超仮想戦記 リヴァイアサンの伝説
[九条公人]
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超仮想戦記 リヴァイアサンの伝説。
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大正2年7月、群馬県大泉中島飛行機材料研究室・・・。
カラカラと音を立て生ぬるい風を送ってくる扇風機よりも、大きく開け放った窓から滑走路を渡ってくる風の方が涼しいと思われるようになる明け方前。
100坪ほどの敷地に、工作機器が詰め込まれたその研究室にすでに二日徹夜をし、目の下にくまを作った若い研究者の声が響いた。
「先生、妙な物が出来たんですよ」
それは、恩師を呼ぶ声だが、やや自信がなさそうに聞こえるのは、自分が測定したその数値が心もとない為であるようだ。
「妙なもの・・・? 妙なものとはまた随分抽象的な言い方じゃないか」
もはや何日この研究室に寝泊まりしているのか、よれよれの白いワイシャツの襟元が黒く汚れ、寝汗で張りついたそのワイシャツと白衣をばたばたとうちふるい、わが身から引き剥がしながら、丸めがねをかけた小柄な初老の男が寝床代わりの椅子から寝ぼけ眼をしばたかせ起き上がって来る。
「はい、炭素と先生の精製されたチタンとを試薬で色々やった後で、試しに超高温炉内で焼結させてみたんです。
そうしたら硬度計で計れないほどの硬度を持った金属が出来てしまったんです」
「・・・寝ぼけとるんじゃないのか、彦部(ひこべ)君?」
「そんなことありませんよ、それなら蓮見先生が確かめてください」
そういって彦部崇が蓮見平吉へ差し出したのは、にび色に染まっている金属のプレートだ。
「ガラス切りを持ってきてくれるか?」
ダイヤモンドが使われているガラス切りで傷がつけば、そのプレートは、ダイヤモンドよりも弱い事が簡単に解ってしまう。
「はい・・・でも、傷なんかつきませんよ」
「バカを言うもんじゃない、ダイヤモンドで傷がつかない金属なんぞ・・・おろ? なんじゃこいつは、なまくらか? この、このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこの!!」
えいえい! とばかりに、初老の学者がむきになってプレートへガラス切りを叩きつける。
「せんせ、せんせ、そうムキにならないで、どんなことをしても傷1つつきませんよ」
そう彦部が言ったとき、涼しい音ともに、ガラス切りの先端がかけ落ちた。
「・・・そんなバカな、こいつは、いったい・・・」
蓮見は、万力で固定したプレートを凝視しながらそう呟きつづけた。
それは、後にC60フラーレンと呼ばれることになる炭素原子の立体結晶の内部へチタンを取り込んだ超高硬度金属の誕生の瞬間だった・・・。
そんな世紀の大発見から30年あまり、日本は対米戦の真っ只中にあった。
満州建国に起因する日中間の紛争は、大陸へ送られる陸軍の際限のない増強を迫っており、そして欧米諸国、特にアメリカは、そんな日本の大陸政策に異議を唱え、戦略物資の輸出を制限しさらに、昭和16年に入り、日米交渉において最後通牒としか思えぬハルノートを突きつけ、日本に譲歩を迫った。
そして同年12月、ついに日本は、ハワイ真珠湾奇襲をもって、太平洋戦争の火蓋を切ったのだ。
当初、世界に類を見ない航空母艦の集中運用と、その航空機パイロットの優秀性によって、連合国を圧倒した日本であったが、翌年6月に起こったミッドウエー海戦によって、空母四隻を喪失し、一気に窮地に陥ったのである。
そして急遽建造中の大和型三番艦「信濃」の空母への転換と、その他現有艦船の空母への転換が検討されることになった。
その検討会議の席上、一人の造兵少将が口を開いた。
彦部崇と言う名の50代の少将は、その昔、中島飛行機に出向していた妙な経歴を持っていた。
「私は、大和の改装を提案いたします」
「バカな、大和を空母へ転用するというのか!」
黒島亀人少将がドンとばかりに机を叩き立ち上がると食って掛かった。
「いいえ、せっかくの世界最大の戦艦にそんな無駄なこといたしません」
「? では貴官は、どうするというのだ」
「ここで問題となっているのは、海戦における航空母艦の集中運用を初めとする航空主兵という言わばドクトリンの転換を我が聯合艦隊が連合国へ、真珠湾奇襲の成功という形で教えを垂れてしまったという事実です。
そしてこのまま各国のドクトリンが航空主兵であるならば、わが国のように生産能力の劣りなおかつ、パイロットの養成能力も低い国が太刀打ちできる筈がないということです」
「彦部君、しかし戦艦で航空機は落とせんよ」
「航空機で沈まぬ戦艦にしてしまえば、空母を戦艦で沈めることなど容易なことではありませんか。
私は、この大和の改装によって、再びドクトリンを大艦巨砲・・・いいえ、帆船時代やガレー船の<衝角戦>にまで時代を引きずり戻そうと言うのですよ」
その言葉を聞き彦部を見つめる一同の瞳の色が変った。
「なんだと?!」
「ご説明いたしましょう・・・」
彼が用意した分厚い資料の説明が延々と続いた。
「大和一隻で本当に、そんな事が出来るのだな?」
「ええ、中島飛行機から超合金Hの供給さえ行われたなら、必ず大和は時代を変える力をもてるはずです」
「解った、君が作ったというその超合金Hとやらに大和を預けようじゃないか」
博徒山本五十六が、そう言って、にやりと笑った。
超合金Hが30年間忘れられて来たのは、全てはその精製に必要なチタン鉱石が日本では全く手に入らなかった為である。
その存在を知る者もチタンが必要な超合金Hは、宝の持ち腐れであると言ってはばからなかった。
だが昭和12年に、樺太においてチタンの大規模露出鉱床が発見されて以来、事態は急速に変化していたのだ。
中島和久平は、急遽北海道旭川に超合金Hの精錬工場とそれに隣接する大規模な工業施設を作り上げた。
そして5年を経て、ようやく超合金Hによる量産製品を送り出すことが可能になったのである。
その第一は、レシプロエンジンとしては究極と思われるエンジンシリーズ「誉」発動機だった。
排気タービンを装備した誉発動機は、戦闘機用2200馬力「誉11型」から、大型航空機用3890馬力をたたき出す「誉42型」まで4タイプがこの北海道旭川中島飛行機精練所に隣接するエンジン工場において量産に入っていた。
日本の誇る零戦は、この誉11型によって、完全に世界トップクラスの戦闘機へと再び生まれ変わることになるだろう。
そして、和久平が提言している<Z機>も現在試作中の誉50型・・・予定馬力5500馬力・・・を使うならば必ずその姿を大空へ浮かべる筈なのだ。
その余技として、中島は、海軍へ超合金Hを供給することになっていた。
構想は、超合金Hの生みの親、彦部崇が超合金開発当初から持っていたのだ。
戦艦一隻を超合金Hで作り替える。
それは、戦艦という存在を全く新たな次元へ押し上げる構想でもあった。
旭川の精錬施設で作られた地金は、苫小牧へと運ばれ、そして大和が入渠している長崎へと運ばれてゆく。
その長崎へは、満州から新たな機関が届けられていた。
彦部の恩師蓮見が満州において細々と精錬加工技術を開発し試作していた超合金Hを使い作られた超高圧重油燃焼ボイラーである。
2000気圧にも耐えるというそのボイラーは、地上における耐久試験の後、アーマーの取り外された大和へ取りつけられた。
その運用形態の変化に伴い、大和の基本構造材にすら手が加えられた。
その間にも、日本はガダルカナルを失いその失地を挽回すべく泥縄で作戦が立てられては、失敗していった。
そんな状態の中、入渠から九ヶ月をへて、大和は全くその姿を変え、再び海原へと戻ったのだった。
そして旭川では、Z機・・・汎用決戦超大型航空機「富嶽」がその姿を現していたのだった。
富嶽の特徴は、その奇抜な発想だろう兵器倉・・・ウエポンベイにある。
用兵によってそのウエポンベイを切り替えることによって、25トンの爆弾を搭載する爆撃機となり、1トン魚雷25本を抱く雷撃機となり、20ミリ機関砲90門を搭載した航空殲滅機、さらに兵員や物資を乗せる輸送機ともなりうる。
それが<汎用>と呼ばれる由縁であろう。
富嶽。
全長50メートル、全幅79メートル、全備重量200トン、最大速度720キロ、実用上昇限度16700メートル。
エンジン誉51型(5610馬力)×6を二重反転プロペラ、推進式に装備。
さらにドイツから導入したハ11型ジェットエンジン2基装備、一時的に時速830キロまで増速が可能。
航続距離、爆弾25トン搭載で18700キロ。
という悪夢のような諸元を持っていた。
それも全て、超合金Hの存在がなければ誕生しなかったであろう機体である。
巨鳥は、しかしいまだその時を迎えていなかった。
そして昭和18年5月
大改装の終了した大和は、今トラックへ進出していた。
南太平洋において、再び敵を奈落の底へたたき伏せるために。
全長280メートル、全幅36メートル、基準排水量69,000トン。
文字どおり世界最大の戦艦だ。
だが、見るものはその艦首の形状にまず注目するに違いない。
鋭く尖る四角錐型の巨大な矢じりを取りつけたかのようなその形状は、世界のどのような艦にも存在していない独自の形状だ。
四角錐の四つの縁は、日本刀の様に研ぎ澄まされ、ギラついている。
さらに、その艦橋は巨大化する事を是としてきた日本海軍の軍艦において、異質の形状をしている。
2基の三連装46センチ主砲塔よりほんの数メートル高いだけであり、その外形も微妙な傾斜の付けられた矢じりか、艦首方向へ頂点を向けたひし形という妙な形をしている。
その後部には、煙突と一体化した高いマストがたち、電探などの装備が纏められている。
だが、この艨艟の最大の特徴は、その高速性にこそ存在していた。
最大速度38ノット、2000気圧に耐えるボイラーの存在のおかげである。
四基四軸で328000馬力を産み出すそれら超高圧蒸気タービン機関によって、この大和は、世界に類を見ない高速戦艦として生まれ変わることが可能となったのだ。
そしてその運用も世界に類を見ないものになることになっていた。
「やはり連合軍は、ポートモレスピー近海へ出てきています」
日本がガダルカナルを押さえようとした理由、それは豪州封鎖の為にポートモレスピーを攻略するためであった。
しかし、連合国には別の目的をもっていた、すなわち日本の一大航空基地であるラバウルを攻略するための足がかりとするためであった。
日本はガダルカナルの基地を出来うるならば潰したいのだ、そしてそうはさせじと連合国は、艦隊を増強しつつある。
こうしてここソロモン海において、日米の艦隊が再びぶつかろうとしていたのある。
「では、改装戦艦大和の初陣と行こうか」
大和の低い艦橋のさらに下層、中央指揮所と呼ばれる後のCICの原形には、第一遊撃戦隊指令宇垣纏中将の姿がある。
第一遊撃戦隊とは、大和とそして同様に超合金Hによって鎧われた、二隻の巡洋戦艦、高千穂、穂高の三隻とそれら高速艦に追随可能な駆逐艦6隻からなる部隊だ。
高千穂も穂高も、大和へ搭載する新機軸のテストベッドとして作成された艦である。
いずれも超合金Hによって大和と同様の装備が行われているのは当然だ。
だが、この遊撃戦隊の蠢動は、日本の真の目的を隠すための陽動でしかなかったのである。
「トラックの新型戦艦が動きだした?」
ポートモレスビー沖へ錨泊している空母エセックスでは、通信傍受によって捉えた最新情報が、マーク・A・ミッチャー少将の元へもたらされていた。
「いまさら戦艦風情が、それも三隻程度出て来たところで、何ほどの事があるって言うんだ」
ミッチャーは、一人の参謀へ向かいそう言い募る。
「トラック環礁への偵察は、成功していませんから、我々はまだ聯合艦隊の新型戦艦を見たこともないのですし、そう最初から嘗めてかかるのはどうかと思いますが」
「こちらには、エセックスを含めて空母が7隻、新造戦艦も含めて戦艦が4隻もあるんだ。
戦艦と巡洋戦艦三隻の艦隊に何が出来るというのだ」
「少なくとも提督を怒らせることには成功していますね」
「・・・そりゃあ、お前が怒らせてるんだ」
いささか気の抜けた表情で、ミッチャーは、そう答えた。
「ま、それはともかくせっかくのチャンスです、我々も航空機で戦艦を沈めてみせようではありませんか」
「そうだな、艦隊出撃だ、ジャップにどちらが優れた工業力をもっているのか思い知らせてやろう」
こうして、昭和18年5月21日に、空母機動部隊と戦艦部隊との奇妙な海戦の幕が切って落とされたのである。
ようやく安定した動作を行うようになった大和の対空電探が、一機の航空機を捕らえた。
「見つかったな」
「そのようですね・・・TSBの行動範囲は、この程度ですから今から最低40分後には敵編隊が現れることになります」
防空参謀として大和に乗っている源田実中将が言う。
「三式弾の準備はできている筈だな?」
「もちろんです」
そう答えたのは、大和の砲術長だ。
「あとは、電探がもう一度うまく動いてくれれば良いが・・・」
「そんな弱気でどうする、魚雷の10や20を食らったところで、超合金の装甲は、びくともしないと彦部は、言っていたのだ」
「水線下に食らった場合、水圧による被害も考慮に入れないと、電気溶接は信用なりません」
「しかし超合金Hは、電気溶接でしか加工ができないんだ、それにもとの大和とくらべてアーマー一枚のサイズは、大きくなっているんだ、彦部と中島を信用しよう」
そもそもそれがこの大和の大前提であるのだ。
「来ます!! 方位9時、距離50000、高度3000、数・・・およそ・・・およそ300!」
「繰り出して来たな」
「ええ、しかし彩雲による強行偵察では、敵の空母の数は7ですから半数しか出してきていませんね」
「当然だろう戦艦たった三隻に航空機300なら、普通はつりがくる」
「つりもなにもこちらは、これ以上びた一文出す気はありませんよ」
「ふん、その通りだ、各艦三式弾装填! 目標敵編隊、必中距離まで引きつけて発砲自由」
それまで開発されていた三式弾は、黄りんなどが混ぜられており焼夷効果を狙った物だった。
しかし、今大和や高千穂、穂高の搭載している三式弾は、純粋に散弾による破壊効果を狙ったものに改められている。
46センチ三式弾の場合弾子が炸裂弾も含め1000あまりも詰めれており、その効果は最大直径450メートルにまで達する。
「敵編隊、距離20000!」
その声を聞いたとき、砲術長がトリガーを押し込んだ。
それは史上始めて、46センチ砲が攻撃のために火ぶたを切った瞬間だった。
「おい見てみろよ、なんだジャップのあの妙な戦艦は」
「まるで矢じりのような形になってるな」
「ふん、ミッドウェーで負け、ガダルカナルで負けて、おかしくなっちまったんじゃねーのか」
「おい主砲がこっちを向いてるぜ」
「ばぁ〜か、主砲弾がそう簡単にこんなちっこい航空機にあたるかよ、本当に護衛機もいやがらねぇとは、やっぱりジャップは、可笑しくなっちまったんだろうな」
「でかぶつが主砲、撃ったぞ」
凄まじいマズルファイアーが砲口から吹き出し、そして衝撃波が海面を波紋となって渡ってゆく。
「けっ当たるものかよ」
それがアメリカ海軍太平洋艦隊空母ヨークタウン所属ドーントレス機長クレスト・シーブルの最後の言葉となった。
次の瞬間、かれの機体は30発あまりの鉄球に突っ込み爆発四散したのだった。
この一斉射で、300機の航空機のうち、実に20パーセントが瞬間的に破壊され、さらに10パーセントが何らかの損傷を負った。
だが、パイロット達には、何が起こったのか全く解らない。
「どんなマジックを使いやがったジャップめ」
「うわぁああああ、手が、手がぁああああああ」
「畜生、風防が割れちまって・・・前が見えねぇ」
「とにかく避けろ! 避けるんだ!」
各機は、勝手に右往左往を始め、編隊は一気に崩れる。
そしてその混乱に乗るかのように、二隻の巡洋戦艦の32センチ主砲合計24門が火を噴いた。
しかし、いかに三式弾とはいえ、全ての敵機を打ち落とす力が有るわけではない。
およそ30パーセントは、無傷のままでその内無事であったドーントレス25機、そしてデバステーター20機が「でかぶつ」へ向かい攻撃を開始した。
急降下爆撃のために突入を開始したドーントレスはしかし、投弾することができなかった、なぜならばそれまで全くのっぺら坊のようであった、でかぶつの舷側の装甲シャッターが開け放たれ、そこから姿を現したのは、片舷総数300丁におよぶ剣山のような20ミリ対空機関砲であったのだ。
それらが、3〜4のグループに別れ、統制射撃を行う。
点と線であるならば避けられる 掃射であっても、面となっては、避けることもままならない。
さらに水平方向へ向かっては、主砲がいまだにその脅威の三式弾を吐き出しつづけるのだ。
それでも、250ポンド爆弾2発、そして魚雷一発が大和に命中した。
だが、爆弾は第二主砲塔の天涯と艦橋基部で虚しく爆散したのみであり、魚雷は、艦首の水線下に命中したにも関らず、艦首付近においても厚さ300ミリを誇る超合金Hの装甲の前に虚しく水柱を弾けさせただけだった。
「損害報告無し、大和全力を発揮できます」
「当たり前だ、あの程度で壊れたのでは超合金の名が泣く」
「もう一波来ると思いますか?」
「来る、まだ日没までに時間はある、もう一波攻撃があるだろうな」
「しかし」
「そうだ艦隊全速! この場を離れるぞ・・・そうだ、送り狼を出すのを忘れるな」
「はい、既に高千穂から、出しました」
「うん、敵の位置を掴んだら、突っ込むぞ」
「解っています」
こうして、思いもかけない大敗をきっしたミッチャー提督の放った第二波攻撃は、遊撃戦隊の高速の前に空振りに終わった。
燃料切れぎりぎりまで粘った攻撃隊の航空機の内、1割りが失われてしまったのだった。
「本当に戦艦三隻に200機もの航空機が落とされたというのか?」
目の前の数字を全く信じられない様子でミッチャーが呟く。
「・・・その上、戻って来た機体もズタボロ、再出撃は、ほほ不可能です」
「どんな攻撃でやられたのか詳しい報告を提出させているんだな」
「はい、しかし主砲を打ち込まれたという話しか上がって来ません」
「戦艦のか?」
「はい」
「・・・もう少し時間が経たないと正確な報告は出てこないなこれは」
ミッチャーが馬鹿馬鹿しいと呟いたのを参謀は聞いている。
「はぁ」
しかし、そんな悠長なことを言っていられる状態では無かったのである。
「およそ10時方向に、船影? 友軍ではないのか? オーストラリアか、ニュージーランドの駆逐艦だろう」
このときミッチャーがそう思ってしまったのは無理もない。
遊撃戦隊は35ノットを常時発揮が可能な化け物の集まりだ。
まさか自分達が討ち漏らした戦艦が大きく回り込んでいるなどと想像する司令官はいない。
なんらかの方法で200機を撃退したとしても魚雷と爆弾を食らった事は事実である、この場合、大きく後退しているか、レーダーを避ける為島影に隠れていると考えるのが妥当なのだ。
「敵味方識別信号を打って確認しますか?」
「うん、その程度はしておこう」
だが、やけに船足の速いその船影からの応答はない。
そしてこのとき、すでに夕刻を過ぎており、黙視ではシルエットでしか船を確認することができなかったことも災いした。
「無線機でも故障したのか? 発光信号で確認せよ」
この時既にその謎の船と艦隊中央との距離は1万メートルを割っている。
38ノットで突進するならば、1万メートルなど9分で突破できる。
「進路そのまま、敵空母へあと9000」
「全員、耐衝撃姿勢!
その時、TBSによって、目の前を横切られた駆逐艦レイモンドから報告が直接エセックスの艦長に届いた。
「機関、全速、面舵一杯!!」
「どうした艦長」
「レイモンドからの報告です、
ありゃあ、日本の戦艦です」
「なんだと! やつらは、阿呆か、たった一隻で艦隊に突入してきただとぉ?」
「戦艦へ連絡しろ、敵を叩け!!」
「ようやく気がついた様ですね敵さん」
艦隊が慌ただしく動きはじめた様子が薄明かりと夜光虫の光で見定めることができる。
「ふん、もう遅い・・・艦長」
「はい、水流ポンプ始動! 大和全速!!」
そう艦長が命じた一瞬の間をおき、まるで車が急発進をしたかのような加速が全乗組員へ襲いかかる。
大和へ追いすがり魚雷をたたき込もうとしていた駆逐艦は、その大和の急加速にまったく追随できない。
その瞬間、大和は6基の水流ジェットによってさらに加速し、瞬間41ノットにまで加速したのだ。
これに付いてこれる駆逐艦も存在しなければ魚雷すら追いつくこともままならないだろう。
「敵戦艦突っ込んで来ます!」
「バカな衝突させるつもりか、それでなんになる、たが空母一隻を潰すのに戦艦一隻を無駄にするのか日本人は!!」
ミッチャーがそう叫んだとき、大和がエセックスへその艦首の衝角(ラム)を閃かせ左舷後方から突っ込んだ。
ミッチャーは座っていたシートから弾き飛ばされ、頭から壁に叩きつけられ意識を失う。
双方合わせて10万トンを越える質量が衝突したのだ。
本来であれば双方共に被害が出て当然だろう。
エセックスは、後部から巨大な船体の三分の一まで大和に食い込まれ完全に航行能力を失った。
その直接の衝撃で乗組員の実に5分の1が即死している。
その中には、弾き飛ばされ、頭部を破裂させたミッチャー提督も含まれていた。
しかし、大和は、全く被害を受けていない。
だがそれも当然なのだ。
大和は、艦首の衝角をもって敵艦を自ら屠る、突撃戦艦として無敵装甲超合金Hにその身を装甲(よろ)い蘇ったのだ。
そのほぼ7万トンの突進を受け止められる船などこの地球上に存在していない。
「水流反転!! 敵空母を引き剥がせ、今度は戦艦だ!!」
宇垣中将が、首を撫でながら叫ぶ。
急制動は、船体はともかく人には、負担がかかるのだ。
・・・オレがずっと大和を率いるなら、首当てとまくらがこの椅子には、必要だな。
宇垣は、そんなことを頭の隅に思っていた。
敵艦へ突入したさいのスムースな離脱。
微妙にその放出方向を変えることが可能な水流ジェットポンプが装備されている理由がこれだ。
大和はその艦首のほとんどをめり込ませてたたがほんの十数秒その身を震わせただけで、エセックスから離れることに成功した。
信じられないことにその巨大な超合金Hのくさびには、傷一つついていない。
「敵艦発砲!!」
「応戦せよ」
後部第三46センチ主砲は、すでに、至近に存在していた戦艦ウエスト・バージニアへ向かい照準を定めていた。
砲撃距離、およそ距離3000。
もはや機銃であっても完全に水平発射である。
ウエスト・バージニアの放った40センチ砲弾6発は、見事に大和の第三砲塔至近の水線付近へ炸裂し凄まじい爆発を起こした。
その瞬間ウエスト・バージニアはエセックスに突入した悪魔のような戦艦の撃沈を確信し、すさまじい歓声に包まれた。
しかし、爆炎の中からさらに凄まじい爆炎が沸き起こり、次の瞬間、ウエスト・バージニアは、艦橋と第一主砲塔、そして中央付近バルジへ46センチ徹甲弾を食らい、艦橋をなぎ倒され、第一主砲塔をなぎ払われ、そしてバルジを食い破って突入した46砲弾は、缶室において炸裂し、戦艦の心臓部であるそこを、跡形もなく破壊しつくした。
その瞬間、ウエスト・バージニアは戦艦としての存在意義を永遠に喪失した。
後部砲塔は、無事であっても、機関が破壊されては、砲塔を動かすことも、砲塔へ揚弾することも出来くなってしまったのだ。
後にこの浮かぶくず鉄と化したウエスト・バージニアと同様に沈没を免れた戦艦ワシントンとを鹵獲し、二隻の巡洋戦艦に牽引させ日本へ持ち帰っている。
大和は、その巨大な船体に似合わぬ小回りを行うと、至近に存在していた空母を次々と主砲の砲撃によって血祭りに上げつつ、新造戦艦ミズーリへ向かって再び突入を開始した。
ミズーリは、後退しつつ突入してくる大和へむかいA、B両三連装50口径40センチ主砲をたたき込みつづける。
だが、それらは、虚しく外れるか、正面からたたき込んでも、装甲の被弾傾斜によって弾かれ、そして超合金Hの凄まじい剛性によって全てが効果を及ぼすことができない。
「やつらは不死身か!!」
もはや自身の兵装ではかなわぬ事を悟ったミズーリの艦長は、逃げることができるタイミングではないことも気づいていた。
「・・・正面突破だ、すり抜けるぞ! 機関全速」
艦長は、ミズーリを生き残らせる術としてそれを選んだ。
もしも大和が並の戦艦としての機動力しか持っていなければ、それは成功してただろう。
そして大和が突撃戦艦でなければ、ミズーリは、もしかしたら生き延びることができたかもしれない。
だが大和は、速度の上がったミズーリの分厚いバルジが始まるあたりから斜めに突っ込んだ。
全長が大和程もあるにも関らず5万トンしかないアイオワ級のスマートな船体は、7万トンの大和の突入に堪え切れなかった。
竜骨が真っ二つに折れ砕ける。
しかし、大和は、何事も無かったかのようにミズーリから第一主砲塔付近までのめり込んだ船体を引き抜くと、次の獲物を求め、もはや逃げ惑うしかなくなった戦艦へ艦首を向けた。
大和が離れたミズーリは、左へ大傾斜を起こすと、一瞬で転覆しまるで鯨のような船腹をしばらく海面に浮かばせた後、艦首から静かに海へ飲み込まれていったのである。
後にソロモン海の殺戮と呼ばれる、ただ一隻の戦艦を相手に空母7隻、戦艦4隻、重巡4隻、駆逐艦10隻を完全喪失するという一方的なアメリカ海軍の敗北は、アメリカにそう深刻に受け止められなかったのである。
この殺戮を生き延びた数少ない駆逐艦レイモンドの乗組員と、レイモンドが救助した攻撃隊の第一波に参加したパイロットの証言によって、日本の戦艦は、航空攻撃では沈まない上に、新造中の戦艦ですら歯が立たないと報告されていたにも関らず、海軍首脳は、全くそれを取り合わなかったのである。
このとき、日本海軍無敵の神話は、残念なことに崩れさって居た。
そう一旦日本海軍をある程度、見直していたアメリカ海軍は、再び日本海軍を舐めはじめていたのである。
その為、これらの証言は採用されず、このソロモン海の殺戮は、なんと同士討ちによる悲劇として処理されてしまったのである。
しかし一方でこの大量の軍艦の喪失は、連合国に深刻な事態を引き起こしたと言ってよかった。
太平洋において再び行動可能な軍艦が一気に三分の一になってしまった。
なによりも問題であったのは、件の戦艦が、南太平洋における一時的なアメリカの海軍力の喪失によって制海権を得てしまい、ポートモレスビーや、ガダルカナルを好き勝手に夜間砲撃を繰り返し、ラバウルへの航空攻撃が行えないという点に有った。
空母にしろ、戦艦にしろ、作ることは可能だが、再びここで日本を勢いづかせるわけには行かなかった。
こうして大西洋からアイオワを始めとする戦艦3隻、軽空母5隻を含む空母9隻が太平洋へ回航されたのである。
「伊401からの報告では、大兵力が真珠湾へ集まりつつあるようです」
「いよいよ、富嶽の出番か」
井上成美GF長官は、昨年ブーゲンビル島において戦死した山本五十六元帥の後をつぎその地位についていた。
「日本本土からハワイを空襲できる航空機が存在しているとは、思ってもいないでしょう」
もちろん、このときアメリカも戦略爆撃機B−29の完成を急いでいた、しかし、その予定されている諸元と比べても「富嶽」の性能はスバ抜けていたのである。
航続距離で3倍、搭載量で2.5倍、速度でほぼ150キロ勝っている。
そんな超爆撃機を日本がこの時点で、400機以上運用が可能などと、いったい誰が考えているだろうか。
「一トン爆弾の雨あられで真珠湾奇襲の再現ですね」
神という名の参謀がそう言った。
しかし井上は顔をしかめると、面白くなさそうにこう答えた。
「再現? そんな生易しいものではないだろう、アメリカ太平洋艦隊司令部は、この日をもって消滅するのさ」
昭和18年7月12日夕刻北海道千歳航空基地の滑走路上には、巨大な金属の鳥達が飛び立つときを待って居た。
その数400機、それぞれがその爆撃用兵器倉を搭載し、そのほとんどが1トン爆弾を20発と予備の航空燃料を増槽として主翼下に搭載していた。
それによって、富嶽は、二万キロを越える航続距離をひねり出せるはずであった。
「淵田隊長、全機出撃準備整いました」
「おう、順次出撃せよ」
400機もの巨大な爆撃機が全て出撃するのを上空で待機してるいわけにはいかない。
10〜15機がまとまり、それらが独自にハワイを目指すことになっていた。
ハワイまでの航路は、数隻の潜水艦が電波を発信し、導くことになっている。
どのような迎撃機も上がってこれない高空を飛ぶ富嶽に護衛は、必要ない。
今回は爆撃すら1万メートルの高空から行われるのだ。
この時期アメリカとイギリスは、はドイツにおいて民間人を巻き込む戦略爆撃を開始している。
日本が同様の攻撃を行って悪い道理は、ないのだ。
400機の富嶽は、順次夕闇の濃くなる大空へと6基の発動機をうならせ舞い上がっていった。
「電波は、受信できているな?」
渕田は、電熱器によって温めた夜食を口にしながら操縦桿を握る副操縦士の蛭間昭夫中佐に向かって尋ねた。
「はい、現在は硫黄島からの電波が入っています・・・隊長夜食美味そうですね」
「おう、オレも航空機の中で温かい食い物が食えるとは思っていなかったぞ」
「ですね、つめたいむすび飯に、たくあんとソーダ水でしたもの」
「それが温かいコーヒーに、目玉焼きにパンが喰えるんだからな・・・凄まじい奴だよこいつは」
キャノピーから外を眺めれば、僚機の翼端灯が赤い光を発している。
その上には、夏の星座が煌めいていた。
雲層ははるか5000メートルも下に存在している。
正確な時計と六分儀があるならば、電波無しでも十分ハワイへ向かうことができる。
渕田は、それを見て安心し再びバターのたっぷりと塗られたパンを口へ運んだ。
その日、真珠湾は、空襲警報によって目覚めることになった。
「敵襲! 日本軍機の空襲だ!!」
航空基地の対空レーダーの捉えた機影は、ほぼ400。
誰もが強化されたハワイの防空網によって撃退ができると信じた。
P−40、そしてP−38という航空機が、次々と舞い上がってゆく。
その数およそ200。
しかし、上がれど、上がれど敵へ接近することはできない。
「ばかな一体やつらは、どんな高度を飛んでいるんだ!」
その時、迎撃機の上空へ数機の巨大な爆撃機が舞い降りて来た。
「ろ・・・六発の巨大爆撃機だと・・・やつらにそんな物が作れる訳が・・・」
それがP−38のパイロットの最後の通信となった。
舞い降りて来た富嶽はもちろん20ミリ航空機関砲を90門装備した航空殲滅機である。
その殲滅機が12000メートルまで降下し、90門の機関砲を打ち放ったのだ。
200機の迎撃機が全機撃墜されるまで3分とかかっていなかった。
こうして迎撃を退けた富嶽は、ゆうゆうと真珠湾上空へ到達し、1万メートルまで降下すると、八千メートルにまでしか届かぬ高射砲炸裂音をはるか下方へ聞きながら、弾倉の扉を開いたのだった。
ハワイ真珠湾壊滅。
1トン爆弾6000発の鉄量をたたき込まれ、アメリカ海軍太平洋艦隊司令部は、文字どおり木っ端微塵に吹き飛び消滅した。
その他、ハワイ諸島に存在していた陸軍の駐屯地やレーダーサイトなども、軒並み100発程度の爆弾をたたき込まれて壊滅したのである。
もちろん真珠湾へ集結していた太平洋艦隊は、跡形もなく消滅し70隻あまりの艦艇の中で生き残ったのは、ただ一隻、潜水艦デキシーランドのみだった。
富嶽は一機の喪失もないまま、北海道へ帰還した。
そして富嶽の数十機程度の編隊によるハワイ空襲が連日繰り返されるようになったのである。
さらに富嶽は、ラバウルへ進出し、ポートモレスビーはおろか、オーストラリアニュージーランド全域をその攻撃範囲に納めると、連日都市爆撃と、航空基地攻撃を繰り返すようになる。
この無差別爆撃に、オーストラリアとニュージーランドは、連合国から離脱を決定、日本へ無条件降伏する旨を昭和18年11月2日に伝えたのである。
そのとき、連日の爆撃によってもはやオーストラリア国内には、連合国の軍事力はかけらも残っていなかった。
南太平洋方面の司令官として赴任していたマッカーサー大将は、最初のオーストラリア爆撃となったブリスベーン爆撃で既に爆死していたのである。
「オーストラリアとニュージーランドが無条件降伏、ハワイは連日の爆撃、これで日本は太平洋を押さえきってしまったぞ」
フランクリン・デラノ・ルーズベルトアメリカ合衆国大統領は、国家安全保障会議の席上、血色の悪いくまの張りついた薄ら寒い表情のまま、なみいる提督と将軍を見据え、そう呟いた。
自ら招いた事態とはいえ、このままあの「モンスター」がドイツへ売却などされたならば、ヨーロッパすら失うことになりかねないのだ。
どうにか、事態を好転させねば、ならなかった。
「ソビエトに動いてもらいましょう、空軍海軍力はともかく日本の陸軍は、二流・・・いいえ三流であることは間違いありません」
そう言ったのは、コーデル・ハル国務長官だ。
外交を一手に引き受けている彼は、ソビエトを動かすだけの材料を十分持っていた。
「今現在ソビエトにそれだけの予備兵力がありますまい。
ドイツと拮抗するのがやっとの筈です。
日本とは休戦してしまえば良いのですよ。
かの国には、一時的に太平洋を預ければ良いのです。
そのうえで戦力を充実させ再び取り戻すことなど造作もないことでしょう。
それよりもヨーロッパを失うことの方が、意味が重いと考えますが?」
一時的にヨーロッパから引き上げてきていたパットンが、そう言った。
「それができる立場にいま現在わが国があるとお考えですかパットン将軍」
キンメル大将がそう尋ねた。
「日本は、わが国まで攻めてこれませんよ、そんな兵力は、ありはしないのですから、なにしろ中国ごときと10年も、泥沼にはまっているのでしょう?」
「だが、それも変りますぞ。あのモンスターあるかぎり、日本は世界の半分をその爆撃圏内におさめられるのです」
「それならば、そのモンスターに対抗できる航空機を作れば良いでしょう」
ハルが言う。
「そんなものおいそれと作れるものか!! 忌々しい黄色い豚どもめ!!」
「ハルゼー提督、それは豚に失礼だよ」
とハルがいなす。
「ふん、オレ達は、その豚以下にここまで追い詰められてるんだ、とするとオレ達は、さらにそれ以下ってことだな、確かに豚に失礼なことだろうよ」
「ハルゼー、その程度にしておけ」
「具体的なプランはハルのソビエトに満州もしくは樺太を急襲させるというものしかかないのかね?」
「休戦が抜けていますな、大統領」
「大統領としては、それは問題外ということなのだろうパットン将軍」
ロバートウイロビーCIA長官がそう囁いた。
「ああ、なるほど」
しかし、ソビエト・・・いやスターリンは、利に聡かった。
富嶽・・・モンスターの情報は、耳に届いていたし、その行動圏内にソビエトがすっぽりと収まってしまうことも彼は、知っていた。
知っていて、日ソ間の条約を反故にする気合は、彼に存在していなかったのである。
「休戦するにしても、このままでは立場が悪すぎます。
できるならば、戦術的な勝利をもって、休戦を行う必要があると思います」
ミッドウエー、ウエークなどアメリカが辛うじて確保していた太平洋の点ですら、失われていた。
大西洋の艦隊を回航し、トラックを撃ちます。
幸い、モンスター以外の航空機は、いまだに更新されている様子はありません。
こちらの新鋭機コルセアは、必ずゼロに打ち勝てるはずです。
さらに、その陽動として、ミッドウエーとウエークへの小艦隊を派遣し、目的をぼかします」
キンメルによって立てられたこの作戦は、トラック奇襲部隊の長官にブル・ハルゼー中将。
ミッドウエー攻撃にスプールアンス少将、ウエーク攻撃にフレッチャー少将が当たることになった。
ここでアメリカは、1度きりしか対戦していない「海のモンスター」をすっかり念頭から外していたのである。
戦艦5、重巡12、軽巡12、空母4、軽空母4、護衛空母10、駆逐艦30からなる大艦隊が大西洋から太平洋へ回航され、洋上補給を繰り返し、作戦海域をひたすら目指した。
しかし、日本海軍の潜水艦は、パナマにおいて、それらの通過を確実に捉えていたのである。
「これはまた、繰り出して来ましたね」
そう武蔵の会議室で第一声を放ったのは小沢治三郎中将だった。
もちろん、それは今回パナマ通過が確認されたアメリカ大西洋艦隊の事である。
「最後の決戦という所でしょうか?」
「そうではないだろう、休戦の為の条件作りというところが関の山だろう。
これを失えば最低アメリカですら一年は、艦隊運用能力を失うだろう。
もちろん大西洋では、艦隊を動かす必要がないからそこの決断だろうがね」
そう井上は見事にアメリカの意図を切り捨てた。
「それにしても、これだけの艦隊でどこを狙うつもりでしょう?」
「ガダルカナルのアメリカ軍の救出ではありませんか?」
補給のなくなったガダルカナルでは、アメリカ軍が餓えていた。
「違うよ、アメリカはもっと大きな獲物を狙っているのだろう」
「それは、どういうことだね、宇垣中将?」
「あいつらは、ここを狙っているんです。もはやここ以外を狙う価値はアメリカには存在していません」
「ここというと、このトラック環礁の聯合艦隊泊地をかね?」
「ええ他に艦隊をもって突入するのにどこを狙えというんですか?」
「なるほどそれならば話は早い」
「大和の出番というわけですね」
「そうだ」
昭和18年12月18日、未明。
トラックまで300キロまで接近したハルゼーの部隊は、トラックへ向け攻撃隊を発進させた。
その総数540機、それはいまアメリカがもてる全てを注ぎ込んだ渾身の一撃だ。
しかし、その発進直後、レーダーが使用不能になった。
全帯域に及ぶ強引な妨害電波の為である。
それは、二隻の巡洋戦艦高千穂と穂高のあり余る電力に物をいわせて、最大発信させた強引なECMであった。
そのECMに乗じ、トラックへ接近しつつあった護衛戦闘機しかいなくなった空母群へ向かい大和は突撃したのである。
「3時方向に大型艦、接近!!」
その報告にハルゼーは、全力で逃げ出すように指示を出した。
商船改造の護衛空母はともかく、軽空母も最低28ノットは出せる船がそろっている。
ハルゼーは護衛空母を被害担当艦にし、正規空母は、逃げ出せ巣事が可能だとこの時点では思っていた。
「敵艦、なおも接近します!!」
「ばかないったい奴は何ノットで航行しているんだ」
そんな声がアイランドの航海艦橋に広がる。
「駆逐艦に雷撃させるんだ、たった一隻の戦艦なぞ沈めてしまえばいい」
そのハルゼーの言葉に一旦浮き足立ちかかった艦隊首脳部に落ちつきが戻る。
「ったく、負け癖がつくとこれだからな」
ハルゼーの呟きは、しかし誰にも聞き取れなかったようだ。
だが、駆逐艦のはなった魚雷が20発以上命中しそのほとんどが炸裂したにも関らず、敵戦艦の速度はこれっぽっちも落ちる気配が無かった。
「ばかな、やつは海の化け物(リヴァイアサン)か!!」
このハルゼーの絶叫が大和のニックネームとして連合国に定着した切っ掛けだった。
「肝を潰しましたよ宇垣長官、避けずに受けろだなんて、23発も魚雷を食らうなんていくら超合金Hとはいえ、中に居る人間は、たまったもんじゃありませんよ」
「・・・むううう・・・すまん、これほど爆音が響くものだとは思っていなかった。確かに次があるなら、避けてくれ」
「確かに、もう次はありそうもないですな」
そう、大和の38ノット全速突進に駆逐艦は、追随できず、置いていかれる始末だった。
「どれに突っ込みますか?」
という大和艦長の声に、まるで食後のデザートでも決めるかのように宇垣は、答えた。
「旗艦へ突っ込む」
「目標、敵旗艦、水流ポンプ始動!!」
次の瞬間、まるで大和は艦首を突き上げるように急加速を行った。
「敵艦増速!! わが艦へ突っ込んで来ます!!」
エセックス級空母ヨークタウン(二代目)のアイランドはパニックとなった。
やはり、ソロモンの殺戮は、本当のことだったのだ。
「ばかもん、突っ込んでくるなら、避ければいい、何のための操舵装置だ!」
しかし、10ノット以上もの優速な上、水流ポンプという操舵の切り札をもっている大和の突入から、空母が逃れる術はなかったのである。
「全員なにかに掴まれっ!」
蛇行の果てに、ヨークタウン(二代目)は、大和に右舷中央部に突入された。
いかに装甲空母とはいえ、戦艦とは比べ物にならない、貧弱な装甲と船体は、7万トンの質量に堪え切れずその場で真っ二つにたたき割れ、大和はそのままヨークタウン(二代目・・・しつこい(^^;))を二つに引き裂き、通り抜けてしまった。
「手間が省けた、主砲、発砲自由!」
その狂気とも思える大和の衝角攻撃に、完全に他の空母はパニックに陥った。
全く統一した行動がとれず、至近からの46センチ砲弾を浴び次々と轟沈してゆく、護衛空母からのメーデーを受信し戦艦部隊が反転した時には、既に浮いている空母は一隻もなく、駆逐艦すら、二隻がその小回りを生かし逃げ回っていることで、生き残っているだけであった。
「重巡と軽巡は、主砲に任せる、大和は戦艦へ突撃する!」
3時間後、ただ一隻も残さずトラック環礁攻略部隊は、消滅した。
アメリカ海軍の艦隊は、ここに事実上消滅したのであった。
しかし、トラックへ向かった航空攻撃部隊はどうなったのだろうか?
それもまた哀れな最後を迎えていたのである。
540機の攻撃隊は、富嶽航空殲滅仕様機20の迎撃を受けトラック環礁の姿すら見ることなくほぼ瞬間的に消滅してしまったのである。
上空1万メートルから7000メートルまで降下した富嶽20機は、6000メートル付近を飛んでいた、F6Fコルセア戦闘機、ドーントレス、アベンジャーなどの編隊の上空を飛び去りつつ20ミリ機関砲1800門から放った機関砲弾のスコールを作り出し、消滅させてしまったのである。
「・・・全滅? 47隻の艦隊と、600機の航空機が全滅ぅ・・・?」
ルーズベルトも、海軍長官ノックスも、そして陸軍長官スチムソン、太平洋艦隊司令長官キンメルも、その場で言葉を失ったのであった。
明けて昭和19年1月10日、日本はハワイへ進駐した。
もちろん、富嶽の発進基地とし、アメリカ本土を攻撃するためである。
新たに北海道の中島飛行機で作られた富嶽300が、旧ヒッカム飛行場へ降り立つ。
もはやかつての大泊地の面影ひとつない荒れ果てた真珠湾には、無数の日本海軍艦艇がひしめき合っていた。
「無条件降伏をしなければ西海岸は、おろか中西部まで焼け野原になってしまうでしょうな」
日本は爆弾を西海岸へばらまく前に、盛大な紙爆弾を西海岸の主要都市に落としたのである。
そこには、ハワイからほとんと中央平原を越え、五大湖周辺までもが富嶽の行動半径に含まれていることを示した図柄とともに、無条件降伏を進める宣伝ビラが無数に含まれていた。
「なにか策はないのか?」
感に耐えぬように、ビラから目を引き剥がすと、ルーズベルトは、国家安全保障会議のメンバーへそう尋ねた。
「もはやそんなものはありません」
「あなたの始められた戦争です、あなたがお止めになるべきだと私は、思います」
もはやルーズベルトの威信は地に堕ちている、いつまでも沈み行く船にしがみ付いている人間は居ないのだ。
コーデル・ハルも、両軍の長官も、この哀れな老人をすでに見限っていたのであった。
「イギリスを見ろ、ドイツの航空攻撃をしのぎ切ったではないか」
「ドイツの爆撃機の搭載量は、2トン止まりですし、迎撃可能な高度をどんでくれましたからな」
「しかし、わが国にもレーダーも高射砲もあるではないか」
「1万5千メートルを飛ぶ様な化け物を落とせる高射砲など、存在していません」
「あのモンスターを鹵獲して、研究すればいいのではないか」
「そもそも落とせないものをどうやって鹵獲するのです?」
「原子爆弾だ、原子爆弾はどうなっている!!」
「そんなもの基礎研究に入ったばかりです。
出来上がることには、この国には、日章旗が翻っていますよ」
「無条件降伏を認めよう」
もしも日本がアメリカ本土へ陸軍力をもって侵攻して来ていたなら、アメリカは落ちることはなかったであろう。
だが、数年という時間では全く対処が出来ないと考えられる航空機による無差別爆撃の恐怖は、アメリカの戦意を粉微塵に打ち砕いたのであった。
昭和19年3月9日、アメリカは、日本に無条件降伏を行った。
アメリカは、憲法が停止され、徹底的に武装解除が行われた。
それらは、拳銃のたぐいから、熊撃ち用のライフルにいたるまで徹底的に行われ、軍需産業、そして重工業も操業が20年にわたって停止させられたのである。
ハワイが日本に割譲され、ロサンゼルスとシアトルに、日本軍の基地が置かれることとなった。
そして同年4月、日本は、ソビエトへ宣戦を布告し、一年半に及ぶ徹底的な戦略爆撃によってソビエトを崩壊させた。
彦部の思惑とは違い、大和出現によって航空主兵からのドクトリンの再転換は起こらなかったが、リヴァイアサンとそしてモンスターの伝説だけはしっかりと後世へと残った。
以来55年間、世界は、ハーケンクロイツとライジングサンによって一触即発の危機を孕みつつ支配されつづけているのである。
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超仮想戦記 リヴァイアサンの伝説。
Fin
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