――放課後。
豆花
「あいや、どうするネ? マナが起こすヨロシ」
真名
「ウチかていやや」
きぬ
「よぉーすっ、どうしたお2人さん」
豆花
「あ、カニち、実はネ、掃除当番
私達なんだけど伊達君が寝ててネ……」
きぬ
「おー、この不良が邪魔で机運べないのね。
起こせばいいじゃん、こんなん」
豆花
「でも伊達君は少し怖いネ
気持ち良さそうに寝てるのが更に起こしずらいネ」
真名
「泣く子も黙る伊達やからなぁ。
姫がおったら起こしてもらうんやけどな」
きぬ
「おい、起きろ掃除の邪魔なんだよゴミ」
スバル 共通
「Zzz」
きぬ
「起きないとこのウゼー髪を引っこ抜くぞ」
ぐいぐいぐい。
スバル
「なんだよ、痛ぇな!」
きぬ
「お、やっと起きやがった。オイッス」
スバル
「あ……――」
スバル
「……なんだカニかよ」
きぬ
「そら、とっとと部活イケ。掃除の邪魔」
げしげしげし!
スバル
「痛ぇって、蹴るな蹴るな、わーったよ」
豆花
「カニち凄いネ」
きぬ
「うん、ボクはとっても凄い」
レオ
「馬鹿が威張るほど滑稽なものはないな」
きぬ
「はいはい」
くっ、なんかそのリアクションむかつく。
きぬ
「んじゃあボク達はショッピングでも行くか」
レオ
「生徒会だよ」
きぬ
「んだよ、ちょっとぐらいサボろーぜ」
レオ
「そうやって、ズルズルとサボる気がするから嫌だ」
きぬ
「どーせ姫目当てだろ、こーのムッツリスケベ」
どんっ
レオ
「何だよ痛ぇな、押すな」
どんっ
きぬ
「あーっ、ボクそんなに強くやってないだろ」
どんどんっ
レオ
「2回も押すな、チビ」
きぬ
「このヤロ!」
どんどんっ どんどんどんっ
真名
「まーた、喧嘩? 仲のよろしいこって」
豆花
「鮫氷君、少しいいカ?」
新一
「あ、俺? はいはい、何々?」
真名
「カニっちと対馬のことなんやけど……」
豆花
「あの2人て付き合てるのカ?」
新一
「うんそうだよ」
新一
「ホラ今も手で“突き”あっているみたいな」
真名 無音
「……(しーん)」
新一
「……と、い、言うのは冗談で別に
交際はしてないよ、うん、マジで」
豆花
「そうなんだ、まだなのネ」
真名
「あの2人いつもあないな感じで距離
つかめんもんなぁ」
新一
「ちなみに俺もフリーだぜ」
豆花
「いこかマナ」
真名
「そやねトンファー」
新一
「……そして誰もいなくなったよオイ」
新一
「はぁ……誰か俺の胸に飛び込んでこないかな」
どーんっ
きぬ
「ぬぐっ」
レオ
「ほら、もうひと押し」
どんっ!
きぬ
「ぐっ……うぅぅっ……テメェ」
レオ
「泣くなよこのぐらいで」
きぬ
「な、泣いてないもん、泣いてないもんね!」
レオ
「じゃあ最後にもう一回お前を突き飛ばして
敗北感を植えつけてやるよ、行くぞ」
きぬ
「くっ……来い! 刺し違えちゃらぁ!」
どーーーーーんっ
レオ
「ぐあっ……?」
新一
「うわっ、何だ!?」
どかーーん!
新一
「グハッ!」
イガグリ
「なんだぁ、対馬が飛んできてフカヒレに
ぶつかったべ!」
乙女
「女の子を突き飛ばすとは、何を考えている」
きぬ
「うお、さすが乙女さんスッゲェ」
新一
「てめぇが俺の胸に飛び込んできてどーすんだ!」
レオ
「何でキレてんだフカヒレ」
祈
「元気があって大変よろしいですわねー」
レオ
「いたんですか」
祈先生は早くも夏バテ気味だった。
乙女
「怪我は無いか蟹沢」
きぬ
「ボクは大丈夫、それより……」
レオ
「あいてて……ん?」
きぬ
「とどめダァーーー! ボクの靴にキスしなっ!」
レオ
「ぐはぁっ!」
きぬ
「へん、バーカ! ヘタレ野郎がカッコつけんな」
祈
「対馬さんの負けですわね」
きぬ
「ふぅ、やっぱこういうのは自分で
ケジメとらんとスッキリしないね」
乙女
「その心意気はいいがな……皆呆れているぞ」
新一
「あ、このバトルはいつものことなんで」
祈
「このクラスの風物詩みたいなものですわー
私も放置してますし」
新一
「クラスの連中が多い場合は、こいつら
喧嘩してるとどっちが勝つか賭ける
連中もいますからね」
乙女
「生徒会長がいるクラスなのに風紀が乱れているな」
新一
「というか、その生徒会長も賭けに参加してるんで」
乙女
「……無駄だと思うが先輩として姫は後で説教だな」
乙女
「とりあえず蟹沢。散らかったものを片付けろ」
きぬ
「げっ……」
きぬ
「ちくしょー、なんでボクがこんな目に」
さっさっさっ……。
レオ
「俺をホウキで掃くな! ゴミじゃないぞ」
乙女
「やれやれ」
――放課後。
きぬ
「ふあー」
レオ
「もう少しおしとやかにあくびしろ」
きぬ
「なんか面白いコトねー? ボクを笑わせてみてよ」
レオ
「偉そうだなお前」
きぬ
「ココナッツでも泣かしにいこうかなー」
椅子をギコギコ上下に動かすカニ。
レオ
「落ち着きの無いやつだな」
ピンポンパーン
レオ
「お、校内放送」
エリカ
「あーテステス。聞こえますか?
生徒会長、霧夜エリカです」
レオ
「何か嫌な予感がするな」
姫の放送というだけで、騒いでいた
教室がシーンとなるのが凄い。
エリカ
「先ほど、保健所に輸送中の捕獲した野犬が
3頭トラックから逃げだした、という
通知が神奈川県警から来ました」
エリカ
「逃げ出したポイントは松笠市のポイント82。
竜鳴館(ココ)から極めて近い場所です
時間はついさっき」
エリカ
「ですので、外にいるのは危険です
保健所の話だと結構凶暴らしいので」
エリカ
「校庭にいる生徒達は速やかに
校舎に入って教室で待機してください、以上」
教室が騒然となる。
きぬ
「おいおい聞きましたか、面白い事起こりましたよ」
レオ
「関係ないだろ」
きぬ
「犬鍋(いぬなべ)ってうまいんかね?」
レオ
「……さぁ」
きぬ
「……じゅるっ」
レオ
「想像の中で食うな」
きぬ
「ボク達で捕まえてヒーローになろうぜ!」
レオ
「どーいうキれた思考してんのお前」
レオ
「そういうのはね、危ないからめーなの」
きぬ
「ボク達にも何かできることがあるはずだよ」
レオ
「それは、ここで大人しく待つことだ」
きぬ
「うへー、こいつ夢が無いやつだね」
レオ
「討伐部隊ならとっくに出撃してると思うぞ」
平蔵
「噛まれるなよ、鉄(くろがね)」
乙女
「心配は無用です」
乙女
「登竜門(竜鳴館正門)の守備は
私が引き受けますから、館長は犬を探しに
行ってください」
乙女
「……できれば射殺される前に捕まえてやりたい」
平蔵
「うむ。通学路付近でそこまで過激な事は
やらんと思うが確かにそうだな」
相変わらず屋上は風が強かった。
きぬ
「なーるほどここからなら下の様子が良く分かるね」
なごみ
「……野次馬が」
レオ
「椰子も見物じゃないの?」
椰子が冷たい視線を投げかけてくる。
なごみ
「あたしは普段からここに居ますので」
きぬ
「サルとなにやらは高いところが好きだよね」
なごみ
「いちいちムカツクな」
きぬ
「ぐがぁぁぁ……」
こいつらは放っておこう。
レオ
「おっ、校門で仁王立ちしてるの乙女さんだぜ」
きぬ
「おー、かっけーなぁ。確かに乙女さんなら
犬なんかが襲ってきても楽勝だよね」
きぬ
「まぁそれがココナッツだったら
サカりのついた犬に襲われる獣姦モノに
早代わりなワケですが」
なごみ
「一回本気で泣かしてやろうか?」
きぬ
「うごぉぉぉぉ」
屋上へ連れてきたのは失敗だったか……。
天敵がいるとは思わなかった。
なごみ
「あれ……??」
なごみ
「校庭の隅にいるのウチの生徒ですよね」
レオ
「ん? どこよ」
椰子の指差す方向を見る。
レオ
「あ、本当だ。校庭の隅に男女がいるな
何をやってんだこの非常時に」
きぬ
「んお、あれはボク達のクラスの
コマティ(小松)とヨシ(吉村)じゃないか」
レオ
「お前すっげー目がいいな」
きぬ
「両目とも2、5だぜー」
きぬ
「おっ、なんだあいつら、人がいないからって
校庭でいちゃついてるぞ」
なごみ
「こんな時によくやる」
レオ
「ま、いちゃつくのは勝手だがあの位置だと
松笠公園の方から犬が来ると襲われるぞ」
きぬ
「電話で警告してみんね」
きぬ
「…………通じねーし。ケータイ切ってんね」
レオ
「椰子、ああいうカップルどう思うよ」
なごみ
「最悪ですね。国に取り締まって欲しいです」
珍しく会話成立。
レオ
「な、そうだよな」
レオ
「本当にバカップルってムカツクぜ
見てるとイライラしてくるんだよ」
レオ
「もし俺が首相になったらバカップルは
私刑にする法律を通すね」
きぬ
「ちょっとボク、危ないって注意してくるよ」
その言葉とともにカニが駆け出した。
レオ
「あ、おい。待て」
レオ
「……行っちゃったし」
なごみ
「元気なことで」
レオ
「仕方ない、俺も行くか」
なごみ
「さすがは保護者」
レオ
「うっせ」
女子生徒Z
「私達、すごいお似合いカップル、みたいな」
男子生徒Y
「あぁ、俺から見たらお前は姫よりキレイだぜ?
マジ立ち絵が無くてお見せ出来ねーのが残念だよ」
女子生徒Z
「もう心で通じ合うモンね、これって愛、みたいな」
男子生徒Y
「あぁ、お前にめぐり合えた奇跡にマジ感謝だぜ」
女子生徒Z
「時間が止まって欲しい、みたいな」
ガサッ
犬
「ガルルルッ……」
女子生徒Z
「ひっ、まさかこの犬、さっき放送で姫が言ってた
犬みたいな」
男子生徒Y
「う、うわぁぁぁ。この犬の目マジやべーよ
噛まれたら、シャレにならない病気になるぞ」
女子生徒Z
「ちょ、ちょっと待ってみたいな」
男子生徒Y
「時間が止まって欲しいんだろ、だったらお前
一人そこで止まってろよ、うわぁぁぁ」
きぬ
「こらぁぁぁぁ!!」
男子生徒Y
「あ、蟹沢さ……あべしっ」
きぬ
「こーのバカタレ! 男が女残して
逃げてんじゃねぇよ。なっさけねぇぞ!」
女子生徒Z
「カニっち!」
きぬ
「ヒーロー参上! 見返りは海軍カレー地獄盛りで」
いきなり見返りを求めるヒーローってのは微妙だ。
なごみ
「……へぇ……なかなか勇気ある」
犬
「ガルルッ……」
きぬ
「おーっと、うなり声がバウワウって聞こえるぜ
これはボクに英語力がついてきた証拠かな」
レオ
「おい、ボヤボヤすんな。とびかかってくるぞ」
きぬ
「レオ対策に作成したコショウ目潰しを食らえ」
カニが布袋を投げつける。
それは犬の鼻面に当たり、バフッ……と
中身が展開した。
犬
「ガ……クシュッ、クシュンッ!」
きぬ
「目というより鼻に効いたみたいだね」
レオ
「……後で色々言いたい事があるが良くやった
さぁ逃げようぜ」
きぬ
「逃走本能に火ィつけろ!」
エリカ
「騒がしいと思ったら、何をやってる事やら」
レオ
「姫。出て来たら危ないぞ」
エリカ
「へーえ、これが迷い込んだアニマルドッグ」
エリカ 無音
「(ギロッ)」
犬
「(ビクッ!)」
犬
「く、クゥーン、クゥーン」
野良犬は転がって腹をこちらに見せた。
レオ
「え、これって降伏?」
エリカ
「やっぱり哺乳類は“怖がり屋”なのね
ちょっと脅かしただけなのに」
……姫は得体が知れないな。
犬
「クゥーン、クゥーン」
レオ
「あ、なんかこの犬姫になついてるみたい」
きぬ
「飼ってやれば?」
エリカ
「私は生き物は美少年ぐらいしか飼わないわよ」
レオ
「はぃ?」
エリカ
「お父様にね、新しい美少年もらったばかりだし。
今度は壊すんじゃないぞって。くすくす」
レオ
「金持ちの……欲望……さすが姫?(ボソボソ)」
きぬ
「……付き合い方……考えるか?(ヒソヒソ)」
エリカ
「やだ、冗談なのに本気にした?」
レオ
「あなたのは冗談に聞こえない」
きぬ
「マジで飼ってそうだよね」
エリカ
「この歳になって親からプレゼントなんて
もらわないわよ、そこから嘘だって気付きなさい」
乙女
「こっちで1匹捕まえました」
平蔵
「うむ、こっちでも一匹だ」
……こうして犬事件は、20分もせずに解決した。
周辺住民に被害は無く、お役所もホッと
してるだろう。
――その夜。
きぬ
「いやーボクの大活躍を見せてあげたかったね」
スバル
「しかし無茶はすんなよな、他人かばって
自分が噛まれたら阿呆だろうが」
きぬ
「んだよ、スバルは助けないってーの?」
スバル
「いんや、ここにいるメンツなら無条件で
助ける。が、後はしったこっちゃねぇな」
きぬ
「同じクラスの仲間ぐらいは助けてやろうぜ」
レオ
「おお、カニがまともな事を言ってる」
きぬ
「へっへー、ぺろぺろ」
レオ
「……カップアイスのフタを舐めるクセはやめろ」
新一
「ま、面白いコトがあって良かったじゃないの」
きぬ
「うん。明日はクマとか逃げ出してくれないかなー」
きぬ
「美味そうじゃん」
レオ
「食うのかよ」
新一
「つか、コマティと吉村さんのカップルは
どうなるのかね?」
きぬ
「んー。なんか冷戦状態みたいよ」
新一
「あははは、何故か笑いが止まらないぜこりゃ」
……ダメ人間だ。
――放課後はわりとマッタリしている。
きぬ
「おいっ。ボクのパワーアップパーツを
勝手にとるなっ」
レオ
「ショボイ事言ってんな、早いもの勝ちだろ」
スバル
「協力プレイは本性出るよなぁ」
新一
「乙女さんに見つかったら没収もんだぜ」
きぬ
「この携帯ゲーム、ボクのじゃないからへーき」
新一
「俺のだから俺は平気じゃないんだよっ!」
新一
「全くこれだからB型は」
きぬ
「あっ、今の発言はB型差別だぞっ」
乙女
「おいレオ。ちょっといいか」
乙女
「って、学校で何をしているかお前は」
レオ
「あ、ちょっと!」
乙女
「問答無用!」
ぐはっ!
乙女
「このピコピコは没収だ!」
……ピコピコ?
まずい、奪われてしまった。
レオ
「乙女さん、そのゲーム画面をじっくり見てみて」
乙女
「これが何だと言うんだ、くだらん」
乙女 無音
「……」
乙女
「くっ、デジタル酔いしてきた……」
乙女さんがゲーム機をゴトリと机に置く。
レオ
「よし、今だ逃げるぜ」
さっとゲーム機を拾いフカヒレに返す。
カサカサカサッ……
乙女
「……全く仕方の無い奴等だな」
エリカ
「対馬ファミリーは逃げるの速いわね」
乙女
「姫、私の前で堂々と漫画を読まないでくれ」
エリカ
「インターネット、モバイル、CPU」
乙女
「で、電脳用語はやめろ」
エリカ
「あらあら、意外な弱点を発見ねー、くすくす」
きぬ
「追っては来ないみたいだね」
レオ
「ふー危ない危ない」
洋平
「バタバタ走ってると思えばお前達か。
全くうるさい奴等だな、C組は」
きぬ
「よっ、クー」
紀子
「くー(こんにちはっす)」
きぬ
「今日も触り甲斐のある頭をしてるねー、クー」
ばしばしばし。
洋平
「おい、西崎が難儀している。
頭を気軽に叩くのはやめさせてくれ」
洋平
「西崎の記憶力は抜群だ。
(実は計算が全然ダメだけど)
そっちの蟹沢と違って将来有望な頭脳なんだから」
レオ
「てめっ、本当の事言ってんじゃねぇよ!」
レオ
「確かに頭悪い子だけどな(←肯定した)
凄い所もあるんだぞ! カニはあだし充漫画の
ヒロインの見分けが全部つくんだからな」
洋平
「ふん、面白い勝負だ。西崎は
ヒヨコのオスとメスの区別がつけられるんだぞ」
レオ
「カ、カニはコンビニのおにぎりとかを見ただけで
残り賞味期限とか分かるんだぜ」
洋平
「西崎は食べれるキノコと食べれないキノコが
分かるんだぞ」
レオ
「カニは、ほ、ほんとに指をクルクル回しただけで
トンボを取れるんだぜ」
洋平
「西崎は何もしないでも鳥とか集まってくるけどな」
レオ
「カニは……カニは……」
くそっ、もう何にもねぇっ……。
俺はガクッとうなだれた。
洋平
「ふん、この勝負は僕の勝ちだ」
レオ
「くぅぅぅっ」
きぬ
「へぇ、クーのクラスでは調理実習室に
入り込んでのお菓子作りがはやってるんだ」
紀子
「う……ん、とって、も……おいしーの」
洋平
「おい、行くぞ西崎」
紀子
「くー、くー(ちょっと待って、おいてかないで)」
きぬ
「おいレオ、なに凹んでんだよ
カレーでも食って帰ろうよ」
…そうだ、カニにはこの明るさがあるじゃないか。
でも西崎さんも明るいよな。
あ、そうだカニは運動神経いいじゃん。
…西崎さんも運動神経凄いんだよな、ああ見えて。
うーん。
なんだ、この敗北感は。俺が戦ってるわけでも
ないのに。
レオ
「くそっ、村田洋平め」
テンションに左右されるのは本位じゃないが。
いつかぎゃふん、と言わせてやる。
きぬ
「レオー」
レオ
「どわっ、急にアップになるな」
きぬ
「具合でも悪いの?」
レオ
「なんでもない」
きぬ
「なんかしらないけど、元気だせよ、な?」
レオ
「う……」
なんかこいつを比べて戦ったのが
申し訳なくなってきた。
――放課後。
新一
「でさ、やっぱ子供は男1人女1人がいいわけよ」
新一
「女の子は一緒にお風呂にハイって成長日記を
つけるわけ。3歳くらいからドキドキだよ」
レオ
「ドキドキするのはえーよ」
レオ
「つうか家庭論を語る前に相手を見つけろよ
一人では子供も産まれないぞ」
新一
「なぁに、きっと見つかるさ」
レオ
「そのきっと、とかオボロゲな考えを
やめてみろ、リアルに想像してみろ」
新一
「リアルにぃ〜? ……」
新一
「…………怖っ」
レオ
「どういうビジョンだった、未来のお前は」
新一
「周りが結婚して焦っていたらしく、
たいして好きでも無い女と結婚してた」
新一
「しかもその女の為に必死で生活費稼いで
気がつけば若くなかった……」
レオ
「それは怖いな、中途半端な怪談より怖いぞ」
新一
「いい恋愛をしたいもんだね」
男子生徒X
「へい、ちょっといいかいフカヒレ?」
新一
「ちょっと良くないよ。俺はお前みたいな爽やかな
ヤツが嫌いなんだよ」
男子生徒X
「はっはっはっ、これはご挨拶だなぁ。でも
君にとってもいい話だと思うよ」
男子生徒X
「蟹沢さんと2人きりになれるよう
セッティングして欲しいんだ」
新一
「こりゃ驚いた、お前、カニ狙いだったのかよ」
レオ
「セッティング?」
新一
「あ、俺こういうビジネスやってるの」
名刺をもらった。
“鮫氷セッティングサービス”
レオ
「何コレ」
新一
「スバルとカニはもてるからな。時々紹介しろって
頼まれていい加減ウザくなってきたんで、もう
いっそビジネスにしちゃおうってコトでさ」
レオ
「おいおい、そういうのに金とるか普通」
新一
「バーカ。何度も何度も女子に伊達君紹介してって
言われ続けた俺の気持ちがお前に分かるか?」
レオ
「……でも、間違ってる気がするなぁ」
新一
「はい、それでお客さんどのコースで行きますか?」
パンフレットまで作っていた。
夕陽の松笠公園ウキウキコース
放課後の屋上ロマンチックコース
無人の教室ドキドキコース
男子生徒X
「ふっ、この一番高い
“夕陽の松笠公園ウキウキコース”で頼むよ」
新一
「ヘイ毎度、5000円ねー」
こいつ微妙に払える値段設定を。
レオ
「なぁ、カニのどこがいいの?
まぁ、顔がいいのは分かるけど」
レオ
「はっきりいって、あいつバカだぜ?」
男子生徒X
「いつも元気で笑っていて、一緒にいると
こっちまで楽しくなってくるところさ」
きっぱりと断言した。
こいつは本気なんだと分かった。
レオ
「……ふぅーん」
男子生徒X
「対馬とは付き合ってないんだろ?」
レオ
「ああ」
男子生徒X
「OK。問題はないな」
男子生徒Xは去っていった。
新一
「なぁに、安心しろ。カニは理想高いから
どうせフられるさ」
レオ
「そっか」
レオ
「待て、安心しろってどういう意味だ」
新一
「いや、別にぃ?」
新一
「人気高いんだぜ、カニは。顔だけはいいからな」
レオ
「バカの中でも上級に位置するバカなのに……意外」
レオ
「……ちなみにスバル用のパンフレット見せてみ」
新一
「なに!? お前スバルコース利用すんのか!?」
レオ
「しねーよ! ボケ」
なになに。
鮫氷新一による伊達スバルを想定しての
練習デートコース(練習とはいえ手を抜きません)。
鮫氷新一によるフラれた後のアフター
ケアコース(徹底的にケアします)。
鮫氷新一による伊達スバルを
想定しての恋人ごっこコース(なりきります)。
レオ
「全部お前かよ!」
新一
「何故かスバル編は利用者ゼロなんだよな」
レオ
「そりゃそうだろ」
レオ
「これで金とるなんて最高にあつかましいぞ」
………………
新一
「で、俺がセッティングしてやったワケだが……
結果はどうだった」
きぬ
「んー。断ったよ。ボクの好みじゃないしね」
スバル
「やれやれ、またフッたか」
きぬ
「ボクがひどいみたいに言わないでよね
きっちり断るのも優しさっしょ」
スバル
「違いねぇ」
新一
「これで撃墜数は8つめか?」
きぬ
「んー、それくらいかなぁ?」
……多いな、知らなかった。
新一
「俺も告白されてーなー」
スバル
「ははっ、次の人生があるじゃねぇか」
きぬ
「人間に生まれ変わるとは限らないけどね」
新一
「いや、せめて死ぬまでに1度は告白されたい」
レオ
「お前も馬鹿にされてるのにめげねーなぁ」
ピルルルルルッ
スバル
「んー、はいはい。分かりました」
スバル
「用事できた」
レオ
「(……夜のバイトか)」
新一
「俺もそろそろ帰ろう。現実逃避に家でギャルゲー」
……スバルとフカヒレは帰っていった。
きぬ
「あーあ、どっかに超イケ面で金持ちな
男はいねーもんかねー」
レオ
「理想が高すぎるんだよ、いねーよ。なかなか」
ばたっ、とカニがベッドに倒れこむ。
……こいつ2人がいなくなると、寝だすんだよな。
レオ
「おい、お前も帰れ」
きぬ
「うるせー、部屋にボクがいると花が
咲いたようだろ? 感謝しろよ?」
きぬ
「感謝したなら、7月20日は
ボクの聖誕祭だからヨロシクな?」
あー、そういえばそんな季節か。
きぬ
「話を戻すけどさ。姫なんてスゲェ美人で金持ちで
頭良くて運動神経抜群でしょ?」
レオ
「そうだな」
きぬ
「女でそんなヤツがいるんだから
男に居てもいいはずだー、ちくしょー」
レオ
「暴れるな」
しましまパンツ丸見えなんですけど。
きぬ
「レオはチキンだよなー、あれだけの美女が
いんのに攻めないで憧れているだけなんてね」
きぬ
「ま、そこがレオらしいけどさ」
レオ
「てめっ、チキン言うんじゃねぇ」
ベッドに飛び乗り関節技をかける。
レオ
「あそこまでキレイだとかえって自分と
つりあわない感が出てヤなんだよ」
きぬ
「うわ、負け犬思考」
乙女
「お前達、上でドタバタとうるさいぞ」
乙女
「まったく、仲の良い兄妹みたいだな」
きぬ
「それじゃあ乙女さんはボクのお姉さん?」
乙女
「ふむ、そうなるのかな」
乙女
「なに、もとより妹のように見ている。
困った事があったなら何でも言ってこい」
きぬ
「じゃ早速。レオがボクをいじめまーす」
レオ
「てめぇふざけんな」
乙女
「では制裁してやるか」
きぬ
「よーし、はさみうちだ」
レオ
「うわ、ちょ、タンマっ……ぐわっ」
乙女さんに上に乗っかられ手を押さえつけられる。
乙女
「軟弱なお前の抵抗など無駄だな」
レオ
「ぐっ……」
なんて力してるんだこの人。
きぬ
「ふんっ、ふんっ」
レオ
「痛ぇっ、足に関節技かけるな」
乙女
「私は指圧をしてやろう」
レオ
「痛い痛い痛い、痛いけど気持ちいい」
乙女
「痛覚と快感は似ていると言うからな、ほらほら」
レオ
「あうっ、ぐあっ、うはぁっ」
きぬ
「あらあら無理やりされてるのに感じてるぜ」
レオ
「なんかそのセリフは嫌だっ」
………………
レオ
「……しくしく」
2人は俺を散々いじめて出て行った。
あんなバイオレンスな姉妹いらんわ。
くそう、カニめ。乙女さんと一緒だと
調子に乗りやがって。
今度また泣かせてやる。
生徒会活動が始まってから約1週間。
それだけで、平凡だった毎日が慌しい。
……といってもメンツはおなじみだけどな。
蟹沢 きぬ。
やはり俺はあいつと遊んでるのが
一番気楽だし楽しい。
姫は好きだが、緊張するんだよな。
その点、カニは自分を隠す必要がない。
基本的にはただの馬鹿だしな。
――だが、馬鹿だからこそ。
あいつの笑顔を見てると、悩むのがアホらしく
なったりすることもあるのだ。
だから、姫にアタックするより自然とカニと
遊んでしまうわけで。
クラスでは俺達の事を“喧嘩するほど
仲が良い”など言ってからかうヤツもいるが。
あくまで俺達はただの幼馴染なんだ。
その関係が気楽で、いい――。
………………
きぬ
「聞いてくれぃ! 今週ニュースで
ちらっとやってた犬脱走事件!
あのうち一匹を捕まえたのボクだもんね」
きぬパパ 無音
「おい、何だソレは、噛まれて病気になるなよ。
頼むから迷惑だけはかけてくれるな」
きぬ
「あ、うん。分かってるって」
きぬパパ 無音
「それで、巧(たくみ)の論文が
学会に認められてな、またパーティーを……」
マダム
「さすがはタクね〜鼻が高いわ」
きぬ
「え、兄貴また何か手柄立てたの」
きぬパパ 無音
「そうだ、お前とはエラい違いだな出涸らし」
きぬパパ 無音
「まぁ。私は野暮な事は言わんさ
とにかくお前は好きにやればいい。
進学できるなら金も出してやるからな」
きぬ
「……うん、あんがと」
………………
きぬ
「ってコトがあったんだけど、どうよ!!」
うがー、と何故か俺を問い詰めるきぬ。
レオ
「完全に放置されてんなお前……」
きぬ
「よくまぁボクはグレないもんだよね」
レオ
「……それはこうして俺にグチをこぼしている
からじゃないか」
きぬ
「家出してやる!」
レオ
「それ前に俺の家に泊まってやっただろ。
全く心配されてなかったじゃない」
それどころか、あのご両親は保険金を
どう使うか計算していた気がする。
きぬ
「ちぇー。誘拐でもされてみようかな
身代金いくらまでなら払うかな」
レオ
「998円ぐらいなら出すんじゃね?」
きぬ
「おいおいなんか1000円切っててお得な
カンジなんだけど、もうちょっと出すだろ」
レオ
「分かってる、冗談だよ」
きぬ
「1万円は出すっしょ」
レオ
「……そこらへんの鍋より安いのはどうなのよ」
きぬ
「あー、ムシャクシャしてきたゲームでもやろうぜ」
レオ
「はいはい」
こうしていつもと同じように夜は更けていった。
レオ
「……おはよう」
乙女 共通
「おはよう。自力で起きれたのか。偉いぞ」
レオ
「眠いけどさ」
レオ
「毎朝のように蹴られるのは、たまらんからね」
乙女
「ふふ……実は起こす時な、毎朝ほんの
わずかずつ蹴る力を上げてるんだぞ」
レオ
「……は?」
乙女
「睡眠学習というやつだ。いつの間にかお前の
防御力が上がっているんだからな」
レオ
「それ、睡眠学習とは違うと思います」
毎朝そんなコトをやられてたのか、恐ろしい。
乙女さん補正で俺も少しキビキビ。
隣の蟹沢家へ。
レオ
「今日もお邪魔します、お姉さん」
マダム 共通
「良かったら嫁にもらってくれない、アレ?」
レオ
「中国の首都を万里の長城とか答える娘はちょっと」
マダム 共通
「そうよねぇ。私がオトコでも絶対イヤだもん」
マダム
「でもねぇ、今日チラッと部屋を覗いてみたら
チャンスよ」
レオ
「はい?」
部屋に行ってみる。
いつもの寝相で寝ていた。
いや、いつもよりチョイきわどいか?
マダム
「ほら、イっちゃって征っちゃって
インサートよ、インサート」
マダムが指でカニをさす。
レオ
「いや、イきませんから」
マダム
「遠慮しないでね。私たちは訴える気ないから」
母親から強姦許可証をもらってしまった……。
レオ
「おい出涸らし。さっさと起きろ」
きぬ
「んんー。あと50年……」
レオ
「老けるぞ」
きぬ
「んんーレオ……オイースッ」
レオ
「おいーっす。寝ながら返事すんな」
きぬ
「ふぁーーあ」
……こいつを見てると美少女への幻想が
壊れていくよな。
レオ
「さっさと起きろよ。20分後に下だからな」
レオ
「お邪魔しました」
マダム
「ちょっと随分と早くない? それじゃ
女の子は怒るわよ」
レオ
「いや、何もしてませんから」
マダム
「チッ、腰抜けが」
なんて恐ろしい家族だ。
既成事実を作り、カニを俺に
引き取らせようとしている。
気をつけようぜ。
……………………
レオ
「で、結局はギリギリかよ」
きぬ 共通
「滑り込み人生だね」
乙女 共通
「閉門1分前ーっ 歩いている奴は走れーーっ!」
レオ
「げっ、この声は乙女さん」
きぬ 共通
「よっしゃ急げ! 4倍だぁーーっ!」
カニがさらに加速する。
エリカ
「おはよっ、お先っ」
姫がマウンテンバイクで駆け抜けていった。
あの人もギリギリだなぁ。
エリカ
「乙女センパイ、おはようございます」
乙女
「おはよう。もう少し時間に余裕を持て」
エリカ
「こっちに走ってくるのは対馬クンね」
乙女
「間に合うかな、30、29、28……」
エリカ
「ちょっとぐらいなんだからオマケして
あげればいいのに」
乙女
「24、ルールを曲げるわけには、23
いかない、22」
エリカ
「お堅いところが凛々しくて……やっぱり素敵ねー」
乙女
「21、20、19 18 17 16 15……」
レオ
「何かカウントが理不尽じゃないか!?」
きぬ
「飽きたんだ! 毎日ただの30カウントじゃ
マンネリだったんで変化つけたんだ!」
レオ
「とにかく走れ、間に合えーっ」
乙女
「7、6、5……」
エリカ
「今日は6月の何日だっけ?」
乙女
「12日だ(いや13だったか? どっちだ?)」
乙女
「11、10、9、8……」
エリカ
「……乙女センパイ落語に出れるわよ」
乙女
「3、2、1」
きぬ
「よっしゃーセーフ!」
レオ
「さすがやれば出来るな俺達は」
乙女
「もっと時間に余裕を持って出ろ」
乙女
「そしてほら、シャツが出ているぞ
……ったく仕方の無い」
エリカ
「あれま、本当に姉弟みたいね」
新一 無音
「(通るなら今のうち……こそこそ)」
乙女
「甘いぞ」
新一
「ぐはぁっ、やっぱり無理だった」
乙女
「気配を断っているつもりだろうが甘いな。
私が門番である限りここは鉄壁だ」
エリカ
「……くすくす。さぁいこっか。授業はじまるわよ」
新一
「えへ、えへへへナイスキック乙女さん」
乙女
「なぜ少し嬉しそうな顔をする」
洋平
「くそっ、対馬め。姫と鉄先輩に
はさまれて楽しそうに(説教されてるようにも
見えるが)会話しやがって」
洋平
「勝負をしてるわけでもないのに負けた気分に
なるのは何故だ? いつか恥をかかせてやるぞ」
紀子
「く?」
洋平
「なんでもない、さっさと行くぞ西崎」
紀子 無音
「……」
新一
「はい、遅刻届もらいましたー」
乙女
「通って良し、以後遅刻しないように」
乙女
「よし、次」
祈 無音
「……」
乙女
「……祈先生あなたも教師としての自覚をですね」
祈 無音
「……」
乙女
「その顔は私への挑戦ですか?」
朝のHR。
土永さん 共通
「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ
先に飛んできた」
レオ
「教師がダメだから生徒もダメなんだよな」
きぬ 共通
「遅刻多いぞ祈ちゃん!」
土永さん 共通
「まぁまぁ落ち着けヒヨコども。我輩は
ピーピー鳥みたいに騒ぐやつは嫌いなんだ」
土永さん 共通
「ありがたい話でも聞かせやろう
いいか、ソースせんべいの食いすぎは
胃を悪くするぞ」
もはやつっこむ気力も失せた。
……………………
6時限目終了時。
男子はソワソワしていた。
レオ
「女子は調理実習か……」
新一
「皆、分かったぜ。今日はB組との合同実習で
クッキーを焼いたようだ」
イガグリ
「おおっ、クッキー。甘いの好きだべ」
スバル
「まぁ、3時の茶菓子には丁度いいな」
新一
「手作り菓子が義理とはいえ食える。たまらんな」
山田君 無音
「(……姫の欲しいな)」
レオ
「クッキー……か」
物量でくると、致命傷になりかねん。
新一
「女子が帰ってくるぞ。皆さりげなくな
物欲しそうな空気は発するな」
しーん……
なんかやだな、この雰囲気。
廊下からワイワイと女子の声が近づいてきた。
エリカ
「ん、何で静まり返ってるの?」
新一
「姫。姫の作ったクッキーをくれ!」
レオ
「あっ! 1人だけ先に……」
イガグリ
「てめぇ、皆を静かにさせといて
抜け駆けか、卑怯だべ!」
エリカ
「私のは全部女子にあげちゃったわよ」
新一
「え”」
フカヒレ、男から嫌われた上にクッキーもらえず。
きぬ
「なんだオメー。クッキー食いたいのか?
やるけど勘違いすんなよ? ほれ」
新一
「てめぇのはいらねぇんだよ! マジマズイだろ」
きぬ
「照れるなって、このシャイメガネが」
フカヒレの口にグリッとクッキーが詰め込まれた。
スバル
「うわ……キッツイな」
レオ
「致死量だぞ」
新一
「……(ごっくん)」
新一
「俺……本当は宇宙飛行士になりたかったんだ……」
どさっ、と倒れこむ。
エリカ
「フカヒレ君、痙攣してるわよ」
きぬ
「それはそれは美味くて感動してるんだろーさ」
レオ
「俺は逃げる」
スバル
「あ、おいずるいぞ敵前逃亡かよ」
きぬ
「さーて、モテないレオにでもめぐんでやっか」
きぬ
「っていねーじゃん!!」
良美
「あ、対馬君っ。私もクッキー作った」
レオ
「ごめん。俺追われる身だから」
良美
「んだけど、良かったら……」
きぬ
「待てや! なんで逃げる。ボクが作った
クッキーが食えないというのか!」
レオ
「うわ、ひたひたと追ってきやがった」
きぬ
「スバルも食べて嬉しさのあまりひきつってたぞ!」
良美
「……あはは、仲いいなぁあの2人」
なごみ
「お茶です」
乙女
「あぁ、すまない」
乙女
「椰子はしっかりマナーが出来ているな
いれる茶も美味い」
なごみ 共通
「……どうも」
なごみ
「でもお茶は元々いい葉っぱ使ってますから」
…………
乙女
「……静かだな」
なごみ
「そうですね、普段からこうあって欲しいものです」
乙女
「それでは私は部活に行ってくる、後を頼む」
バタン
なごみ
「ふぅ、雑音がないと落ち着く」
どたどたどた……バァンッ!
なごみ 無音
「……」
レオ
「はぁっ、はっ、はっ、今ここには椰子1人か」
レオ
「かくまってくれ、俺はこのロッカーに隠れる」
なごみ
「ちょっ……」
バターン!
きぬ
「フリーズ! 両手を頭の上に乗せて校歌斉唱!」
きぬ
「ココナッツ! バカが1人来たろ。どこいった」
なごみ
「ここに」
きぬ
「手鏡でボクを映すな! いいかレオはね……
……(説明中)……ってコトでボクの
クッキーから逃げてるチキンなんだよ」
なごみ
「なんでそこまでして食べさせようとする?」
きぬ
「あいつが昔ボクの料理をマズイと言ったから」
なごみ
「料理……か。ふーん、食べてみようか?」
きぬ
「よし、この洋菓子をめぐんでやろうじゃないか」
なごみ 無音
「(もぐもぐ)」
なごみ
「ぐっ……激マズ……これでは逃げるはずだ」
きぬ
「テメーまでマズイって言うのか? 単子葉植物!」
きぬ
「しかも激マズイってボキャブラ貧困だよねー」
なごみ
「マズイしか言えない。自分で食ってみろ甲殻類」
きぬ
「バーカ。そんなん食わなくて分かるもん
ボクの心の中みたいに甘い味が(もぐもぐ)」
きぬ
「うわ、超マジィ! 誰だよコレ作ったの」
なごみ 無音
「……」
きぬ
「……はぁ。捨ててくる」
レオ
「フウ。どうやら行ったようだな
サンキュー、椰子」
なごみ
「先輩達は、騒がしすぎます」
レオ
「悪い悪い」
なごみ
「小さい頃からずっとあんな感じなんですか?」
レオ
「そうだな」
なごみ 無音
「……」
レオ
「なんだよ」
なごみ 共通
「いえ、別に」
レオ
「言えよう」
なごみ 無音
「……」
レオ
「ち……」
その後、椰子は寡黙モードに入ってしまった。
…………………
んで、夜。
きぬ
「おい、そこ読んだから次めくれやノロマ」
レオ
「だー、お前ウザ。離れろ」
2人で漫画読むのは無理があるんだよ。
新一
「そういえば今月末に体育武道祭だよな」
きぬ
「スバルは格闘トーナメント、エントリーした?」
スバル
「あぁ。去年は3年にしてやられたが、
今年こそは勝たせてもらうぜ」
きぬ
「頼むよー。スバルの優勝にバイト代
全部つぎこむんだからさ」
新一
「スバルのオッズは今のところ3、1倍だ
優勝候補の1人だもんな」
レオ
「やっかいなのは2−Aの村田か?」
スバル
「だな。3年に危険なのが2、3人いるけど
まぁルールはボクシングだし。
となると拳法部のあいつが一番ヤベェ」
レオ
「俺もスバル単勝で賭けるんだから頼むぜ」
新一
「ごほんっ」
新一
「実は俺もエントリーしてるんだ」
きぬ
「ダメ人間コンテスト?」
新一
「ちげーよ」
きぬ
「あなたの口説き文句をアピール!
ロマンチック・アクションッ!」
新一
「俺と君は……前世が一緒だったかもしれない」
きぬ
「なんつーかダメを通り越して痛い発言だよね」
新一
「って脱線してるって! 実は俺も
格闘トーナメントにエントリーしてるんだ」
きぬ
「はぁ!? なんでそんな無謀なマネしてんの?
死ぬ気なら生命保険の受け取り手をボクにしてよ」
新一
「まぁ、俺もヒーローに憧れてるからよ。ここらで
男を見せつけて人気者になろうって魂胆さ」
新一
「俺と当たるまで負けるなよ、スバル」
スバル
「どーも怪しいな」
きぬ
「何かたくらんでるねコイツ」
乙女
「おい、夜中だぞ。少しボリュームを下げろ」
新一
「パッ……パジャマだぁっっっ 参ったぁぁぁぁっ」
レオ
「なんで興奮してるんだお前」
乙女
「またいつものメンバーか」
乙女さんが周囲を見回す。
乙女
「お前達も暇人なんだな」
レオ
「うっ……」
説教モード発動とみた。
乙女
「くだらん集まりなどしていないで、
時間は有意義に使え、有意義に」
スバル 無音
「……」
スバル
「くだらん……ねぇ」
スバル
「はっ、乙女さんって何でも自分の価値で
決め付けるよな」
乙女 共通
「何?」
きぬ
「オイオイ、何をつっかかってんだスバル」
スバル
「で、気にいらない奴には蹴りがとんでくるわけだ」
きぬ
「このお馬鹿、なんてこというんだい、悪い子だよ」
パーン!
スバル
「痛っ、オマエが殴るのかよ!」
きぬ
「乙女さんが白っつったら
まぐろの刺身だって白なんだよ!
ボクの心のように純白なんだよ」
パンパンパーン!
カニがスバルに面倒を起こすな、と訴える。
新一
「す、すいませんね乙女さん」
新一
「こいつ根が暗いもんでして時々キれるんですよ」
きぬ
「そうそう、悪いヤツじゃない」
乙女
「いや、別に腹は立ててないがな」
レオ
「……お前にしては珍しい発言だな」
スバル
「親に注意されてすねる子供の気持ちってこった」
乙女
「伊達、言いたい事があるなら全部聞くぞ」
スバル
「いやいや、スねたコト言ってスイマセン」
……………………
乙女さんは一階へ降りていった。
きぬ
「で、スバルは何であんなに怒ったのさ」
スバル
「べっつに、ただ何となくだ」
きぬ
「乙女さんとかは説教が趣味の一環なんだから
いちいち反応してたら身がもたねーぞ」
新一
「そういうことだ。クレバーに生きていこうぜ?」
スバル
「分かってるさ」
レオ
「……なんだかんだで連携とれてるな俺達」
新一
「なんか、いつまでもこんな感じで
ズルズルいそうだよな」
レオ
「じゃあ何か、10年たってもまたこうやって
集まってるってか」
スバル
「別にいいんじゃねーか、そういうのも。
飲むモンがジュースから酒に代わるだけだ」
怠惰だけど、心地よい空間。
こんな集まりが、ずっと続くと思っていた。
ピー
炊飯器が炊き上げ完了のアラームを鳴らす。
乙女
「ここの炊飯器の扱いにもようやく
慣れてきたが、油断はできん」
乙女
「機械は油断すると高熱を発するからな」
レオ
「……うん、油断しないように頑張って」
朝はまたも自力で起きれた。
乙女
「レオもその調子で頑張れ」
ぽんぽん、と俺の頭を撫でる乙女さん。
まぁ、たいしたコトはしてないけど。
やはり褒められる、というのは嬉しかった。
………………
授業中――。
祈
「はい、ではよっぴー、カニさんの
方向を向いてここを読んで下さい」
良美
「SHE’S NOT VERY CLEVER」
祈
「NO、SHE ISN’T」
祈
「このように内容が否定なので、
こちらもNOで答える事が重要ですわね」
きぬ
「? ? ?」
カニは分かっていなかった!
つうか基礎だぞ大丈夫かカニ。
祈
「SO MUCH FOR TODAY
(本日の授業はここまで、ですわ)」
…………放課後。
新一
「……祈センセの授業は英訳が分からないと
さりげなくイジメられるから怖いよな」
レオ
「あの人は容赦ないからねぇ」
スバル
「さぁて、オレは部活に行くかね」
新一
「せいぜい頑張るがいい」
スバル
「へいへい」
スバル
「……悪ーな姫。たいした仕事しなくて」
エリカ
「元々、頭数合わせでもあるから
気にしないでいいわよ」
スバル
「そうズバッと言い切ってくれると気持ちいいねぇ」
スバル
「そんじゃ」
スバルは鞄を持って去っていった。
エリカ
「……それにしても彼は飄々としてるわねー」
きぬ
「おっ、スバルに興味あるん?」
エリカ
「人物的にはね。男と見た場合正直どーでもいいわ」
エリカ
「10歳ぐらいのスバル君だったら興味でたかもね」
良美 無音
「……」
佐藤さんが“エリーの少年趣味は病気なんで
シカトしていいから”と皆に目配せする。
乙女 無音
「……」
皆、分かってるようだった。
なごみ 無音
「……」
こいつは我関せずって感じだな。
良美
「そういえば伊達君って、人気はあるけど
特定の人と付き合った話は聞かないね」
新一
「よっぴーが恋愛話に興味を示しました」
良美
「そ、それはそういう年頃だもん」
レオ
「あいつは誰とも本格的に付き合ったことないよ」
新一
「かといって女に免疫がないわけでもない」
エリカ
「ふーむ」
新一
「夜中の陸上部も頑張ってるんだよ。
ベッドの上でもトップアスリート、なんちて」
荒涼とした風が吹いた。
祈
「フカヒレさんお下品120ポイント。退場ですわ」
新一
「幸せに……なりてぇなぁ」
フカヒレは本当に出て行った。
相変わらず自爆キャラだ。
エリカ
「人気はあるのに誰とも付き合わない」
エリカ
「……それってさ。もしかして対馬クンとかに
気があるからじゃないかな」
レオ
「いや、そんな表情をここで使われても」
良美 無音
「……」
佐藤さんが、“こいつ男同士のカップリングも
好きだけど病気だから無視して”的な視線を送った。
エリカ
「よっぴー、さっきから何を目配せしてるのかな?」
良美
「ええ、な、何もしてないよ」
エリカ
「じぇいっ」
良美
「あっ!」
レオ
「なんだ、佐藤さんが照れながら出て行ったぞ」
なごみ
「……おそらく、制服の上からホックを外した」
レオ
「なにぃ、ほとんど触れてないのに」
なごみ
「凄いセクハラ技」
エリカ
「なごみん、彼1年でも人気あるんでしょ?」
なごみ
「伊達先輩ですか? そういえば
そんな話も聞きますね」
なごみ
「あたしは興味ないですけど」
きぬ
「オメー自身のことなんか聞いてねえよ自意識過剰」
なごみ 無音
「……」
きぬ
「うごぉぉぉぉぁ」
エリカ
「はいはい、やるなら隅でやってね」
エリカ
「ふーん。でもそうなると本当に謎だな〜」
レオ
「つーか」
レオ
「姫だって人気あるのに誰とも付き合ってない」
エリカ
「そういえばそうね。私も無いや」
エリカ
「じゃあ対馬クン、試しに付き合ってみる?」
レオ
「えっ」
レオ
「あっ、いや……その俺」
エリカ
「冗談だって」
レオ
「うぐっ」
祈
「ウブですわねーくすくす」
レオ
「人の純心を笑うなぁ」
きぬ
「焦ってやんのー可愛いねーボウズ」
なごみ
「くっくっ……」
レオ
「こんな時だけ意気投合するな、ちくしょう」
エリカ
「ありゃ出て行った。イジメすぎたかな」
あの生徒会はスキあらば人の心を犯してくる。
攻撃対象にならないように気をつけねば。
レオ
「今日の生徒会室での出来事、どう思う?」
乙女
「姫にからかわれるのはいつもの事だろう」
乙女
「精神が軟弱だから、ちょっとした事で動じるんだ。
後10分したらランニング行ってこい」
レオ
「なっ……」
乙女
「ぐずぐずぬかすな。あまり甘えるなよお前」
レオ
「厳しい」
乙女
「これでも温いほうだ」
乙女さんに突き放されてしまった。
レオ
「……それじゃ行ってきます」
乙女
「走っていれば、嫌な事も吹き飛ぶ
せいぜいウサを晴らして来い」
レオ
「俺はそんな単純に出来てねーんだよ」
レオ
「……と心の中で言っておくのさ」
レオ
「……はっ、はっ、は」
公園の方に行ってみるか。
スバル
「お前もランニングか坊主」
レオ
「スバルじゃん、お前も走ってるの?」
スバル
「バカか、オレは陸上部だろうが」
良美
「ふぅ……風が気持ちいい」
良美
「……あれ? あそこにいるのは」
良美 無音
「(伊達君と……あっ、対馬君)」
スバル
「6月っつっても夜はまだ過ごしやすくていいよな」
レオ
「海からの風が涼しいしなぁ」
レオ
「あ、……そーいや昨日さ、生徒会で
お前の話題でたよ」
――説明中。
スバル
「なるほど。個人の付き合いが無いのは何故、か」
スバル
「さすが年頃の娘さん達、他人の
色恋沙汰の話は興味しんしんのようだな」
レオ
「俺とお前、そういう話あんまりしないけどさ」
スバル
「だってオマエ恋愛否定じゃん」
レオ
「いや、俺はテンションに身を任せるのを
潔しとしないだけだ」
スバル
「同じコトだろうが、バーカ」
レオ
「まぁ、俺の事は今はいいんだよ」
良美
「……聞こえない」
良美
「もう少し近づいてみないとっ」
青白い月明かりが、俺達を照らしている。
物音もまったくなかった。
……ここにいるのが野郎で無ければ
いいムードだっただろう。
レオ
「お前はどうなの、そーいうのいないの」
スバル
「あんオレか? ま、好きなヤツはいんよ」
レオ
「何?」
レオ
「そんなにあっさり認めるとは意外だ……」
こいつまさか俺とか言うんじゃねぇだろうな。
(↑ちょっと自意識過剰)
スバル
「……今も何人か適当に付き合ってるけどさ」
スバル
「つまんねー奴等ばっかだぜ。
匂いが指にこびりついて
なかなかとれなくて困ったヤツもいる」
レオ
「……アダルトな話だな」
スバル
「でも、そういうのに限って金払いはいいんだ」
レオ
「……その話題は苦手だ」
スバル
「しゃーねーだろ。日々の学費を稼ぐためだ」
スバル
「あの父親が金食うせいで本当苦労するぜ」
スバル
「やっぱ一途なのよ、オレは
あいつじゃなきゃダメだって事が良く分かる」
レオ
「それ誰なんだ?」
レオ
「あ、別に無理に聞く気はサラサラねーんだ」
スバル
「多分、お前は知らないと思うね」
そうなのか、他の学校の奴かな。
レオ
「……でも意外だな、お前にもそういうのあんのな」
レオ
「俺とは違う意味で冷めてる奴かと思ったぜ」
スバル
「冷めてるよ。そしてついでに言うなら
オメーは冷めてない」
スバル
「冷めているフリをしているだけだ」
レオ
「……どうだろ」
レオ
「とにかく誰か知らないけど頑張れよ、
応援してやんから」
スバル
「はっ、人の心配よりテメェの心配してなよ」
レオ
「言われると思った」
スバル
「生徒会に入ってしばらく経過して
その胸のうちはどーなんだ?」
レオ
「はは、どうだろうな」
スバル
「お姫様とは?」
レオ
「からかわれているだけだ。相手にされてねぇ」
スバル
「椰子とは? あいつも美人だろ。
ありゃ将来スゲェいい女になると思うぞ」
レオ
「性格に問題がありすぎる。あんなキツイのと
付き合ってたらハゲる」
スバル
「乙女さんは?」
レオ
「鬼教官(軍曹)と新兵、といった感じでしかない」
良美 無音
「(ドキドキ)」
スバル
「あぁ、祈ちゃんは?
あの胸はなかなかのモンだろ」
レオ
「先生と生徒でしかないな」
スバル
「よっぴーなんかどうなんだ?」
良美 無音
「!」
レオ
「佐藤さんって誰か付き合ってる人いそうじゃね?」
スバル
「んーそうかなぁ?」
レオ
「分からん……だってあんないい人
普通ほっとかないだろ」
スバル 無音
「……」
スバル
「あれだけの美人揃いで贅沢なことだな親友」
レオ
「……なんか俺はお前たちと
遊んでるほうが気楽でいいや」
スバル
「オレもそんな感じだぜ、今はな」
海風が吹く。
レオ
「……んじゃ帰るか」
スバル
「そうだな。どうせなら走って帰ろうぜ?
オレのスピードについてこれるかな?」
レオ
「上等だ!」
……………
レオ
「ふぅ……なんだかんだで帰りも
走ったからいい汗かいたぜ」
さっさと風呂に入るか。
レオ
「あ、また……」
乙女
「お前、私に変なキャラを定着させる気か!」
レオ
「しずかっ!」
い、いい加減1人暮らしの感覚から
抜け出さないと。
――――授業終了、と。
執行部の扉を開ける。
中には1人しかいなかった。
レオ
「よ、カニ……ん?」
きぬ 共通
「Zzz」
気持ち良さそうに寝ているな。
フツーに見たら可愛い寝顔なんだろうけど。
レオ
「……俺にはただの馬鹿にしか見えない」
他のヤツラはいない。
しょうがない、来るまでカニで遊ぶか。
姫が飾っている猫のフィギュアで
唇をつっつく。
きぬ
「あむっ」
よし、フィギュア釣り成功。
きぬ
「……う……ん? レオ。おはよー」
きぬ
「ふわーあ」
レオ
「俺の拳が入りそうなぐらい、でかいアクビだな」
試してみた。
きぬ
「がぼ」
レオ
「やっぱ無理か。入るかなーと思って」
きぬ
「はいんねーよっ、アゴ外れるかと思ったさ!
それぐらい分かるだろボケ!」
レオ
「口悪いよな」
……俺達とつるんでるからこうなったワケだが。
きぬ
「……あれ、他のメンツいなくね?」
レオ
「あぁ、まだ来ていないみたいだ」
きぬ
「だったらいいや、今日は帰ろ。
カラオケ行こうよ。
後でフカヒレとスバルも呼んでさ」
レオ
「いや、顔を出しておかないとマズイだろ」
きぬ
「あぁ? おいおい、いつ洗脳されました少年」
きぬ
「ボクらフリーダムな人間じゃん。
組織とかそういう枠組みにとらわれない。
腹が減れば食い、遊びたければ遊ぶ」
きぬ
「それがテメェ、どういうつもりで
あらっしゃいますか?」
レオ
「俺は姫に怒られたくないだけだ」
きぬ
「なんだ、姫にいいとこ見せたいってわけ」
レオ
「む……まぁ正直それもある」
きぬ
「姫はやめときなって。釣り合いってのが
あんでしょ? ちょっとは
身の程わきまえろや、ドリーマーが!」
きぬ
「それとも何ですかねぇ? 小さい頃に何か
得体の知れない約束でもしてフラグが
立っているとでも言うんですかねぇ?」
レオ
「んなもんねーよ」
きぬ
「だったら、あきらめな」
レオ
「むぅ」
良美
「あれ、もういたんだ早いね、2人とも」
エリカ
「また喧嘩でもしてたの?」
きぬ
「出来る事と出来ない事を教えてあげてたんだ」
レオ
「ちっ、偉そうに」
良美
「……カニっちはさ、良く男の人相手にそう
ズバズバ言えるよね」
きぬ
「こんなもん慣れですよ」
良美
「慣れかぁ……じゃあ私は彼氏も男のコの
幼馴染もいないし無理だねぇ」
レオ
「慣れっつうか本来の性格のような気もするが」
………………
洋平
「体育武道祭の格闘トーナメント、
エントリーしたそうじゃないか」
スバル
「まぁなー。頑張るぜ」
洋平
「僕とお前がどこで当たるかは分からないが
それが事実上の決勝戦だと思ってる
楽しみな勝負になりそうだな」
スバル
「それは嬉しい言葉だね。ほら、駅はあっちだ」
洋平
「ふん、分かっているが、妹達から買い物を
頼まれてな。兄としては苦労する」
スバル
「12人の妹ってのは大変だな」
洋平
「あぁ難儀している。よかったら紹介してやろうか」
スバル
「はっはっは。それは心から断る。じゃあな」
スバル
「例え美人でもオレは年下の趣味はねーしな」
ガチャ。
スバル
「チッ、相変わらず酒くせー家だな……」
スバル
「あん、この靴は……まーた女連れ込んでやがる」
スバル
「やだやだ……恥も外聞もないのは」
スバルパパ
「おう、スバル、てめぇ、挨拶も言えねぇのか」
スバル
「また外に行くんだよ。テメェは女がいんだろ」
スバルパパ
「ちっ、さすが俺の血が入ってるだけあって
不良だな、ああん?」
スバル
「ちっ……あいつ……死にやがれ」
スバル
「あのゴミの血が流れてるって……あー
考えただけで、やんなるよなぁ」
スバル
「卑屈な気分になる……冗談じゃねぇ
オレの心はズタズタだ」
スバル
「親は選べないってのはよく言ったもんだ」
………………
きぬ
「んで、B組の遠野ってやつがA組の
クー……あ、西崎のことね。
告白してフられたらしい」
新一
「何気に西崎さんも不思議な魅力あるからな
胸も結構大きいし」
新一
「しかし、フラれたとは気の毒にねぇ。へへ」
他人の不幸を楽しそうに……恐るべしダメ人間。
レオ
「どうした、スバル。口数少なくないか?」
スバル
「いや、いいんだ、楽しんでるぜ」
スバル
「……これでいーんだよ、オレは」
きぬ
「? 変な奴ー」
スバル 共通
「はっ、言ってろ」
こうして、いつもの夜はふけていく。
乙女
「晴れた日の早朝トレーニングは気分が良いな」
乙女
「心も爽やかだ」
乙女
「さぁ、朝だぞ。起きろ」
乙女 無音
「……?」
レオ
「Zzz」
きぬ
「すー……す……」
乙女
「……爽やかな気分が一瞬で壊れたな」
…………うぅ、誰かが俺を呼んでいる。
乙女さんか……?
レオ
「うう……おはよう、乙女さん」
乙女
「聞きたい事が2つある」
乙女
「1つは何故、私服のまま寝ていたのだ」
レオ
「あぁ、勉強してたら眠くなっちゃって。
この服、別に外行きじゃないから大丈夫だよ」
乙女
「2つめは、何故お前の隣で蟹沢が寝ているのかだ」
レオ
「ん?」
隣を見る。
横でカニがすやすやと寝ていた。
レオ
「おわっ、またかこいつ」
乙女
「また?」
レオ
「おおかた、深夜番組で怖い映画でも
見たんでしょ」
レオ
「このカニは、そういうホラー系
全然だめで、1人で寝れなくなる時がある」
レオ
「まー、本人はそんなんで怖がってねーよとか
否定するけどさ」
乙女 共通
「だからといって、普通お前のベッドに来るか?
親とかいるだろうに」
レオ
「こいつ親に出涸らし、といってじゃまっけに
されてるからなぁ……」
乙女
「まぁ、だいたいは分かったが……まったく、
どういう関係なんだお前達は」
レオ
「幼馴染」
乙女 無音
「……」
…………
祈
「皆さん、おはようございます」
きぬ
「せんせーい、もうすぐ朝のHRが終わる
時間なんですけどー」
祈
「電車が混んでまして」
……ここで“電車が混んでても遅刻とは
関係ないだろ”と言うやつはバカか姫かのどっちか。
祈先生に目をつけられるだけ。
ここ竜鳴館ではこんな風に空気を読むことも
教えてくれるのである。
祈
「その事はおいといて。今月末に迫る
体育武道祭の特別行事が決まりましたわよ」
レオ
「おおっ、ついに」
スバル
「去年は騎馬戦だったからな」
レオ
「本当の馬使うとは思わなかったけどな」
きぬ
「あれは面白かったねー」
新一
「今年は何だろうな」
祈
「竜鳴館名物・男女ペアの2人3脚リレー
だそうですわ」
レオ
「なーんだ、普通じゃん」
祈
「相手走者への妨害が自由という点で既に
普通ではありませんわね」
祈
「特別行事は点数が非常に多く
割り振られていますわ、合計3000億ポイント」
館長が豪快な人なので数字も豪快なのだ。
祈
「仇敵である2−Aの首級(しるし)を
挙げるには絶好の競技ですので、
気合を入れてメンバーを選びましょうね」
………………
――――放課後。
結局、二人三脚のペアは投票で決める事になった。
良美
「えーと、この文字は……」
祈
「皆さん、字はもう少し綺麗に書いて下さいな」
良美
「あ、あの〜、先生。この投票用紙、
人物名に“バカ”って書いてあるんですけど」
祈
「男子ならフカヒレさん、
女子ならカニさんの有効票ですわね」
良美
「ええと……エリー、伊達君、カニっち……
……エリー……、ふぅ、集計終わり」
良美
「はい、みーんな! 静かにしてー!
投票の集計が出たよー!」
委員長の佐藤さんがパンパン、と手を叩く。
だが、そう簡単にダメ人間が揃ったウチの
教室は静かにならない。
良美
「静かにしないと帰れないよー」
これを言われると弱いヤツラが多い。
次第に教室が静かになっていった。
良美
「じゃあ、二人三脚リレーに
参加する6人のメンバーだけど」
良美
「まず一番多かったのがエリ……じゃなくて
霧夜さんと伊達君のコンビ」
エリカ
「やれやれ、別にいいけど」
良美
「投票理由は……敵を殺してくれそうだから
血祭りが見れそう、むかつく奴等を
葬ってくれそう、などなど」
エリカ
「まーね」
レオ
「そこは否定する所なんじゃないの?
なんで満足そうなの?」
スバル
「おい大変だ。オレ、そんなイメージで
見られているらしいぞ」
新一
「何を今更」
良美
「えーと、次はイガグリ君と浦賀さんコンビ。
これは2人とも運動神経を買われてるね」
豆花
「適任ネ」
真名
「緊張するやないか、実は気ぃ小さいんや
(↑ 本名は 浦賀 真名)」
イガグリ
「オイラ、イガグリって名前じゃないんだけどなぁ」
新一
「いーじゃん。その頭で女ダマしてるんだろ
俺、ショート守ってるんだけど今度全国大会に
行くんだ、とか言ってさ」
イガグリ
「そんな不純な真似はしないべ」
良美
「で、最後は蟹沢さんと対馬君」
きぬ
「なんと!?」
良美
「その名は平城京」
レオ
「なんで俺やねん」
きぬ
「ボクは運動神経いいけど、こいつ並じゃん」
レオ
「悔しいがその通り」
エリカ
「あぁっ、よっぴーのボケがスルーされちゃった……
“なんと”を710年にかけた年代ギャグが……」
良美
「い、いちいち、く、口に出して
言わなくていいから」
祈
「なかなかいい布陣ですわね
兵法にかなってますわ」
レオ
「……そうかなぁ」
レオ
「というか、佐藤さん質問。
俺とカニになんでこんな票が入ってるんだ」
豆花
「普段から仲良しこよしネ。息が合てそう」
きぬ
「えーっ、そう見えるのかよ」
良美
「だって投票理由にはみんなそう書いてあるよ」
祈
「一緒に登校してればそう見えますわよ」
きぬ
「不満だねー。こいつきっとボクの足を引っ張るぜ」
公衆の面前でコケにされてたまるか。
レオ
「つーか身長差ありすぎて上手く走れねーよ」
感情に流されないようニヒルに反論。
きぬ
「んだとっ! このウスラトンカチ」
良美
「こ、ここで喧嘩したらダメだよ」
エリカ
「んー。カニっちは毛並みも良さそうだし
カニっちに賭けるわ」
良美
「賭けもしたらだーめ〜!」
祈
「それじゃ私は対馬さんに賭けますわ」
良美
「先生も一緒に賭けしたらダメですよぅ。
このクラス無法地帯とか言われてるんですよ?」
エリカ
「ところで対馬 × 伊達に投票したの私だけ?」
良美
「エリー1人だけだったよ。カップリングじゃ
ないんだから」
エリカ
「“もののあわれ”が分からないわねー、みんな」
良美
「はい、もう次行きまーす、走る順番ですけど……」
その頃、2−Aでは。
洋平
「それじゃ、二人三脚の走者はこれでいいかな」
洋平
「2−Cあたりが僕達のクラスを目の仇にして
攻撃してくると思うが、正々堂々頑張ろう!
そして勝負には絶対勝つ!」
教室からオーーッ! という掛け声が響いた。
………………
祈
「いいですか、レースに参加する皆さん。
2−Aの連中も妨害してくるはずですが
その時は私が許可しますわ」
祈
「どのような手を使われても構いませんから、
派手に殺(バラ)しちゃって下さいな」
きぬ
「おうよ、あの良い子ぶってるヤツラ
血祭りだーーっ!」
エリカ
「競技中の事故は合法だもんねー」
過激な学校だよなココ……。
こうして勝負に勝つ貪欲さを学ばせるのが
教育方針らしい。
レオ
「高級焼肉食い放題?」
祈
「そうですわ、二人三脚で1位になれれば、
レースにでる皆さんに焼肉をおごります」
きぬ
「マジか!」
なごみ
「? ……なんで先生はそこまで勝敗に
こだわってるんです?」
エリカ
「祈センセイはね、他のクラスの
担任と賭けをしているのよ」
エリカ
「で、今まで煮え湯を飲まされてきた
2−Aの担任に勝ちたいんだって」
なごみ
「それはまた、えらく私的な理由ですね」
エリカ
「なんせ仇敵と決め付けてるぐらいだからね」
エリカ
「勝てば雪辱を晴らしひと財産→焼肉というわけ」
なごみ
「勝手にやって下さいって感じですね……」
きぬ
「カルビか! カルビ食っていいんか?」
祈
「もちろんですわ」
きぬ
「お前は出涸らしだからキムチだけ、とかないね?」
祈
「ありませんわ」
きぬ
「よし、頑張ろうぜレオ」
レオ
「焼肉なんて俺達と食ってるだろ」
きぬ
「だって高級だぜ!」
あぁ、もうこの庶民!
なごみ 無音
「……」
レオ
「ニヤニヤしながらこっちを見るな!」
二人三脚、テスト調整。
エリカ
「スバル君は自由に動いてみて、あわせるから」
スバル
「じゃあ好きに行くぜ。よっ」
エリカ
「ほっ」
良美
「わっ、すごいエリー完璧についていってる」
スバル
「スゲーな、オレについてくるとはさすがお姫様」
エリカ
「終了終了。私達は二人三脚練習の必要無さそうね」
スバル
「イガグリ野郎と浦賀さんはどうなんだろう」
良美
「2人で練習してるみたい」
エリカ
「まぁあの2人も運動神経悪くないから
大丈夫でしょう」
新一
「となると、問題はお前達2人か」
フカヒレから渡された布で2人の脚をしばる。
きぬ
「まぁ任せておきなって。毎日顔をあわせてる
ボク達がおりなすコラボレーションを見て泣け」
レオ
「焼肉がからむと俄然やる気ねお前」
レオ
「……よし、縛り終了。軽く走ってみるぜ」
きぬ
「いっせーの、いち!」
どさっ
視界が暗転した。
何故なら俺とカニがコケたからだ。
スバル 無音
「……」
良美 無音
「……」
きぬ
「あ、あははは! こんなんギャグだって。
レオ、もっかい行くよ!」
レオ
「お、おう」
痛い鼻をさすって、起き上がる。
レオ
「せーの、いち!」
どさっ
再度視界が暗転し、顔面に激痛が走る。
レオ
「い、痛っーーー」
氷のような視線が俺達に集まった。
エリカ
「駄目かな、こりゃ。使えたもんじゃない」
良美
「でも、もう申し込んじゃったし……」
レオ
「待て、見放さないでくれ」
姫に呆れられるのはイヤだ。
なごみ
「センパイ達は、相手に合わせる協調精神が
足りないんじゃないですか?」
きぬ
「オメーにだけは言われたくねーよ!」
エリカ
「わがままは駄目よ」
レオ
「それは姫に指摘されたくない」
エリカ
「私はいいの、何をやっても」
きぬ
「つーか、レオ気合入れろや」
レオ
「俺はちゃんとやってるね、お前が悪いね」
きぬ
「いーや、そっちが悪い」
新一
「どっちも悪いんじゃねー?」
エリカ
「あんた達、これから連休だから。
土日に2人で練習しなさい」
エリカ
「そして月曜日に成果を見せてもらうわ」
エリカ
「最低限の動きができなかったら、
メンバーを交代するからね」
なごみ
「2日じゃ無理ですね、多分」
きぬ
「なんだと、このパンスト1年生!」
なごみ
「悔しかったらやってみろ、カラフル2年生」
きぬ
「じゃあしっかりこなせたら
ボクにワビいれてもらうからなっ」
なごみ
「それ賭けだぞ? 上手く
出来なかったらカニがあたしに謝るんだぞ」
レオ
「別に俺達、辞退しても……」
きぬ
「上等じゃボケぇ! だいたい
メンバー変えられたら高級焼肉食えないもんね」
レオ
「あぁっ、なんか話がどんどんややこしい方向に」
……………………
乙女
「ほう、それで」
レオ
「カニと土日で特訓する事になった」
乙女 無音
「(キュピーン)」
俺は見た。
乙女さんの凛とした瞳に情熱の炎が灯った瞬間を。
乙女
「特訓か、いい言葉だな」
乙女
「よし、それなら私も精一杯付き合おう」
レオ
「……できれば適当に付き合ってください」
レオ
「っていうか部活は?」
乙女
「私だが。明日は部活を休む、……あぁ、
軟弱な弟を男に鍛え上げる為に特訓しなくては
ならない。とても重要な事なんだ、外せない」
レオ
「既に電話かけてるし!」
余計な事を言ってしまった……。
レオ
「乙女さん」
乙女
「私の事はコーチと呼んでくれて構わない」
レオ
「いや……乙女さん」
乙女
「なんだ、さっさと特訓をはじめるぞ」
レオ
「なんで……この人まで体操服なんだ」
きぬ
「それだけやる気ってコトじゃねーの?」
乙女
「それでは、神社の階段をうさぎ飛びで
登る所からはじめるか」
レオ
「スポーツ医学って知ってる?」
乙女
「冗談だ。今日は烏賊島までの遠泳を予定している」
余計ハードなメニューになってしまった。
俺の携帯電話が鳴る、スバルからだ。
スバル
「よぉ、今部活中で学校から
かけてるんだけどよ、乙女さんいる?」
レオ
「いるけど?」
スバル
「拳法部の副主将が乙女さんと至急話したいってさ」
レオ
「乙女さん、部活の人から電話だって」
乙女 無音
「?」
乙女さんが携帯を受け取る。
レオ
「携帯の持ち方が逆!」
乙女
「ええい、ややこしいな。こっちか」
乙女
「何、練習試合に来た他校に強い奴がいる?
範間? 知るか根性無しが!
男なら相討ちにもちこめ!」
乙女
「気合で何とかならないのか? ……そうか……」
乙女
「よし、村田洋平と協力して時間を稼いでいろ。
すぐに私が行く」
乙女
「すまん、練習試合で苦戦しているようだ
竜鳴館拳法部の名を穢すわけにはいかん」
乙女
「私の特訓は明日にする。安心しろ成功させてみる」
乙女さんは凄い速度で駆け出していった。
レオ
「プライド高いし気が強いから
部活の敗北は許せないんだろうな」
レオ
「ちょっと拳法部の連中に同情するよね」
きぬ
「でも人気はあるみたいだよ」
レオ
「実績が伴ってるからだろ。……つうか俺達、
今日中に成功させないと特訓が待ってるんだぞ」
きぬ
「よっしゃ! 目指すは高級焼肉だ!」
レオ
「い っ せ ー の 、 い ち」
とたんに、バランスが崩れる。
すてーん!
きぬ
「ぐっ、痛ーーーっ」
レオ
「くっ、また地面に……お前、タイミング早すぎ」
きぬ
「んだよ、オメーが遅いんだろうが野郎のクセして」
レオ
「よ、よしもう一度。あわせるぞ」
きぬ 共通
「いっせーの、いち!」
レオ
「よし!」
2人のタイミングがあって脚が揃った。
この調子で……っ!
きぬ
「2っ! 1、2っ!」
レオ
「バカ、そんなスピーディーに飛ばすなぁっ」
どてーーん!
またも地面に熱烈なキス。
レオ
「痛いっ、うわ、俺鼻血出てるし」
きぬ
「レ、レオには失望したよ、もちっとマシな
運動神経かと思った……お母さんは情けないよ」
レオ
「ちょこまかした動きにあわせられるかボケ!」
きぬ
「テ、テメェ! ついにチビって言いやがったな」
レオ
「言ってないだろ」
きぬ
「つうか、レオやる気ねーんじゃねーの?
いつものテンション論でさぁ、ハイになるのは
よくないとかいうイジケた理屈でさ」
レオ
「やる気はあったけどお前の暴走で、それも冷めた」
きぬ
「最低だよ、ヘドロだよ、東京湾に浮いてろよ」
カニが俺達の脚を結んでいるハチマキをほどく。
きぬ
「音楽性の違いです」
レオ
「もうチーム解散の言い訳かよ」
きぬ
「レオとは組まないね、他のヤツと組んで
焼肉を目指すもんね」
レオ
「っておい!」
どうする!?
カニを止める
レオ
「待てよ」
カニが嬉しそうに振り返る。
きぬ
「んー、何? 何か言いたい事が
あるのかなー?」
こいつ、ニコニコしやがって。
俺が止めると確信してやがった。
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
レオ
「なんだよ、どっか行くんじゃないのか?」
きぬ
「空気読めよ」
レオ
「お前に言われたくないよ、何でだよ」
きぬ
「こういうケースだったら俺が悪かった、メシ
おごるから機嫌直して、とかあるじゃん
どっかの国の映画でそんなんやってたよ」
レオ
「そこネバーランド?」
……くっ、俺の方が精神的に大人なんだ耐えろ!
良美
「こんにちはー」
レオ
「あれ、佐藤さん」
新一
「レオの家知ってたの?」
レオ
「お前はナチュラルに家から出てこないように」
新一
「いやぁ、2階から侵入したら誰もいないから」
良美
「名簿見れば分かるから。この辺りだってのは
知ってたし」
レオ
「え、どうしたの休日に」
良美
「うん、エリーが月曜までに、二人三脚出来るように
なんて言ってから無茶してないかなーって」
レオ
「そのために……わざわざ」
レオ
「ありがとう、佐藤さん」
良美
「あはは、そんなお礼言われるほどじゃないよ」
新一
「よっぴー、部屋上がってく?」
良美 共通
「え? え?」
レオ
「ここはお前の家じゃないから」
きぬ
「よっぴーがせっかく来てくれたのは
嬉しいけどさ、レオが文字通りボクの
脚を引っ張って困る最中なんだよね」
新一
「まーた喧嘩してたのかよ、アホくさ」
レオ
「協調性ないのはお前だ」
きぬ
「いーや、レオだ」
新一
「子供じゃないんだからさぁ」
きぬ
「うーし、じゃあよっぴーと二人三脚
やってみ? それではっきりするさ」
良美
「え、私? 私と……対馬君」
きぬ
「ほら、足出して。はい、結びマース」
レオ
「オマエなぁ、強引すぎんだよ」
きぬ
「いいからホラ、しっかり結んだからやってみ」
レオ
「ふん、見せてやる」
がしっ、と佐藤さんの肩に手を置く。
良美 無音
「……」
レオ
「佐藤さん、合わせてね」
良美
「は、はい! 頑張りますです!」
レオ
「なぜ敬語。まーいいや」
レオ
「せーの、いち、に、いち、に」
佐藤さんがしっかりついてくる。
俺も無理せず佐藤さんにあわせる。
新一
「なんだ、出来てるじゃん」
きぬ
「なにぃ、そんなハズはねー!」
レオ
「よし、だんだんギアをあげていくよ」
良美
「はい、結構いけますねコーチ」
レオ
「誰がコーチか」
新一
「既にボケつっこみしてる余裕があるぞ」
きぬ
「ぬぬぬっ!」
俺と佐藤さんが、二人三脚しながら機敏に
動いて見せる。
きぬ 無音
「……」
レオ
「よし、終わりッと」
初めてにしてはかなりのフィーリングを見せた。
良美
「あ、相性いいみたいだね」
レオ
「そーだね。よし二人三脚状態解除、と」
良美
「えっ、もう解くの?」
レオ
「?」
良美
「あ、ううん何でもない」
新一
「普通にいい動きするじゃん
対馬×佐藤ペアでいったら?」
良美
「×……えへへ、かけられちゃったね」
なんでそんな嬉しそうなんだこの人は。
きぬ
「どーいうことじゃボケ! なんでよっぴーとは
そんなに合うんだよ!」
カニが俺と佐藤さんの間にグイッと割り込む。
レオ
「お前の自己中が証明されたってわけだ」
きぬ
「なっ……!」
レオ
「だいたいお前は我慢をしらん。さすが優しい兄と
理解ある幼馴染を持った小娘って感じだ」
きぬ
「ちょっと聞いたよっぴー。ボクが我慢を
知らないんだってさー。当たってないよねぇ」
良美
「あはははは」
レオ
「ほら、佐藤さん乾いた笑いをしてるじゃないか」
レオ
「よーし、質問して試してやる!」
きぬ
「なんかしんねーけど、どーんとこーい!」
レオ
「例えば、部下が締め切りに間に合わないから
仕事を手伝ってくれ、と泣きついてきました。
はい、あなたは我慢して手伝いますか?」
きぬ
「はぁ? んなもん、甘ったれるな! って
モンゴリアンチョップに決まってるじゃん」
レオ
「あなたは、食事のペースが早いですが
今日の連れはペース遅いです、はい、がっつくの
我慢してこの人のペースにあわせられますか?」
きぬ
「いんや、食い終わったらそいつのも食う」
レオ
「あなたが電車を待っています。さて、ドアが
開くとハナタレ坊主が横入りしてきました
あなたならどうする?」
きぬ
「デストローイ!」
レオ
「もう最悪だね、君は」
新一
「おいもうやめとけって」
レオ
「いーや、この機会にガツンと言ってやる」
レオ
「いいか、お前は結構なワガママさんだ!
ガキじゃないんだからもう少し
他人に合わせる心構えを身に着けろ」
きぬ 無音
「……」
よし、決まったぜ!
きぬ
「がーん、見下していたレオに説教された」
レオ
「見下されてたのかよ!」
きぬ
「レオ、ちょっと耳貸せ、無担保で」
レオ
「何だよ」
顔を寄せる。
きぬ 共通
「でやっ」
レオ
「ぐはっ」
ヘッドバッドを食らった。
レオ
「ぎゃ、逆ギレかおい」
きぬ
「うるさいっ、そんなにボクと
組みたくないって言うんだな!」
レオ
「おい、俺は協調精神の無さを説教しただけで……」
きぬ
「ちくしょーーーっ もうすっげー堕ちてやる」
カニは叫びながら走り去っていった。
良美
「あ、カニっち!」
レオ
「……ま、時間が解決してくれるだろう」
良美
「え、それでいいの?」
新一
「よっぴー、お茶でも飲んでいきなよ」
良美
「で、でも……カニっちが」
レオ
「腹減ったら帰ってくるよ」
新一
「今、午前11時だから。1時ぐらいには
帰ってくるんじゃね?」
良美
「な、なんか冷たくないかな、カニっち
傷ついたのかも」
新一
「あいつは気が強くてねー、これしきの事
じゃヘコたれないの。もし傷ついてたら
目でピーナッツ噛んであげるよ」
良美
「それならいいけど……カニっちの携帯は?」
レオ
「そこに置きっぱなしだ」
良美
「あ、本当だ。これじゃ連絡つかないね」
レオ
「大丈夫だって」
……で、2時間後。
良美
「はい、出来たよ」
新一
「おおーっ、よっぴーの手作り料理キタワァ!
台所のありあわせで作るなんてさすがだよね」
良美
「あはは、たいした事じゃないけど」
新一
「味のほうは……」
新一
「美味いっ、食べた瞬間に日本が見えた」
良美
「……それ遠まわしにバカにしてない?」
レオ
「いや、でもマジ美味い」
レオ
「お嫁に来ない?」
良美
「う、うん……っ! 喜んで!!」
新一
「こんな風にギャグに対してもノリノリで
答えてくれるもんなー」
新一
「俺の所にもお嫁に来てよ」
良美
「イヤです」
新一
「……あれ?」
きぬ
「……ぐっ」
きぬ
「ボクにひどい事言ったと後悔して
皆で青春反省会してると思いきや
昼飯食ってなごんでやがる……」
レオ
「何のぞきみしてたんだ」
きぬ
「レオ!」
レオ
「そろそろ来る頃だと思ったぜ」
レオ
「お前もあがって昼飯食え」
きぬ
「な、何を大人ぶってるんだよ
レオはボクの保護者かよ!」
レオ
「なんだよ、なんて言ったら満足なんだ」
きぬ
「よっぴーとあってボクとあわなかった
事実にムカついてんだよ!」
レオ
「それはお前が焼肉に気をとられて
気張りすぎなんだよ」
きぬ
「高級! 普通の焼肉じゃないもんね!」
こ、この育ち盛りが……。
報酬に目がくらむとはこの事だ。
逆効果だぜ、祈先生。
レオ
「じゃあこう考えろ、俺と焼肉どっちがいい?」
きぬ
「えっ……」
レオ
「俺だろ?」
きぬ
「……いや、でもレオ食えねぇし……」
レオ
「焼肉は朝起こしてくれないんだぞ!」
きぬ
「うっ……そうか。焼肉は宿題を
手伝ったりしないしね」
きぬ
「って、それと二人三脚とどう結びつくのさ」
レオ
「つまり、俺の言う事を聞け! 先行するな」
きぬ
「何様のつもりだテメーは」
あぁ、もう何でいちいち刃向かうのコイツ?
良美
「対馬くーん? ご飯冷めちゃうよー?」
レオ
「あぁ今行くー」
きぬ
「なんじゃその夫婦みたいな会話は!
ちくしょーーっ、堕ちる所まで堕ちてやる!」
レオ
「何! どうするつもりだ!」
きぬ
「格ゲーで、小学生が一人プレイしてるときに
乱入して無限コンボで倒してやる」
レオ
「最悪だ!」
レオ
「おい、まてスベスベマンジュウガニ!」
また走り出してしまった。
新一
「なんかまた駆け出していったみたいだけど」
良美
「やっぱり傷ついてたんだよ」
レオ
「仕方ない、追うよ」
新一
「そこにあるのは愛!?」
レオ
「断じて違う」
レオ
「このままでは社会の皆さんに迷惑を
かけるとふんだからだ」
良美
「私も行くよ」
レオ
「いや、ヤツの習性はだいたい俺が理解してっから」
レオ
「そこは作戦本部ってことで待機しててくれ」
良美
「う、うん、分かった。でも天気悪いから
はい、折り畳みもっていった方がいいよ」
レオ
「サンキュー佐藤さん。気が利くね」
レオ
「それに比べてあのバカは。めんどくせーなー」
新一
「……と言いながらも追っかけるのがレオの
良いところなのさ」
新一
「ところでなんで手にピーナッツ握ってるの?」
良美
「私、初めて見るなぁこの芸」
新一
「……よっぴーって時々容赦ないよね」
………………
レオ
「ゲーセンにはいねーのか」
既に悪さをした後なのか……。
他にもゲーセン探してみよう。
………………。
いないし。
なんか外は雲行きが怪しくなってきたぞ。
レオ
「ここ(カレー屋)か?」
来てないみたいだ。
……しかも雨降ってきたし。
レオ
「あのバカどこいきやがった」
まさか米軍基地(ベース)を
ピンポンダッシュとかじゃねぇだろうな。
携帯が鳴った。
新一
「俺だけど。目が痛ーよ……カニ見つかった?」
レオ
「いや、まだ見つからない」
出来の悪い子の保護者ってのは辛いぜ。
新一
「任せろ。俺だって馴染みだ見当はついている」
レオ
「どこよ」
新一
「雨が降ってきたということは、
松笠公園に行ってみろ」
レオ
「……そんな所にいるか? まぁわかった」
目的地がはっきりしてると動きやすい。
良美
「何で雨が降ってると松笠公園なの?」
新一
「へっへへ。あそこなんて絶好のCG回収
ポイントじゃん」
良美
「……はぁ?」
新一
「雨が降ってきても傷ついた少女は
一人立ち尽くす」
新一
「そしてそこに駆け寄る主人公」
新一
「馬鹿野郎っ……ズブ濡れじゃねぇか!」
良美 無音
「(な、何を言ってるんだろうこの人)」
雨の松笠公園には誰1人いなかった。
レオ
「おい、フカヒレ! 適当こいてんじゃねぇ
いないじゃないか」
新一
「落ち着け、となると学校の屋上だ」
レオ
「本当かよ、あいつ。何を根拠に言ってんだ」
新一
「学校の屋上もさ、絶好の場所だから
ゲームだと、よく屋上とかでキスするんだぜ」
良美 無音
「(? ? ?)」
レオ
「おい、いねーぞ」
新一
「ふーむ……おかしいな、こういう場合
ギャルゲーだと他にどのポイントに……」
レオ
「ギャルゲーかよ!」
レオ
「もういい。お前をアテにしたのがバカだった」
新一
「あらら、電話切っちゃったよ」
良美
「心配だね……」
新一
「ちょっとトイレ」
バタン――
良美 無音
「……」
レオ
「――あー、くそ、マジでどこにもいない」
気付けば俺も雨に濡れている。
なんで俺、こんなになってまで探してるんだ。
確か昔、かくれんぼで潜伏したアイツを
探すのも苦労したっけ。
放っておけないというか。
出来が悪い子ほど可愛いって意味が
なんとなーく分かる。
………………
…………
……
レオ
「はぁっ……はぁっ……」
良美
「対馬君、ぐっしょり……」
レオ
「ちくしょー、見つけられなかった」
新一
「お前も責任感強いヤツだな、そんな
駆け回って、びしょ濡れになって」
新一
「カニだって、もう子供じゃないんだから
大丈夫だって」
レオ
「うるさいな、半ば意地になって探してたんだよ」
良美
「はい、これ洗面所にあったタオルだけど」
レオ
「ありがと」
体を拭く。
良美
「後ろの方も濡れてる……」
佐藤さんも熱心に拭いてくれた。
レオ
「ところで俺がいない間なにやってたの?」
良美
「ベイ使って完封勝ちしたよ」
新一
「よっぴー何気に野球ゲーム強ぇーんだよ!」
レオ
「……それは結構」
良美
「でも、対馬君がこれだけ探していないって
いうのはさすがに不安になってきたよ
今度は私も一緒に探しに行くから」
レオ
「……」
きぬ
「ふぁーーあ。何、皆集まって何してるん?」
新一 無音
「……」
良美 無音
「……」
レオ
「……君こそ何しているの」
きぬ
「眠かったんで家で寝てた」
レオ
「は……」
きぬ
「何でそんなシケた顔してんの」
レオ
「雨の中、街中をさまよってるかと思った……」
きぬ
「雨に濡れたら風邪引くじゃん
常識あるならさまよわないっしょ」
レオ
「お前の口から常識なんて言葉が出るとは」
新一
「……よく考えれば当たり前か」
レオ
「意外と冷静だったのね」
きぬ
「レオこそ、なんでそんな濡れてんの?」
レオ
「てめぇを探し回ったからだろうが!」
きぬ
「は? 何でボクを」
レオ
「二人三脚のパートナーだろっ
1人でやれってんのか」
きぬ
「んだよ、よっぴーとの連携があってたんじゃん
そっちにすんだろ」
レオ
「俺、そんなコト一言も言ってないぜ」
きぬ
「え……」
レオ
「俺はお前と組むっつってんだろ」
途中で物事を投げ出すような教育をしてはだめだ。
社会に迷惑をかける存在になってしまう。
きぬ
「な、なんだ……そうなんだ」
レオ
「そうだ」
きぬ
「そんなずぶ濡れになって探してまで、
ボクとペアを組みたかったんだ」
レオ
「は? 調子のんなよ?」
新一
「お前もそこは、うなずいとけよっ!」
レオ
「カニ相手だとつい本音が出ちまう」
良美 無音
「……」
きぬ
「んだよ、それなら素直に言えよ
仕方ねーなぁ? んん?」
レオ
「だからやるっつってるだろ」
きぬ
「レオ。まだまだボク離れできないみたいだね」
きぬ
「この幼馴染コンプレックスが!」
レオ
「はいはい」
レオ
「んじゃー、雨も上がったしやってみるぞ」
2人の脚をハチマキで固定する。
レオ
「俺に合わせろよ?」
きぬ
「あー、分かってるって」
きぬ
「なんせ雨の中ボクを探し回る子犬ちゃんだからね
あわせてやんよ、感謝しろ」
くっ、ムカツク!
落ちつけ、俺の方が大人なのだ。
レオ
「行くぞっ」
きぬ 共通
「いっせーの、いち!」
レオ
「よし!」
2人のリズムがあった。
レオ
「掛け声通りに行くぞ」
きぬ
「1、2、1、2、1、2……」
新一
「おっ、動き合ってるじゃん完璧完璧」
良美 無音
「……」
新一
「どしたん、よっぴー、さっきから発言少ないけど」
新一 無音
「(……ここで生理か? はじまったのか?
とか聞けるワイルドな男になりてぇなぁ)」
良美
「息ぴったりだね、カニっちと対馬君」
新一
「そりゃあ、お互い協力する気になれば
あれぐらいいくんじゃね? 要は心の問題さ」
良美 無音
「……」
新一
「さっきから何で黙ってるんだろ」
新一
「……まさか、よっぴーって俺に惚れてるのかな」
良美
「鮫氷君、モノローグ口に出してるよ。
そして、それは無いから」
新一
「しまった。そしてフラれた」
………………
きぬ
「よーし、練習終わりと。完璧じゃん」
レオ
「あれ、佐藤さんは?」
新一
「なんか用事思い出した、とか言って
帰っちゃったぞ」
レオ
「そうか、お礼言いたかったんだが」
乙女
「その様子なら特訓の必要も無さそうだな」
レオ
「乙女さん、試合は?」
乙女
「もちろん勝ったぞ、当たり前だ」
スバル
「観戦してたんだが、気って本当に飛ばせるんだな。
いや、凄ぇモンを見せてもらったぜ」
乙女
「敵も強かったが、部員達に気合が足りなかったのも
事実であり問題だ。早速今日から鍛えなおしてる」
……良かった、俺達は今日中になんとかなって。
………………
きぬ
「そんでレオってば雨の中、ボクを
必死に探し回ってたらしくてさぁ」
レオ
「あーはいはい、もう何度も言うなよ」
スバル
「カニ、ずいぶんと嬉しそうじゃねぇか」
きぬ
「そりゃー、自分を探してくれたら嬉しいっしょ」
スバル
「……そりゃそうか」
TRRRR……
スバル
「……ん? チッ、また呼び出しか」
スバルも大変だ。
その後、カニはずっと上機嫌だった。
……ところで俺の枕についていた
透明のシミはなんなんだ?
俺、こんなヨダレたらさんし。
汗かな?
分からん。
きぬ 共通
「1、2、1、2、1、2……」
祈
「まぁまぁ。タイミングバッチリ」
レオ
「ふぅっ……ふぅっ……よしここまで
見せれば充分だろう」
俺とカニはさっそく訓練(何もしてないけど)の
成果を姫達に見せつけた。
エリカ
「2日間でここまで上達したなんて、蟹沢きぬ……」
エリカ
「恐ろしい子!」
良美
「エリー、ノリノリだねぇ」
きぬ
「えっへっへ、どうよココナッツ。
きっちりできてるだろ」
なごみ 共通
「ちぃっ」
きぬ
「約束は守れよなー。さぁさぁ!」
なごみ 無音
「……」
きぬ
「あやまれ、ボクにあやまれ!」
なごみ
「……悪い」
きぬ
「もっとあやまれ! 心からあやまれ!」
なごみ
「いい加減にしろ貴様」
きぬ
「ぐっ……くぅぅぅ」
祈
「チームワークが向上したようですわね」
新一
「しかし、なんかまだ不安だよな
ムラッ気があるというか」
レオ
「それはテメーだ」
新一
「そのムラムラしてるって意味じゃなくて!
団結力が危ういってんだよ」
きぬ
「危なくないね、レオはもしボクが借金する時は、
連帯保証人になるってまで言ってくれたよ」
レオ
「言ってないからな、マジで」
きぬ
「んだよ、結束力ってそんなもん?
雨の中ボクを探し回ったハナタレクーニャンが」
レオ
「お前は俺が借金したら連帯保証人になるってか?」
きぬ
「ならねーよ」
レオ
「何素の顔で答えてるの? 少し図々しくない?」
新一
「……やっぱ駄目だ、いきなり喧嘩してるし」
エリカ
「そうねー、コンビネーションを不動のものに
するにはあと一押し必要かな」
平蔵
「おお、喧嘩か? 元気があって良いぞ。
どうせ殴るならグーでいけグーで」
レオ
「おい、やめろ館長が見てる」
きぬ
「ヘイゾーは細かい事気にしないもんね」
エリカ
「館長ならこの2人の息を完璧に合わせる
方法何かしってるかも」
良美
「……エリー、館長に聞くってワザとでしょ?」
エリカ
「さぁ、何のことかしら? 館長実は……」
平蔵
「ふむ、それなら良い方法を知っているぞ」
館長がこちらを向いて豪快に笑った。
何かまた嫌な予感がする……。
平蔵
「これぞ竜鳴館に伝わる 繋縛(けいばく)の儀式」
館長がなにやら赤い縄を取り出す。
平蔵
「一本の縄でそれぞれの体を縛る。こういう風にな」
レオ
「ち、ちょっと勝手に」
平蔵
「特殊な素材で編み込まれているこの縄は
焼くことも切る事も出来ん」
平蔵
「ゆえにこれに縛られた2人は運命を
ともにするしかない」
平蔵
「戦国時代、ともに同じ隊にはいった
兵卒同士がこれをして連携力を高めたそうだ」
平蔵
「切っても切れない縁、とはこの繋縛の儀が
元になっている言葉なのだぞ」
新一
「へーえ」
エリカ
「ただの犯罪者拘束の腰縄に見える……」
きぬ
「つーかヘイゾー縛るの上手くね?」
平蔵
「若い頃は色々あったからな」
館長は遠い目をした。
平蔵
「これでよし、解き方を知ってるのは儂だけだ」
平蔵
「明日には解いてやろう」
きぬ
「ってちょっと待てヘーゾー これ一日中
このまんまかよ!」
平蔵
「体が抜けない程度に腹をゆるく縛ってある
着物の脱ぎ着は出来るから風呂にも入れるぞ」
きぬ
「ただしレオがついてんだろうがオイ!」
平蔵
「不安だったら同居している鉄(くろがね)に
見張ってもらえばいいだろう」
乙女
「私にパスをふられても」
きぬ
「待て! ヘイゾー!」
カニが走り出す。
きぬ
「な……なかなか前に進まねぇぞ、ボクの可憐さに
嫉妬して誰か呪いかけてんのか?」
レオ
「……そりゃ俺の体重も引っ張ってるからだ」
きぬ
「何をしてんだよ、追っかけて解いてもらおうぜ」
レオ
「館長は1度言い出したら聞かない、知ってるだろ」
お互いの腹と腹を結んだロープを見る。
良美
「それお腹苦しくないの?」
レオ
「縄がズリ落ちない程度にゆるく結んである
キツくは全然ない」
レオ
「しかし、ロープの間隔30センチぐらいしかない」
エリカ
「まぁまぁ、明日には外れるんだからいいじゃない」
レオ
「姫、楽しそうだね」
エリカ
「こういうの期待して館長に話振ったんだもん」
くすくす、と笑う姫。
きぬ
「はぁ……こんなもんしてたら
ボクがレオを飼ってると思われちゃうよ」
レオ
「違う、普通は逆に思われる」
きぬ
「いーや、ボクがレオを飼ってる」
レオ
「俺がカニを飼ってる」
新一
「帰ろうか、この格好見られたくないだろ」
レオ
「そうだな……口論やめだ」
俺が歩き出す。
しかし前に進まない。
レオ
「おい、まずは水を飲んでからだ」
きぬ
「ボクはまず着替えたいね」
お互いが逆方向に歩き出す。
新一
「ダメだこりゃ」
エリカ
「お互い譲らないのよね。何意地になってるんだか」
結果――
ずるずるずる……。
カニが俺にズルズルと引きずられていた。
きぬ
「ぬぉぉぉ、こんな辱めを受けるとは。
もし手榴弾があったら迷わずピンを抜いてんぞ」
レオ
「力で俺に勝てるか」
きぬ
「くっそー……こいつ強情なやっちゃな」
レオ
「どっちが」
お互いロープを引っ張りあいけん制する。
紀子
「あれ……何? 何……やってるの?」
通りすがりの西崎さんが俺達を指さす。
洋平
「こら、見ちゃいけません」
村田が、西崎さんの手を引っ張っていった。
レオ
「なんて失礼な奴等だ」
きぬ
「そうだそうだ、これリューメイの名物なんだぞ」
レオ
「おいカニ、これ以上醜態はさらせない、協力しろ」
きぬ
「分かってんよ」
同時に、同じ方向に動き出す。
エリカ
「目的が一致すると強いみたい」
祈
「これが自然の状態になれば完璧ですわね」
――帰り道。
レオ
「ねぇー、なんか俺達と距離遠くない?」
きぬ
「こっちきてくっちゃべろーぜ」
エリカ 無音
「……」
新一 無音
「……」
レオ
「他人のフリしてる」
道を行く人達が俺達を奇異の目で見る。
レオ
「くそ、恥ずいな、早く切り抜けようぜ」
きぬ
「そうだね」
エリカ
「なるほどこうやって息を合わせていくシステムね」
レオ
「ただいまー、と」
きぬ
「オメーんちの方に帰るのかよ」
レオ
「さすがにお前の家で、縄で縛られたまま
ウロウロするのもアレだろ?」
きぬ
「ウチの親はボクの場合は
別に何も言われないと思うよ、放置されてっから」
レオ
「……それはそれで、どうなの?」
きぬ
「とりあえずボクは淑女なんで着替えを要求したい」
レオ
「む、じゃあお前の部屋に行くか」
きぬ
「そんじゃ着替えまーす、布団でもかぶってなー」
レオ
「おいす」
しゅる……ぱさっ、がさがさ。
きぬ
「もういいよー」
レオ
「……速いな。じゃ俺の家に戻るぞ」
きぬ
「まー自由にできる分、レオの家のほうがいいか」
きぬ
「あ、トイレかりんね」
レオ
「好きにしな」
きぬ 無音
「……」
レオ
「……」
きぬ
「何でついてきてるのオメー」
レオ
「いや、縄……」
きぬ
「くっ、これって男女でやるもんじゃねーだろ」
レオ
「戦国時代、兵卒は男同士だしなぁ」
きぬ 共通
「……」
レオ
「どーすんの?」
きぬ
「我慢する」
レオ
「意外だな、そんな恥ずかしがるとは
いつも、パンツ丸出しで寝てるのに」
きぬ
「ぱ、パンツとこれとは次元が違うだろ。
恥ずかしがらなかったら、そいつどうかしてるぜ」
レオ
「まぁ確かに」
俺の部屋に戻る。
足取り微妙だけど大丈夫かよ。
きぬ 無音
「(そわそわ)」
レオ
「“そわそわしようぜ”なんて命令だしてないぞ」
きぬ
「が、我慢してんだよ、察しろよ」
レオ
「いや体に悪いから行っとけ。目はつぶるし
耳もふさぐから」
きぬ
「な、何言ってるの、ボク淑女だよ」
レオ
「ったく、変な所で恥ずかしがるなぁ」
きぬ 無音
「……」
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
レオ
「震えるな!」
きぬ
「10、9、8、7……」
レオ
「ねぇ、それ何のカウントダウン?」
いかん、こいつ漏らすかもしれん。
俺の部屋でそれは真剣に勘弁して欲しい。
レオ
「あー――……」
レオ
「分かった分かった。俺が先に用を足す。
それならいいだろ、オアイコで我慢しろ」
きぬ
「ぐ……漏らすなんてボクのプライドに
かけて死んでもできねーし、それしかないか」
レオ
「マジで無理すんな。病気になるぞ」
トイレに行く。
うちのトイレ、ドアと便座の間隔が
わりとあるんだよな。
1人が腰を下ろした場合、もう1人も
トイレに入らないと無理だ。
俺の場合は、カニをドアの外に待機
させてできるけど、そりゃフェアじゃないか。
レオ
「さっさと済ませる。目ぇつぶれ」
きぬ
「おう」
レオ
「耳ふさげ」
きぬ
「がきーん」
レオ
「いちいち効果音出さなくてもいい」
一回流して音のダミーを作成する。
なんか惨めな気分だ……。
……素早く開始。
きぬ
「……?」
きぬ
「本当にやってんのかオメー? ダミーは卑……」
レオ
「おい、目は開けるな!」
きぬ
「げっ」
レオ
「お、お前今見たろう!」
きぬ
「見てない、見てないぞボクは」
レオ
「げっ、って何だよ」
きぬ
「げ……月給泥棒?」
レオ
「それはフカヒレの親父さんの、
会社でのあだ名らしいぞ」
きぬ
「な、なんかスゲーな? 昔はもっと
子供用ウインナーみたいな感じだったのに」
レオ
「やっぱ見てるじゃねぇか、ちくしょう!」
レオ
「……ほら、お前の番」
きぬ
「あ、うん……」
頼むから照れてくれるな。
目をつぶり、耳を押さえる。
ぱさ、という音はスカートを下ろした
音なんだろうか。
続いてギシ、と便座に腰掛ける音。
……あぁ、音を聞くまいと思ったら余計
聞こえてしまう。
…………
きぬ
「無事、作業終了しました」
レオ
「そ、そうか」
きぬ
「なんか悪いね、先にさせたうえに見ちまって」
カニがポン、と俺の肩に手を置く。
レオ
「まず手を洗おうね」
部屋に戻る。
アナウンサー
「ワールドカップの予選結果ですが――」
テレビの音だけが響いていた。
何を微妙に意識してるんだ?
――それは俺のペニスを見られたからだ。
でも相手はカニだぞ、カニ!
幼馴染だろ。平常心だ!
だいたいお互い放尿しあって
男女を意識するなんて、夢が無さ過ぎるよ。
レオ
「あの」
きぬ
「ねぇ」
レオ
「う」
ハモッた。
レオ
「どうぞお先に」
きぬ
「あ、ううん。レオから喋りなよ」
レオ
「……いや、いい」
きぬ
「じゃあボクもいい……」
…………
気まずい。
きぬ
「で、でもさ」
レオ
「あん?」
きぬ
「別に、レオの見て、小さい、とか
貧弱とかは思ってないから」
レオ
「そんなんで悩んでねぇよ!」
きぬ
「あ、そうなんだ、何か悩んでたから」
レオ
「あくまで見られた事実がショックなんだ」
レオ
「ちなみに。俺は平均値です!
(↑プライドを保っている)」
レオ
「いや、マジで」
レオ
「ほんとにほんと」
……ったく、こいつ本当にバカだ
変な所だけ気をつかいやがって。
乙女
「帰ったぞ」
一家の主人のような口ぶりで乙女さんが帰宅した。
この気まずい空気が緩和されるのは大いに助かる。
乙女
「しかし、とことん舐めてる格好だな」
レオ
「そう思ったらこれ切ってよ」
乙女
「館長の意向なら従わねばならん」
くそ、さすが体育会系。上の命令に弱いぜ。
乙女
「夕食は私がおにぎりを作るから問題ないとして
風呂はどうするんだ?」
きぬ
「そりゃもちろん入るよ。入らないなんて
バッチイもん」
乙女
「確かにな。ではどうする」
きぬ
「じゃあ乙女さん、悪いけど洗面所で
待機してくれない?」
きぬ
「なんかあったらボク叫ぶから」
乙女
「それでいいなら協力しよう」
乙女
「レオは目をつぶり、紳士的に振舞え。
本来なら強制的に気絶させる所なんだぞ」
レオ
「はいはい……」
………………
きぬ
「くっ、レオん家の風呂、思ったよりせめーな
背中合わせに入れねぇ……」
レオ
「おい、俺はどうすればいい、いつ
目を開ければいいんだ」
きぬ
「あ、そうだ、これなら見られる部分は
最小限で済む」
レオ
「ん、まず俺が湯船に入るのか?」
乙女さん好みの熱めの温度の風呂だ。
きぬ
「で、レオの上にボクが乗れば……」
きぬ
「これであんまり見られないっと」
レオ
「お前、これだと体に当たる割合が高いだろ」
きぬ 共通
「えっ……」
レオ
「いや、もういい」
くそ、やはりこいつバカだ。
そしてバカのくせしやがって、体が柔らかい。
意識するな……意識するな俺。
たかが隣に住んでる幼馴染と
風呂に入ってるだけだ。
レオ
「……よし、落ち着いた」
きぬ
「……ふー、やっと一息つけたね」
レオ
「あぁ」
乙女
「蟹沢、大丈夫か? 口を塞がれてないか?」
レオ
「俺ってそんな信用ないの?」
きぬ
「大丈夫でーす、でもレオの呼吸が
だんだん荒くなってきてまーす」
レオ
「あ、何言ってんだテメー」
乙女
「……杞憂のようだな」
きぬ
「しっかしコレでチームワーク向上するのかね」
レオ
「どーだろうな」
きぬ
「昔っからこんなバカなこと
ばっかやってるよねボク達」
レオ
「本当はもっと、普通に生きていきたい」
きぬ
「そんなコト言いながらもアホなレオだから
ボクは好きなんだぜ」
レオ
「な」
きぬ
「おっと勘違いすんじゃねーぞ、ボケ」
きぬ
「友達としての好き、だかんね」
レオ
「……分かってる」
ホッとした。
……なんでホッとしたんだろう?
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
きぬ
「ボ、ボクは金持ちでイケメンで高級車持ってて
ババがいなくて、ユーモアのある前途有望な
若者をゲットすんだからさ」
きぬ
「レオには程遠いよねー」
レオ
「けっ、何言ってやがる」
きぬ
「まーでも嫌いじゃないから安心しなよ
そしたら風呂入らないし」
……っていうかこういう状況とはいえ
一緒に風呂入るのって、珍しいよなぁ。
友達、とは違う。
でも恋人ではない。
しかしいざとなれば制限付きとはいえ
裸で風呂には入れる。
曖昧で微妙な関係だな……。
レオ
「それにしてもお前太った?」
きぬ
「いーや、それほど。ボク体重関係
全然悩みないもん」
レオ
「それは知ってるけど、なんか肩とか腕とか
曲線だよな」
レオ
「昔はもっとガリガリだったじゃん」
きぬ
「そりゃあ、ボクもいよいよセクシーな
女性になろうとしているワケですよ」
レオ
「そうなのか……」
きぬ
「B100、W60、H98を目指してっから」
レオ
「神に挑んでるね」
レオ
「遺伝子レベルから無理だ、その貧弱な体では」
きぬ
「何だとテメェ!」
お湯をぶっかけられる。
レオ
「わ、馬鹿暴れるな」
きぬ
「この野郎、お湯攻撃を食らえ……」
レオ
「おい、見えてる! その角度だと
いろいろ見えてるぞ」
胸とか……股間とか。
きぬ
「うあっ」
なんて可愛い声をあげて、
慌てて縮こまるカニ。
きぬ 無音
「……」
……はっきり見えてしまった。
レオ 無音
「……」
ま、まずい何かフォローをしなくては。
レオ
「あ、あはは」
きぬ 無音
「?」
レオ
「お前、うっすらとだけど、生えてるのな」
よし、アダルトさを褒めたぞ、ナイスフォロー。
きぬ
「お……」
きぬ
「乙女さーん、レオに襲われるー!」
レオ
「はぁ!?」
乙女
「レオ、私は情けないぞ!」
とたんに乙女さんが割り込んでくる。
レオ
「違う、謀略だ!!」
俺は見た。
カニが乙女さんの後ろであっかんべーを
してるのを。
これが股間を見られた復讐だというのか。
それはあまりに過酷ッ!
レオ
「というか、俺だって見られたんだからアイコだろ」
乙女
「何を言いたいのか分からん」
レオ
「いや、乙女さんに言ったんじゃなくて」
乙女
「質問だ。右足で蹴るか左足で蹴るか当ててみろ」
レオ
「あぁ、どうせ両方で蹴るんだろ!
殺れよこんちくしょう!」
…………
レオ
「あぐぅっ」
きぬ
「いでーっ」
きぬ
「レ、レオが吹っ飛ぶと……ボクも吹っ飛ぶ」
乙女
「そうだったな、忘れていた。許せ」
俺の意識は、完全に吹っ飛んだ。
…………うーん。
レオ
「……朝か」
なんか体中が痛ぇ。
ベッドを見る。
隣にカニが寝ていた。
また夜中に怖い番組でも見たのか?
……腹のロープで現実を思い出した。
乙女
「おはよう、2人とも」
きぬ
「ウィース」
レオ
「おはよう」
乙女
「今日は朝早くから行くようにな
登校時間帯のラッシュに行くと
人の目が辛いぞ」
レオ
「乙女さん、意外。人の目を気にするんだ」
乙女
「一般常識があると言え」
きぬ
「しっかし乙女さん、夜も朝もおにぎりなのな」
レオ
「甘いな、弁当もおにぎりだ」
レオ
「もちろん、かえって夕食もおにぎりだ」
きぬ
「……文句言えば?」
レオ
「だったら自分で作れ! といわれた」
きぬ
「正論やね」
レオ
「自分で作るのはメンドイし、料理の自信は
ないが、本格的にそれも考えてる」
きぬ
「ボクが作ってやろうか」
レオ
「ぜってーやだ」
きぬ
「んだよ、230円でいーのによ」
レオ
「金取るのかよ」
レオ
「あ、痛……」
腹を押さえる。
きぬ
「なんだ、メンスか?」
こいつ最低だ……。
レオ
「昨日、乙女さんにドロップキック食らった
所が痛いんだよ」
レオ
「誰のせいだと思ってんだ」
きぬ
「そんなのテメーが……」
きぬ
「ぼ、ボクの、見たからいけないんだろ」
レオ
「う……」
しまった、気まずい話題振っちまった。
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
レオ
「な、なに無口になってんだよ」
きぬ
「ち、ちげーよ考え事してたんだよ」
レオ
「お前もしかして意識してるんじゃないだろうな」
きぬ
「はぁ? オメーの何を意識しろってんだよ
チキンのレオだぞ、しねーよ」
きぬ
「オメーこそボクを意識してるんじゃないか?」
レオ
「ふざけんな、してないよ」
きぬ
「何必死になってるんだよ」
レオ
「お前、顔赤いぞ」
きぬ
「えっ」
レオ
「嘘だバカ」
きぬ
「テッ……テメッ……」
紀子 無音
「(カシャカシャ)」
きぬ
「こらぁー! 勝手に撮影してんじゃねー
マネージャーを通せやー!」
前途多難だ……。
………………
イガグリ
「で、お前らついに芸人デビューすんの?」
レオ
「しません」
豆花
「何でお互いの体をロープで
縛てるのカ? カ? カ?」
レオ
「あ、3回言った。トリプルアクセルだ」
きぬ
「レオがボクに飼われたいって……束縛愛だよね」
レオ
「誰がじゃ!」
真名
「ツッコミのスピードはええね、でもネタが
甘いと思うで?」
レオ
「だから芸人じゃねーって」
教室中の注目の的になってしまった。
……………………
平蔵
「よし、縄をといたぞ」
きぬ
「おー、フリーダーム」
平蔵
「これで連携力もアップしてるはずだ」
ほんとかよ……。
レオ
「生徒会の強化合宿?」
エリカ
「そ。人数足りなくて本来の3月に
やってなかったからね。
ま、合宿といっても日帰りらしいけど」
エリカ
「館長からの話でね、今週の金曜日、
学校が創立記念日でお休みじゃない
その時にやるってさ」
なごみ
「それって、強制ですか?」
エリカ
「ええ、メンバーは出てちょうだい」
エリカ
「館長の乗り物で連れて行ってくれるそうだから
交通費の心配は無いわ、あと、海で
泳ぐから水着は用意していくように、ってさ」
レオ
「海で泳ぐ? 目的地はドコなんだろね?」
きぬ
「そこら辺の海水浴場じゃないの?」
スバル
「乗り物ってのは車だよな」
きぬ
「ヘイゾーはスケールがデケェから分かんないね」
今週の金曜日に、ふってわいた強化合宿だと?
……なんか悪い予感がするんだが。
スバル
「よぉどーした、フカヒレ。
今日は来るの遅かったな」
新一
「歯医者行ってたんだよ」
きぬ
「歯ぐらいしっかり磨けよな」
レオ
「お前小学生の時、虫歯になったくせに良く言うよ」
スバル
「あん時は大変だったなー。ギャースカ騒ぐ
こいつを歯医者に連れて行くのに」
きぬ
「そ、そんな昔の話すんなよな」
新一
「俺はなぁ。昔、誰かさんにブン殴られた
所がまた痛むんだよ」
スバル
「ほぉ、乱暴なヤツがいるもんだ」
新一
「スバル! お前に殴られたんだよ!」
スバル
「あぁ、あん時か…あんまり加減しなかったからな」
あん時……とは。
今から、ちょっと前。
………………
レオ
「カニ、お前こないだ俺の友達に
偽名つかっただろ、やめろよなー
蟹沢麗子って誰だよ」
きぬ
「オメーは蟹沢きぬなんて名前じゃないから
ボクの苦悩と苦労が分からねーんだよ」
きぬ
「どーでもいい時は偽名でいーんですよ」
レオ
「そーいう考えはね、めーなの」
新一
「よおっ」
レオ
「なんだハイだな」
新一
「あれ、スバルはまだ来てないんだ
ま、いいやコレ見てくれよ」
フカヒレがポケットから何やら
小さい袋を取り出す。
レオ
「なんだコレ?」
新一
「ティッシュをひろげて、この袋の中身を
サラサラと……」
きぬ
「なんだこの白い粉? 砂糖?」
レオ
「砂糖じゃあないだろ」
新一
「もちろん、小麦粉でもないぜ」
新一
「吸うとハイになる不思議な粉だ」
レオ
「な……」
きぬ
「おいおい、アホですかお前」
レオ
「バカには2種類いるんだぞ、微笑ましいバカと
救えないバカ」
レオ
「お前は前者だとも思っていたが?」
新一
「そこまでフクザツに考える事ないって」
新一
「これ、ほとんど合法みたいなもんらしいぜ」
レオ
「つまり違法なんじゃねーのか、おい」
新一
「軽いものでさ、値段も安かったし
後遺症もないってさ。少しゴキゲンになるだけ」
レオ
「お前、まさかこういうのやってたの?」
新一
「まさか、そこまで堕ちてないぜ」
新一
「だけど、まぁ興味が無いわけじゃなかった。
どんな感じかは興味あるじゃん?」
レオ
「まぁ、無くは無いが……」
新一
「だから、軽いやつを皆で一回やろうってわけさ」
きぬ
「一人じゃ怖いってわけねー、チキンが」
新一
「だから一回だけってコトでやってみねぇ?
やばかったらすぐ中止するってことでさ」
レオ
「1回だけねぇ……」
スバル
「ふー、年齢偽ってバイトすんのもしんどいぜ」
スバル
「あん、何だそりゃ」
新一
「よぉ、スバル。実は――」
新一
「――ってコトなんだけどよ」
スバル
「へぇぇ」
新一
「どーだ、お前もこれから一緒にやってみない?」
スバル
「まだやってないわけだな」
新一 無音
「(コクリ)」
スバル
「これを手に入れてきたのもフカヒレか」
新一
「まぁな、俺もアダルトだろ? こんなん
仕入れちゃってさ」
スバル
「フカヒレ」
新一
「あん?」
ゴッ!
今でも頭に残ってる、鈍い骨の音。
スバルの拳がフカヒレの顔を殴った。
新一
「あ……が……」
新一
「なに、すんだ……」
スバル
「馬鹿が! こんなモンやろうとしやがって!」
飄々としたスバルからは想像も出来ない憤怒。
俺とカニは、ただ呆然としていた。
スバル
「これで持ってるのは全部なのか!?」
新一
「あ、あぁ……」
スバルが、その粉をティッシュごと掴みあげる。
スバル
「いいか、もう二度と買うんじゃねぇぞ!」
新一
「痛……いてて……」
新一
「くそ、殴ること……ねぇだろ」
スバル
「あぁ? ふざけるなよテメェ」
スバル
「この場所にこんなモン持ち込みやがって……
タコ殴りにしないだけでもありがたく思え」
スバル
「カニ、レオ」
きぬ 無音
「!」
スバル
「……オメーらも頼むから……
こういうのはマジやめてくれよ」
レオ
「あ……あぁ……」
間抜けな返事をする。
スバル
「こいつはオレが始末してくる」
そう言うと、スバルは俺の部屋から出て行った。
新一
「ぐ……」
きぬ
「フカヒレ、血ぃ出てんぞ」
新一
「うおっ……歯が……俺の歯がとれてる」
新一
「くっ……親父にもぶたれた事ないのに」
レオ
「言うタイミング遅くね?」
………………
新一
「で、病院いって縫ったんだもんなー」
レオ
「今思えば、あの時のスバルは迫力あったな」
きぬ
「そこらへんのザコなら無条件でサイフ出すね」
新一
「……ほんと、あんな強烈なパンチ
食らったの初めてだぜ」
スバル
「なんだ、今頃やけに蒸し返すな
テメェが悪いのは認めてるんだろ」
スバル
「分かってると思うが、もうあんな行為は……」
新一
「やんねぇよ! 冗談じゃねぇ!」
新一
「あんな痛み、もうこりごりだからな」
スバル
「そうか、そりゃあ殴った甲斐があるってもんだ」
新一
「チクショウ……いつかリベンジしてやるからな」
スバル
「おぉ、いつでも来いよ。泣かせてやるぜ?」
そう言って、互いに笑う。
今ではこれも笑い話だ。
まぁ、そんなこともあったわけで。
なんだかんだで、明日は創立記念日だ。
朝9時、松笠公園――
レオ
「あ、椰子来てる」
なごみ 無音
「……」
意外なことに全員集合している。
平蔵
「1人も欠けずに良く来た、諸君」
祈
「私なんて、危うく遅刻するところでしたわ」
エリカ
「いえ、祈センセイは実際6分ほど遅れてますから」
祈
「晴れてよかったですわね」
土永さん
「これがスルーという技だ、覚えておけエリカ」
エリカ
「とっくに身につけてるわよ」
きぬ
「ヘイゾー、乗り物ってなんだ。ダンプか?
それともトラックか?」
平蔵
「ふふ……いずれ分かる。ついてこい」
レオ
「なんか嫌な予感するんだよな」
………………
新一
「ク、クルーザー! こう来たか!」
乙女
「スピード感が出て気持ち良いな」
陸がどんどん見えなくなっていくぞ。
レオ
「で、館長。目的地は?」
平蔵
「竜鳴館の所有島、烏賊島である」
――――は?
新一
「そ、それって、島流しの場所じゃないか!」
エリカ
「へー、私行くの初めて。楽しみだな」
レオ
「姫、そんな楽しんでる場合じゃ……」
エリカ
「だって島流しは成績や素行がなってない
人達がもらうペナルティでしょ?」
エリカ
「この聡明な私がいるのに島流しなハズないでしょ」
レオ
「そ、そうか」
祈
「今回の目的は海水浴ですわ」
平蔵
「あそこの海は綺麗だからな」
平蔵
「せいぜい派手に遊んで親睦を深めるが良い」
乙女
「おっ、見ろ、魚の群れが泳いでいるぞ」
レオ
「? ……どこ?」
乙女
「そこだ、そこ」
レオ
「あ、本当だ」
いい目してるな、この人。
きぬ
「レオーっ、こっちからの眺めもスゲーぞ!」
レオ
「はいはい」
カニは元気にクルーザーから見える海の風景に
はしゃいでいた。
きぬ
「ねーねー、あれが目的地でしょ」
レオ
「みたいだな」
きぬ
「うおっ、すげー。ここまで来ると海も
綺麗な色してるよ」
レオ
「あんまり身を乗り出すなよ危ないぞ」
なごみ
「……本能的に海に還りたがってるのかも」
いつの間にか椰子がいた。
きぬ
「蟹沢って微妙な苗字だけど海が出身地じゃねーよ、
ボケが!」
きぬ
「ボク、ボール持ってきたからさ。島で
ビーチバレーやろーぜ。ココナッツ!
お前をぎゃふんと言わせてやるぜ」
なごみ
「お前には負けない」
きぬ
「へっ、その余裕顔を絶望に変えてやるぜ」
レオ
「お前は悪役セリフが得意だね」
なごみ
「……どうでもいいけどパンツ見えてる」
きぬ
「ショック! 金払え!」
なごみ
「逆にこっちがもらいたい。景色ぶち壊し」
レオ
「椰子、海好きなのか」
なごみ
「まぁ、結構」
なごみ
「泳ぐなら綺麗な海が良かったから
無人島という点では素直に嬉しいです」
なごみ
「最近は、本当海汚れすぎだから」
きぬ
「ここはオメーの演説場じゃねーんだ。
もう帰って井戸の底にでも叫んでろ、な?」
なごみ
「お前こそ森に帰れ。タケノコと一緒に
生えていたのを収穫されたんだろ?」
きぬ
「親でさえ、せいぜい“お前は橋のたもとで拾った”
程度だったのに植物扱いは許せねぇ!」
レオ
「あーもう、喧嘩やめい」
レオ
「いいか? お前たちは、ヤシとカニで
お互い罵り合ってるが2人合わせれば
ヤシガニとなる」
なごみ
「……だから何だと」
レオ
「仲良くしろってことだ」
きぬ
「やなこった」
なごみ
「こっちこそ」
……椰子、同レベルだぞ。
船に揺られて30分。
椰子とカニが喧嘩しているうちに、
いつの間にか船は目的地に到着した。
……………………
レオ
「おおー、当然、誰もいない」
乙女
「綺麗な所じゃないか」
平蔵
「野生の動植物も多い。良い島なんだ」
平蔵
「近々、この島リゾート化するという話を
聞いてな。自然が壊されるのを忍びないと
思った儂が大枚はたいて購入したわけだ」
エリカ
「へぇー、それは美談。聞いてて気持ちいいですね」
乙女
「あぁ、なかなか出来る事じゃないな」
なごみ 無音
「……」
新一
「ここって携帯使えないのな。意外だぜ」
レオ
「さすが無人島」
レオ
「しかし、照りつける太陽の暑いこと」
乙女
「とっとと着替えるか」
新一
「俺、目つぶってるんで」
レオ
「薄目開けてるのバレバレだからな」
平蔵
「あっちに小屋がある。そこで着替えられるぞ」
エリカ
「じゃ私達はそこで」
新一
「あれ、俺達は?」
エリカ
「そこらへんの岩場で着替えなさいよ」
ま、仕方ないか。
新一
「さーて、それじゃ座って待機するか
女子の水着を見たら、前かがみになるかも
しれないからな」
スバル
「普段の精進が足りねェ」
乙女
「良し、そっちも着替え終わってるな」
スバル
「乙女さんはスレンダーだな。
野球に例えると1番センターって感じか」
レオ
「なぜ野球」
なごみ 無音
「……」
スバル
「椰子はスリムだけど、出てるところは
ドカンと出てる。3番サード」
エリカ
「夏の浜辺は私達のものって感じかしら?」
良美
「私達しかいないんだけどね」
スバル
「バランスのとれたタイプだな
佐藤さん2番ショート
姫は5番ピッチャー」
レオ
「意味が分からん」
祈
「日差しが強いですわねー」
レオ
「4番キャッチャー?」
スバル
「そうそう、そんな感じ」
きぬ
「砂があちー」
レオ
「ありゃあ何番でどこ守ってるんだ」
スバル
「9番セカンド……かな」
何と無く意味が分かるのが嫌だ。
レオ
「あれ、館長は泳がないんですか?」
平蔵
「うむ。儂は放っておいて若者だけで
遊んでおればいい」
祈
「バカンスの真髄は骨休めですわ」
エリカ
「右に同じ。たまにはこういうのも必要だわ」
だらーーっ
良美
「枯れてるなぁ」
皆好き放題過ごし始めた。
佐藤さん、姫と祈先生にサンオイル塗ってる。
目を離した隙にうらやましい……。
そういえば椰子はどうする気なんだろう。
……椰子が1人ぼっちになると可哀想だな。
執行部に誘った先輩としてある程度の面倒は
見ないといけない。
きぬ
「さぁココナッツ。ボクと勝負だ」
なごみ
「うざったい」
なごみ
「だが、潰す必要はある」
きぬ
「でもビーチバレーでタイマンってのもな……
お互い助っ人1人ずつありで」
きぬ
「レオっ、働いてもらうぜボクのために」
なごみ
「じゃああたしは……」
新一
「俺が助っ人してやるぜ、椰子!」
きぬ
「おやおやこれは手強そうな助っ人ですなぁ」
なごみ 無音
「……」
新一
「まぁ楽しもうぜ」
なごみ
「先輩、これは真剣勝負ですよ」
なごみ
「カニに敗北感を植えつけるチャンスなんです」
なごみ
「手は抜かないで下さい」
新一
「は、はい!」
どっちが先輩だ。
乙女
「泳ぐぞ、私についてこい」
レオ
「かっこいい誘いはありがたいんだけど
ビーチバレーの先約が入ってて」
乙女
「なんだ、そうなのか」
スバル
「おーし泳ぐか。綺麗な海だしな」
キラーン
乙女
「良く言った伊達。海での遠泳は鍛錬にもなる」
スバル
「は? 鍛錬?」
乙女
「あまり遠くに行くのも危険だが私が同行すれば
問題は無いだろう。行くぞ」
スバル
「いや、そんな遠くまで行く気は……おわっ」
スバルは海に引きずられていった。
運動神経と体力の高い乙女さんの遊び相手を
するのはお前が適任なんだ、頼むぜスバル。
良美
「ところで館長はどこへ行ったのかな?}
祈
「島の奥へ行きましたわ」
エリカ
「この島は竜鳴館のものだから。たまに来ては
色々チェックしないと大変なんじゃない?」
レオ
「トス」
俺が高くあげたトスにカニが食らいつく。
きぬ
「必殺! プレシデントジャスティスミサイル!」
新一
「おわっ、拾いきれねぇっ」
レオ
「おし、ナイスアタック」
きぬ
「イェー」
パン、と手を合わせる。
レオ
「ネーミングの由来は?」
きぬ
「問答無用って感じ」
それにしても、カニのヤツいい動きをする。
水辺が近いと運動性があがるのかもしれない。
きぬ
「ココナッツめ、動くたびに胸を
揺らしやがって……ムカツク」
持たざる者の嫉妬だった。
新一
「はっはっはっ。まいったまいった。
あいつらいいコンビネーションするなぁ」
なごみ 無音
「……」
新一
「あ、あの椰子……さん怒ってます?」
きぬ
「おーい、器小さいなぁ、それぐらいで怒るなよ
ココナッツ」
なごみ
「ふん」
うーん、親善目的にはなりそうにないな。
それにしてもフカヒレ、しくじったな。
こっちはカニが頑張ってくれるから手間が
省けるうえ、対戦相手の椰子の胸の揺れとかが
ダイレクトに見れる。見まくれる。
お前は椰子の恐怖に怯えつつ、対戦相手は
体格的に目の保養にはあまりならんカニだ。
……この発想、オヤジくさいか?
祈
「チームワークは問題無いようですわね」
エリカ
「あのロープで結んだの、意外と効果あったみたい」
良美
「あ、ビーチバレー決着ついた」
なごみ
「ち」
きぬ
「っしゃあ!」
なごみ
「好きなだけ吠えてろ」
きぬ
「あ、こいつ悔しそうでやんの!」
なごみ
「……むかつく!」
良美
「確かに……あれはあれでもう仲が良く
見えてきたよ」
エリカ
「でしょー、じゃれ合ってるのよ」
祈
「霧夜さん、ナチュラルに私の胸に
触らないで下さいます?」
レオ
「お、帰ってきたぞ」
スバル
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……つ、疲れた」
乙女
「外洋に出るとカジキだの鮫だの色々いるな」
スバル
「乙女さん鮫を追い払うんだもんよ、スゲーぜ」
レオ
「人間の技を使ってくださいよ?」
乙女
「失礼だな、人を化け物みたいに。
実際の漁師も同じ方法で難を逃れたんだぞ」
乙女
「鮫は鼻が急所なんだ。襲ってきたら拳で鼻を撃て」
きぬ
「こうかっ」
新一
「ぐはっ、鮫といっても俺を殴ってどうす……!」
祈
「まぁまぁ、このような感じでしょうか?」
新一
「ちにゃ!」
乙女
「いや、こうだ」
新一
「きてはぁー!」
良美
「せ、凄惨な光景だね」
レオ
「女性は強くなったなぁ」
新一
「い、いじめだぁっ、スクールバイオレンスだ」
スバル
「いや、でもいろんな女の子に殴られてるんだぜ」
新一
「あ、そうか。イヒッ」
きぬ
「うわ、なんか気持ち悪いぞコイツ」
途端に相手にされなくなるフカヒレ。
容赦の無い現実だ。
平蔵
「バーベキューセットを持ってきたぞ
やはりアウトドアとくればこれだろ」
きぬ
「おおーっ、ヘイゾー話が分かるじゃん」
平蔵
「うむ。儂は生徒想いだからな」
レオ
「こんなにサービスがいいとは……」
何か悪い予感がしてきた。
エリカ
「せっかくのご好意だから、ありがたく
頂きましょうか」
スバル
「んじゃ、ちゃっちゃっと用意するぜ」
スバルはテキパキと動き始めた。
こういう時、率先してやってくれる奴って
本当に貴重だよな。
できる限り手伝おう。
レオ
「テーブルでも置くか」
良美
「手伝うね」
きぬ
「しょーがねーなー」
スバル
「おい、テーブルをそこに置くなよな
風下だから煙がそっち行っちまうじゃねぇか」
レオ
「そ、そうなのか」
くそ、いきなりカッコ悪い。
スバル
「館長、着火材は?」
平蔵
「お前が持っているだろ。気合という名の
着火材をな」
スバル
「……おいおい、マジか」
乙女
「どいてろ、伊達」
乙女さんが原始人の要領であっという間に
火を起こした。
乙女
「私はこれを5歳の時に教え込まれた」
祈
「さすが鉄(くろがね)さんですわね」
レオ
「先生は見てるだけなんですか?」
祈
「まぁまぁ、食材の中には
サーロインステーキまでありますわ」
華麗にスルーされた。
きぬ
「ほんのちょっとだけ、肉とか食べていい?」
レオ
「めー。ナマで食ったら美味しさ半減でしょ」
きぬ
「ぬぅ、ボク腹減ったよ」
なごみ
「自分の指でもしゃぶってれば」
レオ
「甘いな椰子」
きぬ
「ん……ちゅ」
レオ
「腹減ってる場合こいつはそういうの本当にやるぜ」
きぬ
「塩味で意外といけっぞ」
なごみ
「それは、海水の味」
……………………
バーベキューの準備は整った。
パチパチと焼けていく。
エリカ
「これからもよろしくって事で乾・杯!」
レオ
「ジュースだけどかんぱーい」
祈
「皆で作ると美味しいですわね」
何にもしてないクセに。
スバル
「おら、これ焼けてるぞ」
新一
「おお、すまねぇな」
良美
「これも焼けてるよ」
レオ
「ありがと」
スバル
「うん、これも美味そうだぜ。食えや」
新一
「あ、あぁ」
乙女
「こっちのも食べれるからな」
レオ
「うん」
スバル
「おら、これも焼けたぞ。ちゃんと野菜も食えよ」
新一
「なんで俺はスバルが優しく焼いてくれて
レオは女の子なんだよ」
スバル
「じゃ自分でやりな」
新一
「ごめん、嘘。捨てないで」
レオ
「……おい、館長がいないぞ」
レオ
「小型艇もなくなってる」
きぬ
「なんか書き置きがおいてあんよ」
レオ
「読んでくれ」
きぬ
「えー…… …… ……」
なごみ
「拝啓“はいけい”と読むんだぞ水棲生物」
きぬ
「わ、分かってるっての! 舐めんなココナッツ」
カニが手紙を読み上げる
きぬ
「拝啓、生徒会執行部の諸君。この手紙を
読んでいると言う事は、もう儂はここには
いないのだろう」
新一
「なんか泣ける文章みたいな書き出しだな」
きぬ
「お前達に重要な試練を与える。ここに残れ
この島で2日間生き延びよ!
日曜の夜にまた迎えに来るのでな!」
レオ
「ま、まさかこれ要するに」
きぬ
「これは島流しである。お前達は高い
能力を持ちながらも協調性に欠ける。
ここで集団生活の大切さを……」
きぬ
「し……し……」
レオ
「しんし」
きぬ
「集団生活の大切さを真摯に学ぶべし」
エリカ
「それって、この私も?」
なごみ
「あたしも該当すると?」
きぬ
「今、ここで“私は当てはまらない”と
騒ぐ者は、特に協調性がない」
なごみ 無音
「……」
きぬ
「なお、諸君達の父母などご家族には
儂が責任持って連絡しておこう!
その点は心配するな……だってさ」
祈 無音
「……」
レオ
「どうしたんですか祈先生」
祈
「私も一緒に本土に帰る予定でしたのに
裏切られましたわ……」
きぬ 無音
「……」
誰も同情しなかった。
……………………
満天の星空。
新一
「綺麗だなァ……」
スバル
「あぁ、飽きもせず眺めてられるな」
新一
「というか、俺ら野宿だから嫌でも
星を眺めるしかないんだけどね」
新一
「不公平じゃね? 女子はこの近くに湧いてた
温泉先に入ったり小屋の中で寝れたりしてるのに」
スバル
「そこらへんは器量の見せ所だぜ、我慢しろ」
新一
「しかも温泉覗きに行こうとしたら
スバルの野郎、止めやがるし」
スバル
「そりゃ止めるさ、見つかったら気まずいだろ」
新一
「くそっ、このルートでは温泉覗きイベントないのか
他のキャラのルートならあるいは……!」
レオ
「現実をギャルゲーのように言うクセやめろって」
新一
「ダメだ、スバル! 退屈だ。泣ける話をしてくれ」
スバル
「しょーがねーなぁ。耳かっぽじって良く聞きな」
スバル
「ある所にモテない男がいました。その男は
バスで酔っ払ったオジサンにからまれた
女の人を、勇気を振り絞って助けてあげました」
スバル
「すると、どうでしょう」
スバル
「その女の人は礼の一言もいわず、目的地に
ついたらさっさとどこかへ行ってしまったのです」
新一
「うわぁぁ! 現実はかくも非情だよぉぉっっ」
何が言いたいんだ、こいつらは……。
こうして1日目の夜は意味も無く過ぎていった。
2日目――…………
レオ
「うぉぉ……体痛……」
そうか、無人島での生活だっけ。
レオ
「なんか寝たり寝れなかったりの繰り返しだった」
新一
「デリケートだなぁ、俺なんかバッチリ8時間睡眠」
レオ
「その精神もどうかと思うがね」
………………
エリカ
「それじゃ人が生きていくためには何が必要か?」
新一
「愛だろ」
エリカ
「愛は食べれませーん」
エリカ
「ということで、食料を調達しようと思うのよ」
乙女
「魚は私に任せろ。調理は出来ないが
捕まえるのはたやすい」
エリカ
「ふむ……そういう意見を元にチーム分け、と」
エリカ
「こんな感じでいくわよ、対馬クンはカニっちと
2人で木の実とか山菜系をよろしく」
スバル
「ちなみに祈ちゃんは?」
エリカ
「爆睡中。あの人は朝弱いなんてもんじゃないわね
遅刻の謎が解けた気がするわ」
なんて使えない先生なんだ。
なごみ
「働かざるもの、食うべからずだと思いますが」
エリカ
「まぁまぁ。非常食持ってるから許してあげましょ」
土永さん
「ふぇっくしょい!」
土永さん
「……誰かが我輩の噂をしているな、ふっ
人気者は困るぜ」
祈
「Zzz」
きぬ
「レオ、昨日は良く眠れた?」
レオ
「いんや微妙だった」
きぬ
「だろーね、オメー逆境に弱いから」
きぬ
「頼り甲斐のある女のコ多くて
良かったな、ボーズ」
レオ
「バカにすんなよ、俺がもたれかかって酒が
飲めるような男だってのを見せてやる」
きぬ
「はっ、オメーにもたれかかったら
一緒に倒れちまうだろ、ボケ」
レオ
「なんだとー、ホラー番組を見た後は
俺の布団にもぐりこんでくるクセに」
きぬ
「バッキャロウ! あれはテメーが
怖いだろうと思っての幼馴染としての
配慮だろ! 本来なら金もらいたいよ」
レオ
「普段、怖がってるお前がいっても
誰も信用してくんないよ」
きぬ
「この、ああいえばこういう!」
レオ
「それはお前だ」
レオ
「……って喧嘩してもラチあかん」
とりあえず動きやすく身軽な水着に着替える。
俺達は食えそうなもんを探しに旅立った。
………………
きぬ
「このキノコはどうよ?」
レオ
「怪しいだろこれ。白いうろこのような
形状が、まばらに出来てるし
色が灰褐色というのも微妙だ」
きぬ
「フカヒレに食わせて反応見てみる?」
レオ
「あいつだって日々を一生懸命生きてるんだぞ」
きぬ
「あーあ、なかなかいい食材見つからないねー」
レオ
「ヘタなもん食うと食あたりだしな」
きぬ
「肉が食いたいなー、ドカンと鶏肉とかさぁ」
レオ
「土永さんは食うなよ」
レオ
「5つの誓いを忘れたか?」
きぬ
「あー、あれね」
………………
あれは、俺達がまだ小さい頃だった。
そう、小学校5年ぐらいだったな。
鮫氷新一は、とある女子に告白した所
見事にフられ、小学生なのに人間不信に陥っていた。
新一
「もう、俺にはキャロットちゃんしかいないよ」
きぬ
「キャロットちゃん?」
新一
「あぁ、青いザリガニなんだぜー」
新一
「飼育が大変でさ、脱皮の時なんか
手に汗にぎるけど可愛いぜ」
きぬ
「ふーん、今度見に行くよ」
新一
「あぁ、好きにしな」
きぬ
「……という事で見に来たぜ!」
新一
「あ、俺かーちゃんにおつかい頼まれちゃったよ
お前あがってていーぞ。すぐ戻る」
きぬ 共通
「ウィース」
きぬ
「ほう、これが青いザリガニか」
きぬ
「色は青いけど。ロブスターみてー」
くー
きぬ
「あ、ハラヘッタ」
きぬ 共通
「……」
きぬ
「美味そうだな、このザリガニ」
…………
新一
「ただいまー、なんかいい匂いしてんね」
新一
「あれ、俺のキャロットちゃんどうしたの?」
きぬ
「食った」
新一
「食っ……」
きぬ
「焼いて食うと、こんがり赤くなって結構うめー」
新一
「冗談……だよね?」
きぬ
「ほれ、手だけ残った」
新一
「あぁぁぁ、キャロットちゃんがぁぁぁ!」
きぬ
「今度はハムスターでも食ってみっかな」
その夜。
レオ
「このおバカ! 人のペットを食い殺す
ヒロインなんて前代未聞だよ!」
スバル
「いいか、勝手に人のペットを食べてはいけない」
きぬ
「ひょ、ひょっとしてボク悪い事した?」
レオ
「フカヒレを見ろ!」
新一
「キャロットォ……なんで逝っちまったんだ。
10年たったら、美人になって恩返し
してくれるんじゃなかったのかぁ」
レオ
「ほら、すでに錯乱しているじゃないか」
きぬ
「なんかいつもどおりに見えるけど」
スバル
「ペットレスというやつだな」
レオ
「とにかく倫理違反! 分かる?」
スバル
「常識といえば話は早い」
スバル
「覚えとけ。人の家のペットを食べてはいけない」
レオ
「分かったか? その小さい脳に刻み込んだか?」
きぬ
「うん、なんとか」
レオ
「よし、教訓もたまってきたことだし
スバルの星5つの誓い、を作ろうじゃないか」
スバル
「1つ、人のペットを食わない
2つ、気にいらないからって殴らない
3つ、デブにストレートにデブ言わない」
レオ
「3つめは、デブをハゲに置き換えたりする事で
応用が利くからな、覚えとけ」
スバル
「4つ、誰にでもタメ口は少しは直せや」
きぬ
「どれも難しいな……」
スバル
「いや、せめてこれぐらいは頼むぜオイ。
こちとら妥協してるんだぜ?」
レオ
「あと1つはどうする?」
スバル
「んー……」
レオ
「オタマジャクシを同じバケツに
大量に入れて放置しない、とかでどうだ?」
スバル
「あの時は悲惨だったな、共食いして全滅。
水が黒く腐ってたもんな」
スバル
「だが汎用的ではない、もうちょっと
日頃の使い道が多いのがいいな」
きぬ
「つーか、厳しい法律で取り締まると
かえって民の反発を招くんだぞ!
5個めは簡単なのにしろや!」
スバル
「んー……そうさな……」
スバル
「お前はバカだが、その笑顔はいい」
きぬ
「ほめてんのか? けなしてんのか?」
スバル
「その5は、笑顔を忘れずに、だな」
きぬ
「なんだ、そんなんヨユーだぜ」
レオ
「……何ちょっといい人になってるの?」
新一
「だいたいお前はいつもそうだ、
おいしいトコ持ってきやがって!」
スバル
「なんだおい、ペットレスじゃなかったのか」
新一
「つうかスバルは微妙にカニに甘いんだよ」
レオ
「そうだそうだ!」
……………………
きぬ
「そういや、そんな事もあったねぇ」
きぬ
「あ、これウドとかいうモンじゃね?」
レオ
「名前だけは知ってるけど実物はわからん」
レオ
「食えるんだよな」
きぬ 無音
「……(もぐもぐ)」
こいつ、何のためらいもなく口に含みやがった。
毒味ジャンケンをしようと思った俺が情けない。
きぬ
「……う、苦いけど、食える」
レオ
「じゃあこれを収穫しておこう」
きぬ
「ほら、ボク頼りになるだろ」
レオ
「はしゃぐな」
レオ
「あの木の実とかもいけるんじゃねぇか?」
きぬ
「そうだねー、キノコとかは危険だけど
あーいうのなら大丈夫っしょ」
レオ
「よし、カニ肩車だ」
きぬ
「おし」
レオ
「俺の前から来てどうするバカ! 後ろからだろ」
きぬ
「あ、そうか」
いきなり目の前で脚を広げやがって。
バカは予測不可能だからドキリとさせやがる。
風呂の一件を思い出した……。
カニの水着の下は、ああなってるんだ。
レオ
「って! 違う!」
何を言ってるんだ、これじゃ俺が
カニを意識しまくってるみたいじゃないか。
落ち着け、誰だっていきなり女の子が
前から肩車してきたら驚く、それだけのこと……。
カニはフカヒレやスバルと同じ幼馴染なんだぞ。
つまりカニを意識することはフカヒレを
意識する事と同じ。
レオ
「うげ、想像したら気持ち悪い!」
きぬ
「立ってよ。しゃがんでたら、とれないじゃろがい」
レオ
「あ、あぁ悪い」
いつの間にか肩車の体勢になってた。
立ち上がり、カニに採取させる。
きぬ
「よーし、これだけ採れば大手をふって帰れる」
レオ
「うむ」
きぬ
「? レオおめー顔赤いぞ」
レオ
「あぁ、疲れが出てるんだろう。問題ないさ」
きぬ
「? 額くっつけて熱みてやる」
レオ
「いいさ」
きぬ
「……オメー、照れてるのか?」
レオ
「違うね。フカヒレの命を賭けてもいい」
きぬ
「スバルじゃなくフカヒレの命ってのが怪しい。
だいたいコンパスと同じくらいの値段だかんね」
カニがズイ、と1歩近づく。
距離が近すぎる。
俺は一歩退いた。
きぬ 無音
「……」
きぬ
「んだよ、そういう態度やめろよな」
レオ
「どういう態度だよ」
きぬ
「もういいよ、行こうぜ」
分かってて聞いた。
いつもはこれぐらいでも平気なのに
今は平気でなくなっちまった。
あぁ、一体なんだってんだ。
……………………
祈
「お腹すきましたわねー」
今頃になって起きてる人がいた。
エリカ
「さーて、食材は集まったわね」
スバル
「んじゃ魚は俺がサバく。乙女さんナイフ貸して」
良美
「私も」
料理班がさっそく出動した。
乙女
「それでは、私は火を起こすか。
魚だろうが山菜だろうが火がなくてはな」
エリカ
「魚焼くとき、串がいるわね。
手ごろなもの集めましょうか、カニっち」
きぬ 共通
「ウィース」
レオ
「なんか皆頼もしいなー」
祈
「対馬さん、私達にも出来る事はありますわ」
レオ
「それは」
祈
「信じて、待つことです」
新一
「信じるって素晴らしい」
……要するに何もしないのね。
………………
木の先端を削り串にして、魚を通す。
つーか、魚微妙にヌルヌルしてるよな。
レオ
「この、大人しく串刺しになれ」
手がヌルッとすべり、俺の手に串が
グサッと刺さった。
レオ
「痛っ、この魚強! 死してなお
魂は屈さないというのか」
エリカ
「対馬クンってやっぱり頼りにならないのね」
これまたグサッときた。
レオ
「俺の心にも串が刺さった」
きぬ
「こいつは普段偉そうでも逆境に弱いんだよね
熱血モードにならない限り」
レオ
「くそ、好き放題言いやがって」
エリカ
「あらら血が出てるわよ。何、もしかして
自ら進んで皆の食料になろうってわけ?」
レオ
「違う、なんて怖いコト言うんだ」
新一
「俺、モモ肉もらいね」
レオ
「予約するな」
なごみ
「力任せにやるからそうなるんです」
なごみ
「まず、死んで無残にもカパッと
あいている魚の口に串を無理やりつっこみます」
レオ
「もうちょっと柔らかい言い方は無いのか」
なごみ
「そして、いったん横腹からズボッと出して」
なごみ
「尾びれ周辺で、反対側へ通す。はい出来上がり」
レオ
「おお、やるな」
レオ
「いてて……くそ、血が結構でやがる」
わりとブッスリといってしまったらしい。
なごみ
「塩でも塗っておきましょうか」
レオ
「お前怖い」
なごみ
「情けないセンパイにはいい薬ですよ」
容赦の無いヤツだ。
乙女
「なんだ、レオ怪我したのか?」
良美
「あ、大変、大丈夫?」
乙女
「こんなものは舐めておけばなお……」
良美
「ちょっと手をかしてみて……」
きぬ
「んちゅー」
レオ
「あ」
いつの間にかカニが親指に吸い付いていた。
きぬ
「舐めとけばなおるってこんなもん」
きぬ
「レオって意外とうめーんじゃねー?」
レオ
「だから、今の状況でそういうセリフは
怖いからやめて」
スバル 無音
「……」
エリカ
「どーしたの、スバル君。あっちが気になるの?」
スバル
「いや、別に何でもねぇ」
エリカ
「……もしかして」
スバル 無音
「……」
エリカ
「対馬クンの傷は自分が
舐めてやりたかったとか考えてるんじゃ……」
スバル
「……ご想像に任せるわ」
………………
きぬ
「美味しく焼けましたー」
レオ
「うん、こりゃ美味い」
塩をかけてるだけなのに、これだけいけるとは。
祈
「夕飯の心配も無さそうですわね」
新一
「もうなんなら皆でここに住んじゃうか」
エリカ
「そんなの嫌よ。1週間もせずに飽きると思うわ」
エリカ
「そこで飽きないための趣向といっては何だけど」
エリカ
「祈センセイ、ここって昔、日本海軍の
基地があった所でしょう?」
祈
「そうですわねー、それがどうかしましたか?」
………………
エリカ
「肝試しをやりまーす」
きぬ
「何ィ!?」
レオ
「なるほど、退屈しないための趣向ね」
祈
「私は本部としてここに残っておりますので」
エリカ
「午後の自由時間に、山頂の展望台の所に
目印の貝殻を4つ置いておいたから
それぞれ4ペアで回収してくるの」
新一
「姫にしてはまと……いや、素敵な企画」
スバル
「でも、意外だな? 俺は姫はこういうの
めんどくさいからやらないと思った」
祈
「ふぅっ……」
スバル
「あそこでゴロゴロしてる祈ちゃんみたいに」
エリカ
「む、失礼ね。こういうエンターテイメントを
忘れるような人間にはならないから」
きぬ 無音
「……」
レオ
「顔色が悪いぞ、カニ」
レオ
「こういうの苦手なんだろ、無理せず
ギブアップしてここで祈先生のお相手を……」
きぬ
「だから! 決め付けるなっての!
肝試しなんて怖くねーよ!」
レオ
「はじまったよ、強情が……
漏らしてもしらねーぞ」
きぬ
「美少女はそんなもんしねーんだよっ」
レオ
「してただろ! あの時!」
きぬ 無音
「!」
……しまったぁ!
きぬ 無音
「……」
レオ 無音
「……」
また微妙な空気になっちまった……。
新一
「組み合わせを決めるアミダ作っておいたぜ」
レオ
「待て、その前に風が少し冷たく感じるんだが……」
………………
着替えた。
レオ
「で、結局お前とかよ」
きぬ
「ふん、怖くないモンね」
新一
「やった狙い通りっ、よっぴーならこういうの
怖がって抱きつきまくってくるはず
さすが俺! 頭いい! アミダ工作天才!」
良美
「え、なんかいった」
新一
「んーん。なーんも? ボク純真でちゅ」
乙女
「鮫氷。私には聞こえていたぞ」
新一
「げぇっ、乙女さん」
新一
「わ わ わ」
乙女
「私のペアと佐藤をチェンジだ。
全く、お前はろくな事を考えつかんな
その脳を違うことに活かせないのか」
新一
「くそっ……どうにもツメが甘いぜ。
まぁいいや、生徒会は誰が来ても美人揃いだしな」
新一
「で、俺の新しいペアは誰ぞなもし」
スバル 無音
「……」
新一
「あぁ、そうだろうさ! 何と無く
こういう展開だって予想ついたさ! オォォ……」
スバル
「泣きたいのはこっちだぜ、バカヤロウ」
エリカ
「なごみん、私こう見えて怖がりなんで
抱きついていい? 主に胸とか胸とかあと胸とか」
なごみ
「嫌ですね、不快です」
エリカ
「乙女さんとよっぴーが出てから
ちょっと経過したわね。第2波、出番よ」
レオ
「はいよー、んじゃ行くカニ」
きぬ
「お、おうよ!」
エリカ
「仲良くね、二人三脚のペアなんだから」
レオ
「分かってる」
きぬ 無音
「……」
………………
カニは、暗くなると同時に動揺しはじめた。
きぬ
「お、おいおい……夜になるとすげぇ雰囲気あるな」
レオ
「怖いのか」
きぬ
「霊感が薄いボケは、いいよなぁ
こっちなんてゾワゾワした感じがするってのに」
レオ
「それは蚊にでも刺されてるんじゃないか、
カニ だけに」
きぬ
「つまんねーんだよ! ムカツク」
レオ
「むかつくなら、俺の腕を掴んでる手を
離してもいいぞ」
きぬ
「オメーが迷子になって、泣かれでもしたら
幼馴染の恥だかんね」
離す気はないらしい。
きぬ
「く、くそっ……でもある意味パートナーは
レオでよかった……ココナッツには
こんな姿見せられん」
レオ
「なんか言った?」
きぬ 無音
「(ふるふる)」
…………
レオ
「もうすぐ展望台だと思うが……」
きぬ
「なんか、兵隊がザッザッと歩き回るような
音が聞こえねー?」
レオ
「聞こえないよ」
きぬ
「マジかよ鈍感だな……」
さらにカニが俺に密着してくる。
くっ……またこいつは不用意に俺との間合いを。
どくどくと高まる心臓。
これ、姫の時と同じじゃねぇか。
カニとは一緒にいると楽しくて、ホッと
心が落ち着く、そんな存在なだけなんだ。
レオ
「はっ!?」
一緒にいると心が落ち着くし楽しいのは
好きって意味なんじゃないのか?
いや、それは友達としての好きであって……。
ぬぉぉ、分からない。
きぬ
「おい、なんかしゃべれ。沈黙があると
余計に霊感が強くなる」
レオ
「……動くな、感触が」
胸の、感触が。
意識しない、と思うことは意識しているという事。
洗濯板だと思ったのに、わずかにある柔らかさ。
なんつーかもうね、自分の姉や妹に
ドキドキして葛藤するヤツラの気持ちが
ほんのり薄味だけど、理解できた。
きぬ
「……こいつどーなのよ、何も言わないとは
気がきかないことこの上ないね」
レオ
「う、うるさいな」
くそ、まさしく肝試しだ。
そして俺の肝っ玉が小さいことが判明した。
今までテンションに流される事を愚とし、
誰とも交際していなかった。
その結果、幼馴染の密着スキンシップに
意識して……。
泣きたくなってきた。
きぬ
「ふーっ、ここまでくればもう大丈夫」
レオ
「そんなもんなのか?」
きぬ
「あの森の中はマズイいけど。
まぁ、ボクの強き心なら、あれぐらいには
屈さないけどね」
レオ
「へっ、震えてたくせによく言う」
きぬ
「……でもボクよりオメーの方が
パニクってなかった? 顔赤かったし」
レオ
「そ、そんな事は無い」
きぬ
「やっぱりボクを意識してるなー
困るね、ボクがいくら魅力的だからって
惚れられても」
レオ
「自惚れんなよ?」
きぬ
「じゃあボクのアップに耐えられる?」
レオ
「余裕さ」
きぬ
「ある意味根性だめしかもねー。ま、ウブな
レオは可憐なボクにKOされると思うよ」
きぬ 無音
「……」
レオ
「う……」
何故か高鳴る俺の胸。
だが、それだけだ。
確かに可愛いが、幼馴染なんだし俺は見慣れてる。
姫ならまだしもこいつのアップ攻撃に負けるか。
レオ
「……お前こそ、俺の視線に照れるがいい」
見つめ返す。
これで撃退してやる。
きぬ
「むむ……」
カニは目線を外す気は無い。
レオ
「なめてもらっては困る」
俺も退かない。
お互い、見ているうちに顔と顔が近くなってくる。
きぬ 無音
「……」
レオ 無音
「!!!!???」
なんじゃこりゃ、どういうつもりだこのバカ。
俺にキスしろってのか?
ふざけるな、俺はファーストキスは姫と……。
きぬ 無音
「……」
ぅ……可愛い……。
しゃべらないこいつは反則だ。
いつものバカっぽさがない分……
レオ
「な、なめるなよ」
いつからだ、いつから俺は意識してしまったんだ。
レオ
「キスの1つや2つできるんだぜ」
さぁ俺の発言にビビれ、ビビりやがれ。
きぬ 無音
「……」
レオ
「ほ、ほんとだぞぅ、ほんとにするんだぞぅ」
こいつ、譲る気はないってか。
さて、皆さん。ここで3択です。
1 テンションに流されぬ俺は誤魔化す
2 誰かがこの現場を目撃してラブコメ展開
3 キスをする、現実は非情である
そうだ、それが賢い。
レオ
「そ、そろそろ帰るか?」
きぬ
「……どこまでチキンなんだ、オメー」
レオ
「え、おい」
ちゅっ……
甘い感触。
俺は……今こいつにキスを……された?
きぬ
「あそこまでしてスルーされたらボクが傷つく」
レオ
「う」
きぬ
「勿論、勝負はボクの勝ちだかんね。
やっぱりオメーは本格派のチキンだ」
……あれ、そういう勝負だったっけ?
やはりこの展開が一番望ましいぜ。
少年誌の恋愛漫画みたいな展開が……っ
…………
待っても誰も来ない!
きぬ
「じれったいな、もう」
ちゅっ……
レオ
「な!?」
唇に伝わる甘い感触。
レオ
「お、お前」
きぬ
「いつまでも待たすなんてエチケット違反じゃね?」
俺は……今こいつにキスを……された?
答えB――。
仕方ない、これは勝負なんだ。
カニの柔らかい唇に、そっと自分の口を
重ねる。
唇と唇が触れ合った時、ドクンと心臓が
大きく脈うった。
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
体を離す。
レオ
「――引き分けだ」
照れ隠しにそんな事を言った。
きぬ
「――そうだな、やるじゃん」
相手も照れてるようで。
その空気がまた恥ずかしい。
きぬ
「で、今のチューだけど……」
レオ
「チューって言うな」
きぬ
「れ、レオは、はじめて?」
レオ
「あぁ」
きぬ
「そっか、実はボクも」
きぬ
「で、でもさ。た、たいしたことなかったよね
ちょっと勢いあったからか前歯痛かったけど」
レオ
「俺もだ」
レオ
「でも、なんでお前目を閉じたんだよ。
正直あそこまでやるとは思わなかったぞ」
きぬ
「まぁ場の雰囲気かなー。あとそれに
前からどんなもんかなって興味あったからね」
きぬ
「だから、つい目を閉じたわけですよ」
レオ
「ふーん」
きぬ
「勘違いやめろよ、これはオメーの
度胸試しのためにやったんだから、
ノーカウントだかんね!」
レオ
「分かってるよ、こっちだってそうだ」
きぬ
「あ、でも」
きぬ
「場の勢いだからって誰とでもすると
思ったら大間違いだかんね、そんな
安っぽくみるんじゃねーぞ!!」
きぬ
「オメーとだからしたんだからな!」
レオ
「分かってるって」
きぬ
「そんならいいけどさー」
……なんか今とんでもない事
言われなかったか?
いや、自意識過剰になるな。
これは吊り橋効果ならず、肝試し効果
かもしれないしな。
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
レオ
「……」
きぬ
「なんか……しゃべれってば」
レオ
「……なんか」
きぬ
「こいつ最悪だ!」
レオ
「うっせー! もういいから降りるぞ」
きぬ
「おい、いいふらすなよ」
レオ
「言えるか! こんな事」
レオ
「2人だけの秘密だ」
きぬ 無音
「……」
あぁん、泥沼。
………………
スバル
「おっ、帰ってきたな」
レオ
「なんだ、お前達が一番か」
レオ
「どうだった? 男2人で楽しかったか?」
スバル
「無味乾燥とした肝試しだったぜ」
新一
「ほんと、つまらなかった。俺は負け組だ」
エリカ
「ただいまーっと」
姫、椰子ペア帰還。
エリカ
「やっぱり肝試しといえば、どさくさまぎれよねー
対馬クンもしっかりセクハラした?」
椰子が赤面していた。
なごみ
「この生徒会長は……全く」
スタスタと向こうへ行ってしまう。
さすがの椰子も姫には勝てないのか。
エリカ
「肝試しを企画した甲斐があったわ」
レオ
「……セクハラ目的だったのか」
エリカ
「他に何かあるの?」
レオ
「……霊を怖がる?」
エリカ
「いるわけないでしょ、そんなもの。
死者に何が出来るのよ。それより……」
姫がズイ、と近づいてくる。
く……姫のアップは反則だ。
勝手に心臓がドキドキしてしまう。
間合いをとる。
エリカ
「こうやって人をイジメてる方が楽しいわ」
レオ
「く……」
きぬ
「とあっ!!」
いきなり後ろから体当たりされた。
レオ
「なにすんだ、痛いな」
きぬ
「どこの純情田舎少年だよ! いつまでも
姫のアップに惑わされるなよ、小者めが!」
レオ
「だからって何故お前がタックルしかけてくる」
きぬ
「? そういえば、そうだね。あれ、何でだろー」
カニは、はて? と首をかしげて行ってしまった。
レオ
「分からんやつだ……」
さっきのキスの時は可愛かったのに。
い、いやあれは意識しちゃダメだ。
――考えるな、俺。
――――……3日目。
きぬ
「姫ってさ、ボク達と寝てるかと思いきや
夜中どっかに抜け出して朝方に戻ってくんだよ」
レオ
「? 何でそんなマネすんだろね?」
きぬ
「なんか大木の幹で寝てるんだと」
レオ
「あの人の考え方は分からん……」
きぬ
「今日は夕方に館長が迎えにくんだよね」
レオ
「あぁ、やっと帰れるよ」
レオ
「だが、その前に朝飯兼昼飯を探さないとな」
きぬ
「だねー、もうボクお腹すいたよ」
きぬ
「今日はこっちの方行ってみようぜ」
……お互い昨日の話題には触れなかった。
案外カニは頭悪いから忘れてるのかもしれない。
ブーーン……
レオ
「おわ、蜂だ」
スズメ蜂か?
俺達の周囲を旋回する。
レオ
「さすが手付かずの自然」
きぬ
「ボクは虫公なんて怖くないもんね」
カニがそこら辺に置いてあった木の枝を拾う。
きぬ
「ふんっ」
豪快に蜂をたたきつけた。
レオ
「おぉー、ワイルドだ」
きぬ
「そこらへんの女々しいヤツと一緒にして
もらっちゃ困るぜ」
その言葉とともに、ワーーン! という
羽音が聞こえてきた。
レオ
「蜂……の群れだ」
きぬ
「この近くに巣があんだね」
レオ
「俺達、奴らのお仲間を殺してるぞ」
きぬ
「――って事は」
きぬ
「逃げろ!」
ワーーーン!
なんと蜂の群れが追っかけてくる。
レオ
「な、何! 追いかけてきてるぞ」
きぬ
「こんな漫画みてーな展開ありかよ!」
きぬ
「よし、こっちも漫画みてーに水に飛び込め!」
レオ
「准尉、悲しい事に水がありません」
きぬ
「ええい、海まで若さに任せて突っ走れ!」
レオ
「マジかよ!」
2人で懸命に走る。
とにかく走る。
きぬ
「――どあぁっ」
カニが豪快につんのめった。
そして、その場でぶっ倒れる。
レオ
「お、おいお前大丈夫かよ」
レオ
「なんでこけた!」
見ると、そのポイントには花が咲いていた。
きぬ
「痛……走るのに慣れて余裕こきすぎた、
花の心配なんかしちまって……」
レオ
「ジャンプしてつんのめったのか」
レオ
「立てるか?」
きぬ
「いや、ちょっと脚がしびれる」
レオ
「マジか」
きぬ
「ボクに構わず行け」
レオ
「何かっこいい事言ってんだ
ふざけんな、ほら行くぞ」
きぬ
「ボクはチキンなオメーと違って
ハチの一匹や二匹どうってことないんだよ
食ってやる!」
レオ
「お前な、昨晩キスまでしたヤツを置いていくほど
腐ってないぞ」
きぬ
「なっ……」
きぬ
「何寝ぼけてるんだボケ! あれはノーカウントだ」
レオ
「分かってる! それでも事実は事実だ」
きぬ
「うっさい、勘違いすんなボケ!」
レオ
「ボケとは何だ!」
スバル
「……何やってんのオマエら」
なごみ
「出来の悪い漫才ですか?」
きぬ
「そうだ、ココナッツを身代わりにすれば!」
この発想は紛れも無くコイツらしい。
レオ
「お前達も逃げろ。蜂が来るぞ」
スバル
「ハチ……?」
スバルと椰子が顔を見合わせる。
なごみ
「蜂なんてどこにもいませんよ?」
レオ
「え……」
きぬ
「あ、ホントだ」
いつの間にか追跡されてねぇ。
なごみ
「……人騒がせな」
レオ
「い、いつから見てたんだ」
スバル
「ボクに構わず行け、とかカニが言う所からかな?」
きぬ
「全部じゃん、それ全部じゃん!」
レオ
「つっこんでくれよ」
なごみ
「つっこむ暇ありませんでした」
なごみ
「仲のよろしいことで」
レオ
「ぐ……」
最後の最後にエラい恥をかいてしまった。
………………
俺達は、館長に収容されて本土へと向かっていた。
祈
「橘さん、これ代休とれますわよね?」
平蔵
「まぁ無理だな」
祈
「終わりましたわ、何もかも……あぁ私の三連休」
きぬ 無音
「……」
きぬ
「右足、大丈夫かな」
きぬ
「ぐっ!」
きぬ
「足首……痛……」
きぬ
「蜂から逃げるときにひねっちまったか」
レオ
「おい、どうした?」
きぬ
「な、なんでもない」
レオ
「……こけた時の傷は大丈夫なんだよな」
きぬ
「うんっ、それはもう平気」
レオ
「本当かよ、それにしてはなんか様子が……」
きぬ 無音
「!?」
レオ
「さてはお前俺を意識してんだろ」
きぬ
「もうそのネタいいっちゅうねん!」
なごみ
「最後まで元気だこと」
スバル
「あぁ……ほんとにな」
きぬ 無音
「(体育武道祭終わったら医者いこ……)」
こうして、波乱の強化合宿は幕を閉じた。
良美
「……ところで、誰か忘れてない?」
エリカ
「んー? 全員いるでしょう?」
祈
「何も問題はありませんわ」
………………
新一
「次にもし来たときのために
温泉の覗きポイントを調べてたら
遅くなっちまった、マジーマジー」
新一
「お待たせ! みんなのお兄さん新一でーす」
…………。
新一
「……あれー。おかしいな誰もいないぞ!?」
新一
「おーい、返事してくださいよ、ねぇ」
………………
今日も隣の蟹沢家へ。
レオ
「毎度お邪魔します、今日も美しいですねお姉さん」
マダム 共通
「良かったら嫁にもらってくれない、アレ?」
レオ
「時々掛け算の7の段を間違える娘はちょっと……」
………………
レオ
「おい、起きろお笑い三等兵」
レオ
「疲れてるのは分かるが学生は
学校に行かなければなら……」
レオ 無音
「……」
レオ
「おっと、……何を固まってるんだ俺は!」
頬をペシペシと叩く。
レオ
「おいこら起きろ」
マダム
「あの出涸らしも女らしくは成長してるから
そろそろ襲うかと思ったけど……」
マダム
「フフ……惜しい」
………………
レオ
「おい、歩く速度遅いぞ」
きぬ
「起きたてで力が出ないだけだって」
レオ
「まぁ、今のペースでも間に合うからいいか」
………………
祈
「今日の欠席は、フカヒレさんのみですわね」
スバル
「あいつどーしたんだろうな?」
レオ
「筋肉痛にでも襲われてるんじゃねーの」
………………
エリカ
「体育武道祭はいよいよ今週よ」
祈
「二人三脚の方は大丈夫でしょうか」
レオ
「心配ご無用」
エリカ
「祈センセイに見せてあげたら?
私も少し気になるし」
レオ
「別にいいっすよ。こっちも本番前に
1度やっておきたかったし」
レオ
「いいよな、カニ」
きぬ 共通
「えっ」
きぬ
「うーん。わざわざやらなくてもいいんじゃね?」
祈
「あぁっ、そういう態度ですと私不安ですわ」
レオ
「ほら、祈先生を安心させてやろうぜ」
きぬ
「仕方ねーなぁ」
脚と脚を結ぶ。
カニの肩に手を置く。
きぬ 無音
「……」
ちょっとドキッとするが……
良かった、走る分には支障無さそうだ。
レオ
「それじゃ、行くぞ。いっせーの」
レオ
「1、2!」
きぬ
「ぐっ……」
レオ
「1、2、1、2」
きぬ 無音
「……っ」
良美
「息は合ってるね」
エリカ
「そうね、問題ないわねあれは」
祈
「そうですわね、あれならば」
スバル
「……?」
………………
祈
「合格ですわ」
レオ
「満足頂いて光栄です」
エリカ 無音
「(おだてとくか)」
エリカ
「本番も期待してるわよ、対馬クン」
姫にポンッと肩を叩かれる。
レオ
「……」
それだけで幸せになる俺。
普段、人を褒めない姫からの期待の言葉。
こうまで言われたら無様な姿は見せられん。
よし、カニにも喝をいれておくか。
いや、厳しく言うよりもおだてた方がいいな。
きぬ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
きぬ
「脚、痛ぇ……ダメだこりゃ高級焼肉のために
我慢と思ったけど、ここは棄権……」
レオ
「おい、そんな隅でどうした相棒」
きぬ
「あ、相棒って言うな。相棒じゃねーだろ」
レオ
「まぁまぁ、なんだかんだで俺達相性バツグン
じゃねーか」
きぬ 無音
「……?」
レオ
「佐藤さんともある程度出来たけどやっぱり
お前が一番のベストパートナーだ」
レオ
「いや、マジで。カニ最強伝説」
きぬ 無音
「……」
よし、こうやってゴキゲンをとっておけば
カニはやってくれるはずだ。
レオ
「本番も頑張ろうぜ、他のヤツラ全員潰して
オレとお前の修羅の思い出とするのだ」
きぬ
「う、うんっ……」
エリカ
「ちょっとそっち聞いてる?」
エリカ
「後は各自、前もって申し付けたように
体育武道祭の設営準備にとりかかって頂戴」
レオ
「おーす」
きぬ 無音
「……」
スバル 無音
「……」
………………
スバル
「おい、カニ」
きぬ
「なんだ、今度はスバルか」
スバル
「オマエ、どっか痛めてるだろ」
きぬ 共通
「えっ……」
スバル
「腹が痛いか脚が痛いか、だと思うが……たぶん脚」
きぬ
「いやボクは」
スバル
「つねって確かめてもいいのか」
きぬ
「スゲェ……見抜かれた」
スバル
「分かるさ。一番付き合いなげーだろ」
スバル
「どうなんだ。体育武道祭、出られんのか」
きぬ
「正直、いてーから医者行こうとも思うんだけどね」
スバル
「だったら無茶すんな」
きぬ
「高級焼肉も食いたいし」
スバル
「バーカ。どこまでそれに釣られやがる」
スバル
「その焼肉は、どこまで高級なのか知らんがオレが
出来る範囲でおごってやる。だから無理は――」
きぬ
「だってレオがボクのコト、
ベストパートナーって言うし」
スバル
「オマエ……」
きぬ
「ここはやってやるしかないっしょ!」
きぬ
「レオに言うのは無しね。気を使われるのもヤだし」
きぬ
「まぁそこまでオーバーなケガでもないって」
スバル
「……まぁ我慢できるぐらいのケガ
だから大事にはいたらねぇだろうが……」
スバル
「いつから痛めた。肝試しの時か」
スバル
「あん時のお前は様子がおかしかった」
きぬ
「いやっ、それは別の理由で」
スバル
「あん?」
きぬ
「何でもねー。3日目の時だよ、ボクと
レオが道で倒れてただろ」
スバル
「あぁ、アレか。あの時から痛み続いてるのか」
スバル
「オーバーに騒ぐつもりはさらさらねぇが」
スバル
「……マジでやばかったら、すぐオレに言え」
スバル
「もしくはオレが見ててダメだそうだと思ったら
すぐに、二人三脚を中止させるからな」
きぬ
「充分オーバーだって、スバル」
きぬ
「相変わらずボク達にだけは兄貴みたいだねぇ」
スバル
「はっ、当たり前だ」
スバル
「他人なんざ、どうなろうとしったことじゃねェ。
だが、オマエ達は別だ。とことん兄貴ぶってやる」
スバル
「危なっかしいからなぁ」
きぬ
「あんがとね」
スバル
「バーカ。礼なんていらねぇよ」
きぬ
「んー、まだ痛みひかねぇな……」
きぬ
「見た感じ赤くなってるだけだけど」
きぬ
「こりゃ、自然治癒は期待できねーかな。でも」
レオ
「俺にはお前しかいないんだ!
(かなり美化されたセリフになっています)」
きぬ
「なーんて言われたらねー、しょーがねーよなぁ」
きぬ
「あんな事もしちまったし」
きぬ
「んー、ボク的にはノーカウントなんだけど
あいつ的にはカウントされてんのかな」
レオ
「どーかしたのか、カニ」
きぬ
「うわ、い、いや別に、な、ななななななんでもね」
レオ
「? 変なヤツ」
レオ
「はっ、まさか」
きぬ
「だから、意識してねーよ!!」
レオ
「いや、腹でも減ってるのかと思って」
ビスケットを渡そうとした手を見せる。
きぬ
「う……」
きぬ
「まぁ、もらっておくけどさぁ」
レオ
「何赤くなってんだ」
ちょっとだけ可愛いだろ……。
あぁ、そう思うと泥沼化。
レオ
「……」
きぬ 無音
「……」
微妙な空気になってしまった。
あのキスだってノーカウントだったのに。
まぁ、今は体育武道祭に集中だ。
祈
「フカヒレさん、三連休ですわ」
レオ
「あいつ何やってんだ? 明日は体育武道祭なのに」
スバル
「……なぁ、スゲェこと気がついたんだけど」
きぬ
「ほぅ、聞こうじゃないか」
スバル
「烏賊島からの帰りの船にフカヒレっていたか?」
レオ
「さぁ……細かい事まで覚えてないな」
良美
「私は見てないよ」
エリカ
「うーん、元からあんまり視界に入ってないし」
スバル
「やべぇぞ。もしかして、島に……」
きぬ
「え、取り残されてるのかな? それマズイっしょ」
レオ
「乙女さんに話してみよう」
………………
平蔵
「烏賊島まで一気に飛ばすぞ」
乙女
「そうして下さい。鮫氷の両親に
連絡をとった所、家にも帰ってないらしいので」
平蔵
「やれやれ。置き忘れとはうっかりしていたな」
平蔵
「ご両親は心配されてたか?」
乙女
「いえ、特には」
………………
乙女
「やれやれだ、またここに来るとはな」
平蔵
「む、人の気配が確かにするな……」
ガサッ……
乙女
「鮫氷、やはりここにいたのか」
乙女
「すまないな、置いて行ったりして」
新一
「ウキャ……ムキャアアアア!」
平蔵
「おう、野生化しとる」
乙女
「わずか3日で島と適合するとは」
平蔵
「なかなかやりおるな。雄の本能か」
新一
「ムキャア! メス! はんしょく!」
乙女
「目を覚ませ、たわけ」
ズガッ!
平蔵
「容赦ないのぉ」
新一
「うぅ……うぅ……俺は」
乙女
「正気に戻ったか」
新一
「うぅ、置いていかれたぁ……俺はいらない
人間だったんだぁ、この社会の歯車にかみ合えない
ネジだったんだぁ」
乙女
「そんなことはない、だからこうして迎えに来た」
新一
「この傷ついた心を、胸で甘えて癒していい?」
乙女
「あぁ、いいぞ」
新一
「やったーーー! 人恋しかったですたいーっ!」
乙女
「館長、頼みます」
平蔵
「うむ。さぁ、儂の胸で泣くが良い」
新一
「な、ちょっ……」
平蔵
「人の温もりを儂が思い出させてやろう」
新一
「いっ、いやぁぁぁぁぁ!!!」
平蔵
「そーれ、お髭モッサモッサ」
新一
「うわぁぁあ! モッサリしてるのぉ”ぉ”ぉ”」
……………
新一
「という事があったわけだ」
きぬ
「あー悪い悪い」
新一
「お前達、幼馴染のくせに冷たいよなぁ……」
きぬ
「だけど最初に異変に気付いたのはボク達なんだぜ」
新一
「いなくなってから3日でようやくでしょ!
何を自慢げに言ってるのさ」
レオ
「まぁ、無事でなにより」
新一
「綺麗にまとめんなぁっ」
いよいよ明日、体育武道祭!
……まぁ男女混合二人三脚は特別行事なんで
明後日なんだけど。
――――体育武道祭、開幕。
今日と明日の2日間、竜鳴館はお祭り騒ぎだ。
それぞれ東軍、西軍、北軍、南軍の4軍に
分かれて対決するシステムになっている。
勝負事を重視する竜鳴館にとってはビッグ
イベントといえる。
しかも、運動が苦手な連中も討論、という
舌戦などがあるので活躍の場があるのだ。
大掛かりな行事なので、ローカルだが
テレビ中継もされる、名物行事。
だから、皆も張り切る。
平蔵 共通
「3年女子バレー優勝は3−A! 東軍!」
乙女 共通
「よし、1000億ポイントもらったな」
数字も豪快だ。
スバル 共通
「乙女さんさすがだな」
きぬ 共通
「つーか、あの人がアタックすると球に
龍のイメージがダブって見えるよね」
スバル 共通
「実際、レシーブしようとした勇敢な
レシーバーは病院送りだしな」
レオ
「A組は全部東軍、つまり2−Aも東軍」
エリカ 共通
「東軍には負けられないってわけね。私達西軍は」
蟹沢きぬ、障害物競走1位!
きぬ
「まぁ、こんなもんでしょ」
レオ
「お前、余裕持ちすぎ。意外と危なかったぞ」
きぬ
「んだよ、体力温存策だって」
きぬ
「……やっぱ走ると痛ぇなぁ」
きぬ
「このまま我慢できる痛みであってくれ」
スバル
「大丈夫か」
きぬ
「まぁね、辛かったらボクいつもみたいに
騒いでるでしょ」
スバル 無音
「……」
1年女子玉いれ。
なごみ 無音
「……」
レオ
「見ろ、椰子のやつ、全然気合入ってないぞ」
エリカ
「クール結構。しかしやる気ないのは
よくないわね。みんな、ちょっと聞いて」
なごみ
「はぁ……ダルい」
エリカ
「いっせーの、はい」
新一
「なごみんガンバレー」
なごみ
「なっ……?」
エリカ
「NA・GO・MI なごみ!」
スバル
「オラー、遠慮すんなタマいれろー」
新一
「その前にタマにぎれー」
なごみ
「なんて迷惑な……」
エリカ
「同じ西軍なんだから気合いれなさいよー」
きぬ
「オラーッ、ボケーッとすんなーっココナッツ!
加工するぞこのアマーっ!」
なごみ
「後でシめる……絶対」
1年女子玉入れ、西軍勝利。
レオ
「おお、勝った」
新一
「次はお前の借り物競争だぜ」
レオ
「任せておきな」
洋平
「ふん。対馬が相手か、面白い勝負だ」
レオ
「お前、何種類の競技に出てんだよ」
洋平
「もちろん1人が出れる限界までさ」
洋平
「僕は負ける事が大嫌いでね、借り物競争と
言えども手は抜かないぞ」
レオ
「ふんっ、熱血君が」
なんか負けたくないな、こいつには。
第6組は俺と村田とあと、有象無象が2人。
マークすべきは村田だ。
この借り物競争、注文が書いてある紙が
トラック中盤に置いてあるのは従来のコトだが。
その紙に書いてあることが無理だと
判断した場合。
なんとゴール前にも紙が1つ置いてあるのだ。
ゴール近くまでいくのは結構なタイムロスだが
あっちの方の紙は比較的簡単な注文が
書いてあるらしい。
ここらへんは駆け引きだ。
近道で難しそうな注文をこなすか、
遠回りで簡単な注文をこなすか。
新一
「次がレオの組か」
エリカ
「こっちに来るかもしれないから
皆スタンバッといてね」
新一
「眼鏡だったら俺のを渡してやる」
スバル
「スパイク、とかだったらオレのだな」
イガグリ
「もし“清楚”とかいうオーダーがきたら
誰がいくんだべか?」
きぬ
「そんなイケてる人材ボクしかいねー」
真名
「案外ウチ、という線もあるで」
豆花
「あいや、マナは絶対違うと思うネ」
真名
「アホぬかせ、トンファー! だいたいおまえの
うさんくさい言語にはあきあきしてるんやで」
豆花
「真名も、その怪しい関西弁をとれば凡庸な
人物と変わらないネ」
真名
「なんやこいつ喧嘩うっとんのか!」
豆花
「あいや、私平和主義ネ」
きぬ
「だからボクが適役だって言ってんだろ」
真名
「いや、ウチや!」
きぬ
「日焼けした娘のどこが清楚だ! コラぁ!」
豆花
「内面もダメダメネ」
良美 無音
「……」
エリカ
「よっぴー、何か言いたそう」
良美
「そ、そんなことないもん」
エリカ
「モンって言うな!」
良美
「カタカナじゃないよぅ」
洋平
「なんだ、お前のクラス仲間割れしてるじゃないか」
……あそこに借りにいくのはよそう。
鉢巻先生
「位置についてっ、よーい、親子丼っ!」
洋平
「ふっっ!」
レオ
「くっ、あいつ足速っ」
洋平
「ふん、引き離したぞ」
洋平
「どれ、ボクの紙には何て書いてあるんだ」
“童貞”
洋平
「これじゃあ誰も名乗らないだろうが!」
洋平
「仕方ないか、ゴール前の紙を選ぼう」
村田のやつ、遠回りルートを選びやがった。
レオ
「俺の紙は……」
“B88以上 W58以下 H88以上で30歳
以上のフェロモン漂う女性(顔審査ありマス)”
レオ
「ぐっ、これはつらい…っていうか審査員の趣味?」
レオ
「しかし、俺までゴール前の紙を取りにいったら
村田に勝てない!」
レオ
「これで行くっきゃない。覚悟決めるぜ!」
俺は客席に向かって走った。
洋平
「この紙の指示は“カメラ”か」
洋平
「それならばたやすい、この勝負僕の勝ちだ」
レオ
「誰かいないかっ?」
美女 無音
「……」
レオ
「B88以上 W58以下 H88以上で
30歳以上のフェロモン漂う女性!」
パーフェクトと見た。
レオ
「俺は神の存在を信じるぜ!」
レオ
「すいません、お姉さん、
私と一緒に来てくれませんでしょうか」
紙を見せる。
美女 のどか
「まぁまぁ、確かに私に該当してますわね〜」
レオ
「……」
自分で選んどいてなんだが、たくましい人だ。
レオ
「それじゃ、すいませんがご一緒に」
美女 のどか
「頑張ります〜」
あぁ、やっぱり走る速度が遅い!
なごみ
「げ、なんで?」
洋平
「カメラ借りるぜ、西崎」
このままでは村田に抜かされる。
レオ
「あの、すいません速度あげれます?」
美女 のどか
「はい〜 やってみます〜」
どぎゅん!
うわ、足速っ
………………
レオ
「ありがとうございます、おかげで
1位になれました」
美女 のどか
「お役に立てて光栄で〜」
いい人だな、ほんわかして。
子供の応援に来てるのかな?
きっとこの人に似て優しそうなヤツに違いない。
なごみ 無音
「……」
………………
乙女
「1日目が終わり、東軍と西軍が
圧倒的優勢となったな」
レオ
「そうだね」
乙女
「東軍が負けるつもりはないが、まぁ
西軍も頑張る事だ」
乙女さんは勝負事が好きなようだ。
もとより負けるつもりはないぜ。
きぬ
「……明日かぁ」
きぬ
「持ってくれよぉ、ボクの黄金の右!」
体育武道祭、2日目――
スバル
「上空にヘリが飛んでるぞ、さすが松笠市の
名物となっただけあるぜ」
良美
「エリーもテレビインタビューに答えてたよ」
レオ
「こりゃますます負けられないな」
きぬ
「んー、と」
ぴょんぴょん。
きぬ
「足を刺激されなきゃ大丈夫かな」
良美
「カニっち。クラス対抗の女子綱引きだよ」
きぬ 共通
「ウィース」
きぬ
「これは適当にやろっと」
鉢巻先生
「よーい、姉妹丼!」
新一
「おー、はじまったはじまった」
スバル
「女子の綱引きは見てて楽しいねぇ」
スバル 無音
「(……人がごちゃごちゃしててカニの
様子が分からねぇのが痛いな……)」
新一
「俺を引いてくれないかな、モテ男の感覚
味わえそう」
レオ
「体が千切れるぞ」
良美
「んーっ、ま、負けちゃい……そうっ」
きぬ
「別にいいんじゃね? これ勝っても点数低いし」
豆花
「もう少しやる気だして行くネ!」
2−B女
「ブフゥ……、2−Cは根性無しの集まりで
チキンだぁ。あちきたちには勝てないブフゥ……」
きぬ
「……あ? 今なんつった」
きぬ
「根性なし……、だと」
きぬ
「舐めるんじゃねぇ、ドブスが!
馬鹿にされるのは気にいらないんだよっ!」
2−B女
「ブフゥ……、チビが、ちょっと可愛いからって
生意気なんだよぅ。食ってやる!」
きぬ
「オラ、オメーラ気合入れろ! 2−B倒して
あのデブを肉屋にグラム10円で売るぞ」
真名
「言うやないか、カニっち!」
良美
「んしょっ……んしょっ……」
2−B女
「ブフゥ!? な、なにこいつら急に!?」
きぬ
「へっ、食肉の分際でボク達をあなどったからだ!」
2−B女
「ブフゥ、あちき達のフルパワーを見せてやる」
きぬ
「ぬご、テブめ体重かけて引っ張ってきやがって!」
きぬ
「ぬあぁぁぁぁっ!!!」
ビキッ……
きぬ
「うげっっ!? 脚が!!」
真名
「もう一息や!」
エリカ
「最後に気合いれて引いて!」
真名
「姫、いたんかい!」
エリカ
「いっせーの、せっ!」
良美
「あぁっ、また美味しいところだけを持っていく」
平蔵
「それまでぇ! 勝者2−C!」
レオ
「おー! すげっ、あの状態からよくやった」
新一
「ナイス逆転。顔はすげぇ差をつけて勝ってるけど」
良美
「カニっち、途中の声援はいいタイミング
だったと思うよ」
豆花
「そうネ、あれでみんな踏み止またと
思うし。すごいネ」
きぬ
「へへ、どーってこと……ないもんね」
きぬ
「やっぱ、なめられるのはムカツクからさ」
エリカ
「そうね、どんな競技だろうと
勝つにこしたことはないわ」
良美
「なんか顔色悪くない? というか泣いてない?」
きぬ
「泣いてないもんね!」
きぬ
「久しぶりに全力出したんで疲れちったよ」
良美
「最後に二人三脚だからね、それまで
休んでいたほうがいいよ」
きぬ
「うい、そうします」
…………
きぬ
「……まずい、ちょっと動かすだけで痛い
ようになっちまった……つれーけど」
きぬ
「これぐらい、ボクなら我慢できるもんね!」
…………
レオ
「さーて、出番だ」
良美
「対馬君、頑張ってね。
これに勝てば東軍に勝てる望みがつながるよ」
レオ
「あいよー」
新一
「確かにな。西軍に勝つにはこの競技に
勝って、かつ格闘トーナメントで1位に
ならなければいけない」
新一
「まぁ、格闘トーナメントは俺に任せて
お前は二人三脚だな」
レオ
「お前、本当にトーナメント出るの?
ボクシングルールとはいえボコられるぞ」
新一
「心配ご無用。俺には作戦がある
スバルだけは、当たっても勝てる自信ないけど」
こいつまたロクでもない事を考えているな。
新一
「おっと二人三脚の実況は俺だったんだ」
よし、競技に集中だ。
祈
「いいですか、皆さん。
走行妨害する場合狙うのは分かりますか?」
きぬ
「弱っている奴! 怯えている奴!」
祈
「理由は?」
スバル
「やつらは“動きがのろい”」
祈
「GOOD。VERYYYYY GOOD」
祈
「それでは、頼みましたわよ」
新一
「さーて、実況は私シャーク新一がお送りします。
いやー、こういうのやってみたかったんだよね」
スバル
「あん? 何であいつが実況やってんだ」
レオ
「アナウンサーはくじ引きだってさ」
スバル
「そーいう所で運使ってるからなぁ、あいつは」
新一
「さーて、選手入場です! まずは学年一
優秀なクラスと言われ勘違いしている2−A!」
洋平
「おいアナウンサー私情挟みすぎじゃねぇのかコレ」
新一
「2−Aの注目選手はなんと言っても西崎さん」
紀子 共通
「く?」
新一
「なーんとスリーサイズは89 58 86 という
プロポーションのとれた体! 素晴らしい!」
紀子
「く? くく? く?」
洋平
「……むー。大きいじゃないか」
紀子
「う――……」
洋平
「っていうかアイツなんで知ってるんだ?」
新一
「2−Bはブス多いんで華麗にスルーします!」
レオ
「なんて男らしい実況なんだ!」
新一
「続いては2−C! 趣味は独裁とセクハラ
帝王気質たっぷりの霧夜エリカ生徒会長!」
新一
「松笠の彗星、伊達スバル! ルックスもイケ面だ」
新一
「そして2−Cの暴れん坊。松笠に水棲、蟹沢きぬ」
乙女
「そんな中継がどこにあるか貴様!
抗議が殺到している、今すぐやめろ」
新一
「お、俺はただ、楽しい放送を提供しようと……」
新一
「あっ……ぎっ、ぐぁっ、痛い、やめて、ゆるして」
新一 無音
「……(ザザッ ピー)」
祈
「えー、しばらくお待ちくださいませ」
乙女
「大変失礼しました。実況の鮫氷君は
急病のために病院に搬送されました」
レオ
「搬送だってよ」
スバル
「すでに物扱いだな」
レオ
「しかもセリフとちってたな。
カニサワをカメザワとか言ってたぞ」
乙女
「代わりまして私、鉄が実況を務めます、よろしく」
レオ
「やれやれ、乙女さんも頑張るね」
きぬ
「はは、ホントだね」
レオ
「ってかお前どうした? なんか口数少ないぜ」
きぬ
「大丈夫大丈夫、何心配してんだよ、
らしくねーって。キモイって!」
レオ
「そこまで言うこたねーだろ」
きぬ
「その元気は本番にぶつけなって」
レオ
「あぁ、やるからには勝つぜ」
エリカ
「それじゃ第1走者行ってきます」
2−B女
「ブフゥ、姫が相手でも容赦はしない。
あちきの体重をかけたタックルで潰してやる」
きぬ
「あっ、2−Bのブタ!」
2−B女
「ブフゥ、チビはアンカーか。惜しい。
第一走者だったらプレスして食ってやったのに」
きぬ
「ち、チビだと……このブタ、ボクの身体的
特徴を……マジ最低だよ」
レオ
「お前も言ってるやんけ」
きぬ
「しかし、あのどう見ても機動力に
劣るデブが出陣してきたという事は」
スバル
「第一陣で他を潰しにかかるらしいな」
エリカ
「じゃあ逆に倒してあげましょ」
スバル
「だな。露払いは任せてもらおうか」
スバル
「おい、子蟹ちゃん。足は大丈夫か?」
きぬ
「余裕余裕。子豚なら蹴り一撃で仕留められるね」
スバル 無音
「……(あんまり良くはねぇみたいだな)」
スバル
「なに、第一走者でカタをつけてやるさ」
第一走者が位置につく。
頼むぞ、姫とスバル。
鉢巻先生
「それじゃよーい、親友丼!」
乙女
「第1走者、いっせいに飛び出した!」
この時は皆が横一列なのだ。
つまり、一番走者への妨害が起こりやすい
ポイントなのである。
2−B女
「ブフゥ、あちきより美人を潰す!
つまり全員潰す!
まずは姫、お前からだぁーーっ! 食ってやる!」
どどど、と2−Bの女が姫達の方に迫ってきた。
その女を充分にひきつけてから……。
スバル
「はっ、とれえよ!」
スバルが後ろにバックステップする。
それにまるでシューティングゲームの
オプションのような規則正しい動きで、
姫が軽やかに続いた。
2−B女
「ブフゥ?」
タックルを仕掛けてきた場所、いるはずの
場所に相手がいない。
姫達は、あえて後方にバックしたのである。
2−Bの女はよろめいた。
エリカ
「お嬢様小足払い」
2−Bの女を支える足を姫がパシッと払う。
2−B女
「ブヒィ!」
人はそれだけで、簡単に倒れる。
2−Bのペアはズゥンと地面に倒れこんだ。
乙女
「2−A、小足払いで2−Bの巨体を潰した!
少ない動きで確実に大物を仕留めている」
スバル
「全速前進! 行くぜ姫君!」
倒れている2−Bの女の体をわざと踏んでから
姫達は前進をはじめた。
乙女
「2−Dと2−Eが、お互いに激しいタックルを
仕掛けあっている」
標的である2−Aのペアは誰とも争わずに
ひたすら先頭を走っていた。
乙女
「その2組の後方から2−Cの霧夜&伊達が来た!」
スバル
「2秒後にダブルキック、オレはDを!」
エリカ
「ヒュウ! 派手でいいわね。私はEを」
2人は、同時にジャンプして前の走者に
飛び蹴りを叩き込んだ。
姫は男の顔面に蹴りを入れてるのがスゴイ。
乙女
「ジャンプキック一閃! 2−D、Eともにダウン」
乙女
「2−C、次々と走者を潰していく」
平蔵
「うむ、これがまさに竜鳴館の真剣勝負よ」
乙女
「1度潰されたペアはダメージのため
走行速度が低下している」
乙女
「さぁ、後方の混戦を尻目に2−Aは
無人の野をかけるごとくトップを独走している
洋平
「おい、油断するな。後ろから来てるぞ!!」
乙女
「霧夜&伊達、凄まじいスピード。
2−Aに追いついた」
乙女
「2−Aは果敢に蹴りで牽制しているが」
エリカ
「それで牽制? ぬるいぬるい。
猫舌の私でもぬるいと感じるぐらいぬるいわ」
エリカ
「蹴りってのはこうやって放つもんよ!」
さすがはハーフというべきか!
足の長さが全然違う。
相手の間合いの外から蹴りが飛んでいく。
乙女
「2−C、2−Aも吹っ飛ばした!」
良美
「わぁ、凄い凄い」
祈
「さすが霧夜さんと伊達さんですわね」
スバル
「ほい、後は頼んだぜ」
真名
「任せとき! 逃げ切ってみせるで」
イガグリ
「いや、ここは後続をさらに痛めつけておいた
方が安全だべ!」
真名
「アホ! 笑えるのは顔だけにしとき!
ここは逃げ切りやろ!」
イガグリ
「オイラのパワーを信頼するべ!」
真名
「お前、ただカッコいいとこアピール
したいだけちゃうか?」
レオ
「おーい! 何仲間割れしてるんだ、
追いつかれるぞ!」
真名
「マズ!」
乙女
「第2走者達は、お互い妨害をせずに
ひたすら1位のC組との間合い詰めに
専念している模様」
良美
「あぁ、ほとんど差が無くなっちゃった……」
レオ
「何やってんだ馬鹿!」
真名
「すまん、後頼むで」
きぬ
「おうよっ……ぐっ」
乙女
「2−C、何とかトップでアンカーの
対馬&蟹沢にバトンを渡した」
洋平
「ようし、よくここまで差を縮めた後は
アンカーの僕達に任せろ」
乙女
「続いて2−Aがバトンタッチ!」
レオ
「ほい、1、2、1、2」
きぬ
「……っ」
レオ
「おわっ」
グラッとバランスが崩れた。
こけずに踏ん張る。
レオ
「おいカニ、遅いぞ。もっとタイミングあわせろ」
きぬ
「わ、悪い悪い」
きぬ
「さぁ行こうぜ」
レオ
「よし、行くぞ! いち、に、いち、に」
きぬ
「いち、に、いち、に」
ようやくカニとの息がピッタリ一致した。
レオ
「よし、これで逃げ切っちまえば……」
スバル
「後ろから洋平ちゃん達来てるぞレオ!!」
洋平
「追いついたぞ! 覚悟しろ!」
紀子
「くーっ!(追い抜いちゃうよ)」
レオ
「ちいっ、もう来たのか村田」
きぬ
「息が合ってるじゃねぇか、クー!」
乙女
「A組の村田&西崎、C組の対馬&蟹沢ペアの
後ろについた」
レオ
「好きにやらせるか、食らえっ」
磨かれたスパイクで牽制してやる。
俺は思いっきり足を後ろに蹴り上げた。
洋平
「蹴ってくると思ったよ……それしかないもんな
できる抵抗といえばよー」
蹴り上げた足の、足首を村田に掴まれた。
レオ
「おわっ」
足をとられ、急激にバランスが崩れる。
きぬ
「手のかかる相棒だぜ!」
カニが俺の体を倒れないように支えてくれる。
スバル
「やべぇ、あの体勢は脚に負担がかかる」
洋平
「西崎、対馬の体を押せ! 転ばしてしまえ」
紀子
「くーっ!(やーっ)」
西崎さんが正面から、勢い良くぶつかってきた。
レオ
「ぐっ」
胸の感触がちょっと気持ちよい。
きぬ
「た、倒れるなぁ……あぐっ」
カニが倒れないように必死で踏ん張る。
スバル
「おいおい、マズイんじゃないかカニ……!」
くっ、村田に脚をもたれてる以上打つ手が……。
洋平
「いいペアを持ったじゃないか!
だが勝つのはA組だ」
洋平が稲妻のような蹴りを繰り出してきた。
レオ
「ぐっ」
きぬ
「うあーーっ」
乙女
「対馬に強烈な蹴りがヒット!
対馬&蟹沢ペア吹っ飛ばされた!」
地面に衝突する。
きぬ
「あ痛っ」
カニも瞬時に手で頭をガードしながら
倒れこんでいた。
レオ
「……う」
蹴られた腹に、重く鈍い痛みが走る。
レオ
「痛っ……ぐ……」
村田の野郎……ちったぁ手加減しやがれ。
良美
「あぁっ、対馬君! カニっち!」
スバル
「洋平ちゃん、やってくれるじゃねぇか」
エリカ
「でも、対馬クン達が戦ってたおかげで後続が
トップに追いついたわ」
乙女
「2−D、2−Eペアが共同してトップの
2−Aをつぶしにかかる」
洋平
「上等だ、僕が負けるはずないんだよ」
紀子
「くー、くぅー(相手しないでゴール行こうよ)」
洋平
「いや、今の通り後方からの攻撃は圧倒的に有利だ」
洋平
「追撃されるよりもここで叩く。気合入れろよ西崎」
乙女
「2−Aペア、2−D、2−Eペアを迎撃開始!」
エリカ
「先頭集団が勝手に潰しあいをはじめてる……
まだチャンスはあるわ」
祈
「頑張って、対馬さーん、カニさーん」
祈
「皆さん、声援が足りませんわよ」
良美
「祈先生が必死だ……」
豆花
「あ、カニち達が立たネ!」
きぬ
「ち、ちっくしょう、もう力が出ねぇ」
きぬ
「みんな……みんなの命を全てオラにくれ」
レオ
「いや、それだとみんな死んじゃうから」
きぬ
「ってのは、冗談で……」
きぬ
「見なよ。先頭集団、勝手に潰しあいをしてやがる」
きぬ
「さぁ、行こうぜ! もうひと踏ん張り!」
レオ
「いや、俺村田に蹴り食らった腹が痛いんだが」
レオ
「あいつに近づいたら、またあれが飛んでくる……」
じょ、冗談じゃねぇぞ。
今でさえズキズキすんのに。
痛くて気持ち悪くなっちまう。
レオ
「いいじゃん、運動会でそこまでムキになるなよ」
きぬ
「バカ、ここまで来てダセー事言ってんじゃねぇ!」
きぬ
「蹴られて痛いなら蹴り返せ! つうか泣かせ」
レオ
「おいおい、俺はその場のテンションには……」
きぬ
「それはただの臆病者だ!」
レオ
「なっ」
きぬ
「弱虫! 腰抜け! 痛がり屋! ヘタレ!」
レオ
「てっ、てめぇ!」
きぬ
「怒るのか! 女には怒って蹴られた
あいつには怒らないんか!」
レオ
「っ……」
生意気なっ!
レオ
「ざけんなカニ、あんなのに負けるか!」
きぬ
「そうそう、その調子!」
きぬ
「さぁ、行くぜ! 早くしないと間に合わねぇぞ!」
スバル
「おーーい、カニーーー!」
レオ
「あん、何だ」
スバル
「お前、脚は……!!」
きぬ
「おう、応援しててくれよなー」
ビッ! とスバルの方向に
人差し指を1本立てるカニ。
レオ
「何が言いたいんだスバルは」
きぬ
「頑張れってさ」
レオ
「大きな声で恥ずかしいヤツだな」
きぬ
「でもいいヤツだぜ」
レオ
「それは知ってる」
スバル
「……そうか、1位狙って走るってのか」
スバル
「お前って、ホント強いよな……」
洋平
「お前達で最後だぁっ!」
乙女
「D組、ダウン。2−Aが独走状態になったッ!」
洋平
「これでゆっくりとウィニング・ランを堪能できる」
紀子
「く〜(疲れたよ〜)」
洋平
「よく頑張ったな西崎、あとちょっとだ」
洋平
「さぁ、みんな僕を褒めろ認めろ! 拍手を送れ!」
洋平
「……拍手じゃなくて、怒号だと?」
乙女
「2−Cが、復活して2−Aを猛追している!
その差10メートル!」
洋平
「こ、このくたばり損ないが!」
洋平
「ち、これ以上速度を上げられん……
僕も西崎もさっきの乱闘でダメージを
食らい過ぎたか……」
洋平
「だが抜かせない、抜こうとした瞬間に
後ろから蹴りをお見舞いしてやるぞ」
レオ
「おい、カニ」
きぬ
「分かってる」
洋平
「……? 抜きにこないのか」
乙女
「2−C! 2−Aペアの後ろにくっついた。
さっきとは逆の形だ!!」
真名
「見たか、スリップストリームや」
エリカ
「あれをスリップストリームというかは微妙」
エリカ
「でも前にいるペアにとってはいいプレッシャーね」
乙女
「ラスト直線50メートル! 2−Aと
2−Cの一騎打ちだ!」
乙女
「2−Aが勝てば東軍優勝!
2−Cが勝てば西軍優勝の望みが繋がる!」
会場内からワッ、と歓声が上がる。
それだけ大事な一戦ということだ。
村田の胴体を攻撃しても、拳法部のコイツは
倒れないだろう。
俺達が無理に抜こうとすれば
その瞬間に接近戦を仕掛けられて負ける!
変則的に攻めるしかない。
狙うならやはり村田の脚だ!
後ろからの攻撃じゃあダメだ、動いてて狙いが
難しいし、走っている村田のスパイクが危ないし。
だから、こうして後ろからプレッシャーをかける。
お前みたいな、好戦的なやつが後ろから
ヒタヒタと追いあげてくる俺達を黙っているか?
乙女
「残り20メートル!」
洋平
「くっ……何もしかけてこないのか?
ならば迎撃してやる」
洋平
「西崎、迎え撃つぞ」
レオ
「いまだ!」
村田達が、動きをゆるめ方向転換を
こちらにした瞬間。
村田の脚に向けて、“払う”ような
蹴りを放った。
洋平
「ぐ……対馬っ! お前は、俺のっ……!」
脚を払われた村田がストン、とヒザをつく。
きぬ
「よし!」
その瞬間、追い抜く!
乙女
「2−C、2−Aを抜いた!」
フカヒレの言葉が役に立つとはな。
敵を知り 己を知れば 百戦危うからず。
迎撃に来るであろうその好戦的な性格、
利用させてもらった。
良美
「すごーいっ!」
真名
「そのまま突っ走るんや!」
洋平
「お、お前達! 待てぇぇぇ!」
素早く体勢を立て直した村田が
激怒して追ってきた。
正直、鬼気迫るものがある。
追いつかれたらやられる。
だが、もうここはゴールの目の前なのだっ!
レオ
「よし、一緒にゴ−ルするぞ」
きぬ
「おうっ」
同時にジャンプしてテープを切った。
乙女
「決着! 優勝は2−C!」
レオ
「いよっしゃああ!」
きぬ
「爽快だねっ、これだよこのスカッとした気分!
勝つってのは楽しいね!」
乙女
「2着は2−A!」
洋平
「く、くそおっ! 後一歩という所でっ!!」
紀子
「よ、よーへー?」
洋平
「うるさぁいっ、だいたいお前がいけないんだ!
これでまた僕が馬鹿にされてしまうじゃないかぁ」
紀子
「う……」
洋平
「!? す、すまん……何てこと言うんだ僕は」
洋平
「西崎、本当にすまん。お前は頑張ってくれたのに」
エリカ
「右手に見えますのが、負け犬達の姿でございます」
真名
「絶景やなー。ウチら甘くみとるからこうなるんや」
レオ
「姫、容赦なさすぎ」
エリカ
「だってなんか滑稽じゃない」
洋平
「……姫発言はさすがだな」
洋平
「ふん、もうこれ以上コケにはされんぞ」
エリカ
「あら、いきなり偉そうね」
洋平
「まだ体育武道祭は終わってないんだからな
格闘トーナメントで雪辱を果たす」
エリカ
「ちょっとは平静を取り戻したようね」
レオ
「姫、最初からそのつもりで?」
エリカ
「まぁ、純真に楽しんでたってのが殆どだけどね」
やっぱりそうか。
スバル
「ちっ、無茶しやがって」
きぬ
「おぅ、スバル」
スバル
「こりゃ俺もトーナメント負けられないぜ」
きぬ
「だね、どいつもこいつもぶっとばしてやんな」
スバル
「じゃあオレは道場へ行かないといけないから。
オマエは医者なり保健室いくなりしろ」
きぬ
「うん、そーする。あー痛……」
スバル
「1位で入った時のオマエは、いい感じだったぜ」
きぬ
「なんか言った?」
スバル
「いんや、なんでもね」
レオ
「蹴りくらってこけた時、俺はカニに
言ってやったのよ」
レオ
「諦めたらそこで試合終了だよ、とな」
良美
「すごいすごい」
真名
「かっこええなぁ!」
レオ
「まぁそうバシバシ叩かないでくれたまえよ」
新一
「えー? レオがそんな事言うかなぁ
だいたいその台詞どこかで聞いたことが
あるんだよなぁ……」
良美
「対馬君のおかげで優勝の可能性も出てきたしね」
祈
「流石は私の教え子ですわ」
新一
「おーい、誰か俺の相手してくれよー
乙女さんにグーで殴られて口の中切れて痛ぇ」
……………………
レオ
「ふぅ」
勝利して英雄になるのは、確かに楽しいぜ。
喋りまくったら喉渇いちまった。
水飲み場で喉を潤すとするか。
きぬ
「うー痛いよー痛いよー」
レオ
「?」
カニが脚に水をあてていた。
レオ
「なんだ、足が火照ってるのか?」
きぬ
「あ、レオ」
レオ
「年頃のレディにしては、はしたな……」
カニを見てギョッとする。
細い足首が赤く、痛々しく腫れあがっていた。
レオ
「おいどうしたんだ、これ」
きぬ
「体揺らさないでくれ、足に響くぅ」
レオ
「さっきの時にケガをしたのか?」
きぬ
「違うって、合宿の時にハチに追いかけられた時
足首ひねってた」
レオ
「それって今週の日曜じゃないか」
きぬ
「うん。確かそだったね」
レオ
「だったらさっさと言えよ。病院いかなきゃ」
きぬ
「病院行ったら二人三脚出れないかな、と思ってさ」
レオ
「そんなん気にするな」
レオ
「いつもはペラペラしゃべるクセに
辛いとき我慢してたら意味ねーだろ」
きぬ
「うっさいなぁ、いーんだよボクが
好きでやったことなんだから」
レオ
「ったく、食い意地はってるやつだ」
きぬ 無音
「?」
レオ
「そこまでして高級焼肉食いたいのか?」
きぬ
「違ーよ! まぁそれもあるけどさ」
レオ
「じゃあ何だよ」
きぬ
「レオ、ボクに言ったじゃん」
レオ
「佐藤さんともある程度出来たけどやっぱり
お前が一番のベストパートナーだ」
レオ
「本番も頑張ろうぜ、他のヤツラ全員潰して
オレとお前の修羅の思い出とするのだ」
レオ
「……え」
きぬ
「だからボク頑張ったよ」
きぬ
「勝てたし、輝かしい思い出が増えたねぇ」
レオ
「何を……」
あんな、おだての言葉ひとつで?
レオ
「そのケガ、痛かったんじゃないのか?」
きぬ
「結構ね。ジンジンきてたよ」
レオ
「馬鹿だな」
きぬ
「んだよ、いきなり喧嘩売るのか!」
レオ
「馬鹿は純真でずるい」
きぬ
「?」
そういえば、こいつは今週どこか辛そうだった。
カニの事なんて、何でも知ってると思ったけど。
レオ
「すまん」
レオ
「そのケガ、全然気付いてやれなかった」
きぬ
「だから何だって。別にボクがSOS信号
出してたワケじゃないんだし気にすんなよ」
きぬ
「赤く腫れたの今日が初めてだし、それに」
ポン、と肩を叩かれる。
きぬ
「これに出るって決めたのはボクの意志なんだしさ」
レオ
「な、なんだ、えらく爽やかじゃん……何か
裏があるんじゃないのか」
きぬ
「? ハイな時のボクはこんなもんじゃん。
それよりレオこそなんでオドオドしてるのさ」
レオ
「う……」
お前が……パートナーが痛がってるのに
俺、皆を相手にはしゃいでたし。
そりゃ、自己嫌悪にもなる。
きぬ
「おい」
レオ
「!」
気付いたら、顔を覗き込まれていた。
きぬ
「なんかしんねーけど、勝ったんだから
胸を張れバカ野郎」
きぬ
「ボクはオメーと勝てて嬉しいんだからさ
そんな顔すんなよな」
レオ
「……っ」
こいつスゲェ。
意外と器デケェ。
俺は目の前のカニを尊敬した。
こんなの初めてかもしれない。
ひょっとしたら、コイツは俺が
保護者である必要なんてないのでは。
同等なのでは。
レオ
「……?」
何だか、急に胸が苦しいぞ。
これは罪悪感なのか?
いや、違う。
レオ
「なぁ、カニ……」
きぬ
「ん?」
レオ
「もう一回、勘違いしていい?」
きぬ 無音
「?」
自然に顔を近づける。
きぬ
「ちょっと、レオ……」
俺の唇を、カニの柔らかい唇に軽く当てる。
そして、離す。
レオ 無音
「……」
きぬ 無音
「……」
きぬ
「何してんの、オメー」
レオ
「キス」
きぬ
「いや、何でかましたのか聞いてるのさ」
レオ
「なんか、したくなった」
きぬ
「フツー、何のセリフもなしにいきなりするか!」
レオ
「だから、勘違いしていいかって聞いたじゃん」
きぬ
「ボクは答えてねー」
きぬ
「っていうかホント勘違いだよね。島で
一回チューしたぐらいでさ」
レオ
「チュー言うな、恥ずかしくて首を吊りたくなる」
レオ
「つうか、一回とか言ってるけど
島の時はノーカウントなんだろ」
きぬ
「あ、あたぼうよ!」
レオ
「なら、これもノーカウントだろ」
きぬ
「なんなんだよ、偉そうだなー」
レオ
「俺にも分からん」
きぬ
「意味不明だよ、ごまかされてる気がするよ」
レオ
「でも、嫌な気分じゃない」
レオ
「むしろ嬉しいんだが、お前はどうだ」
きぬ
「ひたすら、びっくりしただけ」
きぬ
「……まぁ、嫌ではないけどさぁ……」
きぬ
「こんな場所でいきなり……」
きぬ
「……なんで誰もいねーんだ?」
キョロキョロ辺りを見回す。
確かに周囲に人がいない。
レオ
「あ、格闘トーナメントだ!」
レオ
「まず! はじまってるじゃん」
レオ
「行くぞ、カニ」
きぬ
「ちょ、ちょっと問題が解決してねえぞ」
レオ
「スバルの応援しないと。肩を貸してやるから」
きぬ 無音
「……」
……………………
乙女
「村田! 攻撃が単調すぎるぞ」
紀子
「よ―へー……」
洋平
「く……くそ……」
スバル
「どうした洋平ちゃんよ」
洋平
「拳法部を舐めるなっ」
スバル
「ふっ」
洋平
「っ!?」
スバル
「動きが規則的すぎんだよ。真っ直ぐで早いだけだ」
洋平
「くっ、くそっ……負けたくない……
もうボクは誰にも馬鹿にされたくはないんだよ」
洋平
「嫌だ……もう馬鹿にされるのは、
いじめられるのは嫌だ!」
スバル
「オマエも繊細なんだな」
洋平
「おおおっ!」
乙女
「そんながむしゃらに攻めては倒せるものも倒せん」
スバル
「これで終わりだ」
洋平
「ぐはっ……」
平蔵
「村田ダウン!」
乙女
「立て、村田! 気合だ」
紀子
「が、がんばっ……て!」
平蔵
「1、2、3……!」
洋平
「ぐ……うっ」
平蔵
「それまでっ 優勝は伊達スバル!」
乙女
「根性無しが。最後の3カウント、立てたハズだ」
洋平
「……鉄先輩。僕は……」
乙女
「私は慰めんぞ」
乙女
「悔しければ一人で泣くんだな。
そしてそれをバネに強くなれ」
洋平
「……はい」
紀子 無音
「……」
乙女
「西崎。村田を甘やかすなよ」
乙女
「あいつは、他人を倒す事だけを考えていたが、
一番の強敵が姿を現したようだな」
紀子 無音
「?」
乙女
「自分自身だ」
乙女
「過去のトラウマか何か知らんが
劣勢に追い込まれると、一気にパニックになる
それを何とかせねば」
乙女
「自分を倒せるのは自分だけだ、負けるなよ」
………………
レオ
「すげー、スバル優勝だ!」
きぬ
「さすがはボク達のアニキ分!」
レオ
「ところで何か大事なこと忘れてない?」
きぬ
「あぁっ……金だ! 賭けんの忘れた」
レオ
「やべ、しまった!」
きぬ
「オッ、オメーが長い事ボクを引き止めるからだ!」
レオ
「あんだと……!」
きぬ
「だいたい、いきなりあんなもんぶちかます
ぐらいなら何かボクに言う事あるんじゃないか」
レオ
「言う事……?」
きぬ
「おうさ、来い! 聞いてやる!」
レオ
「い、いや特には……」
新一
「お前たち、こんなトコで何をやってんの」
きぬ 無音
「!」
レオ
「い、いや別に……」
新一 無音
「?」
レオ
「つ、つうかお前、あのトーナメント表なんだよ
一回戦棄権負けって情けなくね?」
新一
「しょうがねぇだろ、一回戦の相手がいきなり
スバルだったんだからよ!」
レオ
「……今までの自信満々な態度はなんだったんだ」
新一
「あいつ、俺の差し入れに手をつけなかったんだよ」
レオ
「幼馴染に一服盛るなよな」
………………
きぬ
「ただーいまー!」
館長と病院行ってたカニが帰還してきた。
足の治療代などは学校持ちになったのだ。
……騙まし討ち近い合宿でケガをしたんだから
当たり前なのだが。
スバル
「で、どんな具合だった?」
きぬ
「足が完治すんのに1週間だってさ」
スバル
「おっ、予想より短いな。見た感じ、
2週間はかかると思ってたからよ」
レオ
「それぐらいですんで良かったな」
スバル
「体育武道祭はオレ達西軍の優勝だしな」
きぬ
「スバルは立役者だからねぇ」
スバル
「いやいや、オマエ達の二人三脚も熱かったぜ」
新一 無音
「……」
きぬ
「オヤオヤ、何か無口ですが、どーしたよシンイチ」
新一
「うるせー! どうせ俺は活躍してねーよ」
スバル
「拗ねんな拗ねんな」
新一
「あっ、そういやさスバルの噂
聞いたんだけど。お前ちょっと前に館長室に
呼び出されたんだって?」
スバル
「良く知ってるな」
きぬ
「ヘイゾーの部屋に? 何の用だったん?」
スバル
「ま、喧嘩の事とか他愛のない話だ」
レオ
「まさか停学やら退学やらじゃないだろうな」
スバル
「安心しな、注意だけだ」
スバル
「何も変わらねぇよ、何もな」
………………
レオ
「……何でお前はまだ残ってるの?」
きぬ
「聞きたいことがあっから」
レオ
「明日は晴れ時々曇り、所により一時雨だぞ」
きぬ
「天気予報じゃねーよ! しかもその予報って
何かずるいぞ! 何が来ても当たりじゃねぇか」
レオ
「後何回ぐらいギャグ言っていい?」
きぬ
「ダメ、逃げるの許さないモンね」
きぬ
「さぁ、昨日ボクにチューした理由を言え」
レオ
「チューって言うな! 俺はその表現はだめなんだ」
体が拒否反応を示す。
レオ
「チューって、ネズミかっつの!
ネズミは著作権うるさいから嫌いなんだ」
きぬ
「あ、話題変更は不可能ですんで4649」
レオ
「くっ、過ぎたことをグダグダと」
きぬ
「淑女の唇奪っておいて過ぎた事はねぇだろ!」
レオ
「だからあれは、リレーで勝った時の高揚した
気分が効いたんだよ!」
レオ
「なんていうか、ほんと気分ってあるだろ?
そんなもんだ」
きぬ 無音
「……」
レオ
「な、なんだよ」
きぬ
「んー」
レオ
「んっ……」
唇を奪われた。
レオ
「な、何をする」
きぬ
「なんていうか、ほんと気分ってあるだろ?
そんなもんだ」
レオ
「そんなんで納得できるか」
きぬ
「テキスト履歴で、オメーの5個前の
セリフを見てみろや!」
レオ
「異次元の会話はやめ……はうぁっ!」
きぬ
「ね、そんな台詞じゃ納得できないっしょ」
レオ
「くっ……確かに」
レオ
「……?」
きぬ
「あん、どーしたボウズ?」
多少の意識はしてるけど、変わらないな。
レオ
「なぁ、カニ」
レオ
「もいっかい、キスしていい?」
きぬ
「ええっ!?」
きぬ
「や、やるなボウズ、そう切り返してくるとは」
きぬ
「よし、かかってこいや。歯を当てんなよ」
きぬ 無音
「……」
あっさり了承された。
レオ
「ん……」
またキスをする。
レオ
「……うーむ」
恥ずかしいし、心臓がドクドクするが。
レオ
「なんだ、あまり変わらないな」
きぬ
「な、なにが?」
どうも俺は幼馴染の関係が壊れるというか
変化するのが嫌なのかもしれない。
心地よい空間だからな。
でも俺は俺だし、カニはカニだし。
今の俺達のままでいけばいいんだ。
……やっべ。
そう考えると急にこいつと
いちゃつきたくなってきた。
レオ
「カ、カニ……もう一回キスしていいか」
おそらく普通の女の子に言うのは
勇気がいる言葉。
でも、こいつになら、そんなに
緊張しないで言える。
きぬ
「ダーーメ」
レオ
「何故!?」
きぬ
「そういうのする前に……な、何か言う事あんだろ」
……そうだった。
乙女
「私だ。入るぞ」
きぬ 無音
「!」
獣のごとき俊敏さでバッ、と離れる。
乙女
「蟹沢、もう夜遅い。帰れ」
きぬ
「……ウィース」
乙女
「ケガはたいしたことなさそうで良かったな、
安静にしていろよ」
頭をなでなでしている乙女さん。
気にかけてくれたのは嬉しいが
お邪魔虫だ……。
………………
2時間後。
きぬ
「よっす」
カニが窓から侵入してきた。
レオ
「おい、2階から来ると足に負担がかかるぞ」
きぬ
「んー、気をつければ大丈夫」
カニからは甘いシャンプーの匂いがした。
レオ
「で、なんだ?」
きぬ
「い、いやぁさっきの続きを……」
レオ
「!」
ガチャ。
乙女
「気配がしたと思ったら蟹沢か」
乙女
「遊びたい気持ちは分かるが帰れ」
きぬ 無音
「……」
乙女さんチェックは厳しかった。
乙女
「レオ、西軍が優勝したのは見事だったが」
乙女
「期末考査をおろそかにしてはいけないぞ
もうすぐなんだからな」
レオ
「うぐ……そんなのもあったね」
乙女
「早速明日から勉強をはじめるからな」
レオ
「ギャー!」
乙女
「弱音を吐くな、期末が終わったら遊べ」
レオ
「フゥ……」
乙女
「それでは、小林多喜二の名作といえば?」
レオ
「カニ……」
乙女
「そう、蟹工船だな。初期プロレタリア文学の
代表的作品だ」
何故かあいつの事が頭にちらつく。
乙女さんの勉強指導が耳に入らない。
もう意識してる、してないのレベルじゃない。
俺は多分、カニが好きだ。
いつからかは分からない。
乙女
「次は世界史だが……近代史をやってみるぞ」
何で今までこういう気持ちにならなかったのか
不思議なぐらいだ。
姫よりカニを選ぶとは俺自身びっくりだ。
乙女
「おい、聞いてるか? イギリスの政治家で
1827年に首相になった人物を知ってるか?」
レオ
「カニ……」
乙女
「そうだ、カニングだな。ギリシャや中南米諸国の
独立を支持した事で有名だぞ」
乙女
「この調子で今日はみっちりやろう」
テストうぜー。
これ役に立つのかよ?
誰もが思う疑問。
でもやらなくちゃいけない、こういう
システムなんだから。
レオ
「はぁ……」
今日は良く晴れていた。
こんな日は外で遊びたいなぁ。
カニと。
レオ
「あぁぁ、なんか深みにはまっていく」
――お昼の休憩時間。
海中の景色を紹介するテレビをやっていた。
乙女
「見ろカニが映ってるぞ。蟹は好物の一つだ」
レオ
「あぁ……」
テレビで見る、本物の蟹にすら愛しさを覚える。
乙女
「あ、蟹がタコに食べられてるぞ」
レオ
「あのデビルフィッシュめが!」
いかん……いかんですよ。
隣の蟹沢家へ。
レオ
「どうも、お邪魔します」
マダム
「GO!」
いきなりグッ! と拳を握っていた。
中指と人差し指の間に、ごっつい親指が
挟まっている。
レオ
「セクハラですよ」
マダム
「あの出涸らし、誰も聞いてないのに食卓で
レオちゃんの話を嬉しそうにしてたよ」
レオ
「う……」
マダム
「私達が話を無視しても嬉しそうに喋ってたねぇ」
レオ
「いや、無視しないで子供の話は
聞いてあげて下さいよ」
マダム
「だから、不憫だと思ったレオちゃんが
可愛がってあげればいいでしょ」
レオ
「な……」
マダム
「もう犯っちゃいなさい。若さに任せて」
レオ
「そんな理解のある眼差しをされても」
……どういう親なんだ、アレは。
レオ
「……やっちゃいなさいと言われても」
本人の意向を無視してそんな事は出来ない。
それに俺は告白もしてないぞ。
レオ
「おい、起きろカニ」
体を揺らす。
きぬ
「う〜ん」
カニが寝返りをうつ。
すらりと伸びている脚に目を奪われた。
剥きだしになっている白いふともも。
こいつ、幼児体型かと思いきや意外と……
レオ
「……」
思わず首を振る。
何で俺、今までのこの状況でサラリと
していたのだろうか?
姉弟や兄妹という関係は、恋愛感情を
持たないように心の中で無意識にロックが
かかってるらしい。
俺もカニに対してそんな感じだったのか。
しかし、今やロックは外れているわけで。
レオ
「ほら、もう起きろカニ」
きぬ
「ん――、あ、おはよー、レオ」
レオ
「おう」
きぬ
「ふぁーあ」
くっ、こいつ朝は寝ぼけてやがるから
この姿でも恥ずかしがらないんだな。
なんかズルいぞ。
………………
ふぅ、起こすのだけで一大事だ。
マダム
「ふぬけ」
レオ
「常識があると言って下さい」
マダム
「ペッ」
なんて親だ。
………………
きぬ
「つまんねーよなー、レオ土日は
乙女さんに拘束されてんだもん」
レオ
「あの人の監視レーダーをかいくぐるのは不可能だ」
レオ
「なんか本気出せば半径300メートル以内なら、
気を探れるらしい」
きぬ
「んーつまんないねー」
レオ
「テストなんぞさっさと終えて遊びたいな」
きぬ
「また海行こうぜー。山でもいいけど」
レオ
「……今度は2人で行ってみるのもいいかもな」
言った。
きぬ 無音
「……!」
言っちゃったよ、こんなキザなセリフを。
あぁ、否定されたらどうしよう。
気持ち悪がられたら、俺の体はボロボロだ。
きぬ
「うん、そうだね」
肯定してくれた。
レオ
「そ、そうか……」
きぬ 共通
「……」
何とも微妙な空気。
でも、心は高揚中。
こんなテンションなら、身を任せてみるのも
悪くないかもしれない。
………………
夜。
ボトルシップ作りを中断する。
レオ
「……」
あの寝姿がフィードバックされる。
情けないことにムラムラしてきた。
部屋のカギをしっかりと確認する。
よし、閉まっている。
自己処理開始。
イメージを再生。
手の上下運動による摩擦。
レオ
「う」
自分でもビックリするほどの量が出た。
レオ
「はぁ……」
もう完全に「女」と見てしまったな。
つうか俺ってムッツリスケベだよな。
告白。
俺が言わねばならぬ、男として。
やっぱりしっかり好きとは言わんとね、
けじめとして。
カニと次のステップに進むためには
避けては通れない。
どういう風に言うかが問題だ。
カニ相手に気取っても仕方ない。
いや、普段気取らないからこそこういう
時に気取りたいものではある。
レオ
「うーむ、難しい」
スバル
「おい、レオ! 当てられてるぞ」
レオ
「え、なに?」
祈
「対馬さん、廊下で立ってて下さいな」
……本当に廊下に立たせる罰ってどうよ。
恥をかいてしまった。
きぬ
「はぁ……」
レオ
「なんだ、お前もか」
きぬ
「うん、ボーッとしてた」
レオ
「食いもんのコトでも考えてたのか」
きぬ
「ち、違ーよ、別のコトだよ」
きぬ
「オメーこそ何を考えてたんだよ」
レオ
「別になんだっていいだろう」
きぬ
「顔が赤いぞテメー」
レオ
「おまえもな」
きぬ 無音
「……」
レオ 無音
「……」
そして、沈黙。
……なんか俺達のやりとりって小学生並み?
………………
スバル
「なんか今日一日、ボーッとしてたなオマエ」
レオ
「え、そうか?」
スバル
「ちょっと話したい事あるんだ
松笠公園の方に行かないか?」
レオ
「?」
スバル
「ここで海風を受けてアイスを食う、夏の
楽しみの一つだな」
レオ
「学食のテラスは人でいっぱいだもんな」
レオ
「ここは平日人少ないし」
スバル
「……実は、戦艦松笠の内部入ったことないんだよ」
レオ
「俺は入ったぞ。正直歴史的な資料ばっかりで
今ひとつつまらなかった」
スバル
「だろうな。甲板からの眺めは良さそうだけどよ」
レオ
「話ってなんだ」
スバル
「あー、どう言ったもんかな」
レオ
「新作のエロ本やAVを貸してくれ、か?
お前の好きな母子相姦ものはないぞ」
スバル
「そりゃまた残念」
スバル
「でも用件はそれじゃね……」
男 中島
「伊達君。ちょっといいかねぇ?」
レオ
「?」
ジャージみたいのを着込んだ、いかにもな
スポーツマンが声をかけてきた。
ちなみに頭は青光りしている。
スバル
「……はあ。またアンタか……めげないねぇ
はじめに来たのは6月の中旬だっけか?」
男 中島
「中島は、諦めが悪い男として有名なのさぁ」
スバル
「中島さん。今、ご覧の通りダチとくつろいでんだ、
悪いが帰ってくれや」
中島
「今日は学校としてではなく、個人として
会いに来たさぁ。友達と一緒でいいから話を
聞いてくれないかねぇ」
レオ
「あんた誰?」
中島
「由比浜学園、陸上部主将。中島と言うさぁ」
レオ
「由比浜学園……湘南にある陸上の名門の」
スバル
「ちなみに200メートルの県内記録保持者にして
全国大会の優勝者だ」
中島
「実は中島はねぇ、伊達君を
由比浜学園にスカウトしてるのさぁ」
レオ
「あ、あの陸上王国にスバルを?」
中島
「一度大会であの伊達の走りを見てから
中島はビビッときたさ」
中島
「バラバラのフォーム、荒っぽいペース。
一見雑だけど、宝石の原型を見た感じさ」
中島
「で、調べてみたら、あのオリンピック候補になった
伊達選手のご子息だってことが判明したさ」
スバル
「でもその伊達選手は、いまやアル中だぜ。
まったく、オレみたいなものに目をつけるとは
由比浜もモノ好きっつーか、なぁ?」
中島
「由比浜が常勝と言われてきた理由は
人材選びの良さもあるのさぁ」
スバル 無音
「……」
中島
「ドラゴン(竜鳴館のこと)は武道やハンドボール
には定評があるけど、正直陸上はまだまださ」
中島
「だから中島と一緒に来るさ! 全国制覇して!
夢はオリンピックさ!」
レオ
「スケールでかっ」
中島
「由比浜は実績があるからねぇ、根拠のない
自信ではないよ?」
レオ
「すげーいい話にも見えるんだが」
スバル
「そーだな。学生寮に入れられるとは言え
招待扱いだから、金もかからねぇ」
金がかからない。
つまり、スバルもあんな形で金を稼ぐ事無いんだ。
レオ
「……行くのか?」
スバル
「いーや、行かねぇ」
レオ
「何で?」
中島
「お友達からも説得して欲しいさ。由比浜に
来たほうが本人のためだとねぇ」
レオ
「……いや、それはスバルが決める事ですんで」
スバル
「そうさ、そしてオレは断る」
中島
「もっと明確に理由を語ってくれたなら
諦めもつくんだけどねぇ」
スバル 無音
「……」
中島
「まぁ、いいさ。今日はロードワークがてら
来たからさぁ」
レオ
「ロードワークって……由比浜は湘南でしょ?
ここ松笠なんですけど」
中島
「電車で20分ぐらいの距離じゃないか。余裕だよ」
そう言って去っていく中島さん。
スバル
「最近、ほんと頻繁にくるなー、あの人は」
レオ
「なんか、すげー話になってんだな」
レオ
「知らなかった」
スバル
「教えてねーからな」
レオ
「なんで、行かないんだ?」
レオ
「悪い話じゃないだろ。陸上好きなんだし」
スバル
「ああ、陸上は大好きだ。
走るのは勿論、自分の力量を誇示できるしな」
スバル
「やはり、男に生まれたからには
何かで一番になりてぇじゃねぇか」
スバル
「それをかなえてくれるのが陸上なんだ」
レオ
「だったら、何で」
レオ
「学費いらないのおいしいじゃん」
レオ
「あんな真似しないで済むんだぜ」
スバル
「そうか、そんなに聞きたいなら聞かせてやろう」
スバル
「オマエ達と離れ離れになるのが嫌だからだ」
レオ 無音
「……」
レオ
「アノ、ボクハ ノーマル ナンデ」
スバル
「距離をとるな」
レオ
「いや、そんなことを言われても俺は
どういう態度に出ればいいか」
スバル
「オマエ“達”だぞ。オレ達4人の中には
女も含まれてるだろ?」
レオ
「え?」
スバル
「実はさ」
スバル
「オレは蟹沢きぬが好きなんだ」
今晩の献立ぐらいに、サラッと言ってくれた
衝撃のセリフ。
レオ
「…………冗談?」
スバル
「本気だ。あいつのためならオレは何でもする」
レオ
「なっ……」
レオ
「だって、お前」
レオ
「女の好みは母親系とか姉系とか、年上よりじゃん」
レオ
「妖艶な女が好きなんじゃないのか?」
レオ
「カニは、妖艶というかつるぺただぞ
あの胸で洗濯できるぞ、多分」
気付けば、何故か饒舌になっている自分。
スバル
「そうだな。はっきり言って貧弱だ
それでもアイツがいい」
レオ
「……いつから?」
スバル
「出会ってからずっと」
レオ
「おいおいおいおい! 全然気付かなかったぞ」
スバル
「……オマエは鈍いからなぁ。
フカヒレの方がマシかも」
レオ
「一体なんで」
スバル
「オレの家は、オヤジがゴミなのは
知ってるだろう」
レオ
「……」
スバル
「世の中死んでいい人間ってのは意外と多い。
酒癖と女癖がたたり、つれあいに出て行かれた
あいつもそんな一人だ」
スバル
「悲しいかなオレにもそんなヤツの血が入ってる」
スバル
「だからオレは自分が嫌いでさ。荒れてて
子供の頃は喧嘩ばっかしてた」
スバル
「そんな時だな、あいつに会ったのは」
あの頃は退屈だったんで、一人で遊んでいた。
誰も遊ぶやつはいねぇ。
レオ、オマエはまだ東京にいた頃だし。
フカヒレもはじめはオレをシカトして
いい子グループに入ってやがったしな。
近所のマダム達にも、あの評判の悪い
伊達さんの息子ってことで煙たがられた。
このまま転落の道へ。
伊達スバルの人生(完)
――にはならなかったわけだ。
そこにカニが現れたわけだ。
カニは、女友達ともままごとして
遊んだりしてたが、それだけじゃ
物足りないものがあるらしい。
俺が木に登ってるのを見て、
あいつも登ってきた。
それが、始まりだった。
きぬ
「おめー、きのぼりうまいじゃん」
きぬ
「でもぼくはもっとうまいもんね」
そんなことを言われたので、2人で
競争した。
降りるのに苦労したが、2人は
互いを認め合った。
それからは、2人で良く遊んだ。
でな、オレがいつもの遊び場に
向かおうとしてると、あいつが
親に注意されてたわけだ。
あの子は周囲での評判が悪いから
遊んだらダメです、とな。
それを聞いちまったとき、俺は
がっくり来たね。
ふらふらと遊び場にいくと、
すぐにあいつが来たわけだ。
きぬ
「さーて、すばる、あそぼうぜ
きょうはチャンバラやる?」
スバル
「……おやにしかられてたんじゃないのか?
あそぶなって」
きぬ
「そんなこといってたね でもボク、やめねーよ?」
きぬ
「だってすばるとあそぶのたのしいもん」
きぬ
「すばると はなしたことないのに、
なんで すばるのわるぐち いうんだろうね」
スバル
「すばるっていうのはやめてくれ」
きぬ
「なんで?」
スバル
「なまえ、きらいなんだ」
オヤジがつけたから。
きぬ
「? なんでよ、そらでキラキラしてるほしの
なまえなんでしょ? かっけーじゃん!」
きぬ
「ぼくなんて、きぬ だよ
ぜいたく言ってるとなぐるぞ!」
スバル
「き、ぬ? そんな名前なのか?」
きぬ
「わらうんじゃねー!」
スバル
「こんな感じで、あいつは無邪気に
言ってくるわけだ」
スバル
「しかも、あいつはこの事
全く覚えてないし」
レオ
「それは寂しいな」
スバル
「そこがいーんじゃねーか。あいつにとっては
特別でもなんでもない、ただのセリフだった」
スバル
「バカは偉大だぜ」
レオ
「そっか……」
スバル
「いるだけで楽しい気分になれるヤツってのは
貴重だよなぁ」
レオ
「オマエ、この前好きなやつは
俺の知らないヤツとか言っておいて」
スバル
「そういうカニの一面をオマエは良く
知らねー、という意味でな」
スバル
「ややこしくてすまねーな」
それはこの前知った。
バカの保護者のつもりだったけど。
あいつはあいつで偉いところある。
スバル
「この前の二人三脚も見ててヒヤヒヤしてたぜ」
レオ
「気付いてたのか?」
スバル
「あぁ、それぐらい分かるさ」
今、確信した。
惚れてる。
スバルは、完全にカニに惚れてる。
俺は、ケガに気付いてすらいなかったのに。
レオ
「つうかそれほど好きで告白は……しないのか」
スバル
「どうだろうな」
スバル
「でも、いつかしたいとも思ってる」
レオ
「女には手が早いと思ったのに」
スバル
「あいつは、傍にいるだけでもいいんだ」
スバル
「正直、今の関係が崩れるのが怖ぇな」
レオ
「お前の口から怖いなんて単語が出てくるとはな」
スバル
「……そろそろ練習なんでな」
レオ
「おい、話ってのはなんだ」
スバル
「偶然にも今の話と同じような内容なんだ」
レオ
「……なんで、今になって俺に全部しゃべる」
スバル
「由比浜に行かない理由
オマエには知っててほしかったしな」
スバル
「オレには陸上より大事なものがあるってことをさ」
レオ
「陸上やりながらでも……」
スバル
「陸上王国の名前は伊達じゃねぇ
練習、練習で時間がなくなっちまう。
それに距離も離れちまう」
レオ
「そっか……」
スバル
「ま、今のはオレの懺悔みたいなモンだ
あんまり重く考えなくていいぜ」
スバル
「悪いな、面倒な話を聞かせちまって」
レオ
「気にするな」
スバルは、手をあげて消えていった。
一人取り残された俺は呆然としていた。
ショックだ。
スバルが、カニをそんなに想ってたなんて。
そばにいるだけでいい、スバルはそう言った。
陸上より大切なものがある、とも言った。
――それには、狂おしいほどのカニへの
想いがつまってるように聞こえた。
俺なんて告白もしないうちから、
カニの体に目がいっていた……。
事実、告白したら蟹沢とSEXしまくりたい
という暗い情念も持っていた。
自分が嫌になるな。
そんな俺なんかより……
スバルの方が100倍上等だぜ。
そうだよな、意識したきっかけだって
多分、一緒の風呂だし……。
俺はカニの体にばっか……。
情けなかった。
スバルは、将来オリンピックに出れるかも
しれない。
父親の事を嫌ってはいるが、スバルの父親は
有名な陸上選手だったわけで、素質はあるわけだし。
でも俺には何もない。
あいつは格闘トーナメントで優勝している。
俺は良くも悪くも普通。
――なんだ。
カニは、スバルとが似合ってるじゃないか。
パニクってなどいない。
頭は驚くほど冷静だ。
レオ
「――やっぱり」
テンションに身を任せるのは間違ってたんだ。
夕陽。
俺の気分も夕陽。
きぬ
「レオーーッ!」
罪な女が手を振りながら学校から走ってきた。
きぬ
「いやぁ、校内からレオ見えたからさ」
きぬ
「一緒に帰ろうぜー」
レオ
「ん……」
きぬ
「聞いてよ、さっきよっぴーがさぁ……」
会話の内容が頭に入らない。
本当なら楽しい下校タイムのはずなのに。
あぁ、ちくしょう。
きぬ
「……よし、誰もいねぇな」
カニが、グッと手を握ってきた。
レオ
「な……」
きぬ
「ま、まぁ、きっちり言うまでは
これぐらいまでな?」
きぬ
「えっへっへ……照れるぜ」
赤くなってうつむくカニ。
手をキュッと強く握られた。
なんて、単純かつ効果的な技をやってくれるんだ。
握りなれている手なのにこうもドキドキするとは。
俺に向けられた露骨な好意。
だけど、俺はそんなもの受け取れない。
とはいえ、この手を振り解けばこいつが傷つく。
このまま受け入れ続ければスバルが傷つく。
どうすりゃいいんだ……。
俺は無言になった。
だが、カニもまた無言だった。
きぬ 無音
「……」
こいつは照れにより無口なのだろう。
俺とふと目線があう。
カニは顔をさらに赤らめて下を向いてしまった。
ほんと、小学生だな俺達は。
こいつは男とは恋人よりも友達に
なってしまうタイプだから……
今まで恋愛感情なんて持ってなかったんだ。
男の好みもやたら抽象的でドリーマーだし。
つまりこれが初恋なのかもしれん。
……………………
結局、適当に返事しているだけで
終わっちまった。
ちなみに手は繋いだままでした。
勢いで好きだ、とか言えたなあの雰囲気なら。
そしてあいつは受け入れてくれるだろう。
でも、それをしたらスバルが……
レオ
「んがー、もう! どうしようもねー!」
布団かぶって寝ちまえ!
人、それを現実逃避と呼ぶ。
逃避して何が悪い。
レオ
「……あ――」
まぶたが重い。
全然爽やかな気分じゃない。
むしろ最悪の寝覚めだ。
おそるおそる携帯を見る。
レオ
「やっぱりな」
カニから7回ぐらい電話がかかってきてた。
メールも届いてた。
“寝てるのかー? (・_・)具合でも悪いの?
風邪ひいたならボクが看病してやっから
遠慮なく言え(⌒▽⌒)”
……つらい。
人の好意がつらいなんて。
このままでは俺はカニと幸せになってしまう。
スバルの想いを聞いた次の日にそんな事
出来るのか!?
それは、義に欠けるのではあるまいか。
とにかく手を掴まれたら振りほどけない。
はじめから、遠ざける感じでいこう。
んで、ちょっと寂しいカニをスバルが
慰めれば万事オーケーだ。
カニ、お前は深く愛してくれているスバルの
元へいくべきなんだ。
他のヤツだったら絶対死んでも譲らねぇが。
スバルだったら、しょうがないだろ……。
……………………
エリカ
「ボン ディア」
レオ
「何語か分からないけど、おはよう」
エリカ
「あれ、1人で登校なんて珍しいわね。片割れは?」
レオ
「片割れという認識はよしてくれ」
レオ
「カニは家で寝てるんじゃない?」
エリカ
「起こしてあげてるんじゃないの」
レオ
「もうやめたんだ」
レオ
「あいつが自立できない」
エリカ
「対馬クンが一生面倒見てあげればいいじゃない」
レオ
「やめてくれ。そんな関係ではない」
エリカ
「なんか変なの」
変なものか。
祈
「遅刻は、蟹沢さんですわねー。
意外にも珍しい」
スバル
「あん? 何だレオあいつ起こしたん
じゃねぇのか?」
レオ
「いや、俺もうあいつ起こさない」
レオ
「いい加減、巣立ちして欲しいからな」
新一 無音
「……?」
……昼休み。
豆花
「あ、カニちだ。ニーハオ」
きぬ
「……起きて時計見たら朝の11時30分でボク
びっくりしちゃったね」
良美
「それもう朝って言わないから」
きぬ
「レオのゴキブリ野郎はどこいった!」
レオ
「悪いな安らいでる時に」
なごみ
「別に謝る必要は無いですけど」
なごみ
「珍しいですね、昼休みに来るなんて」
椰子はそれだけ言うと、いつもの
寡黙モードに入った。
もう俺には興味が無いのだろう。
昼休み終わるまでここでマッタリ過ごすか。
きぬ
「あっ、やっぱりいた」
レオ
「何故ここが!」
きぬ
「勘だよ、勘」
相変わらずこいつ勘だけは働きやがる。
きぬ
「さぁ説明してもらおうか!
何で今日ボクを起こしてくれなかったのさ」
レオ
「起こす必要が無いからだ」
なごみ 無音
「?」
レオ
「なんとなく惰性で毎日起こしてるけどさ
いい加減、それもいいかなと思って」
きぬ 無音
「?」
レオ
「別にお前だって1人で起きれないわけじゃないだろ
遠足の日とかは俺より早く目覚めてるんだし」
レオ
「それとも俺がいなきゃ起きれないか?」
きぬ
「そ、そんな事ないもんね。みくびるなよテメェ」
レオ
「じゃあいいよな」
きぬ 共通
「う……」
きぬ
「ふ、ふん、だったら自分で起きてやる! 上等だ」
カニは怒りながら出て行った。
レオ
「……ふぅ」
なごみ
「……何かあいつ寂しそうでしたけど」
レオ
「あれ、干渉?」
……普段の椰子を真似してやった。
なごみ 無音
「……」
なごみ
「失礼、しました」
椰子も出て行った。
風が吹き抜ける。
……虚しかった。
――朝。
体が揺らされる。
レオ
「うぅ……分かった乙女さん今起きる」
レオ
「だからもう蹴らんといて」
きぬ
「何寝ぼけてんだよ、ボクだよ」
レオ
「……カニ」
目をこする。
夢ではないらしい。
時刻も、いつも俺が起きる7時40分だ。
レオ
「お前、なんで」
きぬ
「いやぁ、気合で起きれるもんだね、
正直睡魔ってヤツ殺したいぐらいすっげ眠いけど」
きぬ
「まぁ、昨日あんなコト言われて
シャクだったからさ」
きぬ
「これからはボクがレオを起こしてやるよ」
きぬ
「なんとか毎日続くようにボク、頑張――」
レオ
「それはいい」
きぬ
「――え」
レオ
「俺だって起こされる歳じゃない」
きぬ
「乙女さんに起こされてた時もあんでしょ?」
レオ
「これから気をつける」
きぬ
「い、今までの恩返しだって、気にすんなよ
まぁいつまで続くか正直自信ねーけど
多分1週間で終わる気すっけど」
レオ
「いいって」
きぬ
「……んだよ」
きぬ
「……冷たいじゃんよ」
レオ
「テストも近いしな」
……また苦しい言い訳をしてしまった。
テストが終わったらどうするんだよ。
乙女
「レオは起きたか?」
きぬ
「起きたけど、起こすのは必要ねぇってさ」
乙女
「ひょっとしたら試験に備えて自らを
自制してるのかもしれないな」
きぬ
「え……やっぱそうなんかな。自分でも
そんなコト言ってたけど」
乙女
「どっちみち来週は試験だ。それが終わるまでは
お前もそう考えておいて損は無いぞ」
きぬ
「……じゃあボクも試験勉強すっかな」
乙女
「それがいい」
きぬ
「でもこんな気持ちじゃ集中できねぇよ……
生殺しだよ……」
乙女
「何かあったのか? 私でよければ相談に乗るぞ」
きぬ
「あ、ううん、いい。それほどのもんじゃないから」
乙女
「……レオはこう言っていた。カニは普段
うるさいくせに本当に辛いときは一人で
だまってるクセがある頭の悪い子、だと」
きぬ 無音
「……」
乙女
「気が向いたら遠慮なく言えよ」
夜、集まる。
スバル
「来週の試験、赤点回避できそうか?」
新一
「まぁ、俺はなんとかなりそう、多分」
きぬ
「ボクは自信ねーけど、なんとかなる気がするよ」
新一
「気がするだけかい」
きぬ
「レオはどう?」
レオ
「あー、なんとかなりそうだ」
きぬ
「そりゃそうだよねー。皆に冷たくしてるんだもん
その分はいい点取れるよね」
レオ
「別に冷たくしてねーよ」
きぬ
「ウソ言うな。露骨に冷たいじゃんブリザードだよ」
きぬ
「スバルはそう思わね?」
スバル
「んー? いんや、割と普通だとは思うが」
レオ
「……」
きぬ
「あ、ホラ。そうやってすぐ黙る。
ツッコミキングのクセしてさ」
レオ
「うるせーな」
きぬ
「だから冷たいって言ってるじゃん、今のは
誰がツッコミキングじゃボケが! って
怒らないと!」
新一 無音
「……」
新一 無音
「(なんか微妙な空気じゃね?)」
新一 無音
「(いつもは居心地いいはずなのに……)」
きぬ
「うー。なんか気分悪ぃ」
スバル 無音
「……」
レオ 無音
「……」
きぬ 無音
「……」
こんなハズでは。
何故、俺達は互いに遠慮する。
これじゃ、外にいる時と同じだ。
――この集まりはお互い、何でも
本心で言い合える場所だから好きだった。
今更何を隠すこともない幼馴染同士。
怠惰だったから、俺はこの空間を愛した。
心許せる場所。
嘘をつかなくてもいい場所。
外の世界で傷ついた俺の自我を癒す場所。
そんな空間だったはずだ。
それなのに、これでは――
乙女
「お前達、来週は試験なんだぞ。集まるのは
試験後にしておけ」
乙女さんの注意で、解散する。
乙女
「そんな嫌そうな顔をするなレオ」
レオ
「あ、違う。これは乙女さんのせいとか、
そんなんじゃなくて」
乙女 無音
「?」
レオ
「嫌な気分なんだ」
レオ
「煙に覆われてるみたいで、モヤモヤして」
乙女
「良く分からないが……」
乙女
「煙が邪魔なら走って拭えばいい」
相変わらずパワフルな意見だこと。
この一週間は地獄だったな。
苦しい思いをぶちまけたい。
乙女さんはダメだ。
乙女
「情けない事を言うな! 根性無しが!」
と一括されるに決まっている。
あ、一人いた。
それが出来る漢(おとこ)が。
………………
新一
「なにぃ!!!」
俺はフカヒレに、かいつまんで話した。
こいつは中立のハズだから。
新一
「おいおい、それマジかよ。三角関係だったのか」
レオ
「だから悩んでる」
新一
「きっついねー、ソレは。カニの取り合いかよ」
新一
「お前のほうはいつかそんなコトに
なるんじゃないか、と予想できたけど」
レオ
「そうなの?」
新一
「だってお前とカニ仲良いし」
新一
「時々夜中に布団にもぐりこんできたんだろ?
そんなん、普通ありえないからな!
幼馴染の一言じゃ済まされないだろ」
新一
「しかし……まさかスバルがカニに惚れてたとは」
レオ
「やっぱ知らなかったか」
新一
「しかし、聞いてるこっちが赤面してくる内容だな」
新一
「アダルト系が趣味かと思いきや、
意外とストライクコースひろいヤツなんだな」
新一
「でも、カニはお前に気があるよ。多分」
新一
「彼女いないし、このまま25歳になったら
魔法使えそうな清い体だけどそれぐらい分かる」
レオ
「……俺だってカニは好きだ」
新一
「じゃあ問題ないじゃん」
レオ
「お前……俺にスバルを裏切れ、と?」
新一
「……確かに。実際の板ばさみって痛いんだなぁ」
レオ
「実はお前までカニ好きだった、とかないよな?」
新一
「あぁ、それはマジでない。というかお前らの
思考回路の理解に苦しむね。姫やらよっぴーやら
美人はいっぱいいるのにカニかよ」
新一
「しかし、このままってのもよくないだろ」
レオ
「だから、俺はカニとスバルに仲良くなってもらう」
レオ
「それで、俺はカニを忘れてさ、他の女を見つける」
レオ
「これで根本的解決だろ? 俺が少し我慢すれば
OKなんだからさ」
新一
「だからカニを避けてたのか」
レオ
「そう」
レオ
「なぁ。俺のやり方、正しいよな?」
レオ
「スバルならカニだって文句ねーだろ
イケ面だし家事できるし」
新一 共通
「……」
レオ
「なぁ正しいよな?」
新一
「ごめんな、分からねーよ」
新一
「そのやり方は、後味が悪くなりそうだけどね
それでお前がいいんなら、いいんじゃない」
レオ
「なんかどっちかというと否定的だな」
新一
「だってお前が自分を殺してる意見なんだもん」
レオ
「優しい意見なのに」
新一
「ただスバルに嫌われたくないだけだろ?」
フカヒレがギターを軽く鳴らした。
新一
「我ながら締まらない音だなぁ……」
レオ
「……」
レオ
「ちなみに、これ言うなよ」
新一
「お前ね、これ言いふらしたら
俺マジで最悪の男になっちまうだろ」
レオ
「紙に書くのも駄目だからな」
新一
「信用してくれよ!」
新一
「あ、俺からも言っておくことがある。
悪いけど俺は中立だからな。味方しねえぞ」
レオ
「分かってる。話しておきたかっただけだ」
レオ
「ありがとな。聞いてもらえただけで
気が楽になったよ」
新一
「こっちは気が重くなったけどね……」
新一
「俺がしてやれる事といえばこれぐらいだ」
レオ
「俺のサイフにコンドームを仕込むな!」
まったく必要ないのに持ってやがるからな。
とにかく、来週のテストに集中しよう。
これも逃避かもしれないが、都合がいい。
きぬ
「報酬は高級焼肉ってボク聞いたんだけど」
祈
「ええ、言いましたわね」
きぬ
「ここ、カレーハウスだよ!」
祈
「仕方ありませんわー、私、春のお買い物で
思った以上にカード使ってたようで、今
お財布の中苦しくて……」
祈
「それにお店の質を下げた事で、生徒会の皆さんも
呼べたことですし、いいではありませんか」
新一
「テンチョーさん、あんな事言われてるけど
いいんスか?(ヒソヒソ)」
店長
「良くありまセーン。デモあのワールドワイドな
バストを見てたらなんだか許してもいいやって
思いマシター」
新一
「わぁ正直」
きぬ
「まぁ、おごらないよりはいいけどさー」
店長
「まぁいいじゃないデスカー、カニさーん。
今日はじゃんじゃん食べてくだサーイ」
きぬ
「よーし、せめて腹いっぱい食っちゃる!
どんどんオーダーするぜー」
店長
「ハイハイ、今日は貸切ヨー。遠慮しないデネーー」
祈
「貸切というより、私達以外にお客がいないんじゃ
ありませんこと?」
店長
「HAHAHA、キッツイヨ、冗談キツクテ、
涙出てきちゃっターヨ」
……大丈夫かこの店は。
乙女
「私は東軍だったのに呼ばれて良かったのか?」
エリカ
「いいんじゃないですか、別に」
祈
「私達のクラスの皆さんにはジュース奢りましたし
生徒会執行部での、体育祭お疲れ会ということで」
きぬ
「お前たち感謝しろよー。元はといえば
ボク達二人三脚組の報酬なんだからなー」
なごみ
「はいはい」
良美
「それじゃ私野菜カレー中辛で」
なごみ
「チキンカレー激辛で」
エリカ
「私、海軍カレーお子様味で」
なごみ 無音
「?」
エリカ
「辛いのは食べれないの」
良美
「お寿司は必ずわさび抜きだもんね」
エリカ
「デリケートで苦労するわ」
祈
「それでは皆さん、体育祭にテストに
お疲れ様でした」
良美
「お疲れ様でしたー」
きぬ
「でしたー!」
皆がコップを鳴らす。
生徒会執行部は全員集合していた。
椰子はまぁ、辛いもん好きだし食い物に
釣られたんだろう。
さすが育ち盛り。
きぬ
「いやー。まぁテストもヤマがあたってなんとか
乗り切れそうだし、めでたしめでたしだね」
こいつ、俺の隣に嬉しそうに座りやがって。
スバルに顔向けできん。
祈
「カレーが出来るまでは、サービスも
兼ねて占いをしますわ」
良美
「先生が自分から。本当に大サービスだね」
祈
「占って欲しい方いますか?」
新一
「俺と祈先生の相性は?」
祈
「最悪ですわー」
新一
「今全然占って無いじゃん! 先生の感情じゃん!」
エリカ
「よっぴーと私のこれからの運勢は?」
祈
「それでは占ってみますわね――」
祈
「霧夜さんが佐藤さんに裏切られると出てますわ」
良美
「そんな事しないよぉ!」
エリカ
「でも祈センセイの占いは当たるしなー」
姫も占いそのものを信じてないくせに
これ幸いと佐藤さんをイジメていた。
エリカ
「んじゃー、カニっちと対馬クンの相性とか」
姫め、余計な事を。
きぬ
「まぁ光輝く未来への道が見えるだろうね」
レオ
「……」
祈
「血を流して倒れているカニさんが見えますわ」
きぬ
「えっ!?」
祈
「対馬さんに刺されたんですわ……
対馬さんは凶器を握って呆然としていますわ」
きぬ
「それ殺人じゃん!」
レオ
「俺はいくら何でも人を刺しはしないぞ!」
祈
「私の占いは今まで確実に当たってますけど
まぁこれが初めて外れになるかもしれませんし
気にしないでくださいな」
きぬ
「うん、まぁありえないから気にしないよ」
そんな事を言われても気になる……。
あぁ、楽しい時間なのに楽しくない。
このままではわだかまりの連鎖が続く。
……心を鬼にするか。
きぬ
「でも、これでようやくおおっぴらに遊べるね」
きぬ
「試験中はそっち送るメールも控えてたしさ」
レオ
「……」
きぬ
「どーしたの? どっか痛いの?」
レオ
「いや、別に」
きぬ
「んだよ、せっかくテスト終わったんだし
もっと楽しく行こうぜ」
なごみ
「相変わらず仲がいいことで」
よし、来たぞパスが。
ナイスきっかけだ椰子。
レオ
「またその誤解か、椰子」
なごみ 無音
「?」
レオ
「俺とカニは付き合ってるわけではない
仲が良いといっても普通の幼馴染だ」
レオ
「今までも、これからもな」
きぬ
「え……?」
レオ
「誤解しないでもらおう」
なごみ
「からかいにムキに反応するなんてつまらない先輩」
俺もそう思うが仕方ない。
きぬ
「ねぇ、レオ……」
レオ
「なんだよ」
メニューから目を離さない俺。
きぬ
「ん、んだよ、なんか試験終わっても冷たい
態度直ってないじゃん!」
レオ
「元からこんなんだ」
きぬ
「違うだろ! おかしいって、どうしたんだよ」
レオ
「気軽に触るなって」
きぬ
「な……」
腕を振り解く。
レオ
「そうベタつくから、誤解されるんだぜ」
きぬ 無音
「……」
きぬ
「今の……それ本気で言ってんの」
許せ、カニ。コレ全てオマエの為。
レオ
「あぁ、当たり前じゃん」
レオ
「丁度いい機会だから、言っておくが
あまり近づかれるとこっちにとっても迷惑だ」
エリカ 無音
「……」
乙女 無音
「……」
おかしい、テンションに流されず
小声で言ったはずなのに……
全員に聞こえている!?
新一 無音
「(バカ、やりすぎだろ!)」
しかし、もはやサイは投げられた。
後はこいつが泣いて駆け出すはず。
それをスバルが追えば……。
きぬ
「こ……」
きぬ
「この、腐れ外道がぁーーっ! 何が迷惑だ!!」
ビチャッ!!
顔面に焼け付く感じと、スパイシーな匂い。
カレーが顔面に密着した。
……カレー零距離射撃?
皿ごと、そのまま顔面に押し付けられたのだ。
きぬ
「そんな風に言うなんてオメーらしく
ねーぞ! 根性無いのは知ってるけど
さらにその根性曲げてどーすんだ、このバカ!」
きぬ
「オメーなんてカレーで窒息してしまえ」
良美
「あ、あの――もうそこらへんにしてあげないと」
エリカ
「あれ、本当に呼吸できないんじゃないの?」
きぬ
「とどめだぁーッ!」
胸に強い衝撃。
どうやら、蹴り飛ばされたらしい。
地面に衝突する。
きぬ
「あー。ちくしょうやっぱり殴り足りねぇ!」
きぬ
「歯ぁ食いしばれぇ! 修正してやるっ!」
スバル
「おい、マウントとろうとしてるぞ」
新一
「待て、もう許してやれ! マジで!」
乙女
「その気骨は素晴らしいがな、やめておけ」
きぬ
「ちっ……」
きぬ
「ボク帰るからな。祈ちゃん、ちょっとそこで
のびてるバカに人の道を教えといて」
なごみ
「泣いて逃げるかと思った」
きぬ
「けっ、そんなんただの負けじゃんよ」
きぬ
「あー、チクショウ! すっげーすっきりしねぇ!
かかってくるかココナッツ?」
なごみ
「カレーぶっかけられるのは勘弁なんで」
きぬ
「ふんっ、あーあ、もうなんなんだよイラつく!」
なごみ
「……なかなかやるじゃん」
…………
良美
「こ、これでカレーは全部ふき取れたよ」
レオ
「ありがとう佐藤さん……」
エリカ
「で、訳を話してごらんなさい、カレー」
乙女
「そうだぞカレー」
レオ
「待ってくれ! いくらカレーくさいからって
そのあだ名はイジメだ!」
レオ
「……いや、俺なんてカレーで充分か……はは」
なごみ
「卑屈になれば許されると思うなよカレー」
ちっ、椰子め……タメ口だし。
レオ
「俺とカニってさ、付き合ってると思われてる
らしいんだよ、何も知らないヤツから見れば」
レオ
「で、それってお互いの為に良く無いじゃん?
だからちょっと常識的な距離を置こうってことさ」
レオ
「カニは気にすんなって言うけど俺は
気にするから……つい突き放しちまって」
エリカ
「ふーん。それであんなヒドイ事言ったわけ」
レオ
「俺、要領悪いから。こんな言い方ぐらいしか……」
なごみ
「要領悪いって言えば済まされると思うなよカレー」
レオ
「人間扱いしてくれぇっ!」
祈
「人間扱いされる場合、この楽しい打ち上げを
壊した罰を受けないといけませんわよ?」
レオ
「仕方ないでしょうね……」
祈
「じゃあお支払いはカレーさんにつけておきますわ」
人間扱いしてないし!
店長
「しめて25000円でいいデース(←増えてる)」
新一
「哀れなヤツだぜ」
フカヒレに同情された。
俺の中で何かが音を立てて砕け散った……。
レオ
「はーっはっはっは、殺せ殺せよ」
なごみ
「あ、狂った」
エリカ
「笑うことでしか自分を保てなくなったのね」
乙女
「根性無しが……カレーでも一味違う
カレーになってみろ」
…………………
レオ
「あー、くそ。散々な目にあった」
スバル
「どうもここ最近様子が変かと思ったらオイ、
そこまで気を回さなくてもいいんだぞ」
スバル
「オマエとカニが仲いいのは知ってんだ
今さらどうこう言うか、バカ
突き放す必要なんかねーだろ」
レオ
「いいんだよ、これで」
レオ
「オマエがカニを慰めてやれば
めでたし、めでたしだ」
スバル 共通
「オマエ……」
レオ
「いや、こういう役ってやってて辛いな」
スバル
「知らなかったぜ、そこまで追いつめるとは……」
レオ
「あん?」
スバル
「いや、何でもねーけど」
スバル
「せっかくの好意だ。慰めてくるぜ? いいんだな」
レオ
「何も言わず行動しろ」
スバル
「分かった」
レオ
「……これで、いいんだ」
俺は一仕事終えた男の顔をしていた。
乙女
「レオ、ここにいたのか」
乙女
「これからお前の根性を鍛え直す。私についてこい」
レオ
「ギャー!」
………………
レオ
「で、昨日の首尾はどうだった?」
スバル
「そもそも取り付く島が無かったぜ」
レオ
「そうか……周囲の声が聞こえないほど
怒っていたのか……時間を置かなきゃ無理か」
スバル
「そっちの意味じゃねーよ」
レオ
「あ、何か言ったか?」
スバル
「つうかオマエ、何でそんな生傷多いの?」
レオ
「乙女さんにしごかれた」
レオ
「ついでに言うなら、筋肉痛で立てねぇ」
スバル
「やれやれ……」
………………
夕方になってようやく回復した。
レオ
「冷蔵庫の中が健康的なものばっかりに
なってるんだよな……」
コーラ飲みたいお年頃。
自販機に買いに外に出る。
きぬ 無音
「……」
レオ
「う」
エンカウントしてしまった。
レオ
「よ、よぉ」
きぬ 無音
「……」
カニは無言で、俺とすれ違った。
というか俺を見て顔色変えないし。
レオ 無音
「……」
相当、怒っているようだ。
きつい。
今までは、カニを怒らせても烈火の如く
がうがうと抗議されたが……
無視なんてされたのは今回が初めてだ。
レオ
「まるで俺を空気のように見ていた」
新一
「シカトされてんのか。ひでー状況だな」
レオ
「俺を空気のような存在に……」
新一
「まぁまぁ、空気ってこの世に必要なものじゃん
なきゃ死んじゃうじゃん」
レオ
「あんまり慰めになってねーよ、それ」
新一
「んじゃ俺、カニに電話かけてみよ」
新一
「あーもしもし、昨日の映画さ、見た?
そうそうそれそれ、あのラストシーンでさ
何で女のほうは自らあんな行動を選んだのかな?」
レオ
「順調な滑り出しだな」
………………
新一
「……えー、マジで。そうなんだ。ふーん、へーえ
……あぁ、分かった、んじゃ切るぜ、さいなら」
新一
「会話終了だ」
レオ
「5、6分は話してたな」
新一
「あいつ、いつもと変わらなかったぜ?
明るくて何も考えてないようなバカ声だったが」
レオ
「俺にのみ集中的に怒っていると言う事か」
新一
「まぁ当然だろうな」
レオ
「よし、俺もかけてみる」
新一
「え、おいやめとけって」
お、電話つながった。
ガチャ
レオ
「出たぞ」
レオ
「あ、カニ? あのさ……」
きぬ
「この番号、登録抹消すっから」
レオ
「は……?」
電話が切られる。
レオ
「……なんてこった」
新一
「つうかお前自分から遠ざけておいて
いざ遠ざかると、あたふたするってどうなのよう」
レオ
「いや。こんな距離は俺、想定してない」
レオ
「もっとこう、今までとあんまり
変わらないような距離を開けるつもりだった」
新一
「そんな都合よく行くわけねーじゃん。
カニはお前の母親かっつーの。甘えてんなよ」
レオ
「ぐがー! こいつ容赦ねぇ!」
新一
「俺だってこんなコト言いたくもないけど……」
レオ
「い、いや、いいんだ。ナイスアドバイス」
新一
「ダテに女にバカにされ、無視され、
ふられ続けられてねぇよ?」
こいつそんな事を自慢げに言いやがった。
新一
「女はな、こっちの思い通りにはいかないのさ。
なんたってあいつら自分の顔に白い粉
塗りたくってる外見そのものが偽りの生物だから」
レオ
「なんか憎しみが混じってるんでその意見は
参考にしません」
新一
「ちっ、ダークサイドに引きずりこんで
灰色に染めてやろうと思ったのに」
レオ
「……それにしても」
あいつに甘えていたのは俺の方だというのか。
バカな……。
乙女
「おい、顔色が少し悪いぞ大丈夫か?」
レオ
「ちょっと精神的にショックで」
乙女
「そうか。ならば乗り越えろ」
乙女さんは冷たく言い放った。
乙女 無音
「(これもお前のためを思えば……)」
……………………
新一
「お前、元気ないだろ」
レオ
「……納得がいってないだけだ」
新一
「話をすれば、カニ発見だ」
レオ
「あのプロトゾエア……楽しそうじゃないか」
浦賀さんと仲良く話しているではありませんか。
真名
「そらうける話やなー」
きぬ
「んで、新しく出たボディソープ使ってみたらさぁ」
レオ
「よし」
新一
「え、何? お前まさか話しかけんの?」
レオ
「このままじゃ納得できないんだ」
新一
「自虐プレイが好きなヤツだな……
ほとぼりが冷めるまで待てないのかよ」
レオ
「……おい、カニ」
真名
「こんちわ、対馬」
レオ
「おー、こんにちわ」
きぬ 無音
「……」
真名 無音
「?」
レオ
「おい、小さいの。無視するな」
きぬ
「話しかけんなよ」
レオ
「な、おい。テンションに左右されんなバカ。
後で絶対後悔するぞ!」
きぬ
「離せよ!」
きぬ
「レオ菌がうつるだろ」
レオ
「……こいつ小学生みたいな怒り方しやがって……」
きぬ
「いこーぜ」
真名
「何あんたらケンカしとるの?」
カニと浦賀さんはいなくなってしまった。
レオ
「馬鹿な」
新一
「お前捨てられたワンちゃんみたいだな」
レオ
「嫌な例え方をするな」
………………
レオ
「なぁ、おいカニ」
きぬ 無音
「……」
レオ
「無視すんなよ、子供みたいだぞ」
きぬ
「うざいんだけど……」
レオ
「椰子みたいなこというな。あんな危険な
キャラは1人で充分だ」
きぬ
「うっさいなぁ! 消えろよテメー」
レオ
「ぐっ」
良美
「目の前で信じられない光景が展開してるね」
エリカ
「対馬クンの情けなさが際立っていくわね」
エリカ
「教室の皆も異変に気がついたみたいよ?」
イガグリ
「なんか対馬と蟹沢の間に溝を感じるべ」
山田君
「こんな風な冷めた喧嘩は始めてみたよ」
豆花
「わ、私達でなんとかしてあげようかネ」
真名
「アホちゃうか。おせっかいやで、それ
なるようになるやろ」
………………
せっかくの昼休みなのに。
レオ
「はぁ……」
重苦しい空気に耐えられない。
フラフラと屋上の方に来てしまった。
なごみ 無音
「……」
レオ
「よぉ、椰子」
なごみ
「どーも」
レオ
「俺、ここの常連になるかも」
なごみ 無音
「……」
レオ
「わりと無視?」
なごみ
「しけた顔は見たくありませんね」
椰子は扉の方に向かっていった。
レオ
「相変わらずきついな」
なごみ
「慰めて欲しかったですか」
レオ
「誰もお前にそんなもん期待してない」
なごみ
「先輩って甘ったれですね」
レオ
「お前……少しは口の聞き方を」
バタン!
……椰子め……。
俺とカニの喧嘩が長引いてると察知したな。
まぁ一人の方が都合いいかな。
レオ
「あー、もう! 人間関係って難しい!」
空を見上げる。
むかつくほどに晴天だった。
世界の皆は人付き合い上手くやってんのかな。
壮大な事を考えてしまう。
今日も学校。
帰ってくるテストは平均点よりやや勝る、という
凡庸なものだった。
イガグリ
「よっしゃフカヒレに勝ったべ!」
新一
「ちっ、いい気になってんなよ?
俺はやれば出来る子なんだからさ」
きぬ
「みっともねー言い訳。何31点って知能指数?」
くっ、あの環に入れないのが辛い……。
きぬ 無音
「……」
話し終えたカニが俺の席を無表情で
通り過ぎた。
きぬ
「おい、スバル! テメーの点数見せろ!」
そして、俺はいなかったものとして他の
ヤツに話しかける。
……寂しかった。
……………………
レオ
「スバル、早く何とかしてカニを幸せにしてやれ」
レオ
「そして、カニの陰湿な攻撃をやめさせてくれ」
スバル
「多分、オレがカニと付き合っても
あいつのオマエへの態度は変わらねぇぞ」
レオ
「ち……」
なんだかスバルも冷たいよな。
お前の為に俺は心を鬼にしたっていうのに。
俺1人貧乏くじじゃん。
なんか俺の心で、“なんか悪い事しちゃえ”って
デビルが囁いた。
悪人は自分を理解してくれる人が
いないから悪事を働くのかもしれない。
この屋上には誰もいない。
椰子がいたが俺の顔を見ると出て行った。
良美
「対馬君」
レオ
「佐藤さん」
良美
「カニっちと喧嘩が続いているみたいだけど
元気出してよ」
良美
「私は、何で対馬君がカレー屋で
カニっちにあんな事を言ったかは分からないけど」
良美
「何か事情があったんだよね?」
良美
「でもカニっちが予想以上に怒っちゃった」
良美
「……そんな感じでしょ? 違ったらゴメンね」
レオ
「正解」
良美
「やっぱりね」
良美
「大丈夫だよ、きっとカニっちも分かってくれるよ」
良美
「だから元気だそう?」
レオ
「佐藤さんはいつも優しいな」
その優しさが身に染みる。
こんな風に声をかけてくれる人がいるとは。
そうだよな、俺は贅沢言っちゃいけないよな。
モヤモヤした霧が少し晴れた気分だった。
レオ
「!!」
良美
「あ、あの……もし良かったら」
良美
「どこまで元気づけてあげられるか
分からないけど、私の……」
レオ
「佐藤さん、ありがとう、俺頑張ってみる」
良美
「……家、に……」
屋上を後にする。
冷静になったおかげで1つ思いついたぞ。
明日はカニの誕生日。
うっかり忘れる所だったぜ。
プレゼントを奮発し仲直りするしかない。
……となると、デッドのメンバーのサイン付きの
Tシャツ……あれだろうな。
お値段10万円。
……貯蓄に深刻なダメージを与えるが仕方ない。
俺のせめてもの誠意だ。
良美
「タイミング的には最高だったんだけどな」
良美
「でも対馬君はいいよね、困っている顔をすると
声をかけてくれる人がいて」
良美
「それは、とても幸運な事だと思うよ」
レオ
「おはよう、乙女さん」
乙女
「あぁ、おはよう」
乙女
「昨日よりは随分マシな面構えになったな」
レオ
「そう?」
乙女
「その調子で頑張れ」
乙女
「……本当に辛くなって、どうしようも
なかったら遠慮なく私を頼れ」
乙女
「その根性の無さを存分に叱った後、
力を貸してやるからな」
レオ
「うん、ありがとう」
乙女
「私も甘いな……」
乙女
「今日で1学期も終わりか……」
祈
「はい、皆さん今日で1学期も終了です」
祈
「成績表をお渡ししますので、呼ばれた方は
元気良く返事して取りにきてくださいな」
祈
「蟹沢さーん」
祈
「霧夜さーん」
祈
「鮫氷さーん」
渡す人によって先生の表情が違う。
内容が露骨に分かってしまうではないか。
祈
「対馬さーん」
いたって普通だった。
祈
「私が占いをした結果……あれは今日起こります」
俺がカニを刺してるヤツか?
レオ
「ありえないから」
祈
「でも運命を変えることは出来ませんわ」
祈
「変えた、と思ってもそれこそが運命だからです」
祈
「まぁ、頑張ってくださいな」
レオ
「頑張る必要はないです、そんな予言は当たらない」
成績表は、まぁ普通だった。
祈
「ちなみに、鮫氷さんや真名さんに夏休みは
ありませんわ。補習の嵐で狂死してください」
新一
「俺、夏休みはデートの予定でぎっしりだったのに」
祈
「脳内のことなんて誰も聞いてませんわ」
祈
「ちなみに逃亡したら島流しですわよ」
俺よりもこいつらの方が不幸だな……。
………………
よし、学校終わり――。
作戦実行だ。
スバル
「あら? レオはもう帰っちまったのか」
新一
「おい、スバル? ちっといいか」
スバル 共通
「あん?」
新一
「いや、そろそろ何とかしてやらないと
レオが不憫でさ」
スバル
「補習くらったのにレオの心配か?」
新一
「そうさ、俺はいい奴だからな」
新一
「知ってるか、レオだってオマエのためを
思ってあんなこと言ったんだぜ?」
スバル
「事情聞いてるのか。じゃあ話してやるよ」
新一 無音
「?」
時刻は夕方。
俺の手にはカニへの誕生日プレゼント。
女の子の仲間同士の一学期打ち上げ会も
終わっただろう。
カニは部屋にいる。
電気を見れば分かる。
レオ
「よし……特攻するぞ」
レオ
「お邪魔しまーす」
きぬ 無音
「……」
レオ
「まだ怒ってるみたいだな」
カニは後ろを向いてしまった。
レオ
「お前に無視されて正直言って寂しかった」
レオ
「だから、仲直りしてくれないか?」
レオ
「これは、お前の誕生日プレゼントだ。
ワビも兼ねて……な。欲しがってた
デッドメンバーのサイン入りTシャツだ」
プレゼントをカニの机に置く。
レオ
「正直、言い過ぎて悪かったと思ってる」
レオ
「すまん」
きぬ
「もう1回」
レオ
「……すまん」
きぬ
「大きな声で」
レオ
「すまん」
きぬ
「しょーがねーなぁ!」
きぬ
「許してやる」
レオ
「……は?」
きぬ
「なーんてね。どうよ、冷たくされる気分は?
切ないだろ、苦しいだろ? 分かったかマヌケ」
きぬ
「まぁ、レオのことだから詫びの印として
誕生日プレゼントは奮発してくれると思ったよ」
カニがガサガサと包みを開ける。
きぬ
「イェーイ! デッドサインTシャツ
まんまとゲットー! あんがとねー」
レオ
「じゃあ何ですか……」
レオ
「お前、あの怒ってたの演技だったの?」
きぬ
「うん、もちろんそーだよ」
きぬ
「だいたいボクがレオのこと無視するわけねーだろ」
レオ 無音
「……」
きぬ
「散々ボクをバカ呼ばわりしてたけど」
きぬ
「分かった? 本当のバカは誰だが? んー?」
レオ
「う」
きぬ
「いやー、少しシカトするだけであれだもんね
僕に擦り寄ってくる様が可愛くて仕方なかったよ」
レオ
「あ」
きぬ
「オメーは自分が思ってるよりずっと気の小さい
チキン野郎なんだ! 無理すんな! な?」
レオ
「く」
きぬ
「おや、単語一文字しか喋れない子に
なっちゃったかな?」
レオ
「お、お前言いたい放題いいやがって……」
きぬ
「ビデオもしっかり撮れたし」
レオ
「部屋の隅にビデオカメラ設置してたのか!」
きぬ
「レオの涙、と」
レオ
「変な題名ふるなよ、泣いてねーし!」
がしっ、とカニの肩を握る。
きぬ
「えっへっへ……でもこれであいこだもんね」
レオ
「う……」
きぬ
「分かった? ボクの大切さが」
レオ
「……分かった」
きぬ
「あぁーん、聞こえんなぁ」
レオ
「分かったよちくしょう!」
こいつ俺の心を思いっきり犯しやがって。
もう立ち直れないぐらい犯された気分。
きぬ
「スバルはバラさなかったみたいだね
さすが口が堅いよね?」
レオ
「? どういう意味だ?」
――先週の土曜日――
スバル
「おい、カニ……」
きぬ
「あんだよ、スバルか」
きぬ
「ちっ、レオかと思った」
スバル 無音
「!」
スバル
「……お前、泣いてんの?」
きぬ
「泣いてない! 泣いてないからな」
きぬ
「何考えてるのか知んねーけど、
レオめ、よくもボクをコケにしてくれたな……」
スバル
「あー、何て言えばいいかな」
きぬ
「よし! 復讐してるやるもんね!」
スバル 共通
「あん?」
きぬ
「あいつのこと、これから3日間シカトしてやる!」
きぬ
「そして、ボクの存在の大きさをあいつに
分からせてやるんだ」
きぬ
「そうすれば誕生日プレゼントもいいものに
なってるかもしれないしね!」
スバル 共通
「……そうだな」
きぬ
「よーし、レオめ……思いっきり寂しがらせて
ボクに素直にさせてやる!」
スバル
「……ってわけさ」
新一
「なるほど、レオはお前の為に泥をかぶった
つもりが逆効果ってわけね」
スバル
「取り付く島もねぇだろ?
あいつの口から出る言葉全部レオ、だ」
新一
「カニ、本気なんだなぁ」
新一
「ま、あの2人は怪しかったけどさ」
新一
「意外なのはお前がカニを好きだったって事」
スバル
「それレオから言われ飽きたぜ」
新一
「もっといい女いるんじゃねーの?」
スバル
「いや、あいつが最高なんだわ」
新一
「……一途なお前には気の毒としか言えないが
今の話を聞く限りお前に勝機は無い……」
スバル
「勝機が無いなら作ればいい話なんだけどな」
新一
「あ、やべ、もうこんな時間か!」
新一
「明日から補習なんだよ。しかも宿題まで
出されちまって……教科書3ページ和訳だぜ」
スバル
「悲惨なヤツ」
店長
「泣ける話デース」
新一
「店長、なんでこの店客来ないの?
カレー美味いはずなんだけど」
店長
「カニさんがバイトで入る日はイッパイ人
来るんデスけどねー」
店長
「私1人の時はお客様にせめてもの
サービスとしてインドティスト溢れるギャグを
聞かせてあげてるんデスケドネー」
新一
「原因はそれっぽいなぁ」
スバル
「さて、あの2人どーなったんだ」
………………
きぬ
「ってわけで、オメーを3日間シカトする
計画だったわけ」
レオ
「なるほどね、スバルが何となく無口だったのは
その為か……」
きぬ
「かくしてオメーはボクの計略に踊らされ
孤独に耐え切れずここまで頭下げにきたってわけ」
レオ
「ふっ、俺に一杯食わせるとは成長したな」
きぬ
「強がってる強がってる」
レオ
「うっせーよ」
レオ
「……その口は生意気だ」
レオ
「ふさいでやる」
きぬ
「んっ……」
レオ
「ん……」
キスをして、抱き寄せる。
触り慣れている肩や頬がこんなに愛しいとは。
きぬ
「おい、息荒いって……」
そのまま体重をかけて押し倒す。
カニのおでこや頬にもキスを浴びせる。
キスの位置を首筋から鎖骨へと下げていく。
柔らかくて甘い。
女の体が果実とか言われてる意味が
分かった気がする。
きぬ
「お前……ぼ、ボクをヤる気だな……」
レオ
「怖い?」
きぬ
「バカ、上等だぜ」
あっさり承諾された。
きぬ
「上等だけど、その前にきっちり言ってくり」
レオ
「う」
きぬ
「ここまで気を回さないといけないのも
どうかと思うけど、それもレオらしいよね」
ニコッと笑う。
カニは俺に好きだと言って欲しいらしい。
まぁ当然だろうな。
好きだ。
この一言を口にすれば……。
ここでまた。
過去の苦い思い出が呪縛のように浮かび上がる。
もし、またテンションに流されちまったら……。
その後に残るのは……。
悔恨、侮蔑、疎外、孤独、影口、虚無。
いいのかそれで。
あんな思いはもう沢山だったはず。
そうだ、俺はスバルの為にここまでやってたのに。
一線を越えたら意味がないじゃないか。
行動を一貫させろ。
感情を排斥しろ。
友人としてベストな行動をするんだ。
レオ
「……お前はすごく魅力的だと思う」
今度は怒らせないようにフォローの
セリフをいれておく。
レオ
「でもこれ以上は、できない」
きぬ 共通
「な……」
きぬ
「おい、ここで逃げたら週刊少年誌野郎って
言われるぞ」
レオ 無音
「……」
俺は何故か駆け出した。
何かから逃げるように。
何から? 何故?
きぬ
「あいつマジかよ、この状況で逃げるか普通」
きぬ
「し、信じられない臆病者だぜ……
普段はあれだけ余裕こいてるのに……」
きぬ
「チキンなんてもんじゃねー! ノミの心臓だ!」
じたばた。
スバル
「オイ、レオはどうだ? こっち来たか?
携帯通じねーんだよ」
スバル
「ってどうした、何一人で暴れてるんだ」
きぬ
「仲直りかと思ったらあの野郎のスキル、
臆病が発動したのさ!」
きぬ
「もうあやうくこの場で憤死するところだったね」
スバル
「あいつ、まーだグズグズしてんの?」
スバル
「……もういいや。それなら、いっそオレが」
きぬ
「え?」
………………
走り回って、気付いたらここにいた。
いつの間にか夜になっていた。
……結局今のでカニを傷つけちまって
元通りなのか?
何をどうすれば正しいんだ。
もうわけわかりません。
誰か助けてくれ。
……こんな所で人を頼るのが俺の甘さなのか。
こういう時。いつもだったら、スバルが……
スバル
「よぉ、どーした?」
レオ
「スバル……」
こいつは、いつも俺が苦しんでると
気軽に声をかけてくれたな。
だから、俺だってお前ならいいと思って……。
スバル
「ランニングついでに探そうと思ったら
いきなりビンゴだ」
レオ
「……また、カニを怒らせたかも。
いや、傷つけたかもしれない」
スバル
「そうなのか、勿体無いな」
レオ
「お前、告白しないのかよ」
スバル
「フラれたさ」
レオ
「……」
スバル
「カニから土曜日の話聞いただろ?
元々オレが出る余地は無かったのさ」
スバル
「あいつはオマエに惚れてるよ」
レオ
「でも、お前が」
スバル
「あぁ、そうだ。オレはカニが好きだぜ」
スバル
「だから、オマエがいつまでも
グズグズしているから、食っちまった」
スバル
「具合は良かったぜ?」
レオ
「……何言ってるのお前」
スバル
「初めてだったんだな、ま、
そんなもん実際確かめなくても分かるが」
レオ
「おい!」
スバル
「あいつはオマエが好きだって言うから
無理やりになっちまったけど、仕方ねぇ」
レオ
「無理やり……だと?」
スバル
「オマエ、オレのために身を引いてくれたんだろ?
だからオレも頑張ったのさ」
レオ
「なんでそんな強引に!」
スバル
「奪うって言うのはそういうモンだろ」
スバル
「オレはテンションに流されるのが
好きだからよ。オマエと違って」
レオ
「だからって、無理にしたのかよ! ふざけんな!」
レオ
「……俺はお前との関係もカニとの
関係も壊したく無かったんだよ!」
レオ
「だから、誰も傷つかないようにって努力したのに
お前よくも……」
スバル
「ただの馬鹿だぜ、それは。頭使えよ」
レオ
「裏切りやがったな……」
スバル
「裏切るってお前……ハナからオレ
なんか約束してたかよ」
スバル
「オマエが勝手に気を使っただけだろ?」
スバル
「しかもオマエは“誰も傷つかないように”とか
言ってるけど、ソレ“自分が傷つかないように”、
に言い換えときな」
レオ
「スバル!」
スバル
「何で怒るんだよ。めでたしめでたしだろ」
レオ
「カニを……強引に!」
スバル
「オマエがグズグズしてっからだボケ」
レオ
「誰のせいだと!」
スバル
「だからオレは頼んでねーだろ」
スバル
「やれやれ……話題のループだな」
レオ
「何すました顔してんだ」
思わずカッとなって胸倉をつかむ。
スバル
「喧嘩でテメェがオレにかなうかボケ」
バッ、と手が払われる。
レオ
「お前、よくも俺の好意を!」
スバル
「怒るのかよ? それテンションに身を任せてるぜ」
レオ
「ざけんな!」
怒りに任せて、スバルの顔面に拳を打ちつけた。
スバル
「がっ……」
ぶん殴ったこっちの手が痺れるほどの衝撃。
正直、スバルがまともに食らうとは思わなかった。
スバル
「ハ……は。スゲェ気合入ってるじゃねぇか……
それだけムカついたのか?」
スバル
「でもな、お前がオレとの仲とったからって
オレがそうする義理はねーんだよ」
レオ
「う……」
スバル
「勘違いも、いいところだぜ」
スバルが口から血を吐く。
意外な事に俺の拳はあいつの口の中を
切っていたらしい。
スバル
「周りがどうであろうと、オマエは自分の心に
正直に行くべきだったんだよ」
スバル
「それを我慢して、こんなところで
オレなんかに感情を爆発させていやがる」
スバル
「ただのアホゥだ。後悔先に立たず、だな」
何を好き放題……。
レオ
「お前!」
スバル
「殴りたいか? だけど逆にこっちが
殴らせてもらうぜ。それだけの理由があるんでな」
スバルがわけの分からん事を言っている。
容赦の無い一撃がきた。
学校最強の男の拳。
それを、穏健派の俺なんかが防げるわけが無い。
腹部への強烈なボディーブロー。
レオ
「ぐ……」
俺は、それだけで動けなくなってしまった。
吐かないように我慢するだけで精一杯。
そこに怒濤のような拳の弾幕が襲い掛かる。
スバルは無言だった。
俺がただ、ひたすら殴られる。
初撃に比べて威力は低いが、手数が多い。
イメージはサンドバック。
ただ顔面をボコボコにされるだけだった。
不条理だ。
殴りたいのは……いや殴っていいのは
俺のハズなのに、一方的にこっちが殴られる。
弱い、ということのペナルティなのか。
体が重く感じる。
スバルのパンチを食らう度に、頭で火花が
発生していく。
レオ
「ぐ……は」
フラフラになった俺をスバルは
余裕の目で見ていた。
スバル
「一方的だな……」
スバル
「そんなもんか。つまりオマエのカニへの
想いもそんなもんってことか?」
俺を馬鹿にする声。
まるで期待ハズレたとでも言わんばかりの口調。
……なんでそうなる。
レオ
「ふざ……けるな!」
スバル
「おらっ」
フックのような攻撃。
ゾクリと来た。
これを食らったらマジで死ぬ、そんな気さえ
する迫力があった。
レオ
「うっ」
とっさに右腕で顔面をガードするな。
ゴギッ!
なんとも嫌な音がした。
ガードした右腕がジーンと痺れる。
スバル
「抵抗せず、寝てろ」
再び拳を振りかざす。
なんとか避けたかった。
しかし、フラつく俺には体をねじるぐらいしか……
鈍い音。
瞬間、視点が反転する。
俺はそのまま地面に倒れ落ちた。
地面、じんわりと赤くなっていく。
俺も口の中を切っているらしい。
ついでに鼻血も出てる。
スバル
「オマエを殴るのは初めてだったが……」
スバル
「悪かったな。ここまでボコボコにしちまって
その右腕、イッちまってるかもしれねぇ」
スバル
「さて、オレは帰ってカニで遊ぶとしよう」
スバル
「レオもオレ達のカップルを祝福していた、と
伝えておいてやるぜ」
……今の台詞……
聞き捨て、ならねぇっ!
レオ
「待……て。誰がそんな事言ったよ」
……ほんと好き放題言ってくれる。
レオ
「お前ならいいって思って……
こんな結果になって……」
スバルは、俺やカニを身内としてではなく
他の奴らと同じように冷たく扱いやがる。
それは許されない。
許されないから、殴らなくては。
脚に力を入れる。
ガクガクとヒザが震えているが問題無い。
人間、気合でかなりの部分は何とかなるもんだ。
これは乙女さんの理論。
そして、俺は――乙女さんにここ最近
鍛えられているんだ。
なら、まだ立てるハズ。
レオ
「お前がカニを手荒に扱うヤツだったなら
もう容赦はしない、友情はとらない」
完全に立ち上がった。
体はもう無理ッス! と訴えている。
悪いが、もうちょっと頑張ってもらうぜ。
レオ
「逆に俺が、カニを……きぬを取り戻す」
スバル
「は……なんだ、根性あるじゃねーか」
スバル
「オマエとは一度も喧嘩したことないけど
今回はマジになりそーだな
いや、そんな台詞が聞けるなんて嬉しいぜ」
レオ
「……競うのはいいけど、争いは醜いんだよ」
スバル
「あ?」
レオ
「そんなヘドロのような行為は、世間の中で充分だ。
身内じゃしたくなかったんだ」
レオ
「いつまでも、あのままが良かった」
スバル
「!!」
レオ
「例え他のヤツらからアホ4人組と言われても
あの空間が心地よかったのに、
だから守ろうと努力したのに……」
レオ
「それをまぁ、良くもブチ壊してくれたぜ」
スバル
「守ろうとした? 違う。
結局はオマエ自身のためだろ」
こいつ、図星をついてきやがる。
何で俺の思考が分かるんだ。
レオ
「……あー、畜生……心が痛ければ体も痛ぇよ」
レオ
「もう一発殴らせろ!」
拳を振り上げる。
あの澄ましたイケメンにもう一発、全力で
叩き込んでやる。
スバル
「無理だ、やめとけ」
殴った手が払われる。
スバルは俺を軽く突き飛ばした。
フラフラと後退する。
口の中にたまった血を飲む。
どろりとして嫌な感触だった。
スバル
「あのままが良かった……か」
スバル
「そう、そうだな……」
あいつは動かなかった。
何か考えているようだった。
俺がもう殴ってこないと思って気を抜いている。
レオ
「ふっ」
スバルに向けて踏み込む。
動かないあいつを、遠慮せずに思いっきり殴る。
スバル
「ぐ……」
レオ
「っ!」
さらに殴る。
狙うのは顔面のみ。
スバル
「オレだって同じだぜ!」
スバルが殴り返してくる。
繰り出される拳は、腹を狙っている。
そのアッパーの軌道が知覚できた。
俺はさっきまでと違い、こいつをマジで
殴ろうと心に決めている。
つまり本気の中の本気だ、遠慮はしない。
スバルの拳は、遅い。
あの人の蹴りは稲妻のようなものだ。
それを毎日のように食らい続けていれば、
こんな攻撃。
横に避ける。
スバル
「!?」
意外そうな顔をしたスバルの顔に拳を
叩きつける。
こんな風にカウンター狙いなら、入る!
スバルと戦える。
スバル
「オレだって……いつまでもあのままがいいさ」
レオ
「だったら、何で!」
今殴った右腕は、もう痺れて動かない。
これからは、威力は落ちるが左腕で殴ってやる。
スバル
「いつまでも子供ってわけにゃいかねーんだ!」
スバルが殴ってくる。
さっきと比べ物にならないスピードだった。
避けられず、まともに食らう。
スバル
「もう、戻れないのさ」
痛みはあまり無かった。
ただ激しい衝撃に体が揺さぶられる。
何か、俺達以外にも見えない何かにも
腹を立てている。
お互いそんな感じだった。
じゃあ、何に対して俺達は怒っているのか。
分からないけど、俺とスバルは
ただお互い殴り続けた。
レオ
「戻れなくしたのはお前だ!」
俺がまた殴り返す。
左の拳での攻撃だ。
スピードはさほどないはずなのに。
スバルの顔にまともに直撃した。
スバル
「ふふ……戻れなくしたのはオレ?」
スバル
「きっかけはオマエだ!」
殴られる。
スバル
「放っておいたら
間違いなくカニとくっついていた!」
スバル
「それだけであのバランスは崩れるんだ」
スバル
「だから、オレはオマエに釘刺しといたんだよ
カニが好きだってオレが教えてな」
レオ
「そうか、あれわざと教えてきたのか。
なるほど最高のタイミングだった……
おかげで恋と友情の板ばさみだぜ」
レオ
「でもな、変わらないよ」
レオ
「例えオレとカニが付き合っても、カニが
お前達との付き合いをないがしろにすると
思うのか!?」
レオ
「お前はただ、カニが俺にとられると
思ったから、そう言ったんじゃないのか!」
スバル
「……!」
レオ
「ほーら、論破できた……」
スバルは動かなくなった。
真実を言われてショックのようだ。
レオ
「そんじゃ遠慮なく殴らせてもらうぜ」
全ての力と体重をかけた、全力パンチ。
休ませていた右腕で、俺はスバルの顔面を――
思いっきりぶん殴った。
スバル
「……っ」
そのままダウンするスバル。
気がつけば俺の体はボロボロだ。
口から血が流れる。
手は痺れている。
それでも、頭は驚くほどクリアになった。
殴り合って、何かがスッキリしたのか……。
レオ
「……スバルは偉いと思ったんだよ」
スバル
「なに?」
ダウンしながらも、スバルの意識は
しっかりしているようだ。
レオ
「俺はさ、カニを女として意識してからと
いうもの、あいつでエロい事考えちまって」
レオ
「自分が嫌になった」
レオ
「でも、お前はカニに対して真剣だと思った」
レオ
「だから、遠慮したのに……」
スバル
「……馬鹿が、そんなモンで何言ってんだテメェ」
スバル
「惚れた女を抱きたいのは当然じゃねぇか」
レオ
「そうだよな……やっぱそれで正しいんだよな」
スバル
「そんなんで迷ってたのか……アホだ、アホ」
レオ
「うるせーな俺は清純なんだよ」
スバル
「あえて苦難の道程を行くねぇ……さすが童貞」
スバル
「行けよバーカ」
レオ
「あ?」
スバル
「カニを慰めてやれ。テンションに身を任せろ」
レオ
「お前はどうすんだ」
スバル
「オレを気にかけるな。ツバでもかけて立ち去れ」
スバル
「ムカついただろ?」
レオ
「最高にな」
スバル
「じゃあ放っておいて……行けよ」
スバル
「それともまだオレにカニを譲るのか?」
レオ
「嫌だ」
そうだ、カニを慰めてやらなくちゃ。
レオ
「俺の体、いけるか?」
レオの体
「無理っす、休ませてください」
レオ
「我 慢 し ろ」
レオの体
「いつもは適度な休養を必ずくれたのに!」
レオ
「男は、気合をいれなきゃあかん時もある」
スバル
「おい、打ち所悪くて妖精でも見えてるのか。
早く行けったら」
俺は気合で駆け出した。
スバル
「よし、そうだスゲェぞ、青春まっしぐらだ」
スバル
「さて……よっぴー、そこのベンチまで
肩貸してくれ」
良美
「わ、分かってたの?」
スバル
「分かるさ、殴り合ってるときなんて
身を乗り出しすぎ」
良美
「止めようと思ったんだけどタイミング
難しくて……はい、掴まって」
スバル
「悪いな」
スバル
「最初からいたろ。
まったく覗き見なんて悪いクセだぜ」
良美
「で、でもそのおかげで伊達君は
ベンチまでたどり着けるし……」
………………
走る。
俺はただ走る。
だだだだだだだ!!
レオ
「カニ! いるか」
きぬ
「うお、何だオメェ! 顔がちょっと面白すぎるぞ」
きぬ
「つか、マジどーした? 誰にイジメられたんだよ」
レオ
「悪い、今鏡を見てしまったら決意が鈍る」
きぬ 無音
「? ? ?」
レオ
「蟹沢きぬ……」
肩を握る。
レオ
「好きだ」
きぬ
「う、うん……」
きぬ
「ボクも、好き」
レオ
「よし」
告白終了。
即時OKがもらえた。
きぬ
「……その顔の傷からみて、なんかの
罰ゲームで無理やり言ってる、とかねーか?」
レオ
「断じて違う」
レオ
「つか、ぶっちゃけお前を愛してる」
真剣な瞳で言った。
きぬ 無音
「!!」
きぬ
「そ、そうか……」
きぬ
「ようやくオメーもボクの
魅力に骨抜きになったわけだ」
レオ
「あぁ」
レオ
「告白、遅れてすまん」
きぬ
「ほんとだよ、気を揉ませやがって」
レオ
「それだけじゃない」
レオ
「お前はスバルに無理やり……」
きぬ
「は? 何言ってんの?」
レオ
「いや、だからスバルに……
あいつ、俺がさっき出て行った後来たんだろ」
きぬ
「うん、こんな感じだったよ」
………………
スバル 共通
「……もういいや。それなら、いっそオレが」
きぬ 共通
「え?」
スバル
「オレがお前達をまとめてやる」
スバル
「実はな、オレもオマエの事、女の子として
気になってた」
きぬ
「うぇ? マジ!?」
スバル
「マジ」
きぬ
「ボク、全然気がつかなかったよ」
スバル
「露骨なサインは出してないしな」
きぬ
「スバルまで虜にしちゃうなんて……ボクの
魅力もマジであなどれないね」
スバル
「そうそう。そーいう脳天気なトコも好きだぜ」
きぬ
「でもさ、スバルの好意は嬉しいけど
ボク、レオが好きなんだよね」
スバル
「……あぁ、分かってる」
スバル
「でな、オレのオマエに対する好意を知って
レオはオマエに冷たくなったわけだ」
きぬ
「は? だってあいつが譲ろうが譲るまいが
決めるのはボクじゃん」
スバル
「そーいうヤツなんだよレオは」
きぬ
「そっか……だからあんなウジウジしてたのか」
きぬ
「ほーんと、チキンのレオらしいや」
スバル
「だから許してやってくれ」
スバル
「オレは探してくる」
きぬ
「しゃあねぇな、ボクも行くか」
スバル
「オメェはそこで待機」
きぬ
「なんでさ!」
スバル
「男同士の話もある」
きぬ
「おぉ、なんかカッケェな」
スバル
「って事で行ってくるぜ」
………………
きぬ
「ってワケさ」
レオ
「だまされた!」
レオ
「スバルの野郎……ウソつきやがって!!」
何が食った、だ。
きぬ
「そっか、その傷スバルにやられたんか」
きぬ
「え、何? つまり……男同士の会話ってボクという
可憐な花を争っての熱い喧嘩だったわけ?」
レオ
「いや、それはちょっと違うと思う」
きぬ
「そうだとしてもそこは肯定しておくんだってば!」
レオ
「スバルめ。頭悪いクセに俺をダマしやがって」
少しでもあいつを疑った俺が情けない。
結局、汚れ役を買ってでてくれたのは
あいつの方だったのだ。
もう俺は迷わないぞ……。
レオ
「カニ……いや、きぬ」
きぬ 共通
「う……」
レオ
「名前はやっぱダメか?」
きぬ
「ううん、きぬって名前は好きじゃねーけど
今のレオに言われっと悪くないね」
レオ
「そっか、じゃあこれからは名前で呼ぶわ」
そう言ってキスする。
きぬ
「――ん……」
激しい戦いで消耗してるにも関わらず。
俺はカニ……いや、きぬを欲している。
レオ
「ぷはっ……抱いていい?」
きぬ
「う、うわストレートだな」
きぬ
「い、いいよ」
レオ
「お前、ほんと一瞬でOKくれるな」
きぬ
「オメーが今までモタモタしてただけだろ」
レオ
「今の俺の顔、血が滲んだりしてるけど」
きぬ
「ボクが舐めてなおしてやるよ」
レオ
「ん……それじゃ……」
いや、待て。
ゴムが無いじゃないか。
あ、そういえば。
サイフを見る。
フカヒレが仕込んであったゴム発見。
感謝するぜ。
……一つしかないけど。
きぬ
「それ、ゴムって奴だよね? 用意いいなオメー」
レオ
「つけたほうがいいだろ?」
きぬ
「……ボクはどっちでもいいよ」
レオ
「大丈夫、俺だってマナーは心得てるぜ」
レオ
「ほら、きぬはベッドで待機」
きぬ
「待ってよ服脱ぐから!」
レオ
「あ、俺が一枚ずつ脱がすからそのままでいいよ」
きぬ
「エ」
レオ
「さぁ、はやくはやく」
きぬ
「う、うん」
レオ
「がうがうがう!」
きぬ
「が、がっつくなよな」
レオ
「早く俺のモノにしたいんだ」
素直になった俺はノーブレーキ。
レオ
「電気は……消すか?」
きぬ
「うん……やっぱり恥ずかしいし」
レオ
「よし、消そう。俺は紳士だからな」
俺の顔もさらに腫れ上がってくるはず。
カニが気分壊しちゃ悪い。
暗い方が都合がいいのだ。
………………
俺の体も素直、というか。
いざ女のコを抱こうとすると、しっかり
動いてくれるんだからな。
きぬ 無音
「……」
レオ
「……俺、初めてでいろいろヘタかと思うけど」
きぬ
「ま、まぁボクも初めてだし、あいこだね」
レオ
「頑張って気持ちよくしてやる。忘れられない
初体験にさせてやる」
きぬ
「オメー、ヘタレでチキンなんだから無理すんな」
レオ
「うるさい、生まれたままの姿にしてやる!」
きぬに手を伸ばす。
きぬ 無音
「……」
ちょっと横を向きやがった。
レオ
「恥ずかしいのは分かるが」
しっかりと俺の方を見るように顔をセットする。
きぬ
「うー」
柔らかい首筋や、頬はいつも触ってるけど。
こういう目的で触るといつもより温度が全然違う。
熱く感じる。
手をだんだん下にさげていく。
服の上から容赦なく女体に触る。
小さな胸も、ふともももアソコもさするように
撫でてやる。
きぬ
「んん……」
レオ
「気持ちいいのか?」
きぬ
「なんかね、くすぐったい」
まだまだソフトタッチだからな。
すべすべのふとももをベタベタと撫で回す。
きぬは胸が無い代わりに、ふとももの
肉付きが良い気がするのだ。
きぬ
「ふ……ぁ」
こいつ、可愛いじゃねぇか。
なんで俺は今まで放っておいたんだ。
レオ
「服、脱がす」
スカートをめくりながら問いかける。
きぬ
「ん……」
なんか素直でいいな。
レオ
「下着姿……」
あれだけ活動的なのにシミや不純物が
みあたらない、白い肌。
そしてやはり、こいつは脚線がキレイだ。
レオ
「色っぽくて素敵だぞ」
きぬ
「うん。まぁボクはセクシーだからね」
きぬの白い素肌を撫でていく。
すべすべ……というかなんと言うか。
肌なんか柔らかいというより、すいつくような。
へそとか、きわどい所を撫でると
きぬの体に緊張が走る。
レオ
「固くなるな……固いのは俺の威風堂々とした
モノだけで充分だ」
きぬ 無音
「……」
捨て身のギャグがスルーされた。
というか、確かにムードも大事だけど
お前がそんなカチコチだと俺も緊張するんだよ。
カチコチだった俺のペニスも萎える。
このままではいけない。
吸血鬼のように、きぬの喉もとに吸い付く。
きぬ
「んんっ」
うっすらと汗ばんでいて、舐めごたえが
ありそうだったからだ。
若さに満ち溢れた肌は、舐めるだけで
こっちがまた一気に勃起するほどだった。
よし、勢いづいてきた。
俺はきぬの股間をかぱっ、と開いた。
きぬ
「やっ……」
レオ
「う」
なんて可愛い声を出しやがる。
これがあのカニか?
レオ
「ご、ごめんがっつき過ぎた」
お詫びに軽くキスする。
きぬ
「ん……ふ」
レオ
「……続けていいな?」
きぬ
「うん……」
返事が殊勝なのは反則だ。
下着姿の美少女がより可愛く見えるではないか。
こいつ下半身に行くと緊張するんだよな。
試しに下着の上から、するっと股間を撫でてみた。
きぬ
「あっ」
体がビクンッと震えた。
きぬは下の方をいじられると恥ずかしくて
俯いてしまうらしい。
会話しながらやるとリズムがいいのにな……。
よし、じゃあ上半身からいこう。
レオ
「ブラ外すぞ」
きぬ
「うん……やり方わかる?」
レオ
「ホックがここで……肩ヒモを」
レオ
「おお、外せた……って」
正直申しまして、小さいです。
レオ
「きぬ、胸も可愛いぜ」
気配り。
きぬ
「うるせ……ばか」
手にすっぽりとおさまる乳房。
う……これはこれで。
軽く揉んでみる。
レオ
「どう?」
きぬ
「まだ……ちょっとくすぐったい方が強いかな」
レオ
「そ、そうなんだ」
ぐいっと力をいれてみる。
きぬ
「痛っ……」
レオ
「ご、ごめん」
女の子ってほんとデリケートなんだな。
少し前までスバルと殴り合いしてたから
余計にそう思うぜ。
なるべく優しく揉んであげよう。
むにむにとした感触。
これだと、くすぐったいだけなのかな。
反応どうなんですか、蟹沢さん。
きぬの顔をのぞきこむ。
きぬ
「ぅあ……じっと見んなよ」
顔をより赤くして照れている。
こいつ……芸能人より可愛いんじゃねぇか?
レオ
「声、出していいからな」
きぬ 共通
「うん……」
レオ
「というか声出してくれ、俺も緊張してるんだ」
きぬ
「男なのに……チキンだね」
そうそう、その調子だきぬ。
俺達のリズムで進めていこう。
優しく胸を揉み続ける。
こっちが揉むと、健気に押し返してくる
弾力が可愛い。
手の動きをとめれば、きぬの
心臓の鼓動がトクンと伝わってくる。
ピンク色の先端を、そっとつまみあげた。
きぬ
「んんっ……」
いちいち股間を刺激してくれる声をあげてくれる。
きぬ
「んあっ、そんなとこばっか触るな……」
レオ
「フム、それは拒否する」
すりすりと指で擦っているうちに、
乳首は固くなってきた。
レオ
「すげ……ほんとにこんな固くなるんだ」
レオ
「気持ちいいんじゃないの?」
きぬ
「んだよ……そんな風に聞くんか」
レオ
「言わないなら体に聞いてやる」
乳首に軽く痛くないと思われる程度に爪を立てる。
きぬ
「あっ……」
レオ
「刺激強かったか? じゃあ優しく擦ってやる」
今度は指の腹でコリコリとマッサージしてやった。
きぬ
「……あ……や……んん、ん」
レオ
「いちいち可愛い声あげるからいじめちまうんだ」
きぬ
「んっ……ちょっと、指はなして……」
レオ
「痛い?」
きぬ
「ううん、なんか変だよボク……」
レオ
「それ、多分感じてるってことだと思う」
指を離してやると、乳首は生意気にもツンと
尖っていた。
レオ
「舐めていい?」
きぬ
「えっ……だめ……うぁっ、すでに舐めてるじゃん」
乳首をはむっと口に含み、唾液でぬめぬめした
舌先で舐め転がしてみた。
きぬ
「ちょっ……やんっ、えろい……その舐め方
えろいって!」
レオ
「エロい事してんだ、当然だろ」
レオ
「まさか、きぬともあろうものが
これぐらいで音をあげるのか?」
きぬ
「な、何言ってるの? ボクがそんな
ナメナメ攻撃に屈するわけがないもんね」
レオ
「ん……じゃ乳首舐めよ」
きぬ
「ふぁっ……あっ……あううっ」
……ほんと可愛いヤツだな。
歯を使ってみるか。
俺の口の中で捕虜となっている乳首を
軽く甘噛みしてみた。
きぬ
「あ、……こ……このエロ野郎………」
よし、俺絶好調。
男として自信が出てきたぜ。
俺の唾液でテカテカと光る乳首を
観察してから、視線を下に映す。
そろそろ下の方に行かないと、こっちの股間が
持たない。
きぬの柔らかい肌を舌でなぞりながら、
股間へと向かっていく。
きぬ 共通
「んん……」
くすぐったそうだが、今はコレでいい。
急に触ると驚くので、舌をゆっくりと少しずつ
進めていくんだ。
へその周辺を舐めてから、じわじわと下へ。
きぬ
「う……うぅ……」
どうしても、下着に行こうとすると力むな。
よし、じゃあ脚から上の方に登ってみよう。
足首にキスし、ふくらはぎからふとももへと
登っていく。
きぬの下着を観察。
ちょっとだけ膨らんでいる部分に指を置く。
柔らかい肉の感触が下着越しに伝わってきた。
きぬ
「く……そこは……」
レオ
「力むなって、別に痛くもなんともないだろ?」
きぬ 共通
「う、うん」
レオ
「別に痛くしないから、安心しろ」
試しに、縦に優しく指を動かしてやった。
レオ
「痛くないだろ?」
きぬ
「う、うん……それぐらいなら、ん、へーき」
少しずつ指に力をいれてみよう。
強く押せば、縦のスジがはっきり分かる。
これにあわせて指を動かしていく。
レオ
「……はぁ……はぁ」
いかん、呼吸が。
まぁ女のコの股間をいじってれば反応もするか。
指を離して、下着に顔を近づける。
きぬ
「な、何すんの……」
レオ
「匂いをかいだり、舐めたり」
きぬ
「い、いきなりそんな恥ずかしいのはヤだって」
レオ
「いいだろ」
きぬ
「だ……ダメだって」
レオ
「いいだろ、きぬ」
きぬ 共通
「うー」
レオ
「好きだぞ」
きぬ
「うぅ……こいつ手に負えねぇスケベだよ」
レオ
「ごめんな、お前が可愛いのがいけないんだぜ」
きぬ
「そうか……可愛いのも考えモンだね」
会話に気をとられているスキに顔を接近させる。
そして鼻でクンクンと匂いをかいでみた。
薄いパンツ越しに甘い香りがほのかに漂ってくる。
きぬ
「は、恥ずいぜ」
顔を両手で包む。
こっちはやりたい放題だ。
しましまの下着の上から、舌でなぞるように
舐めあげる。
レオ
「……濡れてきたぜ。透けて見える」
きぬ
「そんなにヤラしく言うな!
官能小説みたいに言うな!」
レオ
「だからなんで知ってるの蟹沢きぬさん」
きぬ
「う……ふ、フカヒレの家で見たんだよ
別にボクが持ってるわけじゃなくて……」
レオ
「下着、おろすぞ」
きぬ
「うー、い、いいよ」
ふとももを這うようにして指を滑らせていく。
きぬは恥ずかしいのか目をつぶってしまった。
下着に手をかける。
レオ
「う……ほかほかだ」
そのまま下着を下ろしていく。
レオ
「丸見えだ」
きぬの薄く生えている部分も、秘裂も
全てが剥き出しになった。
きぬ
「〜〜そんなジロジロ見るなよ」
きぬはふとももをすり合わせてモジモジしている。
レオ
「いや、じっくり見るぞ」
きぬ
「あっ、やっ……」
そのまま脚をパッカリ開かせた。
そして、脚に引っ掛かっていた下着を完全に
剥ぎ取った。
レオ
「このパンツは、俺が預かっておく!」
きぬ
「ええっ……! 何をいいますか」
きぬ
「汚れてるからダメだって」
レオ
「だからもらうんだよ」
笑顔で言った。
きぬ
「うぉぉ……こいつムッツリスケベだぁ!」
レオ
「そうだ。そしてお前はムッツリの前で
全裸になっているんだぜぇ」
きぬの秘裂を指でクニクニと触ってあげた。
入口がねっとりとしている。
きぬ
「うぁっ……あ」
レオ
「しめってる……」
きぬ
「口に出して言うな、バカぁ!」
レオ
「しめってる……」
きぬ
「に、2回も言いやがった……こいつ鬼畜だよ」
うっすら毛が生えているのが意外だよな。
これぐらい濡れてるなら、もう大丈夫かな。
というか、もうこっちが我慢できない。
コンドームの袋を破った。
ん、これをかぶせればいいのか?
レオ
「装着!」
レオ
「く……上手くセットできん」
まずい、高ぶりが冷めてしまう。
レオ
「きぬ」
俺はきぬの手をとり、それをそのまま
彼女の股間へと導いた。
レオ
「自分でいじくってみ?」
きぬ
「な、なんだ自慰観察プレイか? 初めてで
そんなん過酷だって、恥ずかしいよ」
いやいやしているきぬの唇を奪う。
きぬ
「んっ……んんっ」
そして、舌を強引に口内に侵入させる。
俺の舌が、彼女のぬめった舌を見つけて
蛇のように絡みついた。
きぬ
「んあ……んっ、んっ、ん……」
歯茎の裏などをレロレロと舐めまわしてやる。
きぬ
「んっ……んあ……んんっ……ぷはっ」
いきなりのディープキスにきぬは
ボーッとしていた。
レオ
「ほら、手を動かしてみ?」
きぬ 共通
「ん……」
きぬがもそもそと手を動かし始めた。
よし、これできぬはソフトな刺激を自分の
股間に与え続けるだろう。
この間にコンドームをセットせねば。
……くそ、モタついている暇は無い。
落ち着いてっと。
よし、出来た。
初めてつけたけど思ったより違和感は無いぞ。
レオ
「お待たせ……」
きぬ
「ん……こっちも大丈夫だと思う」
きぬの秘裂は、確かに濡れているし
ぴっちり閉じてはいない。
わずかだが、奥の部分まで見えている。
レオ
「……あのさ、本(←エロ本)で、なるべく
痛くない体位は後ろからって見たんだけど」
きぬ
「ん……こんな感じ?」
レオ
「そうそう」
きぬ
「なんかこれスッゲェ恥ずかしい格好なんだけど」
レオ
「犬みたいな格好だからな」
きぬ
「いきなりこんなカッコさせるなんて……
これから先ボクはどんなエッチな事されるんだろ」
レオ
「エッチな事じゃあない、ステキな事だっ!」
きぬの後ろに回りこむ。
……いよいよ、童貞を卒業する瞬間が来た。
さらばフカヒレ、仲間だなスバル。
幼馴染で筆おろしとは。
レオ
「……い、行くぞ……痛かったら左手上げてくれ」
きぬ
「……お、おうよ……」
きぬがいつもの口調で強がってた。
自らのペニスを手でもって、膣口をさぐる。
だいたいの場所は検討ついてるんだが……。
レオ
「こ、ここか……?」
入らない?
つうか穴が無い?
こ、これ難しくないか。
よくみんなスムーズにできるな。
きぬ
「痛っ……そ、そこじゃないってば……」
レオ
「すまんが言葉でリードしてくれ」
きぬ
「えー、えーと、ち、ちん……じゃなくて」
レオ
「直接表現が恥ずかしいなら比喩でいいぞ」
レオ
「できるだけ俺のプライドが満足できる
例えでお願いする」
きぬ
「砲身の角度を下に修正……されたし」
レオ
「もうちょっと↓か……こ、ここかな」
粘液でヌルッとすべってしまう。
きぬ
「んっ」
きぬがビクンと震えた。
レオ
「こ、こら、お尻揺らすな狙いがずれる」
ぴしゃり、と優しくお尻に平手打ち。
きぬ
「す、すげー恥ずかしい……」
恥ずかしいのはこっちも同じだ。
なんせなかなか入らない。男としてどうなの?
きぬ
「下にいきすぎ……もうちょっとだけ上」
も、もう少し↑か?
電気つけて確かめたい気分だぜ。
ん? あ、あった……穴があった。
ここか。
レオ
「……んっ……」
腰を前に出す。
入りそう。
きぬ
「い!? えぇっ!?」
抵抗感。
レオ
「う、くっ、確かにこれはキツイかも」
きぬ
「ちょ、ちょっと待って」
レオ
「はぁ、はぁ、はぁ――」
きぬ
「ハァハァしないでお、落ち着け!」
レオ
「はぁ、はぁ、はぁ」
レオ
「――いける!」
きぬ
「いくな、そっち違――あぅっ」
肉にめりこむような感触。
レオ
「な、なんとか俺のも入りそうだぞ」
亀頭の部分がギュッと締め付けられている。
レオ
「う、キツ……」
きぬ
「あっ、ふぁ……くっ、痛」
とんでもない締め付け。
思わず歯を食いしばる。
これはもしや名器というやつか……?
さらに腰を突き出す。
きぬ
「ああぁっ、や、やめろこのバカっ!!!」
カニが左手を上げた。
きぬ
「ああああっ!」
処女なんだから、痛いのは当然だ。
というか、俺もすんごい締め付けられていて
気持ちいいというより、痛いぜ。
レオ
「だ、大丈夫だ」
きぬ
「なっ、何が大丈夫だ、バカ! そこ違……」
レオ
「俺に任せろ」
できるだけ笑顔で言ってあげた。
そして腰を進める。
きぬ
「――あっ、痛っ、ぁっ、あぁ」
さらにすさまじい締め付け。
レオ
「ぐっ……これは凄すぎる……これがSEX」
とはいえこれは、いくらなんでもきつすぎるっ!
きぬ
「ぬ、抜けぇっ、抜けってば!」
レオ
「く……あぁ、つうかこれ以上進めねぇ」
亀頭が埋って、少し進めたところで限界だった。
……ドクッ!
俺はこらえる間もなく射精してしまった。
レオ
「くっ……ああぁっ」
レオ
「い、いきなりイっちまって悪い」
ゴム1つダメにしちまって……。
きぬ
「……の……ばか……」
レオ
「ん?」
きぬ
「こ、このバカって、い、言ったんだよ」
レオ
「お前な。素直じゃないにもほどがあるぞ
確かに早かったのは謝るが……」
きぬ
「ど、どこに突き刺さってるか……よく……見ろ」
レオ
「どこって、お前」
SEXしたんだから、当然アソコだろ?
……あれ?
落ち着いて目をこらしてみてみた。
なんかずいぶん、上の方の穴に
刺さっていらっしゃる。
レオ
「こっちは俗にいうお尻の穴では?」
きぬ
「そう何個も穴ねーよ! そうだよ!」
レオ
「何!!」
レオ
「す、すまん。うちの愚息が誠に失礼なことを……」
きぬ
「お、親が親なら子も子だよ!」
慌てて引き抜こうとする。
きぬ
「くぅっっ……」
ぬ、とペニスを引き抜いた。
きぬ
「あうっ…………はぁっ、はぁっ、はぁっ」
レオ
「な、なんてことだ……衝撃の肛虐デビューだよ」
いきなり尻の穴を掘ってしまうなんて。
アナル・アナリストの汚名を背負ってしまう。
レオ
「尻で童貞捨てるなんて俺は自分が情けない」
きぬ
「掘られた方がもっと情けないわボケェ!」
きぬ
「もう、なんか違和感+痛いんだけど、おい!」
レオ
「すまん……」
きぬ
「なんでロマンチックに決められないかなぁ
頼むよホント……」
レオ
「ゴムつけておいてよかった……バイキン入って
腫れるところだったぜ」
きぬ
「し、失礼なコト言うなよな!
淑女の尻なんて世界で最も清潔な場所ですよ!」
きぬ
「……うぅ、またチクッときたぁ」
レオ
「すまん、ムード壊して」
きぬ
「そのヘタれた所がいかにもレオらしいけどさぁ」
レオ
「痛いところさすってやる」
白い脚の間に指を滑り込ませる。
レオ
「……ここだろ」
カニの後ろの穴を、人差し指の腹で優しく
スルリと撫でてあげた。
きぬ
「……うひゃあ、ちょ、ちょっと!!」
もっとも恥ずかしい部分を撫でられたせいか
ソプラノ声で抗議してくる。
レオ
「痛いか?」
きぬ
「ううん、なんかムズがゆいっていうか」
きぬ
「あっ……でもちょっと、気持ち良いかも」
レオ
「じゃ撫で続けるぞ」
きぬ 共通
「うー」
レオ
「指濡らしてやってやる」
自分の指に唾液をまぶしてから、
再びきぬの後ろの穴へ。
可愛い穴をスリスリとさすってやる。
きぬ
「うわぁぁ……なんかアブノーマル」
レオ
「声が少し色っぽいぞ」
レオ
「これなら休憩しつつ、気分維持できるだろ」
きぬ
「そっちは……もう、ふっ、復活?」
レオ
「あぁ……だけどゴムが無い……」
レオ
「……このままナマでいい?」
一回射精したから、余裕できて
外に出すようコントロール出来るかも。
きぬ
「別にボク安全日ってヤツじゃねーと思うぞ
ごくフツーの日だ」
きぬ
「でも、レオなら中で出してもいーし」
レオ
「……ん」
ちなみにHする時にゴムつけない割合は
日本は世界の統計で、非常に高い位置に
ランクインしてるらしい。
俺達もそれに協力してしまった。
再び挿入体勢をとる。
レオ
「今度は大丈夫だ、力を抜いてくれ」
一発出したことで落ち着いた。
潤んでいる秘唇を亀頭で探る。
奥にある膣口……。
レオ
「……ここ?」
前科一犯のため確認。
きぬ
「うん、そこ……」
なんかマヌケなやり取りだった。
レオ
「じゃあ、今度こそいくぞ」
きぬ 無音
「(こくり)」
汚れていない粘膜は、とてもデリケートそう。
このままズブッと差し込んだら可哀想だ。
レオ
「ん……少しずつ」
膣口を亀頭のさらに先端で圧迫してみる。
きぬ
「くぅっ……」
きぬの奥の方から、さらなる愛液が
とろりとあふれ出てきたらしい。
亀頭が温かいその液を浴びる。
レオ
「なか、熱いな」
きぬ
「うっ……レオの方が、よっぽど熱いって……」
そんな事を言いながら、振り向いてくるきぬ。
本当に熱いからか、羞恥からか顔は真っ赤だった。
素直に可愛いと思った。
レオ
「よし。濡れてるおかげで、なんとか入りそうだ」
ゆっくりと腰を突き出していく。
きぬ
「くっ……う」
膣口を押し開いていくのが分かる。
このままこじ開けるようにして、さらに奥へ。
きぬ
「……あぁぁっ……」
レオ
「これ、このまま入りそう」
ぷつっ…
無理やり何かを突破した感触。
きぬ
「痛ぅっ……ぐっ……」
きぬが細い体をピクピクと震わせている。
レオ
「おい、大丈夫か?」
きぬ
「う、うん……へ−き」
レオ
「な、なんか声まで震えているぞ。泣いてないか?」
きぬ
「泣いて……ないもんね」
これが、こいつの意地なんだろう。
よく見れば、こいつの可愛かった秘裂には、
ずっぽりと俺のペニスが埋められているし。
しかも、この中から出てきたのは。
血……だよな。
幼馴染の処女……か、なんか興奮する。
しかも、こいつの中……グイグイ締め付けて
きて……なんか、持ち主と同じく攻撃的っていうか。
完全に密着している俺ときぬの膣壁。
レオ
「まだ……中にはいるはず」
動きを再開する。
きぬ
「んくっ……まだ入ってくる」
きぬが顔をピクンとあげた。
レオ
「そ、そうだ。ま、まだ……全部じゃないからな」
ズリズリと肉壁を擦りあげながら、内部へと
進んでいく。
この摩擦で、腰がビリビリ痺れるようだ。
レオ
「む、無理はすんなよ」
きぬ
「だ、大丈夫だって……心配ショーだな」
レオ
「じゃ、さらに」
ずずっ、と限界まで押し入れる。
結合部から蜜が溢れてきた。
きぬ
「あ……ん、んんっ…」
レオ
「くっ……ううっ」
俺も情けなく喘いでいた。
こんな、隙間なくぴっちり締め付けてくるなんて。
まだ動いてないのに射精してしまいそうだ。
きぬ
「んん……レオ…………」
甘い声で俺の名前を呼ぶ。
レオ
「きぬ……動くからな」
きぬ
「う、ん……」
返事とともに、内部がさらにキュッとしまった。
どうせ出るなら、動かないと……。
きぬの粘液を吸った俺のペニスをゆっくり動かす。
きぬ
「ぅ……う……」
きぬの形の良い尻をむにっと掴み、射精の時間を
引き伸ばすべく踏ん張る。
ある程度、ペニスを引き出したらまた中に戻す。
きぬ
「……はーっ、……はーっ……」
俺が挿入する動きに対しては、きぬは
息を吐いて痛みに耐えているようだった。
可愛い幼馴染の反応に、俺はさらに獣みたいな
思考になってしまった。
この粘膜を楽しみたい、と。
腰の動きを早める。
きぬ
「うっ……あっ……あうっ……」
まだ痛みの残るきぬの声。
当たり前だ。
きぬ
「ふあっ、あッ……んッ! す、スゲ……
へ、変に……なりそ……あッ」
俺はテクニックなんてもってない、ただの
ピストン運動とかいうヤツだ。
勢いに任せて、ズンッときぬの膣壁を
こすっていく。
尻の穴で出していなかったら間違いなく
果てていただろう。
この体位って、お尻の穴丸見えなんだよな。
レオ
「……」
さっき挿入してしまった尻穴に、濡れた
人差し指を入れてみた。
きぬ
「くッ……またそこっ……あッ」
尻穴に指を入れた瞬間、俺のペニスに
ぴっちりとまとわりついている肉が、
キュウッ、と締め上げてきた。
レオ
「お……いきなりすごい……」
俺は情けない声を上げてなんとか射精をこらえた。
レオ
「きぬ、気持ちよかったのか?
凄かったぞ、今の動き」
きぬ
「う、うっさい……指……抜け……変態」
レオ
「あぁ、こんな締め付けされたら次は耐えられない」
尻から指を抜き、感覚をペニスに集中させる。
あと少しなら持ちそうだ。
きぬの尻に、腰をさらに強く打ち付けた。
きぬ
「はぁっ、はぁっ……」
きぬの背中がじっとりと汗ばんでいる。
きぬ
「あっ、くっ……レオ、もっと……」
レオ
「……あぁ、遠慮しない」
さらに勢いをつけて突いていく。
きぬ
「あッ! あッ……あ、あっ……すご……い」
初めて味わう女の体……。
なんて甘美なんだろう。
まずい、これは病みつきになりそうだ。
テンションとかそういう問題じゃないぞ。
きぬ
「くっ……あっ」
レオ
「ふっ……はっ」
互いの呼吸を合わせる。
カニも少しずつ気持ち良くなってきたようだ。
しかし、これ以上粘膜の締め付けには
勝てない。
駄目だ……。出ちまう。
でも、一度尻で抜いただけある。
外にペニスを引きずり出す時間はあるとみた。
俺は……
外で出す
中で出す
レオ
「くうっ……」
きぬ
「うあんっ」
暴発する前にズルッと勢い良くペニスを引き抜く。
ドクッ……
尿道から噴き出た精液が、そのまま狙ったように
お尻の割れ目に着弾した。
レオ
「はぁ……はぁっ……はぁっ」
きぬのお尻にそのまま出せるだけ
精液をふりかける。
それがお尻の穴に当たったりする。
レオ
「わ、わざとじゃないってば」
きぬは動けないのか、四つん這いに
なったままだった。
レオ
「くはっ……」
考えている余裕なんてなかった。
それどころかきぬの一番深いところに
ペニスが突き刺さっている気がする。
それでも止めようがない。
レオ
「ん、出る……っ」
ドピュッ!
きぬの中に熱い精液を勢い良く注ぎ込む。
きぬ
「あぁ……あ……はいってきてる……」
後はひたすら流し込むだけだった。
ドク、ドク、ドク、ドクッ……。
まるで心臓の鼓動のようなリズムで
きぬの膣内に流し込まれていく俺の精液。
きぬ
「はぁ……はぁ……はぁ……スゲェ、
まだ続いてるよ……」
きぬは動けないのか、四つん這いに
なって精液を受け止めるままだった。
お互いに、ようやく呼吸が落ち着いてきた。
なるほど、祈先生の予言の意味が分かったぜ。
破瓜の血を流してベッドに倒れているきぬ。
そして、きぬを挿したのは俺だ。
確かに必ず当たる予言ではあるな……。
自分の精液をティシュでふき取りながら
そんな事を関心していた。
きぬ
「ふぅ……ふぅ……よし、休憩終わり」
レオ
「なんですと?」
きぬ
「また、しようよ」
レオ
「体大丈夫なのか?」
きぬ
「おうよ、どっちかっていうと今も
尻の方が痛かったからな」
レオ
「ぬぐ……その件についてはマジすまん」
レオ
「でもそれなら、なおさら無理すんな
別にこれからはいつでも……」
きぬ
「10年……以上……だぞ」
レオ
「ん?」
きぬ
「悲願達成ってやつでさ」
ぐいっと、身を寄せてきた。
きぬ
「1回だけじゃ終われないって……
まだまだ満足できないよ」
レオ
「お前」
きぬ
「確かに体は痛いけどさ……」
きぬ
「もっとレオを感じていたい……」
レオ
「な」
きぬ
「あと、ボクの体に溺れさせて
逃がさないようにしてやる」
レオ
「もう溺れてるさ、とっくに」
きぬ
「つうかレオの方は、大丈夫?
なんかへにゃってなってるけど」
レオ
「バカ、溺れてるって言ったろ」
生まれたままのきぬの体を正面から見る。
これだけで充分にエレクトだ。
レオ
「モーニング・コールしてみろ」
きぬ
「トゥルルルルルル」
シャキーン!
レオ
「ほら勃(お)きた」
きぬ
「わ! わ、すげぇ。なんかムクムクと」
レオ
「もっとだ……もっと輝け!」
ぐぐぐ……ぐ!
完全に復活した。
きぬ相手じゃなきゃこんなお下劣なギャグ
やれないな。
レオ
「見て分かる通り、俺のほうはむしろ願ったりだ」
きぬ
「ん、じゃあ次はボクがレオに乗っかるね」
レオ
「え、後ろからの方が良くないか?」
きぬ
「顔を見ながらしたいんだって……
分かってよこのピュアハートを」
レオ
「う……」
可愛いやつ。
レオ
「じゃあ、このまま入ってくる?」
きぬ
「うん……でもその前に一回キス」
レオ
「ん」
きぬ
「んー♪」
あぁ、幸せだ。
………………
ズヌッ……
きぬ
「くっ……はぁぁぁ」
ペニスが膣口から中へ中へと沈んでいく。
レオ
「くぅ……」
射精して敏感になった亀頭に、またこの
ぴっちりした締め付け感覚。
きぬ
「ああっ、ああああっっ」
きぬの中は、さらに中へ中へとグイグイ
引きこむように動いている気がする。
す、すごく気持ちいい。
情けない事にこの快感に慣れてない俺の
ペニスは早くも限界を迎えていた。
なんとか射精をこらえないと。
きぬ
「んっ、ボクも、動く、よっ」
痛みと甘みが入り混じった声。
きぬ
「んんっ……ん」
きぬが腰をくいっと動かした。
膣壁に亀頭がズリッと擦られる。
レオ
「あ……れ?」
ぞくり、と体から何かがこみあげてきた。
その瞬間、ペニスから熱い塊が弾ける。
きぬ
「んあっ!? あっ、あっ」
熱い精液が思い切り中で放出されていた。
どびゅっ……!
きぬ
「あっ、あぁぁ、で、出てるっ……」
ビュっ…、ビュクっ…。
レオ
「あっ……あぁぁぁっ、すまんっ」
コントロールすることも出来ず、あっという間に
射精してしまった。
きぬ
「くっ……んっ、まだ出てるね」
3回目とは思えないぐらい出てる。
レオ
「あ、ありのままを言うぜ……気がついたら
俺はすでに射精していた……」
あっという間にきぬの中を満たしてしまった。
レオ
「な、なぜこんなに早く……」
結合部から精液がトロリと流れ出てきた。
そっか、バックの時と違ってきぬも
動いてくるから、自分のペースで出来ないんだ。
きぬ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……
すげぇ出たね」
レオ
「す、すまん早くて」
きぬ
「だ、大丈夫、んっ」
きぬ 共通
「んっ……んんっ」
レオ
「えっ、おい」
きぬが再び動き始めた。
きぬ
「んんっ、あ、やっぱ痛ぇ……けど、
ん、気持ちいいっ」
レオ
「くぅっ、お前……」
射精しおえた後なのに腰を動かしやがって。
だが、驚く事に萎えかけてきたペニスが
きぬの中で一気に硬直化したのだ。
きぬ
「あっ、ま、また硬くなった?」
レオ
「そうみたいっ」
すげ……まだ出来そうだ。
きぬ
「レオっ……」
レオ
「きぬっ……」
顔を見ながら腰を動かす。
きぬ
「んあっ……あっ、ふぁぁっ、れおっ」
レオ
「んっ……んんっ」
ただお互いの粘膜を擦り合わせる。
あれ、なんか右腕動かないや。
ええい、いいや。左手で触ろう。
ほったらかしにされていた
きぬの乳首を指先でコリコリと刺激してあげた。
きぬ
「くあっ、あぁんっ」
なんて可愛い声とは裏腹に、またぎっちり
締めつけてきた。
まるでこの乳首がきぬの締め付け感度を
調整するダイヤルみたいだ。
指先でねちっこく刺激してみる。
きぬ
「んあぁっ、レオっ」
締め付け+きぬ腰動かす=快感=俺射精。
レオ
「うああっ、また出る!」
きぬ
「あっ、あぁっ、あっ、あっ」
もう充分注ぎ込まれているのに、再び
俺は射精した。
だが射精されながらもきぬは腰の動きを止めない。
レオ
「おっ……おおおっ……お前」
射精しながらも続けるセックス。
きぬ
「んっ、れお、れお、れおぉっ……」
レオ
「くぅっ……上等だきぬ」
俺を求める甘い声に答えず何が男か。
ペニスが中でググッ、と膨張しているではないか。
すげぇ、早漏な分復活も早い!
出しても出しても蘇る。
フェニックスと呼びたい。
きぬ
「んっ、んっ、んっ、んっ」
既に自分から動いているきぬに俺も合わせて
腰を突き出す。
きぬ
「あ、ああ、あっ、あっ」
獣のように腰を動かす。
レオ
「きぬ……きぬ……」
きぬ
「れお……れおっ」
ただ勢いに任せてお互いを求め合う。
ただ、擦られるままに。
きぬ
「んああッ、んっ、んんっ」
我慢などせず、またも俺は精液を射出した。
きぬ
「たりない、まだ、たりないっ」
だがきぬは動く。
きぬ
「好きっ……だからもっと……もっと」
つまり満足していないらしい。
きぬ
「好きぃ……好き……」
きぬが求めるように激しく動き……。
俺は射精して……。
きぬはなお動き。
俺は射精。
きぬ動く。
俺射精。
きぬ。
俺。
……………………
蟹沢家1階。
ギシギシ。
きぬ
「あーっ、あっ、んっ、ああンッ」
マダム
「……これで出涸らしの貰い手は見つかった、と」
……………………
レオ
「はぁ……はぁ……はぁ……」
きぬ 共通
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
事が終わった後も息が荒い。
2人とももう満足に動けなかった。
というか、抜かずに何発やったんだ?
数えたら、凄いことになってるぞオイ。
10回近くもイッた気がする。
レオ
「……なんか、一気に体力使い切った」
もともとスバルとケンカしたしな。
きぬ
「ボクも……腰が痛いし重いし……幸せだけどね」
レオ
「それじゃ……いったん普通に寝るか?」
というか放っておいても寝るだろう。
下半身の感覚が無い。
きぬ
「うん、そうだね、体力回復させようぜ」
ピトッとくっついてくるきぬ。
レオ
「おやすみ」
俺はきぬを引き剥がし、壁と向かい合って寝た。
きぬ
「つっ、冷たいよ、何でボクに背中向けてるの?」
きぬ
「終わったあとはタバコふかして女に腕枕して
お互いの心にうつりゆくよしなし事を、
そこはかとなく語り合うんじゃないのかぁっ!」
レオ
「いや、だって体ダルいし……」
きぬ
「うわー、すんげーなお前、
普通絶対言いませんよソレ」
ぐいぐいと体を引っ張るきぬ。
きぬ
「ボク、レオの胸の中で寝たいの!」
レオ
「分かった、分かったよほら」
体を向けてやる。
ちょっとした冗談のつもりだったのに
ムキになっちゃって。
きぬ
「て、手間取らせやがって、そのまま動くなクソが」
ぴったりと寄り添ってきたきぬ。
きぬ
「ふぅ……10数年さまよってようやく
安楽の地を得たよ」
レオ
「どこの化け物だ」
きぬ
「腕枕、腕枕」
レオ
「ほら」
きぬ
「うんうん……この体勢」
ゴロゴロと懐いてくる。
きぬ
「タバコ吸わねーの?」
レオ
「俺は普段から吸わないだろう」
レオ
「変な映画の見すぎだぜ」
きぬの耳をくすぐる。
甘えた声を出してきた。
ぬぅ、和むな。
きぬ
「……ボク達2人まとめて大人になっちゃったねぇ」
レオ
「あぁ」
きぬ
「幸せだね」
レオ
「……あ、あぁ」
きぬ
「えへへ」
レオ
「何を笑ってる」
きぬ
「レオ、エッチの時必死で可愛かったもんね」
レオ
「う、うるさいな」
レオ
「お前だってヒィヒィ言ってたろ」
きぬ
「そりゃ尻の穴に入れた時だろ!」
レオ
「う、そうだ」
俺、アナルファッカーだったんだ。
……なんて馬鹿な言い合いをしているうちに
すっかり平常心だぜ。
きぬとエロって結構時間経過したけど。
時計を見る。
もう夜も遅い。
スバル……大丈夫かな。
つうか、H終わって気付いたんですが
下半身ばかりか俺の右腕、痺れてるんだよね。
思うように動かないんですけど。
……………
スバル
「おー、ようやく体力回復してきた」
良美
「もう大丈夫みたいだね」
スバル
「ん、なんか悪ぃな、居てもらって」
スバル
「それにしても……みっともない所を見られたな」
良美
「そうだね、安いドラマを見ている気分だった」
スバル
「本当ならもっとスマートに運びたい所だけどな」
スバル
「いや、よっぴーみたいに上手く演技するのは
難しいってことだ」
良美
「あはは、何の事を言っているのか分からないよ」
スバル
「……悪ぃ、まだ殴られて錯乱してるわ」
良美
「うん、混乱してるね」
良美
「でも損な話だよね」
スバル
「んー?」
良美
「女のコをめぐって決闘ってさ。
そういうケースになった場合、女のコの
気持ちってもう決まってるもんね」
良美
「だからいくら勝っても女の子の気持ちが
無ければ、意味がないもんね」
スバル
「別にそんなたいそうなモンじゃねぇよ」
スバル
「でもよ」
スバル
「殴りあった事に意味が無いわけじゃないぜ」
良美
「へぇ、そうなの?」
スバル
「そこらへんは逆に女にゃ分からない領域さ」
良美
「お茶を濁してない?」
スバル
「口で説明すんの苦手なんだよ、オレは」
良美
「80年代のノリだよね」
スバル
「なんだ、うらやましいか?」
良美
「……ううん、結構元気そうだねって」
スバル
「は。まぁな」
スバル 無音
「(空元気だよ、バーカ……)」
良美 無音
「(空元気なのは知ってるけどね)」
スバル
「……まぁ、あいつ結構バカだから
オレの出来の悪い演技でも騙せただろ」
スバル
「最後の方は図星を指されて演技じゃ
なくなっちまったけどな」
良美
「2人とも必死だったね」
スバル
「情けない話だぜ。レオなら
カニも幸せだと普段から思ってたのによ」
スバル
「いざ本格的にあの2人がくっつこうとすると
オレ自身が焦っちまうなんてな」
良美
「それが普通の反応じゃないかな」
良美
「私が受けた印象としては」
良美
「……カニっちが妹で、対馬君がそのお兄さん」
良美
「その2人のお兄さんが伊達君って構図なんだね」
スバル
「あぁ、そんな感じだ」
良美
「対馬君自身、カニっちを子供扱いしてるけど
対馬君も子供だもんね」
スバル
「正直、あそこまで青いとは思わなかったけどな」
スバル
「それにしても、オレの苦労を理解してくれてる
ヤツがいたとは」
良美
「まぁ、なんとなくだけど」
良美
「それじゃあ私は帰るね。もうこんな時間だし」
スバル
「送るぜ」
良美
「ありがとう。でもいいや頼りになりそうにないし」
スバル
「うわヒデェ。なんかいつもより手厳しいな」
良美
「安静にしててよ。じゃあね」
スバル
「あぁ、あんがとな」
スバル
「……よっぴーか……初めの方はウブなだけと
思ったけど……」
スバル
「……ふーっ、皆いろいろ抱えてるんだねぇ」
スバル
「さて、オレも吹っ切れたし」
スバル
「決心ついているうちに行動だな」
スバル
「この時間なら、まぁ非常識ではないだろ」
………………
スバル
「あーもしもし。中島さん、こんばんわ」
スバル
「…この前の話、有効期限まで後5日だったよな?」
スバル
「オレなりに考えての結論なんだけどな」
スバル
「――オレ、そっちのガッコ行くことにするわ」
………………
レオ
「じゃあ俺はいったん帰る」
きぬ
「なんか名残惜しいねー」
レオ
「隣だろ、すぐ会える」
レオ
「というか、まだ右腕が痺れてるんだよ」
きぬ
「スバルに殴られたならマジで
病院行った方がいいかもね」
レオ
「あぁ、今日行ってみる」
きぬ
「ボクもついてこっか?」
レオ
「バイトだろ」
きぬ
「うー。サボろっかな」
レオ
「大丈夫だって」
カニをなだめて、いざ帰宅。
その途中、きぬの母親に話しかけられた。
マダムはニヤニヤと笑っていた。
マダム
「よォ……息子ォ。ツヤツヤしたいい顔してんな」
レオ
「ひっ」
マダム
「昨夜は、それはもう人生のスリーセブン
フィーバーだったわね?」
パチンコの要領で手首をクイクイと回す。
なんとなく言いたい事は分かった。
マダム
「責任は取らなくちゃね」
タバコの息を吹きかけられた。
それをかき消すように言ってやる。
レオ
「言われなくても大丈夫です」
マダム
「うん、男らしくていいわね!
まぁ健康さだけは保障するから」
気に入られた。
マダム
「……出涸らしだけど、まぁ
一応は可愛い娘でもあるんでよろしくね」
早くも向こうの親に知られてしまった。
マダム
「しかし、相当抵抗されたねぇ。まさか
顔がそこまで腫れ上がるとは」
レオ
「これは別の理由ですってば!」
まぁ、親がいるのに押しかけて2階で
やってりゃそりゃ気がつくか。
あぁ、赤面。
………………
しまった!
あぁ、すっかり忘れてた。
乙女さんという恐怖の存在を。
制裁されてしまう。
こっそり忍び込もう。
乙女
「ん、帰ったか」
レオ
「げ」
居間でトレッキングの番組を見てくつろいでいた。
乙女
「なかなか壮絶な面構えだな」
さすが乙女さんだ、この顔でもなんともないぜ。
乙女
「伊達から電話はもらっている。ま、男同士だ。
拳で語り合うのも一興だろうな」
本気で言っているあたり、この人がどういう
教育をされたかが分かるな。
レオ
「って! スバルから電話?」
乙女
「あぁ、心配するなと言ってたぞ」
乙女
「いい友達をもったな」
レオ
「……ほーんと」
レオ
「あいつにはやっぱ勝てないわ」
そんな根回しまですんなよな……おせっかいな。
乙女
「仕方ないから手当てしてやる。こっちへ来い」
救急箱を持って立ち上がる乙女さん。
………………
レオ
「くっ、消毒液が染みる……」
乙女
「傷は男の勲章だろう、痛みを強さに変えろ」
レオ
「特撮番組の歌詞みたいなこと言わないでくれ」
乙女
「ほら、動くな」
レオ
「……」
乙女
「ケガをしているわりに血色がいい」
乙女
「喧嘩して分かり合えたということか?」
本当の事を言うのも微妙なので
うなずいておいた。
乙女
「右腕がさっきから動いてないが……変だぞ」
レオ
「あ、やっぱ分かる」
レオ
「実は右腕が痺れて動かせない」
乙女
「何……? よし、見せてみろ」
レオ
「なんか怖いな」
乙女
「あぁ、たいした事はない」
レオ
「良かった……」
乙女
「手首近くの所で骨が1本折れてるだけだ。
ボキッとな」
レオ
「ギャー!」
乙女
「全治一ヶ月といった所だな。病院に行くぞ」
レオ
「痛くないのに?」
乙女
「麻痺してるんだろう。これから痛くなるぞ」
スバルと喧嘩して無傷はムシがいいと思ってたが。
まさか右腕一本持って行かれるとは……。
やっぱりテンションに身を任せるのは怖いぜ。
レオ
「さよなら、俺の夏休み」
そう、今日から夏休みなのにぃぃぃ。
乙女
「右腕一本動かなくても、左腕がある。
両脚がある、目がある、口がある」
乙女
「悲観するな。やれる事、やる事は山ほどあるぞ」
………………
俺の右腕には白いモンがグルグルと巻かれていた。
レオ
「3日間の入院が終わったと思ったらギプスかよ」
新一
「全治四週間だって? 災難だったなぁ」
きぬ
「まぁ安心しろって!」
きぬ
「ボクが全身全霊で看護してやんよ」
レオ
「嬉しいぜ」
けど、なんか不安だぜ。
新一
「はいはい、キミ達付き合う事になったんだろ?」
新一
「オメデトさん。お似合いだと思うし
上手くやってけるんじゃない?」
乙女
「ふむ、蟹沢とレオがな……」
乙女
「お互いをよく知っているからな。上手くいくだろ」
レオ
「へへ、なんか照れるな」
恋愛経験無さそうな2人に太鼓判押されても
微妙なんですが、とは口が裂けても言えない。
乙女
「私は夏休みがてら実家に一旦帰ろうと思うが、
蟹沢にレオの世話を任せて大丈夫なんだな」
きぬ
「うん、ボクの献身的な看護で3週間ぐらい治すの
早くしちゃうもんね」
ばんばん!
レオ
「い、痛っーて! 右腕を叩くな! 右腕を!」
乙女
「安心そうだな」
きぬ
「うん、なんたってボク達つきあってるもんね!」
レオ
「(赤面)」
乙女
「照れてるな」
新一
「こいつヘタレですから」
レオ
「くっ、フカヒレにヘタレ言われたくないわい」
きぬ
「いやぁ、しかしあれだねー」
ガシッと俺の肩を組んでくるきぬ。
きぬ
「スタディーが出来るってのはいいもんだねー」
乙女
「すたでぃー?」
新一
「おそらくステディーのコトだと思いますぜアネゴ」
きぬ
「今ならアレだね。甘ったるい恋の歌とかも
抵抗なく聞けるよ」
乙女
「蟹沢は嬉しそうだな」
きぬ
「そりゃあ幸せじゃけえのぉ」
ほっぺすりすり。
レオ
「っ、あんまりはしゃぐなよなっ……」
きぬ
「この通りシャイなヤツですが、まぁ
ボクがグイグイ引っ張ってやろうと思います」
レオ
「振り回すの間違いじゃないのか?」
きぬ
「はいはい、みんな祝福して」
乙女
「ふふ、おめでとう」
新一
「ハイハイ、オメデートサーン」
スバル
「おめでとさーん」
きぬ
「ありがとーございまーす」
きぬ
「ってどうするオイ、今の違和感に誰が突っ込む?
やっぱりレオがいっとくべきじゃない?」
新一
「レオはツッコミ役だからな」
レオ
「誰がだ! そんな設定すんなよ」
新一
「ほうら、いいタイミングでツッコミきた」
レオ
「……ぬぉ、墓穴」
乙女
「って、伊達じゃないか」
レオ
「あぁっ、乙女さんがツッコンだ」
新一
「しかも素だ、素でつっこんだ!」
スバル
「実はさっきからそこにいたんだがな……」
スバル
「なかなか出るタイミングが難しくてな。
いや、ようやく出れたぜ」
新一
「別にタイミング見なくてもいいだろーが」
スバル
「そのギブスの原因はもしかしてオレ?」
レオ
「もしかしなくてもお前だ」
スバル
「そうか、そりゃワビを言っておくぜ」
うーむ、あんだけ殴りあったのにあんまり
気まずさを感じないな。
むしろ、やっと顔を見れたという安堵感。
別にスバルを恨んじゃいないし。
これが幼馴染パワーか。
きぬ
「つーか、何でオメー今まで音信不通だったんだ?」
レオ
「それは俺も聞きたい」
レオ
「余計な気配りばっかしやがって……なんで
姿を消してんだよ」
スバル
「ん……あー」
スバルがボリボリと頭をかく。
スバル
「あぁ、オレ由比浜学園に編入するから
その手続きだな」
……しーん…………
新一
「な、なんだってー!」
レオ
「お前、決意したんか」
スバル
「まぁね」
きぬ
「おいおい初耳なんだけど、何ソレ」
スバル
「今、初めて言ったからな」
乙女
「由比浜……陸上の王者といわれる湘南の学校だな」
レオ
「なんでそんな急に……お前」
スバル
「オレも陸上一本でやっていこうと決めたわけよ」
きぬ
「おい、言ってる意味わかんねーぞ」
レオ
「だから、つまり」
…………(解説中)…………
新一
「へぇ〜、スカウトされてたのか。さすがは
スバル。俺の舎弟だけあってたいしたもんだ」
スバル
「舎弟でも友達でもねぇだろ」
新一
「いや、友達ではいてくれよ!」
きぬ
「んだよ、水くさいな、言ってくれればいいのに」
スバル
「ま、オレも決意が鈍ってたからな」
乙女
「それを決断したというのか」
スバル
「そうさ。思う所あってな」
レオ
「!」
レオ
「お前、まさかその理由って」
俺とカニがくっついたからか?
きぬ
「えっ……えっ……?」
俺とスバルを交互に見る。
きぬも何かを気取ったようだ。
スバル
「ま、個人的な理由だ」
乙女
「出発は? 2学期からか?」
スバル
「いや、今日行く。寮の部屋はとれてるんだ」
乙女
「なんだ、別れの宴を開く暇もないのか」
きぬ
「おいおいおい、随分と急過ぎないか?」
スバル
「……いや」
スバル
「今までが遅すぎたんだ」
シーン、と静まり返る部屋。
きぬ
「スバル……」
きぬ
「ま、まぁ、土日とかこっちにちょくちょく
戻ってくるんだろ?」
スバル
「もう帰ってこないぜ、当分な」
きぬ 共通
「えっ……」
スバル
「そんな顔すんなよな」
スバル
「あのゴミオヤジとも離れ離れでせいせいするぜ」
そう言うとスバルは部屋から出て行った。
レオ
「なんだおい、もう行くってのか?」
スバル
「そ。挨拶に来ただけだからな」
スバル
「あ、乙女さん。ちょっと」
乙女
「?」
スバル
「一言……どうしてもこれだけは言っておきたくて」
スバル
「乙女さんはオレ達が夜くっちゃべってるのを
くだらない集まりとか言ってたけどよ」
乙女 無音
「……」
スバル
「オレにとってあそこは神聖な場所だったんだ」
スバル
「聖域ね。分かる?」
スバル
「あいつらと話すとオレの心が落ち着くんだよ」
スバル
「だから、くだらなくない」
乙女 無音
「……」
乙女
「私にとってお前達の話し声は時に
騒音だったからな。あの発言を
わびるつもりは無いが」
乙女
「自分にとっては他愛のないものでも……
他の人によっては、それが何よりも
重い場合がある、という事は身をもって学べた」
乙女
「これからは少し発言に気をつける」
スバル
「……いや、こっちこそすまねぇな。
過ぎた事をウダウダと。
ただそれだけは言っておきたくてな」
スバル
「あ、あと。あいつらの世話、頼む」
ぺこり。
乙女
「出来る限りで引き受けよう」
スバル
「ほんと、世間じゃバカ呼ばわりされてっかも
しれないけど、いいヤツラなんだ」
乙女
「あぁ……だいたい分かる」
スバル
「じゃ、行くか」
ビッターーン!
スバル
「痛ーーーっ、背中思いっきり叩……」
乙女
「行ってこい! 思いっきりやれ!」
スバル
「……ははっ、さすが体育会系」
スバル
「スゲェ気合もらったぜ。頑張るよ」
新一
「おいおい、本当にもう行くのかよ」
スバル
「あっちはもう夏合宿始まるんでな」
レオ
「こんな時まで飄々としやがってこいつ……」
スバル
「しめっぽいのは苦手でね」
きぬ
「ねぇ、スバルさ」
スバル
「あん」
きぬ
「今聞くのもビミョーなのは分かるけどさ」
きぬ
「何でボクが好きになったのか聞いていい?」
スバル 無音
「……」
きぬ
「正直さ、よーく考えると分からないんだよね」
きぬ
「やっぱ、ボクの体とかフェロモン?」
スバル
「はっ、それはねえ」
きぬ
「うぐっ、なんだこいつ。なんかムカツクな」
スバル
「レオに好きになった理由をもう一度聞いてみな
それと同じさ」
スバル
「オマエ以外の女なんぞ、虚しいだけだったぜ」
きぬ 無音
「――!」
新一
「贅沢言うなよ!」
乙女
「血の涙だな」
スバル
「横槍を入れるなって」
スバル
「――じゃあなカニ」
スバル
「オレ、オマエに出会えて本当に良かったよ」
新一
「不良の台詞じゃねぇ……」
きぬ
「今度は……いつ会えんの?」
スバル
「そうだな、オレがオリンピックに行ったら、かな
そうなったら、また逢えるなオレ達は」
スバル
「友達は対等であるべきだろ。なら、オレも
カニに見合うものを手に入れなきゃな」
新一
「(おい、それ一生会えないんじゃねぇか)」
レオ
「(いや、由比浜に行くんだったらマジ
分からないぞ)」
きぬ
「気の長ぇ話だね……」
スバル
「それぐらいしなくちゃ意味がない」
レオ
「……本当に行っちまうのか」
スバル
「あぁ。ぬるま湯につかるのは、もうやめだ」
スバル
「本当はな、スカウトされた時、かなり
行きたかったんだよ」
スバル
「でも、オレには……心地よい場所があったわけだ」
スバル
「オマエがぶっ壊してくれたおかげで
背中押された感じだ。スタートラインに立てる」
きぬ 共通
「スバル……」
スバル
「だから、そんなしけた顔すんなって
決めたのはオレの意志なんだから」
スバル
「5つの誓いの最後の1つ。簡単だっつったろ?」
きぬ
「飯の前に手を洗う?」
スバル
「違う。ま、それも重要だがな。
そこは外さないでくれよ」
きぬ
「笑顔を忘れるな、でしょ」
スバル
「そう、それ。簡単だって言ったろ」
スバル
「オマエは元気に笑ってろ、それだけでいいんだ」
きぬ
「なんかある意味失礼じゃないかそれ!?」
レオ
「……」
スバル
「フカヒレ、オレの部屋にある本全部やるぜ」
新一
「お前、こんなシーンでそれ言われても喜べねぇよ」
新一
「まぁ、責任を持ってもらっておくけどさぁ」
新一
「……お前ならいい所までいくだろ。応援してんぜ」
スバル
「ほんじゃあな。レオ、カニのこと頼んだぜ」
レオ
「あ、あぁ」
スバルの背中。
一人ぼっち。
なんでこんな急なんだよ……。
それでいいのだろうか?
スバルは意地になってるだけではないか?
乙女
「何をうつむいている」
乙女
「親友の旅立ちだ。しっかり見送れ」
レオ
「……うん」
乙女
「伊達の事で何を悩んでるか知らないがな」
乙女
「いい加減、伊達に甘えるのはやめろ」
乙女
「あいつはあいつの道がある」
レオ
「……!」
カニと恋仲になって、スバルやフカヒレとは
ダチのまま。
そんな勝手な幻想を抱いていた。
そうだよな……勝手すぎるよな。
あいつが自分で選んだ道なんだ。
顔を上げて、その背中を見る。
頑健な肩幅。
そうだ、そんなヤワい人間じゃないな。
俺達の関係がこれで崩れるとは俺は思わない。
なら、曖昧な別れをしないでもう一度。
レオ
「スバルーーッ! じゃあなーっ」
レオ
「頑張れよーーーっ」
既に小さくなった背中に叫ぶ。
しっかり聞こえているはずだ。
きぬのこと、確かに頼まれたぜ。
すっげぇ幸せになってやる。
一人きりの出発点。
足取りは力強く。
スバルは、暗い道を歩いていった。
――また、会おうぜ。
レオ
「……」
目覚めは微妙だった。
右腕にこんなもん巻かれてたらそれも当然か。
そして、思い出す。
スバルがいなくなった事を。
やっぱり寂しい。
こっち引っ越してきて初めての
男友達だったからな。
いや、友達とかそんな言葉で
くくられるもんじゃ無かった。
きぬ
「おはようーっす」
レオ
「きぬ、もう起きてたのか」
ちなみに今7時30分だ。
レオ
「……驚いた、随分早起きだな」
きぬ
「約束どおり世話しにきたぜ」
無い胸をどん、と叩くきぬ。
心強かった。
レオ
「そっか、そのためにわざわざ。さんきゅー」
そうだ、乙女さんは実家に帰っているんだった。
きぬ
「それじゃ、おはようのチューを」
レオ
「ん……」
きぬ
「えへっ……ちゅっ」
レオ
「ぬ……うぅぅ」
きぬ
「やーい、顔真っ赤」
レオ
「うるせー」
きぬ
「えへへ、レオはまだまだ照れがあるよね」
レオ
「お前がはっちゃけすぎなんだ」
きぬ
「んー? そりゃボクはコレと決まったら
突撃すっからね」
きぬ
「それにやっぱりレオだとさ、日頃のスキンシップが
あるからそんなに照れないんだよ」
レオ
「でも、やっぱり寝た後だと気恥ずかしさが
募るっていうか……」
きぬ
「んー、そ、そりゃ確かにそういう
恥ずかしさはあるけど」
きぬ
「何でボクはあんまりテレがないんだろ
男女の差かね?」
……バカだからだろう。
きぬ
「まぁ、ボク頭あんまり良くないから
気が利いたこと言えないかもしれないからさ」
きぬ
「態度でガンガン示すよ」
レオ
「きぬ……」
なんか健気じゃねぇか、こいつ。
きぬ
「それじゃ、レオの心を料理した後で、
今度は本当のクッキングしてやんよ」
レオ
「はい?」
きぬ
「メシつくるヨ。ボクが」
何故か豆花さんみたいな言い方。
レオ
「待て、お前の事は好きだが
それとこれとは話が別だ」
きぬ
「愛でカバーすんよ」
それはある程度の水準に達したものの言う台詞。
いかん、ただでさえ右腕折れてるのに
トドメにこいつの手料理食ったらマズイ。
何とかごまかさなくては。
そうだ。
レオ
「お、俺は料理よりお前が食べたいぜ、なーんて」
きぬ
「えっ……すげぇワイルドな事言ってくれるじゃん
カブキ者みたいでカッコいいぜ」
マダム
「クッキングじゃなくてファッキングってか
あぁん?」
レオ
「な、なんであなたが窓から入ってくる」
マダム
「レオちゃんの分までメシ作っといたのさ
近所同士、助け合わなくちゃねぇ」
柔和に微笑むマダム。
なんかもう貴様をムコとして迎えるから
逃がさねぇぞ、って気迫がありありと出てた。
マダム
「出涸らし。あんたも行き当たりばったり
じゃなくて、料理のいろはを覚えてから
作ってやんな」
きぬ
「え、教えてくれんの?」
マダム
「ま、未来の旦那のためならしゃーない」
きぬ
「いやぁ、気が早ぇーなー!」
きぬ
「まぁボクは洋式って決めてるんでよろしく」
レオ
「トイレ?」
きぬ
「結婚式だよっ!」
レオ
「すっげー話の飛躍なんですけど!?」
きぬ
「んーまぁね。でもそういうの考えるのも
楽しいし、幸せだぜー」
マダム
「さぁ、ウチいらっしゃい。レオちゃん。
今の邪魔しちゃったお詫びに
山芋とかうなぎとか食わせてあげるから」
……全部精のつくものですか。
きぬの母は、2階からタァーンと飛翔した。
なんて強い人なんだ。
さすが空き巣をビンタ一発で植物人間に
しただけのことはある(そいつはいまだ昏睡中)
ビッグ・ママと呼びたい。
まぁ、おかげでメシの心配は解決した。
……ふぅ。
片腕一本の生活も慣れてきたな。
きぬがいてくれるおかげだが。
メシは蟹沢家でごちそうになってるし。
きぬの両親は、きぬを出涸らし扱いしてるけど
冷血人間ではないわけで。
よく分からないが味のある人達だ。
きぬ
「生活必需品って他に何かある?」
レオ
「いんや、もう完璧。買い込んだからな」
きぬ
「そんじゃ帰ろうぜー」
レオ
「というか、俺ももっと荷物持つって」
きぬ
「大丈夫だって、ボクに全てを任せろ」
両手いっぱいにスーパーの袋をもつきぬ。
きぬの母親からおつかいを命じられた
せいもあり、八百屋などでも
買い物してるからかなりの量だぞ。
うーん、重そうだ。
レオ
「お前、かなり汗出てるぞ」
きぬ
「そりゃー暑いからねー。7月も終わりだぜ?」
よろよろと荷物を運ぶきぬ。
レオ
「やっぱり荷物持とうか?」
きぬ
「いいんだって、ボクに任せてへたれは休んでろよ」
健気にも笑顔は崩さない。
こいつ、結構尽くしてくれるタイプなのか。
うーむ、可愛いじゃねぇか。
なごみ
「センパイとカニだ」
レオ
「おす、椰子」
きぬ
「む、夏休みにこんなイヤな女に遭遇するとは」
なごみ
「……それじゃ」
椰子は実に淡白に去っていった。
レオ
「うーん、相変わらずだ」
きぬ
「あー、嫌なものが視界に入って目が犯されちまった
レオを見て視力の回復といこうかな」
きぬ
「って、なんか急に軽くなった?」
なごみ
「……危なっかしい」
椰子がきぬの荷物を支えていた。
意外な光景だった。
なごみ 無音
「……」
椰子が鋭い目つきで俺の怪我している腕を見る。
なごみ
「センパイ、怪我して難儀しているようですし
荷物少し持ちましょうか?」
きぬ
「うわ、親切で気持ち悪ぃ! オメー偽者だな!」
なごみ
「せっかくあたしが気を使ってやってるのに」
きぬ
「いいってレオ! ボクが運んでやっから」
なごみ
「だから、大変そうだから声かけたんだって」
なごみ
「どうですかセンパイ?」
レオ
「んー」
どうしてくれようか
椰子に手伝ってもらう
大丈夫だという
椰子の親切なんてそう見れるもんじゃない。
今だって我が目を疑うぐらいだしな。
レオ
「じゃ、頼む」
きぬ 無音
「!」
なごみ
「了解しました」
なごみ
「ところで……その怪我、どうしたんですか」
レオ
「あー、これね。ほんの不注意だ」
なごみ
「まさか、あの夜あたしにからんでた奴等ですか?」
今、椰子が妙に親切な理由が分かったぞ。
こいつそれで気を使ったのか。
レオ
「いや、それはない。安心しろ」
なごみ
「そうですか……」
レオ
「ほら、ここが家だ」
なごみ
「案外学校から近いんですね」
レオ
「いやー、助かったぜ」
レオ
「お茶でもど……」
きぬ
「はいはーい、やさぐれココナッツが
家で茶なんか飲むわけねーだろ」
なごみ
「まぁ、断固拒否ってわけじゃないですけど」
きぬ
「はいはい、でも嫌なんだろ。帰った帰った」
なごみ
「何をカリカリしてるんだか」
なごみ
「……それでは」
椰子はスタスタと去っていった。
うーん、ジーンズのヒップラインが
ぴっちりしてて1年生とは思えないな。
(↑むっつり全開)
きぬ
「おい、あんな女のケツ眺めて鼻の下
伸ばしてるんじゃあねーぞ!」
ぎゅう!!
レオ
「あ痛痛痛!! つねるなつねるな!!!」
きぬ
「お前にはボクの尻があるだろ、デカさじゃ
負けるがラインでは負けねーもんね!」
レオ
「ばっ、馬鹿! こんな外で何を言ってるんだよ」
こんな会話が公然とされるようでは
日本は終わってしまう。
レオ
「そーいや、なんでお前あんな強引に……」
きぬ
「オメーがココナッツにへーこらしてっからだ
ボクというものがありながら」
レオ
「え? あ、いや、俺はそんな別に」
きぬ
「んだよ、あんな胸と尻だけ発達してるヤツを
頼りやがって!」
レオ
「す、スマン」
まさかヤキモチか、これ?
何か俺、尻に敷かれそうな気配がするぜ。
レオ
「いや、俺大丈夫だから」
なごみ
「……そうですか」
きぬ
「お呼びじゃねーんだよ。このやさぐれ1年坊!
カミソリ持ってカツアゲでもしてな、慎ましくな」
なごみ
「ピーピーうるさい上級生が」
グイッときぬの頬を引っ張る。
きぬ
「あ痛痛痛っっ」
なごみ
「さぁ泣きを入れろ」
きぬ
「ぐぉぉぉ……テメェ……」
レオ
「おいおい椰子、天下の往来でそんな事を
やって……目立ってるぞ」
なごみ 無音
「!」
なごみ
「ち、いじめと思われてもつまらない」
なごみ
「これで去ります」
そう言いながら、椰子は後ろを振り返る。
黒髪を風に揺らしながら椰子は去っていった。
きぬ
「なーんて、逃がすと思うかマヌケがぁ」
きぬ
「大根でも食らいやがれ一年坊」
パァンッ!!!
なごみ
「うぁッ」
きぬ
「へへ、黄色い声出しやがって。尻がいいのか」
きぬが袋から取り出した大根で思いっきり
椰子の尻をジーパン越しに引っぱたいたのだ。
きぬ
「生意気な一年坊に先輩がケツバットで
気合いれてやったぜ、ありがたく思いな」
大根で自分の肩をトントンと叩くきぬ。
なごみ
「泣かす、絶対泣かす」
きぬ
「上等だ、今度はニンジンをその口につっこんで
うさぎって呼んでやる!」
俺はさっさと避難した。
まったく、暑いのに元気な事だ。
10分後……。
きぬ
「はぁはぁ……引き分けだったぜ……
あいつめ、なんて骨のある一年坊だ
特に最後の頭突きなんて普通やんねーぞ……」
レオ
「死闘だったようだな」
好敵手なのかもしれない。
………………
そういえば今日椰子にあって気付いたが。
あいつらスバルの転校とか俺達の
交際とか知らないんだよな。
まぁ、執行部の連中に事情を話すのは
新学期からでいいな。
きぬ
「んー、レオもちょい髪伸びてきたな」
レオ
「じゃあ切ってくれる?」
きぬ
「いいぜー」
きぬは手先が器用なので髪は切ってもらってる。
器用なのに料理が下手なのは何も考えずに
調味料をドカドカといれるからだ。
レオ
「おい、変な髪にしようとするなよ」
きぬ
「しないって、もうこれからは
ボクのレオでもあるんだからさ」
きぬ
「彼氏の外見はイケテるのにこしたことはないしね」
レオ
「む……」
露骨に好意をぶつけられると、俺弱いな。
カニがさらに可愛く見えるぜ。
病院帰り。
きぬ
「良かったね、経過は順調じゃんよ」
レオ
「あぁ、手厚い看護のおかげだ」
きぬ
「そうだぞ、ボクに感謝しろよー」
レオ
「見返りは体でいいか?」
きぬ
「うーん、もうその体ボクのモンだしー」
レオ
「う」
またまた恥ずかしい台詞を言ってくれるぜ。
しかもちゃっかり手を繋いできたし。
俺はきぬが好きだ。大好きだ。
でも、俺は俺だけのもんだ。
レオ
「……俺はバカップルになる気は無いぞ、きぬ」
レオ
「2人っきりでならこってりいちゃつきたいけどさ」
きぬ
「別にボクだってバカップル目指してる気は無いよ」
ぶんぶんと繋いだ手を振る。
きぬ
「ただ一緒にいたいだけだもんね」
レオ
「(ドキッ)」
やだ、この娘けなげな事言うじゃない……。
……俺の心が揺らいでいる。
……うーん、暑い。
外はセミ交響楽団による大合唱。
実はここの所、悩みがひとつ。
少しムラムラするんだよな。
右腕が不自由では自慰行為がままならない。
きぬとは治ってからセックスしようと
約束してるし……。
あぁなんか溜まっていく俺がいる。
我慢するのも良くないし。
一回出しておいた方がいいかなぁ。
俺はクレバーだからちゃんと電話をかける。
レオ
「もしもし。きぬ」
きぬ
「ん? どーしたん」
レオ
「いや、お前の声が聞きたかっただけだ」
きぬ
「おいおい、嬉しいコト言ってくれるじゃんよ」
レオ
「ところでそなた、今どこにおりまするか」
きぬ
「ボク? ……横浜だけど」
レオ
「ん、そっか。気をつけて帰ってこいよ」
電話を切る。
よし、きぬは電車で約30分のエリアにいる。
邪魔は入らないと見た。
左腕一本で、何とかするか。
ズボンとパンツを下ろす。
うぅ、自慰行為ってどこか虚しくて嫌なんだよな。
それじゃ、行くぞ。
ガラッ!
きぬ
「じゃーん! 実はあなたのすぐ近くでしたー!
どうかな、びっくりしたー?」
きぬ
「いやー、声を聞きたいなんて言われたら
切なくて駆けつけちまうよ」
きぬ
「なーーんて……」
レオ
「……」
俺はペニスに左手を添えたままだった。
レオ
「ぅ……く……」
対馬レオは死んだ。
こんな恥ずかしい場面を見られるなんて……。
慌ててズボンにペニスをしまおうとしたが、
ペニスが大きくなりすぎて左手一本じゃ
やりずらかった。
きぬ
「な、なんか難儀してんけど大丈夫?」
レオ
「み、見るなッ! 今の俺を見るなッ、醜いぞ!」
きぬ
「あ、あのー、レオ?」
レオ
「お前やだろ、我慢できなくて利き腕じゃない手で
モノを律儀にしごく彼氏なんてちょっとやだろ!」
レオ
「違うんだっ。我慢できなかったわけじゃない……
でも安全策をとって俺は……」
きぬ
「落ち着けって」
きぬ
「ボク達、一回寝た仲じゃん
今さらそんなんで驚かないって」
レオ
「俺は……俺は……」
きぬ
「心配すんなって。オメーが実は結構
ヘタレだって事は長い付き合いで
知ってるからさ」
レオ
「それも複雑だが」
きぬ
「……実はボクも」
レオ
「んあ?」
きぬ
「ボクも、レオで、その、自分で
したことあるから……」
レオ
「え」
きぬ
「こ、これでおあいこだろ。
あーもう恥ずかしいぜちくしょー」
きぬの顔がポッと赤くなる。
こいつは器用にウソをつけるタイプじゃない
多分本当の事を言っている。
女がそんな事を言うのは死ぬほど
恥ずかしいはずなのに。
あえて俺を落ち込ませないために
そんな配慮を……。
俺より精神的に上じゃん。
自分が恥ずかしい。
レオ
「お、俺……」
きぬ 共通
「ん……」
優しくキスされる。
きぬ
「あんまり気にすんな」
やだ、器デカいじゃない。
きぬ
「ちゅっ」
また甘いキス。
きぬ
「ボクさ、そーいうナイーブなとこも
好きなんだぜ?」
レオ
「そっか……」
柔らかいほっぺを擦り付けられる。
俺も擦りかえした。
レオ
「きぬ」
きぬ
「んー?」
レオ
「好きだ」
真剣な目で言う。
きぬ
「えへへ、わかってるけどやっぱり
言われると照れるぜ、若い証だね」
きぬは顔を真っ赤にして、さっ、と
朱に染まった自らの頬に手を添えた。
……可愛いヤツ……。
俺は幸福だ。
こいつに理解してもらってる。
もちろん全てじゃないけど、こうまで
俺の弱いところを包んでくれるなんて。
スバルは女を見る目があると本気で思った。
レオ
「すまん……抱いてやりたいが
右腕がこれでは」
きぬ
「んー、なんか大きくなったままだしね」
きぬの視線が、しまい忘れたペニスに
集中していた。
レオ
「うっ、電気ついたままだと恥ずかしい」
きぬ
「じゃ、手でしてあげよっか」
レオ
「え……」
きぬ
「だって自分でやろうとしてたんでしょ?」
きぬ
「彼女いるのにそれも悲しいっしょ。
ボクが優しくやったげるよ」
レオ
「う、魅力的な提案」
レオ
「それじゃ、その。頼む」
きぬ
「本当だったら、しっかり口に出して
言ってもらうところだけど勘弁してやる」
レオ
「俺を調教するな!」
きぬ
「そこで楽にしてていーぜ」
レオ
「なんつーか……がっついてごめんな」
きぬ
「いや、実はボクもこっちが積極的に
動くのは初めてなんで緊張してるかな」
俺の上着をまくりあげるきぬ。
レオ
「え、別に上は脱がさなくても」
きぬ
「男も乳首舐められると感じるっていうから」
2点責め!?
恐ろしい女だ……。
気を抜くとマジで調教されるかもしれん。
よし、決して喘ぎ声なんかあげねーぞ。
きぬ
「そんじゃ、この腫れ上がったモノを
沈静化させます」
くっ、とペニスを握られる。
レオ
「あっ」
きぬ
「うお、敏感だな」
レオ
「俺と同じで繊細なんだ」
きぬ
「じゃあなるべく優しくっ……と」
今度はそっ、と軽く触れてくれる。
ペニスに他人の指が触れるって感触が斬新だ。
きぬ
「うわ、熱いなぁ……すっげ」
自分で握るより全然刺激が強い。
きぬ
「しかもなんかボクの手の中でさらに
固くなってきてない?」
レオ
「き、気持ちいいからな」
きぬ
「ん……体の方は、熱いというより
汗ばんでるね」
きぬの赤い舌が俺の体――腹のあたりを
ぴちゃりと舐めあげる。
背筋がゾクゾクした。
きぬ
「指……動かすからね」
レオ
「隊長、優しくお願いします」
きぬ
「了解ーっ」
きぬの細い指がスルスルと動く。
ペニスをしごく、というよりは撫でるような行為。
きぬ
「痛かったら、ちゃんと言えよな、気持ち良くして
あげたいんだから」
レオ
「あぁ、ん……分かってる。痛いのマジ嫌だから」
きぬ
「でも、先端の方ってわりと複雑な構造してるのな」
亀頭の事を言ってるのか。
レオ
「せ、先端部分は特にデリケートなんだからな」
きぬ
「分かってるって」
きぬにしては考えられないぐらい丁寧に、
ペニスを撫でてくる。
レオ
「もう少しだけ……強くしていいぞ」
きぬ
「雑巾絞るぐらい?」
レオ
「……それだとねじり切れるだろ」
きぬ
「ん……こんな感じかな」
こすこす……
ほんのちょっと力をこめた感じが、
いい感じで“強弱をつけている”状態になった。
レオ
「そ、そう。そんな感じ」
ペニス自身も、その心地よい動きに
ビクン、と反応している。
きぬ
「レオ、気持ち良さそうだねぇ……」
レオ
「あぁ……」
きぬ
「んじゃ、もっとやってあげんね。ん……」
ぺろ、とヌラついたものが俺の乳首を舐め上げた。
レオ
「うお……」
きぬ
「へへ、今度は体全体がピクンとなってやんの」
きぬ
「こっちもおろそかにはしねーぜ。それ、それ」
指の腹が亀頭をぐっ、と痛くない程度に
押して来る。
レオ
「く……へ、へへ」
きぬ
「ん、何笑ってんだよ」
レオ
「お前、リードしてくれてるみたいだけど
顔、赤いぞ。トマトみてーだ」
きぬ
「う、そ、そりゃあ男のここ、こういう風に
触るの初めてだもんよ」
レオ
「可愛いやつめ」
きぬ
「うっさいなー、今はボクがリードしてんの。
素直にあえいどけ」
自然に普通の会話に戻っていく。
俺達らしくていい。
きぬ
「また乳首舐めてやる、んっ……ぺろ」
レオ
「うくっ」
きぬ
「ぺろ……ぺろ……」
うおお、乳首舐められるとなんだか
とっても切ない気持ちになる。
ペニスをしごいている手の動きも早くなってきた。
カリの部分が強く刺激されるのが気持ちいい。
レオ
「……ふぅ……ふぅ……きぬ、リクエストだ」
きぬ
「ぺろ、ぺろ……あい、どうぞ」
レオ
「先端の部分だけ重点的に頼む」
きぬ
「かめあたま だな」
レオ
「きとーと読め馬鹿もん」
きぬ
「よし、可愛がっちゃうもんね」
好奇心旺盛なきぬの指が亀頭をなぶる。
レオ
「うく……」
呼吸がどんどん荒くなっていく。
こすって、押して、撫でられて……。
リクエストした俺が言うのもなんだが
徹底的に責められた。
きぬ
「ね、ねー、裏スジってどれさ?」
レオ
「その、中央にあるスマートなラインだ。
やつ、うっ、そう、それ」
きぬ
「ここ、撫でられるといいってホント?」
レオ
「ま、まぁね……」
きぬ
「んー、体は正直だね。なんかさらに硬くなった
気がするね」
レオ
「お――」
俺が発言しようとしたら、きぬは
俺の乳首に軽く歯を立ててきた。
レオ
「くぁっ」
きぬ
「どう、ボクにメロメロ?」
レオ
「ふ、ふん、まだまだ……」
きぬ
「でももう濡れてるじゃねーか」
亀頭のさらに先端からじわりと滲んでくる白い液。
きぬは、それを指ですくいとる。
きぬ
「ほら、こんなになってんだぞ」
レオ
「うぅっ、これマジで恥ずかしい……」
きぬの指を汚している、液体。
それを興味深く見ているきぬ。
きぬ
「はむ」
な、舐めとりやがった。
レオ
「ばっ……バカ!」
きぬ
「……ん〜? なんか変な味。書いてあるほどは
苦くねーや」
レオ
「何でも口にいれるなって言ったろ!」
きぬ
「何だよ興奮してるクセに」
それ以上に恥ずかしい。
くっそこいつ結構エロいなぁ。書いてあるほど
苦くないって何に書いてあるほどだよチクショウ。
きぬ
「でも本当に男も濡れるもんなんだねー」
レオ
「あぁ、個人差、んっ、あるらしいけど」
昼下がりの性教育。
きぬ
「おっ、強くしごくといっぱい出てくるぞ」
しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅっ……
レオ
「お、オモチャじゃないんだぞ」
きぬ
「くんくん」
レオ
「こいつ……好き放題」
今度はにじみ出てきた汁の匂いをかいでやがるっ。
レオ
「も、もういいから胸の方も早く舐めて
俺をまた切なくさせてくれ」
きぬ
「ちゃんとおねだりしてみー?」
あかん、明らかに何か影響を受けている。
きぬ
「えへへ、だんまりかい、このむっつりスケベ……」
こいつの部屋を探して官能小説は没収しておこう。
きぬ
「もっと濡れさせてやるぜ……覚悟しろこの野郎」
亀頭と乳首の2点責めが再開される。
レオ
「く、ぁ、……ぁ」
きぬ
「レオ、可愛い……萌え」
ヌルヌルと滑りがよくなっているらしく、
きぬの指が尿道口にまで触れてくる。
レオ
「く、あっ……」
きぬ
「レオ……ん、ぺろ……ちゅうっ」
乳首に吸い付いてくるきぬ。
レオ
「も、もうそろそろ出そうだ」
きぬ
「へへ、レオ、ボクに手でイかされちゃうんだ」
レオ
「うう、もうお婿にいけない」
きぬ
「安心しなって。責任はとってあげんよ」
きぬ
「よし、イく時はイくと言うんだ」
レオ
「あぁ……かんにん」
レオ
「って、きぬ変なものの影響受けすぎ!」
きぬ
「んだよ、そっちだってノリノリじゃん」
レオ
「とにかく、俺を調教するのは、くっ、やめてくれ」
レオ
「うあっ……出る」
よ、よし。俺閃いたぞ。
勢い良く射精して男の力強さをきぬに見せてやる。
見よ、イニシアチブ奪還の時を!
ドピュッ!
自分でも驚くほど良く射精(で)た。
それだけ溜まってたということだ。
さぁ、可愛らしく反応しろ。
きぬ
「おおーっ、スッゲェ! 神秘だねこりゃ」
きぬ
「ビクビクいって……なんか可愛いじゃんよ」
レオ
「ちょっ……ばっ……あんまり凝視するな」
きぬ
「じーっ、おお、まだ出てる」
レオ
「恥ずかしいって、おい」
きぬ
「じーーーっ」
レオ
「うぅぅ……」
きぬ
「あ、射精終わったみたいだね……」
きぬ
「よしよし、お前は良く頑張った」
射精直後の敏感な亀頭を優しく撫でられる。
背筋がゾクッとする気持ち良さ。
レオ
「くっ」
きぬ
「うおっ」
残っていた精液がまたこぼれ出て、きぬの手に
付着した。
きぬ
「うわ、なんか白いカタマリみたいになってんよ」
レオ
「い、いいからティッシュで拭いちまえ」
俺の鼻にまで臭って来る。
正直、射精を見られてるのもちょっと快感。
俺ってもしかしてM?
放出された精液をティッシュで拭いていた
きぬが俺の顔を覗き込む。
きぬ
「んだよ、そんな落ち込むなって」
きぬ
「可愛かったぜーレオ」
優しくキスされる。
……あぁ、こいつ結構あなどれねえ。
女は怖いぜ。
レオ
「き、きぬ。この事は秘密だぞ」
きぬ
「ん、2人の秘密ね。約束したぜ」
こいつは約束した、と言えば絶対破らない、
そう俺やスバルが教えてきた。
それにしても、今のマグロ状態は。
なんか、赤ちゃんプレイというか何というか。
いかん……いかんですよ。
シニカルな俺が優しさに溺れそうだ。
カニがお盆シーズンで親戚の家に
行ってるので静かな夜となった。
新一
「いよいよ腕も全治だそうで、おめでとさん」
レオ
「なぁ、フカフィレ」
新一
「なんだ。ちょっとハイカラに呼びやがって。
右腕が治る祝いに新しいギャルゲーでも
貸して欲しいのか」
レオ
「きぬとの事なんだけどさ」
新一
「ちっ、またその話かよ。勘弁してくれYO」
レオ
「いや、聞いてくれYO」
レオ
「俺さ、きぬの事好きになって……それでそのまま
恋愛が続いていくと思ったんだ」
新一
「え、なになに、もう飽きたのか?」
レオ
「違うんだ、もっと好きになっていくんだよ」
新一
「はぁ……サイデスカ」
レオ
「好きになるって気持ちは際限ないんだな」
レオ
「あいつの純朴さが、愛しいのさ」
新一
「人をムカつく気持ちも際限ないけどね」
新一
「頭に来るぜ……友達に彼女が出来るってのはよ」
新一
「しっかし、バカという言葉を純朴に
置き換えているあたりお前重症だね」
レオ
「え、マジ? イエローカード?」
新一
「もうレッド出してもいいぐらいさね」
レオ
「なぁ……どうしよう。俺さ、街中でも
きぬのこと、抱きしめたくなっちまって……」
レオ
「それだけじゃない、キスだって……」
新一
「それはまさか!」
レオ
「そう、バカップルになりかけている!」
レオ
「昔、常日頃嫌悪してた、あんな
クソみたいなものにだ!」
レオ
「俺はもうあいつらの事を馬鹿にできないんだ」
レオ
「同類になっちまうんだ!」
レオ
「フカヒレ、俺はどうしたらいい……!?」
新一
「そんな贅沢な悩みどうしていいか分からないよ」
レオ
「くっ……」
新一
「俺なんか新作ゲーム買ったら地雷だったから
その会社の掲示板荒らしてるっていうのに……」
レオ
「マジ最低だな」
新一
「俺は俺の戦いがある。お前はお前の戦いをしろ」
掲示板を荒らすだけなのにフカヒレは何故か
カッコ良さそうな言葉を吐いた。
新一
「まあ、頑張れや」
フカヒレは冷たく去って行った。
あぁ、もう俺だめかも。
積み上げてきた何かが崩れ去ろうとしている。
俺は……俺は……。
なんか今日はやたら三点リーダーが多いな……。
それぐらいやばい精神ってことか。
きぬ
「ちーっす、ただいまー」
レオ
「あ、お帰り」
そういえば今日の夜帰ってくるとか
言ってたっけ。
きぬ
「腕の具合どうよ」
レオ
「あぁ、すこぶる順調」
きぬ
「そっか。美味い菓子もらったから
一緒に食おうぜ。土産話聞かせてあげんね」
嗚呼、来るなきぬよ……。
今お前に腕を掴まれたら……。
また優しくされてしまったら俺は……。
俺は2度と……。
………………
どたどたどた!
乙女
「ま、まったく真昼間から不健全だな!
なんなんだあいつらは」
乙女
「くっ、実家から帰ってきたと思ったら
まさかこんな事になってるとはな」
新一
「だから言ったでしょう乙女さん。俺も
初めて見た時驚いたけどさ……」
乙女
「一瞬我が目を疑ったぞ」
新一
「今、あの部屋にいるのは
かつて対馬レオと言われていた男」
新一
「ヘタレ属ニヒル科、学名テンションナガサレナイ
その零落のきわみ……」
新一
「あぁ、逆境に弱い男だったけどいい奴だったのに」
乙女
「怪我が治ったのはいいが、まさか今度は
病にかかるとは思わなかった」
新一
「恋の病は厄介って言うからねー」
乙女
「蟹沢の献身的な介護の結果か」
新一
「はい、あいつの弱い心の襞を一本一本まで
ベロベロと舐め尽したらしいです」
乙女
「やれやれだ……」
乙女
「2学期が不安だな」
朝の爽やかな通学路。
夏休み気分を残しながら、竜鳴館の生徒達が
登校していた。
男子生徒X
「姫だ」
真名 共通
「姫やね」
豆花 共通
「ニーハオ、姫」
エリカ
「はぁい、おはようー」
エリカ
「さーて、夏休みで脱皮を遂げたのはいるかな」
エリカ
「ン、あそこに変わって無さそうなのはいるわね」
エリカ
「ふっふっふー。それじゃ新学期って事で
今日はちょっと大胆にからかってあげよっと」
エリカ
「おはよう、対馬クン。カニっち」
レオ
「おはよ、姫。久しぶり」
きぬ
「ちーっす姫」
エリカ
「夏休みはどうだった?」
レオ
「いやー、この間全治したけど、実は右腕を
骨折しちゃっててさ、どこにも行けなかった」
エリカ
「あら、それは災難だったわね。
まぁ治って良かったじゃない」
エリカ
「私はよっぴーと世界各地を旅行してたんだけどね」
きぬ
「おー、楽しそうでいーなー」
エリカ
「油断したらちょっと肌焼けちゃって困ったわ」
レオ
「ん? いつも通り白い肌だと思うけど?」
エリカ
「ほら、こことか」
姫がクイッとセーラー服の中を見せてくる。
レオ
「わ、ドキッとした」
レオ
「ん……別に大丈夫だと思うよ。全然分からないし」
エリカ
「んん?」
レオ
「でさ、今月末の3連休の話だけど。どこ行くよ?」
きぬ
「スノボやるには早いしねー。うーん」
エリカ
「え、ちょっと……」
エリカ
「今ので終わり? おかしいわね……対馬クンなら
タコのように真っ赤になるはずなのになー」
………………
豆花
「あいや、伊達君が転校!?」
真名
「噂は本当だったんかいな。
由比浜とは、またモノすごいトコに
目ぇつけられたなぁ」
エリカ
「あらら。美男子度がガクッと下がっちゃったわね」
良美
「エリー、感想それだけ?」
エリカ
「んー? いいじゃないある意味栄転なんだから」
新一
「姫の言う通りだよ」
新一
「このクラスで美男子って後俺1人ぐらいだもんな」
良美
「何を言ってる、この短小猿メガネ、マジウゼー」
新一
「ひっ!?」
良美
「そろそろその寒いギャグにつっこむのも
疲れてきたんでやめてくれないかな」
新一
「は、……は、はいっ」
良美
「じゃあついでに呼吸するのもやめてくれないかな」
新一
「そ、それ俺死んじゃうっス!」
新一
「というか、よ、よっぴーが変わった。ひと夏という
試練は可憐な女の子をこうも変えるものなのか」
エリカ
「まぁ私の腹話術なんだけどね」
新一
「ひ、姫の仕業だったのか……よっぴーの言葉責めも
悪くないと思ったのに」
新一
「相変わらずビシバシ言ってくるね。怖いぜ姫は」
エリカ
「いや、実は最後の台詞は自分で
言ったよっぴーの方が怖いと思うけどね」
土永さん
「ほうら、夏休み気分が抜けていない
自称18歳以上の諸君、その青いケツを
席の上につけろー!」
レオ
「自称じゃなくて事実だぜ、土永さん」
新一
「よーしよし、即座によくつっこんだなレオ」
レオ
「こればっかりは死活問題だからな。
一応筋は通しておかないと。お察し下さい」
土永さん
「ほらほらお前達さえずるな! 我輩は
ピーチク騒ぐ生き物が嫌いなんだ!」
土永さん 共通
「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ
先に飛んできた」
レオ
「新学期一発目でそれかよ……」
きぬ 共通
「遅刻多いぞ祈ちゃん!」
土永さん
「時間稼ぎに、我輩がいつものように
ありがたい話でも聞かせてやろう
いいか、メンコに勝つためには腕の角度を……」
いつの時代の鳥なんだ、あれは……。
エリカ
「あ、そうだよっぴーアレを」
良美
「そうだね、祈先生いないけど」
よっぴーが紙袋を取り出す。
良美
「土永さん、これ夏休みに旅行に行ってきた
お土産です。皆に配っていいですか?」
土永さん
「おう、いいぞ。そういうのはどんどん振舞え」
エリカ
「現地のお菓子だけどね、かなりいけるわよ」
洋平
「このワーワー聞こえている騒音は2−Cか」
洋平
「ちっ。新学期早々やかましい奴等だ」
紀子
「くーっ、くーっ(楽しそうでいいよね)」
洋平
「ふん、馴れ合ってるだけだろ。くそ、
あんな連中に負けるとは(←まだ根に持ってる)」
紀子
「くー……(しょんぼり)」
割といつものような光景に見えて。
それでいて、いつもとは違う教室。
スバルの転校は女子には悲しまれ……。
男子の連中は結構安堵してたりした。
ちょっとしたハレモノ扱いだったからな。
他に違う事といえば……。
きぬ
「んー、どうした何考えてるの?」
レオ
「当ててみ」
きぬ
「ボクのこと?」
レオ
「その通りだ……」
きぬ
「ボクも、レオのこと考えてたぜー」
レオ
「ふふ、こいつぅー」
良美 無音
「……」
山田君
「な……なんか対馬君と蟹沢さんって……」
真名
「前から仲良くて2人でイチャイチャしとったけど
今回のはレベルが違うで、どうみる、よっぴー。
やっぱり……」
良美
「うん、付き合ってると思うな」
エリカ
「えっ、そうなの」
良美
「エリーにぶすぎ」
エリカ
「……ふーむ。それなら朝の事件も説明がつくわね」
暇なので柔らかいきぬのほっぺを引っ張って遊ぶ。
きぬも俺のほっぺを引っ張る。
うむ、スキンシップ万歳。
良美
「……なんか近寄りがたい雰囲気が出てるよね」
エリカ
「男子連中は戸惑ってるみたいよ」
山田君
「な、何あれ、僕の知ってる
対馬君はあんな人じゃない」
イガグリ
「どこか冷めてた、つ、対馬が腑抜けになった……」
男子生徒X
「やれやれ。蟹沢さんとられちゃったよ。
一皮むけば、あいつもただのバカってことか」
ガタッ
新一
「皆……つーか男子諸君。レオを責めないでくれ」
イガグリ
「フカヒレ」
新一
「あいつは……レオは戦ったんだ」
良美
「戦った?」
新一
「そうさ、バカップルにならない為にな」
新一
「“自分の中の何か”を守る為あいつは必死だった」
新一
「畜生、畜生って言いながら戦い続けた」
新一
「だが、あいつ右腕ケガしてて……
その時のカニの献身的な介護で負けちまったんだ」
新一
「俺が気がついたら……もう手遅れだった」
新一
「そこには手がつけられないバカップルが一組……」
イガグリ
「気がついたらって、フカヒレ! オメー対馬が
ピンチの時に何やってたんだ!?」
新一
「シミュレーションゲームで、全ての国の
内政値をMAXまであげて黄金楽土を築いてた」
イガグリ
「このバカがぁ! 伊達君がいないならオメーが
助けてやらなきゃだめだべ!
みんなこいつやっちまえ」
新一
「うわ、やめろ貴様ら卑怯だぞ。というか
やり場のない怒りを俺にぶつけてないか!?」
レオ
「きぬ、今日はバイト?」
きぬ
「うん、10時ごろそっちいくからね」
良美
「すごいね、周りでの騒音でも動じてないよ」
エリカ
「対馬クン……色を知る年齢か!」
エリカ
「なんたって私の挑発を受け流したぐらいだからね」
良美
「え、でも本当に仲がいい時は
そんなもんじゃないかな。お互いしか
見えてないってやつでしょ」
エリカ
「それはチャウチャウ」
良美
「犬?」
エリカ
「いい? オトコってのは好きな女の子が
いても他の女の子に目がいくものよ」
良美
「だから、それが通じない時期もあるって」
エリカ
「ありえないって、それが男と女よ」
良美
「経験のないエリーにそんな極めて浅い
恋愛論を語られても……」
イガグリ
「くそ……くそ、フカヒレをフクロにしても
全然スッキリしないべ!」
男子生徒X
「おい対馬!! お前蟹沢さんとはただの
幼馴染だって言い張ってたじゃないか」
男子生徒Y
「そ、そうだぞ。それを急に……お前卑怯だぞ」
レオ
「確かにそんな事も言ったな」
山田君
「え、何その優しい笑顔」
レオ
「身近すぎて、分からなかったんだ。
……こいつの良さに……俺は馬鹿だ」
良美 無音
「!」
きぬ
「あぁ、レオはバカだね、ヘタレだしさ」
きぬ
「でも、そんな所も好きだぜ! えへへ……」
レオ
「ふふ……まったくお前は」
新一
「あーあ、バカとバカがくっついたらこうなるのか」
レオ
「何を哀れんだ口調で言っているんだいフカヒレ」
レオ
「皆、俺は今ハッピーだぜ!」
教室が一瞬静まり返った。
イガグリ
「……対馬が……完全に堕落した……」
山田君
「対馬君は、く、口だけだったって事なんだね……」
新一
「あぁ、なんたってこいつヘタレだもん」
豆花
「でもカニちが幸せそうで良かたネ
表情とか乙女ちくネ」
真名
「そうやねー、あの2人はいつかこうなると
思ったし。ま、ええんちゃう」
真名
「1学期に喧嘩してたかと思えば……
腰振って、地固まる、やな。かっかっかっ」
しーん…………。
ふふ、全くこのクラスの連中ときたら
いつもいつもドタバタとうるさい奴等だぜ。
だけど、今はそんなバカ達も愛しく見える。
そう、周りの景色すら輝いて映る。
これが恋ッ……!
受け入れてしまえば、なんと素晴らしい事か。
まぁこのクラスにも俺達の仲が公認になったって
事で良かった良かった。
……………………
新一
「スバルの転校、お前達の交際で
今日のクラスの話題を独占だったな」
きぬ
「公認カップルってことだよねー」
レオ
「これでお前に言い寄ってくるヤツも
いなくなるだろうと思うとホッとするぜ」
きぬ
「へへ、もし誰か来てもボクは
レオ一筋だもんね、安心しなよ」
レオ
「うん、安心安心」
べたべたべた。
新一
「……ううむ」
新一
「どうやらあちきがいると邪魔みたいでありんすね」
レオ
「そんなことはないぞ」
きぬ
「うん、そんなことはないよ」
レオ
「あ、ほとんどハモった」
きぬ
「えへへ、息ぴったりだもんね」
新一
「うわぁぁぁん! もういいよ、
二次元キャラに慰められてくるよ」
新一
「自分の名前を入力すればな! “新一君は
優しすぎるのよ……大丈夫、私は新一君を
理解してるわ”とかいって慰めてくれる!」
新一
「すごいゲームなんだぞ、へーんいいだろ」
レオ
「所詮プログラムだろー」
新一
「プログラム言うんじゃねぇよ!
それを言うなら俺達人間だって神様に
プログラムされたんだよ! うわぁぁぁ!」
乙女
「895、896、897、898、899……」
新一
「高速で片手腕立て伏せしている乙女さーん!」
乙女
「なんだ? 鍛錬中なんだが」
新一
「バカップルが俺をないがしろにします」
乙女
「困ったものだな」
乙女
「とはいえ、野暮も言いたくはないんだが」
乙女
「勉学がおろそかになったら私が注意しておくさ」
新一
「寂しいよぉー!」
乙女
「お前素直だな、ならば私と心身を鍛えるか」
新一
「オッス!」
新一
「真空波を巻き起こし敵を切り裂くような
お手軽な必殺技が欲しいであります!」
乙女
「これか? 青嵐脚」
ズパッ!
新一
「遠くの木が真っ二つ!?」
乙女
「蹴りの速度がものを言うので、難しいぞ」
新一
「ぼ、ボク、習字の時間なので失礼します」
乙女
「やれやれ……根性無しだな」
きぬ
「でもさー、所詮プログラムってゲームを
否定すんのはマジで良くないよ」
レオ
「すまない……いつものノリで
フカヒレをからかっての失言だった」
きぬ
「うん、反省してるならいーや」
レオ
「くそ、相変わらず笑顔が可愛いなちくしょう」
レオ
「……」
きぬ
「どしたん?」
レオ
「腕を折った時はできなかったけど……」
レオ
「なぁ、またHな事していい?」
きぬ
「うん……むしろしちくり」
レオ
「おお愛しいヤツ……」
レオ
「今日のメインデッシュは新鮮な蟹の剥き身だ」
きぬ
「えへへ、全部食べきれるかなー」
乙女
「レオ、入るぞ」
レオ
「まずい離れるぞ」
ガチャリ。
乙女
「ゴホン……仲がいいのは結構だが」
乙女
「明日も学校はあるんだ。夜更かししないようにな」
乙女
「それだけだ。おやすみ」
バタン。
レオ
「……今イチ集中してできないな」
きぬ
「うーん」
さすがに性交を見られるのはためらいがある。
もどかしいぜ。
きぬ 無音
「……」
レオ
「……」
エリカ
「おーい、見つめあってるバカ2人ー」
エリカ
「ここでイチャイチャしないでくれるー」
エリカ
「ここは私の部屋なんだけどさー」
良美
「エリーのじゃなくて皆の生徒会室だからね」
エリカ
「なんかよっぴー機嫌悪くない?」
良美
「ん? そんな事ないよ」
エリカ
「ちょっと、対馬クンったら!」
きぬ
「レオってさ……やっぱりスッゲェかっこいいね」
レオ
「そういうお前は反則的に可愛いな……」
新一
「返事が無い、ただのバカップルのようだ」
エリカ
「こ、この私が疎外感を味わうなんて」
良美
「完全に世界作っちゃってるねぇ」
エリカ
「かゆい……ジンマシンが出来てるかもしれない」
エリカ
「んー、ここの毒気にあてられたかな」
エリカ
「よっぴー、背中かいて」
良美
「えーと、ここらへん?」
エリカ
「んー、そうそう……」
なごみ
「お姫様達もどうかとあたしは思いますけどね」
新一
「右に同じ」
レオ
「きぬ……」
きぬ
「レオ……」
きぬ
「キス……したくなっちゃった」
レオ
「偶然だな、俺も今そう思った」
きぬ
「これって心が通じ合ってる証拠だね」
レオ
「あぁ、サイコーだ」
良美
「え、あの、2人の顔がだんだん
近くなっていくんだけど」
エリカ
「っていうか痛い! よっぴー背中に
爪立てないでってば」
良美
「あ、ご、ごめんね」
なごみ 無音
「……」
エリカ
「なぁに、所詮は対馬クンは小者。限度ってもんを
知ってるでしょ」
んちゅー
エリカ 無音
「( д )゜ ゜」
なごみ
「すごい顔芸が出来るんですね……さすがお姫様」
良美 無音
「……!」
良美
「ひ、人前でキスを……まさに恋は盲目だね」
エリカ
「この私を一瞬とはいえ驚かせるとはなかなかやる」
エリカ
「しっかし、聡明な私にはやっぱり無理かなー
こういう男女交際っていうのは」
レオ
「姫、聡明とかそういうもんじゃないと
思うぜ、これは」
レオ
「これは素晴らしいもんだ。経験してみ?」
エリカ
「それバカップルのプロパガンダのつもり?」
きぬ
「プロテクトパンダって何だ? なんか
超強そうでおっかねぇんだけど」
レオ
「なぁに。俺がやっつけてやるぜ」
きぬ
「ボクだって背中ぐらい任されちゃうもんね」
良美
「……もはや何を言ってもいちゃつく
燃料になっちゃうね」
祈
「それじゃ、私が一発占ってみますわ」
新一
「おっ、すげぇ水晶玉だ」
土永さん
「おう、懐かしい。鎌倉の縁日で買った水晶玉だな」
祈
「ええ、そういえばあの縁日は
土永さんと出会った場所でもありますわね」
新一
「あの変な鳥、縁日で売ってるらしいぜ」
なごみ
「あたしに言わないで欲しいですね。いりませんよ」
新一
「いや、食うかなって……」
なごみ
「食べません」
新一
「冗談だよ。椰子は夏休み明けでも変わらないね」
なごみ
「あたしはあたしです」
なごみ
「伊達先輩は陸上の強い学校に転校したんですよね」
新一
「あぁ、陸上で名を馳せるって夢持ってたぜ」
なごみ
「……夢、か」
新一 無音
「?」
祈
「見えます……嫉妬に狂った佐藤さんが
カニさんを鈍器のようなもの(フランスパン)で
殴りまくるという陰惨たる未来が……」
新一
「え、そうなの? よっぴー」
良美
「ち、違うよぉ、そんな事しないよぉ」
祈
「ええ、冗談ですわ」
祈
「2人の仲はこのまま順調と出てますわね」
新一
「……なんか、すんげーつまんない結果ですね……」
新一
「はっ! 俺は親友の恋路になんて事を!
本来なら祝福してあげるべきなのに!」
祈
「それは学校など公共の場での“建前”ですわ」
祈
「内心は皆、なんだつまらないと思っている。
そんなものですわ」
新一
「ふんふん、じゃあ俺は正常なんだ」
祈
「よっぴーだってそう思ってますわ」
良美
「お、思ってないよぉ!」
エリカ
「つまんないの、からかう相手減っちゃった」
乙女
「しかし何だお前達、朝っぱらから
そんなにくっついてないとダメなのか」
レオ
「朝っぱら、からではない」
きぬ
「正確には昨日の夜から」
乙女
「一緒に寝てるのか」
レオ
「だってだって、抱き心地いいし」
きぬ
「いやぁ、レオが離してくれなくてさ」
乙女
「そんなに初めからベタベタしてると後で
飽きるんじゃないか?」
きぬ
「んー、ボク達は大丈夫。ありえねーっす」
レオ
「学園祭のベストカップル賞はもらったぜ」
がしっ、と抱き合う。
うーん、柔らかくて甘い香りがしていい感じ。
乙女 無音
「……」
………………………
乙女
「呆れてものがいえない、とはこの事だ」
新一
「はは、こっちはスバルもいなくなるし
寂しくてさ」
乙女
「だからこうして私がチェスに付き合っている
チェックメイト」
新一
「……く。ま、まいった」
乙女
「こう言っては何だがお前弱いな」
新一
「すげー攻撃的な思考だよね、乙女さん。
総がかりで攻めてくるし」
乙女
「攻めなくては勝てないからな」
新一
「負けた俺が言うのもなんだけど
キングがかなりスキだらけだと思うんスけど」
乙女
「キングが討たれても、ナイトが代わって指揮を執り
最後の一兵まで戦い忠義を尽くす、それが鉄流だ」
新一
「それすでにチェスじゃねーッス!」
新一
「でも意外かな、乙女さん和風好きだから
将棋派だと思ったのに」
乙女
「将棋は好かん。獲られた駒が捕虜になるだけなら
ともかく相手の尖兵に使われる」
乙女
「どのような理由があろうとも
ニ君に仕えるのは感心しない」
新一
「い、いやきっと妻子を人質にとられたりして
やむなく従ってるんだよ」
乙女
「人質となって夫の足を引っ張るなら
敵を1人でも多く道連れに自刃しろ、と
いうのが鉄の教えなんだ」
新一
「……教育ってマジ恐ろしい……」
乙女
「いや、そんなに真に受けられても困るが」
乙女
「さて、そろそろなまった体を鍛え直すぞ」
レオ
「え、マジで」
乙女
「あぁ、お前最近鍛錬不足だからな」
レオ
「……って事だ、きぬ。名残惜しいが
行ってくるぜ」
きぬ
「ボクも一緒にやってやんよ。体力有り余ってるし」
乙女
「蟹沢。これは遊びじゃないんだぞ」
きぬ
「チッチッ、みくびらないで欲しいな乙女さん」
きぬ
「ボクが足引っ張ると思ったら
容赦なく叩き出していいからさ」
乙女
「その心意気買った。そういう条件ならいいだろう」
レオ
「おいきぬ、大丈夫かよ」
乙女さんはやると言ったら本気でやるぞ。
きぬ
「ボクさ、頭からっぽでもいざって時の
根性と負けん気は誰にも負けないつもりだから」
乙女
「それじゃ、トレーニングはじめるぞ」
きぬ
「了解! いつでもいけます」
乙女
「よーし、いい返事だ!」
やるなきぬ、体育会系の心をわしづかみだ。
………………
レオ
「……100……! はぁ、はぁ、はぁ」
腕立て100回終わり。
腹筋とかの後だと辛いぜ。
きぬ
「へへ、楽勝じゃん、こんなの」
カニも回数減らされてるとはいえ、
よくついてきている。
乙女
「よし、次はランニング行って来い!」
きぬ
「押忍!」
レオ
「まったく、いきなりキツイぜ……」
きぬ
「ほら、一緒に行こうぜ!」
レオ
「分かった。分かったってば」
乙女 無音
「……」
………………
たったった……。
レオ
「はぁっ……はぁっ……なぁ、きぬ」
きぬ
「はぁっ……、はぁっ……な、なんだいハニー」
レオ
「ちっと休もうぜ」
レオ
「というか、サボろうぜ。疲れたよ俺は」
きぬ
「んー、確かにキツイけどさ」
きぬ
「ボク達がいちゃついて、そのせいで
だらしなくなったと思われたら悔しいじゃん」
レオ
「う」
きぬ
「だからさ、頑張って見返してやろうよ
んで、少し呆れてる乙女さんにもしっかり
交際を認めてもらおうぜ!」
レオ
「そうだな。いい事言うなお前」
きぬ
「あはは、ボクが負けず嫌いなだけなんだけどね」
レオ
「いや。偉いよ」
サボろうとした俺が恥ずかしい。
レオ
「よし! 一緒に行こうぜ」
きぬ
「うん、一緒にね」
たったったっ……。
乙女 無音
「……」
乙女
「驚いたな蟹沢。立派に支えてるじゃないか」
乙女
「これはこれで、いいのかもしれないな」
………………
帰宅→夕飯→姉弟団欒。
レオ
「前から思ってたけど」
レオ
「乙女さん、そんな細い腕のどこに
パワーが宿っているの?」
乙女
「私の腕を触ってみろ」
レオ
「ん」
むにっ
レオ
「やっぱ柔らかい」
筋肉でカッチンコッチンかと思ったのに。
乙女
「意志ひとつで硬くなる」
ビキッ!
レオ
「うお! 急にすごい硬くなった! ほんとに
鉄みたいだ」
乙女
「この筋肉の使い時、休み時を超高速で
コントロールできれば上等だ」
そして、また女の子らしい柔らかさに戻る。
……人間離れしてるな。
もの珍しい。
うーん、しかし柔らかい二の腕とかは
触り心地がいい。
むにむにむに。
乙女
「おい、いつまで……」
きぬ
「おーっす、レオといちゃつきに
来ましたーっ!」
きぬ
「うお! なんだ浮気現場!?」
レオ
「う、腕触ってるだけだ、安心しろ」
きぬ
「うー、もちろんレオの事は信じてっけど
乙女さんもスゲェ美人だから
ボクは正直やっぱ少し不安だよ」
乙女
「他人の男を奪ったりはしないさ」
乙女
「安心しろ」
レオ
「なんか複雑な気持ち」
……………………
きぬ
「さーて、いちゃつこうぜ」
きぬがバッと手を広げる。
レオ
「まぁ、待つっちゃダーリン」
レオ
「勉強とかもキッチリやらないとな」
きぬ
「それは分かるけど。後でいーじゃんよー」
レオ
「まぁまぁ」
少しは威厳も見せておかないとな。
レオ
「一区切りついたらな」
26秒後。
レオ
「やっぱダメだ、我慢できねー」
きぬを抱き寄せる。
きぬ
「おいおい、せめて1分は持たせようぜ」
レオ
「無理。美少女を放っておいて勉強なんて
“へぼ”のやることさ」
ぬふぅ、柔らかい。
新一
「レオ、歌番組録画した
DVD持ってきてやったぞ……って、ぎゃっ!」
レオ
「きぬ……可愛いぞ」
きぬ
「……大好き」
新一
「おい、第三者が見てるんだぞ。
お前達何か他にリアクションはないのかぁっ!」
レオ
「俺も好きだ」
唇を重ねる。
きぬ
「ちゅっ……レオ……」
新一
「ちくしょお……ちくしょおおおおお!!!」
乙女
「623、624、625、626!」
新一
「重さ30キロの竹刀で素振りしている乙女さーん」
乙女
「来るな!」
新一
「うわぁぁあ! 乙女さんにも拒絶された!」
乙女
「いや、素振りしているからむやみに近づくなと
警告しただけなんだが……もういないか」
朝の通学路。
きぬ
「爽やかな天気だよねー」
レオ
「あぁ、そうだな」
レオ
「見ろ、キキョウが咲いてるぞ」
きぬ 共通
「んー?」
レオ
「お前と付き合い始めてから路上の花も
美しく見えるようになったぜ」
きぬ
「うんうん、それ分かる、ボクもボクも」
繋いでる手をブンブンと振る。
洋平
「おいっ! 天下の往来で手を振り回すな」
レオ
「なんだ、村田かよ」
洋平
「さっきから呼んでいたんだぞ僕は。
ちなみにあの花はキキョウじゃなくてリンドウだ」
洋平
「ハッ、対馬よ。どうやらバカップルになったという
噂は真実だったようだな」
レオ
「お前は西崎さんとうまくいってないのか」
洋平
「西崎は関係ない。ただの仲の良いクラスメートだ」
レオ
「まーたまた、素直じゃないんだから」
洋平
「お前……僕を馬鹿にするのかっ!」
レオ
「馬鹿になんかしていない」
洋平
「ち、色ボケめ」
……………………
エリカ
「爽やかな海風……ランチにはいい気候なんだけど」
きぬ
「はい、あーん」
レオ
「あーん」
エリカ
「視界に入るバカップルが暑苦しくて困るわね」
デザートのアイスを分けてもらう。
レオ
「うん、美味い」
きぬ
「はい、もういっちょあーん」
新一
「あーん」
きぬ
「オメーはこれでも食ってな」
七味唐辛子を零距離でフカヒレの口内に
ふりかけた。
新一
「ぐふっ、がは、ごほっ!」
レオ
「相変わらずやんちゃなヤツだ」
エリカ
「はい、よっぴー、怖い顔してないで
あーん」
良美
「あ、あーん」
エリカ
「……この遊びつまんない」
良美
「何か傷つくなぁ」
良美
「でも分からないよ? エリーが
好きな人出来たとき、この面白さが分かるかも」
エリカ
「ああいう露骨にベタベタしたのは
ちょっとねー」
良美
「ある一人の人間のそばにいると、他の人間の
存在など全く問題でなくなることがある。
それが恋というものである」
エリカ
「ツルゲーネフはあんまり好きじゃない」
新一
「すいませーん。あそこの席だと疎外感を
味わうのでこっちでご一緒していいですか」
エリカ
「何か面白い事を言ってよっぴーを
笑わせたら許可してあげる」
新一
「コーヒーを飲みたいが
砂糖が無い。シュガーねーなー
よっぴーに持ってきてもらおう」
良美 無音
「……」
エリカ
「はーい、またのチャレンジをお待ちしてまーす」
新一
「レベルがあまりにも高すぎたか……俺の
居場所が無い……」
きぬ
「次、体育だよねー。男子は何やんの」
レオ
「自主トレだと思う。来週からサッカーかな」
レオ
「女子は何やんの」
きぬ
「バレーかな。ボク達のチームはしょっぱな
やって終わりだからヒマだよ」
レオ
「んじゃ、後で会おうか」
きぬ
「あ、いいねそれ」
…………………
新一
「しっかしA組と合同フリー練習と
いうのもかったるい話だな」
洋平
「ヒマならサッカーの試合をしないか?
僕達A組対C組で」
新一
「勝負好きだこと。どうするよレオ」
新一
「あら、いねーじゃん。トイレか?」
………………
レオ
「しっかし生徒会室が閉まってるとは」
きぬ
「2人っきりがここしかねーとはね
教室とかだとこの時間見回りくるかもしれねーし」
ここは体育用具室だったりする。
レオ
「暗いな」
きぬ
「よく見えねー。ま、静かだけど」
レオ
「涼しいしな。暗いのはじき目がなれる」
きぬ
「ここでなら思う存分いちゃつけるよねー」
レオ
「その通り」
体操服のきぬを抱っこする。
柔らかくて気持ちいい。
レオ
「……」
しかし、きぬが運動した後だからだろうか。
体から熱気とフェロモンがいつもより
強く放射されてる気がする。
汗ばんだ肌。
いかん、クラクラする。
きぬ
「わっ……、れ、レオ……なんかしらねーけど
ボクの体に屈強なモノが当たってるぜ」
レオ
「正直、興奮した」
レオ
「だって、ここ体育用具室なんだもん」
レオ
「だってだって、お前体操服+ブルマなんだもん」
きぬをさらに強く抱きしめる。
レオ
「ねぇ、ここでしてみないか」
きぬ
「ちゃんと口に出して言わないとダーメ」
レオ
「きぬ先生……セックスがしたいです……」
レオ
「ゴム持ってないけど、お前確か安全日だよな?」
きぬ
「うん、それは大丈夫だけど」
きぬ
「でもこんな所でよろしくやってたのが
バレたら即退学だぜ」
レオ
「そんな事言いながら息が荒いぞお前」
きぬ
「おう、なんかもーボク達の間には理屈を
越えた何かがあるね」
きぬが俺の胸に顔を押し付ける。
レオ
「それは、おそらく愛というものだ」
きぬ
「これが愛か!」
レオ
「鍵をしっかり閉めてあるから大丈夫」
レオ
「何かあったらそこの窓からお前だけ逃げろ
身軽だからできるだろ」
きぬ
「おいおい死ぬときは一緒だぜ?」
レオ
「いや、2人で見つけられたら死ぬが
俺1人なら授業サボりで怒られるだけで済む」
レオ
「だから安心してやろう」
きぬ
「まったくスケベだよね」
きぬ
「それじゃ一戦交えますか」
レオ
「負けねぇぞ」
きぬ
「ふん、いつもヒーヒー言ってるくせに」
開始の合図に、きぬの唇にキスをする。
きぬ
「んー……」
レオ
「ん……」
きぬの体で一番魅力があるふとももに触った。
うっすら汗ばんでいて、その柔らかい感触だけで
完全に勃起した。
レオ
「その、する前に1つお願いがあるんですけど」
きぬ
「ん、何でも聞いたげる」
………………
熱くなった自分のペニスを外に出す。
ちょっと涼しかった。
レオ
「それじゃ、いきます」
きぬ
「うわ、相変わらず熱いね」
きぬのふとももの間にペニスを通した。
きぬ
「おおっ、なんか自分で生えてるみたい」
柔らかくて、それに少し汗ばんで。
試しに腰を振ってみた。
レオ
「うあっ……これ気持ちいい」
きぬ
「ほ、ほんとに?」
レオ
「うん、お前のふともも最高だ」
ペニスで直に触れているふとももは、
女の子らしく柔らかい。
良くこれで俊敏な動きが出来ると関心してしまう。
レオ
「んっ……」
ぴちっと弾力があってはさみこまれている
ペニスは両方からぐっと刺激を受けている。
きぬはパイズリできないけど、こっちが出来るから
充分だとすら思った。
きぬ
「んん、ボクちょっと暇だねこれ」
レオ
「ん、気持ちよくさせてやる」
体操服の中につっこんだ手を動かす。
控えめな胸をゆっくりと揉んでやった。
きぬ
「なんかボク、んっ、痴漢されてるみたい」
レオ
「されたことあんの?」
きぬ
「無いけどさ」
レオ
「こんな愛がこもった痴漢なんていないって」
もう少し上、きぬのブルマにすりつける感じで
やってみよう。
レオ
「これで、どう……」
きぬ
「あ、ちょっと気持ちいい……」
両サイドにふともも、上にブルマ。
麻薬のような組み合わせだ。
しかし昔から見ているのに、
実際触ってみると全然違うな、きぬの体は。
こんなに女の子らしい体に育っていたんだ。
きぬ
「ううう、なんかもどかしい」
レオ
「俺はすごい気持ちいい」
きぬ
「呼吸が荒いよレオ……」
レオ
「だ、だってこれ、たまらないぜ?」
きぬ
「まったくもう、このドエロ……」
レオ
「お前のセクシーな体が悪い」
きぬの手を握りギュッと力をこめる。
きぬ
「うん、それは言われなくても分かってるけど」
こんな時まで調子のいいやつだ。
だが、俺がこの一定運動を続けていると……
きぬ
「……ん……ん……んっ」
きぬの呼吸の中に微妙な甘い声が
含まれるようになってきた。
レオ
「気持ちよくなってきただろ?」
きぬ
「だって、んっ、レオがソコばっか擦ってくっから」
レオ
「だってすべりが良くなってきたんだもん」
きぬ
「それはレオが濡れてきたからだろ」
レオ
「うん、本番やりたい」
きぬ
「じゃあ脱ぐからちっと待って……」
レオ
「待つのはお前だきぬ。
おじさん、これからとっても大切なこと言うぞ」
きぬ 無音
「?」
レオ
「ブルマは脱ぐな」
レオ
「それじゃ体育倉庫でやってる意味が無い」
きぬ
「オメーは実にムッツリ君だな」
レオ
「まぁね」
レオ
「お前の方も……準備OKだよな」
ブルマの上から遠慮なくお尻を撫でまくる。
きぬ
「う、うん。準備おっけ、あんっ……」
しっかり濡れているようだ。
スマタでブルマ越しに
刺激しまくってたからな。
スマタってなかなか便利かも。
レオ
「えーっと、このマットほこりっぽくないかな?
うん、大丈夫だ」
きぬ
「ん、じゃあ寝るね」
レオ
「よし、行くぞ。正直もう我慢できん」
きぬ
「えへへ、ボクも……」
レオ
「このエロ」
きぬ
「どっちが」
きぬ
「うわっ……な、なんか恥ずかしい」
レオ
「そりゃ、こんな格好してりゃあな」
レオ
「みんなが体育をしてるのに、俺達も体を
動かさないと皆に申し訳ないからな」
ブルマをずらして、スマタで限界までたぎっている
ペニスを秘裂の中に埋めた。
きぬ
「くっ……」
きぬの背中がブルッと震えた。
レオ
「まだ少し痛いか?」
きぬ
「だ、大丈夫……」
レオ
「ま、まぁこれだけトロトロならな」
きぬ
「うおっ……口に出すなって」
組み敷いているきぬの肌が羞恥で紅に染まった。
分かりやすくて可愛いヤツだ。
レオ
「じゃ、入れてくからな」
相変わらず狭い膣口にぐいっと亀頭を押し入れる。
きぬ
「ん……んんっ……」
先端が入ってしまえば、後は楽。
レオ
「きぬ、力を抜け」
きぬ
「はぁっ、はぁっ……なかなか……
はぁっ……難しく……て」
ヌーッ、と奥まで挿れていく。
きぬ
「うあっ、すっげー熱い」
レオ
「こっちもだ……」
お互いの性器の熱さだけで達してしまいそうだ。
俺はしばらく腰を動かさず、休憩していた。
きぬ
「ふぅ……ふぅ……」
レオ
「苦しくないな?」
きぬ
「うん……だいじょび」
せっかちなペニスはビクン、と反応した。
ビクン、ビクン。
射精しているわけでもないのに、中で
ブルブルと震えるペニス。
さっさときぬの膣を味わいたくて仕方ないらしい。
きぬ
「だ、大丈夫だぜ、動いても」
レオ
「分かった」
中できぬの愛液をたっぷり浴びた
ペニスを、ずるっ……と動かす。
きぬ
「くぅンっ……」
レオ
「その甘えた声は反則だ」
理性は保ってるつもりだが、飛んでしまいそうだ。
初めは、ゆっくり……きぬの粘膜をならしていく。
突く、というより粘膜を擦っていくように、
ゆっくりと動かした。
きぬ
「んっ……、きもち、んっ……いい」
レオ
「あぁ、こっちもいい感じだ」
よもや俺達が体育用具室で保健体育の実習授業を
しているとは誰も思うまい。
そう、ここが安全な家の中じゃないって事が
より興奮してくるんだ。
きぬ
「あぁっ……くぅっ、レオぉ……」
きぬが甘えた声を出す。
気がつけばギアがあがり、かなりのスピードで
腰を振っていた。
きぬ
「はぁっ、あっ……あっ……」
2人の激しい息遣いが体育用具室に響く。
レオ
「はぁっ、はぁ……きぬ、すごい具合いいぞ
たまらないよ」
きぬ
「んあっ、ばかっ……えろっ」
腰をさらに動かして膣襞を擦りまくる。
レオ
「きぬ、可愛いぞ」
きぬ
「あっ、あぁっ、れお、れお」
うわ、今膣がキュッって締まったぞ。
きぬの性器、本当に生きているみたいだ。
レオ
「きぬ……きぬ……」
きぬ
「れお……れお……」
キュウッ……キュッ……。
レオ
「ぐっ」
思わず射精しそうになったのをこらえる。
腰が甘く痺れてきた。
きぬ
「ん、あ、んくっ、は、あっ――!」
こっちが名前を呼びかけるたびに、中の粘膜が
きつく締めつけてくる。
す、少し休憩を。
つか、ここ体育用具室だ、声を抑えないと。
きぬ
「レ、レオ、だいじょーぶ、だから、んっ、
もっと、あッ、動いて……」
こ、酷な事を言いなさる。
レオ
「う、うぅ……」
さらに気持ち良くなったのはいいけど
これじゃ出てしまう。
なるべく我慢して腰を振り続ける。
きぬ
「あッ…、ぁ…ンンッ、す、すげ、気持ちいい」
きぬが苦しくないように、と息を吐くリズムに
合わせるようにペニスを突き入れているのだが……。
こいつがいい感じで俺のペニスをグイグイ
責め立ててるあたり、俺より余裕あるのかも。
きぬ
「あっ、んッ、れお……て、握って」
レオ
「ん」
そうして手を握った瞬間――。
さらに強く締め付けが行われた。
レオ
「くっ……」
締め付け、というよりも俺のペニスに
粘膜がうごめくようにからみついてきている。
レオ
「そ、そんな締め付けるな、出ちまうよ」
きぬ
「そ、そんなこと、言っても、はぅっ、あっ……」
もうだめだ、ブルマ姿の美少女をもっと
じっくり鑑賞しつつSEXしたいが余力が無い。
レオ
「んっ……」
腰を力強く振る。
そしてスピードも速める。
レオ
「くッ…、きぬっ……出るっ…」
きぬ
「んくっ……! は、ふぁ、れおっ」
一番奥まで、届くように力をこめて
腰をグイッと突き入れた。
きぬ
「んっっっ……!」
きぬが体をビクン、と反応させる。
レオ
「あうっ」
ドピュッ!
尿道から一気に精液が飛び出す。
きぬ
「ん、はぁ、はぁっ……」
きぬがはぁ、はぁ、と呼吸を乱している。
ドピュッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ……。
自分でも驚くほどの量がきぬの体内に
送り込まれていった。
精液がきぬの中を満たしていくと思うと
雄としての満足感みたいなものがこみあげてきた。
――そして、出し切ると虚脱感。
……………………
きぬは軽く痙攣していた。
外に出してマットを汚すわけにもいかないし。
安全日ならここに注ぎ込むしかなかったとはいえ
ちょっと心配だな。
レオ
「おい、大丈夫か?」
きぬ
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、うん、だいじょーぶ」
軽く頷いてくれた。
完全にイッたわけではないだろうが
満足はしてくれたらしい。
確かにSEXは体力使うぞこれ……しっかり
運動の役目は果たしたな。
そ、それにしても……。
コスプレ最高じゃね?
俺はまたひとつ開眼してしまった。
エロの道は果てしなく長いようだ。
レオ
「もうすぐ体育が終わる……何食わぬ顔で
皆と合流しよう」
きぬ
「ボクはさすがにバレるかも……どっかで
サボってるよ」
レオ
「う、悪いな……」
きぬ
「いーって、いーって。その代わり……」
レオ
「あんまり高いものは買ってやれないけど何だ」
きぬ
「今日は親いないから後でボクんち来てもう一戦ね」
レオ
「おおっ、やりまくれるじゃん」
きぬ
「そーいうこと、んっ……ん」
終わった後も、余韻を味わうようにキスをする。
もうお互いの体を求めまくりだった。
レオ
「いかん、名残惜しくて離れられん」
きぬ
「うん、ボクも……またすぐ会えるのにね」
どんどん深みにはまっていく。
…………………
レオ
「おはよう、乙女さん」
乙女
「ああ、おはよう」
乙女
「最近は肌に艶が出てきて活気があるな、お前」
レオ
「え、そ、そう?」
乙女
「あぁ、お前と蟹沢はお似合いなようだ」
乙女
「何だか姉としては複雑ではあるがな……
厳しくしているだけではやはり駄目なのか」
レオ
「え?」
乙女
「いいからほら、さっさと朝飯を食え」
やっぱりおにぎりなわけで。
乙女
「しし唐辛子とちりめんじゃこが入っている
そっちはひじきの煮物だな」
レオ
「相変わらず豪快だなぁ」
乙女
「蟹沢は料理を作ってくれないのか?」
レオ
「今練習中だって」
乙女
「それは楽しみだな。彼氏冥利に尽きるだろう」
レオ
「あはは、まぁね」
レオ
「……乙女さんも彼氏作れば」
乙女
「考えもしないな、そういうことは」
乙女
「学校も忙しいし、自己鍛錬も忙しい
かといって寝不足も健康に悪いから
睡眠もしっかりとる」
乙女
「それで24時間安定しているからな。
1日が36時間ぐらいあればいいんだが」
レオ
「なるほど」
乙女
「……伊達から連絡は?」
レオ
「無い」
乙女
「そうか、じゃあ頑張ってやっているのだろう」
レオ
「うん」
そして、一日がはじまる。
エリカ
「明日は、会議があるんで
執行部の集まりはお休みね」
エリカ
「竜鳴祭の各クラスの出し物の案が
ぼつぼつと出てきたみたいだから、それを
許可、不許可決めましょう」
エリカ
「本当は私がパパッと決めちゃえばいいんだけど」
良美
「エリーはちょっとセンス狂ってるから
皆で決めないとダメ」
エリカ
「と、小姑が言ってるんで多数決で決めます」
良美
「私だって好きでガミガミ言ってるんじゃないのに」
あ、いじけた。
エリカ
「あと、はいそこベタベタしないでね」
きぬ
「えー、手ぇ握ってるだけじゃん」
レオ
「まぁまぁ、ここは言う事聞いておこう」
きぬ
「んだよぉ、姫の言う事には素直なんだからさぁ」
レオ
「おいおい、ヤキモチか?
安心しろ、俺はお前しかもう見てないから」
きぬ
「うん、ボクもレオしか見てないもんね」
エリカ
「イチャイチャするなっつってんだろバカップル」
わぁ、笑顔で言われた。
エリカ
「はい、まず3−A。喫茶店、ただの喫茶店」
エリカ
「これは面白くないから却下ね」
レオ
「いや、それはちょっと待って」
エリカ
「何、バカップルの片割れ」
レオ
「面白くないから却下というのもどうなの?」
エリカ
「仮装喫茶店とかなら分かるけどさ。
ただ喫茶店されても、つまんないじゃない」
エリカ
「どうせなら、仮装おさわり喫茶とかがベストよね
そしたら私も客として行ってあげるわ」
なるほど、佐藤さんが皆で決めたがるハズだ。
なごみ 無音
「……」
きぬ
「ねーねー、さっき多数決の時から
ココナッツがこっちジロジロ見て来るんだけど」
レオ
「んーなんでだろうな」
きぬ
「うらやましいのかな、ボクがレオと
いちゃいちゃしてるのを見て」
なごみ
「ただ、目の毒だから消えろと思っていた
だけですが何か?」
きぬ
「おお、思ってるだけか、いつもそーやって
じめじめ生きてるのか」
レオ
「言いたい事があるなら口に出して
言わないと分からないよな」
きぬ
「うん、ボク達そのおかげで随分
遠回りしたもんね」
なごみ
「なんだ、このバカップルに馬鹿にされた
ような感覚は……不愉快極まりない」
きぬ
「まぁ、元気出せよ。そのうちいいことあるさ」
なごみ
「お前、いい加減にしとけ」
きぬ
「ふんっ、ひねたガキにボクが負けるかよ」
あーあー、はじまった。
まぁ、相変わらず仲が良さそうで何よりだ。
祈
「修学旅行の行き先は
イギリス、重慶(じゅうけい)、スウェーデン、
アパラチア山脈から選択できますわ」
祈
「私はイギリス担当ですが、皆さん好きな
場所を選んでくださいね」
祈
「アパラチア山脈は館長自らが引率されますわ」
ぜってーいかねー。
でも拳法部は強制的にアパラチアらしい。
スパルタだよなぁ。
良美
「スウェーデンかなぁ。オーロラ見たいから」
エリカ
「アパラチア山脈……捨てがたい」
……………………
レオ
「おお、なるほど。今日は執行部の活動
休みだもんな」
きぬ
「そ。休みだからこそ存分にいちゃつける」
レオ
「こっちの家では乙女さんがいたり」
きぬ
「ボクの家では親がいるからねー」
レオ
「そういや、修学旅行どうする……?」
きぬ
「ん、中国でいーんじゃね? 中華尽くしで
飯美味そうだし」
レオ
「まずそれか」
きぬ
「パンダもいるし」
レオ
「あぁ、可愛いよな」
きぬ
「食える?」
レオ
「こいつぅ、パンダなんて食えるわけないだろー」
きぬ
「分かってるって、冗談だよ」
レオ
「でも九寨溝はマジで綺麗そうだよな」
きぬ
「美味いんか?」
レオ
「……こらこら、景勝地のことだよ」
レオ
「水の透明度が高くてさ、山とかの
風景がそのまま湖面に鏡のように
写し出されてるらしい」
レオ
「そういう綺麗な風景を、お前と一緒に
見てみたい」
きぬ
「うん、いーよ」
きぬ
「でもレオがそんな事まで言うキャラとはね」
レオ
「結構勇気のある発言だったと思うぞ」
カチャ
なごみ
「…………げ」
レオ
「椰子、今日は休みだぞ」
なごみ
「忘れてました」
きぬ
「記憶力低いな、ココナッツは。さすがバカ」
なごみ
「そっちだって、ここに来てる」
きぬ
「あぁ、ボク達はいちゃつくためだもんねー」
レオ
「ねー」
なごみ
「やれやれ……お邪魔しました」
バタン。
きぬ
「えへへ……なんか2人でベタついている所を
バカに見られたら、ちょっと興奮しちった」
レオ
「偶然だな、俺もだ」
よし、鍵をしよう。
――施錠完了。
レオ
「これでここは密室だ」
家には人が居る。
ラブホに行く金はない。
レオ
「なさいますか」
きぬ
「なさいましょう」
家に帰るまで我慢できない。
レオ
「し、しかし生徒会室でするってのは
さすがに度胸いるな」
きぬ
「まぁ姫の城みたいなもんだしね」
レオ
「監視カメラとか回ってないだろうな」
きぬ
「さすがにそこまでするほど暇じゃないっしょ」
ここなら外からも目撃できないし。
レオ
「じゃ、じゃあ誰か来てもすぐ
対応できるものをしよう」
きぬ
「ん、それって何?」
レオ
「前々からやってもらいたかったんだ」
…………………
きぬ
「……(ごくり)」
レオ
「ど、どうした」
きぬ
「こうやって間近で見るとビクビク動いて
本当に生き物みたいだなって」
うっ、しゃべるだけで吐息がかかる。
レオ
「きぬ、舐めて」
きぬ
「ほんとスケベだよね……」
レオ
「あぁ、お前の言葉責めに反応している」
ペニス自身も早く舐めてくれとせがむように
ビクン、とひくついた。
きぬ
「ウインナーにも見えんね」
レオ
「これ食えないから」
レオ
「でも、飲むことは出来るぞ」
きぬ
「ちょっと興味あるかも」
レオ
「じゃ、頼む」
きぬ
「ん……舐める……ぺろ」
レオ
「うっ」
ペニスで感じる舌の感触がっ……
温かくて、ヌルヌルしてたまらない。
きぬ
「ん…熱い……ちゅ……ん…
ん………ちゅっ……」
きぬ
「ぺちゅ、くちゅ………ぺろ……」
レオ
「うぁ……あ」
きぬ
「ぺろ……ん、ちゅ、えへ、レオあんあん言ってる」
レオ
「バカこれ半端な気持ち良さじゃねぇぞ」
きぬ
「続けんね、んっ……ちゅ…れろ」
口には含まず、ペニスを磨くように
舌を這わせてくる。
きぬ
「んっ…ちゅ、……ちゅ……ん
レオのおちんちん……ボクが
べとべとにしてあげる……ぺろ」
レオ
「うううっ」
今なんかこいつ凄い事を言わなかった!?
きぬ
「わ、やっぱり反応した、ビクンって。
ちゅっ……ぺろ……れろ」
レオ
「お、俺の反応で遊ぶな」
レオ
「し、しかし恥ずかしい言葉を口にするとは
やるじゃないか」
きぬ
「ぺろ、れろ、んっ、レオ、へたれだから
言葉責めに弱いかなって……ちゅっ、んっ」
レオ
「ばっ……失礼なことをいうな」
きぬ
「ここがいーんだろ。れろれろ……ぺろ」
裏筋に沿って舌を動かされた。
レオ
「んくっ」
くそ、こいつ自分が自由に動けると
結構俺をいじめてくるよな。
よし、たっぷりいじめられてやる。
きぬ
「ぺろ……ぺろ……あ、なんか
苦い感じする……、ぺろ」
きぬ
「んだよ、もう濡れてきたんだ。
あむ、んむ、ぺちゃ……んふ……」
きぬが、いったん舐めるのをやめると
漏れた先走りが、きぬの舌との間で糸をひいていた。
レオ
「うわ、いやらしい眺め」
きぬ
「ん……じゃあ次口ん中いれるから………あむっ」
レオ
「歯は立てないでくれよ、痛いのはいやだから」
きぬ
「んん(うん)……じゅ……じゅ…ず…あむ…」
きぬ
「ちゅる、ん…ちゅっ、ずっ…ずずっ、んっ…」
レオ
「お、お、お」
やば、これ気持ちよすぎる。
きぬ
「ちゅ…んむ……ずずっ、ずずっ」
先走りを吸うように舐めている。
早くも射精したくなってきた。
きぬ
「じゅる……ずずっ、ぷは、はぁ、はぁ、はぁ……
どう、レオ気持ちいい?」
レオ
「あぁ、すっげーいい」
きぬ
「何も言わないから、どうかと思ったよ」
レオ
「いや、出すのこらえてて喋る余裕なんてなかった」
きぬ
「んじゃ、続けんね………んむ、あむっ、ずっ……」
今の会話がいい休憩になった、まだこらえられる。
きぬ
「んぐ…ずずずっ…、ちゅ…んむ」
しかしきぬの表情といい、下着といい実にHだな。
きぬ
「ん…んむ、あむ…じゅっ…んっ…んんっ、ぷは
な、なんか、まだ大きくなってるみたい」
レオ
「それだけ気持ちいいんだ。
いつ出るか分からないんで、そこの所よろしく」
きぬ
「んっ……はむっ、じゅる……ずずっ、チュ…」
ちらりと、上目遣いに見られる。
ゾクゾクしてきた。
きぬ
「ちゅっ……ちゅぱ……んんっ」
きぬ
「んン…うぅん…あむ、くちゅ…
んっ…んんっ………んっ…ぷはぁっ
んーと、何だったけかな?」
レオ
「お前、舐めてる最中も落ち着かないな」
きぬ
「……舐める時こうすれば気持ちいいって……
何て書いてあったんだっけと思って」
レオ
「今のままでも充分気持ちいいぞ」
きぬ
「まぁ、どうせなら上限まで気持ち
良くなって欲しいし」
きぬ
「あ、そうだ、頬をすぼめて圧力かけて
吸うんだっけ……よし、あむ」
頬のやわらかい肉が当たる。
きぬ
「ンむっ……ずっ……ずずずずっ」
こ、これは強烈!
きぬ
「じゅる……ずずっ、チュ…んんっ…」
口の中がアソコみたいだ。
きぬ 共通
「んン…うぅん…あむ、くちゅ…
んっ…んんっ………んっ…」
きぬ
「んっ…あん…ちゅぷ…ちゅ…はぷ」
レオ
「も、もうダメだ、出るっ」
尿道から熱い精液が打ち出された。
きぬ
「んんっ!!」
きぬ
「んっ……んぐっ、んぐっ……」
の、飲んでる!?
兵(つわもの)だ!
びゅくんっ……。
最後の射精が終わる。
きぬは、すっと俺のペニスから口を離した。
レオ
「……おい、どうした?」
きぬ
「んー……んんー」
レオ
「いや、何て言ってるのかわからない。口開けろ」
きぬ 無音
「(ふるふる)」
レオ
「え、まさか口の中に俺の子孫が
いっぱい入ってるの」
きぬ 無音
「(こくん)」
レオ
「い、いきなり飲み込むのは
やっぱまずかったか」
ティッシュをとる×4。
重ねてきぬの前に差し出す。
レオ
「これに吐き出していいぞ」
きぬ 無音
「(ふるふる)」
レオ
「ノーサンキューだというのか」
きぬ
「ん……ごくっ」
うわ、こいつ気合で飲んでる。
きぬ
「んぐっ、……んっ、ごくっ……んっ」
きぬ
「んぐっ……ぷはっ、はぁっ……はぁっ……」
きぬ
「でろっとして、食えたもんじゃねぇ……苦いやら
微妙にしょっぱいやらで……」
きぬ
「なんか喉にひっかかってる感じがするし」
きぬ
「まぁ、それでもレオのだと思えば
美味しく感じるかも」
レオ
「そ、そうか」
きぬ
「ただ、やっぱり不平等だよね。よし、ここは」
レオ
「ん、何か言った?」
きぬ
「んーん。なんでもない……ぺろっ」
レオ
「あぅっ……え、お前?」
きぬ
「もう一回してあげる……ぺろ、ぺろ、ぺろ」
亀頭を舌で優しく舐めまわされる。
きぬ
「あ、ん…く…んちゅ…ん、またどんどん
大きくなってきたね……ちゅぱ…んんっ…」
きぬ
「ん…っ…チュッ…はむっ」
きぬ 共通
「んぐ…ずずずっ…、ちゅ…んむ」
きぬ
「あく…じゅる…んん、ん…ちゅ……」
まずい、こいつ亀頭を集中攻撃してきやがった。
レオ
「くうっ……!!」
あっけなく2発目!
さすがに連続で飲ますのは可哀想だ。
俺はきぬの口からペニスを引き抜いた。
その引き抜くときの、きぬの唇の感触がとにかく
柔らかかった。
そのせいで、俺は制御できなかった。
レオ
「あ、まずっ」
ドピュウ! びゅるぅ!! どびゅ!
精液の零距離射撃。
きぬ
「んっ!? あっ、んあっ」
見事にビシャッとおでこに着弾した。
可愛いほっぺや鼻にまでべっとり精液が
ついている。
きぬ
「……ふぁ」
きぬは怒るというより呆然としていた。
レオ
「す、すまん。顔射決める気はなかったのに」
顔についている精液をティッシュで
拭いてやる。
そりゃあ、射精してる時はゾクゾクしたけど。
こいつの可愛い顔を汚す気は本当になかった。
レオ
「よし、綺麗になったぞ。可愛いお前の顔だ」
きぬ
「ん……外に出したらだめなんだって、あむ」
レオ
「え、きぬ?」
再びペニスを口に含む。
きぬ
「ん〜ずっ、ズッ、ずずずっ」
レオ
「お、お?」
尿道に残っていた精液の残り汁が吸われていく。
レオ
「き、きぬ。お前そんなアフターケアまで」
きぬ 無音
「……」
レオ
「……いや、お前何その目は」
きぬ
「ん……〜」
レオ
「え、キス? この状態でキス!?」
レオ
「ん……」
きぬ
「ン……んむっ……ん〜〜」
レオ
「んんっ!?」
口移しでなにやら苦みのあるものが……っ!
きぬ
「んっ〜、ンむっ……ん〜〜〜ぷはっ」
レオ
「んぐっ……なんじゃこれ、まず!」
レオ
「お前、よくこれ飲んだな!?
これは自分で言うのも何だがまずいぞ」
ドローッとして感じが悪くなった牛乳みたいだ。
レオ
「なんでこんなもんを全部……」
きぬ
「愛だ。愛と誠」
偉大だ。
キスしたらまた勃起してきた。
我ながら回復力だけはたいしたものだ。
レオ
「……ここで本番がしたいって言ったら……
その……きぬは俺を軽蔑するか?」
きぬ
「んー? 口説き言葉によるかな。ロマンチック
アクションで」
レオ
「お前が大好きだ」
レオ
「大好きだから、抱きたい」
きぬ
「んーっ、ひねりがなさすぎかな」
といいながら、きぬはふともものあたりを
もじもじとさせている。
レオ
「んー? なんか怪しいな」
レオ
「検問でーす」
きぬのスカートの中に手を滑り込ませる。
きぬ
「うわ、なんだ勝手に触るな」
レオ
「彼氏だからいーんだ」
きぬ
「そりゃ、そーだけど今はダメだって、あっ」
レオ
「お前だって濡れてるじゃないか。
あんまりじらさないでくれよ」
きぬ
「いやぁ、やっぱムード大事じゃん」
レオ
「ムードなんてものは」
さっとキスをする。
レオ
「ん……」
きぬ
「んっ……あ……ん、ん……」
きぬ
「んんっ……んっ……ぷはっ」
レオ
「な、これで出たろ」
きぬ
「い、いつもはチキンなレオの
大胆な行動に……びっくりだよ……」
そう言いながら体を預けてくる。
レオ
「今日はしっかりゴムがあるから安心しろ」
あんまりゴムつけずにドバドバ中で出すと
マジで子供できるからな。
レオ
「少し違う体位でやってみよう」
………………
レオ
「お前は軽いからこういう体位だってOKだ」
きぬ
「な、なんかこれまた恥ずかしい……」
犯すべき膣口にしっかり狙いは定まっている。
後は挿入するだけだ。
レオ
「舌噛むな、気をつけろよ」
きぬ 無音
「(こくり)」
レオ
「前から見れないのが残念だけど」
きぬの腰をずぶっと沈めていく。
きぬ
「……んっ、んんっ、んんっーッ!」
きぬ、舐めただけでこんなに濡れていたのか。
きぬ 共通
「んんっ……ん」
小さな体がピクピクと痙攣している。
こんなにスムーズに埋まったのは初めてだ。
ゴムしてSEXしても生の時と全然違うって
わけではないな……。
しっかり締め付け感は味わえる。
まだペニスが中に入る余地はあるかもしれない。
俺はきぬの足を持って、腰を突き上げた。
きぬ
「んうっ、ふうっ、んんんんっ」
白いうなじにキスしながら腰を動かし続けた。
生徒会室には、Hな音がズンズンと響いている。
よし、2回出しに加えゴムしててちょっと
感じが違うので持続できそうだ。
きぬ
「ん――んっ」
腰の動きのギアをあげていく。
きぬ
「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……」
きぬは可愛らしく喘いでいる。
こんな、ただ“突いている”だけの
行為がこうも気持ちいいなんて。
貪るように腰を動かし続ける。
きぬ
「ンっ……んっ……ンッ」
レオ
「きぬがあらかじめ2回も抜いてくれた
おかげでまだ大丈夫だよ」
さらにグイグイときぬを突き上げた。
きぬ
「んーーーーーーっ!!!!」
きぬの白い脚がブルッと震えている。
レオ
「!?」
俺を包んでいる膣壁がキュウッと収縮をはじめた。
レオ
「うわ……気持ちいい」
腰を振る速度をさらに速める。
きぬがピクン、ピクンと体を痙攣させているにも
関わらず突きまくった。
レオ
「きぬ……きぬ……きぬっ」
きぬ
「んむっ、んっ、んっ、んっ」
きぬ
「んんーーーーーっ!!!!」
レオ
「行くぞきぬっ……」
ドクッと精を解き放つ。
あれ、この感覚?
うお、そうだゴムしてるんだっけ。
まぁ、いい。きぬの中で射精の快感に浸ろう。
レオ
「……?」
きぬ 無音
「……」
レオ
「きぬ? …………って」
気付いたらきぬも何か出していたようで。
生徒会室の床は盛大に濡れていた。
しかも愛液とかじゃなくて、なんかこう、
かっこよく言うと聖水?
きぬ
「うっ……ううううっ……」
レオ
「ど、どうした?」
きぬ
「ぼ、ボク、10代なのにこんな所で……
レオ、ちげーんだ、これは……」
レオ
「わ、分かってるって、こっちこそすまん」
レオ
「感極まって出してしまったんだろ?」
きぬ
「ぐす……」
レオ
「そ、そんな傷つくなって」
レオ
「ふぅっ、エキサイトして出しちまったぜ」
レオ
「ぐらいでいーじゃね?」
きぬ
「それただの変態かマッシブさんだよ、
ボクは多感な年頃の女の子なの!」
レオ
「わ、悪かった。マジごめん」
レオ
「じゃあお詫びにお前の望み何か叶えてやるから」
きぬ
「それじゃ、まず回らない寿……」
レオ
「金がかからないもの限定で!」
きぬ
「こいつみみっちぃ……」
レオ
「無茶言わないでくれよ」
でも思ったよりは元気そうで良かった。
………………
コンドームを外す。
片手でつまみあげて、かざしてみる。
レオ
「おぉっ……我ながらすごい量だ」
ごみ箱の中にいれても問題あるからな、これは
持って帰って途中で適当に捨てよう。
きぬ
「ん、拭き終わったよ」
レオ
「あぁ、俺も手伝うって言ってるのに」
きぬ
「やだよ恥ずかしい」
顔を赤らめる。
んー、可愛いではないか。
レオ
「で、何かお願いはないか?
金かかるのはあかんぞ」
きぬ
「ゴム……あと2個余ってるんだよね」
レオ
「そうだけど」
きぬ
「んじゃ後でもう2回。今度は顔見ながら
ソフトなのね」
レオ
「……女は強いな……」
ところで今週、フカヒレの姿が全く無かったが。
ケータイ繋がらないし。料金止められてるな。
そういやあいつ、オンラインゲーム
やってるんだよな。
俺は今どきアナログ電話回線なんで、
動きが遅くてすぐにやめちまったが。
……試しにログインしてみるか。
あいつのハンドルネームはシャークだったはず。
酒場で他のプレイヤーに話を聞いてみよう。
“シャークって知ってる?”
“もちろん、シャークさん有名ですから(笑)”
……有名、なのか?
“シャークさんは親切なんですよ。ピンチの時に
かけつけて怪我を治してくれたし”
“シャークさんの武勇伝は他にもありまして”
フカヒレはネットゲームの英雄になっていた。
………………
新一
「うおおん、お日様の光が眩しいよー」
きぬ
「んだよ、情けねーな」
新一
「俺はネットゲームに帰る! あそこでは
俺は勝ち組なんだ! 皆が俺を認めるんだ」
きぬ
「ネットゲーやるなら、学校行った後でな!」
ずるずるずる……
新一
「放っておいてくれよなぁ」
レオ
「お前を放ったらかしにしたのは
悪かったと思ってるよ」
きぬ
「これからも一緒に遊ぼうぜー」
新一
「バカップルは政治家の次に信用できねー!」
レオ
「だって佐藤さんもお前がいないと寂しがってるぜ」
新一
「マジで!」
きぬ
「ほらボクの携帯よっぴーに繋がってっから。
声を聞いてみ」
良美
「鮫氷君、戻ってきてよ」
エリカ
「皆待ってるわよ」
なごみ 無音
「……」
良美
「ほ、ほら椰子さんも何か言わないと」
なごみ
「…………たまには先輩の顔が見たいです」
エリカ
「ヒュウ、なかなかの破壊力ある台詞よそれ」
なごみ
「……デザートもつけてもらわないと割が合わない」
祈
「さーめすがっ、さーめすがっ」
新一
「優しさが力になる! 皆の声確かに受け取った!」
新一
「よーし、頑張ろうっと」
きぬ
「さすが抜群の効き目だね」
レオ
「後で佐藤さん達には学食で好きなメニューを
おごらないといけないけどな」
きぬ
「頭の切れるレオって胸キュン♪」
レオ
「愛しいやつよ」
んちゅー。
新一
「ほらっ、学校行こうぜっ……って!
あぁ、まーーたキスしてるよ!」
新一
「いいもん! こうなったら絶対
幸せになってやる!」
レオ
「……フカヒレ立ち直ったみたいだな」
きぬ
「あいつをダメ人間にしたら、スバルに
怒られそうだもんね」
レオ
「スバルか……」
レオ
「あいつ、元気かな」
きぬ
「ボク達なんかより、よっぽど
しっかりしてるからね」
レオ
「いや、でも俺もお前を得て
しっかりしてきたつもりだ」
きぬ
「うん、更にかっこ良くなってるね」
レオ
「お前もグンと女らしくなってセクシーだぜ」
んちゅー。
洋平
「おい、おい聞いているのか」
レオ
「おい、見られてるぞ」
きぬ
「ちょっといちゃつきすぎたかな?」
洋平
「いいから聞けバカップル」
洋平
「ほら、この雑誌を読んでみろ」
レオ
「あん?」
きぬ
「何か書いてあるの? 陸上の記事ばっかりじゃん」
洋平
「その左下の隅の所、良く読んでみろ」
レオ
「んー」
秋の県大会 男子800M 準優勝。
関東大会へ、伊達スバル(由比浜2年生)。
レオ
「……伊達……スバル?」
きぬ
「うお、すっげぇ! あいつもう雑誌に
名前載せてるんだ」
洋平
「あぁ、扱いはまだまだ小さいがな……」
洋平
「さすがだよなぁ、あいつは。
この調子で頑張って欲しいもんだ」
レオ
「なんだ、優しい意見だな」
洋平
「当たり前だ、よく競いはしたが、
同じ学び舎の仲間だろう。応援するさ」
なんか乙女さんと思考回路が似ているぞ。
さすが熱血爽やか拳法部。
きぬ
「でも、良かったねスバル」
レオ
「あぁ、ほんとあいつはスゲェよ」
昔から勉強以外は何でも出来て……。
まさに俺にとって身近なヒーローだ。
きぬ
「連絡してみよっか?」
レオ
「……いや、寂しいけどあいつは
まだ逢わないだろう」
夢はもっと大きいはずだ。
洋平
「それから西崎。渡してやれよ」
紀子 無音
「(こくこく)」
紀子
「これ……あげ……る」
レオ
「え、なに、これくれるの?」
紀子 無音
「(こくこく)」
なんだろ。
松笠写真グランプリ副賞
「幼馴染」 西崎 紀子
レオ
「あ、これロープで繋がれてた時の……」
洋平
「よく撮れてるだろ、西崎に感謝しろよ」
洋平
「コンテストに送ったらしいが副賞ってのが
微妙でお前達らしくていいよな」
洋平
「聞いてないのかよ。これだからバカップルは」
紀子
「で……も。いい……な」
洋平 無音
「!」
紀子 無音
「(じーーっ)」
洋平
「何故僕を熱い視線で見る」
レオ
「つうか、急がないと遅刻だぜ」
きぬ
「あ。やべ! よし、急ごうぜ」
ぐっと手を握る。
きぬ
「だーーっしゅ!」
洋平
「よし、こっちも遅れるな(ぐっ)」
紀子 共通
「うんっ!」
乙女
「後10秒だぞー」
きぬ
「わー、待って待って!」
乙女
「全く、またギリギリか」
きぬ
「へへへ」
乙女
「……そう幸せそうに笑われると怒る気にもならん」
レオ
「はぁっ……はぁっ……あ〜朝からしんどい」
顔を上げる。
青空がどこまでも広がっていた。
しかし、空見ただけでこんな爽やかな
気分になれるとはな。
きぬと男女の関係になってから本当、
人生に張りが出てきたぜ。
秋には修学旅行、文化祭、そして冬――。
これからの学園生活もさぞや忙しそうだ。
でもこいつとなら、楽しくやっていけるだろう。
きぬ
「おいっ、何ボケッとしてんだ、行こうぜ」
レオ
「ああ。……って痛」
きぬ
「ん、どうした」
レオ
「無理に走って足痛めた」
きぬ
「うわー、レオってやっぱりヘタレだよね」
レオ
「うっせ」
きぬ
「ほら、肩貸してやんよ」
レオ
「あ、あぁ。ありがと」
がしっ……。
きぬ
「こうやって肩に手を回して歩くとアレだよね
二人三脚を思い出すよね」
レオ
「はは、あの時は頑張ったな」
二人三脚か。
……確かに俺も、ほんとヘタレな時ある。
きぬもはっきり言ってバカだ。
スバルにまとめて世話焼かれてた俺達だけど。
こうやって二人三脚のように歩いていけば、
これからの苦難も乗り越えられる気がしてきた。
きぬ
「……レオ」
レオ
「あん?」
きぬ
「ヘタレだけど大好きだかんね」
レオ
「分かってるバカ」
そして場所もわきまえず――
強くキスをする俺達であったとさ。
――7年後。
レオ
「しっかし、きぬは小さい体して」
レオ
「安産型だよね」
きぬ
「まぁねー。体は丈夫だから」
体が丈夫=健康である事。
それがどんなにありがたいか。
きぬと俺はあれからずっと一緒だった。
あれだけSEXしてりゃ、そりゃ
子供2人できるわけで。
アナウンサー
「それでは、男子陸上で
銅メダルを獲得した伊達選手にお話を伺います」
きぬ
「テレビテレビ。スバルうつってるよ」
レオ
「おー、あいつも立派になったなぁ」
選手の欠場やらラッキーな要素も多分にあったが。
それでも陸上で日本人が銅メダルなんて超スゲェ。
応援に行けなかったのが悔しい。
きぬ
「あれから10年近く経過してるもんね、
スバルもボク達のことなんか覚えてないっしょ」
レオ
「まぁ、あいつにとって全ては陸上らしいからな」
あれから1度も連絡はとってない。
何度か連絡はしたが、全く繋がらなかった。
そして、社会人になった頃には
仕事と家族(きぬと子供達)の世話に手一杯だった。
で、気付いたらいつのまにかスバルは
あんなにも高みにのぼっていたのだ。
ありえないだろう、幼馴染が銅メダリストなんて。
でもキリヤコーポレーションの総帥が
友達にいる時点ですでにありえない驚きだけどね。
霧夜エリカ……姫はキリヤコーポレーションを
乗っ取り、世界各地を飛び回ってる。
ずいぶんあこぎな話も聞くが、それも姫らしい。
佐藤さんは、キリヤコーポレーションに就職。
ずっと姫の隣にいて、横暴なやり方に
やきもきしているらしい。
でも、精神的に随分支えてあげてるんだろうな。
あの2人の友情は、今も続いているんだ。
乙女さんは、結局鉄の道場を継ぐ為に祖父と
世界各地をストリートファイトして回ってる。
(要するに修行)
修行のため、とはいえよくやるよ……。
姫としては、乙女さんにキリヤコーポレーションに
来て欲しいらしいが……。
椰子は――実は近所に住んでいた。
そして実家の家業を手伝っている。
だから今でもカニとは喧嘩友達だ。
元から綺麗だったが、20こえたあたりから
すごい美人になって驚き。
でも、あの性格のため男はいないらしい。
……ちょっともったいないと思う。
フカヒレは、郵便局で働いている。
趣味の為に使える時間が多くていいらしい。
ちなみにまだあいつは童貞。
なんか頑張って椰子にアプローチかけてるけど、
どうなんだかねぇ、相手にされてないみたいだけど。
祈先生は、まだまだ教師として頑張ってる。
遅刻しているのに悠然と街を歩いている姿が
何度も目撃されている。
村田洋平は西崎紀子と交際しているという噂。
あいつら何だかんだでお似合いだからな。
スバルは、ご覧の通り。
姫と並んで竜鳴館の誇りだ。
スバル
「見てるか。有名人だろ、オレ
選ばなくて損したな、こんないい男」
レオ
「おい、なんかあいつワケのわからん事
言ってるぞ」
きぬ
「ほんとだ、カメラ回ってるのに
何言ってんのあいつ」
レオ
「ひょっとして今の、お前への
メッセージじゃねーの?」
きぬ
「はは、んなバカな」
スバルを失いきぬを得た俺。
きぬを失いメダルを手に入れたスバル。
……やっぱ何でも手には入らないよな、世の中は。
アナウンサー
「……では、日本に帰ったらまずどうされますか?」
スバル
「故郷に帰ります。
まさしく錦を飾るってやつでね」
レオ
「故郷?」
きぬ
「あいつにそんなんあったっけ?」
スバル
「聞こえてんのか、レオ、きぬ、フカヒレ。
ちゃんと宴会の用意しておけよ」
きぬ 無音
「!」
レオ
「あいつ……全国ネットで何を」
きぬ
「そっか、あいつの故郷って……」
きぬ
「ボク達のこと覚えててくれてたんだね、あいつ」
レオ
「一度も連絡よこさなかったくせにな……」
レオ
「ってお前泣いてるの?」
きぬ
「な、泣いてない、泣いてないもんねっ」
レオ
「しっかしお前、ほんっと凄くいい男逃がしたな」
きぬ
「後悔はしてねーよ?
ボクはずっと前からレオ一筋だったし」
レオ
「う」
レオ
「ご、ごほん」
レオ
「宴会の準備しとかなきゃな」
レオ
「味付けしょっぱいけど、美味くなった
料理を見せてやれ」
きぬ
「うんっ」