NEON GENESIS EVANGELION
[九条公人]
http://www2.raidway.ne.jp/~kimito/ritushin01.html
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NEON GENESIS EVANGELION
「どうぞ未来を・・・」#1
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「シンクロ率上昇止まりません!」
「350%を突破」
「自我境界線を維持できません!」
「ユイ!!!」
「お母さん! お母さん!」
<シンジよく聞け、このボタンは、触ってはいけないぞ。
『きんきゅうじたい』が、起こった時ににだけ押すボタンだからな>
「きんきゅうじたいだよ、父さん」
「きんきゅうじたい・・・そうだ! 押せシンジ!」
「うん」
幼児の小さなこぶしが、コンソールの下に設置された、赤い樹脂枠で囲まれた丸く黒いボタンを叩いた。
次の瞬間、実験棟全体の電源が一斉に物理的に脱落した。
すべての音が消えた実験棟の只中で、幼児の母を呼ぶ声だけが、大人たちの鼓膜を叩いていた。
「補助発電機を、プラグへつなげ! 間違ってもEVAに電源を供給なんぞするなよ」
外部から持ち込まれたディーゼル小型発電機が動き出しプラグへと結線され、そしてプラグが挿出される。
ゆっくりと挿出されたプラグから、LCLが噴出し、ハッチがこじ開けられる。
「ユイ!ユイっ!!
運び出された碇ユイは、いささかやつれていたが意識はしっかりしていた。
その夜ゲヒルンにおいて碇ユイは、シンクロ率400パーセントの一瞬に体験した未来を夫に語ったのである。
人類補完計画の行く末は、人類の滅亡しかありえないということを最初は、半信半疑だったゲンドウもMAGiの補助により初号機からユイの幻視した映像を取り出して見せたことで納得せざるを得なかった。
そして彼女は、ふた月後病床から一度も立つことなくその生涯を閉じたのであった。
一つの未来と引き換えに。
その7年後・・・
「ただいまぁ」
「あお帰りシンちゃん」
「リツネエ・・・ただいま」
「なあに他人行儀ねここの所。
昔のシンちゃんは尻餅ついちゃうほど抱きついてきてくれたのに」
「だって・・・。
ここのところリツネエが綺麗になっちゃったから、抱きつくのが恥ずかしいんだなんていえないよ」
「あらシンちゃんありがとう」
「え?聞こえてた?」
「でもね、そういうのは他人行儀だから気にしないでいいのよ。
それにわたしはシンちゃんのこと大好きだからなにしても怒らないわよう」
「うん・・・」
「あら、あら、玄関で何を話しているのかと思ったら義理とはいえ兄弟なんだからえつちするなら避妊をするのよ」
「お母さんシンちゃんとはキスもしてないのよ」
「あらしたいのね」「だからっ!」
「ほらシンちゃんはやく手を洗っておやつ食べちゃいなさい」
「はぁ〜い」
「ほら、リッちゃんは実験の準備なんでしょ。
あなたも午前様とはいえ司令なんですから一日に一度くらい姿を見せてくださいね」
「わかってる」
「冬月先生が嘆いていましたよ」
「ナオコぉ子供の前で親が情けない人間であることを暴露するのは教育上良くないと思うのだがな」
「反面教師という言葉もありますね、とにかく顔を洗ってシャンとしてらしください」
「父さんまた遅かったんだ?」
「ああどうにも実験がながびいてな、ナオコ母さんはそうでもなさげだけど」
「ナオコの実務はMAGiの調整をしているだけだからな」
「その代わり書類仕事は冬月先生と折半ですわよ」
「・・・いいかシンジ、結婚するということは、こうして女の人を立てることで成立するんだ覚えておけよ」
「なにしょうもないことをシンジに吹き込んでるんですか」
「いや男としての心構えをだな・・・」
「ほら、ほら、シンジもはやくおやつを食べないと道場始まるわよ」
「あ、いけね」
「シンちゃん間に合わないなら乗せてくよ」
「本当? ラッキー」
当初、最愛の妻を失い失意の淵をさまよっていたゲンドウだったが、赤木ナオコの公私にわたる慰撫により自分を取り戻し一年後にナオコと再婚、同時にゲヒルンを退職し碇ユイの実家である碇総本家に家族の保護を求めたシンジという跡取りを欲した碇総本家および4分家は協議の末シンジを成人後碇総本家の養子とすることを条件にゲンドウとその家族を保護することを決定した。
もちろんこれには裏がある。
保護をするとと申し出たのは碇の家であり、その目的は人類補完計画の妨害にあったのである。
日本政府に働きかけゲヒルン本部を接収。
その人類に対する犯罪性を白日の下にさらけ出させたのである。
いかにSEELEメンバーが深く各国政府とつながっていようともインターネットやマスメディアを通じて広げられた風評というものは、恐ろしい力を持っていた。
SEELE:十二使徒(マジェスティックトゥエルブ)全員がつるし上げられ、キールローレンツに至っては、ナチスとのかかわりまで引っ張り出されたあげく、モサドに暗殺されてしまった。
だが予想される使徒によるサードインパクトは、防がねばならないことだけは確かであり、そのために接収されたゲヒルンを改組し、使徒迎撃特務機関「NERV」が国連安保理直属の「半公開組織」として発足したのであった。
「ねえリツネエ」
リツコのロードスターのナビシートに深く沈みこんだシンジが口を開く。
なぜか「シンちゃん専用シート」と穿たれたプレートがダッシュボードに付いている。
「なぁに」
「リツネエは僕なんかのどこがいいのさ」
「改めて聞かれると難しいわね、多分全部だと思うわ。
もっともこんんなおばさんじゃシンちゃんがいやかもしれないけど」
「嫌じゃないよそれにリツネエはおばさんじゃないよ、そりゃぼくより9つも歳は上だけど今年で20でしょ?
「そうよ」
「僕が追いつくまで待ってて」
「ええ、きっと待ってる」
その瞳は、遠い目をしているようにおもえた。
やがて車は、シンジの通う白鳳院流の古武術道場の門前へと滑り込んだ。
「着いたわよ」
「あのさ・・・リツネエ目つぶって」
「いいわよ」
そう答え目を瞑った、リツコの唇に暖かい物が押し当てられた。
「待っててくれるっていう・・・約束だからね」
「シンちゃん」
「・・・あ、あのリツネエ怒った?」
やっと気持ちが通じた。
通じてしまった。
「リツネエ謝るから、なかないで」
「馬鹿ねうれしくて泣いてるのよ」
シンジをぎゅっと抱きしめ静かに涙を流すリツコだった・・・。
そして、その深夜・・・。
「シンクロ率350パーセント」
「すまないリツコ」
「ごめんねリッちゃん」
「い・・・いのシンちゃんには、シンちゃんには本当のことを言ってください」
「ああ解っている、あいつは、きっと初号機に乗せる、そしてお前を迎えに行かせる!!」
「シンクロ率400!」
「さようなら・・・シンちゃん」
「自我境界線喪失!!」
「被験者EVAと同化しました・・・本当によかったんですか?」
一人研究員が、ナオコへそう尋ねた。
「・・・よかったかどうかは、この機体が動き、実績を上げたときに判断するわ」
「しかし・・・」
「納得できなくても、今の私たちにはこれがこの化け物を動かすことができる唯一の手段なのよ・・・」
「すまないナオコ」
「いいえ、あの子が言い出したことです、それにまだまだ希望はありますから」
『シンちゃんへ
この手紙を読んでいるということは、実験は成功したのだと思います。
失敗したらまだ私は、この世界に居るはずだから。
突然居なくなってしまってごめんなさい。
わたしは、あなたのお母さんが作られたEVANGELION初号機の魂となる被験者として志願しました。
どうしてかというのは、説明するの難しいです。
でも「魂」が入っていないEVAは、人の言うことを聞いてくれません・・・正確には、聞いてくれますがそれではあまりうまく操ることができません。
だから今まで建造されたEVANGELIONには、すべて志願した人たちの魂が入っています。
あなたのお母さんが作られた初号機には、シンクロできる人が居ませんでした多分シンちゃんなら、シンクロできるだろうとお父さんたちは言っていました。
が、それでも唯一シンクロできるだろう、シンちゃんを魂にしてしまうわけには、行きませんでした。
だけどシンちゃんのことを大好きな私ならシンクロできる可能性があり、事実できました。
だから私の大好きなシンちゃん、わたしはEVAの中に居ます。
わすれないでください。
そしてきっと待ってます。
迎えに来てね。
私の白馬の王子様シンちゃんへ。
PS あんまり待たせると私のほうが年下になっちゃうわよ。
EVAの中では歳は取らないだろうってお父さんは言ってました』
「・・・シンジ」
ゲンドウは、手紙を読み終わったシンジにかける言葉を失っていた。
あまりにもその表情が打ちひしがれていたから。
かけるべき言葉を見つけられなかった。
しかし、彼の息子は、喪失の痛手から起き上がるすべを知っていた。
替えを上げ、父の瞳を見据え強い口調で問うた。
「生きているんだね、あの鬼の中で・・・母さんを殺したあの鬼の中で」
「あ、ああ」
「助け出す方法もあるんだね?」
「ああ、お前が迎えに行けば帰ってくる。
そういう理論的な帰結だ」
「そう解った・・・でもね父さん」
「なんだ?」
「僕に一言断ってくれたって良かったろう」
「・・・それはリツコが止めたんだ」
「そうじゃどうして被験者になることを止めなかったの」
「止めた!! 何度も実験のたびに止めたんだ」
「だけどリッちゃんの意思は固かったの」
「そう・・・で、どうすれば迎えに行くことができるようになるの」
「EVAに・・・初号機に乗れ! 最高のEVA乗りになれ、そして使徒を倒せ」
「そう解った。
とう・・・碇司令、僕をEVANGELION初号機専属パイロットに任命してください」
「・・・いいのか、つらい戦いになるぞ」
「つらくても、それしかリツネエと、もう一度あえないなら、乗り越える。
リツネエが帰ってきたら父さん」
「なんだ」
「一発ぶん殴ってやるから、覚悟をしといてよ」
「ああ、楽しみにしている」
それくらいで、人の未来が開かれ、娘が帰ってくるなら、安いものだった。
訓練は、辛くなかった無理をすることが目的ではないから。
体術にしても僕は古武術の道場へ通っていたから教官・・・戦略自衛隊の曹長という階級のおじさんに基本はできてるから一つの技を極めるか技の引き出しを増やすかどっちか選べといわれたので引き出しを増やしたいといったら教官がいきなり三人に増えた。
体を鍛えるのと平行してEVAで戦うための訓練も始まった。
これは戦場でどのように大勢の兵隊が動けば効率よく戦えるかを考える訓練だった。
ようするにEVAというのは歩兵として考えられているらしい。
そして待ち望んでいたEVAへの搭乗訓練が始まった。
LCLという呼吸できる液体のむせる様な血臭に最初は辟易したけど、慣れれば・・・やっぱり気持ち悪いや。
で、んなこというと「がまんしなさい男の子でしょ!」
と母さんの罵声を浴びることになる。
「んじゃ赤木技術本部長兼副司令」
「なにかしら?」
「LCLビールジョッキ一気飲みよ・ろ・し・く」
「むうううシンちゃんのいぢめっこぉ」
「どっちがいぢめっこなんです」
「副司令、司令が呆れていますが?」
「あら、あなたシンジに相手にされなくて拗ねてますのね」
「おまえな、スケジュールが詰まってるって泣いているのは誰だ?
ったく親子で漫才しとらんでステージを進めろ」
「あら職場に潤いが必要ですわよ」
「このチームは潤いすぎだ、ばか者」
『わはははは』
「ほんとう、シンジ君の訓練は、やりやすくて良いわね」
「そうだな、なにしろ僕らが無駄口たたいてる余裕がある」
「はい、はい、息抜きは終わり、そろそろシンクロ入るわよ、良いわね」
「OK」「まかせてママ」
「シンクロスタートです」
女性オペレーターがそう告げる。
意識をLCLへ広げる。
なにかが近づいてくる気配がして、その気配が僕を包み込む。
ああリツネエそこにいるんだね。
やさしく包まれる感触、僕は守られている、リツネエに初号機に・・・。
「シンクロ率安定します」
「計測値89.76パーセントで安定」
「ハーモニクス0」
「揺らぎは計測誤差以内」
「素晴らしいわ、まだ三回目なのに」
「アスカにしてもレイちゃんにしてもヒカリちゃんやトウジ君にしてもこまで安定してしませんものね」
「初号機は、特別だから」
「すべてのEVAの原型機10年を経ても最強の潜在能力を持った文字通りの<鬼>だわキョウコ」
「やっぱり男親では愛情が空回りするのかしらアスカは、シンクロ率が安定しないわ」
「レイちゃんは、でも祖父だった冬月先生でも安定したシンクロ率じゃない?」
「一番の問題は」
「はいはいうちのアスカは気まぐれなのよね」
「あとはイギリスから渚君がくれば一応迎撃体制は整うわね」
「その割には装備品が整わないじゃない」
「EVAのサイズの銃器って簡単そうだけどあの大きさで思い切り振り回すからその振り回せる強度を持たせるだけでも大変なのよ」
「それは解ってるわよ」
「あの部長に課長」
「なに?」
「試験とっくに終わりました」
「あら」
「やだ」
「碇君大丈夫? 疲れてるみたい」
「へ? ああ、疲れてるのは母さんと父さんが夫婦漫才してるから」
「あ〜らシンジも含めた親子トリオ漫才だって聞いたけど?」
「ああ、惣流さん」
「あによ」
「僕が漫才なんてできるタイプに見えるかい?」
「あんた以外のだれが赤木副司令と漫才できるって〜のよ」
「いやだなぁ母さんはそんなに怖くないよ」
「怖くはないわよ、ただ軽口がいえる雰囲気じゃないって言うか」
「そりゃ惣流さんたちが母さんのペースに慣れてないだけだよ」
「そうかなぁ?」
「だっていまの僕の試験だって後から入ってきたキョウコさんとドツキ漫才してたよ」
「はぁ? ママとぉ?!」
「うん」
「そりゃあれや、せんせ」
「なに?」
「惣流は格好良く見せたいと思いすぎなんちゃうんかい?」
「それは解ってるんだけど、どうしても構えちゃうのよ」
「あ〜それはあるかもね」
「せんせはリラックスしすぎや」
「あ〜でも本当碇君が着てからここ楽しくなったのは確かよ」
「せやな、なんか大人の人たち余裕が出てきたで」
「一枚カンバンのアスカに負担がかからなくなったからだと思うわ」
「せやな惣流が、いくらアベで93パーセントのシンクロ出してたって、俺らが30だの40だのうろうろしとっんじゃ安心できんわな」
「そうね最低でも分隊で行動したいのにアスカが突出していると指揮も難しくなるもの」
「ほ〜んとあんたには感謝してるわよ」
そしてイギリスから、六号機とそのパイロットが送られてきた。
「僕が、渚カヲルだ、よろしく頼むよ」
レイと同じアルビノと思われる容姿の少年が、軽い口調でそういった
「やあアスカ君、久しぶりだね」
「あらわたしの知り合いにナルシスホモなんて人間は居なかったと思うんだけど」
「相変わらずきついね君は・・・ああ、君が碇シンジ君かい?」
「そうだよ」
「いゃあ聞きしに勝るいい男だね」
「あの渚くん? その手はなに?」
「いやどれくらい筋肉が付いているかなと」
「お尻はあんまり関係ない気がするけど」
「いゃあいい天気だね」
「渚くん?」
シンジの目に殺気が漲っているのにカヲルは、気がつかない。
「・・・や、やばいでせんせ切れおった」
「レイ逃げるわよ」
「大丈夫初号機がいるから」
「渚、おまえ人が笑っているうちに止めとけよ」
シンジの口調に遠慮がなくなった。
こうなったら、絶対にシンジを知っている人間は近寄らない、下手なとばっちりを受けるのはごめんだから。
「え?なんのことだい?」
無知とは罪である。
「白鳳院流飛鷹!!」
ざぱ〜〜〜ん☆
「おおっ、せんせの奥義や、教官すらぶん投げる予備動作なしの荒業炸裂やで」
「ひどいよぉ〜、いきなり投げるなんてさ」
冷却用LCLが無ければ、即死の高さだ。
「いきなり投げなきゃ逃げ出してたろ?」
「あ〜、まあそうたけどね、冷却用のLCLはつめたんだよ」
「自業自得だ、阿呆」
「あそういえばレイには、挨拶をしていなかったね」
「いい、いまさら」
「これらは、冗談でもホモっ気は、出さないことね」
「ならばアスカ君に言い寄るしかなくなるけどいいのかい?」
「あんた、いいかげんその話題から離れなさい」
ごちん、とアスカの拳固が頭の上に炸裂した。
「はい」
「UNFと模擬戦をしてもらおうと思うの
せっかくEVAが6体もそろったし、UNFにも使徒の脅威を感じてもらう必要があるのよ」
富士演習場にEVA6機と火砲30、戦車30、ヘリコプタ10、航空機20が終結した、航空機20はハリアー2が10、JSF−Jが10である。
「お集まりの皆さん本日の次第からご説明いたします。
まずはEVANGELION各機によるデモンストレーション。
その後、火砲および戦車の主砲によるATFの能力確認。
経空攻撃に対するEVAの追随性能の確認。
エキシビジョンとしてEVA同士の格闘戦を予定しています」
「いかがですか? フォスカー国務長官
EVAの実態は、たしかお国は、EVAに批判できでしたわね」
「ふむ、良くできた玩具であることは認めるよ。
あんな馬鹿げたサイズの人型のものが動き回る、それも人よりも早く。
それだけでもジャパニメーションの悪夢以外の何者でもない」
「おやわが国のアニメーション作品は、世界的に高評価を与えられておりますが?
それが気に入らないと?」
「たしか長官は、今は無きディズニーの取締役でしたわね」
ナオコが皮肉を込めて、日本のアニメ産業に太刀打ちできズニ、解散した強権集団の最後の残党の顔を見やる。
「くっ・・・」
「それに玩具かどうかは、この後のデモをご覧になってからもう一度お聞きいたしますわ」
「よかろう、せいぜい張ったりを効かせた演出をお願いするよ」
「シンジ、アスカちゃん本気でいきなさい」
「えっ、いいの?」
「壊すかもしれないよ」
「そのくらい、こちらの国務長官からふんだくってあげるわ」
「了解」
「解った、ちょっと動き足らなくてラストレーションたまってたのよね、とくにシンジと遣り合えるなんて気分が良いわ」
「僕もさ」
「「外部電源パージ高機動モード。
GetSet,Ready・・・Go!!」」
紫と赤の機体が、超音速でバトルフィールドへと駆け寄り、凄まじいばかりの模擬格闘戦を開始した。
手足が音速で、同時に繰り出され、手刀がヴェイパーを曳き打ち合わされる。
両機の足元からは、衝撃によって掘り起こされた巨岩が周囲へ火山弾であるかのように撒き散らされる。
「ちなみに、ここは後ろにいる六号機がATFを張っていますから」
ナオコたちのテントに向かい巨大な岩が落下してくる。
だが、頭上はるか遠くで淡いオレンジの波紋に遮られあらぬ方向へとはじき返され、地面へ轟音とともに激突し砕け散った。
「この様に弾けた岩が飛んできても安全ですわ」
「い、いや、もういい沢山だ、解った君たちの作ったEVANGELIONが、本物の戦闘兵器であることは、理解できただからもう止めてくれ」
頭を抱えたまま、大の男が背中を丸め、母親の名前を呼ぶ姿に、嘲笑を張り付かせナオコが言う。
「そうおっしゃられても長官、電源が切れるまでは、続けると思いますわ」
「ほう、電源ケーブルパージからどのらい稼動するのだね」
「そうですわね、予備の電池は載せていませんし、双方ともに全力可動していますから1分から1分半という感じですか」
「世紀末の使者だ・・・黙示録の獣だ・・・」
<さすがに本物の軍人さんたちは、EVAの価値に気が付いたわね。
これでアメリカが本気になってくれると楽になるわ。
もっとも横槍も増えるんでしょうけど>
ちらりとまだ頭を抱えて震えている大男に侮蔑の視線を投げかけナオコは、初号機と弐号機の修理にどれだけの時間がかかるか見積もりをはじめていた。
「まあ、思ったよりも壊れてないわね」
「当たり前でしょ、機体に攻撃があたればあたしたちが痛いのよ」
「だって随分派手に音がしてたわ」
「ああ、ATFを張って受けてたんです」
「そんな真似ができるの?」
そんな報告は受けていない。
「できたのよ、やってるうちにね」
「けっこう簡単にできるようになったよね」
「いったい、どうやったの?」
「あ〜そうですね、打撃が来る場所は、かなり正確にEVAの感覚で解るんです。
これは、腕の防御が間に合うなとか、ここは、喰らっちゃうとか。
だから打撃を喰らいそうなところに、余分に張れっ! って思うだけで張れちゃうんです」
「そうなのよ」
「生身でもATF使えたら便利なんだけどな」
このデモンストレーションの直後、米国は、自国内EVA建造に承認を与え、国連への使徒対策拠出金も増額を急遽決定した。
デモンストレーションを行われ、EVANGELIONを新しい兵器システムとしぶしぶながら認めざるを得なくなったということであろう。
「思ったとおり」
ナオコは、デモが図に当たり、ご満悦だ。
「でもこれからは、面倒が増えるわよ」
「まあそれは仕方ないわ。
それよりも作戦本部の作戦指揮担当が居ないのよ」
「生きの良くて乗りの良い女性士官?」
「そうよキョウコ心当たりはある?」
「心当たりねぇ・・・ああ、一人要るけどあんまり能力は高くないのよ」
「それはかまわないでしょ? 作戦<指揮>担当だもの、作戦立案は戦自の専門の幕僚職の人たちに任せるのよ」
「ああ、だから乗りと勢いなのね」
「そうよ」
「そうね・・・もう一人心当たりはあるわ。
一人は、ナオコも会ったことがある子よ、今はUNFのドイツ軍にいるのかな、葛城ミサトって子」
「葛城って、あの葛城調査隊の生き残り?」
「そうよ」
「あの子軍人になったの?」
「どういう経緯かは、しらないけどね、UNFに身分照会してみる?」
「そうね。
で、もうひとりは?」
「トライデント計画の生き残りの女の子よ」
「あらまだ戦自にいたの?」
「ナオコ知ってるの?」
「だって治療は、うちでしたんだもの、わたしが主治医よ」
「ああ、それで士官教育を受けてこの子はかなり良いレベルで作戦まで作れるって話よ」
「そうマナちゃん頑張ってるんだ」
「葛城ミサト大尉であります」
「霧島マナ中尉です」
「UNFドイツ司令部よりNERV本部への出向を命じられました。
よろしくお引き回しください」
「戦略自衛隊第一軍団第一司令部より参りました。
どうぞよろしく」
「こちらこそよろしく、お願いするわ。
まあ、ここはそういう硬い乗りの組織ではないから、敬礼は要らないわ、休んで頂戴」
「はっ」
「はい」
「そてお二人どうですかEVAを見た感想は」
「はい、動いているところを直接見たわけでないので正直人形か巨大ロボットの模型にしか見えませんでした」
「まあ、普通そうよね」
「ただほかの機体は平気なんですけど紫の・・・初号機は・・・正直怖かったです」
「ああそういえば紫の奴だけ鬼みたいに角が付いてましたね」
「まああの機体だけ<鬼>ってパイロットも呼んでるから、みんな感じることは同じなのね」
「初号機パイロットは、博士のご子息だと伺っておりますか?」
「ええもっとも義理の息子なのよ、私の娘は、あの鬼の中」
「それは・・・?」
「EVAっいう兵器システムは、人柱というか人身御供というか、そういう犠牲が必要な無茶なシステムなの」
「え〜と・・・」
そんな無茶苦茶なシステムを国連が運用して良いのかとマナは尋ねたいのであるが、はたして正直にそれを聞いてしまってよいものか、判断ができないでいた。
「あ、大丈夫よ、死ぬわけじゃないの、パイロットの意思をEVAへ伝える翻訳機みたいなものなのかしら。
そのためにEVAのコアへ情報体として取り込まれてしまうの」
「出てこれるのですか?」
「理論的には、出入り自由なはずなのよ。
まだそのサルベージの方法が確立されていないんだけどね」
・・・それって、ダメじゃん。
流石にそう突っ込む根性は二人には無かったようだ。
「これで迎撃体制は整ったといえるのかしら?」
明るい司令室にゲンドウとナオコの姿があった。
「私達は、人事を尽くしたよ。
すくなくともNERVとしては、これ以上足して意味のある事は、存在していない。
・・はずだ。
だが所詮は、神ならぬ人の行った事だ、どこかに抜けているところは、絶対にあるし人の能力を超えた事態が発生するかもしれない。
しかしそれは、今考えても仕方の無いことだ。
この体制維持することのほうが難しいだろう」
「そうね」
「おまえには苦労をかけっぱなしだな」
ゲンドウの正面の机に斜め座りをしたナオコが、顔の前に組んだゲンドウの両手をそっと掴み言う。
「好きでしている苦労は、苦労と感じないんですよ。
今、私は充実していますから」
「そうか・・・私もだ」
「予想される使徒の再出現時期ってどうなんです?」
「最短で今、この瞬間から最大で50万年後」
書類から顔を上げずにミサトが即答した。
対する机に座っているマナも決済書類を片付けている真っ最中だ。
「今この瞬間というのはわかるんですけど、50万年ってなんの根拠があるんです?」
「んなことあたしは知らないわよ、それだけ使徒が非常識な存在ってことでしょ?」
「それは投げやりですよ葛城さん、まあわからなくは無いですけど」
「いつまでもこんな状態にあの子たちをおいておけるわけじゃ無いわ。
あとどのくらいが限界かしら?」
「はっはい・・・え〜予測として長くて2日が現体制では限界かと」
「そうそれが過ぎたら、四交代へ戻します」
「なにか根拠があるんですか?」
「これとはっきりいうのは、難しいわよ、ただ裏死海文書には、月齢とか惑星の位置で大まかなことは書かれているわ。 ただし日時までの特定は無理」
「それが、ここ二日というわけですか」
「そうよ」
「解りました、なんとか維持します」
「頼むわ」
「とはいったものの、このままケージで二機待機体制ではあんまりなので、一機だけ地上に上げておくのどうでしょ?」
「歩哨でもさせようっていうの?」
「当たりです」
「それにしても、まあなんとものどかだね」
地表に射出された状態・・・ロックボルトは外れていないので、リフトオフはしていない・・・の六号機のエントリープラグの只中で渚カヲルは、一人のんびりと音楽を聴いていた。
それなりに警戒は、しているとはいえ戦闘態勢にあるわけではない。
見張れといわれても具体的に何をどう見張れば良いのかも解らないのである。
結局エントリープラグのインテリアに身を沈め耐水性の特殊なヘッドフォンからの音楽を聞いているかスクリーンパネルの一部に一般ゲーム機用のゲームを呼び出しゲームをしている程度の事しかできないのだある。
そして渚カヲルは、都はるみベストなるCDを聞いていた。
「都は、いいねぇこぶしはリリンの作った文化の極みだよ。
そうわ思わないかい伊吹マヤさん」
いきなりそう話を振られたところで、話題についていけるはずが無い。
なにしろ彼女には音楽は聞こえていない。
もっとも渚カヲル専属コミニュケートオペレーターの山岸マユミであれば「そうね、でも石川さゆりも捨てがたいわ」とかいう返しが返ったはずである。
父親の家庭カラオケにつき合わされている彼女ならではの返しではあるが。
「えっと・・・わたし演歌は、ちょ〜〜っと」
「ああ、それは、いけないねぇジャンルで食わず嫌いをすることは、人生の楽しみの何パーセントかを失っているんだよ」
「あははは、そうかもしれないわね」
・・・ったくだれが演歌なんか聞かせたのよ。
などと思いつつ愛想笑いをするしかないマヤだった。
そのときカヲルの背中を悪寒が駆け上がった。
まるで熱が上がる前兆のような、それに思わず身震いをしてしまう。
「おや・・・なんだろう、LCLの温度が低かったかい?」
エントリープラグの環境設定を呼び出し、LCLの温度設定を確認する。
しかしそれはいつものとおりだ。
「じゃあこのいつまでも引いてゆかない悪寒は・・・なんだい」
と視線をあげたと、きはるか南南西の彼方にその気配は感じられた。
「日向さん」
「なんだい渚君」
「南南西の方向、EVAの感覚でかなり遠くに、僕の相棒が何かを感じているよ」
「なんだって?! シゲルっUN太平洋艦隊、および極東航空団、海上保安庁(JCG)の無線チェック、戦自とのリンク状態を再設定するぞ」
「こりゃ太平洋艦隊もJCGもお祭り騒ぎだ」
「よし発令所に流すぞ」
さして広くは、無い第一発令所と呼ばれる空間。
大学の講堂のような扇形のひな壇にならぶコンソールが45あまり、今現在は、そのすべてが埋っているわけではない。
筆頭オペレーターの日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤの三名と、その配下にさらに三人づつ12人しかつめていない。
業務が増えるに従い配下にさらに三人づつがついかされ、オペレーターは、総計で39名。
それがこの発令所の最大勢力だ。
そして作戦本部長の葛城ミサト大尉と戦術課長霧島マナ、赤木ナオコ、惣流キョウコ両副司令、碇ゲンドウ司令と予備コンソール1で45卓というとになる。
発令所内に傍受された無線が流され始めたとき、司令を初めとする幹部5名が姿を現し、碇ゲンドウ司令が、おもむろに宣言を発した。
「NERV本部はこれより第一級戦闘態勢にはいる。
海自のイージスがパターンブルーを確認した。
諸君、あれは使徒だ」
「現在A03は、速力14ノットののんきなスピードでおおむね北へ向かって侵攻中」
「目標は同考えてもここです」
「海自やJCGの豆鉄砲は、まるで効いた風ではありません」
「Mk50短魚雷やMk47系列の長魚雷も炸裂こそ派手ですが進路すら変えれません」
「大和型の46センチでも打ち込んでもらいすか?」
ちょうど信濃がいい具合に浮いてますし、とでも言うようにゲンドウに向かい言うマコト。
「やめておこうあのタイプの砲弾は、もう製造できないからな」
「はい」
「海岸まであと2時間ほど、そこからの進行速度は、解りませんがやはりそれほど早くないと仮定して一時間から一時間半で絶対防衛線に到達します。
「たった今、UNFがN2爆雷を使う許可を日本政府へ要請しました」
「即刻許可は下りるでしょう、陸に揚げてしまうと使える場所は限られますから海中にいる間、それも海岸から遠いときに使うでしょう」
「もっとも奴がATFを持っているならばあまり意味は無いだろうな」
「で、わが方の作戦は」
「はいEVA3体によるフィールドの中和をおこないつつ強羅絶対防衛線の火器でこれを殲滅します。
配置はツートップ、ワンリベロ、リベロに初号機、ツートップに弐号機と六号機です」
「なぜ直接EVAと使徒をぶつけないのかね?」
「はい、それは未だに満足できうるEVA用の武器が完成していないこと、フィールドの中和が行えれば、通常兵器による打撃でも倒せる可能性があるためです」
「うむ了解した、問題ない、作戦を実行したまえ」
「はい」
「あんた、あたしの足ひっぱるんじゃないわよ」
アスカがカヲルへ向かいがなった。
「引っ張るも何もATFの中和だけなら引っ張りようは無いさ」
「N2炸裂しました」
フロントの300インチほどのスクリーンが、巨大な水柱に占領された。
「マナ片が付いたと思う?」
ミサトがマナへそう尋ねた。
「不意打ちならあるいは」
「そうね・・・付いててほしいってえのが本音?」
「そりゃそうですよ。
メガトン級の純粋水爆ですよ。
それを喰らって、へっちゃらじゃ軍人としては悪夢ですから」
「まあ・・・そうね」
「爆心晴れます・・・」
高温の爆発によって発生した霧、ベースサージがゆっくりと消えてゆく。
そのとき発令所を落胆の声が包んだ。
なぜなら、水中の巨大な影は、スピードをやや落としたものの影の形などに変化は見られなかったからだ。
「3メガトンの太陽爆弾を至近で喰らってご無事とはこりゃ倒し甲斐ががありすぎだ」
『なに言ってるのあたしやシンジだってATF張ってりゃN2の一発や二発どうってこと無いわよ』
<ナイスフォロー!>
とミサトは心の中でアスカに感謝した。
そして日向に対する評価は少しだけ下げた。
冗談もTPOにあわせなくては、士気にかかわるのだ。
もっともこの場で叱責しない程度の配慮はする人間であるので、デブリーフィング後に注意が行われるだろう。
・・・ミサトが覚えていたなら。
その映像から目を離しミサトは、ふっと息を吐いた。
「ここで根を詰めてても仕方ないわね。
偶数勤務者は、20分休息を取って、その後、奇数勤務者が20分休んで頂戴」
ベッドセットを外し、静かにオペレーターの半数が、休息を取るために発令所から出てゆく。
筆頭オペレーターもマヤが席をはずした。
「青葉さんも偶数でしょ?」
「おれここで寝てるよ」
「なぁんだコーヒーたかろうと思ったのに」
「俺よりマナちゃんの方が給料いいのに、たからないでよ」
「んじゃあたしの分は、出すからぁ」
「おいおいそりゃ当たり前だつ〜の」
「んじゃ青葉さんの半分だすわよ」
「もう一声」
「次はおごりだからね」
青葉は、このおごりがひどく高くつくものになることを知らなかった。
「よしんじゃいこうか」
「平和ですね」
「そうね」
「乗りが体育会系同士で波長が合うのか」
「ねえ日向君」
「はい?」
「あのジョークは、駄目よ士気にかかわるからやめて頂戴」
「あ、やっぱりなんか、この当たり」
というと首筋を手のひらでなぞって見せた。
「が、チリチリしたもんで言った後で不味いなとは、思ったんですけどね」
「まあ君の明るさは貴重なんだけどね」
と和んでいるところへ、アスカが割り込んだ。
「なによ、あたしたちは、どうすりゃいいの?」
「あ、ごみん」
「ごめんじゃないわよミサトは、妙なところに気が回る割には、肝心なところが抜けてるんだから」
「そうなのよねぇ」
「自覚があるならちゃんとしてよ。
で、どうするのよ」
「三人とも戻っていいわ多分二時間じゃこないでしょ」
「解った」
「それじゃ三人とも出てきたときと同じリフトを使って戻ってくれ」
「「「は〜い」」」
「おかえり、ほいこれ飲んだって。
ヒカリの作ったバナナジュースやガッツが出るで」
「わぁありがとヒカリ、お腹がすいただけど戦闘じゃどうなるか解らないから」
「ああこれは美味しいね・・・綾波は、どうしたの、あんなところで」
パイロット待機室の片隅で、こちらへ背を向け、ぷつぷつとつぶやいている姿は、不気味であった。
「これはあれや、スリートップからはずされておちこんどるらしい」
「は? 今回はたまたま渚が外に居たからそのまま残っただけだと思うけどな」
「わいもそういったんやけどなぁ・・・」
「もう、しょうがないなぁ」
精神的なキャパシティが無さすぎだようちの大人連中は。
通常、パイロットの精神状態をチェックする人間がいてしかるべきなのだ。
そんなことまでパイロットにケアをさせてしまうというのは、組織としてきちんとした管理下にないということになるだろう。
「綾波、どうしたの」
「わたしは、もう用済みだもの・・・」
「なに言ってるんだよ、きちんと作戦趣旨を葛城大尉に聞いてごらん。
あのひとのことだから何も考えずに外に居ただけの渚を使うフォーメーションを組んだだけで、別にそれを永続化するつもりなんてないわよん。
とか言うんだから」
「本当?」
「だいたい渚の六号機のシンクロは、35で綾波は70で倍も違うんだから言ってみれば、零は、後方更置されてる強力な増援部隊だよ。
切り札さ」
「切り札?」
「そうさいざとなったら綾波が僕たちを颯爽と助けてくれるんだよ」
「そう、そうなのね。
私は、切り札ふふふ、ふふふふ、使徒に蹂躙される弐号機と六号機たった一人で使徒に対峙する初号機の元へ私の零が駆けつけるの。
二人で手に手を取って使徒を倒し、その場で二人は結ばれるの、うふふ、うふふふっ、ぐふふふふっ」
「お〜い綾波ぃ〜もどってこぉ〜い」
「だめだめそうなったら10分は戻ってこないわよ」
「まあシンジの言った予備兵力は確かでしょうね、全機全力で突っ込んで<あじゃぱぁ〜>よりもまだ時間が稼げるだけましだわ」
「しかしのお、この場合<あじゃぱぁ〜>になったらわしらなんぞ出たって意味はないんちゃうんか?」
「そんなこと無いわよ、ただで<あじゃぱぁ〜>になるつもりは、私にもシンジにもないもの。
使徒の手足の一本や二本叩き潰してから倒れるわよ」
シンジへ確認の目配せをする。
その目配せに頷くシンジ。
「ああ、そうだアスカの言うとおり」
目に見えてアスカの表情が明るくなった。
「なるほどあんたらふたりの気持ちは、よう解った、
漢、鈴原あんたらのその心意気酌ませてもらうで」
「うん頼んだよトウジ」
「任せときっ!」
「瞬殺するつもりのくせによく言うわね」
「それはそれ、これはこれ。
ただやられるつもりが無いのは本当だろ?」
「当たり前ジャン」
その会話に参加してこない渚は肩を抱いて、ベンチに座り込んでいた。
「渚・・・?」
「あ、いや、少し悪寒が残っているんだよ。
最初に感じた、あいつの異質な感触がね」
「あんまりそんなのに囚われるなよ、あいつは敵でしかないんだから」
「解っているよシンジ君」
「ん〜〜〜〜じゃそろそろ行ってみようか諸君!」
シンジが気合を入れて叫ぶ。
『おおっ!』
初号機、弐号機、六号機が地表へ再度打ち出された状態で待機をしている。
そこへミサトが威力偵察の結果を伝えてきた。
もっとも攻撃しているUNF・・・といいつつすべてが陸上自衛隊に航空自衛隊であるのだが・・・としたら、本気で攻撃をしているのであるが。
「上陸してくれていろいろと解ったわよん」
「まず手の先から高温のヒートパイルを打ち出します」
「VF/A−4が粉々ですかい!」
全長が30メートルあまりの巨大VTOL攻撃機がそのパイルに貫かれ粉砕される様が、プラグ内壁に映し出された。
「次に白仮面の目から粒子ビームがでます」
「これは出力が自在に変えられるようだったわ」
「また面倒な武器持ってますね、遠くてもビームが降ってくる近寄ればパイルですか・・・こっちは格闘戦しか選択肢がないっつ〜のに」
シンジが打つ手が無いじゃんとでも言うように愚痴った。
「だからこそ通常火砲連携して倒してほしいのよ」
そして。
シンジは、思っていたどうしてこんなことになったのかと・・・。
その原因は、フィールドを中和する前に棒立ちの六号機が使徒にボコられてしまったのが最大要因だろう。
どうも滑った肌に鱗というのは、西洋人の恐怖を増幅してしまうらしい。
チキンならチキンで逃げ出してくれたら多分問題なかったのだ。
だが渚の棒立ちは、最悪だった。
「あんた死ぬ気!」
弐号機が手刀でA03の振りかぶった腕を切り落としたため、延髄からプラグを貫かれるという最悪の事態は免れた。
しかし突っ込んだ弐号機の体勢が整う前に使徒は、ビームを弐号機の背中へ向けて放ったのだ。
そして渚は、弐号機のATフィールドを中和してしまっていた。
弐号機がわき腹を二条のビームで貫かれたところで、初号機が使徒の背中へ超音速のドロップキックを炸裂させたのだ。
弐号機はもんどりを打って六号機を巻き込み転倒しそのまま動かなくなってしまった。
ドロップキックを食らった使徒は、頭から山腹へ埋りこんだ。
決定力となる得物を探したシンジは、未だに熱を持っているだろうヒートパイルをぐったりとなっている使徒の赤い玉へたたきつけたのである。
その瞬間赤い玉は砕け使徒は、N2級の大爆発とともに消滅した。
「パ、パターンブルー消滅使徒殲滅を確認」
「シンジ君、助かったわ」
「いいえ」
「弐号機をケージへおろしてあげて」
「はい」
「六号機、もう少し壊れるかも知れませんがいいですか?」
そう発令所に許可を求めた。
「はひ?」
思わずミサトはそんな声を出してしまった。
「シンちゃんお手柔らかにね」
しかし、ナオコがそれを認めた。
「ええ殺さない程度にしときますよ」
「渚・・・」
氷点下の口調で、六号機のパイロットへ呼びかける。
「シ・・・ン・・・ジ君?」
「おまえ自分がなにをぶち壊したか解っているな」
鋭い殺気のこもった視線に射抜かれ、カヲルは、言い訳を口にするしかない。
「だって・・・だって、しょうが無いじゃないか、怖かったんだよ」
「怖かったら、怖いと言え!
作戦は、とてもできないと!
そしたらお前を下げて俺が中和に入れた!」
「だって声も出なかったんだ、怖かったんだよどうしょうもなったんだ」
「怖いのは、俺もアスカも、兵装ビルのオペレーターも臨時観測所のオペレーターもUNFの戦車装甲車その他諸々の兵科の人たちも、みんな一緒だ!!」
初号機は左手一本で六号機を吊り上げる。
「ぐっう・・・ぐるじい・・・よ、しんじぐん」
「苦しいさ、ったりめぇだ! 首絞めてんだからな」
「やめて、ゆるして」
「はいはいシンちゃんその辺りにしといて六号機が壊れたら直すのが大変だからね」
「だってミサトさん渚本人には、できませんよこんな風にわき腹にこぶしをぶっこむなんてことは」
ドンッ!!
という音ともに、左わき腹へ初号機のATFをまとったパンチがもぐりこむ。
「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あぐぁぁ・・・して・・・ゆるしてよ」
「アスカは、二発これをくらった!
それもお前よりもシンクロ率が高い状態出だ!
「ゆるして・・・シンジ君・・・」
「ったくどうしてこいつの心理反射に気が付かなかったのかじっくり説明してもらいますからねマヤさん」
「え? あたし?」
「だってチルドレンの健康精神の管理はマヤさん担当じゃん」
「ほらほらシンちゃんあなたも疲れて気が立ってるんだから、とにかく六号機を放して、弐号機を下ろしてちょうだい」
「はい、はい、ほれ手前で降りろ」
六号機をゴミでも捨てるかのように放り出す。
「・・・もういいよアスカ」
「あ、ばれてた?」
「おまえな、気絶した振りはテレメーターが無い機体でしような」
「あ〜んシンジのいけず」
「ほれ」
「あら、はこんでくれるの」
「仕方ないだろ命令されちゃったから・・・ねえマヤさん、いい加減気が付きません?」
「ほへ? あ〜コンソール初号機にハックされてるぅ!? 弐号機のテレメータが嘘っぱちのデータになってるじゃない」
「マヤさんもう少し観察能力付けてくださいね」
「ひどぉい」
「シンちゃん、あんたねぇ」
「渚が棒立ちでも下げなかった指揮官殿の責任は?」
「うぐっ」
「まあその当たりはデブリーフィングで片付けましょう」
「シンちゃん」
「はい、やりすぎました大変申し訳ありませんでした」
「まあ理由は、大体想像付くけど、渚君を負け犬のまま返したくなかったんでしょ?」
「あ〜そんなにやさしい人間じゃねぇっすよ」
「うそ、うそ、あそこで反発して殴り返すくらいだったら大丈夫とか踏んでたんでしょ」
「いや、まあ」
「渚っち駄目っすか?」
「またストレートに来たわねこの子は本人いるのに」
「だってそれがはっきりしないと次に使えね〜ですもん」
「駄目だと思うよ」
そのシンジの声にビクンっとカヲルの体が震えた。
「口では威勢がいいけど基本的に怖がり見たいだから、その怖がりのおかげで使徒が見えたみたいだけどね」
「・・・こ、怖がり渚君が?」
「あれ誰も気が付いてなかったんですか?」
「まあ本人も気が付いてなかったようだから仕方が無いか。
怖がりというか度胸が無いというか、相手があんなのっぺりとした人型をしていなかったらここまでひどくはならなかったんでしょうけど、ともかく渚は、迎撃任務からは外すべきでしょうね」
「そうね、仕方ないわ。
で、弐号機が死んだふりをしたのは?
「六号機を抑えるためと奇襲を狙ったものです」
アスカは、淀みなく答えた。
「あ、そう・・・そうね納得できる説明ね。
それじゃあ、ともかくみんなお疲れ様。
NERVもわが作戦本部も一つ課題をクリアしたわ。
問題点の洗い出しを重点的に行って、レポートの提出は、なるべく早く。
一週間以内にお願いね。
あ、渚君とシンちゃんは残って」
「あたしは?」
「ん? アスカは、医務室へ行きなさい」
「赤くなってるだけよ」
「アスカ」
「解ったわよ」
「ん、じゃとりあえず解散」
居残りの二人以外が出てゆくのを確認して、ミサとはおもむろに土下座をした」
「渚君ごめんなさい!!」
「あれ、いきなり謝っちゃうんですか?」
「そりゃね、完全に指揮のミスだもの。
六番が棒立ちになってた時点でリベロと交代、もしくはゼロと入れ替えをしなくちゃいけなかったのよ。
それを遅らせて取り返しの付かない状況にまでしてしまったのは、指揮官の責任だわ」
「僕は、パイロットを続けていていいのかい?」
「次ってもんがあるかどうかわからないからな、それからな」
「・・・なんだい」
「アスカへフォローちゃんとしとけよ、少なくとも命の恩人だ、あのままパイルを喰らってたら確実にプラグが潰れたからな」
「う、うんわかったよ」
「ねえシンジ君、どうして君は戦えるんだいあんなふうにあの化け物と」
「初号機の中に会いたい人が居るんだよ、迎えに行くためにはあいつら倒さなくちゃいけないってだけだぞ」
「お姉さんだよね」
「義理だからな結婚できるんだぞ」
「あはは、そういうことか」
「ねえシンちゃん」
「なんですかミサトさん」
「あたしとのことは遊びだったのね・・・ったぁ!
もう女の頭をぐ〜でなぐる普通?」
「ったく、くだらないこと言うからですよ」
「でもさぁアスカにレイは、かなりシンちゃんに傾いてるわよ」
「あ〜解ってるんですけどね」
「いっそのこと言っちゃえば、初号機に取り込まれているのは、僕の恋人だってそういうのはっきりしないと後でわかるのは残酷よ」
「あ〜」
ん、なこと言われたって、リツネエのこと恋人だなんて言うの恥ずかしいよぉ。
などとシンジは思っていた。
「特にアスカは、不味いわよ本気になりかかってるわ」
「ミサトさん楽しいでしょ?」
「ええ、そりゃぁもう他人の修羅場は、蜜の味だもの」
「良い死に方しませんよ」
「あらん拾った命だもの生きてる間は、思い切り楽しまなくちゃね」
南極においてセカンドインパクトを生き延びたのだ、それは確かに拾い物だろう。
「それがミサトさんのドクトリンなんですね」
「そうよん」
───疲れた・・・リツネエ会いたいよ。
ブリーフィングルームの隅に用意されたソファーに、ぐったりと沈み込みシンジは深い眠りに吸い込まれていった。
いつまでも戻ってこないシンジにアスカとレイは、探しに出てブリーフィングルームでねこけているシンジを発見したのである。
「あ・・・あれ?」
「あなたにも見えるのね」
「ええシンジを膝枕している女の人」
「リツネエ絶対迎えに行くから」
その寝言に対して女性の唇が確かにそう動いた。
<待ってるわ>と。
結局あまりにも気持ち良さそうにしているシンジを起こすことかできず、アスカとレイはその場を離れたのだった。
「リツネエってだれ?」
「な・・・なんで、ふたりがその呼び方を知ってるんだよ」
「ごめん昨日あんたが帰ってこないからレイと探しにきたのよ。
ブリーフィングルームのソファーで寝ているのを見つけたんだけど。
その・・・あなたを膝枕している女の人が居たわ」
「もしかして髪を肩で切りそろえて目元にほくろがなかった?」
「あったわ」
「そっか」
シンジは、ひどくやさしい表情でそうつぶやいた。
「あのねリツネエっていうのは、赤木リツコさんのこと」
「赤木ってあんたのママのファミリーネームよね」
「そう、母さんの本当の娘、僕たちは義理の兄弟で、歳は離れているけど僕たちは好きあっていた」
「そ、そう、なんだ・・・だから迎えにいくって言ってたのね」
「だから二人の」
「いい、それ以上言わないで、あたしもレイもあんたの戦友、それで今は、満足してあげる。
あんたを最終的に手に入れるのが誰なのかは、初号機の中からあんたの姉さんを引きずり出してから決めることにするわ」
「そ、そう」
やる気を煽っただけじゃんかぁ、ミサトさんの阿保〜〜。と内心で涙をダパタパと流していたシンジだった。
「で、どうなの?」
「そうね、見込みは十分あるわ」
「問題点は?」
「同等の物を量産できるかどうか」
「やっぱりそこに行き着くわけね」
なにかといえばヒートパイルなのである。
超振動により高温となるそれは、使徒が滅んでも形を失わなかった。
ゆえに初号機が武器として使った為に、いつまでも開発の進まないEVA用の武器として改修し使うことが検討されているのである。
「こいつの解析が進めば刀レベルのものはできて来るでしょうね」
「この金属結晶構造だけでも特許が3つや4つ取れるわよ」
「うちの活動資金にでもするき?」
「ほかにどうしろっていうのよ」
チルドレンたちも学校には行っている。
もちろん半公開組織であるということは、パイロットの素性も知れ渡っているということだ。
もっともNERVのお膝元、親の大半はNERVへ勤めているという状況は、彼らを特別な存在にすることはなかった。
しかし使徒を倒した瞬間からチルドレンは、ヒーローとなってしまった。
そして新たな問題が発生した。
黒塗りの高級車から降りた瞬間、彼らはマスコミに取り囲まれてしまった。
その上一部のマスゴミがわざわざ呼びつけたらしい反NERV市民連絡会議などというプロ市民が子供を責めるためにてぐすねを引いていたのである。
もっとも子供たちの下へたどり着く前に第一中学前の異変にUNFが気が付き急遽動員されたUNFのMPによって暴動鎮圧用のゴム弾を容赦なくぶち込まれあっという間に蹴散らされた。
問答無用で公務執行妨害と利敵行為の罪状で禁固30年という刑罰に処せられるだろう見せしめに。
そもそもが言いたいことがあるならパイロットなんぞを責めずNERVという組織を認めた国連へ文句を言うべきなのだ。
そうすればこのような扱いを受けることなく、きちんと彼らの主張を聞く人間が対応に当たるのであるから。
「なにあれ?」
「あ〜セカンドインパクトは、核大国の暴走であり使徒なる戦闘生物は、絵空事サードインパクトも国連の資金集めのための嘘っぱちでありNERVなる組織は、必要ないんだそうだぜ」
アスカの疑問にこたえたのは、少年としては、かなりシビアな視点で物を考えるケンスケだった。
「・・・なにそれ正気?」
「あの連中の信じている世界においては正気なのさ」
「はぁ能天気な連中ね」
「トウジも、シンジも、気をつけろよ、現国教師の久米は、赤って話だぞ」
「赤って・・・ケンスケその表現古すぎ」
「他にどういえって言うんだ?」
「プロ市民とでも言えば?」
「ああ、なるほど確かにプロだな」
「んなに現体制が嫌いなら現体制から給料をもらう公務員になんかならなきゃいいと思うんだがなぁ」
「獅子身中の虫だとでも思ってるんじゃない」
「公務員だからんなことしてても首にならないつ〜のにね、普通の会社ならあっという間にリストラ対象だわあんなの」
「なるほど判りました、久米先生は、アレが作り話だと言うんですね」
「だってそうだろ」
「アスカや渚の命が危なかったのも、すべて作り事だと言うんですね?」
「当たり前だ、お前たちはそういう風に振舞うように言い含められているだけなんだろだれが見たってあんな馬鹿みたいな生き物が、どこの世界にも居るんだ」
「人の痛みが解らない屑が・・・」
「何だと! おい渚、ガキが嘘っぱちロボットのうそパイロットに選ばれましたってうそっぱちついて、いい気になっているなよ」
「・・・くっ・・・僕はね」
「よしとけ渚」
「でもシンジ君」
「いいじゃないか、自分の信じたいものを信じていれば。
だだし僕らがあなたの家族や家や財産まで守ると思ったら大間違いだ。
次の戦闘はあなたの家のそばで、あなたの家族だけが逃げ込んでいるシェルターの真上で行われる」
「やれるものならやってみろ、うそっぱちのくせに」
「なるほど文句は無いですね、なにしろ全部作りごとであって、実際には、被害も死者も出ちゃ居ないんですから。
ああご心配なく僕は、先生のお家がどこにあるかきちんと知っています。
EVAに踏み潰されて、せせこましい2LDKの一戸建てローンがあと13年も残っていても、NERVによる保障なんて絶対にありえませんから。
なにしろ「嘘っぱち」なんですからね。
実際には、被害が出ない、たんなる金集めのためのデモンストレーションですからねぇ。
シェルターでご家族が使徒の攻撃で死んでしまっても、それは作り事ですから先生は気になさらないんですね」
「そ・・・そんなこと、できるものか!!!」
「あ〜だって相手は理屈の通じない化け物ですから、僕がいくらそっちに行くなと言ったところで聞いちゃくれませんねきっと、もっとも「うそっぱち」ですから先生は、お気になさらずに、なんなら避難をせず堂々とお宅の前で僕らが本当に戦っているかどうかをお確かめください。
もちろん自己責任で。
はい、この話は終わり久米先生、授業に戻りませんか?中間テストの範囲教えてくださいよ」
「お・・・おう」
「すごいわ碇君、先生を言い負かすなんて」
次の授業で使う、社会科の地図を運びながら、ヒカリが言う。
「いや洞木さんあれは問題を先延ばしにしただけなんだ」
「え?」
だって使徒が第三新東京市に入ってくれないとさすがに家を踏み潰せないだろ」
「本気でやるつもりなの?」
「そうだよ僕は、ともかく渚やアスカの命がけの戦闘を「うそ」呼ばわりしたんだなにが「リアル」なのか自分の体ではっきり味あわせてやる、死んでもなにしろ自己責任だし」
「碇君・・・」
「なに?」
「その顔アスカとかレイには見せないほうがいいわ」
「あ、怖かった?
「あの・・・司令の<ニャリ級>」
「うわぁあそりゃ駄目だぁ、気をつけよう」
まあ、そんなこともあったものの概ね学校は平和だった。
「でどう、渚君は」
「シンクロ率は、落ちっぱなし、このままだとパイロット失格になるわ」
「それ本当ですか?」
「あらマユミちゃん」
「あ、すいません副司令、技術本部長聞いてはいけない話でしたか?」
「いいのよ、ここで話しているってことは、あなたたちに聞かれてもいい内容ってことだもの」
「あら、そうなの?」
「あんた副司令でしょ!?」
「まあまあマユミちゃんは、渚君専属だし、この話は聞いてほしいわね」
オペレーターの山岸マユミは、渚カヲル専属のオペレーターということになっている。
「・・・私のせいですね」
「そんなことはないわ、あなたは良く渚君を励ましたわよ」
「でも・・・」
「そうねマユミちゃん渚君のこと好きなんでしょ?」
「あ・・・いえ・・・でも、私年上だし」
「あらシンちゃんとリッちゃんなんて10も歳が離れててもキスなんかしてたわよ」
「え? だってリツコさんて初号機に入られたのは」
「そうシンジが10のころだから完全に犯罪よね、まあ好きあってれば問題ないって思うのよ」
「ねえマユミちゃんが励ましてあげてくれないかな?」
「私が・・・渚君をですか?」
「そう、彼は、故国を一人で離れて・・・」
「キョウコ」
「うん、解った」
キョウコは自分のコンソールを立ち上げるとキーをえらい勢いでたたき始めた。
そして戻ってくると一枚のIDを手渡す。
「はい渚君の宿舎の合鍵、忍んでゆくなら貞操を失う覚悟をしてゆくこと、昼間だったら問題ないと思うけどね」
「はい私なりに考えて見ます」
「よろしくお願いね」
・・・渚君を励ますって、ただがんばってなんて言ってもそんな全然意味が無い。
自信を失ってしまっている、あの子になにが必要なのか考えなさいマユミ。
宿舎の自室のベッドの上で、目を瞑り、あ〜でもない、こ〜でもないと一生懸命思案に暮れる。
しかし、どう考えても、慰めることはできても励ます、ましてや立ち直らせるきっかけを与えられる方法は、思いつかない。
「あ〜もう! おもいつかなぃ〜」
がばっと起き上がると、頭を激しく振り乱す。
「むうううこういうときには男の人に聞くのが一番よ!
って、でも私男の人に知り合いいないよ〜。
しかたがないこんなこと聞いていいのか解らないけど聞くしかないよね・・・」
おもむろに立ち上がると、リビングで晩酌をしている存在へ向かい駆け出した。
「お父さぁ〜〜ん」
「久しぶりにお前から話があるって、なんだ仕事の話か」
「しょうがないでしょ、ねえどうしたらいいと思う?」
「セカンドインパクト孤児なんだよな渚は」
「うん」
「それで施設で育って、7つの時にNERVブリティッシュブランチか」
「良く知ってるね」
「あのな俺は、チルドレンの警護の大元締めだぞ、警護対象のプロフィールくらい頭に入ってる」
「ごめぇん」
「そうだな奴がもう少し歳が行ってれば、お前を嫁にくれてやるのを前提に抱かれて来いって・・・こ、こら叩くな、冗談だ冗談!」
「そういうセクハラジョークは、笑えないよ」
「いやでもな自信をなくした野郎なんてそうでもしなけりゃ復活なんて難しいんだぞ」
「だからって娘にそういうこと言うかな」
「だってお前渚のこと好きなんだろ?」
「それはそうだけど・・・狙ってる子多いし・・・」
「なんだ、だったら・・・だから冗談だって。
犯罪だしな。
まあ、そうだなイギリス料理でも、お前が作って食わせてやれ。
朝っぱらでも夕方でもこういうのは、奇襲が肝心だ奇襲で相手を自分のペースに乗せちまえばこっちの勝ちだからな、その前におまえのイギリス料理味見させろ」
「うん、ありがとお父さん」
・・・こうして抱きついてるところは、まだまだガキなんだがなぁすこしばかり寂しいかな。
そんなことを思いつつ、ストレートのウイスキーをぐっと飲み込む山岸大介だった。
「あ〜でもイギリス料理ってわたしフィッシュ&チップスくらいしか知らないよ〜」
そんなことを叫びつつイギリス料理をググッているマユミだった。
「すいません技術本部長」
「あら渚君慰め作戦はどう?」
「それなんですけど、こういうの経費で落ちますか?」
「なになに・・・コスプレプレー・・・ったぁぐぅで殴らないでよ」
「そういう冗談はお父さんだけで十分です
まったくどうしてうちの大人ってこう下半身系のギャグに走るかなぁ。
とマユミは内心で呆れていた。
「もう、これ以上頭が良くなったらどうするのよ。
それはともかく、まあこのくらい落としてあげるわ、ただし成功したらね」
「ありがとうございます」
「ところで、あなたが着たいだけって事は無いわよね」
「そんな趣味ありません! イギリスを演出しないといけませんから」
「あらちゃんと考えてるのね」
「あ〜本部長信じてなかったんですかぁひどぉい」
「だから、がんばって頂戴ね」
「はい山岸マユミ少尉がんばります!」
「渚君、渚君、起きてください。渚君」
「・・・あ・・・なんだい・・・マユミさんか・・・僕は、もう用なしだから訓練はもう要らないんだよ」
「でも朝ごはん作ってしまいましたから食べるだけでも食べてください」
「わかったからそう体をゆすらないでくれるかい」
「でもなんか面白くて」
ユッサユッサと揺らすのがツボにはまったようだ。
「起き上がりこぼしじゃないんだから・・・ああ、もう判ったおきるから!」
「はいお顔を先に洗ってくださいね」
「えっと・・・マユミさんだよね」
彼の目の前には濃紺のミニスカートメイド服に身を包んだマユミが居た。
「あの、なにかおかしいですか?」
「いや・・・なんかすごく可愛いから」
「ひどい普段は、可愛くないんですかわたし?」
「いやほらNERVの制服はそういうことを感じさせないようにデザインされているから、いつも僕と話してくれているおねえさんが、こんなにチャーミングで驚いたんだよ。
それにしてもメイド服なんてどうやって手にいれたんだい」
「友達に服飾関係の人が居ますからコネです」
「なるほど日本的だね」
「さあお顔を洗ってきてください」
といいつつハンドタオルを手渡す。
「ああ、ありがとう」
「これは・・・マユミさん、ずいぶん大変だったじゃないのかい」
「ライ麦ですか?
気候変動のため、作物の生産可能な地域がもねセカンドインパクト前とかなり違ってしまっており、ライ麦などはヨーロッパでは耕作できなくなってしまっているのである。
「そうだよ」
「でもあるところにはあるんですよ。
ネットで一発とまでは行かなかったけどあちこちめぐりめぐって、日本の択捉で作っている農家の方から譲っていただきました。
農家の方が仰るにはお国とは、土がまるで違うから味までお国のライ麦パンになっているかは解らないですけど」
「いや、とても・・・とても・・・うれしいよ、ここでこんな風に気づかってもらったのは、初めてだから」
「さあどうぞ」
「このジャムだって・・・」
「ああジャムは、上の街に手作りのお店があるのを知ってました。
だからそのお店に頼みました。
サラダは、普通のサラダしかできませんでした、ごめんなさい」
「いやぜんぜんおいしいよ・・・マユミさんすごいなぁ僕が・・・生まれた国の味がするよ・・・なのに僕は・・・ブリティッシュブランチのみんなに、このままでは顔向けができない。
ごめん司令(パパ)副司令(ママ)六号機(グランマ)
でも悔しいけど、声もだせないんだ。
怖くて声を出したら叫んでしまいそうで・・・」
「良いじゃないですか」
「え?」
「怖かったら叫んじゃえば」
「でもみんなも怖いのに」
「使徒と向き合っているパイロットの子供たちが一番怖いのに決まってるんです。
泣き叫んだってだれも笑ったりしません。
すくなくとも私は、怖いですよ。
だから怖かったら叫んで良いのカヲル」
ぎゅっと背中からだきしめる。
「そっか怖がっても・・・叫んでも良いんだ」
「私が聞いてあげるよ」
「うん・・・うん僕は、一人じゃ無かった。
忘れていたよ、それを思い出させてくれて、マユミありがと」
「どういたしまして
「お礼がしたい」
「いいのこれはわたしのお節介だから」
「ぼくの男の気持ちを受け取ってほしい」
「でもあのまだ渚君14歳だし日本だとそれは犯罪で・・・」
「マユミのすけべ」
カヲルは、マユミをジトッとした視線でにらんだ。
「え? ええっ? 違うの?」
「まあ・・・そういう意味もあるけど、キスくらいだよ僕が今できるのは、うけとってもらえるかい」
「はいよろこんで」
「おはようシンジ君」
「な、なにか僕の顔についているかい?」
「唇に口紅」
「え? ええっ?」
「なるほど、いい顔になるわけだ」
「か・・・からかったな!」
シンジは「すまん」と言いつつ手を合わせ軽く頭を下げる。
「誰とそんなことをした?」
「オペレーターの山岸さん」
「ほお〜渚の趣味は、物静かな眼鏡っ子かぁ」
「そのうえメイドのコスプレつきだったよ」
「そりゃうらやましいねぇ」
リツネエも頼むとしてくれるかななどとシンジは思っており、初号機がなぜかサムアップをしていたりしたが余談である。
「でどうだ?」
「うん怖いと思うよ、でも乗るよ」
「そうか期待してるぞ雪辱戦」
「出してもらえるのかい?」
「お前の顔みたら、絶対に大丈夫だってみんな思うよ」
「え?」
「ねえミサトさん、マナさん」
その声に、ミサトとマナがこたえた。
「おお、男のっ子ぉぉ」
「うはぁ渚っち。きょうはめっさ格好いいっす」
「あらあらほんとう随分昨日と違うわね」
「シンクロテスト初めてもいいかしら、渚君」
「はいお願いします」
「うん、いい返事だわ」
「グランマ、あなたのことを僕は、忘れていた。
僕の為にEVAに入ってくれたグランマ。
ぼくは、かんばるよもう一人じゃないから」
包まれている、やさしさに。暖かさに。
その暖かさに身をゆだねる。
「し、シンクロ率85.43パーセント!」
「おおっ! 渚の奴、化けよったで!!」
「私は、やっぱり用済み?」
「よっしゃいけるわよ」
「これでなぎさっちフォーメーションへ復帰」
「それもこのシンクロだとフォアードも行けるわ」
「スリートップ、ワンリベロ、ツーバックでシミュレーション行ってみます?」
「え〜と葛城作戦本部長」
「なに?」
「また太平洋艦隊とJCGの無線がお祭り騒ぎです」
「たった今、空母ジョージブッシュがパターンブルーを確認しました」
「護衛艦こんごうもパターンブルーを追認!」
「速度20ノットで駿河湾上空ぅぅぅぅ? を北上中」
「上空って空飛んでるってえの?」
「ジョージブッシュから映像入ります!」
「どげげっ」
と妙な声を上げたのはマナだった。
「イカと海老のハイブリッドぉ・・・まったく常識を疑うわね」
「A04に空自の攻撃入りますF/A−22EJラプターJ全機、バンカーバスター投弾。
つづいてUNFスーパーホーネット同じくバンカーバスター放ちました」
どうもこの落ちてくるだけの物体を、最初は脅威であるなどとは微塵も思っていなかったのだろう。
数発のバンカーバスターがその平たいイカの頭のような部分へぶち当たり硬そうな皮膚へもぐりこみ思い切り炸裂した。
「やった!」
「まあ屁でもないでしょうけど」
「でも結構痛がってますよ」
「あはは、ざまぁみろだわ」
フロントスクリーンに移されている、偵察機がフォローしているらしい引いた画面の真ん中でA04は、その武器であろう4本の光るムチを狂ったようにうちふるい空中をのたうっている。
しかし通常兵器が効いたのはここまでであり、後はお約束のようにATFによって攻撃力が指数級数的に増大しても、こ揺るぎもさせられなくなってしまっていた。
「あいつは手ごわいかもしれない」
「どういうことキョウコ」
「ATFの出力が重力遮断を行うためかも知れないけど、A03のざっと4倍の強度があるわ、それとあのムチね超音速で繰り出されるから子供たちが見てから動いたんじゃやられるわ」
「今回は火力の集中する市内まで誘い込んでたこ殴りにしますいいですね」
「うむ問題・・・ありそうだがとにかく承認する」
「全可動ビルを降下、可動兵装ビル全基攻撃準備!」
「開戦時間は3時間後午後2時30分。
ということでみんな、ここはいいからお食事してきてねん」
<ずるん>
いきなり変わった口調にオペレーターはこけまくりであった。
「か、葛城さぁん」
「だって戦闘食ってわけにもいかないでしょ」
握り飯に沢庵というのは、意外と手間がかかるのである。
「それじゃ私は、水筒を二つもって一方には、ビールを入れておかないといけませんね」
「マナちゃぁん、いくらあたしがビールすきでも戦闘指揮を執ってる最中に飲まないわよ」
「でもき〜んと冷えたビールが目の前にあったら?」
「そ、そりゃ・・・の・・・のみたぁいビールって、ほら笑われちゃったじゃない」
「あっしのせいっすか?」
「いいえ自業自得です」
『わははは』
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NEON GENESIS EVANGELION
「どうぞ未来を・・・」#1
Fin
COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito
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あとがき
さて、始まりました。
初になるのかな、一応再構成ものです。
いきなりユイが生きのこりそうで死ぬという展開。
さらに初号機に取り込まれるのが20のリツコ(年齢はTVとずれてます)
SEELEは、壊滅。
使徒戦に専念できる状況で、どうするかというお話しです。
相変わらず舌っ足らずな物書きですが、お付き合い抱けたら幸いです。
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