ひぐらしのなく頃に礼
昼壊し編
「るーるん、るんたったー、るんたった〜♪」
「そのご機嫌具合から見て、例のダム現場にまた新しいゴミ山でもできたんだろう。」
「うん、そうなの〜! 新しい山には何が埋まってるのかな! かぁいいお宝の予感〜! 帰ったらね、すぐに宝探しに行くんだよー! 圭一くんも一緒に来ないかな、かな!」
「俺かー? うーん、魅音に借りた漫画、まだ全巻読み終わってないんだよなぁ。」
「う〜、女の子が誘ってるのに、圭一くんは漫画を選ぶんだね…、はぅ。…今日の部活で助け舟を出してあげたのにそのご恩返しがこれなんだね…。」
「ううう、ウソですごめんなさい、宝探し万歳です! ぜひレナさんの旅に同行させてくださいませ!!」
……部活は非情の一言に尽きる。自分こそ優勝! そして弱ったヤツは徹底的に叩きのめしビリを確定させる。
俺だって優勢の時は徹底的に蹴落とすし、逆ならとことん蹴落とされる。
今日の俺はどうにも運に見放され、ことごとく大勝負が裏目に出た。
…そこに、ちょっとした助け舟を出してくれたのがレナだったわけだ。
「でも、結果的にビリだったね。あははは、罰ゲーム、今度の日曜日が楽しみかな、かな!」
「……うぅうぅ、レナにあれだけ助けてもらってこのザマとは…。不甲斐ないぜ…。」
結局、レナの助け舟を活かすことはできず、俺のビリは確定した。
…でも、レナのお陰で、起死回生の最後の大勝負に挑戦できたのは間違いない。
レナが助けてくれなかったら、その最後の勝負すら挑めないくらいの大負けだったのだから。
レナに、俺をビリから救済する義理はなかった。一位が望めないとわかったら、せめてビリだけは回避したいと普通なら考える。
放っておけば俺のビリは確定するのに、それを救済するのはリスクばかりで何の特にもならないはず。
なのに、レナは助けてくれたのだ。
……部活という非情の世界において、そのやさしさのカケラは、地獄に仏さまの後光が届くような神々しさだ。
情け容赦なく戦うのが部活の掟。
でも、その中にあっても、やさしさを失わず、みんなで楽しくゲームをして遊ぼうという気持ちを失わないのがレナだった。
「あはははは、買いかぶりすぎだよぅ。…レナはワンサイドゲームって嫌いなだけ。だって、どう戦っても逆転がないってわかったら、誰だって不貞腐れちゃうもん。」
「ま、まぁなぁ。…罰ゲームは俺に確定だってんで、決着を待たずに服の採寸までされてたからなぁ…。あぁクソ、一体何の服の採寸なんだろぅなぁ…、トホホホ…。」
「どんな逆境からでも、いつだって逆転はできると思うの。……うぅん、そういう世界じゃないといけない。だからね、レナは、どうしても困ってる人に、その、チャンスを与えずにはいられないの。」
「………レナは本当にやさしいんだな。…何て話を聞かされると、レナが弱り目の時、容赦なく叩いてきた俺に良心の呵責が……、ううぅ!」
「あははは、レナの好きでやってるんだから、圭一くんまでそうしてなんて言わないよぅ。
でもその、レナがピンチになった時はその、…貸しを返してくれるとうれしいかな、かな!」
「おう! 今日のは借りにしとくぜー! まぁ、それとは別でだ。たまにはレナの宝探しに付き合ってやるぜ。じゃあ、ダム現場のゴミ山に集合でいいな?」
「うん! ダム現場の宝の山に集合ねー!!」
レナはとびきりの笑顔で答えると、ぶんぶんと腕を振りながら駆けて行った…。
「梨ぃ花ぁ〜?! そろそろお買い物に行きませんと、特売を逃しちゃいますわよー!! 卵1パックがお一人様1点のみ10円ですのよー!! あとトイレットペーパーの6個セットが今日なら8円もお得で、お風呂洗剤が試供品のオマケ付き! 夕方前ならスタンプも2倍ですのよ?! もぅ、今日は梨花がお買い物当番ですのにー!!」
「……なぁに、羽入。早くお買い物に行かないと沙都子に怒られるんだから。」
「あぅあぅ! 梨花、ほらこれを見るのです。」
「何? ……あら、どうしたの? 香炉の足が欠けてるわね。経年劣化でしょ。だいぶボロっちかったしね。現代にはこんなの簡単に直せる道具がいろいろあるのよ、安心なさい。……木工ボンドでくっ付くかしら。」
「あぅあぅあぅ、そうじゃないのです。この香炉は、200年前に梨花のご先祖様が、ある物を封印した時にお供えしたものなのです。これが壊れたということは、封印が解けてしまったということなのです…!」
「……あんたって、たまにすっごくどうでもいいことでも大袈裟に言うんだけど、…それって何? すごくまずいことなの?」
「あぅあぅあぅあぅ…! 使い方を誤るとものすごい惨劇になってしまうかもしれない、危険なものなのです! あぅあぅ!」
「ご先祖さまがわざわざ封印するくらいなんだから、…何だかヤバそうな話ね。で? 惨劇の規模はどのくらい?」
「この巻物に書いてありますのです、イラスト付きなのですよ〜! あぅあぅあぅ!」
「……何々? フワラズの勾玉の災禍? …………例年より訪れの早き夏。門外不出の至宝、フワラズの勾玉が人界へ零れ出し、恐ろしき災厄を招いたり。………ずいぶん怪我人が出たみたいに書かれてるわね。……フワラズの勾玉は鬼神の残したる地獄の至宝なり。人里に現れることあれば、地獄より鬼たちが現れ人々に取り憑き、阿鼻叫喚の地獄絵図となるものなり…。…………ということはつまり、末期発症の集団発生?! それはマズイわね。鷹野が大喜びしちゃう大惨事になりかねないわ…。」
「正しく使えば素晴らしい力があるのですが、……その、使い方を誤ると大変なことになってしまうのです。あまりに危険なので、梨花のご先祖さまは、人の世から遠ざけるため、遠いお空の向こうの世界に封印していたのです。」
「で、その封印が解けたとなると、どうなるの。」
「お空の上に封印したのが解けますから、あぅあぅ!」
「簡単ね。そのまま村のどこかへ落下してくるわけね…。……一刻も早くそれを見つけ出して、封印した方がいいってわけね。…でも、正しく使えば素晴らしい力もあると言わなかった? それ次第では封印する前に少し遊んでみてもいいかもね。」
「あぅあぅあぅあぅ! とにかく早く見つけましょうなのです。誰か他の人が拾って、もし悪い使い道に気付いてしまったら……!」
「……こーゆう時に限って、鷹野みたいなヤツが拾うのよね。古手神社の宝に、あんにゃろの手垢を付けさせるわけにはいかないわ!」
「宝探しってねー!! 2つ楽しいことがあると思うの。1つはもちろん、かぁいい宝物を見つけられた時だけど、もう1つはわかるー?!」
「……汗だくになっても何も見つからなくて、人生と時間の大切さに気付き我に帰る時かー?」
楽しいことに疲れは覚えないとよく言うが、…レナのあの細い体のどこにこんな馬力が宿ってるってんだ。
粗大ゴミの山を漁るのはそれだけでも力仕事だ。
俺は早々に根を上げ、廃車の屋根の上に広げた行楽シートの上で大の字だった。
「ちーがーう〜! どんなかぁいいものに出会えるかなって、こうして探してる時が一番楽しいんだよ。だからね、もし何も見つからなくても、それはとっても楽しかったことなんだよ。」
「ふむ。…まぁ、俺もつまらなくはなかったけどな。お陰で、レナが持ってきてくれた、この水筒の麦茶がおいしいぜ! これ、明らかに我が家の麦茶よりうまいよなぁ。何て言うのかなぁ、香ばしさが違うというか。」
「普通の市販のだよ? ヤカンにパックを入れて煮出すだけ。」
「あー、煮出すってのが秘密だな多分! ウチのは冷水に放り込んで冷蔵庫に入れるだけだよ。やっぱ火が入らないと味ってのは出ないんだなぁ。」
「あ、そうだそうだ、忘れてたー!」
ぽんと手を打つと、レナは宝探しを一度中断して戻ってきた。
そして、持ってきたカバンの中から包みを出して広げる。
…何と気が効く! クッキーじゃないか! この不揃い感は間違いなく手作りのもの。
「これ、レナの手作りなのか?! いっただきまーす。うん、うまいうまい!」
「昨日作った残りなの。ほとんどお父さんが食べちゃったから、あんまり残ってなかった。レナもあんまり食べてないのにー。」
「そうかそうか、じゃあ俺だけが食べちゃ悪いな。半分だけ食うぜ。レナも食えよ! 会心の出来だぜ! うん、むしゃむしゃ! この味、舌触り、格別じゃのぉおぉ〜!!」
「レナはいいから、圭一くんが全部食べちゃっていいよ。そんなうれしそうな顔で食べてくれたら、作ったレナもクッキーも、すっごくうれしいもの。」
「そうか? ならいただくぜ、容赦なくなー!! 殺せる! このクッキー1枚のためになら俺は人が殺せるぜー!! むしゃむしゃむしゃ!!」
「あはははは、例えはひどいけど、うれしいかな、かな!」
楽しい団欒のひととき…。
素直にレナの宝探しに付き合って正解だった。
……部屋に閉じこもってマンガを読んでるだけで今日を終えちまったら、今日という日に失礼だったもんな!
空は少しずつ朱を混じらせていく。
巣へと帰っていくのだろうか。鳥たちの群れが高い空の下を横切っていく…。
レナは広げた包みを片付けている。……そろそろ引き上げ時のようだった。
「今日の戦果はどうだったよ。」
「うーん、明日以降に期待、かな!この山はまだまだ深いよ〜ぅ! きっと何かが出てくる。レナには匂いでわかるのー、はぅ〜!!」
「ははははははは。レナがそう信じてるなら、きっと何か出てくるだろ。挫けるな! 金が出るか温泉が出るか! 楽しみにしてるぜ。」
「明日も宝探ししたら、圭一くんも来てくれる?」
「うん? 俺か? そうだなぁ。またレナの手作りクッキーが食べられるなら、考えてもいいぜー。」
「ク、クッキーの準備がないから明日は無理…。…クッキー作ってないと、…駄目?」
「え? あ、あははははは、そんなウルウルな瞳で見んな! わわ、わかったよ! 手伝うからそんな憐れみを誘う瞳で見んなー! 俺のガラスの良心が痛む〜!」
「くす、あははははははははは! 圭一くんの明日のお手伝い、ゲット〜! 圭一くんと一緒なら、はぅ、何も出てこなくても楽しいよ。あはははは!」
普段の宝探しはひとりでするレナだが、たまには仲間がいるのも楽しいんだろう。
レナは、部活でもなかなか見せないような爽やかな笑いを見せてくれるのだった。
それから後片付けをして帰り支度をし、引き上げることにした。
そして土手を上がった瞬間、突然、眩いフラッシュが焚かれた!
「おわッ、眩しッ?!」
「はっははは!君たちの至福の笑顔、いただきさ!」
「と、富竹さんだー。それに鷹野さんもー! こんにちは〜!」
「くすくす、こんにちは。ジロウさんもデリカシーのない人よねぇ? レナちゃんたちのデートに水を挿すなんて。」
「デ、デートなんかじゃないっすよ、デデ、デートじゃないデートじゃない! そうだよなレナ?!」
「は、はぅぅ。」
「はっはっはっは! こんなひと気のないところに男女が二人で将来を語り合っててもかい? いやいやいいんだいいんだ! そういう出会いを重ねながら二人の絆を強めていくんだよ。
ねぇ鷹野さん。」
「くすくす。最初の頃のジロウさんの、あれこれ苦しい理由を付けては私を誘おうとするのがとっても面白かったわ。中でも傑作だった口実がアレね。えぇと、」
「わわわわわ、待った待ったぁ!! アレは僕の勘違いで、そのあの!!」
鷹野さんがくすくす笑うように駆け出すと、その後を富竹さんが追い掛ける。
こうして遠目に見ている分には、仲良しカップルに間違いなかった。
「あの二人は、一見ちぐはぐに見えて、すっごく仲良しだよね。」
「そうだなぁ。お互いのキャラクターが正反対ゆえに、パズルのピースの凸と凹みたいにバチっと相性があったのかもしれないなぁ。」
「はぅ…。凸と凹がバチっと。はぅはぅ、どういう意味かな、かな、かなかな。」
「ちち、違う違う、そんな変な意味で言ったんじゃないぃいいぃ! 赤くなるな、そこで赤くなられると非常に気まずいッ!!」
「何だろ何だろ!! 凸と凹〜〜、凸凹凸凹〜!! ○△凸※◎〜!!!」
ああぁ、駄目だ駄目だレナが壊れちまったぁあぁ!
こういう時は潔く、俺が一発殴られてKOされるいつものオチで収拾する他ない。
さぁレナ、覚悟は完了だ! いつもの電光石火のパンチで俺をKOしろおぉお!!
と、その時、何かが飛んできて、ガツンとレナの頭に当たった。何事だ?!
レナが急激にむせ込んで膝を突くと、ゲホゲホと明らかに普通じゃない咳を繰り返した。
「お、おいどうしたよ!! 大丈夫かレナ!!」
咳を繰り返すレナの背中をさする。…一体何なんだ突然!
「どうしたんだい! 大丈夫かい、レナちゃん!」
「しっかり。呼吸はできる?!」
「今、お二人が何か投げてレナにぶつけませんでした?」
「は? 何の話だい?」
確かに見た。何かが飛んできてレナの頭に当たったんだ。
俺はてっきり、富竹さんか鷹野さんが投げた物だと思っていたが、…そんな酷いこと、するわけがない。
じゃあ何なんだ。天から何かが降ってきてぶつかったとでも言うのか?
「大丈夫かよレナ…! ハンカチ使うか?」
「……あ、…ありがと……。ぅううぅ…、けほけほ…!」
「唾が気道に入ってむせちゃったのかしら? 落ち着いた?」
「そ、空を見上げながらふざけてたら…、急に何かが口の中に飛び込んできて…、飲み込んじゃって…。うぅうぅ…。」
「飲み込んだぁ?! 何を飲み込んじまったんだ。お腹とか痛くないか?!」
「痛くはないけど…、違和感があってヘン…。」
「……何だろう。昆虫が飛び込んできて、偶然飲み込んじゃったのかな。」
「気になるようだったら吐かせた方がいいわね。向こうの事務所跡に確か使える蛇口があったはずよ。水をたくさん飲んで、指で喉の奥を刺激して吐き出すの。」
「そうした方がいいな…! レナ、肩を貸すから行こう!」
「………………あれ…? ………………すっきりしちゃった…。」
「どうしたよ。」
「……うん。お腹の中のコロコロした感じがね、すぅっと消えちゃった。…もう何ともないよ。」
「本当に何ともないのかい? 大丈夫かな…。」
「…どうしても気になるんだったら、レントゲン撮って、胃の洗浄をした方がいいかもしれないわね。本当にもう何ともないの?」
「……はい。うん、もう全然平気。自分でも不思議です。…けろっと治っちゃいました。」
「そうなのか…? 念のため、診療所に行って監督に見てもらった方がいいんじゃないのか?」
「うん、ありがと! 明日になっても具合が悪かったらそうするね。でも今日のところはもう全然平気。みんな、心配してくれてありがとう。」
当のレナが、もう何ともないというのだからそれ以上を詮索してもしょうがない。
富竹さんたちとはそこで別れ、俺はレナを自宅まで送るのだった。
レナの具合が急に悪くならないかと最初は不安だった俺も、今日の宝探しが本当に楽しかったと何度も繰り返すレナの話を聞いている内に、だんだんその気持ちも薄れ、また明日も一緒に宝探しをしようという話になっていた。
「じゃあね、圭一くん。お見送りまでしてくれてありがと! もし明日の部活が早く終わったら、また一緒に宝探しに行こうね!」
「おう! 今日はおいしいクッキーと麦茶をありがとうな!!」
「手作りじゃないけど、明日も何かお茶請けを持ってくね。乞うご期待〜!」
「お〜ぅ!! 楽しみにしてるぜー!」
レナははち切れんばかりの上機嫌。
そんなレナを見ている内に、俺はさっきの異物騒ぎのことをもうすっかり忘れてしまうのだった…。
「……もうすっかり暗くなっちゃったわね。明日にしない? 年寄りにでも見つかったら、こんな時間に梨花ちゃまが一人歩きとは〜って絡まれて嫌だわ。何しろ、あんたの姿は人に見えないんだから。」
「駄目です、あぅあぅ! 一刻も早く見つけないと駄目なのです!……あぅ! 封印された宝の波動を感じますのですよ…。間違いなくこの近くなのです。あぅあぅあぅあぅ……。」
「あんたの妖気アンテナの精度がもうちょい高ければねぇ。さっきから村のあちこちを行ったり来たりよ。……くああぁあぁぁぁ…。眠い…。」
「梨花はフワラズの勾玉の恐ろしい力を知らないのです。知ったらそんなのんびりとはしていられないのですよ!」
「縁結びの勾玉でしょ? 紅白一組の勾玉を意中の人と持ち合うと相思相愛になれる。素敵じゃない。」
「だからこそ危険なのです! それを巡って村中の若者が血みどろの争いを繰り広げてしまうのですよー!! ひとりの乙女を巡って男たちが殺し合いをしたという話もありますです!」
「……若いっていいわよね。まぁ確かに、道端に転がってていいものではないわね。古手神社の巫女が取り返して、天に帰す前にちょっと遊ばせてもらうくらいはいいかもしれない。くすくす!」
「だーめなのですぅー!! あぅあぅ、近付いてますよ近付いてますよ…! あぅあぅあぅあぅあぅあぅ……カーッ!!!」
真っ暗な夜道に、何かが光ったような気がした。
それはまるで夜光塗料のように、しばらくの間その光を弱々しく灯らせている…。
「あれなの?!」
その光を懐中電灯で照らすと、そこには口の開いた小箱が転がっていた。
小箱ではあるが凝った意匠がされており、なるほど、古手神社の至宝と言われれば納得できるものだった。
でも外側はどうでもいい。大切なのは中身だ。
「あ! ………あぅあぅあぅあぅ…。」
「…空箱ね。なるほど、この窪みに、紅白2つの勾玉が納められていたというわけね。」
箱の中は宝石箱のようになっており、2つの勾玉を収めたであろう窪みが残されていた。
「こ、この近くに落ちているのかもしれません。探しましょうなのです!」
「あんたの妖気アンテナで探しなさいよ。こんな暗闇で落ちてる勾玉を探すなんて人間には無理よ。」
「そ…それが……、あぅ。妖気発信機は箱の方に取り付けられてるらしくて…、箱の中に入ってないと探せないのですよ〜〜、あぅあぅあぅ!」
使えないヤツ…。というか発信機って何よ。
懐中電灯で辺りを探すが、砂利や雑草の茂みなど、例え昼間でも簡単には見つけられないことは明白だ。
小箱の窪みの大きさから察するに、多分、飴玉程度の大きさだろうから。
「多分、空から落っこちてきた時、地面にぶつかった拍子に中身が飛び出しちゃったんでしょうね。………よりによってゴミ山の近くで? この斜面を転がってあの中に混じった日には……、無理ね。探せっこないわ。」
……いや、…ゴミ山の主、レナならどうだろう。
紅白の勾玉は、勾玉なんて名前こそついているが、巻物のイラストによるとその形状はまるで、オットセイのキーホルダーそのものだ。ぶっちゃけ、レナの食指は動きまくりだと思う。
「そう言えば、レナは……今日、ゴミ山に寄っていくとか言ってたわよね。新しいゴミ山が出来てたから、宝探しに行きたいとか言って。」
「レナが拾っているでしょうか…?」
「わからないわ。明日、学校で聞いてみましょ。さすがにこの時間に電話は失礼にあたるわ。」
「……あぅあぅ…。」
「とにかく今日は引き返しましょ。これ以上は沙都子も心配するわ。それに、例の巻物をもう少しくわしく読めば、何かヒントがあるかもしれないでしょ。」
「…あぅあぅあぅあぅ。」
やれやれ。面倒なマジックアイテムが雛見沢に紛れ込んだものだ……。
…というか私、どっちのシナリオでも古文書読んで宝探しね…。
あぁ、ホント! やれやれ…。
楽しいはずのお弁当の時間だったが、どうも今日は盛り上がりに欠けた。
レナの様子が朝から変だからだ。
「さっきから調子悪そうだね。…今日は体調悪いの?」
「……うぅん、体調悪くないよぅ。………はぅ…。」
「また溜め息をついてますわね。溜め息をひとつつく度に幸せが逃げてっちゃいますのよー?」
「……うん。……幸せ…。………はぅ…。」
登校した時はこれほどではなかったのだが…。やっぱり風邪なのだろうか。
朝からどこかぼんやりとしていて微熱がありそうな感じだった。
「保健室で風邪薬でももらう? 最近、昼夜の温度差が激しいからね。」
「………うぅん、いい。…今日はその、…レナは放っておいてくれないかな。……かな。」
レナはぽやんとした口調でそれだけを言うと、俺たちの輪を抜け、自分の席へ戻ってしまった。そして頬杖を突きながら、窓の外を見て再び溜め息を漏らす。
「ふふ〜〜ん?おじさんの見たところ、あれは恋だねぇ!」
「ここ、恋ですってぇええぇ?!あわわわわ、そそ、それはその、をほほ、おめでたいことでございますわねぇ!」
「間違いないね! 心ここに在らずで、一日中想い人のことでいっぱい。頬杖を突いて溜め息なんて、恋する乙女そのものじゃなーい!」
「そ、そうなのかぁ…? 俺には、その、…昨日、飲み込んじまった妙なもんのせいで体調を崩してるようにしか見えないんだがなぁ…。」
「妙なものって何ですの?」
「ん? あぁ。昨日さ、宝探しに行った先でさ。…何なんだろうなぁ、何か降って来たみたいなんだよ。そいつがスポンと口ん中に飛びこんじまって、それを飲み込んじゃったらしいんだよ。」
「天から降って来たぁ? あははははは! ならきっと、それはキューピッドの恋の矢だねぇ。」
「……天から、降って来た?」
俺たちがレナの話に夢中になっている隙に、沙都子の席にこっそりとカエルの玩具を仕掛けていた梨花ちゃんが、猫耳をぴくんと反応させて振り向いた。……人間の耳って側面だよな? 今のは錯覚か。
「……圭一。レナがどうしたんですか?」
「うん、いやな? 昨日、ダム現場に新しいゴミ山が出来たとかで、宝探しに出掛けたんだよ。んで、いつものように馬鹿騒ぎして、大口開けて空を見上げて笑ってたら、そこに何かが落ちてきて、綺麗に口の中に飛び込んで、思わず飲み込んじまったってんだよ。」
「……天から落ちてきたものが、口の中に? 飲み込んだ?」
羽入、今の聞いた?!
「ま、まさかそんな! あぅあぅあぅあぅ!!」
こういう時、姿が見えない羽入は便利でいい。
うっとりとした表情を浮かべながら溜め息を零すレナに堂々と近付き、その頭上に両手をかざして、微弱な何かを感じ取ろうとする仕草をしていた…。
「あ、あぅあぅあぅあぅーッ!!!」
「ひィイ!!! なな、何て声出すのよ! ってことはまさか!」
「レレ、レナの中に、勾玉があるのです!! 勾玉の力がレナに宿ってしまってるのです!!」
「そりゃー話は早いわね。通りすがりにローブローでも叩き込んで見る? …反撃で殺されるわね。なら下剤でも飲ませてみる? …冗談じゃないわ!!」
「そんな簡単な問題じゃないのです、あぅあぅ! もう勾玉の形はしていないのです。勾玉はレナに食べられてしまったので、形の意味を失い、その力をレナに宿らせてしまったのです!!」
「つまり何? あの勾玉は服用可能で、飲んだら消化吸収できるってわけ? どーすんのよ、あんたの生み出したアイテムでしょ、何とかならないの?!」
「もも、もちろん何とかはできますです! 紅白の勾玉を揃え、僕の神域、つまり古手神社の境内で解呪のおまじないをすれば、ちゃんと解けますです!」
「なら簡単ね! 帰りにレナを神社に連行して一丁上がり!」
「ところが、レナが飲み込んだのは赤の勾玉だけなのです! 白の勾玉が一緒になきゃ解呪はできないのですよー!! このままではレナは、白の勾玉を拾った人を無差別に好きになってしまうのです! レナに赤の勾玉の効果が表れているということは、誰かが白の勾玉を拾ったということなのです! だからレナは、今その人のことで頭がいっぱいになってるに違いないのですよー!! あぅあぅあぅ、もしレナがこのまま暴走してキセイジジツとかで取り返しのつかないことになってしまったら、レナの一生は台無しなのですー、あぅあぅあぅ!!!」
「あ、ん、たぁああぁああぁーッ!!!あんたの作ったマジックアイテムでしょ、あんたが責任取りなさい!何だってこんな危険なアイテム作ったのー!!」
「使い方さえ間違わなければ縁結びの素敵な効果なのですー! あぅあぅあぅ!!」
「それを巡って大騒動が昔に起こって大変なことになったんでしょ?! あぁ、今こそ理解したわ、何でご先祖様が封印したかよくわかったわ! 何て傍迷惑な神さまなのあんたはーーー!!」
「あ、あぅあぅ、それを言ったら梨花のご先祖さまが、解けちゃうような中途半端な封印をしたのがいけないのです! 封印する時、ちゃんと僕にお饅頭とかのお供えをしてれば、もっとしっかり封印できたのです!」
「ほぉおおお!! それはいいこと聞いたわ、お供え物が大事なのね! 食べれないあんたに代わって私が食べてお供えしてあげるわ!!昨日、セブンスマートで大特価だったアレをねッ!!お徳用キングサイズキムチ激辛MAX!! それにマスタードにわさびにタバスコまでミックスした、あんた懲罰用のスペシャルバージョンよ!! あぁ、ちなみに私は全然平気だったけど、あんたにはどうかしらぁ?!」
「り、梨花は味覚が変なのです!! そんなの食べたら舌が焼け切れちゃいますのですぅううぅ!!」
「しかもそれをあんたのために持ってきたこのシュークリームの中にたっぷり詰めるわ!!」
「ぎぃやああああぁあああぁあッ!! 鬼、鬼、鬼畜、人でなしぃいぃ!!やめてやめてあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!」
「くすくす、くーっくっくっく!! もう謝っても遅いわよー!! くらいなさいッ!! …………って、みぃ?」
突然、私の背中が摘み上げられる。…私ゃ子猫か。ふにゃん。
見ると摘み上げているのは圭一だった。
「…梨花がひとりで何をじたばたしてるのかわかりませんけど。梨花が何か知ってますのね? レナさんのあれ!」
「……みぃ? み〜♪」
「梨花ちゃん語の翻訳にはみ〜リンガルとか必要だよなぁ。これはつまりどっちの意味なんだ?」
「こーのすっとぼけ方はクロだねぇ。あんたレナに何かしたの?!」
…………まぁ、もうすっとぼけても仕方ないか。
とにかくレナをこのままにはしておけない。大人しく白状して協力を仰ごう…。
「古手神社の至宝、フワラズの勾玉ぁ?!」
「……はいなのです。不和知らずに通じると言われる、縁結びのありがた〜ぃ(迷惑の)宝物なのですよ。」
「巻物の挿絵を見る限りじゃ、…オットセイのキーホルダーにしか見えないねぇ?」
「同感ですわね。口の中に飛び込まなくても、レナさんがお持ち帰りしそうな形状ですわ。何で宝物がこんな可愛い形なんですの?」
「オットセイは繁殖力旺盛だから、熱愛のシンボルだーってテレビで見た気がするぜ?」
「へー…! だとすると、オットセイという生き物の存在が、数百年、あるいは千年以上も前に日本、それも古手神社に伝来していた証拠になるねぇ?! なるほど、これはとんでもないオーパーツかもしれないよ。」
「しかし、わからねぇなぁ! 何でそんな宝物が空から降ってきてレナの口の中に飛び込むんだ?」
「……にぱ〜☆…。」
「しかし、オヤシロさまの宝物が縁結びとは、ちょいと意外だなぁ? もうちょっと祟られたり呪われたりしそうなイメージがあるんだが。」
「確かに、近年はオヤシロさまの祟りとか言われて、イメージがずいぶん物騒になっちゃったけど、本来のオヤシロさまは縁結びの神さまでもあるんだよね。…仲良くしないと祟る、ってのがメインだけど。」
「そうですわねぇ。昔の古手神社では縁結びのお札とかを売ってたような気がしますわ!」
「んで、……その勾玉の縁結びの効果は、単なる気休めじゃなくて、霊験新たかなホンモノってわけなんだな?!」
「……そうなのです。だから、レナは今、フワラズの勾玉の力に取り憑かれてしまっているのです。」
「えっと、赤と白でペアなんだっけ? 赤を持つ人が、白を持つ人を好きになる、だっけ? 相思相愛じゃなくて片道なんだねぇ。」
「……はいです。レナはその赤を飲み込んでしまいましたですから、白を誰かが拾えば、もれなくレナも付いてきちゃうわけなのです。みー。」
「そ、それは何だか珍妙な話になってきましたわねぇ!
…そしてレナさんを元に戻すには、白の勾玉も見つけなくてはならないというわけですのね?」
「しかも、レナの様子から見るに、誰かがすでに白の勾玉は拾っちまったわけだろ?! このまま放っておくと、レナはどんどんその人のことが好きになっていっちまうわけか。レナの本当の気持ちとは別に。」
「ちょっとロマンチックな話ではあるけど、相手がどこの馬の骨かもわからないってのは、ちょっといただけないねぇ。拾いさえすれば、誰にでも惚れちゃうわけでしょ?」
「……そうです。拾った人が、子供だろうとお年寄りだろうと、男女お構いなしなのです。増してや相手が家族持ちだった日には色々と悲劇なのですよ、にぱ〜☆」
「それはよろしくありませんわね…。どうも事態は一刻を争うようでございましてよ!!」
「一刻を争いますのです。しかも、食べても作用するので、もし通りかかった犬さんが食べてしまったら、……それはもう大変なことになってしまうのです。」
「そそそ、…それは、…その、はは、大変だ、なぁ…?」
「う、うぇ、……おじさんはちょっと、…そういうのはパスだなぁ…。」
「どうしてですの? レナさんと犬が仲良く戯れるだけなら、一番被害は軽微でしてよ??」
「……沙都子は穢れてないのです。なでなで☆」
「とにかく、人心を惑わす魔性の勾玉だってことは理解できたぜ。手遅れにならん内にどうかした方がいいな!」
「そうだね。恋愛は自由意志が大事だよ。魔法の力で強制されるなんて、よくないね! ……まぁ、ちょっぴりはロマンチックだと思うけどさ!」
「……とにかく、キセイジジツを作る前に何とかしましょうです。じゃないとこれはこれで大惨事なのですよ。」
「問題は、白のオットセイを誰が拾ったかですわよ? いくら雛見沢が田舎とは言え、どこの誰が拾ったのかわからないんじゃ、手の打ちようがありませんですわ!」
「うん? そりゃ簡単じゃない! だって、魔法の力で、レナは白の勾玉を持った人を好きになるんでしょ? なら、レナの頭の中はその人のことでいっぱいだよ! つまり、レナに直接聞けばいいわけさ!レぇナぁ〜〜!!! おじさんに教えてよぅ! レナのハートを射止めちゃった意中の相手はだぁれぇえぇ?」
……レナ乱舞って今日まで色々見てきたけど、コイツはこれまでの中で一番長かった。
「…は、…はぅうぅぅ、そんなこと言えないよぅ…。はぅ〜!」
「…い、いや、多分こうなると思ったよ。しかしずいぶん威力が向上したな…。ヒット数も大幅に増加してるぞ…。」
「……次のパッチでは弱体化に違いないのですよ。にぱ〜☆」
「大丈夫ですの、魅音さん。女の子に好きな人のことを直接聞くなんて、どうかしてましてよー!」
「…………ごめんねぇ、おじさん、女の子じゃないもんでわかんなかったわぁ…。」
あああぁあぁ、もう厄介なことになったわねぇ…。
「よりによってレナ? 恋心がそのまま攻撃力に転換されるような子なのよ? 何だか話がこじれそうね…。あんたも当事者なんだから対策を何か考えなさい!」
「あぅあぅあぅ、その辛い悪魔をしまってくれたら考えますのです…!」
「……あらそう? 何口食べる内にあんたが妙案を閃いてくれるか試してみようかしら!」
「考えます考えます!! あぅ あぅ あぅ チーン! ほら、あれです!」
「…ずいぶん投げ遣りに思いついたみたいだけど、何?」
羽入が指差すのはレナの席だった。
……レナはさすがに頬杖に飽きたのか、読書を始めていた。
時には悪ふざけを抜け読書をすることもある。別に珍しい光景でもなかった。
「……でも何だか様子が違うわね。普段とは違う雰囲気の本を何冊も持ってきてるわ。」
「どうしたんですの、梨花。」
「……みー。レナの様子を見るのです。何かヒントになるかもしれませんです。」
「何読んでんだろ。ここからじゃよくわかんないね…。」
さっきのレナの攻撃で懲りたのか、魅音は必要以上に距離を取って慎重そうだった。
「何だ? ありゃ多分、何かのハウツー本だな。何を勉強しようとしてるんだ?」
「あッ! 写真ですわ! 写真撮影の専門誌ですわよッ!!」
「他にもカメラのカタログまであるぜ! この雛見沢でこのキーワードが意味する人物はひとりしかいねぇだろ!!」
「うん、間違いないね! 週間闘撮別冊、ナースローアングル特集号まであるよ!! もう該当人物はひとりしかいないッ!!」
…最後の一項目が致命的だが、とにかくとにかく、あの男しかいないというわけだ。
ったく、何であの男はいつの世界でも、ぼんやりしているクセにいつもキーパーソンなのか!
「はぅ〜、レナにもカメラの使い方教えてくださいって言ったら教えてくれるかな、かな…! そしたら手取り足取り教えてくれるかな、かなかなかな! 看護婦さんの格好して行ったらやさしくしてくれるかなッ! かなかなかなかなッ!! そしたらそしたら、はぅはぅ、はぅ〜〜〜!!」
おもむろにレナが席を立つ!
瞳の中にはハートと花びらがいっぱいで、覗き込めばさぞやすごい光景が映っているに違いなかった。
「あのねあのね魅ぃちゃん! レナは急に具合が悪くなっちゃったから早退するね、はぅ〜!!」
何てメチャクチャ! 放課後を待たずにレナは教室を飛び出す!!
「あぁああぁ、レナぁ!! ちょうどいい場所に富田くんと岡村くん!! レナを行かせるな、引き止めろぉおぉ!!」
「「む、無理っすよぉおおぉ!! さっき委員長が大変な目にあってたじゃないっすかぁあぁ!!」」
「……確かに、今のレナが相手じゃ部活メンバー総掛かりでも無理そうなのです。」
「だからってまずい!! 沙都子ッ!!」
魅音が指をバチンと鳴らすと、沙都子の手元に天井から一本の紐が垂れてくる。
「あいあいさーですわぁ!! そおれッ!!」
それを沙都子が勢いよく引いた時! 昇降口へ駆けて行くレナの足元にビーンと縄跳びが張られる仕掛けが作動する!
「取りあえず転ばせて、その上からみんなで圧殺するんですのよ!! ふぎゃッ?!」
と、沙都子が言い終わる前に縄跳びが千切れたすごい音がした。……ナイロン製の縄跳びを引き千切るって、どういう怪力なんだろう…。
縄跳び如きではレナを静止できず、もはや下駄箱で靴を履き替えてる!
「こぉら!! 廊下を走っちゃいけません!!」
「先生ごめんなさい、今日は早退します〜〜!! 披露宴には呼びますからね! はぅ〜!!」
「は、はぁ?! ……ってお待ちなさい! ううぅ、教え子に先を越されたくなかった…!」
「って、そこ落ち込むトコ違いますから!! わ、私たちも早退します! とにかくレナより先に富竹さんを見つけて白い勾玉を奪おう!」
「それしかねぇな! 富竹さんのいそうなところを探そう!!」
「……羽入! あんたの妖気レーダーで富竹を探しなさい!」
「あぅあぅ、その呼び名が嫌ですが教えますです、神社の境内にいますですよー! 鷹野も一緒なのです!」
「…あぁ素敵。お約束万歳! こーゆう時のカップルって必ず二人一緒なのよねー。魅ぃ、富竹はきっと神社なのです!!」
「梨花ちゃんもそう思う?! 私もそう思ってたとこだわ!!」
「でもそれはレナさんも思ってるみたいですわよ!! 神社の方向へ走っていきますわ!」
「しっかし何て速度だ!! 見る見る視界から遠のいていくぞ…!!」
「それでも追うしかないよ! レナが富竹さんを口説き出す前に何とかしなきゃ!」
「……で、鷹野が妬いて気まずい三角関係で大変なのです。にぱ〜☆」
別にあのカップルが破綻するのは構わないけど、八つ当たりで終末作戦なんか実行されたらたまったもんじゃない!
レナはとっくに俺たちの視界から消え去っている。
でも立ち止まるわけにはいかない。魅音の言う通り、1秒でも早く追いついて被害を最小限に食い止めるしかない!
…そんなわけで、私たちが神社にたどり着いた時は、……あぁお約束って素敵。
誰もが期待した典型的な修羅場が出来上がっていた。
「あぁら、さすがジロウさん。若い子にもモテるのねぇ? いつの間にそんな人気者になってたのかしらぁん?」
「そそそそ、そんなことないよ! これはきっと何かの間違いさ…! はぅん! レナちゃん、そのあんまりくっついちゃ駄目だよ…!」
「ね〜〜〜ん、富竹さぁん☆ レナにもカメラのこととか、色々教えてほしいかな、かな!」
「いやぁ、あっははは、カメラの道は長く険しいが遣り甲斐充分さ! レナちゃんが興味を持ってくれたなんてうれしいなぁ…。はは、ははははは、はは…。」
「あぁら、別に私はいいのよ? だってジロウさんはとーってもやさしいベテランカメラマンなんですもの。女の子が困ってたら、私に限らず、誰にだーって親切に教えちゃうのよねぇ?」
「レナ、富竹さんのその親切でやさしいところ、だぁい好き…。カメラのこととかぁ、……カメラ以外のこととかぁ…、…色々教えてほしいかな、……かな。」
「カカ、カメラ以外のことって何かなぁ?! はは、はははははは…。」
「ジロウさん、カメラ以外のことを聞いてもないのに教えてくれるの、得意だもんねぇ? そういう時のジロウさん、とっても強引なんだから。」
「な、なな何が強引なのかな、…かなぁ! …でも、…レナ、富竹さんならその、…どんなこと教えてくれても、……いいかな、…かな。」
「ぃえぁああぉおお、おっほはははははははは…!」
…富竹の気色悪い笑い声が境内に木霊する。
女の子に言い寄られたことのない全国平均な男子だったらこういう反応になるのだろうか。…面白いから今度圭一で実験して、家族連れの赤坂に試してみよう。
富竹たちには悪いが、傍から見てる分には大変楽しそうな修羅場だった。
「レ、レナぁ!! 目を覚ませ!! レナのその気持ちは偽物なんだぁああぁ!!」
「にに、偽物なんて酷いよ! これはレナの本当の気持ちなの! レナはね、気付いちゃったの…、富竹さんの本当のやさしさ! それはね、とってもささやかなものなんだけど、でも気付いちゃったらもう忘れられないの…!! そのやさしさはね、きっとレナじゃないと気付けないの!! だからもうレナには富竹さんしかいないの!」
「…は、……はああぁああぁぁぁぁ…。」
脳内にあらゆる快感物質がだぼだぼと分泌しているのだろう。 この世の極楽のような表情を浮かべた富竹が、朦朧としながらヨダレを一筋垂らしている。…それと好対照な鷹野の表情が実に愉快だ。
「富竹さん!! 鷹野さんを忘れちゃ駄目でしょ! 自分のパートナーを見捨てちゃうの?!」
「そ、そうさ…! レ、レナちゃんには悪いけど、僕には鷹野さんというパートナーがいるんだ!! だだ、だからその!」
「ふぅん…? パートナーってどういう意味かしら? 私、横文字よくわかんないの。ちゃんと日本語で言ってくれないとわかんないわぁ?」
「いや、だからその、えっとえっと、ぁははははははは!」
「レナが教えてあげるねー! 鷹野さんは富竹さんのお友達なのー!」
「お、…お友達ィ…?! ほ、ほほほほほほ! レナちゃんにはまだ大人の関係は理解できないかしら。」
「わかりますよーだ!! ねぇん富竹さぁん。レナ、富竹さんと一緒に野鳥撮影がしたいし、富竹さんが望むなら、0看護婦さんの格好でモデルになってあげてもいいのにィ…。」
「えええぇえええ?! ほほ、本当かい?!じゃなくって、駄目だよそんなの、僕には鷹野さんが…!!」
「看護婦姿が撮影したいって何度もお願いしても、ちっともOKしてくれない人の方がいいんですか…?」
「しし、失礼ね…。そんなことジロウさんが言うはずないでしょう?」
『嘘だッ!!!』
「レナには富竹さんの全てがわかるもん!! 野鳥撮影とか言っておきながらいつも目線はふわふわ、鷹野さんの方ばかり! レナは知ってるの。富竹さんは野鳥が撮りたいんじゃないんだよ、鷹野さんが撮りたいんだよ! でも鷹野さんは思わせぶりなことを言うだけでちっとも撮らせてあげない! そんな意地悪な人はパートナー失格なのッ!
だからレナが富竹さんとパートナーの座を、お〜持ち帰りぃいいぃ〜!! レナなら富竹さんのモデルになってあげられるもん! ねぇ富竹さぁん、看護婦さんの服、白いのと水色とピンクの…どれが好きかな、…かな。」
「ふ、……ふ、…ふぉおわあああああぁああぁ!! しゅっしゅっぽっぽ、ふおおおおおおおおお!!」
とうとう富竹のCPUが熱暴走したようだ。
両耳と両鼻から凄まじい蒸気を噴出すと、まるで機関車の物まねのようなわけのわからないことを口にしながら卒倒する。
「も、もう知らないわ!! 富竹さんはレナちゃんに懇切丁寧にいろいろ教えてあげるといいのよ! 知らない知らない知ぃらない! 失礼しちゃう失礼しちゃう!!」
「ああぁ、二人の破綻を食い止められなかったか…。沙都子、準備はまだなのか?!」
「……みー! OKなのです!!」
「行きますわよぉ!!」
この雛見沢で裏山という例外を除いて、もっとも沙都子のトラップが張り巡らされた場所があるとしたら、それはこの境内だ!
それらトラップが全て照準補正され、レナを一度に狙う!!
「今だ、発射ぁああぁ!!!」
「ふぇ?!」
レナに対し、四方八方からロケット弾のようなものが飛んでくる!
ロケット花火を改造した、よい子のみんなは絶対に真似しちゃいけない危険トラップだ!!
って、…もうこれはトラップの領域じゃない。まるで軍艦の一斉砲撃ね…。
「ど、どう?! 効いた?!」
「……暴走中のレナにあの程度の攻撃が効くとは思えませんのです…。」
「でもむせ込んでますわ!! 圭一さん、今の内に富竹さんを連れ出すんですのよ!!」
「連れ出すってより引き摺り出すって感じだなッ!!」
「はぅううぅ、みんな酷いよぉおぉ!! くしゅんくしゅん、ハックシュン!!」
「をーっほっほっほっほ!! ロケット花火スパイスミックス、胡椒たっぷりバージョンですわよ! クシャミ地獄をお楽しみあそばせ!!」
「お、俺も巻き添えだけどな! ハクションハクション!!」
「とにかく一度、集会所の裏に隠れよう!! その間に富竹のおじさまの身体検査! 勾玉を探すよ!!」
「……何だか幸せそうな顔で泡を吹いてますのです。でも目を覚ましたら色々と大変なのですよ。今の内にかわいそかわいそなのです。み〜!」
私たちは富竹の体を引き摺り、一度集会所の裏に隠れた。
あの凄まじいクシャミ地獄でまだレナはくしゃみを続けているが、それは大した時間稼ぎにはならないだろう。すぐにやって来るに違いない。
いや、それどころか、今の攻撃で、私たちのことを恋路を邪魔するエネミーだと認識しただろうから、何の容赦もなく先制攻撃を加えてくるはず…!
「ほらほらボディチェック! ポケットの中とか探って!!」
「小銭だのくしゃくしゃのレシートだの。みっともない中身ですわねぇ!」
「…おかしいな、見つからないぜ? 富竹さんが持ってるんだよなぁ?」
「……羽入、あんたも探しなさいよ! レナがこっちに来るまでに見つけないと!」
「あ、あぅあぅあぅ、もちろん探してるのですが、そのあの、僕にも見つからないのです…!」
「はぁ?! あんたに見つからないってことは、無いってことじゃない! じゃあレナはどうして富竹を追ってたの! 勾玉を手放してるのに?!」
「あぅあぅ! フワラズの勾玉は脳の恋愛レセプターを刺激して、その結果として恋愛時と同じ脳内物質を分泌させますです。その結果、擬似的な恋愛感情が生まれて、あぅあぅあぅ! つまりです、富竹が手放し後もしばらくの間、効果が残っていたと考えてほしいのです…!」
こンのクソ忙しい時にもっともらしそうなことをぺらぺらとー!!
「ってことは何! 富竹はさっきまで持ってて、もう持っていないってことなの?!」
「何だってー?! ってことはレナはどうなってんだ?」
「あーッ!! いつの間にかいなくなってますわ!! 新しい勾玉の持ち主を探しに行ったに違いありませんことよ!!」
「ま、まずいね! レナを見失ったら私たちにはヒントがない!」
「……となりゃ、このあんぽんたんを起して話を聞く方が早いわね!」
私は、都合よくそこにあった蛇口をひねると、ホースの先端を富竹の顔に向けた。
「ぅわッ!! ったた、っと、………夢? 今のは夢だったのかぁ…?! はは、レナちゃんが看護婦さんの格好で撮影会なんて、…はは、おかしいと思ったんだよ。それで鷹野さんと仲違いしちゃうなんて、ははは…。とんでもない夢だったなぁ。」
「あ、あははははは! ゆ、夢でよかったですねぇ! それより富竹さん! 昨日、白い勾玉を拾いましたよね?!」
「え、…えぇ? 勾玉なんて知らないよ。でも、白いオットセイのキーホルダーなら拾ったなぁ。ほら、昨日、圭一くんと会ったダム現場でだよ。」
「……そのキーホルダーなのです! どうしましたですか?!」
「うん。ついさっき鷹野さんにプレゼントしたよ。拾い物なんて嫌ぁねぇとかいいながら、ちゃんと受け取ってくれてね! 彼女のそういう素直じゃないところが、また魅力的なんだよ、たははは…。」
「ってことは、鷹野さんだッ!! さっき鷹野さんはどっちへ行ったっけ?!」
「向こうはえっと沢の方だな! まずいぞ、もうレナが向かってる!!」
「あ、相手が女の人でもお構いなしなんですのね…! 恐ろしい効果ですわ…!!」
「……意外なカップリングに僕も驚きなのです。」
と、他人の不幸を嘲笑いながらも、部活メンバーのこととあっては放っておけない。
私たちは沢の方へ駆けて行った。
「……あぁもう! 不愉快だわ、本当に不愉快! …ジロウさんったら、あんな年下の子にデレデレして! そりゃあ確かに私は素直じゃないわよ?! ジロウさんに何か頼まれたらまずは断って意地悪してみたくなるもの! …でもね、わかってほしいの、それは本当に好きだからこその裏返しなのよ?! そりゃあ私だってジロウさんが本当にどうしてもって言うなら、お仕事の服で被写体になってあげるのは構わないけれど、ああん、でもそんなの恥ずかしぃ! でもどうしもって言うならってひィイイイィッ?! 聞いてたかしらッ?!」
「うぅん、聞いてませんよ。」
「な、なぁに? 私に何か用なの? ジロウさんのことでの話だったら、聞きたくないわ。」
「…怒ってるのは誰にですか? レナですか? それとも富竹さんですか…?」
「別にレナちゃんは関係ないわ。ジロウさんがあんまりに不甲斐ないんで呆れてたところよ。」
「ですよね。レナも呆れちゃいました。せっかく鷹野さんという魅力的な女性と一緒の時間を過ごしているのに、他の女の子に目移りするなんて最低ですもん。…鷹野さんの魅力、理解できないなんて可哀想な人ですよね。」
「そ、そうよねぇ? ほっほっほっほ! って、横槍入れてきたあなたに言われたくないわー? 大体、あなたジロウさんはどうしたのよ。何で私を追っかけてきたの?」
「はぅ。富竹さんのことなんてどうでもいいんです。それにレナ、……本当はその、ぇっと…………、」
「ん? なぁに? もうちょっと大きい声で言ってくれないかしら?」
「レナッ、本当に大好きなのは三四さんなんです!!」
「ぇ、ええええぇえぇ?! って、ほ、ほほほほほ! 大人をからかっちゃいけないわレナちゃん…。」
「大人って何ですか? レナは大人じゃないから人を好きになっちゃいけないんですか? 人を好きになるから大人になれるんじゃないんですか…?」
「え、えぇと、…ほほほほほほ…! って、そんなくっつかれても…! これは何かの罰ゲームなの?!」
「罰ゲームなんてとんでもない!! レナはずっと三四さんだけを見続けてきたんです! あぁああぁ、三四さんのことをお姉さまと呼んでみたい! 三四さんの妹になりたい!! 三四さんに毎朝、タイが曲がっていてよ〜って直してもらいたいぃいぃ!!」
「あ、あのね私、よく誤解されるんだけど、そういう趣味は全然…、」
『嘘だッ!!!』
「レナにはわかるんです!! 三四さんが男性を見る時のあの汚らわしそうな目つき! 富竹さんと男女の関係にあるように見えながら実はそれは自分にすら欺瞞! 自分は正常な恋愛ができるんだと自らを勘違いさせるためのものでしかないんです!! 三四さんは自分でも薄々は気付いてるんじゃないんですか?! 男なんて所詮はケダモノ! ヒトとケダモノが分かり合えるはずなんかないんです。でも、…レナと三四さんはきっと分かり合えることが出来るんです!! 私、三四さんとなら鬼ヶ淵村の深遠を解き明かしたい。三四さんと本当の綿流しがしたいし、いっしょに生贄のお腹を割いて腸を引きずり出したかな、…かな…。」
私たちが駆けつけた時には、レナがとんでもない口説き台詞を口にしてる真っ最中だった。
冗談じゃない! 梨花ちゃんの肝臓かぁいいよ〜お持ち帰りぃいなんてシャレにもなんないッ!!
「あー、あははははは! すみませんねぇ三四さん! ちょいとレナの頭の中に春が来ちゃったみたいでその〜、」
「……春? 春って何の話?」
「いやそのあはは! 今、レナが口走ったのは本人の意思とは関係ないことでしてその、」
「お黙りなさい、このオス猿が。ああぁあぁ、レナちゃん! 今こそ私は気付いたわ。そうよそうよそうだったのよ! ジロウさんと一緒にいても満たされない何かを、私はあなたのお陰でようやく理解したわ!」
「はぅ、三四さん…。」
「はいはい抱擁は禁止ですわよぉおおぉ!! ぶぎゃぷげぶろぱッ?!」
「……あのレナが沙都子にまで容赦ないなんてッ!」
「はぅ〜、例え沙都子ちゃんでも、レナたちの真実の愛を引き裂こうとしたら許さないんだよ〜!」
「っちゃー…、受け入れたという意味において富竹のおじさまのケースより性質が悪い!」
「ありがとうレナちゃん! あなたとならいつまでも一緒にいられる気がするわ! さぁ、二人で一緒にオヤシロさまの祟りを引き起こしましょう! そして二人は神の座に列せられ永遠に寄り添いあうのよ!!」
「あぁあん、三四さぁあん! あの、今日から三四さんのこと、お姉さまって呼んでもいいですか…?」
…あぁもう!! このままじゃ明日の晩には雛見沢大災害よ!
私ゃお腹を割かれてレナと鷹野は私の腸でモツ鍋パーティーね!!
「羽入! 鷹野が勾玉を持ってるのは間違いないのね?!」
gosub *G_sys:lsp %Ha_sp,$Ha_MajimeA1,%Ha_xc,%Ha_y
「は、はいなのです!!」
「……魅ぃ、圭一に沙都子! このまま放置すれば、レナの人生だけでなく、雛見沢の運命まで大変なことになりかねないと予言しますです!! 一刻も早く鷹野の勾玉を取り返すのです!」
「ですわね!! あなたがお持ちの白いオットセイのキーホルダー、あれは梨花のですのよ? お返しなさいませー!!」
「いやぁよ。何で私がもらった物なのに人にあげなきゃならないの。しかしこれ、梨花ちゃんのなの?」
そう言いながら、鷹野はポケットから白の勾玉を取り出し興味深そうに眺める。
「そうそう! それは古手神社の大切な宝物だそうなんです!」
「あ、ばか魅音! 鷹野さんにそんなこと言ったら…!」
「何ですって? 古手神社の大切な宝物ぅ…? くすくすくす、おっほほほほほ!! そうと聞いてしまったら、簡単に返すわけにはいかないわねぇ! さぁ行きましょうレナちゃん! 私たちでこの神秘のお宝を徹底究明よ! あぁ、形状は? 重さは大きさは?! あぁん、ついでに味も見ておこうかしら!!」
「あ、味はマズイよ、取り押さえるよ!!」
「おっほほほほほほほ! 駄目よ駄目よ返してなんかあげないわ〜!」
「ちょっと、お待ちなさいですわーー!!!」
「はぅ、駄目だよ、三四さんの後は追わせないよぅ!!」
レナが、ばっと両手を広げて鷹野を追おうとする私たちを制する!
…あぁ、他の誰が制したって大した障害だとは思わないのに、レナに関してだけは厄介だと思う。
…というか、今のレナが相手じゃ徹甲弾の赤坂でもヤバそうな気がする!
「く、くそ…! レナ、そこをどけ!! 俺たちは鷹野さんが持ち逃げした勾玉に用があるだけなんだ!!」
「駄目だよ。三四さんの研究の邪魔をする者は何人たりともこの竜宮レナが許さないッ!!」
「く、至近距離に肉薄すればレナの方がリーチもスピードも格段に上!
となりゃ、アウトレンジから仕掛けるしかない!! 悪いねレナぁ、恨まないでよぉおぉ!!」
魅音が懐からガバっと抜き出すのは、二丁拳銃ッ?!
違う、いつも私服の時、意味ありげに持ち歩きながら一度も抜かないばかりか、伏線そうに見えて何の使い道もなかったあのモデルガンだ!!
「よい子のみんなは人に向けて撃っちゃ駄目だからねー!! 御魅音弾を食らえーッ!!」
魅音が華麗な身のこなしで、レナにBB弾の洗礼を浴びせかける!
その射撃術たるや、基礎をマスターするだけで戦闘力が120%になる、あの某型そっくりだ!!
だがレナはその場を一歩も動かず、宙を掻き毟るような動作で全てのBB弾をこの至近距離で防ぎきってしまう!!
「ふぅん? 魅ぃちゃんの奥の手はそれで終わりかなぁ?」
レナがにやりと笑って、両手の掌をこちらへかざす。
そして手品師がボールを指の間で弄ぶような仕草で、今、発砲した全てのBB弾を指の間で躍らせてみる!
「こんな至近距離から、モデルガンを人に、それも目に向けて撃っちゃうなんて感心しないかな、かなぁ?」
「………ぅ、うぐ…。」
「あれ? どうしたの圭ちゃん、お腹痛いの?」
…魅音サイコー。
「今度はレナから行っちゃおうかな、かなかな!! レナの恋路を邪魔する人はみぃんな大変なことになっちゃうんだよ〜!! はぅはぅはぅ〜!!」
「ここ、今度は圭一さんが何とかなさいませ! いつものお得意の口先マジックでレナさんを何とかしておしまいなさいな!」
「か、簡単に言うなー!! あの技は自分でも簡単には使えない奥義中の秘奥義だぞ! どのくらい秘奥義ってかというと、使えば自分の命が絶命するため古代中国では極奥義と恐れられ、武道家が死を賭して使う最後の究極奥義だったのだ!!って言ってる割には飛燕、割りと何回も使ってたよな? そこで出てきたのが残機制ではないかという説だ。 人の命は1つと言われているが、その反面、猫には7つの命があることを認めるように、そもそも日本文化には残機制を理解した古典が少なくない。そもそも残機制は古来のシューティングの基本だったんだ。何? 今でもそんなのは当り前? 違ぁあああうッ!! 真の残機制とは、死亡時に決められた復活地点まで戻ってリプレイのことなのだ! 死んだその場で復活なのは一見残機制に見えて実はそれはバイタリティ制と変わりない! このシューティングゲームとして当り前かつ重要なシステムが、皮肉にもシューティング界のビッグタイトルにて崩壊するとは誰が予見したであろうか!かつてシューティング界に金字塔を打ち立てたあのグラディ○ス!! あのゲームは死亡するとパワーアップが全てゼロに戻り、しかも決められた復活地点まで戻されての再開になったため、高次元ステージともなると、復活してはすぐ死亡、また同じ場所にまき戻されて死亡を延々と繰り返し、残機数が何機あっても無意味じゃないかー! これはハマリだー!! とハマリなる言葉すらも生み出したのだ! これに対して続編である沙羅○蛇は、何と当時のシューティングとしては斬新な、その場復活という概念を生み出したのだ! これならお子様でも安心さ! どんなステージもボスも残機数とコンティニューの50円玉さえあれば誰だって力技でクリアーできる!! でもこの時点でゲームの神聖性は失われたのだ! 何度繰り返しても勝てない敵、ボス、ステージ!! それについに打ち勝った時の爽快感はまさに『ひぐらし』! 抗えぬ昭和58年の運命を打ち破った時の爽快感は、闘い○挽歌を2年以上も攻略し続け、ついにクリアした時の爽快感にも似る!! 今時のゲームにこれほどの長期にわたって攻略意欲をそそられるゲームがあるだろうか? いやないッ!! それはなぜか? 力技で誰でもすぐにエンディングが見られてしまうからだ!! どんな無様なプレイであろうとも、一度クリアしたゲームは魅力が薄れてしまう。そうして軟弱なプレイヤーはそのゲームの真の攻略を目指すこともなく作品に飽きてしまうのだ! 結局、この軟弱な時代を生み出したのは、他ならぬ軟弱なゲーマーたちだったのだ!! コ○ミはそのミスを認めた! その証拠に、グラディ○スシリーズはその後の正当後継作ではその場復活制を廃止して再びハマリシステムを復活させている!! いやでも東方はその場復活でいいんです。だってロイヤルフレアで死ぬ度にステージの最初に戻されてた日にゃ、いつんなったら妹さまに会えるんだーー!! 未だ自力じゃ紅魔郷と妖々夢のエキストラのラスボスに会ったことないんですけどー!! お願いですZ○Nさん、エキストラステージでもコンティニューさせてください、力技でもいいから妹さまやゆかりんに会いたいんですぅううぅ!! というか世の中の人って何でみんなこうも簡単にエキストラをひょいひょい解けるんすかぁあぁ!! 足りないのは愛か動体視力かリビドーかあぁ!! あーもう次の東方オンリーでは撃つと動く人とお人形使いと貧血魔女の三角関係サウンドノベルを書きたいぃいいぃ、もちろん最後は惨劇でwてへ! どうっすか八咫桜さんBTさぁああん!!!」
「はぅ…。何言ってるのか、レナ全然わかんないよぅ。」
「それは幸いですわね…。私も何が何やらさっぱりでしてよ…。」
「そーぉ? おじさんはわかるよー。妹紅ちゃんには自力で会えたし! 戻り橋がちょいとヤバかったけどね!」
……あぁもう、何てメチャクチャな能力…。しかもしっかりレナの足止めに成功してるし。圭一を殺す時は一気に殺さないと駄目ね。変に、死ぬ前に言い残すことはあるかなんて聞いたら、それこそ何が起こるかわかんないわ。…あー、なるほど。皆殺し編では鷹野、一撃で撃ち殺して正解だったわねー。他の人みたいに最後のセリフしゃべらせてたら、悲壮なシーンが台無しになるとこだったかも…。
「……でも梨花。レナを足止めできましたのですが、誰も鷹野の後を追いかけてないから意味がありませんのです。」
「って、ええぇ?! 私たちもみんな今の妄言に聞きほれてたの?! ばかばか何やってんのよ私たち!!」
「い、いけない! 鷹野さんがいませんわ! 見失ってしまいましたわ!!」
「でも圭ちゃん、Z○Nさんのリードミーによればボムも結果的には残機数と見なせるとの表記があるしー。」
「いや、それは入力即無敵の近代STG型ボムだからだ! そもそもボムが初めて登場したタイガ○ヘリでは入力から炸裂までに1秒近くのタイムラグがあり、」
「レナはよくわかんないけど、コンティニュー時にアイテムをバラまいてくれる妖精さんとかがかぁいいかな、かな!」
「皆さんが何の話をしてるのか全然さっぱりですわ。」
………ごめん沙都子。私、ついてけるわ。雷電も懐かしいわね。あ、なるほど、飛燕で始まった話が雷電でオチるのね。…色々と置いてきぼりなオチだこと。
「じゃなくて! 鷹野鷹野! あんたらその話はいいから、鷹野を追わないと!!」
「そ、そうだったぜ!! 早く勾玉を取り返さないと!」
「圭一さんはしばらくレナさんと怪しげな会話で盛り上がっててくださいませ!! 行きますわよ!!」
「そうなの? 行ってらっしゃぁい。何かあるのかな? はぅ。」
「んー? レナ、お前、もう鷹野さんのことはどうでもいいのか?!」
「…うん? 鷹野さんがどうかしたの? はぅ。」
レナがきょとんとしている。
…その表情を見る限り、何で自分がこんなところにいるのかもよくわかってなさそうだ。
…ということはまさか、鷹野が勾玉を手放した?
「そ、その可能性は高いのです。レナが元に戻ったということは、白の勾玉が所有者を失ったということなのです。」
「……最悪の場合、見つからなくてもいいんじゃない? 誰も拾わない限り問題ないんだし。」
「そうは行きませんのです! もし間違ってアリさんが拾って巣に持ち帰っちゃったらどうするのですか!!」
「……次の日から竜宮家で世界のアリ塚標本会が始まるわね。」
とにかく鷹野を捕まえよう! あの性悪、どこかに投げ捨てたのかもしれない!!
「……というわけでようやく確保ね。手こずらせやがってなのです。」
「あぁんもー! レナちゃんと一緒に解剖研究の準備をするんだから解いて〜!!」
「解く前に梨花の勾玉を返しなさいませ!! あれは大切なものなんですのよ!」
…でも、レナの様子から見て、すでに鷹野が所持はしていない様子。
「あら…? おかしいわね。ポケットにしまったはずなのに…。あららら?」
「なんですってぇぇ!! 落としちゃいましたの?!」
なるほど…、こういうオチか…。
鷹野を捕らえるのには苦労した。
結局、鷹野は村中を走り回って私たちを翻弄し、大捕り物の末、お縄にしたのだ。
…その、村中を走り回っている間にどこかへ落としてしまったというのか…。
……こうなったら、誰か人間が拾うのを待つしかない。
そうすればレナに反応が現れて、誰が拾ったのかを想像することができる。
…でも、そうなった時にはレナからの激しい抵抗があるわけで…。まったくにもって面倒臭い!!
「……フワラズの勾玉?」
「あぁそうだよ。どういう経緯でレナの口の中に飛び込んだのかわからないが、とにかくそういう力のある魔法の勾玉らしいんだ。」
「じゃあレナ、誰かにその白い勾玉を拾われたら、自分の気持ちとは無関係にその人のことを好きになっちゃうの…?」
「そういうことだねぇ…。文字通り、レナのハートが村のどこかに転がってるような状態だよ。」
「い、嫌だよそんなの…! はぅ…。人を好きになる気持ちは、その人だけのものだもの。…それじゃレナの本当の気持ちが……、…はぅ…。」
「へへ〜ん? レナの本当の気持ちぃ〜? 誰か想い人でもいるのー? おじさんに教えてごらん〜?!」
「は、はぅ〜、魅ぃちゃんにだって教えられなぃよ〜ぅ!!」
「ぎゃぽッぶげごぱぴぎゃんッ!!」
「み、魅音…。ちっとは乙女心ってもんを理解しろ…。男の俺が諭すのも何だけどな。」
「……その白い勾玉が見つかれば、梨花ちゃんが何とかしてくれるんだね…?」
「あぁ。だから俺たちは大変なことになる前に、何とか白い方を見つけ出そうと躍起になってるんだ。……もうすでに大騒ぎになっちゃってるけどな。」
「…お、お願い圭一くん。白い勾玉を早く見つけてレナを助けてよぅ…。自分の気持ちが自分じゃなくなっちゃうなんて嫌だよぅ…。うぅうぅ…。」
「あ、あぁ! わかってるぜ。きっとレナを助けてやる! …だから、また勾玉の力が始まったら俺たちには加減してくれよな…。かぁいいモードのレナは誰にも止められん…。」
「む、無理ぃ…。富竹さんたちの時もそうだったけど、…頭の中がふわぁって気持ちでいっぱいになっちゃって…もう何も考えられなくなっちゃうの…。だからその時はきっとレナは容赦ないぃいぃ…。だってさっきみんなが来たときはレナ、何でみんなは邪魔するんだろう、ふん縛ってガソリンぶっかけて大爆発バーベキュー大会にしちゃおっかなかなって本気で思ってたもん。」
「……そ、そうか…。レナに好かれた人は、色んな意味で頼もしいな。…ははは…。」
「…はぅ……。こんなのじゃ可愛いお嫁さんなんかにはなれないよね…。……はぅ…。」
「とにかく、探し続けるしかないのです。……レナのためにも、村人のためにも、早く解決しないといけませんのです。」
結局、今の私たちには鷹野が逃げ回ったルートを歩き回り、どこかに落ちていないか探すことしかできない。
そんなことで親指の頭ほどの大きさしかない1粒の勾玉を見つけられるわけもない。
薄暗くなる頃には、みんな疲れ果て、レナに何かの反応が出てから対応するしかないという消極論が出始めていた…。
「……ご、…ごめんねみんな…。レナが迷惑かけちゃって…。」
「レナのせいじゃないよ。運が悪かっただけだよ。きっとみんなで何とかするから!」
「うん…。」
「じゃあ、とりあえず今日はもう遅いし、これでお開きにしよう。…梨花ちゃんは何かいい方法がないか、巻物を読み直してくれないか。」
「……はいです。こんな大騒ぎを招いた責任を取って、今夜は激辛キムチ鍋を突きますのです。」
「あぅあぅあぅあぅあぅ!!」
「……誰ですの、どたんばたんと品がありませんわねぇ!」
その日の捜索はこれで打ち切られることになった。
誰かまともな人が拾ってくれればいいのだが……。
「圭一〜! 電話よー!」
「うん? 夕食時に? 誰からだろう。まさかレナ絡みか?!」
「レナちゃんのお父さんからよ。」
「…何だって?! 嫌な予感がするぜ!! も、もしもし! どうも、こんばんは!」
「夜分遅くにすみませんね。そちらにウチの礼奈がおうかがいしていませんか。夕方頃に急に家を飛び出したっきりまだ帰ってこないんです。」
「急に家を飛び出した?! あの、どんな様子でしたか。」
「礼奈が悪ふざけをする時のような、猪突猛進な感じでね。てっきり、誰かお友達の家かと思ったんだが……。」
「……間違いない。誰かが白の勾玉を拾ったんだッ!!」
「遅れてごめんなさいですわー!!」
「……どんな状況なのですか。」
「うん、今からレナの部屋に入れてもらうところ。学校での傾向から見るに、きっと室内に何らかの痕跡が残されてるよ。」
「だなぁ。そう言えば俺、レナの部屋に入るのって初めてだよ。…何だか緊張するなぁ!」
「「「うっわぁあぁぁ……。」」」
「何となく想像はついちゃいたが…、すっげえ部屋だなぁ。散らかっているのか小物だらけで満載なのか区別がつかないぞ!」
「……それでいて本人にはどこに何があるのかちゃんとわかっていたりするもんなのです。」
「相変わらずすごいなぁ。よくもこれだけ色々溜め込むもんだよねぇ…。レナの前世は犬だね! きっと靴とかを大量に集めてたに違いないよ。」
「俺さぁ、女の子の部屋ってもっと片付いてて、女の子らしいきゃぴきゃぴした部屋なんだって思ってたんだが、あれって男の幻想なのかなぁ? レナの部屋もこんなだし、魅音の部屋だって漫画だらけでこんな感じだったぜ?」
「あははははは、おじさんは女の子じゃないからねぇ〜!」
「……みー? 多分それは魅ぃの漫画部屋の方なのですよ? 圭一は魅ぃの本当のお部屋に入ったことはありませんですか? 母屋じゃなくて離れにある…、むがッ!!」
「り、梨花ちゃん、シーーー!! シーーーッ!!!」
「あー、御覧なさいませー!! ほら、レナさんの机の上にこんなにも本が!!」
沙都子が指差す先にはレナの学習机があった。そこには読み散らして積み上げた本の山があった。
「今度は何の本だ?! ん〜? 漫画の単行本か? 何々、「現代鷲巣麻雀」「哭きの龍が如く」「麻雀放浪譚」。…何だ、みんな麻雀の本じゃないか!」
な、なんですってぇええぇえぇ?!
「……ではそろそろリーチさせてもらいましょうかね。ようやくいい牌が入ってきたので。」
『嘘だッ!!!』
「レナは知ってるよ。赤坂さんは5巡前から手牌を進めてるふりをしてるけど、実はツモ牌をそのまま切ってるだけ。手の中で牌を巧みに摩り替えて手牌に入ってるように振舞ってるだけなの。なのにどうしてここに来て急にリーチなのかな、かな! レナにはわかるよ。ダマ聴でいいのに、面白い捨て牌が来たんで川がいい感じで罠になったんじゃないかな、かな?!」
「んっふっふっふっふ!! こりゃあ驚いたぁ! 竜宮さん、どうしてどうしてなかなか麻雀、お強いじゃないですかぁ!! 確かに赤坂さんの川、いい感じでピンズが埋まって、しかも筋が落ちてますので、6ピンがいかにも通りそうですもんねぇ?」
「……ふふ、やりますね。見事な読みですよ。」
『嘘だッ!!!』
「何でそういう嘘をつくのかな、かな! 今の言葉には嘘があった。大石さんが6ピンだと見切ることを前提にした罠だよこれは!」
「ほ、…ほぉおおぉおぉおおおお! そりゃ本当ですか赤坂さぁん!!」
「……く、……やりますね、レナちゃん。麻雀はだいぶ長く…?」
「ううぅん。さっき漫画読んで勉強したばかりです。…だって、はぅ。大石さんと一緒に遊びたかったんだもん…。」
頬を桜色に染めたレナが大石の腕にしなだれかかる…。
まんざらでもないように笑う大石は鼻の下伸ばしまくりで鼻息が荒くなっていた。
「ん、んふぅ〜?! な、なぁっはっはっはっは! いやぁ、どうしたことでしょうねぇ?! ミドルの境地に達して、とうとう私にもダンディな魅力が宿ったということでしょうかねぇ?!」
「あ、これ大石さんがほしい牌ですよね。ハイどうぞ〜! これでロンすれば満貫で大石さんは赤坂さんを逆転できるんだもん、はぅ〜!!」
「こりゃ参った! 私の当たり牌までわかるんですか! んっふっふ〜! 今夜はいいパートナーに恵まれましたよぅ?!」
「く、…これ以上、負けが込むと帰りの新幹線代まで無くなる…。……すまん雪絵、だが、ここで退くわけにはいかないんだ…!!」
「はぅ〜、かぁいい牌だよ、おー持ち帰りぃいいぃ!! ポン! チー! 後付けでカ〜ン!! ソーズはみぃんなお持ち帰りぃいぃ!!」
「おおぅ竜宮さん、赤坂さんのリーチ入ってますよぅ?! ドラ増やすのは危険じゃないですかぁ?!」
「お、大石、なんつー麻雀だい! まるで場が台風のようじゃぞい…! お嬢ちゃん、そんな見え見えな染め手ではさすがに出んぞい…。む、これはソーズではないし、…ドラも増えたことだし仕掛けるかの! わしも後付けでカン行くぞい!!」
「はぅ、その後付けカンをローン!! 槍槓ドラドラ赤1満貫〜!!」
「…ななななな、なんちゅー麻雀打っとるんじゃ嬢ちゃんはーッ、役無しかい?!」
「……い、いや、ビギナーズラックということもあるでしょう。初心者を相手にする時、特に警戒したいところです。」
「はぅ。だって、その牌、さっき赤坂さんが山を積むときぽろっと崩れた…。鑑識のおじいちゃん、その牌、ちらって見ましたよね? それで何度もチラチラ見ながら考え事してるみたいだったから…。」
「な、何とぉおぉ、わしの後付けを読みきって決め撃ちにしたと言うんかああぁあ!!」
「こりゃあ、なっはっはっは!! 素晴らしい! 竜宮さん、あなたどうして才能ありますよぅ!! こーれは驚いた!!」
「はぅ! レナ、もっと大活躍したら大石さんのパートナーにしてくれますか…?」
「ええぇええぇ、もちろんですとも!! さぁさぁ今夜はこの勢いでどんどん行っちゃいましょぉおおぉ! こんな相性のいいペアとのタッグ戦なんて初めてですからねぇえぇ!!」
「く、……駄目だ、甘えを捨てろ! 本気でやらなきゃ彼女には勝てない!」
「……赤坂でも刃が立たないのですか?」
「レナちゃんからは、歴戦のベテランからでもめったに感じられない覇気を感じるんだ! …この火薬の臭いは間違いない。彼女には天賦の才能がある! 大石さん、面白くなってきました!! 本気で行きますよっぉおぉお!!」
「望むところですよぉおぉ!! さぁ竜宮さん、一緒に赤坂さんをひん剥いてしまいましょうー!! 今夜の戦勝会は全部赤坂さんにおごらせますよぉおおぉ!!!」
「はぅ〜!! 一緒にひん剥くよ〜!! そして大石さんと二人っきりで夜の戦勝会、はぅ〜〜!!!」
「…レ、レナってすげぇよな…。好きな相手のためなら、何でもできちゃうんだな…。」
「かぁいいモードのレナに不可能の文字はないってわけだね…。部活の戦績でも、レナほど上下の波が激しい子はいないよ。」
「…確かに。爆発した時とそうでない時の成績差があまりに激しいのが特徴ですわね…。」
「とりあえず、麻雀がやりたい連中にはやらせておけばいいのですよ。……それより羽入! 今度こそ間違いない?!」
「あぅあぅ! 間違いありません、大石が今、懐に持っていますのです!」
「……大石、お仕事中、失礼しますのです。今日、雛見沢で白い勾玉、もしくは白いオットセイのキーホルダーを拾いませんでしたか?」
「んん? あぁ、そうですね確かに拾いましたよぅ。そうだ、遺失物係に届けようと思ってすっかり忘れてました! 後でちゃんと届けないとネコババになっちゃいますねぇ。」
「それは梨花のなんですのよー! さっさとお返しなさいですわー!!」
「そうそう! その勾玉のせいでレナがこんなになっちゃってるの! レナを正気に戻させるから返してください!」
「あ、ばか、余計なことをー!」
「何ですってぇえぇ?! そうかそうだったのですか…。てっきりミドルの境地を極めたものとばかり…。では、このキーホルダーを皆さんにお返しすると、竜宮さんは帰ってしまうわけですね? むむ、それは困ります! これまでの負け分を全て取り返すまでは竜宮さんの協力が必要なんです! もう少しお借りさせていただきますよぅ!!」
「そうは行かねぇぜぇ!! レナに頼まれたんだ。レナを助けてってな! そして俺はレナを助けると約束した! 今すぐそいつを返してもらうぜぇえぇ!!」
「んっふっふっふ〜、どうしましょうかねぇ…。皆さんが教室での決め事は部活でゲームをして決着するように、ここは雀荘で麻雀で全てを決着します。んっふっふっふ!」
「そうなんだよ〜ぅ、んっふっふっふー!! その勾玉を返したら、レナは大石さんのパートナーになれなくなっちゃもん…。レナ、そんなの嫌かな、かな、…はぅ。」
「大丈夫ですよぅ〜!! 私と竜宮さんが本気の力を出せば誰にも負けません! 私たちは最強のコンビ打ちですよーぅ!!」
「はぅ〜!! レナはいつまでも大石さんと一緒なの…。はぅ〜☆」
「馬鹿! それはお前の本心じゃない!! お前は勾玉の力で自分を偽らされてるだけなんだ!! 正気のお前が言ったんだ! 自分の気持ちが自分じゃなくなるなんて嫌だ、助けてってなッ!! レナ、俺がお前を救ってやるぞ!! すんません、俺に席を空けてもらえますか。」
「む、うむ。構わんがの…。わしはもうスッカラピンじゃい。」
「…なるほど。大石さんの遺失物横領を見逃すわけには行きませんね。前原くんに協力します!」
「あはははははははは! 圭一くんは多分、下着までむしられてスカンピンにされて雀荘の外に叩き出されちゃうよ? ももんじゃに蹴り出されるトルネコみたいにー!」
「…その言葉はお前の本心じゃない。…本当のお前に頼まれた。レナ、お前を俺が救ってやるぜぇええぇぇ!!!」
「ぁ、あー、俺が救うじゃなくて、俺たちが救う、ね! そこ大事、間違えないように!」
「……魅ぃは空気読めなのですよ、にぱ〜☆」
「とにかく圭一さんひとりでは分が悪いですわ! 私たちもバックについて参謀を務めましょうですわよ!!」
「ほいほい! それではこのオットセイのキーホルダーを賭けて、東風戦一発勝負と行こうじゃないですかぁ!!」
「レートを上げましょう。今日の負け分を全て取り戻させていただきます。」
「…うーん、赤坂さんもようやく牙を剥いたようですねぇ…。んっふっふっふ! だらだらとした徹マンよりも、こーゆう本気の東風の方が熱くなるってもんです!」
「じゃあ、圭一くんたち部活メンバーと赤坂さんのチーム対、レナと大石さんのらぶらぶぷよぷよチームの対決だよ!! 終了時に1位の人がいたチームが勝ち!」
「なるほどな、ってことは、自分がビリでも相方が1位なら勝ちってわけだな!」
「圭一さんがいくら足を引っ張っても、赤坂さんが1位を取ればいいわけですものね。そう不利な条件でもありませんわ!」
「とんでもない! ということは、相棒はいくらでも味方に振り込んでいいってことだよ! 二人の息が合ってれば合ってるほどに恐ろしいことになる! レナたちの方が遥かに有利なルールだよ!!」
「前原くん、堅実に行きましょう。麻雀は熱くなったら負けです!」
「でもねぇ赤坂さん? 熱くならない麻雀は負けませんが、熱くならないと麻雀は勝てません。んっふっふっふ! 一度も振り込んでないのに、3位4位というのは割りとある話ですよぅ!」
「……私も含めて、よく麻雀のわかんない人に説明がほしいわね。結局、どーゆうルールなの?」
「あぅあぅ! 東風戦というのは、親が1周したらもうおしまいの短期決戦なのです! それで1位を取った人のチームが勝ちということは、相方との相性の良さが勝敗を分けるのです! しかも短期決戦ですから、圭一たちは互いの相性を合わせる猶予もないのです! あぅあぅあぅ!!」
「……ねぇ、あんたが連中の後に回り込んで、牌を教えてくれればいいんじゃないの?」
「あ、あぅあぅあぅ! ズルはいけないのです!」
「あのね、ズルとか何とか言い出したら、あんたの作り出したフワラズの勾玉自体が恋愛のズルアイテムでしょうが!! 責任取ると思って大人しくインチキに加担しなさい!」
「梨花ちゃんは何を騒いでるんだ? 静かにしてくれ、気が散るぜ!!」
「……圭一。レナたちの手をこっそり見られるインチキを用意しましたのです。これでなら絶対負けませんのですよ!」
「くっくっく! いつの間にそんな手を用意したんだい! 相手の手牌がわかってれば負け無しだよ!!」
「………よし。いい流れです。前原くんの方はどうですか。」
「いや、俺の方はさっぱりっす。赤坂さんのフォロー役に回った方がいいっすかね…。」
「マンズのホンイツ手が進んでます。マンズの低めの辺りと、念のため風牌を集めて置いてください。」
「なるほど、赤坂さんの必要な牌を集めて俺が振り込めばいいんですね! 了解!!」
「これがコンビ打ちなんですのね! 赤坂さんは圭一さんの手の中に当たり牌があるのを確認した上でリーチすれば、リーチ一発確定で高くなりますわよ!!」
「となると気をつけたいのが圭ちゃんだよ。コンビの当たり牌を集める役は、それをやっていることを相手に悟られたらかえってまずい。捨て牌にも気を遣って、一見、普通に打ってるふりを装うんだよ! 間違っても振り込んで台無しにしないようにね!!」
「大丈夫さ! こっちには敵の牌を読める梨花ちゃんがいる! 絶対にヤバイ牌は零さないさ!」
「…………はぅ〜。圭一くんたち、何の相談かな、かな? …きっと悪巧みだよね? 大石さん、気をつけて。魅ぃちゃんたちがああいう顔で笑う時は、きっと何か悪い策がある時なんです。」
「んっふっふっふ! 部活メンバーの皆さんと打ってる以上、それはもちろん覚悟していますよぅ? もちろんこっちだって、みすみすやられるわけにはいきません! ね〜〜〜?」
「ね〜〜〜☆」
…あ、相性ぴったりね。……本心のレナはどうか知らないけど、これはこれで幸せそう。
「…前原くん。切らなければならない牌があるのですがドラなんです。場から見て、大石さん辺りが鳴こうとしている、…いや、下手をすると安手で狙っている可能性もあります。…さっき相手方の手牌を覗く方法があると言いましたね? 安全か見てもらえますか。」
「ほい来た! 梨花ちゃん、どうなんだ?!」
「ほい来た。どうよ羽入?」
「あぅあぅ。大石の手牌はしっちゃかめっちゃかで全然揃ってないのです。」
「……全然ばらばらなのですよ。」
「へへ、だそうですよ赤坂さん。」
「…よし。切ります。」
「んっふぉっふぉっふぉ!! ロぉン!!」
は、羽入ううううぅううぅ!!!
「あ、あぅあぅあぅあぅあぅ?! だだ、だってほらほら、大石の手はメチャクチャなのですよー?!?!」
大石は手牌を倒すと、ちゃっちゃっとその場で牌を入れ替える。
…そう、一見、しっちゃかめっちゃかに見えたのは、わざと整理しないで牌を並べていたからなのだ。
麻雀は、ベテランクラス以上になると、手牌のどこから何の牌を出して捨てたかで、手牌をある程度読んでくるという。
そのため、わざと手牌を整頓せずにゲームを進め、相手を混乱させる高等テクニックがあるという!
「赤坂さんらしくもないですねぇ。んっふっふっふー!!」
「…………く…。」
あぁ、赤坂が表情を歪めている。…今ので、私がアテにならないと思われただろう。
ムカ。羽入のせいで私が使えないと思われるのは納得いかない。
…とりあえず、羽入が役に立たない以上、あとは二人の奮闘に期待するしかない。
「はぅ〜〜!! ポンだよ〜! もひとつオマケにポン〜!!」
「さぁさぁ竜宮さぁん、少々お待ち下さいねぇ〜! ほぉらカン! あぁら不思議、竜宮さんの晒したポンがドラ3にぃ〜!」
「はぅ〜!! 大石さん素敵ぃ〜!! はぅはぅはぅ☆!!」
「…くそ、どうやら攻撃役はレナで大石さんがフォロー役ってことらしいな!」
「圭ちゃん、赤坂さんが安手だけど張ってる! レナのドラ3が怖いよ。振り込んで流しちゃおう! 圭ちゃんはへこむけど、赤坂さんはさっき取られた分を埋められる!」
「よし来た、赤坂さん、こいつですね?!」
「ナイストス。ロン!ピンフドラ1!」
「あああああぁあ!! 圭一くんひどぉい!!」
「悪いなレナ。俺も本気だぜ!! 赤坂さん、この勝負どうしても負けられないんです! 力を貸してください!!」
「もちろんさ! 帰りは豪華駅弁付きで指定席にさせてもらうよ!!」
いつの間にかギャラリーたちが集まって、雀荘は滅多にない盛り上がりになっていた。
雀荘は基本的に、イカサマ防止のため、他人のゲームの観戦を認めていない。
だから、こうして人だかりができるのは、特別なイベントでもない限りありえないことだった。
「……んっふっふ。こりゃあ参りました。仕方ありませんね、リーチです!」
観衆がどよめく。
短期決戦となる東風戦では、高得点より確実かつ早いアガリの方が優先されるのが普通だ。
リーチは役を増やし得点をアップさせるが、自分が聴牌したことを宣言してしまう分、相手の警戒を誘ってしまう。
…つまり、短期決戦に逆らう!
「圭一さん、私のトラップ脳が何かを警告していますわよ!! あれはきっとトラップですわ!」
「沙都子の勘を信じるぜ! なら一体、何の罠だってんだ?!」
「おじさんの見たところ、レナの手が静か過ぎるんだよね…。何巡か前から聴牌してて、食い換えでドラや赤を手の内に仕舞い込んでるね…。で、見え見えの両面待ちになった…?」
「……さっぱりわからないのです。それと大石のリーチがどう罠なのですか?」
「とにかく俺の番だぜ。俺はフォロー役だから、赤坂さんに比べて牌が切りやすいんだよな。間違っても振り込まないように、現物を捨てないとな。大石さんが捨ててる牌なら絶対に安全なわけだろ? これがいいかな?」
「圭一さん、それがトラップですわッ!!! 大石さんのリーチの安全牌が、きっとレナさんの当たり牌なんですわ!!」
「んな、なにぃいいいぃいいぃッ?!」
「見え見えのトラップをひとつ用意して意識を向けさせ、避けた方に本命を配置する! トラップ講座の初歩の初歩でしてよ!!」
「………いや、…うん。ありえる手です。かといって、大石さんのリーチを無視もできない。難しい局面です!」
観衆が唸る。その反応を見る限り、どうやらその読みは正しいらしい。
レナたちもどうやら罠の一端を見抜けたらしいと気付き、ならばどう潜り抜けてみせるのかとニヤリと笑ってみせる!
「…このまま行くと、いずれ赤坂さんは危険牌を切らざるを得なくなりますわね…。」
「……赤坂を1位にするのが勝ち方なのではないですか?」
「うん。となったらリスク軽減の安全策で行くしかないね。幸運なことにその危険牌は圭ちゃんの手にもある。つまり、圭ちゃんがその牌を切って、地雷原を先に踏み入ればいい!」
「あぅあぅ! 赤坂の手はとっても綺麗なのです。綺麗な手は点が高いのですよ!」
「…なるほど、赤坂は勝負手で降りられないのね。なら圭一が露払いをするしかない!」
「すまん、頼む!」
「例え俺がビリでも赤坂さんが1位になれればいいんだからな…! わかりました。じゃあ行きますよ!! うおりゃあッ!!」
危険な牌を強打する…!!
どうだ?! 通ったか?!
「んっふっふっふ〜、残念残念。」
「はぅ〜。…残念残念。」
「ま、紛らわしい言い方をするんじゃねぇ! 通ったのか通らないのか!!」
「通しですよ通し。んっふっふ!」
何とか通ったらしい。…でも魅音はレナのわずかな挙動を見逃さなかった!
「……レナは人の嘘を見抜くのはうまいけど、自分の嘘を隠すのは苦手みたいだねぇ? くっくっく。今、目線が少し泳いだよぅ?」
「は、はぅ…、そんなことない…。」
魅音は見抜く。この牌はレナの当たり牌なのだ!
だがレナは敢えて圭一を直撃せず見逃した。なぜ? こちらのチームのエースである赤坂を狙い打ちたいからだ!!
「甘いですね、大石さん。ロンさせてよかったんじゃないですか?」
「……ん〜? 何のことやらさっぱり。んっふっふっふ!」
「では、続けて同じ牌を切らせていただきます。」
「んん…ッ!」
大石の表情が苦悶に歪む…!
麻雀はそのルールで、ある牌のアガリを見逃した時、自分の手番が来る前に再び同じ牌が捨てられた時、それをアガリにしてはいけないことになっている!!
大石たちの罠を完全に見破り、見事な連携プレイで危機を脱したことに、観衆は満足げなどよめきで称えるのだった。
「さぁ、まだまだリーチは継続してますよぅ!! 竜宮さん、バレちゃってるようです! 思い切ってリーチ行っちゃいましょう!!」
「はぅ〜〜!! レナもリーチぃ!! 大石さんと一緒、はぅはぅはぅ〜☆!」
「……うまい! 赤坂さんの手が聴牌した! どうします赤坂さん。ここは思い切って行きます?!」
「うん。どうせもう手変わりはしないしね!よし、私もリーチです!!」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
「ほぉおぉぅ?! こっちは二軒リーチが入っちゃってるんですよぅ?!
果たして勝てますかなぁ?!」
「はぅー、レナと大石さんの二人っきりのリーチを邪魔したぁ、ぶぅぶぅ!! でも大丈夫、圭一くんが当たり牌を出してくれるんだよね。ね!」
「ち、抜かしやがれ…!! 俺だって手は進んでるんだ。もう1枚、いいところに入れば状況は変わるんだ!」
「……なるほど、全員の手が早いという場もあるものです。こういう時は同じ牌を待ち合っていることが少なくありません。注意してください!」
「あーダブロンありなんですねー。…圭ちゃん、東風でダブルなんて振り込んだらもう致命的だよ…!!」
「頼まれなくても捨てねぇや!!」
「……でも、圭一の手が進めば進むほどに、圭一は捨て牌を選べなくなっていってしまうのです。危険度はどんどん上がりますです!」
「くそ、進むべきか安全策で行くべきか…!!」
「圭ちゃん、可能な限り前に進んでみよう。危険牌を握っちゃったらその時は全面撤退ということで。」
「おう、了解だぜ!! あれ? この牌来ると…、お、入ったな!」
「…くぅ、入りはしましたけど、痛い入り方ですわね…。タンヤオもピンフもつかない。役無し聴牌でしてよ!」
「あ、あぅあぅあぅ!! 僕、さっきからずっと見てたからわかりますのです! 大石の前に残っている山のあの端っこの、角の欠けた牌は大石の当たり牌なのです!!」
「本当に?! 間違いなく?!」
「は、はいなのです。大石は全部の牌が2個のセットになってる役で、1個だけ欠けた牌があるのです!」
「ああ、その役だけは知ってるわ。チートイツってやつでしょ。」
「なるほどな、チートイは捨て牌をコントロールしやすいからな。フォロー役に一番向いてる役だぜ! んで、その牌は誰のツモになるんだ?」
「……1234、1234、う、まずいですわ!! 赤坂さんのツモになりますわ!!」
「はぅ〜、沙都子ちゃんが何だかマズイ〜って顔してるよぅ。何かなぁ何かなぁ?!」
「んっふっふっふ! わかりますよぅ。握っちまったってぇ顔ですよぅ?」
「「んっふっふっふっふぅ〜はぅ〜!!」」
「……梨花ちゃん。圭ちゃんの浮き牌は通る?」
「えっと、調べさせますのです! ……羽入?!」
「あぅあぅあぅあぅあぅあぅ、大丈夫です。大丈夫! 今度は絶対なのです!」
「今度は絶対大丈夫とか言ってますのです。」
「よし……。圭ちゃん、それを切ってリーチしよう。」
「お、おいおい! リーチしたら持ってきた牌は自動的にツモ切りになっちまう。敵が両方ともリーチしている以上、回避ができなくなって防御力ダウンじゃねぇのか?!」
「……な、なるほど。そういう手もありますのね! 赤坂さん、それでいいですわよね?!」
「…………いい手だったんだが、敵のツモが確定してるなら仕方ない! やってください!」
「よし、圭ちゃん、リーチだよ!!」
「く、くそ…! どうなっても知らないからな!! 通らばリーチだぁ!!」
「む、むぅ…。」
再び大石の顔が歪む。
そして観衆からは再び大きなどよめき。
……ルールに詳しくない私にはさっぱりだが、どうやら今のはかなり絶妙に渋い一手だったらしい。…どういうことだろう?
「通ったね? これでOK! 四家リーチでお流れだよ!」
「………は、……はぅぅ…。お流れ? 終わっちゃったの…?」
「をっほっほっほ! さぁレナさん、手牌を晒しなさいませぇ?!」
レナが手牌を公開すると、再び観衆が大きくどよめく。
そのどよめきから、相当に点の高い役であることがうかがえた。
…さすがは魅音。分の悪い勝負になったことを見抜き、場を流させたのだ。
「かぁ…、残念…! ハネ直決まれば、ほぼ確実にいただきだったんですがねぇ…!」
「そう簡単には勝たせませんよ。私も本気、そして前原くんもみんなも本気です。とことんまで食いついていきますよ!!」
「なっはっはっは! こいつぁ最高に面白い夜になりました!! 実に高度な戦いです! 私ゃこんな麻雀が打ちたかったんです!!」
「えぇ、私も久しぶりに昔の血がたぎってきました。もっと本気で行きます!!」
「でも駄目ぇ。レナがいるから大石さんの勝ちは絶対なの。だってレナと大石さんは前世から出会いを約束されてたんだもん。そしてレナと大石さんは伝説の雀士になるの! はぅはぅはぅ〜☆」
「…富竹さんに惚れりゃカメラをやるし、鷹野さんなら綿流しがしたいと言い出し、そして大石さんなら麻雀と来た。ったくどこまで猪突猛進なヤツなんだお前は!!」
「はぅ〜!! レナは大好きな人のためならどこまでも頑張っちゃうの! ここからが正念場だよぅ!!! はぅ〜それはチーかな!! おー持ち帰りぃい!!」
「へ、そりゃあさせねぇぜ、それを俺がポンだッ、いただきぃ!!」
「よし、その隙にリーチです!! 次に圭一くんが振り込んで、リーチ一発ピンフタンヤオ、満貫になります!」
「と来たら、それをポンで一発消しです!! 一発が欠ければ3飜で満貫未満! 大幅に安くなりますよぅ!」
「しかも大石さんの捨て牌でレナがポンなんだよぅ!! で、次に大石さんにはこれ☆」
「それをカぁン!! 一発勝負です、リンシャンで叩き潰してやりますよぅ?!」
「じょ、上等だぜぇえええぇ、引いて見ろぉおおおぉおおおお!!!」
麻雀は運と技術が交じり合うゲームだ。
どんな大ベテランでも運に翻弄される。
かといって、運だけでド素人が勝てるほど底は浅くない!
だから最後に勝つのは、強運を自ら引き寄せる熱い闘志だけなのだ…!!
「ここで一発で持ってこぉおおぉおおい、うをりゃああああぁああぁ!!!」
「神さまお願いッ!! ここで大石さんに引かせてあげて〜〜!! はぅー!!!」
ズダーンッ!! でもハズレ!! 大石、リンシャンならず!
ということはもう大石チームには、赤坂のアガリを食い止める術はない!!
「よっしゃ、これですね!!」
「ナイストス! ロンです。リーピンタンヤオ! これでようやくトップです。」
「をっほっほっほ! やりましたわ!!」
「でもまだ終わっちゃいないし、点差も少ない! まだ予断は許さないよ!」
「はぅ〜、まだまだぁ!! レナの愛の力でこんなのひっくり返しちゃうんだから!」
……ぼんやりと見ていたらとんでもない熱戦に感じるのだが、……しかしつくづくレナというのはすごい。
部活の種目で麻雀があったから多少ルールを知っているという程度で、大石たちと同じ卓につけるような力はないはずなのに。…なのに、フワラズの勾玉のせいで大石が大好きになり、その大石の実力に合わせて勉強し、そのレベルに追いついてしまったのだから。
「……みー。レナの恐るべき潜在能力には驚かされますのです…。」
「今回の一件は、やはりレナさん恐るべしということを立証することになりましたわね!」
「しかし、…おじさんは凄いと思うねぇ。」
「凄いどころじゃ済まねぇだろ! 今のレナは、タッグ戦とか抜きにしても、大石さんや赤坂さんと対等に打てる実力があるぞ!」
「あー、いやそういうことじゃなくてさ。…その、好きになった相手に合わせようとさ、一生懸命努力する姿勢って、立派だなって思ったの。私たちってさ、誰かを気に入ったらさ、まず自分の世界に引き込もうとしない? 相手に、自分の好きなものを気に入らせようとしちゃうじゃん。」
「……それは普通のことじゃないのですか?」
「私もそうだしさ。案外そういう人、多いんじゃないかって思う。…でもさ、レナは違うんだよね。富竹さんにしろ三四さんにしろ、そして大石にせよ。相手の趣味に自分を合わせようと、一生懸命努力したじゃん。確かに、それを身につける時間の短さが逸脱してはいたけど、私は驚くところはそこじゃなくて、相手に合わせようと努力することだと思うね。」
「そういうものかしら…。相手に合わせてばっかじゃ疲れちゃいますわよ…?」
「でしょ? 自分の世界に相手を引き込むってことは、あるいは相手を疲れさせてることなのかもしれない。だからさ、本来は素敵な二人だったら、相互がある程度歩みあわなくちゃいけないんだよね。…でも、自分から歩み寄ろうとする人は少ないよ。みんな、自分の世界の踏み絵を相手に踏ませて、自分からは歩み寄る努力をせず、相手を引っ張る。」
……………魅音の、ガラにも無い話が、なぜか胸に痛い。
「……魅ぃの話、よくわかりますのです。僕も、相手を引き込むばかりで、自分から歩み寄ろうとしたことはなかったかもなのです。…それは多分、沙都子も。そして魅ぃも。………そう言えば魅ぃ、誰に頼まれても部活には混ぜてやらなかったのに、圭一だけは魅ぃの方から部活に誘いましたですね?」
「へ、ふぇッ?! あ、あははは、そうだったっけ?! いやその、たた、他意はないんだよ他意は、あははははは、おじさん何のことやらぁあぁ〜!」
……今回の一件でわかったことは。…レナはきっと将来、いいお嫁さんになれるだろう、ということだ。
「……となれば、早くこんな勝負を決着させて、レナを正気に戻させてあげないとならないのです。」
「…そうですわね…。…私、今日のレナさんを心のどこかで滑稽だと思ってましたけど、0……本当は滑稽どころか、見習わなくちゃいけませんのね。」
「おいおい、何を外野陣がぼそぼそ井戸端会議してんだよ! それより、こいつが通るかどうか調べてくれ!」
「あいあいさーなのですよー!」
「はぅ〜はぅはぅはぅ〜! 当たると痛いよぉ〜ぅ!!あ、これは大石さんのだ! ハイ、どうぞ〜ぅ!」
「んっふっふっふー、ロォン!
私とレナさん、最高のタッグじゃありませんかぁああぁ!! いやぁ、あなたがあと20年早く生まれててくれたら!」
「はぅ〜、歳の差なんて関係ないんですぅ〜!! 大石さんとレナ、最高のタッグ。はぅ☆」
「……圭一。…レナが本当にいい子だってことは、もう充分わかったわ。……終わらせましょ。この茶番。」
「…………あぁ。レナが将来、どんな恋をして、どんな人と結婚するかは知らねぇ。…でも、それはレナが自分で決める。…妙な魔法は一切必要ねぇってことだ!」
羽入が異論ありそうにブツブツ言ってるが無視してやる。
そういう魔法の力を借りたい人もいるだろうが、そんな力に頼らず、自分の力だけで運命を切り開ける人もいる。…そしてレナは後者だ、という話なのだ。
いや、…前者も後者もない。
誰だって、自分の運命は自分の力で切り開けるのだ。
それが出来る人と出来ない人がいると思い込んでいる時点で、自分には切り開けないと認めてしまっているようなもの。
……レナの力強さが、神々しく見える。
あんなにも品がなさそうに笑っているのに、気高く見える。
私は百年を生きたが、レナがその半分にも満たない人生の中で悟った教訓には、足下にも及ばないのかもしれない。
レナのその満面の笑みは、レナが本当に決めた人にだけ、与えられるべきなのだ。
やがて熱い対決の時間は終わり、点数計算となった。
あまり高い役が飛び出さず、細かい点棒のやり取りになったため、勝敗が見えにくいようだった。
大石とレナはともにある程度勝ち越したように見える。
圭一はビリ確定だろうが、赤坂にその分、よく支援を送った。
1位さえ取れればチーム全体の勝利なのだから、圭一のビリは最初から計算尽くだ。
「お、お、お、お、おおおお!! やった赤坂さんがトップだぜッ!!よっしゃあああ!!」
「……ふぅ!! あの全員リーチの積み棒をさらったのが効いたみたいですね。」
「あああぁあぁぁ…、はぅーー、負けちゃったぁあぁ……。」
「いえいえ! 勝負には負けましたが、ゲーム上は私たちは終始優勢でしたよぅ! 普通の麻雀でしたら私たちの大勝利でした! いえいえ勝ち負けじゃない。本当に楽しい麻雀を打たせてもらいましたよ。竜宮さんは、パートナーを盛り上げて、一緒に楽しもうという名人ですねぇ。……ですが、こんな時間におひとりでこんなところへいらっしゃるのは感心しません。来る時は必ず大人の方と来てくださいよぅ?」
「……はぅ…。…はぁい…。」
「勝負には勝ちましたが、他のもので負けた気がしますね。」
「…へへへ、さすがレナってとこっすかねぇ。…ふわああぁああぁ! 緊張感が抜けたら、まだこんな時間だってのに急にあくびが…。」
「そうそう、このキーホルダーをお返しする約束でしたねぇ、おわったぁ?!ごめんなさいッ!!」
大石が胸ポケットから勾玉を摘み出した時、ツルンと指先で滑ってそれを弾き飛ばしてしまう! って、……なな、なんでそこでタイミングよく圭一があくびなんかしてんのッ?!
「んがッ?!んがんっぐッ!!! ああぁああぁ?! のの、飲み込んじまったぁああぁ!!」
「は、はぁ?! 何やってんの圭ちゃん!! 吐き出して吐き出して!! おじさんが下腹を殴ってあげるよ、沙都子、羽交い絞めにして!!それ、ドスドス!!」
「ぐぇ、ぐわ!! や、やめてぇえぇ!!」
「神妙になさいませっぇえええぇ!!」
「ふぐお、ぐぇお!! ボディは後から効いてくるぅうぅ!!」
「は、……羽入…。これって手遅れ?」
「あぅあぅあぅあぅあぅ!! お腹の中に入ったらさらっと解けてあっさり吸収! 食後30分以内がお勧めなのですよーぅ!!でも、とにかく紅白揃いましたのです! 圭一とレナを古手神社に連れて行けば、すぐに僕が解呪しますのです!」
「というわけで、二人が取り返しのつかないことになる前に古手神社へ連行するのです! さぁさぁ魅ぃに沙都子! 二人を引き摺って行くのですよー!!」
「「あいあいさーー!!!」」
羽入の話によるなら、フワラズの勾玉の効果は少し時間差で現れるらしい。
大石にしがみつき続けるレナを引っぺがし、雀荘の外に連れ出した頃には、きょとんと普段のレナに戻っていた。
だがもたもたしていれば今度は圭一にべたべたし出すだろうから、もたもたしてはいられない。
私たちは各自、自転車にまたがると古手神社へ急行するのだった。
「はー、もうすっかりいい時間になっちゃったねぇ。おじさん、夕飯前だったからお腹ぺこぺこだよ。」
「でも、無事に一件落着してよかったですわね! レナさんには申し訳ないですけど、何だか愉快な一日でしたわ!」
「愉快というか何と言うか、レナの恐ろしさの一端を垣間見た一日だったね! 何となくオチが気に入らないけどー。」
「何がですの? 無事、円満に解決ではありませんの。変な魅音さんですことー。」
魅音は、レナと圭一が二人並んでいるのが、なぜか面白くないらしい。…それを見て私は面白いから放置しておくが。
「……ではレナと圭一。手をお清めしましたら、二人でお祈りしますのです。僕がいいというまでそのままなのですよ。」
「おう、わかったぜ。ほいレナ、ちゃちゃっと済まして解放されようぜ! もたもたしてると、また例の力が蘇っちまう!」
「そ、…そうだね…。…………はぅ、……少しずつその、うん。じんわり来たかも…。」
「おい梨花ちゃん、まずいぞ、急いでくれ!」
「……僕はちゃんと急いでますので、圭一もお祈りをして精神を集中するのです。」
「わ、わかったよ…。むむむむ……。」
「………ねぇ、圭一くん。」
「何だよ?」
「さっきはその、……助けに来てくれて、ありがと。」
「仲間を見捨てるもんかよ。礼を言われることじゃないぜ。」
「…うん。……その時ね、圭一くんが言ってくれた言葉が、なんか嬉しかったかな、…かな。…俺がお前を救ってやるぞって。あの言葉だけね、…頭の中がふわふわだったのに、…ちゃんとぎゅぅって聞こえたんだよ。…嬉しかったかな。」
「べ、別に特別な意味で言ったわけじゃねぇぞ…。まぁその、あの場の雰囲気というかノリというか、あるだろそういうお約束ってヤツ!」
「…………圭一くんは、早くお腹の中から勾玉、なくなってほしいんだよね…?」
「何バカなこと言ってんだよ。こんな怪しいもの、いつまでも腹の中に入れてたくねぇだろ。」
「……う、…うん。……レナなんかにしがみ付いて来られたら、その、…迷惑だもんね…。」
「お、おい。そういう勘違いはするなよ…! 別に俺は、レナが嫌いだから急いでるんじゃねぇんだぞ。…その、また例の力が始まったら、その、レナが俺に、べたべたするだろ? まぁその、確かにそういうのは俺も男だし嫌いじゃないけどよ…。レナの気持ちが弄ばれてるだけで、……フェアじゃねぇと思うんだよな。…だってそうだろ、レナの本心じゃねぇんだぜ? あの恋するレナは、レナが本当に好きになった人に向けられるべきで、こんな不正な力で俺なんかに向けられちゃおかしいんだ。」
「……うん、そうだね。………あ、でもね圭一くん。さっき麻雀やってる時に、魅ぃちゃんたちがレナのことを、相手に合わせられるのはすごいねって話してたの聞いてた?」
「…まぁ、一応はな。」
「謙遜じゃなくて、…誰だって、好きな人ができたら、その人に気に入られようと努力できるよ。レナだけの特別な力じゃない。…好きになった人が、手作りのクッキーが好きだって言ってくれたら、また頑張りたいと思うのはきっとレナだけじゃないと思うよ。魅ぃちゃんだって沙都子ちゃんだって梨花ちゃんだって。もちろん圭一くんにだってある力なんだから。」
「そういうもんかねぇ。でも、レナの手作りクッキーが好きになるってのはわかるなぁ。昨日食って確かにうまいと思ったもんな!」
「あ、ありがと。………それに、レナだって自分を相手に合わせるばっかりじゃない。相手を自分の世界に引き込もうと、相手の迷惑も考えずに引っ張っちゃうこともあるよ…?」
「あはは、宝探しのことかよ。まぁ、俺でも最初は面食らったからなぁ! レナみたいな普通っぽい女の子がこんな趣味を持ってるのかよって結構、驚いたのもいい思い出だぜ。」
「…やっぱ面食らっちゃうよね。変だよね…。そういうのに誘っちゃいけないよね…。」
「相手がそういうのを好きじゃなさそうだったら、無理に誘うのは遠慮した方がいいだろうよ。最近は、潔癖っぽい軟弱な男も多いらしいからよ。」
「…そうだね。…うん。」
「でもよ、俺は楽しいと思ってるからな?! 誤解すんなよ?! 明日の部活が早く終わったら、また一緒に宝探しをしようって、約束してるもんな。」
「う、うん。してる。うん…。」
「ま、レナが本当の意味で宝探しに連れて行きたい人が現れるまでは付き合ってやるからさ。安心して力仕事は俺に任せろよな! でも、冷蔵庫をどかすのはさすがに俺ひとりじゃきついけどなー、あはははは。」
「はぅ、……だめ…。圭一くん…。フワラズの勾玉の力、…また込み上げてきた…。」
「おいおいまずいな! とにかくお祈りに集中しろ! その気持ちはもう少しで消えるんだから、辛抱してろ!」
「………そうだね。もう少しで消えちゃうんだね。」
「ったく、こんな面倒な宝物を、よくも神さまは作ったもんだぜ! 人の迷惑も考えろってんだ。」
「……そ、……そうかな。……レナは、その、……素敵な宝物だったと思うよ…? 本当に好きで好きで大好きなのに、…背中を一押ししてくれる何かがほしい。……そういう人たちって、きっと大昔から大勢いたんだよ。…そういう人たちに、たくさんの幸せをプレゼントしてきた、魔法の宝物だと思うよ。」
「ふぅん。まぁ、今日最大の被害者のレナがそう言うんなら、そういうことにしてもいいか。」
「あ、……あの、……………はぅぅ、…もう、……ダメ…。」
「おいおい梨花ちゃん、まだかよ、急げよ!!」
「……急いでますのです、急がしていますのですよ!」
「…け、………圭一くん、…これ、……あの、…私の意思じゃないかもね…? 勾玉の力なのかもね…? あ、あのね、竜宮レナは、………圭一くんのこと、…大好きだよ。……もうすぐ消えちゃう力なら、……今、それだけ伝えたいから……。」
「……………………………ば、……ばか。…勾玉の力に屈するなよ…。……本気にするだろ。」
「……そうだね。勾玉の力、…早く解けちゃうといいね…。」
だって解けないと、…どんな勇気ある言葉も、何も伝わらないもんね……。
「…あ、あぅあぅあぅ! 聞きましたですか梨花! レナが圭一に告白しちゃいましたのです、あぅあぅあぅ!!」
「……えー、聞こえたわー。圭一のことなんかどーでもいーと思ってんのに、なぜかムカムカして腹立たしいわー。儀式の一部ってことにして、うさぎ跳びで境内の階段、往復させたろーかしら。」
魅音と沙都子には聞こえなくて幸いだったわね。
…あの二人にも聞こえてたら、明日から圭一は、部活百連敗の罰ゲーム地獄に落とされてたわ。
……あー、私が二人に今のを教えてやればいーのか。それは胸がすきそうね、そりゃーすっきりと。というか赤坂めー、こっち来てんなら私のとこに挨拶くらい来てもいいのに、ずっと麻雀に呆けててー! 東京の奥さんにあることないこと告げ口しに行っちゃおうかしら。ムカムカ。
にも関わらず、まるで今日一日、とても良いことをしたかのように、爽やかな笑顔を浮かべてやがるのが一匹!
「鬼ヶ淵村は、…ずっとずっとこの内側だけの狭い世界でしたから。……たまには何か素敵なことも必要だったのですよ。…だから僕は、フワラズの勾玉を授けたのです。」
「って、綺麗にまとめようとしてるけど。そうして誕生したカップルの後で、ニヤニヤしながらストーキングしてたわけね、あんたは。」
「そ、それは酷い言い方なのですよ! 仮にも神さまの僕にあまりにも不敬なのです! あぅあぅあぅ!!」
「それは不敬で申し訳なかったわね、となったらお供え物をして機嫌を直さないとねぇ?! さっき、赤坂が帰りに持たせてくれた例のシュークリームが、あぁら不思議!本邦初公開の新食感、真っ赤っかの激辛テイスト、キムチシュークリームにパワーアップしてお供えされちゃうわ。
白菜のシャキシャキ感が案外相性よかったりしてぇ?!」
「そんなの相性ダメダメなのですー!!!キムチは焼肉屋さん、シュークリームは僕の優雅なひと時!! おトイレの洗剤と同じなのです、混ぜるなキケン!!」
「あ、ごめんなさいです。もう儀式は終わってますから大丈夫なのですよ、にぱ〜☆ 僕は力を使い切ったらお腹が空いてしまったので、大至急、キムチを山盛り食べないといけませんのです!!」
あぅあぅあぅあぅあぅあぅー!!! どたんばたん、どたんばたん!!
と、まぁ、何だかいい加減に終わり、とりあえず全ては丸く収まったのでした。
…その晩だけは。
「は、はぅ〜!! 知恵先生、助けてくださいぃいぃ、痴漢んん〜〜!!」
「それはひどいよレナちゃん!昨日、僕と約束したじゃないか!ほら、レナちゃんのサイズでちゃんとナース服を用意したんだ!さぁ、僕と二人っきりのプライベート撮影会をしよう!!」
「いーやーだーー!! 暑苦しいから、離してぇえぇ〜!!」
「離しなさいよジロウさん、レナちゃん本気で嫌がってるわよ!!」
「鷹野さんこそ離すんだ! 僕はね、ようやく生涯のパートナーと、そして最高の被写体を見つけたのさ! さぁ、全てのフィルムをレナちゃんの看護婦姿で埋め尽くしてあげるよ! はぅ〜お持ち帰り〜〜!!!」
「レナちゃんはね、汚らわしいオス猿になんて興味ないんだから!ねーレナちゃん?今日から私のことは、お・姉・様って呼んでいいんだからね?ほらほらダメよ、タイが曲がっていてよ?」
「うーーん、二人とも離してよ〜ぅ!! 何でこんな目に遭うのかな、かな! うわ〜〜ん!!」
「……あれは勾玉の力ではないので、もう僕にはどうしようもないのです。ケジメを取るため、今日は三食、キムチとわさびとマスタードを混ぜたものだけを食べますのです。」
「あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅー、梨花の鬼ぃ〜鬼畜ぅ〜!!」
少しは反省しやがれ!
反省したなら、次は私だけに、もうちょっと気の効いた恋のアイテムを貸しなさい。
…絶対だからね!
(c) 07th Expansion
2007/12/18 (Tue) 1:03 作成
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