ジュラの波濤
[九条公人]
日本時間 昭和16年12月7日 ハワイパールハーバー沖140海里
現地時間 午前9:00 アメリカ海軍航空母艦レキシントン 艦橋
「艦長!前方海上に未確認物体を発見しました」
艦橋へ駆け込んできた連絡士官の声は震え、顔は青ざめていた。
「なにを青ざめているジャップの艦隊でも見つけたか?」
その艦長の言葉に、士官はブルブルと首を振りつつ「違います」と小さく答えた。
「では、未確認とは何んなのだ!」
「それは・・・海上を進む物体は物体なのですが・・・やはり、ご自分の目で確かめ
ていただけるのが一番だと思います」
敬語の調子まで外した連絡士官に連れられ、環境を出てゆく艦長。
・・・青ざめた艦長が連絡士官に付き添われるように帰ってきたのはそれから10分
もたってからだった。
「おれは・・・おれは、何も見なかった・・・」
青ざめた顔でしきりに小さく十字を切りつつ、そうつぶやいているのを見聞きした者
は、艦橋にも、ほんの少数しか居なかった。
もしもこのとき、その「物体」をきちんと調べ、その上で航空機で攻撃を行っていた
なら世界の運命は、変わっていたかもしれないと言われていた。
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戦略怪獣シミュレーション小説「ジュラの波濤」
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日本時間 昭和16年12月8日 ハワイ オワフ島
現地時間 未明
南雲忠一中将率いるハワイ奇襲の為の日本海軍第一航空艦隊六隻の空母を飛び立った
183機の攻撃隊はオワフ島上空へ進入しつつあった。
その攻撃隊を引率する淵田美津雄が、その鋭い瞳に水平線に横たわるかすかな島影を
捉えた。
それを確認した瞬間、腕が自然と動く、スロットルを開け、操縦桿を倒す。
比較的高度をとって飛んでいた編隊が隊長機のバンクに従い高度を下げ、全員が幾度
も図上演習を行い頭にたたき込んだ進入経路に乗った。
そのとき、淵田美津雄は、自分がラジオのスイッチを入れ忘れていたことに気がつき
慌てて、それに手を伸ばした。
そして飛び込んできたのは、完全にパニックとなった甲高い英語の絶叫だった。
「なんだ?!」
いったい何が起こっているのだ。
もしもそのアナウンサーの英語が聞き取れたなら、それはこう叫んでいた
「神よ!!おお!我が父なる神よ!!この黒い悪魔に!!どうかあなたの手で天罰を
与えてください!!天の雷でどうかこのハワイを救ってください!!お願いです・・
・」
もちろん、こんなに明瞭な言葉であるはずがない。
しかし、大意をくみ取り訳したなら、こうなるはずだ。
そう、次第に矢尽き、刀おれてゆく、世界一と信じていた海軍と陸軍の様子を数時間
にわたって見せつけられたなら、このアナウンサーではなくとも神へ祈るしかなかっ
ただろう。
だが、このとき、淵田は、自分たちの編隊が発見されたと思いこんだ。
発見されたとなれば、迎撃機が絶対にあがってくる、それならば、高度を取った方が
まだましだ。
そう考えた淵田は、操縦桿を数回左右へ振り機体を揺さぶり、自分へ注目させると、
操縦桿を引きつけた。
一瞬、編隊は、その機動についてこなかったが、各編隊長がそれに従うと、全機が付
いてくる。
3000mまで駆け上がり、水平飛行へ戻る。
ここまで上がれば、迎撃機に余裕で対処できるはずだった。
ところが、上がってくると思われた迎撃機は、いっこうに姿を見せない。
そのうち、オワフ島の上空に進入してしまった。
仕方がない、全機降下攻撃に移るという指令を発しようと通信機のスイッチへ「ト」
の連打を送り込もうとしたとき、淵田の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「オワフが、燃えていた・・・」
帰投した淵田は短くそう答えた。
そのとき、パールハーバーの海軍基地は完全に壊滅しており。
市街地すら轟然と燃えさかっていた。
投錨していた6隻の戦艦をはじめとするアメリカ太平洋艦隊は、ほとんどすべての艦
艇が爆沈しているのが確認された。
そのため、目標を失った第一次攻撃隊は、陸軍基地へ攻撃を行って帰投したのだが。
そのときにすら、高射砲も含めて迎撃は、全くなかった。
特に6隻の戦艦は、それを引き上げ再使用することなど絶対に不可能なほど破壊され
ていた。それはまるで彼女たちの体内に蓄えられていた砲弾類が一斉に自爆をしたの
ではないかと思われるほどの壊れ方だった、と偵察のために改めて派遣した護衛の零
戦9機を従えた3機の九九艦爆の観測員が報告してきた。
「これは、一体なにが起こったというのだ」
艦爆が突入し、撮影してきたパールハーバーの惨状に絶句した後、南雲は、そうつぶ
やいた。
南雲は、その様子にパールハーバー突入も考えたが、艦爆が突入し撮影してきたパー
ルハーバーの様子に、それはあまりにもリスキーだと考え直し、本国帰投のため全艦
へ回頭を命じたのだった。
それでもちゃっかり「トラトラトラ」をGF司令部へ発信するのだけは忘れなかった。
だが、それでよかったのだ、もしもこのとき艦隊をハワイへ突入させていたならたぶ
ん南雲艦隊は、壊滅していたと今では、考えられている。
そのとき、ハワイ諸島は、黒い暴風に席巻されていたのだから。
日本時間 昭和16年12月8日 ワシントンD.C.
現地時間 午後2時
ルーズベルト大統領は、思惑通り日本が開戦しハワイを奇襲したものだと思いこみそ
う記者会見を行う準備まで行っていた。
だが、確認の為の連絡がいつまで待っても取れないどころが、ハワイ諸島との連絡が
完全に途絶えてしまったのだ。
「なにぃハワイとの連絡が取れないだと?」
主席補佐官へ向かって車椅子の大統領は、そう怒鳴りつけた。
「はい、まったく・・・その無電すら発信されていないのです」
「軍はいったい何をしておるのだ」
「それが、真っ先に軍が壊滅してしまった模様で、海軍も陸軍も状況が全く掴めない
と言ってきています。
それでも、かろうじて近くを航行していた商船からの連絡だと、ハワイ島が燃えてい
た」ということでした」
「それでは、なにか?日本軍は、ハワイ島の民間人すら攻撃したというのかね?」
「それが、確認できないのです」
「ええい!ここに海軍長官のノックスを呼べ!そしてここへくるときには、ハワイの
状況を携えてこいと言ってやれ!!」
「はっはい!!」
烈火のごとくまくし立てるルーズベルトの語調に首席補佐官は、慌てて執務室を飛び
出して行く。
だが、そのとき、一足早く全米のラジオは、ハワイ諸島壊滅の臨時ニュースを伝えた。
「現地時間本日未明、ハワイ諸島は、正体不明の巨大な物体に攻撃を受け、陸海軍は
潰滅した模様、また諸島に存在した各都市もその巨大物体に蹂躙され、生存者は極め
て少数の模様、なおこの情報は、付近を航行していた商船「カリフォルニア」と、同
じく商船「ポーラスター」からの無電によってもたらされた極めて確度の高い情報で
す、繰り返します。現地時間本日未明・・・」
それと同時に、海軍長官フランク・ノックスの元には、信じられない凶報が飛び込ん
できていた。
「た、太平洋艦隊は駆逐艦「クラクストン」を除いて全滅?
それは、本当なのか?
世界最強の海軍が・・・たった数時間の戦闘で全滅しただと?・・・」
その手にある電文を読む限りそれは事実と考えるしかない。
そしてそれは、ノックスにとって不幸なことに全くの事実だった。
空母エンタープライズにパールハーバーの太平洋艦隊司令部からSOSが飛び込んで
きたのは、真夜中の午前1時だった。
「SOSだと?」
そう叫んで、艦橋へ飛び込んできたウイリアム・ハルゼー少将は、まだ上着のボタン
をはめきっていなかった。
「はい、現在艦隊司令部は正体不明の敵に攻撃を受けつつあり、至急来援を恁う。
とのことです」
「ジャップなのか?」ボタンをはめ終わったハルゼーが勢い込んで問う。
「いいえそれが、意味不明な部分があるので・・・」
「なんだその意味不明というのは、まさかドイツがここまで出張ってきたとでも言う
のか?」
「それは、ご自分で判断してください」と、いうと連絡士官は、電文を書いた紙を手
渡した。
ビックブラックゲイザー
そこには「2つの巨大な黒い物体」という表現があった。
「なんだこの巨大な黒い物体というのは」
ハルゼーは、参謀へ向かって問う。
「解りません、しかし、我が艦隊は大至急パールハーバーへ向かう必要があると思い
ます」
「うん、そうだな、行ってから判断すればいい」
夜間発着などいう芸当ができない以上来援となれば、艦隊そのもので移動しなくてな
らない。
ハルゼーは、艦隊のパールハーバーへの回頭を命じた。
数時間後パールハーバーへあと数海里と迫ったエンタープライズとその護衛艦艇数隻
は、突然攻撃を受けた。それは至近から放たれた目にも鮮やかな火炎放射だった。
なにが起こったのか確認するまもなく、一隻の駆逐艦が海面下数メートルから延びた
猛烈な火炎によって薄い装甲を突き破られ魚雷が誘爆し瞬時に爆沈する。
「ばかな!一体なんなんだ?」
前方に展開していた対潜駆逐艦が一瞬で爆沈した光景を目撃したハルゼーはそうつぶ
やくしかなかった。
「駆逐艦は、対潜攻撃急げ!Uボートの魚雷かもしれないんだぞ!!」
だか、いくらソナーへ聞き耳を立てたところで、鯨の泳ぐような音は聞こえても自艦
隊のスクリュー音以外は捉えることはできない。
そして次の攻撃がソナー作動のために停止したエンタープライズ直衛の駆逐艦を襲う。
やはり、水面下から延びた火炎は、正面から駆逐艦に襲いかかった。
一瞬、その駆逐艦は、その青白い炎の中にシルエットを残すと、やはり魚雷が誘爆し
たのか、後部からすさまじい閃光を放つと、一瞬その100mを越える艦体を艦首を
上に倒立させ、あっという間に後部から海底に引きずり込まれていった。
「ば・・・ばかな」
目の前の光景がまるで信じられないハルゼーは、そうつぶやくしかない。
エンタープライズの艦橋は、完全に静寂に包まれてしまった。
だが、それが彼女にとっては、致命傷だった。
目の前の駆逐艦が攻撃された以上、少なくとも転舵をし、予想される攻撃を避ける程
度のことは常識だったはずだ、しかし、エンタープライズの頭脳は、このとき完全に
麻痺していた。
そのとき艦橋にいた全員が自分へ向かって放たれた火炎を目にしたはずだ。
海面からわき上がるように生じた青白い炎は、まっすぐ艦橋めがけ突き進んできた。
凍り付いたような艦橋を一瞬灼熱の炎が包み込む。
分厚いガラスを瞬時に蒸発させた炎は、次の瞬間艦橋を舐め尽くした。
これによって、ハルゼーを含めた、第八任務部隊首脳部は消滅した。
そして、再度放たれた炎は、格納甲板へ飛び込み、払暁と同時に巨大な物体へ攻撃を
開始するために爆装し待機していたドーントレス、デバステーターそしてF4Fを爆
発炎上させた。
結局それが彼女の致命傷となった、ダメージコントーロールを指揮する首脳部の消滅
したエンタープライズは、ガソリンタンク、そして搭載していた爆弾、魚雷が次々と
誘爆し、たった10分でこの世から消滅した。
エンタープライズの爆発炎上に驚くまもなく、護衛艦艇は、次々と火炎に焼き尽くさ
れ、会敵後20分あまりで一艦残さず海底の藻屑と化した。
そして、ニュートン少将麾下の空母レキシントンを含む艦隊も似たか寄ったかの状況
で機関故障で1隻だけ艦隊から遅れていた「クラクストン」を除いて全滅したのだ。
ようやく機関故障の癒えパールハーバーへ帰還したクラクストンから、海軍司令部へ
連絡が入ったのだ。
その直後クラクストンも消息を絶った。
そして「米国太平洋艦隊潰滅!」のニュースが全世界を駆けめぐった。
アメリカ政府は、急遽調査団を編成し、西海岸から送り出した。
だか、護衛艦隊を含めた調査団を乗せた船もハワイまで行き着けず消息を絶った。
「何が太平洋に居るというのだ」
アメリカ軍は、カタリナ飛行艇を文字通り無数にとばし、その太平洋の影を探し続け
た、だが、まるでそれをあざ笑うかのように、商船、軍艦が次々と消息を絶って行く。
もちろん、カタリナ飛行艇は、目標を捕捉できたはずだった。
だが、観測を行う人間には思いこみが存在した、無意識にハワイを潰滅させ太平洋艦
隊を消滅させた巨大な「艨艟」の姿を追っていた。
だから、発見できるはずがなかった。
そして一週間の後、ついに破局は、アメリカ本土に上陸した。
アメリカ合衆国ロサンゼルス・マリーナ=デル=レイ 現地時間 1:00
その広々としたヨットハーバーに巨大な物体が海から出現した。
だが、その光景を目撃した者は、一人として居なかった。
もしも居たとしてもその物体の打ち出した火炎により、瞬時に蒸発していたであろう
が・・・。
「なんだって?爺さん落ち着いて話せよ・・・なにぃ?ビルよりでっかいトカゲが、
炎を吐いている?・・・はぁ・・・あのなぁ爺さん、警察は、あんたの相手をしてる
ほど暇じゃないんだ」
市民からの緊急通報にそう答えた警官は、次の瞬間この世を去った、LAPDの庁舎
がその巨大な生き物に叩きつぶされたからだ。
巨大な生き物は、すべてを薙ぎ払う火炎を扇状にまき散らしながら西海岸最大の都市
ロサンジェルスを消滅させて行く。それは、まるで人類そのものをこの地上から抹殺
せんとする神の意志のように。
サンフランシスコに上陸したもう1体も同様にこの坂の多い美しい都市を瓦礫の山に
変えることを楽しんでいるかのごとく破壊活動に勤しみ、たった2時間あまりで、そ
の都市を地上から消滅させた。
さらに、シアトルにも1体が上陸し、同市を蹂躙した。
そしてその結果に満足したかのように、3体は、内陸へ向かって進み始めた。
その時速は、たかが50Kmである。だが、その巨大生物が歩いた後には文字通りペ
ンペン草も生えないのだ。
これは、後に判明したことだが、その巨大生物の吐き出した炎には、放射能が含まれ
ていた。いや、放射能を生じさせうる能力と言ってもよかった。
その炎にふれた物質は、容易に、原子崩壊を起こし放射性の同位元素と化し周囲に致
命的な放射線をまき散らすようになるからだ。
ゴッドウイル
長い夜の間に、3体の「神の意志」は、内陸部へ250Kmあまり進んでいた。
もちろん、アメリカもだまって蹂躙されるつもりはない。
だが緊急展開した州兵は、抗う術を持っていなかった。
その分厚い皮膚はライフルなどでは傷すら付かない、74ミリ砲を備えた戦車も、そ
して135ミリ自走砲も駄目だった・・・。
その上、攻撃を行った部隊には、確実に炎が襲いかかった。
だが、夜が明ければ、航空機が来てくれる、そう思い州兵達は、一方的な殺戮に耐え
攻撃を続けたのだ。しかしそれは所詮、虚しい希望にすぎなかった。
爆弾を抱え飛来した最新鋭爆撃機B−17は、爆撃空域へ進入する遙か手前で
あろう事か炎にたたき落とされてしまった。
だが、B−17部隊は、復讐に燃えていた。
次々と撃ち落とされながらも、たった3機が、爆弾を投下することに成功したのだ。
500Kgの炸薬を持った爆弾が6発「神の意志」に炸裂した。
「やった!!」誰もがそう思った、いやそう思うしかなかったのだ。
世界一の強さを誇るアメリカがいかに巨大とはいえ、たかがトカゲの化け物に蹂躙さ
れるままというのは、プライドが許さなかった。
だが「神の意志」は常識を越えていた。
爆発は、神の意志を傷つけなかった。
「至近」で炸裂した爆弾のエネルギーを吸収してしまったのだ。
そしてその様子を見ていた貴重な観察者は、炎に体を焼かれ証言はできなかった。
こうして、アメリカの正当な攻撃手段は、失われた・・・。
各地で住民の疎開が始まった、だが、人が集まる場所にまるで吸い寄せられるように
神の意志は動いた、前方にどのような障害があろうとそれを突き崩し、乗り越え「ア
メリカ」を壊し続けた。
デスバレーにおける、従深陣と巨大地雷は、まったく効果がなかった。
そしてラスベガスにおける電気攻撃は、一時「神の意志」の動きは止めたものの、そ
れだけでしかなかった。
液体窒素や、貴重な液体ヘリウムを使った冷凍攻撃も全く効果はなく、逆に窒息者を
出し被害を拡大させただけだった。
こうして瞬く間に、アメリカは、西海岸を失い中部平原地帯へ進出した神の意志は、
そこで完全に機能を分担した。
ロサンジェルスへ上陸したGW1は、南へ、そしてシアトルに上陸したGW3は、北
へ進み始めた。そしてサンフランシスコに上陸したGW2は、その2体が打ち漏らし
た都市を破壊していったのだ。
南へ下った「GW1」は、オクラホマシティを皮切りに、ダラス、フォートワース、
ヒューストン、サンアントニオという都市を破壊した後、南部の油田地帯へ入りそこ
を徹底的に破壊した後、さらに東へ進み、バトンルージュを一蹴し、ニューオーリン
ズの軍港を完璧に破壊し尽くした。建艦途中の戦艦2隻を含める10隻あまりが消滅
し、そこに居た動くことのできた艦隊は、数発砲撃したのみでほとんど刃を交えるこ
となく東海岸へ這々の体で逃げ出していった。
そしてその蹂躙は40日間に渡って続いたのだ。
その再建には、10年はかかるだろうと言われた。
もしもそのときアメリカという国が残っていたらの話だな
ルーズベルトは、対策本部会議の議長席でそうシニカルな感想を漏らしたと伝えられ
ている。
たった60日間の間に、ルーズベルトは、日本との開戦時首席補佐官を怒鳴りつけた
同じ人間とはとても思えないほどやつれ果てていた。
それも当たり前であろう、ほんの60日間に、たかが3体のジュラ紀の恐竜生き残り
に都市部の人口の8分の1を失っていたのだから・・・
そして生き残った被災民達も原因不明の病によって次々と命を失っていったのだから。
だが、ルーズベルトとはじめとするアメリカ首脳には、GWを内陸で迎撃する手段が
すでに尽きていた。
避難と再建を素早く行う事、それがすなわち合衆国を国として維持するための最大の
責務となっていた。
だが、その努力をあざ笑うかのように、北へ上がったGW3は、五大湖の重工業地帯
を丹念に叩きつぶしていったのだ。それは、工業という物を否定するかのような執拗
な攻撃だった。
セントポール、ミルウォーキー、シカゴ、インディアナポリス、デトロイト、クリー
ブランド、コロンバス・・・アメリカという国を支えていた重工業がことごとく潰滅
していった。
そして上陸から70日をして、三体のGWは、テネシーにおいて初めて会合したアメ
リカ軍の残存兵力は、ここに大包囲網を敷き殲滅を試みた。
航空機3000機、戦闘車両6500両、兵員40万が参加した「デウス・エクス・
マキナ」作戦だった。
だが、通常兵器でGWは倒せなかった。
「か・・・潰滅?!」
40万のアメリカの若者の命が、もはや再生産かなわぬ貴重な兵器が、永遠に失われ
てしまったのだ。
がっくりと肩を落とし椅子へ座り込んだルーズベルトはついに決意した。
「毒ガス」を使うと・・・。
急遽試作段階にあったB−23爆撃機4機に、毒ガス弾が積み込まれ13000mの
超高空からの爆撃が行われるはずだった、だが、3体のGWは、そのB−23を迎撃
した。
3体の口から同時に4度放たれた火炎は、威力と射程を増し、遙か十数キロ彼方のB
−23、4機をピンポイントで直撃したのだ。
作戦失敗・・・その報告を聞いたルーズベルトは、その場で憤死した。
急遽大統領に選ばれたトルーマンには、すでに手駒は残っていなかった。
そして、もう残された時間もなかった。
なぜなら、GW達は、ワシントンの目と鼻の先チャールストンへ侵攻していたのだ。
最早ワシントンは放棄せざるを得なかった、もっともすでに、デウス・エクス・マキ
ナ作戦が失敗した時点で、アメリカ合衆国という国は事実上消滅したと言ってもよか
ったかもしれない。
まさか、トカゲの化け物にこの国が潰されようとは・・・
たった数時間そこに座ることができた椅子の上でトルーマンは、つぶやいた。
そして、今しばらくは蹂躙を受けないであろう仮の首都と定めたアラスカ州アンカレ
ッジへ脱出したのだった。
だが、トルーマンはアンカレッジへ到着することはなかった。
すでに、アメリカの航空産業は潰滅しており、まともな整備を行える人材もいなかっ
た。
後に調査にあった日本・満州の合同調査団の報告によると、トルーマンの乗ったB−
17は、現地民の目撃談などから、カナダ領、ウィニペグ湖に墜落したという結論に
至った。
だが、東海岸の一般市民には、もはや船以外の移動する手段すら残されていなかった、
その船すら鈴なりの市民を乗せイギリスへ行ったきり帰ってはこなかったのだ。その
ままワシントンを消滅させたGWは、再び2方へ別れたGW1は、ニューヨークへ、
そしてGW2とGW3は、リッチモンドを通り東海岸最大の軍港ノーフォークへ。
だが、GW3は、夜の闇に紛れ、途中で姿を消した。
アメリカには、もう3体のGWを常時監視を行える装備も、人員も残っていなかった。
そのノーフォークには、残された海軍艦船が集結していた。
意を決し、艦砲射撃でGWを葬ろうと虎視眈々とそのときを狙っていたのだ。
むろん、脱出命令は出ていた、しかし、一太刀なりと浴びせねばアメリカ人としての
矜持を保つことはできなかった。
だが、結果としてそれが間違っていたのだ。
民間人を乗せ、アラスカへ素直に脱出をしていたなら、アメリカという国が再び世界
史に登場する時期は、15年は、早くなっただろう。
すでに各艦の艦長達は、GW2を殲滅することしか頭になかった。
途中で消えたGW3が背後から迫っていることなど微塵も心配していなかった。
だが、GW2が、その16インチ砲の射程に捉えられようとした時、突如海中から火
炎がわき起こった。
発射寸前の砲塔を直撃した火炎によって、炸薬が誘爆、その誘爆が誘爆を呼び4隻の
戦艦は、一弾も放てぬまま消滅した。
そこから先は書く必要もない、100隻を越える艦艇のことごとくが、2体のGWに
よって蹴散らされたのだ。アメリカ合衆国最大の軍港ノーフォークに置いて世界最大
の海軍はその歴史に幕を引いた。
そしてそれは、アメリカという国の事実上の消滅だった。
だかそれでアメリカ社会の破滅が終了したわけではなかった。
北へボルチモア、フィラデルフィア、ニューヨーク、ボストン、南へシャーロット、
アトランタ、ジャクソンヴィル、タンパ、そしてマイアミこれらの都市が、さらに数
日の間に消息を絶っていった。
そして、アメリカから戦火渦巻くヨーロッパへ向け脱出して行く船をまるで追うよう
にGW達は大西洋へ姿を消したのだ。
それは、ハワイ潰滅からちょうど90日後のことだった。
「アメリカが消滅した?」
ベルリン総統府の執務室において、ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは、ヘル
マンゲーリング元帥に謁見していた。
「そうです。総統閣下」
「それは、どこからの情報かね?」
「イギリスBBCの臨時ニュースです」
「ついに、GWとやらが、東海岸まで達したか?」
「はっ、これによって、イギリス攻略そして、ソビエト攻略に目鼻立ちが立つかと存
じます」
「そう単純に行くのか?」
「と、申しますと?」
「GWがヨーロッパへ目標を移したならどうするのかね?君たちOKWにその対処が
可能なのかね?」
「はっ、もちろんです、迎撃には、全Uボートを任務に当て、必殺の体制を整えるつ
もりです」
「直ぐに掛かりたまえ!上陸されてからでは、遅いのだよ」
「はっ直ちに、迎撃作戦を発動いたします!!」
カッと軍靴の踵をならし、敬礼をするとゲーリングは退出していった。
故に、この史上最凶の独裁者の恐怖に青ざめた顔を見ることはなかった。
なにか、とても嫌な予感がするのだ、急げゲーリング、絶対に取り逃がすでないぞ、
そういって送り出したかった、だが、ついにそれを口にできなかった。
口に出してしまったなら、それが現実になってしまう恐怖に突如としてとりつかれた
・・・。
そしてヒトラーは、エヴァ=ブラウンに救いを求めた。
だが、逃げ込める安らぎがあるだけ、ヒトラーは幸せだったかもしれない。
イギリス宰相ウィンストン・チャーチルには、それが与えられることはなかったのだ
から。
「脱出してくるアメリカ人の安全なんぞ保証できかねますな、イギリスは、ドイツと
も戦っているのだ、たかがでっかいトカゲごときに貴重な戦力を割く余裕はないので
す」
チャーチル卿が駐イギリス・アメリカ大使へ向かいそう冷たい言葉を投げかけたのは、
ことさらGWを軽く見ることで、重くのしかかったそれを無視したかったのかもしれ
ない。
だが、戦力を大西洋へ広く分散することができないのも事実だった。イギリス海軍は、
戦艦「プリンスオブウェールズ」を始めとする東洋艦隊を開戦劈頭に連合艦隊の攻撃
によって失っていた。
もしもGWの迎撃に失敗し、上陸を許したしまったなら・・・。
アメリカですら90日しか持たなかったのだ。
必殺の思いを胸に、イギリス海軍の威信を懸けた乾坤一擲の迎撃作戦が開始されよう
としていた。
インファネスへ集結したイギリス海軍対GW艦隊は、戦艦「キングジョージ5世」を
旗艦とした、戦艦3隻、重巡6隻、駆逐艦8隻の重砲撃艦隊と、空母「インビンシブ
ル」を旗艦とした、軽巡10隻、駆逐艦21隻の機動部隊の陣容で出港の時を待って
いた。
「まだか?GWの進路は確定できないのか?」
「沈む船があまりにも散発しすぎています、しかもUボートによる被害と区別するこ
とができません、どの船がどのGWに討たれのかは、確定することは不可能です」
「くっそう」という提督と、参謀の会話がキングジョージ5世の艦橋で幾度と無く、
繰り返された。
だが、そのときすでにドイツの誇ったUボート艦隊は、GWとの戦闘に翻弄されてい
た。まずソナーが基本的に役に立たない。相手の位置が掴めなくては、自慢のウルフ
パックも行うことができないではないか。運良くその姿を海上で捕捉できても、GW
には、魚雷が通用しない。そう固定深度で突き進むしか脳のない魚雷では、水中で下
へよけられてしまえばそれきりなのだ。
GWとの戦闘に役に立ったか疑問であるが、この時期には、まだホーミング能力を備
えた魚雷は登場していない。
そして、水中ではGWの方が早かった。雷撃に失敗したあげく水中で追い回され、強
力な後ろ足で蹴り上げられ、装甲を破損しそのまま沈没、圧壊したUボートの数は、
100隻を超えていた。
しかし、結果としてこのUボートによってイギリスは救われたと言ってよかった。
なぜなら、それでもGWは、このUボートの集団の圧力によって、イギリス北部、ス
コットランドにはついに上陸できなかったのだから。
だが2体のGWは、いきなりリバプールへ上陸した。そして1体はそのまま、バーミ
ンガムへ向かい、もう一体はマンチェスターとその付近の都市を一撃で叩き伏せると
早々にハンバー川から北海へ姿を消した。
だが、バーミンガムへ進出したGWは、一直線にロンドンへ迫り、4日間をかけてそ
こを念入りに破壊し尽くした後、ドーヴァーへ消えたのだった。
だが、世界に誇るイギリスの海軍は、ほぼ無傷な形で残った。
そして、王室は、辛くも虎口を逃れエジンバラへ逃げ延びたのだった。
しかし、ウェールズ及び、イングランドの都市は、ほぼ潰滅しイギリスの工業生産能
力も、5分の2を失うこととなった。
そして宰相チャーチルは、ロンドンと運命をともにした。
彼は、最後まで市民の脱出支援の為、殿軍の指揮をとり続け、GWの業火に焼かれた
のだ。
チャーチル自身は、直接炎に焼かれた訳ではない。だが、放射能を帯びた戦車に長時
間乗車し指揮を執っていたための急性放射線障害による無惨な死だった。と伝えられ
ている。
最後を看取る者すらいない、一国の宰相としては、まことに無念の死だったと言わざ
るをえない。
こうして、ヨーロッパへ向けられたGWの第一撃は終わった。
だが、次に襲われた第三帝国は、イギリスのような幸運には恵まれなかった。
ドイツ高海艦隊を根拠地であるヴィルヘルムスハーフェンごと叩き潰して上陸したG
Wは、そのままブレーメンへ直進した。
そして残る2体もそれぞれドイツ海軍の軍港から上陸を果たした。
こうして3体のGWに襲われた第三帝国は、徹底的に蹂躙された。
次々と都市が沈黙して行く中、ヒトラーは、その拠点をヨーロッパ大陸深く移動し
GW迎撃の指揮を取った、そしてドイツの誇る陸軍もそして航空部隊も実に勇敢に
戦った。
特に列車砲による攻撃は、限定的ながら効果を発揮した、ほんの数日ではあったが
1体のGWの足を止めたのだ。
しかし、3体居るGWすべてを効果的に攻撃できなくては、意味が無く、1体が足
止めをされている間に虎の子である列車砲は、残りの2体に徹底的に蹂躙され、列
車砲部隊はその使命を全うすることはかなわなかった。
そしてそれらの抵抗もGWが第三帝国の鉱工業を支えていた内陸部へ進入した時点
で水泡と帰すこととなった。ここに第三帝国の命運は尽きたのだった。
この後、ほぼ一年に渡って活動したGWは、ヨーロッパすべてを焼き尽くした。
かろうじて生き残ったのは、地中海の島々のみだった。
やがてヨーロッパを破壊し尽くしたGWは、その矛先を中東とソビエトへ向ける。
第三帝国の潰滅とともに、モスクワを奪回していたソビエトであったが、再び勝てる
見込みのない後退戦に引きずり込まれた。その戦いは、半年に及んだ。
しかし中東に入ったGWが長駆ウラルの背後から襲いかかったことによって命運は決
した。
スターリンは、さらに脱出しようとした航空機を炎に焼かれた。
こうしてソビエトも滅んだ。
次は・・・中国か、日本、いやインドだという憶測が生き残った地域に乱れ飛んだ。
だが、3体のGWは、そのままシベリアのツンドラを東進した。
この時日本は、すでに戦争遂行の意義を失っていた、日本を大陸進出へ駆り立てた帝
国主義の欧米列強は、既になく建国以来の最大の仮想敵国であったロシア=ソビエト
すら消滅してしまった。そして世界はただ一国だけ残った軍事大国日本に、GW撃滅
を求めた。いや求めざるを得なかった。
こうして、日本帝国軍によるGW殲滅作戦が遂行されることとなった。
ドイツから命辛々逃げ出してきた多数の科学者達の手によって、対GW兵器が考案さ
れ日本と満州の工業力を総動員してそれらが配備されていった。
新たに開発された「ヘリコプター」と呼ばれる航空機によって常時GWを監視、さら
に、幾度かの実験によって、脅威を与える兵器の存在により惹かれるという性質も確
かめられた。
こうして、ウラジストクへ3体のGWが迫ったことにより、昭和18年11月28日
日本の総力を挙げた「捷一号」作戦がスタートした。
同日、津軽海峡を通り、山本五十六GF長官が率いるGW殲滅艦隊、紀伊級戦艦1隻、
大和級戦艦3隻を含む14隻の戦艦、葛城級2隻を含む正規空母9隻、作戦機900
機、補助艦艇350隻からなる人類最大の艦隊が日本海へはいった。
もしもこの艦隊が破れたなら日本の作戦艦艇は、一隻も残らないことになる。
2日後、同艦隊は、ピョートル大帝湾へ進入し、ウラジオストク沖において戦闘準備
を整えた。
「GW、第一作戦ライン突入!!」
かのパールハーバー奇襲に参加した、畑田大尉の操る三菱「明星」型ヘリコプターか
ら、全軍へ無線が発せられた。
続いて、同機から「仮想照準「ろ−11から、ろ−13」」という報告も入った。
それは、射程800Kmの奮進弾道弾のあらかじめ用意されていた目標位置だった。
列島及び朝鮮半島、そして満州国内に配備された奮進弾の数は、2000発を数えた。
その半数が、ほぼ同時に仮想照準へ向かって放たれた。
轟音を残し、天空へ駆け上がって行く奮進弾に誰しもが、これで終わってくれという
願いを込めていた。
800Kmを、20分あまりで飛び越えた奮進弾の群は、動作不良で脱落した30発
あまりを除き、GWがまさに仮想照準地帯へ入り込んだところに、音速のほぼ2倍と
いうスピードで突入した。
GWも、その超音速で迫る弾道弾に気が付いては居たのだろう。
自慢の放射火炎を遙か上空へ打ち上げた。
だが、1000発という数は、GWの対処能力を遙かに凌駕した飽和攻撃に他ならな
かった。放射火炎によって、脱落した弾頭は90発程度だったと見積もられている。
そして、炸薬量1トンという化け物じみた弾頭が、大気摩擦で真っ赤に焼け3体のG
Wへ殺到した。
閃光と人の聴力の限界を超えた轟音が、あたりを包み込んだ。
たが、GWには、熱エネルギーを吸収するという特性が有ったはずだ。
しかし、それも900トンというかつてない超高密度のエネルギーの前には潰え去っ
た。
爆煙が吹きちらされた後に体高80mの巨体は、立っていなかった。一体の上へ折り
重なるように2体が覆い被さり、その覆い被さった2体は、焼けただれそこに原形を
認めることは不可能だった。
「やった!!」そのとき遙か高空16000mを飛行していた偵察機「閃雲」の観測
員は望遠レンズの中に映し出されたその光景にそう叫んだ。
だが、それは、ぬか喜びだった。弾道弾の放つ熱エネルギーに耐えきれないと悟った
3体のGWは2体が盾になることで1体をその熱エネルギーから護り切ったのだ。
望遠レンズの中で、自分を護ってくれた2体の体を押しのけのっそりと起きあがった
GWを見て、観測員は、悲鳴のような声で無線機へ叫んだ。
「い・・・い・・・1体のGWは、弾道弾攻撃にも未だ健在!繰り返す、1体のGW
は、未だ健在!!」
だが絶望に彩られたその報告は、日本軍に希望をもたらした。
少なくとも飽和攻撃ならば倒す事はできるのだ!
残った1000発の内3分の1の弾道弾が同照準で再び放たれた。
それは、盾となった2体のGWへ完全な「とどめ」を刺し、その忌まわしい巨体を地
上から消し去ることが目的だった。
そして、残った600発あまりの弾道弾も、弾道弾の落下してくる危険の中、再び飛
びだった観測へりの伝えてきた仮想照準に従って放たれた。
「これで、終わってくれればいいですね」
GF長官旗を掲げた20インチ砲9門搭載の超弩級戦艦紀伊の昼戦艦橋に於いて山本
長官へ「艦隊」司令として乗り込んでいる南雲大将がそう話しかけた。
「うん、だが、この紀伊の20インチ砲と大和級3隻の18インチ砲でかたを付けた
かった気もするがね」山本は、そう本音を漏らしたという。
その言葉は数刻後、実現することとなった・・・。
300発の弾道弾が、すでに息絶えていると思われる2体のGWへ炸裂した。
再び、地獄の業火を思わせる爆発が連鎖し、単なる肉の塊をさらに焼き尽くし、骨を
砕き、それを大地へ返していく。
だが、残ったGWへ放たれた600発の弾道弾はその役目を果たすことはできなかっ
た。なぜなら、GWの進行速度が上がっていたからだ。
膨大な熱エネルギーを吸収したことによって、最後のGWは、活性化されたらしい。
20分という限られた時間の中で、GWは、仮想照準地帯を駆け抜けてしまった。
「第2次弾道弾攻撃失敗!」
色めき立つ紀伊の艦橋のなかで、山本ただ一人が口の端をゆがませ笑う余裕を見せて
いた。
「まだ、第二攻撃ラインも、第三攻撃ラインも用意されている、うろたえる必要はな
いじゃないか」
内心はどうだか解らないが、山本は落ち着き払った声でそういうと、最後に力強く言
った。「Z旗を掲げよ!」と。
第2攻撃ラインは、ツンドラに穿たれた巨大な落とし穴の群である。
直径60m、深さ40メートルに達する32個の「落とし穴」は、弾道弾の試射もか
ねて作られたものだった。
しかしそれだけではなく、すり鉢状の緩やかな縁を爆薬によって鋭い角度に整形し直
し、GWが縁を上れないようにするという作業も行われた。
そしてGWは、その第2ラインへ到達しようとしていた。
「GW来ます!!」
その第2ラインを望む丘の上に居る偵察隊から通信が入り始めた。
もちろん、落とし穴に落として終わりでは話にならないためだ。
「第一穴群通過」
「第二穴群通過!」
「第三穴群通過っ!!」
8個の穴を横に並べ、1つの群とし、開口部を少しずつ横へずらした群を4つ作った
のだ。だが、その罠を3つまでも通過してしまうとは誰も考えていなかった。
駄目か・・・。それを聞いたとき、第2ラインは無駄だったと誰もが思った。
だが、最後の群にGWは見事に掛かった。
「GW、第4群の3番に掛かりました!!!」
その報告が来たとき、山本の目に修羅の炎が燃え立った。そして
「全艦、主砲斉射!!目標第二攻撃ライン第4群3番!!」
そう叫ぶように命じた。
すでに、第一射の準備は、整っていた。あとは、固定されている目標へ、GWがその
力に屈するまで主砲を放ち続ければ良いのだ。
最初に咆哮したのは紀伊の9門の20インチ55口径砲だった。
次に大和型3隻の18インチ50口径砲が射撃連動装置によって、一斉に火を噴く。
さらに、その4隻からかなり陸へ寄った位置についている11隻の戦艦の16インチ、
14インチ砲が轟音をとどろかせた。
その運動量で戦艦の装甲をうち砕く20インチ砲弾、弾頭重量1.4トンの撤甲弾が
9発、超音速でGWの周囲に降り注ぐ。
7発は、遠弾となったが、2発が、至近に炸裂した。
それは、なんとかその穴からはいだそうともがいていたGWの右腕を完全に吹き飛ば
し、もう一弾は、その長大な尾の先を切り落とした。
獣の絶叫がその巨大な口から放たれ、苦し紛れの放射火炎が長々と上空を彩る。
だが、その絶叫を圧し、大和級3隻の放った弾頭重量1.1トン9×3、27発が、
着弾した。
そして、その結果を確かめるまもなく、11隻の戦艦群の放った数十発の巨弾が着弾
し続ける、さらに、紀伊の第二射、大和級の第二射がそれに続いた。
「撃ち方止め!!」
紀伊が第10斉射までたたき込んだところで、山本は、砲撃をいったん止めさせた。
付近一帯は、着弾した無数の砲弾によって、掘り返され、平らげられ、罠として用意
された巨大な穴も完全に埋め尽くしていた。
最早、GWは、完全に消滅したと誰もが思った。
それでもまだ「神の意志」は、生きていた。
観測員は、その光景に我が目を疑った。一際盛り上がった土の中から顔の半分を吹き
飛ばされたGWが、よろよろと立ち上がろうとしているのだ。しかしその動きに昔日
の力強さは残っていない。
やがて、全身を土の中から表したGWだったが、その長大な尾は、根元から消失し、
左足は、腿の辺りの肉がごっそりとはがれ、腹部には、無数の着弾痕が認められた。
流石に爬虫類の姿をしているだけの事は有る、まだ生きてやがる。
一人の観測員は、その壮絶な姿にそんな感想を持ったという。
「やつは、まだ生きています」
観測員の報告によって、砲撃が再開された。
そして、その詳細にもたらされた報告にしとめるのは時間の問題だろうと誰もが思っ
たのだ。
再開された砲撃によって、次々と、GWの傷が増えてゆく。
爪が、牙が、背鰭が・・・弾き飛ばされ、きり飛ばされ、打ち砕かれてゆく。
だが、それでもGWは歩みを止めなかった。
さらに、10斉射を放ったが、GWの足を留めることは出来なかった。
「戦艦群の直接照準による、殲滅に切り替える!」
山本は、40Km離れた目標への間接射撃の難を思い知った。そのため直接狙える位
置にGWが達するまで待つということだった。
もっとも、それは、GWが戦艦ほどのサイズを持っていなかったことにも起因する事
であり、もしもGWが戦艦ほどのサイズだったなら、ほとんどの艦の斉射が命中して
いた程の射撃精度だったことが後に判明している。
「兵を休ませよう」そういって山本自身も、腰につっていた水筒から水を飲んだ。
「直接照準可能!」
見張り員から、そう艦橋に連絡が入ったのは、2時間あまり経過した後だった。
山本も、南雲も双眼鏡を目に当て、GWの姿をその目に焼き付けた。
「各砲塔、必中をきせ!」
そう南雲は、砲術員へそう伝えた。
それまでかなりの仰角を付けて撃たれていた紀伊の砲塔が、ほとんど水平に近く下が
る。
「撃てっ!!」
9つの砲が同時に吼える。
その轟音と同時に、GWの口から放射火炎が紀伊へ向かって放たれる。
それは、砲弾の迎撃を狙ったものだったのか、紀伊を狙ったものだったのか誰にも判
らない。
だが、放射火炎は、紀伊には届かず、虚しく虚空へ散っただけだった。
なぜなら、狙い違わず着弾した9つの巨弾の内1つが、GWの巨体に似合わぬ比較的
小さな頭部を吹き飛ばしたからだ。
9発の弾は、GWの体に満遍なく着弾し、その内2発が巨体を支える強靭な背骨を打
ち砕いた。
さらに、各艦の判断で行われた直接照準射撃の内、信濃の放った9発が、その体を最
後まで支えていた両足をなぎ払った。
それとほぼ同時に、大和と武蔵の放った18発が右半身に着弾しそれが完全にとどめ
となった。
「やった・・・」と呟いたのは、誰だったのか・・・
その一言を切欠として、全艦が万歳の斉唱に包まれた。
ついにやった、大日本帝国が、米国も、英国も、ドイツも、ソビエトも勝てなかった
GWをこの世界から駆逐したのだ!!
人類は勝った。
世界は救われた。
万歳、万歳!!
だが、崩れ落ちるGWの巨体へ旗艦紀伊の昼戦艦橋から南雲大将と共に敬礼を送りな
がらGF長官山本五十六は、つぶやいた
「これが最後のGWとは思えない」と・・・。
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戦略怪獣シミュレーション小説
「ジュラの波濤」Fin                   By 九条 公人
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WRITING START DATE 1997/07/22 03:01
END  DATE 1997/07/23 17:30
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