生徒会室へ移動する。
中から女の子達の話し声が聞こえてきた。
レオ
「こんちはー」
エリカ
「ヤッ」
うわ、なんだこれは。
1年女子A
「お姉様ー」
1年女子B
「これ、私が作ってきたチョコレートなんですけど」
姫が複数の女子達にワイワイと囲まれていた。
しかも皆結構可愛い。
エリカ
「ふふー、ほらそこの隅にいるの。
もう少しこっちに来なさい
ちゃんと可愛がってあげるから」
1年女子G
「あわわ、は、はい」
まるで王宮のハーレムだ。
つうか、このなんとも言えない甘ったるい空気は。
自分がひどく異質なものの気がする。
ここに居ていいのだろうか?
女の子のうちの何人かが、こっちを
邪魔者を見るような目でジロジロ見てくる。
苦手だな、この空気……外に退避しようか。
そう思った時。
エリカ
「じゃ、そろそろ仕事するから」
姫が指をパチッと鳴らす。
1年女子Y  1年女子A
「はぁーい♪」
女の子達はよく統制されていて、
ゾロゾロと帰っていった。
レオ
「……聞き分けの良いファンだなぁ」
エリカ
「可愛い娘ばっかりでしょう?
私が目をかけて可愛がってる後輩達よ」
レオ
「胸も大きかったような」
エリカ
「胸当てゲームとか楽しいわよ」
レオ
「何だか素敵そうなゲームの内容を詳しく」
エリカ
「私は人の顔を見ないようにして、私の手の平に
胸を押し当ててもらうの」
エリカ
「で、それが誰か当てるゲーム」
どこのエロオヤジが開発したゲームだそれ。
エリカ
「パパに教えてもらった遊びよ」
レオ
「ユニークな人だなぁ」
レオ
「……それはそうと他の人達、なかなか来ないね」
エリカ
「んー。ま、今週はさほど忙しくないから。
頭数いらないけどね」
いつもの椅子にふんぞり返って、
ペラペラと雑誌を読んでいる。
あれはカニ所有のティーン雑誌だな。
レオ
「やる気あるのは俺ぐらいだな」
エリカ  無音
「……」
ノーリアクションだった。
姫の近くの席に座る。
2人きりか……。
嬉しいような照れくさいような。
何もする事が無い……どうしよう。
金色の髪がサラリと揺れる。
エリカ
「ねぇ、この本に書いてある
“こんな女の子は嫌だ”っていうヤツでさ
理屈っぽいってのは対馬クンどう思う?」
レオ
「人によるんじゃない?」
レオ
「俺は別にって感じ。ま、度が過ぎると
嫌だけどね。何事にも言える事だけど」
エリカ
「ふーん。あ、私“欠点をガンガン
指摘する”ってのも当てはまってるっぽい」
レオ
「どうしたの、そんなトコ読んじゃって」
レオ
「これから、そういう仕草は気をつけるってコト?」
エリカ
「まーさか」
さも当然とばかり言い切る。
エリカ
「こういうのたまに読むと、中々面白いから
例えばこの手相の所とか」
エリカ
「対馬クンちょっと左手見せて」
白い指先がぐっと俺の手首を握る。
この人ハーフだからなのか性格だからなのか、
遠慮なく他人の手とか掴んでくるんだよな。
手のひらをまじまじと見られた。
ぬぅ、しっかり手は洗ってて良かった。
エリカ
「あ!」
レオ
「え、何!」
中学生でもあるまいし、いちいち緊張するな俺。
エリカ
「対馬クン生命線短い」
レオ
「マジで」
エリカ
「ほら、ここ。ブツ切れじゃない」
形の良い爪が、スッと手の平の線をなぞってくる。
エリカ
「でも感受線が強いみたい」
エリカ
「ほら、私は成功線長いでしょ」
ぱっ、と目の前で姫の手が開かれる。
陶磁器のように白くスラッとしている。
同じ人間の手かと思ってしまうぐらい綺麗。
レオ
「……す、すごくクッキリしてるね……生命線」
レオ
「でも姫は占いとか手相は信じないんじゃないの?」
エリカ
「自分にとっていい方向のものは信じてあげる」
なんて都合のいい事を。
エリカ
「対馬クンの手ってさー、男のコなのに
あんまりゴツゴツしてないね」
にぎにぎと握ってくる。
カニ以外には握られた事もほとんど無いのに。
エリカ
「あれ、顔が赤いよ」
レオ
「いや、……ちょっと……」
流石に照れる……。
エリカ
「熱でもあるの?」
おでこをスッ、と近づけてくる。
顔が接近する。
胸がドクンと高鳴る。
一時のテンションに流されないように、なんて
俺の決心なんぞ一瞬でブチ壊せる、その綺麗な顔。
レオ
「いや、熱ないから」
そう言って、スッと身を引くのが精一杯だった。
エリカ  無音
「……」
レオ
「……?」
なんだ?
姫がニヤニヤしながらこっちを見てるぞ。
エリカ
「さ、対馬クンもからかった事だし。
仕事始めちゃいましょうか」
レオ
「……く!」
レオ
「こっちの純真を分かっててやってたのか!」
エリカ
「からかいがいがあるってのはいいコトじゃない
私に構ってもらえるんだから」
こういう人なんだよなぁ。
エリカ
「じゃあ私はこの決裁の書類に
“生徒会長”の判子を押していくから」
エリカ
「対馬クンは、それぞれの書類に必要事項の
記入漏れが無いか、細かい部分をチェックしてね」
レオ
「了解」
2人で雑談しながら、作業をこなしていく。
レオ
「姫ってテニス強いんだから大会出ないの?」
エリカ
「普通にやってもいける自信はあるけど、
さすがに世界トップ狙うにはテニスに
うちこまないといけないでしょ?」
エリカ
「そこまで私はテニスに興味ないし。
いいスポーツだとは思うけどね」
エリカ
「対馬クンは帰宅部のエースなのよね。
バイトしてるんだっけ?」
レオ
「長期休暇の間はね。普段はしてねー」
エリカ
「家で何してるの」
レオ
「星を見たりとか」
エリカ
「気取った解答しないで、真実を言いなさいよ」
レオ
「遊んだり、遊んだり、遊んだり」
エリカ
「なるほど。そこで対馬ファミリーの絆が
深まっていくわけね」
憧れている姫とこうやって2人きりで
作業できるのは嬉しいな。
執行部に入れて良かったなと思う。
エリカ
「伊達君とフカヒレ君とはどっちが
付き合い長いの?」
レオ
「スバルだね。あいつはこの街に越してきて
一番に知り合った男友達だから」
エリカ
「ふぅーん。で、今でも一番の親友と思っていると」
レオ
「だね。あいつは友達というより兄貴って感じかも」
レオ
「いっつも世話かけてるからなぁ」
エリカ  無音
「……」
出来ればこの時間が長く続きますように。
しばらくすると、スバルがやってきた。
スバル
「チース」
レオ
「ちゃーす」
エリカ  共通
「ウィース」
スバル
「人少ねーな。2人だけかよ」
スバル
「姫、頭数足りてっか?」
エリカ
「今日のところは2人で充分ね」
スバル
「そっか。ほんじゃ悪いけど陸上部に戻るわ」
エリカ
「練習頑張ってね。陸上期待の星なんでしょ」
スバル
「あいよ」
スバルは俺にウィンクして出て行った。
頑張れよ、とでも言っているのだろう。
変な所で気を使うなよな……。
でも、ありがとよ。
エリカ
「今、スバル君が対馬クンにウィンクした……
これはやはり2人は……」
どたどたどた。
エリカ
「? なんか妙な歌が聞こえてくるわね」
嫌な予感がした。
がちゃり。
新一
「アブラムーシ♪ アブラムーシ♪」
きぬ
「なんでキミはアブラムーシ♪」
新一
「お前を油ギッシュにするためさ〜、ヘイッ♪」
レオ
「……」
新一
「YOYO! 助っ人に来・た・ぜ!」
きぬ
「ボク達だって、たまには、が・ん・ば・る・ぜ!」
エリカ
「何それ、カニっち達のテーマソング?」
クネクネと不思議な踊りを披露したフカヒレと
カニは、どかっと椅子に腰を下ろした。
新一
「命令してくれ。たまには
やる気ありモードを見せるぜ」
エリカ
「そうね、じゃあこの仕事手伝ってくれる?」
きぬ
「おーし! 過労死しないように
力を抜いてやってみんね!」
エリカ
「ま、不備は無いようにね」
2人きりだったのに、一瞬でワイワイランドに
なってしまった。
こいつら少しは気を使え! それでも幼馴染か!
……俺って贅沢?
今日も生徒会室。
レオ
「こんちわー」
きぬ
「テメーが先にボクの頭を小突いたんだろうが!」
なごみ
「お前が先にあたしの脚を蹴った」
きぬ
「今もボクのほっぺつねりやがって!」
なごみ
「お前があたしの足を思いきり踏んでるからだ」
レオ
「君達は少し歩み合う努力をしなさい」
巻きこまれるのも面倒だな。
距離をとって成り行きを見守るか。
きぬ
「このヤロウ……てめぇはマジで大嫌いだね
根暗ノッポ女が! 友達1人もいないクセに」
なごみ
「こっちこそ嫌いだね。泣き虫チビ助が。
お前本当に2年生かよ?」
エリカ
「はいはいやめなさい。仲がいいのは分かったから」
間に割ってはいる姫。
彼女が喧嘩の仲裁をするとは珍しい光景だった。
やはり生徒会長としての自覚があるんだな。
なごみ
「こいつが先に……!」
エリカ
「うるさいわねー」
むにっ!
なごみ
「あッ……! な、何を……」
椰子の胸をぐにっと握る姫。
エリカ
「両成敗」
ぺたっ!
今度はカニの胸を触る。
きぬ
「うぁッ……ボクのはじめてが!」
胸が揉みたかっただけらしい。
きぬ
「すまねー」
レオ
「何でお前が俺にあやまる」
エリカ
「んー。こってりしたなごみんのも
いいし、カニっちの薄さも
もはやひとつのステイタス……」
エリカ
「引き分けっ」
レオ
「……何の勝負で?」
なごみ
「ちっ」
きぬ
「ふんだ!」
椰子は舌打ちすると椅子に腰を下ろした。
カニも椰子に向かってあっかんべーすると、
なるべく遠くの場所に陣取る。
なんだかんだで、喧嘩がおさまった所はさすが。
エリカ
「ちょっとピリピリした空気には薔薇の香気を」
上品な薔薇の香りが辺りに漂い始める。
エリカ
「私は会議あるから。対馬クン
この仲良し2人組のお相手よろしく」
ぽんぽん、と肩を叩かれる。
顔が近くにあってちょっとドキッとした。
レオ
「……でも、任せられてもなぁ」
この2人が俺の言う事を聞くとは思えない。
………………。
殺伐とした空気が続く。
カニはジュースを行儀悪く音を立てて飲んでいる。
椰子はツンとしながら書類の整理をはじめている。
きぬ
「あー、ここはなんか空気が淀んでるなぁ
腐ってる根暗がいるからかなぁ?」
レオ
「おいやめろ。無意味に喧嘩売るな」
なごみ
「ミルクくさいガキみたいな奴がいるからだろ」
何、この好戦的なやつら。
きぬ
「んだと?」
なごみ
「誰とも言ってないのに心当たりあんのかよ」
お互いガタッ、と席を立ちにらみ合う。
……誰か助けてくれ……。
止めるのは無理だ、違う方法を考えよう。
俺の視界にパソコンが入る。
そうだ、話を逸らせば……!
レオ
「おい、カニ。姫のマシン使って
ネットサーフィンでもやろうぜ」
きぬ
「お、それ面白そうだねー」
よし注意逸らし成功。
椰子も席に座ったぞ。
レオ
「……でも勝手に触って怒られないかな」
きぬ
「元々生徒会執行部の備品っしょ。
ファイルとかいじったりしなきゃOKじゃねーの」
レオ
「んじゃちょっとやるか」
きぬ
「デスクトップはニャンコの壁紙だね」
良美
「エリーは猫大好きだからね」
レオ
「あ、佐藤さん」
良美
「ファイルの位置とか替えると
エリーが怒るから注意してね」
なごみ  無音
「……」
なごみ
「デスクトップ……? 何だ……?
(↑パソコンとか分からない)」
レオ
「画像ファイルも猫の写真ばっかだな」
姫も女のコって事で安心だな。
きぬ
「普段、姫はどんなサイトみてんだろ?
“お気に入り”のぞいてみ?」
レオ
「どれ」
適当にクリックする。
モニターに映し出された画像は、
アップで撮影された女性の胸部だった。
レオ
「いきなりアダルトサイトじゃねぇか!」
きぬ
「わぉ、エロエロじゃん」
きぬ
「ちっ、こいつ牛みたいにデケ……にょわっ!!!」
レオ
「子供はみちゃいけません」
さっ、とカニの視界を手で閉ざした。
レオ
「他に何かないのかな」
“おっぱいによる独立地帯”
“語れ、たわわな乳房”
“乳博物館”
レオ
「胸フェチサイトばっかりじゃないか」
きぬ
「姫もスゲー趣味してんな」
きぬ
「ここの“秘”って書いてあるフォルダは?」
レオ
「生徒会執行部の機密事項とか?」
きぬ
「ボク達も執行部だろ、気にスンナ開けろ」
レオ
「確かに。ここまで来たらクリックしてしまえ」
フォルダを開いてみる。
なんだこれ、テキスト文章がズラリ。
テキスト文章の名前は……。
“対馬クン”
レオ
「俺の名前がファイル名として書いてあるだと!?」
きぬ
「どういうことだチクショー!!」
まさか、俺への隠された想いが
記されているのでは?
テキスト文章を開けてみた。
スバル
「そうか……そんなにオレを受け入れられないか」
レオ
「な、なに」
スバル
「なら、オマエを力づくで奪ってやる」
スバル
「誰にも渡さないぜ…。オレだけのものにしてやる」
…………
レオ
「うげぇー!」
きぬ
「何じゃあこりゃあ!」
バッ、と俺との間合いを取るきぬ。
きぬ
「お、オメーとスバルそんな関係だったのか!」
レオ
「断じて違う!」
きぬ
「ボクの心をもてあそびやがって!
すんげーサラブレットだよ」
レオ
「意味不明な事言うな。ちなみに驚きはサプライズ」
レオ
「しかし、なんだこの小説は……」
この後はハードエロスな展開になっていた。
総評・レオ受けだと今ひとつ。やはりここは
スバル受けでいくべきか。
レオ
「じ、自分で総評してる……」
きぬ
「うわー、レオに触ってレオ菌ついちまったー!」
なごみ
「勝手にタッチするな!」
きぬ
「おーっと! ここでボクはバリアを張るぜ」
手をチョキにしてカニバリアを展開するカニ。
なごみ
「はぁ!? 何ソレ」
きぬ
「しまった、こいつ友達いないから
鬼ごっこのルールとかしらねーんだ!」
レオ
「おいその2人! なにげに俺は傷ついてるよ!
こういう時だけ一緒に遊ぶな」
良美
「エリーの病気なんだよねそれは」
良美
「だから気にしないでいいよ」
はい、とお茶を出してくれる佐藤さん。
レオ
「ありがと。 で、病気とは?」
良美
「趣味はセクハラと、やおいだから」
レオ
「そこだけ聞くとダメな人間みたいだな」
レオ
「実在の人物でボーイズ小説書かれても」
レオ
「まさか、俺を生徒会執行部に入れたのは
この小説を書くためだったのでは?」
なんとも情けない理由だ。
きぬ
「姫も男が好きなのか、女が好きなのか
よーわからねぇな」
良美
「どっちもオールラウンドにいけるって言ってたよ」
なごみ
「……まだあたしの代役はみつからないんですか」
レオ
「悪いがまだだな」
なごみ
「こんな変態の巣窟からは抜けたいんですが」
きぬ
「いや、オメーもいい感じで危ないと思うよ?」
なごみ
「あたしは真っ当ですよ」
レオ
「……真っ当なら友達何人かいると思うな」
なごみ
「……あぁ!?」
目線を逸らす。
きぬ
「オー怖、不良がでったっぞっ!」
なごみ
「死ね」
バタンッ!
椰子は去っていった。
……はぁ、疲れる。
しかし姫も随分と病んでいると言うか。
実に味のある人だと思った。
レオ
「ところで佐藤さん」
良美  無音
「?」
レオ
「佐藤さんは普段ネットしてるの?」
良美
「うん、まぁ少しはね」
レオ
「ふーん。どういう所をまわってるの?」
良美
「お料理のサイトとかかなぁ」
レオ
「なるほど」
良かった、まともな人がいて。
やっぱり佐藤さんは生徒会の癒しだ。
レオ
「これが佐藤さんのお気に入りフォルダか」
良美
「見ちゃだめだよ」
レオ
「あ、うん、でも」
良美
「見ちゃだめだから」
ちょっと怖かった。
生徒会室へ向かう。
昼休みの、とあるやり取りが頭に残っていた。
――屋上、エリカファンクラブ臨時の集い。
レオ
「何、霧夜エリカという名前が偽名?」
洋平
「偽名と言うのは語弊があるな。
本当の名前では無いと言う事だろ」
洋平
「姫はアメリカ産まれだから、こっちに来るとき
日本用の言いやすい名前に変えた、という意味だ」
洋平
「教師連中が話していたのを小耳に挟んでな」
新一
「なるほど。ま、そりゃありえそうだ
と、なると真の名前は何だろうな」
新一
「鮫氷エリカかもな、なんちゃって。あははは」
洋平
「ちっとも面白くねぇよ。死ぬか?」
新一
「あ、あら、そう? 何か険悪な雰囲気だね?」
新一
「おいレオ何とか言ってくれ。田舎者達が俺の
ハイソなギャグに対応できなかったらしい」
新一
「ってレオいないじゃん!」
…………………………
レオ
「姫の本当の名前か。気になるな」
新一
「俺はお前との友情の絆が気になるね」
レオ
「今はどーでもいいよ、そんなん」
ピシッ!
レオ
「んー。姫の名前か」
新一
「……俺って実はあんまり好かれてないのかな……」
「これが最近のおすすめ駄菓子ですわ。
濃い味のソースせんべい」
きぬ
「ひとつもらうねー。どれどれ(サクサク)」
きぬ
「…………うわ、しょっぱ、フカヒレの
人生みたいにしょっぱいな」
「それほどしょっぱくはありませんわよ」
きぬ
「そんな所にいっと通行の邪魔だぜ、どけフカヒレ」
げしっ!
新一
「……くそ。俺は本気で怒るとマジ怖いんだぞ
1度あいつらにはビシッと言った方がいいな」
新一
「俺が主人公の陵辱ゲームが幕を開けるぜ……」
乙女
「おい、そんな所で寝るな! 女子が視線を気にして
通れないだろうが」
新一
「ひぃぃっ、ごめんなさいお姉ちゃん!
でも靴を舐めろなんてひどいよぅ!」
乙女
「何を言ってるんだお前」
………………
生徒会室に行く途中、姫の取り巻きの
女子達とすれ違う。
何故かギロッとにらまれた。
……恐いなぁ。
生徒会室にいるのは、姫だけだった。
エリカ  無音
「……」
足を組んで週刊誌のマンガを読んでいる。
この人、小説だろうが何だろうが
置いてあると結構読むんだよな。
レオ
「それ面白い?」
エリカ
「んーまぁまぁ。熱い展開は好きよ」
エリカ
「いい所で終わるのは仕方ないけどね」
バサッ、と週刊誌を置く。
レオ
「姫って漫画とか本自分で買ってるの?」
エリカ
「少しはね」
レオ
「ふーん。どういうの読むの?」
エリカ
「面白いと思えば何でも読むわよ」
読むものにまで節操ないのか。
ひょい、とチョコレートの袋をとって
俺に投げつける。
レオ
「ありがと」
意外と紳士的じゃないか。
エリカ
「チョコレート、チョコレート♪」
姫はご機嫌そうにチョコレートを食べている。
レオ
「チョコレート好きだよね」
エリカ
「いずれ会社1つ買収してオーダーメイドの
チョコを作らせるのが野心の1つだからね」
レオ
「虫歯とか太るとか、女のコは怖くない?」
エリカ
「太らない体質だし虫歯も気をつけてるから大丈夫」
ピン、とひとつまみ用のチョコを指で
上空に弾き、口の中でキャッチする。
……行儀悪!
レオ
「そういうこと家でもしてるの?」
エリカ
「ママは同時に5つまでキャッチできるのよ」
家族ぐるみで行儀悪いらしい。
キリヤカンパニーは、“成り上がりのキリヤ”と
世間で言われる位、近年で急成長した会社だから
格式とか伝統とかは皆無なんだろう。
姫は外の景色を見ながらチョコを食べている。
む、会話のネタ切れか。
……他に話題……。
あった昼休みのヤツ。
せっかく、家族の話が出たんだ。
出来るだけ踏み込まない感じで聞いてみよう。
レオ
「姫の名前、ってさ」
エリカ  無音
「?」
レオ
「キリヤエリカって日本語用に
読みやすくしたもんだって話、
さっき小耳に挟んだんだけど」
エリカ
「そうよ。私の本名は違うわね」
レオ
「やっぱ本当なんだ。なんて言うの?」
エリカ
「対馬クンにそれを教える意味があるの?」
レオ
「……いや、何となく気になったから……」
エリカ
「あはは、いじけたいじけた」
くっ、またからかわれている。
エリカ
「エーリカ」
レオ
「え?」
エリカ
「私の本当の名前。ドイツ気質たっぷりでしょ
アメリカハーフなんだけど色々あってね」
エリカ
「日本的に読みやすいエリカにしてるわけ」
あっけらかんと言う姫。
レオ
「……そうなんだ、ほんと初耳」
エリカ
「ま、よっぴー以外誰にも言ってないからね」
姫の事、憧れている割に全然知らないな俺。
レオ
「ついでにもう1つ。姫の家って米軍基地の中に
あるんだよね」
エリカ
「そうよ。ある意味これ以上無いセキュリティ」
レオ
「そっか……やっぱり豪邸なの?」
エリカ
「金にモノ言わせてかなりの豪邸になってるわよ」
レオ
「ふーん」
エリカ
「もしかして遊びに来たいの?」
レオ
「いいの? 見たいな」
エリカ
「ダーメ」
レオ
「……じゃあ聞くなよな」
エリカ
「嬉しそうな顔が滑稽でさ」
レオ
「普段どんな生活してるのか気になるんだよね」
めげない俺。
レオ
「姫はさ、例えばリムジンで来るなら
なんとなく家の形も発想しやすいけど
MTBで来るじゃない」
エリカ
「うちは結構な放任主義だからねー」
レオ
「執事の爺さんも迎えにこないし」
エリカ
「それが凡夫の金持ちに対するイメージなんだ。
私の執事は爺さんじゃないわよ。女のヒト」
エリカ
「本当は美少年がいいんだけどなー
ま、それは自分で金を稼いでからにするわ」
レオ
「姫は美少年が好きなのか」
エリカ
「対馬クン、美少女は嫌い?」
レオ
「まさか」
エリカ
「それと同じ理論よ」
エリカ
「知ってる? 若さを保つための最大の秘策」
レオ
「食べ物かな」
エリカ
「もちろんそれもあるわね。でもそれよりも
重要なのは、若い異性を囲うことよ」
エリカ
「……ま、親族の受け売りだけどね」
エリカ
「実際、ジジもババも見た目よりも
ずっと若いから説得力あるとは思うし」
レオ
「なるほど」
“成り上がり”と言われるだけあって
なかなか豪快な一族らしいな。
……ふむ。
会話がテンポ良く続くといい感じ。
エリカ
「さて、それじゃ私は総会に顔を出してくるから」
レオ
「あ、うん」
エリカ
「なんか嬉しそうね」
レオ
「いや、姫が結構内部事情を話してくれたから」
エリカ
「それぐらいで何舞い上がってるのよ
たまたまこっちの機嫌が良かっただけじゃない」
レオ
「う……」
エリカ
「うん、いいわねその情けない顔、滑稽で」
レオ
「……姫は、小さい時いじめっコだった口と見た」
エリカ
「や、今も現役だけどね。生涯現役、いじめっコ!」
レオ
「しかも姫、自分は失礼な発言をしてると本気で
思ってないでしょ」
エリカ
「別にどこも失礼はないでしょ。事実を的確に
言ってるだけなんだから」
エリカ
「それじゃね」
バターンッ
レオ
「……ふぅ」
しっかし俺が気の弱い人間だったら確実に
打ちひしがれてるね。
ま、姫の傲慢な発言は今に始った事じゃないし。
今は誰も知らない真の名前を知ったのが嬉しいな。
こんな健気な自分が好きだね。
………………
良美
「エリーは機嫌によってかなり他人の対応が違うよ」
レオ
「やっぱり」
佐藤さんが出してくれた紅茶を飲む。
色々しゃべってくれたのは機嫌が良かったからか。
良美
「機嫌の良い時に話しかけると、結構
愉快なところも見れるんだけどね」
良美
「悪い時にうっかり話しかけると危険だよ」
レオ
「なんか動物の観察みたいだね……」
良美
「うん、おんなじノリだと思うよ」
レオ
「うーん、その機嫌が悪いときが分かればなー」
良美
「滅多にないけどねぇ」
良美
「でも、その時はもうネチネチとしつこいんだから」
レオ
「そんな顔するとはよほどの事なんだろうな」
なんとなく見てみたいような気もする。
良美
「エリーの機嫌が分かる目安票つくってあげる」
可愛い柄のノートを1枚切り離すと、そこに
なにやら書き込みはじめる。
良美
「あっ……失敗」
カラッとシャーペンを床に落として
しまったらしい。
レオ
「俺拾うよ」
良美
「ううん、私が……」
佐藤さんが、ガタガタと床を調べ始める。
レオ
「あった?」
下を覗いて見る。
何ぃ!? またかよ。
危ない危ない。
テンションに流されて観察し続けるのは
紳士のする事ではないな。
あぁ、顔が勝手に……。
良美
「あれぇ、どこやったのかなぁ……」
佐藤さんは無防備すぎると思う。
ここにいるのが俺1人だからいいものを。
フカヒレだったら、その桃のようなお尻に
ダイブしてしまうかもしれない。
良美
「あったあった」
良美
「ごめんね、対馬君。私ちょっとドジで」
ぺろ、と舌を出す佐藤さん。
レオ
「えー、ちょっとかなぁ」
良美
「ひどーい。ちょっとだよぅ」
良美
「もう、皆で私の事バカにするんだから」
いじけた事を言いながらも手は動かす佐藤さん。
良美
「はい出来たよ。対エリーマニュアル」
レオ
「おお、これが……」
ねんがんの エリーマニュアルを てにいれたぞ!
良美
「慣れれば見て分かるようになるけど、
それまではコレを使ってみるといいよ」
レオ
「ありがとう、佐藤さん」
いい人だなぁ。
レオ
「こんちゃー」
生徒会に来ているのは姫だけだった。
姫はトントン、と机の上を指で叩いている。
……? 機嫌悪そうだ。
そうだ、こういうと時こそ佐藤さんからもらった
“姫のムラッ気メモ”を見てみる時。
机を指で叩く→ 危険度4★★★★(最悪)
……まずいね。
回避方法 → 目をあわせず逃げる。
そ、そうか目を合わせなければOKなのですね。
今、姫はあさっての方向を――
エリカ  無音
「……」
!?
レオ
「げっ」
獣のような眼光でこっち見ている。
ガンつけてるとも言えるな。
エリカ
「何こそこそしてるのよ、対馬クン。
中に入ってくれば?」
レオ
「あ、あぁ」
おいおい、良く見ると青筋立ってないか?
そ、そうだ佐藤さんのメモに対処法が……
絡まれた時の対処法 → 「諦める」
そうですか。
厳しいですね。
エリカ
「悪いけどお茶煎れてくれない?」
レオ
「分かった、ちょっと待って」
エリカ
「ええ、ちょっと待つわね」
おぉぉ、なんだその微妙にトゲのある返答は。
ほ、他に何かメモ書いてないかな?
あった。これだ!
備考 → 大変珍しい状態です。
見れたらある意味ラッキー?(≧∇≦)
レオ
「ラッキーじゃないだろ!」
エリカ
「……?」
いかん、思わずツッコんでしまった。
エリカ
「ねぇ対馬クン、校内に設置された目安箱、
今週分の意見とってきた?」
レオ
「あ、いや、まだ……」
レオ
「そうだ、とってくる」
エリカ
「お茶が先!」
駄目だ、雰囲気的に逃げれねぇ。
エリカ
「何、この紅茶少し薄いかな」
レオ
「……」
こういう所があるから、“姫”なんて
渾名をつけられるんだよな……。
エリカ
「対馬クン、聞いてる?」
レオ
「あ、はいはい」
怒らせても仕方ない、ここは下手にでよう。
いわゆる惚れた弱みだな。
俺はお姫様のご機嫌を逆撫でしないよう、
精一杯対処した。
生徒会活動から始まってから約1週間。
平凡だった毎日が慌しい。
……やはり彼女が気になる。
霧夜エリカ。
通称、姫。
日米ハーフの美人だが、性格は
傲慢で高飛車で唯我独尊。
――だからこそ、キレイなんだ。
自信を裏付ける能力と容姿。
正直、その強い心に尊敬さえしている。
時々アゴで使われるけど、それもまぁ
いいかな、と思ったり。ほれた弱みだね。
せっかく生徒会に入ったんだし。
憧れの姫ともっと仲良くなれたらな、と思う。
……………………
エリカ
「……よーし、今日の自己鍛錬ノルマ終わり、と」
後はお風呂に入って体をほぐして睡眠で完璧。
今日も自分を高める事に成功。
つまり野望に前進。
エリカ  無音
「……?」
耳を澄ませる。
(エリカお嬢様はお部屋に?)
(はい。何か?)
(いえ、ただ……)
んー親類の息かかっているメイドか。
私の行動を逐一チェックしている。
泳がせてるけど、だんだんウザくなってきたかな。
そろそろ退場していただこう。
それにしても、家の中にまで気を配らなくちゃ
いけないとは、油断ならないな。
この世界は虚飾と裏切りで満ちている。
だが、それでこそ面白いと本気で考える。
地球儀をくるくると回す。
エリカ
「ふふ」
ちょっと嬉しい気分。
せっかく無限の可能性がある人間に
生まれてきたのだから。
自分がどこまで高みに登れるか試してみたい――。
いつか世界を、手元の地球儀を回すように
操ってみたい。
それが私の純粋な願いだった。
他人がそれを子供の夢だと笑っても、
私はその目標に向けて走り出している。
電話がかかってくる。
かけてくる相手が分かると自然に顔がほころぶ。
エリカ
「ハーイ、何よっぴー」
良美
「うん、明日学校一緒に行こうかなと思って」
エリカ
「うん。じゃいつものとこで」
良美
「遅れないでよ、エリー」
エリカ
「前向きに検討するわ」
良美
「もう、エリーったら」
エリカ
「ふふふ……」
良美
「それじゃ、もっと話したいこともあるけど
夜も遅いから。おやすみ、エリー」
エリカ
「うん、また明日ね。おやすみ、よっぴー」
いつもの夜の集い。
スバル
「坊主。オマエ最近さぁ、よく姫と話してるよな」
レオ
「……目ざといな」
スバル
「いよいよ本気で姫に惚れたか、ん?」
レオ
「惚れた、と言われれば前から惚れてる気もする」
レオ
「もっと仲良くなりたいかな」
きぬ
「現実見ろよ」
レオ
「何その突き放した言い方」
きぬ
「レベルが違いすぎるんだよ。オメーと姫じゃあな」
きぬ
「ファンタジー世界で例えるとオメーは
しがない商人程度のレベルなんだよ
大人しく薬草売ってろよ」
レオ
「てめぇなんかモンスターじゃねぇか!
しかもアイテム盗んで逃げていく
最悪なタイプだろ、きっと!」
きぬ
「んだと隠し特技がケン玉のくせに! やるかー!」
スバル
「カニと喧嘩しても姫との仲は進展しねーだろ」
きぬ
「スバルはやけにまとめたがんね」
レオ
「そーいや、そうだ」
スバル
「オレは嬉しいんだぜ、相棒」
スバル
「いつもテンションに流されたくないとか
言ってたエセニヒルなレオが、ようやく
動き出そうとしているんだからな」
レオ
「エセ言うな」
スバル
「とりあえずもっと会話しろ。相手の事を知れ」
スバル
「幸い姫はレオに対しては好意的だからな」
きぬ
「や、からかってるだけだと思うよ」
スバル
「そう言っちゃ身もフタも無ぇだろうが」
スバル
「だけど、話しやすいことは事実だしな。
姫といつも一緒にいるよっぴーとも
レオと良く話すし」
スバル
「レベルの高い女を落とす
スタートラインの条件としちゃあ悪くない」
レオ
「まぁ同じクラスなわけだしな」
新一
「スバルが言うと、なんだか説得力あるなぁ」
スバル
「とりあえず、具体的に動いて見ろよ。
明日は彼女達の昼飯に混ぜてもらえ」
レオ
「そ、それは恥ずかしいぞ……」
きぬ
「ナイスへたれ、それでこそオメーだぜ」
新一
「いきなりステップ上がりすぎじゃね?」
スバル
「そこまで意識しなくていいんだよ。
友達感覚で行け。執行部仲間なんだしな」
スバル
「姫の機嫌が明日よければ、まぁ
メシを食う所まで行けると思うぜ」
レオ
「……怖いんですけど」
スバル
「バカタレ! じゃあ待ってるだけで
姫がお前に飛び込んでくるとでも?」
レオ
「それがベストなんだけどな」
新一
「なー」
スバル
「夢見すぎ。いいか坊主、傷つく事を
恐れたら仲は進展しねぇぞ」
新一
「いいねぇその台詞いただき」
スバル
「骨はカラカラと拾ってやる。恐れず切り込め」
きぬ
「ボク失敗する方に全財産1万円」
新一
「俺失敗する方に1万円! 絶対こっちだぜ!」
レオ
「賭けんなよ」
スバル
「というか、賭けにすらなってねぇ
この2人にここまでコケにされていいのか?」
レオ
「ムカツク。この2人にだけはコケにされたくない」
スバル
「ま、失敗するにしてもそれも青春」
スバル
「傷は舐めてやるから」
レオ
「いらんわ」
ピルルルルルルル
スバル
「……さて、トモダチから呼び出しが
あったんで行って来るぜ」
レオ
「(夜のバイトか……大変だなこいつも)」
きぬ
「青春ねぇ。甘酸っぱいというより、
しょっぱい思い出になりそうだね」
レオ
「カニ……てめぇ見てろよ」
一緒に食事すればいいんだろ!
それぐらいやってやる!
うぅ、あんまり眠れなかった。
一緒に昼飯食おうと誘うだけなのに
こんなに緊張するなんて。
顔を一生懸命洗う。
ニキビは……無いな。
居間では乙女さんがテキパキと
朝の登校準備をしていた。
レオ
「乙女さん、俺実は結構なチキンかもしれない」
乙女
「あぁ、知ってる」
レオ
「……俺の顔変?」
乙女  共通
「ん?」
乙女さんがズイッと近づいてくる。
乙女  無音
「……」
ジロジロと俺の顔を見る。
乙女
「いつも、そんな感じの顔だと思うが」
レオ
「……そうか、ならいいや」
乙女
「いや、少し赤いかな?」
それは乙女さんが見つめすぎだ。
姉と弟だろうが、照れる時は照れる。
うーん、綺麗な女性のアップに弱いのは
弱点だよな……。
早いトコ耐性つけないと。
レオ
「じっ……」
きぬ
「わ、何々?」
レオ
「お前のアップはどこか滑稽だから平気なんだが」
きぬ
「喧嘩売ってるなら買うぞコノヤロウ」
レオ
「いや、今日はそんな元気無い」
レオ
「……俺実は結構なチキンかもしれない」
きぬ
「んな事、言われないでも知ってんよ
熱血しない限りはオメーはチキンだ」
………………
スバル
「ふぁーあ。おはよーさん」
レオ
「お前も眠そうだな」
スバル
「昨日やったネーチャンしつこいんだもん
舐めろ、舐めろってオレは犬か」
レオ
「堂々と言うな」
スバル
「ま、おかげでかなり稼げたけどな」
レオ
「俺は緊張してあんまり眠れなかった」
スバル
「あん? まさか今日昼飯食うのを誘うから
緊張してたってのか?」
レオ
「……そう。俺実は結構なチキンかもしれない」
スバル
「そりゃ知ってるさ。常識だろ?」
誰1人として否定しないのは如何なモノか。
――授業中。
昼休みになったら冷静にさりげなく話しかけよう。
緊張してると変だし。
あくまで生徒会の同志として、クラスメートとして
声をかけるんだ。
「はい、それじゃ次のページを対馬さん
訳して下さいな」
レオ
「え”っ」
レオ
「……何ページ?」
きぬ
「38Pだボケ」
レオ
「え、えーと。“彼女は私にとって……高価な……
いや、高嶺の花です”」
「どこ読んでますのー。廊下で立ってなさいなー」
教室からどっと笑いが起きた。
きぬ
「こいつバカだ、あははははっ!」
エリカ  無音
「……」
くっ、姫にも笑われている。
レオ
「……あのカニは後で絶対泣かせてやる」
………………
――昼休み。
火曜日は学食にオリジナルメニューが追加され、
そのうえ全品30円引き。
クラスの大半は学食でいい席を取るために
スタートダッシュをかます。
エリカ
「よっぴー、私達も学食行こうか」
良美
「うん、今日は天気もいいし。
外で食べるのは楽しみだね」
あ、2人とも学食行くぞ。
姫と佐藤さんの後ろ髪を追いかける。
前進するためにも声をかけなくては。
レオ
「……」
姫の機嫌はごくフツーといった所か。
だったら本当に成功率は運否天賦。
ただ声をかけるだけで汗が噴き出るような気分だ。
ええい、落ち着け。俺なら出来る。
レオ
「ね、ねぇ」
エリカ  無音
「?」
良美
「どうしたの?」
レオ
「姫と佐藤さん、学食でお昼食べるんでしょ」
レオ
「スバル達、外に食いに行っちまってさ
良かったらそっちに混ぜてくれない?」
言ってやったぜ!!!
エリカ  無音
「……」
自分の心臓がドキドキしてるのが良く分かる。
良美  無音
「……」
姫と佐藤さん。2人がお互いをチラ、と見る。
何かの意思確認だろうか。
エリカ
「別にいいわよ」
良美
「うん。対馬君なら歓迎だよ」
おお、温かく迎えられた。
言ってみるもんだ。
しかし……。
嬉しいというより、さらに緊張してきた……!
惚れた弱みとはいえ我ながら小心者だぜ。
や、意識するからダメなんだ。
友達として考えろ。
エリカ
「どうしたの? さっさと行きましょ」
レオ
「あ、うん」
揺れるポニーテールの後に続いた。
……………………
空からは、初夏の陽射しが降り注いでいる。
まさにピクニック気分といった所か。
姫は佐藤さんが作ったお弁当とは
別にチョココロネを買っていた。
俺はパンをいくつか。
しかし姫が普通に買い物するのは
似合わない図だな。(しかもチョココロネ)
レオ
「やっぱり満席……」
そりゃあれだけ悠然と歩いてくれば当たり前か。
エリカ
「知ってると思うけど生徒会長の専用席が
あるから、別に大丈夫よ」
良美
「こっちだよ」
………………
レオ
「……」
周囲の視線が痛いのは俺が自意識過剰だからか?
エリカ
「ここと後ろの席は、いつもキープしてるの。
生徒会執行部の名前でね」
レオ
「……苦情でてないの?」
エリカ
「そんなの無視」
レオ
「たくましいね」
良美
「前に、それを無視して座っちゃった
3年生もいたけどね」
エリカ
「あーいたいた。馬鹿なヤツよねー」
レオ
「そいつどうしたの?」
エリカ
「ん? 当然どかしたわよ。邪魔だし」
こうやって敵を作るんだよなこの人。
でも、こういう風に笑顔で凄い事を
やってのける姫に憧れているわけで。
良美
「はい、エリー」
エリカ
「ありがとー」
佐藤さんが作ってきたお弁当が手渡される。
レオ
「……弁当箱、お揃いなんだね」
良美
「エリーがお買い物行ったとき、
これがいいって言い出すから」
エリカ
「いいじゃん、ペアルック♪」
良美
「もう、エリーったら……対馬クン
ぽかーんとしてるよ」
2人の女のコは、にこやかに笑った。
本当に花が咲いたようだ。
レオ
「いや、仲いいなって感心してる」
いつも傲慢な姫も、佐藤さん相手だと
その態度が少し緩和されてる気がする。
エリカ
「それで?」
レオ
「?」
エリカ
「私達とお昼、なんてどういう心境の変化?」
良美
「私もちょっと不思議に思ったよ」
レオ
「だからスバル達が外行ったからさ」
エリカ
「別に他の男子と食べればいいじゃない。
仲は結構いいんでしょ」
レオ
「そりゃそうだけどね」
エリカ
「本心を当ててあげようか。
全国模試一位の頭脳は伊達じゃないわよ」
レオ
「え?」
思わずドキッとした。
エリカ
「ズバリ、よっぴーとお昼を食べたかった」
良美
「――えぇっ?」
ぜんっぜん不正解ですよ、姫。
エリカ
「よっぴー、随分と嬉しそうじゃない」
良美
「あ、あの……その……」
一瞬で真っ赤になる佐藤さん。
もじもじしながら、こっちをチラチラ見てくる。
エリカ
「若い者に任せて退散しようか?」
レオ
「ち、違う、違います」
レオ
「そういう目的じゃないって」
エリカ
「ムキになって否定する所が怪しいなー」
くすくす、と笑う姫。
いじめっ娘気質たっぷりだ。
良美
「エリー、対馬君困ってるよぅ」
良美
「それに、私のことからかってるけど
もしかしたら対馬君、エリーと
お昼が食べたかったのかもよ」
鋭い意見にドキッとした。
エリカ
「んー? それはないでしょ」
良美
「なんで? 断定はできないでしょ」
そ、そうだそうだ。
エリカ
「対馬クンごときが私に興味を持った所で
時間の無駄じゃない」
良美
「エリー、それは失礼だよ」
レオ
「あははははは」
レオ
「姫のそういう発言は慣れっこだし」
レオ
「まぁ、姫達が普段どんな感じで
食事してるか興味あったし」
レオ
「後は、執行部で円滑に仕事を進めるための
良好な人間関係作りを目指してって所かな」
エリカ
「それっぽい大義名分をつらつらと……」
エリカ
「――だってさ、がっかり? よっぴー」
良美
「えっ、そ、そんな事は無い……かな……」
レオ
「あ、でも……」
レオ
「スバル達今週はずっと外で食うとか言ってるんだ」
レオ
「だから、しばらく昼飯一緒に食べていいかな?」
またまた言ってやったぞ。
さぁ煮るなり焼くなり好きにしろ。
エリカ
「だって。愛されてるわねー、よっぴー」
良美
「だ、だから対馬君は私が目的じゃないんだよぅ」
エリカ
「そうねー。ま、対馬クンなら食事も
不味くなるってワケじゃないし」
エリカ
「いいんじゃない? ただし気が変わったら
出て行ってもらうけど」
レオ
「それは言われなくても予測してる」
良美
「あ、あのっ……そのっ……」
レオ
「ん?」
何故か佐藤さんの顔が赤かった。
良美
「だったら、明日……対馬君のお弁当も
作ってこようか?」
エリカ
「おぉー。対馬クンごときに至れり尽くせり」
レオ
「そこまでしてもらうのは悪いよ」
レオ
「こっちが一方的に押しかけてるのに」
エリカ  無音
「……」
良美
「い、いいのいいの。1人も2人もそれほど
変わらないから」
逆にここまで言われて受けないと失礼だな。
エリカ  無音
「……」
レオ
「本当に? だったら凄い嬉しいよ」
良美
「ふぇ……」
笛?
レオ
「ありがとう佐藤さん」
良美
「そ、そんな真顔で感謝されるほどのもの
じゃないよぉ」
エリカ
「対馬クンてさー……用心深いよね」
エリカ
「心の中でいちいち相手の顔色計算してるでしょ」
レオ
「!」
一気に脂汗が浮き出るようだった。
だが、平静は保たないと。
レオ
「意識はしてないけど。でも大抵は
そんなものじゃないのかな」
エリカ
「声が震えてるわよ」
レオ
「き、気のせいだ。紳士を愚弄しないで頂きたい」
エリカ
「紳士なら私の目を真っ直ぐ見れる?」
レオ
「当たり前だ。視線の絡ませ合いなら定評がある」
エリカ
「じーーっ」
くっ、効果音付きで見てくるとは油断ならない。
すごい恥ずかしいけど、姫の瞳を見る。
性格曲がってるのになんて綺麗な目をしてるんだ。
おそらく、自分の信念は曲げてないからだろう。
エリカ
「対馬クンどんどん顔が赤くなってるわねー」
良美
「エリー、そんなにいじめちゃ可哀想だよぅ」
エリカ
「それじゃ、この辺にしておこうかしら」
エリカ
「対馬クンはねー、セコセコ考えないで
男らしくビシッ! と動く方が似合ってるわよー」
エリカ
「照れる顔は割と好きだけど、こっちの
反応をチラチラと伺う顔は小者に見えるな」
レオ  無音
「……」
エリカ
「対馬クンを生徒会に入れたのは、
照れる顔が可愛いのと、ここ一番でアツイ
人間だって知ってるからなんだから」
レオ
「なんだって姫がそんなことを」
エリカ
「事実、なごみんを悪漢達から
救い出したらしいじゃない」
良美
「えっ、そうなの!?」
エリカ
「そうそう。なんか世紀末伝説に出てくる
肩にトゲ付きパット当ててるような連中を
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」
良美
「わ、わわ、すごいんだね! かっこいいよぅ」
レオ
「スバルだな……あのアホやったのは自分のクセに」
エリカ
「ま、スバル君に聞いたのが全てじゃないけど」
レオ
「?」
エリカ
「とにかく、理由は知らないけど
下手に自分を押さえ込んで、己の
可能性を潰すような真似はやめなさい」
エリカ
「私にしては珍しく、真面目に説教してるのよ」
良美
「本当、凄い珍しいことだよ」
良美
「っていうか初めてかもしれないよ?」
良美
「うわ、すごい貴重な体験」
……人の為に意見するのがそんなに珍しいのか。
エリカ
「見所あるから一回だけ警告してあげたわ」
エリカ
「それでも直らないなら、勝手に埋もれなさい」
レオ
「そっか。見所がある、か」
嬉しいが……。
レオ
「あれ、フカヒレも見所があるから生徒会に?」
エリカ
「フカヒレ君は猿みたいで滑稽だから」
このお姫様は、なんてひどい言い方を。
俺がそんな事言われたら山にこもっちまうぜ。
…………………
レオ
「乙女さん、ちょっといい?」
ガラッ!
乙女
「何故ノックをしないんだ……これは
もはやお約束だな」
レオ
「うん、そうだね(笑顔でごまかす)」
………………
レオ
「というわけで、弁当俺の分はもういいから」
乙女
「そうか。了解した」
レオ
「もう正座といていい?」
乙女
「許さん。もっと反省してもらおう」
乙女
「次、正座中に弱音吐いたら拳で制裁するぞ」
レオ
「くそっ、なんて厳しい法律なんだ」
…………………
レオ
「やっと解放された。足が痺れる」
スバル
「今日の昼休みの首尾はどうだった?」
レオ
「あぁ、一緒に飯は食えたぜ」
レオ
「確かに何でも言ってみるもんだな。ありがとよ」
スバル
「だろう。思いついたら行動さ」
レオ
「とりあえず、これからは姫達と
一緒に飯を食うから」
スバル
「大進歩じゃん、上出来」
レオ
「……感謝はしてるけど、姫に情報を誇張して
伝えるのはやめてくれ」
スバル
「まぁ、オレなりの援護射撃だ。ふぁ〜」
レオ
「眠そうだな……味方に当たってる射撃は勘弁だぞ」
スバル  共通
「Zzz」
レオ
「ちっ、ここで寝るのかよ」
仕方ねぇなこいつも。
スバルにタオルケットをかけてやる。
ベッド半分使わせてやるか。
レオ
「……俺も寝よ」
乙女
「ふーっ、早朝の鍛錬終了、と」
乙女
「ん? いい匂いがしてくるな」
スバル
「乙女さんチィッス」
乙女
「何でお前が朝飯を作っているんだ?」
スバル
「一晩の恩ってやつ。気が付けばレオの部屋で
寝ちまってて……」
………………
乙女
「いただきます」
レオ
「いただきまーす」
レオ
「わざわざ朝飯作るとは、律儀なヤツ」
スバルが作ったみそ汁を飲む。
レオ
「相変わらず、美味い」
乙女
「うん、美味しいな」
乙女さんも満足している。
レオ
「やっぱり、女のコから見ても男が料理
出来たほうがいいのかなー」
乙女
「当然だな。お前も料理を覚えるべきだ」
スバル
「結構作るとウケいいんだぞ。ポイントは
はじめ料理出来る所をアピールせずに
チャンスが来たら颯爽と作るってことだな」
レオ
「ふーん」
俺ももっと自分を磨くか。
乙女
「伊達、おわかりだ」
ズビシ! と茶碗を差し出す乙女さん。
スバル  共通
「はいはい」
よく食べるなぁ。
………………
よし、スバルの飯食べたら元気出てきた。
今日も頑張るぞ!
姫と仲良くなろうとしたら、
日々に張り合いが出てきた。
――――昼休み。
良美
「口に合うか分からないけど……」
佐藤さんのお弁当。
エリカ
「いただきまーす」
レオ
「いただきまーす」
良美  無音
「……」
佐藤さんの熱い視線を受けながら一口食べる。
レオ
「……うん」
何度か箸が口と弁当箱を往復した。
思ったより味付けが濃いというか、塩分が強め。
それでも充分グッド!
良美
「ど、どうかなぁ」
レオ
「うん、美味しいよ」
良美
「ちょっと塩っぽいかな? エリーのだと
逆に女のコ向けにあっさりしすぎている気がして」
レオ
「充分だよ。ここまで気を使ってくれてありがとう」
良美
「良かったぁ……」
ほっ、と胸を撫で下ろす佐藤さん。
そこまで気を使わなくてもいいのに。
……周囲から妬みという毒を塗りつけられた
視線の矢が飛んできてるな。
何本も俺に突き刺さってるが、めげないぞ。
むしろ羨ましがれ!
お前らただ見てるだけなんだろ?
俺は勇気を出して話しかけて、
今この場にいるんだからな。
良美
「対馬君昨日のアンジェラス見た?」
レオ
「見てるよ。主題歌のCDも買ったし」
エリカ
「何それドラマ?」
良美
「うん、結構面白いからエリーも見てみて」
エリカ
「フーン。ま、暇があったらね」
レオ
「姫は夜に家で何やってんの?」
エリカ
「ご想像にお任せします」
レオ
「お茶やバイオリンの稽古とか?」
エリカ
「そんなものが何の役に立つの?」
あっけらかんと言う姫。
レオ
「いや、色々と役に立つと思うよ」
エリカ
「私には必要ないかな、クラシックとか興味ないし」
レオ
「お嬢様らしくない」
エリカ
「悪かったわね、お嬢様のイメージ壊して」
エリカ
「んー、そうね。お嬢様らしいといえば
連休や長期休暇には世界規模で旅行に行ってるわ」
レオ
「イギリスとかパリとか?」
エリカ
「中国やスイスとか、イタリアも好きね。
個人的にフランスは好きになれないわ」
レオ
「親は心配じゃないのかな?
旅行先で悪いやつにさらわれたり、とか」
エリカ
「可愛い子には旅をさせろってやつかしらね。
何度も言うけど放任主義だから」
エリカ
「もしも私が悪いやつにさらわれるなら
お前はその程度のヤツってことで終わり」
レオ
「恐ろしい家だな」
エリカ
「私は感謝してるけどね、好きに動けるから」
レオ
「でも本当にさらわれたら、なんだかんだで
親御さんも慌てると思うよ」
エリカ
「失礼な事を言ってくれるわね。この私を
かどわかすなんて、だいたい不可能だし」
レオ
「いや、いくら姫っつっても、女の子だし」
エリカ
「腕相撲してみる?」
とん、と肘を机の上に置く姫。
エリカ
「ほら、来なさいよ」
レオ
「い、いいの?」
腕相撲ってのは手を握るわけで。
そっ、と手を伸ばす。
エリカ  無音
「……」
なんか、こんな綺麗な手を握るのかと
思うとドキドキするな。
エリカ
「あーもう、何マゴマゴやってるのよほら」
がっちりと手を掴まれた。
エリカ
「よっぴー、カウントダウン」
良美
「3、2、1……スタートっ」
仕方ない……ここは勝って男らしさを
アピールするか。
腕に力をいれる。
だが、姫の手は全く動かなかった。
エリカ
「――ね? 私結構強いのよ。
対馬クンごときじゃ相手にもならないわ」
レオ
「そ、そんな馬鹿な」
俺、よっぽど鍛えている奴以外には負けないのに。
エリカ
「せーの」
ゴッ!!!
手の甲を思いきり机に叩きつけられた。
レオ
「痛っ……」
エリカ
「はい私の勝ち。今の時代、女も強いわよ」
エリカ
「狼は生きろ、豚は死ね」
レオ
「?」
エリカ
「これが私の座右の銘ね」
エリカ
「対馬クンも男なら狼になりなさい」
良美  無音
「……」
………………………
レオ
「うーむ」
昼休みの出来事を思い出す。
姫の手、白くて柔らかかったな。
自分の手をまじまじと見つめる。
この幸せモノめが。
しかし、腕相撲で負けたのは悔しいなぁ。
対馬クン「ごとき」かぁ。
傷つくよなぁ。
姫と本気で仲良くなりたいなら、
もっと自分を鍛えないと。
乙女さんは自分の爪を切っていた。
美人が爪を切る光景はどことなくシュールだな。
レオ
「ねぇ乙女さん」
乙女
「んー?」
レオ
「姫って腕相撲強いよね」
乙女
「そうか? 私は指2本で勝てるが」
レオ
「……そんな豪快な乙女さんに質問」
レオ
「短期間で筋肉がガッチリ付く方法とかない?」
乙女
「そんなものはない。勉学も鍛錬も
地道な努力が芽吹くものだ」
レオ
「そっか……」
乙女
「それよりもほら」
予備の爪切りを渡される。
乙女
「爪を切っておけ、長いと不潔だぞ」
忘れてた。
こういう根本的な所もしっかりしないとな。
2人並んで爪切るというのもシュール。
乙女
「終わったらロードワーク行って来い。
筋肉つけたいなら日頃の努力だ」
レオ
「ん、分かった」
乙女
「素直でいい返事だ」
くそ、努力しないと。
レオ
「ふぅ、いい汗かいた」
ガチャ。
乙女
「……少し褒めたらこれか。もはや問答無用だな」
レオ
「乙女さんはそういうキャラなのかもね」
………………
スバル
「何でオマエはそんなボロボロなの? 誰かに
イジメられたんなら、オレがそいつ殺して――」
レオ
「姉のヒステリーだ」
スバル
「それじゃ、どーしようもねぇな」
新一
「姉とか怖い事言うな。トラウマが発動しちまう」
ピルルルルル
スバル
「チッ。まーたバイトかよ」
レオ
「……なぁ、しつこく聞くけどさ。
ソレそんなに続けなくちゃいけないものなのか?」
スバル
「金は必要だろー。何をするにもさ」
レオ
「……」
スバル
「そんな深刻な顔すんなよ。
こっちは好きでコレ選んでるんだから」
ぽんぽん、と俺の肩をたたくスバル。
スバル
「ま、オマエは真っ当な青春をエンジョイしてくれ」
スバルは消えて行った。
新一
「はぁ……スバルがバイト行く時は
この微妙な空気が嫌なんだよね」
レオ
「あー、何とかして更正させてーな
寂しいオネーサンの相手して金もらうなんて
普通に犯罪行為なんだしよ」
新一
「でも、そりゃ無理だぜー?」
新一
「昔、俺達がバイトして貯めた金あげても
あいつは受け取らなかったろ」
レオ
「あぁ、あげるんじゃなくて
貸しって事にしても受け取らなかった」
新一
「何も金を稼ぐ方法が、あれだけって
ワケじゃないんだし。スバルなりに何か
あれをやめられないワケがあるんだよ」
レオ
「何それ、単に気持ちいいからって事?」
新一
「そう単純じゃないだろうよ。そんな色狂いなら
学校で言い寄ってくる女ともっと
遊んでるだろうしな」
レオ
「なるほど」
新一
「そしたら俺もおこぼれにあずかったのに」
レオ
「あんまり情けない事言うな」
新一
「ま、要するに。この事については
俺達がどうこうする問題じゃないってワケ」
レオ
「うーむ」
フカヒレは意外と大人なのかもしれない。
新一
「ところでお前、姫と個人的に何か進展あった?」
レオ
「いや……さすがにまだまだ」
新一
「ふーっ、良かった」
いや、やっぱりこいつはただのゲスだな。
――昼休み。
レオ
「相変わらず佐藤さんのお弁当は美味い!」
ちょっとしょっぱいけど。
エリカ
「いい食べっぷりじゃない」
良美
「うん、口にあってて良かったよ」
レオ
「姫は料理しないの?」
エリカ
「米を研ぐ程度なら」
レオ
「そんなん俺でもできるって」
エリカ
「元から料理なんて覚える気なし
そんな事を覚えるなら知識を吸収します」
お、全国一位の意見っぽい。
良美
「エリーは勉強家だもんね」
エリカ
「そりゃあね。努力なくして栄光はないわよ」
薔薇の花を見せながら言っても説得力がなぁ。
努力といってもほんのちょっとなんだろうな。
天才肌ってのはいいな。
乙女
「なにやら賑やかだな。お、弁当に
鳥の唐揚げが入ってるな。私の好物だぞ」
良美
「鉄先輩、学食に来るのは珍しいですね」
乙女
「今日は日本晴れだからな。風も気持ちよいし。
いい景気を見ながら食べたい」
エリカ
「乙女センパイなら私達の後ろの席を使っても
いいですよ」
乙女
「友達と来ているからな。普通に並んで席はとった」
エリカ
「それは真面目な事で。さすが風紀委員長」
3年女生徒
「てっちゃーん! 早くこっち来てよー」
乙女
「分かった、今行く」
レオ
「くっ……くく」
良美
「どうしたの、対馬君」
レオ
「くっ……ははっ……鉄だからてっちゃんね」
レオ
「あははははは。今度呼んでみようかなー」
乙女
「試してみろ」
レオ
「……げっ」
乙女
「どうした言ってみろ。呼んでみたいんだろ?」
レオ
「……てっちゃん?」
乙女
「上級生を馴れ馴れしく呼ぶなっ!」
レオ
「あぐっ!」
良美
「つ、対馬君大丈夫?」
エリカ
「あはは、面白い見世物」
お姫様はくくく、と満足そうに笑っていた。
………………
エリカ
「笑った笑った」
対馬ファミリーはなかなか面白い。
生徒会にいれて良かった、退屈しない。
廊下の角を曲がろうとした時。
(大学食で、大笑いしていた……)
(またあの女、調子乗ってたの?)
(いい加減にして欲しいよね)
エリカ
「お」
これは私の陰口かな?
(全国一位だって親の金でしょ)
(運動神経いいのはドーピングしてるからじゃ?)
(なんつーか、死んで欲しいよね)
エリカ
「はーい、呼んだ?」
3年女生徒  無音
「!!」
固まって話していた女子達が、ぞろぞろと
その場を去り出す。
エリカ
「いいなぁ、そういうの大好き」
模試も運動も実力だっての。
あの小者な感じが、たまらなく愛しい。
できれば今の卑屈なままでいて欲しい。
そんな一般的小市民の遥か上に立ち
そいつらを略取するのが私なのだから。
大勢の小者がいるからこそ、1人の英雄が目立つ。
よし、午後もマイペースで頑張るか。
………………
くそっ、てっちゃんに蹴られた傷が痛い。
割に合わないダメージだ、乙女さんに
何かしらやり返さないと気がすまない。
しかし俺自身がテンションに流されてはいけない。
学生の本分として勉強もしなくちゃいけないし。
新一
「ヨォース。勉強なんてやめて遊ぼうぜ」
これから頑張ろうって時にこいつは。
レオ
「フカヒレ。乙女さんって実は
てっちゃんって呼んで欲しいらしいぜぇ」
新一
「マジか! 気丈な女性だけど本当は可愛い女心も
持ち合わせてるって人間、現実にいるんだな」
新一
「ちょっと呼んでやってくる」
レオ
「相変わらず馬鹿で楽しいなお前」
新一
「今なんかワリとひどいコト言わなかった?」
レオ
「いや、包容力があるお前に言われると
乙女さんも嬉しがると思うぜ」
レオ
「GO」
新一
「ラジャー! 現実世界も捨てたモンじゃねぇな」
レオ
「TO HELL」
レオ
「逝ったか……せめて安らかに眠るが良い」
だんだんだんだん!!!
勢い良く2階に上がってきている足音。
フカヒレに言われて怒ってる乙女さんだな。
俺はすぐさま勉強の姿勢をとった。
乙女
「レオ! お前鮫氷に余計な事を教えただろ」
乙女
「ぬ……、勉強中か……邪魔したな」
バタン!
いなくなる乙女さん。
だがここで油断しないのが俺だ。
乙女
「1人時間差!」
結構愉快な人だよな。
乙女
「……本当に勉強しているようだな」
よし、勝った!
バタン!
虚しい勝利だぜ。
きぬ
「レオーっ、遊ぼうぜーっ」
次なる馬鹿の刺客が送り込まれてきやがった。
レオ
「こう見えて俺は政府の要人なみに忙しい」
レオ
「イガグリから借りた新しい漫画がそこに
10冊ほどある。読んでろ」
きぬ
「ほー、どりどり」
ふぅ、この隙にしっかり勉強しよう。
フカヒレは今日休みか。
ちょっぴり罪悪感。
昼休みが待ち遠しいな。
………………
レオ
「今月末は体育武道祭か、
執行部も忙しくなりそうだね」
良美
「メインは体育委員会が仕切るから、思ったほど
執行部の作業は無いと思うよ」
レオ
「そりゃ楽でいいね」
エリカ
「でも、体育委員長が急に風邪ひいたとかで
暗雲たちこめてるけどね」
レオ
「競技の話だけど、今年は女子の野球が
目玉になってるんだから期待してるよ」
良美
「男子助っ人枠の3人は決まったの?」
レオ
「一瞬でね、スバルと野球部2名。イガグリとか」
レオ
「そっちはどう、2人とも出るの?」
エリカ
「ピッチャーは女子がやる決まりだから私がやるわ」
良美
「私はセカンド辺りで出されそう……自信ないなぁ」
お互い対照的な意見が飛び出る。
レオ
「女子なんだからソフトボールでいいと思うのにね
なんで野球なんだろう」
エリカ
「館長の趣味じゃないの? ま、過去の例
見てもいい試合してるみたいだから抗議も
出てないし、私は野球でいいと思うな」
良美
「野球とソフトボールの違いって何なの?」
レオ
「いっぱいあるよ。例えばソフトボールは
7回まで、野球は9回まで」
エリカ
「ソフトは延長戦に入ると
常にノーアウト2塁の状態ではじまるのよ」
良美
「へぇ、色々あるんだね」
体育祭か……楽しみだな。
エリカ
「そういえばよっぴー、日曜日どうなった?」
良美
「後で言おうと思ったんだけど、ごめんね。
やっぱり無理だったよ」
エリカ
「そうかー。まぁ親御さんがらみの用事なら
仕方ないわね」
レオ
「日曜日?」
エリカ
「一緒によっぴーと遊ぶ約束だったのに
ドタキャンされたのよ」
良美
「ち、違うよぉ! 前からその日は無理だと
思うって言ってたのに!」
エリカ
「はいはい、冗談よ。必死にならないで」
良美
「うぅ……」
佐藤さんはこうやって溜まっていくストレスを
どうやって晴らしているんだろう。
エリカ
「それじゃあ対馬クン、一緒に遊ぶ?」
レオ
「え」
エリカ
「なーんてね、本気に……」
レオ
「遊ぶ」
エリカ
「ん?」
レオ
「一緒に、遊ぶ」
良美
「わわ……」
エリカ
「びっくり。ここまで本気にされると
思ってなかった」
エリカ
「でも相手が対馬クンじゃなー」
レオ
「俺のターン! 霧夜スタンプを提示!」
良美
「あっ、いつのまにかマックスになってるね」
レオ
「コツコツ積み重ねた俺の勝利だ」
エリカ
「んー、それがあるなら仕方ないわね」
エリカ
「いいわよ、じゃあ本当に遊びましょうか」
驚くほどあっさりと決まった。
エリカ
「男のコと2人で遊んだこと、無いしね
それもまたいい経験になるかもね」
エリカ
「ま、自称紳士の対馬クンなら無害だろうし」
エリカ
「つまんなかったら、対馬クンが
立ち直れないぐらいメチャクチャ
言いまくろうっと」
くすくすと笑う姫。
ほんといい性格してるよこのお姫様は。
ならば楽しませてくれよう。
燃えてきたぞ。
無事エスコートしてナイトの称号を
手にいれてくれる。
エリカ
「時間は朝9時松笠駅前」
エリカ
「言っておくけど私、5分以上は絶対待たない
タイプだから」
レオ
「お、俺だって20分ぐらいしか待たないから、
そっちこそ気をつけてくれ」
良美
「うわぁ」
エリカ
「へぇ言うじゃない、ね、対馬クン
結構熱いトコあるでしょ」
良美  無音
「……」
………………
ようやくクールダウンしたな。
それにしてもまさかOKをもらえるとは。
思い出すたびに嬉しくなる。
俺と姫がデート。しかもタイマンで。
え、ウソまじで!?
さっきは、昔の俺そのままで
テンションに任せて返事しちまったが。
時間を置くと重圧がのしかかるぜ。
ま、それでも楽しみにはかわりないけどね。
なごみ
「……センパイ、随分と幸せそうな顔してますね」
レオ
「いや、嬉しい事があってさ」
なごみ
「ニヤニヤしてるのキモいですよ」
レオ
「あぁ。確かに俺は紳士的で信頼できる人物だよな」
なごみ
「そんな事1回も言ってないですけど」
レオ
「ほら、カニのエサ用のビスケットやるよ」
椰子に強制的に渡す。
レオ
「じゃあな。お前も友達作れよ」
なごみ
「……これ甘すぎ」
レオ
「と、言う事でさ。明日俺は姫とデートなんだ」
レオ
「熱くなっちまったけどいい結果になったぜ」
スバル
「よし、いい感じで昔のオマエになってきたな」
新一
「どうせなら頑張れよな」
レオ
「あれ、意外。応援してくれんの」
新一
「お前が姫を落とせたら、ある意味シンデレラ
ストーリーだもん」
新一
「なんか俺でも上玉を狙えるやって、
俄然自信がついちゃうね」
スバル
「んで、いつ」
レオ
「明日の9時だってよ」
スバル
「早いなオイ」
きぬ
「それボクも行くーっ!」
レオ
「勘弁してくれ」
スバル
「野暮な事は言うなよ」
きぬ
「んだよ、姫と2人っきりになる胆力が
オメーにあんのかよ? あーん?」
カニに指でクイッとアゴをあげられる。
レオ
「正直、無いかもしれない」
レオ
「でも頑張ってみるぜ!」
スバル
「良く言った!」
きぬ
「てい! てい!」
レオ
「痛ぇーな! なんだよチョップすんなよ!」
きぬ
「明日雨ふんねーかな!」
レオ
「快晴だそうで。デート日和だぜ」
きぬ
「けっ、せいぜい夢見て死にやがれバーカ」
レオ
「な、なんだあいつ冷たいな」
カニは怒りながら帰ってしまった。
乙女
「賑やかだな。ま、週末ぐらいは
大目に見てやる。ほらお茶だ」
スバル
「乙女さん、聞いてくれよこいつ――」
新一
「なんでスバルそんなに嬉しそうなの」
(説明中)
乙女
「だからここ数日勉強に運動に頑張っていたのか」
レオ
「自分を磨こうと思って」
乙女
「しかし本気で“あの”姫を口説こうとは、
お前あえて修羅の道を歩んでるな」
乙女
「だが、そういう熱いのは嫌いじゃない。
私も姉として弟の恋路を協力してやろう」
どん、と自分の胸を叩く乙女さん。
乙女
「で、どこに行くんだ?」
レオ
「……」
スバル
「どうしたよ坊主。照れないで言ってみろ」
スバルに髪をクシャクシャとかき回される。
レオ
「やべ決めてない」
新一
「って、どこ行くか決まってないのかよ」
レオ
「いきなり俺がねじこんだようなモンだからな」
スバル
「場所決めか。いきなりセンスが試されるな」
新一
「姫はワガママだからね。連れて行く場所に
よっては帰っちゃうよ」
新一
「着る物にも気をつけろよ。俺なんて
メル友と初めて会ったとき、いきなり
帰られたんだからな。これだから女は……」
レオ
「とりあえず着るのは……」
レオ
「この服。勝負服……のつもり。カニが
クールでエレガント気取るならコレだろ、と」
スバル
「あぁ、いいんじゃねーの? カニは頭
悪いが、服の見立ては悪くないからな」
乙女
「私と姫の感性の違いを差し引いても、
それで充分だと思うぞ」
レオ
「後はスバルに昔もらったこの香水を
どうするか、だな」
スバル
「普段からつけてねーと、馴染まねーぞ」
レオ
「50mlで1万ちょいだろ? 勿体無くて
ガンガン使うわけにもいくまいよ」
乙女
「香水などいらんだろう。逆に
匂いが鼻につくと私は嫌だぞ」
新一
「デートのプラン立ててみた。どんなもんよ」
@まずはショッピングモールをブラブラ。
A甘い恋愛映画で彼女の心のガードを緩ませる。
Bホテルのバーで食事。ウソついてもいいから
巧みなトークで興味を引き寄せろ!
C鍵をとってる→ユートピア
スバル
「こんなん姫相手に成功するわきゃねーだろ」
紙をビリビリと破るスバル。
新一
「あぁっ、俺のパーフェクトな計画が」
乙女
「クラスメートに聞いた話だと、手打ちソバの
体験教室、というのがあるらしいぞ」
乙女
「自分で作ったソバを食べられるらしいし。
健全だし学習にもなるし。どうだろうか?」
さすが、普通の意見とは少し違うな……。
微妙に食い物がらみの所が乙女さんらしい。
しかも乙女さんがソバ打った所で不味くて
食えたもんじゃないと思う……とは言えない。
乙女
「何を考えている?」
レオ
「乙女さんと一緒にそれやったら楽しいなって」
乙女
「そうか。じゃあ今度一緒に行ってやってもいいぞ」
新一
「乙女さん、手打ちって言っても実際に
首をはねる事が出来るわけじゃないよ
そもそも手打ちってそっちの意味じゃないよ?」
乙女
「そんな事は分かっている! 失礼だな!」
新一
「あっ、女に殴られるのはムカつくというか
恐怖なのに、わきあがってくるこの高揚感は何?」
レオ
「……なんか意見がまとまらない気がしてきた」
乙女
「少し暑くなりそうだが、ここまで
良く晴れてるなら贅沢は言えないな」
乙女
「レオ、良かったな外出日和だぞ」
レオ
「うん」
乙女
「変に気取るな。あくまでお前のままで行けばいい」
よし、姉の応援でさらに気合が入ったぞ。
レオ
「ありがと」
乙女
「頑張れよ」
カチカチ、と石を鳴らす乙女さん。
レオ
「うん。じゃ、行ってくるよ」
玄関先まで見送ってくれた乙女さんに
背中を向ける。
乙女
「姫とレオの交際が成立すればレオも
己を鍛える為に日々精進するだろう」
乙女
「そうなれば、言う事はないんだが相手が姫ではな
どうなる事やら」
………………
姫とデート、うーむなんと至福。
この人生のチャンスをモノにせねば。
なごみ
「あれは、センパイ……」
レオ
「〜♪(←周りが見えていない)」
なごみ
「……何を浮かれているんだか」
きぬ  無音
「(カサカサカサ)」
なごみ
「コソコソと何やっている?」
きぬ
「しー、今相手してやれねーんだよ。家帰って、
いつものように蟻を虫眼鏡で焼き殺してな」
なごみ
「したことないし」
スバル
「あ、いたいた! 予想通りの行動だな」
スバル
「カニ! 何尾行してんだよ、野暮はよせ!」
きぬ
「は、離せ、離せ、離せ離せチクショーー!!!」
スバル
「あれ、椰子じゃん。オマエこの辺に住んでんの?」
なごみ
「さて、どうでしょう(プイッ)」
スバル
「まぁいいや。じゃあな」
きぬ
「UUUUGAAAAAAA!!!!」
スバル
「そんな怒るなよ。カレーおごってやっから」
なごみ
「休みの日にも騒がしいヤツラ……」
約束20分前だぜ。
しかし朝9時待ち合わせってのも早いよな。
9時じゃまだ開いてない店だって多いのに。
…………さて、姫を待つか。
レオ
「約束の時間3分前」
まだ来ない。
ま、姫の事だ、いつ来るとも分からない。
待ち続けてやる。
トントン。
レオ
「ん?」
エリカ
「おはよっ」
レオ
「姫。おはよう」
エリカ
「9時2分前。ま、理想的でしょ」
レオ
「ん」
エリカ
「対馬クンはいつから?」
レオ
「20分ぐらい前かな」
エリカ
「いい心がけね。例えば私が10分ぐらい
早くついても素早く対応できる」
レオ
「……」
エリカ
「? どうしたの」
レオ
「いや、何でも」
姫の私服初めて見た。
思ったより動きやすい服装だな。
快活な姫らしいと言えるか。
エリカ
「ん? 私の服気にいった?」
エリカ
「ま、好きなだけ見て構わないけどね」
レオ
「私服でも薔薇だせるのか……」
エリカ
「お嬢のたしなみよ」
くそ、これだけでドキドキするぜ。
なんつーか、周囲の視線をまた感じる。
美人ってのもあるけど、何より存在感が
凄いんだこの人。
エリカ
「さて、それじゃ早速行きましょうか」
既に回る場所の作戦は考えているぜっ。
レオ
「うん。じゃあまず……」
エリカ
「行くトコは決まってるわよ」
レオ
「え?」
エリカ
「行きたい所があるの。いいでしょ、そこで」
エリカ
「ま、嫌だと言っても私1人でも行くけどね」
レオ
「どこかな?」
エリカ
「ハーレムよハーレム!」
レオ
「? ? ?」
レオ
「…えーと。あんまり高い店は金払えないんだけど」
エリカ
「お一人様1000円よ」
どこだ、一体?
エリカ
「ほら行くわよ」
レオ
「あ、待ってって」
いきなり計画が崩れたな。
姫の強引さを忘れてた。
しかし本当ドコ行くつもりだ。
………………
レオ
「ハーレムってこういう事ね」
エリカ
「んー、ねこかわい〜」
エリカ
「ねこたまんないーっ」
猫との触れ合いテーマパーク。
(犬バージョンもあるらしい)
日曜と言う事で、親子連れでにぎわっている。
でも良く見るとカップルも結構いるな。
最近こういうのも商売になってるのか。
松笠の外れの方に、こんなのが出来てるとは。
確かにこういうトコなら9時からでも開いてる。
エリカ
「対馬クンもねこと戯れなさいよ」
レオ
「俺のトコ、猫こねー」
みんな姫の方に行ってやがる。
レオ
「俺も猫結構好きなんだけどなー」
猫においでおいで、と指を差し出す。
ねこ  無音
「ペッ」
猫は俺に見向きもしないで姫の方に
行ってしまった。
この猫どもあれだな、人間に飼いならされて
クレバーになってるよな。
エリカ
「対馬クン、ねこ最高でしょう」
レオ
「あぁ、俺も猫は愛らしいと思うよ」
フカヒレはネコミミは好きだけど猫そのものは
微妙だって言ってたけど。
エリカ
「愛らしいとかそーいうのはいいの」
エリカ
「ねこ最高でしょう」
頭のネジがゆるくなってるなこの人。
顔もどことなく、にへらーっとしている。
レオ
「つか、そんなに好きなら自分で飼ったら?」
エリカ
「んー。考えたんだけどね」
エリカ
「でも死んじゃうじゃない、ペットって」
エリカ
「多分、かなり心にダメージを受けるだろうからさ
飼わない事にしてるんだ」
レオ
「……なんか意外な答えだな」
エリカ
「だからこうして定期的に来て癒されてるのよ
これのおかげで無病息災。
インフルエンザも花粉症もかかってないわ」
普段の傲慢な姫からは想像もつかない姿だ。
でも、これも姫の一部分なんだろう。
エリカ
「対馬クン、楽しんでるー?」
レオ
「あぁ」
正確には姫を見て楽しんでる。
エリカ
「ねこねこ」
だって既に日本語になってないし。
遊園地とかの定番デートもいいけど、
こういうのもいいな。
姫が喜べば、それでいい。
こんな健気な俺が好きだぜ。
……………………
姫はたっぷり猫達と遊んで、満足したらしい。
エリカ
「ふー堪能した」
レオ
「最後の方は俺も結構猫にもててたけどね」
エリカ
「まだまだ。キャットに対する愛が足りないわね」
エリカ
「さーて、お腹も空いたしどっか入ろうか」
レオ
「そうだね。猫達と別れてから急に腹が減ってきた」
エリカ
「じゃ、対馬クンのお手並み拝見で
どこか美味しい所お願いね」
レオ
「む……」
さて、地元で食事とは想定していなかったが。
美味い店……あ、あそこだ。
カレー屋「オアシス」あそこはマジ美味い。
レオ
「オアシスって店知ってる?」
エリカ
「んーん。知らない」
レオ
「ふむぅ」
海軍カレーが名物のこの街で、
あそこに行った事が無いのは悲劇だぜ。
しかし食うのは当然カレーなわけで。
デートでカレーなんてそんなスパイシーな
コースありか?
まぁキスするってわけじゃないんだしいいのか。
ここで求められいるのは“美味いもの”
……となれば、迷う事も無い。
変に気取ってないし値段も手ごろだからな。
確か、今日はカニがシフトから外れているはず。
レオ
「じゃあこっち」
エリカ
「わー、どこへ連れて行かれちゃうのかしら」
なんて言いながらも姫は機嫌良さそうだ。
スバル
「おい、もう勘弁してくれよ」
きぬ
「あ? なんだオメー。好きなだけ食えって
言ったじゃねーかよ」
スバル
「だからって年頃の娘がカレー7杯食うか普通?
体がカレーになっちまうぞ」
きぬ
「そしたらボクがボクを食う」
レオ
「うん……カニがウェイトレスやってるなら
チョコマカ動き回ってるはずだけど、いないや」
レオ
「ここだ、姫。入ろう」
エリカ
「ここって、カレー屋?」
レオ
「そうだけど」
エリカ
「ま、いいか。じゃあ入りましょう」
スバル
「!? 何だオイふせろカニ」
きぬ
「おわっぷ!? オイ何だどんな突発イベントだ」
店長
「イラッシャイマセー」
エリカ
「ここ良く来るの?」
レオ
「まぁね」
我ながら用心深いな俺も。
まさかスバル達も俺がここにいるとは思えまい。
きぬ
「こいつは面白いね、おー」
スバル
「だから邪魔すんなって言ってんだろボケ」
きぬ
「もがっ」
スバル
「声のボリュームを下げるんだ」
きぬ
「何でレオ達こんなトコにいんだ?
オメーの話だと、桜木町の方へ
遊びに行くんじゃなかったのか?」
スバル
「そのはずだが、予定外の事が起きてるな
まぁ姫の性格なら何があっても不思議じゃねぇ」
スバル
「いいかカニ。邪魔すんなよ? 頼むから
全てはレオのためなんだ」
きぬ
「チョコレートサンデーとバナナパフェ」
スバル
「テメェ貧乏学生にデザートまで要求すんのかよ?」
エリカ
「ふーん。見事なまでにカレーづくしね」
店長
「ご注文をドゾー」
エリカ
「ここのおすすめは?」
レオ
「ずばりシンプルな海軍カレー」
エリカ
「それじゃソレで。後、できるだけ甘口にできる?」
店長
「オーケー、任せときナサーイ」
レオ
「あれ、姫って」
エリカ
「辛いものダメ。寿司も常にサビ抜き」
――やっちまった。
辛いもの嫌いな人をカレー屋に連れてきて
どうするよ……情報収集不足だったな。
エリカ
「そんなに落ち込まなくてもいいわよ。
甘口なら食べれるんだし」
エリカ
「むしろ、毛嫌いして凄く美味しかったら
勿体ないでしょう」
レオ
「ポジティブだね」
そういう所は素直に見習いたい。
エリカ
「これで不味かったら対馬クン死刑ね」
レオ
「いきなり極刑とは。そんな政治じゃ国が乱れるぜ」
エリカ
「私に従ってれば乱れないわよ」
堂々という姫。
レオ
「なんかすでに王様みたいな物言いだけど」
レオ
「姫ってさ。キリヤカンパニー継ぐの?」
エリカ
「そうよ。継ぐというか全部頂く」
レオ
「いいなー」
エリカ
「ま、恵まれてるのは勿論認めるけど」
エリカ
「もしかして苦労無しでそのままハイ、どうぞ
で継げると思ってる?」
レオ
「違うの?」
エリカ
「まさか。成り上がりのキリヤって異名
知ってるでしょ? 身内でも油断ならないわよ」
エリカ
「まず骨肉の争いに勝たないとね」
エリカ
「そこでようやくキリヤのトップに立てるってわけ」
レオ
「大変そうだな」
エリカ
「跡目をめぐる身内同士の争いなんて
昔から連綿と続いているじゃない」
エリカ
「それに、私叔父夫婦とか大嫌いだし。
あいつら身ぐるみ剥いで追放したら
楽しいだろうなって思ってるし」
レオ
「逆に姫がそれをやられるかもしれないのに?」
エリカ  共通
「ありえないわね」
エリカ
「ま、もしそうなっても裸一貫から会社立ち上げて
そいつらやっつけるだけのこと」
……この人強いな。
こういう表現なんて言うんだろう。
あぁ、そうだ“眩しい”だ。
言ってる事は人間的に微妙なのに、
こうまで惹かれるとは。
口だけじゃない、この人ならやる、と
思える何かが姫にはある。
店長
「海軍カレー、お待ちデースーっ ホラ、食えや」
エリカ
「コレ牛乳も一緒についてるの?」
レオ
「それが秘訣」
エリカ
「ふぅん。どれ、じゃ早速」
エリカ
「ふーっ、ふーっ……」
レオ
「猫舌?」
エリカ
「そ。覚えといてね、お茶出す時は気持ち温かく」
ぱくり。
エリカ
「……ん」
何度かカレーを口に運んで味わっている。
エリカ
「……うん……うん……」
微妙なリアクションだな。
エリカ
「美味しいじゃない」
ビッ! と親指を立てる姫。
ふー、処刑は免れた。
スバル
「お姫様、ここのカレー気にいったようだぞ」
きぬ
「くそ、ボクが天使のような笑顔で料理運んでくると
相乗効果でもっと美味いんだけどな」
スバル
「だーかーらー、ここはこらえろ、な?」
エリカ
「うん。なかなかいいわね。本当に」
エリカ
「時々来てもいいかなってレベルよ」
偉そうな台詞だが、一応認めてるらしい。
その笑顔は、親戚を追放するのを
楽しみにしているなんて恐ろしいコト言ってるより、
よほど女の子らしくて良かった。
店長
「アリガト、ゴザイマシター」
スバル
「ふぅ、出て行ったみたいだな」
スバル
「なんかいい雰囲気だったな。レオと姫は相性が
いいのかもしれないぜ?」
きぬ
「ちっ、ナーニがいい雰囲気だ。ムナクソ悪いから
食いなおしだ。テンチョー、一番高いメニューを
ここにずらっと並べやがれ」
スバル
「うぞーん」
………………
エリカ
「うん、海風が涼しくていい感じ」
レオ
「だね」
松笠公園でリラックス。
エリカ
「これからどっか行くって時間じゃないかな」
レオ
「ビリヤードとかは?」
エリカ
「言っておくけど私、とてつもなく強いわよ。
中途半端な実力なら戦いたくもないんだけど」
レオ
「……やめておく」
エリカ
「賢明ね。ま、気が向いたら教えてあげる」
いつの話になるやら。
レオ
「ダーツは?」
エリカ
「んー。ダーツならそんなに得意でもないし
いいかもね」
エリカ
「でも、私としては海風を受けて
まったりとしたい所だからここにいましょう」
決定しちゃったよ。
でも、この機会だからくっちゃべろう。
そうだなまずは――。
俺と姫は話した。
会社を継ぐ、とかそういう生々しい話じゃなくて
日々のちょっとした事なんかを。
将来の事でも何でも、誰も知らない
姫の秘密を知りたい、と俺は思う。
そうすると何故か重い話になってしまう。
だから普通の話題を。
学校の授業や先生の悪口なんかを話したりした。
それが、一番素で話せて楽しかった。
好きな人と自然に話すのは本当に楽しい。
……………………
エリカ
「そろそろ日没ね」
レオ
「早いな……」
本当に早い。
夏至近くだってのに、早すぎる。
それだけ楽しかった姫との時間。
エリカ
「そろそろ帰りましょうか」
レオ
「……そうだね」
いやダメだ。
まだ一緒にいたい。
もっと色々話したい。
夕焼け色に染まる噴水の水面。
この赤い色が俺の温度をさらに上げている。
エリカ
「予想以上に今日は楽しかったわ」
そう、楽しかった。
ここ2週間ぐらい接してきっぱり分かった。
憧れてるだけじゃない。
俺はこの人――霧夜エリカが大好きなんだ。
こんなに1人の人間を好きになったのって
生まれて初めてかもしれない。
心臓がドキドキしている。
スバルのセリフを思い出した。
何事もまず、言ってみる!
……そう、言ってみなくちゃはじまらないんだ。
姫は気まぐれだ、次にこんなムードになるのは
いつのことやら。
よし、実戦するぞ。
テンションに流される事を良しとしない
俺の心を、こうも熱くさせる姫。
気持ちを伝えずにはいられない。
レオ
「姫……」
エリカ  共通
「ん?」
よし、最初の一言が言えた。
後は思っている事を口にすればいい。
レオ
「好きだ」
エリカ
「さっき食べたカレーが?」
こんな肝心の時に的外れな事をいう所も――
レオ
「姫が好きだ」
レオ
「初めて見た時から目を奪われて」
レオ
「憧れ、だと思ってた」
レオ
「でも違う。今日いろいろ喋ってはっきりしたよ。
俺は、姫――霧夜エリカが好きなんだ」
レオ
「付き合ってくれないか」
ついに言った。
超身分不相応の告白。
エリカ  無音
「……」
姫は、さすがに驚いているのか固まっている。
味気の無い告白だけど、それは計算も偽りも無い
100%本心の叫びだった。
エリカ
「……………そっか」
エリカ
「話が弾んだ事で勘違いさせちゃったかな」
レオ
「え」
エリカ
「対馬クンと一緒にいるのは思ったより
ずっと楽しかったわよ」
エリカ
「でも、告白に対する答えはNOよ」
エリカ
「正直あなたなんて男としては眼中にないもん
魅力足り無すぎ」
さらり、と俺をふってくる姫。
エリカ
「大笑いしないのは、せめてもの情けよ」
レオ
「……」
レオ
「そっか」
レオ
「でも、いいんだ。気持ちが言えたからな」
エリカ
「良い友達にはなれそうだったんだけど、残念ね」
レオ
「別に残念じゃない」
エリカ  無音
「?」
レオ
「足りないだけなんだろ? なら磨くよ」
レオ
「姫に断られたからって、消えるほど
弱い想いじゃない」
レオ
「本気だから」
レオ
「俺は諦めない」
レオ
「というか、元から今の時点で
OKもらえるなんて思ってないし」
エリカ
「――タチが悪いコト言うのね」
レオ
「俺だって、本当はテンションに流されず
生きて行きたかったけど、だめだ」
レオ
「輝いている姫を見てると、心が躍るんだ」
エリカ  無音
「……」
レオ
「そんな姫と、俺はもっと仲良くなりたい」
エリカ
「計算で言ってないわね」
エリカ
「なるほど、これが熱くなった対馬クンか
寒いセリフすら暖めるとはなかなか……」
エリカ
「これなら最低基準値ギリギリで合格にして
あげてもいいかも……ちょっと考えさせてね……」
レオ
「?」
エリカ
「……丁度いい機会かも知れないな……
……根は単純だから利用しやすいし……」
なんか嫌なキーワードをブツブツ言ってないか?
エリカ
「オーケー、対馬クン」
レオ
「へ?」
エリカ
「付き合ってみる? 私と」
レオ
「ええぇ、いきなり180度展開?」
エリカ
「その諦めないという執念を買ってあげたの」
レオ
「やった! 惚れたの?」
エリカ
「何言ってるのよ、少しは骨があるわねと
思っただけなんだから」
エリカ
「いつものウジウジ対馬クンだったら、いっその事
ここでいじめまくって登校拒否にするのも
面白いかな、とか思ったけど」
レオ
「……その容赦の無い所も好きかも」
エリカ
「男と付き合うのも貴重な人生経験だからね
試しってことならいいわよ」
エリカ
「ただ、気に入らない場合はいつでも
どこでも秒殺でふるわ」
エリカ
「あと、私は命令されるのやだから
常に尻にしかせてもらうけど」
エリカ
「それでいいなら、やってみましょう」
レオ
「いや、嬉しいけど友達からでもいいんだよ?」
エリカ
「恋愛未経験だから友達と恋人の区切りが
分からないのよねー」
エリカ
「だから、いっそ付き合う方が
私にとってもメリットあるわ」
レオ
「……そのメリットって考え方が微妙だけど」
レオ
「とにかく分かった」
こんな千載一遇のチャンスを逃してたまるか。
実験体でも何でも大いに結構。
そこからはじまる恋もあるはず。
レオ
「じゃ、YES! という事でいいんだね」
エリカ
「好きじゃないけど、付き合う方にはのってあげる」
レオ
「……やった!」
エリカ
「ちょ、ちょっとあんまり大声で喜ばないでよ」
レオ
「いやぁ、思わずあの噴水にダイブしたいね」
エリカ
「そんな寒いマネしたらここで別れるわよ」
エリカ
「ま、そんなコトで、よろしくね」
エリカ
「具体的に何をするか分からないケド」
レオ
「あ、じゃあ携帯の番号……」
エリカ
「そうね、それぐらいならいいかな」
番号を交換する。
レオ
「この事、皆には秘密?」
エリカ
「ん、何で? 言っていいわよ別に」
レオ
「エリカに迷惑かからない?」
エリカ
「名前で呼ぶの禁止」
ビシッ!
レオ
「イタイッ」
デコピンされた。
レオ
「付き合ってるのに?」
エリカ
「次逆らったら別れるわよ」
レオ
「……分かった」
レオ
「でも、皆に言って姫に迷惑かからない?」
エリカ
「なんで? 別に周囲からどう見られようが
関係ないもん」
エリカ
「フラれて恥かくのは対馬クンだし」
レオ
「フラれないさ」
エリカ
「それはどうかなー?」
レオ
「頑張るもん」
エリカ
「そうね、せいぜい頑張りなさい」
レオ
「早速家まで送る」
エリカ
「基地の中に入ることは出来ないわよ?」
レオ
「じゃ、基地の前まで」
エリカ
「ま、好きにしなさいな」
………………
基地の入り口を守る屈強な外人兵士達と
気さくに英語で話す姫を見るとさすがは
ハーフ、と思った。
男  無音
「……」
通行人がチラッと俺の顔を見る。
無理も無い、ずっとニヤけてるから。
だって姫と付き合うんだ、それはニヤけもする。
遠くで見ているような憧れの存在。
それが身近に。
勇気を出して、ダメ元で言ってみるという事は
本当に大切だと思った。
傷つく事を恐れ、幸せをスルーするのは勿体無い。
俺はまるで悟りを開いた賢人になった気分で
夕陽に照らされながら帰路についた。
…………………
乙女
「それでは、レオの勝利を祝って乾杯!」
スバル
「より合わせだが、なんせめでたい日だ。
精一杯の馳走を作ったぜ」
レオ
「ありがとう、皆ありがとう」
きぬ
「なんかコイツ調子に乗り過ぎじゃねー?」
レオ
「俺と姫が付き合うなんて結果になったけど
お前らとはいつまでも友達だ」
新一
「というより、舞い上がってんな」
レオ
「フカヒレ、これからもお前は、
夢追人でいてくれ。俺との約束だぜ?」
新一
「こいつムカツクんですけど」
レオ
「スバルには結婚式のスピーチを頼む
お前しかいない」
スバル
「あぁ、いいぜ、もしそうなったらな」
パシャッ! パシャッ! パシャッ! パシャッ!
乙女
「何故蟹沢はレオの写真を撮るんだ?」
きぬ
「浮かれてて面白いから。どーせフラれるんだもん
後で笑いモンにするのさ」
レオ
「カニ、お前は特に根性曲がってるけど
実はいいヤツだって事を俺は知ってる」
きぬ
「……実は前にレオに借りた漫画
間違って風呂に落としちゃったんだけど」
レオ
「許す」
新一
「実は俺、前にお前のボトルシップ
割った事があるんだ。地震のせいになってたけど
うっかり割っちまったんだ」
レオ
「あぁ、許す」
きぬ
「こ、こりゃあ本物だぜ……有頂天だ」
スバル
「で、そろそろ具体的に報告してくれよ坊主。
どういう経緯で付き合うことになったのか」
レオ
「あぁ、のろけになるが聞いてくれ」
レオ
「まず俺と姫との出会いは……」
きぬ
「いや、今日の出来事だけでいーから」
…………(今日の出来事説明中)…………
レオ
「と、いうことだ」
きぬ
「ほんっと話長ぇーな!」
乙女
「しかし……喜んでる気分に水を差すようで悪いが」
レオ
「何だい乙女さん」
乙女
「それは本当に付き合ってると言えるのか?」
新一
「あぁ。恋愛したことがないってお姫様が
お前を使って遊んでるノリだぜ」
きぬ
「姫は面白いモンが好きだからね。オメーが
無害そうだからゲーム感覚でやってると思うぜ」
レオ
「確かにな。好きじゃないって言われたし」
スバル
「でもよ、あの傲慢でやりたい放題の姫が
少しはレオのこと受け入れたんだぜ」
レオ
「あぁ。だから俺はここからが勝負だと思ってる」
レオ
「姫に本気で好きになってもらうんだ」
乙女
「前向きな意見だな、そういう考えは好きだぞ」
頭なでなで。
きぬ
「姫、明日になったら“え、私そんなコト
言ってないわよ”とか言うかもしれないぜ」
フライドチキンの骨をガジガジと噛むカニ。
レオ
「それはない」
きぬ
「じゃあ姫にメールしてみなよ。彼氏なら
やっとくべきっしょ」
レオ
「……む」
それは確かに。
レオ
「よし、じゃあちょっくらメールしてみるか」
めるめるめる(←メール文字をうつ擬音)
レオ
「送信完了」
きぬ
「いつ返事が来るかねー?」
……3時間後。
きぬ
「こないねぇ、メールの返事」
ぽんぽん、と俺の肩を叩くカニ。
レオ
「姫は忙しそうだからな、見てないんだよきっと」
きぬ
「だったらいいなぁ、坊主」
コイツムカツク!
でも本当に忙しいのかな?
携帯を見る時間ぐらいあると思うが。
くそ、彼女が出来ると嬉しい反面不安も増えるぜ。
クラス中は騒然となっていた。
イガグリ
「それは本当なんだべか姫!」
エリカ
「うん。まーね。っていうか君誰?」
レオ
「な、なんだこの騒ぎは」
イガグリ
「対馬ぁ! お前姫と交際をはじめったって」
レオ
「あ、あぁもうバレたの」
チラッと姫の方を見る。
絡み合う視線。
レオ
「そ、そうだよね」
エリカ
「うん、そーね」
ウォォォォォ! と教室中が震撼した。
洋平
「また2−Cか。あいつら落ち着きというものを
知らないのか」
真名
「どーも怪しい。アイコンタクトぎこちないし」
豆花
「まだ付き合たばかりで初々しいてコトかネ?」
レオ
「落ち着けって祈先生来てるぞ」
「今日のHRはその件についてですわね」
レオ
「いや、それはどうなんでしょう」
「特に議題無くて暇なんですもの」
レオ
「しっかりして下さいよ先生」
土永さん
「くっくっくっ、嬉しいくせによ。
まるで罠にかかった鳥みたいにうろたえているぜ」
「……と、土永さんが言ってますわね」
レオ
「……」
良美  無音
「……」
霧夜エリカが交際をはじめたという噂は、
あっという間に竜鳴館全体に広がっていった。
2−A。
洋平
「いいか西崎。お前は記憶力はあるのに
計算力が無さ過ぎる。文系専門なのは知ってるが
ある程度は計算出来無いとな。訓練するぞ」
紀子
「う……ん」
洋平
「まず、分数の約分を教えるぞ。分母と分子とを
公約数で除して簡単にすることを言う。
これはとっくの昔に習ったな?」
紀子
「う、う……ん」
洋平
「じゃあまず6/8を約分してみろ」
紀子
「やく……ぶん」
洋平
「頑張れ! 出来たらラーメンとかプリンとか
食わせてやるから!」
紀子
「く……くぅ〜?」
洋平
「泣きたいのは僕の方なんだがなぁ……」
A組生徒
「お、おい洋平ちゃん、大変だ」
洋平
「うろたえるなよ。2−Aはうろたえないぞ」
A組生徒
「姫が対馬レオって生徒と付き合ってるらしいぞ」
洋平
「何! 詳しく聞かせてくれ」
紀子
「1/3!」
洋平
「違うから」
紀子
「はうっ」
……………………
エリカ
「いやぁ、それにしてもすっかり時の人ね対馬クン」
良美
「む、むしろこうなってくると、ここでの
私の肩身が狭いなぁ」
エリカ
「なーに言ってるのよ、もし対馬クンが
よっぴー邪魔だからどいて、なんて
言ったら速攻ブン殴って別れてるから」
レオ
「俺はそんな事は言わないから安心してくれ」
レオ
「でも、佐藤さん俺の弁当はもういいよ
姫の分だけで」
レオ
「彼女の目の前で他の女のコが作った
手作り弁当を食べる、というのもね」
エリカ
「言っておくけど私お弁当なんて作らないわよ」
レオ
「それはよく知ってる」
レオ
「ただ、ケジメって言うか」
良美
「言っている事は分かるけど」
レオ
「姫、昨日メール送ったの気付いた?」
エリカ
「あぁ、なんか来てたわね」
レオ
「返信してくれるとありがたい」
エリカ
「気が向いたらね」
さすが姫らしい意見だ。
良美
「……あんまり付き合ってるようには見えないね」
エリカ
「だから対馬クンのとはお遊びよ。
私にはよっぴーだけなんだから」
良美
「うーん」
佐藤さんは今いち釈然としていなかった。
まぁ俺も自分でも驚いているぐらいだからな。
―――放課後。
スバル
「おいおい、あっという間に学校中の噂だな
坊主と姫の関係はさ」
レオ
「ったく暇なヤツラだぜ」
スバル
「たいていのやつは、姫は知ってるが
対馬って誰? だもんな」
俺を見にいろんなヤツラが覗きにきてたもんなー。
レオ
「姫が有名すぎるんだよ」
スバル
「違ぇねぇ」
スバル
「オレは部活だが、まぁ頑張れよ?」
バンバンと背中を叩かれた。
レオ
「ああ」
スバル
「……世間が何とちゃかそうが
オレはオマエを、真剣に応援してるからな」
レオ
「ああ、ありがとう」
さて、竜宮(生徒会執行部)に姫はいるかな?
ん、中から話し声がするぞ。
良美
「ねぇエリー、対馬君と付き合うの撤回しないの?」
エリカ
「しないわよ、別に、ま、気にいらなかったら
いつでも首切るけど」
良美
「だって本気じゃないんでしょ?」
エリカ
「モチのロンよ」
たぁーっ、と麻雀牌をオープンするような
手つきをする姫。
良美
「そ、それは対馬君に失礼なんじゃないかな」
エリカ
「承知の上だから平気だってば」
エリカ
「よっぴーこそ、チャンスなんじゃないの?」
良美
「え?」
エリカ
「つまり、これからもしばらく
対馬クンは私と一緒にいる事が多い」
エリカ
「対馬君好きなら、チャンスなんじゃない?」
良美
「ち、違う、違うよっ!? なんでそうなるかな」
エリカ
「何そんな焦ってるのよ、冗談だって」
エリカ
「よっぴー誰にでも優しいもんね
別に対馬君が好きってわけじゃないんでしょ」
良美
「……う、うん……ま、まぁ……そうだよ」
エリカ
「ま、ちょっと退屈してたし
面白くなればいいんだけどね」
レオ
「……」
レオ
「覚悟はしてたけど本当その程度のノリなのね」
でもめげないぞ。
今日は学校公認になっただけでも価値はある。
……ちょっと時間の間隔置いて、と。
レオ
「姫!」
エリカ
「どうしたの対馬クン」
レオ
「一緒に帰ろうぜ」
エリカ
「あ、今日はパス。よっぴーとの約束があるから」
良美
「あはは、ごめんね対馬君」
めげ……ないぞ。
レオ
「ふぅ……」
火曜日は霧夜エリカファンクラブの集いだ。
俺と姫が交際している話は皆知っているだろう。
廊下を歩いてるだけで皆が俺を見てる気がする。
(↑自意識過剰)
袋叩きにされることを覚悟で行かねばな。
俺は勇気を持って屋上へと進んだ。
新一
「はいはい、5日後のオッズは高くて狙い目だよ」
親衛隊長
「ならば私は5日目に賭けよう」
洋平
「僕は3日後の金曜日だ、五千円!」
洋平
「当てて、腹いっぱいラーメンを食ってやる!
12人の妹にも奢ってやるんだ」
紀子
「くーっ、く、くぅーっ!」
新一  無音
「?」
洋平
「フラれないで続く、に五百円だそうだ」
紀子
「そう、そう」
新一
「なぁ村田。この娘口下手というより……むごっ!」
洋平
「口下手なんだ」
洋平
「それ以上でもそれ以下でもない」
新一
「そ、そうか……じゃあそれでいいや」
レオ
「……っておい、何やってるんだ?」
洋平
「ほう……、ご当人の出頭(おでまし)だ」
全員の視線が痛く突き刺さる。
皆怒ってるというより、好奇の目だった。
新一
「お前がいつ姫にふられるかの
トトカルチョだよ。お前が自分で買うの禁止な」
レオ
「買わないよ! 失礼な」
洋平
「対馬、いいご身分だそうだな」
レオ
「沢村……」
洋平
「村田だ! 全然あってないじゃないか!
……言っておくが、ここの連中はお前を
そんなに怒ってるわけじゃないぞ」
洋平
「僕もはじめは驚いたが真相を聞いて納得してるよ」
洋平
「交際と言っても、姫とお前なんぞ
釣りあうはずがない。
姫に遊ばれているだけだ」
洋平
「だから、こっちもお前の道化芝居を
楽しく見させてもらってる」
洋平
「いつ恥さらしになるか楽しみだな、え?」
レオ
「そりゃまた盛大にやってくれるな」
レオ
「やりたきゃ勝手にやれ。道化芝居に
見えるかもしれないが」
レオ
「俺はいたって真剣だ」
新一
「そうだ、レオは真剣だぜー!」
洋平
「……む……そうか……真剣……か
そこまで本気だとは……それを
あざ笑うかのようにした非礼は詫びる」
ペコリ、と頭を下げる村田。
こいつも乙女さんの後輩だけあって
味のある性格をしていらっしゃる。
洋平
「だが、僕は本気でお前と姫が釣り合うわけが
無いと思っている。そこは訂正しない」
洋平
「トトカルチョ、3日後に賭けている。
悔しかったらそれ以上もって見せるんだな」
レオ
「ふん、言われなくても」
新一
「俺は応援してるぜレオ!」
レオ
「フカヒレ」
新一
「もしお前が3週間持てば、トトカルチョは
ほとんど親(オレ)の総取りになると言っていい」
新一
「こいつは一財産できるぜ。エロいグッズ
いっぱい買える!」
新一
「ほら、レオにはお守りやるよ。
俺のだけど今は使う予定もねーし
これでいつでも安心だろ?」
そう言って制服のポケットにねじこまれたのは
……コンドームの箱。
新一
「ま、そんな深い関係にはいくワケないだろーけど
気分の問題だよな」
レオ
「……何とコメントしてよいやら」
洋平
「ちなみにトトカルチョ企画したのはあいつだぞ」
新一
「そうだ、トトカルチョを学校全部にまで広げよう!
そうすれば、さらに儲かる! ウッヒョー!」
新一
「持つべきものは、友人だネェーッ!」
洋平
「何であいつの友達をやっているんだ?」
レオ
「根っこはいいやつなんだよ、多分。な?」
洋平
「疑問文で言われても説得力皆無なんだがな」
……………………
――――放課後。
……くそっ、それにしてもトトカルチョとは
失礼なやつらだぜ。
しかも、いつフラレるかを当てるなんて。
いいだろう、別れないに賭けた人達を
大儲けさせてやる。
さて、生徒会室に姫はいるかな。
レオ
「こんちゃーす」
「出ましたわ。占いによると2週間後
あたりにYAMABAがくる、と」
きぬ
「祈ちゃん予想は2週間後か……結構持つな」
「カニさん、私に対する報酬がまだですわよ」
きぬ
「あ、悪ぃ悪ぃ。はい地域限定中濃ソースせんべい」
「なかなか良い取引でしたわ。またどうぞ」
きぬ
「それじゃボクは2週間後に全財産1万円」
スバル
「ならばオレは、フラれない、に千円」
きぬ
「うお、スバルが万馬券狙いだ」
スバル
「お前は学生のクセに厚く張りすぎだ」
きぬ
「ま、自分でバイトして稼いだ金だし、いーじゃん」
なごみ
「あたしは2日後に5千円」
土永さん
「我輩は1週間後に3万円」
きぬ
「……一番金持ってるのが腐れインコってどうよ」
土永さん
「我輩はオウムだっつーに」
レオ
「ここでもトトカルチョやってるのかよ」
レオ
「椰子、お前までが参加してるとはな」
なごみ
「確かにくだらないですけど」
なごみ
「センパイの不幸って何か笑えるんで
たまにはこういうのもいいかなって
感じで参加してます」
くっくっく……と人を見下す笑いをする椰子。
んー曲がってるやつらばっかだぜ。
レオ
「あ、佐藤さんちょっと聞きたい事があるんだけど」
良美
「え、うん。な、何?」
レオ
「姫に対してのお茶の淹れ方なんだけど……」
………………
エリカ
「ふー、体育祭に関する会議終わりっと」
姫が生徒会室へやってきた。
レオ
「ご苦労さま」
エリカ
「対馬クンも皆も、まだ残ってたんだ」
自分の指定席に腰を下ろす姫。
よし、即席特訓の成果を見せてやる。
レオ
「姫、はいお茶」
エリカ
「へぇ気が利いてるじゃない?」
レオ
「帰ってきた夫をいたわるのは妻の役目」
エリカ
「あははなるほど。いいお嫁さんになれるわよ」
姫がティーカップに口をつける。
エリカ
「ふーん、まぁまぁ美味く出来てるじゃない」
エリカ
「ま、いいお茶っ葉使ってるから
美味しいのは当然なんだけどねー」
エリカ
「温度とかも絶妙なのは、評価できるわ」
そりゃコツは佐藤さんから聞いているからな。
エリカ
「私の許せない物の1つに、
熱くて飲めないドリンクがあるの
熱く淹れてたらジ・エンドだったわよ」
デートの時に1度警告されたからね。
姫が満足そうに紅茶を飲みながら、
机の上を漁っている。
エリカ
「あれ、とっておいた仁尾屋の板チョコがない」
良美
「誰かが食べちゃったんじゃないの?」
なごみ  無音
「(しらんぷり)」
エリカ
「ちぇ私のだったのにな……」
エリカ
「ねぇ対馬クン。駅前にある仁尾屋の
チョコが食べたいな私」
さっ、と千円札を出す姫。
レオ
「了解、15分で戻る」
エリカ
「10分で」
レオ
「やってみる!」
ダッ!
エリカ
「彼氏って結構便利じゃない」
良美
「その認識、彼氏とは違うと思うな……」
なごみ
「パシリじゃん……卑屈」
きぬ  無音
「……」
レオ
「ふぅ、まさかこうも露骨に使いっぱしりに
されるとは……」
レオ
「しかし、この地道な努力がいずれ身を結ぶはずだ」
レオ
「なりふり構っていられるか!」
レオ
「そのうち俺がいなくなると寂しくなるに違いない」
俺はチョコを購入し、全速力で戻った。
………………
エリカ
「10分ジャストか、まぁまぁね」
レオ
「みんなは? 佐藤さんだけ?」
エリカ
「残りは帰ったわよ。すれ違わなかった?」
レオ
「ま、いいや。はい姫。注文の品」
エリカ
「ありがと。この板チョコが美味しいんだから」
バキッと半分に割ったチョコを俺に渡す姫。
レオ
「え、俺に?」
エリカ
「頑張ったご褒美。一緒に食べましょう」
レオ
「あ、うん」
やべ、なんだこの充足感……。
姫に褒められて幸せだったのか?
姫の笑顔を見て幸せだったのか?
エリカ
「よっぴーにも、私のをさらに半分、はい」
良美
「ありがとう、エリー」
エリカ
「彼氏が買って来るチョコはいつものより
美味しいわね」
レオ
「い、いや……そんな、普通に買っただけで」
って何でこんな露骨なお世辞に慌ててるんだ俺!
エリカ
「くすくす……」
彼氏であって、従者じゃねーんだぞ。
気をつけないと。
それでも、この3人でのお茶の時間は
とっても楽しかった。
「執行部の皆さん、全員お揃いのようですね」
レオ
「祈先生、俺達に話って?」
「今週の金曜日、学校は創立記念日でお休みなの
ご存じでしたわね」
きぬ
「うん。3連休だよねー」
カニが元気良く飛び跳ねる。
椰子はそれをウザッたそうに見ていた。
「その金曜日に、“執行部強化合宿”をせよ、と
橘さんが言っております」
レオ
「橘さん?」
エリカ
「館長よ。フルネーム橘平蔵(たちばなへいぞう)」
レオ
「あ、そっか」
エリカ
「執行部強化合宿って随分急ね。ま、確かに
今年の3月はメンバー不足で行ってないけど」
レオ
「何です執行部強化合宿って」
「その名の通り。執行部内の結束強化
スケジュールの打ち合わせなど、ま色々ですわ」
レオ
「へぇー、そんなのあるんだ。珍しいですね」
「ホームページで検索してごらんなさい、
いろんな学校でやってますわ」
レオ
「う……」
エリカ
「対馬ファミリーは生徒会とは無縁だから
そういうの弱いのよ」
良美
「場所はどこなんですか?」
「とってもいい所だそうですわ」
レオ
「なんだか嫌な予感がするな」
「時間は金曜日の……朝のうちは雨という
占いが出たので午後3時。制服で
竜鳴館の正門に集合ですわ」
「動きやすい体操服とかも
あれば、いいかもしれませんわね」
レオ
「? ? ?」
どこへ行くつもりなんだ?
なごみ
「あたしは……」
「拒否したら島送りですわよ」
なごみ  無音
「……」
問答無用だった。
新一  無音
「……」
………………
夜11時。
いつものごとく、俺の部屋に皆でたむろってた。
新一
「ねぇ、この2日間ぐらいレオと姫
さりげなく観察してたけどさ」
レオ
「さりげない所か、ねっとりと視線感じてたけど」
新一
「お前、あれでいいの?
付き合っているというより、女王様と犬じゃん」
きぬ
「っていうか親分とパシりだったさ」
レオ
「……だって姫だぜ?」
レオ
「初めはああいう態度で仕方ないと思うぜ」
新一
「えーそうかなぁ、なーんか間違ってると思うぞ
せめて、いいパートナーみたいな関係でさ」
レオ
「だーかーら。姫は自分以外の人間を完全に
見下してるんだよ。佐藤さんはどうだか
知らないけど。常識的な考えじゃ無理」
レオ
「姫の横暴を我慢する器量があって成功すると思う」
スバル
「確かに。下手に逆らったらフラれるだけだからな」
新一
「嘆かわしい。お父さんは悲しいよ。
女は男に尽くすべきなのに立場全く逆じゃないか」
レオ
「今はそれでいい」
レオ
「だけど、俺は俺で、俺だけのものだ」
きぬ
「あん? 日本語喋れよテメー」
レオ
「姫の言う事は聞いても魂は売り渡さないってこと
俺はマゾってわけじゃないしな」
レオ
「徳川家康が天下をとった
理由は辛抱強かったからだ」
スバル
「姫自身は信長みたいな性格してるしな」
きぬ
「ノブナガって何した人?」
レオ
「お前あんまり喋らないほうがいいよ、馬鹿だから」
レオ
「ま、今はこうでも、いずれ関係も変えていくさ」
新一
「こいつめげねーな。なんかムカツク」
そうとも、めげてたまるか。
レオ
「というか、合宿ってドコ行くんだろう」
きぬ
「さぁねー。付き合ってる姫にでも聞いてみれば?」
レオ
「よし、メールうっちゃる…………送信、と」
いずれにしても、姫との交流を深める大チャンス。
タララーン♪
レオ
「あ、ほら!? 返信来たぞ、どうよ!?」
きぬ
「こいつ、姫からの電話だけ着信音をムーディな
曲に変えてやがる……」
新一
「それぐらいで喜ぶなよ……」
スバル
「で、何て書いてあるんだ?」
レオ
「えーと、“眠いから寝る”」
新一
「くぅ〜、た、淡白ぅ」
レオ
「バッカ。こりゃお休みの挨拶だって……多分」
そもそも会話成り立ってないけど。
返信が来たのは大いなる一歩だと思いたい。
明日はどこまで進展するだろう。
楽しみだ。
天気は晴れ。
梅雨とは思えないぐらい良く晴れている。
レオ
「おはよ、姫」
エリカ
「ん、おはよー」
真名
「お、普通に会話しとるで、しかも自然に」
豆花
「まだ続いているて事だよネ?」
クラスの奴等は俺達を遠巻きに観察していた。
トトカルチョで賭けてるってのも
あるのだろうけど、物見高いヤツラだ。
……………………
――――放課後。
明日は創立記念日で休みだから、せめて今日は
姫と一緒に帰りたいな。
この週は結局1回も一緒に帰ってないし。
しかも今日は何も進展が無い。
めげずに挑戦だ。
しかし、ここまでテンションに流されて
結局ダメだったら俺はもう立ち直れそうに無いな。
いや、もしダメだったらなんて考えるな。
挑戦だ、挑戦。
エリカ
「んー。別に今日は誰とも帰る予定も無いし。
いいわよ、よっぴー先に帰っちゃったし」
レオ
「お、じゃあ帰ろうよ」
エリカ
「寄り道は出来ないケド」
レオ
「うん、短い間でもいいや」
エリカ
「健気ね、こっちも嬉しくなってくるじゃない」
エリカ
「それじゃ、校門の所で待っててね。必ず行くから」
レオ
「了解」
レオ
「……ふー、ドキドキした」
スバル
「姫を待っているのか?
恋する女の子みたいだなオマエ」
レオ
「スバル」
スバル
「校門のトコで待ってる健気さも。
まるで男女逆だな。喧嘩してギラギラしてた時の
オマエとは別人みたいだぜ」
レオ
「ちっ、悪かったな」
レオ
「俺だって姫相手じゃなきゃここまでやらん
惚れてる弱みだ」
スバル
「悪いって言ってるワケじゃねぇ、
それぞれのカタチってもんがあるからな。
そういうのが上手くいく時もある」
スバル
「んじゃ、オレは部活だが頑張れ」
……………………
1時間経過。
――姫、遅すぎ。
携帯通じないし。
電源切ってるな。
1時間は待たせすぎだ。
いい加減帰ろうとも思うが、ここまで来て
帰ったら負けかな、と思う。
かといって校舎の中を隅々と探す場合、
姫とすれ違いになってしまう可能性もある。
佐藤さんは既に帰宅しているし。
携帯が通じない以上ここで待機しているしかない。
レオ
「くそ、何をやってるんだ姫は」
乙女
「見回り、異常なしと」
エリカ
「乙女センパイも一緒にお茶どう?」
乙女
「姫の誘いとあらば断るのも無粋だな」
乙女
「これ、食べてもいいか」
エリカ
「どうぞどうぞ」
乙女
「レオとの仲はどうだ?」
エリカ
「んー。まぁまぁ楽しくやらせてもらってるわ」
乙女
「そうか。足らない根性は私が鍛え直す
できれば長い目で付き合ってやってくれ」
エリカ
「乙女センパイ優しいー」
乙女
「これが姉心というものだ」
乙女
「で、今は1人で読書中か?」
エリカ
「そ。プラス、テスト中。
これぐらいで怒るやつだったら別れるから」
乙女  無音
「?」
……………………
スバル
「ふぅ……いったん休憩、と」
スバル
「ん? あの校門のところにいるのはレオ?
おいおい、あれから2時間も経過してるぞ」
スバル
「まだ姫は校内に残ってるっていうのか?」
スバル
「いねぇ」
スバル
「ここもいねぇ、テニス部にも顔を出してねぇ
竜宮(生徒会執行部)は閉まってるし……」
エリカ
「んー、乙女センパイも行ったし
私もそろそろ帰ろうかしら」
スバル
「って、こんな所にいた。おい姫」
エリカ
「あぁ、スバル君どうしたの?」
スバル
「レオが校門の所で待ってるぞ?
もう2時間ぐらい経過してる」
エリカ
「へぇー。意外と根性あるわね
んじゃ、行ってあげるかな」
スバル  無音
「……!」
エリカ
「何、スバル君ごときが文句あるの?」
スバル
「いや、ここでオレがグチグチ言うとあいつの
努力をパーにしそうだから言わねぇが……」
エリカ
「賢明ね」
スバル
「……でも1つだけ」
スバル
「レオで遊ぶのだけはやめてもらう
あいつは純粋なんだからな!」
エリカ  無音
「! (…………トクン……)」
エリカ  無音
「(やっぱり、この2人デキてる!?)」
スバル
「姫、聞いてんのかい?」
エリカ
「別に遊んでるわけじゃないわ。
そこまで暇じゃないし」
エリカ
「対馬クンはいい友人に恵まれたみたいね」
スバル
「? 頭のいい奴が考える事はわからねぇな」
………………
……対馬レオとしての誇りが……。
もう帰る、いくら何でも限界だ。
いや、待て。そういう考えは捨てろ俺。
レオ
「……あ」
ようやく現れた。
エリカ
「待った?」
レオ
「2時間ぐらい待ったね」
エリカ
「そう」
レオ
「でも、姫は必ず来るって言ったから」
エリカ
「そうね、よく待ってたわ対馬クン。偉いわよ」
ぽんぽん、と左腕を叩かれる
レオ
「う……」
間近でニコッと笑う姫。
胸がじんわりと温かくなる。
なんだ、この2時間待って
良かったという、えもいえぬ充足感は?
こ、こんなんで騙されないぞ。
エリカ
「さ、じゃあ一緒に帰りましょうか」
レオ
「姫。そっち駐輪場」
エリカ
「私、普段はMTBで来てるでしょ」
レオ
「あ、そっか」
エリカ
「2人乗りしてみる?」
レオ
「前に原付に2人乗りしたウチの生徒を
乙女さんが見つけて……」
エリカ
「あ、それ知ってる。乙女センパイ、原付に
走って追いついて2人を引きずり
おろしたんでしょう」
エリカ
「その人たち、今でも乙女センパイが
追いかけてくる夢を見るそうよ」
レオ
「悪夢になるぐらい怖かったのか」
レオ
「聞けば聞くほど自分の姉とは思えない人だ」
エリカ
「でも、そんな対馬クンにも鉄の血は
入ってるんでしょう、少しは」
エリカ
「なんだかんだで血気盛んなのはそのせいね」
姫はくすっ、と笑うと折り畳んだMTBを
ガチャッと肩に回した。
エリカ
「ま、今の話は別として。対馬クンが
せっかく待ってたんだから」
エリカ
「長く話せるためには歩いて帰った
方がいいんじゃないの?」
レオ
「……う、確かに」
エリカ
「じゃ、コレは担いでいくから」
お嬢様とは思えない仕草だ。
レオ
「よし、MTBは俺が持つ」
エリカ
「これ軽いからいいって」
レオ
「いやいや俺が持つ」
エリカ
「ん、そこまで持ちたいならご自由に」
MTBを手渡される。
ズシッ……と来る重み。
いや、これ重いんですけど。
姫、筋肉あるなぁ……。
夕焼け色に染まった通学路。
この真っ直ぐ伸びた通学路の先が、もう
基地の入り口なのだ。
わずかな時間でも会話しないと。
ええと、話したい話題は色々考えておいた。
エリカ
「とりあえず」
レオ
「ん?」
エリカ
「この1週間、様子を見たけど
今のところ対馬クンに文句無いわ」
エリカ
「交際続けましょう」
レオ
「そんな契約の更新みたいに言わないでくれ」
エリカ
「でも、私の方は対馬クンに特に
何もしてあげてないけどね」
エリカ
「対馬クンの方には不満ないの?」
レオ
「いいんだ、別に」
レオ
「俺は姫に何かして欲しくて、
姫と付き合ってるんじゃない」
レオ
「ただ、一緒にいたいから」
その心に偽りは無い。
エリカ  無音
「……」
周囲に人はいない、2人だけの帰り道。
良かった、誰にも聞かれてなくて。
エリカ
「へぇ、いい返事ね」
何でも聞くYESマンになるほど安くも無いけど。
きっちり言っておく必要もある。
レオ
「でも、流石に2時間待たせるのは勘弁して欲しい
連絡の1つはしてくれ」
エリカ
「……くす」
レオ
「な、なんだよ」
エリカ
「ううん、初めはこの一週間で交際も
終わるかな、と思ってたのに」
エリカ
「私の読みを外すとは、やるわね対馬クン」
レオ
「真剣ですからねぇ」
レオ
「そりゃ反発したくなる場面はいくらでもあるけど」
エリカ
「これでも頂点を目指してるのよ。いちいち
つっかかってくる交際相手はいらないんだから」
レオ
「つまりは、自分を立てろってんでしょ」
エリカ
「そういうこと。自分で言うのも何だけど
偉そうでしょ?」
レオ
「まぁ、“姫”だし」
エリカ
「本当は姫じゃなくて王様って呼ばれたいのよね」
エリカ
「姫って王より身分下だしさー」
エリカ
「まぁ、まだ王の身分じゃないから仕方ないケド」
エリカ
「いつかそんな身分になるんだから」
キラキラと子供のような瞳で語る姫。
遥か高みを目指す、その野心とも夢ともとれる志。
レオ
「……姫のそういう性格って男っぽいとこあるね」
レオ
「女じゃなくて、男が良かったとか思う時ない?」
エリカ
「全然。今のところ、それほど性別の壁を
感じた事は無いしね」
エリカ
「それに、そんなどうしようもない事で悩んでもね。
男でない事を悔やむより、むしろ女である事を
利用するようにしないと」
レオ
「くっ……くくっ」
エリカ
「何? どっか可笑しかった?」
レオ
「いや、アダルトな意見だと思って」
エリカ
「まぁね、頭いい分精神も早熟よ」
レオ
「でも、男と付き合ったことも無いのに
女である事を利用する、とか言ってもねぇ」
エリカ
「……む」
エリカ
「………うるさいなぁ。
だからこうして対馬クンと付き合ってるでしょ」
レオ
「そ、そうだね」
エリカ
「それに、男と付き合ったことが無くても
アダルトな女性はいっぱいいるはずよ」
レオ
「姫もそういうタイプだと?」
エリカ
「……違うけどさ」
レオ
「そっか」
エリカ
「な、なぁに笑ってるのよ、
対馬クンのくせに生意気よ」
レオ
「あ、そのセリフ人権蹂躙なんだぜ」
エリカ
「ふん」
やがて米軍基地の入り口が見えてくる。
肩を並べて歩くのこれまでか。
レオ
「ここまでだね」
エリカ
「そうね」
あぁ、別れるのが惜しいな。
でも明日からは合宿だ。
機会はいくらでもある。
レオ
「それじゃあ、姫……」
そう思っても、別れの言葉を言うのは
名残惜しかった。
エリカ
「ね、ねぇ、その前にさ」
姫の顔が急に赤くなった。
エリカ
「1つだけ聞くけど、正直に答えて」
モジモジとする姫。
こんな反則的な仕草も見せてくるとは。
心臓が一気にドキドキしてきた。
な、何を言ってくる気なんだろう。
エリカ
「あ、あのさ……」
エリカ
「スバル君とは、本当に何も無いただの友達なの?」
レオ
「そっちかよ!」
この人の同性愛好きにも困ったもんだ。
――そして、明日は執行部強化合宿。
学校前に執行部のメンツが全員集合していた。
レオ
「で、何で学校に合宿なんてしなくちゃ
いけないんですか?」
平蔵
「うむ、本来ならクルーザーを使って
島に行く予定だったのだが」
レオ
「だが?」
平蔵
「話すと長くなるし、ややこしいが良く聞け」
平蔵
「儂は昨日、メンテナンスを
兼ねてそのクルーザーに乗り込んだ」
平蔵
「ところが1つだけ計器の具合がおかしくてな」
平蔵
「叩けば気合で直るだろう、と思い叩いてみると」
平蔵
「全ての計器がオシャカになったわ
がーーっはっはっはっはっはっは」
乙女
「館長が叩けば、それは壊れますよ」
あなたもね。
平蔵
「腹いせに1分でスクラップにしてやったわい」
エリカ
「お約束ね。長くもないしややこしくもないわ」
「ですので、止まり先は学校となりましたわ」
きぬ
「テンション低くなんね……なんで
学校に泊まらなきゃなんねーのよ」
レオ
「まぁ、山ごもりとか言われるよりよっぽどいい」
新一
「寝るのもココ?」
「体育館でザコ寝ですわね」
「私は職員室で寝ますけど」
新一
「……おい、レオ。男女混合でザコ寝らしいぞ」
レオ
「……らしいな」
新一
「なんかオラ、すっげぇワクワクしてきたぞ」
はぁはぁ、と息を荒くするフカヒレ。
全く分かりやすいヤツだ。
エリカ
「ザコ寝ねー。よっぴーの寝起きなんて
すごいから大変よ?」
良美
「ちょっとエリー!」
エリカ
「低血圧なもんだから、起きるのがだるいのか
ズリズリと地面を横になりながら移動してんの」
レオ
「へぇー」
男子連中の好奇の視線が佐藤さんに突き刺さった。
良美
「うぅぅ、恥ずかしいよぅ」
……あまりいじめても可哀想だな。
レオ
「で、さし当たって何をするんですか」
「執行部らしく来週末の体育武道祭の準備ですわね
体育委員会の方が病欠者のせいで遅れてますので」
良美
「な、生々しいね」
きぬ
「ダマされてる気がしてきたよボク」
スバル
「しゃあねぇか……」
平蔵
「夕飯は儂が自腹を切ったものを用意しよう
それで許せ」
きぬ
「うめーもんじゃねーとやる気でねーもんね」
平蔵
「寿司だ、寿司」
きぬ
「マジ!? 回らない寿司?」
平蔵
「うむ、儂が好きな店だが美味いぞ」
エリカ
「じゃ、そのお寿司を夢見て仕事開始ね」
エリカ
「あ、館長館長」
平蔵
「?」
エリカ
「お寿司、いくつかサビ抜きにしてもらえる?」
………………
集まったのが遅かったので、
“あっ”という間に日が暮れた。
平蔵
「届いたぞ。豪華寿司だ。たんと食え」
乙女
「本来、ここで寿司を食べるなど許されないが
まぁこういうイベントの時ぐらいはいいだろう」
きぬ
「すし! すし! すし!!」
レオ
「いちいちダンダンと地団駄を踏むな」
なごみ
「マナーの悪い」
乙女
「それでは頂きます」
エリカ
「頂きまーすっ」
なごみ
「……頂きます」
一斉に箸が伸びる。
「どなたか、私のうにを差し上げますわ」
きぬ
「ボク欲しいっ」
エリカ
「はい、よっぴーはあなご好きだもんね」
良美  共通
「ありがとう、エリー」
エリカ
「代わりにトロとイカと甘エビとイクラもらうわね」
良美
「えっ」
なごみ  無音
「……(もぐもぐ)」
椰子はひょいひょいと自分の寿司を平らげていく。
きぬ
「ココナッツ、何か食ってやるぞ」
なごみ
「平気。全部食べれるから」
きぬ
「まぁまぁ、オメーは大トロなんて勿体
無いからボクが食ってやるよ」
なごみ
「あっ!」
電光石火の早業で人の食い物を掠め取るカニ。
なごみ
「……とっておいたのに」
なごみ
「お前の寿司全部よこせ」
レオ
「またとっくみあってるよ」
携帯で写真撮影しといてあげよう。
エリカ
「この隙に、なごみんとカニっちの
お盆から寿司を強奪するのが賢いやり方ね」
乙女
「姫、行儀が悪いぞ!」
エリカ
「ほいっ」
姫がさっ! とサーモンを投げる。
乙女
「うわっ 危ないな」
飛んできたサーモンをジャンプして
口でキャッチする乙女さん。
訓練された犬みたいだ。
エリカ
「乙女センパイも行儀悪ーい」
乙女
「今のは食べ物を粗末にしない為の
私の配慮だろうが」
エリカ
「固い事は言わない(ぱくっ!)」
エリカ
「……ぅっ……!?」
「どうしたんですの、霧夜さん」
エリカ
「いえ、別に、ちょっと夜風に当たってきます」
レオ
「?」
乙女
「姫、寿司を残したのか?
仕方ない私が処理しておこう」
レオ
「あっ」
という間に処理してしまった。
レオ
「姫、どうし……」
エリカ
「ごほっ、ごほっ、ごほっ、か、辛いぃぃ……」
あぁ掠め取った寿司にわさびが塗ってあったのね。
それでダメージを受ける構図なんて普通の
人には見せたくないだろうな。
愉快な人だ。
レオ
「姫、はい水」
エリカ
「ミネラルウォーター?」
レオ
「そう」
エリカ
「じゃあ飲む」
大した事無さそうで良かった。
……………………
レオ
「さーて、そろそろ寝るか」
新一
「体育館で女子と一緒に寝るなんて最高だよなぁ」
レオ
「姫に変な真似するなよ」
スバル
「おーいいねぇ。そういうセリフ」
レオ
「おい、どこ行くんだスバルそっち校門だぞ」
スバル
「夜のバイトが入ってるんだ。後は任せたぜ」
スバルはそう言うと飄々と夜の闇に消えていった。
レオ
「おい、何もこんな時にまで……」
新一
「もう聞こえないよ。あいつ
クセになってるんじゃねーの?」
レオ
「うーん……いつか辞めさせないとなぁ」
………………
エリカ
「あ、男子も来た」
良美
「お布団敷いておいたよ」
レオ
「なぜ体操服」
エリカ
「寝巻きの代用ってことでね」
男子と女子一緒に寝かせるとは。
ま、口うるさい乙女さんがいるからだろうけど。
乙女
「私は祈先生の所に就寝の挨拶に行ってくる
お前達、もう寝ておけよ」
乙女さんはそう言うと、体育館から出て行った。
きぬ
「修学旅行みてーだ」
エリカ
「その醍醐味といえば」
レオ
「怪談?」
きぬ
「ぜってー反対! そんな事すんなら皆で
ココナッツをいじめようぜ」
なごみ
「へぇ、今のセリフもう1度言ってみろよ」
きぬ
「このパンスト1年生が!
夏にそれでムれないのかよ」
なごみ
「いやさっきと違うだろ」
エリカ
「ふむ……それじゃ」
エリカ
「ていっ」
レオ
「どわ!」
姫に枕を投げつけられた。
エリカ
「枕投げなるものをやってみましょう」
なごみ
「はっ、ガキくさい」
エリカ
「む!」
きぬ
「そう言ってるやつが一番ガキなんだよ。食らえや」
カニが投げた枕をひょいっと避ける椰子。
俺も、姫に投げかえす。
エリカ
「ナイスパース」
レオ
「いや、パスじゃないんだけど」
あっさりキャッチされた。
うーん、どうするかな。
良美  無音
「!」
佐藤さんと目が合う。
何かちょっと戸惑っているが……。
良美
「え、えいっ!」
佐藤さんが控えめに枕を投げてきた。
微笑ましいので、痛くない程度に軽く投げ返した。
新一
「俺もこの歳で、まくら投げではしゃいじゃうぞ!」
エリカ
「んー、もうちょっと強く投げてみよ!」
メシッ……
新一  無音
「……」
枕が顔にめりこむ痛々しい音がする。
フカヒレは気絶していた。
きぬ
「よっぴー! 食らえっ」
ぶんっ! と枕を投げるカニ。
良美
「うわぁっ」
佐藤さんは慌ててしゃがんだ。
きぬ
「逃げたなっ、それなら直接攻撃しちゃうもんね」
枕を持ってボムボム、と佐藤さんの頭を叩くカニ。
良美
「わわ、降参、降参カニっち」
きぬ
「清めてやんよ、よっぴーを! 爆裂怒涛の型!」
きぬ
「そらっ、いよっ、でやっ、はぁっ、ていっ!!!」
ボコボコボコ!!
良美
「い、痛いっ、痛い、痛いよぅ」
頭を抱えて、ひたすらこらえる佐藤さん。
いじめだ……。
エリカ
「さーて、なごみんにも枕ブチあてよっと」
エリカ
「いい機会だから、ビシッと教育してあげる」
なごみ
「ふん、くだらない……」
なごみ
「くだらないけど、売られた喧嘩は買いますよ?」
エリカ
「そらっ」
姫が枕をオーバースローで投げる。
なごみ
「ふっ!」
椰子が冷静に飛んできた枕を叩き落とす。
なごみ
「潰れろ!」
今度はその持っていた枕を勢い良く投げる椰子。
エリカ
「はいやっ」
姫は華麗に跳躍しながら、飛んできた枕を
そのままボカンと蹴り返した。
なごみ
「っと!」
驚いた椰子が素晴らしい反射神経で枕を避ける。
枕は体育館の屋根にベチーン! と当たった。
なごみ
「……さすがはお姫様」
エリカ
「なごみんもたいしたもんね、でも次は……」
ガラッ!
乙女
「お前達、何をやってるかーーっ!」
エリカ
「戦術的たいきゃーく!」
そう言った瞬間、姫が足で布団を
グイッと上に引っ張りあげる。
舞い上がった布団は一瞬姫の姿を視界から消し…。
布団がバサッ! と地面に落ちた時には
姫は既にいなかった。
レオ
「……」
なごみ  無音
「……」
俺達はポカーンと立っているだけだった。
乙女
「布団がこんなに散らかって……お前達全員正座」
乙女
「ただし佐藤だけは許す。どう見ても
被害者っぽいからな」
………………
きぬ
「……ぬあああああ、足が痺れる!」
乙女
「弱音を吐くな、椰子を見ろ。1年生なのに
ピシッ! と正座しているぞ」
レオ
「……?」
耳を澄ませてみる。
なごみ
「スースー」
寝てるだけじゃん。
こいつも器用なやつだな。
良美
「まだ皆正座してるのかな」
エリカ
「みたいね。じゃ私は竜宮(生徒会室)で寝るから」
良美
「やっぱり皆と一緒だと寝られないんだね」
エリカ
「……よっぴーも来る?」
良美
「うん。私もエリーと一緒に行きたいけど……」
良美
「私はこっちで大丈夫だから。2人とも
消えちゃうと鉄先輩心配しちゃうよ」
エリカ
「それもそうね」
エリカ
「それじゃ、おやすみよっぴー」
良美
「おやすみ、エリー……」
………………
レオ
「こんな感じで、合宿1日目の夜は過ぎていった」
乙女
「何をわけのわからん事を言っている」
レオ
「痛っっっっっ!!!」
新一
「……あれ? 気がつけば夜が明けてるじゃん!」
レオ
「フカヒレ起きたか? 近くの銭湯に行くってさ」
レオ
「風邪ひかないように制服を着させた俺に感謝しろ」
………………
「さっぱりした所で仕事再開ですわね」
スバル
「やれやれ、結局便利に使われるだけかい」
新一
「なぁ昨晩は皆で何してたんだ」
レオ
「ひ・み・つ」
新一
「なんか腹立つ言い方するね」
レオ
「椰子。昨日はお互い(正座で)疲れたな。
俺なんて今日動くのもしんどかったぞ」
なごみ
「あたしも少し疲れました。あの態勢(正座)
だと、寝ててもどうも体に負担がかかって」
なごみ
「お姫様はピンピンしてる……不公平」
椰子は文句を言いながら去っていった。
新一
「な、何してたんだよ昨晩! すっげぇ気になる!
気になって呼吸できねぇよ……ハァハァ」
レオ
「呼吸してるじゃん」
平蔵
「さて、そろそろ男達は校門前の清掃にかかるぞ
ピカピカにする気持ちでな、ピカピカに!」
レオ
「館長、これ時給でないの?」
平蔵
「何を生意気な事を言っておるヒヨッ子めが!
ボランティアの精神を磨け」
新一
「ぬあぁ、これマジ雑用係だ」
……………………
カッ! と太陽が照りつける。
レオ
「だぁーっ! 腹が減った! 喉も渇いた!」
レオ
「休憩入りまーす」
平蔵
「根性無いのぉ。男気が足らないんじゃないか」
館長はそう言いながら、学校の外回りの
壁をゴシゴシと綺麗にしていた。
おそるべき作業スピード。
なにが脅威かって、路上駐車していたトラックを
邪魔だからって片手で道路わきにどけたのだ。
あんな超人と一緒にされてたまるか。
どっか木陰に……。
ん、何かプールの方が騒がしいぞ。
水泳部の連中は今日は休みのはずだが。
レオ
「なにぃ!!」
良美
「あっ……つ……」
エリカ
「対馬クンだ」
きぬ
「よっしゃー! 次はボクのビート版を使った
妙技を見せてやる! ただ泳いだだけじゃ
飽きるもんね!」
レオ
「……あなた達、何してるの?」
エリカ
「休憩」
レオ
「なっ……男子が囚人のような扱いで汗水
垂らして働いてるのに、そんなんアリ?」
エリカ
「だって私達手早くノルマ済ませたもん
ね、よっぴー」
佐藤さんのスクール水着を見る。
良美
「う、うん……」
なんか、ぴっちり張り付いててHだな……。
エリカ
「よっぴーが対馬クンの視線に照れてるよ」
良美  無音
「……!」
レオ
「ち、違う」
そうだ、姫の水着を見て話さないと意味が無い。
エリカ
「対馬クン達もさっさと仕事終わらせて
くればいいのに」
レオ
「そうか。そうだよな終われば俺もこっちで遊べる」
エリカ
「そうすれば、もっと私の水着近くで見れるわよ」
レオ
「嬉しいけど、良くそういうの
恥ずかしげも無く言えるな」
エリカ
「逆に見せつけるぐらいの気持ちでいかないとね」
ここらへんがアメリカ人とのハーフっぽさだな。
俺も遊びにいけるよう陳情しなくては。
レオ
「館長! 女子がプールでリラックスしてます!」
新一
「え、マジで! 俺も行きてぇ!!」
平蔵
「まぁ良いではないか。女子供は水遊び。
男は黙って働け。それが竜鳴館クオリティだ」
レオ
「それは嫌すぎる」
平蔵
「だいたいお前ら義務を果たさないで
権利を主張しすぎだ」
平蔵
「それでも遊びたかったら、力づくだな
儂に指一本でも触れたら遊びに行ってもいいぞ」
新一
「ははっ、そんなの簡単じゃん! そーれタッチ」
ヒラリと回避されるフカヒレ。
平蔵
「どうした、さっきまでの余裕は。
そんな顔をせずに笑え鮫氷(さめすが)!」
平蔵
「戦意喪失したなら、星を見て来い!」
平蔵
「ヒュウッーー!」
新一
「うぉぉぉーっ、ありえないーーっ」
キラッ ☆ ←星になった演出
館長が軽く吹いた息にあたると、フカヒレは遥か
彼方に吹っ飛んでいった。
レオ
「真面目に仕事します……」
平蔵
「うむ、それがいい。なぁに、夜には
面白い趣向を用意しておる」
嫌な予感がした。
……………………
レオ
「……結局、今日も学校の雑事をこなしただけかよ」
全然楽しくねーぞこの合宿。
「まぁまぁ。そんな皆さんをねぎらう意味合いで
館長からお話があるそうですわよ」
平蔵
「うむ。お前達、体力が有り余ってそうだからな」
平蔵
「せっかくだから枕投げと言わず派手に遊べ派手に。
これを全員に配布する」
館長が1人1人に袋を手渡す。
レオ
「これ……銃?」
平蔵
「そしてこれが腕輪だ。それをはめろ」
きぬ
「うお、なんだこれ、カッケェぞ」
平蔵
「これぞ竜鳴館名物 飛闘決殺!
本来は弓矢を使うが、それを儂がアレンジした」
平蔵
「銃で撃ち合え。これなら男女互角だ
最後の1人になるまで潰しあえ」
平蔵
「この銃で撃たれると、腕輪が反応して
アウト(死亡)扱いになる」
平蔵
「弾は赤いプラズマ弾、みたいなもの。
当たっても衝撃はあるが痛くは無いし無害だ」
平蔵
「学校の外から出ても腕輪は鳴るし
無理やり外しても鳴る」
平蔵
「制限時間は2時間。生き残った者の勝利だ」
平蔵
「報酬はドラゴンチケット1枚やろう」
きぬ  無音
「!!」
レオ
「!!」
皆の目の色が変わった。
無理も無い、賞品が賞品だ。
“ドラゴンチケット!”
あらゆる例外がそのチケットを館長に
差し出す事で1回だけ認められる。
例えば、授業をサボりたい時、休んだ時などに
このドラゴンチケットを提出すれば出席扱いになる。
テストで赤点をとっても、一科目につき一枚で
赤点ギリギリの所まで引き上げてくれる。
優等生は有休に、劣等生は赤点対策にと憧れる
生唾ゴックンもののチケットなのだ。
それだけに希少価値は高く、めったな事では
入手できない。
平蔵
「今から2時間で生き残りが1人にならない
場合も全員ゲームオーバーだ」
なごみ
「生き残るのはただ1人……面白い」
きぬ
「今までに聞いたことも無い衝撃的な設定だぜ」
レオ
「そして優勝者にはドラゴンチケット!」
きぬ
「欲しいなんとしても!」
平蔵
「どうだ面白い遊びだろう」
乙女
「館長、これは遊びが過ぎるというか……」
平蔵
「鉄(くろがね)……これは腕力だけではない、
情報や、知恵、戦略がものをいう戦いになる
いい経験になると儂は思うぞ」
乙女
「なるほど授業の一環ですか。そう言う事であれば」
平蔵
「全員参加、という事でいいようだな」
レオ
「ドラゴンチケットは絶対欲しい」
きぬ
「赤点を免れるアイテムだからね」
新一
「真剣にやらせてもらうぜ」
スバル
「退屈だったし、いっちょやるか」
エリカ
「ま、面白そうだからね」
乙女
「やるからには負けん」
なごみ
「そんな便利なものなら、持っていて損はない」
良美
「え、あの、その……わ、私は……」
エリカ
「よっぴーもやりなよ。案外よっぴーみたいな
タイプが勝ち残るかもよ?」
エリカ
「ま、私が勝つけどね」
きぬ
「おいココナッツ」
なごみ
「なんだよカニ」
きぬ
「ボクは真っ先にココナッツを狩り殺す
首洗っておけ。白旗あげても撃つからな」
なごみ
「やってみろよ」
血気盛んな人達だ。
平蔵
「それでは各地、5分の間隔を置いて
好きな場所に散れ。
チャイムが鳴ったらスタートだ」
「私達はここで事の成り行きを見守ってますわ」
………………
夜の学校は、シーンと静まり返ってる。
人の気配がしない、というのも不気味だな。
皆はどこにいるんだろう。
レオ
「!」
はじまった……。
戦いのゴングだ。
好戦的な奴が多い執行部の連中だ。
おそらく、どこかで戦闘がはじまってるはず。
積極的に動くよりも、まず人数をふるいに
かけた方が得策だな。
しかし姫とは極力戦いたくない。
スバル
「姫が相手か! 本気でやらせてもらうぜ!」
エリカ
「覚悟してもらうわよ」
きぬ
「おら、死ねや! ココナッツ」
なごみ  共通
「ちぃっ」
蟹沢の放った弾丸を跳んで避ける椰子。
動体視力の良い蟹沢の射撃は精密であり、
逆に近眼である椰子にとって夜間戦闘は不利である。
きぬ
「なかなか素早いけど、そうそう
逃げられるもんじゃねぇ」
なごみ
「くっ」
椰子はしゃがみながら銃を連続発射した。
だがそれは所詮、牽制程度にしかならない。
蟹沢は余裕を持って回避する事が出来る。
きぬ
「どうやらまだ闇に目が慣れてないみたいだねぇ」
なごみ
「それを知ってて校庭に誘い込んだのか……」
きぬ
「当たり前だろ。おら往生しろや!」
精密に発射される銃弾。
なごみ
「ちぃっ、正面か!」
地面を転がるようにして回避する椰子。
きぬ
「なりふり構わず避けに来たか。似合いの姿だぜ!」
地面を転がってつく汚れより、敗北の
汚点の方が屈辱と判断した椰子の回避法だった。
椰子が0、5秒前までいた場所に
赤い光が着弾していく。
きぬ
「ひゃーはっはっはっ、踊れ踊れココナッツ」
遮蔽物のない校庭では盾にするものがない。
椰子なごみは蟹沢きぬを完全に侮っていた。
なごみ
「くそっ……」
転がりながら、校庭の石を拾うのを忘れない。
なごみ  共通
「ふっ!」
すかさず蟹沢に向けて投石する。
だが、梟のような視力をしている蟹沢は
必要最小限の動きでもってそれを避ける。
きぬ
「小細工か、小者がよ! 頭を打ち抜いてやるぜ!
ボクの勝ちだっ!」
撃ち出される弾丸。
――避けられない
なごみ
「ちぃっ、頭か?」
持っている銃を盾にして弾丸を防ぐ椰子。
本当に頭を狙ってきたので、防ぐ事が
できたのだ。
きぬ
「銃を盾にするとは、なかなか巧く防ぐけど
今度はどこ狙うか言わねーよ」
なごみ
「……こうなったら捨て身で一発……」
椰子も銃を構える。
捨て身で相撃ちを狙う作戦だ。
きぬ
「同時に撃ってもボクは避ける自信はあるもんね」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「これで1人減ったわけだ」
チャッ、と銃口を構える蟹沢。
――その時
乙女
「……目標、運動停止。狙撃開始」
ドドドドドド!!!
きぬ
「なにっ……」
上空から連射された弾丸が蟹沢めがけ飛んできた。
きぬ
「馬鹿な……ボクは絶対生き延びて!」
避けられない事を知った蟹沢が呆然とする。
きぬ
「ぐああっ!」
乙女が放った弾丸が蟹沢に命中した。
腕輪がビィー! と鳴り出す。
なごみ
「チィ、屋上からの狙撃か……っ」
暗がりに逃げ込む椰子。
乙女
「逃げたか……2人まとめて、と
思ったが椰子は意外と素早いな」
乙女
「まあ、目の悪い椰子はいつでも殺れる
俊敏な蟹沢を仕留めただけで良しとするか」
「蟹沢さんアウトですわね」
平蔵
「……もう少しやると思ったがな。ふがいないのー」
「フカヒレさんは行きませんの?」
新一
「学校の中ならここも有効でしょ」
平蔵
「なかなか狡(こす)いやつだな」
新一
「ついでに情報を買いたい。
よっぴーの場所を教えて」
さっ、と祈の袖の下に千円をねじ込む新一。
「腕輪の発信位置からして、よっぴーは
2−Cの教室にいますわね」
新一
「よし、弱いやつを倒して
強者が潰し合うのを待てば俺の勝ち!」
新一
「情報戦は俺の得意とするところだぜ!」
平蔵
「果たしてそう上手くいくかな?」
良美
「きょ、教室の中にいれば皆ここまではこないよね」
こつ、こつ、こつ……
良美
「あ、足音!?」
バッ! と口をつぐむ佐藤。
息を殺し、やり過ごすのを待つ。
こつ、こつ、こつ……
良美  無音
「(は、早く通り過ぎて……)」
こつ、こつ……
良美  無音
「(と、止まった? だ、誰!?
エリーか対馬君なら……)」
ガラッ!
新一
「悪い子はいねがぁー!」
良美
「わぁーーっ」
……………………
レオ
「待ち伏せしても誰も来ないな」
レオ
「……そろそろこっちから動くか」
レオ
「抜き足、差し足……」
エリカ
「あ」
レオ
「あ」
エリカ
「ようやく獲物発見」
レオ
「わ、ちょっと待ってよ姫」
レオ
「何故愛し合う者同士が戦う?」
エリカ
「や、私愛してないし」
レオ
「でも付き合ってるのに」
エリカ
「じゃあ私が10数えている間に
逃げ切れたら見逃してあげる」
レオ
「そんな悪役みたいなセリフはやめて」
エリカ
「さっきスバル君には逃げられちゃうし
一人も倒してないから欲求不満なのよね」
レオ
「どうせなら組もうよ」
エリカ
「何のメリットも見い出せないので却下」
ズギューーン!
レオ
「おわっち!」
慌てて右に避ける。
エリカ
「よく避けたわね、ま、そっちの方が
嬲り甲斐があるけどさ」
エリカ
「そらそらそらっ」
嬉々として撃ちこまれる弾丸。
レオ
「ぐっ!」
PK戦のキーパーのように横っ飛びで
何とか回避していく。
エリカ
「んー、なんか単調な動きね。ソレ飽きた」
エリカ
「消えてもらいましょうか」
くそ、なんて横暴な言い方なんだ。
乙女
「大物がかかったな」
姫の遥か後方の上空で何かが赤く光る。
あれは、屋上か!?
レオ
「姫、危ない後ろ!!」
エリカ
「後ろがどうしたって……」
降り注ぐ銃弾の雨。
エリカ
「……っと!」
いち早く危険を察知した姫は獣のような
俊敏さでそれを回避した。
乙女
「今のを回避できるとはな」
バッと飛び退きながら出来るだけ低姿勢で
反撃の態勢を取る姫。
エリカ
「屋上? あんな所から撃ってくるのは
乙女センパイね」
乙女
「第2射で仕留める」
レオ
「姫、こっちの暗がりに!
松笠公園ギリギリまで下がろう」
エリカ
「はいそこ、対馬クンごときが指示しない!」
エリカ
「とはいえ、ここからだと丸見えだから仕方ないか」
乙女
「チッ……射程距離外まで逃げたか」
エリカ
「っていうか対馬クン、このスキに私を攻撃すれば
良かったのに」
レオ
「そりゃ、勝ちたいけど
姫を倒してまで勝とうとは思わない」
エリカ
「フーン。じゃあ私の捨て駒になる?」
レオ
「捨て駒なんて言い方は悲しい。
姫なんだから、俺は騎士だろう」
エリカ  無音
「――」
ふっ、ちょっとキザだったかな。
エリカ
「くっ、あははははっ、ははは」
エリカ
「まず、やだ、ちょっと対馬クンったら」
バンバン! と肩を叩かれる。
エリカ
「あははははっ、いいねー、ソレ。真顔で
言ったところが最高。寒いの通り越して笑える」
レオ
「笑いをとろうとして言ったんじゃないんだけど」
エリカ
「くすくすくす……失礼。殺すには惜しい道化師
是非とも組みましょう」
エリカ
「乙女センパイには手を焼きそうだからね」
レオ
「……いいけど」
エリカ
「なぁに、もしかして馬鹿にされていじけてんの?」
レオ
「そ、そんなんじゃないやい」
エリカ
「ナイト……か」
じーっ
間近で見られる。
レオ
「な、何だよ」
エリカ
「あははは、ナイトって顔じゃないわよね!
あはははははははっ!!!」
笑い転げる姫。
……俺は忍耐強い人間なのかも知れない。
……………………
新一
「ねぇ、待ってよ、待ってったらぁ〜」
ひたひたひた。
良美
「わ、わーっ、わーっ、今の鮫氷君怖いよっ!」
新一
「やべ、無抵抗の人間追い回すのって楽しいかも」
新一
「この快感、やってみれば君にもわかる!
(↑やらないで下さい)」
新一
「そっちは行き止まりだよ、よっぴー」
良美
「はぁ、はぁ、はぁ……」
新一  無音
「……」
脱ぎ脱ぎ。
良美
「なっ、何で脱ぐのっ!?」
新一
「ん? 腕輪は外しちゃいけないが
服を脱いじゃいけないルールなんてないぜ」
良美
「社会のルールに抵触してるよぅ!」
新一  無音
「(まぁ、なんか怯えるよっぴーを見たら
さらに怯えさせたくなったと言うか)」
良美
「こ、来ないでぇ、う、う、撃っちゃうよぅ!」
新一
「可愛いなぁよっぴー」
ズキューン!
新一  共通
「……え?」
新一の腕輪が鳴り響く。
スバル
「弱い者いじめ、カッコ悪い」
新一
「お、おまっ、普通友達を撃つかぁ!?」
スバル
「今のオマエはただの犯罪者だ」
良美
「だ、伊達君!」
スバル
「危なかったな、よっぴー。
怖いものにやられるところだったな」
良美
「ありがとう……」
スバル
「さっきのよっぴー、手が震えてただろう。
そんなんじゃ撃っても当たらないぜ」
スバル
「もっとビシッと構えて撃たなきゃな」
良美
「え、こ、こう?」
ズギューーン!
ビィーーッ!
伊達の腕輪が鳴り響いた。
良美  共通
「あっ!」
スバル
「……いや、オレの目の前で実戦されても困る」
良美
「ご、ごめんね、伊達君っ……私そんなつもりじゃ」
スバル
「……ええんよ」
「予想通りフカヒレさんアウトですわね
伊達さんは驚きですけど」
平蔵
「鉄の勝ちかな、これは」
エリカ
「後何人ぐらい残ってるのかしらね」
レオ
「フカヒレはやられてるだろう、俺はそう信じてる」
ピンポンパーン
「いなくなったお友達を紹介しまーす
蟹沢さん、フカヒレさん、伊達さん」
げ、スバルまでやられたのか。
一体誰の仕業だ。
エリカ
「とにかく屋上へ。狙うは乙女センパイよ」
レオ
「だね」
………………
良美
「ふぅ……」
なごみ  無音
「!」
良美
「あ、椰子さ……」
なごみ
「点数稼ぎに丁度いい」
良美
「わーっ! 問答無用!?」
ドゥドゥドゥ!
良美
「あわ、あわ、あわ!!」
なごみ
「教室の中に逃げ込んだ……袋の鼠」
良美
「や、椰子さーん、き、聞こえるーっ!?」
なごみ
「……何ですか?」
良美
「わ、私、抵抗する気ないから、み、皆
殺気立って怖いよぅ」
良美
「だ、だから穏便に……。
じ、銃はそっちに投げて投降するから」
カラカラカラ……
銃が教室の中から放り投げられた。
なごみ
「自分の武器を捨てるとは卑屈な」
なごみ
「分かりました、優しく撃ちますんで
出てきてください」
良美  共通
「う、うん……」
良美  無音
「……」
なごみ
「そんなに怖がらないで下さいよ
別に命を獲ろうってわけじゃ……」
良美
「えい、スキあり」
ビキューン!
ヴィイー!!!
椰子の腕輪が鳴り響いた。
なごみ
「……え?」
良美
「じ、銃は2つ持ってるもん、いっこは
鮫氷君が落としたやつ拾ったんだ」
なごみ
「な、なっ……!」
良美
「や、やったやった! 作戦成功!」
……………………
レオ
「この先が屋上だけど突入しますかキャップ」
エリカ
「対馬クン、頭を使いなさい」
とんとん、と姫が自分の頭を指す。
エリカ
「出入り口は一箇所しかないわけでしょ。
こっちから屋上へ飛び込めば弾数が八百八町よ」
レオ
「良く分からないけど、それなら……」
エリカ
「屋上のトビラをノックするのよ」
エリカ
「几帳面な乙女さんは必ず調べにドアを開けるから
そこを階下からニ方向一斉射撃」
レオ
「なるほど、さすが姫」
エリカ
「ま、ちょっとフェアじゃないけど
あの人の存在自体がフェアじゃないからいいわね」
エリカ
「屋上なんて狙撃ポジションには有利だけど
敵に追い詰められるとどうしようもないんだから」
姫がアゴでクイッと指図する。
レオ
「やっぱ俺がノックするのね。ま、いいけど」
コンコン。
乙女  無音
「?」
コンコン。
乙女
「ふっ、誰か仕掛けてきたか。おおかた
姫辺りだろうが……面白い」
レオ
「ノック終了」
エリカ
「構えて。ドアが開いた瞬間に撃つわよ」
銃を構える。
さぁ、来い乙女さん。
………………
レオ
「来ないな」
エリカ
「警戒しているのかしらね。性格上
必ず調べに来るはずだけどな」
レオ
「……ひょっとすると乙女さんは……」
視線を屋上のトビラから外す。
そして、廊下の曲がり角を見たとき……。
レオ
「なっ、乙女さん!?」
乙女
「2対1か……丁度良いハンデだな」
エリカ
「屋上にいたんじゃなかったの?」
レオ
「多分、答えは驚くほど簡単――」
乙女
「屋上から飛び降りて、廊下に周りこんだんだ」
エリカ
「相変わらずデタラメな人ね」
乙女
「言っておくが、さすがに一気に下に
飛んだんじゃないぞ、最上階の教室の
ベランダに着地したんだ」
エリカ
「それでも同じ事よ」
姫が射撃する。
俺も一緒に撃つ。
乙女
「そんなものは……」
乙女さんが、横の教室側の壁に向かって跳んだ。
俺達の弾が、虚しく外れていく。
だが姫はすかさず乙女さんの動きに合わせて
弾を撃ち込んでいた。
それを察知した乙女さんは天井へ三角跳びし――
さらに、天井から窓側の壁へ跳びうつる。
エリカ
「これじゃ狙いがつけられない」
壁から壁へ凄まじい勢いで、跳弾のように
動く乙女さん。
近付けば巻き込まれそうなほど激しい。
エリカ
「ったく、せめて人間技で回避して欲しいわね」
姫が一気に後ろに下がったと思いきや。
姫がいた所に銃弾が打ち込まれていた。
レオ
「くっ、あの跳ね回ってる状態からでも
正確に撃ってくるのか」
エリカ
「この狭い廊下でやる不利ってことね」
レオ
「姫、撤退だ。屋上へ! ここは狩り場だ!」
夜の屋上にでる。
レオ
「ここなら、よし! だ」
エリカ
「ちっ、結局屋上に追い込まれているのはこっちか」
レオ
「でも、あのバウンドする動きは出来ない」
レオ
「ドアを開けて出てきたら撃とう」
2人で、ドアに照準をあわせる。
エリカ
「……いえ、対馬クン。狙うべきはドアじゃないわ」
エリカ
「屋上から飛び降りたって事は、登る事も
出来るはず、乙女センパイは外壁から来る」
そして、2人が外壁に銃を構えた瞬間。
バッ! とロケット花火が撃ちあがるような速度で
上空に何者かが飛翔した。
エリカ
「2度も同じ手は食わないわよ」
乙女
「読まれてたか! だが食らえ!!」
エリカ
「乙女センパイ! もらった!」
だめだ、姫。乙女さんはきっとあんな
アクロバティックな格好からでも精密に撃ってくる。
避けることができないぞ。
そう思った瞬間、俺は走り出していた、
上空の乙女さんに向かって姫が素早く連射する。
だが、乙女さんも当たる直前に姫めがけて
何発も連射した。
同時に発射され、交差する銃弾。
乙女
「ち、避けられん……」
エリカ
「ぐっ……」
上から降り注ぐ弾の雨。
姫は避けられないが――。
レオ
「姫っ」
俺は迷わず横っ飛びして姫の前に出た。
エリカ
「対馬クンっ……」
乙女
「何だと!」
ビィィィ−ッ!!
俺に何発もの弾が着弾する。
ズンッと衝撃はあるが、痛みは無い。
また、上空からもアラームが聞こえた。
レオ
「姫のアラームは!」
エリカ
「大丈夫、食らってないから」
乙女
「チィっ」
くるくると回転して着地する乙女さん。
乙女
「相撃ちといいたいが……私の負けだな」
乙女
「まさかレオを盾に使うとはな」
レオ
「それは違う、俺自ら盾になったんだ」
エリカ
「ナイス、対馬クン。偉いわ」
グッ! と手を握られる。
温かい体温が伝わった。
レオ
「ま、まぁね」
エリカ
「命令してないのに、盾になって
私を立てるその度量……うんうん」
ぽんぽん、と肩を叩かれる。
エリカ
「実際の銃弾が来ても、こうやって
守ってくれるかしら?」
レオ
「理屈じゃなくて、姫が危ないと思ったら
体が動いちまったんだ」
エリカ
「そっかそっか。よしよし」
姫はいたくご満悦だった。
ここまで喜んでくれると、体を張って
守った甲斐がある。
よし、また今度何かあったら絶対守るぞ!
……って何かこの考え洗脳されてる?
エリカ
「これで、このゲーム私の勝利ね」
カッ! と薔薇の花びらを散らせる姫。
エリカ
「ま、余興としては充分面白かったわ
最強が私であると証明されただけだけど」
ズキュゥーーーーーーーーーン!
レオ
「え?」
ドアの方から銃声。
ヴィイーー!!!
姫の腕輪が鳴る。
エリカ
「……あり? もしかして私のが鳴ってるの?」
良美
「あ、当たった、当たった」
良美
「やった、わーい!」
屋上の出入り口で天真爛漫に喜ぶ佐藤さん。
ガガッ、スピーカーが鳴り響く。
「それまでですわ。最後に生き残ったのは佐藤さん」
エリカ
「まさかよっぴー生き残ってたの」
良美
「うん、あー怖かったぁ、やっと終わったよぅ」
レオ
「……姫……」
エリカ
「強敵に勝利した気の緩み、その一瞬を
突くとはぬかったわね」
チッ、と舌を鳴らし、がっくりとうなだれる姫。
乙女
「私はこんなツメの甘いやつにやられたのか」
乙女
「まだまだ修行が足りないな」
同じくがっくりとうなだれる乙女さん……
その後ろで喜んでいる佐藤さん。
なかなか見れない面白い絵だった。
……姫も変な所でポカするよな。
エリカ
「対馬クン、やっぱ役立たず
汝、一度盾になれば二度目も盾に……」
レオ
「いや、そんな法典出されても。俺さっき撃たれて
死亡扱いだからゲームに干渉しちゃだめだし」
エリカ
「悪鬼羅刹となっても私を守らないと」
相変わらず無茶をおっしゃる。
………………
「皆さん、お疲れ様でした」
新一
「よっぴーが漁夫の利を得たって感じだよな」
「とんでもない。優勝者の佐藤さんは
3人を手にかけてますわ」
レオ
「……え」
この温厚な佐藤さんが3人も?
良美
「偶然だよ、こ、怖かったんだもん」
レオ
「そうだよね」
なごみ
「よく言う……」
「命中率は100%。無駄弾を一切使ってませんわ」
平蔵
「うむ。己の力量を冷静に分析したうえでの
鮮やかな殺り方であった」
レオ
「……佐藤さん?」
良美
「だ、だから偶然だよぅ」
なごみ
「やっぱり佐藤先輩は油断できません」
………………
平蔵
「さぁ、たっぷりはしゃいだんだ。
今日は騒がずに寝ろよ」
乙女
「私が監視してますので、大丈夫です」
良美
「昨日も思ったんだけど伊達君は?」
レオ
「皆と寝るの照れくさいから違う場所で寝るって」
レオ
「(本当は夜のバイトなんだけどね)」
「鮫氷さん、ちょっといいですか」
新一
「はいはいなんですか、祈センセ」
「一緒に寝ませんこと?」
新一
「え……?」
「グラウンドでお待ちしておりますわ」
新一  無音
「……!」
レオ
「おい、何やってんだフカヒレ。そろそろ寝るぞ」
新一
「くっくっく……あーーっはっはっはっ」
レオ
「なんだなんだ」
きぬ
「バカがとうとう壊れたか?」
新一
「いよいよ時代が俺に追いついたみたい」
レオ
「何言ってるか理解できないんだが」
新一
「フカヒレ、フカヒレとカスどもに食品扱いされて
幾星霜。耐え難きを耐え巡ってきました漢道。
いよいよ大人への船出でございます」
新一
「レオ……」
レオ
「何、その慈しむ目は?」
新一
「例えお前が報われぬ恋のまま月日を重ねて
魔法使いになったとしても……」
新一
「俺達ずっと……相棒だからな」
エリカ
「はいはい、変な人は放っておいて
そろそろ電気消すわよ」
新一
「……ふーん」
エリカ
「何人の事ジロジロ見てるのよ?」
新一
「姫もこうやって見るとまだまだガキだと
思ってね。あーはっはっはっはっ!!」
エリカ
「はぁ? 何言ってるの」
きぬ
「時々変になるが、これは磨きがかかってんね」
新一
「それじゃレオさよなら。時代は年上だよチミィ」
フカヒレは高笑いしながら去っていった。
エリカ
「ま、いいや。電気消すわよ」
レオ
「あれ、怒ってないの?」
エリカ
「なんか可哀想になっちゃってね」
こんな風に見られてるぞ、いいのかフカヒレ。
新一
「祈センセーッ! どこですかー」
平蔵
「おお、来たな鮫氷」
新一
「あれ、館長がなんでここに……まさか?」
平蔵
「今日のお前の振る舞いは漢とは言えないのでな。
儂が一晩、侠についてとくと語ってやろう」
新一
「こ、この騙まし討ちみたいな呼び方も
男らしくねーっすよ!」
平蔵
「さぁ、館長室へ行くぞ! 性根を叩き直して
一晩でお前を漢(おとこ)らしい性格にしてやる」
新一
「ちくしょう……ちきしょおおおーーーっ!!
俺の魂は絶対に屈さないぞ」
………………
電気が消されて、はや30分。
うーむ、寝れない。
よく考えればフカヒレは帰ってこないし
スバルはバイト行っていないし。
実質、ここにいる男って俺だけじゃん。
きぬ
「Zzz……ココナッツぅ〜……」
なごみ
「……潰す……Zzz」
この2人夢の中でも喧嘩してるのかよ。
エリカ  無音
「……」
ん? 姫?
体育館から出て行ってしまった。
……トイレだろうか。
なにぶん気まぐれな人だからな。
ちょっと俺も外に出てみよう。
……ふぅ。
外はちょっと湿度が高いのかムシムシしてるな。
エリカ
「あれ、何で出てきたの対馬クン」
レオ
「なかなか寝れなくて。姫は?」
エリカ
「私は生徒会室で寝るから」
レオ
「ん? 何でわざわざそんな所で」
エリカ
「生徒会室は鍵がかかってるから、私しか
入れないとして……スバル君もどっか
違うところで寝てるんでしょ?」
あぁ、そういやそういう設定だった。
レオ
「そうだね、屋上かな?」
エリカ
「スバル君もそうかもしれないけど、
私は他人の前では寝れないタイプなの」
レオ
「……それは寝相が悪いから?」
エリカ
「む、失礼な……これでもお嬢よ
寝相もいいし、いびきもかかないわよ」
レオ
「だったら何で」
エリカ
「対馬クンには関係無い、と言いたい所だけど
一応交際してるんだったわね。教えてあげる」
エリカ  無音
「……」
姫が空を見上げる。
俺も見る。
どれがどの星座かなんて良く分からないけど
綺麗な星空だった。
エリカ
「どこに敵がいるか分からないから」
エリカ
「寝るっていうのは本当に無防備な姿晒すでしょ?」
エリカ
「私は人前では、それをしないの
よっぴーの前では別だけど」
レオ
「そういえば、姫が寝てる姿って見たことないな」
エリカ
「まぁ習性みたいなものだから」
レオ
「用心深いんだね」
エリカ
「これくらいの心持ちでいかないとね
本当は後ろに立たれるのも嫌なんだけどね
そこまで反応してたら学校生活できないし」
レオ
「佐藤さんだとOKなんだ」
エリカ
「まぁね。よっぴーなら信頼してるし」
レオ
「それじゃ、いつか俺も安心して目の前で
昼寝ぐらいできるような男になってみせる」
エリカ
「……口だけってのも嫌いなんだけど」
レオ
「口だけにはしないよ」
エリカ
「ま、頑張りなさい」
レオ
「姫」
エリカ  共通
「ん?」
レオ
「……おやすみ」
エリカ
「はい、おやすみ」
そう言うと姫は竜宮(生徒会室)へと向かった。
小さくなっていく後ろ姿。
やっぱりあの人、基本的に人を信用してないな。
俺も彼氏なんだから、もう少し頑張らないと。
とはいえ、一緒に生徒会室に行くとか言ったら
いきなり交際を断絶されそうだし。
難しいぜ。
レオ
「で、朝飯はここになるのね」
きぬ
「フカヒレ、おめー昨日どこ行ってんだ」
新一
「気にするなっ、漢ってのはちっぽけな
事は気にしないもんだぁ! がっはっは!」
きぬ
「いやボク、漢じゃなくて今どきのレディーだけど」
カニがとことことやって来る。
きぬ
「アイツ染まりやすいヤツだけど今度は
何に影響受けたんだろーね」
レオ
「知らん。捨て置け」
新一
「おはよう! 椰子」
なごみ
「……はぁ?」
新一
「んー、だめだな。年下は元気に挨拶しなくちゃな」
汚いものを見る視線で射抜く椰子。
フカヒレは気にせず椰子の背中をバンッと叩く。
なごみ
「暑っ苦しい……なんなんですかあれ」
レオ
「だから俺に言われても」
新一
「乙女さん、コンチャーーーーッス」
乙女
「おはよう。いい挨拶だな鮫氷」
あ、体育会系は気にいっちゃった。
……………………
平蔵
「皆、合宿はここまでとなる! ご苦労であった」
新一
「オス! ありがとうございました! オス!」
新一
「館長! この後も漢について教えて下さい!」
変な影響は館長のせいか。
乙女
「よし、私は部活に合流するぞ」
スバル
「オレも。練習もしなくちゃな」
なごみ
「ようやく解放される」
椰子はさっさと帰ってしまった。
きぬ
「ボクはバイト行かなきゃ」
エリカ
「あ、よっぴー、少し書類整理手伝ってくれない」
良美
「ごめん。話したと思うけど私今日用事が……」
エリカ
「忘れてた。じゃあ対馬クン手伝って」
レオ
「はいよ」
……………………
結局、生徒会室に残ったのは俺と姫だけだった。
もう陽も暮れる。
エリカ
「これでよし、と。体育委員会の動きが鈍い分の
フォローは全部終わったわね」
レオ
「しかし災難だね、体育委員長が風邪とは」
エリカ
「全く、体調管理も仕事の一環なのにね−」
レオ
「はい、お茶」
エリカ
「ん、気が効くわね」
レオ
「……ここって夕陽綺麗に見えるよね」
エリカ
「そうね。生徒会長の特権かしら」
エリカ
「時々、授業をサボってここでボーッと
海を見てるのも結構リラックスできるわよ」
レオ
「そうなんだよ、姫授業でなくても
余裕で1位キープだもんなー
正直この学校のレベルじゃないよね」
レオ
「なんでこの竜鳴館に来たの? 近いから?」
エリカ
「近いってのもあるわね」
エリカ
「あと、行事が多いから退屈しそうに
ないってのもあるわ」
エリカ
「でも、他におっきい理由が存在する」
レオ
「それは?」
エリカ
「例え自分が望んだ頂点に上っても、
孤独と人間不信に押し潰される人、いるじゃない」
エリカ
「私はそれは心が弱くて、元々王たる器じゃなかった
とも思ってる反面、他人事じゃないとも思ってる」
レオ
「?」
エリカ
「そこに、私が学校で竜鳴館を選んだわけがあるの」
レオ
「ごめん。言ってる意味が分からない」
エリカ
「鈍いわね。腹を割って話せる仲間を探しに来たのよ
個性的な人間揃いっていうココにね」
エリカ
「実際、ドンピシャだったわ。よっぴーに
出会えて、乙女センパイも見い出した」
エリカ
「あの人達には将来、私の側近として
キリヤで働かないかって話を出してるの
(乙女センパイは私のボディーガードね)」
エリカ
「対馬クンも、もうすぐスカウトするかも」
レオ
「スケールの大きい話だね」
エリカ
「狙ってるスケールが大きいからね」
レオ
「でも、そういうのって一番レベル高い所に
はいっておけば、将来有望なやつらばっかりだから
各界にコネが出来ると思うけど」
エリカ
「そんなものはパーティーとかで充分。
私が欲しいのはコネではなく頼もしい仲間」
エリカ
「とにかく、自分がどこまで行けるか
試してみたいのよね」
沈み行く太陽の方に腕を伸ばし、グッと
手を握る姫。
レオ
「……その歳でそんな事を言っている人は
珍しいと思うよ」
エリカ
「対馬クンはないの、そーいうの」
レオ
「俺には……ないかも」
レオ
「将来、絶対これになりたい! とかいう
職業も決まってないし」
レオ
「病気せずに日々を幸せに送れたら
それでいいかな、と思う」
レオ
「やっぱ変かな?」
エリカ
「ううん、その考え方重要だと思う
というか絶対必要」
エリカ
「そういう凡夫達を生かさず殺さず
お金を搾取するのが私の目標だから
ピラミッドは底の方がしっかりしてないとね」
レオ
「……本当、味のある性格だこと」
エリカ
「〜♪」
レオ
「その野心は立派だけど、心配だよ」
エリカ  無音
「?」
レオ
「いや姫、変な所でアホだから」
レオ
「頭が良くてもやっぱり心配」
エリカ
「むかつくわね、アホとはなによ
学力試験で上位掲示板にも名前連ねない男が」
レオ
「勉強できるのとアホとは根本的に違うさ」
エリカ
「今回はやけに口応えするわね」
レオ
「姫は真面目に将来の夢を語った。だから俺も
真面目に応えようって」
エリカ
「なるほど。で、まだ何か言いたい事あるの?」
レオ
「偉ぶってても、結局は人を利用しきれない
非情になれない所がある気がする」
レオ
「そこも心配だ」
エリカ
「……へぇ、そりゃ聞き捨てなら無いかな。
私にとっては大抵の人間は全て手駒だけど」
エリカ
「当然、対馬クンもね」
レオ
「でも、俺は手駒扱いされてるワケじゃなくて
楽しくやってるつもりだけど」
エリカ
「何勘違いしてんのよ。ただの手駒なんだから」
ふふん、と笑う姫。
レオ
「だいたい本当に手駒に扱う人は、本人を前に
手駒とか言わないんじゃないの」
エリカ  無音
「!」
レオ
「今の姫は手駒を扱う事に憧れてる人って感じかな」
エリカ
「……ぷっちーん」
レオ
「?」
エリカ
「耳貸してみ?」
クイクイと指でおいでおいでする姫。
言われた通り耳を貸す。
エリカ
「あのね」
顔が接近してドキドキした。
エリカ
「何を偉そうに言ってんのこのバカッ!」
レオ
「あぐっ」
レオ
「み、耳がっ、耳が痛いっ!!」
エリカ
「分かった風に口聞いてくれちゃって
今のは頭きた、ほんと頭きた」
エリカ
「手駒って言ったら手駒なのよ対馬クンごとき!!」
ひ、姫がヒステリックになられた。
エリカ
「対馬クンを色々利用したいだけ」
レオ
「だから、俺を何に利用するってのさ」
エリカ
「あー、そこまで言うならやってあげるわ。
本当はコレどーよ? と思ってたけど
おかげでふっきれました」
レオ
「な、なんだなんだ?」
姫がグイッと近付いてくる。
エリカ
「手駒って事を思い知らせてあげる。上着脱いで!」
レオ
「?」
よく分からないけど逆らったら
殴られそうな剣幕なので、それに従う。
これもまた惚れた弱みだ。
レオ
「上着脱いだけど」
エリカ
「シャツのボタンを緩めて」
レオ
「……?」
まぁそれくらいなら。
レオ
「ゆるめた」
エリカ
「じゃあズボン脱いで」
レオ
「は、俺が脱ぐの?」
エリカ
「私はズボンなんて履いてないし。ほら早く!」
バン! と机を叩く。
おいおい、何か話がおかしくないか。
だいたいそんなスゴんだところで
俺が従うわけないっての。
カチャカチャ。
レオ
「ぬ、脱いだけど……」
無意識に従ってしまっている!
だ、だがこれぐらいは別に……
水泳の授業だってある意味パンツ一丁だし。
エリカ
「ほら、さっさとソレも脱ぐ」
レオ
「脱ぐって、コレ?」
トランクスを指差す。
エリカ
「そうソレ。ほらハリーハリー!」
レオ
「いや、見えちゃうじゃん!」
エリカ
「それが目的だもん」
レオ
「ゆ、夕暮れ時の生徒会室で俺が裸に
なってどうするってんだ!?」
エリカ
「保健体育の実習に決まってるでしょう」
レオ
「決まってるの?」
エリカ
「いつまでも処女ってのもかっこ悪いからね。
とはいえ、そこらへんのゴミに誇りある
この体を抱かせるなんて真っ平ゴメン」
エリカ
「ってわけで、せめて色々システムを
勉強させてもらうわ」
レオ
「……じゃ、じゃあ姫も……脱ぐの?」
エリカ
「私は脱がないわよ、対馬クンが脱ぐの」
レオ
「何その不条理」
レオ
「それに処女でカッコ悪いなんて発言
姫らしくないよ」
エリカ
「男子で童貞って嫌じゃないの?」
レオ
「そりゃあかなり嫌だ」
エリカ
「それと似たようなもんよ」
レオ
「だからって姫がそんな軽率なマネを!」
エリカ
「しないわよ、私が一方的に調べて終わり」
レオ
「いや、それもどうなんだ……」
エリカ
「だから利用してるって言ってるでしょう?」
レオ
「それを俺が……」
お姫様の好奇心を満たす道具というわけか。
エリカ
「滅多にないわよこんなチャンス」
レオ
「そ、そんなHなこと」
エリカ
「正直興味あるもん。見たことないし」
エリカ
「言っておくけど、命令に背くなら首チョンパよ」
レオ
「マジでか!」
エリカ
「彼女のお願いを聞けない彼氏はねぇ」
レオ
「こんな時に交際を持ち出すとは」
エリカ
「当たり前じゃない」
ぬあーー! 何だこの我がままの王様は。
エリカ
「それとも、見せられないわけがあるとか」
レオ
「ぬ?」
エリカ
「対馬クンの器量みたく、小さいのかな」
レオ
「失礼な、そんな、ち、ちっぽけじゃない」
エリカ
「ふふ、証明してみせてよ」
レオ
「く……」
やるのか。
いくらお姫さまの命令だからってそれは。
レオ
「他言無用だぞ」
エリカ
「それはこっちのセリフ」
2人の秘密か。
それならいいか……。
レオ
「……分かった」
生徒会室の鍵をガチャリと閉める。
姫と2人きりの密室になったと思うと
急にやる気がわいてきた。
レオ
「驚くなよ!」
トランクスを一気に脱ぐ。
エリカ  無音
「……!」
……ぐ。
脱いでから少し後悔。
何やってんだ、この夕暮れの生徒会室で。
エリカ
「それじゃ、じっくり見ちゃうわよ」
レオ
「姫ってHだ」
エリカ
「女の子だってHなとこ結構あるの」
エリカ
「……どれ」
姫にじっと見られる。
エリカ
「ふ……ふーん」
うわ、すげー恥ずかしい。
エリカ
「へぇぇ……こうなってるんだ」
でも反面ゾクゾクする何かがある。
……違う、俺は変態じゃない。
エリカ
「なんか小さくて可愛いかも」
レオ
「ぐっ!」
鋭利なナイフでざっくり刺された感じ。
レオ
「これは、違う。平常時なんだ」
エリカ
「じゃあ、緊急時にしてみてよ」
レオ
「緊張して無理なんだよ」
エリカ
「この私が目の前にいるのに?」
レオ
「当たり前だ、いくら何でもそのまんまじゃ
逆に緊張だけしかしない」
エリカ
「んー」
エリカ
「これじゃあんまり意味が無いっていうか」
エリカ
「ま、いっか……減るもんじゃないしこれぐらいは」
そういうと、姫は自分のセーラー服を
ゆっくりとたくしあげた。
レオ
「ぬっ……?」
雪のような白い素肌がどんどん露になっていく。
レオ
「ちょ、ちょっと姫?」
焦りながらしっかり見ている俺。
腹筋が鍛えられ締まっており、
腰にかけてのくびれが美しい。
エリカ
「どういう変化があるかしらね」
姫が綺麗なデザインをしているシルクの
ブラジャーをすっと外す。
エリカ
「大サービスなんだからね」
ぷるんっ。
姫のふくらみが、弾ける。
レオ
「っ!!」
エリカ
「感謝しなさいよ、男でこれ拝むの
対馬クンがはじめてなんだからね」
瑞々しく揺れる双乳。
それを見ただけで充分だった。
ドクン、と心臓が高鳴る。
♂ ジャキーン!
エリカ
「え”……っ」
あっという間に勃起してしまった。
エリカ
「こ、効果テキメンなのね。まぁ当たり前か」
エリカ
「凄い……」
ペニスをすっ、と握る姫。
エリカ
「先っぽ、赤々としてるね」
柔らかい指が、くいっとペニスに絡みつく。
エリカ
「熱い……」
レオ
「……っ」
姫の手に包み込まれた俺のペニス。
戸惑うように、ビクンと脈打っている。
エリカ
「痛かったら言ってね、別に痛めつけるのが
目的じゃないから」
レオ
「……姫は平気なの?」
エリカ
「そうね、別に握るぐらいなら……」
そう言いながらスッと指を動かす。
エリカ
「ドクドク脈打ってる……」
ペニスの形状を指で記憶するかのように
様々な所を軽く触れてくる。
エリカ
「まだ固くなってる。ねぇ……
これどこまで大きくなるの?」
レオ
「分からないけど、もう少しいけると思う」
張りのある突き出した乳に、
引き寄せられるように手を伸ばす。
エリカ
「いっとくけど私の胸は触らせないから」
パシッと伸ばした手をはたかれてしまった。
レオ
「痛っ……」
エリカ
「対馬クンは見てるだけー」
くす、と笑い上半身を揺らす姫。
男は誰も触れた事もないという、剥き出しの
美乳が挑発的に揺れている。
レオ
「ず、ずるい」
エリカ
「その分、こっちを触ってあげてるでしょう」
姫の指が、ペニスをにぎにぎと刺激しながら
上下運動を繰り返している。
レオ
「ん……」
刺激される度に、背筋がゾクゾクする。
エリカ
「この先っぽが気持ちいいんだ?」
レオ
「く……ぁ」
まず、姫が悪ノリしてきた。
話題を逸らさないと。
レオ
「……本当に綺麗だ、姫の胸」
エリカ
「まぁね。大きさではよっぴーや
なごみんに負けてるケド」
レオ
「サイズ……いくつ?」
エリカ
「84」
レオ
「そっか。おっきけりゃいいってもんじゃないと
思う。姫のは……本当に綺麗だ」
そのふくらみの頂点には、ピンクの色の突起が
可愛くついている。
エリカ
「ま、せっかくだからたっぷり見てて
いいわよ。私はこっちを……」
エリカ
「あれ……濡れてきてる?」
エリカ
「なんか透明なのが出てきたわよ」
レオ
「それ、精子じゃないよ」
エリカ
「先走りとかいうやつね」
レオ
「……詳しいね」
エリカ
「これぐらいは知ってると思うわよ普通
こんなミーハーな学校にいるならね」
姫がじっ、と尿道口を眺める。
エリカ
「ふふっ、対馬クンったら」
白い指がくいっと動かされる度に、
じわりと雫が滲んできた。
エリカ
「どんどん溢れてくるよ、エッチだねー」
俺の先走りは、既に姫の細い指先に
まで付着していた。
エリカ
「はい、産地直送です」
その指先が、俺の口の前にすっと差し出される。
エリカ
「自分のを舐めてみて」
レオ
「ひ、姫が舐めればいいじゃないか」
エリカ
「それはちょっとね」
エリカ
「ほら、早く舐めなさいよ。じゃないとこれで
終わりよ?」
そのセリフを聞いてそれは嫌だと思う
俺はムッツリスケベだろうか。
姫の人差し指を、おそるおそる口にいれた。
自分のを舐めるのは嫌だけど、姫の
指なら舐めたかったから。
レオ
「ん……ちゅ」
エリカ
「そうそう」
口内に侵入している人差し指を
唾液でぬめった舌で絡めとる。
エリカ
「なんか変なカンジ」
レオ
「ん……ちゅっ……ちゅ」
そして、自分のを舐める名目で
姫の指をむちゃくちゃに吸ってやった。
エリカ
「どう、自分の味は?」
引き抜かれた姫の指が、俺の
唾液でテカテカと輝いている。
レオ
「なんか、しょっぱいというか……苦いというか」
エリカ
「ふぅん。そんな味なんだ」
でも姫の指は、甘かった。
エリカ
「じゃ、続けるわよ」
調子が掴めてきたのか、姫の指の
動きはさらに早くなってきた。
エリカ
「気持ち良さそうね」
美しい指が、俺の先走りの汁や先ほどの
唾液で濡れている。
そのせいで、滑りがよくなっているんだ。
エリカ
「まだまだ溢れてくる……」
姫の体に自分の刻印をつけたみたいで
俺は勝手に浮かれてしまった。
レオ
「ん……ん」
男として傷ついているのに……
なんでだろう、その一方で俺はドキドキと
興奮している?
レオ
「くっ……ん……あ」
エリカ
「対馬クン可愛いー」
エリカ
「でも不思議ね、対馬クン相手だと
私いつもよりさらに大胆になってる」
エリカ
「相性ってのがいいかもね私達」
レオ
「ひ、姫……もう出ちゃうよ俺」
エリカ
「え、いわゆるイってしまうというやつ?」
レオ
「うん」
エリカ
「あれ。手だけって私凄くない?」
レオ
「い、いや。俺初めてだし、多分
いきなり好きな女の子に手でしごかれたら
誰だって……」
エリカ
「そっかぁ、じゃあ最後まで見せてね」
レオ
「ええっ!?」
エリカ
「せっかくここまでやったんだもん、ほら」
しゅっ、ずっ、しゅっ……。
レオ
「あ、うっ……」
乱暴な手の上下運動。
それなのに、自分でやるより格段に
気持ちが良い。
クセになってしまいそうだ。
レオ
「ぐっ、もうダメっ……」
我慢してきたものが、一気にあふれ出る。
ドクッ!!!
エリカ
「わぁっ!」
火山の噴火のごとく、放出される精液。
エリカ
「え、え、え?」
びゅっ……びゅっ……
姫の体に次々と着弾していく。
レオ
「はぁ……はぁ……はぁ」
しかも姫が慌てて指を動かすから、
姫の体の色んな部分にくっついていくのだ。
エリカ
「つ、対馬クンってば」
ぶっかけられた姫は顔を真っ赤にしていた。
エリカ
「よくもこんなに……!」
姫が抗議しようとした瞬間。
ビュッ……
エリカ
「わぅ……」
まだ残っていた精子が、カタマリとなって
姫の赤い唇にピチャッと命中した。
エリカ
「……ぁ」
エリカ
「こ、こんのバカーっ!」
レオ
「なんで俺がこうまで怒られる!?」
………………
エリカ
「くぅ〜、まさかこんな暴発するなんて」
姫が自分の体をティッシュで念入りに
拭いていた。
腕とかは俺に拭かせたけど、体は
自分で拭いているのだ。
エリカ
「対馬クンって出る量多いの?」
レオ
「分からないよ、それは」
エリカ
「対馬クンのあだ名はこれからエロスマンね」
レオ
「そもそもの発端を忘れてないか!?」
エリカ
「はい、あなたの子孫になり損ねた者達の墓標」
精液をふき取ったティッシュを俺に投げつける。
レオ
「姫もいちいち面白い事を言うね……」
エリカ
「これもこれも」
レオ
「そ、そうポイポイ投げないでくれ」
エリカ
「ティッシュはそっちで処分してね」
姫が自分の体に軽く香水をかける。
エリカ
「んー、これで家までごまかせるかな」
レオ
「大丈夫だって。そんなに匂わないよ」
エリカ
「すっきりした顔しちゃって」
レオ
「え、そ、そう」
エリカ
「対馬クンやんちゃ過ぎ」
レオ
「股間に言わないでくれ!」
エリカ
「くす……でも、面白かったわ
気が向いたらまたしてあげる」
レオ
「え」
ウィンクされた。
……………………
なんて思い出に残る合宿に
なっちまったんだろう。
レオ
「……やんちゃなのはどっちだ」
人の股間をまるでオモチャのように
もてあそんで……。
しかも自分の好奇心を満たしたいが為に。
くそっ……。
そんな横暴な姫が好きだ。
ピルルルルル
ん、メールだ。
レオ
「姫から? 何だろう」
“今日の事を思い出して自分でしてる?”
逆セクハラだよな、この人……。
お嬢様というよりオヤジだ。
きぬ
「よーやく今週末に体育武道祭だもんね
ボク暴れまわってやる」
レオ
「血気盛んだな」
どかっ!!
レオ
「痛っっっ」
後ろから衝撃が走る。
エリカ
「対馬クン、カニっちおはよう」
きぬ  共通
「ウィース」
レオ
「じ、自転車で轢かれるとは……
男性フェロモンを出しすぎたかもしれないな」
エリカ
「じゃあねー」
姫は颯爽と発進してしまった。
きぬ
「なんかオメーら仲良くなってねぇか?」
レオ
「今のでそう見えるのか?」
きぬ
「姫と付き合うには忍耐力とか、そーいう類のが
必要だってのは分かったかも」
レオ
「忍耐力はお前によって鍛えられたから問題無いね」
きぬ
「へへん、感謝しろよ」
しまった、馬鹿には皮肉が通じない。
……………………
なんだかんだで昼休み。
新一
「退屈な4時間がやっと終わったぜ」
レオ
「寝てただけじゃねーかよ」
新一
「血気盛んな年頃は、意味も無く愚息が
エレクトするから嫌だよな」
レオ
「同意を求めるな」
スバル
「つかオマエ、これからは侠(きょう)を
重視する漢になるんじゃなかったのか?」
新一
「やめたんだ。やっぱ熱血漢なんてはやらないよ
女の子にもてないんだもん」
レオ
「そういう不純な目的を根本に
持っているからアウトなんだと思う」
エリカ
「何してるの。お昼ごはん行くわよ」
レオ
「うん」
スバル
「……姫の後ろにくっついていっちまったな」
新一
「今の朝の生理現象みたいに自然な流れだったよね」
スバル
「逆にそっちの方があの2人はいいかもなぁ」
新一
「俺は断然、亭主関白派だけどさ」
新一
「さて、こっちもトトカルチョ第2回受け付けの
準備をしよっと。荒稼ぎするぞー」
……………………
エリカ
「明日はおそらく雨ねー。歩きはめんどいな」
レオ
「体育は体育館になるのかな」
良美
「な、なんかさ」
エリカ  無音
「?」
良美
「2人とも会話が割と自然だよね」
良美
「エリー、1週間で交際は
終わりそうとか言ってたのに……」
エリカ
「対馬クンが予想以上に愉快な人間でさー」
エリカ
「これが予想以上になかなか楽しいわけ」
良美
「そうなんだ……」
エリカ
「ま、だからといって気を許している
わけじゃないけどね」
エリカ
「所詮は手駒だし」
まだ根に持ってるな……。
レオ
「いいさ、気が付けば姫は俺に惚れてる」
エリカ
「それはありえないって、何調子乗ってんの」
良美
「で、でもそういう冗談言えるだけでも大進歩だよ」
良美
「トトカルチョやってる人も
ほとんど外れちゃったんじゃないのかなぁ」
エリカ
「トトカルチョの本命は体育武道祭かなー
カッコ悪い彼氏はいらないからねー
活躍してみせなさいよ」
レオ
「借り物競争で脚光を浴びるぜ」
エリカ
「そもそも、セレクトしている競技が
既にお笑い系っていうか」
エリカ
「ま、所詮そこらへんが分相応なのかもね」
レオ
「せめて笑いはとってやるからな」
良美
「対馬君って器量あるねぇ……」
乙女
「雨の日はジメジメしているから嫌だな」
レオ
「ただでさえ朝は憂鬱なのになー」
乙女さんが腰に手を当てて牛乳一気飲みしていた。
乙女
「ぷはっ……レオ、朝からそんな気分だから
一日に張りがなくなるんだ」
乙女
「今日も1日頑張るぞ! という心持ちでいけ」
バチーン! と背中を叩かれて気合を注入された。
体育会系って何でこんな元気なんだろう。
………………
5時間目の授業がはじまる。
レオ
「雨はやんだものの、グラウンドが
フカヒレの心みたいにぬかるんでるから
結局は体育館で授業……か」
体育教師もひどい事を言うぜ。
まぁ自習みたいなもんだからいいけど。
スバル
「さっきからあっちでウチの女子どもが揉めてるぜ」
レオ
「相手は……仇敵の2−Aだな。何やってんだ」
新一
「仲裁して男らしさをアピールしてくるぜ」
新一
「これ上手くいけば全員俺に惚れるぜーっ」
フカヒレは喜び勇んで駆け出していった。
A組女生徒
「だから、このコートは私達が先に
使ってるって言ってるでしょう?」
きぬ
「やんのかコラ、上等だ。てめェの頭ぁ……
潰れた“トマト”みてーにしてくれんゾ?」
A組女生徒
「だから何で、すぐそう殺伐とした方向に
行くのよ、だからC組は嫌いなのよ」
エリカ
「いいわよ、じゃあ頭脳の勝負でも」
A組女生徒
「くっ……、一対一じゃ正直姫には
勝てないけど、総合じゃこっちがブッチギリで
上なんだからね」
紀子
「くー!(そうだそうだ! 負けないぞ)」
きぬ
「なんだクー! やる気か」
A組女生徒
「そりゃ紀子も怒るわよ、一方的にそこをどけじゃ
誰だって納得しないでしょう」
エリカ
「それじゃ、やっぱり手っ取り早く武力行使で」
きぬ
「異議ナーシ」
新一
「待った」
新一
「君達、今の事情を私生活の秘密とか添えて
俺に話してごらん? 公平に、
第三者として審判してあげるよ」
A組女生徒
「邪魔しないで、ひっこんでてよ!」
新一
「ひぃっ! す、すいません!!」
紀子
「くー! くー!! くー!!!」
エリカ
「そのコなんて言ってるか分からないから
退場させなさいよ」
きぬ
「ボクに喧嘩売るなんて“不運”(ハードラック)と
“踊”(ダンス)っちまったみたいだね」
A組女生徒
「その人だって言ってる意味分かんないんだけど!」
良美
「ま、まぁまぁ。平和に解決しようよ
こんなことで喧嘩してもつまらないし」
エリカ
「でも、ちょっとお灸をすえてあげないと
気がすまないわね」
A組女生徒
「それはこっちのセリフ!」
エリカ
「じゃ、スポーツ関係の揉め事だから
スポーツで勝負しましょうか」
エリカ
「今週末の体育武道祭で私達、
丁度いい事に野球で対決する事に
なってるわよね」
エリカ
「それで雌雄を決しましょうか」
A組女生徒
「い、いいわよ。団体戦なんだし」
きぬ
「勝ったクラスに負けたクラスが食券200枚払う」
A組女生徒
「に、200!?」
エリカ
「それだけじゃ生温いわねー」
エリカ
「負けたクラスは、半年の間休み時間などで
遊ぶ場所がかぶった場合、勝ったクラスに
全面的に譲らなくてはいけない」
きぬ
「んー、それだけだと甘いな」
レオ
「っておい、あんた達自分が負けるという
可能性を考慮しないのか」
エリカ
「ピッチャーは私がやるんだからありえないって」
A組女生徒
「だ、男子を3人まで助っ人に入れられるの
知ってるでしょ! A組には野球部主砲の
丸狩君がいるのよ!」
エリカ
「へぇ、男頼みとは情けないわね」
A組女生徒
「ぐっ……」
エリカ
「正直、竜鳴館のレベルなら男子の野球部
エースクラスでも余裕で押さえる自信あるしー」
あはは、と姫は天真爛漫に笑う。
……この人また敵を作った気がする。
きぬ
「これでまた週末が楽しみになったねー」
スバル
「血気盛んな女の子達だねぇ」
レオ
「お前男子助っ人で出るんだから人事じゃないだろ」
エリカ
「おっと、殺伐とした空気になりすぎたわね」
エリカ
「雰囲気なおしに薔薇の香気を」
カッ! とお嬢様の栄光を示す姫。
A組女生徒
「ど、どうしよう!? いきなりバックに
薔薇の花を出現させられるような人の
球を打てるかな?」
紀子
「なせば、なる!」
紀子
「よーへー、くー!(洋平達も協力してくれるし
大丈夫だよ!)」
………………
エリカ
「今週末の体育武道祭だけど、私達は
合宿してノルマをきっちりこなしたから
各方面のヘルプにまわるって事でヨロ」
エリカ
「よっぴーとなごみん、カニっちは
体育委員会からのヘルプ要請が
来てるからそっち行ってもらえる?」
エリカ
「私は生徒会長として会議に顔を
出さなきゃいけないし……あ、
男子は外で元気にグラウンド整備ね」
スバル
「グラウンド整備か……タリーけど仕方ねぇわな」
レオ
「俺トイレ行ってから。お先にどうぞ」
さすが一大イベントが週末にあるだけあって、
どこも慌しそうだな。
カニと佐藤さんがなにやらパネルを運んでいた。
一応、皆働いているみたいだな。
レオ
「……俺も合流するか」
うぉ、人がいっぱいいるな。
さすが竜鳴館、お祭り前の団結力は凄いな。
これ俺が手伝う余地あるのか?
レオ
「手伝いに来たぞ」
洋平
「それはありがたいが、もう人数は足りてるぞ」
レオ
「あ、やっぱり?」
洋平
「器材も全て人が使ってるしな。他の部署の
ヘルプに行ってくれないか?」
レオ
「分かった」
洋平
「……まだ姫と続いているそうだな」
レオ
「はん、トトカルチョ外れてやんの」
洋平
「2回目は当てるさ。今週の金曜日に賭けている」
レオ
「それも外してやる」
洋平
「……姫と1週間以上続く秘訣は何だ?
やはり忍耐か?」
レオ
「んー、俺、姫がああいう人間だって
分かってて好きだから、忍耐ってほどじゃないぜ」
レオ
「ま、相手を立てるよう心がけてはいるけどな」
洋平
「なるほど、なかなか面白い意見だな」
きぬ
「こらーっ、レオー! くっちゃべってんなら
運搬手伝えよな!」
レオ
「あーはいはい」
洋平
「単に尻に敷かれやすい性格なのかも」
「グラウンド整備も問題無く進みましたわね」
平蔵
「明日も晴れるそうだし、体育武道祭の
心配はいらないな」
きぬ
「校門前の水撒きとは大任だもんね
どんどんぶっかけろー!」
きぬ
「ココナッツ早くこねーかなー
水びたしにすんのになー」
良美
「カニっち、人にホースを向けたらダメだってば」
きぬ
「激しくうるせーっ! 溶解液を食らえ」
良美
「わわっ!」
きぬ
「おい、チミが避けたら後ろの人に……」
エリカ
「で、ここの見積もりは――」
エリカ
「うわっぷ!」
きぬ
「おー、わりーわりー」
エリカ
「ちょっとカニっち! 私に向けてやるなんて
いい度胸しすぎじゃないの!?」
乙女
「こら蟹沢! お前人に放水してどうする」
きぬ
「んがふっ!」
乙女さんの鉄拳がカニの頭にめりこんだ。
エリカ
「あ、代わりに制裁しちゃった」
乙女
「放水されるとこんな気分になるんだぞ」
ブシューッ!
きぬ
「んぁーーっ! わ、わかった、タンマぁ!」
なごみ
「何やってんだバーカ」
きぬ
「ぬあーっ、バカにバカにされた!」
…………
エリカ
「うー、カニっちめ人類の宝である私に
冷水ぶっかけるなんて……」
良美
「私、エリーの代わりに会議に顔出してくるね」
佐藤さんが出て行って、2人きりになる俺達。
エリカ
「くしゅん!」
レオ
「大丈夫、姫?」
レオ
「今日は帰って寝たほうがいいよ」
エリカ
「問題なし。風邪って全然ひいたことないから」
レオ
「……心配だなぁ」
エリカ
「ふん、全然平気よ。その証拠を
見せてあげましょうか?」
カチャッ、と鍵をしめる姫。
エリカ
「この前の続きをしてみましょうか」
レオ
「……何の?」
エリカ
「わかってるくせに。顔が赤いわよ」
肘でウリウリ、とつつかれる。
またお嬢様の好奇心を満たす道具になるのか。
確かに気持ち良かったけど……。
レオ
「……姫もこの前みたいに脱ぐなら」
エリカ
「あはは、やっぱりむっつりスケベだ」
レオ
「姫に言われたくないね」
エリカ
「いいわよ、それぐらいはしないとね」
………………
また胸を見ただけで勃起してしまった。
エリカ
「実は心残りがあってさ」
レオ
「あれだけやっといて何を」
エリカ
「ここ、触ってなくて」
そう言うと姫は俺の袋をやんわりと揉みはじめた。
レオ
「……っく」
エリカ
「へぇ、力をいれたらほんとに潰せそうね」
レオ
「じょ、冗談でもやめてくれ」
エリカ
「そんなにびびらなくてもやらないってば」
片手で優しく袋を揉みながら、
もうひとつの手でペニスをしごいてくれる。
エリカ
「気持ち良さそうねー」
レオ
「これ、本当に気持ちよくって……」
すぐにでも昇りつめそうだ。
エリカ
「だいたい分かった。じゃ、ここまでね」
レオ
「えっ」
カチカチに勃起したペニスから手を離す姫。
レオ
「終わり?」
エリカ
「うん。もういいや」
レオ
「こんな生殺しの状態なんて勘弁してくれ」
エリカ
「嫌よ、気がすすまないもん」
エリカ
「それに飽きたしねー」
レオ
「く……」
エリカ
「ま、後はこの光景を記憶に刻み付けて
自分で何とかしたら?」
姫が自分の胸を、ぶるんっと挑発的に揺らしてから
たくしあげた制服を元に戻した。
レオ
「……姫」
エリカ  共通
「ん?」
俺はまだペニスを閉まっていない。
いや、ズボンにおさまるほど萎えてない。
レオ
「やっぱりこのままで終わりはあんまりだ」
ガシッ! と姫の白い腕を掴む。
エリカ
「ちょっと何?」
レオ
「俺は常に姫を立てるつもりでいるけど、
あんまり男を下に見てると痛い目にあうよ」
エリカ
「………へぇ」
エリカ
「それでこの後はどうするの?」
挑発的な瞳で見返してくる。
決して男に媚びる事の無い、綺麗な瞳。
この傲慢な女の子が愛しい。
その強さに憧れているからかもしれない。
思わず引き寄せられてしまう。
レオ
「姫……」
距離をさらに縮める。
エリカ  無音
「……」
姫が腕を解こうとしたが、グッ、と腕に
力をいれて押さえ込んだ。
唇をあわせようと顔を寄せる。
エリカ
「私を押し倒そうなんて無量大数年早い」
レオ
「え」
姫が一瞬で腕を振り解いた。
レオ
「なっ……」
しっかりと力をいれていたはずなのに。
エリカ
「やっぱりこの程度の力か」
スパァン!!!
とても景気のいい音がした。
それが、俺の下顎が蹴り上げられたものだと
知るには数秒かかった。
レオ
「……ぐ」
視界が揺らぐ。
不覚にも床に倒れてしまう。
エリカ
「ほら、立ってみなさいよ」
威圧的な声。
立たなければ……。
足に力をいれようとした瞬間、
顔に激痛が走った。
姫の足に思いきり踏みつけられていたのだ。
エリカ
「腕力も男にだって負けないわよ、私は。
さっきのキック見えなかったでしょ」
レオ
「な、なんで……そんなに強いんだ?」
エリカ
「結構鍛えてるから」
鍛えてるからって……全然そんな風に見えないぞ。
天性の力でここまでのものがあるのか。
神様はなんて不公平なんだ。
エリカ
「何うずくまってんのよ、上向きなさいな」
足でゴロッと上を向かされる。
レオ
「ぐ……はぁ……はぁ」
エリカ
「これは歯向かったペナルティ……
お情けで靴は脱いであげる」
レオ
「え?」
エリカ
「そら」
どすっ!
レオ
「げ……はっ」
腹にすさまじい衝撃が来た。
レオ
「ぐ……ごほっ、げほっ、ごほっ……!」
エリカ
「痛いでしょ、痛くしたからね。
でも乙女センパイのアバラ折りに
比べたら優しいものよ」
レオ
「く、そ……ぐ、ごほっ」
足に力を入れて立ち上がろうとする。
エリカ
「誰も立っていいとは言ってないでしょ」
顔を蹴られた。
エリカ
「対馬クンが私を好きにするなんて構図は
ありえないの」
エリカ
「分かりやすい構図で言えば、こんな感じかしらね」
ぐいっ
レオ
「痛っ……」
エリカ
「まだ萎えていないなんてエロスねー」
グリグリとペニスを踏みつけてくる。
レオ
「……う……」
エリカ
「んー、そうそう。この感じがいいわね」
エリカ
「対馬クン、もう2度と色香に惑い
私を押し倒さない事、分かった?」
レオ
「く……」
エリカ
「返事は!?」
レオ
「わ、分かった」
エリカ
「じゃ、交際関係続けてあげるわ」
エリカ
「ま、押し倒そうとした気概は認めてあげる。
ただ受けてるだけじゃつまらなかったからね」
エリカ
「よっぴーは私の親友だけど
対馬クンは私の手駒……つまり
私のモノなんだから慎ましくね」
エリカ
「ほら、何か言う事はないのかしら?」
俺は……
分かったよ……
もっと! もっと踏んで!
うるせー、黙れイタイ女め!
レオ
「わ、分かったってば」
エリカ
「いい返事ね」
レオ
「ただ1つだけ言わせてもらうと」
エリカ
「何かしら?」
レオ
「姫、パンツ丸見え」
エリカ  無音
「……」
エリカ
「このこのこのこのこのこのこの!!!」
レオ
「あ、ぐぁっ、あっ、あっ……」
痛くない程度の連続した刺激で、
俺は一気に射精へと導かれてしまった。
エリカ
「って何こんなんで出してるのよ!
別にサービスしてるんじゃないってば」
いや……これ特殊な環境下では
充分サービスだと思うけど。
痛くない程度に加減してくれてるし。
エリカ  共通
「……もしかして」
脚をグリッと動かす。
レオ
「うくっ……」
エリカ
「あ、やっぱりまだ残ってた」
変な所だけ学習していく!
エリカ
「ほらほら、何とか言いなさいよ」
レオ
「あ、ぐぁっ、あっ、あっ……」
痛くない程度の連続した刺激で、
俺は一気に射精へと導かれてしまった。
エリカ  共通
「って何こんなんで出してるのよ!
別にサービスしてるんじゃないってば」
レオ
「もっと、もっと踏んでくれ」
エリカ
「……はぁ?」
レオ
「目覚めそうだ」
エリカ
「……なんか冷めた」
レオ
「え?」
エリカ
「対馬クンが踏まれるのを望んでるのに
私が踏んじゃお仕置きにならないでしょう」
レオ
「そんな……!」
エリカ
「むしろ奉仕してるみたいで気分悪いわ」
エリカ
「だから、もうやってあげない」
姫はさっさと服を整えてしまった。
………お、俺もいくら何でもノリが良すぎるな。
気をつけようぜ。
俺も忍耐の限界だ。
頭に一気に血が昇った。
レオ
「う、うるせーっ!」
レオ
「姫にはもうついていけないぜ!」
エリカ  無音
「……」
ここまで言ってしまうと、勢いで
心にも無い事を口走ってしまう。
レオ
「現役の学生が屈服とか世界征服とか
言ってるの、実際は痛いだけだしさぁ」
レオ
「姫こそ、もっとこう慎ましく女の子らしく……」
エリカ
「……あーあ……」
レオ
「何があーあ、だよ、その人を見下ろした
態度もいい加減改め……」
エリカ
「残念! 対馬クン結構気に入ってたのに」
レオ
「……え?」
エリカ
「気に入ってた分、怒りは大きいわね」
レオ
「姫?」
エリカ
「ばいばーい」
ずぐっ!!
レオ
「あがあぁっ!!」
ペニスに凄まじい蹴りがくわえられた。
エリカ
「あれ潰れなかった。へぇ、結構丈夫なのね」
レオ
「痛っ……あ、痛いっ……」
エリカ
「惨め……こんなの気にいってたんだ私」
レオ
「な、何するんだ、や、やめてくれ」
エリカ
「何するって……踏み潰すのよ」
レオ
「そ、そんなことしたら事件だろ!
っていうか痛い! 痛い、痛い!!」
エリカ
「どうにでもなるわよ、そんなの」
レオ
「う……ま、まさか本当に?」
エリカ
「うん!」
天真爛漫に答えられた。
エリカ
「対馬クン気にいってたのに、
馬鹿にされたから」
ほ、本気で潰す気か……!
確かにキツク言ったかもしれないけど
何もそれだけで……!
体に力が入らない。
ほ、本当に潰されてしまう。
エリカ
「助かりたい?」
レオ
「え?」
エリカ
「助かりたいなら私の好きな猫のマネでも
してみなさい。私、猫には優しいから」
お、俺は……
誇りにかけてしない
猫になりきる
レオ
「そんなマネするかよっ!」
エリカ
「……お、いいわね。そうでないと」
姫が踏む力を緩めて、やんわりとした
刺激に切り替える。
途端に気持ちよくなり、俺は射精してしまった。
エリカ  共通
「って何こんなんで出してるのよ!
別にサービスしてるんじゃないってば」
呆れながら、服を整える姫。
エリカ
「それじゃ、今日はこれぐらいで許してあげる」
え、マジで?
なんて残酷な選択肢を……!
だが確かに、こ、ここは従った方が得だ。
レオ
「にゃ……にゃおーん」
レオ
「にゃんにゃん」
エリカ  無音
「……」
レオ
「ご、ごろにゃーん」
エリカ
「……気持ち悪い」
レオ
「な、や、約束が」
エリカ
「今あなたは人である尊厳を捨てたのよ」
エリカ
「そんなものとの約束なんて守るわけないじゃない」
極上の笑顔で言われた。
レオ
「ひ、姫……」
エリカ
「馴れ馴れしすぎたわね、おとなしく
従ってれば良かったのに」
姫が、最後の鉄槌を振るうべく脚を上げる。
エリカ
「逝ってらっしゃい」
レオ
「……逝ってきます」
ぶちゅっ……!
脳天を突き抜ける激痛の中、
俺の意識は急速に遠のいていった。
エリカ
「いい? 今日のこと良く反省しておくことね」
エリカ
「それと、ここの後始末もきっちりしておくこと」
レオ
「それは言われなくてもやるさ」
エリカ
「じゃ、また明日」
エリカ
「……っくしょん!」
………………
換気のため閉めていた窓を開ける
うーむ、自分で精液を処理するというのは
惨めなもんだなぁ。
ティッシュで痕跡を消す。
なんかこの瞬間ってミジメ。
レオ
「このティッシュもここのゴミ箱には捨てれないし」
また公園のゴミ箱にでも捨てておくか。
レオ
「はぁ……」
あの状況で射精するなんて俺は……
本当にマゾかもしれない。
姫はやっぱりいいなぁ……。
レオ
「はっ!」
いかんいかん、男子の尊厳を忘れるな!
粉々に打ち砕かれたけどさ。
まだ少しは残ってるんだし頑張ろうぜ。
レオ
「んー、いい天気」
上体をグッ、と反らせて青空を見上げる。
上空をヘリコプターが飛んでいた。
新一
「おい、あの美人の雪広アナまで校門前に来てるぞ」
スバル
「テレビ局も来るとはさすが地方名物、体育武道祭」
レオ
「騎馬戦で本当の馬を使えばそりゃ話題にもなるよ」
新一
「サインもらってこよーっと」
乙女
「今日は楽しくそして熱く盛り上がりたいものだな」
レオ
「乙女さん」
乙女
「……体育武道祭は東西南北の軍に分かれての
ポイント制で争われる」
乙女
「3−Aの私は2−Aと同じように東軍。
2−Cのお前は3−Cや1−Bと同じ
西軍。つまり東西で敵同士」
乙女
「競技でぶつかった場合は容赦しないからな」
レオ
「わかってるよ」
そうか……乙女さんとは敵同士か。
姫やスバルが味方なのは心強いけど。
ん、1−Bも西軍って事は椰子も味方か。
2−Aの村田洋平や西崎さんはモロ敵だな。
なかなか白熱した戦いになりそうだ。
良美
「対馬君、伊達君、おはようー。
2−Cの陣地はこっちだよ」
レオ
「佐藤さんおはよ。もうみんな揃ってる?」
良美
「うん。お祭り気分で士気も高いよ」
レオ
「あれ、何で皆静かなんだ?」
きぬ
「祈ちゃんが占ってる最中だぜ」
「……少し不吉ですわね……」
「病気、負傷、苦戦。そのような暗示が出てますわ」
「それでも、最終的には勝利と出てますけど
このような微弱な反応では……」
きぬ
「つまりボク達の頑張り次第ってこと?」
「ええ。皆さんなら勝てると信じてますわ」
「2−Cの力、存分に示してくださいな」
おー! と拳を上げる血気盛んな2−C集団。
真昼間から花火がドンドンと打ち上げられていく。
新一
「はんっ、きったねー花火だ」
レオ
「雪広アナにサインもらえなかったからって
すねるなよ」
レオ
「あれ、そういえば姫は?」
エリカ
「ここにいるわよー」
レオ
「なんか顔赤くない?」
良美
「そうなんだよね、今朝来た時から」
エリカ
「何ともないって……っくしゅんっ!」
エリカ
「ちょっと頭がボーッとしてくしゃみが
出るだけだから」
豆花
「だからそれは風邪ネ! 風邪は万病のもとネ」
真名
「あんま無理せんと休んどき」
エリカ
「ふふっ。これくらいが丁度いいハンデなのよ」
レオ
「あ、風邪でも薔薇が出る!」
エリカ
「でも、このけだるい感じが風邪なのかー
さすがにこれは味わいたくないわね」
エリカ
「ま、これも貴重な経験の1つ」
きぬ
「でもさ姫。なにもこんな時に風邪ひかなくてもさ」
エリカ
「誰のせいだと思ってるの。この、この!」
きぬ
「うぇっ!? ボク、ボクのせい?」
レオ
「お前も乙女さんによる冷水の制裁を食らったのに
ピンピンしてるよなぁ」
エリカ
「まさしく馬鹿は風邪ひかない、ね」
きぬ
「あはは、レオ何か言われてるぜ
ま、実際オメーは馬鹿だから仕方ないね」
……バカに馬鹿って言われた……。
……………………
かくして体育武道祭は厳かに開催された。
3年女子騎馬競争1位、鉄乙女。
乙女
「馬術なら自信がある」
馬と一緒に報道陣の前でポーズをとる乙女さん。
こうして体育祭は有名になって行くんだな……。
2年女子クラス対抗リレー、1位C組。
きぬ
「っしゃ! さすが姫。最後きっちり決めたぜ」
エリカ
「ま、余裕よね」
エリカ
「……っくしゅん!」
良美
「だ、大丈夫エリー?」
エリカ
「へ−き! 実際アンカーで2人抜いたでしょ」
1年女子、借り物競争。
レオ
「あ、椰子が走ってる」
きぬ
「ココナッツー! 同じ軍なんだから気合入れろ!」
なごみ
「ウザイなぁ……見にきてなかったら
この競技は目立つから絶対さぼってるのに……
あたしの紙には何て書いてあるんだ……?」
“上級生”
なごみ
「……最悪だ」
レオ
「おい、なんか椰子がこっち来たぞ」
良美
「何を探しているの椰子さん」
なごみ
「誰か1人、上級生を……」
きぬ
「よし!」
きぬ
「ボクが行ってやる!」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「せっかくだからトップとろーぜ!
ボクの走りについてこれるかな?」
なごみ  共通
「ふん」
レオ
「おぉー! あの2人足速ぇー!」
スバル
「先のやつら追い抜いて1位だぜ」
「ナイスファイトですわね」
2年男子、三人四脚。
新一
「三人四脚行くぞーっ!」
レオ
「そういやお前達がペアだったな」
スバル
「普通に行きゃ勝てる。リラックスして行こう」
新一
「今からは俺達の活躍がねっとり丹念に
いっぱい描かれるぜ!」
2年男子、三人四脚―対馬&伊達&鮫氷ペア1位。
新一
「すっげー、はしょられた気分!」
レオ
「ま、俺達3人揃えばかなり強いからな」
スバル
「オレとレオだけで無敵なんだがな」
新一
「それ減ってない? 俺が入った事で
強さ減ってない?」
スバル
「あん、なんだなんだオイあっちが騒がしいぞ」
……………………
レオ
「なにぃー! 野球に出場する男子2人が
三人四脚でケガをしたー!?」
イガグリ
「オイラ達、張り切りすぎて転んじまって……」
レオ
「で、その後わざわざ踏まれたってか」
さすが体育武道祭、血を見なきゃすまないと
言うのか。
「野球の代わりのメンバー2人の補充、
どうしましょうか?」
新一
「あ、じゃあ俺達で行きます」
レオ
「おい!」
新一
「馬鹿野郎! いいとこ見せるチャンスだぜ」
レオ
「うーん、野球ねぇ……」
俺達で大丈夫かなぁ。
レオ
「……姫の風邪といい不安材料多いな」
エリカ
「私は余裕だって。別に男子の助っ人なんて
ぶっちゃけ誰でもいいわよ」
エリカ  共通
「……っくしょん!」
レオ
「悪化しないか心配だ」
そうだ。明日、雨で延期になってくれれば――。
突き抜けるような晴天だった。
カラッとした暑さで、野球日和だ。
きぬ
「今日も頑張るぞ! 特に野球は勝っちゃうもんね」
レオ
「張り切ってるな」
きぬ
「必要以上に張り切るのが若者の仕事だろーが!」
レオ
「ま、こっちもやる以上頑張るけど」
体育武道祭、2日目。
エリカ
「対馬クン、おはよ」
レオ
「姫、失礼」
すっとオデコに手をやる。
恥ずかしい以上に心配だった。
レオ
「うわ、熱かなりある」
エリカ
「ぬかったわね。私としては
昨日の夜完治させるつもりだったのに」
「霧夜さん、とりあえず熱を抑える薬ですわ」
エリカ
「薬は嫌いなんです」
「体育祭には参加する、薬も飲まない、という
わけにはいきませんわよ」
「さぁさぁ、ずずいっと」
エリカ
「……しょうがないか」
グイッ、と飲み干す姫。
エリカ
「苦!」
「はい、水」
エリカ
「うー」
「さしものお姫様も風邪にはてこずりますわね」
背中をさすってあげる祈先生。
こうして体育武道祭の2日目が開催された。
エリカ
「あ、対馬クン。さっきの薬結構効いてるみたい」
徒競走で1位になった姫がピースしていた。
レオ
「本当だ、ピンピンしてる」
「それらしいのを調合しましたから」
レオ
「え、あれ祈先生が作ったの」
レオ
「それ大丈夫なんですか」
祈  無音
「……」
レオ
「え、先生! 今の顔何!」
新一
「スコアは今のところ4軍拮抗しているな……」
スバル
「やはり次の野球がネックか。気合入れるか」
エリカ
「……うーん……またボーッとしてきた」
エリカ
「なんか効きがいい分リバウンドが
ひどいっていうか」
「困りましたわ。さすがに薬で抑えるのも
限界ですか……また同じものを飲んだら
今度は危険ですしね」
良美
「だからエリーは休んでていいって」
真名
「ウチらに任しとき」
エリカ
「大丈夫だってこのぐらい
それにA組には負けられないでしょう」
レオ
「姫。味方を信頼するのも大将としての資質だぜ」
エリカ
「んー、そのセリフは結構響いてくるものが
あるわね……」
レオ
「そうそう、俺たちに任せておきな」
平蔵
「次のプログラム、クラス対抗の野球を開始するぞ」
スバル
「さぁ、もうはじまるみたいだぜ」
豆花
「姫は休んでてネ」
平蔵
「特別プログラムということで、気合を
入れてもらうため、特別に景品を用意した」
新一
「金か!? 女とのデート券か!?」
きぬ
「食いもんか!?」
物欲軍団が心を動かされる。
エリカ
「くっだらない。館長の景品なんてどうせ
ロクなもんじゃないでしょう」
平蔵
「その景品とは……儂が某国から直輸入した
芸術品。これだーーーっ! 驚けぃ!」
レオ
「……」
会場がシィーンと静まり返る。
スバル
「マジでロクなもんじゃなかったな」
新一
「むしろ俺としてはやる気が下がったんだが」
きぬ
「あれ……食えないよね」
レオ
「さすがのお前でもちょっと無理だな」
エリカ
「何、いったいどんな景品だったの?」
レオ
「アレだよアレ。笑っちゃうね」
エリカ
「……(トクン)……」
レオ
「……姫?」
エリカ
「やっぱりピッチャーは私がやるわ!
俄然やる気出てきた!」
エリカ
「なんとしても勝って!」
きぬ
「おうよ、A組のヤツラの誇りとか言うものを
粉々にしてやろうぜ!」
エリカ
「景品のアレを手にいれるのよ!」
きぬ
「は!?」
良美
「エリー、美的センスゼロだから……はぁ」
レオ
「本当に大丈夫?」
エリカ
「じゃあそこ座ってキャッチャーやってみて」
言われたとおり座る。
エリカ
「いくわよー」
姫がザッ! と構える。
やけに本格的なポーズだな。
こっちに投げる。
ごぉんっ!
放たれた矢のような剛球が俺に向かってきた。
ズバーーン!!!
きぬ
「うわ、スッゲ。ボクそこまで肩よくないよ」
レオ
「て、手が、手が痺れる」
快速球だった。
スバル
「女のコの投げる球じゃねぇな」
エリカ
「鍛えてるから」
エリカ
「さ、これで安心したでしょ。さっさと行くわよ」
レオ
「……」
エリカ
「そんな心配そうな顔しないの」
エリカ
「例えばね、大人になったら熱を出しても
会議があれば指導者として会社に出なくちゃ
いけない時とかあると思うのよ」
エリカ
「これはその訓練ってことで」
エリカ
「風邪に妨害されるような私の覇道ではないわ」
そんなにあのワケのわからんものが欲しいのか。
ちなみに心配してるのは姫の体も勿論だが
それ以上に俺の手だった。
なごみ  無音
「……」
乙女
「はじまるようだな」
なごみ
「お姫様は調子が悪いみたいですね」
乙女
「それがどうでるかだな」
平蔵
「両チーム、整列しろ!」
平蔵
「これより東軍、2−A 対 西軍2−Cの
死合いをはじめる」
洋平
「今週、こっちとそっちの女子の間で何か揉め事が
あったようだが……どちらにせよ勝たせてもらう」
スバル
「そういってオマエいつも負けてるよなぁ?」
A組女生徒
「勝つのは私達よ。あなた達なんかに負けない」
きぬ
「へっ、いい子ぶってるオメーらに負けるかよ」
平蔵
「お前達、これがスポーツの試合だと忘れるなよ」
平蔵
「礼!」
エリカ
「さ、こっちが後攻よ」
エリカ
「ほら、対馬クンはキャッチャー
スバル君はセンター。フカヒレ君はサードね」
仕方が無いか。
スバルの脚を殺すのはもったいないし、
フカヒレだと危なっかしいし。
かといって女子に姫の快速球を
捕らせるわけにはいかない。
ここは俺が受け止めるしかない。
衝撃に耐え切れるだろうか。
後攻のC組が守備に散っていく。
スバル
「姫、センター方面は任せてくれ」
きぬ
「ショートはボクがいるから完璧だね」
良美
「頑張ってセカンドを守るよ」
真名
「ライト来たら全てさばいたる」
皆頼もしいヤツラだな。
実際に右中間は完璧な気がした。
浦賀さんは褐色のスポーティー娘。
頭はからっぽだが、運動は大得意だから
ライトは問題ないだろう。
逆に左方向がとてもまずそうだな。
球は外角に集中させてなるべく正面ないし
右に飛ばさせるほうが有利と見た。
平蔵
「プレイボール」
館長が開始の合図とばかりに四股を
ドシン! と踏んだ。
大地がグラリと揺れる。
いちいちやる事がオーバーなんだよな。
だからマスコミも面白がるんだろうけど。
A組女生徒
「1番として頑張るっ!」
エリカ
「行っくわよー」
姫の第一投。
振りかぶって、投げる。
凄い球だった。
しかもバッターめがけて飛んできた。
A組女生徒
「うわぁっ!」
バッターが思わずしりもちをつく。
ボールは、丁度バッターの頭の上あたりの
位置を通過していった。
平蔵
「超! ボール!」
エリカ
「初球だからミスっちゃった。めんご」
きぬ
「あっはっはっビビッてる! 相手ビビッてるぜ!」
真名
「まぬけやなー」
2−Cのナインがどっと沸いた。
洋平
「く……あの無法クラスめ好きなことを」
紀子
「くぅーっ!」
平蔵
「次で危険球だぞ霧夜」
エリカ
「はーい、なるべく気をつけます」
全然反省してないし。
エリカ
「じゃあバッタバッタと行きましょうか」
ズドドドドドーン!!!
平蔵
「3アウト! チェーンジ!!」
新一
「なんだ、野球部でもかすりもしないじゃん」
洋平
「さすがにやるな……140キロは出ている」
洋平
「だがそれでいつまでも黙ってるほど
甘い野球部(ほんしょく)ではない」
1,2,3番を全て三振で仕留めた姫。
こっちは受け止める手がヒリヒリする。
これ続くかな、俺。
「ところで打順はどうしますの?」
きぬ
「さー来い! 木星より先の
火星までかっ飛ばしてやる!」
スバル
「既に打席に入ってるし」
良美
「しかも天体の順番を勝手に変えてるよね」
レオ
「バカだから間違えているだけっしょ」
西崎さんはサイドスローか。
A組女生徒
「ねぇ、紀子。せっかくだから……してくれない?」
紀子
「えー?」
A組女生徒
「気が進まないのは分かるけど、
私の仇と思ってお願い」
紀子
「……わかった」
平蔵
「プレイ!」
西崎さんがサイドスローでボールを投げる。
その球はカニの顔面近くに飛んできた。
さっきのお返しというわけだ。
きぬ
「イィィヤッホーーーーウ!」
カニはバットを縦に振り下ろすかのような
強引な打ち方で思いっきりボールを弾き返す。
紀子
「わー!!!」
ライナーで顔面に飛んできた球を
西崎さんが気合でキャッチしていた。
紀子
「はぁ……はぁ……はぁ」
きぬ
「ちっ、やるじゃんよ」
真名
「バットも投げてやりゃええんちゃう?」
きぬ
「あ、そっか」
過激なゲームになりそうでいやだ。
2番、浦賀真名。
――サードゴロ。
真名
「あかん、いい球投げよる」
レオ
「ドンマイドンマイ」
エリカ
「ボール球はふらないようにね」
きぬ
「コントロールいいね
コーナーを丁寧についてたぜ」
3番、伊達スバル。
周囲がザワつく。
さすが泣く子も黙る怖い男。
スバル
「いくらコントロールが良くたってな」
一球目、インハイのシュート。
スバル
「球そのものは遅いから打ちやすいぜ」
ジャストミート!
レフト方向に強烈なのが飛んでいく。
レオ
「お、こりゃ3塁打か?」
エリカ
「……いや」
相手のレフトが一番深くまで下がっていた。
スバルの飛球をしっかりとキャッチする。
平蔵
「スリーアウト、チェンジ!!」
乙女
「シフト……だな」
乙女
「伊達の打者としてのクセを把握し
レフトよりに守備を固めている。
また、外野が目いっぱいさがっていた」
乙女
「おそらく、ソフトか野球の授業の時に
伊達のスコアを見て分析しているのだろう」
なごみ
「勉強熱心なクラスの作戦らしいですね」
乙女
「西崎も丁寧なコントロール派だからな
これは投手戦か」
2回表、2−Aは4番村田洋平から。
洋平
「よし、打ってみせる!」
平蔵
「三振、バッターアウト!」
レオ
「あぁ? さっきなんか言ったか?」
洋平
「うるさい余裕ぶりやがって」
いや、こっちも手痛いし必死なんだよね。
洋平
「この僕が1クリックで三振とは……」
5番 西崎紀子
エリカ
「いっくわよー」
姫がふりかぶる。
そして、投げる瞬間――
エリカ
「は……くしゅんっ!」
ボールが手からポロッと離れた。
ここにきて、風邪が影響してしまったのだ。
エリカ
「あっ、しまっ……」
棒球がゆるーりと飛んでくる。
紀子
「くーーーーーーーー!!」
パッカーーーン!!
快音とともに、球は青空に伸びていく。
センターのスバルは追いかけるのをやめていた。
平蔵
「ホームラーン」
館長がはりきって腕をグルグル回す。
一気に歓声が湧き上がった。
洋平
「よし、よくやったぞ! 後でプリン
食わせてやろう! ラーメンもな!」
花火までがドン、ドドンと打ちあがる。
新一
「っていうかすっげぇパワーしてるなオイ」
洋平
「そうさ。西崎は美しい写真をもとめ
野山を駆け回って探索しているからな」
洋平
「体の鍛え方は並みではないぞ」
東1 対 西0
エリカ
「……やるじゃん。敵ながら見事」
俺はマウンドに駆け寄った。
レオ
「姫、今のすっぽ抜けだけど……」
エリカ
「ちょっと気を抜いちゃってね。
これからは真面目にやるから」
レオ
「ひょっとして怒ってる?」
エリカ
「当たり前でしょうが!
ホームランなんかブチかまされて
怒らない投手はいないわ」
エリカ
「しかも自分の失投だし」
エリカ
「でもやられっ放しじゃおかないわよ
もう2度と打たれないんだから!」
自分の頬を打って気合を入れている姫。
こりゃ代えるなんて言ったら怒られるな。
レオ
「分かった。じゃあ引き続き頑張って」
A組女生徒
「ここで一気に畳み掛けるのよ」
が、怒った姫の前にあっという間に
三振の山が築かれた。
A組女生徒
「何そのひどいはしょり方!」
2回裏、2−Cの攻撃。
4番、霧夜エリカ。
エリカ
「さーて一発ドカーンと行きますか」
エリカ
「体育委員会! 私がホームラン打ったら
用意しておいた薔薇のデラックス花火お願いねー」
スバル
「そんなものまで用意していたのかよ」
良美
「しかも自分がホームランを打つという前提で
作っているのが凄いと言うか呆れると言うか」
だが、キャッチャーがスクッと立ち上がり
――敬遠。
きぬ
「なんだそりゃ! テメェら必死だな!」
新一
「意気地無しー! ゴミヤロウが、アタマにくるぜ」
A組女生徒
「当たり前じゃない、負けられないのよ」
エリカ
「策としては正しいけど、セコいわね
いかにも凡夫の考えそうな事だわ」
紀子  無音
「……」
西崎さん自身も納得していない様子だった。
新一
「さて、それじゃあ真打ち登場といくか」
5番 鮫氷新一
内野と外野が極端な前進守備になった。
新一
「どういう意味だ! 失礼なやつらめ
見てろ、俺の意地と誇りをかけた一撃を」
キンッ!
キャッチャーフライだった。
きぬ
「たいした誇りだな、ああん?」
新一
「バットがいつも使うやつと違ったんだよ」
レオ
「何その小学生みたいな言い方」
良美
「じゃあ、つ、次は私が!」
レオ
「よしさらにその次は俺だ」
良美
「えっ、そ、それなら先にどうぞ」
レオ
「レディーファーストで」
姫の速球受けてるから手が痛いし。
といって助っ人の男が8〜9番ではバツが悪い。
6番佐藤良美。
洋平
「彼女もなにげに運動神経いいぞ気をつけろー!」
紀子
「くーっ!(任せときんしゃい!)」
良美
「7番が対馬君なら……えいっ!」
コン。
送りバントだった。
上手いとはいえないが、姫の足なら
送るのに充分だった。
良美
「エリー、走らせちゃってごめんねー」
エリカ
「問題ナシ」
ツーアウト2塁で俺かよ。
佐藤さん、プレッシャーを与えてくれるぜ。
きぬ
「燃えろレオ! 燃えろっー!」
良美  共通
「対馬君頑張ってー!」
「ファイトですわー!」
乙女
「私は敵軍だがら応援できないが……
椰子は声援を飛ばしてあげないのか?」
なごみ
「……冗談」
さて、どうしようかな。
一発狙いで
コンパクトに
よし、ここはハイリスクハイリターンで。
一発大きいのを打ってやる。
紀子
「くっ!」
初球、落ちるカーブ。
こんなもん打てないから振らんよ。
ストレートこい、ストレート。
二球目、インハイのストレート。
レオ
「来たぁ!」
振りぬく。
打球は外野の方まで飛んでいった。
乙女
「悪くないが逆風だ……惜しいな」
ライトが大きくさがって上手にキャッチした。
レオ
「く……ライトフライかよ」
野球はチームプレイ。
狙うは内野安打だ。
一球目を鋭く振りぬく。
キンッ!
洋平
「おっと!」
セカンドの村田がライナーを
ジャンプキャッチする。
だが球威に押されて球をこぼしてしまった。
記録はヒット。
姫は三塁止まりだった。
レオ
「くそーセンター前に抜けてたら一点入ったのにな」
新一
「レオが活躍するのは微妙な心境だな」
スバル
「いや、普通に応援してやれよ」
次の8番打者はあえなく凡退だった。
それにしても、打つと手に響くな。
これからの打席では、あまり手をださずに
西崎さんの球の分析に専念しよう。
姫の球を捕るのに専念した方がいいからな。
2回を終わり、1対0。
白熱した投手戦が続く。
姫はその快速球で三振の山を築いていた。
一部の実力者達に時々いい当たりをもらうが。
洋平
「それっ!」
ガキィィィーーーーーーン!!!
エリカ
「……ちっ!」
打球はセンター方向にかっ飛んで行った。
なごみ
「……ホームラン?…いやエンタイトルツーベース」
乙女
「あれなら伊達が捕るだろう」
スバル
「おーーっと! アブねぇ」
平蔵
「センター、捕球を確認。アウトぉッ!」
新一
「スバルはアウトとると、どっからともなく
女の子の黄色い歓声が飛んでくるからいいよなー」
乙女
「椰子は野球のルールを結構知っているな」
なごみ
「親が良く見てたので」
洋平
「うーむ、異常に守備範囲の広いセンターだな
流石は陸上部……できれば追加点が
欲しいんだが……難儀だな」
洋平
「だが、姫の球はだいたい見切ったぞ。
調子が悪いというのは本当らしいな。
次の打席なら打てる……!」
5番 西崎紀子
洋平
「西崎。センター方向は鬼門だ。レフトに引っ張れ」
紀子
「く!」
カキーーーン!!
きぬ
「甘いぜ!」
さすが頭脳と引き換えに得た反射神経。
カニがライナーを横っ飛びで捕っていた。
平蔵
「アウトォー!」
エリカ
「ナイスキャッチ! イェー」
きぬ
「イェー、安心してどんどん投げろい」
外野の守備でカッチリ守られている2−C。
一方、西崎紀子も。
ミスの無い配球と精鋭揃いの守備陣によって、
ランナーを出しつつも何とか0点で凌いでいた。
2−Aのチームワークと個々の能力の
高さはたいしたものだった。
2−Cの猛攻を見事に防いでいる。
カニが相手チームのサードとファーストの
脚に殺人タックルでダメージを与え、2人も
選手を交代させているのに……層が厚いこった。
そしてあっという間に試合は終盤へ。
1−0、8回裏、C組の攻撃。
打順は4番の姫からという好打順。
俺の手はもうボロボロだけどね。
エリカ
「残塁15……か。効率的とはいえないスコアよね」
スバル
「西崎さんは低め低めに上手く球を集める上に
コントロール抜群だからな……あと一打が出ねぇ」
新一
「姫へのあからさまな敬遠をのぞけば
四死球ゼロってのもすごいぜ」
レオ
「ここ一番のピンチですっげーいい球を
投げるのもあなどれない」
きぬ
「次の打席で肩にでもボールぶつけちまおー」
レオ
「そういう考え方はね、めーなの
さすがにあからさま過ぎるでしょ」
エリカ
「ま、カニっちの提案も悪くないけど
どうせなら正々堂々と叩き潰しましょう」
全打席敬遠されている姫が打席に向かう。
そして、いきなりバットの先を高々と空に掲げた。
紀子  無音
「……!」
エリカ
「生まれ故郷のノース・カロライナまで飛ばす」
レオ
「ほ、ホームラン予告だ」
「何故皆さんハッタリから入るのでしょうね?」
レオ
「祈先生、姫本当に打てるかな?」
「占え、と? そんな必要はありませんわ
霧夜さんとお付き合いしているなら
信じてあげなさいな」
レオ
「ごもっとも」
観客達が一気にどよめき出す。
紀子
「ぅ……う」
エリカ
「これで勝負から逃げられないわよ」
自分が不利な立場なのに意地悪っぽく笑う姫。
良美
「もぅ、負けず嫌いなんだから」
観客からキリヤコールがかかった。
エリカ
「(うー意識がぼやける)」
エリカ
「(この一撃に神経を集中させよう)」
紀子
「どう……しよう?」
A組女生徒
「紀子、挑発に乗っちゃだめだよ、ここは
打ち合わせどおり敬遠策で!」
紀子  無音
「(ちらっ)」
洋平
「……好きにやりな」
紀子
「ん!」
西崎さんが投げる。
A組女生徒
「あ、バカ!」
ストライクコース、勝負球!
エリカ
「ずっと観察しているから……」
エリカ
「もう球種見抜いているわよ」
バキーーーン!!!!
超 快 音
紀子  無音
「!!」
守備陣は動く事もできなかった。
その場にいた全員の人が青空を見上げる。
ボールは遥か高く、それこそキラッ☆という
感じで場外まですっ飛んでいった。
エリカ
「これで貸し借りなし、と」
バットをカラン、と投げる音がする。
平蔵
「ホ〜ムラ〜〜ンッ」
どっ、と歓声が沸いた。
エリカ
「これこれ、これが霧夜エリカのキャラクターよね」
レオ
「ナイス姫!」
真名
「やるやんか!」
良美
「さっすがエリー!」
新一
「ここ一番で決めるなぁ」
豆花
「すごいすごい!」
スバル
「役者が違うぜ!」
エリカ
「まーまーまー、本当のこと言わない」
ホームベースに戻ってきた姫を皆で迎える。
エリカ
「……うー、頭くらくらする」
洋平
「はい、ベースタッチ」
平蔵
「霧夜エリカ、アウトーーッ!」
レオ
「?」
皆が驚いて2塁を見る。
エリカ
「は、何で?」
洋平
「2塁ベース踏み忘れてたぞーっ、審判も見てた」
エリカ
「ぬかった!」
レオ
「ぬかりすぎジャー!」
きぬ
「ぬかみそ できちゃいそうだね」
結局、8回裏ワンナウト、1対0のままだ。
エリカ
「うー、私としたことが、熱でベース踏み忘れとは」
レオ
「姫、顔赤いぞ大丈夫?」
佐藤さんが心配そうに姫の額に手を当てた。
良美
「わぁ、エリー熱さらに上がってるってば!!
だめだよ休まないと」
エリカ
「ここで休んだら負けかな、と思ってる。
霧夜エリカの名が廃るでしょう
私が指示出すから、その通りに打ってけば……」
レオ
「……」
レオ
「姫、仲間を信用するってのも支配者の
資質だって言ったろうが」
レオ
「だったら俺達を信用してここは休んどいて
逆転するから」
エリカ
「そんな事言っても……うわっ」
姫のおでこに用意しておいた氷枕を押しつける。
レオ
「冷たくて気持ちいいでしょ」
レオ
「黙って体休めといて」
エリカ
「やけにハッキリ言うじゃない」
レオ
「彼氏だし。普段は姫を立てるけど言う時は言うよ」
レオ
「別に試合からおろすって言ってるわけじゃない
せめてこっちの攻撃の時ぐらい横になっててくれ」
「ほらほら、こう言ってるんですから。
膝を貸してあげますから寝てなさいな」
エリカ
「むむむ」
レオ
「何分休めば次も投げれる?」
エリカ
「……こうして頭冷やせば5分で充分かな」
レオ
「分かった」
レオ
「さぁ! 聞いたろう。俺達で点をとるぞ」
豆花
「具体的な作戦はあるのかネ?」
レオ
「皆で頑張る」
きぬ
「おいおい根性論ですか。さすが乙女さんの弟」
レオ
「無理な話じゃないだろ。いつもあと1歩で
点がとれないだけなんだから。もう少し」
きぬ
「今までノーヒットのヤツがよう言うよ」
レオ
「だから挽回する」
レオ
「俺の前までランナー溜めてくれ。打ってやる」
良美
「ちょ、ちょっとキャラクターが違う?」
新一
「そのもう少しが遠いと思うんだけどねー」
レオ
「打ちゃあいいんだろ。俺は必ず打つ」
新一
「あーあ、熱くなっちゃった
こうなるとこいつ周りが見えないというか」
真名
「カッコええやんか……打てなかったら寒いけど」
スバル
「どうやら本格的に火がついたようだな
いや、レオのこの状態は久しぶりだねぇ」
きぬ
「へん、この局面でようやく加熱か、おせーんだよ」
新一
「しょうがねーなー。友人のたっての願いだ
出塁してやるか」
レオ
「友人って?」
新一
「お前だよ! この重要な場面にシリアス顔で
ひどい事言わないでくれよな」
きぬ
「でもオメー、今までの打席はヒデー結果だよね?」
新一
「ふん。俺なりの戦い方を見せてやる」
フカヒレは、今までと違い一番長いバットを
選んで打席に向かった。
そして、姫と同じくバットで高々と天を指した。
新一
「まだ見ぬ俺の彼女がいる場所まで飛ばす」
レオ
「あいつまでホームラン予告?」
予告達成した姫の後だ。
観客が一気に湧いた。
紀子
「むー」
洋平
「はったりだ西崎、いつも通り投げろ」
西崎さんの一球目。
新一
「どっせーい!」
ブオン! という豪快なスイング。
平蔵
「ストラーイク」
空振りだった。
だがアッパー系の迫力あるスイングで
当たれば確かに飛びそうだった。
新一
「次は必ず当ててやる!」
フカヒレの気迫に、守備陣がジリジリと下がる。
2球目。
新一
「ほいっ」
フカヒレはいきなりコツン、とバントをかました。
驚いたサードの女の子が慌てて前進してくる。
しかし、フカヒレがまだ見ぬ俺の彼女まで
飛ばす、とか言っていたので少し嫌そうだった。
その嫌悪感が、わずかな遅れとなった。
ファーストへ送球するも――結果は――セーフ。
新一
「へっ、小さい頃からねーちゃんにいじめられてた
おかげで足だけは速いのよ」
確かにインパラやシマウマは捕まったら
アウトな分、脚はとても速い。
フカヒレも同じ理由で脚力はなかなかあるのだ。
洋平
「フカヒレッ、あれだけ大口叩いて
セーフティーバントかよ」
観客席からもブーイングが飛ぶ。
良美
「鮫氷君、周囲から罵られようとも
対馬君のために出塁したんだね」
きぬ
「ん、まぁねー……あいつだって全然今まで
出塁してなかったから意地もあったろうし」
「それに、ブーイング受けてもこれ以上
評判下がりませんしね」
良美
「私も頑張らないと……」
良美
「あわわ、緊張してきたよぅ」
「よっぴー、ちょっと耳を貸してくださいな」
祈先生が佐藤さんに何事か耳打ちしていた。
良美
「えっ、えっ、えっ……そ、そんな事言われても私」
佐藤さんが頬を赤くしながら打席へ向かう。
レオ
「祈先生、佐藤さんになんて言ったの?」
「もしも佐藤さんがヒットを打たれたら
対馬さんからキスのプレゼントがある、という
事実を話したのですわ」
俺にだけ聞こえるような小声で祈先生が
とんでもない事を言った。
レオ
「捏造ですよ」
「ちなみに2塁打でディープ
3塁打でテイクアウトと言っておきましたので」
レオ
「そんな事言ったら逆効果になるのでは」
良美
「えーい!」
ガキーーーン!
打球は、一二塁間を真っ二つに
割っていった。
レオ
「……打った……」
新一
「よし、さすがよっぴー」
新一
「って、うぉぉぉ!? 二塁打狙うの?」
洋平
「ライト、こっちに送球しろ」
二塁で止まるつもりだったフカヒレが、
佐藤さんが激走してくるのを見て慌てて
3塁へ向かった。
乙女
「ん、佐藤にしては冒険するな」
なごみ
「やたら気合入ってますね」
ライトからの返球が帰ってくる。
良美
「やぁぁぁーっ!」
きぬ
「すげ、よっぴーがスライディングだ!」
村田が飛んできた球を受け取り、
滑りこんできた佐藤さんにタッチ!
判定は、セーフ!
スバル
「おお、スッゲェ。ナイスだぜよっぴー!」
きぬ
「やるじゃんよっぴー!」
良美
「あ、あんまり大きな声でよっぴー言わないでね」
佐藤さんは体操服についた汚れを払いながら、
チラッチラッと頬を染めてこっちを見てきた。
「女子のハートをホームスチール、
ジゴロな対馬さんの打席ですわよ」
レオ
「妙な異名をつけないでください」
レオ
「……でも打ちますけどね」
祈先生に膝枕されている姫をみる。
……無言で体を休めているようだ。
確かに9回裏の攻撃がある以上
まだ精神的な余裕はあるが……。
ここで決めるぐらいの気概でいかないと。
平蔵
「それではプレイ!!」
手を休める為に、今までの打席でずっーと
投手のクセを観察していて判明した事がある。
西崎さんは、落ちるカーブを投げる時に
グラブで1回球を握りなおすような動作を
している事を。
確信は持てないため皆には伝えてないが、
打つためにはこれに賭けるしかない。
もう手もボロボロだしな。
打つのは一撃が限度だぜ。
紀子
「……やっ!」
1球目、インサイドのボール球。
2球目、外角低めストレートでストライク。
なごみ
「この打席も全然バット振りませんねセンパイ」
乙女
「狙い球を決めているのかもな」
3球目、虚をついたスローボールでストライク。
きぬ
「おいおい、あいつ後がねーぞ」
スバル
「いやあの目は何かを狙っている」
4球目、低めいっぱいボール。
紀子  無音
「……」
5球目、西崎さんがグッと球を握りなおす
仕草を見せた。
これだ! 落ちるカーブ!
飛んできたボールの真下を叩けば。
速度は遅いので、あわせるのは簡単だった。
よし、ドンピシャ!
レオ
「ぐっ……」
衝撃が手の平に伝わる。
だが痛みを気にしている暇は無い。
球が左中間のど真ん中に飛んでいった。
きぬ
「いいぞーっ! 本当に打ちやがったーっ
ナイス熱血モードだぜーっ」
「さすが今までノーヒットだけあって
必死のスイングですわね」
きぬ
「よっしゃー、ガンガン走れーーっ!」
左中間を真っ二つに割った球に
センターが追いつく。
新一
「バック転でホームを踏むぜ! いっくぞ〜」
豆花
「余計なことしてないではやくホムインするネ!」
新一
「ひぃっ、すいません」
フカヒレ、ホームイン。
中継でボールが帰ってくる。
だが時既に遅し。
佐藤さんもホームインしていた。
きぬ
「やったー! 2対1だ」
「逆転ですわね」
このスキに俺は3塁へ……!
紀子  無音
「!」
ピッチャーの西崎さんがそれに気付いて
中継を中断、素早く三塁へ送球。
ってアレ……?
高々にアウトー! の声が響く。
スバル
「あらら。ほんと周囲が見えてないっていうか……」
きぬ
「姫の事言えないねー」
……3塁で刺されてしまった。
次の8番バッターはフルカウントまで
粘っての価値のある時間稼ぎの上のアウトだった。
姫がむっくりと起き上がる。
エリカ
「やるじゃない、対馬クン」
レオ
「姫、いけるかな?」
エリカ
「しっかり5分もらったうえに逆転してるからね」
エリカ
「流石にここできっちり決めないようなのは
霧夜エリカじゃないわ」
エリカ
「それより、そっちの手もいけるわね」
レオ
「やっぱり気付いていた?」
エリカ
「私のボールを受けた後、あれだけ手を
プラプラさせてりゃね」
エリカ
「どうせなら最後までやりなさいよ」
レオ
「何を今更」
エリカ
「そ」
レオ
「でも姫が手の心配をしてくれるなんて意外だね」
エリカ
「彼女だから」
レオ
「!」
エリカ
「なーんてね。あはは、赤くなった赤くなった」
く、病人にからかわれるとは……。
9回表は3番打者から。
エリカ
「やっぱり!」
平蔵
「ストライク! バッターアウッ!」
エリカ
「最後に決めるのは!」
洋平
「何っ、球威が増しているっ!
なんだこのホップの仕方はっ」
レオ
「はい、説明口調での三振ご苦労さん」
平蔵  共通
「ストライク! バッターアウッ!」
エリカ
「この私よねー」
5番はホームランを打たれている西崎さんだ。
エリカ
「これで借りも返して終わりっ」
紀子
「うーっ!」
西崎さんのバットが空を切った。
平蔵
「ストライクバッターアウッ! ゲームセット!」
A組女生徒
「負けたぁ……」
がっくりとうなだれる2−Aの面子。
そしてはしゃぎまくる2−Cの面子。
明暗がハッキリと別れた。
平蔵
「2対1で2−Cの勝ち。礼っ!」
洋平
「くそっ……負けたっ……くそっ!!」
紀子  共通
「ぅ……う」
平蔵
「その悔しさをバネに強くなればよいではないか」
平蔵
「そして勝者には栄光を。この賞品を授けよう!」
きぬ
「げ、そう言えばそんなのもあったね」
祈  無音
「……」
エリカ
「平等にジャンケンと言いたい所だけど……」
レオ
「いや、そのカッコイイの姫のでいいよ。なぁ皆」
豆花
「うん、異義無しネ」
真名
「頑張った姫のモンやね」
レオ
「だってさ姫」
エリカ
「そう。じゃあ遠慮なくもらうわね」
謎のオブジェを天に掲げて見せる。
エリカ
「ふふ……頑張った甲斐があったわ……くしゅっ!」
良美
「エリー、試合終わったんだから休まなきゃ!」
「保健室は負傷者で埋まってますから
生徒会室の方へ」
祈先生が姫の手を引く。
「対馬さんも。行きますわよ」
レオ
「や、俺は大丈夫だから」
乙女
「ポケットにいれている手を見せてみろ」
レオ
「乙女さん」
グイッと手を取り出された。
きぬ
「うえー、ボロボロだこいつの手」
乙女
「赤く腫れた手……おそらく物も握れまい
ちゃんと処置してもらってこい」
レオ
「ちぇ、分かったよ。でも乙女さんも
遠目から見てただけなのに良く分かるね」
乙女
「自分の弟の事だからな」
きぬ
「んだよ、あいつあんな手で頑張ってたわけ?」
スバル
「憧れのお姫様に勝利をもたらすため、だろ。
立派じゃねぇか」
きぬ
「まー確かに女やフカヒレじゃ姫の球は
受けられないし、スバルは外野の要だから
レオが受けるしかないんだけどさ」
きぬ
「あそこまでボロボロになってまでやるかねぇ……
スバル、気付いてたなら代わってやりゃいいのに」
スバル
「友人の心意気に水を差すのは漢じゃねぇぜ」
スバル
「それに、オマエも怪我とかしても黙って
試合続けるタイプだと思うよ
だからレオの気持ちだって分かるだろ」
きぬ
「分かるけどさー。なんかつまんねーって言うか」
スバル
「レオが心配なら付き添ってあげれば?」
きぬ
「誰も心配なんて言ってねーだろ!」
スバル
「やれやれ……意地っ張りな子蟹ちゃんだ」
レオ
「あ痛痛痛!! 染みる染みる染みる!」
「男たるものこれぐらいで弱音を
吐いてはいけませんわ」
めっ、と叱られた。
「次の消毒液はもっと染みますわよ」
レオ
「げっ」
土永さん
「祈もわざわざ怖がらせてから
やるあたり、悪趣味だよなぁ」
「霧夜さんは熱がひくまでそこにいてください」
エリカ
「はーい、自分の体大事だし、もう無茶はしません」
「結構ですわね。大事な娘の病気を
悪化させた、などとキリヤカンパニーから
謝罪と補償を要求されたらたまりませんから」
「夏のボーナスがカットされてしまったら
カード破産の可能性もありますので……」
土永さん
「ノリで買い物してるからだ祈は」
土永さん
「もう少し計画性を持って買わないとな」
「でもそうすると私は土永さんと
出会えませんでしたわ」
ノリでインコ買ったのか……。
エリカ
「うちのは放任タイプだからそんな要求しないって」
「私は仕事があるから戻りますわね」
「対馬さんも閉会式には出てください」
レオ
「はーい」
そっか、もうフォークダンスも終わってるな。
祈先生が出て行く。
また姫と2人きりの生徒会室……。
窓から差し込む夕焼けがどことなく切ない。
エリカ
「ねぇ対馬クン」
レオ
「ん?」
エリカ
「あれから1週間たったけどさ」
エリカ
「交際、まだ続けましょうか。あなた結構面白いわ」
レオ
「だから契約の更新みたいに言わないでって」
エリカ
「私という高嶺の花を相手に2週間続くとは、
実際たいしたものよ」
レオ
「俺は自分で高嶺の花と言い切れる姫も
たいしたもんだと思うけどね」
エリカ
「ふふ……さ、そろそろ一眠りしようと思うから
出て行ってくれないかしら」
レオ  無音
「……」
エリカ
「対馬クンはグラウンドに戻って。
代わりによっぴーを呼んできて」
エリカ
「私の具合はよっぴーに見てもらうから
そうすれば対馬クンも安心でしょ」
レオ
「あ、うん。そりゃ安心だけど」
レオ
「そっか……俺まだ目の前で寝られる
レベルじゃないんだ」
エリカ
「そりゃそうよ、自惚れないで」
エリカ
「でも、今日といい最近の対馬クンはいい感じよ」
エリカ
「その調子で励んでね」
レオ
「はい」
レオ
「あ、じゃなくて、分かってるぜ」
エリカ
「言いなおさなくてもいいのに」
姫に誉められると自然に敬語っぽくなってしまう。
彼女は根っからの王様気質ってやつなのかな。
レオ
「それじゃ姫」
エリカ
「待ちなさい。ほら」
姫が手の甲を差し出す。
レオ
「?」
エリカ
「今日頑張ったご褒美をあげる」
エリカ
「こういうポーズをとった姫様に
することは1つでしょ」
椅子に座り、すっと手の甲を差し出す
姫様にすること……。
レオ
「でも、俺手を負傷してるぜ、少し汚れるかも」
エリカ
「構わないわよ」
エリカ
「私がいいと言ってるのだから、素直にやりなさい」
レオ
「……ん」
姫のその手をとる。
熱のせいか、かなり火照っている。
俺はひざまづいて自分の唇をその白い手に重ねた。
エリカ
「――ふふっ、まさしく姫ってやつね」
レオ
「こっちはえらく恥ずかしい……」
エリカ
「こういうのは照れたら負けよ」
エリカ
「――あ、何か急に元気になったみたい」
レオ
「またまた」
彼女はご満悦だった。
………………
先週に比べたらかなり距離は近づいた気がする。
姫の好奇心を満たす為のオモチャとはいえ、
関係は進んだし。
今日は手の甲とはいえキスも許された。
フォ−クダンスの時間は終わってしまったけど。
それに勝るいい思い出が出来た――。
背筋がゾクゾクする。
レオ
「……っくしゅん!」
あれ、ゾクゾクすると思ったら寒気がするぞ……。
レオ
「……見事にうつされた」
乙女
「根性無しだな」
レオ
「いや風邪は根性とかそういうもんじゃないと思う」
乙女
「私が看病してやるから安心して眠れ
声を出して呼べば24時間態勢で駆けつけてやる」
乙女
「伊達に話したら、昼飯や夕飯は
おかゆなど体に良い物を作ってくれるそうだ
いい友達をもったな、お前」
ピピピピ……
携帯にメールが届いていた。
レオ
「姫からだ」
“風邪すっかり治った”
やっぱりうつされた……。
“こっちは逆に風邪ひいた”
レオ
「送信、と」
別に抗議しているわけじゃないし、
これぐらい構わないだろう。
さぁなんて返信くるかな。
――5時間後。
乙女
「なんでさっきから携帯を気にしているんだお前」
レオ
「……別に」
返事なんかこないし。
姫にとっては「あっそ」な出来事なのかな。
少し寂しいぞ。
乙女
「どうやら熱も下がってきたようだな。
今日一日ゆっくりしていれば治るだろう」
乙女
「私は部活があるから行ってくるが
くれぐれも安静にな」
レオ
「いってらっしゃい」
乙女さんはキビキビと出て行った。
1人の時間……。
寝てばっかりだからもう寝れないし。
カニが置いていった漫画でも読むか。
…………
ピンポーン。
ち、何だよ宅配便か?
レオ
「はーい?」
エリカ
「ハーイ」
レオ
「なに?」
良美
「こんにちは対馬君。お見舞いに来たよ」
レオ
「わ、わざわざいいのに」
エリカ
「うん、私はいいって言ったんだけどよっぴーが」
良美
「エリー、普通交際している人が病気でしかも自分が
うつしたっぽいならお見舞いには行かなきゃ」
エリカ
「と言う事で見舞いに来てあげました」
レオ
「良く住所分かったね」
新一
「へっへっへっ、あっしはシャーク鮫氷っていう
ケチな情報屋でして」
レオ
「お前かよ」
新一
「お前姫。俺よっぴーな」
レオ
「何の分担だ」
エリカ
「フカヒレ君は消えていいわよ。もういらないから」
新一
「え、俺いらない子?」
エリカ
「うん邪魔。はいサヨナラ」
新一
「いつか誰よりも幸福になってやるぅー!!」
シャーク鮫氷は駆け出して行った。
良美
「フカヒレ君せっかく道案内してくれたのに……」
ついに佐藤さんにもフカヒレ言われ始めた。
エリカ
「だってヘラヘラして気持ち悪いんだもん
それにあれぐらいで耐え切れなくて
駆け出しちゃうようじゃね」
レオ
「俺髪もとかしてないし……ちょっと待ってて……」
エリカ
「いいってば、いちいちおめかししないでも。
元はそんなに悪くないからノーメイクでもOK」
エリカ
「それじゃ、あがりまーす」
姫がズカズカと家の中に入り込んでいった。
エリカ
「おおー、一般家庭だ」
改めてあの人はすごい神経してると思う。
良美
「対馬君、なんだかんだでエリーが自分で
来るなんて結構気にいられてる証拠だよ」
レオ
「そうなのかな」
エリカ
「うわ、これ乙女センパイの部屋?
わー、宝の山だーっ」
レオ
「って勝手に入ったらダメだって」
レオ
「何で乙女さんの下着漁ってるの」
エリカ
「普段どんなのつけてるのかなーって」
レオ
「いや、かぶろうとしちゃダメだって」
何なんだこのオジサンは……。
良美
「ほらエリー。対馬君の部屋にいこ、2階?」
レオ
「ああ、こっち」
ズルズルと佐藤さんに引きずられる姫。
実に手馴れている感じだった。
……部屋に見られて困るもんはないな。
レオ
「じゃあ、どうぞ」
エリカ
「へーえ、慌てて片付けるんじゃないの?」
レオ
「俺は清廉潔白だから」
2人を部屋に招きいれる。
……なにげに緊張するな。
良美
「へぇーこれが対馬君の部屋なんだ」
エリカ
「これは結構斬新かもしれない」
2人してキョロキョロ辺りを見まわす。
良美
「あ、私お茶入れてくるね
お台所の場所はわかったから」
レオ
「しかしそれを客人にやらせては」
良美
「いーから、病人はベッドの上で待機」
ぐいっと寝かされてしまった。
レオ
「うーむ」
佐藤さんもこういう時は押しが強いぜ。
エリカ
「基本としてはベッドの下かな?」
レオ
「お生憎様、何にも無いね」
エリカ
「じゃあ机の中とか」
いきなり他人の机をガラッと開けた。
カニですら、はじめは開けていいか
聞いたもんだけど。
いろんな意味で強い人だ。
エリカ
「何も無し、つまんないなー」
エリカ
「女性の胸に焦点をしぼったH本とか無いの?」
レオ
「いや、リクエストされても」
エリカ
「せっかく来たんだから対馬クンいじめたいなー」
レオ
「いや、リクエストされても」
良美
「はい、お茶が入りましたー」
………………
エリカ
「でも全然元気そうじゃない。わざわざ
お見舞いにきてあげたのに」
良美
「まぁまぁ。元気なのはいいってことだよ」
エリカ
「で、乙女センパイに体を
拭いてもらったりしてるの?」
レオ
「ううん、自分でやるからいいって言った、
まだ拭いてないけど」
エリカ
「へぇー、なるほどなるほど」
なんだ今の笑いは?
エリカ
「じゃあ私達で拭いてあげるわよ」
レオ
「なっ……」
レオ
「いいってば、そんなの」
エリカ
「あはは、照れた照れた。やっぱり対馬クンの
基本はこれよねー」
レオ
「佐藤さんからも何か言ってよ」
良美
「でも体拭くのは必要だと思うよ?」
……佐藤さん?
良美
「じゃあ私はタオル洗ってくるね」
レオ
「いや、いいっていいって!」
エリカ
「やだ、なんか拒否されたのを聞いたら
何が何でも拭きたくなっちゃう」
レオ
「じゃあ是非とも拭いて」
エリカ
「うん、いいよ」
……姫って人をイジメて楽しんでるよな。
良美
「はい、タオル持ってきたよ」
湯気がホカホカと出てるタオルが2つ。
エリカ
「はい、上半身脱いで」
レオ
「佐藤さんが恥ずかしがる」
良美
「水泳とかで見慣れてるよ。さすがに
それぐらいじゃキャーキャー言わないもんっ!」
佐藤さんがエヘン、と威張った。
レオ
「くっ……なんでこんな目に……」
仕方ないので上着を脱ぐ。
エリカ
「わぁ、女のコ2人の前で裸になっちゃった」
レオ
「くっ」
エリカ
「ね、どんどん赤くなるのよ対馬クンってば」
良美
「あんまりいじめたら可哀想だよエリー」
エリカ
「それじゃ早速拭きまくってあげるね」
エリカ
「よっぴーと2人でサンドイッチアターック」
前から姫、後ろから佐藤さんに一斉に
タオルを押しつけられた。
レオ
「熱っ……」
ゴシゴシと面白そうに体を拭く姫。
エリカ
「スイッチオーン」
乳首をグイッと人差し指で押してくる。
レオ
「やめい」
エリカ
「うわ、そのリアクション最悪」
レオ
「病人にいちいちリアクションを求めないでくれ」
エリカ
「ほらほら、バンザーイして」
レオ
「くぅ、なんか屈辱だ」
エリカ
「その屈辱を与えるのが目的だってば」
ゴシゴシと拭いてくる2人。
うーむしかし、考えようによっては
おいしい状況なのか?
エリカ  無音
「……」
レオ
「どうしたの?」
エリカ
「なんかもう飽きちゃった」
ポイ、とタオルを投げ捨てる。
……この人は。
看護士にしてはいけない人NO,1だ。
良美
「よいしょ、よいしょ」
それに比べ後ろの佐藤さんがやけに念入りに
拭いてくるんだけど。
良美
「うん、もう汗でてない」
拭いた後、肌の状態を確認するように
手のひらで触ってくる。
献身的な人だな。
レオ
「佐藤さん、もういいよ。ありがとう」
良美
「あ、そ、そう?」
エリカ
「終了かー。得したわね」
レオ
「……得したと言うよりも恥ずかしかった」
エリカ
「それならからかった甲斐もあったかな」
良美
「タオル洗ってくるね」
エリカ  無音
「……」
姫はキョロキョロと辺りを見回した。
この人も結構落ち着きが無いよな。
エリカ
「CDがいっぱいあるわね」
レオ
「好きなの貸してあげるけど」
エリカ
「ふーむ。なんかいいのあれば」
レオ
「姫の音楽のジャンルって分からない」
エリカ
「洋楽メインで。ま、割と他も聞くけど」
レオ
「洋楽はカニが専門だからなー。デッド好きだし」
話が合わない。
エリカ
「ま、音楽はそんなこだわりないから。
んじゃ漫画の方は……」
レオ
「あぁ、漫画も読むんだっけ」
エリカ
「普通の小説とかもね。ま、対馬クン相手なら
漫画の話題が一番いいわね」
レオ
「バカにしてない?」
エリカ
「事実じゃない。別に無理しなくていいわよ」
良美
「ただいまー」
レオ
「佐藤さん、下に姫が積んである本が
あるから危な……」
良美
「きゃっ」
足をつまんで倒れるお約束の佐藤さん。
姫がしっかりと倒れる寸前にキャッチしていた。
エリカ
「ドジっ娘よっぴー世にはびこる」
良美
「べ、別にはびこってないよぅ」
レオ
「佐藤さん、服から何か落ちたよ」
……人形?
良美
「あっ、大変」
佐藤さんが人形を拾い上げて、優しく
ホコリをはらうように撫でた。
良美
「ごめんねエリー」
エリカ
「いいっていいって別に」
レオ
「その人形は金髪だし、もしかして姫?」
エリカ
「そう、それ私の人形よ」
エリカ
「そしてこれがよっぴーの」
姫が懐から佐藤さんの形をした人形を持ち出した。
お互いがお互いの姿をしている人形を持っている。
レオ
「? なんで?」
エリカ
「女の子同士の秘密ってやつよ。ね?」
良美
「ねー」
仲良く両手をぱしっ、とあわせる両者。
レオ
「実は人形を使って呪いをかける
プロフェッショナルとか」
良美
「ち、違うよ! 失礼だなぁ」
エリカ
「そーだ対馬クンは失礼だー!」
レオ
「な、なんか知らないけどすまん」
冗談だったのに。女の子は複雑だ。
………………
良美
「ところで対馬君、このビンの中に船が
入ってるの、ボトルシップってやつだよね」
佐藤さんがボトルシップに触れてしまった。
レオ
「俺の魂に触るな!」
良美
「えっ……」
エリカ
「な、何?」
はっ、しまった!
ついうっかりいつものクセがっ……!
レオ
「……なーんてね、ビックリした?」
良美
「顔は笑ってないけど」
レオ
「そんな事はないよぉ」
レオ
「このボトルシップは俺も大切にしてるから
あんまり触らないでね」
良美
「う、うん」
レオ
「あはは、ちょっと顔洗ってくる」
バタン。
レオ
「……ふぅぅ、やべぇやべぇ……
ボトルシップは片付けておいた方がいいな」
エリカ
「ふーん、対馬クンはこれが大事なんだ」
ひょいっ
良美
「ちょっとエリー、あんまり触らないほうがいいよ」
エリカ
「別に構わないわよ、こんなもの」
エリカ
「縦から見たらどう見えるのかな?」
つるっ……
エリカ
「あ”!」
ガチャーン
良美
「わ、わわわわわ……」
エリカ
「割れちゃった……ガラス瓶がすべって……」
良美
「中の船も損傷が激しいよ?」
エリカ
「これじゃ航海なんて出来ないわね」
良美
「ど、どうするエリー」
エリカ  無音
「……」
エリカ
「あああ、よっぴーいけないんだぁー!」
良美
「えぇぇぇ!? わ、私!? 私なの!?」
レオ
「どうしたのお嬢ちゃん達騒がしいよ、
人間いかなる時も落ち着きを持って……」
レオ
「ってあああああ!!」
ボトルシップが無残にも!
数十日間魂をこめて作成したのに!
レオ
「どれくらい衝撃的かってこんなレベルじゃない!」
レオ
「ここまで突き抜けるね!」
エリカ
「すっごいオーバーリアクションね」
怒りとかそういうのを通り越して脱力した。
レオ
「……俺の力作が……」
がくりと膝をつく。
エリカ
「よっぴーは反省してるって」
良美
「エリー、ここはふざけちゃいけない場面だって!」
エリカ
「まぁ割れたのは私のせいなんだけどさ」
エリカ
「これぐらいで割れるなんて、きっとこれが
この物品の寿命だったのよ」
良美
「なんでそう火に油を注ぐ物の言い方をするかなぁ」
エリカ
「落胆するコトないじゃない、こんなもので」
こんなもの!?
お、俺の血肉の結晶をこんなものと。
レオ
「姫にとってはこんなものでも俺にとっては
重要なものだったのさ!」
エリカ
「む……それじゃあ弁償してあげるわよ。
いくらで買えるの?」
レオ
「金で買えるものじゃない」
レオ
「姫、お金持ちだからってそういう考えは
良くないぞ」
エリカ
「うっ……!」
レオ
「彼氏として真面目に説教させてもらう
これは総大将としての心構えにもなるはずだ」
レオ
「まず、他人の価値観を受け入れないのは
仕方ないけど否定するような言い方では
おそらく部下の心を掌握しきれないと……」
……………………
良美
「それじゃあね」
レオ
「わざわざ今日はありがとね」
エリカ
「本当にいいの、ボトルシップ弁償しなくて」
レオ
「姫が俺の意見を聞いてくれたからいいよ
ボトルシップはまた作ればいいさ」
レオ
「……正直、姫は途中で逆ギレするかと思ったけど」
エリカ
「今回は私が悪かったわ」
珍しく素直だった。
やっぱり普段は姫を立てても言う時はビシッ! と
言うべきだよな。
ただのイエスマンじゃない所を見せてやったぜ。
……………………
良美
「エリーにしては珍しく対馬君の意見を
黙って聞いてたね」
エリカ
「何でもお金で解決するのは
良くないって言う心構えだけはしてたのよ
現実的にはほとんど何でもお金だけど」
エリカ
「せめて気持ちだけは、と思ってたのに
思わずそんな事を言っちゃって自分が
嫌だったから。醜い商人みたいで」
エリカ
「気をつけてたのに、口に出たって事は
注意しきれてない証拠よね」
良美
「なるほど、それで珍しくお説教されてたんだ」
エリカ
「別にお説教されたわけじゃなくて内省してた
だけだって、対馬クンの言う事なんか馬耳東風」
エリカ
「ま、対馬クンにとってはあれが大切だった
みたいだから聞いてあげてたフリしてたけどさ」
エリカ
「対馬クンの影響なんかされないって」
エリカ
「しかしボトルシップってそんなに
面白いのかしらね?」
良美
「どうなんだろうね?」
エリカ
「今度やってみようかなー」
良美
「影響されてるじゃん」
エリカ
「ん、何か言った?」
良美
「ん――……」
良美
「エリーが私の人形持っててくれて嬉しいなって」
エリカ
「当然。そういうオマジナイでしょう」
良美
「もう半年以上経つね」
エリカ
「そうね、あれから半年ちょいか……」
1年生の冬。
放課後の教室。
夕暮れ。
2人で交わした滑稽なオマジナイ。
互いの人形を作った。
交換し、それを持ち続ける。
これで魂はいつも一緒。
腐敗した世の中だから。
せめて自分達だけは相手に虚言を吐かぬよう、
ともに助け合い生涯の友であることを誓った。
――少女達の約束は今も続いている。
乙女
「どうやら風邪は治ったようだな」
額をくっつけていた乙女さんが離れる。
レオ
「おかげさまで全快」
乙女
「良かった良かった。元気が一番だ」
バン! と背中を叩かれる。
レオ
「痛っ! 体育会系と同じ扱いはやめてくれ」
乙女
「なんだじゃあこっちか?」
頭なでなで。
レオ
「まぁ……どっちかといえばそっちかな紳士的にも」
乙女さんも俺の病気が治った事を
喜んでいるようで、こっちも嬉しい。
………………
きぬ
「姫が見舞いにきてくれた? おいおい
ついにアレですか、幻覚見えちゃいましたか?」
レオ
「ウラが簡単にとれる嘘はつかねーよ
姫に聞いてみてもいいぞ」
ドガァッ!
エリカ
「おはよー2人とも」
レオ
「わざわざ轢くなよなっ」
エリカ
「彼女としての愛情表現じゃん」
また都合がいい時だけ。
レオ
「そんな痛い表現いらん」
エリカ
「無視して通り過ぎるよりよっぽどいいでしょ」
自転車から降りる姫。
手馴れた動きで、折り畳んだMTBを
片手で背中に持っていき、かつぐようにする。
エリカ
「さっさと行きましょ、あんまり余裕が無いわよ」
きぬ
「おい、レオ立てるかボケ」
レオ
「あぁ大丈夫だ、よっ……と」
姫の隣に並ぶ。
きぬ  無音
「……」
レオ
「くっ、背中は叩かれるわ轢かれるわで散々だぜ」
エリカ
「男は叩いて強くなる」
レオ
「うわ、なんか乙女さんっぽくてヤダ」
きぬ  共通
「ねぇ」
エリカ
「あ、今のセリフ乙女センパイに密告してやろ」
レオ
「姫はチクリなんて小さな真似はしない」
エリカ
「対馬クンが嫌がるなら色々やろうかなって
1日1回はイジメないと負けかな、と思ってる」
レオ
「思わないでくれ」
きぬ
「ねぇってばよ!」
カニがグイッ! と間に入ってきた。
きぬ
「姫、昨日わざわざこいつん家見舞ったの?」
エリカ
「うん。バスト88がそうしろってうるさくてさ」
きぬ
「優等生のよっぴーか。なるほどそれなら納得」
姫と一緒に校門に入ると、周囲の目が集まる。
「おいおい、まだ交際続いているのか」
「やべぇ、トトカルチョ外した」
「何であんな男が? そりゃ顔はまぁまぁだけど」
様々な意見が飛び交ってるのが聞こえる。
「実は奴隷かなんかじゃねーの」
「あぁ、お金にまかせて買ってそうだよね」
「でもカバンとか持たされてるわけじゃないぜ」
くう、好き放題言ってくれるぜ。
洋平
「あいつらまだ続いているのか……
一体どうなっている……うらやましい」
スバル
「今うらやましいって言ったな坊主」
洋平
「ぐっ、独り言を聞くな無礼な奴だな」
スバル
「おーおー、もてない男のヒスは怖いねぇ」
洋平
「今週! 今週こそ別れるはずだ!
あんな不釣合いなカップル僕は認めないぞ」
新一
「そんなあなたに第3回トトカルチョ」
洋平
「よし、やろうじゃないか」
新一
「くくっ、馬鹿はいい。なんたって金を落とす」
スバル
「ずいぶんガメツク儲けてるって話じゃねぇか
なんかおごってくれよ」
新一
「だからスバルも協力してくれたら利益の
30%まわすって言ってるじゃん」
スバル
「なんか痛いしっぺ返し食らいそうでな」
………………
放課後になった。
4時近くてもジリジリ来る暑さだぜ。
レオ
「7月になってから暑くなったな……」
校庭ではスプリンクラーによる水まきが
行われていた。
お、姫だ。
1年女子A  共通
「お姉様ー」
エリカ
「あーはいはい、暑いんだから密着は勘弁してね」
取り巻きの女の子達にズラリと囲まれる姫。
だめだ、こうなると下手に話しかけると殺される。
何人かは俺の存在に気付いて殺気じみた視線を
叩きつけてきてるし。
エリカ
「皆学期末試験の勉強はしてるー?」
エリカ
「一年の中で一番の成績になった娘には
デートしてあげるわよ。ディナーからその後まで」
キャーッ! という黄色い歓声があがった。
……退散しよう。
女性にも人気があると大変だな。
祈先生の授業を迎えていた。
「期末が来週からはじまります。
今日はそれを見越しての小テストを行いますわ」
教室からヤダァァァ! というざわめきが起こる。
「少しは危機感を持ちませんとね。それでは
問題を前から回してくださいな」
レオ
「……うーむ。自信が無い」
テスト中。
カリカリカリ、と凄まじく早いシャーペンの音が
聞こえてくる。
これは姫だな。
そして姫は開始3分で問題を終わらせていた。
ちなみに前の席のフカヒレはボーッと窓の外を
見ている。
カニにいたっては鉛筆をコロコロと転がしている。
はぁ、幼馴染バカばっか。
土永さん
「祈、20分経ったぞ。我輩の生命時計は正確だ」
「それでは答え合わせといきましょう」
「自己採点で結構ですわ」
…………採点中。
「……以上、答案は回収しませんわ」
「皆さんに危機意識を持って頂く為の試みですので」
やべぇ、61点だ。
70点はとるつもりだったが。
――――休み時間。
レオ
「フカヒレは何点だった?」
新一
「100点中86点」
レオ
「ありえないほどに高くね?」
新一
「間違ってても○したからな」
レオ
「それ小テストの意味ないじゃん」
新一
「それで、お前は何点?」
レオ
「ズルしているやつには教えね」
新一
「なんだよ、いいじゃないか見せろ」
レオ
「うわ、やめろ答案奪い取るな」
もみ合った結果、答案がヒラリと落ちる。
それを拾ったのは……。
エリカ
「――61点?」
レオ
「げっ」
エリカ
「対馬クンいつもこんな低い成績なの?」
レオ
「いや、今回はちょっと調子悪かったかも」
エリカ
「ふぅん……ちょっとねぇ」
エリカ
「私、自分と同じ能力を求めるのは
酷だからしないけど。馬鹿は嫌いだからね」
レオ
「ぐっ」
エリカ
「私の彼氏名乗ってるならせめて80点は
とりなさいよ。情けないわねー」
レオ
「ごもっとも」
エリカ
「どこ間違ったの、……ふぅんここら辺か」
エリカ
「ほら何をボーッと突っ立てるのよ。シットダウン」
レオ
「?」
エリカ
「間違った所教えてやるって言ってるでしょう」
レオ
「いや、わざわざそんな」
エリカ
「あのねー。別に勉強でトップクラスになれ、
とは言わないよ?」
エリカ
「でも100点中、60点台なんて下じゃない。勉強
どうこうより人間として恥ずかしいと思いなさい」
レオ
「……分かった」
机に座る。
エリカ
「フカヒレ君どいて」
新一
「はいはい、どーぞどーぞ」
フカヒレが姫に席を譲る。
姫と差し向かいに勉強を教わる事になった。
きぬ  無音
「……!」
エリカ
「いい、まずここは譲歩を表す接続詞だから……」
レオ
「んーと」
新一
「おぉ……姫がレオに勉強を教えている……
この光景、ほんとの恋人みたいだ……チクショウ」
山田君  無音
「(う、うらやましいなぁ)」
レオ
「じゃあこのasは“〜するように”という
様態を示してるってこと」
エリカ
「そういうことね」
きぬ
「カラスの話しようよ」
スバル
「や、だからオマエはどうしてそうやって
邪魔しようとすんだ、カニ坊主」
きぬ
「あぁっ、レオが頭良くなっちまう
それだけは嫌だぁーっ!」
良美
「だったらカニっちには私が教えてあげようか?」
きぬ
「おう。そのなにげにデケー胸の秘訣を教えてくれ」
良美  共通
「ええっ!?」
新一
「そ、ソレは是非聞きたい! さ、そっと囁いて」
「私が教えて差し上げましょう」
「毎日この粉を飲むことですわ。甘くて
飲みやすいので安心。1万円」
新一
「容器に思いっきり“さとう”って
書いてあるんですけど」
きぬ
「じゅ、十回ローンでいい?」
スバル
「いや、騙されんなよ」
「弱みにつけこむ商売は美味しいですわね」
スバル
「祈センセも時々黒いよなぁ」
「誤解ですわ。現に今も祈という名前に相応しく
世界平和を切に祈ってますわ」
良美
「さすが教職の鏡ですねっ」
スバル
「このクラスそのものが黒いかもな」
エリカ
「だから、そうじゃないって言ってるでしょバカ!」
きぬ
「――あん?」
レオ
「えっ……とじゃあここは……こう?」
エリカ
「はぁ? 何でそうなるのよ」
レオ
「うぅ……違ったか」
エリカ
「ちっ、予想以上にバカだ対馬クン」
レオ
「えっと、じゃあこう?」
エリカ
「ぜんっぜん違うって」
エリカ
「なんだかなー、体育祭とかでもいいとこ
見せたし予想以上かと思ったけど
ちょっとガッカリね」
エリカ
「もうおしまい。教えてあげるレベルにも
到達してないわよ」
ガタッと席を立つ姫。
レオ
「ぐっ……」
エリカ  無音
「……」
クラスが騒然となる。
姫は無言で自分の席に座った。
…………昼休み…………
……今日は気まずくて一緒に飯行けなかった。
新一
「いやぁ、不幸だったなレオ」
イガグリ
「これでトトカルチョは火曜日の勝ちだべか」
男子生徒X
「ふははっ、俺なんか当たったぜ」
真名
「うちもや! よっしゃ!」
女子生徒Z
「当たった。最高! みたいな!」
スバル
「オマエ達、レオがふられるのがそんなに
楽しいのかよ。こいつは真剣なんだぞ」
スバル
「ってうわっ……」
レオ
「いいってスバル。テンションに身を任せるな」
スバル
「オマエがそう言うならいいけどよ
……オマエがバカにされると
どうしようもなくムカツクんだよ」
レオ
「オレだってオマエがバカにされるとムカツク」
レオ
「今回はいいから」
………………
良美
「エリー、あれは人を馬鹿にしすぎだと思うよ」
エリカ
「そうなのよねー。事実だけど
あそこまで言う事もないわよね」
エリカ
「人に教えてたことって殆ど無いから
飲み込みが悪いとカッとなってさ」
良美
「対馬君はむしろ平均より飲み込むの上だと思うよ
エリーが凄すぎるんだって」
エリカ
「へぇ、普通はあんなもんなの」
良美
「どうするの、対馬君に謝る?」
エリカ
「え、何で私がそんな事をしなくちゃいけないの?
確かにちょっと言い過ぎたけど、事実だし。
こんな程度で頭下げる気なんて微塵もないわよ」
良美
「まぁそれでこそエリーなんだけど
でも反省はしてるんでしょ?」
エリカ
「むしろ、結構いろいろこなせる対馬クンだから
これぐらいすぐ出来るだろうって
勝手に思ったことに反省かな」
良美
「期待しすぎちゃったんだね」
エリカ
「指導者としての器はもっと広げないとねー」
良美
「じゃ私、職員室に資料出してくるから」
エリカ
「はーい」
エリカ
「私はどうしようかな。取り巻きの胸でも揉むか」
…………
エリカ
「この時間にここら辺来るのはじめてかも」
エリカ
「1年生の廊下なんて来る事が珍しいからなぁ」
エリカ
「……あ、いたいた」
(やっぱりお山の姫様って感じだよ)
(あぁ、やっぱりそんな事言ってた?)
(こっちのコト信じきってるね)
エリカ  無音
「?」
ここでも私の陰口か?
でもあれは私の取り巻き……。
1年女子B
「他のやつらは忠誠誓ってるみたいだけど
ウチらは来年生徒会入って内申
あげるのが目的なのにさ」
エリカ
「……! なにそれ、ぬかった……」
うわ、ショーック。
比較的こいつは手駒だと思ってたのに。
見事に腹に一物抱えてたか。
世の中は厳しい。
…………
レオ
「ふぅー」
くそ、1年坊の男子どもめ。
何が姫と付き合っている感想を聞かせて下さいだ。
こっちは忙しいっつうの。
途中で抜けてきてやったぜ。
1年女子B
「あっ、ねぇあの人確か……」
げ、あれは姫の取り巻きの一部か?
そういや1年生の廊下だもんなぁ。
目を逸らして歩こう。
1年女子B
「ちょっと待ってくださいよ先輩」
レオ
「なんだ?」
集団で紳士の俺に焼きいれるつもりか?
携帯をこっそり操作してすぐにスバルを
呼べるようにしておこう(↑超ビビリ)
1年女子B
「噂じゃ、今日お姫様にバカにされて盛大に
ふられたそうじゃないですか」
レオ
「女子って噂広まるの本当にはやいなー。
でも別にふられたわけじゃない」
レオ
「……思いっきりバカにはされたけどさ」
1年女子B
「そんな警戒して言葉選ばなくても大丈夫ですよ、
ウチら味方ですもん」
レオ
「はい?」
1年女子B
「ウチら内申目当てで姫に取り入ってるんですよ」
レオ
「超びっくり。そんなこと平気で言って……
壁に耳あり障子にメアリーだよ」
1年女子B
「あ、普段は忠実な犬になってるんで
誰かがチクっても姫様は
こっち信じますから大丈夫です」
女ってコワ!
1年女子B
「先輩も姫様に対して色々
ムカツイてるんじゃないですか」
レオ
「そんな事はない」
1年女子B
「盛大にバカにされてもですか?」
レオ
「確かにありゃへこんだけどさ」
レオ
「姫の目からみたら俺確かにバカだし」
レオ
「まだふられたワケじゃないから
頑張ってみるよ」
1年女子B
「あきれたー。先輩それ魂まで奴隷になってますよ」
レオ
「奴隷じゃない、彼氏って言いなさい」
1年女子B
「先輩もお金とかそういうの目当てで
姫様のカレシになってるんじゃないんですか?」
レオ
「それは違う」
レオ
「俺は姫が好きだから付き合ってんだ」
レオ
「あんまり人の陰口言うと
自分の品格落とすから気をつけた方がいいよ」
1年女子B
「うっ」
レオ
「じゃね」
エリカ
「……なによ」
エリカ
「…対馬クンのくせにえらそうで…生意気じゃん」
1年女子B  無音
「(あっ!? こ、この時間に
ココに来るなんて……)」
1年女子B
「お姉様、こんにちはー」
エリカ
「あんたもういらない」
1年女子B
「やっぱり聞かれてたー!」
エリカ
「上手く騙せたのはいいけど、それを自慢げに
ペラペラしゃべっちゃ3流よね」
エリカ
「……あれ、じゃあそれに騙された私は何流?」
エリカ
「まだまだ人を見る目が足りないな」
……………………
放課後。
エリカ
「ちわー」
レオ
「来た! 姫待ってたぜ!」
エリカ
「何よ」
レオ
「ちょっと見てよ」
レオ
「ここの構文解けたぜ。こうして、こうだろ」
エリカ
「……うん、そうだけど」
エリカ
「今頃とけてもねー」
レオ
「時間はかかったけどさ」
レオ
「でも解けたし。解けないよりいいだろ?」
エリカ  無音
「……」
レオ
「バカからの脱却を目指し頑張る」
エリカ
「どんなに頑張っても対馬クン程度じゃ
私の目から見たらずっとバカだと思うわよ?」
レオ
「それでもやるんだよーっ! 多くは求めないけど
最低限の学は欲しいって姫が言ってただろ」
レオ
「ふん、期末でマシな点とってやるからな!」
レオ
「って事で勉強だ!」
エリカ
「……ふーん。めげないじゃない」
レオ
「まずい」
レオ
「いきなり分からない」
エリカ
「熱くなっても頭の程度は変わらないのね」
エリカ
「で、どこが分からないの?」
レオ
「え?」
姫が隣の席に座る。
エリカ
「どれが分からないのかって聞いてるんだけど」
レオ
「あ、こことか」
エリカ
「んー。ここは主語と動詞が省略されてるから……」
レオ
「え、じゃあここの訳ってこうでいいの?」
エリカ
「違う違う。いい、seeを使ってるんだから
こいつら会うの初めてじゃないわよ? つまり」
レオ
「じゃあこのChangeはつり銭って意味?
って事は……」
エリカ
「ある意味おしい。命令文の動詞原形の
前にdoが来るって事は強調表現だから
ここの訳は……」
レオ
「なるほど分かった」
エリカ
「ほんと頭悪いわね、基礎じゃないの」
だから努力してるっつーに。
エリカ
「……しょーがないなー」
エリカ
「バカじゃ困るから私が勉強教えてあげるわ」
レオ
「そっか、これでこっちの問題も全部解けるぜ」
エリカ
「ってちょっと聞きなさいよ。私が喋ってるのよ?」
レオ
「え」
エリカ
「私が勉強教えてあげるって言ってるの」
レオ
「姫が?」
エリカ
「そ。交際を本気で続けたいなら、
もう少しは点数あげなさい」
エリカ
「体育祭が終わって、2学期になるまで
執行部も暇になった事だし丁度いい機会ね」
レオ
「それは助かる!」
エリカ
「勉強できる=交際できる条件 じゃないわよ?
でもいくら何でも少しは学が無いと
これから先きついからね」
エリカ
「なにより、祈センセイに島流しにでもされたら
目も当てられないからね」
レオ
「ありがとう姫」
エリカ
「気合入ってるのはいいけど……」
エリカ
「馬鹿は困るって言うだけで
いきなりガリ勉には転向しないでよ?」
エリカ
「今のまま、自分のままでね、
私はそれが気に入ってるから」
レオ
「気に入ってる?」
エリカ
「ピンポイントで言葉拾わなくてもいいの!」
レオ
「なんでそこで怒るんだ?」
エリカ
「ほら、さっさと勉強するわよ。私は本読んでるから
分からない事あったら聞きなさい」
………………
新一
「こりゃトトカルチョはなおも続行だな」
なごみ
「ちょっと遅めの予想の方がいいのかも」
エリカ
「はいはい外野はうるさい。私は対馬クンに
慈悲の心を持って勉強を教えてあげてるだけ」
レオ
「姫、ここはどうするの?」
エリカ
「うわほんとバカだ。ここはね……」
新一
「なんか微妙に見てて微笑ましい光景でむかつくな」
スバル
「ま、頑張れよレオ」
いきなり1年生の女子に話しかけられた。
どうも今年の1年生は危険なやつが多い。
なごみ  無音
「……」
あそこにその具体的な例がいる。
なごみ  無音
「……」
嘲り笑いを浮かべ去っていく椰子。
1年女子G
「聞いてます、先輩?」
レオ
「ん」
1年女子G
「体育武道祭で先輩が逆転のヒットを
打つの格好よかったです」
レオ
「俺3塁で刺されたんだけど」
1年女子G
「そこら辺が若者の暴走って感じでステキです」
レオ
「それはどうも」
1年女子G
「あの、良かったらこれからお話を
聞かせて頂けませんか?」
エリカ
「ちょっと対馬クン」
エリカ
「勉強する予定だったでしょ。はいさっさと来る」
レオ
「分かったってば、引っ張るなって、うぉ……」
レオ
「そ、そう言う事なんで、じゃあ」
1年女子G
「頑張ってくださいねー」
エリカ
「キリキリ歩きなさい」
ずるずるずる……
エリカ
「テストは来週なんだからそれに集中することね」
レオ
「そのつもりだZE?」
エリカ
「それにしては鼻の下伸ばしてたじゃない」
レオ
「姫だって後輩にチヤホヤされて喜んでるのに」
エリカ
「私はそれだけの実力を持ってるもの。
対馬クンは10年早い」
エリカ
「それより、勉強で不明な所はない?」
レオ
「今は大丈夫」
エリカ
「それじゃ私は体育武道祭の反省会に顔を
出さなくちゃいけないから」
エリカ
「すぐ終わるから。聞きたい事があったら
まとめといてね」
レオ
「わかった」
……(会議中)…→……(会議終了)…
エリカ
「よっぴー、会議お疲れ。クラス委員も大変ね」
良美
「自分達で無理やり私に決めておいて良く言うよー」
エリカ
「決め手は祈センセイの占いだと思うけど」
良美
「でも体育武道祭も無事終わって良かったねぇ」
エリカ
「次に大変なのは秋の竜鳴祭(文化祭)かな」
良美
「生徒会長の選挙もあるね」
エリカ
「誰か他にも立候補してくると盛り上がるんだけど」
良美
「そんな他人事みたいに」
エリカ
「さて、対馬クンは勉強はかどってるかな」
乙女
「ここはアクセントの位置が異なるから注意だ」
レオ
「さすが上級生」
エリカ  無音
「……」
乙女
「ン。姫がきたから私は部活に戻るぞ」
レオ
「ご教授ありがとうございました」
乙女
「それでは後を頼む」
レオ
「あ、姫。分からないところ乙女さんに
まとめて聞いたからもう大丈夫」
エリカ  無音
「……」
良美
「あ、まずい」
良美
「椰子さん、ちょっとエリーから距離を
開けた方がいいよ」
なごみ  無音
「?」
ばんっ!
レオ
「な、何? いきなり机叩いて」
エリカ
「私が仏心にも近い親切で勉強を
教えてあげるって言ってるのに
なんで他の人に教えてもらうの?」
レオ
「え、そりゃ何度も何度も教えてもらったら
姫の負担かな、と思って」
エリカ
「負担に思うぐらいなら初めから
勉強見るなんて言わないわよ」
姫の性格上それは確かに言える。
エリカ
「要するに、私が勉強見てあげるって
言ってるんだから私に聞きなさい」
レオ
「こ、今度からはそうするよ」
なんだかやけに突っかかるな……。
なごみ
「騒がしい……」
良美
「椰子さんは期末大丈夫なの?」
なごみ
「恥をかかない程度には」
良美
「長篠の戦いは何年でしょう?」
なごみ
「ひとこなごなになる長篠合戦」
良美
「わ、正解。随分とスプラッタな覚え方だね」
なごみ
「今どき年代だけ聞く問題だされても」
乙女
「今日は何の日か答えてみろ」
レオ
「テストまで4日前」
乙女
「真面目なのは感心するが、風流ではないな」
乙女
「今日は七夕だ。私が山からサクッと竹を
取ってきたので短冊をつるしておけ」
めんどくさい事をサクッとする人だよな。
またでかい竹を取ってきたもんだ。
すでに短冊が飾ってある。
レオ
「どれ」
“無病息災 乙女”
あの人らしいぜ。
“おにぎりをお腹いっぱい食べる 乙女”
つまり、今までのはお腹いっぱいではない、と。
俺はどうするかな。
“姫とさらに仲良くなる レオ”
うむ、これだな。
我ながらちょっとロマンチックだぜ。
神頼みでも何でも、やれる事全部やっとかないと。
………………
6時限目終了時。
男子はソワソワしていた。
レオ
「女子は調理実習か……」
新一  共通
「皆、分かったぜ。今日はB組との合同実習で
クッキーを焼いたようだ」
イガグリ  共通
「おおっ、クッキー。甘いの好きだべ」
スバル  共通
「まぁ、3時の茶菓子には丁度いいな」
レオ
「6月の調理実習の時もクッキーだった気がするが
確か家庭科の先生の好物なんだよな……」
自分の好物をひたすら作らせるとは恐ろしいぜ。
新一  共通
「手作り菓子が義理とはいえ食える。たまらんな」
山田君  無音
「(……姫の欲しいな)」
レオ
「クッキー……か」
良美
「エリーが珍しく作るものは人気だねぇ
皆よってたかって持ってっちゃうもんね」
エリカ
「そうね少ししか残ってないわ。ま、別にいいけど」
良美
「その余りどうするの?」
エリカ
「対馬クンにでも食べさせてあげようかなって」
良美
「エリーの偽者? 本物は決して
そんな甲斐甲斐しい台詞は言わないよぅ!」
エリカ
「ふっふーん。なにか失礼だけど
その意外性が狙いなのよねー」
エリカ
「絢爛で麗しい私からのクッキーをもらったら
どんな顔するか楽しみ。からかい甲斐がありそう」
エリカ
「さーて対馬クンは……」
レオ
「お前達卑怯だぞ、2人がかりか!」
新一
「卑怯なのはお前だ、いつもいつも自分だけ
上手く逃げやがって! 今度はそう簡単に
いかねーからな」
スバル
「おとなしくカニのクッキーお前も食え」
レオ
「ええい、その掴んでいる腕を離せ」
スバル
「こちとら、もう致死量食って覚悟完了してんだ」
新一
「発病まで後5分って所だろう。
せめてお前だけでも道連れにしてやる」
きぬ
「そーか、そんなにボクのクッキーが食べたいか」
レオ
「取り押さえられているこの状況が
分からないのかね? どーいう脳みそしてやがる」
所詮カニミソか……。
きぬ
「素直じゃねー事は分かってるよ。ほらたんと食え」
レオ
「んがくくっ!」
きぬ
「ほらほらほらほら、ベルトコンベアーのように
次々と流し込んでやんよ」
レオ
「んごごっ」
エリカ  無音
「……」
エリカ
「どうしようかな、この余り……」
レオ
「姫!」
エリカ
「あ、対馬クン。さっきの実習で……」
土永さん
「なーんてな。我輩の隠し技・声帯模写でしたー」
土永さん
「我輩でよければ、そのクッキー食らってやるぞ」
エリカ
「麦でも食べてなさい」
土永さん
「ショック! オウムに対しての差別発言だ!」
エリカ
「あーもう羽がファサファサしてうざい」
バシッ!
エリカ
「ったく誰がしつけしてるのかしら」
「なかなか美味しいクッキーでしたわ」
エリカ
「あっ、いつの間にか全部……」
「お粗末さまでした」
エリカ
「それは私が言う台詞ですが」
「今月はお昼に割くお金も無くて…助かりましたわ」
エリカ
「ったく、飼い主も飼い主ならオウムもオウムねー」
レオ
「はぁはぁはぁ……死ぬかと思った」
レオ
「あ、姫」
レオ
「無理やり毒物を食べさせられて大変だったよ」
レオ
「ところで姫のクッキーは無いの?」
エリカ
「無いわよそんなもん。何を期待してんだか」
レオ
「そーだよね、姫はそーいう感じじゃないもんね」
エリカ
「ていやっ」
レオ
「なぜにニーキック!?」
レオ
「あー、遊びてぇ!」
レオ
「でも勉強するぜ」
なごみ
「いちいち声を出さないで下さいよ、気持ち悪い」
レオ
「んー、ここはこうか」
なごみ  無音
「……」
きぬ
「シカトされてやんの」
なごみ
「……それは最近のお前じゃないのか?」
「うるさくて眠れませんから喧嘩は外でどうぞー」
良美
「生徒が勉強しているのに寝ている先生というのも
珍しい構図というか」
「霧夜さんがついてますから大丈夫ですわ。
私は信じてますわ」
エリカ
「だってさ、その信頼を裏切っちゃいけないわよね」
レオ
「だから頑張ってる」
しかし祈先生もプレッシャーかけてくれるぜ。
エリカ
「よし、知識吸収終わりと」
ばあや
「嬢。18時から国際ホテルでカンパニーの
パーティーがあるの忘れておるまいの?」
エリカ
「いつでもオッケー」
ばあや
「いちいち薔薇ださんでもええ
掃除するブルーアイズも大変じゃろう」
ばあや
「しかし、パーティーなどに親に駆り出される
娘、というのは嫌がるのが普通なのにのぉ」
ばあや
「良家の令嬢はいわゆる籠の中の小鳥と、
例えるような印象が強いんじゃが
嬢にはそういうの、全くないわい」
エリカ
「例えれば私は鳳凰。籠の中に収まる器じゃないし」
ばあや
「小さい時からそういう尊大な態度はかわらんのぉ」
エリカ
「私から言わせれば自分を小鳥なんて言う奴は
その時点で終わってるわね」
エリカ
「んじゃ、ビシッとドレス決めていろんな
人引き寄せて、将来へ向けての
パイプライン作りといきますか」
ばあや
「試着室でコロナがまっとるぞ」
バタン。
エリカ
「さて、と」
エリカ
「対馬クンはちゃんと勉強してるかなー」
口にしてから気付いた。
エリカ
「……最近対馬クンという単語が良く私の口から
発せられるわね」
あいつが、持ち駒という認識である事は
変わりないのに。
では、何故?
今いち良く分からないけど。
エリカ
「んー、一言で言えばこれが青春ってやつかも」
この経験もプラスにして前進していこう。
乙女
「私は部活に顔を出してくる。
明日がテストだ、しっかりな」
レオ
「乙女さんは余裕だね」
乙女
「私は常日頃からきちんとやってるから
試験前日も平常通りでいいんだ」
レオ
「さすが乙女さん!」
乙女
「ははっ、まぁそれほどでもないぞ」
この人、わりと単純だよな……。
乙女
「昼飯は作っておいたからな、頑張れ」
レオ
「ありがと、おにぎりね」
乙女さんは俺の頭を撫でた後、背筋を伸ばして
歩いていった。
レオ
「さて、俺の方は勉強するか」
………………
ピンポーン。
レオ
「はーい?」
声  エリカ
「宅配便でーす」
レオ
「はいはい」
レオ
「はい、お待たせしました」
エリカ
「ヤッ!」
レオ  無音
「……(思考がフリーズ中)」
レオ
「って姫が声色変えてたのか! つか
何でここにいいの?」
エリカ
「そりゃ勉強の仕上げに決まってるでしょう」
エリカ
「何となく気になっちゃってね。上がるわよ」
レオ
「あ、ちょっ……」
エリカ
「あれ、私が体を狙ってる乙女センパイは?」
レオ
「朝もはよから元気に部活行った」
エリカ
「そうなんだ、挨拶しようと思ったけど。
じゃ2階に行きましょう」
レオ
「……俺はまだ一言もあがっていいとは言ってない」
いや、拒否するはずも無いんだけどさぁ。
まぁ、土足で上がられるよりはマシなのか。
………………
レオ
「で、そっちは漫画読むんか!」
エリカ
「分からなかったら言いなさいな」
くっ、それは落ち着かない。
部屋にこんなゴージャスな人がいて
勉強できるか?
いや浮かれるな。集中力の問題だ。
レオ
「……よし」
精神統一終了。
俺は勉強をはじめた。
………………
レオ
「……姫、ここ」
エリカ
「どれどれ、あーそこはそう」
レオ
「分かったアリガト」
ノートに目を戻す。
エリカ
「……集中してるようね」
レオ
「何か問題でも?」
エリカ
「ううん、大切な事よ」
テストの点が悪いと姫は失望するだろう。
ここで浮かれるわけにはいかない。
勉強を続ける。
………………
エリカ
「対馬クン。私空腹」
レオ
「あ、そういえばもう昼だね」
姫の横には漫画が山のように積まれていた。
レオ
「なんか面白かった漫画ある?」
エリカ
「この青春サクセスストーリーとか」
レオ
「意外とオーソドックスなのがいいのね」
エリカ
「やっぱ明るいか、読み応えがないとね」
1階に降りる。
レオ
「そっちは乙女さんの部屋だから」
エリカ
「ちっ……」
居間へ。
レオ
「なんか出前でもとる?」
エリカ
「いいわよ、時間かかるし」
エリカ
「質素な食事も味わっておいて損はないわ」
……謙虚なつもりなんだろうなぁ。
レオ
「用意されている昼飯はこんなのがある」
エリカ
「おにぎりとおにぎりとおにぎりね」
レオ
「そう、一面銀世界さ」
エリカ
「ぶっちゃけるとおにぎりしかないわね」
レオ
「乙女さんがこれしか作れない」
レオ
「そこで姫がサッ! と何か作る時ですよ」
エリカ
「私料理できないから。アテにしないで」
レオ
「自慢じゃないけど俺もできん」
お互い何故か得意げな2人。
エリカ
「おにぎり食べよっか、米は日本の主食でしょ」
レオ
「そうだね」
2人で麦茶とおにぎり。
しかし客人にこれだけというのもなぁ。
レオ
「仕方ない。こっちのとっておきを出そう」
エリカ
「お、何々?」
レオ
「乙女さんにも内緒で隠して時々食べてるが……」
レオ
「はい、若者に最適。知る人ぞ知る逸品」
棚の中から隠してあった干し肉を出す。
エリカ  無音
「……」
レオ
「ん、どうしたん? 美味いよ?」
エリカ
「くっ……」
エリカ
「あははは、対馬クンって面白ーっ!」
レオ
「な、なんだよ、これ本当に美味しいんだぞ
俺は一週間の終わりにこれと炭酸飲料で
一杯やるのがささやかな楽しみなのに」
エリカ
「分かってる分かってる。結構慎重なとこもある
対馬クンが出してくるんだから信じてあげるわよ」
レオ
「これが気に入らないなら
後はサバ缶ぐらいしかないなぁ」
エリカ
「サバ缶……くっ、あはっ、あはははははっ」
姫が心底可笑しそうに笑っていた。
レオ
「なんだよ、サバ缶だって凄くいいものを
わざわざへそくりはたいて買って……」
エリカ
「いやぁ、普段フルコースとか食べてる私に
こういうの勧めてくる対馬クンがなんだか
可愛くてさ」
レオ
「うっ……」
そういや、姫は超お嬢様なんだよな。
確かにこの干し肉が美味しいと胸を張って
断言できるが、それは庶民レベル。
隠れた名店で小遣い奮発して買ってるから
俺にとって高級品であることは間違いないが。
姫にとっては全然だめなのかも。
まずかったかもしれない。
姫が肉を口に入れる。
エリカ
「悪くないんじゃない」
レオ
「ほんと?」
エリカ
「うん、いけるいける」
エリカ
「対馬クンの精一杯のもてなし確かに受け取ったわ」
レオ
「……なんか釈然としないな」
エリカ
「褒めてるんだって。胸を張りなさい」
エリカ
「その証拠に、交際まだまだ続けてもいいわよ」
レオ
「だから契約の更新みたいに言わないでって」
……………………
勉強は夕方近くに切り上げて、姫を
送っていくことにした。
ついでに、ドブ坂をブラブラとまわる。
エリカ
「今まで結構気合いれて勉強やってたし。
ここで気分転換して夜また頑張りなさいな」
レオ
「ん、そうする」
エリカ
「大道芸人の人とか、夕方になると結構多いわねー」
レオ
「屋台で何か食べる?」
エリカ
「んー。それほどお腹は空いてないかな」
レオ
「あっち人だかりができてるね」
エリカ
「誰かパフォーマンスしてるのかな?
見てみましょうか」
大道芸人
「はい、という事でミーのケン玉ショーでした」
大道芸人
「観客の皆さんの中に、ミーをアッと言わせる
ものがいれば、アメリカで流行しているコレを
進呈するよっ!」
レオ
「あれ流行してんのか?」
エリカ  無音
「……(トクン)……」
エリカ
「1つ持ってるけどまた欲しいかも」
レオ
「姫」
エリカ
「でもケン玉は全然経験ないしなー」
……神様が俺にくれた運命のチャンスボール。
レオ
「姫、ご安心召されい」
姫の肩をポンと叩く。
レオ
「俺がとってきてやる」
逃さずジャストミートてやる。
エリカ
「ケン玉なんて出来るの?」
レオ
「俺の想いの強さでカバーするさ」
エリカ
「ちょっと恥かかないでよ?」
レオ
「(ついにきた、この時が)」
レオ
「はいっ、希望します」
周囲からオーッ! という歓声が湧く。
大道芸人
「お手並み拝見」
気さくにケン玉を渡してくる。
こういう所は結構フレンドリーなのだ。
レオ
「そんじゃいきます」
今こそ小さい頃地味にやり続けた成果を見せる時。
レオ
「あーたたたたた!!!!!」
カンカンカンカンカンカン!!!!
観客達から拍手が沸き起こった。
大道芸人
「なかなかやりますな、ミーからのプレゼントです」
変なのを受け取った。
値札がついている。
10$とか書かれていた。
それを気付かれないように剥がした。
エリカ
「何が想いでカバーよ。結構慣れてるでしょ」
レオ
「あ、やっぱ分かった?」
レオ
「はい、姫。プレゼントフォーユー」
エリカ
「ありがと♪」
エリカ
「んー。すごい値打ち物よコレ」
レオ
「……骨董とかには手を出さないでね」
姫も館長も美的センスが無いのか。
エリカ
「部屋に飾っとくわね」
まぁ、それでも…………
姫が喜んでるんだから結果オーライかな。
何でも一生懸命やっておいて損にはならないね。
祈  共通
「皆さん、いよいよ期末考査です。
死力を尽して戦ってくださいまし」
祈  共通
「……もしも、成績が振るわなかった場合……」
祈  共通
「あぁ恐ろしい、私の口からは言えませんわ」
土永さん  共通
「ま、夏休み無しは避けられねぇな。
もちろんそれに逆らえば退学だ」
祈  共通
「……と、土永さんが言ってますわ」
こんな風に担任に散々脅かされまくってから――
――期末考査、開始。
新一
「燃えたぜ。初日で燃え尽きたぜ」
スバル
「やべぇな、かなりわかんねぇ」
きぬ
「ボク勘はいいから選択問題は絶対とらなきゃ」
幼馴染達はかなり苦戦していた。
エリカ  無音
「(楽勝、楽勝)」
良美
「んーと、ここがこうで……今回は結構簡単だなぁ」
成績優秀組は相変わらず楽勝そうだ。
俺は……。
レオ
「結構分かる!」
あれだけの勉強で100点とれるほど甘くない。
でもいつもよりは全然できるぜ。
こりゃ結構いいかもしれないな。
1日目終了。
「皆さん。1日目のテストは如何でしたか?」
きぬ
「げ、げふんっ、祈ちゃん……ボク実は
風邪気味なんだ、けふんこほん」
「無人島の薬草は万病に効くといいますわ」
きぬ
「うげ……容赦ねー」
新一
「祈センセ、何か欲しいものない?」
レオ
「露骨に買収すんなよ」
新一
「馬鹿お前、よく覚えとけ。買収は両方幸せに
なれる超ナイスな処世術だぜ」
「西麻布に高級マンションなんていいですわねー」
新一
「うっ……さすがにそれは高すぎて献上できない」
「椰子さんはまぁそこそこ出来たという顔ですわね」
なごみ
「まぁそこそこは」
レオ
「ふん、そこそこか」
レオ
「お前達、普段から勉強しておけよ」
なごみ
「なんかセンパイ調子に乗ってますね」
レオ
「姫、俺はおかげさんでかなりいい
出来だったぜ。結果期待してくれ」
エリカ
「ふふ、良くやったわね」
肩をポンポンと叩かれる。
レオ
「……何故だろうか」
レオ
「姫に褒められると。頑張って良かったって
気持ちになるぜ」
スバル
「レオ、それは一種の調教だ」
「調教されてますわね」
なごみ
「単純な人ですね」
新一
「もう奴隷状態だな」
よし、明日も頑張ろう。
――――試験2日目終了。
洋平
「よし、今回も良くできたぞ
(↑さりげなく学年2位)」
紀子
「う――………あたま……こげる」
洋平
「西崎、この程度でへたばるなよ?
あと3日もあるんだぞ」
紀子
「うん…がんばる」
洋平  無音
「!」
エリカ  無音
「?」
洋平
「丁度良かったな。聞きたいことがあったんだよ」
エリカ
「こっちは特にないけど」
洋平
「まぁそう言わず少し頼む」
洋平
「対馬と交際が続いているそうじゃないか」
洋平
「ぶっちゃけ、姫ほどの人間が対馬を
評価するのが分からない」
エリカ
「何ソレ。対馬クンの何があんたに分かるってワケ」
洋平
「いや、別に僕は対馬を否定しているわけじゃない
むしろ一目置いている」
洋平
「だが、姫ほどの人間と交際を続けられるとは
とても思えないんだ」
洋平
「だってそうだろう、成績が優秀でもない
スポーツ万能、というわけではない」
エリカ
「確かにね」
洋平
「何がいいんだ?」
エリカ
「ま、色々とね。結構楽しいし」
エリカ
「まだまだ試用期間だけど、少なくとも
今はフる気はないわよ」
エリカ
「っていうか」
エリカ
「名前何ていうんだっけ?」
洋平
「村田だっ、村田洋平!」
エリカ
「そ。興味ないから覚えてなかった」
洋平
「洋平ちゃんでいいぞ」
エリカ
「や、呼ばないし。じゃあね」
洋平
「うーむ、あそこまで傲慢な性格をしているのに
どうして対馬と続いているのかが本当に謎だ」
洋平
「わがままを聞いているだけか?
いや、そんな雰囲気ではないし」
洋平
「うーむ……せっかくテストがうまく
行ってたのに知恵熱が……」
――――試験3日目終了。
エリカ
「あ、テレビに映ってるの
ニュージーランドの大渓谷だ」
エリカ
「こういうのは手駒の対馬クンにも
見せたいわね」
良美
「何でそこで対馬君が出てくるの?」
エリカ
「んー? ……あれそう言えばなんでだろ……」
エリカ
「あれよ、手駒にしても知性は必要だからね」
良美
「エリー、対馬君って単語が口から
多く出るようになったわね」
エリカ
「あ、やっぱそう思う?」
エリカ
「うーん、そういえばここの所ずっと一緒に
行動しているからかなー」
良美
「へーそうなんだー」
エリカ
「……何か勘違いしてない?」
良美
「してない、してないよぉ」
エリカ
「よっぴー、これ本気の話でね。
私対馬クンを持ち駒としか思ってないのよ?」
良美
「あれ、そうなんだ? もうてっきり
対馬クン好きになったのかと思っちゃった」
エリカ
「それは無いって」
良美
「……うーん。エリーの最近の行動・言動を見てると
対馬君の事を気に入ってるとしか思えない」
良美
「でも持ち駒だって言うし……エリーはこういう時は
嘘つかないから持ち駒と思ってるのは本気だろうし
……わからないなぁ……」
昨日、微妙によっぴーにからかわれてしまった。
対馬クンが好きではないが気にいってる事は確か。
うーん、確か今週他の人間にも対馬クンのどこが
いいのかって聞かれた記憶が。
対馬クンは……。
顔はまぁ、許容範囲程度。
知能、運動神経は正直私が求めるレベルに
達していない。
私は頂点を目指すもの。相性として
パートナーではなく私を立てるような人間がいい。
そこらへんは対馬クンを相当評価できる。
後はからかうと面白い愉快なやつ。
……後は。
去年の秋。
人気の無いグラウンドでの事だった。
サッカーゴールの前に2人の人影。
エリカ
「? あれは不良といわれる泣く子も黙る伊達と……
あと1人は何だっけ、確か同じクラスにいる……」
ひょっとしたら伊達にスポーツという名目のもと
シメられているのかもしれない。
興味が出てきたので近付いて会話を拾ってみた。
スバル
「ダメだダメだ。そんなんじゃ相手チームの
シュートを止められねーぞ」
レオ
「くそっ……絶対0点に抑えてやる」
スバル
「しかし相手チームにカニの陰口
叩かれただけでオマエがそこまでキれるとはな」
レオ
「当たり前だ。俺らがカニをバカにするのは
そこに出来の悪い子への愛があるからいいが」
レオ
「他のヤツラにカニの悪口を
言われるとムカツクんだよ」
スバル
「オマエは自分に悪口言われるのはこらえても
友人の悪口でキれるタイプだからなぁ」
レオ
「これが最後。もう俺はテンションには流されないぞ
そして日々を平々凡々と生きてやるんだ」
スバル
「くくっ、それ言うの昔から数えて何回目だよ?」
レオ
「う、うるさいな。本当にこれで最後だ」
スバル
「ま、そういうことにしといてやるよ」
スバル
「とにかく、ボールに対する反応性を高めろ。
訓練あるのみだ、行くぞ、坊主!」
レオ
「おうっ! 来いや!」
で、数日後のクラス対抗のサッカー試合で
本当に0点に抑えたわけで。
今までは目立たない冷めたやつだ、と
思ってた評価が、ここで変わった。
名前を覚えるレベルまで行ったのだ。
やる時はやる、実は結構アツイ。
うん、これは評価できる。
結局は性格なのかな。
痛い能力不足は潜在能力があるんで許容、と。
あれ、意外といいじゃん。
……ふむ。
もうそろそろ次のステップにいってみようかな?
想像してみる。
エリカ
「……うわ、さすがに恥ずかしい」
それでも好奇心もあるわけで。
対馬クンなら、いいかな。
何故かちょっと胸が切なくなる。
私とした事が怖気ついているのだろうか。
まだまだ修行が足らない。
メールしておこう。
“明日夕方、竜宮にて。一人で来ること”
なんか決闘みたいで笑えた。
――試験全日程終了。
新一
「よっしゃー! 大いに遊ぶぜ」
教室が活気づいた。
真名
「ドブ坂で甘いもん食いだおすで!」
豆花
「それいいネ。帰りはカラオケいくヨ」
きぬ
「帰りはボクの店よれよなー
夏場はカレー食ってスタミナつけなきゃ」
スバル
「いや、あれお前の店じゃないけどな」
新一
「行く行く俺も君達と行く!!!」
豆花
「あいや、それなら正午に校門集合ネ」
新一
「はぁっ……はぁっ……へへっ、やったぜ。
俺が積極性でもぎとった女の子達との甘い一時
うらやましいかレオ? あん?」
エリカ
「対馬クン、昨日のメールの約束忘れないでよ」
レオ
「もちろん。大丈夫」
レオ
「あれ、フカヒレ何か言った?」
新一
「へん! お前より幸せになってやるって
言ってるんだよぉ!! チクショー!!」
「テスト結果によっては
夏休みが消滅する人がいるかもしれません」
教室がまた静まり返った。
土永さん
「祈、お前は天然だなぁ。せっかく浮かれている
青二才どもが暗くなっちまったじゃねぇか」
「あらあら大変」
土永さん
「遊ぶときは遊べ。なんなら我輩と
バードウォッチングにでも行くか?
行く奴は放課後に校門に集合だ」
カニはバイト、フカヒレはクラスのメンツと
遊び、スバルは部活。
それぞれが試験後の行動にうつりだす。
真名
「えーと、これで揃ったんやないか?」
豆花
「それじや、出発進行ネ!」
……………………
土永さん
「おいおい、2年全部に宣伝したはずなのに
これだけかよ」
紀子
「〜♪(←遠足気分で楽しそう)」
土永さん
「ま、いいか。我輩についてこい
唐揚げでも食いながら行くぞ」
紀子
「わぁい」
……………………
新一
「へへっ、大道芸部のやつらからクラッカー
たくさん譲ってもらっちゃったぜ
これでカラオケも盛り上がる事間違い無しだ」
新一
「あれ……皆どこ行った? いないよ、ねぇ?」
……………………
さて、俺はというと。
レオ
「ちわー」
エリカ
「ん、待ってたわよ」
レオ
「あれ俺だけ?」
エリカ
「そ、対馬クンしか呼んでないし」
エリカ
「他の人は一緒に来てないわね」
レオ
「メールに書いてあったし」
エリカ
「ん、そっか」
エリカ
「テストは全部終わってどうだった」
レオ
「うん。今までに比べたら格段に良く出来たよ」
エリカ  共通
「ん、そっか」
レオ
「……姫?」
何か心ここにあらずって感じだが。
エリカ
「よいしょっと」
姫がドアに鍵をかける。
そのカチリという音にドキッとした。
レオ
「まさか」
エリカ
「対馬クンが考えている通りよ。保健体育」
パチッとウィンクされても……。
エリカ
「テストも終わったことだしね」
脱いで脱いで、と命令してくる姫。
姫には2度も見られているので
脱げと言われればそりゃあ脱げる。
レオ
「でも、飽きちゃったんじゃないのコレ」
エリカ
「うん。ただ触るのはね。だから……」
エリカ
「次はもうちょっと先のステップにね、はい」
レオ
「……え?」
エリカ
「歯ブラシよ。これで念入りに歯を磨いて」
レオ
「? 歯は綺麗だよ?」
エリカ
「うん。まぁ念のためというか。いいからいいから」
レオ
「よう分からないな」
まぁ姫が磨けと言うなら磨こう。
エリカ
「磨き終わったら口もしっかりゆすいでね」
レオ
「???」
レオ
「終わったけど」
エリカ
「オッケー。爪見せて」
レオ
「はい」
エリカ
「うん、綺麗に手入れしてるわね
手も洗ってあるし」
エリカ
「常用している薬とか、かかってる病気とかある?」
眼球をチェックされたり、脈をはかられたりする。
レオ
「全くない。兄貴(スバル)に健康管理されてるし」
エリカ
「健康そのものってことね」
レオ
「あ、でも1つだけ」
レオ
「恋の病とか」
エリカ
「ふふ、相当重症っぽいわね」
軽く返された!
姫が自分のスカートの中に手を入れた。
そして、下着を……
下ろす?
姫の気性をあらわしたような赤い下着。
レオ
「……あれ?」
呆然とした俺を、
エリカ
「はい、それじゃ対馬クンはここに寝て」
レオ
「ちょっと……」
机の上に寝かせる姫。
エリカ
「つ、対馬クンが下で……私が上だからね」
エリカ
「……よし」
レオ
「ねぇ、今微妙に気合いれなかった?」
エリカ
「いいから黙ってて……ほら人生で
一番いい時間がやってくるわよ」
そして、仰向けになっている俺の顔をまたぐ姫。
で、でも姫の下着はさっき自分で脱いだわけで。
当然視界には……。
レオ
「え……?」
状況がつかめない。
ペニスが柔らかい手に握られた感触があっても。
俺は固まったままだった。
だって霧夜エリカ……姫の秘裂が目の前に。
レオ
「うぅ……?」
全てが剥きだしになっている。
あまりにも大胆すぎる。
これは俗にいう69(シックスナイン)。
お互いの性器をさらしていじりあう……なんて。
身もフタも無さ過ぎる。
ひ、姫、す、ス、ステップ上がり過ぎだよ。
なんというかさすがアメリカ人の
ハーフだけあって大胆というか。
(本人の性格もあると思うけど)
でも、これは……なんか違う。
ペニスが生暖かいものに舐められた感覚。
レオ
「……っ」
エリカ
「ん……ぺろ」
姫が……俺のを舐めてるのか?
あの姫が、え、マジ?
何の心構えもしてないので状況の
変化についていけない。
エリカ
「ぺろ……ちゅっ……れろ、ん」
こんな事をやられてしまっては一瞬で
暴発するはずなのに、出ない。
エリカ
「ン……凄い熱いね、対馬クンの……ちゅっ」
腰が麻酔でもかけられたかのようだ。
エリカ
「ちゅっ、ぺろ、基本的には飴舐めるのと
同じでいいのかな、ちゅ……れろ」
頭もボーッとしている。
エリカ
「ん、れろ……ふふ、対馬クンのなんだか可愛い」
いまだ、この急激な変化に脳がついていってない。
エリカ
「ぺろ、チュッ……、ぺろ、ぺろ」
耳に聞こえるのは、姫が俺のを舐めている
淫靡な水音。
シャワーを浴びてきたのか、石鹸の匂いがする。
エリカ
「ンッ……先端と皮の方じゃ、少し味が違うのね」
見えるのは姫の白く滑らかで綺麗なお尻。
エリカ
「ぺろ、れろ、ねぇ、気持ちいい?」
そして、目の前にあるこれは……。
股間のふっくらとした部分に、
金色の陰毛が柔らかそうに生えている。
おそらく生えたばかりなのかとても淡い。
そして、ぴっちりと清楚に
閉じているのが姫の……!
エリカ
「ぺろ、チュッ……もう、見とれるのは分かるけど
返事くらいしなさいよ、ちゅっ、れろ、ペロッ…」
女の子の股間をマジマジと見るのは
もちろん初めてだが、一発で姫が処女だと分かった。
誰にも侵略されていない美しい女性器は
見ているだけで頭の芯が痺れそうだ。
エリカ
「ん、ぺろ、ちゅっ……また固くなったかな?」
姫の愛撫をくらっているのに、ペニスは
もちこたえている。
おそらく神経のほとんどが視界に
集中しているからだ。
ツバを飲み込みながら、股間に手を伸ばしてみる。
触ってみると、弾力があって柔らかかった。
指で少し広げてみると、中は桃色になっていた。
指の力を弱めれば、すぐにソコは閉じてしまった。
その秘唇にそっと自分の唇を重ねてみる。
エリカ
「ん……くっ、チュっ、んむっ……」
姫が可愛い声を出しながらも、負けじと
ペニスを舐めてくれている。
恥ずかしげに震えているアソコに舌を這わせた。
舐めれば、当然ぴちゃりと卑猥な音が立つ。
エリカ
「ン……んん……」
俺の唾液にまみれた舌が這いまわるたびに、
姫の体がピクンと反応する。
姫は、俺のを舐めながら感じてるんだ。
俺なんかこっちに神経が集中しすぎて、
姫の愛撫なんか全く伝ってないのに。
エリカ
「ん、ちゅ……ちゅぱ……」
俺の股間はただ熱いという感覚しかない。
ひょっとしたらもう射精してるかもしれない、
そんな曖昧な感じだった。
今は、もう目の前のコレに頭が一杯。
舌をすぼめて秘裂の中に侵入していく。
エリカ
「あくっ……、ぺろ……ちゅっ……ぺろ」
中の舌触りは、柔らかだった。
襞をなぞるように舌を動かす。
レオ
「(ん……?)」
俺の唾ではない液体が滲んでいる。
姫の……おそらく膣口から
トロリとこぼれた白濁液。
姫の膣内から……。
これがいわゆる、濡れてきたというやつ?
レオ
「……ちゅっ……ずっ」
その蜜を吸い取る。
甘酸っぱい。
本来なら、処女である姫の愛液だ。
レオ
「じゅるっ……ずっ」
まだ出てくる。
男なら完全に狂う媚薬だろう。
でも、俺は……
エリカ
「ぺろ、れろ、対馬クンの味、変わってきた、れろ」
急速に冷めていった。
いつのまにか、動くのをやめている。
エリカ
「ン……れろ、ちゅっ……対馬クン?」
だって、そうだろ? 姫は俺のことを
まだ好きじゃないはずだ。
エリカ
「れろ、ぺろ、ちゅっ……、対馬クンも、
ボーッと口開けてないで動いていいわよ?」
なら、違う。
エリカ
「そ、その代わり優しくね? さすがにこんなの
初めてでこっちも凄く恥ずかしいんだから」
……これは違う。
エリカ
「あ、もしかして痛かった? だったら言ってよ。
別に苛めているわけじゃないんだから」
…………やってることがキレイじゃない。
エリカ
「でも男の子のって苦いのね、びっくりしちゃった」
レオ
「姫じゃない」
エリカ
「私じゃないって……何が」
レオ
「こんなのは……姫じゃない」
エリカ
「対馬クン?」
レオ
「違う……姫は違う!」
エリカ
「どうしたの本当に? どっか痛めちゃった?」
レオ
「姫は……愛し合ってもない俺の
ペニスなんかを舐めるような女じゃない」
そして、そんな俺の愛撫で濡れるような
女でもない。
エリカ
「……え」
レオ
「そんな姫は違う!」
俺はパンツとズボンを急いで着ると、
エリカ
「ちょっと――!」
その場で事態が分からず呆然としている
姫を置いて外に出た。
レオ
「……はぁ……」
今のは、悪夢だ。
俺をオモチャにするのはいい。
それはとても傲慢で、ありのままの姫だ。
でも今の姫は、違う。
好きあってるわけじゃないのに、
俺のペニスを舐めるなんてそんな……。
それじゃ、エロ漫画や体験談とかで見る
いわゆるノーマルな女の子達と同じじゃないか。
姫の強さと美しさに惚れこんだ。
敵を何人作ろうが自分をきちっと貫き通す姿勢は
とてもキレイだと思った。
だから憧れたのに……。
あんな、あんな獣みたいな体位……
美しい姫がやるべきじゃないんだ。
しかも、姫濡れてた。
普通の女のコなら俺だって悦んで最後まで
やったろうけど……!
姫は特別だったのに。
レオ
「く……うぅぅ……」
レオ
「うおおおーっ!」
思わず天に叫んでしまった。
……………………
…………
その夜。
姫から電話がかかってきた。
普通なら喜んでとっていた。
だけど今、話す気は無かったから。
――俺は、姫の番号を着信拒否に指定した。
新一
「――どうでありますか隊長?」
きぬ
「ダメだね全然。こいつ全く覇気がねー」
スバル
「うーむ。姫にふられたのか?」
レオ
「別にフられたわけじゃないけど」
乙女
「何かあったんだな」
レオ
「……うん」
乙女
「ならば私に相談すればいい、姉弟だろ」
レオ
「いや、これは乙女さんにもスバルにも
分からない事だよ」
レオ
「俺の心の問題なんだ」
きぬ
「良くわかんねーけど、1人でウジウジしすぎる
レオはどーかと思うぜ」
きぬ
「レオはもっと遠慮なく悩みを母性本能に
訴えかけるように喋るタイプだろ」
レオ
「勝手に俺を決め付けるなよ」
レオ
「? ……あれ?」
レオ
「今の自分の言葉……なんか引っ掛かるな」
勝手に俺を決め付けるな……、か。
きぬ
「おいおい、何ブツブツ言ってんだ」
カニが俺の顔を覗き込んでくる。
乙女
「……おそらくこれはレオ自身が
自分で決着をつけないといけない問題なのだろう」
乙女
「ならば今少し一人にしてやろう」
きぬ
「……分かったけど」
きぬ
「明日の学校までにはその辛気クセー顔直しとけよ」
乙女さん達が去っていく。
レオ
「……はぁ」
金曜の夜からずっと憂鬱だ。
あの場から逃げた事を後悔している俺がいる。
それは、あのまま姫と舐めあってればいいと
思ってるとかじゃなくて。
あの場から去って姫を怒らせたんじゃないか。
気が動転していたんだ。
もちろん、愛し合ってもないのに
俺のペニスなんて舐める姫もどうかしている。
その事は気付いてくれれば、やり直せるんだけど。
難しいだろうなぁ、あっちは激怒してるだろうし。
何も手がつかないよ。
学校に行くのは憂鬱だった。
というより、姫に顔を合わせるのが憂鬱だった。
昔は姫の顔を見るだけで元気になれた
時もあったのに。
はぁ……。
教室に入る。
姫はいた。
そうだよな、あれぐらいで休む姫じゃない。
エリカ
「あっ…!」
姫は俺を発見すると。
なんだか照れた顔をした後、
すごくにらみつけて。
ぷいっと横を向いてしまった。
やっぱり嫌われたか……。
そりゃそうだよなぁ。
謝るべきかなぁ。
期末テストが返却される。
教室中が阿鼻叫喚。
姫は当然のごとく満点だった。
俺のテストも凄く良かった。
良かっただけに罪悪感だ。
姫のおかげなのにな。
レオ
「やっぱ謝ろう」
テストのお礼を兼ねて。
――休み時間。
レオ
「姫」
エリカ
「何よ(ギロッ)」
射抜くような強烈な視線。
だが、ここで目を背けるわけにはいかない。
レオ
「話がある、放課後生徒会室に来てくれ」
エリカ  無音
「……」
やっぱりダメか? 話しあう機会もないのか?
エリカ
「……分かった。放課後ね」
あ。
姫が分かってくれた。
レオ
「あ、それから」
エリカ
「まだ何かあるの?」
レオ
「いや、短時間で勉強したにしちゃ、
テストの点数が凄く良くてさ」
レオ
「姫のおかげだよ、ありがとう」
証拠として答案を見せる。
エリカ
「――ふん、それでもまだまだバカよ」
その言い方はいつもの姫そのものだった。
良かった。激怒しているわけじゃ無さそうだ。
……………………
放課後の生徒会室。
再び、俺と姫の2人だけの世界になる。
レオ
「来てくれてありがと、姫」
エリカ
「私からも用件あったし」
レオ
「そうなんだ」
エリカ
「こっちから済ましていい?
じゃないと穏便に運びそうもないし」
レオ
「あ、うん。そういうことならどうぞ」
エリカ
「じゃ、歯を食いしばってね」
レオ
「――え」
エリカ
「よくも私に恥かかせてくれたわね!」
バチーン!
レオ
「ぐっ……」
景気のいい音が生徒会室に響く。
姫にビンタをかまされたのだ。
しかも頬に手形が残るぐらい強烈なものを。
エリカ
「しかも私からの着信を無視して!」
ビターン!
エリカ
「おかげでこの土日、微妙な気分で生活の
効率がよくなかったわよ」
バッチーン!
レオ
「っ……」
さすがに足がよろめいた。
頬がジーンとする。
エリカ
「……ふー、スッキリした」
レオ
「す、スナップが効いてるな」
確かにあの場で話し合わず混乱して
逃げたのは俺が悪い。
この罰は甘んじて受けないと。
エリカ
「今ので帳消しにしてあげてもいいわよ」
レオ
「え、ほんと」
エリカ
「まぁ本当はまだウサ晴れ切ってないけどさ」
これだけブッ叩いてまだダメですか……。
厳しいですね。
エリカ
「臆病者!」
レオ
「え」
エリカ
「怖かったんでしょう、あ、あの体勢が」
エリカ
「ったく、気持ちは分かるけど、だからって普通
男が相手に恥をかかせるかしら」
レオ
「ちょっと待て姫。俺は別に怖かったからじゃない」
エリカ
「――は?」
エリカ
「怖くて、恥ずかしくて、だから
逃げ出したんじゃないの?」
レオ
「違うっ」
レオ
「まぁ混乱していたのは認めるけど」
レオ
「そして俺が悪いのも認めるが、姫にも非はある」
エリカ
「何よそれ」
レオ
「姫みたいなのが俺の、その、
ペニスを舐めるなんてダメだ
愛し合ってる、とかならともかくさ」
エリカ  無音
「……」
レオ
「姫はもっと綺麗で上品なんだから
そこらへんは品格を持って――」
エリカ
「対馬クン」
レオ
「ん」
エリカ
「ナめるな!」
バチーン!
レオ
「がっ……」
俺はビンタ一発で床に張り倒された。
口の中に鉄の味が広がる。
……すっげぇビンタだ。
今までのと比にならない。
衝撃で体がすくむ。
エリカ
「私は私よ」
レオ
「だ、だからこそ俺が言ってるじゃないか
姫はキレイなんだから――」
エリカ
「……このアトミックバカ!」
姫は怒ってバタン! と外に行ってしまった。
レオ
「な、なんなんだ……」
わけわからん。
原子力のバカ? そいつは最先端だ。
俺、そんなひどい事言ったか?
むしろ姫の身を心から思って――
それなのに、なんでこんな目に。
ガチャ。
レオ
「あ、姫」
エリカ
「もう一発!」
バキッ!
は、腹の虫が治まらないからって……
……わざわざ蹴りに戻って……
……くるなよ。
薄れ行く意識の中、俺は鳥になった。
………………
気が付けば真夜中。
姫に電話をかける。
レオ
「……っ」
着信拒否された。
仕返しされた……。
良美
「はいエリー。チョコアイス」
エリカ
「ん、ありがとよっぴー」
良美
「今日クラスで噂になってたねエリーと
対馬君のこと。喧嘩してるかもう別れたって」
エリカ
「え? 表立っては何も
言い合ってないはずだけど」
良美
「でも会話も無かったよね? そして対馬君
落ちこんでたから……そりゃ皆も勘ぐるよ」
エリカ
「目ざといなー。他人のカップル関係とかに
興味シンシンな人って多いよねー」
良美
「そりゃあ私だって興味あるし……で、
対馬君とは何があったの?」
エリカ
「こっちが失望しただけ」
良美
「あ、じゃあもうアウト?」
エリカ
「それがさー。アウトだと思ったけど
いざふろうとすると胸が痛むというか……」
エリカ
「私って情けをかけてしまうタイプかもしれない」
良美
「それはないね。エリー、むしろ敵にトドメとか
刺すの大好きだし」
エリカ
「んー、じゃあ何でだろ。時々対馬クンの事を
ふと考えるのよねー」
エリカ
「で、くどくて悪いけど手駒と思ってる事に
代わりはないし……うーん」
良美
「あ、それもしかして!」
エリカ
「え、何?」
良美
「そっかぁ……それならエリーも嘘をついてないし
説明もつくや……未経験だしね」
エリカ
「ちょっと、さっきからひとりで納得してないで
教えてよよっぴー」
良美
「これはエリーが自分で考えて気付く事だと思うよ。
私が意見を言っても拒絶しそうだし」
エリカ
「やだ、今知りたい。教えて」
良美
「ダーメ。人の上に立つならこれぐらい
自分で気付かないとね」
エリカ
「うっ……いつになく私のよっぴーが厳しい」
レオ
「……はぁ」
スバル
「また溜息かよ坊主」
スバル
「オマエ、しっかりカニにプレゼントあげたか?」
あいつ今日が誕生日だったな。
レオ
「あぁ、まぁそれは後でやるけど……はぁ……」
スバル
「今は2人っきりだ。何があった?
他言しないから喋ってみろや」
レオ
「スバル……俺わからないんだ」
スバル
「だから何をだよ。いいから言え」
スバル
「……例え何がどうなろうと、オレだけは
オマエの味方だ。役に立たねぇかも
しれねぇが、アドバイスぐらいはしてやる」
レオ
「ん。全ては言えないから説明難しいけど」
俺は姫とセックスギリギリの所まで行った事は
避けて、スバルに成り行きを説明した。
スバル
「……はぁ、なるほどな」
スバル
「オマエそりゃ姫みたいなタイプにゃぶたれるわな」
レオ
「え?」
スバル
「オマエは、姫がした“ある行為”が
姫らしくないと指摘したんだろ?」
レオ
「あぁ、あれは姫がするべき行為じゃない」
スバル
「じゃあさ、何が姫のするべき行為なワケ?」
レオ
「?」
スバル
「トイレに行くのは姫らしくないか?」
レオ
「いや、そりゃまぁ人間だから行くだろうケド」
スバル
「姫は熱帯魚を飼っている」
レオ
「あぁ、姫は猫とか好きだしわからない話じゃない」
スバル
「姫は牛乳ビンのフタは舐めない?」
レオ
「あ、それはありかもな」
スバル
「姫は、冬はドテラを着ている」
レオ
「そりゃ無いな」
スバル
「……つまりそれは霧夜エリカじゃなくて
対馬レオが創った、もうそう霧夜エリカだろ」
レオ
「え?」
スバル
「姫はありのままに振舞ってるだけだと思うぜ」
スバル
「どうかしてるのはオマエだ、童貞」
スバル
「青臭い悩みで羨ましいぜ、ん?」
スバルは俺の頭をクシャッ、と撫でながら
窓から出て行った。
今日は終業式だった。
一学期も終わりと言う事で皆の気分はウキウキだ。
だが、俺はそれどころじゃない。
昨晩のスバルの言葉が胸に突き刺さる。
凛と演説する姫を見る。
いつもこうやって見ていて、憧れた。
憧れているうちに……俺は。
姫はこうでなければいけないと。
そんな彼女の幻を創り上げていたのか。
なるほど、もうそう霧夜エリカとは巧い例えだ。
なんてマヌケなんだろうか。
姫は……初めから姫のままだったんだ。
ありのままに振舞っていたんだ。
だから、あの行為だって……。
自惚れかも知れないけど、遊びとか保健体育とか
そんなんじゃなくて。
俺を男としてある程度認めてくれたからこそ、の
愛情表現かもしれない。
姫は俺があの行為から逃げたのを怖かったから、
緊張していたからと解釈していたが。
それは姫がそういう精神状態だったから、俺も
同じくそうなんだろう、という考えに至ったのでは。
それを俺は……。
あぁ、なんてバカなんだ。
もうひたすら自責の念。
気が付けば、いつの間にかホームルームが
終わっていた。
いつ成績表を受け取ったのかあまり覚えてない。
貧血を起こした時のように頭がボーッとしてた。
レオ
「……謝ろう、もう1度」
もう口聞いてくれないかもしれないけど。
それでも謝らないと。
レオ
「って、今日終わったら夏休みじゃん!」
早く探し出して謝らないと。
携帯が着信拒否されている今学校で見つけないと。
姫、いるかな?
ここにはいない。
気が付けば日も傾いている。
くそ、いったいどれくらい落ち込んでたんだ俺は。
我ながらバカすぎる。
だめだ、どこにもいない。
佐藤さんに協力してもらえば姫に取り次げそうな
気もするが。
いや、佐藤さんに事情を説明するのは良くない。
やっぱり自分で探そう。――後探していない所は。
普段は全然いかない道場の方に行ってみよう。
いる確率は低いけど探さなきゃ……!
道場の方から何か声が聞こえる。
拳法部の1、2年は終業式が終わると同時に
バスで練習試合に行くのが年中行事だったはず。
じゃあいるのは誰だ。
そっと覗いてみる。
レオ
「――! 姫!?」
あの姫が派手に地面を転がっていた。
姫がすかさず華麗に身を立て直す。
平蔵
「甘い、足刀蹴りは太腿から踵を
ひねりながら蹴り出す! 分かるか!
威力が足りんから反撃に遭うのだ」
エリカ
「はい!」
平蔵
「ダメージを受けてからの動きがのろい!
すぐさま立てなおせ!」
のろいって……。
姫の俊敏さは素人目にみても鮮やかだ。
平蔵
「その動きでは多数の動きに反応し切れんぞ
こんな風にな」
エリカ
「くっ……」
平蔵
「目だけでなく足も動かせ」
エリカ  共通
「はい!」
平蔵
「中段のガードが甘いわ、たわけめが!」
ずんっ、という鈍い音。
エリカ
「ぐぅっ……!」
館長の突きが姫の横っ腹に激突する。
さすがに吹っ飛ぶ姫。
レオ
「な、何やってんだあれは!?」
いじめじゃないのか?
俺は思わず駆け出した。
乙女
「神聖な道場に靴で踏み込むな」
レオ
「あ、ごめん」
レオ
「って乙女さん! あれは何さ!!」
乙女
「姫と館長の組み手の事か」
乙女
「修行だ。いつもどおりのメニューに過ぎん」
レオ
「いつもどおりって……」
乙女
「館長相手にしごかれるだけではないぞ
組まれた筋力トレーニングやストレッチも
全てこなしている」
レオ
「なんだっていきなりそんな事を……」
乙女
「いきなりではない。前からずっと続けている事だ」
レオ
「姫は、これをずっと……?」
乙女
「そうだ。人目につかんようにやってたから
たいていの奴は知らないがな」
レオ
「なんたってこんなハードなメニューを」
乙女
「己の非力に泣きたくないからだそうだ」
乙女
「確かに財閥の頭首を目指すとなれば
どんな危険があるか分からない
それに何より、多忙だろうから体が資本だ」
乙女
「格闘術は鍛えられるうえ、護身になるからな」
姫の筋力の強さの秘訣はここにあったのか。
エリカ
「せいっ!」
姫が稲妻のような蹴りを繰り出す。
平蔵
「そうだいい攻撃だ」
平蔵
「だが後ろにも注意だ、な!」
館長の攻撃を、姫が腕でクイッと逸らす。
平蔵
「そう。お前は鉄(くろがね)と違い
技(ワザ)師タイプだ。攻撃は受けずにみな流せ
上半身は防御に徹し破壊力のある脚で敵を砕く」
レオ
「……天性の運動能力であんなに強いのかと思った」
乙女
「強さは積み上げて練成されるものだ」
乙女
「お前達が遊んでいるときに、姫はこうして
それこそ血の滲む努力をしているんだ」
乙女
「遊ぶ時間を削って、睡眠時間を削って、
それらを犠牲にして、今の姫がいる」
乙女
「もちろん、勉学も相当な量をこなしているだろう」
レオ
「……才能だけじゃなかったのか」
姫が館長に派手に投げられて壁に叩きつけられる。
彼女はそれでも立ちあがっていた。
乙女
「初めから万能な人間などいるわけがない。
皆、努力しているんだ」
乙女
「お前も少しは姫のひたむきな向上心を見習え」
レオ
「1つ聞いてもいいかな」
乙女
「言ってみろ」
レオ
「なんでブルマなの?」
乙女
「……それは……館長の趣味だ」
レオ
「そーまでして館長に習うとは」
乙女
「橘館長は私の知る限り最強の人間だからな」
乙女
「これ以上の師はいないと思うぞ。
しかも変身する度に攻撃力を増し、その変身を
あと2回残しているんだぞ」
レオ
「人間のカテゴライズじゃない……」
…………………
平蔵
「今日の修行はこれまで!」
エリカ
「ありがとうございました!」
平蔵
「うむ、どんどん強くなっていくな」
エリカ
「はい。強くなる事は気持ちがいいです」
エリカ
「でもまだまだ……もっと力が欲しい。もっと」
平蔵
「それは日々の鍛錬だ。焦るなよ。ロクに
鍛えもしないで、いきなり強くなろうというのは
無理があるからな」
レオ
「……姫」
俺が近づくと姫は1歩距離を置いた。
エリカ
「さっきから気付いてたわよ。何、なんか用なの?」
レオ
「話したいことがある」
エリカ
「今日は無理。これからスケジュール
たてこんでるから」
レオ
「いつでもいい。いつが空いてる?」
エリカ
「明日の夕方あたりかな」
俺が再び近づくと、姫はまた1歩距離を置いた。
レオ
「じゃあ、その時に時間作ってくれ」
エリカ
「………………んー」
レオ
「頼む」
エリカ
「……問答している時間が勿体無いかな。
分かった、いいわよ」
レオ
「良かった」
こういう、サバサバしてる所は流石だ。
エリカ
「良かった? 逆に明日で終わるかもよ?
まだ引導渡してなかったからね」
それはつまり交際をやめる、という事なのだろう。
レオ
「例えそうでも通さなくちゃならないスジがある」
エリカ
「……まぁいっか。とにかく急いでるから」
姫はさっさと外に出てしまった。
なんかやたら俺との距離を気にしてたな。
それだけ嫌われた?
いや、嫌われたならそもそも明日会わないだろう。
汗びっしょりだからそれが気になったとか?
……自惚れすぎか。
とにかく明日だ。
良かった、途中で晴れて。
夕方の松笠公園に、人の気配はなかった。
本格的夏休みに入る明日あたりから観光客も
結構くる事だろう。
ある意味、嵐の前の静けさとも言える。
潮風も、海そのものも穏やかだ。
エリカ
「あ、いたいた」
入り口の方に姫の姿が見えた。
覚悟はしているが、姫を見るとドキンと
心が鳴ってしまう。
林の方からはセミの合唱が聞こえる。
ヒグラシの声ってなんか物悲しいから
なるべくこういう状況じゃ聞きたくないんだけどな。
レオ
「姫、忙しい所ありがと」
エリカ
「ほんとほんと。私も情け深いわよ」
機嫌は、やや悪めといった所か。
レオ
「なんか飲む?」
エリカ
「ノーサンキュー」
姫が空を見上げたので俺も見た。
一番星が輝いている。
エリカ
「……で、対馬クンは何の用?」
レオ
「うん……」
エリカ
「つまんない事言ったら引導渡して
帰るんで肝に命じてね」
レオ
「うわ、それはプレッシャーだな」
レオ
「じゃ、ちょっと自分を語っていい?」
エリカ
「必然性がある話ならね」
レオ
「うーん。こういう話しはなぁ……
もっと日常の会話とかして2人の温度とかが
温まってくるあたりで話すと丁度いいんだけど」
エリカ
「いいからさっさと話しなさい」
レオ
「ん、それじゃ」
レオ
「俺さ。昔、テンションに任せて突っ走って皆に
嫌われた事あったんだ」
レオ
「あ、スバル達は別ね。
あいつら、いつも必ず味方してくれた」
レオ
「空回りしてるとか、ハッスル君とか
言われてさ、凄くショックだった」
レオ
「だから、もうそんなのはこりごり。
面倒事には首をつっこまず、テンションに
流されず生きていこうと思ったわけ」
レオ
「で、竜鳴館で姫とあったんだ」
レオ
「……聞いてる?」
エリカ
「うん。マジメな話みたいだしね」
太陽が西の空にゆっくりと沈んでいく。
それを見ていると落ちついて話が出来た。
レオ
「他人にどう思われようと自分の意志を
貫き通す姫がとにかくキレイに見えて……」
レオ
「ヒーローなんて女の子に言ったら失礼かも
しれないけど、そんな目で見てたんだ」
レオ
「で、姫は実際ほとんど何でもできるから……
さらに美しさは増して……勝手に自分にとって
都合の良い幻を作ってたよ」
レオ
「全部が全部……ありのままの姫なんだよな」
レオ
「ごめんよ、姫。勝手にこんなのは姫じゃないとか
言ってしまって」
エリカ  無音
「……」
エリカ
「そうね、怒った意味がわかるとは
救い難いバカじゃないみたいね」
エリカ
「どんな理想を私に抱いていたかは知らないけど」
エリカ
「それを私に当てはめられてもね。
私はあなた好みの女になんかならないわよ?」
レオ
「そうだよね」
レオ
「本当馬鹿だったさ」
レオ
「だから、もう1度だけチャンスが欲しい」
エリカ
「うわ、臆面もなく言ったわね
完全にアウトだとは思わないの?」
レオ
「完全アウトだったらとっくに俺は
そう言われてると思うから……」
エリカ  無音
「……」
レオ
「それに、そう簡単に諦めきれないよ。
俺、前にも増してしょっちゅう姫の
事考えるようになってるし」
エリカ  無音
「……」
レオ
「姫?」
……………………
私の頭は多少混乱中だった。
エリカ
「対馬クンが私のことを考えてる……?」
エリカ
「……私も対馬クンの事を考えてる……
そしてよっぴーが言ってたセリフ」
良美  共通
「そっかぁ……それならエリーも嘘をついてないし
説明もつくや……未経験だしね」
良美  共通
「これはエリーが自分で考えて気付く事だと思うよ。
私が意見を言っても拒絶しそうだし」
エリカ
「気付くって事は今の時点では気付いていない事。
何に? 未経験? 私にとっての未経験は
手術、事故、貧苦、恋愛、性交――」
レオ
「俺、姫のこと本当に好きなんだ」
エリカ
「(――! 好き……? 恋愛……)」
エリカ
「つまり、これは……まさか、そういうことなの?」
レオ
「どうしたの姫? さっきから」
エリカ
「ン……ね、対馬クン。私の事を
考えると胸がなんとなく切なくなったりする?」
レオ
「する」
エリカ
「テレビとかでキレイな景色を見ると
それを私と見たいと思う?」
レオ
「思う。心から」
エリカ
「……そっか」
これが、好きっていう気持ちだったのか。
手駒には良くするけど、恋愛経験なんてないから
気がつかなかった。
自覚していなかっただけ。
で、でも普通好きなら自覚しない?
これまだ好きと言うには微妙なラインじゃないの?
エリカ
「そうよ……簡単には認められない」
あぁ、もう良く分からないけど。
今ドキドキしてるのは確かみたい。
………………
姫が先ほどから何か考えている。
でも、俺は言うべき事を言うだけだ。
傷つくのが恐い。
拒絶されないかと不安だ。
でも、このまま終わるのは絶対嫌だから。
レオ
「だから……付き合い続けてくれ」
言った。
姫の顔を見る。
夕陽のせいかも知れないけど、
姫の顔はほんのりと紅くなっていて。
エリカ
「ン。付き合い続ける事に関しては、いいよ」
――そう言ってくれた。
レオ
「……っ」
思わず海に向かって口を開ける。
レオ
「おっしゃー!!!」
エリカ
「ばっ……何叫んでるのよ。恥ずかしいでしょう」
レオ
「人いないし」
エリカ
「だからってねぇ……」
エリカ
「それと1つ言っておくけど」
エリカ
「あの、シ、シックスナインだっけ?
ああいうの、好奇心だけでやるほど
私は軽くないわよ」
エリカ
「誰でもいいってわけじゃない
対馬クンだから許してるんだからね」
……俺だから許してる……
ジーンときた。
レオ
「…姫」
エリカ
「な、何よ」
レオ
「俺達、付き合うとかいって
お互いの大事なトコ見せたりしてるけど
あるステップを飛び越えてるよね」
エリカ
「えと、交換日記とか?」
レオ
「……全国模試一位?」
エリカ
「む。じゃあ何だってのよ」
今の俺は熱くなってるぜ。
レオ
「キスしてない」
エリカ  無音
「――!」
エリカ
「あー、そういえば、そうね」
レオ
「俺はしたい」
エリカ  共通
「……む」
レオ
「でも姫は初めてだろうし、俺は
無理強いはしない」
エリカ
「初めてじゃないわよ
あんまり舐めないでくれる?」
レオ
「そ、そうなのか? なんだじゃあ俺だけ
はじめてか……」
レオ
「緊張するけど、いいかな」
エリカ
「そんな純粋に言われるとねぇ」
エリカ
「こっちも相手はよっぴーだから
ノーカウントみたいなものよ」
レオ
「……そっか」
姫の肩に手をかける。
その肩は柔らかくて華奢だった。
鍛えているって言っても、姫はやっぱり女の子だ。
エリカ
「……」
姫は逃げない。
と、いうかそれどころか。
エリカ
「ン」
自分から背伸びして、キスしてきた。
こんな所までこの人は受けに回らない。
軽く1回唇を重ねる――。
柔らかい感触。
心臓がドクンと震えて、味なんて
全然わからない。
レオ
「……感激だけど……よくわからなかった」
エリカ
「ん……なんか気持ちいいとか
そういうのはないわね」
エリカ
「それより、心がジーンと痺れてる感じ?」
レオ
「……姫」
その手を握る。
レオ
「もう1回していい?」
エリカ
「いいけど……ここじゃさすがにね」
レオ
「……じゃ、俺の家来る? 乙女さん
実家帰って誰もいないから」
エリカ  無音
「――!」
エリカ
「ふ、ふーん。家ねぇ」
エリカ
「なんかアグレッシブじゃない。対馬クンのくせに」
レオ
「いや、生徒会室であんなコトした
姫も相当アグレッシブだと思うけど」
俺は姫の手をギュッと握っていた。
あくまで姫に決定権はある。
でも来て欲しい。
だから俺はその柔らかい手を強く握った。
それが伝わったのか。
エリカ
「…………………………いいよ」
姫は俺の部屋に来る事を了承した。
それは、もうつまり。
あんな事もしちゃったワケで。
という事は最後までいく雰囲気なわけで。
レオ
「う、なんか一気に恥ずかしくなった」
エリカ
「コラ、そっちが言う台詞じゃないでしょう!」
ビシ! とツッコミをいれられる。
まさにその通りだ。
しっかりせねば。
………………
帰り道。
俺の横に姫がいるわけで。
男達がみんなチラッと見てくる美人なわけで。
俺はこれからそんな姫を家に連れ込んで
2人で色んなことをしようとしているわけで。
……高揚、不安、緊張……
色々こみ上げてくるものがある。
初めての相手がこの姫っていうのは嬉しいけど。
童貞と処女なわけだし、巧く出来るかも不安だぜ。
男というのは悲しいもので、一緒になる喜びも
もちろんあるけど、姫をキチンと気持ちよくさせて
あげられるか、にもかなり悩んでたりする。
うぅ、スバルに電話かけて色々聞きたい気分だぜ。
エリカ
「あ、ナッシュ? 私だけど。ジョーとエヴァンに
伝えといて。今日はいつものトコに泊まるって。
そう……そう……うん、じゃね」
早くもアリバイ工作みたいのしてるし。
しかも泊まるって事は……普通に帰らないことを
ちゃんと承知してるみたいだ。
エリカ
「……ふぅ」
姫の顔が赤い。
さすがに緊張するよなぁ。
お互い無言。
リアル人生にセーブ機能なし。
いやそんな情けない事を考えるな前向きに行こう。
コンドームとかどうするんだ?
買わないとまずいだろうし。
あ、確かフカヒレにもらったよな、学校の屋上で。
あれがある……役に立つとは思わなかった。
レオ
「……」
エリカ  無音
「……」
頼むから人にあうなよ。
スバル  無音
「……」
げぇ、スバル……。
スバル  無音
「……」
あいつは全く気付かないフリをして、そのまま
無表情かつ無言に通り過ぎた。
いつもサンキューです、スバル。
レオ
「はい、あがってくださいな」
エリカ
「うん」
姫を家の中にいれて、ガチャリと鍵をかける。
自分のフィールドに帰ってきたからか、
不安感が薄れてきた。
だから姫を観察する余力が出てくる。
美しい金髪。
ポニーテールから見える白いうなじ。
腰のくびれとか、黒いソックスと白い太腿とか。
気が付けば勃起している。
あぁ。俺スケベなんだな。
レオ
「……なんか飲む?」
エリカ
「ううん」
レオ
「なんか食べる?」
エリカ
「食べてきたし」
レオ
「そ、そっか」
まずい、間が持たない。
エリカ
「対馬クンさー」
レオ
「ん?」
エリカ
「緊張しすぎでカッコ悪」
レオ
「い、いやそんな事言われても」
レオ
「そりゃ緊張するさ」
レオ
「姫は緊張してないの? してるでしょ」
エリカ
「……ま、ちょっとはね。でも
そっちほどじゃないわよ」
レオ
「そ、そっか……」
エリカ
「……そうやってガタガタ震えている対馬クンも
可愛いけどね」
エリカ
「こんな時ぐらいありのままに――」
姫がスッと近付いていく。
そしていきなり唇を奪われた。
エリカ
「熱くなって」
レオ
「うっ……」
レオ
「姫ぇぇぇぇぇ!!!」
エリカ  無音
「!?」
がばっ! と抱きしめようとした。
エリカ
「コラ、それは熱くなりすぎだって! 獣すぎ!」
姫に合気道のような技で投げられる。
エリカ
「ったくもぅ……ムッツリというか何と言うか」
エリカ
「シャワー浴びてくるから待ってて」
レオ
「あ、じゃあ俺も一緒に!」
エリカ
「それは恥ずかしいからダーメ。おあずけ」
レオ
「うぐっ……」
レオ
「女心は難しい」
………………
きぬ
「お、スバルじゃん」
きぬ
「いつものとこ(レオの部屋)遊びにいこうぜー」
スバル
「いやいやいや、あいつ乙女さんのとこの実家に
帰って世話になってる挨拶をするってさ」
きぬ
「ん、でもホレ電気ついてんじゃん」
スバル
「防犯のためだとさ。世の中物騒だろ?」
スバル
「じゃあお前の部屋だなカニ」
きぬ
「えー、ボクの部屋集合? まぁいいけどさ」
スバル
「危ね危ね。なんとかごまかした」
スバル
「レオには飯でも奢ってもらわないと割に合わねぇ」
………………
とりあえず姫がシャワー浴びている間、部屋へ。
曲とかかけるもんなのか?
キャンドル灯すとか?
乙女さんの部屋の花をもってきて
ベッドに散らしておくとか。
いや、下手な小細工はいらないな。
コンドームを取り出す。
だいたいコンドームってひとつの箱に
何個入ってんだ?
12個入りと書いてある。
つまり、最低12回できるってわけだ。
よし、この問題は解決した。
後はなんだろうか。
ベッドを見る。
レオ
「そうだ、シーツを新品に替えよう」
お姫様なんだからそれぐらいの配慮は当然だ。
新しいのを出して、ビシッ! とベットを
メイキングしなおす。
エリカ
「シャワー空いたわよ」
レオ
「ん……」
エリカ
「……随分念入りにベッド作ってるのね」
レオ
「ん、そ、そ、そりゃあ……まぁ……ね」
エリカ
「対馬クンも浴びてきて」
レオ
「いや、俺は……」
エリカ
「マナーでしょ。別に逃げも隠れもしないで
ここで待ってるから」
ポンッ! と肩を押される。
レオ
「……」
出来の悪い子みたいに諭された。
………………
シャワーで体を念入りに洗う
自分のペニスを見る。
はちきれんばかりに勃起していた。
生まれて初めて、男として役に立つ時が来たのだ。
頼むぜ、勃起しないなんて状況になってくれるな。
…………服とかどうしよう。
俺までガッチリ着込むのもな。
タオルとトランクスだけにしよう。
姫には何度も見られてるし、ここらへんは
緊張の度合いが減って助かるぜ。
それではいざ、姫君の待つ部屋へ。
………………
電気は消えている。
レオ
「浴びてきた」
エリカ
「ん……早かったじゃない」
レオ
「ちゃ、ちゃんと洗ったケド?」
エリカ
「そういう事じゃなくて……」
ベッドでは姫が横になって待機していた。
よく見ると、椅子の上に姫の着ているものが
きちんと畳まれて置いてある。
と言う事は姫は今、全裸というわけで。
また心臓が激しく脈打った。
姫の姿を見る。
誰だこのブロンド美人は。
ポニーテールが解かれ、ちょっと姫とは
別の人みたいな雰囲気だ。
エリカ  無音
「……」
レオ
「姫……」
レオ
「やっぱ緊張……してる?」
エリカ
「してないよ」
レオ
「じゃあタオルとるよ」
エリカ
「ち、ちょっと待って」
レオ
「やっぱり緊張してるじゃん」
エリカ
「これ予想以上に恥ずかしいんだって!
生徒会室でやってた時と全然違う」
エリカ
「……全部脱いでいるからかも……」
レオ
「うん。姫は今、素っ裸なんだよね」
エリカ
「い、いちいち言葉に出さなくていいのっ」
声が照れまくってる姫。
聡明な分、言葉責めに弱い人なのかもしれない。
レオ
「後、今回は遊びじゃないからじゃない?」
エリカ
「そりゃ、もちろん遊びじゃないけど」
エリカ
「でも……確かに対馬クンの事は
結構好きだと思うけど、だからって
愛しているとまでは行ってないと思うんだよね」
レオ
「そりゃそうだよ。いきなりそんな事言われたら
こっちだって戸惑う」
そういう気持ちは時間をかけて育むべきだ。
とはいえ時間をかけて愛をはぐくんで、さぁ初体験
なんてカップルは最近少ないと思うし。
レオ
「プライドの高い姫が、俺ならば初体験の相手として
いいって思ったんでしょ?」
エリカ
「……うん」
エリカ
「っていうか対馬クンじゃなきゃヤダ」
レオ
「……」
感涙しそうだ。
レオ
「今は愛してるまで行って無くても
それで充分だよ……これからもっと
好きになってもらうよう努力するから」
姫のタオルケットに手をかけた。
エリカ
「うー……そっち先脱ぎなさい」
こんな時まで命令口調。
レオ
「分かった。じゃあ俺から脱ぐ」
タオルを外し、自分を解き放つ。
全裸になるべく、トランクスを脱ぐ。
勃起しているペニスが、トランクスから
解放される。
バチン! 反り返り下腹部に当たった。
エリカ
「うわっ!? ちょっ、なんかすごいわね」
レオ
「それじゃ、姫も。ハダカ見せて」
エリカ  無音
「……」
レオ
「脱がせるよ?」
エリカ
「……いいよ」
あまり怯えないあたり、さすが度胸がある。
姫のタオルケットをとる。
レオ
「……っ」
これが姫の生まれたままの姿。
思わず生唾を飲み込む俺がいる。
なんというか少女のあどけなさと大人に
なりかけてる艶っぽさを両方持っているというか。
このまま瞬間冷凍してずっと飾っておきたい気分。
(↑口に出していったら怒られそうなので言わない)
部屋の電気つけて隅々まで見たい。
これを俺が抱ける……。
男として産まれ、こんな幸せな時があろうか。
素晴らしい相手を目の前に、俺のペニスは
ギチギチに勃起していた。
エリカ
「……せ、生徒会室で
見た時より肥大化している気が……」
姫が俺のペニスを見て驚いていた。
レオ
「……触ってみる?」
姫の手をとって、俺の股間をそっと握らせる。
エリカ
「やっぱり、熱い……」
きゅっ、としなやかな感触がペニスを包んだ。
エリカ
「ね、対馬クン。ゴム大丈夫よね?」
レオ
「うん、ちゃんとつけるよ」
エリカ
「ん……赤ちゃんなんか出来たら困る」
エリカ
「将来はどうだか分からないけど、とにかく
自分を高めたいから」
エリカ
「正直、赤ちゃん出来ても今は邪魔」
赤ちゃんが邪魔ってのも俺のイメージする
普通の女の子からは出ない台詞だよな。
でも、そんな所も姫だ。
レオ
「分かった約束する。挿れる前につける」
エリカ
「い、いれるってそんな直接的な……繋がる前とか」
レオ
「細かい所にこだわるね」
エリカ
「そりゃ、やっぱムードは大切にしないとね」
……姫っておしゃべりだな。
緊張をまぎらわしているのかな?
ペニスを握っている手を放してもらう。
レオ
「キスしていい?」
こうやってわざわざ許可を取る所なんて
我ながら初々しいよな……。
エリカ
「ん……いーよ」
姫がそっと目をつぶった。
うわ、可愛い……。
エリカ
「ン……」
唇が重なり合う。
カサつきのない、やわらかい唇だった。
遠くから見ているだけだったものが
こうして俺と触れ合ってる。
そっと離す。
エリカ
「ン……なんか、幸せ、かも」
照れくさそうに姫は笑った。
レオ
「じゃ、もう1回」
姫のアゴを、クイと指であげた。
姫は抵抗しない。
だから再び唇を重ねる。
今度は、もっと激しいものを。
レオ
「ん……」
自分の舌で姫の唇をこじあける。
エリカ
「んン、ん――――」
姫の口内に侵入した、俺の舌。
自分のトロトロの唾液にまみれた
舌が姫の口内に入っている。
エリカ
「んっ……ん」
いきなり舌をいれられて姫は
少し戸惑っているようだ。
文字通り姫の唇にむしゃぶりつくようなキス。
エリカ
「ぷはっ……はぁっ、はぁっ、ちょっと対馬クン」
呼吸したならそれで充分。
エリカ
「舌入れるなら初めからそうと――ンッ」
全てを言えないまま、再び姫は唇を奪われた。
再び舌をねじこむと、姫がピクッと体を
震わせて反応する。
エリカ
「ンッ……あ……」
姫の口中を好き放題に動く俺の舌が、
本格的な愛撫を開始しはじめた。
レオ
「ん……む」
エリカ
「んっ……ンンっ……」
姫の歯茎を丁寧に舐めまわす。
エリカ
「うっ、ん……」
そして、虫歯になった事がないと言う
その白い歯すらも舐め始める。
エリカ
「ぅ……ンッ……んんんっ」
避難している姫の舌をみつけだし、
ぐちゅっと絡ませると、お互いの口から
唾液がこぼれてしまった。
エリカ
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
レオ
「姫っ……」
エリカ
「ンあッ……」
そのまま姫に覆いかぶさる。
後は、もう思うままに。
姫の汚れを知らないキレイな体を
俺の指と舌が這っていく。
白い腕も表側だけではない。
手をあげてもらって腋の部分まで丹念に愛撫する。
おへその部分なども撫でてあげる。
少し意外なことは……
姫の美しいカタチをした胸を揉む。
エリカ  無音
「……」
レオ
「あれ、気持ちよくない?」
エリカ
「うん、わ、悪くはないけど、そんなには……」
レオ
「そうなんだ」
姫は思ったほど胸で感じる人ではないらしい。
かといって、強く揉むと。
エリカ
「つっ……ちょっと強い、かな」
レオ
「あ、ごめん」
となるのである。
うぅぅ、童貞ってもどかしい。
だから、胸とかの重点的な愛撫よりも
体全体を触る感じで。
俺の指が、姫の柔らかいお尻を軽く撫でた。
エリカ
「んっ……あ、そこダメ」
あれ?
今度は撫でさすってみる。
エリカ
「こら……あっ……ん」
レオ
「姫、ひょっとしてお尻きもちいい?」
エリカ
「ち、違うって、慣れない刺激だからっ……ンッ」
レオ
「そうかな……」
エリカ
「あ、あんまり変なトコに触らないでよね」
レオ
「例えば、こことか?」
姫の淡い毛の部分を撫でてあげる。
エリカ
「ん、そ、そこは別に……恥ずかしいけど」
はぁはぁと呼吸を乱しながらも
自分の体を俺の好きにさせてくれる姫。
あぁ、早く挿入したい。
もっともっと愛撫したいのに、とにかく
挿入したいと本能が呼びかけてくる。
というかいちいち姫の仕草が可愛くて
こっちとしては文字通り辛抱たまらない。
姫の秘裂をそっと撫でてみる。
エリカ
「ンッ……」
姫がピクンと反応した。
確かに湿り気を帯びている。
もう挿入できる。
とりあえず1回して、緊張して
まだ固まっている部分のある心をほぐさないと。
ただ挿入したいという動物的な考えに
身を任せることにした。
コンドームの袋を手早く破る。
そして、さぁ装着――
レオ
「……あれ?」
くそ、これ手際よく出来ないぞ?
まずい、姫を放っておいてのんびりできない。
しかし慌てれば慌てるほどに……。
エリカ
「対馬クン。それ貸してみ」
レオ
「え」
エリカ
「てこずってるみたいだったから」
エリカ
「えーと、こうやってかぶせるんだよね」
レオ
「ん……そう」
エリカ
「わ、対馬クンの先端ヌルヌルしてる」
レオ
「もう我慢できなくて」
それでも少してこずるけど、2人だと
こういうのも楽しかったりする。
エリカ
「できたよ? これでいいんだよね
途中破けるかと思っちゃった」
姫が俺のペニスにコンドームをセットしてくれた。
すごいフィット感だった。
さすが薄型がウリとか書いてあるだけある。
エリカ
「くす……なんか変な形」
レオ
「確かに」
レオ
「わざわざやってくれてありがと」
エリカ
「もどかしいからゴム無しっていうのも困るしね」
くっ……冷静だな姫は。
俺なんてもうただ挿入したいだけなのに。
レオ
「んっ」
強引に唇を奪う。
エリカ
「あっ……んっ、んんっ、ぷはっ、もう……」
2人の舌から淫らな糸が引いていた。
姫をベッドに寝かせてあげる。
レオ
「それじゃ、行くよ」
盛りのついた犬みたいにガッつく俺。
エリカ
「うん……いいよ……」
それを受け入れてくれる姫。
姫の脚を、左右に開く。
ごく、と唾を飲み込む。
目の前で姫が股を開いている、
この信じられないような光景。
見ているだけで射精しそうになった。
姫の開いている脚の間に自分の腰を入れる。
エリカ
「……優しくね」
レオ
「うん」
いよいよ姫とセックスをする時がきた。
半ば夢心地だ。
自分のペニスを手で握り、姫の秘裂に添える。
レオ
「もう少し足を開いて」
滑らかな太腿を撫でると、緊張で汗ばんでいた。
エリカ
「こ、こう?」
姫が挿入しやすい為にさらに脚を開く。
レオ
「ん」
俺は姫に向かって腰を突きだした。
だけど。
エリカ
「痛っ……」
姫の腰がビクッと反応する。
……あれ?
滑っただけで入らない。
おかしい。
姫の割れ目に先端をグッとセットする。
レオ
「ん……」
エリカ
「ち、違うよ」
また入らない。
割れ目にセットするぐらい誰でも出来る。
だけど、中の膣口に狙いを定めるのが難しい。
というか先端が姫の秘裂に触れているだけで
発射しそうなのに、何をやってるんだ俺は――。
レオ
「あ、あれ……?」
こんな所でもたついてどうする?
エリカ
「対馬クン、落ち着きなさいって……ほ、ほら」
姫が俺のペニスを手でもって。
エリカ
「んぁ……え、と」
ぬちゅっ、と割れ目の中に先端が侵入する。
エリカ
「ん……ここ……」
膣口の場所へ角度を修正してくれた。
エリカ
「このまま突き出せば、多分大丈夫だから」
何から何まで手を煩わせている。
俺しょぼいな。
姫はそれでも俺じゃなきゃヤダと言ってくれた。
なら、せめて痛くしないように。
優しく姫の処女を奪わないと。
レオ
「姫……」
軽く腰を前に出す。
今度は上手くいった。
エリカ
「んんッ……」
愛液の助けを借りて、亀頭の部分が
ヌルリと膣口に侵入した。
エリカ
「んっ……はぁっ……はぁっ」
先端部分がとても温かい。
姫の肉の温もりだ。
エリカ
「…はぁ、はぁ……」
姫が下半身に突き刺された痛みと戦っている。
エリカ
「はぁ……ハァ……はぁ……」
いや、痛さというより苦しさか。
汗を浮かべる姫を見守りながら下半身を
少しずつ、ゆっくりと突き出していく。
エリカ
「く……ぅ……あ!」
姫の襞を千切って膣を押し広げていくような感触。
エリカ  共通
「ぐっ……」
圧迫されて辛そうなのに泣き言は言わない姫。
なんかこれ結果的に姫をじっくり
犯しているだけのような……。
いや、いきなりこんなもん勢いで突っ込まれたら
失神してしまうだろう。
レオ
「姫、大丈夫?」
少し乱れた金髪を手で優しく整えてあげる。
エリカ
「ン……平気。続けて」
わずかとはいえ、繋がったまま話すのは
なんともいえぬ快感があった。
レオ
「んっ……ゴムしてても……なんか、熱」
腰に力を込め、侵入を再開する。
エリカ
「んくっ……」
先端がやたら手ごたえのある部分に当たる。
こ、これが姫の処女膜ってやつなのかな。
エリカ
「あっ……く、ど、どう?」
レオ
「ち、力抜いた方がいいかも」
先端がその手ごたえのある部分をグッと
圧迫する。
ゆっくり、丁寧に。
それはまるで亀頭で処女膜を引っかくように。
エリカ
「う、うあッ……」
少女である姫を、女にする儀式。
姫が生き続ける限り、消えることの無い刻印。
レオ
「俺ちゃんと責任とるから」
エリカ
「ぇ……?」
レオ
「エリカ……行くよ」
エリカ
「あ……」
この瞬間だけは名前で呼ばせてもらうと
心に決めていた。
男の下らないこだわりと笑わば笑え。
キレイな瞳を見つめながら、腰をさらに
突き出した。
エリカ
「あ、ぐ!」
プツッ……
弾力あるゴムが切れるような感触。
エリカ
「く……あぁぁあっ!」
破瓜の痛みに、姫の体が反り返った。
同時に、本当に掘るように進んでいた
姫の中への侵入がだいぶ楽になる。
もう少しだけ奥に入れるべく、
ぐっと腰を動かした。
エリカ
「つっ……くっ……」
姫もだいぶ辛そうだ。
動きをやめて小休止。
俺自身、なかば感覚が麻痺しているし。
エリカ
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
姫が呼吸を整えようとしている。
そんなに痛いのかな。
結合部分を良くみてみた。
レオ
「う……」
清楚だった姫の秘裂には、
俺の醜いペニスがズブリと刺さっている。
また、その結合部分から、処女の証である
破瓜の血がトロリと流れ出ていた。
これは本当に痛そうだった。
エリカ
「はぁ…………はぁ……ハァ」
姫の呼吸も落ち着いてきた。
そして俺も。
姫とひとつになれた純粋な嬉しさと、
初めてをもらった、という動物的な酔いは
この姫の血で一気に冷めた。
半ば麻痺していたペニスに感覚が戻る。
レオ
「ぐっ……え?」
気が付けば、姫の温かい膣壁が
生き物のようにうごめいている。
イメージは、釣り上げられた時に
元気良く跳ねている魚のような活きのよさ。
俺のペニスを周囲から一斉に、
キュッキュッと元気よく締め付けてきたのだ。
レオ
「ちょっ……うっ」
ゴムをしているなんて関係ない、その肉の刺激。
本人同様、攻撃的というか元気良すぎというか。
ブルッと腰が震える。
レオ
「あ……ぐっ」
ドクッ……ドクッ……ドクッ……
我慢なんて許されなかった。
情けない声のもと、俺は盛大に射精してしまった。
エリカ
「はぁ……はぁ……つ、対馬クン?」
自分の上でピクピク痙攣している俺を気遣う姫。
レオ
「はぁ、はぁ、だ、大丈夫っ……」
ゆっくりと膣からペニスを引き抜く。
ん、これゴムを指で押さえながら
抜いたほうがいいな。
エリカ
「あ、ぐっ……」
破瓜の傷跡に擦れて痛かったのか、姫が
ビクンと反応する。
レオ
「ご、ごめん」
うわ……。
引き抜かれたペニスは、姫の血と
愛液が生々しく付着していた。
そのゴムをズルリと引き抜く。
……我ながら大した量だ。
レオ
「姫……拭いてあげるから」
エリカ
「じ、自分で拭けるから」
秘裂から血を流したままでは痛々しい。
レオ
「これくらいは俺がやる」
ティッシュで優しく拭いてあげた。
エリカ
「……ん、恥ずかしいなぁ、これ……」
モジモジしている姫を優しく拭いてあげる。
エリカ
「もういいよ」
姫の呼吸とともに、白い体が動いている。
エリカ
「もういいってのに……スケベ」
レオ
「褒め言葉と受け取ったから」
また膨張していく俺のペニス。
レオ
「姫、きつそう?」
エリカ
「ん……痛みはそんなには、体力的には
全然平気……かな」
レオ
「うぅ……早くてゴメン」
レオ
「じゃ、今度はもう少し……」
コンドームを再び装着。
今度はスムーズに出来た。
レオ
「もう一回、いい?」
エリカ
「ン……ゆっくりね」
レオ
「分かってる」
再び姫の股を開いて、中に挿入する。
エリカ
「うっ……」
姫はまだ辛そうだが挿入自体はさっきに比べ
割とスムーズにできた。
しかし、ここにきてまた姫の膣が
凄い動きを見せる。
グイグイと凄い勢いで俺を締め付けてくる。
レオ
「ぐっ……」
我慢して腰を動かすんだ。
と、とりあえず気持ちを逸らそう。
姫の、ツンと上を向いている美乳を
片手で優しく揉む。
エリカ
「あぅ……」
それが逆効果だった。
ギュウッ!
レオ
「えっ」
締め付けが強くなり、俺は再び絶頂に
追いやられる。
レオ
「くぁっ……あっ」
エリカ
「あ、あれ? つ、対馬……クン?」
レオ
「はぁっ……はぁっ……い、いや
気にしなくて大丈夫」
レオ
「そっちは平気?」
エリカ
「う、うん。ちょっと痛い時もあるけど」
しかしなんて凄い……姫のこれ名器って
ヤツじゃないのか?
悔しいので、姫の片方の胸をゆっくりと
包み込むように揉み続ける。
エリカ
「あ、その手の動き、ン……やらしーんだ」
今度はさっきと比べ射精の量が少ない。
ゴムが多少緩んでもまだいける。
そして俺のペニスは姫の乳を揉んでいるだけで
あっという間に回復する。
よし、こうなれば物量作戦だ。
埋め込んだペニスは再度膨れ上がり、姫の女を
味わおうと、ビクンと痙攣した。
そんな慌てなくても今、動かす。
エリカ
「んっ……あぅ……また大きくなってる」
レオ
「きつかったら言って」
ゆっくりと……少しずつ。
ペニスをズルリと膣口の方まで戻す。
この行為だけでまた腰が痺れてくる。
これ以上引くと抜けるという地点まで戻し
また腰を前に突き出す。
エリカ
「うぁッ……あぁ……」
姫が痛そうな声をあげた。
おそらく破瓜の傷口をこすってるんだろう。
レオ
「姫、大丈夫だから」
エリカ
「うん……」
声をかけてあげてから、ゆっくりと
ズブリズブリと奥まで挿入していく。
エリカ
「くっ、あ、どんどん……入って、くる……」
レオ
「ん、根元までいけるかなって、ぐ」
ズブ、ズブ……
ぐっ、と力をいれて根元まで入れた。
レオ
「よ、ようやく全部入ったよ……姫……」
ここまで来るのに、幾億の俺の子種が
犠牲になったことか。
エリカ
「そ、そっか……これで全部……」
レオ
「1つになってる」
エリカ
「ふーん……た、大したことない、ね」
いや、かなり辛そうでしたけど?
というか涙目ですけど?
エリカ
「はぁ……はァ……」
息も辛そうだし。
でも、それを口に出さない俺の優しさ。
ただ、腰を引き抜く。
エリカ
「んァッ」
そして、また突き出す。
エリカ
「くぅっ……あ」
律儀に反応してくれる姫が愛しい。
引いて……
そして突く。
よし、これで3往復目……!
レオ
「うくっ!?」
ダメだった。
自制が限界を超え、ドプリと精液が出てしまった。
またも俺の体が震える。
これをごまかすため、姫の乳首をつまむ。
エリカ
「あぅ……っ」
そして、そこから指を離さないまま
ペニスを引き抜く。
こ、今度はもう少し長く。
もう1回装着。
どんどん手際よくなってきた。
姫の、滑らかな腰を掴む。
今までは俺が姫の方に進んでいたが。
今度は違う。
姫の股間を俺に引き寄せる。
レオ
「んっ」
エリカ
「あっ………」
再び挿入。
この温もりと気持ちよい締め付け。
あぁ、これはSEXが皆好きになるわけだ。
…………………
レオ
「姫、はい水」
エリカ
「ん……んぐっ」
エリカ
「はぁ……生き返る」
エリカ
「だ、だんだん気持ちよくなってきたけど……」
姫がベットの端のビニール袋を見た。
そこには俺の使用済みコンドームやら
ティッシュやらが山のように積まれている。
エリカ
「対馬クン、随分ハッスルしたわね」
レオ
「姫の体が魅力的すぎる」
エリカ
「そう言いながらもまた口に
コンドームの袋くわえてるし……うわっ」
そのまま姫を押し倒す。
姫が押し倒されてくれたと言った方が正しいか。
えーと、第7Rか?
とにかくまだ続けられる。
自慰の最高記録が1日4回なのに俺ってスゲェ。
こうして何度も出来るのもフカヒレが
コンドームくれたからだ。
ありがとう、フカヒレ。
………………
新一
「はっくしょん! ん、誰か噂してるか?」
新一
「まぁいいや、ギャルゲー続けよ」
新一
「うーん、ギャルゲーでも“一緒に帰ろう”って
いう選択肢を選ぶのは緊張するよなー」
新一
「あちゃー、断られた。よし、今日は完徹でこいつと
デートできる所まで行ってやるぜ」
………………
その後………。
俺達は第10Rまでやっていた。
結果発表――
姫は1度もイかず(最後に軽くイった?)
俺だけ10連続射精。
……セックスって気持ちいいけど難しい。
想いが強ければ、相手も感じるってのは別問題。
こりゃまじで経験だな。
まぁ、そんなことは後で考えればいいや。
今は姫を抱けた事で胸がいっぱいいっぱいだ。
とりあえず、体力消耗しすぎた。
寝ないと。
俺達は一緒に風呂に入って体を洗った後、
フラフラとベッドまでたどり着いた。
レオ
「……この体勢は」
エリカ
「ヤなの?」
レオ
「いや、むしろ嬉しいけど」
柔らかく張りのある胸に顔を埋め、
その匂いを肺に満たす。
レオ
「こういう場合は男の腕枕とか」
エリカ
「別にそんなの決まってないでしょ。
こっちの方が私達らしいと思わない?」
レオ
「確かにね」
レオ
「おっぱい気持ちいいし……これでいいや」
エリカ
「ふふ、なんかこうして対馬クンの
頭撫でてると和むわね」
レオ
「子供扱いされてるみたいだ」
エリカ
「そんな事は無いわよ、男のコとして
あんなに頑張ってたじゃない」
レオ
「姫の体が俺を狂わせる」
手のひらで姫の胸を優しく揉む。
エリカ
「んん……こら、対馬クン……」
レオ
「つーか、俺の事名前で呼んで欲しい」
エリカ
「んー、でも対馬クンって語感気にいってるのよね」
エリカ
「レオってカッコイイ名前だとは思うけど
呼ぶにはまだちょっとね」
レオ
「そう?」
エリカ
「っていうかそっち途中に一回
私の名前を呼んだよね」
レオ
「う、やぶへびだった」
レオ
「あれは、やっぱりHする時の俺なりの
礼儀みたいなもので……」
エリカ
「これからも姫でいいから」
レオ
「俺だけ特別に呼びたい感情もあったりするケド」
エリカ
「私と寝れたのに、まだ贅沢を言うとはねー」
エリカ
「ま、そのうちにね?
いきなり全部は許してあげないんだから」
レオ
「ん、分かった」
うーむ、胸に顔を埋めて頭を撫でられると
聞き分けの良いコになってしまう。
レオ
「もう少し器用に出来ればよかった」
エリカ
「ううん、リードされっぱなしって
なんか悔しいし、気にしないで」
レオ
「ん……」
姫の乳首を軽く唇に含み、舐める。
エリカ
「あ、こらちょっと」
甘い。
レオ
「ねぇ、姫」
エリカ
「んー?」
レオ
「今日姫のはいてたパンツ、頂戴」
エリカ
「……何でまたそんなものを?」
レオ
「そこに置いてあるのをみたら欲しくなった」
エリカ
「そんなもの何に使うのよ」
レオ
「なんていうか、記念というか……」
エリカ
「記念ねぇ……ま、他の人間に見せなきゃ
一枚ぐらいはいい気もするケド」
エリカ
「でも、やっぱり恥ずかしいからダーメ」
レオ
「ん、分かった」
エリカ
「聞き分けいいわね」
レオ
「怒鳴られないだけマシっしょ」
エリカ
「さ、もう寝ましょう。さすがに疲れたから……」
エリカ
「腰、痺れている感じだし」
レオ
「ん……そうだね」
眠くてやや判断基準が甘くなってると見た。
エリカ
「寂しそうに言わないでってば。これが
最後じゃないんだからさ」
その言葉が嬉しかった。
レオ
「姫は……夏休みはどういう予定があるの?」
エリカ
「それなりに忙しいわよ。でも、会える
時間がとれないわけじゃないから」
レオ
「うん」
エリカ
「ふぁー……じゃ、寝ましょうか」
レオ
「姫、俺の前で寝れるんだね」
エリカ
「体抱かせといて寝れないってのもおかしいでしょ」
エリカ
「ほら、おやすみのキス」
レオ
「んー」
エリカ
「胸にしてどーすんのよ」
素で間違えた俺はアホかもしれない。
エリカ
「ん……しかもそのまま吸ってるし。
何も出ないって」
レオ
「ぷは、それでも吸うのが男」
レオ
「いや、眠いのに邪魔してごめん」
レオ
「おやすみ」
エリカ
「ちゅっ……、おやすみ対馬クン」
姫と同じベッドで寝る。
嬉しかった。
エリカ
「Zzz……」
というか寝るの早!
よほど疲れてたんだな。
安らかな寝顔を見る。
黙っていれば、本当にただ美しい眠り姫。
ずっと一緒にやっていけたらいいと強く思った。
きぬ
「なんでそんな幸せそうな顔してんのオメー」
レオ
「幸せだから。姫と上手くいってるもん」
きぬ
「へん、どうせスグふられるに決まってらぁ」
緩衝材をプチプチと潰している機嫌の悪いカニ。
新一
「お前さ、いやにサッパリしてるというか
血色いいよなぁ〜!」
ギクッ!
姫と一晩中体をくっつけてれば、そりゃあ
お肌にいいに決まってる。
本当は部屋だって換気したくなかったけど
こいつらきたら異変がバレるから仕方なく……。
新一
「お前も・し・か・し・て」
掴まれた腕にググッと力をこめられた。
新一
「それ、商店街で配ってたお肌ツヤツヤになる
入浴剤じゃねー? そんなに効くの?」
ふー、バカでよかった。
姫とセックスしましたなんて公言したら
どうなるか分かったもんじゃない。
スバル  無音
「……」
ただスバルだけはニヤニヤと笑っていた。
きぬ  無音
「……」
カニがベッドに寝転んだ。
と思えば、何かに気付いたかのように
ガバッと起きだしてベッドをジロジロと眺めてる。
……フカヒレよりコイツの方がよっぽど
怖いな……勘も鋭いし。
あー困った。
目をつぶると姫の瑞々しい体を思い出してしまう。
そして、あの熱い呼吸と俺を呼ぶ声。
ペニスを締め付けたあそこの感触。
レオ
「くっ……」
また射精してしまった。
あのシーンをフィードバックしただけで
何回もいける。
大変だ、俺。
めっちゃ姫に溺れてる。
レオ
「あぁ……焦がれる」
またティッシュを取り出し自慰の準備をする。
眠気で意識が朦朧としてきた。
レオ上司
「お前はもう限界だ。今すぐ体を休ませろ」
レオ
「そういうわけにはいかないんだ!」
レオ
「……く、夢か」
うぉぉ、姫に会いたい。
今会うのは性の対象と見てるようで気が引けるが。
もどかしい。
性欲との戦いが続きそうだ。
姫の声が聞きたくて電話する。
エリカ
「ん、対馬クン。何?」
レオ
「声が聞きたくなった」
エリカ
「わぁ、健気。……ま、私も聞きたいんだけど」
レオ
「会えない?」
エリカ
「うん、いいよ。えーと今は大阪にいるのね。
で、明日と明後日は中国に行かないといけないの。
だから木曜の夜そっち行くわ」
レオ
「わ、分かった」
姫も忙しいんだな。
キリヤカンパニーの跡取り狙ってるんだもんな。
うう、なんか結ばれてから分かる身分の違い。
でもくじけないぞ。
家に電話がかかってきた。
レオ
「はい対馬です」
レオ
「あ、乙女さん?」
レオ
「うん、上手くやってるよ」
レオ
「え、あ、大丈夫? 様子を見に来なくても
充分うまくやってるから」
レオ
「うん。うん。それじゃあね」
レオ
「…………ふー、危ない」
乙女さんがこっちに来ると姫を
俺の家に呼べないからな。
…………………………
エリカ
「で、結局乙女センパイは家に
帰ってこれないようにしてるんだ」
レオ
「そ、今は俺と姫の愛の巣だからな」
エリカ
「言ってて恥ずかしくない?」
レオ
「すっごい恥ずかしいです」
エリカ
「1回だけなのに、愛の巣って表現も微妙だし」
初めて体を重ねてから、後日に再会すると
照れる、という話はよく聞く。
俺は照れる。照れまくり。
今の所姫にはそういうの無さそうだけど……。
よし、ちょっと過激な台詞を。
レオ
「……1回だけで終わらせる気は無いんだけど
姫だって嫌じゃないでしょ?」
エリカ
「そりゃ私だって別に対馬クンなら
またしたっていいけどね」
エリカ
「――ってバカ、何言わせるのよ」
あ、照れてる。
レオ
「で、ど、どうだったさっきのラーメンは」
エリカ
「うん、美味しかったわよ。やっぱり
ラーメンは正統派のしょうゆが好きかな」
エリカ
「高級店よりも、こういう隠れた名店の方が
美味しかったりするのよねー。
また、どこか紹介してよ」
レオ
「うん」
レオ
「……じゃ、ウチ……くる?」
エリカ
「ふふ、ストレートなお誘いね」
エリカ
「でも今夜は予定が入ってるから無理」
レオ
「……そう」
エリカ
「そんな顔しないでよ。こっちも自分の野心の
為のスケジュールだからね」
家に帰って抱き合いたいけど、姫には
姫の生き方がある。
男として俺は見て欲しい。
でも姫の野心の邪魔をしてはいけない。
俺は耐える男。
レオ
「分かった、また今度」
エリカ
「うん、そういう聞き分けのいいトコ好きかな」
エリカ
「……ラーメン食べたばっかりでなんだけど」
姫が俺の唇にそっとキスする。
ソフトなキスだったが、それだけで幸せになれる。
エリカ
「寂しんぼの対馬クンのために、ちゃんと
また来てあげるから」
姫はそういうと、俺にチャッ! と
人差し指と中指を立てて走っていった。
……慌しい。
でも、忙しい中俺に会いに来てくれたのか。
それは純粋に嬉しい。
というか、俺って愛人みたいな扱いじゃない?
忙しい君主が仕事の合間をぬって会いに来る。
うわ、そのまんま。
それでも姫を繋ぎとめてる。
どんなカタチだろうと……
姫といれれば、それでいい。
とりあえず帰ったら自主トレーニングでもしよう。
今日は “まつかさ開国祭”。
平たく言えば、市をあげてのお祭りの日。
夏休みの一大イベントだ。
こんな時こそ姫と遊びたかったのに
“忙しい”とメールで断られた。
ここ3日、姫とは電話で
くっちゃべってるだけだからな。
でも、乗り物とかで移動している時に姫は
よく電話をくれる。
その時はずっと、日々の些細な事を話していた。
今日こそは健全に遊び倒すつもりだったのに。
って事で俺は幼馴染ズと行動している。
照りつける太陽が夏真っ盛り。
クーラーの効いた場所から外に出ると、
モワっとした熱気が体を包んでくる。
きぬ
「なんで彼女いるはずの人がボク達と行動
してんだろうねぇ」
レオ
「うっせ」
きぬ
「まぁ、オメーと姫は所詮身分違いだったんだよ」
きぬ
「ボク達とまったり行こうぜ」
そう言ったカニの笑顔の上には、
果てしなく青空が広がっていた。
レオ
「って違う!」
レオ
「勝手にエンディングにするな!」
きぬ  無音
「(チイッ)」
舌打ちしている。
レオ
「怪しげな技を使わないように」
きぬ
「レオ、ラムネ買っちくり」
レオ
「ったくしょーがねーな」
新一
「パレードはじまるってさ! チアガール見ようぜ」
レオ
「そんなんばっかだな」
新一
「本当は警備員のバイトするはずだったのに
面接に遅刻しちまって……ボロイ商売だったのに」
レオ
「カニ、お前開国祭の日はバイトで
忙しいんじゃないの?」
きぬ
「テンチョーが過労でダウンした。
1人で張り切りすぎだっつの」
レオ
「ふーん」
スバルやフカヒレは大通りの方へ歩いていった。
レオ
「焦らなくてもどうせこの時間じゃまだ
パレードは先頭の方だろ」
携帯の時計を見る。
姫からのメールが入っていた。
レオ
「パレード、先頭から2番目の車を注目すべし
……なんだこのメール」
気になるな。
とりあえずパレードを見てみるか。
新一
「そこのお姉さん、すいません、失礼しやす」
新一
「おらっ、どけやガキ! 邪魔だボケ!」
フカヒレは老若男女、相手によって声色を
使い分けて人並みを掻き分けていった。
おかげで俺もパレードを見れる。
えーと、パレードの先頭はもちろん
松笠市の市長とどっかの大臣だ。
スバル
「見てみろよアレ。信じらんねぇな」
スバルが指差す方向を見ると……。
先頭から2番目。そこには。
レオ
「……こいつはビックリだよ」
レオ
「姫と祈先生じゃん」
スバル
「なんで姫がパレード参加してるわけ?」
新一
「なんでも、市長の次の車に乗ってくるのは
優秀な学生1名とミスまつかさ、という
セットらしいぞ」
レオ
「前途ある若者ってことか」
レオ
「さすが姫。絵になってるなぁ」
威風堂々として綺麗だ。
スバル
「祈ちゃんも笑顔振りまいてノリノリだ」
新一
「でも祈センセが住んでるのって、
松笠じゃなくて横浜だよね?
俺、一回ストーキングして知ってるもん」
レオ
「インチキかよ先生……」
スバル
「突っ込む所はそこじゃねぇだろ?」
それにしても凄い人垣だよなぁ。
なんか観客の中にとんでもない美人がいる。
あの黒髪美人は、どっかで
見たような? テレビか?
要芽
「そうよ、いるか。私が顧問弁護士を
やることになった霧夜カンパニーのご令嬢」
要芽
「さすがに堂々としてるわね」
レオ
「うーん、しかしこりゃ」
テレビ中継とかもされてるわけで。
やっぱり身分の違いを痛感するなぁ。
フラッシュの嵐にもまったく動じてないし。
きぬ
「これが現実だぜ。かたやパレードで代表を
かざるスーパー女子校生。かたや、それをボーッと
見て持ってるアイスが溶けかけてる平凡男子校生」
カニが俺の肩をポン、と叩く。
レオ
「くっ……」
それでも俺は……。
エリカ  無音
「……」
姫、こっちに気付いてくれ。
じっと見つめる。
エリカ  無音
「……!」
レオ
「あ……」
エリカ  無音
「(パチッ)」
気付いた。
分かってくれた。
合図まで送ってくれた。
それはほんの一瞬だったけど、俺は見た。
きぬ
「おい、聞いてるボクの話?」
レオ
「身分違いだってのは分かった」
レオ
「でも諦めないってことで1つ」
きぬ
「…………んだよ、バカ」
新一
「しかし、あの2人この暑いのに良く
平然としてんなぁ」
レオ
「なんか会話してるのかな?」
新一
「暑いけどお互い頑張りましょうね、みたいな?」
きぬ
「あの2人がそんなタマかよ」
……………………
「霧夜さん、今どなたに向けてウィンクを?」
エリカ
「笑って手を振ってる割に見てるところ鋭いですね」
エリカ
「対馬クン達が嬉しそうに手を振っていたので
挨拶してあげたんですよ」
「まぁまぁ。霧夜さんにしてはお優しいこと」
「対馬クン、って言い方にもどことなく
思いやりが感じられますわね
さすが交際相手だけありますこと」
「そういえば、歩き方が少し女らしくなって
素敵でしたわよ」
エリカ
「祈センセイ、私はからかうのは好きですけど
からかわれるのは大嫌いです」
「あらあら、それはごめんなさい。
こうでもしてないと私、暇でして」
エリカ
「いけしゃーしゃーと。松笠市民でもないのに
お金欲しさにパレードに出てる人が」
「暑いですわねー」
エリカ
「露骨な話題逸らしを……自分だけ日傘さして
暑いなんてよく言いますねー
こっち日光直撃なんですよ?」
「それでその笑みを崩さない霧夜さんの
猫かぶりには敬意を表しますわ」
エリカ
「いえいえ祈センセイのあつかましさには負けます」
エリカ
「というか、ぶっちゃけ、祈センセイのコト今ひとつ
好きになれないんです私。警戒してるって言い方が
いいですかね? 底が知れなくて」
「私も霧夜さんは好ましく思ってませんわ
生徒にしては可愛げが無さ過ぎます」
エリカ
「可愛げないついでに聞きたい事が1つ」
エリカ
「……聞く所によると祈センセイは大江山の
千丈ヶ岳っていう所にある村のご出身だそうで」
「そうですわよ」
エリカ
「……でも、調べたところ
千丈ヶ岳に村なんて無かったですよ?」
祈  共通
「ほほほ」
エリカ
「ふふふ」
余計に温度を上げている2人だった。
……………………
エリカ
「開国祭は花火前のスピーチとか色々
やらされて大変だったわ」
レオ
「お疲れ様」
エリカ
「ま、その分終わった後は自由時間なんだけどね」
かんぱーい!
と姫と俺でグラスをチン! とあわせる。
2人きりでのお疲れ会。
エリカ
「ビールって結構美味しいよねー」
レオ
「本当は飲んじゃダメだけどね」
エリカ
「ま、ちょっとぐらいいいじゃない」
ちなみに、食卓に並んでるのは皆縁日で
買ってきたものだ。
忙しい姫と一緒に回れなかった分、せめて
このくらいの配慮は、という事である。
エリカ
「ふーっ、ほんとよく動いた後は美味しいね」
レオ
「この後も動くけどね」
エリカ
「そーいうのあんまり笑えないかも」
やべ、すっげぇ外した……。
オヤジにはオヤジギャグで対抗したのにぃ。
エリカ
「んー、このお好み焼きあんまり美味しくないなぁ」
レオ
「うーむ、温めなおしたからかな」
エリカ
「こういうのは縁日で食べるからいいのかもね」
レオ
「あ、でもこのたこ焼きは美味い」
エリカ
「ん、どれ?」
姫がタコヤキを口に入れる。
エリカ
「……ぐっ、中身熱!!」
レオ
「あ、ごめん。この温度でもダメなんだっけか」
姫が一気にビールを流し込む。
エリカ
「ふぅ……ったく気をつけてよね、
今度熱いの食べさせたら……」
ま、まさか別れるというのか?
エリカ
「しばらく口聞いてあげない」
レオ
「くっ……!」
ちょっと笑いそうになってしまった。
姫も随分俺に優しくなった。
嬉しい限り。
エリカ
「同じ理由で、この焼きそばも熱すぎ。冷まして」
レオ
「はいはい」
エリカ
「あと、紅しょうがもどけておいて」
いや、優しくはなってないな。
相変わらずだ、この人。
でもいいんだ、これで。
情けないと言われてもこれが俺達。
既存の男女観念なんてあてはまらないぜ。
レオ
「あ、テレビ……」
エリカ
「あ、今日のパレードやってるじゃん
ほら、私と祈センセイがうつってる」
レオ
「うわ、ほんと」
全国放送の民放に堂々と乗ってるんだからなぁ。
スバルからメールが来る。
今のテレビの事だった。見てるっつーの。
レオ
「うーん、やっぱりテレビ映えもするなぁ」
肝心の本人は、チラッと見たら興味ナシって感じで
綿菓子を袋から出して食べていた。
エリカ
「んー、この単純な味がなんとも美味ね」
レオ
「姫、唇の下にワタガシついてるよ」
そういってさりげなく舐めとってあげる。
エリカ
「むー、気を利かせる風に見せてエロに走るとは
流石は対馬クン」
レオ
「そろそろ上いかない?」
上いく→ベッド→SEX。
エリカ
「対馬クンはがっつき過ぎ」
肩においた手をペシッと払われる。
エリカ
「焦らなくても、今日は泊まってあげるから」
レオ
「ぐあー! 青少年はみんなそうなんだ!
哀れんだ言い方しないでくれ」
エリカ
「あははっ」
姫は楽しそうだった。
じゃあバカにされてもいいかな。
エリカ
「とりあえず私に触りたいなら肩でも揉んで」
そうだな、疲れてるならほぐしてあげよう。
…………………
うぅ……今日も姫をあと一歩まで追い詰めながら
エクスタシーまで導けない。
まぁ2回目じゃ無理か。
日々の積み重ねが肝心か。
というか、姫お尻を愛撫させてくれないんだよな。
絶対弱いはずなんだが。
レオ
「んー」
エリカ
「ん……また胸吸ってるし、ん」
レオ
「この状況で吸わないやつなんて俺は人間的に
信用できないね」
エリカ
「ふふ、そこまで言う?」
情事が終わった後、姫の胸に顔を埋めながら
まったりトーク。
すでに定例になったこれが実になごむ。
疲れた俺を心地よく包んでくれる乳房が愛しい。
レオ
「ふぅ……幸せだ」
やんわりと揉みつづける。
エリカ
「そりゃ私の寵愛を一身に受けてりゃね」
レオ
「愛? 愛してくれてる?」
エリカ
「残念。寵愛っていうのは主従関係でも使う言葉
対馬クンのこと愛するまでは行ってませーん」
レオ
「ちぇ」
エリカ
「可愛がってるのは間違いないけどね」
レオ
「犬かよ」
エリカ
「そういえば、8月の中盤に私、2、3日
生徒会長として登校しなきゃいけない日があるの」
レオ
「へぇー、生徒会長も大変だ」
エリカ
「対馬クンも手伝ってくれない?」
レオ
「そりゃ、もういくらでも」
エリカ
「よしよし、いい返事」
頭を優しく撫でられる。
全力で支えねば。
8月3日の水曜日は姫と百景島へ遊びに行った。
やはりというか、絶叫系のマシンは姫にとって
全然平気のシロモノだった。
ただ、佐藤さんはジェットコースターとか
あんまり好きじゃないらしく2人で別の遊園地に
行ったときも乗らなかったので乗りたかったらしい。
水族館にも行ったりしてかなり充実していた。
“こんなのくだらなそ”とか言いながらも
シロイルカにエサをやっておおはしゃぎしている姫は
なかなか微笑ましかった。
8月4日は姫が見たかったけど佐藤さんの
肌には合わないというアクション系の映画を
2人で見に行った。
いかにもアメリカナイズなコテコテ
アクションだった。
だけど良く考えれば姫はアメリカとのハーフ。
かなりエキサイトしてた。
なんか佐藤さんとは一緒に行けないような
遊び場を選んで連れまわされてる気がするが。
それでも楽しいから良かった。
………………
エリカ
「ん、ここにもビリヤード出来るトコあったのね」
レオ
「どれくらい強いか知らないが勝負だ」
エリカ
「負けた方が晩ご飯おごりね」
レオ
「くっ……望むところだ」
エリカ
「デリンジャー・ショッ!」
レオ
「超強ぇ!」
エリカ
「よし、じゃあ回るほうの寿司にGO!
逆にそっち行った事が無かったのよね」
レオ
「今の発言は庶民を敵に回したぞ」
………………
エリカ
「回転寿司、メロンとかケーキまで流れてくるのね」
レオ
「姫さぁ、サーモンを全部自分の所で
獲って他には流さないなんて」
子供のやることだ、という言葉を慌てて飲み込む。
エリカ  無音
「?」
レオ
「こほっ、いやなんでもない。
お茶なんてテーブルにつけてある蛇口から
出るし驚いたでしょ」
エリカ
「驚いたといえば対馬クンのビリヤードの
微妙さ加減にも驚いた」
レオ
「いや、あれは姫が上手すぎる」
レオ
「でも俺、夜中のビリヤードは得意だぜ。
すっごい突きを見せるよ」
エリカ
「帰っていい?」
レオ
「ごめん、もう言わない」
家の前で帰るなんて殺生すぎる。
でも、さっきチラッと見た姫のバッグには
確かにお泊りセットが入っていた。
って事は泊まる気バリバリなわけで。
……………………
お風呂入って、歯を磨いて。
いざ。
エリカ
「対馬クン、ちゃんとゴム持ってる?」
レオ
「当然。ゴムつけるのは姫のためだもん」
レオ
「ほら。ネットの通販で頼んだ1ダースセット!」
どさ、とコンドーム山を見せる。
エリカ  無音
「……」
レオ
「これなんか暗闇の中で光るらしいよ」
レオ
「しかもホラ、俺あらかじめ装備してるし」
エリカ
「……対馬クンってすっごいムッツリなのね」
………………
レオ
「Zzz」
エリカ
「……あんなに強がったわりにすぐ
ダウンしちゃって」
エリカ
「なんか最近ますます対馬クンの深みに
はまってるような気がする」
エリカ
「こうやってるうちに情がうつっちゃったかな」
レオ
「うーん……」
エリカ
「ふふ、よしよし……私って意外と母性的かも」
………………
エリカ
「え、朝ご飯が無い?」
レオ
「そーなんです将軍……食料が
カップラーメンしかありません」
エリカ
「コンドームは用意して食料を用意しないとは」
レオ
「あぁっ、そんな目で見ないでぇ」
エリカ
「じろじろ」
レオ
「穴があったら入りたい」
エリカ
「だから、そーいうの下品だっつってるでしょう」
レオ
「そういう意味で言ったんじゃないん……だけど」
エリカ
「あ、あら、そ、そうなの?」
エリカ
「こほん。というかアレね」
エリカ
「対馬クンは料理を覚えなさい。この私の為に」
レオ
「料理か。確かに」
エリカ
「覚えておけば絶対便利だと思うけど」
レオ
「そうだね、俺自分でもそう思ってたし頑張る」
レオ
「姫に精のつくもの食べさせてあげたいし」
エリカ
「もう! まったそっちの方向に持っていく」
レオ
「いや、だから栄養とって働けるように!
っていう意味だってばさ!」
エリカ
「紛らわしい発言多すぎィ!」
えいや、と思いきり手加減された膝蹴りを食らう。
レオ
「とにかく、コンビニで買ってくるよ」
エリカ
「そんな時間はないかな、とはいえ何か
食べておきたいし」
エリカ
「って事でレッツトライ。それ食べてみましょう」
レオ
「姫のお肌に悪い!」
エリカ
「一回ぐらいいいでしょ」
レオ
「それじゃ、作るぜ」
で、お湯入れて3分。
エリカ  無音
「……(もぐもぐ)」
レオ
「どう?」
エリカ
「変な味」
レオ
「だろうね……」
エリカ
「でも、まぁたまにはいいかも」
エリカ
「はい、私ばっかり食べるのも悪いでしょ」
レオ
「姫からそんな殊勝な台詞がでるなんて!」
エリカ
「配下は生かさぬよう殺さぬよう」
レオ
「やなモットーだな……」
1つのカップラーメンを姫と2人で食べる。
なんつーか、シュールな光景だ。
エリカ
「ごちそうさま。じゃあ頑張るかな!」
レオ
「元気だね」
エリカ
「そりゃあね。こんなにも天気がいいし」
そう言って姫は青空の元に駆け出して行った。
はるかな高みを目指して。
俺も俺のできることを。
……とりあえずは。
外はどしゃ降りだった。
スバル
「なるほど。それで料理を教えてくれ、ねぇ」
レオ
「まぁ俺も思うところがあるわけよ」
スバル
「いわゆる主夫をめざすってか」
レオ
「そうなるかもな。そっちで支えないと」
レオ
「ヒモはごめんだからなー。俺はとにかく
できることをしたいんだ」
スバル
「真剣じゃねぇか。いいとも、手取り足取り
教えましょう」
レオ
「本当に手はとらなくていいからな」
スバル
「最近オマエとのじゃれ合いが不足してると思って」
早速、食材を洗い始める。
スバル
「……カニが最近ピリピリして手が
つけられねーんだわ」
レオ
「ふーん。生理じゃね?」
スバル
「何週間も続くかよ。ちげーって」
スバル
「厄介だよな。他人にとられそーになって
自分の気持ちに気付いて嫉妬するってのも」
レオ
「何か言ったか? 水の音で聞こえなかったんだが」
スバル
「愛の告白」
レオ
「残念! 俺には姫がいるのでした」
今日は生徒会長としての登校日だそうだ。
だから俺も登校しなければ。
良美  共通
「対馬君、おはよう」
レオ
「佐藤さん。おはよう。お互い
夏休みだってのに難儀だね」
良美
「エリーとまだ続いているんだってね。
ある意味えらいよ」
レオ
「褒められることじゃないよ」
レオ
「……つうか、今日は暑いね」
レオ
「昨日の雨のせいか湿度も高くてムアッとしてるし」
セミの大合唱も耳障りだ。
散歩している犬が舌をベロンと出してる。
俺も制服のボタンをゆるめて、もっているウチワで
肌に直接風を送った。
良美  無音
「……」
レオ
「どうしたの、あ、佐藤さんも扇いであげようか」
うちわでパタパタと風を送ってあげた。
エリカ  共通
「おはよっ」
レオ
「痛っ」
自転車で轢かれた。
エリカ
「対馬クン、生徒会室の鍵渡すから。
私達が到着するまでにクーラーで部屋を
涼しくしておいてね」
レオ
「ったく……分かったよ。まったく優しいな俺は」
いざ、生徒会室へ。
良美
「あはは、対馬君元気だね」
エリカ  無音
「……?」
エリカ  無音
「(よっぴー、対馬クンの事ずっと見てたような)」
エリカ
「休みの日に引っ張って来ちゃって悪いね」
良美
「こっちも、もう慣れっこだよエリー」
………………
平蔵
「すまんなぁ。おかげで助かった。
夏休み中にこうも書類がたまるとな」
エリカ
「ま、これも生徒会長の仕事なら仕方無しです
他ならぬ館長の頼みですし」
エリカ
「その代わり例の工事は頼みましたよ」
平蔵
「うむ、任せておいてもらおう」
レオ
「例の工事?」
エリカ
「この生徒会室に校内に向けての呼び出しの
簡易マイクをつけるのよ。いちいち放送部を
通さなくていいのが楽でしょ」
レオ
「なんかますます姫の私物と化してるな」
エリカ
「夏季合宿で体育武道祭のために頑張った私達に
ご褒美だってさ。単なるワガママじゃないわよ?」
平蔵
「儂は帰るが、なんなら女の子2人は車で
送ってやるぞ。男は知らん。歩け」
良美
「あ、それじゃあ私、お願いできますか?
今日荷物が4時に来ることになってて……」
平蔵
「長引かせてすまんかったな。では行こうか」
エリカ
「私は自転車で来てるし」
レオ
「俺はそもそも送ってあげるリストに入ってないし」
良美
「それじゃ、お先に。ばいばいエリー」
エリカ
「また明日お願いね」
良美
「じゃあね対馬君」
レオ
「うん、ばいばい」
佐藤さんは館長に送られて帰っていった。
……………………
エリカ
「さーて、それじゃあ私達も帰る?」
レオ
「……」
カチリ、と生徒会室のドアをしめる。
エリカ
「……もしかして?」
レオ
「うん、そう!」
エリカ
「ほんっとエッチなんだから……」
こういう姫の態度は否定ではない。
…………………………
レオ
「この前、俺がこれで逃げ出しちゃったから……」
エリカ
「仕切り直しってコトね……恥ずかしいけど」
やってくれるらしい。
さすがアメリカの血が入ってるというか……
姫って結構大胆だよな。
まず俺が机の上に仰向けになる。
その俺の顔面を、下着を脱いだ姫がまたぐ。
目の前に、姫の綺麗な性器がアップであらわれる。
姫は互いの性器を舐めあう体位だと解釈してる。
当然、これはそれが一番の目的なんだろうけど。
性器の上にある、突き出された桃のようなお尻。
いつも触ると拒否するこれが、今は
目の前に剥きだしでさらけ出されている。
こっちもいっぱい愛さないと。
いきなり揉んだりすると姫が逃げる可能性がある。
お互い性感を高めてからやろう。
そう思うと俺のペニスが一気に極限まで勃起した。
エリカ
「うわ、目の前でムクムクっと……」
レオ
「は、はじめよっか」
…………………………
さりげなく姫のお尻に指をあてがう。
エリカ
「ん……ぺろ、ぺろ」
まずは姫が亀頭の部分をやんわりと舐め始めた。
じわーっとした甘みが腰に広がる。
姫の秘裂は処女の時と同じように、
慎ましく閉じている。
舌で、縦スジをなぞるように舐めあげた。
エリカ
「ンッ、対馬クン歯とか立てないでよ、ぺろっ……」
レオ
「うん、お互い優しくいこう」
エリカ
「ん……分かった。ぺろ、あむ」
でもこうして改めて見ると、フカヒレの
持っている裏ビデオ見たときはなんか女のアソコが
紫みたいな色で気持ち悪かったけど。
やっぱり姫はピンク色してて、どこまでも美しい。
外側の部分を、優しく舌で舐める。
――すると姫も。
エリカ
「チュっ……じゅっ……ちゅうっ……対馬クンの
もう濡れてる……ちゅっ」
先端から出ている先走りを吸い取るように
舐めてくれている。
俺は姫の秘裂を指でムチッと広げた。
中がヒクヒクと反応している。
クリトリスは、まだ皮に包まれたままだ。
あれも確か勃起させられるんだよな。
姫の下の口にそっとキスをする。
エリカ
「ちゅっ…………んンッ」
先走りを吸っていた姫が刺激に可愛く反応した。
あせばんだ両方の太腿を、俺の顔に
グッと押し付けてくる。
姫の甘い匂いに頭がクラクラしてきた。
舌をクリトリスに伸ばす。
エリカ
「ん、ちゅっ……じゅっ……ん、苦い……ちゅうっ」
そして、ぬめった舌先がその蕾に触れた。
エリカ
「ふぁっ!? ちょっ……ちょっと?」
初めて舌で触れたクリトリスはコリコリしている
感触だった。
多分、これ三分の一ぐらいしか露出していない。
皮を舌で剥いてあげないといけないな。
エリカ
「じゅっ…ちゅっ……ぷは、はぁはぁ、ちゅっ……」
姫は、こちらの様子を伺いながらも先走りを
吸ってくれていた。
とっくに射精してそうな状況だが、女体の神秘の
方に注意が向いてなんとかこらえられている。
舌先に唾液を含ませる。
そして舌の先の方で、クリトリスの皮を
めくってしまう。
剥き出しにされた肉芽は、なんだか恥ずかしそうに
ちょこんとくっついて可愛かった。
それを舐めてあげた。
エリカ
「ふあっ……え、何っ…」
姫の腰がビクッと跳ね上がる。
姫の反応が可愛くて、その敏感な部分を
転がすようにレロレロと舌で舐め続ける。
エリカ
「あ……やんっ……! あッ……ああっ……!」
ただ舐め続けるだけでは単調だ。
さっきより膨らんでいるクリトリスを舌で
グイッと押してみる。
エリカ
「はぅっ……? え、ええ?」
弾力とともに、姫の艶かしい声が聞こえてくる。
レオ
「姫は、ここ自分でいじった事ないの?」
エリカ
「な、何度か触って見た事はあるけど
痛いだけだった……」
レオ
「ん、甘く優しく刺激するのがコツとみた」
今度は舌先で押すよりも、突っつくような感じで
刺激してみる。
エリカ
「あぅっ……あん……」
さすがに集中的に責められると弱いらしい。
もう姫はペニスを舐めることが出来ていない。
丹念な愛撫をクリトリスに続ける。
エリカ
「あん、そ、そこ、そんな気持ちいい、なんて」
俺に舐めまくられたクリトリスは、
充血して真っ赤に膨らんでいた。
姫の粘っこい愛液が、トロリと垂れてくる。
その白い雫をすかさず舌で掬い取り、飲み込んだ。
レオ
「姫の美味しいよ」
エリカ
「くぅぅ……恥ずかしい真似を」
姫の白い肌がカァッと紅くなっている。
でも、姫の弱そうなお尻はまだこれから何だよね。
エリカ
「はぁ……はぁ……よくも……反撃してあげるから」
姫はペニスの根元に優しく指を
添えて、きゅっと握りなおすと。
エリカ
「喘いでも許してあげないから……はむっ……」
くわえこんでしまった。
今度は、俺が何もできない番だった。
エリカ
「じゅっ……ちゅうっ……」
生暖かい、姫の口の中。
執拗に亀頭を愛撫されて、性感が高まった
ペニスに、ねっとりとした舌が絡みつく。
エリカ
「ちゅ……ぺちゃ……ちゅく……ごくっ」
レオ
「あぅっ……」
ペニスが、姫の唾液まみれになっていく。
あんな、理知的な姫の顔に、口の中に
俺のペニスが入ってるなんて。
エリカ
「ふふっ……ちゅうっ……ぺろ」
姫は、俺が喘いでいる事を確認して、
ペニスを咥えながらも満足そうに笑った。
エリカ
「じゅる……っ、れろ……ぺろ」
甘い刺激にビクンと震えるペニスに
姫がぬめった舌をからめる。
レオ
「うぅ……あっ……」
エリカ
「ちゅぱ……ぷはっ、ふふ、対馬クンの
そーいう声、可愛いんだ……あむ」
姫の唾液と俺の先走りが、彼女の
口内で混じり合う。
エリカ
「ちゅっ……ずっ、じゅるっ……ずずっ、ずっ」
そして、それを音を立てて吸っていく姫。
普段、攻撃的な事を言う口が、俺のものを
舐めてくれている。
エリカ
「ずずっ……ずっ……」
レオ
「――く、姫、俺もう……」
俺の反応を見て、姫はいじめっ子の
ようにニヤリと笑うと。
エリカ
「はむっ」
その綺麗な白い歯を、軽く亀頭にあてた。
レオ
「あぐっ――!」
我慢の限界だった。
ドクン!
溜まっていたものが、一気に爆発する。
姫の口内にはいったまま、射精がはじまった。
エリカ
「――ん!? んっ、んんっ……」
姫の口の中に叩きつけられていく精液。
気高い金色の髪を揺らして、姫が精液を
受けとめてくれている。
エリカ
「ん……ごく、ごく、んっ、ごくっ」
白い喉が動いている。
というか、の、飲んでる!?
何者だ、このチャレンジャーは。
エリカ
「……ごくんっ……ぷはっ」
姫の唇から、ツゥッ……と精液が垂れた。
エリカ
「……えへ、飲んじゃった」
レオ
「ティッシュに出してもいいのに」
エリカ
「知的好奇心よ」
頭の良い女の子はエロいと言うが……。
レオ
「味……どう?」
エリカ
「正直、まずかった……苦いというか、
しょっぱいというか……」
レオ
「だ、だろうね」
エリカ
「でも、なんだろ。ま、対馬クンの
ならいいや、とか思う」
レオ
「姫……」
エリカ
「わ、またムクムクと……相変わらず元気ね」
エリカ
「ふーっ」
熱く息を吹きかけられるだけで、
ビクつく俺のペニス。
エリカ
「くす、もっと対馬クンには
あんあん可愛い声出してもらわないと
……れろ、ぺろ……」
レオ
「ぅ……」
射精が終わって敏感になった亀頭を、甘く
舐めてくれる姫。
エリカ
「ピクピクいって、かわい……ん、ぺろ、ぺろ
対馬クンもやってよ」
レオ
「あ、うん」
エリカ
「ぺろ……また、食べちゃお……はむっ……」
再びくわえられてしまったペニス。
エリカ
「んむ、ずっ、じゅ、ずずっ……んむ」
今度は柔らかい唇を動かして、
キュッ、キュッとサオの部分を刺激してくる。
……ぬぁあ、何か知識あるなぁ姫。
こうなったらこっちも負けるわけにはいかない。
コツを掴んだ姫が集中している今がチャンス。
まずは、軽くお尻を撫で回す。
鍛えられた体のせいか、たるんでない
引き締まったお尻。
張りつめた白い尻肌は、触ってみると
柔らかく手に吸い付いてくるようだった。
太腿の上あたりから、ヒップを
すくい上げるようにして揉んでみる。
剥き出しの尻が、揺れていた。
その官能的な眺めに、思わず力を
いれて尻肉をムニッと掴んだ。
エリカ
「ちゅぶ……ん? んっ……ふぅ……」
姫の声に少し甘みがかかる。
自分のお尻が好き放題に揉まれている事に
気付いたか。
お尻のふくらみを、軽く左右に押し開く。
姫の後ろの穴が丸見えになる。
お尻の穴まで、綺麗な色で可愛らしかった。
そこに舌を伸ばす。
たっぷり唾をつけた舌で、尻穴を
舐めてみた。
エリカ
「んむ!? ……ぷはっ! ちょっと
対馬クン!?」
もう1度。
エリカ
「ぁんっ!」
たった2回舐められただけで、そこは
可愛げにヒクヒクと震えていた。
そのままピンポイントで舐め続ける。
エリカ
「こ、こらっ、ダメ、ダメェ! 反則!」
ちょっと舌に刺激があるが、すぐ慣れた。
舌先をできるだけすぼめて、尻穴を突っつく。
エリカ
「やぁんっ……」
そして、そのまま舌先を、ヌッと中へ。
エリカ
「ふあっ……あぁっ……あ、い、入れたの?」
そう、ほんのわずかだけど、俺の舌は
確実に姫のお尻を犯している。
エリカ
「あぅっ……こ、このぉ……調子に、
あぅ、乗って……く!」
腰がブルブルと震えている所を見ると
力が入らないらしい。
さらに、姫の尻穴に侵入している
舌先をレロレロと動かしてみる。
エリカ
「く……あぅ、あン……そんな、お尻で……あ」
姫の声が可愛い。
いつもと違い余裕が無い。
なるべく小刻みに、リズムよく。
エリカ
「んっ……んんっ、この……」
姫はなんとか逃れようとお尻を
くねらせる。
レオ
「お尻、あんまりふらないで」
白い尻肌を、ピシャリと優しくぶった。
エリカ
「ちょっ、ちょっと……」
調子に乗って、ジャジャ馬をあやすみたいに
姫のお尻を軽くペシペシと叩く。
エリカ
「こらぁ!」
怒られそうだったので再びお尻の穴を舐め始める。
エリカ
「ふぁっ、だから……そこ、変なのっ、
……ん、く……舐められると、あぅっ」
俺の舌はさらに奥に侵入しようとしたり、
エリカ
「うっ……あ、こ、んな……あン」
入り口の穴を広げようとしたりと
動いていた。
レオ
「ぺろ、ちゅっ……ぺろ」
エリカ
「んんっ……もうそこはダメ、あっ……」
レオ
「姫……可愛いいよ。ん。ちゅっ……」
エリカ
「はぁっ……はぁっ……くぅっ……」
エリカ
「つ、対馬クンにこれ以上好き放題、
くぅっ……やらせない」
エリカ
「喘ぐのは対馬クンの方……なんだから」
ドスッ!!!
レオ
「!?」
突然、俺の尻穴に違和感。
何が……侵入してきたんだ?
レオ
「ひ、姫」
姫が俺の尻穴に、自分の人差し指に
つっこんでいた。
エリカ
「犯してあげる……」
さらに限界まで、ズブリと指を埋められた。
レオ
「あ……ぐ!」
一瞬、吐き気が襲ってきた。
その後に、じんわり甘い痺れが
広がってきた。
レオ
「こ、こっちだって……」
俺の唾液でヌトヌトにされた姫の
お尻に、人差し指を強引に侵入させる。
エリカ
「ふあッ! ……くっ……ん!」
お互いが、指でお尻を犯している形になった。
エリカ
「くぅ……ん、んんっ」
姫は決して俺の責めには屈さない。
それどころか、俺の尻の中に
侵入させている指を折り曲げて、
中をグイグイと刺激してきた。
レオ
「う!? く、あっ……あ?」
エリカ
「ふ、ふ……ほうら、きいてきた」
レオ
「え?……」
エリカ
「こ、ここらへんっ……グリグリされると
出ちゃうんでしょう? 本に書いてあった」
レオ
「あぐっ、ど、どこでそんな知識を」
エリカ
「某人物が持ってる本」
誰だそんなエロスな奴は、くそ!
まさか祈先生か!?
とにかくこれ以上グリグリされたら
変になってしまう。
レオ
「や、やめてくれ姫、もう……こっち、
指、抜くから……」
エリカ
「それ、お願い?」
レオ
「うん」
エリカ
「お願いします、でしょ」
レオ
「お願いします、ちくしょう!」
エリカ  共通
「ふふっ」
姫は爽やかに笑った後
エリカ  共通
「ダーメ」
と、天使の笑顔で私刑宣告をしてきた。
エリカ
「私、ゲームでボタンを連打するのとか
結構得意なのよねー」
エリカ  共通
「せーの」
レオ
「φ×△Ω!」
俺のあられもない叫びは
無人の校内に響き渡った。
レオ
「負けました……」
エリカ
「虚しい勝利だったわ」
エリカ
「はぁ。もう、信じられない……
なんでお尻いじりまわすかな」
レオ
「だって普段姫触らせてくれないんだもん」
レオ
「あの態勢だと目の前にあるんだよ」
レオ
「そりゃ触るだろ!」
エリカ
「何逆ギレしてるのよ」
ビシッ! とチョップをいい角度で
入れられた。
きっちりケジメつけて俺をイカせたくせに。
エリカ
「もう、調子くるうなー。あんな風にされると」
顔を赤く染める姫。
可愛かった。
……また、隙あらばお尻は愛撫しておこう。
夏休み登校最終日(というか、2日目だけど)
既に日も暮れ始めていた。
レオ
「これが最後の書類」
エリカ
「うん、これで終了ね。はーい2人ともご苦労様」
良美
「ようやく終わったねー2日がかりの書類整理」
レオ
「これじゃ生徒会に入れば内申よくなるわけだよな。
そうでもないと割に合わないぜ」
エリカ
「そういうグチを言う人がいると見込んで、
気が利いてる館長からバイト代預かってるわよ。
どっかで食べよー」
レオ
「男だけのメンツだったら絶対金出さないだろうな」
エリカ
「で、ここなわけね。まぁいいけどさ」
良美
「ここ美味しいよねー」
レオ
「市民としては街の名物に貢献しなきゃな」
きぬ
「いらっしゃいませー。ご注文の方
お決まりでしたらドウゾー」
エリカ
「私甘口の海軍カレーで」
良美
「私は野菜カレーで」
レオ
「きのこカレー中辛」
きぬ
「かしこまりましたー」
良美
「なんでオーダー受けた後にウェイトレスさんが
クルッと回るんだろうね」
レオ
「店長の趣味だそうで」
良美
「へー、そうなんだ」
エリカ  無音
「……」
きぬ
「お待たせーい。甘口? の海軍カレーと
野菜カレーと、きのこカレー中辛? ね」
レオ
「なんで疑問文が混じってるんだよ?」
カニはシカトして他の客のオーダーを取りに
いってしまった。
運ばれてきたカレーを口にいれてみる。
レオ
「辛!」
エリカ
「っ……なんか私のも、前来たのより
辛くなってる気がする……水」
良美
「え? 私のは普通だけどな」
俺達の皿に福神漬けをいれながら
佐藤さんが首をかしげていた。
なんの嫌がらせだあいつ。
まぁ辛くても美味いんだからいいけど。
………………
レオ
「それじゃね」
佐藤さんのマンションの近くまで
2人を送ってから別れる。
今日、姫は佐藤さんと一緒に過ごすのだろう。
ならば、邪魔は出来ない。
やっぱり姫にとって佐藤さんは特別だろうから。
エリカ
「ところでよっぴーさぁ」
良美
「んー?」
エリカ
「もしかして対馬クンのこと好きなんじゃない」
良美
「! ぐ、ごほっ、ごほっ……」
エリカ
「ごめん。お茶してる時に言う台詞じゃなかったか」
良美
「ど、どうしたのエリーいきなり?」
エリカ
「うん。まぁ今まで恋愛っていうのをやっていない
私が、不覚にも対馬クン相手に結構な好意を
抱いたワケですよ」
エリカ
「そうしたら他の女のコの、好意って言うのかな?
そういうのが分かるような気がしたの」
エリカ
「よっぴーの視線は、ずっと対馬クンを
追いかけている気がするんだよねー」
良美
「あぁ、あ……えっと、その……あの」
エリカ
「悪いけど、真剣に聞いてるから」
良美
「う……! そ、そうだよね、付き合ってるんだし」
エリカ
「はやく答えないとサーチライトを浴びせるわよ」
良美
「……わ、わ、わ私……」
良美
「エリーの言うとおり対馬君が……好きだよ……」
エリカ
「やっぱり」
良美
「で、でも誤解しないでね? 別にエリーから
奪い取ろうとか、そんな気はゼロだから」
エリカ
「あ、うん。そんなの分かってるよ。
よっぴーはそういう事絶対しない」
良美
「あの誓いにかけてね」
エリカ
「こっちこそごめんね。だってさ、そう考えると
よっぴーが対馬クンの事好きなの
結構前からって事じゃないの?」
良美
「あはは……実はねー」
エリカ
「う、やっぱり。申し訳ない。
まさかよっぴーの想い人だったとは」
良美
「それは全然いいの! だっていつまでも
告白しない私も悪いし! エリーにも
その事黙ってたし!」
良美
「だから、エリーを恨んでるとかそういうの
全くないよ? これも誓いにかけて本当だよ」
エリカ
「……そうなんだ」
良美
「エリー?」
エリカ
「良かったーっ! よっぴー!」
抱きっ。
良美
「うあっ」
エリカ
「よっぴーと少しでも気まずくなるのは
絶対嫌だからね、ほんと良かったよ」
良美
「エリーったら……大丈夫だよ。
あの誓いがある限り……私達は大丈夫」
2人は1年生だった。
優等生として知り合った2人は友好を深め合った。
人を立てる佐藤良美は霧夜エリカと相性が良い。
2人の仲はどんどん深まっていった。
そしてある時にお互い心の暗部を曝け出した。
だが2人はそれを受け入れた。
特に、佐藤良美はとても嬉しかった。
霧夜エリカが、自分が持っているサガを
理解してくれたから。
だからあのオマジナイを提案した。
自分達は生涯支え合う友でいようと。
手順は以下の通り。
@お互いに自分の人形を作ること。
Aそれを互いに交換すること。
Bその時に誓いの言葉を口にすること。
霧夜エリカは人形を作るなど初めての作業であり、
指に傷をつくりながら良美の為に懸命に縫い上げた。
そして、準備は整い――
放課後の教室は無人。
夕陽が赤々と差し込んでいる。
良美
「ちょっと哲学的っぽい話かもしれないけどね」
良美
「人間っていうのはさ、お互いに適度な
距離を持って生きてるよね」
エリカ
「そうね、その距離をしっかりとれるのが
世間一般で言う大人らしいわよ」
良美
「それでも……やっぱり1人ぐらいは
欲しいと思うんだ。話し合って
助け合って理解しあえる友達が」
エリカ
「うん。私みたいに将来トップに立とうとする人間は
なおさらね。孤独に潰されないように」
良美
「じゃあ、はじめよっか」
エリカ
「オーケー」
エリカ
「私達は」
良美
「これからも」
良美
「互いに」
エリカ
「助け合い」
良美
「裏切らぬよう」
エリカ
「離れぬよう」
良美
「変わらぬ」
エリカ
「友情を」
良美
「誓います」
エリカ
「誓います」
エリカ
「……これでいいの、よっぴー?」
良美
「うん……ありがとうエリー……
こういうのに付き合ってくれて」
エリカ
「ふふ、女の子らしいじゃない」
エリカ
「よっぴー、これからもよろしくね」
良美
「うん、ずっっっっっっっとね」
ばあや
「……嬢、最近遊びに行く事が増えたのぉ」
エリカ
「そうよね……もう少し自分を磨かないと」
ばあや
「いや、若いうちは遊ぶに限る、それも
自分磨きだしのぉ。反対はせんよ
肌の艶もいいしのぉ。男でも見つけたかい」
エリカ  無音
「……」
ばあや
「……ふふ、照れるこたぁない。
嬢の母親なんぞ男を囲っているではないか」
……………………
エリカ
「遊ぶ回数が増えた、か。
確かにねー。ん、メール?」
“明日会いたい レオ”
エリカ
「明日かぁ、こっちの予定を切り詰めればOKかな」
エリカ
「……ってしっかり時間を作ってあげてる私がいる。
うーん、作業ノルマが……」
レオ
「海だ!」
レオ
「そして姫の水着だ」
エリカ
「はいはい、恥ずかしいからはしゃがない」
レオ
「もともと姫が目立つから、もういくら
目立っても同じ気がする」
エリカ
「ま、確かに見られてるわね」
レオ
「ここまで注目されてるとジェラシーを
通り越してもはや誇らしいぜ」
レオ
「ほんと綺麗だよ姫」
エリカ
「ん、まぁね。でもそんなストレートな
台詞も言えるようになったのねー」
レオ
「鍛えられてますから」
レオ
「いや、でも忙しい姫が海行こうって
提案に乗ってくれたのは嬉しいし」
エリカ
「感謝しなさいよ」
エリカ
「……今日、対馬クンが誘ってくると思って予定
空けてた私もどうなの……」
エリカ
「最近ペース乱されてるなぁ……こんなんで
天下取れるのかなぁ」
レオ
「姫、何ブツブツ言ってるのさ。泳ごうよ」
エリカ
「今行くって」
レオ
「でも晴れてよかったぜ
海来れたらなって思ってたからさ」
エリカ
「はいはい私の水着が見たかったのね」
レオ
「正直それもある(携帯で撮影しながら)」
レオ
「でも、ここ1週間ぐらい姫が時々何か
考え込むことあったからさ」
レオ
「何か、広い場所で思い切り遊べたら気も
晴れるかなって」
エリカ
「へぇ、それなりに考えてるんだ、生意気に」
エリカ
「……地味な所でポイントを稼いでくれるわね」
エリカ
「ヘリで見た夜景はどうだった?」
レオ
「うん、最高だった」
レオ
「やっぱり姫のところはすごいな
自家用であんなのいくつも持ってるなんて」
エリカ
「最近はヘリを10分ぐらい乗せてあげる
サービスが流行ってるみたいだしね。
そういう経験をしておくのも重要かなって」
エリカ
「結構お気に入りの風景でさ。見せてあげたの
よっぴーに次いで2人目なんだから」
レオ
「そっか、それは凄く嬉しいよ姫」
エリカ
「ほんと私も対馬クンに対して甘くなっちゃったわ」
エリカ
「……ちょっと情うつしすぎかな?」
レオ
「いやぁ、まだまだ足りない。
もっともっと愛が欲しい」
エリカ
「欲張り」
レオ
「これでも姫を見習ってるんだ」
エリカ
「ふふ……」
ばあや
「嬢。仕事やノルマの効率が目に見えて落ちてるのぉ
お館様がその程度か、と笑っておられましたぞぃ」
エリカ
「分かってる。反省してるわよ」
ばあや
「ほっほっほ。嬢にしては珍しいことじゃて」
………………
エリカ
「う、うーん」
まずい事態かも。
私が対馬クンに人生乱されそうなんて。
仕事をしようとすると対馬クンの顔が!
うぅ、会いたくなってきた。
…………
会っちゃったし。
こうしていると本当に和むし。
いつからだろう、この乳房に感じる
重みが心地よくなったのは。
こう、1日あっていないだけで、足が
フラフラと対馬邸へ。
エリカ
「……んー、まずいわね」
レオ
「え、俺のセックスのテクニックが?」
エリカ
「いや、それはだいぶ巧くなったって言うか……
って違うって」
エリカ
「こっちのこと」
対馬クンがきょとんとしてる。
うーむ、いちいち仕草にキュンときてしまう。
まずーい。
これが……これが…………。
皇帝とか王に用いられる言葉“女に溺れる”では?
私の場合は男なんだけど。
まぁ、異性の魅力にうつつをぬかしているという
意味で同じであって。
その人物の事が気になって、仕事能率が
ガクンと落ちる。
まさにストライクな状況。
レオ
「姫……」
エリカ
「……何?」
レオ
「どうしたの? 何かあったなら力に……」
エリカ
「べーつに」
悩みは対馬クンのせいだっての。
レオ
「今の俺に出来ることといえば……せいぜい
おっぱいを吸うぐらいだが、それぐらいなら
いくらでも力になろうじゃないか」
エリカ
「エッチ……」
気を紛らわしてくれる冗談なんだろうが
まったく良く言うよ。
こんなとこまで愛しく思えてきた。
あぁぁ、本格的にまずーい。
とりあえず謝っておこう。
色に溺れた皇帝達よ、馬鹿みたいと
笑ったのは軽率でした。
気持ち、ちょっとだけ分かる。
しかも傾国の美女とかじゃなくて私は
普通の男のコの対馬クンだし。
あぁ、泥沼ロード。
私は思ったより女だったということ?
嬉しいような迷惑のような。
とりあえず、このままではいけない。
私の夢は遥か高く。
こんな所で足踏みしてはいけない。
いざとなれば、男の1つや2つ切り捨てる
悪女でなくては世界などとれない。
――よし!
対馬クンとは別れよう。
私はいまだ悩んでいた。
どうも対馬クンと別れる踏ん切りがつかない。
対馬クンが可哀想だな、と思ってしまって。
はぁ……私が他人の心配をしてどうするのよ。
いや、もう他人じゃないけどさ。
でもなぁ。
考える。
世界の経済の動きとかを考えていた頭脳が
一人の男のコの事ばかりを考える。
エリカ
「……ひらめいた!」
イメージは頭にマメ電球。
いい方法がある。
対馬クンのためにも。
そしてわが友のためにも。
さらに私のためにも。
さすが私。
まずは対馬クンに連絡して……
次に……
スバル
「うっし、今日のスバル先生による
クッキング授業はここまで」
レオ
「あぁ。ありがとなスバル」
レオ
「これでちょっとは上達したぜ」
スバル
「しかし、惚れた女の為に料理を学ぶとは
尽くす男だねぇ」
レオ
「だから姫とやっていけてる」
レオ
「よし、明日あたり姫に料理を食べさせてやろう」
ん、メール?
“明日の夕方6時に松笠公園であえる?”
レオ
「おおーっ、ほらそんな事言ってるそばから
メールが来たよ。これ以心伝心?」
スバル
「……ま、頑張れや」
さて、今日は早めに行こうっと。
よく晴れてるし。
今年の夏は比較的晴れてくれてよかったぜ。
おかげで姫と楽しく遊べた。
生涯最高の夏休みだ。
夏休みはもう終わるけど。
これからは姫と秋、冬と過ごしていくんだ。
エリカ
「あ、対馬クン。こっちこっち」
レオ
「姫、早いね」
エリカ
「まぁね、最後ぐらいは」
レオ
「え?」
エリカ
「ちょっと歩きましょうか」
なんだか、姫の様子が普通ではない。
エリカ
「はじまりはこの公園だったから
終わるのもこの公園かなって」
レオ
「――え、終わり?」
レオ
「何を言ってるの?」
エリカ
「交際、やめましょう」
レオ
「――」
頭がグラッと揺らいだ。
姫が時計を見る。
エリカ
「本日8月29日午後17時48分を持ちまして
霧夜×対馬のカップリングを終了します」
そんな事を平然と口にした。
エリカ
「分かった? 対馬クンと私との交際は
本日限りでやめ」
レオ
「冗談だろ、またそんな契約を打ち切るみたいに
……いきなり過ぎるよ」
エリカ
「その通り。まさに契約を打ち切るのよ」
エリカ
「もう対馬クンとは付き合いませんってね」
レオ
「俺、姫を怒らせるようなコトしたか?」
エリカ
「……それは……」
レオ
「そりゃあ、いやがってるのに姫の
お尻の穴を舐めたことは謝るけど」
エリカ
「ばっ……! ち、違うって!」
レオ
「じゃあお尻の穴に指いれたこと?」
エリカ
「お尻から離れなさい! 関係ないんだから!」
エリカ
「別に私は怒ってるわけじゃないわよ」
エリカ
「むしろ楽しかった、だからお礼を言うわ
ありがとう、対馬クン」
レオ
「え」
姫が夕陽を見る。
エリカ
「もう夏が終わるわ。だから、お姫様の
ひと夏のアバンチュールも終わりってわけね」
レオ
「つまり、その……ほんとにひと夏の遊びだったと」
エリカ
「初めはここまで来るとは思わなかったけどね」
エリカ
「でも対馬クンが予想以上によかったから
こんな親密になっちゃってね」
エリカ
「私はこの経験を糧にさらに上に進むことにするわ」
エリカ
「対馬クンも、今度はもっと普通の女の子と
恋愛しなさい」
レオ
「俺は……それでも姫が……」
エリカ
「はっきり言ってね、私の覇道には対馬クンが
邪魔になったの」
エリカ
「私が野心より男をとるタイプだったら
いいんだけどね、私は野心とるタイプだから」
エリカ
「それに対馬クンさぁ。今は竜鳴館の
レベルではいいセン行ってるけど……」
エリカ
「これから私は大学に行くとする
もちろん東応大学レベルね?」
エリカ
「するとそこには良家のおぼっちゃんで
イケメンで成績優秀で将来有望なひと
ばっかり来るのよ」
エリカ
「対馬クンはそれらの男より魅力的な
自信はあるのかしら?」
レオ
「ぐっ……」
エリカ
「ね? 身分が初めから違いすぎるのよ」
エリカ
「でも、対馬クンは普通レベルではすごく
魅力的だと思うから。胸を張っていい娘を
ゲットすればいいじゃない」
ポンポンと肩を叩かれる。
エリカ
「それじゃ、そういうことで、
もう携帯とかかけてこないでね」
レオ
「あ……」
思わず手を伸ばし、姫の腕を掴む。
何度も抱いた温もりがあった。
だが、姫は。
エリカ
「さようなら、対馬クン。
学校ではまた普通にクラスメートとして話そうね」
なんて虫の良すぎる言葉を言って去っていった。
気が付けば、俺はいつのまにか
目から涙を流していた。
エリカ
「……なんてまっすぐな涙」
エリカ
「さすがにこっちも胸が苦しいじゃない」
……………………
ベッドの上で、うずくまる。
レオ
「テンションに流されてっ……またこんなっ……」
姫とは格が違うと自分で分かってたのに。
本気にしちまって……!
レオ
「くそっ……」
じっとしてられない。
俺は家を駆け出し。
我を忘れて走りまくった。
だが、姫への想いは全く変わらなかった。
二学期がはじまる為、乙女さんが家に戻ってきた。
レオ
「どう乙女さん、俺の料理」
乙女
「うん……悪くないな」
乙女
「しっかり料理勉強してるとは。えらいな」
こうして姫の為に頑張ったことは、
何かしら役にたってるんだ。
乙女
「お前……顔つきが少し大人っぽくなったというか
垢抜けてないか?」
乙女さんまでがこんな事言ってるんだ。
姫との、このひと夏はとても有意義だったんだ。
だから気持ちを切り替えて。
2学期を頑張ろう。
姫の事は諦めて。
朝、目が覚める。
レオ
「……はぁ」
レオ
「やっぱり諦められねぇよ!」
少し前まで、このベッドで一緒に寝ていたのに。
姫が恋しい。
命令されたい、笑って欲しい、
エッチで感じさせたい。
姫の心と体が欲しい!
……あぁ、くそ。
もうどうにもならないのだろうか。
――2学期がはじまった。
乙女
「さぁ、新学期の初めぐらい皆で元気良く行くぞ」
新一
「乙女さんってほんと元気だよなぁ……
普段何食ってるんだろう」
スバル
「それに比べてこっちはキノコでも生えてそうな
腐りかけなんだが」
レオ
「……はぁ……欝だ」
諦めようとする度に諦めきれない。
新一
「お、姫だ」
心臓がドキリと高鳴った。
姫は俺を轢く事なく、自転車を横につける。
エリカ
「や、おはよう。対馬ファミリー」
新一
「ねー姫。なんかレオが腐臭をはなってるんだけど
姫と喧嘩でもしたの?」
エリカ
「この前別れたの。綺麗さっぱり終わり」
スバル
「あんれま」
レオ
「……っ」
みんなの前で思いっきりそんな事を口にされた。
エリカ
「でも、喧嘩別れしたわけじゃないから
普通のクラスメートに戻っただけ」
エリカ
「ね、対馬クン」
レオ
「……ははは、そうさ」
レオ
「……元に戻っただけさ」
乙女
「おい、なんか目が虚ろだぞ」
スバル
「というか泣いてないか? おい、大丈夫か?」
エリカ
「あ…………えーっと」
エリカ
「……じゃ、体育館でね」
スバル  無音
「……」
………………
元の関係か。
遠くから憧れの目で姫を見る。
そんな一方通行の関係。
……つれないよ、姫。
しかも、俺生徒会役員だから顔を
合わせる機会は多いわけで。
普通に拷問だよな。
体育館から帰る。
良美
「あの、つ、対馬クン」
佐藤さんがおずおずと俺に話しかけてきた。
レオ
「佐藤さん……」
良美
「エリーとは、そ、その……残念だったね?」
上目遣いで顔色を伺いながら聞いてくる。
レオ
「うん……でもいいんだ」
良美
「あ、ちょっと待って対馬君」
佐藤さんが何か言っているが聞こえなかった。
良美
「あぁ……行っちゃった」
レオ
「姫……」
レオ
「はぁ……鬱だなぁ」
エリカ  無音
「……」
レオ
「ん?」
レオ
「誰かいるかと思ったけど気のせいか」
エリカ
「ったく……ウジウジしちゃって腹立つなぁ
私と付き合ってた頃のハキハキした対馬クンは
どこ行ったのよ」
エリカ
「……って、何してんだろ私。
もう関係ないんだから放っておかなきゃ」
レオ
「はぁ……」
姫はいつもと変わらぬように過ごしている。
時々目線があうと、
エリカ  無音
「!」
エリカ  無音
「……」
エリカ  無音
「(ぷいっ)」
こんな風に逸らしちゃうし。
なんであんなに割り切れるのだろう。
良美
「つーしーまーくーん」
クイクイと袖がひかれていた。
レオ
「あ、佐藤さん」
良美
「もう、さっきから呼んでたのに」
レオ
「何かな」
良美
「あ、あのね……」
佐藤さんは下を向いてモジモジしはじめた。
レオ
「???」
ザー……ガガッ……
「えー、佐藤さん、対馬さん、伊達さん。
至急生徒会執行部まで出頭してください」
レオ
「くっ……」
生徒会室に取り付けられた呼び出しスピーカー。
あれはかなり厄介だぜ。
ちょっとした用事ですぐ呼びつけられちまう。
ザー……ガガッ……
「えー、ついでにジュース買ってきて下さいな
私はオレンジジュースで」
……ブツッ
レオ
「なんて恐ろしいスピーカーなんだ!」
なんとかせねば。
レオ
「と、とにかく行こうよ佐藤さん」
良美
「う、うん。そうだね」
佐藤さんは何が言いたかったのだろう。
あぁ……気分は休みを経た今も最悪。
「対馬さん、ではここを英訳してくださいな」
レオ
「すいません、聞いてませんでした」
「そういうことを堂々と言わないように」
クラスからどっと笑いが起きる。
エリカ
「何ボーッとしてんのよあのバカ……」
レオ
「……はぁ」
姫の方を見る。
エリカ  無音
「!」
エリカ  無音
「……」
あぁ……目線逸らされた。
「霧夜さん、覇気のない対馬さんを
どうにかしてくださいな」
エリカ
「それを私に言われましても関係ないですし」
イガグリ
「さすが姫、なんて苛烈な一言だべ」
新一
「今まで付き合ってたのに、いきなり
あんな事言われたら俺はグレるな」
クラスの所々から笑いが漏れていた。
あぁ、笑え笑え。
対馬レオは道化でございます。
エリカ  無音
「……」
………………
レオ
「……俺の気分も夕焼け」
姫にふられ、笑いものにされ。
テンションに振り回された結果がこうか。
結局、最後は後悔が待っているんだ。
しかし、いったい何だろう。
この胸の奥にチリチリと熱く燃えている炎は。
ちくしょう、もう熱くなんかなりたくないのに
なんでこうも心が焦がれる。
良美
「見つけた、対馬君」
レオ
「佐藤さん」
良美
「って……泣い……てるの?」
レオ
「え……あ」
無意識に泣いていた。
いかん、このクセは治さないと。
女の子に涙を見せるなど恥もいい所だぜ。
あわててゴシゴシと拭く。
レオ
「な、なんか用?」
良美
「うん……用、あるんだ」
風が吹く。
良美
「エリーにさ、その、交際終わりにされて
傷ついていると思うけど」
あぁ、友達である姫のフォローをしにきたのかな?
さすが優等生の佐藤さん気が利いていらっしゃる。
良美
「でも、その……あの……」
レオ
「何なの?」
思わずイラついた声を出してしまった。
良美
「あっ……う」
レオ
「ご、ごめん」
レオ
「佐藤さんにあたっても仕方ないね」
良美
「対馬クン、元気出してよぅ」
ストレートな励まし。
レオ
「佐藤さん、そんな事言っても無理だよ」
レオ
「笑い物にされてさ……俺のちっちゃな
プライドはもうズタズタだし」
レオ
「道化だから、笑われるのは仕方ないけどさ」
良美
「エリーはね、ああいう性格だから」
レオ
「もうそれは分かってる」
レオ
「ただ……悔しいんだ」
レオ
「姫に釣り合わない自分がちっぽけみたいで」
レオ
「力の無さ、魅力の無さが悔しいっ……!」
レオ
「でもそれは、俺が今まで普通に生きてきた
報いでもある。だからこんな自分が嫌いだ!」
良美
「そ、そんなことないってば!」
レオ
「気休めはいいから」
良美
「気休めなんかじゃないもん!」
レオ
「じゃ……じゃあ何だってのさ」
良美
「本気なの!」
レオ
「はい、本気?」
良美
「対馬君の良さを分かって好きになってる人間が
ここにいるの!」
良美
「だから……自分の事を嫌いとか言わないでよ……」
レオ
「好きって」
良美
「私が」
佐藤さんが自分を指差して、
良美
「対馬君を!」
そして俺を指差す。
良美
「ってあぁぁっっっっ!!!」
良美
「い、勢いでついに言っちゃったぁ!」
夕陽にも負けないぐらい紅に染まる佐藤さんの頬。
レオ
「さ、佐藤さんがこの俺を?」
良美  無音
「(こくこくこく)」
恥ずかしいのか、必死に頷いてる。
レオ
「佐藤さん……姫専門じゃないの?」
良美
「エリーとは全く別の次元の話だよぅ!」
レオ
「あ、ごめん。ちゃかすつもりじゃなかった」
良美
「は、恥ずかしいよ……ちょ、ちょっと待ってね
深呼吸するから」
ぎこちなく言葉を紡ぎ出す佐藤さん。
その初々しい動作が愛しく見えた。
良美
「ん……だ、だから」
良美
「エリーと別れて傷ついた直後に
こんな事言うなんて卑怯かもしれないけど」
良美
「対馬君を元気にしてあげたいっ!」
良美
「私、エリ−みたいに輝いてるわけじゃないけど」
良美
「す、好きな男の子ぐらい、元気にできるもん」
良美
「だから……」
良美
「私と……」
良美
「付き合ってくださいっ!」
告白!?
逆境に弱い俺の脳に電流が走った。
というか何で小生が、佐藤さんに好かれてるの!?
別に幼い頃何かを約束した、とか。
不良や猛犬から助けた、とか。
そんなエピソードは1つもない。
レオ
「佐藤さん……1ついい?」
良美
「2つでも3つでも」
佐藤さんはグッ! と身構えた。
でも緊張しているのか体は震えている。
レオ
「いや、あの」
レオ
「俺のどこ……好きになったわけ?」
我ながら情けない問いかけだけど。
今は自分が嫌いだから、聞きたかった。
良美
「えーと、ど、どれから言おうかな」
レオ
「そんなにたくさんあるの?」
良美
「まずね、優しいとこ」
良美
「いつもまわりに気を配って、自分はこらえて
相手を立ててあげてるし」
良美
「やっぱり気遣い出来ない人は怖い……から」
良美
「それに、いつも自分を抑えてるけど
いざとなったらとっても男のコ
らしくてカッコイイとこ!」
レオ
「お……」
良美
「自分の悪口じゃなくて友達の悪口で怒る熱いとこ」
良美
「弱いものにも優しいとこ」
良美
「やたらに嘘はついてないとこ」
レオ
「ほ、他にはないかね?」
俺はかなり立ち直っていた。
なんか俺、いい奴だな。
良美
「後は……その……ちょっとミーハーだけど」
良美
「顔が結構私好み、とか、あはは」
レオ
「佐藤さん……!」
これはマジで気休めや、からかいじゃねぇ!
日頃から俺の事を見てくれている人の発言だ。
そういえば佐藤さんは確かに俺に優しかったよな。
基本的に皆に優しいから勘違いしないように
気をつけてたけど。
そうか……真実だったのか。
嬉しいな。
良美
「だから対馬君が、私と付き合ってくれたら
……幸せかなぁって……」
レオ
「――」
こんな不意打ちみたいな告白反則だ。
でも男として答えなくちゃ。
俺は、この佐藤さんの告白を――
断る。姫を諦めきれない
受け入れる
――卑屈になってた。
自分に対して。
でも、こんな自分を好きだと
言ってくれた人がいる。
いい所を指摘してくれた佐藤さん。
……そうだよな、必死に自分を否定して
諦めようとしてたけど。
別に諦めなくてもいいじゃないか。
足りない所はこれから補えばいい。
自信がついた。
胸の奥でチリッと焼けていたこれは
姫に向ける思慕の炎。
そうだ、あの日フラれた時だって
勝手に姫の言い分だけで諦めてた。
こっちはまだ言いたい事を言っちゃいない。
砕けるのはその後でも遅くない。
炎が一気に燃え上がる。
レオ
「佐藤さん!」
良美
「は、はい!」
レオ
「ありがとう」
レオ
「俺、その言葉だけですっごく元気になれたよ」
レオ
「だから本当にありがとう」
良美
「い、いや、私は別に何も……」
レオ
「頑張ってみる」
良美  共通
「え?」
レオ
「まだ言いたい事だって沢山あるのに
勝手に諦めていた俺は馬鹿だ」
レオ
「姫にやり直すよう話をしてくる」
良美  無音
「――」
レオ
「佐藤さんの気持ちは涙が出るほど嬉しかったよ」
レオ
「俺も姫を同じぐらい好きなんだ」
レオ
「だから、諦めきれない」
レオ
「もう1度姫の所に行ってくる」
レオ
「だから俺は、佐藤さんとは付き合えない」
良美
「……あ……」
良美
「そういう……単純一途な所も結構好き」
佐藤さんは、笑ってくれた。
良美
「エリー、多分生徒会室じゃないかな」
レオ
「佐藤さん、本当にありがとう」
レオ
「佐藤さんの言葉で勇気がもらえたよ」
頭を下げる。
精一杯の感謝を。
そして、気が付いた時には、俺は駆け出していた。
告白してくれたばかりの佐藤さんを残して。
道化といっていた俺は、今度は佐藤さんを
道化にしてしまった。
だけど、例え最低と罵られようとも。
姫を諦めることはできない。
それは自分の心の正直な答え。
ならば、その通りに動くのみ。
ピンポンパーン
ガガッ……
エリカ
「カニっち……じゃなくて蟹沢さん。ラクロス部が
緊急助っ人願いを出してます、速やかに
グラウンドへ急行してください」
姫の私用アナウンスが校内に響き渡る。
あれが鳴るってことは。
扉を開ける。
姫はやはりここにいるって事だ。
エリカ
「? どうしたの対馬クン血相変えて」
レオ
「ここにいるのは姫だけ?」
エリカ
「見ての通りね」
他は誰もいない。
よし、こいつはチャンスだ。
飾りなんていらない。
ありのままの気持ちで、充分だ。
ガチリ、と生徒会室に鍵をかけた。
エリカ
「ちょっと……なんで鍵をかけるのよ」
レオ
「2人きりで正直な話をしたいからだ」
エリカ
「正直って?」
レオ
「まず俺から言おう」
勝負!
ズカズカと姫に近寄る。
エリカ
「ちょっと、何なのよ?」
レオ
「俺は姫が、好きだ!」
エリカ
「うん。それ前に聴いたよ。で、終わったでしょ?
記憶がなくなっちゃったの?」
姫はあくまで冷静だ。
レオ
「あれは姫の一方的な意見だ」
レオ
「俺は納得してない」
エリカ
「納得してないも何も、恋愛なんて片一方の
気持ちが冷めたらそれで終わりでしょうが。
ウザい事言わないでくれない?」
レオ
「姫は冷めたなんて言ってない」
レオ
「ただ、覇道の邪魔になる、というのが理由だった」
エリカ
「何よりの理由でしょ。私は恋と野心だったら
野心をとるの」
レオ
「いーや」
レオ
「俺は姫を信じてる」
エリカ
「信じてるって何をよ」
レオ
「姫なら両方とれる。だって、姫は欲張りだから」
エリカ
「だから、それが難しくなったから片方
とることにしたんでしょうが」
レオ
「姫はそんな器じゃない、両方とれる!」
エリカ
「って何よ、その理由でやり直したいなんて
言うんじゃないでしょうね」
レオ
「っていうか、まだ終わってない」
姫をグッ、と半分押し倒す。
エリカ
「な、何よ!」
こっちから姫を落とすぐらいの気持ちで
いかないとダメだ。
男なら、普段はゆずっても……例え人生
これから先尻に敷かれ続けようとも……。
ここだけは譲るな!
レオ
「姫との思い出はまだまだこれからなんだ」
エリカ
「って何暴走してんのよこのバカ!
分かる? 対馬クンは私にふられたのよ」
エリカ
「それなのにつきまとってくるなんていうのわね!
ストーカーなんじゃないの?」
レオ
「姫は本気で俺のことストーカーだと?」
エリカ
「思わないわよ、ただ一般的にそう見えるの!」
レオ
「へぇ、姫が一般論を言うんだ」
エリカ  共通
「ぐっ……」
レオ
「姫、俺は姫が大好きだ」
エリカ
「それはもう分かったっての! 身に染みてるわよ」
エリカ
「私はね、それを承知の上で対馬クンを
フッたのよ。野心の為にね。
話題のループに気付きなさいよ!」
レオ
「本当にそんなんでいいの?」
レオ
「1人の男をキープできないようで世界をとると?」
エリカ
「むっ……!」
エリカ
「……だから、問題は対馬クンが
キープする価値が無い男ってこと!」
エリカ
「言ったでしょ? 対馬クンはこれから私が
出会うであろう、出世街道のエリート達に
比べたらきっと色褪せるって」
レオ
「あぁ、確かに今の俺はそこまでじゃないよ
勉強せずに遊んでたりしてたからな」
レオ
「でも俺だって素質でそいつらに劣ってるとは
思えない。今からだって絶対間に合うはずだ
条件あるなら出してくれ、クリアしてやる」
エリカ
「じょ、条件って……」
レオ
「俺は本気だ。本気の人間……しかも俺なら
並大抵の事はやってのけるからな」
エリカ
「口だけは随分偉そうじゃない」
レオ
「それに、俺はそいつらに1つだけ
負けないと思うものがある」
エリカ
「何よそれ、スケベ心?」
レオ
「違う! ……それは」
レオ
「姫が好きだというこの気持ちだ!」
レオ
「それだけは他人に絶対負けない!」
エリカ
「………うぅ? 何でこんなに
熱くなってるのこの男」
レオ
「姫が俺を熱くさせるんだ」
レオ
「姫、俺が嫌いか?」
エリカ
「嫌いなわけじゃないって言ってるでしょ
っていうかむしろ好きよ」
エリカ
「あっ……う……しまった」
エリカ
「で、でも、クラスメートに戻ったんだから!
そう決めたんだから!」
レオ
「じゃあまた交際状態に戻ろう」
エリカ
「だぁーっ! なんでそうなんのよ!
なんのために握った手を振り払ったと思ってるの」
レオ
「振り払われたなら、また掴めばいいだけ」
エリカ
「それは、しつこい! っていうの、
余計に嫌われるわよ」
レオ
「でも、想いを全部伝えないで後悔するよりいい。
もう何度でも言うぞ、好きなんだ姫」
エリカ
「こ、このバカっ……」
レオ
「それは自覚している、でもバカには
どうしようもないバカと愛しいバカがいて、
俺は後者だと思う」
エリカ
「自分で言うなっつーに!」
レオ
「姫……」
レオ
「姫のとる世界ってのを俺にも見せてくれ」
レオ
「騎士となってどこまでもついていく」
レオ
「そういう人間を探しているんだろ?」
レオ
「だったら俺をとってくれ」
エリカ
「…………はぁ…………」
姫は大きく溜息をついた。
エリカ
「まぁ、なんとも勢い溢れる告白ね」
レオ
「とても姫以外の前では言えない」
レオ
「多分、年取っても言えないだろうし」
エリカ
「……正直に言うとね」
エリカ
「私だって、別れてから寂しかったわよ」
エリカ
「対馬クンの事ずっと気になってたっての!」
エリカ
「で、頑張って元のリズムに直そうと
してた所にコレでしょ」
レオ
「分かってくれた?」
エリカ
「分かるわけないでしょ、
あんな寒い一方的な告白で!」
エリカ
「むしろ頭来たんだから!」
レオ
「え」
エリカ
「男1人とれないで世界はとれない?
ふん、生意気に痛いとこ突くじゃないの」
エリカ
「だったらその両方とってあげようじゃないの
見てなさいよ!」
レオ
「……姫!」
エリカ
「ふん、いい気にならないでよね。
そこまで私にお熱っていうなら
盾になって死ぬ覚悟してもらうわよ」
レオ
「一緒にいられれば、それが俺の幸せだ」
エリカ
「……うぅ、ほんと単純バカだったのね」
レオ
「……ん?」
レオ
「げぇっ!」
エリカ
「騒がしいわね今度は何よ」
レオ
「姫! 放送マイク!」
エリカ
「ぇ……お、ON!? さっき切らないまま……
って事は今の全部校内に……!? ぬかったぁ!」
エリカ
「んん、ん、ん! ゴホン!」
エリカ
「以上、竜鳴祭の劇の練習でした。失礼しました」
レオ
「姫、そりゃ無茶ありす……」
エリカ
「うるさい黙ってなさい」
バキッ
ザーーーッ……プツッ……
なごみ
「……激烈バカだ……」
紀子  無音
「……」
スバル
「はーっはっはっ、いやーレオも姫も最高だわ、
なぁ洋平ちゃん?」
洋平
「い、痛いだろ、気安く背中叩くな!」
洋平
「聞いている僕のほうが赤面してきたぞ……
対馬め、実はあんな性格なのか…あなどれないな」
スバル
「そ−なんだよ熱くていいだろ? オレのダチは!」
乙女
「うん、いい告白だな。ストレートに気持ちが
こもってる。さすが私の弟だ」
乙女
「さぁ練習を再開するぞ! 雑念を退散させろ」
きぬ
「オリャアアーーーッ!」
女子生徒Z
「なんか知らないけどカニっちが
キレて暴れてる! みたいな」
平蔵
「これが若さだのぉ、真っ直ぐで良いぞ」
「うふふ。土永さん、バッチリ録音できましたか?」
土永さん
「おうよ祈、一言一句残らず記憶したぜ」
真名
「な、なんやねん。あのけったいな告白は」
豆花
「そーでもないヨ。ロマンチクで素敵ネ」
新一
「ちきしょー! なんだかいちゃいちゃして
ムカツクぜ! 別にレオがいちゃついてもいい!
俺が孤独なのがとにかく嫌なんだ、寂しいんだ!」
イガグリ
「全くだべ! 世の中不公平だべ!」
……………………
良美
「うぅ……私は何の為に告白したんだろ」
エリカ
「ご、ごめんねよっぴー」
エリカ
「対馬クンがねらいめ、とか言ってけしかけて
そしたらこんな結果になっちゃって」
良美
「……ピエロだなー」
エリカ
「今回ばかりは素直に反省してます」
良美
「なーんてね」
エリカ  無音
「?」
良美
「別にいいよ、エリーは私のタメを思って
してくれた事だもんね」
良美
「それに私、モヤモヤしてたから
やっぱり告白はすべきだったんだよ」
良美
「今はいくらかスッキリしたし。
言わないでいたより、ずっと良かった」
良美
「だから、別に怒ってないよエリー」
エリカ
「よっぴー……!」
良美
「さ、お風呂沸いたから一緒にはいろ」
エリカ
「うん、脱がせっこしよう!」
俺のあだ名は当然のようにナイトになった。
なごみ
「ナイトセンパイ、おはようございます」
椰子が超嫌味ったらしく挨拶してきた。
レオ
「……うぅ」
洋平
「一躍時の人だな対馬。西崎激写してやれ」
紀子  無音
「(カシャカシャ)」
レオ
「あぁもう、フラッシュがうざい!」
乙女
「レオ、今日発行の週刊ドラゴン(学校新聞)の
一面にお前の記事が書いてあるぞ」
レオ
「2−Cの対馬レオ、姫に熱愛告白!
本誌記者が一言一句残さず記録した大江山先生より
受け取ったデータを元にここに全文を掲載……」
レオ
「ってあの先生余計なコトすんなよ!」
なごみ
「へぇ、センパイ有名人ですね」
……こいつ、こういう時だけ話しかけてきやがる。
(あ、あの人がそうよ)
(へぇー、あれナイトさん)
(寒い台詞だったけど、顔はまぁまぁね)
……あぁ、人々の噂声が聞こえるよ。
廊下を歩いているだけで視線を感じる。
教室に入った。
豆花  無音
「……」
真名  無音
「……」
くっそー、どいつもこいつもジロジロ見やがって。
ノートを開く。
俺と姫の名前が相合傘で書かれてた。
あと、名前がレオではなくナイトに変えられてた。
レオ
「お前ら……小学生じゃないんだからさぁ」
黒板とかに書かないのは姫が怖いからだな。
だからって俺を集中的にいじめるなんてひどいっ!
エリカ  共通
「おはよー」
みんなの視線が姫に集中する。
エリカ  無音
「……」
さすがの姫も少し驚いていた。
レオ
「……おはよ」
エリカ
「ん、おはよ」
教室からオォーッ! というドヨメキが起こった。
エリカ  無音
「………」
あっ、機嫌悪そうだ。
「それでは、出席をとりますわよー」
なんで今日に限って丁寧に1人ずつ呼んでるんだ?
嫌な予感がした。
…………
「伊達さーん」
スバル
「ウィース」
「ナイトさーん」
レオ
「……ぐっ、は、はい」
どっと教室から笑い声が起きる。
祈  共通
「いじめはありません」
…………………………
放課後の生徒会室。
再び俺と姫は2人で集合していた。
エリカ
「……ったく、学校中で話題になってるじゃない
どうしてくれんのよ」
レオ
「姫、今はマイク大丈夫?」
エリカ
「うん。腹立って電源コード引っこ抜いてるし」
レオ
「さすがに恥ずかしいね」
エリカ
「や、私は被害者なんだけどね」
レオ
「もう後にはひけないね」
エリカ
「嬉しそうに言わないでっての」
エリカ
「まー別にいいんだけどさ。なんか
対馬クンと付き合ってる時の方が
気分的には元気になれるし」
エリカ
「後は、上手く集中力を切り替えることね
対馬クンと遊ぶときは遊ぶ、仕事は仕事」
レオ
「それにも協力する」
レオ
「つまり、会ったときに思いっきり遊んで
おくことだよ姫」
姫の肩に手を置く。
エリカ
「ン……久しぶりにしてみようか」
レオ
「うん。正直ずっとしたかった」
エリカ
「スケベ」
レオ
「姫は?」
エリカ
「ふふ、それはこれから確かめてみて」
………………
エリカ
「下着好きなんでしょう?」
レオ
「ん……うん、まぁね。でも変態って
わけじゃないよ?」
エリカ
「ふふ、じゃあこうしてあげる」
レオ
「うわ……」
エリカ
「私の脱ぎたて」
レオ
「あたたかい……」
エリカ
「対馬クンのも熱い。下着越しからでも
分かるもん」
レオ
「姫が1日はいてたやつだよね」
エリカ
「そうよ、嬉しいでしょ」
レオ
「ああ!(純粋な笑顔)」
エリカ
「くすっ、素直なご褒美に手を動かしてあげる」
レオ
「……気持ちいいよ」
エリカ
「どんな風にいいの?」
レオ
「ん、腰が痺れる感じ、かな」
エリカ
「へぇ。こんな風にギュッ……と握ったら?」
レオ
「ん。甘く切ない気分」
エリカ
「……ふーん」
姫に顔を観察されていることに
気付き、慌てて目線を下に逸らす。
なんか俺だけ感じてるのは恥ずかしくて。
レオ
「姫の下着……赤多いよね」
エリカ
「私はピカピカの金か燃える炎の赤が
大好きな色だからね」
レオ
「うん、そんな感じだね」
エリカ
「対馬クン、胸見てないで私の目を見なさいよ」
レオ
「え、あ、ごめん」
レオ
「姫が手を動かすたびに、揺れるんだもん」
レオ
「吸っていい?」
エリカ
「がっつかないの、もう。お仕置き」
上下に強くしごかれる。
レオ
「うぅ」
エリカ
「ほらほら。対馬クンに揉まれて少し
大きくなったかな?」
ぷるん、とわざと胸を大きく揺らす姫。
レオ
「く、がっつくなと……言いながら
うっ、えげつないまねを」
エリカ
「今日はね」
レオ
「ん?」
エリカ
「今日は……安全日ってやつだから」
エリカ
「ゴム無しで……してみよっか」
レオ
「!」
エリカ
「あ、今ビクンって動いた。分かりやすいんだ」
レオ
「そ、そりゃそうだ」
レオ
「姫がそんな事言ってくれるなんて」
ゴム無し……つまり生。
その一文字が俺を興奮させた。
レオ
「姫……俺もう」
エリカ
「出しちゃう? それじゃ下着は外すわよ」
エリカ
「いくときの顔、しっかりみせてね」
姫がペニスを握る指をシコシコと
上下に激しく動かした。
レオ
「く……あっ」
たまらず射精してしまう。
エリカ
「あ、可愛い」
自分の体にうちつけられる精液より、
俺のイキ顔を観察している姫。
エリカ
「でも、なんか不満そうね?」
レオ
「い、いや……別に?」
エリカ
「言いなさい」
ぐっ、とペニスを握る手に力を
こめられる。
レオ
「あっ……いや、姫の下着の中に出したかった」
エリカ
「あ、そういうものなの? それじゃ
もう1度やってあげる」
ぱふっ、とペニスの上に下着を
かぶせられた。
エリカ
「またすぐ元気になるし。復活早いわよね」
レオ
「そりゃ姫のせいだよ」
胸がむき出しなんだもん。
エリカ
「それで、どんな格好でエッチするの?」
レオ
「え?」
エリカ
「ゴム無しの時点で特別だからね。
今日は対馬クンが好きな格好でいいよ」
レオ
「う、うぅ」
エリカ
「考えてる考えてる。スケベよねー」
レオ
「姫もそうとうスケベだと思う」
エリカ
「そうかもね。こんなことしてあげてるぐらいだし」
俺の好きな格好……。
というか、普段出来ないような姿勢。
じゃあ、アレだ。
決まった瞬間、一気に興奮が高まった。
レオ
「う……」
1度目の余韻が残っていたのもあり、
2度目はあっという間に絶頂に達してしまった。
エリカ
「あれ……もういっちゃったの?」
姫の温もりが残る下着が精液で汚れていく。
レオ
「な、なんか1回目のが、残ってたみたい」
エリカ
「この下着対馬クンに汚されちゃったからあげるわ
好きなんでしょう?」
レオ
「ありがと……」
姫を抱き寄せて、唇を重ねる。
エリカ
「ん……♪ …………んんっ……んあ」
スカートの中に手をいれてみた。
あれ、ヌルッとしてる。
秘裂を指で刺激されると、姫の体が
ビクンと震えた。
エリカ
「ぷは、いきなりディープとは……やるわね」
レオ
「姫、濡れてるよ」
テカテカと光った指を見せる。
エリカ
「……野暮ねー」
そんな事言いながらも顔は赤いわけで。
レオ
「可愛い」
手でしてくれながらも濡れてたのか。
レオ
「それじゃ、そこの机に寝て」
レオ
「そうじゃなくて、うつぶせ」
レオ
「それで、お尻を俺の方に……」
豊かなお尻を突き出す姫。
レオ
「うわ……」
乱れた制服と、突き出されたお尻が
なんともエッチだった。
エリカ
「……この態勢すっごく恥ずかしいんだけど」
レオ
「い、いやならやめよう」
レオ
「凄くしたいけど、それでも姫の気持ち優先だ」
エリカ
「ううん、まぁ1回ぐらいなら許してあげる」
エリカ
「だって、いい気持ちかもしれないでしょ?
何でもモノは試しよ」
レオ
「姫」
こんな態勢でも格好いいのは流石だった。
エリカ
「ほら……」
姫がお尻をくいっ、と
俺に差し出すように持ち上げる。
気が付けば、俺のペニスは元気を取り戻していた。
レオ
「姫……いくよ」
姫の細い腰をがっちりと抱える。
エリカ
「ン。……来て」
ギンギンに立っているペニスを、
後ろから姫の中に差し入れた。
エリカ
「んぁ――!」
くん、と姫の顔があがる。
そのまま一気に内部まではめこんでしまう。
レオ
「……あ、くぅ」
あまりの気持ちよさに情けなく喘いでしまった。
エリカ
「ん、対馬クンの……こんなに熱かったっ……け」
俺の下腹部と、姫のお尻が密着する。
レオ
「はぁ、はぁ……」
エリカ
「はぁ、はぁ……」
2人で結合の余韻に浸りながら、呼吸を整える。
汗ばんだ肌が吸いついてくるようだった。
姫の中が、甘く締め付けてくる。
その甘い歓迎に、ペニスも中でビクンと脈打った。
レオ
「動くよ、姫」
エリカ
「……う、うん……はじめは、ゆっくりね」
姫の白いお尻を抱えるようにして、いわゆる
ピストン運動を開始する。
レオ
「ん……」
規則的に、ズンズンと抜き差しを繰りかえす。
寸前まで引き戻し――
エリカ
「ん……あ」
またがっちりと奥までいれる。
エリカ
「あっ……くぅ……」
こうして姫を貫くたびに、麗しい金髪が揺れる。
膣内の肉襞がペニスをキュッ、キュッっと
摩擦してくる。
特に、亀頭の裏側あたりが刺激されると
腰が溶けそうになるぐらい気持ち良くなる。
レオ
「姫……すごく気持ちいいよ」
エリカ
「うん。私も……感じてる……あぅっ」
強く突き入れると、愛液がグチュッと
淫らな音を立てる。
レオ
「それは……こうして、後ろからしてるから?」
エリカ
「ち、違うって……んんっ……」
雪のような白い肌はピンク色に
火照っていた。
エリカ
「ゴム、つけないで……くぅっ、してるから」
レオ
「本当?」
挿入したまま動きを止める。
愛液をすくいとった指で姫のお尻の穴を
優しくクチュッといじった。
エリカ
「うぁ……こら……対馬クンお尻はダメ」
姫は抗議しているが、膣はさらに締め付けを
強めてる。
エリカ
「だ、ダメなの、んあっ……やめてよ」
レオ
「うん」
素直に指をひっこめる。
エリカ
「あ…………」
レオ
「残念?」
エリカ
「バカぁ! ち、違うって」
これ以上踏み込むと猛反撃に合うな……。
レオ
「また動くよ」
俺の腰が、持ち上げられたふくらみに
突き当たれば、お尻が肉感的に揺れる。
エリカ
「んん……っ」
そのエッチな光景を見ていたくて、
パンッと音を立てるぐらいの勢いで突き立てる。
レオ
「姫……姫……」
ぱんぱんぱんっ、と姫のお尻をぶつように
腰を打ち付けていく。
エリカ
「んっ……あッ……んっ……あっ、対馬クン、
それいい、気持ちいい……」
レオ
「姫……やっぱりお尻気持ちいいんだ」
エリカ
「あんっ……んっ……」
ガクガクと、短い間隔で腰を激しく動かす。
エリカ
「んっ、アッ、くっ、あぁっ……対馬クン」
黄金のポニーテールがふりふりと揺れている。
レオ
「姫……中に……いいよね」
エリカ
「うんっ……あっ……くっ、対馬クン、
……あっ、出していいよっ」
愛液と、俺の先走りが混じりあって
湿っている膣壁を、がむしゃらに擦りあげた。
エリカ
「あっ……くっ……あああっ……」
レオ
「姫……っ!」
渾身の力をこめて、出来るだけ深くに
届くよう、腰を突き入れた。
エリカ
「んあっ……!」
火山の噴火のように、勢いよく射精がはじまった。
ドピュッ、ドピュッ!!
エリカ
「あ……ぁ……」
流し込むのではなく、打ち込むイメージ。
姫の子宮や膣壁にビシャビシャと精液を
たたきつけていく。
ドクッ……ドクン……ドクン……。
エリカ
「……はぁ……はぁ――――」
姫が呼吸を乱している。
レオ
「姫……とまらない……」
ドクッ……ドクンッ
ドロドロの熱い精液が、姫の中を一杯に
満たしていく。
エリカ
「ん……ぁ、ま、まだ出てる……」
レオ
「んん……」
腰をゆすりながら、最後の一滴まで中へ。
………………
2人して、くったりと床に倒れこんだ。
エリカ
「こ……腰が……」
レオ
「動けない……」
2人してダラリと倒れこむ。
地面のひんやりした感触が気持ちいい。
下半身丸出しのマヌケな格好だった。
お互い顔を見合す。
エリカ
「実はね……今日安全日じゃないの」
レオ
「男だったら良牙、女だったらモエミで」
エリカ
「ふふっ……責任とってくれる? とかいう台詞が
あるのにフッ飛ばさないでよ」
レオ
「好きだって言ってるでしょ。当然とるよ」
エリカ
「むしろ嬉しそうね。ごめん嘘。安全日」
レオ
「それも分かってる」
レオ
「試すなんて人が悪いよ」
エリカ
「性分ね。でも、対馬クンなら絶対
そういうと思ってたわ」
レオ
「姫の言う事なら、俺は大抵の事は聞くしね」
エリカ
「じゃ……精液の始末するから手伝って……」
あぁ、カッコ良く締めたつもりが生々しい事に!
…………………………
人の噂も75日と言うが。
豆花
「ナイト、ニーハオ」
真名
「姫と仲良くしとるか?」
レオ
「くっ……こいつら。冷やかしすぎ」
エリカ
「まーだ照れてるの対馬クン」
レオ
「そんな事言っても」
エリカ
「皆、その反応が面白くてやってるんだから
いい加減免役つけなさいよ」
レオ
「そうは言っても」
エリカ
「まったくもー。私と一緒の道行くんでしょ」
エリカ
「だったらビシッ! としなさいよ」
エリカ
「よーし! 免役つけるために一緒に歩こ」
腕をとられる。
レオ
「おいおい、マジですか?」
エリカ
「見せつけるぐらいの気概よ」
レオ
「また敵が増えそうな真似を」
エリカ
「別に。全然ヘーキ」
ぬぅ、何て強い人なんだ。
よし、それじゃ俺も覚悟を決めて。
真名
「ヒューヒュー」
豆花
「見せつけるネ!」
紀子  無音
「(カシャカシャ)」
イガグリ
「畜生、対馬の野郎っ!」
レオ
「ぬあ、やっぱり恥ずかしい」
エリカ
「こっちは面白いわ」
ぎゅっと、掴む腕に力をいれながら。
姫は楽しんで、俺を学校中引きずりまわした。
あぁ、やっぱりいじめっ娘だよこの人。
それでも、この姫様が愛しい。
惚れた弱みだよなやっぱり。
エリカ
「これぞ青春って感じよねー」
エリカ
「ほんとココに入学してよかったわ」
エリカ
「ほら、ちゃんとついてくるのよレオ」
レオ
「!」
レオ
「……ああ、ついていくよ、エリカ」
どこまでも。
…………………………
摩天楼の一角。
キリヤカンパニーの所持ビル。
姫は、自分の私室で俺をはべらせながら
すっかりくつろいでいた。
テレビでは、丁度カンパニーのCMをやっている。
エリカ
「乙女センパイがね、私の護衛をやってくれるって」
レオ
「お、やっと決心してくれたんだ」
エリカ
「財界のみんなは羨ましがってたわよ。
鉄(くろがね)一族の護衛力は定評があるからね」
エリカ
「よっぴーも私の秘書として
ずっと力を貸してくれるし」
エリカ
「竜鳴館に来た甲斐があったわ……
心を許せる仲間が作れて」
エリカ
「これで私が頂点をとっても孤独に
心を押し潰される事はないわね」
レオ
「俺もいるしね」
エリカ
「ふふ……レオも付き人になるからには
私を護れる肉体と、ある程度の学は
身に着けておくのよ?」
レオ
「今も努力してるって」
エリカ
「そ、ちょっとは頼りにしてるわよ」
レオ
「任せてくれ」
エリカ
「いよいよなんだからね」
絶景といわれる夜景を前に、姫は不敵に笑った。
街の灯を見下ろしているのは、気分がいいらしい。
エリカ
「はじめるわよー、世界が相手のマネーゲームを」
拳を鳴らす。
エリカ
「まずは後継者になるにあたって邪魔な親戚を
全員始末して……ま、向こうからも
仕掛けてくるだろうけど、返り討ち!」
レオ
「その身内を平然と始末する覚悟に恐れ入るよ」
エリカ
「別に平然ってわけでもないけどさ」
エリカ
「邪魔する気なら叩き潰すわよ」
エリカ
「で、まずはキリヤカンパニーをそっくり頂く!」
姫の野望。
エリカ
「そしてカンパニーで市場を席巻してやる!」
エリカ
「世界の富と名声を……私がこの手で」
エリカ
「つかみとる!」
せっかく人間に生まれたのだから、
自分の器を試したい。
心に欲望の剣を抱いて。
他人を蹂躙してでも、頂点に立つ事を目指す。
俺はそれを支える補佐に過ぎないけど
それなら全力で支えようと思う。
彼女がどこまでも高みにいけると信じて。
佐藤さんは、俺の返事を待ってうつむいている。
多分すっごいドキドキしているんだろうな。
肩なんて震えちゃってるし……。
待たせちゃダメだ、返事をしろ。
ここまで俺を好きになってくれる女の子なんて
これから先現れるか?
いや、多分いない。
姫への思慕は残っているけど。
佐藤さんも本気で愛しく思えた。
俺を元気付けてくれるという台詞も健気。
レオ
「……俺は……」
言葉を口に出す。
佐藤さんは顔をゆっくりと上げて、俺の顔を
じーっと見つめた。
瞳がウルウルと濡れていた。
姫の自信たっぷりなソレとは違う
守ってあげたくなるようなか弱さがあった。
レオ
「こんな、フラれたばっかな俺でよければ……」
レオ
「よろしく、佐藤さん」
良美
「え、ほんとに?」
レオ
「うん」
良美
「…………嬉しい………」
佐藤さんは幸せそうに笑った。
俺は心が、不思議なぐらい落ち着いている。
それは姫との経験で場慣れしているから。
……もしくは。
ときめいていないから、落ち着いているだけかも。
今の俺、冷静に計算で決めてなかったか?
姫のときみたいに気持ちで動いてないかも。
でも――いいよな。
だって佐藤さんがこんなにも健気だもん。
俺だって寂しいし。
夕陽が、沈もうとしている。
全てが赤色に染まっていた。
……………………
良美
「もしもし、エリー。私だけどね」
良美
「うん、先に送ったメールの通り、
ばっちり成功したんだよぅ!」
良美
「夏休みが終わる日、エリーが言ってくれた
通りにして良かったよ」
…………約一週間前…………
良美
「つ、対馬クンをふった?」
エリカ
「そ。ひと夏の思い出ってことでね」
エリカ
「だから、よっぴー今こそチャンスよ」
良美
「はぇ?」
エリカ
「対馬クンが好きなんでしょ?
だったら今がゲットのチャンスじゃない」
良美
「そ、そんな今のタイミングで」
エリカ
「確かにフラれた直後だけどさ。
でも過程はどうあれ、付き合えるなら
それでいいじゃない」
エリカ
「ここでよっぴーがチャンスを逃して
後悔するよりずっといいと思うけどね」
良美
「……私が……対馬君と……」
良美
「きゃっ(赤面)」
エリカ
「……いや、さっそく色々想像してるみたいだけど」
エリカ
「でもね、よっぴー」
エリカ
「付き合うからって、いきなり“アレ”は
見せないほうがいいよ」
エリカ
「対馬クンにひかれたら終わりだからね
その過程に自然に行くまでは我慢するの」
良美
「う、う……ん、今までだって我慢してたんだから
きっと大丈夫だと思う」
エリカ
「そうそう。よっぴーなら大丈夫」
エリカ
「そして対馬クンもきっと分かってくれるから
あれ、優しさはあるからね」
エリカ
「だから行ったれ行ったれ」
……………………
エリカ
「成功したんだ、おめでとう」
エリカ
「うん、ほんと良かったね、よっぴー。
それじゃあまた明日ね」
エリカ
「……ふぅ、これでよっぴーも対馬クンも幸せ
私は野望に邁進できる。いい方法よねー」
エリカ
「そっかぁ、対馬クンOKしたんだ」
エリカ
「……あれ……何だろう。胸がキュッて」
エリカ
「……今はそれより勉強に集中しなくちゃ」
……………………
エリカ
「しゅ、集中できない! 何でよもう!」
乙女  共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「ん、おはよう」
乙女  共通
「おはよう」
乙女  無音
「……」
レオ
「? どうしたの?」
乙女
「いや、元気が出てきたようだな
顔色が良くなってる」
レオ
「ん。まぁね」
レオ
「つか寝起きの顔ジロジロみないで」
乙女
「何を言ってる。姉弟にそんなもの関係ないだろう」
そっか……俺がそういうのをつい
気にしてんだろうな。
乙女
「しかしなんで枕を抱きしめて寝ているんだ
前はそんなクセなかっただろう」
レオ
「あぁ……」
姫の胸で寝ている習慣がついたからな。
こうでもしないと落ち着かない俺がいる。
…………………
エリカ
「対馬クン。おはよう」
レオ
「姫、おはよう」
エリカ
「よっぴーと付き合う事にしたんだってね」
レオ
「誰かに開けられた胸の穴が大きくてさ
埋めてもらいたくて」
エリカ  共通
「〜♪」
レオ
「姫のせいだっての!」
エリカ
「何よ、別れたら強気ね」
レオ
「ふんっ……佐藤さんとのラブラブっぷりを
見せてくれる」
エリカ
「そんな事言ってよっぴー泣かせたら
ヒモなしでバンジージャンプよ」
レオ
「や、それバンジーではなく只のダイヴだから」
良美
「エリー、対馬君、おはようっ」
エリカ
「よっぴー、おはよ」
レオ
「佐藤さんおはよっ」
良美
「あ……あの……あの……」
レオ
「ん?」
良美
「い、いい天気だねっ!」
レオ
「う、うんそうだね」
エリカ
「……また、えらく初々しいわね」
良美
「はぁ……はぁ……走ってきたから
疲れちゃったよ」
レオ
「佐藤さんにしては珍しい」
良美
「うん、ちょっとね」
レオ
「じゃあ鞄を持ってあげる」
良美
「え、いいよいいよ」
レオ
「いや、こういう時ぐらい男らしさを
アピールさせてくれ」
良美
「う、うん……ありがと」
エリカ
「……むっ」
エリカ
「……って、あれ? “む” って何だろ」
きぬ
「なんだあいつ? なんで今度はよっぴーが
あんな風になってんだ?」
新一
「くっそー。スケコマシ星人だったのかよー」
……………………
昼休みになった。
良美
「ね、また私達と一緒にお昼食べるでしょ」
レオ
「うん」
エリカ
「それじゃ、私はカニっち達と一緒に
食べようかな」
良美
「何言ってるの、エリーもいつも通り一緒に
食べようよ、気を使わないでいいから」
エリカ
「そ、そう?」
お昼の学食は、まだ夏の暑さを残していた。
良美
「はい、エリーと対馬君のお弁当」
どさっ!
弁当箱が置かれる。
レオ
「うわ凄い」
エリカ
「気合入ってるわね、お重ときたか」
良美
「どんどん食べて」
レオ
「正直お腹空いてたから嬉しいぜ」
食べてみる。
レオ
「しかも美味い!」
レオ
「やっぱり手作りは最高だ」
良美
「対馬君、口にクリームついてるよ」
レオ
「え、ほんと?」
良美
「拭いてあげるから動かないでね」
レオ
「ぅ……あ、ありがとう」
エリカ
「ムカ」
エリカ
「いや、だからムカって一体何よ」
良美
「何か言った、エリー」
エリカ
「あ、ううん、なんでもない」
……………………
生徒会室のクーラーが壊れていた。
エリカ
「ちっ……使えない。使えないものって
機械でも人間でも本当腹が立つわ」
良美
「業者の人が夕方来てくれるって言ってたよ」
チョコアイスを食べている姫を、佐藤さんが
ウチワで扇いであげている。
きぬ
「それにしてもアヂィー。9月といっても
夏と変わらねーじゃん」
良美
「カニっち、制服はだけすぎじゃない?」
きぬ
「別に、ヤロウはレオしかいねーし」
良美
「あぁ、スカートの中なんか扇いじゃって……」
エリカ
「なごみんは暑くないみたいね」
なごみ
「暑さには強いですから」
きぬ
「おいボサボサ頭、オメーの存在が暑苦しい。
10数えてる間に消えな。上級生命令」
なごみ
「お前が消えろ……この世からな」
エリカ
「そのじゃれあいが既に暑っ苦しいのよ
外でやりなさい、外で」
椰子とカニはグイグイと外に押し出された。
エリカ
「ふー、じゃあ私仕事片付けてさっさと帰るね
扇いでくれてありがと、よっぴー」
良美
「うん。それじゃ対馬君、扇いであげるね」
パタパタと扇いでくれる佐藤さん。
うぅん、癒しの風だぜ。
レオ
「じゃあ俺も扇いであげる」
ぱたぱた、と扇ぎっこ。
良美
「えへへ」
佐藤さんが照れ笑いを浮かべる。
なんだか日常の些細な事が嬉しい。
でも、なんだろう。
嬉しいけど、幸せじゃない気がするのは。
俺が、贅沢すぎるのか。
エリカ  無音
「……」
良美
「エリー? 何か考え事?」
エリカ
「あ、いや、そういう事じゃないんだけどね」
良美  無音
「?」
レオ
「仕事進んでないじゃん」
エリカ
「うるさいわね、分かってるわよ」
ガチャリ
「みなさん、ごきげんよ……」
むわっ(←熱気)
「それでは、私はこれで」
レオ
「早っ!」
エリカ
「涼しくなかったから逃げたわね」
登校する。
良美
「くすくす、対馬君ったら」
レオ
「あはは」
よっぴーと対馬君が楽しそうに話してる。
よっぴーがこけそうになる。
対馬君が慌てて支える。
照れるよっぴー。
見つめあう2人。
その光景を見てると、
エリカ
「なーに、やってんだか」
口ではそんな事を言っても。
――胸が締め付けられた。
……なんで、こんなに……!
……………………
エリカ
「ちぃぃっ……」
腹が立ったのでベッドを蹴る。
ばあや
「嬢、モノに当たるとは情けないのぉ」
エリカ
「……ねぇ」
エリカ
「いなくなって、その価値に
気付くものってあると思うの」
エリカ
「……手放したものが、惜しくなったらどうする?」
ばあや
「ほっほっほ。嬢がそんな質問をするとはの」
ばあや
「嬢がしたいようにすればぇぇ」
エリカ
「普通ならそうするんだけどね」
エリカ
「ちょっと今回は……」
ばあや
「嬢も青春を謳歌してるようで何より」
エリカ
「……さすがに、いくら私でも今回ばかりは……」
エリカ
「でも、確かに迷いは禁物と自戒しているはず」
エリカ
「だったら……!」
俺達は3人一緒に帰っていた。
レオ
「もうすぐ修学旅行だね」
良美
「行き先は選択式で色々あるけど、どこ選ぶ?」
エリカ
「アパラチア山脈とかなんかそそらない?」
レオ
「んー? それはどうなんだろう」
レオ
「そこにしてみる? 佐藤さん」
良美
「スウェーデンがいいな、オーロラ見ようよ」
レオ
「それも楽しいかも」
良美
「うん、きっと綺麗だと思うよ」
良美
「つ、対馬君と見たらもっと綺麗に見えるかも」
レオ
「ずるいなぁ……そんな事言われたら
スウェーデン一択になりそうじゃない」
エリカ  無音
「……」
良美
「どうしたの、エリー? 立ち止まって」
レオ
「え、あ、本当。気が付かなかった」
エリカ
「……っ! あのね!」
エリカ
「いや、なんでもない」
レオ
「? あ、分かった! アパラチア山脈が
却下されて怒ってるんだ」
エリカ
「……バカ」
スバル
「うるさいカニがいない今しかないな
さぁフカヒレ、レオに聞きたいことがあるんだろ」
新一
「……何であんなよっぴーとあんな
いちゃついているの」
レオ
「それは、秘密」
新一
「俺、いや俺以外のたくさんの人間も
佐藤さん狙ってたからショックだよ」
新一
「姫とは仲が悪くなったかと思えば
普通に話してるし」
レオ
「姫とは普通のクラスメートになっただけだ」
スバル
「それにしては未練たっぷりそうだな?」
レオ
「う……ま、まぁな」
レオ
「今は佐藤さんと仲良くしてるけど……
俺はやっぱり姫が……」
新一
「何贅沢なこと言ってるのコイツ! お前
今の台詞で全国の男を敵にまわしたね」
スバル
「どっちつかずの態度はマジでやめとけ
シャレにならない結果になるぞ」
レオ
「ま、まぁそう大袈裟に言うなよスバル」
レオ
「俺に限っては大丈夫だと思うからさ」
新一
「お前は防災意識が低いよなぁ」
スバル
「じゃあ何か、今は佐藤さんと付き合ってるけど
やっぱり心は姫が好きです、と」
レオ
「っていうか、そう簡単に好きな人は
切り替えられないよ」
スバル
「そりゃそうなんだが、それなら告白OKするなよ。
……どうも嫌な予感がするぜ……」
良美
「はい、エリー。チョコレートのおかわり」
エリカ
「ん、ありがと」
良美
「でも珍しいね、エリーがいきなり来るなんて」
エリカ
「まぁちょっとね」
良美
「えへへ、今の時期に来ちゃったらあれだよ
対馬君とのノロケ話とか聞かせちゃうよ」
エリカ
「いやぁ、ノロケ話なんていいから」
良美
「ふふ」
エリカ
「上機嫌ね……」
良美
「うんっ。エリー、ありがとうね」
エリカ  無音
「?」
良美
「エリーの言ったとおり、勇気を出して
良かったよ」
良美
「対馬君、こんな私でも受け入れてくれそうな
気がしてきた」
良美
「あ、もちろんまだ“アレ”を
見せるわけじゃないけどね」
良美
「でも、気持ち的にはいつでもいいかな、なーんて
思っちゃったりして……対馬君なら。ぽ(赤面)」
エリカ
「よっぴーさ……」
良美
「ん、何? エリー」
エリカ
「対馬クンさ……」
エリカ
「対馬クン……やっぱり私に返してくれない?」
良美  無音
「……――」
良美  共通
「……あ……」
良美
「あはははははは!! エリー面白い!」
エリカ  無音
「……」
良美
「あはははは、深刻な顔して何かと思えば
冗談なんてっ、あはははっ」
良美
「もう、人が悪いなぁエリーは」
エリカ
「……いや、冗談じゃなくて」
エリカ
「悪いけど本気で言ってるのよね、私」
良美
「本気って……あははっ、またまたぁ
エリーってば、自分で対馬クンをふっておいて、
矛盾してるって、あはははっ、冗談きついよ」
エリカ
「はじめは普通にフッたんだけどね」
エリカ
「いなくなって分かるというか……
よっぴーと対馬クンが楽しく話してるのを見て
分かってしまったというか……」
エリカ
「どうも、対馬クンは思ってた以上に
私の心を掴んでたらしくて」
良美
「エリー、あんまり冗談が過ぎると笑えるものも
笑えないって、引き際、引き際が肝心だよぅ」
エリカ
「だから冗談じゃないんだってば」
良美
「えー……じょ、冗談じゃないの?」
エリカ
「対馬クンを手元に置いといて、かつ
スムーズに作業できるよう頑張ってみるんで」
エリカ
「……だから返してもらっていいかなーって」
良美
「ひ、ひどい言い分だよぅ、エリー……
私、せっかく対馬君と仲良くなってきたのにぃ」
エリカ
「ごめんね、よっぴー。自分から対馬クンに
アタックしろ、とか持ち掛けといて……」
良美
「エリー、いじわるだよぅ」
エリカ
「どうも天性のいじめっコらしくて、反省してます」
良美
「うーー。……どうやら本気……みたいだね」
エリカ
「うん、本気」
良美
「そっかぁ」
良美
「私、エリーに裏切られちゃうんだぁ」
エリカ
「え……」
良美
「悲しいなぁ……」
エリカ
「べ、別に裏切ってなんかないわよ?
勝手な言い分なのは認めるけど、よっぴーを
裏切るなんてそんなワケないでしょ!」
良美
「だって、自分で捨てた男を紹介して、
私が勇気出して告白して、あ、対馬君と
なら幸せになれるっていう所でこれでしょ?」
エリカ
「いやその……でも裏切りじゃないって、違うから」
良美
「夢をわざわざ与えて、そして奪おうとしている!」
良美
「裏切りだよ。何都合のいい解釈しようとしてるの」
バシャッ!
エリカ
「ぅ……熱っ……」
良美
「びっくりした? でも私はこんなのの比較に
ならないぐらいビックリしたよ」
良美
「だってエリーでしょ? エリーにそんな事
言われちゃねー」
エリカ
「よっぴーがそんなに対馬クンの事
気に入ってたなんて……」
エリカ
「……よっぴー。今回悪いのは確かに私だけど」
エリカ
「そうやってすぐひねた考え方するのダメだって」
良美
「エリーが自分勝手なのは知ってるよ。
それはそれでいいと思うよ」
良美
「でも誓ったよね? オマジナイしたよね?
あそこまでやった私に対してまで、そんな
勝手なマネをするって言うの……?」
良美
「私はエリーのこと大好きなのに
エリーは私を裏切るの?」
エリカ
「だから、違うって! あんまり
いじけた事言わないでよ」
良美
「いじけた事言わせてるのはエリーなのに
ひどいなぁ……」
良美
「ほんとひどいよ、エリー」
エリカ
「よっぴー、顔をあげて……」
良美
「ねぇ、エリー。ほんとは裏切らないよね?
ちょっと言ってみただけだよね?」
エリカ  無音
「……」
良美
「ね、エリー……コーヒーかけたのは
私もやりすぎた……ほら、拭いてあげるから」
ごしごし……
良美
「今ちょっとした行き違いってだけで
明日から……ううん、今からいつもの私達に
元通りだよね?」
エリカ
「元通りも何も、私は初めからよっぴーが
大好きだから、今でも」
良美
「そっか、良かったぁ」
良美
「私もエリーが……大好き」
良美
「ねぇ、人形……出して」
エリカ
「ん……はい」
良美
「私達は……」
エリカ
「え」
良美
「私達は!」
エリカ
「こ、これからも……」
良美
「互いに」
エリカ
「助け合い」
良美
「裏切らぬよう」
エリカ
「離れぬよう」
良美
「変わらぬ」
エリカ
「友情を」
良美
「誓います」
エリカ
「誓います」
良美
「……だよね、エリー」
エリカ
「うん……」
……なんか……
レオ
「2人とも気分でも悪いの?」
良美
「全然そんな事ないよ」
良美
「ねぇ、エリー?」
エリカ
「うん、気のせいよ」
レオ
「なんか箸の進みが遅いんだけど」
レオ
「いつもモリモリ食べる姫にしては珍しいなぁ」
エリカ
「ちょっと……あんまり失礼なコト言わないでよね」
レオ
「ご、ごめんごめん乙女さんに比べたら食べないね」
エリカ
「あの人と一緒にしないでってばさ」
レオ
「少しは、いつもの元気出てきたかな」
エリカ
「ん……まぁねぇ」
レオ
「そっか。良かった」
良美
「つ、対馬君。これ、この鮭!
今旬のやつだから美味しいよ」
レオ
「あ、そうなんだ」
エリカ  無音
「……」
……なんか……
2人の間に微妙な違和感があった。
レオ
「それじゃスバル、誕生日おめでとさん」
乙女
「ささやかな誕生会ですまないがな」
スバル
「いや、ささやかでいいんだ
華やかにやってもらうほどできたガラじゃねぇ」
きぬ
「はい、それじゃあこれがボク達からの
プレゼント。日頃から世話になってんからね」
スバル
「ありがとよ」
新一
「姫や佐藤さんも呼べばよかったのに」
レオ
「……なんかさ、あの2人の関係って今
微妙じゃないか?」
乙女
「どこがだ? 普通に見えるが」
新一
「いつもどおり2人1組で息もぴったりじゃん」
スバル
「あぁ、特におかしな所は無いが」
きぬ
「あの2人がどーかしたのかよ?」
レオ
「あ、いやごめんなんでもない」
俺ぐらいしか気付いていないのか……?
いや、ささいな違和感なんだけどね。
でも今日の2人の会話も
どこかギコちないものがあった。
俺が姫と話してると佐藤さんが慌てて
話しかけてくるし。
分からんなぁ。
「というわけで、今日はクラス委員の会議ですので
担当者は忘れずに出席してくださいな」
良美
「分かりました」
「HRはこれまでですわ」
エリカ  無音
「……」
ん、姫からメール?
“急用 竜宮に来て”
なんだ、今日は執行部ないはずだが。
………………
豆花
「よぴーの代わりに会議にでればいいのネ」
良美
「ごめんねぇ、具合が悪くて」
豆花
「なんのなんの。普段から世話になてるしネ」
良美  無音
「……」
………………
レオ
「で、用件は何?」
エリカ  無音
「……」
姫は無言で外の海を見ていた。
レオ
「……なんか今週に入ってから佐藤さんとの
仲が、ほんのわずかだけど微妙に見えるんだけど」
エリカ
「まぁね……」
レオ
「喧嘩でもしたの?」
エリカ
「うーん、喧嘩といえば喧嘩かな」
エリカ
「とりあえず仲直りしたんだけどね……根本的な
問題が解決してないからね、結局ギクシャク」
レオ
「どういうこと?」
エリカ
「対馬クンさぁ、今から大事な事言うから
よく聞いてね」
レオ
「ん」
エリカ
「私のものになってよ」
レオ
「え?」
エリカ
「やっぱり、私にとってあなたは
必要な人材だったみたい」
エリカ
「やり直しましょ」
レオ
「そんないきなり……」
姫がズイ、と近付いてくる
エリカ
「まさか嫌なの?」
レオ
「いやじゃない……むしろ嬉しいよ」
レオ
「でも、姫が何考えてるのかわからないよ」
レオ
「いきなり別れたり、またやり直したり……」
レオ
「で、また別れるのかな?」
エリカ
「今度は大丈夫よ。対馬クンがついてくる限り
捨てる事はしないわ」
エリカ
「対馬クンが私のモノじゃなくなって……
対馬クンがよっぴーといちゃついてたら
……たまらなかったのよ」
エリカ
「それで気付いたの」
エリカ
「あなたは私に必要だって」
エリカ
「だから、やっぱり対馬クンは私のものにする。
これからもずっと」
レオ
「姫……」
良美
「エリー!!!」
レオ
「さ、佐藤さん!?」
良美
「さっきから全部聞いてたよ!」
エリカ  無音
「……」
良美
「エリー、人が会議でいなくなった隙に
こそこそと何やってるのよ!!
なんか怪しいと思ったら……!」
エリカ
「代役を立てたのね……
こうでもしないと普段はよっぴーが対馬君に
べったりだからしょうがないじゃない」
エリカ
「さすがに現場は見せまいとする
私の配慮だったのに……馬鹿なよっぴー」
良美
「何をブツブツ言ってるのよ……」
良美
「ねぇ、対馬君! 対馬君は私と
付き合ってるんだよね?」
良美
「だから、エリーとはもうやり直さないでしょ?」
エリカ
「無駄だと思うよ、よっぴー」
エリカ
「夏休みの時から私に骨抜きだもん」
良美
「……つ、対馬君? 嘘だよね?」
良美
「だって……付き合うって言ってくれたよね?」
佐藤さんが手を伸ばす。
エリカ
「しょうがないわね……告白をOKした
対馬君にも責任はあるわ」
姫も俺に向かって手を伸ばす。
エリカ
「どっちの手をとるか選んで頂戴」
レオ
「なっ……!」
そんなのは決まっている。
姫だろう。
でもここで姫とったら俺人間としてどうよ?
エリカ
「頭で行動しない。心で決まってる方を選んで!」
レオ
「うっ」
確かにこれ以上の不実な態度は絶対に良くない。
そっちの方がよっぽど最低だ。
佐藤さんを傷つけるけど。
元から半端な気持ちで佐藤さんの告白を
OKした俺が悪い。
だから、決断する!
佐藤さんは、既にもううっすらと泣いていた。
それでも俺は……
姫の手を力強く握った。
レオ
「俺は……姫を選ぶ」
良美
「……うぅっ……うぅ……」
泣き崩れる佐藤さん。
エリカ
「ん、そうすると分かってたよ」
エリカ
「だいたい、私ほどの女が対馬クンのこと
ひきずってたんだから、対馬クンだって
私のこと引きずってて当然のはず」
エリカ
「……ごめんね、よっぴー」
良美
「……ううっ……」
エリカ
「対馬クン、執行部から出ててくれない?」
エリカ
「ちょっと……話し合うからさ」
レオ
「ん……」
俺は素直に執行部を後にした。
……なんて、後味の悪さ。
俺は何であそこで告白を
OKなんかしちまったんだ。
断ると悪いと思った、というのもある。
しかし結果最悪になってる。
いや、それより俺は
“佐藤さんでいいや”
とか思ったんだ……最悪だ。
あんなに俺のいいところを見つけてくれたのに。
はぁ……。
テンションに身を任せず、冷静に計算した
結果がこれかよ……。
難しいぜ。
……………………
良美
「う……うぅ……ぅ」
エリカ
「よっぴー……そろそろ泣く演技やめたら。
対馬クンを引きとめようとしても、彼
行っちゃったわよ」
良美
「帰ってくるかと思ったけど、こないみたいね」
良美
「でも、こっちとしては本当に泣きたいよ!
信じてたものに裏切られたんだから!!」
エリカ
「……私はよっぴーが大好き」
良美
「私の事が大好きとか言うなら、対馬君から
身を引いてくれればいいじゃない!
何の為に日曜日に警告したと思ってるの!」
エリカ
「だから、対馬君“も”欲しくなっちゃったのよ」
エリカ
「昔言ったよね。私は自分勝手で
欲しいものを掴むためなら
他人の心や体を傷つけても奪うって……」
エリカ
「でも、よっぴーはそれが
生きるって事だって認めてくれたじゃない」
エリカ
「私はそれが凄く嬉しかった」
エリカ
「そして、私もよっぴーの“アレ”を
理解したつもりだよ?」
エリカ
「だから私達、ここまで仲良くなったんでしょう」
エリカ
「私はもともとこういう人間なのよ」
良美
「もちろん……知ってる!」
良美
「だから、せめて私達は裏切らないようにって
誓ったのに! 決めたのに!」
エリカ
「裏切ってない」
良美
「誰がどう見ても裏切ってるじゃない!
私との友情より対馬クンをとったんでしょ!」
エリカ
「よっぴーとの仲もこのままにしたいと思ってる」
良美
「なっ……!?」
エリカ
「そして、対馬クンも手に入れる」
良美
「ちょっ……っと」
エリカ
「だから裏切ってないよ?」
エリカ
「もちろんすぐに許してもらえるわけないのは
分かってる」
エリカ
「それでも、私はよっぴーを待ってるから」
エリカ
「許してくれるまで……仲直りできるまで
待ってるから」
良美
「…………」
良美
「…………エリー」
エリカ
「何?」
良美
「ふざけないでよ」
エリカ
「…え?」
良美
「友達だと思ってたのに……
やっぱりエリーは私を見下してるっ」
エリカ
「見下してない」
良美
「気付いていないだけ!」
良美
「仲直り? 冗談じゃない、逆に絶交だね裏切り者」
エリカ
「……え? 絶交って、そんな」
良美
「何想定外って顔をしてるのよ。
もしかして私が本気で許すと思ってたの?」
良美
「人をなめるのもいい加減にしてよね……!」
エリカ
「よ、よっぴー……」
良美
「ううん、人だけじゃない、絶対
世の中をなめてるよ、覚悟してるような事
言ってたけど、所詮はお嬢様だよ」
良美
「裏切られた……今度は……
今度こそは、と思ったのに」
良美
「結局世の中こんなものか」
エリカ
「ちょっ……待ってよ、よっぴー」
良美
「触らないでよ」
エリカ
「ぅ……」
良美
「せいぜい、そうやって人を馬鹿にして
生きていくのね」
良美
「でもね、私みたいな小娘の心を
掴みきれなかったようじゃ、とても
世界なんて無理じゃないのかな」
良美
「対馬君にそのうちフラれないようにね?
見ての通り、不実な人だしね」
良美
「そして、やっぱり孤独に
押し潰されないようにね」
エリカ
「よっぴー!」
良美
「触るな!」
エリカ
「……ぅ」
良美
「ふん、世界を狙ってるのがこんな
小娘の一喝にびびってるとはお笑い草だよね」
エリカ
「それは……相手がよっぴーだから……」
良美
「何が。どうせ雌豚が何言ってんだ、とか
心の中でせせら笑ってるんでしょう」
エリカ
「ちょっと、そんなわけないでしょ
そんな風に見えるって言うの?」
良美
「うん、見えるよ」
良美
「だってエリー私を裏切ったから」
良美
「もう何も信じるわけないじゃない」
良美
「……あー、触られた所
後で念入りに拭かなきゃ」
バタン!!
エリカ
「よ……よっぴ……」
……………………
良美  無音
「…………」
新一
「あ、よっぴーだ」
良美
「あ、鮫氷君、伊達君、さようならー」
スバル
「ばいばい、よっぴー!」
良美
「むー、よっぴー言わないでってば! ひどいよぅ」
朝の通学路。
レオ
「……昨日はそんな感じだったのか」
エリカ
「……うん、ちょっとキツかったね」
2人で話してると、佐藤さんが歩いてきた。
エリカ  無音
「!」
佐藤さんはいつものように柔和な笑顔で――
良美
「おはよう、対馬君、霧夜さん」
そんな風にさらりと言った。
エリカ
「く……!」
霧夜さん。
エリーではなく。
それは明らかな拒絶を意味している。
エリカ  無音
「……」
レオ
「ひ、姫。大丈夫?」
エリカ
「別に、大丈夫」
エリカ
「よっぴーは、この人形をまだ持ってると思う」
レオ
「あ、誓いの人形だっけ」
エリカ
「それを捨てないって事は……大丈夫」
エリカ
「もとより恨まれるのは覚悟の上だから……
でも許してもらって元の鞘に戻ってみせる。
時間をかけても」
レオ
「姫……」
立派だな。
………………
昼休み。
良美
「ねぇ、一緒に食べていいかな?」
豆花
「アレ? もちろんよぴーは大歓迎だけど
姫と一緒しなくていいのカ?」
良美
「うん、霧夜さんはこれから家の仕事とかも
忙しくなってきて休み時間も
ウカウカしてられないらしいから」
真名
「ほー、有名なキリヤカンパニーの娘やもんなー
大変やなー」
良美
「初めから、私達とは人種が違うって感じだよねぇ」
エリカ  無音
「……」
姫が精神攻撃を食らって気落ちしていた。
でも、すぐにいつもの顔に切り替える。
……偉いと思った。
俺も協力しなくちゃ。
うぅ、話しかけるの正直怖い
レオ
「ねぇ、佐藤さん」
良美
「なぁに、対馬君?」
レオ
「ちょ……ちょっといいかな」
良美
「え……何、何だろ」
ちょっと前と全く変わらない仕草の佐藤さん。
これが全て演技なのか……。
背筋がゾッとした。
……よし、ここなら誰にも聞こえない。
レオ
「……あ、あのさ」
レオ
「姫のこと、今どう思ってるの?」
良美
「別に何も」
レオ
「……そう」
レオ
「そ、その姫のこと……刺してやる、とか
思ってないよね?」
良美
「……くすっ」
レオ
「?」
良美
「男の子って単純だよねぇ。殺す、とかばっかりで」
良美
「多分ね、死んだらきっと楽だと思うよ?」
良美
「この世界こそが地獄っていうのを思い知らせる
ぐらいじゃないとね」
レオ
「う……」
ダメだこれは、今は何を言っても!
……………………
放課後。
レオ
「佐藤さん、生徒会執行部に来るかな?」
エリカ
「分からない……今は無理かも」
扉を開ける。
そこには、佐藤さんが1人でたたずんでいた。
エリカ  無音
「……」
場の空気がピリッと来る……。
良美
「霧夜さん、ちょっといい?」
佐藤さんが、笑顔で話しかけてきた。
エリカ
「……あ……」
姫がとても嬉しそうな顔をする。
良美
「? どうしたの?」
エリカ
「あ、ううん、何でもないの」
良美
「変なの」
佐藤さんがクスリ、と笑う。
これはもしかして……
許してくれたのか?
それとも条件付きで許すとか。
エリカ
「で、何?」
良美
「うん。私、執行部の退部願い出してきたから」
エリカ
「えっ――」
良美
「後、私の家にある霧夜さんの私物、全部
宅配便でそっちの家に送り届けておいたから」
良美
「霧夜さんの気に入ってた猫のコップは
わざと割っちゃった。ごめんね」
ペコリ、と佐藤さんは謝った。
エリカ
「う……あ」
姫が言葉を出せないでいる。
その代わりに胸をグッと押さえている。
魂が裂けそうな気分なんだろう。
良美
「私からもらった人形、持ってる?」
エリカ  無音
「……!」
2人が約束をした人形。
エリカ
「う、うん。持ってるよ、ほらコレ」
良美
「もう返してね」
虚をついて、佐藤さんに無理やり
ひったくられてしまう。
エリカ
「よっぴー………………」
良美
「あ、それから私がもらった人形も返しておくね」
良美
「そこの机の上に置いといたからね。
霧夜さんに対する私の気持ち」
バタン!
扉の音が無慈悲だった。
これは……もう……
時間が解決してくれる、なんてレベルを超えてる。
エリカ
「……っ!」
レオ
「姫?」
何をそんなに驚いて?
レオ
「! ちっ……」
ここまでするのかよ。
佐藤さんは、いつも笑顔で苦労症で。
そんな女の子だと思っていたのに、
こんな事を平気でする人だったのか。
エリカ
「〜〜〜〜!」
レオ
「ひ、姫」
エリカ
「対馬クン、10分待ってて」
レオ
「え」
エリカ
「ちょっと泣いてくる」
レオ
「だったら俺の胸使いなよ」
エリカ
「いいの。こうなったのは私の責任だから」
エリカ
「よっぴーの言うとおり、確かに世の中ナめてた」
エリカ
「あんなに怒ったのは、はじめてみた」
エリカ
「よっぴーに甘えすぎていた……
長く積み上げてきたから……」
エリカ
「それがこんな一瞬で破壊されるなんてね」
エリカ
「これもいい勉強になったんだから」
エリカ
「私が1人で泣かなきゃだめなの」
レオ
「無理しないで」
エリカ
「この傷を与えてくれたよっぴーに感謝」
エリカ
「成長してみせる……っ
泣くのは……これで最後なんだから」
レオ
「……姫」
俺の手を振り払う。
エリカ
「すぐ戻るから、心配しないで」
そう言いながら、姫は奥の部屋に消えていった。
……なんでこうなってしまったんだ。
もちろん俺の責任なんだろうけど。
それだけではない、違和感がある。
いくら何でも脆すぎる。
あんなに仲が良かったのに。
人の絆ってこうも脆いのか……?
引き裂かれた人形。
そう、人形の交換なんていう
オマジナイまでしたのに。
レオ
「……あ」
違和感の理由が分かった。
例えば俺とスバルは。
人形のやり取りなどしなくても
親友だと心から思ってる。
スバルの事を信じている。
そう。
本当の親友なんていうのは、
こんなオマジナイなんてしなくても……
何も無くても充分な気がした。
もちろんお互い女の子同士だから、と
いうのもあるだろうけど。
オマジナイとしてお互いの人形を
持ち歩くなんてのは少し異常なんだ。
これを提案したのは佐藤さんだと言う。
裏切りが怖いという佐藤さん。
彼女は一体……?
分からない。
ただはっきりしたのは、霧夜エリカと
佐藤良美の交友がこれで終わったというだけ。
やるせない気持ちが胸を満たしていた。