TITLE : 悪魔の辞典
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目 次
序
ア
アイ
愛国者
愛国心
あいのこ
アカデミー学園
赤ん坊
空き地に集まる人間
悪事
悪態
悪党
悪人
悪名
揚げ足とり屋
顎ひげ
麻
アダー = マムシ
アダム以前の人
悪漢・異端者・外道
あどけなさ
アバーナス湖
アブラカダブラ
油質の・口先のうまい
アフリカ人
阿片
ありそうもないこと
憐み
憐むべき
按手・詐欺
安全装置
安息日
イ
家
位階
異教徒1
異教徒2
遺産
意志・意図
医者
移住者
異常な
急ぐこと
偉大な
異端者
一度
一年
一神論者
一致
一夫多妻
意図
犬
祈る
印
韻
インク
隠者
陰謀
引用
飲用の
引力
ウ
ウォール街
ウシカモシカ
失うこと
蛆虫の餌
嘘つき
打ち勝つ
美しさ
訴える・上告する
移り気
自惚れ
生まれながらの
噂
運命
エ
絵
影響力
永眠する
易断
疫病
餌
エックス
エル・エル・ディ
縁故採用
演壇
円頂党員
オ
尾
追い立て
追剥
王
横隔膜
王者病
応答する
大あわての
大きさ
お金
臆病もの
押し
お上品な
夫
劣った
踊る
おべっか者
重湯
オリンパス山の
愚かさ
愚かな言動
恩赦
恩知らずの人
恩人
カ
ガーゴイル
ガーゼのマスク
カーバ神殿
絵画
改革
懐疑説
外交手腕
会社
回想する
海賊1
海賊2
海賊・略奪者
海賊行為
解放
海泡石
快楽
快楽主義者
会話
下院議員
蛙
価格
鏡
牡蠣
学園
格言1
格言2
学識
隠す
革命
家系
歌劇
過激主義
陰口をきく
過去
カササギ
かすがい
がたがたの
ガチョウ
活字
過度・不節制
金持ちの
彼女のもの
甲虫
鵞ペン
神々の飲む酒
剃刀
髪の毛座
亀
カモノハシ
火薬
ガラガラ蛇
過労
諌言
監獄
勧告する
頑固な
関税
完全
肝臓
歓待
寛大な
鑑定家
感動
慣用法
キ
木
機会
危険
奇行
儀式
儀式主義
騎士気取りの
起床らっぱ
奇跡
偽善者
貴族1
貴族2
貴族政治・貴族
機知
記念碑
技能
気晴らし1
気晴らし2
詭弁
希望
義務
キャベツ
休戦
窮地
キューピッド
教育
行儀・振舞い
狂気の
強制
行政官
行政機関
共同食卓・定食
共同墓地
競売人
共犯者
教養のない俗物
共和国
虚栄
曲馬団
拒絶
虚無主義者
きらきら輝く
気楽
キリスト教徒
切り抜き帳
キルト
議論
禁酒家
吟遊詩人・黒人楽団員
ク
悔い改めないこと
空位期間
クーイ − ボーノー
空気
空気の精
偶然
偶像破壊主義者
愚者
口
口づけ
苦痛
靴下どめ
苦悩
クラリオネット
クレイオー
クレモーナ製バイオリン
君主
群衆
ケ
ケイ
計画する
警句1
警句2
敬虔
経験
経済
警察
芸術
系図
啓発者
刑罰を受けないですむこと
軽犯罪
軽蔑
劇作家
激怒
けだもの
結果
穴居人
結婚
結婚式
決然とした
決定する
決闘
月曜日
外道
ケルベロス
下劣
言語
堅硬物・貞操
現在
原住民
肩章
ケンタウルス
建築家
権標
健忘症
賢明な
権利
権利侵害
コ
乞う
高位聖職者
後衛
講演者
後悔
後悔している
狡猾
高雅な・寛大な
好奇心
攻撃的な・不愉快な
公使
口実を使う人間
豪州
絞首刑執行人
絞首台
後世
校正係
幸福
合法的な
拷問台
剛勇
強欲
合理的な
小鬼
コーラン
誤解を解く
小型の野生馬
黒人
黒人楽団員
黒人の子供
国民投票1
国民投票2
極楽
極楽の女
個々別々・単独所有
心・精神
孤児
乞食
後生大事に
悟性
伍長
国会
国境
骨相学
御殿
こなみじん
好み
小人族
小麦
娯楽
ゴルゴン
殺す
ごろつき
婚約した
サ
妻君自慢
再計算
債権者
再検討する
最後通告
再考する
賽子
財産
財政学
祭壇
災難
裁判
在留外人
サイレン
逆茂木
詐欺
昨日
酒浸りになる
殺人
さらし台
ザリガニ
猿
賛辞
ザンジバル人
三段論法
賛美者
三位一体
シ
詩
ジェイ
市会議員
四月馬鹿
識別する
ジグザグに進む
死刑執行延期
地獄に落とす
磁石
死者のためのミサ
死者の霊
自主的政治家
辞職する
辞書編纂者
死体泥棒
下腹
七面鳥
十誡
実在
実際に
実証哲学
失踪する
実体のある
辞典
児童期
支払いの義務がある
慈悲
地引き網
至福千年
指名された人
指名する
自明の
笏
謝罪する
写実主義
写真
借金
赦免する
自由1
自由2
十一月
習慣
宗教
重婚(罪)
重罪犯人
十字架
修道士
収入
祝宴
祝賀
祝祭・祝宴
淑女ぶる女
宿泊人
宿命
取材記者
酒神
熟考
出版する
首都1
首都2
殉教者
巡礼者
上院
商
紹介
傷害・権利侵害
小凱旋式
消化作用
消化不良
償還
商業
冗言法
証拠
上告する
賞賛
成就
小説
象徴
象徴的な
錠と鍵
商人
逍遥学派の
将来を考えないこと・不用意
抄略する
女王
贖罪
食屍鬼
食虫動物
植物学
食用になる
食欲
女子修道院
処女
女性1
女性2
処方
庶民
知り合い
磁力
思慮のない
白(い)
信仰
親交
真実の
神助の
神聖な
親切
心臓
死んだ
診断
神知学
真理
人類
神話
ス
推賞
推理する
崇敬
崇拝する
鋤
筋道の通った
寸言
住んでいる
寸鉄人をえぐる言葉
セ
晴雨計
正義
成功
聖餐
政治
正字法
政治屋
聖書
聖職尊奉論者
精神
聖人
生存
青年時代
聖別する
生命
西洋
聖礼典
ゼウス
責任
責務
世間体
石棺
節制家・禁酒家
舌戦
絶対禁酒主義者
絶対的な
窃盗狂
絶滅
背中
責める
世話になっている
全権を有する
宣誓
戦争
先存
前兆
戦闘
扇動家
旋毛虫病
千里眼
善良な・賢明な
先例
洗礼
ソ
騒音
葬式
想像力
相談する
ソース
俗語
訴訟
訴訟関係者
育ちの悪い
背く
尊敬
尊敬すべき
タ
退位
退化・堕落
退化した・堕落した
大歓迎・小凱旋式
戴冠式
退屈
退屈な連中
大司教
大食漢
大臣・公使
大主教
怠惰
大胆不敵さ
タイツ
大統領
大統領職
代表団
大砲
逮捕する
大洋
太陽や月のかさ
代理人
妥協
堕罪以後論者
助ける
立ち聞きする
駝鳥
たっぷり
ダブリュー
食べ過ぎる
食べる
多弁
魂
堕落
堕落した
たわごと
断頭台
単子
誕生
男性
単独所有
堪能
チ
小さい点
力
蓄音機
地質学
地の精・小鬼
忠告
中国線香
中傷する
忠誠1
忠誠2
弔慰する
朝食
嘲弄
長老派教会員
調和研究者
地理学者
陳腐
ツ
痛風
通訳
ツェツェ蠅
つかさどる
憑かれた
突き刺す
償い
続き物
慎みのない
つれあい
テ
手
ティー
体裁のよい
定数
提督
手斧
デカルトの
敵意
適法
手相術
哲学
鉄道
手で運べる
手の平
手風琴
天気
電気
天国
伝承的知識
天頂
天罰1
天罰2
天文台
電話
ト
当意即妙の答え
闘技場
道化
道化師
道化役
燈台
道徳的な
投票
投票権
動物学
同盟
道楽もの
道路
時々の
独裁者
毒舌
時計
都市風
土地
とっくり鼻の
特権
とっておく・持っている
とどめの短剣
富
友のない
トラスト
取る
ナ
内臓
長生き
慰め
悩み
成り行き
ニ
握り屋の
憎しみ
肉食性の
肉体
日記
二度
ニュートン学説の
入浴
人間
人間オオカミ
人相学
忍耐1
忍耐2
忍耐3
人頭税
ネ
寝返りする
猫
妬み
妬み深い・後生大事に
熱
熱意
熱狂
熱情
熱のこもった結語
熱弁
涅槃
粘着力
年輪を経た
ノ
ノアの洪水
脳味噌
能力
呪う
のろま
ハ
バール神
パイ
ハイエナ
バイオリン
拝金
歯医者
賠償人
背信者
廃用になった
ハエの糞の跡・小さい点
墓1
墓2
破壊する
博愛主義者
博識
拍手喝采1
拍手喝采2
白人と黒人の混血児
白痴
恥を知る・尊敬すべき
バジリスク
旗
ハツカネズミ
発射物
発明家
鼻1
鼻2
話す
花嫁
破門
反感
挽歌
ハンカチ
反逆者
汎神論
反省
反対する
パンタロン
半分
反乱
ヒ
日
ピアノ
非アメリカの
悲観主義
秘教の
卑屈
膝
非戦闘員
砒素
美徳
人食い人種
人差し指
独りで
人を欺く
美の三女神
火の精
批評家
碑文
誹謗者
誹謗する
口琴(びやぼん)
剽窃
剽窃する
貧者の形
貧乏
フ
不一致
不意の
風刺
封筒
不運
フォーク
不朽の
福音伝道者
腹心の友
伏魔殿
不敬虔・不信仰
不在者
不在の
不死
不精
不条理
不信仰
不正
不節制
豚1
豚2
不適当な
不道徳な
葡萄酒
葡萄の実
不服従
普遍救済論者
不愉快な
冬ごもりする
不用意
フライパン
プラトニックな
フランクアルモイン
ブランデー
フリーメイスン
振舞い
分子
文法
ヘ
兵営
平和
隔たり
別の方法で
ぺてん師
へぼ詩人
ベラドンナ
偏愛
偏屈もの
偏見
偏見のない
遍在
編集者
ホ
保安官
法衣
棒占い師
望遠鏡
忘却
暴動
亡命・流罪
報復
法律
法律家
法律技術
ポーカー
牧師1
牧師2
ポケット
保険
保護
歩行者
補充兵
保守主義者
補償
保証人
哺乳類
墓碑銘
ポルトガル人
本体
梵天
本当に
マ
魔王
マクロビアン
魔女1
魔女2
マナ
魔法1
魔法2
マムシ
マヨネーズ
マルサス主義の
ミ
ミイラ
ミイラにする
三日月刀
見込み
ミス
認められない
認める
港
醜い老婆・魔女
醜さ
身代金
未亡人
ミュルミドン
未来
民族学
ム
無韻詩
無学な人
無関心な
無言劇
無宗教
無分別
無防備の
夢魔
メ
明確な
名声
恵みの深さ
メダル
モ
妄想
黙示録
目的
模写
持っている
もっと多い・余分の
物語
森の神
門人
ヤ
野外
薬剤師
椰子・手の平
野次馬
野心
安らかに眠れよ
矢筒
野党
宿なしの
ヤンキー
ユ
有権者
有史以前の
優柔不断
友情
雄弁1
雄弁2
有名な1
有名な2
幽霊
幽霊作家
油質の・口先のうまい
ヨ
夜明け
妖精
幼年期
よけいな
予言
予定説
余分の
黄泉の世界
鎧
喜ばす
弱さ
ラ
ラオコーン
楽天主義
楽天主義者
ラジウム
ラム酒
乱刺
乱筆家
リ
リーチ
利己的な
理性
略奪者
略奪する
龍騎兵
流行
領事
両手のきく
両立しない
旅券
臨終の聖油
隣人
ル
流罪
レ
例外
礼儀正しさ
霊柩車
冷笑家
冷淡な
霊廟
歴史
歴史家
レタス
恋愛
ロ
労働
老齢
ロープ
ロシア人
ロマンス
論争
論評する・再検討する
論理学
ワ
猥褻
和解
ワシントン市民
わたしの
笑い
解 説
参考文献
年 表
序
『悪魔の辞典』は、一八八一年、ある週刊誌にてはじめられ、爾《じ》来《らい》一九〇六年に至るまで散漫な方法で、長い間隔をおいて書き継がれたものである。その一九〇六年に、こうして書き溜められたもののかなりな部分が、『冷笑派辞林』(The Cynic's Word Book)という題名のもとに、一冊の書物に集められ、出版の運びとなった。そのおり、著者であるわたしは、この書名を拒否する力もなく、といって喜んで認める気にもなれなかった。本書の再刊に携わる出版社の言を引用してみよう――
「この『冷笑派辞林』なる書名は神を敬う気持ちが、『悪魔の辞典』というのにくらべれば、多少とも色濃く出ているが、それは、以前に本書の一部を最終的に掲載した新聞が、宗教上の躊《ため》躇《らい》から著者に押しつけたものであるが、当然の成り行きとして、それが書物として出版されたときには、すでに模倣者どもによって、『冷笑派なになに』といった風に『冷笑派』なる語を冠する書物がやたらと出版され、巷《ちまた》に氾濫する始末であった。それらの書物の多くは愚にもつかぬものだが、低能なる称号というおまけまでもちょうだいしたものもある。そんな事情があって、そうした書物は『冷笑派』なる語の評判をひどく落としてしまったため、その語を冠する書物は一《いつ》切《さい》合《がつ》財《さい》、出版される前から世人の不信を招いたのであった」
しかもその間に、わが国のものおじせぬ滑《こつ》稽《けい》作家の中には、本書から自分たちの要求に見合う部分をちゃっかり剽《ひよう》窃《せつ》するものが現れ、本書中の定義、逸話、辞句などが多少とも人口に膾《かい》炙《しや》するようになった。かかる弁明をするのは、なにもささいなことに優先権ありと自慢したい気持ちがあったからではけっしてない。わが身に盗作の汚名を着せられる可能性なしとしないので、それをきっぱり否定せんとしたまでである。盗作の汚名を着せられたら、ささいなことともいっておられまい。このたびは自らの筆になる文章を再録するだけだが、そのさいの著者の願いは、本書にふさわしき読者の方々――甘口より辛口の酒を、感傷よりは分別を、諧《かい》謔《ぎやく》よりは機知を、俗語よりは非の打ちどころのない英語をよしとする見識ある方々より、この著者に盗作の疑いなしとみなされることである。
本書の顕著にして、しかも願わくば不快ならざる特色の一つは、各定義の例証となる、著名な詩人からの詩句の引用が豊富なることである。引用した詩人の中でも、かの学識、独創力ともに豊かな聖職者、イエズス会のガッサラスカ・ジェイプ神父の名は忘れるわけにはいかない。このジェイプ神父から引用した詩句には、神父の頭文字G・Jを付しておいた。散文による本文執筆にさいしても、ジェイプ神父の厚き激励と助力とに負うところ、きわめて大であった。
A・B
悪魔の辞典
A
ABASEMENT, n. 【卑屈】 財力もしくは権力に直面したさいに示す、美風ともいえる心構え。使用人が雇い主に話しかける場合に特にお勧めする。
ABATIS, n. 【逆《さか》茂《も》木《ぎ》】 外部のがらくたが内部のがらくたの邪魔をするのを防ぐために砦《とりで》の前面におかれたがらくた。
ABDICATION, n. 【退位】 王座が発する高温にたいする君主の尻の皮の厚さを示す行為。
哀れイザベラ(スペインを統一した女王、コロンブスの後援者。1474-1504)墓の下
彼女の退位にスペイン国は蜂の巣つっつく大論争
さりとてそれで彼女を責めりゃ そりゃまた酷というものさ
王座が熱けりゃ逃げるが勝ちだ
史上に残る王家の謎《なぞ》とはとんでもない
鍋《なべ》からはじけた豆一つ しょせんはそんなものなのさ
G・J
ABDOMEN, n. 【下腹】 「胃袋大明神」を祭る社《やしろ》。真の男性ならば誰しも生《いけ》贄《にえ》を捧げて、その礼拝に憂《う》き身《み》をやつす。女性からは、この古代からの信仰は口ごもりがちな賛意をかちえているにすぎない。時には女性も気のりせぬ、効果のないしぐさで祭壇に仕えることもあるが、真実崇拝してやまぬ唯一の神にたいするまじりけのない男性の崇敬の念には遠くおよばない。もし女性が全世界の市場にて自由に取り引きする力を有するようになれば、人類は草食動物になりおおせるであろう。
ABILITY, n. 【能力】 有能な人間を成《じよう》仏《ぶつ》せし人間より分けへだてるものは、さもしい野心にすぎないが、その一部を達成すべく、生来身にそなわっているもの。つまるところ能力は主としてひどくしかつめらしくしていると、そなわっているように見られがちである。しかしながらこの感銘を呼ぶ資質は正しく評価されているのだろう。しかつめらしくしていることも容易な業《わざ》ではないのだから。
ABNORMAL, adj. 【異常な】 規範に従わない。思想および行為にかんする問題についていえば、自主的であることがすなわち異常であり、異常であれば、それは唾棄すべきものということになる。それゆえに本辞典編《へん》纂《さん》者《しや》は「平均的人間」が彼自身に似ているとして、それ以上にご自身がその「平均的人間」と瓜二つになるよう努力されんことを、勧告するものである。それをなしえたものこぞって、やすらぎと死への期待と「地獄」への願望を得られること、ゆめゆめ疑うことなかれ。
ABORIGINES, n. 【原住民】 新発見された国土の開拓を妨害しているほとんど価値なき人間ども。彼らはやがて妨害することをやめ、国土の肥料となる。
ABRACADABRA, 【アブラカダブラ】
(前図のように三角形に書いた呪文、わけのわからぬ言葉。この三角形をリンネルの糸で首にかけると瘧(おこり)、歯痛などを防ぐものと信じられていた。この語の起源は不明である。)
アブラカダブラにてわれは示す
万有の無限大なることを
そは答えなり なに いかに なぜ
どこから そしてどこへなる疑問にたいして
そは言の葉なり それより真実は
(そは安らぎをともないしが)
暗中模索し「英知」のこうごうしき光明を求める一切の人間に顕示されむ
その言の葉 動詞なるか はたまた名詞なるかについて
余の知識遠くおよばざり 余の知りたるはただ一つ そは
哲人から哲人へと
世代から世代へと伝授される
不滅の片言隻句ならむ
いにしえの翁《おきな》について いい伝えあり
その男 とある山腹の洞《どう》窟《くつ》にて
千年も命長らえしとか
(ありていにいえば結局他界せり)
その英知天下に轟《とどろ》きたり
その頭《こうべ》 光頭と化したればなり 白《はく》髯《ぜん》は三千丈となり
またその瞳《ひとみ》 非凡なる光輝を発すること衆知のごとくなり
遠近を問わず哲人つどいて翁の足下に坐し
ひたすら耳を傾けたり
されど翁ものいうを聞くものなし
ただ「アブラカダブラ アブラカダブ アブラカダ アブラカド アブラカ アブラク アブラ アブ」とのたまわく
翁の仰せ それにつきたり
つどいし哲人の求めしものこそそれなりき
おのおの秘伝の言の葉いくえにも書き写し
続いてそれを書物になせり――注釈の牧場に聖句の細流あり
壮大なる書物にして
その部数 樹木の群葉のごとく無数なり
その博学なること著し――まさに……
すでに述べたごとく 翁 世になく
哲人どもの書物も姿を消しぬ
されど翁の英知崇《あが》められることをやめず
アブラカダブラなる片句の中に
とこしえにゆれる古《いにしえ》の吊《つり》鐘《がね》のごとく
英知には凜《りん》然《ぜん》たる響きこもりたり
おお 聞くは楽し
人類の「万有にたいする通念」この片句にて解き明かさるるを
ジャムラック・ホロボム
ABRIDGE, v.t. 【抄略する】 短くする。
人類史上、人民がその王を抄略する〔首をはねる〕必要が生じたさいに、人類一般の判断を遵守するとすれば、そうした独立に彼らをかり立てた動機を言明することが求められる。
オリバー・クロムウェル
(イギリスの将軍、清教徒、政治家、
チャールズ一世を処刑したのちイギリス
共和国の護民官となった。1599-1658)
ABRUPT, adj. 【不意の】 弾丸が飛来すると、そのおかげで泣くにも泣けない兵士の死がおこるようになりふりかまわぬ性急さでの。サミュエル・ジョンソン博士(イギリスの文豪。1709-84)は他の作家の見解について「唐 突《アブラプシヨン》さもなく首尾一貫している」とみごとな陳述を行っている。
ABSCOND, v.i. 【失踪する】 「不可解に行動する」(「神は不可解に行動する」ウイリアム・クーパー)ことで、他人の財産を拐《かい》帯《たい》するときに用いるのが通例である。
春は招く 万物こぞってその招きに応ず
樹木は緑に萌《も》えいでて 出納係は拐帯す
フェラ・オーム
ABSENT, adj. 【不在の】 格別に悪口雑言の歯牙にかけられて。陰口をいわれて。どうしようもなく誤解されて。他人の思いやりや好意から縁遠くなって。
男同士にゃ心がすべて
顔や形はどうともなれさ
けれど女は肉体《からだ》がすべて おお
恋人よ 待ちたまえ 行っちゃだめ
でも忘れちゃいけないかの戒め
君子宣《のたま》わく
「去りにし女すなわち身《み》罷《まか》りし女なり」と
ジョーゴ・タイリー
ABSENTEE, n. 【不在者】 酷税の国より脱出する先見の明をもった定期収入のある人。
ABSOLUTE, adj. 【絶対的な】 独立している、責任を問われない。絶対君主制とは、暗殺者に気に入られているかぎり、主権者が勝手気ままに振舞いうる王制である。今日では絶対君主制はほとんど消滅していて、その多くは主権者が悪政を敷く(あるいは善政を敷く)権利が大いに削減された立憲君主制、および偶然によって支配される共和制と交替している。
ABSTAINER, n. 【節制家・禁酒家】 自分に快楽を寄せつけまいとする誘惑に負けてしまう意志薄弱な人。絶対節制主義者(絶対禁酒家)とは、自制以外のなにものも、特によそさまのことに首をつっこまぬ主義を慎む人のことである。
ある人の 宿酔《ふつかよい》の若者にむかっていうことにゃ
「これお若いの お前はお堅い禁酒家のはず」
「その通り その通り」見咎められてどら息子
「でもおいらは頭は堅くないんだぜ」といったとさ
G・J
ABSURDITY, n. 【不条理】 自分自身の意見とは明らかに相容れない所説ないし信条。
ACADEME, n. 【アカデミー学園】 倫理学と哲学を教授した古代の学園。(プラトンが哲学を講じたアテネ近郊の遊園)
ACADEMY, n.(語源=academe) 【学園】 フットボールを教授する現代の学園。
ACCIDENT, n. 【偶然】 永遠に変わらざる自然法則の作用により生じた不可避の事件。
ACCOMPLICE, n. 【共犯者】 他の一名と語らって犯罪に荷担し、しかも有罪であると知りつつ、みすみす共犯関係に入るもの。たとえば有罪であることを承知の上で犯罪者を弁護する弁護士がその例。犯罪事件での弁護士の立場についてのかかる見解は、これまでのところ弁護士諸兄の賛意を得ていない。というのも、賛意を表したからといって、誰から謝礼をもらえるわけでもないからだ。
ACCORD, n. 【一致】 ハーモニー。(ACCORD=心の一致、HARMONY=声の一致。しかし心と声が裏腹だったら?)
ACCORDION, n. 【手風琴】 暗殺者の感情の起伏と調和している楽器。
ACCOUNTABILITY, n. 【責務】 用心の母。
「わが責 務《アカウンタビリテイ》なれば 片時もお忘れなく」太政大臣 言上す
「よい よい」
王 返答す
「忘れぬぞ。せいぜいそれくらいが汝の力量《アビリテイ》(アカウンタビリテイを計算能力ととった)よなあ」
ジョーラム・テイト
ACCUSE, v.t. 【責める】 他人の非行やくだらなさを断定する。その者に濡《ぬ》れ衣《ぎぬ》を着せることにたいし自己を正当化するものとして、もっとも普通に行われる。
ACHIEVEMENT, n. 【成就】 努力の死、不快感の誕生。
ACKNOWLEDGE, v.t. 【認める】 打ち明ける。お互いに相手の過失を認め合うことは、われわれが真実を愛すればこそ、負わねばならぬ最高の義務である。
ACQUAINTANCE, n. 【知り合い】 お金を借りるくらいの面識はあっても、お金を貸すほどはよく知らない人のこと。相手が貧乏で無名であれば、「一面識しかない」といわれ、裕福でしかも有名人だったりすると、「懇意な」と呼ばれる友人関係の度合い。
ACTUALLY, adv. 【実際に】 多分。ことによると。
ADAGE, n. 【格言】 弱い歯むきに骨抜きにされた人間の知恵。
ADAMANT, n. 【堅硬物・貞操】 しばしばコルセットの下に見出される鉱物。黄金に気をもむと溶けやすい。
ADDER, n. 【アダー=マムシ】 蛇の一種。葬儀費用を他の生計費に加算《アツド》するその習性から、かくのごとく呼ばれる。
ADHERENT, n. 【門人】 学ばんと心に期したる一切のことを未だに修得していない信奉者。
ADMINISTRATION, n. 【行政機関】 政治において巧妙に仕組まれた抽象的概念。総理大臣または大統領の身代わりとして、殴る、蹴るの乱暴狼《ろう》藉《ぜき》を受けるように仕組まれている。悪《あく》辣《らつ》な扇動や非難に耐える藁《わら》人《にん》形《ぎよう》。
ADMIRAL, n. 【提督】 ともに軍艦の一部でありながら、船首像が思考を受けもつのにたいし、おしゃべりを受けもつ部分。
ADMIRATION, n. 【賞賛】 他人が自分自身に似ているのを礼儀正しく認めること。
ADORE, v.t. 【崇拝する】 ものほしげに敬慕する。
ADVICE, n. 【忠告】 最小流通貨幣。
トムの言い分
「あの男ほとほと困りはてているだけに
良き忠告が一番だと思ってそうしたまでさ」
ジムの言い分
「忠告より劣る援助をもししてやれりゃ 君はそうしていただろうて
お若いの お前がそんな男だとは百も承知さ」
ジェバル・ジョコデイ
AFFIANCED, pp. 【婚約した】 鉄丸つき足《あし》枷《かせ》用《よう》足首輪をはめられた。
AFFLICTION, n. 【苦悩】 魂にもう一つの苛酷《ビター》な世界に臨む準備をさせる馴《じゆん》化《か》の一過程。
AFRICAN, n. 【アフリカ人】 賛成投票をしてくれる黒《ニ》ん《ガ》坊《ー》。
AGE, n. 【老齢】 積極的にやってみようという気がなくなった悪事をあしざまにいうことによって、まだ捨てきれぬ身についた悪習を帳消しにしようとする人生の一《ひと》齣《こま》。
AGITATOR, n. 【扇動家】 隣近所のもちものである果樹をゆさぶって、毛虫どもを振り落とさんとする政治家。
AIM, n. 【目的】 われわれが希望をそそぐ仕事。
「元気をだして 人生に目的がないとでもいうの」
妻はやさしく問いかけた
「目的だって ふーん たしかにないね
ねえお前 実は首になったのだもの」
G・J
AIR, n. 【空気】 いつくしみ深き神さまが、貧乏人を太らせてやろうとて、お与え下さった栄養豊かな物質。
ALDERMAN, n. 【市会議員】 公然と略奪する振りをすることによって、こっそりやった窃盗罪を隠蔽しようとする奸知にたけた犯罪者。
ALIEN, n. 【在留外人】 見習い状態にあるアメリカの主権者。
ALLEGIANCE, n. 【忠誠】
この「忠誠」なるしろもの おそらくは
民の鼻にがっちりはまった環《わ》なるべし
嗅管 絶えず正しき方に位置し
神権帝王のかぐわしさに接するも
そのためなるべし
G・J
ALLIANCE, n. 【同盟】 国際政治における二人の盗賊の団結。両者は互いに相手のポケットに自らの手を深くつっこんでいるので、単独では第三者から盗みを働けなくなっている。
ALONE, adj. 【独りで】 朱に交わって。
見よ! 火打ち石と打ち金触れ合いしおり
火花と火炎を散らし 思いのたけを打ち明けたり
打ち金は男 石は女とすれば
ひそかに独りで抱きし思いを……
ブーレイ・フィトー
ALTAR, n. 【祭壇】 その昔、聖職者が吉凶を占うため、生《いけ》贄《にえ》の小腸の縺《もつ》れを解き、神々のおんためにその肉を料理した場所。この言葉は、現在では愚かな一組の男女が自らの自由と安息を犠牲にすることに関連して用いられるのみで、それ以外に用いられることはまれである。
男と女 祭壇の前に立ちて
自らをその火に捧げた その凝脂は
じりじりと焼けただれた
空しい犠牲だ――神が求めるはずもない
不浄な焔《ほむら》をあげて燃えさかる貢《みつぎ》物《もの》などを
M・P・ノパット
AMBIDEXTROUS, adj. 【両手のきく】 他人のポケットなら、右のポケットであろうと左であろうと、同じような巧みさで中身を掏《す》摸《り》とることのできる。
AMBITION, n. 【野心】 生存中は敵から毒づかれ、成《じよう》仏《ぶつ》してからは友人より謗《そし》られたいという抑えがたい熱望。
AMNESTY, n. 【恩赦】 処罰すれば費用がかかりすぎる犯罪者にたいする国家の寛大さ。
ANOINT, v.t. 【聖別する(聖式で頭に油をそそいで)】 もうすっかりつるつるに〔ずるく〕なっている王や他の高官どもの頭に油を塗りたくる。
国王が聖職者によって聖別されるごとく
民衆を率いる豚どももたっぷり油を塗られる〔そでの下をもらう〕
ジュディブラス
ANTIPATHY, n. 【反感】 友人のそのまた友人によって吹き込まれた感情。
APHORISM, n. 【寸言】 消化しやすいように調理された知恵。
あの男の脳味噌を入れる皮袋がたるんで
病的な歪《ひずみ》ができたのだ
そのからっぽの頭の奥から
寸言が一《ひと》雫《しずく》 ぽとりと落ちた
「狂える哲学者」(一六九七年)より
APOLOGIZE, v.i. 【謝罪する】 いずれ無礼を働く日にそなえて下地をつくる。
APOSTATE, n. 【背信者】 カメの甲羅の中まで入り込んでみたら、なんのことはない、その生きものがとっくの昔に死んでいるとわかったので、別の生きているカメに新たにとりついたほうが得策と判断するヒルのこと。
APOTHECARY, n. 【薬剤師】 医者の共犯者、葬儀屋の後援者、墓の蛆《うじ》虫《むし》どもの扶養者。
ジュピター(ローマ神話での最高神)がこの世の全人間にお祝いを送り
マーキュリー(〔ローマ神話〕神々の使者、商人、盗賊、雄弁の神)がそれを壜《びん》につめて運んだとき
かのペテン師の一味マーキュリーは
ひそかに病をもたらした
薬剤師がすこやかに暮らせるようにだ
感謝の念きわまって薬剤師はいう
「一発でころりといく薬に恩人の名前を長くとどめん」と(マーキュリーには水銀という意味がある)
G・J
APPEAL, v.t. 【訴える・上告する】 法律上では、もう一度振るため骰《さい》子《ころ》を壺《つぼ》に入れること。
APPETITE, n. 【食欲】 労働問題の解決策として、神様が思慮深く授け賜うた本能の一つ。
APPLAUSE, n. 【拍手喝采】 決まり文句のくり返し。
APRIL FOOL, n. 【四月馬鹿】 その愚かさにもう一か月加えた三月馬鹿のこと。
ARCHBISHOP, n. 【大司教】 司教より一ポイントだけ神聖度の高い、権威ある聖職者。
もしもおいらが陽気な大司教様なら
金曜にゃ魚を大《おお》食《ぐら》い
――鮭《さけ》に比《ひ》目《ら》魚《め》に公《わか》魚《さぎ》までも
ほかの日ならば魚以外はなんでも結構
ジョード・レム
ARCHITECT, n. 【建築家】 君の家の設《プ》計《ラ》図《ン》を書《ドラ》き《フト》、君の金の引き出しをたくらむ《 ド ラ フ ト プ ラ ン》奴。
ARDOR, n. 【熱情】 人目をはばかる色情をたちまちそれとわからせてしまう特性。
ARENA, n. 【闘技場】 政治では政治家が自己の経歴に挑戦する想像上のネズミの穴。
ARISTOCRACY, n. 【貴族政治・貴族】 最良の人々による政治(この意味では廃語。その種の政治も同様に今はすたれた)。ふかふか帽子と清潔なワイシャツを着用している輩――教育というやましさを背負い、銀行に口座があるともっぱらの噂《うわさ》あり。
ARMOR, n. 【鎧《よろい》】 鍛《か》冶《じ》屋《や》を仕立て屋としてかかえている男が着用する衣類。
ARREST, v.t. 【逮捕する】 異常行為ありとして告発されたものを正式に拘留する。
「神、この世を六日間にて造り、七日目に逮捕され給えり」――『非欽定訳聖書』
ARSENIC, n. 【砒《ひ》素《そ》】 婦人たちが愛用《アフエクト》してやまぬ化粧品の一種、だがいったん用いだすと、今度は婦人たちを大いに冒《 アフエクト》すもの。
「砒素を飲む? いいとも腹一杯おやり」
うなずきつつ 彼は大声を出した
「ねえお前 それを飲むんだったらその方が助かるよ
わしの茶碗に入れるよりはね」
ジョウエル・ハック
ART, n. 【芸術】 この言葉にはいかなる定義もあてはまらない。かの独創力豊かなイエズス会のガッサラスカ・ジェイプ神父は、その語源を次のように物語っている。
とある日 ひょうきんもの――そ奴《やつ》あさましくもなにをねらわんとしたのか――
組み合わせ文字RATの一字を入れ替えて
これぞ神のみ名なりと唱えたり
そこでぞくぞく登場するは異様なる牧師とその卵なり(見せもの 秘法 無言劇 聖歌 その手足を不具にするほど悲惨な論争を伴いて)
神の宮に仕え 聖火をたやさず
法を説き あやつり糸を引くためならむ
狐につままれた面持ちにて 民衆 式に臨む
とんと合点のいかぬことどもをすべて呑みこみ
それでも教えは深まりて
二つに分けた髪をかくかくまとめれば(「芸術の神」のなしうるごとく)
分けたことなき「自然の女神」の髪よりも価値はいや増し 品格もぴたりと
判断力もついてきた
生贄捧ぐる儀式ともなれば、馳《ち》走《そう》と酒をもち寄るし 牧師の糧《かて》をうるために
身ぐるみ剥《は》いでもいとわぬ始末なり
ARTLESSNESS, n. 【あどけなさ】 女どもをほれぼれと見るような男性について長らく研究し、厳しい訓練を重ねたすえに身につけた男心をそそる特性。男どもはそうした特性がわが子の天真爛漫ぶりに似ていると思いたがる。
ASPERSE, v.t. 【誹《ひ》謗《ぼう》する】 なにか悪事を重ねたくなるような誘惑の魔手にも、また機会にも恵まれなかった奴が、そうした悪業の数々を意地悪くも他人のせいにする。
AUCTIONEER, n. 【競売人】 舌先三寸で他人の懐中ものをかすめとったことを、木《き》槌《づち》をもって宣告する人。
AUSTRALIA, n. 【豪州】 南太平洋に横たわる国。大陸かはたまた島かということについて、地理学者のあいだで嘆かわしい論争が続いているため、そこでは工業、商業の発達がお話にならぬほど遅れている。
AVERNUS, n. 【アバーナス湖(イタリアのナポリに近い湖水。昔その水が臭気を発散して、その上をとぶ鳥を殺したと信じられ、地獄への入り口といわれた)】 古代人が地獄への入り口とした湖水。地獄への立ち入りが湖によって達成されたという事実は、博学なるマーカス・アンセロ・スクルーテイターの信ずるところでは、浸礼(全身を水に浸す)によるキリスト教の洗礼式を暗示するものであったそうな。しかしこのことはラクタンティアスにより誤りであることが指摘されている。
Facilis descensus Averni(地獄へ落ちることはやすし)とは
かの詩人の言葉なり
その真意はかくのごとし
人が落ち目になるときは
金よりパンチが振りかかる とさ
シャホール・ダイ・リュープ
B
BAAL, n. 【バール神(古代セム人の神、特にフェニキア人の主神である太陽神)】 往時さまざまな名のもとに大いに崇拝された古き神。バールという名で、フェニキア人には受けがよく、ベラスまたはベルという名で司祭ベロサスに傅《かしず》かれる礼に浴した。ベロサスはかの有名なノアの大洪水記を書いている。またバベルという名で塔を所有した。その塔はサイナー(古代バビロニア)の平原に、その栄光を称《たた》えるため途中まで建てられた(創世記第十一章四―五節にて言及されているバベルの塔)。"babble"(たわごと)という英語はこのバベルに由来している。どんな名のもとで祭られようとも、バールが「太陽神」であることに変わりはない。ビエルジバブ(魔王)という名では蠅《はえ》の神であり、蠅はよどんだ水面で太陽光線より生を受けた。「薬《フイ》の《ザキ》国《イヤ》で」はボーラス(牛馬に飲ませる大丸薬)という名で祭られ、またベリー(腹)という名で大《ガツ》食《トル》漢《ダム》国司祭により称えられ生贄をたっぷり供えてもらっている。
BABE or BABY, n. 【赤ん坊】 特定の年齢、性別、地位をもたぬ奇形の生きもの。それ自体は別段感情も感動ももち合わせないが、他の人間どもの心に、熱烈なる愛憎の念をかきたてずにはおかないところが、主な特徴である。赤《あか》子《ご》といえども有名人あまたあり。たとえば幼きモーゼ(ヘブライの指導者)しかり。彼のアシのしげみでの冒険(出エジプト記第二章最初の数節)からそれより七百年もさかのぼる古代エジプトの司祭たちが、水蓮の葉の上で生命を長らえた幼きオシリス(古代エジプトの主神の一人)の愚にもつかぬ話をでっちあげたのはまぎれもない事実である。
赤子をでっちあげるその前は
女《おな》子《ご》はみんな満足よ
今じゃ男は苦しむばかり
とうとう赤子を買うために
あり金はたく始末なり
それでつらつらおもんばかりゃ
「赤子一世」 ワシ ハゲタカの餌よ
そんなら そのほうがおめでたや
ロ・エミール
BACCHUS, n. 【酒《バツ》神《カス》(ギリシア神話)】 古代人がへべれけになる口実としてでっちあげた、重宝な神さま。
バッカス詣《もう》でに憂き身をやつしゃ
リクトル(古代ローマの警官) われらの身を縛り 眥 《まなじり》決してぶっ叩く
となりゃ 庶民の神頼み はたして罪になるものか?
ジョレース
BACK, n. 【背中】 自分が落ち目になったとき、つくづくと眺《なが》めることが特に許される友人の身体の一部。
BACKBITE, v.t. 【陰口をきく】 相手から見られる可能性のないとき、そいつについて見たままを話す。
BAIT, n. 【餌】 釣り針がいっそう口に合うようにさせるための調味料。餌としての最上種は美《び》貌《ぼう》。
BAPTISM, n. 【洗礼】 それを受けずに天国に昇れば、永遠に不幸になるという霊《れい》験《げん》あらたかなる御《お》祓《はらい》。それは水を用い、二通りの方法――つまり浸礼、またの名をぶっ込み、および灌水、またの名をぶっかけ――によって行われる。
でも 浸礼方式が簡単な灌水よりましかどうかは
『欽定訳聖書』と三日熱の熱くらべにより
当の浸礼 灌水を受ける本人たちにきめさせましょう
G・J
BAROMETER, n. 【晴雨計】 いま現在の空模様がどんなふうか示してくれる精巧な器械。
BARRACK, n. 【兵営】兵隊たちがその本分を守って、他人より剥《はく》脱《だつ》せんとしているものの一部を享受する家。
BASILISK, n. 【バジリスク(ギリシア・ローマ伝説に登場するアフリカの怪動物。蛇、蜥蜴、龍ともいわれる。その呼気に触れたり、にらまれたりしたら死ぬといわれている)】 別名コッカトライス(雄鳥の体に蛇の尾をもつ)。雄鳥の卵から孵った蛇の一種。バジリスクは凶眼をもち、その一《ひと》睨《にら》みで人は死んだ。異教徒の多くはこの生物の存在を否定している。しかしセンプレロ・オーレイターは、ジュピターの愛人となった深窓の麗人を一《いち》瞥《べつ》のもとに殺害した罰として、稲妻により盲目にされた一匹を目撃し、手で触れている。のちにジュノー(ジュピターの妻)は、その爬《は》虫《ちゆう》類《るい》の目をもとどおりにしてやり、洞窟に匿《かくま》った。バジリスクの存在ほど古代人によりしかと確かめられたものはない。しかし爾来、雄鳥は卵を産むのをやめてしまった。
BATH, n. 【入浴】 宗教上の礼拝にとって代わる秘教的儀式の一種。魂についての効果のほどはいまだにしかと査定されずにいる。
男一人 蒸し風呂にありて
その身の皮をはがされり
まっ赤《か》っかに茹《ゆ》で上がりしゆえに
清らかさと結ばれたりと思えども
肺は汚れておらぬかな
沸きかえるあの汚き湯煙にて
リチャード・グウォウ
BATTLE, n. 【戦闘】 舌先三寸ではどうにもまるめ込めぬ政治の縺《もつ》れを歯でもってほどいてみせる方法。
BEARD, n. 【顎ひげ】 頭をつるつる坊主にする中国人の風習は馬鹿げており、それを忌み嫌う人がいるのは当然のことだが、そうした人たちがたいていは切り落としてしまう毛のこと。
BEAUTY, n. 【美しさ】 女性が恋人を魅了し、夫を震えあがらせるために用いる力。
BEFRIEND, v.t. 【助ける】 忘恩の徒を育てる。
BEG, v. 【乞う】 絶対もらえないという信念に釣り合う熱心さで何かをくれと頼む。
父さん いったいあれは誰なの?
坊や あれは乞食なのだよ
瘠《や》せこけ 不機嫌 不愛想で つまりは乱暴な奴なのさ
独房の鉄棒ごしにねめつけるあの目つきを見てごらん
あれも人の子 ものもらい
この世はすべてままならぬ
父さん あの人 なぜあそこに入れられたの
その訳はねえ
胃袋に逆らえず 法律に逆らったからさ
胃袋だって
ああ つまり腹ぺコなんだよ ねえ坊や――
本当の身の上は悲しきことのみ多かりき
くる日もくる日も、ただ一口の食物にもありつけず、とうとう彼は叫んだのさ
「パンをくれ」「パンをくれ」とね
パイじゃいけなかったのかしら
身につけるものさしてなく 売る品とてもあらざりき
もの乞いするのは不法で しかも不穏当なことなのだよ
どうして働かなかったの?
彼だって本当は働きたかったのだよ
でも町の人は「出てうせろ」といったし 役人も「退去せよ」と命じたのだよ
こんなできごと話すのも 彼が示した腹いせはひどく下劣であったことを 坊やにわかってもらいたいからだよ
腹いせなんて せいぜいスー族のやりそうなことさ
しかもくだらぬことのためにさ
ねえねえ悪い「乞食」はなにしたの?
乏しさをおぎない 背にくっついた胃袋を押し出すために
パンを二《ふた》片《きれ》 盗んだのさ
それだけなの ねえ父さん
まあ そんなところだな
彼は牢《ろう》屋《や》に入れられて、それから――ええっと この世の中でわしらが自慢するよりも
もっとすばらしい仲間のもとに送られて行くのがその身の定め
そして そこには……
困った人にあげるパンがあるんだ ねえ父さん?
うんうん あるとも 焼パン《トースト》がね
アトカ・ミップ
BEGGAR, n. 【乞食】 友人たちの援助にすがって暮らしてきた人。
BEHAVIOR, n. 【行儀・振舞い】 主義ではなく、育ちによって決定される行為。賛美歌 メDies Iroeモ(「最後の審判の日」)の次にかかげる数行を、ジャムラック・ホロボム博士が翻訳されたとき、この語の用い方がやや曖《あい》昧《まい》であると思われる。
Recordare, Jesu pie.
思い出し給え やさしきイエス様
Quod sum causa
托身あそばせしを
Ne me perdas illa die.
その日 われを見捨てることなく
忘れ給うな イエス様
主を死に追いやりし 心なき手は誰《た》がものぞ
許し給え その振舞い
BELLADONNA, n. 【ベラドンナ】 イタリア語では麗《うる》わしの女性、英語では劇薬(ベラドンナとは和名をせいようはしりどころといい、ナス科の有毒植物。根と葉にアトロピンその他のアルカロイドを含み、薬用に供する)のこと。両国語が本質的には同一であることを示す顕著なる一例。
BENEFACTOR, n. 【恩人】 忘恩という重い買い物をする人。しかし著しく値段をつり上げることがないので、それは依然として誰でも手に入れることのできる範囲にとどまっている。
BERENICE'S HAIR, n. 【髪の毛座(北天の星座、牛飼い座と獅子座の中間にある)】 夫を救うためその髪の毛を犠牲にした女性を称《たた》えて名づけられた星座 (Coma Berenices)。
昔日の女《によ》性《しよう》 髪の毛を差し出せり
愛する夫の生命を救わんがためなり
されば男性《おのこ》たち――気高き女性を称えるあまり――
星の群れにその名授けたり
ところで今日の女房族
おのが髪の毛守るためには 亭主捨ててもいとやせぬ
されど星に名残す名誉にありつけぬ
天に女房族の数ほど星 あらざるためなり
G・J
BIGAMY, n. 【重婚(罪)】 嗜《し》好《こう》上《じよう》の錯誤のことで、未来の君子たちなら、さしずめ三重婚なる刑罰を宣告するところだが。
BIGOT, n. 【偏屈もの】 君の受け入れぬ意見を執《しつ》拗《よう》にしかも熱狂的に信奉する奴。
BILLINGSGATE, n. 【悪態】 反対者の毒舌。
BIRTH, n. 【誕生】 あらゆる災難の中で最初でしかももっともものすごいもの。この災難の本質については、均一性はないものと見られている。カスターとポラックス(〔ギリシア神話〕ゼウス〔主神、ローマ神話のジュピターに当たる〕とレダ〔白鳥の姿をしたゼウスが言い寄り、妻とした〕のあいだに生まれた双子、船のりの守護神、または兄弟愛の典型として知られている)は卵から生まれ、パラス(〔ギリシア神話〕アテネの守り神である女神)は頭蓋骨から誕生した。ガラティア(〔ギリシア神話〕ピグマリオンの造った象牙の処女像。彼はこの像に恋し、愛と美の女神アフロディテに願って、生命を与えられ妻にした。また一つ目の巨人ポリフィーマスに愛された海の精)はもともと石のかけらであった。十世紀のもの書きであったペレサラスは、ある司祭が聖水をふりかけた土地から生を受け成人したと言明している。アリマクサイスが稲妻が一《いつ》閃《せん》してできた地中の穴から引き出されたのは、世人の知るところである。リューコメドンはエトナ山(シシリー島東部の活火山)中の洞窟の子であった。それに本辞典編纂者自身、葡《ワ》萄《イ》酒《 ン・》貯《セ》蔵《ラ》室《ー》より出てきた男を目撃している。
BLACKGUARD, n. 【ごろつき】 市場に出ているイチゴの箱のように――上等のものを一番上に並べてあるのだが――見かけを飾り立てるために具《そな》えられたもろもろの素質を、逆の方から、つまり下から開けてしまった男。さかさまになった紳士。
BLANK-VERSE, n. 【無韻詩】 無韻弱強五歩格――世に受け入れられる作品を書くことがもっとも困難な英詩の一種。それゆえどんな詩を書いても世に受け入れられぬ連中が大いにたしなむたぐいの詩である。
BODY-SNATCHER, n. 【死体泥棒】 墓の蛆虫どもの上前をはねるもの。年とった医者が葬儀屋に払い下げたものを、さらに若い医師に払い下げる人、ハイエナともいう。
「過ぐる秋のある夜のこと」
医師は語りつづけた
「わしと仲間たち 計四人は
墓地を訪れ 囲いの陰に立ちつくしていた
月が沈むのを待つ間に
野生のハイエナが徘《はい》徊《かい》するのを目《ま》の当たりにした
そ奴 新《にい》墓《ばか》をめぐり やがて
墓の縁を掘りはじめた
その忌まわしき行為に憤慨して
われら 隠れ場所より打って出て
不浄なるけだものに襲いかかり
鶴《つる》嘴《はし》 鋤《すき》にて そ奴を屠《ほふ》りたり」
ベッテル・K・ジョーンズ
BONDSMAN, n. 【保証人】 自分の財産をもちながら、他人が第三者に委託したものの責任者となることを引き受ける痴《しれ》者《もの》。
フィリップ・ドルレアン殿下は、寵《ちよう》臣《しん》の一人であるずぼらな貴族を高い地位につけたいと思って、いかなる保証人を用意しうるかとたずねた。「わたくしめには保証人は必要ありませぬ。と申しますのは、誓いの言葉をお捧げいたしうるからでございます」と貴族は答えた。「ならばそれにいかほどの価値があるか申せ」とおもしろがって摂《せつ》政《しよう》殿下はご下問になった。「殿下、その価値はその言葉の重み分の黄金に相当いたすでありましょう」
BORE, n. 【退屈な連中】 こちらの話を聞いてもらいたいときに、しゃべりまくる人。
BOTANY, n. 【植物学】 野菜の科学――食べられるものはむろんのこと食用に適さぬものも含む。主として形悪く色彩どぎつく、悪臭ふんぷんたるその花を扱う。
BOTTLE-NOSED, adj. 【とっくり鼻の】 その神ならぬ製作者をかたどってつくられた鼻をした。
BOUNDARY, n. 【国境】 政治地理学上で二つの国家を隔てる想像上の線。一国の想像上の権利ともう一国のこれまた想像上の権利を分離している。
BOUNTY, n. 【恵みの深さ】 もたざるものにできるだけ多くのものをもたせようとするさいの、もてるものの気前のよさ。
一羽の燕《つばめ》は毎年一千万の昆虫をむさぼり食らうといわれている。こんなにも昆虫を供給することこそ、造物主たる神が、その創造物の生命を支えるさいに示す恵み深さの著しき例ならむ。
ヘンリー・ウォード・ビーチャー
(アメリカの聖職者、雄弁家、奴隷制に反対し、
婦人参政権を擁護した。1813-87)
BRAHMA, n. 【梵《ぼん》天《てん》(梵覧摩、婆羅吸摩ともいい、インド神話の三大神格の一つで、一切衆生の父)】 ヒンズー人(ヒンズー教を信奉するアリアン人種に属するインド人)を創造し給うた神。ヒンズー人はビシュヌ神(三大神格の一つ、保存を司る)により保護され、シバ(三大神格の一つ、破壊を象徴する)により殺される――その分業化は、他のいくつかの国々の神々のあいだで見られるものよりは整然としているといえよう。たとえばアブラカダブラ人(三角形に書く呪文アブラカダブラより、ビアスがでっちあげた言葉。巫術を信ずる民族という意味か?)は、「罪の神」により創造され、「盗みの神」により守られ、「愚かの神」によって消される。梵天の司祭たちは、アブラカダブラ人の司祭同様、けっしてふしだらでなく、神聖にして、博学なる人物たちである。
おお梵天 そは非凡なる古の神よ
ヒンズー教三大神格の 第 一 位 《フアースト・パースン》なり
鎮座まします姿 いとも泰然自若たり
毅《き》然《ぜん》として坐禅を組めば
そは まぎれもなく第 一 人 称《フアースト・パースン》 単数ならむ
ポリドアー・スミス
BRAIN, n. 【脳味噌】 一種の装置であり、それを用いてわれわれが考えていると考えるものである。自分をひとかどの人物であると満足している人と、ひとかどのことをやりたいと願っている人とを区別するものである。莫《ばく》大《だい》な財産を所有する人や強引に高い地位につかせられた人は、頭一杯に脳味噌をつめ込んでいるので、その近くにいる人々は帽子をかぶったままではいられなくなる。現代文明とわが国のごとき共和政体のもとでは、脳味噌こそ深い敬意の対象とされているので、官職にわずらわされるのを免除されるという、ありがたい待遇に与《あず》かっている。
BRANDY, n. 【ブランデー】 雷電一、後悔一、血《ち》生《なま》ぐさい殺人二、死―地獄―墓一、清められた魔王四の割合からなる強心剤。常時頭一杯服用せよ。ブランデーこそ英雄の酒なりというのはジョンソン博士の言説である。英雄こそがあえてこの酒を酌《く》まん。
BRIDE, n. 【花嫁】 幸せになりうるすばらしい前途への期待をあとに残してきた女性。
BRUTE, n. 【けだもの】(HUSBAND〔夫〕を見よ)
C
CAABA, n. 【カーバ神殿(メッカにある回教徒のもっとも尊崇する神殿。巡礼者の懺悔の涙で黒変したといわれる聖石が安置してある)】大天使ガブリエル(人間への慰めと吉報の天使)からユダヤ民族の族長アブラハムが授かった巨大な石で、メッカ(サウジアラビアの西部の都。マホメットの誕生地)に保存されている。アブラハムはおそらく大天使に糧を請うたのであろうが……
CABBAGE, n. 【キャベツ】 大きさも知能指数もほぼ人間の頭に匹敵するおなじみの菜園野菜。
キャベツという名はとある国の王子キャバギィアスに由来する。王子は王位につくやいなや、前王の諸大臣と王立菜園のキャベツからなる「帝国最高会議」を定める布告を出した。国内政策にたいする陛下の処置がいずれもいちじるしき失態をもたらしたとき、最高会議の委員数名が打ち首にされた由、おごそかに報じられたので、憤《ふん》懣《まん》やるかたなき臣民も、振り上げた拳《こぶし》を下ろしたものであった。
CALAMITY, n. 【災難】 この世の中のできごとは、われわれ人力の及ばざるところにあるということを、並みはずれた方法にて明《めい》瞭《りよう》かつまぎれなく思い出させてくれるもの。災難には次の二種あり。すなわち、自分の身に振りかかる不幸と他人を訪れる幸福とである。
CALLOUS, adj. 【冷淡な】 他人の身に振りかかる害悪を見ても平気でいられるほどの大いなる不屈の精神をもって生まれついた。
ゼノン(ギリシアの哲学者。B. C. 340 ?-265 ?)は論敵の一人が不帰の客となったことを耳にし、深く心を痛める様子を見せた。すると弟子の一人が「なんです! 先生は敵の死を目《ま》の当たりにして涙を流されるのですか」というと、この偉大なストア派の哲学者は、「ああ、その通りだよ。しかし友人の死を耳にして、わしがにっこり笑うのを君が見る日もこようというものだ」と答えた。
CALUMNUS, n. 【誹《ひ》謗《ぼう》者《しや》( calumny〔=中傷〕と almnus〔=卒業生〕という両語よりビアスがでっちあげた混成語)】『スキャンダル学校』(アイルランドの劇作家シェリダン〔1751-1816〕作の戯曲)の卒業生。
CANNIBAL, n. 【人食い人種】 前豚肉期の単純な味覚を失わず、その頃の天然の食物に固執する旧派に属する美食家。
CANNON, n. 【大砲】 国境線を引き直すのに用いられる道具。
CANONICALS, n. 【法衣】 天帝の宮殿にて道化師が身にまとうだんだら染めの服。
CAPITAL, n. 【首都】 悪政の所在地。無《ア》政《ナ》府《ー》主《キ》義《ス》者《ト》のために炉火、鍋、食べ物、食卓、ナイフとフォークを用意してくれるもの。これで食事をするためには、彼らが自分で補うものといったら、食前の祈りならぬ食前の罵《ば》詈《り》。Capital Punishment(極刑)とは、その正義と便宜について、あらゆる暗殺者も含めて、多くの有徳の士が深刻なる疑念を抱いた罰則のことである。
CARNIVOROUS, adj. 【肉食性の】 気の弱い菜食主義者とその相続人や譲り受け人をむさぼり食わんとする残虐行為に熱をあげた。
CARTESIAN, adj. 【デカルトの】 有名な哲学者、デカルトに関して。例の人口に膾《かい》炙《しや》した メCogito ergo sumモ(われ思うゆえにわれあり)という格言の生みの親である――この言葉により、彼は人間存在の実体を明示しえたと想像してひとり悦に入っていたのだ。しかしながらこの格言は メCogito cogito ergo cogito sumモ――すなわち「われ思うとわれ思うがゆえにわれありとわれ思う」としたほうがよくなろう。こうすれば、確実性への接近ということでは、従来のいかなる哲学者にも遅れをとることはあるまい。
CAT, n. 【猫】 うちうちのことでつまずきあれば、蹴とばし用に自然が備えてくれた、ふんわりとし、けっしてこわれることのない自動人形。
これは犬です
これは猫です
これは蛙です
これは鼠です
走る 犬 にゃんと鳴く 猫
とぶ 蛙 かじる 鼠
イレブンソン
CAVILER, n. 【揚げ足とり屋】 われわれが自分でやった仕事をけなす人。
CEMETERY, n. 【共同墓地】 会葬者たちが嘘つき合戦をし、詩人がもの笑いの種を書き、石工が賭け金稼ぎに仕事をする孤立した郊外の一郭。次に掲げる二つの墓碑銘はかかるオリンピック競技において達成された成果を説明するのに役立つであろう。
「故人の徳あまりにも秀でたれば、それを見逃しにもできぬ敵どもは、その徳を否定せり、また放埒な生活をしたるため、それが声なき譴《けん》責《せき》とも感じられし友人一同は、その徳を悪徳と断定せり。故人の徳は、遺族によりてここに永《とこ》遠《しえ》に称《たた》えられん。遺族のものもみなその徳を分かち備えたればなり」
この地中にわれらは設けたり
幼きクララの安住せる場を
トーマス・M
メアリー・フレイザー夫妻
後記――大天使ガブリエルにわが子の養育を托せり
CENTAUR, n. 【ケンタウルス( ギリシア神話中の半人半馬)】分業が発達して差別を生み出すほどにはいたらぬころに生息し、「人みな己れの馬なり」という太古の経済鉄則を奉じていた人種のうちの一つ。この人種の傑物はカイロン(ケンタウルス中もっとも賢明で、予言、音楽、医術に長じていた)であり、馬の英知や美徳に加えて、人間の敏速さも備えていた。馬上の(盆上の)洗礼者ヨハネの首にまつわる聖書の物語によっても、異教の神話が聖書に記された話を多少とも潤色しているのがよくわかる。
CERBERUS, n. 【ケルベロス(ギリシア・ローマ神話での地獄の番犬、頭が三つ、尾は蛇)】黄《よ》泉《み》の国の番犬。門を守るのがその任務である。ただし誰と何に対して守ったかは不明。遅かれ早かれ、誰しもがそこへ行かねばならぬが、誰もその門をくぐりたがらないから。ケルベロスに頭が三つあることは先刻ご承知の通りだが、詩人の中には頭が百ほどもあると信ずるものもいる。グレイビル博士の意見は、その幅広き学識とギリシアに関する深遠なる知識により、大いに重視されているが、その博士はあらゆる見積もりを平均して二十七という数字を出した――グレイビル博士がそもそも犬についてなにがしかの、また算術についてもいくばくかのことをご存知であれば、この判定はそれこそ異論を差しはさむ余地なきものとなったであろうが……
CHILDHOOD, n. 【児童期】 白痴に等しい幼児期と愚の骨頂たる青年期の中間に位置する人生の一区切り――罪深き壮年期から二期、悔い多き老年期より三期、それぞれ隔たっている。
CHRISTIAN, n. 【キリスト教徒】 新約聖書とは、神の啓示を受けて書かれ、隣人の精神的欲求をみごとに叶えている書物だと本気で思っている人。罪障深き生活と矛盾せぬかぎり、キリストの教えを信奉する人。
夢の中でわたしはとある丘の頂に立っていた すると見よ 麓《ふもと》には
安息日の衣装もきりりと
あまたの善男善女がそぞろ歩きをしていた
みな敬《けい》虔《けん》な物腰くずさず 悲しげなるもその場にふさわしかった
その間に教会の鐘がこぞって厳かな音を響かせたのだ――
これぞ不義に生きるものへの警報ならむ
やがて面持ちも平静にて もの思わしげに
かかる聖なる光景をじいっと見下していたとき
ふと目にとまったのは 白衣をまとう長身痩《そう》躯《く》の人影であった
その瞳よりは もの悲しげな光《こう》芒《ぼう》がただよっていた
「見知らぬ方よ あなたに神のご加護あらんことを」わたしは声をはりあげたのだ
「あなたが遠来の客なるは判然たり(あなたの服装を見ればそれとわかる)
されどなおわたしはここに集《つど》う善男善女同様
あなたがキリスト教徒であられると思っていますが」
かの男は眼を上げて いとも険しき眼《まな》差《ざし》を向けたので
わたしは赤面のあまり 全身燃え立つ思いであった
男は答えたが――その侮《ぶ》蔑《べつ》の色は言葉にもこめられていた
「なんと 余がキリスト教徒なるかと 断じてさにあらず 余こそキリストその人なり」
G・J
CIRCUS, n. 【曲馬団《 サ ー カ ス》】 子供まで含めて人間が男女の別なく道化役を演ずるさまを、馬や小馬や象たちが見物することを許されている場所。
CLAIRVOYANT, n. 【千里眼】 普通は女性なのだが、彼女の常得意の目には写らぬもの――つまりその常得意が石《いし》頭《あたま》であることを見抜く能力を備えている人。
CLARIONET, n. 【クラリオネット】 耳に綿の栓をした人が操作する拷問具。クラリオネットよりもさらにひどい拷問具が二個ある――つまり二本のクラリオネットである。
CLERGYMAN, n. 【牧師】 自分自身の娑《しや》婆《ば》での暮らし向きを向上させる一方策として、われわれの精神上の問題処理を請け負う男。
CLIO, n. 【クレイオー(ギリシア神話で、史詩、歴史を司る女神)】九ミューズ神中の一神、その役目は歴史なる会議の司会をすることであった――彼女はこの上なく厳然としてその任務を遂行し、あまたの著名なるアテネの市民は演壇上の席を占め、クセノフォン(ギリシアの哲学者、歴史家、軍人。B. C. 434 ? - 355 ?)、ヘロドトス(ギリシアの歴史家。B. C. 484 ? - 425 ?)、その他名にし負う雄弁家諸氏が聴衆に講演を行ったのであった。
CLOCK, n. 【時計】 いかに多くの時間がまだ自分に残されているか念を押してくれるので、未来にたいする危疑が和らげられる、人間にとっては道徳的な価値が大いにある器械。
とある日 せっかち野郎が不平たらたら
「時間がないのだ」と切り出した
そ奴《いつ》の友は皮肉屋でのんき坊主ときたもんだ その友 大声で曰《いわ》く
「なにをいうのだ 君のもんだぜ ありったけの時間
そりゃまたたっぷりあるものだ 君 疑うことなかれ
時間なければ 一時だって俺たちゃ暮らせるわけはない」
パージル・クローフ
CLOSE-FISTED, adj. 【握り屋の】 勲功に値する多くの人々が手に入れたいと願っているものを自分の手もとにおきたいと望んでやまぬ。
「握り屋のスコッチ野郎め!」とかのジョンソン(イギリスの文豪。1709-84)
倹《つま》しいJ・マックファーソン(スコットランドの文筆家。1736-96)に向かって叫んだ
「余を見よ 余はどのお偉方といつでも分け合う覚悟あり」
ジェミーは答えた「仰せの通りだ
誇りあれば後ろ楯はいらぬもの
それに君には 世の人すべてお偉方
君に欠けたるもの備えたれば
アニタ・M・ボーブ
COENOBITE, n. 【修道士(托鉢修道士ではなく、修道院に住む)】 邪悪なる罪について沈思黙考するため、敬虔にも蟄《ちつ》居《きよ》し、その罪を常に鮮やかに心に描くため、悪の見本を数々備えた修道士の仲間とつき合う男。
おー修道士 おー 修道士
お前は修道院に群がる人よ
隠修士とは異なる存在
彼はつまり寡独の虫
祈り浴びせて お前は悪魔に痛手を負わせ
とび散る火弾で そ奴は悪魔を悩ませたり
クゥインシー・ジャイルズ
COMFORT, n. 【気楽】 隣人の不安がる様子をじっくり眺めることから醸《かも》し出される精神状態。
COMMENDATION, n. 【推賞】 自分自身のに似ているが、同等ではない業績にたいして捧げられる賛辞。
COMMERCE, n. 【商業】 AがBからCの商品を略奪し、その埋め合わせにBがDの懐中からEの所有せる金銭をかすめとるという取り引きの一種。
COMPROMISE, n. 【妥協】 対立する両者それぞれに手に入らなくてもともとといったものを獲得したと考え、また他方では当然負担すべきもの以外にはなにもとられなかったと考えて満足感を与えるといったふうに、相反する利害関係をうまく調停すること。
COMPULSION, n. 【強制】 力に訴える雄弁。
CONDOLE, v.i. 【弔慰する】 近親者と死別することは、同情にくらべれば大した不幸ではないと教示する。
CONFIDANT, CONFIDANTE〔女性形〕, n. 【腹心の友】 AからBの内証ごとを打ち明けられた人。だがそれはCにも洩れている。もらした彼とは?(AかBかそれとも打ち明けられた人か?)
CONGRATULATION, n. 【祝賀】 妬《ねた》みの礼儀。
CONGRESS, n. 【国会】 法律を廃棄するため集会を開く人々の集団。
CONNOISSEUR, n. 【鑑定家】 あることについてはあらゆることを知っているが、それ以外のことについてはなにごとも知らない専門家。
大酒飲みの老人が列車の衝突事故でペシャンコになったとき、葡《ぶ》萄《どう》酒《しゆ》とおぼしきものが老人の唇《くちびる》に滴り落ち、意識がもどった。「ポイラックの一八七三年ものだ」と老人はつぶやいて息絶えた。
CONSERVATIVE, n. 【保守主義者】 積年の弊を排除し、他の悪弊をもってきて据えたいと願う自由主義者とは明確に一線を画す、積年の弊に魅せられた政治家。
CONSOLATION, n. 【慰め】 自分より能力のあるものが、実は自分よりももっと不幸だと理解すること。
CONSUL, n. 【領事】 アメリカの政治では、民衆からなんらかの公職を手に入れることができなかったが、その代わりに母国を離れるという条件つきで、時の政府より公職を与えられたもののこと。
CONSULT, v.t. 【相談する】 すでに採用することにきめた方針について、他人の賛意を求める。
CONTEMPT, n. 【軽蔑】 あまり手ごわすぎて軽々しく対抗できぬ敵にたいして、石橋を叩《たた》いて渡る男が抱く感情。
CONTROVERSY, n. 【論争】 ツバキとインキが有害なる砲弾と無情なる銃剣にとって代わる戦闘。
口八丁の舌戦にて――例の老若の冷戦にて――
戦う敵をかくならしめよ
己れに憤《ふん》怒《ぬ》のすべてをぶつけ
地上にはりつけられし蛇《くちなわ》のごとく
その牙もてわれとわが身に致命傷与えたるごとくに
かかる奇跡を呼ぶ術 君はわれにたずねるや
されば 敵の存念を逐次とりあげ
敵をなじりつつ 己れの存念に反《はん》駁《ばく》させしめよ
彼 激怒するあまり 容赦なく己れの議論の筋道より かかる存念を一掃せん
かくておもむろに君が立証せんとする一切を提起せよ
提起の前にいちいち「あなたが実にみごとに申し述べられたごとく」とか
「ご明言に返す言葉もございませぬが」とか
「ところでこの件に関するかかる見解は はるかにみごとな表現にて
あなたのご議論の中にさいさい出てまいりましたが」とかそえておこう
それからあとは敵まかせ まかせた通り彼はやり
君の所見の賢明かつ正当なることを立証すること必定ならむ
コンモァー・アペル・ブルーン
CONVENT, n. 【女子修道院】 閑居して不善をなすことをゆっくり考える余暇をもちたいと願う女性のための隠居所。
CONVERSATION, n. 【会話】 小ものが打ちそろって、その脳味噌のでき具合いを見せ合いっこする品評会。めいめい自分の脳味噌を陳列するのにすっかり手前味噌になって、隣人の脳味噌のでき具合いを観察するゆとりなどあるものか。
CORONATION, n. 【戴冠式】 ダイナマイト爆弾で空高くふっとんでしまう神権の外側で目に見えるしるしを君主に授ける儀式。
CORPORAL, n. 【伍長】 軍の出世街道《 は し ご》の最下段を占める男。
激戦 酣《たけなわ》なりしころ 語るも涙のことながら
わが軍の伍長壮烈なる戦死をとげたり
運命の女神 その高き座より兵乱を見下し
そして曰く「倒れても落ち行く先のあらねども」と……
ジャーコウモー・スミス
CORPORATION, n. 【会社】 個人的責任を負わずに個人的利益を獲得できるようにするための巧妙な仕掛け。
CORSAIR, n. 【海賊(北アフリカ沿岸に出没してキリスト教国の船を略奪することを政府から承認されたトルコ人などの一種の私略船)】 海洋の政治屋。
COURT FOOL, n. 【(昔宮中にかかえられた)道化役】 原告。(courtを宮廷と法廷と二つの意味にかけている)
COWARD, n. 【臆病もの】 危急のさいに脚でものを考える人。
CRAFT, n. 【技能】 脳足りんにとっては脳味噌の代用品。(CRAFTには悪知恵の意味もある)
CRAYFISH, n. 【ザリガニ】 イセエビにとてもよく似た甲殻類。しかしイセエビほど消化はよくないことはない。
この小さき水中動物の中に、人間の英知がみごとに具象化されていると、余は思う。なんとなれば、ザリガニはただ後方に移動できるだけで、追憶だけしか抱けず、すでに過ぎ去った危険以外になにものも見ることができぬのに似て、人間もその英知によっては、行く手をはばむ愚挙を避けうべくもなく、ただのちになってそうした行いの本質を悟ることができるだけだからだ。
ジェイムズ・メリベイル卿
CREDITOR, n. 【債権者】 金 融 海 峡《フイナンシヤル・ストレイツ》(ストレイツには恐慌の意味がある)の彼方に居住する蛮族の一人。その草の根まで絶やす侵略ぶりが恐怖の的である。
CREMONA, n. 【クレモーナ(イタリア北部の都市、昔はバイオリンの製造で有名)製バイオリン】 コネチカット州でつくられる高価なバイオリン。
CRITIC, n. 【批評家】 誰も自分のご機嫌をとりむすぼうとしないので、われこそおだてにのらぬ男よと自《うぬ》惚《ぼ》れている奴。
聖なる歓喜の里あり
ヨルダン河(キリストが洗礼を受けた河)の彼方に
かの里にて 聖徒 純白の衣装まとい
批評家の汚泥 投げ返す
それで批評家 天《あま》駆《か》けて 遁《とん》走《そう》し
その皮膚は墨を塗りたるごとくなりしとき
己れの投げたものを身に浴びたと知りて
彼 痛く悲しめり
オリン・グーフ
CROSS, n. 【十字架】 古代宗教の象徴。それに意義があるのは、キリスト教史上もっとも厳粛な事件にあやかるためと誤って想像されているが、実際にはそれよりも数千年も時代をさかのぼった史実に由来するのである。十字架は古代男根崇拝の Crux ansata(T型十字章)と同一なりと信ずる人も多い。しかしその起源は、われわれの知識の遠く及ばざるところ、すなわち原始人の儀式にまでさかのぼるのだ。今日では、貞節のしるしとして白十字が、戦時における好意的中立の記章として赤十字がある。前者を心がけて、ガッサラスカ・ジェイプ神父は竪《たて》琴《ごと》を奏《かな》でつつ、次のような詩を読んだのだ。
「善き人であれ 善き人であれ」と
婦人会 気高くも声をそろえて叫びたり
それから悪を諫《いさ》めるために われらが前をねり歩く
そのさまざまな魅力を見せて
なれどなにゆえ おーなにゆえに
可憐な仕《し》種《ぐさ》に 若さも優美
見《み》目《め》うるわしきかの女《ひと》が
白十字旗ふる姿をば 見る人ぞなしや?
男の振舞い正さんとて
長談義する必要は はたしてなへんにありつるか
男を救う手立てはいともやさし
(ところで そもそも男とははたして救う価値ありや)
その手立てとは さてご婦人方よ
男を悩ます邪念より決別もできず
藁《わら》くずのごとく「掟《おきて》」を無視し
罪に走らんとするそのときに させねばいいのだ そんなこと
CUI BONO? Latin. 【クーイ−ボーノー(それによって誰が利益を得たか)】 それによって自分がどれほど甘い汁を吸えるか。
CUNNING, n. 【狡《こう》猾《かつ》】 弱い動物や人を強いものから分けへだてている能力。この能力はその所有者に大いなる精神的な満足と大いなる物質的不幸をもたらす。イタリアの諺《ことわざ》には「毛皮商人は驢《ろ》馬《ば》よりも狐《きつね》の毛皮をより多く入手する」とある。
CUPID, n. 【キューピッド】 いわゆる恋愛を司る神。野蛮な空想力が創造したこの私生児は、神々の犯した罪のために神話に押しつけられたものにほかならない。醜怪でしかも不穏当な着想があまたある中で、これほど正気の沙汰とも思えず、しかも不愉快なものは他にあるまい。性愛を半ば中性ともいえる赤ん坊で象徴し、烈しき恋情に伴う苦痛を矢を射られた創傷になぞらえようとする考え――このずんぐりした一寸法師を芸術にとり入れ、俗悪にも恋の仕《し》業《わざ》がもたらす微妙な心意気とか匂わせ方を具現化しようとする考え――これは勝手にそんな子を産んでおきながら、後の世の人々の門口に捨ててしまう時代にはひときわふさわしいものである。
CURIOSITY, n. 【好奇心】 女の心につきもののおぞましい性質。なんの因果か知らないが、女が好奇心をもって生まれついたかどうか知りたいという願望は、男性の魂が抱くもっとも積極的で貪《どん》欲《よく》な情熱の一つである。
CURSE, v.t 【呪う】 言葉をドタバタ喜劇用の打棒(先が割れている)のように用いてせっせと嘲《あざけ》る。これは文学、特に戯曲上では、通常その犠牲者に致命傷を与える働きをもっている。けれども呪《のろ》いを受けやすいということは、生命保険の掛け金をきめるさいに小さな数字しか値切れぬ危険率のことである。
CYNIC, n. 【冷笑家】 その眼が視力不足であるため、物事は当然こうあるべきだというふうにではなく、実際あるがままに見てしまう下《げ》司《す》野郎。こうしたことから、スキト族(黒海とカスピ海、現在のソ連領にいた古代民族)のあいだでは、冷笑家の視力矯正のためその両眼ともえぐりとる習慣があった。
D
DAMN, v. 【地獄に落とす】 パフラゴウニィア族(黒海南岸、小アジア北部の古代ローマ領地に住む民族)が、その昔大いに用いた語で、今日では意味は不明。博学なるドラベリ・ギャック博士によれば、それは満足を表す語であり、ありうべき最高度の精神的平静さを意味すると信じられている。これに反してグロウク教授は、激しい歓喜の情を表すものとみなしている。「喜び」を意味する「ジョッド」または「ゴッド」という語と連結して登場する場合が非常に多いからである。この大権威のお二方のどちらの意見とも相いれぬ意見をあえてあげろといわれたら、大いにおどおどすることだろう。
DANCE, v.i. 【踊る】 忍び笑いにも似た音楽に合わせ、できうればの話だが、近所の奥さんや娘さんの腰に腕をまわして、はねまわる。ダンスの種類は多いが、男女両性の参加を必要とするダンスは、すベて共通する二つの特性をもつ。すなわち無邪気この上なく、また不埒な輩《やから》からこよなく愛されるという二点である。
DANGER, n. 【危険】
野獣なのだ 眠れるときは
人 嘲《ちよう》弄《ろう》し 軽視するが
一《ひと》度《たび》起きれば
人 とびはねて逃げうせる
アンバット・デラソウ
DARING, n. 【大胆不敵さ】 安全な立場にある人間がもっとも顕著に示す特質の一つ。
DAWN, n. 【夜明け】 良識ある男たちの床につく時刻。老人になると、およそその時刻に起き、冷水浴をし、空っぽの胃袋をかかえて、長時間散策するか、別の方法で己れの肉体を痛めつけることを好むものがいる。その上で、かくも身体強健で晩年を迎えられるそもそもの原因は、こうしたことを日課にしているからだと、したり顔で強調する。ところが彼らが老いてますます盛んなのは、その習慣のためではなくて、そんな習慣にもかかわらずというのが真相である。こんな日課を続けているのは頑《がん》健《けん》この上なき人物にかぎられる、というそのわけをさぐると、ほかにもそんなことをしてみた連中もいるにはいたが、みなそのおかげで寿命を縮めたというだけの話だ。
DAY, n. 【日】 そのほとんどが無駄に過ごされてしまう二十四時間からなる一期間である。この期間は二つの部分に分たれる。つまり真正の日(昼間)と夜すなわち真正ならざる日である――前者は実務面での罪《ざい》業《ごう》に費やされ、後者は別の種類の罪業に捧げられている。こうした社会活動の両面は重複する部分がある。
DEAD, adj. 【死んだ】
呼吸の作業と縁を切り
全世界とも縁を切り
狂える競争一直線
終局まではひた走り
金色のゴールにつけば
そはなんと空穴ならむ
スクワトール・ジョーンズ
DEBAUCHEE, n. 【道楽もの】 あんまり熱心に快楽を追いかけて、不幸にもそれに追いついてしまったもの。
DEBT, n. 【借金】 奴隷監督が使用する鎖と鞭《むち》の代わりをする巧妙なしろもの。
水族館に閉じ込められた小マスは
出口を求めていくどもいくども水槽を巡《めぐ》り
己れをとりまくガラスに鼻面を押し当てても
牢獄に幽閉されている身に気づくことはない
哀れなる債務者もそれに似て己れのまわりに見るものぞなし
けれども己れを囲む狭い区域は感じとれた
負債を傷み それを棒引きにする策をつらつらおもんばかって
結局は払ってもよかったのだと感ずるのだ
バーロウ・S・ボード
DECALOGUE, n. 【十誡】 どれを守ったらいいか、頭の良い選び方をするだけの余地は残されているが、選ぶのに困るほどでもない一組の戒律――数は十ある。次に掲げるのは、本辞典の特性にふさわしい十誡の改訂版である。
汝《なんじ》 われ以外のいかなる神も礼拝することなかれ
神を多くもたばあまりに不経済ならむ
聖像 偶像 一切つくることなかれ
ロバート・インガソル(アメリカの法律家、講演家、著述家、自由思想家。1833-99)に破壊させぬためなり
みだりに神のみ名を唱えることなかれ
その霊験灼《あらた》かなる時を選ぶべし
安息日にいささかも働くことなかれ
ただし野球見物に行くは可なり
汝の父母を粗末にすることなかれ
長寿の家系ならば生命保険の掛け金低からむためなり
殺すなかれ 殺人者を煽《あお》ることなかれ
ならば肉屋の付け 払うことなかれ
隣人の妻に口《くち》吻《づ》けすることなかれ
ただし隣人が汝の妻を慰みものにせし場合はそのかぎりにあらず
盗むことなかれ いくら盗みても
事業にて勝ち残ることかなわず だますべし
偽証することなかれ そは賤しき振舞いなり
されば「かくかくしかじかの噂を耳にす」と述べるべし
汝 次のものを一切望むことなかれ
すなわち遮二無二、いかなる手段を講じても手に入れることかなわざるものをだ
G・J
DECIDE, v.i. 【決定する】 ある有力派閥が他の派閥より優位にあれば、そちらに従う。
木の葉一枚 枝よりもがれ
「わたしゃ地面に落ち行くつもり」と述べた
西風 舞い立ちて 木の葉の行手を変えた
「わたしゃ今東へ行くわいな」と述べた
風力まさる東風 舞い立ちぬ
「進路を変えたほうがよさそうだ」と述べた
両者の風力拮《きつ》抗《こう》すれば
「まだきめかねる」と木の葉は述べた
風どちらともぴたりとやめば
「まっすぐ落ちることにきめた」木の葉は得意然として叫んだ
「第一案は良策か?」そんなことでは教訓にもならぬ
ただ己れの道を選ぶべし われら異議は唱えず
君の選んだその道がはからずも落ち行くことであったとしても
それは君の力のまったく及ばざることならむ
G・J
DEFAME, v.t. 【中傷する】 他人について嘘八百ならべる。他人についてありのままをいう。
DEFENCELESS, adj. 【無防備の】 攻撃できない。
DEGENERATE, adj. 【退化した・堕落した】 先祖ほど手放しでは誉められなくなって。ホーマー(B. C. 十世紀頃のギリシアの詩人)の同時代人は退化の好例である。トロイ戦争(トロイの王子パリスがギリシアの王妃ヘレンを奪ったことに端を発した十年間の戦争)で名をあげた数々の英雄たちは、軽々と一人で岩石をもち上げたり、暴動を起こしたりできたものだが、連中ときたら、そんなことをするのに十人は要した。ホーマーは飽くことなく、「こうした退化した時代に生きる輩」を嘲笑しつづけた。そのためたぶん彼れらはホーマーが一日の糧を乞い求めるのを黙認したのだ――ついでながら、それは善をもって悪に報いた顕著なる例といえる。というのも、もし彼らがホーマーにそれを禁じたら、彼は確実に飢え死にしていたであろうから……
DEGRADATION, n. 【退化・堕落】 一市民の身分から、派閥人事により政界でのし上がって行く道徳的・社会的進歩に見られる数段階のうちの一つ。
DEJEUNER, n. 【朝食《デイジヤネイ》】 パリしょんをしたことのあるアメリカ人の食事。さまざまに発音される。
DELEGATION, n. 【代表団】 アメリカの政治では、一山いくらで売られている商品。
DELIBERATION, n. 【熟考】 バターが塗ってあるのはどちら側か見定めるため、自分のパンを矯《た》めつ眇《すが》めつする行為。
DELUGE, n. 【ノアの洪水】 この世の数々の罪悪(ついでに罪人どもも)を洗い流してしまった世にも名高き最初の洗礼実験。
DELUSION, n. 【妄《もう》想《そう》】 「熱中」「愛着」「克己心」「信条」「希望」「博愛」、その他もろもろの評判息子や娘をかかえている、やんごとなきご一家の家長。
「妄想」万歳! あなたのおわさねば
この世は上を下への大騒ぎとなるは必定
「悪徳」が清らかなる夢想にて上品ぶり
破廉恥な「美徳」のみだらな誘いを寄せつけぬ恐れあるためなり
マンフレイ・マッペル
DENTIST, n. 【歯医者】 口の中に金属をはめ込みながら、ポケットからコインをいく枚もぬき出す手品師。
DEPENDENT, adj. 【世話になっている】 おどかしてまき上げるわけにもいかないが、とにかく生活の糧《かて》を他人の寛大さに頼って。
DEPUTY, n. 【代理人】 男性にかぎるが役人かまたその保証人の親類。概して代理人は眉目秀麗な若ものであり、赤いネクタイをし、その鼻先と机のあいだにはもつれた蜘《く》蛛《も》の巣がはりめぐらされている。誤って小使いの箒《ほうき》でぶたれると、もくもくと埃《ほこり》を出す。
「主任代理人」上司は叫んだ
「われわれが浅はかにも横領していないか念のため
この事務所を徹底的に調査するよう委嘱された専門家や計理士によって
本日 帳簿が検査されることになっている
手もちの現金全額に見合うように――彼らは数えるだろうから――記載正しく
収支も正しく明示されたし
かねてよりわしは君の正確なやり方に感心しておったのさ
ここで朝から晩まで坐して 群がる商売人たちと対面し
なにか摩《ま》訶《か》不思議なる もの静かな呪《じゆ》文《もん》
――その視線にひそむ魔力によりて
君は彼らの騒然たる声とたけだけしい振舞いを静めてくれた
君の視線は甚だしき騒動屋を責め 敬《けい》虔《けん》にして深遠なる幽静の気をみなぎらせた
万事あまりにも整然と行われたので
金を引き出すために訪れた連中は 金を払うために待っている始末なのだ
だが今や時節到来だ
ついに君がその活力あふれる天分を存分に活用する時がきたのだ 立て
そして君の瞳から電光を払い落とせ
部下を奮い立たせ あらゆるものに精魂をこめよ」
ここで上司は 代理人の曲がった背を手でぽんと叩いた
なんとその時真っ逆様に床に落ちたのだ
しなびた眼球 かたかたいう耳
黒ずみ しぼんだ 目のとれた頭蓋骨が!
その男は死んでもう一年になるのだ
ジャムラック・ホロボム
DESTINY, n. 【運命】 暴君が悪いことをするさいによりどころとするもの。間抜けがへまをやらかしたときの口実にするもの。
DIAGNOSIS, n. 【診断】 患者の脈《パルス》の打ち具合いと懐《パース》具合いによって、医者が下す病気への予告。
DIAPHRAGM, n. 【横隔膜】 胸部疾患と腸疾患を区切っている筋肉でできた仕切り。
DIARY, n. 【日記】 人の生活の中で、自分自身について顔赤らめずに物語ることのできる部分を毎日記録したもの。
ハースト(ビアスが健筆を振るった『サンフランシスコ・イグザミナー』の社主)はありったけの英知と機知をこめて
日記をつけていた
そこでハーストが他界すると 記録天使は
自らつけてきた記載一切を抹消し
「君の日記から審判を下すとしよう」と叫んだ
ハーストは「これを見れば わたくしが聖者一世なることがおわかりでしょう」といって――
喜びいさんで 死衣の懐よりかの日記をえいとばかりとり出した
天使はおもむろにページをめくった
すでに目をつけていた無味乾燥な各行が目に入った
浅薄なる感傷と借りものの機知に当たるたびに悲喜こもごもの表情をした
やがて粛然として日記を閉じ ハーストの手に戻した
「ねえ 君は道を間違え迷い込んだのだ
幽《ゆう》明《めい》境《さかい》を異にしたこの泉界では満ち足りた気分にはなれぬだろう
気宇壮大な者には天国は狭すぎるぞ
地獄には浮かれ騒ぐ自由はない」
と天使は述べ こ奴を蹴り出し地上に戻した
『狂える哲学者』
DICTATOR, n. 【独裁者】 無政府状態がもたらす災いより、専制政治が招く害毒のほうを選んだ一国の統領。
DICTIONARY, n. 【辞典】 一つの言語の成長を阻止し、その言語を固定した融通の効かぬものにするため工夫された邪念のこもった文筆にかかわる装置。ただし本辞典はきわめて有益な作品である。
DIE, n. 【賽《さい》子《ころ》】 メdiceモ《ダイス》の単数形。この言葉はめったに耳にしない。メNever say dieモ(「弱音を吐くな」この場合のメdieモは「死ぬ」と同じ意味である)という使用を禁ずる金言があるためである。しかし忘れたころに「賽は投げられた」なんていう人がいるが、これは間違いである。それは投げられるものではなく、切られるものだからだ。この言葉は、かの著名な詩人にして家政学者なるディフュー上院議員(アメリカの法律家、政治家、雄弁家。1834-1928)がものした末代までも残る二行連句に登場する。
賽《ダ》子《イ》くらいのチーズの角切り
ガリガリ鼠っ子取りの餌になるかも
DIGESTION, n. 【消化作用】 食物《ビトル》を美徳《バーチユー》に転換すること。その過程が不完全だと、美徳の代わりに悪徳《 バ イ ス》が放出される――そうした状況から、かの邪悪なる文筆家ジェリマイアー・ベン博士は婦人たちの消化不良に悩む率が男性より高いとの結論を引き出したのであった。
DIPLOMACY, n. 【外交手腕】 自国のために虚偽を申し立てる愛国的術策。
DISABUSE, v.t. 【誤解を解く】 隣人が受け入れたほうが得だとかねがね思っていた思い違いよりも、もっと都合よい別の思い違いを押しつける。
DISCRIMINATE, v.i. 【識別する】 もしできうればの話だが、特にある人あるいはものが、他の人やものよりも不愉快であるという点に注意する。
DISCUSSION, n. 【議論】 他の人々にたいしその誤りをますます頑固に信じ込ませる方法。
DISOBEDIENCE, n. 【不服従】 奴隷の身分を雲とたとえれば、その内側の白銀の部分。(メEvery cloud has a silver liningモ〔すべての雲の裏は銀色に光っている〕という諺をもじったもの。この諺の意味は、どんなに悪いことにもなにかよいところがあるということ)
DISOBEY, v.t. 【背《そむ》く】 さしずめ成人式でも催して、命令とやらが一人前になったことを祝福する。
彼がわたしを治める権利
そんなの明々白々よ
わたしの義務は逆らうことだ
そりゃまた明白
この穏当なしきたりに見向きもしなけりゃ
わたしと義務は一緒におじゃんだ
イズラフェル・ブラウン
DISSEMBLE, v.i. 【隠す】 品性の上に清潔なワイシャツを着る。
さあ 隠そうぜ――アダム
DISTANCE, n. 【隔たり】 貧乏人がわがものとみなし、そのまま保ちつづけても、金もちが一向にいやな顔をしない唯一のもの。
DISTRESS, n. 【悩み】 友人の成功をまざまざと見せつけられるのが原因でかかる疾患《デイジーズ》。
DIVINATION, n. 【易断】 神秘を嗅ぎつける技術。花咲く阿呆《ダンス》(スコラ学派の神学者 John Duns Scotusの学徒を文芸復興期の人文学者が Dunsmen, Dunses とあざけったことからできた言葉。ただしここではプロテスタントのことを暗にさしているのかもしれない)と、はしりの道化者(昔のおろかものつまり旧教徒)をかけ合わせた実を結ぶ変種があるほど、易断には種類多し。
DOG, n. 【犬】 全世界の信仰のあり余った部分をごっそりいただこうとして工夫された付け足しの、または補助的な神といえるもの。そのより小型な、より毛並みの柔らかな化身に宿り給うた神は、女の愛に乗じて、人間の男一匹が夢想だにせぬ場所に鎮座まします。「犬」とはしょせん古代の遺物であり――時代遅れの代《しろ》物《もの》である。かの栄華を極めたるソロモン王(B.C.十世紀のイスラエルの王、賢人の誉れ高い)でさえ(聖書の「栄華を極めたるソロモンだに、その服装この花の一つにも及《し》かざりき」という一節――マタイ伝第六章二十九節――をもじっている)、終日、靴ぬぐいの上に寝そべって日向ぼっこをし、蠅をあてがわれ、ぬくぬく肥えるなんて真似をしたことがないのに、奴ときたら額に汗することもせず、また糸を紡《つむ》ぐこともしない。ところが主人のほうはあくせく働き、よきにはからえ式の視線で風味をそえた、ソロモン風テールをものうげに振らせるための金を稼いでいるのだ。
DRAGOON, n. 【龍騎兵】 猛勇、沈着をまったく同程度に兼ね備えているので、徒歩で前進し、馬上豊かに後退する兵士。
DRAMATIST, n. 【劇作家】 フランス語から戯曲を翻案する人。
DUCK-BILL, n. 【カモノハシ(豪州産の哺乳動物)】 オオホシハジロ(canvas-back, 北米産カモの一種、背の羽毛が灰白色のまだらでカンバスに似ている。肉がうまいので珍重されている)の出盛り期における料理屋での君のつけ。(billには「くちばし」以外に「勘定書き」という意味もある。duck-bill〔=カモの勘定書き〕)
DUEL, n. 【決闘】 二人の仇敵同士を和解させるさいに、まず手はじめに行われる形式ばった式典。この式典を十分に執り行うためには、大いなる熟練を必要とする。へまをやらかしたりすると、時にはまったく思いもかけぬみじめな結果をもたらすことがある。かなり以前のことだが、一人の男が決闘で命を落としている。
われは思えり 決闘するは紳士の悪徳
そこで願えり いずこか知られねど恵みの土地にて 天寿をまっとうすることこそわが定めなれと
その国へ行かば 魚のごとく敵を裂き
馬鈴薯のごとく夫を賽の目に切り
はたまた銃声一発 借り主を倒し 結んで重ね 氷漬けにする用意をすることこそりっぱなれ
極悪人 若干ありて われは望めり
そのものたちを射殺し 刺殺し あるいはなにかかかる手立てにて下劣な無頼漢どもを矯正し、よりよき生活、行儀作法に導かんと
今しも見ゆる心地せり――大いなる群れをなして見えたり
そのものたち あたかもわれに挑《いど》まんと迫まるようなりて 楽団に旗じるしを立て
意気ようようとして隊伍を組みたり!
ザンバ・Q・ダー
DULLARD, n. 【のろま】 文壇と人生に君臨する歴代王朝の一員。のろま家はアダムと共に起こったが、その一門の数おびただしく、しかもそれぞれ一騎当千とあって、人類の居住可能なところならばどこにでもはびこるようになった。そうした生命力の秘密は打撃にたいして無感覚なところに存する。ためしに棍棒をもってくすぐってみるがよい。彼らは凡庸そのままといった顔をして笑うにすぎない。のろま家はもともとボイオチア(古代ギリシアのアテネより北西にある一地方、住民は頭が鈍いので有名)の出であったが、その愚鈍さゆえに、作物を枯らしてしまったため、飢えに追われてそこを立ち退くはめになった。彼らは数世紀にわたり、ペリシテ人の国(昔パレスチナの西部海岸地方にあった)で悪名を轟《とどろ》かし、そのせいでか、彼らの多くは今日でもぺリシテ人(B.C.十二世紀頃ペリシテ人の国に住んでいた非セム族の戦闘的人種、多年にわたってイスラエル人を圧迫した)と呼ばれている。時代は下って十字軍(十一―十三世紀)の動乱期には、彼らはその地より姿を消し、それから漸次ヨーロッパ全域に広がり、政治、美術、文学、科学、神学の各領域で高位の大半を占めるに至った。のろま一門から派遣された家の子たちが「メイフラワー」号で「ピリグリム・ファーザーズ(植民地建設団)」の一行と海を渡って、この国にその足跡を印し、この国について好意的な報告をしたのが発端で、出生、移民、改宗により、その数は急速にしかも着実に伸びている。もっとも信頼できる統計によれば、合衆国に住まう「のろま家」の数は、統計学者たちも含めて三千万にほんの少し足りぬ程度だそうだ。この一門の知的中心地はイリノイ州ぺオリア(一八二五年につくられた町、ニューイングランドの人々が大挙して移住した)周辺であるが、ニューイングランドの「のろま家」一門はおぞましいくらい徹底して道徳的である。
DUTY, n. 【義務】 欲望の線を踏みはずさず、利益の方向へと、われわれを仮借なく駆り立てるもの。
ラベンダー・ポートワイン卿は
今をときめく宮廷の寵児
夫人の唇 主君に奪われ 怒り心頭に発したり
立腹のあまり 王の首を打ちとらんとしたが
義務感はあくまで強く彼を制したれば
王の首の代わりにその糧を奪えり
G・J
E
EAT, v.i. 【食べる】 つづけざまに(そしてつきにも恵まれて)咀《そ》嚼《しやく》、湿潤、嚥《えん》下《か》の作用を行う。「わしは客間にて晩《ばん》餐《さん》に舌鼓を打っていたのじゃ」とブリヤー・サバラン(フランスの政治家、著述家。1755-1826)は口を開き、逸話をはじめた。「なんと、客間で晩餐を食べたとな」とローチブライアンドが口をさしはさんだ。そこで偉大なる美食家は説明して「君、わしは晩餐を食べたなどといってはおらん、それに舌鼓を打っていただけじゃ。そこんところをわかってもらわんと困るのじゃ。食事は一時間前に済ませておった」といった。
EAVESDROP, v.i. 【立ち聞きする】 他人のことでも、自分のことでもかまわないが、とにかく人の罪業や悪癖のひとしきりをひそかに小耳にはさむ。
ある貴婦人が聞いたとさ
これ見よがしな鍵穴に 耳押し当てて 中の話を
中にゃ二人のおしゃべり女 きままな噂にふけりたり
話題の種はこれいかに その貴婦人のことだった
一人の女がいったとさ「わたしの亭主の目から見りゃ
あの人こそは覗《のぞ》き好き しかも粋狂な尻軽女」
もうそれ以上聞く耳もたず
憤然として即刻に耳を放していうことにゃ
口とがらせていうことにゃ
「嘘八百で 品性穢《けが》され
とても聞くには耐えられません」とさ
ゴピート・シェラニー
ECCENTRICITY, n. 【奇行】 とても安あがりな有名になる方法。そのため頓馬な輩がその無能さをひきたてるために、この方法を用いることしきりとか……
ECONOMY, n. 【経済】 とても買う余裕のない牝牛一頭分の値段で、いりもしないウイスキー一《ひと》樽《たる》を買い込むこと。
EDIBLE, adj. 【食用になる】 蟇《ひき》蛙《がえる》にとって蛆虫が、蛇にとって蟇蛙が、豚にとって蛇が、人間にとって豚が、そして蛆虫にとっては人間が、といった風に、食べてよく、消化して健康によい。
EDITOR, n. 【編集者】 ミノス(〔ギリシア神話〕ゼウスの子。クレタ島の王で死後黄泉の国の裁判官となる)、ラダマンテュス(ギリシア神話のミノスと兄弟、生前は正義の模範とされ、死後、黄泉の国の裁判官に任じられた)、アイアコス(〔ギリシア神話〕前二者と兄弟、アイギナ島の王、善政を敷き、黄泉の国の裁判官となる)、この三人の黄泉の国の裁判官の職務を一身に兼ね備えてはいるが、銀貨一枚ででも懐柔されやすい人物。峻烈ともいえるほど高潔なる検閲官、だが同時にきわめて寛大なところもあり、他人の善行とともに、己れの非行にも目をつむる傾向あり、はじける稲妻、不屈なる雷鳴にも似た叱《しつ》咤《た》激励をあたりにまき散らしているので、ついには犬の尻尾に結わえつけられ、ポンポン胸中の不満を弾《はじ》け出している一束の爆竹に身を落としたごとく見える、と思う間もなく、穏やかな妙なる調べの歌を口ずさみはじめる。その歌声は宵《よい》の明星に祈りを捧げる驢《ろ》馬《ば》の甘いささやきにも似たやさしいものだ。秘法の奥義を窮《きわ》めたものとして、また法律の大家として思想界に君臨し、キリストの山上の変容さながらに、朧《おぼろ》なる光輝を顔面にみなぎらせ、両足をからみ合わせ、舌で片頬をなめるような裏腹なる言辞を弄し、編集者は紙上に自分の意志を小出しに出していっては、それを適当な長さにちょん切る。それでも御殿の御《み》簾《す》の内より親方殿の声が時おり聞こえ、機知を三インチ、宗教上の瞑《めい》想《そう》六行を要求したり、分別くさい言葉をひねり出せとか、まんべんなく哀調を盛り込めとか命令してくる。
おお 思想界に君臨する律法の長《おさ》よ
彼ぞ金ピカの山師ならむ
その礼服は襤《ぼ》褸《ろ》きれのつぎはぎにして
その王冠は真《しん》鍮《ちゆう》
中身は驢馬なり
そしてその力こそ阿《あ》呆《ほ》らしきかな
じゃれて 狂って 戯《たわ》言《ごと》をいう
愚かな老いたぺンの虫 思想界の老帝王
輿《よ》論《ろん》の非戦闘従軍者とは彼のこと
獅《し》子《し》吼《く》し へまをし 気ままに剽《ひよう》窃《せつ》す
気どり
不愛想
疑惑の的
虚言癖あり
ごりっぱなる同業者殿!
J・H・バンブルシュック
EDUCATION, n. 【教育】 双方とも理解力に欠けていることを、利発ものにはしかと知らしめ、うつけものには隠してしかとはわからぬようにさせるためのもの。
EFFECT, n. 【結果】 いつもと同じ順序でまとまって発生する二つの現象のうちの二番目のもの。一番目のものは「原因」と呼ばれていて、二番目のものを発生させるといわれている――だがこんな発想は兎《うさぎ》を追いかけているときの犬しか見ていないものが、兎を見て犬の原因だと断言するのと同様、非常識きわまりないものである。
EJECTION, n. 【追い立て】 おしゃべり病にきくと折り紙つきの治療法。窮乏いちじるしき場合にも大いに用いられる。
ELECTOR, n. 【有権者】 他人の選んだ人のために一票を投ずるという不可侵の特権を享受している人。
ELECTRICITY, n. 【電気】 ほかになにか原因があるかもしれないが、それがまだ判明していない一切の自然現象をひき起こす力。稲妻と同一のものであり、フランクリン博士(アメリカの政治家、著述家、物理学者。1760-90)の上に雷を落とそうとする企ては有名だが、それはこの偉大にして善良なる故人の生涯を通して、もっとも興味深いできごとの一つである。今は亡きフランクリン博士の遺徳は今もうやうやしく忍ばれているのは当然のことだ。特にフランスではしかりで、最近かの国にて、博士の蝋人形が展示されたが、それには彼の生涯と科学にたいする奉仕について、次のごとき心打つ説明がつけられている。
「電気の発明家フランクリン氏。この世にも名高き学者、世界一周の航海をいく度となく実行されたあと、サンドイッチ島で不帰の客となったのだが、その遺体は野蛮人どものむさぼり食らうところとなって、そのほんの一断片すらとりもどすことはできずじまいになった」
電気は、技術、産業の諸分野できわめて重要な役割を果たすようになることはまず間違いない。その力を経済的にある用途に供するというところまでいっていないが、実験の結果、すでに電気はガス灯の火口より市街軌道車をもっとうまく走らせ、馬よりもっと多くの光を出せることが判明している。
ELEGY, n. 【挽歌】 韻文で綴ったもの。そこでは滑稽味のある手法は一切用いず、作者は読者の胸中にもっともじめじめした憂《ゆう》鬱《うつ》感《かん》を植えつけることを志している。英語で書かれたもっとも著名なる挽歌は、なにぶん次のごとき出だしであったと思う。
野良犬が落日の弔鐘の先触れをなし
さまようけものの群れは草原を越えてうねり進む
賢き人は家路をたどり われはただとどまりて
暗き想念に囚《とら》われつつ愚行をくり返すのみ
ELOQUENCE, n. 【雄弁】 白とは白であるように見える色なりと、間抜けどもに口頭で納得させる技術。なに色でも白らしく見させる天《てん》稟《ぴん》も含む。
ELYSIUM, n. 【極楽(ギリシア神話での)】 古代人が愚かにも善男善女の魂の住まうところと信じていた想像上の楽天地。このおかしくも有害なる寓《ぐう》話《わ》は初期のキリスト教徒によって地上より一掃されてしまった――天国にて、このものたちの魂に幸いあれ!
EMANCIPATION, n. 【解放】 自分以外のものによる暴虐から自分自身による圧制へと奴隷がその身の上を変えること。
彼は奴隷だった 命令一下行ったり来たり
鉄の首輪は骨まで食い込む
やがて「自由」がその所有者の名を消し
鋲かたく締め おのが名刻みぬ
G・J
EMBALM, v.t. 【ミイラにする(香料をつめて防腐保存する)】 植物が育つのに欠くことのできぬ気体を閉じ込めてしまって、植物を欺く。死体をミイラにし、それでもって動植物間の自然なバランスを狂わせてしまい、エジプト人たちはかつては肥《ひ》沃《よく》で人口稠《ちゆう》密《みつ》な国土を不毛で、しかもただ痩せさらばえた連中しか住めぬ土地に変えてしまった。現代の金属製の柩も同じ経過をたどる第一歩となる。一本の樹と化して隣人の庭に風《ふ》情《ぜい》を添えたり、一束の二十日大根となってその食卓を豊かにすべきいく人もの亡《なき》骸《がら》が、今や長らく無用の長物として放置される定めにある。もし生き長らえるならば、われらとて、やがてはそれもちょうだいすることになろう。しかしそのあいだにも菫《すみれ》や薔《ば》薇《ら》は死体の(偉大なる臀《でん》筋《きん》)を一口いただきたいと、涎《よだれ》をたらしているのである。
EMOTION, n. 【感動】 心臓から頭部へ血液が流動することによりひき起こされる、身体が衰弱して行く病気。時として目から水和した塩化ナトリウムをおびただしく放出させる症状を伴うことあり。
ENCOMIAST, n. 【賛美者】 特別な(といっても並みはずれているわけではないが)種類の嘘つき。
ENOUGH, pron. 【たっぷり】 ほしければの話だが、この世に存する一切合財。
腹一杯はごちそうも同じ それをいうなら
腹はち切れるとはごちそうと大皿も同じ
アーベリィ・ストランク
ENTERTAINMENT, n. 【娯楽】 あらゆる種類の楽しみ、ただしそんなものに食い込まれると、失意のあまりあやうく死にそうになる。
ENTHUSIASM, n. 【熱狂】 若ものがかかりやすい病 気《デイステンパー》。経験という塗り薬とともに後悔という呑み薬を少量ずつ服用すれば治癒可能。バイロン(イギリスのローマン派詩人。1788-1844)はそれを メentuzymuzyモと上流階級風に呼ぶくらい、長らく平癒していたが、病状がぶり返し、そのためわが身を遠くミサロンギ(ギリシア西岸の港町、バイロンの客死地)に追いやることになった。
ENVELOPE, n. 【封筒】 書類を入れる棺《かん》桶《おけ》。勘定書きを納める鞘《さや》。為替《かわせ》をおおう殻。恋文がまとうさよごろも《ベツド・ガウン》。
ENVY, n. 【妬《ねた》み】 もっとも見劣りする能力に適した競争。
EPAULET, n. 【肩章】 飾りのついた記章の一種、ある将校をその敵から――つまりその将校が戦死すれば昇進させられるはずの階級の低い将校から、識別するのに便利である。
EPICURE, n. 【快楽主義者】 エピクロス(ギリシアの哲学者、道徳・節制・修養などで整えられた感覚の快楽を人生の最高善と説いた。B. C. 342 ? - 270 ?)、すなわち快楽こそ人類の主要な目的であると考え、寸暇を惜しんで五感を堪能させることを心がけた嗜《たしな》みのある哲学者に対抗する人。
EPIGRAM, n. 【警句】 散文か韻文で書かれた寸鉄のごとき言葉、酸味または渋味をその売りものにすることはしばしばだが、時として英知を売りものにする場合もある。かの学識、独創力ともに豊かなジャムラック・ホロボム博士の作品である、特に注目に値する警句を次にいくつか披露しよう。
「われらは他人の要望より自分自身の要望のほうをよくわきまえている。自分自身に奉仕することは、政治の手間を省くことになる」
「人の心には誰かれの区別なく、虎、豚、驢馬、それにナイチンゲールが住みついている。それでも人間の性格が雑多なのは、こうした動物の活動がてんでんばらばらのせいだ」
「性に三種あり。すなわち男性、女性、それに少女である」
「女性における美貌と男性における栄誉は次の点でよく似かよっている。すなわち両者とも無分別なものには、なんとなく信《しん》憑《ぴよう》性《せい》があるように思える点でだ」
「女どもは恋におちても男ほど恥ずかしがらない。男ほど恥ずかしがるものをもたないからだ」
「友人がこまやかな思いをこめて君の手を両方ともしかと握っていてくれるかぎり、君は安全なのだ。友人の両手を監視していられるのだから」
EPITAPH, n. 【墓碑銘】 墓石に刻まれた碑文で、死がもたらした美徳は、その効力が遡《そ》及《きゆう》することを示している。次に掲げるのは、思わずじーんとくるような墓碑銘の見本である。
プラット牧師の遺骨 ここに眠る
賢明にして敬虔 謙虚 その他もろもろ
人生かく生くべしの模範を示したり
かくいわしめよ――また神よ許し給え
ERUDITION, n. 【学識】 書物からカラッポの頭蓋骨の中に振るいおとされた埃。
彼の無敵なる学識の及びしところ広大無辺なれば
天地創造の起源も規画もその知識のうちなり
かくてたまたま災難に会いたるだけで――
哀れにもこの男 盗賊となるも悪しからずと考えたり
ローマック・ピュート
ESOTERIC, adj. 【秘教の】 難解この上なく、最高に神秘的な。古代哲学には次の二派があった――すなわち公開的なるもの――この派の哲学者でもほんの一部しか理解できぬもの、秘教的なるもの――誰も理解できぬもの、この二派である。現代の思想にもっとも深い影響を与え、かつ当代でもっとも広く受け入れられているのは、後者の哲学である。
ETHNOLOGY, n. 【民族学】 強盗、泥棒、ペテン師、のろま、狂人、白痴、それに民族学者といった人類のさまざまな種族を扱う科学。
EUCHARIST, n. 【聖《せい》餐《さん》】 「神食い」という宗派の神聖なる祝宴。
ある日のこと、不幸にもなにを食べるかということについての議論が、この宗派の人々のあいだでもちあがった。この論戦中に約五十万人がすでに殺害されたが、この問題はいまだに解決をみていない。
EULOGY, n. 【賛辞】 財力、権力という強みをもっているか、さっさと成仏するという察しのよさを備えている人を賞賛すること。
EVANGELIST, n. 【福音伝道者】 よき便り、特に(宗教的な意味でだが)われわれ自身の救済と隣人の破滅を保証する便りをもたらす人。
EVERLASTING, adj. 【不朽の】 永久に長もちする。このように短くて初歩的な定義をあえて披《ひ》瀝《れき》することに内心じくじたる思いである。元ウスター司教がものした『欽定訳聖書に用いられた「不朽の」なる語の部分的定義』と題する分厚い著作が存在することを知らぬわけではないからである。この著作はかつてイギリス国教会においては大いに権威ありとみなされており、今なお心には悦楽を、魂には利益をもたらすものとしてひもとかれていると聞き及んでいる。
EXCEPTION, n. 【例外】 誠実な男性、真実一路の女性などのように、類を同じくする他の仲間から己れだけ変身しようなんて勝手な振舞いをするもの。「例外は法則を立証す」というのは、無学な輩がしょっちゅう口にしている言葉だが、連中はそれがいかに不合理か考えてみようともしないで、お互いにわけも知らず鸚《おう》鵡《む》返《がえ》しにくり返しているにすぎない。ラテン語のメExceptio probat regulamモ(例外は法則を証明す)とは、例外は法則をためす、つまり検査するのであって、それを確証する、という意味ではない。このすばらしい格言より真意をひき抜き、独断で正反対の意味を考え出して、これととりかえてしまった犯人は、不滅とも思われる悪の力をほしいままにした。
EXCESS, n. 【過度・不節制】 倫理学上では免罪符の一種であり、適当な罰金を科せられることによって、かえって中庸の原則を守らされる結果となる。
万歳! 「度過し」殿下――特に飲酒においての
われ 崇拝のあまり殿下にひざまずかむ――
われに節酒を説く君よ――
わが頭蓋骨はなが説教壇にして
わが胃の腑はなが聖堂ならむ
教訓を重ねつつ しかり諄《じゆん》々《じゆん》と
いかに理性に従うよう説得しようとて
わが額の上で はたまた背骨にそいて
厳しく かつまた奔放ななが触れ方ほど
甘美ならざりき
なが命とあらば 悦楽の盃も伏せむ
熱き葡萄の美酒をもて わが才知を燃やすこともはやなし
なが懺《ざん》悔《げ》の台につき
われ 心より改心す 立ち上がることかなわざればなり
なが祭壇に新たなる生《いけ》贄《にえ》を供さんとて
時を経てよろめくは忘恩の徒ならむ
EXCOMMUNICATION, n. 【破門】
この「破門」なる語は
牧師の説教中しばしば聞かれるものである
またその語の意味は 鐘と聖書と蝋《ろう》燭《そく》をもて
不真面目なる所信を抱く罪《つみ》人《びと》を地獄に落とすことである――
魔王がその罪人を永《えい》劫《ごう》に奴隷たらしむることを認め
キリストがそ奴を救うことを禁ずる儀式である
ギャット・ハックル
EXECUTIVE, n. 【行政官】 政府の役人。立法府の要請を、司法の府が無益・無効なるものなりと喜んで宣告する日がくるまで、民衆に押しつけるのが行政官の役目である。次に掲げるのは『おったまげた月世界人』(プフィーファー社、ボストン 一八〇三年)という題名の古い書物の一節である。
月世界人:じゃなにかい、お前さんたちの国では、議会が法案を可決すりゃ、それが合憲かどうか直ちに確認するため、直接最高裁に送るかい?
地球人:いや、そうじゃない、多分その法律が何年も施行されてから、誰かが自分自身の――つまりその依頼人の――利益に反する法の運用にたいし異議を申し立てるまで、最高裁の承認など必要ないのさ。大統領が承認すれば、直ちにその法律を執行しはじめるのだ。
月世界人:ふうん、行政権が立法権の一部であるわけだ。とすりゃ、警察官もまた彼らが施行する地方条令を承認しなければならないのかい。
地球人:今までのところはそうなってないね。少なくとも巡査の身分じゃね。けれどもおしなべて、法律はことごとく拘束せんとするものの承認を必要とするのだ。
月世界人:なるほど。死刑執行令状は殺人犯人によって署名されなければ効力を発揮せぬというわけだね。
地球人:ねえ君、そうきついことをいいなさんな。われわれにだって矛盾がないわけではないのだから。
月世界人:でも法律が施行されたあとになってのみ、またある個人によって提訴されたときはじめて、その合憲性を決裁するために、大金をかけて裁判機構を維持するこの制度……それが大きな混乱をひき起こさないのかい。
地球人:ひき起こすね。
月世界人:それでは、どうして貴国の法律は、施行せられる前に大統領ではなく、最高裁長官の署名によって、有効性を確認されないのかい。
地球人:そのような手続きには、なんせ先例がないからね。
月世界人:その先例とやらはいったいなんだい。
地球人:五百人の法律学者がそれぞれ三巻の書物にて定義づけている。だからそんなことわかるはずがないだろう。
EXHORT, v.t. 【勧告する】 宗教上の問題では、他人の良心を鉄串に刺し、こんがりと不愉快になるまで焼きあげる。
EXILE, n. 【亡命・流罪】 国外に住むことによって母国に奉仕する人、けれども大使にあらず。イギリスのある船長は『アイルランド幽囚《エクサイル》』(英国詩人トーマス・キャンベル〔1777-1844〕作)を読んだことがあるかと聞かれ、「ありません。ですがそこに停泊したいものであります」と答えた。後年、前代未聞の残虐行為を重ねたのち、海賊の汚名を着て絞首刑にされたが、次のような走り書きが、例の返答をしたおりつけていた航海日誌の中から発見された。
「一八四二年 八月三日 元 は 島《エックス・アイル》であったアイルランドについて冗談をいう。反応冷ややかなり。全世界を相手に戦わん」
EXISTENCE, n. 【生存】
束の間のとりとめもなき悪夢なり
そこではものみな空しく ただかりそめの影ならむ
添い寝の友の死神にやさしく肱《ひじ》でこづかれて
夢から醒《さ》めれば われらは叫ばむ「おーナンセンス」
EXPERIENCE, n. 【経験】 大喜びですでに受け入れてしまったへたな考えが好ましくない昔なじみであることをわれわれにわからせてくれる分別のこと。
夜霧のなかで
おぞましい泥沼に落ち 首までつかった旅人にたいし
経験が 曙光の立ち昇るごとく
その道は踏み分けるべきでなかったと諭《さと》したり
ジュウエル・フラッド・ビンク
EXPOSTULATION, n. 【諫言】 友人を失う方法は数あれど、その中でも特に間抜けが選ぶ方法。
EXTINCTION, n. 【絶滅】 神学が未来のこの世の姿をでっちあげたときの原料。
F
FAIRY, n. 【妖精】 さまざまな姿をし、いろいろの才能を与えられていて、昔は草地や森に住んでいた生き物。夜間活動する習性があって、踊ることや子供を盗んだりすることに幾分夢中になるところがあった。妖精たちは、今では博物学者たちによって、絶滅したと信じられているが、イギリス国教会の牧師が、最近では一八五五年に領主と会食したあと、ある私園の中を通りすぎていた時、コウルチスター近くで三匹見たのである。彼らを見て、その牧師はすっかり気も転倒し、変になり、その結果、彼の話は支離滅裂であった。一八〇七年には、妖精の群れがエイクス近くにある森に来て、ある百姓の娘をさらっていったが、その前に彼女は、衣類の包みをかかえて、森に入る姿を見られていたのである。ある裕福なブルジョアの息子も同じころ姿を消したが、その後もどって来た。彼はその誘拐を目撃し、妖精たちを追跡したのだった。十四世紀の作家、ジャステニアン・ゴークスが言うところによると、妖精たちの変身の能力はとても大したもので、彼はある妖精が相《あい》対《たい》峙《じ》する両軍にかわり、戦争が始まり、大虐殺が行われるのを見たが、その翌日、その妖精はもと通りの姿にもどり、立ち去ったのだった。そしてその後に残された七百人もの虐殺死体を村人たちは埋めなければならなかったのである。負傷者たちに一人でも回復したものがあったかどうかについては、彼は触れていない。イギリスのヘンリー三世の時代には、妖精を〓“殺したり、傷つけたり、あるいは片輪にしたり〓”する場合には死刑と定めた法律が作られ、広く一般に重んじられたのである。
FAITH, n. 【信仰】 比類ない物事について知りもしないのに語る者が言うことを、証拠もなしに信じること。
FAMOUS, adj. 【有名な】 きわだってみじめな。
鉄板の上で 申し分なく焼かれ
有名たらんと欲した者をば見よ
満足なるか? なるほど 彼の焼き網は金めっき
そして身をよじる姿は高く賞賛される
ハサン・ブルブディ
FASHION, n. 【流行】 賢者があざけりながらも従う、暴君のこと。
昔、激情のあまりに
ある王が片目を失った
すると廷臣たちはみなすぐ
その新しい流儀にならわんとした
王の前に伺候しなければならない時には
みな片目をつぶった
王を喜ばせると考えてのことだった
その王は ウインクなぞすれば皆殺しにすると断言したのだ
臣下はどうすべきか? 彼らはこうした災難に危険をおかして
立ち向かうほど激しい性格ではなかった
彼らは片目をあえて閉じなかったし――
主人よりも良く物を見ようとはしなかった
彼らが涙ぐみ 暗い顔をしているのを見て
医者が泣いている者たちをなぐさめた
彼はどろどろしたのりを塗った小さな布を広げると
みんなの片目に貼った
王の怒りが消えるので廷臣たちはみな
この布をつけた
これがばんそうこうの名の由来(昔イギリス宮中の女官が顔の美を引き立てるために貼った黒布片にちなむ)なのだ
もしわたしが大嘘つきでなければの話だが
ナラミー・ウーフ
FEAST, n. 【祝祭・祝宴】 お祭り。節度あることで名の高い聖者を、しばしば祝して行われる。暴食と酩《めい》酊《てい》によって、通常広く知られる宗教的祝典のこと。ローマカトリック教会では、祝祭日は「移動する」ものと「固定する」ものがあるが、祭司たちは、満腹するまでは、一様に固定している。そのもっとも初期の発達段階においては、こうした催しは、死者のための祝祭の形をとったのである。こうした事は、Nemeseia(女神ネメシスを祝う古代ギリシアの祭礼)という名でギリシア人、アズテック人、ペルー人によって行われた。例えば、現代では中国人に人気がある。しかし古代の死者は、現代の死者ように、小食家であったと信じられている。ローマ人の多くの祝祭のなかに Novemdiale 《ここのか つづく まつり》があったが、それは、リヴィーによれば、石ころが天から落ちるたびごとに行われたのである。
FELON, n. 【重罪犯人】 機会に乗りさえすればいいのに、不幸にも愛着を抱いてしまった、分別よりも冒険心に富む人間。
FEMALE, n. 【女性】 男性と対立する、また美しくもない性。
造物主 天地創造せし時
生きとし生ける物を大地に備えたり
象よりコウモリ カタツムリにいたるまで
彼らみな善し すべて
雄なりしなればなり
されど悪魔来りて それを見し時
言いぬ「成長 成熟 衰退の汝の永遠なる
法則により これらすべてたちまちにして死し
大地に満てるもの失せるならん もし汝が
誕生の基を定めざればなり」――
そして 笑わんとて翼の下に頭を隠したり
悪魔に袖のごときものなければなり
その振舞いは
まこと悪魔の業に
ふさわしきことなり
造物主この助言をば熟慮したり
やおら運命のさいころを振りて投げぬ
下界の物事はすべてかくのごとく定められるなり
そしてその結果をば見ぬ
威厳ある態度にて頭を下げ 運命の判決を確かめぬ
再び大地の隅《すみ》々《ずみ》より
承知せる塵《ちり》同意して飛びきたれり
一方もろもろの河はその水路よりうねり流れ
塵をば型に取りやすきよう柔らかくしたり
十分集められし時(握り屋の自然その貯えを
保ちて それ以上は出さじ)
造物主それをこねて 柔らかき粘土となす
一方悪魔その粘土のいくばくかを 気付かれずに
投げ捨てぬ 次に神さまざまなる形を作りぬ
大なる器官を初めに 細かきは最後に
何一つすぐには進化せざりき されど
すべて一様に少しずつ成長したり やがて少しずつ形変え
生きとし生ける物と結婚させんがため
造物主 女をば造りたり 女はあらゆる部分
完《まつた》きものとせしが(粘土足らざりしため)
心のみ欠けたり
「気にすることなし」とサタン叫びたり
「急ぎ必要なる心を持ち来らん」
かく言いて飛び去り 袋にて必要なる数を入れてすぐにもどりぬ
その夜大地に争いの物音ひびき渡りぬ
一千万の男それぞれ妻をめとりぬ
その夜快き「平和」は地獄のうえに
その翼を広げたり ――一千万の悪魔は死せり!
G・J
FICKLENESS, n. 【移り気】 あきるほど冒険心に富む愛情が繰り返しみたされること。
FIDDLE, n. 【バイオリン】 猫のはらわたを馬の尻尾でこすり、人間の耳をくすぐる道具。
ローマにネロが言った 「おまえが煙を出すなら
余は おまえが燃える間 バイオリンを弾くのをやめないぞ」
ネロにローマが答えた 「どうぞ最悪を尽くして下さい
言わせていただけば 皇帝が最初糸をひきもてあそんでいたのがいけないのです」
(ネロはローマ市街に火を放たせ、その燃えて
いる間、竪琴を弾きながら楽しんだという)
オーム・プラッジ
FIDELITY, n. 【忠誠】 まさに裏切られんとする人々に特有の美徳。
FINANCE, n. 【財政学】 経営者が最高に利益が得られるように総収入と財源を管理する技術あるいは学問。iが長母音で、アクセントが第一音節にあるこの単語の発音は、アメリカが発見したもっとも貴重な財産の一つである。
FLAG, n. 【旗】 軍隊の上にかかげて運ばれたり、砦《とりで》や軍艦の上に掲げられたりする極彩色のぼろ。ロンドンの空き地で見られるある種の立て札と同じ目的のためにあるようである。〓“くずはここに捨ててよし〓”と。
FLESH, n. 【肉体】 この世の三位一体の第二の位格のこと。(キリスト教では、創造主としての父なる神と、贖罪者キリストとして世に現れた子なる神と、信仰経験に顕示された聖霊なる神とが、唯一なる神の三つの位格)
FLOP, v. 【寝返りする】 突然己れの見解を変え、他党に投ずること。もっとも有名なる寝返りの記録例はタルサス出身のサウル(改宗前のパウロの名。初めはユダヤ教の使徒として、キリスト教徒を迫害)のである。奴はいくつかのわが党誌で裏切り者と痛烈に批判された。
FLY-SPECK, n. 【ハエの糞の跡・小さい点】 句読点の原型。文字を用いる種々の国民によって現在行われている句読法は、もともと幾つかの国にブンブン群れをなして出没したハエたちの社会的習性とふだんの食物次第で決まったとガルヴィヌスは述べている。こうした生き物は、著述家たちと隣人らしい、人づきあいのよい親しい間柄であることで常に有名であるが、その肉体の習性に従い、ぺンの下から出来上がってゆく原稿を、惜しみなく、あるいは惜しみつつ飾りたて、その作家の才能より秀れた、しかも独自の一種の解釈をほどこして、その作品の意味を明らかにしたのである。文学の「古大家」――つまり、その作品が同じ言語を用いる後世の写字者や批評家によって高く評価されている初期の作家たち――は決して句読点をつけず、絶えず鷹《おう》揚《よう》に仕事をし、思考が句読点を使用するときのように中断することがなかった。(われわれは今日子供らにおいて同様の事に気付くのである。そしてこの点における子供らの語法は、人の幼年期というものが諸民族の幼年期を特徴づける発達の方法と段階とを再現するという、法則の注目すべきりっぱな実例である)こうした初期の写字者たちの仕事において、あらゆる句読点が、光学器具と化学テストを用いる近代の研究者によって、その作家たちの創意に富む、親切な共著者、日常いるイエバエ――Musca maledicta《 わ る ぐ ち ば え》によって挿《そう》入《にゆう》されたものであるということが発見されている。こうした昔の原稿を、後世の作家たちが自分らのものとする目的か、あるいは彼らが当然神の啓示と見るものを保存する目的かで、転写するとき、彼らはパピルス紙とか、羊皮紙の上に見つかる斑点はすべて馬鹿丁寧に、正確に写し、その作品の思想の明《めい》晰《せき》さと価値をいいようのないほど高めたのである。こうした写字者たちと同時代の作家たちは、その仕事においてこうした斑点の明らかな利点を当然利用し、多分すすんで手を貸してくれたと思われる自分の家のハエたちの助けを借りて、少なからぬ誉れであるが、少なくとも句読点に関しては、古い作品としばしば拮抗し、時にはそれを凌《りよう》駕《が》している。ハエたちの文学に対してなした重要な功労を十分に理解するには、日あたりのよい部屋の中にクリームと糖蜜の入った皿と並べて、だれか通俗小説家の本を置き、そのように露出した状態の長さに正確に比例して、〓“いかに機知が輝き、文体が洗練されるか〓”(アレグザンダー・ポウプの「批評論」二部二二〇行)を見るだけで良い。
FOLLY, n. 【愚かさ】 「天来の才能ないしは能力」のことで、その創造的にして、人を自由にしうる力は人間の精神を鼓舞し、人間にいかに行動すべきかを教え、人間の生活に光彩をそえる。
愚かさよ! エラスムス(オランダの神学者、人文主義者、有名な著書に「痴愚神礼賛」がある。1466 ?-1536)がかつて汝をば
厚き書物にて誉め称えておれど かつはまた世に知られたる作家らことごとく
汝の栄光とまでゆかずとも 汝の力をば示しおれど
あらゆる汝の迷路を通して 同胞たる愚か者らの
生活を正し 自らの生活を支えんがため
その者らをば狩りだす汝の息子からの敬意を受け給え
その矢いかに力なく放たれるとも
いかに狩る獲《え》物《もの》の皮その飛び道具の矢さき鈍らすとも
なべての父なる愚かさよ!
この西の岸辺で、われ強き肺もちて
あらゆる国より集《つど》いしすべての汝の子らと共に
汝自らに霊感を与えられ
汝への賛美歌を歌うは わが務めならしめよ!
その歌声あまりに弱ければ われ大声を張り上げんため
われらのうちでもっとも低音なる
デック・ワットソン・ギルダー(Richard Watson Gilder アメリカの詩人、編集者、主な著書に The New Day (1875), The Celestial Passion (1887), The Great Remembrance, and Other Poems (1893) がある。 1844-1909)の力を借りん
アラミース・ロート・フローペ
FOOL, n. 【愚者】 知的思索の全領域に浸透し、道徳的活動のルートを通じて自分自身を広める輩。愚者は無限の創造力をもち、あらゆる形をなし、すべてを知覚し、全知全能である。文字、印刷、鉄道、蒸気船、電信、平凡な言葉、そして学問の全系統を発明したものこそ愚者なのである。彼は愛国心を生みだし、全人類に戦争を教え、神学、哲学、法律、医学を創始し、シカゴを建設した。彼は君主政体と共和政体を樹立した。彼は未来永劫に存在し、創造の曙《しよ》光《こう》が見たようなものを、現在嘲笑《フール》する。「時」の朝には彼は原始の丘陵の上で歌った。そして「存在」の正午には、万物の行列の先頭に立った。彼の親切な手は文明の落日を暖かくくるんでやった。そして薄明かりの中で、彼は人間の、ミルクと道徳の食事を支度し、宇宙の墓穴の蓋を伏せる。そしてわれわれのうち他の者たちが永遠の忘却の夜をすごすために引き下がってしまったあとで、彼は、人類の文明の歴史を書くために、寝ずに起きているだろう。
FORCE, n. 【力】
「力は正に暴力 (Might) である」と教師がいった――
「その定義は正しい」
少年は何もいわなかったが それと違うこんな考え方をし
ぶんなぐられた頭のことを思い出していた
「力とは多分 (might) ではなく 絶対 (must) なんだ!」と
FOREFINGER, n. 【人差し指】 二人の悪人を指摘するに通常用いられる指。
FOREORDINATION, n. 【宿命】 これは定義の簡単な単語のように見える。だが信仰厚く博識な神学者たちが、これを説明するのに長い生涯を費やし、自分たちの説明を説明するのに万巻の書を書いたことを思うとき、 また民族が分割され、 血なまぐさい戦争が 宿 命《 フオーオーデイネイシヨン》 と 神 の 予 定《 プリデステイネイシヨン》 との相違によって起こされ、莫大な金銀財宝が自由意志と祈りや賞賛や宗教生活の効果と運命の予定との両立性を証明したり、逆に誤りを立証したりしようとして、つかい果たされたことを想起するとき――この単語の歴史のこのような恐ろしい事実を思い出し、わたしは、その意味についての重大な難問をまえに慄《りつ》然《ぜん》として立ち尽くし、その驚くべき大きさをあれこれと考えるのがいやさに、わたしの気高い目をふせ、謹んで脱帽し、恐れ入ってそれをギボンズ枢機卿とポッター司教に委ねるのである。
FORGETFULNESS, n. 【健忘症】 良心がない償いに、債務者に与えられる神の贈り物。
FORK, n. 【フォーク】 死んだ動物を口にほうりこむために主として用いられる道具。以前はナイフがこの目的のために用いられたが、今でも多くのりっぱな人たちにフォークよりも多くの利点があると考えられている。しかし、彼らとてフォークを必ずしも受けつけないのではなく、ナイフに突撃する際に手を貸すに用いる。こうした連中が敏速な恐ろしい死を免れているのは、神を憎む者たちに対する神の慈悲のもっとも著しい証拠の一つである。
FORMA PAUPERIS, Latin. 【貧者の形】 貧乏人の資格で。――弁護士料のない訴訟当事者が思いやり深く訴訟事件に負ける機会が与えられる方法。
アダムその昔キューピッドの荘厳なる法廷にありて
(アダム作られし以前 キューピッド支配したれば)
イヴの愛情を請いし時 古き裁判記録は言えり
彼立ちて 服身にまとわぬ姿にて嘆願したり と
「見れば なれは貧しき者の形《 ホ ル マ パ ウ ペ リ ス》にて請うなり」とイヴ叫びぬ
「訴訟ここにありてはそのごとくには行いえず」
それゆえに貧しきアダムの申し立てはすべて冷たく退けられぬ
彼は立ち去りぬ――来たりしごとく――訴えをば却下されてなり
G・J
FRANKALMOIGNE, n. 【フランクアルモイン】 宗教団体が寄贈者の魂のために祈るという条件で、地所を保有する権利のこと。中世には、もっとも富める宗教団体の多くは、このような簡単な金のかからぬ方法で、自分たちの地所を手に入れたのである。そして、かつてイギリスのヘンリー八世が、ある修道会がフランクアルモインで所有したある広大な領地を没収しようとして、役人を派遣したことがあったが、その時「なんですと! あなたの主君は煉獄(死者が天国に入る前に、その霊が火によって罪を浄化されると信じられている場所)にわれわれの寄贈者の魂をおこうとおっしゃるのか」と副修道院長は言った。「おっしゃる通り。もしあなた方が無料の祈願にて彼を救い出そうとしないなら煉獄で彼は焼けるにちがいありません」と役人は冷たく言った。「でも、いいかな、わが子よ」と神父は食いさがった。「この行為は神から強盗するのも同然じゃ!」「いえ、いえ、神父さま、わたしの主人である国王は莫大な富のいろいろな誘惑から神を救うに過ぎないのです」
FREEBOOTER, n. 【海賊・略奪者】 少ない元手による商売の勝利者で、商売上の乗っとりは、それを正当化する重大な長所に欠けている。
FREEDOM, n. 【自由】 制限についての無数の方法のうちつまらぬ半ダースほどのものにおいて権力の圧迫を免れること。すべての国民がそれ自体実質上独占して享受すると思いこんでいる政治状態。解放された自由。本来の自由《フリードム》と解《リバ》放《テイ》された自由との相違は正確には知られていない。そして自然主義者たちは、両者の実例を決して見出すことはできなかったのである。
自由は どんな男生徒だって知ってるごとく
コシアスコウが倒れたとき 一度悲鳴をあげた
実際 風が吹くたびに
彼女の叫ぶ声がわたしには聞こえるのだ
君主たちが会い また議会が開かれるときはいつも
彼女は金切り声をあげるのだ
その足に鎖を巻きつけ
彼女の弔鐘を鳴りひびかせようとするから
そして主権者の国民が
綴れない一票を投ずるとき
悪臭を放つ風のうえで
彼女の叫び声は高まる
なぜなら支配する力あるいは強制する力が
与えられた者らはすべて
自分たちの間で「天国」を分配し
彼女には「地獄」を与えるからだ
ブラリー・オガリー
FREEMASONS, n. 【フリーメイスン(世界主義運動の秘密結社、真理、誠実、信義、国際的兄弟愛を信条とする宗教団体。起源は中世の石工組合とされ、一七二三年ロンドンで成立)】 神秘的儀式、奇怪な儀式、そして異様な衣装などで知られる結社の一つで、チャールズ二世の御代に、ロンドンの働く職人たちの間で始まり、とぎれなく逆行しつつ過去幾世紀にもわたる死者たちによって、相次いで加入されてきたのである。その結果、今やこの結社は、アダムより以降のあらゆる人間の世代を包含し、混沌と形のない空間の天地創造前の住民の間で、優れた新会員たちを呼び集めている。この結社は、シャルルマーニュ(西ローマを再興し、その皇帝となる)、ジュリアス・シーザー、サイアラス、ソロモン、ゾロアスター(拝火教の教祖。B. C. 660-583)、孔子、トウトメス、仏陀によって、さまざまな時代に結成された。そのさまざまな紋章と象徴がパリやローマの地下墓地の中や、パルテノン(B.C.五世紀 Athens の Acropolis丘上に建てられたAthena の神殿)や万里の長城の石材の上や、カーナクやパルマイアラの寺院の間で――常にフリーメイスン団の会員の手で発見されてきたのである。
FRIENDLESS, adj. 【友のない】 人に与える恩恵を持たない。財産のない。真実と常識をあまり口にしすぎる。
FRIENDSHIP, n. 【友情】 天気のよい日は二人ぐらい十分乗れるが、悪い日にはたったの一人しか乗れない船。
海は凪《な》ぎ 空は青かった
楽しく たのしくわれら二人船出した
(高い気圧計は楽しくする)
だが千鳥足の船に 恐ろしき叫びあげ
嵐 突如襲いかかり われらは別れた
(おお船の歩みの不快きわまること!)
アーミット・ハフ・ベルト
FROG, n. 【蛙】 食用に適する足のある爬虫類。俗文学で蛙たちが最初に取り上げられているのは、蛙たちと二十日鼠との戦争を扱ったホーマーの物語の中でである。疑い深い連中は、この作品がホーマーの手になるものであることを疑った。しかし博学で、創意に富む勤勉なシュリーマン博士(学者、伝説のトロヤ文化遺跡を発見。1822-90)は虐殺された蛙たちの体を発掘することによって、この問題に永遠の解決を与えた。そして、イスラエル人に好意を示すようパロ(イスラエル人に対する迫害とその出国の時代の王)が懇願された、道義的説得手段とは、蛙による災禍(出エジプト記第八章)であったが、細切れのシチューになった蛙を好んだパロは、蛙やユダヤ人が耐えられるかぎりは、自分はその災禍に耐えられると、真の東洋的な冷静さをもって言ったのである。それでこの計画は変更されたのである。蛙は、良い声はしているが、聞く耳をもたない勤勉な歌手である。彼の得意なオペラの台本は、アリストパネス(アテネの詩人、喜劇作家。B.C.448-385)によって書かれたように簡潔で、単純で効果的な――ブレケケックスクワックス(brekekex-ko岳)である。そしてこの音楽は、明らかにかの有名な作曲家、リチャード・ワグナーによる。馬には各蹄に蛙(蹄叉のこと。蛙の形に似ている)がついているが、思慮深い自然の心の配りようで、障害物競走では、馬を映《は》えさせている。
FRYING-PAN, n. 【フライパン】 懲罰機関である女の台所で用いられる刑罰器具の一部。フライパンはカルヴィンによって発明され、洗礼を受けずに死んだ短命の幼児たちを料理するのに、彼が使用した。そして、ある日一人の浮浪者がうかつにもフライにした赤ん坊をごみ捨て場から引っ張りだし、むさぼり食って、そのため良心の呵《か》責《しやく》にひどく悩まされるのを見て、この偉大なる神学者殿は死からその恐怖を奪うのに、このフライパンをジュネーブのあらゆる家庭に紹介することを思いついた。それ以来フライパンはこの地球上の隅々まで普及し、カルヴィンの陰気な信仰を普及するのにこの上なく役立ってきたのである。次の詩は(ポッター司教の筆になると言われているが)この勝手道具の有用性は現世に限られるものではなく、この世で使用される結果が来世にまで及んでいるように、フライパン自体も、その愛好者に報いて彼岸で見られることを意味しているようだ。
悪魔が天国に召された
ペテロが言った「おまえの心がけはよい
だが発明につながる進取の気性に
欠けている
「ところで 肉を焼く(鍋であぶる火責めのこと)のは
昔の拷問のやり方
しかしフライパンは邪悪な心を
炒《いた》めるという評判だ
「行って一つ手に入れ――それに油を満たしなさい――
そして罪人たちを こんがり狐色に揚げなさい」
「手前はその二つに相当するよい方法を知っています 罪人たちの食物をその中で
手前が料理しましょう」と悪魔は言った
FUNERAL, n. 【葬式】 葬儀屋を金持ちにすることによって、われわれの故人に対する敬意を立証するだけでなく、われわれのうめき声を一段と深めると同時に、われわれの涙を倍増させる出費によって、われわれの悲嘆を一層強めるところの華麗な儀式。
野蛮人は死ぬと――彼らは一頭馬をいけにえにする
天国へとその友の死体を運ぶために
われわれの友が死ねば――われわれは金に翼をつけ飛ばす
友の魂が金を追って天へ行くのを期待して
ジェクス・ウォプレー
FUTURE, n. 【未来】 われわれの日常の仕事がうまくゆき、友人たちも誠実で、幸福が保証される一時期。
G
GALLOWS, n. 【絞首台】 主役が天国へと昇ることになる奇跡劇を演ずる舞台。この国では、絞首台は、それを逃れる人間が多いことでもっぱら目立つ存在である。
絞首台高くであろうと
真《しん》紅《く》の血潮が流れる所であろうと
もっとも崇高なる人間の死に場所は――
もっとも完全に息絶えし所なり
昔の劇
GARGOYLE, n. 【ガーゴイル(通例怪獣の形などに作った屋根の水落とし口)】 中世の建築物のひさしから突き出ている雨《あま》樋《どい》で、通常、その建物の建築家または所有者の個人的な敵をグロテスクに模倣して作られている。一般に教会や教会関係の建物の場合特にそうであり、ガーゴイルは、土地の異教徒や論争家たちの完全なる犯人写真陳列室の代わりをした。時に、新しい司祭長とその参事会が決められると、古いガーゴイルは取り除かれ、新任の牧師たちの個人的な憎悪と密接な関係を有する別のものと取り替えられた。
GARTER, n. 【靴下どめ】 女が靴下から抜けだして、国を荒廃させるのを防止するためにあるゴムバンド。
GENEROUS, adj. 【高雅な・寛大な】 元来この単語は、生まれ《バイ・バース》は高貴な、の意味があったが、非常にたくさんの人々に公正に適用されている。それが今は生《バイ》ま《・ネ》れ《イチア》つき高貴な、の意味をもち、ちょっと休息している。
GENEALOGY, n. 【系図】 自分自身の血統をさかのぼって調べる気など特になかった先祖と、自分がどんな血筋にあたるのかを記述したもの。
GENTEEL, adj. 【お上品な】 洗練された、えせ紳士風に。
わが示す区別を 心して見よ わが友
紳士は上品なるも えせ紳士は品つくりしもの
君の「もっとも完全なる辞典」の与えし定義に心払うな
辞書作りとは おしなべてえせ紳士なれば
G・J
GEOGRAPHER, n. 【地理学者】 世界の外側と内側との相違を即座に語ることができるやつ。
非常に名高き地理学者 ハビーム
アブ・ケベルの古き町に生まれし者
そこよりザム河に沿いてゆき
ゼラムという隣村へ向かいしおり
数多《あまた》ある道にとまどいしうち
すっかり道に迷いて 移動するヒキガエルを
食し 長く暮らしたり
やがて あわれ野ざらしとなりて死す
感謝する旅人ら かの道案内の死をば嘆きぬ
ヘンリー・ハウクホーン
GEOLOGY, n. 【地質学】 地殻についての学問で、おしゃべりな人間が井戸から出てくるたびに、きまって内部の地殻について追加が行われる。すでに綿密に観察された地球の地質構造については、このような目録が作られる――古生代、すなわち下層は岩石、泥の中にはまったラバの骨格、ガス管、坑夫道具、鼻かけの古代の彫像、昔のスペイン金貨、先祖、から成る。中生紀層はもっぱらシマミミズやモグラで作り上げられている。第三紀層は鉄道線路、開放された車道、草(原)、蛇、カビの生えた長靴、ビール瓶、トマトの缶、酔っぱらった市民、ごみくず、無政府主義者、グレイハウンドの雑種、それにばか者たちから成る。
GHOST, n. 【幽霊】 内心の恐怖の外に現れた、目に見えるしるし。
彼は幽霊を見たり
その恐ろしきもの!
塞《ふさ》ぎいたり 彼の辿《たど》る道をば
足とめて 逃げ出す隙もあらばこそ
地震起こりて
幽霊見し目をもてあそびぬ
早起きの善人の倒れるがごと
彼は転《まろ》びたり
されどかの恐ろしき幻は動くことなし
立ちしままなり
己が視界に踊りし星々を
彼が夢中になりて打ち払えば
こはいかに
見えしもの柱なり
ジェイリッド・マクファスター
幽霊の異常な行動を説明して、ハイネは、幽霊も、われわれが彼らを恐れると同じように、われわれを恐れているという意味の誰かの独創的な説をあげている。しかし、わたし自身の幽霊についての経験の記憶から編集しうる、幽霊と人間の足の速さの比較表から判断すると、そうとばかり言えない。
幽霊を信ずるに乗り越せない障害物が一つある。つまり、幽霊は決して裸で出ないことだ。幽霊は死体を包む白布の姿か、「生前の服装」かで姿を見せる。そうだとすれば、幽霊の存在を信じるということは、死者には、すべてが消滅したあとでも、自分の姿を人の目に見えるようにする力があるばかりか、同じような力が織物にも本来備わっているということを、信じるということになる。織機により作り出される織物がこのような力を持っていると仮定するならば、そのような織物がそうした力を振るうのはどんな目的からなのか? そしてなぜ洋服の化け物が、本体の幽霊なしで、時には出歩かないのか? これらは意味深い謎である。そしてこれらの謎は、この流行している信仰の根深い主根にぐっと手を伸ばし、これをつかんで激しくゆさぶるのである。
GHOUL, n. 【食屍鬼】 死者をむさぼり食う非難すべき習癖に落ちこんでいる悪魔。食屍鬼の存在は、この世界から人の心に慰めを与える信仰を奪うことのほうが、その信仰に代わって、この世界に何か良いものを与えることより気にかかるというあの論争家連中によって反論されてきた。一六四〇年セイクキ神父はフローレンス近くにある共同墓地で食屍鬼の姿を見たが、十字を切って追い払ったのである。それにはたくさんの頭があり、異常に大きな手足をしていたと述べている。しかも彼は一度に二か所以上もの場所で見たのである。神父は、その時は食事からの帰り路であったのであり、もし「たらふく食べて」いなかったのであったら、その悪魔をどんなことがあってもひっつかまえてやったのだと弁明している。アサルストンは、サドベリーのある墓地で、勇敢な百姓たちの手で食屍鬼が一匹捕えられ、馬に水を飲ませたりする池に、ちょっと沈められたと話している。(彼は、非常に名の知れた犯罪者ならばバラ香水の貯水池にでも突っ込まれるべきだったと考えているみたいだ)すると池の水はたちまち血となり「彼の時代になってもそうである」。その池はそれ以来血を溝で排流させている。つい最近では十四世紀の初め、食屍鬼が一人、アミアンズの大寺院の地下聖堂のすみに追い込まれ、全住民がそこを取り囲んだのである。十字架を持った牧師を先頭に、二十人の武装した人々が中に入り、その食屍鬼を捕えた。ところが策を弄して逃げようと考えて、外見はある有名な市民に変身したが、それにもかかわらず、身の毛もよだつような民衆の狂乱騒ぎのただ中で絞首刑にされ、臓腑を抜かれ、八つ裂きにされたのである。その悪魔に化けられた当の市民は、その不吉な出来事ですっかりショックを受けてか、二度と再びアミアンズに姿を現さなくなり、彼の運命は謎につつまれている。
GLUTTON, n. 【大食漢】 消化不良になることで、節制の害悪をおかさずにすむ人間。
GNOME, n. 【地の精・小鬼】 北欧神話では、大地の内部に住み、鉱物の財宝を特に守っている小鬼。一七六五年に死んだビヨルセンによれば、地の精はスウェーデンの南部では彼の少年時代にはそれほど珍しくなく、黄《たそ》昏《がれ》どきに丘の上をはね回る姿をよく見たということだ。ラドウィッグ・ビンカフーフは最近では一七九二年にブラック・フォレストで三匹見ているし、スネッドデカーは、一八〇三年にシレジアのある鉱山から坑夫たちを追い出したと主張している。こうした陳述によって提供された資料から計算するところでは、こうした地の精は一七六四年には早くも死に絶えたように思われる。
GNU, n. 【ウシカモシカ】 南アフリカ産の動物で、飼いならされた状態では、馬や野牛や雄鹿に似ている。野生の状態では、雷電や地震やたつまきにいくぶん似ている。
キュー(ロンドン西郊外の地名)からの猟師がかなたに見た
一頭のしずかに瞑想にふけるウシカモシカの姿を
そこで彼はいった「狩りたてて おれの手を染めてやろう
身近でお目にかかり 奴の血で」
だがウシカモシカのほうがやって来て 猟師を投げ上げた
身近に生えたヤシの木のてっぺんに
そこで彼は空を飛びながらいった「退散してよかったぞ
腹をたてて 罪ぶかく殺したりしないうちにな
あの実に称賛すべきウシカモシカを」
ヤーン・レファ
GOOD, adj. 【善良な・賢明な】 ご婦人方なら、この辞典の編纂者の価値をよくお気づきの。殿方なら、この辞典の編纂者をそっとしておくのが得と先刻ご承知の。
GOOSE, n. 【ガチョウ】 物を書くための羽を提供する鳥。こうした羽は何か不可思議な自然の作用によって、さまざまな程度の鳥の知的エネルギーと感情的性質がしみ込まされ、中にいっぱい入っている。それで「作家」などと呼ばれる人間がインクをつけ、機械的に紙の上に何か書いたりすると、そこに鳥の思想と感情がきわめてすっきりと、しかも正確に転写される。こうした巧妙な方法によって発見されるガチョウたちの相違は無視できない。鳥の多くが全くとるに足らぬ、無価値な才能しか持ち合わせていないことがわかる。だが、なかにはまことにりっばなガチョウも見受けられる。
GORGON, n. 【ゴルゴン】
ゴルゴンは恐れを知らぬ少女
その恐ろしい顔を見た昔のギリシア人たちを
変えたのだ 石に
われわれは今彼らを掘り出すのだ 廃墟から
そして証言するのだ 拙劣きわまるできばえから
古代の彫刻家がみな狂っているのがわかると
GOUT, n. 【痛風】 金持ちのリューマチに対する医者の呼び名。
GRACES, n. 【美の三女神】 アグライア、サライア、エウプロシュネーの三人の美しい女神でビーナスに仕えているが、無給奉仕である。彼らは食事代とか衣装代とかは一銭も使わない。なぜなら、食事らしい食事はしないし、天気まかせの身なりで、それも、たまたま風が吹きおくるものを着るからである。
GRAMMAR, n. 【文法】 自力でたたきあげた人間が出世街道をゆくとき、その足下にご親切にも仕掛けられた数々の落とし穴方式。
GRAPE, n. 【葡萄の実】
ホーマー、アナクレオン、カイヤームに歌われた
気《け》高《だか》き果実に幸あれ!
汝を称えた歌は いつも
おれより良き人々が口にする
おれの手は一度も竪《たて》琴《ごと》をかき鳴らしたこともない
おれは歌を捧げることもできぬ
でも どうかおれの貧しい奉仕を受けてくれ――
おれは汝を嘲《あざけ》る奴を殺す役に立とう
水ばっかりくらう禁酒家ども
そして革袋《スキン》に蒸留酒をつめこむ奇人ども――
おまえらの貯蔵っ腹を喜んでさらし出し
おれの突き棒で飲み口を切ってやる
さあ 満たせ、なみなみと満たせ
おれたちがワインをば休ませば
英知もあせるぞ
禁酒の愚かな輩《やから》には 死
そしてあらゆる種類のブドウの害虫の呪いあれ!
ジャムラック・ホロボム
GRAVE, n. 【墓】 死者が横たわり、医学生のやって来るのを待つ場所。
淋しい墓のかたわらにわたしは立った――
茨《いばら》が墓にまといつき、
風は森の中でうなり声を上げていた
だがそこに眠る者には聞こえなかった
かたわらに立つ農夫に わたしは言った
「ここに眠った男には風のうめき声を聞くこともできないのだ!」
「そうだな 奴あ死んじまったのだ――
どんな物音がしていようと聞くことはできないな」と彼は言った
「全くそうだ ああ全くその通りだ――」とわたしは言った
「どんな物音も彼の感覚を刺激しないのだ!」
「だとすれば それがあんたにとってなんだというんだね?――
死人はぶつぶつなんぞ言やあしない」
わたしはひざまずき 祈った 「おお 父なる神よ
彼に恵みを垂れ給え またあわれみを示し給え!」
農夫はそうした間じっと眺めていて 言った
「あんたはこの男を知らんのだろうが」
ポベター・ダンク
GRAVITATION, n. 【引力】 あらゆる物体が、その内部に持つ物質の量に比例した力をもって、互いに近づき合う傾向。その内部に持つ物質の量は、物体が互いに近づき合う力によって確認しうるので、これは科学がAをBの証明としてから、今度はBをAの証明とするという、まことにごりっぱな啓発的な実例である。
GREAT, adj. 【偉大な】
「わたしは偉大だ」とライオンは言った――
「わしは君臨する森と草原の王者だ!」
象が答えた 「おれは偉大だ――
どんな四足獣もおれの目方にかないはしない!」
「ぼくは偉大だ ――どんな動物の首だって
ぼくのこんなに長い首の半分もないんだから!」とキリンが言った
「ぼくだって偉大さ」とカンガルーが言った――
「ごらんな ぼくの股の筋肉のたくましいこと!」
フクロネズミは言った 「ぼくも偉大だよ ――ごらんよ
ぼくの尾はしなやかで 毛がなくて それに冷たいぞ!」
フライにした牡《か》蠣《き》は「わたしはおいしい食物だから 偉大です!」と
言うように理解された
だれもが 「偉大さ」は自分が首位にある
事柄の中にあると見ている
そしてヴィアリックは 一番の大馬鹿者だからって
自分のクラスの首席だと思っている
アライアン・スパール・ドウク
GUILLOTINE, n. 【断頭台】 フランス人が肩をすくめるにも十分な理由がある機械。「多様なる民族進化の方向」という偉大な著作の中で、博学なブレイフューグル博士は、フランス人の間で見られる――肩をすくめる習性――こうしたしぐさが一般に広く行われるのは、彼らがウミガメの子孫であり、それゆえ、頭を甲の中へと引っ込める習性が残っているだけなのだ、と主張している。わたしはこのような知名の権威と意見を異にするのは、心はずまないのだが、わたしの考えるところでは(拙著「遺伝性の感情」第二巻第十一章で、もっと詳細に述べられ、強調されているように)、肩をすくめるという動作は、これほど重要な理論を築き上げるには、あまりにもお粗末な土台であると言える。なぜなら、フランス革命以前には、このしぐさは知られていなかったからである。この仕《し》種《ぐさ》は、このギロチンが活躍した時期に、この道具がひき起こした恐怖が直接の原因となっていることは、疑う余地がない。
GUNPOWDER, n. 【火薬】 調整しないでおけば、めんどうがもちあがる可能性のある論争を解決するために、文明諸国が用いる力。たいていの著述家は火薬はシナ人の発明とするが、なるほどと信服させるような証拠がない。ミルトンの言うところでは、それは悪魔が天使たちを追い散らすために発明されたのである。そしてこの意見は天使たちがきわめて少ないのを見れば、かなり裏付けがありそうである。更に、これには農務長官、ジェイムズ・ウイルスン閣下(アメリカの政治家、アイオワ州エイムズの農業試験場の監督〔1890-97〕1836-1920)の心からの同意がある。
ウイルスン長官はコロンビア区(アメリカの連邦政府所在地で議会直轄地)にある政府の実験農場で起こったある出来事を通して火薬に興味を抱くようになった。数年前のある日、長官の深い学識と人格に対し敬意を欠く一人の悪党が火薬を一袋贈り、それをこの風土にまことに適している、パタゴニア地方(南米アルゼンチンとチリーの南部)の非常に商品価値のある穀類、 Flashawful flabbergastor,《スサマジキ センコウヲハナチ ヒトノドギモヲヌクモノ》 の種だといった。そして善良な長官はあぜみぞに沿ってその種をまいたあと、土をかけるよう教えられたのだ。その通りを彼は直ちに実行に移しはじめた。そして十エーカーの畑に一列、ずっとすき間なくまいたのだが、その時気前のよい寄贈者の叫び声にうしろを振り向いた。するとその声の主はすぐさま火のついたマッチを出発点のみぞに落としたのである。
土に触れて火薬はやや湿ってしまっていたが、驚く長官の目に、ものすごい勢いで煙をもうもう巻き上げ、高い火柱が自分の方に迫ってくるのが映ったのだ。彼は唖然として一瞬立ちすくんでしまったが、その時ある用を思い出し、何もかもうっちゃると、非常に驚くような敏《びん》捷《しよう》さで、その場からいなくなったので、選ばれた道沿いの見物人の目に、長官は信じられない早さで、七つの村をぬけ、長くのびるおぼろな一条の線のようだった。そして助けなどいらぬと何やらわめいていた。「こりゃあ、驚いた! あれは何だ?」と測量の鎖の持ち手は目の上に手をかざし、彼の目に入る地平を二分するその消えてゆく耕作者の薄れゆく線をじっと見つめながら叫んだ。「あれは」測量師が、無頓着にその現象にちらっと目をやり、それから再び自分の器具の方に注意を集中して言った、「ワシントン政府の経線さ」。
H
HABIT, n. 【習慣】 自由を束縛する手錠。
HADES, n. 【黄《よ》泉《み》の世界】 地獄、亡霊たちの家、死者の住居。
古代ギリシア人やローマ人などの間では、黄泉の世界の観念は、古代のもっともりっぱな人々の多くが非常に愉快な思いをして、そこに住んでいたのであり、われわれの地獄と同義ではなかった。実際、極楽浄土それ自体は黄泉の世界の一部であったが、それはその後パリに移されてしまった。新約聖書のジェイムス一世時代の訳が進行中であった時、この仕事に従事した信仰厚い学者たちは、多数によって、ギリシア語の"Αιδηζ"を「地獄」と訳すことを主張したのである。だが良心的な少数の人々はひそかにこの記録を手に入れ、どこでもこの異論のある単語が見つかると、これを削除した。次の会合の際、ソールズベリ司教は、この仕事に目を通していたが、急に飛びあがり、「諸君、誰かがここの『地獄』を消してしまった!(地獄を消す〔=raze Hell〕を、ばか騒ぎをする〔=raise hell〕にかけている)」とかなり興奮した調子で言った。このりっぱな司教は英語の語句に、重要にして役立つ、不滅のものを付加する役割を(神慮の下で)果たしたことが回想され、後年その死は親しきものとされた。
HAG, n. 【醜い老婆・魔女】 たまたま好きになれない中年過ぎの婦人で、時にまたメンドリ(おしゃべりな中年女の意がある)とかネコ(意地の悪い女の意味がある)とか呼ばれる。年老いた魔女や女の妖術師などは、彼女たちの頭の周囲に一種の災いをなす光、つまり光輪があったと信じられたことから、このように呼ばれた。――この単語は、ときおり、髪に見られるその特殊な電光の俗称なのである。一時はこれは非難の言語ではなかったのだ。ドレイトンは、シェイクスピアが「やさしい女(sweet wench)」と言ったとほぼ同じように、「嫣《えん》然《ぜん》とほほえむ、美しい女(beautiful hag, all smiles)」のことを筆にしている。あなたの愛する人を hag と呼ぶのは、現在は適当ではなかろう。――そのような敬意を示す表現は、その女の孫が使えるように取っておかれるものである。
HALF, n. 【半分】 一つの物が分割されうる、あるいは分割されたと考えうる二等分した部分の一つ。十四世紀に、神学の専門家たちと哲学者たちとの間で、神が一つの物を三等分できるかどうかに関して激論がたたかわされた。そして信仰厚いアルドロヴィヌス神父は、ルーアンの大寺院で、神がこの命題を肯定され、何らかの合図や誤解されることのない方法で、特に(神の御心にかなえばだが)否定の立場をとった相手、恐れを知らぬ冒《ぼう》涜《とく》者《しや》マニューシィアス・プロシヌスの肉体にそれを示されるようにと公然と祈った。しかしながら、プロシヌスは、何ごともなかった。そして後に毒蛇にかまれて死んだ。
HALO, n. 【太陽や月のかさ】 厳密には、ある天体を取り巻いている光の輪であるが、神々や聖徒たちが頭飾りにする、いくぶん類似した現象である「光背」や「後光」と少なからず混同される。光のかさは純粋に目の錯覚であり、空中の湿気によって生ずるもので、虹と同じである。しかし、光背はといえば、司教冠とか、ローマ法王の三重冠と同様、非常な神聖さの印として与えられる。ペスト市の宗教的な芸術家、セドグキンの手になる「キリスト降誕の図」の絵では、聖母マリアと御子に後光があるだけでなく、聖なる秣《まぐさ》おけから秣をもぐもぐと食べているロバも同様にそうであり、その上ロバの永遠の名誉のために断っておくが、まことに聖者に似た気品を持ち、珍しい威厳を備えて見える。
HAND, n. 【手】 人間の腕の端っこにつけられて、通常他人のポケットに突っこまれる奇妙な道具。
HANDKERCHIEF, n. 【ハンカチ】 絹やリンネルの小さい四角い布切れで、顔に関してさまざまな恥ずべき役割を演ずるに用いられるが、葬式の際には、出ぬ涙をかくすのに特に便利なもの。ハンカチは最近の発明であり、われわれの先祖はこんなものをまるで知らず、こうした役割は袖に託していた。シェイクスピアがハンカチを「オセロ」劇の中で用いているのは時代錯誤である。デスデモーナはスカートで鼻をかんだのだ。ちょうどメアリ・ウォーカー博士(アメリカの医者、女権の支持者、彼女は男装で世間の注意を引く。1832-1919)その他の改革家たちが、今日モーニングなどの裾を用いるようにである。これで見てもわかるように、革命というものは時に逆行するものなのだ。
HANGMAN, n. 【絞首刑執行人】 最高に気高く、最高に厳粛な義務を負わされている法律施行官で、罪を犯した先祖がいる一般民衆に代々の軽侮をうけている。アメリカ合衆国のいくつかの州では、その職務を、たとえば電気による死刑執行が最近命令されたニュージャージーでは、電気技術者が現在は行う。――これはハンギング・ジャージメン(ニュージャージーの人を絞首刑にする、ニュージャージーの首つり役人、さらにhanging jurymen〔=答審に迷う陪審員〕をかけている)の是非を無名氏が問題にした例で、最初にこの辞書編纂者が知ったものである。
HAPPINESS, n. 【幸福】 他人の不幸を見ているうちに沸き起こる快い気分。
HARANGUE, n. 【熱弁】 舌の熱弁として知られる反対者による演説。
HARBOR, n. 【港】 暴風雨をのがれて避難する船が税関の猛威にさらされる場所。
HARMONISTS, n. 【調和研究者(四福音書の対観的研究者)】 今は絶滅したプロテスタントの一派で、前世紀の初めヨーロッパから来た。そして彼らは、内部の論争と意見の衝突の激しいことで有名であった。
HATCHET, n. 【手《て》斧《おの》】 インディアンの間で、トマスホーク(Thomas-hawkは、戦斧〔=Tomahawk〕にかけたもじり)として知られている小型の斧《おの》。
「おお 和睦しよう《ベリー・ザ・ハチエツト》 短気なインディアンよ
平和はありがたきものだから」と白人言えり
すると野蛮人同意し その手にした武器をば
りっぱな儀式にのっとりて 打ちこみ 和睦したり 白人の脳天に
ジョン・ラカス
HATRED, n. 【憎しみ】 他人が自分より卓越している場合にふさわしい感情。
HEAD-MONEY, n. 【人頭税】 頭割りに賦課する租税。
昔国王がいたが
その国王の収税吏は王室の台所を
多少でも不自由でなくするに
十分なほど金を全臣民から
絞り取ることができなかった
それゆえ快楽の公道は 屋敷がそのすぐ近くにある
貴婦人方のように 絶えず修理を要求する
そこで収税吏たちは一列に並んで王座の前に
姿を見せ 何とか収入を増す方法を工夫してくれと
国王に願い出た 「国の必要とするものは莫大です」
と彼らは言った 「徴収するすべてのものの十分の一では
まるで足りません どうぞこの点お考えを
もし十分の一を放棄すれば 残りの九でどうして生きられましょうか?」
国王はそれに対して尋ね返した
「節約の利益を試してみることを考えたか?」
「試みてございます」と代表者が言った
「われわれは 金の美しい絞首刑用の環を
すべて売り払いました
今では査定する者たちの首を
めっきした製品でしめつけましてございます
飽くことのない貪《どん》欲《よく》さで
国王陛下がご入用のものを貯えまする
守銭奴の喜びをやわらげるには
ありふれた鉄のピンセットを用いてございます」
国王の額には 思考の深い皺《しわ》が
刻まれるのがわかった
「国の状態は全く絶望的だ
どうか 余に知恵を貸してくれ」
「おお 陛下」と代表者が言った
「頭割りで税を課されるなら
われわれは喜んでその増加の収入を陛下と分けます」
日の光が一瞬分かれたあらし雲の陰気な闇《やみ》を払うごとく
国王は気味悪くにやっと笑った
「そのようにせよと布告する――寛大さにおいて
負けぬように 余は宣言する
そちたちはこうした新しい頭割りの法律の運用外にあると
しかし国民が
自分たちはその義務があり
そちたちにはないということで
余を非難しないように
この人頭税を逃れる賢明な策をそちたちは講ずるがよい
そちたちが余のもっとも信頼する大臣と協議する間
そちたちだけにしておこう」
国王は 王座の間から 立ち去った
それから収税吏たちの中へとまっすぐ歩を運ぶのは
一人の沈黙した男 彼は顔をかくし
腕をむき出しにして――きらめく斧をとり出した!
G・J
HEARSE, n. 【霊柩車】 死の乳母車。
HEART, n. 【心臓】 自動筋肉式血液ポンプ。比喩的には、この有用な器官は情緒と感情の座であると言われる。――しかし、これは過去に広く信じられた考えの遺物でしかないところのまことにケッコウな空想である。現在では感情と情緒は、胃液の化学作用によって食物から放出させられ、胃の中にあるということがわかっている。ビフテキ用に肉が切られる動物の年齢に応じて、ビフテキが――や《テ》さ《ン》し《ダ》い《ー》、あるいは、そうでない感情とかわるその正確な過程、またキャビア・サンドが奇妙な空想へと変えられ、辛辣な警句となって再び現れる、その一連の手の込んだ段階、また堅くゆでた卵を宗教的な悔恨へと変えたり、あるいはシュークリームを感性のため息へと変えるその驚くべきもろもろの機能的手順――こうした事柄はすべてパスツール氏(フランスの化学者、細菌学者。1822-95)によって根気よく確かめられ、氏によって、人を納得させる明快さで説明されたのである。(わたしの論文「精神的愛情は消化において放出されるある腸内のガスと本質的には同一であること」四つ折り判六八七ページを参照せよ)わたしが思うのだが、「悪 魔 の 快 楽《デモノルム・デイレクタテイオ》」(一八七三年、ロンドン、ジョン・カムデン・ホットン発行)という題名の科学的著作では、もろもろの感情についてのこのような見解は著しい実例によって支えられる。更に解明しようとするなら、ダム教授の「栄養やつれの産物としての愛」に関する有名な論文を調べよ。
HEAT, n. 【熱】
熱は運動の一種である とティンダル教授(John Tyndall ? イギリスの物理学者。1820-93)は言う
しかし この問題を氏がいかに証明しているのか私は知らぬ
だがこの事を私は知っている――
巧妙に用いられし激語は人の拳《こぶし》を動かすと
そして拳とまるところ 星辰ほしいままに狂おしく燃えると
経験せし者《クレデ・エクスペルツム》を信ぜよ――私は見たのだ 子供よ
ゴートン・スウォープ
HEATHEN, n. 【異教徒】 自分の目に見、手に触れることができるものを愚かにも崇拝している未開野蛮な人間。カリフォルニア州立大学のハウイスン教授(哲学的作家、教育家、哲学教授。1834-1916)によれば、ヘブライ人は異教徒である。
「ヘブライ人は異教徒である」とハウイスンは言う
彼はキリスト教を信ずる哲学者である ところがどうだ
この私は下品な不可知論者で
韻文体で宗教的議論をやる罪を犯すことに
すっかり夢中なのだ
ヘブライ人とハウイスンとは意見が異なるのだ
生 活 様 式《モドス・ヴイヴヘンデイ》について――合わないのだ 彼らは!――
しかし天は私を予定していたのである
そして 私ときたら乱闘のまっただ中で
楽しむようには育てられなかった
なぜなら これは私の教義の精髄であり 本質なのだ
そしてその真実であることを断言する
私と信ずる所が異なる者は 「何々主《イ》義《ス》者《ト》」
「何々信《ア》奉《イ》者《ト》」「何々に属する」ないし「何々に関係する者」だ
だから私はそうした男あるいは女を こっぴどくやっつけるぞ
ハウイスンには お座なりの顎先で
「信仰の自由」を主張させておけ――すべてご結構だ
だが焼き肉は 彼のうすい鼻孔に「こたえられない」さ
それで彼は追究しているのだ ――私には臭いでわかる――
ある秘密の個人的な地獄を!
ビスル・ジプ
HEAVEN, n. 【天国】 悪党どもが一身上の問題を話したりして、あなたを悩ますことがなくなり、今度はあなたが自分の一身上のことを長々と語るのを、善人たちが傾聴してくれる場所。
HELPMATE, n. 【つれあい】 妻君、つまり悪意にみちみちている、苦《ビ》痛《タ》を《ー》伴《・》う《ハ》半《ー》分《フ》。
「ところで、お前さんの妻君はなぜつれあいと呼ばれるんだね パット?」
と牧師が言う 「求婚時代から
あの女《ひと》はお前さんの仕事の手助けは一度だってしなかった
お前さんは何もしないからな」
「そりゃあ牧師さんだよ」とパトリックは答え
悔い改める様子などまるでない
「神かけて〓“つれあい〓”って単語の意味するのは本当でさ
うちのは 結婚する(mate)費用を助《す》けて(help)くれたんだから!」
マーリ・ウォットル
HEMP, n. 【麻】 繊維質の皮から首巻きが作られる植物の一種で、この(絞首刑用の)首巻きは、戸外での公開演説がすんだ後によく巻きつけられ、これを使用する人が風《か》邪《ぜ》を引かないようにする。
HERMIT, n. 【隠者】 そのもろもろの悪徳や愚行が親しみがたい人物。
HERS, pron. 【彼女のもの】 彼のもの。
HIBERNATE, v.i. 【冬ごもりする】 家庭に引きこもって冬を過ごすこと。さまざまな動物の冬眠については、多くの驚くべき俗説が伝えられている。熊は冬の間ずっと冬眠し、機械的に自分の足をなめては生きてゆく、と多くの人は信じている。そして熊は、春になると隠れ家《が》からすっかり痩《や》せ細った姿を見せ、地上に影が映るようになるまでには、二倍も食べねばならない事実が認められている。三、四世紀前、イギリスでは燕たちが、冬の間小川の底の泥の中に球のように固まり、くっつき合って過ごしたという事実ほどよく立証されたものはなかった。だが燕たちは、小川の汚染のためにこの習慣を明らかに断念しなければならなくなったのだった。ソッス・エスコビウスは中央アジアで一国民全部が冬ごもりするのを発見した。ある研究者たちによれば、四旬節の断食行為は本来冬眠の修正された形だったと考えられている。それに対して教会は宗教的意義を付加したのだ。だがこの見解は、かの高名な権威、キプ司教によって激しく異議を唱えられた。司教はその一族の創始者の霊に捧げるいかなる栄誉をも否定されたくはなかったのである。
HISTORIAN, n. 【歴史家】 広範囲にむだ口をたたく輩。
HISTORY, n. 【歴史】 たいてい、悪党である支配者とか、たいてい馬鹿者である兵隊によって起こされる主として取るに足らぬ出来事に関する、たいていは嘘の記述のこと。
偉大なニーブァは示した ローマの歴史は
その十中八九が嘘であると まことに わたしは知りたきものよ
われわれが偉大なニーブァを先《せん》達《だつ》として 受け入れる以前に
ガイドとして彼はへまをし どんなに嘘をついたかを
サルダ・ブップ
HOG, n. 【豚】 その食欲の普遍性で有名であり、われわれのそれを説明するのにも役立っている鳥《ハウル》(豚はきたないものの代名詞で綴りは違うがハウルにはきたないという言葉もある)。回教徒とユダヤ人のあいだでは、この鳥は食料品としては人気がないが、その習性の優美さ、その羽の美しさ、その声の快さで尊重される。それゆえ、この鳥が高く買われているというのは、もっぱら歌手としてである。一斉に合唱しているこの鳥籠の鳥は、これまでに知られたように一度に二人の人間の涙を誘う。この小鳥の学名はPorcus Rockefelleri《 ロ ツ ク フ エ ラ ・ ぶ た》である。ロックフェラー氏がこの豚を発見したわけではなかったのであるが、その学名は、類似点があるという理由で、彼のものだと考えられる。
HOMICIDE, n. 【殺人】 一人の人間を他の人間が殺すこと。四種類の殺人、つまり凶悪な殺人、許していい殺人、正当と認められる殺人、賞賛に値する殺人とがあるが、どの種の殺人であろうと殺される人間にとってたいした違いはない。――こうした分類は法律家には都合よいだろうがだ。
HONORABLE, adj. 【恥を知る・尊敬すべき】 手近な邪魔物で苦しむ。もろもろの立法機関では〓“恥を知る〓”の敬称をつけて、議員のようなすべての構成員の名を言うことが慣例となっている。たとえば「閣下(the honorable gentleman)は軽蔑すべき下等な人間である」というように。
HOPE, n. 【希望】 欲望と期待とがまるめられて一つになったもの。
甘美なる望みよ! 人に何一つ残されざりし時――
財産もなく 友垣にも去られし者に
飼える犬さえ彼を見捨て その背につかまれる山《や》羊《ぎ》
静かに不満げに彼の上着を食《は》みし時 その時こそ
汝 その天使の額に遠くまで光り輝く星は
天空より燦《さん》然《ぜん》ときらめきて 降りてくる
造幣局の事務の仕事の見込みをほのめかしに
ホウガティ・ウェフィング
HOSPITALITY, n. 【歓待】 食物にも、宿にも困っていない人々にわれわれが飲み物や宿を提供する気になる美徳。
HOSTILITY, n. 【敵意】 地球上の人口過剰をことのほか鋭く、実感すること。敵意は、積極的なものと消極的なものとに分類される。つまり、女性が同性の友達に対して抱く感情の場合と、他のあらゆる同性に対して抱く感情の場合とがそれぞれある。
HOURI, n. 【極楽の女】 イスラム教徒の天国に住み、善良なイスラム教徒のために万事を陽気なものにしてくれる美女。そして、そうした美女の存在をイスラム教の男性が信じるということは、魂がないとする自分のこの世の妻に対する気高い不満を表している。その善良な妻君によって、極楽の女はあまり尊敬されていない、といわれている。
HOUSE, n. 【家】 人間、ドブネズミ、ハツカネズミ、甲虫、油虫、ハエ、蚊、ノミ、バチルス、細菌が住みつくために建てられたうつろな建物。矯正院(House of Correction)=政治的ならびに個人的貢献に報いようという場所、また犯罪人を拘留し、流用金を預かっておく場所。教会(House of God)=その上に尖塔があり、おまけに抵当にまで入っている建物。番犬(House-dog)=通りすがりの人々を侮辱し、無鉄砲な来客の肝をつぶすために屋敷内に飼われている有害な獣。女中(House-maid)=神が与える気になった身分において、あれこれ不快になり、あきれるぐらい見事に不潔な、まだ中年にはならない雇い女。
HOUSELESS, adj. 【宿なしの】 家財にかかる税金を何もかも支払ってしまった。
HUMANITY, n. 【人類】 集合名詞で、類人猿類の詩人たちを除く種族。
HURRY, n. 【急ぐこと】 へたな職人のやっつけ仕事。
HUSBAND, n. 【夫】 食事が済めば、食器類の後始末を押しつけられる人物。
HYBRID, n. 【あいのこ】 共同で負担する問題。
HYENA, n. 【ハイエナ】 夜中に墓地を徘《はい》徊《かい》する習性があることから、東洋のいくつかの国では尊敬されている動物。しかしながら、医学生もご同様である。
HYPOCRITE, n. 【偽善者】 自分で重んじてもいないいくつかの美徳を備えているようなことを言いながら、軽蔑するその当のものであると思われる利益を巧いこと手に入れる者。
I
I 【アイ】 Iはアルファベットの最初の文字、言語の最初の単語、心に最初に浮かぶ思い、愛情の最初の対象である。文法では、第一人称単数の代名詞。その複数はWeと言われるが、どうして一人ならず私自身が存在しうるのかは、この比類ない辞書の著者よりも、文法学者たちのほうが多分よくご存じである。二人の私自身という概念は理解しにくいが、結構である。〓“I〓”の率直な、しかし上品な使用法こそが、りっぱな作家を低俗な作家と区別するところのものなのだ。後者はそれを盗品を隠そうとする泥棒みたいに持ち歩くのである。
ICONOCLAST, n. 【偶像破壊主義者】 偶像を破壊する者であり、偶像を崇拝する者たちは崇拝することで十分に満足させられることはなく、破壊はするが再び建て直さないことや、引き倒すが積み重ねはしないことを、非常に精力的に抗議している。なぜなら、気の毒にそうした輩は、破壊者がその頭をなぐって、追い払う偶像に代わって、別の偶像を持つであろうから。しかし非偶像破壊者《 イ ン コ ノ ク ラ ス ト》は言う、「汝らはいかなる偶像をも持ってはならない。それらを必要としないからである。だから、もし偶像を再び作る者がこの辺りをうろつき回ることあれば、見よ、わたしはその者の頭を押し下げ、相手が大声をあげるまで、その上に坐すであろう」と。
IDIOT, n. 【白痴】 人事において常に支配的、かつ調整的な力を持つ、ある大きく、強力な種族の一員。白痴の活動は、思想とか行動とかのなにか特定の分野に限られることなく、「全域にわたり、規制するものである」この者はあらゆることに最後の断を下し、その決着は上訴できない。意見や好みの流行のさきがけをし、発言の限界を指示し、行為の限界を明らかにする。
IDLENESS, n. 【怠惰】 悪魔が新しい罪の種子の実験をこころみ、主だった悪事の成長をはかる模範的な農場。
IGNORAMUS, n. 【無学な人】 あなたが良く知っているある種の知識には暗いのに、あなたが何も知らないある他の種類の知識に明るい人間。
ダンブルは無学な奴だったが
マンブルは学問があるので有名だった
ある日 マンブルが言った ダンブルに
「無学はもっと謙虚であるべきさ
これっぱかりの知識の持ち合わせもないのか
どんな大学でだって学べるような」
ダンブルはマンブルに言った
「実際 君は自己満足し過ぎるよ
ぼくには大学で学ぶような知識はないさ
――けど君はそれ以外の知識は何もないな」
ボウレルリ
ILLUSTRIOUS, adj. 【有名な】 敵意やねたみや非難の矢玉を受けるにお誂《あつら》え向きの位置をもらった。
IMAGINATION, n. 【想像力】 詩人と嘘つきとで共有して、事実を納めておく倉庫。
IMBECILITY, n. 【愚かな言動】 一種の天与の着想、つまりこの辞書のあら捜しをするのが好きな批評家たちの頭《おつむ》を冒す聖なる火。
IMMIGRANT, n. 【移住者】 ある国のほうが他の国よりも良いと考える無知な人間。
IMMODEST, adj. 【慎みのない】 他人の価値は少ししかわからないが、自分自身の価値は強烈に意識している。
昔々イスパハーンに
一人の男がいた
そして骨相学者が言うには、彼は
見せ物にしたら良いような頭をしていた
と言うのは 彼の謙遜の頭のこぶは途方もなくでっかい瘤《こぶ》だったから
(造化の戯れだと世間じゃ言った)
その天《てつ》辺《ぺん》ときたら髪の毛の森の上に
にゅっとばかり突き出ていたのだ ちょうど山の峰みたいにだ
イスパハーン中でも非常に謙虚な男だと
くりかえしくりかえし人々は言ったのだ――
このように偉ぶらず 柔和なものは
探そうとしても無駄だが 以前には一人としていなかったのだ
とかくするうちに その例のすごい瘤の山は
天まで達しようと計り
とても高くなったから 人々はその男を
尖《せん》塔《とう》のある男と呼んだ
イスパハーン中でこれほど自分の頭を
自慢し 賛美する男はなかった
疲れを知らぬ舌とずうずうしい肺で
彼はその美しい瘤のことを誇らしげに語った
しまいに激怒したペルシャ王は信頼する小《こ》姓《しよう》を遣《つか》わした
頭布《サツク》と絞殺用の綱を持たせて
そしてそのりっぱな青年は ほほえみながら言った
「あなたへのささやかな贈り物です」
イスパハーン中でもっとも不幸な男は
その贈り物を鼻であしらいはしたが 受け取った
「もし私は生きていたら」彼は言った
「私の謙虚さで不滅の名声を得られただろうに!」と
サッカァ・ウーフロ
IMMORAL, adj. 【不道徳な】 不適当な。結局のところ、大多数の場合について、人々が通常不適当であると考えるものはすべて、誤った、邪悪な、不道徳なものと見なされることになる。人間の善悪の観念が、こうしたご都合主義的な基準以外の基準によるのならば、この善悪の観念が何か他のものから生じたのならば、あるいは生じえたのであるならば、行為というものがそれ自体、その結果とは無関係な、しかも全く独立した道徳的性質をもつものならば――結局あらゆる哲学は人を欺くものであり、理性は精神の病気の一つということになる。
IMMORTALITY, n. 【不死】
人々がひたすらに求め
ひざまずいて申し込み
論じあい 争い合い 嘘をつき
そしてもし許されたなら
それゆえに永久に死ぬことを
無上の光栄とするような遊び道具
G・J
IMPALE, v.t. 【突き刺す】 一般的語法では、傷に固定されたままになる武器で刺し貫くこと。しかしこれは正確さを欠いている。突き刺すとは、正しくは、体に垂直な鋭い杭を突き通して、処刑することであり、その犠牲者は坐った姿で残された。これは、古代の多くの国民の間で共通する刑罰の方法で、シナやアジアのいろいろ他の地域でいまだに好評を博している。十五世紀の初めまで、この刑は異端者や教会分離論者を「教会の規律に従わせる」とき、広く採用された。ウォールクラフトはこれを「懺悔の椅子(stoole of repentynge)」と呼んでいる。そして、一般人の間ではこれは、「一本足の馬のり」という、おどけた名称で知られている。ラドウィグ・ザルツマンの語るところでは、チベットでは、杭刺しの刑は宗教に反する罪にもっとも適切な刑罪と考えられている。だが、シナでは、時には非宗教的罪に対しても与えられるが、神聖冒《ぼう》涜《とく》の場合に一番多く宣告される。杭刺しの刑を実際に経験した者にとって、自分がこうした苦痛をいたく思い知らされたのが、どのような種類の市民的、または宗教的反対によるものであるかはさほど重要でない事柄にちがいない。だがもし彼が「真の教会」の尖塔の風向計の資格で自分自身を見つめるとすれば、ある種の満足感を味わうことは明らかである。
IMPARTIAL, adj. 【偏見のない】 議論のどちらかの側を支持する、つまり二つの相反する意見のどちらかを採用することから、個人的な利益を得られる見込みがあることに気づくことができない。
IMPENITENCE, n. 【悔い改めないこと】 時間的には、罪と罰の中間にある精神状態。
IMPIETY, n. 【不敬虔・不信仰】 わたしの神に対する君の不敬な言動。
IMPOSITION, n. 【按手・詐欺】 手を按《お》くことによって、祝福したり、清めたりする行為で、多くの教会の制度に共通の儀式であるが、まことに率直な誠実そのものと言える態度で、「盗賊」派として知られる一派によって行われる。
「見なさい! 按手によって」
と牧師や司祭や托《たく》鉢《はつ》僧《そう》は言う
「教会の施設にあなたの現金と土地を
わたしたちは奉納するのじゃが
おそらくあなたは徹底的に
こうした按手をののしるであろう そうなされ」
ポウロウ・ドンカス
IMPOSTOR, n. 【ぺてん師】 社会的栄誉への野心に燃える競争相手。
IMPROBABILITY, n. 【ありそうもないこと】
彼は自分の話をした まじめくさった顔をし
やさしい もの悲しげな品のある態度で
じっくり考えて見れば疑いもなく
それは眉《まゆ》唾《つば》物《もの》であった
だが聞き惚れた群衆は
すっかり驚きいって
みんな異口同音に断言したのだ
これまで聞いたうちでもっとも驚くべきことだと――
ただ一人だけ例外で一言もいわず
じっと坐っていた
まるで聾で唖のようにだ
しずかに 無頓着に身じろぎもせず
そこで他の者たちはみな彼の方を向いて
手 足 胴といったように
じろじろとねめ回し
生きているのか確かめた
だが彼は一段と風格が出
一刻一刻落ち着きをますように見えた
まるでそんなことは取るに足らぬことみたいだった
「これは これは!」一人が叫んだ
「あんたはわれわれの仲間の話に驚かんのですか?」
すると彼は落ち着きはらって
目を上げたかと思うと
ごく自然に相手を見つめ
言ったもんだ
炉だなの上に脚を組んで
「まさかね!――ちっとも だってあたし自身嘘つきだからね」
IMPROVIDENCE, n. 【将来を考えないこと・不用意】 明日の収入を当て込んで今日の必要に備えること。
IMPUNITY, n. 【刑罰を受けないですむこと】 富。
INADMISSIBLE, adj. 【認められない】 考慮される資格のない。陪審員たちに託すのは不適当と考えられているがゆえに、判事たちが自分自身だけの前にある訴訟手続きからでさえ除外してしまう、ある種の証言について言われる。伝聞証拠は、引き合いに出される者が宣誓させられなかったし、尋問のために出廷しないので認められない。だが軍事上、政治上、商業上及びすべての他の種類の重要な行為の多くは、毎日伝聞証拠に基づいて行われるのである。伝聞証拠以外に、根拠のある宗教はこの世に一つもない。啓示は伝聞証拠であり、結局、聖書とは、はるか昔に死んだ、身元もはっきりと確認できない、しかもどのような意味においても宣誓させられたかわかっていない人々の、証言のみがわれわれにある、神の言葉なのだ。わが国に現在存在する証言規則によれば、聖書の中の主張はどれ一つ、裏付けとして、裁判所で認められる証拠はないのだ。ブレニムの戦いがかつてあったかどうか、ジュリアス・シーザーのような人物や、アッシリアのような帝国があったかどうかは証明できない。
だが、裁判所の記録は正当と認められるので、権力をもつ、悪意を抱く魔法使いたちが昔存在し、人類に罰を与える役割を果たしたことは、簡単に証明できる。ある女たちが魔法を用いた罪を認め、死刑にされるに至った証拠(告白も含めてだが)は不備な点はなかったし、今もなお非の打ちどころのないものである。証拠に基づく裁判官たちの判決は、論理的にも法律的にも妥当なものであった。そして現存する法廷において、非常にたくさんの人々が死刑となった魔術と妖術に関する告発以上に完全に立証されたものはなかったのである。もし魔女たちが存在しなかったとすれば、人の証言や人の理性というものは、ひとしく価値のないものとなる。
INCOME, n. 【収入】 世間体の自然で合理的な評価基準である。というのは、一般に認められている基準は、不自然で、気まぐれで、不合理なものであるから。なぜならば、劇中でシコファス・クリソレイター卿が正しく指摘したように、「(その財産を構成するものが何であれ、――貨幣とか土地とか家とか商品とか、自分自身の貢献に対する当然の権利として保持されると言ってもよいかもしれぬ物)例えばまた、勲章、肩書き、高位、地位及び身分の高い人物、ないし有能な人物の引き立てがあるとか、そうした人物と面識があるとかいったような財産の、真の効用と機能は、ただ一つ、金を手に入れることである。それゆえに、次のようなことになる。すべてのものはこの目的に役立つかどうかを基準として、価値ある、と正当に評価されなければならないし、その上、こうした物を所有する者は、この了解に基づいて地位を得るべきであり、どんなに広く、古い荘園を所有しようとも、それから収益がない領主であれば、また地位があろうと、それで金にならない者であれば、また王のお気に入りでも、貧しい者であれば、日ごとに富を増す者と、卓越さにおいて同等には評価されはしない。そして富のない彼らは、貧しく取るに足らぬ者たちとほとんど変わらぬ程度の名誉しか、それ以上主張したところで、当然得られないのである。
INCOMPATIBILITY, n. 【不一致】 結婚生活においては、趣味、特に自分の相手を支配しようという趣味の類似。だが、不一致というものは、すぐ近くに住んでいる、やさしい目をした既婚婦人からも成りうる。それは口ひげを生やした例すらある。
INCOMPOSSIBLE, adj. 【両立しない】 何か他の物が存在するならば、存在不可能な。存在の世界が二つのうち一つしか活動の場がなく、二つのものが活動できるほどの場がない場合、二つの物は両立しない。――例えばウォルト・ホイットマンの詩と人間に対する神の慈悲のように。両立しえないということは、解き放たれた不一致にすぎないことが理解されるだろう。「立ち去れ――おれは見つけ次第おまえを殺すつもりだ」などという下品な言い方のかわりに、「もし、あなた、われわれは両立できないのです」という言葉のほうが、同じ内容を同じ重みで表現するだろうし、品位のある言葉であるという点でも数段すぐれている。
INCUBUS, n. 【夢魔】 すべてが絶滅してはいないだろうが、すてきな夜を経験したと多分言われる非常に不道徳な悪魔の一種族の一人。男装した女の悪魔や女装した女の悪魔を含んでいる、男装した男の悪魔や女装した男の悪魔に関する完璧な記述を得ようとするならば、プロウタッサスの「悪魔の書《リベル・デモノールム》」(一三二八年、パリ)を見よ。この書物は、公立学校用教科書として編《へん》纂《さん》された辞典には不適当な、珍しい知識を多く記載している。
ヴィクトル・ユーゴーの述べる所では、チャネル諸島(イギリス海峡にある)では、サタン自身確かに、他の場所でよりも、女性たちの美貌に誘惑され――時に夢魔の役を演じ、その結果一般的に言えば、結婚の誓いに誠実でありたいと願うりっぱな貴婦人方に、多大の迷惑と驚きとを与えている。ある婦人は、自分の教区の牧師に問い合わせ、闇の中で、自分たちはそうした大胆不敵な侵入者と夫とをどのように見分けたらよいのか知ろうとしたのである。相談を受けた牧師は、相手のひたいに角《つの》があるかどうか触れてみなければならないと言ったのだった。しかしユーゴーは、不《ぶ》粋《すい》にも、そうした調べ方の効果についての疑いをほのめかしたのである。
INCUMBENT, n. 【牧師】 在俗の者(outcumbents)にもっとも強い関心をもっている輩。
INDECISION, n. 【優柔不断】 成功の第一の要素。「なぜなら、何事もしないでいる方法はたった一つしかないのに、何事かをするにはいろいろな方法があるとはいうものの、その中で正しい方法は、確かなことにただ一つしかないというのだから、優柔不断からじっと立っている者は、猛進する者ほど道を踏みはずす機会がそう多くないのである」とサー・トマス・ブルーボルドは言っているが、この問題についての非常に明晰な満足すべき説明である。
「あなたが速やかに攻撃を決定されたのは、あっぱれです。心を決められるに五分しかなかったのですからな」とグラント将軍は、ある時ゴードン・グレインジャー将軍に言った。
「さようです」と勝利を得た部下は答えて言った。「一《いつ》朝《ちよう》事《こと》あるとき正確になすべきことを知るのは大切な事です。攻撃すべきか退却すべきか判断に迷うとき、わたしは一瞬も決してためらうことなく、銭を投げ上げて決めるのです」
「あなたは今回もそのようにされたと言うのですか?」
「さようです、将軍。しかし、どうか責めないでいただきたい。わたしは投げた銭の決定には従わなかったのですから」
INDIFFERENT, adj. 【無関心な】 事物の間の相違に不完全にしか気付けない。
「あなたって 退屈な人ね!」インドレンティオの妻君は叫んだ
「あなたは人生のあらゆることに無関心になったわ」
「無関心にだって?」と彼はけだるそうに笑いながらものうげに言った
「ねえおまえ そうもなれるさ でも骨折りがいもないからな」
アピュリーアス・M・ゴウクル
INDIGESTION, n. 【消化不良】 患者およびその友人たちが、深い宗教心と人類救済のための関心であるとしばしば誤解する病気。西部の荒野の素朴な北米土人が、ありていにいえば、いくぶん力をこめて言ったように、「タクサン結構、祈リナイ、トテモ腹イタム、神サマ山ホドアタエロ」
INDISCRETION, n. 【無分別】 女の罪。
INEXPEDIENT, adj. 【不適当な】 自利をはかるようにはもくろまれていない。
INFANCY, n. 【幼年期】 ワーズワース(イギリスのロマン派詩人。1770-1850)によれば、「われわれの周囲を天国が囲んでいる」人生の一時期。だがその時期を過ぎれば早くも世界はわれわれに嘘をつき始めるのだ。
INFIDEL, n. 【異教徒】 ニューヨークではキリスト教を信仰しない者だが、コンスタンチノープルでは信仰する者。(GIAOUR〔異端者〕を見よ〔本辞典には、この語はのっていない〕)次に列挙するものを不完全に敬い、惜しみ惜しみ彼らに貢献する一種の悪党。神学者、聖職者、法王、教区牧師、僧会議員、修《マ》道《ン》士《ク》、回教の律法学者、ブードー教の呪術師、監督教会の牧師、秘義解説者、高位聖職者、アフリカ・西インドの黒人魔術師、フランスの大修道院長、修道女、宣教師、訓戒者、助祭、修道士《フライア》、ハジ大祭司、祈祷時告知者、バラモン、まじない師、懺《ざん》悔《げ》聴《ちよう》聞《もん》僧《そう》、台下、長老、大僧正、受禄僧、聖地参詣者、予言者、回教の導師、聖職禄受領者、教会の書記、聖歌助手、大主教、主教、修道院長、副修道院長、説教者、神父、大修道院長、ギリシア正教会の聖職者、聖地巡礼者、牧師補、総大司教、坊主、回教の隠者、救貧院の収容者、女僧会員、駐在牧師、管区を預かる監督、地方副監督、副監督補、地方監督、アブダル、魔よけ売り、大執事、高級司祭、メソジスト教徒の研究会の指導者、牧師、教会参事会員、イスラム教の指導者、仏教の修行僧、聖職志願者、ユダヤの律法学者、ヒンズー教の教師、聖歌隊先唱者、教会の雑務をする役員、托鉢僧、寺男、師、信仰復興運動者、修道士、分教区牧師、従軍司祭、ムージョ、礼拝式の祈祷書などを読める平信徒、修練士、代理牧師、非国教会の牧師、ラビ、イスラム教法典学者、ラマ教の僧《そう》侶《りよ》、教会の番人、権標の捧持者、イスラム教の托鉢僧、読師、教会執事、枢機卿、女子修道院長、属主教、侍僧、主任牧師、主任神父、賢人、回教の律法解説者とバイオリン弾き。
INFLUENCE, n. 【影響力】 政治においては、実質的な「ある物《クウイド》」と引き替えに与えられる非現実的な「何《ク》か《オ》」。
INFRALAPSARIAN, n. 【堕罪以後論者】 もしアダムはその気がなかったとすれば、罪を犯す必要はなかったと大胆にも信じている者で――それとは反対に堕罪以前論者は、この不運な人間の堕落は最初から定められていたと主張する。堕罪以後論者は、時には堕罪以前論者と呼ばれているが、彼らのアダムに関する見解の重要性や明快さには重大な影響は与えていない。
昔二人の神学生が 礼拝に行く道すがら
口論をおっぱじめた
不運なアダムとその堕落の原因に関する
きわめて痛烈で 真剣な口論であった
「あれは予定だったよ」と一人が叫んだ
「だって主は 彼が自ら進んで堕落するよう定めたのだから」
「そうじゃない 彼に主が定めた道を選ばせたのは自由意志だったんだ」と
相手が主張した
二人の論争はますます火を吹かんばかりの激しさを加え
終いには 血を見ずには二人の怒りは収まらなくなった
かくして彼らの法衣と帽子は地面に飛びちり
聖霊により励まされて 彼らは手を振りまわした
両人が 自分の神学の正しさを 取っ組み合いを始めることで
あるいは それによって勝つことで証明するまえに
杖を手にし 目に不機嫌な色を浮かべた
ラテン語の老教授が通りかかった
二人の喧嘩の原因を知ると(なぜなら
飽きもせずへたなつかみ合いをやり
宿命的な意志の自由について
言葉巧みに言い合っていたから)
叫んだ 「こら こんな不合理な争いはするな おまえらの間に
殴りあう価値のある差なぞないぞ
おまえらの属する宗派――わしは喜んで断言するが
その宗派の名前を誤って解釈しとるな
田舎者の堕罪以後論者の息子よ!――おまえは
アダムは すべり落ちたとだけ主張すればよいんじゃ
そしておまえ――堕罪以前論者のひよこよ!――おまえは
アダムは 足を踏みはずしたとだけ主張するのじゃ」
おまえらが 茶色のバナナの皮の上で
すべり落ちようと 足を踏みはずそうと
全く同じことだ
アダムでさえも自分のへまを分析しやしなかった
じゃが雷嗚で 足をすベらせて転んだと思ったじゃろ!
G・J
INGRATE, n. 【恩知らずの人】 他人から利益を受けるか、さもなければ施しの対象となる人。
「人間はみな恩知らずだ」と冷笑家が言った 「そんなことはない」と
善良な慈善家が答えた
「ある日 わたしはある男に大いに尽くしてやった すると
その男はそれ以後わたしを決してののしったり
中傷したりしなくなった 恩を感じてさ」
「ほう!」と冷笑家が大声で言った
「すぐさま彼の所に連れてってくれ――
ぼくは尊敬の念にすっかりうたれた
だから進んで彼の祝福を受けよう」
「ついてないな――その男は君を祝福できないんだ こう言うのも悲しいことだが
彼は唖なんだよ」
エアリアル・セルプ
INJURY, n. 【傷害・権利侵害】 無法の度合いでは、侮辱の次に位する犯罪。
INJUSTICE, n. 【不正】 われわれが他人に負わせ、自分でも持つあらゆる重荷のうちで手の中ではもっとも軽く、背中ではもっともずっしりとくる荷。
INK 【インク】 タンニン酸や没《もつ》食《しよく》子《し》酸《さん》の鉄やアラビアゴムや水の邪悪な化合物で、主として白痴的行為の伝染を容易にし、知的犯罪を助長するために用いられる。インクの性質は、妙な、矛盾したもので、名声を得、それを壊すにも、名声を黒く塗りつぶすにも、白く塗るにも使いうる。だがインクは、名声という建造物を建てる石材を結合するモルタルとして、また、その後その下等な材質を、ごまかすのろとして、おもに人に広く受け入れてもらうために使用される。インク風呂を始めたジャーナリストと呼ばれる連中がいるが、その風呂に入るのに金を払う奴もいれば、それから出るのに金を払う奴もいる。入るのに金を払った人間が、出るのにはその二倍も払うということがしばしば起こる。
INNATE, adj. 【生まれながらの】 生得の、本来備わっている。――例えば、生まれつきの考え方、つまり前もってわれわれに分け与えられていて、持って生まれた考えのように。生まれつきの考え方という学説は、それ自体生まれつきの考え方であり、それゆえに到底論破しがたい、最も感嘆すべき哲学上の信念の一つである。しかしロックは愚かにも、自分自身はその考えに一発見舞ってしたたかやっつけたと思った。数ある生まれつきの考え方のうちには、新聞を経営する能力、自分の国の偉大さ、自分の属する文明の優位、自分の個人的な事柄の重大さ、興味ある自分の病気、これらすべてに対する信仰が挙げられよう。
IN'ARDS, n. 【内臓】 胃、心臓、魂、その他の内臓。多くのすぐれた研究者は魂を内臓として分類しないが、かの鋭敏な観察者にして有名な権威者、ガンソーラス博士は、脾臓として知られる神秘的な器官は、われわれの不滅の部分にほかならない、と確信している。それに反し、ガレット・P・サービス教授は、人間の魂はそのない尾の中核をなす脊《せき》髄《ずい》の延長された部分なり、と主張している。そして自己の信念を証明するために、有尾動物には魂がないという事実を自信をもって指摘している。これらの二つの説については、両者を信ずることによって、断案を下すのを見合わせるのが最良である。
INSCRIPTION, n. 【碑文】 ある別の物に書かれた何か。碑文には多くの種類があるが、大部分は記念するもので、ある有名な人物の名声を記念し、後世にまで、その人物の功績と美徳とを記録し、伝える目的をもつ。こうした碑文の部類に、ワシントン記念碑に鉛筆で記されたジョン・スミスの名は属する。次にあげるのは、記念の墓碑銘の若干の例である。(EPITAPH〔墓碑銘〕を見よ)
「天上にわが魂は在り
わが肉体は地上に在る
いつの日かわが肉体は
天上のわが魂の許《もと》へと昇らん
天国の門までも舞い上がりて
一八七八年」
「一八六二年五月九日、切り倒されし、この土地固有の、齢《よわい》二十七年四か月十二日のエレミヤ・ツリーを記念してたてられた」
「死紙が愛する故人を放し
遺体と化するまで
故人は久しき年月苦ししぬ
者医ら徒労になりぬ
去りて 天国でアナニアに組みせん」
「この石の下に眠る土《つち》塊《くれ》
かつてサイラス・ウッドとして名高き者
今ここに横たわりて S・ウッド
なるは われにとりて何の益ありしや
おお 人よ 大望に心煩《わずら》うことなかれ
サイラス・Wここに忠告す」
「天国の、リチャード・ヘイマン。一八〇七年一月二十日地上に落ちしが、一八七四年十月三日その塵を払いぬ」
INSECTIVORA, n. 【食虫動物】
「見よ いかに神は すべての被造物が
不自由なく生きうるように備えられたかを!」
賛美する伝導者の合唱隊が高らかに歌った
「神の配慮は虫たちにすら払われている」
と蚋《ぶよ》が続いた 「われわれには
ミソサザイやツバメを与え給うた」
センペン・レイリー
INSURANCE, n. 【保険】 賭博をやってる者が、その胴元をやっつけてるんだという確信で、いい気分になることが許される巧妙な近代的一六勝負。
保険勧誘員「どうでしょうか、りっぱなお住まいですから保険の契約をしていただけないでしょうか?」
家の持ち主「喜んで。でも年間の保険料はぐんと低くしてもらいたい。そうすれば、あんたの会社の保険技師の計算表でみて、多分、火事で家が焼ける時までに、保険証券の額面より相当低い金を払っただけで済むからね」
保険勧誘員「おや、それは困りますな――私どもにはそんなことをするわけにはいきません。あなたが余計に支払っていて下さるように、保険料を決めなければなりません」
家の持ち主「だとすれば、どうしてそんなお金が出せるね?」
保険勧誘員「おやおや、あなたのお住まいだって、いつなん時焼けるかわかりません。スミスさんの家だって、例えばそれは――」
家の持ち主「くわばらくわばら――それどころか、ブラウン氏の家、ジョーンズ氏の家、ロビンソン氏の家だってあったが、それは――」
保険勧誘員「くわばら!」
家の持ち主「お互いにはっきりしておこう。あんたは、前もってそうしたことが起こると自分で決めた時までに、何か起こると仮定した上で、私にお金を払わせたいわけだ。言い替えれば、私の家が、あんたがもつだろうと言うほどに長くはもたないと私が信ずるのを期待してるんだ」
保険勧誘員「でも、もしあなたのお住まいが、保険もなしに焼けでもすれば丸損になります」
家の持ち主「失礼だが――あんた自身の保険技師の計算表だと、家が焼ければ、そうでない場合あんたに支払っている保険料を節約したことになるだろう。――つまり保険料で買ったことになる保険証券の額面以上の額になる掛け金をね。しかしあんたの会社の計算の基礎になる期間前に、保険をかけずに家が焼けるってことになったらどうだ。そんなことになるのに耐えられず、保険がかけられてたら、あんたのほうは払えるのかね?」
保険勧誘員「おお、私どもは他の加入者たちともっと幸運な取り引きをして、損をしないようにすべきです。実質的には、他の方々があなたの損害を償います」
家の持ち主「じゃあ実質的には、私も他の人たちの損害を支払うのに役立つのじゃないか? その人たちの家が、あんたがその人たちに払わなければならないと同じだけ、その人たちがあんたに支払いを済ませないうちに焼けるのは、私の家と同じ確率ってことにならないかね? つまり、それはこういうことだ。あんた、保険加入者に支払うよりも、その加入者から余計に金を取るつもりじゃないか」
保険勧誘員「そうですとも、そうしなかったら――」
家の持ち主「私はあんたに自分の金を預けたくない。それならそれでよし。あんたの保険加入者全体に関しては、他の人たちがあんたのため金を損するのが〓“確実〓”なら、彼らのだれについても、その人間が損する〓“可能性はある〓”ということだ。その統計的確実性を成立させるのこそこうした個人の確率だからね」
保険勧誘員「それを否定しようとは思いませんが、――このパンフレットの数字をごらん下さい」
家の持ち主「とんでもない!」
保険勧誘員「あなたは、別の場合だったら私どもに払うことになる掛け金を節約することを話題になさってます。あなたのおっしゃる掛け金だってむだ使いするってことのほうが多いと思いませんか? われわれはあなたに節約の動機を提供します」
家の持ち主「Aが進んでBのお金を管理するのは、保険特有のものじゃないが、慈善施設としてあなた方は尊敬に価する。どうか〓“哀れな同情されてしかるべき者〓”からその言葉を受けてもらいたい」
INSURRECTION, n. 【反乱】 不首尾に終わった革命。不満が、暴政をもって悪い政府に代えようとするが失敗すること。
INTENTION, n. 【意志・意図】 心が、ある影響力を持つグループよりも優勢だと意識すること。直接ないし間接の緊迫性がその原因となる、ある無意識な行為を実行した結果。
INTERPRETER, n. 【通訳】 どちらか一方が言ってくれたら、通訳にとっては有難いと思えることを、もう一方に繰り返してやることで、言語の異なる二人の人間を相互に理解し合えるようにする者。
INTERREGNUM, n. 【空位期間】 王国が王座の座ぶとんの上のぬくもりある場所で支配される期間。この場所を冷やそうとする実験は、多くのりっぱな人物がこれを再び暖めようと熱をいれるため、非常に悲しむべき結果を通常もたらしてきた。
INTIMACY, n. 【親交】 愚かな者が、神慮により互いに破滅しあうために巻きこまれる関係。
二種のセドリッツ散 一つは青
そして一つは白 が互いに近づき
それぞれ相手の粉末の良さを快く感じて
共同のコップのくつろいだ楽しみを求め
自分たちのジャケットを脱ぎ捨てた
彼らの親交はきわめて深いものとなったから
一つの紙でその二種の散を保とうと思えば保てただろう
彼らは正直に打ち明け話を始めた
それぞれ聞くより 話すのに夢中だった
それから互いに良心に苛《さいな》まれながら
自分に備わるすべての効能を口にし
あまりに素晴らしい効能を持っているから
ばち当たりになると認めたのだ
語れば語るほど 彼らは
気持が感動で和らぐのを感じた
しまいに感激の涙が彼らの気分を示した
その瞬間彼らは沸騰してしまった!
このように自然というものは おまえはおまえ おれはおれ
というりっぱな古い規則を応用しない
気心の合った友人たちには
あざやかな怒りの離れ業《わざ》をやって見せるのだ
INTRODUCTION, n. 【紹介】 悪魔が己れの部下を喜ばせ、己れの敵には災いをもたらすため案出した社交上の礼儀。紹介は、わが国ではもっとも悪性の発達を遂げていて、事実政治制度と密接な関係をもっている。すべてのアメリカ人は他のアメリカ人すべてと平等であるから、すべての者は他のすべての者について知る権利があり、頼まれもしないのに、また許可も受けないのに、他人を紹介してもかまわないという権利があることになる。それゆえ独立宣言は次のように読まれるべきだろう。
「われわれは次の事実を自明のこととする。すなわちすべての人間は平等に作られ、その創造主からそれぞれ一定の奪うことのできない権利を付与されている。そしてその中には生命、他人に無数の知人を押しつけその他人の生活を惨《みじ》めにする権利、そして自由、特に敵としてすでに知る仲であるかどうかをまず確かめもせず、人を紹介しあう自由、そのうえ見知らぬ人々の一団に追わせて、他人の幸福を追求する権利があると信ずる」と。
INVENTOR, n. 【発明家】 歯車とテコとバネとを巧妙に配置して見せ、それを文明だと信じ込んでいる奴。
IRRELIGION, n. 【無宗教】 世界のもろもろの偉大な信仰の中でももっとも重要な信仰。
J
J 【ジェイ】 Jは英語では子音であるが、ある国民たちは――これ以上ばかげた話はないだろうが、これを母音として使用する。この文字の原型は、部分的にはほんの少し修正されてはいるが、相手に圧倒された犬の尻尾の形をしていた。そして、これは、音表字体《レ タ ー》ではなく、ある象形文字《 キ ヤ ラ ク タ ー》であって、ラテン語の動詞 jacere「投げ出す」の意味を持つ。その理由は、石が犬に投げつけられると、犬の尻尾はこんな形になるからだ。ベルグラード大学のかの有名なジョコルプス・バマー博士によって説明されるように、これがこの文字の由来である。そして同博士は、三巻から成る四つ折り判の労作で、この問題に関して結論を下したが、ローマ字のJは本来カールしていなかったことに気づかされて、自殺してしまった。
JEALOUS, adj. 【妬《ねた》み深い・後生大事に】 取っておく価値さえなければ、当然失われても良いものを、保存しようと不当に心を砕く。
JESTER, n. 【道化師】 かつては宮廷付きの役人で、その滑稽さは彼のまだら服で立証されるように、おどけた身ぶりや話しぶりで宮廷中の笑いを誘うのが、その務めであった。国王自身は、威厳ある装いをしているので、世間が、国王自身の行為や法令が、その廷臣たちばかりでなくすべての人類の笑いを誘うに、十分なばかばかしさがあったことを発見するのに、何世紀かを必要としたのである。道化師は一般に愚《フ》か《ー》な《ル》人間と呼ばれた。しかし詩人やロマンス作家たちは、道化師をすばらしく賢明で、機知に富む人間として描くのを楽しんできたのである。今日のサーカスでは、宮廷の道化師の悲しげな亡霊が同じ冗談でもって下賤な観客を落胆させるのだが、その冗談で、世にあったとき彼は大理石の大広間を陰気にさせ、貴族的ユーモアのセンスを苦しめ、王室の涙の水槽のせんを抜いたのである。
ポルトガルの未亡人の王女には
大胆な道化師がいた
彼は変装してざんげ室に入り
そこで王女の告白を聞いたのだ
「神父さま」と彼女は言った 「耳を傾けて下され――
わらわの罪は売春婦をもしのぎます
わらわの道化師――あの不敬なことを言う田舎者で
平凡な 素性の卑しい従者を愛しております」
「女よ」と偽の牧師が答えた
「その罪は まことに 恐ろしい
不義には
教会の許しは与えられぬ
「じゃが 汝の一徹な心はその道化師のため
永久に弁じるであろうゆえ
法令で その者を家柄 育ちともによい
人物にしたらよかろう」
天の法《はつ》度《と》を欺かんとして
王女は道化師を公爵にした
そしてある牧師に話した するとその牧師は法王に話した
そして法王は祭壇から王女に地獄落ちを宣言したのだ!
バレル・ドート
JEWS-HARP, n. 【口《びや》琴《ぼん》】 楽器ならぬ楽器で、歯でしっかり持ち、指で払いのけようと努めながら弾くもの。
JOSS-STICKS, n. 【中国線香】 われわれの聖なる宗教のある祭式をまねて、中国人が、異教の非常識さでもって焚《た》く小さな棒(火刑のこと)。
JUSTICE, n. 【適法】 忠誠、税金、個人的貢献に対する報酬として、国家が国民に売りつけてくる多かれ少なかれ品質のおちた商品。
K
K 【ケイ】 Kはギリシア人から得た子音文字であるが、彼らを越え、スメロ半島に住んでいた商業に従事する一小国民、セラスィア人にまでさかのぼりうる。セラスィア人の言語では、klatchと呼ばれたが「破壊された《 デ イ ス ト ロ イ ド》」の意味がある。この文字の形は、最初まさにわれらがHの文字の形をしていた。しかし学殖豊かなスネデカー博士の説によれば、ヤルテの大寺院が、西暦紀元前七三〇年頃、地震によって破壊されたのを記念するために、現在の形に直されたのである。この寺院は、二本のそそり立つ列柱式ポーチの円柱で有名であったが、その一本はその大災害で半分に折られ、もう一本のほうは少しも被害を受けずに残されたのである。この文字の初めの形は、こうした円柱によって示《し》唆《さ》されたことになるように――そのように、偉大な古物研究家たちによって考えられているが――この後の形は、永遠にその災害を国民の記憶にとどめておく、素朴で、感動的なとは言わないまでも自然な手段として採用されたのである。この文字の名が記憶を助けるための付加的言語として変えられたのかどうか、あるいはこの名前は常にklatchであり、この破壊は数ある自然の洒《しや》落《れ》のうちの一つであったかどうか知られていない。どちらの説も十分それなりに考えられるものであるから、わたしは両論を信ずることに異論はない。――そしてスネデカー博士は、この問題については前述のような説をとったのである。
KEEP, v.t. 【とっておく・持っている】
彼は全財産を遺言で残した
そして永《と》久《わ》の眠りについたのだ
「やれやれ とにかく私の名を汚さずにいられよう」とつぶやきながらだ
だがだ 墓石にその名が刻まれたとき それは誰のであったのか?――
故人は何一つ持っていないのだから
デューラング・ゴウフェル・アーン
KILL, v.t. 【殺す】 後継者の指名もせず空席をつくること。
KILT, n. 【キルト】 アメリカではスコットランド人が、スコットランドではアメリカ人が時おり着用する衣装。
KINDNESS, n. 【親切】 十巻から成る苛酷な取り立てにたいする短い前置き。
KING, n. 【王】 王冠を決してかぶることもなければ、普通ことさら取り上げて言うほどの頭もないのに、アメリカでは「王冠を戴くもの」として一般に知られている男性。
昔 昔ある王さまが
自分の家来のなまけ者の道化師に言った
「余がおまえで おまえが余であったら
余の人生の時は楽しく流れ――
何の悩みも悲しみもなかろうに」
「そうなっても 陛下 あなたが繁栄される理由は」
と道化師は言った 「お耳ざわりかと思いますが
あなたを自分たちの国王と認める道化めがたくさんいる中で
このわたしめが持っているからです
もっとも寛大なる心を」
オウガム・ベム
KING'S EVIL, n. 【王者病】 かつては君主が手を触れることで直されたが、現在では医者によって治療される病気。このようにイギリスの「もっとも信心ぶかいエドワード王」は病気の臣下たちにその尊き御手をおき、健康体にしたのである――
王の治療を待って群がるあわれな者たち
その者たちの病気は医術で
できるだけのことをしても治りません
しかし王がお触れになると
このような聖なる力を天は王の手に授けられたので
皆すぐに治ります (「マクベス」四幕・三場、一四一―五行)
と「マクベス」劇のなかで〓“医者〓”が言ったように。王の手のこうした有益な特性は、他の王室財産と一緒に伝承されたようである。なぜならば〓“マルカム〓”によれば
噂《うわさ》によれば、
継承する王族に この病気を治す有難い力を
王は残されるということだ (「マクベス」四幕・三場、一五四―六行)
だがこの天与の才能はどこかで継承者の家系から消えてしまったのである。つまり、イギリスの後の君主たちは、手で触れて病気を治す者ではなくなったのである。そして名誉にも「王者病」という名を付されたこの病気は、scrofa 雌豚から来ている「るいれき」という卑しい名が現在ついている。次の警句の時代と作家は、この辞書の著者のみが知っているが、スコットランドの国の病気についての冗談が、昨日のことではないことを示すほどに古いものである。
わたしは王者病だった
それをスコットランド王が癒《い》やして下さった
王は私の手にその手を置かれ 言われたのだ
「去れ!」と するともう病気は治っていた
だが おお 私の落ち込んだ不幸な苦境よ
私は疥《かい》癬《せん》になったのだ!
万病が、王の手が触れることで治せるという迷信は消滅した。しかし多くの過去の信念のように、その記憶をいつまでもいきいきとしたものに保とうとする慣習の記念碑を残していったのである。一列に並んで大統領と握手する慣習の起源は、これにほかならない。そして
はた目にも哀れなほど
すっかり脹《は》れあがり ただれ 医者さえ匙《さじ》を投げた
無惨としか言いようもない病人 (「マクベス」四幕・三場、一五〇―三行)
にあの偉大な高官が治療の挨《あい》拶《さつ》を送るとき、彼とその患者たちは、あらゆる階級の人々の手で長い間支えられた信仰の祭壇の火で、かつて点《とも》され、今は消えた松《たい》明《まつ》を、手から手へと渡してゆくのである。それは美しく、啓発的な「遺物」であり、――神聖な過去をわれわれの「仕事と胸」(フランシス・ベーコンの一六二五年版エッセーズの献辞よりの引用)に、痛切に思い出させるものである。
KISS, n. 【口づけ】 詩人連が「悦楽(bliss)」と韻を踏むために考え出した言葉。一般には、十分な理解に達したことと関連しているある種の厳粛な儀式、または儀礼を意味すると考えられている。だがこの儀式をどう執り行うかについてかく言う辞書編集者は無知である。
KLEPTOMANIAC, n. 【窃盗狂】 富める泥坊。
KORAN, n. 【コーラン】 マホメット教徒が神の霊感によって書かれたと愚かにも信じているが、キリスト教徒が聖書と相反する邪悪なぺてんだときめつけている書物。
L
LABOR, n. 【労働】 AがBのために財産を獲得してやる方法の一つ。
LAND, n. 【土地】 財産としてみなされている地球の表面の一部分。土地は個人の所有権及び支配権の下にある財産であるという論理は、近代社会の基礎となっており、その上部構造にきわめてふさわしいものである。そして合理的結論にまで推し進めるなら、この説はある者は他の者たちが生きてゆくのを妨げる権利があるということになる。なぜならば、所有する権利というのは、専有する権利を意味するからである。そして事実、どこでも土地の所有が認められている所では、不法侵入の法律が定められている。それゆえに、もし「terra firma(堅い土地)」の全域をA、B、Cが所有すれば、D、E、F、Gは生まれてくる場所は全くなく、生まれてくるとすれば必然的に不法侵入者としてであって、生存してゆく場所は全くないのである。
洋《わだ》つ海《み》のうえの生活
逆巻く海原のうえの家
自然の与えた火花のために
おいらは そこに生きる権利があるのさ
陸にあがれば いつだって
九尾のむちがおいらを見舞う
だからよ ヤッホー! きらめく海の――
おいらは生まれながらの船長よ!
ドッドレ
LANGUAGE, n. 【言語】 われわれが他人の宝物を守っている蛇たちをまんまと慣らしてしまう音楽。
LAOCOON, n. 【ラオコーン】 こう呼ばれる司祭とその二人の息子が、二匹の大蛇に巻かれている姿を表している古代の有名な作品。その老司祭と若者が、二匹の大蛇が締めつけやすいように捧げ持っている技巧と勤勉ぶりは、理性のないものぐさに対する人間の理性の勝利のもっとも高貴な芸術的実例の一つとして、正当に評価されてきたのである。
LAP, n. 【膝】 女性の体でもっとも重要な器官の一つ――幼い子が、そこで寝るのにはこの上なく都合よく自然が用意してくれたものだが、田舎の祭では冷たい鶏肉をもった皿とか成人した男性の頭をのせたりするのに主として有用される。同じ人類の雄にも、膝らしきものはあるが、発育不全のため、この動物の実質的な幸福には少しも役立たない。
LAUGHTER, n. 【笑い】 顔《かお》貌《かたち》をゆがめ、不明瞭な音声を伴う内部のけいれん。これは感染しやすく、間欠的なものだが、直すことができない。笑いの発作が発生しやすいということは、人間をその他の動物と区別する特徴の一つである。――後者は人間の笑いの挑発にものらないばかりか、この病気を移すか移さないかに関して第一審の裁判権を握る細菌にも負けない。笑いというものが、人間の患者からの接種によって、動物たちに移しうるかどうかは、実験によっても解かれていない問題である。マイアー・ウィッチェル博士は、笑いの伝染的性格は霧状に飛び散る唾《スプータ》が一瞬にして発酵するからである、と考えている。そしてこの特性ゆえに、博士は Convulsio《 ひ ろ が る》 Spargens《 け い れ ん》 とこの病気を名付けている。
LAW, n. 【法律】
かつて「法律」が判事席についていた
そして「慈悲」はひざまずいて泣いていた
「立ち去れ!」と彼は叫んだ 「取り乱した娘よ! 私の前に はってやって来るな おまえがひざまずいて姿を見せても
おまえの立つ場所がここにないのは明らかである」
その時 「正義」がやって来た 判事は叫んだ 「おまえの地位は?――なんてことだ!」 「法廷の友よ《アミカ・キユリアエ》」と彼女は答えた―― 「どうかお願いです 法廷の友よ」 「去るのだ!」と彼は叫んだ ――「出口はむこうだ
私はおまえの顔を一度も見たことがない!」
G・J
LAWFUL, adj. 【合法的な】 司法権を有する裁判官の意志とこちらが巧く合致する。
LAWYER, n. 【法律家】 法律の抜け穴に長じた者。
LAZINESS, n. 【不精】 身分の低い者にある不当に落ち着いた態度。
LEARNING, n. 【博識】 学問に励む者に特有な一種の無知。
LECTURER, n. 【講演者】 片手を君のポケットに突っこみ、舌を君の耳に突っこみ、信念を君の忍耐強さに突っこむ者。
LEGACY, n. 【遺産】 この涙の谷から逃げ出してゆく者からの贈り物。
LETTUCE, n. 【レタス】 チシャ属の食用植物だが、「それで」とあの信仰厚い美食家ヘンギストペリーが言うには、「神は善人に報い、悪人を罰すことに満足された。なぜなら、内なる光によって、有徳な人物は、たくさんの風味ある薬味が、豊富な油で馴染まされ、一段とよくされ、すべての食料品が、信心深い人の心を楽しませ、その顔を輝かせることを主眼とする、強い欲望に対するソースを、レタスのためにつくりあげるという方法に気づいたのである。しかし精神的に貧しい者は、魔王に巧くすすめられて、油やからしや塩やニンニクはないが、砂糖でよごれた酢の破廉恥な溶液で、サラダ菜を食べる気になるのである。それで精神的に貧しい者は、奇妙で、複雑な腸の痛みを感じ、大声でうめくのである」
LEXICOGRAPHER, n. 【辞書編纂者】 ある一つの言語の発展におけるある特定の段階を記録するという口実で、できるだけその成長をはばみ、柔軟性を取り去り、その方法を機械化する有害な奴。世間の辞書編纂者は、その役割は単に記録を作るだけで、規則を作ることではないのに、辞書を編纂しおえたとなると、「権威をもつ者」とみなされるようになる。なぜなら、人間の悟性は本来盲従的なゆえに、辞書編纂者に司法権を付与してしまって、自らの理性を働かす権利を放棄し、まるでそれが法令かなにかでもあるかのように、一つの記録を甘受するからである。(例えば)辞書が一旦よい単語を「廃語」とか「廃語になりかけた語」として決めつけたりでもすれば、その後はどれほどその単語が必要であっても、また、どんなにそれを復活させることが望ましくとも、あえてそれを信用しようなどと思う者はほとんどいなくなってしまうのである。そのため言語の貧困化の過程は促進され、言語は衰退する。それに反して、大胆にして洞察力ある著者が、いやしくも言語が成長するものなら革新によって成長させなければならないという真理に気づいて、新しい単語を作り、一般になじみのない意味で古い単語を使っても、一人も続く者が出ないし、「そんな単語は辞書にのってやしない」ことを手厳しく思い知らされる――最初の辞書編纂者(神よ、この者を許し給え!)が登場するまでは、辞書に出ている単語を使った著者など一人だっていなかったにもかかわらずそうである。英語のまさに黄金時代、つまり偉大なるエリザベス朝の人々の口から、独自の意味をなし、その意味が、まさに発せられる音声のひびき具合いで伝わるような言葉が出た時代、シェイクスピアやベーコンのような偉大な著述家が輩出しうる、また今日一方では急速に滅びながら、一方ではまたゆっくりと更新される言葉が、力強く成長し、しっかりと保存されていた状態にあり――蜂蜜より甘美で、ライオンよりたくましかった時代には――辞書編纂者は無名の者であり、辞書は、造物主が辞書などを創造するために彼を創造するつもりなどさらさらなかった創造物だったのである。
「精神は形のうちに滅ぼさしめよ」と神いえば
辞書編纂者ら立ちぬ 群がりて!
思想は逃げ その衣を残してゆきたり
されば彼らその女の衣とりて
書物のうちにその品々の目録を載せぬ
ところで 葉の茂みより彼女「われに服を返し給えば
われは帰らん」と叫ぶとき
彼ら立ち 目録に目をとおし 無情にも言うようは
「失礼だが おまえさんの服はたいてい流行おくれ」
シギスモンド・スミス
LIAR, n. 【嘘つき】 勝手気ままにうろつき回り、掠《かす》めとる職業に従事する法律家。
LIBERTY, n. 【自由】 想像力のもっとも貴重な財産の一つ。
蜂《ほう》起《き》した民衆は興奮し 息をきらし
宮殿をかこんで叫んだ 「自由を さもなくば死を!」
「もし死でも良ければ」と国王が言った 「わたしに統治させてくれ
おまえたちには不平を言う理由がないと確信するのだ」
マーサ・ブレイマンス
LICKSPITTLE, n. 【おべっか者】 新聞の編集でしばしば見られる有能な職員。編集者の資格では、彼は、正体がときおり判明するという結びつきによって、ゆすりと同類である。実を言えば、おべっか者は別の角度から見れば、ゆすりにすぎないからだ。だが後者は独立した種類と見られている。ごますりは、恐喝よりも唾棄すべきものである。ちょうど取り込み詐欺師業が追いはぎ業より憎むべきものであるようにである。そしてこうした比較はどこまでも続くのだ。なぜなら追いはぎで詐取するのは少数だが、卑劣漢はだれも、できれば略奪をやるからである。
LIFE, n. 【生命】 肉体が腐敗するのを防ぐ精神的な漬け物。われわれはこのような漬け物を失いはしないかと日々悩みながら暮らしている。だが失ってみると、なくしたことを悲しまないのだ。「人生は生きるに価するか?」という問題は、これまであれこれ議論されてきた。特に、価値なしと考える族《やから》によってそうであったが、その多くの者は、自分たちの見解を確証するために、くどくどと書きまくる一方、健康の法則を注意深く守って、長い年月、論争に首尾よい結果を得るという栄誉を享受してきた。
「人生は生きるに価しない これが真実さ」
と幸福の絶頂にある若者は無頓着に喜びうたった
そして丁年に達しても依然こうした考えを持ち
年とるにつれ一層この見解を堅持した
八十三歳のとき 雄のロバに蹴《け》られると
「早く 医者を呼んでくれ」とこの男は叫んだのだ
ハン・ソーパー
LIGHTHOUSE, n. 【燈台】 政府がランプを一つ点《とも》し、ある政治屋の友人を養う海浜の高い建物。
LITIGANT, n. 【訴訟関係者】 自分の骨を残すことを願い、皮を捨てようとする人間。
LITIGATION, n. 【訴訟】 あなたが豚の形で入ってゆくと、ソーセージの形で出てくるはめになる機械の一種。
LIVER, n. 【肝臓】 人を怒りっぽくさせるために、自然によって思慮深く備えられた大きな赤い器官。すべての文学の解剖学者が、現在では心臓を悩ます、と知っている情意と感情とは、昔は肝臓を悩ますと信じられていた。そしてガスコインですら、人間性の感情面について語り、これを「われわれの肝臓の部分」と言っている。一時は生命の座と考えられたこともあったが、ここから肝臓、つまりわれわれが寄宿する物、という名称が出たのである。肝臓は、ガチョウには天の最高の贈り物であり、これがなかったなら、この鳥はわれわれにストラスブールパイを提供することができないだろう。
LL.D. 【エル・エル・ディ】 法律に明るい、法律上の才能に恵まれた者、つまり Legum《ぬけめなく》ptionorum《ほうをあやつる》 Doctor《 は く し》(ラテン語の法学博士メLegum doctorモをもじり、Legumと要領のよさ〔=gumption〕を組み合わせている)という学位を表す文字。この称号の由来に関し、現在ある嫌疑がかけられているが、それはこの肩書がもともと££.d.(£はポンド、dはペンスの記号)とされ、財産家で知られる紳士連中にのみ授与されたという事実に基づいている。 この項を執筆の日にも、 コロンビア大学では、 昔のD.D.―Damnator《 あ く ま に》 Diaboli《のろわれたもの》 に代わって、牧師のため別の学位をもうける便法を考慮しているがこの新しい名誉のしるしは、将来 Sanctorum《せいなるものの》 Custus《ようごしや》 として知られ、$$.¢($はドル、¢はセントの記号)と記されるだろう。ジョン・サタン師の名が、ある節操ある賛美者によって、この栄誉を受けるにふさわしい人物として挙げられている。そしてその賛美者は、ハリー・サーストン・ペク教授(教育家、批評家。1856-1914自殺)が長年ある学位の利益を受けたことを指摘している。
LOCK-AND-KEY, n. 【錠と鍵】 文明開化を特色づける装置。
LODGER, n. 【宿泊人】 かの楽しい新聞の三位一体、つまり「部屋だけ借りる者」「寝床だけ利用する者」「食事だけする者」の二番目の人間《 セコンド ・ パースン》に対する、あまり一般的でない俗称。
LOGIC, n. 【論理学】 人間の誤性(ジョン・ロック著「人間悟性論」をもじったもの)の限界と無能力とに完全に従っている思考と推理の技術。論理学の基礎となるものは三段論法で、大前提、小前提、結論、の三段の手続きから成る。例えば、
大前提――ある一つの仕事を、一人でやるよりも六十人でやれば、六十倍も早くすることができる。
小前提――一人では柱を立てる穴を掘るのに六十秒かかる。ゆえに――
結論――六十人でなら、この同じ作業を一秒間でできる。
この論法は算術的三段論法と呼べるだろうが、論理学と数学とを結合することによりこの論法では、二重の確実性を得られると共に二重の祝福をも受けられる。
LOGOMACHY, n. 【舌戦】 武器となるものが言葉で、傷口が自尊心の浮き袋に穴をあける戦争――敗北者が敗北に気づかないので、勝利者が勝利の報酬を与えられない一種の競技。
哀れサルメイジアスはミルトンのペンにかかりて死す
と種々の学者らは言う
ああ われらこれが真実なりや否やを知るは不可能なり
ミルトンの機知を読みてわれらまた死する身なれば
(Claudius Salmasius〔1588-1653〕は一六四九年イギリスのチャールズ一世の専制主義を「チャールズ一世が王たる弁明の書〔Defensio Regia pro Carolo 1〕」で擁護し、ジョン・ミルトンはそれに反論し、後に「英国民のための弁明の書〔Defensio pro Populo Anglicano〕」や「再び英国民のために弁明する書〔Defensio Secunda〕」などを書いた)
LONGANIMITY, n. 【忍耐】 復《ふく》讐《しゆう》の計画をねりあげる一方で、侮辱におとなしく耐える傾向。
LONGEVITY, n. 【長生き】 死の恐怖を異常に伸ばすこと。
LOOKING-GLASS, n. 【鏡】 人間の迷夢をさますための寸劇が行われるのを見せるガラス板。
昔満州国の王は魔法の鏡をもっていたが、それをのぞきこむ者はみなそこに自分自身の姿ではなく、きっと王の姿を見たのだった。そして久しく王の寵《ちよう》愛《あい》を受け、そのために王国の他の廷臣たちより富を蓄えたある廷臣が王に言った。「おお、宇宙の真昼の太陽である王よ! お願いですから、あなたの不思議な鏡を下さい。そうすれば私は尊い御前に出ないときでも、何者にもまさる神々しい光を放つ王の、温顔を拝する光栄をもち、朝夕御姿の前にひれ伏し、臣従の礼を取ることができましょう」
この言葉を聞き喜んだ王は、その廷臣の館に鏡を運ぶよう命じた。だが、後に予告せずに王が訪れてみると、例の鏡はがらくただらけの一部屋にほうり込まれており、鏡の面にはうすく埃《ほこり》がかかり、蜘《く》蛛《も》の巣がはっている有様だった。激怒した王は鏡をこぶしで粉《こな》微《み》塵《じん》に打ちくだいたが、その際ひどくけがをしてしまった。こうしたけがにいっそう立腹して王は、恩知らずの廷臣を投獄しろと命じる一方で、鏡を修理し、王宮に持ち帰れと命じた。そして命令通り行われた。だが王が再び鏡をのぞいてみると、そこには以前のように自分の姿がでなく、一方の後足に血のにじむ包帯をし、王冠をかむった驢《ろ》馬《ば》の姿が映っていた。――鏡職人やすでにその鏡を見たすべての者たちは、とっくにその事に気づいていたのだが、その事を報告するのを恐れたのだ。英知と慈愛とを教えられた王は例の廷臣を釈放し、鏡を王座の背にはめ込ませ、正義心と謙虚さをもって長い年月国を治めた。そして、ある日王は王座につき、眠っているうちに死んだが、その時宮廷中のものは王座の鏡に天使のひかり輝く姿を見たのだった。そしてその姿は今日も残っている。
LOQUACITY, n. 【多弁】 こちらが話したい時に、これに罹《かか》る相手の者が、自分の舌が制御できなくなってしまう病気。
LORE, n. 【伝承的知識】 学問――特に正規の教育課程から得られるものでなく、神秘的な書物を読むことで得られる、あるいは自然に得られる種類のもの。この後者は一般に民間伝承と称され、俗に「神話」や迷信を含んでいる。ベアリングゴウルド(イギリスの牧師、作家。1866-1924)の「中世の不思議な神話」(1866-68)で、読者は、こうしたものの多くが、さまざまな民族を通じて過去へとさかのぼるにつれ、次第に集中し、遠い古代のある共通した起源に向かうことに気づくだろう。こうしたものの中には、「巨人殺しテディ」「眠れるジョン・シャープ・ウイリアムズ」(アメリカの法律家、政治家。1854-1932)「赤頭巾ちゃんと砂糖トラスト」「美女とブリズベイン」(「美女と野獣」のもじり)「エペソの七人の市会議員」(「エペソの七人の眠れる人」のもじり)「リップ・ヴァン・フェアバンクス」などがある。「妖精の王」(ゲーテの有名なバラッド)という題名で、ゲーテが非常に感動的に描く神話は、ギリシアでは二千年前に、「市民と幼児期の産業」として知られていたのである。こうした神話のうちでもっとも一般的な古いものの一つは、「アリババと四十人のロックフェラー」というアラビア物語である。
LOSS, n. 【失うこと】 われわれが持っていたもの、あるいは持っていなかったものの喪失。それゆえ、後者の意味では、落選候補者については、彼は「選挙に破れた(lost his election)」と言ったり、またあの有名な人物、詩人ギルダーについては彼は「正気を失った(lost his mind)」などと言う。この単語は、次の有名な墓碑銘では、前者のもっと正当な意味で使われている。
ここにハンティングトンの亡《なき》骸《がら》は久しく横たわれり
彼を失いしこと われら自身の永遠の利益なり
彼あらゆる権力をふるいし時
彼の利益となりしもの われらの損失となりしなれば
LOVE, n. 【恋愛】 患者を結婚させるか、あるいはこの病気を招いた環境から引き移すことによって、治すことができる一時的精神異常。この病気は、カリエスその他多くの病気と同じように、人工的な生活環境のもとにある文明国民の間でのみ流行するもので、清らかな空気を吸い、自然食をとる未開民族は、こうした病気の猛威にはさらされずに済んでいる。この病気は時には命取りになるが、患者の場合よりも、医者の場合がそうしたことになり易《やす》い。
LOW-BRED, adj. 【育ちの悪い】 育てられる代りに「家畜のように取り上げた」。
LUMINARY, n. 【啓発者】 ある問題に光を投げかける人間。たとえば編集者のように。ただしその問題について書かなければ。
M
MACE, n. 【権標】 権威を意味する職杖。この杖の形、重い棍棒のそれは、異議を唱えたりすることを思いとどまらせる本来の目的と用途をほのめかす。
MACHINATION, n. 【陰謀】 こちらが正しい事をしようと正面からりっぱな努力をするのを、敵方が失敗に終わらせようとして採用する方法。
陰謀の利点はきわめて明白
それは道徳上の義務を作りだす
そして嫌悪感をもって この事を考える正直な狼《おおかみ》たちは
相手を欺くため羊の皮を必ずかぶりたくなるもの
それで今も外交術はとても盛ん
そしてサタン氏が胸に手をやりお辞儀する
R・S・K
MACROBIAN, n. 【マクロビアン(長寿者の意)】 神々から忘れられ、非常な高齢まで生きている人。メトセラ(九六九歳まで生きた大洪水前の族長)からオールド・パー(本名 Thomas Parr ロンドンで一六三五年死す。一五二歳だと言われている)まで、歴史には豊富な例がある。しかし、長寿に関する顕著な例でよく知られていないものが若干ある。一七五三年に生まれたコロニという名のカラブリアの百姓は、宇宙平和の夜明けの光を見たと思ったほどに長寿であった。スキャナヴィウスが語るところでは、非常な高齢のため、自分にも絞首刑に価しない一時期があるのを思い出せたある大司教を、彼は知っていたのである。一五六六年、イギリスのブリストルのある生地商人は五百年も生き、その生涯に一度も嘘をついたことがないと断言したのである。長寿(macrobiosis)の例はわが国にもある。チャーンスィ・ディピュー上院議員(法律家、議員、鉄道の社長、雄弁家。1834-1928)は、もっと思慮があってもよいお年である。ニューヨーク市の新聞「ジ・アメリカン」の編集者は、自分の悪党時代にまで記憶をさかのぼることができるが、その事実にはさかのぼれない。合衆国の大統領が生まれたのは非常に古い昔のことなので、彼の青年時代の友人の多くは、政治面や軍事面の非常な要職にまで出世しているが、個人的な功績の助けは借りなかったのである。次に挙げる詩は、あるマクロビアンによって書かれた。
私が若かったとき 世界は美しく
愛すべきもので 日当たりが良かった
大気はくまなく輝きに満ちあふれ
水という水は蜂蜜に満ちあふれていた
冗談は好ましく 楽しかった
政治家たちは自らの見解に正直だったし
その生活も同様だった
そうして一片のニュースを聞いた場合
それには語るに価する真実があった
男たちは大言壮語したり 大声で叫んだり
悪臭を放つこともなかったし 女たちも〓“おおむね〓”そうだった
その頃夏は本当に長かった
まるまる一シーズン続いたのだ!
きらめく冬は耳を貸さなかった
不合理が早生のエンドウをつけるように命じても
ところで 終わり近いまえに
始まるにすぎないものを
一年と呼んだところで
一体何の意味があるのか?
私が若かった頃 年は終わるまで
毎月毎月つづいた
私は知らないのだ
なぜこの世界が暗い寒々としたものに
変わってしまったのかを
そして今すべてのものは
仲間をうんざりさせるように手配されている
気象台員が――おそらく これと大いに
関係があるのだろう
確かに空気は同じでないのだから
汚れていれば 息がつまるし
澄んでいればいるで 君を不満にする
窓々が締め切ってあれば 君は喘《ぜん》息《そく》となり
開いていれば 神経痛 つまりは坐骨神経痛だ
そこで思うのだ 灰褐色の退廃的な
この制度は
十分観察することで 多分見えると思える以上に
現に有害なものに見えるが
その償いに
人間の目には見破れなかった
巧妙にも不幸の姿をした幸福を実は宿しているのだと
だが天使たちの目には
その変装の奥にある本当の姿が
手に取るごとく見える
もし老齢というものが このような愉快な
良き土地であるなら!
彼はある支配者の手で装われているのだ!
ヴェナブル・ストリッグ
MAD, adj. 【狂気の】 高度に知的独立という病気に冒された。順応主義者が自分自身を研究することによって導き出した思想、言語、行動の基準に一致しない。大多数の者と反目する。つまり、異常な。ある人々を気違いだと宣告するのが、自分自身正気である証拠が何一つない役人たちであるということは、注目に価する。たとえば、このように言っている本辞典の(有名な)編集者は、この国の精神病院の入院患者と同様、自分が正気であるという固い信念を持っている。しかしながら、自分では高尚な仕事を全力を尽くしてやっているつもりでも、実際は精神病院の鉄窓を両手でたたきつづけつつ、おれはノア・ウェブスター(有名な辞書編集者、著述家。1758-1843)だとわめきたて、多くの思慮のない見物人たちを無邪気に喜ばせているのかもしれない。
MAGIC, n. 【魔法】 迷信を金銭に変える術。この同じ気高い目的にかなう術が他にもいくつかある。だがこの分別をわきまえた辞典編集者は、それらの術が何であるか言わないことにする。
MAGNET, n. 【磁石】 磁力の影響を受けるもの。
MAGNETISM, n. 【磁力】 磁石に影響を与えるもの。
前述したばかりのこの二つの定義は千人ものすぐれた科学者の仕事からの要約である。彼らは、偉大な白色の光をもって、この問題を明らかにし、言語を絶するほどに人間の知識を進歩させたのである。
MAGNITUDE, n. 【大きさ】 寸法。大きさというものは純粋に相関的なものであるから、何一つ大きなものもなければ、何一つ小さなものもないわけである。もし仮にこの宇宙のすべての物が千倍もの大きさに拡大されたとすれば、何一つとして、それが以前あったより大きくなったものはない。だがもし一つの物だけ変わらずにあったものがあれば、その他の物は、それが元あったよりも大きくなったことになろう。大きさと距離との関係をよく理解すれば、天文学者の宇宙と大きさは、顕微鏡使用者のそれらと同様感動を与えるものではないであろう。おそらく、その目に見える宇宙というものは原子の小部分で、その構成要素であるイオンと共に、ある動物の生命《 ライフ・》流動体《フ ル イ ド》(発光性のエーテル)のなかに浮かんでいるのかもしれない。もしかしたら、われわれ自身の血液の多くのリンパ球に住んでいる微生物たちも、その自分のいる世界から別の世界までの想像を絶する距離を思うとき、それ相応の感動に打たれるのであろう。
MAGPIE, n. 【カササギ】 その盗み癖を見ると、ひどい目に会わせてやればしゃべるんじゃないかと、ある人には思わせる鳥。
MAIDEN, n. 【処女】 人をかっとさせ、罪を犯させかねないつかみ所のない行為や見解におぼれこんでいる若い女ならぬ女である。この種族は、地理的に広く分布し、探し求めれば必ず見つかるし、見つければ見つけるで、必ず悔やまれる。処女は必ずしも見た目に不快なものではないし、また(付き物のピアノとそのお説を拝聴することさえなければ)必ずしも耳に耐えられないことはない。しかし容姿のよさという点では、明らかに虹に劣り、耳に聞こえる部分に関しては、カナリヤにすっかり叩き出された形である。――それに持ち運びの点からもカナリヤに劣る。
恋に悩む少女はひとり坐して歌った――
こんな奇妙な甘い歌を少女は歌った
「それはフットボールの力でたまらない気分にさせる
見てほれぼれするような筋肉の若者のためのO《オウ》よ!
チームのキャプテンとなるべき
あの人のための!
競技場(gridiron には焼き網の意もある)で、あの人はいつかぴかぴか光るの《シ ヤ イ ン》、
神聖な権利による王者、
でも 決してその上で焦が《ロースト》さないで――あたしを!
ホウポリン・ジョウンズ
MALE, n. 【男性】 無視された、あるいは取るに足らぬ性の一構成員。人類の男性は、(女性には)「単なる人間」として一般に知られている。この種族には、家族に豊かな生活を保証する者と不自由な生活を保証する者との二種類ある。
MALEFACTOR, n. 【悪人】 人類の進歩にもっとも重要な要素。
MALTHUSIAN, adj. 【マルサス主義の】 マルサス(イギリスの経済学者。「人口論」を発表。1766-1834)とその学説に関係のある。マルサスは、人為的に人口を制限することが意義あると信じたが、それはおしゃべりによっては実行できないことを発見した。マルサスの思想をもっとも実践した代表的人物の一人は、ユダヤのヘロデ大王であった。しかしあらゆる有名な軍人たちは同様な考え方をしてきたのではあるが。
MAMMALIA, n. pl. 【哺乳類】 脊《せき》椎《つい》動物の一種で、自然状態におけるその雌は子供に乳をやるが、文明化し、進歩すると、子供を乳《う》母《ば》に押しつけるか、哺乳瓶を使うかする。
MAMMON, n. 【拝金】 世界第一の宗教の神。その第一の神殿は聖都ニューヨーク。
「彼は他の宗教はすべて嘘八百なりと断じ
マモンにひたすらぬかずいた」
ジャレッド・オウプフ
MAN, n. 【人間】 これが自分の姿だと思う姿に、ひとり恍《こう》惚《こつ》として思いふけり、当然あるべき自分の姿を見落とす動物。その主要な仕事は、他の動物たちと、自分の属する種族を絶滅することである。しかし、人間は注目に価する早さで増加し、地球の住める所ならどこでも、カナダにまで、はびこる始末である。
世界がまだ若く 人間が生まれたばかりで
あらゆるものが快かったころ
自然は決して何の区別も立てなかった
王様や僧侶や百姓の間に
だが今われわれはそうじゃない
ここ この共和国は別だが ここでは
あの古い制度がある
あらゆる者は王様だから どんなに
身にまとうものがなかろうと どんなに
ひもじかろうとも そして 実際 だれも投票権を持っている
自分の党派の選んだ圧政者を受け入れるため
投票しようとしなかったため そのために
ひどく嫌われた一人の市民
ある日 タールを塗った上着を
(背中と胸に羽根飾りのさ)
着せられたのだ 愛国者たちに
「投票するのがまさに君の義務だ」
「君の選びたい人物に」と群衆は叫んだ
すると彼は謙虚に頭をさげて
自分の誤った過去を説明した
「それこそ わたしが何よりも進んでしたかったこと
親愛なる愛国者諸君 でも選んだ人物が決して立候補しないのさ」
アパートン・デューク
MANES, n. 【死者の霊】 ギリシア人とローマ人の死者の不滅の部分。この不滅の部分はそれを吐き出した肉体が火葬にふされるまでは退屈で不快な状態にあった。だがその後だってさして幸福になったとは思われない。
MANNA, n. 【マナ( 出エジプト記。第十六章第十四―三六節)】 荒野においてイスラエル人に奇跡的に与えられた食物。彼らはもうこれ以上もらえないとなると、定住して土地を耕したが、通例原住民の死体でその土地を肥《ひ》沃《よく》にした。
MARRIAGE, n. 【結婚】 主人一人、主婦一人それに奴隷二人から成るが総計では二人になってしまう共同生活体の状態または情況。
MARTYR, n. 【殉教者】 己れの熱望する死へと最小抵抗線に沿って移行する者。
MATERIAL, adj. 【実体のある】 実在しないものとは区別され、現実に存在している。重要な。
物質についてはわたしは知ることも、触れることも、見ることもできる。
だが、その他のものはわたしにとって実体のない、つまらぬものだ。
ジャムラック・ホロボム
MAUSOLEUM, n. 【霊廟】 金持ちの最後にして滑稽至極なばかでっかい建築物。
MAYONNAISE, n. 【マヨネーズ】 フランス人に国教の代わりとして役立つソースのうちの一種類。
MEDAL, n. 【メダル】 多少は信頼できる徳行とか学識とか功績に対するほうびとして与えられる小さな円い金属。
ビスマルクは勇敢にもおぼれる人を救出してメダルを与えられたが、そのメダルを与えられた理由を問われて、「わたしは命を時には救うので」と答えたという話だ。とすれば時には救わなかったということだ。
MEERSCHAUM, n. 【海泡石】 (文字どおり、海の泡《シイーフオーム》、そして多数の人々がそうした泡からできるという誤った考えをもっている)美しい白色の粘土で、それを茶色に着色するさい便宜上タバコのパイプに作られ、その産業に従事する労働者によってパイプ煙草《たばこ》が吸われる。それを着色する目的は製造業者によって明らかにされていない。
昔一人の若者がいた(この哀れな話を多分以前聞いたことがあるだろう)
彼は海泡石のパイプを買うと
それを着色してみせると誓ったのだ!
彼は俗世間から独り閉じこもってしまった
彼は誰にも会わなかったのだ
夜となく 昼となく煙草を吸って吸って
吸いまくった
彼の犬は嘆き悲しみながら死んだ
無情に吹く風の怒りのなかで
砂利を敷いた歩道には雑草が生え
フクロウは屋根の上だった
「彼は遠くへ行ってしまった もう帰ってはこない」
と近所の人は悲しげにいった
それから彼の家のドアをたたきこわして
家財を奪い去ったのだ
死んでいた パイプを口に 若者は
顔も手足もクリ色だった
「あのパイプは美しい白さだ」と人々はいう
「だがパイプがこの若者を色づけしたんだ!」
教訓を歌にする必要はほとんどない――
諸君には明々白々だ つまり
ばくち打ちのような奴の
得するようなことはするな
マーチン・ブルストロウド
MENDACIOUS, adj. 【人を欺く】 修辞学に凝る。
MERCHANT, n. 【商人】 商業に従事する者。商業とは、追求される物がドルであるもの。
MERCY, n. 【慈悲】 見つけられた犯人に愛される特質。
METROPOLIS, n. 【首都】 いなか根性の砦《とりで》。
MILLENNIUM, n. 【至福千年(キリストが再臨して地上を統治する期間。黙示録第二〇章第一―五節)】 改良家という改良家を裏側につけたまま、蓋がねじで締められることになる一千年の期間のこと。
MIND, n. 【心・精神】 脳によって隠された不思議な物質の一種。その主要な活動はそれ自身の本質をつきとめようとする努力のうちにあり、そのような企ては、心がそれ自身を知ろうとするに、それ自身しかないという事実のため、無益なものとなる。ラテン語の「心(mens)」から、この言葉を正直な靴屋は知らなかったのだが、彼は道の向かいの学問のある同業の競争相手が「内に顧みてやましからぬ心(Mens conscia recti)」という標語を出したのを見てとると、自分の店先を「殿方の、ご婦人方のそしてお子さん方の内に顧みてやましからぬ(men's women's and children's conscia recti)」という文句で麗々しく飾り立てたのである。
MINE, adj. 【わたしの】 つかんでいられるならば、私のものになっている。
MINISTER, n. 【大臣・公使】 かなり大きな権限をもっているが、責任が比較的軽い代行者。外交においては、自分の国の主権者のもつ敵意の目に見える形を与えられた者として、外国に派遣される役人。その重要な資格は、大使のそれに次ぐ程度のまことしやかな不誠実さを有することである。
MINOR, adj. 【劣った】 それほど気にさわらぬ。
MINSTREL, adj.(n.の間違い)【吟遊詩人・黒人楽団員】 昔は、詩人とか歌手とか音楽家。今では、血の通う人間が耐えうる限度をこえたユーモアしかない、ほんの皮一重の色の違いさえあやしい黒ん坊。
MIRACLE, n. 【奇跡】 自然界の理法にもとる説明しがたい行為とか出来事で、例えばキング四枚にエース一枚の普通の手を、エース四枚キング一枚でやっつけること。
MISCREANT, n. 【悪漢・異端者・外《げ》道《どう》】 屁《へ》をひっかける価値もない人間。語源的にはこの単語は信じない人間を意味するが、われわれの言語の発展のために神学がもっとも崇高な貢献をなしたところに、その現代的意義をみとめてよいだろう
MISDEMEANOR, n. 【軽犯罪】 重罪ほど貫禄がなく、最高の犯罪社会への入場許可を要求する資格のない法律違反。
軽犯罪によって奴は試みたのだ
犯罪の上流社会へと登ることを
おお 奴は呪われてあれ!――冷たい威張った態度で
「大企業主たち」はそれに手を貸しはしなかった
「財界の大立て者たち」は奴を認めなかった
その上「鉄道王たち」は奴の地位の低いのを嘲った
奴は尊敬されようと銀行強盗をやった
でもだ 彼らときたら奴を突っぱねた
奴が見つけられたからな
S・V・ハンプール
MISERICORDE, n. 【とどめの短剣】 中世の戦争において、落馬した騎士に己れが不死身でないことを思い知らせるため歩兵によって用いられた短剣。
MISFORTUNE, n. 【不運】 決して取り逃がすことのない種類の運。
MISS, n. 【ミス】 未婚の女性に、目下売出し中の烙《らく》印《いん》を押す、肩書き。ミス、ミセス(Mrs.)、ミスター(Mr.)というのは、音声の点でも、意味の点でも、この上なく不快な三つの単語である。初めの二つはミストレス(Mistress)の、最後のはマスタ(Master)のなまったものである。わが国では、社交上の肩書きが一般的には廃止されたのに、この三つは不思議と生き残り、われわれを悩ましている。もしこうした肩書きを持たねばならないのなら、徹底することにし、未婚の男性にも一つ奉ることにしよう。わたしは Mh. と省略できるマッシュ(Mush)という肩書きをあえて提案することにする。
MOLECULE, n. 【分子】 これ以上分析できない、究極的な物質の単位。これは、同様に分割できない、究極的な物質の単位である原子に一層よく似ていることによって、同じようにこれ以上分析できない、物質の究極の単位である微粒子と区別される。宇宙の構造についての三つの偉大な科学理論は、分子論と微粒子論と原子論である。第四の理論は、ヘッケル(ドイツの動物学者、進化論の普及に尽力、唯物論的一元論を唱導。1834-1919)によれば、エーテルからの物質の凝縮、あるいは沈殿を肯定するのである。――そしてエーテルの存在は、凝縮または沈殿によって証明されるのである。科学思想の現代的傾向はイオンの理論の方向にある。イオンは、それがイオンであるという点で分子、微粒子、原子と異なる。第五の理論は馬鹿者どもに支持されているが、彼らがこの物質につき他の連中以上に知っているかどうか疑問である。
MONAD, n. 【単子】 究極的な分割できない物質の単位。(MOLECULE〔分子〕を見よ)ライプニッツによれば、多分、一番彼はこのように理解されたいと望んでいると思うが、単子は大きさのない肉体と、表しえない精神とを持つ。――ライプニッツはこの者を生《しよう》得《とく》の思考力によって知るのである。彼はこの者(単子)に基づいて宇宙理論を樹立したのであるが、この単子は紳士であるから、それに腹を立てず耐えている。この単子氏は小柄ではあるが、進化して、ある第一級のドイツの哲学者――全く有能にして小さな人間――となるに必要なあらゆる能力と可能性とをうちに秘めている。彼は微生物あるいはバチルスと混同されてはならない。すぐれた顕微鏡でも見つけることが不可能であることから、彼は異なった種のものであると証明されるのである。
MONARCH, n. 【君主】 統治にたずさわっている人物。この単語の起源が証明するように、また多くの臣下が学ぶ機会を持ったように、昔は君主は支配を行った。ロシアと東洋では、君主は公務と人間の首の処分については今もなおかなりの力を持っている。だが西ヨーロッパでは、国政は主としてその大臣たちに委託され、君主は自分自身の首の状態に関してあれこれ頭をはたらかすことに、多少とも夢中になる傾向がある。
MONDAY, n. 【月曜日】 キリスト教国においては野球試合の次にくる日。
MONEY, n. 【お金】 手放すとき以外何の役にも立たぬ恩恵物。教養の証拠であり、上流社会への入場券。支持できる財産。
MONKEY, n. 【猿】 系統図中では気楽に樹上生活する動物。
MONUMENT, n. 【記念碑】 記念する必要もなければ、また記念されるはずもない物を記念する意図をもつ建造物。
アガメムノン(ギリシア神話のミケーネの王)の遺骸は見せ物なり
そうしてその王者にふさわしき記念碑は破壊されたるなり
しかし、アガメムノンの名声はそのため衰えはしないのだ。「無名の死者に対する記念碑――すなわち何一つ記憶すべきものを残さなかった者たちの〓“名声〓” を不朽にするための記念碑を建てる習慣は 行 き 過 ぎ で あ る《リダクシヨネス・アド・アブスルドム》。
MORAL, adj. 【道徳的な】 偏狭で、変わりやすい事のよしあしの基準に従う。一般的な便法でゆくという性質を備えている。
人の話では、東部には山脈があり、その山の片側では、ある行為は不道徳とされながら、その反対側では、その同じ行為が大いに重んじられるという。それゆえ登山する者は、どちら側にでも降りて、何の罪を犯すことなく、自分の流儀に従って行動することが許されていたから、大いに助かったという話だ。
――グックの瞑想録
MORE, adj. 【もっと多い・余分の】 あまりひどすぎるの比較級。
MOUSE, n. 【ハツカネズミ】 その通る道に卒倒する婦人たちをまき散らす動物。例えばローマでは、キリスト教徒たちがライオンたちの前に投げ出されたように、何世紀も前に、世界中でもっとも古く、有名な都市、オツムウィーでは、異教徒の女たちはハツカネズミの前に投げ出された。歴史家ジャカクゾトプ(その著述がわれわれに伝えられている唯一のオツムウィー人だが)はこうした殉教者たちが人間的権威をまるで喪失し、あがき回って死んだと語っている。彼はハツカネズミたちの無罪を証明しようとして、(偏狭な悪意とはこんなものだが)その不幸な女たちは、ある者は極度の疲労が原因で、ある者は足がもつれて転び、首の骨を折ったのが原因で、ある者は気付け薬がないのが原因で、死んだのであると断言している。彼は断言しているが、ハツカネズミたちは、あわてずにその狩りでいろいろ楽しい思いをしたのだ。だが、もし「ローマ史が十のうち九つまで嘘で塗りかためたものである」なら、われわれは美しい女にこれほど信じ難い残忍ぶりを発揮できる民族の歴史の中ではこの十のうち九という誇張した数字の比率を下げることをほとんど期待することはできない。なぜなら、無情な心はいつわりの舌を持っているから。
MOUTH, n. 【口】 男では魂へ至る道だが、女では心のはけ口。
MUGWUMP, n. 【自主的政治家】 政治において、自尊心にさいなまれ自立の悪癖にふける輩。侮蔑的用語。
MULATTO, n. 【白人と黒人の混血児】 二つの人種の血をうけ、そのいずれの人種をも恥としている子供。
MULTITUDE, n. 【群衆】 大勢の人。政治における英知と美徳の根源。共和国では、政治家の崇拝の的。「助言者が多ければ、安全である。(箴言第十一章第十四節)」と格言にある。各自の英知が同じである人々の集団が、その集団のどの人間よりも賢明であるとすれば、単に人々を一緒にするだけで、人々はあり余る英知を得られることになる。そうしたものはどこからやって来るのか? 明らかにどこからもやって来はしない――ある山脈がそれを構成する単独の山より高いというようなものだ。群衆は、その中でもっとも賢明な人間に従う場合には、その人間と同程度に賢いということになる。だが、そうでなくなれば、その中のもっとも愚かな奴と何ら変わりないのだ。
MUMMY, n. 【ミイラ】 かつては、近代の文明諸国民のあいだで薬として広範囲に利用されたが、現在では、美術にすぐれた絵の具を供給することに従事している、古代のエジプト人。また、ミイラは博物館においては、人間を他の下等動物と区別するのに役立つ低級な好奇心を満足させるので、調法である。
ミイラによりて 人類は
神々に 死者への敬意を証明すると言われる
われらは 死者が罪人であれ 聖人であれ
手当たり次第その墓より略奪し
薬を得んとて ミイラを蒸溜し 絵の具を得んとて
碾《ひ》き 金を得んとて その哀れな萎《しな》びたる体をば公開す
そしてはしたなくも その恥辱の場所へと集《つど》いゆく
おお われに語り給え 汝ら神々よ
わが詩才のために
死者を重んずる時の限界はいつか?
スコウパス・ブルーン
MUSTANG, n. 【小型の野生馬】 西部の平原にいる言うことをきかぬ馬のこと。イギリスの社会においては、あるイギリス人の貴族のアメリカ人の妻。
MYRMIDON, n. 【ミュルミドン(アキレスに従ってトロイ戦争に参加した勇武で、野蛮なテッサリア人)】 アキレスに従う者――彼が先に立って行かない時、特にそうであった。
MYTHOLOGY, n. 【神話】 未開人が、自分たちの起源、初期の歴史、英雄たち、神々などに関して持っている信仰のすべてで、のちに彼らが作り上げる真実の話とは区別される。
N
NECTAR, n. 【神々の飲む酒】 オリンパスの神々の饗《きよう》宴《えん》で出された酒。調合の秘訣は今日に伝わってはいないが、現代のケンタッキー人どもは、その主成分に関して、かなり正確な知識があると自負している。
ジュノー(〔ローマ神話〕ジュピターの妻、ギリシア神話のヘラにあたる) あおりたり ネクターを
されど効《き》かざり 彼女には
ジュノー あおりたり ライ・ウイスキーをば――
されば おいとまします とさ
G・J
NEGRO, n. 【黒人】 アメリカの政治問題の 主 要 人 物《 ピエス・ド・レジスタンス》(食べると腹にこたえるもの、が原義)。共和党の連中は黒人を、アルファベットのnで表わし、次のように等式を立て始めている。「Let n=the white man(nを白人に等しいと仮定せよ)」しかしながら、納得のいく解答が得られる模様はない。
NEIGHBOR, n. 【隣人】 わが身と同じように愛するよう命じられているのだが、その命に逆らわせようとわれわれに対して万策を尽くす人間。(マタイによる福音書第十九章第十九節に「父と母とを敬え」また「自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ」とある)
NEPOTISM, n. 【縁故採用】 自党の利益のために、自分の祖母を役人に任命すること。
NEWTONIAN, adj. 【ニュートン学説の】 その理由は言えなかったのだが、林《りん》檎《ご》が地面に落ちるのを発見したニュートン創案になる宇宙理論に関係のある。彼の後継者ならびに弟子たちが、林檎が落ちる時期を言えるまでその理論を押し進めてきている。
NIHILIST, n. 【虚無主義者】 トルストイ以外のすべての存在を否定するロシア人。当学派の指導者はトルストイ。
NIRVANA, n. 【涅《ね》槃《はん》】 仏教で、賢者たち、それもこの状態を十二分に理解しうる賢者たちに特に授けられる悦楽の自己滅却状態。
NOBLEMAN, n. 【貴族】 社交界の名声をしょい込み、かつ贅《ぜい》沢《たく》三《ざん》昧《まい》の生活をも苦しみたいという色気満々の金持ちのアメリカ娘たちに対する、自然の女神の賜り物。
NOISE, n. 【騒音】 耳の中に匂ってくる悪臭。人間に馴《な》染《じ》みのない音楽。文明の主産物、かつ文明の確証。
NOMINATE, v. 【(大統領に)指名する】 政治的最高課税額にふさわしき者を指名する。野党の罵《ば》詈《り》雑《ぞう》言《ごん》の矢表に立たせるために、適当な人間を推挙する。
NOMINEE, n. 【(大統領に)指名された人】 他に抜きん出た私生活から身を引き、名誉ある公職の中に埋もれてしまうことを飽くことなく求める慎み深い人。
NON-COMBATANT, n. 【非戦闘員】 死せるクエーカー教徒。(クエーカー教は、一六五〇年にジョージ・フォックスが創始したキリスト教新教の一派で、戦争に強く反対し、絶対平和主義を唱える)
NONSENSE, n. 【たわごと】 比べるものとてないりっぱなこの辞典にたいして浴びせる数数の異議。
NOSE, n. 【鼻】 顔の最前哨点。偉大な征服者はみな偉大な鼻の所有者であるという観点から、ユーモア時代以前に作品をものしたゲティアスは鼻を制圧の器官と呼んでいる。他人事に突っ込んだ鼻ほど幸福なものはないということは周知の事実なので、鼻は嗅覚を欠いていると断定を下している生理学者も何人かはいる。
顔じゅう鼻の男あり
行くさきざきで人はみな
この男から逃げ叫ぶ
「あんなどでかい鼻かめば
もしそうならば俺《おれ》たちの
耳栓綿がありゃしない!」
そこで弁護士法廷に 禁止命令を頼みでた
「却下する」と裁判官
「たとえ何がおころうと
被告の顔の鼻《つきもの》は
法廷の権限外に
出てるから」だったとさ
アーパッド・シンギニー
NOTORIETY, n. 【悪名】 社会的名声を求める自分の競争相手に下される評判。通俗にもっとも近づきやすく、またもっとも受け入れられやすい種類の名声。天使たちが昇降する寄《よ》席《せ》演芸の舞台に通ずるヤコブの梯《はし》子《ご》。(ヤコブが夢にみた地上から天までとどく梯子のことで、創世記第二十八章第十二節に「時に彼は夢をみた。一つの梯子が地の上に立っていて、その頂は天に達し、神の使たちがそれを上り下りしているのを見た」とある)
NOUMENON, n. 【本体】 実在するもの。これはただ単に存在するように見えるものとは異なっている――後者は現象なのだ。本体のありかをつきとめるのには若干困難をともなう。すなわち、それは推理の過程――実はこれが現象なのだが――によってのみ会《え》得《とく》が可能である。にもかかわらず、本体の発見と説明はルイス(ジョージ・ヘンリー・ルイス。イギリスの哲学的著述家。1817-78)言うところの「哲学的思考の無限の変化と興奮」に豊富な場を提供する。(そういう次第で)本体万歳!
NOVEL, n. 【小説】 引き伸ばされた短編小説。パノラマと芸術の関係と同様に、文学との関係を持つ作文の見本。一息に読むには長すぎて、各部の印象が各部ごとに消えていくのはパノラマと同じ。統一、つまり完璧な効果は望むべくもない。なぜなら、読んだばかりの数ページを除いて、心に残るものといえば、それまでの単なるあら筋にしかすぎないのだから。ロマンスと小説の関係は絵画と写真の関係に等しい。小説の顕著な原理であるもっともらしさは、写真の文字通りの真実性に通ずるものがあるので、小説が報道の一部に入ることは明らかである。一方、ロマンス作者の自由な翼は、その能力にふさわしい想像の高みに彼を上昇させることができる。しかも文学という芸術の最初の重要事項といえば、想像力、想像力、そして想像力の三つなのである。そんなわけなので、小説を書くという技術は、その技術が生まれたばかりのロシアを除いては、いたる所で死に絶えて久しい。その亡《なき》骸《がら》に平和あれ――もっとも、その中にはよく売れているのもあることはあるのだが。
NOVEMBER, n. 【十一月】 十二分の一の倦怠の十一番目。
O
OATH, n. 【宣誓】 法律では、偽証罪という刑罰があるため、良心に対して拘束力をもつ神に対する厳《おごそ》かな誓い。
OBLIVION, n. 【忘却】 邪《よこ》悪《しま》な人間が悪あがきをやめ、鬱《うつ》々《うつ》とした人間が安息をとるような状態とか条件。名声の永遠のはきだめ。高《こう》邁《まい》な希望の冷蔵庫。野心満々の作家が自尊心を捨てて自分たちの作品を取り扱い、嫉妬心を抱かず自分たちより秀れた作家を認める場所。目覚まし時計が一つもない寄宿舎。(ヨブ記第三章第十七節に「かしこでは悪人も、あばれることをやめ、うみ疲れた者も、休みを得」とある)
OBSERVATORY, n. 【天文台】 天文学者たちが自分たちの先輩の当てずっぽうを、ああだろうか、こうだろうかと推測する場所。
OBSESSED, pp. 【憑《つ》かれた】 ガダラの豚(イエスがお許しになったので、けがれた霊どもは出て行って、豚の中へはいり込んだ。すると、その群れは二千匹ばかりであったが、がけから海へなだれを打って駆け下り、海の中でおぼれ死んでしまった。――マルコによる福音書第五章第十三節)とか、他の批評家のように悪霊に悩まされる。魔物にとり憑かれる、ということは、昔は、現在よりも一般的であった。アラタス(ギリシアの詩人。B. C. 315-245)の語るところによると、曜日ごとにちがった悪魔に、そして日曜日には二人の悪魔にとり憑かれた百姓がいたとのことだ。とり憑いた悪魔は、いつも百姓の影の中を歩いていたので、しょっちゅう見えたそうだが、結局は村の公証人である聖者に追い払われてしまった。ところが悪魔どもめ、その百姓も一緒に連れていってしまったのだ。というのはその百姓は完全に姿を消したからだった。リームズ(フランス北東部の都市。大聖堂で有名)の大司教がある女性から追い払った悪魔は、何百という群衆に追われ、町なかを走り抜け、原野まで来ると教会の尖塔より高くひと跳びして、鳥の姿となって逃げてしまった。クロムウェル(オリバー。イギリスの清教徒、軍人。1599-1658)の軍隊の従軍牧師は、兵隊にとり憑いた悪魔を払いのけるためその兵隊を河へ放り込んだ。すると水面に悪魔は浮かび上がった。その兵隊は、気の毒にも、沈んだままだった。
OBSOLETE, adj. 【廃用になった】 臆病者がもはや用いない。主として単語について言われる。辞書編纂者の誰かがひとたび廃語と記した語は、それ以後は愚《ぐ》昧《まい》な作家にとっては恐怖と憎悪の的となるが、もしそれが立派な語で、現代語に同様の立派な同意語がないとすれば、秀れた作家にとっては、その語はこの上なく立派と言える。実際のところ「廃語」に対する作家の態度こそ、作品の性格を別にすれば、その作家の文才を測るこの上ない尺度である。廃語および準廃語の辞書があるとすれば、それにはただ単に、力強い甘美な語が異常なほどたくさんあるばかりでなく、それは、たまたま自身は必ずしも有能な読者ではないかもしれないが、有能な作家の語《ご》彙《い》をうんと増しもするだろう。
OBSTINATE, adj. 【頑固な】 われわれが堂々として力強く唱道したためわれわれの自己弁護で明白になっている、真実から遠くかけはなれた。
頑固さでよく知られている代表的な見本は、きわめて知的な動物、ラバである。(ラバは民主党のシンボル・マーク)
OCCASIONAL, adj. 【時々の】 頻度に多少の差こそあるが、折にふれてわれわれを苦しめる。しかし、そうはいっても、記念日、祝典、あるいはその他の祝いのような「行事」のために書かれる詩である、「特殊な場合の詩《オケイジヨナル・ヴアース》」といった表現に用いられるような特別な場合の、という意味は持たない。全くのところ、そういった詩は、他の種類の詩よりも少しばかりわれわれを苦しめこそするが、そういった詩につける名前は、不規則な反復とは関係がないのだ。
OCCIDENT, n. 【西洋】 東洋の西(または東)に存在する世界の一部。広範囲にわたって、強力な偽善者である下等人種のキリスト教徒が住む。彼らの主要産業は殺人と詐欺である。連中は前者を「戦争」、後者を「商売」と称するのを好む。もっとも、この二つは東洋の主要産業でもありはするのだが。
OCEAN, n. 【大洋】 人間――えらを一つも持ち合わせていない――のためにつくられた地球のおよそ三分の二を占める水のかたまり。
OFFENSIVE, adj. 【攻撃的な・不愉快な】 軍隊が敵を攻撃する時のように、不快な感情とか、興奮を生ぜしめる。
「敵の作戦は攻撃的《オフエンシブ》だったのか」王はたずねた。「どうも不愉快《オフエンシブ》なことで!」戦いに敗れた将軍が答えた。「敵陣からは、あの悪党めがどうしても出て来なかったもので」
OLD, adj. 【年輪を経た】 「老人」のごとく、一般的な無力さと矛盾することはないあの段階の有用性をそなえた、「古い」書物のごとく、時の経過では信頼がおけず、流行の趣味にとっては不愉快千万な。
「古書だって? 悪魔にくれちまうがいい」ゴゥバイが言った。
「日《ひ》々《び》是《これ》新《あらた》こそがわが書物とパンには必要だ」
神様だってゴゥバイの規則《ルール》をお認めで
四六時ちゅう新しい馬鹿《フール》をおつくりだ
ハーレィ・シャム
OLEAGINOUS, adj. 【油質の・口先のうまい】 油性の、つるつるした、なめらかな。
ディスレリー(イギリスの政治家、小説家。首相に二回なる。1804-81)は、かつてウィルバーフォース大僧正(イギリスの政治家、慈善家、奴隷廃止論者。1759-1883)の態度を、「油のようにまことしやかで、油を含んでいるように口先がうまくて、石鹸質のようにお世辞がうまい」と評したことがあった。それ以後、このりっぱな僧正は石《ソー》鹸《ピー》サムとして知られるに至った。人間が用いる語彙の中にはどの人間にとっても第二の皮膚のようにぴったりとした言葉があるのだ。敵《かたき》は、その言葉を見つけさえすればよいのだ。
OLYMPIAN, adj. 【オリンパス山の】 昔は神々が住み、今は黄色く変色した新聞紙、ビールの空びん、イワシの缶詰の空きかんの山が、旅行者の存在とその食欲とを実証しているテッサリヤの山に関係のある。
うすら笑み浮かべ 旅人おのが名を書く
ミネルヴァの寺院の壁
そこはオリンピアのゼウスかつて雷を落とせしところに
暴食のしるしを残す
(ミネルヴァはローマ神話の工芸、芸術、戦術、知恵の女神。ゼウスはギリシア神話のオリンパス山の神々の主神)
アヴェリル・ジュープ
OMEN, n. 【前兆】 何も起こらないとすれば、何かが起こるだろうというしるし。
ONCE, adv. 【一度】 じゅうぶん。
OPERA, n. 【歌劇】 別世界の生活を見せる芝居。この世界の住民は、歌以外の言葉、身ぶり以外の動作、構え以外の姿勢といったものは何ひとつとして持っていない。演技はすべて模 擬《シミユレーシヨン》であり、このシミュレーションという語は、サルの意のラテン語のシミアに由来している。しかし歌劇においては、俳優は吠《ほ》えるサルという意味の 怒 号 猿《シミア・オーデイビリス》(または 大 声 猿 人《ピテカントロプス・ステントール》)をその手本としている。
少なくも形《シエイプ》の上で――芝居の俳優は人間のサ《エ》ル真《イ》似《プ》をする
歌劇《オペラ》の出演者 サル《エイプ》のサ《エ》ル真《イ》似《プ》をする
OPIATE, n. 【阿片】 自己意識という世界に閉じこもってしまう獄舎の錠のかかっていない扉。この扉は獄舎の中庭、つまり処刑場に通じている。
OPPORTUNITY, n. 【機会】 失意をがっちりつかまえるのに都合のよい時。
OPPOSE, v. 【反対する】 邪魔したり異議を唱えたりして助ける。
厳かなるべき女《セツ》性《クス》をたわむれに
悩まさんとたくらむ男の孤独なること!
凡人よ 軽率さを心せよ
真《しん》摯《し》な者のみが醜《しこ》女《め》をめとる資格あり(「勇者のみが美女をめとる資格あり」をもじったもの)
パーシィ・P・オーマインダー
OPPOSITION, n. 【野党】 政治において、政府与党を不具にしてしまって、乱暴狼藉の限りを尽くさせぬようにする政党。
政治学研究のため留学の経験のあるガーガルーの王が、租税徴収の法案作成のため、人民のうちでもっとも肥った者百名を議員に任命した。このうち四十名を、王は野党議員とし、首相に命じて、王のあらゆる議案に対して反対する義務を慎重に彼らに教え込ませた。それにもかかわらず、最初に提出された議案は満場一致で可決されてしまった。ことのほか不興の王は議決を拒否し、野党各員に、もしふたたび同様の事態が生じた場合には、その頑《かたく》なさに対して、首をはねるむねを伝えた。ところが、どうだろう、その四十名、たちどころに割腹して果ててしまった。
「どうすればよいのだ」王は尋ねた。「野党なしでは自由主義の政治は維持できぬぞ」
「この世に卓越する王さま」首相は答えた。「なるほど、こいつら無知の輩《やから》どもはもはや信任状こそ持っておりませんが、何もかもがなくなっているわけではございません。ここはひとつこの老いぼれめにおまかせいただきとう存じます」
そこで首相、王の野党の面々の死体に防腐剤を施し、藁《わら》をつめ、議席へ押しもどし、釘で打ちつけた。どの議案にも、四十票の反対が記録され、かくして同国は栄えたのであった。ところがある日のこと、いぼに課税の法案は通らなかったのだ――与党の議員は釘づけにされていなかったからだ!(つまり彼らは生きており、そんなくだらぬ法案に本気になって反対するものが多かったから) これがいたく王の逆《げき》鱗《りん》に触れ、首相は死刑に処せられ、議会は砲兵中隊により解散させられ、かくして、人民の、人民による、人民のための政府は、ガーガルーより消え失せてしまった。
OPTIMISM, n. 【楽天主義】 醜いものも含めてものすべてが美しく見え、悪いものはなおのことだが、ものすべてが良く見え、そして間違っているもののすべてが正しく見えるという主義または信念。貧困に陥るといった不幸にすっかり慣れっこの者たちがもっとも頑なに抱き、うすら笑いにも似た笑顔できわめて巧みにごたくを並べる。盲信であるため、反証の明かりに近づくなんていうことは不可能であり、また知力の錯乱であるため、とどのつまり馬鹿は死ななきゃ治らない。遺伝性であるが、幸いなことに伝染性ではない。
OPTIMIST, n. 【楽天主義者】 黒を白という主義の信奉者。
ある悲観主義者が神に救いを求めた。
「そうか、お前はこのわしに希望や快活さを取りもどしてほしいというのだな」神は申された。
「そうではないのです」と嘆願者。「そのようなものを正当化する何かを、あなたに創《つく》っていただきたいのです」
「この世には、もうすべてのものが創られておる」神は続けて言われた。「だがお前は一つのことを見逃しておるぞ。それはだ、いいか、楽天主義者であっても死ぬということなのだ」
ORATORY, n. 【雄弁】 聞く人の理解を狂わす言葉と身ぶりの間で行う陰謀。速記録で調節される言論の暴力。
ORPHAN, n. 【孤児】 両親が死んだために、親不孝をする力を奪われたまま、この世に残されて生きている人間――こういった死別には、本性にはわずかにしろ憐《れん》憫《びん》の情を持っている他人の心にことさら強く訴えるものがある。幼ければ、孤児はふつう孤児院に送られ、そこで基本的な場所の観念が慎重に養われ、それによって自分の立場を知るように教え込まれる。ついで孤児は、他人に依存、隷属の方法を習い、結局は靴磨きとか下働きの女中として、世の中を食い物にするようにと放り出されるのだ。
ORTHOGRAPHY, n. 【正字法】 耳ではなく、目を用いて学ぶ語の綴りの学問。ある精神病院の退院者たちにより、英知をもってよりむしろ情熱をもって提唱されている。彼らはチョーサーの時代以来、若干のものには譲歩せざるをえなかったのであるが、それでもなお、今後譲歩せねばならないものを守るのに非常な熱意を有している。
正字法の改革論者起訴されたり
法廷でたわごとを述べたればなり
判事の言うに、「それで十分――
彼のロウソクの心《しん》をちょちょ切ってしまおう(彼を死刑にしてしまおうの意)
彼の墓をシド(白)く塗らせないようにしよう」(白く塗った墓とは「偽善者」の意。マタイによる福音書第二十三章第二十七節に、「偽善な法律学者、パリサイ人たちよ。あなたがたはわざわいである。あなたがたは白く塗った墓に似ている。外側は美しく見えるが、内側は死人の骨や、あらゆる不潔なものでいっぱいである」とある)
OSTRICH, n. 【駝《だ》鳥《ちよう》】 神が、(疑いもなく罪深きがゆえに)後足指を授けなかった大きな鳥。授けようとした顕著な証拠を、多くの敬《けい》虔《けん》な博物学者たちが認めてきている。役に立つ翼がなくとも、それは欠陥にはなってはいない。というのは、これまでいとも巧みに指摘されてきているように、駝鳥は飛ばないからである。
OTHERWISE, adv. 【別の方法で】 いずれにせよおんなじ。
OUTCOME, n. 【成り行き】 失意の特殊な型。例外の中に規則がある(「どんな規則にも例外がある」をもじったもの)証拠を見つけるような種類の知性をもってすると、ある行動が英知によるかどうかは、成り行き、つまり結果で判断される。だがこれは永遠のナンセンスである。というのは、行動の英知というものは、行動をする人間が行動をしたとき、自分が持っている考えで判断をしなければならないから。
OUTDO, v.t. 【打ち勝つ】 敵をつくる。
OUT-OF-DOORS, n. 【野外】 人間の住む環境のなかで、いかなる政府も税金をとりたてられずにいる地域。詩人に霊感を与えるのにおもに役立つ。
ある日のこと山の頂まで登りぬ
輝ける落《いり》日《ひ》を見んものと
消えなんとする光を眺め 思い出したり
こよなくも素晴らしき話を
そは老人とロバの話にて
ロバ 主人乗せ力尽きたり
されば老人 ロバを心安けく休めるところへと
遠き道《みち》程《のり》 担《かつ》ぎ行きたり
山の端《は》に昇る月おごそかに
その山々 われの東にありて
暮れなずむ西の方《かた》に 月はそのまろみを見せて
あたかも新しく生まれしものの息づくごとくに
つぎに ふと傑作を思い出しぬ(笑い笑いて涙流せり)
花嫁をひと目見んとて 教会の扉近くを
うろつきたる愚鈍《おろか》なるうら若き女のことなり
その実、花嫁は当の本人なりき
詩《うた》人《びと》にとり 自然こそ大いなる理想《こころ》に
満ち満ちたり 思想《おもい》も感情《こころ》もともどもにありて
われは憐れむ 愚かなる者を
そは母なる地の、天《おお》空《ぞら》の、海《うな》原《ばら》の言葉を解しえねばなり
ストロンボリ・スミス
OVATION, n. 【大歓迎・(古代ローマ)小凱旋式】 古代ローマにおいて、国敵に対し損害を与えた者を記念するための一定の正式な行列。小型の「凱旋式」。現代英語では、この語はそのときどきの、場所場所の英雄に対する一般の人々の尊敬の気持ちを、めいめい勝手に表す、というふうに誤用されている。
「大喝采《オウヴエイシヨン》を受けたぞ!」と俳優さんが言いました
大変妙だと思いました
人々と批評家たちの意見が
かれについて割れるなんて
だって ラテン語の辞書でわかります
彼のばかさかげんがはっきりと
「ovum《オウヴアム》」がその語のもとの語で
それは玉子(大根役者、へたくそな演技の意味がある)の意味なのです
ダッドレイ・スピンク
OVEREAT, v. 【食べ過ぎる】 食事をする。
何の苦もなく過食に慣れた
美食家 暴食の使徒 万歳!
汝《なれ》の偉大な考案品、生命《いのち》にかかわることのない 饗宴こそ
人が畜生より秀れた証拠
ジョン・ブープ
OVERWORK, n. 【過労】 釣りに行きたがる高級官吏が罹《かか》りやすい危険な病気。
OWE, v. 【支払いの義務がある】 負債がある(そしてそのままにしておく)。この語は以前には、負債ではなく所有の意であった。つまり、「所有する《 オ ウ ン》」を意味していた。だから、現在でも債務者は心の中で、それが自分の所有している財産の額か、あるいは債務の額かでたっぷり混乱することがある。
OYSTER, n. 【牡《か》蠣《き》】 文明の進歩のおかげで、人間があつかましくも、はらわたを取らずに食べられるようになった、ぬるぬるして、ずるずるした貝! 殻のほうは時に貧乏人に与えられることがある。(シェイクスピアの「ウインザーの陽気な女房たち」第二幕・第二場の冒頭の部分のもじりか)
P
PAIN, n. 【苦痛】 不愉快な精神状態。身体に対して何かが行われているといった肉体的な根拠の場合もあれば、他人の幸運が原因の、純粋に精神的な場合もある。
PAINTING, n. 【絵画】 カンバスの平面を風雨にさらさないようにし、それを批評家の目にさらす技術。
昔は、絵画と彫刻は同一の仕事として行われた。つまり古代人は彫像をつくってはそれに彩色を施したのであった。この両者の現代の結びつきといえば、現代画家が自分のパトロンたちの像を鑿《のみ》で刻む(だます、たかる、の意)場合だけである。
PALACE, n. 【御殿】 豪華な住居で、特に高級官吏のそれ。キリスト教会の高位の者たちの住居は宮殿《パレス》とよばれ、一方その宗教の「創始者」の住居は乾燥場、もしくは路傍として知られていた。そこに進歩あり。
PALM, n. 【椰《や》子《し》・手の平】 変種がいくつかある樹木の一種。その変種の中では、「賄賂を欲しがる手《 イ ツ チ ン グ・パ ー ム》(Palma《 パ ル マ》 hominis《ホミニス》)」がよく知られており、非常に広範囲に分布し、せっせと栽培されている。この高貴な樹木は目には見えない分泌物を出すが、その存在は金銀の一片を樹皮にあててみて始めて探知できる。あてた金銀は驚くほどぴったりとくっついてしまう。イッチング・パームの果実はとても辛くまずいので、そのかなりの量がわれわれが知っている「慈善」という形で、時には与えられることがある。
PALMISTRY, n. 【手相術】(ミンブルショー氏の分類によると)嘘をついて他《ひ》人《と》さまから金をせしめる九百四十七番目の方法。手を閉じてできる皺《しわ》で行う「性格読み」のこと。ただこれは常に虚偽であるとは限らない。というのはこのようにして、性格がきわめて正確に読まれるからだ。つまり、差し出されたどの手の皺にも、「カモ」とはっきり綴られているからなのだ。それを声に出して読まないところがペテンの所以《ゆえん》である。
PANDEMONIUM, n. 【伏魔殿】 文字通りありとあらゆる悪魔のいる場所。ところが、彼らのほとんどが、政界、財界へと逃げてしまったので、この場所は現在では声の大きな《オーデイブル・》改革者《リフオーマー》によって講 堂《レクチヤー・ホール》(オーディトリアムともいう)として使用されている。彼の声でかき乱されると、古代の雷同者たちが彼の世にも名高き誇りにきわめてふさわしき、それ相応のがらんがらんという音をたてる。
PANTALOONS, n. 【パンタロン】 文明人の大人の男性が下半身にはくもの。筒状で、湾曲部に蝶《ちよう》番《つがい》がない。ユーモアを理解する人間の発明になるものと思われる。教養ある人間には「トラウザーズ」、教養のない人間には、「パンツ」といわれている。
PANTHEISM, n. 【汎神論】 神はすべてなり、という信条とは正反対で、すべては神なり、という信条。
PANTOMIME, n. 【無言劇】 言葉を冒《ぼう》涜《とく》することなく筋が語られる芝居。所《しよ》作《さ》事《ごと》の中で不愉快な点がもっとも少ない形式。
PARDON, v. 【赦免する】 罪を許し、犯罪が可能の生活にもどす。犯罪の魅力の上に忘恩の誘惑を積みかさねる。
PASSPORT, n. 【旅券】 外国へ行く人間に持たせる当てにもならない書類。それには、この人間は外国人であるとあからさまに記してあり、また特別な排斥や侮辱が与えられるようにと指示してある。
PAST, n. 【過去】 われわれが少しばかりの、そして後悔にも似た想い出を持っている、ほんのわずかではあるが永《えい》劫《ごう》の一部分。現在とよばれている動く線によって、過去は未来として知られている想像上の時と区別されている。永劫のこの二つの区分は、一方が絶えず他方をかき消しており、お互いに、全く似ても似つかぬものである。過去は悲しみと失望で暗く、未来は繁栄と喜びで明るい。過去はすすり泣きの領域、未来は歌声の王国である。前者には、悔悟の祈りをつぶやきながら、懺悔服と灰をまとった追憶がうずくまり、後者には、陽光を浴びて、希望が自由の翼を持って飛び回り、成功の寺院と安楽の休息所へと手招きをしている。しかし、過去とは昨日の未来のことであり、未来とは明日の過去のことである。つまり両者は同一物――知識と夢なのである。
PASTIME, n. 【気晴らし】 失意を増進させるための工夫。知的無能者用のやさしい運動。
PATIENCE, n. 【忍耐】 美徳を装った絶望の小っちゃなもの。
PATRIOT, n. 【愛国者】 少数の利益のほうが、全体の利益よりも大事なように思える人間。政治家には馬鹿みたいにだまされ、征服者には手もなく利用される人間。
PATRIOTISM, n. 【愛国心】 自分の名声を輝かそうとする野心家なら誰でも炬《たい》火《まつ》を近づけるとすぐに火がつくがらくた。
ジョンソン博士(イギリスの文豪、一七五五年に英語辞典を完成。1709-89)の著名な辞書によると、愛国心は悪漢の最後の拠り所と定義されている。教養深い、しかしながら二流どころのこの辞書編《へん》纂《さん》者《しや》に対して、まことにはばかりながら、小生はそれを最初の拠り所と愚考することを許されたい。
PEACE, n. 【平和】 国際関係で、戦争と戦争との間のだましあいの期間。
おお、休みなくわたしの耳を打つ
あのかん高い叫びはなに?
そは口々に平和の恐怖をことほぐ
希望を捨てぬ人々の声
ああ 世界平和に彼ら言い寄り――
またそれとも結婚を望む
彼らもし その術《すべ》知りたれば
そはいともたやすきことなり
土竜《もぐら》のごとく 日がな夜がな
彼らはその問《こ》題《と》を思いわずらう
神よ 願わくば憐みを
彼らのおせっかいな心の上に!
ロー・エイミル
PEDESTRIAN, n. 【歩行者】 自動車のほうからみれば、しょっちゅう動く(そして音のする)道路の部分。
PEDIGREE, n. 【家系】 浮き袋を持って樹木の上の住んでいた祖先から煙草を持って都会に住んでいる子孫にいたる道筋の判明している部分。
PENITENT, adj. 【後悔している】 罰を受けている最中の、または罰を待っているときの。
PERFECTION, n. 【完全】 優秀として知られている要素で、現実のものと区別される想像上の状態、もしくは性質。批評家たちのひとつの特質。
イギリスのさる雑誌の編集者、自分の見解および文体の誤《ご》謬《びゆう》を指摘し、「完 全《パーフエクシヨン》」という署名の手紙を受けとるや、直ちにその余白に、「貴殿の御意見には賛成いたしかねる」と認《したた》め、それをマシュー・アーノルド(イギリスの詩人、批評家、教育家。1822-88)に郵送した。
PERIPATETIC, adj. 【逍遥学派の】 歩きまわる。アリストテレスの哲学に関係のある。アリストテレスは哲学の講義中に、自分の弟子の反論を避けるために転々と動き回ったのである。これはやらずもがなの警戒であった。弟子たちのほうも、師と同様に学問の本質を熟知していなかったから。
PERORATION, n. 【熱のこもった結語】 雄弁というロケットの爆発。目をくらませこそするが、異種の鼻(鼻を筒先にかけている)を持った立会人にとってのそのもっとも顕著な特徴は、発射の準備に用いた何種類かの火薬の匂いである。
PERSEVERANCE, n. 【忍耐】 凡庸の輩《やから》がそれによってろくでもない成功をとげるおそまつな美徳。
「耐えるのじゃ、耐えるのじゃ」説教師はみな叫ぶ
彼らこそ 日がな夜がな、耐えてわめいているのだ
「カメとウサギのお伽《とぎ》ばなしを想い出すのじゃ――
カメがゴールに着いた時 ウサギはどこにおったかな?」
ああ、はるか後方《うしろ》の夢の国 おのが寿命を延ばしつつ
肢体をことごとく和《やす》けく保ちつつ
ゴールもカメも忘れ去り
くだらぬ競走の疲労《つかれ》も忘れ去り
ウサギの魂 焦り《シチユー》のかなた 犬なき国の
草葉と露にうずくまり
聖なる場所の聖者のごとく
競走上手で無敵の勝者のごとくぐっすり眠る
サカー・ウフロー
PESSIMISM, n. 【悲観主義】 こけおどしの希望と、直視に耐えられない微笑をもった楽天主義者が、いやになるほど横行しているのを見守る人間の信念にどうしても強《し》いられる主義。
PHILANTHROPIST, n. 【博愛主義者】 良心が己れのポケットの金をすり取っている時に、にたにた笑いをするよう自分を訓練してきた裕福な(そして普通は頭の禿げた)老紳士。
PHILISTINE, n. 【教養のない俗物】 精神状態が環境の所産である人間で、考え方、感じ方、そして感傷といった面では流行を追ってばかりいる。博学の場合もあるし、えてして裕福であり、普通は清潔であり、常に謹厳である。
PHILOSOPHY, n. 【哲学】 どこからともなく出てきて、無へと通じている数多くの道から成り立っている一つの道。
PHONOGRAPH, n. 【蓄音機】 死んでいる騒音に生命をよみがえらせるいらだたしい玩《おも》具《ちや》。
PHOTOGRAPH, n. 【写真】 芸術的な素養なしに太陽が描く絵。アパッチ族の絵よりは少しはましであるが、シャイアン族の絵ほどはよくはない。
PHRENOLOGY, n. 【骨相学】 頭蓋骨を利用して金銭をくすねる学問。人間は頭蓋骨なんかがあるため他人にだまされたりするのであって、この学問はその頭蓋骨のあり場所に見当をつけ、まさぐったりする。
PHYSICIAN, n. 【医者】 病気の時には望みをかけ、健康な時には犬をけしかけたくなる輩《やから》。
PHYSIOGNOMY, n. 【人相学】 自分の顔と、相手の顔との類似点や相違点によって相手の性格を判断する術。この場合自分の顔が優秀さの基準となる。
「顔などで性格判断ができるわけはない」
愚人 シェイクスピアが言う
彼の肖像画を調べ 人相学者の言うのには
「知性のかけらすらもない!
奴《やつこ》さん 顔で精神判定できるのを 百もご存知だったのだ
それゆえ 自己防衛のため われわれの学問を否定しやがったのだ」
ラヴァター・シャンク
PIANO, n. 【ピアノ】 しつっこい来客を制《お》圧《さ》える客間の道具。道具の鍵盤を押し、あわせてそれを聴く人間の意気を消沈させることによって操作される。
PICKANINNY, n. 【黒人の子供】 人類以前の人類《フロシアントロプス》、もしくはアメリカ支配民族《アメリカナス・ドミナンス》の子どもたち。小さく、黒く、政治的宿命を負わされている。
PICTURE, n. 【絵】 三次元の世界の退屈な物の、二次元の世界での描写。
「ここに展示してある偉大なドーベルトの絵をごらん――
まるで生き写しじゃないか」 もしその言葉がほんとなら
天なる神よ、このわたしもあの世に生き移しにされんことを!
ジャリ・ヘイン
PIE, n. 【パイ】 「消化不良」という名前の死神の下交渉人。
故人はコールド・パイ(イギリスではパイはふつう温めて食べる)をこよなく好んだのでした――あるイギリス貴族の葬儀の説教における、牧師マッカー博士の言。
コールド・パイはアメリカの
憎みても余りある食べ物なり
さればわれ 懐《なつか》しのロンドンより かくも遥《はる》けき辺地にて
息絶ゆるなり――身《み》罷《まか》れるなり――
カラマズー(ミシガン州の地名)のあるイギリス貴族の墓標より
PIETY, n. 【敬《けい》虔《けん》】 人間と類似している、という仮定に基づいた上での、至高の神に対する尊敬の気持ち。
説教と書簡により豚の奴めだって
豚の神には鼻と剛《こわ》毛《げ》があると教わるのだ
ジュディブラス
PIG, n. 【豚】 食欲の旺盛さと活発さの点で、人類と密接なつながりのある動物(Porcus《てあたりしだいに》 omnivorus《 た べ る ブ タ》)。ただ、食欲の規模は人間に劣る。人間と違って、豚は豚を食わないから。
PIGMY, n. 【小人族《 ピ グ ミ ー》】 往時の旅行者たちによって、世界各地で発見されはしたものの、現代では中央アフリカでしか発見されないごく小柄な種族のひとつ。ピグミーは、それより大柄な白色人種――大人族《 ホ グ ミ ー》とよばれている――と区別するため、そうよばれる。(ピグミーとホグミーはピッグの「小ブタ」とホグの「ふつうのブタ」とをかけたもの)
PILGRIM, n. 【巡礼者】 深い意味をもって考えられる旅人。ピルグリム・ファーザーとは、賛美歌を鼻歌まじりに歌うことを許されなかったために、一六二〇年にヨーロッパを離れた者のひとりである。彼はそれが歌えるマサチューセッツまでやって来た。その地で彼は自分の良心の指図に従い、神の役を演ずることができた次第である。
PILLORY, n. 【さらし台】 個人的名声という罰を負わせる機械装置――品行方正、清簾潔白な者どもにより経営されている現代の新聞の原型。
PIRACY, n. 【海賊行為】 愚劣な束縛《おむつ》などつけていない、神が創られたままのむき出しの取り引き。
PITIFUL, adj. 【憐むべき】 空想上で、自分と万一遭《そう》遇《ぐう》戦《せん》をした場合、のその戦いのあとの敵、または相手の状態のこと。
PITY, n. 【憐み】 相手と対照することによって強くかきたてられはするが、やがて腰くだけとなる相手を許してやる気持ち。
PLAGIARISM, n. 【剽《ひよう》窃《せつ》】 初めにあったものが不名誉で、あとから出たもののほうが名誉のある、といったものから成立している文学上の偶然の一致。
PLAGIARIZE, v. 【剽窃する】 ただの一度も絶対に読んだことのない他の作家の思想や文体をちょうだいする。
PLAGUE, n. 【疫《えき》病《びよう》】 古代において、よく知られている免疫王パロの故事のように、支配者に思い知らせるためになされた罪なき人民に対する一般的な罰。今日、われわれが幸福にも知っている疫病は、自然の神の、無目的な不快感の、偶然の明示にしかすぎない。
PLAN, v.t. 【計画する】 偶然の結果を達成するための最善の方法について心を悩ます。
PLATITUDE, n. 【陳腐】 大衆文学の基本的要素にして、かつ最高の誇りとなるもの。もうもうと煙をあげている言葉の中でいびきをかく思想。一人の血のめぐりの悪い人間の言い回しの中にある、百万人もの馬鹿者たちの知恵。人工の岩に秘められた感情の化石。神話を伴わぬ教訓。過去の真実のなきがらすべて。道徳割りミルクのデミタス。羽毛のない孔《く》雀《じやく》の料理をしたしり。思想の海辺でしぼんでいくクラゲ。卵を産み終えた親どりのガァガァ。ひからびきった警句。
PLATONIC, adj. 【プラトニックな】 ソクラテスの哲学に関係がある。プラトニック・ラブとは、不能の男と不感症の女のあいだの愛情に対して馬鹿者がつけた表現。
PLAUDITS, n. 【拍《はく》手《しゆ》喝《かつ》采《さい》】 一般大衆が自分らをくすぐったり、食いものにしたりする相手に対して支払う銅貨のかずかず。
PLEASE, v. 【喜ばす】 欺《ぎ》瞞《まん》という建物の上部構造の土台を築く。
PLEASURE, n. 【快楽】 失意という形態の中で嫌悪すべきものがもっとも少ないもの。
PLEBEIAN, n. 【庶民】 自国の戦乱の血で自分たちの手だけを汚した古代ローマ人。飽和溶液だった(血まみれだった)「ローマ貴族」と明確に区別されている。
PLEBISCITE, n. 【国民投票】 元首の意志を確かめるための一般投票。
PLENIPOTENTIARY, adj. 【全権を有する】 全《すべ》ての権限を持っている。全権公使とは全権を絶対に行使しないという条件で、絶対権力を所有している外交官のこと。
PLEONASM, n. 【冗言法《プレオナズム》】 伍長の位にしかない思想を護衛する、言葉の一軍。
PLOW, n. 【鋤《すき》】 ペンに慣れている手を、大声でよび求める道具。
PLUNDER, v. 【略奪する】 盗みにはつきものの上品で、しかも慣例になっている沈黙を守らずに他人の財産をいただく。ブラスバンドの遠慮のない伴奏つきで所有権の変更をする。BからAの富をもぎとり、Cにもぎとる機会が消えたことを嘆かせる。
POCKET, n. 【ポケット】 動機の揺《ゆ》り籃《かご》で良心の墓場。女性にはこの器官がない。従って女性は動機なく行動を起こし、その良心は、埋葬を拒否されているため、他人の罪を告白しながら、永遠に生き続ける。
POETRY, n. 【詩】 「雑誌」のはるかかなたの「地方」にある特有の表現形式。
POKER, n. 【ポーカー】 当辞典の編纂者には皆目わからないのだが、ある目的のためにトランプで行われるというゲーム。
POLICE, n. 【警察】 騒ぎを防いだり、騒ぎに加わったりする軍隊。
POLITENESS, n. 【礼儀正しさ】 もっともわれわれの意にかなう偽善。
POLITICS, n. 【政治】 綱領競技《コンテスト》といった按配で、仮装して行う利害得失の争い。私欲のため国政を運営すること。
POLITICIAN, n. 【政治屋】 組織社会という上部構造が建てられる土台になっている泥土に住むウナギ。のたうち回るとき、自分の尾の動きを、その構造自体の震動と間違えたりする。政治家と較べた場合、政治屋は生きているという不利に苦しむ。(POLITICSとPOLITICIANは語順が前後しているが、著者の不注意か?)
POLYGAMY, n. 【一夫多妻】 たった一つしかない一夫一妻の場合と異なって、いくつかの懺《ざん》悔《げ》用のひざつき台が用意してある贖《しよく》罪《ざい》の家、もしくは罪滅ぼしをする教会。
PORTABLE, adj. 【手で運べる】 所有権変更のため、持ち主が変わるという不安な運命にさらされている。
彼のわずかな財産が 自分で作ったものでもなければ
はたまた前の持ち主が 放棄したのでもなければ だ
手で運べる不正財産《インプロパテイ》 と思うのだが
ウォーガム・スラップスキー
PORTUGUESE, n. pl. 【ポルトガル人】 ポルトガル土着のガチョウの一種。そのほとんどが無毛で、ガーリックを詰めたとしても食用にはあまり適さない。(ポルトガル人のポーチュギーズと、「ガチョウ」の複数、ギースの語呂を合わせたもの)
POSITIVE, adj. 【明確な】 金切り声を上げて間違った。
POSITIVISM, n. 【実証哲学】「真実」に対するわれわれの認識を否定し、「外見」に対するわれわれの無知を確認させる哲学。この哲学のもっとも長ったらしい解説者はコント(オーグスト。フランスの哲学者、実証主義哲学の提唱者。1798-1857)、もっともだだっ広い解説者はミル(ジョン・スチュアート。イギリスの哲学、論理、経済学者。1806-73)、もっともこってりした解説者はスペンサー(ハーバート。イギリスの哲学者、進化論的哲学の提唱者。1820-1903)である。
POSTERITY, n. 【後世】一人の人気作家に対する同時代の評価を逆転させる控訴裁判所。控訴人はその作家のかげに埋もれていた競争相手の作家。
POTABLE, n.(adj.の誤り) 【飲用の】 飲むのに適した。水は飲用に適していると言われる。実際、水こそわれわれ人間の天然の飲料だと宣言する者もいる。もっとも喉《のど》の渇《かわ》きという事実で周知の周期的な病気に苦しむ時のみ、それが美味であるのに気がつくのだが。まことにその時の水は妙薬である。もっとも未開の人間を除いて、水の代用品の発明くらい、全時代を通じ、全世界の国々で、人間が莫大かつ熱心な工夫をこらしたものは、何ひとつとして見当たらない。水という液体に対する一般の人々が抱くこの嫌悪感が、人類の保存本能に基盤を置いていないとすれば、それは当然のことだが非科学的である――つまり科学がなければ、われわれ人間は、蛇とかヒキ蛙と同じになってしまうのだ。
POVERTY, n. 【貧乏】 改革を唱えるネズミたちの歯に用意されたヤスリ。貧乏根絶のための計画の数は、これに悩む改革者の数に足すことの、これについては何ひとつ知らない哲学者の数。この貧乏の犠牲者は、あらゆる美徳を身につけていること、およびこのような人間がひとりもいないという繁栄の地に自分たちを連れていってくれようとする指導者に信頼を置いていることなどをその特色としている。
PRAY, v. 【祈る】 取るに足らないことが明々白々なたった一人の嘆願者のために、宇宙の全法則を廃棄してくれるように頼む。
PRE-ADAMITE, n. 【アダム以前の人】 天地創造前の、容易には想像できぬ条件下に住んでいた実験的で、明らかに五体が満足でない種族。メルシウス(B.C.五世紀のギリシアのエレア学派の哲学者のことか?)は彼らが「虚《こ》空《くう》」に生息し、魚と鳥の中間物のようだったと信じている。彼らが、カイン(アダムとイヴの長男で弟のアベルを殺した)には妻を、また神学者たちには論争の種を与えたという事実以外はほとんど知られていない。
PRECEDENT, n. 【先例】 法律で、それ以前の決定、規則、慣習のこと。明白な法規を欠いているため、これらはどれも裁判官が与えたいと思ういかなる権力や権威をも有しており、ゆえに、裁判官の思うがままに事を運んで、自分の仕事を非常に簡素化してしまう。ものすべてには先例があるのだから、裁判官は自分の利益に反する先例はこれを無視し、自分の望みに適うものを強化しさえすればよいわけだ。先例が発明されたので、裁判というものが、偶然の試罪法といった低い地位から、思いのままの裁定といった崇高な態度へと高められているのである。
PRECIPITATE, adj. 【大あわての】 食事まえの。
何をするにも大あわて この罪人は
まずは行動 それから食事をとったとさ
ジュディブラス
PREDESTINATION, n. 【予定説】 物事すべてが計画に従って生ずるという学説。この学説を宿命論と混同してはならない。すなわち宿命論とは、物事すべてが計画されていることを意味しているが、物事が起こるという主張はしておらず、それはただ宿命論から派生した他のいくつかの学説を通じてただ暗黙のうちに了解されるのである。この両者の相違は、流血は言うまでもなく、キリスト教の国にインクの洪水を起こしてきたほど大きい。両者のこの相違をしっかりわきまえ、この両者を心から信ずれば、救われた場合、地獄行きを免れるかもしれない。
PREDICAMENT, n. 【窮地】 節操の報い。
PREDILECTION, n. 【偏愛】 幻滅への予備段階。
PRE-EXISTENCE, n. 【(霊魂)先存】 天地創造に当たっての未知の要素。
PREFERENCE, n. 【好み】 あるものが他のものよりよいのだ、という誤った信念によって生ずる感傷、または気持ち。
生は死とたいして変らないものなりという信念を説いていた古代の哲学者が、弟子に、ではなぜ先生は死なないのか、と問われた時答えたものだ。「それはだな、死は生とたいして変らないからじゃよ」
もっとも 死は生よりも長く続きはする
PREHISTORIC, adj. 【有史以前の】 ずっと大昔と博物館に所属している。偽りを永遠のものにする技術や習慣よりも以前の。
彼 有史以前に住めり
ものすべて 不条理かつ変幻きわまりなき時に
その後 神の世の記録女 クレイオー(ギリシア神話で史詩、歴史を司る女神)生まれ
大きなる出来事を時代順にくまなく記録せり
彼 記録女の語るまことしやかな嘘を除き
ばかげ かつ偶然性の出来事は まことなにひとつ目にはせざりき
オーフェアス・ボウエン
PREJUDICE, n. 【偏見】 明白な証拠だての方法が何一つとしてない取りとめのない意見。
PRELATE, n. 【高位聖職者】 それはそれは気高い神聖さを持っている教会の事務屋で、懐も腹も肥やした高官。あの世の貴族のひとり。神の従僕《しもべ》。
PREROGATIVE, n. 【特権】 悪事が行える一国の元首の権利。
PRESBYTERIAN, n. 【長老派教会員】 教会を運営する権威者が長老とよばれるのだという確信を抱いている人間。
PRESCRIPTION, n. 【処方】 患者に対しできるだけさしさわりなくし、その時の状態を最大にのばすには何をしたらよいのか、ということについて医者が行う推《あてず》量《つぽう》。
PRESENT, n. 【現在】 希望の領域と失望の領土とを分けている永劫の時間のあの一部分。
PRESENTABLE, adj. 【体裁のよい】 その時その場所の流行に従ってぞっとするように装っている。
ブーリオブーラ・ガでは、人が自分の腹を明るい青色に塗り、牛の尾のようなおさげを一本結えば、儀式用の正装ということになる。一方、ニューヨークでは、人がそのほうを好むのなら、色を塗るのは省いてもさしつかえないが、日没後は、黒く染めた羊毛製の尾を二つ(燕尾服のこと)着用せねばならない。
PRESIDE, v. 【つかさどる】 討議団体の議決を望ましい結果へとみちびく。新聞用語では、「彼はピッコロを受けもった《プレサイドした》」のように楽器を演奏する。
見出し係 記者の原稿手にして
おごそかな顔で読んだ
「音楽はこの上なく素晴らしかった――
これまでに最高のできだった
それもそのはず当市のブラウンが
こよなくあでにオルガン弾いた《プレサイドした》ので」
見出し係 読むのを止めて
その原稿をデスクにおろしてひろげ
記事の見出しに書きこんだ
「ブラウン大《プレ》統《ジデ》領《ント》の好演奏」
オーフェウス・バウエン
PRESIDENCY, n. 【大統領職】 アメリカ政治の野外競技で球の役割をする油を塗った豚。
PRESIDENT, n. 【大統領】 国中のおびただしい数に及ぶ人間がそのうちの誰一人として大統領に選びたいとは思っていないことが明白に知られている――これはこうした連中についてだけ言えるのだが――少数グループの指導的人物。
大統領が名誉なら これまで清潔かつ強靱な
第三者だったことのほうが 確かにもっと偉大だ
わたしこそ 有権者が挙《こぞ》って投票する
感化力のあるりっぱな人間であることを見てほしい!――
面目を傷つけざる 野次られざる
われら知る限り 喝《かつ》采《さい》によって
大統領ならんとする紳士であるのを見てほしい さあ、者ども喝采せよ!――
わたしは耳(ロバが象徴である民主党員をからかったもの)を大きくあけてまかり通るぞ!
ジョナサン・フォムリー
PREVARICATOR, n. 【口実を使う人間】 幼虫期にある嘘つき。
PRICE, n. 【価格】 元値に、それを要求する際の良心の消耗に見あう手頃な額を足したもの。
PRIMATE, n. 【大主教】 教会、特にいやいやながらされる喜捨の金で維持されている国教教会の親玉。イギリスの大僧正は、カンタベリー大主教といい、親切な老紳士で、生存中はランベス宮に居を占め、死後はウエストミンスター寺院に葬られる。普通は死んでいる状態である。(いつもウエストミンスター寺院にいるから)
PRISON, n. 【監獄】 罰と報酬の場所。詩人はわれわれに
「石塀は監獄をつくるためならず」(イギリスの詩人リチャード・ラヴレイス〔1618-58〕の「監獄よりアルシーアヘ」の詩の引用)
――と断言しているが、石塀と、政治上の居候と、教誨師の結合は、楽園なんていうものじゃない。
PROBOSCIS, n. 【(象などの)鼻】「進化」がそこまでは進んでいないためにまだもてない、ナイフとフォークの代役をする象の未発達の器官。ユーモラスな表現として、それはトランク(木の幹と、旅行かばんの両意にかけてある)と一般によばれている。
象が旅に出ようとしているのがどうしてわかるのか、ときかれて、かの著名なジョー・ミラーは、難問を出した相手に批難の眼《まな》差《ざ》しを投げかけ、うつろに答えた。「トランクが半開きになっているからだよ」そして高い岬《みさき》から海に身を投げてしまった。かくして、古代の著名なユーモリストは悲哀の遺産を人類に残して、その全盛期に死んでしまった! 「婦人《レデイズ・》家庭《ホーム・》時報《ジヤーナル》」のエドワード・ボック氏(オランダ生まれのアメリカの文筆家、三十年にわたり「婦人家庭時報」の編集に当たる。1863-1930)はその個性の純粋さと優しさで非常に尊敬されてこそいるが、ユーモリストの称号に値するジョー・ミラーの後継者は、その後現れていない。
PROJECTILE, n. 【発射物】 国際間の紛争の最終的な仲裁者。従来は、こういった紛争は剣とか槍とかその他の未熟な論理を用い、お互い同士の肉体的接触で解決された。軍事的な分別が発達するにつれて発射物は徐々に熱烈に迎えられるようになり、今日では勇者の最たる者でさえもが、これを高く評価している。この大きな欠点というのは、発射地点に人間を立ち合わせておく必要があるということだ。
PROOF, n. 【証拠】 起こりそうにもないという傾向をではなくて、もっともらしいという傾向を持っている証《あか》し。ただひとりの証人の証言と対立する、信頼のおけるふたりの証人の証言。
PROOF-READER, n. 【校正係】 植字工が人の書きものをわけがわからないようにしてしまうのを黙認して、今度は自分がそれをナンセンスなものにして償いをする悪《わる》者《もの》。
PROPERTY, n. 【財産】 Bがどんなに欲しがっても、Aが手放さないかもしれない、特別値打ちのない物質的なもののすべて。一人の人間の所有欲を満足させ、他のすべての人間の所有欲に失望を与えるすべて。人間の短期間の強欲と長期間の無関心の対象。
PROPHECY, n. 【予言】 将来配達をするため、自分の真実性を売る技術、および商売。
PROSPECT, n. 【見込み】 ふつうは自分で禁じようとするものの見方。ふつうは他人によって禁じられているあるものへの期待。
かぐわしいそよ風よ 吹くんだ 吹くんだ――
君の息をセイロンの向こうまで吹くんだ
そこはどの見込みもがうまくいく所だ
死の見込みだけは除いてだ
シェーバー僧正
PROVIDENTIAL, adj. 【神助の】 この語を述べる人間にとって思いがけず、また明らかに有利な。
PRUDE, n. 【淑女ぶる女】 外《げ》面《めん》如《によ》菩《ぼ》薩《さつ》内《ない》心《しん》如《によ》遣《やり》手《て》婆《ばばあ》。
PUBLISH, v. 【出版する】 文学の分野で、批評家どもの攻撃の的の基本要素になる。
PUSH, n. 【押し】 特に政治で、主として成功に役立つ二つのもののうちのひとつ。いまひとつは引《プ》き《ル》。
PYRRHONISM, n. 【懐疑説《ピロニズム》】 その発明者(ピロ。ギリシアの哲学者。B. C. 365 ?-275 ?)の名をとってつけられた古代哲学。懐疑説を除いてすべてを絶対に信じないという説から成っていた。懐疑説を研究する近代の教授連は懐疑説そのものまで信じなくなってきている。
Q
QUEEN, n. 【女王】 王がいる時は自身で、王がいない時は自身を媒体として一国を支配する女性。
QUILL, n. 【鵞《が》ペン】 鵞鳥から譲られた、そして普通はロバ、すなわちバカが振りまわす拷問用の道具。鵞ペンの使用は今日では廃《すた》れてしまったが、その代用品である鋼鉄製のペンは、同様に永遠に存在するロバ、すなわちバカどもによって振りまわされる。
QUIVER, n. 【矢筒】 古代の政治家とか昔の法律屋とかが、大して重くない議論を入れて運んだ持ち運びのできる筒状のもの。
論争好きのこのローマ人
おのれの矢筒より引き抜けり
相手が出せし質問に対し
議論の矢はみごと的を射たり
そして納得させえぬと知るや
相手の肝《き》臓《も》にそを突き刺せり
オグラム・P・ブーンプ
QUIXOTIC, adj. 【騎士気取りの】 ドン・クィクソウトのようにばかばかしいまでに騎士風の。この騎士の名前がキー・ホー・ティ(クィクソウトのスペイン語の発音でドンキー・ホーテイ〔傲慢ロバ〕との語呂合わせか?)と発音されることを不幸にも知っているこの人には、この形容詞の比べるものとてない美しさと素晴らしさに対する洞察力といったものが、気の毒なことだが、忌避されている。
この世からわれらが無知のため、言語学が追放されるなら
スペイン語を知るなんてまことばかげたことなのに
ジュアン・スミス
QUORUM, n. 【定数】 自分らの思い通りにするための、そして自分らの思い通りにすることを思い通りにするための審議団体の、十分なあたまかず。合衆国上院での定数とは、財務委員会議長、およびホワイトハウスからの使者で構成され、一方下院では、議長および悪魔から構成されている。
QUOTATION, n. 【引用】 他人の言葉を、誤って繰り返す行い。誤って繰り返された言葉。
おのが引用をより正確たらしめんと
かれ ブルーアー(イギリスの聖職者で、著名な引用辞典の編纂者。1810-97)の絶対に誤りなきページ探り
おのれは永遠に非難を受けなんと
おごそかに誓いたり お《ア》お《ー》 わ《ミ》れ《イ》 あ《ア》あ《ー》 わ《ミ》れ《イ》(アーメンとの語呂合わせ)
スタンポ・ゲイカー
QUOTIENT, n. 【商〔ある数を他の数で割ってえた数値〕】 ある人間が所有している金額の何倍のものが、他の人間のポケットに入っているかを示す数。ふつうはそこに入りうるかぎりの額の倍数。
R
RABBLE, n. 【野次馬】 共和国で、不正の選挙で調整された最高権力を行使する者ども。野次馬とは、何もしないという条件のもとで全能な、アラビアの寓《ぐう》話《わ》に出てくる巨大な怪鳥《 シ マ ー グ》に似たもの。(シマーグとは貴族用語で、わが英語にはぴったりとした同義語がないが、強いていえば、「空翔《か》ける豚」にあたろうか)
RACK, n. 【拷問台】 かつては誤った信仰の帰《き》依《え》者《しや》に、烈々たる真実を受け入れるよう説得するのによく用いられた議論の多い道具。改宗の意志のない者に対する呼びかけとしては、拷問台が特別な効力をもったことは一度たりともなかったので、今日では一般的に軽い意味で考えられている。
RANK, n. 【位階】 人間の値打ちをはかる秤における相対的な高低。
彼 宮廷にていとも高き位にありしため
他の貴族ども その理由をたずねたり
「それはだな」と答えあり 「ほかの奴らにはだ 王の背中を掻く技術がないからじゃ」
アラミス・ジュークス
RANSOM, n. 【身代金】 売り手のものでもなく、さりとて買い手のものにもなれないものの購入。もっとも利益のない投資。
RAPACITY, n. 【強欲】 生産を伴わない節約。権力の倹約。
RASCAL, n. 【悪党】 別の観点から考えられる馬鹿者。
RASCALITY, n. 【悪事】 好戦的愚行。かくれた知性の活動。
RASH, adj. 【思慮のない】 われわれの忠告が持つ価値に対して無感覚な。
「さあ 俺と一緒に金をはれ そして
こいつら博奕《ばくち》打《う》ちにぱくられるんじゃないぞ」
「いや このガキは賭けたりゃしねえ」
「こんちきしょうめ! なんだっておめえはそんなに思慮がねえんだ?」
ブートル・P・ギッシ
RATIONAL, adj. 【合理的な】 観察、経験、そして反省の三つを除いては、ほかのすべての妄《もう》想《そう》を欠いている。
RATTLESNAKE, n. 【ガラガラ蛇】 匍《ほ》匐《ふく》性《せい》のわれらの兄弟。匍匐性霊長類《ホモ・ヴエントラムビユランス》。
RAZOR, n. 【剃《かみ》刀《そり》】 白人にとっては、自分の美を増すために、蒙《もう》古《こ》人にとっては、自分を物笑いの種にするために、そしてアメリカ黒人にとっては、自分の価値を確認するために用いる道具。
REACH, n. 【リーチ】 人間の手のとどく範囲。与えたいという持って生まれた性質を直接に満足させることが可能な(そしてあたりまえの)範囲。
いにしえより 真実のことなり
そは人生と経験が教えるところ
貧しき人 手が差しのばせぬという
いとも辛《つら》き病気《やまい》に悩む
G・J
RADICALISM, n. 【過激主義】 今日の問題に投入された明日の保守主義。(この語、および次の三語は原書で語順が狂っている)
RADIUM, n. 【ラジウム】 熱を放ち、科学者が愚弄されている器官を刺激する鉱物。
RAILROAD, n. 【鉄道】 今いる場所から、行ったところで生活がもっとよくなりはしない場所にむかって、われわれが行くのを可能にする多くの機械装置のうちの主たるもの。こういった目的があるため、鉄道は楽天主義者たちにはこの上ない好意を持たれている。なぜなら、鉄道は彼に非常な速度で移動を可能にさせるから。
RAMSHACKLE, adj. 【がたがたの】 建築の一様式に関係のある。別の言い方をすれば普通のアメリカ風の。合衆国の公共建築物のほとんどは、このがたがた様式である。もっとも、初期の建築家の中には皮肉様式《アイロニツク》のほうを好むのもいはしたのだが。ワシントンのホワイトハウスで最近増築をした建物は、セオ・ドリック(セオドール・ルーズベルト。アメリカ26代大統領の名前をもじったもの。1858-1919)様式、つまりドリア人(古代ギリシア三種族の一つ)の教会様式である。素晴らしい建築で、れんがが一つ百ドルもする。
REALISM, n. 【写実主義】 ヒキ蛙の目に映るがままに自然を描写する技術。モグラが描く風景とか、尺取虫が書く話とかに、いっぱい入っている魅力。
REALITY, n. 【実在】 気の狂った哲学者の夢。もし万一、人が幻影といったものを自ら分析するとしたら、るつぼの中に残るもの。空虚の核心。
REALLY, adv. 【本当に】 見かけは……らしい。
REAR, n. 【後衛】 アメリカの軍事において、国会にもっとも近いところで野ざらしになっている軍隊の一部分。
REASON, v.i. 【推理する】 欲望の秤でことが起る可能性を計る。
REASON, n. 【理性】 偏見の偏傾。
REASONABLE, adj. 【筋道の通った】 われわれ自身の意見に感化されやすい。説得、諫《かん》言《げん》、逃げ口上に対し好意的な。
REBEL, n. 【反逆者】 新しい悪政をきずき損なった、その悪政の提唱者。
RECOLLECT, v. 【回想する】 以前には気がつかなかったなにかあるものまでつけ加えて思い出す。
RECONCILIATION, n. 【和解】 敵対意識の中断。戦死者を掘り出すあいだの軍事的停戦。
RECONSIDER, v. 【再考する】 もうしてしまった決心の正当性を探る。
RECOUNT, n. 【再計算】 アメリカの政治で、鉛を仕込んだいかさま賽《さい》を、競技相手の要請に同意して、もうひと振りすること。
RECREATION, n. 【気晴らし】 一般的な疲労を癒す、特殊な失意。
RECRUIT, n. 【補充兵】 軍服を着ているため地方人と区別され、歩き方で古参兵と区別することのできる人間。
畠や工場や町なかから やって来たばかりのものだから
追撃 退却 その足取りは
二つ持ってる邪魔なもの――二本の脚さえなかったら
威風堂々 りっぱな眺めというものさ
トムソン・ジョンソン
REDEMPTION, n. 【贖《しよく》罪《ざい》】 神にさからって罪を犯した罪人が、その神を殺害することによって、神罰を免れること。贖罪の教義は、われらが聖なる宗教の根底をなす神秘であり、それを信ずる者は、死んで滅びることはなく、その理解に努めるべく、永遠の生命を持つこととなろう。(ヨハネによる福音書第三章第十五節に「それは彼を信じる者が、すべて永遠の命を得るためである」とある)
われら 人の心をその罪より目覚めさせ
救済に特別の手段をとるべきなり
その心を天使たちの中に列せしむるはいとも難きことにして
やみくもにつなぎとめる以外に方法とてなく
地獄の蒸気でむす以外にそれを浄化する方法とてないのだが
われ贖罪につたなし――新参者なれば
わがしきたり 罪人を磔《はりつけ》にすることなり
ゴルゴ・ブロウン
REDRESS, n. 【償い】 満足のいかない補償。
アングロ・サクソン人のあいだでは、自分が王から不当な取り扱いを受けていると思った人民は、受けた被害を示せば、被害を与えた王の真《しん》鍮《ちゆう》製《せい》の像を鞭《むち》で打つことを許されていたが、その鞭はあとになると結局自分のむき出しの背中にあてられることになったのだ。このあとのほうの儀式は、正式の絞首刑執行人によって行われた。このため、原告は鞭を選ぶに当り、ほどほどのものにしなければならなかった。
REDUNDANT, adj. 【よけいな】 あり余る、不必要な、じゃま《デトロウ》な。
トルコ皇帝言うことにゃ 「この頑迷不信の奴《いぬ》めには
よけいなものが多すぎる 証拠は数々あるのだぞ」
威風堂々 皇帝に 時の首相は答えたり
「少なくとも 頭はよけいに思えます」
ハビード・スライマン
デブズ氏(ユージン・ヴィクター。アメリカ労働運動の指導者。1885-1926)は、よけいな人間である。
セオドール・ルーズベルト
REFERENDUM, n. 【国民投票】 輿《よ》論《ろん》の不一致さを知るため、一般の投票を仰いで、提出された法案を決定する法律。
REFLECTION, n. 【反省】 われわれが、昨日の出来事と自分との関連性について、いっそうはっきりとした意見をもち、二度とふたたび出会うことはない危険を避けることを可能にする精神的行為。
REFORM, n. 【改革】 宗教改革というものには反対する改革者たちをも、主として満足させるもの。
REFUGE, n. 【保護】 危険に陥っている人間の守護を請け合うものならなんでも。モーゼとヨシヤは不注意にも殺害を犯した者が、死者の縁者たちに追われた時逃げられるようにと、ベゼル、ゴラン、ラモテ、ケデシ、シケム、及びヘブロンという六つの避難用の都市を用意した。この物の見事な手段は、殺害犯人には健康な運動を、また縁者たちには追跡の楽しさを可能にした。それによって、死者の魂は、ギリシア初期の葬送競技会と同じような儀式によりきちんとあがめられたのであった。
REFUSAL, n. 【拒絶】 本当は望んでいるものを断ること。例えて言えば、金持ちで眉目秀麗な男性の求婚者に対し、オールドミスがその求婚を断るとか、裕福な会社に対し、市会議員が貴重な特権を断るとか、改悛の情のない王に司祭が免罪を断るとかいったようなこと。拒絶には次のように徐々に決定力が弱まっていくいくつかの段階がある。絶対的拒絶、条件的拒絶、実験的拒絶、女性的拒絶。この最後のものを肯定的拒絶とよぶ詭弁家も何人かはいる。
RELIGION, n. 【宗教】 「希望」と「恐怖」の間に生まれた娘で、「無知」に向かって「不可知」の性質を説明する。
「お前さんや、お前さんの宗教は何じゃな」リームズの大司教がたずねた。
「お赦し下さい、大司教さま」ロッチェブリアントは答えた。「お恥ずかしい次第です」
「では、なんで無神論者にならんのかな」
「そんなことはとても。無神論なんて、滅相もない」
「それならばじゃ、プロテスタントになるがよいぞ」
RENOWN, n. 【名声】 悪名と令名のあいだにある有名さの序列で――前者に比べればいささか支持もできようが、後者に比べればいささか我慢がならない。この名声というやつ、時には不親切で思いやりのない人間から与えられることがある。
さまざまな音色にして竪《たて》琴《ごと》をかき鳴らしてみたが
聴く人が誰もいぬのに気がついた
その時のことイシュリアル(ミルトンの「失楽園」に出てくる天使。サタンの正体を暴露した)が
啓示の槍もてわたしに触れた
わたしの才能――偉大でこそあったが――のすべてを駆使しても
わたしは暗黒から脱することはできなかったのに
わたしは彼のかすかな接触を感じ
そしてはじめて光明の中に身を投じたのだ!
W・J・キャンドルトン
REPARATION, n. 【補償】 悪事に対して償いをすること、そして悪事を行っていることで感じる満足から差し引かれる。
REPARTEE, n. 【当意即妙の答え】 口答えに含まれている慎重な侮辱。暴力には体質的な嫌悪感を持ってはいるが、相手を怒らせてみたいという先天的な気持ちのある紳士によって行われる。論戦では北アメリカのインディアンの戦術。
REPENTANCE, n. 【後悔】「処罰」を忠実に受け、それに従う人間。引き続いて罪を犯すことと、何ら矛盾するところのない改心の程度によって、ふつうこれは明らかにされる。
地獄の責苦を逃れたいと
後悔して信仰に入るというのだな パーネル(アイルランド自治党の首領。姦通罪を犯す。1846-91)?
何と無駄なことよ!――
悪魔(教祖。ヨハネの黙示録第二章第六節第十五節参照)はお前を炭火(聖書、ローマ人への手紙第十二章第二十節に「むしろ『もしあなたの敵が飢えるなら、彼に食わせ、かわくなら、彼に飲ませなさい。そうすることによって、あなたは彼の頭に燃えさかる炭火を積むことになるのである』」とある)から遠ざけてお前をだしに他の連中の苦しみを増すのだ
ジョマター・アベミー
REPLICA, n. 【模《レプ》写《リカ》】 原作をつくった芸術家により製作される、芸術品の写し。「複写《コピー》」と区別するためにこのようによばれる。複写は別の芸術家によって製作されるからである。この両者が同等の技術で製作された場合には、模写のほうが価値がある。なぜならそれは実際に見えるよりずっと美しいと考えられるからである。
REPORTER, n. 【取材記者】 真理にいたるに、ただ推測をもってし、言葉の嵐でその真理を四散させてしまう文筆家《ライター》。
「あなたこそ聞きしに勝《まさ》る高貴な人
口が固くてそのうえに そんなこといわなかったと拒否しない!」
陽気な記者はそううたい
書く手の下から 「会見記」をずんずん足までのばしていった
バーソン・マイス
REPOSE, v.i. 【永眠する】 煩《ぼん》悩《のう》に区切りをつける。
REPRESENTATIVE, n. 【下院議員】 国政で、現世でこそ下院で政治に干与してはいるが、来世でははっきりした昇進(地獄から天国への)の希望のない人間。
REPROBATION, n. 【天罰】 神学において、出生以前すでに神に呪《のろ》われた不幸な人間の状態。天罰の教義はカルヴィンが教えたものであって、彼の天罰にたいする喜びは、地獄落ちが前もって運命づけられている者がいる反面、救済が前もって運命づけられている者もいるという彼の悲しいまでの純粋な確信で多少傷つけられているのである。
REPUBLIC, n. 【共和国】 治める側と治められる側が同一なので、服従を任意にさせるという権威だけしか認められていない国家。共和国では、社会秩序の基礎をなしているのは、真に支配されていたため、やむなく服従していた先祖から受けついだ服従の習慣が徐々に減少するという事実である。昔の専制政治から今後の無政府状態までに至る段階の数と同じくらいに、共和国には種類がある。
REQUIEM, n. 【死者のためのミサ】 自分たちが好きだった人たちの墓の上で風が歌っていると、三流詩人どもがわれわれに断言してくれる亡くなった人たちに捧げるミサ。時には変わったもてなしを与えてくれるつもりで、詩人どもは挽歌を歌うこともある。
RESIDENT, adj. 【住んでいる】 引っ越せない。
RESIGN, v.t. 【辞職する】 利益のために名誉を放棄する。もっと大きな利益のためにひとつの利益を放棄する。
レオナード・ウッド(アメリカの軍人、一八九八年の米西戦争の時、セオドール・ルーズベルトと共に義勇騎兵隊を組織する。1860-1927)が
称号も 身分も すべての種類の
軍隊の地位も――
どれもが名誉あるものなのに
放棄の署名《サイン》を本当にしたとのうわさがとんだ
この手本に刺激され
気高くも対抗してみる気になって
レオナードの辞職に対し
キリスト教徒にふさわしき その辞職に
謙虚に国が従った《レザイン》のさ
ポリシャン・グリーム
RESOLUTE, adj. 【決然とした】 われわれが容認する方向で頑固な。
RESPECTABILITY, n. 【世間体】 禿げ頭と銀行の当座勘定が不義をして出てきた子供。
RESPIRATOR, n. 【ガーゼのマスク】 ロンドンに住む人の鼻と口の上にとりつける装置。目に見える宇宙をその装置で濾過して肺にとどける。
RESPITE, n. 【死刑執行延期】 判決の下った暗殺者に対する敵対行為の一時停止。その間に行政長官はその殺人行為が検察官によって行われなかったかどうかを裁定することができる。不愉快な予期が継続するのを中断すること。
アルトジェルト(ドイツ生まれのアメリカの政治家、シカゴのクック郡の最高裁判所首席判事を経てイリノイ州知事となる。1847-1902)おのが熱き寝床に
横たわり つき添う悪霊その枕頭に
「おお無慈悲なる料《ク》理《ツ》人《ク》よ しばしの救いを――
よし短くも 火《ロ》あ《ー》ぶ《ス》り《ト》からしばしの猶予を
「イリノイでお前の友が苦《く》役《えき》の折に
このわしがどのように許したかを忘れたか(一八九三年に三人の無政府主義者を放免したことをさす)」
「哀れな奴め! ただそれだけで悶《もだ》えるのか
消されることなき火の上で 死ぬことのない虫けらのごとくに
「されど 貴様の不安な気持ちをあわれみ
貴様の宿命《さだめ》を軽くし また苦痛を弱めなん
「しばし なにひとつ貴様の楽しみを損なうものはなからん
貴様が誰なりしかの記憶すらも」
永劫の空間に 恐ろしくも沈黙《しじま》ひろがり
憐みの気持ち 地獄に入りし時、天は震えたり
「心優しき悪魔よ われここを治めて 汝に猶予を与えた期間
わしの猶予をのばしてほしい」
「気の毒な奴よ 貴様が監獄から放免した悪党どものうちだれかひとりが
もどってくる間だけはだ」
一同のものアルトジェルトをひっくり返したとき
心地よき冷気彼の皮膚にあたれり
ジェウエル・スペイト・ウープ
RESPLENDENT, adj. 【きらきら輝く】 自分の小屋で自分を公爵にしてみたり、行《パレ》列《ード》に欠くことのできぬ一員のように、われこそ「天地の成り立ち」にて重要な地位を占めている、と確信する単純なアメリカの市民のような。
ドミニオンの国の騎士ども、ビロードと金色の服を着て輝くばかりきらびやか、そんな次第で領主ども彼らをほとんどご存知なかったことだろう。
――階 級 年 代 記《クロニクル・オブ・ザ・クラセズ》
RESPOND, v,i. 【応答する】 答える、またはハーバート・スペンサー(イギリスの哲学者、社会学者、進化論的哲学の始祖。1820-1903)いうところの「外面的な共存」への関心を大いにかき立てたという意識を別な具合に表明する。イヴの耳もとに「ヒキ蛙のようにうずくまった」悪魔が、天使の槍が触れるのに感応《レスポンド》したのがその一例である。損害を賠償《レスポンド》することは、原告側の弁護士の扶養に、つまり付随的には原告側の満足に寄与することである。
RESPONSIBILITY, n. 【責任】 神、宿命、運命、運勢、または近所の人の肩へとたやすく移ってしまう離れ易い負担。占星術が行われていた時代には、星に責任転嫁するのが普通だった。
もしイヴがあの林檎をうっちゃっといたら
ああこんな憂き目は見ずともすむのに
だからこそ 思想という名の君主に仕えたり
名誉という戦場でほかの兵隊どもと
とある有望な戦い《ゲーム》を
しかけたりしなきゃならなかった連中は
不幸な星のめぐり合わせで打ちのめされ
「ピーナッツだ(くだらない人間だ) ほら ここにあるぞ(ここにいるぞ)!」
と叫ぶのだ
たくましき乞食《ザ・ターデイ・ベガー》
RESTITUTION, n. 【償還】 贈与または遺贈による大学または公共図書館の設立あるいは寄付。
RESTITUTOR, n. 【賠償人】 後援者。慈善家。
RETALIATION, n. 【報復】 法律の殿堂をささえている自然の岩石。
RETRIBUTION, n. 【天罰】 心の正しい人々にも、また彼らを追い立てて避難所を手に入れてやらなかったような心の正しくない人々にも、同じように降りそそぐ、火と硫《い》黄《おう》の雨。
ガッサラスカ・ジェイプ師が、亡命中の皇帝に対して述べた以下の件《くだり》は、詩人でもある同師が、天罰が与えられている最中に、回れ右をしてそれに直面するのは無謀なことだという気持ちを示唆しているように思える。
何 何だって! ドン・ペドロ(旧ブラジルの二代目皇帝、一八八九年にヨーロッパに亡命。1825-91)
ブラジルにもどって静かに往生したいのだって?
いったい何でそんな自信があるの?
騒動にまき込まれてから 日はまだ浅い
その上親愛な臣下どもは お前さんの喉《のど》もと目がけて飛びかかり
ネズミのようにゆさぶろうとしていたんだ 知ってのとおり
帝国なんかはどれも有難くもないものだ 共和国にいるほうが
けがをするのが容易じゃないとでもお思いなのか?
REVEILLE, n. 【起床らっぱ】 戦場の夢はもうこれ以上見るな、そして起床して青っ鼻を数えてもらうのだ、と睡眠中の兵隊たちに鳴らす合図。アメリカの軍隊では、これは巧みにも「レヴ・エ・リー」(フランス語のr思四erの発音にかけ、ここでは「われわれの居所がばれたぞ」の意)といわれ、その発音に対して、わがアメリカ同胞は兵隊たちの生命、不運、そして神聖この上ない不名誉のために乾杯をしてきているのである。
REVELATION, n. 【黙示録】 使徒ヨハネが自分の知っているすべてのことを隠して何も書いていない有名な書物。黙示なる行為は注釈家によって行われた。ところで彼らは何一つ知ってはいないのだ。
REVERENCE, n. 【尊敬】 人間が神に対しての、犬が人間に対しての精神的態度。
REVIEW, v.t. 【論評する・再検討する】
取り組んでいる書物について(実はそれには骨も皮もないくせに
そんなことはこれっぱかりも疑いもせずに)知恵をめぐらし
そして始めに読み込んだその特色を
そこから読み出すこと
REVOLUTION, n. 【革命】 政治で、失政という形で表れる急激な変化。特にアメリカ史上では、それにより人民の福祉と幸福がまるまる半インチは前進した、イギリスの内《ミニス》閣《トリー》の統治に代わってアメリカの 内 閣《アドミニストレーシヨン》 の統治を採用したこと。革命は通常、多量の流血を伴うが、それだけの価値はあるとされている――というのも、この評価は自分の血が流される不運にめぐり合わずに、利益を受けた者だけによってなされているからである。フランス革命は、今日の社会主義者に測り知れない価値を有している。なぜなら、社会主義者がフランス革命の屍《しかばね》を動かすべくあやつりひもを引く時、その屍の様子は、法と秩序を誘発したと考えられている残虐な専制者たちにとっては、言葉では表せないほど恐ろしいものだからである。
RHADOMANCER, n. 【棒占い師】 馬鹿な奴のポケットの中に、貴重な金属が入ってはいまいかと、占い棒を使って探す人間。
RIBALDRY, n. 【下劣】 自分に関して他人がはく批判的な言葉。
RIBROASTER, n. 【寸鉄人をえぐる言葉】 他人に関して自分がはく批判的な言葉。この語は古典的に洗練されたもので、実際に、普通は徹底愚劣派の始祖と考えられている――十五世紀のもっともやかましい作家たちのひとり、ゲオルギァス・コードジュターの寓話に用いられていたとさえ言われている。
RICE-WATER, n. 【重《おも》湯《ゆ》】 想像力を規制し、良心に麻酔をかけるためにわが国の人気作家や評判の詩人のほとんどが、秘《ひそ》かに用いる神秘的な飲み物。感覚を鈍麻させ、昏《こん》睡《すい》状態にさせる精分が豊富であるといわれ、ディズマル・スワンプ(アメリカ南部大西洋岸にある大湿地帯)の太った魔女が真夜中の霧の中で醸造する。
RICH, adj. 【金持ちの】 怠惰な人間、無能力者、浪費家、嫉《しつ》妬《と》深い者ども、そしてついていない連中の財産を保管し、会計報告する義務のある。これが最下層暗黒街で一般に広まっている見解であって、そこでは労 働 組 合《ブラザーフツド・オブ・マン》がその見解のもっとも論理的な発展と、それに対しての率直な支持を見出しているのである。中間の世界の住民にとってこの語は非常に賢明な、を意味する。
RICHES, n. 【富】
天からの授かりもの 「これこそ心から満足しているわたしの最愛の息子」を意味する
ジョン・ロックフェラー
苦労と徳行に対する報酬
J・P・モーガン
(アメリカの大銀行家、美
術品収集家。1837-1913)
一人の人間の手にある多くの人間の貯蓄
ユージン・デブズ
(アメリカ労働運動の
指導者。 1855-1926)
これらの秀れた定義に対し、霊感を受けた当辞典編纂者はもはや価値ある定義はこれ以上、何ひとつつけ加えられない気がする。
RIDICULE, n. 【嘲《ちよう》弄《ろう》】 それを浴びせられた人間が、それを浴びせた人間の持っている顕著な堂々たる性格を欠いていることを示すためにもくろまれた言葉。それは写実的なもの、見せかけのもの、あるいはただ単に陽気なものにすぎないかもしれない。嘲弄こそ真実の試金石なりと断言したとしてシャフツベリー(イギリスの伯爵家。初代=政治家、三代目=思想家、七代目=政治家、慈善家、あたりが有名)が引き合いに出されるが――これは全くばかげた主張である。というのは多くのまじめくさった虚偽が、一般受けを失うことなく、何世紀にもわたる嘲弄に耐えてきたからである。たとえば、「子供の世間体」に関する教義よりも、もっと活発に嘲弄されてきたものに何があるだろうか。
RIGHT, n. 【権利】 あるものである、あることをする、あるいはあるものを持とうとする正当な権限のことで、例えば国王である権利、隣人をだます権利、はしかになる権利のようなものである。これらの権利のうちで第一のものは、かつては神の意志に直接由来するものだ、と広く信じられていた。それに、民主主義の文明諸国以外の、異 教 徒 国《イン・パルテイプス・インフリジユウム》では、今日でも依然として、時によるとそのように主張されることがある。これを示すのに、アベトニゴ・ビンク卿に次のような有名な詩がある。
では 何の権利があって王たちは治めるのか?
彼らの地位や権力を認めるのは誰の権利なのか?
神も喜ばぬのに 招かれざる期間を
一時間も王座で耐えることができ
はたまた 大統領の椅子にてぬくぬくとおのが誇りを鼻にかけられたら
彼こそまさにラバのごとく頑固である
ものすべてかくあるは神権によるもの
何が起ころうとも そは神の御心によるなり 美《う》まし国!
もし 愚者がその意図をくじき 悪者がそれに逆らえれば
それは何と不思議なことならん!
もし そうなら その時神は(悪意のつもりはさらさらないが)
寄与過失の科《かど》で有罪と私は言いたい
RIGHTEOUSNESS, n. 【正義】 オキー半島の低地に住んでいたパンティドードルズ人の間でかつて見出されたたくましい美徳。その地からもどって来た宣教師のうち何人かが、その美徳をヨーロッパ諸国に紹介しようと、何度か試みてもうまくいかなかったのだが、説明がどうも十分ではなかったようだ。この折の誤った説明の一例が、信心深いロウレイ僧正の唯一の現存の説教の中に見出される。その代表的なくだりを以下に紹介する。
「さて、正義というものは聖なる精神状態にのみ存在するものでもなければ、はたまた宗教的儀式の履行、法文の服従に存在するものでもありません。人が信心深く、公正であるからといって、それだけでは十分でありません。他人もまた同じ状態にあるよう気を配らなければならないのです。そしてこの目的に対しては強制が適当な手段であります。わたしの不正が他人の害となるのと同様に、他人の不正が更にまた別の人の害となるかもしれません。ですからわたし自身の不正行為を自重するのは言うまでもなく、他人にそれをやめさせることが明らかにわたしの義務であります。それゆえに、もしわたしが正しくありたいと願うのなら、わたしは隣人を、必要ならば力ずくで、これら害ある不正のことがらから押さえねばならないのです。これら害あることがらこそ、神のよりよき摂理、および神の加護により、わたしのさしひかえるものなのであります」
RIME, n. 【〔詩〕韻】 詩の、それもほとんどはへたくその詩の行の終わりの一致する音。詩自体、散文とは異なって、一般に退屈なものである。この語はふつう、(そして意地悪く)メRHYMEモとつづられる。
RIMER, n. 【へぼ詩人】 無関心と軽《けい》蔑《べつ》の念で遇せられる詩人。
へっぽこ詩人 無視されし火を消す
音は熄《や》み 火は死す
すると飼い犬 東に西に
詩人の心に燃える気持ちを説明しに
魅せられた大地に 月が昇って
立ち止まっては耳を傾け 詩の意味を理解しようとあこがれて。
マウブレイ・マイルズ
RIOT, n. 【暴動】 無邪気な野次馬どもが軍隊のためにしてやる人気あるもよおし。
R. I. P. 【安らかに眠れよ】 死者に対して無《ぶ》精《しよう》な善意を立証する requiescat《レクイエス》 in pace《イン ペイシ》 の不注意な省略形。しかし博学をもってなるドリッジ博士の説によれば、これはもともとreductus《レダクタス》 in pulvis《イン パルビス》 (土への還元)以外の意味はなかった、とのことである。
RITE, n. 【儀式】 法律、命令、または習慣によって定められた宗教的、あるいは準宗教的式典。誠実というなくてはならぬ聖油が、これから絞り出される。
RITUALISM, n. 【儀式主義】 神のオランダ風の庭園。そこでは神は、芝生に入らないようにして、直線に囲まれた解放地域《 フ リ ー ダ ム》のなかで散歩ができる。
ROAD, n. 【道路】 陸地の細長い筋。それを通って人は退屈でとてもいられない所から、行ったとしても無駄な所へと行けるかもしれない。
たとえどんなに岐《わか》れていてもすべての道はローマに通ず
そこからは少なくとも一本の道は ありがたや わが家に通ず
ボーレイ・ザ・ボールド
ROBBER, n. 【追《おい》剥《はぎ》】 公平な実務家。
ヴォルテール(フランスの作家、哲学者、啓蒙思想家。1694-1778)について次のような話がある。ある夜のこと、彼と数人の旅仲間が、とある路傍の宿に泊まった。周囲がいわくありげだったので、夕食後一同は交代に追剥の話をしようじゃないか、ということになった。ヴォルテールの番がやって来たとき、彼は話した。「その昔、ある収税請負人がいた」それ以上何も言わなかったので、一同は続けるようにと促した。彼曰く、「話はそれでおしまいさ」
ROMANCE, n. 【ロマンス】 「あるがままの万物の神」に対し、忠誠という義務を何ら果たす必要のない虚構の物語。小説《ノベル》では、家で飼っている馬がつなぎ柱につながれているように、作者の思想がもっともらしさというものにつながれている。しかしロマンスでは作者の思想は、はみとか手《た》綱《づな》に拘束なんか全くされずに、自由、気ままに、想像の全領域に思いのまま駆けめぐれる。いわゆる小説家とは哀れな生きもので、単なる事件記者にしかすぎないと、カーライル(スコットランドの思想家、評論家。1795-1881)なら言うかもしれない。小説家は、登場人物や話の筋は作りあげられるかもしれないが、その話が全くの嘘っぱちであるにもかかわらず、実際には起こりえないようなことが起こるなどとは想像してはならないのだ。何ゆえにこのような厳しい条件を自分に課し、自分自身が鍛えた「一歩進むたびに伸びて行く鎖をひきずる」(イギリスの作家、オリバー・ゴールドスミス〔1730 ?-74〕の詩、「The Traveller」からの引用)のかは、十冊もの分厚い書物で説明してみても、この事に関しての彼自身の無知という深刻な闇を明るくすることは一本の蝋《ろう》燭《そく》の光をもってさえできない。偉大な作家の中には、「能力を荒廃させて」(イギリスの田園詩人、ウイリアム・ワーズワース〔1770-1850〕の詩、「The Tables Turned」からの引用)小説を書いた者もいるにはいるのだから、偉大な小説だってあるにはある。しかし、われわれが知っているものの中で、はるかに抜きんでていて、もっとも魅力あるフィクションが、『千夜一夜物語』であることは、やはり疑う余地がない。
ROPE, n. 【ロープ】 暗殺者たちに、自分らもまた死ぬ運命にあるのだ、ということを思い起こさせる今日ではほとんど用いられなくなった道具。それは首に巻きつけられ、その人間が生きている限り、その場所に存在する。この道具は、人間の身体の他の部分にとりつけられるいっそう複雑な電気装置にとって代わられてきているが、この装置もまた、説教という名の装置に、急速にその場所を譲ろうとしている。
ROSTRUM, n. 【演壇】 ラテン語では、鳥の嘴《くちばし》、または船のへさき。アメリカでは、公職への候補者が、その上にのぼって、野次馬どもの英知、美徳、そして力を精力的にほめたてる壇。
ROUNDHEAD, n. 【円頂党員(イギリスの内乱当時王党に敵対した清教徒。頭髪を短く刈っていた)】 イギリスの内乱(クロムウエルらがチャールズ一世に対して行った革命。1642-49)の時の議会党員。髪の毛を短く刈る習慣があったことから、このように呼ばれる。一方、相手方の王党員は髪を長く伸ばしていた。この両者の相違点は他にもいくつかあったが、頭髪の刈り方が争いの根本原因であった。王党員は、怠け者の王が、首を洗ったりするよりも、髪の毛を伸ばしっぱなしにしておくほうが好都合だと考えていたものだから、国王派であったわけだ。一方、円頂党員は、そのほとんどが床屋と石鹸製造人であって、このことを商売の邪魔になると考えたればこそ、王の首がことさらに彼らの怒りの対象となったのだ。この両者の子孫は、今日においては同様な髪型をしているが、あの昔の争いで燃えた敵意のほむらは、イギリス人の礼儀正しさという雪の下で今もなおくすぶっている。
RUIN, v. 【破壊する】 ぶちこわす。特に、乙女の美徳というものを信じている乙女の気持ちをぶちこわす。
RUM, n. 【ラム酒】 総じて、絶対禁酒家たちに狂気を生ぜしめる火のように強いアルコール。
RUMOR, n. 【噂《うわさ》】 人の名声を暗殺する人間のお好みの武器。
鎧《よろい》 盾《たて》もても 鋭く対抗しがたく
鍔《つば》もても交わせず 飛び道具でも押さえきれず
おおこよなく重宝なる噂よ 願わくば敵に向かい
これ以上の刃物をわれにふるわしむるな
彼をして見えざる敵を怖れさせよ
はたまた柄《つか》に役に立たざる手をおかしめよ
しかしてわれには長き 細身の 鋭き凶言ありて
古《いにしえ》の とある罪の噂を示唆せるなり
さればこそ 敵めらを殺すに 強打の要なからん
敵の敗北を祝わせ給え
また他の敵に対して わが勇気を育て給え
ジョウエル・バックスター
RUSSIAN, n. 【ロシア人】 白人の体躯と蒙古人の精神を持った人間。吐 酒 石《 ターター・エメテイツク》。(ターター・エメティック=へどの出るダッタン人)
S
SABBATH, n. 【安息日】 神が六日間でこの世を創り給い、七日目に逮捕され給うた、(創世記第一章―第二章第四節参照)という事実に起源を持つ一週に一度の祭日。ユダヤ人の間では、キリスト教徒風に翻訳すれば、「汝の隣人に安息日を守らせるために第七の日を忘るなかれ」(出エジプト記第二十章第十節及び申命記第五章第十二節―第十五節参照)となる戒律によって、この日を祝うことが義務づけられている。創造主にとっては、安息日が週の最終日に当たることはきわめて好都合のようであったが、初期の神父たちの見解はこれと違っていた。その日の神聖さには、非常な威厳が具《そな》わっているので、海へ行く、(あるいは海の中まで行く)者どもに対して、神があいまいで、そしておぼつかない支配権を持っている場所においてさえ、以下にのべる十誡中の第四誡律の海洋版で明らかなように、この安息日は敬《けい》虔《けん》な態度で認められているのである。
六日のあいだは仕事に励み できうるすべてをなせ。
そして七日目には甲板を磨 き《ホリー・ストン》、錨《いかり》索《づな》の錆《さび》を落とすのだ。
(出エジプト記第二十章第九十節及び申命記第五章第十三―第十四節に、「六日のあいだ働いて、あなたのすべてのわざをしなければならない。七日目はあなたの神、主の安息であるから、なんのわざをもしてはならない――」がある)
甲板はもはや磨かれはしないが、錨索は依然として船長に対し、聖なる儀式のための崇敬の念を立証する機会を与えている。
SACERDOTALIST, n. 【聖職尊奉論者】 牧師は聖職者なりという信念をもつ人。この重大な教義の否定は、新《ネオ・》 辞《デイク》書《シヨナ》派《リアン》が、監督制教会 に対して、いままっこうから浴びせかけているもっとも大胆な挑戦である。
SACRAMENT, n. 【聖礼典】 宗教上の厳かな儀式。この儀式に対して、権威づけと意義づけが、いくつかの段階に分けてなされる。ローマカトリック教会では、聖礼典が七つあるが、プロテスタントの教会は、あまり栄えていないので、洗礼と聖《せい》餐《さん》の二つを行う余裕しかない。そして、これとても神聖さに欠けているのだ。さらに小さな宗派では、聖礼典を全く行わないものもあって、そんな所では、そういったけちな節約のため、みなにバチが当たるのは明々白々である。
SACRED, adj. 【神聖な】 宗教上のある目的に捧げた。神性を有する。おごそかな思想や情緒を吹き込む。チベットのダライ・ラマ(ラマ教の教主、かつその統治者)。ムブワンゴのムーガム《ぼうとまじないきようのきようそ》(暴徒扇動者か?)、セイロンの猿の寺院、インドの牛、古代エジプトの鰐《わに》、猫、玉《たま》葱《ねぎ》、独房の法律学者、ノアを咬んだ犬の毛のような。
すべてのものは神聖と涜《とく》神《しん》かのどちらかだ
神聖は聖職者に利益をもたらし
涜神は悪魔と関係あり
ダンボ・オモハンド
SANDLOTTER, n. 【空き地に集まる人間】 サンフランシスコの悪名高い扇動政治家デニス・カーネイ(米労組指導者。ビアスは彼に反対するために出された「アーゴノート」誌を編集した)の政見を支持する脊椎哺乳動物。彼の聴衆は町の空間(空き地)に集まったのであった。仲間の伝統に忠実に、このプロレタリアの指導者は、法と秩序を守る相手がたに、最後には買収され、沈黙を守っておとなしく暮らし、後悔ひとつせず裕福に死んでいった。けれど彼は寝返る前に、乱暴な言葉づかいで罪をくるみこんでしまっている条例をカリフォルニアにおしつけたのであった。「空き地に集まる人間《 サ ン ド ロ ツ タ ー》」と、「過激革命主義者《 サ ン・キ ユ ロ ツ ト》」の両語の類似性は、意義深いというには問題があるが、示唆的であることは疑いの余地がない。
SAFETY-CLUTCH, n. 【安全装置】 昇降機の事故のとき、エレベーター、つまり、箱が落ちるのを自動的に防止する機械装置。
人の死骸を見たことありき
エレベーターの穴底に
手足ことごとくばらばらなりき
落ちたるところ一面に
われ気も顛《てん》倒《とう》して
そのいとも恐ろしき亡《なき》骸《がら》に語りかけたり
「場所がこんなとこだけに
お前の首をみてぞっとするんだ!」
その時死体 悲しげに はたまた
人の心を打つごとくほほえみ 突如として語りき
「だが俺は ひどく震えたりはしないぞ
ここにこうして二週間もいるからな」
つづけてその態度をば みじんも変えぬまま
死体がわれに頼んで言うに
おのがばらばらの手や足を
しっかり見守ってもらいたいと
手と足の何と頑固なこと
それぞれ てんでに散らばりて
片脚が礼を失すれば
もう一方がその弁明をしたるがごときさまなりき
ことこまかくかくも述べるは
その惨状を示すため
かくのごとくに述べるとは
始めは思いもよらざりき
エレベーターの穴底に
散りし男の話ほど
恐ろしきこと これまでに
ついぞ耳にはせざるなり
さて この話は寓《ぐう》喩《ゆ》のもの
すべてが比喩のものである
なぜなら穴は隠《いん》喩《ゆ》であり
男は落ちなぞしなかった
作家が欺き通すのは
非人道的と愚考する
欺きによって得られたる
月桂冠をかぶるのはさもしきこととわれ思う
なぜならこのエレベーターこそ
政治のことだ 心せよ
人 才気こそ備われば
あとは政治があと押ししりっぱな地位にのし上げる
ブライアン(アメリカの政治家。1860-1925)さんは才気煥《かん》発《ぱつ》
(ばらばらに破滅したのはこの男ゆえ)
そして才気がみごとに彼をもりあげた
そこで頭がぐらつき始めた
すると頭上でロープが切れて
痛ましくも地上に落ち
彼を愛するものの誰ひとりとしてなく
傷つけられし価値のため
生きてはいるが、誰ひとりとして知る人とてもなく
すくなくも彼だとは知る人とてもなし
このいたましき詩の教えは
「安全装置には いつも油を塗ること」だ
ポーファー・プーグ
SAINT, n. 【聖人】 死んだ罪人が、改訂され、編集されたもの。
オルレアン公爵夫人の話によれば、不敬きわまりない老《ろう》誹《ひ》謗《ぼう》者《しや》、ヴィルロア元帥(フランスの軍人。1644-1730)は、若い頃、聖フランソア・ド・サル(フランスの神秘家。1567-1622)を知っていたが、彼が聖人だと言われているのを耳にし、「ド・サル氏が聖人だということを聞いたが、嬉しいかぎりだ。氏は下品なことを口にするのが好きで、トランプでは、いつもいかさまをやっていたものだ。なるほど氏は馬鹿ではあるが。他の点からみれば、完璧な紳士である」と言ったそうだ。(ふたりの生年に注意)
SALACITY, n. 【猥《わい》褻《せつ》】 老若を問わず、閨《けい》秀《しゆう》作家が特にものする大衆小説の中でよくお目にかかる、ある種の文学的特徴。彼女らはこれを別の名でよび、作品に紹介するに当たって、文学でないがしろにされてきた分野を開拓し、見落とされてきた収穫物を掻き集めているのだと考えているのだ。もしも彼女らが不幸にも長生きをすれば、自分たちの原稿の束を燃してしまいたいという願望にさいなまれるのだ。
SALAMANDEA, n. 【火の精】 昔は火の中に棲《す》んでいた爬《は》虫《ちゆう》類《るい》。後に、人間の形をした神をいうようになったが、依然として、火が大好きであった。火の精は今日では絶滅したものと信じられており、その最後のものは、アベ・ベロックがカーカソン(フランスの地名)で見た、との記録がある。その折、彼はバケツ一杯の聖水でそれを払い浄めたとのことである。
SARCOPHAGUS, n. 【石棺】 ギリシア人の間では、その中に収められた亡骸をむさぼり食べるという特殊な性質を有していた一種の肉食性の石でつくられた棺のこと。現代の葬式学者に知られている石棺は、ふつうは大工の腕前による製品である。
SATAN, n. 【魔王】 創造主がおかした悲しむべきあやまちのひとつで、主は頭に飾《サツ》り《シク》帯《ロス》をかぶり、手に斧《アクシズ》を持って後悔している(マタイ福音書「……荒布〔サッシクロス〕をまとい灰〔アッシズ〕をかぶって悔い改めた……」のもじり)。天使長の職につかせはしたものの、いろいろな面で不都合をしでかし、とどのつまりは、天国から追放というはめになった。下界へと降りて来る途中で、彼は立ち止まり、首をかしげてしばし考え、ついに逆もどりをした。「きいていただきたいお願いがひとつあります」彼は言った。
「それを申すがよい」
「仄《そく》聞《ぶん》するところによりますと、やがて人間が創られるそうです。人間には掟《おきて》が必要と思われますが」
「なんだと、この極道者めが! このわしに人間の敵にされたお前が、人間に対し憎悪の気持ちをもって永《えい》劫《ごう》の暁から飛び出したお前が――人間の掟をつくる権利がほしいというのか」
「お言葉を返すようで失礼ですが、人間どもが自分で掟をつくるようお許しをいただきたいとお願いに上がったのでございます」
魔王が頼んだ通りに事が運んだ。
SATIETY, n. 【堪《たん》能《のう》】 中身をすっかり頂戴してしまったあとで、お皿を見た時の感じでございます、奥様。
SATIRE, n. 【風刺】 作家の敵の悪徳や愚行が、完全無欠とはいかないまでも優しく説明されている今日では廃《すた》れた文学作品の一種。わが国においては、風刺は、不健康、不安定な存在を辛うじて維持するにとどまった。というのはその真髄である機《ウイ》知《ツト》にわれわれは悲しいほど欠けており、われわれがウィットと感違いをしているユーモアは、どのユーモアとも同様に、寛大であり、また憐憫の情に富んでいるからだ。その上、アメリカ人は創造主から、悪徳と愚行をふんだんに「授けられている」にもかかわらず、それらが不《ふ》埒《らち》な性質であることが一般に認識されておらず、従って、風刺作家はひどく気むずかしい心根の悪玉とみなされ、彼の槍玉に上がった被害者ことごとくの、共同被告を求めてあげる叫び声が、全国的な同情を喚起することになるのだ。
風刺 万歳! ミイラが語る死語をもて
汝《な》が賞賛の永《とこ》久《しえ》に賛えられんことを
そは 汝自身ももはや死に絶え、ミイラ同様呪われたればなり――
汝が魂《たま》は(適所をえて)地獄にあり
汝が魂もし聖書を浄めるものにありしかば
汝《なれ》 誹謗の掟にて消えざりしものを
バーネイ・スティムス
SATYR, n. 【(ギリシア神話)森の神】 ヘブライでも一致して認められている、ギリシア神話に出てくる数少ない神の一人。(レビ記第十七章第七節〔彼らが慕って姦淫を行ったみだらな神に、再び犠牲をささげてはならない。これは彼らが代々ながく守るべき定めである〕)森の神は、最初はディオニシアス(デイオニソス〔ギリシア神話の酒と芝居の神、ローマ神話のバッカス〕の誤りか?)にしぶしぶ忠誠を尽くしていた放縦な連中の一員であったが、さまざまの改革、改良を行った。この森の神は、それから少し後の、もっと上品で、人間にというよりはむしろ山《や》羊《ぎ》に似たローマ神話に出てくる牧神と混同されることがよくある。
SAUCE, n. 【ソース】 文明と開化の絶対に誤りのないしるし。ソースを全く持っていない国民が千もの悪徳を有するのに反し、ソースを一種類持つ国民は九百九十九の悪徳しか有していない。というのは、ソースが一種類発明され、用いられるたびに、悪徳が一つずつ放棄され、許されていく勘定になるからである。
SAW, n. 【格言】 陳腐な一般的な言いまわし、あるいは諺《ことわざ》。(比喩的、かつ口語的)ウッドン・ヘッド(木の頭と、間抜け、の両意)に用いられるため、このようにソー(格言、鋸、は発音が同じ)といわれる。以下は昔のソー(二義)に新しいティース(鋸の歯と、格言の意味)をつけたいくつかの例である。
一銭の節約は一銭の損
人のお里は手《て》下《した》で知れる
自分のことを他人の棚《たな》にあげ
きょうの五十よりあすの百
過ちを改むるにはばかれ
証拠より論
無いは有るにまさる
困っている時の友人には ご用心ご用心
仮にもやる価値のあることなら 他人にそれをやってくれるようにと頼むだけの価値がある
口数は少ないだけ損をする
早まって喜ぶな
うわさをすれば必ずばれる
できるだけ悪いことをするな
会社が大仕事の契約中 ストライキ(罷業すると、たたくの二義に用いる)をせよ
意志あれば「いや」あり
SCARABAEUS, n. 【甲《かぶと》虫《むし》(古代エジプト人のお守り。再生や豊作の表象)】われわれに馴染み深い「ダイコクコガネ」と同類の、古代エジプトの神聖な甲虫。これは不滅というものを、つまり神がこれに特別の神聖さを与える理由を知っていたという事実というものを象徴していると考えられている。糞便の固まりの中で、卵をかえすというその習慣は、また聖職にあるもののお気に召してきたかもしれないし、またいつの日にかはわれわれの間でも、同様の崇敬の念を確実なものにするかもしれない。なるほどアメリカの甲虫は質の劣っている甲虫ではあるが、それに負けずに劣っている牧師はといえば、それはアメリカの牧師である。
SCARIFICATION, n. 【乱刺(放血療法)】中世の信者たちが行った悔《かい》悛《しゆん》の苦行の一種。この儀式は時にはナイフ、また時には焼きごてによって行われたのであるが、アルセニアス・アセティカスの言によると、悔悛者が何の苦痛も、また醜い傷あともいとわないなら、常に喜んで受け入れられるだろうに、とのことだ。他の野蛮な方法ともどもこの乱刺は、今日では慈善がその代わりの役目を果たしている。図書館の設立とか大学への基金とかは、悔悛者にとっては、ナイフ、または焼きごてによって与えられる苦痛より、いっそう鋭い、いっそう後々までも残る苦痛を生ずるといわれているため、恩恵を受けるよりいっそう確実な手段である。しかしながら、これを悔悛の方法として用いることには二つの、すなわちそれがもたらす善と、正義の痕跡といった深刻な難点が存在している。
SCEPTER, n. 【笏《しやく》】 王の職務上の杖で、権威のしるし、かつ象徴。もともとは、先端にかぎくぎのついた矛《ほこ》の一種で、それを用いて王はおかかえの道化役者に警告を発したり、大臣の法案を拒否するために、それでその法案の提唱者の骨を打ち砕いたりした。
SCIMETAR, n. 【三日月刀】 素晴らしい切れ味の、湾曲した刀剣。東洋人のある者は、その取り扱いに驚くほど熟達しているとのことで、次に述べる事件は、それを示すのに役立つであろう。話は、十三世紀の著名な作家、シュシ・イタマの日本語の文章を翻訳したものである。
偉大なギチ・ククタイが時のミカドであらせられたおりのこと、朝廷の高官のひとりジジジ・リを打ち首にするようミカドは宣告された。刑執行に定めた時間の直後のこと、陛下がいとも驚かれたことに、死んでもはや十分も経過しているはずの当の高官が、しずしずと王座に近づいてくるのを目にされたのであった!
「千七百頭の不愉快千万の龍どもめが!」激怒されたミカドは叫ばれた。「お前に町の広場に立ち、三時に首切り役人に、お前の首を刎《は》ねさせるようにと朕《ちん》が宣告をしなかったとでも言うのか? それに、今はもう三時を十分過ぎていないとでも言うのか?」
「輝ける八《や》百《お》万《よろず》の大神たちの御《み》子《こ》たる陛下」死刑の宣告を受けた大臣《おとど》が答えた。「陛下のお言葉はすべて全く、その通りでございます。それがため、真実がかえって嘘のように思えるくらいでございます。けれども、この上なく尊い陛下の太陽のように明るい、生命《いのち》あふれるお気持ちは、嘆かわしくも無視されたのでございます。喜び勇んで、この私は広場へと駆けて参り、この取るに足らない身体をおいた次第でございます。執行人が、抜き身の三日月刀を手にして現れまして、これ見よがしに宙を切って見せ、そして私めの首を軽くたたき、大股で歩き去りましてございます。その折に、私めは大衆に人気がありますもので、彼らは執行人の背中をめがけて石を投げつけたのでございます。私めがこうして参内いたしましたのは、あの不忠、かつ裏切り者の首に、公正なるお裁きを、お願いいたしたかったからでございます」
「そのはらわたの黒い、腐り切った卑怯者は、どの首斬り連隊所属であるか」ミカドは尋ねられた。
「勇敢な九千八百三十七連隊に所属いたしております。私めはそやつを存じております。そやつの名は、サッコ・サムシと申します」
「その男を朕の前に連れて参れ」ミカドはお付きの一人に申しつけられ、三十分後にその罪人は玉座の前へ姿を現したのであった。
「親指が両方ともない、三本足のせむしから生まれたこの私生児めが!」ミカドは荒々しく言われた――「貴様は、首を切り落としてこそ役目が十分に務まるというのに、何ゆえに軽くたたいただけで済ませたのか」
「鶴と桜の花の陛下」首切り役人は動ずることなく答えた。「この男に手鼻をかむようお命じ下さいまし」
命ぜられるままに、ジジジ・リは自分の鼻をおさえると、象のように大きな音をたてて手鼻をかみ、一同の者はみな、切り落とされた首が物《もの》凄《すご》い勢いで飛んで行くものと思った。だが何も起こりはしなかった。何も起こりはせずに、手鼻をかむという演技はいとも無事に終わったのだ。
今や、一同の目は死刑執行人の上にそそがれた。顔色といったら、フジアマ(フジヤマ?)の頂上のように真っ白になっていた。両肢は震え、呼吸は恐怖であえぎはじめていた。
「大釘の尾の真鍮製の何種類かのライオンよ!」彼は叫んだ。「この私は何という落ちぶれて面目を失墜した刀使いでありましょうか! 私めがこの悪党めを力なく切りましたのも、三日月刀をひらめかしました時、不用意にもそれを私め自身の首にあててしまったのでした。月の父なる神よ、この仕事を辞《や》めさせていただきます」
こう言うや、彼はちょんまげをぐいとつかんで首を持ち上げ、玉座へと進み出て、それをミカドの足もとにうやうやしく置いたのであった。
SCRAP-BOOK, n. 【切り抜き帳】 普通は馬鹿者が編集する本。ちょっとばかり名のある人間の多くが、自分たちに関してたまたま目についた記事なら何でもかでも貼《は》りつけるスクラップ・ブックをつくったり、または人を傭《やと》って集めさせたりする。こういった我《が》利《り》我《が》利《り》亡《もう》者《じや》のひとりに、アガメムノン・メランクトン・ピーターズは次のような詩作にて語りかけている。
フランクよ きみが自慢の
きみの真実の記録からなる
胡《こ》椒《しよう》をかけた焼き肉《 あ ざ け り》のすべての入った
あのスクラップ・ブックは
記者の笑いが きみは自分の評判を
実証するものと考えて
きみは きみの名前がからかわれているのに
印刷されたあざけりを貼っているのだ
きみが貼りつけた絵のどれもが
きみのこっけいな体つきと きみのおかしな
ユダヤ系の顔を
漫画の筆が追ったもの
どうかわたしに貸してくれ 機知も
はたまた技術もないけれど
きみが毎日受けるべき痛打を並べよう
もし神様に鉄《てつ》拳《けん》があるなら
SCRIBBLER, n. 【乱筆家】 自分の意見とは正反対の意見を書くのを職業とする人間。
SCRIPTURES, n. 【聖書】 われわれの神聖な宗教に属する聖なる書物。他のすべての信仰が基づいている誤った冒《ぼう》涜《とく》的な書物と区別されている。
SEAL, n. 【印】 ある種の書類に、その信《しん》憑《ぴよう》性《せい》と権威を示すために押す印。印は蝋《ろう》に押されてから、書類に貼りつけられることもあれば、書類に直接押されることもある。この意味においては、印を押すということは、重要な書類に、それが意味する権威とは別個の、魔力のある霊験を与えるために神秘的な文句とか符号を刻み込んだ古代の習慣の名《な》残《ご》りである。大英博物館には、多くの古代の書類が保存されており、そのほとんどが、聖職関係のものである。これらは、巫《ふ》術《じゆつ》で用いる五線星形とか他の模様、たいていは魔力をひめた言葉の頭文字であるが、そうしたもので効力を持たされており、多くの場合、今日印をそえるのと同じ方法で押されている。現代の何の理由もない、明らかに無意味な習慣、儀式、行事のほとんどすべてのものが、かつては実用性があったものに起源を持っているのであるが、時の経過につれて、古代の無意味なものが、本当に役立つものに進化してきた実例を見るのは愉快なことである。われわれが用いている、〓“誠実な《シンシイア》〓”という言葉はラテン語の sine cero すなわち蝋を用いない、に由来するものであるが、学者たちは、これが神秘的なしるしの欠如を意味しているのか、あるいは以前にはそれを用いて書簡が大衆の目から隠されていた蝋の欠如を意味しているのかについて意見がわかれている。どちらの見解にせよ、これはさしあたりある仮説を必要とするものに役立っている。L・Sという頭文字は、ふつう法律上の書類の署名に添えられるもので、その印はもはや今日では用いられていないが、印を押すところ(the place of the seal はオットセイ棲息地の意にかけている)というlocum《なついん》 sigillis《 ば し よ》を意味しており、この世から絶滅する動物(オットセイのこと)と人間とを区別する、人間の保守性の見事な実例である。locum sigillisという言葉は、プリビロフ群島(ベアリング海の米領群島、オットセイの繁殖地)がアメリカ合衆国の独立州の地位をえるようなことがあれば、州の適切なモットーとしていかがかと謹んで提案するものである。
SEINE, n. 【地引き網】 生活環境を知らぬ間に変える効果のある網の一種。魚のためには、丈夫に粗《あら》くつくられているが、女性をとるには、小さなカットされた石のおもりのついた非常に繊細な紐で十分である。
悪魔はレースの網を投げやって
(貴重な石でおもりをつけて)
それを陸地に引き揚げて
釣った中身を数えてみた
女の心が網にはどっさり
不思議で 貴重な収穫だった!
ところがそれを背負う前に
網目からみんな逃げて行った
バルーク・ド・ロピス
SELF-ESTEEM, n. 【自《うぬ》惚《ぼ》れ】 間違っている評価。
SELF-EVIDENT, adj. 【自明の】 他の誰にもではなくて、自分にとってだけ明らかな。
SELFISH, adj. 【利己的な】 他人の利己に対する配慮が欠けている。
SENATE, n. 【上院】 高度の義務と不行跡とを委託されている年配の紳士の集まり。
SERIAL, n. 【続き物】 文学作品の一種で、新聞や雑誌の何号かにわたってだらだらと続く、普通は本当のことではない物語。それ以前を読まなかった読者のために、「前章までの梗《こう》概《がい》」が各回に載せられることが多いが、それ以後続けて読みたくない読者のために、今後の数章の梗概を載せることが更に望ましい。作品全体の梗概を添えれば更によかろうと思われる。
故ジェイムズ・F・ボーマンが、ある天才的な作家――その名前は今日まで伝わっていないのであるが――と、共同で、ある週刊誌に物語を執筆していたことがあった。二人は、合作ではなく、交互に、つまりボーマンがその週に書けば次の週にはその友人が書くといった具合いに、少なくも彼らの希望では、果てしなく続けていくつもりだった。ところが不幸なことに二人は仲《なか》違《たが》いをしてしまい、ある月曜日の朝のこと、自分の分を書く用意にと、友人が書いたものをボーマンが読んでみると、びっくりして心が痛むような方法で話がお膳立てされているのに気がついたのである。合作の相手が物語の登場人物をひとり残らず船に乗せ、大西洋のもっとも深い所に一同を沈めてしまった、という次第なのだ。
SEVERALTY, n. 【個々別々・単独所有】 分け離れていること。例えば、単独保有の土地、すなわち共同所有でなく個別に所有されている土地のように。インディアンのある種族には、今日では文明化が十分に進んでいるために土地を単独所有していると信じられているものもある。これまでは彼らはその土地を自分たちの種族のものとして維持してきたのであって、蝋製のビーズや、ジャガイモからつくったウイスキーなんかと交換に白人に売り渡すことができなかったのであった。
見よ! 気の毒なインディアン 彼の分不相応の心が(Lo ! the poor Indian ! はポープ〔イギリスの詩人 1688-1744〕のAn Essay on Man〔1733〕からとったもの)
前には死を うしろには地獄と墓を目にとめた
栄える開拓者たちが彼にいれてくれと頼んだことはただの一度もなかった――
彼のわずかばかりの財産は 移民者たちの定まった餌《え》食《じき》
手練手管の移民者が 不法に土地を占拠して
徐々に彼を他《よ》所《そ》の土地へと追いやったのだ!
彼の消えることのない炎と 尽きることのない苦しみは
「単独所有の土地」(なんと魅力ある言葉だろう!)により とどのつまりは
それぞれかき消され 打ち殺されて 彼は新しい土地にしかとつながれるのだ!
SHERIFF, n. 【保安官】 アメリカの郡の最高執行責任者。西部および南部の諸州では、そのもっとも特徴のある任務というのは、浮浪者を逮捕して絞首刑にすること。
もっとジョン・エルマー・ペティボン・キャジーは
(書くのは余り嬉しくないが)
この上もなく悪党だった
よく言われたものだった 「全くのはなしがだ!
隣人ジョンのような悪玉は
お天道さまさえ御存知ない」
この極道人はその上に
他にも悪い奴がいると 頭にくるという
も一つおまけの欠点があった
そんな折には 夜のどんな時間であろうとも
起き上がってはその悪人めの
生命を奪い取らなきゃならんと思うのだった
町びとの頼みも聞かばこそ そいつを
近くの木へと連れて行き
宙ぶらりんのままにしたものだ
またある時は 気分が乗ると
いやがる不運な男は体ごと
赤々と燃える火にくべられた
体が見事に茶色く焦げる間に
落ち着き払ったジョンのやつ
厳しく正しい町びとの渋面に出会うのだ
隣人たちが言うのには 「あいつが法を無視するとは
なんと悲しいことだろう――
奴は 無政府し・ゆ・ぎ・し・や・なのだ!」
(この恐しい言葉を町びとが
あえて口にするときはいつもこんなふうだ
その言葉にいやな気持ちをとても強くかき立てられるので)
「決めたぞ」と
さらに続けて彼らは言った
「悪党ジョンに勝手気ままな振舞いをやめさせよう」
「さあ、これらの聖なる亡《なき》骸《がら》で」――
ここで町びとのめいめいは
去年のリンチで手に入れし形見をとり出し
「これらできっと今までのやりかたを彼にやめさせよう
縄 たいまつ 柱などを誤って用いることにより
我らの心を痛めることもなくさせよう」
「彼が無法の意志の命ずるままに
自由に実行できなくなるまでは
彼の血に染まった右手をしばりつけよう」
そこで その場所で鳩首凝議して
一同は彼を保安官に任命した この仕事は
祈祷で始まったということだ
J・ミルトン・スロラック
SIREN, n. 【サイレン(半人半鳥の海の精)】オデーシアス(ホーマーの「オデッセイ」に出てくるトロイ戦争に参加したギリシアの大将)に対し、海上で、生命を捨てるよう説得するのに不首尾に終わったことで有名な、何人かの天才女流音楽家のひとり。比喩的には、洋《よう》々《よう》たる未来と、秘めたる目的と、がっかりするような演奏しか伴わない女性。
SLANG, n. 【俗語】 音しか憶えられない人間豚(ピグノラマス・イントレラビリス〔いやらしい豚と人間を表すビアスの造語〕)の出すうなり声。耳で考えることを舌を用いて述べ、オウムのようなものまねをやっただけなのに、自分が作家になったように感ずる者が用いる言葉。良識という資本を持ってもいないのに才人として身をたてるための(神の配慮があればだが)手段。
SMITHAREEN, n. 【こなみじん】 破片、分解した一部、名残り。この語は多様に用いられはするが、婦人が自転車に乗るのは、「彼女らを悪魔の所に連れて行くことだ」といって反対を唱えた著名な女性改革者のことを歌った次の詩に、この語はもっとも巧みに用いられている。
自転車の車輪 音もなく進み――
乙女らは浮かれて乗りまわす
罪深き気持ち 狂気のように陽気に
まぎれもなき 乙女らは本分を忘れて
悪魔に向かい進み行く!
笑い 歌い ――そして リンリン!
鈴の音は朝から響く
角灯は夜空に輝く星のごとく
街《まち》行く人々に注意をさせて
両《もろ》手《て》を挙げてミス・シャーロットは立ちはだかり
おやまあ あらまあを連発し
リューマチをすっかり忘れ
脂肪も怒りでじりじりし
天罰に通じる道を遮り
悪魔の力も無視し
自転車の車輪 音もなく進み
信号灯は赤 青 緑
ここの地面の上にあるのは何?
哀れ シャーロット・スミスの余り物《はこなみじん》!
ジョン・ウィリアム・ヨープ
SOPHISTRY, n. 【詭弁】 反対者の論法。不誠実さや愚弄のしかたが勝っているという点で自分の論法とは異なっている。この論法はギリシアの後期の教師《ソフイスト》たちのそれであった。彼らはギリシア哲学の一派で、はじめは英知、分別、学問、芸術といった、要するに人間が知らなければならないものは何でも教えていたが、駄《だ》洒《じや》落《れ》の迷路と言葉の霧の中に迷い込んでしまったのだ。
仇敵のいう「事実」を彼は拭《ぬぐ》い去り
詭弁を昼の明るみに引きずり出す
そして なんともひどいいつわりを頼みにしている連中は
狂気へ押しやられると断言するのだ
そうではないのだ 死者の胸の上の芝土のように
彼こそ重みも全然かかることなく
軽々と横たわっているものだ! (lieを「横たわる」「うそをつく」の二義にかけてある)
ポリドア・スミス
SORCERY, n. 【魔法】 政治力なるものの古代の原型かつ先触れ。しかし、それは現在にくらべて尊敬されることは少なく、時には拷問の刑や死刑に処されたのであった。オーガスチン・ニコラスの述べるところによると、魔法を行ったかどで告訴された貧しい百姓は、白状を強制されるために拷問にかけられた。二、三の余りきつくない苦しみに耐えた後、この受難の馬鹿者はおのれが罪を認めはしたが、拷問役人に向かっておずおずと、自分では気づかずに魔法使いになることは不可能なのかとたずねたそうだ。
SOUL, n. 【魂】 昔から活発な論議がこれに関しては行われてきた精神的実在。プラトンは、前世(アテネ時代より前)の存在状態の折に、永遠の真実をもっとも明瞭にかいま見た魂が、哲学者になる人間の体内に入りこむのだと主張した。そういうプラトン自身が哲学者だったのだ。神の真実をもっとも少ししか熟視しなかった魂は、暴君や独裁者の肉体に生命を与えたのであった。額の広い哲学者(プラトンのこと)に首を刎ねると脅迫をしたディオニシオス一世自身は暴君であり、独裁者であった。疑いもなく、プラトンは、自分の敵たちをやっつけるのに引用できる哲学体系を最初に創り出した人間ではなかったが、それだからといって確かに最後の人間でもなかった。
「魂の本質に関しては」とディ《せ》ヴェ《い》ルシ《な》オネ《る》ス・《き》サン《ば》クト《ら》ラム《し》の著名な作者は語っている。
「肉体内に宿る場所についての議論のほかの議論は、ほとんど行われてきていない。私自身の信念はというと、魂は下腹部に宿るのであり――それを信ずると、これまではっきりしなかった事実、すなわち、すべての人間の中で、大食漢がもっとも信心深いという事実の認識、および解明が可能なのである。大食漢は聖書の中では、「自分の腹を神と敬う(ピリピ人への手紙第三章第十九節に「彼らの最後は滅びである。彼らの神はその腹、彼らの栄光はその恥、彼らの思いは地上のことである」とある)」と言われているが――さよう、しからば自分の信念を新たにする神を体内に入れているわけで、彼が信心深くないという理由はありえないではないか。彼ほど、自分の体の中に宿っている力と威厳を理解できるものがほかにいったいいるだろうか。本当にまじめなところ、魂と胃とは、ひとつの神性の実在である。そしてプロマシウスは、これを信じていたにもかかわらず、その実在に不滅性を否定したことは間違いであった。彼は、肉体の他の部分と一緒に、目に見える物質的な実体は人間の死後おとろえ、朽ち果てて行くのを知ってはいたが、その非物質的な本質については何ひとつ知らなかった。これこそわれわれが『食欲』と呼ぶものであって、肉体が破壊され悪臭を放つあとまでも生きながらえ、肉体が生きていた時に要求したもの如何《いかん》に従って、あの世で報われたり、罰せられたりするのである。一般の市場とか大衆食堂で健康によくない食べものをいぎたなく求めた『食欲』は、永遠の飢えの中に投げ入れられるだろうし、一方ホホジロの肉、キャビア、食用ガメ、アンチョービ、太らせた鵞鳥の肝を入れたパイ、あるいはキリスト教徒の食べ物を礼儀正しくはあるが、せっせと求めた食欲は、それこそ永久にそれらの魂にその精神的な歯を当てつづけ、この地上で傾けるもっとも貴重で、もっとも美味の葡《ぶ》萄《どう》酒《しゆ》の不滅の部分を飲んで聖なる渇《かわ》きをいやすこととなろう。以上がわたしの信念ではあるが、まことに嘆かわしいことに、法皇聖下も、(わたしが劣らずに崇敬している)カンタベリー大主教猊《げい》下《か》も、わたしのこの信念を世に広めることに承知して下さらないことを告白するわけだ」
SPOOKER, n. 【幽霊作家】 自分の想像力が超自然現象、特に幽霊の行動と関係を持つ作家。現代のもっとも著名な幽霊作家のひとりはウイリアム・D・ハウエルズ氏(アメリカの現実主義の小説家、批評家、怪奇作家としてのビアスとはまったく立場を異にする。1837-1920)であって、氏はあるりっぱな読者にこれ以上はないと思えるくらいの尊敬に値する礼儀正しい幽霊の一団を紹介している。ハウエルズのお化けは、地域教育委員会議長のただよわす恐怖に加えて、別の郡区からやって来た農夫につきまとう何か神秘的なものまでもつけ加えているのである。
STORY, n. 【物語】 一般的にいって真実ではない話。しかしながら、以下の物語のどの一つをとっても、今日まで首尾よくその真実性が糾弾されたものはないのである。
ある夜のこと、ニューヨークのルードルフ・ブロック氏(ジャーナリスト。1870-1940)は、たまたま晩《ばん》餐《さん》会《かい》の折に、著名な批評家であるパーシヴァル・ポラード氏(批評家、小説家。1869-1911)に隣り合わせて着席した。
彼は言った。「ポラード君、ぼくの書いた『死んだ牝牛の一生』は匿名で出版したんだが、誰がそれを書いたか、君が知らないわけはないはずだ。ところがその批評で、君は今世紀一の阿呆の書いた作品だといっている。公平無私の批評だと思っているのかい?」
「これは失敬したね、君」当の批評家は愛想よく答えた。「しかし、君が一般の読者たちに、それを書いたのが誰かを本当に知ってほしくないと思っていたとは、考えもしなかったもんでね」
カリフォルニアはサンホセにかつて住んでいたW・C・モロウ氏(作家。1853-1923)は、幽霊物語の執筆に余念がなく、その作品を読むと、氷から出てきたばかりのトカゲどもが、一列になって背筋をはい上がり、髪の毛の中にもぐり込むような感じがするのだ。サンホセではその当時、その地で絞首刑にされたヴァスケズという名の追剥が人の目に見える姿の幽霊でよく出てくると信じられていた。町なかの照明が十分といえなかった。サンホセの人々が夜の外出をしぶるというくらいでは足りないほど暗かったというわけだ。あることさらに暗い夜のこと、二人の紳士が、元気を出し続けるために声高に話をしながら、町の中でもっとも淋しい所を歩いていると、有名なジャーナリストであるJ・J・オーエン氏にばったり出くわした。
「これは、オーエン君」紳士の一人が言った。「何だってまたこんな夜にこんな所にいるんだね。ここはヴァスケズの気に入りの場所のひとつだと君が話してくれたところじゃないか。それに君はそれを信じているんだろ。外出して怖くないのかい」
「それがだねえ、君」彼は木の葉を運ぶ風のすすり泣きにも似た、秋のような沈《ちん》鬱《うつ》な調子で答えたものだ。「家の中にいるのが怖いんだよ。実は、ウィル・モロウの小説を一冊ポケットに入れてあるんだが、それが読める明るい所へどうしても行くだけの勇気がないのだ」
シレイ海軍少将(ウインフィールド・スコット。1839-1911)とチャールズ・F・ジョイ下院議員が、ワシントンの平和記念塔の近くに立って、「成功とは失敗であるか」を論じていた。と、突然ジョイ議員は雄弁を中断して、大声をあげた。「や、や! あのバンドは前にも聞いたことがあるぞ。どうも、サントルマンのバンドらしいぞ」
「バンドの音なぞ聞こえはしないぞ」シレイ少将が言った。
「そういえば、わたしにだって聞こえはしないんだが」ジョイ議員が言った。
「でもマイルズ将軍(ネルソン・アプルトン。1839-1925)が通りをやって来るのが見えると、そのりっぱな様子がブラスバンドとおなじようにいつも私に影響を与えてしまうのだ。人は自分が受ける印象をよく調べねばならぬ。でないと、どうしてそのような印象を受けるようになったかがわからなくなってしまうからね」
少将がこの哲学のあわただしい食事を消化中に、マイルズ将軍は威風堂々と行進をして行った。行進の最後尾と思われるものが通過した時、それを見送った二人は、その輝きのために生じた暫時の失明からはっと我にかえった――
「ご機嫌のようでしたな」少将が言った。
ジョイ議員は、思慮深げに同意をした。「あの人には、あの半分とてこれといって楽しみのないひとですからな」
著名な政治家のチャム・クラーク(国会議員。1850-1921)はミズーリ州のジェビーグという村からおよそ一マイル離れた所に住んでいたことがあった。ある日のこと、彼はお気に入りのラバにまたがり村へ出かけて行き、酒場の前の陽の当たる道ばたにラバをつなぐと、絶対禁酒主義者である彼は、中に入って行き、「酒は人をあざける者(箴言第二十一章第一節)」と酒場の主人に知らせたものだった。すごく暑い日だった。ほどなく近くの男がやって来て、クラークを目にするや、次のように言った。
「チャムさん。ラバをあんな日なかに置いとくなんて、よかありませんよ。全くのはなし、焼き肉になってしまいますよ。――わたしが今通りかかった時には、煙を立て始めていましたよ」
「いや、やつは大丈夫ですよ」クラークは平気の平左で言ってのけた。「やつは手に負えない煙草飲みなんですよ」
その近くの男はレモン水をとったが、かぶりを振ると、よかないですよ、と同じ言葉を繰り返した。
その男は陰謀家だった。その前夜のこと、火事があり、すぐ近くの馬小屋が焼け落ち、数多くの馬が昇天したのだが、そのうち一頭の仔馬は、濃い栗毛色に焼けてしまった。子供たちの何人かが、クラーク氏のラバを放してやり、その代わりに焼死体の仔馬を置いたのだ。ほどなく別の男が酒場に入って来た。
「おい、頼むから」と男は砂糖を入れてレモン水を飲みながら言った。「あのラバをどかしてくれないか、親《おや》父《じ》! くさいったらありゃしない」
「大丈夫だよ」とクラークが口をはさんだ。「あのラバはミズーリでいちばんよくきく鼻の持ち主なんだ。そのやつが気にしてないんだから、お前さんが気にする必要なんかないというものだよ」
やりとりがあれこれあって、クラーク氏、表へと出た。するとそこには、まごうかたなく、彼が乗って来たラバが、灰となり、ちぢこまって横たわっているのだ。ところがだ、そこが彼が政治家としてりっぱにのし上がって行ったゆえんなのであるが、その死体を見ても、クラーク氏がどっちつかずの表情しかあらわさず、立ち去ってしまったので、子供たちはまんまと期待を裏切られてしまった。しかるに、その夜遅く歩いて帰宅した氏は、おぼろ月の光を浴びて路傍に、彼のラバが声ひとつたてず厳粛な面持ちで立っているのを目にしたではないか。地獄の悪魔《 ヘ レ ン ・ ブ レ イ ズ》の名前をいつになく語調を強めて口に出すやクラーク氏、今来た道を全速力でとって返すと、その晩を村で過ごしたのであった。
陸軍大学学長H・H・ウォザスプーン将軍は、並々ならぬ知能は持ってはいるが、これはまた不器量な、肋《ろつ》骨《こつ》のように曲がった鼻のヒヒをペットとして飼育している。ある夜、自分のアパートにもどってみると、将軍はアダム(将軍はダーウィン学説の信奉者なので、動物はこう名づけられていた)が、起きていたばかりでなく、肩章その他すべてをつけた主人の正装を身につけているのを見つけ、驚きもし、かつ胸の痛む思いもしたのだった。
「こやつ、人間の遠い祖先めが!」偉大な戦術家は、とどろくような大声を出した。
「消灯らっぱが鳴った後起きているなんて、いったいどういうつもりなのか?――その上、わしの上着を着たりして!」
アダムは立ち上がると、批難の眼差しをして、彼の仲間と同じ四つんばいの方法で部屋を横切り、テーブルの所へ行き、名刺を持ってもどってきた。バリー将軍が訪ねて来たのだった。そして、空になったシャンパンの壜と、何本かの葉巻の吸いがらから判断すると、同将軍は主人の帰りを待っているあいだ、手厚いもてなしを受けたのであった。自分の忠実な人間の祖先に対して詫びたのち、主人は床についた。あくる日、主人はバリー将軍に会ったところ、同将軍は言った。
「やあこれは、スプーン君。ゆうべおいとまをする時、聞くのを忘れたんだが、あの素晴らしい葉巻はいったいどうしたんだね」
ウォザスプーン将軍はそれには答えようともせずに、立ち去ろうとした。
「やあ、勘弁してくれ給え」バリー将軍は後を追って言った。「むろん、今のはぼくの冗談だよ。いいかい、ぼくは君の部屋に入ってから、十五分もたたないうちに、相手をしてくれているのが君じゃないことに気がついたからさ」
SUCCESS, n. 【成功】 自分の仲間に対するただひとつの許すべからざる罪。文学、特に詩において、成功の要素はきわめて単純であり、ある不可思議な理由によって、「ジョン・A・ジョイス」という名前を与えられている尊師、ファーザー・ガッシラスカ《 (ママ)》・ジェイプの次の詩の中に、それがいみじくも表現されている。
りっぱな詩人になりたい者は 本を持たねばなりません
散文でものを考え 深《しん》紅《く》のネクタイをつけ
物思わしげな表情をして 頭はヘキサメーター(詩で六歩格のこと)に
結わねばなりません
思想を貧弱にするのです すると身体が肥えてきます
髪の毛さえ長くしておけば 帽子をかぶる必要はさらさらないのです
SUFFRAGE, n. 【投票権】 投票による意志表示。投票の権利(特権、義務の両方と考えられている)は、一般の解釈によれば、他人が選んだ人間に一票を投ずる権利を意味し、これは高く評価されている。これを拒否することは、「公民としての義務感を持ち合わせていないこと」という汚名のそしりを免れない。しかし、公民としての義務感を持ち合わせていないからといって、その人間に対して、妥当な弾《だん》劾《がい》をくわえることはできない。というのも合法的な告発者がいないからである。もし告発者自身がその罪を犯しているとすれば、世論という法廷で、その人間は立場がなくなってしまう。もし、その罪を犯していないならば、その罪で、利益を得ているのだ。なぜなら、Aが投票をしないとなると、Bの投票の重みはより重要なものになってくるからである。婦人の投票権は、女性が誰かある男性に言われたとおりに投票する権利を意味している。それは、限定されているとはいえ、女性の責任というものに基礎を置いている。自分の権利を主張するため、もっとも熱心にペチコートを脱ぎたがる女性は、同時にまた、その権利を誤って用いれば鞭《むち》でなぐるとおどかされると、まっ先にまたぺチコートを着てしまう女性でもあるのだ。
SYLLOGISM, n. 【三段論法】 大仮定、小仮定、及び矛盾からなる論理学の公式。(LOGIC〔論理学〕を見よ)(大前提、小前提、及び結論からなる、が正しい解釈)
SYLPH, n. 【空気の精】 空気が大自然の要素のひとつであり、工場の煙、汚水のガス、及びこういった文明の産物により致命的に汚染される以前に、空気中に住んでいた物質ではないが目に見えた存在。空気の精は、大地、水、火の中にそれぞれ住んでいた土の精、水の精、火の精と縁つづきであったが、これらは今ではみな不健康な場所に住んでいる。空気の精は、空中の鳥たちと同様に、雌雄があったのだが、これは明らかに何の役にもならなかった。というのは、もし空気の精たちに子供ができたとしても、彼らは誰もが届かない所に巣をつくったにちがいないし、その子供はどれひとつとして目につかなかったからであった。
SYMBOL, n. 【象徴】 何か別のものを表したり、意味したりすると考えられているあるもの。多くの象徴は単なる「遺物」――つまり、もはや何の実用性も持ってはおらず、ただわれわれが象徴を造るという性癖を祖先から引きついでいるためにだけ存在を続けているもの――なのである。ちょうど記念碑に彫刻された骨壺のようなものである。それらはかつては本当に死者の遺骨が入っていた骨壺であった。それらをつくらないわけにはいかないのであるが、それらにわれわれの頼りなさを隠す名前を与えることはできるのである。
SYMBOLIC, adj. 【象徴的な】 象徴、および象徴の使用と解釈に関係がある。
良心のとがめを感ずるのは良心だと人は言う
私が思うに それは胃の腑のはたらきのせいだ
それというのも罪人が罪を犯したその時に
何となく腹がふくれたり なさけ心で
腹が変なぐあいにおかしくなったりすることに私は気がついたからだ
全くのところが 私はひどい食事をするものだけが
本当の罪人だと信ずるのだ
アダムがなんとか理由をつけて
季節はずれの林檎を食べて どんな具合いに
「のろわれた」かはみなも先刻承知のはずだ
だがそれは全部象徴的だ
事実は アダムは差し込みがしたのだ
G・J
T
T 【ティー】 英語のアルファベットの、第二十番目の文字であるTを、ギリシア人たちは馬鹿なことに、トウ(ギリシア語のアルファベットではTは第十九番目にあたる)と発音した。われわれが用いているこの文字のもととなったアルファベットでは、その時代の粗末なコルクの栓抜きの形をしており、その文字が(フェニキア人〔エジプトの象形文字の影響のもとに、アルファベットの原形を作った〕もしょっちゅう独立をしていたがそれ以上に独り立ちをしていることが多いのだが)独り立ちをしている時(単独で用いられる、の意)には、タレガルを意味していた。このタレガルというのを博学のブラウンリッグ博士は「千《タン》鳥《グル》足《フツド》(ウイスキーの俗語)」と訳している。
TABLE d'HiTE, n. 【共同食卓《ターブル・ド・オート》・定食】 無責任さを求める万人共通の熱望に料理人がしぶしぶ応ずること。
結婚したてのポンチネロじいさん
奥方Pを食卓に案内
この上もなく猛スピードで
夢中になって食べました
「わしは御馳走にゃ目がないのじゃ」
一所懸命のみ込みながら言いました
ほっておかれた花嫁が
「そりゃそうでしょう あなたはもう目もかすむ耄 碌 仲 間《ターブル・ドウテイツジ》に加わったのよ」
合作詩
TAIL, n. 【尾】 それ自身の世の中で独立の存在を築きあげるために、自然の制限を乗り越えてきた動物の脊椎の一部。胎児期は別として、人間には尾がない。そして、この尾がないのを先祖代々不安な気持ちでいることは、男性の上着の裾、女性の裳《も》裾《すそ》により、また尾が当然あるべきところに、そしてかつては疑いもなく尾があったところに、飾りたてたいという顕著な傾向が実証している。この傾向は特に女類に著しいのであって、女類というのは先祖の感覚が強く頑固なのだ。モンボード卿(スコットランドの裁判官、その進化論はダーウィンに先立つ。1714-99)が述べた尾のある人間は、われわれが類人猿であった過去の黄金時代に生まれた種々の力に対して、異常なまでに鋭敏な想像力の所産であると現在では一般に考えられている。
TAKE, v.t. 【取る】 頂戴する。力ずくによることが多いが、盗みによるほうが、望ましい。
TALK, v.t. 【話す】 目的のない衝動から、誘惑もないのに無分別なことをしてしまう。
TARIFF, n. 【関税】 輸入品に課する一定の税率で、消費者の貪《どん》欲《よく》をおさえて国内の生産業者を保護する目的で考えられたもの。
人間の魂の敵の悪魔坐して
石炭の値を悲しむ
最近のこと 地獄は合併され
いまや南部の独立州になりしためなり
悪魔の曰く 「燃料がただで手に入るのは
当然の権利にすぎないのではないか
正しくも はたまた賢くもないその税金は
余に節約を強いるのみ――
そのため余の若鶏《ブロイラー》は どれもこれもが
恐ろしく生焼けなり
何とかして具合いよく焼きたいと思うが
何を燃料に使うべきか?
本物の熱を買う余裕とてなし
この関税は悪魔すらをも欺くのだ!
余はお手あげで 悪党どもめはみな
思いのままに余のささやかなる商いを踏みにじらん
余の鼻先で公器たる新聞は
悪態の限りをついて余を打ち負かす
法廷は巧みにも余の零《れい》落《らく》を
余自らの虚偽のせいにしてしまう
医者たちは余の薬を
余が当然入手すべきえじきを
(しょせん無駄ではあるけれど)
余に与えぬようにし
自分たちのものはもうけるべく形をくずさぬようにせんとして用いる
牧師どもは例を挙げ 実行もせざるに
余の説教を教えている
政治家どもはみな 余の猿真似をなし
果すこともできぬ約束以上の約束をなす
かような敵対行為に対し 余は
無視されし叫び声をあぐ
すべての者 余が正しき苦情をば無視するなれば
よいかあっという間に 余は聖者になるぞ!」
さて みなが聖者たる 共和党の者どもは
悪魔の挑戦に対し
直ちに不平を鳴らし始めたり さればしごく厄介なこととなれり!
悪魔と共和党員が角つき合わせて 向かい合いのきびしき議論をばはじめたれば
ついには見すてられし孤独の民主党のものが
自己の立場を確立しうる希望を持つにいたった
この弊害をさけるためいがみ合う両者は急いで手を握ったのだ
だが「聖なる関税」を少しでも緩和することが
邪悪なことであるとすれば
大胆な謀《む》反《ほん》気《げ》のある共和党員たちに対し
行っても無益な地獄に落ちて行く
一人あたりの魂に奨励金を出すことに 最終的に同意せり
エダム・スミス
TECHNICALITY, n. 【法律技術】 イギリスは、とある法廷、ホームという名の男、隣人が殺しをしたと告発したかどで、名誉毀損の裁判にかけられた。その男の正確な言葉は次のごとくだった。「サー・トーマス・ホルトは肉庖丁を手にするや、自分のところの料理人の頭を切りつけました。その結果、頭の片側が一方の肩の上に、あとの片側がもう一方の肩の上に落ちたのです」被告は裁判官の指示により無罪放免とは相成った。賢明な裁判官諸公はこの言では被告に殺人の責は負わせられない、なぜかというと、それは料理人の死を主張しているのではなく、料理人の死は単なる推定にしかすぎない、という見解をとったからであった。
TEDIUM, n. 【退屈】 あきあきしている人間の様子、あるいは状態である倦《アニ》怠《ユイ》。この語の語源については多くの取りとめのない説があるが、ジェイプ神父ほどのこの上ない権威者ともなれば、語源は明々白々とのことである。すなわち、昔のラテン語の賛美歌、「神よ《テイデ》、わ《イ》れ《ア》ら《ム》神《・》を《ラ》ば《ウ》賛《ダ》え《マ》ん《ス》」のはじめの二語とのことである。この一見して当然の語源には悲しくなるような何ものかがある。
TEETOTALER, n. 【絶対禁酒主義者】 時には全く、時にはまあまあくらいに全く、強い酒を飲むのを控える人。
TELEPHONE, n. 【電話】 いやな人間を近づけないでおくといった便利さを若干すてさせる悪魔の発明品。
TELESCOPE, n. 【望遠鏡】 電話が耳に対する関係と同じような関係を目に対して持っている装置。遠くの物を、多くの不必要な些細なものまでを見せて悩ませてくれる。幸いなことにこれには、われわれが犠牲になるまで呼びつづけるベルが取りつけられていない。
TENACITY, n. 【粘着力】 人間の手の一種の特質で、その国の貨幣と関係がある。この特質は権力を有する人間の手の中では最高に発達しており、政界での出世にとっては役に立つ道具と考えられている。次の実証的な詩は、政治の高官であるカリフォルニアの紳士について書かれたもので、彼はその計算高さゆえに、もうあの世に行っているのだ。
彼の握りの粘着力はとても強いので
そこからは何ひとつすべり落ちたりしないのだ
ぬるぬるとすべり易いニレの木の桶《おけ》の中の
バターをたっぷりぬったウナギをつかまえようとしたって無駄だろう――ところが
彼の手にかかるとその桶の中でそのウナギこれっぱかりも動けないのだ!
彼が手で息を吸えないように
できているのは幸運だ
そうであったら彼の貪欲はまことに深く
すさまじい勢いで最後まで吸い込んで 息を引きとってしまうだろう
ちがう 手で息を吸えるならそのほうがよいのだ と君はいう そうではないのだ
彼は息を吸いっぱなしでけっして吐き出さないのだから!
THEOSOPHY, n. 【神知学(人間には神秘的霊知があり、これで直接に神を見ることができると説く信仰・思想)】宗教のすべての信憑性と、学問のすべての神秘性とをもっている古代の信仰。現代の神知学者は、仏教徒と共に、われわれがこの世で、何回となく、またその数と同じ回数だけ肉体の中で生活を重ねるのだと主張している。われわれの精神が完全に発達するには一生が短か過ぎるからである。つまり、ただの一度の生涯では、われわれがそのようにありたいと願うほど、われわれが賢明に、はたまた善良になるのは不十分だということだ。完全に賢明に、はたまた善良になるということは、とりもなおさず完璧になるということだ。したがって神知学者はまことに先見の明があるというべきで、改善したいと思うものは何によらずすべてのものが完璧の域に達すると観察してきている。それほどの観察力を持ち合わせていないものは、去年にくらべて、賢明にも、はたまた善良にもなっているとは思えない猫だけは除外したがる傾向がある。最近で、もっとも偉大、かつもっとも肥満した神知学者は、ブラバッキー夫人(ロシア生まれ。ギリシア、トルコ、エジプト、チベット等の旅行後、一八七五年、ニューヨークで神知学協会を創立。1831-91)であった。彼女は猫を飼っていなかったから。
TIGHTS, n. 【タイツ】 劇団の宣伝係が行う普通の宣伝を、特別な宣伝で強力なものにするために考案された舞台用の衣装。かつてこの衣装から大衆の目がそれて、リリアン・ラッセル嬢(アメリカのソプラノ歌手。1861-1922)がその着用を拒否したという事実に向けられたことがあった。その折、彼女が拒んだ動機についてさまざまの臆測が行われたのであったが、ポーリン・ホール嬢の推測は高度の理性と、高度の持続された思考力を示している。天がラッセル嬢に美しい脚を賦与しなかった、とポーリン嬢は信じたのであった。この理論は、男性の理解力をもっては受けいれがたかったのであるが、女性の脚に欠陥があるという着想は、驚くほど独創性に富むものであり、哲学的思索の中でもっとも輝かしい業績の一つに数えられるのだ! ラッセル嬢がタイツを忌避したことに対しての、ありとあらゆる論争の中に、誰ひとりとしてそれが「慎しさ」として昔の人々が知っていたものに起因するものだ、と考えたものがいなかったようなのは不思議なことだ。その感情の本質は、今日、不完全にしか理解されていないし、今日まで伝わっている同じ言葉でもってしても、それを説明することはおそらくできなかろう。しかし、失われた諸技術の研究が、ここのところ復活してきているし、なかには再び行われるようになった技術もある。今やルネサンスの時代であって、原始時代の「恥じらい」を古代の墓の隠れ場所から引きずってきて、叱って舞台に追い上げる希望も、まんざら根拠がないわけでもない。
TOMB, n. 【墓】 無関心の住居。墓は、今日ではある種の神聖さがつきまとっていると一般に意見が一致しているが、余り長いあいだその中のものが居住していると、それをあばいて、中のものを奪っても罪にはならないと考えられている。有名なエジプト学者ハギンズ博士は、中に入っているものが「いやな臭いを放つ」のをやめれば、「いただいたって、罪にはなるまい、なぜならその時には魂は完全に蒸発しているから」と説明している。この道理にかなった見解は、今日ではすべての考古学者が是認しており、それによって好奇心という高尚な学問は非常に威厳がつくようになったのである。
TOPE, v. 【酒浸りになる】 ぐびりぐびり飲む、大酒を飲む、がぶがぶ飲む、酒づけになる、鯨飲する、盃を傾ける、ちびちびやる、あるいは、痛飲する。個人の場合は酒浸りになることは軽蔑の念でみられる。しかしながら、酒飲み国民となれば彼らは文明と権力の最前線に立っている。大酒飲みのキリスト教徒たちと戦わされると、節制をしているマホメット教徒たちは、鎌をあてられた草のように他愛もなくひれ伏してしまうのである。インドでは牛肉を食らい、ソーダ割りのブランデーをがぶ飲みする十万人のイギリス人どもが、同じアーリヤ族である二億五千万人もの菜食主義の節制家たちを、牛耳っている。なんとまあ、いともたやすく優雅に、ウイスキー好きのアメリカ人は、節度を守るスペイン人から、その財宝をいただいたことか! 北《バ》欧《ー》の《サ》狂《ー》戦《カ》士《ー》が西部ヨーロッパの沿岸をくまなく侵略し、占領した港港でへべれけに酔って寝込んだ時代から事態は少しも変わっていない。つまり、ありとあらゆる所で、大酒飲みの国民は、かなり見事にではあるが、余り正々堂々とではなく戦うことが知られている。従って、アメリカ陸軍の無料接待所を廃止してしまったりっぱな老婦人たちは、国の軍事力を大いに増強させたことを誇らしく思って当然である。
TORTOISE, n. 【亀】 有名なアンバット・デラソーの次のような詩のモデルになるために、思慮深く創られた生きもの。
わが愛玩《ペツト》のカメに寄す
友よ お前は優雅ではない――全くのところ
お前の歩きかたときたら よろよろしているのか あがいているのかわからない
お前はまた器量もよくない お前の頭は よく見ればヘビの頭のようだ
きっとお前の頭は痛むことだろう
お前の足ときたら 天使もきっと泣くんじゃないか
なるほど寝るときお前はそれをひっこめはするが
全く お前は美しくない だがお前には 私は知っているのだ
ある固さ――なにしろお前は全身ほとんど背骨なのだから――がある
固さとそれに力(お前には強い筋肉があるのだから)は
偉大な者のみが使い道を知っている美徳なのだ――
彼らがそれらの使い道を知らなければよいと思うのだが しかし 概して
お前には――こう言うのを許しておくれ――「魂」が欠けている
だから 率直に 歯に衣《きぬ》を着せず 本当のことを言えば
わたしがお前になるよりも お前がわたしになるのがいいのじゃないか
しかし ほどなくして 人間が死に絶える時が来れば
もっといい世の中が
お前に魂が生まれて成長のあげくに
権力と支配力をもったお前の子孫に会えるかもしれないのだ
それで わたしはお前が大地を蘇《よみがえ》らせるようにと
運命づけられている偉大な爬虫類として お前に脱帽する
可能性の父なる神よ 願わくば滅び行く
御代の臣下の礼を受け入れ給え!
知られざるはるけき彼方《かなた》の国にて
わたしは全ての王座にいるカメを夢みる
わたしには 法を恐れて おのがからの中に
頭をちぢめている皇帝が見える
脂肪を身につけるのが気に入っているにもかかわらず
それ以外のものを身につけている王が見える
かしましい不賛成の者どもを罰することに
さして身も入れていない大統領が見える――
彼はけっして(やっても無駄なことではあるが)
甲《こうら》があるにせよ ないにせよ 背中を射ったりしなかった
臣下も国民も 心の行進を
われ先の大暴走にする必要を感じてなんかいずに
すべてのものは ゆっくりと 考え深げに 冷静に行進し
教会でも国でも「ゆっくりやれ」が合い言葉である
おお カメよ 楽しい楽しい夢なのだ
それこそわたしの輝かしいカメの政権なのだ!
エデンの園で身をかがめ アダムを外に追い出して
お前にこれをやって来てもらいたかったのだ
TREE, n. 【木】 罰を与える道具として役立つように、自然が用意した背の高い植物。しかし、法律を誤って運用するので、ほとんどの木はとるに足らない実を結ぶか、あるいは全然実を結ばないかのどちらかである。自然に実を結ぶときには、木は文明の情け深い代理人となり、公衆道徳の大切な仲介人となる。厳格な西部や、神経過敏の南部では、(白にせよ黒にせよ)その実は、食用にはならないが、人々の好みには合い、輸出はされないが一般の福祉に利益をもたらす。木と裁判官との法的な関係はリンチ判事(ウイリアム・リンチ。アメリカ、バージニア州の治安判事。1742-1820)(木は灯柱や橋げた以外に高い地位にはつかないと、断固として、実際に、譲らなかった人だが)が初めて明らかにしたものではないという事実は、同判事より二百年も前の、モリスターがものした次の文で明瞭である。
余、その土地に在りし折、評判も高きゴーゴーの木の見物に連れて行かれたり。されど、そこに目立ちたるもの何一つとして見えずと余の言うや、その木生えたる村の長《おさ》、答えて次のように言いたり。
「この木は今は実がなってはいねえだが、季節がくれば、王さまを罵倒した実が鈴なりになっているのがよおっく見れるだよう」
余、さらに教えられたり。「ゴーゴー」という語の意味は、われらが言葉にては、「ならずもの」のことであると。
――東部旅行記
TRIAL, n. 【裁判】 裁判官、弁護士、陪審員たちの一点汚れない性格を証明し、記録に載せるようにもくろまれた公式の審理。この目的を達成するには民事被告人、刑事被告人あるいは容疑者と呼ばれる人間に反対の性格を与えることが必要である。この対照が十分明らかにされると、その人間はりっぱな人たちが、自分たちの価値にかてて加えて、自分たちはそんなことは免除されているのだといった安心感を与えるような、苦しみを味わわされるのである。現代では被告はふつう、人間、あるいは社会主義者であるが、中世においては、動物、魚、爬虫類、昆虫までもが裁判に付されたのであった。人間の命を奪ったとか魔法をかけたとかした動物は、たちどころに逮捕され、裁判にかけられ、もし有罪となれば執行役人によって死刑に処せられた。穀物畠、果樹園、葡萄園を荒らした昆虫どもは、訴えられると、協議によって市民裁判に召喚され、証言、議論、判決の後に、もし彼らが「欠席裁判」のままでいる時には、事件は高等教会法廷に持ち込まれ、そこで彼らは、厳かに破門、追放されたのであった。トレド(ローマ時代のスペインの首府)の町では、いたずらっ気を出して総督の股の間を走り抜けた豚どもが、総督をひっくり返してしまい、逮捕令状をつきつけられ、裁判となり、罰を受けた。ナポリでは、ロバが火あぶりの宣告を受けたが、その判決が執行されたという形跡はないようだ。ダドシオの法廷記録によると豚、牡牛、馬、鶏、犬、山《や》羊《ぎ》等の多くの裁判の結果、驚くほど彼らの行動や道徳観の改善に役立ったと信じられている、とのことである。一四五一年に、ベルン周辺のいくつかの池に跋《ばつ》扈《こ》するヒルに対しての訴訟が持ち込まれ、ハイデルベルヒ大学の教授連に依頼されてローザンヌの大僧正は、「水棲動物」の何匹かを地方治安判事の前に連れて来るよう命じたのであった。そのように事がはこび、ヒルたちは、出廷していたのも、そうでないのも、違反すれば「神の呪い」を受けるという条件として、自分たちがのさばっていた場所から三日以内に立ち退くよう命令された。「有《コ》名《ズ》な《・》裁《セ》判《レ》事《ブ》件《ル》」の莫大な記録には、違反者のヒルたちが罰に勇敢に立ち向かったのか、できるだけ早くその不親切な地域から離れて行ったのかを示す記述は何ひとつ見当たらない。
TRICHINOSIS, n. 【旋毛虫病】 豚を常食にしようと、提唱している人に対する豚の仕返し。
病気になったモーゼス・メンデルスゾーン氏(ユダヤ系のドイツの哲学者。1729-86)はキリスト教徒の医者をよびにやった。するとその医者はたちどころに、患者である哲学者の病気は旋毛虫病であるとの診断を下したのだが、病人にはたくみにも別名でそれを知らせた。「すぐ食事療法が必要ですな」医者は言った。「一日おきに豚肉を六オンスずつ召し上がらねばなりません」
「豚肉をですって!」患者は叫んだ。「豚肉ですか? 豚肉になんかさわって見る気にもなりません!」
「本当にそうなんですか?」医者はまじめにたずねた。
「本当ですとも!」
「よろしい! ではあなたの治療をしてあげましょう」
TRINITY, n. 【三位一体】 いくつかのキリスト教の教会の多様化した有神論における、唯一のものと矛盾しない三人の全く異なった神々。悪魔とか天使といった、多神教の信仰の下位に属する神は、結合の力を与えられておらず、したがって、個々に礼拝とか供《く》物《もつ》を要求する。三位一体とは、われわれの神聖な宗教において、もっとも崇高な神秘のひとつである。それが納得しがたいとして、拒否したために、ユニテリアン教徒たち(新教の一派。三位一体説を排し、唯一の神格を主張し、キリストを神格化しない)は、神学の根本に対する不適当な認識を暴露したのであった。宗教においてわれわれは、理解できないものをのみ信ずるのである。ただし難解な教義に反《はん》駁《ばく》する平易な教義は別である。このような場合には、われわれは平易なものを難解なものの一部だと信ずる。
TROGLODYTE, n. 【穴居人】 人間が地面に住む前ではあるが、樹木に住んだ時よりは後の、すなわち旧石器時代の洞穴に住んでいた者をさして特にいう。穴居人のうちで有名なのは、アデュラム(聖カナーンの古都)の洞窟でダビデと一緒に住んでいた仲間だった。その社会は、「悩めるものすべて、負債のあるものすべて、不満なものすべて」(サムエル記第二十二章第一―二節からの引用)から――すなわち、手短かにいえば、ユダヤ人のすべての社会主義者から成り立っていた。
TRUCE, n. 【休戦】 友愛の情。
TRUTH, n. 【真理】 願望と現象を巧みに混合したもの。真理の発見こそ哲学の唯一の目的であり、哲学こそは人間精神のもっとも古い行であり、現世の終わりまで、活発さを加えながら存在しつづける見込みがりっぱにある。
TRUTHFUL, adj. 【真実の】 おしで無学な。
TRUST, n. 【トラスト】 アメリカの政治では、大きな法人をいう。その構成人員のほとんどが貧乏所帯の労働者、わずかな財産しか持たぬ寡婦とか、保護者と裁判所の世話を受けている孤児たち、それに多くの同様な悪人とか大衆の敵とかである。
TURKEY, n. 【七面鳥】 大きな鳥。その肉はある宗教的年中行事で食べられると、敬《けい》虔《けん》と感謝の気持ちを実証するという特殊な性質を持つ。ついでながら、その肉は食べるととてもうまい。
TWICE, adv. 【二度】 一度だけ多すぎる。
TYPE, n. 【活字】 文明開化を破壊してしまうのではないかと疑惑を持たれている有害な金属のかけら。とはいっても、この類《たぐい》まれな辞典では明らかにりっぱな働きをしているのである。
TZETZE(or TSETSE)FLY, n. 【ツェツェ蠅】 アフリカ産の昆虫(学名Glossina《 グロシナ・》 morsitans《モルシタンス》 で、この昆虫にかまれるのは、不眠症に対する自然の最高の効《き》きめを持つ治療法と考えられている。もっとも患者の中にはアメリカの小説家(Mendax interminabilis《あきあきするものをかくれんちゆう》)の治療法のほうを好むものもいはするけれど。
U
UBIQUITY, n. 【遍在】 一《いつ》時《とき》にすべての場所に存在できる才能、もしくは力。だが、すべての時にすべての場所に存在することではない。この才能、もしくは力は遍在力《オムニプレゼンス》であり、神の、そして発光性のエーテルだけの特性である。この遍在と遍在力の重要な相違は、中世の教会にとっては明らかでなく、それに関して多くの流血事件があった。キリストの聖体が、至る所にあると信じていたルーテル派の信者のうちのある者は、遍在主義者と呼ばれていた。これは誤りだったので、彼らが地獄へ行ったことは疑う余地がなかった。なぜなら、キリストの聖体は聖餐にしか現れないからだ。もっとも、この聖礼は同時に二か所以上で行われはするのだが。近年に至り、遍在は、例えば、人間が鳥でない限りは、一時に、二か所にはいられるはずはないという主張のように、ボイル・ローチェ卿すらがそうなのだが、常に必ずしも理解されているとは限らない。
UGLINESS, n. 【醜さ】 ある種の婦人たちへの神々の贈り物で、その結果彼女たちは貞潔を固持はするが、これはなにも卑下のためからではない。
ULTIMATUM, n. 【最後通告】 外交関係で、譲歩という手段に訴える直前の、最後の要求。
オーストリアから最後通告を受け取り、トルコの大臣ども、協議のため参集した。
「おお、予言者の下《しも》僕《べ》よ」と、トルコ帝国の首《シエ》相《イク》が、無敵陸軍の長《マム》官《ーシ》に言われた。「わが軍には断じて降服せぬ者が何名武装しておるかな?」
「信仰の保持者たる首相よ」自分のメモをつぶさに調べたのち、その高官は言った。「森の木の葉の数ほどあります!」
「そして、キリスト教徒の豚どもめらのどてっ腹に風穴を見舞わせてやる不沈の軍艦は何艘あるのか?」首相は無敵海軍の長《イマ》官《ーム》にたずねられた。
「満月の叔父たる首相よ」が答えであった。「おそれながら、海の波の数、砂漠の砂の数、満天の星の数ほどございます!」
八時間というもの、トルコ帝国の首相の広い額には、熟慮を物語る深い皺《しわ》がきざみこまれていた。首相は戦争の勝ち目を計算していたのだ。そして、彼は言った。「天使の子供たちよ。賽《さい》は投げられた! 余は、皇帝の回教法典博士たちに何もしないほうが得ですぞと示唆しよう。アラーの神の名において、当会議は散会する」
UN-AMERICAN, adj. 【非アメリカの】 よこしまな、堪えがたい、異教の。
UNCTION, n. 【臨終の聖油】 オイル、あるいはグリースを塗ること。終油の秘跡の儀式は、今まさに息絶えなんとする人の体の何か所かを、司教が清めた油で触れることである。マーベリーは、この儀式がある心の正しくないイギリスの貴族に施された後、油がきちんと浄められておらず、他の油も手に入らないことが発見された、と述べている。これを聞いた病人が憤って言うのに、「そんな事じゃ、おれが死んだらおれの魂は救われないじゃないか!」
「ねえお前さんや」牧師が言った。「それですよ、わたしたちが恐れているのは」
UNDERSTANDING, n. 【悟性】 その所有者が、家の屋根で、家と馬との区別を可能にさせる大脳の分泌作用。その本質や法則は、家《ハウス》に乗っていたロック(イギリスの哲学者、ロック学を創始。1632-1704)と馬《ホース》に住んでいたカント(ドイツ、カント哲学を創始した哲学者。1724-1804)が、徹底的に解明している。
彼の悟性は鋭くて
感じ 聞き 見るものすべて
牢に入っていようが 牢から出されていようが
間違うことなく説明できた
霊感のおもむくままに
それらすべての深き探究を誌《しる》し
とどのつまり 気《き》狂《ちが》い病院に閉じ込められ
それらを編集するを得たり
人々口をそろえて言う かくも偉大な作家を
かつてたえて知らざりき と
ジョロック・ワームレイ
UNITARIAN, n. 【一神論者】 三位一体主義者の神性を否定する者。
UNIVERSALIST, n. 【普遍救済論者(「普遍救済論」は「全人類は救われる」という教義を持ち一七七〇年九月にアメリカの牧師ジョン・マレイが提唱した)】他の信仰の信者のために地獄の便利さをあきらめる人。
URBANITY, n. 【都市風】 都市の観察者たちが、ニューヨーク以外のすべての都市の住民たちが身につけているとしている種類の礼儀正しさ。そのもっとも一般的な表現は「失礼いたしました」という言葉に聞かれるが、この礼儀正しさは、他人の権利を無視することとは必ずしも矛盾しないのだ。
火薬工場の主人《あるじ》
はるかな岡で瞑《めい》想《そう》にふけりたり――
その心 ある前《まえ》兆《ぶれ》を感じたり――
折しも一天の雲なき空より
黒焦げになった人間の腎臓が降りたり! さても
男の火薬工場が爆発したるなり
帽子を頭より上げ
「失礼いたしました」彼は言いたり
「そんなものがつまっているとは知りませんでした」
スウォトキン
USAGE, n. 【慣用法】 文学上の三位一体の第一位格。習慣、慣例が第二、第三位格。この神聖な三組一体に対し慎み深い尊敬の念がしみ込んでいれば、勤勉な作家は流行と同じくらい持続性をもつ著作をものする望みがもてよう。
UXORIOUSNESS, n. 【妻《さ》君《い》自《の》慢《ろ》】 自分自身の妻君に誤って向いてしまった、倒錯した愛情。
V
VALOR, n. 【剛勇】 虚栄心、義務感、賭博師の希望が織りまじった軍人の精神。
突撃を命じたチカモーガの師団長は怒鳴った。「なぜ進撃を停止したのか。おい、直ちに前進だ」
「閣下」その怠慢な旅団の指揮官が言った。
「本官は、わが諸部隊が剛勇をこれ以上発揮いたしましては、敵軍との衝突のやむなきに至ると確信いたしているのであります」
VANITY, n. 【虚栄】 いちばん近くにいるロバのりっぱさに対して捧げるバカの賜わり物。
雌鶏の産みし卵が無精卵のとき
その声 喧噪をきわむとか……
また人《ひ》間《と》様の研究をばなしたりと広言する雌鶏ありき その言によれば
舌またはペンを酷使することを生《なり》業《わい》とするもの
その最下等の駄作にて喧噪をきわめた虚《こ》仮《け》威《おど》しをするという
されば文筆家のまさしく雌鶏に似たりしか
見よ かの鼓手長を 金《こん》色《じき》燦《さん》然《ぜん》たる上着
緋のズボン 羽毛そびゆる帽子にて装いしかの英姿こそ
りりしくも華麗にして「どんなひどいことでも臆さずやってのけ」(シェイクスピア「マクベス」第四幕・第一場)
男の中の男たらん!
戦の庭にて汝を傷つけぬことこそ この英雄の
尚武の美点とは いったい誰が考えようぞ!
ハニバル・ハンシカー
VIRTUES, n. pl. 【美徳】 いくつかの節制。
VITUPERATION, n. 【毒舌】 低能な人間とか、機知の欠陥に苦しむ輩《やから》のすべてが理解する風刺。
VOTE, n. 【投票】 自身を馬鹿者にし、自国を破滅させてしまう、自由人の力の道具ならびに象徴。
W
W 【ダブリュー】 (Vが二つの)この文字は、われわれのアルファベットの他の文字がすべて単音節であるのに反して、煩わしい発音を持つただ一つの文字である。ローマ字のアルファベットが、ギリシアのそれよりも利点があるのは、επιχοριαμβιχσζ(陰喩のこと)といったようなギリシア語のある簡単な語を、声を出して綴ってみるときその価値が理解できる。その上、今日では学者たちのあいだで、二つのアルファベットの相違以外のいくつかの作用が、「偉大なるかなギリシア」の衰退と、「輝けるかなローマ」の勃興に関係しているかもしれないと考えられている。しかしながら、Wの発音を単純化すれば(例えば、それを「ワゥ」とよんでみると)われわれの文明は、よしそれが発達しないとしても、少なくとも、耐えられるものになりうることは疑う余地がない。
WALL STREET, n. 【ウォール街】 あらゆる悪魔が非難する罪の象徴。ウォール街が泥棒の巣だというのは、天国における希望の代わりをしてくれるという、どのへまな泥棒もが持つ信念である。あの偉大で善良なA・カーネギーでさえこのことを信じていると公言している。
不屈の男カーネギー(スコットランド生まれのアメリカの大実業家。1835-1919)は戦いを宣告した
「株のブローカーはみんな寄生虫だ!」
カーネギーよ カーネギーよ きみは決して勝ちはすまい
帆を張るために息の続く限り集合合図《 ス ロ ー ガ ン》(スコットランド高地の危急の場合の集合合図)を唱え続けるのだ
永遠のもやたちこめるきみの島(スコットランドのこと)にもどるがよい
風《ビー》笛《ブロ》曲《ツト》を黙らせよ 格子縞(タータン)と羽毛飾り(ブルーム)を脱ぎ捨てよ
ベン・ロモンド(スコットランド東部にある山)は 彼の息子を騒動より呼び寄せている――
ウォール街の島より飛んで 飛んで行くがよい!
まだお前がそんな小金を持っているあいだに
(わたしの基金にしてくれればいいのに)
お前の預金が増すよりむしろその価値が減らないように
経済の戦いから退くほうが賢いのだ
金融王と荒海の間に身をおく者として
カーネギーよ カーネギーよ きみの言葉は遠慮がなさすぎる!
名なしのビンク
WAR, n. 【戦争】 平和という作為の副産物。政状の最大の脅威とは国際間の友好関係の期間のこと。予期しえぬものを予期せよとまだ教えられていない歴史家は、自分はこういった光明には近づき難いと、はっきり自慢してよい。「治に居て乱を忘れず」とはふつう考えられている以上の深い意味がある。つまりこれは、この世のものにはすべて終《しゆう》焉《えん》があるとか、転変とは、ある不易、永遠の法則であるとかいう意味のほかに、平和という土壌には戦争という種子が、びっしりと播《ま》かれており、その土壌は種子の発芽、および成育に異常なほど適している、という意味でもある。忽必烈汗《クーブラカーン》が、
かなたより
戦争《いくさ》を予言する祖《お》先《や》の声を耳にしたるは
彼が「壮麗なる歓楽の館《やかた》」(コールリッジの詩、クーブラカーンより引用)を造営させたところ、つまり上都《サナス》には平和が満ちあふれ、贅《ぜい》を凝らした宴が続いた折であった。
最大の詩人のひとり、コールリッジ(サミエル・テーラー。イギリスの詩人、批評家。1772-1834)は、同時にまた、この上なく賢明な人間のひとりでもあった。したがって彼がこの比喩をわれわれに聞かせてくれたのは無益なことではなかった。「海の向こうに手を差しのべる」のは少しひかえて、国家の安全を保証するあの基本的な不信の念をもう少し持とうではないか。戦争は泥棒のように夜やって来たがる。永遠の友好関係の宣言は、その夜を用意することなのであるから。
WASHINGTONIAN, n. 【ワシントン市民】 自分自身を統治する特権を、りっぱな政治から受ける利益と取り換えてしまったポトマック河沿岸の種族。公正に評価をすれば、その実そうしたくはなかったのだ、というのが妥当であろう。
市民の投票権をとり上げ その代わりに
稼げばパンにありつける権利を与えたり
哀れなる人々 「ボス」を求めてふたたびもどり来たりて
名簿からはずしてくれと騒ぎ求めるも 空《むな》しかり
オッヘンバック・スタッズ
WEAKNESSES, n. pl. 【弱さ】 女性という独裁者が持っているある基本的な権力。彼女はその権力で、人間種族の男性を支配し、がんじがらめにして思いのままに自分に奉仕をさせ、反抗しようとする精力を鈍磨させてしまう。
WEATHER, n. 【天気】 一時間の気候。何の興味もないくせに、それがひどく関係を有した樹木の上で裸で暮らした祖先から、それについておしゃべりをする習慣を受けついだ人間どもの永遠の話のタネ。公立の気象局を設立し、嘘っぱちばかり並べて、それを維持することは、いずれの国の政府でさえもが、ジャングルに住んでいた未開の祖先の説得に動かされやすい、ということを証明している。
かつて人の目がとどかぬほどの未来を深く考えたことがあった
すると他の人間と同様に死んでいる予報長官に出あった――
生まれつきの嘘つきのように 死んで呪われ 黄《よ》泉《み》の国に閉じ込められていた
現世ではたえて比べるものとてない不合理な記録がもとで
眺めている間に その輝くばかりの若者 おごそかに身を起こせり
真実の実利よりも彼が好みし石炭の中より
あたりを そして頭上を彼は見やり それから誌《しる》せり
ここに紹介したいと思うことを 石綿の板に――
そは かれ永《と》遠《わ》に輝く バラ色の光の中でそれを誌したればなり
「曇り勝ち 風向きは一定でなく ところによってにわか雨 平年より温度低め 雪でしょう」
ハルション・ジョーンズ
WEDDING, n. 【結婚式】 二人の人間が一人になろうとし、一人の人間は無になろうとし、我慢できるものが何もなくなる儀式。
WEREWOLF, n. 【人間オオカミ】 かつては、そして今でも時にはそうであるが、人間だったオオカミ。人間オオカミはすべて邪悪な性質の持ち主で、残忍な食欲を満足させるために、けだものの姿をしているが、魔法によって姿《すがた》形《かたち》を変えられて、人肉(人体のこと)に対しての後天的な好みとふさわしい人間性を具《そな》えているものもある。
何人かのババリアの百姓たち、ある夕方のこと、オオカミを一匹捕えて、尾を柱にしばりつけ、その晩はそのまま寝てしまった。次の日の朝、オオカミの姿はそこになかった! 大そうあわてて、一同は土地の牧師に相談をもちかけた。彼らが捕えたのは、そりゃ疑いもなく人間オオカミで、夜のあいだにもとの人間にかえってしまったのだ、とのこと。善良な牧師は重ねて言った。「こんどお前さんらオオカミをつかまえたらば、尻尾なんかじゃなくて、脚を鎖でしばることじゃ。そうすれば、あくる朝、ルーテル信者にお目にかかることじゃろう」
WHEAT, n. 【小麦】 まあまあ我慢のできるウイスキーが、若干の困難を伴いはするがつくられる、またパンをつくるためにも用いられる穀物。フランス人が、人口ひとりあたりにして、他のどの国民よりもパンを多く食べると言われているが、これは当然のことである。彼らだけがうまいパンのつくりかたを知っているからだ。
WHITE, adj. and n. 【白(い)】 黒(い)。
WIDOW, n. 【未亡人】 キリスト教の社会の人々が、一致してユーモラスに考えてきている気の毒な人物。ではあるが、キリスト自身がこの未亡人に対してとった優しさは、彼の性格の著しい特色のひとつであったのだ。
WINE, n. 【葡萄酒】 キリスト教婦人矯風会(正しくはWomen's Christian Temperance Union といい、禁酒運動を主目的として、一八七四年、アメリカで創設)の人間には「リカー」、ときには「ラム」という名前で知られている発酵させたグレープのジュース。葡萄酒というものは、御婦人よ、神が男に対して、お与え下さった二番目の結構な賜わり物なのですぞ。
WIT, n. 【機知】 アメリカの風刺家が、それを用いないために、自分の知的な料理法を台無しにしてしまう塩。
WITCH, n. 【魔女】 〓悪魔と邪悪な盟約を結んでいる、醜い嫌悪感を催させるような老婆。〓邪悪さでは、悪魔どころか、はるかにそれを超えたものと盟約を結んでいる美しくて魔力あふれる女性。
WITTICISM, n. 【警句】 普通は他人のものを引用し、めったに人の注意をひくことのない鋭く賢い言葉。ペリシテびと(教養のない俗物のたとえ)が冗《ジヨ》談《ーク》と好んでよぶもの。
WOMAN, n. 【女性】 普通、「男性」の近くに住み、家畜として飼い慣らしにくい祖先伝来の性質を今日にいたるまで持ち合わせている動物。年配の動物学者の多くは、以前隔離されていた状態の折に身につけた、一種の退化した従順さを女性に認めてはいるが、スーザンアントニー時期(スーザン・アントニー。アメリカの婦人参政権論者にかけたもの。1820-1906)以後の博物学者は、そういった隔離の事実を知らないので、そのような美徳を否定し、天地創造の暁が見たごとく、女性はいまでも咆《ほう》哮《こう》す(バイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」第四歌一八二に「天地創造のあけぼのの見しまま汝、波を巻く」とある)と宣言している。女性という種族は、すべての猛獣の中で、もっとも広く分布しており、グリーンランドのよい香りのする山々から、インドの心正しい浜辺にまで、この世の生棲可能ないたるところに跋《ばつ》扈《こ》している。世に言われる(狼男)というのは正しくない、というわけは、女性はネコ族の出であるからだ。女性という動物はその動作がしなやかで優美であり、特にそのアメリカ種(Felis Pugnams《 け ん か ね こ》)はそうであって、雑食動物であり、しゃべらせないよう訓練することが可能である。――バルサザー・ポーバー
WORMS, ’-MEAT, n. 【蛆《うじ》虫《むし》の餌《えさ》(すなわち死体)】 われわれ人間を原料としてつくる完成品。タジ・マハール(インド、アグラにある白大理石の霊廟)。ナポレオン廟《びよう》。グラント(アメリカの軍人、第十八代大統領。1822-85)墓所の中身。蛆虫の餌はふつう、それを被っているもの、すなわち棺《かん》桶《おけ》のほうが長くもつものであるが「それとてもやがては消滅する運命」なのだ。人間の行うことがらの中で、おそらくもっとも愚劣なことは、自分自身の墓所をつくることであろう。厳粛なるべき目的は、あらかじめ予知された無益さをもったいづけるはずもなく、かえってそれを強調するだけである。
野心あふれるおろか者よ! 笑い草になるとは何と気の狂ったことよ!
何と無駄な努力をお前は傾けることよ
中に住む者の 賞めそやすことも はたまた知るべき術《すべ》もなき
壮麗なる奥《おく》津《つ》城《き》をつくることに
力の限り 深く 広く 大きくつくるがよい
手に負えぬ草の根が お前の仕事を挫折させるのだ
あらゆる小石をことごとく押し分け転がし込んで
お前にとってはまさにあっという間に
死者にとって 時はすべて気づかぬうちに経ち
墓所の大理石ほこりに埋れる折に 眼覚めたれば
立ち上がり 手足をのばし あくびをせよ――
お前は眼を閉じるひまがほとんどなかったと思うだろう
人間のあらゆる仕事の中で お前のつくった墓だけが
時それ自体が滅びるまで残るとしても それが何だというのか?
そこに住むのはお前のためになるとでもいうのか?
墓石の上のしみとして永久に
ジョウエル・ハック
WORSHIP, n. 【崇敬】 この神の創造物が健全につくられ、しかも見事に仕上がっていると、神を創った人間が認めること。これは屈従の一般的形態であり、その底には高慢がのぞいているのである。
WRATH, n. 【激怒】 素晴らしい性質と強さを持つ怒りで、「神罰」とか、「天罰の下る日」などのように、高貴の人々や、特別の機会にうってつけのもの。古代の人々のあいだでは、王たちの怒りは神聖なものと考えられていた。というのは時宜に適《かな》った怒りの表明は、牧師の権限はいうにおよばず、神の権限を発動させることがふつうはできたからだ。トロイ以前のギリシア人たちは、アポロに非常に苦しめられたので、クライシーズ(ホーマーの「イリアード」中の人物。アポロの祭司)の怒りのフライパンから、アキレス(「イリアード」中の人物で、トロイ戦争におけるギリシアの英雄)の怒りの火の中に飛び込んでしまった。もっとも、ただ一人の反逆者アガメムノン(トロイ戦争でのギリシアの総大将)は、フライにも、また焼き肉にもされはしなかったのだが。同じように有名な免除の例に、ダビデの一件がある。そのときダビデは、民を数えてエホバのいかりをかい、そのうち七万人は自分らの生命で償いをしたのである。神は、今でこそ愛であり、国勢調査局長官は、災難の不安なしに自分の仕事を遂行するのである。
X
X 【エックス】 われわれのアルファベットの中で不必要なこのXという文字は、綴り字の改革者たちの攻撃に難攻不落の度合いを加えてきており、改革者が存在するように、言語というものが存在するかぎり、なくなることはないだろう。Xは、十ドルを意味する神聖な記号であり、Xmas《クリスマス》とか、X n《クリスチヤン》などの言葉に見られるように、キリストを意味しているが、これは一般に考えられているX《クロス》を表しているからではなくて、ギリシア語の文字では、キリストの名前の最初の文字が――ΧριστσζのようにXだからなのだ。もしそれがX《クロス》(十字架)を意味するならば、その形をしたものの上で「証言した」聖アンデレ(キリストの十二使徒の一人。ぺテロの弟。ギリシアで殉教したといわれる)を表すはずだ。心理学という代数では、Xは「おんな心」を表す。Xで始まる語はギリシア語なので、この標準英語辞典においては定義を与えないこととする。
Y
YANKEE, n. 【ヤンキー】 ヨーロッパでは、アメリカ人のこと。わが合衆国の北部諸州では、ニューイングランドの住民のこと。南部諸州では、この語は知られてない。(DAMYANK〔ニューイングランド出身のアメリカ人のこと〕を見よ〔本辞典には、この語はのっていない〕)
YEAR, n. 【一年】 三百六十五個の失望からなるひと区切りの期間。
YESTERDAY, n. 【昨日】 青春の幼年期、成年の青春期、老年の過去の全期間。
ほんのきのうは 祝福を受けているはずだったのに
中年の絶頂に立ち 西のかたに
荒涼たる土地を見おろし
見慣れぬ坂を見おろし
周囲《あたり》一面に おごそかな影のしのびより
しかとは知れぬしんとした声の
未完の予言をささやき そして魔女の炎の
死の闇につきまとうほの白さをにじませ
そうだ きのう自分の魂は燃えに燃えた
成人の日盛りに日時計の針おし止めんと!
そして今ここに 神の名において声《こわ》高《だか》になじる
しばしのうちに「確実性」から別れゆくことを
夢や希望《のぞみ》に再び決してはあい目《ま》見《み》えんことを
バルーク・アーネグリフ
いまわのきわの病気の時、詩人アーネグリフは、別個に七人の医者にかかったそうである。
YOKE, n. 【かすがい】 一種の道具で、御婦人よ、ラテン語ではjugumというのですが、この言葉のおかげでわたしたちの英語のなかにももっとも素晴らしい言葉の一つ――つまり夫婦の状態を、正確に、要を得て、きびしく定義する語ができたのです。それを申し上げませんことを重ね重ねお詫びします。
YOUTH, n. 【青年時代】 「可能性の時期」、アルキメデスが挺《て》子《こ》の支点を発見し、カサンドラ(ホーマーの歌に出てくるトロイの女予言者。トロイの敗滅を予言したが信じられなかった)には支持者がおり、七つの都市が生きているホーマーに財産を与える栄誉を得ようと競ったりする。
青春時代とは、本物の農神サターンの統治の御代のような幸福な、この世に黄金時代が再来した時代。無花果《いちじく》は薊《あざみ》の上に生い茂り、豚どもは口笛合図で追われ、そして絹のような毛を生やし、クローバーの中でいきいきとし、牝牛は家々にミルクを運ぶため空を飛び、正義の神の高いびきなど、耳にすること絶えてなく、暗殺者、ことごとく幽霊に変えられ、叫び声をあげてボルチモストにほうりこまれる!
ポリドール・スミス
Z
ZANY, n. 【道化】 古《いにしえ》のイタリア芝居の人気者。バッフォーネ、すなわち、ピエロを、ばかばかしいほどへたくそに真《ま》似《ね》た。だから猿真似のまたその猿真似ということだった。というのも、ピエロ自身は劇中のまじめな人物の真似をしたからである。道化というのは、われわれが不幸にも今日知っているようなユーモアの専門家にとっては先輩にあたるわけである。道化の中に、わたしたちは創造の実例を見てとることができる。そしてユーモリストたちの中には、遺伝の実例が見てとれるのである。現代の道化のいまひとつの秀れた見本は、牧師補であって、この牧師補は、教区牧師の猿真似をし、教区牧師は、主教の猿真似をし、主教は大司教の猿真似をし、大司教は悪魔の猿真似をする人間である。
ZANZIBARI, n. 【ザンジバル人】 アフリカ東海岸沖のサルタン領、ザンジバルの住民。好戦国民のザンジバル人のことは、数年前に生じた、脅迫的な外交事件により、わが国ではもっともよく知られることになった。同国の首府でわがアメリカの領事は、砂浜をはさんで海に面した場所に居を構えていた。この外交官一家がこの上なく苦りきったことに、それも領事自身の繰り返しの注意にもかかわらず、同地の住民たちは、その海岸を水泳に使うことを一向にやめなかった。ある日のこと、一人の婦人が波打ちぎわまでやって来て、身をかがめて身体につけているもの(といってもサンダルだけであったが)を脱ごうとしていた時、領事は、思わず怒り心頭に発し、彼女の身体の中でもっとも目立った場所を狙って散弾銃を射ってしまった。それまで二大強国間に存在していた和《アンタ》 親《ート・》 協《コーデ》 商《イアル》にとって不幸なことに、彼女は王妃《サルターナ》その人だったのだ。
ZEAL, n. 【熱意】 若くて経験をつんでいない者たちを苦しめる一種の神経病。悪あがきに先行する情熱。
「熱意」が報酬ほしさに「感謝」を探そうと
大声あげて出かけて行った 「おお、神よ!」
身をかがめながら神はたずねた 「お前は何がほしいのか?」
「ひびが入って 血が流れているわたしの頭につけるため 軟膏をいただきたいのです」
ジャム・クープル
ZENITH, n. 【天頂】 立っている人間、もしくは成長中のキャベツの真上の天空の一点。寝床に横たわっている人間、鍋《なべ》に入っているキャベツには天頂はないと考えられる。もっともこれに関してはその状態からみて、かつては学者たちの間でかなりの意見のくい違いがあった。ある学者は寝ている時の人間の姿勢は、重要なことではないと主張した。このような主張をするものは、水平主義者と呼ばれ、それに反対する者は垂直主義者たちと呼ばれた。水平主義者の異説は、ついには、アバラの哲学者王、熱烈な垂直主義者、ザノバスによって根絶やしにされてしまった。その問題について討議中の哲学者たちの集まりに入って来た王は、自分と反対の説を唱える者たちの足もとに、ちょん切られた人間の頭をほうり出し、その首のない身体は、屋外で、両《りよう》踵《かかと》を縛られてぶら下がっていたと説明をしてから、その頭の天頂を決めるよう一同の者に求めた。その首が自分たち水平主義者の指導者のものであることに気がつき、一同は大いにあわてふためき、王が喜んでくれるならどんな意見でも自分たちの意見を変えると告白をした。そんなわけで水平主義者は、「絶滅したもの《フイデス・デフアンクテイ》」の席に着いたのであった。
ZEUS, n. 【ゼウス】 ギリシアの神々の主神で、ローマ人にはジュピターとして、現代のアメリカ人には、「神」「金《ゴールド》」「野次馬」「犬」として、崇《あが》められている。アメリカ海岸に足跡をしるした探検家の何人かと、内陸奥地へと相当の距離まで足を踏み入れたと公言しているある男は、この四つの名前は四人の違った神々を意味する、と考えるようになってきている。しかし、「生き残っている信仰」に関する不滅の作品の中で、著者フランプは、原住民たちは一神教信者で、各自は自分自身以外の神は持たず、その自分にいろいろな神聖な名をつけて崇拝していると主張している。
ZIGZAG, v.t.(v.i.が正しい)【ジグザグに進む】白人の荷物を運んでいる黒人のように、左へ右へとよろけながら、危なっかしい足どりで前進する。zed《ゼツド》〔ひょろひょろ〕 z《ズ》〔ふらふら〕そして(意味は不明であるが、アイスランドの jag《ジヤグ》〔ぎざぎざ〕という言葉からきている)
あんまりしょろしょろ歩くので
誰もやつをわきから追い越しぇない
そこで安全に通るため
ちゅるりと抜けるはめとはなった
マンウェル
ZOOLOGY, n. 【動物学】 イエバエ(ムスカ マレディクタ《 わ る ぐ ち ば え》)なる王をもふくんでいる、動物王国の学問と歴史。動物学の始祖のうち父親の名は、広く認められているように、アリストテレスである。しかし母親の名はわれわれの時代まで伝わっていない。この学問のもっとも傑出した説明者の二人に、ビュフォン(フランスの博物学者。1708-88)とオリーバー・ゴールドスミス(アイルランド生まれのイギリスの詩人、小説家、劇作家。1728-74)がおり、この二人の著作(「動物史概論」と「生物史」)から、われわれは、家畜の牝牛は二年目ごとに、角《つの》を落とすことを学びとるのである。
解 説
アンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce, 1842-1914 ?)は今日では技巧的な短篇作家として高く評されている。彼は技巧の粋を凝らしたような短い恐怖譚を三つの短篇集、『生のさなかにも』(In the Midst of Life, 1891)、『ありうべきことか』(Can Such Things Be?, 1893)、『取るに足らぬ物語集』(Negligible Tales, 1911)に集録している。短篇小説におけるビアスの焦点は、常に個人の運命とか、親子・夫婦といった基本的人間関係に合わされていた。その視野はけっして広いとはいえないが、偏執狂ともいえるほど執拗に人間関係や人間の運命が破壊されていくさまを凝視しつづけた。
しかし生前のビアスはむしろジャーナリストとして高名を馳《は》せた。彼は辛辣な諷刺家として世に知られ、コラムニストの地位と権威を高めた新聞記者であった。ジャーナリストとしてのビアスの諷刺の対象も小説の場合同様、組織や制度よりも、むしろ一個の人間である場合が多かった。こうしたジャーナリズムにおける彼の諷刺が圧倒的な勝利をおさめたのは、例の一八九六年のサザーン・パシフィック鉄道の一件であった。七千五百万ドルもの政府融資を棒引きにせんとする鉄道側の虫のいい提案を、ビアスはコリス・P・ハンティントンなる七十五歳の老社長一人に諷刺の的をしぼることにより、粉砕したのであった。
ビアスの筆鋒の鋭さに音を上げたハンティントンは、彼に買収の話をもちかけた。するとビアスは胸を張って「わたしの値段は七千五百万ドル」と答えた。ビアスは得意の絶頂にあった。彼が五十四歳の時である。それ以後、彼の筆力も次第に衰え、諷刺も力を失った。
ビアスの伝記を書いたアドルフ・ダンツィガーによると、この時の個人攻撃は、ビアスがサザーン・パシフィック鉄道に就職しようとしたのを、ハンティントン社長に阻止された恨みをはらすものであったそうだ。しかしビアスをサザーン・パシフィック鉄道への反対運動に駆り立てたのは、彼持ち前の純粋な正義感であって、個人的な怨恨説はダンツィガーの中傷にすぎなかった。
確かにこの場合は個人的な怨恨説はいささか見当違いであったとしても、ビアスの諷刺の根源には、特定の個人に対する反感が常に渦巻いていて、そうした感情が露呈されるのを技巧的な文体により紙一重のところで防いでいるのが、彼の諷刺の特色であった。多くの場合、そうした個人的感情は抑制され、より高い次元に昇華されている。一個の人間の愚行を単に軽蔑し、嘲笑するにとどまらず、人間のエゴイズムがもたらす恐るべき結果までも予測しているからだ。だが時として彼の個人的怨恨があまりに強すぎると、抑制されず、前面に顔を出してしまうことがある。そのことが彼の諷刺の質を低下させ、また今日では難解にもさせているのである。彼の怨みを買った人物が無名であれば、その人の存在は歴史上から抹殺されてしまっているにもかかわらず、ビアスのその人物に対する諷刺だけが残っているという訳で、その諷刺は今日では理解されず、しかも無意味なものとなっている。
実はこの『悪魔の辞典』の中にも、そうした定義がいくつか含まれている。なにを諷刺し、なぜ滑稽なのか、皮肉なのか、どうしても理解できぬものである。今日まで日本で『悪魔の辞典』の完訳が出版されなかったのも、そうした定義を含んでいるためであると思われる。
わたくしたち訳者はその不可能なるものに挑戦してみて、己れの浅学非才ぶりをいやというほど思い知らされたのであった。難解なるもののうちいくつかは、三人寄れば文《もん》殊《じゆ》の知恵というわけで、なんとか解決しえたが、やはり未解決のものも残った。たとえ日本文にはなっても、その諷刺の真意をさぐりうることができなければ翻訳したことにはならない。その点で完璧を果しえなかったことを、まず率直に告白して、識者のご叱正を請わねばならない。
×
ジャーナリストとしてのビアスは、不正のはびこる時代と時代精神に鋭く挑戦した。彼は文学に多大の関心を示しながらも、無冠の帝王として、この不満だらけの世の中を攻撃しうる立場を生涯捨て切れなかった。だが彼の私生活において特に強調しうる点は、ビター・ビアスと呼ばれるほど辛辣で反抗的なその論調とは裏腹な逃避性である。その私生活からは、持病の喘息、結婚、家族、不愉快な仕事等から逃げ惑っている姿が浮き彫りにされてくるのである。
アンブローズ・ビアスは、一八四二年、オハイオ州メイグズ郡という、夕方ともなればどこからともなく悪魔払いの祈祷が聞えてくるような、因習と伝説の渦巻く辺境の村に生まれた。幼いころから彼は貧乏なわが家を嫌い、才覚のない父親や、なりふりかまわず働く母親や、ひしめき合っている兄姉を馬鹿にして、反抗的態度を示し、もっぱら白日夢に耽る習慣が身についてしまった。ビアスにあっては、反抗と逃避は子供のころから背中合わせに共存していたのだ。
ハイスクール卒業後は、印刷所で植字工見習いをしたり、食堂の給仕みたいなこともしていたらしい。その間に盗みの嫌疑をかけられたこともあり、ビアスにとっては屈辱の時代であった。また十七歳のとき、ケンタッキー陸軍士官学校に入学したことになっているが、真偽のほどはつまびらかでない。
一八六一年、南北戦争が勃発すると、彼は勇躍して北軍に志願する。みじめな境遇から脱出したいという希望もあったのだろうが、奴隷解放の戦いに強い熱情を抱いたことの方が、参戦へのより大きい動機であった。彼の理想主義は青年らしい純粋な情熱で火と燃えたのであった。彼の勇敢さはたちまち認められ、一年後には少尉に、二年後には中尉に昇進している。
しかし自由を守る戦いで彼が味わったのは、まったくの幻滅感であった。北軍の将軍たちは、正義のためより、自己の栄達のためにいく十万の兵士の生命を犠牲にした。小高い丘の上でショーでも見物するように、酒を酌交わしつつ、平然と激しい戦闘を眺める北軍司令官グラントをはじめとする将軍たちの姿を垣間見たとき、ビアスの情熱はさめ、かわって皮肉と冷笑がその心を占めた。命ぜられるまま馬車馬のように死にむかって突進する、愚かで無力な兵士たちの姿に、彼は人生そのものの縮図を見、骨肉相《あい》食《は》む戦争の実態に人間の本質を知り、人生とは束の間の、恐ろしい悪夢にすぎぬという、その悲観的人生観を確立したのであった。
やがてビアスは、一八六五年一月除隊願いを出し、終戦を待たずに民間人に戻ったが、その動機は判然としていない。戦争の実体を知って嫌気がさしたともとれないことはないが、戦争が終ったその年の七月、ヘイズン将軍の率いる西部探険隊に参加したころは、大尉として正規軍への任官を申請しているのだから、職業軍人としての生涯を送る気持は充分あったのだ。ビアスはのちに砂金会社などに関係していることからも判るように、世俗的な立身出世には大いに関心があった。心の中では、俗世間を、軍隊をどう思おうと、それはそれで割り切って、名を上げ、金を儲けたいという願望は常に頭の中にあった。ビアスはそうした自分の一面をのろわしく思うこともあり、そんな自己からの逃避も企てている。このような錯綜した性格ゆえに、その行動も、彼の文章同様難解なのである。
西部探険隊の一員として、約千五百マイルの長旅をおえて、サンフランシスコにたどり着いたビアスを待ち受けていたのは、少尉の任命書であった。そこで誇り高き彼は軍隊復帰はあきらめ、サンフランシスコに留まる決心をし、造幣局の夜警の職につきつつ、文筆の修業をはじめた。一説によると、ビアスは少尉の任命書を受けるか、ジャーナリズムに身を投ずるかを、投げ銭できめたといわれている。だから文筆で身を立てたいという願いは早くからあったのだが、それにはあまりにも準備不足であった。そのため彼は図書館から本を借り出してきて、それを手本に自己の訓練に精を出し、一八六七年九月頃より、サンフランシスコの各新聞や週刊紙に投稿を開始した。
やがて彼は週刊誌「ニューズ・レター」の時評欄「タウン・クライヤー」に定期的に寄稿するようになり、一八六八年十二月には、編集長として正式に入社し、「タウン・クライヤー」欄を一手に引き受けるようになると、その筆名はにわかに高まり、彼の評判は遠くロンドンにまで届くようになった。
それが契機となって、ビアスはロンドン・ジャーナリズム界で名を成そうと英国にのり込むが、ロンドンの気候が彼の喘息もちという体質に合わず、また妻の出産等もあって、さしたる成果もなく、滞英三年にしてサンフランシスコに戻った。
その後、彼は週刊誌「アーゴノート」「ウォスプ」等をへて、のちの新聞王ウイリアム・ランドルフ・ハーストの「サンフランシスコ・イグザミナー」の一員となる。ビアスはそのころ四十歳代で、筆力も充実し、創作意欲も旺盛であり、鋭い皮肉や諷刺も円熟の境に達し、西部新聞界、文壇の王座に君臨した。
一八九九年からは、居をワシントンに移し、その後は「コズモポリタン」誌の寄稿家として終始した。
妻との別居、離婚、二人の息子の夭折等、彼の家庭生活は悲劇の連続であった。もはや憩うべき家庭もなく、語り合う友にも恵まれなかったビアスは、六十の坂を越えると、さすがに疲れてきた。そこで彼は、一九一三年、「アメリカでは、東にも西にも、北にも、もはや逃げ場はなくなった。唯一の逃げ道は南だ」という言葉を残して、動乱中のメキシコに向かい、以後永久にその消息を絶ってしまった。彼の反抗と逃避で色どられた人生は、彼の最後の反抗とも、逃避ともとれる行動によってその幕を閉じ、あとには全集十二巻が残されたが、その中には傑作短篇集『生のさなかにも』『ありうべきことか』とともに、奇書ともいうべき警句集『悪魔の辞典』があった。
×
一九六七年に、アリゾナ州立大学の、アーネスト・J・ホプキンズ教授は『悪魔の辞典 増補版』を編集、出版した。それには千八百以上の定義(つまり警句)が収録されている。しかし現在『悪魔の辞典』として通用しているものは、一九一一年に出版された『ビアス全集』用に、ビアス自身が編集したものであり、そこには約千の定義しか収録されていない。約半分近くの定義が省かれている訳だが、そのこと自体一つの謎といわなければならない。
ビアスは全集のための編集をワシントンで行ったが、古い雑誌等の資料はサンフランシスコにあり、一九〇六年の大地震以後はそれらを活用することが不可能となった。ホプキンズ教授は、このことをそうした大きな省略の原因としてあげている。
ビアスは、一八七五年九月下旬に英国より戻ってきても「ニューズ・レター」に復帰できず、ふたたび造幣局勤務をはじめるが、その年の「ニューズ・レター」十二月十一日号に「鬼神の辞典」と題してメAモからはじまって メACCEPTモ まで、四十八語の定義を発表している。全集版(ビアスの編集による)では「A」の項は メABASEMENTモ ではじまり、もし「鬼神の辞典」の方と合体させれば、その前に数語がつけ加えられることになる。
ホプキンズは、この「鬼神の辞典」をビアスは見出しえなかったためオミットしたと説明しているが、自分の復帰を認めなかった「ニューズ・レター」への怨恨から、意識的に省略したととれないこともない。ビアス自身『悪魔の辞典』は一八八一年に開始されたと強調していることから、なおさらそのように考えられる。さらに全集版の定義と増補版に補充された定義を比較すると、全集版の方にはあきらかに推《すい》敲《こう》の跡が見られ、また増補版のある定義中にはさまれた詩が、全集版の別の定義に利用されていることなどを見ると、むろん資料不足ということもあったであろうが、それだけでなく、なにかある特別な意図のもとに、ビアスが取捨選択したのではないかと考えられる。その意図がなんであったかは、今日ではもはや憶測の域を出ない。
全集版から省略された定義の中にも、思わずにんまりしたくなるような警句も少なくない。それだけに余計ビアスの意図が判然としなくなるのだ。
ただ一ついえることは、全集出版のとき、ビアスの胸中にあったものは、過去ではなく未来であった。自らの文明批判が未来の世代にどのように受け入れられるかということが関心事であった。彼の公害等に言及した定義からも理解しうるように、彼は機械文明の末路を的確に予言している。いわば彼の作品は現代文明にたいする予言的価値をもっているし、彼にもまた予言者的気取りがあった。彼はこの『悪魔の辞典』にも、ただおもしろおかしいというだけでなく、予言性をもたせたかったのではあるまいか。後世に伝えることを第一の目的とした全集であるだけに、そうした意図は充分考えられる。
本書は、現代の日本人には理解しがたい定義を若干省いたが、全集版の雰囲気をあまさず伝えることを第一義としている。したがって全集版は見出し語の配列、品詞のつけ方が正確でないところもあるが、そのまま生かすことにした。完全主義者ビアスにしては珍しいミスと言えるからである。
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前述したごとく、「鬼神の辞典」は『悪魔の辞典』の原型というよりは先触れであったのだが、もう少し『悪魔の辞典』の由来を追ってみよう。
『悪魔の辞典』のようなコミック辞典を書きたいという願望は、ジャーナリストになりたてのころから、ビアスの心にひめられていたようだ。一八六九年八月中旬ごろの「タウン・クライヤー」で、ビアスは『ウェブスター辞典』の メVICEGERENTモ (代理人)の定義をかかげ、そのたくまざるユーモアを紹介し、「アメリカのユーモア作家以外の誰がコミック辞典の着想を抱きえようか。かの有名なノア・ウェブスターが、彼の天分を言語学の分野にふり向けなかったならば、なしえたかもしれぬものに思いを馳せると残念でたまらない」と述べている。
「ニューズ・レター」以後、「アーゴノート」誌の「プラトラー」なるコラムで、二度ばかりユーモラスな定義を発表したが、一八八一年から八六年にかけて、「ウォスプ」で本格的に『悪魔の辞典』の掲載をはじめた。その時は「P」からはじめ、しかも最初は「改訂版ウェブスター辞典」というタイトルを採用していた。「ウォスプ」誌には、一回が十五―二十語で、八十八回連載している。
それらは個人攻撃の要素をあまり含んでいないので、一般読者は、はじめはその害のないウィットに魅せられているが、嘲笑する悪魔それ自体の所業のごとく、もとの意味と微妙にからませつつ、読者の確信をゆさぶるので、あらためて彼等は己れの知識の正当性に疑念を抱き、慄然とさせられるといった趣向を凝らしてある。ただし「ウォスプ」誌の定義は、その約三分の一しか全集版には採用されていない。
「イグザミナー」紙に入ってからは、一八八七年に「冷笑派辞林」なるタイトルで一回分が発表され、以後十六年にわたって中断されるが、一九〇四年からふたたびはじまり、一九〇六年七月までに二十四回分発表された。また一九〇六年には、『悪魔の辞典』は『冷笑派辞林』なる題名で、ニューヨークのダブルデイ・ページ社から出版されているが、それには「A」から「L」までしか収録されていなかった(定義数約五百)。従って『悪魔の辞典』は一九一一年、全集の第七巻として出版されたとき、はじめて完全な姿となったのである。もちろん、そのときは題名も『悪魔の辞典』であった。
この全集版『悪魔の辞典』の定義数は九九七、それにホプキンズ教授は八五一のビアスの筆になる定義を発掘して加え(ただしSまで)、一九六七年に増補版を出版したという次第である。
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以前に『悪魔の辞典』を抄訳された西川正身先生は、そのテーマを、〓政治、〓宗教、〓戦争、〓文学、女性、人間性、言語、その他という風に分類され、数の上からは、政治関係が一番多いとされている。しかしもっとも強烈なのはやはり宗教批判であった。これはわれわれ三人の訳者の共通した印象である。ビアスは腐敗堕落し、企業と不正な同盟を結んだ政治に対すると同様、いなそれ以上に厳しく、本質を見失い、制度化した宗教を諷刺せずにはいられなかったのだ。
ビアスが「ニューズ・レター」に参加してのちの最初の号に、サンフランシスコの伝道者たちは神聖にして不可侵なり、なんてとんでもない話で、今後はどしどし諷刺の対象にする、という記事がのっている。この記事がビアスの入社と関係あるかないかは、もはや知るよしもないが、ビアスはこの新方針にはきわめて忠実であり、これによって、彼の諷刺家としての方向が決定されたといっても過言ではあるまい。かくして彼の「嘲笑する悪魔」なる役割は確立されたのであった。
ダーウィンが進化論を提唱し、また大実業家は適者生存の理論をかかげて、キリスト教の平等の精神に不敵な挑戦をしかけてきた。このときほど、宗教家はその存在意義を問題にされたことはなかったのだ。彼等は他の思想家、哲学者、社会改良家ともども、機械文明のもたらす害悪に、必死に挑戦すべきであった。しかし彼等は惰眠を貪っていた。ビアスは彼等を覚《かく》醒《せい》させたかったのだ。しかし晩年はそうした意欲も薄れたようであった。
大企業の横暴に対抗するものとして、労働組合が起り、ストライキが頻発した。ビアスは機械文明や産業主義の末路を憂いつつも、あまりにも即物的な社会主義的改革には賛成できなかった。衆をたのみ、目には目を式の労働組合の露骨な行動には生理的な嫌悪感を覚えた。
彼は大企業を批判すると同時に、返す刀で労働組合を斬った。それ故、間接的かもしれないが、実業界や労働組合を諷刺する定義もかなりあるはずである。
現代風にいうならば、いわばビアスは反体制であった。ビアスには現代の若者と一脈通じ合うところがある。思想的には体系化されておらず、その発想は粗《あら》削《けず》りだが、その直感は実に正確で鋭敏である。ビアスの「悪魔的な」概念は今日の実存主義と共通する部分が多い、という興味深い説を述べる人もいる。
とにかく、ビアスはこの『悪魔の辞典』において、彼に生涯憑きまとって離れなかった、人類に対する暗い洞察を、機知や冷笑や軽薄ともとれる皮肉に置き換えているのだが、けっして真実との直面を避けている訳ではない。人間の自然現象としての死への大胆な直面、神が人間に対し慈悲深くないという暗示等をふんだんに盛り込んでいるからだ。
この書を読むと、この世はビアス以来、悪魔の望む方向を間違いなくたどりつつあるのだと実感せずにはいられない。確かに前述したごとく、もはや現代に通用せず、意味もとれない定義もあるにはあるが、あまりにも現代にぴったり合う諷刺が多すぎて、ビアスの予言の正しさに、おかしいというよりも、むしろぎょっとさせられる場合がさいさいである。
×
なんとか悪魔的な雰囲気を出そうというのであろうか、その定義には通常用いられないような難解な語がふんだんに使用され、ローマ・ギリシア神話への言及から、聖書、シェイクスピアからの引用も多く、さらには古今東西の事象や人物を引き合いに出し、しかもそれらの真偽が見極めにくいとあって、訳業は実に難渋した。本書の元となった創土社版完訳『悪魔の辞典』は全集版の全訳に付録として数多くの増補版の定義を加えたものであり、それを翻訳しているころの苦労は今にしてみれば笑い話にもなろうが、当時としては筆舌に尽しがたいものがあった。翻訳中から校正、改訂の各段階で創土社の井田一衛氏はなみなみならぬ情熱をもって訳者一同を励ましてくれた。夜を徹して訳文を検討するさいも、かならず参加し、貴重な意見を述べてくれた。従って完訳『悪魔の辞典』はわれわれ訳者三名に井田氏を加えて完成されたものである。
また西川先生という大きな先達があったということは、どれほどわれわれの助けになったかもしれない。われわれは直接先生のご指導を受けたことはないが、陰の弟子として、厚くおん礼申し上げる。完訳『悪魔の辞典』出版後、各方面よりご叱正を頂戴したが、そうした貴重なるご意見は、角川文庫版出版に当り、十分参考にさせていただいた。
今回はからずもわれわれの訳業が角川書店関係者のお目にとまり、文庫に組み入れられることになったのは、望外の幸せである。社運を賭して完訳『悪魔の辞典』を出版した創土社の井田氏もわれわれの喜びを理解し、またより多くの読者の手に『悪魔の辞典』が渡ることを希望して、心よくこの企画に賛成してくれた。
しかし本書は全集版『悪魔の辞典』の全貌を伝えてはいるが、一部省略があり、完訳とはいいがたい。より深く『悪魔の辞典』を探りたい方は、是非とも増補版の数多い定義までのせてある創土社版をお手に取っていただきたい。創土社版も版を重ねるたびに、改良の手を加えている。
文庫版出版に当り、なにかとお世話になった角川書店編集部のみなさま、特に直接編集の労をとられた市田富喜子氏には心よりおん礼申し上げる。
なお、定義は「A」から「E」までは奥田が、「F」から「M」までは倉本が、「N」から「Z」までは猪狩が分担して翻訳した。訳者のそれぞれがその分担した部分の文責を負うことになる。
奥 田 俊 介
使用テキスト
The Devil's Dictionary (The Collected Works of Ambrose Bierce :Volume 〓) (Gordian Press, lnc., New York, 1966)
参考文献
一 主要作品
『いのちの半ばに』 西川正身 岩波文庫(一九五五年)
『悪魔の辞典』 西川正身 岩波書店(一九六四年)(抄訳)
『ビアス選集』(全五巻) 奥田俊介ほか 東京美術(一九六八――七〇年)
『悪魔の辞典』 奥田俊介他 創土社(一九七二年)(完訳)
『悪魔の寓話』 奥田俊介 創土社(一九七二年)
『悪魔の辞典』 郡司利男 こびあん書房(一九七四年)
二 評 論
「文明憎悪の文学者――アンブローズ ビアス――」谷口陸男 研究社(一九五五年)
「悪夢の恐怖譚――怪奇小説家としてのビアス――」奥田俊介 「思潮」(一九七一年夏季号)
「『悪魔の辞典』の諷刺性」 奥田俊介 「英語青年」(一九七四年四月号)
「〓“悪魔の辞典〓” の末路」 アレン・チャーチル 沢 英子訳 「奇想天外」(一九七四年三月号)
「『悪魔の辞典』の悪魔」 郡司利男 「英語青年」(一九七四年一月号)
「孤絶の諷刺家 アンブローズ ビアス」 西川正身 研究社(一九七四年)
三
The Collected Writings of Ambrose Bierce C. Fadiman 1946 The Citadel Press
THE DEVIL'S DICTIONARY 1957 Hill & Wang C. McWilliams
The Collected Works Of Ambrose Bierce (Vol. I-Vol. XII) 1966 Gordian Press Inc.
The Enlarged Devil's Dictionary by Ambrose Bierce E.J.Hopkins 1967 Doubleday & Company Inc.
The Letters of Ambrose Bierce B.C.Pope 1967 Gordian Press
The Complete Short Stories Of Ambrose Bierce E.J.Hopkins 1970 Doubleday & Company, Inc.
The Devil's Dictionary 1972 Penguin Books
Bitter Bierce A Mystery of American Letters C.H.Grattan 1966 Cooper Square Publishers, Inc.
The Ambrose Bierce Satanic Reader E.J.Hopkins 1968 Doubleday & Company, Inc.
年 表
一八四二年
六月二十四日、アメリカ、オハイオ州、メイグズ郡、ホース・ケーブ・クリークの開拓部落に生まる。アンブローズ・グウィネット・ビアス(Ambrose Gwinett Bierce)と命名。十三人兄弟・姉妹の第十番目(うち三人は夭折す)。父、マーカス・オーリーリアス・ビアス(Marcus Aurelius Bierce)は農業に従事、読書好きであった。母はローラ・シャーウッド・ビアス。父母共英国からの初期移民を先祖にもち、信心が厚かった。マーカスの弟、ルーシアス・ヴィーラス・ビアス(Lucius Verus Bierce)はオハイオ大学の出身の法律家で、一八六一年には上院議員に選出された名士であり、一八三七年、カナダ人の反乱援助、著名な奴隷制度廃止論者ジョン・ブラウン(John Brown)と親交があるなど、逸話の多い人物で、ビアスの尊敬の的であった。
〔日本〕 天保十三年 天保の改革。『南総里見八犬伝』完結。
〔ヨーロッパ〕 スタンダール死す。
一八四六年(四歳)
ビアス一家はより良き生活環境を求め、インディアナ州ウオルナット・クリーク(ウォーソーの近く)に移住。ビアスは以後十年余りこの土地で過ごす。その後小学校時代、ハイスクール時代のビアスについてはつまびらかでない。
〔日本〕 弘化三年 アメリカ軍艦、浦賀に来たる。
〔ヨーロッパ〕 バルザック『従兄ポンス』『従妹ベット』(仏)、ケラー『詩集』(独)。
一八五七年(十五歳)
ルーベン・ウイリアムズ(Reuben Williams)が創刊した奴隷廃止運動の機関紙「ノーザン・インディアナン」(Northern Indianan)に植字工見習いとして働きはじめる。
〔日本〕 安政四年 下田条約調印。
〔ヨーロッパ〕 ボードレール『悪の華』(仏)。
一八五九年(十七歳)
ケンタッキー陸軍士官学校に入学するも、一年足らずで退学。退学の理由は判然とせず。
〔日本〕 安政六年 三遊亭円朝『真景累ケ淵』。吉田松蔭死す。坪内逍遥生まる。
〔ヨーロッパ〕 ダーウィン『種の起源』、ディケンズ『二都物語』(英)。
一八六一年(十九歳)
四月十九日、第九インディアナ義勇歩兵連隊に入隊する。義勇兵募集開始後四日目、その地方では二番目の応募者であった。なお南北戦争の火ぶたは、四月十二日南軍がサウス・カロライナ州チャールストン港内の要塞フォート・サムターに砲撃を加えたことから、切られていた。六月初旬、第九歩兵連隊は西ヴァージニアのグラーフトンに送られ、マックレラン将軍(G. B. McClellen)の指揮下に入り、七月十日ジラード・ヒルで初勝利を飾った。その際、ビアスは敵前十五歩負傷した戦友の救出に成功している。八月末、軍曹に昇進する。
〔日本〕 文久元年 内村鑑三生まる。
〔ヨーロッパ〕 ブラウニング死す。
〔アメリカ〕 南北戦争はじまる。リンカン第十六代大統領となる。
一八六二年(二十歳)
二月、第九歩兵連隊はテネシー州ナッシュヴィルに移り、ビュエル将軍(Don Carlos Buell)麾下のカバーランド軍に属するW・B・ヘイズン将軍(William B. Hazen)の旅団に編入される。四月六日、シャイローの激戦に参加、十二月一日少尉に昇進。
〔日本〕 文久二年 生麦事件。森〓外生まる。
〔ヨーロッパ〕 ユーゴー 『レ・ミゼラブル』(仏)、ツルゲーネフ『父と子』(露)。
〔アメリカ〕 ソロー死す。
一八六三年(二十一歳)
二月、中尉に昇進、ヘイズン将軍の旅団司令部付地図製作技術将校となる。九月、チカモーガの戦いに参加。十一月、北軍はチャタヌーガで南軍に包囲されていたが、ミッショナリー・リッジを突破口として南軍をアトランタに駆逐した。
〔日本〕 文久三年。
〔ヨーロッパ〕 サッカレー死す。
〔アメリカ〕 リンカンの奴隷解放令。
一八六四年(二十二歳)
五月、南軍の一大根拠地アトランタ攻略作戦がはじまるが、その途中、六月二十三日、ケネソー山の戦いで頭部に重傷を負う。その時北軍は一時間足らずで二万五千の死傷者を出した。九月、帰隊、南軍追討に従軍。十月、敵地に冒険行を試みて捕虜となるも脱出に成功。十一月末にはフランクリン・ナッシュヴィルの戦闘で活躍する。
〔日本〕 元治元年 新島襄アメリカに脱出。佐久間象山死す。長州征伐。蛤御門の変。
〔ヨーロッパ〕 テーヌ『イギリス文学史』(仏)。
〔アメリカ〕 ホーソン死す。
一八六五年(二十三歳)
一月に除隊願いを出し、終戦を待たずに同十六日に民間人に戻る。除隊後直ちに財務省役人としてアラバマ州北部に勤務。四月はじめセルマに赴任。七月初句、ネブラスカ州オマハでヘイズン将軍の率いる西部探険隊に参加。十一月にサンフランシスコ着。そこには「正規軍に採用、ただし階級は少尉」なる任命書が待っていた。ここで軍隊復帰はあきらめ、ヘイズン将軍と別れサンフランシスコに留まる決心をする。サンフランシスコでは造幣局の夜警の職につく。この頃より文筆の修業がはじまる。
〔日本〕 慶応元年。
〔ヨーロッパ〕 イエーツ生まる。
〔アメリカ〕 リンカン暗殺さる。アンドルー・ジョンソン、第十七代大統領となる。南北戦争終了。ホイットマン『太鼓のひびき』。
一八六七年(二十五歳)
九月。週刊紙「キャリフォーニアン」(Californian)の九月二十一日号に「バジリカ」(メBasilicaモ)なる一篇の詩が掲載された、十一月十八日号には、やはり詩「一つの神秘」(メA Mysteryモ)が載り、十二月には、エッセイ「婦人参政権」(メFemale Suffrageモ)が連載された。この年、名誉将校の少佐に昇進。
〔日本〕 慶応三年 ヘプバーン『和英語林集成』。慶応義塾創設。大政奉還。夏目漱石、正岡子規、尾崎紅葉生まる。
〔ヨーロッパ〕 ボードレール死す。マルクス『資本論』(独)。
〔アメリカ〕 ロシヤよりアラスカ買収。ホイットマン『草の葉』。
一八六八年(二十六歳)
「キャリフォーニアン」「ゴールデン・イアラ」(Golden Era)、「アルタ・キャリフォーニアン」(Alta California)への寄稿を続けつつ、「ニューズ・レター」(News-Letter)への投稿も忘れなかった。「ニューズ・レター」は一八五六年英国人フレデリック・マリオット(F. A. Mariott)が創刊した週刊誌であり、編集長ジェイムズ・ワトキンズ(James Watkins)のもとでニュースや劇評、文学批評を扱っていたが、「タウン・クライヤー」(メTown Crierモ)なる時評欄は、鋭い諷刺が評判を呼んでいた。夏頃より「タウン・クライヤー」に定期的に寄稿するようになり、十二月にワトキンズが辞職すると、そのあとを襲って編集長となり、「タウン・クライヤー」欄を一手に引き受けるようになると、「ニューズ・レター」の誌面全体ににわかに生気がみなぎり、遠くロンドンまでその評判が届くようになった。しかしこの頃から一時おさまっていた母親ゆずりの喘息の発作に苦しむようになった。
〔日本〕 明治元年 明治天皇即位。江戸を東京と改む。
〔ヨーロッパ〕 ドストエーフスキー『白痴』、トルストイ『戦争と平和』(露)。
〔アメリカ〕 ブレット・ハート『ロアリング・キャンプの幸運児』。
一八七一年(二十九歳)
十二月二十五日、金鉱成り金の美しい娘、メアリー・エレン・デイ (Mary Ellen Day)と結婚、サン・ラフェルに新居を構える。
〔日本〕 明治四年 廃藩置県。国木田独歩、土井晩翠、田山花袋生まる。
〔ヨーロッパ〕 ドストエーフスキー『悪霊』(露)。プルースト生まる。
〔アメリカ〕 エドワード・エグルストン『インディアナ州出身の校長』。
一八七二年(三十歳)
三月、約六百五十語から成る別れの挨拶を「ニューズ・レター」に載せた。五月、ロンドンの主なジャーナリストあての紹介状をたずさえ、新妻と一緒に大陸横断鉄道を利用して東部に向かった。エルクハートで途中下車し、両親や兄たちに妻を引き合わせた。一両日後、ふたたび汽車でニューョークヘ出、そこから大西洋航路に従って、リヴァプールへ向かい、上陸後ただちにロンドンヘと急いだ。ロンドン・ジャーナリズム界で名を成そうというのが、英国行きの目的であった。ロンドンではトム・フッド(Tom Hood)らジャーナリストたちと親交を重ねる。七月、トム・フッドの週刊誌「ファン」(Fun)に「パルシー教徒ザンブリの寓話」(メFables of Zambi the Parseeモ)というユーモアと諷刺をたたえた文章の連載をはじめる(翌七三年三月まで続く)。また週刊誌「フィガロ」(Figaro)では「行きずりの見世物師」(メThe Passing Showmanモ)なるコラムを担当した。ロンドン時代はドッド・グライル(Dod Grile)という筆名を用いていた。十二月、ロンドンよりブリストルに転居、長男、デイ(Day)誕生。
〔日本〕 明治五年 福沢諭吉『学問ノスヽメ』。学制発布。島崎藤村、樋口一葉生まる。
〔アメリカ〕 トゥエイン『苦難を忍びて』。
一八七三年(三十一歳)
二月、ブリストルよりバースに転居。五月再びロンドンに出、北西部の住宅地区ハムステッドに住む。六月、最初の作品集(自分が執筆した新聞、雑誌の切り抜きを集めたもの)、『悪魔の喜び』(The Fiend's Delight)が出版された。その後間もなく、同じくサンフランシスコの新聞に載った短文を集めた『金塊と砂金』(Nuggets and Dust)が出版社チャトー&ウィンダス(Chatto and Windus)より出版された。この年の秋、約一か月パリに遊んだ。
〔日本〕 明治六年 与謝野鉄幹、平田禿木生まる。
〔ヨーロッパ〕 トルストイ『アンナ・カレーニナ』(露)。
〔アメリカ〕 トゥエイン、ワーナーの共著『鍍金時代』。
一八七四年(三十二歳)
第三番目の作品集『空っぽの頭蓋骨からの蜘蛛の巣』(Cobwebs from an empty skull)がラウトレッジ&サンズ(Routldge and Sons)より出版された。これは「ファン」や「フィガロ」に載せた短文を集めたものである。四月、ウォリックシャー、レミングトンで、次男リー(Leigh)誕生。五月十八日、亡命中のフランス女帝、ユージェニー(Eug?nie)を援助するビアスのワンマン雑誌「ザ・ランターン」(The Lantern)が創刊され、次いで第二号が七月十五日に出た。
〔日本〕 明治七年 「読売新聞」、「朝野新聞」創刊。「明六雑誌」創刊。上田敏生まる。
〔ヨーロッパ〕 フローベル『聖アントワーヌの誘惑』(仏)。
一八七五年(三十三歳)
五月、一足先に妻子アメリカヘ帰国する。本人は九月二十五日ニューヨーク着。十月初旬、サンフランシスコに先着している妻子と合流した。十月三十日、長女ヘレン(Helen)誕生、妻子を養うため、ふたたび造幣局勤務をはじめる。
〔日本〕 明治八年 福沢諭吉『文明論之概略』。柳田国男生まる。
一八七六年(三十四歳)
二月、父マーカス他界。
〔日本〕 明治九年。
一八七七年(三十五歳)
週刊誌「アーゴノート」(The Argonaut)の副編集長となる。「アーゴノート」はアイルランド生まれの煽動家デニス・カーニー(Denis Kearney)とその背後にあるカトリック教徒に反対するため、有力市民フランク・ピックスレー(Frank Pixley)が、ヴェテラン・ジャーナリスト、フレッド・サマーズの協力をえて創刊したものだが、事実上の編集長はビアスであった。三月二十五日に創刊号が出た。「プラトラー」(メPrattlerモ)なるコラムを担当する。この頃、写真家ウィリアム・H・ルーロフソン(William H. Rulofson)、「ニューズ・レター」の寄稿家T・A・ハーコート(T. A. Harcourt)と組み、単行文『死の舞踏』(The Dance of Death)を、ウィリアム・ハーマン(William Herman)という匿名で出版する。これは百三十ページ足らずの小冊子であるが、「アーゴノート」の書評論で、この著書は人心を毒するものであり、著者は銃殺にすべきであると評したので、かえって読者の好奇心をそそり、発売後七か月で一万八千部売れた。この儲けで一家はサン・ラフェルに転居できた。
〔日本〕 明治十年 西南の役。
〔ヨーロッパ〕 ゾラ『居酒屋』(仏)。
〔アメリカ〕 ルサーフォード・ブリチャード・ヘイズ第十九代大統領となる。エディソン蓄音器を発明。ヘンリー・ジェイムズ『アメリカ人』。
一八七八年(三十六歳)
五月、母、ローラ死亡。
〔日本〕 明治十一年。
一八七九年(三十七歳)
十二月、サウス・ダコタ州山間部のブラック・ヒルズ地方に資本金一千万円のブラック・ヒルズ砂金採取会社が設立された。
〔日本〕 明治十二年 「朝日新聞」創刊。
〔ヨーロッパ〕 ドストエーフスキー『カラマーゾフの兄弟』(露)。
一八八〇年(三十八歳)
六月十八日、同社の総代理人に任命された。しかし会社の計理は乱脈をきわめ、資金難にあえぎ、前途に希望なきことを見きわめると、十二月には一切手を引いてサンフランシスコに戻ってしまう。「アーゴノート」への復帰が認められぬため、その後はフリーの寄稿家として糊口をしのいだ。
〔日本〕 明治十三年。
〔ヨーロッパ〕 ゾラ『ナナ』(仏)。フローベル死す。
一八八一年(三十九歳)
三月、色刷りの諷刺画を売物にした週刊時事評論誌「ウォスプ」(The Wasp)の編集陣に加わり、コラム「プラトル」(メPrattleモ)を担当した。やがて事実上の編集長として全誌を一人で切り回すようになる。当時の文筆活動で特記すべきことは、「ジョージ・サーストン」(メGeorge Thurstonモ)など二短篇を「ウォスプ」誌に発表したことと、一八八一年から八六年にかけて同誌に「悪魔辞典」(メThe Devil's Dictionaryモ)を掲載していることである。それまでに「ニューズ・レター」に約五十語ほどの定義を発表し「アーゴノート」にも二回ばかり発表し、「ウォスプ」誌には約九十回連載している。この頃一家はオークランド、オーバン、セント・ヘリーナと、諸所転々としている。
〔日本〕 明治十四年 国会設立の詔出る。
〔ヨーロッパ〕 カーライル、ドストエーフスキー死す。
〔アメリカ〕 第二十代大統領ジェームズ・A・カーフィールド暗殺。チェスター・A・アーサー第二十一代大統領となる。ジェイムズ『ある婦人の肖像』。
一八八六年(四十四歳)
「ウォスプ」誌辞職。
〔日本〕 明治十九年 石川啄木、谷崎潤一郎生まる。末広鉄腸『雪中梅』。
〔アメリカ〕 アメリカ労働総同盟(A・F・L)成立。エミリ・ディキンソン死す。
一八八七年(四十五歳)
三月某日、のちの新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolph Hearst)が、オークランドのアパートで一人暮しをしていたビアスを訪れ、「サンフランシスコ・イグザミナー」(San Francisco Examiner)編集陣への参加を懇請した。「プラトル」欄への週一回の執筆以外編集の仕事を押しつけぬこと、「プラトル」欄以外に原稿を書いた場合は、それ相応の報酬を払うこと、原稿には手を加えぬことを条件にして、「イグザミナー」と契約した。「プラトル」第一回目は三月二十日発行の日曜版に載り、以後一八九九年まで連綿として続いた。
〔日本〕 明治二十年 二葉亭四迷『浮雲』。『旧約聖書』完訳出版。
一八八八年(四十六歳)
三月十一日発行の『イグザミナー』紙に、短篇小説「生死不明の男」(メOne of the Missingモ)発表。九月十六日号に「わが会心の殺人」(メMy Favorite Murderモ)発表。この冬、妻モリーがセント・ヘリーナに避暑にきた裕福なデンマーク人よりもらった恋文を発見し、夫婦の仲は険悪化した、別居生活ももう確たるものとなり、二人の仲はついに元へは戻らなかった。
〔日本〕 明治二十一年 二葉亭四迷訳ツルゲーネフ『あひびき』『めぐりあひ』。
〔ヨーロッパ〕 ストリンドベリイ『令嬢ジュリー』(瑞)。
〔アメリカ〕 エドワード・ベラミー『顧みれば』。
一八八九年(四十七歳)
七月二十六日、長男デイは一人の娘をめぐって、恋敵とピストルで決闘し、死亡した。そのときデイは十六歳と八か月であった。
〔日本〕 明治二十二年 帝国憲法発布。〓外『於面影』、幸田露伴『露団々』、『風流仏』。
〔アメリカ〕 ベンジャミン・ハリソン第二十三代大統領となる。
一八九一年(四十九歳)
最初の短篇集、『兵士と市民の物語集』(Tales of Solders and Civilians)がビアスの友人であった商人、E・L・G・スティール(E. L. G. Steele)のところから出版された。兵士の物語十篇、市民の物語九篇、合計十九篇収録。
〔日本〕 明治二十四年 露伴『五重塔』。『早稲田文学』創刊。北村透谷『蓬〓曲』。
〔ヨーロッパ〕 ハーディ『テス』、ワイルド『ドリアン・グレイの画像』(英)。
〔アメリカ〕 エディソン活動写真を発明。メルヴィル死す。
一八九二年(五十歳)
『兵士と市民の物語』の英国版『生の真中に』(In the Midst of Life)が、チャトー&ウィンダス社(Chatto and Windus)より出版された。アドルフ・ダンツィガー(Adolph Danzigar)との共著、中篇ロマンス『修道士と絞首刑執行人の娘』(The Monk and the Hangman's Daughter)もこの年出版された。これはドイツのリヒアルト・フォス教授(Professor Richard Voss)が雑誌に発表した物語「ベルヒテスガーデンの修道士」(メThe Monk of Berchtsgadenモ)をダンツィガーが発見し、英訳したものに、ビアスが思う存分訂正補筆を試みたものである。一八九一年の秋に「エグザミナー」にまず発表している。同年、諷刺詩集『琥珀の中の油虫』(Black Beetles in Amber)を、ダンツィガーが計画した西部作家出版会社(The Western Authors Publising Company)より出版した。この時の印税をめぐって、ダンツィガーとの仲がこじれた。
〔日本〕 明治二十五年 芥川龍之介、佐藤春夫生まる。
〔ヨーロッパ〕 テニィソン死す。ブッセ『詩集』(独)。
〔アメリカ〕 ホイットマン、ホイッティアー死す。
一八九三年(五十一歳)
怪奇小説集『ありうべきことか』(Can Suck Things Be ?)をカーセル出版社(Carsell Publishing Co.)より出す。
〔日本〕 明治二十六年 『文学界』創刊。
〔ヨーロッパ〕 モーパッサン、テーヌ死す。
〔アメリカ〕 クルーヴァー・クリーブランド第二十四代大統領となる。シカゴ世界大博覧会。
一八九五年(五十三歳)
ハーストは鉄道会社サザーン・パシフィック(The Southern Pacific Railroad)の不正と対決すべく、ニューヨークの新聞「ジャーナル」(Journal)を買収した。独占企業たるサザーン・パシフィックは一般市民の生活に数々の圧迫を加えてきたが、大陸横断鉄道の建設費として政府より融資を受けた七千五百万ドルを、無償で譲り受けた土地の一部を政府に返して帳消しにするか、きわめて低利の長期社債に借り替えるか、どちらかの方法をとるべき議案を国会に提出していた。
〔日本〕 明治二十八年 樋口一葉『たけくらべ』『にごりえ』。
〔ヨーロッパ〕 ランボー『全詩集』(仏)。
〔アメリカ〕 クレイン『赤い武勲章』。
一八九六年(五十四歳)
一月半ば、この議案に対する反対運動を援助すべく、ワシントンに招聘された。ビアスの精力的な活動が次第に反対運動を有利に導いて行った。四月の末、負債全額を二分の利子で八十五年満期の長期社債に借り替える妥協案が提出された。これではまだ完全な勝利ではなかったが、「鉄道を打ち負かした記者」として、名声は高まった。十二月、サンフランシスコに戻った。
〔日本〕 明治二十九年 樋口一葉死す。二葉亭四迷訳ツルゲーネフ『かた恋』、広津柳浪『今戸心中』、紅葉『多情多恨』。
〔ヨーロッパ〕 チェーホフ『かもめ』(露)。
一八九七年(五十五歳)
一月、妥協案は国会で否決された。七月、国会が承認した法令により、サザーン・パシフィックは半年ごとの分割支払いで負債全額を十年間で皆済することになった。完全なるビアスの勝利であった。この頃から「プラトル」欄の休載が目立ちはじめ、ジャーナリズムにも創作にも情熱を失いはじめた。
〔日本〕 明治三十年 藤村『若菜集』、紅葉『金色夜叉』、「ホトトギス」創刊。
〔ヨーロッパ〕 ジード『地の糧』(仏)。ヴェルレーヌ死す。
〔アメリカ〕 ウィリアム・マッキンレー第二十五代大統領となる。フォークナー生まる。
一八九八年(五十六歳)
『生の真中に』の新版をニューヨークのパトナム社(Putnam)より出版した。収録作品は二十二篇にふえている。
〔日本〕 明治三十一年 藤村『夏草』、徳富蘆花『不如帰』、「英語青年」創刊。
〔ヨーロッパ〕 マラルメ死す。
〔アメリカ〕 アメリカ・スペイン戦争。
一八九九年(五十七歳)
新聞雑誌に発表したイソップ風小話を集めた『奇談寓話』(Fantastic Fables)をパトナム社から出版した。十二月の半ば、二十年近い歳月を送ったサンフランシスコに別れを告げ、ワシントンに向かった。十二月十四日付「イグザミナー」紙は、近く開会される第五十六議会では、フィリッピン諸島の戦いその他、重要問題が討議されるので、報道の必要上、ビアスをワシントンヘ派遣したという社告が載った。
〔日本〕 明治三十二年 土井晩翠『天地有情』。
〔ヨーロッパ〕 トルストイ『復活』(露)。
〔アメリカ〕 ヘミングウェイ生まる。クレイン『怪物』、ノリス『マクティーグ』。
一九〇一年(五十九歳)
三月三十一日、次男リーが肺炎で死亡した。リーは二十七歳であった。耐えがたい心の痛手を受けた。
〔日本〕 明治三十四年 独歩『武蔵野』『牛肉と馬鈴薯』。
〔アメリカ〕 セオドアー・ルーズベルト第二十六代大統領となる。
一九〇三年(六十一歳)
「ウォスプ」誌その他に発表してきた二百八十篇の詩を集めた『土で作られたもの』(Shapes of clay)が直弟子スターリング(George Sterling)とシェファウアー(Herman Scheffauer)の好意により、サンフランシスコの一出版社より出版された、同じ年の秋、ウェスト・ヴァージニア州の古戦場を徘徊した。
〔日本〕 明治三十六年 紅葉死す。天外『魔風恋風』。
〔アメリカ〕 ライト兄弟初飛行に成功。ロンドン『荒野の呼び声』。
一九〇四年(六十二歳)
冬、妻モリーが「遺棄」を理由に離婚訴訟を起こし、その申し立てを正当とする仮判決が下った。
〔日本〕 明治三十七年 「新潮」創刊、小泉八雲死す。日露戦争勃発。
〔ヨーロッパ〕 チェーホフ死す。
一九〇五年(六十三歳)
四月二十七日、これから最終判決が下って離婚が正式に成立するというとき、モリーは数日間病床にあって死亡した。病名は心臓麻痺であった。九月より「コズモポリタン」誌(Cosmopolitan)の寄稿家として、書評などに携わる。
〔日本〕 明治三十八年 上田敏訳詩集『海潮音』、漱石『吾輩は猫である』。ポーツマス講和条約。
〔アメリカ〕 イーディス・ウォートン『歓楽の家』。
一九〇六年(六十四歳)
春、「コズモポリタン」誌主催の「社会不安」と題する公開討論会に、ロバート・ハンター(Robert Hunter)、モリス・ヒルキット(Morris Hillquit)という二人の社会主義者を相手に資本主義者の擁護者として出席した。一八八一年、「ウォスプ」のプラトル欄に載せた定義を中心に集めた『冷笑派辞林』(The Cynic's Word Book)をニューヨークの ダブルデイ、ページ社(Doubleday,Page & Co.)より出版した。これは一九一一年、『悪魔辞典』と改題された。
〔日本〕 明治三十九年 薄田泣菫『白羊宮』、晶子『舞姫』、独歩『運命』、藤村『破戒』、漱石『坊つちやん』『草枕』、四迷『其面影』。
〔アメリカ〕 アプトン・シンクレア『ジャングル』。
一九〇九年(六十七歳)
随筆集『日時計の上の影』(The shadow on the Dial)がサンフランシスコのA・M・ロバートソン(A. M. Robertson)から出版された。またこの年『ビアスの文学作法』(Wright It Right)も出版された。ビアス自らが編集した『ビアス全集』(The Collected Works of Ambrose Bierce)十二巻の出版がこの年からはじまり、一、二巻がニール出版社(Neale Publishing Co.)より出版された。第一巻は『かがり火の灰』(Ashes of the Beacon)と「自伝の断片」(メBits of Autobiographyモ)を収め、第二巻は『生の真中に』である。ただし「兵士」の部は十五篇、「市民」の部が十一篇、計三十六篇にふえている。
〔日本〕 明治四十二年 北原白秋『邪宗門』、田山花袋『田舎教師』、永井荷風『ふらんす物語』、漱石『文学評論』、坪内逍遥訳『シェイクスピア全集』、〓外『ヰタ・セクスアリス』。四迷死す。
〔アメリカ〕 ウィリアム・フォワード・タフト第二十七代大統領となる。ロンドン『マーチン・イーデン』。
一九一〇年(六十八歳)
三月、パナマ経由で海路サンフランシスコに向かい、旧友と会った。第三巻『ありうべきことか』、第四巻『土で作られたもの』、第五巻『琥珀の中の油虫』が出版された。十月末西部を去り、十一月四日ワシントンに戻った。
〔日本〕 明治四十三年 啄木『一握の砂』、藤村『家』、谷崎潤一郎『刺青』、長塚節『土』、漱石『門』。「白樺」創刊。大逆事件。
〔アメリカ〕 トゥエイン死す。
一九一一年(六十九歳)
第六巻『悪魔辞典』、第七巻『修道士と絞首刑執行人の娘』と『奇談寓話』、第八巻『取るに足らぬ物語集』(Neglibible Tales)が続けざまに出版された。第九巻『付随的意見』(Tangenntial Views)、第十巻 『独善家』(The Opineonator)もこの年の後半出版された。
〔日本〕 明治四十四年 白秋『思ひ出』、西田幾多郎『善の研究』、有島武郎『或る女』。幸徳秋水刑死。
〔ヨーロッパ〕 ピカソ等立体派盛んとなる。
〔アメリカ〕 ドライサー『ジェニー・ゲルハート』、ウォートン『イーサン・フローム』。
一九一二年(七十歳)
六月下旬、汽車で西部に向かい、オークランドに落着く。十月、西部に失望し、二度と戻らぬ決心をして西部を去る。十月三十日、ワシントン着。全集第十一巻『語尾からの第三音節』(Antepenultimate)、第十二巻『ごたまぜの中で』(In Motley)が出版された。
〔日本〕 明治四十五年大正元年啄木『悲しき玩具』。啄木死す。漱石『彼岸過迄』『行人』。明治天皇死す。
〔アメリカ〕 ドライサー『財界人』。
一九一三年(七十一歳)
十月二日、動乱のメキシコに向けて謎の旅に出た。南下してニュー・オーリンズ、サン・アントニオを経てメキシコ入りし、やがて消息を絶つ。
〔日本〕 大正二年 荷風『珊瑚集』、〓外『阿部一族』。
〔アメリカ〕 トーマス・ウッドロー・ウィルソン第二十八代大統領となる。キャザー『おお、開拓者たちよ!』。
悪《あく》魔《ま》の辞《じ》典《てん》
アンブローズ・ビアス:奥《おく》田《だ》俊《しゆん》介《すけ》/倉《くら》本《もと》護《まもる》/猪《い》狩《かり》博《ひろし》・訳
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平成13年8月10日 発行
発行者 角川歴彦
発行所 株式会社 角川書店
〒102-8177 東京都千代田区富士見2-13-3
shoseki@kadokawa.co.jp
本電子書籍は下記にもとづいて制作しました
角川文庫『悪魔の辞典』昭和50年4月10日初版発行
平成 9 年4月 1日43版発行