ひぐらしのなく頃に 「鬼隠し編」Tips&お疲れ様会
古手神社の伝承
昔々この地には小さな村がありました。
山間に囲まれた村は、日々を平穏に暮らしていました。
平和な暮らしは、突然破られました
遥か西方から悪鬼の集団が現れたのです。
爛々と光る目、鋭くとがった牙、そして角。
そして岩を砕く怪力に村人達がかなうはずもありませんでした。
悪鬼の集団は村人を殺し、食らい、奪いました。
村人達も必死の抵抗など意に介さず暴虐の限りを尽くしました。
しかし、悪鬼達の跳梁は長くつづきませんでした。
黄昏の空の下、やってきました。
一人の供を連れて現れました。
ご降臨した神の名は、弥都波能雛女神(みづはのひなのめのかみ)と言いました。
そして村にご降臨すると、供のものを連れて悪鬼達と戦いを始めました。
右手を振るうと、雷を呼び、
左手を振るうと、雨を呼び、
その眼光は、見る者を屠りました。
そして悪鬼達を沢に追い詰め両の手を振ると、たちまち沢の水が怒涛のように押し寄せ悪鬼達を飲み込んでしまいました。
弥都波能雛女神は、悪鬼達との戦いで傷ついた体を癒しこの地を守護するために天へ登っていきました。
その後、供の者は村に残り天に帰っていった神を祭るために社を建ました。
これが古手神社の始まりです。
「坂本観光パンフレットから抜粋」
*Sub_Tips_002 テストチップス
綿流しにおける神事
例祭における神事としての村周りがあります。
赤、青鬼を先導とし、
鶏頭楽、神楽台、獅子、太鼓−笛方−五色吹流し−大榊(おおさかき)−裃(かみしも)−雅楽−巫女−裃−五色吹流し
後衛の渡御列をなし巫女を中心として村中を巡り歩きます。
人々は巡路に川砂を撒き、不浄の処には柴を覆いて敬います。
そして、村を巡り歩いた後に神社にて「不浄払いの儀」を執り行います。
『古出神社における神事』から抜粋
Tips一覧
1■うちって学年混在?
「……レナってさ、俺と同い年だったよな?」
「うん。そうだよ? 干支もおんなじだよね。」
おいおい、年が同じで干支が違ったらおかしいだろうが…。
「そんなことないよ。誕生日の違いがあれば、年齢が同じでも干支が違うこともありえるって!」
「あれ? あ、そーか。魅音、頭いいじゃねぇか!」
「あははははは。ところで圭一くんは何月生まれなのかな? レナは7月なんだよ!」
レナがえっへんと胸を張る。
…おいおい、そりゃどういう意味だよ。
まさか、俺よりちょっとでも誕生日が早かったら威張ろうってつもりじゃないだろうな…。
「…ふ! だが諦めろ。俺に誕生日で挑もうったって無駄なことだ!! ……何ならひと月差ごとに100円の賭けをしてもいいぜー!」
「え? え?! なんでだろ? なんでだろ?!」
突然、賭けにされて狼狽するレナ。
…うろたえ具合から今月の小遣いは残り少ないと断定する。
しかし…、たかだか誕生日程度でこうもうろたえてくれると、楽しくて仕方がないぞ。
「ってことは圭ちゃん、ひょっとして4月生まれ?」
「そーゆうこったな! 残念だなレナ! 俺、もーとっくにレナより年上なんだよ。」
「へぇー! そうなんだ! じゃあ魅ぃちゃんと同い年なんだね!」
「まぁ、ほんの何ヶ月かはね〜! すぐにまた差を開いてあげるけどさ!」
魅音が鼻でヘヘンと笑う。
…おいおい、威張ることじゃねーぞ…。って俺のことか(苦笑)
「……そう言えば…、魅音って上級生なんだよなぁ。」
「下級生の方が萌えるってんなら、今日から下級生ってことでもいいけどー?」
「魅ぃちゃん、よくわかんないこと言ってる……。」
レナの赤面具合を見れば、ばっちり理解できてることがわかるんだけどな…。
「んで、沙都子と梨花ちゃんが下級生と。……どころか学校が違うくらいの下級生だよな?」
「け……圭一くんは、ちょっと好みの年齢が低すぎると思うな…。思うな……。」
レナこそよくわかんないこと言ってるぞ…。
とりあえず、頭部を鷲掴みにして、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
「はぅ〜〜〜!! やーめーてーー……!」
「前から思ってたんだけどさ。なんでこの学校って、クラスが学年混在なんだ?」
「教室の数が足りないからだよ。仕方ないじゃん? 営林署の建物を間借りしてんだからさー。」
…そう言えばそうだよな。うちの学校って前々から変だと思ってた。
校庭は砂利だし、学校とは無関係な部屋はあるし、変な建設重機みたいのは止まってるし。
「何で借りてるんだよ。本当の学校はどうしちゃったんだよ?」
「戦前からずーっと立ってたらしいからねぇ…。老朽化でね。廃校ってわけよ。」
それは…さぞや趣のある渋い校舎だったんだろうな。
「まーそれで、生徒は町の学校に通うことになったんだけどさ、遠いでしょ?」
「どこの学校だったの?」
「興宮の駅前通りを抜けて病院に曲がって、小児科の向かいに学校あるのわかる?」
「え、えーーーーーッ?!?! と、遠いよぅ…!」
地理的なものはさっぱりだが、レナの驚きようからかなり遠いことがわかる。
「まぁ、そんなわけでさ。
興宮の学校に通いたくない連中は、こうして営林署の建物を間借りした仮校舎に通ってるってわけさ。」
「雛見沢の子供の半分くらいかな? 朝早くに自転車で通ってる子たちも結構いるよ。」
「まぁ、こんなハチャメチャな学校に通ってたら、進学校とかはちょっと無理だろうからねぇ。」
「そんなことないよ魅ぃちゃん。ちゃんと頑張ればどこでだってお勉強はできるよ。」
「お、そうだぞそうだぞ! レナとは意見が一致したな!」
「うん、そうだね。そうだね! がんばろ!」
「せーぜー頑張って下さいな。おじさんはささやかに応援しとりますわ。」
「俺たちがじゃないぞ、魅音がだぞ! お前、受験生だろ?! こんな成績じゃお先真っ暗だぞ?!」
「いーもんいーもん。路頭に迷ったら永久就職して圭ちゃんに食わせてもらうから☆」
「え、え、永久就職って何だろ?! 何だろ?!」
「こら! そこ、うるさいですよ! 自習は静かに!」
3人そろってばっさりと先生に怒られる。
いやまったく申し訳ない…。
それを見て沙都子がケタケタと笑う。
それに俺はあかんべー、と舌を出して応えてやる。
……確かに魅音の言うとおりだな。この学校は進学とは無縁だ。
その代り、どこの学校にもない貴重なものがたくさんあるのだろうけど。
1■うちって制服自由?
まだ6月だってのに…暑い。
外ではセミがミンミンと鳴き、夜は蚊まで出る。…これって完全に夏だよなぁ。
…朝だけは涼しいのが救いか。
「暑いでございますわねぇ!」
沙都子が気だるそうにスカートをバタバタさせている。
…はしたないぞ、おい。
…ガキンチョとは言え、一応女の子なんだからさぁ。
「圭一はワイシャツ1枚で涼しそうですわねぇ…。羨ましいですわ。」
「俺から見りゃ、スカートの沙都子の方が涼しそうだよ。この時期のズボンの股座がどれだけ蒸すか、女のお前にゃわかるまい!」
「……む、…蒸すんだ………、はぅ……。」
またこの娘は、いかがわしい想像をたくましくさせてるな…。
「レナの夏服は涼しそうな色合いがいいよな。見てるこっちも涼しくなる。」
「あはははは。ありがと! 本当に涼しいんだよ。」
「私もレナさんみたいな涼しい夏服がよかったですわねぇ。」
「でも沙都子ちゃんの夏服、ワンピースですっごい可愛いし! レナは沙都子ちゃんの夏服、着てみたいなー☆」
「これ、結構蒸しますわよ? 絶対にレナさんの方が涼しいですわぁ。」
「でもかぁいい服の方がきっと楽しいよ。……はぅ!」
……レナと沙都子では根本的に価値観が違う気がするぞ。
「そう言えば…、この学校って指定の制服とかないんだよな。」
「うん。ないよ。相応しい服であれば私服でも大丈夫なんだよ。」
私服の生徒は確かに多い。制服を着ている生徒もいるが、みんなデザインは同じ、地味なものだ。
「…他の連中が着てる制服は何なんだよ。みんなお揃いだよな。」
「あれは町の学校の制服なんですのよ。別に決まってるわけじゃないですけど、みんな着てますわね。」
「そこへ行くと、俺らの仲間はみんないろいろな制服を着てるよな。…わざわざどこかから取り寄せたのか?」
「えぇ。魅音さんが調達して下さいますの。」
「魅ぃちゃんの親類で、古着商をやってる人がいて、全国の学校の服を格安で仕入れてるんですって。」
「んで、その親類に頼んで、いろいろ個性的な制服を取り寄せてもらってるわけか。」
…魅音のヤツ、仲間を着せ替え人形にして楽しんでるな、絶対。
………しかし変な古着屋だよな。
古着全般はわかるとして、全国の学校の服を仕入れてる?
…よくわからん古着屋だ。
遠くの知らない学校の制服など、何の役にも立たないんじゃないのか??
「…うん。それはレナも思うよ。他にも体操服とかスクール水着のお古とかも扱ってるの。…そういうののお古はちょっと嫌だよねぇ。」
「あんまり儲かってなさそうな商売だな。……きっと少しでも儲けさせるために、魅音が一肌脱いでやってるんだろうな。」
「……でも、いつも魅音さんが自信満々に言いますのよ? 今にきっと大ブレイクしてすごい商売になる!!って。」
……学校制服の古着屋が大ブレイクねぇ?
…わからん。
2■前原屋敷
「…圭ちゃんってさ、すごいお金持ちってわけでもないの?」
「何だよ、突然。…俺がいつリムジンで登校したよ?」
「月の小遣いはいくらもらってる?」
「1000円。」
「あら。結構、小市民的ですのねぇ。」
「……お弁当のおかずも普通ですよ。お金持ちじゃないです。」
一体の何の話だ?!
いきなり小遣いの額を聞かれ、それで小市民だの金持ちじゃないだの!
「あはははは。ごめんねごめんね!」
俺の怪訝な表情を悟ったらしく、レナがカラカラと笑った。
「圭ちゃん家ってさ、すっごく大きいでしょ? だから建築中から雛見沢中で前原屋敷って呼ばれて注目の的だったんだよ。」
ま、前原屋敷ぃ〜?!
「あんなに大きいお家だから、どんなお金持ちなのかなって、みんなで噂し合ってたの。」
あぁなるほど。納得。
……確かに家は図体だけはでかいからな。そういう誤解もありえるな。
「私の推理では、お家を建てるのにお金をかけ過ぎて、貧乏になってしまったと考えてますのよ〜!」
「……貧乏でかわいそかわいそです。」
…梨花ちゃんが哀れみながら俺の頭をなでなでしてくれる。金持ち扱いから瞬時に貧乏人扱いかよ…。
「あー、諸君らの楽しい想像をぶち壊すようで悪いが、うちは金持ちでも貧乏でもないぞ。極めて平均的な普通の家庭だ。」
「あれだけ大きな家は普通とは言わないって! しかも玄関は立派で、門は大型車も入れるようになってるし!! 絶対、普通じゃないって!」
家のでかさが裕福さの尺度だとでも言わんばかりだな。
我が家がやたらとでかいのは、親父のアトリエを含むからだ。
作業場はいくつもあるし、過去の作品があちこちに飾られ…。しかもサイズはどれもデカイ。
そんなこんなで、家族が生活する部分はせいぜい全体の三分の一ってところか。
将来、自宅で個展を開くことも考えての設計なので、人や車の出入りに気遣ったものになっているのだ。
……ちなみに魅音が立派な玄関と言ってるのはこのアトリエ側の玄関で、普段は締め切られている。
実際に前原家が使用している玄関はごくごく平均的な、ささやかなものなのだ。
見かけと中身は大違い、ってことだな。
「ぜひ今度、圭ちゃんの家を探検してみたいよなぁ。…お金持ちじゃないと主張しながらもあの邸宅!! 一体何が隠されているのか!!」
「か、かぁいいものが隠されてるといいなぁ! はぅ〜!」
「きっと家具を買うお金もなくなってて、殺風景な部屋がいっぱいなのですわ!」
「……絨毯のお部屋なら、ぜひごろごろしてみたいですよ。」
「わぁぁ〜! それいいねそれいいね! レナもごろごろしたい〜!」
…なんか楽しそうに想像が膨らんでいってるな…。
でもまぁ。…遠くない将来、みんなを自宅に招待してもいいかもな。
…親父は女の子には甘いから、アトリエの見学を許してくれるかもしれない。
セミの声はいよいよにぎやかで、空はどこまでも高い。
暑いけど澄んだ、初夏の匂いがした。
2■ダム現場のバラバラ殺人(新聞版)
昭和54年6月XX日夕刊より
鹿骨市興宮署はXX日深夜、
建設作業員XXXX、XXX、XXXX、XXXXX、XXXXを殺人、死体遺棄の容疑で逮捕し、逃走中の主犯格XXXXを全国に指名手配した。
調べによると、6容疑者はXX日午後9時頃、雛見沢ダム建設現場内の作業事務所にて、現場監督のXXXXさんを集団で暴行して殺害し、遺体を切断して遺棄した疑い。
XX日午前8時頃、鹿骨市内の病院から警察へ、「XXXXさんを殺害したことをほのめかす男性がいる」との通報があり、警察官が駆けつけ事情を聞いたところ、事件を自供。
供述通りの場所から遺体の一部が発見されたため、同日午後、殺人、死体遺棄の容疑で逮捕した。
他の容疑者も即日逮捕されたが、主犯格のXXXXは逃亡中。警察は行方を追っている。
動機について
「酒盛りをとがめられ口論になり、カッとなって殺した」
などと供述しているが、それぞれの自供に食い違いも多く、さらに追求するという。
3■雛見沢ダム計画
昭和五十年十月。
総理府告示第XXX号を以て、雛見沢発電所電源開発基本計画が発表された。
計画された「雛見沢ダム」の規模は甚大で、雛見沢村の受ける影響は余りに重大だった。
雛見沢ダムにより水没する地域は雛見沢、高津戸、清津、松本、谷河内の五ヶ部落に及び、
水没世帯は二九一戸、人口一二五一人、小学校一、中学校一、郵便局一、農協支所一、営林署貯木場一、神社五、寺院二、魚族増殖場一、等多数の公共的文化的生産的施設と信仰の対象を永久に湖底に没するものである。
この天恵豊かで住みよい郷土を、血と汗をもって築いてくれた父祖幾百年の艱難辛苦を思えば余りに痛ましいことであり、
水没地域はもとより全部落は郷土死守の決意を固め次々に決起、団結し鬼ケ淵死守同盟を結成。
ダム建設の中止、又は支流への計画変更を強力に要請し続けたのである。
平和的かつ民主的な話し合いを求めるも、政府とその傀儡である電源会社総裁XXXXXはこれを拒否。
筆舌に尽くし難い極悪非道を以て、村民の民主的運動と雛見沢の郷土を踏みにじったのである。
だが村民はこれに怯むことなく益々団結、郷土死守の決意をさらに強固にしていくのである。
今日、恐るべき雛見沢ダム建設計画は、その再開が無期限に凍結されている。
村民はこの凍結が自らの団結の祟高な力によってなされていることを理解しており、そしてこの恐るべき計画が依然撤回されていないことも理解しているのである。
すでに鬼ケ淵死守同盟はその役割を終え解散しているが、そこで育まれた団結の炎は消えていない。
村民の心にこの炎が灯り続ける限り、再び郷土が湖底に沈む災厄に見舞われることは断じてあり得ないのである。
鬼ケ淵死守同盟会長 公由喜一郎書
3■週刊誌の特集記事
雛見沢ダムで悪夢の惨劇!
リンチ・バラバラ殺人!
X月X日、XX県鹿骨市の雛見沢ダム建設作業現場で起こった血も凍るバラバラ殺人。
列島を震撼させたショッキングな事件でありながら、警察はその細部を語ろうとしていない…。一体、雛見沢ダムで何が…?
「始めは殺すつもりはなかったのでしょう。
ですが被害者がシャベルを振り回して抵抗を始めると、加害者たちも一斉に得物を手にし、一気に殺し合いにエスカレートしたのです。」と前述の捜査関係者A氏は語る。
血の惨劇が終われば、そこには誰の眼にも生きているとは思えない無残な屍…。
日頃から粗暴な振る舞いで容疑者たちをいじめていたXXさん。
始めはちょっとした仕返しのつもりだった…。
「加害者たちは皆、自らの罪深さに恐れおののきました。警察へ出頭しようと言い出す者もいたのです。」
だがリーダー格のXXだけは、死体を隠そうと提案した。
始めは渋った彼らも、次第に捕まりたくないと思い始めるようになる。
人数は6人いて死体を隠す方法がいくらでもある建設現場…。
彼らは揚々と死体を隠し、その場を離れるはずだった…。
「しかしリーダー格のXXは、他の5人が良心の呵責に耐えられなくなり、自首して事件が発覚することを恐れ、恐るべき方法でその口封じを図ったのです。」
なんとXXは死体を人数分に切断し、それぞれの責任で隠すという悪魔の方法を思いついたのである。
「XXは、単なる暴行致死でなくもっと恐ろしいバラバラ殺人に仕立て上げ、ひとりひとりを深く関与させることで結束を固めようとしたのです。」
ひとりひとりを深く関与。…これが意味するのは何なのか。A氏は重い口を開く。
「XXは、ひとりひとりに自らの手で遺体を切断するよう命じたのです。彼らは始めは渋りましたが、結局誰も逆らえませんでした。」
毒食らわば皿まで…ということなのか。
かくして、想像するのも躊躇われる恐るべき血の儀式が始まったのである。
「被害者たちは泣きながら嘔吐しながら、死体を切断しました。頑強に抵抗する者もいましたが、XXに『今さらもうひとり死んでも同じことだぞ。』と凄まれ、結局は抗えなかったのです。」
だがXXの目論見はわずか一晩で崩れた。
死体の切断に最後まで抵抗したXXXが、乱闘時の傷の治療に訪れた病院で、泣き崩れながら告白したのである…。
犯人たちは芋づる式に逮捕されたが、リーダー格のXXの行方だけは掴めていない。
また、XXが隠した右腕部分も発見されていない。
警察の連日の捜査にも関わらず、悪魔のような男が未だ法の手を逃れているのである。
警察は何をしているのか…。
「XXが死体(右腕)を沼に捨てに行くと言っていたらしいのです。実際、沼の近くにXXの乗用車が乗り捨ててあったのですが、その後の足取りはまったくわかりません。」
仲間の裏切りを最後まで疑っていたXX。
仲間が警察に自供することを見越して、沼以外の場所に逃れた可能性は拭いきれない。
「もちろんそれも疑っています。…車はないはずなので、逃げられる範囲にも限度があると思うのですが…。署内では、死体を捨てる時に誤って自分も沼に溺れてしまったのではないかと囁かれています…。」
この沼、地元では底なし沼と恐れられ、その名を鬼ヶ淵と言い、沼の底の底は地獄の鬼の国につながっているのだという。
まさに地獄の鬼とも言える残虐非道のXX。まさか沼から元の地獄へ帰ったのでは…?
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4■レナってどういう名前だよ?
「……レナがいないです。圭一は知りませんですか?」
「あれ? たった今までそこにいたのにな。…おい魅音。レナはどこ行ったんだ?」
「レナー? トイレじゃない? 最近、お通じが来ないって言ってたなぁ。」
そんなことは一言も聞いてない!
「……沙都子。レナを知りませんですか?」
「レナですの? さっき廊下ですれ違いましてよ。レナは日直だから、花壇にお水をやらないといけませんので。」
「あーレナが日直かぁ。そりゃお疲れ様なことで。」
…レナレナレナ。
…とレナの名が乱発され、ふと疑問に思った。
人の名前にこんなこと言っちゃ失礼だが、……変わった名前だよな。外人さんみたいな名前だ。
「レナってどういう名前なんだろうな。…レナって漢字だとどうなるんだ?」
「……レナはあだ名なのです。ちゃんとした名前がありますですよ。」
「え、そうなのか?! 俺はてっきり竜宮レナってのが本名だと思ってたよ。」
「まぁ確かに。レナとしか呼んでませんから間違えるのも無理はないですわね。」
しかも、習字の名前も「レナ」になってるしな。学校では本名同然のようだ。
「本当の名前は何て言うんだろうな。…レナが戻ってきたら聞いてみるかな!」
沙都子と梨花ちゃんが顔を向かい合わせる。
「……聞かなくてもいいですよ。ボクたちが教えてあげますです。」
「お礼の礼に、奈良の奈。…竜宮礼奈が本名ですのよ!」
「礼奈か。………ふーん。それでレイナじゃなくてレナって読むのか? 面白い読み方だよな。」
「……いいえ、違いますです。レイナで正しいのです。」
「レナが言ったのですわ。レナと呼んで欲しいって。だからレナなのですわ。」
「圭ちゃん。…レナはレナだよ? 礼奈って呼ぶのは他人だけ。そこんとこ、わかってるよね?」
魅音の言いたいことはわかる。
本名が何だって、俺たちの間の通り名が全てに決まってる!
竜宮レナはレナだ。それ以外の誰でもないさ。
「思ったんだけどさ、自己申請すれば俺も今日からあだ名で呼ばれるのか?」
「面白けりゃね。何て呼ばれたいわけ?」
「越後屋。」
やがてレナが教室に戻ってきた。
入り口で後輩が、レナを探している人がいたことを教えている。
「あれあれ? 誰かレナの事を探してたかな? かな?」
それを見てにんまりと笑う俺と魅音。
「お代官様、竜宮めがまんまと現れましたぞ!!」
「越後屋、主も悪よのぅ。…ふぉっふぉっふぉ!!!」
「なな、何かな何かな?! 圭一くんと魅ぃちゃんが悪代官だよ? 越後屋だよ?!」
「おのれ竜宮レナの助! ここで会ったが百年目でおじゃる。いざ覚悟〜!!」
「わ! わ! 助さん角さん、こらしめてやりなさーい!!」
「アイアイサーですわー!!!」
「……報酬はスイス銀行に入れて欲しいのです。」
こうなっては仕方ない! あとは5人入り乱れての大乱闘…!!!
※レナのフリッカーが2発炸裂!
印籠のタイミングでレナの必殺パンチが炸裂する。
結局、悪は滅びる俺と魅音…。
「…レナにはぜひ世直しの旅に出てもらいたいもんだ。…永田町なんかどうだ?」
「……ダメだよ。旅先でかぁいいものをチョロまかすから。」
振鈴が休み時間の終わりを告げる。
「ほらほら、圭一くんも魅ぃちゃんも。先生来るよ!」
レナに手を借りて起き上がる。
ちょうど先生が教室に入ってきたところだった。
……あと1時間か。やれやれ。……もうひと踏ん張りするかな!
5■回覧板
例年になく早い梅雨明けを迎え、早くも夏の訪れを感じる今日この頃、皆さんにおかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
いよいよ今年も「綿流し」のシーズンがやってまいりました。
町会の皆さんで協力して、楽しいお祭りにしていきたいと思います。
つきましては、皆さんのご協力をよろしくお願いいたします。
(1)バザー品募集中!
毎年好評の雛見沢大バザーへの出品をお待ちしています。
お中元の余り物や着れなくなってしまった古着などを大々募集中です!
なま物はご遠慮ください。
担当:牧野 Tel(X)XXXX
(2)ちびっ子祭り太鼓募集中!
丁寧な指導と実績で定評のあるちびっ子祭り太鼓サークル「蕉風会」が飛び入り参加を募集しています。
小学生から中学生の目立ちたがり屋さんを待ってます!
担当:公由 Tel(X)XXXX
(3)義援金募集中!!
一口千円からの義援金を募集しています。
一口につき模擬店券シートを1枚進呈しています!
担当:園崎 Tel(X)XXXX
お祭りの楽しいアイデアも随時募集しています。
おもしろいアイデアがありましたら村長宅 公由(X)XXXXまでどうぞ!
(キリトリ線の下に模擬店券が200円分付いている。)
9■北条両親の転落事故
ダム推進派の夫婦の転落事故
昭和55年6月XX日夕刊より
XX日午後2時頃、鹿骨市雛見沢村X丁目、会社員XXXさんと妻XXXXさんが、
県立白川自然公園内の展望台から27m下の渓流へ転落、行方不明になった。
警察と消防で下流を捜索し、同日夜7時頃、XXXさんの遺体を発見した。
妻のXXXXさんは依然見つかっていない。
渓流は先日の台風3号の影響で増水しており、捜索は難航している。
XXさん夫妻は展望台で柵にもたれかかっていた所、柵が壊れ転落した模様。
柵は老朽化しており、警察は公園内の設備管理が適正だったか関係者から事情を聞いている。
9■古手神社の神主の病死
昭和56年6月XX日夕刊より
XX日午後10時頃、鹿骨市雛見沢村X丁目、古手神社神主のXXXXさんが不調を訴え病院で手当てを受け一時は回復したが、深夜に容態が急変、死亡した。
関係者の話では、当日開催されていた祭りの準備等で相当の心労があったと言う。
また、XXXXさんの死亡直後、妻のXXXXさんが遺書を残し行方不明になった。
警察と青年団で捜索を続けているが、遺書で自殺をほのめかした鬼ヶ淵沼は地元では底なし沼として知られており難航している。
9■主婦殺人事件
(新聞には掲載されなかった……)
9■無線記録
「興宮STより、3号どうぞ。3号どうぞ。」
「3号です。感度良好ー。」
「応援が向かいました。別命あるまで維持で願いします。どうぞー。」
「はいー、3号了解。」
「それから回転灯は付けないでお願いします。静か静かで願います。」
「STー、今、先生が到着しました。運びたいそうですがどうしますか。どうぞ。」
「了解しました。先生に任せてください。」
「はいー。了解です。……あ、応援も到着しました。先に写真取らせた方がいいんじゃないですか?…ガイ者、もームダだと思いますしー。」
10■犯人は4人以上?
「自分で喉を掻き破った出血性ショック死。
爪の間に肉や皮がびっしり詰まっとった。他人の爪じゃない。間違いなく本人の爪じゃわい。傷の形も一致する。」
「えぇえぇ。直接死因が自殺ってのはわかってますよ。」
「わかっとるわい。人為的にこういう症状が起こせんかと言っとるんだろう?」
「背中が痒くて掻きすぎて、血が出ちゃうのとはちょっと訳がちがいますからねぇ。」
富竹氏の指には爪が剥がれたものもある。
爪自体は割りと簡単に剥がれる。
だがとても痛い。
だから普通は剥がれるような無茶はしない。
そして、富竹氏の遺体に残る数々のアザ。
…形状その他から素手の暴行によるもの、それも複数人に囲まれてであることは明白だ。
「分泌物から見て、仏は極度の興奮状態にあったのは間違いないのう。」
「では乱闘になって、興奮のあまり自分の喉を引っ掻きだしたってことですか? 襲った連中、さぞや度肝を抜かれたでしょうなぁ。」
確かに異常な環境で異常に興奮した人間は、健常者には考えられない行動を取ることはありえる。
無論、極めて稀有なケースだが。
「実はな、大石くん。仏が武器にしたらしい角材な。砂粒とかガードレールの塗装片とかそんなのしか出んかったぞい。」
「ホシの服の繊維とか、皮膚片とかは?」
「出んかった。仏は犯人を殴っとらん。…あるいは殴った角材を、ホシが持ち去ったのかも知れんの。」
「なら、わざわざ角材なんて置いてきませんよ。全部持ってっちゃいます。」
「かっかっかっか! それもそうじゃのう。」
「富竹氏は結構、体格もいいし肌も焼けてるし。…スポーツマンですよねぇ。」
「ん? そうだな。よく運動しとるようだの。」
…生前に何のスポーツを嗜んでいたか想像はつかないが、身体能力は高い方だと思う。
つまり、乱闘では決してひけを取らないはずなのだ。
これだけ体格のいい男が、身に危険が迫って、死に物狂いで武器を振り回して。
それが犯人にかすりもしないなんて、ちょっと普通では考えられない。
しかも相手は素手。
こっちは角材なんだから、1回くらいは殴れたと思うのだが…。
「こんだけ体格のいい相手を取り囲んで襲おうとしたら、…何人くらいいりますかねぇ。」
「あほぅ。それは大石くんの方が得意だろうが。悪タレ時代を思い出さんかい!」
私が彼と喧嘩するなら何人ほしい?
群が時に大型獣を倒すように、多人数で襲うのは狩りの鉄則だ。
……4人くらいはほしい。
多少の体格差があってもこれだけいればなんとかなる。
「だとすると、結構犯人は多人数だの。
祭りで泥酔した4人以上のグループが怪しいとなるかの?」
………4人以上のグループ。
しかし…それだけの人数がいれば、遺体をもっと目に付きにくいところに隠せなかっただろうか?
あるいは…瀕死の状態で監禁されていたのをなんとか抜け出してきたのか…。
だとしたら自殺する理由がわからない。
それ以上に、あの異常な死に方の理由がわからない……。謎だらけだ。
「こっちもそこは重視しとる。徹底的に調べるつもりだが…あまり期待できんな。何しろ、過去にこんな例はないんだからな。」
「期待はしませんよ。ですが結果を楽しみにしてます。」
「大石さん〜! 課長が呼んでるっすー!」
「すみません、ではまた来年お会いしましょう。」
「おう。いいお年をの!」
10■捜査メモ
富竹ジロウ(仏)
・鹿骨市内の安ホテルに滞在
・宿帳に富竹ジロウと記名 > ペンネーム
・折り畳み自転車で行動。免許の類なし。
・自転車は現場から300m離れた林道脇に放置。
・祭り当日、会場にいた。
・失踪中の鷹野みよと一緒にいた。
・9時ごろに警察官が目撃。その後は不明。
・雛見沢には5〜6年前から、季節毎に1週間ほど滞在。
・野鳥専門のフリーカメラマン > 雑誌社調べろ!
・遺品のフィルムには不審物なし
・遺品に財布 > たんなる暴行?
・財布の内容物から、生活基盤は東京〜千葉? 国鉄総武線沿線?
・都内各区の住民基本台帳に富竹ジロウの同姓同名なし
・歯型から都内歯科へ照合 > 警視庁へ
・顔写真の送付 > 警視庁へ
・各雑誌社に富竹ジロウ問い合わせ
鷹野みよ(失踪)
・入江診療所に勤務の看護婦
・趣味の野鳥撮影で富竹と親しい
・自宅は興宮X丁目XXX番地。独身。
・富竹と共に祭り会場で目撃され、その後行方不明。
・誘拐された? それとも容疑者? > 重要参考人!
・仏を殺す動機がない > 痴情のもつれ?
・人間関係を徹底的に調べる! > 勤務先他
・会場警備の警察官に再度聞き込み!
・シュークリームが食べたいなぁ。ジャンボで4つ。> 大石
■本部長通達
11■本部長通達
捜査メモ
昭和57年7月1日
総総管イ1−12号
XX県警察本部
本部長 XXX
各警察署長・施設管理者殿
雛見沢村における事件について(通達)
鹿骨市雛見沢村の近年の事件は、すでに一部マスコミでも報道されるように、
世間の好奇の目を引き地域住民の穏便な生活に重大な影響を及ぼしつつある、大変憂慮すべき事態となっている。
地域住民の生活と財産を保護するため、以下の遵守を通達する。
(1)秘匿捜査指定
興宮署昭和57年第X号
雛見沢村主婦殺人事件(6月XX日発生)
興宮署昭和57年第X号
雛見沢村生徒失踪事件(6月XX日発生)
(2)情報の非開示
興宮署昭和54年第X号
雛見沢村現場監督殺人事件(6月XX日発生)
白川署昭和55年第X号
白川自然公園転落事故(6月XX日発生)
興宮署昭和56年第X号
雛見沢村神主妻失踪事件(6月XX日発生)
(3)関係各機関への報道自粛要請
別添資料1・2・3参照
担当 XX県警察本部
警務部XX・XX
12■自殺を誘発するクスリは?
「単刀直入に…自殺させる薬ってないんですか?」
「直接的にはない。」
「遠回しですねぇ。…では間接的にはあるってことですか?」
「自殺したくなる精神状態を誘発することはできる、っちゅうことだ。」
「…難しい言い方になりましたねぇ。何ですかその、自殺したくなる精神状態ってのは。」
「例えば重度の躁鬱病患者だが、一般に鬱状態から躁状態に転じる時にもっとも自殺が多いと言われちょる。」
躁鬱(そううつ)病というのは鬱(うつ)病とは異なる。
鬱病は鬱状態という非常にネガティブな精神状態のみを引き起こすが、躁鬱病は、このネガティブな鬱状態と交互に、非常にアクティブな躁状態を引き起こす。
「鬱状態の患者は自信を喪失し非常に悲観的だ。だが自殺もせん。自殺をする気力すらないからだ。…躁の状態もまた自殺をせん。
今度は逆に、非常に自信過剰で行動的なので、自らを順風満帆と思う。だから自殺などせんのだ。」
「…面白いですねぇ。どっちの状態でも自殺をしないのに、状態が入れ替わる時に自殺するんですか。」
「鬱状態には自殺願望はあるが、自殺という大仕事を遂げる気力すらもない。だが躁状態が始まると徐々に気力が充実し、体の自由が利くようになってくる。」
「なぁるほど! つまり自殺する気力が回復するわけですね。」
「そういうことじゃの。だからこの時期に変な気を起こさんように、向精神薬をたっぷりと処方するわけじゃな。」
「…では富竹氏はこの躁鬱病患者だったんですかねぇ?」
「躁鬱病患者の自殺はちゃんとした文化的な自殺だ。飛び降りとか首吊りとか。ヤクの禁断症状のような自虐行動とはまったく違うぞい!」
「富竹氏の自殺は文化的じゃないですよねぇ。
……ではやっぱり薬物中毒と考えるのが自然ですか。最初に言った、自殺したくなる精神状態を起こす薬ってのを教えてください。」
「メトアンフェタミン中毒は躁鬱病に近い症状を起こすと報告されとる。覚醒剤のことだ。
……それからバルビツール酸誘導体中毒にも異常行為が報告されとるがあまり一般的ではないのう。こっちは睡眠薬のことだ。」
「覚醒剤反応、出なかったんですよねぇ。…他の可能性は?」
「あとは病気しか考えられん。
バセドー病等の甲状腺異常を引き起こす病気にしばしば躁鬱病に似た症状が報告されとる。だがバセドー病は特徴的な症状が多い。仏は違うの。」
「もっと突発的に発生するものはありませんかねぇ。今回のケースと合うような、突発性で自殺したくなるようなヤツです。」
「急性器質性精神病、っちゅうのを知っとるかの?
早い話が、脳障害によって精神がとんちんかんになる状態じゃな。これは薬物中毒でも起こるが、脳の外傷や脳炎、脳卒中、脳腫瘍なんかでも起こる。」
「つまり、薬によらなくても異常な精神状態に陥る可能性があると。」
「仏は犯人に囲まれて命に危険が迫っとったんじゃろ?
極度の緊張が続いて、それに分泌異常が重なって、さらに打ち所が悪くて脳に障害が起こり自虐行動に走った…可能性もあるかもしれんの。」
「……………もうちょっと省略して言ってくれませんかねぇ…。」
「かっかっか! つまり、乱闘中に豆腐の角に頭ぶつけて、それでとんちんかんになったんじゃないかと言っとるんだ。」
「なっはっはっはっはっはっは!!! じゃあホシには殺意はなかったってことですかねぇ。ちょいと小銭を巻き上げようと殴ったら、たまたま殴り所が悪かったと!」
でっぷりした中年が二人してげらげらと下品に笑い合う。
「………なんてわけはありませんねぇ。」
「こほん。…いかにも。」
「薬物の常用にせよ、精神的なものにせよ、仏の身元がカギを握っとるぞい。そっちはどうなっとるんじゃ?」
「ありゃぁこんな時間! そろそろ戻らないと熊ちゃん、怒っちゃいますねぇ。」
「おう! 頑張れよ! いいお年をの!」
「いいお年を!」
12■脅迫
「……おんやぁ? 今の皆さんは確か…。」
「議員バッヂが二人いたっすね。」
「じゃー、県議と市議の園崎だ。」
「面白いっすね。親戚同士で県議と市議やってんすか。」
「これがズルイんですよ。お互いの名前で事前運動バンバン。片方の選挙中にはもう片方が別に講演会を開いて、二重に選挙運動やってんですよ。堂々と。」
「よくわかんないんすけど、それって公選法違反じゃないんすか?」
「事前運動にならない限り、政治活動は無制限ですからねぇ。…熊ちゃん、そんなんじゃ選対本部付きになった時、大変ですよぅ? 公選法くらいは勉強して下さい。」
「俺、知能犯課は無理っす。バカですから。えっへっへっへ…!」
いたのは園崎県議と園崎市議。
それから…雛見沢の村長もいたな。
……どいつもこいつも園崎家の息のかかった連中か。…面白くないですねぇ。
「お見送りしてんのは…副署長とうちの課長っすね。」
ピーンと来る。
その日の夜、おでんを食いに行かないかと課長に誘われた時、やっぱりなぁと思った。
「大石さんは友達多いから聞いてるかもしれないけど……聞いてるかな?」
「いいえ。何も。」
「お母さん、ガンモにはんぺん頼みます。……署長んとこに議員の怒鳴り込みがあったんだよ。」
「あれま。そうなんですか。…お母さん、私にもう一杯下さい。」
園崎は県議も市議も恫喝タイプだ。
あんなヤクザと政治家のぎりぎりみたいなのに怒鳴りつけられたら、キャリアのハナタレ若署長にはキツイでしょうねぇ…。
「雛見沢事件の捜査の仕方で、君を指名して陳情してきたよ。」
「ありゃ私? はてはて。」
「とぼけるなよ。例の雛見沢の、過去の事件。蒸し返してるだろ。」
「私、富竹殺しで手一杯でそんな余裕ないですよ? なっはっはっは!」
「本当に? 本当にそうならいいんだけどさ…。」
しばしの沈黙。
お互い黙ってもくもくと箸を進めビールを飲み干す。
「いやぁご馳走になっちゃいました。今月は負けっぱなしだったんで財布辛かったんですよ。助かりました。」
「いやいいよ。また馬、教えてよ。大石さんと同じ馬を買うから。」
「なっはっはっは! 最近はダメです。馬の声がさっぱりですから! …タクシー!!!」
私は電車。
課長はハイヤー。
自家用車は辛いですねぇ。退職前にして飲酒運転でパーってわけには行きませんから。
舌はよく回っても、課長の腰から下はもうすっかり砕けている様子。
タクシーに押し込み、課長の自宅の住所を伝える。
「ではではまた明日。よいお年を…!」
「大石さん。」
「はいはい。」
「過去の事件は全部個別に終わってる。縦に並べるのはやめるんだよ。村の連中は半ば本気で祟りを信じてるんだから。」
「私だって祟りなんか信じちゃいませんよ。」
「大石さんは来年で退職じゃないですか。
退職金でローン返して、お母さんと北海道に引っ越すんじゃなかったっけ?」
「婆さまがどうしても生まれの北海道に帰りたいって泣くんですよ…。最後のご奉公なんです。退職金は、まぁススキノで楽しむことにします。なっはっはっは!!」
「署長は退職時特別昇給を見直すかもってさ。」
官公署の退職金は、退職時の月給を掛け算して算出する。
そこで、退職直前に特別昇格で二号給(2年分)給料を昇給させることによって、退職金を水増しするなんてことが、この辺の地方では慣習で行なわれている。
もちろん、あまり褒められた慣習じゃないんですが…。
ちなみに二号給違うと退職金の額はかなり違う。
「さすがインテリの若署長は言い出すことが模範的です。…でもまぁ。私たちの給料が血税で支払われてることを思えば、まぁ時代の流れですかねぇ。」
本当はすごく笑えないのだが、取り合えず笑い飛ばしておく。
「僕も模範的な事とは思わないよ。でもまぁ、大石さんはそれだけの退職金をもらってもおかしくない活躍をしてきたからさ。僕としてはぜひもらって欲しいんだよ。」
「もらえるもんなら、そりゃー欲しいですけどね。…なっはっはっは!」
「もらえるよ。大石さんが大人なら。」
「運転手さん、引き止めてすみませんね。お願いします。」
威勢良くドアを閉め、課長の会話を少し乱暴に遮る。
課長はまだ何か言いたげだったが、苦笑すると手を振った。こちらも手を振って応える。
タクシーは徐々に加速し、すぐに光の川に飲み込まれていった。
「なっはっはっは!……まいったな。ローン返済できるかなぁ…。」
13■元気ないね。
「最近、圭一くんの元気がないね。機嫌が悪いのかな。」
「さぁてどうしたんだろうね。生理でも来てんじゃないのー?」
「みみ、魅ぃちゃんそれ下品…!」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
「……どう思う?」
「さーね。」
「………。」
「圭ちゃん、ひょっとして…。………かな?」
「……わかんない。」
「あの日、圭ちゃんと車で話してたの、中年のでっぷりした男だったんでしょ?」
「うん。間違いない。」
「大石のヤツ、圭ちゃんに何を吹き込んでるのかなぁ…。」
「真剣そうだったよ。圭一くんは顔面蒼白だった。」
「………あのねぇ、レナはよく知らないだろうけど、
実はあいつ、オヤシロさまの使いなんだよ。」
「え? 何の話?」
「あいつが現れるとね、…必ず鬼隠しが起こるの。……本当だよ。」
「…………あれ? そうなの?」
「……一昨年、梨花ちゃんのお母さんが入水したでしょ? その直前に大石が尋問してたんだよ。」
「………そう言えば、悟史くんが転校する前にもいたね。」
「転校〜? あはははははは、レナはいいヤツだよなぁ。」
「で、今度は圭一くんの前に現れたんだ。……じゃあ圭一くんも鬼隠しになっちゃう?」
「……………………。」
「……………………。」
沈黙の空白がじんわりと続く。そしてふと途切れた。
…哄笑だった。
14(昼)■二重人格???
「よく映画などに登場しますが、簡単にいうとどのようなものでしょうか。」
「複数の人格を持つことによる逃避と考えられています。」
「多重人格は逃避のひとつなのですか?」
「左様です。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、精神を守るために脳が行なう防御行動のひとつではないかと考えられています。」
「例えば、貧乏な人がお金持ちになった自分を想像するという現実逃避ってありますよね? これも多重人格なわけですか?」
「極論はできませんが、広義的にはそう解釈できます。つまり誰にでもありえる現象なのです。」
「その現実逃避の見境がなくなると二重人格になるのですか?」
「…ちょっと難しいですね。…そう提唱する説もありますし、否定する説もあります。諸説紛々です。」
「では精神医学の世界ではまだ、多重人格というのは未知の解明されていない現象なんですか?」
「残念ながらそうなります。今後の研究が期待されます。」
「でもでも〜、二重人格なんて何だかカッコイイですよね〜! どういう人が二重人格になれるんですかぁ?」
「なれるといいますか…、なりやすいといいますか…。最近の研究では、遺伝と心因が複雑に絡み合い…。中でも幼少期の虐待が大きく作用するのではないかと言われています。」
「そう言えば、このA君も幼児虐待を受けてるんですよね〜。カワイソ〜…。」
「7つの人格を持つ青年A。ではVTRの続きをどうぞ。
…ですがその前にコマーシャル!!」
14(夜)■セブンスマートにて
セブンスマートは市内にある、酒類食料品の安売量販店だ。
「なぁに、圭一。こんなにたくさん! 全部違う種類にすることはないでしょ?!」
色とりどりのカップめんをどっさりとカートに載せたんだ。
「最近のカップめんは凝ってて種類も多いんだよ。どれも一通りは食ってみたいし。」
半ばわがままだとはわかっていたが、一応はと思っての挑戦だった。
「圭一。箱売りしてるのにしなさい。安いから。」
親父が渋る。
まぁこういう展開は読めていた。
親父が出てきたらどうしようもない。
「それじゃ1種類しか食えないよ! 飽きちゃうって!」
形式だけの抵抗だ。
心の中では早々に諦め、どのラーメンの箱を買うか迷っていた。
「決められないならお母さんが決めちゃうわよ。」
そう急かされても困る…!
手早く目当てのラーメンの箱を探しに行く。
「豚骨ショウガ味、デカカップ? ねぇ圭一、もう少し普通のにしない?」
お袋に選ばせると醤油味だと塩味だの、手堅いチョイスに固まる傾向がある。
「豚骨はうまいんだよ! 大盛りだけど大味ってわけじゃないし…!!」
回想の中の俺が、自らの選択したラーメンの正当性を主張している。
この、すでにラミネートでパッキングされてしまった、終わってしまった時間の世界で振り返るなんてことができるわけがない…。
だから…俺にできるのは、この時間の俺の視覚と聴覚、気配をさらに鋭敏にすることだけだ。
どんなに視界内を探しても……レナは見つけられない。
時間を遡らせて探す。
だがもちろん見つけられない。
では…俺の視界外、死角から俺を伺っていた…?
聴覚や気配を遡り、探りなおす。
他の買い物客の気配。
どれも雑多で…好き勝手に動いている。
じっと伺うものもいなければ、俺の背後を付回す気配もない。
ない。ないはず。多分ない。
いくら無警戒な当時の俺でも…ぴったり後ろを付けられれば絶対に気付くはず。
多分という曖昧な表現を使いながら、絶対という矛盾した形容詞を使ってしまうことに苦笑する…。
その時、ぞくりとして時間の再生を止めた。
………確かに後ろに影の気配があった。
それは…例えようもない恐怖だった。
本当の俺の後ろに現れた気配なら、振り返って確かめることもできる。
だが、すでに終わってしまった時間の世界にいる俺には振り向くことはできない…。
そんな恐ろしい影を背負いながら…俺は嬉々として店内を走り回り、カップめんの箱探しをしていた…?
お袋への悪態をつきながら、インスタントのコーナーを駆け回る俺…。
だが…その背後には常に気配がぴったりと。影のように付きまとっていたのだ。
それを……確かめようもない、今になって自覚することが……これほど恐ろしく、おぞましいものなのか……。
終わった時間の世界を……俺が嬉々として走り抜けている。
ダンボールを抱えて。
パタパタと。
……だが、その足音はよく聞きなおすと……ぺたぺたという、俺の足音以外の何かを確かに含んでいた。
パタパタパタ。ぺたぺたぺた。
パタパタ。ぺたぺた。
パタパタパタ。ぺたぺたぺた。
俺が走るのとまったく同じように、そのぺたぺたというまるで素足のような足音が、俺の後ろをつけていた。
終わった時間の世界を……俺が嬉々として走り抜けている。
だがそれは……聞こえていないから。
いや。聞こえていたからこうして思い出せる。
…聞こえていたが気にしなかった。
だから振り返らなかった。
だから、俺は振り返られない…!!!
終わった時間の世界を、俺はぺたぺたと付ける足音にずっと追われている。
もっと早く走って逃げることもできない。
終わった時間の俺は、すでに決められた速度でしか走れない。
振り返ることもできない。
終わった時間の俺は、一度も後ろなんか振り返らなかったから。
そして、両親の元にたどり着き、会話を始めるのだ。影のような気配を背負ったまま。
俺が動かないから、影も動かない。だから音がしない。それだけのこと。
その時、俺は一歩も歩かずに両親と会話をしていたはずだった。
立ち尽くしたままだった。間違いなく。
なのに、
……ぺた。…と音がした。
そんなはずはない。
俺が3歩駆けたら、3歩追う。それがルールのはずだろ…?
もうそれ以上は音はしなかった。
その時、世界中が停電になった。…突然の真っ暗だった。
もう回想の旅は終わりだ。
今日はもう眠い。
やめにしたい。
誰か明かりを付けてくれ。
だが体は動かない。
…終わった時間の世界に…縫い止められたように。
ぺた。
前身の毛が逆立つ。
こんなバカな…?!
さっきからルール違反ばかりだ!!
俺は歩いてない!
だからお前も歩いちゃだめなんだ!!
俺は動けない! だからお前も動けないんだぞ!! ルールを守れッ!!!
ぺた。
なのにもう一回、その音が暗闇に響き渡った。
後頭部の髪の毛がチリチリとざわめく。
髪の毛が触れるか触れないか、というくらいすぐ後ろに、……来ているのだ。
後ろの気配が動けるように、どうして俺は動けないんだ?!?!
…すぐに気付いた。
俺は動けるのだ。
……怖くて振り返れないだけなのだ。
振り向けるのは今しかない。
終わった時間の世界では絶対に許されぬ行為…。だが……今、振り返らなければ……!!
体中の全細胞が、許されざる行為を止めようと、毛穴という毛穴に針を突き立てたような痛みを訴え始める…。
振り向いてやる!
振り向いてやる!
怖くなんかないぞ!!
振り向いてやる!
振り向いてやる!
怖くなんかないぞ!!!!
声に出せぬ、胸の中での雄叫びだった。
ぉおぉおぉおおおおおぉおぉおおぉ!!!!
後ろを振り向いた。
……そこには、………始めそれの意味はわからなかった。
「………え、………………え?」
これって……………え?
自分の目の前の状況を、まるで人の口がリンゴをかじって汁を啜り、リンゴであることを知るように………脳がリンゴを食べ始める。
しゃりしゃりと咀嚼し始める…。
汁を啜り………リンゴであることを知る。
つまり……俺の目の前のそれは、
ぎゃああああぁあぁあぁああああぁあぁああぁああぁあああぁあぁぁぁ………
<おまけコーナー>
■おつかれさま会
「この度は当サークル、07th Expansionのノベルゲーム、ひぐらしのなく頃に〜鬼隠し編〜をお買い上げ下さいまして、誠にありがとうございました! いかがだったでしょうか? ちょっぴりでもお楽しみいただけたなら幸いです。」
「ちょっぴりも何も! あんなすごいバッドエンドで終わられたら、ぷんぷんでございますのことよー?!」
「…ぷんぷんなのです。」
「なんでも、今回の「鬼隠し編」は全体の物語のプロローグみたいなお話なんですって。」
「そのプロローグが…こんな凄まじいバッドエンドでございますのー?」
「うーん、でもそーゆうのってあるじゃん?
この最悪のバッドエンドを回避するために、プレイヤーさんが物語を模索していくのがサウンドノベルだし。」
「…まだ第一話ですよ。ボクは次のお話が楽しみなのです。」
「次の話はどんなのになるわけ? レナは聞いてるー?」
「うん。次のシナリオは今回のシナリオとはまた別の側面を紹介する物語…って言ってたよ。」
「……難しい言い方ですわねぇ。何なんですの?」
「今回の鬼隠し編では、雛見沢で近年起こった連続怪死事件が紹介されたでしょ?
次回のシナリオでは雛見沢の古い歴史なんかが紹介されるんですって。」
「異常事態の連続ですっかりわかんなくなっちゃったけど……オヤシロさまの祟りって、どういうものなのか。いやそもそも、オヤシロさまって何なのか、あまり説明なかったからね。」
「…う〜ん、よくは聞いてないんだけど…。……でも……なんか嫌ぁな予感。」
「……またしても祟られそうな、嫌な物語です。」
「圭ちゃんも大変だねぇ〜! 今度はどんなタタリにやられるやら!」
「でも、どんなお話になるのか楽しみにございますわね!」
「いやいやいやいや、遅れてすみませんねぇ。」
「やぁみんな! お疲れ様!」
「お疲れ〜!! あれ? 圭ちゃんはー?」
「圭一くんはもう、次のシナリオの台本読みに行っちゃってるんだよ。主人公だから大変だね!」
「…あれー。…残念ですね。ちょっとだけでも顔を出してくれればよかったのに。」
「………きっと立ち絵がないので登場できないのです。」
「梨花さん、そーゆうのは大人の事情って言うんですよ。んっふっふっふ!」
「しかし…圭一くんやレナちゃんなんか特にだけど、大変なお話だったねぇ!」
「大変も何も! 大々バッドエンドでございますわー!!」
「結局…圭一くんを襲った者の正体って何なのかしら。」
「祟りに見せかけておいて、実は人間の仕業…ってのが僕の推理なんだけどね。」
「……でも圭一、最後な電話をしてましたです。」
「うん。私もあの電話は変だと思ったね。
あの時点で圭ちゃんは犯人は人間だと確信してたはずなのにさ。」
「……おかしな電話でしたわよね。なんかオバケに追いかけられてる、みたいな。」
「あの電話だけだと…やっぱり犯人って人間じゃなくて、祟りなのかなって思っちゃうよね。」
「せっかくですから、意見を出してみようじゃあないですか。じゃー園崎さんから。」
「私は絶対に人間説!
雛見沢の怪しい昔語りかなんかになぞらえて、誰かが起こしてる人為的事件だと思うね!」
「確かに。毎年、お祭りの日になると起こる連続怪死事件なんて、怪しいもんね。」
「その連続怪死って言うのも、きっと、何かの昔語りの再現なんだよ。きっと!」
「私はタタリだと思いましてよ!!
玄関で圭一さんが暴れたシーンとか、ラストの電話のシーンとかを見れば、人間が犯人では説明がつきませんもの。」
「そう言えばそうよね…。とても人間の仕業とは思えないシーンだったし。」
「…うーん、僕はそれでも……人間が犯人だと思うねぇ。
あの玄関やラストのシーンは、追い詰められた圭一くんの、被害意識からの妄想じゃないかって思うんだ。」
「む、難しい言葉を使われてもわかりませんわー!!」
「……つまり、怖がりの圭一が見た幻だと言ってるのです。」
「じゃじゃ、じゃああのシーンの正体は…、圭一の後ろにいた謎の気配は何なんですのー?!」
「引っ掛けだよ。ヒッカケ。」
「魅ぃちゃん、引っ掛けってどうゆう意味?」
「富竹のおじさまが言うようにさ、あのシーンは追い詰められた圭ちゃんの被害妄想のシーンなんだよ。
それを濃密に描くことで、プレイヤーに祟りだと思わせようとする演出なんだよ。だから引っ掛けってワケ!」
「そ、それを言われると……むむむー……でもでも………。」
「ははは、まぁそういう可能性もあるってことだよ。」
<<<<※富竹さん※
「だとすると…犯人は複数で村ぐるみって言う、劇中の大石さんの推理は正しいのかな?
当の本人の大石さんはどう思いますか?」
「私ですか? なっはっはっは……。……うーん。悩みますねぇ。」
「あれ? 僕はてっきり、大石さんは人間説だと思ってましたけど。」
「……劇中の私は犯人は人間だと断じてますが、人間が犯人だとすると、いろいろ不可解なことが多いんですよ。」
「例えばどんな? 大石刑事さんの推理をお聞かせてください…!」
<<<※レナ
「まず人間が犯人だとすると、絶対に動機が必要なんです。…こういうことをして誰が得をするのか、ってことなんです。」
「つまりおじさま、人間が犯人なら、連続怪死事件を起こすことによって、誰かが得をしなくちゃいけない、ってこと?」
「そういうことです。ダム開発の関係者が死ぬ内は利害も感じられましたが、近年の犠牲者はそれとも無縁です。
…第一、圭一くんを殺して誰が得をすると言うんです?」
「なるほど。…そう言われると…僕も弱いな……。」
「だってお金とかも盗られてないんですもの。人間が犯人なわけありませんわー!」
「でも、そうとばかりは限らないんじゃない?
さっき魅ぃちゃんが言ったように、何かの昔語りの再現そのものに意味があるんだとしたら……。」
「そーゆーこと。これは営利殺人じゃないんだよ。きっとこれは…村の血塗られた歴史を再現するための………何らかの儀式的殺人じゃないかなって思うわけ!」
「……では聞きますですが、それを再現すると誰か得をするのですか…?」
「得をするんじゃなくて…もっと心理的なもの。……僕は……何かの復讐じゃないかと思うね。土着的な何か。…今回のシナリオでは騙られなかった因縁だよ!」
「なるほど。虐げられた某家の人たちが先祖の恨みを晴らすために…ってな感じですか? うーん………私はそれにも反対ですねぇ。」
「じゃー何。大石さんはまさか、祟り派なわけ?!」
「そうですわそうですわ!! 刑事役の大石さんが言うんですもの! タタリに決まってますわー!!」
「劇中で前原さんが言うように、オヤシロさまがレナさんや園崎さんに乗り移って悪さをしている…って考えると……一番つじつまが合うんです。残念ながら。」
「えっと……実は私も大石さんと同じ意見なの。…あんなにやさしかったレナや魅ぃちゃんが突然おかしくなるなんて、そうじゃなきゃ説明つかないもの。」
「……魅ぃの話の意味がわかりにくいですよ。説明がほしいです。」
「あ、ごめん。…つまりさ。これってすっごく残酷な話なんじゃないかって思うんだよ。」
「え、……何、魅ぃちゃん。…それってひょっとして……。」
「突き詰めるとそうなるのかな。…僕もちょっと疑ってる。」
「つまり、レナさんも園崎さんも、実は本当にああいう性格で、引っ越してきたばかりの前原さんを騙している悪魔なんだ、と。…こういうわけですか?」
「そんなの嫌ですわーーー!!!!/
わぁあぁああぁああぁああん!!! これは全部祟りの仕業なんですのよー! レナさんも魅音さんもみんなやさしい、いい人がいいですのーーー!!!!」
「わ、私もそうだな! レナや魅音ちゃんって本当にいい人なんだって思う。…きっと劇中で出てきた厳しいシーンは、何かに取り憑かれてたんだって思うの。」
「レナも祟り派か。じゃー祟り派の皆さんにお聞きしますけどさ。…祟りが起こるからにはそれなりの理由があるんでしょ? 無差別に祟るとは思えないなー。そこんとこ説明できるの?」
「祟りは祟りですもの!! 人間の考えでは想像もつきませんわー!」
「あはは、沙都子ちゃん。擬人化された神さまという存在は、結局は人間の生み出したものなんだよ。だからその考え方も、人間に理解できるようにできてる。…ギリシャ神話の神様を見てごらんよ。泣いたり怒ったり嫉妬したり…とにかく人間的なんだよ。」
「えっと…、つまり、オヤシロさまもまた、人間同様に何らかの利害に基づいて祟りをしている、ということですか?」
「変な言い方になっちゃったけど、つまりはそういうこと。」
「……触らぬ神に祟りなしって言いますからねぇ。なっはっは、一理あります。」
「……つまり、オヤシロさまにせよ、人間にせよ、何か理由があるはず、ということなのです。」
「でも梨花? その理由がはっきりしないなら…どうなりますの?」
「……つまりは、わかんないということなのです。」
「あははははは! そうだね。まだプロローグだもんね。明かされていないことがたくさんあるだろうし。」
「そうだね。現時点ではこれ以上の推理は難しいねぇ。」
「いーや! 白黒付けないと納得できないね!」
「魅音さんもこだわりますのね。」
「あははは! 限られた状況で最大限に推理する!! ちょっぴり部活感覚で面白いでしょ?」
「あ、うん! そう考えれば面白いかも!」
「じゃあ、整理してみましょうか。えーと、私は祟り派です。富竹くんは人間派でしたよね?」
「えぇ。僕は人間が犯人ってことで行きます。」
「私も人間犯人説! もちろん、祟りというファンタジーは嫌いじゃないよ? だけど今回の事件に限っては、祟りの線は薄いねー。」
「人間派が2人出ましたね。レナさんは祟り派でしたよね?」
「はい。私と沙都子ちゃんは祟り派です。ねー?」
「えぇ!/
祟り派ですわよ! レナさんや魅音さんのことを悪魔みたいに言う人の方がよっぽど祟りにあうべきですの!!」
「そりゃまー、私も自分のキャラがそんな悪魔みたいなヤツだとは思いたくないけどさ。……部活モードの時にはクールでなきゃ! 感情論だけで選ぶと大ヤケドするよ〜?」
「まぁまぁ。どっちを選んだっていいじゃあないですか。」
「あれ? 梨花ちゃんがまだだね。どっちだと思う?」
「………ボクはオヤシロさまが悪い神様だとは思わないですよ。」
「あれ、面白い意見だね。」
<富竹
「……祟ってばかりの悪い神様なら、祀るの嫌です。ボクは祟るより、ご利益のある神さまの方が好きですよ。」
「そっか、梨花ちゃんって巫女さんをやったんだよね…! うん。いい意見。」
「じゃあ何? 梨花ちゃんはオヤシロさまじゃないって思うなら、…やっぱ犯人は人間って思うわけ?!」
「……そういうことにしますです☆」
「ありゃまぁ。…票がざっくり分かれましたねぇ! 祟り派と人間派で半々ですか。」
「レナちゃん、参考まででいいんだけどさ。
β版までをプレイしてくれたテストプレイヤーさんたちの感想ではどんな感じなんだい?」
<富竹
「えっとー。うん。人間派がとっても多かったの!」
「ほらほら見たことか! 冷静な百戦錬磨の同志諸兄はよく見てるよ!」
「……でも、β版は途中までしかできてませんでしたです。」
「そうね。β版をプレイしてくれた方も、最後まで通して見てみたら、また意見が変わってるかもしれないね。」
「どうすんのさ。これじゃ意見は半々。決着が着かなくて面白くないよね!」
「裁判官が奇数なのは、つまりそういうことだからねぇ。あとひとり意見がほしいなぁ!」
「あ、ならちょうどいいかな。圭一くん本人に聞いてみない? 電話で!」
「……祟り殺された本人の意見は貴重ですよ。」
「そうと決まればさっそく電話ですわー!!!」
「もしもし圭一くん? レナでーす。今、お仕事お忙しいですか?」
「あー忙しいぞー。シナリオが一本終わって一休みって思ってたら、すぐに次のシナリオだもんなー!!」
「圭ちゃん、どんな感じ? 忙しいって?」
「うん。スネてる。」
「聞こえてるぞこらー!! お前らは打ち上げ会でいいよなー! 俺も出たかったー!!!」
「……立ち絵を描いてもらえたら圭一も来れますですよ。」
「梨花、それは内緒ですわ…。」
「つまりさ、圭ちゃんを殺したのは人間か、オヤシロさまの祟りかってことで意見が分かれちゃってるのよー。」
「本当にごめんね! 台本読みで忙しいところ…。圭一くんはどっちだと思うかな?」
「そんなの決まってんじゃねーかー!!」
「どっち?」
「どっちなんてもんじゃねーよ!! 村の怪しげなヤツらに狙われて、さらにオヤシロさまとかいう怪しいのに祟られて!!! 人間も祟りも全部!!! これはイジメだーー!!!!」
「………かわいそかわいそです。今度、頭をなでなでしてあげますですよ。」
「結局、意見がわかれちゃったねぇ。」
<富竹
「私ももう一度考え直してみます。見落としがあるかもしれませんので。」
<大石
「それでは引き続き、『ひぐらしのなく頃に〜綿流し編〜』をお楽しみ下さいね!」
<レナ