults.
偉大な人にも大いなる欠点がある
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世に名馬と言われる精悍《せいかん》な馬は、性質が荒かったり、ほかの馬とは異なる癖を持っていたりする。転じて、英語も語っているように、優れた能力を持つ人間には、しばしば強烈な個性、特殊な癖や欠点・短所などがある、というたとえでもある。かといって、その特異な癖や短所を無理に抑えてしまうと、「角を矯《た》めて牛を殺す」ような結果を招き、名馬は駄馬に、有能の士は凡人と化してしまう。
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【類諺】千[百]両の馬にも疵《きず》/癖なき馬は行かず=癖ある馬に能あり/上手《じようず》片意地《かたいじ》片偏土《かたへんど》《上手・名人には偏屈者が多い》/無くて七癖
【英語】Every great man is unique. 偉人には独特の所あり/Great men's vices are accounted sacred. 偉人の欠点は神聖視される/No rose without a thorn. バラにとげあり《花は美しいのに人を刺すとげのあるのが難点。完全無欠な物はない》
餅《もち》は餅屋《もちや》
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There are tricks in every trade.
商売にはそれぞれのコツがある
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「餅は」は「餅屋は」とも言う。臼《うす》と杵《きね》があれば誰《だれ》でもつけそうだが、餅屋のもののほうが、やはり上手《う ま》くついてあって旨《うま》い。専門の事はそれぞれの専門家に任せるのが賢明で、素人《しろうと》が出しゃばるべきではない、ということ。「生兵法は大怪我《おおけが》のもと」と言うように、なまじ素人が知ったかぶりで手を出すと、悲惨な結果になるのが落ちである。
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【類諺】刀(屋)は刀屋/馬は馬方《うまかた》/蛇《じや》の道は蛇《へび》(が知る)/賊は賊を知る/仏《ほとけ》の沙汰《さた》は僧が知る/(芸[商売]は)道によって賢し[精《くわ》し]/船は船頭に任せよ/海の事は漁師[舟人《ふなびと》]に問え/山の事は山人《やまびと》に問え
【英語】Every man has his proper gift. 人に固有の才あり/You can't beat a man at his own game. 他人の得意手で闘っても勝てぬ/No man fouls his hands in his own business. 自分の商売で面目を失う者はいない《=道によって賢し》
柳《やなぎ》(の枝《えだ》)に雪折《ゆきお》れなし
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Subtlety is better than force.
剛力《ごうりき》より柔軟精妙さがまさる
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柳の枝は、雪が少し積もっても、しなやかに跳ね落としてしまうので、雪の重みで折れない。同じように、柔軟な対応力を備えた人は、一見ひ弱そうでも、剛直一点張りの人よりも、したたかな強さを持つものである。物理的な応用例に、建物の耐震性を高める柔《じゆう》構造がある。揺れを断つのではなく、いわば受け入れた上で大地へ戻す方法である。
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【類諺】木強ければ則《すなわ》ち折る/堅い[強い]木は折れる/曲がるは折れるにまさる/柔能《よ》く剛を制す/笑顔に敵なし/一病息災
【英語】Willows are weak, but they bind other wood. 柳の枝は弱々しくとも、ほかの木を束ねる/Better bend than break. 曲がるは折れるにまさる/Seldom sick sore sick. 病知らず[頑健者]の大患《わずら》い/Sometimes severity is better than gentleness. 厳格さが優しさにまさることもある
3章
愛と美
色・愛・恋
相性・縁
美醜・表情
夫婦・家・内助
親子・躾《しつけ》・親心・子心
愛《あい》は屋烏《おくう》に及《およ》ぶ
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He that loves the tree loves the branch.
木が好きなら枝までも
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「屋烏の愛」とも言う。「愛する人の住む家の屋根の烏《からす》にまで愛情が注がれる」という意。明治維新の志士・木戸《きど》孝允《たかよし》(一名・桂《かつら》小五郎《こごろう》)の都々逸《どどいつ》に「三千世界の烏を殺し主《ぬし》と添寝《そいね》がしてみたい」とあるように、とかくうるさい烏は嫌われるが、激しい愛に落ちると、相手の持ち物にまで愛情を注ぎ、たまたま屋根にとまった烏までもいとしいものになる。
英語では相手を木にたとえて、その枝(上掲)、あるいはペットの犬(下掲)まで好きになる、という表現になっている。
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【類諺】痘痕《あばた》も笑窪《えくぼ》/亭主の好きな赤烏帽子《あかえぼし》《珍奇な赤の烏帽子でも家族は我慢する》/坊主憎けりゃ袈裟《けさ》まで憎い/愛憎は紙一重
【英語】Love me, love my dog. 私を好くなら、私の犬まで/To love the ground he treads on. 彼が踏む地面さえも好きになる/Love your friend with his faults. 友を愛するなら欠点までも
痘痕《あばた》も笑窪《えくぼ》
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Beauty is in the eye of the beholder.
美醜は見る人の心次第
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昔は疱瘡《ほうそう》の後遺症で顔などに凸凹《でこぼこ》のある窪みが生じた。それを痘痕という。江戸川柳《せんりゆう》では痘痕のある顔を芋《いも》顔と形容している。そういう醜い痘痕のような欠点も、愛する人の目から見れば、美しい笑窪、すなわち長所・美点に見えるものであるという意。「好《す》いた目からは、痘痕も笑窪」とも言う。
英語のことわざは、同じ事を日本語よりももっと抽象的に表現している。
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【類諺】愛してその醜《しゆう》を忘れる/好きなら痘痕も梅の花/惚《ほ》れた欲目/惚れた弱味/愛は屋烏《おくう》に及ぶ/縁《えん》の目には霧が降る《欠点が見えず》/恋[色]は思案の外《ほか》/惚れて通えば千里も一里
【英語】Love covers many faults [infirmities]. = Love sees no faults. 惚れた目には欠点見えず/Faults are thick when love is thin. 愛が淡くなれば欠点が濃くなる
家《いえ》に無《な》くてならぬは上框《あがりがまち》と女房《にようぼう》
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Where there is no wife there is no home.
妻なき所に家はなし
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履物を脱ぐ上がり口の床端《ゆかはし》の横木が上框である。昔の木造家屋には必ずあった。その上框と同様に、女房も家には欠かせないものであるという意。「家に女房なきは梁《うつばり》のなきがごとし」と同じように、主婦は家庭の中心であり、家事や育児に果たす役割は重要である。既婚女性を家庭に縛り付けるのではなく、当然あるべき上框になぞらえ、その役割の大きさを指摘したものである。「男尊女卑」と言われた一方で、同類のことわざがたくさんある。
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【類諺】男は妻《め》から/女房は家の固め/家に女房なきは梁のなきがごとし/女房は家の大黒柱/女房は家の宝/女房は半身上《はんしんしよう》
【英語】The wife is the key of the house. 妻は家の鍵《かぎ》/A good housewife is a jewel. 良き主婦は宝石なり/A wise woman is the ornament of her house. 賢い女は家の看板
家《いえ》貧《まず》しくして孝子《こうし》出《い》ず
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Poverty is the mother of all arts.
貧乏は諸芸万般の母
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「家貧しくして孝子現る」とも言い、「家が貧しいと親孝行の子供が出る」という意。「世乱れて忠臣を知る」と続けることもある。裕福な家で育った子供より、貧乏な家の子供のほうがよく働いて孝行するものであるということ。世間に知られた偉人や孝行者は、極貧の逆境に耐えてきた人が多いと言われる。老子は「家族の仲が良くないと孝子が現れる」としている。
英語には「孝子」を表す語がなく、これと密接な関係にある「逆境」「貧乏」を用いた表現が多い。
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【類諺】氏《うじ》より育ち/艱難《かんなん》汝《なんじ》を玉にす/捨て子は世に出る/貧は世上の福の神/貧乏に花咲く/貧は菩提《ぼだい》の種
【英語】Adversity makes a man. 逆境こそ人を作る/Adversity makes a man wise. 苦難は人を賢くする/Want is the mother of industry [invention]. 貧乏は勤勉[発明]の母
磯《いそ》の鮑《あわび》の片思《かたおも》い
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I love it, but it loves not me.
こちらが好いても、あちらが好かぬ
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鮑は貝殻一枚だけの片貝で、『万葉集』に「伊勢のあまの朝な夕なにかづくてふあわびの貝の片おもひにして」と詠まれ、歌人藤原《ふじわらの》俊成《しゆんぜい》も「波かける岩根につけるあわび貝こや片恋のたぐひなるらん」と片思いの恋をうたった。片貝の鮑が必死に磯の岩に張り付いている様子と、密《ひそ》かに恋していながらも相手からは岩のように何の反応も得られない切ない思いとを掛けた、詩情豊かな独得のたとえである。
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【類諺】思うほどには思われず/思えば思わるる/相思相愛/恋は無常の種《恋はもののあわれ、はかなさを知るもと》
【英語】Love most, least thought of. 一番愛して、一番思ってもらえない/They that love most are least set by. 最も愛して一番軽視される/Love and you shall be loved. 愛せば愛される/Love is a sweet torment. 恋は甘美な拷問の苦しみ
一押《いちおし》二金《にかね》三男《さんおとこ》
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Faint heart never won fair lady.
弱気で美女を得た例《ためし》なし
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女性を得るには、第一に「押し」が強く、第二に「金」があり、第三に「男ぶり」の良いことが条件であるという意。三を「姿」、四に「程《ほど》」(様子)、五に「芸」とも言う。「一押二押三に押」という押しの一手は、金も芸もない若者にしか使えないであろう。また、押しといってもストーカー行為は御法度《ごはつと》である。
欧米には、押しの強い男が恋の勝利者となって当然、という風潮を反映したものが多い。
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【類諺】押しの強いが勝ち/恋はし勝ち《手段を選ばず》/恋は根尽《こんづ》く《根気が強ければ成功》/手が入れば足も入る《図に乗る。深入りする》
【英語】None but the brave deserves the fair. 勇者とならねば美人は得られぬ/Fortune favors the bold. 運命は大胆な者の味方/The woman who hesitates is lost. ためらう女は負ける/A woman kissed is half won. キスされた女性は半ば負け
厭《いや》[嫌《いや》]と頭《かぶり》を縦《たて》に振《ふ》る
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Women say no and mean yes.
女性の「ノー」は「イエス」の意味
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口では「いや」と拒みながらも、態度では承知すること。若い女性にしばしば見られる複雑な心理を表すことわざ。本当の気持ちとは逆の態度を見せることがあるので、「いや」というのも「はい」というのも、言葉どおりには受け取れないということである。ストレートに意思を表すことにはじらいを感じる女性の心理は、東西共通のようであるが、本当にいやかどうかは、表情や動作で分かるものである。
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【類諺】嫌々嬉《うれ》しい/嫌じゃ嫌じゃは女の癖/嫌よ嫌よも好きのうち/女の固いは膝頭《ひざがしら》/口と心は裏表/憎い憎いは可愛《かわい》いの裏
【英語】Maids say nay and take it. 女性はノーと言って受け入れる/All women may be won. 女性はいずれは屈服する《膝を崩して迎え入れる》/A woman's heart and her tongue are not relatives. 女性の心と舌は他人同士《=口と心は裏表》
牛《うし》は牛連《うしづ》れ馬《うま》は馬連《うまづ》れ
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Likeness causes liking.
似た者同士は好きになる
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似た者同士で集まること。狂言に、「牛は牛づれ馬は馬づれといふが、こなたも百姓《ひやくしよう》、身共《みども》も百姓、この様な似合うたよい連れはあるまい」(『餅酒《もちざけ》』)とあるように、分相応の同類の者が伴って事を行うとうまくいくとか、結婚も似た者が一緒になると釣り合いがとれて良いという意に使われる。
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【類諺】馬鳴いて馬応じ牛鳴いて牛応ず/お前百までわしゃ九十九まで/好いた水仙好かれた柳《相思相愛の仲》/類を以《も》って集まる/破《わ》れ鍋《なべ》に綴《と》じ蓋《ぶた》/夫唱婦随
【英語】Like blood, like good, and like age make the happiest marriage. 家柄、財産、年齢の似寄りの結婚が一番幸せ/He that will thrive must ask leave of his wife. 成功したければ夫は妻に協力の許しを求めよ/In marriage the husband should have two eyes and the wife but one. 結婚したら目は夫が二つ、妻は一つだけ持つが良し《=夫唱婦随》
笑顔《えがお》に敵《てき》なし
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A soft answer turns away wrath.
柔和な応答は怒りを静める
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柔和な笑顔で接する人には、敵はいない。『源平盛衰記《げんぺいじようすいき》』に、「いかれる拳《こぶし》、笑顔に当たらず」とあるように、たとえ怒って拳を振り上げても、笑顔の前には下ろさざるをえないほど、笑顔には怒りをなだめてしまう絶大な威力がある。どんな交渉事でも、笑顔で応対するとスムーズに進むことが多い。
英語は、旧約聖書の箴言《しんげん》第15章第1節にある。笑顔の効力は世界共通である。
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【類諺】笑顔に当てる拳はない/笑顔にまさる化粧なし/笑顔に刃《やいば》は向けられぬ/鬼も笑顔/女の笑窪《えくぼ》に城も傾く/柳(の枝)に雪折れなし
【英語】A man without a smiling face must not open a shop. 笑顔を作れぬ者は店を開くな/There is great force hidden in a sweet command. 優しい命令に大きな効き目/A cheerful look makes a dish a feast. 笑顔は料理をごちそうにする
縁《えん》と月日《つきひ》の末《すえ》を待《ま》て
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Marry in haste and repent at leisure.
あわてて結婚すれば落ち着いてから後悔
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良縁や人生の好機は、無理をしないで自然に訪れるまでじっくりと待つのが良いということ。江戸期の俗謡では、「縁と浮世は末を待て」「縁と月日は巡り合う」ともうたわれている。日本語・英語ともに、即断は禁物、と教えている。特に結婚の場合は、あせって飛び付くと往々にして、悪妻あるいは悪夫を掴《つか》んで後悔することになりかねない。
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【類諺】五位鷺《ごいさぎ》の嫁入り《ゴイサギの夫婦のようにすぐ別れやすい》/待てば海路の日和《ひより》あり/悪妻は一生[百年/六十年]の不作
【英語】Say no ill of the year till it be past. 一年が過ぎるまでその年の悪口は言うな/Marry first and love will follow. まずは結婚、愛情は後からついて来る/An ill marriage is a spring of ill fortune. 失敗した結婚は不幸の泉/Marriage is a lottery. 結婚はくじ《当たりはずれがある》
縁《えん》は異《い》なもの味《あじ》なもの
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Marriages are made [written] in heaven.
結婚は天で決まる
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男女の縁というものは、どこでどういうきっかけから、どんな相手と結ばれるのか、思いもかけない不思議なものであり、それだけに、味わい深いものでもある。「合縁《あいえん》奇縁《きえん》」とも言うほど、常識や理屈では予測も判断もできないのがこの世の縁であり、男女の縁である。
英語のように、欧米では男女の縁を、「天の配剤」とか「神の摂理」と言うことが多いが、神も実に味なことをするものだ。
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【類諺】合縁奇縁=愛縁機縁/出雲《いずも》の神の縁結び/縁は知れぬもの/恋路は縁のもの/蓼《たで》食う虫も好き好き《辛い蓼でも好む虫あり》/何事も縁
【英語】Love will break out in spite of a man. 恋は人とは関係なしに突然始まる/Marriage and magistrate be destinies of heaven. 結婚と長官殿《ちようかんどの》は天が定める/Marriage is destiny. 結婚とは運命のしからしめるものなり
男《おとこ》は度胸《どきよう》女《おんな》は愛嬌《あいきよう》
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In the husband wisdom, in the wife gentleness.
夫には知恵を、妻には優しさを
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このことわざは、文字どおりの男らしさ、女らしさを表している。男には、決断しそれを実行する勇気が、女には、にこやかな可愛《かわい》らしさが大切であるということ。しかし現代では、女性の社会的進出や意識の向上がめざましく、女性も、男性に伍していく能力と度胸を身に付け、男性のほうにも、女性と上手に付き合っていく愛嬌が必要になっている。
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【類諺】男は当たって砕けろ/男は松女は藤《男は松のように丈夫、女は藤のつるのように男に添う》/女の一念岩をも透《とお》[通]す
【英語】Maidens must be mild and meek. 女子は御託を並べるな/He that forecasts all perils will win no worship. あらゆる危険を推し量る男は尊敬を得ず《心配性では大成せず》/A gracious woman retains honor. しとやかな女性は貞操を守る/Women will have their wills. 女性は思い込んだら意志を通す
男《おとこ》は妻《め》から
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A good wife makes a good husband.
良夫は良妻によって作られる
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男の立身出世も品行も、妻次第で決まる、という意。11世紀の『栄花物語《えいがものがたり》』に「をのこは、めからなり」とあって、古来、妻の心掛けの重要性が説かれ、それにはまず、どのような女性を妻とするかが重要事となる。かつて英語で妻をベターハーフ(良き大半)とも言ったが、男の人格が妻によって完成されるというのは、古今東西共通の認識と見える。
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【類諺】布は絹から男は妻から/糟糠《そうこう》の妻《貧乏時代の苦労を支えた妻》/女房は家の大黒柱/女房は半身上《はんしんしよう》/女は連れ添う男次第
【英語】Man is the head, but woman turns it. 男は頭、その向きを変えるのは女《女が男を操縦する》/Show me thy wife and I will tell thee what husband thou art. 汝《なんじ》の妻を見れば、汝がいかなる夫か分かる/A good Jack makes a good Jill. 男が良ければ女も良くなる《=女は連れ添う男次第》
お前《まえ》百《ひやく》までわしゃ九十九《くじゆうく》まで
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To take each other for better or for worse.
良い時も悪い時も支え合って暮らす
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この後を、「ともに白髪《しらが》の生《は》えるまで」と続ける俗謡から。ただし、夫が「お前」で、妻が「わし」で、仲良く暮らして共に長生きしましょうという意。寿命が延びて、八十歳代はざら、九十歳代や百歳以上も増えているから、実現性のある願望となっている。しかし離婚率も高くなっているので、長生きはともかく、夫婦が仲睦《むつ》まじく暮らし続けて「偕老《かいろう》同穴《どうけつ》」に至るのは、やはり夢かもしれない。
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【類諺】鴛鴦《えんおう》の契《ちぎ》り《おしどり夫婦になる》/琴瑟《きんしつ》相和す《仲良く馬が合う》/偕老同穴《ともに老いて同じ墓に入る》/比翼《ひよく》連理《れんり》(の契り)《並んで飛ぶ鳥や一本に連なった枝のようになる》
【英語】Like Darby and Joan. ダービーとジョーンのように、仲良し《Darby and Joanは「仲睦まじい老夫婦」の意の代称名詞》/Till death us do part. 死が私達を分かつまで《結婚式での誓言《せいげん》》
思《おも》い内《うち》にあれば色《いろ》外《そと》に現《あらわ》る
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Love and a cough [smoke] cannot be hid.
恋と咳《せき》[煙]は隠せない
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心中《しんちゆう》密《ひそ》かに思っている事があると、自然に顔色や態度に出て、人に気付かれる。有名な和歌「忍ぶれど色に出にけり我が恋は物や思ふと人の問うまで」(平《たいらの》兼盛《かねもり》)に見られるように、特に恋心などは、抑えるほど外に現れやすい。
英語は、この恋心を、やはり抑えたり隠したりしにくい咳や煙と対にしてたとえたものである。
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【類諺】思いは口に出る/心《こころ》内《うち》にあれば色外に現る/心内に動きては言葉外に現す/目は口程に物を言う
【英語】The face is the index of the heart. 顔は心の指標/A man may know by his color what is his dolor. 顔色で人の心痛が知れる/What the heart thinks the tongue speaks. 心に思えば口に出る/A merry heart makes a cheerful countenance. 心が楽しければ顔が陽気になる
親《おや》の意見《いけん》と茄子《なすび》の花《はな》は無駄《むだ》がない
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No advice to [like] a father's.
父(親)の忠告にまさる忠告はなし
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茄子(茄《なす》の異名)の花は、咲けば必ず実を付けるもので、無駄花が一つもないという。それにたとえて、親が子のためを思って言う意見も、無駄のない大切なものであるということ。下《しも》の句は「千に一つの無駄[仇《あだ》]はない」とも言う。
英語には「(片)親」を表す単語としてペアレントがあるが、ことわざでは、ファーザー(父)かマザー(母)、あるいはペアレンツ(両親、父母)が使われていることが多い。
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【類諺】親の意見と冷や酒は後できく/子を知ること親[父]にしくはなし
【英語】One father is more than a hundred schoolmasters. 父親は一人でも教師百人にまさる/Parents are patterns. 両親は手本/You'll come out good if you obey the advice of your father and mother. 父母の忠告を守れば良い芽が出る
親《おや》の心《こころ》子《こ》知《し》らず
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No love to [like] a father's.
父(親)の愛にまさる愛はなし
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室町時代の軍記『義経記《ぎけいき》』に、「弁慶聞きて、あはれや殿、親の心子知らずとて、人の心は知り難し」とある。子供は親の深い愛情が分からずに気ままに振る舞うことをいう。親になってみなければ親の気持ちは分からないものである。またリーダーや上司の思慮深さが理解できずに、メンバーや部下が勝手に行動するのを批判する場合にも用いる。
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【類諺】親思う心にまさる親心/親の思うほど子は思わぬ/親は千里に往《ゆ》くとも子を忘れず/親ほど親思え/子を持って知る親の恩
【英語】Love descends rather than ascends. 愛情は下から上へでなく、上から下へ伝わる《親思いより子思いが世の常》/Children are certain cares, but uncertain comforts. 子が苦の種は明らか、慰めかどうかは不確か/He that has no children knows not what is love. 子の親になって愛とは何かが分かる
親《おや》の欲目《よくめ》
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The crow thinks her own bird fairest.
烏《からす》は我が子が一番の色白美人と思う
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我が子が可愛《かわい》くない親はいない。可愛さのあまり、我が子を過大に評価したり、甘やかしてしまうのが常。浄瑠璃《じようるり》に、「親の欲目か知らねども、ほんにそなたの器量なら、十人並にもまさった娘」(『仮名手本《かなでほん》忠臣蔵《ちゆうしんぐら》』)とある。
英語では、ひいきする親を親鳥にたとえたものが多い。
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【類諺】親に目無し/親の目はひいき目/親馬鹿子馬鹿/子に引かるる親心/死にし[死ぬる]子眉目《みめ》良し=死にし子顔良かりき/馬鹿を見たくば親を見よ/我が子自慢は親の常/我が子の悪事は見えぬ
【英語】The owl thinks all her young ones beauties. ふくろうは我が子はみんな美人と思う/Children, when little, make parents fools, when great, mad. 子は小さい時には親を愚かにし、大きくなれば狂わせる/He whose father is judge goes safe to his trial. 父が判事なら、父の裁判を受けても安心
女《おんな》の髪《かみ》の毛《け》には大象《たいぞう》も繋《つな》がる
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One hair of a woman draws more than ten oxen.
女性の髪一本には雄牛十頭以上の引く力がある
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仏典に、「仏は言う、山を移し、地を壊して渓谷にし、樹を抜き、石を砕くような、大力無双の大象でも、女の髪の毛で脚を繋ぐと動けなくなる」という話がある。妻子への愛情という煩悩《ぼんのう》にとらわれていては、悟りを開くことができないという教えである。転じて、男をとりこにして迷わせる女の魅力・魔力をいう。その象徴として、髪、色白、笑窪《えくぼ》などが挙げられるが、英語では髪のほかに乳房もある。
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【類諺】髪の長いは七難隠す/色の白いは七難隠す/笑窪は七難隠す/女の笑窪に城も傾く/笑顔に敵なし
【英語】The dugs draw more than cable ropes. 乳房の引力は、何本もの太綱《ふとづな》以上/The smoke follows the fairest. 美女には、煙でさえも引かれて付いて行く/A good face needs no paint. 美人には紅《べに》白粉《おしろい》は無用なり
可愛《かわい》い子《こ》には旅《たび》をさせよ
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Spare the rod and spoil the child.
鞭《むち》を惜しめば子供が駄目になる
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交通の不便な昔は、旅はたいへん苦しく辛《つら》いものであった。本当に愛する我が子のためを思うなら、甘やかさずに、その辛い旅をさせてみよという教えである。世間の厳しさ、人情の厚さ薄さの機微《きび》を知り、さまざまな苦難、苦しみを乗り越える経験をさせることが、最良の教育である。
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【類諺】可愛い子には灸《きゆう》をすえよ/甘やかし子を捨てる/いとしき子を杖に教えよ/打たれても親の杖/親の甘茶が毒となる/可愛い子には他人の(釜《かま》の)飯を食わせよ/子供は教え殺せ馬は飼い殺せ
【英語】Muffled cats catch no mice. おくるみで甘やかされた猫は鼠《ねずみ》を捕らぬ/Woe to the house where there is no chiding. 叱責《しつせき》なき家には災いあれ/The best colt needs breaking and the aptest child needs teaching. 最良の子馬にも調教の要あり、最も利発な子にも教え込む要あり
可愛《かわい》さ余《あま》って憎《にく》さ(が)百倍《ひやくばい》
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The greatest hate springs from the greatest love.
最大の憎しみは最大の愛より生ず
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江戸の洒落《しやれ》本《ぼん》に、「ほれてる身では、可愛さあまって憎さが百倍でざんす」とある。可愛がっていた人に裏切られると、それまでの愛情の百倍にも激しい憎しみを募らせてしまうことをいう。愛の喪失感を憎悪で埋める、離れていった者を溺愛《できあい》した自分の愚かさを相手への憎悪で帳消しにしたり、憎悪することで罰を与える……。愛憎は同じコインの裏と表、あるいは身内同士、とたとえることができよう。
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【類諺】愛多ければ憎しみも多し/好いたほど嫌い/恋いたほど飽いた《熱愛から急に冷める》/愛憎は紙一重/愛は憎しみの始め
【英語】Hot love, hasty vengeance. 熱愛は、復讐《ふくしゆう》に急変する/No hatred is greater than that which proceeds from love. 愛より生じる憎しみほど大きな憎しみはない/Love and hate are blood relations. 愛と憎は血縁者
恋《こい》に師匠《ししよう》なし
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Love needs no teaching.
恋は手ほどきいらず
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色恋の道は、誰《だれ》に教えられるともなく、年ごろになれば自然に覚えていくもので、女子に恋の手ほどきをしてやるというのは余計なお節介。そんな男にはたいてい邪心・下心がひそんでいる。他方、相手も方法も千差万別の恋で成功するには、自らの工夫が求められる。相手を必死で口説き落とすために、口下手《べ た》の人が口上手になったりする。
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【類諺】色に師匠なし/恋はし勝ち《恋の勝利者になるためには、手段を選ばず》
【英語】Love and pease-pottage will make their way. 恋とえんどう豆のスープには、好みの人が自然に出来る/Love will find a way. 恋には、それぞれの道[方法]が見つかるもの/All is fair in love and war. 恋の道と戦争では、全てが正当《恋と戦争で勝つためには、手段を選ばず》/Love and business teach eloquence. 恋愛と商売とは、口達者への道
恋《こい》に上下《じようげ》の隔《へだ》てなし
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Love has no respect of persons.
恋は人間関係を一切考慮せず
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恋愛は、身分の上下や貧富の差、職業の違いなどに関係なく成り立ってしまうということ。ヘップバーンが演じた王女と新聞記者の恋愛映画『ローマの休日』がいつまでも人気を博していたり、モナコ王とハリウッド女優のグレース・ケリーの結婚実話などが有名である。我が日本の皇室も戦後は「軽井沢のテニスコートの恋」以来開けてきている。
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【類諺】色に貴賤《きせん》の隔てなし/恋路には王位とても隔てなし/恋に上下の差別なし/高いも低いも色の道/釣り合わぬは不縁の因《もと》[基《もとい》]
【英語】Love makes all men equal. 恋は万人を対等にする/Love lives in cottages as well as in courts. 恋は宮廷にも、小さな家にも住んでいる/There is love under a fustian petticoat as well as under a silk farthingale. 恋は絹の張りスカートの下にも、粗末なペチコートの下にも潜んでいる
恋《こい》[色《いろ》]は思案《しあん》の外《ほか》
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Love is without reason.
恋に理性なし
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恋には常識や分別は通用しないという意。純愛であれ不倫であれ、きっかけ、成り行き、結果まで、あれこれと思案・推測したとおりにはいかず、当事者にとっても意外な事になるものである。「恋は思案の外じゃもの」(「源氏六十帖」)に代表される愛の機微《きび》を精細流麗に描いた世界最古の長編恋愛小説『源氏物語』は、このことわざの大例証集と言える。
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【類諺】色(の道)は分別の外《ほか》/色は心の外《ほか》/苛《いら》つは恋の癖《恋心は、じれて揺れ動くもの》/恋は曲者《くせもの》/恋の[路は]闇/この道ばかりは別/恋すれば色の文目《あやめ》も弁《わきま》えず
【英語】Love is blind. 恋は盲目/Love is lawless. 恋に決まり[法]なし/Love laughs at locksmiths. 恋は錠前屋を嘲《あざ》笑う《恋人を閉じ込めても無駄》/One cannot love and be wise. 恋をして、なお思慮あることは不可能/There is no wisdom below the girdle. 帯より下[下半身]には分別なし
孝行《こうこう》のしたい時分《じぶん》に親《おや》はなし
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God and our parents can never be requited.
神と親とは報いられることなし
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江戸の川柳集『誹風《はいふう》柳多留《やなぎだる》』にある句で、「親孝行したい時分に……」とも言う。親が元気なうちは孝行をせず、親の苦労や愛情が分かるようになり、これから親孝行しようとするころには、すでに親はこの世になく、後悔するという意。子供が手本として、「親がそのまた親に孝行する場面」に接していない核家族時代に特に顕著である。
この「親孝行」を勧めることわざは欧米には少ない。
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【類諺】いつまでもあると思うな親と金/石に蒲団《ふとん》は着せられぬ《親が死んでから墓に蒲団を着せても後の祭り》/子養わんと欲すれども親待たず/親の掛け替えはない
【英語】Feeling sorry after it's too late. 遅きに失して後悔する/Good is not known till it be lost. 良いものは失われるまでは分からない《失って初めて知れる》
子宝《こだから》脛《すね》が細《ほそ》る
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Who has children, his loaf is not all his own.
子持ちになればパンが自分の自由にならぬ
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「子にまさる宝なし」「千の倉より子は宝」と言われるが、親は、その大事な子供を守り育てるために、大変な苦労を重ね、脛まで細ってしまうほどである、という意。親の脛を齧《かじ》らせないためには、まず、小さい時に甘やかさないことである。
子供の自立心・親離れを重視する英米でも、やはり子は親の苦労の種のようである。
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【類諺】子は有るも嘆き無きも嘆き/子は三界の首枷《くびかせ》《子への愛着・苦労のため一生安楽を得られない》/娘三人持てば身代潰《つぶ》す
【英語】Children suck the mother when they are young, and the father when they are old. 子は小さい時は母の乳をしゃぶり、大きくなれば父をしゃぶる/Building and marrying of children are great wasters. 家作りと子の結婚は大出費/Wife and children are bills of charges. 妻子は勘定書
子《こ》は親《おや》をうつす鏡《かがみ》
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As the old cock crows, the young cock learns.
雄鶏《おんどり》が時をつくるとおりに、ひよこは学ぶ
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子供の振る舞いを見れば、その親のしつけや情愛の掛け方から、人柄までも分かるもの。できの悪い子に出会うと、「親の顔が見てみたい」と嘆息するが、子供も親を反面教師とすることがあり、「親に似ない」例も出てくる。
習性や本能は遺伝に拠《よ》る所が多く、類似のことわざにも、生物にたとえたものが、日英ともに少なくない。
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【類諺】親が[も]親なら子も子/親を習う子/この親にしてこの子あり/子は親に似る/蛙《かえる》の子は蛙/鳶《とび》が鷹《たか》を生む
【英語】Like father [mother], like son [daughter]. 父[母]が父[母]なら息子[娘]も息子[娘]/Like cow, like calf. 子牛は親牛に似る/A chip off [of] the old block. ブロックのかけら同然《親そっくり》/The apple doesn't fall far from the tree. りんごは木から離れた所には落ちない《=子は親に似る》
子《こ》を知《し》ること親《おや》[父《ちち》]にしくはなし
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Father [Mother] knows best.
父[母]親が一番良く知っている
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中国の古典に見られ、日本でも『続日本紀《しよくにほんぎ》』に、「臣《しん》を知ること君《くん》にしくはなし」とともに記されている。親とりわけ父親が最も子供の性格や考え、長所短所を知っているという意。現代は父親の影が薄く、「母親にしくはなし」かもしれない。いずれにせよ、親に深い愛情がないと、子は本音を出さない。
英語は、必ずしも子供についてだけでなく、より広い「パパ[ママ]は何でも知っている」の意味でも使われる。
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【類諺】子を選ぶ[見る]こと父にしくはなし/親の意見と茄子《なすび》の花は無駄がない/親は千里に往《ゆ》くとも子を忘れず
【英語】It's a wise father that knows his own children. 我が子を知る父親は賢し/One father is more than a hundred schoolmasters. 父親は一人でも教師百人にまさる/A mother's love is best of all. 母の愛こそ最善なり
色即是空《しきそくぜくう》空即是色《くうそくぜしき》
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Vanity of vanities; all is vanity.
空《くう》の空《くう》なるかな、全ては空《くう》なり
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前半は、男女の色恋に関してよく用いられるが、本来は後半部分と対になっており、仏教の『般若心経《はんにやしんぎよう》』で有名な文句。色《しき》とは色事《いろごと》に限らず、感覚的に捉《とら》えられるこの世の全ての物や現象を指す。その本質が空《くう》、すなわち空《むな》しいものであり、それゆえに逆にゆたかな「色」の世界がある、という意。
前半の句に対する上の英語は、旧約聖書の伝道の書(コヘレトの言葉)第1章第2節にあるもの。
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【類諺】一切是空/一切は無空/色の世の中苦の世界《色欲と生活苦の世の中》/本来無一物/諸行無常/煩悩《ぼんのう》の犬は追えども去らず
【英語】All came from and will go to others. 万物は、他より来《きた》りて、他へと去る/The world is nought. この世は空無なり/Paul's will not always stand. (ロンドンの)セントポール大聖堂も永遠には在らず/Desire has no rest. 欲に休息なし
堰《せ》かれて募《つの》る恋心《こいごころ》
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Absence makes the heart grow fonder.
離れて募る恋心
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「恋心」は「恋の情」とも言う。川が堰き止められると水位が上がり、いずれは堰《せき》を越えて奔出するように、恋情《れんじよう》は邪魔が入ったりすると、かえって一層燃え上がり、募っていくという意。へたに割《さ》こうとすると、恋の炎に油を注ぐような結果になりかねない。冷めかけた恋でさえ、妨害によって焼けぼっくいのように再燃することがある。年少者のはやる恋をいさめる際には、心得ておくべきことわざである。
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【類諺】逢《あ》わねば募る恋心/割かれて募る恋心/遠ざかるほど思いが募る/惚《ほ》れて通えば千里も一里
【英語】Men are best loved furthered off. 人は離れているほど深く愛される/Desires are nourished by delays. 欲望は、じらされると増大する/The stream stopped swells the higher. 流れを堰き止めれば水位が上がる
近惚《ちかぼ》れの早厭《はやあ》き
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Hot love is soon cold.
熱愛は冷めやすし
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「近惚れ」は惚れやすいことで、惚れっぽい者は、同時に飽きっぽい者であるという意。つまり、浮気っぽい者を揶揄《やゆ》・批判して言うことわざである。恋というものの一面にはそのような性質も潜んでいるので、まじめな者でも意外に早飽きすることがあって、周囲を驚かせたりする。
恋の有様《ありよう》の英語の表現も、日本語とそっくりである。
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【類諺】熱しやすく冷めやすし/恋いたほど飽いた/惚れた腫《は》れたは当座の内/早好きの早飽き/薬罐《やかん》道心《冷めやすい信心》/愛は小出しに
【英語】Soon hot, soon cold. 熱しやすく冷めやすし/Lad's love's a busk of broom, hot awhile and soon done. 若者の恋は、エニシダの茂みのごとく、つかの間燃え立ち、やがては消える/Love of lads and fire of chats is soon in and soon out. 若者の恋と削り屑《くず》は、燃えやすく消えやすい/Love me little, love me long. 細く長く愛せ《=愛は小出しに》
釣《つ》り合《あ》わぬは不縁《ふえん》の因《もと》[基《もとい》]
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Congruity is the mother of love.
釣り合いの良いのは愛の母
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財産や家柄、育ち方に差がありすぎると、結婚が不幸な結果になってしまうという意。恋に上下の隔てはないとはいうものの、結婚は親戚《しんせき》縁者を含めた社会共同生活の一環として重要な面があり、当人同士だけが良ければいいというわけにはいかない。しかし、現実には、家柄、財産、年齢など、一切の違い・差を気にしない結婚が増えている。
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【類諺】梅に鶯《うぐいす》柳に燕《つばめ》《釣り合いの良い関係》/同い年は買《こ》うてもない/恋に上下の隔てなし/嫁は下[庭]からもらえ婿は上[座敷]からもらえ/提灯《ちようちん》に釣鐘/月とすっぽん/氷炭相容《い》れず
【英語】Marry your match [like / equal]. 同等の相手と結婚せよ/Marry above your match and you get a master. 格上の人と結ばれると、その僕《しもべ》になる/Go down the ladder when you marry a wife. 妻をめとらば、梯子《はしご》を下れ《格下の女性を狙《ねら》え》
遠《とお》くて近《ちか》きは男女《だんじよ》の仲《なか》
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Love is the loadstone of love.
愛は愛を引き付ける磁石
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清少納言《せいしようなごん》の『枕草子《まくらのそうし》』にある「遠くて近きもの、極楽、舟の路、男女の中」に由来する。遠く懸け離れているように見える男と女が、意外にも結ばれることがあるという意。美女と野獣のごとく、また高年齢差のある場合など、ほかの人から見れば、到底相容《い》れないと思われる者同士が、なぜか意気投合して一緒になってしまう。しかしそれが、磁石のような力を秘めた恋というものの不思議さなのである。
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【類諺】縁は異なもの味なもの/恋[色]は思案の外《ほか》/恋の[路は]闇/蓼《たで》食う虫も好き好き/魚心あれば水心/思えば思わるる
【英語】A woman is flax, man is fire. 女は麻屑《あさくず》の芯《しん》、男は火《近付けば燃える》/The heart is not where it lives, but where it loves. 心は人の住所ではなく、愛の在所にある/Love begets [breeds] love. 愛は愛を生む《=思えば思わるる》
鳴《な》かぬ蛍《ほたる》が身《み》を焦《こ》がす
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Sorrow makes silence her best orator.
悲しみを最も雄弁に語るのは沈黙
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近世に俗謡として、「鳴く蝉《せみ》よりも」に続けて口にされて流布したり、和歌にも、「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりも哀れなりけれ」(『後拾遺集《ごしゆういしゆう》』)と詠まれてきた。ひたすら自らの身を焦がしているかのように光っている命はかない蛍の姿を、思いを秘めて、切なく耐え忍んでいる様子にたとえたものである。恋情《れんじよう》だけでなく、一般に、深く切実な思いの者ほど、じっと黙って耐えることも指す。
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【類諺】言わぬが花/言わぬは言うに(いや)まさる/ならぬ堪忍するが堪忍/言わねば腹ふくるる
【英語】Small griefs speak, great ones are silent. 小さい悲痛は語り、大きい悲痛は黙す/He bears misery best, that hides it most. 苦悩を秘す者が、苦悩に一番耐える/Changing of words is the lighting of hearts. 言葉を交わせば気が晴れる
二度《にど》教《おし》えて一度《いちど》叱《しか》れ
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Mint ere [before] you strike.
なぐる前に警告をしておけ
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しつけを厳しくするのは必要だが、二度教えてもなお過ちがあった時に一度叱るのが良い、という意。子供の言う事も聞き入れながら、じっくりと教えることが大切で、叱るのは少なめのほうが効果的なのである。スパルタ教育も、愛情をもって接すれば受け入れられやすくなるはずである。
英語は、「始めから力ずくに出るのではなく、警告・忠告を先に与えよ」の意。
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【類諺】叱るも親の慈悲/可愛《かわい》い子は頭を張れ/飴《あめ》と鞭《むち》/教うるにも術《すべ》多し/親に打たるる杖もゆかしい/二度聞いて一度物言え
【英語】The rod breaks no bones. 鞭では骨は折れぬ《仕置きの鞭は打て》/Soft fire makes sweet malt. 旨《うま》い麹《こうじ》はとろ火で出来る《良い子は優しい慈愛から》/Hear much, speak little. 耳はよく傾け、口は慎め《=二度聞いて一度物言え》
女房《にようぼう》は半身上《はんしんしよう》
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A true wife is her husband's better half.
真の妻は夫のベターハーフ
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亭主の出世も家運も、半分は女房次第。身上(財産)の半分は女房の値打ちであるという意。土佐の大名にまで出世した戦国時代の武将山内一豊《やまのうちかずとよ》の貧乏時代の妻の内助の功は、その典型である。現在、法律上でも、共有財産の半分は妻の功によるものとして認められている。
「良き大半」を表す英語の「ベターハーフ」は今の若い人には受けず、ずばり「マイワイフ」を使う人が多いと言われる。
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【類諺】家の身上《しんしよう》はかか(あ)で持つ/妻は夫の福の神/女房は山の神百石の位/夫婦は一心同体/男は妻《め》から
【英語】A good wife and health are a man's best wealth. 良妻と健康が男の最高の宝/A man's best fortune or his worst is his wife. 大運も凶運も妻次第/A good wife's a goodly prize. 良妻は立派な掘り出し物
惚《ほ》れて通《かよ》えば千里《せんり》も一里《いちり》
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Love laughs at distance.
恋は遠距離をものともせず
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俗謡ではこの後に、「逢《あ》わずに戻ればまた千里」と続けるものもある。愛する人に逢うためなら、たとえ火の中水の中、どんなに遠い距離でも短く感じられて、辛《つら》くはないということ。交通機関や通信網が発達した現在、千里が一里、一瞬のようになり、楽に恋を楽しめるようになった。その分、募る思いを凝縮させる時間と距離がなくなり、くっついてはすぐに離れるインスタント恋愛の横行となっている。
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【類諺】思うて通えば千里が一里/穴隙《けつげき》を鑽《き》る《戸に穴を開けてまで忍び込む激しい密通欲》/惚れて落ちないごぼう種《だね》《いったん惚れたら、どこまでも追う》/堰《せ》かれて募る恋心
【英語】Love will go through stone walls. 愛は石壁をも貫く/They stick together like burs. 栗いがのように、くっついて離れない/To go through fire and water. 水火を辞せず
見目《みめ》より心《こころ》
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A fair face, foul heart.
美貌《びぼう》に醜心《しゆうしん》あり
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人は顔かたちの美しさよりも、心の美しさのほうが大切であると説く。戦国時代のことわざとして「人はみめよりたゞこゝろ」がすでに記録されている。美貌の女性は男を魅惑する自分の姿かたちに満足して、教養を身に付けたり、人情ある人となるようにといった、心を磨くことを怠りがちになるというのだが、同じ事が、格好・外面ばかり気にする男性についても言えることを忘れてはならない。
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【類諺】顔に似ぬ心/外面似菩薩《げめんじぼさつ》内心《ないしん》如夜叉《によやしや》/真綿に針《顔は優しく、心は意地悪》/花多ければ実少なし/見目は果報の基《もとい》
【英語】A saint abroad and a devil at home. 顔は聖人、心は悪魔/Beauty is but [only] skin-deep. 美貌は皮一重/Appearances are deceptive. 外見は当てにならぬ/Vainglory blossoms but never bears. 虚栄の花は咲けども実は生《な》らず
目《め》は口程《くちほど》に物《もの》を言《い》う
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The heart's letter is read in the eyes.
心の手紙は、目の中に読み取れる
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口には出さなくても、思いを込めた目付きで心の内を相手に伝えられるという意。時には心とは逆のことさえ、まなざしは訴えることがある。嘘《うそ》をついても、しばしば目付きに現れることは誰《だれ》でも経験している。コミュニケーションにとって、目は最も重要な役目を果たしているものである。
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【類諺】思い内にあれば色外に現る/顔が物を言う/成ると成らぬは目元で知れる《成否・諾否は目で分かる》/目は心の鏡[窓]/目語《もくご》=眼語《がんご》《目と目で意思が通じ合う》
【英語】The eyes are the window [mirror] of the heart [mind / soul]. 目は心の窓[鏡]/I know your meaning by your winking. あなたの言いたい事は瞬《まばた》きで分かる/A rolling eye, a roving heart. 目が定まらぬは、心が座らぬ証拠/The eyes have one language everywhere. 目は共通語
雌鶏《めんどり》歌《うた》えば家《いえ》亡《ほろ》ぶ
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It is a sad house where the hen crows louder than the cock.
雌鶏が雄鶏《おんどり》より大声の家は悲惨
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雌鶏が雄鶏よりも先に鳴いて朝の時を告げるように、亭主をさしおいて女房が権勢を振るうようでは、家が滅びてしまう、というたとえである(『書経《しよきよう》』)。いわゆる「嬶《かかあ》天下」の弊害、「家の乱れは女から」を指す。
英語にも類諺《るいげん》がいろいろある。しかし女性や子供の権利拡大の現代では、日英ともに差別的だと見なされよう。
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【類諺】牝鶏《ひんけい》に晨《あした》せらる《妻の尻に敷かれる》/雌鶏に勧められて雄鶏時をつくる/雌鶏につつかれて時を歌う
【英語】It is a sad house where the hen sings and the cock is silent. 雌鶏が歌い、雄鶏が黙っている家は、嘆かわしい/Often rues the realm where children rule and women govern. 女や子供が支配する国は、しばしば後悔する/House goes mad when women gad. 女性が出歩けば、家が狂う
故《もと》[元《もと》]の鞘《さや》へ収《おさ》まる
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Old love is renewed again.
愛のよりが戻る
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刀が鞘に収まるように、昔は家を出た妻や奉公人が帰って来て、元の身分に復すことを言った。転じて、壊れた関係や手放した物が戻ることも指す。男女関係に使われることが多いのは、刀と鞘が性的関係を連想させるからであろう。
英語欄の第一例は、「神のものは神へ返せ」と続き、「政治と宗教は別。人は本分に服せ」が原義。
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【類諺】故[元]の鞘へはまる/雨降って地固まる/弦《つる》を放れた矢/破鏡再び照らさず《離別の際交わした破鏡は元に戻らず》/覆水盆に還《かえ》らず/故[元]の木阿弥《もくあみ》《元の悪い状態に戻る》
【英語】Render unto Caesar the things which are Caesar's. シーザー[カエサル]のものは、シーザー[カエサル]へ返せ/Things done cannot be undone. やった事は、取り消せない/Once away and aye away. 一度離れたら永遠に戻らぬ《=弦を放れた矢》/The wheel comes [turns] full circle. 一周して元に戻る
焼《や》け木杙《ぼつくい》に火《ひ》が付《つ》く
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Wood half-burnt is easily kindled.
半焼けの木は、また火が付きやすい
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一度火が付いて消えた棒杭《ぼうぐい》は、炭状の部分が出来ていて、火種を近付けると燃えやすくなっている。前に関係のあった男女は、ささいなきっかけで元の関係に戻りやすいことのたとえである。すでに鎌倉・室町時代の史料にあり、男女間の気風がようやく闊達《かつたつ》になってきたことを思わせる。
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【類諺】燃え杭に火をあてがうがごとし/本木《もとき》にまさる末木《うらき》なし《始めのもののほうが後のものよりも良い》/故《もと》[元]の鞘《さや》へ収まる/焼け山に二度火は付かぬ
【英語】Old love and brands are kindled in all seasons. むかしの恋と燃えさしは、いつでも、また火が付く/Old pottage is sooner heated than new made. スープは、新しく作るよりも、前の残り物を温め直すほうが、早く出来る/Old love will not be forgotten. むかしの恋は、忘れ難し
破《わ》れ鍋《なべ》に綴《と》じ蓋《ぶた》
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Every Jack has his Jill.
男は自分に合った女と一緒になる運命
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こわれた鍋でも、接《つ》ぎ綴じした似合いの蓋を添えればまだ使えるように、人にもそれぞれふさわしい相手がいる。結婚は相性の合う似た者同士なら長続きするとの意。夫婦はいわば「合わせ物」で、始めは合わない所があっても、長年連れ添えば一心同体になっていくものでもある。ただ無理な合わせ方をすると、「離れ物」になりかねない。
英語におけるジャックとジルは、男と女の代称名詞。
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【類諺】合わぬ蓋あれば合う蓋あり《相性は様々》/合わせ物は離れ物《一度は合っても無理があれば離れる》/牛は牛連れ馬は馬連れ
【英語】Every shoe fits not every foot. 靴なら、どんな足にも合うわけではない《合う靴あれば、合わぬ靴あり》/There is no pot so ugly, but a cover may be found for it. 合う蓋を見つけてもらえぬほど不格好な鍋はない《似合いの者は見つかるもの》
4章
富と健康
お金
倹約・浪費・蓄財
収支・貸借
清貧・節度
商売・損得・欲・けち
生活態度・酒・食事
病気・養生
商《あきな》いは牛《うし》のよだれ
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Slow but sure wins the race.
ゆっくりでも、じっくりやれば、競争に勝つ
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商売は、細く長く垂れる牛のよだれのように辛抱強くやるべきである。手っ取り早く大儲《もう》けしようと、本業から逸脱したり、慣れない事に大きな投資をすれば失敗を招く。金融機関でさえバブル経済下に不動産投資に手を出して大損失を被った。こつこつと地道に続けるのが成功への確実な道である。
商いのコツは洋の東西を問わず同じである。
*
【類諺】商いは数でこなせ=薄利多売/大取りより小取り/大儲けより小儲け/知らぬ呉服[米]商売より知った小《こ》[粉《こ》]糠《ぬか》商い/短気は損気/短慮功を成さず/急行に善歩なし/急《せ》いては事を仕損じる
【英語】Little and often fills the purse. 少しの実入りでも、たび重なれば財布を満たす/Small profits and quick returns. 薄利多売《商店の標語でSPQRと略》/Seldom rides tines the spurs. めったに乗馬しない者は拍車を失う《慣れぬ事はするな》
諦《あきら》めが肝心《かんじん》[大事《だいじ》]
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For a lost thing, care not.
失ったものは気に病むな
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失敗や不運・不幸をいつまでも悔やみ、絶望したり腹を立てていては、 精神衛生上良くないだけでなく、 仕事や家族にも影響する。過ぎた事を十分に反省したなら、すっぱりと潔く諦めることが大事である。過去に引きずられていると、肝心の将来の事も、正確に捉《とら》えられなくなり、失敗や悩み事を繰り返しかねない。
*
【類諺】諦めは心の養生/鯉《こい》の一跳ね《諦めの潔さ》/怒りは敵と思え《徳川《とくがわ》家康《いえやす》の遺訓の一つ》/短気は損気[短命]/落花枝に還《かえ》らず/過ぎた事は仕方がない
【英語】Never grieve for that you cannot help. どうしようもない事は嘆くな/You must grin and bear it. 笑って我慢せよ/Like it or leave it. 好いてみよ、嫌なら諦めよ/That's life. これが人生というものさ《不満があっても受けておけ》/You can't unscramble eggs. かき混ぜた卵は元には戻らぬ
悪銭《あくせん》身《み》に付《つ》かず
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Ill got(ten), ill spent.
不正に得た金《かね》は、不正に消える
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『論語』に言う―― 「不義の富貴は浮雲のごとし」(不当に得た金は風に吹かれる浮き雲のように散り去る)。簡単に儲《もう》けて得た金ほど軽く見て、浪費に消えてしまう。泡銭《あぶくぜに》に翻弄されていると労働意欲を失い、身の破滅を招くのが落ちだ。
金というものが出現して以来のこの真理を表すことわざは、英語も含めて実にたくさんある。
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【類諺】人垢《ひとあか》は身に付かぬ《垢は泡銭の意》/正直の儲けは身に付く/悪には染まりやすし/悪は一旦《いつたん》の事なり/悪は栄えず/悪に従うは崩るるがごとし/悪を好めば禍《わざわい》を招く/毒は早く回る/金は天下の回り物
【英語】Soon got, soon spent. すっと入る金はさっと消える/Easy come, easy go. 簡単に入れば出るも簡単/Ill-gotten goods never thrive. 不当な財は栄えず/Ill-gotten goods thrive not to the third heir. 不浄の財は孫まで行かず/Fair gaining makes fair spending. 正当な稼ぎは、きれいに使われる
明日《あ す》の百《ひやく》より今日《きよう》の五十《ごじゆう》
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A bird in the hand is worth two in the bush.
手中の鳥一羽は、藪《やぶ》の中の鳥二羽に匹敵
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明日百文もらうよりも、五十文を今もらうほうが良い。英語は、「藪の中の鳥は探さなければならないが、手元の鳥なら、すぐに料理できる」の意。どちらも、後で手に入るものより、今確実にこの手に取ることのできるものに価値があるという、現実主義を是《ぜ》とすることわざ。企業の取引では、三ヵ月先払いの手形より、半額でもすぐに現金をもらうほうが良いということがしばしばあるもの。
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【類諺】末の百両より今の五十両/先の雁《かり》より手前の雀《すずめ》/後の千金[百]より今の百文[五十]/聞いた百文より見た一文/あの世千日この世一日
【英語】Better an egg today than a hen tomorrow. 明日の鶏《にわとり》一羽より、今日の卵一個/One hour today is worth two tomorrow. 今日の一時間は、明日の二時間の価値/Better to have than to wish. 期待だけより、現に所持しているほうがまし
虻蜂《あぶはち》取《と》らず
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He who hunts two hares catches neither.
二兎《と》を追う者は一兎をも得ず
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蜘蛛《く も》の巣に掛かった虻と蜂の両方を一度に取ろうと欲張り、結局どちらも取り逃がしてしまい、何も得られず徒労に終ること、またそういう事態への戒めである。続けて「鷹《たか》の餌食《えじき》」とも言う(油断しているとほかの敵に襲われる、の意)。「虻蜂」と短縮して言うこともある。
英語の例は、ラテン語から入り、さらに和訳されて、日本語として定着した。英訳のほうには異形表現がいろいろある。
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【類諺】虻も取らずに蜂に刺される/大鳥取るとて小鳥も取り損なう/花も折らず実も取らず/一も取らず二も取らず/一挙両得
【英語】No man can do two things at once. 二つの事を同時にはできぬ/Between two stools one falls to the ground. 二脚の椅子《いす》の間で迷えば地面に落ちる/He that does most at once does least. 一時に多くを行えば成せる事は少なし
医者《いしや》の不養生《ふようじよう》
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Physician [Doctor], heal [cure] yourself.
医者よ、自分自身を癒《いや》せ
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人に養生を説く医者自身が、意外に不健康な生活をしていることがあるのにたとえて、事の是非や理屈はよくわきまえていながら、実行の伴わないこと、つまり言行不一致を皮肉ったもの。職業にまつわる類諺《るいげん》が多いが、政治家の有言不実行は、あまりに当然すぎるのか、ことわざにもならない。
英語は新約聖書のルカによる福音書第4章第23節の表現だが、訳本により異同が見られる。
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【類諺】儒者[学者]の不身持《ふみも》ち/坊主の不信心/礼法師の無礼/易者の身の上知らず/算術者の不身代《ふしんだい》《財産なし》/紺屋《こうや》の白袴《しろばかま》/髪結いの乱れ髪
【英語】A good lawyer, a bad neighbor. 良い弁護士は隣人には悪い/The nearer the church, the farther from God. 教会に近い人ほど神から遠い/Do as the friar says, not as he does. 修行僧の説教には従っても、その行いには従うな
一病《いちびよう》息災《そくさい》
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A creaking door hangs long on its hinges.
きしむ扉は長くちょうつがいに掛かっている
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持病の一つでも持っているひ弱な人は、常に体調に注意して養生に努めるので、かえって長生きするものだという意。逆に丈夫な人は己《おのれ》を過信し、ついつい健康管理をおろそかにして、病気の発見が遅れてしまいがちになる。
英語は、「きしんで調子の良くない扉は、壊れないように丁寧《ていねい》に扱うから、かえって長持ちする」の意。
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【類諺】公事《くじ》と病は長く扱うべし《公事は訴訟ごと》/病上手の死に下手《べ た》/病と命は別物《病人が健康人より早く死ぬとは限らぬ》/病を知れば癒《い》ゆるに近し/堅い木は折れる/柳(の枝)に雪折れなし
【英語】Cracked pots last longest. ひびの入った壺《つぼ》は一番長持ち/Threatened folks live long. 弱者は長生き/All that shakes falls not. 揺れているもの全てが倒れるわけではない/A disease known is half cured. 病気が分かれば、半ばは治癒
一文《いちもん》吝《おし》みの百《ひやく》知《し》らず[失《うしな》い]
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Penny wise and pound foolish.
一ペニーの利にさとくして一ポンドを失う
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「吝み」は「惜しみ」とも書く。目先の小利にこだわって、わずかな金《かね》を出し渋り、後で大損してしまう愚かさをいう。チップを払う習慣のある国で「一文吝み」をすると、とんでもないしっぺ返しを食うこともある。また、このことわざは、日ごろ「一文吝み」をしている人が一獲《いつかく》千金《せんきん》の儲《もう》け話にだまされて、大金を失う場合にも使われる。
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【類諺】一文惜しみの百損《ひやくぞん》/一銭惜しみの百知らず/一文儲けの百遣《づか》い[百失い]/指を惜しんで掌《てのひら》を失う/爪で拾って[桝《ます》で量《はか》って]箕《み》でこぼす/小利を貪《むさぼ》って大利を失う=小利《しようり》大損《たいそん》/安物買いの銭失い
【英語】It is no use spoiling the ship for a halfpenny-worth of tar. 修理のタールをちょっぴり惜しんで船を駄目にするのは愚か/Narrow gathered, widely spent. こつこつ蓄えて湯水のごとく使う《=爪で拾って箕でこぼす》
入《い》るを量《はか》りて出《い》ずるを為《な》す[制《せい》す]
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Let thy expenses be according to thy means.
支出は収入に合わせるべし
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「入る」は収入、「出ずる」は支出である。収入額をきちんと計算し、それに応じた支出の配分をせよという意。支出を抑えて、貯蓄に回すことも含まれる。出典は中国の『礼記《らいき》』で、古代から乱脈経理が多々見られたことを窺《うかが》わせる。とりわけ日銭商売では、ついついどんぶり勘定になりがちなので、収支の計画性には特に留意したいもの。
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【類諺】出《い》ずれば費《つい》えあり/大費《おおづか》いより小費《こづか》い/取り勘定よりも遣《つか》い勘定/利を思うより費を省け/蟹《かに》は甲(羅)に似せて穴を掘る
【英語】If you put nothing into your purse, you can take nothing out. 財布に入れなければ何も出せぬ/Spend as you get. 収入に応じて支出せよ/Let your purse be your master. 財布が主人=Ask your purse what you should buy. 何を買うかは財布に聞け/Waste not, want not. 浪費せざれば困窮せず
蝦《えび》で鯛《たい》を釣《つ》る
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Venture a small fish to catch a great one.
大魚を釣るなら小魚を賭《か》けよ
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「蝦」は「海老《え び》」とも書く。小さなえびを餌《えさ》にして大きな鯛を釣り上げることにたとえ、ささやかな贈り物やわずかな労力で、大きなお返しや利益を得る、虫のいいやり方をいう。「えび(で)たい」と短縮して言うこともある。類諺《るいげん》が多いが、江戸では「えび」がよく使われた。戯作《げさく》本にも「鰕《えび》で鯛を釣るつもり」で出掛けた博打《ばくち》に負けて丸裸になるという話がある。
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【類諺】蝦(で)鯛/雑魚《ざ こ》[しゃこ/鼻糞《はなくそ》]で鯛を釣る/麦飯で鯉《こい》を釣る/鰯《いわし》網で鯨《くじら》を捕《と》る/兎《うさぎ》の罠《わな》に狐《きつね》が掛かる/瓜《うり》を投じ[投《おく》り]て瓊《たま》を得る《瓜を贈って美玉の返礼を得る》
【英語】A little bait catches a large fish. 小餌《しようじ》で大魚を釣る/To throw a sprat to catch a mackerel. 鯡《にしん》を投げて鯖《さば》を捕る/To give a pea for a bean. 豌豆《えんどう》で隠元《いんげん》を得る/Lose a fly to catch a trout. 鱒《ます》を釣るなら毛鉤《けばり》を惜しむな
大費《おおづか》いより小費《こづか》い
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A penny saved is a penny got.
一ペニーの節約は一ペニーの稼ぎ
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「費い」は「遣い・使い」とも書く。大費いは高額の出費、小費いは小さな出費。小費いでも集計すれば大きな買い物よりも意外とかさむという意。高額紙幣を崩すと、たちまち使ってしまう。浪費をしないコツは、日常の小さな出費にこそ気を付けること。これは節約であって、吝嗇《け ち》とは違う。
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【類諺】出遣いよりも小遣い/儲《もう》ける考えより使わぬ考え/倹約は富の因《もと》/死に金を使う/一銭を笑う者は一銭に泣く/金持ち物を買わず[金を遣わず]/塵《ちり》も積もれば山となる/入《い》るを量《はか》りて出ずるを為《な》す[制す]
【英語】Sparing is a great revenue. 倹約は大益/From saving comes having. 節約すれば財生ず/Take care of the pence [pennies], and the pounds [dollars] will take care of themselves. 小銭を大切にすれば大金は自分を大事にする《節約の精神を持てば、大金を浪費しなくなる》
親子《おやこ》の仲《なか》でも金銭《きんせん》は他人《たにん》
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I would cheat my own father at cards.
カードの賭《か》けでは、親にでもいんちきをする
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親子でも、こと、金銭に関しては他人のように水臭くなる。だから、金銭問題は、親子の間でもきちんとしておけ、という意と、親子でも他人同士のようにしてしまうことがある、という意とがある。金がからんだがゆえの、血で血を洗うような、醜い争いはしたくないものだ。
欧米で大衆的な娯楽のカード・ゲームでも、賭ければ、親さえごまかして勝とうとするというのが英語の意味である。
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【類諺】金に親子はない/銭金《ぜにかね》は親子でも他人/銭金には親子がない/貸し借りは他人/金銭は他人/親の背《せな》でもただは掻《か》かぬ
【英語】Business is business. 商売は商売《身内でも、私情は抜きだ》/Better penny in silver than any brother. ペニー銀貨は兄弟にもまさる《ペニー貨は昔は銀製だった》/Even reckoning makes long friends. 貸借なしなら長付き合い
蟹《かに》は甲《こう》(羅《ら》)に似《に》せて穴《あな》を掘《ほ》る
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A little bird is content with a little nest.
小鳥は小さい巣で満足する
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蟹が自分の甲羅の大きさに合わせた穴を掘って入るように、人もそれぞれの願望や能力に応じた生き方をするもの。分《ぶん》に安んじ、高望みはするなという意。が、所詮《しよせん》は己《おのれ》の枠から抜けられないという批判的な含みもある。
このことわざに続けて、「鳥は翼《つばさ》にしたがって巣を作る」とも言うが、まさに英語と意味・形式がそっくりである。
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【類諺】根性に似せて家を住まう/器量によりて荷をば持て《能力以上のことはできぬ》/蟹は甲羅丈《たけ》《甲羅より大きくはならない》/分相応に風が吹く/大きな家には大きな風/一升桝《ます》に二升は入らぬ
【英語】Cut your coat according to your cloth. コートは布地に合わせて作れ/Stretch your legs according to your coverlet. 足は掛けぶとんの長さに合わせて伸ばせ/Don't be too big for your boots. はいている靴より大きくなるな
金《かね》が金《かね》を儲《もう》ける
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Money begets [makes] money.
金が金を生む
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これは井原《いはら》西鶴《さいかく》の小説類に頻出する言葉である。いったん儲かり始めると、商売にはずみがつき、更に利を生み出すことになる。また、最初の元手《もとで》が利子を生み、その元利を投資して、更なる利息を生んでいく。このように、経営と利殖の才があれば、自然と金が溜《た》まっていくのが資本主義の仕組みだが、金融機関自身が破産するような時代では、このことわざは必ずしも当てにはできないだろう。
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【類諺】金が金を呼ぶ/金が金[子]を生む/金が金を作る/金が金を溜める/金が共寄りする/金はある所にはあるもの/一事成れば万事成る
【英語】Money draws money. 金は金を引き寄せる/Wealth goes to wealth. 富は富のもとへ行く/He that has a goose will get a goose. 鵞鳥《がちよう》を持てば、また鵞鳥を得る/Every man bastes the fat hog. 脂《あぶら》ののった豚《ぶた》肉にバターを塗る《金に金が付く》
金《かね》の切《き》れ目《め》が縁《えん》の切《き》れ目《め》
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Love lasts as long as money endures.
恋は金がもつ間は続くもの
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昔の俗謡に、「芸者の声と雪駄《せつた》の音は、金《かね》があるうちゃチャラチャラと、金がなくなりゃ切れたがる」とある。金は「お金と鼻緒の留め金具」のことで、金がなくなれば男女の縁も鼻緒も切れるということ。このことわざは特に、男女や友人間など金銭以外で成立しているはずの間柄について言われるだけに、不思議な事である。しかし、それだけ金の偉力の恐ろしさは古今東西変わらないことの証明でもある。
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【類諺】愛想づかしも[は]金から起こ[き]る/夫婦喧嘩《げんか》も無いから起こる/富貴には人集まり貧賤《ひんせん》には親戚《しんせき》も離る
【英語】When poverty comes in at doors, love leaps out at windows. 貧乏が扉から入ると愛が窓からさっと出て行く/Want makes strife between man and wife. 貧すれば夫婦間にも争い生ず/Poverty parts friends. 貧乏は友も引き離す
金《かね》は天下《てんか》の回《まわ》り物《もの》
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Money is a great traveler in the world.
金は世界を渡り歩く大旅行者
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「回り物」は「回り持ち」とも言う。金は常に持ち手が変わり、一ヵ所に留《とど》まらず、人から人へと回っているので、いつかは自分の所にもやって来るという意。しかし、金が回って来ても、それを生かし増やす能力がなければ、自分の所は素通りして行くだけで、金運は開けない。金は足なくして足のように動き回るので「お足」と言われるゆえんである。
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【類諺】金銀[銀銀]は回り持ち[物]/宝は国の渡り物《金は宝》/世界の宝は回り持ち/銭は足なくして走る/金は浮き物《一ヵ所に留まらない》/金[宝]は(世界の)湧《わ》き物/金は片行き《金のある所は偏《かたよ》っている》
【英語】Money is round and rolls away. 金は丸くて転がり去る/Money will come and go. 金は来《きた》りて、去りゆかん/Riches have wings. 富に翼《つばさ》あり《金はお足》/Ready money will away. 手元の金[現金]はいつの間にか去って行く
金持《かねも》ち喧嘩《けんか》せず
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Agree, for the law is costly.
訴訟は金が掛かるから和解が良し
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裁判ざたになれば、余計な金が掛かって馬鹿らしい。また、名誉や評判などにも傷が付きかねない。だから金持ちは喧嘩を避ける。万一トラブルに巻き込まれても、使用人や弁護士などが代理をし、本人は圏外にいるようにするものだ。
イギリスの大富豪ロスチャイルド家の家訓には、「訴訟と保証人になることはなるべく避けよ」という一項がある。
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【類諺】金持ち身が大事/儲《もう》け上手より始末《しまつ》上手/金持ち金を遣《つか》わず《けちである》/金持ち舟に乗らず《危険に近寄らず》/君子は争う所なし
【英語】Lawsuits consume time, and money, and rest, and friends. 裁判は時間と金と休息と友を消費する/Poor and liberal, rich and covetous. 貧乏人は気前が良く、金持ちはけち/Fools bite one another, but wise men agree together. 愚者はいがみあえども、賢者は相和すものなり
借着《かりぎ》より洗着《あらいぎ》
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Borrowed garments never fit [sit] well.
借着は身に合わぬ
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人から借りた立派な服よりも、きれいに洗った自分の服を着るほうが良い、たとえ貧しくても自力・自前でやりくりすることが大事であるという意。借金までしてぜいたくをしたり、見栄《みえ》を張った暮らしは長続きしないもの。いったん借金地獄に落ちると、立ち直れるまでには、借金生活の期間の何倍もの年月がかかるのである。
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【類諺】借着より糊《のり》替え[糊着/洗濯]/借着は身に合わぬ/人の物より自分の物/負わず借らずに子三人《借金なしで子供三人が幸せ》/付け焼き刃はすぐ剥《は》げる/買うは貰《もら》うにまさる/人の褌《ふんどし》で相撲《すもう》を取る
【英語】Better barefoot than in borrowed shoes. 借り靴より裸足《はだし》がまし/Better buy than borrow. 借りるより買うがまし/Out of debt, out of danger. 借金なくば危険なし/You must plough with such oxen as you have. 自分の牛で耕せ
勘定《かんじよう》合《あ》って銭《ぜに》[金《かね》]足《た》らず
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A fool always comes short of his reckoning.
精算して銭足らずになるのが阿呆《あほう》の常
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帳簿上の計算は合っているのに、現金を数えると足りないことがある、という意。机上の理論や予定は、現実とは一致しないことのたとえでもある。実際には予測しがたい事が起こるものであり、気がゆるめば細かい事も見逃しがちになる。何事であれ、前もってきちんと計算をして、収支は大丈夫なはずなのに、どういうわけか、赤字になってしまうこともよくある。臨機応変に予定を修正できる余裕のある計画を立て、心配りを怠らないことが賢明である。
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【類諺】算用合って銭足らず/理屈通りにはいかぬ/理屈商人金儲《もう》けず/算盤《そろばん》で錠が開く《計算が確実なら物事は解決》
【英語】It is good to keep one's head for the reckoning. 勘定を常に念頭に置くが良し/After the feast comes the reckoning. 宴《うたげ》の後に勘定の付けが来る
汚《きたな》く稼《かせ》いで清《きよ》く暮《く》らせ
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The richer the cobbler, the blacker his thumb.
靴直しは、金が溜《た》まるほど親指が黒くなる
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このことわざの意味は二つある。一つは、身なりなどは構わず、泥や汗にまみれて懸命に働き、後はその蓄えで快適に暮らせ、という意。もう一つは、汚い手段で金儲《もう》けしても、稼いだ金はきれいに(慈善などにも)使えという意。金はあの世へ持っては行けない。
英語は「靴を直す職人に金が溜まるのは、よく働いたからで、精を出した分、指が汚れて黒くなる」ということ。
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【類諺】汚く働いてきれいに食え/汚く集めてきれいに使う/汚く過ぎて清く食え/座禅組むより肥やし汲《く》め/詩を作るより田を作れ/金は三欠《か》くに溜まる《義理・人情・交際を欠けば金が残る》
【英語】Where there's muck there's money. 汚い所に金溜まる/Muck and money go together. 汚れと金は二人三脚/Shrouds have no pockets. 死者の服にポケットなし《死後に金は無用》
着《き》れば着寒《きざむ》し
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Appetite comes with eating.
食欲は食べれば食べるほどに出てくる
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寒いからといって重ね着しすぎると、かえって寒さを感じて切りがない、という意。厚着は体を重くし、動作を緩慢《かんまん》にして寒さを感じやすくさせる。逆に薄着や裸は寒さに対する皮膚の抵抗力を強める。またグルメ志向の現代、食べるほどに食欲が湧《わ》いて、結局食べすぎて胃をこわす羽目になる。
このことわざは、英語例同様、暖衣飽食の時代の「欲に切りなし」を象徴するものである。
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【類諺】着れば着寒《きざむ》[着寒い]/着れば着寒とて猶《なお》寒し/欲は欲を呼ぶ/寒い時に汚い物なし《寒さしのぎならどんな汚い物でも着る》
【英語】He that desires but little has no need of much. ほんのわずかしか望まぬ者に大量は必要なし/The sea complains it wants water. 海が、もっと水を、と不平を言う/The more you get, the more you want. 得れば得るほど欲しくなる
薬《くすり》より養生《ようじよう》[看病《かんびよう》]
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Diet cures more than doctors.
医者にかかるよりは食養生
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治療に薬は必要だが、それよりもまずは養生が大切。薬に頼りすぎると、自然治癒力が低下する。病気は抵抗力が衰えるとかかりやすくなるので、ふだんから栄養バランスの良い食事をとり、適度な運動をして気力・体力を充実させること。
なお、英語のダイエットは、食事または食事療法のことで、運動による減量の意味はない。
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【類諺】一に養生二に介抱/一に看病二に薬/薬多《た》なれば病甚《はなはだ》し/親が死んでも食《じき》休み《食後には必ず休憩》/腹八分に医者いらず
【英語】Nature is the best physician. 自然が最良医/Temperance is the best physic. 節制が最良の薬/Prevention is better than cure. 治療より予防/Better to pay the butcher than the doctor. 医者より肉屋に払うがまし/Make not thy stomach an apothecary's shop. 胃を薬屋にするなかれ
口《くち》と財布《さいふ》は締《し》めるが得《とく》
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Keep your purse and your mouth close.
財布と口は閉じておけ
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口と財布はしっかりと締めておけ。つまり多弁と浪費をするなという戒めである。無駄口を叩《たた》かなければ余計なトラブルに巻き込まれず、無駄金を使わなければ損をすることもない。他人のおしゃべりに付き合わなければ時間の節約にもなり、ますます得である。人前で札びらが入った財布をちらつかせると、ついおごる羽目になりかねない。まずは、必要以上に持ち歩かないのが賢明。
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【類諺】口と財布は閉ずるに利あり/財布の底と心の底は人に見せるな/財布の紐《ひも》を[は]首に掛けるより(は)心に掛けよ/口と褌《ふんどし》は固く締めよ
【英語】He that shows his purse longs to be rid of it. 財布を他人に見せる者は、盗《と》られるのを望んでいるに等しい/Fast and loose is no possession. (財布を)締めたり緩めたりしていては、(金は)手元には残らない
下戸《げこ》の建《た》てた蔵《くら》はない
Water drinkers bring forth nothing good.
下戸であっても、良い事をもたらしはせぬ
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下戸とは、酒が飲めないか酒量の少ない人。上戸《じようご》は酒好きの人。下戸だからといって、金を蓄えて蔵を建てたということはない。 上戸が下戸を揶揄《やゆ》して言うことわざだが、 下戸も、「上戸の蔵も建ちはせねども」「上戸のつぶした蔵はある」などと応酬し、俗謡で有名な、朝寝・朝酒・朝湯が大好きで身上《しんしよう》をつぶした小原《おはら》庄助《しようすけ》を引き合いに出したりする。
英語の「ウォーター・ドリンカー」は、「ミネラル・ウォーターなどの愛飲者。また転じて、禁酒家・下戸」の意。
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【類諺】下戸の建てた蔵はなくお神酒《みき》上がらぬ神はなし《神様もみな酒を飲む》/酒と朝寝は貧乏の近道/酒とお産に懲《こ》りた者なし
【英語】Who likes not drink, God deprives him of bread. 神様は、下戸から、糧《かて》のパンを取り上げる/Women and wine make the wealth small. 女と酒は富を小さくする
甲《こう》の損《そん》は乙《おつ》の得《とく》
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His loss is my gain.
彼の損は私の得
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ある人にとって損な事が、ほかの誰《だれ》かには得になることがあるという意。逆に、ある人に有益な事が、ほかの人にとっては有害になることもある。世の中は損と得の回り持ちである。株式投資では、儲《もう》ける人がいる一方で、必ず損をしている人がいる。近年、「参加者の利害の総和《サ ム》は零《ゼロ》になる」を標榜《ひようぼう》する「ゼロサム・ゲーム」も、このことわざと同じ原理である。
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【類諺】人の過ち我が仕合わせ/泣く者あれば笑う者あり/入り船に良い風は出船に悪い/片山曇れば片山日照る
【英語】One man's loss is another man's gain. 甲の損は乙の得/Bad luck is good luck for someone. 甲の不運は乙の幸運/The death of wolves is the safety of sheep. 狼《おおかみ》が死ねば羊が助かる/No man loses but another wins. 一方が勝てば他方が負け/Ill for the rider, good for the abider. 出て行く人に不都合でも、残る人には好都合《=入り船に良い風は出船に悪い》
転《ころ》んでもただ(で)は起《お》きぬ
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All's fish that comes to the net.
網に掛かる物なら何でも魚(と思って取る)
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転んだ際に、ただ起き上がるのはもったいないので、ついでに拾える物はないかと探すこと。何か失敗した場合でも、それを利用して得になる事をしようという欲深さのたとえ。その欲を、軽蔑すべき「抜け目のなさ」と見なす場合と、逆に、良い意味での「したたかさ・しぶとさ」と評価して用いる場合とがある。しかし、道に落ちたコインを拾おうとして車に轢《ひ》かれるようでは、単なる欲惚《ぼ》けにすぎない。
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【類諺】転んでも土を掴《つか》む/転《こ》けても砂/転けた所で火打石/転けた上を踏まれる/転べば糞《くそ》の上《不運に不運》/毒を食らわば皿まで
【英語】All's grist that comes to the mill. 水車小屋に持ち込まれる物なら何でも粉挽《ひ》き用の穀物《利用できる物なら何でも利用》/Steal the horse, and carry home the bridle. 馬を盗むなら、手綱も家へ持ち去るべし
才子《さいし》多病《たびよう》[短命《たんめい》]
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Whom the gods love die young.
神々に愛されし者は若死にする
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才能のある人は、とかく病弱であったり、若死にすることが多い、という意。特に「才子短命」は、早世した才人を惜しむ時に使われる。このことわざを証する例は数が多い。『荒城の月』の作曲家滝廉太郎《たきれんたろう》(1879-1903)は24歳で急逝《きゆうせい》、繊細な感受性の天才詩人立原道造《たちはらみちぞう》(1914-39)も25歳で夭逝《ようせい》した。
英語は、多神教の古代ギリシアから転来したもので、「神々に愛されし者」とは、天才や美女のことである。
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【類諺】佳[美]人薄命/死にし[死ぬる]子眉目《みめ》良し=死にし子顔良かりき/惜しむ人は必ず死する習い/花も一時《いつとき》
【英語】Soon tod(d) [toothed], soon with God. 歯が早く生えると神のもとへも早く行く《早熟聡明《そうめい》な人は短命》/The fairest flowers soonest fade. 最も美しい花は、最も早くしおれる/The good die young. 善人は若死にする
酒呑《さけの》み本性《ほんしよう》を違《たが》わず
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Wine wears no breeches.
酒は(半)ズボンをはかない
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酒を飲むと「人が変わったよう」に見えても、それが「本来の性質」なのであり、「悪い所を顕《あらわ》にして後悔しないように」という意。また、酒は飲んでも「正気・本心は失うものではない」という、酒好きの言い訳的な意味合いも含まれている。
英語の「(半)ズボンをはかない」は、「恥部(欠点)をさらす。何も隠しだてしない」の比喩《ひゆ》。
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【類諺】酒の酔い本性違わず[忘れず]/酔いても本地《ほんじ》忘れず《正気を失わず》/酔いて本性顕す《本音が出る》/生酔い本性違わず/酒が言わせる悪口《あつこう》雑言《ぞうごん》/酒は呑むとも呑まれるな
【英語】Wine is the glass of the mind. 酒は心の鏡/There is truth in wine. 飲めば真実が出る/What soberness conceals, drunkenness reveals. 素面《しらふ》が隠す事は、酔うと現れる/Drunkards and fools cannot lie. 酒飲みと愚者は嘘《うそ》をつかぬ
酒《さけ》は呑《の》むとも呑《の》まれるな
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I know what I do when I drink.
酒は飲んでも、している事は分かっている
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酒は適量を飲むぶんには害はないが、「酒に呑まれ」て、理性・正気を失い、何を言い何をしているのか分からぬようになるほど大量は飲むな、ということ。酒は飲むほどに量が増え、遂にはせっかくの味さえ分からなくなっていく。ほろ酔い(生酔い)程度が最も旨《うま》く、体にも良いのである。「呑まれるな」は「呑まるるな」とも言う。
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【類諺】酒は飲むべし飲むべからず《飲んでも過ぎるな》/花は半開酒はほろ酔い/酒は人を酔わしめず人自ら酔う《飲む人自身の責任》/飢《かつ》えて死ぬは一人飲んで死ぬは千人/海中より盃中《はいちゆう》に溺死《できし》する者多し
【英語】Drink little, that you may drink long. 息長く、飲まんと思わば、ちょっと飲め/Wine in, wit out. 酒入《い》らば、知恵は、出て行くものなるぞ/Wine has drowned more men than the sea. 海でより、酒で溺死の者多し
酒《さけ》は百薬《ひやくやく》の長《ちよう》
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Good wine makes good blood.
美酒は良血を作る
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中国の『漢書《かんじよ》』に「塩は食肴《しよつこう》の将、酒は百薬の長」とある。狂言でも、「そもそも酒は百薬の長として、寿命をのぶ」(『餅酒《もちざけ》』)と言うように、適度に飲めば薬以上の効きめがあり、寿命をのばすほどだと認められてきた。血行を良くし、食欲を増進させ、精神的ストレスも解消してくれる。古今東西、人々に愛されてきた酒の効用を良く捉《とら》えた言葉である。
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【類諺】酒は天の美禄《びろく》《天からの素晴らしい贈り物》/酒に十の徳あり/酒三杯は身の薬/酒は憂《うれ》いの玉箒《たまははき》《憂いを払う素晴らしい箒《ほうき》》/酒は百毒の長/酒は諸悪の因《もと》/酒は猶《なお》兵のごとし《用法を誤ると身に害》
【英語】A good drink makes the old young. 美酒は老人を若々しくする/Good ale is meat, drink, and cloth. 旨《うま》いビールは食べ物、飲み物、そして衣料にもなる《滋養だけでなく、体も暖める》/Wine is old men's milk. 酒は老人のミルク/Good wine makes a merry heart. 旨い酒は心を楽しくさせる
地獄《じごく》の沙汰《さた》も金次第《かねしだい》
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Gold goes in at any gate except heaven's.
黄金は天国以外の門はフリーパス
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前世《ぜんせ》の悪業のために受ける地獄の裁判さえも、金の力で有利にさせられるという、金の力が万能であることをよく表したことわざ。地獄でさえこうだから、ましてこの世では、どんな事でも思いどおりになるという拝金思想を反映している。
英語では、「黄金」はもちろん「お金」で、「天国以外」とは「この世と地獄」のことである。
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【類諺】冥土《めいど》の道[阿弥陀《あみだ》の光]も金次第/仏の光より金《かね》の光/地獄極楽《ごくらく》の道も銭/(人間)万事《ばんじ》金の世の中/金が物(を)言う/銭ある時は鬼をも使う/出雲《いずも》の神より恵比須《えびす》の紙《神《かみ》とお札《さつ》の紙《かみ》を掛けている》
【英語】A golden key opens every door. 黄金の鍵《かぎ》はどんな扉も開ける万能鍵/Money is the ace of trumps. 金は、最強の切り札/Money will do anything. 金は万能/Money talks. 金は物を言う/Money rules the world. 金が世界の支配者
死《し》しての長者《ちようじや》より生《い》きての貧者《ひんじや》
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Better be poor and live, than rich and perish.
富んで死ぬより貧しく生きるがまし
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長者には年長者や人格者などの意味もあるが、この場合は金持ちや偉い人を指している。命を縮めるほどにあくせく稼いで長者になっても、生きる喜びを知らずに死んでしまっては、何にもならない。いくら金を溜《た》め込んでも、あの世には持って行けないのである。たとえ貧乏でも、日々これ好日と満足して生きていけるほうがましであるという意。「死して」は「死んで」、「貧者」は「貧人」「貧乏」とも言う。
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【類諺】死しての千年より生きての一日/命あっての物種/死んで花実が咲くものか/冷や飯食っても娑婆《しやば》に居たい
【英語】A live [living] dog is better than a dead lion. 死せる獅子《しし》より生ける犬/A live coward is better than a dead hero. 死んだ英雄より生きている臆病者《おくびようもの》/Where there's life, there's hope. 生きていればこそ、希望もある
商売敵《しようばいがたき》は折《お》り合《あ》わぬ
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Two of a trade never agree.
同業の二人は折り合わぬ
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同業者は、仲間付き合いはしていても、実際には熾烈《しれつ》な闘いをするライバルで、なかなか折り合いにくい敵同士であるという意。「商売忌《い》み敵《がたき》」とも言うが、これは「傍輩笑《ほうばいえ》み敵《がたき》」のもじり。笑顔で接していても、内には闘争心を隠し持っている仲間同士を指すことわざ。相手に勝とうと必死になることで、同業の繁栄も生ずるというもの。「敵」は「仇《かたき》」とも書く。
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【類諺】商売身敵《みがたき》=職敵《しよくがたき》《同業者も内心ではいがみあう》/同類相食《は》まず/同病相憐れむ/商人《あきんど》の空誓文《そらぜいもん》《商売は駆け引き第一》
【英語】One potter envies another. 陶工は陶工を嫉妬《しつと》する/Two whores in a house will never agree. 一軒に売春婦が二人いれば不仲になる/Two dogs over one bone seldom agree. 二匹の犬は骨一本で譲り合わず/Hawks will not pick out hawks' eyes. 鷹《たか》は仲間の目玉は、突き抜かぬ《=同類相食まず》/Trade knows neither friends nor kindred. 商いは友も親類も知らず
空《す》きっ腹《ぱら》[空腹《くうふく》]にまずい物《もの》なし
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Hunger is the best sauce.
空腹は最上のソース
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空腹の時は何を食べても旨《うま》く感じる。飢えていれば食べ物を選ばない。十返舎一九《じつぺんしやいつく》の『東海道中膝栗毛《とうかいどうちゆうひざくりげ》』にも、「ひだるい時にゃア、まづいものなしだ」と出てくる。「ひだるい」は腹が減って元気のないこと。これから「ひもじい」の語が出来た。食欲以外に性欲に関して使うこともある。
英語はソクラテスの言葉の転来と言われる。
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【類諺】ひだるい[ひもじい]時にまずい物なし/飢えて[たる者]は食を選ばず/空《す》き腹《はら》に茶漬け《腹によく入る》/憂《う》いも辛《つら》いも食うての上
【英語】A good appetite is a good sauce. 旺盛《おうせい》な食欲はおいしいソース/Hunger is good kitchen meat. 空腹はおいしい付け合わせ/Hunger finds no fault with the cookery. 空腹は料理法にけちを付けない/Hungry horses make a clean manger. 飢えた馬は飼い葉桶《おけ》をきれいにたいらげる/All's good in a famine. 飢えた時には何でも旨くなる
損《そん》して得取《とくと》れ
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Sometimes the best gain is to lose.
損することが一番の利となることあり
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一時的な損や支出をすることで、先々の大きな利益をはかるという意。先行投資は、将来の利益をもたらすためのものであって、損金ではない。営業経費や研究・調査のための開発費なども、出費ではあるが最終的な損失ではない。出血サービス商法で客を増やしたり、利益を社会に還元して企業イメージを高めることも、将来の利につながることである。
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【類諺】商人《あきんど》は損していつか倉[蔵]が建つ/損せぬ人に儲《もう》けなし/損は儲けの始め/損をせねば儲けもない/損して利を見よ/一失あれば一得あり/海の疲れを山で取る/蝦《えび》で鯛《たい》を釣る
【英語】He that loses is merchant as well as he that gains. 損する者も、儲《もう》ける者も、同じく商人/What we lose in hake we shall have in herring. 鱈《たら》で損したなら、鯡《にしん》で取り返せ/Give and take. 与えてから取るべし
大欲《たいよく》は無欲《むよく》に似《に》たり
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Covetousness brings nothing home.
大欲かけば家にもたらす物なし
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大欲には、欲深いことと、大望を抱くことの二義がある。欲張りすぎると損をし、無欲だったのと同様の結果に陥るのが第一義。第二義は、大望を抱くと小利には目をくれないから、欲がないように見えること。吉田《よしだ》兼好《けんこう》の『徒然《つれづれ》草《ぐさ》』では、第一義の場合である。また、当面の願望が叶《かな》えられても、後の努力を欠けば、大望達成には至らず、無欲と変わらない。
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【類諺】大賢《たいけん》[大智《たいち》]は愚《ぐ》に似たり/大勇《たいゆう》は勇ならず《真の勇者は勇猛の風情《ふぜい》を見せぬ》/大利《たいり》は利ならず《利なきに見える》/欲に身を亡《ほろ》ぼす/欲に目がくらむ/大鳥取るとて小鳥も取り損なう/虻蜂《あぶはち》取らず
【英語】He is not a wise man who cannot play the fool on occasion. 愚者の振りができなければ賢者にあらず/Grasp all, lose all. 全てを取らんとすれば全てを失う/Don't have too many irons in the fire. あまりに沢山の事を手掛けるな
宝《たから》の持《も》ち腐《ぐさ》れ
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What's the good of a sundial in the shade?
日時計が日陰にありて立つ瀬ありや
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役に立つ物や才能などを持っていながら、活用しないで埋もれたままにしていることをいう。本人には生かしたいという意欲があっても、周囲に抑えられている場合もある。眠っている適性や能力・才覚を発掘するには、専門家の分析・助言が有効なこともある。
英語は、「遠慮していては、本領を発揮できない」の意。
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【類諺】知恵の持ち腐れ/能ある鷹《たか》も切って放たざれば功《こう》なし/才あれど用いざれば愚人のごとし/玉磨かざれば光なし/宝の山に入りて手を空《むな》しくして帰る《機会を生かせず》
【英語】A book that remains shut is but a block. 開かれざる本は単なる紙の塊/Fools live poor to die rich. 愚か者は、つましく暮らして、死後に金を残す/Goods are theirs that enjoy them. 物は、それを享受する人のためにある
ただほど高《たか》い物《もの》なし
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Nothing costs so much as what is given us.
貰《もら》い物より高く付くものなし
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ただで物を貰っても、お返しに金が掛かったり、無理な頼まれ事を引き受けざるをえなくなったりして、かえって高く付くことになるものだという意。大量配布の無料提供品を貰うのさえも、考えものである。たいていは場所ふさぎになっているだけのことが多いからだ。品物を貰ってアンケートに応じるような時には、見返りに要求される個人情報との交換価値をよく考えてからにすべきである。
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【類諺】物を貰うはただより高い/貰い物は根が続かぬ/買うは貰うにまさる《身銭を切るほうが良い》/猫の子もただは貰えぬ
【英語】Things hardly attained are long retained. 苦労して得た物は長く保持する/Who receives a gift sells his liberty. 物を貰うは自由の売却/There's no such thing as a free lunch. 客釣《づ》り用の無料の食事同様ただですむものはない
足《た》るを知《し》る者《もの》は富《と》む
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Enough is a feast, too much a vanity.
足るだけあればごちそう、過多は無駄
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『老子』にある言葉で、 分相応に満足できる者は、 財産がなくても精神的には富んでいる、という意。更に、「禍《わざわい》は足るを知らざるより大なるはなし」と述べられている。「足るを知れば辱《はずか》しめられず」とも言い、分をすぎた欲を出さなければ、財産や身分を失って恥をかくような目に遭うこともないのである。単に「足るを知る」と略しても使う。
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【類諺】足るを知らざる者は富むといえども貧し/心に笠《かさ》着て暮らせ《上を見ず清貧に生きよ》/足らず足りぬる[足らで事足る]身こそ安けれ《貧乏でも満足すれば平安》/足らぬは余るより良し/分に安んず
【英語】A contented mind is a continual feast. 満ち足りた心は永遠の宴《うたげ》/Content lodges oftener in cottages than palaces. 満足は宮殿より小屋に住むこと多し/Look high, and fall low. 上ばかり見て歩けば倒れる《高望みは身の破滅》
塵《ちり》も積《つ》もれば山《やま》となる
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Many drops make a shower.
滴《しずく》が集まって雨
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塵のように小さなもの、取るに足らぬわずかなものでも、積み重なればいつかは高大な山のようにもなるという意。「塵も積もれば」は「塵積もりて」「微塵《みじん》積もりて」とも言う。山となれば動かせなくなる。小さい事だと軽視してはいけないことを教えている。「たとえ少額でも、たゆまず溜《た》めれば大きな財産になる」という、貯蓄奨励の意味でも用いられる。
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【類諺】砂《いさご》長じて巌《いわお》となる《砂粒がいつか岩となる》/土を積みて山をなす/滴《したた》り積もりて淵《ふち》となる/雫《しずく》溜まりて川となる/蟻《あり》が塔組む《少しずつ土を積んで塔を作る》/積羽《せきう》舟を沈む《羽も積み続ければ舟が沈む》
【英語】Many a little makes a mickle. 少しずつ積もって大量となる/The whole ocean is made up of single drops. 大海も一滴ずつの水からなる/Many sands will sink a ship. 砂粒でも、沢山積めば船も沈む/Penny and penny laid up will be many. 一ペニーずつでも、溜まれば大金
捕《と》らぬ狸《たぬき》の皮算用《かわざんよう》
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Catch the bear before you sell his skin.
毛皮を売るなら熊を捕らえてから
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まだ狸を捕らえてもいないのに、その毛皮を売った場合の収入を計算すること。確実でない事を当てにして、ぬか喜びしたり、安易な計画を立てることのたとえである。
英語も発想は同じ(ただしフランス語・イタリア語からの転来と言われる)。英語欄の第一例は、イソップ寓話《ぐうわ》に由来し、「勝つ前に勝ち鬨《どき》をあげるな」が原義。
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【類諺】穴のむじなを値段する/儲《もう》けぬ前の胸算用/飛ぶ鳥の献立/生まれぬ前のむつき定め《出産前のおむつ買い》/長範《ちようはん》の当て飲み《人の懐を当てにして失敗。盗賊熊坂《くまさか》長範に由来》/来年の事を言えば鬼が笑う
【英語】Don't count your chickens before they are hatched. ひよこがかえらぬうちに数えるな/Make not your sauce till you have caught the fish. 魚を釣らぬうちはソースを作るな/Gut no fish till you get them. 捕らぬ魚のはらわた取り
取《と》ろう取《と》ろうで取《と》られる
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All covet, all lose.
全てを望んで全てを失う
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勝負事でも商売でも、相手から取ることばかり考えていると、自分のほうが取られてしまう愚かさを突いたもの。取りたい一心の欲にかられて冷静さを失い、大負け・大損する。
英語は、水に映った自分の口の肉を見た欲深い犬が、それを取ろうと口を開けた瞬間、肉を水中に落としたというイソップ寓話《ぐうわ》「肉をくわえた犬」に由来する。
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【類諺】騙《だま》す騙すで騙される/誑《たら》しが誑しに誑される《逆にたぶらかされる》/取るよりかばえ《取得より保持》/木乃伊《ミ イ ラ》取りが木乃伊になる/欲かきゃ損する/虻蜂《あぶはち》取らず/大欲は無欲に似たり
【英語】Avarice loses all in seeking to gain all. 欲かきは全部を欲しがって全部を失う/The biter is sometimes bit. 噛《か》む者が噛まれることあり/The hand that gives gathers. 与える手は集める手/Many go out for wool and come home shorn. 羊毛を求めに出かけながら、刈られて戻る者多し
花《はな》より団子《だんご》
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Better a good dinner than a fine coat.
立派な服より旨《うま》い夕めし
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花を愛《め》でるより団子で腹を満たしたいという意。「詩を作るより田を作れ」「歌の節《ふし》よりかつお節」と同様、風流や芸術鑑賞を嗜《たしな》む余裕はなく、実利・実益のあるものを求める、というたとえである。江戸の有名な文人松永貞徳《まつながていとく》の句「花よりも団子やありて帰る雁《かり》」が出典とされている。
英語は「格好付けるより腹ごしらえのほうが大事」の意。
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【類諺】花の下より鼻の下《風流より食い気》/色気より食い気/理詰めより重詰め《理屈話より重箱料理》/酒なくて何の己《おのれ》が桜かな《酒あってこその花見》/話(だけで)は腹の足しにならぬ/名を捨てて実《じつ》を取る
【英語】Pudding rather than praise. 褒め言葉よりも腸詰め《ソーセージ》が欲しい/The belly is not filled with fair words. 美辞麗句では腹の足しにならぬ/More profit and less honor. 名誉は少なくても、利の多いのがまし《=名を捨てて実を取る》
早起《はやお》きは三文《さんもん》の得《とく》[徳《とく》]
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He that will thrive must rise at five.
繁盛したくば五時には起きよ
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「早起き」は「朝起き」とも言う。早起きをすると、わずかであっても、何かしら得になることがある。続けて「長起《ながおき》は三百の損」とも言い、夜は灯火を節約して早寝する。早寝早起きの励行は富と健康のもとである、という教え。井原《いはら》西鶴《さいかく》の『日本《につぽん》永代蔵《えいたいぐら》』には、早起きが、長者になった人の成功の一因として挙げられた話がいろいろ出てくる。
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【類諺】朝起《あさおき》三両始末五両《倹約は五両の得》/早寝早起きは病知らず/朝起きは七つの徳あり/朝起きの家には福来《きた》る/朝起きは富貴《ふうき》の基《もとい》/朝起千両夜起《よおき》百両=長者の朝起き貧者の宵《よい》っ張り
【英語】Early to bed and early to rise makes a man healthy, wealthy and wise. 早寝早起きは健康、裕福、聡明《そうめい》のもと/The early bird catches the worm. 早起き鳥は虫を捕る/Sooner begun, sooner done. 早く始めるほど早く終る
腹八分《はらはちぶ》に医者《いしや》いらず
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Feed by measure and defy the physician.
適度な食事は医者を寄せ付けず
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「八分《はちぶ》」は「八分目《はちぶんめ》」「八合《はちごう》」、「医者いらず」は「病なし」とも言う。食事は腹の八分程度に控えれば、健康でいられるものだという教え。満腹の食習慣は成人病の原因となる。ストレスに弱い胃腸に負担を掛けないためにも、一日の食事量は少しずつ回数を分けて取るのが良いと言われる。
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【類諺】小食《こじよく》[小食《こぐ》い]は長生きのしるし/腹八分目卑《いや》しからず/腹も身の内《腹のために暴飲暴食はするな》/大食短命[大病]/腹を日に干す《飲食を控えて腹を空《から》にする》/食い物と念仏は一口ずつ
【英語】More die by food than famine. 飢え死にするより食べて死ぬ者のほうが多いもの/Gluttony kills more than the sword. 暴飲暴食は剣より多くの人を殺す/Many dishes make many diseases. 大食は万病のもと/Lightest suppers make long lives. 小食《しようしよく》を守れば長生きのもと
低《ひく》き所《ところ》に水《みず》溜《た》まる
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Water finds its own level.
水は低きに就《つ》く
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水が徐々に土地の低い所に集まって来るように、条件の合った所に、自然と結果が出るようになることをいう。多くの場合、利益の得られそうな所には、人が寄り集まることのたとえとして使われる。また、金はやはり金持ちの所に寄るものだとか、「天下の悪が下流に集まる」という『論語』の言葉にならい、悪人や志《こころざし》の低い者のもとには、やはり同類が寄り集まって来る、という使われ方もする。
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【類諺】百川《ひやくせん》海に朝《ちよう》す《朝すは参内《さんだい》する意で、川が海に集まるように人は利益のある所に集まる》/堅地《かたじ》に水溜まる《水のしみ込まない堅い地面に溜まる》/水は低きに流れる/甘い物に蟻《あり》が付く
【英語】As water runs towards the shore, so does money towards the rich. 川の水は海辺に向かって流れ、金は金持ちに向かう/A fly follows the honey. 蠅《はえ》が蜜《みつ》にたかる
引《ひ》っ越《こ》し貧乏《びんぼう》[三両《さんりよう》]
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Three removes are as bad as a fire.
三回引っ越せば火事一回の災難に等しい
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引っ越しは家の買い替えその他で金が掛かり、仕事にも支障をきたすから、あまり転居・転業はするなという移り気への戒め。ギリシア語・ラテン語から英語を経由して転来した「転がる石に苔《こけ》むさず」も、原義は「引っ越し貧乏」と同じ。
しかし日本語でも英語でも、「いろいろと手を出して動き回る人は、古いしがらみにとらわれず、自由で新鮮」という意味も生じているので、使用には要注意。
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【類諺】転がる石に苔むさず=転石苔を生ぜず/石の上にも三年/店《たな》替え三百損/使っている鍬《くわ》は光る/流れる水は腐らず
【英語】A rolling stone gathers no moss. 転がる石に苔付かず/A tree often transplanted bears not much fruit. 植え替えが頻繁の木は実が少ない/He goes far that never turns. まっすぐ進む者は遠くまで行く《進路変更は慎め》
河豚《ふ ぐ》は食《く》いたし命《いのち》は惜《お》しし
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Honey is sweet, but the bee stings.
蜜《みつ》は甘いが、蜂《はち》に刺される
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旨《うま》いふぐは食べたいが、中毒で死ぬのも嫌だから、やっぱり食べられない。得たい快楽があるのに、後の祟《たた》りや災難が恐ろしくて手が出せないことのたとえ。欲を抑えることもできず、決断・実行もできないという板挟みの状態である。また、良い事(利)には悪い事(害)が伴うものだとか、だから欲をかかずに用心しろ、などという場合にも用いる。
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【類諺】二つ良い事はない/福寿《ふくじゆ》は兼ね難し/両方良いのは頬冠《かむ》り《両方とも満足させられるのは両頬を覆う頬冠りだけ》/盆を戴《いただ》いて天を望む《空を見たくば頭に盆はのせられぬ》/一利一害/一得一失
【英語】You can't eat your cake, and have it too. ケーキを平らげる欲と残しておく欲とは両立しない/Avarice and happiness never saw each other. 欲と幸せとが出会った例《ためし》なし/Every advantage has its disadvantage. 利益に損失は付き物
棒《ぼう》ほど願《ねが》って針《はり》ほど叶《かな》う
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Seldom comes a better.
もっと良い事を願っても、来るはまれ
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「棒ほど願《ねご》うて針」とも言う。願い事を棒の大きさにたとえると、実際に叶えられるのは小さな針ほどであるという意。何事も願ったとおりに叶えられるものではないから、「高望みはするな」という含みがある。逆に、針ほどのわずかな願いを叶えてもらうためには、棒のように大きく願わねばならないので、「望みは大きく持て」との裏の意もある。
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【類諺】棒ほど願って富士の蟻塚《ありづか》ほど叶う/富士の山ほど願って擂鉢《すりばち》[蟻塚]ほど叶う/志《こころざし》千里にあり《大志を抱《いだ》く》/高根[嶺《ね》]の花
【英語】A man must ask excessively to get a little. 少を得るにも、過多を求めよ/Look to a gown of gold, and you will get a sleeve of it. 黄金のガウンを望んで、袖《そで》が叶う/Hitch your wagon to a star. 汝《なんじ》の車を星につなげ《大望・理想を持て》/To aim for the stars. 星を狙《ねら》う《野心を抱く。高望みする》
蒔《ま》かぬ種《たね》は生《は》えぬ
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Good seed makes a good crop.
良い種を蒔けば良い作物を得る
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収穫物が欲しければ種を蒔かねばならない。すなわち努力なくして成果なし、原因なければ結果なし、のたとえ。井原《いはら》西鶴《さいかく》の『世間《せけん》胸算用《むねさんよう》』に、「銀《かね》のなる木をほしや、さてもまかぬ種ははへぬものかな」ともあるように、種を蒔き、忍耐強く育てれば、実りの喜びを味わえるのである。もちろん、種(原因)が良ければ、作物(結果)も良いものとなる。
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【類諺】春植えざれば秋実らず/何ぞ種を下《くだ》さずして果実を穫《と》るものあらん/懐手《ふところで》では蔵建たぬ/打たねば鳴らぬ《叩《たた》かぬ太鼓は鳴らぬ》/無から有は生ぜず
【英語】Harvest follows seedtime. 収穫は種蒔き時の後にやって来る/No mill, no meal. 挽臼《ひきうす》を作らなければ粉を得ず/No [Without] pains, no gains. 努力なくして得る物なし/Nothing comes from nothing. 無より生ずる物はなし
物臭《ものぐさ》の節供働《せつくばたら》き
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Idle people take the most pains.
物臭が一番骨折る
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物臭者が、節供のような休みの時に働いて目立つことを皮肉ったことわざ。英語では、ふだん怠けている者が、人が休む時に働かなくてはならぬさまを揶揄《やゆ》している。無精者ほど、切羽《せつぱ》詰まると急に働いたりするが、ほんの「一時《いつとき》働き」で長続きしない。また、自分の事はろくにせず、人の事には精を出す事を「隣り働き」と言う。「節供働き」の部分に、「一時働き」や「隣り働き」を当てて用いることも多い。
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【類諺】怠け者[道楽者/横着者/無精者/阿呆《あほう》]の節供働き/学ぶに暇あらずという者は暇ありといえどもまた学ぶ能《あた》わず《怠け者は、いつも暇がないと忙しがって何もしない。怠け者に暇なし》
【英語】Idle folks have the least leisure. 怠け者には暇がない/The fool is busy in every one's business but his own. 阿呆は自分より人の事で忙しい《=隣り働き》
貰《もら》う物《もの》なら夏《なつ》でも小袖《こそで》
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Throw no gift again at the giver's head.
贈り物は、くれた人の頭へ投げ返すな
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小袖は綿入れの冬用の着物である。くれるなら、夏に小袖でも貰う、の意で、欲深のたとえ。季節外れの無用物として「夏炉《かろ》冬扇《とうせん》」(夏の火鉢と冬の扇子)もある。これらも、当面は役に立たなくても、やがて使える時が来る。だから、欲深というより、貰い物には苦情を言わず、有り難く頂戴《ちようだい》しておいて、時期が来たら活用する者は、知恵者と言える。英語は、この意を含んでいる。「貰う」は「戴《いただ》く」とも言う。
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【類諺】貰う物なら元旦《がんたん》の弔《とむら》い物でも/貰う物なら藜《あかざ》でも《藜は干害の時の野草でまずい》/貰う物なら夏も牡丹餅《ぼたもち》/貰い物に苦情は言わぬ
【英語】Beggars can't be choosers. 物貰いに、選《え》り好みはできぬ/Don't look a gift horse in the mouth. 贈り物の馬の口は覗《のぞ》くな《歯で馬齢を見るような無礼をするな》/Anything is better than nothing. どんな物でも、ないよりはまし
焼《や》け石《いし》に水《みず》
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All is lost that is put in a riven dish.
割れ皿にはいくら盛っても全てなくなる
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焼けた石は意外と熱く、少しばかり水を掛けても、すぐに蒸発してなかなか冷めない。労力や援助を費やしても、ほとんど効果の上がらない事のたとえ。大きな借財や大損害を被ってから少々の倹約をしても、追い付くものではない。また、恩知らずの人間には、何をしてやっても、無駄になるだけである。英語も、この事を指している。
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【類諺】川に水運ぶ/塩にて淵《ふち》を埋《うず》むるがごとし《塩が水に溶けてしまい、埋まらない》/網の目に風溜《た》まらず/笊《ざる》で水(を汲《く》む)=笊に水(を注ぐ)/捨て犬に握り飯《恩知らずに無駄骨》
【英語】To cast water into the Thames. テムズ川に水を投げ入れる/He catches the wind with a net. 網で風を捕らえる/To draw water with a sieve. ふるいで水を汲む/To make a rope of sand. 砂で縄をなう《無駄骨折り》
安物買《やすものが》いの銭失《ぜにうしな》い
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Ill ware is never cheap.
粗悪品は安からず
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格安の物には粗悪品が多く、買って間がないのに壊れてゴミになったり、高い修理費が掛かったりする。買い値は安くても、結局は高く付いてしまったり、金を捨てたも同然になってしまうことをいう。このことわざは、安易に安い物に飛び付く消費者心理への格好の警告である。
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【類諺】値切りて高買い《値切れる物は安物》/安物は高物《結局は高く付く》/安物に化け物が出る《ろくな物がない》/安い物と化け物はない《話に聞くだけで実際にはない》/安かろう悪かろう
【英語】Many have been ruined by buying good pennyworths. 安物を買って身上《しんしよう》をつぶした者多し/You get what you pay for. 支払った額に見合った物しか得られない/What costs little is little esteemed. 安物は大事にされず/A good bargain is a pick-purse. 安物買いは掏摸《す り》/The lion's skin is never cheap. 獅子《しし》の毛皮は安からず《高級品は高くて当然》
病《やまい》は気《き》から
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Fancy may kill or cure.
死ぬも治るも気の持ちよう
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心配事がもとで体調を崩すことがある。病気になっても、気の持ちようで軽くもなり重くもなる。現代人に多い精神的ストレスは、癌《がん》の原因の一つとさえ言われている。しかし、心自身が病んでしまった場合は、傍《はた》からむやみに鼓舞すると、かえって病状を重くすることがあると言われる。素人判断はせず、専門医に相談するのが賢明である。
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【類諺】心配は身の毒/百病は気から起きる/万《よろず》の病は心から/病は気で勝つ/気軽ければ病軽し/案じるより念じろ《悪いほうに考えず良いほうに考えよ》/案じるより芋《いも》[団子]汁《気を病むより栄養》
【英語】Care will kill a cat. 心配は猫も殺す《丈夫と言われる猫も心配事には勝てぬ》/It is not work that kills, but worry. 命を奪うのは労役ではなく気苦労/Care is no cure. 心配したとて、治療にならず/Care brings gray hair. 気遣いは、白髪《しらが》のもと/Care is beauty's thief. 気苦労は、美貌《びぼう》泥棒
我《わ》が家《いえ》楽《らく》の釜盥《かまだらい》
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Home is home though it's never so homely.
みすぼらしくとも、我が家が一番
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「釜を盥《たらい》に代用するほど貧しく不便な生活をしていても、気楽に暮らせる自分の家が最高」という、自足清貧を尊ぶことわざ。似て非なるものが「住めば都」。すなわち「新しい所に住みついてみれば、そこに愛着が湧《わ》き、都にいるのと同じように、楽しく住み良くなる」の意である。
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【類諺】家《うち》[内《うち》]ほど良い所はない/故郷忘《ぼう》じ難し/鳥は古巣に帰る/住めば都(で花が咲く/の風が吹く)/地獄も棲家《すみか》
【英語】There's no place like home. 我が家にまさる所なし《中学唱歌『埴生《はにゆう》の宿』(土壁のあばら家)の原詩の一節》/East or west, home is best. どこへ行っても我が家が最高/Each bird likes his own nest best. どの鳥も自分の巣が一番好き/They that be in hell think there's no other heaven. 地獄の住人は、地獄以外に天国があるとは思わない
笑《わら》う門《かど》には福《ふく》来《きた》る
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Laugh and grow fat.
笑えば肥える
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笑うと呼吸器や腹筋が刺激されて体調を整え、爽快《そうかい》になる。笑顔の人の周りには人が集まり、おのずから幸福が訪れる。浮世草紙には「憎まれ子世にはばかるほどの富になるとはいへど、笑ふ門に福来るこそめでたけれ」(『好色《こうしよく》万金丹《まんきんたん》』)とあり、金が溜《た》まるだけが幸福ではないとも教えている。
英語には「笑えば儲《もう》かる」の含みがある。
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【類諺】笑う家へ福来る/かんしゃく貧乏/腹は立て損喧嘩《けんか》は仕損/短気は損気/和気財を生ず/笑いは人の薬/笑って損した者はなし
【英語】Laughter makes good blood. 笑いは良い血を作る/He who laughs lasts long. 笑う者には長命あり/A merry [light] heart lives long. 陽気な心を持てば、長生きのもと/Laughter is the best medicine. 笑いは最良の薬/Laugh and the world laughs with you; weep and you alone. 笑顔には世間も笑顔を返すが、泣き顔は嫌がられて一人ぼっち
5章
毀誉褒貶《きよほうへん》
非難・中傷・悪口
言行・沈黙・雷同
評価・判断・忠告
信念・決断・板挟み
噂・評判・名誉
好き嫌い
賞賛・自慢・煽《おだ》て
あちら立《た》てればこちらが立《た》たず
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One cannot be in two places at once.
人は同時に二つの場所にはいられない
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下《しも》句は「こちらが立たぬ」とも言い、更に続けて、「双方[両方]立てれば身が立たぬ」とも言う。一方への義理立ては他方への不義理となる。あるいは片方には良くない事をせざるをえない結果になる。つまり、両方とも立てることはできない状態に陥ってしまうこと。また無理して両方を満足させようとすれば、今度は自分の立つ瀬がなくなってしまう。
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【類諺】かなた[あなた]を祝えばこなたの怨《うら》み/田の事すれば畠《はたけ》が荒れる/頭押さえりゃ尻《しり》上がる/右を踏めば左が上がる/心は二つ身は一つ/二君に仕えるは難し/虻蜂《あぶはち》取らず
【英語】A door must be either shut or open. 扉は閉めるか開けるか一方しかできぬ/Like buckets in a well. 井戸のつるべのごとし《一方が上がれば他方は下がる》/No man can sup and blow at once. すするのと吹くのは同時にはできぬ
言《い》うは易《やす》く行《おこな》うは難《かた》し
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Easier said than done.
行うより言うはやすし
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中国・前漢《ぜんかん》時代の施策を論じた『塩鉄論《えんてつろん》』の一節「之《これ》を言うは易く、之を行うは難し」から来ている。政治・経済から個人の生活まで、何によらず意見・主張・批判・忠告などを発言することはできても、いざとなればその何分の一も実現できず、空言《くうげん》に終ることが多い。有言であれ不言であれ、実行することが大事。古今東西に共通することわざである。
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【類諺】有[不]言実行/話半分/話(だけで)は腹の足しにならぬ/口叩《たた》きの手足らず/口自慢の仕事下手《べ た》/口では(大阪の)城も建つ/大言壮語
【英語】Saying and doing are two things. 言うと行うは別のこと/From words to deeds is a great distance. 言うと行うとの間には遠い距離がある/Sooner said than done. 行うより言うは早くできる/Deeds, not words. 言葉ではなく、まず行動/Actions speak louder than words. 行為は言葉よりも声高に語る《言葉よりも行動の影響のほうが大きい》/Talk is cheap. 言は安し
いずれ(が)菖蒲《あやめ》か杜若《かきつばた》
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It makes no odds.
優劣付け難し
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源頼政《みなもとのよりまさ》は、化け物退治のほうびとして菖蒲《あやめの》前《まえ》を賜る際に十二人の美女の中から選べと言われ、「五月雨《さみだれ》に沢べのまこも水たへて何《いず》れあやめと引きぞ煩《わずら》ふ」と詠んだという(『太平記』)。『源平盛衰記《げんぺいじようすいき》』にもあるこの説話に因《ちな》み、甲乙付け難く、選択や評価に困る場合のたとえに用いる。歌の下《しも》句「何れあやめと……」だけを使うこともある。
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【類諺】伯仲《はくちゆう》の間《かん》=二難《になん》の誉《ほま》れ=兄《けい》たり難く弟《てい》たり難し《優劣の差なし》/瓜《うり》二つ/誰《たれ》か烏《からす》の雌雄を知らんや=闇《やみ》に烏《あまりに似通っていて判別し難い》/五十歩百歩(を笑う)
【英語】Two knaves well matched. がっぷり組んで譲らぬ悪党同士/The differences between Tweedledum and Tweedledee. そっくりさんのように違いがない/As like as two peas. 豆二粒のように似ている《=瓜二つ》/It is ill to drive black hogs in the dark. 暗闇の中では黒豚《ぶた》は追えない
一犬《いつけん》虚《きよ》[影《かげ》]に吠《ほ》ゆれば万犬《ばんけん》吠《ほ》ゆ
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One barking dog sets all the street barking.
犬が一匹吠えれば街中(の犬)が吠える
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犬が一匹何かにおびえて吠えると、それに応じて一万匹もの犬が吠え出すことにたとえて、一人がいい加減な事を言うと多くの人が広めて、事実として伝わってしまうことをいう。「万犬」は「十犬」「百犬」「千犬」「群犬」とさまざまに変わり、「虚」は「形《かたち》」とも言う。滝沢《たきざわ》馬琴《ばきん》の『椿説《ちんせつ》弓張月《ゆみはりづき》』には、「されば一犬形を吠えて群犬声に吠ゆるならひ」とある。
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【類諺】一犬虚[実]を吠ゆれば万[十/千]犬実[虚]を伝う《世間がでたらめに広める》/一鶏《いつけい》鳴けば万鶏《ばんけい》歌う/一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う/一人虚を伝うれば万人実を伝う/付和雷同
【英語】If one sheep leaps over the ditch, all the rest will follow. 羊《ひつじ》が一頭溝を飛び越せば、残りも全部ついて行く/One fool makes a hundred. 阿呆《あほう》が一人いれば、百人の阿呆を作る/One sheep follows another. 羊が一頭動けば、ほかの羊が後を追う《=付和雷同》
言《い》わぬが花《はな》
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Speech is silver, silence is golden.
弁舌は銀なり、沈黙は金《きん》なり
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言いたい事があっても口に出さないでいれば、物言わぬ花のように、知恵や奥床しさを秘めていると受け取られて良いという意。あけすけに言っては、身も蓋《ふた》もないのである。
英語の表現は、そのたとえの絶妙さで有名で、我が国でも下《しも》句が「沈黙は金なり」としてよく口にされる。
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【類諺】言わぬは言うに(いや)まさる/口に風邪をひかす/口をもって鼻とせよ/耳は大なるべく口は小なるべし/知る者は言わず言う者は知らず/言葉多きは品《しな》少なし/口は禍《わざわい》の門《かど》
【英語】Few words are best. 言葉少なきが最上/No wisdom to silence. 沈黙にまさる知恵はなし/Keep your mouth shut and your eyes open. 口は閉じておけ、目は開けておけ/Who knows most, speaks least. 多くを知る者は、言葉少なし/Least said, soonest mended. 言葉最少なれば、訂正は最速
馬《うま》の耳《みみ》に念仏《ねんぶつ》
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To sing psalms to a dead horse.
死に馬に賛美歌
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馬にいくら念仏を聞かせても、その有り難さが分からないので、まったくの無駄である。これにたとえて、有益な助言や意見を話して聞かせても、聞きっ放しのままで、いっこうに何の効き目もないことをいう。こちらの言葉が、相手の耳を風のように素通りしているごとく、何の手応《てごた》えもない、「どこ吹く風」の体《てい》なのである。
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【類諺】馬の耳にお経[三味線/屁《へ》]/馬の耳を渋《しぶ》団扇《うちわ》であおぐよう/放れ駒の耳に風/馬耳《ばじ》東風《とうふう》/馬の耳に風/柳に風/犬に論語[念仏]/猫[牛]にお経[石仏]/牛に対して琴を弾《だん》ず/蛙《かえる》の面《つら》に水[小便]
【英語】A nod is as good as a wink to a blind horse. 見えぬ馬には目くばせ同様に、うなずきも無意味/None so deaf as those who will not hear. 聞く気のない者が一番耳が遠い/To talk to the wind. 風に口をきく/To whistle for a wind. 風に口笛/Like water off a duck's back. あひるの背に水
売《う》り言葉《ことば》に買《か》い言葉《ことば》
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One ill word asks another.
悪口は悪口を呼ぶ
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昔の市《いち》では、商人達の、喧嘩《けんか》まがいの激しい応酬が見られたものである。これにたとえて、相手を挑発するような言葉が売り言葉、それを切り返す言葉が買い言葉である。悪口や罵倒《ばとう》語が発せられるあまり、暴力ざたにまでなって、嘲笑《ちようしよう》されることにもなりかねない。喧嘩を売るような言葉には、まず応じないことが大切である。
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【類諺】売りことば握りこぶしで買ひたがり《古川柳》/ああ言えばこう言う/買われた喧嘩は七分の損/茶碗《ちやわん》を投げば綿で抱えよ《強く出てきたら柔らかく受け止めよ》/一朝《いつちよう》の怒りに一生を過つ
【英語】If you call me scabbed, I'll call you scal'd. 俺《おれ》をかさぶたと言うなら、お前はしらくもだ/Bad words find bad acceptance. 悪口には悪口が返る/Better a good word than a battle. 喧嘩するより悪態をつかぬが良し/Whatever begun in anger ends in shame. 怒りに始まれば恥に終る
噂《うわさ》をすれば影《かげ》
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Speak of the devil, and he will appear.
悪魔の噂をすれば悪魔が現れる
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「影」は「影がさす」「影とやら」「主《ぬし》が来る」とも言う。噂をしていると、その当人がひょっこりと現れるものだという意で、陰口は慎むべしという戒め。噂の対象はたいてい身近な人だから、本人がその場に姿を見せる確率も高くなるのである。
英語では、噂の対象を悪魔や天使に見立てている所がユニークである。
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【類諺】謗《そし》れば影(がさす)/噂をするなら筵《むしろ》[ござ]を敷け《当人の席を用意しておけ》/呼ぶより謗れ《呼びたい時は謗るのが早い》/虎を談ずれば虎至り人を談ずれば人至る/噂をされるとくしゃみが出る
【英語】Talk of an angel and you'll hear his wings. 天使の噂をすれば、その翼の音が耳に入る/Speak of the wolf and you will see his tail. 狼《おおかみ》の噂をすれば、その尾が目に入る/The ears burn. 耳がほてる《誰《だれ》かが噂をしている》
傍《おか》[岡《おか》]目《め》八目《はちもく》
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Lookers-on see most of the game.
傍観者には勝敗が見える
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傍目は横から眺めること。囲碁を脇から見ていると八目も先の手が分かると言われるように、傍観者は利害にかかわらないので、当事者より冷静な観察・判断ができ、物事の真相が良く分かる。中国・前漢《ぜんかん》の『塩鉄論《えんてつろん》』に「旁観《ぼうかん》する者は審《つまび》らかにして、局に当たる者は迷う」とある。当事者も局外者も、客観的・大局的に見る目を養うべしという教えである。
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【類諺】傍観八目/他人の正目《まさめ》《利害関係のない他人は公正に観察》/傍観する者は審らかなり《傍観者は情勢を公平に見る》/十目《じゆうもく》の視《み》る所十手《じつしゆ》[十指《じつし》]の指《さ》す所《大勢の人が見て考えることに間違いはない》
【英語】Standers-by see more than players. 見物人は選手よりも先を読む/The outsider sees the best of the game. 傍らの人には勝負のゆくえが一番良く分かる/Dry light is the best. 公平[客観的]な見解こそ最善なり
煽《おだ》てと畚《もつこ》には乗《の》りやすい
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Fair words make fools fain.
阿呆《あほう》は甘言に喜ぶ
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畚とは、縄編みの網や筵《むしろ》の四隅に紐《ひも》を付けて棒を通し、二人で担ぐ運搬具。江戸時代には、死刑囚を畚に乗せて運んだ。煽てに乗って、相手の思惑どおりの馬鹿な事をしてしまうことのたとえ。「乗りやすい」は、「乗りたくない」「乗るな」とも言う。明治の社会啓発家であり、実業家でもあった渋沢栄一の家訓の一つに、「己《おのれ》に諂《へつら》う者を友とすべからず」がある。
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【類諺】煽てと畚に乗り手なし/煽てと畚には馬鹿が乗る/褒《ほ》める人には油断すな/煽ては皮ごと食う《煽てにすっかり乗る》/石車《いしぐるま》に乗っても口車に乗るな《石車は小石につまずいて転倒すること》/追従も世渡り
【英語】Men love to hear well of themselves. 褒められれば腹立たず/It is an old rat that won't eat cheese. チーズでも口を付けぬは古鼠《ねずみ》/We seldom find out that we are flattered. 人は煽てられているとはめったに気付かない/Flattery gets favor. お追従者は引き立てられる
己《おのれ》を責《せ》めて人《ひと》を責《せ》むるな
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Pardon all but thyself.
汝《なんじ》以外の全ての者を許せ
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徳川《とくがわ》家康《いえやす》の遺訓の一つとされるが、中国の『春秋左氏伝《しゆんじゆうさしでん》』に「己を修めて人を責めざれば、則《すなわ》ち難を免れん」とある。人を責めるよりは、まず自分を責めて反省せよという意。家康は人を褒《ほ》めることも少なかったが、家臣が主君の陰口を叩《たた》いてもめったに非難したり怒ったりしなかったという。直情的に責めて恨みを買ってはならないという教えでもある。
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【類諺】人を怨《うら》むより我が身を怨め/責一人《せめいちにん》に帰《き》す《失敗は指導者の責任》/善は則ち君《きみ》を称し過ちは則ち己を称す《良い事は人の行いとして褒め、過失は自分の責任とせよ》/人の短《たん》を道《い》うなかれ己の長を説くなかれ
【英語】Forget others' faults by remembering your own. 自分の過ちに思いを致して他人の過ちを忘れよ/Know your own faults before blaming others for theirs. 人の欠点を責める前に、己の欠点を知れ/The buck stops here. 責任はここにて止まる《全責任は我一人にある》
己《おのれ》をもって人《ひと》を量《はか》るな
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To measure another man's foot by one's own last.
自分の靴型で人の足を測《はか》る
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「人を量るな」は「人を量[度《はか》]る」とも言い、自分を基準にして人の気持ちや能力を推測してはいけないということ(上の英語および下掲英語欄の第一例も同意の比喩《ひゆ》表現)。往々にして己の卑しい欲やつまらぬ感情をもとにして、相手のことを邪推しがちである。本当に他人のことを知りたければ、己を捨てて虚心《きよしん》坦懐《たんかい》にならなければならない。自己という色《いろ》眼鏡《めがね》を外して、白紙の状態から始めるべきである。
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【類諺】下衆《げす》の勘繰り《卑しい者は何でも邪推する》/小人《しようじん》の心をもって君子《くんし》を量る=升《しよう》をもって石《こく》を量る《小物・凡人が大物を推し量る》
【英語】He measures another's corn by his bushel. 自分の枡《ます》で人の麦を量る/The thief thinks that everyone else is a thief. 盗人《ぬすつと》は他人も皆盗人だと思う/Men muse as they use. 自分の流儀で人のことに思いを巡らす
我田《がでん》引水《いんすい》
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Every man draws water to his own mill.
自分の水車小屋に水を引く
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稲作には水が命。日照りの時に、他所《よ そ》の田を無視して、自分の田にばかり水を引くように、万事、自分の都合の良いように取り計らうことのたとえ。「我が田へ水も八分目」は、自分勝手はほどほどに、という戒め。
米食民族にとっての「水田」と粉食民族にとって粉を挽《ひ》く「水車小屋」は、水と密接な関係にある、大事なものである。
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【類諺】我が田へ水を引く/我が仏《ほとけ》尊し/手前味噌《みそ》/牽強付会《けんきようふかい》《勝手なこじつけ》/我が太鼓を叩《たた》く/人の十難より我が一難《我が身が大事》
【英語】Every man likes his own thing best. 誰《だれ》でも一番のお気に入りは自分の物/Every potter praises his own pot. 陶工は皆自分の壺《つぼ》を褒《ほ》める/Never sound the trumpet of your own praise. 自賛のラッパは吹くなかれ/All his geese are swans. 自分の鵞鳥《がちよう》なら、みんな白鳥
壁《かべ》に耳《みみ》あり障子《しようじ》に目《め》あり
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Hedges have eyes and walls have ears.
垣に目あり、壁に耳あり
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略して「壁に耳」とも言う。どこで、誰《だれ》が、聞いたり見たりしているか分からぬという、密談の漏れやすさのたとえ。「壁に耳ありとて、抜き足して退出する」(『源平盛衰記《げんぺいじようすいき》』)、「壁に耳あり、おそろしおそろしとぞ」(『平家物語《へいけものがたり》』)など、武士が謀略に明け暮れした鎌倉時代以降、盛んに使われ始めた。
「壁」や「垣」、また「耳」や「目」など、日本語と英語で使われている比喩《ひゆ》に同じ言葉が多いのは、このことわざが普遍的である証拠と言えよう。
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【類諺】耳は壁を伝う/石[壁]の物言う世の中/垣に目口/石[天]に耳[口]/徳利に口あり鍋《なべ》に耳あり/藪《やぶ》に耳/天知る地知る(我知る)
【英語】Pitchers have ears. 水差しに耳[取っ手]あり/Fields have eyes, and woods have ears. 野に目あり、森に耳あり/The day has eyes, the night has ears. 昼に目あり、夜に耳あり
雁《がん》も鳩《はと》も食《く》わねば知《し》れぬ
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You may see by a bite what the bread is.
パンの出来は一口齧《かじ》れば分かる
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雁の肉か鳩の肉かは、食べてみなければ分からない。見た目に区別できなくても、口にすれば味の違いがはっきりする。これをたとえに、物事は経験してみなければ本当の所は判断できず、理解することもできない、という意に使われる。物知りといっても、受け売りの知識を自慢する知ったかぶりが案外と多いもので、間違いも少なくない。経験が全てではないが、実証的に物事を知るという態度が必要である。
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【類諺】雁も鳩も食うた者が知る/鯛《たい》も鮃《ひらめ》も食うた者が知る/食わざればその味を知らず/食わず嫌い/隣の餅《もち》も食ってみよ/畳《たたみ》の上の水練/人には添うてみよ馬には乗ってみよ/論より証拠
【英語】We know the sweet when we have tasted the bitter. 苦味を知って甘味が分かる/Knowledge without practice is nothing. 実践せざる知識は、無知も同然
棺《かん》を蓋《おお》いて(後《のち》)事《こと》定《さだ》まる
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Praise no man till he is dead.
人を褒《ほ》めるなら死んでから
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二とおりの意義がある。一つは、『晋書《しんじよ》』の「棺の蓋《ふた》を閉じて初めて人の真価が決まるゆえ、死ぬまでは判断を下せぬ」という意。もう一つは杜甫《とほ》の詩にある「死ねば物事が終ってしまい、変えることができないが、生きている間ならどうにでもできる」という意である。死と生のどちらに重点を置くかで解釈が異なるが、棺の蓋を閉じてからその人の事業や行いの評価をすべきだという点では同じである。
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【類諺】百年論定まる《真の評価・判断には時間がかかる》/焼け跡は立つとも死に跡は立たぬ《死んだらおしまい》/人は一代名は末代
【英語】A man is not good or bad for one action. 人の善悪は一事のみにては測《はか》れず/Call no man happy till he is dead. 人の生きている間は、幸せ者だとは言うな《いつまた不幸に遭うかもしれぬ》/Time tries all things. 時が万事を試す
聞《き》くと見《み》るとは大違《おおちが》い
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Expectation is better than realization.
実現した時より、期待している時がまし
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聞いて想像していた事と、実際に見た事とでは、大きな違いがあるという意。話には誇張も入り、聞き手も自分の好みや都合の良いように解釈しがちである。「名物に旨《うま》い物なし」も、想像していた味と実際のそれとが違うからである。雑誌で紹介された店に行って、がっかりするのもよくある例。見合いの相手も、会うまでは仲人《なこうど》口を信用できない。
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【類諺】聞いて極楽見て地獄/聞いてびっくり見てびっくり/聞いて千金見て一毛《いちもう》/来て見れば聞くより低し[さほどでもなし]富士の山/見ぬうちが花/夜目《よめ》遠目《とおめ》傘《かさ》の内《うち》/百聞は一見にしかず
【英語】Distance lends enchantment to the view. 景色は遠くから眺めるほうが魅力的/Blue are the faraway hills. = Hills look green far away. 遠くの山はみんな青く見える/Far fowls have fair feathers. 遠くの鳥の羽根は美しい
雉《きじ》[雉子《き じ》]も鳴《な》かずば撃《う》たれまい
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Let not your tongue cut your throat.
おしゃべりしすぎて喉《のど》を切られるな
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雉の鳴き声は甲高《かんだか》く特徴があるので、草藪《くさやぶ》の中にいても、鳴けばすぐに所在が知れて猟師に撃たれてしまう。必要のない発言を不用意にして、自ら禍《わざわい》を招き寄せることをいう。摂津《せつつ》の国(大阪)の長柄《ながら》川《がわ》に架ける橋の人柱《ひとばしら》にされた長者の娘が詠んだという「物言へば父は長柄の人柱鳴かずば雉子《き じ》もとられざらまし」の歌からと言われている。
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【類諺】鳥も鳴かずば撃たれまい/鳴く虫は捕《と》らる/蛙《かえる》は口から[口ゆえ]呑《の》まる《鳴く蛙は蛇に見つかり呑まれる》/口は禍の門《かど》/寝ていて転《ころ》んだ例《ためし》なし/出る杭《くい》[釘《くぎ》]は打たれる
【英語】Never rode, never fell. 馬には乗らねば落ちるまい/Silence seldom does harm. 黙っていれば害はなし/It is better to sit still than to rise to fall. 起きて転んだりするよりも、座ったままでいるがまし
口《くち》に蜜《みつ》あり腹《はら》に剣《けん》あり
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A honey tongue, a heart of gall.
舌は蜜でも、心は苦い胆汁
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中国は唐の玄宗《げんそう》の宰相・李林甫《りりんぽ》は、表面は穏健柔和だが、心は冷酷で腹黒く、皇帝の信任を得ていた人達を、次々と策謀で排除していったため、後に「林甫は、口に蜜あり腹に剣あり」(『唐書《とうじよ》』)と評された。このように、口では甘く優しいことを言いながら、内心では斬《き》り捨ててしまおうと企《たくら》む陰険な人、猫を被《かぶ》った毒蛇のような人物のことをいう。
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【類諺】口と腹(と違う)/口と腹とは砥石《といし》の裏表《表は滑らかだが裏は粗い》/口と心は裏表/口は口心は心/笑中《しようちゆう》に刀《とう》あり=笑みの中に刃《やいば》/奥歯に剣/面従《めんじゆう》腹背《ふくはい》/胸[腹]に一物《いちもつ》(手[背]に二[荷]物)/餌《え》の中《うち》に針
【英語】God in his tongue, and the devil in his heart. 舌[口]に神を唱え、心に悪魔を宿す/The sting is in the tail. (蜜蜂《みつばち》の)尾に針あり/The bait hides the hook. 餌に針あり/Full of courtesy, full of craft. 口にはお世辞、腹には悪知恵
口《くち》は禍《わざわい》の門《かど》
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Out of the mouth comes evil.
禍は口から
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「門《かど》」は「門《もん》」「元《もと》」とも言う。中国・南宋時代の詩の一節「口は是《こ》れ禍の門、舌は是れ身を斬《き》る刀」によるもの。たとえ善意で言った事でも、誤解されて、思いもかけないトラブルに発展することがよくある。不注意な発言は、なおさら災難を招く原因となる。禍を呼ぶ元は「舌」でもあるところから、「舌禍《ぜつか》を招く」「舌禍事件」などと転用もされる。
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【類諺】舌は禍の根/口は善悪の門《かど》/口の虎は身を破り舌の剣《つるぎ》は命を絶つ《言いようが悪いと身を滅ぼす》/口はもって食うべしもって言うべからず《口を慎め》/三寸の舌に五尺の身を亡《ほろ》ぼす/言わぬが花
【英語】Talk much, and err much. 口数多ければ過ち多し/Better the foot slip than the tongue. 足を滑らすほうが舌を滑らすよりまし/He who speaks much of others burns his tongue. 人の噂《うわさ》をしすぎると舌をやけどする/Words cut more than swords. 言葉は剣より切れる《人を傷付ける》
君子《くんし》は九度《くたび》思《おも》いて一度《ひとたび》言《い》う
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The wise man has long ears and a short tongue.
賢者の耳は長く舌は短い
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君子は口数が少ない。九度も考えてから発言するからだ。英語のことわざも、「人の言はよく聞き、口数は少ない」の意。『論語』は「君子に九思《きゆうし》有り」として、「視《み》る時は明瞭に、聴く時は聡《さと》く、顔は温和に、態度は恭《うやうや》しく、言葉は誠実に、仕事は慎重に、疑いは問うて解決し、怒りで面倒を起こさず、利を得る時は道義に照らす」を挙げ、このような態度で物事に対処すれば判断を誤らなくなる、と説く。
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【類諺】君子は口を惜しみ虎豹《こひよう》は爪を惜しむ/三度《みたび》思い[三思《さんし》し]て後《のち》これを行う/念慮[思慮]は知の道/馬鹿ほど言いたがる/熟慮断行
【英語】A wise man thinks twice before he speaks. 賢者は二度考えて一度言う/Wise men silent, fools talk. 賢者は口重く愚者は口軽なり/Think more and talk less. 多思少弁/Think and then do. 熟慮して後《のち》行うべし
毛《け》を吹《ふ》いて疵《きず》を求《もと》む
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Search not a wound too deep, lest thou make a new one.
傷を探りすぎると新たな傷を作る
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出典は中国の『韓非子《かんぴし》』の「毛を吹きて小疵《しようし》を求めず」で、動物の体毛を吹き分けて、体の見えない面にある古傷を探そうとすること。これにたとえて、人の欠点や隠し事を無理やり暴《あば》こうとして追及することをいう。嫌味な性格の人物を指しているが、このように人の過去を暴こうとして、かえって自分の悪性《あくせい》や悪事が露顕してしまう場合にも用いられる。「求む」は「求むる」「もうける」「取る」とも言う。
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【類諺】吹毛《すいもう》の咎《とが》め/毛を披《ひら》いて疵を求む/垢《あか》を洗いて痕《あと》を求む/藪《やぶ》を突《つつ》いて蛇を出す/叩《たた》けば埃《ほこり》が出る/ろくでなしが人の陰言《かげごと》
【英語】He finds fault with others and does worse himself. 他人の過失を指弾しながら、自分はもっと悪い事をする/To pick holes in a man's coat. 人の服に穴を捜す《粗《あら》捜しをする》/Rip not up old sores. 古傷はかきむしるな
言《げん》[言葉《ことば》]は身《み》の文《あや》
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Speech is the picture of the mind.
言葉は心を写す絵なり
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言葉は、使う人の品格を表すものだという意。品のある言葉を用いれば、品格の備わった人物として評価されるようになる。しかし、「言葉多きは品《しな》少なし」で、しゃべりすぎると「多弁能なし」と蔑《さげす》まれるのが落ちである。文《あや》には飾る意味もあるが、言葉の上っつらを細工しても、心がないと駄目である。
西欧では「文《ぶん》は人なり」と言うが、美辞《びじ》麗句《れいく》を並べ立てただけでは、文《ぶん》とは認められない。
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【類諺】言葉[詞《ことば》]はこころの使い/言《こと》[言葉]は立ち居を顕《あらわ》[表]す/人は詞で試み金は火で試みる
【英語】A bird is known by its note, and a man by his talk. 鳥はその鳴き声で分かり、人はその言葉で分かる/Speech shows what a man is. 言葉は人の何たるかを示す証《あかし》/The style is the man. 文(体)は人なり
高《こう》[喬《きよう》]木《ぼく》(は)風《かぜ》に折《お》らる
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Tall trees catch much wind.
高木に風強し
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喬木は高木の旧称。ことわざの中では「他より抜きん出て高い木」を指す。高木には風当たりが激しく、ついには吹き折られてしまう。たとえて、高い地位にあったり並外れて優れている人には、周囲やライバルのやっかみから批判が厳しく、やがて失脚してしまうこともある、という教訓である。
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【類諺】大木[高木]風に嫉《ねた》まる/出る杭《くい》[釘《くぎ》]は打たれる/桂馬《けいま》の高飛び[高上がり]歩《ふ》の餌食《えじき》《出すぎると失敗》/人に三怨《おん》あり《栄誉・地位・財産持ちは怨《うら》まれる》/誉《ほま》れは謗《そし》りの基《もとい》/吠《ほ》える犬は打たれる/高名の中に不覚あり《得意絶頂時に失敗の種を宿す》
【英語】High regions are never without storms. 高地には嵐絶えず/He is not safe that's got too high. あまりの高所に達すると安座できぬ/The highest tree has the greatest fall. 一番の高木は倒れ方も大振り/The post of honor is the post of danger. 栄光の座は危険の座
五十歩百歩《ごじつぽひやつぽ》(を笑《わら》う)
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The pot calls the kettle black.
鍋《なべ》が薬罐《やかん》を黒いと呼ぶ
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孟子《もうし》が梁《りよう》の王に、「隣国より善政をしているのに、なぜ民が増えないのか」と問われて、「戦いで五十歩後退した者が、百歩後退した者を臆病《おくびよう》だと笑っても、逃げた点では同じである。梁の善政といっても、隣国とたいして違いがない」と答えた故事による。自慢できない点ではどっちもどっち、大同小異で本質的に差のない物事同士を皮肉るたとえ。
日本語と英語の表現も、まさに「大同小異」である。
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【類諺】目糞《めくそ》鼻糞《はなくそ》(を笑う)/腐れ柿が熟柿《じゆくし》を笑う/胡麻《ごま》と芥子《けし》が大小を争う/団栗《どんぐり》の背《せい》比べ/猿の尻《しり》笑い《赤尻の猿が他の猿の赤尻を笑う》
【英語】Six of one and half a dozen of the other. 甲の六と乙の半ダース/One false knave accuses another. 無法者が無法者をけなす/The devil rebukes sin. 悪魔が罪を非難する/A miss is as good as a mile. 少しの外れでも、外れは外れ
三人寄《さんにんよ》れば公界《くがい》
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Three are too many to keep a secret.
三人でも秘密保持には多すぎる
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人が三人集まると公的な場になるという意。このことから、三人いるだけでも事を秘密にするのは困難で、漏れてしまうものだと説いている。公界とは世間のこと。法律上の「公衆の場での名誉棄損」の公衆は、数人以上のことだから、噂《うわさ》も慎重に。なお、「棄損」は刑法の条文では「毀損《きそん》」と表記される。
日本語でも英語でも、秘密を守る限界が三人、という共通点が面白い。
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【類諺】三人寄れば人中《ひとなか》/三人知れば世界中/一人言えば三人聞く/十人寄れば十里の事/囁《ささや》き千里[八町]/人[世間]の口に戸は立てられぬ
【英語】It is no secret that is known to three. 三人に知られれば秘密でなくなる/A secret shared is no secret. 秘密を分かちあえば秘密でなくなる/Words have wings, and cannot be recalled. 翼《つばさ》のある言葉は呼び戻せない
鹿《しか》を追《お》う者《もの》[猟師《りようし》]は山《やま》を見《み》ず
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You cannot see the wood for the trees.
木を見て森を見ず
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細部にとらわれて、全体を見失ってしまうこと。人はとかく目先の事や欲に気を奪われて、大局的に見ることを怠りがちになる。枝を見ては、幹を忘れ、葉を見ては、枝を忘れる、という具合である。山に慣れた猟師でも、標的の鹿に気を取られすぎると、深い谷に迷い込むことがある。
なお、「木を見て森を見ず」は明治期に翻訳輸入されたと言われるが、外来ものの意識なしで使っている人も多い。
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【類諺】獣を追う者は太山《たいざん》を見ず/金を掴《つか》む者は人を見ず/毛に謹《つつし》みて貌《かたち》を失う《細事にこだわって大事を見落とす》/心ここにあらざれば視《み》れども見えず《上の空》/欲に目見えず/欲に目がくらむ/本末転倒
【英語】You cannot see the city for the houses. 家を見て町を見ず/None (are) so blind as those who won't see. 見る気のない者ほど物が見えない
死屍《しし》を鞭打《むちう》つ
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Never speak ill [Speak well] of the dead.
死者をけなすなかれ
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「恨みを晴らすために、墓から死体を掘り出して鞭打った」という、『史記』にある故事から来ている。死者は名誉を傷付けられても何一つ反論できないので、非難したり、罪をなすりつける行為は卑劣で、避けるべきものだとされる。「死屍」は「死者」とも言い、また「死屍に鞭」とも略す。
英語の表現は、古代ギリシア時代からあるものの翻訳転来。
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【類諺】死んだ[伏せる]牛に芥《あくた》《死者にゴミのように汚名をかぶせる》/死人に妄語《もうご》《無実の罪を着せる》/溺《おぼ》れる者の足を引く/犬の糞《くそ》で敵《かたき》を討つ[取る]《卑劣な手段で報復する》
【英語】Never hit [kick] a man when he's down and out. 倒れ果てている者は打つな/Death pays all debts. 死は全ての負債を清算する《死者は勘弁してやれ》/Pour not water on a drowned mouse [rat]. 溺れる鼠《ねずみ》には水をかけるな
十人《じゆうにん》十色《といろ》
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So many men, so many minds.
人の数だけ心あり
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十人いれば、好みや考えはそれぞれ違うもの、という意。和を尊ぶあまり、右へ倣《なら》え式に、みんなが同じ事をするように強いる風潮があるなかでは、貴重なことわざである。会議においても、異見・異論は、とかく白眼視されがちだが、創造力の土壌たる個性・独自性を認めないところには発展性がないことを、肝《きも》に銘ずべきである。
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【類諺】十人十心《とごころ》/十人寄れば十国《とくに》の者/蓼《たで》食う虫も好き好き《辛い蓼でも好む虫あり》/入船あれば出船あり/人の心は面《おもて》のごとし《顔が違うように心も様々》/人の心は九分《くぶ》十分《じゆうぶ》《人の考えは似たり寄ったり》
【英語】Every man has his humor. 気性は各人各様/Every man has his delight. 人それぞれに楽しみあり/One man's meat is another man's poison. 甲の肉は乙には毒=Every man to his taste. 各人に好みあり=Tastes differ. 好みは様々/There is no accounting for tastes. 人の好みは説明できぬ
過《す》ぎたるはなお及《およ》ばざるがごとし
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Go farther and fare worse.
行きすぎれば悪くなる
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孔子が弟子達の優劣を評した際の言葉である(「なお」は略すことも多い)。物事には程度があり、度がすぎれば、不足しているのと同様に良くない、何事もほどほどの「中庸」にせよという教え。自分の能力の範囲や限界などを、ふだんから良くわきまえておき、自己コントロールができるようにしておくことが肝要である。
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【類諺】過ぎたるは及ばざるにしかず/薬も過ぎれば毒となる/念の過ぐるは不念《ぶねん》《極端な用心は不用心に通ず》/十分はこぼれる/選《よ》れば選り屑=選んで糟《かす》を掴《つか》む/信心過ぎて極楽通り越す
【英語】Moderation in all things. 万事に中庸/More than enough is too much. 足るより多いは多すぎる/Too much taking heed is loss. 用心のしすぎは損を招く/The last drop makes the cup run over. 最後の一滴が、コップを溢《あふ》れさせる/Too much breaks the bag. 袋は入れすぎると破れる
大吉《だいきち》は凶《きよう》に還《かえ》る
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Great fortune brings with it great misfortune.
大運は大難をもたらす
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おみくじで大吉を引いた時、凶に転じないようにと祈ることがあり、それを反映したことわざ。大吉のように幸運すぎると、かえって凶という不運に戻る、という意。易《えき》の「陽の卦《け》が極限になると陰の卦になる」という思想によると言われている。幸運時にはとかく有頂天になって油断をし、災難や失策の種を孕《はら》みがちになるから要注意である。
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【類諺】満は損を招く《完全な状態になれば不都合が生ずる》/満つれば欠くる世の習い/物盛ん[盛り]なる時は衰う/陽極《きわ》まりて陰生ず/寸善尺魔《すんぜんしやくま》《小吉の後に大凶あり》/陰極まりて陽生ず
【英語】The best is the enemy of the good. 最善は善の敵なり/Too far east is west. 東へ東へと行けば西になる/Extremes meet. 両極端は一致する/Things at the worst will mend. 最悪の事態に至れば、後は好転
忠言《ちゆうげん》(は)耳《みみ》に逆《さか》らう
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Advice when most needed is least heeded.
忠告は最も必要な時に一番無視される
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『孔子家語《こうしけご》』『漢書《かんじよ》』『史記』『韓非子《かんぴし》』など、中国の多くの書で述べられている。日本の『曽我物語《そがものがたり》』にも、「げにや忠言は耳にさかふ習ひ」とある。とかく忠告というものは、有り難くないものとして聞く者の耳に痛く、素直には聞き入れられないものである。昔の武士は死を覚悟して主君に諫言《かんげん》したものだが、現代では助言という耳当たりの柔らかい表現が好まれる。「忠言」は「金言」「諫言」とも言う。
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【類諺】良薬(は)口に苦し/忠は憎《にく》みのもと/至言は耳に逆らい心に倒す/苦言は薬《くすり》なり甘言は疾《やまい》なり/薬の灸《きゆう》は身に熱く毒の酒は甘い
【英語】Bitter pills may have blessed effects. 苦い薬には霊験《れいげん》あり/Truth finds foes where it makes none. 真実は敵を求めずして敵が出来る/He that will not be counseled cannot be helped. 忠告を受けたがらぬ者は救い難し
灯台《とうだい》下暗《もとくら》し
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It is always dark just under a lamp.
ランプの真下はいつも暗い
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ここで言う灯台は、航路のための灯台ではなく、ろうそくをのせた燭台《しよくだい》のことである。灯台は周囲を照らすが、その下《した》は暗い。同様に人の眼にも死角《しかく》があり、手近な事は見すごしがちになり、事情が分からないことをいう。
英語は、アラビアのことわざが起源と言われる。
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【類諺】提灯《ちようちん》持ち足下《あしもと》暗し/家《うち》の中の盗人《ぬすつと》は捕まらぬ/秘事は睫《まつげ》《秘め事は意外に近くにある》/己《おのれ》の瞼《まぶた》[睫]は見えぬ/背《せな》の[負うた]子を三年探す/牛に乗りて牛を尋ぬる/ろばに乗りてろばを求む
【英語】To go into the country to hear what news in town. 田舎《いなか》へ行って町の出来事を聞く/The butcher looked for his knife, when he had it in his mouth. 肉屋が口にくわえたナイフを探した/Much water goes by the mill the miller knows not of. 粉挽《ひ》き屋の脇を粉挽き屋の知らぬ水が流れる
問《と》うに落《お》ちず語《かた》るに落《お》ちる
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The tongue ever turns to the aching tooth.
舌はついつい痛む歯へ向かう
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人に問われても用心して話さない秘密でも、自ら夢中で話しているうちに、うっかり口にしてしまう。話に興が乗ってくると、相手に喜んでもらおう、真実を知ってもらおうという気が起こってくる。人間の告白衝動という心理を穿《うが》ったことわざである。単に「語るに落ちる」とも言う。
英語の「舌は……」は、「触れたくない急所・心配事でも、知らぬ間についつい気が向いてしまう」ことのたとえ。
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【類諺】奥を問うより口を問え《問わず語りの言葉から秘密を察する》/地蔵[俺《おれ》]は言わぬが我《われ》言うな《人に口止めしながら自分はふと漏らす》
【英語】If you would know secrets, look for them in grief or pleasure. 人の秘密を知りたければ、悲嘆か喜びのさなかを狙《ねら》うべし《本音が出やすいから》/There is nothing hidden that will not be revealed. 隠し事はいずれは露顕する
泥《どろ》を打《う》てば面《つら》へ跳《は》ねる
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Throw a stone in the mud and it splashes in your face.
泥に石を投げれば顔に跳ね飛ぶ
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泥を棒で叩《たた》けば、跳ねて自分の顔に掛かるように、人を害したり、困らせたりすれば、自分に報いが返ってくるという意。江戸期の洒落《しやれ》本《ぼん》に「ことわざに泥を打っては顔へはねると云ひ、泥棒を捕へて見れば我子なりと云ふ」とある。自分でした事には自分で決着を付けよということである。
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【類諺】仰いで唾《つば》吐く/天に唾する/因果応報/因果と影法師は付いて離れず/汝《なんじ》に出ずるものは汝に還《かえ》る/自業自得/悪事身に止まる[還る]/人を呪《のろ》わば穴二つ/身から出た錆《さび》
【英語】Spit not against heaven, it will fall back in thy face. 天に唾するな、吐けば己《おのれ》の顔に落ちて来る/He that blows in the dust fills his own eyes with it. 埃《ほこり》の中で息を吐き出せば、埃が一杯目に入る/What goes around, comes around. 身から出て、回り回って身に還る
七度《ななたび》尋《たず》ねて人《ひと》を疑《うたが》え
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Measure thrice, and cut it once.
三度測って一度裁て
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物をなくしたら七度は心当たりを探し、それでも発見できなければ人を疑えという意。昔は鼠《ねずみ》などが天井裏や縁の下に物を引いて行くことが多かった。また人間は勘違いをしがちであるから、軽率に人を疑ったり性急な行為・判断をするのは良くないとの教訓。だが、何度調べたりすれば良いかの基準などはない。結局、「念には念を入れよ」である。
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【類諺】七日[三度/千遍/十遍]探して[尋ねて]人を疑え/知れずは煤《すす》掃きまで待て《紛失物も大掃除には出てくる》/詮索物《せんさくもの》目の前にあり《身近に気付かず》/急《せ》いては事を仕損じる
【英語】Score twice before you cut once. 二度刻み印を付けてから一度裁て/Don't throw the baby out with the bathwater. 風呂水と一緒に、赤ん坊を流すな《あわてると、大事を忘れる》/Second thoughts are best. 二度目の考えが最良
懇《ねんご》ろ倒《だお》し
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Too much praise is a burden.
褒《ほ》められすぎれば重荷になる
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「懇ろ」は人や物を大事に扱うこと。人に親切にして、かえってその人を駄目にしたり、損害を与えてしまうことをいう。面倒を見続けると、甘えや過保護の弊害を生じさせてしまう。また、時には干渉することで相手の自立心を損ね、挙句のはては、無気力者、無能力者にもしかねないのである。より露骨な言い方として「褒め殺し」がある。
英語欄のプディングは、ここでは菓子ではなく腸詰め《ソーセージ》。
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【類諺】ひいきの引き倒し/褒めらるる身の持ちにくさ/親方思いの主《あるじ》倒し《主人に良かれとしたことが悪結果を招く》/情けが仇《あだ》《同情が害になる》/親切尽《づ》くが苦労の種《親切にされすぎて有り難迷惑》
【英語】Great honors are great burdens. 大きい名誉は大きい荷/To kill with kindness. 親切が仇/Too much pudding will choke a dog. 腸詰めを食わせすぎれば、犬はのどを詰まらせる
話《はなし》に尾鰭《おひれ》(が付《つ》く)
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A tale never loses in the telling.
話は伝えられるにつれて大きくなる
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「尾鰭を付ける」「尾鰭を添える」とも言う。魚料理の見栄えを良くするために尾や鰭を添えるように、元の話にはない事柄を付け加えて話を潤色する意。江戸狂歌に「尾に鰭の添ふる小歌の一ふしを申さば鯖《さば》のさし踊り哉《かな》」とある。話を面白くして相手の関心を引こうと誇張したり、場面や登場人物を創作するのは人の常。面白すぎる話は「眉《まゆ》に唾《つば》」である。
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【類諺】尾に鰭[尾]を付ける/話半分腹八分[嘘《うそ》半分]/人の噂《うわさ》は倍になる/白髪《はくはつ》三千丈《さんぜんじよう》/針ほどのことを棒ほどに言う=針小棒大/法螺《ほら》とらっぱは大きく吹け/輪に輪をかける《誇張の上にも誇張する》
【英語】Gossiping and lying go together. 噂話と嘘は、同行する/News, like a snowball, is more by telling. 噂は伝わるたびに雪玉のようにふくらんでゆく/"They say so," is half a lie. 「これこれの噂だ」というやつは、半ば嘘
人《ひと》の一寸《いつすん》我《わ》が一尺《いつしやく》
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Men are blind in their own cause.
人は己《おのれ》のことには目が見えず
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一寸も一尺も欠点・短所のたとえで、一尺は一寸の十倍。人の小さい欠点は目に入るが、自分の大きな欠点には気付かない、という意。人に厳しく自分に甘い態度では、自他の能力や成績を冷静に評価できず、指導・監督役には不向きである。
類諺《るいげん》欄と英語欄の最後のものは、上品さに欠けるものの、視点が同じで興味深い。
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【類諺】我《わ》が身の上は見えぬ/人の七難我が八[十]難《自分の難点は見えず》/人の針ほど(は見えるが)我が棒ほど(は見えぬ)/我が事棚の上《自分の問題点は隠す》/我が身の臭さ我知らず/我が糞《くそ》は臭くない
【英語】In an enemy, spots are seen. ライバルの粗《あら》は、目に付く/Nobody is willing to acknowledge he is in fault. 誰《だれ》でも己の欠点は認めたがらぬ/Every one thinks his own fart smells sweet. 自分の屁《へ》はいい匂い
人《ひと》の噂《うわさ》も七十五日《しちじゆうごにち》
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A wonder lasts but nine days.
驚き話も九日間しか続かない
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噂というものは、どんなに評判になっても、七十五日もたてば自然に忘れられていく、という意。世間には次々に新しい噂の種が登場し、かつ人は飽きやすい。あらぬ噂を立てられて困っても、遠からず人は口にしなくなる。
なお、噂などが立ち消えになる期間が、日本語では七十五日、英語では九日、という表現の違いから、日本人のほうが噂好き、 と判断するのは早計である。 「七十五」という数については、「物には七十五度《しちじゆうごたび》」の項を参照。
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【類諺】人の上も百日/良きも悪《あ》しきも七十五日/世の取り沙汰《ざた》も七十五日/流言は知者に止《とど》まる《賢者は口が重く、噂などは伝え広めない》
【英語】Wonder lasts but nine nights in a town. 町中では不思議な事でも九夜しかもたぬ/A wise head makes a close mouth. 賢者の頭は、口を貝にする《噂などは口にしない》
人《ひと》[世間《せけん》]の口《くち》に戸《と》は立《た》てられぬ
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Who can hold men's tongue?
人の舌は抑えられぬ
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人の口は、戸を立てて塞《ふさ》げないため、世間の噂《うわさ》やどんなに内密にしておきたい事でも、つい口から口へと伝わって行くものである。漏れて困る事は「口」にしないのが、秘密を守る一番確実な方法である。この「秘密の漏れ口」は、日本語では文字どおり「口」だが、英語では「舌」で表すことも多い。
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【類諺】下種《げす》[下臈《げろう》]の口に戸は立てられぬ《卑しい連中から漏れる》/下臈は口さがないもの/開いた口に戸は立たぬ/吐いた唾《つば》は呑《の》めぬ/口から出れば世間《すぐに広まる》/口に関所なし/三人寄れば公界《くがい》
【英語】We cannot control the tongues of others. 人の舌は止められぬ/Fools cannot hold their tongues. 阿呆《あほう》の舌は抑えられぬ/Gossips and frogs drink and talk. 噂好きと蛙《かえる》は、飲んでしゃべりまくる/A word spoken cannot be called back. 出した言葉は取り戻せぬ/A word once out flies everywhere abroad. 一度発した言葉は、四方八方へ飛んで行く
人《ひと》の振《ふ》り見《み》て我《わ》が振《ふ》り直《なお》せ
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Learn from the mistakes of others.
人の過ちから学ぶべし
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人の言動の良し悪《あ》しをよく見て自分への反省に生かせ、という意。浄瑠璃《じようるり》の『本朝二十四孝《ほんちようにじゆうしこう》』に、「人のふり見て我がふり直すが第一の伝授事」とあり、「誰《だれ》からでも学ぶ」という姿勢が大事である。なお「学ぶ」は、ほかのものに似せるだけの「まねる」ことではない。学ぶとは、自分独自のものも身に付けようという創造的な行為だからこそ、価値がある。
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【類諺】人の上見て我が身を思え/他山の石(とする)《他人の失敗でも自分の役に立たせる》/前車の覆《くつがえ》るは後車の戒め《先人の失敗は後人の教訓》/人こそ人の鏡/人中《ひとなか》が薬《他人と交わって経験を積む》
【英語】Learn wisdom by the follies of others. 人の愚行を見て賢くなれ/One man's fault is another man's lesson. 人の失敗は他者の教訓/Let another's shipwreck be your seamark. 難破船に遭ったなら、己《おのれ》の航路標識とせよ《危険が知れる》
人《ひと》は一代《いちだい》名《な》は末代《まつだい》
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Fame is longer than life.
名声は命より長生き
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人の体は一代で滅びるが、名は末《すえ》の世まで残るものである。後世にまで名が伝えられ、子孫が誇りを持って生きていけるような、立派な生き方をせよ、という教えである。もちろん、先祖が立派であっても、子孫がろくでなしで、先祖の名を汚すようでは、何にもならない。子孫に残すべきものの中には、良き生き方への指導も含まれよう。
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【類諺】身[家]は一代名は末代/骨は朽ちても名は朽ちぬ/虎は死して皮を留《とど》め人は死して名を残す/人は名を惜しみ虎は毛を惜しむ/功成り名遂げて身退く/芳名を後世に流す/弓矢取る身は名こそ惜しけれ
【英語】True fame never dies. 真の盛名は死なず/A good name will shine forever. 功名は永久に輝く/Worthy men shall be remembered. 立派な人は記憶に残る/A good name is better than riches. 令名は富にまさる/Good men must die, but death cannot kill their names. 善人死すとも、名は不滅
人《ひと》は故郷《こきよう》を離《はな》れて貴《たつと》し
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No man is a prophet in his own country.
予言者は故郷に入れられず
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ほかの土地で成功しても故郷では尊敬され難いという意。出世した人物でも郷里の人には「昔はたいしたことはなかった」というやっかみが伴いがちである。しかしまた、同郷人は「幼なじみとして平等だ」という人間的判断から偉くなった人を別格扱いはしないという解釈もある。
英語は、新約聖書のルカによる福音書に由来する。なお、「神の言葉を伝える」という意味では、「預言(者)」と表記する。
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【類諺】遠きは花の香《か》《遠くにあるほどよく思われる》/近くの坊さん偉くない=所の神様有り難からず《知りすぎていて有り難みがない》
【英語】Respect is greater from a distance. 離れてみれば、尊敬がいや増す/No man is a hero to his valet. 英雄も、家来の目にはただの人/Good men find not their country kind. 秀でた人物は、郷里の冷たさを悟る
人《ひと》は詞《ことば》で試《こころ》み金《かね》は火《ひ》で試《こころ》みる
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A man is known by his words.
人は言葉で知れる
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金属類の性質は、火力を加えてみれば分かり、人の性質は、話をさせてみれば判断できるものであるという意。江戸の小咄《こばなし》集『醒睡笑《せいすいしよう》』にも、「詞《ことば》はこころの使い」とあるように、人の内心は、語る言葉に自然と表れ、性格も知れてくる。いくら言葉で取り繕《つくろ》ったり、自分を飾ってみても、人の本性は、容易に見抜かれているものである。
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【類諺】金《かね》は火で試み人は酒で試みる《酒に酔わせて本音を吐かせる》/人の思惑一言《いちげん》に知る/牛は角を見て買い人は言を聞きて用《もち》う/口の利《き》きようでお里が知れる《育ちが分かる》/言《げん》[言葉]は身の文《あや》
【英語】Gold is tested by fire, men by gold. 黄金は火で試され、人は金で試される/As the man is, so is his talk. 人のありようは、その言葉に表れる/By their words we know fools, and asses by their ears. 阿呆《あほう》は言葉で、ろばは耳で知れる/There is truth in wine. 酒を飲めば真実が出る
人《ひと》は見掛《みか》け[上辺《うわべ》]に拠《よ》らぬもの
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Appearances are deceptive.
外見は当てにならぬ
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人の性質・善悪・能力などは、外側だけでは分からない。本音を見抜くのはさらに難しい。榎本《えのもと》[宝井《たからい》]其角《きかく》の有名な句「あの声で〓《とかげ》食らふかほとゝぎす」では、美声の鳥が、ほかの小鳥が食わぬ不気味な蜥蜴《とかげ》まで食うことに驚いている。「美女の正体見たり」である。まして利害の絡《から》む取引ともなれば、「顔と心は裏表」、相手の見掛けには用心の上にも用心。
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【類諺】馬と武士は見掛けに拠らぬ/蛇食うと聞けば恐ろし雉子《き じ》の声/内劣りの外めでた=見掛け倒し/見掛けだけの空《から》大名《貧乏大名の空威張り》/鬼の空念仏《そらねんぶつ》《見せ掛けの偽信心》/頭剃《そ》るより心を剃れ
【英語】Things are seldom what they seem. 見掛けどおりの物はめったになし/All that glitters is not gold. 光る物必ずしも金《きん》ならず/You can't judge of the horse by the harness. 馬は馬具で判断するなかれ/Don't judge a book by its cover [binding]. 本は表紙[装丁]で判断するなかれ
一人《ひとり》自慢《じまん》の誉手《ほめて》なし
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Self-praise is no recommendation.
自賛しても推薦は得られぬ
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独りよがりで自慢をする者は、鼻持ちならぬと馬鹿にされる。知ったかぶりの自画自賛をしていると、無知がばれた時に大恥をかく。才能や技量にうぬぼれて研鑽《けんさん》を怠れば、腕は鈍っていく。自慢に良いことは何もない。しかし、自慢して馬鹿にされたことが、「よし次には見ていろ」と発奮・努力のきっかけになるなら、効用なきにしもあらずである。
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【類諺】手褒《ぼ》め《自分を褒める》/自慢高慢馬鹿のうち/自慢[高慢]は出世[芸/知恵]の行き止まり/高慢の鼻が折れる/自慢[高慢]の糞《くそ》は犬も食わぬ/手前味噌《みそ》で塩が辛い《手作り味噌は自慢するほど旨《うま》くない》
【英語】He that praises himself, spatters himself. 自画自賛は自分の面《つら》汚し/A man's praise in his own mouth stinks. うぬぼれやの口は臭い/Pride goes before, and shame follows after. 高慢の後ろを恥が付いて行く
人《ひと》を呪《のろ》わば穴《あな》二《ふた》つ
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Who digs a pit for others falls into it himself.
落とし穴を掘れば、自らその穴に落ちる
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呪いとは、恨みのある人に災いが降り掛かるように神仏に強く祈願すること。人を殺そうと呪いを掛ければ、相手を埋める墓穴のほかに、自分の墓穴も必要になる。人に害を与える者は、巡り巡ってその報いを必ず受ける羽目になるからである。江戸時代、人を殺して死罪になる者のために、処刑場の前には、首の落ちる穴が掘ってあった。
英語は、旧約聖書の詩編第7章第15節の故事に由来する。
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【類諺】人を斬《き》らば穴二つ/人を呪えば身を呪う/人を憎むは身を憎む/人を謀《はか》れば謀られる/人を破る者は己《おのれ》を破る/狩人《かりゆうど》罠《わな》に掛かる/策士策に溺《おぼ》れる/泥を打てば面《つら》へ跳ねる
【英語】Curses return upon the heads of those that curse. 呪いは、呪う者に返る/Curses, like chickens, come home to roost. 呪いは、ひよこのように巣に戻る
人《ひと》をもって言《げん》を廃《はい》せず[棄《す》てず]
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If the counsel be good, no matter who gave it.
助言が良ければ、助言者のいかんは問わず
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『論語』の言葉「君子は言をもって人を挙げず、人をもって言を廃せず」が出所。言葉が立派だからと、その人を安易に信用して登用はしない。逆に、小物や嫌いな人だという理由で、その主張を排除はしない。つまり、価値ある内容の意見・批判ならば、どんな人の発言でも採り上げるべきであるという教え。「言葉は言葉、人は人」と、柔軟に対応しながら、理想的な社会の調和をはかるのが賢者の生き方である。
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【類諺】狂夫の言も聖人これを選ぶ/敵の助言も善は善/愚者も一得/負うた子に教えられて浅瀬を渡る
【英語】If the shoe [cap] fits, wear it. 靴[帽子]が合えば、はく[かぶる]べし/A stone that may fit in the wall is never left by the way. 壁に合う石は、道端に捨てるな/Give credit where credit is due. 信ずべき所には、信を置け
火《ひ》の無《な》い所《ところ》に煙《けむり》は立《た》たず
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There is no smoke without fire.
火のない所に煙は立たず
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「煙の立つ所には火あり」という英語もある。日本語も英語も、根も葉もない噂《うわさ》はない、根拠があるから噂が発生する、原因あって結果あり、という意に用いられる。芸能界などで、噂を利用した宣伝を企《たくら》む者は、いかにも火種《ひだね》があるかのように見せ掛ける。実害の出ない限りは、世間も、「火元のない煙」だと思いつつ、楽しむもの。
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【類諺】煙あれば火あり/無い名は呼ばれず/形なければ影もなし=物がなければ影ささず《原因あって結果あり》/根がなくても花は咲く/火は火元から騒ぎ出す《問題の張本人が最初に騒ぎ出す》
【英語】Common fame is seldom to blame. 無責任な噂は稀《まれ》《噂は当たっているもの》/Every light has its shadow. 光あれば影がある/Where bees are, there is honey. 蜜蜂《みつばち》がいれば、蜜がある/Where there are reeds, there is water. 葦《あし》ある所に水[川]あり
百聞《ひやくぶん》は一見《いつけん》にしかず
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Seeing's believing, but feeling's the truth.
見れば信あり、触れば真あり
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百遍聞くより、一度でも実際に見るほうが確実に理解できるという意。実験や野外での「観察・調査」から、複雑な事柄の説明には「図解」を添えるといったことまで、このことわざの応用である。伝聞《でんぶん》だけで判断するなということも同様である。
英語は、「見れば信じられ、触れば確実となる」意だが、前半だけ使われるのが普通。
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【類諺】聞いた百より見た一つ[五十]/千聞《せんぶん》は一見にしかず/耳聞《じぶん》は目見《もくけん》にしかず=伝聞は親見《しんけん》にしかず《親見は、「間近・実地に見る」こと》/聞くと見るとは大違い/論より証拠
【英語】One eyewitness is better than ten hearsays. 一人の目撃者は十の噂《うわさ》にまさる/One eye has more faith than two ears. 目一つは耳二つより信用できる/A picture is worth a thousand words. 絵一枚には千言費やすほどの効果あり
馬子《まご》にも衣装《いしよう》(髪形《かみかたち》)
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Fine feathers make fine birds.
美しい羽は、美しい鳥を作る
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馬子は昔、旅人や荷を乗せた馬を引いて運んだ人のこと。どんな人でも、衣装や髪形を整えて、外面を飾れば、立派な人に見えるようになるということ。しかし、「馬子には馬子の衣装」、すなわち、人それぞれにふさわしい装いがあるもの、という意味に解釈することもある。
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【類諺】浮世は衣装(が)七分《内容よりは見掛け》/人形にも衣装/猿にも衣装/木偶《で く》にも衣装/切株にも衣装/杭《くい》にも笠/藁《わら》人形も装束《しようぞく》から/公卿《くげ》にも綴《つづ》れ《貴人でも粗末な服だと品悪く見える》
【英語】Apparel makes the man. 衣装は人を作る/Good clothes open all doors. 立派な服を着れば、全ての門が開く/A smart coat is a good letter of introduction. きれいな身なりは良い紹介状/An ass, though covered with satin, is still an ass. ろばは、サテンを着ても、やはりろば
身《み》から出《で》た錆《さび》
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Self do, self have.
己《おのれ》の行為の結果は己にあり
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刀身などが、外からではなく、それ自体の製造上の欠陥から生じる錆で駄目になること。これにたとえて、自分自身の行為(悪行や過失)が原因となって、苦境に陥ることをいう。すなわち、「自業自得」「因果応報」である。こうした場合、人はえてして外部に原因を求めて、他に責任を転嫁しがちだが、それでは恥の上塗りになるのが落ちというもの。
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【類諺】身で身を食う/平家を滅ぼすものは平家/自ら墓穴を掘る/猪《しし》食った報《むく》い[罰]/悪事身に止まる[還《かえ》る]/仇《あだ》も情けも我《わ》が身より/人自ら禍《わざわい》を生ず/泥を打てば面《つら》へ跳ねる/人を呪《のろ》わば穴二つ
【英語】An ill life, an ill end. 悪く生きれば終りも悪し/As you sow, so you reap. 種を蒔《ま》いたら蒔いたように刈り入れよ/One must lie on the bed one has made. 自分が作ったベッドには自分が寝るべし/He makes a rod for his back. 自分の背叩《たた》き棒を作る/Who breaks pays. 壊した者が償う《=悪事身に止まる》
名人《めいじん》は謗《そし》らず
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A master never finds fault with others.
名人は人の粗捜《あらさが》しをせず
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一つの道を極めた名人や大家《たいか》、聖人君子《くんし》は、みだりに人の欠点や失敗をあげつらって非難しないものだという意。名人の域に達すれば、人の技量に嫉妬することもなく、悠然として物事を公平に見られるようになり、やっかみ・非難・悪口を言う必要もなくなる。後進の指導でも、個性を生かし、褒《ほ》めて育てる方法を取ると言われる。
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【類諺】名人は人を叱《しか》らず/君子は人の美を成す《長所を生かし成就させる》/仁者《じんしや》は憂えず《慈愛ある有徳の士は浮世を嘆かない》/智は愚を責めず《知恵者は愚者を責めない》/達人は大観す
【英語】Masters should be sometimes blind, and sometimes deaf. 大家[名人]は時には見ぬ振りや聞こえぬ振りをすべし/Wise men excuse others; fools excuse themselves. 賢者は他者を許し、愚者は自分の弁解をする
葦《よし》の髄《ずい》から天井《てんじよう》(を)覗《のぞ》く[見《み》る]
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Ignorance is the mother of conceit.
無知は独断の母なり
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葦《よし》は葦《あし》の別名で、管状の茎がいろいろな物に使われる。その細い管から天井を覗いて、天井全体を見渡せたと思い込む意。大きな事柄や分野について、狭い知識や経験で、独断や無謀な試みをしたり、大言壮語を口にして顰蹙《ひんしゆく》を買うこと。しかし、「管《くだ》を通して見る」を縮めた「管見《かんけん》」は、主に自分の意見や報告を謙遜《けんそん》する場合に使われる。
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【類諺】管[鍵《かぎ》/針]の穴から天を覗く/葦の髄から天を見る/管《かん》をもって天を窺《うかが》う/火吹き竹から天見る/管中豹《ひよう》を窺う/一斑《いつぱん》をもって全豹《ぜんぴよう》を卜《ぼく》す/貝殻で海を測る[干す]《狭い見識で大問題を検討する》/小知をもって大道[大事]を窺う/井の中の蛙《かわず》大海を知らず
【英語】He that never ate flesh, thinks a pudding a dainty. 新鮮な肉を食べたことのない者は腸詰めをごちそうと思う/To empty the sea with a spoon. さじですくって海を干す
論《ろん》より証拠《しようこ》
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Example is better than precept.
説教より実例
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物事を明らかにするには、議論や説明をするより、証拠や実例を示すほうが説得力があるという意。証拠や先例があると言いながら速やかに出さない者は、たいてい相手の手の内を探っているだけである。何事もスムーズに処理するには、証明する物や記録をきちんと保存しておくことが大事。このことわざは、食わず嫌いで尻《しり》込みする人に、理屈や迷いを捨ててまず実行してみよ、と勧める時にも使われる。
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【類諺】論をせんより証拠を出せ=論は後証拠が先/証文[書いた物]が物を言う=足跡は付かぬが筆の跡は残る/論に負けても実に勝て/雁《がん》も鳩《はと》も食わねば知れぬ/百聞は一見にしかず
【英語】Hear the evidence before you pass sentence. 判決を下す前に証言[証拠]を聞け/An ounce of practice is worth a pound of theory. 少しの実行は、沢山の理屈にまさる
我《わ》が物《もの》と思《おも》えば軽《かろ》し笠《かさ》の雪《ゆき》
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A burden of one's own choice is not felt.
自分で選んだ荷の重さは感じない
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被《かぶ》った笠に積もる雪は、時間がたてば、かなりの重さになるはずだが、その雪を自分の物だと思えば、軽く感じられるものだという意。何事も自分自身の事だと思えば苦にならないというたとえで、芭蕉《ばしよう》門下の榎本《えのもと》[宝井《たからい》]其角《きかく》の句「我が雪と思へば軽し笠の上」に基づいていると言われる。家族間の問題などでも、各自が自分の事として愛情を持って対応すれば、いたずらに深刻化せずにすむはずである。
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【類諺】我が事と下り坂に走らぬ者なし《自分の事は進んでやる》/我が物ゆえに骨を折る/我が仏《ほとけ》尊し/好きこそものの上手なれ
【英語】Where the will is ready, the feet are light. 行く気があれば、足は軽くなる/Great gain makes work easy. 儲《もう》け仕事と思えば、楽にいく/Each priest praises his own relics. 司祭は誰《だれ》も自分の所の聖遺物を褒《ほ》める《=我が仏尊し》
6 章
自然と世間
時・生死・無常・宿命
運不運・禍福・浮沈・苦楽
交際・世渡り・浮世
隣人・親類・友・敵
情・義・礼儀・道理
明日《あした》は明日《あした》の風《かぜ》が吹《ふ》く
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Tomorrow is another day.
明日は新たな別の日
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江戸では風による大火で一夜にして家財を失うことが多かったため、「明日のことは明日の風次第」で、「宵越しの銭はもたない」気風があった。「明日」は「あす」とも読む。
英語は「今日は駄目でも、明日は好転するかもしれない」の意。「明日のことは明日まかせ」の裏返しとして、「今日は精一杯働いて悔いないようにする」気持ちも出てこよう。下掲の英語では、この含みまでが良く表現されている。
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【類諺】明日《あした》は明日《あした》の神が守る/明日《あした》は明日《あした》今日は今日/明日《あ す》のことは明日《あ す》案じよ/明日《あ す》は手付かず/明日《あ す》ありと思う心の徒桜《あだざくら》
【英語】Do not worry about tomorrow, for tomorrow will bring worries of its own. Today's trouble is enough for today. 明日の事を悩むなかれ。明日は明日自らが悩まん。今日の苦労は今日だけで十分なり《新約聖書のマタイによる福音書第6章第34節》
明日《あ す》ありと思《おも》う心《こころ》の徒桜《あだざくら》
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Tomorrow never comes.
明日は来《きた》らず
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誰《だれ》でも、今日できなくても明日があるからと、やるべき事を延ばしてしまいがちである。ところが、その明日になってみると、またもや「明日があるから」と、先送りしてしまい、事はなかなか成就しないことになる。明日を頼りにする考えは、はかなく散ってしまう徒桜のような幻想なのである。
英語の「明日は来らず」とは、「明日という日は、今日という日から見ると、常に未来にある非現実の日であるから、当てにしてはならない」という意である。
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【類諺】今日の後《のち》に今日なし/今日の一字は明日の二字/一刻千金/思い立ったが吉日/好機逸すべからず/明日《あした》は明日《あした》の風が吹く
【英語】One today is worth two tomorrows. 今日一日は、明日二日分の価値/Never put off until tomorrow what you can do today. 今日できる事を明日まで延ばすなかれ
衣食《いしよく》足《た》りて礼節《れいせつ》[栄辱《えいじよく》]を知《し》る
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Manners and money make a gentleman.
礼儀と金が人物を作る
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暮らしが楽になると礼儀をわきまえるようになるという意。「倉廩《そうりん》実《み》ちて即《すなわ》ち礼節を知り、衣食足って即ち栄辱を知る」(『管子《かんし》』「牧民《ぼくみん》」)から来ている。倉廩とは米倉、栄辱は栄誉と恥辱。生活にゆとりが出来ると、道徳心も発揮し、恥ずかしくない名誉ある行動をとるようになっていくものである。
そうした「マナー」が身に付いて初めて「紳士」と見なされる、というのが、英語のことわざである。
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【類諺】実るほど頭を下げる稲穂《いなほ》かな/礼儀は富足《ふそく》に生ず/礼は有に生じ無に廃《すた》る/腹の皮が張れば目の皮がたるむ
【英語】Cloth shapes, meat maintains, but manners make the man. 衣服は身形《みなり》を作り、食は体を支え、礼儀は人を作る/Well-fed, well-bred. 食良ければ徳育良し/A full belly makes a dull brain. 腹が満ちると頭が怠ける
一刻《いつこく》千金《せんきん》
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Time is money.
時は金なり
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「一刻直《あたい》千金」とも言い、時間は一刻でも千金の値打ちがあるほど大切なもの、の意。「時は金なり」とも言うが、「タイム・イズ・マネー」の翻訳である。どちらにも、時間を有効活用することが成功への道だ、という意味が裏にある。しかし、時間の節約のために、料金の高い交通手段を利用するなど、金で時間を買う方法は、必ずしも有効利用とは言えない。
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【類諺】時を得る者は栄え時を失う者は亡《ほろ》ぶ/時は得難く(して)失いやすし/好機逸すべからず/盛年重ねて来《きた》らず
【英語】The crutch of time does more than the club of Hercules. 時の杖は怪力ヘラクレスのこん棒より力あり/Take time when time is, for time will away. 時が来たなら逃げ去らぬうちに捕まえよ/Gain time, gain life. 時を得れば人生を得る/Time lost cannot be recalled. 失った時は取り戻せない/Nothing is more precious than time. 時より貴重なものはなし
有為転変《ういてんぺん》の[は]世《よ》の習《なら》い
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All worldly things are transitory.
なべてこの世は移ろいやすし
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「有為」は仏教語で、この世の因縁《いんねん》によって生み出された現象や存在のことを指し、それは無常、すなわち、常に変遷していくものとされている。『太平記』にも、「有為転変の世の習、今に始めぬ事なれど」とある。戦乱に明け暮れた往昔《おうせき》と同じように、今日の時代でも、個人、企業、国家、と全てのものが、とりわけ高度成長経済の終焉《しゆうえん》とともに、一定の位置に安住しえないことが明らかになっている。
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【類諺】移れば変わる世の習い/移り変わるは浮世の習い/浮世は変わりやすい/時移り俗易《かわ》る/時勢は変わる/月日変われば気も変わる
【英語】The world is not always at a stay. この世は同じ所にいつまでもとどまってはいない/There is change of all things. 万物は変転する/Times [All things] change and we with them. 時[万物]は移り、人も変わる
魚心《うおごころ》あれば水心《みずごころ》
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Claw me, claw thee.
私を掻《か》くなら、きみを掻こう
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「水心あれば魚心あり」と逆にも言う。水と魚の切っても切れない親密な関係にたとえて、一方が好意を抱けば他方も好意を寄せるようになる、という意。ひいては相手の出方によってこちらもそれに応じて助け合う用意のあることを示す。色恋や仕事の駆け引きで、有効な手となりうるものである。
日本語のほうは抽象的、比喩《ひゆ》的な表現が多いが、英語では直接的、具体的な言い方が多い。
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【類諺】網心あれば魚心/浮世は持ちつ持たれつ/世は相持ち/武士は相身互い/孤掌《こしよう》鳴らし難し/遠くて近きは男女の仲
【英語】Help, for help in harvest. そちらの収穫時に手伝うから、代わりにこちらも手伝ってくれ/Feed me this year is feed you the next. 今年食わせてくれれば、来年はそちらの面倒を見る/One hand washes the other. 手は互いに他方の手を洗う
浮世《うきよ》は心次第《こころしだい》
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Everything is as it is taken.
物は受け取りよう
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浮世とは世間のこと。辛《つら》くてはかないこの憂《う》き世は浮き沈みするものだが、気の持ちよう、心構え次第で、楽しくもなり、苦しくもなるもの。「心配は身の毒」と言うように、悲観的にばかり考えているようでは、病気にもなり、ますます辛い憂き世になってしまう。取り越し苦労はやめ、明るく前向きに対処すれば好転するものである。
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【類諺】浮世は心まかせ/明日《あした》は明日の風が吹く/泣いて暮らすも一生笑って暮らすも一生/長い浮世に短い命/物は考えよう
【英語】A man is weal or woe as he thinks himself so. 運不運は気持ち次第/What will be, will be. 物事はなるようになる/As long lives a merry man as a sad. 笑っても泣いても同じ一生/The glass is either half empty or half full. 半分空《から》のグラスには、半分物が入っている《=物は考えよう》
浮世《うきよ》は回《まわ》り持《も》ち
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Fortune knocks once at least at every man's gate.
幸運は誰《だれ》の門でも一度は叩《たた》く
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「浮世は」は「この世は」とも言い、また「回り持ち」は「持ちつ持たれつ」とも言い、貧富や貴賤《きせん》、幸・不幸というものは、いつも同じ所に留《とど》まっているのではなく、回り回って、誰の所にも訪れるという意。
このことわざは、仏教的な一種の悟り感覚に近いものと言えるが、意外にも、英語にも同趣旨のものが少なくない。
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【類諺】世は相持ち/有為転変《ういてんぺん》の[は]世の習い/浮世の風は思うにまかせぬ/昨日《きのう》は人の身今日は我が身
【英語】In the end things will mend. 最後には良くなる/Asses scratch one another. ろばは、かゆいところを掻《か》き合う/One man is no man. 人は一人では人にあらず/No man is an island. 人は離れ島にあらず/One flower makes no garland. 一輪では花輪は出来ぬ/Live and let live. 汝《なんじ》も生き、人も生かせ
内股《うちまた》膏薬《こうやく》
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Won with an egg and lost with a nut.
卵一つで仲間入りし、くるみ一つで離反する
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「二股膏薬」とも言う。昔の膏薬は両面ともべたついていて、内股に貼った膏薬が右腿《もも》に付いたり左腿に付いたりすることがあった。このように、信念がなくて当てにならない人や、更には対立する陣営の両方に付くことなども指す。また、利益を求めて右往左往するのを戒める意もある。
英語は、「わずかな利益のために安易に鞍替《くらが》えする」の意。
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【類諺】理屈と膏薬はどこへでも付く/盗人《ぬすつと》にも三分の理/二股を掛ける/あちら立てればこちらが立たず/物も言いようで角が立つ
【英語】A man may easily find a staff to beat a dog. 犬を打つ棒は簡単に見つかる/He will wag as the bush wags. 低木が揺れるように左右に揺れる/Idle folks lack no excuses. 怠け者は言い訳に困らない/A good tale ill told is marred in telling. 良い話も言い方がまずければ台なし
梅干《うめぼし》と友達《ともだち》は古《ふる》いほど良《よ》い
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Old friends and old wine are best.
古い友と古酒が最上なり
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梅干の塩辛さが酸味となじんで旨《うま》くなるのは、漬けて三年以上という。友達も古いほど気心がなじんできて、まさかの時でも助け合える交際ができるという意。漬物は浅漬けほど早く駄目になりやすい。新しい友も、たとえ意気投合はしても、心から信頼できるか保証はない、ということである。
日本的な「梅干」に対して、「年代物のワイン」あるいは「古チーズ」という点が、英語的と言えそうである。
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【類諺】衣は新《あら》たにしくはなく人は故《ふる》きにしくはなし/人は落ち目が大事/女房と味噌《みそ》は古いほど良い
【英語】Wine, a friend, and cheese must be old. 酒と友とチーズは古いものに限る/An old friend is a new house. 昔からの友は新築の家《安心できる》/All commonly rejoice at new things. 誰《だれ》でも新しいものを喜ぶ
運《うん》を待《ま》つは死《し》を待《ま》つに等《ひと》し
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Every man is the architect of his own fortune.
運命は自ら切り開くもの
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何一つ努力せず、漫然と幸運を待っているのは、野たれ死にするのを待つのと同じこと、という意。事を成すには、「運根鈍《うんこんどん》」(運気・根気・鈍気)と言われるように、粘り強い努力と、絶対に運を逃がさぬという気構えが必要である。また好機を掴《つか》んでも、それを持続させる能力を身に付けていないと、結局は長続きしないことになる。
英語は直訳すると「人は誰《だれ》も自分の運命の建築家」となる。
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【類諺】世間の好物は堅牢ならず《幸運はもろい》/当たって砕けよ/運根鈍/人事を尽くして天命を待つ/待てば海路の日和《ひより》あり
【英語】Fortune is fickle. 幸運は気まぐれなり《自分で掴め》/Fortune waits on honest toil and earnest endeavor. 幸運の女神は正直な働きとまじめな努力に仕える/No man can make his own hap. 自分の運命は作り出せぬ
己《おのれ》の頭《あたま》の蠅《はえ》を追《お》え
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Sweep before your own door.
自分の家の前を掃け
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問題を抱えていながら、他人の事にまで首を突っ込みたがる人がいるが、まずは自分の始末を付けてからにせよ、という意。自分のやるべき事がきちんとできていない者が、同情や好奇心から他人の面倒を見ようとしても、うまくいくものではない、という教訓でもある。途中で投げ出して、かえって前より状況が悪くなることさえある。
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【類諺】人の事より我が身の事/足下《そつか》の豆を拾え/人の疝気《せんき》を頭痛に病む/人の頼まぬ経を読む/蛇の足より人の足《余計なことはするな》/案じてたもるより銭たもれ《心配するより金をくれ》
【英語】Don't meddle in others' affairs. 人のお節介を焼くなかれ/Tell me my faults, and mend your own. 人の落度を云々《うんぬん》するのもいいが自分の間違いも直せ/Blow thine own pottage, and not mine. そちらのスープを吹き冷ましても、こちらのは吹くな/Paddle your own canoe. 自分のカヌーをこげ
親擦《おやず》れより友擦《ともず》れ
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No physician like a true friend.
親友にまさる医者はなし
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親の影響より友人の影響のほうが大きい、という意。類諺《るいげん》にあるように、友は六親《ろくしん》同然で、感化されやすい。六親とは両親・きょうだい・配偶者・子を指す。友擦れといえば擦れた不良友達が連想されがちだが、もちろん良友も含まれ、子供は友と付き合うことによって、助け助けられつつ人生についての多くを学んでいく。親離れができず、また自室に閉じこもりがちの現代の子供には多くの問題がある。
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【類諺】朋友《ほうゆう》は六親に叶《かな》う/善悪は友による/善を責むるは朋友の道《善を勧めるのが真の友》/悪友の笑顔より善友の怒り顔《怒る友が真の友》
【英語】A good friend is my nearest relation. 良友は一番近い親類/As a man is, so is his company. 人の生き方は仲間に反映する/A friend's frown is better than a fool's smile. 友の渋面は愚人の笑顔にまさる
借《か》りる時《とき》の恵比須顔《えびすがお》済《な》す時《とき》の閻魔顔《えんまがお》
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Seldom comes loan laughing home.
貸し金が笑顔で返されることはまれ
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借りる時は七福神《しちふくじん》の恵比須のようなにこにこ顔で喜んでいたのに、返す時にはまるで鬼か閻魔王のような怖い顔をしているという意。人は困窮を救ってもらった時の感謝の念を忘れてしまい、借りた物を返すのではなく、自分の物を取られるような態度を見せる。金の貸し借りは、人間関係を損ないがちにするものである。「済《な》す」は返済すること。
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【類諺】借りる時の地蔵《じぞう》顔返す時の閻魔顔/借りる時の笑顔済《す》ます時の十王面《じゆうおうづら》《返す時は地獄の十人の王のような顔になる》/近い者には金貸すな=馴染《なじみ》だけに倒さるる《知っている者に貸すと踏み倒される》
【英語】Sweet in the on taking, but sour in the off putting. 手に取る時は優しく手放す時は不機嫌/Lend your money and lose your friend. 金を貸せば友を失う/Lend and lose, so play fools. 貸して失うのが阿呆《あほう》の手
昨日《きのう》は人《ひと》の身《み》今日《きよう》は我《わ》が身《み》
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I today, you tomorrow.
今日は我に、明日は君に
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「今日は人の身明日は我が身」とも言う。他人の身に起きた災難が、いずれは自分の身にも振り掛かって来る。何事も他人《ひ と》事《ごと》として無関心でいると、とんだ目に遭いかねない。たとえ運命を予知できなくても、備えをしておくとおかないとでは、災難に遭っても結果は違ってくる。
英語にも日本語とまったく同じ発想のものが少なくない。
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【類諺】飛鳥《あすか》川《がわ》の淵瀬《ふちせ》=昨日の淵は今日の瀬《この世は水害で定めなき飛鳥川の淵瀬に似ている》/禍福《かふく》[吉凶]は糾《あざな》える縄のごとし/昨日の花は今日の塵《ちり》/昨日のぼろは今日の錦《にしき》/備えあれば憂[患《うれ》]いなし
【英語】Today me, tomorrow you. 今日は我が身に明日は君の身に/What chances to one man may happen to all. 一人に起こる事なら、誰《だれ》の身にも起こりうる/The world may be topsy-turvy in an hour. この世の出来事は、一時間で逆転しかねなきものなり《=昨日の花は今日の塵》
窮鳥《きゆうちよう》懐《ふところ》に入《い》れば猟師《りようし》も是《これ》を殺《ころ》さず
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The lion spares the suppliant.
命乞《ご》いをした者は獅子《しし》も許すなり
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猟師でも、飛び込んできた鳥は殺さずに助けてやるのが人間の情、という意。これに類する歴史上の逸話は多い。関ヶ原の役《えき》の直前、豊臣《とよとみ》秀吉《ひでよし》子飼いの武将達に追われた石田《いしだ》三成《みつなり》が、逃げ場に窮して政敵の徳川《とくがわ》家康《いえやす》邸に駆け込んで命拾いをしたのも一例。また、上杉《うえすぎ》謙信《けんしん》が武田《たけだ》信玄《しんげん》に塩を送った故事も、困っていれば敵でも助けるべきであるという教え。そうした情けが、いずれは我が身に返って来ることもある。
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【類諺】飛鳥《ひちよう》懐に入る時は猟師も之《これ》を捕《と》らぬ/敵に塩を送る/糧《かて》を敵に借《か》る/情けは人の為ならず/敵に味方あり味方に敵あり
【英語】One never loses by doing a good turn. 親切にして損することなし/An enemy may chance to give good counsel. 敵が良い助言をもたらすこともある/In victory, magnanimity. 勝ちても慈悲寛大の心をば持て
義《ぎ》を見《み》てせざるは勇《ゆう》なきなり
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Knowledge without practice is nothing.
分かっていても行動に移さねば無に等しい
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『論語』の「為政」にある言葉である。儒教には、人が行い守るべき道として「仁・義・礼・智・信」があり、これを五常という。「義」は正しい行為のことである。暴漢に襲われたり、溺《おぼ》れかかっている人を助けようとするには、勇気がいる。しかし、見て見ぬ振りを通していると、いつかは自分自身も同じようなケースで被害者になりかねない。
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【類諺】仁者《じんしや》は敵なし/勇者は懼《おそ》れず/徳に従う者は栄え徳に逆らう者は亡《ほろ》ぶ/大道《たいどう》廃《すた》れて仁義あり《世が乱れると博愛と正義が生じる》
【英語】Love overcomes all. 仁愛は、全てに克《か》つ/A valiant man's look is more than a coward's sword. 勇者の一睨《にら》みは、臆病《おくびよう》者の剣にまさる/He who sows goodness reaps a sure reward. 善を播《ま》けば、確かな報いあり/Out of bad customs, good laws. 風習乱れて、善法生ず
苦《く》は楽《らく》の種《たね》楽《らく》は苦《く》の種《たね》
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There is no pleasure without pain.
苦労の伴わぬ楽しみはなし
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苦しみの後には、楽しみが来るものであり、楽しみの後には、苦しみが来るものである、という意で、対句になっているが、その時々の状況に応じて、前半または後半だけを単独で使うことも多い。苦労することは、同時に安楽の種を蒔《ま》いているようなものであり、他方、「若い時の苦労は買ってでもせよ」と言われるように、安逸ばかりをむさぼっていると、後々苦労を招くことになる。
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【類諺】苦あれば楽あり楽あれば苦あり/苦中の楽/陰極まりて陽生ず/一陽《いちよう》来復《らいふく》《冬去りて春。不況も好転》
【英語】Business before pleasure. お楽しみは仕事の後/No reward without toil. 苦なくば報いなし/The darkest hour is just before dawn. 真暗闇の後に夜明け/There's always a light at the end of the tunnel. トンネルを抜ければ必ず光あり
郷《ごう》に入《い》っては郷《ごう》に従《したが》え
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When in Rome, do as the Romans do.
ローマではローマ人のようにせよ
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どこに住んでも、その土地の風俗や習慣に従うのが良いという教え。『荘子《そうじ》』に「人その俗に入りては、その俗に従え」とあり、多民族国家であった中国では重要な心得とされた。
同様に、領土の広かったローマ帝国のミラノで行政官も務めた司教聖アンブロシウスは、「ローマではローマ人のように、ほかの地では、その地の人のように暮らせ」と言ったという。英語はそのラテン語から転来したもの。
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【類諺】里に入りては里に従え/国に入ってはまず禁[俗]を問え/所の法に矢は立たぬ《土地の決まりには逆らえぬ》/所変われば品変わる
【英語】He that does as his neighbors do shall be beloved. 隣人のやり方に従えば好かれる/With foxes we must play the fox. 狐《きつね》と一緒になったら狐を演じよ/Take things as you find them. 物事はあるがままに受け入れよ
孤掌《こしよう》鳴《な》らし難《がた》し
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Friendship stands not on one side.
友情は一方通行では成り立たぬ
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「孤掌」とは片方の手の平のことで、それだけでは両手を打ち合わせて鳴らせない、という意。元は禅《ぜん》の言葉で、「孤掌は鳴り難し」とも言う。協力してくれる人がいなければ事を成せない、のたとえ。この世は人と人とが共鳴しあい、撚《よ》り合わさって成り立っている。喧嘩《けんか》でさえも相手がいる。人と交わらずに孤立していては、何事にも成功しない。
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【類諺】独掌《どくしよう》みだりに鳴らず/一人喧嘩はならぬ/一文銭は鳴らぬ《一枚の銭では打ち合わせて鳴らせない》/一本薪《まき》は燃えぬ《火付けの木も必要》/単糸《たんし》線を成さず《糸は一本では出来ない》
【英語】It takes two to tango. 一人ではタンゴは踊れない/It takes two to make a quarrel. 喧嘩も一人ではできない/The lower millstone grinds as well as the upper. 下の臼《うす》と上の臼は同じように粉を挽《ひ》く《片方だけでは挽けぬ》
塞翁《さいおう》が馬《うま》
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The worse luck now, the better another time.
今は運が悪くても、いずれは良くなる
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塞翁とは、昔の中国の北辺の塞《とりで》にいたという老人のこと。翁《おきな》は飼馬が他国に逃げるという災難に遭ったが、数ヵ月後、幸いにも駿馬《しゆんめ》を連れて戻って来た。次に翁の子が怪我《けが》をしたが、そのため兵役を免れて戦死しなくてすんだ。翁は災難にも憂えず、幸運が来ても手放しで喜ばなかったという。この故事に因《ちな》んで、世の吉凶・禍福《かふく》の予測は不可能だから、いちいち悲しんだり喜んだりしないのが良いという意になった。
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【類諺】人間万事塞翁が馬/禍福《かふく》[吉凶]は糾《あざな》える縄のごとし/運[命《めい》]は天にあり/怪我の功名《失敗が思わぬ好結果を生む》/七転び八起き
【英語】Fortune is made of glass. 運はガラス製《壊れやすくて不安定》/Sadness and gladness succeed each other. 悲しみと喜びは交互にやって来る/It's a blessing in disguise. 幸運が変装してやって来た《災いの陰に予期せぬ恵み》
歳月《さいげつ》[光陰《こういん》]人《ひと》を待《ま》たず
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Time and tide wait for no man.
時は人を待たず
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陶淵明《とうえんめい》の詩の一節「時に及んでまさに勉励すべし、歳月は人を待たず」による。年月は人の都合にかかわりなく、どんどん過ぎ去ってしまうという意。「時は人を待たず」とも言う。同じように見えても同じ月、同じ太陽ではなく、今という時は二度とない。夜空に輝く北極星も、何億年か後には存在しないかもしれない。ましてもっと寿命の短い人間にとっては、一瞬一瞬が掛け替えのないものということである。
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【類諺】今日あって明日ない身/今日の後《のち》に今日なし/光陰矢のごとし/歳月流るるごとし/盛年重ねて来《きた》らず/月日に関守なし/生者《しようじや》必滅《ひつめつ》
【英語】Time flies like an arrow. 光陰矢のごとし/The wheel of fortune turns quicker than a mill. 運命の車の回転は水車より速し/One cannot put back the clock. 時間は戻せない/Lost time never returns. 時は再び還らず
去《さ》る者《もの》は日々《ひび》に疎《うと》し
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Out of sight, out of mind.
会わなくなれば心からも消える
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「日々に疎し」は、「日にもって疎し」または「日に疎し」とも言う。出典は、中国の『文選《もんぜん》』の一節、「去る者は日にもって疎し、来《きた》る者は日にもって親し」。死んだ人は、日ごとに、世間から忘れられていき、どんなに親密だった人も、遠ざかると、次第に疎遠になってしまう。新しく出会った人は、日々接するたびに、親しさを増していく、という意。
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【類諺】遠ざかる者日々に疎し/遠ざかるは縁の切れ目/遠くなれば薄くなる/縁[間《あい》]が遠けりゃ契りが薄い
【英語】The absent and the dead have no friends. 姿を見せぬ者と死者には友がいなくなる/Long absent, soon forgotten. 不在が続けば、忘れ去られる/Far from eye, far from mind [heart]. 目にしなくなると、心からも離れる/Gone with the wind. 風と共に去りぬ《跡形《あとかた》もなし。雲散霧消》
四海《しかい》兄弟《けいてい》
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All men are created equal.
万人は平等なり
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『論語』の「敬して失うことなく、礼あらば、四海のうちは、皆兄弟《けいてい》たり」によっている。四海とはこの世のことで、誰《だれ》が兄で誰が弟といった上下関係は一切ないということ。
言葉は古めかしいが、人は皆兄弟のように、平等に親しくすべきであるということで、英語(アメリカ独立宣言の言葉)と同様に、人類愛と非差別を基盤とすべき国際化社会で、おおいに活用できることわざである。
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【類諺】四海同胞/一視《いつし》同仁《どうじん》《仲間と見なし差別せず》/和をもって貴《たつと》しとなす《論語に由来。聖徳太子の十七条憲法》/知らぬ他国にも鬼はない
【英語】Love your neighbor as yourself. 汝《なんじ》のごとく隣人を愛せ/Think well of all men. 誰《だれ》のことも良く思え/We are all Adam's children. 我らは皆アダムの子/All men are made of the same metal. 人は同じ物で出来ている
地獄《じごく》で仏《ほとけ》
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Water is a boon in the desert.
砂漠の中で恵みの水
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「地獄で仏に遭ったよう」とも言う。大きな困難や危機の際に、思いがけない救いに遭ったうれしさのたとえ。神仏の加護のような助けを得るのは、偶然の幸運の場合もあるが、過去のさまざまな因縁が影響していることも多々ある。地獄のような苦しみを味わうとは、一度死んだも同然のことである。だから、生まれ変わったつもりで努力すれば、その後の人生が一層価値あるものになるというもの。
英語は、まさに、「砂漠でオアシスを見つける」に相当する。
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【類諺】地獄で地蔵(に遭ったよう)/地獄で舟/地獄にも鬼ばかりはいない/捨てる神あれば拾う神あり/渡る世間に鬼はない
【英語】A penny at a pinch is worth a pound. 金欠病の時の一ペニーは一ポンドの値打ち/A pleasure long expected is dear enough bought. 念願かなった楽しみは替えがたく高価
親《した》しき仲《なか》に垣《かき》をせよ
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A hedge between keeps friendship green.
間に垣を置けば友情が長続きする
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どんなに親しくなっても、守るべき礼儀はあり、好ましい関係を長く持続させるには、馴《な》れ合いすぎてはいけない、時に遠慮も必要である、という意。現代社会では、プライバシー保護や個人情報についての価値観が多様化し、とかくトラブルのもとになるから、この心得は重要である。
英語も、友情を長く保つには「垣(根)が必要」(プライバシー尊重)と言い、付き合いの心理の普遍性をよく物語っている。
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【類諺】心安いは不和のもと/親しき仲にも礼儀あり/親しき仲は遠くなる/近い[思う]仲にも垣をせよ/良い仲でも笠を脱げ《礼を交わせ》
【英語】Familiarity breeds contempt. 馴れ合いは軽蔑を生む/Love your neighbor, yet pull not down your hedge. 隣人を愛しても垣根を取り去るな/Little intermeddling makes good friend. あまり干渉しないほうが、友好は長続き
朱《しゆ》に交《まじ》われば赤《あか》くなる
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He who touches pitch will be defiled.
松脂《やに》に触れば手が汚れる
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押印などに使う赤い顔料の朱に触れば、当然指が赤くなるように、人も交わる友に染まる、という意。似た現象に、環境による影響もある。孟子《もうし》の母が、子供への感化を考えて、三度も転居した「孟母三遷」の故事が有名。
英語は、旧約聖書外典のシラ書(集会の書)第13章第1節に由来し、「松脂に触る」は「悪友と交わる」の意味になった。
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【類諺】麻の中の蓬《よもぎ》《曲るたちの蓬もまっすぐ育つ麻の中では曲らない》/墨に染まれば黒くなる/善悪は友による=人は善悪の友による/太鼓も撥《ばち》の当たりよう/一犬虚[影]に吠ゆれば万犬吠ゆ
【英語】A man is known by the company he keeps. 人は付き合う友で分かる/The rotten apple injures its neighbors. 腐ったりんごは隣も駄目にする/Who keeps company with wolf will learn to howl. 狼《おおかみ》と交われば遠吠《とおぼ》えを覚える
生者《しようじや》必滅《ひつめつ》
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All men are mortal.
人は皆死すべきもの
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生あるものは必ず死滅するという、漢訳仏典の言葉。この句に続けて「会者《えしや》定離《じようり》」(出会ったものは必ず離別する)とも言う。仏教伝来以後、日本人にはこの句に示される無常観が深く浸透し、平家没落の「盛者《じようしや》必衰《ひつすい》」とともによく引用される。しかし、限りあればこそ精一杯生き抜くという、積極的な人生観も導き出される。「生者」は「せいじゃ」とも読む。
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【類諺】生死《しようじ》限りあり遁《のが》るべからず/生ある者は必ず死あり/生は死の始め/朝《あした》に紅顔ありて夕《ゆうべ》に白骨となる/会[逢《あ》]うは別れの始め/今日あって明日ない身/生き身は死に身
【英語】Alive today, dead tomorrow. 今日は生あり、明日は死あり=Today above, tomorrow below. 今日は地上に、明日は地下に/As soon as man is born, he begins to die. 人は生まれ落ちた時から死に向かう/He that is once born, once must die. 一度生まれた以上、一度は死ぬべきなり
知《し》らぬが仏《ほとけ》見《み》ぬが極楽《ごくらく》
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Ignorance is bliss.
知らぬが幸い
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上《かみ》句だけを言うことも多い。知っていれば、怒ったり悩んだり恐れたりしがちだが、知らなければ、「平気の平左(衛門)」で、のほほんとして幸せでいられる。他方、「知っていて知らない振り」をするのは、「知らぬ顔の半兵衛(をきめこむ)」だが、凡人はとかく顔や態度に出る。しかし、「知ったかぶり」をして、後で恥をかくよりもずっと良い。
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【類諺】聞かぬが仏/聞かぬが花/見ぬが秘事/聞けば気の毒見れば目の毒/見ぬ物清し/対鹿《むこうしし》には矢が立たぬ《無邪気で無防備な鹿に矢は向けられぬ》/釜中《ふちゆう》の魚《うお》《釜《かま》の中で余命のないのを知らずに遊ぶ魚》
【英語】He that knows nothing fears nothing. 何も知らなければ、恐れるものなし/What the eye doesn't see the heart doesn't grieve over. 見ていないものには、心が痛むことはなし/He suffers not who knows not. 知らねば悩まず/The truth always hurts. 知れば傷付く
人事《じんじ》を尽《つ》くして天命《てんめい》を待《ま》つ
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Man proposes, God disposes.
企てるのは人、決着付けるのは神
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出典は南宋・胡寅《こいん》の『読史《とくし》管見《かんけん》』にある「人事を尽くして天命を聴く」。できるだけの事をして、後は運命に任せ、心静かに結果を待つことをいう。自分の持てる才知と能力を出しきった自足感が、「天命を聴く」という心境に至らせる。
「運命」とくれば、西欧では、「神」の出番が一層多くなる。英語は旧約聖書の箴言《しんげん》第16章第9節の言葉。
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【類諺】運[命《めい》]は天にあり/運否《うんぷ》天賦《てんぷ》《吉凶は人知の及ばぬもの》/運を天に任せる/神(様)は(お)見通し/運を待つは死を待つに等し
【英語】God is still in heaven. 神はいつも天にあり/Use the means, and God will give the blessing. 手を尽くせば神が祝福/Everything depends on God's blessing. 万事は神の恩恵による/Heaven [God] helps those who help themselves. 天[神]は自ら助くる者を助く《自力で努力した者に天運あり》
人生《じんせい》は行楽《こうらく》せんのみ
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Life is sweet.
人生は楽しきかな
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はかない人生なら、おもしろ楽しく過ごすほうが良いという意。平安時代末期に後白河法皇が編んだ歌謡集『梁塵《りようじん》秘抄《ひしよう》』には、「遊びをせんとや生まれけん、戯れせんとや生まれけん、遊ぶ子供の声きけば、我が身さへこそ動《ゆる》がるれ」という歌があり、人生を遊びという観点から肯定的に表している。しかし、「楽あれば苦あり」も人生の現実で、「行楽・快楽のしすぎ」を戒めることわざも多いのである。
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【類諺】命短し恋せよ乙女《おとめ》/若い時は二度ない/若気《わかげ》の過ち[至り]
【英語】Pluck [Gather] roses while you may. ばらの花は摘めるうちに摘め/The world is his who enjoys it. この世は楽しむ人のためのもの/Life is just a bowl of cherries. 人生はボウル一杯のチェリー《くよくよ悩むな》/Reckless youth makes rueful age. 青春に羽目をはずせば、老境に悔いる
人生《じんせい》(は)朝露《ちようろ》のごとし
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Man is a bubble.
人は泡沫《うたかた》なり
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中国の『漢書《かんじよ》』が出典であり、紫式部の『源氏物語』にも、「とまる身も消えしも同じ露の世に心おくらんほどぞはかなき」(「葵《あおい》」)と歌われているように、古くからこの世をつかの間の露にたとえている。人生の短さを悟ったうえで、今を十分に生き活用すべきである。はかなさの象徴には、露のほかにもいろいろあるが、泡は日本語・英語に共通である。
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【類諺】人生は風灯《ふうとう》《風に吹き飛ぶ灯火》/人生は泡沫《ほうまつ》夢幻《むげん》/花も[朝顔の花は]一時《いつとき》《花も人も盛りは一時》=槿花《きんか》一朝《いつちよう》[一日《いちじつ》]の夢[栄《えい》]《朝開いたむくげの花が夕方にはしぼむ》/生者《しようじや》必滅《ひつめつ》
【英語】Life is a dream [span]. 人生は夢[つかの間]/The joys of the world dure but little. この世の喜びはつかの間/Life is a shadow [smoke]. 人生は影[煙]/Life is short and time is swift. 人生は短く、時は過ぎやすし/Here today, gone tomorrow. 今日はここにいるとも、明日は去りなん
捨《す》てる神《かみ》あれば拾《ひろ》う神《かみ》あり
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That one will not another will.
欲しくない人がいても、欲しい人がいるもの
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「拾う神」は「助ける神」とも言う。この世は、捨てる神がいる反面、救ってくれる神もいる。世の中は広くて様々であり、一方から相手にされなくても、他方からは助けてもらえることがままある。一時の不遇や不運にくよくよし、自暴自棄になるのは愚かなこと、という意。受験、就職、恋愛、商売、そのほか何事であれ、うまくいかないからと絶望して無為・堕落の生活を送るようでは、拾う神も近付かない。
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【類諺】棄《す》つる神あれば引上《ひきあ》ぐる神あり/倒す神あれば起こす神あり/渡る世間に鬼はない/地獄で仏/鬼の中にも仏がいる
【英語】When one door shuts, another opens. ドアが一つ閉まっても、別のドアが開く/If one will not, another will; so are all maidens married. 望まない人がいても、ほかに望む人もいるから、娘たちはみんな結婚できる
清濁併《せいだくあわ》せ呑《の》む
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The sea refuses no river.
海はどんな川も拒まず
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「清濁」は正と邪、善と悪のたとえで、生き方や考え方の違う様々な人を来るがままに受け入れる度量のあること。こういう包容力のある大人《たいじん》とか大物と呼ばれるような人には、多くの人が慕い集まる。そこでは互いの交流が盛んになり、人脈や情報ネットワークも形成されていく。他方、普通の人間でも、善悪、苦楽、損得など、「相反する事情を共に受け入れ」て生きていかねばならないものである。
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【類諺】大海は芥《あくた》[塵《ちり》]を択《えら》ばず/河海《かかい》は細流を択ばず/寛容なること海のごとし/泰山《たいざん》は土壌を譲らず《どんな土も引き寄せて大山とする》/水清ければ魚《うお》棲《す》まず
【英語】Take the bad [rough] with the good [smooth]. 善悪[苦楽]を共に受け入れよ《そういう度量や覚悟・平常心を持て》/You must take the fat with the lean. 脂身も赤身も一緒に取れ
袖振《そでふ》り合《あ》うも他生《たしよう》の縁《えん》
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There is a destiny that makes us brothers.
仲間になるのも定めなり
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上《かみ》句は「袖擦《す》り合うも」「袖触《ふ》れ合うも」とも言う。「他生」は「多生《たしよう》」とも言い、この世以外の生。見知らぬ人とふとした接触・交渉を持つにも、偶然ではなく宿命的な因縁・必然性がある。死んでも生まれ変わるという輪廻《りんね》転生《てんしよう》の仏教観に基づき、一つの縁が後々より大きな因縁につながることもあるから大事にせよ、という教えである。
「運命」は、キリスト教では「神が定めるもの」とされる。
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【類諺】躓《つまず》く石も縁の端《はし》/一縁他生/一樹の陰も他生の縁《一樹の下の同宿も因縁》/天の配剤/神(様)は(お)見通し/人と契らば良く見て語れ
【英語】God is still in heaven. 神はいつも天にあり/That which comes from above let no man question. 天からのものには口を出すな/No flying from fate. 運命からは逃れられぬ/Sudden friendship, sure repentance. 性急な交友は後悔のもと
旅《たび》は道連《みちづ》れ世《よ》は情《なさ》け
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An agreeable companion is as good as a coach.
心安い仲間は大型馬車のように快適安心
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旅は、連れがいれば楽しくなり、世間付き合いや世渡りも、人情があればうまくいくもの、という意。「旅は憂《う》いもの辛《つら》いもの」と言って、馬や駕籠《か ご》には縁のなかった昔の庶民の旅はたいていが徒歩であったため、長期間にわたる辛く厳しいものであった。同じように、人生という長旅も、人情をもって助け合える心安い仲間がいてこそ、浮世の悲しみも苦しみも無事に乗り越えて行けるのである。
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【類諺】旅は心世は情け/旅は情け人は心/人は情けの下で立つ[に住む]/一人旅はするとも三人道中はするな《連れが多いと仲間割れ》
【英語】A merry companion is music in a journey. 愉快な連れは旅の音楽/Company shortens the way. 連れがいれば、道中が短くなる/Friendships multiply joys, and divide griefs. 交友は喜びを増やし、悲しみを減らす
竹馬《ちくば》の友《とも》
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There is no better mirror than an old friend.
昔からの友にまさる鏡はない
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竹馬《たけうま》で一緒に遊んだ友、すなわち幼友達のことで、「竹馬《ちくば》の好《よしみ》」とも言う。中国の殷侯《いんこう》が免官された時、桓公《かんこう》が、「彼は幼い時に私が捨てた竹馬に乗った男だった」と皮肉った故事から転じたもの。幼友達には嘘《うそ》偽りや損得といった考えがない。
そのような純な心は、歪《ゆが》みや曇りのない、上等な澄んだ鏡に等しい、というのが、英語の意味である。
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【類諺】振り分け髪の友/刎頸《ふんけい》の交わり《首を刎《は》ねられてもいいほどの仲》/水魚の交わり《親密・睦《むつ》まじい仲》/金石[断金/膠漆《こうしつ》/金蘭《きんらん》]の交わり《離れ難い緊密な仲》/肝胆《かんたん》相照らす仲《心を打ち明け合うほど親しい》
【英語】They are hand and glove. 手と手袋のように親密/They are finger and thumb. 親指と他の指のように近い仲/To be friends like Damon and Pythias. ダモンとピュティアスのような無二の親友《信義に厚く決して裏切らない》
珍客《ちんきやく》も長座《ちようざ》に過《す》ぎれば厭《いと》わる
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Fish and visitors smell in three days.
魚もお客も三日たてば臭くなる
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珍客や喜ばしい客でも、突然訪問されては迷惑なこともあり、約束して訪ねて来ても、長居をされては、家族がいらだってくる。訪問者は歓待されると居心地が良いので、つい腰が重くなるが、廊下に逆さ箒《ほうき》を立てられかねず、見苦しい。
英語では、客を魚と同列に見立て、「臭い・鼻に付く」と婉曲《えんきよく》に表現している所が面白い。
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【類諺】長居は恐れ=行く行くの長居《ながお》り《帰ると言いながら帰らない》/客と白鷺《しらさぎ》は立ちっぷり[立ったが見事]/風呂と客は立ったが良い/牛の尾は長きが良く客の尻は短きが良し/長口上は欠伸《あくび》の種
【英語】Do not wear out your welcome. 長居をしすぎて嫌がられるな/A constant guest is never welcome. いつも来る客は煙たがられる/A babbler wearies all the company. おしゃべり好きは満座の人を飽き飽きさせる
天網《てんもう》恢恢《かいかい》疎《そ》にして漏《も》らさず
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Heaven's vengeance is slow but sure.
天の報復は遅くても確実
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元は老子の言葉と言われ、『魏書《ぎしよ》』にもある。「漏らさず」は「失わず」とも言う。悪人を捕らえる天の網は広大で、その目は粗いように見えても、どんな悪人も必ず捕らえてしまう、という意。たとえこの世の法の網は逃れたとしても、天の制裁は必ず下される。天は悪事に対して厳正であるとか、天罰を免れることはできない、という戒めである。
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【類諺】天網[天命]遁《のが》れ難し/神(様)は(お)見通し/天に眼《まなこ》/天知る地知る(我知る)/天法八つ当たり/天罰[因果]覿面《てきめん》《悪事の報いはすぐに現れる》/隠すより見《あらわ》るるはなし
【英語】God's mill grinds slowly, but it grinds fine. 神の挽臼《ひきうす》はゆっくり回るが、見事な粉を挽《ひ》く/God stays long, but strikes at last. 神は長く待つが、最後には一撃する《必ず審判を下す》/The truth will out. 真相は必ず露顕する
遠《とお》くの親戚《しんせき》[親類《しんるい》]より近《ちか》くの他人《たにん》
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A near neighbor is better than a distant cousin.
遠くの親戚より近くの隣人
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緊急の場合には、離れている親類より近所の他人のほうが親身《しんみ》になってくれる。また、疎遠な親類よりも親しくしている他人のほうが頼りになる、ということ。事故や災害に遭った者には、まさに身にしみる言葉と言えよう。だからといって、親類を疎略にして良いということではない。少数家族の現代であればこそ、むしろ親類は有り難いものである。要するに、近隣交際を大切にせよという教えである。
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【類諺】遠水近火を救わず/手遠い者はまさかの役に立たぬ/他人より身内/知らぬ神[仏]よりなじみの鬼
【英語】A near friend is better than a far kinsman. 遠くの親戚より近くの友/Blood is thicker than water. 血は水より濃し《=他人より身内》/Better the devil you know than the devil you don't. 知らぬ鬼より、なじみの鬼
所《ところ》変《か》われば品《しな》変《か》わる
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Coats change with countries.
着物は土地で変わる
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昔から「浪花《なにわ》[難波《なにわ》]の葦《あし》は伊勢《いせ》の浜荻《はまおぎ》」と言うように、同じ物でも土地や時代によって名前が異なったり(これを同物《どうぶつ》異名《いめい》と言う)、逆に、同じ名前でありながら違う物を指すこともある(これを同名《どうめい》異物《いぶつ》と言う)。同様に、所によって習慣・生活様式などが違うことも少なくないため、初めての地への転勤や移住などでは苦労するものである。しかし、当初の困難も、慣れによっていずれは解消していくものである。
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【類諺】所変われば水変わる/郷に入っては郷に従え/世異なれば事異なる/時変われば[移れば]品変わる/時移り俗易《かわ》る
【英語】Every land has its own custom. 土地ごとに習俗あり/So many countries, so many customs. 国の数だけ習慣あり《国多ければ習慣多し》/Other times, other manners. 時移れば風習変わる/East is east, west is west. 東は東、西は西《東西で異なる》
無《な》い袖《そで》は振《ふ》られぬ
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An empty bag cannot stand upright.
空袋は立たぬ
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「振られぬ」は「振れぬ」とも言う。いくら頼まれても、金がなければ出しようがない、というたとえである。和服の袖に財布を入れていた時代に、「このとおり、本当にないのだ」と袖を振って、財布がないのを見せたことによるが、銀行カードの利用が発達した現代では見せようがない。
英語の「何も入っていない空袋が、ぺちゃんこになっている」というイメージに、「無い袖」との共通性が感じられる。
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【類諺】無い袖振って付き合われぬ/無い知恵は出せぬ/元手が無《の》うて商いはならず/蒔《ま》かぬ種は生えぬ
【英語】Where nothing is, nothing can be had. 何もない所からは何も手に入らぬ/A naked man cannot be stripped of clothes. 裸の人から着物は剥《は》ぎ取れぬ/You can't get blood from a stone. 石から血をしぼり出すことはできぬ
情《なさ》けは人《ひと》の為《ため》ならず
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Do well, and have well.
善を行えば善を受ける
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「情け(同情・親切・善)を施すと、相手の自立心・向上心を損なうので、ためにならない」と解釈する人がいるらしい。しかし本来は、謡曲の『葵上《あおいのうえ》』が言う「世の中の情けは人の為ならず、われ人の為辛《つら》ければ、必ず身にも報うなり」の意、つまり、「人に情けをかけておくと、いつかはそのお返しが自分に返って来るもの」ということである。
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【類諺】思えば思わるる/人[君]を思うは身を思う/情けに刃向かう刃《やいば》なし/仁者《じんしや》は敵なし/恩をもって恩に報ゆる/浮世は回り持ち/情けが仇《あだ》/天を怨《うら》みず人を尤《とが》めず《不運を天や人のせいにするな》
【英語】He that pities another remembers himself. 人を憐れむとは己《おのれ》を思うことなり/Do good, if you expect to receive it. 善を受けたくば、善をなせ/Kindness brings its own reward. 情けにお返しあり/Flowers leave fragrance in the hand that bestows them. 花を与える手には香りが残る
七転《ななころ》び八起《やお》き
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He that falls today may rise tomorrow.
今日倒れても、明日立ち上がることあらん
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「七転《しちてん》八起《はつき》」とも言い、だるまが七度転んでも八度起き上がるように、何度失敗しても奮い立って進んで行くこと。また、この世は失敗や成功といった「浮き沈み」を何度も繰り返す不安定なもの、という意味でもある。成功時には慢心を戒め、沈滞時にはがっかりせず、更に奮闘せよという教えである。
英語では「上がり下がり」「浮き沈み」を「アップ・アンド・ダウン」と言い、ことわざにも使われている。
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【類諺】浮き沈み七度/沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり/人生山あり谷あり/上り坂あれば下り坂あり/世は七下り七上り/塞翁《さいおう》が馬
【英語】There is no hill without its valley. 山があれば谷もある/Life has its ups and downs. 人生に浮き沈みあり/The world is a ladder for some to go up and some down. この世は梯子《はしご》、上る者あれば下る者あり
憎《にく》まれっ子《こ》世《よ》に憚《はばか》る
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Ill weeds grow apace.
雑草ははびこる
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「はばかる」とは、世間で幅を利かせることをいい、「はびこる」は、ますます威勢の良い状態をいう。憎まれっ子は、「国にはびこるとやらで、風を一つ引きませぬ」(『仮名手本忠臣蔵《かなでほんちゆうしんぐら》』)という言葉もあるように、したたかな偉丈夫が多いと言われる。体も意志も、世の荒波にもまれて鍛えられるからであろう。非難や妬《ねた》みをも肥やしにして、生き抜く才覚を養っていけば、怖いもの知らずになれる。
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【類諺】憎まれ子世にいずる/憎まれ子国にはびこる/憎まれ子頭堅し/憎がられてまめまめと/詛《のろ》うに死なず/高[喬《きよう》]木(は)風に折らる
【英語】The weeds overgrow the corn. 雑草は麦を駆逐するほどにはびこる/The devil's child has the devil's luck. 悪魔の子には悪魔の運あり《悪運強し》/An ill stake stands longest. 不格好な杭《くい》が一番の長持ち《見た目は悪くても頑丈》
二君《にくん》に仕《つか》えるは難《かた》し
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No one can serve two masters.
誰《だれ》も二人の主人には仕えられぬ
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昔の武士は主人の死後、「新たな主人」は持たなかった。今は「同時に二人の主人は持ちにくい」という意味で使うことが多い。しかし忠義も地に落ち、堂々と二派閥に属す人も出るご時世。二君は「じくん」とも読む。
上掲の英語と英語欄の最初のものは、ともに新約聖書のマタイによる福音書第6章第24節ほかにあるもの。
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【類諺】二人の主《しゆう》には仕え難し/忠ならんとすれば孝ならず/忠臣は二君に仕えず/貞女は二夫《にふ》[両夫]にまみえず《二夫は「じふ」とも読む》/二心《ふたごころ》/二つの弓は引けぬ/あちら立てればこちらが立たず
【英語】You can't serve God and mammon [wealth]. 神と富とには兼ね仕ええず《信仰と世事の両立は困難》/Never carry two faces under one hood. 頭布《ずきん》の下に顔を二つ持つな/You cannot have it both ways. 二股《ふたまた》は掛けられぬ
八方美人《はつぽうびじん》は頼《たの》むに足《た》らず
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A friend to everybody is a friend to nobody.
万人の友は誰《だれ》の友でもない
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「八方」は多方面。みんなの機嫌を取ろうと、愛想良く当たり障りのない無節操な態度を取る人は、かえって信用されず嫌われ、親友ができなくなる。すぐ尻馬《しりうま》に乗るお調子者同様、悪気はないが物足りなく、結局、敬遠されてしまうタイプである。また、色々な事に手を出して、どれも中途半端に終るような、気の多い人の意味にも用いる。
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【類諺】八方美人は誰にも好かれず/万能薬に効き目なし/八方手を出す人は身が持てぬ/道端《みちばた》の小便桶《おけ》《誰でも受け入れる無節操者》
【英語】He that serves everybody is paid by nobody. 万人に奉仕しても、誰からも報酬なし/Who has many friends has no friends. 友多き者に真の友はなし/One cannot please all people. 万人を喜ばせることは不可能/No dish pleases all palates alike. 万人の舌に合う料理はなし
人《ひと》と屏風《びようぶ》は直《すぐ》には立《た》たぬ
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Straight trees have crooked roots.
真っすぐ立つ木でも、根っ子は曲がっている
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屏風は「くの字形」に曲げないと真っすぐに立たない。人も信念や理屈に固執し続けると、世渡りができなくなる。時には己《おのれ》を曲げてでも、柔軟に対処することが必要である。
上掲の英語と下掲の英語の第一例は、真っすぐな人間でも、人知れず屈折していたり、状況によっては見掛けを変える(己を曲げる)、といった意。
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【類諺】商人《あきんど》と屏風は直には立たぬ/曲がらねば立たぬ[世が渡れぬ]/曲がるは折れるにまさる《折れて壊れるより曲がるがまし》/七重の膝《ひざ》を八重に折る/直木《なおき》先《ま》ず伐《き》らる《真っすぐな木ほど先に伐採されやすい》
【英語】A straight stick is crooked in the water. 真っすぐな棒も水に入ると曲がる/He that holds his own makes war. 我を通せば争い生ず/Better to lose some things than all. 全部失うより若干失うほうがまし《=曲がるは折れるにまさる》
人《ひと》には添《そ》うてみよ馬《うま》には乗《の》ってみよ
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The proof of the pudding is in the eating.
プディングの味の良し悪しは食べてみて分かる
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上《かみ》句と下《しも》句を逆順にしても言う。良い馬かどうかは乗ってみなければ分からないように、人間も、親しく付き合ってみなければ、本当の姿は分からない。実際に接したり試したりした経験や結果で判断せよ、ということ。また世間を狭くする人嫌いや食わず嫌いではいけないという戒めでもある。
英語におけるプディングは、このことわざが生まれた中世には、腸詰め《ソーセージ》を指した。
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【類諺】人には問うてみよ馬には乗ってみよ/食わざればその味を知らず/雁《がん》も鳩《はと》も食わねば知れぬ/人と契らば良く見て語れ
【英語】If you trust before you try, you may repent before you die. 大丈夫かどうか試さずに信用すれば、いつか後悔する/You never know a man until you live with him. 一緒に暮らしてみなければ、人の事は分からない
人《ひと》は落《お》ち目《め》が大事《だいじ》
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A friend in need is a friend indeed.
まさかの時の友が真の友
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思わぬ事故や災難、事業の失敗や挫折《ざせつ》など、人生には逆境に陥ることがしばしばある。自ら不運に耐えて頑張らなければならないが、日ごろ面倒を見てやった者にいち早く逃げられ、落ち目の悲哀をかこつのが常。そのような時に助けてくれる友こそ、「本当の友・真友」であり、宝である。
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【類諺】人は落ち目の心ざし/人の情けは世にある時/悲しき時は身一つ《悲運の時は自分だけが頼り》/竹馬《ちくば》の友/地獄で仏/落ち目には暇取ろう/面友《めんゆう》[口頭]の交わり《口先だけで誠意のない、上辺《うわべ》の付き合い》/八方美人は頼むに足らず
【英語】Prosperity makes friends, adversity tries them. 順境は友を作り、逆境は友を試す/A friend will help at a dead lift. 危難に助けてくれるのが友/Rats desert a sinking ship. 鼠《ねずみ》は沈む船を見捨てて脱出する《=落ち目には暇取ろう》
水《みず》清《きよ》ければ魚《うお》棲《す》まず
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Too much of one thing is not good.
一事もすぎれば悪くなる
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水があまりに澄んでいると、魚は隠れる所も餌《えさ》もないので寄らなくなる。人間も賢すぎたり立派すぎると、他人からは窮屈で近付きにくい人だと敬遠されて、孤立してしまうという意。『孔子家語《こうしけご》』や『後漢書《ごかんじよ》』にある句だが、しかし本当に清廉《せいれん》潔白《けつぱく》な人ならば、孤立を恐れないものであり、いざという時には、支援者が現れるものである。
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【類諺】清水《せいすい》に魚棲まず/水清くして大魚なし/水の清き者は常に魚なし/賢い人には友がない/過ぎたるはなお及ばざるがごとし/君子は独りを慎む/徳は孤《こ》ならず必ず隣《りん》あり《有徳者には良い隣人が出来る》
【英語】Too much of ought is good for nought. 過ぎたる事は無に等し/A wise man is never less alone than when alone. 賢者は独りにても孤独にあらず/He is only bright that shines by himself. 独りでも輝く者が真に光輝あり
水《みず》は方円《ほうえん》の器《うつわ》に随《したが》う
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Keep good men company, and you shall be of the number.
善人の中に入れば、その仲間になる
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「水は入れ物に従う」とも言う。「方円」とは方形と円形。水は四角い容器に入ると四角になり、丸い容器なら丸くなる。人間も、様々な環境や時々の対人関係に合わせて、変わりうるものである。転じて、どんな状況にも応じられるようにする、という意味もある。また白居易《はくきよい》の詩に、「情《じよう》なき水は方円の器に任せ」とあるとおり、世の中は、おいそれと思うようにはいかないもの、という意味にも使われる。
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【類諺】水は方円の器物《うつわもの》に従う/朱に交われば赤くなる/水の流れと身の行方《ゆくえ》/頭《かしら》が動かねば尾が動かぬ
【英語】If the staff be crooked, the shadow cannot be straight. 曲がった棒なら影も曲がる/A friend is another [one's second] self. 友人は第二の自分《付き合えば似通う》/Like master, like man. この主人にして、この家来あり
満《み》つれば欠《か》くる世《よ》の習《なら》い
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Every flow has its ebb.
満潮あれば干潮あり
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『史記』に「月満ちれば則《すなわ》ち欠け(満月になった時から次第に欠けていく)、物盛んなれば則ち衰う」とあるように、物事も、最盛時から衰え始めるものだから、絶好調の時こそ要注意、という教え。『平家物語《へいけものがたり》』に見られる「盛者《じようしや》必衰《ひつすい》」「栄枯《えいこ》盛衰《せいすい》」も、まさにこの世の無常の真理を表している。
世の盛衰・時勢を潮の流れにたとえた英語のことわざも、上掲のほかに少なくない。
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【類諺】浮世の潮に満干《さしひき》/栄華あれば必ず憔悴《しようすい》[愁悴《しゆうすい》]あり/盛者必衰/物盛ん[盛り]なる時は衰う/驕《おご》る平家は久しからず/満は損を招く
【英語】Fortune is constant only in inconstancy. 運命の女神はいつまでも変心し続ける/The ebb will fetch off what the tide brings in. 干潮は、満潮が運び来《きた》りし物を、運び去る/Everything has its time. 万事に潮時あり
無理《むり》が通《とお》れば道理《どうり》が引《ひ》っ込《こ》む
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Might overcomes right.
力が正義を制す
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不正や非道なこと(無理)が横行する世の中になると、人の道に適《かな》った正しい行い(道理)がなくなっていくことをいう。「道理が引っ込む」は、「道理引っ込め」や「道理そこのけ」とも言う。ごり押しがまかり通っている状況においては、道理や正論を主張しても、かえって睨《にら》まれたり恨まれたりして、嫌な思いをするだけだから、非を受け入れ、身を避けて引っ込んでいるほうが良い、という意味にもなる。
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【類諺】無理も通れば道理になる/理が非になる/理に勝って非に落ちる[負ける]/理外の理《理屈が通用しない理》/勝てば官軍負ければ賊軍/理も高ずれば非の一倍《極端な道理は理不尽と同じ》
【英語】There's no rule without an exception. 規則にも例外あり《理屈どおりにはいかぬ》/Extreme right is extreme wrong. 正義極まれば邪の極み《=理も高ずれば非の一倍》
物《もの》には七十五度《しちじゆうごたび》
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There is a measure in all things.
万事に節度あり
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物事には越えてはいけない限度、我慢できない限界がある。「人の噂《うわさ》も七十五日《しちじゆうごにち》」と言うように、七十五という数は、限界や物事の終りを表している。「七十五」という数の根拠について、一説に、「一節気(十五日)が五回、すなわち七十五日が過ぎると、季候も物事一切も変わってしまう」という考えに由来する、と言う。
なお、いじめ事件では、常識の限界を越えて相手を追い詰める点に人間性の欠如が見られる。
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【類諺】物には程《ほど》がある/堪忍袋の緒が切れる/こらえ袋の緒を切る/仏[地蔵]の顔も(日に)三度/無理は三度/物は八分目/過ぎたるはなお及ばざるがごとし
【英語】One must draw the line somewhere. どこかに一線を引かねばならぬ/When the pot's full it will boil over. 鍋《なべ》に一杯入れてしまえば、煮こぼれする
安請合《やすうけあ》いは当《あ》てにならぬ
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He that promises too much means nothing.
約束のしすぎは空《から》約束になる
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文字どおり「安易な引き受けは信用できない」の意。相手が友人でも、「安請合いされた」と気付いたら、すぐ対応策を検討すべきである。でないと、後でどちらも困ることになる。
安請合いに触れた日・英のことわざは多く、表現形式も大同小異だが、とりわけ、下欄の日・英のそれぞれ第一例は、言い回しがまったく瓜《うり》二つである。
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【類諺】安請合いの早忘れ/安請合いは的はずす/軽諾は必ず信寡《すくな》し《軽々しい承諾は信用できぬ》/問屋《といや》の只今《ただいま》《今すぐに、という空返事》/紺屋《こうや》の明後日《あさつて》《あさって出来ます、という染物屋の空約束》
【英語】Men apt to promise are apt to forget. 約束好きは忘れやすい/Eggs and oaths are easily broken. 卵と誓いは壊れやすい/Promises are (like piecrust,) made to be broken. 約束は(パイ皮同様に)破られるためにある
寄《よ》らば大樹《たいじゆ》の陰《かげ》[下《もと》]
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A good tree is a good shelter.
良い木は良い避難所
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「立ちよらば大木《おおき》のかげと落ち椎《しい》のかずを拾へる猿のかしこさ」という江戸の狂歌にもあるように、大木の下《もと》なら、雨や日射しを避けられ、木の実も拾えるという実益もある。これにたとえて、大物に頼ってその庇護《ひご》を受けることをいう。しかし、「寄らば大樹の陰」志向が蔓延《まんえん》すると、もやしのような依存型人間が増え、次代の大樹は育たない。
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【類諺】寄らば大木《おおき》の下《もと》/大木《おおき》にすがる/大船に乗る/親方日の丸/犬になるなら大所《おおどこ》[大家《おおや》]の犬になれ/腐り縄に馬をつなぐ《弱いものには頼れぬ》/大木《おおき》の下《もと》に小木《おぎ》育たず/鶏口となるも牛後となるなかれ
【英語】He that serves a good master shall have good wages. 良い主人に仕えれば実入りも良し/No service to the king's. 仕えるなら王様が一番/Lean not on a reed. 葦《あし》にはもたれるな《=腐り縄に馬をつなぐ》/Great trees keep down the little ones. 大木は小木の育ちの邪魔をする《=大木の下に小木育たず》
類《るい》を以《も》って集《あつ》まる
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Birds of a feather flock together.
同じ羽の鳥は群れ集まる
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似通ったり気の合う者は自然に寄り集まる、という意。これは群棲《ぐんせい》動物や集団社会を形成する人間の習性で、中国の『荀子《じゆんし》』や『易経《えききよう》』など多くの古典に記されている言葉である。
英語も、「同種・同類の者は相寄る」を意味し、旧約聖書外典のシラ書(集会の書)にある「鳥は類を求めて群れる」(第27章第9節)が主な出所の一つである。
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【類諺】類は友を呼ぶ/類を引き友を呼ぶ/似るを友(とす)/同類相集まる/同気相求む/同気相和す/同病相憐れむ/同類相食《は》まず/蓑《みの》のそばへ笠が寄る/花好きの畑に花が集まる/牛は牛連れ馬は馬連れ
【英語】Like attracts like. 似た者は、似た者を引き寄せる/Likeness causes liking. 似た者同士は好きになる《=同気相和す》/Misery loves company. 不幸は不幸の仲間を好む《=同病相憐れむ》/Dog does not eat dog. 犬は犬を食わず《=同類相食まず》
礼《れい》も過《す》ぎれば無礼《ぶれい》となる
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Full of courtesy, full of craft.
丁重さたっぷりに、下心がいっぱい
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「馬鹿丁寧」「慇懃《いんぎん》無礼《ぶれい》」「巧言令色」の類《たぐ》いである。言葉巧みに礼を尽くしているふうを装いながら、心では相手を軽蔑《けいべつ》していたり、何らかの下心を抱いているといったことが多いものであるから、見極めをすることが必要である。
職場で最も難しいのは、昨日まで同輩や部下だった人が、上位の立場に異動した場合である。急に手の平を返したような態度をとらずに、なお礼は尽くすことが肝要であろう。
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【類諺】礼も過ぎれば諂《へつらい》となる《伊達《だ て》政宗《まさむね》の座右銘》/礼はかえって無礼の沙汰《さた》/礼は往来を尚《たつと》ぶ《礼は双方で尽くす》/卑下も自慢のうち
【英語】When there is over mickle courtesy, there is little kindness. 礼が過ぎれば思いやりが薄くなる/Courtesy on one side only lasts not long. 一方通行の礼は長続きせず《=礼は往来を尚ぶ》/Pride that apes humility. 謙遜《けんそん》ぶった高慢
禍《わざわい》を転《てん》じて福《ふく》と為《な》す
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Make the best of a bad bargain.
逆境に善処して切り抜けよ
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「知者とは、禍を転じて福と為し、敗《はい》によって功を成す者なり」(『戦国策《せんごくさく》』)とあるように、災厄を利用して幸いに転ずること。遠方に転勤になっても、未開拓の地を開発できる試練の機会と受け止めて頑張るのも卑近な一例。
英語は、「損な取引・契約でも、最善のものにせよ」「割高の買い物は、使い尽くして元を取れ」の原義から転じたもの。
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【類諺】禍も福の端《はし》となる/禍福《かふく》[吉凶]は糾《あざな》える縄のごとし《より合わせた縄のように交互に続く》/七転び八起き/失敗は成功のもと
【英語】There is no ill but may turn to one's good. 人のためにならない災いはない/Ill luck is good for something. 不運でも何かの役に立つもの/Bad luck often brings good luck. 凶もしばしば吉をもたらす/Sadness and gladness succeed each other. 悲しみと喜びは交互にやって来る
見出しのことわざ総索引
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【あ】 【い】 【う】 【え】 【お】
【か】 【き】 【く】 【け】 【こ】
【さ】 【し】 【す】 【せ】 【そ】
【た】 【ち】 【つ】 【て】 【と】
【な】 【に】 【ぬ】 【ね】 【の】
【は】 【ひ】 【ふ】 【へ】 【ほ】
【ま】 【み】 【む】 【め】 【も】
【や】 【ゆ】 【よ】
【り】 【る】 【れ】 【ろ】
【わ】
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【あ】
愛は屋烏に及ぶ
青[紺]は藍より出でて藍より青し
商いは牛のよだれ
諦めが肝心[大事]
悪銭 身に付かず
明日は明日の風が吹く
明日ありと思う心の徒桜
明日の百より今日の五十
当たって砕けよ
頭剃るより心を剃れ
頭でっかち尻つぼみ
あちら立てれば こちらが立たず
羹に懲りて膾を吹く
痘痕も笑窪
虻蜂取らず
雨垂れ石を穿つ
雨降って地固まる
過ちて改むるに憚ることなかれ
荒馬の轡は前から取れ
嵐の前の静けさ
蟻の穴から堤も崩れる
案ずるより生むがやすし
【い】
言うは易く 行うは難し
家に無くてならぬは上框と女房
家貧しくして孝子出ず
石の上にも三年
石橋を叩いて渡る
医者の不養生
衣食足りて礼節[栄辱]を知る
いずれ(が)菖蒲か杜 若
磯際で舟を破る
磯の鮑の片思い
一押 二金 三男
一毫の差 千里の差となる
一事成れば万事成る
一難去ってまた一難
一病息災
一文吝みの百知らず[失い]
一葉落ちて天下の秋を知る
一を聞いて十を知る
一挙両得
一犬虚[影]に吠ゆれば万犬吠ゆ
一刻千金
一升桝に二升は入らぬ
一将功成りて万骨枯る
一寸の虫にも五分の魂
井の中の蛙 大海を知らず
厭[嫌]と頭を縦に振る
入るを量りて出ずるを為す[制す]
言わぬが花
【う】
有為転変の[は]世の習い
上には上がある
魚心あれば水心
浮世は心次第
浮世は回り持ち
牛は牛連れ 馬は馬連れ
氏より育ち
嘘も方便
内弁慶
内股膏薬
馬の耳に念仏
生まれながらの長老なし
梅干と友達は古いほど良い
売り言葉に買い言葉
瓜の蔓に茄子はならぬ
噂をすれば影
運を待つは死を待つに等し
【え】
笑顔に敵なし
蝦で鯛を釣る
縁と月日の末を待て
縁は異なもの味なもの
【お】
老いたるを父とせよ
老いの手習い
負うた子に教えられて浅瀬を渡る
大費いより小費い
陸[岡]に上がった河童
傍[岡]目八目
驕る平家は久しからず
教うるは学ぶの半ば
煽てと畚には乗りやすい
男は度胸 女は愛嬌
男は妻から
鬼の居ぬ間に(命の)洗濯
己の頭の蝿を追え
己を責めて人を責むるな
己をもって人を量るな
お前百まで わしゃ九十九まで
思い内にあれば 色外に現る
思い立ったが吉日
親子の仲でも金銭は他人
親擦れより友擦れ
親の意見と茄子の花は無駄がない
親の心 子知らず
親の欲目
終り良ければ全て良し
女の髪の毛には大象も繋がる
【か】
飼い犬に手を噛まれる
隗より始めよ
下学して上達す
頭が動かねば尾が動かぬ
勝って兜[冑]の緒を締めよ
河童に水練
勝つも負けるも時の運
勝てば官軍 負ければ賊軍
我田引水
蟹は甲(羅)に似せて穴を掘る
金が金を儲ける
金の切れ目が縁の切れ目
金は天下の回り物
金持ち喧嘩せず
壁に耳あり 障子に目あり
髪結いの乱れ髪
亀[蟹]の甲より年の劫[功]
借着より洗着
借りる時の恵比須顔 済す時の閻魔顔
彼も人なり 予も人なり
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
可愛い子には旅をさせよ
可愛さ余って憎さ(が)百倍
勘定合って銭[金]足らず
艱難 汝を玉にす
堪忍は立身の力綱
雁も鳩も食わねば知れぬ
棺を蓋いて(後)事定まる
【き】
既往は咎めず
聞くと見るとは大違い
聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥
雉[雉子]も鳴かずば撃たれまい
汚く稼いで清く暮らせ
昨日は人の身 今日は我が身
窮すれば通ず
窮鼠猫を噛む
窮鳥懐に入れば 猟師も是を殺さず
漁父[夫]の利
着れば着寒し
義を見てせざるは勇なきなり
【く】
空中(の)楼閣
愚者も一得
薬より養生[看病]
口叩きの手足らず
口と財布は締めるが得
口に蜜あり腹に剣あり
口は禍の門
苦は楽の種 楽は苦の種
君子危うきに近寄らず
君子は九度思いて一度言う
君子は豹変す
【け】
鶏口となるも 牛後となるなかれ
蛍雪(の功)
芸は身を助く
下戸の建てた蔵はない
家来とならねば家来は使えぬ
毛を吹いて疵を求む
言[言葉]は身の文
【こ】
恋に師匠なし
恋に上下の隔てなし
恋[色]は思案の外
後悔先に立たず
孝行の したい時分に親はなし
好事魔多し
巧遅は拙速にしかず
郷に入っては郷に従え
甲の損は乙の得
弘法(に)も筆の誤り
弘法(は)筆を選ばず
高[喬]木(は)風に折らる
虎穴に入らずんば虎子[児]を得ず
五十歩百歩(を笑う)
孤掌鳴らし難し
子宝 脛が細る
事は密なるをもって成る
子は親をうつす鏡
転んでもただ(で)は起きぬ
子を知ること親[父]にしくはなし
【さ】
塞翁が馬
歳月[光陰]人を待たず
才子多病[短命]
先勝ちは馬鹿勝ち
先んずれば人を制す
酒呑み本性を違わず
酒は呑むとも呑まれるな
酒は百薬の長
去る者は日々に疎し
触らぬ神に祟りなし
三度目の正直
三人寄れば公界
三人寄れば文殊の知恵
【し】
四海兄弟
鹿を追う者[猟師]は山を見ず
色即是空 空即是色
地獄で仏
地獄の沙汰も金次第
獅子身中の虫
死しての長者より生きての貧者
死屍を鞭打つ
親しき仲に垣をせよ
失敗は成功のもと
十人十色
朱に交われば赤くなる
正直の頭に神宿る
小事は大事
生者必滅
商売敵は折り合わぬ
将を射んとせば まず馬を射よ
知らぬが仏 見ぬが極楽
人事を尽くして天命を待つ
人生は行楽せんのみ
人生(は)朝露のごとし
辛抱する木に金が生る
【す】
酸いも甘いも噛み分ける
好きこそものの上手なれ
過ぎたるは なお及ばざるがごとし
空きっ腹[空腹]にまずい物なし
雀の千声 鶴の一声
雀百まで踊り忘れず
捨てる神あれば拾う神あり
【せ】
精神一到 何事か成らざらん
清濁併せ呑む
急いては事を仕損じる
堰かれて募る恋心
背に腹は替えられぬ
千軍は得易く 一将は求め難し
栴檀は二[双]葉より香し
船頭多くして船山に登る
善は急げ
千里の行[道]も一歩より
【そ】
創業は易く 守成は難し
袖振り合うも他生の縁
備えあれば憂[患]いなし
損して得取れ
【た】
大吉は凶に還る
大器晩成
大魚は小池に棲まず
大敵を恐れず 小敵を侮らず
大は小を兼ねる
大欲は無欲に似たり
宝の持ち腐れ
ただほど高い物なし
畳の上の水練
達人は大観す
立つ鳥跡[後]を濁さず
旅は道連れ 世は情け
矯めるなら若木のうち
足るを知る者は富む
【ち】
近惚れの早厭き
竹馬の友
忠言(は)耳に逆らう
中流に船を失えば一瓢も千金
塵も積もれば山となる
珍客も長座に過ぎれば厭わる
【つ】
使っている鍬は光る
角を矯めて牛を殺す
釣り合わぬは不縁の因[基]
【て】
敵は本能寺(にあり)
天網恢恢 疎にして漏らさず
【と】
灯台 下暗し
問うに落ちず 語るに落ちる
遠くて近きは男女の仲
遠くの親戚[親類]より近くの他人
所変われば品変わる
捕らぬ狸の皮算用
取ろう取ろうで取られる
泥を打てば面へ跳ねる
飛んで火に入る夏の虫
【な】
無い袖は振られぬ
鳴かぬ蛍が身を焦がす
流れる水は腐らず
無くて七癖
情けは人の為ならず
七転び八起き
七度尋ねて人を疑え
生兵法は大怪我のもと
習い(は)性となる
習うより慣れよ
ならぬ堪忍するが堪忍
何でも来いに名人なし
【に】
憎まれっ子 世に憚る
二君に仕えるは難し
二度ある事は三度ある
二度教えて一度叱れ
女房は半身上
【ぬ】
盗人を捕らえて縄をなう
【ね】
懇ろ倒し
念力岩を透[通]す
【の】
能ある鷹は爪を隠す
軒[庇]を貸して母屋を取られる
喉元過ぎれば熱さを忘れる
乗りかかった舟
【は】
敗軍の将(は)兵を語らず
背水の陣(を敷く)
走り馬にも鞭
八方美人は頼むに足らず
話に尾鰭(が付く)
花より団子
早起きは三文の得[徳]
腹八分に医者いらず
【ひ】
低き所に水溜まる
引っ越し貧乏[三両]
匹夫も志を奪うべからず
人と屏風は直には立たぬ
人には添うてみよ 馬には乗ってみよ
人の一寸 我が一尺
人の噂も七十五日
人[世間]の口に戸は立てられぬ
人の振り見て我が振り直せ
人は一代 名は末代
人は落ち目が大事
人は故郷を離れて貴し
人は詞で試み 金は火で試みる
人は見掛け[上辺]に拠らぬもの
一人自慢の誉手なし
人を呪わば穴二つ
人をもって言を廃せず[棄てず]
火の無い所に煙は立たず
百聞は一見にしかず
百里を行く者は九十里を半ばとす
【ふ】
河豚は食いたし命は惜しし
武士は食わねど高楊枝
【へ】
下手があるので上手が知れる
【ほ】
棒ほど願って針ほど叶う
吠える犬は噛み付かぬ
惚れて通えば千里も一里
【ま】
蒔かぬ種は生えぬ
負けるが勝ち
馬子にも衣装(髪形)
待てば海路の日和あり
【み】
身から出た錆
水清ければ魚棲まず
水は方円の器に随う
満つれば欠くる世の習い
実るほど頭を下げる稲穂かな
見目より心
【む】
無理が通れば 道理が引っ込む
【め】
名人は謗らず
名馬に癖[難]あり
目は口程に物を言う
雌鶏歌えば家亡ぶ
【も】
餅は餅屋
故[元]の鞘へ収まる
物臭の節供働き
物には七十五度
物には始めあり終りあり
貰う物なら夏でも小袖
【や】
焼け石に水
焼け木杙に火が付く
安請合いは当てにならぬ
安物買いの銭失い
柳(の枝)に雪折れなし
柳の下にいつも泥鰌はいない
病は気から
【ゆ】
勇将の下に弱卒なし
【よ】
葦の髄から天井(を)覗く[見る]
寄らば大樹の陰[下]
弱り目に祟り目
【り】
両雄並び立たず
【る】
類を以って集まる
【れ】
礼も過ぎれば無礼となる
【ろ】
論より証拠
【わ】
我が家 楽の釜盥
我が物と思えば軽し笠の雪
禍を転じて福と為す
笑う門には福来る
破れ鍋に綴じ蓋
主な参考文献
秋本弘介『英語のことわざ』(創元社1970年)
池田彌三郎+ドナルド・キーン監修『日英故事ことわざ辞典』(朝日イブニングニュース社1982年)
井上豊+溝江徳明『評釈ことわざ辞典』(桜風社1984年)
太田素子『江戸の親子』(中央公論社1994年)
金丸邦三編『日中ことわざ対照集』(燎原書店1996年)
大塚高信+高瀬省三編『英語ことわざ辞典』(三省堂1976年)
熊代彦太郎編『俚諺辞典』[復刻版](大空社1990年)
小泉武夫『日本酒ルネッサンス』(中央公論社1992年)
故事ことわざ研究会編『動物の格言諺事典』(アロー出版社1976年)
今野信雄『江戸の風呂』(新潮社1989年)
重松一義『大江戸女ばなし』(PHP研究所1988年)
守随憲治監修『故事ことわざ事典』(新文学書房1979年)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館1986年)
鈴木棠三『新編故事ことわざ辞典』(創拓杜1992年)
高橋新鼎『カード式英語研究・英和百諺カルタ[3版]』(第三有隣堂1908年)
中江克己『江戸時代に生きたなら』(廣済堂出版1993年)
西岡まさ子『江戸の女ばなし』(河出書房新社1993年)
西山松之助『江戸文化誌』(岩波書店1987年)
新田等『英語ことわざ辞典』(むさし書房1969年)
延原政行編『ことわざ事典』(金園社1979年)
諸橋轍次『中国古典名言事典』(講談社1979年[学術文庫版])
山口博『古典でたどる日本サラリーマン事情』(PHP研究所1988年)
山口佳紀『暮らしのことば語源辞典』(講談社1998年)
李宗惠編『例解日漢成語詞典』(科学技術出版社1993年)
渡辺紳一郎『西洋古典語典』『東洋古典語典』(講談杜1984年)
Bertram, Anne. NTC's Dictionary of Proverbs and Clich市. National Textbook Co., 1993.
Bohn, Henry George. A Hand-book of Proverbs. H. G. Bohn, 1870.
Fergusson, Rosalind. The Penguin Dictionary of Proverbs. Market House Books Ltd & Penguin Books Ltd, 1983.
Kirkpatrick, Betty. Brewer's Concise Dictionary of Phrase and Fable. Cassell Publishers Ltd, 1992.
Mieder, Wolfgang, et al. A Dictionary of American Proverbs. Oxford Univ. Press, 1992.
Partridge, Eric. A Dictionary of Catch Phrases. Scarborough, 1992.
Ridout, Ronald, and Clifford Witting. The Macmillan Dictionary of English Proverbs Explained. Macmillan, 1995.
Simpson, John. The Concise Dictionary of Proverbs. Oxford Univ. Press, 1992 (2d).
Titelman, Gregory. Random House Dictionary of Popular Proverbs and Sayings. Random House, 1996.
Wilson, F. P. The Oxford Dictionary of English Proverbs. Oxford Univ. Press, 1970 (3d).
[執筆] 水川 真
*
本書は、「講談社ことばの新書」シリーズとして1999年7月に刊行されました。
電子書籍版では、「コラム」を割愛しました。 日英対照《にちえいたいしよう》 実用《じつよう》ことわざ辞典《じてん》
講談社電子文庫版PC
講談社辞典局《こうだんしやじてんきよく》 編 (C) Kodansha 1999
2003年3月14日発行(デコ)
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