バレンタインパニック
[亜瑠]
http://homepage1.nifty.com/KAHANAROTA/OR2-46.html
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バレンタインパニック *その1* by亜瑠
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「今年はどうするの?」
ユキに訊かれてサーシャがキョトンとした。
「今年って・・・?」
その反応にやっぱり最初から『女の子教育』をしないといけないのかしらと思うユキ。
「だから2月の14日。バレンタインディ。女の子にとっては決戦の日よ」
言われてさらにキョトンのサーシャ。
「チョコだけじゃダメなの?」
昨年は卒業直前でドタバタしていたし、まだ寮にいたのでチョコを渡しただけだった。
「う〜ん、やっぱり本命には何かワンポイントがないとね。義理と思われると悲しいじゃない」
困った顔になったサーシャが不安そうに聞き返してきた。
「チョコレートケーキにするとか?」
「甘いのが苦手な人ならチョコは小さいのにしてマフラーとかセーターを作って手渡すとポイント高いわよ」
サーシャが深刻な顔で考え込んでしまった。
「今からセーター・・・間に合うかしら・・・」
マフラーは使わないのがわかっているから最初からパス。甘いものも苦手なことは知っている。
「それより、サイズが・・・」
オデコにしわを寄せて考えている姿にユキはくすくす。
「いっそお酒でも・・・一緒に一服盛って酔ったところをベッドに誘って一気に既成事実を・・・」
間違いなく古代守の娘だと思う。
「で、相手は誰?人によってはサイズくらい調べられるわよ」
サーシャの交友関係となるとほぼ軍人に限定される。それなりの階級を持つユキならば個人データを調べることもある程度は可能である。
「相手?本命の?」
「もちろん」
「当然、真田のオジサマ」
にっこりと笑うサーシャだった。
バレンタインディ。
いつの頃からそうなったものか、2月14日は女性が男性をオモチャにしていい日ということになり果てていた。免罪符としてのチョコレートを渡せば『多少』過激なジョークも許される日とされてしまっている。
チョコとプレゼントとジョークが親愛の情の表現だとは言われているが、する方の大多数は単なるイタズラだとしか思っていない。
極少数が昔ながらの『愛の告白』というモノをジョークに紛れておこなってもいるので、男にとってはなかなかにややこしい日にもなっている。
日頃モテない者同士で『義理よ。来月のお返し、よろしくね』とやっているのもあれば、いつもなら手の届かないようないい男にアタックをかけてあわよくば髪の毛の一本もむしってやろうと企むのもいる。
どちらにしろ2月初旬は女性が知恵を絞る時期であり、3月初旬は男性が知恵を絞る時期であることに変わりはないのだが。
そんなわけで翌日科学局局長は10歳年下の女性に襲われて悲鳴を上げる羽目になったのだった。
全く予測していないところに背後から忍び寄られ、いきなり腰を両側から押さえられたりしたら男だって驚く。
反射的に振り回した腕をひょいと避けてユキがフム。
「70・・・5?真田さん、また痩せたの?」
「ユ、ユキ!なんだ!いきなり!!」
地球防衛軍内にあっては『あの』と枕詞をつけられる真田が廊下で壁にへばりついて悲鳴を上げれば大抵の連中はギョッとして視線を向ける。
「だって正面から頼んでも真田さん計らせてくれないじゃない」
ケロリとしているユキである。
「そんなもの、病院の個人データみた方が早いだろ!」
「乙女心としてはそうはいかないの。そんなわけでバストも測らせてね」
うっふっふと妖しい笑みを浮かべながら両手を近づけるユキの姿に恐怖すら感じてしまった真田である。
「よ、寄るな!触るな!」
「諦めが悪いわよ。一瞬なんだから我慢してね」
「やめろー!!」
「有名人が二人そろって廊下で何やってるんだ」
ユキの後頭部をペシと叩いたのは山崎だった。
「まわりが楽しんで見物してるぞ」
「だってぇ〜〜」
ホッと安心した真田と不満そうなユキ。やれやれの山崎。
「で、欲しいのは標準値か?平均値か?最新値か?」
ここでこう切り出せるのは太陽系中探しても山崎ひとりくらいなものであろう。
「最新のはいつ?」
「10日前。標準との誤差はウエストで3センチ。割増料金で別な部分のサイズもあるぞ」
「別な部分って・・・どこ?」
「うむ。それはだな・・・」
「上官のサイズで商売するなー!!」
まーったく、もう。とブツブツ言いつつ真田はふたりを局長室に連れ込んだ。
「なんなんだ、いったい」
「だから2月14日に向けてもう準備に入ったってことよ」
「2月14日?それと俺のサイズとどう関係があるんだ?」
こーいうことを本気で訊くのが真田志郎という男なのである。
「・・・2月14日が何の日か知ってるわよね?」
「・・・・・・・・・・たった今、思い出した」
「そういうわけでチョコと一緒にベルトだのセーターだのを贈ってポイントを上げようというけなげな女心なんだな」
ほら、とコーヒーを真田の前に置きながらの山崎のせりふにあいたたたと頭を押さえるしかない。
「で、不正確なデータでサイズの合わないのじゃ贈る方も贈られた方も悲しいだろうからな」
なぜ山崎が正確な真田のスリーサイズを知っているのかは地球防衛軍の7不思議のひとつである。
「だからって人のサイズで小遣い稼ぎはないでしょーが」
2月14日は地球にいないようにしようと心に決めた真田だった。
本来、そういったこととは思いっきり無縁だった真田である。学生時代も軍人になってからも義理とジョーク以外はもらったことがなかった。(本人がジョークだと信じたかっただけ、という話もあるが)
それがイスカンダルから生還し、科学局の局長を押しつけられたと同時に一気に爆発したのだから、うろたえない方がおかしい。
全く知らない人物から顔写真と履歴書付きで送られてきても警戒するだけで受け取れるはずなどない。
結果、今に至るまで真田宛に送られてくるチョコの処理は全て部下の仕事となってしまっているのである。
「その辺は役得というヤツだ。ちなみに島君のサイズは真田局長に訊くといいぞ」
山崎の言葉にユキがキョトン。
「知ってるの?」
「え?いや、まぁだいたいのところなら・・・」
「・・・なんで知ってるの?」
ユキの瞳が妖しい光を放つ。思わず真田があわてた。
「島が俺のところに泊まった時に服を貸したからに決まってるだろーが!おかしな想像をするんじゃない!」
というわけで数字をもらったサーシャは毛糸を買いに行ったのだった。
「何色がいいかなぁ・・・」
悩みつつ選ぶ様子を見ているのはもちろんユキ。
自分はこういう初々しいことをする暇がなかったのでせめて手を貸して雰囲気を味わいたいというわけである。
「ね、ね、この色でいいと思う?」
「サっちゃんのイメージで選んでいいのよ」
「でもぉ」
と悩む姿はしっかりフツーの女の子である。
・・・これで相手がもう少し普通の男の子だったらよかったんだけどね・・・
内心そう思わずにいられなかったユキであった。
女性陣が動き出せば、男性陣も当然気になる。
特に独身連中はソワソワ。
いくら男女比が大きく崩れて男に有利な現在とはいえ、やっぱりモテるヤツとモテないヤツの差は大きい。
せめて人並みの幸せを願いたいのはいつの世も変わらない。
しかし世の中、願うヤツばかりとも限らないのである。
恋人のいる連中は『もらえるか、もらえないか』ではなく『何をもらえるか』を気にしているし、さらに上級者になると早々に14日のデートを予約されていたりするのである。
「今年は誰とデートなんです?」
古代守に訊かれて山崎はふふん、と余裕の笑みを浮かべた。
「もちろん、美女とさ」
そういう君らはどうなんだ、と切り返す。
「ちゃんと奥さんに誘ってもらえているのか?」
守の妻は異星人である。当然のことながらバレンタインの習慣など知らなかった。
「だいぶ馴染んでくれたようで、ちゃんと誘ってくれましたよ」
そして弟の進はといえば今年は珍しく地球上でバレンタインディを迎えられると喜んでいた。
「『絶対に仕事入れないでね』って先月から釘さされてます」
そんな三人のやりとりを『けっ』といった顔で聞きながらビールを飲んでいるのが真田と幕の内と島という独身トリオだった。
「2月14日だけ、世の中から消えてくれないかね」
「全く」
「考えついたヤツを殴り殺したいところだな」
「ヒガむな。モテるってことはそれなりに大変なんだぞ」
「知ってるさ。てめーの修羅場にさんざん巻き込まれたからな」
守は学生時代からモテていた。それを自覚して楽しんでいればドジ踏んだときに大問題が発生する。
そのとばっちりを何回食らわされたことか・・・の真田と幕の内なのである。
「島だって学生時代からそれなりにモテてただろう?チョコの数も期待できるんじゃないのか?」
進のセリフにもむっつり顔が直らない島である。
「俺にだって好みってモノがあるんだよ」
ついでにそれについてくるイタズラはどうしてくれる、と言いたい島。
「真田みたいなこと言ってるとロクな目に遭わんぞ」
ブッチョウ面で焼き鳥をかじる3人を余裕の笑みで眺めている3人である。
「たしかにろくな目に遭わないさ。あのチョコの山が今年も出現するのかと思えばな」
「昨年はどーしたんだ?」
「まとめて戦災孤児院へ持ち込んだ」
『ごくフツーの一般人』を自称する真田にしてみれば、会ったこともない人からもらって喜べるか、というのが彼の言い分である。
「ところでおまえさんの娘はどうなんだ?そろそろ彼氏の一人くらいできたんじゃないのか?」
幕の内に訊かれてそれがさ、の守。
「先日から急に編み物始めてな。どうやら本命ができたと見た」
「付き合ってるのか?」
真田が訊くと首を振る。
「その気配はないんで片思いではないかと・・・」
「おまえの娘らしくない行為だな」
「待て。そしたら俺の娘らしい行為ってのはなんなんだ?」
「そりゃー当然」
「相手をひっつかまえて告白してベッドに押し倒すくらいのことは・・・」
「参謀長、そのナイフは切れが悪いから致命傷は与えられんぞ」
これもある意味、日頃の行いの結果、ということになるのであろう・・・
「昨年はどうだったんです?」
「昨年か?日曜だったろ?前の日に外出で帰ってきて俺にくれたよ」
「あー、そうそう。朝っぱらから叩き起こされたんだ。俺ももらった」
「ならその後だな。ウチにも来たぞ」
真田と山崎のセリフにへえ。
「義理でも直接手渡しですか。さすがスターシャ陛下のお嬢さんですねぇ」
「・・・島君、君俺にケンカ売ってない?」
「モテない男のひがみですよ。気にしないでください」
しかし、セーターねぇ・・・の真田。先日の恐怖がよみがえる。
「セーターといえば、結局何人に売ったんです?」
訊かれて山崎が指折り数えてひいふうみい。
「ざっと15人」
思わず頭を抱えてしまった真田である。
「そういう局長も何人にデータ売り飛ばしたんです?」
「俺は売ってない!ボランティアで情報提供しただけです!」
「情報提供?何を?」
思わず聞いてしまった島である。そりゃもちろん、と山崎が答えて曰く。
「参謀長と航海長のスリーサイズ」
「真田さ〜〜ん。とってもうれしいこと、してくれたんですねぇ」
島の手が真田の首にかかる。
「これ以上、騒ぎを大きくしてどーするんです!?」
「ええい!俺一人に集中されるよりマシだ!全員巻き込んでやる!」
そんなわけで地球防衛軍内部では有名ヒーロー数名のサイズが出回ったのであった。
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バレンタインパニック *その2* by亜瑠
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さて、父親としては娘の本命が誰なのかが気になるのは当然のことである。
妙な男にでもひっかかっていたら・・・とそわそわ。
しかしここであれこれ口を挟むのは父親としての度量にかかわる。警告はデートするようになってからでもいいだろう・・・と思いつつもいったいどこのどいつなんだろうと必死に編む娘の背中を見守ることにした守なのだった。
・・・その真実が娘の本命を知る妻にがっちりと釘をさされた結果なのだということを知るのは片手の指以下の者だけである。
そして真田は2月初頭から3週間ほどの出張を画策し始めたのである。
行き先は悩んだ挙げ句にガルマンガミラスということにした。
ちょうど懸案もあって、それほど不自然には見えないだろう、というのが決定理由。帰国は2月の末になるだろうから、完璧だ。
・・・のはずだった。
出発予定10日前に事故さえ起きなければ。
ドックで発生した小規模なトラブル。
何の変哲もない、よくあるトラブルのはずだった。
タイミング良く居合わせた真田が振り回されたクレーンの腕にラリアートを食らったりしなければ。
「真田科学局長が重傷!?」
司令部ではその報告に騒然となった。
すわ暗殺未遂か!とまで話が大きくなったのも、真田の頭の中身を考えれば仕方がない。
「徹底的な原因の調査だ!それと容態はどうなんだ!?」
「は!病院からの報告では生命に別状はないとのことです。肋骨が4本折れ、うち2本が複雑骨折。肺に食い込んだのもあるそうで全治半年、との診断です」
それを聞いて藤堂司令長官以下がホッと一安心。
「手術がまだ終了していませんので詳しいところははっきりしませんが、最低でも一ヶ月は入院になるはずだとのことです」
「首から上が無事ならとりあえずかまわん。両手が動けばベッドの上からでも大抵のことはなんとかするヤツだからな」
古代守参謀長の冷たい一言も真田の実態を知るものならば誰もが納得してしまう。
「護衛兼の監視が必要になるか」
ひとりでほっとくと三日目に病院を脱走して仕事に戻りかねないとわかっている司令長官であった。
目を覚ますと白い天井が見えた。
首を回すと点滴のビンがすぐ傍に下がっているのが見えた。その下には心電図と呼吸と脳波をチェックしているモニター。
・・・ってことはここは病院か・・・
我ながらドジ踏んだな、と思う。制御不能になったクレーンに殴り飛ばされるなど、反射神経が鈍くなったと馬鹿にされるだろうなと。
これで出張もパーだな・・・
ため息をついたとき、ドアが開いてユキが佐渡と入ってきた。
「おう、気がついたか」
「今ですけどね。いつまで閉じ込められるんです?」
「ま、1ヶ月は覚悟することじゃな」
「1ヶ月!?」
叫び返そうとしたのだが、痛みがそれを遮ってしまった。
「理由はいまのでわかったな?全治半年。最低2ヶ月は3G以上の加速も禁止じゃ」
すると・・・と考えて頭が痛くなってしまった真田だった。
「端末は来週には準備できるから、ここからのアクセスは大丈夫よ」
監視付きだけどね、とにっこり笑うユキにさらに頭痛が酷くなった気がする。
目を覆った時、再びドアが開いて守が顔を見せた。
「なんだ、生きてるのか」
「シャレになってないぞ、おい」
「冗談だ。気にするな。それより部下が報告書の行き場がなくて泣いてるぞ。代理を指名しておけ」
「代理の指名って・・・なもん序列で当然」
「造船部のワルトハイツなら『自分が提出する方だ!』と逃げ回ってますけどね」
守の後ろに山崎がいた。その手にはディスプレート。おそらく中身は大量の報告文書だと聞かなくてもわかってしまう。それすなわち『俺も知らんぞ』という山崎の意思表明。
補佐ならいくらでもするが、局長代理などだーれができるか!というのが現在の科学局幹部一同の一致した意見でもあったのだった。
「・・・そのディスプレート貸してください」
薄情な連中だとブツブツ言いながら真田はディスプレートを受け取るとなにやら書き込みを始めた。
数分せずにそれが終わり、山崎に返す。
もちろんユキや守ものぞき込む。
書かれていたのはあみだくじだった。
「局長命令です。部長以上は全員参加すること。当たったヤツは文句言わずに引き受けること。以上」
夫から真田の入院を聞いてスターシャがあら。
「ならお見舞いに行かないといけないわね」
「当分おとなしくするよう言い聞かせておいてくれ」
頼むからまた誘惑はしないでくれよと思いつつ口には出せない夫であった。
せっせとセーターを編み続けているサーシャはといえば、見舞いに行きたいし、行って色々世話をしてポイントを上げたいという希望はあったのだが、それを実行すると編む時間が減ってしまう。そうすると2月14日に間に合わない!というジレンマに陥っていた。
編みながら考えた結果、とにかくお見舞いには行くことを決めた。そこから先は病室の風景を見てから決めようと。
そう決めてからふと思い出してしまった。
怪我人のお見舞いって、何持っていったらいいのかしら?
「お見舞いって何持っていったらいいの?」
サーシャに訊かれたのはちょうど地球に戻ってきたばかりの島だった。
「真田さんにかい?」
「うん」
「そうだねぇ・・・真田さんになら白や黄色の菊とか、サイネリアの鉢植えとか・・・」
ゴキィ!
「・・・俺のかわいい姪っ子に何教えてんだ、おい」
後ろで聞いていて思わず島を張り飛ばしてしまった古代進である。
「殴ることないだろう?ってぇなぁ」
「違うの?」
「思いっきり!そんなもん、絶対持っていったらダメだからな!」
「どうして?」
「200年以上前からそう決まっているんだ!」
そう答えるのがやはり古代進なのである・・・ので、笑って島が説明した。
「つまり日本系にとって、菊ってのは『葬式用』の花な訳。で、サイネリアは別名をシネリアともいってね。語呂が悪い、と。でもって鉢植えというのは『根が付く』ことで『病気が根付く』という連想を起こすというわけで・・・」
「島さん!!」
本気にして持っていったらどうしてくれたんです!とサーシャが怒るが島は笑ってかわす。
「平気だよ。真田さんなら爆笑してジョークだと思ってくれるから」
「本当?」
「多分・・・ね」
結局サーシャが持っていったのは店の主人が『細かい部品の多さだけは保証する!』と退屈しのぎを保証してくれたボトルシップ制作キット一式だった。
病院の玄関先で島や進と待ち合わせて病室へ向かうと先客がいた。
数名の科学局員が報告と端末のセッティングをおこなっていた。
「邪魔かな?」
「いえ、もう終わりますから」
そう返事をしながらもまだバタバタしている。ベッドの上の真田がやれやれ、といった顔で3人を招いた。
「こんなわけでな。ゆっくり療養もさせてもらえないんだ」
「入院できるだけマシって話もありましたよ、局長」
端末を調整しているひとりがへろりと言って返す。
「そう。報告書の行き場がないからって、病室から出勤させようって企んでる部長達もいたってことですよ」
「ったく、総出で俺を殺す気か」
愚痴る真田にもなーに言ってんですの部下一同。
「局長がこの程度で死ぬような男なら地球はとっくに滅びてたと思いますけどね」
「そうそう。ガミラスも彗星帝国も苦労しなかったと思いますよ」
「おいおい、いくら事実でもそれこいつの前で言っちゃいけないだろう?」
島が進の肩を叩いて混ぜっ返した。
「真田さんが後ろで仕切っていたけども表の戦闘指揮官はこいつだったんだから」
「「フォローになってない!」」
病室内に笑い声が響いた。
サーシャが差し出した見舞いの品を真田が素直に笑顔で受け取った。
「すまないね」
「完成したら見せてね」
「局長のことですから設計図と全然違う物になっている可能性もありますからね」
「あ、それわかる」
「そうそう。できあがるまで予測がつかないんだよな」
「おまえら、人をなんだと・・・」
和気藹々としてる病室だった。
編みかけのセーターを前にぼんやりしている娘に気がついてスターシャが声をかけた。
「どうしたの?」
「オジサマって、人気あるのね」
「何?今頃」
「もっとちゃんとした物の方が喜んでくれるのかなぁ・・・」
「ちゃんとした物って?」
「わかんない。でもきっといろんな人からいろんな物贈ってもらえるんだよね。そしたらこんなセーターなんかじゃ・・・」
一人前に悩む娘の姿に親としてうれしくなってしまったスターシャである。
「贈ってみないとわからないんじゃない?」
「だって!」
「あの人がどんな物を喜んで、どんなものを嫌うのか、それも知らないの?」
言われてみてあ・・・!と思い出したサーシャ。
「でしょう?」
「そう・・・か」
「でもその前に完成しないとね」
「うん!」
元気を取り戻して再び編み始めたサーシャだった。
「で、いつ退院できるんだ?」
訊かれて真田は深くため息をついた。
「14日」
「・・・混乱防止のために追い出されるわけですか」
気の毒に、と言いつつも島の顔は笑っていた。
「おまえ、人の不幸だと思って楽しんでるだろ」
「そりゃそうでしょう。誰かさんだって自分の被害軽減のために俺のサイズばらまいてくれてますからね」
つまりはどっちもどっち、である。
「ま、冗談はさておき、退院してもすぐ仕事に戻れるわけじゃないんでしょ?どのくらい自宅療養するんです?」
「2週間くらいかな?」
それなりに重傷だったのである。すぐさま職場復帰、というわけにもいかない。
もっとも、その間に何事か発生すれば有無を言わさず戻る羽目になるのであるが。
「食事とかは大丈夫なんですか?」
非常にもっともな心配であった。
「あ、それは大丈夫だ」
言ったのは守。
「ウチの娘がいまから張り切ってるから」
「・・・ホントに大丈夫なんですか?」
「・・・多分、な」
思わず不安になる実の父だが、真田本人は以外と心配していない。
「ま、胃薬の世話になる心配はないさ。とりあえずは食えるもの作れるようだから」
「何で知ってるんです?」
「・・・いろいろあってな」
スターシャに押し掛けられるよりはまだ安心できるだろうというのが真田の本心だったりする。
「サーシャといえばまだセーター編んでるのか?」
話を変えようと真田が訊くと守はうなずいた。
「あぁ。昨日あたりだいぶ顔つきが変わってきてたな」
もう日にちはないからなぁ・・・と他人事として心配する真田と島であった。
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バレンタインパニック *その3* by亜瑠
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そして・・・
運命の2月14日。
朝一番に島は逃げた。
13日のうちに年休届けを出すという技を使い、荷物持ちをするという名目で真田の病室に飛び込んで来たのだった。
「で、なんで今からここにいるんだ?」
「俺が昨年どんな目にあったと思ってるんですか」
ソーセージマフィンをかじりながらの島の一言に肩を落とすしかない真田だった。
「さっさとひとりに決めればいいだろう?」
「真田さんにだけはそのセリフ言われたくないですね」
「あ、あの・・・」
いつの間にかドアのところに若い看護婦が立っていた。
「こ、こちらに島さんがいらっしゃると聞いたんですが」
「このボンがそうですが?」
真田が小突くと看護婦は真っ赤になりながら島にチョコレートを差し出してきた。
「こ、これ・・・」
出されたモノはにっこり笑って、でも断る、の島である。
「ありがとう。でもぼくは君からもらえるような資格はないから、他のいい男に渡す方がいいよ」
「で、でも・・・」
「その気持ちはうれしいけど、まだぼくには君の気持ちを受けとめる度量はないから・・・ね」
笑顔で鮮やかにかわす島に呆れる真田。
「おまえの場合、完全に自業自得だと思うぞ」
「女性に恥かかせるわけにはいかないでしょうが」
「20年後は山崎さんになってるな、おまえ」
「そりゃあんまりだ」
こいつも自覚ってものがないらしい。
「まぁいい。食ったら精算書もらってきてくれ。身動き取れなくなる前に帰るぞ」
「了解」
しかし、ちょっとばかり遅かった。
島が休みを取ったという情報は9時前には関係各所に広まっており、どこへ姿をくらましたかについては9時半までに調査が終わっていたのだった。
そして同時に真田の退院時刻もその筋から一気に広まっていたことを彼らは知らなかった。
従って、島がソーセージマフィンとフライドポテトを食い終え、真田の精算書を受け取り、支払いを済ませて病室に戻ろうとしたときには集団が病院めがけて移動を終えようとしていたのだった。
着替えを終え、病室を出る前に窓の外に目をやった真田が一瞬の恐怖を感じた。
「真田さん、支払い終わり・・・」
「島!逃げるぞ!」
「は?」
「情報が漏れてる!危険だ!!」
「はい!!」
一瞬で島も事態を悟った。身の危険を感じて急いで真田の鞄を持ち上げ、ふたりそろって病室を飛び出したのであった。
しかし敵の方が上手だった。現役の軍人であるふたりのである以上、負傷しているといっても逃げ場のないエレベーターを利用する可能性は低いと見切り、階段を駆け上がって来たのだ。
・・・そして追跡者と逃亡者は踊り場でかち合った。
「いたわよ!」
「島さん!」
「島君!」
鬼気迫る迫力に島が思わず真田を盾にその後ろに隠れてしまった。
「今年こそ、私の愛を受け取っていただけますね!?」
「い、いやだからそれは・・・」
「島さん!隠れてないで受け取ってください!」
「気持ちだけ、受け取らせてもらいます!」
「そんな奥ゆかしいこと言わないで私の全てを受け止めてください!」
「ま、待ちなさい!島の方にも好みとか都合とか心の準備というモノが必要なんだから・・・」
追いつめられ、階段を一歩一歩後退する男ふたり。目の前にいるこれが敵兵だというのならいくらでも薙ぎ倒して突破できるのだがさすがにそれはできない。
いったん転進して上に逃げるか、とも思ったがそれを決行すると一般病室の入院患者に迷惑がかかるだろう。
しかしここで全員から受け取ってしまえば、その事実は1時間としないうちにどこまで広まるかわかったものではない。過去の実例から検証すればその後の状況を想定するのが怖くなるので絶対に受け取りたくない。
では、どうする?とふたりして冷や汗をかき始めた時、後方から別の声が響いた。
「こっちよー!いたわ!!」
「げ!挟まれた・・・!」
島が低く悲鳴を上げた。
病室を経由した一隊が追いついてきたらしい。
「局長!逃げるなんてあんまりですわ!」
「そうです!この日のためにどれだけ愛を注いできたことか!」
「今年こそ、この気持ち受け取っていただきます!」
「ぜひとも私の愛を受け止めてください!」
「ま、待て!真田さんは怪我人なんだからそんな迫力で迫られるとまた熱が・・・!」
身動き取れなくなりかけたとき、真田は集団の後ろの方で怯えているサーシャを見つけた。
どうやら一緒に付いてきたはいいが、先輩達の迫力に完全に圧倒されてしまったらしい。
その姿に不吉なものを感じた直後・・・サーシャが突き飛ばされて後ろ向きに倒れかかった。
「きゃ・・・!」
場所は階段の踊り場。そこで後ろに倒れたらどうなるか。
「サーシャ!!」
とっさに真田が叫んで走ろうとした。
「さな・・!?」
「退けろ!開けてくれ!」
女性陣をかきわける真田に島も何があったのか知った。
「サーシャ!大丈夫か!?」
壁に寄りかかってくったりしているサーシャは動かない。
「頭をぶつけたかもしれない!早く運んで!」
島がそう急かす。一瞬島を見上げた真田だったが小さくうなずくとすぐにサーシャを抱き上げ、階段を駆け下りていった。
「あの子、誰!?」
「どうして局長が!」
後ろのざわめきに説明するために島が振り返った。
「あの子は古代参謀長のお嬢さんだよ。真田さんにとってみれば妹みたいなものだからね。よけいな勘ぐりはしないでもらいたいな」
真田と古代守の仲は軍人なら大抵の者は知っている。その古代守の娘となれば真田が気にしてもそれほど不思議ではないだろう。・・・と島も思う。
「とにかく、ここは病院だ。これ以上騒いで入院患者に迷惑をかけるようなことは無しにして欲しいし、怪我人も出さないで欲しい。それくらいの常識は期待してもいいだろう?」
「でもぉ・・・」
「真田局長宛のモノは今年も山崎特務部長が一括して受け取り窓口となっている。ちなみにぼくの分も、だ。いくらなんでも自宅まで押し掛けるような非常識なことをする事はない・・・よな?」
どさくさに紛れて自分の分まで処理を山崎に押しつけてしまった島であった。
サーシャを抱き上げて飛び込んできた真田にさすがの佐渡も一瞬驚いた。
「どうした!?」
「騒ぎに巻き込まれて・・・大丈夫だな?」
診察台の上に降ろしながら真田が声をかけている。
「もう正気に返ってもいいぞ」
「・・・やっぱりバレてた?」
「当たり前だ。だいたいあんな事くらいでまともに頭をぶつけるようなことじゃ、再訓練だぞ」
診察台に座らされてサーシャが真田を見上げていた。
「でもぶつけたのはホントなんだから、少しはいたわってよ」
包みを抱いたまま真田をつつくサーシャに事態を飲み込んで佐渡が笑った。
「怪我人に抱いてもらっただけで良しとせんか」
島が後を追って入ってきた。
「こっちもひとまず収まりましたよ」
病院出た後はどうなるか知りませんけど、と言いつつ3人に近寄る。
「今年はまた一段と迫力が増しましたねぇ」
「半分はおまえの分だろ」
「・・・毎年ああなの・・・?」
「・・・・・・・・・否定は、しない」
だから地球から離れたかったんだよなぁ、とため息をつく真田であった。
「で、どうやってここ出ます?」
目の前にぶら下がる現実の問題。
「もいっかい怪我人になろうか?」
「サっちゃん、実は喜んでるだろ」
島に指摘されてもえっへっへ〜と悪びれる風もないサーシャの笑顔であった。
「じゃ、抱っこして」
「俺は怪我人。島に頼め」
「俺そこまでの腕力、自信ないんですけど・・・」
「ひっどーい!島さん、それレディに対する最大の侮辱よぉ!」
「怪我人に抱っこをせがむレディがどこにいる!」
「じゃれとらんでとっとと帰らんとさらに人数が増えるぞ」
佐渡が窓の外を指さしながら言った。
島の運転で真田の官舎にたどりつくとスターシャが来ていた。
3人の姿にクスクス笑いながら珈琲を入れてくれた。
「先ほど科学局の山崎さんから連絡がありましたよ。『押しつけるな!』って」
「上官のサイズで商売するような部下には当然の役目です」
しっかり根に持っている真田である。
「あんまり怒らないでくださいね。私も買ったひとりですから」
スターシャのその一言に3人そろって目を剥いた。
「え!?」
「はい。こちらが真田さんに。これは島さんへ。スリーサイズ以外だって、割り増し料金取られましたよ」
笑ってスターシャがふたりに差し出したのは手袋だった。
「ぼくももらっていいんですか?」
受け取りながら当然島が驚いている。
「ええ」
「ありがとうございます!」
「おかーさん、ずるいー!」
「子供は努力するもの。スマートにオシャレを演出するのは大人になってからよ」
ふふん、と娘の非難を受け流したスターシャに、過去の経歴を思い出し本当に受け取ってよいのかどうか数瞬の間悩んでしまった真田であるが、横の島は素直に喜んでいる。
「さ、お昼の準備をしますよ。サーシャも手伝いなさい」
「ぶー」
真田の苦悩も知らず、素直にぶーたれるサーシャであった。
帰り際になってサーシャがようやく真田に包みを差し出せた。
「あ、あのね。・・・遅くなったけどバレンタインのプレゼントなの」
差し出してきたのは病院に来たときから抱えていた包みだった。
「あたしが作ったんだけど・・・もらって」
「サーシャ?いや、しかし・・・」
困った顔になった真田の背中を島が叩いた。
「ほら、女の子に恥かかしちゃいけませんよ」
「おい」
他人事だと思ってんなと睨みつけたが島は平然。
「・・・ダメ?」
つい先刻母親のスターシャから受け取ってしまった手前もあって、べそをかきそうな顔で見上げられるとさすがの真田も断れなかった。
さてはこれを見越してのスターシャの援護作戦だったかと思いつつ見抜けなかった自分の敗北を認めるしかなかった。
「・・・ありがとう。でも内緒だぞ」
「うん!」
笑顔が戻ったサーシャに真田も困った顔のまま笑った。
3人が帰った後で真田は包みを開いた。
スターシャから贈られた手袋には甲に名前が刺繍されていた。はめてみるとぴったりだった。皮はしっかりと鞣してあり堅さは感じない。義手である自分の手のサイズにきっちりと合っているのだから早めに山崎からサイズを聞き出して特注したに違いないとわかる。
サーシャの包みの中身はセーターだった。パステルブルーの少し形が歪んでいるセーター。
必死に編んでいると言っていたのはこれだったのかなと思う。着てみるとサイズは合っている。練習で編んだというわけでもなさそうだった。
「・・・俺なんかのどこが気に入ったのかねぇ・・・」
やっぱりイスカンダル人の趣味はわからないなとつぶやきつつ真田はセーターを畳んだのだった。
電話が鳴った。相手は山崎だった。
『チョコの処理は昨年と同じでいいんですね?』
「虫歯になる気はないですからね」
『了解です。あ、食品以外の品の午前の分は至急便で送りましたから』
「え・・・?」
『全部局長のサイズですからね。他に使い回しは効かないですのでしっかり有効利用してください。それで午後の分はまた後で送りますから』
「ち、ちょっと!」
ぴんぽ〜ん
「宅急便でーす。ハンコお願いしまーす」
・・・来年こそは絶対地球から離れてやる!と堅く堅く決意した真田であった。
(ぼそ)
「・・・その前に嫁さん捕まえればいいだけのような気もするんだがなぁ・・・」
おしまい。。
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