ぼくのにっき ъ( ゚ー^)アイルビーバッック
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第1週 「遭遇」
8月28日 月ようび はれ
この時期に入院するのはけっこうおトクかもしれない。
9月になっても夏休みが続くみたいでなんかうれしいです。
でも自由研究まだやってなかったなぁ。どうしよう。
となりのベッドのおじさんの観察日記でも書こうかな?
トトロみたいで面白い。あんなにおいしそうにごはんを食べる人は初めて見ました。
だけどくさいのだけはかんべんして欲しいな。
気になって眠れないです。
8月29日 火ようび はれ
今日はポケモンの日です。
隣のおじさんも一緒に見てました。ピチューがお気に入りのようです。
ぼくはピカチューが好きだけどピチューも好きです。おじさんとは気があいそう。
でもこの部屋にはこどもばっかなのになんでおじさんがいるんだろう?
かんごふのおねえさんに聞いてみました。
「なおや君。世の中にはね、ふれちゃいけないことがあるのよ。」
だそうです。せけんではそのことをたぶーと言うらしい。ひとつ勉強になりました。
今度みんなにおしえてあげよっと。
8月30日 水ようび はれ
おじさんはとってもおっきいです。
体じゅういくらあるのかな?100トンくらあるかもしれない。
なんでこんなにおっきいんだろう?
今日もかんごふの村上おねえさんさんに聞いてみました。
「なおや君はこうきしんおーせーなのね」とほめてくれました。
村上さんはいつもぼくのしつもんに答えてくれるものしりはかせです。
おじさんがなんでおっきいのかも知ってました。
「ブタはね。よく食べるからブタなのよ」
そういえばブタとたぶーって似てる。おじさんはよく食べるし、みためもブタみたい。
おじさん、ひょっとしたらブタにんげんなのかも!
ちょっとこわいです。
8月31日 木ようび すこしあめふり
今日はいつものポケモンです。ピカチューはいつ見てもかわいいです。
おじさんもよろこんで見てました。今日は村上さんもいっしょでした。
村上さんもピカチュー好きなのかな?聞いてみました。
「オトナはね。ピカチューよりナマチューなのよ」
ナマチューってなんだろう。そんなポケモンいたっけな?
おじさんはピカチューも好きだからまだコドモなのかもしれない。
ピカチューが出るたびによだれをたらすのはおじさんなのにコドモだからなのかなぁ。
おじさんってふしぎ。
9月1日 金ようび くもり
みんなは今日から学校だけどぼくはおやすみです。
おじさんは学校にはいかなくていいのかな?ずっとおやすみなのかなぁ
ぼくは退院したらいかなくちゃいけないのに。ちょっとうらかましいな。
けどどうしておじさんは入院してるんだろう。
村上さんがおじさんをつっついて遊んでました。おじさんはなんだかよろこんでます。
ぜんぜん病気には見えません。村上さんに聞いてみました。
「なおや君はからだが悪いから入院してるんでしょ?でもこのおじさんはね。あたまが悪いの。」
あたまが悪いと入院しなくちゃいけないんだ!
ぼくもちゃんとべんきょうしないと一生家にかえれなくなっちゃう・・・
どうしよう。
9月2日 土ようび はれ
おみまいにピカチューのぬいぐるみをもらいました。
手のひらにのっかってとってもかわいいです。
でも、せっかくもらったのになくしてしまいました。
村上さんにもさがしてもらったけど見つかりません。
どこに置いたのか忘れちゃった。ベッドの下にもありませんでした。
おじさんはなにかおいしいものを食べててごきげんです。
おくちいっぱいにつめこんでモグモグしてました。
おじさんはきらくでいいなぁって思ってると、村上さんがおじさんの頭をバインダーのかどでぶちました。
村上さんはきれいな人なのにやることはカゲキです。
おじさんの口からへんなかたまりがでてきました。
思い出したくありません。
9月3日 日ようび はれ
おじさんは本当はこの病院にいてはいけない人なんだそうです。
なんだか色々もんだいがあってここにおいてもらってるらしい。
「ゴミはゴミ箱じゃないところすてちゃダメでしょ?だからね。このおじさんもすてられないの。」
と村上さんが言ってました。おじさんってゴミなんだ。だからくさいんだ。
だけどおじさんはぜんぜん気にしてないみたいです。
ときどき変なふうに笑うのは気持ち悪いけど見てて面白いです。
やっぱり自由研究はおじさんの観察日記にしよう。
がんばるぞー
第2週 「調査」
9月4日 月ようび くもり
村上さんがおじさんに注射してました。痛そうです。
終わったあと、村上さんは注射器をながめて「あ、まちがえた」と言ってました。
おじさんはなぜかとっても気持ちよさそうな顔してます。
目がぼんやりとしてよだれまでたらしちゃってる。
しばらくするといつものおじさんに戻ってしまいました。
なんだったんだろう。
9月5日 火ようび あめ
おじさんがみょうにそわそわしてます。
おなかが空いてるのかと思ってぼくのバナナをあげました。
バナナの先をうでにぎゅうぎゅうこすりつけてました。
しばらくすると飽きたらしく、つぶれたバナナを皮ごと食べてしまいました。
そのあとまたキョロキョロいそがしそうに顔を動かしてました。
何かさがしてるのかな。
9月6日 水ようび くもり
おじさんの食べっぷりが面白いので、みんなでおかしをあげました。
ぜんぶ食べ終わるとキョロキョロなにかをさがしはじめます。
そこにおかしをあげると、しばらくうでに押しつけてからグシャグシャになったのを食べます。
おじさんは変な習性をもってることがはんめいしました。
でもちょっとやりすぎちゃって村上さんに怒られてしまいました。
今おじさんのベッドの横には「エサをあたえないで下さい」ってはりがみがはってあります。
おかしをあげるのはもうダメらしい。
ざんねん。
9月7日 木ようび ちょっとあめ
テレビにピカチューがうつるとおじさんは変な声でさけびました。
びっくりして見てみると、まるまってわんわん泣き始めました。
目がいたいらしく、目をおさえて「めぇーめぇー」とさけんでました。
ひつじみたいな泣き声です。なんでこんなに泣いてるんだろう。
村上さんが「ピカチューのこうせんにやられたのね」と教えてくれました。
アニメを見るときはへやをあかるして見なきゃ、ピカチューに目をつぶされるんだそうです。
おそろしい・・
9月8日 金ようび くもり
おじさんがあばれました。何かを欲しがってるみたいです。
わぁわぁ泣いてうるさかったです。村上さんがなぐるとおじさんは黙りました。
こんどはしくしく泣きはじめました。なんだか見ててかわいそうです。
なにが欲しいんだろう。村上さんも考えてたました。
でも村上さんはなにか思いついたようです。
にやっと笑って「あしたあげるからね」と言ってました。
気になる。
9月9日 土ようび はれ
すごいことがはんめいしました。
村上さんが注射すると、おじさんがしゃべってくれます!
気持ちよさそうな顔になったと思ったら、きゅうに目がおおきくひらきました。
「ハッ!ここはいったい・・・・」ってしゃべりました。びっくり!
でもすぐにまたもとに戻ってしまいます。
おじさんがしゃべるのはぼくと村上さんだけのひみつにしました。
「こんどはもっとキツイのにしてみよっか」と村上さんとひみつ約束までしてしまいました。
とっぷしーくれっとです。
9月10日 日ようび はれ
おじさんがふしぎなことになりました。
村上さんがこい色の注射をうつと、気持ちよさそうな顔をしたあと
きゅうに「おおおおおおおお!?」って大きな声をあげました。
ぼくたちがびっくりしてると、おじさんは村上さんを見るなり抱きつきました。
「サキちゃん!やっと会えたね!」って。
村上さんの名前はたしかあゆこです。グーでなぐられてました。
なぐられてもしあわせそうな顔してました。
今おじさんはニヤニヤよだれをたらしながらねてます。
ぼくはなぜかとってもこわいきもちになりました。
ねむれません。
第3週 「実体」
9月11日 月ようび すごいあめ
おじさんにはなしかけられました。
「ねぇ。君はなんでこの病院にいるの?」って。
いきなりはなしかけられてびっくりしました。
ぼくはからだがよわい体質で何度か入院してることをきちんと答えました。
おじさんはフンフンと鼻をならしてうなずいてました。
しばらくだまったあと、またはなしかけられました。
「じゃぁ木の葉っぱが全部おちたら死んじゃったりするんだ。」
しません。
9月12日 火ようび くもり
おじさんに村上さんの名前を聞かれました。
あゆこだったと思いますって答えると、ムフーってよろこんでました。
「あゆ〜」って言いながらまくらに抱きついてます。
はなしついでにぼくはいちばん気になってたしつもんをしてみました。
おじさんはなんで入院しているの?
おじさんはきゅうに目をほそめてまどの外をながめました。
「ラブシック。恋のやまいサ」
おくがふかいです。
9月13日 水ようび くもり
おじさんがしゃべるようになったのがもんだいになってるみたいです。
村上さんが「えんどうさん。なおったなら退院してもいいんですよ」って言ってました。
おじさんの名前はえんどうって言うらしい。知らなかった。
おじさんは退院する気はないみたいです。言い返してました。
「あゆ。そんなこと言うなんてお前らしくないゾ」
かかとでけられてました。まわりげりです。
村上さんとおじさんって知り合い?
でも名前知らなかったし・・・
なぞです。
9月14日 木ようび すこしあめ
村上さんにおじさんと知り合いなのか聞いてみました。
すごいいきおいで否定してました。
「なおや君。私がブタと知り合いなワケないでしょ?」
たしかに年がはなれすぎてます。
それにキレイな村上さんとこのおじさんじゃちょっとつりあわないなって思ってました。
おじさんが「見つめるなよ。てれるじゃないカ」って言いました。
村上さんはにらんでるだけでした。
すれちがってます。
9月15日 金ようび はれ
おじさんが退院させられるそうです。
お金のはなしとか病院のつごうとかどろくさいはなしが聞こえてきます。
オトナの世界をかいま見てしまいました。
「ボクには待ってる人がいる。でもあゆを置いていくわけにもいかナイ」
とおじさんはよくわからないことを言ってました。
こんなめずらしいおじさんを観察できなくなるのは残念です。
ちょっとさびしいな。
9月16日 土ようび おおあめ
おじさん、つれていかれちゃいました。
観察日記ができなくなっちゃう。でもオトナの事情だから仕方ありません。
おじさんはひっしに抵抗してたけど、あっけなくやられてました。
村上さんはニコニコしながらなかゆび立てて見送ってました。
さいごにおじさんはすごい声でさけんでました。
「ゆぅーーーりあぁぁーーーー!!」
だれ?
9月17日 日ようび くもり
おじさんが戻ってきた!すごいいきおいで。
でもなんだかようすがおかしいです。
「愛ゆえに愛ゆえに」と叫びながら村上さんに抱きつきました。
すぐにアッパーをくらってましたが、そのいきおいでぼくのベッドに飛んできました。
思わずぼくと目があいました。そしたら。
「抱いてくれないとこいつくっちまうぞゴルァ」って。
村上さんはやめなさいって叫んでおじさんは「愛を下さい」と叫んでて・・
今でもおじさんはぼくの横でフウフウ鼻をならしてます。暑苦しいです。村上さんはいません。
ぼく、人質になったっぽい!
ドキドキです。
第4週 「処理」
9月18日 月ようび はれ
おじさんと村上さんたちのこうぼうが続きます。
エサをあげたりピカチューのぬいぐるみをあげてもおじさんはなっとくしませんでした。
「なおや。ボクはホントはこんなことしたくないんだ。あゆが冷たくするから」
おじさんがなげいてました。なぜかぼくも呼びすてです。
村上さんは「私を抱いていいのはトムクルーズだけよ」って叫んでました。
そのあいだぼくはずっとおじさんのおなかをプニプニさせてました。
すごいだんりょくです。
9月19日 火ようび はれ
ずっととなりにおじさんがいるのでとってもくさいです。
汗をかいてるのでぼくのベッドもぐしょぐしょにぬれてしまいました。
おじさんにそのことを言ったらなぜかニヤニヤしてました。
「どこがぬれてるんだ?え?キミの口から聞きたいナァ」
ベッドがぬれてるだけなのに。なにが楽しいんでしょうか。
「あゆにも言わせたいね。グフフ」って笑ってました。
いみがわかりません。
9月20日 水ようび はれ
おじさんはいよいよダメっぽいです。村上さんにとどめをさされてました。
「ボクのドコがいけないんだ」って言ったときです。
村上さんがすごいいきおいで答えました。
「目と耳と口と鼻と顎と額と髪と髭と顔と胸と腹と腕と足と指と爪と産毛と骨と
それらすべてにまとわりつく異常な匂いを醸し出すその醜い脂肪の塊が嫌なの」
(漢字は全部村上さんに教えてもらいました)
おじさんは止まってしまいました。おなかのプニプニもなぜかなくなってます。
固まっちゃっいました。
9月21日 木ようび はれ
おじさんがおもいつめたような目でお腹を見つめてました。
下をむいてお腹の肉をひっぱってはなしてをくりかえしてました。
ぼそぼそと「トムクルーズなら・・トムクルーズなら・・」ってつぶやいてます。
村上さんたちはもうおじさんのことはほっといてるようです。
「バカにはね。ほうちプレイがいちばんなのよ」って言ってました。
よくわからないけど、おじさんはもう見捨てられたらしい。
ひとりさびしくお腹をいじるおじさんはちょっとさびしげでした。
どうなっちゃうんだろう。
9月22日 金ようび くもり
おじさんがこわれました。お腹の肉をひきちぎるんだって。
うでのお肉にかぶりついて血まで流してました。
ぼくが止めても「この肉のせいで!」って泣きながら叫びます。
みんな(村上さん以外)で止めてようやくやめさせた時には
うでも真っ赤になってめそめそ泣いてました。
あまりにせつなくなったのでぼくは言ってあげました。
やせたおじさんなんかおじさんじゃないよ!
おじさんは顔をあげて目をかがやかせました。
「飛べないブタはただのブタか!」
よくわからないけどうなずいておきました。
おじさんにだきしめられました。「ありがとうなおやっち!ありがトン!」
ひとりオイオイ泣いてたけどぼくはにおいが気になってしかたなかったです。
やっぱやせた方がいいかも。
9月23日 土ようび あめ
別れは突然でした。
「決めた。ボクはトップガンに入る!」そう言い残しておじさんは去りました。
さいごにあくしゅした時のおじさんの手はとてもしめってました。
おやゆびを立て、「あいるびーばっく」と言いながらドアの向こうに消えていきます。
村上さんは「NO!」とあっさり切りすててました。
トップガン。これに入るとトムクルーズになれるんだそうです。
おじさん、トムクルーズになれたら戻ってくるよね。
だいじょうぶかな。太っててもトムクルーズになれるのかな。
誰もいないとなりのベッドを見ながら、ぼくはおじさんのせいこうを祈りました。
きのうまでは耳をすませばおじさんのはないきが聞こえてきたのに。
今はもう聞こえません。くさいにおいもありません。
けどおじさん。いつかまた会えるよね!
それまで・・・さようなら。
9月24日 日ようび はれ
ぼくもそろそろ退院できることになりました。
長かったぼくの夏休みももうおわりです。
けっきょく自由研究は「はたらくおねえさん」にしました。
村上さんのことをかくつもりです。きょかももらいました。
おじさんとの思い出は少なかったけどきょうれつでした。
今でもあのにおいを思い出すと気持ち悪くなってしまいます。
村上さんは「やっと処理できたわね」と笑ってました。
ぼくもいっしょに笑いました。笑ってないと泣いてしまいそうだったから。
おじさん。こわかったりくさかったりしたけど面白かったよ。
「おもちゃがなくなると、それはそれでさびしいね」
村上さんの言うとおりです。
いつもはつまらない入院も今回はおじさんのおかげで楽しかった。
本当なら毎日・・・・はちょっとヤだから
たまになら会いたいな。冬だったらあったかそう。
おじさん。はやくトムクルーズになってきてね。ぼくはずっと待ってるよ。
おじさんならなれるさ。太ったトムクルーズに!
・・・カッコワイルイかも
ъ( ゚ー^) オシマイ
ぼくのにっき (゚∀゚)フォロォォーミィィー
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第5週 「新手」
9月25日 月ようび くもり
今週のおわりには退院します。
ずいぶんおくれた自由研究だけどはやく書かなきゃ。
おじさんと村上さんのしゃくねつのばとるを思うぞんぶん書くつもりです。
村上さんに教えてもらったこともたくさん書こう。
ピカチューよりナマチュー。よく食べるからブタ。
デブにブタはタブー。暗いところでピカチューを見たら死ぬ。
たしかこんなかんじでした。他にもいろいろあったっけ。
べんきょうになります。
9月26日 火ようび あめ
自由研究をやらなきゃ先生に殺されます。
また入院するのはかんべんして欲しいです。
けどちょっとラッキーなことがおこりました。
村上さんに「はたらくおねんさん」をとられました。
「なおや君。うそはダメよ」って。本当のことしか書いてないのにな。
代わりに村上さんがしんじつを書いてくれることになりました。
おかげでぼくは何もしなくて済むかもしれません。
たなぼたです。
9月27日 水ようび はれ
退院が近くなったのであつし君がおみまいにきてくれました。
でもなんだか様子がおかしいです。なやみごとでもあるんでしょうか。
聞いてみると、なにやらトラブルにまきこまれてるらしんです。
「なおや君。もしかしたら退院しない方がいいかも。」だって。
そんな事言われてもずっとここにいるわけにもいきません。
しんみょうな顔をしたままあつし君は帰っていきました。
退院しない方がいいなんてよほどのことにちがいありません。
学校でなにかあったのかな。少し不安になってきました。
なにが起きてるんだろう。
9月28日 木ようび はれ
村上さんが「はたらくおねえさん」を完成させてくれました。
読んでみるとぜんぜんちがう内容にかえられていました。
「村上さんはとても綺麗な人で僕は目が合う度にドキドキしてしまいます」
「真夜中でも患者の様子を見回る姿にはその優しさに心を打たれました」
「時には厳しく叱られます。でもその度に僕は彼女の愛情を感じずにはいられません」
「僕がここまで快復したのは村上さんのおかげです」
「彼女こそ白衣の天使の名に相応しい」
ほめまくってました。おじさんの話はひとことも出てきません。
夜中はいつも寝てるっていってたのに。白衣の天使なんかはつみみです。
これがじょうほうそうさってヤツなのでしょうか。
オトナって・・・こわい。
9月29日 金ようび くもり
明日で退院です。きょうもあつし君がきてくれました。
村上さんを紹介してあげました。村上さんはにこにこしながらむかえてくれました。
せっかくなので「はたらくおねえさん」を見せてあげました。
自由研究にね。この村上さんのことを書いたんだよって。
するとあつし君はきょとんとした顔をして言いました。
「ことしは自由研究なかったよ。」
あつし君が帰ったあと、村上さんがすっとぼくのところによってきました。
顔はにこにこしてるのにおでこにはあおすじがたってます。
「はたらくおねえさん」をパンパンとたたいたあと、耳もとでささやかれました。
「私のどりょくはムダだったのね?」
そのあとおしおき
・・・・
なんでもないです。
9月30日 土ようび あめ
やっと退院できました。
村上さんに見送ってもらったけどはずかしくて目をあわせることができませんでした。
どうしても昨日のことを思い出してしまいます。村上さんはさいごまでにこにこ笑ってました。
かんどうのお別れシーンになるはずでしたが、ぼくはすぐに帰ってしまいました。
それはそうと、あつし君から新しいじょうほうが入りました。
退院を祝いにきてくれたんですが、またムズカシイ顔をしてたので聞いてみたんです。
そしたらわかりました。なんでも最近コワイ人にからまれてるらしい。
しかもそれだけではありません。先生とかにそうだんしてみたらって言ったら
すごいいきおいで否定されました。そしてすごいことが判明したんです。
「ダメだよ。だって相手はトムクルーズなんだから!」
おじさん!?
10月1日 日ようび くもり
トムクルーズにさからうと2ちょうけんじゅうで殺されてしまいます。
あつし君は大事なゆうぎおうのカードをとられてしまいました。
おじさんってばいつのまにポケモンからのりかえたんだろう。
ずいぶんはやくトムクルーズになれたみたいだけど
ゆうぎおうのカードをとるのはいただけません。
ぼくからピカチューをうばうようなものです。ひどすぎます。
これはひとこと言わなければいけません。
村上さんが言ってたのを思い出しました。
トムクルーズがぬすんでいいのは女のハートだけだって。
・・・おじさんにはムリっぽい。
第6週 「偽物」
10月2日 月ようび あめ
ひさびさの学校でした。
でもみんなこころなしかくらい顔ばかりしてました。
トムクルーズのせいです。あつし君だけじゃなくみんなひがいにあってました。
学校の帰り道にしゅつぼつするらしい。
さっそくあつし君にあんないしてもらったけど今日は会えませんでした。
おかげであつし君はおおよろこびしてました。
「ラッキーだったね。あいつね、あめがふると出ないんだよ!」
ひきこもりです。
10月3日 火ようび はれ
雨もやんでいよいよおじさんとごたいめん。
と思ったのにおじさんはあらわれませんでした。
あつし君はしぬほどよろこんでだけどぼくはふまんです。
おじさんはせっかくトムクルーズになれたのにぼくにあいたくないんでしょうか。
ぼくがふきげんになってるとあつし君に聞かれました。
「なんであんなやつに会いたいの?」
ぼくはふとおじさんのことばを思い出したのでうろおぼえだったけど使ってみました。
「ラブチック。こいのやおいサ」
りかいされませんでした。
10月4日 水ようび くもり
おじさんらしき人物を見かけました!
遠目で見ただけだけどまちがいありません。
あのふとりっぷりはおじさんいがいかんがえられない。
少し小さくなった気もしたけどそれはトムクルーズになれたおかげでしょう。
あつし君はおびえてたけどぼくはもっと見たかったです。
おじさんはちらっ見えただけで逃げてしまいました。
なんで逃げるんでしょうか。ぼくがいたせいかな?
でも逃げるのだけはいじょうに早かったです。
メタルキングばりです。
10月5日 木ようび くもり
あつし君がおそわれました。
なんとふいをついて登校中にやってきたそうです。
「あたらしいなかまをつれてきやがったな」
そう言われてこんどゆうぎおうのレアカードを持ってくるように約束させられたらしい。
ゆるせません。ピカチューよりゆうぎおうをほしがるなんて。
だいたいゆうぎおうのモンスターはかいわいくないからダメです。
にんげんの絵もなんかかくばってていやです。
あつし君はともだちだから面と向かってはいえないけど
おじさんになら言えそうです。ピカチューをあつめるべきだって。
かえりみちにはあらわれませんでした。
だからあしたわなをはってみようと思います。
スパイだいさくせんです。
10月6日 金ようび はれ
あつし君とはわざとはなれてあるきました。ドラクエで言うしのびあしです。
そしてまんまとでてきました!あつし君ひとりだと思ったらしく
にゅるにゅるとにくのかたまりがあつし君によってきました。
やっと会えた。ぼくはそう思いました。なのに・・・
ちがう。あれはおじさんじゃない!
おじさんに似たふとりっぷりだけどよく見るとべつじんです。
おじさんを小さくしたようなかんじ。
にせものです。トムクルーズだなんてろんがいです。
でもおじさんじゃないとしたらいったいあれは?
ぼくは思わずにげてしまいました。
あれはだれ?
10月7日 土ようび はれ
なぞのトムクルーズ。せいかくにはトムクルーズのなかまなんだそうです。
あつし君がうらめしそうにぼくを見ながらおしえてくれました。
きのうにげちゃったせいかな。てへっ
さてそれはそうとまたじゅうだいなことがはっかくしました。
あのひと、トムクルーズをこえるせかいてきなスパイだって!
やばいです。そんなこときいてなかったです。
トムクルーズよりつよいなんてぼくのかてる相手じゃありません。
おじさんどころじゃない。ぼくもピカチューとられちゃう!
あつし君とダッシュでかえりました。
さいわいぶじにかえれました。つかれるけどこれからはダッシュでかえるようにしよう。
ピカチューをとられるなんてしねっていわれるのと同じです。
ごしょうだからそれだけは。
10月8日 日ようび くもり
あつし君と公園であそんでるときでした。
ぼくはうしろからはなしかけられました。
「おまえがしんいりだな」
ふちむくとそこにはプチおじさんが。
ぼくはすっかりかんねんしてしまいました。
公園にまでやってくるなんて。やっぱりせかいてきスパイなのは本当なんだ。
「ボクはここらへんをしはいしてるアッキー様だ。みつぎものよういしとけよ。」
きょうはしょにちのあいさつだったようです。
かえりぎわに「持ってこないとトムクルーズよぶからな!」って言われました。
もうダメです。にげられません。あつし君といっしょになげきました。
みつぎものは自分がいちばんたいせつにしてるものだって。
ああ。ぼくのかわいいピカチューグッズが。
ピカチューまくらにピカチューパジャマにピカチューマスクにピカチューとっこうふく・・・
あげたくない!
第7週 「苦渋」
10月9日 月ようび あめ
せっかくのあめなのに学校がやすみです。
あしたあめがやんだらあいつがやってきてしまいます。
やっぱりみつぎものしなきゃいけないのかな。
でも持っていかないとトムクルーズにインタビューされちゃうから。
ぼくのだきつきピカチュー。あいつのうでなんかにまいたらちぎれます。
ぼくのピカチューざぶとん。あいつがすわったらつぶれちゃう。
ぼくのピカチューだきまくら。あいつがだきしめたらあせがじっとり。
おじさんっぽいあのにおいがピカチューに。
イヤだ・・・
10月10日 火ようび はれ
きょうからぼくもアキヤマファミリーのいちいんです。
ボスのアッキー様にはていきてきにみつぎものをしなくちゃいけません。
きょうはぼくのおきにいりだったてのりピカチューをみつぎました。
これでぼくも晴れてみんなと同じなやみをきょうゆすることになりました。
これからはあつし君となぐさめあう毎日です。だれもボスにはさからえません。
ボスのふとりっぷりはおじさんにはおとるけどかなりすごいほうです。
いぜん「デブ」って言った子はすごいいきおいでたたかれたらしい。
ぼくは思わず「ブタ」って言ってしまいそうでした。
言ってたらなにをされてたかわかりません。
気をつけないと。
10月11日 水ようび はれ
ボスのたわむれにおつきあいしなきゃいけないので
みんな家にかえるのがおそくなってしまいます。
ボスはあらくれものにふんして女の子をおっかけるのがにっかです。
ぼくたちおとこはそれをうらやましがらなければいけません。
でもさいきんはそれだけではふまんなんだそうです。
「小学生じゃとしまだ。じだいはようじょだ」って。
妹がいたらつれてくるようにめいれいされました。
へんたいです。
10月12日 木ようび はれ
きょうはあつかったのでボスがとってもにおいました。
おじさんを思い出してなつかしかったけどいい気分はしませんでした。
あつし君がきのう言われたとおり妹のまきちゃんをつれてきてました。
まきちゃんもおじさんっぽいあのにおいがダメだったらしく
「この人くさい」とつめたくいいはなってました。
でもボスはそんなまきちゃんを気に入ったようでした。
ボスはようじょになじられることがかいかんらしいのです。
まきちゃんが「ブタさん」とか「おにく」とか言うとかえってボスはよろこびます。
あげくのはてにボスは「まき。きょうからボクをおにいちゃんとよべ」などと
ほざかれていらっしゃいました。まきちゃんを見る目がいようにぎらぎらしています。
もうついていけません。
10月13日 金ようび くもり
だぁいピンチッ
レイクエンジェルにまかせたいです。
あつし君とボスのやりとりがぼくのうんめいをきめました。
「なんできょうもまきをつれてこないんだ」
「ボスのにおいがいやだって言って・・・」
「むりやりでもつれてこい」
「むりです。あいつはいちどきらいになったものはぜったいうけつけません」
「いいからつれてこい。めいれいだ」
「むりなんです。あいつ、いやなことにはぜったいうごかないんです。」
「・・・そうか。ならすきなものならいいんだな」
「はい。すきなものにはすぐにとびつきます」
「かわいいやつだ。」
「そうでしょうか」
「よし。じゃぁまきのすきなものはなんだ」
「えっと・・・ピカチューです。」
ぼくのピカチューコレクションがすべてぼっしゅうされることにきまりました。
泣きそうです。
10月14日 土ようび はれ
こうえんでボスがまってます。
でもぼくはいけませんでした。ピカチューたちがぼくをかなしいめでみるんです。
ボクヲステルノ?ミステルノ?心のこえがきこえてきます。
おしゃべりピカチューたちがぼくをせめたてました。
ピッカリピカチューもすぐにきえてしまいそうなさみしい光をはなってます。
バイブDEピカチューなんかはきょうふのあまりガタガタふるえてました。
こんなけなげなやつらをボスにわたすなんて・・・
ぼくはみんなにあやまりました。わがみかわいさにみんなをてばなそうとしたことを。
ごめんよピカチューたち。これからもずっと。ずっといっしょだよ!
ダッチピカチューとはげしくだきあい、あついゆうじょうをたしかめあいました。
にげない。
10月15日 日ようび こさめ
あつし君によばれてこうえんに行くとボスがいました。
「ピカチューはどうした。なんでもってこないんだ」
ぼくはくちびるをかみしめてずっとうつむいてました。
ここがしょうねんばです。もうボスのいいなりにはならない。
「しんいりのくせになまいきだぞ」とかなじられたけどぼくはなにも言いませんでした。
ボスはだんだん声をあらげてさけびはじめました。
「フォロォォーミィィー!!」
みんなはしぶしぶ「おー」って言ってたけどぼくだけはしたをむいたままでした。
ボスがとうとう切れました。
「お前もうゆるさねぇ!トムクルーズよぶぞ!かくごしておけ!」
そう言い残してはしりさりました。あつし君たちはしんぱいそうにぼくを見てます。
そのなかでぼくはひとり、心のなかでかくごをきめてました。
トムクルーズとたたかうよ!
第8週 「白熱」
10月16日 月ようび くもり
ボスは今オーストリアできゅうかちゅうのトムクルーズにコンタクトをとってるらしい。
ぼくもおちおちしてられません。。トムクルーズたいさくをはじめました。
トムクルーズと言えば村上さんです。病院に行ったらうんよくつかまりました。
「ひさしブリッ」とあいかわらずでしたが、さいかいをたのしむひまはありませんでした。
ぼくはじじょうをせつめいしました。
おもちゃやをかけめぐってあつめたピカチューたちを守るためにトムとたたうんだって。
ボスのせつめいをしてる時、村上さんはまゆをひそめて言いました。
「その人、ただのバカじゃない?」
ボスをなめちゃいけません!せかいてきなスパイをバカだなんておそれおおすぎです。
村上さんはしゃくぜんとしない顔をしてたけど、とりあえずオススメのトム映画を教えてもらいました。
さっそく見ないと。
10月17日 火ようび くもり
村上さんイチオシの「あいず・わいど・しゃっと」を借りようとしたけど
なぜかレンタルやのおねえさんにことわられてしまいました。
はやくトムクルーズたいさくをしなきゃいけないのに!なんでだろう
ぐちっててもしかたないのでかわりにトップガンをかりました。
これも村上さんのオススメリストに入ってます。さっそく見てみました。
なんだかとっても楽しいえいがでした。かっこいいのにどこかズレてるかんじがさいこうです。
それにしてもトムクルーズってこんなにまゆげがへの字になってたけな。
あったかいショットって意味もよくわからないです。
まぁいいや。2もあったのでこんどそっちも見てみようと思います。
トムをきわめるぞ!
10月18日 水ようび はれ
2も面白かったです。でもホットショットって意味はわからずじまいでした。
それにしてもトムクルーズはやっぱつよいです。
にわとりをゆみやではなつなんて・・・てきにまわすとおそろしい。
かてるかしんぱいになってきました。なにかアドバイスないか村上さんにききにいきました。
きょうもうんよくつかまりました。てゆうか村上さんはいつもナースセンターでくつろいでます。
しごとしてないんでしょうか。
いろいろ話しててぼくのピカチューグッズを見せてあげることになったりしました。
バイブDEピカチューやダッチピカチューが気になってるようでした。
さらにはトムクルーズとのたいけつのときにはたちあってくれることに!
「どんなバカか見てみたい」だそうです。りゆうはともかく心づよい!
トップガンのはなしもしたかったんですがびみょうにはなしがかみあいませんでした。
なんでだろう。
10月19日 木ようび くもり
ついにくるべき日がやってきました。
あつし君がボスからのメッセージをあずかってきてました。
あした。公園でトムクルーズがまってる。
こわいけどいかなければいけません。ピカチューのなにかけて!
村上さんにもほうこくにいきました。あしたはガンガンひまらしい。
いや、むりやりひまにするそうなんでいっしょにきてくれるのは大丈夫でした。
けっせんいそなえ、村上さんがそうびをよういしてくれました。
「トムクルーズと言えばこれでしょ」
えむあいつーごようたしのサングラス!村上さんとのおそろいです。
村上さんはやばいくらい似合ってます。くうちゅうでまわりげりをくりだしそうないきおいです。
ぼくもかけてみるとなんだかつよくなった気がしました。おとこレベルあがりまくりです。
これならかてるかもしれない。トムにはトムでたいこうだ!
まってろ!トムクルーズ!
10月20日 金ようび あめ
あめの中、ぼくと村上さんはずっとこうえんでまってました。
ずっとまっててもうくらくなってきたころ、こうえんのいりぐちにくろいかたまりが。
トムクルーズ!?いっしゅんそうおもいました。でもよく見るとちがいました。
ボスでした。きょどうふしんぎみにこっちのようすをうかがってます。
そのときのボスのかっこう。くろいコートにサングラス。かいぞうしたようなじてんしゃにまたがって・・
「ってたんなるコスプレじゃん!」
村上さんのさけびごえにトムクルーズ(ボスのコスプレ)がびくんとしました。
にゅるりとしたうごきでみがまえるボス。そしてそのりょうてにはけんじゅうが!
だんがんがぼくらをおそいます!よけなきゃ!
じかんがスローになり、ぼくはいつのまにかのけぞってました。
だめだっよけきれない!そうおもったしゅんかん、足になにかあたりました。
ぺしってなさけないおとが・・・輪ゴムでした。
・・・・・・・わりばしてっぽう?
何発くらってもへいぜんとしてるぼくに、ボスはあせったようでした。
くるりとまわれみぎして、じてんしゃにまたがって・・・にげました。
とおくのほうまでいくとふりかえって「まだだっまだおわらんよっ!」とさけんでました。
村上さんは「リアルバカだわっ」っておなかかかえておおわらいしてます。
ぼくはなんかもうどうしようもありませんでした。
かったんでしょうか。
10月21日 土ようび はれ
てゆうかもうおわってるっぽいです。
あつし君とこうえんの近くでボスを見かけました。
ぼくと目が合うとボスはきまりがわるそうに手でかおをおおってそそくさとさってしまいました。
「にげたね」「うん。にげちゃったね」
とおくのボスのせなかがみょうにすすけて見えました。
なんかよくかわらないうちにアッキーじごくからかいほうされたらしい。
あっけないまくぎれでした。
きのう村上さんは「あれはね。トムクルーズにあこがれるたんなるオタクやろうよ」とかいせつしてくれました。
さらに「あのえんどうブタとおなじ穴のムジナね」とも言ってました。
なっとくです。ブタはブタどうし同じようにブタなせいかくしてるんだ。
となると、いずれおじさんもトムクルーズのコスプレして「トムになれたよ!」ってほざくんでしょうか。
いや、まさかおじさんにかぎってそんなバカなまねは・・・
やりそう。
10月22日 日ようび はれ
やくそくどおり村上さんにピカチューグッズをたんのうしてもらおうと家にしょうたいしました。
見たがってたバイブDEピカチューやダッチピカチューも見せました。
けど村上さんのようすがへんです。ほおを赤らめて「これ、どこでかったの?」って。
「だいにんのおもちゃや」ってとこでもらったやつです。
ぼくがほしそうにみてたらみせのおじさんが「マニアックすぎてかう人いないから」って言って
ただでくれたものです。ほかにもパックリピカチューやなりきりピカチューももらいました。
せつめいすると村上さんはぼくのかたをポンポンとたたいて言いました。
「これはね。オトナのおもちゃっていうのよ」
なにそれ。
かえりぎわに「どれかもらってっていい?」と聞かれたので
村上さんにはおせわになったことだしひとつわけてあげることにしました。
とてもしんけんな目でえらんでたんですが、けっきょくなりきりピカチューにしたようです。
「アツいよるをすごしてね」とふしぎなことばをのこして村上さんはかえっていきました。
アツイよるというとピカチューとだきあってあついゆうじょうをたしかめあうことかな?
きっとそうだ。やろうやろう!
アツイよるのはじまりです。やったよピカチュー!ぼくはアッキーにかったんだ!
しょうりをいわい、いつまでもダッチピカチューとはげしくだきあってました。
でもこれをやるたびにいつもおもうことがあるんです。
この穴、なんだろう。
(゚∀゚) オシマイ
ぼくのにっき (;´Д`)オゥベイビィ、イェェ
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第9週 「驚愕」
10月23日 月ようび あめ
たいけんがっきゅうでパソコンをすることになりました。
いつもは5,6年生しかパソコンきょうしつに入れないけど
今回はとくべつにぼくたち4年生もつかえます。
コンピューターせんもんの先生もくるらしい。
パソコンっておもしろそうだからいまからみんな楽しみにしてます。
ピカチューの絵をあつめたいんだけどできるかな。
なんかやっとまともなチャイルドライフがおくれそうです。
もうへんな人はいないよね。
10月24日 火ようび はれっ
ひさびさのあきばれです。
ドッチボールびよりです。けいどろもできるしかんけりもできる。
ひさびさにしょうがくせいっぷりをたんのうしました。
いちにちじゅうかけまわってたからちょっとつかれちゃったな。
ここちよいつかれです。
じんせいになやみもない今がいちばん楽しいじきです。
いずれはじゅけんせんそうにまきこまれていをいためてべんきょうしても
いいだいがくにはいれなくて何ろうかしたあとはいった3りゅうだいがくは
ダメにんげんのたまりばでいつのまにかドロップアウトしてて
むしょくになっておやのすねにかじりついてる日々がまってます。
ずっとこどもでいたいなー
10月25日 水ようび くもり
ちょっとあめがふってたけどかまわずドッチボールしてました。
こどもはかぜのこです。こさめくらいじゃへこみません。
でもけっこうふってきたのでとちゅうでだんねんしてしまいました。
それからみんなでたいいくかんになだれこみました。
ボールがたくさんあったので、あたりかまわずなげまくってたり
ダッチボールをしたりしてあそんでました。
きょうもたのしかったです。
10月26日 木ようび はれ
明日からはいよいよパソコンきょうしつがはじまります。
たんきかんだけどここでもこどもっぷりをたんのうしたいとおもいます。
マウスのボールをコロコロさせてよろこんでみたり
むしんけいにがめんをべたべたさわってみたり
さわっちゃいけないボタンをおしてひどいことになってみたり
先生にしょしんしゃまるだしのしつもんしまくったり!
こどもってりゆうだけでなんでもゆるしてもらうぞー!ビバ!しょうがくせい!
とてもたのしみです。
10月27日 金ようび くもり
さていよいよパソコンをどういじってやろうかと思ってた時です。
マウスをコロコロころがしてたら、パソコンの先生がじこしょうかいしてました。
どっかで聞いたこえだなーて思って顔をあげました。そしたら。
「はい。こんにちわー。みじかいあいだだけど、みんなにパソコンを教えることになった
遠藤智久です。わからないことがあったらなんでも聞いてねー」
うそぉん!?
おじさんでした。どう見てもおじさんです。なのに・・・・なのに・・・
「あれれ?なおや君じゃないか。ここの学校だったんだ!きぐうだねー」
なんでそんなにさわやかなのっっっ!!!??
「なおや君とはね。同じ病院に入院してたんだよー」ってみんなに言ってました。
しかもなんか好かれてます。人の良いふとっちょさんキャラになってます。
おかしい。ぜったいおかしいです。
でも女の子が「先生ってよく食べるでしょー」って質問して「ははは。君もたべちゃうぞー」
っておどけて答えた時、おじさんの目がいっしゅんあやしく光ったのを見逃しませんでした。
じゅぎょうがおわったあと、おじさんのところに行ったら
「今日はちょっといそがしいから明日ゆっくり話そうよ!」ってこれまたさわやかに返されました。
てゆうかおじさん何者?
10月28日 土ようび くもり
きのうやくそくした時間、こうえんに行くとすでにおじさんがまってました。
てゆーかスーツきてました。モアサイズです。にあってるのがなんかくやしいです。
けいたい片手になにやらおはなししてました。それが終わるとようやくぼくにきづいて
「なおや君!ごめん。今日これから仕事が入っちゃったんだよ」だって。
ぼくは「はぁ」ってあいまいなへんじしかできませんでした。
おじさんは「先方のシステムにトラブルがあったらしくて・・・って言ってもわかんないか!」
などとさわやかにのたまわっておりました。
「またあしたここにきてよっ!」とにっこりわらって手をふりふり去っていきます。
本当にこの人があのくされブタ?トムクルーズになるんじゃなかったの?
こんなマトモなおじさんなんて、おじさんじゃないよ!!
ぼくにはもうりかいできません。
10月29日 日ようび 雨
おじさんとまちあわせ。きのうみたいにさわやかにとうじょうです。
「おまたせー!」だって。そうしておじさんの家につれていかれました。
ぼくはなんかどうでもよくなってました。こんなおじさん、つまんない・・・
だせいてきについていって、アパートにつきました。
中はひっこしたてらしくあまりかたずいてなかったです。
あるのはパソコンくらいかな。そんなのどうでもいいや。ぼくはやる気をうしなってました。
その時です。おじさんが「あーつかれたっお仕事終了!」ってネクタイをはずしました。
するとおじさんの顔が見る見るうちに・・・
たるみました。そしてスーツをぬぐと、モワっとあのいやなにおいが!
「なおやっちぃ!ひさしぶりいいいい!」いきなりだきつかれました。
しんけんな顔で「ねぇねぇ。トムクルーズになる方法みつかんないよぉ」と。
このバカっぷり。やっぱりあのおじさんだ!おじさん、ひさしブリッ!
ぼくらはあらためて再会をいわいました。
やっぱりおじさんはふめつです!
第10週 「順応」
10月30日 月ようび くもり
おじさんはふだんはあそんでばかりだけど
お金が無くなるとちゃんとしごとをするそうです。
そうしてお金がたまるとまたあそびほうけるらしい。
コンピューターにくわしいから、りんじの先生やってみたり
プログラミングをしてみたりセキュリテーなんとかのチームに入ったりと
けっこう仕事はあるんだって。おじさんオタクっぽいからそーゆーの得意そう。
でもなんでそんなにあたまいいのに、あんな変な人になっちゃったんだろう。
まさかひとには言えないようなつらい過去が・・・
なさそう。アレはただのバカだと思います。
だっておじさんだもん。
10月31日 火ようび くもり
おじさんちのあそびに行くとマンツーマンでパソコンのことを教えてくれます。
みんなとの差をつけるチャンスです。これをあしがかりにスーパーハカーになれるかも。
インターネットっておもしろいです。おかしな人たちたくさんいます。
おじさんオススメのページが引っ越しちゃったらしく見れなかったのは残念でした。
「また消えちゃったんだよよぉぉ」ってひとりでなげいてました。
他にも色々あったらしいけどなんか前のパソコンがなくなったとかでアドレスがわかんないとか・・
そこらへんのことはよくわかんなかったです。
かわりにリアルピカチューのがぞうも見せてもらいました。
グロかったです。
11月1日 水ようび あめ
おしごとモードのおじさんはかんぜんに別人です。
でんわがかかってきたらちょーさわやかにしゃべってました。
そして「ちょっとごめんね!」ってピカチューがぞうをさがしてるぼくをおしのけて
おもむろにパソコンをあやつりはじめました。
その時のがめんをみつめるおじさんの目、きりっとしてます。
さらにキーボードを打つはやさがじんじょうじゃないです。ゆびがみえない。
おじさんのくせにこんなかっこいいのうりょくを持ってるなんてなまいきです。
「メール送信っと!」とかろやかにのたまってしごとしゅうりょう。
それと同時にまた顔がデレーっと元にもどりました。
この差はいったい何なんでしょう。オトナってみんなこうなのかな?
みんな仕事とプライベートはつかいわけてるんでしょうか。
少なくとも村上さんはどっちもやる気がないのに。
オトナは世界はわかりません。
11月2日 木ようび あめ
おじさんが面白いページをさがしあてたようです。
「やっと見つけたーはっけそ!はっけそ!」とへんなさけびかたをしてました。
見てみるとジャンクなんとかっていうページでした。
そこで聞けばはなんでも知ることができるというすばらしいとこ。だそうです。
「トムクルーズになる方法もここで聞けばわかるかなぁ」
と吐いてました。そして本当に聞いてました。
なんでこんなにバカなんでしょうか。村上さんに見せてあげたいです。
そうそう。おじさんはトムクルーズになるまでは村上さんにあわないつもりらしいですよ。
バカなのにむだにこんじょうはあります。
というか当たり前のようにおじさんのいえにあそびにいってる自分がこわいです。
こころなしかぼくもちょっぴりバカになった気が・・・
うつっちゃった!?
11月3日 金ようび くもり
きょうはきゅうじつだからおじさんのおしごとはナシです。
「ぺどに会えない」とざんねんがってました。ぺどって何だろう?よくわかんないや。
ふとパソコンを見ると、ぼくのクラスの女の子のめいぼがうつってました。
「みーるーなーよぉー」とてれながらがめんをかくしてたけど
ちらっと見ただけでもものすごいじょうほうりょうでした。
身長、体重、体格、性格、顔、趣味、癖、好感度・・・・
いちどしか会ってないはずなのになぜこんなに!?好感度ってのも気になります。
いっかいですべてを見ぬいたんでしょうか。それともこまめにしらべあげたんでしょうか。
「なおやっちぃ。のぞくなんてえっちだぞー」と、それ以上見せてくれませんでした。
えっちなのはおじさんの方なのでは?
いや、でもおじさんくほどのとしの人が小学生にきょうみをもつなんてありえないはずです。
きっと先生としてじゅんすいに教え子の事を知りたかったんだね。うん。
ものすごいいきおいでそうじゃないような気がするんですが、気にしてはいけません。
あれ。なんかさむけが。
11月4日 土ようび はれ
いつものようにおじさんちにあそびに行ったらなんだちんみょうな事になりました。
「おっはー」てあいさつしても「ややぁ。ななななおやっち。きょうはいいてんき?」って。
ろこつにたどたどしかったです。きょろきょろ目がおよいでました。
しきりに汗をかいてフゥフゥ言ってます。もあっといやーなスメルがたちこめました。
あげくのはてに「あの、ボク、これから仕事することにするから、あ・・・あそべないんダァー」
などとうぞぶいてました。ぜんぜんお仕事モードじゃないくせに。
アウアウアーときょどうふしんのままドアをしめてしまいました。
ひとり取り残されたぼくはさびしさのあまりメソメソ泣き出しました。
うそです。ほんとはあっけにとられてポケナンとつったってました。
ずっとほうけてるわけにはいかないので仕方なくかえったけど
お仕事モードとはちがうあのかわりっぷり。おじさん、ぜったい何かかくしてます。
女の子リストかな?でもアレはきのうふつうに見ちゃったし・・・
ぁゃιぃです。
11月5日 日ようび はれ
どうしてもなぞをかいめいしたかったのでまたおじさんちに行きました。
そしたらさらにおかしなことになりました。
「なおやっちーいらっしゃーい」とさわやかにむかえられました。
きのうのぁゃιさはみじんも感じられません。またさわやかおじさんになってます。
おやと思ってズバっときのうはどんなお仕事したのか聞いてみたら
「しごとー?何それ。きのうはずっとねていたにょ?」と
ふざけた話し方でこたえてやがりました。ますますぁゃιぃ。
てきとうに流しておいていつものようにパソコンをやらせてもらいました。
フフフ。ぼくは知ってるのだよ。
インターネットでは何のページを見たのか「履歴」に残ることを!
くちぶえまじりにさりげなーくチェックしてやりました。
すると・・・何もない。何のデータも残ってませんでした。
ふとおじさんの顔を見ると、「んんー?」と目をクリクリさせてかわいく笑ってました。
くまプーみたいに本当にかわいく見えたのがむしょうにくやしかったです。
にしてもおじさん、本当に何もしてなかったんでしょうか。
さわやかになったりデレっとなったりきょどったり・・・ぁゃιさだいばくはつなのに。
バカなだけかなぁ。そんなバカになれちゃってるぼく。
どーなんだろう。
第11週 「疑惑」
11月6日 月ようび くもり
困ったときの村上さんだのみです。
おじさんが先生やってることをチクるついでにぁゃιげなこうどうの意味も聞いてみようと思いました。
さっそくナースセンターに行ったけど村上さんはいませんでした。
きょうは休みかな?そう思ってほかのかんごふさんに確認してみました。
すると「あれをごらんなさい」とにっこりえがおを返されました。
そのお姉さんがさしたのはホワイトボードでした。
かんごふさんたちのきんむひょうがのってます。村上さんのらんがあったのでよく見てみました。
「あゆはしばらくたびにでます。ちゃお〜」
なんて人だ。
11月7日 火ようび はれ
村上さんにたよれないとなると自分でかいけつするしかありません。
おじさんのなぞをあばくにはどうしたらいいかな。うーんサスペンスちっく。
かといっておじいちゃん名にかけるわけにもいきません。
ここはひとつコナンばりにあたまをつかうべきかな。
めがねかけておこさまし紳士の服を着て。シューズをはけばほら、コナン!
てきとうなめがねが無かったのでこの前村上さんにもらったサングラスをかけました。
服も紳士っぽいのは黒いのしかありませんでした。こうなればかわぐつをはくしかありません。
なんだかものすごくかけはなれてる気がしてなりませんでした。
黒いスーツにサングラス。むしょうにマシンガンを持ちたくなるのはなんでだろう。
おとこ心がくすぐられます。
11月8日 水ようび はれ
おじさんががっこうにやってきました。きょうはじゅぎょうないはずなのに。
れいによってがっこうではさわやかおじさんです。またみんなの人気をあつめてました。
何しに来たのかきいてみると「今日はね。お仕事の打ち合わせなんだよ」とふいてました。
ぜったいちがう。ぼくはもうおじさんをカケラもしんようしてません。
うらになにかあるはずです。ただでさえうらおもてにんげんなんだから。
そのことをあつし君に言うとわられました。
「えー。まめっち先生いい人じゃんー」
いつのまに「まめっち」なんてあいしょうをしんとうさせてたんだ!?
びっくりしました。やつはやっぱりぬけめないです。
そしてみごとにみんなみごとにブタまめ先生になついてました。
みんな、だまされてるよ・・・
11月9日 木ようび くもり
きょうはおじさんはこなかったけどへんなじけんがありました。
女の子のリコーダーがぬすまれてたそうです。
しかもかわいい子のばかり。ブス山さんたちのはノーダメージでした。
もちろんぼくたちだんしのはまったくの手つかずです。
たぶんきのうのほうかごあたりにぬすまれたんだろうってことだけど
きれいにリコーダーだけ抜き取れててまるでプロのしわざみたいだって話です。
リコーダーなんてぬすんでどうするんでしょうか。
はんにんは家でピーピー吹いてるのかなぁ。そんなことして何がたのしいんだろう。
おかしな世の中です。
11月10日 金ようび ちょいあめ
おじさんのじゅぎょうです。みんなたのしく聞いてます。
ぼくはもうおじさんちでしゅうとくしたちしきばかりだったので、かってにネットであそんでました。
じゅぎょうがおわると、まめっち先生とおしゃべりタイムがはじまります。
女の子がおなかのにくをプヨプヨさせるたびにおじさんの目があやしくひかってました。
しかもなぜかいきぎれしてました。みんな気づいてないみたいだけど。
そろそろえんもたけなわといったかんじなったころ、おじさんが女の子たちに声をかけてました。
「よーし。じゃあみんな!明日、先生がおいしいモノをたくさんごちそうしてあげるよ!」
せすじがビリビリきました。女の子たちは「わーい!先生ありがとー」ってよろこんでます。
そしておじさんはみんなに聞こえないくらい小さな声で、ボソリとつぶやきました。
「ホント、ごちそうがイパッイ・・」
どーゆーいみ!?とてつもなくいやなよかんがします。
おじさんはぼくと目が合うと、目をパチクリさせて「んんー?」としらばっくれてました。
ぜったい何かたくらんでるよ。ぼくレーダーがピコンンピコンきけんを知らせてきます。
なんとかしなきゃ!
11月11日 土ようび はれ
おじさんが来てました。おしょくじかいは本当にやるようです。なかにわで女の子たちがくるのをまってます。
ぼくはじゅぎょうがおわるとすばやくなかにとんできました。そしてスルスルとおじさんのもとへ。
「ゃぁなおやっち。今日はざんねんだけど女の子だけなんだよ。男の子はたくさん食べるからよさんがねっ」
よゆうちゃんです。ぼくはあさからねってたさくせんをかいししました。
「みんなこないって」
おじさんの目がすごいいきおいでおよぎました。これ以上ないあせりっぷりです。
「ままままままじぇっすか!?」どもってます。かわいそうだけどぼくはうなずきました。
女の子たちをケダモノからまもるためです。心をおににしておいうちをかけました。
「『先生くさいからヤダ』って言ってた」もちろんウソです。
でもそのあとのなげきっぷりと言ったらなかったです。かわいそうすぎて見てられませんでした。
自分のからだのにおいをかいではスンスンとなきごえをあげて・・・
そしてとぼとぼとかえっていみました。せなかがすすけてます。
とてもイヤなきもちになりました。これはちょっとやりすぎた?
あとから来た女の子たちにおじさんがかえったことをおしえると「えー楽しみにしてたのにー」とかなしんでました。
やっぱりぼくはまちがったことをしたのでしょうか。むねがシクシクいたみます。
もしかしたらおじさん、本当にじゅんすいなきもちで教え子とせっしたかっただけなのかも。
なのにぼくはかってなかいしゃくでみんなとの仲をひきさいてしまった。
ああ、ぼくはなんて悪い子なんだ!
11月12日 日ようび はれ
おじさんにあやまりにいきました。ここままじゃ足をむけてねれません。
おじさんちにむかってると、とおくできょたいがうごめいてるのが見えました。
おじさんです。テクテクいそぎあしで歩いてました。どこに行くんだろう?とりあえずつけてみることにしました。
歩いてるとこうえんにつきました。誰かをまってるようです。
ぼくは回り込んでそばの木のかげにひそみました。少しの間いきをひそめてると、誰かやってきました。
「おや。やくそくのものはどうした?」そいつが言いました。かげになって顔がよく見てません。
おじさんは「あの、それが、ちょっとつごうつかなくて・・」ときよわになってます。
「なんだと?それじゃあアレは教えられないなぁ」となぞのじんぶつはいいはなちました。
なんかどっかで聞いた声です。でも誰だか思い出せません。
「いや、その、そのかわりコレはちゃんと手に入れました!」
おじさんがカバンからごそごそ何かをとりだしました。何本か棒みたいな・・・ってリコーダーじゃん!!
「おおおお!スバラシイ!ちゃんとびしょうじょげんていだろうな?」
「よりすぐりですよ。ウフフフ」などとおじさんがほざいてます。犯人はおじさんだったの!?でもなんで?
ぎもんに思ったのもつかのま、答えはすぐにわかりました。
「よしよし。これならまぁいいだろう。やくそくどおりアレを教えてやろう・・・トムクルーズになる方法を!」
そのことばと同時に、日が射してきてそいつの顔が見えました。
・・・・・・・・・アッキー・・・・・
ぼくはもうげんなりしてズルズルとそのばにへたりこみました。
ふたりが帰ったあともしばらく起きる気がしなかったです。
なにやってんだこの人たちは。
第12週 「卒倒」
11月13日 月ようび はれ
なんてことなくおじさんちにあそびにいきました。
この前のことをわびるつもりなんざサラサラありません。おじさんもふつうにむかえてくれました。
パソコンいじらしてもらってるとき、さりげなーくさぐりをいれました。
「そう言えば最近ね。学校で女の子のリコーダーがぬすまれるじけんがあったんだよ」
おじさんがビクリとからだをはんのうさせました。
「へへへえぇぇぇそうなんだあぁぁぁ」ダラダラ汗をかきはじめました。うーんわかりやすい。
おじさんはトムクルーズになる方法をアッキーにおしえてもらおうとした。
へんたいアッキーはその見返りに女の子のリコーダーをようきゅうした。なんでリコーダーなのかはしらないけど。
さらにあわよくば女の子そのものも手に入れようとしたけれど、ぼくのせいでしっぱい。
おおかたこんなところだと思います。
ぼくはおじさんにさらなるさぐりをいれました。
「それでね。先生たちがよーくみはることにしたんだって。これならもう犯人も女の子に手を出せないよね」
「まじぇっすか!?」これいじょうないくらいあせってました。
やっぱこの人、まだ女の子たちのことあきらめてなかったんだね。
させないよ!
11月14日 火ようび くもり
アッキーじしんは何もできません。おじさんさえおさえれば女の子は守れる。
つまりおじさんにトムクルーズになることをあきらめさせればすむこと。そう思っておじさんをときふせにいきました。
きのうと同じようにパソコンであそばせてもらってる時、さりげなく言ってやりました。
「トムクルーズにはなれないよ」
びくんとはんのうしました。「ななななにを言っているんだい?」れいによってうわずってます。
おじさんのことなどおみとおしさ!ぼくはかまわずつづけました。
「この前こうえんにいた人。ぼく、あの人知ってるんだ。あいつのトムクルーズはインチキなんだよ。」
「そんなことない!」とつぜんのおおごえにびっくりしました。「いくらなおやっちでもおこるゾォ!」
おじさんがいかっている。だけどびびっちゃいられません。ただしいことをおしえねば。
「だってあいつのは、たんなるコスプレだよ!」
カッと目を見ひらきました。そして「オオオ・・」とうめきごえをあげてます。
よかった。おじさんもなっとくしたみたい。そう思ったやさきでした。
「すばらしい」
うっそぉぉぉ!?
おじさんったら目をかがやかせてます。コスプレでいいの!?
いや、でもトムクルーズになるってぐたいてきにどんなふうになるかってきかれると・・
そんなぼくのしこうをさえぎるように、おじさんはたけり立ってさけんでました。
「ボクはトムクルーズになるんだ!それをじゃまするやつは、なおやっちでもゆるさない!」
きょたいがしゅーしゅーとけむりをあげてにおうだちしてます。そのかおはまさにオーガでした。
やばい。これはほんきだ!ぼくはあわててにげかえりました。
どうしよう。おじさんをてきにまわすなんて。あんなのにかてるわけないよ!
ケダモノと化したおじさんがおそってくるのをそうぞうして、ぼくはこれ以上ないくらいのさむけをおぼえました。
食べられる・・・
11月15日 水ようび ややあめ
きょうふのあまりひとりプルプルふるえてました。
あつし君に「かおいろわるいよ」とまで言われるしまつです。
金ようにはまたおじさんのじゅぎょうです。かおあわせたくない・・・
そんな時にかぎってあってしまうもんなんです。
げこうちゅう、あつし君がとおくを歩くおじさんをめざとく見つけてしまいました。
「あ!まめっち先生だ。まめっちぃ〜」しかもよんでしまいました。
ぼくがきまずい顔してるのにも気づかず、しきりにおじさんをまねきます。
おじさんは「ゃぁゃぁ」と言いながらよってきました。でもそのとなりには。
やつもまた気まずい顔してましたあつし君もやつに気づいてびびってました。
アッキーです。またおじさんとみっかいしてやがったんでした。
おじさんだけがさわやかなトークをてんかいしてました。場の空気をおさっししてほしかったです。
たえきれなくなたアッキーが「あの、ボクはこれで」とにげました。
ぼくはホッとしたんですが、わかれぎわのことばにふたたびこおりつきました。
「じゃ、金ようびにがっこうで」
「はいはーい。おまちしてまーチュ」
その時はじめておじさんと目があいました。これでもかってくらい目がわらってました。
おじさんと別れたあと、あつし君はしきりにアッキーとおじさんとかんけいについてそうぞうをふくらませてましたが
ぼくはずっとあのことばがきになってました。「金ようびにがっこうで」
アッキーがくる。イコール女の子たちがあぶない。それをとめられるのは、おじさんとしたしいぼくだけ。
だけどとめようとするとおじさんがおにになる。そうなるとぼくがしぬ。
ああ、どうすれば。どうすればぼくも女の子たちもたすかるんだろう。
だれかおしえて
11月16日 木ようび くもり
明日がえっくすでーなのに何もいいかんがえがうかばない。
おじさんのふてきでいやらしいえがおが目にちらすきます。
アッキーのおぞましいいきづかいがきこえてきそうです。
だけどぼくにはなにもできない。
いえでもがっこうでも、一日中あたまをかかえてたけどかいけつさくはでてきませんでした。
あいつら、かよわい女の子たちにひどいことするに決まってます。
それをそしするには、こうなったら・・・こうなったら・・・
またトムクルーズになるしかない!
ひきだしからすすけたサングラスをとりだしました。
はいぼくがいやなら、たたかわなければなりません。それが漢(オトコ)のいきざまです。
明日ぼくは、オトコになる。
11月17日 金ようび あめ
おじさんとアッキーはなかにわでたのしそうにはなしてた。
ぼくはこうしゃのかげにかくれてじゅうをかまえていた。こさめがふり、こごえるようなさむさだった。
このくらいじゃぼくのハートはさめないぜ。ぼくはかんぜんにリアルオトコになっていた。
じきに女の子たちがやってくる。その前に・・・ヤる。
ぼくはこしからじゅうをとりだしみがまえた。オトコのしにざまみせてやれ。いざ、しゅらばへダイブ!
「アッキー!」
りょうてにけんじゅう。黒いコートにサングラス。これいじょうないオトコっぷりです。ぼくはやつらをにらんだ。
「ぼくがあいてだっ!」
なんてあついセリフ。一度言ってみたかったんだ。
「うわ。またお前かっ!いっつもじゃましやがって。」
アッキーめ。しっかりぼくをリメンバーしてやがった。
おじさんがキっとぼくにガンくれた。やっぱりこうなるうんめいだったか。けどぼくは、たたかうんだ!
「そんなみずてっぽうでかてると思ってるのか?あン?」
あらバレてる。
「ダサッ。しんでいいよお前。」
「なおやっち。言っただろ?じゃまするやつはなおやっちでもゆるさないって。」
いきなりピンチ。でもだいじょうぶ。リアルオトコはピンチになるほどよくもえる!
ふたりがじりじりとぼくのほうによってきた。ぼくはかまわずじゅうをかまえてる。
「みずてっぽうなんざきかねぇよ。あン?」
「なおやっち。どうしてもわからないってんなら力ずくでもっ!」
ぼくはふてきなえみをうかべたままうごかなかった。
「しかなねぇ。やるぞ、えんどうまめ!」
「この、わからずやぁぁぁ!!!」
ぼくをめがけて2ひきのブタがはしった!!ドスドスじひびきならしてるっ!
ここがオトコのみせどこだっっ!!!むかえうてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
「ケーサツよぶよ」
ボソっと一言。
アッキーはあわてふためいてにげかえっていきました。おじさんもしきりに汗かいて何かといいわけしています。
うーんやっぱリアルコトバはきくなぁ。
オトコ?知らないなぁそんなの。黒いコートにサングラス?かっこうよかっこう。いみなんかないって。
にんげんできることからやんなきゃね。それにほら、ぼくこどもだし。おとなにたよるのはとうぜんでしょ。
いやぁこれでやっとむねのつかえがとれました。きょうはグッスリねむれそうです。めでたしめでたしっと。
・・・何か?
11月18日 土ようび はれ
ふーやれやれとおちついてかえろうとしたときでした。あつし君がけっそうをかえてやってきました。
のどかなほうかごになにごとだろう?ただごとじゃなさそうです。
「アッキーがいるよ!しかもまめっち先生と!」
ただごとじゃありませんでした。あの人たちまだこりでなかったの?
あつし君とげんばにかけつけました。ごていねいになかにわからうらにわにばしょがかわってます。
げんばにはすでに女の子がやってきてました。
まにあわなかった!?あつし君とかおをみあわせました。
もうちゅうちょはしてられません。こうなったら本当にケーサツに・・・
そのとき、おじさんたちのかいわがきこえてきました。
「この人、先生の友だちなんだぁ。」
「おじょうさんたち。よろしくねぇぇぇぇ」
アッキーが女の子たちに手をさしのべました。手をにぎるつもりだ!
いちどふれたらへんたいきんがうつってしまいます。止めなきゃ。でもまにあわない!そう思ったら。
「あーこの人、前にもんだいになってたアッキーって人だー」
「あー私も知ってるー」
「まじぃ?いやーさいあくー」
「くさーい。ちかよんないでー」
「せんせー私この人きらーい」
「私もー。まめっちぃ。この人どっかやっちゃってぇ」
・・・・おそるべしギャルよびぐん。
女の子たちのいがいなはんのうにあわてたアッキーは助けをもとめておじさんを見ました。
「オゥベイビー、イェェェ」
おじさんはいみのわからないことばをもらし、ためいきをついてくびをなんどもよこにふりました。
「だれおまえ」
わお。
アッキーはえ?え?ととまどいまくってました。そのうちいたたまれなくなったらしく、スタコラにげていきました。
おじさん、友だちって言ってたのに・・・。これがうわさの「てのひらがえし」ってやつでしょうか。
そのあとおじさんは女の子たちとなかよくおしゃべりしてました。
「オトナってこわいね」あつし君がいいました。「うん。こわい」ぼくは相づちをうちました。
「あれ、なおや君いたんだ。いっしょにあそぼーよー」
ぼくらもおしゃべりの輪にまじり、みんなとあそびあかしました。
これですべてがもとどおり。ぼくのチャイルドライフもあんたいです。
さわやかないちじんのかぜがぼくらのあいだをかけぬけます。ぼくらのわらいごえをのせて。
花びらがそらに舞いました。ぼくはこっそりいのりました。このしあわせが、いつまでもつづきますように・・・
おじさんがボソっとぼくにみみうちしてきました。
「明日さ、トムクルーズになってみるから見にきてょ」
ダメじゃん。
11月19日 日ようび くもり
おじさんとアッキーはインターネットで知り合ったそうです。前にみつけたジャンクなんとかってとこで。
それにしてもアッキーのようなあやしげなやつをかんたんにしんようするなんて。
そう言ったけどおじさんは「そう?ふつうの人だったじゃん」などとほざいてました。
同じブタどうしなら、ブタなのが当たり前なんだね。なんかなっとくしてしまいました。
さて、おじさんはトムクルーズのコスプレにチャレンジしました。
コンビニで買ってきたというサングラスをいとおしそうにながめてます。
「これでボクもあこがれのトムに・・・」
そんなんでいいのかなぁと思いつつも、おじさんが楽しそうだったので何も言いませんでした。
いよいよサングラスそうちゃくです。おじさんの手がプルプルふるえてました。
じわじわとかおにちかづけて・・・「お・・おおお・・・・ふぉおぉぉおおおお!?」
おじさんのぜんしんがビリビリきてる。そしていま、サングラスがおじさんの顔に・・・・・!!
やった!マメクルーズのたんじょうだぁぁぁぁぁぁ!!
パキリ
サングラスがわれました。ボロボロとざんがいがおちていきます。
おじさん・・・顔もふとってるから・・・
おじさんはカッと目をひらき、口元に楽しそうな笑みをうかべたままかたまってました。
ぼくが声をかけてもはんのうしません。かんぜんにお出かけ中でした。
あまりにあわれだったのでぼくはかえりました。
かえりみち、とおくの方から「ムキィィィィ!!」とやじゅうのようなおたけびがひびいてきました。
リアルアニマルです。
オシマ・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんかきゅうに・・・めのまえが・・・・・・くらくなって・・・
・・・・・ぼく・・・・・どうしちゃったんだろ・・・・・・・・・・・・
まさか・・・・・・また・・・・・・・・・・・・びょうきが・・・!!
・・・・・やだよ・・・・・・・・・・・せっかく・・・・・・・・
・・・・手が・・・・しびれ・・・・・・・・・・
・・・・・くるしい・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
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(;´Д`) オシマイ
ぼくのにっき (ρ_;)ノグッバイ・・・
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第13週 「勧告」
11月20日 月ようび あめ
目をあけると、ぼくはびょういんのベッドにいました。
おなかのあたりがシクシクいたみます。そのくるしさで目がさめました。
これまで何回かにゅういんしたけど、こんなくるしいのははじめてです。
いくらおなかをさすってもいたみがとれません。
つらいです。
11月21日 火ようび はれ
ひとりでベッドでねてるとさびしいです。
みんな「だいじょうぶよ」とか「がんばってね」とかあたりまえのことしか言ってくれません。
この前にゅういんしてた時はなんだか楽しかったのに。
なんでだろう。ああそうだ。となりにおじさんがいたから。
今はだれもいないです。
11月22日 水ようび くもり
ひまなのはしかたないんですが、おなかがいたいのはたえられません。
今回のはちょっとやばいっぽい。いつもとちがうびょうきなの?
だれにきいてもマトモに答えてくれませんでした。「だいじょうぶだから」はもうききあきました。
なんでかくしたがるんだろう。もしかして、もしかして・・・
ぼくしんじゃうのかな。
11月23日 木ようび くもり
今日はとてもさむかったです。
だんぼうをきかせてもらってたのにからだはずっとひえたままでした。
さむいのにあせがでてきました。ちょっとあせもかいてます。
おなかもいたいままなのに。からだがどんどんよわってくのがわかります。
すぐねむたくなってしまいます。このまましんじゃったらどうしよう・・・
ひとりでこっそり泣いてしまいました。
11月24日 金ようび くもり
こんなにさびしいおもいをするのははじめてです。
とてもふあんで、こころぼそくて・・・かなしいです。
だれかそばにいてほしい。心をつうじあえる人がほしいです。
ああ。こんなとき、あの人がいてくれたなら。
村上さん!
11月25日 土ようび はれ
おいしゃさんに言われました。こんどしゅじつするんだって。
今まではそんなことなかったのに。やっぱりおかしいよ!
おなかのいたみはどんどんはげしくなっていきます。
なんのびょうきなの?ちゃんとなおるびょうきなの?
おいしゃさんは「ちょっぴりめずらしいびょうきなだけだよ」と。
そんな。
11月26日 日ようび はれ
おいしゃさんとかんごふさんのはなしをぬすみぎきしてしまいました。
「おやごさんにはなるべくはやくしゅづつようにすすめておいたから」
なるべくはやくって・・・。まさかておくれじゃないよね?まだだいじょうぶだよね?
ふとんをかぶってひとりさびしくふるえてました。なみだがポロポロこぼれおちまていきます。
その時でした。ふとんごしに誰かにやさしくなでられました。
「だいじょうぶよなおや君。私がついてるから」
ききおぼえのある声です。ぼくはおもわずふとんからとびでました。
そこにはにっこりとわらってあの人が。
村上さん。もどってきたんだね!
第14週 「無情」
11月27日 月ようび くもり
村上さんとたくさんおしゃべりしました。
おじさんが先生やってることとかアッキーが学校にきたこととか。
おどろいたりいっしょにわらってくれたりしました。
村上さんもりょこうに行ったおはなしとかしてくれました。
おべんきょうのためにアメリカに行ってたそうです。
やっぱりはなせるひとがいるとたのしいな。
ちょっぴりげんきになりました。
11月28日 火ようび はれ
学校のおはなしをしてるとみんなのことを思い出してしまいます。
あつし君、げんきかな。おじさんもちゃんと先生やってるのかな。
ぼくのことわすれていないかな・・・
おなかのいたみはどんどんひどくなるばかりです。
学校にはまだもどれそうにありません。
はやくもどりたいな。
11月29日 水ようび くもり
村上さんもやさしくしてくれます。でもなんかちがうんです。
村上さんにはふつうにやさしくされるよりもっとたのしいことをしてほしいんです。
おじさんがいたときみたいに。
けどもうそんなことをしてくれるけはいすらありません。
ふつうのかんごふさんです。みんなとかわりません。
さびしいです。
11月30日 木ようび はれ
がっこうにもどりたいな。ボソっともらしてみました。
村上さんはえがおで「すぐになおるから。もうちょっとまってね」とかえしてくれました。
「みんなにあるだけでもいいから」と言うと村上さんは少しおこった顔になりました。
「なおや君。おたのしみはあとにとっておかなきゃダメよ」
ぼくはしぶしぶうなずきました。でもがまんするのはつらいです。
ちょっとだけでもいいのに。
12月1日 金ようび はれ
しゅじゅつはらいしゅうにきまりました。みんなにもおしえてあげたいです。
村上さんに言うと「しつこいのはだめよ」とおこられました。
だけどもししゅじゅつにしっぱいしたら、ぼくはみんながしらないまま・・
とてもふあんになりました。このふあんをわかちあってくれるひとがいません。
ねぇ村上さん。ぼくこわいよ。とってもこわくなってきたよ。
「大丈夫」としかこたえてくれませんでした。
12月2日 土ようび くもり
ぼくはわがままを言いました。
なみだをポロポロこぼしんがら村上さんに言いました。
みんなにあわせて
村上さんはおこらず、やさしくぼくのあたまをなでながらこたえました。
ごめんね。それだけはできないのよ・・・
村上さんんは泣くのをこらえてました。目になみだがうっすらうかんでます。
ぼくはそれいじょうなにもいえませんでした。
なみだだけがこぼれてました。
12月3日 日ようび くもり
村上さんにきかれました。「本当に『めずらしいびょうき』としかきいてない?」
ぼくはうなずきました。そしたら村上さんはかおをふせてむこうをむきました。
どうしたの?ぼくがきてもうしろをむいたままこたえてくれません。
しばらくそのままでいると、ボソリと「かわいそうに・・」って。
ふりかえって・・・とてもかなしそうな目をして・・・村上さんは行ってしまいました。
ひとりのこったぼくは思いました。
もうダメなんだ。
第15週 「審判」
12月4日 月ようび くもり
こんしゅうのおわりにしゅじゅつがあります。
しっぱいしたらぼくの人生もそのままおわります。
せいこうしてもぶじですむかわかりません。
ぜつぼうです。
12月5日 火ようび はれ
ぼくがこんなにくるしんでるのに。みんなわらうばかりです。
そのこころづかいがかえってぼくをきづつけます。
きをつかわないでください。ダメならダメとはっきり言ってください。
それでもみんなは言います。大丈夫、きっとうまくいくから。
うそつき。
12月6日 水ようび はれ
おなかのいたみはいよいよはげしくなってきました。
さいしょのころはがまんできるていどだったけど、もうげんかいです。
しゅじゅつのまえにしんでしまうかもしれません。
ぎゅっとまくらをだきしめて、ぼくはひとりでなきました。
しにたくないです。
12月7日 木ようび くもり
どんあにあがいてもしぬのはとめられそうにありません。
村上さんに「がんばるのよ。あとでちゃんとたのしいことがあるから。」とはげまされました。
みんなにあいたい。たのしいことはいまひつようです。
おじさんのへんなこうどうもいまではとてもたのしいおもいでなんです。
もうにどとあえないなんて。
12月8日 金ようび はれ
もうダメです。いたみにたえられません。
かみさま。ぼくはわるいこでしょうか。だからこんな目にあうんでしょうか。
そうだ。ばちがあたったんだ。おじさんとあそんでてちゃんとべんきょうしなかったから。
しぬのはじぶんのせいなんだ。
わるいのはぼくなんだ。
ああ・・
12月9日 土ようび ハレ
かみさまごめんなさい。ぼくがわるかったです。はんせいしてます。
だからおねがい。あしたのしゅじゅつをせいこうさせてください。
ぼくをころさないで。
12月10日 日ようび いいてんき
これからしゅじゅつにいってきます。かみさまのさばきをうけてきます。
おそらをみるのもこれでさいごになるかもしれません。
ぼくはこのよにさいごのあいさつをしました。
みんな、さようなら。
第16週 「天使」
12月11日 月ようび はれ・・
しゅじゅつはおわりました。いたみもありません。
でもこのからだのかるさはなんでしょう。ふわふわして、このままとんでいってしまいそうで・・・
ちからがはいらない
12月12日 火ようび くもり
村上さんは顔をあおくして「すぐにみんなよぶから。それまでがまんするのよ」といってました。
なんでそんなにあわててるんですか。ほかのみんなはわらってるのに。
わらってるのは、ぼくをふあんにさせないため・・?村上さんだけがほんとうのことをおしえてくれる。
ぼくはききました。「しゅじゅつはしっぱいしたの?」
「だいじょうぶよ。みんなよぶから。まめっちにもあいたいでしょ?あの人もよんであげるから。」
せいこうとはこたえてくれませんでした。
12月13日 水ようび はれ
まだだれもきません。からだはどんどんかるくなっていきます。
しぬ。
ぼくはさとりました。ぼくはしぬんだ。
このままみんなもまにあわず、ぼくはひとりでしんでいくんだ。
てんしがむかえにくるのかな。おそらのむこうにとべるかな。
ちゃんとてんごくいけるかな・・
12月14日 木ようび はれ
村上さんは言いました。「おわかれのときは、キスでおくりだしてあげる」
ぼくはかおがあかくなりました。村上さんのえがおがとてもきれいで・・
なんだろうこのきもち。むねがくるしくて、せつなくて。
ああ、そうか。そうだったんだ。
ぼくは村上さんのことが好きだったんだ。
きづいたときにはわらいそうになりました。
しぬちょくぜんにきづくなんて。
おそすぎるよ。
12月15日 金ようび かいせい
おむかえがきたようです
あたまのなかがまっしろになっていきます
これからぼくはたびだちます
村上さんと、おせわになったひとたちに
さいごのわかれをつげました
ありがとう・・・
12月16日 土ようび ひどい
まだいしきはありました。だけどあしたまではもたちません。
しぶとくさいごのじかんをおしんでました。
あたまのなかはまっしろでしたが、なんとかまわりのはなしはききとれました。
だれかがぼくのなまえをよんでます。やさしい女の人のこえです。
・・・村上さん。村上さんが最後にはなしかけてくれてる。
「なおや君。そのままでいいから。」
村上さんがちかづいてきました。
「やくそくをまもりにきたから。めをつぶってて。」
やくそく・・。おもいだしました。ぼくがなにかいおうとするまえに、村上さんが先にいいました。
「お別れのキスよ」
ぼくはからだがかたくなりました。しにかけてたしんぞうがドキドキしはじめました。
村上さんのキス。しぬまえにさいこうのプレゼントです。
ぼくはちからのかぎり目をぎゅっとつぶってまってました。
クスクスと「そんなにかたくならなくていいのよ」ときこえてきます。
うん、とぼくは小さく答えました。
しばらくそのままのしせいでかたまってると、かおがちかづいてくるけはいをかんじてました。
いきがかおにかかります。村上さんお顔が目の前にあるんだ。
いよいよしんぞうがドキドキいいはじめました。
あったかいきがかかりました。
つぎのしゅんかん、くちびるにやわらかいかんしょくが。
やわらかい。からだはきんちょうのあまりうごきません。
ありったけのしんけいをくちびるにしゅうちゅうしました。
とってもきもちいい・・
そう思ってると、くちのなかにちょっぴりヌルリとしたものがはいってきました。
まさか。じぶんのかおがまっかになるのがわかりました。村上さんの舌・・・
そんなだいたんな。ぼくがあせってるのもおかまいなしに、村上さんははげしくぼくのしたをすいました。
うわ。どうしよう。これがオトナのキスなんだ・・・!
ぼくはしょうてんすんぜんでした。
なおも村上さんのしたがせめてきます。
そんな。村上さん。そこまでされるとぼくは・・・ああ・・・
せめられるままにみをまかせ、ぼくはそのかいらくにひたりました。
村上さんのいきづかいもあらくなってきます。
ふぅふぅと、あらいはないきがかおにかかってきます。
ちょっぴりいきがくるしくなってきました。
村上さん。そこまでしてくれるのはうれしいけどこれ以上は・・・
したをすうのもじんじょうじゃなくなってきました。
ほんきでいきがやばいです。いきができません。
村上さん、そろそろ・・・
くちはかんぜんいふさがれてます。なにも言えない。
くるしいです。村上さん。もういいです。
じゅうぶんたんのうしました。だからそろそろくちびるはなしてください。
村上さん。村上さん・・・!
がまんしきれず目をあけました。
ъ( ゚ー^)
おおおおおおおおおおおおおおおおじさんッッッッッッッッッッッ!!!!!??????
おじさんが、まめっちが、ぼくのぼくの目の前に。
え?あ、ということは今のキスは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おじさんがニヤリと笑って舌をじゅるりとなめずりました。
うわあぁぁぁぁぁあああああぁぁああああぁぁぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああああぁああああああああ!!!!!
村上さんがおじさんのうしろでおなかをかかえて大笑いしてました。
「ねぇ、死ぬと思った?死ぬと思った?ねぇ。ねぇ」
いや、だって。からだがかるくなってきて。
村上さんは「いやぁん」となまめかしいこえをあげました。
「それ、治ってる証拠よォん」
あらほんと。からだがかるくて手足もうごかしほうだいですよ?
でもあれですよ。ほら、めずらしいびょうきて言ってたじゃないですかッッッ!!
「小4で盲腸なんてめずらしいことなのよン」
まじぇっすか!!??ていうかそれって。
村上さんはこれ以上ないくらいにっこりわらって答えました。
「盲腸じゃ死なないわよ」
わぁお。ぼくのさきばしりっすか。なおやっち、だいしっぱぁい!
けどそれならなんで別れのキスなんて・・・
村上さんはうるっとした目でぼくを見ました。
「グッバイまともななおや君。ウエルカム、クレイジーワールドよ。」
わぁいイケナイ世界へレッツゴー♪
オシマイヽ(´ー`)ノ
・・・・・・・なんて終われるわけないじゃないですか。
よこにいるこのブタ。こいつのせつめいしてくんなきゃ。
村上さんは「ああこれね。」とブタをこづきました。
ブタはウヒィとげひんなひめいをあげてのけぞりました。
「私がつれてきたの。なおや君の学校にいるって言うから。」
ブタは「へへへ。連れてこられちったぁ」とわらってやがります。照れるなバカ。
「あゆがさぁ。だいたんでさぁ。」
村上さんのケンカキックがさくれつしました。
よく見るとブタにはいろんな傷がついてます。
また村上さんに手をだそうとして返り討ちにされやがったなこいつ。
よろよろとブタがたちあがりました。
「でもね。ぼく気づいたんだ。本当に大切なのは誰かってこと」
気づくなボケ。村上さんにフラれてあたまおかしくなったのか。
いやでもよく考えてみたら、こいつはもとからおかしい奴でした。
とどめのセリフをくらいました。もしやとは思ってたけど、じっさいきいてみると想像以上におぞましいひびきを持ってました。
ぼくのせすじはこおりつきました。
「ああ、なおやっち。君はボクの天使だよ」
エクソシスト呼ぶぞコラ。
このブタ、リアルへんたいです。
ごそごそとポケットから銀紙のようなものを取り出しました。
そしてさけびました。
「このゴムは、絶対お前らの好きにはさせない!」
村上さんが「カミングアウトだわッッ!!」とおおよろこびしてました。
てゆーか村上さん。いちばんひどいのはアンタだよ。
クソブタの熱いしせんと村上さんの笑い声が響く中、ぼくはただぼうぜんとするしかありませんでした。
もしかして、そのまましんでたほうがしあわせだったのかもしれない。
くちびるにはあのおぞましいきおくがこびりついてます。
うあ。思い出しただけで悪寒が。
こんなウンコ野郎に記念すべきファーストキッスを奪われたなんて・・・・・!!!!
死にたいです。
12月17日 日ようび えんどおぶでいず
あさ起きると、おしりにみょうないわかんをかんじました。
なにかとても大切なものを失った気がしてなりませんでした。
おじさんがまどべにたってそとをながめてました。
ぼくがおきたのにきづくと、顔をこっちにむけてきました。
「おめざめかい?おひめさま。」
なぜかほおをあからめてました。へんなねぐせまでたってます。
おじさんはかってにはなしつづけました。
「そとをごらん。きぼうのひかりでみちあふれてるよ」
そとは雨でした。
「ボクたちのきぼうだよ。いっしょに新しくうまれかわるための、きぼう。」
待てコラ。なんでぼくまでいっしょなんだよ。てめぇ一人で行きやがれ。
「光の向こう側に行けば生まれ変われる。」
だからしんでないっつの!
ぼくがはんろんしようとすると、サっとおじさんの手が伸びて口をふさいできました。
すごいちから。ぼくはひっしにもがきましたが、その手ははなれませんでした。
フウフウとおじさんが息を荒げるのが聞こえます。
じっとりとしたしせんがぼくにそそがれていました。
やめろ。はなせ。はなせったら!
なんどもなんどもおじさんをたたきましたが、肉がプヨプヨするだけでダメージをあたえられません。
ていこうすればするほど、おじさんのほおがあからんでいきました。
目をカッと見開き、口元にはぶきみな笑みをうかべてます。
ひたいにはジワッとあぶらあせが。
「旅立とう。きぼうの光のその先へ」
こうふんしてこえをあらげてます。
やめて。おねがいだからやめてください。
ぼくはそっちにきょうみなんかありません。ぼくは、まともなにんげんでいたいんです。
そっちの世界につれてかないで!
おおごえでさけんだつもりでしたが、すべておじさんの手におおわれてかきけされました。
あらゆるていこうはむだにおわり、されるがままになるしかありません。
いやだ。ちがう。ぼくはちがう。ぼくはちがうぞぉぉぉ!!!
なおもぼくはさけびつづけました。
「光の果てに見える世界。そこが、」
そんなぼくにおかまいなしに、おじさんはみみもとでささやきました。
「そこがボクらの、新しい世界だ。」
NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!
お し ま い
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