椰子なごみを発見。
レオ
「屋上好きだな、お前」
なごみ  無音
「……」
レオ
「何だ先輩かって顔しないでくれ」
なごみ
「その通りですから」
……ここでムカついては会話が続かない。
先輩としてある程度のコミニュケーションは必要。
レオ
「で、生徒会執行部はどう?」
なごみ  無音
「?」
レオ
「やってけそ? って意味さ」
レオ
「ま、俺も入ったばかりだけど」
なごみ
「正直早く辞めたいですけど」
なごみ
「正式な人員が加わるのはいつ頃なんですか?」
レオ
「さぁ、人事はもっぱら姫担当だから」
なごみ  無音
「……」
椰子が俺の事をジロリと見てくる。
なごみ
「代役するって言ったからには暫くやりますけど」
なごみ
「あんまり長引いたら辞めますんで」
レオ
「あぁ、分かってる」
レオ
「じゃ、生徒会室行くか?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「……なんだよ、そろそろ集合時間だろ」
なごみ
「いいです、顔見たくないんで」
レオ
「オマエな……」
なごみ
「だから、そうやって突っかかってくるから
嫌なんですよセンパイは。キモイです」
なごみ
「さっさと先行って下さい」
俺を見下すような目つき。
一応敬語使ってるけど、それが余計に壁を感じる。
1年生のくせに貫禄あるやっちゃな。
明かに人と交流不足の椰子はいるかな?
1年生を気にかける俺は良き先輩だ。
体育会系である乙女さんの影響かもしれないけど。
あれ……屋上には椰子いねーな。
竜宮(生徒会室)に行ってみるか。
レオ
「ちゃーす」
きぬ
「ぐぅっ……うっ……うううううう」
なごみ
「早く泣け……くっくっく」
きぬ
「うぬが〜〜〜〜がぁぁぁぁぁ」
うなって威嚇するカニ。
それを涼やかに見下ろし、笑う椰子。
今日も元気にこの2人は喧嘩していた。
ぱっ!
きぬ
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……テメェ……」
なごみ
「滑稽で良かったですよ蟹沢“先輩”」
きぬ
「はは、ほーんといるんだよね
こういう社会の構図を知らないで親に
蝶よ花よと育てられたバカ女がさ」
なごみ
「負け犬の遠吠えが聞こえる」
エリカ
「すっかり馴染んじゃってるわね」
良美
「エリー、目医者まだ開いてるよ?」
エリカ
「む。目ヘンじゃないってば、
あれはじゃれ合ってるだけよ」
レオ
「そうかなぁ……? 普通に仲が悪い気がする」
新一
「ま、女っぽいネチネチした感じは
ないから見てて面白いけどね」
お前いたのか、存在感無いやつ。
きぬ
「いい加減シマウマみてーにくっきり
白黒つけるぜ! 決闘だ、ココナッツ!」
なごみ
「それは面白い」
レオ
「なんか珍しく乗り気だな」
なごみ
「いい加減ギチギチとウザイので
1度完全に叩いておきたい」
椰子がニヤッと笑う。
なごみ
「具体的に言えば、学校にはこれないぐらいの
敗北感を植えつけておきたい」
先輩を登校拒否に追い込む気だ。
レオ
「肝心の勝負方法は?」
きぬ
「んーボクが決めてもフェアじゃないしね
おい、オメーら誰か決めてくれない?」
新一
「はーい! はいはい蟹沢先生!
キャットファイト(ポロリもあるよ)を
提案しまーす。泥レスでも可」
きぬ
「はい、何事も無かったように
外野スタンドから意見どうぞ」
良美
「か、格闘技系は危険だと思うな。血を見るよぅ」
エリカ
「例えば囲碁や将棋、チェスとか」
レオ
「カニは囲碁、俺相手に20子(し)置き石しても
負けるアホだからそれは勘弁してやってくれ」
エリカ
「んー。じゃあ提案するけど卓球でどう?」
なごみ
「……卓球か。異議なし」
きぬ
「……ふふふ、さすがココナッツ、頭固いだけで
中身はミルク粥(がゆ)みてーにとろけてんね。
卓球はボク、得意だもんねー」
なごみ
「くっくっくっ……その自信ごと潰す」
おお、悪役オーラビンビンだ。
さすがヤンキー気質充分だ。
新一
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
レオ
「もう復活したのかよ、いいから死んどけよ」
新一
「そんな悲しいこと言わないでくれよ」
だって話進まないんだもん。
新一
「卓球ってそのままやるの? パンチラ狙いの
カメラ小僧とかに盗撮されるかもしれないよ?」
きぬ
「そんな発想よくできんね。ありえないでしょ」
レオ
「こいつはそういうのやりそうだから
発想できるんだろうな」
新一
「ち、ちちち、ち、ちげーよ、雑誌で見たんだよ!」
乙女  無音
「……」
自爆した。
新一
「って事で俺は同志の身の安全のためにも
念のため着替えることを提案するっっ!!」
自爆したの気付いてないし。
きぬ
「まぁ、着替えたほうがいいかもねー。
動きづらいのを言い訳にされたら
こっちもたまらないもん」
なごみ  無音
「……」
レオ
「――確かに卓球やるならここだよな」
エリカ
「卓球部ー。悪い、1ゲームやるから
台1つ空けてもらうわ」
卓球部員A
「は、はい喜んで!」
卓球部員A
「やった、あ、あの姫と喋っちゃった!」
卓球部員B
「ずるいぞてめー!」
レオ
「ギャラリーも多いな」
ブルマなごみ  なごみ
「暇人だこと」
レオ
「お前、これが狙いだっただろ(ヒソヒソ)」
新一
「おう、卓球でパンチラは難しい。
どうせならこっちだろ」
スバル  共通
「ナイスブルマ」
新一  共通
「ナイスブルマ」
お互いにガシッと腕をあわせる。
レオ
「どっから沸いて出た」
スバルの母子相姦好きとブルマ好きにも
困ったもんだ……。
エリカ
「それじゃラケットを選んでね」
なごみ
「シェークで」
カニこだわりでペンホルダーを選択した。
なごみ
「哀れな……」
なごみ
「こんな見物客が多い中で負けるなんて」
きぬ
「ココナッツこそね。こんなはずはありえない、とか
小者みたいな台詞を吐かせてやんよ」
グッ、と椰子が構える。
新一
「なんか、両方負けを認めないタイプだしなー
こりゃいろんな意味で見物だぜマジで」
椰子は背も高いしスタイルいいから
ブルマ姿がやたら色っぽいな……。
スバル
「んん……いいね。野に咲く一輪の花のようだ」
レオ
「ブルマで癒し効果を得るな」
スバル
「妬いてるのかい」
レオ
「ブルマに嫉妬するか! ……ん?」
レオ
「なんか姫がこっちを興味深そうな目で見てる……」
新一
「やっぱり、カニのブルマも雰囲気でまくり
だけど椰子のスタイルの前にはかなわねぇだろ
よってこの勝負は椰子の勝ちとするッ!」
乙女
「何の勝負だそれは」
エリカ
「なごみんに1000円」
スバル
「熱いねぇ姫、じゃあオレはカニに賭けるぜ」
乙女
「お前達、生徒会執行部としてもう少し
他の生徒達の模範になるような行動を
とろうとは思わないのか?」
「私はカニさんに賭けますわ」
乙女
「祈先生まで! 困ります」
エリカ
「固い事言わないでよ、日々の娯楽なんだから
現金の受け渡しは、後でこっそりやるから」
乙女
「いいや、お祭り騒ぎのときならともかく
平常時にこんな事をやられてはだな……」
さすが乙女さんは頭が固かった。
「鉄さん。もう少し柔軟に生きないと疲れますわよ」
「なにかありましたら、私が責任とりますからー」
乙女
「祈先生がそこまで言うのなら……」
さすが体育会系は上からの命令に弱い。
新一
「レオ。お前はどっち賭ける?」
どっちに賭けるか……か。
蟹沢きぬ
椰子なごみ
レオ
「そんじゃ、俺はカニに賭けるぜ」
きぬ
「ふふふー、レオは偉いねー。ちゃんと
得させてあげるから、まぁ見ててよ」
なごみ
「馬鹿なセンパイだ」
レオ
「そんじゃ、俺は椰子に賭けるぜ」
なごみ
「賢明な判断です」
きぬ
「テメェは明日までに友情って字をノート5冊分
書いてきて提出だかんね!」
レオ
「ギャンブルは非情さ」
「それでは面白そうなので、私が審判を
やらせて頂きますね。蟹沢さんのサーブで……」
「始めてくださいっ」
カニが珍しく本気の顔になる。
「……と言いましたら始めてくださいな」
きぬ
「とりゃっ!」
先生のボケは無視して試合がスタートした。
「もう審判する気ありませんわ……」
とりあえず速めのカニサーブ。
なごみ  無音
「……」
強めにパシッ! と弾き返す椰子。
きぬ
「グゥレィト! もらった!」
カニが大袈裟に振りかぶる。
ズパーーーン!!!
なごみ  無音
「!」
凄まじいスマッシュが決まった。
カニの得意中の得意である“3球目のスマッシュ”
椰子は目では追えたが体が反応していない。
エリカ
「おおー。ナーイス・スマッシュ」
「1−0ですわねー」
祈先生のやる気のない声が響く。
乙女
「蟹沢は露骨な前陣速攻タイプだな。私と同じだ」
レオ
「波に乗るとあいつ強い、マジで」
新一
「俺達じゃ勝てねーもんなー。頭からっぽの分
動体視力とか凄いよな」
きぬ
「ヘイヘイ、どんどん行くぜ!
次は思いっきり回転かけてやるもんね」
シュッ、とサーブを打ち込む。
なごみ
「ち……キってる」
椰子は返すのが精一杯だった。
きぬ
「はーい、棒球いただ、きーっ」
ズバーン、とカニのスマッシュ炸裂。
「2−0ですわー」
きぬ
「あははっ、どうしたのかなー、おかしいなー
自信満々だったのに散々コケにしてた
先輩に負けちゃうよー、やだー」
きぬ
「それとも何、今日は筋肉痛とか小学生レベルの
言い訳を考えてるのかなぁ」
なごみ  無音
「……」
試合は続き……。
「12−4ですわー。今日のお夕食は
一品多くつけられそうですわ」
きぬ
「よっし! 所詮ココナッツ。夕方の便で
グリーンランドに出荷してやんよ」
レオ
「お前、グリーンランドってどこか知ってるの?」
きぬ
「名前だけしかしらねーよ、日本名にすると
緑の島だかんね、南の方じゃね?」
その場にいる人間達が驚愕の表情でカニを見た。
ほんと、よくこいつココに受かったな。
新一
「おいおい、椰子めっさ(凄く)苦戦してんぞ」
エリカ
「勝負かけてくるとしたらそろそろね
おそらくなごみんの卓球スタイルは……」
なごみ
「……カニの習性、思考経路は大体分かった」
きぬ
「何が大体分かっただカッコつけんなや1年坊が!」
カニのスマッシュが炸裂する。
なごみ
「はっ!」
コッ! とさばく椰子。
きぬ
「カットしたからってそれが何だオラ死ねやぁ!」
打ち返してきた球をまたカット。
きぬ
「往生際悪いんだよ、いい加減クタバレボケナスが」
エリカ
「それにしても言葉遣いが凄いわねカニッち」
レオ
「男社会に慣れてるからな……俺も再三
注意したんだがもう諦めた」
きぬ
「ちっ、ツツきやがってダボが、らぁ!」
なごみ  共通
「ふっ!」
またカット。
きぬ
「往生際の悪いやつめ……わ、力加減間違えた」
勢いつけすぎたスマッシュは台に
当たることなく飛んでいった。
きぬ
「ちっ……つい力んじゃったよ」
アメリカ人っぽく肩をすくめ“あ〜あ”の
ポーズをするカニには、まだまだ余裕があるようだ。
きぬ
「次いくぞー! ツツいて返してくるだけなら……
甘めに打っても、大・丈・夫!!」
なごみ
「何、この甘い球」
ボールを自分に思いっきり引き付けてから……。
バックサイドで鋭く打ちこんだ。
きぬ  共通
「くっ……」
カニは打ち返すがネットに引っ掛かってしまう。
「あら。12−6ですわ」
勢い+回転がかかったボールに
カニの対応が遅れてしまう。
エリカ
「こりゃ面白くなってきたわね」
乙女
「速攻タイプはノッてると強いが
流れを止められると崩れる……。
この勝負、分からないぞ」
新一
「なんか意外だな。椰子はもっと
攻めるタイプかと思ったぜ」
レオ
「いや俺はイメージぴったりだ」
きぬ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
なごみ  無音
「……」
カットが続きイラつくカニを見て笑う椰子。
それは獲物をいたぶるのを楽しむ
冷血な狩猟者に見える。
エリカ
「カット主戦型だけど……なごみんは
バックハンドからのドライブが上手いわね」
エリカ
「甘く入ってきた球はドライブして
点を稼いでる。ツッツいているだけじゃない
鋭い反撃の牙を備えたカットマンだわ」
くいくい。
レオ
「ん?」
良美
「あの、卓球用語が分からないんだけど」
レオ
「ようするに椰子は強いってこと」
きぬ
「ぬぉぉぉ、ココナッツが舐めんな!」
出た、漫画から学んだジャンプしながら
放つスカイスマッシュ。
なごみ  共通
「ふっ」
きぬ
「げっ、返しやがった」
台のかなり後ろでスマッシュをとめる椰子。
エリカ
「アレを止めるかー、やるなー
カニッちはスマッシュに頼りすぎ」
乙女
「蟹沢、もっと椰子を前の方に引きずり出せ」
きぬ
「でぇーい、外野は口出し無用でござる!」
乙女
「しかしな、後ろに下がられては思う壺だぞ」
人の意見聞かないからねぇ……。
「16−20ですわ。蟹沢さん、1年上の
意地を見せないと情けないですわよ
というか、私のお夕飯のおかずが……」
きぬ
「チッ……畜生! このボクが……
あと一点で負ける……? こんなこと
ありえねぇ、ありえねぇんだよ!」
小者みたいな台詞を吐いていた。
なごみ
「息が上がってますよ、先輩」
きぬ
「……ふっ、はははっ、上等だよココナッツ
本気になったボクを見せてやる」
レオ
「ま、まさかアレを出す気か」
乙女
「なんだ、必殺のドライブでも温存しているのか?」
レオ
「やめろ、それをやったらお前はもう……!」
きぬ
「どぉりゃー、分裂魔球スマッシュ!」
一度に大量の卓球ボールを打ち込む。
本当のボールはどれか分からない。
まさに幻惑の一撃、必殺技である。
なごみ  無音
「……」
椰子は無言で審判を見た。
「はぁ……(溜め息)ゲームセットですわ
椰子さんの勝ち。カニさん使えませんわねー」
……カニは我流の喧嘩卓球。
俺達の間ではそれが許されても、普通は
それが通じるわけはない。
エリカ
「カニッちの反則敗けー。一度にたくさんの
ボールを打っていいわけないでしょう」
きぬ
「えぇえええええーーー!!」
なごみ
「自滅されても全然スカッとしないんだけど」
レオ
「底力はあるんだから、普通に勝負すりゃ
分からなかったのに……」
アホとしか言えない。
エリカ
「なごみんは少し卓球やってるね。カニッちは?」
きぬ
「ボクは公民館とかで友達同士でやってる我流だよ」
良美
「わ、我流でそこまで出来るんだからスゴイよ」
きぬ
「まぁねー」
なごみ
「負けは負けですけどね」
きぬ
「うぎっ……」
なごみ
「珍しい声で鳴く」
乙女
「親善試合、というわけにはいかなかったようだな」
レオ
「むしろ溝が深くなった気がする」
皆、疲れただけだった……。
今日も生徒会へ。
真面目だ、俺。
レオ
「今日は椰子だけか」
なごみ  共通
「……」
椰子は、俺をチラリと見ると
目をノートに戻した。
……一応、会計としての仕事はやってるらしい。
しかし、こいつと2人というのは
とても微妙な空気だ。
重い、というよりなんかチクチクする感じ。
しーん……。
こういうの、苦手なんだよなぁ。
“沈黙”を何とかしないと。
レオ
「なぁ、椰子」
なごみ  無音
「……」
音楽聴きながら作業してやがる。
レオ
「椰子ってば」
椰子は俺がブンブンと手を振ると、
ようやく気づいたらしい。
なごみ
「……お金なら持ってないですけど」
レオ
「別にジュースが買いたいとか、そんな
金の無心じゃないってば」
なごみ  無音
「?」
椰子は、イヤホンをすぐにでもつける
体勢をしている。
レオ
「いや、みんな来るまで暇だから
ちょっと喋ろうかな、と」
なごみ  無音
「……」
露骨に眉をひそめる。
こいつ、無口だけど感情は露骨に出るよな。
つまり今は“仕事してるから話しかけないで”
といった感じだろう。
なごみ  無音
「……」
レオ
「椰子だってさ、真面目に仕事するんなら
皆がいる時にやった方が評価されると思うし」
なごみ
「お姫様の場合、いつやろうと関係ないと思います
やる事やってれば普通に評価するタイプかと」
一応、敬語なんだがこの威圧感は何だ……!
レオ
「……」
なごみ
「それに、カニとか来たらやかましくて
逆に集中できません」
レオ
「確かにソウデスネ」
俺も敬語になっていた。
つうか、呼びつけどころかあだ名呼ばわりですぜ
蟹沢きぬさん。
レオ
「少し椰子と話したいと思うんだが」
なごみ
「あたしは、話したいと思いません」
レオ
「でもさ、何かこの空気嫌じゃない?
ツンツンしててさ。
もう少し、和らげようよ」
なごみ
「……馴れ合おうと? キモい考えですね」
ククッと歪んだ笑みを向ける。
こいつ、普通に笑えないらしい。
だが、顔が整っている分、
その笑顔にはゾクリとする何かがある。
レオ
「俺は仕事がスムーズに行くようにと……」
なごみ
「あたしは仕事してるんじゃないですか、
スムーズに行ってないのは誰のせいですか
“センパイ”」
冷たい目で俺をにらんでいる。
もう、何も言うまい。
なごみ
「話、終わりですか?」
レオ
「あぁ」
なごみ
「仕事中は話しかけないで下さい」
どーしようもないですね、これは。
椰子“なごみ”ね。
きっと親は周囲に和やかな空気を与える
癒し系を期待して、この名前をつけたのでは
ないだろうか。
ところが育ってみれば。
剣山みたいな性格の女の子になっていた。
本来なら、なんやねんこの女、って感じで
無視するんだが。
椰子の場合は、仕事をしっかりこなすし
同じ女性を相手にする場合(カニはのぞく)、
それなりの礼儀はわきまえて行動している。
今、仕事をしている時も背筋をピシッ!と
伸ばして、なんか見ていて小気味良い。
ただの男嫌いってやつかな。
分からん。
なんか興味沸くな。
なごみ  無音
「……」
なごみ
「何ですか?」
椰子がクイッとメガネをあげる。
レオ
「いや、何でもね」
レオ
「メガネつけてると、ほんと優等生に見えるなお前」
なごみ
「しつこいです」
……もう少し愛想がよければな。
レオ
「よぉ」
なごみ  無音
「……」
近寄りがたいオーラが出てる……。
なごみ
「センパイ、汗かいてますよ」
レオ
「今日は暑いからな」
ハンカチでふく。
なごみ
「あまり近寄らないで下さい。
暑苦しいのは苦手なんです」
レオ
「屋上にいるのは、風が気持ちいいからか?」
なごみ
「……人が少ないってのもありますけど」
そう言いながら去っていく。
距離があるなぁ。
生徒会活動が始まってから約1週間。
それだけで、平凡だった毎日が慌しい。
……なんとなく気になるヤツもいる。
椰子 なごみ。
黒髪の、背が高い美人ではあるけど。
人を寄せ付けないクールな雰囲気と
容赦無い物言いがとにかくキツイ。
――だが、それでも。
何故か俺は彼女がほんの少し気になった。
あいつ、今日みたいな休みの日は
何をしてるんだろうか。
……………………
なごみ  無音
「……」
生徒会執行部、か。
気に入らない人間が多いはずなのに。
なんだかんだで続けている自分がいる。
あのお姫様のカリスマ性なのか?
まぁ所詮は“線の外側”だが。
6月も中盤。
本格的な、夏が始まる――――
レオ
「お姉さん(←社交辞令)お邪魔します」
マダム  共通
「良かったら嫁にもらってくれない、アレ?」
レオ
「掛け算の8の段を時々間違えるような
アホな娘はちょっと勘弁願いたいです」
カニいわく、8×8=66。
マダム  共通
「そうよねぇ。私がオトコでも絶対イヤだもん」
2階へ上がる。
レオ
「ほら起きろ。さもないと北海道へ出荷するぞ」
きぬ  共通
「Zzz」
レオ
「お前、少しは俺に対しても恥じらいを持てよ」
マダム
「あれま、すんごい格好で寝てるねこの娘は
レオちゃん、こんなん犯っちゃってもいいわよ」
レオ
「既成事実は作りません」
マダム
「チッ」
恐ろしい……こいつを押し付けられてしまう。
………………
レオ
「もうすぐ体育武道祭だな。生徒会もその準備で
忙しくなりそうだ」
きぬ
「仇敵の2−Aを合法的に超殺すチャンスだもんねー
早く6月末になんないかな」
元気なだけあって体育武道祭は楽しみみたいだな。
レオ
「ん、あの後ろ姿は」
レオ
「よぉ、椰子」
きぬ
「元気してるか、ココナッツ」
なごみ  無音
「…………」
レオ
「なんか朝からいつにもまして不機嫌だな」
きぬ
「低血圧なんじゃねーの? こいつ朝弱そう」
なごみ
「……そういうアンタは頭が弱そう」
きぬ
「んだと、この……」
なごみ
「うるさい、負け犬」
乙女
「朝から校門前で喧嘩はやめろ、迷惑極まりない」
乙女さんが仲裁に入る。
乙女
「そのエネルギーは勉強にぶつけるんだな」
きぬ
「ふんっお前なんてパンスト伝線して泣いちまえ!」
なごみ  無音
「……」
洋平
「ってワケでフカヒレのヤツを昨日
ビリヤードで散々打ち負かしてやったわけだ
やっぱり勝つっていうのはいい。スカッとするな」
紀子  共通
「くすくす……」
なごみ  無音
「(……笑ってるヤツが多い)」
なごみ  無音
「(何がそんなに面白いんだか)」
あたしの教室――1−Bは最上階。
そこまでゆったり歩き、教室に入る。
1年女子G
「あ、椰子さんおはよー」
なごみ
「……おはよ」
何人かの女子と定期的な挨拶を交わす。
そして指定席の窓際へ。
1年女子G
「相変わらず無口ね、椰子さん。
っていうか何か貫禄ない?
怖くて話しかけられないんだけど」
1年女子B
「何かウチらに壁作ってるよねー
知ってる? 椰子さんが夜中に街を
うろついているって話」
1年女子A
「野球部期待のルーキー、鈴木君の告白を
あっさりふったし……大人のカレとかいるかもー」
なごみ  無音
「……」
あぁ、線の外のノイズがうるさい。
誰もあたしに構うな。
鉢巻先生
「みんな。毎日をきわどく生きてるかな?
それじゃ今日のHRは進路希望調査の
説明とシャレこもうじゃないか」
……進路希望調査。
プリントが回ってくる。
第一希望から第三希望までの欄。
あたしはここに3つも書けない。
……1つしか書く事はない。
やはり“それ”になる以外には
ないのだろう、あたしは。
これも自分で選んだ道だ。
鉢巻先生
「みんなだって、そろそろ現実見てる年頃だ。
そこにリアリティのある夢を書いて先生に
提出すれば2人っきりの秘密の出来上がりさ」
……余計に何も書きたくなくなった。
鉢巻先生
「希望調査は明日まで提出を受け付けるよ。
キミ達には無限の可能性があるんだ
それぞれ青臭く悩んで提出するようにね」
なごみ  無音
「(無限の可能性……)」
なごみ  無音
「(そんなものは、ない……)」
それでも空は、突き抜けるようないい天気だった。
………………
エリカ
「ほらほら、そこで漫画読んでるバカ諸君。
放課後になったし生徒会室に行くわよ」
新一
「うーす」
新一
「じゃあね諸君、俺、姫と生徒会だから」
イガグリ
「ぐぅぅ……何故か凄い敗北感だべ
オマエらいつの間に生徒会執行部なんかに」
男子から羨望の眼差しが集中する。
新一
「まぁ気を落とさずに。そのうちいい事あるさ」
レオ
「おい早く行こうぜ」
放課後。すっかり生徒会に行くのが日課になった。
エリカ
「――って事で、体育武道祭が月末なんで、
各自、今申し付けた事だけはしっかり
こなしておくように」
良美
「人手が増えて楽になったね、エリー」
エリカ
「そうね、おかげでくつろげる時間も増えたわ」
良美
「はい、紅茶」
レオ
「ありがと」
なごみ
「どうも」
佐藤さんがいれたお茶を飲みながらマッタリ。
エリカ
「なごみん、一年生の間で何か面白い話ない?」
なごみ  無音
「……」
エリカ
「おーい、椰子にゃごみ」
なごみ  無音
「……?」
エリカ
「呼び方が気にいらなくても、返事ぐらいは
しなさいな、私の呼びかけなんだから」
なごみ
「……はいはい」
レオ
「…………」
レオ
「おい、ちょっと待ってくれ」
なごみ  無音
「?」
レオ
「オマエ、大丈夫か?」
なごみ
「何がですか?」
レオ
「いや、お前今日は一段とボケッとしてたというか」
レオ
「様子がおかしいと思って」
なごみ
「それで、わざわざ声を? お優しい事で」
レオ
「一応、オマエを誘ったのは俺だからな」
なごみ
「……余計な責任感が強いですね」
なごみ
「大丈夫です、特にどうということはありません」
レオ
「そっか、ならいいや」
なごみ
「……あたしは、今までと同じに過ごしてたと
思うんですけど、様子がおかしいと思うほど
普段と違いありました?」
レオ
「表情を見ればな」
なごみ
「表情」
レオ
「お前無口だけど、感情はストレートに顔に出る」
なごみ  無音
「……」
レオ
「あ、今露骨に嫌だろ? もう丸分かりだぜ」
レオ
「ま、別に何もないならいいんだよ、それじゃ」
俺って優しいなぁ。
なごみ  無音
「……」
なごみ
「(自分の表情、そんなに顔に出るほどかな)」
なごみ  無音
「……」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「――結構出るかもしれない」
今日も生徒会室はドタバタしていた。
というか、仕事さっさと片付けて
皆でトランプして遊んでいた。
同じクラスの連中だから、馴染むのも早い。
エリカ
「まぁ忙しくなるのはこれからだからね。
今は息抜き息抜き」
良美
「何だかんだで、私達わりと余裕あるよねぇ」
エリカ
「ヘルプが多く入ってくれるしね、今回からは
正式なメンバーも増えたし
これも私のカリスマのおかげね」
姫はいかなる時も自信満々。
レオ
「それじゃ勝負! 俺はスリーカード」
きぬ
「スペードテン、ジャック、クィーン、キング
……クローバーフォー」
レオ
「ただのブタじゃん」
きぬ
「ぬーがー!」
レオ
「大物狙いすぎ。佐藤さんを見ろ堅実なツーペアだ」
エリカ
「フルハウス。また私の勝ちー」
レオ
「……姫強くない?」
良美
「エリー、運が凄くいいの。
頭もいいからギャンブル強くて強くて……」
スゴイな、姫は……運さえ味方につけてるなんて。
なごみ  無音
「……」
トランプに参加していない椰子がこっちを
見ている。
レオ
「ん、どうしたんだ椰子」
きぬ
「入れて欲しいのか? あぁん?
いーれーてーが言えないんか!」
なごみ
「違う黙れチビ」
レオ
「はいはい、両方とも喧嘩しないでね」
なごみ
「……いつも幸せそうでいいご身分ですね」
きぬ
「まぁね」
カニに皮肉は通じにくい。
なごみ
「……1つ質問があるんですけど」
エリカ
「珍しい。みんな御静聴。後輩の質問タイム!」
姫の統率力は高く、皆あっという間に黙った。
シーン
なごみ  無音
「……」
お、視線が集まってちょっと戸惑ってる。
なごみ
「……進路調査票とか、配られたと思うんですけど」
エリカ  無音
「(こくこく)」
なごみ
「先輩達は、進路とか決めてるんですか?」
きぬ
「そんなもんテメェに教えてやる気はねぇよボケ」
うわぁ、険悪。
きぬ
「……ってのが、ココナッツのいつもの態度
なんだぜ。自分がどれくらいムカツクか分かった?
ま、ボク達はオトナだからケチらず教えてやるよ」
なごみ
「お前には聞いてない……」
きぬ
「ボクの進路……というか夢はね
ゲームクリエイター!」
きぬ
「もう超面白いのつくって
みんなを喜ばせたいね!
で、儲けたお金でドンペリ風呂に入る!」
レオ
「そんな風呂入ったら体がカユくなるぞ」
なごみ
「ゲーム……それって何か具体的な努力してるの?」
きぬ
「うん、もちろんだね。ボク、パソコン自作できるし
詳しいし、いろいろ独学で勉強してるもんね」
スバル
「こいつ、普段は頭がカンバしくないけど
趣味が入ると、ちったぁ頭働くんだなこれが」
きぬ  無音
「……」
レオ
「おい、カニのくせに何誇らしそうな顔してんだよ
今のそれほど褒められてないぞ、勘違いすんな」
なごみ  無音
「……」
あ、でもちょっと椰子驚いている。
エリカ
「はーい、じゃあ次は私。よっぴーBGMオン」
カチャ
エリカ
「私はズバリ世界制覇! もうそれっきゃない」
エリカ
「人間として生まれたからには、上を目指さなきゃ」
新一
「何それ、どっかで国でも買うの?」
エリカ
「国家なんて枠組みは古いわよ、
超多国籍大企業のトップ。これに限るわ」
なごみ
「随分、壮大」
エリカ
「笑いたければ、笑っていいわよ。凡人には描けない
地図でしょうからね」
新一
「おー、かっこいいねー。
そん時は俺にオーストラリアくれよ
法律でオールヌードにするから」
エリカ
「フカヒレ君にはコキュートスあたりを
あげるから、そこに行ってね」
新一
「イェーイ、なんかカッコ良さそうな国ゲットー」
コキュートスは地獄だぞ、フカヒレ君……。
エリカ
「全ての富と胸の大きい美少女と
美少年が欲しいわねー
夢はハーレム。欲望大好き!」
「まさに夢見る乙女、ですわね」
良美
「とてもヨコシマな事を考えていると思います」
なごみ
「……佐藤先輩は?」
良美
「え、わ、私?」
なごみ  無音
「(コクコク)」
良美
「あはは……特にないなぁ
あ、でも……1つ……」
良美
「お……およ……お嫁さん……とか……あはは」
何故か佐藤さんは俺を見ながらそう言った。
新一
「やだ……どうしよう。アタイ、ドキドキしてる」
良美
「幸せになれれば、それだけでいいかなって」
新一
「その夢いつでもかなえてあげるよ俺が」
良美
「あはは、ごめんなさい」
レオ
「よっ、ミスター秒殺」
新一
「変なあだ名つけるんじゃねぇ!」
エリカ
「でもその夢はかなわないわよ?
よっぴーは私のハーレム入りだもん
タイムカードすでに作ってあるから」
良美
「えっ、えっ……?」
早くも1つの夢がここで潰(つい)えた。
さようなら佐藤さん。
新一
「俺もそのハーレムに入れてよ。残業するからさ」
レオ
「おい秒殺。ハーレムって言葉がエロスとはいえ
もうちょっとプライドを持とうよ」
新一
「そんなん持つなら、姫のカバン持つね」
澄んだ瞳で言い切りやがった。
女は男に尽くすべきじゃなかったのか。
ハーレムというエロスワードを前に簡単に
自論を変えやがって、ある意味男だ。
エリカ
「フカヒレ君は猿顔だし、残念ながら面接落ち」
新一
「……残念だなぁ」
エリカ
「忠誠心高そうだから、特攻要員ならいいわよ」
新一
「おっしゃ!」
きぬ
「おいおい、特攻なのに喜んじゃってますよ」
エリカ
「対馬クンなら超お情けでハーレムの末席に
いれてあげなくもないわよ
飼われたくなったら連絡してね」
……どこまで本気だか分からない。
新一
「お前、ちょっと嬉しそうだな」
レオ
「そ、そんなことないぞ」
なごみ  無音
「……(チラ)」
乙女
「ん、私か?」
レオ
「乙女さんは女子プロレス界を
支える貴重な人材として……」
乙女
「プロレス技などできるかぁ!」
きぬ
「おおっ、フランケンシュタイナー!」
レオ
「うごっ、白……」
なごみ
「コント劇場はいいですから」
土永さん
「全く非常識な連中の集まりだぜ、なぁ?」
なごみ  無音
「……」
乙女
「私は、まぁ拳法家だな、そうでなければ
教師か保母になろうと思う。
どうにも面倒を見るのが好きな性質でな」
スバル
「でも、お世辞抜きに似合うんじゃねぇか?
乙女さんが先生だったらオレなんかわざと
イタズラして毎日怒られたい気分だぜ」
こいつ、妙な属性を所持していやがるからな。
きぬ
「祈ちゃんは、狙って教師になったんだよねー」
「ええ、私は必ず教師になろうと思ってましたわ」
エリカ
「それだったら毎日のように朝のHRに
遅刻するのはどうかと思いますよ先生」
「それはそれ、これはこれですわ」
エリカ
「なかなか便利な台詞ね、頂いときます」
「ふふ、また教師としての責務を果たしましたわ」
新一  無音
「?」
なごみ  無音
「……(チラッ)」
新一  無音
「(ポッ)」
なごみ
「……いや、フカヒレ……鮫氷先輩は?」
新一
「え、俺?」
きぬ
「ロマン・アクション!」
新一  無音
「!」
レオ
「来たぞフカヒレRAだ!」
ロマン・アクション(RA)とは。
正式名称、ロマンチック・アクション。
その言葉に酔えるほど、カッコイイ台詞を
もしも言えたなら仲間から飯をおごってもらえる。
が、そんなキザな言葉は一歩間違えれば
ただ場を凍りつかせる寒い台詞、とっても
ハイリスク・ハイリターンなのだ。
といって、もしも安全策に走った場合は
臆病者の称号として仲間にチキンを
奢らなければいけない。
さぁフカヒレ華麗に決めてくれ。
新一
「俺の進路、俺の夢は……」
新一
「椰子と一緒に暖かい家庭を作る事かな」
なごみ
「キモい」
レオ
「さすが……秒殺ここに極まれリだな」
……………………
レオ
「……あー慌しかった」
しかし進路か。
皆結構考えているんだな。
聞いてて驚いた。
ドアが開く音がすると思ったら、椰子が来た。
なごみ  無音
「……」
レオ
「よう。なんか、この屋上っていいな」
レオ
「考え事をするのとか、うってつけ。
意外と人こないしな」
なごみ
「……失礼します」
レオ
「あ、1ついいか?」
なごみ
「良くないです。それじゃ」
――――バタン。
ふっ、虚しいぜ。
マジ取り付く島もねー。
レオ
「俺の夢……か」
夢は……ないぞ。
進学、就職、結婚、死亡。
こんな未来が想定される。
でも、俺だけじゃない。
夢の無い奴は多いはず。
むしろ生徒会執行部だけが特殊なんだ。
ガチャ。
なごみ
「うわ、まだいる……あれから1時間経ったのに」
レオ
「うるせー、考え事してるんだ」
なごみ  無音
「……」
俺と距離をとって、金網に近寄る。
こいつ、もう学校も生徒会も終わってるのに
家に帰らないのかな?
レオ
「――あのさ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「先輩命令だ。シカトすんな」
なごみ
「……何ですか」
椰子が煩わしそうに聞いてくる。
レオ
「さっき生徒会でさ。みんなが進路語ってただろ」
レオ
「お前には、そういうの。夢みたいのあるの?」
なごみ
「…………ありません」
レオ
「へー。正直に話してくれるんだな」
なごみ
「他の先輩のも色々聞きましたからね……
だんまりもどうかと思いますから」
なごみ
「でもあたし、センパイのは聞いていません」
俺を見る。
レオ
「無い。俺も……夢は無い」
夕陽が目に染みた。
なごみ  無音
「……」
レオ
「で、お前は何でそんな質問したの?」
なごみ
「別に。進路希望調査があったから。それだけです
普段アホな事やってるこの人達は進路を
考えているのかなって」
レオ
「そしたら、意外に進路というか夢があったわけだ」
なごみ
「……そうです。まさに意外でした」
涼しい風が吹き抜ける。
レオ
「まぁ椰子は1年生だしな。いずれ見つかるよ」
レオ
「完」
なごみ
「そんな陳腐な結論で完とつけられても
どうかと思うんですけど」
レオ
「……まぁそうだけど」
レオ
「それじゃ俺が椰子の将来をリアルに
シミュレートしてやるよ」
なごみ
「は?」
レオ
「まずお前がそうだな、接客業についたとしよう」
レオ
「ふぅ、今日はここで食うか」
なごみ
「……いらっしゃいませ(ボソッ)」
レオ
「んーと、何かオススメある?」
なごみ
「別に。勝手に選んでください」
レオ
「なんだ、お客に態度悪いぞ」
なごみ
「うるさい……潰すぞ」
レオ
「……で、この後店長がかけつけてくる、と」
レオ
「だめだな、お前。社会不適格者」
なごみ
「センパイの脳がダメ。蝿に卵産みつけられてます」
レオ
「じゃあ、教師についたとしよう」
なごみ
「……はい、鬼李津」
なごみ
「今日はタリーから自習で夜露死苦」
きぬ
「センセー」
なごみ
「何だよ頭悪い蟹沢」
きぬ
「教科書忘れました」
なごみ
「はぁ? テメーはやる気ねぇな!
よし、あたしがヤル気注入してやんよ」
レオ
「それで、体罰問題がバレてクビ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「うーん、困ったな適職が無い」
なごみ
「なめてますかセンパイ?」
う、ちょっと怒ってるか?
俺のシャレ通じないとは頭固いヤツ。
よし、オチをつけて場をなごませよう。
レオ
「あー、適職が1つあった」
………………
紀子
「〜♪(気分が良いので明るい鼻歌)」
なごみ
「ちっと面ァ貸せ」
紀子
「くぅ……?」
ズルズル……。
なごみ
「あー、なんだコレだけ? シケってんなぁ
タバコ代のタシにしかなんねーよ
ヨーヨーぶつけんぞ」
紀子
「く――……(←申し訳なさそう)」
なごみ
「アタシのカンからして、まだ持ってるね
ボディチェックだ。このカミソリが
怖けりゃ大人しくしてな」
なごみ
「……なんだオイ、持ってるじゃねぇか」
紀子
「く、くー! くーくー……
(↑これは水着を買うお金と訴えている)」
なごみ
「ふん、これは水着を買う金? バッカじゃね?
スクール水着で泳げよ。デケェ乳してんだ、
ヤローの目釘付けじゃねぇか。くけけけけけ」
レオ
「うん、ぴったりだ。追いはぎって事で」
なごみ
「……これ以上つまらない事言うと潰すぞ」
レオ
「すまん言い過ぎた」
危ない、こいつ結構怖いやつだったの
忘れてた……。
カニと同じ感覚でバカにしてしまった。
なごみ
「あたし、カツアゲとかしてそうですか?」
レオ
「いや、そんな事はしないだろうが、
されたら気弱な男は財布を出す」
レオ
「迫力があるって事だよ」
なごみ  無音
「(ギロリ)」
またつりあがった目でにらんできた。
思わず目線を逸らす。
なごみ
「年下相手に何をビビッてるんですか……
目を逸らすのは失礼ですよ、センパイ」
いかん、話題を元に戻さないと。
レオ
「ま、まぁいいじゃん、焦って見つけるもん
じゃないしな、夢は」
なごみ
「それはそうですけど」
おお、なんか会話がまだ成立している。
なんかゲームで新スコアを更新してる感覚で
嬉しかった。
レオ
「椰子はなんでこの学校に来たの?」
なごみ
「そこまで身の上を話す意味がありません」
はっきりとした拒絶。
レオ
「まぁそうだけど」
レオ
「今までの話から推測するに多分お前、
俺と同じ理由な気がしてさ」
なごみ
「嫌なことをいいますね」
レオ
「近いしレベルもそこそこだから、じゃない?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「当たりみたいだな、その表情を見ると」
なごみ
「皆、そんなものだと思いますけど」
レオ
「確かに」
レオ
「こうやって考えると、頑張って勉強して
たいして入りたくも無い一流学校へ入ったヤツは
ある意味凄いよな」
レオ
「汚職はガリ勉の特権かもな」
……って、椰子いないし。
ドアの方へ移動していた。
なごみ
「センパイなんかと長話するつもりはありません」
なごみ  共通
「失礼します」
レオ
「ちっ、綺麗な夕陽を眺めていかないとは
雅(みやび)の無いヤツめ」
なごみ
「こういう話題の時の夕陽って見ても虚しいですよ」
レオ
「……それでも陽はまた上る」
なごみ
「人と太陽は違いますけどね」
レオ
「厳しいなお前……」
なごみ
「お先」
椰子はスタスタと歩いてった。
……それでも、結構会話したな。
今までで新記録だぞ。
共通点があれば、話も弾むもんな。
とはいえ、“お互い夢が見つからない”というのも
虚しい共通点だった。
あいつはまだ1年だけど、俺2年だからなぁ。
夕陽を見てると感傷的になる、俺も行こう。
……真面目に進路を考えてみるか。
きぬ
「おぃーす、レオー。ゲーセンでストフォー
やっていこうぜーっ」
レオ
「……真面目に考えようとしたのに。
これが宿命(さだめ)か」
きぬ  無音
「?」
………………
乙女
「レオ、それは私のバスタオルだぞ
洗った顔とはいえ、それで拭かないでくれ」
レオ
「うわ、ごめん」
道理でいい匂いがすると思った。
乙女
「どうした何か考え事か? なら私が相談に乗ろう」
レオ
「いやいや別に……」
レオ
「……別にいいって言ったのに」
乙女
「姉としては気になるだろ。弟に元気ないと」
うーん、自分の進路についてとかいうと
乙女さんハッスルしそうだしな。
ここは適当にごまかそう。
レオ
「実は、ずっと外国へ行っている
両親の事が時々気になって……」
乙女  無音
「!」
乙女
「軟弱だぞ、といいたい所ではあるが」
乙女
「お前は一人っ子だしご両親は
最近ずっと外国だからな。
……それは寂しくもなるだろう……」
うんうん、と頷く乙女さん。
乙女
「だが私がいるんだ。
お前は、一人ぼっちではないんだぞ」
なんか本当に心強くなってしまった。
乙女
「よし、今日はお前が寝るまで隣で
本でも読んでやろう」
レオ
「い、いやそこまでは別に……」
レオ
「……別にいいって言ったのに」
俺が寝てるベッドに腰かけ、本を読む乙女さん。
くそ、こういう感じで暴走するとは。
この人は素直すぎる。
しかし本かと思ったら時代劇ものかよ。
寝たふりしよう。
レオ
「Zzz」
乙女
「……レオ?」
乙女
「寝たか……安心して眠れ」
……いい人だな、この人……。
乙女さんは、保母さんや教師が夢だと言っていた。
きっと厳しくも優しい先生として好かれるだろう。
……俺はどうするんだろうな。
そんな事を考えると、本当に眠くなってきた。
時刻23時ジャスト。
眠らない街、松笠――。
人並みはどこからやってきて、どこに消えるのか。
あたしは今日も1人歩く。
悪口の中では、あたしがウリをやってるって
話もあるらしいけれど。
冗談じゃない、そんなキモい事できるか。
まぁ、こうやって夜の街をフラついてれば
そんな話が出てきても仕方がない、か。
夜になっても松笠の生徒は見かけるけど。
あたしの場合は毎日ウロついているからな。
しかしひとつの所にじっとしてたくないし。
ということで、この前見つけた
死角のベンチに腰掛ける。
なごみ
「ふっ………」
このポイントは他人に発見されにくい
ナイススポット。
お気に入りの紅茶が売っている
自販機が近いのもいい。
そして、ベンチに腰かけてから
自分の世界に埋没する。
路上ミュージシャンの音楽が聴こえてくる。
荒削りではあるが結構好きな感じなので
思考するには丁度良かった。
なごみ  無音
「……」
……ちょっとお腹すいたかも。
母の遺伝で太らない体質とはいえ、
最近食欲は増加してる。
なごみ  共通
「やれやれ」
真面目に将来のコト考えようかと思ったのに
まず夜食の心配か。
思ったより自分は即物的らしい。
なごみ
「……くしゅん!」
新一
「姫は華麗だけど、椰子は普通に美人って
感じでいいよなー」
スバル
「なんだテメェ椰子に興味あるのか?」
新一
「そりゃあれだけ顔いいとね。ツンってしてる態度も
生意気だけどいずれ俺の女になると思えば許す」
新一
「つうか椰子がさ、もしブスでキツイ事言ってきたら
全世界の男を代表して俺が殺すけどな」
新一
「でも口悪いけど意外とマジメな所あるよね」
きぬ
「けっ、ココナッツなんて褒めるんじゃありません。
あれは悪い子なんですぜ。
ぜってー影で小学生からカツアゲしてるよ」
新一
「や、でも仕事の時はマメだぜ。姫も褒めてたよ」
きぬ
「つーかさ、あの状態で言われたコトも
やらないんじゃタダのダメ人間じゃん」
レオ
「そりゃ確かにな、そういうヤツもいるけどな」
新一
「あぁ、そういうの最低だよな」
きぬ
「なんでみんなでボクの方見てるの、惚れた?
おいおい、困るなぁ……」
バカは偉大だ……。
土永さん  共通
「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ
先に飛んできた」
レオ
「もう慣れたな、この現象は」
きぬ  共通
「遅刻多いぞ祈ちゃん!」
土永さん
「ありがたい話でも聞かせやろう
いいか、カミナリがくるとヘソをとられる
からな、蚊帳の中で念仏唱えてるんだぞ」
だからいつの時代の鳥なんだ、あれは……。
「……ふうっ、ギリギリ間に合いましたわね」
ここで間に合ってないと口に出すのは子供。
「それではHRを始めますわ。まず出席。
周囲にいない人がいたら報告してくださいね」
きぬ
「フカヒレがいませーん」
新一
「いるよっ!」
「あら本当ですわね、フカヒレさん欠席」
新一
「しどいっ!」
「伊達さん、昼休みに館長室まで
来るように、との事ですわ」
スバル
「館長室……? はぁ……」
教室がざわめく。
きぬ
「うわー、何やったのスバル? また喧嘩?」
スバル
「分からねぇ。確かに気に食わねぇヤツは
何人も殴ってるが…」
レオ
「おい、まさかアレがバレたんじゃねーだろうな」
スバル
「さぁな」
昼休み。
スバル
「って事で職員室行ってくる」
レオ
「ひょっとしたら、椰子を助けた時
派手に暴れたアレじゃないのか」
スバル
「アレごときでチクるかね普通……
まぁ、行ってみりゃ分かるさ」
きぬ
「じゃボク達も行こうよ」
レオ
「何でだよ」
新一
「遠くから見守るんだよ、心配だろ?」
レオ
「何か問題事なら俺も出来るだけ力になるけど
今行くのはただのヤジ馬だろ。俺はいいよ」
新一
「じゃ俺達だけで行くわ」
まったく暇なヤツラだ。
昼休み、俺は1人か……。
外はいい天気。
レオ
「――ふむ」
屋上で食うのもいいかもな。
風は涼しいし、ピクニック気取りだ。
涼しい海風が吹く。
火曜以外の屋上なんて静かなもんで誰もいな――
なごみ  無音
「……」
椰子がいた。
というか、食事中だった。
意外にも椰子は弁当だった。
牛肉が目立つ盛り付けだ。
なんか凄く美味そうなんですが。
レオ
「お前、屋上好きなんだな」
さすが友達がいないだけある。
なごみ
「センパイはどうして。昼は他の馬鹿と
一緒じゃないんですか?」
迷惑そうに言われた。
レオ
「今日だけは特別なんだ。あいつら用事でな」
レオ
「今日だけ、俺もここで食う」
なごみ  共通
「……そうですか」
屋上は学校のモノで、椰子は“去れ”とは
さすがに言わなかった。
しかし、“あたしに近づくなバリア”が
無言の圧力の元に展開されている。
仕方ないので、俺は椰子とある程度
距離をとって座った。
当然、俺の弁当の中身はおにぎりである。
もうコレには慣れたさ。
つうかおにぎりじゃなきゃ落ち着かなくなった。
レオ
「ごめんウソ。少し無理してます」
なごみ  無音
「……」
気付けば椰子がこっちを見ている。
なごみ  無音
「……」
なごみ
「随分、奇抜なおにぎりですね」
レオ
「ふん、誰が作ったか分からないから、
“変なおにぎり”とか言わない所に
お前のクレバーさを感じるよ」
なごみ
「料理を馬鹿にする事はしません」
レオ
「……そう?」
変なポリシーも持ってるようだ。
レオ
「でもこれも美味いんだぞ、いろんな具が
入ってるから飽きないんだな」
半分事実、半分強がり。
レオ
「……お前の弁当は美味そうだな」
なごみ
「そうですか」
レオ
「誰が作ったか知らないけどたいしたもんだ」
ここで“母親が作ったのか”と聞かないのは
俺なりの流儀だ。いなかったら気まずいからな。
なごみ  無音
「……」
レオ
「ん、何だよ?」
なごみ
「別に……」
ちょっと距離を置いての会話。
目をこらして弁当の中身を見る。
牛肉の上にしらたきやタマネギが乗ってる。
まさに牛丼だが、おかずはキュウリやごぼうの
サラダ、ほうれん草とかなりあっさりしている。
なごみ
「……何か物欲しそうな視線を感じるんですが」
どうせ断られるだろうけど、食べてみたいな。
牛肉が若い男を引き寄せるんだ。
レオ
「その弁当、ちょっと食わせておくれ」
なごみ
「嫌ですね、何言ってるんですか馴れ馴れしい」
嫌悪の目で見られる。
レオ
「はい、即答ありがとうございます」
レオ
「本当に美味そうだから言ってみただけなんだ」
なごみ
「……別に怒ってはいませんけど」
椰子は、俺といるのがイヤらしく、
まだ途中なのに弁当箱をたたみ始めた。
とはいえ、こっちも1年生相手に
ペコペコする理由は無い。
なごみ
「そこまで親しくないですから」
レオ
「親しくなくとも共通点はあるぞ」
なごみ  無音
「……?」
レオ
「夢が無いものつながり」
なごみ  無音
「……」
ムカついてる、ムカついてる。
なごみ  共通
「失礼します」
黒髪をなびかせて、椰子は去っていった。
怒ってたかな。
しかしどういう態度をとれば、あいつは
喜んだりするんだか。
分からん。
姫は好きだけど椰子もなんとなく気になるな、俺。
……単に美人に弱いだけかも。
いや、男なら美人には弱いだろ普通。
………………
エリカ
「明日は執行部はお休みなんで、来ても
しまってるからあしからず。――報告終わり」
エリカ
「で、昼休みは何か騒ぎだったけど
伊達君、呼び出された用件は何だったの?」
スバル
「あー、何か由比浜学園の陸上部だった
こっちこないかって」
きぬ
「スカウトだよねー。スゴイっしょ、湘南の
由比浜学園って言ったら陸上で超有名なんだよ」
スバル
「ったく、こいつ聞き耳立てやがって。
しょうもねぇカニ坊主だ」
良美
「うわぁ、凄い! あそこから誘われたんだ」
エリカ
「いい話じゃない。で、OKしたんだ?」
スバル
「いんや断った。あそこはシゴきが強くてな。
楽しくのびのびと、がモットーのオレとはあわん」
レオ
「まぁ、お前が転校しないのは嬉しいけどな」
スバル
「そうかい、そりゃ残った甲斐があるってもんだ」
エリカ
「何かこの2人……フラグ立ってるよね?」
姫の瞳がランランと輝きだす。
エリカ
「対馬クン×スバル君。……いいなぁ」
レオ
「何なんだこの人は……」
良美
「エリーはね、男の子同士のカップリングに
興味しんしんなの」
底知れない人だ……。
エリカ
「ふふっ、普段は強気なスバル君が
言い寄られるのね」
きぬ
「そこでフカヒレが嫉妬ですよ」
良美
「エリーの妄想を刺激させないでよぅ」
エリカ
「フカヒレ君も巻き込まれての三角関係か」
新一
「だから……何度も言わせるなよ」
エリカ
「おおー、普段と違う照れた台詞が心に響くわね」
「さらにその勢いで対馬さんは縛られて
汚されてしまいますわ」
エリカ
「寝取られあり。……これ重い話になりそう」
なごみ
「……何、この認知を超越した会話
ちょっとキモい」
放っておくことにした。
乙女  共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「……はーい」
乙女さんに起こされるのも慣れたな。
乙女  共通
「顔を洗ってスッキリしてこい」
1階で洗顔。
レオ
「天気予報は雨かぁ」
乙女
「折り畳みは持っているか? 無ければ私が
2つ持っているから貸してやるぞ」
レオ
「大丈夫、持ってる」
そして、今日も学校。
「今朝方占ってみましたら、このクラスの方々に
水難の相が出てましたわ。皆さん傘は
持ってきましたか?」
きぬ
「はーい!」
まずい、折り畳みをカバンの中に入れるの忘れた。
そうだよなぁ、持ってても携帯してなきゃ
意味ないよなぁ。
祈先生も雨が降るとか言ってる所を見ると。
――――午後から、本当に降ってきた。
困ったなコレは。
生徒会も休みだし、誰か捕まえて一緒に帰るか。
カニは祈先生の命令で居残り補習、スバル部活
フカヒレに限っては欠席ときたもんだ。
んー、誰かいないかな。
佐藤さんだ。
濡れるよりはマシだが、カニ以外の女の子に
頼むのはちょっと恥ずかしいな。
ええい、ここで戸惑っているようでは
共学を選んだ意味も無い、行くべきだな。
レオ
「あの、佐藤さん」
良美
「あ、対馬君」
柔らかい笑顔。
いつも皆に好意的でいてくれる。
レオ
「俺、傘忘れちゃって、その、もし良かったら
いれてくれない?」
良美
「うん。もちろんいいんだけど、ごめんね」
エリカ
「先約があるのよねー。残念でしたー」
レオ
「姫」
良美
「もう、エリーいい加減傘持ってきてよ」
レオ
「姫、こういう時は車で帰ればいいんじゃないの?」
エリカ
「それは私がお嬢様だから? いいの、私は
普通の学園生活をしたいのよ」
充分普通じゃないと思うが。
エリカ
「誰か他の人見つけてね。シ−ユーアゲイン」
く、帰りやがった。
まぁ姫が雨に濡れるなんて似合わないのでこれは
これで仕方無いだろう。
となると、他には……。
なごみ  無音
「……」
一応知り合いだが……。
あいつも傘持ってるな、しかも大きい。
試しに言ってみようかな。
レオ
「よぉ」
なごみ  共通
「……どうも」
“近寄ってくるなバリア”がブンッと展開された。
レオ
「実は俺、傘忘れたんだけどいれてくれない?」
なごみ
「嫌です。理由がありません」
レオ
「先輩である俺が濡れる。これは重大だぞ」
なごみ
「でもあたしは濡れません」
レオ
「不良たちから助けてやったのに」
なごみ
「あれはそっちの勇み足ですけどね、
まぁ、それも生徒会を手伝う事で
貸し借りゼロにしてます」
なごみ
「傘に入れてあげると借りは返済された事になり
あたしは生徒会を辞めますよ」
そんなに嫌なのかよ。
レオ
「……まぁ、別にいいけどさー」
レオ
「女の子のそういう態度、美容に悪いぜ」
なごみ
「センパイに心配される事ではありません」
レオ
「毎日そういう態度とってて疲れないの?」
なごみ
「センパイこそ毎日ドタバタしてて疲れませんか?」
レオ
「俺は楽しいよ」
なごみ
「……おめでたいですね」
ククク、と顔をゆがめる。
ちょっとむかついた。
レオ
「……おい、お前いくら何でも
口悪すぎなんじゃないか?」
レオ
「何でそんなに攻撃的なんだよ、お前」
なごみ
「腹立ちました?」
レオ
「少し」
なごみ
「狭量ですね」
レオ
「てめっ……」
なごみ
「あたしが嫌だったら首にしてもらって結構ですが」
ぬぬぬ、カニで慣れてたとはいえムカつく。
落ち着け、こいつは年下なんだ。
なんか見事な体してるけど、1年なんだ。
レオ
「いやぁ、椰子は優秀だから
生徒会ずっとやってもらおうと思ってる」
なごみ  無音
「……」
おっ、こいつムッとしてるぞ。
一本取れた。
こんなんでちょっとスッキリした
俺はワリと小者かも。
なごみ
「……………失礼します」
椰子はシャキッと背筋を立てて、歩き出す。
後ろ姿が、スラッとしてて格好良い。
思わず姿が消えるまで見送ってしまった。
レオ
「あーあ」
思わずため息。
なんか、キツイ事言われても椰子は美人だし
我慢できたけど、もう限界だな、あいつとは。
あれは何考えてるか分からん、勝手にしてくれ。
…………くそ、誰か通らないかな。
えーい、いいや。今日は金曜だし走って帰ろう。
洋平
「なんだ対馬。この雨の中を元気なヤツだな
傘が無くて困ってるという所か、馬鹿め」
洋平
「仕方ないから僕の傘に入れてやるよ
風邪を引いたらつまらないからな」
乙女
「おい、何をしている。傘はどうしたんだ」
レオ
「あ、乙女さん」
レオ
「折り畳みは持ってるけど、持って行くのを忘れた」
乙女
「……お前本当にダメなヤツだな。仕方ない、入れ」
レオ
「ちょっと、そんなに俺に傘を寄せたら
乙女さん濡れちゃうよ」
乙女
「構わない、私は頑丈だし週末だ制服は乾かせる」
乙女
「年上の言うことは黙って聞くものだ」
洋平
「くっ……鉄先輩と……ムカつくやつだ対馬」
その日は、一日中雨が降り続いていた。
翌日、雨はすっかり上がっていた。
レオ
「おい、カニ。この服なんてどうだ?」
きぬ
「うわ、センスねー。あんたデートにこんなもん
着てきたらボクは黙って帰りますよ」
レオ
「なにぃ、別にテメーに帰られても
構わないが……じゃあどんなのがいーんだ」
きぬ
「んー、これなんてどうだ? テメーの
ちょい地味めなその容姿を、ちったぁ
引き立ててくれると思うぜ」
レオ
「そうかー?」
レオ
「……お、着てみたらこれはなかなか」
きぬ
「どうよ、店員もオススメしてたでしょ。
あの店員、ハッキリ言うのがウリでさ
似合わない時はズバッと言ってくるからね」
レオ
「じゃあこれにすっか」
きぬ
「次はボクの水着ー。色々着るから選考すべし
もうすっげーセクシーだよ」
きぬ
「ありがたくてオメー寿命縮むね」
レオ
「はん、お子様の水着見て縮むかよ」
昔から俺の服はカニに、カニの服は俺が見て
お互いアドバイスしながら買い物してる。
お互い何の遠慮も無くズバズバ言いまくる。
カニの言う事を聞くのはムカツクが
異性の意見は重要だからな。
横浜まで行かなくても、ここに充分
いいのが揃ってるのはありがたかった。
………………
きぬ
「買った買った。なんか食べて帰ろうよ
もちろんレオのおごりね」
レオ
「ん? あいつ椰子じゃん」
レオ
「また一人でうろついて……ほんと何してんだ?」
きぬ
「あんな髪ボサ女、放っておきなって」
レオ
「あぁ、言われなくてもそうする」
レオ
「ヤツはよう分からん」
きぬ
「そうそう。あいつ見かけ通りタフだし
余計な心配するなって」
………………
――今日も夜の街を歩く。
お気に入りのベンチに腰をかける。
いつもの路上ミュージシャンの音楽が聞こえる。
ここの居心地が良くなってきた。
今日もあいつが帰りそうな時間までここにいるか。
………………
レオ
「(――あいつ、またボーッとしてるのかな)」
この前のヤツラが探してたらどうするんだよ。
あいつは痛い目にあったこと無さそうだから
知らないだろう。
人間の集団ほど危険なものはない、と。
でも、俺が忠告しても“うるさいな”で
終わるんだろ?
きぬ
「何考えてんの?」
レオ
「うわ、いきなりアップになるな!」
きぬ
「レオってさー。テンションに流されたくないとか
言っておきながら結局流されるタイプだよね」
レオ
「うるせ、いきなり何を言う」
きぬ
「でもまー、そこが可愛い所だとボクは思うけどね」
レオ
「ふん。そんな可愛さいらんわ、捨ててやる」
きぬ
「無理無理。体が勝手に動いているって感じだしね
結局単細胞なんだよね」
ガ――――――ン!!!
バカに単細胞って言われた。
……言われてしまった……。
今夜は泣いて寝よう。
レオ
「今日は日曜日なんだよ乙女さん」
乙女  共通
「あぁ、そうだな」
レオ
「いい天気なのに勉強なんてもったいない」
乙女
「安心しろ。後で一緒にトレーニングしてやる」
乙女
「期末考査で恥をかかないためだ。我慢しろ」
レオ
「なんかさー、ボク問題できたら褒美が欲しいな」
乙女
「腕立て伏せの回数を増やしてやろう」
レオ
「ゴ、ゴタゴタ言わずにやります、サー!」
乙女
「それでいい」
一応、しっかりやったら頭をナデナデされた。
……でもそれだけ。
レオ
「……今日は暑いな」
乙女
「いよいよ本格的な夏、ということだな。
風鈴でも買ってこよう。あれはいいぞ」
レオ
「――なんて乙女さんが言ってるんだけどどうよ?」
きぬ
「ボクは風鈴なんていらないよ、クーラーあれば」
レオ
「そうだよなぁ……乙女さん古風なんだよなぁ」
くー
レオ
「淑女がはしたない、朝メシは食ってないのか?」
きぬ
「んだよ、レオが急かしたんじゃん!」
レオ
「ち、しゃあねぇ。ジュースでも恵んでやろう」
レオ
「あ、財布忘れた」
きぬ
「つっかえねー」
こいつムカツク、処刑してやる。
レオ
「……スシ」
きぬ  無音
「?」
レオ
「牛丼山盛り」
きぬ  無音
「!」
レオ
「てんぷら」
きぬ
「や、やめろよー!」
きぬ
「余計お腹すくだろうっ、ボケが」
カニをからかうのは面白い。
そんなこんなで授業開始。
レオ
「――ってスバルは?」
良美
「由比浜学園の人がまた来てて。交渉中みたい」
レオ
「よっぽど惚れこまれてるな」
良美
「伊達君そんなに脚速いの? 100メートルいくつ
ぐらいなのかなぁ」
レオ
「スバルは100メートルだと確か
10秒ちょいだった気がする」
良美
「す、すごく速いね」
レオ
「まぁスバルの本命は800メートルだから
100じゃその実力は分からないよ」
授業中に来るとは迷惑な話だな。
フカヒレもいない。
金曜日に何かギャルゲーでも買ってやってるな。
………………
――4時間目の移動教室が終わる。
さて、弁当食うか。
――からっぽだった。
レオ
「おい、カニ!」
カニは席にいない、食って逃げたに違いない。
後で3回ぐらい泣かせるとして、今は飯だ。
財布忘れたから金も無いしな。
クラスの誰かからもらうか。
いや、ここでこいつらに借りを作るのもマズイな。
ダメ人間クラスだけあって結構あさましい連中だ。
優しそうな佐藤さんもいないし。
あ、そうだ。
生徒会室の茶菓子でも食って飢えをしのごう。
「あら、対馬さん」
祈先生が、茶菓子を抱えている。
「あらあら、恥ずかしい所を
見られてしまいましたわね」
「実はお小遣い倹約中なので、ここのお茶菓子で
ランチを済ませようと思ってた所ですわ」
せ、先生のクセにみみっちぃ。
土永さん
「祈は計画性無く買い物しすぎだ」
「土永さん、しばらくエサ代ないんで
自分で狩ってくださいな」
土永さん
「おおう、貴族の我輩に蛮族の真似をしろと!?」
「それじゃ先生は職員室で食べますから」
レオ
「はぁ」
土永さん
「仕方ない、祈、その菓子少し分けろ。本当は
我輩は焼き鳥がいいんだがな。あれは美味い」
「焼き鳥は嫌いですわー」
というか、土永さん兵(つわもの)だなぁ。
で……
レオ
「あらかたもってくなよ!」
茶菓子全く残ってないぞ。
いかん、本格的に餓えてきた。
……水飲んでごまかすか。
なごみ  無音
「……!」
レオ
「あれなんだお前、昼飯の場所は屋上じゃないの」
なごみ
「先客がいまして。うるさかったから」
椰子は他に食う場所を探すのが
面倒くさいと思ったのか椅子に座って弁当を広げた。
なごみ  無音
「……」
レオ
「……」
なごみ
「獣の目で見ないでくれます? キモイです」
レオ
「お前なんぞ見ていない、うぬぼれるな」
レオ
「お前の広げてる弁当だ」
なごみ
「弁当も見ないで下さい」
なごみ
「というか、用が無いなら出て行ってください」
こいつの毒舌トークは脳内回線でカット。
レオ
「ほうほう、鶏そぼろと卵の2色弁当か」
なごみ
「ついでに呼吸もやめてくださると助かります」
レオ
「それは じつに うまそうだな
(↑弁当が美味そうなので嫌味が通じない)」
なごみ  共通
「そうですか」
レオ
「それは じつに うまそうだな」
なごみ  共通
「そうですか」
レオ
「それは じつに うまそうだな」
なごみ
「ウザいです、センパイ」
レオ
「少しよこせ」
なごみ
「だから、センパイにあたしの弁当を
分ける義理がありません」
レオ
「冷たいヤツだ、俺マジで腹減ってんだよ」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「弁当どうしたんですか?」
レオ
「カニがこっそり食いやがった。金も無い」
なごみ
「それはご愁傷様」
椰子は澄ました顔で弁当を食べ始めた。
レオ
「いいんだ……お前そういうヤツだもんな」
なごみ
「物分りがいいセンパイで助かりますね」
シッ、シッと手を振られた。
くっ……この女、何でこうまで冷たい?
意地になった、ぜってー食ってやる。
こんな女も母性本能はあるだろう。
俺のあどけない演技を見やがれ。
レオ
「ボク、鶏とか大好き」
なごみ
「そうですか。養鶏場に行けばいっぱいいますよ」
レオ
「ピーマンとかちくわも好き」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「それじゃお茶いれてください」
レオ
「……何で俺……い、いや分かりました」
お茶をいれる。
ムカツクが、これで食料が手に入るのなら。
レオ
「はい、お茶」
なごみ
「ありがとうございます」
レオ
「……」
なごみ  無音
「(もぐもぐ)」
レオ
「それだけ? ねぇ、たったそれだけ?」
なごみ
「他に何もありませんよ」
レオ
「うぅぅ」
なごみ  無音
「(にやにや)」
こ、こいつ俺を見て楽しんでる。
ホントに嫌なヤツだなぁ。
レオ
「飢え死にしたら枕元にたってお前の枝毛の
数を毎晩数えてやるからな」
なごみ
「はい、いいですよ。遠慮なく死んでください
リクエストできるなら焼死が見たいです」
レオ
「ぐぐぐ」
なごみ  無音
「(にやにや)」
悪魔だ。
レオ
「もういい、お前には頼まん」
なごみ
「じゃ消えてください」
レオ
「へっ、実を言うとな腹なんかへってなかったのさ」
くー
レオ
「う……」
俺の腹が鳴ってしまった。
なごみ
「……ダサ」
レオ
「否定しないでやるよ
(↑プライドを保つ為に偉そう)」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「……なんだか少し惨めに見えたので
哀れで賞をあげます」
レオ
「え……」
椰子が自分の弁当箱を差し出してくる。
レオ
「いいのかぁっっ、お前いいのかぁぁっ」
なごみ
「……マズくても責任持ちませんけど」
レオ
「お、お前、実はすっげーいい奴だな!」
なごみ
「大袈裟な」
自分の箸をしっかりキープしている椰子。
こっちだってTPOは心得ている。
お前の箸で食わないよ。
レオ
「美味そうだけどな」
置いてある割り箸を1つ取り出す。
レオ
「頂きます」
ご飯を食べてみれば……。
レオ
「うっ!」
なごみ  無音
「……」
レオ
「美味いじゃん、普通に!」
なごみ
「お世辞ならいいです」
レオ
「や、マジ。スバルこえてるかも」
続いてかぼちゃの煮物
ピーマンとちくわのみそ煮
漬物
レオ
「うむ、全部美味い」
レオ
「まぁ、年配の人が作ってくれたんだろ?
キャリアが違うってのもあるかもしれないけど
スバルを超える料理人は久々だ」
なごみ
「年配じゃないです」
レオ
「?」
なごみ
「……それ作ったの、あたしです」
レオ
「YOU?」
レオ
「え、え? 全然イメージ沸かない」
なごみ
「意外な評価でした」
レオ
「や、普通に美味いぜ? カニの魂を賭けてもいい」
なごみ
「そんなゴミみたいなものはいりません」
レオ
「だってお前、他の人に料理食わせたことないの?」
なごみ
「自分と親以外には調理実習以外ありませんけど……
調理実習は一人で作るものじゃないし」
まぁ、友達いないんじゃあな。
レオ
「そうかそうか」
がつがつがつがつ。
なごみ  無音
「……」
レオ
「ふー、ごちそうさまです」
空になった弁当箱を返す。
なごみ
「……センパイ。あたしの分まで
食べられると困るんですけど」
レオ
「あ!!!」
レオ
「す、すまん。勢いで食っちまった」
レオ
「つっこんでくれればいいのに」
なごみ
「……豪快な食べっぷりでつっこむポイントが
難しかったんです」
レオ
「じゃあ罪滅ぼしに弁当箱を洗おう」
なごみ
「いいです、そこまでされたくありませんから」
レオ
「いや、これぐらいは当然だ」
なごみ
「ちょっと……いいですって」
くそ、年下のクセにいちいち逆らって
きやがって(↑体育会系思考に毒されてきた)
レオ
「先輩の顔も少しは立ててくれ」
なごみ
「馴れ馴れしいですよ、センパイ
弁当を恵んだぐらいで!
これだから嫌だったんだ」
レオ
「別に弁当箱洗って返すぐらい当然だろ
馴れ馴れしくなんかないよ」
レオ
「つーか、椰子意識しすぎ」
なごみ
「はぁ? 誰が誰をですか?」
レオ
「椰子が、俺を」
なごみ
「……あたしは馴れ合いたくないだけです」
レオ
「だーかーらー。それを意識しすぎだって」
レオ
「弁当箱洗うぐらいいーだろうが」
なごみ  無音
「……」
レオ
「に、にらむなよ」
思わず目線を逸らす。
レオ
「――あ」
逸らした目線の先に姫がいた。
エリカ
「あらら。見つかっちゃった」
エリカ
「続けて続けて。私はほら、ゴージャスな
美しい彫刻だと思って構わないから」
なごみ  無音
「……」
エリカ  無音
「……」
レオ
「……」
エリカ
「んー。中断させてしまったか。
初々しい男女のやり取りを見守ってたのに」
なごみ
「……悪趣味」
エリカ
「うーん。やり取りを邪魔をするのは
我ながらよくないわね」
姫はまったく聞いてなかった。
エリカ
「ふむ……」
エリカ
「じっくり観察するには、江戸川乱歩に
ならってみるのもいいかもね」
レオ
「?」
良美  無音
「……」
レオ
「あれ、そういえば佐藤さんなんで気絶してるの」
エリカ
「話せば長くなるけどね」
…………3分前。
良美
「あれ、鍵が空いているね。あ、誰かいるよ」
エリカ
「んー? スバル君が昼寝でもしてるかな」
良美
「椰子さんと対馬君だね、珍しい」
エリカ  無音
「!」
エリカ
「なんか面白そうな組み合わせね」
良美
「こんにち――」
エリカ
「当て身(ドスッ)」
良美
「こふっ」
エリカ
「観察するから黙ってて、よっぴー」
エリカ
「――ってなわけで首に手刀を打ち込んだら
こんな感じで気絶しちった」
レオ
「しちったって、姫。友達にチョップはダメでしょ
された方は切なくなるでしょ」
エリカ
「はーい。はーんせーい」
レオ
「(……トクン……)」
レオ
「まぁ、反省したなら仕方ないか……な」
なごみ
「やっぱりセンパイも相当なバカですね」
しかし姫、格闘も強いのか。
死角ねーな。
レオ
「とにかく早く起こしてあげないと」
エリカ
「んー、ちょい待ち」
ひょいっと、佐藤さんのスカートの中を
覗き込む姫。
エリカ
「ピンクだった」
レオ
「いちいち報告しなくていいから!!」
このエロオヤジみたいな性格が問題だ。
エリカ
「今ので赤面するなんてちっぽけな男ねー。
ほら、よっぴー起きて朝だよ」
良美
「うぅ……あれ私、なんか首痛……」
エリカ
「軽い貧血だったわよ。危なかったわね」
よくあそこまで悪びれもなく言えるな。
なごみ
「あたしはこれで失礼します」
エリカ
「あら? 対馬クンと話してたんじゃないの」
なごみ
「もう終わりました」
バタン!
エリカ
「んん〜。ツンツンしてていいわねー
1年生の若い果実か……」
レオ
「姫はなんでここに」
エリカ
「私達、時々はこっちでお昼食べてるのよ」
レオ
「大学食のテラスに生徒会長専用席が
あるじゃない」
エリカ
「ま、気分ね。たまにはキュートなよっぴーと
しみじみ食事したい時もあるわけ」
レオ
「へー」
なるほど、時々はここで食ってたのか。
まぁ確かに見晴らしもいいからな。
レオ
「俺は食うもんなくて困ってた」
エリカ
「仕方ないなぁ。私のお弁当わけてあげようか」
さすが姫、器量がデカい。
エリカ
「3ベン回ってワンって言ったらあげる」
さすが姫、傲慢だぜ。
レオ
「武士は食わねど高楊枝」
エリカ
「なんか乙女センパイの弟っぽくてナイスね」
レオ
「……」
なんか微妙な気分になった。
知らずに染められているのかもしれない。
祈  共通
「執行部の皆さん、全員お揃いのようですね」
レオ
「祈先生、俺達に話って?」
祈  共通
「今週の金曜日、学校は創立記念日でお休みなの
ご存じでしたわね」
きぬ  共通
「うん。3連休だよねー」
カニが元気良く飛び跳ねる。
椰子はそれをウザッたそうに見ていた。
祈  共通
「その金曜日に、“執行部強化合宿”をせよ、と
橘さんが言っております」
レオ
「ダヂャーナさん?」
エリカ  共通
「館長よ。フルネーム橘平蔵(たちばなへいぞう)」
レオ
「あ、そっか」
エリカ  共通
「執行部強化合宿って随分急ね。ま、確かに
今年の3月はメンバー不足で行ってないけど」
レオ
「何です執行部強化合宿って」
祈  共通
「その名の通り。執行部内の結束強化
スケジュールの打ち合わせなど、ま色々ですわ」
レオ
「へぇー、そんなのあるんだ。珍しいですね」
祈  共通
「ホームページで検索してごらんなさい、
いろんな学校でやってますわ」
レオ
「う……」
エリカ  共通
「対馬ファミリーは生徒会とは無縁だから
そういうの弱いのよ」
「合宿は急、という館長の意向で
とりあえず海開き前の海で泳いで帰る
日帰りツアーはどうか、と」
レオ
「海……って早くない?」
新一
「いんや、逗子とか湘南の方じゃ6月25日とか
27日はもう海開きだぜ。早くはないだろ」
きぬ
「つまり皆で海行こうってワケ?」
「ええ。館長が連れてってくださるそうですわ」
レオ
「何故館長?」
レオ
「ムシが良すぎる話だ」
何か嫌な予感がしてきた。
「自分のクルーザーを自慢したいみたいですわね」
レオ
「動機がオトナとして微妙だ……まぁ納得は出来る」
「どうでしょう皆さん。ご都合の方は」
良美
「私お友達と約束が……」
「キャンセルなさい」
「他にはありませんか?」
エリカ
「私もテニス部で汗流すつもりなんだけど」
祈  共通
「キャンセルなさい」
祈  共通
「他にはありませんか?」
レオ
「すっごい問答無用ですね」
エリカ
「…ま、テニスでも泳ぎでもいいか。私は異議なし」
レオ
「またまた軽っ。切り替え早いなぁ」
エリカ
「深く考える必要ないじゃない。要するに
海に泳ぎに遊びにいくってコトでしょ」
新一
「俺も参加OKです。つうか死んでも行く」
新一
「姫の水着が見れるなぁ……やったぁ……」
レオ
「フカヒレ君、思考が口に出てますよ」
きぬ
「ボク行くー。普通に楽しそう」
スバル
「ま、部活も休みだしな」
乙女
「海での鍛錬もいいだろう。なぁレオ」
なんか俺確定らしい。
「私も引率教師として行きますわ」
エリカ
「で、よっぴーは確定として」
良美
「確定なんだ……うん、まぁいーんだけどね」
お互い気の毒だった。
エリカ
「これでなごみんが来れば全員出席」
なごみ
「……その場所は騒がしくないでしょうか?」
「静かなもんですわよ」
レオ
「そういえば場所どこ」
「烏賊島(いかじま)ですわ」
レオ
「何ぃ! し、島流しの場所!?」
「泳ぐだけなら水も綺麗ですわよ
私達しかいませんし」
なごみ
「……それなら……」
なごみ
「行きます」
きぬ
「へー意外。勝手に行ってろ、あたしは家で
壁に話しかけてる、とか言うのかと思った」
なごみ
「人を勝手に引きこもりにするな」
きぬ
「いだだだだだだだ!!!」
なごみ
「海は、嫌いじゃない」
なごみ
「でもカニは嫌い」
きぬ
「ボクだってココナッツ嫌いだよ! ざけんな!」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「がるるる!!」
この2人はどうにもなんねぇ。
「それでは、金曜日は朝10時に校門前に集合
活動の一環なので一応制服で来て下さい
向こうに水着に着替えるところありますから」
「持ち物は、水とサバイバルナイフを
持ってくるのがお勧めですわ」
皆は、祈先生の冗談だと思って笑った。
この時は、あんな状況が待ち受けているとは
夢にも思わなかった。
……………………
レオ
「いきなり金曜日に予定いれられたな」
きぬ
「どーせ暇だったんだでしょー」
レオ
「ちっ、お前もな」
俺とカニは、放課後しばらくカレー屋で
まったりしていた。
レオ
「商店街(ここ)でビーチボール買うんだっけ?」
きぬ
「おうさ。皆でやろうよ。ココナッツを今度こそ
コテンパンにしてやるもんね」
レオ
「それにしても……やっぱりなんかおかしくない?」
きぬ  無音
「?」
レオ
「いや、いきなりその週の金曜日に集合……
しかもほとんど問答無用。これは何かあるぜ」
きぬ
「何かって何さ」
レオ
「うむ、例えば実はこれはサスペンスホラーで
無人島でおこる殺人事件が話のキモかもしれない」
きぬ
「オメー漫画の読みすぎだ、バーーッカじゃね?
んなもん起こらねーよ」
レオ
「てんめ……戦艦松笠が巨大ロボに変形するとか
信じてやがるクセに。鼻つまんで泣かせてやる!」
きぬ
「おーーっと、ボクにこれ以上近づいたら
トゲトゲのバラをレオの顔に押し当てるもんね」
レオ
「花屋の売り物に勝手に触るな、めー、だぞ!」
なごみ
「いらっしゃいませ」
なごみ
「……!!!!」
きぬ
「ココナッツじゃん、何やってんのこんな所で」
レオ
「おい、店の名前
“フラワーショップ YASI”だぞ」
きぬ
「……ってことは」
レオ
「お前、家ここだったのか!」
近所だな、普通に。
きぬ
「というか花屋だったの、うお似合わねー、
何? トリカブトとサボテンの専門店?」
なごみ
「……出て行ってください」
きぬ
「にたり」
カニが邪悪に笑う。
きぬ
「嫌だねっ、ボクは客だもん。
じーっくり、ねーっとり鑑賞しようっと」
なごみ
「営業妨害です」
きぬ
「あははは、こいつ嫌がってるよ
ますます出て行かないもんね」
なごみ  共通
「……潰すぞ」
きぬ
「おお、怖い。おまわりさーん
おまわりさーん!! 暴力花屋がいますよ!」
なごみ
「……チッ」
美人  のどか
「なごみちゃん〜、お客さんに
喧嘩売ったら〜ダメよ〜?」
なごみ
「……くっ、最悪だ」
きぬ
「わっ、すっげ美人。これいくら?」
レオ
「お前そのギャグ失礼だぞ」
レオ
「ん? おい、この美人もしかして椰子の……」
のどか
「ひょっとして〜なごみちゃんのお友達〜?」
きぬ
「なごみちゃん!」
なごみ
「違う、単なるセンパイ」
のどか
「なごみの母〜、椰子のどかと申します〜」
きぬ
「おおーっ、若妻だ!」
レオ
「いちいちはしゃぐな」
のどか
「いつもなごみがお世話になってます〜」
ぺこり、と頭を下げる椰子ママ。
なんかすっげーいい人そうだな。
美人なのは類似だが性格が真逆だ。
きぬ
「あー、もう世話かけまくりですよ」
きぬ
「お宅の娘さんにはいつも迷惑をこうむってます
奥さんどういう教育してるんですか?」
レオ
「お前、失礼だぞ」
のどか
「えーと〜、あなたはカニさんでしょうか〜?
時々食卓で話題が出ますよ〜」
きぬ  共通
「え……」
なごみ  無音
「……」
のどか
「面白い先輩ですって〜」
なごみ
「そんな生ぬるい表現じゃなかったでしょ」
きぬ
「なんだココナッツ。なんだかんだでボクを
意識してるんじゃん」
きぬ
「ほら、可愛い後輩にクッキーをやんよ」
なごみ
「いりません」
きぬ
「ちっ、やっぱ可愛くねーなオメー」
なごみ
「……しかもクッキー砕けてるし」
のどか
「あがってお茶でも飲んでいきますか〜?」
なごみ
「すぐ帰るって」
なごみ
「そうですよね!」
脅迫めいた目だった。
動物的な本能で逆らえば殺られると思った。
レオ
「は、はいそうです!」
目で脅されて思わず敬語になっていた。
ヤンキー恐るべし。
きぬ
「えーなんでよ。どうせならコーヒーを
なみなみとごちそうになろうよ」
グイグイと家に入ろうとする甲殻類。
そのカニの鼻をぐっと握る。
きぬ
「うわ何をするはなせ」
バタバタと手を振る。
なごみ
「保護者。ちゃんと教育しといて下さい」
レオ
「すまん」
のどか
「あら帰ってしまうの〜? 残念〜」
なごみ
「上級生だけあって多忙だそうですから」
グイグイと押されて花屋から遠ざけられた。
レオ
「……」
なごみ  共通
「何ですか?」
レオ
「花屋とは意外だなって」
なごみ
「そうですね、あたしもそう思います」
レオ
「花、好きなんだな」
なごみ
「……花屋の娘は花が好きじゃないといけない」
なごみ
「迷惑なイメージですね」
レオ
「な、なんだよ。嫌いなのかよ」
なごみ
「嫌いではないです」
レオ
「???」
なごみ
「帰ってください」
レオ
「言われなくても帰るって」
なごみ  無音
「……」
そんなにニラむなよ。
……………………
レオ
「さっきは意外だったな」
きぬ
「つーか、まだ鼻痛ぇよ! うずくんだよぅ」
げしげし!!
レオ
「痛っ、だからゴメンって言ってるだろ」
話題逸らそう。
レオ
「しかし、椰子が花屋だもんな」
きぬ
「愉快痛快。遊ぶネタが増えたね」
レオ
「あんまり他のヤツに言うなよ」
きぬ
「ヤダよ。ボクは好きにやらせてもらうもんね」
椰子が嫌がるだろ……。
………………
きぬ
「――ってコトでココナッツは花屋の娘
だったわけです」
いきなりしゃべってるし。
まぁこいつらならいいけどさ。
スバル
「何だそりゃ。仕事風景想像できねーな」
きぬ
「んーこんな感じだったぜベイビー」
なごみ
「さーて、今日も学校は蟹沢さんが怖くて
辛かったぁー。でもあたしにはアンタ達が
いるから寂しくないよ」
なごみ
「さーて、ヒヤシンスのヒヤちゃんは
元気でちゅかなー、
今すぐ栄養あげまちゅからねー」
スバル
「笑えるなそれ、似合わねー」
新一
「なごみたん……そんな隠れた一面が」
新一
「ね、ねぇ……純愛ルートある?」
レオ
「萌えるな萌えるな、作り話だぞ」
レオ
「実際は、ぶっきらぼうに花いじってただけ」
スバル
「ま、そりゃそうだろうよ」
新一
「ちぇー、夢破れるだ」
レオ
「でも椰子の母さん、若くてすっごい美人だった」
新一
「なんだか無性に親子丼が食べたくなってきた」
きぬ
「フカヒレ。顔だけじゃなく発言もちょっち下品だ」
スバル
「あれぇ意味分かるんだ? 蟹沢きぬさん」
きぬ
「う!」
乙女
「賑やかなのはいいが、声のボリュームは落とせよ」
きぬ
「ちょっと聞いてよ奥さん、実は――」
カニはベラベラと良く喋る。
きっちり約束すれば喋らないんだけどな。
乙女
「あぁ、なんだもうバレたのか」
レオ
「知ってたの乙女さん」
乙女
「……まぁ、こうなった以上話しても
構わないだろう」
乙女
「私は見たとおり花が好きなんだがな」
きぬ
「え、どこが見た通りなの」
皆が驚愕の表情で乙女さんを見る。
レオ
「カニ、ここは素直に頷く。それが大人への近道だ」
きぬ
「オトナって難しいね」
乙女
「この前の土曜日に花を見に行ったとき
会ったんだ」
乙女
「で、この事は黙っておいてくれ、と
脅し文句のように頼まれたぞ」
きぬ
「なーんだ。教えてくれれば良かったのに」
乙女
「他言無用を誓ったんだ。見つかった今ならともかく
私から喋るわけが無いだろう」
さすがに義理堅い。
乙女
「蟹沢。いいふらすなよ」
きぬ
「前向きに検討致しますってコトで」
こいつ、政治家みたいな受け答えしやがって。
レオ
「ところでフカヒレ、この前まで学校ちょっと
休んでたろ。どうしたんだ?」
きぬ
「上質なエロ本でも手に入った?」
新一
「あ、あぁまぁそんな所だよ」
きぬ  無音
「?」
新一
「ははは、そ、それじゃあ俺帰るわ」
きぬ
「なんかおかしくね? まぁいつもおかしいけどさ」
レオ
「アレは嘘ついている時の顔だな」
スバル
「二次元の女に恋をしたって
ワケじゃなさそうだぜ」
レオ
「ま、何か問題あったら相談してくんだろ」
きぬ
「泣きついてくるともいえるねー」
まぁ、そんな一日でした。
きぬ  共通
「――ってコトでココナッツは花屋の娘
だったわけです」
姫と佐藤さん、祈先生が「へぇー」と声をあげる。
なごみ
「営業妨害だけはやめて下さいよ」
椰子はもう開きなおっていた。
きぬ
「ちっ、もっと慌ててくれりゃいいのに」
「椰子さんは将来お花屋さんですか?」
なごみ
「……さぁ」
なごみ
「お先に失礼します」
「あらあら。私何か気に障るような事を
言ってしまったかしら?」
レオ
「祈先生は別に悪くないと思います、悪いのはカニ」
レオ
「お家の事情は触れられたくないんでしょうね」
なごみ  無音
「(……ちっ、ムカツク)」
なごみ  無音
「(……?)」
鉢巻先生
「ねぇ、いいのかい伊達君。陸上の王者
由比浜からの誘いを断って。
もったいないの極みだと思うんだけどなぁ」
スバル
「別にいいっス」
鉢巻先生
「どうだろう? ここは私の口車に
乗ったと思って由比浜に行ってみたら。
君のためになると思うんだけどなぁ」
スバル
「自分の進路は自分で決めますよ先生
とにかく由比浜はNOです」
鉢巻先生
「だって陸上で功名したいんじゃないのかい?
竜鳴館(ここ)は武道やハンドボールは強いけど
陸上はまだまだだと思うからね」
スバル
「陸上で功名、はオレの野心。
……夢は別にあるんですよ」
なごみ
「伊達先輩……」
なごみ
「伊達先輩も色々考えているんだな」
なごみ
「自分の進路は自分で決める、それは
当たり前の話……」
なごみ  無音
「(でも、その当たり前が難しい、か)」
……………………
――夜の街。
新一  無音
「(つーか、カップル多いよなぁ。ムカツク)」
新一  無音
「(……おーおー、路上で演奏
頑張ってる人いっぱいいるねー)」
新一
「はーあ。俺もここで演(や)りてーなぁ」
なごみ  無音
「……」
新一
「って、椰子」
なごみ  無音
「……」
新一
「え、と。椰子……さん?」
なごみ
「呼びつけでいいですけど」
なごみ
「……ここで何をしてるんですか?」
新一
「べ、別になんでもないけど
珍しいな椰子みたいのが俺に話しかけるなんて」
なごみ
「そこは私が良く座る場所なもので」
新一
「あ、悪ぃ。そうだったのか、すぐどくよ
ほら、ここだと路上の演奏が良く聴こえるだろ?」
なごみ
「……好きなんですか、ここの演奏」
新一
「聴くのも好きだけど。俺はどっちかっつうと
弾く方だからな」
なごみ
「……へぇ」
なごみ
「じゃあここで演奏を?」
新一
「いや、俺は恥ずかしくてな」
新一
「下手とか言われたら怖いじゃん」
新一
「はは、そんじゃ」
なごみ
「卑屈な態度」
なごみ  無音
「……」
1人になる。
今日は何時間ボーッとしようか。
やはり、あいつが帰る終電過ぎまでだな。
初老の男
「……君、いくらもらえばOKなタイプ?」
なごみ
「気持ち悪い。死ね」
初老の男
「な!」
なごみ
「さっさと消えうせろ。ゴミが……」
“線の外”は澱(よど)みでいっぱいだ。
そのうえ、“線の中”まで澱ませてたまるか。
だから、あたしは今夜もここにいる。
レオ
「きょ、今日は早く起きれたぜ」
乙女さんが起こしに来る前に用意しておこう。
乙女
「お。珍しいな、起きている」
レオ
「まぁ俺もやれば出来るんだぜ」
乙女
「よーしよしよし」
頭なでなで。
レオ
「……犬か俺は」
乙女
「犬はもっと素直に喜ぶと思うぞ」
レオ
「ちぇっ」
乙女
「今日頑張れば明日は休みだ、気合入れて行くぞ」
元気やなぁ……この人。
…………………
放課後、生徒会執行部。
エリカ
「さーて体育武道祭の準備、本格的にはじめるわよ。
1週間前だし体育委員会のサポートをするわ」
エリカ
「まずは竜宮(ここ)の1階に積みあがっている
器材を外に出しておかないとね。体育武道祭で
使うものを、多いから」
レオ
「ほんと、山のように積みあがってるモンなぁ」
エリカ
「メインの力仕事は乙女センパイとスバル君、
対馬クンの3人にお願いね」
乙女
「器用さを要求しない仕事ならば任せてくれ」
レオ
「(まぁ力はある方だけど、この2人と同じパワーと
思われるのもすこぶる迷惑だなぁ……)」
乙女
「よし、いくぞ。私に続け」
乙女さんに無理やり引きずられた。
ズルズルズル……
良美
「対馬君、微妙って顔をしてたね」
エリカ
「知ったこっちゃないって。なごみんとフカヒレ君は
あの3人ほどじゃないけど力あるでしょ。
それなりにフォローしてあげて」
エリカ
「カニっちはセンスあるから看板の
デザインお願いね、体育委員会が
作業してるはずだから助っ人に行ってきて頂戴」
きぬ
「オィーッス、インパクトでかいのに
仕上げるぜー」
エリカ
「よっぴーは競技要項の印刷。乙女センパイ達の手が
空いたら運送に向かわせるからひたすら刷るべし」
エリカ
「私は生徒会長としてこれから会議があるから」
きぬ
「うへー、メンドくさそーだね」
エリカ
「そうねぇ。応援、製作の各リーダーや体育委員会、
部活長、先生達を交えての大会議だからね」
エリカ
「ま、それなりに頑張ります、てやっ!」
良美
「きゃっ」
きぬ
「おおっ、いまどきスカートめくり」
エリカ
「男子がいないからオーケーでしょう!
よっぴーのパンツ見たから会議を頑張れる!」
きぬ
「よっぴーのパンツはサプリメント」
良美
「うぅぅ……」
祈  共通
「いじめはありません」
きぬ
「祈ちゃん、いたんだ」
「私はここで司令塔として駐屯してますわー」
土永さん
「司令塔はどっかと構えてないとな
お前等は若い分あくせく働け」
「いや、まぁ私も若いんですけども」
きぬ
「いちいち断わっておくところに余裕の無さを
感じるぜー」
祈  無音
「……」
きぬ  無音
「(はっ、怒られるかもしれない!)」
きぬ
「……ってよっぴーが言ってた」
良美
「言ってないよ」
きぬ
「あっ、ノリ悪ぃ!」
………………
グラウンドでは、応援団が元気に練習していた。
レオ
「応援団の練習もはじまってるんだね」
乙女
「休日もやっているみたいだぞ、応援練習」
レオ
「乙女さん応援団長似合いそうなのにやらないの?」
乙女
「生徒会の役員ゆえ無理だ」
乙女
「しかし、毎年何故私に誘いが来るのだろうか」
レオ
「それは」
乙女
「失礼だなお前は!」
レオ
「まだ何も言ってないっ!」
乙女
「嫌な予感がしたから前払いしておいた」
スバル
「仲いいねぇ。あのレオがポンポン蹴られてる。昔、
レオに喧嘩で負けた奴等はこれ見て何と思うやら」
乙女
「ほら。お前のせいで伊達に呆れられてしまった」
あれ、今の俺のせい?
乙女
「素直にはい、と頷いておけ」
レオ
「ぐはっ、なんか段々と理不尽になってる!?」
乙女
「体育会系は時として理不尽だ」
くそぅ体育会系め……。
レオ
「でっかい器具が片付け終わったあとには、
文化祭用の小道具がズラリだな」
なごみ
「……ついでに虫干ししときます?」
レオ
「そうだな。そうしよう」
レオ
「あれ、ここらへんにギター無かった?」
乙女
「あぁ、鮫氷が音の具合を確かめるとか言ってたぞ」
スバル
「それにしても喉の渇く作業だな、こりゃあ」
乙女
「冷たいお茶でも飲むか。椰子、
生徒会室からとってきてくれ」
なごみ
「……了解……」
おぉぉ、さすが体育会系。
一番年下とはいえあの椰子をサラリとパシッたぞ。
新一
「……このギターまだまだ余裕で使えるな」
新一
「ホコリかぶせておくのは勿体ないですよね、先生」
祈  共通
「Zzz」
新一  無音
「(寝てるし……)」
新一
「今、八百万(やおよろず)の神が俺に命じた、
寝ている先生にイタズラしてしまえと!」
土永さん
「ほうら、やってみろよフカヒレ
少しでも触れる事は死を意味するぜ」
新一
「やだな冗談っすよ、ほ、ほら俺はギター
持ってる無害な青年、これから一曲弾こうかな、
とか思った次第でありまして」
新一  無音
「(ちぃ、土永さんがいたのか)」
土永さん
「ま、お前なんて実際は触る寸前で
思いとどまるチキン野郎だがな」
新一
「鳥にチキン野郎って言われた記念に一曲弾きます」
なごみ  無音
「……?」
なごみ
「これは……誰か弾いている?」
………………
新一
「ふぅ……演奏終わり」
なごみ  無音
「……」
新一
「だぁっ! お前いつから後ろに?」
なごみ
「演奏聞かせて頂きました」
なごみ
「それなりに上手いじゃないですか」
新一  共通
「は?」
なごみ
「どうしたんですか、金魚が水槽から
飛び出したような顔をして」
新一
「嫌な例えだな……死んでるじゃんソレ」
新一
「いや、心にも無い事を言ってくれる
もんだから驚いて」
なごみ
「……あたしが、お世辞言うタイプに見えます?」
新一
「いや、言いたいことは言うタイプかな」
新一
「それどころかナイフで刺したら手首を
回転して臓物を破壊してくるタイプだと思う」
なごみ
「どうせ刺すからにはそこまでしないと」
新一  共通
「ひっ」
なごみ
「わざわざ怯えなくていいですから」
新一
「ま……まぁ褒めてくれたのは素直にありがとよ」
なごみ
「正当な事を言ったまでです」
なごみ
「外で演奏しても恥かかないレベルだとは思います」
なごみ
「まぁ、それ以上は分かりませんけどね」
新一
「……自分で言うのもなんだけど
確かに上手いと思うよ。でも、それは
一般人の人から見て上ってだけで」
新一
「これで食っていくのはとてもとても」
なごみ
「……別に、やってみなきゃ分からないと思うけど」
新一
「いやいや、失敗の可能性が多いものにさ
貴重な青春をつかいたくないじゃん」
新一
「これは遊びのひとつで、あくまで
明るく楽しく過ごせれば、それでいいのさ」
なごみ
「ま、そちらの勝手ですね。どうでもいいです」
新一
「んじゃ、そういうコトで」
なごみ
「……なんだろう」
なごみ
「なんか腹立つ」
土永さん
「それがほとばしる青春ってやつだ、なごみ
所でほとばしるって何がほとばしるんだろうな」
なごみ
「名前で呼ぶな」
土永さん
「我輩のサングラスに指紋グリグリつけるな!」
レオ
「おーい、ジュースまだか」
なごみ  無音
「……」
レオ
「? おい椰子。乙女センパイが
麦茶を所望しているぞ」
なごみ
「はいはい……」
レオ
「どうした? いきなり元気ないな」
レオ
「良く分からないけど、美味しいビスケット
やるから元気だせ!」
なごみ
「……いりません」
レオ
「育ち盛りにはいいのに」
なごみ
「……なんかセンパイ、わりとあたしが考え事してる
時に限って話しかけてきますよね」
レオ
「や、だからお前顔に出るんだよ。なんか
難しい顔をしてると気になる」
なごみ
「センパイに話してもどうにもなりません」
レオ
「じゃーいいや」
レオ
「でも言えば楽になることもあるから
ま、気が向いたら言え」
なごみ
「キモいですね……何故そうまで干渉しますか?」
レオ
「先輩後輩。学校のシステム的にも当然だ」
レオ
「乙女さんにもうるさく言われてるんだよ
誘った後輩の面倒は見ろって」
なごみ
「あぁ、なるほど。責任感、納得です」
なごみ
「でも大丈夫ですから」
これ以上、しつこくするな。
椰子は俺にそんな冷ややかな視線を
送った後に立ち去った。
土永さん
「これもまた青春だなぁ、小僧」
レオ
「……いたのか」
土永さん
「正直、我輩はその溢れる若さが妬ましい。
クチバシでつっついていいか?」
レオ
「嫌です」
相変わらず、椰子との間に大きな壁を感じるな。
その日は夜7時で解散となった。
結構、遅くまでやったから疲れた。
乙女
「いよいよ明日は執行部の遠征日だ」
レオ
「というか、海水浴」
乙女
「あくまで学校行事の一環だからな」
乙女
「あまりうかれすぎるのは良くないぞ」
レオ
「……」
乙女
「お前は何だかんだで子供だからな」
レオ
「はぁ……」
既に浮かれて水着着てる人に言われたくないよ。
まぁ、深くはつっこむまい。
乙女
「学校行事なんだからな。自分が誘った
後輩の面倒もきちっと見れてこその先輩だぞ」
椰子の事だな。
乙女
「他に注意事項はだな」
乙女
「……っていないのか、おい」
なんだかハイでいつもよりトークが熱い
乙女さんを回避するため、中庭へ。
レオ
「な、なんだっ」
首を吊っている死体がズラッと並んでいた。
乙女
「てるてる坊主知らないのかお前」
レオ
「あ……これてるてる坊主だったの?
いや、大きすぎだって」
レオ
「殺人現場かと思った」
乙女  共通
「失礼だな」
オバケ屋敷と勘違いされてしまうぞ。
乙女
「明日は晴れてもらわないとな」
張り切りすぎ……。
乙女
「お前、はしゃぎすぎて風邪を引くなよ」
きー、言い返してぇ!!!
すっげぇ言い返してぇ!!
まぁ無駄なのでやめておこう。
この人、風邪ひいた事ないらしいし。
……………………
なごみ  無音
「……」
天王寺
「コンニチワっ」
なごみ
「! 天王寺……」
天王寺
「まーだ呼びつけかよ。まぁ、いいけどさ
(今は夜だっつー、ツッコミもないし……)」
天王寺
「はいこれ青山のサバティーニって店のケーキ。
すっごく美味いから、のどかさんと食べなよ」
なごみ
「ほどこしは受けねーよ、消えろ」
天王寺
「あれ、そう? じゃあお家に直接持ってくから」
天王寺
「さぁ、家に帰ろう。
女の子1人で外歩く時間じゃないぞ?」
なごみ
「あたしに触るな!」
天王寺
「……うーん。まーだ心開いてくれないか」
天王寺
「でも、俺は絶対諦めないから。また来るよ」
なごみ
「……キモ」
……あぁ、空虚だ。
線の外の世界が、全部無意味に見えてしまう。
よく晴れていた。
あの殺人現場(てるてる坊主)が効いたのかは謎。
竜鳴館前には、すでに殆どのメンバーが
集まっていた。
……というか、祈先生以外、皆いた。
レオ
「例によってあの人は遅刻か」
レオ
「祈先生も少しは教師らしくしてくれないと」
なごみ
「……反面教師」
レオ
「よぉ、椰子。お前もなんだかんだでちゃんと
来たんだな」
なごみ
「来る、と言ったからには来ます」
乙女
「いいかお前達、すでに強化合宿の
プログラムは始まっている。これも執行部の
活動の一環だ。気を緩めすぎないように」
きぬ
「サー! イエッサー!」
乙女
「家に到着するまでが強化合宿だからな」
エリカ
「おー!」
スバル
「やたら張り切ってるな」
レオ
「椰子もあれぐらいはしゃいでいいんだぞ」
なごみ  共通
「……冗談」
なごみ
「でも、海は好きなんで」
それはつまり、楽しみなんじゃないのか?
難しいお年頃だな。
「すみません、遅れてしまいましたわ」
平蔵
「大江山先生。困りますな教師がそれでは」
「猛省し、以後気をつけますわー」
なるほど、反面教師だ。
平蔵
「よし、それでは出発する。ついてこい」
俺達は公園の方に歩き始めた。
平蔵
「この先にクルーザーがある」
平蔵
「大いに驚いていいぞ。お前達」
大海原へ、出航――――
平蔵
「……今の若いものは冷めてるというか」
館長は自慢のクルーザーにあまり
驚かれなくて、落胆していた。
レオ
「いや、まぁ凄いと思いますよ」
エリカ
「そうね。私は大型客船にしか乗ったことないから
こういうのも斬新かも」
良美
「エリー、それ慰めになってないかも」
照りつく太陽。
今日は6月なのに30℃を超える真夏日らしい。
吹き付けてくる風が心地よかった。
きぬ
「おおー。すげー速ぇー、この船速ぇーー!!」
きぬ
「ヘイゾー。あのコンクリでできた
小島はなんだ!?」
平蔵
「おお、そこは松笠の開国祭イベントで
花火を打ち上げる拠点だ」
カニ、おおはしゃぎ。
きぬ
「もっと飛ばしてくれー 風になりてー」
将来、車を買ってもカニだけは隣に乗せまい。
平蔵
「ふむ。ならばもっと飛ばそうか」
一気に加速するクルーザー、そして
吹き抜ける強い海風。
良美
「わっ、わっ、わっ」
佐藤さんがグッ、とスカートを押さえる。
エリカ
「どう対馬クン、見えそうで見えなーい」
本当にギリギリの位置でスカートを
ヒラヒラさせてはしゃぐ姫。
レオ
「……(視線を逸らす)」
あれを堂々と見てるほど俺はエロくない。
エリカ
「わわっ、しまった!」
なにっ!
エリカ
「なーんて、ウッソー! そうそう
ラッキースケベなんてないわよ」
またからかわれた……。
新一
「見ろー、あれが烏賊(イカ)島だぜ」
スバル
「上から見ねぇとイカの形してるか分からねぇな」
スバルやフカヒレは普通に船旅を楽しんでるな。
なごみ  無音
「……」
椰子は一人、海を眺めていた。
レオ
「お前、乗り物酔いとか大丈夫だよな?」
とりあえず先輩として気にかけてみる。
なごみ
「ご心配なく」
椰子は涼しい海風を受けて、心地良さそうに
目を細めている。
こいつはこいつで楽しんでるみたいだな。
なごみ
「あ、魚跳ねた」
レオ
「ここらへんになると水も綺麗だな」
なごみ
「あれが目的の島ですね」
レオ
「意外と木が生えてるな」
なごみ
「魚とか多そうですね」
レオ
「泳げるんだよな?」
なごみ
「もちろんです」
軽いノリの会話が続く。
この椰子を少しだけおしゃべりにさせるとは、
海の力恐るべし。
平蔵
「島に到着するぞー。揺れるから注意せーい」
きぬ
「っしゃあ! もういてもたっても
いられないもんね!」
カニはバッ! と服を脱ぎ始めた。
きぬ
「海に一番乗り!」
船から元気良く海中へ飛び込んだ。
なごみ
「……自然に還りましたね」
レオ
「島にもついてないのに、野人だ……」
つうか、あいつこのわずかな時間でいつの間にか
下に水着を着込むとはホントすばしっこい。
なごみ
「そのうち水揚げされます」
平蔵
「よし、陸につけるぞ。降りるときは注意せい」
レオ
「おお、ここが烏賊(イカ)島」
なごみ
「同じ県とは思えないぐらい海が綺麗ですね」
「ここも、住所的には松笠市の一部ですけどね」
「さて、女性の皆さんは、あちらにある小屋で
水着に着替えます」
エリカ
「水着に着替え……この時を待っていたわ」
乙女
「何故私を笑顔で見る?」
エリカ
「いやいや別に。私の視線なんか気にせず
遠慮なく脱ぎ脱ぎしてくださいね」
乙女  無音
「……」
平蔵
「さて、我々はここで待機だ。
水着を持っているなら着替えておけ」
新一
「一応確認しますけど、覗きに
行ったら俺どうなるんですか?」
平蔵
「空の世界の住人になれるぞ。はっ!」
館長が、海に向かって拳をブンッ! と
アッパーのように振りぬいた。
その風圧で竜巻が発生し、海水を
一気に巻き上げる。
平蔵
「この竜巻に乗せて本土に送り返してやる」
新一
「俺、大人しくしています」
んんー。なんて頼もしい。
さすが米軍に“彼が戦争に参加していたら
我々は負けていた” と言わせただけはある。
レオ
「じゃあ俺達もとっとと着替えるか」
俺達は女性陣が出てくる前にそそくさと
着替えをすませた。
新一
「女のコ達よ。早く出てきてオクレ」
スバル
「あんま露骨に見んなよ? 嫌われるぞ」
エリカ
「お待たせしましたー」
新一
「今、ここは天国に一番近い島……」
乙女  無音
「……」
新一
「おおー」
良美  無音
「……」
新一
「おおおおおー」
なごみ  無音
「……」
新一
「おっお〜ん」
レオ
「日本語をしゃべれ」
祈  無音
「……」
新一
「おぉぉぉおおおぐrdfせjふじこk」
レオ
「きちんと変換しろ」
なごみ  無音
「……」
こいつ……脱ぐとすげーな。
椰子は若いからってぽっちゃりしていない。
スラッとしていながらも、ふとももなどは
柔らかそうな肉がついてるし。
また、胸も水着の中で窮屈そうにしている。
レオ
「最近の1年生は……どうなってんだまったく」
エリカ
「目の保養には丁度いいわよね。癒しよこの光景は」
レオ
「何故姫がこっち側にいる」
エリカ
「水着姿を目に焼き付けてるんでしょ? 私もそう」
レオ
「……」
エリカ
「? 別に私の見たいなら好きなだけ見ていいわよ
減るもんじゃないし」
レオ
「そうやって開き直られると……」
エリカ
「ここで照れるのが日本人よねー」
レオ
「!」
俺の目の前で、わざと水着の食いこみを直す姫。
エリカ
「だいたい乙女センパイ、制服の下に水着
着てるんだもんサギよねー。お堅い風紀委員が
1枚1枚脱いでいくのがいいのに」
相変わらず考えがオヤジだ。
エリカ
「よっぴー、パレオとれば」
良美
「は、恥ずかしいよ……」
もじもじする。
姫は、その表情だけで満足していた。
「それでは各自、自由にはしゃいで下さいね」
乙女
「いいか、海で泳ぐチームは
あまり遠くまで行き過ぎるなよ
国境を越えられると助けられないからな」
レオ
「逆にそれ以外は助けられるあなたが凄い」
きぬ
「母なる海来たらとりあえず泳げお前ら!」
海からあがってきた水棲生物が何か言っていた。
頭にワカメが乗っているが、滑稽なので
誰も突っ込まない。
スバル
「ま、それについては同感だね」
きぬ
「うっし! 勝負だかんねスバル
でっかいヒトデつかまえた方が勝ち」
スバル
「いいぜ、望むところだ化け蟹め」
新一
「泳げるヤツはいいよなー」
レオ
「姫はどーすんの」
エリカ
「私はお休みー」
乙女
「む。姫、顔色が優れないぞ。どうした?」
エリカ
「瑞々しい体見てたら胸を揉みたくなってきた感じ」
乙女
「嫌な感じだな……」
セクハラ発作?
エリカ
「乙女センパイ、揉みしだかせて」
乙女
「断る」
エリカ
「祈センセイ、1人の生徒としてお願い」
「1人の教師としてお断りしますわ」
エリカ
「減るわけじゃないのに。ケチくさ」
「そこまで揉むのがお好きなら、
ご自分ので済ませてはいかが?」
エリカ
「自分のを揉んでもつまんないと思うケド」
新一
「なぁ、姫。それだったら俺の胸を揉んでいいよ」
フカヒレがズイ、と身を乗り出す。
ほんとチャレンジャーな奴だ。
エリカ
「んー、どれ」
もみもみ
新一
「あっ!?」
乙女
「本当に揉むな!」
さすが姫、予測の上を行く事をする。
エリカ
「男子のは硬くてつまんない」
新一
「……けがされた……もうおムコにいけない」
レオ
「いや、わけのわからんショック受けるぐらいなら
最初からアクションすんなよ」
新一
「レオ、ひょっとして今俺の事を
羨ましいとか思った?」
レオ
「そんなわけはない」
いや、ほ、本当ですよ?
エリカ
「よっぴーのさわってくる!」
シュタ! と手を上げて海に消えていく姫。
新一
「やべぇ、その光景を見なくちゃ!」
フカヒレは泳げもしないのに海に飛び込んだ。
新一
「し、塩辛ぇ! だ、誰か助けてくれ!!
お、俺はこんな所で死ぬわけにはいかない!
まだまだやりたい事がいっぱいあるんだ!」
溺れていた。
新一
「母ちゃん以外の女からチョコもらった事ないのに
死んだら、俺は、絶対怨霊になってしまう!」
情けないこと、このうえない。
いちおうカニが10円チョコあげてたと思うが。
「あらあら……対馬さん、フカヒレさんを
助けてあげてください。あまりに哀れですわ」
「正直フカヒレさんが溺れても、私は一向に
構わないのですが、ここで死なれると
引率教師の責任になりそうなので」
レオ
「先生、もう少し教育上優しい言葉を
選んだ方が……」
乙女
「ギャグやってる間にさっさと私が助けたぞ」
素早かった。
新一
「お、乙女さん……じ……人工呼吸、一丁」
乙女
「破砕っ!」
ドスッ!
新一
「ぐはぁっっ!」
良美
「うわ、鮫氷君大丈夫?」
新一
「ごほっ、ごほおっ、ごほっ、ごほっ」
乙女
「肺に刺激を与えただけだ、激痛が走るが問題ない」
「青春ですわねー」
レオ
「……祈先生だって青春が該当する年だと思うけど」
新一
「ごほっ、ごほっ、先生はもう
春は過ぎて、夏って感じかも、なんちて」
「土永さん、あの貧相な坊やをこらしめて
おあげなさい」
土永さん
「てい! てい!」
新一
「痛っ、ちょっと、刺された所から
血が出てるって!」
レオ
「やれやれ、なんか浜辺は慌しいな」
レオ
「ちょっと泳いでくる」
レオ
「あ、あのさ」
レオ
「姫も泳がない?」
エリカ
「お誘いありがと。でもパース」
べーっ、と舌を出す姫。
レオ
「世の中こんなもんか」
「それもまた青春ですわー」
なごみ  無音
「……」
レオ
「びっくりした」
波間に大の字で浮いてやがった。
なごみ
「なんですかセンパイ」
ざっ、と立つ椰子。
しっかしこいつ背高いよな……170あるぞ。
レオ
「お前、今みたいに浮いてるのが好きなの?」
なごみ
「そうですね、海との一体感がいいです」
レオ
「ふーん」
レオ
「軽く泳ぎたいんだけど、付き合わない?」
なごみ
「嫌ですね。お断りします。邪魔しないで下さい」
レオ
「……」
再び大の字で浮き始める椰子。
こいつ、リゾートにきてまでわがまま放題……。
さすがに温厚な俺も腹が立ってきた。
レオ
「いちいち生意気なんだこの一年坊!」
その顔面めがけて思いっきり海水を
手でぶっかけた。
なごみ
「わぷっ!? ごほっ、ごほっ、な、何を!」
ざまぁみろ。
よし素早く逃げろ。
俺は高速クロールで離脱した。
レオ
「よし、ここまで来れば……」
ずるっ!
レオ
「うわっ!?」
何者かに水中から足を引っ張られる。
海の中に引きずり込まれた。
レオ
「ぷはぁっ!? だ、誰だ今のは。うおっ!?」
いきなり頭の上をグイッと押される。
再び海中へ。
頭をグイッと押さえつけられているので
浮上できない。
ま、まずい。誰だこんなバイオレンスな
マネをするのは。
ようやく手が離されたので、慌てて浮上する。
レオ
「……ぐはっ、はぁっ、はぁっ、はっ」
ざぶっ!
大きく口を開けて呼吸していた所に
海水をぶっかけられた。
レオ
「げ、げふっ、ごほっ、がはっ」
なごみ
「倍返し終了」
レオ
「お前か!」
こいつ泳ぎ速いな……男の俺の全力に
追いついてくるとは。
なごみ
「センパイのもがきっぷりは面白かったですよ」
なごみ
「……くくく」
レオ
「げほ、ごほ……満足そうに笑うな」
なごみ
「それではとどめをさします」
レオ
「今のでまだやりたりないと言うのか」
ニヤリと笑う椰子。
本能がやばい、と感じた。
レオ
「くっ!」
ざばっ、と海水をぶっかける。
なごみ
「ぷはっ……狩られる側が何を……」
レオ
「勝手に狩られる側にすんなっ」
ざばざば。
なごみ
「けほっ、くっ……このっ」
ざばざばっ
やり返してきやがった。
まずい、ひるんだら負ける。
レオ
「このっ(←割と必死の波バリア)」
なごみ
「潰すっ」
ざばざばざば。
良美
「……意気投合……してるのかなぁ?」
エリカ
「なんか知らないけどなごみんも楽しそうじゃない」
「お・お・は・し・ゃ・ぎ・ですわね」
エリカ
「水のかけあいっこなんて可愛いとこありますよね、
いじめがいがありそう」
「うふふ、そうですわね。アレをあーして」
エリカ
「くすくす。ソコをこーして」
良美
「……なんか、この2人怖い」
………………
そんなこんなで、ドタバタやってるうちに
随分時間が経った。
騒がしいと時間が過ぎるのも速いよな。
平蔵
「おお、楽しく遊んでるようだな」
平蔵
「だが夏の醍醐味はこれだけではないぞ」
平蔵
「やはり海といえばバーベキューであろう
若者はこういう事を体験しないとな
セットは儂が持ってきた」
きぬ
「うわー、ヘイゾー話分かるー」
平蔵
「男達、手伝え。バーベキューの準備をする」
レオ
「食材はどんな感じなんだろうな」
袋の中を見てみた。
なごみ
「サーロイン、フランクフルト、カット野菜、
シーフード系……どれも上物」
レオ
「おお、それは楽しみ」
新一
「へー。上物かどうかなんて良く分かるな」
レオ
「あぁ、椰子は結構料理できるんだぜ
だから食材とかもそれなりに分かるんだろ」
なごみ
「……余計な事は言わないで下さいよ」
なんか不機嫌になった。
褒めたつもりなんだけどな。
新一
「でもさ、正直俺たちみたいな世代は
質より量だよね、マジで」
こいつ聞いてないし。
………………
平蔵
「お前達、手際が悪いな。親御さんに
教わってないのか?」
スバル
「はっ、あいにくそんな上等な親じゃないもんでね」
新一
「俺のところなんかバーベキューに
行ったことなんてないし」
平蔵
「ふむ、ならば今ここで覚えておけ
いいか、1から教えてやろう。まず火はな……」
スバル
「へぇ……」
なんだかちょっと親子っぽくて微笑ましいな。
………………
レオ
「っしゃ、準備完了」
スバル
「結構面白いもんだな」
平蔵
「飲み物もあるぞ。気配りは万全だ」
新一
「もしかして酒?」
「そうしたい所ですけど、教育問題ですので
ここはお茶やジュースやコーラですわ」
新一
「あれ、でもここにビールあるじゃん」
平蔵
「これは儂と大江山先生で処理する」
新一
「これだから、大人達はぁー!」
エリカ  共通
「これからもよろしくって事で乾・杯!」
レオ
「かんぱーい」
平蔵
「バーベキューの作法というのは肉を食うことだ。
コレステロールがなにやら、などどうでもいい。
そんな脆弱な事言っているから病気になるのだ」
平蔵
「いいか、お前達男は特に良く覚えておけ!
男は肉を食うたびに強くなる!」
平蔵
「それは、この焼肉だけではないぞ。
あらゆる“肉”を食え! それが
強さの秘訣であり、肉体にハリを持たせるコツだ」
レオ
「……何を言ってるんですかこの人は」
エリカ
「熱っ、熱熱……よっぴーお願い」
良美
「エリーにはまだ熱かったかもね、ふー、ふー」
レオ
「そっちは何してるの?」
良美
「エリー、猫舌だから。ふーふーしてあげてるの」
レオ
「じゃあ俺も食おう」
乙女
「待て待て、こっちは焼き具合が充分ではない」
すでに乙女さんが仕切っていた。
乙女
「食べるのはこっちにしておけ」
乙女さんは仕切りつつも、超スピードで肉を
次から次へと自分の口の中にいれている。
なんつーか、たくましい人だ。
エリカ
「うん。美味しい美味しい」
エリカ
「これでビアーがあれば最高なんだけどね」
またオヤジくさい発言を。
きぬ
「がるっ、がるるるるーっ」
レオ
「おいそこのカニ。もう少し品性を持ちなさい」
なごみ
「カニ、肉だけ食べるって言うのは邪道
串に椎茸が残ってる。残すな」
きぬ
「うるせー、後輩のくせに」
なごみ
「あたしが後輩だろうと、言ってる事は事実」
レオ
「そうだぞカニ。野菜もちゃんと
食わなきゃ、めーだぞ」
きぬ
「な、なんだテメーら結託しやがって! おいレオ
ボクとココナッツとどっちの味方なんだよ」
レオ
「俺は中立だもんよ」
きぬ
「このスイス野郎、こういう時は幼馴染をとれよ
そうすればこの椎茸とボクの微笑をあげたのに」
レオ
「椰子押さえろ」
なごみ
「……了解」
きぬ
「な、なんだテメェら本格的に2対1ですか?
嫌いだぜそういう数の暴力は、おいココナッツ
オメー、レオの命令聞くほど良い子なのか?」
なごみ
「カニの嫌がる顔が見たいから」
何か言おうとしたカニの口の中に
椎茸をつめこんだ。
レオ
「はい、今日の教訓、好き嫌いはしないように」
きぬ
「むぐぐぐ……」
レオ
「ふぅ、しつけも大変だぜ」
「土永さんも、召し上がれ」
土永さん
「どっちかって言うと我輩は
鶏肉の方が好きなんだがな」
新一
「うめぇ、うめぇ、うめぇっ!!!」
スバル
「落ち着けって。まだまだあるさ」
平蔵
「……今のうちにたらふく食っておけよ」
レオ
「ん? 何か言いました?」
平蔵
「別に何も」
「さすがに現役学生ですわね。男女とも
たくさん食べてますわ」
平蔵
「よし、今のうちに行動するとしよう」
「いよいよですわね橘さん……この試練、
あの子達が乗り越えられるか否か、見物ですわ」
平蔵
「うむ、確かに見物だな。だから
大江山先生は引率教師としてここに残ってくれ」
「は?」
平蔵
「動くな、大江山 祈」
ピキィィン!
「う、動けませんわ」
平蔵
「それでは教師としての責任など色々つけて頼んだぞ
大江山先生。儂は帰る」
「たっ、橘さん、本当に裏切ったんですか?」
平蔵
「なぁに、軽いリゾートだと思えばいい」
…………
レオ
「よーし、片付け終わりと」
乙女
「うん、完璧だな綺麗になった」
エリカ
「海岸を汚す事は避けないとね
こう見えてエロにはうるさいわよ」
良美
「エロじゃなくてエコロでしょ」
橘館長は、船を出す準備をしていた。
平蔵
「よーし、それでは帰るぞー」
新一
「うーーーっす」
平蔵
「儂だけなー」
新一
「……なんですと?」
そういうと、館長は俺達がまだ乗っていないのに
船を出発させた。
新一
「おーい、館長ー! 俺達まだ乗ってませんよー」
平蔵
「それでいいのだー、お前達はここに残れー」
平蔵
「お前達に重要な試練を与える。
この島で2日間生き延びよ!」
平蔵
「日曜の夜にまた迎えに来るのでな!」
レオ
「ま、まさかこれ要するに」
平蔵
「そう。これは島流しである」
平蔵
「お前達は高い能力を持ちながらも
協調性に欠ける。
ここで集団生活の大切さを学べい!」
エリカ  共通
「それって、この私も?」
平蔵
「協調性に欠けてるな」
エリカ
「横暴ねー、一般人に合わせて天下とれますか」
良美
「……確かに欠けるなぁ」
レオ
「そんな落ち着いている場合かって」
平蔵
「なお、諸君達の父母などご家族には
儂が責任持って連絡しておこう!
その点は心配するな」
きぬ
「そういう事で、テメェらアデュー。全財産は
ボクが相続してすっごい無駄遣いしてあげるから」
レオ
「カニ、いつの間にか船に!」
きぬ
「えっへっへー。ココよここ。あ・た・ま」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「あはは、その悔しそうな顔。いいよいいよー」
乙女
「調子に乗ってるな」
平蔵
「きぬよ。お前も残れ」
むんずと掴みあげられ
きぬ  共通
「え?」
平蔵
「ふんっ」
そのまま海に弧を描くように放り投げられる。
きぬ
「アイキャンフラーイ」
レオ
「余裕あるな」
きぬ
「飛んでる、飛んでるぜぇ」
ざっぷーーん!
スバル
「ここに小型艇がある。これで脱出できるぜ」
平蔵
「破っ」
館長が指をクンッと上にあげた。
それと同時に――。
スバル
「おわっ、危ねぇじゃねぇか」
……小型艇が爆発した。
乙女
「凄いな、気で破壊したぞ」
レオ
「し、信じられない漢(おとこ)だ」
乙女
「まったくだ、海が汚れる」
レオ
「そっちかい」
乙女さんがマジメにも、浜辺に漂う
小型艇の破片を拾い始めた。
平蔵
「それではなー」
館長の乗るクルーザーが遠くなっていく。
俺達は呆然とそれを見つめていた。
エリカ
「生き残れるのはただ1人、か……」
なごみ
「上等」
レオ
「いや違うから。集団で生き延びればいい話だから」
レオ
「それにしても、生徒を無人島に置き去りなんて」
乙女
「ま、いい。泳いで帰れば問題なかろう」
エリカ
「却下で」
レオ
「そんなに体力持ちません」
乙女
「いや、気合でいけるだろ」
レオ
「乙女さん以外はいけないから」
乙女
「根性無しだな……」
エリカ
「もう少し常識的に考えてください
皆がいるんだしー」
乙女
「ひ、姫に常識について語られてしまった……」
乙女さんが凹んだ。
レオ
「水とかどうすんだ?」
エリカ
「あそこの着替えした小屋にいっぱいあったわよ」
レオ
「ほんとに死なれても困るから
水だけは用意したってわけだ」
きぬ
「あ〜、ヘイゾーめ。淑女を海に投棄しやがって」
カニが海からあがってきた。
なごみ
「……しぶとい」
エリカ
「まぁ、嘆いてもあがいても仕方ないし。
どうせなら、この状況を楽しみましょうか」
良美
「そうだね。皆で協力して頑張ろうよ」
新一
「協力だとよ、カニ。足を引っ張るなよ」
きぬ
「テメーこそホームシックになんなよ怪奇サメ男」
新一
「怪人かよ!」
きぬ
「つーか、テメー前から言おうと思ってたけど
鮫氷(さめすが)って名前言いずらいんだよ
安直な鈴木にしろや!」
新一
「安直言うな、全国の鈴木さんが気分悪くするだろ」
「あの2匹は放って置きましょう」
「ちょっと登れば天然の温泉がありますわよ」
エリカ
「本当ですか? じゃそこ行きましょう」
乙女
「適応が早いな、姫は」
乙女
「私は枕が替わると寝れないんだがな
山篭りでも、自分の枕は持っていったし」
レオ
「いや、それを俺に言われても」
乙女
「米が無ければ、おにぎりも食べれない……」
とても無念そうだった。
新一
「つーか、温泉ってもしかして……胸キュン?」
「湯はひとつしかありませんから必然的に
混浴ですわね」
新一
「母さん……俺を産んでくれて超ありがとう」
レオ
「お前、心から嬉しそうだな」
「……というコトですので」
土永さん
「女性達が入浴中は、お前らここで待機だ
我輩は監視だな」
新一
「ちっくしょう、そういうオチかよ!
あー見てえよ、超見てぇよぉ」
レオ
「泣くな見苦しい」
土永さん
「乙女の裸は見せんぞ。我輩がいつかプロポーズ
しようと思ってる女性だからな」
レオ
「土永さん、乙女さんが好きなのかよ」
スバル
「ま、レオの水着見れただけでも充分じゃねぇか」
新一
「そういう冗談、今は聞いてないの」
スバル
「やれやれだ。疲れたからちょっと寝るぜ」
レオ
「この状況で寝るスバルもすげーなぁ」
新一
「で、どうなんだよ。覗きに行くんだろ、な?」
俺は……
覗きに行く
覗きに行かない
新一
「それで正しい。お前最高。ついでに俺も最高」
レオ
「俺だって、年頃の男子だ興味はある」
レオ
「なに、死にはしないさ」
新一
「だよな、あれだけの美人揃いの風呂
覗かない方が冒涜だよな」
新一
「それじゃ、まずここをどうやって
抜け出すかだが……土永さんをどうにかしないと」
レオ
「それは簡単だぞシンイチ」
レオ
「土永さーん、俺達も仮眠とるぜ」
土永さん
「そうしろそうしろ。我輩も手間が
かからなくていい」
俺達は横になって、わざと寝息を立ててから――
そのまま、こっそり物音だけを立てず
土永さんの前を通過した。
レオ
「土永さん、鳥目だからな
寝てると思わせれば話しかけられないだろうし」
新一
「なーるほど、所詮は鳥公という事か」
レオ
「で、温泉はこの崖の上か……」
新一
「正面から行くと、モロバレだ
この崖を登っていくしかねぇぞ」
新一
「シンイチ・サメスガ、いきまーす!」
そういうと、フカヒレはひるむことなく
登っていた。
あいつの性欲パワーにはおそれいる。
俺はフカヒレの後から登っていく。
新一
「なんだ、案外崖登るの楽じゃねぇか。
さぁもうすぐ見えるぜ理想郷がよ」
だが、その時。
新一
「はぐぅ!!!」
フカヒレの体は、吹っ飛んだ。
なんと岸壁から、お湯が吹き出たのである。
いわゆる間欠泉みたいなものか?
俺のいるポイントはセーフだったが……
新一
「わぁぁぁぁ、この島、地獄だっ……」
断末魔を残し、フカヒレは落ちていった。
まぁ、あいつの事だから死にはしないだろう。
お前の分まで――俺は見る。
レオ
「なるほど、あそこのポイントは
お湯が吹き出て危ないのか」
さっきフカヒレがお湯の直撃を受けた所だけ
迂回し、俺は一気に登りきった。
レオ
「やった……ついにやったぞ」
ここまで何かをやりとげたのは、
はじめてかもしれない。
レオ
「ふぅ……ふぅ……」
俺、結構大胆だよな。
でも正直あの美人揃いの風呂は見たい。
無理はせず、遠目からでもいいんだ。
俺は気配を消して、ゆっくりと岩場に近づいた。
そして、俺の目に飛び込んできたのは。
レオ
「YES! YES! YES!」
命をかけて覗くだけの価値はある光景だ。
椰子、胸とか尻とか、丸見え……
つうか水着越しでも充分分かってたけど
こいつ脱ぐとすっげぇスタイル良いな。
温泉でしっとりと濡れた肌がなんとも言えず……。
なんで椰子は温泉の方に入ってないんだ?
あぁ、あの2人が原因か。
エリカ
「ふー極楽極楽、やっぱ温泉といえばこれよね」
良美
「うっ……あっ……ンっ、絶対違うよぅっ……」
胸をわしづかみにされている佐藤さん。
……佐藤さんも胸でかい。
その佐藤さんの豊かな胸が好き放題に
揉まれまくっている。
エリカ
「ふふー。なごみんにでも助けを求めてみたら?」
良美
「や、椰子さん、助けてー」
なごみ  無音
「……」
良美
「わー、見捨てられたー!」
エリカ
「もう大人しくモミモミされちゃいなさい
すぐよくなるから」
佐藤さん可哀想に……。
でも、えっちい表情してるなぁ。
椰子は巻き込まれないように避けてるんだな。
佐藤さんの胸もあるな。
エリカ
「よっぴー……ハァハァ……よっぴぃ……」
というか、姫が完全にトリップしている。
指先でキュッ、キュッと乳首をつまんでいた。
なんつーやらしー触り方を……。
なごみ  無音
「……?」
げっ、こっち見られた?
なごみ
「……気のせいか」
あぁ、こいつ近眼だったんだ。
助かった。
乙女
「ふー……いい湯だ」
なんか温泉でくつろぎきってる人もいるし。
乙女
「♪朝起きて、くわえるパンと一騒動
昨日のケンカは、もう忘れてるかな?
まだ不機嫌な顔をしてたらつねってやろう♪」
なごみ  無音
「……」
相変わらず風呂で歌う人だな。
エリカ
「タオルで隠しているなごみんは、
乙女センパイを見習いなさい」
エリカ
「どこも隠さず、堂々と
お風呂に入ってきたでしょ
いきなりタオルを頭の上に乗っけてたのよ?」
なごみ
「体育会系と一緒にされると困ります」
あの人に察知されない為にも、もうやめよう。
馬鹿はここで深入りして失敗するんだ。
俺はこっそりと崖下に戻ることにした。
レオ
「……はぁはぁ」
つ、疲れた……。
崖の下でフカヒレが倒れていた。
レオ
「おい、生きてるか?」
新一
「しゅ……首尾はどうだった?」
レオ
「あぁ。いいおっぱいと、いいお尻だった」
グッ! と親指を立てる。
新一
「く……くそったれめぇ……いい思いしやがって」
新一
「良し……俺も行くぞ……俺はマジだぜ」
レオ
「やめろ、もうお前の体は」
新一
「それでも俺は……行くんだ」
無駄な努力を。
それにしても眼福だ。
早めに海岸へ帰らないと。
レオ
「ふぅ……」
エリカ
「対馬クン。お風呂あいたわよ」
レオ
「わっ!」
エリカ
「どうしたの? 変な声出して」
レオ
「い、いや別に。もう出たんだ」
エリカ
「そ? 随分と長い間入ってた気もするけど」
レオ
「い、いや、と、とにかく
お風呂空いたんだね分かった」
乙女
「いい湯だったぞ。
湯上りの牛乳を飲めないのが惜しいがな」
なごみ  無音
「……」
うわ、来たな1年生とは思えない肢体の持ち主め。
俺は思わず目線を逸らしてしまった。
なごみ  無音
「?」
エリカ
「……ははーん。なごみんにも興味を持ったか」
フカヒレをグイッとおしのける。
レオ
「俺はいかないね」
ロクな事にならん気がするからな。
フカヒレは1人で行ったが、ま、あいつにゃ
覗く事もできんだろう。
………………
レオ
「おいスバル。女子の風呂空いたってさ」
スバル
「ふぁーあ、じゃあ入りに行くか」
土永さん
「ふふ、我輩の監視は完璧だったな」
………………
新一
「ふぅ、ふぅ、さっきは変な間欠泉みたいなもんに
悩まされたが、今度こそ、この目に永遠に
焼き付けてくれる…さぁ、全てをこの目に刻め!」
スバル
「あん、フカヒレ何やってんだ」
新一
「男かよ……刻んじゃったよ……はっはっはっはっ」
スバル
「笑いながら泣いてるぞ」
レオ
「器用なやつだ」
新一
「男が湯に入っている以上、温泉を飲んでも
マズイだけ……か……」
どさっ。
レオ
「あ、死んだ」
結局女子のハダカ見れなかったんだな、哀れな奴。
こうして合宿1日目の夜は更けていった……。
きぬ
「この水場はボクが占拠した!
ここにある水は全部ボクのもんだもんね!
お前達はどっか他を当たれや!」
エリカ
「待ってよカニっち。水はそこしかないの
それが飲めないと私達死んでしまうわ」
きぬ
「んなコタ、知ったこっちゃねぇー!
どーしてもってんなら、食料もってこい!
それと物々交換で分けてやるよ!」
レオ
「……何してるの?」
エリカ
「人間の本質ゲーム。一般人が陥りそうな思考状態を
想定し、それになりきるの」
エリカ
「凡俗の思考にあわせるのが、なかなか
やり甲斐あるのよねー」
きぬ
「どうだった、ボクの錯乱っぷり」
エリカ
「なかなかキてて良かったわよ」
きぬ
「ところで姫はボクが朝早く目を覚ましたら、
寝床にいなかったけどドコいたの?」
エリカ
「あぁ、大木の上で寝てたのよ」
きぬ
「お嬢様のクセになんでそんなサバイバルな
マネすんのさ」
エリカ
「ま、何事も経験ね」
レオ
「……あんた達、元気だな」
「対馬さんも、たいそう元気ですわ」
レオ  無音
「?」
俺が元気?
ふと目線を下げる。
レオ
「っ!!!」
股間に威風堂々としたテントが設営されていた。
「霧夜さん達に発覚する前に、その
貧相なものを沈める事をお奨めしますわ」
レオ
「な、なんてひどいっ」
心に傷を負ってしまった。
しかしさすが先生だ。アダルトな
ことさらりと言うぜ。
エリカ
「とりあえず食料ね。分担して探しましょうか」
さっそく姫が能力に応じた分担を割り振った。
エリカ
「んー。対馬クンはどこに配属するかな……
まーこーんな感じで」
レオ
「なんか適当だな」
エリカ
「対馬クン、対馬クン」
レオ
「?」
エリカ
「なごみんの面倒しっかり見てあげてね
ちゃんと考えて割り振ったんだから」
レオ
「……何で俺に」
エリカ
「今のところ対馬クンに一番心を開いているからね」
レオ
「えーそうかなーそれはどうかなー」
エリカ
「もっと心を開かせれば、体も開くかも、なんちて」
……姫?
レオ
「……ってことで俺とお前で魚釣りだと」
なごみ
「何か落ち込んでますね」
レオ
「姫がオヤジギャグを言った……」
姫はそんなキャラじゃないのに……。
なごみ
「お姫様ってオヤジっぽいですよ
温泉であ”〜とか言ってましたし」
レオ
「聞きたくなーい 現実はいつだってつらいから!」
なごみ
「そう言われると意地でもっと話したくなります」
だめだ、話題を逸らそう。
レオ
「釣り、出来るんだろ?」
なごみ
「まぁ、それなりに」
割と自信ありそうだなコイツ。
レオ
「ふーん、親に教わったのか」
なごみ
「そんなところです」
あのお母さんが教えたのか?
いや、あれはどう見てもインドア派だろう。
レオ
「まぁ、乙女さんが巣もぐりで魚
捕まえるらしいから気楽に行こうぜ」
なごみ
「そういうわけにはいかないです」
レオ
「ん?」
なごみ
「自分の食いぶちは自分で」
なごみ
「サバイバルの鉄則だと思います」
レオ
「つうか、大変だ。今気がついたけど
釣竿は倉庫にあっても肝心のエサが無いじゃん」
レオ
「いや、さすが俺は先輩だ、いい所に気がついた」
と、椰子に主導権をアピールする。
なごみ
「とっくに気がついてましたが何か」
レオ
「ソウデスカ」
真顔で言われると手厳しいですね。
レオ
「でもエサが無いのにどうやって」
なごみ
「現地調達です、こっちの方は磯に
なってるから……」
なごみ
「てい」
椰子が転がっている石を足でひっくり返す。
どけた跡から、カサカサと動く影。
なごみ
「カニを見つけました」
レオ
「お前、何? 実は野生児?」
なごみ
「まさか。父から教わったんです」
椰子は、ちょっとだけ自慢げに言った。
レオ
「いいお父さんだなぁ」
なごみ
「…はい…」
椰子はそういうと、ひょい、と
カサカサ動くカニを取り上げた。
なごみ
「覚悟」
ブスリと釣り針に刺す。
何故かうっすらと笑った。
なごみ
「このカニをエサにします、カニをね」
相当カニを嫌ってるなこいつ。
なごみ
「センパイはそこにいるゴカイで釣ってください」
いつの間にか後輩に命令される俺。
ゴカイって、何かこのムカデチックなやつ?
レオ
「えーなんかこれ、ウネウネして気持ち悪いぜ」
なごみ
「10センチぐらいの大きさじゃないですか」
椰子は平然としている。
カニ(きぬの方)もこういうの平然としてたよな。
むぅ、触れるのは平気だが嫌悪感はつきまとうな。
レオ
「うえー、ウネウネしてる」
こういうのって女子の方が男子より
強かったりするんだよな。
椰子がビシュッと竿を飛ばす。
海草が鬱蒼と繁っているポイントに着水した。
俺も釣り糸をたれた。
…………フィッシング開始!
…………
なごみ  無音
「……」
レオ  無音
「……」
気長なスポーツだったのを忘れてた。
なごみ  無音
「……」
椰子はボーッと海を見ながら釣りをしているぞ。
この沈黙気まずいな。
レオ
「……椰子は、卓球といい釣りといい料理といい
意外ときっちりこなすよな」
なごみ  無音
「……」
何か言葉を返してくれよ。
レオ
「他に何か得意なもんとか、あるのか」
なごみ  無音
「……」
レオ
「はぁ……」
辛い空間だな。
良くこうやって平気で人の意見無視できるよな。
ある意味凄いヤツだ。
レオ
「……」
レオ
「しりとり。お前“り”」
なごみ
「料理人」
レオ
「“ん”がついたから俺の勝ちー」
なごみ
「良かったですね」
レオ
「泣きたくなってきた!」
なごみ
「ご自由に」
マジどうにもならねぇ。
椰子は俺なんかいないかのように平然としている。
結局、俺も黙ってる事にした。
……………………
なごみ
「んっ……来た」
レオ
「え?」
椰子が魚をヒットさせたのだ。
なごみ
「幸先がいい」
シュパッと釣り上げる
40〜50センチぐらいの魚だ。
レオ
「何か立派そうじゃない?」
なごみ
「ですね、クロダイですから」
レオ
「鯛なんて釣れるのか」
なごみ
「カニの死は無駄では無かったわけです」
なごみ
「死後硬直を起こされると困るので」
さぶん、と持ってきたバケツに
クロダイを投下する椰子。
レオ
「……おっ、こっちにも手ごたえあり」
気合一閃、さっと釣り上げる。
レオ
「……これはサバ?」
なごみ
「それはカサゴですね」
レオ
「鯛と違うのか」
なごみ
「や、まぁ食べれますし」
こいつ食い物関係詳しいな。
レオ
「そうか、よし! この調子で釣ってやる」
なごみ
「無邪気だこと」
レオ
「お前が冷めすぎなんだよ
淡々と釣りやがって」
なごみ
「それならセンパイなんか面白い事を言って下さい」
レオ
「……カニはキクラゲを海にいるクラゲの
一種だと今も思っている」
なごみ
「ご立派。バカの鏡ですね」
椰子はクク、と悪人っぽく笑った。
嘲笑であったとはいえ、少しは場の雰囲気が
和んだような気がする。
バカのカニに感謝。
………………
なごみ
「8匹目、か」
レオ
「……」
俺、まだあの1匹しか釣れてないんですけど。
なごみ
「煙があがってます、戻りましょう」
レオ
「もうそんな時間か」
なごみ
「ま、これなら胸をはっていいと思いますよ」
レオ
「俺達で釣ったクロダイがいっぱいあるしな」
なごみ
「俺……“達”?」
刺すようににらまれる。
レオ
「と言う事にしといてくれるとありがたい」
なごみ
「ま、どーでもいいですけど」
椰子は前を向いてさっさと歩き始めた。
………………
エリカ
「へー、結構釣ってきたじゃない」
レオ
「ま、まぁね」
なごみ  無音
「……」
レオ
「よし、串通して食おうぜ」
なごみ
「夏のクロダイはくさみがあって、そのまま
焼いて食べるのはオススメしません」
きぬ
「バーロー、食えればいいんだよ」
なごみ
「黙れ原始人。なるべく美味しく食べるのが礼儀だ」
スバル
「へぇ。椰子がなんかまともな事言ってるぞ」
きぬ
「けっ、暑さで頭やられたんじゃねーの?」
なごみ
「氷、倉庫にありましたよね。あれ使います」
良美
「え、“あらい”もの?」
スバル
「この暑さだ。そりゃ粋でいいな」
きぬ
「良くわかんねーけどボクはココナッツが
作ったもんなんか食わないもんね」
なごみ
「ナイフを」
乙女さんが椰子にナイフを渡す。
なごみ  無音
「……」
レオ
「ナイフを握ってうっすらと笑うな!」
なごみ
「捌きます」
サッ、サッとクロダイを解体していく。
あざやかなスピードだった。
レオ
「あれ何してんの?」
良美
「ワタと血合を取り除いてるんだよ」
きぬ
「おー、なんだこいつ巧みなサバキだぞ」
きぬ
「さすが人殺しに慣れてるだけはあるね」
なごみ
「黙ってろ、役立たず」
今度は3枚におろしている。
きぬ
「子供のころ、いろいろ解体していたクチ?」
なごみ
「そいつ黙らせといてください」
椰子は魚の血に染まった指をペロっと舐めて
作業を続けた。
レオ
「はい、カニさん静かにしましょうね」
きぬ
「むがむがむがー!」
………………
飯が完成する。
皆が採ってきた海や山の味覚が揃っている。
レオ
「はは、こりゃ置き去りにされたとは
思えないぐらい豪華だね」
エリカ
「しかし、なごみんがサバイバル得意とはねー」
椰子作成のクロダイのあらいと海草の盛り合わせ。
これは身が締まっていてマジでうまい。
新一
「いや、これお世辞ヌキでいける。いっちゃう!」
きぬ
「……うー」
なごみ
「食いたいのか、いと小さきカニ」
きぬ
「ち、ちげーよ、食いたくないもんね!
ココナッツが作ったもんなんてさぁ、ははは」
きぬ
「レオ、それちょっとくり」
カニはクロダイのあらいを指名した。
レオ
「お前なぁ」
きぬ
「だってあいつに言ったら負けじゃんよ」
レオ
「これ美味いから駄目」
スバル
「カニ。ほら、オレのやるよ」
きぬ
「イェーイ!!!!」
レオ
「スバルはあますぎ」
スバル
「ま、出来の悪い妹みたいなもんだからな」
なごみ
「何をしてるのかと思えば」
なごみ
「コソコソしてないで量はあるんだから
食べればいいだろ」
きぬ  共通
「う……」
椰子がカニに料理を手渡してあげる。
なんだこいつ、やけに大人だぞ。
きぬ
「く……くぅ……まるでボクが施しを
受けたみてーだ」
なごみ
「事実、施ししたんだ」
きぬ
「んだよ、なんだこんなモン!」
きぬが皿ごと料理を放り投げる。
レオ
「あ、コラ」
乙女
「っ……間一髪だな」
凄い反射神経と速度で、投げられた
皿ごと料理をキャッチする乙女さん。
あ、ついでに今早業で中身1つ食ったぞ!
乙女
「蟹沢、今のは……」
なごみ
「おい」
きぬ
「あ? なんだよ……うわっ」
椰子がカニを手で突き飛ばした。
なごみ
「食べ物粗末にしてんじゃねーよ」
なごみ
「しかも全く食べてないうちにあれか
ざけやがって……」
新一
「あわわわわ」
レオ
「何それターザンのものまね?」
新一
「あ、あいつの瞳が俺のねーちゃんに
似てる……怖い……知ってるか? 姉っていきなり
階段から突き落としたりするんだぜ、あわわ……」
レオ
「だから、それはオマエのねーちゃんだけだって」
フカヒレのトラウマが発動してしまった。
まぁ確かに今の椰子は怖いけど。
かなり本気で怒ってないか?
きぬ
「んだと、お前みたいなヤツに常識
語られたくないってんだよ」
良美
「あ、ああ、ど、どうしようエリー」
エリカ
「慌てない慌てない。ひとやすみひとやすみ」
良美
「あぁっ、既に自分の料理だけ確保して遠ざかる
観戦モードに……!」
スバル  無音
「……」
乙女  無音
「……」
スバルと乙女さんが前に出た。
なごみ
「あたしがどんな人間だろうと
言ってる事実は変わらねーんだよ」
きぬ
「あぁ!? なんで捨てたかっていえばなぁ、
テメーの作るメシはクセーって言って……」
きぬ
「ぱぎゅっ!」
スバルのゲンコツがカニの頭上に炸裂した。
スバル
「今のはお前が悪いなカニ」
乙女
「だな。鉄家でそれをやっていたら100叩きだぞ」
きぬ  共通
「くっ……」
スバル
「椰子もこらえてやってくれ」
なごみ  無音
「…………」
鋭利な視線がカニを射抜く。
だがカニも負けずにがるるる、と睨み返す。
本当、気の強い人達ですこと。
乙女
「いいか、蟹沢がクロダイだったとしよう」
きぬ  共通
「あん?」
乙女
「腹が減って海中のエサを食べてみればそれは罠。
不運にも釣られてしまった」
乙女
「で、だ。釣られて死んでしまった。
それで切り刻まれた。挙句食べられずに
血肉を捨てられたらどう思う?」
きぬ
「ちょっと……胸がキュンって……切ねぇかも」
乙女
「だろう」
スバル
「ほら、カニ。乙女さんがキャッチしてくれた
このクロダイのあらいを食ってみろ」
きぬ  無音
「……」
レオ
「カニ、口開けろ」
きぬ
「う――……」
しぶしぶ口を開けるカニ。
そこに料理を放り込む。
きぬ
「んぐ……もぐもぐ」
きぬ
「う、うめぇっ!」
きぬ
「………あ」
スバル
「ってワケだ。こういう美味いもん捨てるのは
バチあたりだろ?」
レオ
「今後、こういうマネはするなよ」
きぬ
「う――……分かったよ」
エリカ
「本当に教育してるのね」
きぬ
「……ふん、ウメー事は認めてやる
これを捨てたのはボクが悪かったよ」
なごみ  共通
「……へぇ」
きぬ
「だ、だから、お、おかわりよこせよ!」
なごみ
「何逆ギレしてんだか」
椰子はやれやれ、という感じでカニに
おかわりをあげた。
珍しく寛容な対応だ。
きぬ
「ははっ……これうめーな」
きぬ
「でも冷静に考えるとクロダイが
美味いんであってオメーの腕じゃねーよな」
スバル
「こいつ……まだそんな事を」
なごみ
「ま、それは事実なんで」
レオ
「椰子……」
きぬ
「よっし、おかわりをもらってやる」
なごみ
「……ふん」
そう言いながらもおかわりを渡す。
スバル
「大人だ」
エリカ
「大人ね」
良美
「大人だよ」
「大人ですわね〜」
皆ちょっと驚いていた。
つうか本当に子供と大人の構図みたいだぞカニ!
椰子、食材に関してあそこまでムキに
なったりするなんてな。
料理に関して真剣なんだ。
意外だった。
レオ
「……姫は観戦してたよね」
エリカ
「うん、面白そうだったし」
笑顔で言ってくれるよこの人は。
「生徒の自主性を尊重しますわー」
やる気ナッシングだった。
きぬ
「……ねぇ、ちょっとこっち来て」
カニに人気のない所に誘導される。
レオ
「なんだよ?」
きぬ
「うがーーー! むっかつくーーー!!」
レオ
「なんだ、どうした」
きぬ
「さっきのボクの状態だよ! あれは
耐え難い屈辱だった!!!」
レオ
「なんだよ、素直に従ってたじゃん」
きぬ
「オメーとスバルからあんな風に言われると
体が動いちまうんだよ!」
レオ
「お前の教育は大変だったからなぁ」
人のペット食ったりすんだもんコイツ。
きぬ
「今になってだんだんムカツイてきたぞ」
きぬ
「なんか最後の方ボクの負けじゃなかった?」
レオ
「いや、最後じゃないよ。最初から全部負け」
きぬ
「うぐっ!」
きぬ
「だいたいボクがイシダイの気持ちなんか
分かるわけねーだろ! 人が魚の気持ちを
分かったようになる事こそが罪なんじゃね?」
じたばた。
レオ
「……俺に何をしろと」
きぬ
「このやり場のないストレスの解消相手になれ」
レオ
「ふざけんなよ?」
……………………
新一
「何でお前そんなにボロボロなの?」
レオ
「……カニと喧嘩してた」
くそ、なんで俺があいつのストレス解消相手を
してやらにゃならんのだ。
しかも口喧嘩と取っ組み合いの喧嘩。
この俺のストレスはどうしてくれる?
エリカ
「さて、食料を確保したし。後はいかに
明日夕方のお迎えまで愉快に過ごすかね」
エリカ
「そこで提案なんだけどね」
……………………
新一
「ふーん、肝試しか。いいんじゃない?」
乙女
「そうだな、異議はない。ただ単独行動は
念のため禁止する。2人1組にしよう」
「私は待機してますわ」
レオ
「あれ、こういうの好きな方かと思った」
「山の中に入るのはちょっと……」
レオ
「?」
きぬ  無音
「……」
自称霊感が強いカニはコチーンと固まっていた。
エリカ
「それじゃ早速アミダつくるわね」
良美
「エリーが率先して作るアミダほど
怪しいものはないんだけどな……」
エリカ
「分かってると思うけど、なごみんも強制参加ね」
なごみ
「いいですよ」
スバル
「およ、びっくり。反抗するかと思ったのに」
なごみ
「拒否したらここぞとばかりに臆病者のレッテルを
貼られそうですし」
スバル
「あぁ、そういうことね。負けん気の強いこって」
――アミダ実行フェイズ。
なごみ
「センパイとですか」
レオ
「なんか縁があるな」
なごみ
「ですね」
レオ
「実は椰子、少し嬉しいんじゃないか」
なごみ
「肝試し中に転落死というのは悲しい結末ですね」
レオ
「ごめんなさい、調子乗ってました」
エリカ
「よーし計算どおりに割り振れたわ
しかもなごみんと対馬クンも同じペアにしたし。
私ってすっごい親切」
エリカ
「対馬クン、お互い頑張りましょうね」
ぽん、と俺の右肩を叩く姫。
レオ
「?」
エリカ
「さてと、私とよっぴーで出発」
……………………
拝啓 対馬君。良美です。
わたしは今、肝試ししています。
なにが怖いかってオバケなんかよりも……
エリカ  無音
「……」
チャンス到来とばかりに獣の目でわたしの体を
舐めるように見てるパートナーがすっごく怖いです。
エリカ
「アウトドアー、よっぴーとアウトドア♪」
エリカ
「昨日の温泉じゃ乙女センパイに
途中で止められたけど」
きょろきょろ。
エリカ
「ここなら叫んでも誰もこないわね」
良美  無音
「……」
エリカ
「やだなぁ、冗談よよっぴー、冗談」
エリカ
「くすくすくすくす……」
良美
「あのエリー、あまり手をギュッて握られると……
痛いんだけど…………手……離して……」
エリカ  無音
「……」
レオ
「俺とお前が一番遅いペアだとさ」
なごみ
「……そうですか、最近組む事多いですね」
レオ
「あんまり嫌がらないでくれよ」
なごみ
「別に嫌ではないですよ」
なごみ
「勿論嬉しくも無いですけど」
レオ
「いちいちそういう事言わないでいいの!」
なごみ
「いいからさっさと行きましょう」
ふっ……でも椰子だって女のコ。
オバケが怖いってコトもありえる。
なんたって、あのカニがオバケ恐怖症だからな。
……10分経過。
なごみ
「どうしたんですかセンパイ」
なごみ
「……怖いんですか?」
レオ
「いや、別に」
こいつ、全然気にしてないな。
なごみ
「さっさといきましょう」
レオ
「おい、あんまり先行するな」
なごみ
「っ!?」
椰子が豪快につまづいた。
レオ
「おい、大丈夫か!」
なごみ
「痛っ……」
レオ
「お前近眼なんだから……眼鏡もせんと
夜道をスタスタ歩くなよ」
なごみ
「近眼言わないで下さい
……ちょっと悪いぐらいです」
レオ
「立てるか?」
なごみ
「立てますよ」
レオ
「じゃあ、行くか」
なごみ  無音
「……っ!?」
レオ  無音
「?」
なごみ
「何でもありません……センパイ
先行ってください地雷避けセンサーです」
レオ
「はいはい」
俺は先行して歩き始めた。
レオ
「あ、ここさっきみたいに木の根っこが
盛り上がってる。気をつけろ」
なごみ
「……はい」
レオ
「……」
なごみ  無音
「……」
なんか距離が開いてるんだよな。
レオ
「おい椰子、お前さっきので足痛めたんじゃないか」
なごみ
「……別に」
レオ
「本当かなぁ」
ちょん、と足首に軽いローキックを当ててみた。
なごみ
「っっっ……何を……」
レオ
「あー、やっぱり痛めてたなお前」
なごみ
「気にしないで下さい、歩けますから」
なごみ
「これぐらい、なんて事は無いです」
またローキックをいれてみる。
なごみ
「くっ……」
レオ
「ほら無理だ」
なごみ
「ロー……2発いれられた。2発目は強めに……」
レオ
「心に刻み込むな」
なごみ
「先行ってください。復活したら戻ります」
レオ
「あのね、山道に年下の女の子を置いていくほど
俺は落ちぶれてないぞ」
なごみ
「サバイバルでは、怪我をしたものは
脱落する定めです」
レオ
「が、そういうのを助けるお人好しも
出てきたりするだろ? ほら、肩かしてやる」
なごみ
「いいです」
レオ
「ぐたぐたぬかすと、無理やりおんぶするぞ!」
なごみ
「……なんて屈辱行為を……それだけは回避」
レオ
「ったく、いちいちこっちの言うことに
反発しやがって可愛くねーの」
なごみ
「意見されると反対したくなるんです」
レオ
「屈折してんのか子供なのか分からないやっちゃな」
ぐいっ、と肩を貸す。
椰子の重みがつたわってきた。
柔らかい感触もする。
レオ
「で、次の台詞は出発地点に戻る前で、この
体勢を解除しろ、だろ」
なごみ
「その通りです。変な想像されてはたまりません」
レオ
「自意識過剰」
なごみ  無音
「(ぎろっ)」
レオ
「(……)←怖くて視線を逸らす」
至近距離だとガンつけの威力があがっている。
そこからなんとなく気まずくて、2人とも無口だ。
椰子は上背があるから、同じテンポで
歩けて楽だった。
ただ、彼女の体温まで伝わってくる。
ちょっとドキドキするな。
レオ
「(ちらっ)」
なごみ  無音
「……」
椰子は平然としていた。
はぁ……タフなお方だ。
レオ
「……というか」
レオ
「椰子、お前体温低くない?」
人体というのはもう少し熱いような気もする。
なごみ
「……ああ、体質なんです」
レオ
「そうなんだ」
レオ
「(さすが冷血なだけある)」
なごみ
「失礼な事を考えてませんか?」
レオ
「考えてないよ。命かけるぜ」
そっか、体温低いのか。
どうりで夏場でもパンスト(だっけ?)
はけるわけだ。
なんか緊張している俺が馬鹿みたいだ。
……他のチームはどうしてるかな。
乙女
「おい、そこまでベタつくな歩きずらい」
きぬ
「こ、怖くない……怖くないもんね」
乙女
「その意地は立派だな。ま、何か
あっても私が横にいる限り守ってやる」
なでなで。
きぬ
「おおー、乙女さん頼りになるね」
乙女
「安心か?」
きぬ
「安心、安心」
………………
新一
「つーかさ、何でせっかくのキモ試しに俺は
お前と歩いてるの?」
スバル
「……知らね、アミダだろ」
新一
「むかつくから一発殴っていいか」
スバル
「殴り返すけど、それでいいなら勝手にしな」
新一
「やだよ、前にお前に殴られて歯が抜けたのは
忘れないぞ!」
スバル
「バーカ。あん時は自業自得だろうが」
……………………
レオ
「ここらでいいかな」
なごみ  共通
「……どうも」
なごみ
「足の事は秘密にしておいて下さい。
だいぶ回復しましたし」
レオ
「別に我慢するコトじゃないだろ」
なごみ
「皆にいろいろ心配させますから」
レオ
「いいじゃん、むしろ下級生の今こそが
心配してもらえるピークだぞ」
なごみ
「……嫌ですよ、そこまで親しくないのに」
レオ
「それはお前がそう思ってるだけ」
レオ
「……まぁ我慢するならそれでいいけど」
レオ
「俺は時々具合を聞くからな。辛かったら言えよ」
なごみ
「……分かりました」
レオ
「じゃあ行こう」
………………
出発地点には、帰還したチームが2組いた。
椰子は、さっさと小屋へ水を飲みに行ったようだ。
スバル
「よぉ、思ったより遅かったな」
新一  無音
「(くんくん)」
新一
「体から微妙に甘い匂いが
するんだけど、どういうコトかな」
レオ
「知らね」
新一
「てめぇ、裏切ったらタダじゃおかねぇからな」
レオ
「ち、血の涙」
というか、裏切りも何も約束してないし。
スバル
「そういえば姫とよっぴーの帰りが遅いな」
エリカ
「ちーっす、お待たせぇ!」
なんか生き生きとしていた。
良美  無音
「……」
佐藤さんはといえば。
憔悴しきっていた。
レオ
「おーい、大丈夫か」
良美  無音
「……」
目がうつろだった。
レオ
「……あのー、よっぴーさん?」
すっ、と肩に触れてみる。
良美  無音
「!」
佐藤さんの体が反射的にビクッ! となった。
そして距離をとり、肩を抱いてカタカタと
震えている。
レオ
「……あのー、姫? なんかパートナーこんなん
なっちゃってるんですけど」
エリカ
「んー何でもないよ。ねー、よっぴー」
良美  無音
「(こくこくこく)」
……深く詮索するのはやめておいた。
そんなこんなで2日目の夜も更ける――
体は疲れてるけど、なかなか眠れない。
やっぱ俺シティーボーイだ、環境の変化に弱い。
スバルとフカヒレはタフなことで、良く寝てる。
レオ
「はぁ……」
浜辺を少しうろつこう。
遥か彼方に見える街の灯。
明日には、自分もあの下に戻るのか。
なごみ  無音
「……」
レオ
「あれ、椰子じゃん。お前も眠れないの?」
なごみ
「危機を感じとり、非難してきたんです」
レオ
「避難?」
なごみ
「お姫様が、寝ぼけてると見せかけ人を襲ってます」
レオ
「やりたい放題だな、あの人」
そこがいいんだけど。
なごみ
「あそこまであけすけだと、怒る気もしません」
レオ
「そういえば、お前足は?」
なごみ
「もう本当に大丈夫です」
軽くローを放ってみた。
避けられた。
なごみ
「お返し」
ビシッ!
レオ
「こ、こんなに強くやってないだろ」
なごみ
「こんな蹴りが出来るぐらいだから
大丈夫ってことです」
レオ
「ちっ……」
なごみ
「それじゃ」
レオ
「なんだ、もう帰るの?」
なごみ
「寂しいんですか」
レオ
「馬鹿いえ」
椰子はくくっ、と笑うと颯爽と去っていた。
水着なので、お尻のラインが色っぽい。
レオ
「しかし、相変わらず淡々としてるな」
暇なので星を見る。
おぉ……すげー綺麗。
これなら何時間でも見ていられそうだ。
――4分後。
レオ
「……飽きてしまった」
だいたいどれが、どの星座か分からん。
レオ
「あの十字形の星座は……てんびん座?」
なごみ
「あれは白鳥座です」
レオ
「……つか、何でナチュラルに戻ってきてるの」
なごみ
「お姫様の不埒な悪行三昧が加熱してましたので」
レオ
「困った人だな……」
椰子も、砂浜に座った。
レオ
「……」
なごみ  無音
「……」
これはまいった。会話に困る。
波の音だけが聞こえる。
無言だと何か気まずい。
夏の浜辺、街の灯、静かな波の音、
邪魔者なし、俺達を見ているのはお星様だけ。
この状況下で俺は――
2人で星を見る
ナイスジョークで場を和ませる
気まずいので帰る
そうだ、ここはひとつ先輩として溢れる
知性を見せ付けて主導権を握るべきではあるまいか?
上を見る。
レオ
「あれは、……さそり座」
なごみ
「わし座、光ってるのはアルタイル」
レオ
「へびつかい座」
なごみ
「こと座ですセンパイ」
レオ
「天文学者?」
なごみ
「一般常識ですね。夏の大三角形とか
知ってますか?」
レオ
「小学生の時習ったけどもう忘れそうだ……」
レオ
「でも、カメレオン座とかふうちょう座
南の三角座とかはしっかり知ってるぜ」
なごみ
「それ、日本からは見えませんよ」
レオ
「そう、だから知ってる」
なごみ  無音
「?」
レオ
「日本から見えない、とかさ。そういうのって
なんかロマンがあっていいと思わない?」
レオ
「例えば“外海”とか“秘境”とか“天の南極”とか
そういう言葉に冒険心をくすぐられないか?」
なごみ
「……良く分かりませんけど。見てみたいとは
思いますね」
レオ
「うん、それで充分かな」
レオ
「良かったぜ、この意見までキモいとか
言われたらへこむ所だった」
なごみ
「というより、なんかガキッぽかったです」
レオ
「ちっ、そうかよ……」
レオ
「……海風が気持ちいいなぁ」
なごみ  無音
「……」
くっ、この沈黙っ子め、協調精神持てよ。
よし俺のナイス・ジョークでこの無味乾燥の
空気を笑いに染めてやる。
レオ
「なぁ、椰子。アメリカンジョーク言うからな」
なごみ  無音
「……?」
レオ
「牛をカウ」
なごみ  共通
「……はぁ?」
レオ
「くっそ……難しかったか
じゃあ普通のジョークで」
レオ
「男の子が海に落ちました」
なごみ
「ぼっちゃーん」
なごみ
「っていう陳腐なオチじゃないですよね」
レオ
「あ、あ 当たり前ジャン? 何イッテンダヨお前」
なごみ
「じゃあ何ですか、言ってみてくださいよセンパイ」
レオ
「ガキッ…… とか? ほら、岩場に落ちて」
なごみ  無音
「……」
レオ
「そんな汚いものを見るような目をするな!」
なごみ  無音
「……」
レオ
「哀れむような目をするのも禁止だ」
なごみ
「注文の多いセンパイですね」
一瞬場はしらけたが、会話に持っていく事は
できたみたいだ。
レオ
「そ、そんじゃ俺は寝る」
なごみ
「そうですか。ご勝手に」
椰子はいつものようにつーんとしている。
うーん、こ、このまま帰るのも
なんか情けないな……。
レオ
「そういえば、聞きたい事あるんだけど」
なごみ
「……どうぞ?」
レオ
「お前、進路希望調査に結局なんて書いたの?」
なごみ
「つっこんだ質問ですね」
レオ
「俺は普通に進学って書いた……」
レオ
「“とりあえず”な」
レオ
「お前も進学か?」
なごみ
「違いますよ」
レオ
「え」
意外だ。
なごみ
「あたしは就職です。フラワー椰子に」
レオ
「あ、そうか花屋だもんな。継ぐんだ」
レオ
「なんだずるいな。夢あるんじゃん」
なごみ
「……継がなくては“いけない”んです」
なごみ
「これは、夢とはいえません」
レオ
「あー、いや……」
レオ
「でもお母さん元気そうだったし、親父さんも
いるんだろ? 別にお前が継がなくても」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「父はあたしが小さい時に、病気で他界しました」
レオ
「そうなのか」
なごみ
「そして自分は1人っ子です」
なごみ
「ってわけです。疑問解決しましたか?」
椰子が立ち上がる。
レオ
「……お前、ずいぶん身の上を
話してくれたんだな」
なごみ
「話した、というかグチです」
なごみ
「センパイには好き放題言ってるんで、ついでに
グチも言わせてもらいました」
レオ
「好き放題言ってる自覚はあるんだ」
なごみ
「悪いとは思ってませんけど」
なごみ
「それでは。そろそろお姫様も
大人しくなったと思いますので」
レオ
「あぁ、おやすみ」
なごみ  共通
「……失礼します」
店を継がなくてはいけない……か。
なんかフに落ちない点がいくつもあるが……
まぁ、これ以上つっこんだ質問をしても
怒るだけだろう。
椰子がちょっとだけおしゃべりだったのは
こういう特殊なシチュエーションだからかな。
恐るべしバケーション効果。
なんだか少し距離が縮まった気がした。
それが少し嬉しかった。
ボコボコに言われても、先輩として気にかけてきた
甲斐があったというものだ。
……俺は姫を尊敬し、憧れてもいる。
……椰子はなんだか気になる。
そんな状態。
エリカ
「よっぴーの体をどこへやったのよ!」
きぬ
「ん、ボクが持ってるよホラ」
エリカ
「よっぴーをどうする気? 返してよ!」
きぬ
「食べるー。これはボクのだからねぇ
お前たちは他のものを食べなさい」
エリカ
「ふざけんじゃないわよ。みんなの食料よ!
せめて栄養になりそうなレバーよこしなさい!」
レオ
「君達何をやってるの?」
エリカ
「だから、一般人が陥りそうな
人間の本質ごっこだってば」
エリカ
「もう漂流して何も食べてない、衰弱死する者まで
出た極限状況、残り3話って感じ」
レオ
「良かった……姫達と一緒に本格的な漂流しないで」
エリカ
「む、何よその目は。言っておくけど
私は錯乱なんかしないからね
身につけた知恵で生き残るから」
きぬ
「ボクだってそうだよ。いくらボクが蟹沢でも
カニバリズムにはならないっての」
良美
「っていうか私がはじめに死ぬの確定なんだ……」
エリカ
「うん、それで私はよっぴーの死を乗り越えて
人間的に成長した設定なの!」
良美
「はぁ……そうですか」
エリカ
「大丈夫よ実際漂流した場合は、よっぴーを
死なせはしないから」
きぬ
「あーあ、それにしても今日でやっと還れるよ」
「田んぼにですか?」
きぬ
「田んぼって何さ? それじゃボクが田んぼから
やってきたみたいじゃない!」
なんかもう、ナチュラルに狂ってる気分。
………………
平蔵
「うむ、無事で何より」
約束どおり夕方に迎えに来た館長は
俺達を見てそんなことを言った。
平蔵
「皆ひとまわり大きくなったようだな」
良美
「……えぇ、心の傷が」
平蔵
「これも、いい思い出になるだろう」
良美
「……忘れたい事もあります」
佐藤さんがちょっと反抗的だった。
平蔵
「それでは松笠公園に帰還する」
新一
「館長! 忘れ物をしました」
平蔵
「何をだ」
新一
「……俺の心です」
なごみ
「気持ちわる」
新一
「……あれ、おかしいな……昨日ずっと
考えてたのに……」
だからあんなに無口だったのね。
平蔵
「島流しにされた事は他の先生達や生徒達には
秘密にしてある」
レオ
「それはありがたいですね」
乙女
「しかし、これは本来の島流しとは違う気がするな」
平蔵
「うむ。これはほとんどお遊びのようなものだからな
本当の島流しだったらお前たち今頃
とっても“良い子”になってる所だ」
恐ろしい……。
平蔵
「この島流しで、色々考えた事もあるだろう」
平蔵
「南の島でリフレッシュした、という事で
何かこの島流しをスイッチに活用するのも良いな」
レオ
「スイッチ?」
平蔵
「新たな事をはじめる起点、という意味だ」
平蔵
「お前達は若い、無限の可能性があるからな」
きぬ
「ボクにも無限の可能性!」
良美
「犯罪者になる可能性もあるけどね」
レオ
「……なんか今聞こえない程度に
すごい事言わなかった?」
エリカ
「ちっ、様子がおかしいと思えば……
ダークよっぴーだ」
レオ
「ダークよっぴー?」
エリカ
「いじめすぎると、時々ああなるの」
レオ
「姫の責任じゃん」
エリカ
「可愛いよっぴーの目が一本線なんて……
悲しい限りだわ」
レオ
「どうしたら直るの?」
エリカ
「水につけておく」
レオ
「そりゃ直るけどね確かに。命の危険もあるよ」
エリカ
「放置しておけば、そのうち自己修復するから
なんだかんだで、いい子だからね」
なごみ
「……スイッチ……か」
平蔵
「ただし、できれば今日から動き始めたほうが良い」
平蔵
「明日からでなく、今日から頑張る
これが人生の成否の分かれ道と知れ」
乙女
「さすが館長……胸に染みるお言葉です」
エリカ
「言われなくても私ははじめからその
モットーだけどね」
平蔵
「お前ぐらいに強靭な意志があれば
好きに動けるだろうがな」
平蔵
「なかなか普通の人間はそうはいかないものよ」
エリカ
「へーえ、そんなもん?」
なごみ  無音
「……」
新一  無音
「……」
…………………
レオ
「ようやく着いたぜ」
「最後くらいは、私が締めますわ」
「皆さん、家に帰るまでが強化合宿ですからね」
エリカ
「それはもう乙女センパイが言いましたよ」
「解散ですわー」
祈先生は一気にやる気を失ったようだ。
エリカ
「あ、ひとつ伝達事項あり。執行部は明日
普通に活動あるから。今週末は体育武道祭だから
気張ってね。それが終われば当分楽よ」
レオ
「了解」
……あれ、椰子いないぞ?
あいつ、この伝達事項聞いていたのかな?
姿を探す。
……あ、いた。
のどか
「なごみちゃん〜」
なごみ
「……げ」
のどか
「迎えに着たわよ〜」
なごみ
「娘がこの歳なのに、フツー来るか」
なごみ
「……さっさと離れて正解だった」
レオ
「あ、すまんちょっといいか」
なごみ
「う」
のどか
「どうも合宿中はなごみがお世話になりました〜」
レオ
「いえいえ」
なごみ
「あたしは先に帰るよ」
レオ
「椰子」
なごみ
「はい?」
のどか
「はい〜?」
レオ
「……娘のほうです」
レオ
「明日は普通に生徒会活動あるってさ」
なごみ
「了解」
のどか
「ちょっと今の返事そっけなくない〜?」
なごみ  無音
「(……)」
椰子は無言で歩いていってしまった。
のどか
「もうなごみちゃん、最近本当反抗期〜」
迎えに来てくれるなんていいお母さんじゃないか。
なんであんなお母さんなのに、ああいう娘に
なっちまったんだろうな。
乙女
「よし、私達も家に帰るぞ」
きぬ
「そうだねー」
スバル
「おーす。これでようやくレオの部屋で寝れるな」
レオ
「さりげなく図々しい発言だな」
こうして、ようやく俺達は帰宅した。
レオ
「もうヘロヘロだ……」
乙女
「おにぎりを食べて、体力回復といくか」
レオ
「食い物食って体力回復なんて乙女さんって
アクションゲームの主役になれそうだね」
乙女
「アクショ……何だって?」
レオ
「なんでもないでーす」
乙女
「今日は自分の布団で寝れるのもいい。
やはり寝るなら慣れた布団に限る」
乙女さんの口数は減ってなかった。
……ああ、疲れた。
軽く眠ってしまったため頭がボーッとする。
……風呂に入ろう。
レオ
「でも、まぁ合宿は楽しかったな」
ガチャリ
乙女
「……お前、もう1度あの島へ戻してやろうか」
レオ
「すいません、間違えました」
レオ
「いや、だから間違えだって言ってるじゃん……
待って、待ちなさい!」
乙女
「問答無用だ! 私は覗かれキャラではない!」
レオ
「みなもとっ!」
レオ
「や、やっぱりこういうオチ」
きぬ
「レオー、遊ぼうぜーっ」
馬鹿は元気でいい……。
校門は閉まる直前だった。
レオ
「……よし間にあった、ダッシュした甲斐があった」
きぬ
「はぁはぁ……危なかったね」
乙女
「もう少し時間に余裕を持って出てくるんだな」
きぬ
「レオのせいだ」
レオ
「カニのせいだ」
乙女
「責任のなすりつけあいをするな、醜いぞ」
乙女
「ほらレオ、またシャツが出ているぞ」
乙女
「蟹沢はネクタイが曲がってる」
テキパキと俺達の身だしなみをチェックする
乙女さん。
なごみ
「おはようございます」
乙女  共通
「おはよう」
レオ
「おはよう」
きぬ
「うーす」
きぬ
「挨拶とは殊勝じゃん。少しは世の中の仕組みが
その固い頭でも理解できたのかな」
なごみ  無音
「(無視)」
椰子はツーンとして行ってしまった。
乙女
「椰子はあれで服装はピシッとしているぞ。
あっちを見習え」
きぬ
「ちぇっ」
乙女
「どうした? 考え事か」
レオ
「あ、いや何でもないです」
あいつから率先して挨拶した事なんて
今まで無かった気がする。
少しはチームワーク向上したかな。
………………
エリカ
「執行部活動をはじめるわよ。合宿後の初活動なんで
チームワークって横文字を充分に発揮しましょう」
きぬ
「だってよ、ココナッツ。ボクの足を引っ張るなよ」
なごみ
「……ん? どこから声が? 低すぎて見えない」
きぬ
「おいおいさすが近眼は違いますね」
なごみ
「お前がチビなだけだ馬鹿」
きぬ
「よし殺す。表出ろ!」
なごみ
「……潰す」
2人はにらみ合いながら本当に表に出て行った。
レオ
「せんせーいやっぱチームワーク向上してませーん」
「先生は疲れましたわ。代休出ないと知って
鬱病5秒前ですわ……」
祈先生はソファーでぐてーっとしていた。
レオ
「そういえばダークよっぴーは?」
エリカ
「あぁ、今日同じクラスで過ごして分かったでしょ
もう直ってるわよホラ」
良美  無音
「?」
あ、本当だ、良かった。
エリカ
「それじゃ活動開始。散!」
ザザザザ……と四方に散っていく執行部軍団。
ノリのいいヤツラだ、ほんと。
………………
エリカ
「はい、お疲れ様。今日はここでお終い
明日もあるから宜しくね」
スバル
「ゲーセンでも寄ってくか」
きぬ
「オウヨッ」
新一
「あぁ、俺は悪いけどパス」
スバル
「あれま、珍しい」
なごみ
「……お先に失礼します」
レオ
「あぁ、じゃあな」
きぬ
「よぉココナッツ。ボク達これからゲーセン
行くんだけど来ない?」
お、なんだこいつフレンドリーじゃん。
きぬ
「得意フィールドに引きずり込んで
勝負して打ち負かし、心を陵辱してやるぜ」
前言撤回で。
なごみ
「遠慮しておきます」
きぬ
「ちぇ、相変わらず付き合い悪いなー
対戦格闘でボコボコにしてやろうと思ったのに」
……まぁ、でも。
挨拶するだけマシかもしれないな、椰子の場合は。
エリカ
「さて、諸君。今日も元気に体育武道祭の準備と
行きますか」
良美
「あの、その前にお客さんが来てるんだけど……
料理部部長の楊豆花(ヤン・トンファー)さん」
レオ
「うちのクラスじゃん」
豆花
「困た事あてネ。チカラ貸して欲しいネ」
エリカ
「用件を聞きましょーか」
………………
エリカ
「なるほど、体育武道祭活動に際しての
料理部のメンバーが足りない、と」
なごみ
「体育武道祭に料理部?」
乙女
「それはだな」
エリカ
「よっぴー説明キャラとしてキャラ立てていいわよ」
乙女  無音
「……」
乙女さんが説明したそうだった。
良美
「竜鳴館名物、体育武道祭は2日にわたって開催
されるビッグ・プロジェクトでローカルの
テレビ局も来るぐらいの地域名物なんだけどね」
なごみ
「そこまでは知ってます」
良美
「で、来訪者の数が多いんだけど、その人達に
“竜汁”をごちそうしてあげるのが
料理部のお仕事なの」
なごみ
「竜汁?」
良美
「けんちん汁みたいなもの
これも隠れた評判なんだよ」
レオ
「振る舞い物かぁ。そりゃあ本格的だなぁ」
エリカ
「人数が足りないのは痛いわね。もっと早く
言ってくれないと困るんだけど」
豆花
「この前までは問題なかたんだけどネ、
部員が“できました退学”してネ
もう大変て感じなのネ」
料理を作らないで子供を作るとは……。
きぬ
「あ、その話聞いた事ある、料理部の人だったんだ」
エリカ
「事情は良く分かったわ、で、料理が
できる即戦力の助っ人を見繕って欲しいと」
豆花
「さすが姫ネ。1人だけでいいんだけどネ、
料理ウマイ人を、生徒会の人に手配して
もらおうと思てネ、駆け込んできたのネ」
エリカ
「さて、試しに諸君の意見を聞きましょうか」
きぬ
「ボク、めんどくさそうだしパスね
いくら豆花(トンファー)のお願いでもさー」
レオ
「誰もお前には期待してないからな」
きぬ
「んだよ! レオん家ピンポンダッシュするぞ!」
レオ
「最近の小学生でもしないような発想すんな」
新一
「つうか、飯だったらスバルだよ」
きぬ
「まぁ、食事=スバルに連想だもんね」
スバル
「やな連想だな、おい」
きぬ
「スバルが光り輝く唯一の学校行事だもんね」
スバル
「褒めてんのか、けなされてるのか
分からねぇセリフだな」
レオ
「いいんじゃね?1度も光らないヤツいるし」
きぬ
「可哀想な人間だよねぇ」
レオ
「そうだな」
きぬ
「……一応聞くけどボクの事じゃないよね?」
レオ
「自覚してんじゃん」
きぬ
「てめぇっ……」
エリカ
「はいはい、そこまで。話が進まないでしょう」
エリカ
「ドラゴンカップの優勝候補スバル君を
裏方に回すわけにはいかないわよ
大いに盛り上げてくれなきゃ」
きぬ
「んー、そっかー」
「佐藤さんでいかがでしょうか? 推薦しますわ」
エリカ
「私とよっぴーは、生徒会代表として
当日も体育委員会をサポートします。
残念ながら手が回りません」
良美
「……すみません。力になりたかったのですが」
新一
「何、よっぴー。自分の技量なら
充分力になれる、と思ってるんだ」
良美
「えっ、えっ?」
新一
「なぁーんだ、結構自信家じゃんよっぴー」
良美
「あ、あの……その」
ズバァンン!
新一
「ぐほっ」
乙女
「女の子をいじめるな」
エリカ
「あーあ。フカヒレ君はよっぴー
困らせた罰として掃除当番ね」
新一
「控訴!控訴!」
エリカ
「私の命令は最高裁より重いから
控訴はナシよ」
新一
「うわ、めっちゃ横暴ですね!」
エリカ
「そりゃ、姫の渾名もらってるし」
レオ
「自業自得だろ、フカヒレ。
それにしてもお前って弱者や優しい
人間に対しては強くでるよな」
新一
「人聞きの悪い事言わないでくれぇっ」
きぬ
「事実じゃねー?」
乙女
「全く……」
土永さん
「落ち着きが無い奴等だな」
エリカ
「対馬クンはどう? 誰か知り合いいる?」
レオ
「ふーむ、料理の腕前があるやつねぇ」
乙女
「私に期待するなよ」
レオ
「あぁ、その点は絶対大丈夫です。乙女さんを
推薦したりしません」
乙女  無音
「……」
レオ
「ふーむ」
椰子が退屈そうに外を見ている。
こいつ、本当に我関せずなヤツだな。
もっと考えろよ――。
ん、椰子?
レオ
「――あ、そうだよな。出来るヤツいるじゃん」
レオ
「椰子、やってみれば」
なごみ
「――は?」
レオ
「料理部のヘルプ。料理上手いじゃん」
なごみ
「嫌ですね」
レオ
「椰子が抜けても執行部問題ない? 姫」
エリカ
「まー、なごみん仕事できるからチクッと痛いケド。
なんとかなるわね。入りたての1年に重要な
仕事なんてセッティングしてないし」
レオ
「だってさ、こっち気にする必要はないぜ」
なごみ
「だから嫌だって言ってるじゃないですか」
レオ
「でも、お前適格者なんだぜ? 弁当美味かったし」
レオ
「俺はお前の作った竜汁食ってみたいと思うけど」
なごみ
「……馴れ馴れしいですよセンパイ」
なごみ
「合宿でちょっと話すぐらいになって
調子くれてません?」
レオ
「なんだよ、そこまで過剰に反応すんなよ」
レオ
「執行部としての責務を言ってるんだ」
なごみ
「やらねーっつってんだろ。しつこいぞテメェ」
レオ
「な……」
エリカ
「あらあら聞きましたか専務」
きぬ
「今どきヤンキー言葉ですよ社長」
なごみ
「だいたい、あたしはピンチヒッターっていう話で
ここに来たのに、代わりが
全然来ないじゃないですか」
エリカ
「まだ“代わり”とか言ってるの? 冷たいなー
一緒に合宿した仲じゃない」
なごみ
「あれは、代理とはいえ執行部に身を置いているから
責任上、行ったまでです」
エリカ
「楽しんでたでしょー?
それにピンチヒッターがそのまま試合に
出続けるっていうのもあるケースよね?」
なごみ
「ハナっからあたしは代理どころか
本命だったって事ですね」
エリカ
「使えなかったら容赦無く切るつもりだったから
代理ってのは本当だけどね」
エリカ
「いいじゃん、だったらこれを機会に本格的に
入りなさいよ執行部」
なごみ
「お断りします」
エリカ
「あ、忘れてた。もう本格的に登録してたんだ」
なごみ
「……本当に身勝手な人ですね」
エリカ
「当たり前じゃない、有能な人材は逃がさないわよ」
なごみ
「とにかく、あたしが執行部であろうとなかろうと
この料理部の話はお断りします」
なごみ
「それじゃあ、そういうコトで」
椰子は身を翻し、生徒会室を後にした。
エリカ
「んー青々しい……可愛い……」
姫は、何故か心底嬉しそうに笑っていた。
スバル
「オマエ、気にすんなよ」
レオ
「今の俺の発言にどこか非はあるのか?」
スバル
「無ぇな」
スバル
「だがそれはオレ達の常識で、だ。
何がNGワードか何て人それぞれだからな」
レオ
「テンションに流されず言葉は選んだつもりだが」
スバル
「それでも、触れちまう時は触れちまうさ」
きぬ
「あれ、なんでレオがココナッツの料理の腕を
知ってるの」
レオ
「お前が俺の昼飯を盗んだときに弁当
ちょっと分けてもらったんだよ」
ぐりぐりとうめぼしをかます。
きぬ
「い、痛い痛い! ぐぉぉ……やぶへびだった」
スバル
「で、追いかけるのか少年?」
俺は……。
追いかける
追いかけない
レオ
「あー……寝覚め悪いな」
レオ
「俺はテンションに流されず生きる事が目的だ」
レオ
「何で気に障ったか研究し今後に役立ててやる」
スバル
「おーおー、ほんとに追いかけたぜ」
エリカ
「対馬クンも可愛いなー」
………………
レオ
「おい待て椰子」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「センパイと話す事は何も無いですね」
レオ
「なんでだよ……お前ワケがわからねぇぞ」
肩を掴む。
なごみ
「あたしに気安く触れるな、うざい」
レオ
「……ちっ」
レオ
「そういうキレたパフォーマンスはな。
後々後悔するぜ」
なごみ
「勝手に人のこと推薦して……」
レオ
「怒ってるポイントはそこなのか? 何故?」
なごみ
「余計なお世話って単語はここで使います」
レオ
「なんでそれが余計なお世話」
詰め寄る。
なごみ
「ウゼェな、だから干渉すんじゃねーよ
キモイって言ってんだろ」
椰子は去っていった。
……何故かキレていた。
俺、どこが悪い?
椰子の料理が上手いって褒めて
推薦しただけじゃないか。
女心、恐るべし。
土永さん
「あることないこと、あることないこと」
オウムうるせー!
レオ
「追いかけない」
きぬ
「ま、それこそがレオだよね」
レオ
「今の椰子はテンションがハイになってる、
ああいう時には何を言っても駄目さ」
スバル
「いつものオマエらしい意見だ」
スバル
「いつかは追いかけるオマエも見たいがな」
レオ
「何を言ってるんだか」
豆花
「なんかごめんなさいネ……
迷惑をかけたみたいで、気まずいネ」
エリカ
「ううん。まーいいわ。料理部の件は明日には
解決させるからそれまで待ってて」
豆花
「そう? お願いネ」
スバル
「何とかするって……具体的にどうするんだ?」
エリカ
「なごみんに出てもらうわよ」
スバル
「あんな状態でか?」
エリカ
「うん、手段は私に任せてね
何かさっきの態度見て、断然説得する気
出てきちゃった……」
……………………
レオ
「あーもう、なんなんだよ気分悪いな」
きぬ
「いい加減落ち着けって、ボクが頭撫でてやっから」
きぬ
「ほーら。レオは悪くない悪くない」
レオ
「痛い」
レオ
「それは頭を撫でているという行為ではなく
髪を掴んで、引っ張りまわしているだけだ」
きぬ
「んだよ、そっちがいつまでもウジウジしてんのが
悪いじゃん」
きぬ
「あんなんで怒る人種っつーのはさ、
怒るだけ怒ってしばらくすりゃ
ケロッとしてるもんだって」
レオ
「む……確かにありえない話ではないが」
きぬ
「ったく、レオも小者極まりないよね。
いちいち凹んでてさ」
レオ
「うっさいなーこいつ、鼻つまむぞ」
きぬ
「イタイイタイ! もうつまんでる!」
……はぁ。
こいつをからかってて気が晴れた。
あんま深く悩むのやめた。
しっかし何故あれで怒るのかが理解できない。
やはり他人を、“理解”するというのが無理か。
レオ
「……難しいなぁ。人付きあいは」
きぬ
「こいつ人が目を離したスキに
まーたへたれモードに入ってやがる」
きぬ
「しょーがないから、ボクがかまってあげよう」
レオ
「どわっ、離せ、それはかまうのではなく、
からまってると言うんだ」
………………
なごみ  無音
「……」
今日の気分は最悪。
あそこまでキレる必要は無かった。
いつもの場所に行く。
なごみ  無音
「……?」
この旋律は。
なごみ  無音
「――!」
なごみ  無音
「(演奏してる……)」
新一
「ふぅ」
なごみ
「……こんばんは」
新一
「うおっ、椰子」
なごみ
「……人が悪いですよ」
新一  無音
「?」
なごみ
「結局ここで弾いてるじゃないですか」
新一
「ああ、まぁな。一昨日から何だけど」
なごみ
「どうしてまた?」
新一
「島流しの帰りに橘館長が言ってたじゃん」
新一
「何かのスイッチとして考えろって」
なごみ
「ああ、あれ」
新一
「だから、まぁ頑張ろうと思ったわけ」
なごみ
「……それだけで?」
新一
「いや、本当は前からなんだかんだで
弾きたかったさ」
新一
「でも明日学校があるから、とか
天気が悪い、とかそんなフザけた
理由をつけては行くのやめてたからさ」
新一
「いい機会だなって思ったわけよ」
新一
「いやー、恥ずかしいけど、やっぱいいね
気合が入るよ」
なごみ  無音
「……」
新一
「す、すまねぇなベラベラしゃべって
人前で演奏してて緊張しているというか、
ハイになっているというか」
なごみ
「人前で演奏するの怖いんじゃなかったんですか」
新一
「あぁ……すげー怖いよ」
新一
「でも、それでもやってみたいんだ。好きだからな」
新一
「それに、俺はまだまだ下手で当然なんだ
例え笑われてもそれをバネに頑張ってみるさ」
なごみ  無音
「……」
新一
「何だよ、どーせキモイとか言うんだろ?」
なごみ
「いえ……」
新一
「あ、おい」
なごみ  無音
「?」
新一
「レオさ、今日のことでムカツイたかも知れないけど
許してやってくれないか」
新一
「いい奴なんだ、あれで。まぁ俺の方が
いいやつなんだけどね」
新一
「多分相当へこんでるからな」
なごみ
「そうですかね」
新一
「フツー、へこむよ、
みんなお前ほど強くないんだぜ?」
なごみ
「あたしだって、強いわけじゃないですよ」
新一
「ん?」
なごみ  共通
「いえ、別に」
なごみ
「……それじゃ、まぁ頑張ってください」
新一
「……あ、あぁ応援サンキュー」
新一
「……へっ、本人聞いたら怒りそうだけど」
新一
「あいつは、何となくスバルに似ているな
しっかり枠決めて
少しでも踏み込んでくるとキレる所とか」
新一
「でも、そういうのに限って心を許してもらえば
熱いもんだ」
おねーさん
「ねぇ、アンタ、見ない顔だね、
ギター持ってるけど弾けるの?」
新一
「ええ、ついこの前路上デビューしたばかりっす」
おねーさん
「へぇ、弾いてみてくれない?」
新一  共通
「オッス!」
なごみ  無音
「……」
なごみ  無音
「(頑張ってる……な)」
はっきり言って心の中で馬鹿にしていた
フカヒレ先輩に、あんな姿を見せられては。
……これはこのまま
腐ってるわけにも行かないのかな。
……やってみるか?
そう決心した途端。
細胞が踊りだす。
血が騒ぐ
あぁ、なんだかんだ言って。
――あたしはやっぱり今日の料理部の依頼、
やってみたかったんだって気付いた。
さーて、カニも帰ったし。
ボトルシップ作ってから、寝るか。
ピンポーン
レオ
「なんだ、こんな夜中に客か」
レオ
「乙女さん、誰だったの?」
乙女
「外に出てみたが誰もいなかったぞ」
ピィンポォォーーン
レオ
「あ、まただ」
乙女
「おかしいな、誰もいないぞ。……ん?」
乙女
「こんなものがあった」
なにやら落ちていたらしい。
○の中にカタカナで“ピ”と書いてある。
レオ
「こ、これは……!」
レオ
「ピンポン大魔王だ。ピンポンダッシュをして
その家の玄関に犯行声明ともいえる紙を
残していく愉快犯――」
乙女
「イタズラか、迷惑な存在だな」
ポンピーン
乙女
「鳴らし方も馬鹿にしてるな。仏の顔も三度、だぞ」
乙女さんは犯人を捕まえるべく出陣した。
新一
「あ、乙女さん」
乙女
「お前だったのか、成敗!」
新一
「ありがとうございま゛す゛!?」
レオ
「で、本当はお前なんだろ?」
きぬ
「あーもう生きていく気力しねーっす
両親には出涸らしと言われ幼馴染には
濡れ衣を着させられ」
レオ
「このベッドの下が怪しい」
きぬ
「あー、勝手に漁るなよ変態!」
きぬ
「だいたい証拠あんの?」
レオ
「つうか、目撃証言が出てる」
きぬ
「ありえないもんね、ボク隠れて押したもんね」
レオ
「はい犯人決定。俺のボトルシップ製作という
至福の時間を邪魔したその罪は重い」
持っていたコショウをふりかける。
きぬ
「な、なんだボクを食べる気かぁ!
……は、くしゅ、くしゅん!」
レオ
「そこでずっとくしゃみしてろ」
虚しい戦いだった。
レオ
「生徒会行くの気が重たい感じ」
きぬ
「こいつとことんチキンだなー」
レオ
「母性本能を刺激しやすい単語、繊細といってくれ」
レオ
「昨日俺は椰子怒らせたんだぞ、会うのを
気まずいと思うのは普通だよ」
きぬ
「後輩相手にビビってんじゃないって」
新一
「そうだぜ。股間についている短剣は
飾りじゃない、女を威嚇するためのものだろ」
レオ
「俺は短剣じゃないから、日本刀ぐらいはあるから」
スバル
「ま、オレは鉄槍ぐらいはあるがね」
きぬ
「オメーラ1回死んで来れば?」
レオ
「ま、まぁ決めたぜ。確かに甲殻類の言うとおりだ」
レオ
「俺は年下相手にはビビらねぇ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「わっ」
きぬ  無音
「……」
なごみ
「こんにちは、センパイ」
レオ
「こ、こんにちは」
なごみ  無音
「……」
スバル
「椰子は竜宮(生徒会室)へと向かったぞ」
新一
「もう怒ってないみたいね」
レオ
「ふふっ、なーんだ驚かせやがって」
きぬ
「……なさけなー。こんなんと幼馴染なのかボクは」
レオ
「うるせ」
………………
エリカ
「え、料理部のヘルプやる?」
なごみ
「昨日は場を乱してすいません」
エリカ
「どういう心境の変化?」
なごみ
「冷静に考えれば、やってみてもいいかって
感じなんですけど」
エリカ
「へぇー、ふーん、ほぉー」
皆も驚いている。
豆花
「助かるネ。さすが姫ネ。きちり説得してるネ」
豆花
「ヤシさん、よろしくお願いネ」
なごみ
「はい」
豆花
「明日が本番だから、まさしく今と
明日の朝が山場の仕事なのネ
ハードだけどよろしくネ」
なごみ
「……やってみます」
エリカ
「おぉー」
椰子はこれで責任感あるから大丈夫だろうけど。
しかし、いったいどういう心境の変化なんだか。
まぁ、下手に聞いてまたキレたらかなわん。
ここは黙っておこう。
…………
椰子は豆花さんと出て行った。
エリカ
「……ってな事でなごみんが抜けたけど
まぁ、ヘルプもいるし何とでもなるわ。
明日は本番だから頑張りましょう」
乙女
「今日は、仕上げのグラウンド整備だな」
エリカ
「それじゃ、グラウンド行って汗流してきてね」
姫が勢い良く立つと、ゴトリと
何かが落ちる音がした。
エリカ
「あ、説得道具が」
縄とガムテープとハンディカムと蝋燭。
エリカ
「ちぇ、これも無駄になっちゃったな」
……椰子はさっさと仕事を受けて正解だったな。
乙女
「私達体育会系はグラウンド整備だ」
スバル
「おーっす」
乙女
「気合を入れろよ! テレビも来るんだぞ」
洋平
「オス!」
新一
「このノリはちょっとな……俺は
飾り付けの方を手伝ってくるぜ」
レオ
「あ、てめー逃げるなよ」
洋平
「対馬。何やってるんだ生徒会執行部なら
はやく僕達を手伝ってくれ」
スバル
「もたもたしてっと怖いぜ」
レオ
「何が」
洋平
「鉄先輩に決まってるだろ、行くぞ」
乙女
「お前達、口を動かす前に手を動かせ」
ダーッ! とトンボをかけていく乙女さん。
あっという間に、姿が小さくなっていく。
洋平
「よし、僕達も遅れるな!」
スバル
「指図すんじゃねぇよ」
レオ
「ほんとほんと」
…………………
レオ
「あー、今日は疲れた」
乙女
「どうだ、皆とひとつの作業をやり遂げるのは
気持ちいいだろう」
レオ
「そうだね……2−Aの連中とは喧嘩ばっかしてた
気がするけど」
充実感はなかなかのものだった。
乙女  共通
「……体育武道祭は東西南北の軍に分かれての
ポイント制で争われる」
乙女  共通
「3−Aの私は2−Aと同じように東軍。
2−Cのお前は3−Cや1−Bと同じ
西軍。つまり東西で敵同士」
乙女  共通
「競技でぶつかった場合は容赦しないからな」
レオ
「うへー怖い」
そうか……乙女さんとは敵同士か。
姫やスバルが味方なのは心強いけど。
ん、1−Bも西軍って事は椰子も味方か。
2−Aの村田洋平や西崎さんはモロ敵だな。
なかなか白熱した戦いになりそうだ。
乙女
「今日はスタミナをつけるために
特製のおにぎりを作ってみたぞ」
乙女
「こっちにはとんかつが入っている」
レオ
「あの、この肉が丸々乗ってるのは
もはやおにぎりの領域を出てない?」
乙女
「スパムとご飯の間にマヨネーズが
入っているのが隠し味だ」
乙女
「さぁ、遠慮せず食え」
レオ
「ぐ、ぐむむ……」
おにぎりを無理やり口の中に押し込められる。
ま、まさかすでに東軍の攻撃ははじまってるのか?
それでも、おにぎりは美味かった。
体育武道祭――。
この1日目は比較的普通の“体育祭”だ。
順調にプログラムが消化されていく。
伊達スバル、男子徒競走1位。
スバル
「ま、本職が決めないとな」
洋平
「くそっ……やはり陸上では勝てないか……」
蟹沢きぬ、女子障害物競走1位。
きぬ
「どんなもんですかオメーラ」
レオ
「おぉー、さすがすばしっこいだけある」
イガグリ ホームラン競争 2位。
イガグリ
「くそー、2−Aの丸刈りに負けたべ!」
レオ
「2位なら充分だ、ドンマイ」
佐藤良美・霧夜エリカ 女子二人三脚1位。
エリカ
「今、もっともホットなカップルだからね」
良美
「対馬君も借り物競争次だよね、頑張って」
レオ
「うーし、任せとけ」
借り物競争、スタート。
えーと、何と書いてあるんだ。
“ダメ人間”
レオ
「っしゃ! 勝った!」
俺は急いで自分のクラスが応援している場所へ
向かった。
レオ
「さすがウチのクラス。よりどりみどり」
さて、誰を連れて行くかだ。
フカヒレ
カニ
レオ
「姫!」
エリカ
「ん、私?」
エリカ
「私が関わるんだから、絶対1位を狙うわよ」
レオ
「了解」
すったかたー。
良美
「わぁ……凄い速い」
レオ
「ゴォォォール!」
エリカ
「仏血義理ってやつねー」
「紙をチェックしますわ」
平蔵
「平等のために儂もチェックするぞ」
祈先生と館長が紙をのぞきこむ。
「……これは該当しませんわ。
まぁ結構かすってるとは思いますけど」
エリカ
「何で? 美しいブロンドとか、
かっこいい女の子とかそんなんじゃないの?」
レオ
「あ、見たらダメ……」
………………
エリカ
「納得のいく説明をしてもらおうかしら」
レオ
「や、だからその」
エリカ
「あれだけダメ人間が並んでいて、あえて私を
選んだ、その理由は?」
レオ
「ちょっと一緒に走って見たかった……ぐふっ」」
エリカ
「あーあ、もう。勝てる勝負を無駄に落として……」
エリカ
「いい、やる以上は勝つのよ。今度ふざけた
真似をしたら踏むからね」
レオ
「ぎょ、御意」
レオ
「行くぞ、フカヒレ!」
新一
「あん、俺かよ。お題はメガネ?」
レオ
「ハンサムをつれて来いってさ」
新一
「はは、そりゃあ俺だろ」
クラスの連中が驚愕の顔でフカヒレを見る。
レオ
「お前は会話すればするほど適格者だと思えてくる」
新一
「良し、急げ」
俺達はダッシュで到着した。
そしてゴォォォール!
祈  共通
「紙をチェックしますわ」
平蔵  共通
「平等のために儂もチェックするぞ」
祈先生と館長が紙をのぞきこむ。
「あらあら。ばっちりですわね」
「合格ですわ! 1位おめでとう」
レオ
「っしゃ!」
スバル  無音
「……」
エリカ
「ねぇ、ひょっとしてスバル君嫉妬してない?
何でオレ選ばないんだよ、みたいな」
スバル  共通
「さぁな」
エリカ  無音
「(鮫氷×対馬に嫉妬する図式……ドキドキ)」
良美
「はいはいエリー、どうどう」
レオ
「せっかくだから俺はこの甲殻類を選ぶぜ!」
きぬ
「おっ、何? まさか実は好きな娘とかか!」
レオ
「その自惚れた答え、まさしくお前は
求められた人材だ」
俺はカニの手を引っ張った。
きぬ
「引っ張られなくてもボクはついていくもんねー」
何がそんなに嬉しいのか、ダッと駆け出す。
俺とカニは肩を並べてゴールした。
「紙をチェックしますわー」
平蔵  共通
「平等のために儂もチェックするぞ」
祈先生と館長が紙をのぞきこむ。
祈  共通
「あらあら。ばっちりですわね」
祈  共通
「合格ですわ! 1位おめでとう」
レオ
「っしゃ!」
きぬ
「ねーねー、で。何て書かれてたの」
レオ
「馬鹿……そんなん俺に言わせるなよ」
後が怖いだろ。
きぬ
「う、うん……分かった」
何故か納得してくれたので良しとする。
なおもプログラムは続く。
レオ
「ウチのクラスも頑張ってるんだけど
東軍は普通に強いな……ポイント負けてるじゃん」
3年騎馬戦バトルロイヤル、生存、鉄騎(東軍)。
乙女
「東軍は負けん!」
あーあー、あの人も張り切っちゃってまぁ。
会場はかなりヒートアップしてる。
良く見ると、来客者はかなりの数になっているぞ。
そういえば椰子はどうしているだろうか?
料理部はこの来賓達や父兄達に名物である
竜汁を作って配らなければならない。
その合間に競技に出たりしなくちゃ
いけないので大変だが。
まぁ配るのはいろんな委員が手伝ってるけどさ。
なごみ
「センパイ」
レオ
「?」
何か声をかけられたので振り返ってみる。
知らない人が立っていた。
レオ
「えーと?」
なごみ
「何をボケッとしているんですか」
あぁ、この容赦の無い敬語は……。
レオ
「……って、椰子?」
メガネをとる。
レオ
「おお、椰子だ」
なごみ
「他に誰がいると」
レオ
「驚いたな、どうしたの」
なごみ
「推薦したのはセンパイですよ」
レオ
「?」
なごみ
「あたしの作った竜汁を食べてみたいとか
言ってたのセンパイなんですけど」
レオ
「……あ」
そういえば、言った。
2日前に確かに。
レオ
「よく覚えていたな」
なごみ
「根に持っていたと言って下さい」
レオ
「で?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「?」
なごみ
「だから……どうぞ」
差し出される。
なごみ
「いらないなら、他いきますけど」
レオ
「あ、そうか」
選手が食べても問題は無いのだ。
レオ
「もらいます」
なごみ
「ちょっと熱いです」
確かに熱い。
食べてみる。
レオ
「……うっ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「美味いじゃん」
レオ
「やっぱお前料理、上手だよ」
お世辞ではない。
なごみ
「……こんなの、不味く作る方が難しいですよ」
レオ
「そんなもんかね?」
む、でもこれ本当いい味してるな、さすが名物。
レオ
「……もう一杯いいか」
なごみ
「……どうぞ」
なごみ
「競技前に食べ過ぎても知りませんけどね」
レオ
「椰子はなんか競技でるの?」
なごみ
「1年は3種目後に徒競走があります」
レオ
「そっか東軍として応援してるぜ」
なごみ  共通
「どうも」
熱い汁を一気に飲み干す。
レオ
「ごっそさん。美味かった」
なごみ  共通
「……どうも」
オジサン
「おー、姉ちゃん、こっちにも持ってきてくれ」
なごみ  共通
「……それでは」
レオ
「あぁ、わざわざサンキュな」
なんか淡白な会話だったけど。
持ってきてくれたのは嬉しい。
オジサン
「おおー、こりゃうめぇよ、姉ちゃん」
なごみ
「……どうも……」
あいつ人から素直に誉められると嬉しいのかな?
エリカ
「ちょっと熱い……よっぴー、ふーふーして」
良美
「うーんそんなに熱くないと思うんだけどなぁ」
エリカ
「あー。そんなこと言うと猫舌の会の会長
ベアトリーチェ博士に報告するわよ
猫舌の気持ちを分からない輩がいるって」
良美
「わ、分かったよう、ふー、ふー……」
エリカ
「で、なごみん……椰子さんはしっかり役目
果たしてた?」
豆花
「そうネ、すごい無口なのは驚いたけどネ。
料理上手くて、助かたネ、
あれは、相当場数を踏んでるネ」
豆花
「無口といても、しかりやる事は
やてるしネ、嫌な感じはしないのネ」
エリカ
「そ。優秀な人材を派遣できたようで何より」
良美
「エリー……美味しそうだから
うっかり飲んじゃった」
エリカ
「む。地味だけど効果的ね。何の仕返し?」
良美
「や、やだな、そんなんじゃないってば」
豆花
「ふふ、まだまだいぱいあるからネ」
新一
「1年の女子徒競走か。可愛い子はいるかな」
1年の徒競走ゴール地点には
西軍には姫、東軍には乙女さんと
それぞれの軍のアイドル的存在が待機している。
要するにゴールした軍団員に
頑張ったな、と声をかけてあげる役目だ。
レオ
「フカヒレ、ちゃんと西軍の応援をしろよ」
スバル
「お、次のランナー美人がいると思ったら椰子だぜ」
レオ
「あいつ速いのかな?」
生意気なお前には勝つ姿が似合ってるんだぞ。
勝ってみせろ椰子。
スバル
「はじまったぞ」
レオ
「や、椰子速いな……」
お前陸上部? と言いたいような疾走。
あいつは、脚も凄く速かった。
新一
「あっという間に1位だぞおい……」
スバル
「フォームが綺麗だ。何気に運動できるな」
新一
「あれで性格がしとやかだったら
実は大人気だったかもなぁ」
レオ
「……いや」
レオ
「あいつはあれでいいんじゃない?」
スバル
「……ふーん」
………………
その日は大いに盛り上がって終わった。
乙女
「東軍がリードだな。明日の後半戦も
気は抜かないぞ」
乙女さんは家でもハイだった。
………………
おっといけない、ベッドでうたた寝しちまった。
風呂入らないと。
乙女
「入ってるからな」
レオ
「うーす」
ガチャ。
レオ
「――え?」
乙女
「お前、入っていると言っただろうが!」
レオ
「あ、そ、そうか、ごめん。俺、本当に
寝ぼけてて」
乙女
「覚悟は出来てるだろうな」
レオ
「ま、待って! 体育武道祭は明日もあるんだよ。
敵軍の選手を怪我させるのは
スポーツマンシップに反するよ!」
乙女
「む……確かに」
レオ
「(やった、チョロイぜ)」
乙女
「――なんて言うと思ったか! 根性無しが」
レオ
「ギャー!」
体育武道祭の熱い戦いは続いていた。
というか、6月30日に体育祭ってどうよ。
本当に暑くてやってられないんですけど。
――さらに、アクシデントが起こった。
「どうですか、痛みますか?」
スバル
「痛っ……正直ちょっとキツイな」
レオ
「クラス対抗男子棒倒し、勝ったのはいいけど
スバルが拳痛めるなんてな」
良美
「人が多くて見れなかったけど、なんで
痛めちゃったの?」
レオ
「では、再現VTRどうぞ」
新一
「守備は俺に任せとけ」
洋平
「2−Cの棒は僕が倒させてもらうぞ」
新一
「うわぁ、村田洋平だ! もうだめだ」
スバル
「フカヒレ、危ねぇぞ、ボケっとすんな!」
レオ
「この後、スバルはフカヒレをかばって……」
きぬ
「んだよ、つまりフカヒレのせいかよ」
スバル
「いや、怪我したのはオレの自己責任だ」
エリカ
「――まずいわね。東軍との差は三千億ポイントよ。
次のドラゴンカップで西軍の誰かが優勝しないと
東軍に追いつけないで2位確定になっちゃうわ」
ドラゴンカップ――男子格闘技戦でスバルが
エントリーしている。
体育武道祭の花形種目で、得点も高い。
スバル
「すまねぇな肝心なトコロで」
エリカ
「ううん、今まで各種目で1位いっぱいとってて
充分貢献してるわよ、気にしないで」
まぁ、確かにこれだけ貢献してくれたスバルを
責めるのは酷な話だ。
しかし、次の格闘技戦どうすれば。
西軍でスバル以外に強そうな人はいないぞ。
西軍は弓道部や剣道部の実力者が多いらしいが
格闘技向けじゃないからな。武器禁止だし。
よほどの喧嘩屋がいない限り拳法部が
多い東軍に勝てない。
「……このまま2−Aの東軍に負ける事は
屈辱ですわね。というより私の生活が……」
新一
「おいおい、何暗い顔してんだよ、エヴリバディ」
新一
「諦めたら、そこで試合終了だよ!
皆で頑張ろうよ! くじけちゃだめだよ!」
レオ
「……く、こいつのせいでスバルが怪我して
悩んでるってのにムカつく」
新一
「まぁまぁ。俺もエントリーしてる事を忘れたか」
新一
「俺がスバルのかわりを果たせば文句ねーだろ」
…………
新一
「そんな微妙って顔すんなよ。俺には知恵がある」
新一
「この頭脳を巧みに使い、1位を狙ってやる
不戦勝が多くなるだろうがな」
新一
「そして、俺はクラスのヒーローになり
姫やよっぴーみたいな美人達に
ちやほやされる、と」
新一
「完璧なプランじゃねぇか」
レオ
「……ダメだこりゃ」
きぬ
「それに卑怯な手を使ったのが明るみに出たら
西軍、失格になっちゃうよ」
レオ
「く……何か方法は無いのか」
「手がないコトもありませんわ」
レオ
「え、本当に?」
「私が愛読している本に禁断の呪術として
“4と3/4チャンネル”というのが載ってます」
レオ
「……どんなのそれ?」
「大気中に漂う電波を集めて、生贄を
別の人格に仕立て上げる技ですわ」
レオ
「怪しげな……非現実的すぎる」
レオ
「で、それは簡単に出来るの?」
「はい。ですがフカヒレさんの身体の保障は
できませんわ。それでよろしくて?」
エリカ
「うん、いいんじゃない」
軽っ!
エリカ
「何事もやってみなくちゃね」
新一
「エエー どうしようかなぁ」
「フカヒレさんが適任ですわね」」
「頭からっぽの方が電波つめこめますから」
新一
「ぼ、暴言だッ!」
エリカ
「あれ? フカヒレ君びびってるの?」
新一
「そんなわけがない」
新一
「俺やるぜ。姫の為に勝つよ」
レオ
「……扱いやすいやつだな」
「それじゃ、早速儀式を始めますわ」
「皆さん。魔法陣の作成に協力して下さいね」
レオ
「本格的なんだな」
「おそらく気分の問題かと」
レオ
「よし、本によるとそこにDEATHと書く」
エリカ
「えーと、こっちはPAINね」
洋平
「なんだなんだ、2−Cがまた変な事してるぞ」
紀子
「なになに?」
レオ
「はいはい、部外者立ち入り禁止」
エリカ
「えーとこれで魔法陣の作成完了、と」
きぬ
「で、生贄が必要なら持ってくるけど何かいるの?」
「この本によれば生贄は憑依される
本人自身ですから、問題はありませんわね」
きぬ
「なーんだ。じゃさっさと始めようよ」
良美
「えぇ、も、問題あるんじゃないかな」
良美
「ここに(注)召還時に生贄には激痛が走ります、
具体的にはバイクで引きずり回された後に
レスラーに大技をかけられるような痛みだって」
「しー」
「それでははじめる前に」
祈先生が紙を取り出す。
「フカヒレさん、ここに拇印をお願いしますわ」
新一
「ボインは先生の胸じゃん。なーーんちゃって」
祈  無音
「……」
新一
「すいません、俺を見捨てないで。
でもその視線にちょっとゾクゾク」
フカヒレが拇印を押す。
「それでははじめますわ。対馬さん、こちらの
紙を持ってて下さい」
レオ
「あ、はい」
何の紙なんだろう、見てみよう。
……これから起こる事に関して
一切の責任を学校側に問いません。
(教訓)誓約書は良く見ましょう。
「来たれ来たれこの者の腸を供物とし
第8世界より来たれ」
新一
「ねぇその呪文おかしくない?
何か血なまぐさくない?」
「……よって、この生贄の魂と命捧げる」
新一
「ちょっと勝手に捧げるなって、姫が悲しむ」
エリカ
「ん、別に悲しまないよ?」
パリッ……パリリリリッ
フカヒレの頭上で紫色の静電気が輝いた。
新一
「お……おおっ、い、痛い、痛いっ」
「チャンネルが開きますわ」
新一
「痛いっ、あ、なんかレスラー来た、痛っ」
新一
「おっ……おおぉおぉおおぉぉおぉお!?」
レオ
「一体、誰が乗りうつるというんだ!?」
新一
「えー、関東地方は発達した高気圧の
影響で明日以降も快晴が続きますが、
週明けからは梅雨に逆戻りといった……」
レオ
「公共放送の電波を受信してますが」
「体に不可視のアンテナがたったって事ですわ。
後は降りてくるのを待つだけ」
「少しばかり電波の具合を調節しますわね」
レオ
「今度はいいのが来いよ!」
新一
「それではお友達を紹介してもらいましょう」
レオ
「チャンネル行き過ぎ」
きぬ
「ええーっ、もうーっ?」
レオ
「お前はあわせるな」
「微調整、微調整……と」
新一
「あっ……何か来ちゃいます、来る来る
来るのぉぉぉーーーっ」
レオ
「お、おい大丈夫か?」
きぬ
「ドクター・エリカ大変です! このままでは
クランケが持ちません」
エリカ
「大丈夫、いける!」
レオ
「いけるらしいぜ」
スバル
「おい何か様子がおかしいぜ」
新一
「あっ……あがっ……アァッ……い……」
新一
「いためて いためて いためて」
きぬ
「何を?」
「あと一押しですわ」
新一
「こっ……こげちゃうー」
バシュウウウウ……
「儀式……完了ですわ」
なんかウチのクラス非常識だよな。
所で、い、生きてるのか?
スバル
「おいフカヒレ、お前大丈夫か?」
新一
「――誰がフカヒレだ」
レオ
「何っ!?」
新一
「シャークと呼びな」
スバル
「こ……こりゃスゲェ! 無敵だぜ?」
レオ
「あぁ。このバトル、勝ったな」
きぬ  共通
「皆さーん、大変長らくお待たせしました。
体育武道祭のメイン行事、最強の戦士を決める
格闘技戦・ドラゴンカップを行います」
きぬ  共通
「優勝者の軍にはドカンと三千億ポイントが
加算されまーす。細かい事はいいませーん
派手に戦(や)ってくださーい!」
きぬ  共通
「なおアナウンスはボクこと
竜鳴館のマスコットであり
2−Cの精神的支柱・蟹沢――」
スバル  共通
「あいつマスコットなのか」
良美  共通
「は、初耳だね……」
レオ
「勝手に言ってるだけだろ」
きぬ  共通
「解説は、拳法に詳しい
鉄乙女先輩にお願いしてまーす」
乙女  共通
「よろしく頼む」
きぬ  共通
「それじゃゲスト兼コメンテーターとして
竜鳴館を束ねる霧夜エリカ生徒会長、
何か一言お願いします」
エリカ  共通
「戦う男の人って素敵。頑張って!」
姫のサービス精神旺盛な激励。
ウォォォォォォォォォ!!!!
戦士達が咆哮する。
きぬ  共通
「なお、審判は生まれるのが遅すぎた竜、
竜鳴館館長・橘平蔵!」
平蔵  共通
「この場で長く語るは無粋!
漢(おとこ)ならば――」
平蔵  共通
「拳で語れ!」
きぬ  共通
「おぉーーっと! ヘリから投下された
鉄鋼を拳で砕くという予算の無駄遣い極まりない
パフォーマンス! 破片は誰が片付けるのかぁ?」
きぬ  共通
「しかし現代日本で平気でこんなことをやってのける
アナクロな精神力! そこにシビれるアコがれる!
男は皆橘平蔵のような戦士になりたがっている!」
スバル  共通
「なりたがってねーよ」
きぬ  共通
「テレビカメラが回ってます、雑誌のカメラマンも
多数おります。いい所見せれば見返りにもてるかも
しれません。太陽よりも熱く燃え上がれ戦士達!」
きぬ  共通
「さーて、それでは1回戦第1試合から
行ってみようか! いきなり優勝候補が
登場だ! 2−Aの理性を持った狼、村田洋平!」
洋平
「僕が優勝して、最強を証明してやる!」
乙女
「いい顔つきをしている。立派なものだ。
戦士はこうでなくてはな」
紀子
「が、がんばってー!」
洋平
「だー、あんまはしゃぐな。恥ずかしいだろ」
きぬ  共通
「そして対戦相手は2−Cの隠し球・鮫氷新一!」
洋平  共通
「おいおい、フカヒレが隠し球って難儀なギャグだな
お笑いバトルじゃないんだぞ?」
新一
「ククク……」
洋平
「ち ょ っ と 待 て」
乙女
「ほう、鮫氷も戦いを前にして気合が
入っていて凄いな。別人のようだぞ」
洋平
「っていうか、DNAからして違うだろコレ
あからさまにおかしいぞオイ」
新一
「ククク……ウルセーヤツだ。
拳で語るんだろ、この場所は?」
平蔵
「うむ。漢 ら し く て 実 に 良 い」
きぬ
「さぁ、第一回戦! 今こそ魂の覚醒の時!」
きぬ
「リューメイファイト、レディー! ゴッ!」
カーーーーン!!
新一
「シャーッ!」
洋平
「うぐはっ!」
きぬ
「おーーーっと、メッタ打ちだぁ!
とまらない、とまらなぁい!!」
平蔵
「そこまでっ」
きぬ
「1R32秒、テクニカルノックアーウトッ
気の毒に村田選手はもう虫の息だぁーっ」
紀子
「く〜 く〜(よーへー、だいじょぶ?)」
洋平
「お……お前達……怪しげな反則……技
しやがって……ズリーぞ……」
新一
「ヴァーカ。事実は1つだけ。お前は
負けたんだよ。くけけけけけけけけ」
「そして勝ちは勝ちですわ、ほほほほほほほ」
きぬ
「爽やかな笑いが場内にこだましております」
きぬ
「優勝は2−C、鮫氷新一! 西軍に
3000億Pが加算されまーす!」
レオ
「やったぜ、これで1位の東軍とポイント並んだ!」
スバル
「フカヒレ、お前のおかげだぜ」
スバル
「……フカヒレ?」
新一  無音
「……」
返事がない。
余りに強力な電波は、人体を破壊するという。
――フカヒレは、もう動かなかった。
レオ
「フッ、フカヒレーーーーーー!!!」
宵の明星が輝く時、1つの光が空に召されていく。
……それが俺なんだ……
平蔵
「東軍と西軍のポイントが並んでいるが……
竜鳴館に引き分けなど存在しない」
平蔵
「決着つけるまでとことん戦うべし!」
観客席からワァーッ! と歓声が上がる。
平蔵
「そこで、東軍と西軍による代表戦での
決着をつける……種目は!」
「どうぞ。くじ箱ですわ」
平蔵
「うむ。この箱の中には様々な種目が書いてあってな
無造作に1枚引かれた種目に決定する」
ごそごそ、とくじを引く館長。
ゴクリ、と一同が唾を飲む。
平蔵
「ほほう、これは恐ろしいものを引いてしまったわ」
平蔵
「竜鳴館名物・男女混合ドッヂボール!」
ざわ……ざわ……
「あらあら大変。担架の用意が必要ですわね」
レオ
「何かまた嫌な予感がするな」
平蔵
「それではルールを説明する」
平蔵
「女子が男子に当てたらポイント!
しかし! 男子が女子にダイレクトにボールを
当てたら退場+ノーポイントとなる」
平蔵
「ただし、女子が意図的にボールに当たった場合
ポイントになり退場もなし」
平蔵
「また外野はボールを当てても
内野に戻る事は出来ない! 時間制限も無い!
“生き返り無し”の殲滅戦である!」
平蔵
「さらに、“総大将”を決めてもらう。
総大将には特権が与えられ、タイム中であれば
内野と外野を自由に行き来する事ができる!」
平蔵
「内野が0になった時点でゲーム終了だが
大将が死亡になったその時点でも
ゲームは終わる」
平蔵
「つまり勝つには敵を全滅させるか、
敵大将の首をあげるか!
実際の合戦を模したドッヂボールだ」
スバル
「顔面狙いは?」
平蔵
「女子が投げるときのみ顔面も許される」
スバル
「おっかねぇルールだな」
平蔵
「あとは、細かな違いがあるが大まかな
ルールは同じである」
平蔵
「審判は儂がやろう。平等に審査してやる」
平蔵
「東軍、西軍。それぞれ12名の戦士を
召集せよ。男女の数は6人6人。
各学年からメンバー最低3人は出すように」
1〜3年、男女混合戦。
両軍は作戦会議に入った。
鉢巻先生
「西軍の2年生は6人出して欲しいんだ
2年は活きがいいからね」
スバル
「それじゃ、格闘戦に出られなかった分
こっちで気合いれるぜ」
エリカ
「優勝決定戦なら私もいかないとね」
きぬ
「へっへっへ。血をみなきゃ収まらないね」
2−C 伊達スバル
2−C 霧夜エリカ
2−C 蟹沢きぬ
2−Cきっての好戦派が名乗りを上げた。
イガグリ
「お、俺もいくべ! 2−Aの丸刈りには
負けられないべ! あのヤロウは野球部の
マネージャー取り合ってる恋敵だべ!」
野球部のマネージャーって、あの養豚場に
行くと間違えて解体されそうな娘か?
デブ専だったのか、イガグリ……!
鉢巻先生
「うーん、他にはいないかな? 男女1名ずつ」
東軍の2年生がシーンとなる。
ドッヂボールは、怖い人は怖い
スポーツだろうからな。
鉢巻先生
「誰か選出してくれないと困るんだけどな
じゃあ先生が教師権限で決めちゃうよ」
鉢巻先生
「対馬レオ、佐藤良美」
レオ
「ええっ、何でさ」
鉢巻先生
「生徒会の人間はこういう時、人身御供に
なるもんだよ」
良美
「でも、足を引っ張ると思うんですけど」
鉢巻先生
「謙遜は良くないよ。佐藤さんは
運動神経、わりといいの知ってるからね」
マジか……。
顔を見合わせる俺と佐藤さん。
なごみ  無音
「……」
レオ
「あれ、お前もメンバ−?」
なごみ
「……こういうの強そうだからって」
レオ
「まぁ、そういうイメージはあるな」
レオ
「でも出る限りは気をつけろ、怪我しないようにな」
なごみ
「大袈裟」
レオ
「いや、大袈裟でもないんだよなぁ」
東軍の方を見る。
洋平
「ボクシングでは不覚をとったがな……
ドッヂボールで血の海に沈めてやる」
洋平
「行くぞ西崎! あいつらブッ倒す!」
紀子
「くぅー!!(おー、ぶったおーす!)」
乙女
「東軍の指揮は私がとる」
東軍総大将 鉄乙女
2−A 村田洋平
2−A 西崎紀子
レオ
「……な? 乙女さんが総大将だぜ」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「へっ、ココナッツもメンバーかよ
せいぜい背中に気をつけな」
レオ
「お前、友軍を攻撃したら軍法会議だからな」
スバル
「西軍の総大将はどうするんだ」
エリカ
「対馬クンで」
レオ
「何で俺? 姫じゃないの?」
エリカ
「大将っていうのはね、ボールがビュンビュン
飛んでくるのよ? 普通は男のコの役目よ
それを女のコにやらしちゃ恥なのよ?」
レオ
「そりゃ、そうだが……東軍は乙女さん……」
乙女さんはウォーミングアップなのか、
片手で逆立ちして腕立て伏せしていた。
まぁ、例外だろうなアレは。
良美
「あ、でも対馬君なら鉄先輩も遠慮するかも」
レオ
「それはない」
エリカ
「西軍のリーダーは対馬レオでいきまーす」
決定かよ……。
平蔵
「カメラを多く設置しました。コートの
様子が分からない人は各モニターをご覧下さい」
来客者用のモニターまで用意されている徹底ぶり。
そして見えない所で賭けが行われているハズだ。
A組生徒
「洋平ちゃん、俺達東軍の勝ちに
賭けて来るけど、試合に出ちゃう洋平ちゃんのも
賭けとこうか?」
洋平
「おーありがとうさん。頼む」
洋平  無音
「(あーでも、持ち合わせ少ねぇな)」
洋平
「おい、西崎。財布の金、貸せる分だけ僕に貸せ」
紀子  無音
「?」
洋平
「新しいカメラ買いたいだろ?
信じろ、1時間後には倍にして返してやる」
紀子  無音
「(こくこく)」
洋平
「これで全部東軍に賭けてきてくれ」
洋平  無音
「(よし……これで一財産だぜ。いろんな
意味で負けられない戦いってワケだ)」
平蔵
「それでは両軍前へ! 握手!」
観客席から怒号が聞こえる。
賭けなどが終わって応援する側を決めて
エキサイトしているのだろう、
きぬ
「敵同士だけどよろしくねー、クー」
紀子
「く――♪」
ガシッ!
紀子
「く……?」
きぬ
「ふっふっふ……クーは何だかんだで運動神経
凄ぇから、真っ先にボクが撃墜してあげるよ」
レオ
「お前、もっと爽やかにしろ」
洋平
「よろしくな、伊達スバル」
スバル
「レオ以外の野郎と握手なんかしねぇ主義でな」
洋平
「……相変わらず腹の立つクラスだな」
乙女
「まず私は外野で指示を出そう。私の他に
元外野(戻れないけど)は1名で充分だ」
レオ
「俺は外野に回る。あと1人、元外野を頼む」
大将が外野へ行くのは当然だ。
当てられたら、その時点で負けなんだから。
これでお互い外野2人、中に10人!
乙女
「やるからには勝つぞ!」
レオ
「それはこっちの台詞だっつーに!
ここまで来て負けるかよ」
スバル
「しかしドッヂなんて小学生以来かもしれねーな」
レオ
「あの頃は、ガキ大将が“俺はどこに当たっても
セーフ”とかいうフザけたルール作って困ったぜ」
スバル
「あん、そんなヤツいたっけか?」
レオ
「お前が前歯全部折ったやつだよ」
スバル
「おーおー。あれか」
洋平
「バイオレンスなやつらだな」
平蔵
「ジャンプボール!」
紀子  共通
「!」
エリカ
「それじゃあ、私が行くわ」
館長がボールを高く放り投げた。
紀子
「え……いっ!」
西崎さんが高く飛ぶ。
相当バネがあるらしく、かなりの高度だ。
飛んでいる姿も絵になって美しい。
――まぁ、相手が悪すぎるけどね。
エリカ
「もらいっ」
姫の手がボールをはたき、味方へ。
姫の跳躍力もかなりのもので、西崎さんよりも
さらに高く飛んでいたのだ。
紀子
「くぅ……」
乙女
「西崎、気にするな」
ジャンプボールはこちらが制した。
そのボールをカニがキャッチ。
嫌な予感がした。
きぬ
「ジャンプボールのスキをつかせてもらうぜっ」
あろうことか、カニは体勢を立て直しきっていない
西崎さんにボールを投げた。
紀子
「いたっ……」
きぬ
「っしゃあ! まず一匹公開処刑!」
平蔵
「反則、ダイレクト! 東軍ボール」
きぬ
「えぇえぇぇええええ!? 何でさ」
レオ
「この甲殻類! 試合開始直後はいきなり
ジャンパーにボールぶつけちゃダメなんだよ」
きぬ
「んだよ、殺し合いにそんなルール
必要なのかよヘイゾー!」
平蔵
「スポーツである以上、最低限のルールは守るべし」
きぬ
「くぅ、ボクが実戦向きすぎたか」
洋平
「はっはっは、馬鹿な奴らだね! 結局はこっち
ボールでやらせてもらうぞ」
レオ
「その村田ってヤツは要注意だぞ!」
赤王
「キシャア! ほざけ2年坊主! 西軍の
陣地にはこの剣道部主将、3−Cの赤王がいる!
お前の指示など無くても俺がいれば万事OKだ!」
……誰?
2メートルぐらいある赤王先輩は豪快に笑った。
いきなり濃いキャラだが、頼りにはなりそうだ。
洋平
「赤王先輩は後回し……まずは伊達スバルお前だ!」
村田は思いっきり振りかぶって、投球した。
スバル
「は、甘ぇんだよ!」
スバルがなんなく捕球する。
スバル
「こんな球、怪我に関係無くとれるぜ」
洋平
「……ふっ、さすがにやるな」
乙女
「そうだ、それでいい」
体育会系はこっちに歯ごたえがある事が
分かると嬉しそうに笑った。
やだやだ、熱血君達は。
こっちはあくまで冷静にやってやる。
レオ
「よーし、西軍反撃だ」
歓声が上がる。
一気に場が盛り上がった。
あぁ、大将って結構快感かも。
(今はボールに当たる心配が無いし)
きぬ
「っしゃ、そのボールよこしなっ」
カニがスバルからボールをひったくった。
平蔵
「反則、W(ダブル)内野パス! 東軍ボール」
きぬ  共通
「えぇえぇぇええええ!? 何でさ」
レオ
「この偉大なバカ! 内野同士、外野同士の
パスは禁止だ。外野を経由して回してもらえ」
洋平
「よーし、またこっちボールだな。
外野からの攻撃でお前達を仕留めてやる」
洋平
「外野の鉄先輩へパスまわせ」
きぬ
「甘いぜっ、取られたら取り返ーす!」
敵外野へのパスをカニがカットした。
洋平
「何っ!?」
見かけによらず、凄い跳躍力だった。
きぬ
「うおりゃあ、ダッシュ投げ――」
平蔵
「反則、キャリング! 東軍ボール」
きぬ  共通
「えぇえぇぇええええ!? 何でさ」
レオ
「このスライム! ボール持って3歩以上走るな!」
平蔵
「反則3回目により、きぬアウト! 外野へ!」
きぬ
「がーん! 東軍超強ぇ!」
洋平
「おい、僕達は何もしてないぞ」
なごみ
「……馬鹿だ、馬鹿すぎる」
内野人数 東軍10人 西軍9人
乙女
「よし、この調子で撃破していこう。西崎!」
紀子
「くーっ!」
西崎さんがボールを投げる。
それは女子が投げるにしては勢いも
強さも充分だった。
3年女子  無音
「!」
女子の先輩が、それに直撃してしまう。
レオ
「ドンマイドンマイしょうがないですよ」
内野人数 東軍10人 西軍8人
きぬ
「ボクの時とは態度が違うぞ年上スキー」
レオ
「テメェは自爆だろ!」
洋平
「はははっ、仲間割れしてるぜあいつら。
偉いぞ西崎、後でプリンおごってやるからな」
紀子
「く〜(←頭なでられて喜んでいる)」
レオ
「よし、外野の数は3人だし俺は内野に戻る
大将は自由に行き来できるからな」
洋平
「総大将が内野に入ったが、余計なマトが多すぎる。
西崎、まずは女子を掃討してくれ」
紀子  無音
「(こくこく)」
洋平
「当てやすそうなヤツから当てちまえ」」
紀子  共通
「くーっ!」
今度のボールも気合充分だった。
狙われたのは――椰子か!
なごみ
「く!」
ドン、という音ともに彼女の体が一瞬跳ねる。
だが、胸の下できっちりボールを
がっちりとキャッチしていた。
洋平
「何っ! あの速度のボールを臆さず取るとは……」
なごみ
「なめんなよ?」
紀子
「く――……」
洋平
「西崎の球を姫以外で捕れる女子が
西軍にいたとはな……皆下がれ」
なごみ  無音
「……」
目線でどう? と聞いてくる椰子。
レオ
「あぁ、たいしたもんだ」
レオ
「よし、気にいらないヤツにぶつけちまえ」
なごみ
「OK」
ギラッと目を光らせる。
こいつ殺る気は充分だ。
椰子は2歩歩いてから、思いきり相手に
ボールを投げた。
フォームもなかなか様になっている。
1年女子  無音
「!」
相手の1年女子の肩に命中する。
ボールは相手陣地に転がってしまったが
1人倒したのだから良し、だ。
つーか、相手が顔をかばって肩に当たって事は。
……顔面狙ってた?
なごみ
「ち、惜しい」
おそろしい女だ。
乙女
「いい球を投げるな椰子。威力、速さ。
女子としてはかなりの高威力だぞ」
なごみ  共通
「……どうも」
乙女さんの声にはまだまだ余裕があった。
内野人数 東軍9人 西軍9人
乙女
「これでこっちの外野の数は私をいれて3人だ。
パスをまわして来い」
洋平から乙女さんへの高速パス。
乙女
「そこ」
目にも止まらぬ速度で内野の西崎に中継される。
この高速パス回しに、内野は俺を含めて戸惑った。
レオ
「やべ、今狙われたら……」
紀子
「くっ!(気合入れてボールを投げる)」
良美  共通
「わわっ」
狙われたのは、佐藤さん。
エリカ
「おっと! 危ない」
バシッ!
良美
「エリー!」
きぬ
「おーっ、ナイスキャチ姫!」
佐藤さんをかばいつつ、きっちり捕球している
あたり姫は流石だった。
エリカ
「私の可愛いよっぴーにボールを当てさせはしない」
良美
「エリー……」
さりげなく所有権を主張され佐藤さんは嬉しくも
フクザツそうだった。
エリカ
「今度は私が行くわ、よっ!」
低めスレスレのボールが、相手の
足を狩るように飛んでいった。
スピード、破壊力はなかなかのものとはいえ
正面に来れば男に捕れない球ではない。
だが捕りずらい足元への送球。
そして女は女に投げるであろうという、
気の緩みが相手男子にはあった。
その盲点をついた攻撃。
結果、ボールは見事3年男子の脚に命中。
スバル
「姫、男に当てるとはやるじゃねぇか」
しかも、当たった球はノーバウンドで
2年男子の脚部に命中。
さらに、そのボールは1年男子の足にも当たった。
彼らは一箇所に固まりすぎていたのだ。
女子にボールが投げられると思い、視野を
広くしてあげるためにも男子は端の方へ
固まって寄っていたのである。
そして、姫は女子の方を見ながら男子の方に
投げる、というフェイントまで使っていた。
3人同時は出来すぎとはいえ、1人は倒せて
当然の攻撃だ。
平蔵
「東軍、3人まとめて外野へ!」
観客がワッ! と騒ぎ出す。
洋平
「さすがは僕の憧れる女性だ……」
洋平
「とはいえマズイな、男が一気に
3人持っていかれるとはな」
ボールを当てられた3人の男子は気まずそうに
外野へ向かった。
内野人数 東軍6人 西軍9人
これで一気に形成は有利になった。
スバル
「……は、どうした東軍さんよ。
オレ達まだまだピンピンしてるぜ」
洋平
「調子に乗るなよ」
スバルの挑発にあっけなく乗ってくる村田。
ブン、と地面を巻き上げるような
低空のライナー弾をスバルに投げてきた。
スバル
「狙いがバレバレだぜ?
これに当たってやるほど甘くねぇ」
弾をすくいとるようにしてなんなく
キャッチするスバル。
なごみ
「へぇ、なかなか」
エリカ
「やるじゃない」
きぬ
「レオー! スバルの方がかっけぇぞ!」
レオ
「うるせー! わざわざ言うな」
レオ
「よし、砲撃開始! 撃ちまくれ!」
とりあえず威厳を見せる為に指示しておく。
スバル
「さて、たまにはいい所を見せないとなっ」
威力、スピードともに申し分なかった。
ドゴオーーッという快音。
スバルの剛球は、見事に同学年の男子に
命中していた。
洋平
「僕狙いじゃないとはなっ!」
乙女
「ち……やるな」
なごみ
「まだまだ」
味方陣地にリバウンドしてきた弾を
椰子がキャッチする。
なごみ  共通
「ふっ!」
3年男子  無音
「!」
顔面を狙われ、慌ててかばう相手のイケ面男子。
結果、相手の手のひらに見事にブチ当たった。
なごみ
「チ。惜しい」
レオ
「いや、だから顔面狙わなくてもいいってば」
きぬ
「まだボールは生きてんぞ。へい、姫パース」
エリカ  共通
「それっ」
矢のような弾が敵チームのメンバーに当たる。
内野人数 東軍3人 西軍9人
西軍から拍手喝采があがった。
きぬ
「まさに疾風怒濤の攻めだね」
エリカ
「これはもらったわね」
良美
「あはは、なんとか無事に終わりそうだね」
レオ
「凄いな、みんな大活躍じゃないか」
なごみ
「センパイは活躍していませんね」
レオ
「るせーな、これからだよ、これから」
なごみ  無音
「……」
洋平
「ふん、いい気になるなよ西軍。
まだ僕がいるんだからな」
村田はそろそろ潰すか。
レオ
「質問。パスって何回まであり?」
平蔵
「4回まで認められる。5回目には投げろ」
レオ
「ふむ……よし、パス回すぞ」
高速でパス回しが行われる。
洋平
「ち、結構早いな」
きぬ  無音
「!」
カニから俺へ矢のようなパス。
だが、あえて俺はとるふりをして
そのパスをスルーした。
その後ろ、ラインギリギリにいたのはスバル。
幼馴染コンビネーション。
洋平
「しまった……」
スバル
「目の前だな。終わりだ、洋平ちゃんよ」
紀子
「よーへー!」
ばっ、と西崎さんが飛び込むようにして
かばいに入る。
洋平
「西崎?」
スバル
「何っ!」
どぉんっ
紀子
「かふっ……」
西崎さんには、スバルの剛球を
まともに胸に受けた。
いくら彼女が運動神経が良くても、スバルの
球を取れるはずが無い。
もちろん、西崎さんが割り込んできたので
カウントありだ。
紀子
「けほっ……けほっ、けほっ、ごほっ、ごほっ」
洋平
「お、おい……西崎。お前なんで僕をかばった」
紀子
「よ、よーへー、ごほ、ごほっ、だ、
だ……だ……いじょ……ぶ?」
洋平
「馬鹿野郎! 当たった自分の心配をしろ!」
平蔵
「西崎の行為は故意のものとしアウトと判断!」
紀子
「く〜………」
西崎さんはのろのろと立ち上がり。
体を引きずるように外野へ歩いていった。
エリカ
「……西崎さん、あーいう態度かーわいい」
スバル
「女にかばわれるとは。たいした美談だな色男」
なごみ
「くっ……くっくっく………」
きぬ
「悲しい? なーにすぐに後を追わせてやんよー」
きぬ
「外野で仲良く再会すんだね。あははははははは」
エリカ
「さぁ、次の獲物は誰かしら?」
レオ
「なんか俺達が悪者って感じがしてきたぞ」
赤王
「キシャァ! やはり西軍が最強だな!
俺達を倒せるものがいるか!」
乙女
「ここにいるぞ」
レオ
「なにっ……」
まさかあの人が、と思うより早かった。
乙女さんがズイッと前に出る。
ついに総大将が動くらしい。
乙女
「タイムだ審判。私が内野に戻る」
乙女
「西崎、大丈夫か」
紀子
「う〜……いた……い」
乙女
「そうか。可哀想にな……見てろ」
優しく西崎を抱きしめる。
乙女
「あいつら全員、私が倒してやるからな」
紀子  共通
「う、うん!」
スバル
「乙女さんが来たか……警戒に値するな」
エリカ
「対馬クン。大きくリードしていても
大将が仕留められたら終わりなのよ。
外野へ戻りなさい」
確かにそうだ。
レオ
「じゃあ審判。俺は外野へ」
きぬ
「どっちが大将なんだかねー」
内野人数 東軍3人 西軍8人
平蔵
「東軍ボールでスタートする!」
洋平
「鉄先輩、すいません……不甲斐ないばかりに」
乙女
「いい。雑念にとらわれるな。今はただ、
敵チームを殲滅するのみ」
洋平
「は……はいっ!」
乙女
「それでは、行くぞ」
風がピタリとやんだ。
まるで嵐の前の静けさ。
ぞくっ……
背筋にイヤなものを感じる。
エリカ
「……まずい、本気だわコレ」
スバル
「やべぇぞ想像以上だ! めいっぱい下がれぇ!」
スバルが叫んだのは、姫が佐藤さんの
手を引っ張って限界まで後退するのと同時だった。
赤王
「キシャア! てめぇはチキンだ伊達」
乙女
「そらっ」
赤王
「……キシャア?」
それは、綺麗な閃光だった。
まさに光線。
レオ
「エェー」
赤王
「あれ、走馬灯が……」
断末魔すらない。
ボールは竜巻のようになって仁王立ちしていた
赤王先輩を体ごと吹き飛ばした。
ドゴォオンン!!
辺りがシーンとなる。
赤王先輩はコートの遥か後ろの方に
吹っ飛ばされて、壁にめりこんではりつけに
されたような格好になっていた。
ボールはその腹にズブズブとめりこんでいる。
きぬ
「ありえねー!」
平蔵
「赤王……気絶確認」
「まぁまぁ大変、担架で保健室へ」
慌てて担架――医療班が出動する。
一気に東軍から大歓声が沸きあがった。
内野人数 東軍3人 西軍7人
レオ
「……おいおい」
スバル
「冗談だろ……」
なごみ  無音
「……」
洋平
「ちょっぴり気の毒だが。こりゃ勝負あったな」
西軍の士気が一気に上昇している。
乙女
「ふむ、凄い歓声だな。
可憐な乙女が頑張る姿に心を打たれたという事か」
レオ
「図々しい事を言いながら勘違いしているぞ」
きぬ
「どーすんのさ、アレ。ビームだよビーム」
レオ
「うーん」
エリカ
「あー。私が大将じゃなくて良かったー」
そりゃ女には無理だよアレは。
すでにボールじゃねぇよ、砲弾の領域だよ。
スバルにアレとれる? とアイコンタクトを送る。
無理らしい、ま、そりゃそうだ。
レオ
「スバルにとれないということは、全員無理だ。
乙女さんに投げられたら即死じゃねぇか……」
乙女さんは戻ってきたボールをバムッと
地上でバウンドさせていた。
乙女
「おい内野に戻らないのか? お前に投げてやるぞ」
俺に死ねと?
レオ
「嫌だ」
乙女
「ふっ、この根性無しが」
乙女
「大将同士の一騎打ちを申し込んでいるのにな」
レオ
「だが断る!」
レオ
「この対馬レオ、自分が強いと思ってるヤツに
NO! と言ってやる事が楽しみでね」
エリカ
「おーい使い方間違えてるわよーその台詞」
洋平
「鉄先輩、ボール持ちすぎです!」
平蔵
「オーバータイム。1人ボールは5秒まで。
鉄(くろがね)。ボールを相手に渡して」
乙女
「しまった、私としたことが」
スバル
「どうにかこっちボールか……」
姫がボールを確保している。
エリカ
「要するに相手チームにボールを
とられないように投げればいいんでしょ」
姫が冷静に、ボールを投げる。
敵の一番弱そうなやつにボールが当たり、
ボールは計算された角度で味方陣地へ戻ってきた。
平蔵
「アウト! 西軍は残り2人!」
エリカ
「今みたいに方法はいくらでもあるわ
浮き足立たないで」
レオ
「よし、残り2人だぜ」
乙女
「さすがにやるな、姫、
レオなんかよりよっぽど大将に向いている」
乙女
「次に私がボールを持ったら姫を
狙撃させてもらうぞ」
エリカ
「上等。いいわよ、やってみれば?」
指でカモン、と乙女さんを挑発する姫。
うーん、気が強いって素晴らしい。
「対馬さーん。霧夜さんの方が
よっぽど総大将らしいですわー
しっかりしてくださいなー」
皆同じこと言わなくてもいいっつうに。
ようし、大将の威厳を外野から見せてやる。
俺はパスを回してもらい、狙いを村田に定めた。
レオ
「食らえ! 大将の一撃! 獅子咆哮破!」
なかなかいいコースに飛んでいく。
ガシッ!
洋平
「甘いな対馬。僕だって捕球には自信あるんだ」
レオ
「くっ、こいつガッチリキャッチしやがって」
きぬ
「頼りになんねーなー」
エリカ
「ま、期待してないケド」
なごみ
「やれやれですね」
レオ
「……」
そのまま外野を中継し、東軍はボールを
乙女さんにパスした。
乙女
「予告どおり、覚悟してもらうぞ姫」
エリカ
「だそうよ。皆私から離れて離れて」
なごみ  無音
「……」
エリカ
「まぁ任せなさいって。対策は考えてあるんだから」
乙女
「いい度胸だ。ならば見事受けてみろ」
ゴッ!!!
レオ
「あらやだ奥さん、なんか炎みたいなオーラ
出てますわよ」
きぬ
「まったく熱血君には困ったものですわ」
乙女
「行くぞっ」
必殺の閃光が姫を狙う。
この稲妻のようなボールをいったいどうやって。
エリカ
「よっ」
姫が素早く体を翻す。
標的がいなくなったボールはそのまま
敵の外野に――
男子生徒  無音
「――」
ドガアァァンッ!
敵の外野は断末魔を放つことなく、
ボールに体ごと吹っ飛ばされた。
高く舞い上がったボールは、そのまま
俺達の味方陣地に落ちてくる。
エリカ
「ね、避ければいいのよこんなもん
そうすりゃ敵の外野に直撃するんだから。
もともとドッヂは避けるって意味なんだし」
レオ
「いや、あれを避けるだけでも相当な度胸と
動体視力と反射神経が必要なんだけど」
乙女
「やるな……さすが姫だ。取るのは無理だが
避けるのはたやすい、か」
直撃した敵の外野は泡を吹いていたので
担架で運ばれていった。
威力がありすぎるとこうなるのか。
まぁ姫の場合はこれで撃墜されないだろう。
エリカ
「さぁ、味方がこうなるともうその球は
投げれないわよね」
洋平
「姫の言うとおり……敵が避けると自分達に
直撃が来るとわかって味方外野が怯えてますよ」
洋平
「棄権者が続出したら失格……つまり負けに
なってしまいます」
乙女
「ち、士気の低下になってしまったか」
洋平
「だから、レーザービームは撃たないほうが……」
乙女
「気合で何とかならないか?」
洋平
「なりません、ウチの部活と同じには行きません」
ちょっとあいつらに同情する。
エリカ
「敵の内野は総大将の乙女センパイ含め後2人」
スバル
「洋平ちゃんよ。テメェはそろそろ墜ちな」
きぬ
「おい、村田! ここでわざと当たったら
くー(西崎)の胸のカップを教えてやる」
洋平
「なんだと!」
洋平
「そ、そんなものに僕は興味ない黙っていろ」
きぬ
「なんかもうオートマのギアに書いてある
みたいなサイズらしいぜ」
洋平
「Pだと!」
そのスキに、スバルが投げた低め
ギリギリの球が村田の足に直撃した。
洋平
「しまっ……」
きぬ
「Dだバーカ」
スバル
「イェス!」
乙女
「何をやっているか……馬鹿者が」
スバル
「ナイスコンビネーション」
エリカ
「しかもまたこっちボールだし。いい感じね」
洋平
「くそっ、あいつら汚いマネを」
紀子  無音
「(じーーっ)」
洋平
「そ、そんな純真な目で僕を見るな!」
きぬ
「よっしゃー! 後は乙女さんだけだ
ほれ、スバルパース」
スバル
「うーし、終わらせてやるぜ」
スバル
「乙女さん、悪いけど手加減しねえぞ」
乙女
「いつでも来い」
スバルは躊躇わなかった。
2歩だけ走ると、同時に大きく跳躍する。
スバル
「オレの見せ場だぜ!
レオ、カニ! 良く見てろ」
空中に浮かぶ体。
スバル
「はぁぁぁぁっ!」
叫びながら、必殺の一撃を投げつけた。
きぬ
「スゲェ球だ! 絶対とれねー!」
暴力といえるほどの剛速球が乙女さん
めがけて飛んでいく。
常識なら女子はもちろんのこと、男子でも
これを取るのは不可能なハズだ。
――だが。
乙女
「ふっ、オーバーなわりに威力は低い」
レオ
「……あの球を片手でとめやがった……」
相手は常識などという2文字で括れる
人じゃ無かったのだ。
スバル
「……男としての自信が喪失しそうだぜ」
がくっとスバルが膝をつく。
エリカ
「全く……デタラメもいい所ね乙女センパイ
どうやったらそんなものを取れるのかしら?」
乙女
「答えは――――」
乙女
「気合だ」
きぬ
「……気合ってスゲェんだな」
平蔵
「鉄(くろがね)の一族は、戦場で飛び交う弓矢に
対する対策も練って、己を鍛えてきたと言うからな
飛び道具に耐性があるのも頷ける」
乙女
「ふっ……さぁ反撃だ。いくぞ姫
今度のは避けられないぞ」
エリカ
「ふん、面白いじゃない」
姫は臆することなくピシッ! と構えをとった。
これだ、こういう所が姫はキレイなんだよな。
乙女
「はぁぁぁぁ……」
さらに乙女さんから闘気があがり大地が揺れる。
……外野でよかった、俺。
エリカ
「げ、まず。あれで砲撃してきたら
私の防御力じゃ防ぎきれないわね」
良美  共通
「だ、大丈夫エリー?」
エリカ
「よっぴー、私あなたと会えてよかった」
良美  共通
「エリー……」
……これ、ドッヂボールですよね?
竜鳴館恐るべし。
乙女
「行くぞ」
乙女さんの投げ方が変わった。
横からのサイドスローだ。
エリカ
「……? さっきと比べると随分大人しい……
でも重そうだから捕ると痛そうだし
(思考時間0.02秒))」
エリカ
「やっぱり避けよっと! はん、これの
どこが避けられない球なんだか!」
――だが。
姫が避けたと同時に、ボールは追尾するように
姫の方向へグイッとカーブした。
エリカ
「チッ、変化球! でも体をひねれば
避けられる(思考時間0.01秒))」
エリカ  無音
「(!)」
エリカ
「後ろによっぴー! 取るしかない」
なんと姫は避けずに、そのまま無理な
体勢で球を捕球した。
エリカ  無音
「……!!!!」
ズドーン! という鈍い音。
その華奢な体が宙に浮かぶ。
姫の後ろにいるのは佐藤さんだった。
佐藤さんを守る為に姫は自分を犠牲にしたのだ。
エリカ
「……っと」
転がることなく、綺麗に着地する姫。
しっかりと球を両手でキャッチしていた。
だが、体はとっくにラインを超えていたのである。
平蔵
「見事な捕球だが、ライン外なので霧夜はアウト!」
洋平
「よし! これでめぼしいのは伊達だけだ!
後はたいしたヤツはいないぞ!」
紀子
「くー! くー! くー!」
なごみ  無音
「……」
乙女
「佐藤を守ったか。いい心意気だな」
豆花
「アウトだけど、やぱり凄いネ姫は。
よぴー守て、あの球も捕て。流石ネ」
男子生徒A
「全くだ、たいしたもんだぜ、てっきり人を
盾にするタイプかと思った」
周囲から、いや、敵からも姫のプレイに
対してワッ! と拍手が起こった。
良美
「ありがとね、エリー」
良美
「……エリー?」
エリカ
「この私が負けた、途中で消えた。よっぴーのためと
はいえ屈辱極まりない、あの乙女センパイを
私の手で撃墜しなければ――」
良美
「お、怒ってる」
姫が自分の手をふーふーしながら外野に来る。
レオ
「残念だったね」
エリカ
「手の皮めくれちゃった」
レオ
「うわ、痛そう……保健室に」
エリカ
「それは大丈夫」
エリカ
「乙女センパイのボール。痛かったけど見ての通り
捕球できたわ。変化してくるものは
威力がめっきり減ってるから取れるわよ」
レオ
「よし、オーバースローだったら避けろ
サイドスローだったら取れ!」
なごみ
「だ、そうですよ」
スバル
「簡単に言ってくれるぜ」
エリカ
「何とかボールを取り返すのよ
そうすれば私が外野から乙女センパイをやる」
カキッと指を鳴らす姫。
どうやら相当ご立腹の様子。
レオ
「できるの?」
エリカ
「さっきまでの乙女センパイの戦い方と
この手の怪我で閃いたわ。
勝算100%。任せなさい」
頼もしい人だな。
平蔵
「東軍ボールで再スタート!」
乙女
「お前達、数が多いな。減らすぞ……
姫は一気に3人だったが私にかかれば……」
乙女さんが今度は振りかぶってボールを投げる。
乙女
「殄戮撞球弾!」
バッ! と威力が弱めのボールを投げる。
あれなら、当たってもさほど痛くは無いが
常人はまず避けられない。
良美
「うぁっ!」
イガグリ
「痛っ!」
佐藤さんからイガグリへ。
人から人へバウンドして次々と当たっていく球。
まるで意志をもっているかのようだった、
なごみ
「くっ!!」
スバル
「ちぃっ! 冗談じゃないぜ」
椰子とスバルが素早くバックステップしてかわす。
運動神経の良さと、ボールから目を離さない
度胸の良さが幸いしたのだ。
だが、この2人以外にはノーバウントで全員命中。
洋平
「よし、ボールはこっちに来たな」
佐藤さんを含む、一気に4人がアウトに
なってしまった。
しかも、ボールは敵外野へと渡った。
平蔵
「東軍、4人アウト! 残り2人!」
レオ
「……人間技を使ってくれよな」
平蔵
「鉄……恐ろしい生徒よ」
良美
「ご、ごめん、エリー。当たっちゃった」
エリカ
「怪我が無いならそれで何より」
洋平
「さすが鉄先輩! 残りは伊達と女の子だけだ」
紀子
「くーっ、くーっ♪」
レオ
「やべぇな、こりゃ……」
乙女
「伊達、次はお前だ」
スバル
「おっかないねぇ。だが、負けるわけにもいかない」
乙女  共通
「行くぞっ」
きぬ
「乙女さんの構えがサイドスローだ! 変化球だぞ」
スバル
「なら取れるっ……」
乙女さんが投げる1投。
それは鋭く矢のようにスバルにせまり、
その直前で弧を描いた。
スバル
「そこだ!」
だが、スバルの眼前でボールはさらに
スライドしていく。
スバル
「っ!?」
乙女
「変化球は威力は殺している分
軌道は無作為。姫ほどの動体視力が無ければ……」
ドゴーーンッ!
スバル
「しまっ……」
球はスバルの脚に当たり、そのまま
乙女さんの方まで跳ね返った。
平蔵
「伊達アウト! 外野へ!」
乙女
「後1人」
スバル
「……すまねぇ、ミスった。まさか2段変化とは」
きぬ
「つか、姫良くアレとったね」
エリカ
「結局アウトになったんだから、変わらないって」
洋平
「伊達もたいしたことないな、
クラスの連中を全然守れてないぞ」
乙女
「そうだな、もう少し歯応えがあると思っていたが」
スバル
「ちっ、耳が痛ぇこった」
乙女
「ギブアップするか? 椰子」
なごみ
「……そういうわけにもいきません」
椰子はやる気だ。
偉いな、あいつ。
乙女さんの球と勝負するつもりだ。
洋平
「はっ、涙ぐましい努力だな。西崎も言ってやれ」
紀子
「くー、くー、くーっ!」
東軍の外野や観客席から残り1人になった
椰子をあざ笑う声が聞こえる。
椰子は、それでも乙女さんをにらんで
目線を逸らさない。
逃げたら負け。
それは責任感か、負けん気の強さか意地か。
椰子は勇気があり、結構熱いトコも
持ってるやつなのだ。
洋平
「さっさとギブアップした方がいいんじゃないのか
伊達の役立たずももういないんだぞーっ」
紀子
「くくくのくーっ!」
ブチ。
きぬ
「チッ。あいつら好き放題いいやがって」
レオ
「…………全くもって同感だな」
きぬ  共通
「ん?」
レオ
「スバルは手を怪我してるんだぞ」
レオ
「椰子は、たった1人残ってもあの
砲撃を受け止める気なんだ」
レオ
「それを平気でコケにしやがって」
いつだってそうだ。
レオ
「俺は人の本気をコケにする奴は許さねぇ」
良美
「つ、対馬君? どうしたの?」
レオ
「姫。パス回したら勝てるんだよな?」
エリカ
「当然。乙女センパイは私が殺る」
レオ
「よし頼む。審判、俺が内野に入る!」
きぬ
「おいおい、大丈夫かよオメー?」
レオ
「なんでかな、スバルとかをコケにされると
自分が馬鹿にされるより100倍むかつくぜ」
レオ
「あいつら黙らせてやる!」
スバル
「レオ、オマエ……」
きぬ
「へっへっへ。レオが怒りに燃えてるね。
リューメイ入って初めてじゃね?」
スバル
「あぁ、キレた。普段自分を抑圧してた分
こうなるとあいつは強いぞ」
レオ
「椰子、俺も一緒に戦う」
なごみ
「頼りない助っ人」
レオ
「いいから聞け椰子」
なごみ
「…………はい?」
レオ
「外野でピーピー騒いでるやつらむかつくだろ。
黄色い声で応援している東軍の応援団も」
レオ
「あいつら黙らせるぞ」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「なんかセンパイ、熱血になってて
それはそれでウザイんですけど……」
なごみ
「でも確かに、調子乗ってるの黙らすのは
面白いと思います」
要するに勝つ気はあるとみた。
なごみ
「で、どうやってボールをとるんですか」
レオ
「耳をかせ」
ぐいっと椰子を引き寄せる。
なごみ  共通
「ちょっと……」
レオ
「いいから俺の言う事を聞け」
レオ
「……(ボソボソ)」
なごみ
「へぇ……」
レオ
「可能だろ?」
なごみ
「可能性はありますね。ただ、問題は
センパイですよ」
なごみ
「そんな度胸あるんですか?」
レオ
「俺はとるぞ。何が何でも。
侮辱されたお前達のために」
なごみ
「や、頼んでないですけど」
なごみ
「まぁ、外野黙るのは面白いでしょうね」
レオ
「よし」
レオ
「審判、タイム終了」
平蔵
「うむ。それでは東軍ボールでゲームスタート!」
乙女
「レオ、戦場に出てきたのはいい度胸だ」
乙女
「ならば私もそれに応えよう」
……乙女さんの技は2つ。
レオ
「オーバースローならレーザービーム
サイドスローなら変化球(追尾弾)」
恐れず、その仕草を見つめる。
ブルマの中に体操服を入れているやつに負けるか。
アクションを見逃すな。
乙女さんが、がばっと振りかぶる。
レオ
「ちっ、レーザーの方だ」
乙女さんの手から凶弾が再び放たれた。
狙いは間違いなく俺。
俺は思いっきり、まるで野球の
ヘッドスライディングをする感じで避けた。
それぐらいのオーバーアクションでないと
避けられない。
きぬ
「おっ、ナイス! 避けたぜっ!!」
エリカ
「でも結局は敵外野ボ−ル。何を
考えているのかしらね対馬クンは」
俺が避けた後には、断層が出来ていて
グラウンドがブスブスと焦げ付いてる。
レオ
「……おいおい」
なごみ
「とんでもないですね」
乙女
「……なぜ避ける」
レオ
「姉を殺人者にしたくはないから」
乙女
「わけのわからん事を、まぁいい」
乙女
「ならば避けられない球を投げるだけだ」
レオ
「!」
乙女さんが投球モーションに入る。
サイドスロー!
レオ
「どんぴしゃ!」
俺はここぞばかりに、
――一気に前に向かって猛ダッシュした。
乙女
「!?」
乙女さんがダッシュにいったん驚くが
投球フォ−ムは始まってたのでそのまま投げてきた。
きぬ
「何ィ! 前に突っ込む?」
そう、乙女さんのサイドスローの球に向かって
ダッシュするのが俺の作戦!
俺と放たれたボールがお互いに向かって猛進する
ラインギリギリのところでボールと「正面」衝突!
エリカ
「なるほど、やるじゃない」
乙女
「ちっ、変化する前を狙ったか」
きぬ
「おお、なるほど。変化する前なら
比較的とりやすいただのストレート!」
レオ
「取った!」
目前まで来た球をがっちりと抱え込む。
ずどんっ! という鈍い音がした。
レオ
「ぐうっ!」
ビリビリ来る衝撃。
脚が地面についているか分からない。
スバル
「まずい、球の威力でライン外まで
押し流されるぞ」
レオ
「ぉぉぉおおお」
際限なく押されていく。
乙女
「変化はなくとも、重みは充分! ボールを
抱えたまま姫のようにライン外まで行くがいい」
なごみ
「それはさせない」
きぬ
「ココナッツ!」
なごみ
「んっ!」
背中がドンッと押される感覚。
椰子が打ち合わせどおりフォローに回ってくれた。
スバル
「いいぞ椰子、レオの後退をとめろ」
なごみ
「つうっ、す……ごい衝撃」
椰子も一緒に後ろに押されていく。
なごみ
「と……まれっ!」
椰子の気合の掛け声。
思いっきり脚を踏ん張った。
ざざざざっ。
靴がグラウンドを摩擦する音。
洋平  無音
「……」
エリカ  無音
「……」
紀子  無音
「……」
俺と椰子を2人まとめて押したボールは、
俺の腹の中でようやく動きを終えた。
グラウンドが静まり返っている。
俺達はどうなった? ライン外に出ちまったか?
平蔵
「んー、判定は……」
洋平
「セーフ……かな。忌々しい……」
平蔵
「うむ、セーフ! 椰子はアウトライン直前で
踏みとどまっている!!」
ワァッ! という歓声が上がった。
きぬ
「おおおーっ! 良く止めたーーーーっ!」
エリカ  共通
「やるじゃない」
良美
「すごい、すごーい!」
スバル
「さすが本気になった時のオマエは違うぜ!」
レオ
「痛、痛っっ……」
ごふっ、と昼に食ったものが出そうになる。
なごみ
「大丈夫ですか、センパイ」
レオ
「……あ、あぁ……大丈夫の基準によるが、
何とか立ってはいられる」
レオ
「サンキュー椰子、よく押さえてくれた」
なごみ
「うざったい敵の外野を黙らせたかっただけです」
椰子はぶっきらぼうに言った。
でも、止めてくれた事実は変わりない。
乙女
「……レオめ、あんな爆発力があったのか」
乙女
「サイドスローの球は相手陣地の真ん中ぐらいで
変化するように投げている!
確かに変化する前に取るのは理にかなっている」
乙女
「しかも前にダッシュした事によって
捕球後の球に押される許容エリアを
たっぷり確保できている……」
乙女
「だが、直前に私は強めのストレートボールを
投げており、たいていのものはそれで
戦意を落とすはず……」
乙女
「それを臆す事無くボールに突撃した
レオの勇気は賞賛に値する」
乙女
「椰子のフォローも見事だった。
バランスの良い姿勢を保つ運動神経と
一定以上の筋力を見事にクリアしている」
乙女
「ますます面白くなってきたな」
レオ
「……ごほっ、ごほっ。いや、乙女さん
これで終わりだ」
レオ
「さぁ、姫。決めてくれ」
外野に高くパスを出す。
乙女
「ふっ、何が終わりだと?」
乙女さんがジャンプした。
高い高い跳躍。
それは俺の投げたパスをカットする高さには
充分だった。
きぬ
「オイオイまさか」
乙女
「ボール中継は細心の注意を払わないとな」
スバル
「げ、カットされた!」
レオ
「でたらめだな、あの人」
なごみ
「今、何メートル跳ねたんでしょうね」
外野へパスしたボールが奪われてしまった。
すぐさま次の手段を考える。
負けることを考えるな。
洋平
「さ、さすが鉄先輩! 凄い跳躍力!!」
平蔵
「東軍パスカット! 東軍ボール!!」
乙女
「かくてボールは私の元に戻ったわけだ」
スバル
「やべぇぞこりゃ」
レオ
「……手段が無いな」
ええい、ここまで来て。
もう1度乙女さんの球を取れるか?
いや、さっきのダメージがキツすぎる。
レオ
「とりあえず、体力が戻るまで回避に集中しよう」
現状はそれしかない。
なごみ  無音
「……」
回避だけに徹すれば、なんとかかわせるはずだ。
乙女
「随分警戒されてるな。それでは行くぞ」
オーバースロー! レーザービームだ。
乙女
「ドッチボールは集団競技だ」
なごみ
「なっ!?」
きぬ
「フェイント! ただの外野へのパスだ」
くっ、まずい完全に盲点だった。
外野へパスするとは!
椰子の位置がもろに近い。
なごみ
「ちっ……」
洋平
「ナイスパス鉄先輩! 顔面行け! 西崎」
顔面?
紀子
「くぅーーーっ!」
西崎さんは思い切り椰子に向かってボールを
投げつけた。
椰子がやられる。
レオ
「危ねぇっ」
慌てて椰子をかばいに入る。
なごみ
「なっ?」
椰子の前に飛び出した。
目の前にボールが迫る。
ダメだ、姫のように取れない!
つうか、今思えば西崎さんはさすがに
顔面なんか狙わないだろ。
それを認識したと同時に視界が白くなる。
エリカ
「うわ、もろ頭部直撃ね」
きぬ
「レオー!」
洋平
「大将が味方をかばってどうする馬鹿め!」
なごみ
「ちいっ! 余計な真似を」
良美
「椰子さん、落ちてくるボールとるつもりだ」
スバル
「そうだ、ボールはまだ地面についてねぇぞ」
なごみ
「このっ」
きぬ
「うおっ、スライディングしやがった」
なごみ
「とった!」
平蔵
「ダイレクトキャッチ! 対馬セーフ!」
乙女
「見事な気迫」
エリカ
「なごみんがここまで燃えるとは」
なごみ
「勝手にかばわれても迷惑なんで」
なごみ
「借りは極力作りたくありませんから」
きぬ
「ココナッツ、パスは慎重にな!」
なごみ
「わかってる」
エリカ
「よしっ、ナイスパス」
乙女
「さすがに警戒されてはパスカットも出来ないか」
エリカ
「ようやく私にボールが回ってきたわね」
エリカ
「東軍の敗北という利子つけて返す時が来たようね」
乙女
「その殺意の眼差し、心地よいな。血が騒ぐ」
エリカ
「行くわよっ」
きぬ
「おお、栄光を示した!」
エリカ
「あっ、乙女センパイの横に芸能人の草刈正人!」
乙女
「何っ?(←ファン)」
エリカ
「隙あり! 食らえ」
きぬ
「せ、せけー」
乙女
「――なんてひっかかると思ったか? 寒い攻撃だ」
スバル
「おい、見抜かれてるぞ」
乙女
「こんなものは片手で充分だ!」
バシッ!
きぬ
「げっ、とめられた!?」
エリカ
「はい、不安定な片手でとった乙女センパイの負け」
乙女
「! ボールの回転がとまらない?」
ビッ……
スバル
「乙女さんの指を弾いた!」
てーん、てんてんてん……
なごみ
「ボールが落ちた……」
きぬ
「ってことは……」
良美
「な、なんか会場が静まり返ってる」
エリカ
「スピードを犠牲にしてたっぷりとボールに
スピン回転をかけといたわ。片手でとるには
乙女センパイと言えどもきついでしょ?」
乙女
「馬鹿な。それだけの理由で指が
弾かれるなど絶対にありえん」
乙女
「ボールに血がついて……くっ、これで滑ったのか」
エリカ
「あ、それ乙女センパイの球取った時に出た血ね」
乙女
「最初のせこいはったりは」
エリカ
「乙女センパイを怒らせて片手でとらせるため」
乙女
「く……そういえば太陽を背負う位置に
いつの間にか移動しているな」
エリカ
「ボールの回転を見抜かれないための
わずかばかりの努力」
エリカ
「力でかなわない部分は知力で補うってね」
平蔵
「お前の敗因は己の慢心だな、鉄。
はじめから相手を認め全力で受けていれば
こんなことにはならなかった」
乙女
「……不覚」
平蔵
「竜鳴館男女混合ドッヂボール!
西軍の勝利で決着ゥゥゥゥーーーッ!」
きぬ
「よっしゃあーーーーー!!」
良美
「やったやった」
洋平
「くっそぉ、負けた負けた、負けた!!」
紀子
「く〜〜〜」
紀子
「あの、ね。よーへー」
紀子
「……おかね、は?」
洋平
「かふっ! お、おのれ2−Cめぇぇぇぇ!!!」
スバル
「結局姫が決めちまうんだよなー」
エリカ
「ま、当然ね。じゃ捕虜を嬲り者にしましょうか」
エリカ
「乙女センパイ、得意分野たる運動で負けた
悔しい気持ちは良く分かりますよ、ええ」
エリカ
「でも、敗軍の将は何をされても
文句言えないんですよねー」
乙女
「煮るなり焼くなり好きにしろ……」
エリカ
「あぁ……ずっっっっっっと待ってたこの時を……」
エリカ
「じっくりたっぷり……乙女センパイを
いじめられる!」
平蔵
「まぁ、落ち込むな鉄。その負けも、
貴重な糧になるだろう」
エリカ
「こんのジジイ。これからお楽しみって
時に出てきて……」
なごみ
「……ま、勝つのも悪くないですねセンパイ」
なごみ
「……? センパイ?」
レオ
「……」
きぬ
「なんだレオ、どーした? さっきから
倒れたまま動かねーぞ」
「まぁまぁ大変」
スバル
「オレが医務室まで運ぶよ」
「医務室は今いっぱいですわよ」
スバル
「とりあえず竜宮(生徒会室)?」
「ですわね」
エリカ
「あ、見てよっぴー! スバル君が対馬クンを
お姫様抱っこしてる!」
良美
「元気だねエリー……」
なごみ
「……なんで」
スバル  共通
「あん?」
なごみ
「大将がアウトになれば、ゲームが終わるのに
あたしをかばったんでしょうね」
なごみ
「思ってたより、ずっと馬鹿かもしれません」
スバル
「はっ、体が勝手に動いたんだろ」
スバル
「オマエの言うとおり。こいつバカだから」
スバル
「ただ、色々あってひねくれて
偉そうにしているだけさ」
なごみ
「馬鹿は嫌いです」
スバル
「オレは好き」
なごみ  無音
「……」
……………………
……………
……
レオ
「……はぁぁっ!」
レオ
「わ、分かった! 起きる! 起きるから
もう蹴らないでくれ乙女さん!」
なごみ  無音
「……」
レオ
「あら?」
レオ
「こ、ここは……生徒会?」
なごみ
「気がつきましたか」
レオ
「何で生徒会(ここ)にいるんだ、俺?」
レオ
「うぉ、なんか頭と首が痛ぇ……」
なごみ
「通常の保健室はけが人で埋まってましたから」
あ、あぁそうか!
椰子をかばってボールに当たったんだ。
レオ
「なんで椰子がここに?」
なごみ
「一応、あたしをかばったと見受けられる
行動の中での負傷ですし」
なごみ
「頼んでないですけどね」
レオ
「それで気絶しちまったのか、情けない」
投げたの、西崎さんだよな。
女の投げた球で気絶する俺はどうなのよ……。
なごみ
「センパイのケガ、たいしたことないみたいですよ」
レオ
「そ……そうか」
確かに体そのものは痛くないな。
頭の方も、まぁ大丈夫みたいだ。
レオ
「あ、そういえばドッヂどうだったんだ?」
なごみ
「勝ちましたよ」
なごみ
「あの後お姫様が決めました」
レオ
「……さすが」
右腕を動かしてみる。
不自由なく動く。
脚も痛み無く動く。
レオ
「……1時間近くダウンしてたのか」
なごみ
「閉会式も終わったみたいですね」
なごみ
「ま、それがめんどくさいのも
ここにいる理由ですね」
なごみ
「別にセンパイが心配だったわけじゃないんで」
レオ
「……」
レオ
「変な奴」
なごみ
「センパイに言われたくは無いですね」
レオ
「閉会式が終わったって事は」
レオ
「もうすぐフォークダンスだな」
なごみ
「はじまってると思いますけど?」
レオ
「校庭に戻ろう」
レオ
「あ、校庭と体育館、補修されてる」
さすがトラブルに慣れてるだけある、仕事が早い。
豆花
「乙女先輩、踊て欲しいネ」
真名
「鉄先輩はウチと踊るんや」
乙女
「分かった分かった、1度には無理だから
1人ずつな」
紀子
「だんす、だんすっ」
洋平
「だー、痛いだろう。そんなに引っ張るなよ」
レオ
「あら本当。もう踊りまくってるね皆」
なごみ
「残念ですね」
レオ
「何が」
なごみ
「どうせセンパイもお姫様と
踊りたかったんじゃないんですか?」
レオ
「まぁどうせならね」
親衛隊長
「姫、よければ私とダンスを」
3年男生徒
「いや、姫は俺と踊る!」
レオ
「ダメだこりゃ」
あのすっげー人だかりが姫の相手希望だろ。
アナウンス  祈
「フォークダンス、あと5分で終了ですわ」
レオ
「ま、まずい!」
なごみ  無音
「?」
レオ
「せっかくのフォ−クダンスなのに、誰とも
踊ってないなんて思い出作ったら
俺、いつか夜ひとりで泣くぞ」
なごみ
「情けないですね」
なごみ
「誰かあぶれてるの捕まえて
踊ればいいじゃないですか」
レオ
「なるほど」
でもわざわざ探してる時間ねーし……。
レオ
「じゃあ椰子、踊ろうぜ」
なごみ
「あたし、踊り方分かりませんし」
レオ
「あそこで輪になってる連中がやってる
スタンダードな型にしようぜ、
アレ小学生の時にやっただろ?」
なごみ
「まぁ、あれなら」
なごみ
「ってあたしと踊るんですか?」
レオ
「誘ってんじゃん」
なごみ
「答えはNOです。嫌ですね」
なごみ
「……なんか顔赤いですけど」
レオ
「……つーか」
なごみ
「?」
レオ
「さりげなく言った風に見えるけど、
誘うだけですげー恥ずかしいんだよ
分かれバカ後輩」
なごみ  無音
「……」
レオ
「嘲笑すんな」
なごみ
「小心者」
レオ
「いや、罵倒もしないでお願い」
なごみ
「……まぁ、ドッヂの時の借りが
ほんの少しだけありますし」
なごみ
「顔を立ててあげます」
椰子がすっと手を出す。
レオ
「ん、よろしく」
なごみ
「これだけ好き放題言われてよく怒りませんね」
レオ
「まぁね」
なごみ
「卑屈ですね」
レオ
「どんなに言われようが、女の子を
踊る気にさせた時点で満足しなきゃな」
なごみ  無音
「……」
椰子ならビジュアル的に文句なしだ。
フォークダンスで女子と踊れなかった男、という
レッテルは避けられるだろう。
純真に椰子と踊ってみたいというのもあるけどね。
こいつ自身、あんまり喜んでないみたいだからな。
だから、力をいれ過ぎないように白い手を握った。
思ったほど体温は無い。
でも、やっぱり手を握るのは嬉しいけど
緊張もするな。
ドキドキしている感じを椰子に
悟られないようにしなければ。
……で、踊ってるわけですが。
なごみ  無音
「……」
レオ
「……」
夕焼け色に染まったグラウンド。
なんか俺達の動きは微妙に硬かった。
なごみ
「あれ、ここはセンパイじゃなくて
あたしが回るんじゃないですか」
レオ
「あ、そうだな」
なごみ
「緊張してません?」
レオ
「そ、そんなん違います」
なごみ
「なまってますし」
なごみ
「変な人ですね」
この生意気な後輩は。
……そうだな、姫が相手ならともかく。
この1年に緊張する必要はないな。
だってもうボコボコに言われてるもん。
これ以上評価下がりようが無いもん。
むしろこの状況を楽しもう。
紀子
「はい、ちー……ず」
目の前でフラッシュが焚かれた。
なごみ
「な……カメラ?」
レオ
「あぁ、校内に貼られたり
会報で使われる写真だろ」
レオ
「いいじゃん、記念にもらっとけ」
なごみ
「いりませんよ」
レオ
「青春のアルバムが無いと寂しいぞ?」
なごみ
「それ以上キモい事言うと手、離しますよ」
レオ
「わ、やめろ」
握る手にぎゅっと力を入れる。
レオ
「キモくないじゃん、俺写真もらうよー」
レオ
「オマエみたいな美人と
踊っている写真は記念だからな」
なごみ
「露骨なお世辞キモイ」
レオ
「お世辞じゃないってばさ」
レオ
「ほら、なんとなく視線感じねー?」
レオ
「男達が俺を羨ましがってるんだって」
事実だしな。
なごみ
「視線……」
なごみ  無音
「……」
レオ
「あれ、なんかお前こそ体が硬くなってないか」
なごみ  共通
「別に」
レオ
「おい、そこで回るんだ」
なごみ
「……っと」
レオ
「……」
なごみ
「何ですか笑って」
レオ
「いや、お互い慣れない事はするもんじゃないな」
なごみ
「……全くです」
椰子は鼻で笑った。
なごみ
「……なんか」
なごみ
「こうやってずっと握ってると分かりますけど
センパイの手って思ったよりゴツゴツしてますね」
レオ
「そりゃ男だもん」
なごみ
「もっと脆弱なイメージがありました」
レオ
「失礼な」
レオ
「お前は普通に柔らかいな」
なごみ
「その発言、キモ」
レオ
「お前が先に言ってきたんだろうが!」
椰子の手を包む俺の手が汗ばんでいる。
だが、別に手を離されはしないらしい。
なごみ
「……そういえば」
レオ
「?」
なごみ
「一応、盾になってくれたお礼は言います」
なごみ
「これで2度目ですね」
レオ
「……あぁ、そうだな」
1度目はナンパ野郎達から。
2度目は凶弾(実はドッヂボールの球)から。
レオ
「なんか話を聞く限り……どっちも
あまり意味が無かった気もするが」
なごみ
「そうですね、無意味でした」
レオ
「……ぐ」
あぁ、やっぱりテンションに身を任せるのは
良くないよな。
なごみ
「でも……」
なごみ
「ただの口だけ野郎じゃないって事は
分かりました」
レオ
「ん?」
なごみ
「センパイ、ここ回るところ……」
レオ
「あ、あぁ」
乙女
「なんだ、敵同士だった分、
踊ってやろうと思って抜け出してきたのにな」
きぬ
「ぬぬぬぬぬぬ」
乙女
「わりとお似合いみたいじゃないか」
きぬ
「んだよ、ラストぐらい冴えない野郎と
踊ってやろーと思ったのにさ、ボケぇ!」
洋平
「鉄先輩、よろしければ僕と踊ってください」
紀子  無音
「……」
乙女
「悪いが断る」
スバル
「やーいフラれた」
洋平
「うるせー!」
スバル
「おい、カニ相手してくれよ」
きぬ
「あれ。オナゴに囲まれてたじゃん」
スバル
「逃げてきた。息が詰まるんだよ
オレは気軽に踊りてーんだ」
きぬ
「はいはい。どーせボクは気軽ですよ。
しゃーねーな、相手してやんよ」
洋平
「佐藤さん、苦労人同士踊る?」
良美
「ご、ごめんね。ラストはエリーに
予約を入れられてるの」
スバル  共通
「やーいフラれた」
洋平
「うるっっっっせーーーー!!!!」
平蔵
「戦い済んで日が暮れて……
友情は深まるというわけだ」
「負傷する人が続出でしたけどね」
平蔵
「だがこれでいいんだ。このぶつかり合い……
“勝負”を学んでもらわねばな」
平蔵
「儂は、勝ちに貪欲な生徒を育成したい」
平蔵
「人間は戦い続けなければいけないのだ。
戦いをやめた時、その瞳は輝きを
失ってしまうからな」
「アナクロですこと」
平蔵
「だが、真理だよ」
………………
レオ
「はぁ、疲れたぜ」
熱気で頭がクラクラしていた。
こういう時は屋上の風に当たるのがいい。
なごみ  無音
「……」
椰子も来た。
割と平然としている。
レオ
「お前、結構体力あるよな」
なごみ
「実は相当疲れてますよ」
レオ
「あ、やっぱり?」
朝から仕込とかしていたハズだもんな。
なごみ
「良かったです、あまり顔に出てなくて」
レオ
「なんだ、心情が顔に出てるって気にしてたの」
なごみ
「それはそうです」
風が吹く。
レオ
「楽しかった? 体育武道祭」
なごみ
「それなりには」
否定しないだけマシか。
なごみ
「これから片付けあるんでまだ
終わったわけじゃないですけどね」
金網越しの東京湾は、赤く染まっていた。
なごみ
「センパイ、1つ話しておくことがあるんですけど」
レオ
「ん?」
椰子が風に揺れる黒髪を押さえる。
なごみ
「4日前、センパイに怒った時なんですけど」
レオ
「あぁ」
危険な会話に入ったのであいまいに返事した。
椰子に会話の主導権を任せる。
頷くだけなら、また怒る事もあるまいて。
なごみ
「烏賊島の合宿でも言ったと思うんですけど」
レオ
「ああ」
なごみ
「あたしは昔に父さんと死別しました」
レオ
「……ああ」
なごみ
「父さんの趣味は料理でしたけど
プロ顔負けでとても美味しかった」
……こいつ俺に何を言おうとしてるんだ?
レオ
「……」
頷いて、次の言葉を待つ。
なごみ
「その父さんはあたしに料理を
教えてくれたんです」
レオ
「お前の料理が美味いわけだ」
なごみ
「……もし他人に料理マズ、とか
言われたら我慢ならないんですよ」
なごみ
「あたしの父さんがけなされた気がして」
なごみ
「……まぁ、正直あたしの腕もまだまだなんで
けなされたとしても、自分の落ち度なんですけど」
なごみ
「それでも我慢なりません」
だから、他人に料理の評価をされるのが
嫌だったってわけか。
それで竜汁を作るのを拒んでたわけだな。
レオ
「……そこまで教えてくれるとは意外なんだけど」
なごみ
「正直、4日前のセンパイには
きつく言い過ぎました」
なごみ
「料理を評価して推薦してくれたのは
純粋に嬉しかったです」
なごみ
「だから、正直に怒った理由を話して
ワビをいれたまでです」
レオ
「……スジ通すよな、お前は。そのために
家庭事情までさ」
なごみ
「そんなたいそうなものではないです。
父の料理が美味しかったという自慢話……」
なごみ
「それに、こんな話したのはあくまでケジメなんで」
勘違いするな、と言いたいらしい。
なごみ
「変な勘違いはしないで下さい」
言葉で言われた。
それでも。
この夕陽を一緒に見てると、なんかこう
ムードが出てくるな。
レオ
「――なぁ、椰子」
バタン。
ドアの音に気がつけば、あいつはもういない。
あくまで淡白だった。
料理に対して真剣なだけなんだろうな。
やれやれ、だ。
まぁ、今年の体育祭も波乱万丈だったけど
楽しかったよ。
レオ
「……筋肉痛っス」
乙女
「関係ないだろ。次の問題行くぞ」
乙女さんが俺の家庭教師になってた。
乙女
「体育武道祭の次は期末考査なんだ
これも全てお前のため」
レオ
「うぅ……」
乙女
「私のようなうら若き乙女が手とり足とり
教えている……ラッキーと思え」
レオ
「自分で言ってちゃ世話ないよ」
乙女
「何か言ったか?」
レオ
「ぐふっ、しかも手とり足とりじゃなくて
手で殴り足で蹴り、だし……」
スパルタだった。
乙女
「まぁ、おにぎりでも食え」
しかも、またおにぎりだし。
のどか
「な、なごみちゃん。業者さんへの
発注本数間違っちゃったんだけど〜」
なごみ
「今確認して計算しなおしている」
なごみ
「見積もり直して、今日中に先方へ
連絡する必要があるね」
のどか
「うぅ、ごめんなさい〜」
なごみ
「まったく、これだから」
のどか
「ごめんね、なごみちゃん〜」
なごみ
「いい、あたしがやっておくから。
ほら、母さんはお客の相手を」
のどか
「ありがとね〜」
なごみ
「……やっぱり、母さんはあぶなっかしい」
なごみ
「あたしがしっかり守らないと」
尊敬する父の遺影を見る。
なごみ
「見守っててね父さん……」
………………
レオ
「も、問題全部出来たよ」
乙女
「ふむ、全てあっている」
レオ
「やった」
乙女
「褒美にあと20問 応用問題を追加してやろう」
レオ
「ギャー!」
乙女
「夏休みに補習は嫌だろう?」
レオ
「そりゃそうだけど」
乙女
「ならつべこべ言わずやれ」
乙女さんがつきっきりだった。
乙女  共通
「まぁ、おにぎりでも食え」
……自分で作らないから文句は
言わないけど。
たまには、他のものも食べたいお年頃。
朝のHR。
土永さん  共通
「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ
先に飛んできた」
レオ
「好きに生きてるなぁ、あの人は」
きぬ  共通
「遅刻多いぞ祈ちゃん!」
土永さん  共通
「まぁまぁ落ち着けヒヨコども。我輩は
ピーピー鳥みたいに騒ぐやつは嫌いなんだ」
土永さん  共通
「ありがたい話でも聞かせやろう
いいか、サーカスは子供をさらう組織なんて
中傷が出ていてな」
ほんといつの時代の鳥なんだ、あれは……。
「皆さん、お待たせしました」
祈先生は、特に悪びれた様子もなく入ってきた。
「遅刻、欠席している人が教えてください」
きぬ
「祈ちゃんが遅刻しましたー」
「それは免責事項ですわ」
レオ
「後は普通に来てますよ」
良美
「鮫氷君が来てないよ」
あ、忘れてた。
「鮫氷さんはドラゴンカップの後に
窓の無い病院に搬送されましたわ」
さようならフカヒレ。
………………
エリカ
「さて、体育武道祭も終わり。
ようやく一息ついたわね」
エリカ
「次は秋の文化祭って事でそれまでは
比較的暇になるんで」
きぬ
「まー暇な時は遊んでればいいわけだしねー」
エリカ
「今日は体育武道祭の後片付けって事でよろしく」
…………
って事で俺達は書類の整理をしていた。
乙女さん達は元気に外でグラウンド整備。
姫と佐藤さんは報告会。
きぬ  共通
「Zzz」
祈  共通
「Zzz」
この2人がソファで身を寄せ合って寝ていた。
親子(姉妹)に見えないことも無い。
レオ
「普段ならほほえましい光景とも思うのだが」
なごみ
「さぼって寝てるだけです」
レオ
「……だよなぁ」
ま、いいかカニがいても役に立たん。
俺と椰子でファイルをまとめ整理する。
…………
椰子は黙々と作業している。
こいつ、黙ってると仕事ができる
キャリアウーマンって感じだ。
紙の音とかファイルの音とかが聞こえる。
沈黙は暇だ。
レオ
「おい、椰子」
なごみ
「………はい?」
くっ、また言い方に壁を感じる。
ここは先輩として威厳を保たなくては。
レオ
「あのな」
ぐー
これ以上ないタイミングで俺の腹が鳴った。
なごみ  無音
「……」
レオ
「ちゃうねん」
慌てて弁解する。
レオ
「毎日おにぎりを食わされたから、
俺の腹が他のものをよこせ、と猛っているんだよ」
なごみ
「? 毎日おにぎり?」
レオ
「実は……」
……(対馬さんちの家庭の事情・説明中)……
なごみ
「なるほど。それで毎日おにぎりですか
それはそれは」
レオ
「いや、美味いんだけどね。
バリエーションも豊富だし」
レオ
「でも他のものも食いたい」
レオ
「だからといって自分で作れ、と言われても困る」
なごみ
「それはまた、図々しい悩みですね」
レオ
「まぁね」
なごみ  無音
「……」
椰子はだまりこんでしまった。
レオ
「?」
なごみ  無音
「……」
何かを考えているようだ。
なごみ  共通
「センパイ」
レオ
「なに」
なごみ
「だったら、作りましょうか?」
レオ
「は?」
なごみ
「センパイの分も弁当」
レオ
「誰が」
なごみ
「あたしが」
外を見る。
レオ
「剣も槍も降ってこない」
なごみ
「失礼な」
レオ
「何、毒でも入れるの?」
なごみ
「ふざけたこと言うと潰しますよ」
敬語で脅迫って結構怖いぞ。
レオ
「だって、今までの話の
展開上ありえないだろ」
レオ
「どういう流れでそうなるの」
なごみ
「ただじゃないですよ」
レオ
「は?」
なごみ
「1食1000円」
レオ
「……何その微妙に何とか払える値段設定は」
なごみ
「冗談です。いくら何でもそんな図々しい真似は
しませんけど」
なごみ
「味見の実験体に丁度いいと思いました」
レオ
「じ……実験体?」
なごみ
「トライアル2」
レオ
「……1は? トライアル1はどこ行ったのねぇ!」
なごみ
「マイマザー」
レオ
「……あぁ、なるほどね」
なごみ
「あたしは料理、今も自分で練習してるんです」
なごみ
「さすがにトライアル1だけでは
料理の評価が単調になってきまして……」
レオ
「へぇ、やっぱ料理好きなんだ」
なごみ
「はい。好きです」
お、きっぱりと肯定した。
なごみ
「味を否定されるのは嫌ですけど。
作るのは楽しいですし……」
なごみ
「だから、もっと腕をあげたいんです」
レオ
「評価するの俺でいいわけ?」
なごみ
「成り行き上、一度食べてますから
丁度いいんです」
レオ
「……」
レオ
「で、俺はその弁当を食べて感想を言えば
いいのか?」
なごみ
「はい。忌憚無い感想を聞かせてもらいます」
なごみ
「その点に関してはガンガン言ってください」
なごみ
「――やるからには、半端はしたくないですから」
負けん気が強い椰子らしいセリフだ。
レオ
「なるほど、納得」
レオ
「はは、椰子がいきなり俺の為に
昼飯作ってくれるのかと思った」
なごみ
「はぁ? 頭おめでたすぎますよ
なんでそうなるんですか、気持ち悪い」
レオ
「ぐっ……」
いちいちキツイ奴だな。
なごみ
「まぁ、確かに気に食わないことがあっても
センパイならいいやってのはありますね」
レオ
「何?」
なごみ
「蹴るなりなんなりでウサ晴らせますし」
レオ
「冗談きついね」
くっくっく、と椰子は笑った。
どうもニコッと笑えない娘らしい。
なごみ
「後、好き嫌いが激しいとかあります?」
レオ
「カニが作った料理以外は何でも食べれる」
なごみ
「それじゃ、決まりですね。好き嫌いが激しい
場合は、作るのやめてましたよ」
なごみ
「それなら、早速明日から作ってきますけど
それでいいですか?」
……こいつの弁当か。
実は文字通りかなり美味しい話じゃないか。
受けておくか。
レオ
「あぁ、それじゃ頼む」
なごみ
「……念を押しますけど
センパイのためじゃないですから
正直な意見を言ってくださいよ」
レオ
「あぁ、了解だ」
なごみ
「勘違いして浮かれてたら潰しますよ」
レオ
「大丈夫だって!」
………………
レオ
「という事になったので、明日から
俺の分のお弁当はいいから」
乙女
「弁当がいらないのは理解したが」
乙女
「何故椰子と弁当の話になったかの
過程が謎なのだが」
レオ
「〜♪」
乙女
「口笛でごまかすな。何か隠しているな」
レオ
「まぁいいじゃない、ほらテレビで
ライオンがガゼルを狩ってるよ」
乙女
「可哀想だが弱肉強食だな。世の理だ」
今だ。
レオ
「おやすみなさい!」
乙女
「あっ、おい」
レオ
「……ふぅ、危ない危ない」
おにぎり食うのが飽きてきたとか言ったら
何をされるか分からん。
きぬ
「剣道部主将の赤王先輩。全治一週間だって」
体育武道祭のドッヂで乙女さんの殺人レーザーを
直撃で食らった人か。
レオ
「乙女さん、男子相手には手加減無しだな」
きぬ
「でも赤王先輩も夏の大会には
支障ないようでさ、めでたし、めでたしだよね」
レオ
「……まぁそっちはいいんだが、フカヒレは……」
きぬ
「ボクの心の中で細々と生きてるよ」
レオ
「いや、死んでないから」
………………
なんだかんだで昼休み。
スバル
「フカヒレもいないし、2人きりで学食行こうぜ」
レオ
「あ、悪い。俺これから別のところで食うわ」
レオ
「ぐふっ」
エリをつかまれた。
スバル
「……これからって何だ、どこで誰と食う」
レオ
「なんだ、気になるの?」
スバル
「ジェラシー感じるだろ」
レオ
「頼むから感じるな。いやマジで」
スバル
「冗談だ。で、どこで誰と食う?」
レオ
「……言うの?」
スバル
「言うの」
スバルにアップで迫られた。
こいつ本当はジェラシー感じてやがるな。
レオ
「せ、生徒会室で、椰子と」
スバル  無音
「――」
スバル
「くっ……くくっ、そうかいそうかい」
スバル
「いや、こりゃ野暮な事を聞いちまったな親友」
レオ
「お前何か勘違いしてないか」
スバル
「勘違いしてないとも。オマエ達は
ちょっといい雰囲気だな、とは思ってたからな」
レオ
「バカ先走るな」
対馬レオ・必死の説明フェイズ――
レオ
「――というわけだ」
スバル
「へーぇ」
レオ
「というわけで、昼は食うの別になるが悪く思うな」
スバル
「悪いなんて思っちゃいねぇよ。
どっちかっつーと見直したぜ?」
レオ
「なんでだよ」
スバル
「テンションに身を任せてみるのも悪くない
ゴタゴタ考えるのはその後だな」
それだけ言うとスバルは窓から外へ跳躍した。
レオ
「――あ、待ておい」
スバル
「早くしないといいメニュー
無くなっちまうからなぁ!」
くそ、逃げやがった。
スバルめ、頭悪いだけあって俺の説明
理解できてないな。
今夜きちっと言っておいてやろう。
生徒会室へ。
あれ、なんか緊張してるよ俺?
女の子の手作り弁当食べるなんてすごい
ラッキーなはずなのに。
何故かシャドーボクシングする俺。
気圧されるなよ、後輩に。
第一声は偉そうに“よぉっ!” って言ってやる。
扉を開ける。
レオ
「やぁ」
……俺はチキンだ。
なごみ  共通
「どうも」
レオ
「来るの速いな」
なごみ
「センパイが遅いと思いますけど」
レオ
「そ、そうか」
レオ
「……で、俺の弁当は?」
なごみ
「はい。ここにあります」
ゴトッ、と弁当が置かれる。
レオ
「……おお」
我ながら驚きの展開だ。
蓋を開けてみる。
レオ
「これは豚肉弁当だね」
なごみ
「豚のしょうが焼きです」
で……では早速食べてみようか。
椰子の隣の席に座る。
椰子がズズッ……と椅子ごと俺との
距離をとった。
……露骨なヤツだよ全く。
レオ
「いただきまーす」
豚肉を口に入れてみる。
レオ
「……?」
もう一口。
レオ
「? ? ?」
なんかコレ、微妙だぞ。
味が濃すぎないか。
なごみ
「どうですか?」
早くも感想を聞いてきている。
――俺は
正直に微妙、という
お世辞でも美味い! という
レオ
「……」
ここはお世辞でも美味い、というべきか。
悪口言ったみたいで後が気まずくなるからな。
なごみ
「……どうでしょうか」
椰子が俺を見る。
……瞳は真剣だった。
俺は、味に対して正直に答えると
昨日約束したんだよな。
ここは正直に言おう。
レオ
「約束したから、はっきり言うぜ……」
ポテトサラダを食ってみる。
塩味が強かった。
間違いない。
レオ
「これ、味が濃すぎる。なんか
いろいろ間違ってないか?」
レオ
「はっきりいって、味微妙だぞ」
……言った。
なごみ  無音
「……」
う、心臓がドクドクする。
お世辞を使わないって緊張するよな。
うぅ、椰子って美人な分黙ってると怖!
なごみ
「合格です」
びっ、と指をさされる。
レオ
「は?」
なごみ
「センパイの言うとおり塩加減とか微妙にしました」
まさか……。
なごみ
「わざとです。センパイの本命弁当はこっちに」
レオ
「た、試したのかよ」
なごみ
「はい。お世辞を言われたら失格でした
もう2度と作ってきません」
危ねぇぇぇぇ……。
よく考えて正解だったぜ。
レオ
「……ったく試すなんて人が悪いな」
なごみ
「当たり前じゃないですか、センパイの為に
作ってるんじゃないですよ」
なごみ
「そこのところ分かってるかチェックしたまでです」
レオ
「狡猾なやつめ」
なごみ
「センパイが正当な意見を述べてくれるのは
分かりました」
なごみ
「これからこういう真似は
一切しません。約束します」
レオ
「あ、あぁ」
なごみ
「では、そのお弁当をこちらへ」
レオ
「どうするの?」
なごみ
「食べます、このまま捨てるのは
良くない事ですので」
レオ
「バカ、それ塩っぽいぞ。無茶すんな」
なごみ
「あたしは辛党なんで結構大丈夫です」
椰子はその弁当を食い始めた。
食材を粗末にしないため、か。
どうやらこいつ本当に真剣らしいな。
……俺も、味だけは思ったとおりの事を言おう。
本命の弁当を開け、豚肉を口に運ぶ。
レオ
「……む。こいつぁ味が染みてる。いい感じだ」
レオ
「ご飯の上にグリンピース乗ってるのか」
なごみ
「栄養も考えないといけません」
なごみ
「ポテトサラダやレンコンもそのためです」
レオ
「ふーん」
などと、他愛ない会話。
何かをコレクションしてる人は、普段寡黙でも、
その収集品について自慢げに語ることがあるらしい。
椰子も料理関係になると割とよく喋るヤツだった。
レオ
「ごちそうさま」
なごみ
「明日もよろしく」
弁当は普通に美味くて、これはやはり役得だ。
レオ
「こっちこそ、明日もよろしく」
………………
乙女
「ふむ。それなら良かったじゃないか」
乙女
「私のおにぎりが恋しくなったらいつでも言えよ」
レオ
「はは(乾いた笑い)現に今も夕飯で食べてますし」
レオ
「……今日は午前中、ずっと雨だったな」
なごみ  無音
「……」
椰子は梅雨なんだから当たり前だろ、って
感じで返事もしなかった。
椰子が作った鮭弁当をいっきにかきこむ。
相変わらず、美味い。
すっ、と水筒が差し出された。
なごみ
「これはサービスです」
レオ
「え、だってこれ」
椰子が使ってる水筒じゃないのか。
なごみ
「別に構いませんよ」
そ、そうか構わないか。
意外だった。
なごみ
「ちなみに、あたしの水筒はこっちにあります」
レオ
「……納得」
なごみ
「残念?」
レオ
「な、なにが残念だ、何も残念な事なんてないぞ」
なごみ
「……へぇぇ」
レオ
「いやマジで」
なごみ  無音
「……」
レオ
「本当だよぅ」
なごみ
「キモい勘違いはしないでくださいよ」
キモいというわりに弁当食わしてくれるので
まぁ、いいのかな。
って、俺年下にからかわれている?
くそっ……
スバル
「よっ、お帰りー」
レオ
「あぁ……」
スバル  無音
「……」
レオ
「な、なんだよ」
スバル
「……別にー」
レオ
「てめ、なんかムカツク」
スバル
「ははは」
エリカ
「ねぇねぇ、あの2人怪しいと思わない?」
良美
「思わないよ」
エリカ  無音
「……」
良美
「お、思う思う、思うよ、うん」
エリカ
「じゃあどっちが攻め?」
良美
「えっ……ええと伊達君?」
エリカ
「違うでしょ、そうじゃないでしょよっぴー。
普段気の強いスバル君が受けでしょう」
エリカ
「今日ちょっとよっぴーの家行くから。勉強会」
良美
「えっ、えっ、えっ!?」
レオ
「最近は朝が雨って多いよな」
きぬ
「それにしても祈ちゃん、遅いなぁ。また遅刻かよ」
良美  無音
「……」
きぬ
「よっぴー、どうしたの? 何か眠そうだよ」
良美
「……普段は勝ち気だからこそ、守りに回ったときに
クるものがある……」
きぬ
「なんか微妙に壊れてる。姫、またいじめたん?」
エリカ
「ううん、全然」
「一週間ぶりですわね」
新一
「はい、おかげで完全復活しました
休んでる間、曲の構想も練れたし
わりと有意義な休みでしたよ」
「それでは、教室へ行きましょう」
新一
「ふふふ……久しぶりの復活だぜ
なんたって体育武道祭での英雄だからな。
皆、祝ってくれるかな」
「皆さん、ごきげんよう」
「今日は転校生を紹介しますわ」
新一
「転校生じゃねぇよ!」
新一
「よっ、戻ってきたぜ」
レオ
「あっ、えーと誰だっけ!?」
きぬ
「おー、お帰りー。って誰だっけ?」
スバル
「わりと早く戻ってこれたな。……えーと名前……」
新一
「ははは、冗談キツイぜ。鮫氷新一だよ」
新一  無音
「……?」
「フカヒレさん、席についてくださいな」
新一
「えっ、あっ、あぁ、はい」
新一  無音
「(何だよ、反応これだけかよ。冷たいよオイ)」
新一  無音
「(ま、まぁ休み時間になればきっと凄いさ)」
――そして、休み時間。
新一  無音
「……」
新一
「だ、誰も来ない……」
スバル
「ま、元気そうで何よりじゃねぇか」
スバル
「病院ってやっぱりボインの
看護婦さんとかいるの?」
新一
「くっ……」
新一
「なんか優しく声をかけられたら
少し嬉しかった俺が許せねぇー。男相手に」
スバル
「周囲の反応か? 1週間経てばそんなもんだ」
新一
「不愉快だーっ、納得いかねーっ」
………………
レオ
「ってなわけでフカヒレが復活した」
昼休みの会話ネタにしている俺。
なごみ  共通
「……そうですか」
レオ
「がつがつがつ」
なごみ
「センパイ、慌てて食べすぎです」
なごみ
「もっと落ちついて食べてレビューして下さい」
レオ
「普通に美味いから箸が進むんだってば」
なごみ
「意見を聞くのが目的なんですから。
忘れないで下さいよ」
レオ
「あぁ。……もぐもぐもぐ……」
レオ
「がつがつがつ!(無意識に速くなる)」
なごみ
「……お茶です」
椰子の弁当を食うのが日課になってきた。
今日はかなり暑い、ムシムシする。
「申し訳ありません、雨が降ったので
遅れましたわ」
……理由になってない気がする。
新一
「マジメに授業を受ける生徒として
先生に言いたい事がある!」
「今日は暑いですわねー」
ぱたぱた、と胸元をあおぐ先生。
乳が汗ばんでいて、かなりHな感じだった。
新一
「π(パイ)!」
レオ
「変なポーズするな」
新一
「なんかもうどうでもいいや……」
新一
「巨乳ってさ、見ている男を幸せにするよな」
レオ
「話しかけんな変態」
エリカ
「女も幸せにするわよ」
あぁ、なんかもうこのクラスって……。
……………………
レオ
「あれ、まだ椰子来てないな」
待つか。
冷房のスイッチをいれる。
生徒会室はエアコンがあるから助かるぜ。
……待つ。
まだ来ないのか、腹減った。
レオ
「……」
昼休み、後10分で終わりだぞ。
なごみ  共通
「……どうも」
なごみ
「進路指導の事で先生に捕まりまして」
レオ
「少し、息があがっているが走っていたのか」
なごみ
「……学校のセンパイをあまり
待たせるのも失礼ですし」
おぉ、マトモな人の意見だ。
なごみ
「気持ちだけでも申し訳ないようにみせようかと」
やっぱマトモではなかった。
レオ
「とにかく食べよう」
なごみ
「今日はのり弁当です、オーソドックススタイルで」
レオ
「いただきまーす」
……5分後。
レオ
「ふー」
なごみ
「センパイ、感想」
レオ
「美味かった」
心から言った。
なごみ
「……だから、小学生じゃないんですから」
椰子が溜息をつく。
なごみ
「何がどういう風に美味かった、とか」
レオ
「超美味かった」
なごみ
「センパイ……?」
レオ
「む、悪かったなボキャブラリーが不足して」
なごみ
「開き直られても」
レオ
「これだけは言える」
レオ
「俺は好きだぜ」
レオ
「椰子の作ってくれる料理」
なごみ
「……そ」
なごみ  共通
「そうですか」
レオ
「どうした?」
なごみ
「……いえ何でも」
なごみ
「ところで来週から期末考査ですよね」
レオ
「う、やな事をいう」
なごみ
「センパイって頭悪いんですか?」
レオ
「悪くは無いが、良くも無い」
レオ
「だからテストも人並みに嫌だ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「あれ、ひょっとして来週も弁当ありでいいの?」
テスト期間中は午前中で終わりだからな。
なごみ
「センパイさえよければ」
レオ
「お前は大丈夫なのかよ、テスト」
なごみ
「別に気にしなくてもいいですよ
センパイには関係ないですし」
レオ
「そういうわけにいかないだろ」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「ご心配なく。まぁ、平均点より上ぐらいは
きっちりとりますんで」
レオ
「……そっか」
レオ
「じゃあ頼む」
なごみ
「分かりました、では来週も」
そこで、チャイムが鳴った。
今日は時間こそ短かったが
会話内容は充実してた気がする。
椰子は、普段はムスッとしているが
料理について話すと結構しゃべる。
それから、少しずつ普通の会話になるのだ。
……………………
放課後――。
今日は執行部もないし、帰るか。
校門前で、乙女さんが風紀委員として
帰りの生徒達を見送っていた。
……あの人もご苦労な事で。
豆花
「鉄先輩、再見(ツアイツエン)」
乙女
「あぁ、さようなら。気をつけてな」
なごみ
「ちょっと、センパイ」
レオ
「あぁ、椰子も帰り?」
なごみ
「シャツでてますよ。鉄先輩に
注意されるんじゃないですか」
指摘された。
レオ
「あぁ、直しとくよ」
なごみ
「それじゃあ」
レオ
「あぁ、じゃあな」
きぬ
「ヘイ、待たせたな小僧!」
新一
「久しぶりにゲーセン行くか」
レオ
「や、勉強しようぜ」
新一
「少しぐらいいいじゃねぇか」
出た、ダメ人間理論。
こいつら仲間を作ろうとするから恐ろしい。
レオ
「お前達、バカが雁首そろえて勉強せんでいいのか」
きぬ
「これから軍法会議をはじめまーす」
嫌な予感がした。
しかし、俺の部屋だから逃げられない。
新一
「レオがね、俺達と昼飯を食わない反抗期なんだよ」
新一
「それでスバルに理由を聞いたら生徒会室で
椰子の手作り弁当を食べてると来た!」
新一
「俺が入院している間にズリーぞ、てめー
なんでそんなに進展してんだよ」
きぬ
「それじゃ私刑ってことで逝きますか?」
カニがにじり寄ってくる。
レオ
「待て、弁解ぐらいさせてくれ」
――弁解フェイズ
レオ
「――って事であれは弁当の味を評価してるんだ」
新一
「へっ、そんな事言っていつ“今日はお前を
試食してやる”と言い出すか分からないからな」
きぬ
「こいつそういうトコは抜け目ないもんね」
レオ
「何だよぅ、何でそこまで言われなくちゃ
いけないんだよぅ」
きぬ
「で、オメー、ココナッツ狙いなの?」
新一
「こいつ結構ムッツリだから椰子を彼女にしたら、
あー今日もココナッツミルクが飲みたいぜとか
言いだすに違いないんだぜ!!! 畜生!!!」
スバル
「テメェは少し落ち着け」
レオ
「俺はそこまで変態じゃない」
レオ
「とにかく勘ぐるな」
レオ
「でも、椰子は嫌いじゃないのも確かだけど」
スバル
「やれやれ、煮え切らないねぇ坊主は」
きぬ
「つーか、ココナッツはやめとけよ性格悪いって」
お前が言っても説得力ないよ。
とん、とん、とん。
乙女さんが階段を登ってる音だ。
きぬ
「まずい、試験前だから勉強を
強制させられる、解散だ!」
3人がとんでもないスピードで
窓から飛び出ていった。
そしてアクロバットに屋根から屋根へ
飛び移り逃げていく。
乙女
「勉強の時間だぞ。月曜から期末考査だからな」
レオ
「……助かったんだか、助かってないんだか」
今日も今日とてテスト勉強。
レオ
「……俺って今回結構勉強してるよな」
この感じならいい点数望めそうだ。
執行部の他の連中はしっかり勉強やってるのかね。
………………
なごみ
「……何?」
のどか
「今日はね〜、この前話したように〜
天王寺さんと一緒にお夕食って事に
なってるんだけど〜」
なごみ
「……そう」
のどか
「良かったらなごみちゃんも一緒にどう〜?」
なごみ
「冗談」
のどか
「冗談じゃないわよ〜天王寺さんいい人よ〜」
のどか
「なんでそう嫌がるのよ〜」
なごみ  無音
「……」
のどか
「じゃあまた外出するの〜?」
なごみ  無音
「(こくり)」
のどか
「いい加減お母さん心配なんだけど〜」
なごみ
「だったら、天王寺と別れればいい
そうすれば、もう深夜に外出しない」
のどか
「ちょっと〜何でそういうこというのよ〜」
なごみ
「とにかく、あたしはあいつを認めない」
…………
なごみ
「……はぁ」
なごみ
「天王寺さん……だって」
なごみ
「……キモい」
なごみ
「あの花屋は……あたしと、母さんと、父さんだけの
世界なんだ……」
なごみ
「他のやつに、線の内側には入らせない」
なごみ
「母さんは、あたしが守ればいいんだ」
今日から期末試験だ。
平均点に勝つよう頑張るか。
…………………
なごみ  無音
「……」
ガチャリ
なごみ
「あ、センパ……」
なごみ
「なんだカニか」
きぬ
「へぇ、誰だったらよかったんだよ」
なごみ
「……別に。関係ない」
きぬ
「何かしらねーけどさ、弁当で
レオを餌付けしようとしてるらしいじゃん」
なごみ
「……は、何言ってんの?」
きぬ
「でもさ、レオは生徒会執行部に
引きずりこんだ義務で、友達いねー
おめーの相手をしてるんだぜ」
きぬ
「長年ずっと一緒だったボクなら
レオの優柔不断な思考が分かるもんね」
きぬ
「そんだけ、勘違いすんなよ。じゃね」
なごみ  無音
「………………」
なごみ
「なんだ、あのバカは……」
……………………
なごみ
「で、どうだったんですか」
レオ
「世界史と古典がダメだった」
なごみ
「それ、全てダメって事ですよね」
レオ
「世界史はヤマはずした」
なごみ
「情けないですね、センパイ」
なごみ
「来年は一緒のクラスになれますかねぇ」
皮肉たっぷりだった。
レオ
「どっちも平均点ぐらいかな。お前はどうだった?」
なごみ
「まぁ、それなりに出来ました。
あの勉強では、こんなものでしょう」
レオ
「いちいち冷静なやつだな」
弁当箱の蓋を開ける。
今日はチャーハンや鶏のから揚げだ。
レオ
「肉だらけでスタミナつきそうだ」
なごみ
「センパイは試験一夜漬けタイプと思いましたので」
レオ
「そ、そこまで配慮してくれるのか……」
なごみ
「いえ、別に。食べる人の状況を把握してれば
それに合わせるだけなんで」
弁当は美味かった。
椰子の口の悪さに我慢できる俺だからこそ
味わえる特権だ。
よし、テスト勉強頑張ろう。
……………………
午後8時――
レオ
「そろそろ俺は勉強しに2階に行くよ」
乙女
「今慌てるぐらいなら、常日頃よりもっと
勉強しとけと思うがな。やらないよりましだ」
乙女
「甘ったれたお前の事だ。勉強を続けると
そろそろ休もうと思う時が来るだろうが……」
乙女
「自分との勝負だぞ」
レオ
「?」
乙女
「今に限らず、生きていく中で自分の心が、
甘い楽な考えを提案する時があるはずだ」
乙女
「その誘惑には抗え! 心の拳で叩きのめすんだ」
乙女
「それが出来るか出来ないかで人生の浮沈が
大きく変わる、と私は思う」
レオ
「なるほど」
乙女
「根性主義者なんでな、こう見えて体育会系だ」
レオ
「自分の中の誘惑に抗え、か」
うーん、難しそうだなぁ。
レオ
「とりあえず勉強はじめてみるか」
――50分後。
よし、10分休憩。コレは別にいいはず。
携帯に電話がかかってきた。
レオ
「なんだ、カニ。勉強してんだ。邪魔すん……」
きぬ
「よっ、今ボクんちにさ新しいボードゲームが
手に入ったんだ “世界一周レースゲーム”」
レオ
「くっ、……ソソる……」
きぬ
「フカヒレとスバルもいるよ。
四人で世界をめぐろうぜー」
船旅コースで世界周りてぇぇぇ。
レオ
「……で、……何かい、キミは俺に、来い、と?」
きぬ
「いやいや、ボクはただ囁(ささや)いただけ。
決めるのはレオってコトですよ」
こっ、このアマ。
……もうこのぐらいで勉強いいかもな。
平均点より悪い点数って事は無さそうだし。
レオ
「……聞こえてきた」
これが心の誘惑ってやつか。
レオ
「俺は抗う! テスト勉強するんだ」
きぬ  無音
「?」
レオ
「お前もせいぜい赤点とらないように頑張れよ」
きぬ
「あっ、オイ、オイってば冷静に考えようぜ」
きぬ
「んだよあのグローバル偽善者、電話切りやがった」
新一
「誘いに乗ってこないとは
やるじゃねーかレオのくせに」
きぬ
「もいっちょ電話いっとく?」
新一
「ウース!」
スバル
「やめときな、マジメに勉強してるんだろ」
きぬ
「あー、なんか焦燥感!」
スバル
「ジタバタすんな」
きぬ
「まぁいいやボードゲームやって現実忘れよーぜ」
新一
「お前はすげーな。ダメっぷりが光ってるよ」
………………
レオ
「さーて、そろそろ寝るか」
レオ
「……いや、後1時間頑張ろう」
きついよなー、自分に逆らうのって。
こうして夜は更けていった。
……テストの結果はまずまずだった。
なごみ
「はい、センパイ」
お弁当を手渡される。
ぶっきらぼうだが、何となく仕草が
柔らかくなったような気もする。
レオ
「ありがたく頂くぜ」
なごみ
「……で、一夜漬けは続いているんですか?」
レオ
「徹夜はしてないけどね、頑張ってはいる」
レオ
「音楽とか聴きながらやってる場合
徹夜かますと、そのまま寝ちゃうし」
なごみ
「音楽聴きながら勉強やるタイプですか」
レオ
「まぁ時と場合によるけど」
なごみ  共通
「……へぇ」
レオ
「椰子は、音楽聴くタイプ?」
なごみ
「えぇ、まぁ」
レオ
「やっぱヘビメタとかデスメタル?」
なごみ
「……そう見えます?」
椰子が持っていたフォークを投げる。
それは、パソコンの上にカニが置いといた
ぬいぐるみの眉間に刺さった。
なごみ
「それらの音楽を否定する気は勿論無いですが」
なごみ
「あたしとそれらを直結されると
いい気分しませんね」
レオ
「……いえ、どんなのが好きなのでしょうか」
危ない、そうだこいつ怖いやつなんだ。
気をつけないとな。
なごみ
「70年代のフォ−クソングとか」
レオ
「それも意外だ」
なごみ
「作詞とかも、だいたい分かります」
何故か自慢げに言った。
レオ
「ふーん。フォークソングってーと、
社会批判的な歌詞好み?」
なごみ
「わりとどれも好きです」
レオ
「へぇ」
なごみ
「……なんですか」
レオ
「いや、別に」
怖い奴だけど、意外な一面かも。
というか、作詞者とかだいたい分かると
自慢げに言われても。
レオ
「ふーっ」
現代文は勉強しないでも点取れるから楽だぜ。
明日は英語だから気合入れないとな。
レオ
「そんじゃ、俺飯は生徒会室で済ませるから」
きぬ
「……気に入らねぇー」
良美  無音
「……」
なんか微妙な視線を感じるぜ。
新一
「あぁ、うらやましい。結局はイケメン勝ちかよ」
スバル
「レオは別にイケメンじゃねーだろ
要は本人の問題だ」
新一
「へっ、それはお前が一定以上の顔だから
言えるセリフなんだよ」
新一
「俺も眉毛抜いたり、努力してんだけどな
どうも骨組みが微妙だとどうしようもねぇぜ」
きぬ
「そういう卑屈さがまずいけないね、フカヒレは」
新一
「俺をこんな風にしたのは女なんだよっ」
スバル
「それにレオはまだ勝ったわけじゃないだろ」
………………
なごみ
「今日もスタミナ重視で」
どれどれ……。
レオ
「おお、カツ弁当」
なごみ
「カブの甘酢漬けとかもしっかり食べて下さいよ」
レオ
「これはイチゴに何をかけてるの?」
なごみ
「コンデンスミルクです」
レオ
「美味そうだ。いただきまーす」
なごみ
「餌付けみたいです」
レオ
「何を馬鹿な」
レオ
「俺がレビューしてやってるんだぜ
食い物につられているわけではない」
なごみ
「りんご食べます?」
レオ
「食べるー!」
カツはソースも美味かった。
もちろんリンゴも美味かった。
よし、今日の勉強も頑張ろう。
「皆さん、今日は英語のテストがあります
頑張ってくださいね」
「もし赤点などとってしまった方は、
つまらない夏休みを提供する事をお約束しますわ」
……すごい恫喝だ。
これは必死で頑張らないと。
………………
なごみ
「で、どうだったんですか?」
レオ
「重点的にやった甲斐あって大丈夫そうだ」
レオ
「お前も来年気をつけろよ、容赦ないぞあの人は」
なごみ
「余計なお世話です」
レオ
「ちっ、心配して言ってやってるのに」
なごみ
「はい、センパイの分」
レオ
「椰子……」
なごみ  共通
「はい?」
レオ
「俺の反応を見てなくていい、自分の分食ってくれ」
なごみ
「視線気になります?」
レオ
「なんか鋭いんだもん」
なごみ  共通
「分かりました」
なごみ  無音
「……」
レオ
「いや、やっぱ見てるって」
なごみ
「今日の弁当は、特に評価が気になるんです」
レオ
「なるほどね。でもそれも食ってからだ」
……この厚揚げが気になるのか?
なんか辛そうだな……食ってみるか。
もぐもぐ。
レオ
「辛っ、これ辛っ」
なごみ
「あ、それはあたしのと一緒に
作ったんで辛くなってますね、確かに。
豆板醤、かなり多くいれましたから」
レオ
「れ、冷静に、言、言うな、辛い辛い……」
なごみ
「レビュー待ちの本命はエビの竜田揚げです」
レオ
「いいから水をくれ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「ぐっ、俺の苦しむさまをみて冷たく笑うな」
恐ろしい女だ。
なごみ
「水です」
俺はすぐにコップを伸ばしてしまった。
ガシッ
勢いをつけて椰子の手まで握ってしまう。
レオ
「あ、悪い」
俺が手を離す。
コップも一緒に離れた。
レオ
「あ……」
コップに入っていた水がテーブルにこぼれた。
なごみ
「いきなり手を離してどうするんですかセンパイ」
レオ
「う……すまん」
なごみ
「いいです、あたしが拭きますから」
なごみ
「センパイは、ちょっと動作が
ノロい時ありますからね」
好き放題いいながらも、しっかり拭いてはいる。
意外と面倒見いいのか?
しかし拭いたからといって、それまで。
相変わらず椰子はツーンとしている。
レオ
「ん?」
カニからのメールが入った。
“皆とカラオケで待ってる。来ないと私刑”
レオ
「カラオケか」
誘ってみるかな。
レオ
「……椰子も来るか? カラオケ」
なごみ
「遠慮しておきます。歌う方は得意じゃないんで」
レオ
「そうか」
まぁ、こいつそういうの好きじゃなさそうだ。
俺はいつでも無理強いはしない現代っ子だ。
なごみ
「……センパイは」
レオ
「ん?」
なごみ
「その携帯、使い慣れてそうですね」
レオ
「まぁな」
なごみ
「……マイマザーが、あたしも携帯を
持て、と命令してくるのです」
レオ
「へぇ、あの人が」
まぁ、夜中ほっつき歩いているような娘だ。
そりゃ親としても心配だろうさ。
なごみ
「正直、いらないと思いますけど。
あんまり母に心配はかけさせたくないので」
レオ
「いや、心配かけさせたくないなら夜中歩くなよ」
なごみ
「それは出来ません」
なにゆえ。
なごみ
「譲れません」
だから、なにゆえ。
なごみ
「逆に、携帯買えば、いつでも
連絡つくし安心するでしょう」
レオ
「なんか良く分からん」
母親を気遣うけど、夜の外出はするのかよ。
なごみ
「そんなもんです」
レオ
「いや、お前が自分を隠しすぎ」
なごみ
「他の人も自分を隠してると思いますけど」
なごみ
「逆にあたしは道化芝居が下手なんですよ」
……ニヒルなものに染まる時期なのか?
レオ
「で、何買うの? 衛星とかで位置分かる奴?」
なごみ
「正直、全然興味ないんで良く
分からないんですけど」
レオ
「ああ、じゃあ俺の三つのしもべのうち、
カニをつけてやろうか?」
レオ
「あいつはそういうの無駄に詳しいぞ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「何その露骨に嫌そうな顔、カニなめんな」
レオ
「カニはいざという時の盾代わりとかにも
使えるし、一応熱は発しているので
冬は人間カイロに使えるすぐれものなんだぞ」
なごみ
「それ、フォローしてませんから」
なごみ
「カニは顔を見るとハタキたくなるので無理です」
レオ
「お前達喧嘩ばっかだもんな」
レオ
「んー。じゃあ佐藤さんも意外と詳しいぞ」
なごみ
「佐藤先輩は苦手です」
レオ
「何でさ。あんないい娘そうはいないぞ」
なごみ
「ん――……嫌いではないんですけど」
椰子がアゴに指を添えて思案。
なごみ
「ありません? 本能的にちょっとって感じの」
レオ
「お前、贅沢なやっちゃな」
さすが友達いなそうなだけあるぜ。
なごみ  無音
「……」
レオ
「でも男は嫌だろ」
なごみ  共通
「嫌ですね」
なごみ
「センパイはどうなんですか?」
レオ
「は、俺?」
レオ
「俺も生物学分類上、♂なんですけど」
なごみ
「平気なんで」
レオ
「そうなの?」
なごみ
「こうしているうちに、とっくに免疫できてます」
レオ
「ウィルスみたいに言うな」
なごみ
「センパイが適当に携帯選んでくれると
楽なんですけど」
レオ
「自分のだろう、楽すんなよ」
なごみ
「日曜日どうですか?」
レオ
「予定は無いけど。店員とかに詳しく聞いたら?」
なごみ
「店員がムカツク奴だったら責任とってください」
レオ
「君さ、ワガママって単語知ってる?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「都合悪いとシカトすんなや」
ガキだな、コイツ。
まぁ年下だしそれでいいんだけどさ。
レオ
「いいよ、じゃあ俺が行こう」
レオ
「よく考えてりゃ弁当でお世話になってるしな」
なごみ
「……いい答えですね」
レオ
「なんか偉そうね」
なごみ
「毎日、餌付けした甲斐がありました」
レオ
「俺は犬か」
なごみ
「……ツッコミ好きなんですか?」
レオ
「そんなわけあるかい」
レオ
「……はっ!」
思わず突っ込んでいた。
なごみ
「それでは日曜日に」
レオ
「あぁ」
椰子と2人で街に行くのは初めてだ。
……………………
スバル
「よっしゃ料理あがり!」
レオ
「あれ、栓抜きってどこにあったっけ?」
乙女
「探す必要は無いぞ。ジュース瓶を貸せ」
乙女
「……一番、鉄乙女」
レオ
「ええっ、早っ! もう芸やるの?」
乙女
「破っ」
5本のジュース瓶の上のほうを、
一気に手刀で切った。
きぬ
「おおー、スッゲェ!」
乙女
「カンヅメでも似たようなコトできるぞ」
指だけでカンヅメをキュルキュルと開けている。
新一
「まさに宴会芸だぜ」
力にモノを言わせてるだけだ……。
恐るべし拳法部。
きぬ
「はーい、テストお疲れさーん かんぱーい」
新一
「まぁ、ぶっちゃけテスト勉強は
そんなに頑張ってないけどね」
新一
「別のコト頑張ってるからさ
充実してていい感じだぜ」
きぬ
「オメーごときが何頑張ったの?」
新一
「秘密」
乙女
「姫や佐藤も呼べればよかったんだがな」
レオ
「ちょっと二泊三日で香港行ってくる、だもんね
姫の気まぐれには勝てないさ」
普段、車とかの送り迎えがないぶん、
こういう所がお嬢様っぽい。
ついでに佐藤さんも巻き添え食らっていた。
羨ましいのか哀れなのかは分からない。
スバル
「まー、こっちも美味いもん作ったつもりだ。
ジャンジャン食って飲もうぜ」
レオ
「おー!」
きぬ
「食べなきゃやってらんないね、バイト先の
テンチョーから連絡来て、来週からは
忙しいのでぶっ通しででろってさ」
こうして夜は更けていった。
………………
のどか
「うー、なごみちゃんまた外行っちゃった〜」
のどか
「夜どっかいってても。朝の仕入れとかは
しっかり手伝ってくれるのは
ありがたいけど〜体壊さないからしら〜」
――あ――……まだ頭が重い。
くそ、カニめ黙って酒を混入しやがって。
時計を見る。
朝9時。
椰子との待ち合わせは、10時。
レオ
「……あぶねー」
慌てて飛び起きた。
身だしなみを整える。
乙女さんは熱心にも部活に行っているようだ。
俺も出発。
レオ
「おっし、5分前集合」
あたりを見る。
椰子はいなかった。
……どれくらいで現れるだろうか。
…………
なごみ  共通
「どうも」
レオ
「10時ジャスト……ここらへんは
義理堅いというか何というか」
レオ
「じゃあ早速行くか?」
なごみ  共通
「はい」
携帯っつってもいろんな機能あるしなぁ。
レオ
「椰子、お前の希望を述べよ」
なごみ
「シンプルなものがいいです」
なごみ
「電話とメールさえ出来れば」
レオ
「テレビとか、ゲームとかネットが
見れるとかそういうのはいいのね」
なごみ  共通
「はい」
レオ
「だったら絞りやすい」
なごみ
「それで」
カタログを取り出す。
なごみ
「これなんて考えているんですけど」
レオ
「ちなみに予算は?」
なごみ
「2万上限。そんなにかけたくないですけど」
思ったより多いな。
レオ
「んーじゃ、結構選べるじゃん。色は?」
なごみ
「青か黒。軽薄なのは嫌です」
レオ
「お前の選んだの写真とれるけど、その機能いる?」
なごみ  共通
「いりません」
きっぱりと否定。
レオ
「じゃあこっちの方がシンプルでよかろうて」
レオ
「サイズは小さいほうがいいだろうし」
レオ
「よし、突貫だ」
……………………
なごみ
「思ったよりすんなり決まりましたね」
レオ
「そうだな」
レオ
「お前があれこれ選ぶと思ってたけど」
なごみ
「選ぶほど詳しくありませんし」
なごみ
「後は二時間ほどして取りにいけば
もう使えるんですよね」
レオ
「ああ」
レオ
「おー、涼しい」
レオ
「商店街は店の中に入らない限り熱気地獄だからな」
7月も下旬だけど、この松笠公園は海風のおかげで
かなり快適だ。
噴水もある所がまた涼しげでいい。
なごみ
「こっちの木陰で食べましょう。ベンチありますし」
レオ
「そうだな」
レオ
「でも熱心だよな? 休日も飯作ってくるとは」
なごみ
「……軽いものですけどね」
なごみ
「ふぅ……」
なごみ
「木陰は過ごしやすいですね」
レオ
「あ、あぁ……」
なごみ
「蝉の声が、ちょっとだけうるさいですけど」
なんというか、オシャレな格好とはいえないのに
すんごい色気があるな……。
これが1年生とは、地球もそろそろ滅亡かな。
だが、俺だって祈先生の教え子。
乳の免疫には定評があるのだ。
レオ
「サンドイッチ。定番じゃん」
なごみ
「これはレビューといっても難しいと思いますけど」
レオ
「頂きます」
木漏れ日の下で、椰子と昼飯。
……これってもしかしてデート?
サンドイッチを食べてみる。
レオ
「あ、ハムが美味い」
なごみ
「割と高かったんで」
レオ
「レタスもいける」
なごみ
「最近、野菜高いんですけどね」
レオ
「なんか食材の評価ばっかりで申し訳ないが」
なごみ
「それで充分です」
レオ
「……お前、あまり食べてないよ」
なごみ
「今日は気だるいんで食欲はありません」
生理……?
分からんが、ここで聞くほど俺は馬鹿じゃない。
こういう事をとっさに考えてしまう俺の脳は
エロいんだろうか。
レオ
「……こっから烏賊島見えるな」
なごみ
「前はあそこにいたんですね」
レオ
「割と楽しかったよな」
なごみ
「そうですね」
え、肯定?
ちょっとびっくり。
レオ
「携帯の操作方法とか大丈夫だよな」
なごみ  共通
「はい」
なごみ
「まぁ、きっちり使えるかどうか
試す必要はありますね」
なごみ
「……センパイ、電話でも実験体、いいですか」
なごみ
「夜、操作方法覚えたら
試しにメールしてみますんで」
なごみ
「何かしらのピリッときいたリアクションで
返してください」
レオ
「あぁ、分かった」
……こいつ、試す相手が俺しかいないのか。
レオ
「じゃあアドレス、書いておくから
登録したら送りな」
サイフの中にあったレシートの裏に
アドレスと電話番号を書く。
レオ
「はいよ」
なごみ  共通
「どうも」
レオ
「それじゃ、そろそろ受け取りに行くか」
なごみ  共通
「はい」
………………
椰子が携帯電話を受け取っている。
ふむ……。
お隣の市で売り出されたという
白い霊獣のにするか。
なごみ
「お待たせしました」
レオ
「ほい、これ買っといた。やる」
なごみ
「何ですかコレ」
レオ
「携帯のここにつけるやつ。ストラップだよ」
なごみ
「……いえ、いりませんよ」
レオ
「何も無いと寂しいだろう」
なごみ
「もらえません」
レオ
「相変わらずオーバーだな、こんなもん
1000円もしないんだぞ」
レオ
「あんま難しく考えるなよ」
椰子、驚いているな。
カニにねだられてばっかなので、俺の
感覚がマヒしたのかな?
なごみ
「……なんか微妙なデザインですね」
レオ
「文句あるなら引き取るぜ」
なごみ
「いえ、何もないのも確かに味気ないので
頂いておきます」
レオ
「はじめからそう言え」
なごみ  無音
「……」
レオ
「何だよ、まだ何かあんのか」
なごみ  共通
「……どうも」
ん、聞こえなかった。
まぁいいや。
レオ
「で、この後だけどどうするよ」
なごみ
「あたし、店の手伝いあるんで」
レオ
「そっか」
花屋だもんなー。
なごみ  共通
「それでは、失礼します」
レオ
「ああ、じゃあまた」
去っていく後ろ姿を見送る。
レオ
「……ゲーセンでもいくか」
レオ
「ん……」
洋平
「対馬じゃないか。嬉しくない偶然だな」
紀子
「こん……にちわー」
レオ
「こんにちは」
レオ
「お前達は、こんな休日に何故制服?」
洋平
「僕は部活。西崎は広報委員会の帰りだ」
レオ
「そりゃご苦労様」
洋平
「さて、せっかくこんな場所で会ったんだ。
対戦するか? 僕はゲームも強いぞ
12人の妹相手に戦ってるからな」
紀子
「よーへー……いぬ」
洋平
「ペットショプ? 分かった行って来い」
紀子
「わぁ♪」
西崎さんは嬉しそうに走っていった。
洋平
「さーて、やろうぜ。まずは小手調べに……」
………………
レオ
「な、なかなかやるな」
洋平
「お前こそ……! 僕はお前をゲームにおいては
ライバルと認識した」
なんかヤだな、その認識。
洋平
「次のレースゲームで決着を――」
アナウンス
「ご来店の皆様にお知らせします。横浜市から
おいでの村田洋平様、お連れのお客様が
迷子になっているのを保護しましたので――」
洋平
「あいつまたかよ……! ったく仕方ないな」
洋平
「おい、僕は行くぞ。それじゃあな」
レオ
「……迷子ねぇ」
村田も大変だな。
……………………
きぬ
「今日は比較的涼しかったねー」
レオ
「そうだな、日陰なら快適だった」
……しかし、こいつら俺の家にたむろうなぁ。
そろそろ椰子からメールが来ても
良い時間帯なのだが。
きぬ
「どしたの、さっきからケータイ気にしてるけど」
レオ
「ベツニ ナニモ」
きぬ
「怪しいなぁ〜〜ボクの勘が気をつけろって
ビンビンに警告してんよ」
こいつ、バカのくせに勘だけは鋭い。
ピルルルルルル
あ、来た。
メールを見る。
“椰子です。椰の漢字が登録されてるの
意外でした。試しに送りますが、どうでしょうか?”
ぶっきらぼうな所があいつらしい。
顔文字入れまくりのカニとは偉い違いだ。
(慣れもあるんだろうけど)
レオ
「くすっ」
きぬ
「うわっ! くす、だって。キモチ悪ー!!」
レオ
「う、うるせーないいじゃねーか!!」
きぬ
「よし、フカヒレ。スバル! はさみこめ!
携帯チェックだ!」
新一
「チェーーーック開始!」
レオ
「うわぁ、やめろお前ら」
きぬ
「うるせー! いいから見せてみろ」
レオ
「何逆ギレしてんのお前」
新一
「お前からは幸せそうな香りがする! 気に入らん」
乙女
「おい、もうやめろ」
乙女
「弱いものイジメ、かっこ悪いぞ」
レオ
「弱いもの……」
乙女
「お前も男ならビシッとしろ」
レオ
「それずっと昔から言われてる……」
乙女
「手を焼かせるのは相変わらず、という事だろうが」
きぬ
「なんてノスタルジックになってる時に
取り押さえたー!」
いきなりカニに抱きつかれた。
新一
「よし手首は俺が抑える! スバル早く
足を押さえつけろ」
乙女
「なんだというんだお前たちは」
きぬ
「乙女さん。ボク達が押さえている間に
携帯を早く! 着信履歴調べて」
レオ
「うわー、横暴だぞテメェら」
乙女  無音
「……」
乙女
「ボタンがありすぎて、何が何やら
さっぱり分からないんだが」
ピッ ピッ
レオ
「あ、ちょっと適当に押さないでってば」
乙女
「うわ、何か鳴ったぞ」
レオ
「未開の地の人がライター見て驚くような
リアクションだな」
乙女
「ダメだ、デジタル酔いしてきた」
きぬ
「速っ」
乙女さんはフラフラと去っていった。
レオ
「今だっ」
すかさず携帯を拾う。
レオ
「お前達、親しい仲にも礼儀があるだろ
もういいじゃないか」
きぬ
「何必死になってんのさ、冗談っしょ?」
スバル
「あんまイジメんなよ、レオ繊細なんだから」
きぬ
「何言ってんの! 日頃のお返しに
ここぞとばかりにこねくり回すもんね
ボク、傷口にわさび塗るような行為大好きさ」
くそっ……さすが出涸らし、腐ってやがる。
………………
レオ
「よ、ようやく追い払った」
“返事遅れてすまん。届いてるぞ”
“散々またしておいて……その
リアクションですか?”
“まぁ、待たせたのは謝る”
“センパイってメールでもちょっと卑屈ですね”
レオ
「どないせーっちゅーんだ」
今日からはテスト返却期間だ。
祈  共通
「それでは英語を返却しますわ、70点以下の人は
もっと頑張りましょう。40点以下の人は
南国の島へご招待ですわ」
うわ、怖。
スバル
「……37点だったわけだが」
レオ
「さようなら」
きぬ
「無茶なことしやがって」
敬礼。
スバル
「おい、死んでないぞ」
「伊達さんは運動活躍補正がかかっているので
セーフですわ」
スバル
「ふ――……よかった」
レオ
「危なかったな。ユーアーヒューマンだっ!」
新一
「俺は41点」
「惜しいですわね」
新一
「そんなに残念がらないで下さいよ!」
ちなみに俺は70点だった。
実に平均的だ。
きぬ
「あ、ボク50点だ」
新一
「何その凡庸な点数。君にはガッカリだよ」
きぬ
「英語は悪い点とったら怖いからちゃんとやったの」
レオ
「ところで何で浦賀さんは倒れてるんだ?」
きぬ
「マナは37点だったからね。こいつアホだぜ」
カニにアホ言われたら
人生ゲームオーバーだな浦賀さん。
エリカ
「やっ、対馬ファミリー」
レオ
「どうしたの、なんかハイじゃん」
エリカ
「香港でさ、わざとよっぴーを人ゴミに
置き去りにして、物陰から観察してたの
それが面白くて」
レオ
「お茶目だなぁ、姫は」
良美
「ただの最悪な人だと思うな」
いじけてた。
エリカ
「まぁ笑える笑える、キョロキョロして
涙目で私を探してるの」
エリカ
「外人にどうしたんですか? って話しかけられたら
ビクッてして……可愛かったなぁ」
レオ
「なんかうっとりしてるぞ」
良美  共通
「はぁ……」
みんな元気だなぁ。
…………
なごみ
「今日はちらし寿司」
レオ
「わぁい」
なごみ
「残さずお食べ」
レオ
「だから、動物じゃないぞ」
なごみ
「冗談ですよ」
レオ
「で、どう携帯の機能覚えた?」
なごみ
「必要最低限は」
レオ
「そっか」
いきなり鳴らしてみる。
なごみ
「……びっくり」
なごみ
「センパイか。マイマザーかと思いました」
レオ
「他は登録していないのか」
なごみ
「ええ」
……こいつ……本当に友達いないんだな……。
レオ
「なんかそれって寂しくね?」
なごみ  無音
「?」
レオ
「携帯のメモリって何百件も登録できんじゃん」
レオ
「なんか空きが多いと寂しくない?」
なごみ
「なんでですか?」
レオ
「だから、友達少ないなーとか思わない?」
なごみ
「いや、そんなにいりませんし」
こいつ、言い切りやがった。
ぬぅぅ……強い奴だ。
きぬ
「ココナッツはいねぇがぁ〜」
なごみ
「うるさいのが来た……」
きぬ
「おっ、いたいた。知ってるか? ヤシガニって
ココナツの実を食ったりするんだぜー」
なごみ
「センパイ、今の超古代語を訳してください」
レオ
「カニはココナッツの実を食う事があるんで
食物連鎖的にもカニ>ココナッツ。つまり
蟹沢きぬ>椰子なごみ である、と言いたい訳だ」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「あっ、なんだココナッツ携帯持ってるじゃん
よし番号見せてみ」
なごみ
「ちょっと、勝手に触らないでくれる?」
きぬ
「はい、番号覚えたから返してやる」
きぬ
「ほれ今鳴ってるのがボクのだ、登録しとけ」
……なんだかんだでカニも、椰子を嫌っては
いないみたいだな。
きぬ
「着信表示がボクの名前だったら必ず出ること!
……例え夜中の3時でもねぇ……」
ただの嫌がらせの可能性が高いな。
きぬ
「そんじゃボクはバイトだから
テンチョーが人使い荒くてさー」
カニは足早に去っていった。
なごみ
「忙しい奴」
レオ
「どうすんだ、それ登録すんの?」
なごみ
「覚えられた以上、こちらも登録しないと
いざという時報復できません」
レオ
「そうかそうか」
椰子、番号1つゲット。
なごみ
「その笑い方、少し気持ち悪いですよ」
つい微笑ましい目で見てしまった。
………………
なごみ
「母さん、食事できた」
のどか
「ありがとね〜なごみちゃん」
のどか
「うぅ、ごめんね〜、私家事が全然
出来ないから炊事、掃除、洗濯
全部やらせちゃって」
なごみ
「問題なし」
のどか
「天王寺さんは結構家事が出来る人で――」
なごみ
「家事なんてあたし1人で充分! 他にはいらない」
のどか  無音
「っ!」
なごみ
「そして、この家はあたしと父さんと母さんの家」
なごみ
「……他にはいらない。皆、線の外側」
のどか
「なごみちゃん……」
あれ、椰子はいない。
弁当箱だけが置いてある。
食ってろ、ということか?
フタを開けてみる。
“はずれ”
そんな事が書かれたメモ用紙が入っていた。
レオ
「……椰子?」
いつの間にかそばに居た。
俺に気配を悟られないとは恐ろしい。
なごみ
「ちょっとムシャクシャしてやりました」
なごみ
「今も反省してません」
レオ
「反省してないのかよ」
なごみ
「本物の弁当はこっちです」
レオ
「あんがと」
意外とお茶目な所があるのね。
レオ
「しかし、なんでまた?」
なごみ
「実は……」
鉢巻先生
「やぁみんな、この時間はボクが
なりふり構わず保体の答案を返すので
若者らしく一喜一憂してごらん?」
鉢巻先生
「椰子なごみ、うーん。君は点数は
割といいんだけどね、もう少し愛想良くして
くれたらもう花丸あげるんだけどなぁ」
なごみ
「はぁ……」
鉢巻先生
「お、オーノ、そんな怖い顔してはいけなーい」
なごみ
「どうやら目は笑ってなかったようです」
レオ
「だから顔に出るって言ってるじゃん」
レオ
「で、感情が顔に出て心を読まれるのが不快とか?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「図星らしいな」
なごみ  無音
「……」
レオ
「今お前は“こいつしつこいぞ”と思ってる」
なごみ  無音
「……」
レオ
「今お前は“次何か言えば潰す”と思……ぐはっ!」
なごみ
「分かってるなら言わない方がクレバーです」
レオ
「ぐう……もう先輩に蹴られて後輩に蹴られて……」
なごみ
「悲劇の中間管理職ですね」
豆花
「あのネ、取り込んでる時に失礼するネ」
なごみ
「お茶をお出しして」
レオ
「ウィ−ス」
レオ
「っておい、お前何様だ」
なごみ
「冗談です、あたしがやりますよ」
レオ
「そうだ、お前がやれ」
豆花
「今、またく違和感無かたネ」
レオ
「後輩にパシられたらオシマイっすよ」
豆花
「体育会系ネ」
……また乙女さんの思考に毒されているな。
なごみ
「それで、話とは?」
豆花
「うん、用件から言うとネ。椰子さんに
またヘルプを頼みたいのネ」
レオ
「そういうのはマネージャーの俺を通してくれ」
レオ
「はは、なんちて」
なごみ
「センパイ、ウザイから黙ってて下さい」
容赦の無いツッコミだった。
しかし俺は1年の命令など聞かん。
(↑気付かないうちに体育会系思考)
豆花
「松笠開国記念祭、知てるよネ?」
レオ
「7月のラストに行われる松笠市最大のイベント
目玉のパレード以外にも、花火なども行われる」
豆花
「そう、そこで来賓のゲスト達に
街の名物であるカレーを食べてもらう
プログラムがあるのネ」
レオ
「まぁ街おこしの名物だからね、カレーは」
豆花
「で、そのカレーを出すのはオアシスて
店が選ばれたんだけどネ」
レオ
「……どっかで聞いた店だな」
豆花
「なんせ主人一人で料理作てる店なんでネ
開国祭を手伝ってくれるヘルプが
欲しいて言うのネ」
豆花
「でも、店主の人がヘルプの人に
辛く当たるの。いいカレーを作ろうというのは
分かるけど、まるで軍隊みたいなのネ」
レオ
「なるほど」
豆花
「私達の部活(料理部)もネ、多少は腕に
覚えがあるしお金につられて参加して
みたんだけど、もうボロクソに言われて辞めたネ」
レオ
「へぇ……」
豆花
「椰子さん、カレーは出来る?」
なごみ  無音
「(こくり)」
豆花
「それならね、挑戦してみない? 何事も経験ネ」
レオ
「へぇ、開国祭はビッグイベントだしな
やり甲斐あるんじゃないか?」
なごみ  無音
「……」
考えているらしい。
レオ
「時給はおいくら?」
豆花
「2000円+歩合ね。味で加算されるのネ」
レオ
「高っ」
なごみ
「……話だけでも、聞いてみようかな」
レオ
「珍しくポジティブだ」
レオ
「時給につられた?」
なごみ
「時給も少しは」
なごみ
「なじみの店で、味も好きだから」
レオ
「そーいやぁ、ここオアシスって名前なんだよなぁ」
しかしあの豆花さんもバイトを
ギブアップしたというのだから油断は禁物。
きぬ
「おーい、今日は臨時休業ですよーっ」
きぬ
「って、レオじゃん。ココナッツなんて
しけたもん連れて何やってるの?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「気持ちは分かるが喧嘩はやめとけ」
レオ
「バイトの面接だとさ」
きぬ
「ふーん、テンチョーは奥にいんよ」
きぬ
「で、オメーは何しに来たの?」
レオ
「ついでにカレー食おうと思ったら臨時休業で
いささかショックを受けている」
きぬ
「じゃ、丁度良いからボクを手伝って店の掃除してよ
もー、テンチョーがカリカリしててさー、
こっちはフォローに大変だっつの」
しまった、手伝わされるとはヤブヘビ……。
奥から店長の笑い声が聞こえてくる。
店長
「HAHAHA、オッケー! オッケーだ」
レオ
「なんか機嫌いいな」
店長
「コノ1年生スゴイヨー、気に入りマシター」
店長
「ナゴミはタフネスな精神持ってマスネー」
なごみ  共通
「どうも」
レオ
「なんだおい、順調そうじゃないか」
きぬ
「ここまでは普通なんだよねー。テンチョーは
カレー作るところから人格が代わるのさ」
きぬ
「開国祭での代表店に選ばれたのは凄いけどね
プレッシャーに負けてるみたいなんよ」
店長
「ソレジャー、軽くカレー作ってみましょう
腕前見せてねー。レッツクッキングー」
レオ
「いきなりやるのか……」
店長
「シンプル・イズ・ベストデース。
これらで作ってみてクダサーイ
食材は牛肉・人参・玉葱・馬鈴薯……」
きぬ
「ふーん、ココナッツの作ったカレーかぁ
辛そうなイメージがあんけどね」
しばらく成り行きを見守ることにした。
店長
「貴様ぁ! 何をやってるかぁ!!!
スパイスに唐辛子だとぉ!
あうわきゃねーだろぉ!」
レオ
「なんだ?」
いきなり厨房から怒声が聞こえてきた。
きぬ
「そらきた、教官モード発動。
これで皆辞めてるんだよ。作り方には厳しくてさ」
きぬ
「だいたい、プロの自分と素人の作るカレーを
比べちゃダメだっつの」
店長
「このカレーには我が店の浮沈が
かかっているんだぞ! 気合入れてやれい!
いいか、スパイスはな……」
店長
「違うでしょ、違うでしょ、全然違うでしょ!
クッキングストッーーープッ!
いいかそこはな……」
ひたすら厨房から激が飛んでくる。
店長
「ワタシがこの世で我慢できないうちの
1つは―――タマネギをバターで炒めないヤツだ!
サラダ油は許さんぞぉ!」
レオ
「おいおい、すげー新兵しごきだな」
きぬ
「そのうち、キレて飛び出してくんよ
たいていは10分で逃げてきたもんね」
レオ
「お前は良く平気だな」
きぬ
「ボクはウェイトレスだから。関係ないもんね」
なごみ  無音
「……」
レオ
「おっ」
きぬ
「ほらきた。30分か。持った方だと思うよ」
なごみ
「……あれ、むかつく店長」
レオ
「メチャクチャ言われてたもんな」
きぬ
「やめとけやめとけ。短気なオメーじゃ無理だ」
なごみ
「……むかつくけど」
レオ
「え、おい、どうした」
なごみ
「凄い知識量と腕前だった……それは認める」
なごみ
「だから、続ける」
レオ
「おお、椰子が、椰子が大人に見える」
なごみ
「……なんでそんなに驚くかな」
きぬ
「し、信じられねー。ここは不思議の国ですか
って事はボクは可憐なアリス?」
なごみ
「うるさいゾエア」
きぬ
「はぐぅぅぅぅぅ!!!
は、はにごふふふひはま(何をする貴様)」
レオ
「いじめかっこ悪い」
なごみ
「イジメではありません」
なごみ
「マーベラス蟹沢というスポーツ」
なごみ
「蟹沢のほっぺを引っ張って泣かせたら勝ち」
きぬ  無音
「!?」
レオ
「うわー、小学生みたいなイジメを」
なごみ
「イジメじゃなくてスポーツです」
言い訳まで小学生っぽかった。
なごみ
「店長の無礼は店員が償うべし」
きぬ
「うぐぅぅぅぅ」
レオ
「その口癖は、もうとられてるぞ」
きぬ
「くふくへはへーほ(口癖じゃねーよ!)」
何を言ってるかサッパリだぜ。
なごみ
「よし、ウサ晴れた」
パッと手を離される。
なごみ
「厨房に戻ります」
レオ
「……間違って教官を殺害しないようにな」
なごみ
「善処します」
椰子は再び厨房へ向かった。
カニがムクリと立ち上がる。
レオ
「いかん!」
きぬ
「うがぁぁぁ! 妖精みたいなボクをストレス解消の
道具として使ったってか! 上等だ、かかってこい
このド畜生がぁ! ヘドぶちまけてやる!」
レオ
「お前がヘドぶちまけるのか? 落ち着けバカ」
カニを羽交い絞めにして押さえつける。
きぬ
「1年坊だからってナメテんじゃねぞ、叩きのめして
床に這わせてボクの靴舐めさせて、最後にテメーの
デカい胸を肉まんって呼んでやるぜ、メーンッ!」
レオ
「て、テンチョーさん! 蟹沢さんが切れました」
店長
「ノープロブレム。ツバつけとけばなおりまーす」
多分なおらない。
レオ
「壊れたテレビは叩けば直るって言うしな」
レオ
「ふっ、ボディ!」
きぬ  共通
「でやっ」
あっ、腕のガードで防ぎやがった。
きぬ
「防いだけど、まだ誰にも揉ませた事の無い
白い腕がジンジンするだろコラ!」
レオ
「痛えだろうがカニの分際で!
官能小説っぽく描写すんな!」
店長
「OH! なごみサーン! 戻ってきたんデスカー?
流石デースネー。思ったとおりデース」
なごみ
「思ったとおり?」
店長
「そうデース! その気概ある精神を待ってマシタ!
はっきり言ってペーペーの頃は料理長に
メタクソ言われるの当たり前ナンデース」
店長
「今の若いモンは我慢を知りませんカラネー
いきなり誉められるわきゃねーだろっ!」
なごみ
「では、続きを」
店長
「そうデスネー。バカが不毛に戦ってる間に
文化は栄えマース」
レオ
「はぁはぁ……なかなかやるな」
きぬ
「ふぅふぅ……ふふっ、うぬもなかなかの手練よ」
なごみ
「これの炒め方は、こんな感じで?」
店長
「そうだ! よーし気にいったぞお前!
厨房裏で蟹沢をファックしていいぞ!」
きぬ
「あのゴミテンチョーめ、処女(おとめ)のボクの
貞操を勝手に褒美に使うなよな」
なごみ
「お断りです」
きぬ
「断るのかよ!」
レオ
「いや、そこは怒るところじゃないからな」
レオ
「……でも」
きぬ  無音
「?」
レオ
「椰子はやっぱり料理になると真剣だよな」
あそこまで言われても、達人の腕を吸収しようと
我慢して修行を続ける。
それぐらいのめりこむのがあるのは、いいな。
俺のボトルシップはちょっと違うし。
きぬ
「うらやましいと思うなら、レオも見つけりゃ
いーじゃん」
レオ
「うーん……」
何も見つからない。
こんなんでいいのか。
きぬ
「いいさ、いずれ見つかる。やれば出来る子だから」
レオ
「なんて甘露な声なんだ」
こうしてダメ人間は仲間を増やすんだ。
………………
店長
「今日のお仕事はここまでデース」
レオ
「……結局、終わるまで居ちまった」
カニとトークしてただけだが。
きぬ
「じゃあテンチョー、お先に失礼しますー」
店長
「蟹沢さんには厨房の片づけが残ってマース」
きぬ
「んだよ、コレ労働基準法違反だよね」
店長
「社会人になったら公務員以外は、ホトンド
そのホウリツ役に立ちませーん。ザル デース」
きぬ
「ボクまだ社会人じゃないっつのー」
カニはしぶしぶ残業。
……………………
レオ
「お前、ほのかにカレーの匂いがするな」
なごみ  無音
「……」
ちょっぴり嫌そうだった。
レオ
「スパイシー・ガール」
なごみ
「勝手に命名しないで下さい」
レオ
「カレーさ、出来上がったら食わせてくれよな」
なごみ
「そうですね、適当に楽しみにして下さい」
レオ
「いや、全力で楽しみにしている」
なごみ  無音
「……」
最近、こいつの扱い方が分かった気がする。
なごみ
「ところで明日の弁当ですけど」
レオ
「あぁ、こっちのバイトに集中するから休む?」
なごみ
「それはそれ、これはこれ」
なごみ
「センパイの弁当は、作りますよ」
レオ
「今のセリフをプリーズ、ワンスアゲイン」
なごみ
「センパイの弁当、作りますよ」
レオ
「なんかこのセリフだけ聞くとすげー嬉しいな」
なごみ
「意味不明な事を。それにもう終業式ですし」
レオ
「や、でもさっきも思ったけどさ。
お前本当に料理が好きなのな」
なごみ
「ええ、まぁ。好きじゃなきゃここまでやりません」
なごみ
「89回」
レオ  無音
「?」
なごみ
「今日、あの店長を蹴り飛ばそうと思った回数です」
レオ
「……こまめにカウントしてるんだ」
こいつ、ほんと根に持ちそうなタイプだな。
なごみ
「料理技能を吸収するために、罵言、雑言を
我慢してるんです」
げしげしげし!
レオ
「ゴミ箱を蹴るな」
レオ
「でもそれってさ、この馬鹿、とか
どこに目をつけてやがる程度、の罵詈雑言だろ」
なごみ
「それだけで極刑にしたいですね」
レオ
「あぁ、電信柱を蹴るな」
なごみ
「カニでウサ晴らししてないと危なかったですね」
レオ
「えーでもさー。お前の普段の“気持ち悪い”とか
そっちの方が罵詈雑言としては強烈なんだぞ」
なごみ
「はぁ?」
レオ
「こいつ……」
背も高いから、ガンつけの迫力あるんだよなぁ。
アルバイト
「ヘコムでーす。ティッシュをどうぞー」
なごみ  無音
「(ギロッ)」
アルバイト
「ひっ」
レオ
「こらこら、善良な一般人をいじめるな」
なんか狂犬みたいなヤツだな。
レオ
「でも、お前が料理を好きなのは良く分かった」
レオ
「だったらさ」
レオ
「そんなに好きなら、料理人になればいいじゃん」
なごみ  無音
「……」
レオ
「椰子?」
なごみ
「いえ、あたしは母が結構好きですから」
レオ
「は?」
なごみ
「そして、母は父と作った花屋が好きなんです」
なごみ
「あたしが継がないと、人がいなくて
花屋は潰れてしまう」
なごみ
「はい、おしまい」
レオ
「はい?」
なごみ
「それじゃセンパイ、もうウチなんで」
レオ
「あ、あぁ」
なごみ
「ただいま」
のどか
「なごみちゃんお帰りなさい〜」
なごみ
「そんな飛び出してこなくても」
のどか
「なんかカレーくさいのね〜」
なごみ  無音
「……」
仲良さそうで何よりだ。
やっぱ親子は仲が良いもんなんだよな。
それにしても……。
椰子が少し気になる事を言ってたな。
みんな色々大変なんだなぁ。
今日も椰子の作る弁当を食う俺。
なごみ
「食べっぷりがいいのは評価できますけど……」
なごみ
「ちゃんと味わってます?」
レオ
「うん(純真)」
なごみ  無音
「……」
レオ
「でも、明日で一学期終わりなんだよな」
なごみ  共通
「ですね」
適当に返事する椰子。
ふと思う。
一学期が終われば、この弁当や椰子と
過ごす時間ともお別れか。
……なんだかんだでメシも美味いし
楽しい空間だったのにな。
ちょっと胸が切なくなった。
俺、知らない間に本当に餌付けされてるのかな?
レオ
「椰子は夏休みどっか行くの?」
なごみ
「これといって特に」
レオ
「ふーん」
……………………
レオ
「うーん」
一緒にどっか遊びに行くか? とか聞けば
良かったかな。
でも、キモイとか言われたらさすがに傷つくし。
難しい。
……………………
店長
「貴様ぁ! ルーをかきまぜるタイミングが
一瞬早いと言っているだろう!!
学習能力無いのか、ん?」
新一
「うぉ、ほんとだ。厨房から聞こえるこの声。
椰子がシゴかれてる」
スバル
「よくあそこまで言われて我慢できるなアイツ」
レオ
「椰子はここのテンチョーの料理の腕は
認めてるから、技術を盗みたいらしい」
きぬ
「つーか、何ですかオメーラ
男3人が雁首そろえて。暇人ですなー」
新一
「いいじゃん、ここ涼しくて過ごしやすいだよぉ。
外は猛暑なんだもん」
きぬ
「何か注文しろよコラァ」
新一
「スマイルよこせよオラァ」
くるっ、と回るカニ。
きぬ  無音
「(にこっ)」
ちょっと可愛いのがなんかムカツク!
きぬ
「オラよこせよ1000円。まるで妖精だったろ」
新一
「妖精は金取らないから」
店長
「ハーイ、皆さんいいデスカー、
ちょっとこのカレー食べてみてくださーい」
レオ
「?」
店長が持ってきたカレーを食ってみる。
スバル
「辛ぇな」
新一
「辛いけど、うん、まぁ美味いんじゃね?」
店長
「次はこっちデース。食べてみてクダサーイ」
新一
「ん〜、見た目変わらないジャン? どれどれ」
新一
「うっ……ンまぁぁぁ〜〜〜い!」
レオ
「おお、なるほどまろやかで上品でいい感じだ」
スバル
「あぁ、前のとは何かが違うな」
きぬ
「どれ、ボクも食うよ」
レオ
「あ、俺のスプーン使うなよ」
聞いてないし。
きぬ
「うん、後の方のはテンチョーのだね」
店長
「その通りデース」
店長
「椰子サーン。あなたのカレーは充分
美味しいデスケード」
店長
「今のレビューで分かるヨーニ。
カレーのココロをつかんでマセーン
自らがカレーになるような心意気デース」
自分がカレーになってもしょーがないと
思うのだが。
なごみ  共通
「……分かりました」
新一
「か、カレーの心って……別に前のカレーも
美味かったよ?」
新一
「そんなにこだわるほどの事じゃないって」
店長
「おいジャップ。今何ツッタ」
新一
「ひっ!」
なごみ
「カレーは少しの味の違いが命なんです」
なごみ
「店長、続きを。時間がもったいないです」
店長
「ナイスデース。その燃える瞳。
昔を思い出しマース」
なごみ
「絶対に美味さの技術を習得してやる」
2人はまた厨房へ引っ込んでいった。
スバル
「……なんつーか、2人とも真剣なんだな」
きぬ
「くっ、ココナッツのくせに何か生意気」
スバル
「つーかオメェ、店閉まってるんだから
ここにいる意味が無くね?」
きぬ
「後片付けとか、色々大変なんだぜー
時給が良くなきゃ皆と遊びに行ってんよ」
新一
「開国祭まで、後どれくらいだっけ?」
スバル
「30日だから、あと10日だな」
新一
「椰子がそんなに長く続くかねぇ」
レオ
「俺は続くと思うぜ。料理には真剣だからな」
きぬ
「んだよ、なんか面白くねー意見だなオイ」
どうなることやら。
今日は終業式。
乙女
「たまにはトーストを焼いてみようと思った」
レオ
「なんで過去形?」
乙女
「トースターが自決した」
レオ
「それ乙女さんが壊しただけだから」
乙女
「この機械には気合が足りない」
レオ
「機械に気合なんてありませんよ」
乙女
「鉄家のテレビはうつりが悪くてな、
叩いたりすると鮮明になったものだ」
古いだけだ……。
結局おにぎりだった。
今日で一学期も最後だ。
だから、弁当も味わって食った。
弁当の具は、いつもと同じ感じだった。
今日が最後だから、弁当の中身がゴージャスに
なるかと勝手に期待していたのだが。
いや、充分美味かったんだけどね。
レオ
「……ふぅ、ごちそうさま」
レオ
「短い間だけど、マジで美味かったぜ」
なごみ
「2学期もいきます?」
レオ
「え……」
レオ
「いいの」
なごみ
「ちゃんと味をレビューしてくれるなら、
もってきますよ」
レオ
「やった!」
レオ
「う、ごほっ、ごほっ、ごほっ……」
なごみ
「麦茶」
レオ
「さ、サンキュー。むせちまった」
なごみ
「……そんなに喜ぶことですか?」
レオ
「あ、あぁ、まぁな」
レオ
「正直、嬉しかった」
なごみ
「あんまり露骨なお世辞はいりませんよ」
レオ
「いや、気がついたらお前の料理の
ファンになってたみたいだ」
なごみ
「……え」
レオ
「是非、また作ってきてくれ」
なごみ
「わ、分かりました」
なごみ
「……ファン」
レオ
「椰子?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「今、ひょっとしてかなり嬉しかった?」
なごみ
「センパイ調子乗りすぎ」
レオ
「わ、悪かったよ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「……」
微妙な沈黙状態になってしまった。
嬉しそうだから指摘してやったのに。
相変わらず難しい娘だ。
俺は勝手にこの交流も終わりにしてたけど
椰子は2学期も作ってくれるんだな。
普通に嬉しいぜ。
なごみ
「午後1時」
レオ
「?」
なごみ
「だいたい、あたしと店長のカレーが
出来る時間帯です」
レオ
「あ……」
レオ
「うん。是非行かせてもらうよ」
とにかく、夏休みに入っても
椰子の交流は続く、ということだ。
それを嬉しいと思う自分に気付く。
なごみ
「それじゃ、行ってくる」
のどか
「熱心ね〜」
なごみ
「今度、覚えたの作るから」
のどか  共通
「ありがとね〜」
のどか
「ね、今度天王寺さんにも食べさせて
あげましょう〜」
なごみ
「嫌だね」
のどか
「ぅ〜 普段はいい娘なのに、
その話題になると、取り付く島も無いのね〜」
なごみ
「あんな男いらない」
なごみ
「……お父さんが可哀想だ」
なごみ  無音
「……」
……………………
気がつけばカレー屋にいる。
乙女
「蟹沢、似合ってるじゃないかその衣装」
きぬ
「えへへ、あんがと」
乙女さんまでついてきてるし。
乙女
「雰囲気はいい店だな」
店長
「言っただろ、理屈じゃネェ! 感じるんダ!」
乙女
「椰子は随分と大人しいんだな」
レオ
「大人しくしておいて、店長の技術を盗むってさ」
乙女
「うん、建設的でいい思考だな。
若い者はしごかれるのが当たり前だしな」
体育会系は、この怒鳴り声も平気なようだった。
店長
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、小休止デース」
店長
「シィッッッッット! ……素質はあるが
マダマダひよっ子デース。
あれで最後までいけるか不安デース!!」
きぬ
「おいおいテンチョー、ココナッツの事を
そこまで悪く言うなよな」
きぬ
「熱血なのは分かるけどさー。
せっかくテンチョーの暑苦しいノリに
ついてきてんだから」
店長
「あれぇ、何いい子ぶってんデスカ蟹沢サーン、
腐った性格が持ち味デスノニーいい子ぶったら
キャラ薄くなっちゃうヨー」
きぬ
「んだよ! エセ外人語でキャラ立ててる
よりマシだもんね。つーかテメーほんとに
インド出身のインド人なのかよ!」
店長
「オマエ、調子こいてっとクビにシマスヨー!」
きぬ
「テメーこそ、立ち絵もないくせにエラソーなんだよ
悔しかったら中央に出現してみろやぁぁ!」
店長
「あぁ、言った! とうとうそのセリフ
言いましたネー!」
カニとテンチョーが喧嘩していた。
乙女
「蟹沢、パンチは手数ではない。
一撃の破壊力だ。もっとしぼりこんで撃て」
乙女さんは冷静にカニの応援をしている。
なごみ
「ふぅ……ちょっと休憩」
レオ
「しかしお前も、本当よく我慢してるよな」
なごみ  無音
「……」
無言で壁を蹴っていた。
どうやらかなりムカついているらしい。
なごみ
「……まぁ日曜休みですし」
レオ
「休みあるんだ」
なごみ
「店長が材料を仕入れに行くとかで。
その後はノンストップですけど」
レオ
「ふーん」
レオ
「日曜はじゃあ何かでストレス発散させないとな」
なごみ
「そうですね、精神的にも」
そう言いながら壁を蹴る椰子
こりゃかなり鬱憤溜まってるな。
本当、不良そのものの行いだよ。
このままストレスを溜め続けてはマジで
一般市民の皆さんに迷惑をかけてしまうかも。
その時にふと浮かんだ答え。
レオ
「……じゃあ日曜どっか遊びに行くか?」
……言った。
本当に勢いで言った。
俺は不思議にも、こいつと長く居たい、と
思ってしまったからだ。
なんでこんな壁を蹴ってるやつにそんな
思いを抱いてしまったのか……。
なごみ  無音
「……?」
なごみ
「センパイとあたしで?」
レオ
「……あぁ……」
椰子は考えている。
なごみ
「……いいですよ、別に」
OKが帰って来た。
俺自身がびっくりだよ。
スゲェ、言ったもん勝ちって
ことわざはマジ本当だよ。
でも、どういう心境の変化だろ?
なごみ
「ストレスをぶつける相手が欲しかったんで」
レオ
「そういう事かよ!」
なごみ
「さ、店長。カレー作りを再開……」
きぬ
「オラァ! 断空飛び膝蹴り!」
店長
「アウッ……故郷のペンシルヴァニアが見えマース」
レオ
「やっぱりインド出身じゃないじゃん!」
ドサァッ!
きぬ
「ふん、見たか。テンチョー仕留めたぜ」
なごみ
「お前帰れ」
乙女
「何をソワソワしている?」
レオ
「いや、別に」
乙女
「お姉さんに相談してみろ」
ずいっと距離を詰める乙女さん。
この人、世話焼きだよなあ。
レオ
「……乙女さんは男女混合で、クラスメートと
遊びに行くとしたらどこがいい?」
乙女
「体を動かせるところだな」
うーん、でもそれは乙女さんの好みだし。
乙女
「何を悩んでいるか言え。力になる。約束する」
レオ
「実は、今夜3時から見た映画があって……
タイマー録画したいんだけど……」
乙女さんの顔色が悪くなった。
レオ
「力になって……くれる?」
乙女
「に、二言は無い。私に任せろ」
慎重な面持ちで、ビデオと対峙する乙女さん。
乙女
「くっ、だいたいこんなボタンが多い
意味があるのか? なんだこの■は」
ブツブツ言ってる乙女さんを残して2階へ。
……まずいな。
俺、椰子をデートに誘ったんだよなぁ。
デートじゃないかもしれないけど、緊張するぜ。
……あいつの好みは何だ。
何を言ってもキモいと言われそうな
気がするんですが。
落ち着け。
椰子の人格を考えろ。
人を馬鹿にする+無口+ふてぶてしい=?
そんな奴をどこに連れて行けというんだ。
……メールで聞いてみようかな。
男が女に聞くのも恥ずかしいが、
気に入らない場所に連れて行くよりマシだね。
“明日、行きたい所ある?”
さて、返事待ちだ。
驚くほど早く返信が来た。
“センパイに任せます”
それじゃ恥をしのんで聞いた意味が無い。
“どこか指定しろ、俺があわせる”
“センパイに任せます”
……あいつ、コピー&ペーストを
覚えやがったな、楽しやがって。
くそ、自分で考えてやる。
家に呼んでゲームをする、とか。
慌てて首を振る。
ふぅ……我ながらよくもこんな危ない
選択肢を思いつくもんだぜ。
新一
「よぉ、椰子」
なごみ
「いつから……」
新一
「や、なんか楽しそうな顔してメールしてたから
声かけずらかった」
なごみ  無音
「……」
新一
「な、なんで睨むんだよぉ!」
なごみ  無音
「……」
新一
「や、やめろそんな目で見られたら俺はトラウマが」
ピルルルルッ
なごみ
「あ……また」
なごみ
「全く、見苦しいセンパイ……どれどれ」
“クラブでヤシドリンクとかいうのがあったから
飲んでみたらマズイ! どうしてくれるんだよ
ココナッツ! ( ̄△ ̄#)”
なごみ
「あのカニ……!」
“知るかボケ その中身の無い頭を潰すぞ”
新一
「うわぁーーん! おねぇちゃーん!
いくらお馬さんごっこだからって
空き地の雑草を食べさせないでよぉーーっ!」
なごみ
「随分悲惨な詩ですね」
乙女
「うまく、録画ができたと思う……確認してくれ」
なんだか乙女さんが疲れた顔をしていた。
一晩中ビデオと格闘していたのではあるまいな。
俺はビデオを再生してみた。
ザーーーーーーッ!(←ノイズ)
乙女
「変わった番組だな」
レオ
「いや、撮れてないだけだと思うな」
乙女
「……すまん……約束したのにな」
乙女さんは心底悲しそうな顔をした。
レオ
「い、いいよ、その気遣いで充分だって」
乙女
「だが、私はしっかりその作品を見ておいたぞ
これから筋を話してやろう」
なんて義理堅い人なんだ。
レオ
「い、いいって。本当は別に見たくなかったし」
乙女
「…………何だと?」
レオ
「でかけてきまーす!」
待ち合わせは10時に松笠駅。
よし、10分前には着いたな。
5分前。
なごみ  共通
「どうも」
レオ
「よぉ」
なごみ
「……で、どこに行くんですか?」
椰子がからかい半分で聞いてくる。
そう、俺は悩んだ。
そして結論を出した。
レオ
「電車に乗るぞ」
なごみ
「? どこへ行くんですか?」
レオ
「横浜」
切符を買おうとする。
なごみ
「センパイ、自分の分は自分で買うんで」
レオ
「そう?」
なごみ
「おごられるのは嫌です」
……なんて言うか椰子らしいな。
カニだったらおごりと聞いたら
「イェス!」とか言って喜びそうだぜ。
なごみ
「いくらですか?」
あ、こいつ目が悪いんだ。
でも眼鏡はかけないらしい。
レオ
「350円」
フォローもしてあげないとな。
………………
若者なら、都会で遊ぶ!
友達がいないこいつは、おそらく名所
観光していまい。
そして、最後に料理好きな椰子が
好みそうなここへ連れてくれば完璧だ。
レオ
「それにしても、あの展望台は笑えたな
運が悪かった」
なごみ
「雲がかかってましたからね、何も見えない」
レオ
「でも、そこの水族館は綺麗だったよな
さすが日本一空に近い、というだけある」
なごみ
「ウーパールーパーがカニに似てました」
レオ
「あーそれ、言えてる」
レオ
「本当にショッピングモールには
よらないで良かったのか?」
なごみ
「あまり興味ありませんし」
なごみ
「それよりこっちの方ですね」
椰子がキョロキョロと周囲を見回す。
どこもかしこも、中華料理。
料理人志望としては嬉しいのか
椰子はグイグイと前へ進んでいく。
レオ
「そうあせるなって」
なごみ
「センパイこそグズグズしてると置いていきますよ」
なごみ
「……あれは北京ダッグ」
うーん、と悩む椰子。
レオ
「お前、さっき張り切って買ったばかりで……
食欲旺盛なこっちゃ」
なごみ
「知的探究心ですよ」
レオ
「太るなよ」
なごみ
「失礼ですね、遺伝的に大丈夫ですよ」
なごみ
「体重で悩んだ事ありませんし」
レオ
「そっか」
レオ
「メシは冷やし中華の美味い店、あるらしいから
そこ入るってことでいい?」
なごみ  共通
「そうですね」
なごみ
「冷やし中華の麺も買っておきたいな」
レオ
「自分で作るの」
なごみ
「勿論、今も少しウズウズしてますし」
レオ
「ふーん、出来たら食わせてね」
なごみ
「ま、開国祭でカレーが終わったらですね」
なんて話してて思ったんだが。
……自然だよな。
自然の会話の流れ。
緊張する必要も無かったみたいだ。
つうか普通に楽しい。
レオ
「スバル達に土産買っていくか」
なごみ
「あたしも」
母親にだろう。
俺達は驚くほど普通に過ごせた。
………………
レオ
「すっかり暗くなっちゃったな」
帰りの電車は結構混んでいた。
電車に乗ると、途端に椰子は無口になったが。
ふと、見上げた週間雑誌の広告に
キリヤカンパニー発展の裏事情と書いてあった事から
その事について話題は弾んだ。
生徒会執行部の存在に感謝する。
貴重な共通言語なので、話題が出ると
結構盛り上がるからだ。
レオ
「どうせ帰り道同じなんだ。家まで送るぜ」
なごみ
「それはご親切に」
嫌味ったらしいが否定ではなかった。
夏休み突入したばかりの日曜日、ということで
夜になっても駅前は結構にぎわっている。
俺達2人で歩いている所、学校の誰かに
見られてるかもな。
誇らしいやら恥ずかしいやら複雑だ。
雑踏の中を、椰子と歩く。
なごみ
「……そういえば今日は日曜」
なごみ
「やっぱりやめます」
レオ
「?」
なごみ
「今、家に帰るのは」
レオ
「なんで」
なごみ
「あたしはブラついてから帰りますんで
センパイは先に帰ってください」
レオ
「俺別に、家の前までは行かないよ。
商店街の入り口までだ」
なごみ
「や、別にそういうわけじゃないです
センパイとは関係ありません」
なごみ
「ただ……ちょっと」
ただ何なんだろう。
なごみ  無音
「……」
椰子の顔色と気配。
立ち入った事は聞くな、と言っている。
レオ
「……分かった」
なごみ
「はい、ここで」
レオ
「なぁ」
なごみ  無音
「?」
レオ
「開国祭が終わったら、また遊びにいかないか」
次の約束をとりつけたい。
これで終わりにしたくない。
なごみ  共通
「……」
椰子は考えている。
なごみ
「いいですね、それも」
椰子らしい返事だった。
でも肯定してくれた。
それが何より嬉しかった。
椰子の後ろ姿を見送る。
最後にチラ、とこっちを見て
椰子は雑踏に消えていった。
……なんとなく甘い気持ちになる。
あいつが何を思っているのか分からない。
もっと干渉したいと思う。
センパイとしても、男としても
悩みがあるなら聞いてやりたい。
でも、そこまで踏み込んだらあいつは怒る。
焦らず、建設的な思考で行こう。
テンションに身を任せすぎると
どうなるかは俺が一番良く知っている。
でも、本当に気になるな。
………………
俺の部屋はジューシーな匂いで
充満していた。
俺が買ってきたお土産でちょっとした
肉まんまつりだ。
きぬ
「なかなか気が利くじゃねーかレオ」
カニがニコニコしながら食べている。
スバル
「これ美味いな。中華街の?」
レオ
「そう、本場だぜ。今日俺が買ってきたんだ
ありがたく頂けよ」
新一
「あん、今日? お前一人で?」
レオ
「いや、椰子と」
きぬ
「あぁん!?」
きぬ
「何だそりゃ! おかしいんじゃねーか!?
何でココナッツと行くんだよ! オイ!」
レオ
「なんで怒るんだよ」
きぬ
「よし次はボクと行くぞ。勿論全部テメーの奢りだ」
レオ
「だってさスバル」
スバル
「しゃーねーなぁ」
きぬ
「スバルじゃねぇよ!! レオに言ってんだよ」
スバル
「傷つくねぇ」
新一
「つうか乙女さんは?」
レオ
「もう寝てるよ。寝不足だったみたい……」
乙女
「肉まんの匂いがするな。私は肉まん好きだぞ」
……匂いに釣られて起きてきた。
ま、楽しい1日だったぜ。
きぬ
「何綺麗にまとめようとしてんだ!」
レオ
「ぐはっ!!」
………………
なごみ  無音
「……」
なごみ
「……センパイ……か」
所詮は線の外側の存在だけど。
最近は話してばっかりだ。
店長
「気分は絶好調!」
店長
「いよいよ今週末が開国祭デース!
気合いれて行きますヨー!」
きぬ
「オーーー!!!」
なごみ  共通
「了解」
きぬ
「テンション低いなー」
なごみ
「カニが高すぎ。ウザいんだけど」
きぬ
「テレビに映る可能性もあるって聞けば
そりゃ張り切るさ。しかもMHKだぜ!」
なごみ
「……ふん。せいぜい恥をさらさないように」
きぬ
「ところでさ」
なごみ  無音
「?」
きぬ
「オメー昨日レオと横浜遊びに行ってたんだって?」
なごみ
「カニには関係無い」
きぬ
「ま、レオはヘタレな分誰にでも優しいからね。
勘違いすんなよ?」
店長
「ボサッとすんな! さっさとはじめるぞ小娘!!」
――26日
レオ
「おっ……なんか味に磨きがかかってないか?」
スバル
「確かに。まろやかになったっつーか」
店長
「デモ、まだまだツメが甘いデース!
調子のんなよ、黒髪ロンゲ」
なごみ  無音
「……」
むかついてる、むかついてる。
――27日
なごみ
「あー……ストレスが溜まる」
きぬ
「うがー、テメェ! それをボクで解消すんな!」
――28日
午後11時。
オアシスにはまだ人がいるようだ。
こんな夜遅くまでやってるのか。
なごみ
「ふー……」
レオ
「よぉ、椰子。お疲れさん」
なごみ
「センパイ……」
なごみ
「今、ちょっとカレーの匂いしますよ」
レオ
「や、別にそんなんいいけど」
レオ
「いよいよ明後日だな」
なごみ  共通
「ですね」
レオ
「完成を楽しみにしてるぞ」
レオ
「ストレスはカニにぶつけて、頑張れ」
なごみ
「言われなくてもそうしてますけど」
なごみ
「センパイも随分おせっかいですね」
レオ
「正直、お前が羨ましくてさ」
なごみ
「羨ましい?」
レオ
「夢が無い、とか言って
つまらなそうにしておきながら
こんなに熱中できるものがあるなんてさ」
なごみ
「ここまで来たら意地もありますけど」
レオ
「とりあえず、夢が無いものの同志として
見守ってみたいんだよ」
なごみ
「挫折するところを?」
レオ
「その屈折した物の考え方はやめろ」
レオ
「仲間が巣立つところをだ。学校の先輩としてもな」
なごみ
「はっきり言って余計なお世話が80%です」
レオ
「後の20%は?」
なごみ
「それは……」
きぬ
「よっこらしょっと」
レオ
「どっから沸いて出た」
きぬ
「さぁ、バイトも終わったし帰ろうぜ」
カニが俺の手をとる。
レオ
「あ? あぁ、そうだな」
なごみ  共通
「……それでは」
――29日
のどか
「ねぇ、いい加減、なごみちゃんが天王寺さんと
会ってくれないとお話が進まないんだけど〜
開国祭が終わったら夜中、ちゃんと家にいてよ〜」
なごみ
「……話を進ませないのが目的だからね」
のどか
「何か言った〜?」
なごみ
「……別に。今夜は徹夜だと思うから」
のどか
「そう〜。開国祭は明日だからいよいよ大詰めね〜」
なごみ
「徹夜、という事についての文句は言わないんだ」
のどか
「だってなごみちゃん活き活きしてるもん〜
料理を頑張るのは賛成よ〜」
なごみ
「……じゃ、行ってくる」
のどか
「頑張ってね〜。応援してるわ〜」
なごみ
「大きな声で……恥ずいって」
レオ
「ちーす」
乙女
「激励に来たぞ」
きぬ
「あぁ、今日はいよいよクライマックスなんで
面会謝絶だとよ」
レオ
「そっか」
レオ
「椰子ー! 頑張れよー!!」
厨房に声をかけてから、店を出る。
乙女
「いよいよ明日となれば1分1秒でも
惜しいのは事実だから仕方が無いな」
レオ
「まあ、そうだけどね」
レオ
「でも椰子大丈夫かな」
疲労で倒れはしまいか。
いや、そんなヤワじゃないなあいつは。
むしろストレスでキれて、店長そのものを
カレーにしてしまうかもしれない。
……うわ、ありそうで怖いぞ。
レオ
「明日の朝も様子を見に行ってみるか」
乙女
「随分と熱心だな」
レオ
「本当……なんでだろね」
レオ
「なんかあいつ、放っておけないって言うか」
乙女
「レオは放っておけない年下が好みなのか?」
レオ
「う、そうなのかな……?」
意識してなかったけど、そうかもしれない。
レオ
「フカヒレほどじゃないけど
年上の女性にはどうも苦手意識があるのかも」
レオ
「いつも誰かに暴力振るわれてるから」
乙女
「ふーん。乱暴な奴がいるんだな」
あんたや、あんた。
乙女
「ま、年下が頑張ってるんだから
こちらも頑張らないとな
トレーニングはみっちり行くぞ」
レオ
「オス!」
乙女
「うん。いい返事だ」
俺も少しは頑張らないとね。
――まつかさ開国祭。
全国的に有名なこの行事は
7月の30日と31日に開催される。
30日の目玉はパレード。
31日は花火だ。
今週は雨の日が多くて不安だったが、
見事なまでに晴れたな。
めっちゃ暑くなりそうだ。
レオ
「こんにちはー」
カレー屋の中は、当然ながらカレーの匂いで
充満していた。
なごみ
「どうも、センパイ」
レオ
「うわ、やつれてないかお前」
きぬ
「1年坊にはこれぐらいが丁度いいんだって」
店長
「フゥ……オールナイトで作業してマシター」
レオ
「で、どうだった?」
店長
「エェ、納得いくものが作れましたヨー
なごみさんのおかげデース」
なごみ
「いえ、それほどでも」
店長
「そうデスネー、実はそれほどでもありまセーン」
なごみ  無音
「(ギロッ)」
店長
「OH、まだヤングなんだから腕はそこそこで
当然デース。デモ、充分助かりマシター」
きぬ
「へぇ珍しい。テンチョーが人褒めてるよ」
店長
「素質アリマスネー、料理人になる気は
アリマセンカー? いい修行先紹介シマスヨー
そういうネットワーク、任せてクダサーイ」
なごみ
「……ぅ……」
なごみ
「……その話は、また……」
レオ
「……?」
店長
「ソウデスネー、今日のイベントに専念デース」
レオ
「ねぇ、ちょっと味見していい?」
きぬ
「ダメだって。一番美味くなる時間ってのが
あるんだからさ」
レオ
「なるほど、そっか」
なごみ
「お望みとあらば、センパイには後日
また別で作りますよ」
レオ
「え、ウソマジで!? やった楽しみ」
きぬ
「……うぇー、ココナッツすげーカレー臭ぇ!」
なごみ
「うるさいな、いちいち割り込んできて」
レオ
「でも、後は美味しく作ったカレーを
お招きした人に食ってもらうだけだね」
きぬ
「そこは可愛いウェイトレスたるボクにお任せ」
なごみ
「ヘマするなよ」
なごみ
「味わってもらう、という心を大切にだぞ」
きぬ
「へっ、ココナッツが謙虚な事言ってらぁ」
なごみ
「そう教わったんだ」
きぬ
「ま、オメー、ひねくれてると思ったけど
なかなか根性あるじゃん」
きぬ
「少しは認めてやるぜ」
おっ、友情が!
なごみ
「カニに認められても嬉しくも何とも無い」
……芽生えなかった。
店長
「なごみさんは休んでてクダサーイ」
なごみ
「今寝たら爆睡してしまいます」
なごみ
「このカレーを、食べるべき人達が
食べるのを見届けるまでは寝ません」
店長
「オゥ、いい答え。マスマス気に入りましター」
なごみ
「とりあえず、カレーの匂いだけでも
落としてきます」
レオ
「家まで送るぞ」
なごみ  共通
「結構です」
まあ、朝なら人通りも少ないし大丈夫か。
椰子はフラフラと自宅へ帰っていった。
………………
強烈な陽射しにジリジリと熱されたアスファルト。
ミンミンと大合唱するセミ。
この暑さに加え、今日は何万人という観光客が
松笠にやってくるのだ。
レオ
「この暑さの中でパレードとはご苦労様だな」
スバル
「表通りは、モノ凄ぇ人ごみだったぞ
ありゃ何人か熱射病でやられるぜ」
スバルがジュースを放り投げてくる。
スバル
「どうする? パレード見るのはやめるか」
レオ
「いんや」
レオ
「緑岡学園のチアリーディング部も
参加してるはずだし、パレードは見たい」
スバル
「こーの、ムッツリ野郎が。じゃあ行こうぜ
そろそろ先頭の市長の車が通過するころだから」
レオ
「そうだな」
熱いのを覚悟して表通りへ。
途中でウチワを配っていたので、それを
受け取った。
レオ
「やっぱり凄い人ごみだな……オイ」
スバル
「なぁ、パレードの前列の車には有名人が
乗ってやって来るんだよな?」
レオ
「もしくはお偉いさんな」
スバル  共通
「見てみろよアレ。信じらんねぇな」
スバルが指差す方向を見ると……。
レオ
「こいつはビックリ」
警備員  新一
「はいはい、押さないで下さい
これ以上前にでないで下さい」
レオ
「しかもフカヒレ。お前は警備員のバイトかよ」
群集が、前に出すぎてパレードの邪魔を
しないようにと、3メートルぐらいの間隔で
警備員が配置されているのだ。
新一
「これ、2日で3万円だぜ? ボロイって」
新一
「あーはいはい、そこ前に出すぎです!」
おねーさん
「あぁッ!? うるせーな少しぐらいいいだろッ!」
新一
「ひぃ! スイマセンッ! 本当にスイマセン!」
警備員がビビッてどうするよ。
スバル  共通
「なんで姫がパレード参加してるわけ?」
新一  共通
「なんでも、市長の次の車に乗ってくるのは
優秀な学生1名とミスまつかさ、という
セットらしいぞ」
レオ
「さすが姫。絵になってるな」
スバル  共通
「祈ちゃんも笑顔振りまいてノリノリだ」
新一  共通
「でも祈センセが住んでるのって、
松笠じゃなくて横浜だよね?
俺、一回ストーキングして知ってるもん」
レオ
「インチキかよ先生……」
スバル  共通
「突っ込む所はそこじゃねぇだろ?」
紀子  無音
「(カシャカシャ)」
あ、西崎さんが報道部として写真撮ってる。
この超暑いのに頑張ってるな。
あ、転んだ。
ぐぐ、っと起き上がって。
また熱心に撮影している。
西崎さんも、一生懸命だ。
皆が頑張ってるのを見るとなんとなく焦燥感。
新一
「そこのガキ! 前に出るなって言ってるだろ!」
おねーさん
「あぁッ!? アタイの子供になんか文句あんの?」
新一  共通
「ひぃ! スイマセンッ! 本当にスイマセン!」
フカヒレを見るとなんとなく安堵感。
……………………
駅前の通りへ。
ここの大画像液晶モニターでも
式典の様子は確認できるのだ。
なごみ
「あ……センパイ」
レオ
「やっぱ見に来るならここか」
レオ
「お前、寝てないんだろ? 体大丈夫か?」
なごみ
「これしきの事で」
スバル
「お、はじまったみたいだぜ」
モニターを見る。
ゲストの人達にテンチョーが作り
椰子がサポートしたカレーが振舞われた。
レオ
「作った本人がここで見てるだけ、というのも
寂しくない?」
なごみ
「目立つのは嫌なんで」
レオ
「画面に映ってるカニはニコニコしてるな」
なごみ
「あいつはアホですから」
レオ
「おっ、カレー食ってるぜ」
スバル
「美味い、とコメントしているな」
なごみ
「まぁ、そういうのは礼儀みたいなもんですから」
こいつ、またそういうヒネた考え方を……!
スバル
「いや、でもおかわりしているぜ
不味かったらおかわりなんかしないだろ?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「本当は嬉しいんだろ?」
なごみ
「う、うるさいな……」
なごみ
「確かに、ちょっとは嬉しいけど
それで舞い上がるほど子供じゃないです」
スバル
「その反応も充分子供だと思うけどねぇ」
なごみ  無音
「(ギロ!)」
スバル
「〜♪」
なごみ  無音
「……」
椰子は、自分が作ったカレーを美味しそうに
食べてる人達を見て、満足そうな顔をしていた。
やっぱり嬉しいんだな。
きぬ
「このカレーは! 駅から8分!
可愛いウェイトレスとイケメンテンチョーがいる
カレ−専門店“オアシス”からの提供でしたっ!」
きぬ
「よっしゃー! しっかりコマーシャルしたから
これで臨時ボーナスね! テンチョー!」
きぬ
「え、これまだカメラ回ってんのっ!?」
スバル
「……あちゃあ」
レオ
「あいつ、……全国放送なのに余計な宣伝を……」
なごみ
「サイアク」
なごみ
「まぁ、アタシは責務は果たしたんで
関係ないですけどね」
なごみ
「帰って寝ます」
スバルがグイッと俺の体を肘でつつく。
指摘されなくてもわかってるって。
レオ
「家まで送るぞ」
なごみ  共通
「結構です」
レオ
「だめ、お前足取り危なっかしいし、炎天下だし
人ごみだし」
レオ
「絶対送るからな」
なごみ
「……ご自由に」
俺、覚えたね。
ここぞって時、女には少し強引な方がいい。
スバルは頑張れ、と目で訴えて姿を消した。
ったく、余計な気を使いやがって。
人ごみの中を無言で歩く。
椰子の無口も慣れてきたな。
こいつといる空間は、悪くない。
よし、もっと強引に行ってみよう。
レオ
「なぁ、椰子」
レオ
「明日、花火見ない?」
誘ってみた。
なごみ
「それはお断りします」
……調子に乗って深入りもだめだよね。
なごみ
「家族と見ようと思ってるんで」
なごみ
「子離れできない母は、
あたしがいないと寂しがるものでして」
レオ
「あぁ」
そっか、母1人娘1人だもんな。
それじゃ仕方ない。
残念だけど、少し安心した。
椰子の店が見えた。
レオ
「本当にお疲れ様、良くやり遂げた」
なごみ
「えっ……」
レオ
「どうした?」
なごみ
「あ、いや、今の仕草が……少し父さんに……
いえ、何でもないです」
レオ
「? まぁいい」
レオ
「本当に料理人向いてるかもな」
なごみ  無音
「……」
椰子は急に、険しい顔つきになった。
なごみ
「あたしは、父さんが作った
この店を守る、という選択肢以外ありません」
なごみ
「マイマザーはぬけてるというか、
危なっかしいので、あたしがいないと」
なごみ  共通
「それじゃ」
レオ
「あ、おい」
椰子はスタスタと店の中に入っていった。
のどか
「あ〜、なごみちゃんお帰り〜」
なごみ
「暑いのに抱きつかないでって……」
母と娘か……。
カニの家とはえらい違いだな。
きぬ
「よし、今日は花火見に行こうぜー」
スバル
「まさか、海岸まで行くのか?」
きぬ
「海岸はメチャクチャ混んでんだろ。
駅前で屋台つつきながら見ようぜ」
スバル
「ま、駅前も混んでると思うが
海岸の混み具合は半端じゃねぇからな
そっちの方がいいかな」
乙女さんも部活の合宿が無ければ
花火見られたのにな。
………………
のどか
「ちょっと待ってよなごみちゃん〜
一緒に花火を見る気だったんでしょう〜?」
なごみ
「あいつ(天王寺)が呼ばれてるなんて聞いてない」
のどか
「こっちの話も聞いてよ〜」
なごみ
「何度言われても、あたしは再婚に反対だから」
なごみ
「ここは、父さんと母さんと
あたしがいた空間でしょ?」
なごみ
「他のなんていらない、そんなのキモい」
のどか
「転校生を受け入れないタイプね〜」
なごみ
「そんな脳天気だから、悪い男につけこまれる」
のどか
「あ、なごみちゃん〜!」
なごみ
「そんなに新しい男がいいのか……」
なごみ
「……父さんが可哀想だ……」
――花火がバァーーンッと景気良く上がる。
暗い夜空を華やかに照らす花火は、
まつかさ開国祭の最大のイベントだ。
きぬ
「おーっ、屋台がいっぱいあるぜぇーっ」
スバル
「オマエは花より団子だな」
レオ
「ん、あれは……」
椰子か?
あいつ何やってんだ。
………………
スバル
「あれ? レオがいねーぞ」
きぬ
「んだよ、人がシシカバブ食ってる間に迷子かよ」
スバル
「チッ、混雑で携帯通じねー」
きぬ
「あいつ、目を離すとすぐフラフラと……
なんか知らないけど嫌な予感がするなぁ」
………………
レオ
「椰子」
なごみ
「あぁ、センパイ。こんばんわ」
レオ
「お前、家族と花火見るんじゃなかったのか?」
なごみ
「別に……予定変更です」
レオ
「何かあったのか?」
なごみ
「何もありませんよ」
なごみ
「ウザい干渉はしないでください」
レオ
「……分かった」
レオ
「俺もここで花火見るけど、いい?」
なごみ
「好きにしてください」
レオ
「じゃ好きにする」
……なんかよく分からないけど
こいつ落ち込んでいるよな。
かといって口にすればまた怒るだろうし。
とりあえず無言で傍にいてやることにした。
ほんと、なんでこんな口の悪いヤツを
放っておけないと思っちまうんだろう。
夜空には、豪華な花火が次々とあがっている。
レオ
「おぉ、あれスターマインとかいうやつだろ」
なごみ  無音
「……」
椰子は無言だが、立ち去らないところを見ると
不愉快では無さそうだ。
轟音が辺りに響いている。
なごみ  共通
「センパイ……」
レオ
「ん?」
花火の隙間をついて、椰子がボソリとつぶやく。
なごみ
「明後日……海でも行きませんか」
レオ
「え」
なごみ
「スカッとしたいです」
レオ
「海か……」
レオ
「お前もずっと密室でカレー作り続けてたかな
そりゃスッキリしたいだろう」
なごみ
「嫌ならいいですよ」
レオ
「いやいや、喜んで」
また次の花火が打ち出された。
……これデートだよな。
すんなりと約束してしまった。
しかし椰子から露骨に誘われる日が来るとは。
本当に今日はこいつに何があったんだろう?
もっと話してみたい気もするが、
花火の音でうるさいし。
明後日、またいっぱい話せばいい。
だから今は無言で。
俺達は、ただ夏の夜空を見上げていた。
――海。
地元の穴場と言われる海水浴場へ来ていた。
ここは比較的人が少なく海が綺麗なのだ。
……ま、それでも充分に混んでるけどね。
レオ
「お前と海で遊ぶの2回目だな」
なごみ
「今日は騒がしいのがいないのでせいせいします」
逆を言えば2人きりなんだけど。
なごみ  共通
「ふぅ……」
うーん、相変わらず1年生のボディじゃない。
っていうか、こいつは自分の顔と体がいかに
スペック高いのか分かってるのか?
ここまで美人だと、ツレの俺が誇らしげ。
周囲から感じる妬みの視線が熱いぜ。
なんかひとつの視線がやけに突き刺さるな。
新一
「……一人でヤキをいれに来たら、すごい光景発見」
新一
「レオと椰子……2人で遊びに来ているほどの
仲なのかよ……チクショウ」
なごみ
「海行ってきます」
レオ
「あぁ、せっかくきたんだからな
俺も行くよ」
レオ
「日焼け止めクリームとか塗らないの?」
なごみ
「体質だと思うんですけど、あんまり焼けないんで」
確かに、白い肌だ。
その滑らかな素肌を見ているだけで
それだけで胸が高鳴った。
なごみ
「あたしは泳ぎます」
レオ
「あ、じゃあ競争しようか?
俺についてこれるか?」
なごみ
「それはあたしの台詞です」
レオ
「んじゃ、あの岩まで競争な」
なごみ
「負けたら昼飯おごりですよ」
…………
新一
「……なんかめっちゃ仲良さそうじゃないかぃ!?」
新一
「チキショウ……目から塩辛い変な汁が出てやがる」
新一
「だが俺はまた1つ……友の裏切りで強くなったぞ」
………………
レオ
「はっはっはっ、勝った、勝った!」
なごみ
「……チッ。なまってる……」
レオ
「昼飯おごりな」
なごみ
「仕方ないですね」
椰子が海の中からデロンとした昆布を取りだした。
レオ
「いや、これ食えないから」
レオ
「しかし俺、必死で泳いだぞ。
その俺に僅差ってのはやるな、椰子」
なごみ
「運動にはそれなりに自信あるんで」
レオ
「そっか」
レオ
「まぁ、しかしスッキリした顔してるな
カレー作りのストレスはとれたかな」
なごみ
「まだまだ。これから今日いっぱい
センパイにガンガンぶつけますよ」
椰子がニヤリと笑う。
レオ
「できればお手柔らかに頼む」
なごみ
「……しかし、センパイも我慢強いですね」
なごみ
「運動会の時に言いましたけど、
あたしに好き放題言われてよく怒りませんね」
レオ
「え、言われたっけ」
なごみ
「言いましたよ」
レオ
「運動会の時〜? いつよ?」
なごみ
「フォークダンスの時です」
レオ
「……良く覚えてるな。頭いいな」
なごみ
「あたしの頭というより、センパイの頭の
構造がどうかしてるんですよ
暑さでやられてるんじゃないですか!?」
レオ
「う、うわ、海水かけるな」
レオ
「……まぁ、お前の言動に
ムカツク事もなくはないけど」
レオ
「まー、可愛い後輩ってのは生意気なもんだろ」
なごみ
「可愛いって……そんな形容嬉しくないですよ」
ザバッと海水をかけてくる。
レオ
「うわ、海水かけるクセをなおせ」
………………
新一
「……椰子ってあんな顔するんだな」
新一
「かたや女連れで海水をかけあい青春をエンジョイ。
俺は1人でジリジリと日光浴……
なんだ、この差は一体!?」
新一
「あーもう、素直に超うらやましい!」
新一
「ヤダヤダヤダ! 俺も彼女いなきゃヤダヤダヤダ」
ギャル1
「何コイツ?」
ギャル2
「変なリアクションしてるーっ」
ギャル3
「しかも体つき貧弱ーっ!」
ギャル4
「総じてキモーーイッ!」
新一
「へっ! へへへへ……こんな黒く日焼けしたブタに
まで馬鹿にされて……へへへ」
新一
「絶対いつか幸せになってやる」
なごみ
「ふぅ……ふぅ……」
レオ
「はぁ……はぁ」
海水かけあって疲れた。
ここら辺は人がまばらにいる。
このまま続けても迷惑だろう。
レオ
「よし、もっと沖に行くぞ。ブイの所まで」
自然に椰子の手をとる。
なごみ
「ちょっと……!」
レオ
「ん?」
なごみ
「いえ……なんでもないです……けど」
椰子の対応策1、時には強引に。
センパイとしてこいつはリードしてあげないと。
椰子は手を振り解かずに、けれど
力もいれずに、そのまま俺に手を握られていた。
………………
なごみ
「……ふぅ」
レオ
「楽しかったな」
なごみ  共通
「そうですね」
レオ
「またどっか遊びいくか」
なごみ  共通
「……いいですよ」
スムーズに許可が下りた。
縮まっていく距離。
こうやって仲良くなっていくんだな。
嬉しかった。
なんか顔がニヤケちゃうんだよなぁ。
なごみ
「次はどこへ行くんですか?」
レオ
「どこだろうな」
なごみ
「任せますんで決めてください」
レオ
「決めたらメールする」
なごみ  共通
「はい」
レオ
「空いてるのいつ?」
なごみ
「ヒマなんで。気にせずいつでも」
なんだか自然な感じで、いつの間にか
ガールフレンドっぽい雰囲気に。
特に大事件があるわけでもない、
ちょくちょくしたものの積み重ね。
でも、気が付けばそこに仲良くなった
俺と椰子との関係があった。
それを素直に嬉しく思う。
………………
いつもの夜の集い。
フカヒレはいないが、スバルと
カニは来ていた。
にこにこ。
スバル
「機嫌よさそうだな」
レオ
「椰子と手を繋いでみました」
きぬ  無音
「!?」
後々考えると大胆。
スバル
「そいつは妬けるね。デート何回目?」
レオ
「んー。携帯を買いにいったのを入れれば3回目」
レオ
「今日海行ってきてさ」
スバル
「そう言われれば。体、少し赤いな」
レオ
「手を繋ぐの、ちょっと早いかな?」
スバル
「ま、いいんじゃねーの? だってお前達
ドッチや合宿一緒だったし、弁当も一緒に
食ってたし」
スバル
「オレに言わせりゃ、ペースはむしろ遅い」
きぬ
「それで他にアイツとは何かしたのか!?」
レオ
「や、手を繋いだだけだけど」
きぬ
「手をツナグってこれか!」
カニにガシッ! と握手された。
きぬ
「こんなんか! こんな汗ばみそうな
行為にオマエはときめいてるんか!!」
レオ
「な、何だよ、何怒ってんだ?」
ピピピピッ
俺の携帯へのメールが来た。
レオ
「あ、椰子からだ」
“センパイが好きだって言ってたバンド、
今テレビの歌番組に出てますよ”
レオ
「ふーん、見てみよ」
スバル
「へぇ……マメに来てそうだねぇ
顔文字ひとつないのが椰子らしい……」
きぬ
「へんっ、高速メール打ちスキルを舐めるな
携帯番号知っといて良かったぜ
あいつ番号からアドレス変えてないしな」
ピピピピピピピピピピピピ!!!!!
レオ
「しかし、打つのほんと速いなー」
“レオは今ボクと遊んでるんだよ、バーカ!”
きぬ
「ふぅ、これで良し。送信っと」
スバル
「おい、カニ。やめとけよそういう風なメール
年下相手におとなげ無いぞ」
きぬ
「うるせーんだよ!」
スバル
「……オォ、怖ェ……」
きぬ
「ん、ボクにもメールだ。ココナッツか?」
“人生って何だろうね フカヒレ”
きぬ
「なんだこいつ……」
レオ
「何だよ、いいじゃないか椰子が俺と
遊んでも。仲が悪いのは知ってるが
そこまで嫌うのは可哀想だぞ」
きぬ
「うるさいうるさいうるさーい!!
とりあえず海行くぞ、今日行った所より
広くて綺麗なところだーっ!」
ガクガクと体を揺らされた。
レオ
「な、なんだなんだ!?」
スバル  共通
「やれやれ……」
スバル
「カニ。お前は、浦賀さんの実家へ
クラスの女子達と長期旅行へいくんだろ」
きぬ
「そういう問題じゃねー!」
カニはご機嫌斜めだった。
乙女
「それでは、私はいったん実家に戻る」
レオ
「東京の柴又だっけ」
乙女
「ん。今度こっちに戻るのは8月の30日と
いった所だがそれまでしっかりな」
スバル
「いざとなればオレが手取り足取り面倒みますから」
レオ
「やな面倒の見方だな」
乙女
「いや、レオは少し伊達に頼りすぎだ」
乙女
「スケジュール表を渡しておこう。この通りに
動いとけば問題無いぞ」
レオ
「はは……ありがと」
乙女
「昼と今夜の分は、たんまりおにぎり
作っておいたからそれを食べるんだぞ」
レオ
「うん」
乙女
「おやつは私が買いこんでおいたのが戸棚にある
食べすぎて虫歯になるな」
レオ
「うん」
乙女
「何か不都合があれば遠慮なく電話しろよ」
乙女
「あと、それからだな……」
レオ
「乙女さん、気持ちは嬉しいけど
電車でちゃうよ」
乙女
「む。そうか……では私は行くぞ」
乙女
「それじゃあなー」
乙女さんは、多くの人間がいるというのに
大声で手を振っていた。
……ちょっと恥ずかしいけど、乙女さんは
こういう人なんだ。
スバル
「いい人だな、乙女さんは」
レオ
「うん」
スバル
「あんな姉ちゃん欲しかったかも」
こいつ、年上好きなんだよなぁ……。
商店街を通る。
花屋の前をとおったが、店にあいつの
姿は見えなかった。
スバル
「……いなくて残念かい、坊主?」
レオ
「お前はいちいち目ざといやっちゃな」
………………
なごみ
「家事、一通り全部終わったから」
なごみ
「次、花の品質チェックしとく」
のどか  共通
「ありがとね〜」
なごみ
「気にしなくていいよ」
なごみ
「あたしは、父さんが作った花屋(ここ)が
大好きだから」
のどか
「……なごみちゃん……」
………
尊敬する父の遺影の前に手をあわせる。
なごみ
「父さん……母さんはあたしが守るから。
他のやつには渡さない」
なごみ
「父さんの思い出、無くしたりしないから」
本屋に寄ったついでに、花屋を見てみる。
レオ
「あ、椰子いた」
レオ
「よっ」
なごみ
「あ、センパイ」
レオ
「夏休み中も毎日家の手伝いエライな」
なごみ
「べ、別に……たいてい裏方なので気軽です」
レオ
「遊ぶ時間とかとれそう?」
なごみ
「はい。別に1日中こればっかりやってる
わけじゃないですから」
レオ
「それじゃ……ん……」
なごみ  無音
「……」
誘う時は照れくさいな。
レオ
「……明日あたり、どっかで遊ぶ?」
なごみ
「明日ですか、午後からならいいですよ」
おお、2つ返事。
3ヵ月くらい前では考えられなかった事だ。
今日で、椰子とこうやって遊ぶのは4回目か。
会うのが午後からって事で遠くにはいかない。
地元をブラブラする事にした。
……とはいえ、デパートの屋上に飾りつけている
温度計は32度を示している。
どこかに入らないと日射病になりかねん。
なごみ  無音
「(けろっ)」
レオ
「……椰子ってホント、暑さに強いよなぁ」
なごみ
「はい。どういうわけか平気です」
その髪が余計に暑そうに見えるんだけどな。
道行く皆が暑さにヘトヘトになっているのに、
椰子だけは表情を変えず、余裕さを保っている。
それが悪いとは言わないけど、もうちょっと
違う面を見たいなぁ。
レオ
「俺はこの暑さに耐えられん。映画でも見るか?」
なごみ
「構いませんよ。何見ます?」
レオ
「んー、何やってるかな。アニメや特撮系は
お前ヤだろうしー」
なごみ
「……母が好きで強制的に連れられていくので
見れなくは無いですけど」
レオ
「あの人何気にディープだな」
なごみ
「付き合うこっちは疲れますよ」
そんな事言いながらも母親の話題だと
こいつの表情はいくぶん柔らかになる。
やっぱり好きなんだな。
レオ
「となると、やはりあれのエピソード3か
……それともホラー系のポイズンブレスか」
レオ
「椰子、お前スプラッタ&ホラー系平気?」
なごみ
「全然平気です」
こいつ、さらっと言いやがって……。
そういや、肝試しの時もケロリとしてやがったな。
椰子は知らないだろうが、この映画恐いって評判。
浦賀さんなんて ウチ余裕や、とか言って観たけど
途中で目をつぶって耳をふさいでたらしい。
レオ
「よし、じゃあこっち行ってみよう
お前、多分恐がるぜ」
………(放映終了)………
レオ
「さ、最近のホラー映画はあなどれん」
心理的にくるものがあるぜ。
これはカニには見せられないな。
なごみ
「そうですか。あたしは平気でしたけど」
椰子は強がりでも何でもなく、平然としていた。
なごみ
「センパイが震えててどうするんですか。情けない」
後輩に情けないって言われた。
映画館から出ると、椰子はすぐに眼鏡をしまった。
……そんなに気にしなくてもいいのに。
レオ
「椰子、お前は怖いもの無いのか」
なごみ
「あたしだって人間ですから、そりゃあります」
レオ
「え、何それ教えろ」
なごみ
「それをセンパイに話す義務は全くありません」
レオ
「まぁそうなんだけど」
レオ
「でも、ほらその恐いのが近づいた時
俺が守ってやれるかもよ」
なごみ
「あてにしてません」
なごみ
「それに、人にどうにかできるものじゃありません」
レオ
「自然災害系?」
なごみ
「いえ、そういうのは人並み程度です」
ふーん、じゃあ一体何なんだろう。
ドブ坂通りに到着した。
セミの声やら人の声やら風鈴の声やらが
一緒になって聞こえてくる。
レオ
「お前の着てるそれ、100%ここで買ったろ」
なごみ
「はい、そうですよ」
レオ
「確かに、ここらに売ってるのは
可愛い系よりクール系だからなー
カジュアルなのも多いけど」
店を見てまわる。
レオ
「ほら、この指輪なんか好みじゃない?」
花形のシルバーアクセ。
なごみ
「悪くは無いですけど。んー」
椰子が熱心に商品を見ている。
こういう姿はわりと斬新だ。
俺も一緒になって見る。
レオ
「(インディアンジュエリーを見てるなこいつ)」
レオ
「……ん、これは」
フェザータイプのリング。
クールな中にも優雅さがあって確かになかなか。
レオ
「椰子、こういうのはどうだ」
なごみ
「……あ、これいい」
レオ
「なるほど、こういうのが好きなのね」
なごみ  共通
「はい」
レオ
「サイズも丁度ぴったりじゃん。
おし、これ買ってやる」
なごみ
「え?」
ちょくちょく短期のバイトで貯めた金はある。
なごみ
「いや、そういうわけにもいきませんよ」
レオ
「お前ねぇ、値札見ろよ、
5000円ぐらいのもんじゃないか」
レオ
「別に数万ってわけじゃないんだし
先輩の顔立ててもらってくれ」
なごみ
「……しかし」
レオ
「あのな、こ、これデート、なんだぞ椰子」
言ってて照れるセリフ。
なごみ
「……う……」
椰子の顔がカァ、と赤くなる。
ほんと分かりやすいヤツだ。
今まであえて言葉に出さなかったけど、
やっぱり気恥ずかしいな。
椰子だってデートと分かってて一緒に来てるはず。
レオ
「だから、俺だって贈り物ぐらいしていいはずだ」
レオ
「それとも、お前これ嫌?」
なごみ
「そんなことはないです。むしろ欲しいです」
なごみ
「でも……あたしは」
レオ
「買ってやる」
何かを言おうとした椰子にきっぱり言う。
こいつに対しては、ここぞというときは
ガツンと強気で言った方がいい。
レオ
「こっちが年上である分、おごってやりたい時も
あるってわけよ」
レオ
「少しは顔を立てろって。遠慮するクセなおせ」
なごみ  無音
「……!」
なごみパパ
「なごみ、お前欲しいなら素直に言え」
なごみパパ
「遠慮するクセは、なおさないとなー」
レオ
「ま、カニのように超図々しいのも困るけどさ」
なごみ
「お父さん……」
レオ
「椰子、どうした?」
なごみ
「…いえ…父さんにも似たようなこと言われまして」
レオ
「そうなんだ。ほらよ」
手渡す。
なごみ  無音
「……」
指輪を受け取った椰子は恥ずかしそうだった。
なごみ
「……ど……」
弩?
なごみ
「ど、どうも……ありがとうございます」
レオ
「……お礼言えるんだ」
なごみ  無音
「……(ぷいっ)」
ありゃ、後ろ向いちゃった。
その場で指輪をはめる椰子。
なごみ  無音
「……」
レオ
「うん」
気に入ってくれたようで何より。
プレゼントする事はカニで慣れてるから、
(あいつの場合はタカリだが)
それほど恥ずかしくもないけど……。
こいつは、そういうの初めてなんだろうな。
何だかセンパイとしての権威復活したかも。
レオ
「よし次だ。どーする、ここならビリヤードや
ダーツ、カラオケ、ゲーセン一通り揃ってるぞ」
なごみ
「ビリヤードはしたことありません」
レオ
「ダーツは?」
なごみ
「……ありません」
レオ
「カラオケ」
なごみ
「歌、上手くないですし」
レオ
「ゲーセン」
なごみ
「そういうの、やりませんし」
レオ
「ふむぅ」
さすが友達いないだけあって、遊び関係は
穴が多いなこいつ。
レオ
「よし、ダーツだ、ダーツ行くぞ」
レオ
「お前は刺すのが得意そうだからな」
俺の腕前見せてセンパイすげーって言わせてやる。
……………
レオ
「椰子すげー。ほんとにあれが初めてのダーツかよ」
なごみ
「センパイがあまり上手くないと思いますけど」
レオ
「人を刺す才能があるのかもしれない」
なごみ
「……センパイ、潰しますよ」
椰子の言い方には前ほど棘は無い。
色々な場所に行きたいとも思ったが
こうやって身近な場所を歩くだけでも楽しかった。
ぶっちゃけ、一緒にいれば楽しいんだな。
レオ
「……じゃ、そろそろお別れだな」
なごみ  共通
「はい」
なごみ
「……これ、ありがとうございました」
レオ
「いいっていいって」
なごみ
「それで、次……」
なごみ  無音
「!?」
レオ
「なんだおい、椰子どうした?」
少し穏やかになったかと思われた
椰子が、凄まじい憎悪を持って前方を見ている。
椰子の目線の先。
そこにあるには、他でもない自分の家じゃないか。
のどか
「それじゃ、天王寺さん、また〜」
天王寺
「そうだね。なごみちゃんがいないのは残念だった。
今度こそ話し合えるかと思ったけど」
椰子のお母さんだ。
一緒にいるのは、誰だ?
30代半ばの気さくなおっさんって感じだが。
のどか
「ごめんなさいね〜。目を離した隙にいなくなって」
天王寺
「まぁ、そういう歳なんだってのは分かるけどさ
俺も窓ガラス割ったりしてたし」
のどか  無音
「……」
天王寺
「あぁ、そんな顔しないで、ほら」
なごみ  無音
「!!」
レオ
「うおっ」
あのおっさん、椰子のお母さんのおでこに
さりげなくキスを。
なかなかやりおる。
なごみ
「センパイ、いつまで見てるんですか!」
グッ、と椰子に手を取られた。
そのまま引っ張られる。
レオ
「お、おい椰子どこまで行くんだ」
なごみ  無音
「……!」
椰子は聞いてない。
ただ無言でずんずん前を歩いている。
ちら、と顔見ると、
本当に人を刺しかねない眼差しをしていた。
レオ
「っておい、どこまで行くんだほんと」
レオ
「もうだいぶ離れてるって、おい椰子」
レオ
「結局、ここまできたのか」
レオ
「椰子、腕が痛い」
なごみ  無音
「……」
握られた手が離れる。
くっきりと赤い跡がついていた。
なごみ
「……あの男!」
ガスン、と石の柱に蹴りをくれる椰子。
なごみ
「あいつが、あいつが!!」
がし、がし、と柱に怒りをぶつけている。
レオ
「椰子……」
よほど頭来てるんだろうな、コレ。
なら、しばらく好きにさせておくか。
なごみ
「……死ね! 死ね!!」
なごみ
「……はぁっ……はっぁっ……」
レオ
「ちょっとは落ち着いたかよ?」
自販機で買ってきたドリンクを椰子に渡す。
レオ
「……あの男、そんなにいやな奴なのか」
なごみ
「あたしの線の内側を乱す奴です」
レオ
「線の内側?」
なごみ
「母さんが再婚しようって事ですよ、あいつと」
なごみ
「……あの家は父さんのものだ。……あいつがいて
いい場所じゃない」
紙コップを踏み潰す椰子。
なごみ
「父さんと母さんが建てた花屋に、他の
人間が入りこもうとする……なんてキモい」
すごい剣幕だった。
レオ
「……その、おふくろさんは、なに、
騙されたりしているわけ?」
見たトコ、あの男の人は悪い雰囲気無かった。
なごみ
「そうですね。人の良い母さんの心に
入り込もうとするキモイ奴です」
なごみ
「母さん、外見とは違って子供なんですよ」
なごみ
「だから、あたしが母さん守ってきました。
学校終わってから、すぐ帰って、花屋手伝って
家事もやって!」
なごみ
「料理人になりたい夢を殺しても
思い出がある花屋を継ごうと思ってたのに……」
椰子が、日頃から見てありえないペースで
言葉をまくし立てている。
なごみ
「それなのに、あんな男に騙されて……」
なごみ
「でも、あたしは認めませんよ
あの男はあたしを説得するとか
言ってますけどね。話し合う気ありませんし」
レオ
「だから、いつも夜あそこらへん
ウロウロしてたの」
なごみ
「こっちの意思表示です。話し合う気が無いと」
なごみ
「ふふ、もうすぐあいつも諦めるでしょう。
そうしたらセンパイも笑って下さいよ」
レオ
「……お前」
レオ
「ちょっと考え方子供すぎやせんか?」
なごみ
「子供じゃないですよ!」
レオ
「いや、これだけ盛大に物に
当り散らしておいて、そんなこと言ってもな」
なごみ
「子供じゃないです」
レオ
「いや、俺から見ても今のは子供くさいぞ。
ちゃんとお前と正面から話し合おうって言う
あっちの方が、しっかりした大人だろ」
なごみ
「子供じゃないって言ってます」
レオ
「椰子……」
なごみ
「ああいうのが大人だって言うなら……」
レオ
「お、おい」
がちっ
レオ
「痛っ……」
なごみ
「つうっ……」
レオ
「え……今の……」
なごみ
「わ、分かりましたか、子供じゃないんです」
なごみ  無音
「……っ」
レオ
「お、おい椰子!」
走って行ってしまった。
レオ
「いて――」
前歯がジーンとする。
あれ……ヘッドバットかキスかの
どっちかだよな。
というか、キス……のつもりなんだろうな。
確かに、唇の柔らかさはあった。
それは甘い感触だったけど、
それよりよっぽど歯の方が痛い。
椰子が、キスしてくれたのは嬉しいけど。
その行為は多分に自暴自棄なものが含まれていて。
レオ
「つうか、キスしといて顔を真っ赤にして
走って逃げるなよ……子供じゃないなら」
心までが、甘く、でも痛くなった。
レオ
「なんか、嬉しいというより
あいつの身を思う危機感が先に立つ……」
――これがいわゆる、少女にとっての
危うい時期ってやつじゃなかろうか。
しかも季節は夏、危険な誘惑はいっぱいだ。
……椰子、俺がいるぞ。
センパイとしても、出来たら男としても。
あいつの支えになってやりたいと思った。
なごみ  無音
「……」
椰子はまた、1人ぼっちで街を見ていた。
レオ
「……よし、異常無しだな」
メールや電話に応じない以上これしか手段は無い。
スバル
「オマエもまわりくどいことするやっちゃなー」
立ち食いソバを食いながら、スバルも俺に
付き合ってくれてる。
レオ
「センパイとして見守ってるんだろ」
スバル
「だからさ、自暴自棄ぎみで、駅前に
置いておくのが不安なら
俺の家に来いって言えばいーじゃん」
スバル
「乙女さんもいないし、好都合じゃねぇか?」
レオ
「それはちょっと……急展開すぎやしないか」
スバル
「ぜーんぜん。オマエは断わられるのが恐いんだろ」
レオ
「……う、正直それもある」
スバル
「ま、好きにしろよ。オレはバイトだ」
スバル
「おばちゃん、卵追加ねー。……ほらこれ食って
栄養つけろ」
レオ
「サンキュ。……ってか夜のバイト……またかよ」
スバル
「ちなみにな。夜のバイトしている理由の1つに
稼げるからって他に人肌が恋しいってのもある」
レオ
「スバル……」
スバル
「椰子もそう思ってるかもよ。行動起こすなら
手遅れにならない前にな。
今、本当に危ない時期だと思うぜ」
レオ
「なんか分かったような事言うね」
スバル
「椰子は少しオレに似てる気がするからな」
レオ
「……お前」
笑いながら、一気にソバの汁を飲むスバル。
スバル
「ほいじゃな」
スバルはピッ! と指をあげてさっていった。
人肌恋しい、か。
俺達、幼馴染チームはスバルに甘えて
ばっかりだからなぁ。
スバルも甘えられる相手が
欲しいのかもしれない。家庭は崩壊してるし。
レオ
「なんだかんだで……皆結構寂しいんだなぁ」
椰子は、夜中ずっとボーッとしていた。
ちゃんと俺があげた指輪をしっかり
はめている所が嬉しかった。
そして、何度も話しかけようと思ったけど
声をかけられない、情けない俺。
だって下手に間違った事を言うと、せっかく
今まで築きあげた関係が無くなってしまいそうで。
うーん、何て言えばベストなのかな。
悩むぜ……。
なごみ
「……あれ?」
なごみ
「父さんのライター、磨いておこうと
思ったのに無い……」
なごみ
「? アルバム写真も……眺めようと
思ったのに無い?」
なごみ
「母さん」
のどか
「どうしたの、なごみちゃん〜」
なごみ
「父さんのものが、全部無いんだけど」
のどか
「それね。もう全部親戚の家に預けて
おく事にしたから〜」
なごみ
「なっ……!!」
なごみ
「あいつが……あいつがそうしろって
言ったの!?」
なごみ
「父さんの思い出を、全部……
赤の他人のあいつが!?」
のどか
「ち、違うわよ。私がやったの〜」
なごみ
「母さんが……そんな……なんで!!」
のどか
「私だって、悲しかったけど決心したのよ〜」
のどか
「だって、お父さんはもう10年も前に
死んじゃったのよ〜」
のどか
「いつまでも引きずっていたら、
逆にお父さん悲しむと思うの〜」
のどか
「なごみちゃん、昔からお友達いなくて
帰ってきたら、いつもお父さんの遺品を
眺めてたでしょ〜」
のどか
「もうそういうのはやめましょう〜」
なごみ
「……死んだからって……それで……
新しい男に乗り換えるの?」
なごみ
「10年たったぐらいで、忘れちゃうの?」
なごみ
「やだ……母さん……気持ち悪い」
のどか
「な、なごみちゃん、ちょっとー!」
………………
なごみ
「母さんは、精神が幼稚で子供なんだ……
だから簡単に他人を受け入れられるんだ」
なごみ
「あんな男とは別れさせて、
あたしが守ってやらないと……」
なごみ
「今夜は、ここらへんで野宿してやる……
心配させてやればいい」
携帯の電源は切っておく。
新一
「ヘイ、彼女。浮かない顔してるじゃん?」
新一
「どう、元気になる曲弾いてあげようか?」
なごみ
「うるさい! 潰すぞ」
新一
「うわっ、ご、ごめんなさいっ」
新一
「な、なんかしらないけど元気なさそうだったからさ
ま、まぁ余計な心配だったらごめんっ」
なごみ
「う……?」
気を遣われてたのか?
もう少し目立たないところへ移動しよう。
…………気が付けば朝になっていた。
仕事に行くサラリーマンがアクセクと
動くのを、眺める。
こいつらは何が楽しくて生きてるんだろうか。
そんな下らない事を考えているうちに、
あっという間に夕方になった。
はたから見れば、ボーッと座っている
あたしは相当に無意味な事をしているだろう。
でも、これは意味のある事なんだ。
今までどんな事があろうと深夜には帰ってた。
でも無断外泊は初めてだ。
これであの男が、いかにあたしに
嫌われているか分かったろ母さんは。
なごみ
「……そろそろ帰るか」
駅前の、死角にあるベンチから腰をあげる。
………………
なごみ
「あれ? うちの店が臨時休業になってる」
なごみ
「――なんで?」
裏口からまわってみた。
天王寺
「参ったね。1日中探しても見つからないよ」
のどか
「うぅ……なごみちゃん……」
母さんが……布団で寝てる?
天王寺
「のどかさん動かないほうがいい。
心労がたたっているんだから」
心労? あの、のんびり屋の母さんが?
天王寺
「やっぱり、のどかさんの家庭が
こうなってるの俺が原因なんだよな」
天王寺
「のどかさん、この件が一段落ついたら
俺達、いったん距離をおこっか」
のどか
「……それしかないんでしょうか……」
天王寺
「俺達の事よりも、なごみちゃんの方が
大事なのは当たり前でしょ」
天王寺
「少し急ぎすぎたのかもしれないなぁ。
なごみちゃんが、もう少し大人になるまで
のんびりやっていくってことで」
のどか
「天王寺さん……すいません……」
天王寺
「いつまでも待つって。俺本気だから」
天王寺
「それじゃ俺、またひとっ走り探してくるから。
いくら俺が気に入らないからって
大切なお母さんを倒れるまで心配させたんだ」
天王寺
「より嫌われようと、叱ってくるよ」
たったった……
のどか
「……うぅっ、天王寺さん、スイマセン……ぐすっ」
なごみ  無音
「……」
……あれ、おかしいな……
ほとんど、目論見が成功したのに
全然嬉しくない。
あの陽気な母さんが泣いてるし。
そんなの父さんの葬式以来、はじめて見た。
なごみ
「母さん……」
のどか  無音
「!!」
のどか  無音
「(ごしごし)」
のどか
「あぁっ、なごみちゃん〜〜〜良かった〜〜!」
なごみ  共通
「……え?」
今、泣いてたのに。
なんで笑顔に……。
あたしを気遣って?
いつもヘラヘラ笑ってたのも、もしかして
あたしを気遣ってた、という理由もありなの?
のどか
「もうっ、天王寺さんなごみちゃんのために
大事な商談キャンセルしても、探し続けて
くれたのよ、だめじゃない〜」
なごみ
「……連絡しといて。別に何事もなく
駅で過ごしてたから、問題ないって……」
のどか
「ちょ、ちょっと、今度はどこ行くのよ〜」
なごみ
「……この前店に来てた蟹沢先輩の家」
なごみ
「今度は携帯の電源入れておくし……安心して」
のどか
「そうなの〜? まぁ、それならいいけど〜」
のどか
「でも、なごみちゃんの顔見たら元気100倍〜
寝込んでなんかいられないわ〜」
なごみ  無音
「……」
……………………
あたしがカニの家に行くわけがない。
まぁ、あれは方便。
なごみ
「……それにしても……」
あたしが子供な母さんを守っていると思ったのに。
陽気でニコニコしているから、多少心配かけても
こたえないと思ったのに。
母さんに気を使われた。
天王寺にも気を使われた。
なごみ
「……結局、一番の子供は……あたしだったのか」
なごみ
「……今まで何をやってたんだろ……」
結局、また駅前に来てしまった。
新一  無音
「……」
……………………………
レオ
「昼間かけても椰子と連絡繋がらなかった……
昨晩はいつもの所に立ってなかったし。心配だ」
スバル
「やれやれ。だからさっさと
行動しろっつったのによ」
レオ
「ん、メールだ!」
レオ
「なんだ、フカヒレからか」
レオ
「何、椰子が駅前にいて、いつにもまして
根暗オーラを発しているだと?」
レオ
「ちょっと行ってくる」
スバル
「いいか! ひたすら攻めろよー!」
……………………
レオ
「ったく、手のかかる後輩だぜ」
レオ
「駅前……駅前……と」
新一
「レオ、ほらこっちだこっち」
レオ
「あぁ、フカヒレ。メール悪いな」
新一
「あれ見ろ、あれ」
レオ
「……確かに……悲しそうだな」
新一
「なんつーかスキだらけって感じだろ
夏の松笠で美人があんな顔してたら誘蛾灯だぜ」
新一
「俺いい奴だろ。自分で声かけずにお前に連絡して」
レオ
「お前が声かけた所で結果は分かりきってるけどな」
新一
「新一です……親友にまた馬鹿にされたとです……」
レオ
「や、でもマジありがとうな」
レオ
「貸し1だ」
新一
「借り1だろ! そっちから見て!」
レオ
「行って来る!」
新一
「はぁ、いいなぁ……女の子がいるやつは、
憧れるなぁ……」
新一
「そうだ! この気持ちを歌にすればいいんだ!」
……………………
レオ
「よぉ、椰子」
なごみ
「センパイ、どうしてここに?」
レオ
「フカヒレからメールでさ」
レオ
「お前が悲しそうな顔してるからって……
あいつなりに、先輩としてお前を心配してるんだ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「お前は感情が顔に出るって言ったろ」
レオ
「誰にでも丸分かりなんだよ」
無口だが、無表情にあらず。
なごみ
「……フカヒレ先輩にまで気を使われた……」
レオ
「なんだかお前マジブルーだな」
なごみ
「センパイ、あたし子供っぽいですか?」
レオ
「うん。前もそう言ったじゃん」
さぁ怒るなら怒れ、かかってこい!
迎撃すべく身構える。
なごみ  共通
「……そうですか」
レオ
「あらま」
シュンとしてしまった。
なごみ
「でも、これはどう思います? 父さんが死んでから
10年……母さんは、
若い男と再婚しようって言うんですけど……」
なごみ
「普通、好きになったら相手が死んでも
一生慕い続けるものだと思います」
レオ
「……」
レオ
「…すっげー情が深いんだな……」
レオ
「椰子はそうかもしれないけど……」
レオ
「うーん、なんていうかお前の母親は
お前とは違うじゃん。それほど強くなかったんだ」
レオ
「10年だろ……? さすがにそれは例え自分が
納得いかなくても許してやる年数だと思うぜ」
なごみ
「じゃあ何年なら許されないんですか!?」
レオ
「そんなの決まってるわけないじゃん」
レオ
「そういう所でイチイチ突っかかるのが
子供だってんだよ」
なごみ
「ぐ……ぐ」
なごみ
「やっぱりあたしは納得いきませんっ」
レオ
「納得いかない事だらけですよ、世間は」
なごみ
「だから、せめて自分の周囲だけは……」
レオ
「気持ちは分かる」
なごみ
「母さんは、あたしより若い男をとったんです」
なごみ
「父さんの遺品も全部親戚に預けたって……」
なごみ
「……もう、家に帰りたくありません。
あたしの居場所が……」
レオ
「椰子……」
いかん、こいつ…1人にしておくと本当に危険だ。
なら、俺が……。
レオ
「……居場所はあるよ」
なごみ  無音
「?」
レオ
「ウチに来いよ」
なごみ
「え……?」
レオ
「気付いてるかもしれないけど」
レオ
「俺、お前のこと好きだ」
――言った。
雑踏の中での告白。
レオ
「お前の居場所はあるんだ」
なごみ
「センパイ…………」
椰子も俺の表情から、これが冗談じゃないってのが
良く分かってるらしい。
なごみ
「センパイ……その……あたしは」
椰子は、ちょっと困っている。
レオ
「椰子は俺の事、どう思う?
相変わらずキモいか?」
なごみ
「真剣な告白をキモイって言うほど
ゲスじゃないですよ……」
なごみ
「センパイの事は……その……」
ぽっ、と顔を赤く染める椰子。
レオ
「お前、顔真っ赤だぞ」
なごみ
「っ……! やっぱり嫌いです」
ぷいっ、と顔を背ける。
レオ
「……行くぞ」
椰子の手を引く。
なごみ
「センパイ? ちょっと……」
レオ
「告白した流れで言うけどさ」
レオ
「好きだからこそ、あんな危なっかしい所には
お前をおいて置けない」
レオ
「お前はすごい美人だから心配なんだよ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「強引に家にお持ち帰りする
ヤツとかがいそうでさ」
なごみ
「それ、今あたしの目の前にいますけど」
レオ
「ばっ……違う、俺のは年上の甲斐性だ」
……確かに、俺もズルイ気もする。
椰子がもう居場所が無い事を知ってて
自分の部屋にいれようとしている。
でも、だからってグズグズしてられるか。
恋愛は戦争って誰かが言ってたし。
戦争に汚いもヘチマも無いでしょう。
なごみ
「センパイってば!」
レオ
「手を離す気ないぞ、いい子についてこい」
なごみ
「むっ、だから、子供扱いはいいです」
椰子は、俺の横に並んで歩いてきた。
レオ
「お……」
なごみ
「なめないで下さいよセンパイ、こっちだって
びびってるわけじゃないですよ」
レオ
「いや、誰もびびってるなんて言ってないが」
なごみ  無音
「……」
レオ
「緊張してる?」
なごみ
「してません!」
椰子、顔と言葉が一致してないぞ。
それでも、俺の部屋に来るのは合意って事らしい。
別に嫌がってないし。
………………
レオ
「ここが家だ」
なごみ
「あ、こっちの方、来た事あります。
へぇ……家、近かったんですね」
家が近い事をどこか嬉しそうに言う椰子。
こいつ……結構可愛いヤツだな。
レオ
「さ、どうぞ中へ」
椰子を家にいれて、鍵をガチャリとかけた。
なごみ
「……ここがセンパイの家……」
レオ
「まぁ麦茶でも飲め」
レオ
「んー、お母さんへの連絡はどうする?
いくら帰りたくなくても無断はいかんからね」
なごみ
「あ、それはカニの家へ遊びに
行くっていいましたから」
レオ
「あれま、お友達なの?」
なごみ
「方便に決まってるじゃないですか」
なごみ
「鉄先輩は?」
レオ
「今も実家に帰省中。両親は外国」
なごみ
「そ、そうですか」
レオ
「で、お母さんには遊びに行くだけじゃなくて
泊りとも言った?」
我ながら、もう帰さない気満々だった。
なごみ
「……それは、大丈夫ですけど」
レオ
「やっぱり緊張してる?」
なごみ
「別に、余裕ですよ?」
レオ
「茶を持つ手が、ちょっと震えてるぞ」
なごみ
「近眼じゃないですか」
レオ
「お前に言われたくないな」
レオ
「あ、そうだ。部屋行く前に、シャワー使うだろ?」
なごみ
「シャワー……あ、はい」
レオ
「俺はお前を迎えに行く前に、既に浴びてきたから」
レオ
「はい、ここ」
レオ
「……一緒に入ってみる?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「分かった、分かった、出てくよ」
レオ
「それじゃ、何か分からない事があったら
呼んでくれ」
レオ
「……」
レオ
「部屋行く前に、シャワー使うだろ?」
レオ
「だって! すっげー俺、どこのスケコマシですか」
緊張しながらも、スマートに運べた。
我ながら天性の才能があるのかもしれない。
というか、椰子は年下だし女のコだし
やっぱり俺がリードしてあげないとね。
レオ
「それでも、やはりいきなり一緒に風呂は
ハードル高すぎたかな?」
あいつ、見た目とは裏腹に繊細っぽいし。
………………
なごみ  無音
「……」
レオ  無音
「……」
湯上りの椰子と差し向かいになる俺。
レオ
「なごみ、確認しておきたい事が3つある」
なごみ
「……どうぞ……」
お、名前で呼んだら黙認された。
レオ
「お前、こういうの初めて?」
なごみ
「初めてですよ……でも、子供じゃないんです……
恐くなんか無いですよ」
レオ
「いや、俺も初めてだし……じゃあよかった
後輩にリードされてもな」
レオ
「あと、本気で嫌ならやめるけど」
なごみ  無音
「……」
レオ
「えー、表情を読むに嫌ならここにいねーだろボケ」
なごみ  無音
「!」
レオ
「正解だったみたいだな」
レオ
「んで、ラストだけど」
レオ
「俺。今なんとか我慢してるけど、その
はじまったら荒っぽくなるかもしれん。
だから今のうちに謝っておく。すまん」
なごみ  共通
「別に……」
レオ
「いいの? 優しくしてとか言わなくて」
なごみ  無音
「……」
こいつ、ごめんなさいが言えない子供みたいだ。
レオ
「それじゃ、いくよ?」
なごみの手を持つ。
なごみ  無音
「!」
彼女の体がビクッと震えた。
そのまま引き寄せる。
レオ
「なごみ……」
優しく頬を撫でてあげる。
なごみ
「あ…………また」
レオ
「?」
なごみ
「頬を撫でたり頭を撫でたりするのも……
父さんのクセでしたから」
レオ
「そうか」
なでなで。
なごみ  無音
「……」
なごみの体から少しずつ力みが消えていった。
レオ
「前はお前にヘッドバッドされたけど……」
アゴを持ち上げる。
レオ
「今度はちゃんと……」
押し倒したい気持ちを押さえて、
優しく顔を近づける。
レオ
「ん……」
なごみ
「んっ……」
口をあわせた瞬間に、胸の動悸が高まった。
唇が離れる。
レオ
「あ……なんか……なんだろ」
なごみ
「何か……変ですね……胸が」
レオ
「もいっかい、行くぞ」
レオ
「ん……」
なごみ
「ちゅっ……」
レオ
「……」
なごみ
「はぁ……はぁ……」
レオ
「なごみ……」
なごみ
「なんだか、キスするたびに体が熱くなって……」
レオ
「あぁ、俺もだ」
レオ
「なごみっ……」
なごみ
「んっ……センパイ……」
初めは、優しいソフトキスだったのが
だんだん情熱的になっていく。
レオ
「ん……んんっ……なごみ」
なごみ
「ん……あん……」
それは、なごみも同じようだった。
はじまってしまえば、なんて事は無い
互いへの思慕の情が爆発する。
なごみの中へ舌を入れる。
レオ
「ん……チュ……」
なごみ
「はん……ん、……ン……んあ」
車がスピードをあげていくように
性欲を加速させていく。
キスしながら、なごみの胸を服の上から
揉みはじめる。
服の上からでも、そのボリュームは
すぐに分かった。
なごみ
「んっ……んあ……ん、あん」
なごみの呼吸が可愛い。
キスしてるだけでこいつの全てが愛しく
思えてきた。
なごみの舌を、舌で絡み取ってしまう。
そしてそのまま吸い始める。
なごみ
「ん……んっ、んあっ……ん」
そのまま、勢いに任せて荒々しく
なごみを押したおす。
レオ
「なごみ……脱がせるからな」
それだけ俺はなごみを求めていた。
また、なごみも息を荒げて、俺のされるが
ままになっている。
タンクトップを容赦なくまくりあげ、
ブラジャーを外してしまう。
ぶるんっ!
レオ
「!」
勢いよく露になった、その巨乳。
体が白いから、ピンク色の乳首が
余計に際立っている。
はやく裸がみたくて、今度はズボンに手をかけた。
カチッ。
ズボンのボタンを外し、ジッパーをおろしていく。
ジ・ジ・ジ……
ジッパーをおろす音がこんなHだとは。
なごみのズボンを脱がせてしまう。
レオ
「黒い下着なんだ……」
なごみ  無音
「……」
レオ
「じゃあ、この下着も脱がすよ」
なごみ
「あ……そ、その……センパイ」
レオ
「ん?」
なごみ
「あたし……全部見せるのも、初めて、で」
レオ
「そ、そりゃそうだろ? で?」
なごみ
「その、その……変でも笑わないで下さい」
レオ
「……分かった」
なごみにしちゃ珍しく殊勝だな。
というか、こいつがこんな事言うなんて
火傷のアトとかでもあるのかな?
レオ
「ん……脚開いて」
とうとうなごみの下着を脱がせてしまった。
なごみ  無音
「……」
その脚はぴったりと閉じている。
レオ
「脚開いて、全部見せて」
レオ
「こ、ここで俺が積極的に
動くと、マジでお前をムチャクチャに
しちまいそうだ」
やっぱり、センパイとして優しくしてあげたい。
なごみ
「約束ですよ……」
レオ
「大丈夫、笑わないから」
なごみ
「…………」
なごみは、少しずつ股を開いていった。
瞳はすでにウルウルになっている。
ひょっとして俺、かなり恥ずかしい事
させてるのか?
少女の怯えを見守りながら
脚が開ききるのを待った。
なごみ
「……これぐらい、ですか」
レオ
「もっと大きく開いて……それじゃ
なんか中途半端だよ」
なごみ
「…………まだ、ですか」
なごみはモジモジしながら、
さらに脚を開いていく。
俺の視線を感じるのか、恥ずかしさ
極まりないといった感じだ。
それでも股を開いてくれるのが嬉しい。
そして、ついになごみの全てがむき出しになった。
レオ
「――」
なごみ  無音
「……」
さらにその頬を染めていく。
レオ
「なごみ……」
レオ
「お前、こんな綺麗な体で何が笑わないで、だよ」
思わず生唾を飲み込む。
そこらへんのグラビアアイドルより
全然綺麗だぞ……。
レオ
「……贅沢言ったら
世界中の女に殺されるぞ」
レオ
「ほんとに綺麗だ」
つうか、完璧じゃないですか?
どこ笑えって言うんですか?
目線を下にさげていく。
レオ
「あ!」
なごみ
「っ!」
なごみがビク、と震える。
し、しまった。つい声を出してしまった。
レオ
「……う、ま、まぁ、そのなんだ」
レオ
「そのうち、生えてくるよ!
お前、わんぱく1年生なんだし」
なごみ
「……うぅ……」
これを気にしてたのか。
しっかし、毛が一切生えてないで、
清楚なたてすじが丸見えというのもHだ。
これだけスレンダーで魅力的な体なのに
股間だけが、少女そのものというのも
アンバランスというか……。
長髪からは想像できなかった。
その胸に手を伸ばす。
優しく胸を揉みほぐす。
なごみ
「ん……あ、ん」
レオ
「自分で触ったりもしないの?」
なごみ
「いえ、ン、全然……」
何から何まで初めてづくしのなごみ。
思わず力をいれて揉んでしまった。
なごみ
「んっ……く」
レオ
「あ。ごめんキツかった?」
力加減が難しい。
くびれているウェストを撫でまわす。
レオ
「痛くない?」
なごみ
「ん、は、はい。くすぐったいです」
手がふとももの方に下りていく。
レオ
「脚とか触られると、どう?」
なごみ
「わ、分かりませんけど、ん……」
レオ
「こっちは気持ちいい。肌触りとかも最高だぞ」
指が、なごみの秘裂の前までせまっている。
レオ
「ここ、触るからな」
ふに、と。
なごみ
「……ン……」
思ったよりも、柔らかい感触
楚々にぴったりと閉じているそこは、まだ
あまり濡れてもいなかった。
指をゆっくりと上下させて刺激を与えていく。
片手が暇なので、なごみの胸をすくいとるように
揉みあげた。
なごみ
「ん、あ……っ……」
彼女は何かするわけでもなく、全てを俺に
ゆだねていた。
なごみ
「……はぁ……はぁ……く……ンっ」
なごみの息が、次第に早くそして荒くなっていく。
レオ
「気持ちいいか? なごみ」
なごみ  無音
「……(コクリ)」
恥ずかしそうにうなずいた。
そう言われると自信が出てくる。
強めに指を動かす。
なごみ
「くっ……! んっ……」
下半身がビクッ、ビクッと反応していた。
なごみ、感じちゃってるんだな。
レオ
「もっと近くで見るからな……」
なごみの股に顔をうずめる。
誰も手をつけてない分、
少しずつほぐしてあげないと。
レオ
「広げるから……」
なごみ
「うぅっ……く」
なごみが手で、俺の体をグイッと押してきた。
レオ
「どうした?」
なごみ
「手が……勝手に」
レオ
「ん、大丈夫だよ。乱暴にはしないから」
ゴクリと唾を飲み込みながら。
指でむっちりと秘裂を広げる。
なごみ
「っ! うっ……あの……センパイ」
なごみが相変わらず手でグイグイと押してくる。
レオ
「怖いんだろ?」
なごみ
「そんなこと……ないですけど」
レオ
「じゃあ何で俺を押し返そうとしてるんだ」
喋りながらも、目線は中身から目を離さない。
レオ
「お前……ここも凄い綺麗だな」
口を近づける。
内側の、ちょっぴり湿りけのある粘膜が
チュッと唇に吸いついてきた。
なごみ
「ううっ……恥ずかしいですっ、センパイ」
ついになごみが本音を口にした。
怖いというより恥ずかしいらしい。
レオ
「何で。お前のここ、色も鮮やかなピンクで
本当に綺麗だぞ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「本当だって、舐めることだって余裕」
なごみ
「そ、それは駄目です」
レオ
「どうして……」
なごみ
「センパイに、そんなコトされたら……
恥ずかしすぎて……もう……」
なごみが手でグイグイと邪魔してくる。
本能的に他人を拒否してるんだろうか?
レオ
「手を動かすなって……」
なごみ
「……でも動いてしまうんです」
レオ
「俺、別にそこまで強くやってないだろ?」
レオ
「もう理性ぶっちぎれそうなのを気合で我慢して
ゆっくりやってるんだぞ」
レオ
「それに、もう少し濡らさないと痛そうだ」
なごみ
「大丈夫ですから…………今だって、もう、
恥ずかしくて……恥ずかしくて……」
レオ
「なごみ……」
レオ
「分かった、いきなり悪かったな」
レオ
「でも、お前いちいち手で押されたんじゃ……」
スポーツタオルが目にはいった。
レオ
「あんまり手クセが悪いとタオルで
縛っちゃうぞ」
冗談半分に言った。
すっ、となごみが自分の手を差し出す。
レオ
「え?」
なごみ
「ど、どうぞ……手、動いちゃいますから……」
レオ
「な、なんか無理やりしてるっぽいんだよな」
とはいえ、確かにいちいち手で押されては
なごみを可愛がれない。
レオ
「じゃ、ゆるくな」
優しく手首を縛る。
なごみ
「あぁ………………」
手首を縛られて切ない声をあげるなごみ。
レオ
「……」
も、もしかして実はマゾなのかもしれない。
そのまま女体に覆いかぶさる。
ベッドの上にたおれこむなごみ。
こっちはもうとっくに臨戦態勢だ。
ギンギンと勃起したペニスを解放する。
レオ
「ん……」
なごみの体をほぐすために、優しく愛撫する。
黒髪の甘い香りをかぎながら、
首筋や鎖骨、耳たぶを優しく撫でてやった。
なごみ
「ん……ふっ」
くすぐったそうな声をあげるなごみ。
その愛撫の過程で気が付いた。
ワキのところにも手入れしているような
跡が一切無い。
なごみ
「……センパイ……?」
レオ
「あぁ、ごめん、綺麗で見惚れてた」
つまり、ここもまだ生えてすらいないわけで。
ほんと……髪以外はどこもつるつるだな。
メロンみたいな胸をゆっくり揉んでいく。
同時に、お尻の丸みを味わうように撫でまわす。
なごみ
「……く……ん……んんっ」
なごみの感度があがってきている。
さりげなく、濡れ具合を確認してみた。
なごみ
「あっ!」
敏感らしく、ビクッと震える。
レオ
「あ、さっきより濡れてきてる」
もういつでもいけそうだ。
レオ
「……あれ?」
こ、ここまでやって超大事な事に気がついた。
コンドームが無い。
レオ
「なごみ……」
レオ
「ちなみに、その……生理とか、もうきた?」
なごみ
「なっ……バ、バカにしないで下さい、センパイ…」
なごみ
「子供じゃないって……言いました」
レオ
「いや、だって生えてもいないし……」
なごみ
「くっ……うぅっ…好きで、こうなってるわけじゃ」
息を荒げながら会話する俺達。
レオ
「あぁ、ごめん、え、ええと毛が生えてないのは
いいんだ。今問題なのはそれじゃない」
レオ
「その、避妊するやつが今無くて……」
なごみ
「あ……それなら、今日は……大丈夫だと思います」
レオ
「そ、そうか……それなら……このままいくぞ」
なごみ
「…………は、はい」
なごみの清楚な花弁に、我慢汁をトロトロと
流している俺のペニスをあてがう。
なごみ
「あッ……ぅ……」
いよいよ、なごみもその時が来たと
察したらしい。
レオ
「なごみ……痛かったら我慢せず言えよ」
なごみ
「は、はいっ!」
レオ
「力抜いていいから……」
ズ…と、震えるなごみの秘裂に
先端部分を軽く押しこむ。
なごみ  無音
「……」
レオ
「なごみ……」
やっぱり初体験は怖いらしい。
……優しく優しく。
ほんの少しだけ前進する。
亀頭が、膣口のところにピトッとくっついた。
なごみ
「んッ……!」
なごみがその刺激にピクンと女体を
反応させる。
女の子を抱くのは初めてなのに、
日頃の行いがいいのか、スムーズにいけそうだ。
レオ
「なごみ、行くぞ……」
なごみは、こくんと頷いた。
ズブッと亀頭を先へ進める。
粘膜同士が触れ合う、ぬちゃっとした感覚。
なごみ
「あッ……センパイ……んっ……あ、んっ」
弱々しい声。
ズ…ズ……ズ…。
なごみ
「ぐ……うっ、センパイが、入って……ンっ」
下半身の刺激に、なごみがピクピクと
体を反応させている。
一息に貫かないように、ゆっくりと
亀頭を膣口に埋めていく。
その、めりっと突き入っている感触。
なごみ
「っ……! あ、く……」
なんだか、入り口よりほんのちょっとだけ奥に
弾力ある襞を感じる。
おそらくこれが、処女膜なんだろう。
俺が腰を少し前に動かせばすぐに破れる。
そんな柔らかい感触だ。
レオ
「なごみ。力抜いて」
なごみ
「は、はいっ……」
なごみの白い裸体は既にうっすらと汗ばんでいた。
レオ
「ん……っ、なごみ」
俺は腰を前に進ませた。
なごみ
「あっ! んあ……あ」
なごみの中も、俺も押し返そうとしてくる。
それを超える力強さでもって、はめこむ。
なごみ
「うッ……く、ア……」
レオ
「おい、大丈夫か」
なごみ
「は、はい、センパイっ……う、あっ、
だいじょ、ぶです……」
レオ
「んっ! ……」
プツッ…プチッ……
なごみ
「くっ! ………あぁぁぁっ!!!」
激痛からか、なごみがひときわ大きく震える。
レオ
「なご、みっ……」
亀頭を全部膣口に押し込み、なおも前進させる。
狭い粘膜をヌプヌプと割り開いていく感触。
なごみ
「あぁっ……はぁっ、はぁっ、あ、センパイ」
レオ
「なごみ……」
初めての証である血が、結合部から滲んでいる。
レオ
「ん……」
その血を浴びながら、なおもペニスは前進する。
粘膜と粘膜を擦り合わせながら。
なごみ
「せ、センパイの……ん、あ、熱い……」
レオ
「あぁ、こっちも、すごい、熱い」
レオ
「ん……く」
ようやく、一番奥まで挿入できた。
処女と童貞で、うまくいくか不安だったけど
きちんと、出来た。
レオ
「はぁ……はぁ……」
なごみ
「くっ……ん、はぁ……はぁ」
お互いの呼吸が荒い。
なごみの襞がチュッと絡み付いてきた。
レオ
「ぐ……」
その一体感が気持ちよすぎる。
愛液と血液を吸いこんだペニスが
嬉しそうにビクンと反応する。
レオ
「あ、ダメだ」
なごみの一番深い所に突き刺さったまま……。
レオ
「んっ……」
なごみ
「あっ!? ……ん、あ……」
――1度も動かずに暴発してしまった。
ドクンッ、となごみの中に出していく。
なごみ
「あ、センパイのが、出てる……」
レオ
「あぁ……っ、お前の中、反則だ」
これは麻薬だ。
まずい、この気持ちよさは。
なごみ
「あっ……中で……大きく?」
その甘美な感覚の前に、放出してしまった
俺のペニスは、一気に回復した。
ムクムクとあっというまになごみの中で
硬さを限界まで取り戻してしまったのだ。
初めに中だしした精液のせいで
滑りは良くなってるかもしれない。
レオ
「こ、このまま動くぞ……」
ズッ…ズズッ…ズッ…
回復したペニスを動かす。
なごみ
「んくっ……んんっ」
辛そうな声があがる。
今まで処女という事が関係あるのか知らないが
とにかくなごみの中は狭い。
動かすとズプッ、という水音が耳を打つ。
なごみ
「くぅ……う! うううっ……」
ズッ…ズッ…ズッ…
俺のペニスに暴れられてるので、なごみは
キツそうだった。
なごみ
「はぁっ……はぁっ……、く、ん」
息を吐いて、なるべく痛みを流そうとしている。
レオ
「ぐ……う」
だが、こっちもキツい。
なごみの内部は、奥の方の襞が、
小さな突起みたいになって、ブツブツしてるのだ。
だから、そこをペニスでこすると
痛いぐらいだった。
今まで童貞で刺激に弱い亀頭がソコにまた
ズリッ……とひっかかれる。
レオ
「あぁっ」
なごみ
「んあっ……あ」
なごみもそこが弱いのか、2人して
喘ぎ声をあげていた。
なんともいえない、妙な刺激がある。
レオ
「なごみの中……気持ちいい」
ずっ…ズンッ…ズチュッ…
なごみ
「んあっ……ん……センパイ……センパイ」
なごみの声は、さすがにまだキツそうだ。
少しずつ、ならしていくしかない。
小刻みに、クイクイと突いてやる。
なごみ
「んあッ……あっ、あっ、あっ、あぁッ……」
それにあわせて、なごみの喘ぎ声も
テンポが早くなる。
というか、あのなごみが俺にペニスを
挿入されて可愛く喘いでいるのが、
凄い状況だと思う。
そう思うと、より力強くなごみを突いてしまう。
なごみ
「ひぐっ……あっ……センパイ」
膣襞の一番奥までペニスの先端を突き入れる。
レオ
「ぐ、で、出るぞっ……なごみっ……」
どぴゅッ!
再び中で果ててしまった。
ドクッ、ドクッ、ドクッ…。
レオ
「く……」
しっとりと手にすいつくなごみの
胸を揉みながら、射精を続ける。
なごみ
「ぁ……まだ……出てる」
子宮めがけて、大量の精液が吐き出されていく。
レオ
「はぁ……ハァ……」
それでも俺はペニスを抜かなかった。
なごみの手枷を解いてやる。
レオ
「ごめんっ……なごみ、俺全然まだまだ……
お前を抱き足らない……抜く気は無い」
レオ
「つ、続けていいか?」
なごみ
「は、はい……センパイ。ただ、あの」
レオ
「ん?」
なごみ
「今度は、顔が見えるほうが、その」
レオ
「あぁ、じゃあ、普通ので行こうか」
なごみ
「いえ、あの……」
俺の顔をじーっとウルんだ瞳で見つめている。
なんかリクエストあるのかな?
なごみの性格をよく分析するに……
こいつ、なんだかんだで自分の父親が
大好きだったよな。
それが小さい頃に死んでずっと寂しかった、
と言う事は。
荒々しい体位よりも……。
なごみの体を抱き上げる。
……………………
レオ
「ん……なごみ」
なごみ
「……センパイ……」
なごみが手を俺の背中に回してくる。
甘えてきてるみたいだ。
レオ
「これで、続けていいか」
なごみ
「はい…………いいです」
挿入角度が微妙に変わったことで、
また少し違う風に感じる。
なごみ  無音
「……」
レオ  無音
「……」
2人で見つめあう。
レオ
「なごみ」
なごみ
「はい……」
レオ
「大好きだ」
レオ
「お前の居場所、ここにすればいい」
レオ
「ここに居てくれ……」
なごみ
「センパイ……あたし……センパイに色々……」
レオ
「ああいう骨のある態度も好きなんだ」
ぐっ、となごみを抱きかかえる。
男の胸板に、柔らかい双乳をムニュッと
押し付ける。
なごみ
「あっッ…センパイの胸……広くて……固くて」
なごみ
「……お父さん、みたい……」
ギュウッ、としがみついてくる。
レオ
「なごみ……」
体だけじゃない、膣襞も積極的に締め付けてくる。
レオ
「……なごみ、可愛いぞ」
背中をさすりながら、耳元で囁いてやる。
なごみ
「んん……センパイ……」
キュッ、と強烈に締め付けてきた。
レオ
「じ、自分で動いて……みて……」
なごみ
「はい、……ん、くっ……」
健気にも、自分でゆっくりと動くなごみ。
その動きで、ベッドが軋む。
なごみ
「んンッ……くっ」
定期的にギシギシ、という音がした。
なごみ
「あ……ン、あッ、どうですか、センパイ」
レオ
「ん、そうそう……言われてすぐできる…えらいぞ」
なごみ
「えへ……」
キュッ……キュッ
レオ
「ん……あ」
顔だけでなく、粘膜も嬉しそうに抱きついてくる。
レオ
「くっ……うっ……出すぞ」
ズンッ、と腰を突き上げた。
亀頭のでっぱった部分が、粒々上の突起を
ゾリッと擦りたてた。
なごみ
「あぁぁっ……!」
レオ
「ん……くっ!」
トクン、トクン、トクン……
再び中に射精していく。
なごみ
「はぁっ……あ、熱い、です……」
3回目の放出にも関わらず、たっぷりと
なごみの膣に精液がふりかかっていく。
お互いが、股間をスリスリとあわせるような
動きをとっていた。
レオ
「なごみは……ほんと分かりやすいな」
褒められるのに、すこぶる弱いらしい。
それなら、とことん可愛がってあげよう。
なごみのお尻に手をまわして、その
柔らかさを味わうように揉んでやる。
なごみ
「ん、センパイ、そこは……」
レオ
「ここも気持ちいいんだ」
あのジーンズにぴっちり張り付いていた
お尻を揉んでいる。
それだけで、再びペニスは4度目の勃起を
中で果たしていた。
なごみ
「セ、センパイ、元気ですね」
レオ
「お前が可愛いからだ」
なごみ
「そ、そんなことないです」
そう言いながらも、また襞は嬉しそうに
絡み付いていくる。
連続でまだ出来そうな自分に驚きだった。
レオ
「なごみ、キスして欲しい……」
なごみ
「……センパイ……ちゅっ……ん」
唇をあわせてくる。
この体位はキスし放題だった。
レオ
「ん、いいぞ……なごみ、もっとしてくれ」
なごみ
「ちゅっ……ちゅっ……ちゅ」
キスの嵐をふらせてくる。
レオ
「舌、いれるぞ」
なごみ
「はいっ……あ、んむっ…………
は、ン……んむ……んっ……はぁっ……」
レオ
「ん……んむ」
お互い舌を絡ませあい、性感を高めていく。
レオ
「ぷは……そろそろ動くぞ……」
口と口も唾の糸で繋がりながら、腰を動かす。
なごみ
「んあ……っ、く」
なごみの体が、ビクンと反応した。
レオ
「しっかりつかまってろ。離すなよ」
なごみ
「はいっ……離しません」
汗でぬるぬるになった、お互いの肌を
しっかりと抱き合う。
レオ
「ん……く」
カリがズブズブと膣内を往復していく。
なごみ
「あっ……うっ、センパイ、あたし……
くっ……あ」
なごみが豊かな胸を揺らしながら感じてくれてる。
レオ
「どうした?」
なごみ
「なん、だか、頭が……あッ…ボーッとして、んっ
おか、しいんです」
そう言いながら、なごみ自身も動かす
ペースを速めていく。
レオ
「そ、それは、なごみも感じてくれてるって事だ」
レオ
「もうちょっと……強く……」
ズンッ! とひときわ強くなごみを貫く。
なごみ
「あうッ……くぅっ……それ、キツイ、センパイ」
レオ
「まだまだ……もっとペースあげるぞ」
ズンズン、とどんどんペースをあげて貫いていく。
強くつけば、なごみの汗でにじんだ
胸がぷるんっ、と揺れる。
長い黒髪を揺らしながら、喘ぐなごみ。
レオ
「ぐ……っ」
4度目の射精。
なごみ
「あっ……出てるっ……ン、あぅっ」
レオ
「はぁ……はぁ……」
射精しながらも、腰を振る。
なごみが感じはじめてくれてる今、俺だけ
ここで果てるわけにはいかない。
射精しても、萎える事無く再び硬化するペニス。
射精後の敏感な亀頭がなごみの攻撃的な
粘膜に触れている。
なごみ
「ふぁっ……あっ、あうっ……」
レオ
「な、なごみ……お前、可愛い声出すなぁ……」
なごみ
「だ、だって、センパイがっ……んっ」
レオ
「そ、そっか、俺のせいか」
レオ
「だったらもっと突いちゃうからな」
なごみ
「ふあっ……く、あっ、あっ、あっ、あっ」
早い間隔で、ひたすらなごみを貫いていく。
なごみの1年生とは思えない喘ぎ声に
俺もどんどん高まっていく。
レオ
「なごみ、また……いくぞっ」
なごみ
「はァン、はぁ……ん、あ、はいっ……」
首にまわされている腕にグッと力が入る。
できるだけ早く力強く打ち付けていく。
なごみ
「ああッ、あああ……っ」
なごみの粘膜がキュッ……と収縮してきた。
レオ
「んくっ、い、行くぞ、なごみっ」
ひときわ深くまで、ペニスを突き刺した。
なごみ
「あぁーーーっ! センパイっ……!」
ドピュッ! ドピュッ! ドピュッ!
これで最後、とばかりに射精がはじまった。
レオ
「あぁっ……くっ……」
なごみ
「あぁっ……アッ……はァ……はぁ」
射精しながら、なごみとしっかり抱き合っていた。
なごみ
「せ、センパ……イ……」
レオ
「どうした……んむっ」
なごみ
「んっ……んむ……ちゅっ……」
なごみに唇を奪われた。
情熱的に俺の唇を貪っている。
なごみの黒髪を撫でながら、口からは唾液を
ペニスからは精液を流し込んでいく。
本当に1つになっている気がした。
………………
終わった後も俺はペニスを抜かない。
痺れるようななごみとの一体感を味わう。
なごみ
「はぁ……はぁ……はぁ……センパイ……」
お互いが、余韻に浸りピクピクと
体を痙攣させていた。
レオ
「なごみ、初めてなのに5回もしてごめんな」
レオ
「……好きだぞ……」
そう言いながら、優しく頭を撫で続けてあげる。
なごみ
「センパイ………」
なごみは、俺の事をうっとりと眺めていた。
その瞳には、確かに親愛の証が
宿っているように見えた。
……よかった、乱暴にやらないで。
どんなに激情にかられたくても、こっちが
年上なんだから、優しくしてあげないと……。
………………
レオ
「なぁ、なごみ」
なごみ  無音
「……」
レオ
「なごみ?」
なごみ
「Zzz」
レオ
「お前、こんな所も子供っぽいのな」
苦笑する。
疲れていたのか、すやすやと寝ているなごみ。
あっという間に寝てしまった。
俺なんて興奮冷めやらずだというのに。
というか、なごみの中のツブツブみたいな
突起に擦られまくったせいで、ヒリヒリしている。
あぁ、そういえばこいつ昨日の夜は
徹夜みたいなもんだったとか言ってたな。
なごみ  無音
「……」
その寝顔が、普通に可愛いと思った。
こうして夏は少女を大人に変えていくのだった。
なごみ  無音
「……」
椰子の体の重み。
俺がこれから支えてやるべきもの。
男として気合入るね。
がんばろう、色々と。
レオ
「ん……」
目が覚める。
レオ
「……あれ?」
なごみがいない。
目覚まし時計を見ると、10時になっていた。
レオ
「なごみ?」
いないや……。
帰っちゃったのかな。
なごみ
「あれ? センパイ起きてたんですか」
なごみ
「よく寝てましたから、起こさずに
そっとしておきました」
レオ
「外に行ってたのか?」
なごみ
「はい、母と話してきました」
レオ
「え、なんて」
なごみ
「母さんは母さんで好きにするなら、あたしも
あたしで好きにするって。そう言っただけです」
なごみ
「ビックリしてましたけどね……」
なごみ
「でも天王寺……再婚予定の男とも
話し合うって言ったら了解してくれましたよ」
レオ
「なんか、フッ切れたみたいだな」
なごみ
「新しい居場所、見つけましたから」
なごみ
「……センパイがあたしを必要って
言ってくれましたから」
レオ
「なごみ……」
なごみ
「ご飯、作りますね」
レオ
「え」
なごみ
「鉄先輩は、夏休み明けまで
帰ってこないんですよね?」
レオ
「うん」
なごみ
「それまで、センパイは食事とか
どうされるつもりなんですか?」
レオ
「そりゃ、カップ麺やら……」
後は正直スバルに期待している。
なごみ
「やっぱり……それじゃ駄目ですよ」
なごみ
「あたしが鉄先輩に代わり
センパイの面倒、見ますから」
レオ
「面倒ってお前……」
レオ
「お前、家の手伝いとかは?」
なごみ
「忙しい時は手伝いに行きますし」
なごみ
「母も学生の時に父と知り合って
あたしを産んでますから。あたしがこういう事を
しても、文句は言えませんよ」
ドン、と持ってきたカバンを置くなごみ。
そこから取り出したのは……。
エプロン?
上着を脱いで着込むなごみ。
なごみ
「やっぱりこれをつけると、気合
入りますね」
レオ
「そ、そうか……」
なんか積極的に動いてるなこいつ。
なごみ
「今日は暑いから冷たいソバにしますね」
レオ
「………なんかお前」
若奥様みたいだ。
とりあえず、なごみがメシ作ってる間に
シャワーを浴びて、頭の中で現状整理。
レオ
「うん、美味い!」
なごみ
「どんどん食べてください」
もうすぐ正午か……。
レオ
「椰子、俺これから、クラスのやつに
借りてた漫画返しにいかないと
いけないんだけど」
レオ
「お前どうする? 夕方前には帰るけど」
なごみ
「あたしは待ってます」
レオ
「そ、そうか」
レオ
「なるべく早く帰るよ」
この会話も、なんか新婚みたいだ……。
………………
夕方になってしまった。
椰子、まだいるのかな?
レオ
「ただいまー」
とたたたっ
なごみ
「お帰りなさい、センパイ」
レオ
「あ、あぁ。ただいま」
椰子が何だか元気良いというか……。
活き活きしてるよな。
レオ
「……?」
あれ……ここもだ。
1階が綺麗になっている。
レオ
「なごみ、お前1階掃除した?」
なごみ
「はい、センパイがいない間に
色々やっておきました」
レオ
「そ、そうか」
それほど長い時間空けてなかったのに
ここまで部屋がピカピカになってるとは。
乙女さんより家事スキルが高い……っ。
なごみ
「……何か、いけなかったですか?」
レオ
「いや……完璧だ」
レオ
「偉いぞ。なごみ」
なごみ
「あ……ぅ」
頭を撫でてやる。
なごみ
「……えへへ」
メチャクチャ嬉しそうだった。
レオ
「お前……可愛いぞ」
そのままキスする。
なごみ
「んッ……ん……あふ……ぷは、センパイ」
目を潤ませて俺を見るなごみ。
このまま押し倒したくなった。
台所からは、いい香りが漂っている。
……焦るな、時間はたっぷりある。
レオ
「と、とりあえず、夕飯にしようか」
なごみ
「は、はい、そうですね……料理を途中で
やめるのは良くありませんし……」
どうやらこれから本格的に料理する所らしい。
……しばらくして。
なごみ
「後15分くらいで出来ますから。
センパイはテレビでも見てて下さい」
レオ
「あいよー」
とは言ったものの。
なごみが俺の為に色々やってくれるのは
嬉しい。
問題はあの性格のキツイなごみが、
どこまでなら怒らないか、という事。
今後の為にちょっと色々実験してみよう。
レベル1 セクハラ(弱)
台所で料理を進めているなごみの
後ろに近づく。
無言で、ジーンズ越しにそのお尻を撫でた。
もしこれを、2ヵ月前のなごみに
やってみたと想定する。
なごみ
「死ねよ、お前……」
レオ  無音
「(恐!)」
潰されていただろう。
さぁ、今はどうだ。
軽いボディタッチは許してくれるのか?
むにむにとお尻を揉んでみた。
なごみ
「……ちょ、ちょっとセンパイ」
レオ
「怒った?」
なごみ
「……なんで怒るんですか?」
レオ
「あ、いや」
いいのかな? こういうセクハラしても。
いい気になって、後ろから胸を揉んでみた。
なごみ
「んっ……センパイっ……今は夕食を……」
んん、いかん。
このままでは夕食はお前だ! といっても
成立してしまう。
レオ
「ごめん、後ろ姿が魅力的だったから……
特に用事があるわけじゃないんだ」
歯の浮くような事を言って、手を止めた。
なごみ  無音
「……」
顔を赤くしてこちらを見ている。
これぐらいのセクハラ攻撃は、恥ずかしいけど
OKらしいな……。
やるじゃないか、なごみ。
だが、まだ戦いは始まったばかりだぞ。
レベル2 パシリ
レオ
「うん、相変わらずメシはマジ美味い!」
レオ
「ただ、なごみ。俺は家で食う
夕飯の時は、ウーロン茶を好むんだ」
なごみ
「あ、そうなんですか。覚えておきます」
なごみ
「じゃあ、冷蔵庫には無かったので
今から買ってきます。
センパイは食べてて下さいね」
ダッシュ!
レオ
「……命令する前に自分から行った」
…………
だだだだっ
なごみ
「買ってきました、センパイ」
レオ
「そんなに急がなくても」
なごみ
「いえ、料理も冷めますし……
センパイ待ってると思いまして」
グラスに注いで出された。
レオ
「あぁ、サンキュな、なごみ」
頬を撫でてあげる。
なごみ
「えへへっ……」
こいつ、誉められたい年頃だな。
レベル3 ちょっとウザイ男
尽くしてくれそうなタイプだとは
分かった。
じゃあこういうのはどうだ。
この肉じゃがの中にある大根。
柔らかくて美味しいが、ハシの使い方が
悪いとボロッと崩れる。
レオ
「なごみ、この大根が崩れやすくて食えない」
レオ
「あーん」
うぉ、我ながらなかなかウザイぞ、これは。
さぁどうするなごみ?
なごみ
「じゃあはい、センパイ」
普通に自分のハシでその大根をつまみ……
レオ
「お、おう」
俺に食わせてくれた。
レオ
「や、やるじゃねぇか」
俺の方が赤面してしまった。
こういうのもこなせるのか。
レベル4 亭主関白
パシリの上級編だぜ。
レオ
「ごちそうさまー」
レオ
「なごみ、食器頼む」
なごみ
「はいっ」
いい返事だった。
なごみ
「あれ、センパイ? あたしが洗いますよ」
レオ
「いや、2人で洗おう」
食器洗いぐらいは何とも思わないか。
レオ
「食器洗い終了……お風呂洗っておいてくれ」
なごみ
「もう洗ってありますから
お湯落とすだけですよ」
すでにやっていたのか。
優秀なヤツだな……メイドになれそうだ。
レオ
「洗濯物畳んでおいて」
なごみ
「はい。分かりました」
嫌がるどころか、むしろ……。
レオ
「俺の靴、磨いといて?」
なごみ  共通
「はいっ」
命令されてむしろ喜んでいた。
レベル5 身の回りの世話
午後10時。
俺となごみは居間でテレビを見ていた。
レオ
「なぁ、なごみ」
レオ
「さっきから、命令っぽく言っちゃって
色々やらせてるけど、嫌なら断わっていいんだぞ」
なごみ
「はい、あたしは本当に嫌なら断わりますよ」
レオ
「そ、そうか」
今までのは我慢してたわけじゃないんだ。
レオ
「よし、それじゃあ肩が少し凝ったから
揉んでくれない?」
なごみ
「あたし、得意ですよ、いつもやってましたから」
これまた嬉しそうに俺に肩揉みするなごみ。
レオ
「う……本当に上手い……な」
なごみ
「男の人の肩を揉むのは……久しぶりです」
トントン、と肩まで叩いて熱心にマッサージ
してくれるなごみ。
あぁ、なんかこれ効くな。
気持ちいい……。
レオ
「なごみは、肩叩くの……上手いなぁ……」
なごみ
「……っ……お父さん……」
レオ
「ん、どうした?」
なごみ
「あ、い、いえ……」
レオ
「じゃあ次は耳掃除だ!」
これはちょっとだけハードル高いぞ。
男は、やってくれそなーなものと
思いこんでるらしいが、嫌がる女もいるからな。
さぁ、俺の耳アカがとれるかなごみ!
なごみ
「センパイ、ここに頭を置いてください」
既に自分の膝をチョイチョイと指定していた。
レオ
「な、なかなかやるじゃないか」
膝に頭を置く。
柔らかくて気持ち良かった。
それにしてもこいつめ、次々とクリアしてくれる。
嬉しい誤算だった。
これなら、どれだけ踏み込んだ事をやっても
怒って即別れる、という事はあるまい。
……いや、最後に1つ。
レベル6 セクハラ(強)
レオ
「なごみ、風呂沸いたぞ」
なごみ
「センパイ、お先にどうぞ」
レオ
「だーめ。レディファースト」
……と、なごみを先に向かわせておいて。
レオ
「なーんてな! 一緒に入ろうぜ」
なごみ  無音
「……」
う、昨日と同じような反応!
さすがに1日でそうは変わらないか。
いや、もう少し踏みこんで見よう。
レオ
「お前に背中流して欲しいな」
なごみ
「……あ、そ、その……」
なごみ
「……い、いいんですけど……こ、ここで、
目の前で脱ぐのが……恥ずかしいと
いうか……その……」
なごみの肌がどんどん紅に染まっていく。
レオ
「俺の……負けだ」
なごみ
「え、何がですかセンパイ」
風呂に入る事自体はOKらしい。
脱ぐのが恥ずかしかっただけか。
もう何でもOKな気がしてきた。
……………………
レオ
「……」
なごみ
「さっきからどうしたんですかセンパイ?」
レオ
「お前がここまで俺に心を
開いてくれたのかと感動している」
言う事、全部嬉しそうに聞いてくれるし。
誉めてあげると、それだけで幸せそうだし。
なごみ
「……センパイはもう、線の内側ですから」
レオ
「線の内側……って前も言ってたな。それ何」
なごみ
「あたしと、他人を分ける区切りの線です」
なごみ
「皆引いてないんですかね?」
なごみ
「線の外側に位置する人間がどうなろうと
あたしは基本的には知らん振りです」
なごみ
「でも、その分、1度線の内側の方に
入った人には……全てを注ぎます」
なごみ
「それが、母さんと父さんでした」
レオ
「で、俺もそこに入れたんだ」
なごみ
「はい………」
なごみを引き寄せる。
俺を見つめる瞳。
レオ
「じゃあ……俺が好きな度合いをキスで
あらわしてみて」
なごみ
「はい……センパイッ……んっ、ちゅっ」
なごみ
「ちゅっ……ちゅっ……んむ、んっ」
なごみ
「ちゅ……ちゅ……センパイ、ん」
……いつまでたってもキスは終わらなかった。
……
今日はなごみが花屋を手伝ってる。
あいつも俺の世話を焼いたり、家の
仕事したりで大変だな。
というか、母親と上手くやってるかな?
ちょっと心配だから見に行ってみよう。
見つからないように花屋を偵察。
のどか
「なごみちゃんも不良よね〜
男の人の家に入り浸りなんて〜」
なごみ
「母さんも、同じくらいの歳に
お父さんとこういう感じだったんでしょ」
のどか
「まぁね〜、そう考えると孔雀の娘は孔雀ね〜
イヌワシみたいに育って不安だったわ〜」
のどか
「でも、幸せそうで良かった〜。
今度、対馬君をまたここに連れてきてよ〜」
なごみ
「……そのうちね」
のどか
「天王寺さん、話し合いたいって言ったら
喜んでたわよ〜」
なごみ
「……そう、で、日取りは?」
のどか
「あっちは、すぐにでも都合はあわせるって
言ってるけどね〜、まぁ、もうちょっと後に
するから……」
のどか
「なごみちゃんは、なごみちゃんの意見を
しっかりまとめておいてね〜」
なごみ
「……分かった」
………………
何話してるか良く分からなかったけど。
和気あいあいとしている雰囲気は伝わってきた。
やっぱり親子だ、心配いらないや。
……俺も母親の所には挨拶に行かないとな。
別に娘さんを下さいってレベルじゃないけど
緊張するぜ。
なごみと生活必需品の買い出し。
肩を並べて歩く。
レオ
「いつもの商店街でいいよな」
なごみ
「あそこはあたしの庭だから任せてください」
ひとつ気が付いた事がある。
なごみ  無音
「……?」
なごみ
「どうしました、センパイ」
レオ
「あ、いや。お前外だといたってクールなのな」
俺と付き合う前そのものだ。
なごみ
「人前でいちゃつく気はありませんし」
なごみ
「……ああいう自分を見せるのはセンパイだけです」
サラッという椰子。
後は、無言モードに戻る。
「あらあら、対馬さん、椰子さん、ごきげんよう」
レオ
「祈先生、夏休みにどうしたんですか?」
「学校が夏休みでも、教師も全ての日程が
夏休みというわけではありませんわ」
レオ
「え、そうなんだ」
「そちらはデートですか?」
レオ
「はは、まぁ、そんな感じです」
「いいですわねー、学生は」
レオ
「そんな昔を懐かしむような」
「それほど昔ではありませんわよ」
レオ
「うぉ、すいません」
土永さん
「生水には気をつけろよ。アイスキャンディーの
食い過ぎにもな。腹を壊すのはクールじゃないぜ」
レオ
「また古臭い事を」
「私が古臭い?」
レオ
「違いますってば!」
23歳なのに年齢を気にしているなんて。
10代の若者達に囲まれていると
思う所があるのだろうか。
祈先生と別れ、距離が開く。
なごみ
「バアさんは口うるさいですね」
レオ
「お前、そんな恐ろしいことよく言えるな」
……………………
なごみ
「後……お風呂の洗剤……」
テキパキとなごみが買いモノしている。
レオ
「しかも俺の家の必需品なのによく把握してるな」
なごみ
「毎日、家事してれば分かります」
あっけらかんといい買い物に戻るなごみ。
レオ
「さすがに金は仕送りから出すからな
会計の時は、俺と代われよ」
なごみ
「あ、店を手伝ったバイト代あるから
あたしが出しますよ」
レオ
「いや、それは大丈夫だから」
なごみ
「そうですか……?」
何故かなごみは残念そうだ。
とはいえまさか1年生に
貢がれるわけにもいかない。
レオ
「しかし、夕方だと商店街混んでるな」
なごみ
「この時間帯だと、安くなりますから」
――午後5時ジャスト。
なごみ
「ここから先は戦場です。下がっていてください」
レオ
「何を言ってるの? それは男の俺が言うセリフ…」
売られている野菜のカゴに“夕方セール”の
フダがかけられる。
すると、どこからともなく主婦の軍団が殺到した。
マダム
「貴様ら! どけぇい!」
……うわ、カニのお母さんだ。
カニのお母さんが周囲を蹴散らして買っていく。
レオ
「……確かに戦場だ。安売りかぁ……」
なごみ
「行って来ます」
レオ
「お、おい、あんなオバサン達相手に大丈夫かよ?」
なごみは、後ろ姿のまま、ピッ! と
親指を立てた。
レオ
「おぉ、カッコいい!!」
そのまま輪の中へツカツカと入っていく。
マダム
「おい、小娘! 邪魔するんじゃあないぞッ!」
マダムの体当たりにガッチリとぶつかりあい
野菜を選別するなごみ。
あのマダムが“松笠の呂布”といわれる
カニのお母さんだとは気付かないんだろうな。
蟹沢一族となごみは因縁なのかもしれない。
なごみ
「……帰還しました」
戦利品をしっかりもぎとっている。
レオ
「お前、主婦の素養充分だな」
なごみ
「ウチの母さん、ぼやーっとしているから
ああいうノリだめなんです」
レオ
「そっか、だから代わりにお前が……
それで慣れてるってわけだな」
たくましい奴だ。
……………………
夕食も終わり、風呂にも入り……。
レオ
「なごみ、今日は勉強だ」
なごみ
「勉強ですか?」
レオ
「だってお前、俺をHな男だと思ってるだろ」
なごみ
「……まぁ、正直少しは……」
レオ
「その誤解がねー」
レオ
「待ちな、面白い本を読ませてやる」
二重底の机から、エロ本を取り出す。
なごみ  無音
「?」
レオ
「Hな本隠してるんだ、ここに」
なごみ  無音
「……」
レオ
「そんな顔するな、悲しくなるから!」
レオ
「お前、全然Hの知識ないだろ」
レオ
「だからこれでわかって欲しいんだ」
レオ
「俺はそれほどエロくない、Hなのは
こういう事だと」
ちょっとセクハラだけど、
彼女にそんな事を遠慮してもいかんだろ。
手渡す。
ペラペラ、とページをめくりはじめるなごみ。
なごみ
「うわ……これは……こんな……」
レオ
「それくらい直接的な方が参考になるだろ」
なごみ  無音
「……」
みるみる顔が赤くなっていくなごみ。
……考えると、なごみが本を読んでる間俺暇だな。
レオ
「にゃごみ、こっちおいで」
俺はベッドに腰を下ろし、とんとんと
自分の膝の上を指す。
なごみ
「そこに座るんですか」
レオ
「そう、ほらこんな風に」
なごみを膝の上に乗せて、抱きかかえる
ようにする。
そして、上半身を脱がしにかかる。
なごみ
「ちょっ――センパイ?」
レオ
「この体勢をキープ」
レオ
「なごみは読書して知識つけて。
その間俺は好き放題触らせてもらう」
なごみ
「そんなんだと、気が散っちゃいますよ……」
レオ
「だって、本読んでる間暇なんだもん」
なごみの綺麗な黒髪に顔を埋め、その匂いを嗅ぐ。
レオ
「相変わらず、甘ったるくていいな」
しっとりとした黒髪の感覚もいい。
レオ
「こんな感じで俺は勝手にやってるから
なごみは勉強してて」
なごみ
「……分かりました……」
なごみは観念して、本を読み始めた。
SMで、縛られているページを見ているなごみ。
レオ
「そこはハードだろ、こっちにしとけ」
フェラとかのページに変えてあげる。
なごみ
「……これ、こんなことまで……」
レオ
「全く人間ってHな生き物だよね」
なごみ
「それでもセンパイだって、やっぱり
相当なものだと思います」
レオ
「俺は正常だ」
レオ
「むしろ、Hなのはこんな体をしているなごみだ」
87センチの胸をムニッと揉む。
するとすごい弾力で俺の手のひらを
押し返してくる。
なごみ
「くぅっ……」
手のひらを離せば、胸がぷるん、と揺れる。
その眺めがエッチで、何度も繰り返す
レオ
「つうか、生理的嫌悪はどう?
大丈夫なのか、キモくないか?」
なんせ、そのページは生殖器を
口で舐めてる所の特集だ。
男はたいてい好きだし、やってもらいたいけど
嫌がる女は本気で嫌がるらしいからな。
なごみ
「正直キモいです、これ」
レオ
「そうか?」
首筋に軽くキスする。
なごみ
「ン……」
レオ
「こういうの、俺にするのいや?」
なごみ
「……いえ、あくまでもこの写真の奴等は
キモイってだけで……」
なごみ
「センパイのなら……全然キモくないです」
レオ
「嬉しい事を言うな、なごみっち」
耳たぶを軽く口にふくむ。
なごみは、耳たぶまで甘い。
なごみ
「ん……センパイのは、この本の男に比べると
小さくて可愛いですし……色だって……」
レオ
「フォローのつもりだろうが、それは極めて余計!」
お仕置きとしてなごみの元気になってきた
乳首に、コリッと爪を立てる。
なごみ
「あぅっ……」
レオ
「お前なんて はえてないだろ」
なごみ
「セ、センパイ……ひどい……」
レオ
「それぐらい俺も傷ついたの」
なごみ
「あ、……すいませんでした」
レオ
「いや、いいけど」
真面目に謝られた。
つまりかなり傷ついたんだろう。
レオ
「始める用意をしておかなくちゃ」
なごみ  共通
「え……?」
レオ
「なごみ、もっとお尻を俺の膝元に
くっつけるように深く座ってみ」
なごみ
「こうですか?」
レオ
「そうそう」
なごみのジーンズにピッチリとおさまっている
大きなお尻に、元気になりはじめたペニスを
グイグイと押し付けた。
なごみ
「ちょ、ちょっと先輩……」
ムニムニと引き締まったお尻の感触に、
ペニスはあっという間に臨戦状態になった。
なごみ
「う……あたってる」
レオ
「だろ、硬くなってるの分かるよな」
レオ
「なごみのお尻エッチだから少しすりつけるだけで
ジーンズ越しでもすぐこうなっちゃうんだぜ」
なごみ  無音
「……」
なごみは恥ずかしいのか、腰を前の方にずらした。
レオ
「こら、逃げるなって、いいマッサージなんだから」
再びなごみのお尻を引き寄せ、勃起しているモノを
スリスリとなすりつける。
そうしながら、今度はしこっている乳首を
指でキュッとつまみあげる。
なごみ
「んくっ……」
レオ
「ごめんなー、いじめてるつもりはないんだけど」
そう言いながらも、なごみの胸を
好き放題揉んでいく。
なごみ
「……この本風に言うと調教されてる気分です」
レオ
「そんなオーバーな」
なごみ
「べ、別にいいですけど…センパイになら
調教されても」
レオ
「……そ、そうか」
時々見せるMの素養。
真性かも知れない。
なごみ
「……ん、あ、あの本、だいたい読みました」
レオ
「そうか」
なごみ
「それで、あの、センパイは……やっぱり
こういうの、して欲しいですか?」
レオ
「うん」
なごみ
「分かりました。そ、その前に……」
チラッと上目遣いで見てくる。
レオ
「ん」
なごみ
「ん……」
キスしてあげる。
甘い唇。
これに俺のものしゃぶらせるのかと思うと
なんとなく背徳的な気がした。
でも、それよりも湧き上がる性欲の方が強い。
レオ
「じゃ、頼む」
なごみ
「はい、頑張りますセンパイ……」
レオ
「……」
今までが今までだっただけに素直な返事が嬉しい。
なごみ
「…あの、センパイ、ズボン履いたままだと…その」
レオ
「何を言っている」
レオ
「家に帰るまでが遠足、これを
脱がす所からが、オーラル行為」
なごみ  無音
「……」
なごみはちょっと困った顔をした。
それがまた可愛いので、髪を撫でてやる。
なごみ
「それじゃ、脱がしますよ……」
かちっ
なごみの細い指が、ズボンのボタンを外す。
次はファスナー。
他人にファスナーをおろしてもらうというのは
なかなか斬新だ。
なごみ
「あれ? ……あれ」
なごみがマジメな顔で、ジジ……と
やっているのが面白い。
なごみ
「あの……センパイのが、大きくなって……その
邪魔してて……ぬ、脱がせません」
レオ
「じゃあズボンそのものを脱がさないとな」
なごみ
「……はい、失礼します」
礼儀正しい事を言って、
スルスルとズボンを下ろしていく。
レオ
「あぁ……なんかなごみにこれから襲われるって
感じがしていいぞ」
なごみ
「またそんな事ばっかり……」
ズボンを完全に脱がすと、サッとたたんで
ベッドの下に置いてくれた。
なごみ
「下着も、ですね」
丁寧に脱がしていく。
レオ
「おい、そんなゆっくりじゃなくてもいいぞ」
トランクスが股間を通過し、閉じ込められていた
俺のペニスは、自由を得てギンッとそそり立った。
なごみ
「わっ……」
びっくりしたのか、動きが一瞬止まった。
レオ
「とりあえずトランクス全部脱がせて」
なごみはトランクスも素早くたたんでくれた。
レオ
「……あ、なごみも一応脱いで」
気持ちよくて射精して、服を汚したら
可哀想だからな。
なごみ
「あ、はい、あの……センパイ」
もじもじしているなごみ。
レオ
「何?」
服を脱ぐのを見られるのが恥ずかしいと
分かってて質問する俺。
なごみ
「その、恥ずかしいから……
そっち向いててください……」
レオ
「ん、目をつぶってるよ」
なごみ
「すいません」
謝るのは俺の方だ、なごみよ。
しっかり薄目をあけて観察してしまった。
なごみのストリップを見てると、
ペニスはさらに猛ってしまった。
そして、目線を俺のペニスに戻す。
レオ
「それじゃ、どうしようかな……」
とりあえず、横になった。
レオ
「やりやすいように……やってみて」
なごみ  無音
「(こくり)」
なごみ
「センパイ、力加減が分からないから
痛かったら言ってください」
レオ
「ん……分かった」
……この言葉のやり取り、二ヶ月前であれば
信じられないだろうな。
まさか、こいつにしゃぶってもらえる日が
来るとは思わなかった。
なごみ  無音
「……」
レオ
「? 何そんなにじっくり見てるの?」
なごみ
「こんな風に間近で意識して見るのは……
多分初めてです」
しゃべっただけで吐息が当たる。
なごみ
「センパイ。力抜いてます?」
そっ……となごみの指がペニスに添えられる。
レオ
「うっ……うん、大丈夫」
なごみ
「センパイの凄くドクドクいってますけど……」
レオ
「うん、元からそんな感じだ」
よしよし、とあやすようになごみの指が
ペニスを上下するのが気持ちいい。
テクニックなんてまるで無いが、
なごみに触れられているだけで感じてしまう。
なごみ
「そ……それでは……」
なごみ
「ん……ちゅ」
なごみが軽い口づけを先端部分にしてきた。
柔らかい唇の感覚。
さらにそこから――
なごみ
「ぺろ……っ」
レオ
「っ……」
ぬるっとした感触に、思わず体をビクつかせる。
なごみ
「……今の、駄目ですか?」
レオ
「い、いや……これが舌で触られる感覚か……」
強烈だ。
レオ
「続けてくれ」
なごみ
「はい、センパイ……ん、ん……ぺろ」
なごみの吐息が亀頭にあたると思った直後。
なごみ
「………ん、んむ、あ……ん……」
そのぬめった舌を動かしてきた。
レオ
「くぅ……」
なごみの膣で多少は実戦を経験しているから、
舐められたっていきなり果てる事は無い。
甘い快感だが、それを楽しむ事はできるが……
なごみ
「……ちゅっ……ぴちゃ、んっ……チュッ…」
フェラチオは視界がまずい。
なごみの赤い舌が俺の亀頭部分をチロチロと
なぞっている。
なごみ
「……れろっ……センパイの、熱い……ペロ…」
それは本来ありえないはずだった光景。
しゃぶる姿を見ているだけで、甘く痺れてくる。
なごみ
「ん、センパイ……ぺろ、ぺろ、ぺろ……」
ネトネトした舌で、亀頭のふくらみを
一定方向にペロペロ舐めている。
やはりどこかぎこちない。
なごみ
「ん……はむっ」
ペニスをくわえる。
なごみ
「ずっ……ずずっ……んっ」
レオ
「ぐっ……なごみ、歯が痛い!」
なごみ
「ぷは、あ、す、すいません、センパイ」
なごみ
「ん……今度は……ぺろ、ちゅっ……」
レオ
「なごみ、握る手に力を入れすぎ。痛い」
なごみ
「あっ……すいません……」
レオ
「なごみは、俺を気持ちよくさせようと
してくれてるんだろ?」
レオ
「変にテクニックに走らずにさ……
その舐めてるのが、俺そのものだと
思って、可愛がる感じでやってみ?」
なごみ
「感じさせるのではなく、可愛がる……ですか?」
レオ
「うん。テクニックとかいらないから」
なごみ
「分かりました……可愛がる感じで……」
優しく指で亀頭を撫でられる。
反応した先端がビクッ……と震えた。
なごみ
「ん……センパイ……、震えてて可愛い」
優しくキスされてしまう。
そのまま舌を伸ばすなごみ。
なごみ
「ん、ぺろ……れろ……ちゅっ……んむ……」
しゃぶりながら、髪をなおす仕草が色っぽい。
なごみ
「ちゅっ……ぺろ……センパイ……」
なんというか、丁寧に磨いてくれているという
配慮が伝わってきて嬉しい。
なごみ
「ぺろ……ちゅっ……ちゅっ……れろ、
ぺろ……はふ」
根元やサオの部分は、なごみの白い指が
キュッと添えられているだけだ。
ただ、亀頭だけが丹念に舐められる。
なごみ
「どうですか、センパイ……れろっ……ペロ…んっ」
ヌルヌルした舌の感触は強烈だ。
レオ
「くあっ、つ、続けて」
なごみ
「はい……ちゅっ……ぴちゃ、んっ……チュッ…」
なごみは文句を言わず、俺の醜いペニスに
柔らかな舌を這わせ続ける。
レオ
「なごみ、気持ちいいぞ……もっと可愛がってくれ」
なごみ
「ん……………チュッ」
ヒクつく亀頭にキスしてくれる。
なごみ
「センパイの顔にいつもしているやつです…
……ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ……」
なごみにキスされまくるペニスの先端。
なごみ
「あ……なんだか、センパイの濡れてきました」
レオ
「なごみの口が気持ちいいからだよ」
レオ
「それ、なめてみて」
なごみ
「はい……ぺろ、ちゅっ……れろっ、ごく」
レオ
「……どう?」
なごみ
「苦さもあるし……少ししょっぱい……気もします」
なごみ
「あ、まだ出てくる……ちゅっ……ずっ」
レオ
「あっ、く」
レオ
「その吸われるの、気持ちいい……」
なごみ
「んん……ちゅっ…なら、
いっぱい……吸いますね……れろっ
んちゅ……ずずっ、じゅっ、ずずっ……ずっ」
レオ
「くあ……まずい、これ、なごみ……」
なごみ
「ちゅるっ……じゅっ……ずずっ……ぷは、
センパイの、どんどん出てきますよ」
なごみ
「ちゅっ……っ、ちゅぱ、チュッ……チュ
チュルル……んん、ごくん」
なごみの白い喉がごくん、と動いている。
先走りを飲んでくれている。
なごみ
「じゅっ……ずっ……じゅるっ……」
レオ
「う、出る……」
なごみ
「! あっ……」
ドクンッ……
精液が射出された。
なごみ
「わ、く……!」
なごみの顔にも着弾してしまっていた。
なごみ
「センパイの……すごい、出ましたね……
レオ
「お前の口が、気持ちいいから……」
なごみ
「しかも、その、小さくなりません」
レオ
「もっと舐めて欲しい」
なごみ
「はい、分かりました。センパイの……いくらでも」
レオ
「ありがとう」
髪の毛を優しく撫でてやる。
なごみ
「ん、ちゅ……ぺろっ、ピクピクいってて
なんだか、かわいいです……ちゅっ」
今度はくびれの根元から、ペロペロと
カリの部分を熱心に舐めてくる。
なごみ
「……ん、ちゅっ、ぺろぺろ………ちゅる、じゅ…」
なごみ
「ん、ここ、弾力があって……ん…ちゅっ…」
ここまでしてくれる、なごみが可愛いと思う。
レオ
「なごみ……俺ばっかり気持ちよくても悪い」
レオ
「お前の準備もしないと」
なごみ
「あ、その……あたしは……」
レオ
「んん……?」
レオ
「なごみ、脚を開いてあそこ見せて」
なごみ
「えっ……、そ、それは……恥ずかしいですから」
ごめん、なごみちょっと強く言うぞ。
レオ
「なごみ!」
なごみ  無音
「!」
なごみの体がビクッと震える。
レオ
「見せて」
なごみ
「は、はい……っ」
少しずつ脚を開いていくなごみ。
羞恥で頬が染まっていく。
レオ
「……濡れてる……」
つるつるだから分かりやすい。
レオ
「まだ、閉じちゃだめだ」
なごみ
「…は、はい…………ん……」
再び俺に股間を見せるなごみ。
相当恥ずかしいのか、顔はこれ以上ないほど赤い。
レオ
「舐めながら感じてくれたんだ……」
なごみ
「せ、センパイだって……逆だったらどうです?」
俺がなごみの秘裂を舐める……。
レオ
「なるほど、そりゃあ確かに昂ぶる」
じゃあ、さっそく、挿入を……。
レオ
「あ……しまった」
なごみ
「ど、どうしたんですか?」
レオ
「ゴム……買うの忘れた。すまん買ってくる」
後ろから抱きつかれる。
なごみ
「……センパイ。あたし、
別に無くても構いません」
なごみはきっぱりとそう言ってくれた。
レオ
「ありがと」
でも、やっぱり1年生を妊娠させちゃいけない。
レオ
「それでも、避妊はしないとな」
なごみ  無音
「……」
レオ
「なんでちょっと寂しそうなんだよ」
レオ
「赤ん坊できちゃったら困るだろ」
なごみ
「困るんですか?」
なごみ
「あたしは、センパイの子供なら産みたい」
レオ
「いや俺は困る!」
なごみ
「そ、そうですか……?」
レオ
「……だって、赤ちゃんできちゃうと、女の
愛情は、ほとんどがそっち行っちゃう、
って言うじゃないか」
なごみ  無音
「……」
レオ
「そんなの嫌だ、もっとなごみとベタベタしたい」
なごみ
「……大丈夫ですよ」
なごみ
「何があろうと、どうなろうと……
センパイを慕う気持ちは変わりません」
レオ
「なんでそんな諭すような言い方するんだ」
なごみ
「だって、今のセンパイなんだか可愛くて」
レオ
「ちぇ、後輩に可愛い言われたら世話ないぜ」
なごみ
「あ、どこへ……?」
レオ
「コンドーム買ってきます」
なごみ
「それじゃ、あたしも……」
レオ
「え、来るの?」
なごみ
「夜のベッドに1人で取り残されるの……
何だか寂しい気がして……」
レオ
「甘えん坊だな」
レオ
「じゃ、ちゃっちゃと行こう」
なごみ
「一応、口ゆすいできます」
レオ
「さて、コンビニ、と」
なごみ  無音
「……」
レオ
「……自動販売機無いのかな、ここらへん」
コンビニ行くか、覚悟決めて。
――さて、置いてあるかな?
レオ
「……おぉ、これは意外だ。コンビニ恐るべし」
レオ
「なごみ、ちょっと見てみ」
レオ
「コンビニとはいえ種類あるけど、どれがいい?」
なごみ
「し、知りませんよ。お任せします」
レオ
「だってこれなんか、少しツブツブ突起が
ついてるらいしぜ」
レオ
「こっちは、果物の香りがする……へぇ」
なごみ  無音
「……」
恥ずかしいのか、さすがになごみは
間合いを開けていた。
……普通のにしよう。
ゴムだけ買うのも恥ずかしいので、飲み物とかも
一緒に買っていく。
レオ
「あ……」
外人と日本人のカップルが今ゴムを
堂々とレジに持ってったぞ。
んー、あーいう風に堂々と買えるように
なるには年季がいるんだろうな。
でもそうなったら何かを失う気もする。
土曜日もずっと2人でいたぶん、
今日なごみは家の手伝いに戻っていた。
お盆シーズンは、花が売れるから
結構忙しいらしい。
メールしても仕事の邪魔になるだけだろうな。
あ、携帯の電池が切れかかってる。
後で充電しておこう。
ピンポーン
レオ
「はい?」
なごみ
「センパイ、あたしですけど」
レオ
「ってお前、仕事は?」
なごみ
「休憩時間ですから」
なごみ
「センパイ、今日のお昼とかは
どうするんですか?」
レオ
「適当にコンビニで……」
なごみ
「……やっぱり。そう思うから作りにきました」
レオ
「それは嬉しいけど、休憩時間は休まないと」
なごみ
「平気です。体力には結構自信ありますし」
レオ
「これが若さか……」
なごみ
「それに休憩は、休んで憩うって書きますよね」
なごみ
「あたしにとってはここにいることが、
それですから」
レオ
「なごみ……」
テキパキと食事をつくりはじめるなごみ。
……これを通い妻と言うのではないだろうか。
ありがたい。
昼飯は、そうめんやコロッケだった。
それを食べながらなごみと話す。
なごみ
「あたし、明日も正午まで忙しいんですよ」
レオ
「あ、こっちも東京の方に行く用事があるんだ」
レオ
「3時か4時ぐらいにこっちに戻ってくる」
なごみ
「分かりました。3時か4時くらいですね」
なごみ
「あ、それとセンパイ。夕ご飯のも
お弁当として作っておきましたから
それを食べてください」
とことんありがたかった。
なごみ
「それじゃ、あたし洗濯とかしてきます」
レオ
「いいって。今日のところは俺がやるから」
なごみ  無音
「……」
レオ
「お前が毎日キチッとやってくれてる
おかげで、そんなにやることないもん」
レオ
「それぐらい俺がやるから……
今俺はお前と話しながら昼飯食べたいわけで」
なごみ
「……セ、センパイっ……」
いや、そんなに胸がキュンとしてるような
顔されても……。
結局なごみは休憩時間ギリギリまで
俺とくっちゃべっていた。
今日は久しぶりに東京遠征。
ボトルシップの鑑賞会。
こういうのは1人で見てた方が落ちつくからな。
なごみは、俺を信じてくれてるのか
東京に行く、と言っても切り込んで聞いては来ない。
全く詮索されないわけじゃないけど……
無関心だったら、なんか冷めててやだし。
レオ
「うーむ、しかしボトルシップ鑑賞会……
長くなりそうだな」
なごみには帰りは夜になるってメール
打っておくか。
――携帯の電池は切れていた。
レオ
「ぬぉ、そういえば切れかかってたんだっけ」
この、風呂場でシャンプー切れそうだから
明日買い足しておこうと思って、忘れて
次の日の風呂場でしまった! みたいな感覚。
もどかしい……
まぁ、なごみは家近いんだし、俺が帰って
こなくても自分の家で待ってるだろう。
………………
レオ
「いかん、ボトルシップは俺を狂わせる」
時刻はもう午後11時だった。
飯も抜きにして魅入ってしまった。
なごみにゃ悪いことしたかな。
帰ってフォローのメールいれておこう。
その前に、なんか家に食うものあったけかな?
レオ
「……ん」
なごみ
「あ、センパイ!」
駆け寄ってくる。
なごみ
「お帰りなさい」
レオ
「……あぁ、ただいま」
レオ
「ってここで何を?」
なごみ
「センパイ、3時には戻るっていうから……
お昼までに家の仕事全部終わらせて
ここで待ってたんですけど」
なごみ
「携帯はかからないし……
とりあえず、ここで待ってました」
レオ
「……いや、待ってましたって……ずっと?」
なごみ
「はい。料理の本買って読んでましたから
気にしないで下さい」
レオ
「なごみ……」
家の中に入る。
レオ
「なごみ、ちょっと」
なごみ  無音
「?」
レオ
「お手」
なごみ  無音
「?」
とりあえず言われた通りにお手するなごみ。
その手に、この家の合い鍵を握らせた。
なごみ
「え……センパイ、これって」
レオ
「合い鍵」
レオ
「これからは、家の中で待ってていいから」
なごみ
「……いいんですか?」
レオ
「いいも悪いも、もっと早く渡しておくべきだった」
なごみ
「………ありがとうございます……」
きゅっ、と合い鍵を握るなごみ。
……良かった、こいつが悪い男に
騙される前に俺が保護できて。
このひたむきな好意は、悪意の食い物に
されやすいと思う。
守ってやらないとね。
レオ
「ふぅ、あいつら変わってなかったなー」
今日は昔の友達と会ってお茶してきた。
対馬は、なんか大人っぽくなったな、とか
言われて嬉しかったな。
レオ
「なんだか家からいい匂いがする」
合い鍵渡しておいたから、なごみか。
レオ
「ただいまー」
だだだだだっ
なごみ
「センパイ、お帰りなさい」
なごみ
「あ、今、料理の途中なので失礼します」
だだだだっ
……声だけかけりゃいいのに。
夕飯がいつになく豪勢だった。
レオ
「うん、美味い! よくこれだけ作ったな」
なごみ
「少しの間、お別れですから」
レオ
「……」
レオ
「お、この煮物も美味い。気合い入ってるな」
なごみ
「しばらく、会えませんから」
レオ
「なごみ……」
なごみ
「はいっ……」
レオ
「お前がお盆で2日いないだけで、オーバーすぎ」
なごみ
「……それでも寂しいです」
なごみにしては珍しいストレートな
言いまわしだった。
しょぼん、とうつむいてしまう。
レオ
「うおっ……」
俺の部屋に入ってみればあら不思議!
寝起きがグチャグチャだったのに
ベッドがピシィッ! となっている。
ティッシュも何気に……ベッドの枕の端に。
なんて分かりやすい合図だ。
レオ
「なごみ……お前が俺に
明日会えないだけで……寂しいなんて
それは病気だ……」
なごみ
「センパイがその病気をかけたくせに……」
レオ
「う……」
レオ
「とりあえず、2日なんとか乗り越えられるように
お注射何本か打っておきましょう」
我ながらシモネタの極みだった。
なごみ
「……あ、はい、注射、ですね」
なごみ
「お願いします……」
なごみがベッドに座り、ゴロッと横になる。
レオ
「お前ノリノリだな……」
濡れた瞳で俺をくぅーん、と見上げてきた。
レオ
「お、お前、いつからそんな殺人的な仕草を……」
そんな事されたら、こっちもだまってられない。
その時、なごみの携帯が鳴った。
無機質な着信音がこいつらしい。
なごみ  無音
「……」
レオ
「うわ」
あからさまに、邪魔されたから不機嫌な顔。
俺にはもう全然見せないので懐かしくさえある。
なごみ
「……マイマザー……はい、もしもし……
はいはい、……え、今から? ……分かった」
レオ
「どうした、なごみ」
なごみ
「明日、店を休む分、店内の整理や仕事
手伝ってくれって……」
レオ
「うん、じゃあ行かないとな」
なごみ
「……注射、うってもらってません」
レオ
「帰ってきたら、いくらでも打ってやるから!」
もう注射はいいっちゅうねん。
レオ
「それでは、またあさってなー」
なごみ
「……はい……」
なごみは名残惜しそうに何度もこちらを
振り返りながら、自分の家に戻っていった。
俺は短期2日のバイトで汗だくになりながら
うなぎをスーパーの店頭で売って2万円稼いでいた。
これで夏休み後半戦の遊び代のタシになるだろう。
なごみも法事から帰ってきた。
寂しかったらしいので、とりあえず
セックスするあたり俺達は若者だった。
その後は。
――2人で音楽を聴きながらまったりしていた。
なごみは、割と“あれやる”“これやる”と
主張するタイプではない。
特に俺が何かやろうかと言うまで、
黙って俺の隣に寄り添っているだけだ。
レオ
「なごみ……何かする?」
なごみ
「任せますよ……」
なごみ
「でも、あたしはこれでも充分です」
レオ
「これでもって……2人でくっついて
音楽聴いてるだけだぜ」
なごみ
「はい……でも充分です」
レオ
「……」
レオ
「……あ、乙女さんの植木に水をあげないと」
なごみ
「やっておきましたよ」
レオ
「明日、使ってない布団干しておかなきゃ」
なごみ
「それも、今日やっておきましたよ」
普通の家事も全部やってもらってるので
俺、やる事全く無し!!!
レオ
「お前……1年生とは思えない手際だ。
米を洗剤で洗うやつらに見せてやりたい」
優しく頬をなでてあげる。
レオ
「よくやってくれた、偉いぞ」
なごみ
「……えへへ……やったぁ………」
誉められてご満悦のなごみ。
嬉しそうに目を細める。
レオ
「よしよし……」
さらに頭を撫でてやる。
なごみ
「……あぁ……センパイ……くふぅ……」
ほんとに褒められるのが大好きな奴だな。
パタパタと尻尾でもふってそうな喜び方だ。
レオ
「なごみ、ちょっと遊びにいってくる」
レオ
「3時間ぐらいで戻るから」
なごみ
「はい、それじゃ家事やっておきますね」
レオ
「……どこに行くの? とか聞かないんだね」
なごみ
「それは気になりますけど」
なごみ
「でも、あたしだって1人で料理の勉強
したい時とかありますし」
レオ
「そっか、ありがとな」
レオ
「じゃ、行って来る。今度は一緒に
でかけような」
なごみ
「はい、いってらっしゃい、センパイ」
……いや、実はゲーセンとかなんだけど。
なごみはそういうのあんまりやらないから
連れて来ると気を使うからな。
レオ
「……っむ、この獣拳5で俺に乱入者?」
格闘ゲームをやってたら乱入が来た。
レオ
「……くっ、このスチィープ、即死コンボ
使ってきやがって……負けた」
新一
「ふっ、甘い甘い。椰子と遊んでるような
奴には、俺には勝てないって」
レオ
「フカヒレ!」
レオ
「お前、そういえば最近見ないけど
どこ行ってたの?」
新一
「あー、ちょっとギターの特訓で東京までな」
新一
「トンファーちゃん達と旅行に行ってた
カニも今日戻りだぜ」
新一
「お前の家に関西のお土産持って
行ってるはずだけど……こなかった?」
レオ
「俺の……家に……カニが?」
……しまった。あいつが帰ってくる日を
忘れてた。
急いで家に戻らなくては!
……………………
きぬ
「ちょっと入らせてもらいますよっ……と」
きぬ
「レオー! ボクが笑顔とともに帰ってきたぜー!
お土産やるから土下座してありがたがりな……」
きぬ
「あん? あのバカいねーじゃん? トイレか?」
きぬ
「オーイ、バカレオー。ボクのお帰りだぞー」
なごみ
「なっ……!?」
きぬ
「なっ……!?」
なごみ
「お前、どこから入った?」
きぬ
「そりゃあボクの台詞だ! なんでオメーが
ここにいるんだよ!?」
なごみ
「あたしはセンパイから鍵を預かってる」
きぬ
「なっ、レオがココナッツに鍵を?」
なごみ
「そうか……2階の窓から入ったな」
なごみ
「不法侵入だぞ。消えろチビ助」
きぬ
「は!? ざけんなよ。テメー何自分の
家みたいに振舞ってんだよ」
きぬ
「ボク達幼馴染にとっては
こうやって2階の窓から入ってくるのが
通例なんだよ、レオだって承知の上だもんね」
きぬ
「ま、レオと付き合いが極めて短いオメーには
分からないだろうけどね」
きぬ
「あん? しかも手に持ってるのは
洗濯したレオのトランクスか?」
きぬ
「オメーにはチェーンやカミソリがお似合いだ
こういう家庭くさいアイテムは似合わねーよ」
なごみ
「触るな」
なごみ
「あたしがセンパイの洗濯してんだよ」
きぬ
「けっ、凄みゃビビルと思ってるのかよ?
そういうパフォーマンスは冷めるんだよヤンキー」
なごみ
「センパイの下着から手を離せよ」
きぬ
「テメーが離せよ」
なごみ
「お前……潰すぞ?」
きぬ
「やってみろよ。なめんじゃねーぞ1年坊が!」
レオ
「ただいまーって、あぁぁあ!?」
俺のトランクスを2人で引っ張り合ってる?
レオ
「おいおい、やめろ2人とも!」
間に割ってはいる。
きぬ
「ココナッツ……!」
なごみ
「うざいカニが……!」
なごみが刺すような眼差しでカニを睨んでいた。
ここ最近、甘えられてばっかりて忘れてたけど
元来、こいつは他人に対してこういう奴なんだ。
レオ
「とりあえず、な、この場は、な?」
我ながら情けない……。
……………………
とりあえず2人には帰ってもらった。
なごみは、まぁ大丈夫としても。
カニを説得しなきゃなぁ。
スバル
「何、それでオレが親善大使なの?」
レオ
「カニが怒っちまって、こっちの話を
聞こうともしねぇ」
レオ
「お前の言う事なら聞くかなーって」
スバル
「オマエのためなら何でもするが。嫌な役回りだな」
レオ
「すまん」
…………6時間後…………
スバル
「一応、話つけてきたぞ」
レオ
「カニは何と?」
スバル
「勝手にすりゃーいいってさ
もう、2階から来ないってふてくされてるよ」
レオ
「……そうか」
レオ
「分かった、ここからは自分で何とかするよ。
ありがとうスバル」
スバル
「今度はこっちの用件だぜ、坊主」
レオ
「え、何?」
スバル
「椰子とオレのメシ、どっちが美味い?」
レオ
「あ……いや、そりゃあ……なごみ、かな?」
スバル
「ち、そうかよ」
レオ
「いや、でもそれは、どっちも美味いと
いう前提でだぜ? お前の料理だって充分……」
スバル
「もう1度オレがメシを作る。比べて見ろ」
何張り合ってんだコイツ?
………………
スバル
「どうよ」
レオ
「うん、美味い!」
レオ
「……でも、やっぱりなごみの方が上かな」
スバル
「完全敗北か……」
スバル
「レオを寝取られた!」
レオ
「気味の悪い事を言わないでくれ!」
ふぅ、幼馴染のやつらが加わると
話がややこしくなるぜ。
レオ
「日曜日は途中で帰してごめんな、なごみ」
なごみ
「いえ……センパイは悪くありません」
レオ
「カニ、もう勝手に入ってこないって
言ってるから」
なごみ  無音
「…………」
あぁ、少し機嫌悪いなぁ。
カニの話は、出すだけでダメだなこれは。
カニとこいつは相容れないようで、
いいコンビじゃないかとも思ったけどなぁ。
レオ
「……その分今日は俺が可愛がってあげるから」
なごみ  無音
「……」
レオ
「ん、どうした?」
なごみが窓の鍵をカチリと閉める。
レオ
「……もう大丈夫だって」
なごみ
「分かってますけど……」
レオ
「何か思う事があるなら言ってみ?」
なごみ
「……カニが、あたしはセンパイと
極めて付き合いが浅いと……」
レオ
「まぁ、あいつらとはずっと昔からだからな」
なごみ
「それが悔しいんです」
レオ
「俺だってなごみの子供時代知らないの悔しいけど」
レオ
「ま、それよりこれからを考えようぜ」
くしゃっ、と頭を撫でてやる。
なごみ
「……はい、そうですね」
レオ
「ほら」
再びHな本を手渡す俺。
レオ
「この前はなごみに舐めてもらったけど。
今日は俺がサービスしてやるからな」
レオ
「どんなのがいい?」
なごみ  無音
「……」
ペラペラとページをめくるなごみ。
なごみ  無音
「……」
レオ
「ん……?」
SMの縛りのページを見ていた。
レオ
「いや、お前を痛めつける気はないから」
ページをかえる。
なごみ
「あ……っ、あの」
レオ
「ん?」
なごみ
「…………いえ、なんでもないです」
レオ
「あ、これいいじゃん。ちょうどこの前の
お返しになるし」
男性が女性の大事な部分を舐める
行為が掲載されている。
なごみ
「い、いえ……これは……ちょっと」
なごみ
「センパイにそんなことされたら……
恥ずかしくて、あたし……」
レオ
「でも、皆は結構こういう行為してんだぜ」
レオ
「ほら、眼鏡かけて。ここの投稿小説の
所を読んでみ?」
なごみ  無音
「……」
レオ
「口に出して読んでみて」
なごみ
「……そ、そんな……できません」
レオ
「できないの?」
なごみ
「…あっ、わ、分かりました……」
俺に怒られると思ったのか、慌てて
読む姿勢をとるなごみ。
いや、そんな脅かしたつもりはないんだけど。
誉められるのが大好き、と言う事は
やっぱり叱られるのはとても嫌なんだろう。
なごみ
「男は……唾液をたっぷりとつけた指で
美少女の、く、ク、クリトリスを転がし、
舌は、ち、ち……膣口の周囲を丹念に……」
なごみ
「しょ、処女膜が舌で擦られるような感覚、
美少女は、自分の肉体が火照り、中から
甘い蜜が屈服の証として溢れ出てきて……」
レオ
「……も、もういいよ、ありがと」
涙ぐんでいた。
さすがにこれ以上読ませては鬼畜プレイだ。
レオ
「ごめん、ちょっと辛かったな」
優しく頭を撫でてあげる。
レオ
「もうなごみは楽にしてていよ」
レオ
「後は俺が動くから……」
なごみの股間に頭を埋める。
レオ
「ん……ちゅっ」
なごみ
「ふあっ……あっ……」
舌をすぼめて秘裂に押しこむ。
なごみ
「あぁ……っ、あ……センパイの舌が……」
なごみ
「ん……あ、中に入ってくる……んっ」
レオ
「ちゅっ……ぺろ」
なごみ
「そ、そんなに舐められたら、あっ……」
丹念に粘膜を舐め上げる。
なごみ
「んっ……んんっ、んっ……」
なごみ
「せ、センパイ……、少し、とめてください」
レオ
「チュっ……ぺろっ、なんで?」
なごみ
「んあッ……な、なんだか変になってしまいそうで」
レオ
「それでいいじゃん。変になってよ」
膨れ上がったクリトリスに舌を伸ばした。
なごみ
「ふあッ……あぁっ、あっ」
なごみ
「せ、センパイ……そこ、ダメ、です」
なごみの声を無視し、クリトリスを
舌で突っつく。
なごみ
「あ……くぅっ、あっ、んっ、だ、ダメっ」
突っついた後には、舐め上げる。
なごみ
「あっ、あぁぁっ……!」
そうして奥からあふれ出てきた
白濁液を、ずっ……水音を立てて吸った。
なごみ
「音、そんな立てないで下さい、んっ」
なごみ
「んっ、くっ……あぁぁっ……!!」
なごみの秘裂からは既にかなりの量の
愛液がトロリと垂れている。
その汁と俺の唾液で股間のまわりは
ベトベトになっていた。
ついでに、お尻の穴の方も……。
レオ
「ぺろっ……」
なごみ
「あっ!? ……あぁぁっ」
レオ
「ぺろ……れろ」
なごみ
「く……あぁっ、セ、センパイ!!!」
レオ
「あれ、お尻……やだ?」
なごみ
「あ、当たり前じゃないですか……
そこまで舐められたら……
恥ずかしくて……センパイの顔見れません」
レオ
「結構照れ屋なんだね」
なごみ
「ふ、普通の反応だと思います」
レオ
「うん……じゃあこっちはまた今度ね」
かわりになごみのふとももを、両方とも
俺の唾液でベトベトにした。
レオ
「それじゃ、そろそろ行くよ」
なごみ  無音
「……」
無言でコクリ、と頷くなごみ。
健気で可愛かった。
……………………
レオ
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
セックスの1戦目が終わる。
なごみ
「……はぁ…………はぁ」
なごみは息は乱れているものの
まだ絶頂には達していない。
くぅ……不甲斐ない。
射精時間、少しは伸びてるかな?
コンドームをひきぬいて、自分の出した
精液の量を見てみる。
レオ
「ふぅ……結構でたな」
レオ
「でも、ゴムをずっと使ってると
ベタつくというか……微妙な感じだぜ」
なごみ
「センパイ……あ、それなら……あたし……
綺麗にします……」
レオ
「え?」
レオ
「……お前、いいのか?」
なごみ
「はい……センパイの、ですから」
射精したにも関わらず、即座に復活し
雄々しく勃起しているペニス。
根元の方は、なごみの愛液でぬめっていた。
レオ
「なごみ、嬉しいけど出したばっかりだし優しくな」
なごみ
「はい、ゆっくり丁寧にですね……ん、ぺろ」
なごみは目もとを上気させて、俺のペニスを
舐めあげてゆく。
レオ
「なごみ、その…精子の匂い強くない? 大丈夫?」
なごみ
「ん……ちゅっ、ぺろ……れろ、いえ……」
なごみ
「大丈夫です……ん、ぺろ、じゅっ……」
亀頭の裏側も、たっぷりとなごみの舌で
舐められる。
レオ
「な、なごみ……もっと、なごみの唾を
つけるような感じでやっていいよ……」
なごみ
「は……はい……ん、じゅっ……」
唾がたっぷりついた舌がペニスの側面を
刺激していく。
なごみ
「じゅっ……くちゅっ……れろっ……」
あっという間に俺のペニスはヌルヌルに
なってしまった。
なごみ
「ちゅっ……れろっ、ぺろ、れろ……」
まるで猫のブラッシングのように
丹念に舌で舐めてくれる。
なごみが、サラリと髪をかき上げ、
俺に向けて甘えるような眼差しをしてきた。
レオ
「うん。うまいよ、なごみ……今度はくわえてみて」
なごみ
「はむっ……ん、ちゅっ……ずっ……」
ペニスの根元の方に優しく指を置いて、
ゆっくりとしゃぶりはじめた。
なごみ
「ちゅっ……じゅ……ずっ……じゅるっ」
なごみ
「ん……んふ……ずっ……ちゅううっ」
なごみ
「ん……じゅるっ、ずずずっ……」
吸い上げられる動作が決め手だった。
レオ
「ん……っ!」
ドピュッ!!
なごみの口の中で射精がはじまる。
なごみ
「――んっ!?」
精液は容赦無く口内を汚していく。
なごみ
「ん……ん……ごくっ……」
白い喉がごくりと動く。
俺の精液を飲んでるのか?
レオ
「おい、なごみ、無理しなくてもいいぞ」
なごみ
「……んく……ごくっ……ん……ごほっ!!」
なごみ
「ごほっ……ごほっ、ごほっ、ごほっ……」
あぁぁ、いわんこっちゃない。
レオ
「大丈夫か、なごみ?」
なごみ
「けほっ、す、すいません……むせてしまって」
レオ
「いいよいいよ、ありがとな」
なごみを優しく抱きしめる。
その女体の甘み。
これが身も心もとろける……という奴か
なごみは、線の外側の人間……他人に容赦がない。
基本的に、こういう人間は歴史上では
悪者と言われてきたのかもしれない。
でも、俺にとっては……可愛い彼女だ。
今日も今日とて、なごみを可愛がる。
レオ
「上、脱いじゃいなよ」
密着したまま上着を脱がせる。
なごみは、今度は眼鏡を外そうとした。
レオ
「それはちょい待て」
また唇をふさぐ。
なごみ
「ん……ちゅっ」
レオ
「今日はつけたままで、な?」
なごみ  無音
「(こくん)」
乙女
「実家から予定より1日早く帰ってきたと
知ったらレオは喜ぶかな?」
乙女
「私がいなくて寂しがってるかもしれない」
乙女
「そしたら、根性無し! と叱り付けてやらないと」
乙女
「帰ったぞー」
乙女
「……ん、いないな? おーい、帰ったぞーー」
乙女
「2階の電気はついていたはず……
あいつ、さては居眠りでもしてるのか」
乙女
「よし、いきなり起こしてビックリさせてやろう」
乙女
「おーい」
ガラッ
なごみ
「んあっ……んっ、センパイっ……」
レオ
「なごみ……なごみ……」
乙女
「ナ……え……あれ?」
乙女
「合体!? ……
レオと椰子が、合体している!?」
乙女
「これは……プロレス技……か?」
なごみ
「センパイッ……せんぱぁいっ……あぁっ
(↑レオしか見えていないし、聞こえていない)」
レオ
「んっ……んっ……なごみ……可愛いやつ……
(↑彼女しか見えていないし、聞こえていない)」
乙女
「……お邪魔、しました……」
パタン。
………………
乙女
「……私がいない間に、凄いことになってるな……」
乙女
「初めてみた……あんなもの」
ギシッ ギシッ
乙女
「2階から音が聞こえるし……」
ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ
乙女
「そ、そんなベッドを軋ませて大丈夫なのか?」
乙女
「……あ、音が止んだ……」
レオ
「ん、この脱いだパンツ……もらっとくな」
レオ
「しかし、お前……微妙に縛りにはまってないか?」
何か言おうとするなごみに、ペニスを突き刺す。
なごみ  共通
「んっ……く、あぁぁっ……」
レオ
「動くぞ、なごみ」
なごみ
「んぁぁっ……センパイ……センパイっ」
ギシッ……ギシッ……
乙女
「ま、またはじまるのか……
耳をふさいでも聞こえてしまう……」
乙女
「……だいたいの事情は分かった」
レオ
「じゃあ、認めてくれるの?」
乙女
「認めるも何も、相手の親さえ認める
交際だ……私が何を言っても聞かないだろう」
しかし、昨日乙女さんが帰ってきたの
全然気が付かなかった。
恥ずかしいやら……照れくさいやら……
なごみ  無音
「……」
なごみは不満そうに乙女さんを見つめていた。
乙女
「ただな、その……あんまり……学生の本分から
外れるのはダメだ」
レオ
「……」
乙女
「というか、あれだ、ちゃんと、その、あれだ。
してるのか?」
レオ
「してるのか? とは?」
乙女
「その……できないための、処置というか……
コーラで洗ったってダメなんだぞ」
レオ
「避妊……? もちろんゴムはしてるよ」
乙女
「う、す、ストレートに言うやつだなお前」
乙女
「とにかく、私が元に戻ってきたからには
好きにはさせん!」
なごみ  無音
「……」
なごみがギラリ! と乙女さんを見据える。
なごみ……バカ、相手が悪すぎる。
乙女さんも、負けじと睨み返した。
さすがのなごみも乙女さんのガンつけの前に
少し戸惑っている。
それほどに、乙女さんの迫力は凄いものがある。
レオ
「(うわ……怖)」
乙女
「……と、言いたいところだがな」
なごみ  無音
「?」
乙女
「家の衛生状態やレオの健康状態は完全なようだ。
そこらへんの面倒見てくれた礼は言おう」
乙女
「かといって、私の監視が無ければお前達は
若さに任せて何をするか分からない」
乙女
「で、だ。私は、月〜金まではここで暮らすが
土日は実家に帰ろうと思う」
レオ
「!」
乙女
「遊ぶなら休日にしておけ。それ以外は
学生の本分を果たす……これでいいな」
レオ
「……はい」
乙女さんの最大限の譲歩だと思った。
乙女
「椰子も、私を睨むだけではなく返事をしろ」
レオ
「なごみ!! 返事しろ!!」
なごみ
「……あ、はい、分かりました」
乙女
「……レオの言う事は聞くんだな」
2学期がはじまった。
いつもの通学路。
でもどこか、色鮮やかに見える周囲の景色。
レオ
「うん、いい感じだ。新学期だってのに
気力が充実してるぜ」
スバル
「……そりゃ良かったな坊主」
スバル
「おっ、あそこに椰子がいるぜ」
レオ
「よおっ」
なごみ
「こんにちは」
すたすたすた。
去っていくなごみ。
スバル
「は? オマエ達別れてないよな?」
レオ
「あぁ、いいんだよこれで」
新一
「なんだかやけに淡白というか
1学期の椰子と変わらないじゃん」
新一
「よぅし、ちょっと試してみるか」
フカヒレがなごみを追いかける。
新一
「椰子、最近駅前いないね」
なごみ
「はい、そうですね」
新一
「……レオとは上手くいってないの?」
なごみ
「いえ、普通です」
新一
「そ、そう。受け答えが淡白だね……
全然丸くなってないというか……」
なごみ
「それでは」
新一
「おいおい、何あれ、恐いまんまじゃん
ダメだよ? 女は男に仕えるべき何だから
きちっと躾(しつけ)ておかないとさぁ」
レオ
「だから、いいんだよあれで」
新一  無音
「?」
スバル  無音
「……」
肩をすくめるフカヒレとスバル。
学校では相変わらずのなごみだった。
そして、2学期になって最初の執行部。
エリカ
「2学期は竜鳴祭やら修学旅行やらで行事が
立てこんでいて忙しいから、真面目にいくわよ」
レオ
「おおっ」
姫にしては珍しくシリアス。
エリカ
「さて、皆集まった所で会議のテーマは……」
エリカ
「対馬クンとなごみんの交際疑惑についてです」
全然真面目じゃなかった。
エリカ
「よっぴーとチョコクレープ食べてたら
見たのよねー。街で遊んでいる2人を」
エリカ
「私だけじゃなく、結構いろんな人が2人を
見てるって言ってるのよねー」
「私とも会いましたわね」
エリカ
「で、それだけ頻繁にデート重ねてるって事は
やっぱり付き合ってるって解釈でいいのかしら?」
レオ
「そのような事実は、一切確認されておりません」
「政治家答弁は禁止ですわ」
禁止された。
レオ
「……まぁ隠す必要もさほどないか」
なごみをチラッとみる。
なごみ  無音
「……(センパイに任せます)」
そんな表情をしていた。
レオ
「それじゃ、正直に……」
レオ
「俺となごみは、8月の初めあたりから
付き合う事になった」
エリカ
「あっさり認めたわね。まずは、オメデト」
レオ
「ありがと」
さぁ皆、祝福しろッ!
良美  無音
「……」
新一
「ブーブー」
きぬ
「ひっこめー」
ブーイングされた。
スバル
「祈ちゃんの占いがズバリ的中だよな」
「私の占いに間違いはありませんわ」
レオ
「あれ、俺達の事なんて占なってたっけ?」
スバル
「あぁ、オレが頼んで観てもらったんだ
不安だったんでな」
良美
「でも、良かったね対馬君。おめでとうっ!」
レオ
「ありがとう、佐藤さん」
エリカ
「で、肝心のなごみんは、もくもくと
会計のノートつけて我関せずなんだケド」
なごみ
「……センパイと付き合ってるのは事実です」
なごみ
「でも、別にそれだけです。ワイワイ騒ぐ事
じゃありません」
エリカ
「コーラ冷やせるぐらいクールな事言うわね」
「対馬さんは、そんな椰子さんのどこに
ひかれたのですか?」
エリカ
「ボイン? 1年生だから将来性もあるもんね」
レオ
「可愛いところ」
ざわ……ざわ……
「可愛いですか……何となく分かりますが……」
きぬ
「そぉ? ボクは全く持って理解不能だぜ」
エリカ
「よっぴーとかなら、可愛いで理由とおるケド」
姫が佐藤さんの頭を撫でる。
エリカ
「でもこっちは……可愛いかなぁ? 美人だけど
これを可愛いって言うかなぁ?」
なごみ
「代名詞で言わないで下さい」
レオ
「何言ってるの、すごく可愛いよ」
良美
「つ、対馬君、目が真剣だね」
スバル
「そう言い張るレオも可愛いねぇ」
エリカ
「さ、三角関係?」
レオ
「違う。そして何故そこで姫が照れる」
エリカ
「なごみんは、なんて口説かれたの?」
なごみ
「それを言う必要はありません」
なごみ
「というか、あたしは仕事したいんですけど」
「あらあら、態度が一学期と変わってませんわねー」
良美
「あはは、なんか冷めてるね椰子さん」
なごみ
「あたしが冷めてると言うより」
エリカ  無音
「?」
なごみ
「お姫様とかが、はしゃぎすぎだと思いますね」
なごみ
「あたしをからかって遊ぼうとしても無駄ですよ。
今のお姫様達、とっても子供に見えます」
エリカ
「へぇ……?」
なごみ
「そんな子供の挑発に乗りませんから。
あたしは常に冷静ですし」
なごみ
「さぁ、仕事しましょう」
なごみの強気トーク。
姫が怒るのではと皆ハラハラしたが。
何故か、姫は終始笑顔だった。
しかし俺は見た!
姫の額のところに、漫画の
怒りマーク(♯ ←こんなん)みたいなのが
クッキリと浮かんでいるのを!
なんだか、後が恐くなった。
今日も生徒会執行部。
レオ
「ちゃーす」
執行部にいたのは、姫となごみの2人だけだった。
なごみ  無音
「……」
なごみは相変わらずクールに会計の仕事をしてる。
エリカ
「あぁ、対馬クン。このチョコレート知ってる?」
何だか高級そうな箱に入った
美味そうなチョコを見せられる。
レオ
「いや、知らないけど」
エリカ
「これ、凄く美味しいから。最近頑張ってる
対馬クンにご褒美として食べさせてあげる」
レオ
「それじゃ一口」
エリカ
「はい、あーん」
レオ
「えっ」
レオ
「い、いいよ、自分で食べれるって」
エリカ
「照れることないじゃない
家臣の忠誠を上げるには、手渡しも重要よ」
エリカ
「ありがたく受領しなさい。はい、あーん」
ひ、姫にそんなセリフを言ってもらえるとは。
あ、いかん。でも俺にはなごみが!
でも、これはご褒美だから、そーいう
男女のしがらみとかは関係ないはず。
レオ
「ん、ぱく」
チョコを頂く。
エリカ
「どう、美味しい?」
レオ
「結構なお手前で」
エリカ
「そ。じゃもう1つあげるわね」
エリカ
「はい、またあーんして」
レオ
「あ、あーん」
エリカ
「素直な部下は好きよー。はい」
クイッ、とチョコを押しこまれる。
レオ
「美味しい」
エリカ
「そう、良かったー」
エリカ
「それじゃ、おまけにもう1個あげちゃうから」
レオ
「わぁ」
エリカ
「はい、ゆっくり味わってね」
レオ
「……もぐもぐ」
エリカ
「これからも頑張ってね、対馬クン」
優しく頬を撫でられ……
なごみ
「もうやめろっ!」
なごみ
「センパイに……センパイに気安く触るなっ!!」
触るなっ……触るなっ……触るなっ……。
エコーとなって生徒会室に響き渡る。
レオ
「な、なごみ……」
微妙な静寂。
なごみ
「……はっ!?」
慌てて作業に戻るなごみ。
エリカ
「おやぁ〜? おやおやおや?」
その邪悪な笑いで全てわかった。
これは姫の罠だったのか。
俺とした事が舞いあがってしまって。
エリカ
「なごみん、今なんかとっても熱いコト
言わなかったぁ? ねぇ?」
なごみ  共通
「別に……」
エリカ
「そんなぁ、子供の挑発に乗りませんからぁ!
あたしは常に冷静ですしぃ!」
なごみ
「それはあたしの真似ですか!?」
エリカ
「だって昨日そう言ってたし」
なごみ
「ふん、くだらない。だいたい
今は何も言ってないです。作業してただけ」
おぉ、なごみめ、シラを切りとおす気だ。
エリカ
「や、言ってないって……私しっかり聞いてたし」
なごみ
「幻聴ですね。そうですよねセンパイ」
レオ
「う、うん。そうな」
なごみ
「2対1ですね、じゃ、そういうことで」
エリカ
「甘ーい。10円で売ってるヨーグルトみたいな
駄菓子より甘いわよ、なごみん」
エリカ
「よっぴー、どんなもんよ?」
よっぴー!? この場には3人しかいないはず……
ガチャ
なんとロッカーからよっぴーが現われた!
なごみ
「なっ……! 隠れてたのか……」
良美
「さっきの映像、バッチリ撮れてるんだよねぇ」
エリカ
「音声再生してあげなさい」
なごみ
「や、やめっ……」
ポチッ
なごみ  共通
「センパイに……センパイに気安く触るなっ!!」
なごみ
「う……ぐ!」
エリカ
「なーんだ、冷静とか言ってラブラブじゃん
独占欲バリバリじゃーん」
良美
「あは、必死だよねぇ」
佐藤さん……?
なごみ
「く……ぐ……!」
エリカ
「彼氏が他の女にちょっと触られたぐらいで
触るなーとか騒ぐのって、なんか痛いよねー」
エリカ
「あれかな? ひょっとして前世一緒とか
生まれ変わってもまた、とか言っちゃうタイプ?」
良美
「その言い方は可哀想だよう、まだ1年生だし」
エリカ
「あ、そっかー。まだ子供ってコトかー
子供は独占欲強いからねー」
なごみ
「ふ、ふん……お姫様達も随分と暇なことを……」
お、椰子まだ食い下がる気だ!
良美
「対馬君、愛されてるんだねぇ」
エリカ
「あぁ、よっぴー。うっかり対馬クンの肩なんか
叩いたら駄目よ。怒鳴られちゃうわよ」
エリカ
「センパイにィーっ……あたしだけの
センパイにィーっ! 気安く触るにゃーっ!!」
手をぶんぶんと振る。
良美
「うわぁ、コワイコワイ。潰されちゃうよぅ」
なごみ
「……っ!」
良美
「あれ、どこ行くのかな?」
なごみ
「帰りますっ」
バタン!
エリカ
「ふっ、ヴィクトリー! (←やり遂げた笑顔)」
エリカ
「下手にクールぶってるからこうなるのよ
泣けばもっと面白かったのに」
レオ
「姫! 大人げなさすぎ」
エリカ
「むしろ感謝しなさい。芝居とはいえ、
私がチョコ食べさせてあげたんだから」
何故か、えへんと威張ってる姫。
レオ
「佐藤さんが一緒になっていじめるなんて……」
良美
「私は最終的にはエリーの味方だから。
ごめんねぇ……」
レオ
「自分が不甲斐ない!」
レオ
「待ってろなごみ!」
レオ
「……って、もういないや」
こりゃあ機嫌直すの大変だぞ。
なごみ、まだ怒ってるんだよなぁ。
「おはようございます、対馬さん」
レオ
「あれ、先生早いですね」
「まぁ、そうですわね。ふふふ」
いや、威張られてもそれが当然なのでは。
「それよりご存知ですか? 今年から
竜鳴祭のミス竜鳴コンテストが学年別に
分かれたんですよ」
レオ
「だって、1、2、3年全てでやったら
姫の勝ちですからね」
歪んだ性格はともかく、美人度ではケタが違う。
「はい。さすがにそれでは面白くないので
学年別に分けることが決まりました」
レオ
「へぇ……」
レオ
「乙女さんとか出るのかな」
「鉄さんは、そういうの嫌いですわ」
レオ
「そうスかね? なんだかんだいって
ちゃっかり出るタイプだと思うんですが」
「1年生の時に鉄さんは準優勝だったらしいですわ」
レオ
「凄いじゃん、乙女さん」
レオ
「姫さえいなけりゃ、乙女さんかな一番美人なのは」
「いえ、ミス竜鳴館ではなくミスター竜鳴館で
準優勝したんです、鉄さんは」
「男ではない、という理由で最後に負けましたが」
「もちろん本人はエントリーされてる事すら
知りませんでしたわ」
レオ
「……大爆笑ですね」
「もちろん、本人はカンカンですからね
言わないほうがいいですわよ?」
言ったらこっちの命が危なそうだ。
校門前を通る。
乙女  無音
「……」
研ぎ澄まされた刃のように凛としている乙女さん。
確かにある意味男前だった。
……………………
豆花
「対馬君、知てるかネ。ミス竜鳴館が
学年別に分かれた事」
レオ
「うん」
良美
「後輩に話を聞いたら、1年生は椰子さんが
有力らしいよ」
レオ
「え!?」
良美
「そりゃ、そうだよ美人だもん」
レオ
「友達いないのに?」
良美
「友達はいないかもしれないけど
綺麗だから存在感が強いんだよ」
良美
「だから、椰子さんが1位かも」
レオ
「そっか。そうなんだ」
良美
「彼氏としては鼻高々だねぇ」
レオ
「いや、それよりも……」
なごみが目立てばコナかけてくる馬鹿がいそうだ。
まずい、不安になってきた。
レオ
「……なごみはどこかな?」
あれ、教室にいない?
屋上かな。
スバル
「よぉ、レオ。今オマエの彼女が
面白い事になってるぜ」
レオ
「何?!」
スバル
「屋上をこっそり見てみろや」
ハンサム大野
「いやぁ、君のような美人がいたなんて
盲点っていうか!」
なごみ  無音
「……」
ハンサム大野
「そんな人とお茶でもできたら俺、幸せって言うか」
なごみ
「あたし、彼氏いるし」
レオ
「何だ、アレ」
スバル
「あいつは女ったらしで有名な1年生だな」
スバル
「ウチの部活の女にも手を出してな。
ちょっとシメようと思ったら、こうなってた」
レオ
「よし、殺してくる」
スバル
「あいつ拳法部だってよ、オレ行こうか?」
レオ
「まぁどんな奴だろうと関係ないし?」
スバル
「おっ、熱血モードだな!」
スバル
「椰子も、もう話しかけないで、とか言ってるぞ
熱いカップルだな」
ハンサム大野
「待ってよ! 俺が味方につけば
ミス竜鳴館1年生の部で、優勝だって
出来るかもよ?」
なごみ
「消えろ…潰すぞ」
ハンサム大野
「ひっ!?」
レオ
「おい、お前」
ハンサム大野
「あぁ!? なんだアンタ」
ハンサム大野
「今とりこみ中だから消えてよね」
レオ
「お前が消えろ」
ハンサム大野
「ぐはっ」
右ストレート一撃で沈める。
レオ
「人の女にうざったくちょっかい出すんじゃねぇよ」
ハンサム大野
「お、お前……よくも」
んー、立ち上がるのか。さすが拳法部。
スバル
「いきなり顔面一撃なんて可哀想だねぇ」
ハンサム大野
「げぇっ!? 伊達!?」
スバル
「伊達センパイ……だろ?」
稲妻のような蹴りで相手を吹き飛ばすスバル。
俺とは強さのケタが違う。
レオ
「後任せた」
スバル
「クールにふるまってるけど、拳痛いだろ」
レオ
「いーから!」
スバル
「あいよ。オラオマエ、ちょっと来いよ」
ハンサム大野
「ひ、ひぃぃっ!?」
ずるずるずるずる……
あーあ、スバルに引きずられちゃった。
整形外科送りだな……哀れな。
レオ
「……あぁ、それにしても手ぇ痛ぇ!」
レオ
「顔面なんて狙うもんじゃないね」
レオ
「なごみ、どう、俺かっこいい?」
なごみ
「ちょっと不意打ちっぽかったですけど」
レオ
「いや、まぁそりゃねぇ?」
拳法部相手に普通に戦ったら負けそうだし。
キツイのを急所にいれて、後は反撃される前に
スバルに任せる!
我ながらクレバーだ。
まぁスバルの焼き入れであいつもこりるだろう。
…………………………
「それでは、今日はこれで解散ですわね」
姫が用事でこれない分、祈先生が
気だるく仕切っていた。
なごみ
「あたしは、もう少し残ります。
仕事、途中なんで」
レオ
「……じゃ、俺も待ってるよ」
「それでは、職員室で仕事してますので
鍵閉めたら返してくださいな」
レオ
「はーい」
「仕事……めんどくさいですわー」
……今のは聞かなかった事にしよう。
……………………
2人きりの空間。
なごみ
「ふぅ……仕事終わり」
レオ
「なぁ、なごみ」
レオ
「この前との姫との一件……怒ってる?」
なごみ
「そりゃ怒りますよ」
あぁ、やっぱり。
なごみ
「あんな挑発に乗った自分自身に怒ります」
レオ
「お、俺には怒ってないの?」
なごみ
「怒るというか、ちょっと妬きました……」
レオ
「でもな、俺も少しなごみにヤキモチ」
なごみ
「何故ですか?」
レオ
「ミス竜鳴祭の1年生部門優勝候補になったり
男に声かけられたり」
なごみ
「そんなコンテストには出ませんし、
男に声かけられても断ります」
レオ
「そうだよな」
なごみ
「あたしは、男はセンパイだけしか見てませんから」
さらりと嬉しいことを言ってくれる。
なごみ
「他の奴には何もしませんけど、センパイになら
何でもします」
自分を主張するなごみ。
これは、やっぱり俺が姫にデレデレしてた事に
対する抗議も含まれてるんだろうか。
レオ
「……ん、何でも……」
レオ
「何でもするの?」
なごみ  無音
「……?」
レオ
「えーと、後は眼鏡だな」
エッチの時に眼鏡を……
かけなくていい
かけてもらう
なごみ
「センパイ、確かにあたし何でもするって
言いました……けど……」
レオ
「けど?」
なごみ
「さすがに、学校でこんな事は……!」
レオ
「皆帰ったし、カギも閉めた。問題ない」
なごみ
「生徒会室なのに……」
レオ
「だから燃える!」
なごみ
「センパイ……やっぱりスケベですよ……」
レオ
「うん、そうさ」
レオ
「実は俺、かなりスケベ」
なごみ
「開き直られても……」
レオ
「ほら、体勢くずさないで」
レオ
「しっかり壁に手をついて、お尻をこっちに向けて」
なごみ
「……は、はい……」
レオ
「もっとお尻をあげて」
なごみ
「こ、こうですか?」
レオ
「うん……凄い色気だよ、なごみ」
レオ
「とても1年生とは思えないっ」
思わずその美脚にしがみつく。
なごみ
「センパイ、ちょっと……んっ……」
ストッキング越しに、頬擦りする。
レオ
「お前、1年生でこの色気だったら
20歳こえたらどうなっちまうんだ?」
なごみ
「そんな事を言われても……」
レオ
「さすがにパンストを破るわけにもいかないよね……
これ脱がしていい?」
なごみ
「ど、どうぞ……」
なごみの体温で温まってるストッキングを脱がす。
下着一枚になったなごみ。
上半身に制服がそのまま残っているのが
なんともHだった。
うわぁ、これもまた官能美というか。
よし、ちょっと実験してみよう。
なごみマゾ疑惑。
それを確かめる。
レオ
「なごみは、その体勢とくなよ」
なごみ
「分かりました……このまま、ですね」
レオ
「そうだ、俺にお尻を向けたままだ」
なごみ
「はい……向けたまま……」
そのまま最後の一枚を脱がしていく。
レオ
「……綺麗だ」
レオ
「お尻の穴とか丸見えだぞなごみ」
なごみ
「ああっ……その……」
恥ずかしがって、その体勢を解こうとする。
よし、実験開始。
レオ
「なごみ、勝手に体勢を変えるなと言ってるだろ」
ぴしゃっ! とお尻を軽めにはたいた。
なごみ
「あぅっ……す、すいませんセンパイ」
レオ
「だめだ、これはお仕置きだな」
なごみ
「お、お仕置きですか……」
レオ
「うん」
なごみ
「センパイに……お仕置き……される……」
なごみ
「……はぁ……はぁ……」
こいつ、楽しみにしてないか!?
レオ
「こんな風に」
そのままお尻をまたピシャッ! とはたく。
なごみ
「うあっ……!」
もじもじと足をすりあわせるなごみ。
うーん、これもっと強くやっていいんだろうけど。
可哀想でとても出来ない。
俺はサドではない。
軽く、軽く。
びしっ、びしっ! とお尻を叩いていく。
なごみ
「んっ……くっ……あっ!」
SMというにはおこがましい、ごっこだ。
それでもなごみには充分刺激的だったようだ。
なごみ
「センパイ……あたし……こんな風にされてるのに」
ハァハァと呼吸を荒げるなごみ。
何かますます悦んでないか?
レオ
「うわ」
気が付けば、なごみのそこは
しっとりと濡れていた。
マゾ疑惑さらに上昇。
レオ
「今日……安全日だよな?」
なごみ
「はい、大丈夫です」
レオ
「ん……じゃあ行くぞ」
なごみ
「ふぁっ……んっ」
甘ったるい声で喘ぐなごみ。
柔らかい粘膜はしっとりと濡れていて
気持ちよかった。
レオ
「ん……」
浅い部分で、軽く抜き差しを繰り返す。
なごみ
「ん……んんっ……センパイ」
じれったい刺激を与えてから、
一気に根元まで埋め込んだ。
なごみ
「くっ……あぁぁぁっ!」
レオ
「なごみ、気持ちいい?」
なごみ
「はぁっ……はぁっ……はい」
熱い吐息を漏らすなごみ。
なごみ
「センパイで……なかが、いっぱいに
なってます……」
そのまま腰を動かし始める。
なごみ
「くっ……んっ……あ、熱い……」
レオ
「あぁ、こっちも熱い……」
優しく、ゆっくりとなごみの中を味わう。
相変わらず、奥の突起が刺激的なので
早く動くともたないのだ。
なごみ
「センパイ、あ、ンっ……そ、そのっ……」
レオ
「ん、どうした?」
なごみ
「く…ん、あの…あたしに気を使わなくても」
なごみ
「あんっ、ん、もっと、強く動いていいですよ……」
レオ
「なごみ……」
これって、要するにもっと強くしろって事だよな?
ええい、射精しても続けて動けば問題なし。
女の子を満足させてあげないと。
まずはならすために、ゆっくり、大きくと。
レオ
「んっ」
ズブッ……!
なごみ
「くぁんっ」
なごみの顔がクン、とあがった。
もう一回。
勢いをつけて、バスンと打ち付けた。
なごみ
「ああッ……ん、さ、さけるかと…おもいました…」
こちらの深い打ち込みにもだえるなごみが可愛い。
もう1度。
ぱぁんっ!
なごみ
「ふぁぁぁっ!」
なごみの粘膜が反応しキュウッと締め付けてくる。
よし……早く動くぞ。
動きを加速させる。
なごみ
「ンッ! あっ……ぁぁっ、激しいっ……」
ズブズブと早いピッチでなごみを犯していく。
なごみ
「奥が擦られて……あっ……あぁぁッ……」
レオ
「く、強くがいいんだろ、なごみ」
ズンッ! と深くまで貫いた。
なごみ
「ふあぁっ……!!!!」
レオ
「ちょ、ちょっと声大きいかな、なごみ」
なごみ
「あふっ……あ、す、すいませんっ……」
なごみ
「んっ……んんっ……んんっ」
なごみ
「ん……ンッ……んんっ……あぁっ!」
なごみ
「せ、センパイ……あ、あたし……」
声を我慢できないらしい。
レオ
「くっ……」
こちらもたまらず1回目の射精を迎える。
なごみ
「あうっ!」
レオ
「こ、このまま大丈夫……だから」
射精した後も、なおも動き続ける。
あっという間に硬さを取り戻すペニス。
レオ
「な、なごみ……お前も腰を動かせ」
なごみ
「……くっ、あっ、は、はいっ……」
なごみは羞恥に顔を赤くしながら、自らも
動き始めた。
なごみ
「ん……くうっ……あぁっ、こ、こうですか?」
レオ
「そんな、遠慮せず、もっと……」
犯しながら話すと、舌噛みそうだ。
なごみ
「んくっ……あ、じゃあこうですか?」
こちらの動きに合わせて腰を振ってくるなごみ。
レオ
「なごみ、凄いHで、可愛い」
なごみ
「あぁっ、ンッ、い、言わないで……下さい」
なごみ
「くうっ……うっ、センパイ、立ってるのが……
んっ……つらい、です」
レオ
「ん、だめだ、今は後ろからこうしてるんだから
頑張って立ってろ」
なごみのお尻をかかえて、ストロークを早める。
なごみ
「せ、センパイ……あたし、も、もう……くっ」
レオ
「んっ……俺も……」
なごみ
「あ、だ、だめです……ん、あぅっ……」
なごみ
「ふあ……あっ、あ、あたまが、もう……」
レオ
「俺ももういくぞ、なごみ」
獣のようにガクガクとなごみに腰を送り込む。
なごみ
「あっ、アッ……あっ、あっ、ああああぁぁっ……」
レオ
「んっ……」
勢いをつけて、一番奥までコツンと刺激する。
なごみ
「あぁぁああ、センパイっっっ!!!」
なごみの粘膜が、一気にペニスを締め付けてきた。
それにあわせて、こちらも射精する。
なごみ
「……あ、ァ……ぁぁ…………熱いの、出てる……」
凄い勢いで射出されていく精液。
なごみ
「……ぁ……あ……す、すごい…終わら……ない」
ドクン、ドクン……
なごみ
「ん……まだ、入ってくる……」
お互いの腰がガクガクと痙攣している。
レオ
「なご……み……」
なごみは膣内射精されながら
なごみ
「セン……パ……イ」
切なげにそうつぶやいていた。
他人と一つに繋がるという快楽は、凄まじい。
融けるような一体感の中で、二人の性器は
お互いにビクンと反応しあっていた。
なごみ
「センパイ、確かにあたし何でもするって
言いました……けど……」
レオ
「けど?」
なごみ
「さすがに、学校でこんな事は……!」
レオ
「皆帰ったし、カギも閉めた。問題ない」
なごみ
「生徒会室なのに……」
レオ
「だから燃える!」
なごみ
「センパイ……やっぱりスケベですよ……」
レオ
「うん、そうさ」
レオ
「実は俺、かなりスケベ」
なごみ
「開き直られても……」
レオ
「ほら、体勢くずさないで」
レオ
「しっかり壁に手をついて、お尻をこっちに向けて」
なごみ
「……は、はい……」
レオ
「もっとお尻をあげて」
なごみ
「こ、こうですか?」
レオ
「うん……凄い色気だよ、なごみ」
レオ
「とても1年生とは思えないっ」
思わずその美脚にしがみつく。
なごみ
「センパイ、ちょっと……んっ……」
ストッキング越しに、頬擦りする。
レオ
「お前、1年生でこの色気だったら
20歳こえたらどうなっちまうんだ?」
なごみ
「そんな事を言われても……」
レオ
「さすがにパンストを破るわけにもいかないよね……
これ脱がしていい?」
なごみ
「ど、どうぞ……」
なごみの体温で温まってるストッキングを脱がす。
下着一枚になったなごみ。
上半身に制服がそのまま残っているのが
なんともHだった。
うわぁ、これもまた官能美というか。
よし、ちょっと実験してみよう。
なごみマゾ疑惑。
それを確かめる。
レオ
「なごみは、その体勢とくなよ」
なごみ
「分かりました……このまま、ですね」
レオ
「そうだ、俺にお尻を向けたままだ」
なごみ
「はい……向けたまま……」
そのまま最後の一枚を脱がしていく。
レオ
「……綺麗だ」
レオ
「お尻の穴とか丸見えだぞなごみ」
なごみ
「ああっ……その……」
恥ずかしがって、その体勢を解こうとする。
よし、実験開始。
レオ
「なごみ、勝手に体勢を変えるなと言ってるだろ」
ぴしゃっ! とお尻を軽めにはたいた。
なごみ
「あぅっ……す、すいませんセンパイ」
レオ
「だめだ、これはお仕置きだな」
なごみ
「お、お仕置きですか……」
レオ
「うん」
なごみ
「センパイに……お仕置き……される……」
なごみ
「……はぁ……はぁ……」
こいつ、楽しみにしてないか!?
レオ
「こんな風に」
そのままお尻をまたピシャッ! とはたく。
なごみ
「うあっ……!」
もじもじと足をすりあわせるなごみ。
うーん、これもっと強くやっていいんだろうけど。
可哀想でとても出来ない。
俺はサドではない。
軽く、軽く。
びしっ、びしっ! とお尻を叩いていく。
なごみ
「んっ……くっ……あっ!」
SMというにはおこがましい、ごっこだ。
それでもなごみには充分刺激的だったようだ。
なごみ
「センパイ……あたし……こんな風にされてるのに」
ハァハァと呼吸を荒げるなごみ。
何かますます悦んでないか?
レオ
「うわ」
気が付けば、なごみのそこは
しっとりと濡れていた。
マゾ疑惑さらに上昇。
レオ
「今日……安全日だよな?」
なごみ
「はい、大丈夫です」
レオ
「ん……じゃあ行くぞ」
なごみ
「ふぁっ……んっ」
甘ったるい声で喘ぐなごみ。
柔らかい粘膜はしっとりと濡れていて
気持ちよかった。
レオ
「ん……」
浅い部分で、軽く抜き差しを繰り返す。
なごみ
「ん……んんっ……センパイ」
じれったい刺激を与えてから、
一気に根元まで埋め込んだ。
なごみ
「くっ……あぁぁぁっ!」
レオ
「なごみ、気持ちいい?」
なごみ
「はぁっ……はぁっ……はい」
熱い吐息を漏らすなごみ。
なごみ
「センパイで……なかが、いっぱいに
なってます……」
そのまま腰を動かし始める。
なごみ
「くっ……んっ……あ、熱い……」
レオ
「あぁ、こっちも熱い……」
優しく、ゆっくりとなごみの中を味わう。
相変わらず、奥の突起が刺激的なので
早く動くともたないのだ。
なごみ
「センパイ、あ、ンっ……そ、そのっ……」
レオ
「ん、どうした?」
なごみ
「く…ん、あの…あたしに気を使わなくても」
なごみ
「あんっ、ん、もっと、強く動いていいですよ……」
レオ
「なごみ……」
これって、要するにもっと強くしろって事だよな?
ええい、射精しても続けて動けば問題なし。
女の子を満足させてあげないと。
まずはならすために、ゆっくり、大きくと。
レオ
「んっ」
ズブッ……!
なごみ
「くぁんっ」
なごみの顔がクン、とあがった。
もう一回。
勢いをつけて、バスンと打ち付けた。
なごみ
「ああッ……ん、さ、さけるかと…おもいました…」
こちらの深い打ち込みにもだえるなごみが可愛い。
もう1度。
ぱぁんっ!
なごみ
「ふぁぁぁっ!」
なごみの粘膜が反応しキュウッと締め付けてくる。
よし……早く動くぞ。
動きを加速させる。
なごみ
「ンッ! あっ……ぁぁっ、激しいっ……」
ズブズブと早いピッチでなごみを犯していく。
なごみ
「奥が擦られて……あっ……あぁぁッ……」
レオ
「く、強くがいいんだろ、なごみ」
ズンッ! と深くまで貫いた。
なごみ
「ふあぁっ……!!!!」
レオ
「ちょ、ちょっと声大きいかな、なごみ」
なごみ
「あふっ……あ、す、すいませんっ……」
なごみ
「んっ……んんっ……んんっ」
なごみ
「ん……ンッ……んんっ……あぁっ!」
なごみ
「せ、センパイ……あ、あたし……」
声を我慢できないらしい。
レオ
「くっ……」
こちらもたまらず1回目の射精を迎える。
なごみ
「あうっ!」
レオ
「こ、このまま大丈夫……だから」
射精した後も、なおも動き続ける。
あっという間に硬さを取り戻すペニス。
レオ
「な、なごみ……お前も腰を動かせ」
なごみ
「……くっ、あっ、は、はいっ……」
なごみは羞恥に顔を赤くしながら、自らも
動き始めた。
なごみ
「ん……くうっ……あぁっ、こ、こうですか?」
レオ
「そんな、遠慮せず、もっと……」
犯しながら話すと、舌噛みそうだ。
なごみ
「んくっ……あ、じゃあこうですか?」
こちらの動きに合わせて腰を振ってくるなごみ。
レオ
「なごみ、凄いHで、可愛い」
なごみ
「あぁっ、ンッ、い、言わないで……下さい」
なごみ
「くうっ……うっ、センパイ、立ってるのが……
んっ……つらい、です」
レオ
「ん、だめだ、今は後ろからこうしてるんだから
頑張って立ってろ」
なごみのお尻をかかえて、ストロークを早める。
なごみ
「せ、センパイ……あたし、も、もう……くっ」
レオ
「んっ……俺も……」
なごみ
「あ、だ、だめです……ん、あぅっ……」
なごみ
「ふあ……あっ、あ、あたまが、もう……」
レオ
「俺ももういくぞ、なごみ」
獣のようにガクガクとなごみに腰を送り込む。
なごみ
「あっ、アッ……あっ、あっ、ああああぁぁっ……」
レオ
「んっ……」
勢いをつけて、一番奥までコツンと刺激する。
なごみ
「あぁぁああ、センパイっっっ!!!」
なごみの粘膜が、一気にペニスを締め付けてきた。
それにあわせて、こちらも射精する。
なごみ
「……あ、ァ……ぁぁ…………熱いの、出てる……」
凄い勢いで射出されていく精液。
なごみ
「……ぁ……あ……す、すごい…終わら……ない」
ドクン、ドクン……
なごみ
「ん……まだ、入ってくる……」
お互いの腰がガクガクと痙攣している。
レオ
「なご……み……」
なごみは膣内射精されながら
なごみ
「セン……パ……イ」
切なげにそうつぶやいていた。
他人と一つに繋がるという快楽は、凄まじい。
融けるような一体感の中で、二人の性器は
お互いにビクンと反応しあっていた。
今日は金曜日の夜なので、乙女さんは
実家の方に戻っている。
という事は当然……。
こうなってるわけで。
なごみ
「センパイ、ちょっといいですか?」
レオ
「ん、何?」
なごみ
「なかなか切り出せなかったんですけど……
日曜日に……母の再婚相手の男と会うんです」
レオ
「おっ……いよいよか」
レオ
「なごみは大丈夫か?」
なごみ
「はい、たっぷり心の準備期間は
もらいましたから」
なごみ
「あたしは、いいですけど、その」
レオ
「何?」
なごみ
「センパイも連れてきなさいって母さんが」
レオ
「何で!」
なごみ
「センパイ、何だかんだでまだ母さんと
あんまり面識ないから」
ギク!
確かに顔出してない。
な、なんか気まずくて。
なごみ
「だから、お互いの彼氏自慢っぽく
すれば、緊張しないし楽しくいけそう
だって母さんが……」
レオ
「スケール大きいのか、なんなのか
よく分からないお母さんだね」
なごみ
「……センパイは、どうですか?」
レオ
「行くよ。丁度いい機会だ」
なごみ
「分かりました……伝えておきます」
なごみは、明かに喜んでいた。
多分、こいつとしてはその男と会う時に
俺についていて欲しいんだと思う。
なら、それに応えないと。
それに、さすがにそろそろ挨拶しないとね。
――まずい、少し緊張してきた。
椰子の家の前に集合だった。
堅苦しくなく、普段着で。
その取り決めは、正直ありがたい。
レオ
「えーと……なごみは……」
天王寺
「……ねぇ、ひょっとして君が
なごみちゃんの彼氏君?」
レオ
「……あ、あんたは」
のどか
「あら、天王寺さん、対馬さん
おはやいですねー」
レオ
「こんにちは」
天王寺
「コンニチワっ」
天王寺
「ところでどう? こうやって並んでも
彼より俺の方がハンサムだよね、のどかさん?」
のどか
「もちろんそうですわー」
天王寺
「やっぱりね、アハハハハ」
……なんだこの人達は。
俺の嫌いなバカップルの素養を秘めている。
なごみ  共通
「どうも」
天王寺
「やっ、なごみちゃん。話し合える機会が
持てて、お兄さん嬉しいよ」
なごみ  共通
「……はい」
なごみの態度はあくまで淡白だ。
天王寺
「それで、この街の名物って海軍カレーなんだよね
今日は、そこでメシなんでしょ?」
天王寺
「いやぁ、まだ食った事ないから楽しみだな」
のどか
「それじゃ、早速行きましょうか〜
詳しいお話は、そのお店で〜
なごみちゃんが選んだ、オススメの店ですよ〜」
天王寺
「へぇ、雰囲気ある店だねー
開国祭の代表店かぁ」
天王寺
「店長さんも、雰囲気あるね……」
雑談しながら、料理が出来あがるのを待つ。
しばらくすると、この店オススメの
カレーが運ばれてくる。
カニは今日、バイト休みなんだろう。
のどか
「それじゃ、頂きます〜」
天王寺
「頂きます」
レオ
「頂きます」
カレーを口に運ぶ。
のどか
「あら、美味しい〜!」
のどか
「……でも、この味……これは〜」
天王寺
「こっ、これは凄いな……さすが街の名物。
っていうか、今まで食べなくて損した……」
レオ
「うん、これは本当に美味しい」
のどか
「さすがですね、アレックスさん〜」
店長
「それは、なごみサンが昨日仕込みを
していった、なごみサン作のカレーですヨー」
レオ
「えっ!」
のどか
「まぁまぁ、なごみちゃんが〜?」
こいつ、いつの間にそんな仕込みを!
なごみ
「……まぁ、そちらは、まだこの街のカレーを
食べてないと聞きまして」
なごみ
「それなら、今まで話を聞かなかった分の
詫びもかねて、あたしが気合入れて作りました」
なごみ
「ここは材料もいいのが揃ってるので、
我ながら会心のものが作れたと思います」
天王寺
「へぇー、いや、これマジでいけるよ
なごみちゃんの料理を食べたいって俺の意見も
採用されて、一石二鳥だね!!」
天王寺
「正直、カレーなんて皆同じだと思ってたのに
目からウロコってヤツだなぁ……」
天王寺
「なごみちゃん、料理人になればいいのに」
なごみ
「はい、そうしようと思います」
のどか
「えっ!?」
天王寺  無音
「?」
レオ
「おっ!」
なごみ
「……あたしは、花屋を継ぎません」
なごみ
「あそこは、あたしと父さんとの
思い出の場所だけど」
なごみ
「夢は違うから」
なごみ
「あたしは、料理人になりたいです」
なごみ
「美味しいものを作る楽しさを……
お父さんが教えてくれたから」
なごみ
「……母さんは、納得しないかもしれないけど」
のどか
「そんな事は無いわよ。自分で好きな道を
選んでいいって、ちゃんと言ってるじゃない〜」
のどか
「むしろなごみちゃんが、花屋にこだわってたと
思うけど〜」
なごみ
「それは父さんが作った花屋が消えるのは嫌だから」
天王寺
「おいおい、勝手に消さないでくれよ。
何の為に俺がいると思ってんだ?」
のどか
「天王寺さんは、今の仕事をやめて
花屋を手伝って下さるって〜」
天王寺
「そういうこと」
天王寺
「だから、好きなものになりなよ、
なごみちゃん。俺も応援するからさ」
なごみ  共通
「……はい」
なごみ  共通
「ありがとうございます」
なごみ
「あたしも、母さんと天王寺……さんの事は
もう何も言いませんし、賛成します」
なごみ
「ただ、その、1つだけ……」
のどか
「なにかしら〜?」
なごみ
「お父さんの事、忘れないで欲しい」
のどか
「安心して〜。忘れろって言っても無理だから〜」
のどか
「なごみちゃんの料理、懐かしい味するもの〜
本当は今回のカレーを食べた時も、あれ? と
思ったし〜」
のどか
「なごみちゃんに料理を教えたのはお父さん。
だからなごみちゃんの料理の中に、お父さんは
いると思うの〜。食べる度に思い出してるわ〜」
なごみ
「お母さん……」
天王寺
「あ、そうそう。なごみちゃんの
お父さんの遺品、全部親戚に
預けちゃったんだって?」
天王寺
「それさぁ、俺の為にしてくれたのは
嬉しいけど、やっぱりなごみちゃんが
可哀想だと思うんだよね」
天王寺
「家に戻してあげてくれないかな?」
のどか
「……ありがとうございます、天王寺さん〜」
のどか
「では、家に戻りましょうか〜
見せたいものが出来ました〜」
レオ
「見せたいもの?」
なごみの家に戻る。
のどか
「ちょっと待っててね、なごみちゃん」
なごみ  無音
「?」
のどかさんがダンボールを運んできた。
なごみ
「お父さんのライター、それに
写真も……全部ある……」
のどか
「ごめんね〜 親戚に預けたって言うのは嘘なの〜」
のどか
「やっぱり、お母さんも預けるとなると
心が痛んでね〜」
のどか
「それで隠すっていう方法をとってたのよ〜」
天王寺
「あはは、良かったじゃない、なごみちゃん」
レオ
「実は少し傷ついてるだろ、オッサン」
天王寺
「ギク!」
レオ
「図星だ」
天王寺
「オッサンって言うな! お兄さんだ!」
天王寺
「……ま、まぁ元から俺は、あの人の代わりに
なろうとは思っちゃいないよ」
天王寺
「俺なりの、俺の持ち味で
のどかさんをこれから幸せにするよ」
のどか
「ほら、なごみちゃん。コレ。お父さんと
熱海に行ったときの写真よ〜
なごみちゃん、まだ4歳だったのよ〜」
なごみ
「うん、ぼんやりと覚えてる」
久しぶりの遺品を前に幸せそうな母と娘。
なんとなく疎外感を感じる外様の男2匹。
天王寺の肩をポン、と叩いた。
レオ
「男は辛いね」
天王寺
「はぁ……いや、のどかさんや
なごみちゃんが楽しいならいーけどね」
天王寺
「って格好つけたいけど!
それでも、やっぱり、なんつーの!? なぁ!?」
レオ
「ワカル」
レオ
「俺もなんだか存在感薄いし」
レオ
「男同士、飲む?」
天王寺
「おう、これも記念だ。おごっちゃる」
いい人だった。
ひたすらに赤い世界。
夕焼けに染まる屋上。
レオ
「ここにいたのか、なごみ」
なごみ  共通
「……」
レオ
「……懐かしいな、ここで会うのも」
レオ
「3ヵ月前は、ここでお互いに夢が無いと
管を巻いてただろう」
なごみ
「……そうでしたね」
レオ
「…でも、お前はしっかり決めたもんな。エライよ」
なごみ
「はい、子供じゃありませんから」
レオ
「そうだな。なごみっちはもう大人だー」
なごみ  無音
「……」
ここでムッとするところがまだ子供なんだって。
なごみ
「センパイには……相談もせずに。
ひょっとして気を悪くされました?」
レオ
「なんでよ。お前の夢をお前が迷い無く
決めたなら、それでいいじゃん」
レオ
「それに、料理人目指すからって俺とお前との
関係が変わるわけじゃないからな」
なごみ
「……はい!」
なごみ
「あたしはずっと、どうなろうと
センパイのものですから」
レオ
「……なごみ」
なんだろうな、この気持ちは。
レオ
「俺も……夢が見つかったかもしれない」
なごみ  無音
「?」
レオ
「まとまったら聞かせる」
……………………
――翌週。
レオ
「なぁ、なごみ。俺にも夢、見つかったよ」
なごみ
「……それは?」
レオ
「進学したら、元々、経済学とか
学ぶつもりだったんだよね」
レオ
「お前さ、レストランとか
将来開きたいんじゃないの?」
なごみ
「……まぁ、突き詰めるとそうですね」
なごみ
「そして、美味しいって言われて雑誌の
記者が取材に来るんです」
なごみ
「その時、父さんが教えてくれた料理ですって
言えたら勝ちかなって思ってます」
レオ
「そっか……」
しっかりした目標だ。
レオ
「俺の夢は」
レオ
「そのレストランとかを経営面で助けようと思う
お前は料理に集中できるようにしてさ」
レオ
「経済・経営学んでさ……お前の手伝い
できればなって」
なごみ
「センパイ……すごく嬉しいですけど……
あたしの夢に引きずられてません?」
レオ
「元々経済は学ぶつもりだったし、
いい目的が出来たよ」
レオ
「俺なぁ、何が正しいか、とか
どんな目的を持てばいいか、とか
漠然としていたけどさ、分かったよ」
レオ
「この人のため、と決めた人のために
精いっぱい自分で出来る事を頑張れば、
それでいいと思うんだよな」
レオ
「もちろん自分自身のために頑張るっていうのも
ありだと思うけど、ちょっと寂しいよな」
レオ
「夢の方向性の相性はいいんだ。
だから、2人で頑張ろうぜ」
なごみ
「センパイ……………」
レオ
「んで、レストランを成功させて、
栄えさせて忙しくてさ」
レオ
「お金や名声は得たけど、こうして2人で
まったりとしていた時が一番幸せだった、とか
ボヤくの」
なごみ
「それはまた……大きい夢ですね」
レオ
「どうせやるなら、デカい方がいいじゃん」
寝物語として語られていく夢。
これを実現するためには、努力しなきゃな。
レオ
「頑張ろうな」
なごみ
「はい、頑張りましょう」
レオ
「世の中、“この人のために頑張る”っていう
人間をみつけるのがまず難しいと思うけど」
レオ
「ラッキーにも俺は見つけたからさ」
なごみ
「見つけたのは運かもしれませんけど」
なごみ
「あたしとこうなったのは……運じゃなくて
センパイがあたしに何を言われても
めげずに接してくれたからだと思います」
そう言って、なごみは唇を重ねてきた。
――3年後。
――現実ってのは厳しいね。
夢を決意したから、ハイなれました。
そんな甘い世界じゃない。
ほとんどの人間は、壁にぶち当たるワケで。
俺はまだ学生として勉強中なので
それほどつらくも無いんだけど。
竜鳴館を卒業したなごみは、
見習いで料理の修業をしていた。
なごみ
「……はぁ、疲れた」
レオ
「連日ヘトヘトだな、なごみ」
綺麗な手が水仕事で荒れている。
その冷えた手を包んであげる。
なごみ
「センパイの手、あったかいですね」
なごみ
「癒されます……」
レオ
「現場はどう? やっぱきつい?」
なごみ
「……むかつきますね、ガンガン
野次を飛ばされますよ」
なごみ
「で、こうして疲れれば
疲れるほど、自分の中から
声が聞こえてくるんです」
なごみ
「向いてないんじゃないか……
早く気づけ……もういいだろ
たまには休もう……」
なごみ
「色々聞こえますね、いわゆる弱音ってやつですか」
なごみ
「現場の野次より、こっちの弱音の方が
問題かもしれません」
なごみ
「意外とモロいです、自分」
レオ
「誰だってそう思うことはあるさ」
レオ
「要はソレをどうするかが問題だろ」
レオ
「で、俺どうする?少しは休めって
言ってやろうか?」
なごみ
「……まさか」
なごみ
「甘えた事言ってる自分が情けないですよ」
なごみ
「潰します、この弱音を」
なごみ
「自分に負けません」
レオ
「どこがモロいんだか……充分強いよ」
なごみ
「竜鳴魂ってやつですかね」
レオ
「はは。他の皆はどうしてるかね……」
………………
女の子  1年女子A
「フカヒレさーん、1曲お願いしまーす」
新一
「はいはーい」
女の子  1年女子A
「この前の出張演奏、どうだったんですか?」
新一
「いやー、まぁ良かったんだけどね
レベルが明らかに上のやつもいてさ、少し凹んだ」
女の子  1年女子A
「でも私はフカヒレさんの曲好きですよ。はじめ
学校の校門前で生徒会に勧誘された時は、
変な人だなーとか思いましたけど」
新一
「ありがとうさん」
新一
「……まだまだだけど
こうやって聞きにきてくれる人もいるし
成果はあがってきてるのかな」
エリカ
「えーと、明日は夕方から中国か。3時に羽田ね」
良美
「エリー、その前に提携会社との
パーティーがあるよ」
エリカ
「うわ……よっぴー、ドリンク頂戴」
良美
「はい。肩も揉んであげるね。いつもご苦労様」
エリカ
「そっちも過密スケジュールをやりくりさせて
悪いわね」
良美
「ううん、いくらでもかけてよ、迷惑」
エリカ
「……ありがと、本当に感謝してるわ」
良美
「……うん」
エリカ
「よし! 打倒摩周財閥! 行くぞー!」
良美
「おー!」
スバル
「はぁっ……はぁっ……あー、疲れた」
スバル
「やれやれ、今さら陸上に身を入れた所で
どーにかなるのかねぇ……」
スバル
「上はなかなか抜けないし、下からは
抜かれそうになるし……サボってた代償か」
スバル
「ま、走れる所まで走ってみるか」
きぬ
「そこで! 私が企画したゲームソフトが
この 怒素恋! (どすこい! ) です」
きぬ
「相撲界に焦点を置いた美少年相撲ADV!
キャッチフレーズはボクらの恋にまった無し!
君への愛は土俵際!」
きぬ
「ここのジャンルはまだ誰も手をつけてません。
いろんな種類のイケメンを出して
マニアどもの財布から金を略取していきます!」
上司
「それは、皆美少年なの?」
きぬ
「はい、たいてい美少年です!
でもマワシはしめてます!
ちゃんこ接待システムを導入します!」
上司
「ボ・ツ♪」
きぬ
「ちぃぃぃーっ!!!」
きぬ
「でも、もうすぐ大手のココで
企画通りそうだもんね! くじけねぇぞー!」
乙女
「……またイジメられたのか
辛いな、そういう他人の悪意は」
乙女
「私が言ってこよう」
生徒  ガキンチョ
「先生、それより僕は、強くなりたい……
先生が言ったところで、結局は僕が
どうにかしないと」
乙女
「そうか、よくいった!
よし、それじゃあ私が鍛えてやろう」
…………
なんだか皆が頑張ってる姿が目に浮かぶようだな。
レオ
「まぁ、タフなやつらだ。元気にやってるだろ」
なごみ  無音
「(こくこく)」
手を差し伸べる事は出来ないけど、応援はしてる。
みんな、頑張れ!