ヤマトレンジャー
[亜瑠]
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ヤマトレンジャー *前編* by亜瑠
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・・・非常ベルが鳴り終わった時には制圧は既に完了されていた。
真っ昼間に堂々とテロリストに乗っ取られたのは地球防衛軍の司令部であった。
なんだってこんなことになったのかは人質の司令長官以下にもよくわかっていなかったりする。
「で、目的はなんなのかね?」
あまり聞き覚えのないグループ名に藤堂が訊いた。
「軍事独裁をひく政府を打倒し民主主義を取り戻すためだ!!」
胸を張って言ったのはリーダーとおぼしき男。
それを聞いてぼそっとつぶやいたのが藤堂の隣で小さくなっていた相原。
「・・・こないだ何の問題もなく総選挙終わったばっかりだと思うんだけど・・・」
「やかましい!どうせきさまら軍の工作があったに決まってる!組織票を組んだか集計マシンに細工したかどちらかだろう!!」
「組織票はない!」
藤堂が断固としてきっぱり言い返した。
「昨日、軍人の投票率が悪すぎると選管から文句がきていたからな」
「胸を張って言うセリフか!」
マンザイをしている祖父を眺めていた晶子がフと気がついた。
「何か静かだと思ったら・・・ねぇ古代参謀とユキさんは?」
「え・・・?」
ふたりの姿は司令室になかった。
ではそのふたりがどこにいるのかというと・・・司令部ビルの奥深く、人目につかない幹部用の仮眠室の中にいた。
自分の職場からここまで逃亡してきて眠りこけている守の親友・真田を叩き起こして事態を説明していたのだった。
半分眠ったまま聞いていた真田だったがユキに耳を引っ張られてようやく正気にかえった。
「ちっとは起きてよ!」
「起きてるよ。・・・ところでなんでおまえらが無事なんだ?」
訊かれてわはは、の守。
「いや、実はトイレにいたもんで」
「あたしは・・・お茶くみに行ってて押し倒されかけたんで・・・」
「・・・蹴り上げて、逃げてきたわけだ」
一瞬だけテロリストが気の毒になった男ふたりであった。
「とにかく、武器がない。外とも連絡が取れない。なんとかしろ」
こういう場合、普通は戦闘士官の守が指揮をとるべきであるような気もするが・・・非常事態にはさらに非常識な手段で対抗する真田の方が手っ取り早い方法を持っていたりするのである。
それを知っている守なので言うなれば『手抜き技』を出せ、と要求しているのである。
もっと真田の方もこんな事態で親友に任せていたら自爆して歩き回るのがオチだとわかっているのでぶつくさ言いながらも要求にはひとまずこたえる。
ほっといて後始末だけを押しつけられるよりは最初からいっしょにひっかき回す方がまだ楽しめる分得だと知っているだけなのか、引っ掻きまわすだけ回しておいて後の責任は親友に押しつけようと企んでいるのかはまだ4分の1ほど寝ぼけた真田の顔だけ見ていればさすがのユキにもわからなかった。
う〜む、とうなりつつ真田はポケットを探った。
「・・・まいったな。十円玉、貸してくれ」
「は?」
「廊下歩いてく訳にはいかないだろ?こんなこともあろうかとエアダクトを非常用通路としてある。十円玉で外せるよ」
「で、どこへ?」
「・・・とりあえず、おまえの執務室へ」
古代守の執務室。別名を『司令部の魔窟』と呼ばれるゴミ溜め。何がどうなっているのかは毎日使っている本人にもわかっていなかったりする。
もちろん知らない人間には絶対に幹部の執務室に見えない。当然、見張りもなくノーマークのままだった。
3人は埃だらけになりながらもそこまで無事たどり着いた。
「どうする気だ?」
守に訊かれて返事もせずに真田はふたつみっつ書類とゴミの山を蹴り崩すと、そのさらに奥からジュラルミンケースを探し出した。
「・・・こんな物が役に立つ日だけは永久に来て欲しくなかった・・・」
低くつぶやきながら真田がケースのフタを開いた。その中に納められていたのは7つの幅広のブレスレットだった。
いつのまにこんなもん人の部屋に・・・と思いつつ見ている守に真田はそのひとつを差し出してきた。
「これは、おまえのだ」
「俺の?」
「そしてこれが・・・ユキのだな」
真田がふたりの手首にブレスレットをはめた。
「これ・・・なに?」
「忘れたのか?バトルギアだ。ふたりの声にのみ反応して無敵のプロテクトスーツを形成する、アレだ」
あくまでも真顔の真田。
「『バトル・プロテクション』の声で形成される」
ふたりの顔が引きつった。
「それって・・・まさか!」
「・・・そうだ。司令部が機能不全になる日のために俺が作った」
一瞬の恐怖が守とユキの背筋を走った。
「あの悪夢を再現する気か!?」
「他に手はない!」
間髪を入れずに言い返した真田である。
「『ガトリング』で両腕にマシンガン、『ランチャー』で肩にミサイルランチャー、『ソード』で右手に剣が装着されるし『ウィング・アップ』でもちろん飛行形態もとれる」
「・・・ちょっとまて、おい・・・」
守が額を押さえて真田の機能解説に待ったをかけた。
「なんでそれが全部音声入力のままなんだ!?」
「宴会の隠し芸で思考コントロールなんぞ使ってどこが楽しい!」
あれから改造なんぞしとらんわい!と断固として真田が言い切った。真顔と言うより、既にヤケ顔である。
「じゃやっぱりこれ去年の忘年会の・・・!」
「そーだ!相原に頼まれて俺が作ったヤツのオリジナルだ!!」
とうとう頭をかかえこんでしまった真田だった。
「だー!なんてもんつくっちまったんだー!!」
今甦る、司令部忘年会の悪夢。
飛び交うレーザー、乱舞する小型ミサイル、吹っ飛ぶ料理と人間・・・
いくら現役の軍人の集団とはいえ、酔っぱらい連中の真ん中でそんなことになってよくもまぁ死人がでなかったものだと、後から考えてぞっとしたものだ。
「そんなもんが武器になるのか!?」
「なる!軍の予算をちょろまかして作ったんだ。会計検査院を黙らせるために性能だけは本物だ!」
頭を抱えたままでもそう言いきる真田である。
「いくら調子に乗ってしまったとはいえ・・・こんなモンまで作れてしまった自分の才能が憎い・・・」
「・・・ついでに使わされる方の身になって外見も本物にして欲しかったぞ・・・」
・・・確かに、俺のだよな。去年使ったの俺なんだから・・・
思い出すとますます頭の痛い守であった。
「・・・とにかく、装着してみろ」
右手だけ挙げて真田がふたりに指示した。
「手は胸の前でな」
昨年の大暴走は見物にまわっていて参加していなかったユキがものすごくイヤな予感を感じてしまった。
が、背に腹は変えられない。守と顔を見合わせ、うなずき合うと意を決して叫んだ。
「「バトル・プロテクション!!」」
バトル・ギアが一瞬光を放った。
「なによ!これ!」
「真田、おまえ・・・!」
「文句ならデザインした相原に言ってくれ!」
銀色のブーツに長い手袋、超ミニのスカートのユキに、いかにも『その手の趣味に走りました(^^)』というスタイルの守。つまりは20世紀日本のヒーロー物テレビアニメ風の戦闘服がふたりを包んでいたのである。辛うじての救いはヘルメットとフェイスマスクで顔がはっきりと見えないことか。
コスプレマニアでもなければいい年の男や人妻が着るようなカッコではない。
「いくらなんでも・・・!」
「今更プログラムしなおす時間はない!」
言い切った真田の肩を守がポン、と叩いた。
「すまん、真田。俺はもう司令部の人間なんだ」
「ほーお、スキさえあれば実戦部隊への異動を画策している奴がそれを言うのか」
「しかし・・・だ。この俺にんなハズいカッコで戦えってのか!?」
「他にどうしろってんだ!?俺だって他に手があったらんなもん・・・!」
ケースの中にはまだ5つ残っていたりする。
ひとつを取り上げてユキが声紋登録を勝手におこなうとにっこり笑ってさっさと真田の右腕にかちりとはめこんだ。
「じゃ、当然、真田さんもね」
ゲ!の真田。
「ば、馬鹿言え。俺は・・・」
「あたし達にだけ恥かかせるようなせこいマネはしないわよねぇ〜〜」
・・・ユキの天使のような笑顔の向こうに連続殺人鬼も裸足で逃げ出したくなるような殺気を感じたのは守だけではなかったようだ。
にっこりと笑ったままのユキに胸ぐらをつかみあげられてのけぞる真田の額には冷や汗が吹き出していた。
「・・・わ、わかった・・・」
司令室に籠もるリーダーの元へ反撃の報告が来るまでさほどの時間はかからなかった。
もっとも、第1報は『反撃が・・・』でブチ切れ、第2報は支離滅裂、第3報になってようやく『ジョークが本気になってかかってきた!』という一応意味のある文章になっていたのだった。
「どういうことだ!」
『どうもこうも・・・ヒギャ!』
切れる。
「全部の監視カメラを作動させろ!」
あわてるテロリストを眺めやって、おやおや、の人質一同。
「・・・多分、古代参謀だろ?」
「あの人が正攻法以外を知ってたのかよ」
「科学局長が一緒だからだろ」
相原の言葉にえ?
「真田局長?」
ほれ、と指をさした相原。
「澪ちゃんが探しに来ていたからね」
晶子のそばに澪がちょこん、と座っていた。
「いました!」
スクリーンのひとつに映し出された姿は全員の息をたっぷり10秒は止めた。
「・・・映画・・・じゃないんだろうな・・・?」
プロテクトスーツに身を包み、(ヤケをおこして)片っ端からバリケードを吹き飛ばし、(八つ当たり同然に)戦闘用アンドロイドを切り捨てている3人の勇姿。
光と共にミサイルランチャーが形成され、容赦なく『まわりの壁ごと』バリケードを吹っ飛ばす。右腕がマシンガンと化し、アンドロイドをスクラップに変えている。
パワードスーツで取り押さえようとして、一蹴りで壁に叩き付けられ、作動不能にされている。
その性能(と外見の美しさ)の差はあまりにも瞭然。
ヘルメットとバイザーで顔こそはっきり見えないが、あの体格、あの動き、そしてあの脚線美。誰なのかは十分推測できてしまった。
しかも、あのスーツはたしか・・・
「・・・あれ・・・もしかして・・・・」
「もしかしなくても・・・あれ、だろう・・・?」
自然と視線が相原に集まる。思わず明後日の方を向いて素知らぬ顔をしてしまった相原だったが、忘れようにも忘れられないのが昨年の司令部忘年会。あれをつかった隠し芸を出した責任者は相原であったのだ。
「まぁ・・・真田さんが作ったヤツだからオモチャとはいってもあのくらいは当然・・・」
「・・・だよなぁ・・・しかし、あいかわらずキレーな脚してるよなぁ・・・」
と、のんきな事を言ってる横では
「なんなんだ!?あの冗談みたいな連中は!」
テロリストが藤堂をつるし上げていた。
「軍の特殊部隊だが?」
またぬけぬけと答えるタヌキ親父・藤堂である。
「外見は冗談でもやってることは本物だろう?」
「そんなもの聞いたことないぞ!なんなんだ、あいつらは!」
「司令部直属の秘密兵器でもあるからな」
重々しく言って返した藤堂である。指揮官たるもの舌先三寸、ハッタリも必要な才能である。もっとも握りしめた両手が震えているのは大笑いを必死にこらえているせいだろう。
その間にもスクリーンにはアクション映画顔負けの戦闘シーンが繰り広げられている。
「あれでひとつの戦隊だ。この司令部が機能を停止するときに出動がかかる、波動戦隊だ」
たしかに藤堂は嘘はひとつもついていない。聞いていた人質の中から低い笑いが漏れ出す。
「通称をヤマトレンジャーというがな」
いつ付いたんだ、そんな名前。と全員が思っていたのは言うまでもない。
「マイクのスイッチを入れろ!」
藤堂を放り出してリーダーが怒鳴った。
「そこのヤマトレンジャー!聞こえているか!」
画面の3人の動きが止まった。ヘルメットを見合わせ、黒服がカメラを見上げた。
「冗談は止めろ!人質がどうなってもいいのか!」
『やかましい!!』
守の怒鳴り声が響きわたった。
『それはこっちのセリフだ!部下の命が惜しければとっとと人質を解放しろ!』
完全に怒り爆発状態である。
『これ以上手間をかけさせるってのなら、貴様ら全員生きてこのビルから出られると思うな!』
「・・・切れてるね」
「切れない方がおかしいだろう?」
「とにかく人質は無視されるわけだ」
ひそひそ話が押さえきれない低い笑いを含んだ声で交わされている。そうしてそれを全く誤解するのが普通のテロリスト。
「な・・・なんて奴らだ!こうなったら目に物見せてくれる!」
「誰か殺すのか?」
のんきに聞き返したのが太田。
「連中の目の前でな!思い知るがいい!おい、そこのふたり連れてこい!」
指名されたのが澪と晶子だった。
「・・・それは止めた方がいいと思うぞ」
せっかくの忠告にも聞く耳もたない。
「うるさい!」
と出ていってしまった。
「父親ふたりにあの子が人質になるのか?」
「無理だね」
「さらに見境無くキレるのがオチだろう?」
「このビル最後まで保つかしらね」
言いつつ、一同の視線が再びじろじろと相原の方へ向けられてゆく。
当然、一番キツイのは藤堂司令長官の視線。
「室長」
うっの相原。
「い・・・いえ、しかし・・・ここで余計な・・・」
ぐさぐさと相原に突き刺さる視線のタバ。
「相原君」
「そんなこと言われ・・・」
「相原、あきらめろ」
後ろからポン、と肩を叩いた太田だった。
「俺達も協力してやるから」
「・・・ったくもう!」
覚悟を決めて相原が立ち上がる。
なんだ!と見張りが彼に気を取られた瞬間、まわりの連中に殴り倒されていた。
なんだかんだと言いつつもこの地球でここまで生き延びてきた軍人連中なのである。その程度の作戦には合図もいらない。
「じゃ、健闘を祈ってるぞ〜」
ほら、とテロリストの銃を渡されてしまった。
「ちくしょーーー!」
叫びながら相原も飛び出していった。
「晶子さーん!」
・・・それを見送り顔を見合わせた『元』人質達。
「で、どうする?」
「そーりゃ、面白そうだからもう少し高見の見物、決めこもーぜ」
犯人達を縛り上げながらの相談がまとまるのに30秒と必要ない。
「長官、よろしいですね?」
藤堂を振り仰ぐ一同。もちろん、部下の期待に答えないような彼ではない。
うむ、と重々しくうなずく藤堂である。
「忘れずにレコーダーを回しておくようにな」
「は!!」
・・・・いいのか、おい・・・
「ブラックとブルーとシルバーか。今イエローが行ったから・・・後はレッドとグリーンだな」
「そろそろ参加するだろ」
時計を見て太田が返事をした。
「なんで」
「古代参謀の弟と島さんの艦がもう着いてる時間だからな」
「あら、ピンクもいたでしょ?そっちは?」
「それは昨年同様澪ちゃんがやるだろ」
「動くな!こいつらを・・・」
最後まで言い終えないうちにヤマトブルーの怒りの声が被さってきた。
「ソニック・ブレード!」
振り下ろす左腕から発振された高周波がテロリストをかすめ、壁に大穴を開ける。
人質の澪は『だから言ったでしょ』と冷たい一言。
「あたしじゃ逆効果だって」
「貴様らー!人の娘に手ェ出しやがったなぁー!」
ヤマトブラックの怒りが衝撃波となる。
あまりにも相手が悪すぎた。こうなったらたとえ人質を持っていても逃げるしかない。
蒼くなってエレベーターに飛び込んだテロリストと人質だった。
「逃がすかぁ!」
「ブルー!どけ!!」
互いに名前は呼ばないようにしよう、という暗黙の約束。
「ブラックボンバー!」
エレベーターのドアが吹き飛ぶ。ダクトの中を上昇したエレベーターを追って3人が飛んだ。
行き着く先は当然、屋上。(テロリストと人質が)追いつめられるのに時間はいらない。
「死にたくなければ人質を放せ!」
・・・通常、正義の味方はこういうセリフを言ってはいけない。
「おまえらそれでも公僕かぁ〜〜〜!」
「誰のせいでこんな目にあってると思ってんのよ!」
「とっとと放せ!さもないと・・・」
ヤマトブラックの胸部がカパリと開き、メガスマッシャー砲が顔をみせた。
さすがにヤマトブルーがぎょっとして止めに入った。
「ば・・・よせ!」
既に遅い。
「ボルテッカー!」
ヤマトブラックの美声が轟くと同時にメガスマッシャー砲が最大出力で発射され、そのエネルギーの束はテロリストと人質をかすめると、見物していたヘリをはじき飛ばし、後ろのビルの上部五分の一をまともに吹き飛ばした。
もちろん、ひっくり返る生身のテロリストと人質。しかしすかさず澪と晶子が逃げにかかった。
「きさ・・・」
「シルバーシュート!」
ふたりにむけかけられた銃口をヤマトシルバーの電磁鞭が叩き落とす。銃と一緒にころころと転がったのは手榴弾。
当然、爆発。その勢いでふたりが飛ばされ、柵を越えてしまった。
「み・・・!」
「晶子さーん!」
どこにいたのかとっさに相原が飛び出してきて晶子を庇い、彼女に代わってころがり落ちてしまった。
「ブラック!彼女を頼む!シルバー、手伝え!」
ヤマトブルーが落ちたふたりを追ってダイブした。
「どーしてあたしなのよ!」
文句を言いながらもブルーを追ってシルバーが飛んだ。
「ヤツにジェットのコントロールができるか!地面に激突するのがオチだ!」
「落下なだけにシャレにならないわよ!」
「うまく拾えよ!みおーーー!」
「なんであたしが相原君なのよーー!」
スーパーマンよろしく澪をつかみ、抱き上げて軟着陸に成功したヤマトブルー。
その彼の顔をフェイスマスク越しに見て、澪は自分の予想が当たっていたことを知った。
「あ・・・え・・・?やっぱ・・・り!?」
「言うな!」
思わず澪の口を押さえてしまった。
「いーなー、あたしもやりたい」
首にしがみつかれてうっ。のヤマトブルー。
「ね、いいでしょ?」
まわりで光るはカメラのフラッシュ。ヤマトブルーにしっかりとしがみついて抱かれている澪。ドラマで言えば救出に成功したヒーローとその恋人だ。
「し、しかし危・・・」
「バラしてもいい?」
にっこり笑う澪に幼児教育をは大切である、とつくづく思い知った真田である。
で、その頃、隣でヤマトシルバーに抱かれている相原はというと・・・
「・・・なんでユキさんなんですよ」
「彼だったら別の意味でも写真取られると思うけどその方がよかった?」
相原の場合、どちらに抱かれていてもそれなりに絵になるから困るのである。
「さ、戻るわよ。しっかり働きましょうね」
言われてぎく。
「って・・・まさかぼくも・・・」
「責任の半分は相原君でしょう〜〜〜」
にっこり笑って喉に腕を回すヤマトシルバー。だが相原の目にはその背後に『諸悪の根元は誰だが忘れたのぉ〜?』というどす黒いオーラが全開しているのが見えたのである。
「当然、よね」
もちろんこの状態で相原如きが抵抗できる訳はない。
「・・・はい」
そんなやり取りを知ってか知らず・・・なわけはないのだが、素知らぬ振りをしたままのヤマトブルーがふたりに怒鳴った。
「戻るぞ!」
「はい!」
楽しそうな澪と泣き出しそうな相原の声がヤマトシルバーの声に重なった。
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ヤマトレンジャー *後編* by亜瑠
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さて、屋上に残っていたヤマトブラックは、といえば・・・
どさくさに紛れてテロリストのリーダーがいなくなったのを確認した晶子に大笑いされていた。
「そこまで笑うことないだろう!」
「だ・・・だって!あんまり似合いすぎて!」
顔を真っ赤にして息を切らせてケタケタと笑う。
そこへ降りてきた小型のVTOL。出てきたふたりは当然進と島。
い、となって固まった進に・、となる守。その守を平然と上から下まで眺めている島。
「なるほど。やっぱりヤマトブラックは古代参謀の役ですもんね」
島がなぜ弟の親友でいられるのか、つくづく納得した守だった。ホント、島の根性は真田そっくりだと思い知る。多少の非常識にはヘとも動じない、この図太さ。これがなければ弟と五分で付き合ってなどいられないだろう。
ではその島そっくりの根性をした真田と10年以上付き合っていられる自分の根性はどうなのかという問題は認識の外に置いたままの守でもあるのだが。
しかし、こうなると口封じのためにも巻き込むのが一番。
「進、許してくれ」
言ったと同時に弟の腕にカチャリとバトルギアをはめ込む守だった。
「な・・・なんだよ!これ!兄さん!」
昨年の司令部忘年会には出席していない進にはわけがわからない。
「うるさい!島、おまえもだ!」
そこへ地上から4人が戻ってきた。
「あ、進オジサマだ。おかえりなさーい」
「え・・・ユキ!?」
「名前を呼ばないでよ!」
真田がため息をついた。
「7つ全部使うのか・・・知らんぞ。どうなっても」
「おまえがそれを言うか!」
「だいたい作ったの真田さんでしょう!?」
「注文したヤツに言われたくない!」
「どうでもいいわよ!こうなったらさっさと終わらすのが一番でしょ!」
そして加わったヤマトピンクにヤマトイエロー、ヤマトレッドにヤマトグリーン。
開き直った3人とキャッキャと楽しんでいるひとりと、泣きたいのがひとりと、まだ状況を飲み込めていないひとりと、あきれながらも付き合っているひとりと・・・
司令部ビル内部で盛大な白兵戦が始まった。
「おい、やっぱり7人に増えたぞ」
声にどれどれと手元のモニターをのぞきこんだ司令部の『元』人質達。(ちなみにテロリストの残骸は縛り上げられて部屋の片隅にほっぽり出されている)
「正面に出せよ。見えねーぞ」
誰かの要求に誰かが正面大スクリーンに映し出したのはヤマトレンジャー7人の勇姿。
「・・・誰のシュミだよ」
「なんか文句でも?」
「セーラー服着るような年じゃないだろ?」
ヤマトピンクの着ているのはミニスカートのセーラー服だった。
ヘッドセット付きの大きなサングラスで顔を半分隠してはいるが、ロングの金髪と脚線を見れば正体はバレバレ。
「別にいいじゃん。目の保養になるしさ」
「あんなんで戦闘して玉のお肌に傷が付いたらどうすんのよ」
言ってる間にアンドロイドを蹴り飛ばし、その頭を壁に叩き付けているヤマトピンク。
「デザインしたのは相原でも設計と制作は真田さんだぞ。透明のハードプロテクターになってるだろうさ」
「さもなきゃユキさん・・・じゃない、シルバーもあんな力出せるはずないだろ」
切り裂き、蹴り飛ばし、殴り倒して爆発させる。小型ミサイルが乱舞し、レーザーが次々に撃ち抜く。高周波ブレードが壁ごと粉々に砕いてゆく様はいっそ壮観である。
・・・あとの修理費用を考えなければ、であるが。
なにがなんだかわからないうちに反撃され、めたくたにされて追いつめられてしまったのはテロリスト達。
しかも敵は3人しかいなかったはずなのにいつの間にか7人にも増えている。
「あきらめておとなしく投降しろ!そうすれば命だけは助けてやる!」
だから正義の味方はそういうセリフは言わない方が・・・
しかし、テロリスト達は知らなかった。この時点ではヤケを起こしているとはいえ、まだ魔王は目覚めていなかったのだということを。
太陽系最強の秘密兵器はまだ発動していなかったのだと・・・
「う、うるさい!俺達の本当の実力を思い知らせてやる!!」
いきなり警報がビル内に響きわたった。
『所属不明の戦闘艦が多数本部に向け接近中!総員警戒態勢!』
なんだ!?と7人に一瞬緊張が走る。
「このビルごと吹き飛ばしてやる!最後に笑うのは俺達だ!!」
まだ叫んでいたヤツを張り倒して窓に駆け寄り、外を見た真田はそのまま窓枠に頭をぶつけてうめいてしまった。
その後ろから外を見た守が肩を落とし、なだめるようにうめいている真田の背をぽん、と叩いた。
「・・・気持ちは、わかるぞ」
「ぜ・・・絶対に、絶対に許さーーーーん!!」
両手を握りしめて真田が叫んだ。
「科学技術を馬鹿にしてるのかーーー!!」
・・・『空飛ぶレゴブロック』の編隊、では真田に怒るなというのが間違いである。彼の美意識では絶対に許せる存在ではない。
その怒りが、ついに太陽系最強の秘密兵器を覚醒させてしまった。
『照準波確認!主砲発射態勢に入っています!』
太田の声だった。
「先端技術の本当の美しさを見せてやる!」
「ま、まて!」
キレたのを知って守があわてて真田を止めにかかった。
「落ち着け、な!?」
「あんな物に空飛ばれて許してたまるか!」
「そんなことより攻撃を防ぐのが先だろう!?」
「んなもんおまえら3人で十分だ!行って受けとめてこい!」
真田に指差されて当然ビビったのは進と島と相原。
「う・・・受け止めって・・・あれ宇宙・・・」
「A・Tフィールドを全開にすれば波動砲の直撃以外は防げる!」
げ!の6人。
「本当に・・・?」
「俺の作ったスーツを信じろ!とっとと行け!」
キレた真田に逆らうのと、正体不明のレゴブロックの攻撃を受けとめるのと、どちらを選ぶか、になるとこの連中では当然、
「い、行きます!」
にしかならない。
3人が飛んでいったのを見送りもせず、真田が手近な通信端末に駆け寄る。思った通り外部との通信は生き返っていた。
「第三ドック!こちら真田!」
『こちら第三ドック!『まほろば』発進準備は完了しています!』
すぐに返事が返ってきた。
『で、発進か?転送か?』
割り込んできた声は山崎のもの。
『どうせ使うと思って準備は終わっているぞ』
「転送だ!司令部真上によこしてくれ!」
『了解!』
フェイスマスクの下で守が青を通り越して白くなってしまった。
『攻撃が始まりました!』
空気が鳴った。
「ひ・・・!」
声にならない、ついでに色気もない男の悲鳴と共にビルの前面に虹色の光が広がる。
それに正面から当たった衝撃波が拡散され、跳ね返されている。実弾がぶつかって爆発するが本部ビルへは被害がない。
しかしその分、まわりのビルが被害甚大。
「・・・って本当にはじいてる・・・」
義父のトンデモなさを思い知っていると思っていた澪までが茫然。
「・・・で、転送っていうのは・・・?」
「科学局特務部、この夏の新作、瞬間物質移送機・地球バージョンだ!」
恐る恐る訊いたユキにきっぱり答えた真田。もちろんその横では守が恐怖に引きつっている。
「まて!真田!まだテストもしてないんだぞ!!」
「今すればいいだけだ!」
「やめてくれ〜〜〜!」
守の叫びももう遅い。
司令部ビルの真上にプラズマの放電が走った。
野次馬達のあっけと茫然の視線に見守られながら超機動戦艦『まほろば』が出現した。
「乗り込むぞ!」
「頼むから正気に返ってくれ〜〜〜」
真田に襟首ひっつかまれて飛び出されながら守が泣き叫んだ。
途中でシールドを張っていた3人も合流してくる。
「あれ『まほろば』ですよね?」
わくわくした島の声。
「そうとも。しかも完全体だ」
「じゃ、『あれ』、できるんですね!?やってもいいんですね!?」
「もちろんだ!」
「いやっほー!」
大はしゃぎする島というのもそう滅多に見られるモノではナイ。
レゴブロックとは対称的なまでの優雅さを持って浮かぶ『まほろば』。
廃艦となり、スクラップになる運命だったのを『実験用』として科学局特務部が譲り受け、真田と山崎以下の特務部の全能力を投入したシュミ丸出しの改造を受け、その名にふさわしい能力と真田の美意識を満足させるだけの外見を持って甦ったフネ。
「なんで『まほろば』なの?」
ユキが訊くと首根っこ捕まれたままの守がため息と共に答えた。
「目撃者全てが『あれは幻だ!』と思いたくなるようなフネだからだ」
「・・・それでどうして島クンがあんなにはしゃぐんです?」
「島は・・・真田の精神的な兄弟だ」
「・・・わかりました」
7人が『まほろば』へと入った。
艦橋では山崎が待っていた。
「よう。戦闘準備はできているぞ」
メンツがメンツなので持ち場は何も言わなくても決まっている。
通りすがりの島に笑って声をかける山崎。
「もちろん、『あれ』もな」
「機関長!!」
思わず山崎の手を握りしめてしまった島である。
艦長席に着いた守は真田が何か言い出す前に弟に命じた。
「進!主砲発射用意!」
「了解!・・・って兄さん!こんなところで砲撃戦なんか・・・」
反射的に了解してから我に返る進。大都市の真上でそんなヤバイことを、と。
ところが守はひるまない。そんなものより自分の人格を守るのが先決だ。砲撃戦でカタを着けてしまわなければ真田が最終兵器を発動してしまうではないか。そうなったら自分の人格まで疑われてしまう。
「それが最良の手段なんだ!撃て!進!」
「り、了解!島、艦首を連中に向けろ!」
なにがなんだかわかっていないながらも、兄貴の迫力に負けて進が命令に従うと、その隣では島が目をギラつかせて笑っていた。
「レゴブロックが攻撃を再開しました!」
ユキの報告とほぼ同時に振動が伝わってきた。
「直撃・・・!」
「あんなもので壊れるほどヤワな造りはしていない!気にするな!」
すかさず真田の声。
「照準・・・発射!」
地球連邦の首都、しかも防衛軍本部真上で宇宙戦艦同士の砲撃戦が始まった。
はっきり言って、巨大な迷惑である。
レゴブロックはともかく、『まほろば』は砲撃距離が4桁違う。
主砲発射の衝撃波の余波が半径5キロのガラスをことごとく粉砕した。
直下あったエアカーや小物体など、原型を留めていない。
都市の上で主砲を撃つのはガミラス本星の決戦以来である。その威力に撃った進も茫然。
「・・・続けて・・・いいのか・・・?」
「・・・あの・・・ものすごい被害が地上に出ていますけど・・・」
澪の、とても控えめな報告を気に止めようともしないのが制作責任者のマッドサイエンティスト。
「かまわん!古代!続けろ!」
誰かと言えばもちろん進に怒鳴る真田志郎。
「今さら後悔しても遅い!」
そういう問題でもないような気が・・・
「進、撃て!」
守も怒鳴る。ここまで来てしまった以上、もうまわりの被害など気にしていられない。最々悪の状況になる前になんとしても連中を完全に葬り去ってしまわなければならないと彼も必死だった。
「ど、どうなっても知りませんからね!」
兄貴はともかくまだキレている真田に逆らう勇気は進にはない。
当たり所が良ければ反対側まで突き抜けて一気に爆発、悪ければド突き飛ばされて墜落、爆発、というどちらになってもちょっと生き残るのは難しい攻撃を受けてレゴブロックの編隊が当然ビビった。
そうするともちろん、逃げにかかったのだががそれを許すほど今の島はやさしくなかった。
「この俺様の腕から逃げられる気か!甘いわ!」
まわりのレゴブロックが蹴散らされ、母艦が残った頃には地上もしっかり火の海。
「・・・司令部から通信が入っています」
相原が言い終えないうちに藤堂の怒鳴り声が飛び込んできた。
『この馬鹿者!本部まで壊す気か!戦闘なら大気圏外でしろ!』
「・・・だそうです」
・・・艦橋の底の底から低く、不気味な笑い声が響いてきた。
しかも、二重奏で。
「そーか、そーか。ならば望み通り連中共々大気圏外に行ってやるとも・・・」
「えーえ。なら期待に応えてやろうじゃないですか・・・」
悪魔も尻尾をまいて逃げ出す、と言われるブチ切れモードの真田と、その真田にさえ止められない、と伝えられる理性ポイ捨てモードの島の声だった。
「よ、よせ!真田!それだけはやめてくれ〜〜!」
白を通り越してとーめーになりつつある守が必死で止めにかかった。
「科学者が物理法則を捨てるんじゃない〜〜!!」
だがもう遅い。
「うるさい!天才の俺に不可能はなーい!島、トランスフォームだ!!」
仁王立ちで命令する真田と操縦桿を握る島を止められる者はいなかった。
「了解!超機動戦艦『まほろば』トランスフォーム!!」
島の左手がスイッチを思い切り叩いた。
非常ベルが鳴り響き、同時に艦橋が90度回転を始めた。それにあわせて『まほろば』がゆっくりと直立してゆく。
コントロールが切り替わり出す。床から出た出入力センサーが島のプロテクトギアに接続してゆく。
艦内表示が次々に変化する様子を示してゆく。
全体像を把握しているのは真田と島、そして澪と山崎の4人と、この事実を必死に忘れようと努力してきた守だけだった。
「な・・・何が!」
進や相原がビビっている間に全てのランプがグリーンに変わった。
「トランスフォーム、完了!」
「『まほろば』機動態勢、オールグリーン!」
外で見ていた野次馬と被害者と敵が茫然としたのは言うまでもない。
ついさっきまで宇宙戦艦だったモノが完全な人型となり、ファイティングポーズを取っているのだ。
正気で対応できる方がどうかしている。
「島、ヤツをひっ捕まえろ!そのまま月面に運んでモニュメントにしてくれる!」
「了解!」
目を閉じ、頭を抱え、見ざる聞かざる我関せずの守を無視して仕切る真田。
「エネルギー充填は完了しているぞ!ワープでも波動砲でもドンとこい!」
狂喜乱舞状態の島にハッパをかける山崎。
「よっしゃぁ!!全員何かに捕まってろよ!」
「お・・・おい!島!」
ようやく我に返った進があわてて島を止めようとした時には『巨大ロボット・まほろば』は敵艦にむかって飛んでいた。
「古代!俺は、俺はなぁ一度でいいから巨大ロボットを操縦したかったんだ!それが子供の頃からの夢だったんだ!!」
砲撃を回避し、敵の下へ回り込むと両腕でがっちりと艦体をつかむ。
「エンジン全開!一気にいくぞー!」
「やめろ〜〜!都市をクレーターにする気かー!」
古代守、必死の抵抗も太陽系の秘密兵器には通じなかった。
「そんな無駄なエネルギーをこの『まほろば』が使うか!機関長!反重力スラスター始動!島!高機動モードに切り替えろ!」
「「了解!!」」
指揮権は既に真田にあった。
「翔べぇ!!『まほろば』!!」
『まほろば』が白い光に包まれ、母艦をつかんだまま上昇を開始した。
「・・・い・・・今のはなんだったんだ・・・」
茫然とそれを地上から見送った一般人。
さすがの防衛軍司令部でも今の事態をそのまま認めるのは非常な努力が必要だった。
「忘れよう。今の5分は見なかったことにしよう」
最初にきっぱり言い切ったのは南部だった。
「しかし・・・」
「じゃ何か?宇宙戦艦がいきなり変形してロボットになりました、なんておまえは信じられるのか!?」
フツーは信じたくない。普通でなくてもできれば信じたくないはずだ。
「俺は見てない!何も見ていない!あれは幻だ!」
叫ぶ南部の隣で太田がうんうん、とうなずいていた。
「その方が精神衛生上、一番だもんなぁ・・・」
ファンタジストよりもリアリストの方が世渡りをするのは楽である。
ヤマトに乗っていて、あの真田率いる工作班と1年に近い日々を共に過ごしてきた彼らにとってはそれが最も自分の精神を守るに適していることなのだと思い知らされていたのだから。
こうして、『首都上空戦』ラスト5分は『存在しない時間』となったのであった。
正体不明の未確認物体が地上から発進して急速に月面に接近中、との報告を受けてスクランブルをかけられたのは月面の航空団所属の戦闘機部隊だった。
コスモタイガーの編隊を率いて飛び出した加藤と山本はその物体を視認したとたん、我が目を疑った。
「・・・加藤、あれ、何に見える・・・?」
「それを、俺に訊くのか?」
巨大なレゴブロック型の戦艦は美しくないがまだ許せる。
だがそいつを取り押さえて飛んでいるのは更に巨大なロボットなのだ。そいつがそのまま地上から飛び出してきた、など戦闘機乗りの彼らでは信じたくない。
「・・・悪い、俺気分が悪くなったんで先帰るわ」
「逃げるな!山本!!」
「それで・・・あの、隊長、我々はどうしたらいいんでしょう・・・?」
部下に訊かれてたところでいくら加藤でもどうしたものだかすぐには返事ができない。
月の重力圏内に堂々と進入してくる巨大ロボットとそいつがかかえている宇宙艦。しかしモノがモノだけにさすがに歴戦の勇士である加藤と山本も攻撃していいものだか触らぬ神に祟りナシ、だか対処しかねる。
迷いつつも見守るうちにそのロボットが両腕を振り上げ、つかんでいたレゴブロックを思い切り月面に叩きつけた。
そしてそれにニードロップを喰らわせたのだ。
さらに蹴りつけ、殴りかかり、装甲を引きちぎる。
こうなるともう茫然と見守るしかないのが普通の戦闘機の一同。
「・・・これは・・・夢か?幻か・・・?」
「記録が残っていないことを祈るぞ、俺は・・・」
・・・30分後、月面航空団よりの報告が司令部に届いた。
『巨大ロボットが宇宙戦艦に殴る蹴るの暴行を加えているのですが・・・』
「近寄るなと命じろ」
藤堂が端的に命じた。
「それは幻覚なのだからな」
あっさりと言い切った彼に参謀のひとりが紙切れを片手に近寄った。
「長官、民間から損害賠償の請求が届きだしておりますが・・・」
「我々が何かしたかね?」
タヌキ親父モードに入っている藤堂がぬけぬけと答えた。その背後に太いシッポが見え隠れしているように感じたのは参謀だけではなかったはずである。
「あれはわが軍のものではないと思うが」
「い・・・え。それは・・・しかし・・・」
「あのような兵器は軍に登録されておらん。我々のあずかり知らぬ一件だ」
真顔である。
「今回は我々も被害者だ。連中が何者なのか我々は知らん。そうではないかね?」
「・・・そんな・・・」
「そうですね。一体何者でしょうね。こんなに被害をまき散らして」
うろたえている参謀に代わって平然と答えたのは南部だった。
「まったく、真田局長や古代参謀がいたらこんな事放っておかなかったでしょうに」
「そうだな。間の悪い時に起きたものだ」
後日談。
予算案を片手に守が藤堂の元へ駆け込んで行ったとき、部屋の中にいた秘書官は晶子だけだった。
「長官!なんですか!これは!」
「どうかしたのかね?」
平然としている藤堂。
「来年度の科学局の予算申請を丸飲みとはどういうことです!?これ以上あいつらに・・・!」
「古代」
静かに遮った藤堂。
「沢山の金と沢山の命令で新規開発に熱中させておくのと、ぎりぎりまで予算を絞ってストレスを溜めさせたあげくに爆発されるのと、どちらが安全だと思うのかね?」
晶子が肩をすくめ、言葉に詰まった守を見ている。
「・・・あの連中には逆らうな。あれなら悪魔の方がまだマシだ」
「し、しかし。ですが他の部署からの不満が・・・」
「その心配はない。連中には自力で予算分を稼いでもらう予定だ」
藤堂がにやりと笑って守を見上げていた。
「は?」
「例のバトルギアだ。あれを使ってテレビドラマを作りたいという企画が既にいくつも来ている。一番高値をつけたところにキャスト付きで売り飛ばす予定だ」
そう返事を返されて守も笑った。
「そういうことなら、確かに。・・・?え?キャスト付き?」
そこはかとない不安が守の認識の片隅を駆け抜けた。何かもの凄く重大なことを忘れている気がする、と。
その守に背を向けるように藤堂がくるりとイスごと背後の窓に向き直った。
「あれでドラマを作れるというのだから地球人の想像力はたいしたものだな。そうするとやはり協力する軍としても主役級には見栄えの良い者を派遣するべきだとは思わんかね?」
・・・真田が魔王なら藤堂はウルトラタヌキだ、と古代守が思い知ったのはこの数日後である。
自分も一緒に出向してドラマの主役にさせられる、と知らされた時だった・・・
とりあえず・完
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