ミソ汁のための死闘
亜瑠
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ミソ汁のための死闘 *その1*   by亜瑠
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古代守は努力した。
愛する妻だからこそ、我慢に辛抱を重ね、笑顔でスターシャの努力を誉め続けてきた。
しかし、その彼の忍耐力もついに底をついてしまったのだった。
土曜日の午前。とっくに高く昇っている太陽を無視してベッドに同化したままだった真田志郎を叩き起こしたのは買い物袋を抱えた妻子持ちの親友だった。
「真田!起きろ!起きてくれ!」
「・・・俺の体内時計はまだ夜中だ・・・」
「寝ぼけてないで起きてくれ!頼む!俺のために味噌汁を作ってくれぇ〜〜!!」
意識の覚醒と同時に繰り出された真田の渾身の一撃を古代は避けた。それほどに古代も必死だった。
「朝っぱらから何不毛なこと言ってんだ!」
「もう昼だ!・・・じゃない!冗談でンなこと言えるか!材料は揃えてきた!頼むから作ってくれ!」
必死の形相の古代にさすがの真田も一瞬呑まれかけたが、そこは付き合いの長さ。
「頼むって・・・そもそも頼む相手が違うだろうが。幕の内のところへ行けばいくらでも・・・」
「あいつは土方司令に拉致られて今タイタンだ!もはや頼めるのはおまえしかいないんだ!」
ベッドの上で馬乗りされてそのまま押し倒さんばかりの勢いでの依頼に結局迫力負けしてしまった真田だった。
だー、もう、なんだってんだ、とブツブツ言いつつ顔だけ洗って出てきた真田の前に調理される時を待ちかねている原材料が並べられていた。
「テキストは?」
当然すぐさま差し出されたそれをフムフムと読むこと3分。真田は鍋を取り上げて水を入れた。
15分後。
テーブルについて待ちかまえている古代守の前に一杯の味噌汁が置かれたのであった。
そっと手に取り、古代は沈黙したまま中味を見つめ、香りを楽しんだ。
それから静かに小さく息を吐いて一口飲み、具の豆腐を口へと運んだ。
・・・そのままぽろぽろと涙を流して泣き出してしまった古代に真田がのけぞって驚いてイスの背にしがみついてしまったのだった。
「な・・・なんだ!?どうした!?テキスト通り作ったぞ!?」
「違う!これは・・・これは嬉し涙だ!」
それだけ叫ぶように言うと泣きながら古代は味噌汁をむさぼるように食ったのだった。
のけぞってイスの背にしがみついたままあっけにとられていた真田だったが、おかわりを要求されてようやく我に返り、鍋からもう一杯注いできた。
それを瞬く間に飲み干し、要求した3杯目をじっくりと味わってからようやく古代は大きく息をついて肩を落とし、涙を拭ったのだった。
「・・・ありがとう」
「礼はどうでもいいが・・・なんなんだ、いったい」
まだ驚きが抜けきっていない真田が思いだしたように立ち上がり珈琲を淹れつつ尋ねた。
「・・・つまりだな、俺の最愛の妻であるスターシャはイスカンダル人で女王陛下だったんだ」
「今さらナニ言ってる」
「料理なんかしたことはないし、当然のことながら日本食なんて見たことさえなかった」
「あたりまえだろーが」
「だから、我慢した。スターシャが慣れない手で作ってくれていると思えば多少の味のズレも愛おしかったし美味いとも思えた」
「愛妻の手料理だからな。新婚のうちから文句なんかつけてたら捨てられるだけだぞ」
「しかし、しかしだ!ここに至ってなお!一度としてまともな味噌汁を作ってくれたことがないんだ!」
真田が黙ってカプチーノを飲み込んだ。
「耐えたとも!いつかは、明日こそは普通の味噌汁を作ってくれると信じて!スターシャの努力に俺も応えようと粘りに粘ったさ!それが、それが今になっても、今日になってもミソ風味の正体不明なスープなんだ!いくら軍用レーションで味覚のマヒした俺だとてこれ以上は耐えられなかったんだ!!」
悲痛さを伴った古代守の魂の叫びであった。
が、真田は自分の感じているメマイが大声によるものなのか、叫びの内容によるものなのか、単なる寝不足のせいなのか、判断に悩んでいた。
二杯目をエスプレッソにして自分と古代の前に置きつつ、真田は問い返した。
「で、古代、ひとつ訊くが『自分で作る』という選択肢はどこへ忘れてきたんだ?」
「どこで作れと言うんだ?今になって俺がスターシャに作れると思うか?そんな彼女を悲しませるようなマネができるわけないだろう!」
「そーいうものな・・・らしいな」
古代の表情に真田も肯くしかなかった。
「それに何より、この俺にまともな味噌汁が作れると『おまえが』信じられるのか?」
男ふたりの視線が食卓の上で絡み合い、わずかな時間沈黙が室内を支配した。
「・・・悪かった。忘れてくれ」
「うむ」
なみなみとエスプレッソの入ったマグカップを空にすることにふたりがしばし勤しんだのだった。
「しかしだな、味噌汁だぞ?俺でさえ食えるモノに仕上げられるんだからいくら多少ズレてると・・・」
「その言葉を待っていたよ、志郎君」
フッフッフとヤケ顔で笑いながら古代が言った。
「今夜、我が親友たる君を夕食に招待しよう。スターシャがこの一年で習い憶えた手料理の数々を振る舞ってあげよう」
その一瞬、真田の背筋を冷たい悪寒が突っ走って抜けていった。
危険だ、と鍛え抜かれた危機感知能力が告げている。絶対に近寄らない方が身のためだ、と。
「いや、そんな・・・」
「遠慮の必要はないぞ。いまだ独身の君のために『ごく当たり前な』家庭料理でもてなしてやるからぜひ来てくれたまえ」
少なくとも生命の危険はないはずだ。目の前で笑っている親友の姿に必死でそう思いこもうとする。
こいつがまだ生きて、しかも健康体なのだから、解毒剤等の必要はないはずだと。
「わかった・・・何時に行けばいい?」
「19時に。楽しみにしてくれたまえ。・・・あ、来る前に胃薬飲んどくのを忘れんようにな」
ほのかな絶望感が室内をよぎっていった・・・
もちろんスターシャは張り切った。
覚えたての地球の料理だけでなくイスカンダル風の料理も夫に手伝わせてせっせと作った。
そして真田は時間きっちりに姿を見せた。
ほんのわずか青ざめた顔で親友の妻に花束と親友本人のために一升瓶をぶら下げて。
「いらっしゃい。お待ちしてましたわ」
極上の笑顔で迎えられ、思わず見とれてしまった真田だったが、その背後で極悪な笑顔を見せている男の視線に気付いて我に返った。
「お、おじゃまします」
「さぁどうぞ」
「やぁやぁ志郎君、よく来てくれたねぇ」
「やめんか。おまえがやっても似合わん」
「なんだよ」
「いかにも何か企んでるぞってのが丸出しなんだよ」
ほれ、と一升瓶を放られて古代が笑ってしまった。
「で、奥方にはこちらを」
色鮮やかで豪華な花束を差し出されてスターシャがさらに嬉しそうな顔になった。
「まぁありがとう。さ、お料理が冷める前にどうぞ」
テーブルの上にはもう料理が並べられていた。
一見、ごく当たり前で美味そうな品々である。だがしかし『胃薬を飲んでおけ』と言った親友の一言から予測するにどれかは地球人の味覚の理解を超えた味なのだろうと思うしかない。
問題はそれがどれであるのか、口に入れてみるまでわからないというところなのだ。
「逃げずに来たな」
「女王陛下に恨まれたくなかったからな」
「友情はどこへ落としてきた」
「昨日、未開発エリアに行ったとき、溶鉱炉の中へ捨ててきた」
和やかに、穏やかに笑いが広がる。
先にテーブルについた男ふたりにクスクス笑っているスターシャが最後の品を運んできた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
味噌汁の椀だった。受け取って中味を見た真田が一瞬強ばり、動きを止めた。
「あの・・・何か?」
気付かれた、と知って真田が無理に困った顔を作った。
「いえ・・・これを見た瞬間、気付いてしまったんですよ」
「なにに」
「女王陛下の手料理を御馳走になったとバレたら生きて月曜を迎えられないかもしれないということに」
「こらこら、夫の前で人妻を口説くな!」
「『美人を見たらまず口説け』ってのは誰の口癖だ?」
「何年前の話だ!」
笑いで誤魔化しながらも真田は絶望を隠すのに必死だった。
これは、何だ?
これが、食えるのか?
これを、美味そうな顔で飲み干すことが自分にはできるのか?
これを食って自分は生きて明日を迎えられるのだろうか・・・
「さて、せっかく持ってきてくれた酒だ。乾杯しようか」
親友の絶望感を薄々感じながら古代が言った。
死にはしないさ。
俺はもっと酷い頃から毎日のように食ってきて、まだ生きているんだからな・・・
「明日もお休みなのですから、お泊まりになっていけばよろしいのに」
スターシャの誘いを真田は笑顔で遠慮した。
「いえ、それはこいつの次の出張の夜に取っておきます」
「待て待て待て!それだけは許さんぞ!」
当然古代が待ったをかけたが真田は平然。
「何を言う。こんな美人に独り寝の寂しい夜を過ごさせられるわけがないだろう」
「それはたしかに事実だが、それでなんでおまえなんだ!」
「なら土方司令とか山崎さんに頼むか?」
「・・・・ベッドと寝室が別ならおまえでいい」
「あら、やはり殿方とは同じベッドで寝ないとつまらないでしょ?」
スターシャがさくっと言って返し、大笑いが広がった。
『下まで送ってくる』と古代は真田と玄関を出たのだった。
沈黙がふたりの間に横たわる。何を、どう切り出すべきなのか、真田もためらっていた。
エントランスを離れ、周囲に人影も気配もないことを確かめてから真田は脚を止め、まっすぐに古代を見た。
「古代・・・俺が悪かった。許してくれ」
「真田・・・わかってくれたのか!」
うなずいた真田の手を古代は思わず握りしめた。
「おまえがアレに耐えていたことに俺は気づけなかった。・・・おまえの愛の深さがよくわかたよ・・・」
「わかって・・・理解してくれただけで俺は嬉しい・・・」
涙目になりつつ古代が真田を見つめ返す。
「アレに耐えていたんだな・・・この1年・・・」
「おまえだけだ・・・やはりおまえだけが俺のことをわかってくれた・・・それが、嬉しい」
「古代・・・」
たしかにあれは決して味噌汁などではなかった。それは見た瞬間に悟らざるを得なかった。
立ち上るほのかな味噌の香りに紛れているウスターソースの香りとほんのり白く軽く泡だっている水面に浮き沈みしていたアメリカンチェリーとブルーチーズ。
こんなものに古代は耐えてきたのかと思った時、真田は自分は他人を愛せないとも知った。
これを毎日飲まされるくらいなら一生軍の野戦用レーションでもいいと。
「せめて・・・おまえのためにもう少しまともな味噌汁を作れるよう俺も努力しよう」
「・・・いいのか?」
「ああ・・・そんなことしか俺にはできないからな・・・」
「真田ぁ!」
感極まって真田をがしっと抱きしめてしまった古代であった・・・
我に返ってから山ほど後悔もしたが、約束したからには極めてみたいのが総合科学者のサガである。
だがテキストを読んだだけでは当たり前の物にしかならないことはわかるし、かといって本職に弟子入りしてられるほど暇でもない。
だからといってユキに頼むのは・・・十分な自殺行為だしな、と考えること二日。
司令部内を歩いていた真田は首から上をコルセットと包帯でぐるぐる巻きにされた、見覚えのある後ろ姿を発見したのだった。
「幕の内?どーした?その頭」
同期の幕の内勉だった。
「土方さんに拉致られてたんじゃなかったのか?」
「・・・おかげで死にかけたわい」
包帯越しにモゴモゴとした声が戻る。首を傾げながらも見つけた以上はこいつを巻き込もうと決めた真田だった。
「何か知らんがちょいと頼みがあるんだ。時間があるなら茶でも飲まないか?」
「・・・おまえが、俺に、だと?」
ズリリと幕の内の身体が30センチ後退した。
「なんだその反応は。安心しろ、新開発した毒の味見をしろってわけじゃない」
がっしと肩をひっつかみ、逃がすものかと真田は幕の内を引っ張っていった。
訓練学校の同期である幕の内は軍に入ってから炊事科一筋、の男だった。
本来調理師志望だったらしいのだが時代に巻き込まれ、気付いたら軍人になりかけていた時にその腕を見込まれて地球上で飯炊きの日々を送っていたが故に生き残ってしまった男である。
その分、味覚破壊の進行をくい止める必要がなかったので料理の味付けの能力もたしかだった。
こいつがなぜか真田・古代と仲がよかった。
数少ない生き残りの同期、という以前からごくフツーの顔でダベって酒の飲める仲だったのだ。
真田と古代が親友というのも十分謎扱いされたが、それに幕の内が連む、というと大抵の連中は信じなかったくらいなのだ。
実際のところ『なぜこいつと友人なんだろう?』と双方が双方に対して疑問を持ちつつ『まぁいいか』で終わらせているというのが現状なのであるが。
真田が幕の内を引っ張り込んだのは参謀長・古代守の執務室だった。
「いいのか?」
「あいつがこの時間にいるはずがないだろ」
「それもそうだな」
司令室で美人なオペレーター口説いてるに決まってるよな、と素直に納得した幕の内だった。
勝手に珈琲を入れて飲みつつ真田が訊いた。
「しかし・・・土方司令に拉致られてどーしてそうなったんだ?」
あの人を本気で怒らせたら首と胴が分離しているだろうということがわかっているのでこの中途半端な状態が不可解だった。
「・・・怒ったのは司令じゃなくて副司令の方だ」
「は?」
「なんでも司令が賭に負けてタイタンで古橋の誕生パーティすることになったらしいんだ。んで俺がその手伝いのために拉致られて料理とケーキ作ったんだが・・・」
理由を悟ってしまった真田だった。
「おまえ、馬鹿正直に自分の歳と同じ数のローソク立てたんだろ」
「あいつだって同期だろうが。。不当表示など俺のプライドが許さん」
やっぱり、と真田はため息ひとつ。
「で、シャンペンで乾杯した直後にビール瓶が額を直撃したと」
「よくわかったな」
「わからいでか。・・・まぁいいが・・・あのな、古橋のヤツ、たしかに同期は同期だが一年飛び級してるんで歳自体は俺らよりひとつ下だって知らなかったのか?」
温かい珈琲を飲みつつ幕の内が凍り付いた。
「あれでも一応女だからな。年齢の上乗せ不当表示でその程度で済んだことに感謝しろよ」
凍り付いたままの幕の内に対してそれほどの哀れみを感じることもなく、それでな、と真田は話を続けた。
「俺の頼みなんだが・・・」
「あ、あぁ、そうだな。なんだ?」
「美味い味噌汁の作り方をレクチャーしてくれ」
幕の内の時間が静止した。
「そこで停滞空間に入るな」
予想できた反応でしかないので真田も動じない。
「・・・なんだって?」
「だから、美味い味噌汁の作り方をレクチャーしてくれ」
繰り返された言葉に幕の内は大きく息をついて強引に自分を正気に戻した。
「そうか・・・おまえもとうとう嫁に行く覚悟を決めたのか」
「その首のコルセット、ギプスに変えられたいようだな」
3ヶ月ほど全身不随で入院してみるか?ダイエットにいいぞ、とにっこり笑って見せられて持っていた紙コップの珈琲まで冷え切ったようだった。
「・・・で、いつから」
「今日からでも」
てなわけで幕の内は真田志郎科学局局長に味噌汁の作り方を教えることになったのだった。
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ミソ汁のための死闘 *その2*   by亜瑠
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その夜、真田の官舎を訪れた幕の内はなぜか米と卵までも持っていた。
卵はともかくなぜ米、と首をひねった真田にふっふっふと幕の内が笑ってみせた。
「美味い味噌汁、それは単品では成立しないのだ。美味い飯があってこそ互いを引き立て旨味も増す。古来よりの伝統に従えばアジの開きかシャケの切り身が欲しいところだか、さすがにそこまでの贅沢は不可能。よって今回は卵焼きで代用する」
なぜそうなるのかよくわからないが、本職が言うのだからそうなのだろう、と真田は素直にうなずいた。
なにせ彼の人生において食事とは生命活動維持のためのエネルギー補給の意味しか持たなかった期間があまりにも長すぎたのだ。
「では米の研ぎ方から始めようか」
「洗ってあるのじゃダメなのか?」
「ぶぁかモノ!基本を疎かにしてどうする!いいか!?米というモノはだな・・・」
「だー!わかった!わかったから実技に入ってくれ!」
そうしてこうしていい年の野郎二人が台所で肩を寄せ合って怒鳴りあうことになったのだった。
「なにやってんだ!力を入れろ!力を!押し込むように揉み洗いするように動かせと言ったろうが!」
「だー!米を砕くな!馬鹿力入れすぎだ!粉にする気か!」
「力を入れろと言ったのはおまえだろーが!」
「入れすぎだ!加減というモノを知らんのか!おまえは!」
「知るか!そんなもの!」
「文句言ってないでさっさと研げ!時間をかけるな!手早く済ますのが汚れた水を吸収させないコツだと教えたろうが!」
「野外実習で教えただろうが!始めちょろちょろ中パッパ、だ!」
「んな100年も前のことなんぞ覚えてるはずがないだろーが!」
「たかだか10数年しか前じゃねぇ!」
・・・そして初日が終わったのであった・・・
「ま、なんとか食えるものには仕上がってるな」
一口頬張って味と食感を確かめながら幕の内がうなずいた。
「ここまで怒鳴られたのも相当久しぶりだな」
頭の中で反響してまだガンガンしている気がする真田であった。
「俺だって半年分まとめて怒鳴った気がするぞ」
言い返す幕の内の声も少々かすれ気味だった。
「もっともプロの修行じゃ米研ぎだけで半年ってくらいだからな・・・おい、塩くらいないのか?」
「塩?あぁ、その下にたしか・・・」
ゴソゴソ引っ張り出して渡すと幕の内がひょいひょいと握り飯を作って皿に並べた。
「これで夜食と明日の朝食になる。卵焼きは今から見本を作るから明日の朝予習をしておけ」
炊いた以上は無駄にしない幕の内である。さっそくひとつ取り上げながら真田もうなずいた。
「わかった」
「飯炊きの復習も当然しておくようにな」
「・・・当分米の飯が続くようだな」
「オカズくらい持ってきてやる」
真田が全課程を終了したのは2週間後のことだった。
「これだけのモノが作れればいつ嫁にいっても恥ずかしくないぞ」
「あのなぁ」
「嫌そうな顔をするな。ほら、卒業証書代わりのプレゼントだ」
言いつつ幕の内に手渡されたモノを見て、真田が4.2秒止まった。
「・・・なんだ?これは」
「真田、俺もおまえの性格はそれなりに知っているつもりだ」
真顔で言われてえ?
「だからこそ、これをやる」
「・・・話が通じないんだが・・・」
「おまえに味噌汁を作らせるような相手なんか、あれかこれかしか思いつかん。そのどっちもが極めて女好きであることも十分承知している。しかしだな、世の中『なりゆき』とか『はずみ』とか『気の迷い』とかいう状況も発生するものだ。これを身につけることによって相手をビビらせ、同時におまえ自身も油断しないよう気を張れるだろう。精神的プロテクターとして使え」
真剣な顔で言われてしまえばそんな馬鹿なと怒るに怒れない。
「そーいうモノなのか?」
「そーいうモノなんだ」
どう考えても真田には理解できなかったが、そこまで言うからにはまぁありがたく使わせてもらおう、とうなずいたのだった。
そして日曜。
親友からの誘いの電話に心ウキウキしながら古代守は訪れた。
「真田ぁー。来たぞー」
「おーう。ちょうどできたところだ」
玄関を入ると炊きたての飯とほのかな味噌汁の香りが漂ってきて、古代の心は期待に更に高鳴った。
「いやー、悪い・・・」
親友の姿が目に入った瞬間、古代は心臓が止まりかけ、思わず壁にへばりついてしまった。
「なんだその反応は」
「さ、さ、真田!きさま正気か!?気はたしかか!?本物の真田志郎なのか!?」
予想以上の反応に鍋を持ったまま、真田が笑ってしまった。
「なんだよ、それ。そんなに変か?」
「エプロンが悪いとは言わん!だがそれがどうして純白のフリフリレース付きの新妻仕様なんだ!!」
なるほど、それならたしかに引くわな、と真田も納得した。
「いいから座れ、味噌汁が冷めるぞ」
別の意味でバフバフいっている心臓をなだめつつ、味噌汁のために古代はテーブルについた。
白く輝く炊きたての御飯と出来立ての味噌汁。そして卵焼き。
並べられている3品に古代はうっとりとしてしまった。
「いただきます」
思わず口をついて出たセリフと共に古代は箸を取りあげた。
口に含み、味わい、飲み込み・・・古代はこみ上げてくる涙をこらえ、しばしじっと眼を閉じた。
「どうだ?」
「真田・・・抱きついてキスしていいか?」
「ダメ」
間髪入れずに却下されて古代は眼を開いた。
「この味噌汁があれば、俺はこれからも生きている気がする・・・」
「なに大げさなコト言ってんだ。さっさと食えよ」
テーブルの向かいに座り、両肘を付いて手を組んでいる真田に古代は心から感謝した。
「真田・・・」
「ん?」
「おまえが親友で本当によかったよ」
真田が眼を細め、クスッと笑った。
その表情に古代の心臓が再び、また別の意味で跳ね上がった。
落ち着け、目の前にいるのは10年来の親友の、男だ!
必死に自分にそう言い聞かせてしまった古代だった。
「と、ところでそのエプロン、どうしたんだ?」
「ん?幕の内がプロテクターに使えってくれたんだが」
返事に古代がギョッとして正気に返った。
あの野郎、そこまで状況を読んでいるのか、と。やっぱりあなどれんヤツだと思う。
「・・・味噌汁の具、リクエストしていいか?」
「ああ」
とりあえず今はこの食事に心と舌と胃袋を委ねよう。そう決意して残りの思考を捨ててしまった古代であった。
「じゃ、来週はダイコンということで」
「えー、明日じゃないのかよー」
「たわけ。こーいうモノは時々食うからこそありがたみがあるんだ」
そして月曜、古代は幕の内に肩を叩かれた。
「よう、どうだった?」
「・・・たしかにプロテクターだったぞ。あのギャップで3回は正気に返った」
「いきなり心臓止めなかったようだな」
「止めかけたがな」
言う古代に幕の内が笑い返した。
「なにしろ特注のエプロンだからな。本当はピンクの鍋掴みもセットにしようかと思ったんだが」
「貴様俺を殺す気か?」
わはは、と笑うふたりの姿に違和感はない。話の内容を知ったら凍りつく者が続出するのであろうが、さすがに具体的な名称を出すふたりではなかった。
笑っているうちに古代が気付いた。
「ヤツから聞いたのか?」
「んにゃ、何も聞いてないが?」
「なんで俺だとわかったんだ?」
なもん、簡単なことだと幕の内はケロリとしている。
「ヤツが自分のために覚えると思うか?」
「いや」
「するってーと相手はおまえともうひとりくらいしか思いつかんからな。あとは朝からるんるんしている誰かさん見かけりゃー・・・」
「・・・なるほど。それであのプロテクターなわけか」
「科学局長が参謀長殴り殺した、なんて事件が起きた日にゃ軍人は誰も制服で外歩けなくなるからな」
しかも原因が『味噌汁』だったなどと知られたらどうなることか考えたくもない。
「そうだな・・・そのうちおまえに頼むことになるかもしれんな」
「なんだ、理由聞いて良かったのか?」
「まず信じないだろうがな。そのうち酒でも飲みながら話すよ」
いつまでもあのままではいけない、とわかってはいる。
自分はともかく、娘まであれが古代家の味だと信じ込んだら先祖に袋叩きにされるだろう。
しかし、いまさらどんなタイミングで切り出せばいいのだろう?
「だが・・・そうだな。目が慣れてしまう前にエプロンドレスでもプレゼントした方がいいかもしれんな」
「胸元に大きくピンクのリボンを忘れるなよ」
反射的に口にしてしまったセリフだったが、それを身につけた真田を想像してしまい、廊下の真ん中でふたり揃って絶句して蒼白になってしまったのであった・・・
もちろんその話を聞いた真田は大笑いした。
「笑いこっちゃねぇ!まわりにどんな目で見られたと思ってんだ!」
「俺にそんなもん着せようとしたからだ」
笑い飛ばせなかったら殴るしかないが、どっちがいい?と訊かれて唸るしかない。
たしかに今身につけている白のフリフリレース付きエプロンでさえ十分に似合わなさすぎるのに、これの更に上を狙おうなどと考えたのが間違いだ、と深く反省する古代であった。
「とにかくリクエストに応えたぞ。ダイコンの味噌汁だ」
テーブルにトレイごと置かれたセットを見て、古代は先週と同じ感動を胸にした。
「ちょいと浅漬けにもチャレンジしてみた」
「真田・・・おまえって、本当にいいヤツだなぁ」
「今頃何言ってんだよ」
そして古代は幸せに浸りきったのであった。
・・・が。
「局長!起きてくれ!」
2杯目をよそっている時に聞き慣れた声が玄関の開く音と共に飛び込んできた。
「起きてますよ」
何も考えていない真田の返事を聞いてヤバい!と古代は思ったが、ほら、と差し出された味噌汁の椀を受け取るために反射的に腕を伸ばしてしまった。
そのベストなタイミングで山崎は入ってきた。
「午前中からすまない。どうしても・・・」
言葉が途切れ、3人が一瞬にして静止した。
それも3.7秒のことだった。
「すまん。明日にする」
くるりと背を向け、でていこうとする山崎に本格的に古代があわてた。
「ち、ちょっとまってください!」
「じゃ、また」
逃げようとした山崎にさすがに真田も状況を悟った。
「・・・古代、捕まえろ」
「だー!許してくれー!私は何も見ていない!何も知らない!記憶も全て消す!だから殺さないでくれー!」
「「なんでそうなるんです!!」」
しかしこの場合、山崎の反応の方が正しいとは大抵の人間なら思うところであろう。
「・・・違うのか?」
「「違います!」」
それでなぜ話が通じるのか3人とも謎と思わないものモンダイかもしれないが。
「いやしかし・・・どう見ても新婚家庭だぞ?」
古代に肩を掴まれたまま、エプロン姿で呆れている真田に恐怖の混じった視線を向けてくる。
「ちゃんと訳ありです。一緒に食べますか?」
「えー、俺以外の男に食わすのかよー」
「・・・窓から叩き出すぞ」
衝撃でまだドキドキしている心臓をなだめつつ、山崎は古代にひっぱられてテーブルについた。
「しかし、なんで・・・」
「アレは精神的プロテクターです」
「は?」
「俺がまっとうな味噌汁食いたい、と願ったらこうなったんです」
「・・・もしかして陛下の味噌汁、まだあのままなのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・です」
かつて、山崎はイカルス勤務時代古代夫妻とお隣さんしていた。その時にスターシャの手料理は幾度か味わって、後悔している。
「で、俺に作らせるという最終手段にでたんですよ、こいつは」
山崎の前に一汁二菜が置かれた。
「・・・全部、君が?」
「教育担当は幕の内ですからね。大丈夫な味ですよ」
古代はもう食べ直しにかかっている。山崎の不安は七割ほど減少した。
「では・・・いただきます」
味噌汁を飲み、卵焼きをかじり、浅漬けを頬張り・・・山崎の動きが止まった。
両手を握りしめて俯き、目を閉じてじっと何かに耐えている。
「あの?」
「山崎さん?」
声をかけられ、山崎は左手だけ挙げてくいくいと真田を招いた。
何の疑いもなく近寄った真田はいきなり立ち上がった山崎に両腕をがっしと捕まれてしまった。
「な・・・!」
「一生大切にする。結婚してくれ」
次の瞬間、真田の怒りの膝蹴りが山崎の腹部に食い込んでいた。
「何考えてるんです!」
「これだけの味噌汁を作れる嫁を娶るのは男のロマンだ!まだ恋人もいない君にプロポーズしてどこが悪い!」
この程度の一撃でノサれないからプロポーズなどという恐ろしいこともできるのであろう。
「十分に悪いジョークです!俺の真田をオッサンの嫁になんて、させられますか!」
もちろん古代が割って入った。
「君が嫁にしているわけでもないだろう!妾などと日陰者にはさせんぞ!私なら正妻にできる!」
「俺と真田にはそんな形など必要ありません!」
「形を整えるのも愛のひとつだ!そんなこともわからんのか!?」
「・・・できれば本人の意思も確認してくれないかな・・・?」
冷え切った真田の声に古代はギクリとしたが山崎はたじろがなかった。
「もちろんだ。私としては今すぐにでも役所に行く意志はあるぞ」
「だからどーして俺が嫁にならなきゃならんのです!」
「ならば私が婿にきてもいいぞ」
すかさず切り返す山崎。
「そうではなくて、なんで男と結婚しなきゃならんのです!俺にはその方面の嗜好はありません!」
「試したことがあるのか!?」
正面から反論されて思わずうっ。
「い、いや、それは・・・」
「ならば断言できないだろう!?それこそ偏見と食わず嫌いというものだ!」
再び両腕を捕まれて思わず身体が逃げの体勢になってしまった。
「そ、それはそうでしょうが・・・」
「ではモンダイないだろう!」
「真田!そこで丸め込まれてどうする!」
山崎から真田を引っぺがして古代が怒鳴った。その声に真田もハと我に返った。もちろん山崎が邪魔をする古代を睨みつけて怒鳴った。
「邪魔をするな!これは私と彼との問題だ!」
「いーえ!真田の味噌汁は俺のために作ってくれたもの!俺も十分当事者です!」
ハタから見なくても完全に三角関係の修羅場である。
「妾にしかできない君が何を言う!」
「形で愛を比較されてたまりますか!」
殴り合い寸前で踏みとどまって口論しているふたりから一歩離れ、真田は黙ってエプロンを外した。
それからおもむろに深く深呼吸をして・・・
その一瞬、意識せずに島と南部の身体は回避行動に入っていた。
とっさに両脇に飛んだふたりをかすめてドアが開き、中から大男二人が文字通り叩き出されてきたのだ。
壮絶な大音響と共に廊下の反対側の壁に叩きつけられて動きが止まる。
呆然としながらも誰かと見ると山崎と古代守だった。
「・・・生きてると思うか?」
「いや・・・葬儀屋呼んだ方がいいかも・・・」
「勝手に・・・殺すな」
うめきながらも返事が戻るのだからやはりこのふたり並の人間ではない。
恐る恐る視線をドアの内側へと向けると、冷たく冷気を発している真田が当然の如く仁王立ちしていた。
「あの・・・何があったのか訊いていいでしょうか・・・?」
「ダメだ」
冷え切った真田の声だった。
「で、何か用か?」
「え、えー、あの、その、もし、お時間がございましたら、昨日お電話でお願いしたシステムの再構築の作業をやっていただけないかと思いまして・・・」
「ああ、それか。いいだろう。入れ」
許可は出たが怖くて入れないふたりである。
「・・・よろしいのでしょうか?あの、・・・これ、そのまで・・・」
「生命活動はしている。そのうち正気に返るだろうからほっとけ」
背を向けた真田からはまだ怒りのオーラが全開状態で展開されている。近寄るのも怖いが逆らうのはもっと怖かったのでふたりはしおしおと入っていった。
で、テーブルの上の食べかけの食事ふたり分を見つけてしまったのである。
「食事中だったんですか?」
「まぁな」
「一口、つまんでもいいです?」
南部の要求におや。
「食ってないのか?」
「ここしばらく白いご飯に近寄れなかったもので」
わははと笑いながら右手はもう卵焼きをつまんでいた。
「たまには家に帰れよ。そしたら朝飯くらいつくってもらえるだろ?」
島に言われても南部は首を振る。
「家業を継がないと宣言した以上、俺にもプライドがあるの」
言いつつ卵焼きをぱく。
「あ、うま」
素直な感想に島もどれどれ。南部はそのままちゃっかりテーブルについて、山崎が一口だけ手をつけた味噌汁を持ち上げた。
「おい、それ食いさしだぞ」
真田の制止が入ったが気になどしない。こういうところを見ているとホントにこの男は大財閥の御曹司なのかと疑いたくなる。
「・・・これ作ったの、誰です?」
低い質問の声に卵焼きをもぐもぐしていた島が顔をむけた。
「え?」
「この味噌汁作ったの、どなたです?」
「俺だが?」
キョトンとしたまま真田が返事をした。
「・・・本当に?」
「ああ」
うなずく真田になんだよ、の島。
「変なのか?」
「美味すぎるんだよ」
「は?」
「食ってみろ!そしたらわかる!」
椀を差し出されて思わず受け取った島だったが、とりあえず毒ではないだろうと判断して飲んでみた。
「な?な!?」
「・・・ああ」
島は椀をテーブルに置くといきなり真田の手を握った。
「掃除も洗濯も後片づけも子育ても全部します!俺を嫁にもらってください!」
「島!おまえま・・・!」
真田が怒鳴り終える前に南部が島を引っぺがして迫っていた。
「この味噌汁のためになら南部財閥の全てを捧げます!ぜひ我が家の婿になってください!」
直後、南部は古代守の蹴りを食らって吹っ飛んでいた。
「ええい!どいつもこいつも!!勝手なことほざくんじゃねぇ!」
「「美人な嫁さんのいる参謀長に言われたくありません!」」
島と南部のセリフが重なる。
「そういうことだ!妻子持ちは引っ込んでろ!」
そして再び山崎が真田に迫った。
「いったいどこが不満だというのだ!?」
「一番基本的な部分です!」
他のなんだというのだ、というのが真田の言い分だが、今の山崎には通じなかった。
「試したこともないのになぜ断言できる!?」
「なんでわざわざ試さないといけないんです!?」
「試しもせずに合う合わないは決められないだろうが!」
言ってることは正論なのだが内容が内容である。はいそうですね、とうなずけるはずがない。
「しかし・・・!」
「だからそこで丸め込まれる奴があるか!」
古代が山崎から真田を引き離そうとするより一瞬早く山崎の手が動いた。
ドン!という音と共に古代守の巨体が軽々と吹っ飛び、南部と島を押しつぶした。
「こだ・・・!」
ハッとしたその隙に真田の右手首が捕まれ、抵抗が形になる前に後ろ手に押さえ込まれてしまった。
「真田!」
「参謀長を押さえろ!」
鋭い声に思わず島と南部が古代を押さえ込んでしまった。
「そのまま押さえていろ。私は真田君と話をつけてくる」
「これが話をする体勢ですか!」
叫ぶ真田を無視して引っ張って奥の寝室へ入っていった山崎だった。
『ち、ちょっと!何をするんです!』
『だから試してみないとわからないだろう!』
呆然と見送るしかなかった3人の耳に奥からふたりの怒鳴り声が漏れ聞こえてきた。
『試すって・・・!ま、待ってください!そんな・・・!』
『暴れるな!』
顔を見合わせてしまった島と南部だった。
「えーっと・・・話って・・・ホントに話なのか?」
「それより参謀長と真田さん、まとめて相手にできるって・・・本当にタダのエンジニアなのか?あの人・・・」
「ぼけた話してないで手を離さんかぁ!」
正気に返った古代が腕を振り回すとあっさりふたりは吹っ飛ばされ、壁へと叩きつけられてしまった。
それとほぼ同時に山崎が背中でドアをぶち抜いて床に転がり出てきた。
「真田!無事か!?」
「勝手に殺すな!」
少しばかり乱れた服装になり、肩で息をしながらも真田がでてきた。
「どいつもこいつも人をなんだと・・・」
「昼間っからナニをやっとるかぁ!!!」
腹の底まで響き渡る聞き馴染んだ大声にさすがに5人ともギョッとして振り向くと、額に青筋を浮かべた土方が警官数名と見物人を引き連れて玄関に立っていた。
「何の騒ぎかと思えば・・・整列!!」
さすがに軍人、全員が条件反射でビシリ!と気をつけの姿勢になった。
「説明しろ!原因はなんだ!?」
「は!味噌汁であります!」
山崎が真っ先に答えた。
「味噌汁の具についての討論だったのでありますが、納豆が具になり得るか否かという問題で科学局長があまりにも強固に否定しておりましたところへ、このふたりが乱入したのであります」
どうしてとっさにここまで辻褄のあう嘘をつけるのだろう、と感心するしかない。
「そんなことで官舎の外まで響く乱闘になったというのか!?」
体格と迫力に差がありすぎて警官は土方の後から隠れるように室内を見ているだけ。
「これは食事という人間にとって最も基本的かつ欠かすことのできない行為に関する問題です。また、日頃滅多に討論しない問題だけに熱中してしまった結果であります・・・な?」
真田の同意を求める声に4人がこくこくとうなずく。
頭痛を起こしている額を抑えつつ、低くブツクサ何かつぶやいた土方だったか、やがて警官を振り向いた。
「という訳のようだ。後は私が責任もってシメておくので引き取りを願えないかな?」
「わかりました。では我々はこれで」
関わらずに済んでホッとした、というのが丸出しの顔で敬礼すると警官は引き上げていった。
それを見送ってから遠巻きに室内を覗き込んでいる連中にも声をかけた。
「おまえらもだ。もうこのアパートが崩壊する心配はない。帰っても大丈夫だぞ」
言われて見物人もゾロゾロと帰っていった。
なにしろ全員同業者なのである。しかも現場の住人が真田志郎で関わっていたのが古代守と山崎奨、ついでに土方竜まで出てきたのだから、命が惜しくば『見なかったこと』を決め込むしかない、とわかっている連中である。
そそくさと島がドアを閉めに走り、残りがぐちゃぐちゃになった室内を片づけにかかった。
「・・・で、実際は」
「いえ、根本的な原因は本当に味噌汁なんですが・・・」
しっかり嘘と見破っている土方に訊かれて、言いにくそうな顔で古代が答えた。
「とりあえず茶をいれます。そちらに座っていてください」
真田が複雑な顔で椅子を勧めた。
もちろん土方は完璧に呆れた。
「先刻の嘘の方がまだ真実味があるぞ」
「まぁそう思いますが・・・」
「しかもたかが味噌汁で・・・」
「お言葉ですが、あれにはそれだけの価値があると思われます」
「・・・そうなのか?」
「「「そうです!!!」」」
南部に聞き返した土方に3人の返事が重なった。
もちろんそう簡単に信じられることではない。なにしろ制作者が真田だというのだ。いくら土方とはいえ、そう簡単に真に受けられるはずがない。
う〜む、と唸りつつ考え込んでしまった土方の姿に古代が真田を見た。
「もう残ってないのか?一度食べてもらえば納得してくれるだろう」
「しかし・・・」
先刻の騒動を思うとさすがにためらう真田であったが山崎も勧めた。
「安心しろ。司令にはまともな味噌汁を作れる奥方が存命だ」
ため息をついて真田が立ち上がった。
「もう冷めてる。新しいの作るので待っていてください」
土方以外の4人の耳がピクリと動いた。
「真田ぁ〜」
「真田さぁ〜ん」
「シッポを振るな!ちゃんと人数分作ってやるからおとなしくしてろ!」
そんな4人の様子に麻薬でも入っていたのではないかと思ってしまった土方である。
「真田と味噌汁ねぇ・・・」
どう考えても頭の中でしっくりこない。
そもそもあの男に日常生活の面で一般多数の市民よりまともにできる何かがあるとも思えない。
「幕の内に2週間みっちり仕込まれたそうです。『いつでも嫁に出せるぞ』と太鼓判押してましたよ」
「だいたいなぜあいつが作っているのだ?」
「・・・長く哀しい物語の結果です」
「は?」
あまり人に話したくないので古代が言い淀む。
「それよりなぜ司令が今頃こんなところへ?」
話を変えようとして訊くと、単なる通りすがりだ、とあっさりした返事が戻ってきた。
「近くを通りかかっていたらパトカーが追い抜いていってな。飛び込んだ先がここだったので見物しに寄ったら騒ぎの真っ最中だったというだけだ」
誰だ、パトカーなんか呼んだ奴、とブツクサ。
「しかし警官が来なかった今頃どうなっていた?」
「少なくとも被害は同業者に押さえられていたはずです」
などと話しているうちにほんわかと味噌汁の香りが広がってきた。
「お待たせしました」
「うむ」
差し出された椀を土方が受け取る。そして一口、静かに口に含んだ。
「・・・なるほど。これなら山崎が押し倒したくなっても不思議ではないな」
「公認しないでください」
まったくもう、の真田である。
「山崎さんに本当にそちらの心得があるとは思いませんでしたよ」
「馬鹿言うな。あるわけなかろう。司令と違って私は女性専門だ」
味噌汁を味わいながらしれっと山崎は言い返した。
「・・・ならあれはジョークだったんですね?」
「いや、本気だ。この味噌汁のためにならいくらでも・・・」
「やめんか。今度こそ部屋を壊す気か」
俺の顔を潰すつもりか、と土方が止めた。
「これが食いたいなら幕の内に頼んで教えてもらえばいいんですよ。2週間もあればこの程度にはなります」
「真田さん、こーいうものは愛情込めて作ってもらったモノが一番美味いんですよ。自分で作ったってこうはなりません!」
力説する南部にうんうん、の古代や土方。
「おまえ、妙に実感こもってないか?」
「それなりの過去があるんでね。・・・というわけで真田さん!俺のためにこれからも・・・」
ぺこん。
「だから部屋を壊すなといっとるだろうが」
土方の左手が翻り、空になった椀が南部の額を直撃していた。
「で、なぜ島まで一緒になってたんだ?」
「美味い味噌汁作ってくれる嫁さんをもらうのが夢なんですよ。でも真田さんが嫁にきてくれるはずがないとわかっているので、なら俺が嫁にと・・・」
実に島らしい、論理的な返答に更なる頭痛を感じてしまった土方と真田である。
「・・・そろいもそろって見事に日本人らしいこと言いおってからに・・・」
やれやれと息をつきつつ玄米茶を要求する土方であった。
「しかしだな、真田の新妻姿を想像したのか?その姿に耐える自信があるのか?」
そういう問題でもなかろうと思う古代と真田本人であるが、年少者ふたりには効果があったらしい。そろってぺきりと動きが止まった。
「それはもう見たので・・・」
「はぁ!?」
山崎の返答に土方までが止まってしまった。
「もう見ただと?」
「ええまぁ。白のフリフリレース付きエプロン姿で参謀長に味噌汁渡しているという・・・」
「「山崎さん!!」」
古代と真田が慌て、島と南部が凍りついた。
「・・・まさか裸エプロンだったとかじゃないで・・・」
「島!!どっからその妄想引っ張り出した!?」
「いやいや。ワイシャツエプロン姿だったが、これがなかなか・・・」
山崎の視界にコスモガンの銃口が飛び込んできた。
「・・・・不気味でな」
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ミソ汁のための死闘 *その3*   by亜瑠
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単なる味噌汁からどーして話がここまでおかしくなるのだろうと頭をひねるしかない真田であるが、事態の方は勝手に話を進めていた。
参謀長と科学局長と特務部長が大ゲンカして、その原因が味噌汁だった、と司令本部内に広まるまで3日と必要なかった。
月曜の昼には秘書長のユキを経由して藤堂の耳にまで届いていたのだった。
「味噌汁の具が原因でねぇ」
「土方司令が呆れかえっていました」
あの連中らしいといえばらしいのだが、なぜそんなことが話題になったのかも疑問と言えば疑問であった。
「司令部と科学局の全面対決にならなければ良しとするか・・・」
さすがに土方も事実は隠すことに決めたらしい。島と南部も報復を怖れて口をつぐんでいるし、そもそも3人が話すはずがない。
どうやら今回は表の理由がまかり通って終わりそうであった。
しかしこのままではいつまた騒ぎが再燃するかわかったものではない。
それを防ぐためにも早めに対処しておく必要があるだろうとは真田でなくとも考えるしかない。
ではどうする?と考えたところで対策が浮かんでこないのも事実であった。
自分の専門外であることははっきりしすぎているのだが、相談できる相手が思い浮かばないのだ。
どうしたものか・・・と仕事をしながら考えた結果、相談相手をひとりで済まそうとしなければ良いのだ、という発想を得たのであった。
そんなわけで真田はふたりの人物を夕食に誘ったのであった。
先に姿を見せたのは幕の内だった。
「なんだ?こんなところに呼び出すなんて」
いつもの居酒屋ではなく、彼らの階級相応のちょっとばかり上品なレストランの個室だった。
「もうひとり呼んだんでな。そちらに合わせたんだ」
幕の内も知らない店ではない。裏に回ればシェフとは知り合いだし、客としても何度か訪れてもいる。
「もうひとり?エライさんでも呼んだのか?」
「おまえが妻子持ちだったらひとりで済んでいたんだがなぁ」
テーブルに肘をついてため息をつく真田にもちろんわけのわからない幕の内だった。
「なんなんだ?いったい」
「遅くなった」
入ってきたのが土方だったので幕の内がギョッとして慌てた。
「し、司令!」
「もうコルセットは取れたのか?」
笑いながら土方が席に着いた。
「相談の内容は土曜の件だな?」
単刀直入の問いかけに真田も素直にうなずいた。
「はい。こればかりはどう考えても解決策が浮かばなかったので」
ワインとオードブルが運ばれてきた。
「味噌汁が原因で大乱闘になりかけたって・・・噂のか?」
「そうだ。最初から話すと長くなるのだが・・・おまえに頼んだ前の土曜にな・・・」
スープを飲み干す頃に真田の話が終わり、ふたりがそろって額を押さえた。
「それで真田が味噌汁を作ることになってたのか・・・」
「しかしそれ、ケンカじゃなくて修羅場だろ?」
「事実をそのまま言えると思うか?」
「・・・だな」
に、してもそろいもそろって真田にプロポーズするとは・・・気の迷いが伝染性を持っていたとは知らなかった幕の内だった。
「で、最初に確認しておくが、古代の妾になるつもりも、3人の誰かの嫁になるつもりも・・・」
「ありません!!」
しっかりきっぱり答える姿にやっぱりまともな真田だとふたりが安心。
「すると・・・3人はさておいて古代家がなんとかなれば味噌汁を作らなくてもいいということになるんだな?」
「そうなりますが、古代は『今さら正面から指摘できない』と弱腰で」
「ったく、ここまでなる前に言わんから・・」
「あいつに言えると思うか?」
しばし、メインディッシュの皿を空にする作業に3人が集中した。
「そういや他の料理はどうだったんだ?」
「イスカンダルの味付けがどんなものか正確なところはわからないが・・・味噌汁以外はなんとか」
「すると料理教室に通う気になってくれればいいわけか」
皿に残ったソースをパンで拭って胃に収めつつ幕の内がフム。
「古代ンとこの娘、今なにやってんだ?たしか花嫁さんになるのが夢とか言ってたろ?」
地球ーイスカンダルのダブルであるサーシャの成長が地球人的平均から外れまくって早いということは関係者なら知っていた。
「サーシャか?外見及び精神年齢がだいたい17.8歳で訓練学校の3年だ」
真田の返事に幕の内がにんまりうなずいた。
「よーし、よし。味噌汁の件についてはなんとかできるぞ」
「手があるのか?」
「任せろ。教官で誰か近いうちに行かないか?」
「来週山崎さんが行く予定だ」
「わかった。今週中に一度科学局へ行く。その時に必要なブツを持っていこう」
「よろしく頼む」
デザートのプリンアラモードを口に運んでいた土方がわずかに目を細めた。
「すると残りは気の迷いを起こした3人の始末か・・・山崎は直接脅すとして・・・ふたりだが。真田、おまえにも少々協力してもらえれば私が話をつけてやろう」
「お願いできますか?」
「なんとかなるだろう。あのふたりとて本物ではないだろうからな」
「は。ありがとうございます」
もっとも、『少々の協力』が何なのか知ったとき、激しく後悔するコトになるのだが、まだ真田はそれを知らない。
「に、してもプロポーズしたくなるようないい男とも思えんがなぁ」
「悪かったな」
幕の内の極めて真っ当な感想に真田が顔をしかめる。
そんなことくらい、とっくに自覚してるわい、と。
「いや、少なくともモテてはいるぞ。土曜の件の事実をバラしてみるか?楽しいことになるぞ」
「・・・絶対にやめてください」
「自覚はあるようだな」
楽しそうな土方にブッチョウ面になってしまった真田である。
「バレンタインのことを思い出しただけです」
現在の軍の中では絶対少数な年齢層で、しかも(善し悪しは別として)トップの覚えもめでたい将来有望な天才の独身、とくれば多少の悪人面など無視される。
さらに本人には全く自覚がないのだが、なぜか男にもモテているから困るのだ。
古代守と並んで『兄貴と呼びたい上官』アンケートの司令部部門では常に上位にランクされている。
古代進や島大介達が同僚や上官にイビられるのは、ヤマトに乗っていたという実績を妬まれている部分も大きいが、真田や古代守にまとわりつけるのも僻まれているということもあったりするのだが、それはその筋の者しか知らない事実である・・・
そして翌々日。
朝っぱらから疲れ果てているのが一目瞭然な真田の後ろ姿を見つけて山崎は首を傾げた。
「局長?大丈夫・・・」
「うわ!!」
一応あたりを憚って耳元に小声で囁いたのだが、いきなり真田が悲鳴を上げて跳ね飛んだ。
もちろん山崎以下、周辺にいた全員が驚いた。
「な・・・何をいきなり!」
「なにって・・・声かけただけでしょうが。局長こそなんでそんなに驚いたんです?」
まわりの視線に気付いて体勢を立て直すと真田が大きく息をついた。
「ち、ちょっと考え事してたんです。で、何か用ですか?」
今の考え事してて驚いたって様子じゃないよな・・・とまわりはヒソヒソ。
身体が完全に逃げていた。真田でなければ『怯えていた』との形容詞を使っても外れていないほどに。
「海王星基地の超長距離用レーダーの件で・・・」
「わかりました。資料は?」
「ここに」
ファイルを手渡すために一歩近寄ると、同時に真田がわずかに後退した。
「局長?」
「何か?」
絶対におかしい。山崎がまた一歩近寄ると再び真田が退いた。
「どうしたんです?」
「ど、どうって、別に何も・・・」
これが何もって状況か?と感じないわけはない。
山崎は右手を伸ばすと一気に間合いを詰め・・・ようとした。
・・・・真田が跳ね飛んで逃げたので間合いはそのままだった。
壁に背を押しつけ、ファイルで自分を庇うようにしている真田にあっけ。
もちろん辺り一帯の連中が呆然としてその様子を目撃してしまった。
「な、何をいきなり!」
「それは私のセリフです!なんですか!その態度は!」
当然、まわりで更なるひそひそ話が始まる。
「まるで私が何かしたみたいじゃないですか!」
「に、似たようなものでしょうが!」
これ以上は危険だ、と山崎は判断した。
ここでこの会話を続けた時にはどれほどの誤解を広げるようなセリフが飛び出してくるかわかったものではない。
「・・・とにかく、しっかり理由を聞かせていただけますか?」
右腕を掴むと更に真田がビクリとしたが、それ以上の抵抗はなく、おとなしく引っ張られた。
「い、行きますから手を離してください・・・」
日頃滅多に気になどしないが局長としてのメンツがあるのだ。こんな情けないカッコをこれ以上の部下に晒すわけにはいかないと気付いたのだった。
当然の事ながら噂の伝播速度は光速を越えた。
昼食時に科学局の食堂に飛び込んできた古代は山崎を見つけると同時に怒鳴った。
「山崎特務部長!昼間っから廊下で科学局長に迫って押し倒そうとしたってのは本当ですか!?」
3秒後、古代守は真田の右ストレートを食らって宙に舞っていた。
「・・・おまえな。そのうち殺すぞ」
静まりかえった食堂内に真田の冷え切った声が響いた。
「じゃあなんであんな噂になってるんだ!」
おー痛ぇと左頬を押さえて立ち上がりながら訊く古代を真田がギッと睨んだ。
「諸悪の根元は貴様だろうが!」
「俺が何したってんだ!」
「土曜の騒ぎ、もう忘れたのか!?あれのせいで俺は・・・俺は、土方司令に!」
ぺこん。
軽い音と共に局長の後頭部を直撃した合成樹脂のドンブリが床へ転がった。
もちろんそんな恐ろしいマネができるのは局内広しといえど特務部長くらいなものである。
「局長、だからそういう紛らわしい言い方はやめた方がいいと言ってるでしょうが」
「あ、あんな恥ずかしいコト、言えるわけないでしょう!」
呆れる山崎に言い返す真田の姿を見て、古代がギョッとした。
「まさか・・・まさかおまえ土方司令に身を・・・!」
ごぺ。
「なんの騒ぎだ?んー?」
いつの間にか古代の後に土方が立っていて、にこやかな顔で怒りの鉄拳を食らわせていた。
「し、司令・・・」
真田が50センチ後ずさって山崎に押さえつけられた。
「な、何か用でしょうか?」
「なに、下で聞いたら参謀長が駆け込んだ直後で、飯食ってるはずだと言われたのでな。こっちに来てみたんだ」
平然としている土方に怯えている真田。頭を抱えて痛みにうめいている古代。
「で、ですから、用は・・・」
「それなんだがな。実は・・・」
「嫌です!」
聞く前に真田が拒否した。
「昨夜、一度だけだと言ったじゃないですか!」
誰も食事などしてられない。ギャラリーは増える一方である。
「そう言うな。それだけの身体をしておいて、もったいないだろうが」
「あんなことされるための身体じゃありません!」
「そんなに嫌かねぇ。楽しいじゃないか」
「楽しんでたの司令だけでしょうが!」
そう叫び返されて土方が苦笑になってしまった。
「もう一回だけだ。それに今度の相手は私でなく古代守だ」
「・・・古代と・・・?」
「えーと、司令?」
ようやく古代が話に入ってきた。
「何の話でしょう?」
「次期制服の試着とイメージ写真の撮影だ。あと、メインになる内勤服のデザインがいまいち気に食わんとデザイナーがブーたれててな。モデルにどうかと真田君をみせたらえらく気に入ってしまってもう一度デッサンしたいと言ってきたんだ」
あっさりと土方が説明した。
「相手云々は?」
「艦隊乗員服と内勤服が並んだときのバランスを見るためにちょいとな。今度は内勤服同士で並んだときのバランスを確認したいと言ってるんで古代と絡めと言ってるんだ」
それくらいなら別にいいじゃないかと思う古代だったが、同時に真田にしてみれば冗談にもならないだろうともわかる。
「あんまりガタガタ言ってると命令にするぞ。あきらめろ」
山崎に押さえられていた真田の身体から力が抜けた。
「・・・本当に今日で終わりますね?」
「んー、多分・・・な」
「あ、あの、土方司令・・・」
「ん?」
後から女性局員に呼ばれて土方が顔をむけた。
「そ、それはもしかして来月出る予定の新型制服のデザイン案集でモデルをやってるのが司令と参謀長とウチの局長だということですか?」
「そうだが?」
答えた瞬間、周囲で見守っていた連中の3分の1あまりがダッシュで食堂を飛び去るか、携帯を引っ張り出して操作を始めていた。
「ほらほら、部下の期待を裏切ってはいかんぞ」
ニヤニヤしている土方を恨めしそうな視線で睨む真田と笑うしかない山崎。
「参謀長ならいきなり耳に息吹きかけたりしないだろ?」
「それはそうでしょうけど・・・」
古代が呆れた顔で土方を見た。
「こいつは純真なんですからね。イタズラしないでくださいよ」
「イタズラってほどのものではないぞ」
「現実に怯えてますからね。これ以上はやめといてください」
「わかったわかった」
ホントにわかってるのかねぇ・・・と思いつつ、それを口にはしない古代と山崎だった。
もちろん、真田本人は『絶対にわかってない!』と信じていたが、口にしたときにはどんなメに遭うか想像したくなかったので沈黙を守ったのであった・・・
「で、訊いときますが本当に耳に息吹きかけただけ、なんですか?」
司令部へ戻る車の中で古代に訊かれて土方はふふんと笑った。
「あの男、以外と色白だからな。ほんのりとピンクに染まった肌というのはなかなかそそったぞ」
「・・・恐喝に使うのだけはやめてくださいよ」
亡命だの暗殺だのクーデターだのの後始末など考えたくもない古代である。
そういうのはやる方にまわるから楽しいのであって、後始末させられる立場には絶対に立つべきではない。
「あーいう男は搦め手でじわじわと取り込んでいって落としてこそ楽しいのだ。恐喝などと、品のないことはせん」
そこまで言われてしまうと、どうやってピンクに染めたのか怖くて訊けなくなってしまった。
こういうのも上に好かれているうちに入るのだろうか・・・親友に同情してしまった古代である。
「で・・・どのへんがあいつの弱点だったんです?」
「知ってどうする」
「ケンカの時にちょいと・・・」
その翌日。
「よーう。艦隊司令と参謀長の慰み者にされたんだってー?」
入室と同時の一言に真田の右手が翻り、ペーパーナイフが首のコルセットを切り裂いて壁に突き刺さった。
「自殺くらい自力でやれ!」
「そうそう。いくら事実とはいえ、大声で言ってはいかんぞ」
「特務部長!」
どうして自分のまわりにいるのはこんな連中ばかりなんだと哀しくなった真田だった。
「ま、まぁそう怒るなよ。額に縦皺が寄ってるぞ」
壊れたコルセットを首から外しながら幕の内が冷や汗を拭っていた。
「それに・・・ほれ、先日言ってたブツだ」
真田に差し出されたのは薄い冊子だった。
「なんだ?」
「幕の内勉著・『美味い味噌汁の作り方』だ」
受け取ってめくると先日怒鳴られた内容が事細かに書かれていた。
「これを?」
「サーシャに渡せ。『花嫁になるなら最低でもこれくらいマスターしろ』って言ってな。んで包丁使う必要があるから母親と一緒に練習するよう付け加えてな」
真田が冊子から幕の内に視線を戻した。
「おまえ・・・結構悪人だな」
「おまえよりは善人のつもりだぞ」
クスクス笑って真田が山崎に冊子を渡した。
「というわけで。渡してください」
「了解」
「しかしたかが味噌汁の味でなんでこんな大騒ぎにならないといけないんだ?」
幕の内の疑問は極めて正しいものである。誰でもそう思うのだが、なぜか騒ぎになってしまうのがこの連中の偉大さというか常識外れさの証明なのだろう。
「・・・幕の内君、君も近いうちに陛下の味噌汁を御馳走になってみないかね?」
「そうそう。きっとその斬新な感覚に新たな感動を覚えると思うぞ」
ふたりそろっての笑顔に、本能的な恐怖を感じ、背筋が凍りついてしまった。
「と、ところで気の迷いを起こした青少年ふたりはどうなったんだ?」
「そっちも今日あたり土方司令が話をつけてくれてるはずだが・・・」
どうやってつけるつもりなのかは真田や山崎も知らなかった。
もっとも土方のことである。あまり考えたくない手段だろうとは思っていたが。
「特務部長は脅されたんですかい?」
「自殺扱いされたくなければあきらめろとさ」
「完全犯罪にするつもりはないわけね・・・」
「権力者のやることだよ」
・・・そういう問題ではないはずなのだが・・・
さて、そのころ司令部では・・・
島と南部がふたりそろって言葉を失っていた。
手には一枚の写真。目の前にはデスクに肘をついてニヤニヤ笑っている土方。
「どうだ?それでも満足させる自信があるか?」
先に南部が首を振った。島もがっくりと肩を落とした。
「・・・鍛え直して、出直します」
「道は遠いぞ」
「・・・自分もそう思います」
「ま、相手が悪すぎたと思って・・・」
インタコムが鳴って土方を呼んだ。
『タイタンからの通信が入っております』
「こちらへ繋いでくれ。・・・以上だ、下がってよし」
「失礼します」
しおしおとふたりが出ていくのを笑ったまま土方が見送った。
で、シオシオになっているそのふたりを見かけたのが当然、ユキだった。
「どうしたの?」
キョトンとして声をかけると南部が虚ろな目をむけてきた。
「自分がお子様だってことを思い知らされてきたとこなの。当分そっとしといてくれ」
「はい?」
「俺だって・・・俺だってあと10年もしたら・・・ちくしょぉ〜〜!」
廊下の真ん中で握り拳で叫ぶ島によけい訳のわからないユキである。
「なんなの?いったい」
「それがさ・・・」
「よせ、島。・・・あとの責任取れないだろ。古代とケンカしたいのか?」
南部に止められ、それもそうだなと島もうなずいた。
「何?古代君がどうかしたの?」
「いや、古代進は今回は無関係。関係しているのは古代は古代でも古代守の方」
「??」
「俺達だって軍人なんだぞー。鍛えてるつもりなんだぞー。なのに・・・ちくしょー!」
「おいおい、なに廊下で騒いでるんだ」
かけられた声の主は古代守。当然ジロリと嫉妬の視線を向けられて、およ。
「参謀長ってホントーに真っ当な人間ですか?」
「あ?」
「どういう鍛え方したらその身長と筋肉になるんですよ」
廊下の真ん中で浴びせられる視線を無視しつつ古代守の腹筋を突いたりするから妬みと僻みを受けるのだ。
「どうって・・・ごく当たり前のことしかしてないぞ?」
それなりの生物学的強化と免疫学的強化は受けているが、その程度は長期宇宙勤務に就く可能性のある軍人なら誰でも受けていることだし、他にはこれといって思い当たる事はない。
「それがどうした?」
「男のシットです。気にしないでください」
なんなんだいったい、の古代である。
「そういえば参謀長、最近休みの日になると真田局長の家に入り浸ってるそうですけど」
男三人がいきなりギク。
「奥様が気にしてましたよ。何企んでるんです?」
しかも大喧嘩までしたんでしょ?とまで言われて内心冷や汗たらたらの古代だったが、表面は平静そのもの。
「色々あってね。女性には知られたくないことも時にはあるのさ」
「奥様にも?」
「最愛の妻だからこそ、知られたくないんだよ」
事実が半分ほど混じっているので口調も舌先もなめらかである。
「でも参謀長の隠し事って・・・前科がたくさんありますからねぇ」
まだ疑いのまなざしが消えないユキに苦笑するしかない。
「ひとつだけ断言しとくぞ。俺は真田を浮気相手にするほど不自由はしてない」
墓穴を掘ったのは南部だった。
「本命相手なわけですね」
拳も蹴りも飛んでこなかった。古代が取り出したのは携帯電話だった。
「真田か?おう、俺だ。人体実験の被験者に立候補したヤツがひとりいるんだが。・・・もちろんバリバリに健康体だ。今すぐ使いたい?おし、行かせるから待ってろ」
耳から離して古代はにっこりと南部に笑いかけた。
「では南部君、このまま科学局に向かうように『命令する』。しっかり科学の発展に役立ってくるように」
そそくさと島は南部を見捨てた。
「島大介、任務に戻ります。・・・南部、生きて還れることを祈ってるぞ」
「はくじょーものぉー」
かすれた悲鳴が上がりかけて消えていった・・・
つづく
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ミソ汁のための死闘 *その4*   by亜瑠
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「・・・で、なぜ客が増えてるんだ?」
「訊きたいのは俺の方だ」
むっつりして言い返す真田の目の前に座る古代の両隣には当然のような顔で山崎と南部がいる。
「せめて輸送くらい手伝えよ」
真田の後から卵焼きを盛った皿を手に島までが出てくる。
「その代わり卵と味噌を持ってきたぞ」
「いばるな」
まったくもう、の真田である。
山崎はある程度予想していたが南部どころか島まで来るとは思わなかった。
「本日の具は?」
「サクランボとグレープフルーツ」
「・・・おい」
「冗談だ。玉葱に卵を散らしてある」
すっかり慣れた真田である。ほら、とテーブルに置く手つきもなめらかになっていた。
「では・・・」
「「「「いただきます」」」」
幸せそうなぽよよんとした顔になるのを真田が半ば呆れて見守っていた。
「しっかしなんで島までいるんだ?」
「やっぱこれだけの味噌汁を作れる人を嫁さんに欲しいですから」
「いや、まったく」
「・・・返事になってないぞ」
年少者ふたりの横では古代と山崎が黙ってひたすらに味噌汁を堪能している。
「そういえば・・・おまえら土方さんに何言われたんだ?」
思い出して真田が訊くとふたりそろってピクリとした。
「・・・真田さんが大人の男で」
「自分がお子様だと思い知らされたんですよ」
「あ?」
くーっと味噌汁を飲み干して島がため息をついた。
「ですから、呼び出されて言われたんですよ。『嫁さんになるなら、当然夜のお勤めもしないといけないが、真田さんを満足させる自信があるのか』と」
「この写真見せられて」
南部が引っ張り出したのは真田の写真だった。
上半身裸でわずかに斜め方向から写されたそれは見た瞬間に真田本人にひったくられていた。
「・・・持ち歩くんじゃない」
「あー、これ、衣装合わせしてる最中のだな。おまえ、疲れてたんで写されたのに気付かなかったんだろ」
真田の手からひょいと地理上げたのが古代。
「そんな肉体見せつけられたら自信なんか出てくるはずありませんよ」
「そうそう。哀しいけど参謀長に譲るしかないですよね」
「おい!!・・・って、あれ、これ見た後だったのか?」
「そーです。しかも直後」
「なんだ?」
話の通じない真田と山崎に古代が肩をすくめて説明した。
「ほら、おまえンとこに人体実験の志願者送ったろ?あの時だ。このふたりが廊下で騒いでたんだ」
「・・・地球も平和になったもんだなぁ」
しみじみと山崎がつぶやいた。
「男が男の胸筋見て落ち込んでられるとは・・・」
でもぉ、の島。
「これが空間騎兵あたりの戦闘士官とかならまだあきらめもしますよ。連中の鍛え方って半端じゃないですからね」
「そうそう。科学士官にこんな肉体持たれたら泣くに泣けないってもんですよ」
古代から写真を取り返しつつ南部も言う。
「そーいうものなのか?」
「俺が知るか」
真田の疑問に卵焼きを囓りつつ古代が答えた。
「だいたい、いくら筋肉がついていたって役に立たなきゃ意味ないだろ。お飾りでよければ3ヵ月もあればいくらでもつくぞ?」
続いた古代の言葉に思わず考え込みかけたふたりだったが、すぐに視線を戻した。
「じゃ参謀長の筋肉は?」
「俺のはケンカ用。真田に殴られて五体満足でいるために最低限必要なモノだ」
「・・・そーいうモノなんですか?」
「本気にするな。接近戦用に決まってるだろが」
おかわりを渡して真田がやれやれ。
「たしかに専門は宇宙戦だが一応は地上戦もできるようにしておかないと上陸戦の指揮は執れないだろう?」
「それもそーか」
「戦闘士官が寝ぼけるなよ、まったく」
納得する南部においおい。いくら砲戦が専門とはいえ一応は戦闘士官だろうか、の年長者一同。
「そんなことより、スターシャ陛下の疑惑、どうする気だ?」
毎週のように午前中から入り浸っていれば疑問を持たれない方がどうかしている。山崎の問いかけの方が筋肉問題より重要であった。
「そうなんだよなぁ。何かいい言い訳ないか?」
「準備はしてある。どうせこんな事になるだろうと思っていたからな」
「お、真田さんの『こんな事もあろうかと』が発動してたんですか?」
「で、何をどーすんだ?」
「地球歴換算でいくと来月初め、陛下の誕生日じゃないのか?」
古代が固まった。
「・・・すっかり忘れてた・・・」
「覚えてなかった、の間違いだろ」
冷たい真田である。
普通の地球人でなら決して忘れるような古代ではないのだが、地球歴に換算するという段階で意識が拒否してしまうだろうと真田にはわかりきっていた。
「あー、それでプレゼントを手作りするのに道具を借りに入り浸っていた、にするんだな?」
「そーいうことですね」
味噌汁と卵焼きをかじりながらそんなこんなな話が続く真田の部屋であった・・・
その夜。
真田は古代に呼び出されていつもの居酒屋の暖簾をくぐった。
店の奥の席に古代は座って待っていた。
「どうした、急に」
「いや、ここしばらく世話になったからな。時には俺が奢らないと悪いかと思ってな」
そんな言葉におやおや。
「なんだ?気味悪いな。また何か企んでるんじゃないだろうな?」
「たまには素直に友情を信じろ」
笑って真田が向かいに座った。
「しかしおまえに料理の才能まであるとは思わなかったな」
「おまえだってあれだけ怒鳴られたら一品や二品、作れるようになるぞ」
ビールジョッキを傾けて古代がクスクス笑っている。
「まぁそれもあと一回か二回で終わりだろうけどな」
「なぜ?」
おや?の古代に真田が肩をすくめた。
「作戦はもう動き出している。まもなく陛下もまっとうな味噌汁の味がどんなものなのかわかるはずだ」
ビールが真田の前に置かれた。
「・・・何やった?」
「年頃で花嫁に憧れる娘がいてよかったな」
それで古代も悟った。
「山崎さんか幕の内あたりの立案だな?」
「わかるか?」
こんな間抜けた問題に精力を割けられるのも、今のところ大きな仕事がないからなのだ。
復興ど真ん中の地球と防衛軍なので、相変わらずドタバタはしているが小物の数が多いだけで周辺作業にまで多大な影響を及ぼしそうな大きなトラブルは発生していない。だからそこ古代も真田もこうして呑気に馬鹿話をしていられるのだ。
「これ以上話をややこしくしないためにも、根元を修正すべきだと、誰でも思うんだろうな」
根元=スターシャの味噌汁。
古代は忌まわしい記憶が甦ったかのように顔をしかめた。
「あれさえなければな・・・」
「料理を習いたい、と言いだしたらどうする気だ?」
「なんのために幕の内と友人やってると思うんだ?」
やっぱり幕の内より古代の方が悪党だなと思う真田であった。
「サーシャの味噌汁か・・・今から楽しみだな」
思考をそちらに切り替えたのか、笑顔に戻った古代に真田が意地悪く言った。
「味覚オンチが遺伝してないといいな」
なにしろ、古代守の遺伝子を受け継ぎ、スターシャの料理で育った娘なのだから・・・
そしてさらに時間が経過し・・・
久々に休日の午前の味噌汁作りから開放されて朝寝を決め込んでいた真田を叩き起こしたのは幕の内だった。
「なんだいったい」
「いや、昨日いい食材が手に入って、ついでに少々余ったんでかすめてきたんだ」
へろりとして言いながら勝手に珈琲を淹れ始めている幕の内にやれやれ。
「ヒトのウチ、パーティ会場にする気か?」
「単なる家庭料理だ。食事会と言え」
言い返されて苦笑しながら真田は幕の内が抱えてきた箱の中をのぞいてみた。
「さっさと顔洗ってこい。今日は師匠たる俺が腕をふるってやる」
手早く朝食の用意まで始めている友人の姿に笑ったまま真田は洗面所へむかったのだった。
古代守は朝から娘と妻がキッチンに籠もりきりなのを満たされた心で見守っていた。
これで今日から真っ当な味噌汁が我が家で食えると思うと自然笑みまで浮かんでくる。
やはり持つべきモノは特技があって頼りになる友人だ。近いうちに幕の内にも礼を言っておかないとな・・・
そんな久しぶりに心穏やかな彼の元へかかってきたのが一本の電話。
相手は真田だった。
「どうした?」
『なに、ヒマなら来ないかと思ってな』
「いや、今日は遠慮する。なにせ娘の手料理が出来上がるところなんでな」
上機嫌で答えるとクスクス笑いが戻った。
『そうか。それは残念だな。今、幕の内が来ていて特製のブタ汁が出来上がるところなんだが』
「・・・なに?」
『いや、家族の団らんをジャマするつもりはない。次の機会にしよう。じゃ、・・・おーい、ひとり分、浮いたぞ!』
「ま、まて!」
電話は切れた。
娘の手料理と幕の内の特製ブタ汁。
家族は大切だが、味覚にも抗えない。古代は悩んだ。
娘の味噌汁はこの先いつでも食うチャンスはあるだろう。だが特製ブタ汁となると次はいつになるかわかったものではない。だがしかし・・・
「なんの電話だったの?」
スターシャの顔を見て古代が小さく息を吐いた。
「完成まであとどのくらいかかりそうだ?」
「そうね・・・あの分ではまだ1時間や2時間は」
苦笑しながらの返事にどれほど娘が手こずっているのかを父親は知り、同時に彼は決意した。
「わかった。ちょっと出かけてくる。すぐ戻るつもりではいる」
「あら、どちらへ?」
「真田のところだ。何かあったらしい」
それだけ言うと古代は家を飛び出したのであった。
「なんだ、来ないのか?」
土方に訊かれて真田は肩をすくめた。
「来ますよ。必死に言い訳しながらね」
「ちぇー、せっかく多く食べられると思ったのに」
南部のセリフに全員が笑った。
「娘の手料理より、ですか」
「しかたなかろう。あの夫婦の娘なんだからな」
島に言う山崎に土方がやれやれ。
「似なくていいところまで似たわけだ」
「完成したぞー」
幕の内の声に島と南部が立ち上がった。
「幕の内勉謹製、スペシャルブタ汁だ。心して食えよ」
「それも上物の素材で作った逸品だろ?」
「おう、ここまで出来のいいのもかなり久しぶりだ」
満足のいく味に仕上がったらしく、幕の内本人もニコニコしている。
「昼間っから野郎ばかりでブタ汁を囲むというのも不気味な図ではあるが・・・」
もっともな感想を述べる土方であるが、まわりは何を今さら。
「招待を受けといて、今さら何言ってんです」
ワイワイ言ってるところへドアホン抜きで古代が飛び込んできた。
「俺にも食わせろー!」
爆笑が室内に広がった・・・
おしまい(^^;)
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