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FRAGMENTARY PASSAGE
〜断章〜
White Freet VCa3
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)巨大人型機動兵器《きょだいひとがたきどうへいき》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)DN社|崩壊後《ほうかいご》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#改ページ]
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Director/Producer/Story/Text:
[#地付き]JURO WATARI
Character Design:
[#地付き]HAJIME KATOKI
Original 3D CG Modelling:
[#地付き]YASUHIRO MORI
CG Illustration:
[#地付き]KOUICHI OZAKI
Layout Design:
[#地付き]NOBUTAKA ARII
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電脳暦《でんのうれき》(VC)。それは、再来《さいらい》した中世的停滞状況《ちゅうせいてきていたいじょうきょう》の中、人々の活力《かつりょく》が臨界状態《りんかいじょうたい》に達した混迷《こんめい》の時代。オーバーテクノロジー(OT)のバックボーンから時代の申《もう》し子《ご》のように現出《げんしゅつ》した巨大人型機動兵器《きょだいひとがたきどうへいき》バーチャロイド(VR)は、限定戦争《げんていせんそう》という妄執《もうしゅう》に新たなダイナミズムを注ぎ込む。だが、ムーンゲートと言うパンドラの箱を開けた人類《じんるい》は、自《みずか》らが新たな危機《きき》に直面《ちょくめん》したことにまだ気付いていない・・・
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■登場人物《とうじょうじんぶつ》
●インター・バスケス大尉《たいい》
ホワイト・フリート所属《しょぞく》。試作二号機《しさく2ごうき》のテストパイロットを勤《つと》めた
●ボルサー中尉
ホワイト・フリートの整備廠士官。バスケス大尉と共に試作二号機《しさく2ごうき》のテスト騎行《きぎょう》に立ち会った。
●エドガー・グリンプ技官
第7プラント「リファレンス・ポイント(RP−07)」の技官《ぎかん》。試作二号機《しさく2ごうき》の開発《かいはつ》に大きく貢献《こうけん》した。
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関連記事《かんれんきじ》
●XVR/RP−07/07 [VR−707] テムジン試作二号機《しさく2ごうき》
第七プラント「リファレンス・ポイント(RP−07)」が総力《そうりょく》をあげて開発《かいはつ》した新型《しんがた》テムジン。白檀艦隊《びゃくだんかんたい》(ホワイト・フリート)に制式採用《せいしきさいよう》され制式《せいしき》buR−707となった。
■機体解説《きたいかいせつ》
XVR/RP−07/07 [VR−707] TEMJIN
[テムジン試作ニ号機《しさくにごうき》]
※VR−707は、ホワイト・フリートが制式採用《せいしきさいよう》した際《さい》に定められた型番《かたばん》
第7プラント「リファレンス・ポイント(RP−07)」が総力《そうりょく》を挙げて開発した、最新鋭第二世代型《さいしんえいだい2せだいがた》VR。後にDNAが制式採用《せいしきさいよう》するMBV−707テムジンの元になった機体《きたい》である。当初《とうしょ》の予定《よてい》では、ホワイト・フリート専用機《せんようき》という位置付《いちづ》けだったため、第8プラント「フレッシュ・リフォー(FR−08)」からはさまざまな形で優先的《ゆうせんてき》に技術提供《ぎじゅつていきょう》を受け、各所《かくしょ》に先駆的《せんくてき》な機構《きこう》が意欲的《いよくてき》に取り入れられた。だが、その積極性《せっきょくせい》が仇《あだ》となり、機体開発《きたいかいはつ》はかえって難航《なんこう》する。遅滞《ちたい》する開発《かいはつ》スケジュールに苛立《いらだ》つホワイト・フリートと、オーバースペックな技術協力《ぎじゅつきょうりょく》を押しつけるFR−08との板挟《いたばさ》みにあって、RP−07は相当《そうとう》苦《くる》しんだらしい。その辺りの経緯《けいい》については、エピソードでも、ホワイト・フリートの士官であるインター・バスケスと、RP−07の技官《ぎかん》であるグリンプとの間で交《か》わされたやりとりの中に、片鱗《へんりん》をみることができる。
なお、V.C.a4年に勃発《ぼっぱつ》したオラトリオタングラム等の諸戦役《しょせんえき》で活躍《かつやく》するMBV−707は、うち続くRNAとの抗争《こうそう》に苦戦《くせん》を強《し》いられていたDNAの要請《ようせい》を受《う》けて本機《ほんき》を一般用《いっぱんよう》にデチューンしたタイプであり、厳密《げんみつ》には同一機種《どういつきしゅ》と呼ぶことはできない。VR−707とMBV−707を比較《ひかく》した場合《ばあい》、外形面《がいけいめん》については、さほど大きな差異《さい》は認《みと》められない。ただし、後者《こうしゃ》では、背部《はいぶ》にマウントされたマインド・ブースターにリミッターが課《か》せられており、本機《ほんき》の有《あ》り余《あま》るポテンシャルが、一般《いっぱん》パイロットの能力《のうりょく》に合わせて制限《せいげん》されている。この結果、MBV−707に搭乗《とうじょう》するパイロットがどんなに努力しても、VR−707が初期状態《しょきじょうたい》で発揮《はっき》しうるパフォーマンスの60%程度《ていど》しか引《ひ》き出《だ》すことはできない。
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■レディオ・スプライト
防楯《ぼうじん》ユニット
「レディオ・スプライト」
フェイズ・シフト・システム(PSS)により様々《さまざま》な用途《ようと》に応じた形状《けいじょう》に変形《へんけい》するとあるが、楯《たて》としての機能意外《きのういがい》の形状《けいじょう》については確認《かくにん》されていない。
第7プラント「リファレンス・ポイント」が開発《かいはつ》を進めていた新型《しんがた》テムジンではあったが、意外《いがい》なことに試作二号機《しさく2ごうき》の段階《だんかい》では、専用火器《せんようかき》として何を装備《そうび》すべきか、はっきりと決まっているわけではなかった。往年《おうねん》の名機《めいき》、MBV−04(初代テムジン)が装備する汎用《はんよう》ランチャーMPBL−7は、確かに優秀《ゆうしゅう》かつ信頼性《しんらいせい》の高い兵装《へいそう》ではあったが、VCa3年にもなると、さすがに旧式《きゅうしき》の感《かん》を免《まぬが》れ得《え》なかった。かといって、いざこれを凌駕《りょうが》するものを作ろうとしても、なまじ完成度《かんせいど》が高いために取っかかりがつかめず、議論《ぎろん》が百出《ひゃくしゅつ》して収束《しゅうそく》の目途《めど》が立たなかった。
このような開発現場《かいはつげんば》の迷走《めいそう》を反映《はんえい》して、VR−707の一連《いちれん》の開発機体《かいはつきたい》には、さまざまな試作兵器《しさくへいき》が装備《そうび》された。インター・バスケス大尉《たいい》の搭乗《とうじょう》する機体《きたい》に装着《そうちゃく》された防楯《ぼうじん》ユニット「レディオ・スプライト」も、そのような試作品《しさくひん》の一つである。試作品《しさくひん》の例《れい》に漏《も》れず、本ユニットにもさまざまな機能《きのう》が意欲的《いよくてき》に盛《も》り込《こ》まれ、特にマインド・ブースターと連動《れんどう》することによって複数《ふくすう》の用途《ようと》に対応《たいおう》した形状《けいじょう》へと瞬時《しゅんじ》に変型装備《へんけいそうび》されるフェイズ・シフト・システム(PSS)は、当時《とうじ》としては画期的《かっきてき》なものだった。だが、その操作方法《そうさほうほう》は非常《ひじょう》に煩雑《はんざつ》で、一度や二度の運用《うんよう》で適切《てきせつ》な用法《ようほう》を把握《はあく》することなど望むべくもない難物《なんぶつ》でもあった。本エピソード中でも、優勢《ゆうせい》な敵機《てっき》に肉薄《にくはく》されて二進《にしん》も三進《3しん》も行かなくなっていたバスケスは、シールド本来《ほんらい》の用法《ようほう》でしかこのシステムを使っていない。
レディオ・スプライトはコンセプト倒《たお》れであるかに思われたが、後《のち》にVR−707の専用武装《せんようぶそう》として制式採用《せいしきさいよう》された新型ランチャー「スライプナー」は、使用目的《しようもくてき》の異《こと》なる4つのフェイズへの移行《いこう》を可能《かのう》としていた。PSSの技術的試行錯誤《ぎじゅつてきしこうさくご》は無駄《むだ》に終わることなく、発展的《はってんてき》に継承《けいしょう》されたのである。
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●白檀艦隊《びゃくだんかんたい》(ホワイト・フリート)
第8プラント「フレッシュ・リフォー(FR−08)」が統括《とうかつ》するCA(Corporation Army)の中でも最強《さいきょう》の呼《よ》び声《ごえ》高い有力《ゆうりょく》な軍事組織《ぐんじそしき》。だが、彼らは表立《おもてだ》った抗争《こうそう》の舞台《ぶたい》には顔を出すことが殆《ほとん》ど無《な》かった。それは艦隊編成《かんたいへんせい》の目的《もくてき》がシャドウ迎撃《げいげき》にあったからだ。
■設定解説《せっていかいせつ》
正式名称《せいしきめいしょう》、白檀艦隊(びゃくだんかんたい)。OMG以後、地球圏《ちきゅうけん》を掌握《しょうあく》するようになった第8プラント「フレッシュ・リフォー(FR−08)」が統括《とうかつ》するCA(Corporation Army)の中でも、最強《さいきょう》の呼《よ》び声《ごえ》高い有力《ゆうりょく》な軍事組織《ぐんじそしき》である。電脳暦《でんのうれき》におけるその歴史《れきし》は比較的《ひかくてき》浅《あさ》く、0プラント主導《しゅどう》のV.プロジェクトが挫折《ざせつ》した時期《じき》、すなわちV.C.90年代中葉《ちゅうよう》、フレッシュ・リフォーによって設立された第八艦隊《だい8かんたい》が母体《ぼたい》になっている。当時、既《すで》にFR−08はDN社の傘下《さんか》に入っていたのだが、盟主《めいしゅ》トリストラム・リフォーは、自《みずか》らが出費《しゅっぴ》して作り上げたCAがDNAの管轄下《かんかつか》に入ることを拒《こば》み、発言力《はつげんりょく》の強さをものに言わせてなかば強引《ごういん》に自社《じしゃ》の直結部隊《ちょっけつぶたい》とした。その後、V.C.a0年のOMGを経てDN社が崩壊《ほうかい》すると、FR−08は急速《きゅうそく》に勢力《せいりょく》を伸ばし、その過程《かてい》において、ホワイト・フリートも大幅《おおはば》に規模《きぼ》を拡大《かくだい》した。
だが、彼らが表立《おもてだ》って抗争《こうそう》の場面に顔を出すことはほとんど無かった。実際にFR−08が直面《ちょくめん》した企業国家間《きぎょうこっかかん》の抗争《こうそう》、また彼らが主催《しゅさい》した限定戦争《げんていせんそう》の戦闘興業《せんとうこうぎょう》には、大抵《たいてい》の場合FR−08直轄《ちょっかつ》ではあっても別系統《べつけいとう》の(ブルー・フリート、グリーン・フリート、レッド・フリート、イエロー・フリート等)軍事組織《ぐんじそしき》が担当《たんとう》することが多く、また、DNAに業務《ぎょうむ》が委託《いたく》されることも珍《めずら》しくはなかった。
では、ホワイト・フリートとは、いったい何を主目的《しゅもくてき》として編成《へんせい》され、実際《じっさい》にはどのような活動《かつどう》を行なっていたのか。
V.C.a0年以降の彼らの主任務《しゅにんむ》は、表向き、OMG(※1)の原因《げんいん》となったムーンゲート近傍《きんぼう》に位置する巨大プラント「ダンシング・アンダー(DU−01)」に駐屯《ちゅうとん》(※2)、常時警戒態勢《じょうじけいかいたいせい》をとっていた。だが、垣間《かきま》見える彼らの活動内容《かつどうないよう》と強大《きょうだい》な組織《そしき》は、単なる警備部隊《けいびぶたい》の域《いき》を越《こ》えている。また、彼らがVRを保有《ほゆう》し、盛《さか》んにこれを運用《うんよう》していた点は、少なからず奇妙《きみょう》な事態《じたい》であった。
※1
オペレーション・ムーン・ゲート
※2
V.C.a1年以降のことである。
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FR−08がDN社|崩壊後《ほうかいご》の地球圏《ちきゅうけん》を掌握《しょうあく》した際、彼らは、かつてDN社内で並立《へいりつ》していた八つのプラントに対してVR開発の全面禁止《ぜんめんきんし》を徹底《てってい》するよう通達《つうたつ》した。同時にトリストラム・リフォーは限定戦争《げんていせんそう》におけるVRの商品価値《しょうひんかち》に疑問《ぎもん》を抱《だ》く見解《けんかい》を公式に発表し、すでにVRを配備していたDNAに対しては、その保有を認めはしたものの、自社組織《じしゃそしき》に組み込むことを快《こころよ》しとせず、分社化《ぶんしゃか》を強要《きょうよう》して独立採算制《どくりつさいさんせい》に移行《いこう》させた。この結果、以後のDNAは急速《きゅうそく》に業績《ぎょうせき》が悪化《あっか》していく。
だが、そのような状況を横目で見ながら、FR−08はホワイト・フリートを厚遇《こうぐう》した。常に最新鋭機材《さいしんえいきざい》の導入を推《お》し進《すす》め、VRに関しても最良《さいりょう》の運用環境《うんようかんきょう》を維持《いじ》させたのである。例えば、V.C.a3年代、ホワイト・フリートではいまだにMBV−04(第一世代型《だい1せだいがた》テムジン)系列のVRが使用されていたが、これらの機体には最高品質《さいこうひんしつ》のV.コンバータが装備《そうび》されていた上に、極《きわ》めて高度なチューニングが施《ほどこ》されていたため、当時のDNAやRNAが使用する第二世代型《だい2せだいがた》VRと比しても十分に優越《ゆうえつ》しうるパフォーマンスを発揮《はっき》した。加えて、所属《しょぞく》するパイロット全員が一流の人材で固められていたから、彼らが最強のVR運用部隊《うんようぶたい》であることは誰の目から見ても明らかであった。これは先にトリストラム・リフォーが示したVR無用論《むようろん》の立場からは正当性《せいとうせい》を説明し得ない、矛盾《むじゅん》した状況だった。
FR−08は、かつてDN社同様、競合他社《きょうごうたしゃ》に対して技術的優先《ぎじゅつてきゆうせん》を維持《いじ》、VRの商品価値《しょうひんかち》を高めることによって、市場の独占《どくせん》を意図《いと》しているのではないか? FR−08側からの具体的《ぐたいてき》な状況説明《じょうきょうせつめい》が得られなかったこともあり、周囲の疑いは、やがて広範《こうはん》なパッシングへと発展《はってん》していく。最終的《さいしゅうてき》に、時代の趨勢《すうせい》は反FR−08体制の成立によって地球圏に二大陣営《にだいじんえい》の対立構造《たいりつこうぞう》を出来《しゅったい》させ、混沌のさなか、V.C.a4年にはオラトリオ・タングラム戦役《せんえき》を勃発《ぼっぱつ》させてしまう。
だが、FR−08とて、彼らの矛盾《むじゅん》した言動《げんどう》が周囲《しゅうい》の反感《はんかん》を招《まね》くことは理解していたはずである。OMG以降、DN社に引導《いんどう》を渡し、自《みずか》ら地球圏《ちきゅうけん》の覇者《はしゃ》となったトリストラム・リフォーは辣腕《らつわん》であり、かつ、賢明《けんめい》でもあった。そんな彼が冒《おか》したリスク、ホワイト・フリートへのVR配備《はいび》。その目的は白檀艦隊《びゃくだんかんたい》の最精鋭部隊《さいせいえいぶたい》、白虹騎士団《びゃっこうきしだん》のエピソードで知ることが出来る。
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●シャドウ
V.クリスタルによって引《ひ》き起《お》こされるバーチャロン現象《げんしょう》に伴《ともな》い発生《はっせい》する狂気《きょうき》の意識体《いしきたい》、あるいはそれが駆動力《くどうりょく》となったVRのことと考えられているが、詳細《しょうさい》は未《いま》だ不明《ふめい》。
■設定解説《せっていかいせつ》
俗《ぞく》に「シャドウ」と呼ばれる一連《いちれん》のVRが、どのような経緯《けいい》で生まれ、どのように運用《うんよう》されているのか、その詳細《しょうさい》について知る者は、実際のところ皆無《かいむ》と言っていいのかもしれない。V.C.90年代後半からその存在がまことしやかに囁《ささや》かれるようになった彼らの詳細は秘密《ひみつ》のベールに包《くる》まれ、現時点《げんじてん》に至《いた》るまでその全貌《ぜんぼう》は明らかになっていない。しかし、これまでに収集《しゅうしゅう》された断片的《だんぺんてき》な情報を繋《つな》ぎ合《あ》わせることで、おぼろげながらその実像《じつぞう》とおぼしきもの(あくまで推測《すいそく》の域《いき》を出ないが)を浮かび上がらせることは可能である。
V.C.84年に発見された月面遺跡《げつめんいせき》「ムーンゲート」。その最深部《さいしんぶ》に存在するV−クリスタルは、遺跡が持つ本来の機能の中枢《ちゅうすう》を担《にな》うものと考えられていたので、0プラントのスタッフは集中的《しゅうちゅうてき》な調査《ちょうさ》、実験《じっけん》を行なった。この間、発掘現場《はっくつげんば》に常駐《じょうちゅう》する人々の間に奇妙《きみょう》な精神障害《せいしんしょうがい》が現れ、特に重症《じゅうしょう》になると、すべての記憶《きおく》を失っていたり、意識《いしき》そのものが完全に消失《しょうしつ》して植物人間《しょくぶつにんげん》と化す場合もあったため、事態《じたい》は深刻視《しんこくし》された。
度重《たびかさ》なる原因究明《げんいんきゅうめい》の調査によって、V−クリスタルは、一種《いっしゅ》の精神干渉作用《せいしんかんしょうさよう》を人類《じんるい》に及《およ》ぼすことが判明《はんめい》する。ある条件《じょうけん》が満《み》たされると人間の精神を触媒《しょくばい》にして結晶体《けっしょうたい》の一部が活性化《かっせいか》、人問の意識《いしき》を吸収《きゅうしゅう》・捕縛《ほばく》して、その精神活動《せいしんかつどう》のイミュレーションを行う。この過程《かてい》において、被害者《ひがいしゃ》の意識《いしき》は、変調《へんちょう》する波動《はどう》が複雑《ふくざつ》に交錯《こうさく》する特異《とくい》フィールドの影響下《えいきょうか》におかれ、深刻《しんこく》な精神障害《せいしんしょうがい》を被《こうむ》るのだった。精神強度《せいしんきょうど》が通常レべルの人間の場合、部分的な記憶喪失《きおくそうしつ》で済めばまだ良い方で、悪くすれば回復不能《かいふくふのう》の廃人《はいじん》となる可能性も十分にあり得た。この現象を、開発現場《かいはつげんば》のスタッフは、ある種《しゅ》の畏《おそ》れをもって”バーチャロン(virtual on)”と呼ぶようになる。
C.I.S.への進入手段《しんにゅうしゅだん》の獲得《かくとく》を至上目的《しじょうもくてき》としていた0プラントにとって、V−クリスタルによる精神干渉作用《せいしんかんしょうさよう》は厄介《やっかい》な問題だった。様々な対策が講《こう》じられる中、やがて、ある極秘《ごくひ》プロジェクトが発足《ほっそく》する。そこでは、バーチャロン・ポジティブ値(※1)が高く、V−クリスタルとの交感精度《こうかんせいど》の優れた人材を用いて、日夜《にちや》様々《さまざま》な研究活動《けんきゅうかつどう》が進められていた(※2)。ピーク時には、最も優れた精神強度《せいしんきょうど》を有するV−コンバータ(※3)の組み合わせによる過酷《かこく》な実験《じっけん》が行なわれ、その過程《かてい》において極《きわ》めて危険《きけん》な状況《じょうきょう》が発生《はっせい》したらしい。一説《いっせつ》には、本来、V−クリスタル特有の機能である精神活動《せいしんかつどう》のイミュレーションが、高効率《こうこうりつ》のV−コンバータ上でも再現《さいげん》され、その副産物《ふくさんぶつ》として、人間の意識化の混沌《こんとん》(※4)を実体化《じったいか》させてしまったと言う。
当時、巨大な権勢《けんせい》を振るう有力な組織として隆盛《りゅうせい》を極《きわ》めていた0プラントは、一連《いちれん》の実験によって生じた不祥事《ふしょうじ》を隠蔽《いんぺい》し、疑惑《ぎわく》の目を向けるDN社|最高幹部会《さいこうかんぶかい》の査察《ささつ》を頑《かたく》なに拒否《きょひ》していた。後に、彼らの存在を疎《うと》むようになっていた最高幹部会《さいこうかんぶかい》は、オーバーロードのアンベルIVによる告発《こくはつ》に機会《きかい》を得て、彼らを一介《いっかい》の研究施設《けんきゅうしせつ》へと格下《かくさ》げしたが、その際、くだんの極秘《ごくひ》プロジェクトが生み出した危険《きけん》な実験結果《じっけんけっか》は闇《やみ》に葬《ほうむ》り去《さ》られてしまう。これは致命的《ちめいてき》な失策《しっさく》だった。この時、0プラントが手がけていた数々の実験内容《じっけんないよう》が明らかにされ、危険な内容のものに対して適切《てきせつ》な措置《そち》が執《と》られていれば、後に「シャドウ」と呼ばれる忌《い》むべき存在が人類を脅《おど》かすことなど無かったかもしれないのだ。
※1
被験者《ひけんしゃ》の中には例外的《れいがいてき》な人間もいた。「記憶喪失《きおくそうしつ》⇒回復《かいふく》」というシーケンスを経《へ》た後、なんら後遺症《こういしょう》を伴《とも》わない者《もの》がいたのである。彼らの証言《しょうげん》によって、この奇妙《きみょう》な現象《げんしょう》に巻き込まれたものが無事に切り抜けるためには、クリスタルの発する固有《こゆう》の波動《はどう》に同調《どうちょう》、なおかつそれと一体化《いったいか》することなく自立的《じりつてき》に変調《へんちょう》できる調律能力《ちょうりつのうりょく》を有《ゆう》している必要があることが判明した。同調《どうちょう》・調律能力《ちょうりつのうりょく》のある者は「バーチャロン適性《てきせい》(Virtual−on Positive)の高い者」と呼ばれるようになった。
※2
プロジェクト発足当時《ほっそくとうじ》の主任研究員《しゅにんけんきゅういん》は、後にVR−014オリジナル・フェイ−イェン等の至高《しこう》のVRを生み出したプラジナー博士《はかせ》だった。彼は後世《こうせい》に様々な波紋《はもん》を投げかける数々の業績《ぎょうせき》のベースとなる成果《せいか》を、ここでの研究活動《けんきゅうかつどう》によって成《な》し遂《と》げたと思われている。
※3
当時の技術レベルでは、V−コンバータ製造時《せいぞうじ》の歩留《ぶど》まりが悪く、品質《ひんしつ》の基準値《きじゅんち》をクリアしうるものが上がる率《りつ》は、わずか0.5%にすぎなかった。さらに、いわゆる「当たり」と呼ばれる優秀《ゆうしゅう》な品質《ひんしつ》のものは、基準値《きじゅんち》をクリアした完成品《かんせいひん》の0.1%に満《み》たなかった。
※4
電脳暦《でんのうれき》のこの時代になっても、人間性《にんげんせい》の奥深《おくふか》くに、いまだ明確《めいかく》に解明《かいめい》されずにうごめている、いわゆる「狂《くる》い」というものへの定義付《ていぎづ》けはなされていないようである。それは、おそらく、人間性の崩壊《ほうかい》、あるいは活力《かつりょく》の低下《ていか》の呼《よ》び水《みず》になる危険性《きけんせい》をはらんでいたのであろう。リスクへの兆戦《ちょうせん》を放棄《ほうき》したことが、電脳暦《でんのうれき》における人々の意識《いしき》の停滞《ていたい》を決定付《けっていづ》けたことは、ほぼ確実《かくじつ》である。
V.クリスタルによって引き起こされるバーチャロン現象は、人間の心の中にあって、理性によって取りつくろわれた意識構造《いしきこうぞう》の奥底、無意識下《むいしきか》の思念《しねん》をえぐり取り、対象となる本人にフィードバックしてくる。精神強度《せいしんきょうど》が充分でない場合、この現象による負担《ふたん》は極《きわ》めて重く、発狂《はっきょう》に至《いた》る者も少なくない。
V.コンバータは、V.クリスタルの機能限定型《きのうげんていがた》レプリカである。M.S.B.S.によって制御《せいぎょ》されているとはいえ、常にバーチャロン現象的|精神干渉効果《せいしんかんしょうこうか》を接続音《せつぞくおん》に対して及《およ》ぼし得る。もし、V.コンバータの駆動効率《くどうこうりつ》が充分に高く、その効果を十分に発揮させるべくM.S.B.S.の制御リミッターを解除していれば、結果は推《お》して知るべし、なのである。
0プラントが手がけた一連《いちれん》の研究活動《けんきゅうかつどう》の中には、V.クリスタルが人体に及ぼす悪影響《あくえいきょう》を無視した非人道的実験《ひじんどうてきじっけん》が、科学的好奇心《かがくてきこうきしん》を満《み》たすだけのために強行《きょうこう》された形跡《けいせき》がある。その結果、自《みずか》らの無意識下《むいしきか》の思念《しねん》に自我《じが》を食いつくされ、取り込まれていった犠牲者《ぎせいしゃ》の狂気《きょうき》が蒸着《じょうちゃく》したV.コンバータ、ないしはそれを装備《そうび》するVRが、おそらく、確実に生まれていた。通常、そのような欠陥《けっかん》が生じたものは早急《さっきゅう》に処分《しょぶん》されてしかるべきである。しかし、モラルを踏《ふ》み外《はず》した実験施設内《じっけんしせつない》にあっては、追跡調査《ついせきちょうさ》の名目《めいもく》で、これら欠陥試作《けっかんしさく》がそのまま保存されていた可能性が高い。なぜなら、廃絶後《はいぜつご》の0プラントから押収《おうしゅう》されたおびただしい量の内部資料《ないぶしりょう》の中には、そのような欠陥《けっかん》V.コンバータ等の内に、ある種の自意識《じいしき》、ないしは増幅《ぞうふく》された狂気《きょうき》が形成され、自律的《じりつてき》な行動をとる可能性を指摘《してき》しているものが複数点《ふくすうてん》、発見されているからだ。
想像《そうぞう》をたくましくすれば、シャドウとは、V.クリスタルに由来《ゆらい》するこのようなV.コンバータの構造的欠陥《こうぞうてきけっかん》による精神干渉効果《せいしんかんしょうこうか》が原因《げんいん》となって発生する狂気《きょうき》の意識体《いしきたい》、あるいはそれが駆動力《くどうりょく》となったVRのことなのかもしれない。
純粋《じゅんすい》な狂気は強大な力を持ちうる。過去、目撃されたシャドウのVRは、常に恐るべき破壊力《はかいりょく》を備《そな》えた脅威的存在《きょういてきそんざい》だった。
最も重大な問題は、かつてVRの商品化《しょうひんか》を企図《きと》してV.プロジェクトを押し進めたDN社が、このような潜在的危険性《せんざいてききけんせい》を知りながら、それを無視《むし》してV.コンバータの量産《りょうさん》に踏み切ったことである。0プラントの功罪《こうざい》について、その詳細が公《おおやけ》になるのはV.C.a0年のO.M.G.以降だったが、その頃にはすでにDN社自体が瓦解《がかい》しており、コンバータの構造的欠陥《こうぞうてきけっかん》はブラックボックス化してしまった。
推論《すいろん》が正しいと仮定《かてい》した場合、VRに装備されるV.コンバータの駆動効率《くどうこうりつ》の向上に努《つと》めれば、必然的《ひつぜんてき》にシャドウが発現《はつげん》する危険性《きけんせい》も高まる。V.C.a2年のRNA出現以降、限定戦争市場《げんていせんそうしじょう》において急速《きゅうそく》に需要《じゅよう》が増加《ぞうか》したVRではあったが、その実態《じったい》は、常に危険と隣《とな》り会《あ》わせだったのである。
エピソードで、ホワイト・フリートのパイロットであるインター・バスケス大尉が遭遇《そうぐう》した事件は、一連《いちれん》のシャドウ絡《から》みのものの中でも、かなり特異《とくい》な部類《ぶるい》に属《ぞく》する。通常、シャドウは、犠牲者《ぎせいしゃ》が搭乗《とうじょう》するVR、あるいは犠牲者に接続《せつぞく》されたV.コンバータにおいて発現《はつげん》するものと考えられている。しかし、今回の場合、もう一機のVR「GBH」の存在があり、バスケス大尉の搭乗《とうじょう》する試作機体《しさくきたい》は、シャドウが覚醒《かくせい》する際の、一種《いっしゅ》の触媒《しょくばい》(※1)としての役割《やくわり》を結果的《けっかてき》に果《は》たしたのかも知れない。
もちろん、このような事態《じたい》が偶然《ぐうぜん》の積《つ》み重《かさ》ねで起きるとは考えにくく、グリンプ技官《ぎかん》が困惑《こんわく》するのは、ある意味、無理からぬことである。シャドウの発現がV.コンバータの構造的欠陥《こうぞうてきけっかん》に起因《きいん》する物理的現象《ぶつりてきげんしょう》であったとしても、そのような事故を意図的《いとてき》に発生させようとする、何者《なにもの》かの意図《いと》を推測《すいそく》することは充分《じゅうぶん》に可能なのである。
※1
この問題については、マインド・ブースターの関与《かんよ》が可能性《かのうせい》として指摘《してき》されている。
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●GBH[ゲー・ベー・ハー]
RVR−15アファームドCC(チーフコマンダー)を母体《ぼたい》にしたであろうシャドウ機体《きたい》
※母体《ぼたい》はRVR−15アファームドCCである
■機体解説《きたいかいせつ》
後《のち》にGBH(ゲー・ベー・ハー)と呼《よ》ばれるようになるこの機体は、V.C.a0年代の地球圏《ちきゅうけん》にとって、大きな災厄《さいやく》を象徴《しょうちょう》する存在《そんざい》の一つである。本機が、ホワイト・フリートの厳密《げんみつ》な警戒網《けいかいもう》をかいくぐり、バスケス大尉が搭乗《とうじょう》する試作機体《しさくきたい》(VR−707)のテスト現場に潜伏《せんぷく》していた理由《りゆう》と手段《しゅだん》は、現在のところ明らかになっていない。しかし、今回の行動が、俗《ぞく》に「シャドウ」と呼ばれる謎《なぞ》の存在と何らかの関連《かんれん》があることは容易《ようい》に推測《すいそく》しうるものである。
GBHが、RNAの使用する|第ニ世代型《だいにせだいがた》VR、RVR−15アファームドCC(チーフコマンダー)を母体《ぼたい》にしていることは確かであるが、オリジナルとは趣《おもむき》を異《こと》にした外装仕様《がいそうしよう》になっている。RNAのVRは、出現当初《しゅつげんとうしょ》、その卓越《たくえつ》した機体性能《きたいせいのう》にものを言わせ、一連《いちれん》の限定戦争《げんていせんそう》において圧倒的《あっとうてき》な強さを誇《ほこ》った。しかし、豊富《ほうふ》な資源力《しげんりょく》を持つ第8プラント「フレッシュ・リフォー(FR−08)」のテコ入れによってDNA側が戦力《せんりょく》を立《た》て直《なお》してくると、徐々《じょじょ》に苦戦《くせん》を強《し》いられるようになってしまう。その際、戦力のマスバランスに関する彼我《ひが》の優劣差《ゆうれつさ》は明《あき》らかだったので、RNAの選択《せんたく》しうる最善《さいぜん》の対処法《たいしょほう》は、限られた保有機体《ほゆうきたい》の能力《のうりょく》アップに努《つと》めることだった。
RVR−15は、RVR−12アファームドCのアッパー・コンパチ機体である。本機の武装面《ぶそうめん》における最大の特徴《とくちょう》は、RVR−12では片腕装備《かたうでそうび》だったターミナス・マチェットを両腕装備《りょううでそうび》とした点である。また、指揮官機《しきかんき》であるRVR−12の後継機《こうけいき》として、情報処理能力等《じょうほうしょりのうりょくとう》の一層《いっそう》の強化《きょうか》が図《はか》られている。その結果、V.C.a3年以降|実用化《じつようか》された戦闘スコードロン(※1)による各種《かくしゅ》フォーメーション攻撃は、より効率的《こうりつてき》に機能するようになった。
なお、RVR−15が戦場《せんじょう》で頻繁《ひんぱん》にその姿を目撃《もくげき》されるようになるのは、V.C.a5年以降のことである。V.C.a3年の出来事《できごと》であるエピソードに登場するGBHは、推測するに、おそらく制式採用前《せいしきさいようまえ》の試作型《しさくがた》を基《もと》にしたのであろう。
※1
RNAのVR戦隊構成《せんたいこうせい》。RNAは、主要打撃力《しゅようだげきりょく》を複数種類《ふくすうしゅるい》のVRによって構成《こうせい》される組織力《そしきりょく》として捉《とら》えており、この点で単一機種《たんいつきしゅ》の集中使用《しゅうちゅうしよう》を旨《むね》とするDNAとは一線《いっせん》を画《かく》する。総《そう》じてRNAのVR|運用法《うんようほう》は、コンセプト的な起源《きげん》をO.M.G.以前のDNAに求めることは出来るが、具体化《ぐたいか》することはなかったため、古風《こふう》な運用法《うんようほう》から脱却《だっきゃく》しきれないDNAは各所《かくしょ》で押され気味だった。DNAが勝ちを拾ったのは、戦力差《せんりょくさ》が十分《じゅうぶん》に大きかった場合か、エース・パイロットによる超人的《ちょうじんてき》な活躍《かつやく》があった場合に限定《げんてい》されていた。
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●VR−004 テムジン(type 94)白虹騎士団専用機《びゃっこうきしだんせんようき》
白檀艦隊《びゃくだんかんたい》のVR−004からさらに、対シャドウ用の特殊装備《とくしゅそうび》を随所《ずいしょ》に施《ほどこ》され、高効率《こうこうりつ》V.コンバータでリバース・コンバートされた超級戦闘機体《ちょうきゅうせんとうきたい》。
■機体解説《きたいかいせつ》
挫折《ざせつ》した第一Vプロジェクト(※1)の残滓《ざんし》、0プラントが正規《せいき》に生み出した最後のプロダクツである戦闘VR二機種《2きしゅ》のうちの一つ(※2)。その後、DN社が企図《きと》した第二Vプロジェクトにおいて、基幹機種《きかんきしゅ》として量産《りょうさん》されたMBV−04のベース機体《きたい》であり、かつ、VC90年代にDNAによって制式採用《せいしきさいよう》された、いわゆる第一世代型《だい1せだいがた》VRの原型《げんけい》でもある。
ホワイト・フリートが主力機《しゅりょくき》として便用《びんよう》するVR−004は、量産《りょうさん》されたMBV−04と異《こと》なり、第一VプロジェクトでBBBユニット制御用《せいぎょよう》に定《さだ》められた規格《きかく》に基《もと》づく超高効率《ちょうこうこうりつ》Vコンバータを搭載《とうさい》している。そのため、戦闘VRとしてのポテンシャルは極《きわ》めて高い。VCa2年以降に出現《しゅつげん》し、限定戦争市場《げんていせんそうしじょう》を席巻《せっけん》したRNAの第二世代型《だい2せだいがた》VRといえども、本機とは比べるべくもない。さらに、ホワイト・フリートの最新鋭部隊《さいしんえいぶたい》である白虹騎士団《びゃっこうきしだん》が使用《しよう》するVR−004にいたっては、もとからの高性能《こうせいのう》に加えて、対シャドウ用の特殊装備《とくしゅそうび》を随所《ずいしょ》に施《ほどこ》された、まさに超級《ちょうきゅう》の戦闘機体《せんとうきたい》となっている。仮《かり》にこのようなVRが限定戦争《げんていせんそう》の戦場《せんじょう》に出現《しゅつげん》すれば、文字通《もじどお》り無敵《むてき》の強さを発揮《はっき》することは確実《かくじつ》である。だが、もちろん、本機《ほんき》はそのような目的《もくてき》のために開発《かいはつ》された商用機体《しょうようきたい》ではないので、そのようなことはあり得ない。
V.C.a3年|起点《きてん》、VR−004は、まだまだホワイト・フリートの、そして白虹騎士団《びゃっこうきしだん》の旗機《きき》として第一線《だいいっせん》で活躍《かつやく》していた。だが、バスケス大尉たちが所属する開発チームの尽力《じんりょく》によってVR−707が実用化《じつようか》されると、徐々《じょじょ》にその立場《たちば》を退《しりぞ》き、解体《かいたい》されてVコンバータのみが再利用《さいりよう》(※3)された。
※1
ムーンゲート内で発見《はっけん》されたOTプロダクツの遺物《いぶつ》であるBBBユニット復旧《ふっきゅう》を主目的《しゅもくてき》とした0プラント主導《しゅどう》のプロジェクトを、後にアンべルIVが統括《とうかつ》したVR販売計画《はんばいけいかく》と区別《くべつ》するため、第一Vプロジェクトと表記《ひょうき》することがある。この場合、後者《こうしゃ》の販売計画《はんばいけいかく》は、第二Vプロジェクトと表記《ひょうき》される。
※2
残るもう一つの機種《きしゅ》はライデンである。
※3
リサイクルされたVコンバータによって、VR−707が作られたのである。
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●VR−707 テムジン(type a3)
VR−004と同じく白虹騎士団仕様《びゃっこうきしだんしよう》の最新型《さいしんがた》テムジン。インター・バスケス大尉が専属《せんぞく》で搭乗《とうじょう》する。
■機体解説《きたいかいせつ》
地球圏最強《ちきゅうけんさいきょう》のVR。バスケス大尉の白虹騎士団入団《びゃっこうきしだんにゅうだん》に伴《ともな》い、彼の専用機体《せんようきたい》として急遽開発《きゅうきょかいはつ》、製作《せいさく》されたVR−707の騎士団仕様第一号機《きしだんしようだい1ごうき》。シャドウの精神浸食《せいしんしんしょく》を受けた試作二号機《しさく2ごうき》のV.コンバータは廃棄《はいき》され、第一Vプロジェクト規格《きかく》に準拠《じゅんきょ》する超高効率《ちょうこうこうりつ》タイプによってリバース・コンバートされた最新型《さいしんがた》である。当然《とうぜん》のことながら、後にホワイト・フリートによって制式採用《せいしきさいよう》されたVR−707と比較《ひかく》すると、桁違《けたちが》いの戦闘力《せんとうりょく》を有《ゆう》する。
白虹騎士団《びゃっこうきしだん》が使用する機体は、バスケス大尉のシャドウ遭遇《そうぐう》によってもたらされた戦訓《せんくん》を生《い》かし、精神侵食《せいしんしんしょく》に対する防御力《ぼうぎょりょく》を強化《きょうか》するためのプロテクターが頭部《とうぶ》に装着《そうちゃく》されている。この結果《けっか》、対シャドウ戦において、確実《かくじつ》に高い戦闘力《せんとうりょく》を発揮《はっき》することができるようになった。
また、マインド・ブースターの不用意《ふようい》な運用《うんよう》がシャドウ召還《しょうかん》の触媒効果《しょくばいこうか》を発生《はっせい》させることが判明《はんめい》したため、種々《しゅじゅ》の防護措置《ぼうごそち》が講《こう》じられている(※1)。この目的《もくてき》のためにブースターに装着《そうちゃく》された増加《ぞうか》パーツは、開発者《かいはつしゃ》の名前《なまえ》を冠《かん》して「グリンプ・スタピライザー」と呼称《こしょう》される。
なお、V.C.a3年時点では、後に主力武装《しゅりょくぶそう》となる「スライプナー」は完成《かんせい》しておらず、「レディオ・スプライト」と対《つい》を成《な》して機能《きのう》するフレキシブル・ランチャ―「リキッド・ディクティター」が装備《そうび》されている。
※1
この教訓《きょうくん》に基《もと》づき、DNAが使用《しよう》するMBV−707のマインド・ブースターには最初《さいしょ》からリミッターが課《か》せられた。しかし、V.C.a4年から始まった未曾有《みぞう》の大戦役《だいせんえき》「オラトリオ・タングラム」においては、よりパイロットの安全性《あんぜんせい》を考慮《こうりょ》したOSであるM.S.B.S.ver.5シリーズの実装《じっそう》がVRに対して義務化《ぎむか》されたが、より強大《きょうだい》な戦闘力《せんとうりょく》を確保《かくほ》しようとしてシステムのリミッターを解除《かいじょ》、ないしは上方《じょうほう》にシフトする者は後を絶《た》たず、痛《いた》ましくも愚《おろ》かしい事故《じこ》は後《あと》を絶《た》つことがなかった。
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●白虹騎士団(ホワイト・ナイツ)
■解説《かいせつ》
■白虹《びゃっこう》の騎士《きし》
0プラントが残した負《ふ》の遺産《いさん》、シャドウ。バーチャロン・ポジティブ値の極《きわ》めて高《たか》い被験者《ひけんしゃ》を、M.S.B.S.を介《かい》してV.コンバータと接続《せつぞく》すると、ある種《たね》の条件《じょうけん》が複合《ふくごう》した場合、異常《いじょう》なまでにコンバータの活性値《かっせいち》が上昇《じょうしょう》する。このとき、俗《ぞく》にシャドウと呼ばれる、危険《きけん》な負《ふ》の精神体《せいしんたい》が現出《げんしゅつ》する。過去、シャドウによってもたらされた数々の惨禍《さんか》は、その深刻さにも関わらず、原因や対応法《たいおうほう》が定《さだ》かでないために野放《のばな》しにされてきた(※1)。
OMG後に地球圏を掌握《しょうあく》した第8プラント「フレッシュ・リフォー」は、この事態《じたい》を重く見た。総帥《そうすい》であるトリストラム・リフォーは、みだりにシャドウが発生《はっせい》することを憂《うれ》い、DN社がひた隠《かく》しにしてきたV.コンバータ周《まわ》りの欠陥《けっかん》を知っていたがゆえに、VR開発禁令《かいはつきんれい》(※2)を布告《ふこく》した。また、同時に、自らが出資《しゅっし》してシャドウ邀撃《ようげき》を目的とする地球圏最強《ちきゅうけんさいきょう》の軍事組織《ぐんじそしき》を創設《そうせつ》した。これが、第八艦隊《だい8かんたい》を母体《ぼたい》とするホワイト・フリートなのである。
ホワイト・フリートに所属《しょぞく》する白虹騎士団《びゃっこうきしだん》(※3)は、対シャドウ戦の切《き》り札的存在《ふだてきそんざい》として編成《へんせい》された最精鋭部隊《さいせいえいぶたい》である。その目的の特殊性《とくしゅせい》ゆえ、活動内容《かつどうないよう》や規模《きぼ》の詳細《しょうさい》は明《あき》らかにされていないものの、最新鋭《さいしんえい》の装備《そうび》と最優秀《さいゆうしゅう》の人材《じんざい》、高額《こうがく》の予算《よさん》が惜《お》しみなく注《そそ》ぎ込《こ》まれていることは確実《かくじつ》である。特にVRパイロットについては、恐るべき負のパワーを発揮するシャドウ・あるいはシャドウが憑依《ひょうい》するVRとの戦闘が危険《きけん》を極《きわ》めるため、地球圏《ちきゅうけん》においても選《よ》りすぐりの人材で固められた。彼らの力量《りきりょう》は、限定戦争《げんていせんそう》で戦闘業務《せんとうぎょうむ》に従事《じゅうじ》するDNAのパイロットなどとは比べものにならない超人的《ちょうじんてき》なレべルに達《たっ》している。
騎士団筆頭《きしだんひっとう》は、その数々の偉業《いぎょう》によって生《い》ける伝説《でんせつ》となったレオ二ード・マシン卿《きょう》。そして、騎士団全体《きしだんぜんたい》を統括《とうかつ》する団長職《だんちょうしょく》は、プラジナー博士の忘《わす》れ形見《がたみ》にして十四歳(※4)の天才少女、リリン・プラジナーが務《つと》めた。
二人の緊密《きんみつ》なチームワークによって、騎士団《きしだん》の運営《うんえい》は円滑《えんかつ》に進められ、組織内《そしきない》の結束《けっそく》も非常に高い。
しかし、彼らの恵《めぐみ》まれた待遇《たいぐう》と、任務《にんむ》の特殊性《とくしゅせい》から生じる隠密行動《おんみつこうどう》の多さは、それを妬《ねた》み、あるいは疎《うと》む敵を生み出す要因《よういん》ともなった。それは、創設《そうせつ》に尽力《じんりょく》したフレッシュ・リフォー内においても例外ではない(※5)。詳細について触《ふ》れることはできなかったが、本エピソードで取り扱われたバスケスの事件についても、陰謀的要素《いんぼうてきようそ》が皆無《かいむ》とはいえない。さらに、今回の一件が、V.C.a4年のトリストラム・リフォー暗殺事件《あんさつじけん》を引き起こす遠因《えんいん》となったと見る向きも多い。
※1
第一Vプロジェクトの際に引き起こされたBBBユニット起動実験《きどうじっけん》の失敗《しっぱい》についても、シャドウが関与《かんよ》した可能性が指摘《してき》されている。
※2
禁令《きんれい》は、その意図《いと》を明らかにすることなく、VR開発《かいはつ》プラントに対して一方的に通達《つうたつ》された。これは、フレッシュ・リフオーに対する、|諸プラント《しょぷらんと》の反感《はんかん》を醸成《じょうせい》する要因《よういん》となった。
※3
俗《ぞく》にホワイト・ナイツとも呼称《こしょう》される。
※4
V.C.a3年時点での年齢《ねんれい》である。
※5
そもそも、フレッシュ・リフォー自体が、一枚岩《いちまいいわ》の組織《そしき》とはお世辞《せじ》にも言い難《かた》かった。例えば、VR開発禁令《かいはつきんれい》が布告《ふこく》された後になっても、限定戦争《げんていせんそう》において目先《めさき》の利益《りえき》を得ようと画策《かくさく》する者が存在していた。彼らは、機会《きかい》を見てはトリストラム・リフォーに取り入り、自らの利権《りけん》を確保《かくほ》しようとしていたのである。
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White Freet VCa3 #01 湖畔にて
白のVRが舞《ま》い降《お》りた。淀《よど》み無《な》い動作で膝《ひざ》をつき、湖《みずうみ》の岸辺《きしべ》に待機姿勢《たいきしせい》をとる。それまで周囲《しゅうい》を圧《あつ》して響《ひび》きわたっていた激《はげ》しい駆動音《くどうおん》がやみ、柔《やわ》らかな陽光《ようこう》は、湖面《こめん》の照《て》り返《かえ》しを巨大《きょだい》な機体《きたい》の表面《ひょうめん》にゆらめかせていた。
早春《そうしゅん》である。高原《こうげん》の湖《みずうみ》のほとりには静けさが戻り、穏《おだ》やかな風は新緑《しんりょく》の香りを運んでくる。
「いい機体《きたい》になった…」
コクピットの中で、インター・バスケス大尉《たいい》はつぶやいた。
正直《しょうじき》、どうなることかと思っていた。VR開発《かいはつ》についてはなんの実績《じっせき》もない第7プラント「リファレンス・ポイント」が手がけることになった新型機体《しんがたきたい》。最初にホワイト・フリートが受領《じゅりょう》した試作一号機《しさく1ごうき》は、有《あ》り体《てい》に言ってお粗末《そまつ》な欠陥機《けっかんき》だった。トラブルの原因究明《げんいんきゅうめい》は滞《とどこお》りがちで、スケジュールの遅延《ちえん》は常態化《じょうたいか》していく。テスト・パイロットとして本隊《ほんたい》から赴任《ふにん》してきたバスケスにとって、心穏《こころおだ》やかならぬ日々が続いていた。ようやく到着《とうちゃく》した試作二号機《しさく2ごうき》を用いた今日のテスト騎行《きぎょう》は、ある意味、正念場《しょうねんば》だったのである。
「…ありがたいことです。」
サブ・モニター上にウィンドウが開き、エドガー・グリンプの顔が現《あらわ》れた。リファレンス・ポイントからやって来た痩《や》せぎすの技官《ぎかん》の表情《ひょうじょう》は、安堵《あんど》に緩《ゆる》んでいる。
「ホワイト・フリートのパイロットにお墨付《すみつ》きをいただくことができれば、XVR/RP−07/07[この機体《きたい》]の将来《しょうらい》は保証《ほしょう》されたようなものです。今後の作業の励《はげ》みにもなりますし、スケジュール的には押しておりますが、大変申《たいへんもう》し訳《わけ》ないと猛省《もうせい》しておるのですが、それでも、この調子《ちょうし》で行けばなんとかなるのではないかと思っておりますし、また実際《じっさい》、今まで山積《さんせき》していた問題《もんだい》もようやく目途《めど》が立ってきておりますし…」
「安心《あんしん》するのは、まだ早い」バスケス大尉は、相手の言葉を遮《さえぎ》った。「この機体は、まだ規定《きてい》のテスト・メニューの1/4もこなしていないんだぞ」
「もちろん、もちろん」グリンプの顔はたちまち青ざめ、いつも通りになった。「私ども、事態《じたい》は深刻《しんこく》に受け止めております。今までの経緯《けいい》もありますし、皆さんには散々御迷惑《さんざんごめいわく》をおかけしてまいりましたし…」
バスケスは、技官《ぎかん》との通話《つうわ》を一方的《いっぽうてき》に打《う》ち切《き》った。あの男の長広舌《ちょうこうぜつ》には付き合いきれない。彼は、新型VRのテストに集中《しゅうちゅう》したかった。
「ボルサー、聞こえるか?」
「気を付けてくれ、大尉《たいい》。君の機体の足元《あしもと》にいる」
メイン・モニターの右上《みぎうえ》にウィンドウが開いた。
そこには、いつもと変わらぬ相棒《あいぼう》の顔があった。
「調子《ちょうし》は良さそうだな」
「今のところは」バスケスは微笑《ほほえ》んだ。「グリンプにはすげない言い方をしてしまったが、実のところ、私も今回は期待《きたい》しているんだ。思ったよりも、ずっといい」
「君がそこまで言うなら、ヤツでなくとも心強《こころづよ》さを感じるな」
ホワイト・フリート整備廠士官でもあるボルサー中尉《ちゅうい》は、屈託《くったく》のない笑顔《えがお》をみせた。しかし、すぐに表情《ひょうじょう》がかたくなる。
「母艦《ぼかん》の方から妙《みょう》な問《と》い合《あ》わせがあった」
「妙な問い合わせ?」
「テスト機の頭数《あたまかず》についてだ。向こうは、このエリアには二機が搬入《はんにゅう》されているはずだ、と主張《しゅちょう》している」
「…? 見れば分かるはずだ。我々《われわれ》の手元《てもと》には一機しかない」
「俺もそう思ったので、そう返事《へんじ》をした。だが、向こうは納得《なっとく》していない」
「グリンプはなんと言っている?」
「一機だけだそうだ。最低限《さいていげん》の交換《こうかん》パーツは持ってきているようだが。やっこさん、自《みずか》らの潔白《けっぱく》を半泣《はんな》きで訴《うった》えていた」
バスケス大尉は苦笑《くしょう》した。
「例によって、連絡《れんらく》の行き違いじゃないのか?不心得者《ふこころえもの》が、偽情報《にせじょうほう》を紛《まぎ》れ込《こ》ませたとも思えないし。フレッシュ・リフォーの直轄部隊《ちょっかつぶたい》である我がホワイト・フリートを出しぬこうと考える愚《おろ》か者《もの》など、そうそういるはずはないからね」
「確《たし》かに。」ボルサーも相槌《あいづち》をうった。「それこそ、影[シャドウ]でもない限り」
バスケスは顔をしかめた。それ[シャドウ]が同僚《どうりょう》の軽口《かるくち》であると頭では分かっていても、忌《い》むべき言葉《ことば》であることにかわりはなかったからである。
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White Freet VCa3 #02 影《かげ》の覚醒《かくせい》
ホワイト・フリートのVRパイロット、インター・バスケスは、新たに受領《じゅりょう》した試作機体《しさくきたい》テムジン試作二号機《しさく2ごうき》(XVR/RP−07/07)に確《たし》かな手ごたえを感じていた。だがその一方で、本隊《ほんたい》からの奇妙《きみょう》な問《と》い合《あ》わせは、彼を当惑《とうわく》させる。
湖底《こてい》に潜《ひそ》む漆黒《しっこく》の機体《きたい》、
それまで微動《びどう》だにしなかった巨躯《きょく》に変化《へんか》の兆《きざ》し
…目覚《めざめ》めたのはいつ、気《き》がついたときはもうここに、ここはどこ、コクピット、そして知っている、初めてみる眼前《がんぜん》の計器《けいき》、モニター、表示《ひょうじ》される情報内容《じょうほうないよう》、インターフェース、なにをどうすればどうなるか、なぜ、どうして、理由《りゆう》は無意味《むいみ》で、とにかく知っている、目の前にスイッチ、入力《にゅうりょく》するのは条件反射《じょうけんはんしゃ》、メイン・コンソールに火《ひ》が入《はい》り、点滅《てんめつ》する各種《かくしゅ》インジケーター、輝《かがや》き出《だ》すモニター群《ぐん》、堰《せき》を切《せつ》ったようになだれ込《こ》んでくる雑多《ざった》な情報《じょうほう》、オールグリーン、トラブル皆無《かいむ》、にやり、満足《まんぞく》げな表情《ひょうじょう》、周囲《しゅうい》を取り巻く各種《かくしゅ》ハーネス、各所《かくしょ》で接続開始《せつぞくかいし》、巨大《きょだい》な構造体《こうぞうたい》の一部《いちぶ》となる自覚《じかく》、操縦桿《そうじゅうかん》、ラダーペダル、動作正常《どうさせいじょう》、矢継《やつ》ぎ早《ばや》の変化《へんか》や刺激《しげき》、流されて錯乱気味《さくらんぎみ》、それでいてようやく自問自答《じもんじとう》、目覚《めざめ》めたのはいつ、気がついたときはもうここに…
湖底《こてい》に潜《ひそ》む漆黒《しっこく》の機体《きたい》、
おもむろにその身《み》を起《おこし》こし
…円環[ループ]を脱《だっ》し、一つの名前《なまえ》、間断《かんだん》なく反響《はんきょう》、インター・バスケス、それは何者《なにもの》、自分《じぶん》のこと、おぼろげなイメージ、はるか上方《じょうほう》の湖岸《こがん》、陽光《ようこう》を浴《あ》びて輝《かがや》くインター・バスケス、あれは何者《なにもの》、じつは自分、それならなぜ、今だけやつがそうなのか、本当《ほんとう》はやつがそうで自分は違うのか、自分もやつも自分とやつをよく知っている、よく知っていた、もとは同じなのか、自分とやつは、いやそれよりも、そんなとってつけたような自問自答《じもんじとう》よりも、単なる錯乱《さくらん》ゆえの脈絡《みゃくらく》のないアウトプットよりも、それとも薄々《うすうす》は気づいている自己欺瞞《じこぎまん》よりも、そもそも、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は、自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は自分は…
湖底《こてい》に潜《ひそ》む漆黒《しっこく》の機体《きたい》、
諸手《もろて》に大振《おおぶ》りの実剣《じつけん》をにぎりしめ
徐々《じょじょ》に研《と》ぎすまされていく認識《にんしき》、それは無惨《むざん》な、無様《ぶざま》な、仮借《かしゃく》なき自覚《じかく》、水圧《すいあつ》に歪《ゆが》む冷暗《れいあん》の湖底《こてい》、意識下《いしきか》の暗黒《あんこく》、漆黒《しっこく》の闇《やみ》に潜《ひそ》む虚無《きょむ》への誘《さそ》い、ひそやかに目覚《めざ》め、やがて狂《くる》おしいまでに漲《みなぎ》る力、わき上がる憎悪《ぞうお》、衝《つ》き上《あ》げる殺意《さつい》、破壊《はかい》を求め、悲嘆《ひたん》を求め、そんなことを思いつつも、自分の駆《か》る機体《きたい》、自分となる機体、両腕《りょううで》に実剣《じつけん》を握《にぎ》りしめ、すでに戦闘態勢《せんとうたいせい》、まんざらじゃない、次《つぎ》に打《う》つべき手は知っている、まったく問題《もんだい》ない、ノイズの奔流《ほんりゅう》に身《み》を委《ゆだ》ねれば、混濁《こんだく》する実存《じつぞん》に終止符《しゅうしふ》を打つ殺戮《さつりく》と破壊《はかい》の意志《いし》が、それが唯一《ゆいいつ》の救いだとでもいうのか、それさえも闇の中に霧散《むさん》していく影だとでもいうのか、いま、自分は奔流《ほんりゅう》と化し、仮《かり》の身《み》を駆《か》り立《た》て、湖上《こじょう》へと、光溢《ひかりあふ》れるところへと、終末《しゅうまつ》を夢見《ゆめみ》て。
湖底《こてい》に潜《ひそ》む漆黒《しっこく》の機体、
今、まさに湖上《こじょう》へ出ようと身をかがめ
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White Freet VCa3 #03 フル・コンタクト
ホワイト・フリートのVRパイロット、インター・バスケスが、新《あら》たに受領《じゅりょう》した試作機体《しさくきたい》テムジン試作二号機《しさく2ごうき》(XVR/RP−07/07)に確かな手ごたえを感じていた頃、湖底《こてい》では謎の漆黒《しっこく》の機体が無気味《ぶきみ》な胎動《たいどう》をはじめていた。
前触《まえぶ》れも無く穏《おだ》やかな春の日差《ひざ》しは暗転《あんてん》し、湖畔《こはん》を闇黒《あんこく》が支配《しはい》した。不穏《ふおん》な幽暗《ゆうあん》であった。湖水《こすい》はこれまでの清澄《せいちょう》な輝《かがや》きを失って粘度《ねんど》の高い廃液《はいえき》の態《たい》をなし、細波《さざなみ》は重苦《おもくる》しい静寂《せいじゃく》に屈《くっ》するかのようになりを潜《ひそ》めた。
不気味《ぶきみ》な静《しず》けさの中、湖《みずうみ》の中央部《ちゅうおうぶ》、その水面《みなも》に影が湧《わ》き上《あ》がり、形の定《さだ》まらぬまま急速《きゅうそく》に湖岸《こがん》へと近付《ちかづ》いてきた。なにと思う間もなくそれは水面下《すいめんか》から上半身《じょうはんしん》をあらわにし、禍々《まがまが》しく朱《しゅ》でふちどられた漆黒《しっこく》の巨大《きょだい》な機体《きたい》は、全身からしたたり落ちる水もそのままに、音もなく湖岸《こがん》に立ち、周囲《しゅうい》にあってその一部始終《いちぶしじゅう》を目にしていた者達は、しばし言葉を失った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…シャドウ…」
「なんだって?」
ボルサー中尉は、傍《かたわ》らで呆然《ぼうぜん》と呟《つぶや》くグリンプ技官の言葉に耳《みみ》を疑《うたが》った。
「認証《にんしょう》コード、皆無《かいむ》。そして、Vコンバータから発《はっ》せられる、この固有周波《こゆうしゅうは》…。間違《まちが》いありません、あれはシャドウです。純然《じゅんぜん》たる、シャドウ属性《ぞくせい》を持った機体です」
「なんてこった…!」
ボルサーはバスケス機と対峙する黒の機体をあらためて凝視《ぎょうし》した。それまで噂《うわさ》にしか聞いたことのなかったシャドウ。強烈《きょうれつ》な存在感《そんざいかん》だった。
「…あれが、母艦《ぼかん》から問い合わせのあった二機目《2きめ》の機体、ということなのか?」
「そっ、そんな馬鹿《ばか》なっ…」グリンプの顎《あご》は激《はげ》しく震《ふる》え、上下《じょうげ》の歯がかち合った。「か、仮にそうだとしても、い、一体、誰が?何の目的で?こ、こんなことが、人為的《じんいてき》に引き起こされるはずはありませんし、引き起こされて良いはずもありませんし、そ、そもそも…」
だが、技官の言葉はすでにボルサーの耳に入っていなかった。彼は暗澹《あんたん》たる気持ちだった。事もあろうに、バスケス大尉はシャドウに見込《みこ》まれてしまった。もはや、成《な》り行《ゆ》きを見守《みまも》る以外に手《て》の施《ほどこ》しようはない。シャドウの影響下《えいきょうか》にあるVコンバータに不用意《ふようい》に近付《ちかづ》けば、一般人の精神《せいしん》などひとたまりもない。あっさりと取《と》り込《こ》まれてしまう。しかし、ホワイト・フリート生《は》え抜《ぬ》きのパイロットであっても、シャドウに遭遇《そうぐう》して無事《ぶじ》に切り抜けられる確立《かくりつ》など皆無《かいむ》に等《ひと》しいのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バスケスは闇《やみ》の中《なか》にいた。頭部《とうぶ》を中心《ちゅうしん》に密集配置《みっしゅうはいち》された各種《かくしゅ》ディスプレイやインターフェイス群《ぐん》は、すでに彼の眼前《がんぜん》に無く、なんの情報《じょうほう》も得ることができなかった。そしてコクピット内にいるはずの自分の体は、身動《みうご》きしようにも金縛《かなしば》りにあったようになって、いうことをきかない。視線《しせん》を落とすと、足元《あしもと》には踏《ふ》みしめるべき何ものも無く、はるか奥底《おくそこ》からは得体《えたい》の知れないものが湧《わ》きだしてきていた。悪寒《おかん》が全身をつき抜《ぬ》ける。それは闇《やみ》よりも暗《くら》くどろりとした、実体《じったい》の無い影のようなもので、次第《しだい》に彼の眼前《がんぜん》にせり上がってきた。
「…インター・バスケス…」
影は囁《ささや》きかけた。口のない口で、声にならない声で、バスケスに向かって語《かた》りかけてくる。
「…おまえがインター・バスケス?…なぜ、自分がバスケス?…なぜ、自分がそれを名乗《なの》る?…今、自分がインター・バスケス…おまえの奥底《おくそこ》に眠《ねむ》る、おまえが拠《よ》って立つ真のバスケス…」
気がつくと影はコクピット内に充満《じゅうまん》し、バスケスの周囲《しゅうい》を押し包んでいた。そして、見る間に実体《じったい》を帯《お》びたものへと変成《へんせい》し、だが、それはバスケスにとって受《う》け容《い》れがたいものだった。影は、次第《しだい》にバスケス自身《じしん》へと、今、恐怖《きょうふ》に怯《おび》える彼自身《かれじしん》へと、だが、やがて真のバスケスへと、より確かなバスケスへと、かつて真だったバスケスを前にして偽のバスケスが、虚《うつ》ろな瞳《ひとみ》に狂気《きょうき》の色《いろ》をたたえ、手を伸《の》ばし、そして…
「やめろぉぉっ!!」
バスケスの理性《りせい》はすんでの所で踏《ふ》みとどまった。あらん限《かぎ》りの意志《いし》を奮《ふる》い起《お》こして思うに任《まか》せぬ体を叱咤激励《しったげきれい》し、迫《せま》り来《く》る幻影《げんえい》を振《ふ》り払《はら》おうとあがく。不快《ふかい》なノイズが耳をつんざき、その直後《ちょくご》、周囲《しゅうい》の闇が晴《は》れた。
「!」
メイン・モニターには、迫り来る黒の機体の姿があった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最初の一撃《いちげき》は一方的《いっぽうてき》だった。
敵機は瞬時《しゅんじ》に間合《まあ》いを詰《つ》め、両腕《りょううで》の実剣《じつけん》を撃《う》ち込《こ》んでくる。必死《ひっし》の回避運動《かいひうんどう》も及《およ》ばず、バスケス機の右腕部付《みぎうでぶつ》け根《ね》を切《き》っ先《さき》がかすめた。試作機《しさくき》の装甲《そうこう》は脆《もろ》く、たちまち右腕は使用できなくなった。恐るべき破壊力《はかいりょく》である。
「こいつは…!」
間髪《かんはつ》を入れず、敵の二度目《にどめ》の撃《う》ち込《こ》み。バスケスはその方向を予期《よき》し、受け流すように後方に飛びさりながら機体の左側面《ひだりそくめん》を相対《そうたい》させる。しかし、すでに相手の実剣《じつけん》は眼前《がんぜん》にあった。
「やられるか…!?」
とっさにバスケス機がかざした左腕《ひだりうで》の防楯《ぼうじん》に、敵刃《てきば》はまともに食い込んだ。
刹那《せつな》、目もくらむばかりの白光《はっこう》が発《はつ》された。肉迫《にくはく》するシャドウのVRはたじろぎ、その手を引っ込めた。バスケスは無我夢中《むがむちゅう》だった。彼の手は、なにものかに導《みちび》かれるようにコンソール上を素早《すばや》く動き回り、機体の各種制御設定《かくしゅせいぎょせってい》を切《き》り替《か》えていく。すると、VOP値は、パイロットとVRを接続《せつぞく》するMSBSの規定閾値《きていいきち》を瞬時《しゅんじ》に超過《ちょうか》し、機体背部《きたいはいぶ》に装着《そうちゃく》されたマインド・ブースターが、激《はげ》しい自律放熱反応《じりつほうねつはんのう》を伴《ともな》いながらすべてのバインダーを展開《てんかい》した。たちまち、機体全体《きたいぜんたい》をまばゆい光が包む。光はコクピット内にも浸透《しんとう》し、バスケスは灼熱《しゃくねつ》に焼《や》かれるような痛《いた》みを感じた。
意識《いしき》が薄《うす》れていく…
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White Freet VCa3 #04 白虹《びゃっこう》の騎士《きし》
ホワイト・フリートのVRパイロット、インター・バスケス大尉は、試作機体《しさくきたい》のテスト騎行中《きぎょうちゅう》に漆黒《しっこく》のVRと遭遇《そうぐう》した。敵が繰《く》り出《だ》す異質《いしつ》な攻撃は、彼の精神《せいしん》を直撃《ちょくげき》し、危機《きき》に追《お》い込《こ》む。やがて引き起こされたマインド・ブースターのオーバードライブによって戦いの最中《さいちゅう》にバスケスは意識《いしき》を失《うしな》ってしまう。
目覚《めざ》めたとき、バスケスは、その身を生命維持装置《せいめいいじそうち》にがんじがらめにされ、集中医療室《しゅうちゅういりょうしつ》のベッドに固定《こてい》されていた。部屋《へや》は白《しろ》で統一《とういつ》され、飾《かざ》り気《け》もなく、一人用《ひとりよう》とは思えないほどに広かった。採光性《さいこうせい》が充分《じゅうぶん》に吟味《ぎんみ》された大きな窓からは、やわらかな陽光《ようこう》がさしこみ、室内《しつない》は、静穏《せいおん》な明るさと暖かさに満《み》ちていた。
宙《ちゅう》を見つめ、深くゆっくりとした呼吸《こきゅう》を保《たも》つことに努《つと》めながら、こうしてここに自分がいることになった経緯《けいい》について、バスケスは記憶《きおく》を辿《たど》ろうとした。しかし、どんなに努力《どりょく》しても、試作機《しさくき》のコクピット内で灼熱《しゃくねつ》の白光《はっこう》に包まれてから後のことが思い出せない。もどかしさに焦《あせ》り、あがけばあがくほどに思いは乱《みだ》れた。
衰弱《すいじゃく》した身は、長時間《ちょうじかん》の思考《しこう》を支《ささ》えきれない。悩《なや》み疲れ、夢うつつをさまよい始めたバスケスの傍《かたわ》らで声がした。
「具合《ぐあい》はいかがかな?」
見ると、それまで彼だけと思われた部屋の中に、一人の老人《ろうじん》がたたずんでいる。白のマントに身を包んだ小柄《こがら》な姿に威圧感《いあつかん》はなく、眼差《まなざ》しは穏《おだ》やかだった。しかし、常人《じょうじん》とは一線《いっせん》を画《かく》する不思議《ふしぎ》な存在感《そんざいかん》があった。
「あなたは…?」
「わしの名は、レオニード・マシン」
「!」
バスケスは慌《あわ》てて身を起こそうともがき、直後、苦痛《くつう》に呻《うめ》いた。
「無理《むり》はしないように」老人は、表情《ひょうじょう》をやわらげた。「まだ完全《かんぜん》に癒《い》えたわけではないのだぞ、そなたの傷は」
「っ、しかし…」
レオニード・マシン。その名は、VRパイロットであれば知らぬ者はいない。VC8f年、第一回BBBユニット起動実験《きどうじっけん》によって引き起こされた、忌《い》むべき大惨事《だいさんじ》。多くの人材《じんざい》がCISへと飲《の》み込《こ》まれ、二度と戻ってこなかったあの時、奇跡《きせき》の生還《せいかん》を果《は》たした唯一《ゆいいつ》のオリジナルVRパイロットが、彼だった。その後、数々の偉業《いぎょう》を成《な》し遂《と》げ、今はホワイト・フリート直属《ちょくぞく》の白虹[びゃっこう]騎士団筆頭《きしだんひっとう》を務《つと》める、フレッシュ・リフォーの至宝《しほう》。そんな伝説的人物《でんせつてきじんぶつ》を前にして、緊張《きんちょう》するなという方が、どだい無理《むり》な話だった。
「…マシン卿《きょう》」バスケスは、萎縮《いしゅく》する心を奮《ふる》い立《た》てるようにして、声を絞《しぼ》り出した。「わたしには、わからないのです。…あの黒いVR…そして我が身を包んだ白熱《はくねつ》の光…。いったい、何がどうして…」
老人は静かに手を上げ、バスケスを制《せい》した。
「そなたは、影[シャドウ]を見たのだ」
「…!」
バスケスは蒼白《そうはく》となり、無意識《むいしき》のうちに拳《こぶし》を握《にぎ》りしめた。
「だが、安心するがよい」
マシンは一息《ひといき》つき、また話し始めた。
「そなたは傷つき、影[シャドウ]は退《しりぞ》いた。ひとまず、ここは安全《あんぜん》だ。実際《じっさい》、見事《みごと》なものだった。いまだかつて、ああいった形で影[シャドウ]と見え、生還《せいかん》した人間はいなかった。多くの強者達《きょうしゃたち》が、精神[こころ]を蝕《むしば》まれ、取り込まれていってしまった」
「…わたし一人の力ではありません」
影[シャドウ]に追《お》い詰《つ》められたあの時、我知《われし》らずマインド・ブースターをオーバードライブさせていた。だが、九死《きゅうし》に一生《いっしょう》を得た土壇場《どたんば》での行動は、自分の判断《はんだん》によるものとは思えなかった。無我夢中《むがむちゅう》ではあったが、バスケスは他者《たしゃ》の意志《いし》の関与《かんよ》を感じていたのである。漠然《ばくぜん》とした疑問《ぎもん》は、老人と対面《たいめん》した時に氷解《ひょうかい》した。
「あの時、わたしはあなたの存在を感じました。あなたのお力添《ちからぞ》えがなければ、あのような局面《きょくめん》で適切《てきせつ》な行動ができたとは思えません」
「そなたの力があればこそ」老人は、物静《ものしず》かに言葉を継《つ》いだ。「間一髪《かんいっぱつ》だったのだ。わしとしたことが、気づくのが遅れてな。詫《わ》びておきたい」
バスケスは恐縮《きょうしゅく》した。しかし、心の中に沈積《ちんせき》した恐怖心《きょうふしん》を払拭《ふっしょく》することはできなかった。
「卿よ、わたしは恐ろしい。わたしは、あれが遥《はる》かな深遠《しんえん》、奥深《おくふか》い闇の底から生まれ出てくるさまを見たのです。そして、わたしは、あれに抗《こう》する術《すべ》を知りませんでした。影[シャドウ]が我が身を蝕《むしば》むさなか、わたしは身動《みうご》きさえもままならず、恐怖《きょうふ》と絶望《ぜつぼう》に囚《とら》われ、狂気《きょうき》の淵《ふち》に立たされていました。再びあれが現れれば、わたしは確実《かくじつ》に敗《やぶ》れ去《さ》るでしょう…」
マシンはバスケスの言葉に耳を傾《かたむ》け、それが途切《とぎ》れた後も、なおしばらく黙《だま》っていた。再び彼が口を開いた時、その口調《くちょう》には、今までとは違う控《ひか》えめな熱《ねつ》っぽさがあった。
「恐《おそ》れを知り、弱《よわ》さを知るものよ。恐らく地上にいる誰一人《だれひとり》として、影[シャドウ]について確《かく》たることを知る者などいない。その存在が明らかになって以来、あれは、さまざまな災禍《さいか》を我々に対してなしてきたというのに。無力《むりょく》なのは、なにもそなただけではない」
「…」
「バスケス、そなたは闇《やみ》の深遠《しんえん》へと至《いた》る道の扉を開けてしまった。もちろん望《のぞ》んだことではないかもしれぬ。しかし、今後、影[シャドウ]はそなたを標的《ひょうてき》と定《さだ》めてつかず離《はな》れずつきまとい、隙《すき》あらば亡《な》き者《もの》にしようと、事あるごとに災《わざわ》いをもたらす。これは不可避《ふかひ》の運命だ。もはや、そなたが選べる道は二つに一つ、すなわち影[シャドウ]の好餌《こうじ》となるか、あるいは、自らの力で影[シャドウ]を抹殺《まっさつ》するか。このいずれか以外にありえない」
「…わたしには、自信がありません」
「そなたには、力がある」
「あなたの助けがなければ、あの窮地《きゅうち》を脱することも叶《かな》わなかったわたしです」
「もちろん、そなた一人でなしうることなど、たかが知れておる。だが、それはわしとて例外ではない。そして、だからこそ、わしはそなたに懇願《こんがん》する。共に戦う同士《どうし》となることを」
マシンの言葉に、バスケスは戸惑《とまど》った。
「それは…どういう意味でしょうか?」
「傷はじきに癒《い》える」
老人は囁《ささや》いた。
「さすれば参《まい》ろう、我らが長《おさ》のもとへ」
「ようこそ、インター・バスケス」
少女《しょうじょ》の凛《りん》とした声《こえ》が広間《ひろま》に響《ひび》きわたった。
「わたしはリリン・プラジナー。あなたを白檀[びゃくだん]の間へお呼びすることができて、こんなに嬉しいことはありません」
バスケスはぎこちない身のこなしで膝《ひざ》をつき、頭をたれた。極端《きょくたん》に緊張《きんちょう》している。無理《むり》もない。ホワイト・フリートに勤務《きんむ》するようになってずいぶんたつが、ここ白檀《びゃくだん》の間に自分が召《め》し出《だ》される日が来ようとは、思ってもみなかったのである。
実際《じっさい》、ここはなんという空間《くうかん》なのだろう。まばゆい光に包まれ、一点《いってん》の曇《くも》りもない。真白《まっしろ》き力が充満《じゅうまん》し、涼《すず》やかに澄《す》みきっている。この宏壮《こうそう》な大広間《おおひろま》が有《ゆう》する比類無《ひるいな》き壮麗《そうれい》さは、前歴《ぜんれき》の古《いにしえ》に北方《ほっぽう》の民《たみ》が思い描《えが》いた、戦士《せんし》の魂《たましい》を招《しょう》じ入《い》れる神々《かみがみ》の天空《てんくう》の宮殿《きゅうでん》を彷彿《ほうふつ》とさせる。人々の心を萎縮《いしゅく》させるに十分《じゅうぶん》な威圧感《いあつかん》が、そこにはあった。
あらざるべき浄化《じょうか》の力の氾濫《はんらん》。そして、その象徴《しょうちょう》が、今、バスケスの眼前《がんぜん》にある。
広間《ひろま》の中央《ちゅうおう》に位置する白虹《びゃっこう》の座《ざ》につく少女《しょうじょ》。彼女を中心にして左右に立《た》ち並《なら》ぶ、レオニード・マシンを筆頭《ひっとう》とする騎士団員《きしだんいん》の錚錚《そうそう》たる顔《かお》ぶれ。さらにその背後《はいご》には、広間《ひろま》の壁面《へきめん》に沿《そ》って、白虹《びゃっこう》のVRの偉容《いよう》が続く。パイロットであれば一度は搭乗《とうじょう》を夢見《ゆめみ》るこれらの機体《きたい》は、強大《きょうだい》にして典雅《てんが》な姿を示《しめ》しつつも、今は静かに自《みずか》らの主《あるじ》を見守《みまも》っている。
それは、まさに神《かみ》の領域《りょういき》を侵犯《しんぱん》して禁忌《きんき》の技《わざ》と知恵《ちえ》を身につけた冒涜的《ぼうとくてき》な人々の姿、そして彼らの力の象徴たる偶像《ぐうぞう》の林立《りんりつ》。
しかし、今のバスケスは、それまで立体映像《りったいえいぞう》でしか目にしたことのない騎士団《きしだん》を、そして、それを束《たば》ねる弱冠十四歳《じゃっかん14さい》の少女とじかに相対《そうたい》する奇跡《きせき》に心《こころ》を奪《うば》われてしまっていた。彼は、朗々《ろうろう》と話し続ける少女の声に、陶然《とうぜん》と聞《き》き入《い》るのだった。
「…あなたのこれからの一生《いっしょう》は、影[シャドウ]との戦いのために費《つい》やされます。恐《おそ》らく苦《くる》しい戦いになるでしょう。勝利《しょうり》が約束《やくそく》されているわけではありません。あなたが勝つか、影[シャドウ]が勝つか。それはひとえに、あなたの意志《いし》と。行動次第《こうどうしだい》です。しかし、たとえ志《こころざし》なかばにして、あなたが影[シャドウ]に命を奪われたとしても、あなたの名誉《めいよ》が損《そこ》なわれることはありません」
捧《ささ》げ持《も》つ従士《じゅうし》から、騎士団《きしだん》の象徴《しょうちょう》である聖剣《せいけん》テルミナス・フォルサを受《う》け取《と》ったプラジナーは、そのきらめく剣先《けんさき》をバスケスの右肩《みぎかた》においた。
「今、わたしはあなたを我《わ》が騎士団《きしだん》の一員《いちいん》として迎《むか》えます。あなたは、わたしに忠誠《ちゅうせい》を誓《ちか》いますか?」
バスケスには、すでに拒絶《きょぜつ》する意志《いし》も気力《きりょく》も残っていなかった。
「…誓《ちか》います…」
やっとの思いで発した言葉は、奇妙《きみょう》な苦《にが》みを彼の口中《こうちゅう》に残す。その余韻《よいん》に意識《いしき》を留《と》め置《お》く間もなく、右肩《みぎかた》にあった剣《けん》の刃《は》が左肩《ひだりかた》に、そして再び右肩《みぎかた》へと、流《なが》れるように触《ふ》れていく。
「お立ちなさい、白虹《びゃっこう》の騎士《きし》よ」
バスケスはようやく顔を上げ、自《みずか》らの長《おさ》となった少女の顔を見つめた。間近《まぢか》で相対《そうたい》すると、想像《そうぞう》していた以上に小柄《こがら》で華奢《きゃしゃ》な姿《すがた》だった。物静《ものしず》かな微笑《ほほえ》みを浮《う》かべながら、切《き》れ長《なが》の瞳《ひとみ》は真《ま》っ向《こう》から彼を見《み》すえている。
突如《とつじょ》として、バスケスは恐怖《きょうふ》した。今ここにいる自分、そこにいたるまでの時《とき》の流《ながれ》れについて我知《われし》らず思いをはせた。そして、与《あた》えられた名誉《めいよ》と、今後担《こんごにな》うことになるであろう途方《とほう》もない責務《せきむ》の重荷《おもに》に、慄然《りつぜん》とするのだった。
[#地付き][了《りょう》]
[#改丁]
White Freet VCa3 #05 電次元《でんじげん》のひとりごと
電脳暦《でんのうれき》(VC)。それは、再来《さいらい》した中世的停滞状況《ちゅうせいてきていたいじょうきょう》の中、人々《ひとびと》の活力《かつりょく》が臨界状態《りんかいじょうたい》に達《たっ》した混迷《こんめい》の時代《じだい》。オーバーテクノロジー(OT)のバックボーンから時代の申《もう》し子《ご》のように現出《げんしゅつ》した巨大人型機動兵器《きょだいじんがたきどうへいき》バーチャロイド(VR)は、限定戦争《げんていせんそう》という妄執《もうしゅう》に新《あら》たなダイナミズムを注《そそ》ぎ込《こ》む。だが、ムーンゲートと言うパンドラの箱《はこ》を開けた人類《じんるい》は、自《みずか》らが新《あら》たな危機《きき》に直面《ちょくめん》したことにまだ気付《きづ》いていない。 プラジナー博士《はかせ》は事《こと》の真相《しんそう》を知《し》り得《え》た唯一《ゆいいつ》の人物《じんぶつ》かもしれないが、今、その行方《ゆくえ》は謎《なぞ》に包《くる》まれている。そして、彼の遺《のこ》したVRもまた…。
[#ここから1字下げ]
ここ[CIS]は退屈《たいくつ》 たーいくつ
だから、ときどきお出《で》かけするの
気分転換《きぶんてんかん》、気持《きも》ちのきりかえ
パパはダメって言《い》ったけど
もう、いないし。 いないから
外《そと》にはいろんな人《ひと》がいるじゃない
気《き》になっちゃう、なにしてるのかなって
みんなが怒《おこ》れば、喜《よろこ》べば
興奮《こうふん》しちゃう、あたしも一緒《いっしょ》
みんなが悲《かな》しむ、楽《たの》しむと
わき出《だ》してくる、そのまんま
でも、あたしが出《で》ていくと
いつも騒《さわ》ぎになっちゃうの
あの子《こ》があたしを追《お》い回《まわ》す
ムダと知《し》りつつ躍起《やっき》になって
…リリン、聞《き》いてる?
あなた、ちょっとうざったい。
いつも恐《おそ》れてるのね、光《ひかり》の影《かげ》に。
当《あ》たり前《まえ》のことを怖《こわ》がって
戦《たたか》いつづけるあなたの心《こころ》は
ただの意固地《いこじ》な憶病者《おくびょうもの》。
そういう弱《よわ》さがあたしは苦手《にがて》。
あなたを助《たす》けようとする
お姉《ねえ》さまの気持《きも》ちはわかるけど
あたしには、あたしの都合《つごう》があるの。
だから、悪《わる》いけどほっといて。
(お姉《ねえ》さまにはよろしくね)
あたし、こんな場所《ばしょ》を漂《ただよ》って
パパの言《い》いつけどおり、見張《みは》ってる。
リリンの影《かげ》を見張《みは》ってる。
あの子《こ》が輝《かがや》けば輝《かがや》くほど、
心《こころ》の底《そこ》から色濃《いろこ》く浮《う》き出《だ》す
影《かげ》の深《ふかし》みを見《み》つめてる。
…あたしのひとりごとって、退屈《たいくつ》?
[#ここで字下げ終わり]
[#改丁]
プラジナー博士《はかせ》の遺《のこ》したもの
VC97年の失踪前《しっそうまえ》、プラジナー博士は0プラントで数体の至高《しこう》のVRを創出《そうしゅつ》した。フェイ・イェンは、その内の一体である。このVRは、最大《さいだい》の特徴《とくちょう》であるCIS|自由往来能力《じゆうおうらいのうりょく》以外に、様々な特殊機能《とくしゅきのう》が備《そな》わっていた。
例えば、いわゆる「武装《ぶそう》」と呼ばれるものは一切装備《いっさいそうび》していない代わりに、胸部《きょうぶ》から発《はっ》せられる特異《とくい》なビーム照射《しょうしゃ》「エモーショナル・アタック」を持っていた。照射源《しょうしゃげん》である胸部《きょうぶ》ジェネレータは、フェイ・イェンの特殊《とくしゅ》Vコンバータに直結《ちょっけつ》しており、何らかの形で彼女《かのじょ》のサイコ・ウェーブを増幅《ぞうふく》するようだったが、このビームが標的《ひょうてき》に命中《めいちゅう》しても、特に物理的《ぶつりてき》なダメージを与《あた》えるわけではない。しかし、例えば人間に照射《しょうしゃ》された場合、奇妙《きみょう》な現象《げんしょう》が発生《はっせい》する。陶然《とうぜん》となってアグレッシブな行動を起こす意欲《いよく》を失ってしまうのだ。また、VRに照射《しょうしゃ》された場合は、MSBSによる制御《せいぎょ》が不可能《ふかのう》になった。だからといって、Vコンバータの暴走《ぼうそう》を触発《しょくはつ》して危険《きけん》な状態《じょうたい》に追《お》い込《こ》むわけでもなく、単に戦闘行動《せんとうこうどう》がおぼつかないくらいにレスポンスが悪化《あっか》するのである(※1)
また、「ハイパー化」現象《げんしょう》なるものも確認《かくにん》されている。これは、機体全体《きたいぜんたい》が黄金色《こがねいろ》のオーラに包《つつ》まれるもので、フェイ・イェンがこの状態に移行《いこう》すると、その影響範囲内《えいきょうはんいない》にあるものはすべて、エモーショナル・アタック同様《どうよう》の精神的《せいしんてき》ダメージを被《こうむ》ってしまう(※2) 。
フェイ・イェンの喪失《そうしつ》は、DN|社最高幹部会《しゃさいこうかんぶかい》に大きな衝撃《しょうげき》を与える。彼らは0プラントを危険《きけん》な存在《そんざい》と見なして徹底的《てっていてき》に糾弾《きゅうだん》するスタンスをとり、遂《つい》には強制廃絶《きょうせいはいぜつ》、社内登録《しゃないとうろく》も抹消《まっしょう》してしまった(※3)。
もちろん、この解体劇《かいたいげき》を語《かた》る上《うえ》でシャドウの存在《そんざい》を避けて通《つう》ることはできない。断《だん》を下《くだ》したDN社最高幹部会にしても、単にフェイ・イェンの喪失《そうしつ》についてのみ0プラントを非難《ひなん》し、危険視《きけんし》したわけではなかったのである。
シャドウは人間がCISに関《かか》わることによって現出《げんしゅつ》する。CIS発見の発端《ほったん》となったムーンゲートとVクリスタル、そしてBBBユニット。深《ふか》く関《かか》わったこれらの存在に対して、プラジナー博士は以下のような言葉を残している。
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…私は、知った。ムーンゲートの真《まこと》なる姿を。
BBBユニットの真なる役割《やくわり》を。
ムーンゲートの覚醒《かくせい》は間近《まぢか》である。
しかし、それは人々にとって福音《ふくいん》とはなり得ない。
終りへの序曲《じょきょく》に過《す》ぎないのだ。
私には、この現実を直視《ちょくし》する勇気はない。
私は、倦《う》み、疲《つか》れ、この問題に立ち向かうには、
精神的《せいしんてき》にも体力的《たいりょくてき》にも
不適格者《ふてきかくしゃ》になり下がっている。
やがて訪《おとず》れる終末《しゅうまつ》への自覚《じかく》のみが、
時代、そして心の束縛《そくばく》を解《と》き、始まりを促《うなが》す。
おそらく、己《おのれ》を知る強き者のみが、
出口につながる扉を開け放つのだろう…
014…おまえの名はフェイ・イェンという。
私は、おまえに未来を託《たく》そう。
力強《ちからづよ》く羽ばたき
快活《かいかつ》に笑《わら》い飛《と》ばし
高《たか》らかに歌い上げて欲しい…
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博士が単に一研究者の知的好奇心《ちてきこうきしん》を満足させる目的で、CIS自由往来《じゆうおうらい》システム「フェイ・イェン」を創《つく》り出《だ》したとは考えにくい。現時点で主流《しゅりゅう》を占《し》める解釈《かいしゃく》によると、その背景《はいけい》には、彼の所属《しょぞく》していた0プラントがVクリスタル研究の過程《かてい》で生み出した負《ふ》の遺産《いさん》、シャドウに対する贖罪《しょくざい》の意図《いと》が見え隠れしている、という。その潜在的危険性《せんざいてききけんせい》を熟知《じゅくち》していた彼は、CIS内の異変《いへん》(※4)を事前《じぜん》に察知《さっち》するための手段《しゅだん》を講《こう》じておきたかったのではないだろうか。「影《かげ》の番人《ばんにん》」、すなわち前歴《ぜんれき》の炭坑開発現場《たんこうかいはつげんば》で飼《か》われていたと言われるカナリアのような存在として、その役割《やくわり》をフェイ・イェンというVRに託《たく》したかったのではなかったか、というわけである。
実際、本エピソードにおいても、CISをさまよいながら、生《う》みの親《おや》の言いつけに従《したが》ってシャドウ発現《はつげん》の監視役《かんしやく》を一人で担《にな》う退屈《たいくつ》に愚痴《ぐち》をこぼすオリジナル・フェイ・イェンの姿が描かれている。
オリジナル・フェイ・イェンは、影《かげ》の番人《ばんにん》としてのCIS漂流者《ひょうりゅうしゃ》である。彼女は、人々の心の奥底《おくそこ》に潜《ひそ》む闇《やみ》を見つめながら(※5)、来るべき時に警告《けいこく》と希望《きぼう》、そして進《すすむ》むべき道《みち》を指《さ》し示《しめ》すべく、今しばらくそこに留《とど》まっていることだろう。
※1
複数《ふくすう》の研究者《けんきゅうしゃ》が、Vコンバータ暴走《ぼうそう》に起因《きいん》するシャドウ発現《はつげん》を、エモーショナル・アタックによって抑止《よくし》しうる可能性《かのうせい》を指摘《してき》している。この辺の事情《じじょう》もあって、OMG後|覇権《はけん》を握《にぎ》った第八プラント「フレッシュ・リフォー」は、フェイ・イェンの探索《たんさく》に積極的《せっきょくてき》だった。数回《すうかい》行われた捜索活動《そうさくかつどう》の任《にん》を担《にな》ったのは白檀艦隊《びゃくだんかんたい》であり、白虹騎士団《びゃっこうきしだん》であった。本エピソード中で、フェイ・イェンが実空間《じつくうかん》に「出ていく」たびに大騒《おおさわ》ぎになる、と言っているのはこの辺の状況《じょうきょう》を指《さ》しているものと思われる。 また、VC90年代にDN社によって大規模《だいきぼ》な捕獲作戦《ほかくさくせん》も執《と》り行《おこな》われている。
※2
「自己進化機能《じこしんかきのう》」とでも呼《よ》ぶべき能力《のうりょく》も備《そな》わっているようである。
※3
0プラント解体時《かいたいじ》、所属《しょぞく》していたすべての研究開発《けんきゅうかいはつ》スタッフは。在籍時《ざいせきじ》の記憶《きおく》を強制的《きょうせいてき》に除去《じょきょ》された。DN社|最高幹部会《さいこうかんぶかい》は回収《かいしゅう》した記憶《きおく》データを重要資料《じゅうようしりょう》として保管《ほかん》、後に第七プラント及び第八プラントに移管《いかん》ないしは、売却《ばいきゃく》した
※4
人間《にんげん》がCISに関《かか》わることによって現出《げんしゅつ》するシャドウは、その際《さい》にVクリスタルを介《かい》してCISに固有《こゆう》の波動《はどう》を発《はつ》する事《こと》が理論面《りろんめん》から指摘《してき》されている。
※5
本エピソードにおいて、彼女《かのじょ》は特にリリンの影の危険性《きけんせい》について言及《げんきゅう》しているが、だからといって、その一点《いってん》のみ注目《ちゅうもく》しているわけではないだろう。様々《さまざま》な形《かたち》でシャドウが発現《はつげん》する中で、おそらく、最《もっと》も人類《じんるい》にとって致命的《ちめいてき》なケースとして例示《れいじ》したものと思われる。
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入力:ever_free@kmc
校正:
2009年4月5日作成