若きドン・ジュアンの冒険
アポリネール/須賀慣訳
目 次
一 お風呂の楽しみ
二 互《ご》 開帳
三 下男下女の交歓
四 オナニスム入門
五 筆おろし
六 色ざんげ
七 昼のたわむれ
八 夜のよろめき
九 女中の品さだめ
十 森の中の饗宴
十一 われハレムを征服す
解説
「若きドン・ジュアンの冒険」について
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まことわれは若し、されど気高く生まれし者には
歳月を待たずともいさおしあらわる
……コルネイユ
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一 お風呂の楽しみ
夏の日々が再びやって来た。母はごく最近わが家のものになった、田舎《いなか》の地所へすでに出かけていた。
父は仕事に忙殺されているために、そのまま町に居残っていた。父は母がしつこくねだったのに負けて、この地所を買ったのを後悔していたのである。
父はつねづねこんなことをぼやいていた。
「田舎のあの家を欲しがったのはおまえだよ、行きたければ行くがいいさ。けれどわたしまで強引に行けと言ってもごめんだね。もちろんアンナ、機会がありしだいわたしがあの家を売ることは、おまえのほうでも承知しているはずだよ」
すると母はこんなことを言う。
「でもあなた、田舎の空気は子供たちの体にいいとはお考えにならないのかしら……」
父はメモ帳を見、帽子をつかみながら、こうやり返すのである。
「イヤハヤ、おまえにそんなとりとめのない考えを吹き込んじまって、こいつはわたしのしくじりだよ」
そこで母は、いつも口にしていたように、このつかの間の楽しみをできるだけ急いで、できるだけ完全に楽しもうという腹づもりで、田舎の家へ出かけたのである。母は自分よりずっと年下の、まだどこかへ縁《かた》づかなければならない母の妹と、部星付きの女中と、ひとり息子《むすこ》のぼくと、姉の中でも、ぼくよりも、一つ年上の姉を連れていった。
ぼくらは大はしゃぎで、この地方の人たちが「|お城《シャトー》」という異名で呼んでいる田舎の家へ、出かけた。
この|お城《ヽヽ》は富裕な百姓の古びた住居であった。おそらく十七世紀に建てられた時代ものだろう。内部はとても広々としていたが、部屋の配置があまり奇妙すぎる。つまりは、この家はどちらかといえばはなはだ不便で、人が住むには不向きにできていた。それもひとえに、ごてごてしたまとまりのない建て方が原因《もと》で、用もないのにあちこち行ったり来たりしなければならないからだ。そのために、部屋の並び具合は、当たり前の家の中とは違っていて、うす暗いどっしりした廊下、曲がりくねった回廊、|らせん《ヽヽヽ》階段などで仕切られていた。ひとことで言えば、この家こそほんとうのラビリントで、どこにどんな部屋があるか、その正確な知識を得るために、この家の内部に精通するには、数日が必要であった。
家畜小屋といっしょに農園のある付属の家と馬小屋は、中庭ひとつでお城と隔てられていた。これらの建物は礼拝堂で連絡がつくようになっていて、中庭からも、お城からも、あるいは付属の家からでも同じように礼拝堂へ入ることができた。
この礼拝堂はよく手入れがゆきとどいていた。昔は、お城に住んでいて、もっぱらぼくらの住居の周囲に散在する小さな部落の住民たちの魂のめんどうをみていた、ひとりの修道僧がこの礼拝堂を使っていたのである。
ところがこの最後の礼拝堂付きの司祭が死んでからは、この修道僧のあとがまがないままに、ただ日曜日ごとに、祭礼の日ごとに、ときにはウイークデーでも、懺悔聴聞《ざんげちょうもん》のために、近隣の僧院に住むあるカプシン派の僧が、善良な百姓たちの救済に欠くべからざる聖務を果たしに、礼拝堂へやって来た。
この修道士が来ると、いつも夕食をとるために腰を落ち着け、僧がここへ泊まらなければならないような場合にそなえて、礼拝堂のそばに寝室を準備しておいた。
母と叔母《おば》と、部屋付きの女中のカートは住まいの準備に大わらわだったが、彼女たちは、管理人と、作男と女中にこの仕事を手伝ってもらっていた。
とりいれはほとんどすっかりすんでいたので、ぼくたち、つまり姉とぼくはあちらこちら散歩して回ることができた。
ぼくたちは、地下室から屋根裏部屋まで、城の隅から隅まで見物して回った。ぼくたちは柱の回りで隠れんぼをして遊んだり、ぼくたちのうちどちらかひとりが階段の下に身をひそめて、相手の度胆《どぎも》を抜くように、大声をあげていきなりとび出してやろうと、相手が通るのを待ちかまえたりしたものだった。
地下庫に通じる階段はすこぶる急だった。ある日、ぼくがベルトの先に立ってここへ降りたときのことだった。ぼくは煖炉から出ている二本のパイプのあいだに身を隠していた。階段は、天井に開いた明かり取りの窓で明るく照らされているのに、ここはとっても暗い。四方八方に注意を配りながら降りてくる姉の姿が現れると、ぼくは威勢よく犬のほえ声をまねしながらとび出した。ぼくがそこにいるのを知らないベルトはすっかり恐怖に襲われて足をとられ、次の段を踏み外してひっくり返ってしまった。その有様はといえば、両脚はまだ段にかかっているのに、頭だけ階段の下につくというあんばいだった。
当然のはなしだが、ドレスがまくれ上がり、顔をすっぽり覆って、両脚がむき出しになった。
ニヤニヤしながら近寄ってみると、ドレスについてシュミーズもへその上のほうまでまくれ上がっているのが見えた。
ベルトはパンツをはいていなかった。それというのも、のちに彼女が打ち明けたところによると、彼女のパンツは汚れていたし、それにまだ彼女の下着の包みを解く暇がなかったからだという。ぼくが、姉の淫《みだ》らなヌード姿を初めてながめたのはこんなわけからである。
じつをいえば、ぼくは今までにもう彼女の生まれたままの姿を見ていた。それ以前の数年は、ぼくたちはしばしばいっしょにお風呂《ふろ》へ入れてもらっていたからである。ところが彼女の体を見たといったところで、後ろ姿か、横から見るだけがせいいっぱいで、なにしろ母にしても叔母にしても、ぼくたちの体を洗うあいだ、その子供っぽい小っぽけなお尻《しり》が向かい合うような形でぼくらを立たせておいたからである。ご婦人二人は、ぼくが禁断の一瞥《いちべつ》をチラリとも投げかけられないように細心の注意を払っていたし、ぼくらに可愛いシャツを着せるときには、慎重に、|両手で前を《ヽヽヽヽヽ》隠すように申し渡したものだった。
だからカートが一度ひどく叱言《こごと》をくったことがあった。それはこんな次第である。ある日、カートが叔母の代理で、姉を入浴させなければならないことがあったが、べルトに前を隠すように注意をうながすのを失念したのである。ぼく自身はどうかといえば、どうあってもカートに体を触れられるのはご法度《はっと》であった。
ぼくにお風呂を使わせるのは、相変わらず母と叔母だった。ぼくが大きな浴槽に入っていると、いつもきまってこんなことを口にするのだった。
「サア、ロジェや、もう|おてて《ヽヽヽ》を引っ込めてもいいわよ」
そしてぼくの体に石鹸《せっけん》を塗り、体を洗う役はやっぱり二人のうちのどちらかなのだが、なるほどこれはうまい考えだ。
子供というものは、できるだけ長いあいだ子供として扱うべきだという考えを、原則として抱いていた母は、相も変わらずこの方式を続けさせていた。
このころ、ぼくは十三歳で、姉のベルトは十四だった。ぼくは愛の恋のといったことにはまったく無知で、セックスの違いさえぜんぜん無知不案内であった。
ところが、自分が女性たちの前ですっ裸でいるのを自覚したときや、女性のやわらかい手がぼくの体のあちこちはい回るのを感じたときに、奇妙な効果がぼくの体に現れたものである。
今でもすごくはっきりと覚えていることだが、叔母のマルグリットがぼくの陰部を洗ったりこすったりするやいなや、ぼくはなんとも言い表しようのない、奇妙きてれつな、けれどもまたこの上なく気分のいい感覚を味わったものである。ぼくは、自分のオチンチンがにわかに、鉄さながらに硬直し、それまでのようにブランブランとぶら下がる代わりに、かま首をもたげているのに気づいたものだった。すると本能的に、ぼくは叔母に近寄り、できるだけグンと腹をつき出したものである。
ある日、ちょうどこんな具合になったとき、叔母のマルグリットはとつぜん|もみじ《ヽヽヽ》を散らしたが、散り映えたこの|もみじ《ヽヽヽ》の色が、優雅な彼女の表情をいちだんと愛らしく見せた。彼女はそそり立ったぼくのかわいいセックスに気がついたが、何も見なかったようなふりをして、ぼくらといっしょに脚湯をつかっていた母に合図を送った。そのときカートはベルトの世話をやいていたが、彼女はすぐにこちらに注意を向けてきた。もとよりぼくは前々から気づいていたのだが、彼女は姉のめんどうをみるのよりも、ぼくの世話をやくほうがずっとお気に召していて、この仕事のあいだに母や叔母に手を貸すチャンスは|そつ《ヽヽ》なくものにしていた。いまや、彼女も何かを見たがっていたのである。
彼女は顔をこちらに向けて、さりげなくぼくをながめ、一方母と叔母は互いに意味ありげな視線を交わしていた。
母はペチコートをはいていたが、少しでも爪《つめ》が切りやすいようにとペチコートを膝《ひざ》の上のほうまでたくしあげていた。むっちりと肉ののったきれいな足を、力づよい美しいふくらはぎを、白い、丸々した膝をぼくの目にさらしたままだった。こうして母の両脚に一瞥を投げかけただけで、ちょうど叔母に体を近づけたと同じような効果をぼくの男性に及ぼした。彼女がパッと顔を赤らめ、ペチコートの裾《すそ》をおろしたところをみると、彼女にはきっと、すぐにその気配がわかったにちがいない。
婦人たちはニヤニヤ笑い、カートはゲラゲラ大声で笑い出し、母と叔母のきびしい視線にあうまでその笑いをやめないほどだった。
ところがそのとき、カートは弁解がましくこう言った。
「あたしが熱いスポンジで|あそこ《ヽヽヽ》へ触れると、ベルトもいつも笑うんですよ」
ところが母は、ピシャリと、お黙りなさいとカートに命令した。
ちょうどその瞬間に、浴室のドアが開いて、姉のエリザベートが入ってきた。彼女は十五歳で、上の学校へ通っていたのである。
叔母が、裸のぼくに大急ぎでシャツを投げかけたけれども、エリザベートにはぼくの姿を見る暇はあったし、そのおかげでぼくははなはだ|バツ《ヽヽ》の悪い思いを味わったものだ。というのは、ベルトの前ではぜんぜん恥ずかしいとは思わなかったが、それでももう四年も前からぼくらといっしょに入らず、二人の婦人か、でなければカートといっしょに入浴していたエリザベートに、すっ裸の姿を見られたくなかったからだ。
ぼくは、この家の女性たちみんなが、ぼくにはその権利がないのに、ぼくが入浴中のときでさえ、浴室へ平気で出入りできることに、一種の腹立たしさを覚えていた。それにぼくは、姉のエリザベートひとりで風呂に入っているときでさえ、ぼくが中へ入るのをご法度にするなど、ぜったいに不当だと思っていた。それというのも、彼女は好んでお嬢さまらしいふりをしているとはいえ、どうして彼女だけがぼくたちと別扱いされるのか、その意味がわからなかったからである。
ベルト自身にしても、エリザベートの不公平な要求を腹にすえかねていたのである。エリザベートはある日、妹の前で裸になるのをはねつけたし、そのくせにして、叔母や母がいっしょに浴室に入るときには、躊躇《ちゅうちょ》なく裸になっていたからだ。
ぼくたちにはこんなやり方が理解できなかったが、これはひとえに、エリザベートの体に思春期のきざしが現れたことに由来している。彼女の臀部《でんぶ》は丸みをおび、おっぱいは大きくふくれはじめ、これはあとになって知ったことだが、脚のつけ根の丘陵にはすでに若草が萌《も》えていた。
その日ベルトは、浴室を出ながら、母が叔母に向かってこんなことを言うのを聞いただけだった。
「エリザベートは、とても早く始まったのね」
「そうね、あたしの場合は、一年遅かったわ」
「あたしのときには、二年あとだったわ」
「こうなったら、あの娘にひとり用の寝室をやらなければいけないわね」
すると叔母がこんな返辞をしたものだ。
「あたしの部屋をいっしょに使わせることもできるわ」
ベルトはぼくにそんなことをすっかり話してくれたが、もちろん彼女にしたところで、ぼく同様にほとんどそんなやりとりの内容はわからなかった。
だからこのとき、姉のエリザベートが浴室に入ってきて、猛《たけ》り狂った小さな牡鶏もかくやとばかり、すっくと立ったぼくのかわいいシンボルを見るやいなや、ぼくは、彼女の眼差《まなざ》しが彼女にとってはいとも玄妙不可思議なこの場所に注がれ、深い驚きの色を隠すことができずにいることに気がついた。ところが彼女は視線をそらさなかった。それどころかあべこべだったのである。
とつぜん母が、おまえもまたいっしょにお風呂に入りたいの、と尋ねると、彼女はサッと顔を赤らめて、モグモグと口ごもりながら答えた。
「い、い、わ、マ、マ、ン!」
すると母があとを続けた。
「ロジェとベルトはもう終わりなのよ、服を脱いでもかまわないわよ」
エリザベートは尻込みもせずに母の言うとおりにして、シュミーズまで脱いだ。ぼくにはただ、彼女の体がベルトよりも発育している、ということが見えただけで、浴室から追いたてられてしまったので、それで全巻の終わりだった。
その日以来、ぼくはもうベルトといっしょにお風呂に入れてもらえなかった。もっともマルグリット叔母さんか母か、どちらかがまだそばについていた。それというのも、母は何かで、どこかの子供が浴槽でおぼれたという記事を読んでこのかた、ぼくにひとりで風呂を浴びさせておくのが心配だったからである。しかし、二人の婦人はぼくの体のほかのところはまだ洗ってくれるのに、もはやぼくのオチンチンにもタマタマにも触れなかった。それにもかかわらず、いまだに母やマルグリット叔母さんの前で、ぼくの男性が硬直するようなことがあった。母はぼくのシャツを脱がせたり着せたりしながら頭をそらし、マルグリット叔母さんは目を床に落としてはいても、二人ともじゅうぶんそれに気がついていた。
マルグリット叔母さんは母よりも十歳年下で、だから二十六歳になる勘定だ。けれども叔母さんは、すこぶる心静かな生活を送っているので、とても若々しく、娘のように見えた。どうやらぼくのヌード姿は、叔母さんにはとても印象深かったらしい。それというのも、彼女がぼくをお風呂に入れてくれるたびに、ぼくには優しい澄んだ声でしかものを言わなくなったからである。
叔母がぼくの体につよく石鹸をつけ、体をすすぐたびに、彼女の手がぼくのかわいいセックスに触れる。彼女は、まるで蛇《へび》に手を触れたように、大急ぎで手を引っ込めた。ぼくはそれに気づくと、ちょっと恨めしそうな声で彼女にこんなことを言ってやった。
「優しい大好きな叔母さん、どうしてもう、あなたのかわいいロジェの、体じゅう隅から隅まですっかり洗ってくれないの?」
すると彼女の顔に真紅《しんく》の|べに《ヽヽ》が散り、オズオズと震え声でこう言った。
「でも、あなたの体じゅう、隅から隅まですっかり洗っているわよ!」
「それじゃあ叔母さん、サア、ぼくのオチンチンも洗ってよ」
「アラアラ! いやな坊やね! そこはあなた自分で洗えるでしょ」
「だめなの、叔母さん、ネ、お願いだから、叔母さんが洗ってよ。叔母さんみたいには洗えないんだよ」
「ほんとにこの子ったらエッチなのね!」
叔母はニヤニヤ笑いながらこう言うと、再びスポンジをとりあげて、ぼくのオチンチンとタマタマを丹念に洗うのだった。
そこでぼくはこう言った。
「サア、大好きな叔母さん、叔母さんはとても優しいや、ご苦労さま、お礼にぼくにキスさせてよ」
こう言ってぼくは、さくらんぼうさながらに紅《あか》い、そして健康な、食欲をそそる美しい歯の上に開いている、きれいな彼女の口にキスをした。
ぼくは両手を合わせて彼女に頼んだ。
「お風呂から出たら、今度は体も拭き拭きしてちょうだい」
そこで叔母はぼくの体を拭き、おそらく必要以上に感じやすくなっていた場所へ来ると、たっぷり手間をかけて拭いた。そのためにぼくの興奮は最高潮に達した。ぼくはもっとお腹《なか》を突き出せるように、浴槽の縁《へり》に手をかけて、あんまりひどく体を揺すったので、叔母が優しくこんなことを言うほどだった。
「もうじゅうぶんよ、ロジェ、もう子供じゃあないんだから。これからは、あなたもひとりでお風呂へ入るのよ」
「いやだよ! 大好きな叔母さん、お願いだから、ひとりで入れなんて言わないで。叔母さんがぼくを入れてくれなければだめだよ。叔母さんが入れてくれると、お母さんが入れてくれるときより、ぼくはずっと楽しいんだよ」
「ロジェ、お洋服を着なさい!」
「優しくしてよ、ネエ、叔母さんも一度ぼくといっしょにお風呂に入ってよ!」
「ロジェ、お洋服を着るのよ」
彼女は窓のほうへ足を運びながら繰り返した。
ぼくは負けずに言った。
「いやだい、叔母さんがお風呂に入るところも見たいんだよーう」
「ロジェったら!」
「叔母さん、入りたくなければいいよ、ぼくはパパに言いつけてやるから、叔母さんがまたぼくのオチンチンを口にくわえたって」
こう言うととつぜん、叔母の顔が真赤《まっか》になった。
事実、彼女は昔ほんとうにそんなことをしたことがあったが、といってもほんのアッという間のことだった。あれは、ぼくが風呂へ入りたくなくてしょうがない日のことだった。風呂の水があんまり冷たすぎたので、ぼくは自分の部屋へ逃げ込んでしまった。叔母がぼくのあとから追いかけてきて、とうとうぼくのかわいい|あれ《ヽヽ》を口にくわえ、一瞬|唇《くちびる》でキュツと締めつけた。それがぼくにはとってもすばらしい気分で、そこでしまいにはぼくもすっかりお行儀よくなってしまったものだった。
べつに、これに似たような状況になったときに、ぼくの母が同じふるまいに及んだことがあったが、ぼくはこんな事実についての実例はたくさんに知っている。男の子をお風呂に入れる女性たちはしばしばこのようなことをするものである。これは、ぼくら男性が、女の子のかわいいわれめちゃんを見たり触ったりするときと同じ効果を女の子たちに及ぼすものだが、ただ女性たちときたらそのお楽しみにさまざまな味付けをするすべを心得ているのである。
ごく幼いころ、ぼくには子守りの老婆がついていた。この老婆は、ぼくが眠れないときには、ぼくのオチンチンやタマタマをくすぐり、また|あれ《ヽヽ》を優しく吸ってくれさえしたものだった。ぼくにはこんな甘美な思い出すら残っている。ある日のこと、この子守りはぼくの体をむき出しの彼女のお腹の上にのせ、しばらくそのまま上にのせておいてくれた。けれどそれは、ずいぶんはるかな昔のはなしなので、ぼくはごくぼんやりしか覚えていない。
叔母は気を取りなおすとすぐに、腹をたててぼくにこう言った。
「あれはただの遊びだったのよ、ロジェ、だって、あなたもあのころはほんの坊やだったんですもの。でも、今ではもう、あなたとふざけてはいられない、ということがわかったわ、あなたは一人前の男性になったのよ」
こう言うと、彼女はコチコチになったぼくのあれに、またチラリと視線をやった。
「あなたは、いやらしいスケベーとさえ言ってもいいくらいよ。あたし、あなたなんかもういやだわ」
と言うと同時に彼女はぼくのシンボルをピシャリとたたいた。
それから彼女が出てゆこうとしたので、ぼくはこう言いながら彼女を引きとめた。
「許してちょうだい、叔母さん、もし叔母さんが浴槽へ入ってきても、ぼく、だれにもひとことも言わないよ」
すると彼女は微笑を浮かべながらこう言った。
「いいわ、お望みどおりにしてあげるわ」
彼女は靴下をはいていない足を突っ込んでいた、赤いスリッパを脱いで、部屋着を膝の上までまくり上げ、浴槽の中へ入ってきた。すると浴槽の湯が、ふくらはぎの上まであがった。
「サア、あなたのお望みどおりにしたわよ、ロジェ、おとなしくお洋服を着て、言われたとおりになさい、でないともう二度とあなたなんかかまってあげないから」
彼女がいかにも自信たっぷりな口調でこう言ったので、ぼくは、こいつは本気だと思った。もうぼくのものは固くなっていなかった。シャツをとると、マルグリット叔母さんが脚湯をつかっているあいだに、ぼくは服を着た。そればかりか、ぼくがそれ以上のことを頼めないように、彼女はぼくに、今は体の具合がふつうでないので、しばらくはお風呂には入らないと言った。
ぼくが服を着終えるとすぐに、彼女は浴槽から出て体を拭いた。ぼくが体を拭いたあとなので、タオルは湿っていた。ぼくはひざまずいて、叔母さんのきれいな足を拭いた。彼女はべつにいけないとも言わずに、ぼくのしたいようにさせてくれた。足の親指のまたにかかると、彼女は大声で笑い出し、足の裏に触ってくすぐると、おかげで彼女はすっかりもとの上機嫌にかえり、ぼくがふくらはぎを拭くのまで大目に見てくれた。
ぼくの手が膝のところにさしかかると、彼女は自分から、それ以上うえまで手を伸ばしてはいけない、とぼくに指図した。ぼくとしてはずいぶん前から、女性たちは、あれほど貴重なスカートの下に何を持っているのか、あれほど細心入念に隠しておかなければならないと思っているのは、いったいなんだろうということを、知りたくて知りたくてたまらなかったが、仕方なく仰せのとおりにした。
叔母とぼくは、また仲良しになったが、しかしそれ以来、ぼくはひとりでお風呂に入らなければならなかった。
母はこうしたいきさつを叔母から聞いて知っていたにちがいないが、けれどもそんなそぶりはつゆほども見せなかった。
さてここで、その後に起こる事件を知るために必要なこうした話題は打ち切りにしよう。
これから少々話をもとにもどして、ぼくらの物語の続きを語らなければなるまい。
二 互《ご》 開帳
ところで、ぼくの姉のベルトは階段の下に仰向けに倒れてしまった。スカートはあられもなくめくれ上がり、彼女のすぐ近くにぼくがいるのに気がついたときでさえ、起き上がらなかった。
階段から落ちたショツクと恐怖のために、彼女はまるで落雷に打たれたようだった。ぼくはといえば、姉がぼくをびっくりさせようとしているのだ、とばかり信じていたし、それにぼくの心中では、かわいそうにという気持ちよりも好奇心のほうが先に立っていた。
彼女の下半身むき出しになった部分から、ぼくは目をそらすことができなかった。ぼくは彼女の下腹が太腿《ふともも》と合流する場所、奇妙な台地、ブロンドの下草がチョロチョロとのぞいている、三角地帯《デルタ》の、脂ののった丘に目を凝らしていた。ほとんど、二本の太腿が合流するあたりの部分で、丘はほぼ三センチメートルばかりの太い裂け目で両翼に分断され、二つの唇で分けられていた。姉が起き上がろうと、一所懸命骨を折っているときに、ぼくはこの裂け目が消えてなくなる部分に目を凝らしていた。
おそらく彼女のほうは、自分の下半身がむき出しになっているなどとはまったく考えてもみなかったにちがいない。というのは、それでなければ彼女にしてもめくれた洋服の裾を下ろしただろう。ところが彼女はやにわに、足を下に下げながら太腿を開いた。そこでぼくには、太腿をつぼめていたときに見えていた前端の部分が、尻の近くで合流するのにどんなふうにして流れを描いてゆくか、その有様がはっきりと見えた。
忙しく体を動かすうちに、彼女はわれ目を半開きにしていたが、そのとき、このわれ目の長さは七、八センチメートルほどだった。そのあいだ、彼女の体の他の部分はミルクのような色をしていたが、一方そのわれ目の内部からは、真赤な肉が顔をのぞかせていた。もっとも、唇の近くの、かすかに紅《べに》を刷《は》いた股間《こかん》はこの限りではないと断らなければならない。しかしこのかすかな紅は、おそらく汗とおしっこのせいで色着いたものだろう。
その形が|あんず《ヽヽヽ》の実のわれ目にそっくりな、彼女の丘のふもとのあいだ、後ろの丘陵の狭間《はざま》には指二、三本の距離があいていた。ここにベルトの後ろの洞窟《どうくつ》が開いていたが、これは姉が体の向きを変えて、ぼくのほうに尻をグッと突き出した瞬間に、ぼくの目に映ったのである。この洞窟は、ぼくの指先ほどの大きさで、ずっとくすんだ色をしていた。左右の丘陵のあいだの膚は、汗のために軽く赤らんでいた。その日は暑かったので汗をかいていたのである。
階段から落ちて、姉はずいぶん痛かったにちがいないが、ぼくの好奇心はそんなことに気がつかないくらい激しかった。けれどもぼくもようやくそれに気づくと、彼女を助け起こそうとして走り寄った。じつを言えば、この情景は幕が開いてから降りるまで、一分も続かなかった。ぼくは彼女に手を貸して起たせてやった。彼女はフラフラとよろめき、頭が痛いといって訴えた。
中庭の奥の井戸には冷たい水がたっぷり湧《わ》いていたが、ただそこへ行けば人目につくのは避けられないし、だれかがぼくたちのことを白状して、ついにはぼくらのお城の散策も、禁じられた遊びになるのがオチだろう。ぼくは、前に二人で屋根の上へ上って、庭の奥に見つけておいた、小さな池まで出かけようと提案した。そこへ着いてみると、ぼくらは岩を巧みに組み上げた、こんもりした植木の茂みのかげにほとんどすっぽりと隠れてしまった。ここから岩清水が湧き出ていて、池の中へ流れ込んでいた。
ベルトが石のベンチの上に腰を下ろし、ぼくは二人のハンカチで彼女に湿布をしてやった。彼女はちょっと熱を出し、ハアハアと息をはずませていた。けれども昼まではまだ間《ま》があって、三十分ばかりすると、彼女の気持ちも落ち着きを取りもどしたが、ただ頭に大きな|こぶ《ヽヽ》ができていた。運よく、この|こぶ《ヽヽ》は髪の下に隠れてしまったから、はた目にはわからなかった。
そのあいだに、ぼくは最前|目《ま》のあたりにした事件をすべて、心の中で整理して、このさまざまな新しい事柄の思い出を、悦に入ってゆっくりと堪能《たんのう》していた。
しかしぼくには、この事件に関してどのような態度でベルトに対すべきかということについては、さっぱりわからなかった。
とうとう、ぼくはこれからどうすればよいか決心をつけた。姉のヌード姿をながめたときに気がついたことだが、彼女の尻の下、丘が尽きるあたりに|ほくろ《ヽヽヽ》が一つあった。
ぼくだって、タマタマの後ろの同じ場所に、そっくりなやつが一つある。
いつか、母と叔母が大声で笑いながらそれを見つめていたことがあったが、そのときにはぼくにはその意味がわからなかった。のちに、ぼくは鏡に自分の尻を映して、それを見たのである。
ぼくがベルトにそのことを告げると、彼女はすっかり赤面して、とてもびっくりした様子だった。まず最初、彼女はまるでなにがなんだかわからないようなふりをした。ところが、ぼくが、彼女の姿勢をこまごまと語り聞かせ、どうやって彼女のヌードを見たか見せてやろうとして、地面に四つんばいになると、彼女はどうにもこうにも恥ずかしくてたまらないという様子だった。
庭にはぼくたちのほかにひとっ子ひとりいないことに、すでにぼくは気がついていた。遠目からは、背の高い木々がぼくらの体を隠していたし、一方ぼくらのほうでは、たとえだれでも人が近づいてくればすぐに気づける位置にいた。
ぼくはズボンつりのボタンを外し、夏向きの軽いズボンを下ろして、姉の真正面で仰向けに寝た。
「アラ! いやだわ! ロジェ、だれかが見ていたらどうするの」
彼女は小声でこんなことを言ったが、それでも視線をそらそうとはしなかった。
「このあたりにはだれもいやあしないよ」
ぼくは同じ口調でこう返辞をした。それからぼくは起き上がり、彼女の前に立って、ぼくのシャツをまくり上げて、こう彼女に言ってやった。
「ぼくは姉さんの体を隅から隅まで見ちまったんだから、今度はぼくの体をすっかり見てもいいよ」
ベルトの好奇心がにわかに目覚めて、彼女はまったく遠慮会釈なくぼくの体をしげしげと見つめた。こうしてじろじろ見つめられたために、ぼくの体に例の効能が現れはじめて、ぼくのセックスは硬直し、ゆっくりゆっくりもち上がり、妙に勿体《もったい》ぶって体を揺すり、その間にすっかり坊主頭《ヽヽヽ》が顔を出した。
「わかるかい、ベルト、ぼくがおしっこするのは、先っちょのこの小っちゃい穴からなんだよ。でも、ちょうど今おしっこしたいんだけれど、こうなっちまうとできないんだよ」
するとベルトが優しく言った。
「そういえば、ずっと前からあたしもおしっこしたいのよ。でも恥ずかしいわ、ロジェ、あたしを見ちゃあだめよ!」
「だめだよ、ベルト、意地悪はしっこなしだよ。あんまり長くおしっこを我慢していると、膀胱《ぼうこう》が破裂して死んじまうよ。ホラ、うちのあのお婆さん女中がぼくたちに言ったじゃあないか」
ベルトは立ち上がってあちこち見回した。それからベンチのそばにしゃがみ込んでおしっこを始めた。ぼくは一部始終を見てやろうと急いで体をかがめると、われ目の上のほうから、平べったく、幅の広い噴水が地面に向かって斜めに落ちるのが見えた。
すると彼女が、べそをかいたような調子で叫んだ。
「ダメよ、ロジェったら! そんなことをしちゃあだめっ!」
彼女はおしっこを途中でやめて、立ち上がった。
そこでぼくが答えた。
「でもベルト、だあれもぼくらを見ちゃあいないよ、サア、いい子になるんだよ」
ぼくは微笑を浮かべて、こうつけ加えた。
「ぼくを見てごらん。ぼくは姉さんの前だって、へっちゃらだよ」
ぼくはおしっこを始めた。ところが、ぼくの男性があんまり固くなっていたので、ときどき思い出したように、ピッ、ピッと出るだけだった。ベルトが大声でゲラゲラ笑い出した。ぼくは彼女の上機嫌に乗じて、彼女のスカートとシュミーズをまくりあげ、力ずくで彼女をしゃがませると、強引におしっこをさせた。
彼女はもはや逆らわなかった。脚を左右に開いて、ちょっと前かがみになった。あたりに|しずく《ヽヽヽ》を飛ばしながら、地面に落ちる噴水がぼくの目に入った。しまいには、だんだん弱くなって、最後には、姉が一所懸命いきんでいるような感じで、ずっと上のほうに赤い肉が見えた。それはほんの数秒間しか続かなかった。噴水が止まると、そのあとはさらに何滴かのしずくが落ちただけだった。
そこでぼくは、彼女の丘のあたりを両手でつまんだ。どうやらこれが彼女にたいそう気分がよかったらしい。というのは、気分がよくなければ、彼女だってあれほど悦にいって、シュミーズをまくりっ放しにしてはいなかったろう。
とうとうぼくは、半ば口を開いた貽貝《いがい》にそっくりなわれ目にも、外側の層より小さいけれども、さらに二つの唇があることを発見した。
この唇の色は真紅で、口をピタリと閉ざしていた。上のほうにかわいい出口が見え、ここから、彼女はさきほどおしっこをしたのだ。グリンピースほどの大きさの、肉粒の小さな先端も見えた。これに触ってみると、とても固いのがわかった。
少々お腹を前に突き出したのはべつとして、そのほかはしごくおとなしくしていたところを見ると、こうやってお触りを楽しんでいるのが、姉にはお気に召したらしい。
彼女はとても興奮して、シュミーズをさらに、へその上のほうまで持ち上げた。そこでぼくは、彼女の腹部探険としやれこんだ。彼女のお腹のあちらこちら手を触れてみた。おへそをくすぐり、その周辺に舌をはわせた。それからもっとよく見ようとして、後ろへ退った。
ところがぼくの目に入ったのは、ベルトの脂ののった、三角形の丘を飾る、きれいな若草だけだった。
若草といっても、じつのところすごくわずかしか生えていなかった。丈も低く、うぶ毛で、色があまり明るすぎたので、実際ごく近く寄って見なければ目に入らないほどだった。ぼくの体にしてもたいして違いはないけれども、草の色がずっと黒かった。
ぼくはこの若草をちょいとひねって、ぼくら二人の下草の色の違いにびっくりしたので、その気持ちを口にした。
ところが、ベルトはこんな返辞をするのだった。
「いつもこんなもんなのよ」
「どうしてそんなことを知ってるのさ?」
「いつかカートと二人だけでお風呂に入ったときに、カートがあたしにそう言ったのよ。もちろん、しばらくすると、あたし、アンネが始まるんですって」
「それはいったいなんのことだい?」
「毎月、何日かのあいだあそこから血が流れるのよ。あたしと同じ年ごろには、カートはもう草むらが生い茂っていて、アンネがあったんですって」
「カートにも姉さんと同じような下草が生えてるのかい?」
「違うわ!」
ベルトは、洋服の裾を下ろしながら、いかにも優越感を抱いているような口調で言うと、さらにこうつけ加えた。
「カートの下草はこげ茶色よ。あたしのはブロンドでしょ。彼女ったら、色を濃く見せようとして髪の毛に油を塗っているのよ。もともと、両脚をうんと開かなければ、あそこが見えないくらい草むらがもじゃもじゃなのよ」
ベルトがそんなおしやべりをしているあいだに、ぼくのせがれは固くなっていた。ベルトはそれに気がついて、こう言った。
「ごらんなさい、あなたのアレ、またとてもかわいくなっちまったわ。いつかカートがあたしに話したことがあったわ、彼女がお風呂で笑っていたんで、どうして笑ったのか尋ねた日のことよ。彼女の話では、ロジェのホースったら一人前の大人《おとな》のひとのホースみたいに立つんですって。それにかなり大きいらしいのよ。それに彼女こんなことをつけ加えたわ。あの子が大人になったら、あたしはあの子におっぺされるかもしれないよ、ですって。でね、ベルトもあの子におっぺされないように、用心しなさいね、って言うのよ」
「|おっぺす《ヽヽヽヽ》って、どういう意味なんだい?」
とぼくは尋ねた。
「こういうことよ! つまりね、お互いにこすりっこをすることなのよ。カートは前にあたしにそうやってくれたの、あたしも彼女に同じようなことをしなければならなかったわ。さっきあなたが味わわせてくれた気分より、ずっとすばらしい気分にしてくれたわ。彼女ったら、いつも指をぬらしていたわ」
「あたし、親指を使わなければならなかったのよ、だって、奥まで入るような気がしたんですもの。そこであたし、急いで動かすのよ、それが彼女にはとても気持ちがよかったのね。彼女はあたしにそうしてくれたけれど、あたしもとてもすてきな気分がしたわ。でもね、はじめて彼女があたしにそんなことをさせたときときたら、あたし彼女がとても怖くなっちまったわ。だって大きな息をして、あえぎはじめ、そのうち体を揺すっては、大きな声で叫びはじめるんですもの。どこかが痛いんじゃあないかと思って、そろそろやめようと思ったくらいよ。そうすると彼女、『ベルト、やめないで』ってあたしに言うのよ。大声で、『ベルト、いくわ、ア! ア! ア!』ってどなりながら、体を揺するのよ」
「それからカートったら、まるで失神したみたいに、ベッドに倒れてしまったわ。彼女から指を引き抜いてみると、まるで糊《のり》がいっぱいついたみたいだったわ。指を洗わせてからカートはあたしにこんな約束をしてくれたわ。あたしがもう少し年とって、丘に茂みができたら、あたしにも同じようにしてくれるんですって」
数知れぬさまざまな思いが、ぼくの頭の中を横ぎった。ぼくには、理解しなければならない問題がいろいろ残っていたので、いやというほど質問したいことがあった。
それに、ここで昼食を知らせる鐘の音が聞こえなかったなら、それからどんなことが起こったかわからない。ぼくはベルトのさまざまな宝物をすっかり、大急ぎでながめ、ベルトにはぼくの宝物を見せてやった。それからぼくらは、それぞれ乱れた服装をきちんと直した。次に、ぼくたちのあいだで起こった事柄を、ぜったい他人に口外しないと、名誉にかけて約束しながら、ぼくらはキスをした。そろそろ帰ろうとしたとき、ぼくらの耳に人声が聞こえてきた。
三 下男下女の交歓
そのときぼくたちは気づいたのだが、今しがた鳴った鐘はぼくら家族の者のためではなく、召使いたちの昼食を告げるための鐘の音《ね》だった。ぼくらはもうきちんと服を着てしまっていたし、近づいてくる連中には、ぼくらがさきほど何をしていたか、ぜんぜんわかるはずがなかったので、べつにあわててその場を離れなかった。
庭の外の、ぼくたちからあまり遠くないところから人声が聞こえてきた。そのうちに、この人声は庭の後ろにある畑で仕事をしていた、何人かの女中たちのものだということがわかった。けれども、召使いの昼食は、鐘が鳴ってから十五分後でなければ始まらなかったから、ぼくらはその女中たちの姿を見ることができた。
前の晩に雨が降っていたので、女中たちの足は耕やされた畑の土にまみれていた。女中たちははだしで歩いていて、そのスカートは――じつのところ、女中たちはそれぞれ、スカート一枚しか身につけていないように見えたが――とても短く、膝より下までは届いていなかった。女中たちはべつにとりたててきれいとは言えなかったが、それでもみごとなグラマーで、陽灼《ひや》けした百姓女で、年齢でいえば|はたち《ヽヽヽ》から三十歳のあいだまでまちまちであった。
女たちは、池のところへ着くとすぐに、岸辺の芝草の上に腰を下ろし、水に足を浸《つ》けてバシャバシャ始めた。
女たちはぼくらの真正面におみこしをすえ、ほとんど十歩と離れていなかった。おかげで、彼女たちの褐色《かっしょく》に灼《や》けたふくらはぎと、すっかりむき出しになった、それよりずっと色の白い膝との色の違いがじつにはっきりと見分けがついた。二、三人の女たちは、太腿の部分さえ見えるくらいだった。
ベルトはこのすばらしい眺めにもぜんぜん興が乗らないらしく、もう帰りましょうとばかりにぼくの腕を引っぱるのだった。
そのとき、ぼくらのすぐ近くから足音が聞こえ、ぼくたちのいるそばの小径《こみち》を通って、三人の下男がやって来るのが見えた。
女中たちのうちの幾人かは、男の姿を見ると、服の裾を下ろしてきちんと身じまいをした。特に髪の毛が炭のようにまっ黒な、顔にどこかスペイン風な感じのする女中はみなりをきちんと直したが、彼女の顔には、明るい灰色の、茶目っ気のある二つの目がキラキラと輝いていた。
間の抜けた様子をした第一の下男が、女たちがいてもへっちゃらで、ぼくらが隠れている前へ立ち、小便をしようとしてズボンのボタンを外した。
彼はホースを引っぱり出したが、それはぼくのモノにとても似ていた。もっとも頭が完全に皮をかぶっていたところはべつであるが。彼は小便をしようとして、ホースの先の帽子を脱いだ。彼はあそこの部分をぐるりと取り囲んでいる、革の茂みまで見えるくらいたかだかとシャツの裾をまくり上げた。彼はズボンからホーデンまで引っぱり出し、右手でホースを操りながら、左手でホーデンをがりがりと引っかいていた。
この光景を見て、ぼくは、さきほど百姓女のふくらはぎを指差して見せたときのベルトと同じように、げんなりした気分を味わったが、今はベルトは目を皿のようにして見つめていた。娘たちは、まるでそれが目に入らないようなふりをしていた。
二番目の下男もまたズボンを下ろし、同じように、さきほどの男よりも小振りだが、頭の半分帽子をかぶった、褐色のホースをご開帳に及んだ。すると娘たちはドッと笑いはじめ、三番目の下男まで同じように身構えると、その笑い声はいっそう激しくなった。
そうこうするうちに、最初の下男が小便を終えた。彼はホースの先の鞘《さや》をすっかり脱ぎとり、さかんにホースを振って最後の滴まで払い落とし、ズボンの中にお荷物をしまい込もうとして、膝をちょっと前に折るような格好をした。と同時に、いかにも感極まったような、「アアーツ!」という声をあげながら、澄んだ、音高いおならを一発放った。すると、女中たちのあいだに、笑いと嘲弄《ちょうろう》の渦《うず》がまき起こった。
娘たちが三番目の下男の操縦|桿《かん》に気づいたころには笑い声も普通になった。この下男は、ぼくたちが百姓女の姿を見るのといっしょに、そのシンボルまでながめられるような、はすかいのところに立っていたのである。
彼は、噴水がとても高く上がるようにホースを宙に向けていたが、その様子が女中たちのあいだに、まるで気違いのような笑いの渦を誘った。それから、三人の下男が女中たちのほうへ歩いてゆくと、女中たちのうちのひとりは、間の抜けた様子をした下男に水を浴びせはじめた。三番目の下男が、|褐色の髪の女《ブリュネット》に向かってこう言った。これが、男たちの姿を見て、そうそうに服の乱れを直した女中である。
「アレを隠そうったってだめだぜ、ユルスュール、おいらはもうおまえがあれほど大事にしてるものをこの目で見ちまったからな」
「あんたがまだ拝んでいないものがどっさりあるわよ、ヴァランタン! それにあんたなんかにゃあ、ぜったい拝めるもんかね!」
思わせぶりな様子で、ユルスュールがこんな返辞をした。
「そう思うのかい?」
ヴァランタンはこう言ったが、彼はいまや彼女のま後ろのところへ来ていた。
同時に彼は、彼女の肩をつかむと、地面に仰向けに押し倒した。彼女は水に突っ込んだ足を抜き出そうとしたが、そのひょうしに軽いスカートとシュミーズがまくれ上がらないように気をつけるのを忘れてしまった。彼女はちょうど、姉の姿を見たあのときと同じ姿勢になってしまった。このえもいわれぬ景色《けしき》が、わずか二、三秒しか続かなかったのは、不運といえば不運であった。
といっても、それは相当に長く続いたから、すでにもうじつに頼もしい一対《いっつい》のふくらはぎを見せてしまったユルスュールは、あらゆる名誉を受けるにふさわしい、その果てはすばらしい尻に続く、美しい二本の太腿をたっぷり拝ませてくれた。この尻から左右に別れた臀部は、まったく一点非の打ちどころのないものだった。
腹の下、太腿のあわいには、黒い下草が生い茂り、この茂みは、丘に開く、美しい双の唇をじゅうぶん取り囲むまで下へ下へと伸びていた。しかし、この場所では、下草は、ぼくの片手でようやく隠せるほどの面積を覆った、その上の部分ほど濃く生い茂ってはいなかった。
「わかったかい、ユルスュール、これでおいらは、おめえの黒いモルモットまで拝観したんだぜ」
かなり興奮したヴァランタンがこう言った。そして、しんけんになって腹をたてている娘が打ってかかったり、悪口を浴びせたりしても、身じろぎもせずに受けとめていた。
二番目の下男も、ヴァランタンがユルスュール相手にやったと同じ手口で、ひとりの娘にかかろうとした。
この二番目の女中はなかなかのグラマーだったが、顔も、首も、腕も、もは生地の色が見えないほど|そばかす《ヽヽヽヽ》だらけだった。両脚にも|そばかす《ヽヽヽヽ》があったが、でもこちらのほうは数が少なく、その代わりに粒が大きかった。彼女は利口そうな顔付きで、目は茶色、髪は赤毛で縮れていた。つまりは彼女は、とりたててきれいというほど美人ではない。けれども、男にいっちょうやろうか、という気を起こさせるくらい刺激が強い女だった。それに下男のミッシェルはエキサイトしているらしく、こんなことを言った。
「エレーヌ、おめえのあそこは赤いはずだぜ。もし黒かったら、盗まれたからにちげえねえぜ!」
「こんちきしょうめ!」
グラマーな女中がののしった。
彼はヴァランタンがしたように、彼女の手をつかんだ。
しかし彼女は、美しい丘をご開帳に及ぶ代わりに、立ち上がるだけの暇があり、相手の顔のドまん中にげんこつを一発お見舞いしたので、彼は三十六の火花が散るのを見る始末だった。
別の二人の女中も彼を平手でたたきはじめた。
ついには彼は、女中たちの笑い声を背にしながら、大声をあげて逃げ出し、仲間のあとを追って駆けていった。
女中たちは足を洗い終わって、ユルスュールとエレーヌだけを残して遠ざかっていった。しかしもとより二人も、帰る支度にかかっていた。
二人はお互いに耳を寄せて何かささやいていたが、そのうちにユルスュールは笑い出して、しかめっ面をすると顔を下げた。エレーヌはうなずきながら、上から彼女をながめていた。
ユルスュールは、エレーヌが教えてくれたことを、考えている様子だった。エレーヌは周囲をぐるりと見渡して、もうみんなが遠くへ行ったかどうか見てから、とつぜんスカートの前をまくり上げた。左手でスカートをたかだかと持ち上げたが、一方、くれないに燃える草が鬱蒼《うっそう》と茂った森が見える太腿のあいだに右手をあてがった。ユルスュールのよりもずっと濃いその茂みの動きにつれて、彼女が指のあいだで体の中心の唇を圧《お》しつけているのが見えたが、茂みがあまり濃いので見にくいのがわかった。ユルスュールのほうは、しごく落ち着いて彼女をながめていた。にわかに|おひげ《ヽヽ・》のやぶから噴水がほとばしり出たものの、いきなり地面へ落ちてゆくかわりに、それは宙に高くはね上がって半円を描いた。それを見てベルトはびっくりしてしまった。ベルトにしてもぼくと同様に、女性がこんなふうにして小便ができるなどとは思いもよらなかったのだ。
この女性小便の図は、ヴァランタンのときと同じくらい長く続いた。ユルスュールはすっかりたまげてしまって、自分も試してみたくてたまらなかったらしいが、昼食を知らせる二回目の、そして最後の鐘の音が鳴りひびいたのでそれをあきらめた。二人の女中は足早に去っていった。
四 オナニスム入門
ベルトとぼくが城へもどってみると、食事の仕度ができていた。しかし母と叔母は、まだ客間の家具の飾りつけをすっかり終わっていなかった。姉が二人の手伝いをしているあいだに、ぼくは父がぼくたちに送ってくれた新聞の、ムッシュー・X……についての三面記事を読んだ。ムッシュー・X……は、A……某という令嬢に暴行(violer)したのである。ぼくは辞書の中から、|暴行する《ヽヽヽヽ》という言葉の意味を探して見つけ出した。|初咲きの花を手折る《ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ》という意味である。ぼくはその意味を知る前より以上に意味がわかったわけではないが、それ以上に考えるきっかけをつかんだ。
次に一同が食卓についたが、いつもの習慣に反して、ベルトとぼくはなにも口をきかなかった。二人の|だんまり《ヽヽヽヽ》に母と叔母はびっくりして、こんなことを言っていた。
「二人ともまだまだ気持ちのまとまりがつかないのよ、きっと」
ぼくたちの見たところ、どうやら、わざとらしく恨めしそうなベールをかぶせて、ぼくらのあいだに生まれた新しい水いらずの関係を隠しておいたほうが当たりさわりがなさそうに思えた。
母が、どんな具合に、母や、父や、叔母の部屋割りをしたか話してくれた。寝室は二階にあり、カートとベルト用の寝室もまた二階にあった。
一階の、書斎に通じる階段の後ろ側に、ぼくの寝室があった。ぼくは、山のような古本と、新しい作品が数冊ある図書室へ上がった。
そのすぐそばに、修道僧用に用意された寝室があった。この小部屋は、あいだに回廊があって、礼拝堂と別々に引き離されていた。礼拝堂の中の、祭壇のそばには、二つの広い仕切り部屋があり、前の家の持ち主がここヘミサを聞きにやって来たのである。仕切り部屋の一つの奥のほうに、主人の家族の告解室があり、礼拝党の奥には、もう一つ、召使いたちの告解室があった。
ぼくは午後のうちにすでにそれに気がついていたが、ベルトは夕食後、母と叔母の手伝いをしなければならなかった。だからぼくは、こちらから出かけていって手伝いを申し出て、ベルトにキスをする隙《すき》を見つけ出すのが精一杯というところだった。
なにごともなく、数日が過ぎた。
ベルトは、まだ家具の飾りつけが終わらない母や叔母といっしょに、いつも忙しく立ち回っていた。
ずっと天候に恵まれなかったので、ぼくはしょっちゅう図書室におみこしを据えていた。ぼくは図書室で、男や女の秘められた部分を極彩色で描き出した、大きな解剖図を見つけ出して、心地よいときめきを感じていた。この図書室で、ぼくがまだ知らない、妊娠や、母親になるあらゆる過程についての説明までも見つけ出した。
あたかもおりもおり、管理人の細君が妊娠していて、彼女のぼってり突き出したお腹《なか》がぼくの好奇心を激しく刺激していたところだけに、それはいっそうぼくの興味をそそりたてた。
ぼくは、彼女が亭主といっしょに、そのことを話題にしゃべっているところを耳にした。二人の住居は、一階の庭の脇の、ぼくの寝室のちょうどすぐそばにあったからである。
姉や、女中たちや下男たちの裸の場面をながめた、あの記念すべき日のかずかずの事件が、ぼくの心から消えていなかったのは明らかである。ぼくはたえずあの日のことを思い浮かべ、ぼくのシンボルは年がら年じゅう硬直していた。ぼくはしょっちゅうこれをながめては、これと戯れたものだ。手でこれを愛撫し、めくるめく心地を味わうと、ぼくはそれに刺激されてさらにそれを続けたものだった。
ベッドに入ると、再びぼくはうつ伏せに寝て、体をシーツにこすりつけて楽しんだものである。ぼくの感覚は日一日と洗練の度を加えていった。とやこうするうちに一週間が過ぎた。
それはある日、図書室の革ばりの肱掛椅子《ひじかけいす》に坐っていたときのことだった。目の前に、解剖図の、女性の性器のページを大きく開きっ放しにしているうちに、ぼくはズボンのボタンを外し、息子を外へ引っ張り出さなければならないほど、息子が意気天を衝《つ》くのを感じた。むりに上へ引っ張ったので、息子の被《かぶ》りものは簡単に脱げてしまった。とにかくぼくは十六歳〔前には十三歳といっているが、これはアポリネールの思い違いと思われる〕になっていたし、すっかり一人前の男になった気分だった。すでにずっと濃くなっていた下草の茂みは、今ではみごとな鼻下髭《びかひげ》のようにこんもりしていた。その日は、マッサージをしたおかげで、ぼくはかって経験したことのない欲望を覚えたが、それは息がとぎれとぎれになるほどの激しさだった。ぼくは手いっぱいに息子を強く握りしめた。そしてホーデンと後ろの洞窟を愛撫し、次にすっかり坊主頭になった自分のかまくびを見つめた。それは黒ずんだ赤で、まるで塗り物のような光沢を帯びていた。
これを見つめていると、なんとも説明できない悦楽がぼくの心に湧き上がった。ようやく、ぼくはオナニーの技術の法則を発見し、拍子をとって法則どおりの動きを続けたので、ついにはぼくの未知の領域にまで到達した。
それは言うに言われぬ官能の喜びであった。そのために、ぼくはいやでも両脚を前に突っ張り、テーブルの脚に押しつけ、一方上体は後ろへ倒して、肱掛椅子の背へ圧しつけなければならなかった。
ぼくは血が頭にのぼるような感じだった。呼吸が早く、胸苦しくなり、ぼくは目を閉ざし、口を開かなければならなかった。わずか一秒ほどのあいだに、数知れぬ思いがぼくの脳裏を横切った。
彼女の目の前で、ぼくがすっ裸になってみせた叔母、かわいい、きれいな宝物を拝観させてくれた姉、たくましい太腿を見せた二人の女中、こうしたすべての姿がぼくの目の前を去来した。ぼくの手は、いっそう性急にせがれのマッサージにはげみ、電気に打たれたような痙攣《けいれん》がぼくの体を横切った。
叔母さん! ベルト! ユルスュール! エレーヌ!……ぼくは道具が張りきるのを感じると、まもなく白っぽい物質がほとばしり出た。はじめは太い噴水となり、続いてもっと力ない流れとなって。ぼくは初めて、男の精を放出したのである。
ぼくの器械はアッという間に軟らかくなってしまった。そこでぼくは、好奇心と興味いっぱいに、左手の上に落ちたスペルムを見つめた。というのは、それは卵の白味のような匂いがして、外観もそっくりだったからである。それは、まるで糊みたいに濃かった。それをなめてみると、生卵みたいな味がした。最後にぼくは、すっかり意気消沈して眠りこけた息子の先からたれ下がっている最後の数滴を振り落として、シャツで拭きとった。
先日来の読書によって、ぼくは今しがた、オナニスムにふけったのだ、ということがわかっていた。ぼくは辞書をめぐってこの言葉を探し、これについての長い記事を見つけた。この記事はそのほんとうのやり方を知らない者でも、まちがいなくそれを覚えられるくらい微に入り細をうがっていた。
こうして本を読んだおかげで、ぼくはまたまた興奮した。つまり、最初の射精に続く疲労が去ったのである。あくことを知らない飢えがこの行為の唯一の結果であった。テーブルヘついたとき、母と叔母はぼくの食欲に気がついたが、育ちざかり、というせいにして片づけてしまった。
その後にぼくは、オナニスムというのは酒を飲むのに似ているということに気がついた。というのは、飲めば飲むほど、いっそう喉《のど》が乾いて、あとを引くからである……
ぼくの道具はたえず硬直し、ぼくはひっきりなしに肉欲に思いをはせていたものの、しょせんオナン〔「創世記」第三十八章。ユダの次男。「そこでユダはオナンに言った。『兄の妻の所にはいって、彼女をめとり、兄に子供を得させなさい』しかしオナンはその子が自分のものとならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄の子を得させないために地にもらした」この一節からオナニスムの語源になる〕の楽しみは永久にぼくを満足させることはできなかった。ぼくは女性のことを思い描き、そう思ってみるとオナニスムなどに耽溺《たんでき》して自分のスペルムを浪費したことが、ぼくにはいかにも損失のような気がするのだった。
ぼくの道具はいよいよ褐色味を帯び、ぼくの下草はみごとな山羊《やぎ》ひげのような形になり、ぼくの声はのぶとくなり、まだごくかすかではあったが、いくらかのひげが上唇の上のほうに姿を見せはじめていた。ぼくは気がついたのだが、もはや一人前の男性として、なにひとつぼくに欠けているものはなかった。ただし、|コイツス《ヽヽヽヽ》だけはべつものである。コイツスというのは、書物が、ぼくにとってはまだ未知の、例のことに与えてくれた言葉である。
この家の女性たちはみんな、ぼくの体のうちに起こったこうした変化にすでに気がついていた。そして、もはや子供としてぼくを扱ってはくれなかった。
五 筆おろし
お城の守護聖人の祭りの日がやって来た。この日は大げさなお祭り騒ぎになるのだが、それに先立ってお城の住民たちの懺悔《ざんげ》が続くことになっていた。
母はその当日懺悔をすることにすでに決めていて、叔母もまたそれにならうつもりだった。お城のほかの住人たちが後ろに引っ込んでいるはずはなく、みなその例にならった。
ぼくは病気だと触れこんでおいたので、ぼくの仮病がへんに疑われたりしないように、前の日から部屋に閉じこもっていた。
カプシン僧が着いて、ぼくらと夕食をともにした。一同庭でコーヒーを飲んだが、カートがすっかり食卓の後片づけをすると、ぼくはたったひとりになった。時間がやけに長く感じたので、ぼくは図書室へ出かけた。この図書室で、今まで気づかなかった隠し扉《とびら》をぼくは発見したのである。この扉は、狭く暗い秘密の階段に通じていて、明かりといえば、それに続く回廊の先にある小ぢんまりした明かりとりの窓から入ってくるだけだった。
この階段を通って礼拝堂へ行くことができるが、ずいぶん永く使っていなかったので、錆《さび》ついた、かんぬきのかかった扉の後ろから、母に向かって、明日はこの場所で懺悔をしていただきますよ、と言っているカプシン僧の声が聞こえた。
告解《こっかい》室は木造の仕切りを背にして立っているのだが、中の言葉をひとことひとことはっきりと外まで通してしまう。だから、この場所からは、懺悔の一部始終が聞きとれるように、ぼくには思えた。
それにぼくはこんなことも考えていた。つまりこの階段は、何世紀も昔に、奥方の懺悔を聞きたがったやきもちやきの領主によって備えつけられたものにちがいない、ということである。
その翌日、ぼくがコーヒーを飲み終わると、管理人の細君が寝室を片づけにやって来た。前にも言ったが、彼女は妊娠していて、ぼくは彼女の巨大な腹の出っぱり具合と、おっぱいの、ちょっと例を見ないほどの大きさまでつらつらながめることができた。彼女が着ている薄いブラウスの下で、このおっぱいが上下左右にブランブランと揺れるさまを見ることができた。
この女性は気立《きだ》てのいい女で、なかなかいかす顔つきをしていた。彼女は以前、彼女を妊娠させた管理人と世帯を持つまでは、このお城の女中をしていたのである。
ぼくはすでに絵や彫刻で女の乳房にお目にかかったことはあるが、ありのままの実物は一度も見たことがなかった。
管理人の細君は急いでいた。彼女は、ブラウスのボタンを一個しかはめていなかったから、ぼくのベッドを整えようとして体をかがめると、このボタンが外れて、彼女の胸のあたりがすっかりぼくの目に入るようなあんばいだった。それというのも、彼女は襟《えり》ぐりを大きく開いたVネックのシュミーズを着ていたからである。
ぼくはとび上がった。
「マダム! からだが冷えますよ!」
こう言って、ブラウスのボタンをかけてやるふりをしながら、両肩でシュミーズをとめているリボンを解いた。そのひょうしに、両方のおっぱいがその隠れ家からボインとはずみ出たような具合になり、ぼくはその大きく張り切った感じを味わった。
両方の乳房の、それぞれのまん中に鎮座する乳首がはじけ出た。乳首は赤く、とても広い、茶色がかった暈《かさ》で回りをぐるりと囲まれていた。
そのおっぱいは、左右の臀《しり》と同じように固く張りきっていて、ぼくが両手でちょっとそれを押してみると、まるできれいな娘の尻とまちがえそうな感じだった。
この女はあんまりびっくりしてしまったので、ぼくには、彼女がその興奮からさめやらぬうちに、これさいわいとゆっくりと、その乳房にキスをする余裕があった。
彼女は汗の匂《にお》いがした。が、匂いといってもぼくの気分をそそりたてる、しごく感じのいい匂いである。のちになって知ったことだが、これこそ、女性の肉体から発散する、「|女のにおい《オドール・デイ・フェミナ》」で、その天来の性質に従って、快感か、でなければ嫌悪の情をそそるものである。
「アラアラ! いけないわ! 何を考えていらっしゃるの?……いけませんよ……そんなこと、なさっちゃあだめよ……あたし、これでも人妻ですからね……ほんのちょっとしたことがあっても……」
ぼくが彼女をベッドのほうに押しつけているあいだ、彼女が口にした言葉がこれだ。ぼくは自分の部屋着の前を開き、シャツをまくり上げて、いまや恐るべき興奮状態にあるぼくをお目にかけた。
「放してください。あたし妊娠しているんです。アア! 神さま! だれかがあたしたちのこんなところを見たら」
彼女はさらに身を護《まも》ろうとしたが、それもだんだん弱くなっていった。
それでも彼女の視線は、ぼくの下腹のあたりに注がれていた。彼女はベッドを背にして立っていたが、ぼくは彼女をベッドの上に横にしようと懸命に頑張っていた。
「痛いわ!」
そこでぼくはこう言った。
「きれいな奥さん! ぼくたちはだれにも見えないし、ぼくたちの声は聞こえませんよ」
今ではもう、彼女はベッドの上に腰を下ろしていた。ぼくはさらに彼女の体を押しつけた。彼女の体から力がなくなり、仰向けになって目をつぶった。
ぼくの興奮はもはやとどまるところを知らなかった。ぼくが彼女の着ているものをまくり上げると、二本のみごとな太腿が目に入ったが、それはあの百姓女たちの太腿よりいっそうぼくの心をはずませた。ピタリと閉ざされた太腿のあいだに、栗色の下草のかわいい茂みが見えたが、その先までは見分けることはできなかった。
ぼくはひざまずいて、その太腿をつかみ、あちらこちらに触れ、その上に頬をすり寄せてキスをした。ぼくの舌は、ビーナスの丘のあたりを逍遙したが、そのあたりからおしっこの匂いが立ち昇り、それがさらにいっそうぼくの心をかき立てるのだった。
ぼくは彼女のシュミーズをまくり上げると、彼女の巨大な腹を驚異のまなこで見つめた。ここではおへそが、姉の体のように凹んではいないで、その代わり浮き彫りになっていた。
このおへそを、ぼくは舌でもてあそんだ。彼女は身動きもせず、乳房が両脇に垂れ下がっていた。ぼくは彼女の片一方の足を持ち上げて、ベッドの上へもっていった。彼女のコンがぼくの目に映った。それを見て、最初ぼくはギョッとしてしまった。唇の鮮やかな赤がだんだんと褐色に変わっていった。
彼女が妊娠していたおかげで、ぼくは完璧なまでにこの眺めを楽しむことができた。
大きな唇の上のほうには、噴水の出口が顔をのぞかせ、その上にかわいい肉の粒がのっていた。例の大きな解剖図から学びとったことからぼくが知ったところでは、これが女の中心の塔であった。
茂みが肉づきのいいビーナスの丘を取り囲んでいた。唇はなめらかで太腿のあいだの膚《はだ》は、汗に湿って赤くなっていた。
じつのところ、この眺めはすばらしいとは言えなかったが、でもこの女性がかなり清潔だっただけに、いっそうぼくは気分を良くした。ぼくはわれ目の上に舌をはわせようという気持ちを抑えきれなかった。
ここかしこ舌の散策を続けるうちに、やがてぼくは疲れてきたので、舌を指に変えてそぞろ歩きを続けた。そこでぼくはおっぱいをとらえ、その先を口に含んで、左右の乳首をかわるがわるに吸った。一方大きくなってゆくダイヤモンド・ポイントがぼくの小指ほどの長さになるのがわかった。
そのとき女はわれに返って、泣きはじめたが、ぼくが無理強いにとらせている姿勢は崩さなかった。ぼくは少々彼女の苦痛に同情はしたものの、あまりに気持ちがたかぶっていたので、実際はそんなことは気に留めてはいなかった。彼女の気分をほごそうとして、ぼくは彼女に甘ったるい言葉をかけてやった。最後には、これから生まれる子供の、名付け親になってやろう、と彼女に約束してしまった。
ぼくは引き出しのところへ行き、お金を取り出して、すでに身繕いをして服装の乱れを直してしまった女にそれを握らせた。ぼくは自分のシャツの裾をまくり上げたが、女性の、ことさらすでに結婚して妊娠している女性の前で裸になるのが、なんとなく気恥ずかしかった。
ぼくは管理人の細君のじっとりした手をとり、それをぼくの上に導いてやった。
彼女の愛撫は最初はやさしく、次には激しさを加えた。ぼくは彼女のおっぱいを手にとり、ぼくのほうに引っぱった。
ぼくが彼女の口にキスをすると、彼女は待ちきれないように、ぼくに唇を差し出した。
ぼくの体の中のあらゆるものが、まっしぐらに悦楽に向かって進んでいた。ぼくは腰を下ろしている管理人の細君に覆いかぶさろうとすると、女が大声で叫んだ。
「乗ってはダメ、そんなことをすると痛いのよ。あたしもう、前からはダメなのよ」
彼女はベッドを下りて、体の向きを変え、ベッドに顔を埋めて身をかがめた。彼女はべつに言葉をつけ加えなかったが、ぼくの本能はこの謎《なぞ》の言葉の意味を察していた。ぼくは昔、犬のそれを見たのを思い出した。ぼくはメドールの例にならって、ディヤーヌのシュミーズを持ち上げた。ディヤーヌというのは、管理人の細君の名前である。
ぼくの目の前に尻が現れた。といっても、ぼくが今まで頭に思い描いていた尻ではなかった。ベルトの尻が優雅だとはいっても、このお尻に比べたら、あんなものはほんとうに月とすっぽんだ。ぼくの左右の臀部を両方合わせたところで、この天来の奇跡から生まれた尻の片一方の半分にもみたないし、それにこの尻の肉がまたじつに固く張りきっていた。おっぱいと同じく、みごとな二本の太腿と同じく、目もくらむばかりの白さだった。
丘の狭間《はざま》がこの驚嘆すべき尻を、二つのすばらしい臀部に区切っていた。
たくましい尻のすぐ下、太腿のあわいに、脂ののった水も滴《したた》らんばかりのコンが姿を見せていた。ぼくはいたずら好きの指をそのそばに近づけた。
ぼくは、女のむき出しの尻に胸を押し当て、堂々とした球体のように垂れ下がっている、かかえきれぬ腹部に両手を回そうとしてみた。
そのとき、ぼくは彼女の臀にキスをし、わが子をそこに触れた。しかしぼくの好奇心は、それではまだおさまらなかった。ぼくは後ろの洞窟をつぶさに観察した。へそと同じように浮彫りになっていたが、とても清潔だった。
ぼくは指でその地帯の偵察を始めたが、彼女が体を引っ込めたので、痛くしたんじゃあないかと心配した。だから、ぼくはしつっこくしなかった。ぼくは、あたかもバターの塊の中ヘナイフを突き差すようにして、彼女のコンに向かって突撃した。それからぼくは、弾力のある後ろの丘にぼくの腹をぶつけながら、まるで焼けた金網の上の牡鶏さながらに激しく体を動かした。
そのために、ぼくはすっかり逆上してわれを忘れてしまった。もはや自分が何をしているかもわからず、こうして快楽の終局にまで達し、はじめて女性のコンの中にぼくの種を放射したのである。
放射を終わったあとも、ぼくはそのままでじっくり時間を楽しみたかったのだが、管理人の細君は体の向きを変えて、つつましやかに体を隠した。彼女が袖のついた肌着のボタンをはめているあいだに、ポトンポトンという小さな物音が聞こえた。それは彼女が床に落とすぼくの愛液の音であった。それを足で広げ、それから彼女はスカートでごしごしと体をこすっていた。
半ばうなだれた、まっかな、ビショビショにぬれたボクのせがれを見ると、彼女はニッコリとほほえみ、ハンカチを取り出して、彼女に祝福を与えたぼくのものを丹念に拭ききよめた。
彼女がぼくに向かって言った。
「サァ、洋服を着るんですよ、ムッシュー・ロジェ。あたしはもう行かなければいけませんから」
こう言って、彼女は顔を赤らめながら、さらにこうつけ加えた。
「後生ですから、あたしたちのあいだにあったことは、だれにもぜったい口外しないでくださいね。でなければ、もうあたし、坊っちゃんが好きでなくなりますからね」
ぼくは彼女をしっかりと抱きしめ、かわるがわるにキスをした。そしてどっと襲った新しい興奮にぼくの身を委せたまま、彼女は部屋を出ていった。おかげでぼくは、ほとんど懺悔のことを忘れるところだった。
六 色ざんげ
できるだけ静かに、ぼくは狭い廊下に忍び込んだ。ぼくは古いスリッパをはいていた。木製の仕切り壁に近寄り、まもなくいちばん人声がよく聞こえる位置を見つけた。カプシン僧は、ただ懺悔をする当人だけが、祈祷室《きとうしつ》に残り、順番を待っている人たちは礼拝堂の中にいるように手筈《てはず》をつけておいたのである。
したがって、懺悔をする者にしても、べつに小声でしゃべる必要はなかった。だから内部のやりとりは、とてもはっきり聞こえた。ぼくは中の声を聞いて、告解室に百姓がひとりいる気配を察した。懺悔はおそらく、ずっと前から始められていたにちがいない。というのは、カプシン僧がこんなことを言っていたからである。
聴罪司祭――なるほど、おまえの話では、おまえはいつも、便所の中で自分の一物をおもちゃにしていたというわけじゃな。なぜそんなことをするのじゃ? どのくらいの時間やっているのじゃ、それに、しばしばそんなことをしておるのかな?
百姓――まああたりめえなら、一週に二回というところでさあ、でもときには毎日おっぱじめることもありましてね、気分が良くなるまででさあ。おいらはとうていこいつをやめることはできねえんで、なにしろ言うに言われぬいい気分でがんしてね。
聴罪司祭――で女性相手にはどうじゃな、一度もそんなことはしたことはないかな?
百姓――たった一回だけありまさあ、相手は婆さんですがね。
聴罪司祭――それをわしに聞かせなさい、何も隠さずにな。
百姓――あるとき、干し草を入れる屋根裏の物置に、ロザリー婆さんといっしょにいたんでさあ。おいらのあれがおっ立ちはじめたんで、おいらはこう言ったんでがす。「ロザリーよ、おめえなんざあ、ずいぶん前から男っ気を断っていたんだんべ?」ってね。すると婆さんがおいらにこう言うんでさあ。「この悪性男め! とんでもねえはなしだ、そんなことができるもんかね。少なくとも四十年もご無沙汰《ぶさた》だあね。それにあたしゃあ、もう男なんてちっとも欲しくねえわさ。なんったって、もう六十の坂にかかっただからね」そこでおいらあ、こうやり返してやったんでさあ。「サァ、ロザリー、おいら、いちどすっ裸の女子《おなご》を見てえ見てえと思っていただ。服を脱いでみろ」すると向こうが言うんで。「うんにゃ、安心ならねえでな、魔がさすかもしれねえんでな」で、おいらはこう言ったんで。「このめえ、おめえが裸になっても、べつだん魔がさしゃあしなかったぜ」そこでおいらあ、だれも上へ登ってこれねえように、梯子《はしご》をおっ外しちまっただあね。おいらあおいらのを引っぱり出して、婆さんにとっくりお目にかけてやりましただ。婆さん、あれをまじまじと見つめて、こう言いますんで。「うちのジャンの野郎のもちもののほうが、いちだんとでっけえぞ」そこで婆さんに言ってやったんでさあ。「ロザリー、こうなったら、おめえのあそこを見せなきゃいけねえぞ」婆さんめどうしても見せたがらねえんで、スカートを頭の上までめくり上げて、とっくりあそこをながめますとね……
聴罪司祭――サア、続きはどうしたのじゃ、いったいどうなったんじゃ?
百姓――婆さんの下っ腹のわれ目ときたらでっけえんで。時期おくれの|すもも《ヽヽ・》みたいな紫色で、その上に灰色の草むらが生えていてね。
聴罪司祭――そんなことは尋ねておらん。おまえはどうしたのじゃ?
百姓――われ目の中へ、おいらのソーセージを押し込んでやっただす。するとロザリーはすぐに腹を前後ろに動かして、でっけえ声でこう言うんでさあ。「あたしの尻の下へ手をそえるんだ、うすのろめ! 手をそえたら、あたしみたいにやるんだよ」そこでおいらたち二人で体を動かしたんだども、そりやあ呼吸《いき》がうまく合ってね、おいらはすっかり体がほてりはじめるし、ロザリーはロザリーで、神父さまの前だけんど、イヤ、そりや威勢よく体をバタつかせて、五、六回はでき上がっちめえましたぜ。こう言っちゃあなんだけど、おいらは一回出しましたぜ。するとロザリーがこう叫びはじめましてね。「うすのろ、しっかり抱け、いいぞ、いいぞ!」それであっしもまたまたぶっ放しちまいましただ。ところがね、家畜小屋にいた女《あま》っ子がおいらたちの声を聞いて、洗いざらいしゃべっちまったもんで、婆さんとうとうクビになりましただ。そんなわけで、おいらは女《あま》っ子のケツを追っかける気にはならねえだ。
聴罪司祭――それは大へんな大罪じゃわい。まだ心の中で何か考えておるかな?
百姓――あっしゃあね、年じゅうロザリーのことを考えているんで。ある日、女中どもが飯を食いに出ていったあいだに、牛小屋にいたときのことでがす。牝牛のやつがさかりがきてるのがわかったんでね。あっしゃあかんげえましたよ。こいつのあそこは、ロザリーのにそっくりだぞ、ってね。そこで、おいらは、牝牛へ突っ込みたくなりましてね。ところが、やっぱり畜生のあさましさ、ロザリーみたいにおとなしくはしていねえんで。でもしっかりと押さえつけて、尻っ尾をうんと持ち上げてやりました。そこでようやく首尾は上々、その気分のいいことっていったら、ロザリー相手にしてるよりもぜんぜんいいんで。ただ牝牛のやつめ、こう言っちゃあなんだども、おいらにうんちをひっかけやがってね、おかげできんたまもズボンもすっかりぐしょぐしょっていうあんばいでね。もう牝牛相手にやる気がしなくなったのは、ザッとこんなわけでがんす。
聴罪司祭――なるほどなるほど、でもどうしてそんなことをする気になったのかな?
百姓――うちの羊飼いのやつが、こうやって、山羊を相手に一発やったからでがんす。それに、女中のリュシーのやつは、いつか、家畜小屋で股のあいだにでっけえ壺《つぼ》をはさんで地べたに寝ていやがってね、そうやると腹がとてもいい気分だってんで、隣のかみさんに話すと、そのかみさんも同じことを試してみたんでさあ。
俄悔の続きはべつにおもしろくなかった。ぼくは隠れていた場所を出て、いま懺悔したのはどんな男か、その様子を見てやろうと思って、礼拝堂へ駆けこんだ。
男が、池のそばで、間の抜けた様子で、さんざんグラマーな女中たちの嘲弄の的にされていたあのばかな下男だとわかって、ぼくはびっくりしてしまった。
彼は、男では最後の告解者だった。ぼくの母が、懺悔に行こうとして立ち上がった。母のそばには、叔母と男心をそそるカートがひざまずいていた。その後ろには、女中たちがそろって控えていた。姉のベルトの姿が見えないので、ぼくはふしぎに思った。管理人の細君は、お産が間近になったので、懺悔に行くのは免除されていた。
ぼくの母の懺悔はとても無邪気なものだったが、興味がないわけではなかった。
彼女は、日々に犯した罪を一つ一つ懺悔してから、こんなことを言った。
「神父さま、まだ一つあたくしにはお願いがございます。あたくしの主人は、しばらく前からあたくしにあることを要求いたします。
結婚式のその晩から、主人はあたくしを裸にして、ときどきそんなことを繰り返しました。ところが今では、いつもあたくしの裸の姿を見たがって、ある神父さまがお書きになった古い本をあたくしに見せますが、この中に、特にこんなことが書いてございます。『夫婦は、一糸まとわぬ裸体のまま肉体的行為をなさねばならぬ、すなわち男の体液が最も親密に女の体液と混じり合わんがためである』あたくしはこのごろ、この問題について良心の疑念が絶えませんし、この疑念は、年をとるに従って強くなってまいります。
聴罪司祭――その書物は中世に書き上げられたものです。その当時は肌着を着ける習慣は一般にゆき渡ってはおりませんでした。ただ上流階級の人々だけが肌着を着ていたのです。下層階級の人々は夫婦のベッドでは肌着を着ないで寝ておりましたし、こうした風習を頑固に守っている地方が今でもあります。たとえば、ここのお百姓たちは、今でもほとんどそうやって寝《やす》んでおりますが、それは主として南京虫《ナンキンむし》のせいです。教会はそうしたやり方に好意は持ってはおりませんが、しかし性急に禁じているわけではありません。
母――それを伺ってあたくしも、その点については安心いたしました。でも、主人はいつも、あたくしに、あたくしが恥ずかしくなるようないくつかのポーズをとらせるのです。
最近のことですが、あたくし、裸で四つんばいにならなければなりませんでした。そして主人は、後ろからあたくしの姿を見ておりました。裸のまま、部屋の回りをうろつき回るたびに、主人はあたくしをステッキでつつき、「すすめっ!」とか、「とまれっ!」とか命令したり、まるで体操でもするように、「右腹を下に」とか、「左腹を下に」とか命令するんです。
聴罪司祭――そんなことはすべきではないでしょうな。でもあなたが、ただご主人の言いつけどおりになさっているだけなら、罪を犯したことにはなりません。
母――アア! あたくし、まだ心にかかることがございますが、でも口にするのも恥ずかしくて。
聴罪司祭――わが娘よ、神に許されない罪はありません。心を安らかにお持ちなさい。
母――主人はいつも、あたくしの後ろからとりかかりたがるのです。それにあたくしが恥ずかしくて失神しかねまじい仕打ちをするのです。このあいだのことですが、あたくし、主人が指にポマードを塗って、突っ込んだような気がいたしました、つまり、……つまり……お尻の穴へなんです。あたくし起き上がろうといたしました。主人はあたくしをなだめましたが、ところが、主人ったら、あれを……あたくしにはよくわかりましたわ。最初はそんなことをされて痛かったんですが、しばらくすると、あたくし気持ちがよくなって、彼が終わるとすぐに、あたくし、主人にいつもの場所でされたときと同じような感じがいたしました(その後の言葉はあまり小声でささやかれたので、ぼくの耳には聞こえなかった)
聴罪司祭――それは罪ですぞ。ご主人を懺悔によこしなさい。
その後の懺悔はおもしろくなかった。
やがてぼくの叔母が席につき、彼女の気持ちのよい声がぼくの耳に聞こえてきた。ぼくにわかったところでは、彼女はしばしば告解をさぼったことを懺悔した。ところが、叔母が躊躇しながら小声でこんなことをつけ加えるのを聞いて、ぼくはあっけにとられてしまった。つまり、それまでは肉体的な欲望を感じなかった彼女が、若い甥が風呂へ入るところを見て愛の衝動を感じ、みだらな欲望を心に抱きながら甥の体に触れ、運よくこのおぞましい欲望を押さえることができた、というのだ。ただ、あるとき甥が寝ていると、掛けぶとんが落ちていたので、甥の男性の部分が見えた。彼女は長いあいだそれを見つめたが、とうとうそれを口に含んでしまった。彼女は告白しようかしまいかと、さんざんためらったすえにこんなことを話したのである。まるで、言葉がもう口から出ないような様子だった。ぼくは奇妙な感動を味わった。
聴罪司祭――あなたは今までに、男と罪を犯したことはないかな、それにひとりでみずからけがされたことはないかな?
叔母――あたくしはまだ処女でございます、少なくとも男性を相手にしては。あたくしはしばしば鏡に自分の体を映して、手で恥ずかしいところを触って楽しんだことはございます。あるとき……(と言って、彼女はためらった)
聴聞司祭――わが娘《こ》よ、勇気を出すのじゃ!懺悔聴聞僧にはなにごとも隠してはなりませんぞ。
叔母――あるとき、姉があたくしにこんなことを申しました。「うちの女中はロウソクをたくさん使うのよ。きっとベッドで小説を読んでいるんだわ、近いうちに夜、家に火をつけそうだわ。あなた、女中のそばに寝て注意していてくれないかしら」その晩のうちに、女中の部屋に明かりがともっているのを見たので、あたくし言われたとおりにしたんです。あたくし、ドアを開け放しにして、足音をぜんぜんたてずに、カートの部屋に入りました。女中は背中を半分あたくしのほうに向けて、床に腰を下ろして、ベッドに身をかがめておりました。彼女の前に椅子があり、その椅子の上に鏡を置き、鏡の左右には二本のロウソクがともっておりました。鏡の中に、彼女が両手になにか細長い白いものを握り、大きく開いた股のあいだでこれを出したり入れたりしているのがはっきり映っておりました。大きな息をついて、体全体を揺すっておりました。とつぜん、彼女が大声でこんなことを叫ぶのが聞こえました。「アア、アア、アア!いいわ!」彼女は首をうなだれ、口を閉じて、すっかりわれを忘れている様子でした。そこであたくしが体を動かしますと、彼女はとび上がり、あたくしの目に、ロウソクをはさんで、それがほとんどすっぽり体の中に隠れているところが見えました。そこで彼女はあたくしに説明して、兵役を果たしに出かけなければならなかった恋人のことを思い出して、そんなことをしていたんだ、と申しました。あたくし、こんなことができると知ってびっくりしてしまいましたが、彼女は口外してくれるな、とあたくしに哀願するんです。あたくしは部屋を出ました。でも、神父さま、この光景はすっかりあたくしの心を打ち、それ以来どうしてもあたくしも同じことをしてみないではいられないくらいなのです、それに、ほんとうに困ったことですわ! しばしば繰り返すほどなのです。そうです、あたくしいっそう堕落してしまいました、神父さま! しばしばシュミーズを脱いで、女中を見習って、いろいろな姿勢で罪深い楽しみを味わったのです。
懺悔聴聞僧は彼女に結婚をすすめ、罪の許しを与えた。
ぼくの姉と叔母〔ここでアポリネールは、母《ヽ》と姉《ヽ》をとりちがえている〕がこんな告白をしたあとの、カートの懺悔がどんなものかは、読者には容易に想像がつくだろう。ぼくはまた、彼女がいよいよ男がほしくてたまらなくなっていること、彼女とベルトとの仲がただならぬくらい水いらずになっていることを知った。二人はしばしば同じベッドに寝て、鏡を見て尻の比べっこをするほどの間柄になっていたが、もちろん二人でお互いの体をながめあってのちのことである。
女中たちの懺悔は単純しごくなものであった。女中たちはお望みのままに、下男たちにおっぺされていたが、女中たちの話しかたには洗練された味がなかった。それに女中たちは、けっして男を寝室へ入れなかった。寝室ではみんないっしょに、すっ裸でざこ寝をしていたのである。ところが、それも陸軍大演習のあいだはそのとおりにはいかなかった。ある連隊が通りかかったことがある。兵隊たちは宿泊許可証を持っていた。兵隊はあちこちに分宿させられたのである。だから女中たちはみんなそろって、かなりの年増《としま》までおっぺされたはずである。なかには後ろからものにされたのもいるが、これは女中たちには大罪と思われていた。カプシン僧が、ひとりで、あるいは仲間同士で手で慰んだことはないかと尋ねると、女中たちは、「あんな臭い穴に手を触れたいなどと思うもんですか」と返辞をしていた。ところが女中たちにしてみると、うんちをしたり、おしっこをしていたりする姿をお互いに見せ合っても、お楽しみの相手に鶏や、鳩や、鵞鳥《がちょう》を使っても、べつに悪いこととは思っていなかった。
ある女中などは、あるとき自分のものを犬になめさせたことがあった。犬に突っ込まれたんではないかと尋ねられると、この女中はこう答えたものである。「相手の道具がりっぱなら、喜んで突っ込んでもらったんだけんどね、惜しいことにあんまりでっかくなかったんでね」
ぼくはできるだけ細心の注意を払って、だれにも見られず部屋へもどった。
七 昼のたわむれ
部屋へもどるとほどなく、母と叔母がやって来て、父がやって来ることをぼくに知らせた。二人はぼくに、ベルトは体の具合が悪いので床についているとも言った。母がつけ加えて言うには、具合が悪いといってもべつに重いわけではなく、まもなく全快するだろう、だからぼくはベルトに会いに行かないほうがいいだろう、ということだった。
それを聞いて、ぼくはかえって好奇心に駆られ、これから何をしようか心に決めた。母と叔母が、午後カプシン僧といっしょに、村の病気で寝ている哀れな女の家を訪ねるはずで、カートもこの女のための衣類がいっぱい詰まった籠を持って、三人のお伴をするはずだということを、ぼくは知っていた。
ご婦人たちがおしゃべりをしているあいだ、ぼくは二人を注意深く見つめていたが、二人の懺悔を聞く前とは、まったく違った視線で見つめたものである。
二人は沈んだ地味な服装をしていたが、それが二人の外見的な特徴をきわだって見せていた。すなわち、母の華やかな容貌《ようぼう》と、叔母のすらりとした体つきである。
二人ともそれぞれ男心をそそる姿だった。叔母のほうは、まだ一指も男の手に触れられたことのない、そしてまた疑いなく心中に燃え上がっている欲望を約束する処女の清純さによって、母のほうはいかにも人妻らしい、そして想像力豊かな夫の、どんな気まぐれにも平然と身を委せるその成熟した女らしさによって、男心をそそるのである。
二人が部屋へ入ってきたとき、ぼくはちょうど顔を洗っているところだったが、ぼくはベッドに入ろうとしていたのだ、と二人に説明した。というのは実際に、仮病にはもうほんとうにうんざりしはじめていたからである。
ぼくの寝室も、図書室もまだ見たことのない叔母は、図書室の中へ入った。母は、食事の準備を監督しに台所へ出かけた。
いまや、ぼくの目には今までの倍も好もしく映る、きれいな叔母とこうして二人っきりになると、ぼくはすっかりエキサイトしてしまった。しかし管理人の細君との|やりとり《ヽヽヽヽ》のなごりがぼくの体にまだ残っていたし、あまりに性急に事を運ぶと、ぼくのいろいろな計画が永久に崩れるにちがいないということを、ぼくも認めざるをえなかった。
マルグリットは図書室の中を一応調べ終わってから、テーブルに近寄り、腰も降ろさずに、そこにあるものを見つめた。彼女は興味ある発見をしたにちがいない。テーブルの上には、百科辞典の|O《オー》の巻があったのだ。|しおり《ヽヽヽ》で「オナニスム」という言葉にしるしをつけ、そのそばに、ぼくは鉛筆で凝問符をつけておいたのである。ぼくは叔母がその本を閉じる音を耳にし、さらに、大きな解剖図のある図版にいっそう長いこと見入ってから、それを閉じる音が聞こえた。
だから、ぼくが図書室に入っていったとき、叔母が頬にまっかなもみじを散らしているのを見てもちっとも驚かなかった。ぼくは、叔母が当惑してもじもじしているのにも気のつかないふりをして、彼女にむかって優しくこう言った。
「叔母さん、叔母さんだってときどき退屈するんでしょ、昔ここに住んでいた神父さまは、人間の生活についてとてもおもしろい本を持っていたんだね。叔母さんの部屋へ、何冊か持っていったらどう」
こう言って、ぼくは二冊の本を手にとった。『あばかれた結婚』と、『愛情と結婚』の二冊で、ぼくはこれを叔母のポケットに入れてやった。彼女がもったいぶった様子をしているので、ぼくはこうつけ加えた。
「もちろん、これはぼくたちだけの秘密ですよ。ぼくたちはもう子供じゃあありませんからね。そうでしょ、叔母さん?」
そして、ぼくはやにわに叔母の首にとびついて、たかだかと音をたててキスをした。叔母はきれいに髪を結いあげ、優雅な襟足《えりあし》を見せていた。美しく結いあげた髪と美しい襟足は常にぼくを狂喜させるのだった。だからぼくは何度も彼女の首筋に音高くキスをし、すっかり陶酔してしまった。
ところが、マルグリットの心の中には、まだまだ懺悔の効果が残っていた。彼女はぼくを押しのけたが、かといって邪険にしたわけでもない。二冊の本をポケットに入れたままぼくの部屋にチラリと目をやってから出ていった。
午後になると、修道僧が二人の婦人といっしょに出かける声が聞こえた。ぼくはベルトを探して、懺悔をさぼるために、どうして彼女が体の具合が悪いふりをしたのか、その理由を尋ねようと決心した。
ところが、思惑は外れた。彼女は床についていて、ほんとうに病気らしかった。それでも、ぼくが訪ねていったので大喜びだった。
さっそく、ぼくの持って生まれたすき心が目を覚ました。しかし、ぼくが掛けぶとんの下から手を入れて彼女の体に触れようとすると、彼女は向こうをむいてこう言った。
「だめなのよ、ロジェ。おとついから、あたし、アレが始まったの……恥ずかしいわ」
そこでぼくが言った。
「アア! きみもメンスかい、それじゃあ、もう女の子じゃない、女になったんだよ。ぼくだって同じさ、男になったんだぜ、ベルト」
自慢げにこうつけ加えて、ぼくはズボンのボタンを外して、下草と、すでに坊主頭になった息子を彼女に見せた。
「それにね、ぼくはアレまでしたんだぜ、わかるかい! ただ、相手がだれかは言えないんだけれどね」
するとベルトが尋ねた。
「アレをしたんですって? アレってなんのことなの」
そこでぼくは、注意深く聞き耳を立てる姉に、コイツスの説明をしてやった。
「それに姉さんだって知ってるだろ、パパやママだって、いつもアレをやってるんだぜ」
「やめてよ、いやらしいわ」
こうは言ったものの、その口調はまるっきり反対の意味を示していた。そこでぼくはつけ加えた。
「いやらしいって? ベルト、…男と女が別々につくられたのはどうしてだい? アレがどれほどいいか、わからないかなあ。ひとりでやるよりはるかに気分がいいんだぜ」
「そうよ。あたし、ひとりでするより、カートがあたしを手で慰めてくれるほうがずっといいような気がするわ。おとついはね、アア! まるで天国へ行ったみたいだったわ。すると、カートがあたしにこう言うのよ。『今度はあなたにも毎月のお客さまがやって来るわね。注意しなさいね、ベルト。そろそろ始まるわよ』って。その日のうちに、あたしお腹が痛くなって、とつぜん太腿にそって、なにかジメジメしたものが流れてきたの。それが血だとわかったとき、あたしほんとうにゾッとしたわ! カートが大きな声で笑い出して、ママを呼びに行ったわ。ママはあたしを見て、こう言うのよ。『ベルトや、ベッドヘ入りなさい。これからは毎月、三日か四日のあいだこんなことがあるのよ。血が止まったら、シュミーズを変えなさい。その前にお風呂へ入ってはいけないのよ。そうでないと、血が止まりませんからね。もうこれからは、女の子の洋服は着てはだめね』あたし、ママや叔母さまみたいな、長いドレスを着るのよ」
ベルトはこう言って言葉を結んだが、誇らしげな様子がないでもなかった。
「サア、ベルト、アレをしようよ」
ぼくは彼女にキスをして、しっかりと抱きしめた。
するとベルトが言った。
「胸が痛いからやめてちょうだい。今は、あたしとっても感じ易くなっているのよ」
しかし彼女は、発達の最初の段階にある乳房を見ようとして、ぼくがシュミーズの前を開こうとしても、べつに反抗はしなかった。
それはかわいらしい一対の小山だった。ぼくの口には若いプシューケー〔ギリシア神話。エロスの恋人となる美少女〕か、ヘーベー〔ゼウスとヘーラーのあいだに生まれた、青春の女神〕の乳房さながらに美しく見えた。ところがそれは、すでに古典的な形をしていて、だらりとした様子はまったく見えず、ちっちゃな二個のボンボンをピンと立てていた。
彼女に甘ったるい言葉をかけてやると、彼女はすすんでぼくに抱かれ、平気で乳房を吸われるままにしていた。ところが、おかげで彼女はすっかり気持ちがはずんでしまった。
二、三度拒む様子を見せてから、ぼくに宝物のご開帳を許してくれたが、その前に血に染まったシュミーズをまくり上げた。
彼女の下草は、すでにぼくよりずっと濃く茂っていた。太腿に、水っぽい血が流れていた。たしかにそれはあまり食欲をそそるものではなかったが、すでにぼくの気持ちはあまりに興奮していたので、そんなことは気にもとめなかった。
彼女は腿をきつく締めつけていたが、まもなくぼくの指は彼女の中心の岬《みさき》を探り当て、そこへ上陸を試みると、彼女は腿をゆるめた。
ようやく、ぼくの人差指は彼女のコンを探り当てたが、あまり深入りはしなかった。それというのも、彼女が体をキュツと締めつけたからである。前人未踏の扉に触れると、その中央にはすでに小さい穴があいていた。ベルトは小さな叫び声をあげて、いっそう体を固くした。
すっかりいきり立って、ぼくは服を脱ぎ、シャツをめくり上げて姉に体を重ねようとした。ベルトは小声で抗議をし、涙を流して泣きはじめ、ぼくがなおも強行したときには、低い叫び声をあげた。しかし苦痛はすぐに去り、まもなくそれが欲望に変わった。彼女の頬はポッポと火照《ほて》り、かわいい両眼はキラキラと輝き、口は半ば開かれていた。ぼくの体に両手を回し、こちらの動きに力強く答えてきた。
ぼくが果ててしまう前に彼女の体から甘露が流れはじめた。両方の目を半眼に開いたまま、神経質にしばたいていた。彼女は大声で叫んだが、それは欲望の叫び声だった。
「ロジェ、アア! ロージェー、あたし……あたし……」
彼女は完全に逆上していた。ぼくは自分の姉の前人未踏の地を探険したのだ。
なにしろ今朝がた一戦交えているので、そのためと、それにこちらがあまりはやりたちすぎていたせいもあって、ぼくはまだすませていなかった。姉が悦楽に酔い痴れたさまを目のあたりにして、ぼくはひとしおいきりたち、はやりにはやった。ぼくが体を離すと、赤いものが一筋、ヒーメンを破ったために出た血と、メンスの血と、ぼくの乳液と混じり合って流れ出した。
ぼくらは二人ともすっかり怖気《おじけ》づいてしまった。
しかし、ぼくらの耳に人声が聞こえてきたときは、ぼくらの恐怖はもはやつきるところを知らなかった。その声はこんなことを言った。
「アラアラ! いいじゃあないの! 若い人たちって楽しい話し合いをするものね!」
ぼくたちのすぐそばに、カートが立っていた。
彼女は何かを忘れたので、それをとりに帰ってきたのである。自分たちのお仕事に気をとられていたせいで、カートが階段を上がってくる足音が聞こえなかったが、どうやら彼女は、しばらく部屋の外からながめていたらしい。そしてベルトが快楽に恍惚《こうこつ》となっているあいだに、そっとドアを開けて部屋に入ってきたのだ。
彼女のみだらな表情には、彼女が今その目で、その耳で見聞したことによって誘い出された興奮がはっきりと映し出されていた。ベルトとぼくはすっかり驚いてしまって、自分たちの乱れた姿をとり繕おうという考えも思い浮かばなかった。カートは、ベルトのひどい出血と、恐怖のあまりすでに首をうなだれてしまった、ぼくの息子の意気消沈の有様をじっくりながめる余裕があった。
カートが笑いながら言った。
「こういうことをするときには、なによりまずドアを閉めなければだめよ!」
そう言ってから、彼女はドアのところへ行って、かんぬきをかけた。
「ベルト、あなたのママは、アンネのあいだはアレをしてはいけないって、あなたに言っておくのを忘れたのね」
さらにはじけるような笑い声をあげながら、彼女がつけ加えた。
「でもあたしはようく心得ているのよ。つまり、いちばんしたくてたまらないのは、アレのときだっていうことを」
「腿のあいだに乾いた下着をはさんで、おとなしく横になっていらっしやい。でもロジェ、このシャツを汚れものの中に入れてはいけないわよ、なにしろあなたにはアンネがないんですものね」
そのときになってようやく、ぼくは自分のシャツに血のしみがついているのに気がついた。カートが洗面器に水を入れて、ぼくのほうに近寄った。
彼女がぼくに言った。
「ありがたいことに、こんなもの簡単におちてしまうわよ。お立ちなさい、ロジェ、あなたの体を洗ってあげるわ」
ぼくは、彼女がぼくのシャツを水に浸せるように彼女の前に突っ立ったが、シャツを洗うのは容易なことではなかった。そこで彼女はいきなりぼくのシャツを脱がせたので、ぼくはちょうど二人の娘の前に裸身をさらすことになってしまった。
カートはそんなことには頓着なくシャツを洗った。
「サア、いらっしやい!」
彼女はまじめな口調でこうつけ加えて、スポンジでぼくの体を洗った。
彼女に体を触れられると、ぼくのせがれはゆっくりと高揚しはじめた。
カートがこう言った。
「マアマア! ベルトの宝物へ忍び込むなんて、悪いせがれね」
それから彼女は、手で息子を軽く二、三度たたいた。にわかに彼女は左腕でぼくの体を抱えるとぼくをひざまずかせ、力いっぱいにぼくの尻をたたいた。ぼくは大声でわめきはじめた。ベルトが腹をかかえて笑いころげた。
ぼくの尻はカッカと熱くなったが、それでもぼくは、それまでに感じたどんな興奮よりも、いっそう激しい昂《たか》まりを味わった。
すでに昔のはなしだった。十歳のころ、つまらない悪戯《いたずら》をしたので、母がぼくを股のあいだにはさみ、半ズボンを脱がせて、かわいい尻をひどくたたいた。そのたたき方ときたら、はじめはとても痛かったのに、それが過ぎるとその日一日じゅう、肉欲の快感を楽しんでいられるようなたたき方だった。
再び見苦しくない姿になったぼくのせがれを見ると、カートは大声で笑い出した。
「ハッ! ハッ! ロジェったらなんてりっぱなハンドルの持ち主なの。ハンドルを回さなければいけないわ、ハンドルを回さなければいけないわ!」
こう言ってぼくの息子に手を伸ばし、帽子を脱がせてしまった。もうぼくには我慢できなかった。カートのおっぱいをつかむと、彼女は形ばかり身を護るふりをした。そこでぼくはスカートの下に手を差しのべた。彼女はペチコートをはいていない。彼女の|あんず《ヽヽヽ》を握りしめた。カートは腰を後ろへ引こうとしたが、ぼくは下草をつかんでいた。すかさず左腕を彼女の尻に回した。
おかげで彼女はすっかり悦にいってしまった。これは拒もうとしても拒みきれるものではない。彼女は軽くぼくの攻撃をかわして、ベルトのベッドに近寄った。ベルトは、カートの前で恥をかくまいとして、カートの首をつかんで、彼女をベッドに倒そうとするぼくに手を貸してくれた。
カートはすっかり度を失って、ベッドの上に倒れた。ぼくは彼女のドレスを剥《は》いで、すっ裸にしてしまった。彼女の下草は霜枯れ色の赤毛で、ベルトの話からぼくが想像したほど豊かな茂みではなかったが、かなり丈が高く、汗で湿っていた。
膚はミルクさながらの白さで、繻子《しゅす》もかくやと思われるほどの柔肌《やわはだ》だった。雪白の腰のあたりは心地よい丸味をおび、丸々として、固く引き締まった対《つい》のふくらはぎを包む黒いストッキングをはいているのがいかにも感じがよかった。
ぼくは彼女の上に身を投げかけた。ところが、のしかかってみたものの、ぼくには足を支える支点がなく、だから姿勢があまりに無理だったのですぐに体を離した。
ところがいまやすっかり体が燃えているカートは、ピョンと立ち上がって、ぼくの体をベッドのそばの椅子に押しつけ、とびかかってきた。われに返るまもなく、ぼくのサーベルは鞘の中にすっぽりとおさまってしまった。
彼女の長い下草が触れる感じがした。彼女は体を揺すり、ぼくの肩をつかんだ。彼女は自分から軽い綿《めん》の胴着を脱いで、ぼくにおっぱいの先っちょをいじってちょうだいと言った。というのは、彼女の言うところによれば、そうするととてもしびれてくるということだった。
彼女のおっぱいは、もちろんベルトのよりも発達していた。それほど大きくないけれども管理人の細君のおっぱいよりも固く引き締まっていた。そのおっぱいは太腿や腹と同じくらい白く、先っちょに大きな赤い芽がぽっちりついていて、もっと黄色味がかった花冠にとり囲まれ、花冠にはかわいい生毛が生えていた。
興奮の極にあったカートにはまさに発作が起ころうとしていた。相手の激しい体の動きの中で、ぼくは二度も彼女からとび出てしまい、彼女がそれをまた押しもどそうとするのだが、それがとても痛かった。ところが彼女にはかえって、それがとても気分がよかったらしい。
ぼくは彼女におくれをとってしまったが、そのあいだにも彼女は恍惚境に浸ったような叫び声をもらすのだった。
「いまよ、いまだわ……アア! オオ! あなた……とってもいいのよお……」
と同時に彼女は昇天し、その恍惚の最後の瞬間に、この敏感な女中はぼくの肩にかみついた。
彼女の激しい愉悦に応じてぼくの体にも最後の破局が近づいていることに気がついた。
カートはそうそうに意識をとりもどした。
「ロジェったら、あんたいつでもいっそう燃える|たち《ヽヽ》なのね、サア、あんたもどうぞ……」
こう言うと彼女はにわかに起き上がり、右手でぼくをつかみ、それを激しくこすりつけながらこう言った。
「こうしないと、あたし妊娠してしまうかもしれないわ」
ぼくもまた立ち上がった。カートは左腕でぼくをギュッと抱きしめた。ぼくは彼女のおっぱいを口に含んだ。ぼくは両脚を開かなければならなかった。ぼくの腹はヒクヒクと痙攣するように動き、珍しそうに目を凝らしている二人の女性の前に、すっかりヌード姿をさらけ出してしまった。
ベルトは好奇の目を光らせてぼくが昇天する様子を見つめていた。
百戦練磨の相手は、ぼくが天国への道を歩むあいだにぼくの尻をくすぐり、こう言ってぼくの気を引き立てていた。
「サア、ロジェ、そうっとすますのよ、そうそう、うまいものよ……」
ぼくの悦《よろこ》びは筆にも言葉にも尽くせないくらいだった。
それからぼくは、崩れるように椅子に腰を下ろした。カートの様子は、まるで何事も起こらなかったようだった。彼女はすっかり身繕いをすませてしまった。彼女はハンカチでぼくのホースを拭き、上着のボタンをはめ、籠を手にするといつに変わらぬ快活な調子で言った。
「サテ、このとおりことが終わってばんばんざいね! 今度は用心するのよ。ベルト、あなたはおとなしく横になっていらっしゃい。ロジェ、サア、あなたは階下《した》へ降りなさい!」
彼女は部屋から出ていった。ぼくは服を着て、ベルトにキスをしてから自分の部屋へもどった。
八 夜のよろめき
昼のうちさまざまな出来事があったおかげで、ぼくはくたくたにくたびれ果ててしまった。ぼくは、ただただもう欲も得もなく休息したかった。
翌朝、目を覚ましてみるとぼくは仰向けに寝ていた。これは毎朝きまって、息子が意気軒昂となる姿勢である。ほどなく部屋に近づく足音が耳に入った。ぼくは管理人の細君をからかってやりたいと思った。ぼくはシャツをまくり上げ、掛けぶとんをはねのけて、ぐっすり眠っているふりをした。
ところが、入ってきたのは管理人の細君の代わりに、彼女の義理の妹だった。三十三歳の女である。これはつまり、女がいちばんはやりたつ年ごろである。
娘時代、彼女は部屋付きの女中をしていた。おいぼれの、部屋付きの下男と結婚したが、この男はなかなかの倹約家で、彼女はこの亭主と、四人の子供(男の子ひとりと、十歳、十一歳、十三歳の娘)といっしょに、兄の管理人の家に住んでいた。
マダム・ミュレルは美人ではないが、さりとて醜女《しこめ》でもない。上背があって、すらりとした体つきで、膚の色は濃く、髪も目も黒かった。彼女は利口そうなようすで、サーベルで一発見参するにはもってこいの様子だった。
もちろん、彼女は一再ならず男性の大黒柱にお目にかかっていることはまちがいない。してみると、彼女はぼくのものも見ているし、ぼくが体を動かさずにじっとしていたのはこんなわけであった。
マダム・ミュレルはナイト・テーブルの上にコーヒーを置いた。次に前につき出したぼくの武器に気がつくと、一瞬ハッと驚いた。しかし彼女は腹のすわった女で、無意味に貞女ぶったりはしなかった。しばらく、つらつらとぼくの体を凝視していたが、その様子にはある種の悦びさえ感じられた。そこで彼女は、ぼくの目を覚まそうとして軽く咳をしたが、ぼくのせがれがいっそう厚かましい姿勢になるように伸びをしたので、彼女はベッドに近寄り、しばらくぼくの体を見つめてから、ぼくの体の上に掛けぶとんをかけてこう言った。
「コーヒーが参りましたよ、ムッシュー・ロジェ」
ぼくは目を開き、なかなかきれいな顔をしているねとか、その他いろいろお世辞を並べながらお早ようの挨拶《あいさつ》をした。それから、やにわにベッドからとび下りると、彼女の体を抱えて、きみはこのお城じゅうでいちばん美人だよ、とはっきり言ってやった。
彼女はやんわりとこちらの攻撃をかわしたが、ぼくは相手のスカートの下に手を忍ばせ、下草が厚く生い茂っている丘をつまんだ。すき者の女はみなそうだが、このあたりは乾いていた。それでもやがてぼくの指は湿り気をおびてきた。彼女のダイヤモンド・ポイントはとても固かった。
「何をつまもうとなさるの? おやめになって! 主人がこんなことを知ったら、それこそ!」
「ムッシュー・ミュレルは礼拝堂におこもり中だよ」
「そうですわ、あのひと、一日じゅうあそこでお祈りをあげていますの。でもおやめになってくださらない、痛いのよ……義姉《あね》が来るかもしれませんわ……あたしを待っているんですもの。もうたくさん! 今夜、もう一度参りますわ……今は落ち着いてできませんもの……今日、主人は二、三日滞在の予定で町へ出かけますの」
こんな約束をして、彼女は部屋を出ていった。夜になると、たっぷり食べてから、ぼくは寝室にワインと、ハムと、デザートを持ち込んだ。お城はやがて寝静まった。ようやくドアが開いて、マダム・ミュレルが入ってきた。ぼくの胸はドキドキと高鳴りはじめた。ぼくが彼女を抱きしめて、相手の口に舌を差し入れると、彼女もお返しをしてきた。とるものもとりあえずにぼくは服を脱ぎ、調子上々の姿を彼女に見せた。
これを見て彼女は言った。
「そうそういきりたってはだめですよ。そうでないと、骨折り損になるかもしれませんからね」
彼女はドアにかんぬきを下ろした。ビーナスの丘が、軽くふくらんでいるのがわかった。それにダイヤモンド・ポイントはこりこりしていた。ぼくは彼女をシュミーズ一枚の姿にして、それを高々とまくり上げた。ちょっと見には、いかにも痩《や》せっぽちの女みたいだった。ところが彼女はとても肉づきがよく、下草は黒々としてへそのあたりまで萌《も》え上がっていた。
コンからぜんぜん匂いが匂ってこないところをみると、おそらく彼女は体を洗ってきたにちがいない。そこでぼくは彼女を裸にした。あまり大きくはないが、乳首が柔《やわ》い茶色の生毛に囲まれているおっぱいの固さに、ぼくはびっくりしてしまった。
おっぱいを持ち上げてみると、その下のほうにも、短い、柔い、黒い毛が茂っているのが見えた。腋《わき》の下もまた、男と同じくらい濃い茂みに覆われていた。
彼女の体をながめて、ぼくはその尻の美しさに舌をまいてしまった。臀部はぐっと高く、左右がキリッと締まっていた。背柱にもまた同じように、うすく、黒い毛が生えていて、これが背中の上にまで続く。このたっぷりした茂みを見て、ぼくの息子はいっそう奮起した。
もちろんぼくはシャツを脱ぎ捨てて、この美女と体を重ねると、彼女は、ぼくのホースが自分の腹に当たるように仕向けた。
ぼくたちは、自分たちの姿がすっかり鏡に映り、互いに相手の体がすみずみまで見えるような場所にいた。ぼくが彼女をベッドのほうに引っ張ってゆくと、彼女はその上に腰かけてこんなことを言った。
「わかっているわ、あなたったら、あたしの体をくまなく見たいんでしょ」
彼女はたかだかと脚を上げて、尻まで密林の続く一部を見せてくれた。間髪を入れずに、ぼくは舌の逍遙としゃれこみ、こちらがホースを持ち込もうとすると、彼女が笑いながらぼくに言った。
「そんな具合じゃあだめだわ。ベッドに横になってちょうだい」
ぼくは彼女に、他人行儀な呼び方をしないで、ぼくのほうでも彼女を恋人同士のように呼ばせてくれと頼んだ。
ぼくはベッドに横たわった。彼女がぼくの上に体を寄せてきたので、彼女のみごとな肉体がすっかりぼくの目の前に見えた。彼女が、おっぱいを愛撫してくれ、と言った。それからぼくを握って、彼女のところに案内してくれたが、中へ放射しないように頼んだ。それから彼女は、とつぜん体を落とすと、激しく攻めたてたので、ぼくはほとんど苦しいくらいだった。そのあいだに、彼女はとうとう昇天してしまった。うめき声をもらし、彼女は両眼をひきつらせていた。
ぼくのほうも相手と相呼応した。彼女はそれに気がつくと、いきおいよく起き上がった。
まだ欲望にうち震える声で彼女が言った。
「我慢してちょうだいね、あなた。でもまだ、あたしが妊娠しないであなたを悦ばせるあることを知っているわ」
彼女が向きを変えた。いまや、ぼくの目の前に彼女の後ろの丘があるのだ。彼女は体をかがめて、口で攻撃を始めた。ぼくも彼女にならって、その返礼をしたが、彼女の体液は生卵の味がした。ぼくの上での舌の散策はいっそう激しくなり、彼女の片手がぼくのホーデンと尻をくすぐりはじめた。
快楽はじつに激しく、ぼくは全身をピンと硬直させてしまうほどだった。彼女はできるだけ奥深く、ぼくを迎え入れようとし、彼女の秘かな部分がぼくの目の前にあった。
つかの間の恍惚境《こうこつきょう》からぼくがわれに返ったとき、彼女はぼくの脇に添い寝していて、二人の体の上に掛けぶとんをかけていた。彼女は、ぼくが彼女に味わわせた快楽のお礼を言いながら、ぼくを愛撫し、ぼくも同じような快感を味わったかどうか尋ねた。
白状しなければならないが、この態位は正常のコイツスよりもずっとぼくを楽しませてくれたのである。それからぼくは、彼女はすでに結婚しているくせに、どうしてぼくに放射するのを許してくれなかったのかと尋ねた。
すると彼女はこう言うのだった。
「そう、結婚しているからなのよ。うちの主人ときたらインポなの、だからあたしがよろめきでもしようものならたちどころにわかっちまうのよ。アーア! いやんなっちゃうわ! あたしがあんなひとで我慢しなけりゃあならないなんて」
ぼくは一部始終打ち明けてほしい、と彼女に頼んだ。彼女が語るところではこうである。
彼女の亭主ときたら、彼女が鞭《むち》を振るって亭主の臀を血が出るほど打たないかぎり息子の戦意が高揚しないのだという。
彼女のほうでもまた、亭主に尻を打《ぶ》ってもらわなければならないが、もっともこれは手で打つのだという。今では彼女のほうもすっかり慣れっこになってしまって、痛さよりもむしろ快感を感ずるようになってしまった。彼女はまた、亭主の見ている前でおしっこをし、うんちさえしなければならない。というのも、亭主関白がその有様をあますところなく見たがったからだ! 亭主がもっとも興奮の極に達するのは、とりわけ彼女がアンネのときだという。
五十回、いや百回も亭主を鞭で打ってから彼女は、亭主の半ば首うなだれたせがれを、大急ぎで自分の体に近づけなければならなかった。そうしなければ、アッという間もなく相手は青菜に塩という有様になってしまう。もっとも彼女が亭主の尻をなめてやるか、そうでなければ亭主に足の指のまたをなめさせるかすればはなしはべつだ。こうしてようやく相手は意気高らかに頭をもたげるのだが、こうしたことはどれもこれも、不愉快で不愉快でたまらない。
彼女は話の締めくくりをつけるように、こんな言葉をつけ加えた。
「そのくせにして、あの死にぞこないときたら年がら年じゅう教会詣りをしているのよ」
この驚くべき物語が、ぼくの息子の動物的精神を目覚めさせた。マダム・ミュレルはぼくのホーデンをくすぐって、この復活に拍車をかけた。彼女は脚のあいだにぼくの体をはさみ、向きを変えて脇を下にして横になった。彼女の脚がぼくのバックで組み合わさり、ぼくらは横向きのまま向かい合った。この姿勢でいるとお互い相手を抱きかかえることができるので、じつに快適だったし、それにぼくは彼女のおっぱいを吸うこともできた。
ぼくは、欲望にふくらみ、すっかりでき上がった彼女のコンに触れた。ぼくらはお互いに、後ろ山に指をはわせた。ぼくは彼女にホースを差し込み、口にはミルク壺《つぼ》を含んだ。ぼくの指が後ろ山の洞窟に達すると、洞窟の壁がヒクヒクと震えるのを感じた。彼女は大声で叫びはじめて、もう一度昇天した。彼女は後ろからぼくのホーデンをつかんでいたが、そのひょうしにギュッと握りしめ、ぼくは痛くてたまらず、どうか放してくれと頼む始末だった。
ぼくを優しく愛撫してから、彼女は、後ろの山がみごとな景観を見せるように、ベッドに顔を押しつけた。ぼくは彼女を尻を高くしてひざまずかせて、後ろの山の洞窟探険に乗り出した。
彼女の言うところでは、これがすばらしいという。ぼくは片手で下草生い茂るあたりを探訪し、もう一方の手でおっぱいをつかむことができた。いまや放射しようという瞬間に、ぼくは体を後ろへ引いたが、相手の尻の筋肉がぼくを締めつけているので動きがとれず、ぼくは後ろのまっただ中に放出してしまった。彼女はまだこれまでにこちらの洞窟に足を踏み込まれたことがなかったというはなしだ。
後ろの洞窟の中でのできごとに、彼女の体の中に欲望がすっかり目覚めて、彼女はぼくと同時に天国に遊んだ。
「でも、今日のところはもうたくさんよ」
彼女はにっこり笑いながらはっきりと言った。
ぼくは腹のくちくなる思いだった。彼女にデザートをふるまったが、彼女は彼女の部屋でリキュールを一杯いかが、と言ってぼくを誘ってくれた。彼女の部屋からもどって、ぼくは横になった。
九 女中の品さだめ
ある日のこと、母は、家じゅうの女中たちをみんな、お城の最上階の屋根裏部屋に寝起きさせようと腹を決めた。女中たちはその晩のうちに、階上《うえ》へ移って部屋に落ち着く準備にかかった。
ぼくは女中たちの引っ越しする様子をながめていた。
女中たちのひとりが、腕に敷きぶとんを抱えて、最後の階段をぞろぞろと昇ってゆくとき、ぼくは彼女のあとをつけてゆき、その短いスカートをいきなりまくった。
まず最初に、ぼくはとても固く引き締まった臀部に触れ、臀をグッと抱きしめると湿ったあたりに指を近づけた。彼女は少しも声をあげず、|だて《ヽヽ》男はだしのぼくのやり口に気をよくして、にっこりほほえんでこちらを向いたが、これで彼女にもぼくの正体が知れたわけである。彼女は例の褐色の髪のユルスュールだった。ぼくは彼女を最上階の部屋まで連れてゆき、彼女を抱いた。
最初のキスをしただけで、彼女はすっかりでき上がっているような反応を見せ、ぼくにもキスで答えてくれた。そこでぼくは彼女のおっぱいに手をやり、やがて茶色い突起のついた固く締まった半球の中へ手を入れた。うすものの、短いドレスの下にすばやく手を伸ばし、下草の生い茂る丘に触れると、それはぼくの片手いっぱいもあった。
彼女は太腿をきゅっと締めて、ちょっと体を前に傾けた。ぼくは乳首を口に含んで扱いながら、一方ダイヤモンド・ポイントにも戯れていた。それはすでにこの上なく昂《たか》まっていて、すでに戦闘準備オーケーの状態だということがわかった。
彼女は逃げようとしたが、ぼくは彼女を壁に押しつけた。うすものの服の下で、彼女の体じゅうがうち震えているのが感じられた。そうそうにぼくはサーベルをとり出して、彼女の鞘に収めた。姿勢に無理があったし、その上相手の娘の背が高く、たくましかったので、彼女のほうから協力してくれなかったら、とうてい収めることはできなかったにちがいない。
こうして、ぼくは立ったまま彼女をものにした。アッという間に最高潮に達したところを見ると、おそらく彼女の体は火照っていたにちがいない。それはぼくにしても同じことで、とても疲れ易いこんなポーズをとっていたおかげで、あわや昇天しそうなあんばいだったが、部屋の中になにか物音が聞こえてきたので、ユルスュールが体を離してしまった。彼女はまじまじと息子を見つめていたが、彼女の言うところでは、|町育ちの紳士のせがれ《ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ》に見参したのは、|生まれてこのかたはじめて《ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ》のことだからという。
ぼくは彼女にせがんだ。
「サア、ぼくにも見せてくれよ」
彼女は羞《はじ》らいながらこちらの要請に応じてくれた。スカートをまくり上げると、目もさめるような裸の脚が、そして太腿のあわいに、それにふさわしい黒々とした茂みをながめることができた。ありがたいことに、彼女は町育ちのご婦人のように、ズロースなどははいていなかった。町育ちのご婦人ときたら、自分のコンに触れていただくときに、ひどくもったいぶって科《しな》をつくって見せるものだが、百姓女ほどとは言わないまでも、もとよりノーズロースがお好みなのである。ぼくは彼女のスカートとシュミーズを持ったまま後ろへ退がり、それからまた近寄って、彼女の腹と臀部に両手の散歩としゃれ込んだ。
それから身をかがめて顔を寄せると、卵の匂い――今しがたすませたためである――とおしっこの匂いが漂ってきた。ぼくが舌の散策を始めると、彼女はゲラゲラ笑い出して、スカートを下ろした。ところがぼくは彼女の体をしっかと捉《とら》えて、その作業を続け、そのためにぼくはいっそう燃えはじめた。ところが、部屋の中でまた物音がしたので、ユルスュールは本気で体を離してしまった。
ぼくはもどらなければならなかった。ところが彼女が向こうを向いたので、もう一度後ろからスカートをまくり、みごとに引き締まった、じつにすばらしいセミ・ヌードの姿を楽しんだ。
「もうちょっとお願いだ、ユルスュール」
ぼくはこう言って、彼女のシュミーズをしっかりつかんだ。
ぼくは彼女の臀に唇をはわせ、巧みに操りつつ、後ろの山の洞窟の香気を味わった。洞窟からはうんちの匂いは立ち昇ってはこなかったが、汗臭かった。ところが彼女は、ぼくのような紳士が田舎娘の肉体のそんな臭い個所の匂いを嗅いで悦にいるなどという理由が理解できなかったので、気をきかして本気で体を離してしまった。
夜、夕食のおりを見すまして、ぼくはベルトに一戦交えることができないかどうか尋ねてみた。ベルトの返辞はノーだった。ぼくは、一戦交えたくてうずうずしていることをやるチャンスがつかめるかどうか、二階へ上がってみたが、その機会はゼロだった。
ぼくのベッドはすでに掛けぶとんをはいであったので、服を脱ぐとすっ裸になって腹ばいに寝て、下にハンカチを敷いて枕《まくら》を抱え、叔母や、姉や、ぼくが肌で知ったすべての前や後ろの洞窟のことを頭に思い浮かべながら、われとわが身を慰めた。それからしばらく休息したが、そのうちまたオナニスムを始めた。いまやスペルムが噴出しようというときに、ドアの向こうからこんなことを言う声が聞こえた。
「ムッシュー・ロジェ、もうお寝みですか。お水を持ってまいりましたわ」
ぼくは起き上がって部屋着を羽織ると、ドアを開いた。声の主は台所働きの娘で、エレーヌという名前だった。彼女が部屋へ入るやいなや、ぼくはかんぬきを下ろした。ぼくのすき心ははやりにはやっていて、ホースがまるで振子時計のように動いていた。
ぼくは、きれいな服を着たグラマーな田舎娘をさっそく抱き寄せて、固く締まった尻と、大きなおっぱいにそれぞれ味わい豊かなキスをした。
彼女はなんでも素直に受け容れてくれたが、宝物のところに手がさしかかると、顔を赤らめながらこんなことを言った。
「じつはいまアンネですの」
なんとも不運なはなしである。ぼくのせがれはカルメル会〔カトリックの一派で、禁欲苦行で有名〕の修道僧のそれさながらに猛《たけ》りたっていたので、彼女は楽しげにぼくのホースを見つめていた。彼女はとても優しくそれをいたわってくれた。ぼくにしてもせめて、彼女のおっぱいと戯れることぐらいはできた。相手の肌着の前を開くと、二つのおっぱいがぼくの両手にこぼれてきた。このおっぱいはいかにも娘つ子のおっぱいらしく、全体が赤い斑点で覆われていたが、まったく非の打ちようもなかった。
ぼくが相手を黙って放っておくわけはない。いやいやながらだったが、彼女は後ろと前の洞窟だけを拝ませてくれた。ここに生い茂った、赤ちゃけて縮れた下草は、いまや赤い夕陽に照りはえていた。ぼくは椅子の上に彼女を押し倒して、両方のおっぱいのあいだでサンドイッチを作った。これはなかなか実用的なやり方で、脂ののった肉がなんともいえず気分がよかった。両側のパンが湿っていたら、きっともっと快適だったにちがいない。そのことを彼女に言うと、彼女はバター代わりに唾《つば》の油を注《さ》してくれた。
そこでぼくは、彼女に甘い言葉をささやいたり、顔を軽くたたいたり、襟足のウェーブのかかった毛をいじったりしながら、腰を前後に動かした。そのためにミルクが激しい勢いで噴出したが、彼女は目を凝らしてそれを見つめていた。それというのも、彼女にしてもぼくにしても、こんな有様を目のあたりにするのは初めての経験だったからである。
心ゆくまで堪能《たんのう》してから、ぼくは彼女に絹のスカーフをプレゼントした。すると彼女は大喜びでそれを受け取り、いま毎月のお客があってお相手できないで申し訳ありませんとしきりに謝った。そのあと彼女がつけ加えて言うには、彼女といっしょに台所で働いている女中たちはとても寝るのが遅いけれども、牛小屋へ出かける女中たちよりもずっと遅くまで眠っている、ということだった。牛小屋へゆく女中たちは朝はうんと早く起きるのである。そのころぼくが階上《うえ》へ上がれば、きっといっそう満足できるにちがいありません、というのだ。
この知らせを聞いて、ぼくは欣喜雀躍《きんきじゃくやく》した。翌日、屋根の下へ鳩小屋を作るという口実をもうけて、女中たちの屋根裏部屋へ昇るチャンスを作ろうとした。ところがぼくにはいつでも何か邪魔が入るので、まだこの目的を達することはできなかった。
ぼくは便所で一度はベルトを、一度はカートをつかまえて、宝物を拝観させてもらった。ところが天気がずっと悪かったので、母と叔母はしきりとおしゃべりを続けていた。だからベルトもカートも、通りがかりにぼくのホースをポンとたたくだけで、それより深入りするところまではゆかなかった。
時間をより楽しく過ごそうとして、ぼくは地下の穴のようなところにある、便所の仕切りの壁に穴をあけた。
おかげでぼくは、家じゅうの娘やご婦人たちが、うんちをしたり、おしっこしたり、おならをしたりする姿態をのぞいて午後を過ごすことができた。ぼくは豪華|絢欄《けんらん》な彼女らの尻や、洞穴《ほらあな》や、宝物を見ることができたが、それらの外観には、下草の色の違いと、形の大小の相違しかないことがわかった。その結果、農家のある少年の口から出たといわれるある言葉の真実性を納得した。ある伯爵夫人がこの少年に一戦交えてもよいという許可を与えた。みんなが夫人の噂《うわさ》をしていると、少年はこんな返辞をしたという。
「なるほど下着はずっとりっぱだったけんどな、それ以外はほかのおなごとぜんぜん変わりはなかったね」
ぼくはこのお城のうちの尻という尻、宝物という宝物をすっかり見尽くしてしまった。それにこれまですでにぼくの手のついた女性方でさえ、ぼくにあられもない光景を見せてくれて、これもやはりぼくにはお楽しみだった。
そのあいだに、ぼくはユルスュールにきれいなネッカチーフをプレゼントした。というのは、ぼくはまだ彼女とは完全なお手合わせはできなかったけれど、といってべつに彼女の罪ではなかったからだ。ほかの娘たちもすでにそのことに気がついていて、みんなぼくにはとても愛想がよくなった。なんといっても娘たちにしてもバカではないし、男にお見舞いされるのはなかなか気分のいいもので、そのうえプレゼントをもらえるというおまけつきならたまらない、ということをよく理解していたからである。
娘たちのひとりが、ぼくに水を向けてきたのは、こんな事情があったからだ。ある朝のこと、お城じゅうがぐっすりと眠り込み、家畜小屋を行き来する遠い物音だけが、静寂《しじま》を乱していた。
ぼくは階上《うえ》へ上がり、二つの寝室に通じている、かんぬきのかかっていないドアを見つけた。
部屋の中には、女中たちの服や下着が壁やベッドの下にぶら下がっていて女たちの体からたちのぼる、さまざまな体臭の混った空気がたちこめていた。この匂いは最初はとても不愉快だったが、いったんこれに慣れてしまうと、鼻につくどころかむしろ好き心をそそるように思われた。これこそほんとうの、|オンナノニオイ《オドール・ディ・フェミナ》であった。
いちもつを振るい立たせるかおりかな
オールド・スタイルのベッドが二か所に並んでいた。ベッドはみんな空だったが、一つだけは別で、このベッドではひとりの娘がものすごいいびきをかいていた。
彼女は壁のほうを向いて、脇を下にして寝ていた。ベッドの木の上に足をかけ、すっ裸でいただけに、ぼくの目には尻が丸見えだった。
彼女の寝ているそばの木の椅子の上に、ほかの衣類といっしょにL版の下着がのっていた。この|眠り姫《ヽヽ・》はバベットという名前だったが、こんな爪先から頭のてっぺんまで、あられもない生まれたままの姿をながめられているなどとは、つゆ疑っているはずはない。彼女の膚はおそらくもっとみごとだったろう。骨組はがっしりしていたが、肉づきはよくなかった。
彼女の尻に顔を近寄せてみると、膚にしみ込んだ汗が匂ってきた。尻の穴には、最後にトイレヘ行ったときの痕がまだ残っていた。その上のほうには固く門を閉ざした女性の亀裂が見え、その回りには栗色の下草が茂っていた。
ぼくは彼女の後ろの山と前の洞窟を優しく舌で探った。ぼくがその中に指を差し向けるとすぐに、彼女は体を動かして、こちらへ向き直った。そこで今度は体の前をつらつらながめることができた。草むらは縮れていて、強いおしっこの匂いがつんと鼻をついた。これはぼくが草むらに鼻を近づけて気がついたことである。
ここで断っておかなければならないのは、こうした女中たちは、日曜日しか自分の器械を洗わないということだ。それにもとより、年がら年じゅうあそこの手入れをしている暇のないご婦人たちはたくさんいる。しかしこの匂いはぼくを刺激し、ぼくはすでに戦闘準備を整えていた。
ぼくはドアにかんぬきを下ろして、すっ裸になった。それから彼女の体に手をかけると、相手は目を半ば開いた。
そこでぼくは彼女をまさぐりながらこう言った。
「バベット、いい娘《こ》だね。どうだい、ぼくがどんな具合になっているか見てごらん」
彼女は体をもぞもぞ動かして、片手でもう一つの部屋を指差しながらこう言った。
「ユルスュールもあっちにいるわよ」
「どっていうことはないさ。あの娘《こ》が目を覚ますまでに、ぼくらが一戦交える時間はあるよ。見てごらん、こいつはきみのものさ」
そして、ぼくは以前行商人から買ったまがいものの指環を彼女にやった。それから、彼女が進んで開いた膝のあいだに、ひざまずいた。彼女がほどよくでき上がると、ぼくは正々堂々と駒を進め、相手の臀部を高く持ち上げて、後ろの洞穴をくすぐった。彼女はぼくの首にかじりつき、二人はそのまま恍惚境に沈んでいったが、いくらも戦闘を交えないうちに、二人はそれぞれ激しく昇天してしまった。
この仕事のあいだに、彼女はひどく汗をかいたが、田舎娘の健康な体臭を嗅いで、ぼくは第二ラウンドを挑《いど》みたくなった。ぼくはバック・スタイルで楽しもうと思いついた。ところが彼女のほうは、妊娠するのを心配するのだ。その日はユルスュールがいちばんおそくまで眠っているはずの日なので、もとよりバベットは起きなければならない。ぼくはそれをすっかり忘れていたが、ぼくがユルスュールを起こしたいと言うと、彼女はゲラゲラ笑った。
バベットが自分の肌着で容器の後始末をしているあいだに、ぼくは、ユルスュールがまだぐっすりと眠り込んでいる別の寝室へ足を踏み入れた。
ユルスュールは裸で寝ていたが、胸のところまでふとんを覆っていた。彼女は頭に両手を添えて、仰向けに寝ていた。ちょうど腋の下の、黒々した厚い茂みが見えるような格好だった。その両腕の置き具合で、みごとなおっぱいがいっそう前に突き出て、その両脇にほれぼれするような形で、豊かな長いカールした髪が垂れ下がっていた。この絵画はどこをとっても優雅なものだった。ただ彼女が一介《いっかい》の百姓娘だということだけが残念なところだが、ぼくには、なぜ男性というものが、百姓娘の自然な美しさよりも、上つ方のご婦人の気取った魅力を好むのか、その理由がわからない。
とてもさっぱりした肌着がそばに置いてあった。ぼくはその匂いを嗅いでみて、肌着にしみ込んでいる健康な体臭にびっくりした。
ごく静かに、ぼくは掛けぶとんを引っぱり、彼女のオール・ヌードの姿を鑑賞した。しばらくのあいだ、ぼくは、じつに均斉のとれた四肢と、黒い下草が唇から太腿にかけて続いている、ひじょうに深い茂みに覆われた丘のすばらしい景観に心を打たれて舌をまいていた。ぼくが胸にキスしているあいだに、ユルスュールは目を覚ました。彼女はぎょっとして、はじめは手でビーナスの丘を覆ったが、相手がぼくだとわかると、優しくぼくにほほえみかけた。
このとき、バベットがドアのところに姿を現わしてこう言った。
「ユルスュール、そのまま寝ていらっしゃいよ。あたしがあなたの仕事を代わってあげるわ」
そして彼女は出ていった。
ぼくは、彼女の体がすっかり火照ってくるまでユルスュールを抱きしめた。ぼくは彼女に立ち上がってもらうように頼み、爪先から頭まで、彼女の美しい肉体を嘆賞し、部屋の中を歩かせて、あちこちから彼女の姿をながめた。それから激しく腕の中に抱きしめ、こうして長いあいだからみ合っていた。
ぼくは両手を彼女の体に回し、ぼくの肌に相手の腹を押しつけた。おそらく彼女は、充実したぼくのホースを感じたにちがいないし、相手の下草がふくろをくすぐるのだ。
このいたずらは彼女のお気に召した。彼女はぼくの首に腕を回し、彼女の胸がぼくの胸にぴったりと押しつけられた。ぼくは彼女の腋の下の毛を引っぱった。彼女はすっかり興奮してしまった。ぼくは大きくふくらみ、彼女の中心の岬もこちらと同じ状態だった。
ぼくらはベッドヘ入った。ぼくは彼女の尻をぐっと高くして、ひざまずかせた。ぼくは熱にうかされたように、後ろの洞窟を探険した。黒い茂みに覆われた前の洞窟は、半ば扉を開いていた。
おかげで彼女はすっかりしびれてしまった。相手がこちらの運動に調子を合わせてくれたので、ぼくはたっぷり浸ることができ、まもなく昇天しそうな感じになった。
彼女は狂気したように歓喜し、彼女のコンはすっかりふくれ上がった。下腹を尻に押しつけ、おっぱいをつかみ、まるで気が狂ったように体を揺すった。ぼくはすっかりわれを忘れてしまった。動きに応じて、彼女は悦びの声をあげた。ぼくは片手でおっぱいを押しつけ、もう一方の手で女性の中心を愛撫した。ぼくらは同時に昇天した。二人はまるで死んだように横たわっていた。
その後しばらくすると、ぼくの息子はまた奮起した。彼女はいまだかつて、こんなふうにしたことがないので、恥ずかしがっていた。
彼女がいちばん悦びを味わったのは、彼女に、ぼくのふくろが当たったときだった。ぼくの興奮はまだまだ収まっていなかったし、できればこのフレッシュで美しい娘といっしょにいたかった。それができたら、この娘と結婚だってしたにちがいない。
そろそろ階下《した》へ降りなければ、と彼女が言った。彼女は下着を着け、ぼくは彼女が服を着るのを手伝ってやった。彼女は愛想よく、ニッコリと笑いかけた。ぼくは彼女が降りてゆく前に、もう一度あちらこちらから彼女の姿をながめた。ぼくは彼女に、なにかすばらしい思い出の品を買ってやる約束をすると、彼女はいつか一晩ぼくの部屋へ来て、いっしょに過ごしてくれると言って誓った。
十 森の中の饗宴
ぼくが再び階下《した》へ降り、ベッドヘ入ったとき、お城じゅうはまだひっそりと眠っていた。母が昼食を持ってきて、ぼくを起こした。母はぼくに、明日、姉のエリーズを連れてここへやって来る父を、ぼくが駅まで迎えに行っておくれと言った。
母はとても機嫌がよかったが、ベルトの場合はそうはいかなかった。とても美人の姉のエリーズがやって来るのが、ベルトには気詰まりなのだ。彼女が言うところでは、姉はぼくらの父の商売仲間の息子にのぼせていて、この若者は、兵役がすんだらきっと姉と結婚することになるだろう、という話だった。
そればかりか、ベルトには以前には理解できなかったいろいろな事柄が、今になるとじつにはっきりとわかってきた、とぼくに話すのだった。
たしかに、カートとエリーズは長いあいだ、お互いにレズの関係にあったにちがいない。さらにあるときなど、お風呂に一時間も二人だけでいたことがあった。
翌日は、母が父の到着をいそいそと待ちながら、お風呂に入るところを見て、ぼくは大いに目の保養をした。
駅で、列車が着いたとき、姉のエリーズがほれぼれするような娘になったのを見て、ぼくはすっかり度胆をぬかれてしまった。きれいなかわいらしい足にエレガントな靴をはき、しゃなりしゃなりと優雅に歩いてくる姿に、ぼくは彼女の相手のフレデリックに嫉妬《やきもち》をやきたいくらいだった。
ぼくは以前から、ぼくの周囲の女性という女性をすべて、ぼくのハレムの一員に加えてやろうと決心していたが、ますますこの意見がどっかりと重味をました。
ぼくの父が、友人のムッシュー・フランクと連れだってやって来るのを見たときには、ぼくの嫉妬の炎《ほむら》は激しく燃えた。この男は年配の独身者で、かねてから結婚相手として叔母に目をつけていたのである。紹介はしごくなごやかな空気のうちに行われた。姉のエリーズは、ぼくが彼女の生長ぶりに驚いたように、ぼくの生長ぶりに目をみはった。ぼくらは肉親以上の親しみをこめてキスを交わした。
ぼくらはムッシュー・フランクが来るとは当てにしていなかったし、馬車の席は二つしかなかったので、ぼくはパパとムッシュー・フランクに馬車を使ってもらい、そのあいだにぼくとエリーズは歩いて行くから、と言った。姉も申し出を承知した。途中の道はとても美しかった。
やがて二人の会話がはずんで、興味津々として尽きなかった。姉は、ぼくが彼女の美貌《びぼう》にさんざんお世辞をふりまいたので、大いに気をよくした。姉が、ベルトはどうしたの、と尋ねたので、ぼくは彼女は今アンネで、もう娘ざかりだよ、と答えた。エリーズはびっくりして、まじまじとぼくの顔を見つめた。
「ベルトはね、今では姉さんと同じくらいゆっくり、カートといっしょにお風呂場に入っているんだよ」
こうつけ加えてから、ぼくは姉をじっと見すえながら、さらにあとを続けた。
「それに、二人は同じ部屋で寝ているんだぜ、わかるだろ」
姉は口をつぐんだままだったが、顔がまっかに染まった。
そこでぼくは、愛想よく言った。
「ばつの悪い思いをさせて悪かったね。ぼくはもう子供じゃあないんだよ。姉さんはもう気がついたはずだけれど、ぼくらがもっと小さいころ、いっしょにお風呂に入ったとき、ぼくの息子はフレデリックの息子と同じように、悪くなかったろ」
「マア、ロジェったら!」
「今じやあ、ぼくの脚《あし》のあいだには下草が生えてるんだよ。それにね、湿った指でやったり、一本指で突っつくより、五本の指で楽しんだほうが、なんだか気分がいいことだって知っているんだよ」
姉はすっかり顔を赤らめ、胸をはずませていた。けれども、なんと返辞をしてよいかわからなかった。とつぜん、だれにもぼくらの姿を見られていないかどうか見定めてから、こう尋ねた。
「ネエ、ロジェ、若い男のひとって、兵隊へ行く前に、すっ裸になって、お互いに体をながめ合わなければいけないって、ほんとうの話なの。あたし、ママや叔母さんがそんなふうなことを言うのを耳にしたことがあるし、それに寄宿学校でもそんな噂を聞いたことがあるのよ」
「きっと、ぼくの未来の義兄《にい》さんのフレデリックが姉さんにそんなことを話したんだろ。もちろん男は裸でながめっこをしなければならないのさ。みんな、まるで結婚初夜の花嫁みたいに見つめられるんだよ。でもね、おびえていて気もそぞろだから、息子は首をうなだれているんだ。フレデリックだって同じだよ、息子は硬くならないぜ」
「マア、いやね!……でも、さぞ恥ずかしいでしょうね……それは人前でやるのかしら?女性たちはそれを見学できないのかしら?」
ぼくは大まじめで言った。
「残念ながら、だめだね。エリーズ、姉さんの前なら、ぼくはちっともかまわないよ」
ぼくは心を込めて彼女にキスをした。ぼくらはお城のそばの、小さな森の中にいた。
ぼくはこんなことをつけ加えた。
「でもね、新婚初夜にご主人の前で裸にならない花嫁なんて、世界じゅうにいると思うかい。だいいち、まちがいなくおっぺされるんだぜ。もちろん相手のお婿さんだって裸なんだし」
「でも男のひとは、女とは違うものよ」
「どうしてだい? もしぼくが姉さんの前で裸になったら、姉さんはぼくの体がくまなく見えるんだぜ。茂みも、昂然《こうぜん》と頭を上げた息子も、ふくろも。ところが姉さんのほうはどうだい、見えるのは茂みだけで、宝物のほうは神殿におさまって姿をお隠しになっている。ところでエリーズ、姉さんは茂みは濃いの?」
「アラ! ごらんなさいよ、ロジェ、きれいないちごよ」
エリーズがこう言った。
ぼくは彼女に手を貸して、いちごを探してやった。二人は森の奥深く踏み込んでしまった。ぼくは牡鹿《おじか》さながらに息子を硬直させながら、彼女にキスをした。
彼女がぼくに尋ねた。
「あそこには何があるの?」
「狩猟小屋だよ。ぼくは鍵を持ってるよ。あの小屋はうちのものなんだ」
その小屋は深い雑木林に囲まれていた。
「待ってね、ロジェ。すぐに来るから。だれも来ないか、気をつけていてちょうだい」
彼女は小屋のかげへ行った。
おしっこをする音が聞こえた。ぼくはそちらを見た。彼女はしゃがんで、ちょっと体を前にかがめ両脚を開いて、スカートをまくり上げていた。こんな格好をすると、みごとなふくらはぎが丸見えになった。
膝の下にパンツのレースが垂れていた。両脚のあいだから、噴水がほとばしり出た。噴水の水が出終わったのでぼくは後ろへ下がったが、彼女はまだそのままだった。腰の上のほうまでスカートを上げ、パンツを下ろした。しみ一つない、ピチピチはちきれんばかりの丸い臀といっしょに、後ろのわれ目が現れた。ウンといきばると、尻の穴から細いソーセージが出てきて、しばらくブランブランと垂れ下がり、それから地面にのたくり落ちた。そのあとからちょっとジュースが出て、それからまたおしっこをした。
今度は噴水が出るのと、栗色の、かなり濃い茂みがはっきりと見えた。|しごと《ヽヽヽ》が終わると、彼女は紙を探したが、見つからないので、ぼくが姿を現わして、彼女に紙を渡した。
「ここにあるよ、エリーズ」
彼女は、しばらく腹を立てた様子だった。
ぼくは彼女にこう言ってやった。
「気にすることはないさ、ぼくも使いたかったんでね!」
ぼくはホースを引っぱり出して、コチコチに硬直していたのに小便をしはじめた。例の下男のことを思い出して、うんと高く小便をとばしたので、姉も笑い出さずにはいられなかった。彼女は結局紙を使った。
人声が聞こえてきた。彼女は心配した。ぼくは彼女を小屋の中へ押しやり、後ろ手に扉を閉めた。ぼくらは隙間《すきま》からながめた。一組の下男と女中がいちゃつきながら近寄ってきた。下男が相手を地面に押し倒し、その上に覆いかぶさって、|さお《ヽヽ》を取り出し、スカートをまくり上げ、二人はまるでけもののようにうなり声をあげてからみ合った。
ぼくはエリーズの体に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。心地よい香りのする吐息が、ぼくの頬を火照らせた。無言のまま見つめている目の前の情景に、彼女の胸は激しくときめいていた。ぼくは息子を取り出して、彼女の熱い、繻子《しゅす》のように柔らかい手にそれを握らせた。下男と女中は遠ざかっていった。
ぼくは誘惑に抗しきれず、エリーズに抱きついた。相手の抵抗を無視して、すばやくパンツとシュミーズをはぎとった。ぼくは彼女の下草を愛撫した。太腿はキュッと締まっていたが、女性の中心が固くなっているのを感じた。
「いけないわ、度が過ぎるわ、ロジェ。恥ずかしいと思わないの! 大声で叫ぶわよ!」
「もし大声をあげたら、お城の者に聞こえるよ……だれにもわかりゃあしないよ。アダムとイブだって同じことをしたんだぜ」
「だって、あたしたちアダムとイブじゃあないのよ、ロジェ」
「エリーズ、もしぼくらが島で二人だけになったら……」
ぼくは指を忍び込ませることに成功した。
「フレデリックがこんなことを知ったら!」
「彼にはわかるもんか、サア来るんだ」
ぼくは椅子に腰を下ろし、膝の上にエリーズを引っぱり寄せた。彼女に、ぼくが触れたときには、もう彼女は抵抗しなかった。すでに彼女は初物ではなかった。一度、フレデリックと経験がある、と白状した。彼女はとても狭く、カッカと熱く、適度な湿り具合だった。
彼女はぼくのキスに答えてくれた。ぼくは彼女のブラウスの前を開き、みごとに波打つおっぱいを取り出し、口に含んだ。ぼくは両手を伸ばして、固い、大きな後ろの球、みごとな双の臀部をかかえた。彼女はあられもなく狂喜しはじめた。ぼくらはいっしょに昇天した。それからぼくらは、これは二人だけのことにすることを約束し合った。ぼくらはじっくりとお互いの体をながめ合ってから、お城へもどった。
十一 われハレムを征服す
食事のテーブルでは、一同とても陽気だった。父は母にかかりっきり。ムッシュー・フランクは叔母のご機嫌うかがいに大わらわ。ぼくは二人の姉とさまざまな話題に花を咲かせていた。ぼくの寝室は客用にあてられていた。そこでぼくは女たちと同じ二階のエリーズの部屋に寝《やす》まなければならないことになり、女たちはベルトとカートの部屋に同居することになった。
一同が寝室へひきとると、ぼくは姉たちの部屋をのぞいた。ベルトは眠っていたが、エリーズは部屋にはいなかった。明かりが見えたので急いで隠れると、両親の部屋のドアの隙間からのぞいている、シュミーズ一枚のエリーズと叔母の姿が現れた。裸の尻っぺたをピシャンとひっぱたく、激しい音が聞こえた。それから父の声が響いた。
「サア、アンナ、今度はシュミーズを脱ぎなさい……まっ黒な下草が浮き出たきみは、なんてきれいなんだろう」
キスの音とささやき声が聞こえる。
「歩け、アンナ、前へー進めッ!……止まれッ!……両腕を上へあげて……きみは腋毛がずいぶん多いな……どうだごらん、わたしの息子はえらく張り切ってるだろ、アンナ、こいつを握るんだ……武器を前へ出せ……武器を肩へ……こちらへ来い!」
「マア、シャルル、そんなに興奮なさっちゃあだめよ……痛いわ、あたし……あんまりじろじろ見つめないで……後ろを見られると恥ずかしいのよ」
「安心しなさい……横になって……足を上げて……もっと高く……ホーラ、わたしの宝物があったぞ……」
ベッドがきしむ音が聞こえてきた。
「どうだい、アンナ!」
「もう間もなくよ、シャルル!」
「アア! とても……シャルルーッ……」
「アア!……アア……アンナ!……ぼくもだよ!……」
階段の上からカートの声が聞こえた。それを聞くと、エリーズは寝室へ入った。叔母は自分の部屋へ急いで逃げ込んだが、ドアを閉めなかった。叔母がまた出てきた。両親は部屋の明かりを消した。ぼくは叔母の部屋へ入った。中へ入ると、叔母はギョッとした。ぼくは一部始終を叔母に話した。叔母は明かりをつけたが、ぼくは無言のまま叔母にキスをした。彼女の美しい肉体のみごとな輪郭が、ぼくの体にぴったりと着くのを感じた。彼女の体がわなないていた。シュミーズに手を差し込んだ。彼女が身をもがいたので、ぼくは彼女の気を静めてやった。
「ネエ、きれいなマルグリット、夫婦ごっこをしようよ」
ぼくの指はダイヤモンド・ポイントに戯れていた。彼女は体を預けてきた。ぼくは、雪の球にそっくりなみごとな乳房をむき出しにした。彼女をベッドのほうに導いた。彼女はさきほど飲んだシャンパンのせいで、かなりエキサイトしていた。彼女がロウソクを消した。ぼくは彼女の手の出動を要請し、その愛撫を求めた。あまりに激しい快楽に、彼女は体をくねらせ、女性の中心に火がついた。ぼくは指で戯れ、ミルク壷に口をつけた。それからシュミーズをはね上げ、ひしと抱き締めて、口と口を重ねたまま、彼女の人跡未踏の谷間に踏み込んだ。
一声軽い叫び声があがり、それときびすを接して快楽が彼女の体を圧しつぶした。いまや炎のように燃えたぎる女と化して、彼女は肉欲の淵《ふち》に身を委せてしまった。
戦闘は短かったが、その快感は無限に続き、二人はこの上ない淫蕩《いんとう》な恍惚の果てまで足を踏み入れ、こうしてぼくは激しく身もだえしながら、彼女の中心にぼくの生命の香油をまき散らしたのである。
快楽はあまりに激しく、ぼくは終始燃えっ放しだった。ぼくは彼女を愛撫し、ロウソクの明かりをつけた。彼女はクッションに顔を隠した。羞らいの気持ちがまた彼女の心を占めたのだが、ぼくは掛けぶとんを引っ張って、ビーナスのように美しいその体を見た。彼女の宝物の回りの下草に、ぼくのスペルムと混じった軽い血痕が見えていた。その血痕をハンカチで拭いてから、ぼくは彼女の体の向きを変えて、背中と尻を愛撫し、後ろの洞窟のあたりに顔を近寄せた。
それから彼女の体の上にぼくの体を重ねて、すばらしい香りにみちた髪に顔を埋めた。彼女の体に手を回し、ちょっと体を持ち上げて、もう一度彼女を求めた。今度は長い戦闘が続き、二人は全身の毛穴という毛穴から汗を吹き出した。彼女は、気が狂ったように快楽の叫びをあげながら一足先に昇天した。その後にぼくは、ほとんど苦痛にも似た淫楽にのたうちながら彼女のあとを追った。いやというほど楽しみを味わってから、二人は体を離した。
さまざまな楽しみを味わいながら、数週間が過ぎていった。ムッシュー・フランクはいよいよ叔母にお熱をあげていった。ある日のこと、エリーズと叔母が泣きながらぼくの部屋へ入ってきた。二人とも妊娠していた。けれども、その悪戯《いたずら》の主がぼくだということを、二人とも相手の前では口に出す勇気がなかった。即座にぼくの決心はきまった。
「エリーズ、きみはフレデリックと結婚しろよ。それに叔母さん、叔母さんはムッシュー・フランクと一緒になりなさい。ぼくはお二人の新郎の介添役になってあげますよ」
その翌朝、ぼくの部屋のドアが開いて、ユルスュールが入ってきた。彼女も右にならってご懐妊という始末だった。ぼくは、彼女に色目を使っている管理人の従弟と世帯をもつようにすすめ、子供の名付け親になってやろうと約束した。それからぼくは、彼女を裸にして、前と後ろの舌の散策としゃれ込んだ。次に体をオーデコロンで洗ってから、彼女に後ろを舌で愛撫してもらった。おかげでひどく興奮してしまった。ぼくは彼女の髪がベッドの上で波打つほど激しく体を動かして、彼女を攻めたてた。
まもなく、三組の結婚式があった。すべてが愛の一字で幕となり、ぼくはハレムの女たちと順ぐりにベッドを共にした。女たちはそれぞれ、ぼくがほかの女と何をしているか承知の上で、ぼくの気持ちを理解してくれた。
やがてユルスュールが男の子を生み、しばらくしてエリーズと叔母が女の子を生んだ。日を同じくして、ぼくはユルスュールの男の子ロジェと、エリーズの女の子ルイーズと、叔母の女の子アンナの名付け親になった。この三人の子供の父親は同じだが、それはけっしてひとにはわかるまい。
ぼくはほかにもたくさんの子供を作りたいと願っている。こうして子供を作れば、ぼくは愛国的な義務を果たし、わが国の人口増加に貢献するわけである。 (完)
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解説
アポリネールの生涯
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天性は二つだろうか? 三つだろうか? いくつあるのだろう?
彼の顔の周囲で全世界が回っていたというほうがいい……アンリ・エルツ
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少年時代(1880〜99) 三十八年のアポリネールの生涯は目を見張るような数奇な一生であった。「現代詩の始祖」と呼ばれる彼が、詩人、作家としてさまざまな芸術上の波瀾を経験したことにふしぎはないが、私生活においてもその奇矯な、矛盾を孕んだ性格から短い生涯を数倍も生きたような感を与える。そもそもの出生から彼にはそんな生涯を暗示するような奇妙な状況にあった。
詩人の母親はアンジェリック・アレクサンドリーヌ・ド・コストロヴィツキー。古いポーランド貴族の出身で、有名な法官、ワルシャワの国会議員、将軍などを出した名家だったが、詩人の祖父は兄弟をあげて一八六五年のポーランド独立運動に参加し、事破れて妻の実家のイタリアに亡命し法王庁侍従になった。アンジェリックは父の配慮により修道院で教育を受けることになったが、後年詩人を悩ませ続ける一種の悪女である彼女が厳格な宗教教育になじむわけもなく、ついにここをとび出す結果となった。そこで父親は良縁を求めて彼女を社交界に出し、ここで詩人の父となる相手と知り合うことになる。
詩人の父はフランチェスコ・フルジー・ダスペルモント。父方も古くからチロルの城主として伝わる名家で、フランチェスコの父はシチリアの将軍、彼もまた大尉として軍籍にあったが、後に退役した。現在残っている写真を見ても、モーパッサンそっくりの、いかにも|良き時代《ベルポック》の蕩児を彷佛させる風貌だが、事実カトリック系のきびしい家庭に似合わぬ遊び人で、奔放なアンジェリックとは似合いのカップルだった。二人は正式の手続をせずに同棲し、共にカジノを渡り歩く遊民生活を送っていた。
父親四十五歳、母が二十二歳のとき、正確には一八八○年八月二十六日、詩人はローマ、マスタイ広場八番地で生まれた。このとき、母親は奇妙な処置をした。つまり自分の名前を隠して産婆に違う名前で市役所に届けさせ、自分が子供の養育を依頼された形にしたのである。十一月に至ってようやく子供を認知し、当然詩人は母親の姓を名乗ることになる、ギヨーム=アルベール=ウラジミール=アレクサンドル=アポリネール・コストロヴィツキーがフルネームで、つまりこんな母親の処置によって彼は生涯私生児の烙印を押されるはめになる。彼の父親にまつわるさまざまな秘密めかした伝説、ローマ法王庁の高僧の私生児だとか、モナコ司教のかくし子だとか、はなはだしくはモナコ国王のご落胤説、さらには後年の母の情夫、詩人と十一歳しか年の違わないジュール・ウェールが真の父親である、などという説が、まことしやかに囁かれたのも、出生時のこんな事情が原因であろう。もっとも元来ミスティフィカションの好きなこの母と子が、こうした説を肯定しないまでも、正面切って否定しなかったために、伝説の真実味が増したとも言えないことはない。
暗いスラブの血と明るいラテンの血が詩人の体の中で混じり合っている。両親の家系の厳格なカトリック、革命家、軍人、そしてこれと対蹠《たいしょ》的な淫蕩な堕落貴族とばくち打ち的な性格、こうした遺伝形質を考えずにはアポリネールの矛盾にみちた生涯を理解することは不可能だろう。
二年後に弟のアルベールが生まれた。父親は不明である。すでにフランチェスコはほとんど家へ足踏みをせず、姿を隠していたからである。一八八七年母は完全に離別したので、生活費を得るためにも、一家はカジノのあるモナコヘ転居した。兄弟はここのサン・シャルル学院へ入学したが、詩人はここで生涯の友人となるルネ・ダリーズと同級だった。アポリネールはつねにルネと首席を争う秀才ぶりだったというが、注目すべきは、彼はここで熱烈な聖母崇拝ぶりを示し、当時の感動が後年『アルコール』の巻頭詩「地帯」に結晶している。九五年にこの学院は閉鎖され、カンヌのスタニスラス学院へ転校、さらに二年後にはニースの高等学校に移り、大学入学資格試験《バカロレア》を準備しているが、彼はついにこの試験は受けずじまいだった。ただこの高校で、やはり終生の友人となったトゥッサン・リュカと知り合い、また初めてギヨーム・アポリネールの名で象徴派的な詩作に手を染めている。
一八九八年には、ゾラの「われ弾劾す」の記事で有名なドレフュス事件が起こっている。フランス全土を震憾させたこの事件で、詩人の若い魂が動揺したことにふしぎはないが、ツァーの圧制にあえいだポーランド人の血が流れているアポリネールが――元来彼が妙にユダヤ人に共感を示しているという事実を除いても――熱心なドレフュス主義者となったのは当然だろう。
さて母親のアンジェリックは、小柄で、甘い情欲的な声で喋り、しかも挙措には貴族的な気品を失わなかったという。当時の写真を見てもいかにもセックス・アッピールの溢れる女性であった。夫との離別によっていわば糧道を断たれた彼女にとって、カジノは賭博の場というよりも、天性の男好きのする容姿によって、好色なブルジョワ紳士たちを引っかける漁場であったろう。そのカモのひとりにジュール・ウェールと呼ばれるユダヤ人がいた。どこかうさん臭い、やはりカジノを渡るセミプロの賭博師だったらしいが、彼女とはうまが合って同棲し、詩人の義父役となる。病的に嫉妬深いといわれた詩人がこの母の情人とは妙に打ちとけて、こうして奇妙なこの四人の家族はパリヘ出、マクマオン街のホテルに居を定めた。
スタヴロ事件(1899〜1900) 賭博以外に収入のない一家にとって、生活のためにもカジノが必要だった。そこで一家はアルデンヌ地方のスタヴロヘ行き、コンスタン・クルー経営のバンシヨンに足場を定め、母とその情人はスパのカジノヘ出かけた。勝負はさんざんの裏目に出て、母親はそうそうに引き上げたが、兄弟二人は一夏をスタヴロで過ごすことになる。いくつかの河が流れるこの大森林地帯の風物は詩人の北方系の血を喚びさまし、彼はこの土地の魅力のとりことなって短篇集『腐ってゆく魔術師』の下書や、短篇『ク・ヴロヴ?』などの筆を執った。アンドレ・ビイはこの短篇を読んだおりの感慨を、「この時のアポリネールのベルギー領アルデンヌ地方での逗留が、彼のポエチックな感受性に深い影響を及ぼしたとわたしは信じている」と書いているが、詩人の短い生涯で、この時の田園生活はもっとも幸福な一時期だったろう。
常識的な青年だったら冷汗ものの、当時の彼の財政状態、その後に続く事件も、冒険好きな彼にはむしろ楽しいお慰みだったかもしれない。母親からの送金が途絶えた兄弟の財布にはもう五フランしか残っていない。母親は早くパリヘ帰れというものの、帰路の汽車賃しか送ってこないし、下宿代は三か月もたまっていた。一八九九年十月五日の夜明けがた、兄弟は下宿をそっと抜け出して数キロの道を歩き、ロアンヌ・コーから汽車に乗りパリヘ帰った。母はパリの娼婦たちが好んで住む、コンスタンチノープル街の貸間に窮迫した生活を送っていた。名前もオルガ・カルポフという偽名を使い、二人の子供たちも甥として警察に登録した。アルベールはオペラ座の切符売りに雇われて家計を助け、詩人は連日職を探して歩き回るような貧乏な一家に、スタヴロの下宿の主人の下宿料踏み倒しの告訴は泣きっ面に蜂の図だったろう。母子は予審判事の訊問を受け、結局は示談となったが、この「スタヴロ」事件のために支払う金も工面しなければならなかった。
さてこの頃、詩人は元弁護士で今は作家、といっても文字通りの三文作家になっている、友人のエスナールに耳よりなはなしを持ち込まれた。これより先、どうした風の吹き回しか、日刊紙の「ル・マタン」が連載小説の依頼をした。エスナールは喜んで『なにをなすべきか?』という小説を書き出したが、途中でどうしても筆が進まず、アポリネールにその代作を依頼してきたのだ。喉から手が出るほど金の欲しい時期でもあり、彼はこれを引き受け、一九〇〇年二月より、五月二十四日まで書き続けたが、ついに未完のまま終った。エスナールの名の陰に隠れて名前は出なかったが、これが公表されたアポリネールの最初の小説ということになる。しかも約束の報酬を払ってもらえなかったので、この仕事はまったく無料奉仕に終ったが、存分に詩人の趣味を盛り込み、通俗的新聞小説としては型やぶりで、のちの『異端教祖株式会社』の萌芽をうかがうことのできる作品だった。
ライン地方(1901〜03) 貧窮のどん底にあった詩人は一九〇〇年新聞広告によって株式取引所の書記になるが、翌年辞職、取引所の同僚の母親の紹介で富豪のドイツ系貴族、ミロー子爵夫人の娘ガブリエルのフランス語の家庭教師になり、その資格で同家のライン河畔のホンネッフとノイ・グリュック別荘に同行することとなった。当時詩人は友人のユダヤ人、フェルディナン・モリナの妹のランダに熱烈な思慕を捧げ、毎日彼女に宛てて詩を書いていた。これらの詩は、詩人の死後「ランダ詩篇」となってまとめられたが、相手のランダはまったく彼の愛情に応えず、詩人の結婚の申込みには明らかな拒絶の返事をし、つまり詩人は失恋の傷手を胸に抱いていたわけで、彼が北の国ドイツに行くことになったのは、その思い出を忘れるためだったかもしれない。
さきのアルデンヌ地方滞在によって開花を見た詩人の北欧人としての血は、この約一年間にわたるライン地方での生活によって著しく刺激された。彼はこのあいだかなり自由にケルン、デュッセルドルフなどドイツ各地を歩き回り、のちに「ライン詩篇」に纏められる多くの詩を執筆している。
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ブドー畑のうち続くライン河はうっとりと酔っている
黄金なす夜毎の星は震えつつ降りそそぎ 水の流れに照り映える
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などの詩句は、『一万一千本の鞭』の中にも点景として再現されている。この期間はアポリネールに少なからぬ影響を与えたばかりでなく、彼に新しい恋をもたらすことにもなる。相手は彼と同じ家庭教師の資格で滞在していたイギリス娘アンニー・プレイデンである。
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……きみの眼差しはその花に似て
眼のくまさながらに この秋の日々さながらに すみれ色
きみの眼差しゆえに ぼくの生命《いのち》はゆっくりと毒されてゆく
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という「犬さふらん」の一節も、明らかにアンニーへの思慕の歌と見ていいだろう。しかし、「愛されぬ男の歌」の詩人は、ここでもまた愛する女に逃げられる。一九〇二年家庭教師の契約期間のきれたアポリネールはパリヘ帰り、アンニーは詩人に一顧だに与えず海峡を渡り、のちにわざわざ彼女を追って二度までもロンドンヘ渡った詩人をも追い帰してしまった。
さてパリに帰ったアポリネールはショッセ=ダンタン街の銀行に職を得た。この頃から、「グランド・フランス」「ルヴュ・ブランシュ」などの雑誌に詩や、のちに『異端教祖株式会社』に収められる短篇を発表して、特異な作家として若いボヘミアンからアポリネールの名が注目されるようになる。
文壇デビュー(1903〜07) 詩人がいわゆる「呪われた詩人」と呼ばれる仲間と交際を始めたのは、サン・ミッシェル広場のある地下のカフェでの夜会に出席してからで、とくにアンドレ・サルモン、マックス・ジャコブ、ジャリなどはアポリネールに大きな影響を与えた。そして、彼が主筆になり、サルモン、ジャコブが加わって、彼らの同人雑誌「イソップの饗宴」を発刊し、これを舞台として『腐ってゆく魔術師』『ク・ヴロヴ?』などのほか、多くの詩を発表した。一九〇四年に、当時の文壇の登竜門ともいうべき、雑誌「メルキュール・ド・フランス」が初めて彼のエッセイを掲載したのは、「イソップの饗宴」での活躍が踏み台になったものだろうが、とにかくこれをアポリネールのデビューと見てもいいだろう。
さて同じ年、母のコストロヴィツキー夫人は情人と共にパリ郊外ヴェジネに転居し、詩人も共に移った。またこの年の終りに、勤め先の銀行が不振になり、「投資家の手引」なるPR雑誌を出し、彼はその編集長となっている。一方、「イソップの饗宴」は九号で廃刊となり、彼は新しく金主を見つけて、前と同じメンバーで「背徳雑誌」を創刊、のちに「近代文学」と改称したが、この雑誌も一号でつぶれた。一九〇五年九月には彼は別の銀行に移り、この間いくつかの詩篇を発表しているが、特筆すべきはこの頃から彼は無名の画家ピカソの才能に注目して、「画家ピカソ」を発表し、またこれが数多い彼の美術批評の最初のものとなると同時に、彼をキュビスムの画家たちに近づける奇縁となったことである。
二十世紀初頭の美術運動を語るときに、かならず引用されるラヴィニョン街の「洗濯船」にアポリネールが初めて足を踏み入れたのもこの頃である。A・ビリイは短いが、生き生きした文章で、アポリネールとピカソとの偶然の初対面の様子を紹介して、パリの一酒場でひとりのポーランド人とひとりのスペイン人が顔を合わせたという事実に較べれば、いわゆる歴史と呼ばれるものなどずっと重要ではないとまで極言しているが、実際この偶然がなかったら、キュビスムという二十世紀を革新する美術は生まれなかったかもしれない。ともあれ「洗濯船」で彼がピカソ、ヴァン・ドンゲン、ユトリロ、ブラック、ドラン、ヴラマンクなどと知り合ったのは、アポリネールにとっても、新美術にとっても両期的な事件と言ってもよいだろう。
しかし詩作のほうはこの時期は彼にとってひと息ついたかたちで、一九〇六年、七年にはほとんど作品を書いていないが、同時代人を瞠目《どうもく》させた、アポリネールの面目躍如たるふしぎな小説を二篇書いた。これが『一万一千本の鞭』と、『若きドン・ジュアンの冒険』である。
マリー・ローランサン(1907〜11) アポリネールはこの頃ほとんどヴェジネの家に帰らず、アムステルダム街のホテルに泊りっきりだったが、一九〇七年春からはレオニー街に部屋を借りて完全に母親から独立した。ある画廊で開かれたピカソの個展で、ある画塾に行っていた画学生の女性に紹介されたのもこの頃のことである。この画学生こそ、マリー・ローランサンだった。
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ミラボー橋のしたセーヌは流れる
そしてぼくらの恋も
苦しみののちには喜びありと
せめて心に思い起こそう
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日本でも好んで口誦まれる絶唱「ミラボー橋」ほか、かずかずの佳篇の詩神となったのがこのローランサンである。ローランサンは利口そうな顔つきで、意地もあれば知性のひらめきもあり、いきいきと、そして思いがけない時に口を開き、「ロクロで引いたような体つき」(ビイ)をしていたと言うが、とくに男好きのするタイプだったらしい。アポリネールは一目惚れした。もともと激し易い彼のことで、こうなると情熱は奔流のような勢いで止まるところを知らない。アポリネールがオートゥイユヘ転居したのも、ここが彼女の住居のラ・フォンテーヌ街に近いという理由だった。マリーは詩人より一歳年下で、奇しくも彼女も混血だった。彼はまだ充分に開花しきれないマリーの個性を開放してやり、到るところへ彼女を伴って現われて美術家や作家仲間に紹介してやり、さらに美術批評に取り上げたりして、女流画家マリー・ローランサンを売り出してやった。
「小さな太陽だ」とまで言っていた詩人の情熱にも、しかし彼女のほうはあまり応えてくれない。当時の事情を実見しているビイは、当時彼はずいぶん煩悶《はんもん》したが、マリーのほうはどうしても本気にならなかった、と書いている。とにかく、詩人のほうでは、すでに夫婦きどりだったのだろう、自分のアパートヘ来て、彼女に家事の面倒までみるように要求したが、マリーのほうではこれを嫌がったという。
創作活動のほうは、沈滞期を終って再び活発になり始めた。一九〇八年に「ラ・ファランジュ」に「四季を売る娘」を発表、これが後にデュフィの木版を添えて出版された『動物詩集』で、この古典的な木版画がデュフィの今日の地位を築くきっかけになった。翌年アンデパンダン展に発表されることになるアンリ・ルッソーの「詩人に霊感を与えたミューズ」の原画となったアポリネールとローランサンの肖像は同じ年の秋の制作であるが、この頃が二人の交情がもっとも細やかな時期で、ルーヴル事件を機に彼女はしだいに彼を離れてゆくことになる。
ルーヴル彫像事件(1911〜) アポリネール自身が混血であり、また奇を好むその性格から、彼は非常なコスモポリットであった。一九〇四年、「投資家の手引」の編集長時代にジェリ・ピエレというベルギー人と知り合った。数年前、ピエレはルーヴルから古代の彫像二個を盗み出して、これをピカソに売って、どこかに姿を隠していたが、この頃パリに舞い戻って、アポリネールの雑用をしていた。一九一一年の五月、彼は再びルーヴルから彫像を盗み出し、これを詩人のアパートの煖炉の上に置いた。折から、八月二十一日、フランスが世界に誇るダヴィンチのジョコンダ(モナリザ)が盗難にあい、全世界の話題となって、全新聞がパリ警視庁に非難を浴びせるという有名な事件が起こった。この事件の波紋が拡がるにつれて、ピエレの盗みに気がついていたアポリネールも不安になり出して、ピカソと相談した。二人は夜にまぎれてこれらの彫像をセーヌに投げ込もうとして出かけたものの、それもできず、途方に暮れて帰った。結局、以前に『オノレ・シュブラックの失踪』を掲載したことのあるパリ=ジュルナル社に持ち込み、盗品を返してもらおうということに話が纏まった。新聞としても、そうすれば宣伝効果があるだろうという狙いだった。ところが新聞社は約束に反してこの事実を公表し、アポリネールのアパートは家宅捜査を受け、「ジョコンダ」泥棒との共犯という容疑を受けて逮捕、ラ・サンデ刑務所にぶち込まれた。ピカソもこのとき召喚されたが、理由は不明であるが彼のほうはべつに容疑者にはならなかった。
アポリネール逮捕の数日後、すでにパリを逃走していたピュレは予審判事宛に詩人の無罪を証明した手紙を出したので、アポリネールの刑務所生活も一週間で終ったが、この事件のために彼はすっかり意気消沈し、加えてこれをきっかけにしてマリー・ローランサンの態度もよそよそしくなった。フェルナン・オリヴィエによれば、オリヴィエが、ローランサンに、彼女の恩人とも言える詩人に見舞いの手紙を出すように頼んでも彼女は冷淡な態度を変えず、また事件以来、詩人のとりまき連中もまったく顔を見せず、ただM・ジャコブ、J・テリーだけが彼を励ましに顔を見せるだけだったという。
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ぼくの苦しみをご存知の神さま いったいぼくはどうなるのでしょう
この苦しみはあなたが与えてくださったのです
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この一週間のうちに執筆された「ラ・サンテ刑務所にて」には、「叡智」に現われたヴェルレーヌ、「大遺言書」のヴィヨンに似た感懐を読み取ることができ、いかにも頼りなげな詩人の姿を彷佛させる。翌一九一二年二月にこの事件の免訴は正式に決まり、その夏にはオートゥイユの家を出て、友人S・フェラの家に同居しているが、例の「ミラボー橋」が発表されたのもこの前後で、こうしてみると詩人とマリー・ローランサンはこの頃から決定的に破綻したと見るべきであろう。
ソワレ・ド・パリ(1912〜) ルーヴルの彫像事件に完全にピリオドが打たれた直後に、A・ビイが中心となってR・ダリーズ、A・サルモン、A・テュデスク、そしてアポリネールが集まり「ソワレ・ド・パリ」が発刊された。この同人誌の発刊には、二つの大きな意義がある。そのひとつは、「ミラボー橋」をはじめ、後に詩集『アルコール』に集録される佳篇のほとんどが、この誌上に発表されたことで、また一エポックを画するほどの斬新さをもった、句読点のまったくない詩篇、「ブドーの月」が発表されたのもこの誌上だったからである。もともとこの雑誌は文学と共に美術にも重点を置いたものだったが、一九一三年五月、財政上の都合で廃刊、約半年後に、今度はアポリネールが主宰して第二次「ソワレ・ド・パリ」として発足した第一号にピカソの口絵を掲載したことでも判るように、以後完全に美術雑誌に性格を変え、マチス、ローランサン、アンリ・ルッソー、ドラン、ブラック、ヴラマンク、レジェなど新時代の芸術の旗手をつぎつぎに紹介して、まさに前術芸術の牙城となった。これが第二の意義である。
一九一三年四月、ピカソのアポリネールの肖像をそえて詩集『アルコール』が出版された。この詩集では、句読点はすべて取り除かれている。ビイによれば、これには特別な意図があったわけではなく、ただなんとなくこんな形になったものだ、と言っているが、しかしこの新しい詩体はまさに二十世紀以上にわたる詩の歴史を変えた。「アポリネールこそ真の詩人だ、このタイトルにふさわしい作家だ、その上に、ひとの意表をつく物見高い精神《エスプリ》の持主だ」というカルコの讃辞は、当時の青年たちに共通したアポリネール評だったろう。
さらにこの終刊号に載せたカリグラム「大洋=手紙」も読者たちを瞠目させた。当時は意想文字《イデオグラム》の名で発表されたが、絵画と文字の細み合せによるこの表現形式は、二十世紀の後半の現代でもその新しさを失っていない。「これこそほんとうにたいへんな革命だ。しかもこの生命はまだ一歩踏み出したばかりだ」(アルブアン)という驚きはわれわれの驚嘆にも通じるものである。
第一次大戦(1914〜) アポリネールの伝記を読むものは、だれでもこの詩人の魂の振幅の大きさにふしぎな感慨を抱くだろう。「ミラボー橋」のリリックな詩人、そして「ラ・サンテ刑務所にて」の落魄《らくはく》の境涯を嘆いた彼がとつぜん愛国者に変り、みずから前線を志願してぞくぞくと戦争詩を発表するために、詩人の魂はどんな推移を辿ったのだろう。ある批評家は、アポリネールは戦争とはそれ自身神聖なものである、というのはこれが世界の法則だからだというJ・メーストルのような正統な思想家に共鳴した、と言っているが、こうした通り一遍の説明で詩人の精神の軌跡を解明できるだろうか。ビイによれば、開戦直後、彼はB少佐の夜会で「全ヨーロッパでもっとも由緒正しい家柄の貴族の娘」ルイーズ・ド・コリニー=シャーチョン、通称ルーと知り会い、例のように熱狂的な思慕を捧げたが、斥けられてやけっぱちな気分で兵役を志願したというが、この説明もやや安直にすぎるような気がする。
ともあれ、開戦とほとんど同時に彼はパリで兵役を志願した。再三の拒否にもくじけず、ついにニースで受理されて、一兵卒としてニームの三十八砲兵連隊に入隊した。この間にも彼はせっせとルーに恋文を送っているが、兵隊生活はあんがい彼の気質に合ったらしく、軍隊では模範兵だったといわれる。
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部隊にとどまれと愛が言った だが前線では
砲弾がたえずはげしく 目標にとび込む(「ニームにて」)
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恋は気紛れだった。一度は詩人を袖にしたルーがニームまで詩人を追ってきたのだ。ニームでの彼女と暮した休暇の日々は彼を有頂天にした。『カリグラム』の中のルーを歌った詩、そして一年間書き続けたルーへの恋文が彼の情熱を物語っているが、この恋も彼の愛国心を消さなかった。しかし彼は結局愛されぬ男だった。ここでもルーは彼を捨てて逃げ、彼は前線を志願した。再び恋は気紛れ、という言葉を使おう。ルーと甘い休暇を過ごした帰りの車中で、詩人はアルジェリアのオラン近郊に住む少女マドレーヌ・パジェスと識りあった。ルーに恋文を書く一方、マドレーヌとも文通していたが、ルーとの恋に破れて後、二人の仲は急に親密の度を増す。部隊にとどまれと愛が言った、というこの恋の相手は、どうやらこのマドレーヌだったらしい。このあいだ彼は幹部候補生試験に合格、伍長に昇進、創作活動のほうも旺盛でのちに『カリグラム』に集録される詩篇を書き続けたが、発表機関の少ない時代のことで、これらの作品はほとんど友人たちのもとへ送られた。
マドレーヌに対する慕情はいよいよつのり、両親宛てに結婚許可を求め、許されて晴れて婚約の仲になった。この頃彼は軍曹に昇進したが、早く士官になりたくてたまらず、かねてから士官になり易い歩兵への転科を希望してついにこの願いもかない、一九一五年の末には歩兵九十六連隊の少尉となった。その直後休暇を得て、オラン近郊のマドレーヌの家で過ごし、翌年三月には、詩人の部隊は最前線に移動した。
負傷から死まで(1916〜18) 文芸誌「メルキュール・ド・フランス」は開戦以来休刊していたが、前年六月に復刊し、アポリネールは復刊第一号以来『生活逸話』を寄稿し続けていた。一九一六年三月十七日の暮れ、彼は当時の最前線、ベリー=オ=バック付近のビュットの森の塹壕の中で、自分の寄稿した「メルキュール・ド・フランス」の記事を読んでいた。そこへ飛来したドイツ軍の砲弾の破片が額の右側に喰い込んで、彼は倒れた。ただちに野戦病院に収容され、手術を受けたが、傷口が化膿してパリの陸軍病院に護送され、二度目の切開手術を受けた。五月に至って傷口が悪化し、三度目の手術を受けてのち、ようやく徐々に傷は快方に向った。
七月頃になると、前衛芸術家が集まるカフェ・ド・フロールやモンパルナッスに頭に繃帯を巻いた痛々しい詩人の姿が見られるようになった。しかしアポリネールはもう昔日のアポリネールではなかった。「軍隊ラッパの調子で」口をきく、戦争と戦場のヒロイズムに憑かれたアポリネールで、一部のひとびとには彼の発狂説が囁かれたほどである。発狂しないまでも、頭部の裂傷は詩人を一種の記憶喪失に陥らせたらしい。あれほど情熱をたぎらせた婚約者マドレーヌと、みずから手を切ったのもそのためだろう。小説的なアポリネール伝『アポリネールの情熱的生涯』は、「一〇五砲弾が一匹の|りす《ヽヽ》とマドレーヌに対するギュイ(詩人)の恋を殺した」と書いている。
しかし入院生活中に、彼は新しい恋を知った。体は傷つき、面会も制限された彼に献身的な、看護をしたジャックリーヌ・コルブで、『カリグラム』の最後の詩「美しい赤毛の女」と歌われた女性がそれである。
執筆は禁止されていたが詩人は再びさまざまな芸術活動を企画していた。一六年の十月には『虐殺された詩人』を刊行、後に『坐せる女』となる『エルヴィールの道化師たち』、『カリグラム』に纏められる戦争詩の発表、さらにシュルレアリスム演劇と銘打った『テイレシアスの乳房』がルネ・モーベル座で上演され、一八年四月には『カリグラム』が刊行された。生涯「愛されぬ男」の悲哀を悩み続けたアポリネールも、晩年に至ってようやく魂の安息をみたされる結婚生活に入る。『カリグラム』発表の翌日、ピカソと、印象派画家たちの生活を綴って有名な画商ヴォラールの立ち会いのもとで、サン=トマ=ダカン教会でジャックリーヌとの結婚式を挙げた。しかしこの夫婦にとっては蜜月とは、病苦の晩年を意味した。結婚後三月にして、詩人は肺充血に倒れ、翌々月パリを襲ったスペイン風邪に犯されて、詩人の数奇な三十八年の生涯は終った。一九一八年十一月九日午後五時であった。
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ここかしこのひとびとよ ことさらここにいるひとびとよ
笑いたまえ このぼくのことを笑いたまえ
きみたちには言えないことが たくさんあるのだから
きみたちがぼくに喋らせてくれないことがたくさんあるのだから
ぼくに同情してくれたまえ(「美しい赤毛の女」)
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この新精神を体現した詩人は、まだ喋り足りないことがあるのだろうか? 友人たちに送られて葬られたぺール・ラシェーズの墓地から、いまなおこう語りかけているだろうか?
「若きドン・ジュアンの冒険」について
アポリネールにあっては、エロチシズムは……単純に、快活に、あたかも恥ずかしがることも無用だ、抑えることも無益な、偉大な自然の力のように花開くのである。
……エジエルテル、ラブラッシュリー
アポリネールは、生涯に五つのロマン・エロチックを書いている。すなわち、
『ミルリイ、一名安価な小さい穴』
『一万一千本の鞭』
『若きドン・ジュアンの冒険』
『ボルジア家のローマ』
『バビロンの終末』
がこれである。
アポリネール伝記研究の権威、マルセル・アデマによると、アポリネールは一九〇一年、「サン=ローシュ街の〈特殊な〉書店から一冊の好色本の注文を引き受けた。『ミルリィ、一名安価な小さい穴』はこのジャンルの彼の最初の試作であろう」と書いている。ただしこの『ミルリィ』は現存しない。アポリネールはこの作品を書き上げて出版社に渡したものの、なんらかの理由で出版社がこれを没にして公刊しなかったか、あるいは、公刊したがこれがまったく匿名の秘密出版だったために、現在まで研究者や好事家の目を逃れているのか、あるいはまたアポリネールは原稿を書いても出版社に渡さなかったか、さらにアポリネール自身、その執筆を引き受けながら、実際にはまったく手をつけなかったか、などさまざまな理由が考えられる。しかしもし出版されたものとすれば、たとえそれが匿名の秘密出版であっても、題名まではっきりしている作品が半世紀以上も研究者の目をくらますとは考えられないし、アポリネールがもしこれを書き上げたものとすれば、たとえどんな理由があったにしろ、これを出版社に渡さないはずはない。一九〇一年といえば、彼はせっかく地位をえた「パリ取引株式会社」もつぶれかかり、給料の不払いが続いたため失職していた時期で、喉から手が出るほど金が欲しいところだった。そんなアポリネールならば、喜んでこのもうけ仕事にとびつき、一気呵成に原稿を書き上げても当然である。こう考えてみると、この原稿は空しく出版社の机の抽出しに収まったまま出版されなかった、というのがもっとも自然な見方であろう。いずれにしろ、その『安価な小さい穴』という副題から、おそらく下等な売春婦を扱った小説であろう、という推測を下す以外には、この作品についての手がかりはまったくない。
『ボルジア家のローマ』『バビロンの終末』はいずれもブリフォー兄弟の主宰する「好事家叢書」の一冊として、前者は一九一三年四月、後者は一九一四年三月に出版された。この二つの小説は、ロマン・エロチックとはいっても、じつは歴史的な興味に視点を置き、それをアポリネール一流のエロチシズムで色あげをしたもので、「ロマネスク歴史」の名の示すように、むしろ歴史小説と名付けるほうが自然である。その上、アポリネール作と銘打っていながら、じつは彼自身はほとんど手を下さず、その大部分は親友ルネ・ダリーズが書き上げたといわれるので、厳密にはアポリネールの好色小説とはいいがたい。
してみると実際にアポリネールが書いた、現存のロマン・エロチックは、『一万一千本の鞭』と『若きドン・ジュアンの冒険』の二つである。
『一万一千本の鞭』が出版されたのは一九〇七年である。ただしこの版は、モンルージュ印刷所という奥付があるだけで、ほかにはまったくなにも記されていない非合法出版で、作者名もただG・Aとあるだけであった。その四年後にもこの作品は出版されたが、この場合も事情はまったく同じで、この作者が「ライン詩篇」や『異端教祖株式会社』の新進気鋭の詩人・作家アポリネールの作品ということは、数人の友人のほかにはまだまったく知られていなかった。作者アポリネールが顔を出すのは、一九二四年の「イマージュ、ド・パリ」のアポリネール特集号におけるフロラン・フェルスの記事が最初である。そしてこの記事を機に、この作品の作者はアポリネールなりとほぼ確定したが、とはいえその後約五十年間は陽に当ることなく、一部の好事家に奇書として珍重されるだけ、という実情であった。これがにわかに脚光を浴び、フランスの文壇のみならず、世界中の読書人に争って読まれるようになったのは、一九七〇年、ロール・デュ・ターン社が一年間という期限つきで、フランス内務省の許可をえて公刊してからのことである。各雑誌の読書欄はこぞってこの作品をとり上げ、アポリネールの真骨頂をあらわす傑作として称讃し、本書を読まぬものはアポリネールを語る資格なしとまで絶讃する批評まで現われ、一九七三年には前衛作品の出版を主に扱う、有名なジャン=ジャック=ポーヴエール書店から、アポリネール作品研究の第一人者デコーダンの序文付で出版されるに及んで、この作品の評価、及び作者アポリネール説は決定的となった。
『若きドン・ジュアンの冒険』もほとんど『一万一千本の鞭』と同じ足跡をたどっている。モンルージュ印刷所以外にはまったく奥付のないままに、一九〇七年にG・Aの匿名で発表された。もっともこの二作とも、実際に執筆されたのは一九〇六年のことである。一九〇七年は詩人にとっては一エポックを劃する年で、四月には永年彼の桎梏となっていた母親と別れレオニー街へ移り、五月には運命の女性ともいえるマリー・ローランサンと知り合う。そしてこの二つの事件とともに創作活動も活溌となり、徐々に新時代の旗手としての地位も確立してゆくが、それと対蹠的に、前年一九〇六年は一種の落ち込みの時期で、詩人にとっては灰色の季節であった。当時彼はショッセ=ダンタン街のシャートーフォール・エ・ポワトヴァン銀行に勤めていたがこの銀行の勤務に追い回され、その上給料は安く、文学仲間とは次第に離れざるをえない状態であった。もちろん創作力はけっして衰えていたわけではなく、この間にのちに『アルコール』にまとめられる詩の大部分を書いてはいたが、財政的には窮乏の極にあったと思われる。そしてこの窮乏を救う唯一の道が、この二つのロマン・エロチックの執筆出版であった。
つまりこの二つの作品は金欲しさに筆を執って生れたものである。おそらくその執筆の速度も早く、ほとんど書きとばしたと思ってもいいかもしれない。しさいに読めばいくつかのその証拠を指摘することができる。一つちがいの姉の名前が最初の章ではベルタ、第二章以後ではベルトに変っていたり(翻訳では統一した)、上の姉ははじめエリザベート、のちにエリーズになり、語り手ロジェとベルトの年齢が前後で違い、「色ざんげ」では母と姉をとりちがえ、さらに女中の人数も前後撞着している。訳者の知るかぎり、デュマ、バルザック、ヴェルヌのような大長篇を書く、しかも多作家はしばしばこうした誤りを犯すが、アポリネールのように寡作な、しかもこうした短い作品にこれだけの間違いがあるのは、作者がよほど急いで書き上げ、ひょっとしたら原稿を読み返しもしないで印刷にまわしたのではないか、という疑いさえ抱きたくなる。
アポリネールはこの作品を金のために書き上げたことはまちがいない。しかし、だからといってこの作品を軽んじる理由にはならない。アポリネールの生涯といえば、物質的には貧窮の一生であった。一九一七年、負傷後に検閲官の地位を得るまで、つねに金に追われ、貧に悩まされていた。アポリネールが創作活動によって得る収入になみなみならぬ関心を寄せていたことは当然で、それが彼と彼の母親の生活の糧となっていたことは事実である。極限すれば、アポリネールの創作活動はすべて金のためともいえる。
そのうえ、この速筆の理由のひとつは、アポリネールが種本を持っていたことにあるらしい。ここで種本というのは、イギリスの小説「影の下、一名バカな女たちの中でのスポーツ』で、これは当時アポリネールが愛読していたイギリスの雑誌「真珠」の一八七九年七月号より一八八〇年二月号まで連載された小説である。炯眼《けいがん》な読者は、本書を一読後に気がつかれたかもしれないが、『若きドン・ジュアンの冒険』の中には、ただに速筆の罪とはいいきれない、詩人アポリネールらしからぬナマな、直截《ちょくさい》な表現が少なくない。それはおそらく、種本に用いた英語《ヽヽ》の含み多い特殊用語の貧困に帰せられるものだろう。
さて、前述したように『若きドン・ジュアンの冒険』は一九〇七年に出版された。同じ年に出た、ルイ・ペルソオ編「エロチック小説書誌」に、『若きドン・ジュアンの覚書《ヽヽ》』と名付けられた最新刊書《ヽヽヽヽ》のつぎのような内容紹介が載っている。(ちなみに、同じ号に『一万一千本の鞭』も紹介されているが、こちらの紹介文にはアポリネール自身手を貸した形跡がある)
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若きドン・ジュアン〔ドン・ジュアンはドン・ファンのフランス名〕、ウィリーは、少年時代から色事に興味津々であった。彼はきれいな女中たちに目をつけると、有無をいわさず必要な相手を手に入れる。確固不抜の志はむくわれて、彼は欲するかぎりの女たちと寝る。
彼は美しい姉(自分と同年配の、下の姉)の処女を犯し、ついには花も羞らう十九歳の少女、上の姉と寝る。
色ごとのためならどんなことでもやってのける彼は、妊娠中の女の前でも尻込みをしない。
結局彼はその目的を達し、美と、優雅と、無垢の天使ともいうべき彼の叔母は、恍惚として彼の逞ましい腕の中に抱かれる。
この作品はまったく特殊な、あらわな手法で描かれ、この手法のおかげでこの作品は他に類のないものとなっている。
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この紹介文では主人公は現在流布されている版の、ロジェという名ではなく、ウィリーとなっているが、これは英語のウィリアムであり、フランス名ではギヨームである。アポリネールの最初の意図としては、わが名をもって主人公とし、匿名の作者を暗示したものとも考えられる。
一九一一年には新しい版が起こされたが、ここではじめて現行の表題『若きドン・ジュァンの冒険《ヽヽ》』と改められた。しかし作者名は相変らずG・Aというイニシアルのみであった。
作者の名が、まだまだマスクをかぶっていたとはいえ、とにかく文壇通のひとびとを頷かせるようになるには、一九一九年を待たなければならなかった。すなわちこの年のカタログに、「最近に物故した有名な文学者」という意味深長な肩書《ヽヽ》をつけて発表されたのである。
つぎに一九二一年にべつの図評目録に
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これこそ、非常に洗練された一作家が、真の悦楽と比頼なき才能をこめて書き上げた、こよなき快楽指南の書である。彼はおそらくあまりに洗練の度がすぎたために、彼がもっとも暗示に富む情熱の大家としての証しを見せたその文学から、あまりに早急な死によってその命を奪われたのかもしれない。
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という解説が載り、いよいよ作者のヴェールははがされていった。
やがて一九二四年にいたって、前述のフロラン・フェルスがこれまで一般に知られなかったアポリネールのエロチック作品を主題にした紹介記事を書き、ここで主として『一万一千本の鞭』及び『若きドン・ジュアンの冒険』をとり上げた。この記事には間違いも多く、また牽強附会の説も多いものであったが、しかしこの記事によって『若きドン・ジュアン』の作者がアポリネールであることが一般に知れ渡ったことは事実である。そして一九二四年に、フロラン・フェルスの間違いを訂正したノートを附し、かつ完全にアポリネール作としての最初の版が出版された〔しかしこれも秘密出版である〕。私事にわたるが、訳者が一九六〇年にはじめて、パリ国立図書館で接したのはこの一九二四年版であるが、それ以前終戦直後に英訳の海賊版を手に入れている。してみると、すでにこの作品はヨーロッパ、アメリカで多くの国語に訳されて流布されていたと思われる。
同年に出版され、同じロマン・エロチックである『一万一千本の鞭』と『若きドン・ジュアンの冒険』が、文字通りの姉妹篇であることは論をまたない。そしてこれがアポリネールの作品ということが徐々に証明されながらも、なおさまざまな疑問が投げかけられた。そのもっとも大きな論拠は、『一万一千本の鞭』とまったく作風が異なるところであった。たしかに『一万一千本の鞭』では、ブカレスト、パリ、ペテルスブルグ、旅順と目まぐるしいまでに舞台が変り、そのパノラミックな展開とともに、さながら人種博覧会のように、各国の女性との愛欲図が繰りひろげられる。そしてホモ、レズ、サディスム、マゾヒスムと近代的愛欲の種々相が克明に描かれる。そして登場人物にもアポリネールの友人知己の名前をもじった名前がいくつも現われ、そうした背景の中にラブレー的な(アポリネール的な)とめどないユーモアが横溢している。
たしかに、『一万一千本の鞭』の筆をとるとき、アポリネールの頭にはサドがあったろう。ブリフォー兄弟の委嘱により、「愛の巨匠叢書」の編集に当り、当時はまったく埋もれていたサド侯爵の作品をその第一巻に選んだアポリネールは、『一万一千本の鞭』の範を『ソドムの百二十日』にとったことはおそらくまちがいあるまい。その点、イギリスの凡作を下敷にした『若きドン・ジュアンの冒険』では、舞台も動きも単調で、サドのすご味が欠け、『一万一千本の鞭』の野放図な超自然性《スュルレアリテ》と共通するところがないことは認めなければなるまい。
しかし一見粗野で平凡に見えるこの作品にも、やはりアポリネールらしさがないわけではけっしてない。例えばこの作品の舞台となった「|お城《シャトー》」についてのピトレスクな描写は、「ク・ヴロヴ?」や「ヒルデスハイムのばら」の背景を描いたアポリネールのタッチである。そしてこの「お城」はアポリネールが一九〇一年から二年にかけてミロー子爵一家と共にドイツに滞在したおりに訪れたクライエルホーフの城をモデルにしたものだという。本書の十ページから十一ページへかけての、「このお城は富裕な百姓の古びた住居であった……」以下の背景描写はそのままここに当てはまり、と同時に恐らくここに描かれる下男下女たちの田舎びた風俗もこの地方のものであると、マルク・プーポンは考証している。
また、「子供というものは、できるだけ長いあいだ子供として扱うべきだという考えを、原則として抱いていた母は、相も変らずこの方式を続けさせていた」という一節には、詩人自身の思い出をひそめているにちがいない。というのは、詩人の母、マダム・コストロヴィツキーの教育方針はこの言葉の通りで、彼は生涯母親のこんな態度に苦い思いを味わわされていたからである。
アポリネールの面目がもっとも躍如として現われているのは、その結末である。ハレムの女たちをつぎつぎに征服した主人公は、終章で数人の女たちを結婚させ、自分がその新郎の介添役となり、また女たちを妊娠させてみずからその子供の名付親を買って出る。そしてこの小説は、主人公のこんな決意で結ばれている。「ぼくはほかにもたくさんの子供を作りたいと願っている。こうして子供を作れば、ぼくは愛国的な義務を果たし、わが国の人口増加に貢献するわけである」
さんざん女たちを慰さみながら、妊娠したと知ると巧妙に彼女らを他の男に押しつけ、あまつさえ介添役や名付親を買って出るとはなんというふてぶてしさであろう。とはいえわれわれはけっして主人公を憎めない。むしろ思わずニヤリと笑みを浮かべたくなる。ここには中世以来のゴーロワ的な笑い、コキュを笑いとばすラブレー的な笑いを感じる。つまりこの作品に、われわれはエロチシズムと同時にユーモアを感じないではいられない。この作品にはいわゆる好色小説に感じる陰湿ないやらしさ、じめじめした読後感がない。それはこの結末に象徴される、アポリネールのユーモラスな筆致《タッチ》に由来するものであろう。
フランスはあの普仏戦争の敗北以来つねに隣国ドイツの脅威を身にしみて感じていた。そしてこれに対抗するために、人口増加策による強兵策を国是としていたし、さらにこの作品が執筆されたのは、第一次大戦に近づくに従ってこの国策が声を大にして叫ばれていた時期である。こうした周囲の事情を考えるとき、「こうして子供を作れば、ぼくは愛国的な義務を果たし……」という最後の一句は、主人公ロジェの行状と相まっていっそうそのユーモアを発揮せずにはいない。
本書の最初に、「まことわれは若し、されど気高く生れし者には歳月を待たずともいさおしあらわる」というコルネイユの引用がある。これはスペインの救国の英雄、ドン・ロドリーグの孝と愛の相克を描いた名作『ル・シッド』第二幕、第二場のドン・ロドリーグの台詞《せりふ》である。父ドン・ディエーグを辱めたゴルマ伯、ドン・ゴメス、じつは愛する恋人シメーヌの父に、心ならずも決闘を申し込む場面で口をつく句で、その崇高な魂に、観客がハッと息を飲む場面での台詞なのだ。もちろんその意味は、下世話にくだけば「栴壇《せんだん》は双葉より芳し」の意味であるが、しかしここに『ル・シッド』の台詞を引用したところにも作者の計算がある。同じ「双葉より芳し」でも、こちらの主人公は色事でいさおしをあらわす、ドン・ファンとしてである。孝のために恋を捨てようとするドン・ロドリーグとは黒と白の違いがある。義のためには愛も犠牲にしようとする烈士と色ごとに浮身をやつすドン・ファンと、その対照の妙、置換の皮肉に気づいたとき、読者は思わず苦笑を洩らさずにはいられまい。そう思ってこの引用を読めば、この引用は、全篇に溢れるユーモアをいっそう色濃く仕上げる触媒剤の役目を持つことは明らかだろう。
ユーモアといっても、ここに感じられるのはストレートなユーモアではない。手ばなしでゲラゲラ笑う笑いではない。一風ひねった甘さと若さの入り混った味に、屈折した感情から、思わず頬をゆがめるシニックな笑いである。これはいわゆるブラック・ユーモアと呼ばれるものだろう。そしてこのブラック・ユーモアにこそ、アポリネールの真骨頂があるのだ。この作品を単なる好色小説におとさず、作者の没後半世紀以上経た今日になって、改めてその真価を見直された大きな要素も、このアポリネールならではのブラック・ユーモアであるといってよいだろう。
なお原書に付せられたルイ・ルランの序文を訳出できなかったのは残念であるが、解説にはこの序文を参考にしたことを、ここにお断りしておく。
なお種々の事情から、翻訳ではそのごく一部を削除し、代わって各章に訳者が小見出しを附して、読者の便宜をはかったことをここにつけ加えておく。
一九七五年早春  (訳者)