造兵特科戦記 超絶駆逐艦「ナデシコ」
[九条公人]
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造兵特科戦記
超絶駆逐艦「ナデシコ」
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「<我これより、大和の直援とならん>か、新造とはいえ、駆逐艦4隻では魚雷の盾くらいにしかならんだろうに・・・」
いったいなにを今さら、造兵特科は、あんなものをおくりつけてきたのだ・・・。
それであるならば、航空機の上空直援機を10機なりと送ってくれた方が、余程マシだ。
既に、大和には、軽巡矢作、駆逐艦霞、冬月、初霜、磯風、濱風、涼月、雪風、朝霜が付き従っているのだ。
大和艦長のぼやきが、艦橋へ漏れる。
大日本帝国は、この戦争を失おうとしていた。
開戦劈頭の聯合艦隊の栄光は、既に歴史の彼方へと追いやられ、もはや聯合艦隊に昔日の面影は一つとして残っていない。
辛うじてこの大和だけが、その最後の光輝として沖縄に上陸しつつあある、連合国へ最後の一矢を報いんが為、重油タンクの底を人がバケツでさらい往復の燃料を用意し出撃して来たのだ。
少なくとも、もっと早くこの大和に活躍の機会があったならば、これほどの状況にならずにいたかもしれない。
いや所詮は繰り言だ。
そもそも戦争計画そのものを持っていなかった日本であるならば、この事態は、ある意味必然であったのだろう。
そして、その大和にも最後のときが迫っていた。
「電探に敵航空機多数反応あり!」
「総員、対空戦闘用意! 主砲、副砲共に、三式弾、装填せよ」
「艦長、撫子から発光信号が・・・」
「撫子ぉ?」
「はい、造兵特科第一戦隊の旗艦の名前は撫子となっております、続いて秋桜、雛菊、石楠花、と花の名前がついております」
「ふん・・・風雅なものだな、でなんといっているのだ」
「<我にまかせよ>と」
「対空兵装が乗っているようには見えんぞ? まあいい、任せろといっているのだ、任せてやる」
「返信は?」
「了解したとだけでいい、向うの電探は、この艦の物よりもずっと性能が良いのだろうからな」
「返信、来ました、了解した・・・そっけないですね」
双眼鏡を睨んでいた副長である葵淳造兵少佐が、撫子艦長御統百合香(みすまるかおる)造兵大佐へそう伝える。
「そのくらいでいいのさ。で大和は、孤立重力波障壁の内部にいるんだな?」
「はい、秋桜、雛菊、石楠花の障壁の内部に捉えられています」
「たかが四隻の駆逐艦を建造するだけで、5年もかかるとは・・・おもわなかったな」
「ぎりぎり間に合ったというところですね」
「いや、もう2年早くできていなくてはならなかった、本土の民間人には、すまないことをしたと思っている」
「しかたがありませんよ、技術的な考証を含めて5年なんですから」
「そうだな、決戦に間に合っただけでも、良しとするべきなんだろうな」
「ええ、それに」
「なんだ?」
「この戦いに勝ったら、こんな戦いは決戦とはいわなくなるんじゃありまみせんか?」
「いや、決戦だよ、ここでまた歴史の動きが変るんだ、それを決戦と言わずに、なにを決戦というんだ?」
「そりゃ、そうでしたね」
「敵機、数216機、速度500キロにて、接近中、接触まで、2分」
「よし、孤立重力波砲、発射準備!」
「了解!!」
大和攻撃航空機隊、空母エセックス所属ヘルダイバー機上。
「上空直援機もなしにのこのこ戦艦が出てくるとは、あきれたもんですね」
操縦桿を握っているロバート・ハーツが機長へ向かい言う。
「あきれたものだが、舐めて良い訳じゃないな」
流石に数百キロを黙って飛ぶというのは、苦痛に近いものがあるのだろう、丸顔髭面、ゴイツ体躯を狭いコクピットへねじ込んだ機長のリチャード・ギルマンがそれに答えた。
「所詮は、ペーパータイガーってことじゃないすか」
「それなら良いんだがな・・・」
「奥歯に物が挟まったような言い方は止めましょうよ」
「ああ、すまん。だが、もう目標が視認できる・・・」
ぽつんぽつんと浮かぶ雲の間に、やけに大きな航跡を囲むように小さな4つの航跡を認めることができた。
だがそれが二人の・・・いや大和攻撃のために出撃して来た攻撃機アベンジャー、爆撃機ヘルダイバーそして護衛の戦闘機ヘルキャット五十数機の全ての乗員の最後に見た口径となったのである。
「・・・敵機・・・しょ・・・消滅」
唖然とした調子で、電探を睨んでいた艦橋要員が口を開いた。
「なんだ今のは!!」
「解りません、撫子が一瞬後退したかのように見えましたが・・・」
「あれが造兵特科の秘匿兵器なのか?」
「他に考えられる要因がありません」
「出力15%で、200機の戦闘機が消滅したか」
霞の様に上空を覆っていた、アルミと鋼鉄、そして蛋白質とカルシウムの微粒子は、上空の風に吹き流され、レーダーからも姿を消していた。
「それだけではありませんよ、上空の雲も射線上に存在していたものは、消滅しています。
こんな光景目の前で見なければ、私たちでも信じられないでしょう」
「そうだな」
「一機ももどってこないな?」
第58任務部隊、旗艦エセックスのアイランドに司令長官マーク・A・ミッチャー中将のいぶかしげな声が流れた。
それに答えたのは航空参謀のノーマン・ベンソン中佐だ。
「はい、通信は2時間前から途絶しております、燃料もそろそろ切れる時間です」
既に彼の手持ちの航空機の半数は、大和へ送り込んでしまった。
正規空母4隻、護衛空母6隻から二波、合わせて270機あまり。
それが一機も帰還してこない。
特攻機の為に、温存しておいた残りの航空機を出すべきか、ミッチャーは迷っていたのである。
大きな体躯をやや窮屈そうに夏期略装に押し込んだ彼は、手の中のメモを見つつ答えた。
「第三波を出せ、スプールアンス大将へ私から意見を具申した以上、なんとしてもヤマトとやらにとどめをささねばならん」
「偵察を行った方が、良いかと思いますが?」
「・・・時間が惜しい、第三波の出撃を急がせたまえ」
「了解しました」
この時、例えミッチャーが偵察機を飛ばしていたとしても、結果がそう変ったものになったかどうかは疑わしい。
第58任務部隊の空母から、100機あまりの航空機が飛び立ったのは、それから50分の後だった。
「一日に四波の航空攻撃とは、いやはやご苦労なことだ。
向うは状況がまだ飲み込めていないようだな」
御統の目の前のブラウン管には、光の霞が4度(よたび)出現していた。
「これを潰せば、アメリカの手持ちの艦載機は、一時的に払底します。
もっとも、沖縄の上陸支援を行っている部隊がこちらに回ってくるまでだと思いますけど」
「どちらにしても潰すことに変わりはない」
「そうですね」
「一機も帰ってこなかっただと?! ミッチャーはいったいなにをしていたのだ!!」
第54任務部隊司令、スプールアンス大将は、報告に我が耳を疑っていた。
「しかし、500機の航空機がことごとく撃墜されるなど言うことがある筈がありません」
「ではなんだと言うのだ? 嵐にでもあったとでもいうのか?
噂のフーファイター(幽霊戦闘機)にでも撃墜されたのか!!
違う、それは断じて違うぞ、日本にはまだ余力が残っていたのだ、どうやら我々は日本を再び侮っていたようだ。
ふふふふふ、よし行くぞガーランド、艦隊決戦だっ!!」
「司令」
「なんだ?」
「なんだか楽しそうですね?」
「当たり前だ、東郷平八郎の弟子たちに引導を渡してやるのが楽しくない筈がなかろう」
「・・・そういうキャラクタでしたか?」
「かまうな、こいつらの最後の活躍の場所なのだ、もはや戦艦の時代は終わっている、向うも虎の子の戦艦を繰り出して来たのだ、戦艦で相手をしなくては、合衆国海軍としての鼎の軽重を問われる」
「なんのかんのと、主砲が打ちたいだけなくせに」
「うるさいぞガーランド」
「それにミズーリも、アイオワもマッカーサーに取られちゃいましたものね」
「だ〜か〜ら〜」
「で、どう攻撃を仕掛けますか?」
「10隻の戦艦でタコ殴りにしちゃるんじゃい!」
目の前の上官の副官として着任以前に「冷徹な参謀」という風評を聞いていたガーランドは、噂なぞ本当に役に立たないものだ、と心の中で、思ったとか、思わなかったとか・・・。
沖縄本島の北北西230キロまで進出した菊一号作戦部隊、総勢13隻は、そこで、撫子搭載の電探に艦影を捉え接近するため増速したのだった。
彼我の距離は、ほぼ50キロ。
大和の主砲であるならば、ほんの10分も接近すれば、射程内へ収めることができる距離である。
「本当に電探だけで主砲が当たるんだな?」
「もちろんです。
その為に雛菊と石楠花には、強力な演算器を搭載しているんです」
そう答えたのは、合田正一造兵中佐だ。
大和の砲撃システムを雛菊、石楠花両艦による諸元算出へと切り替えるために数名の部下とともに乗り込んで来たのだ。
「相手の砲弾が届かない距離から、こちらの砲弾をぶち当てる、まさにアウトレンジの真骨頂でありますね」
大和の砲術長が、感に耐えぬ声を上げた。
まさか、この出撃で、戦艦同士の撃ち合いを経験できるとは彼を含めてほとんどの艦橋要員が思っていなかったはずなのだ。
航空機が存在している現在では、ほぼ完全に意味のない戦法だあったからだ。
「その通りです。 思う存分、主砲を打ち込んでください」
そうしている間にも、距離はつまり、やがて大和の主砲がその砲身をもたげはじめた。
「諸元の入力は、終わりました」
「よし、大和砲撃開始!!」
その瞬間、この世のものとは思えぬ大音響が、世界を震わせた。
「敵艦、発砲!」
「なんだと? まだ42000メートルも離れているんだぞ!」
「あたりはせんよガーランド、威嚇だ、お前達を狙っているんだぞという脅し以外のなにものでもあるものか」
この時期になっても、大和の主砲が45口径46センチであることをアメリカは掴んでいなかった。
アイオワ、ミズーリの50口径40センチ砲と同規模か、長門同様の45口径砲だと思いこんでいた。
しかし例え、真実を知っていたとしても、この距離では、スプールアンスに出来ることは、何一つ無かったのである。
戦艦「アーカンソー」「テキサス」「ネバダ」「ニューヨーク」「アイダホ」「ニューメキシコ」「テネシー」「メリーランド」「コロラド」「ウエストバージニア」
これら10隻の戦艦のうちどれが最初に沈んだのかを確定することは不可能だろう。
なにしろ、たった21斉射、126発の砲弾でこれら10隻の戦艦は、東シナ海の藻屑と化し、随伴していた7隻の巡洋艦、そして21隻もの駆逐艦も同様の運命をだとるしかなく、数少ないその海戦の生存者達は、その事実を状況を黙して語ろうとしなかったのである。
「スプールアンスが負けただと?」
旗艦ミズーリの艦上でそういぶかしげな声を上げたのは、マッカーサー元帥だ。
「はい、たった一隻の戦艦に10隻の戦艦が撃ち負けたということです」
副官であるホージンガー陸軍大佐は、メモを震える手で信じられないという口調で上官へそう報告した。
「で、彼は生きているのかね?」
「いいえ、生存者は極めて少なく、スプールアンス大将の生存は絶望であるということです」
「で、その日本の戦艦はどこまで接近しているのかな?」
「はい、現在沖縄の北北西130キロの海域へ進出しているということです」
「なんと指呼の距離ではないか」
「はい、太平洋艦隊司令部からは、この艦隊の指揮を、モントゴメリー少将へ任せる様にと要請がありました」
「そうだな、オキナワは、後でもいい。
・・・判ったこの艦を海軍へもどそうじゃないか、私は、輸送船にでも乗せてもらう事にしよう」
「撫子と秋桜が分離するだと?」
「はい、沖縄本島を東に回り込み、上陸部隊を孤立重力波砲で蹴散らします。
大和は、雛菊、石楠花が完璧に護衛を果たします」
「判った、こちらが航空機を引きつける、十分に闘ってくれ」
「ありがとうございます」
「本当に、AM爆弾を使って良いんでしょうか?」
「孤立重力波砲では、味方の陸軍部隊はおろか、島自体を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
AM爆弾であるならば、海岸に布陣したアメリカ陸軍と海兵隊ならばその範囲だけを吹き飛ばせる筈だ」
「気が進みません」
「なにを言っている、アメリカは民間人を平気で虐殺するまさに鬼畜だぞ」
「無差別戦略爆撃ですか?
しかし中国への都市爆撃は、帝国もやったからな、文句は言えた義理じゃないと思いますが・・・」
「規模が違う、1式陸攻なんぞは、爆弾搭載量2トンだぞ、B29は、その5倍だ、そして投入されたB29の数が違う、戦略爆撃は、量虐殺のためのシステムでしかないんだよ」
「根底の理念は、日本でもアメリカでもそれほど変りませんよ」
「そんな事は、判っている」
モントゴメリー指揮する上陸支援艦隊は、航空機300機を大和攻撃へ向かわせたが、石楠花と雛菊の孤立重力波障壁と孤立重力波砲によって、効果を獲ることができず、最新鋭戦艦、ミズーリ、アイオワを投入しての艦隊戦に持ち込もうとしたが、完全なアウトレンジ攻撃によって、15分あまりの砲戦によって、2隻を爆沈で失い、駆逐艦3隻を残し、全滅したのだった。
「・・・いったいどんなマジックを使ったというのだ」
深夜マッカーサーが、輸送艦「マイスター」の艦上で、その報告に接した時、敵の接近を告げる放送が響いた。
『日本海軍の駆逐艦2隻が、接近中』
「駆逐艦か・・・ならば・・・」
そこまで呟いた時、彼はクォークの単位にまで一瞬で分解され、文字通りこの世界から消滅した。
そして、一発の砲撃が、海岸へ向かい行われた。
それは、着弾した当初海岸に布陣していた上陸部隊へはなんの効果も及ぼさなかった。
しかし、駆逐艦が外洋へ逃げ去った1時間後、その場所を中心に半径500メートルが文字通り消滅したのであった。
「沖縄上陸部隊が全滅しただと?」
トルーマンは、我が耳を疑った。
もはや日本は虫の息では無かったのか?
いったい何事が起こったというのだ。
だが、凶報は、それだけではなかった。
日本軍の新型爆弾で硫黄島の占領部隊も壊滅していのだった。
「ばかな、日本が我々に先んじて原子爆弾でもつかったとでもいうのか!」
「そこまでは、わかりませんが、それに近いかもしくはそれ以上の性能の爆弾であることは間違い無いでしょう」
「ええい、情報だ、もっと情報を集めてからきちんと報告をしろ!」
だが、そんな悠長なことをしている状況ではもはや無かったのである。
「再び攻勢へ転じる気力は、わが国にはない」
「しかし、沖縄も硫黄島も取り戻した」
「正確に言えば、取り戻したわけではない、アメリカ軍が居なくなったというだけだ、とても支配地域とは言える状況ではない、なにしろ陸軍を送り込む船が存在していないのだ」
「B29の攻撃拠点は、グアム、サイパンにもある」
「それならそれも潰せばいい」
「航空機の支援が無くてはそれは無理だ」
「いや航空攻撃を気にする必要はない、どんな攻撃も孤立重力波障壁は、受けつけないのだ」
「だが、基地を叩けても、そこを維持することはもはや不可能だ」
「叩くだけでも叩かなくては、これ以上国土を彼奴らの爆撃にさらす訳にはいかない」
「グアム、サイパンの攻撃は、雛菊1隻で十分です。
それから、超巡潜が4隻可動状態に入りました。
それら4隻は、対潜水艦用潜水艦として建造されました。
それらが十全な働きをするようになれば、満州から資源を輸送することが可能になります。
ですが、その前に、残った撫子は、パナマ運河の攻撃を、そして秋桜はハワイ太平洋艦隊司令部への攻撃を敢行いたします。
そして石楠花は、帝都防空の要としてこの場へ残ります」
「パナマとハワイをたった2隻でか?」
「そうです。どのような攻撃も撫子級駆逐艦を傷つけることは不可能です。
そして時速45ノットで巡航可能な撫子級に追随できる艦艇はそんざいしていません」
「判った、その作戦を承認しよう・・・どうせ撫子級は、員数外の戦力なのだからな」
試式撫子級駆逐艦、全長134メートル、全幅11.4メートル、基準排水量3200トン。
主機、反物質−物質対消滅反応炉、出力1億2千万キロワット/時、主推進機関、エレクトリックモーター。
主兵装 孤立重力波砲2門(艦首両舷口径4メートル)、2連装12センチ両用砲3基、三連装40ミリ対空機関砲8基。
全周型孤立重力波障壁、限定孤立重力波障壁装備。
AM爆弾:反物質爆弾、数グラムの反陽子を磁気によって封じ込めた物。
撫子級が持つメビウス=クライン物質位相転換炉によって得られる反陽子をそのまま使用する。
超巡潜、全長108メートル、全幅8.9メートル、水中排水量2880トン。
主機、推進器共にナデシコ級と同様、主兵装、孤立重力波砲3門、艦首二門、艦尾一門、61センチ魚雷発射管6、垂直発射式大型ロケット発射筒4基、14センチ単装砲1、40ミリ連装対空機関砲2。
孤立重力波砲:最大射程大気圏内200キロメートル、水中20キロメートル。
いわゆるソリトン化重力波を使った、エネルギー兵器。
クォークを結びつけているグルーオンに共鳴をもたらし、陽子、中性子を崩壊させる。
これらの装備は、全て「銅鐸型アーカシックレコード交信機」によって得られた情報の基づいて作成されたものである。
「昼夜兼行で、パナマまでほぼ7日、予備日を入れて9日、無事にたどり着けますかね?」
あり余る電力でほどよく冷房の効いた撫子の羅針艦橋で海図をにらみつけて葵が口を開いた。
「自分で作ったものを自分で信用できなくてどうするんだ?」
「そうじゃありませんよ、アメリカ海軍、それも潜水艦に見つからないか心配しているんです」
「見つかったとしても、たった一隻でパナマへ向かっているとは誰も思わんさ」
「それなら良いんですけどね」
「それに撫子は、魚雷をぶっちぎれる速度で巡航しているんだ、問題ないだろう?」
「正面から攻撃受けたらどうするんですか?」
「雷撃なら、十分孤立重力波障壁で防げる、とにかくパナマと閉塞してハワイを潰さにゃ日本はアメリカにもみ潰されてしまうこれだけはなんとかしなくては駄目だ」
「そうですね、それは何度も確認した話でした」
「超巡潜がもっと増えて潜水艦が姿を消せば、海上輸送が行えるようになる、そうすれば帝国は、一息つくことができる」
「B29は、問題外ですか?」
「あんな蚊トンボは、沿岸に設置される孤立重力波砲台が解決してくれる・・・筈だ」
「<筈>ですか、心もとないですね」
「仕方がない、我々は撫子を動かすことが仕事だからな」
「グアム、サイパンの航空基地が壊滅しただと?」
太平洋艦隊司令長官であるでニミッツ元帥が驚愕の声をあげたのは、4月16日、あれから10日が過ぎていた。
その間、太平洋艦隊司令部は、残存艦艇の集約と、大西洋方面からの艦艇回航の手配に謀殺されていた。
「はい、駐留していた部隊、艦船共に消滅した模様です」
「日本は、どんな大部隊を動かしたというのだ、そんな力が残っている訳がないではないか!」
「はい、それが生存者の証言によると、たった一隻の駆逐艦しか見ていないという話なのです」
「バカなことを言うな! 両島の兵力は艦艇30隻、人員10万、航空機が1000機以上になるはずだぞ!」
「ですが、こちらの攻撃はまったく通用しなかったと・・・」
「そんな話があるか! そいつは負け戦で気が動転しているのだ、もっと落ちついている者から話を聞きだせ」
「いいえ、数隻の駆潜艇で逃げ出して来た生存者のほとんどがそう証言しているのです」
「・・・ぐうう・・・判った、オキナワとイオージマの件もあるからな、きちんと調査を行うように」
その時、既に日が落ちている筈の真珠湾の方向が明るく輝いた気がした。
「事故でも起こったの・・・」
振り向こうとしたニミッツの意識はそこで途切れ、永久に復帰する事はなかったのだった。
「AM爆弾爆発しました。
続いて、孤立重力波砲、一番、二番発射します」
「良い加減に散らせよ、島がふっ飛ぶからな」
「判っていますよ」
操作員が軽い調子で答える。既に数度の射撃で、こつを掴んだらしい。
そして、撫子の艦首から破壊の波動が真珠湾めがけて突入していった。
「ハワイとパナマが攻撃を受け壊滅、その上、西海岸の都市が原因不明の大爆発でことごとく消滅してしまった・・・我々は勝っていたのではなかったのか?
いったいなにが起こっているというのだ」
丸めがねの向うでトルーマンの目は、血走っている。
1945年5月30日、アメリカの西海岸の主要都市は、ほぼ壊滅状態になっていた。
それは、言うまでもなく撫子級駆逐艦および潜水艦を狩り尽くした超巡潜が西海岸にまで進出して来た事を意味していたが、まさかたった数隻の駆逐艦と潜水艦でそれだけの破壊活動が行われているとは、合衆国首脳部は考えていなかったのである。
このとき、連合国が支配を回復していた東南アジアの戦略拠点もことごとく壊滅してしまっており、もはや再び太平洋の覇権は、日本へと転がり落ちようとしてのである。
もっとも、日本もそれら広大な地域を再支配するだけの余裕は毛頭存在していないのが実情であった。
「まだ我々には、東海岸の生産設備と多数の艦船も航空機も残っています」
「それがどうした!」
「いいえですから、もう一度日本を追い詰めて行くのは簡単な事だと・・・」
「バカもん!!」
トルーマンは憤怒(ふんぬ)の表情で、ノックス海軍長官を怒鳴りつけた。
「西海岸じゃ日本の新型爆弾で数え切れぬ程の死傷者がでている。
それこそ、10百万(テンミリオン要するに一千万という意味ですな(^^;))の単位でだ!!
オキナワ、イオージマ、ハワイ、パナマ、グァム、サイパン、その他無数の戦略拠点とやらで、わが国の若者数十万が命を散らした、この上同数、もしくはそれ以上の犠牲を出してくれと、誰が頼むんだ!!」
「ソビエトが・・・」
「あのこすっ辛いスターリンが、今の合衆国の現状で動くものか!」
「そこを交渉で動かすのが大統領の手並みというものではありませんか?」
「ウィロビー私を持ち上げても給料は上がらんぞ」
「・・・そんな風に意見をことごとく切り捨てられては、会議の意味がありませんよ大統領」
「いや・・・そうだな、ウィロビーすまん」
「休戦という方向は、全くありえないんですか?
この開戦の主目標であったナチスは、片付けたのです、この際、太平洋は、しばらく日本に預けてしまったらどうですか?」
とんとん、とわざとらしく書類を整えながらウィロビーCIA長官が現実的な提案を出した。
「で、私は政治生命を絶たれる訳かね?」
「その為の大統領という職務だと私は思っていましたよ」
その肩の力を抜いたウィロビーの発言に、トルーマンも肩の力が抜けたのか、口の端に笑みを浮かべた。
「・・・ふっ・・・ああ、そうだったな責任を取るために組織の長は、存在しているのだったよ・・・チャーチルとスターリンへ連絡を入れるとしよう」
「こうして、今から100年前の1945年7月20日に、戦艦大和艦上で、我が日本帝国と連合国との間で休戦協定が結ばれたのです。
その後、中華中国と共産中国との講和も3年後に達成され、世界の枠組みは現在に至っているのです」
「撫子は、どうなったんですか?」
「全てのアーカシックレコード技術は、帝国によって厳重に管理され、懸念された連合国や共産ブロックへの技術の流出も全く無く、それらは全て帝国の独占技術でありつづけています。
みなさんがこうして、宇宙植民地で地球本土を汚すことなく自由な生活を営めるのも、全て帝国海軍造兵特科が開発したアーカシックレコード更新技術のお影なんですよ。
ごめんなさい話がズレちゃったわね駆逐艦撫子は、アーカシックレコードシップへと改装された大和と共に、帝国繁栄の象徴として現在は横須賀でモスボール保存それています。
六年生の修学旅行で見学できますよ」
帝国宇宙植民地「野分」第三小学校の五年一組の担任「御統百合菜」は、はるか45万キロ彼方、横須賀の軍人墓地で眠る彼女の祖父が行った偉業に思いを馳せていたのである・・・。
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造兵特科戦記
超絶駆逐艦「ナデシコ」
Fin
COPYRIGHT(C) 2000 By Kujyou Kimito
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あとがき
ナデシコを第二次大戦にタイムスリップさせたら・・・というアイデアをいただいたんですが、少しひねってみました。
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