first snow 〜Kanon side story〜
久弥直樹
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《》:ルビ
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一月六日(水)
雪が降っていた。
灰色の空を埋め尽くすように、真っ白な結晶が小さな体を揺らしながら、雪の街に舞い降りていた。
どこまでも広がる雪景色がガラス張りの駅ビルに映り込んで、それこそ永遠に続くかと思うほどの雪の螺旋を形作っていた。
「……寒いよ」
わたしは見上げた空から視線を逸らして、白い吐息と共に呟《つぶや》いた。
もう、どれくらいの時間、流れる雪を見ているのだろう……。
制服に積もった雪の結晶は、白く姿を変えて、わたしをそのまま覆い隠すように、その存在を増している。
白い傘を差す人の影は、雪が強くなると共にその姿を少なくしていた。
「……何をしてるのかな、わたし」
部活を早退して、雪に埋もれながらベンチに座っている。
ただ、それだけ。
雪が落ちると共に、時間も流れていく。
「……約束の時間、とっくに過ぎてるよね。怒ってるよね、きっと」
白く雪の積もった腕時計に視線を落とす。お母さんから聞いていた時間は、既に一時間以上も過去の出来事になってしまっていた。
待ち合わせの場所は、駅前のベンチ。
わたしが今座っている場所も、駅前のベンチ。
だけど、その距離は離れていて、ここからでは、あの人の姿を確認することもできない。
たった一言でいいのに。
久しぶりだね、って声をかけるだけでいいのに。
どうして、そんな簡単なことがわたしにはできないんだろう……。
それは、いつか見た風景。
どんなに忘れようとしても、あの時の、思い出と呼ぶには辛すぎる記憶がわたしを苛《さいな》む。
最後にたった一言、さよならさえも言えなかったあの遠い日。
泣きながらベンチに座っていたわたしを見付けてくれたのは、優しい手で雪を払ってくれたのは……あの人ではなかった。
悲しくて、でもどうしようもなくて。
そのことを忘れたくて、それでも忘れられなくて。
だけど、七年という歳月は、わたしの中からあの人の存在を削り取っていた。
本当に少しずつだけど、それでも確実に……。
だから、昨日お母さんからあの話を聞かされた時、わたしは曖昧に頷《うなず》くだけだった。
そして、今、あの人は、わたしのすぐ近くにいる。
わたしの座っているベンチから少しだけ離れた場所で、いつまで経っても現れない迎えのことを、きっと怒っていると思う。
それなのに……。
「……ほんとに、何してるんだろう、わたし」
もう、あの時とは違うのに。
わたしも随分《ずいぶん》と変わったと思うし、遠くから見たあの人も、小学生のころの面影はほとんどなかった。もしかしたら、もうわたしのことなんて覚えていないかもしれない……。
変わってしまったわたしに、気づかないかもしれない……。
あの日のプレゼントのことも、わたしの言葉も、そして、わたし自身のことさえも、全部……。
「……寒いよ、ほんとに」
雪が、空に積もっている。
さっきよりも、ずっと。
時間だけが、通り過ぎる。
ベンチに座った、わたしの隣を……。
「わたしは……」
わたしは、あの人がわたしを覚えていないことと、覚えていることの、どちらに怯《おび》えているのか……。
一月五日(火)
「思ってたより、面白かったわね」
体をほぐすように背伸びをしながら、香里《かおり 》がすっかり暗くなった空を見上げる。
この季節の日没は本当に早くて、映画館に入った時の明るさが嘘のように、駅前はすっかり闇と街灯の光に包まれていた。
家を出る前に見た天気予報では、夜から雪になっていたけど、今のところ、その予報はハズレのようだった。
「この前の映画なんか、前評判の割にいまいちだったものね。やっぱり、実際に見ないと映画は分からないわね。そう思うよね、名雪《な ゆき》?」
「……思わないもん」
嬉しそうに訊ねる香里に、わたしは一言だけ返す。
少し頭痛がする……。あと、首も少し痛いかもしれない……。
「そう?」
香里はわざとらしく不思議そうに首を傾げながら、言葉を続ける。
「今日の映画なんて、ラストシーンが良かったと思わない? まぁ、ちょっとありがちな展開と言えば、そうなんだけど」
「……見てないから分からないもん」
「どうしたの、名雪? ご|機嫌《き げん》ななめね」
「……最初のシーンしか覚えてないよ〜」
「そうでしょうね。熟睡してたみたいだし」
「香里のいじわる〜。気づいてたんだったら、起こしてよ〜」
「そう思ったんだけど、名雪があんまり気持ちよさそうに、くーって寝てたから」
「映画、わたしも見たかったよ……」
冬休みに入る前から、ずっと楽しみにしていた映画だったのに……。
やっと、部活が休みになったのに……。
「最近の映画は、すぐにビデオでレンタルされるから、また見られるわよ」
香里が、おかしそうに笑う。言葉では同情しているふうだけど、実際は、からかっているだけのようだった。
「映画館の大音響がいいの」
「その大音響で熟睡できるんだから、凄いよね、名雪って」
「……嬉しくないよ」
「だって、誉めてないもの」
「香里……黄色いジャム、好き?」
「ご、ごめん、名雪。今度はちゃんと起こすから」
慌てて手を振るクラスメートの姿に、わたしは笑顔を返す。
「それだったら、また一緒に見に来ようよ」
鮮やかにライトアップされた映画の看板を見上げながら、わたしは冷たい空気をゆっくりと吸い込んだ。お腹の中に冬の空気が入り込んで、やっと目が覚めたような気分だった。
「また、同じの見るつもりなの?」
「うん。まただよ」
「暗くなると間違いなく寝るでしょ、あなたは」
「そんなことないもん。今度は一生懸命見るもん」
「……まぁ、いいけどね」
「うんっ」
頷《うなず》くわたしに、小さくため息をついた香里の表情が、すぐに破顔する。
「その代わり、今度は名雪のおごりね」
「わ。それはちょっと……」
「冗談よ」
鮮やかにライトアップされた駅前を抜けて、わたしと香里は、ゆっくりと家路についていた。
時刻はまだ夕方だけど、空はすっかり夜のとばりが下りきっていた。
まばらに並ぶ街灯の先には、商店街の灯りがぼんやりと闇を照らしていた。
「ねぇ、名雪。商店街寄っていこうか?」
「今から?」
「そろそろお腹も空いてきたし、何か食べて行かない?」
「うーん、そうだね……」
袖《そで》をちょっとまくって、時間を確認する。まだ、大丈夫そうだ。
「それなら、百花屋さん」
「また?」
「またじゃないよ。まだ今年になってから、一度も食べてないんだから」
新しい年が始まって、もうすぐで一週間。
短かった冬休みが終わって、あっという間に三学期。そして、気がつけば桜に囲まれた新しい季節が顔を覗かせる。
何も変わらない生活だけど、それでも充実している毎日がそこにはあった。
今までも、そして、これからも……。
§
「いつも思うんだけど……」
メニューをウエイトレスさんに手渡してから、香里が小声で呟《つぶや》く。
「メニューにある、ジャンボミックスパフェデラックスって、頼む人いるの?」
「多分、いるんじゃないかな? わたしは一度も見たことないけど」
綺麗《き れい》に装飾された喫茶店の中で、わたしと香里は二人がけのテーブルに向かい合って座っていた。
時間が中途半端なので、お客さんの姿はまばらだった。
「大体、値段が普通じゃないわよ。どうして、三千五百円もするの」
「イチゴサンデーが四つも食べられるね」
久しぶりに注文したイチゴサンデーを待ちわびながら、水を口に含む。
「きっと、たくさんイチゴが入ってるんだね」
「どうして、あなたの食べ物に対する判断基準はいつもイチゴなの」
呆《あき》れたような、そんな香里の口調だった。
「もし、宝くじで一等が当たったら、わたしはジャンボミックスパフェデラックスを食べるよ。それがわたしの夢なんだ」
「簡単に叶いそうな夢でいいわね、名雪は」
「香里は?」
そう問い返したところで、注文していたメニューがテーブルに届く。
わたしがイチゴサンデーで、香里がミックスジュースだった。
香里が、ストローを袋から出して、
「あたしの夢……」
その袋を指先で丸めながら、独り言のように言葉を呟《つぶや》く。
「……あたしの夢も、名雪と一緒よ。くだらなくて、バカバカしくて……」
「香里、さりげなく酷《ひど》いこと言ってない……?」
「……本当なら、簡単に叶ってしまうような……。簡単すぎて、それが願いであることすら気づかないような……。そんな、ありふれた夢よ」
「香里……?」
クラスメートの|雰囲気《ふんい き 》がいつもと違うことに気づいて、わたしはスプーンを動かす手を止めた。
そんなわたしの様子に気づいたのか、香里も手を止めてわたしを見る。
「今の、ちょっと格好良かった?」
「何言ってるのか分からなかったよ……」
「だったらいいわ。気にしないで」
そこには、いつも通りの香里の姿があった。
「うん……」
そして、そのことに安心すると同時に、何か、もやもやとした形のない不安がわたしを捕らえる。
「きっと、凄く大きいのね」
「え?」
不意に、香里の声がわたしに届く。
「……聞いてなかったの?」
「うー。ごめん」
「ジャパの話よ」
「……なに、ジャパって?」
「ジャンボミックスパフェデラックスの略よ。今つけたの」
「……ダメだよー、勝手に変な愛称つけたら。きっとお店の人が聞いたら怒るよ」
「失礼ね」
「あ。今度みんなで少しずつお金を出して注文してみようよ」
「みんなって?」
「北川君とか……」
「あたしは、パス」
「どうして?」
「名雪の夢なんだから、他人には頼らずにひとりの力で叶えなさい。今度、当たると評判の宝くじ売り場紹介してあげるから」
「香里、何か誤魔化《ごまか》してるよ〜」
「誤魔化してない」
「誤魔化してるよっ。それに、わたしの本当の願いは、別にあるんだから……」
「本当の願い?」
「わ。そうじゃなくて……」
思わず口をついて出た自分の言葉に、わたし自身が戸惑っていた。
「気になるわね」
「全然気にならないよ〜」
「だったら、どうしてあからさまに動揺してるの」
「あ。雪が降ってきたよ」
「名雪、誤魔化してる」
「誤魔化してないもんっ」
半透明にわたしの顔が映った窓ガラス。
ちょうどその時、その先を、確かに白い粒が通り過ぎていった。
「あ、ほんとだ」
香里も、その姿を見つけて小さく声を上げる。
「傘持ってきてないし、そろそろ帰った方がよさそうね」
そう言って、ガラスの中の香里が、わたしの方を向く。わたしのイチゴサンデーは、まだ半分くらい残ったままだった。
「そうだね……。たくさん降ってくる前に、帰ろう」
イチゴサンデーを残したまま、わたしは先に席を立って、香里を促《うなが》す。その間にも、ガラスの雪はその姿を増やしていた。
「うわ……。本格的に降ってきたわね」
困り顔の香里が、ガラスに映る。
気がつくと、街を覆う闇さえも隠してしまうくらいの、一面の白。
突然の大雪。
まるで、あの日のように……。
「名雪、どうしたの?」
「……うん。ちょっと雪を見てただけ」
「雪なんて、珍しくもないでしょ」
「そうだよね……。どうしてだろう……」
どうして、突然あの人のことが浮かんだのだろう。
もう、思い出せないくらい昔のことなのに……。
思い出せない、はずだったのに……。
「おかしいよね……」
そう言って微笑むわたしの姿も、喫茶店のガラス窓に映り込んでいた。
その笑顔は、どこか悲しそうで、無理しているように見えて……。
やがて、天気予報通りの雪が街に煌めき、明日の朝には全てを真っ白に塗り替える。
そして、まっさらの一日が始まる。
平和だけど、幸せな日常。
何も変わらない。
だって……。
わたしの本当の願いは……。
あの遠い雪の日に、消えてしまったんだから。
§
「お帰りなさい、名雪。映画はどうだった?」
雪を払いながら玄関に上がるわたしを、お母さんがタオルを持って迎えてくれた。
「えーっと……。ラストシーンが良かったかな……」
答えながら、受け取ったタオルで髪の毛に積もった雪を拭き取る。
「晩ご飯の準備、できてるわよ」
濡れたタオルを受け取って、お母さんが優しく微笑む。
「あ。ちょっと食べてきたから、晩ご飯はあんまり食べられないかも……」
「大丈夫よ。そう思って今日の晩ご飯は少しだけにしたから。温かいシチューもあるから、早く着替えてらっしゃい」
「うん……」
頷《うなず》いてから部屋に戻って、わたしは湿った服を脱いでハンガーにかける。
タンスの中から服を出して、簡単に髪を乾かしてから、お母さんの待つキッチンに向かった。
「ちょうど温まったところよ」
湯気の立ちのぼるシチュー鍋を持って、お母さんがキッチンから顔を出す。
そして、いつものようにお母さんとふたりっきりの食事。
ずっと、そうだった。
何年も、そうだった。
冬だけの、小さな例外を除いて……。
「名雪、あとでジャムの味見をして欲しいんだけど」
「うん、いいよ。……でも、普通のジャムだよね?」
「もちろんよ」
|頬《ほお》に手を当てて、首を傾げる。
「普通ではないジャムなんて、お母さんは作れないわよ」
「……お母さん、一度訊きたかったんだけど、あの黄色いジャムの材料って……」
「企業秘密よ」
「やっぱり気になるよー」
「じゃあ、ヒントだけね。材料のひとつは、名前が『ぴょ』から始まるのよ」
「……ぴょ……?」
「それ以上は、秘密ね」
「……ぴょ……」
聞かなければ良かったような気がした。
「あ。ひとつだけ言い忘れていたんだけど」
お皿を持ったまま、お母さんが顔を覗かせる。
「……くー」
「ジャムの話じゃないわよ」
お母さんが、言葉を続ける。
「あのね……」
それはいつもと何も変わらない口調だった。
それこそ、ジャムの話をする時と同じように……。
「いとこの男の子、覚えてるわよね」
「……え?」
「昔は、何度も家に遊びに来てたものね」
不意に投げかけられたその言葉は、わたしの心を捕らえた。
わたしは、ただお母さんの顔を見つめるだけ。
言葉が、繋がらない。
「ご家族が海外転勤になってしまって、その子だけ残ることになったのよ。それで、高校を卒業するまでは家に泊まって貰おうと思うんだけど……」
お母さんから聞かされた話。
それは、わたしの日常に大きな変化を与える言葉でもあった。
雪に埋もれて消えてしまったはずの記憶が、ゆっくりとよみがえる。
思い出の中のわたしは、小さな女の子で……。
編んだお下げを風に揺らしながら、今もなお、その場所に座っている。
怯《おび》えるうさぎのような瞳で、小さな女の子は、何を待っているんだろう……。
そして、何を望んでいたんだろう……。
一月六日(水)
雪が降っていた。
わたしの思い出の中に、しんしんと降り積もっていた。
それは、絶えることのない、真っ白な雨のようだった。
だけど、思い出の中の雪は、溶けることも流れることもなくて……。
今もなお、わたしの中に降り続いている。
「わたしは仕事があるから、名雪が駅まで迎えに行ってあげてね」
お母さんのその言葉に頷《うなず》いて、わたしはこの場所にいる。
昔、一緒に歩いた道さえも忘れてしまった、幼なじみのいとこを迎えに行く為に……。
たった一言、声をかけるだけなのに……。
その一言が言えなくて、わたしは待ち合わせの時間が過ぎても、少し離れた場所で、ただ雪に打たれているだけだった。
変わってしまった自分と、変わらない心。
七年という歳月の向こうにある、変わることのない思い出。
雪が、ますます強く降っていた……。
「名雪」
俯《うつむ》いていたわたしは、自分の名前を呼ばれたような気がして、顔を上げた。
「雪、積もってるわよ」
心配そうな顔で、すぐ側でわたしを見つめる優しい瞳があった。
「……お母……さん……?」
「そんな格好していると、風邪ひくわよ」
「……お母さん……」
あの時も、そうだった。
七年前のあの日。
泣いているわたしを最初に見つけてくれたのは、お母さんだった。
「仕事が終わって家に帰っても、誰もいなかったから……」
そう言って、わたしの髪に積もった雪を、ぱたぱたと払いのける。
昔と何も変わらない、優しい手だった。
「……お母さん、わたし……」
どうしていいのか、分からないよ……。
自分の心が、分からないよ……。
「一緒に、帰ってきなさい。家で体の温まるものを作って、待っているから」
「……お母さん」
「お願いね」
「……うん」
お母さんの、短い言葉。
いつも、そうだった。
わたしは、その言葉に、いつも背中を押されてきたんだから。
「お母さん」
「なに?」
「わたし、大丈夫だよね? いつも通りのわたしで、いられるよね?」
「名雪、雪は好き?」
「うん……。大好きだよ」
雪も、この街も、わたしは……。
「だったら、大丈夫よ」
小さく微笑《ほ ほ え》みながら、ゆっくりと頷《うなず》く。
「でも、少しは変わってくれた方がいいわね。朝、早起きできるようになるとか、ね」
「それは、自信ないけど……」
でも……。
「すぐに、帰るよ」
頷《うなず》くわたしに、お母さんはただ微笑んだだけだった。
「良かったわ。これで、ジャムを味見してくれる人が増えそうね」
それだけを言い残して、お母さんは先に家路につく。ひとり残されたわたしも、積もった雪を払いながら立ち上がった。
突然よみがえった思い出に押しつぶされそうになって、でもそれが新しい日常の始まりであることに気づいて……。
だから、わたしはあの人の前でも、今まで通りのわたしでいられるかもしれない。
「わたしは……」
今まで通りのわたしで、いたいよ。
もう一度、一緒に遊びたいよ。
笑いながら、雪の街を歩きたいよ。
だって……。
まだ、きっと、大切な人だから。
真っ直ぐに向かった足をふと止めて、わたしは駅前の自動販売機で温かいコーヒーを買った。
かじかんだ手が溶けるように、缶の温もりが手のひらを伝わって、その熱いくらいの温かさが心地よかった。
一度深呼吸をして、もう一度歩き出す。
あの人と、再会するために。
そして、どうしても訊ねたいことがあったから、だから……。
「ふぁいとっ、だよ」
小さく呟《つぶや》いてから、ベンチでふてくされている、あの人の前に立つ。
あの人は昔と変わらない、意地悪でぶっきらぼうなままで……。
「わたしの名前、まだ覚えてる?」
わたしの名前、覚えていてくれて……。
そして、雪を払いながら、この街に文句を言うあの人に、わたしは笑いながら答える。
今年の雪は、まだ始まったばかりだよ……。
[#地付き]END of "first snow" to be "Kanon"
[#改ページ]
あとがき
こんにちは、久弥直樹です。
この作品は、『かのん』の発売前に、某雑誌に掲載した名雪ショートストーリーの前後の話になっています。(もちろん、本書単体で読む分にも問題はありません)
あのときは、ネタバレできないということで、かなり自粛していたのですが、今回は発売後ということで、本当にやりたかったことを書いてみました。
もし、その雑誌のバックナンバーをお持ちでしたら、そちらの方にも目を通していただけると、ちょっと良いかもしれません。
さて、今まで、商業誌や同人誌で数本のサイドストーリーを書いてきましたが、「主人公を出さない」という密かなコンセプトも、そろそろ辛くなってきました……。
ユーザーの方々ひとりひとりに主人公が存在すると思いますので(名前も違うでしょうし……)、できるだけ小説では主人公を出したくなかったのですか、やっぱり、色々と制約が出てきてしまいます。
というわけで、そのうち、ひょっこりと主人公が作中に登場するかもしれませんが、その時は、「ああ、挫折したんだな」と思ってください(汗)
最後に、本書を手にとってくださったみなさんと、無茶なスケジュールで表紙を描いてくださいました、PINSIZEのMITAONSYAさんに感謝の念を抱きながら、あとがきをしめたいと思います。
それでは、またいつか別の機会にお会いできると幸いです。
[#地付き]一九九九年十二月十九日
[#地付き]久弥直樹
[#地付き]本文 久弥直樹《ひさや なおき 》
[#地付き]挿し絵 MITAONSYA(PINSIZE Inc.)
[#地付き]サークル「Cork Board」発行
[#地付き]同人誌「first snow」所収(1999.12.26)
※炊者注:本テキストは初版をOCRして目視校正したものです。「first snow」は後に短編集「SEVEN PIECE」(同人誌)に再録され、大幅に加筆修正されました。その経緯については「SEVEN PIECE」の後書きを参照して下さい。