放課後――。
乙女
「おいちょっと待つんだ」
レオ
「乙女さん」
乙女
「シャツを直せシャツを。ズボンからはみ出してる」
レオ
「今日は運動したからなー」
乙女
「直ってないぞ、後ろが出ている……じっとしてろ」
乙女さん直々に直してくれる。
レオ
「ありがと」
はたから見ると、ぴったりくっついてるんだよな。
豆花
「くす……仲が良いネ」
通りすがりに見られて笑われた。
レオ
「恥ずかしいな」
乙女
「だったらだらしないのを直すことだな」
レオ
「どうにも直らないんだよね、これが」
レオ
「その服装は風紀委員のお仕事?」
腕にキラリと光る風紀の腕章。
竜鳴館においては恐怖の象徴だった。
乙女
「あぁ校内の巡回に行く所なんだ」
乙女
「ちょうどいい。お前も手伝ってくれないか」
乙女
「一応お前も副会長だろう。関係ない仕事では
無いはずだ」
レオ
「副会長なんてことすっかり忘れていた」
乙女
「では行くぞ。お前は何かひと騒動あった場合、
その時間と場所を書きとめてくれ」
乙女さんはスタスタと歩き始めた。
背筋をピシッ! と伸ばし堂々と歩く。
なんか背中を見てるだけでも、
生命力というか活力がみなぎってるのが分かる。
向こうから、でかいやつらがノシノシと
我が物顔で歩いてきた。
あれは、柔道部のやつらか。
乙女 無音
「……」
柔道部員 無音
「!?」
乙女さんを見て、慌てて道を譲る柔道部員達。
こいつらも充分強いんだから、そんな
慌てる必要はないと思うが。
乙女さんはジロッと柔道部員を見た後、
再び歩き始めた。
ほーっ、と安堵の声をもらす男達。
これはどうやら相当恐れられてるな。
乙女
「おい、お前」
真名
「わ、憧れの鉄先輩や! わ、わ」
乙女
「雑誌を読みながら歩くな。危ないぞ」
真名
「えろうすんまへん」
浦賀さんが謝りながら帰っていく。
乙女
「グラウンドは四隅の方、要注意だ。
1年前に茂みの方で煙草を吸っていた馬鹿が
いたからな……だが私の目と鼻はごまかせん」
レオ
「ちなみにそいつはどうしたの?」
乙女
「制裁した。それで懲りたのか
初犯の2週間停学で済んだ。
さすがに2度やれば退学だからな」
乙女
「恨まれはしたが制裁した事で
再発防止になったなら、それで充分」
グラウンドで陸上部がひたすら走っていた。
あ、スバルもいた。
あいつは1人で黙々と走っているな。
女子生徒Z
「鉄先輩、さよならー」
乙女
「あぁ、さよなら」
乙女さんは基本的に女子には声を
かけられるが男子からはビビられてるな。
乙女
「どうやら問題ないようだ、校庭終わり」
続いて体育館。
乙女
「ふむ……ここも異常は無さそうだな」
散らかっていたバスケットボールを律儀に
カゴに入れる乙女さん。
休憩していた生徒達がチラチラとこっちを見てる。
乙女
「ん……控え室の電灯の光が弱くなってるな。
もうすぐ寿命か。メモしといてくれないか」
レオ
「了解っと」
続いて屋上。
なごみ
「……どうも」
こいつ乙女さんにはしっかり挨拶しやがる。
乙女
「椰子、そんな所にポツンといないで
執行部に行ったらどうだ? 誰かしらいるはずだ」
なごみ
「ここは落ち着くんで」
乙女
「そうか、危ないからフェンスにはよじ登るなよ」
なごみ
「そんなことはしませんよ」
乙女
「6月だが今日の風は涼しい。あまり
海風に当たると体に悪いぞ」
なごみ
「ご親切にどうも」
乙女さんは椰子にも世話を焼いていた。
椰子も乙女さん相手だと逆らわない。
まぁ逆らったら力ずくなんだけどさ。
乙女
「ここからが3年生の廊下になる」
3年女生徒
「てっちゃん。チィース」
3年女生徒B
「やぁ、こんにちはてっちゃん」
レオ
「てっちゃん?」
乙女
「……鉄(くろがね)だが、そのまま読めばテツ」
レオ
「はははっ」
乙女
「次笑ったらお前でリフティングするからな」
レオ
「チャーミングなあだ名でいいじゃないの」
乙女
「お前みたいな態度をとるやつがいるから嫌なんだ」
乙女
「だから私は佐藤の気持ちがよく分かる。
よっぴーと言わないのもあいつのためだ」
3年女生徒C
「見まわり? ご苦労様てっちゃん」
3年女生徒D
「てっちゃん、後で料理部顔出してーな
後輩がお菓子作ってるから」
乙女
「あぁ、わかった」
みんな乙女さんに話しかけてくるな。
面倒見が良いからか人気者だ。
3年女生徒E
「てっちゃん、聞いてよ。うちのクラスの
女子でさ、禁止されているタイプのマニキュアを
学校にべっとり塗ってる来るやつがいるんだけど」
乙女
「そうか、それは私からよく言っておこう。
誰だか氏名を教えてくれ」
3年女生徒E
「ありがと、てっちゃん」
てっちゃん……てっちゃん……。
レオ
「……あっあははっ、だめだ、笑うとこでしょ、ここ
あははははは、てっちゃんて! 鉄道マニア?」
乙女
「リフティングのコツはボールから
目を離さないことだそうだ」
ボム! ボム! ボム! ボム!
………………
乙女
「次は2年生の廊下だな」
新一
「レオは何でそんなにアザだらけなの? SM?」
レオ
「俺はもうサッカーボールを乱暴に扱わないぞ
蹴られる気持ちが分かったからな」
新一 無音
「……?」
乙女
「ここのクラスは問題児が集っているから
油断できないな」
レオ
「2−C。お約束のようにウチのクラスだね」
ガラッ!
祈
「あら……!」
きぬ
「やべ、乙女さんだ、隠せ隠せ!」
豆花
「あいや、もう手遅れネ」
乙女
「教室で食パンにバターつけて食べてるのか。
……こっちはお菓子の山だな」
乙女
「節度は守るようにな。ものによっては没収するぞ」
祈
「えぇー」
乙女
「先生も生徒と一緒になって遊ぶのは結構ですが
校則は守ってください」
先生相手にもピシャリと言い放つ。
祈 無音
「……」
乙女
「さぁ、次は1階および靴箱だ」
ブラバンA
「だからさぁ、俺たちのブラスバンドに
入ってくれよぉ」
1年女子A
「そ、その件はお断りしました」
ブラバンB
「いいじゃんかよ、君みたいな可愛いのが
入ってくれると部も活気付くんだ。
さぁさぁ、ここにサインしてくれよぉ」
レオ
「乙女さん、あれは?」
乙女
「アウトだな。やり方が強引すぎる」
乙女
「お前達。部活動の勧誘はもう少し
相手の意思を尊重して行え」
ブラバンA
「ちっ……A組の鉄さんか。わ、分かった
気をつけるよ。さ、こっちで話そうぜ」
乙女
「その態度は分かってないな。簡易制裁を執行する」
@片手で相手の顔を掴み……
ブラバンA
「お? おぉ??」
Aそのままグイッと持ち上げる。
ブラバンA
「うわ、なんだなんなんだ」
Bそして握った手に力を入れる
ブラバンA
「あぐぉぉぉぉおおお!!!!」
Cそして相手が気絶してから、その手を離す。
テッちゃんだけに、まさにアイアンクローだ。
乙女さんは、1年生の女子に優しく語りかけた。
乙女
「何か困った事があるならいつでも言って来い
3−Aの風紀委員、鉄乙女だ」
1年女子A
「お、お姫様も素敵だけどこちらも魅力的!」
レオ
「仕事っぷりはすごいけど……」
レオ
「これは他の人に怖がられそうだね」
乙女
「ルールを守るのは当たり前の事だろう
私は常識を言っているだけなのだがな」
レオ
「でも、今みたいに乙女さんに制裁されたものたちが
徒党を組んで、まとめて報復にきたら……」
乙女
「実際、あったぞ。そういうの」
乙女
「帰り道に囲まれたが、あの時は怖かった」
乙女さんでも怖いことがあるのか。
乙女
「全員倒したあと、よくみると3人ほど
呼吸をしていなかったんだ、怖いだろう?」
レオ
「……そりゃ怖いね」
乙女
「ま、噴水に落としてみたら息を吹き返したがな」
レオ
「乙女さんの方が怖い」
乙女
「……恐がられるにしろ、恨まれるにしろ、
誰かがやらなければいけない事なんだ」
……真面目な人だ。
乙女
「見回り、終わったぞ」
エリカ
「パパー、おみやげはー?」
姫、ノリノリだな。
乙女
「ほら、料理部が作ったチョコプリンだ」
エリカ
「やったー」
エリカ
「お疲れ様ーおかげさまで
今日も学校の治安は守られました」
エリカ
「よっぴー、パパにお茶をお出しして」
良美
「うん。鉄先輩は緑茶派だよね」
乙女
「あぁ、熱いのを頼む」
なんか本当に家庭っぽくて笑えた。
乙女さんは道場かな。
乙女
「気合が足りないぞ! もっと声出せ! 声!」
道場の中から凛とした声が聞こえてくる。
乙女
「そうだ、蹴りは足の指が開かないように!」
うわ、凄い熱気!
乙女さんの指導の下、部員達が必死に体を
動かしている。
洋平
「なんだ対馬、神聖な道場に何か用があるのか?」
レオ
「いや、乙女さんに用があったんだけど」
こいつ、道場で体操服とは…胴着買う金無いのか?
12人の妹のせいで生活が苦しいのだろうか。
洋平
「そりゃあ難儀な時に来たな。今、下級生の
女子達をシゴき中だ。忙しいだろうよ」
レオ
「みんな言う事聞いてる。やっぱ乙女さん強いんだ」
洋平
「ふっ、当然だ、鉄先輩は全国優勝だからな……今は
3年と言う事でもう大会には出ないみたいだが」
洋平
「お前、鉄先輩の幼馴染だそうだが
ふん、いい気になるなよ」
レオ
「なんだよ、ヤキモチか? ってか
お前姫のファンクラブ入ってるだろ」
洋平
「どっちも好きだ。僕は凛々しい人が好きだからな」
レオ
「ミーハーなやつだな」
洋平
「だが、いずれはどちらかを選ばなくては
ならないのが難儀だな」
レオ
「しかも思ったより勘違い野郎だな」
洋平
「いちいちつっかかる奴だな。
鉄先輩相手にはヘーコラしてるくせに」
レオ
「あの人と姫のみ特殊なんだよ」
レオ
「他の奴にはヘーコラせんぞ」
レオ
「っていうかさ、お前西崎さんと
付き合ってるんじゃないの?」
洋平
「あ、あれはあいつが勝手に懐いてるだけだ
嫌い、というわけではないんだけどな」
洋平
「僕は12人の妹の面倒を見続けてきたからな
どことなく頼りがいのあるオーラが
出ているんだろう。難儀な事だ」
レオ
「12人の妹……そういえばそういう設定だったな」
洋平
「紹介してやろうか? 実に個性のある
顔をしているぞ」
レオ
「すいません、心から遠慮しておきます」
洋平
「なぜいきなり敬語になる」
レオ
「フカヒレにでも紹介してあげてくれや」
洋平
「おいおい、僕はあいつらの兄なんだぞ?
肉親としてあんなのに紹介するわけには
いかないだろうが」
フカヒレ、すっごい低評価だった。
乙女
「違う! 回し蹴りは膝頭を支点に
弧を描くように蹴る! こうだ!」
乙女さんが模範演技の蹴りを放つと、
ブオンッ! という風を切る音が聞こえた。
レオ
「すげぇ迫力だ」
洋平
「鉄先輩の蹴りはバリエーション豊かでな。
トドメ専用のアバラ折りはすごいぞ」
洋平
「勝負ついてるのに、仰向けに
ひっくりかえして足でアバラを
叩き折るんだからな」
レオ
「それは失格になるんじゃないのか?」
洋平
「合宿先で、あっちの不良相手に
次々と決めていった喧嘩専用の荒技だ」
レオ
「……せいぜい怒らせないように気をつけるぜ」
乙女
「つづいて約束組手、はじめぇ!」
乙女
「……なんだレオ、さっきからいるが何か用か」
レオ
「あぁ、気付いててくれたんだ」
レオ
「姫が竜宮で会議するから、きりのいいとこで
ちょっと顔を出してくれってさ」
乙女
「あぁ、了解と伝えておいてくれ」
乙女
「……おい、机で寝たのか? ったく、後ろ髪が
少しはねているぞ」
乙女さんが近付く。
洋平
「む……」
手櫛でさっと直してくれた。
洋平
「く、鉄先輩! 僕はさっきの部活の予算会議で
見事拳法部の予算アップに成功させました」
乙女
「お。そうか、良くやったな偉いぞ」
乙女
「っておいレオ、シャツのボタンが1つ外れている」
乙女
「本当に世話のかかるやつだな」
不器用な分、ゆっくりと指で
ボタンをしてくれる乙女さん。
洋平
「ぐ……」
乙女
「あと20分ぐらいで行くと伝えておいてくれ」
洋平
「対馬、これで勝ったと思わないことだ」
レオ
「何をいきり立っている」
変なやつ。
乙女さんは武道場かな?
今日の朝は乙女さんとひと悶着あったからな。
謝らないと。
今朝の出来事――
せっかく俺がたまたま早く目が覚めて……
今日一日頑張ろう、と思い
1階へ降りていったら……。
乙女
「……んぐっ……ぷはっ!」
乙女さんが腰に手を当てて牛乳一気飲みしていた。
下着姿で。
乙女
「ふぅ……」
乙女
「っ! レオ なんでこんなに早くに」
レオ
「い、いや、俺わざとじゃ」
乙女
「分かった、とりあえず目を閉じろ」
レオ
「まさか理不尽に殴られるのか?」
乙女
「服を着るんだ。早く目をとじろ」
レオ
「ん……」
乙女
「お前、いつの間にこんな
早起きをするように……」
乙女
「これでよし、と。目を開けてもいいぞ」
乙女
「殴りたい気分だが……私に非があるから
ここはこらえよう」
レオ
「っていうか朝はいつもあんな格好で
活動してるの?」
乙女
「失礼な。今日は喉が乾いていたんだ
で、いつもお前はグースカ寝ている時間だから
つい油断してしまってな」
乙女
「く……これで私はレオに何回見られて
しまったんだ……」
レオ
「うーん」
乙女
「なんでお前が微妙そうな顔をする」
レオ
「いや、朝から微妙なものを見てしまった気がして」
乙女
「お前、それは私の体が微妙だと言うのか!」
レオ
「がふっ!」
レオ
「び、微妙、というのは喜んでいいのか、
バツの悪い顔していいのか難しい、という
意味での微妙だったのに!」
レオ
「……照れるならそんな格好しないで欲しい」
きっと対馬家に慣れたから
あんな行動しているんだ。
これから先が思いやられる。
乙女
「ち、何度も見たくせに被害者顔でよく言うな」
レオ
「むっ」
俺と乙女さんは相対した。
……………
こんな感じだったからなぁ。
ほんの少し気まずい。
乙女さん本格的に怒らすのもやだし
今のうちに謝っておこう。
“キャーーーッ!!”
部室の更衣室の方から女子生徒の
黄色い悲鳴が聞こえてくるではないか。
事件なのか? この平和な日本で!
校門に向けて制服を着た男がダッシュしていた。
ただ事ではないらしい。
レオ
「いったいなんだというんだ?」
豆花
「盗撮しようとした男がいたみたいネ!!」
そういや竜鳴館の女子達はガードが堅い分
レアで値段が高いとかフカヒレが言ってたな。
しかし、命知らずのアホもいるものだ。
盗撮マニア
「ワォ、撮影できなかったぜ。さすがここは
ガード固いぜ、全く変な学校だ」
よし、追いかけて捕まえてやる。
でもナイフとか持ってたらやだよな。
ええい、とにかく追跡だけはしよう。
校門を出る。
急発進する自転車があった。
レオ
「あ、野郎、準備のいいやつだな」
乙女
「ふん。生徒に変装して下校時の
ドサクサにまぎれて入ってくるとはな」
レオ
「乙女さん!」
乙女
「平和な生活を乱す奴は断じて許すわけにいかない」
乙女さんが走り出す。
すごい加速。
盗撮マニア
「!?」
獣のような俊敏さで自転車に追いついてしまう。
乙女
「とまれ。そして両手を頭の上に組んで
地面に這いつくばるんだ」
盗撮マニア
「ワォ、なんだこの女」
盗撮マニア
「改造した強力スタンガンを食らえ ワォ!」
乙女さんは軽々とよけてみせた。
盗撮マニア
「きゃわしたぁっ!?」
乙女
「抵抗するものとみなす」
乙女 共通
「制裁!」
盗撮マニア
「ウゴェー!」
犯人は、自転車ごと蹴り飛ばされた。
そのまま電柱に激突し、ピクピクと
痙攣している。
乙女
「ん……受け身もとれないとはな。
頭直撃か……まぁ、盗撮なんかしたお前が悪い。
こらえるんだな」
乙女さんはそんな事をケロリと言い放った。
………………
レオ
「乙女さん」
乙女 無音
「?」
あんな荒業を見せられた後に大丈夫かな。
レオ
「今朝の件、謝ろうと思って」
乙女
「今朝……私は何してた? いつもと同じだった
ような気もするが。順に思い出せ。昼は弁当……
2時間目の終わりにクッキーもらって……」
乙女
「朝はおにぎりを食べて……さらにその前……
あ、あぁ……あれか……」
思い出すプロセス食い物ばっかりだ。
乙女
「いや、私はもう気にしていない。
こっちにも非があるしな」
乙女
「お互い忘れるということにしないか?」
レオ
「うん、じゃあ仲直りと言う事で」
乙女
「なんだ、そんなに気にしていたのか」
乙女
「ふふ。意外と可愛い所あるじゃないか。
お姉ちゃんは、弟を見捨てたりはしないぞ?」
からかうように言われてしまった。
ぽんぽん、と頭に手を置かれる。
いやそこまで重くは考えてないけど。
上機嫌だし、まぁいいか。
………………
レオ
「ところでさ、今日自転車を蹴ったじゃない
それも凄いけど自転車に追いつく脚力も凄いよね」
レオ
「あんな漫画みたいなマネ、いつから
出来るようになったの?」
乙女
「さぁな、修行してたらいつの間にかだ」
乙女
「お前もあれぐらいは出来るようになれ」
レオ
「無理です」
レオ
「もっと楽に、巻物を読んだら
覚えられるとかないの?」
乙女
「あんまりふざけた事を言うなよ
楽に強くなれる方法はない」
乙女
「毎日の鍛錬による賜物だ
さぁ、今日のトレーニングをはじめるぞ」
レオ
「ぐっ、やぶへびだった」
乙女
「まずは腕立て、腹筋、背筋を
軽くこなしてからロードワーク」
レオ
「俺は体育会系バリバリってわけじゃないから
そんなに鍛えなくても」
乙女
「こんなものは軽い方だ。拳法部にいれないのは
私の情けだと思え」
レオ
「こっちだってさすがにそこまで
強制されるのは勘弁だしね」
乙女
「とにかく、日々少しは鍛えておいた方が絶対いい」
乙女
「今は私を恨みたければ恨めばいい」
乙女
「だが、いつか必ず私に感謝する時が来るはずだ
さぁ、はじめるぞ」
…………………
レオ
「はぁっ……はぁっ……」
腹筋してからいくランニングがきっつい。
そりゃ、体を動かす事はそれなりに楽しいけど。
乙女さんのトレーニングに付き合ってたら
体が持たない気がする。
ちょっとだけサボりながらいこう。
……………………
レオ
「はぁっ……はぁっ……疲れた」
レオ
「さて、洗面所へ行くか」
ん、何か気をつける事あったっけ?
疲れたので何も考えないぜ
いや、ここは冷静に
乙女
「お前、洗面所に入った時点で
私が入浴している事に気がつけ!」
レオ
「こ、こっちだって疲れてるんだよ!
それに1人暮らしになれきってるんだ!」
乙女
「逆にキレて済まそうとはいい度胸だ」
レオ
「ま、まぁそうトウガラシにならないで」
乙女
「なに、唐辛子?」
レオ
「ピリピリしないでっていう意味。それじゃ」
乙女
「くだらん話をしてごまかそうとするな」
レオ
「ぐあ、やっぱり分かった!?」
しかし、昼間の騒動を見てると
この蹴りも手加減されてるんだな、と分かる。
本気で怒ったらどうなってしまうんだろう。
恐ろしい……。
ここは冷静に……と。
うん、乙女さんお風呂入ってるな。
じゃあ出てくるまで待ってよう。
そう何度も同じヘマはしないぞ。
生徒会執行部。
グラウンドの外れに立てられた
2階建ての家屋が生徒会執行部の
専用となっている。
別名“竜宮”。
その竜宮では、既に乙女さんが
スタンバイしていた。
というか、雑巾で壁とかをゴシゴシと磨いている。
嫌な予感がしたので、俺は踵を返した。
乙女
「どうした? 入ってくればいい」
見つかってしまった。
レオ
「乙女さんは、ここの掃除当番か何か?」
乙女
「いや、少し時間が空いたんだ。だから日頃使ってる
この建物に感謝の気持ちをこめて清掃している」
乙女
「それに、仕事場が綺麗だと気持ちが
良いものだからな、仕事もはかどるだろう?」
レオ
「はは……」
相変わらずのモラリスト。
乙女
「丁度良い。お前も手伝ってくれないか?」
レオ
「え? 俺?」
レオ
「いや、顔を出しに来ただけなんだけど」
乙女
「だったら手伝え」
笑顔で雑巾を差し出される。
逆らうと後で怖いと見たな。
そう、俺は空気を読める男……。
レオ
「OK、やりましょう……」
半ばあきらめかげんでそういった。
乙女
「うん、面倒くさいと思って当然だけど
良く引き受けてくれたな」
真っ直ぐに見つめられ、感謝される。
そうストレートに言われると弱い。
乙女
「2人で綺麗にしよう」
レオ
「よし、じゃあ俺はこっちをやるよ」
乙女
「うん。こっちが終わったら手伝おう」
仕方ない、やるからには頑張るか。
……20分後。
レオ
「何だい、やればあたいも出来るじゃないか」
結構綺麗になったぞ。
乙女
「どうやら順調のようだな、偉いぞ」
乙女
「そうだな、こんなに頑張っているなら
今日、帰ってからのトレーニングを……」
おぉ、数が減るのか!?
乙女
「後30回ずつ追加してみよう
余力があるみたいだからな」
レオ
「はいはい、やっぱそういう展開なんだろうね」
乙女
「私も付き合うから、すねない事だ」
乙女
「それにくどいようだが、これは後々
絶対お前の為になる事なんだからな」
くしゃっ、と頭を撫でられる。
エリカ
「グーテンダーク、諸君」
きぬ
「こんちわー」
エリカ
「おぉっと? ……へぇ」
エリカ
「綺麗になってるじゃない、対馬クンがやったんだ」
姫は上機嫌らしい。
エリカ
「お疲れ様、ありがとね」
ポンポン、と肩を叩かれた。
乙女
「ふっ、良かったな」
祈 無音
「……」
確かに、良い事をしたら良い事は
返ってくるのだろうか。
レオ
「(はっ!)」
いかん。今の俺、ほんのり洗脳風味だ。
モラリストに改造されてしまう。
そんな属性つけたくないんだ。
いかなる時にもニュートラルを目指す。
レオ
「じーっ」
きぬ
「何、ボクの顔なんかついてる?」
レオ
「いや、心を落ち着けてるだけだ」
きぬ
「もしかしてボク心の清涼剤?
病んだ現代社会のオアシス?」
よし、バカを見てたら真面目な気分も薄れてきた。
きぬ
「癒し系っていうのも悪くないよねー」
なんか知れないけどニコニコしてやがる。
アホは悩みが無くていいな。
きぬ
「そういや、今日のバイトのこと
フカヒレに聞いた?」
レオ
「いや、なーんも? ってかバイトって何さ」
………………
レオ
「フカヒレ、夏に向けてバイト資金溜めるのは
分かった」
レオ
「しかし、何でこのカレーショップよ」
新一
「バッカ。おめぇ飯食ってるだけで
バイト代たんまり貰えるんだぜ
そのまんま、“うめぇ話”ってわけさ」
レオ
「新薬実験と同じノリじゃないのかコレ」
乙女
「何で私まで協力せねばならん」
スバル
「女性の意見も貴重っスよ」
新一
「なにより、いっぱい食べれる人が必要なんだ
乙女さん、すごいんだろ?」
レオ
「強い分、燃料を必要とするのか……
とにかくご飯はすごく良く食べる
後、寝る時間も長い気がする」
乙女さんの強さの秘訣は、出来そうでできない
いわゆる健康的な生活なのかもしれない。
乙女
「何をボソボソと喋っている」
乙女
「ところで今、ひらめいたんだがな。
どうだ、おにぎりの中に
カレーを入れるなんていうのは」
レオ
「……普通にカレー食ったほうがいい」
乙女
「む、やはりそうか」
きぬ
「うぉーい、オメェラ夏の新メニュー
試食会・第1弾はこのカレーだ」
カニがごとごととカレーを運んできた。
レオ
「……何コレ、なんか色合い的に既に変ですけど」
きぬ
「メロンカレー。独創的だろ?」
レオ
「いや、オリジナリティがあればいいって
もんじゃないよ。あがいて変なメニュー出して
潰れる店だっていっぱいあるんだから」
乙女
「まぁ試食のバイトというなら
とりあえず食べてみないとな」
真面目な乙女さんは先陣切って食べ始めた。
そういえば戦において鉄は常に先鋒だったらしい。
乙女
「ン……これは意外と悪くないんじゃないか」
スバル
「そうだな。甘口ならまだ食えるかもしれねぇ」
きぬ
「ふむふむ……よしよし、第2陣、うにカレーだ」
レオ
「いやいやさすがにコレはないだろ」
乙女 共通
「ン……これは意外と悪くないんじゃないか」
俺達が驚きの表情で乙女さんを見る。
この人、食えれば何でも良いのでは。
きぬ
「第3弾。チャーハンカレー」
レオ
「だんだん怪しくなってきたな」
スバル
「んー、微妙だぜ……悪くはねぇんだが」
きぬ
「第4弾、チャーハンとカレー」
新一
「別々じゃん! もはや意味ないじゃん!」
レオ
「ちゃんと一種類だけに絞れ」
きぬ
「第5弾チャーハン」
もはや“そっちかよ”と突っ込む気力も失せた。
…………………………
きぬ
「………はい、アンケートは以上でした」
きぬ
「どもども、テンチョーも参考になったと
喜んでたよん」
新一
「さ、さすがに……イロ物カレーを10杯も
食うと……い、胃がもたれるな」
レオ
「あ、あぁ……なにげに一番美味かったのが
チャーハンってどうよ」
スバル
「乙女さんはなんであんなにピンとしてるんだ?」
スバル
「オレ達と同じぐらい食べたろ」
レオ
「知るか……もう食いモンの事は考えたくない」
乙女
「おい」
レオ
「な、なんすか……」
乙女
「今日の晩御飯はひじきのおにぎりメインでいいか」
レオ
「参りました!」
………………
夜はジメっとして6月にして反則的な暑さだった。
レオ
「せっかくあるんだから、クーラーは
こういう時に使わないと」
乙女
「ま、お前の家だし別にいいけどな」
レオ
「乙女さんの目の前にリモコンあるからお願い」
乙女
「……お前、私がメカを苦手なのを知ってて」
あ、ちょっと怒ってる。
でもエアコンをメカとか言う人はじめてみた。
乙女
「あまり舐めるなよ……こうだな?」
ピッ
ウィーッとエアコンが動き出す。
乙女
「どうだ、できたぞ」
レオ
「そ、それはお見事」
レオ
「……あ、でも冷房じゃなくて暖房じゃんこれ」
レオ
「乙女さん、冷房ボタンで冷房に切り替えて」
乙女
「な、何か難しそうな操作だな。ボタンが
多くてどれだかわからないんだが」
珍しくオタオタしていた。
レオ
「ほら、ここのボタンを押すんだ」
レオ
「“冷房”と書いてあるでしょ」
乙女
「本当だ。親切な機能だな」
乙女
「よし、冷房だ! 破っ!」
かけ声はいらないと思うんだけど……。
レオ
「冷房になったね」
乙女
「できたぞ!」
レオ
「やったね、乙女さん!」
乙女
「あぁ、お前のおかげだレオ。エアコンが操れた」
レオ
「よし、次は温度調節行ってみよう」
乙女
「何っ! お前なかなか厳しいな」
生徒会活動が始まってから約1週間。
それだけで、平凡だった毎日が慌しい。
その中でも一番の変化といえば。
この人が我が家に住み始めた事だろう。
鉄 乙女(くろがね おとめ)
年上のお姉さん。
しかし、女らしいというかむしろ
侍らしい性格をしているわけで。
乙女
「おい、なんだこれは紙を吐き出しているぞ」
レオ
「これはね、FAXって言うんだぜ」
乙女
「ほぉ……これが」
ピッ
乙女
「なんか変な音が鳴ったぞ?」
レオ
「適当にボタン押すのやめようよ」
時々、勘弁して欲しいぐらい
機械に弱いけど、まぁソレはよし。
小さい頃、ここに来る前は
2人で姉弟のようによく遊んでいた。
そして、たっぷりしごかれていた。
優しい事は優しいが、怖い人でもあった。
あれだけインパクトあった人なのに……。
忘れてしまう俺も冷たいのかな。
でもかなり小さい時の記憶なんて皆
そんなものだろう……。
あっちは覚えていたが、俺は忘れていた。
年齢の差さ。
いや、ひとつしか違わないんだけど。
乙女さんは俺をそこまで印象的に覚えてた、と
言う事か?
うーむ。
乙女
「どうしたんだ?」
レオ
「いや」
顔も綺麗だし、性格もインパクトあるんだけどな。
レオ
「同じ学校だったのに乙女さんを思い出せなかった
自分が不思議でさ」
乙女
「ふん……そうだ。いかに小さい時と言っても
かりにも自分の姉代わりだった人間なのにな」
乙女
「本来ならもっと怒る所だぞ」
乙女さんは花の手入れをしていた。
黙ってると、本当に美人だなこの人も。
乙女
「おい、何をボーッとしてる」
プシュッ! と霧吹きで水をかけられた。
乙女
「暑くなってきたことだし、今夜はソバでも
食べに行こうと言ってるんだ」
和を愛する人でもある。
レオ
「あ、いいねソレ」
乙女
「よし、なら行くぞ。おごってやる」
乙女さんは先陣切って歩き出す。
俺はその後をついていく。
それはまさに、姉と弟の図式そのものだった。
乙女
「ソーメンをおにぎりに入れるとどうだろう?」
レオ
「微妙じゃない?」
外に出ると、ムアッとした空気を感じる。
レオ
「暑い……」
乙女
「こういう時はだな」
レオ
「気合?」
乙女
「分かってるじゃないか」
厳しい中マレに見せる笑顔はとても綺麗で。
例え尻に敷かれようと俺はこの人といるのが
楽しいのかもしれない。
しかし、いよいよ本格的に暑くなってきたな。
2005年の夏が始まる。
……………………
――本日の授業が終了した。
レオ
「さて、生徒会へ行くか」
豆花
「対馬君は、最近真面目にやてるネ。偉いヨ」
レオ
「まぁネ、こんなもんアル」
豆花
「今度、料理部(ウチ)が生徒会に差し入れ
持て行くから対馬君も食べてネ」
レオ
「へぇわざわざ料理部が?」
豆花
「料理部(ウチ)には、鉄先輩をひいきにする人が
多いからネ。姫をひいきにする人もいるしネ」
あぁ、そうか……。
乙女さんも姫も女生徒にモテモテだもんな。
乙女さんなんかそこらへんの男より男前だし。
……………………
レオ
「ちわー」
レオ
「っと、何だこの熱気は!?」
いや、実際熱くはないんだけど空気が?
祈
「ようやく審査員がきましたわね」
エリカ
「んー、対馬君に審査されるのもシャクだけど
確かに一般人の意見としては最適かもね」
なごみ
「くだらない」
レオ
「何の話してるんだ」
きぬ
「このメンバーの中で誰が一番アダルトかって話」
きぬ
「もちろんボクだよね?」
レオ
「誰がだよ、茹であげるぞカニ」
勘違いしている奴に殺意の眼差しをたたきつける。
きぬ
「またまた照れんなよ、平成の純情ボーイ」
きぬ
「ほり……セクシーな流し目」
レオ
「(目をつぶってるとしか思えない)」
椰子は嘲笑している。
レオ
「というか、色っぽいのはダントツで
祈先生だから。こればかりは譲れないから」
祈
「まぁ当然ですわね」
きぬ
「祈ちゃんは歳があまりにも上すぎるから
除外してんだよ」
祈
「そんなに上でもありませんわー、私23ですわよ」
土永さん
「てい! てい! 我輩を
怒らせるとはミステイクだな」
きぬ
「痛い痛い、なにしやがる腐れインコ突っつくな!」
土永さん
「我輩はオウムだ、馬鹿者が。全然違うだろうが」
レオ
「オウムとインコの違いって何です?」
祈
「いえ、私も分かりません」
土永さん
「祈を愚弄したやつには我輩の
地獄の嘴 ーヘルズ・ビルー が待ってると思え
突かれたら白昼から星を見ることになるぜ?」
レオ
「めっちゃ意味かぶってるじゃない」
きぬ
「えーと、なんの話だったっけ」
レオ
「もう、馬鹿はどいてろ」
エリカ
「で、誰がアダルトか決めるから。
対馬クンさぁ、審査してよ。今からある状況下を
想定して、アダルトなセリフを言うから」
エリカ
「誰のに一番グラッときたか決めてね」
レオ
「へー、姫がそういうのやるとはね」
エリカ
「みんなの性格が出そうで楽しいじゃない
どうせ勝つのは私なんだし」
きぬ
「それはどうかな? で、祈ちゃんお題は?」
祈
「では、バレンタインデーに片思いの
男子を落とすつもりで、
チョコをあげる時の台詞を」
土永さん
「なんだ、全然過激じゃないしアダルトでもないな
オウム的にはガッカリだ。トサカに来ねえぜ」
祈
「生徒達には丁度いいですわよ」
なごみ
「あたしはやりませんよ」
きぬ
「負けるのが怖いだけだろ」
なごみ
「くだらないって言ってる」
なごみ
「だいたい、そういうのは人に
聞かせるものじゃないだろ」
バタン!
乙女
「確かに人に聞かせるものではないな
私もやらないぞ」
エリカ
「乙女センパイは、3年生で1つ上ですもんね
負けた時の衝撃を考えたら確かに
やめた方がいいですねー」
乙女
「ふっ、いいだろう。挑発に乗ってやる」
エリカ
「盛り上がってきたわね、誰から征(い)く?」
きぬ
「急先鋒と言われたボクからやるもんね!」
照明が落とされる。
きぬ
「これを受けとっちくり」
仕方ない。付き合うか。
レオ
「これはチョコレート……俺に?」
きぬ
「うん。実は……ボクね。君のことすっごく
好きだったんだよね。君は超鈍感だから
気が付かなかったかもしれないけど」
レオ
「くっ……」
きぬ
「あん?」
レオ
「はははっ」
レオ
「だ、だめだカニの台詞なんて滑稽でしかない」
きぬ
「んだよ、こっちは気合いれてんのによぉ!」
エリカ
「はい次、よっぴー、GO!」
良美
「えぇっ……私も行くの?」
良美
「……うう……」
佐藤さんがオズオズと出てきた。
やりたくないのに可哀想に。
良美
「これ……受け取ってくださいっ」
レオ
「これはチョコレート……俺に?」
良美
「あのっ……そのっ」
良美
「よかったら、あの、私の家近いんで
一緒に食べませんかっ!」
レオ
「……っ!?」
祈
「あらあら過激な事を……」
あぶね、今すげードキッとした。
エリカ
「それでは次は私ね、対馬クン、
本気で勘違いして私に襲いかかってこないように」
レオ
「はいはい」
エリカ
「お待たせ」
レオ
「姫、俺に用って?」
エリカ
「これを受け取って」
レオ
「こ、こ、これはチョコレート……お、俺に?」
エリカ
「そうよ。丁度いい機会だから」
レオ
「丁度いい……機会?」
エリカ
「前から目をつけていたわ、私のものになりなさい」
エリカ
「私とみる夢は、そのチョコより甘い」
土永さん
「おい祈、今の台詞どうなんだ。オウム的には微妙」
祈
「この温度で言われても寒いですわね」
レオ
「姫……」
土永さん
「小僧にはクリティカルだったのか
ときめいているぜ」
祈
「……扱いやすそうですわね」
やべ、ドキドキしてしまった。
乙女
「最後は私か……正直こういう経験ないから
よく分からないんだが」
良美
「でも部活とかであげるんじゃないんですか?」
乙女
「あぁ拳法部のチョコはな、私が男達の中に
1個のチョコを投げ込むから、殴り合って
奪ったやつが食べれる図式なんだ」
嫌な部活だな……。
弱い男は美人の先輩のチョコを食べる事も叶わず。
乙女
「まぁいい、とにかくいくぞ。乙女らしく決める」
エリカ
「乙女はいちいち気合入れるポーズしませんって」
乙女
「ここにいたか、……これをやる……」
レオ
「チョコレート……俺に?」
乙女
「ん……私は難しい事は言えないから態度で表すぞ」
腰に腕をまわされる。
ぐいっ! と引き寄せられた。
乙女
「私についてこい」
レオ
「はい」
思わず答えてしまう俺。
だってだって、こんな刃みたいな
凛とした瞳で言われたら。
祈
「んー、今の告白はチョコレートあんまり
関係ないですわね」
エリカ
「さすが同性殺し。私も
乙女センパイにだったら抱かれてもいいかな」
祈
「私は一番純なのは蟹沢さん
貪欲なのは佐藤さんだと思いますわ」
良美
「ええっ、な、何で私が貪欲なんですか」
祈
「土永さん、突っついちゃってくださいな」
土永さん
「てい! このエロス村から来たエロス娘が!」
良美
「あ痛、痛、や、やめてよぅ、痛いよぅ」
エリカ
「やめなさい、よっぴーをいじめていいのは私だけ!
泣かせていいのも私だけ! 抱いていいのも私だけ
つまりよっぴーは私のものなんだから!」
土永さん
「我輩は生徒会長だろうと容赦しないぞ。
我輩の必殺技は1つ! “突く”“刺す”
要するに実は2つある! あと“えぐる”!」
なんかまたドタバタしてきたな。
よし、三十六計逃げるにしかず。
祈
「対馬さんの判決はどうですの?」
く、嫌なタイミングで……。
新一
「こんちゃーす。暴れん坊の新さんでーす」
乙女
「当然、私だろうな」
きぬ
「ま、なんだかんだでボクなんだよね」
エリカ
「皆ご愁傷様。私に決まってるもん」
良美 無音
「(ちらっ……ちらっ)」
レオ
「う、ううむ……」
新一
「おい、いつの間に女子に囲まれる
身分になったんだよ! 裏切り者ぉ!
大人になる時は一緒って誓いを忘れたか?」
レオ
「違うから落ち着け。それにそんな嫌な
誓いはしてない」
新一
「……カニ以外1人まわしてくれよ、よっぴー希望」
レオ
「お前思考が卑屈すぎだから」
エリカ
「フカヒレ君今は邪魔。3秒以内に消え失せなさい」
新一
「もし俺が無敵のヒーローだったら……人を
ないがしろにする態度をオシオキしてたのに……」
フカヒレは泣く泣く退場した。
祈
「さぁ、決めてくださいな」
誰が1番アダルト……というかグラッときたか。
選ぶべき人物は……
蟹沢きぬ
佐藤良美
霧夜エリカ
鉄乙女
レオ
「んー、カニかな」
きぬ
「えへ、なんだオメーやっぱボクが一番なんじゃん」
レオ
「幼馴染の顔を立ててやってるんだろ」
レオ
「実は佐藤さん」
良美
「えっ……私……?」
エリカ
「へぇ、よかったじゃんよっぴー」
どん!
良美
「て、手で押さないでよぅ」
きぬ
「よっぴーは油断ならねーな」
どん!
良美
「うぅ、あんまり強く押されると痛いよぅ」
どっちにしてもいじめられる佐藤さん。
不憫だ。
レオ
「やっぱり……姫かな」
エリカ
「ん、まぁ当然よね。悪いわね諸君、結果の
分かりきった勝負なんかはじめて」
全員不満そうな顔をしていた。
エリカ
「よかったわねぇ、対馬クン。演技とはいえ
私の告白が聞けるなんて」
おでこを指でつん、とつかれた。
レオ
「一番ドキっときたのは、乙女さん」
エリカ
「ち……」
乙女
「ふっ」
乙女
「こういうことだ、分かるか姫」
乙女
「年上の魅力に骨抜きにされるのは
この歳ならば仕方ない事。レオを責めるなよ?」
ぽんぽん、と姫の頭に手を置く乙女さん。
乙女
「あまり自分を過信しすぎないことだな」
姫のポニーテールをうりうりと引っ張る体育会系。
いい気になっていた。
……………………
今日もドタバタやってて日が暮れた。
レオ
「ったく、何で俺がこんなことを」
佐藤さんが用事があるとかで、俺が
執行部の片づけをしていた。
まぁ、たまにはこういう事もやらなきゃ駄目か。
よし戸締り完了。
鍵は祈先生に返さないとな。
豆花
「対馬君、帰りカ?」
レオ
「うん、まぁね。鍵を届けるところ」
豆花
「ついでに職員室いくから返しておいてあげるヨ」
真名
「ウチらええクラスメートやなぁ」
俺は……
鍵を頼んで帰宅する
自分で祈先生に返す
レオ
「じゃお願いするね」
豆花
「確かに頼まれたネ。再見」
…………………………
レオ
「ただいま」
乙女
「ん、私も今帰ったところだ」
レオ
「ところで今日早く帰って来いって何の用事?」
乙女
「あぁ、期末考査まで後一ヶ月になったから
お前の勉強のプランを一緒に考えようと思ってな」
レオ
「……そんなもん1人で考えられるっつーに」
ほんと、姉御肌というか世話焼きでいらっしゃる。
乙女
「お前は昔から自分に甘い奴だった
おそらく私がいなければまたサボる」
レオ
「そんなことない」
乙女
「昔もそんな事言って否定していただろ
信じられないな」
レオ
「昔は、昔はって……だから俺そんな
昔のこと覚えてないってば」
乙女
「む!」
乙女
「姉である私との思い出を忘れるとは
寂しいやつだな」
レオ
「そんな、たいした思い出が
あるってわけでもないし」
乙女
「たいした思い出が無い……だと」
乙女
「今の発言に私は、いたく傷ついた
あれほどに……実の弟以上に
目をかけてやったのにな」
まぁ……目をかけたというか……。
いじめられた?
乙女
「いいだろう、前は蹴りで私の記憶を思い出したと
いうなら、今度はどういう行為に出れば記憶を
ひきずり出せるか、試してみるのも面白い」
レオ
「ちょっ……ちょっと乙女さん!
そんなに怒ることもないでしょうが」
乙女
「当時のあの口約束もどうせ忘れたんだろ」
レオ
「は、何のこと?」
乙女
「くっ、別に今はどうでもいいがな、
私が覚えててお前が忘れているという
事実に腹が立ってくる!」
ちょっと乙女さん……?
乙女
「そのチャラついた性根を叩き直してやる!」
レオ
「ギャー」
……………
レオ
「あ――、たっぷりしごかれた」
部屋に戻る。
きぬ
「おっ、いらっしゃーい」
レオ
「ここ俺の部屋だからな」
筋肉がダルい……思わず倒れこむ。
新一
「こっちはこっちで勝手にくつろがせてもらってる」
レオ
「くつろぎすぎ。俺のパソコンで掲示板を荒らすな」
レオ
「……はぁ、怒る気力もでねーぐらい疲れた」
きぬ
「いいじゃん、筋肉つけとけば。よいしょっと」
レオ
「こらぁ俺の上に座るなぁ! 俺は椅子じゃねぇぞ」
スバル
「しかし、何で今日はまたそんな派手に
しごかれたんだ」
レオ
「聞いてくれよ。それがさ」
レオ
「……(説明中)……って感じだったんだけど」
レオ
「まぁ、俺が乙女さんの事忘れてたのを
怒っているというわけさ」
きぬ
「乙女さんとの約束って何なんだろうね?」
レオ
「どうせ野球のカードでいい選手が
出たら私に回せ、とかそーいうのだよ」
新一
「小さい頃の約束とかってさ、
ギャルゲーだと“私と結婚してくれ”
みたいなことだったりするぜ」
レオ
「はっはっはっ」
思わず笑ってしまった。
レオ
「そんな陳腐なオチだったら俺は
姫と椰子にフライング・クロスチョップ
決めてきてやるよ」
レオ
「だいたいいくら俺でも、結婚の
約束なんかしたら、100%覚えてるって」
レオ
「だからそれは絶対違う! と断言できよう」
きぬ
「でも真面目に考えても怒った理由見当つかないや」
レオ
「まぁ、乙女さんも今の私にはどーでもいい
とか言ってたからそんな重要な事でもないさ」
レオ
「つーかそろそろ、俺の上からどけよ」
ま、とりあえず今日は疲れた。
さっさと寝ようっと。
レオ
「あー……今日は天気も悪いな」
きぬ
「そんな放課後は、この執行部で
マッタリと。基本だね」
なごみ
「やる気が無い人間は帰れ」
きぬ
「けっ、お前こそ、ここで真面目ぶってるよりもさ
いつもみたいに人体模型の隣にうずくまって
親しげに話しかけてろよ」
なごみ
「そんな事するか、このあたしが」
…なんだかんだで椰子もここに溶け込んできたな。
姫は、巨乳のおねーさん(ノーブラ)の
ジグソーパスルを完成させるべく、
テキパキと配列していた。
どこで手にいれたんだあんなもの。
ナチュラルにセクハラしているあたりが流石だぜ。
乙女さんはまだ部活かな。
………………
乙女
「1年生は、よく道場を清掃しておくようにな。
最近は隅の方がおざなりになってるぞ」
洋平
「鉄先輩、お疲れ様です」
乙女
「あぁ、村田は今日も練習に気合が入っていたな」
洋平
「もちろん。僕はいかなる時も本気です」
洋平
「そういえば、少し聞きたいのですが鉄先輩は……」
乙女
「すまない、執行部でレオ達が待っているんでな」
洋平
「か、掛け持ちは辛いですね」
乙女
「何これしきの事。それじゃあな」
洋平
「……く、また対馬か。忌々しい」
たったった……
どんっ
洋平
「痛っ……だ、誰だ失敬な」
紀子
「くー……いた、い」
洋平
「西崎か……ったく広報委員の資料か何かしらないが
そんな大量のプリントを持ち歩いているから
視野が塞がれてしまうんだぞ」
紀子
「ご、ご……めん」
洋平
「ほら、半分持ってやるから
さっさと落ちたプリント拾うぞ」
紀子
「うんっ!」
洋平
「しかし、なんだなお前。こんなに大量の
プリントを運んでるのも、
頑張って人の役に立ちたいと思ったからだろ?」
紀子
「う、うん……」
洋平
「でも結局僕の手を借りてるよな。
いや、別に僕はいくらでも手伝うけどな」
紀子
「う」
洋平
「空回り、という言葉がある。
張り切るのもいいが、ほどほどにな」
紀子
「……くー……」
洋平
「少しきつく言い過ぎたか……
僕自身、気が立っていたからな
だがそれもこいつのためだ……」
……………………
エリカ
「よーし、後はこのピンクのピースを
はめれば完成だわ」
レオ
「……そうですか」
おっぱいパズルは残り1ピース
(乳首の部分だけ)になっていた。
まぁ、短時間でここまで組み上げる姫も
たいしたものではあるんだけど……。
エリカ
「……って。こういう時に限って私の携帯鳴るし」
姫は電話を持って執行部の外に出た。
乙女
「ん、数は揃っているようだな」
乙女さんが入ってくる。
机の上においてあるお菓子を食べながら
周囲をチェックしていた。
乙女
「なんだ、この破廉恥なパズルは
どうせ姫がやってたんだろう」
レオ
「よく分かるね」
乙女
「普通こんなものをやる度胸はないだろう」
確かに。
乙女
「これは処分する」
バラバラバラ……(←ピースを捨ててしまう音)
レオ
「あぁあああああ!!」
姫が楽しくやっていたパズルがっ!
きぬ
「お先に失礼しまーす」
なごみ
「あたしもやる事やったんで帰ります」
あ、こいつら逃げやがった。
レオ
「じゃあ俺も帰ります」
乙女
「なんだ、私は来たばかりなんだがな……
仕事は椰子が片付けてしまったのか」
乙女
「それでは私も帰るか」
エリカ
「……ふぅ、ったく我が親ながら長電話……」
エリカ
「あれ。皆もう帰っちゃったの?」
エリカ
「ぐっ、ぬかった……パズルが捨てられてる。
乙女センパイに見つかったのね」
エリカ
「何かこのやり場のない怒りを向ける矛先が欲しい
実際の胸を揉みたくなってきた……」
良美
「こんにちはー、遅れました」
エリカ
「多分よっぴーはそういう星の下に産まれてるのよ」
良美
「え、何々、何が?」
良美
「こんな所で嫌ーっ!」
……………………
乙女さんと夕食を食べていた(もちろんおにぎり)
乙女
「足りないな……お前も食べるか?」
レオ
「いや、俺は充分。乙女さんよく食べれるね」
乙女
「おにぎりは別腹なんだ。ふーむ、具は
何にしようかな。デザートっぽく
きな粉で行ってみよう」
乙女さんが素手で、ギュッと飯を握っている。
まぁ、ああやって丹精こめて握ってくれた飯を
毎日食べられるんだから果報者かもしれないが。
もうちょっとバリエーションが欲しいぜ。
テレビをつける。
手品の大会をやっていた。
ふむ、まぁこれでも見てるか。
乙女
「なんだ、レオはこういうのが好きなのか」
頭をグリグリと撫でられた。
乙女
「よし特別に私が見せてやろう」
乙女さんが自分の部屋からロープを持ってきた。
乙女
「これで私を縛れ」
レオ
「えええっ!!」
そんな趣味がっ!?
乙女
「きつい方がいいぞ」
レオ
「い、いやそれはさすがに……はぁはぁ……」
乙女
「何、ロープから脱出する術を見せてやろうと
いうんだ。ロープマジックの初歩だな」
レオ
「あ、あぁ……なんだ手品ね」
乙女
「他に何かあるのか」
レオ
「い、いや、別に」
とりあえず乙女さんのお腹をロープで縛った。
何故か縛るときに気分が高揚したが
俺は変態じゃないのでスルーする。
乙女
「うん、それじゃあ抜けるぞ」
乙女さんがモゾモゾと動く。
レオ
「どうぞ」
乙女
「1、2、3……それ」
シーン。
レオ
「……抜けてないよ?」
乙女
「む、おかしいな。華麗に抜けるはずなのだが」
乙女さんは焦っていた。
乙女
「くっ……ままならん……手順どおりに
やったはずだが」
乙女
「ええい、まどろっこしい!」
乙女さんがバッ! と両手を広げると
縛っていたロープが乙女さんの力でブチッ! と
勢い良く千切れた。
レオ
「おおー、脱出できたぞ」
華麗にじゃなくて豪快にだけど。
乙女
「く……失敗だ……ならば次!」
乙女
「このトランプで割り箸を切断してやろう」
あ、それ知ってる。
トランプの裏側、重ねるように
小さめのナイフとか仕込んでおくんだよな。
でも、言うと怒るしここは素直に楽しもう。
乙女さんが構える。
だが、手先が不器用なのが災いしたのか
乙女 無音
「!」
手の平からタネのナイフが落ちてしまった。
レオ
「あ」
乙女
「ち、また失敗だ!」
怒りのあまりトランプを振り下ろす乙女さん。
スカッ! と割り箸が切断された。
レオ
「種も仕掛けもないのに普通に安物のトランプで
割ってるじゃん……」
こっちの方がある意味スゲェ。
乙女
「いろいろネタは知っているんだが
どうもうまくいかない……」
レオ
「しかし乙女さん、手先が不器用なのに
よくこういうのやろうと思うね」
乙女
「う、うるさいな別にいいだろう」
レオ
「なんか理由があるの?」
乙女
「秘密だ」
レオ
「へぇ秘密」
レオ
「いつも俺がそんな事言うと姉弟なのに
水くさいとか言うのに」
乙女
「い、いい女には秘密があるものだ」
レオ
「(照れるような台詞なら言わなければいいのに)」
乙女
「あ、お前今私を馬鹿にしただろう!」
いきなり乙女さんが抱きついてきた!?
と思ったらただのコブラツイストだった!
レオ
「あ痛痛痛! ヒデェ! 俺何も言ってないのに!」
乙女
「ふん。弟の考えている事など分かる」
レオ
「じゃ、じゃあ俺が今何を考えているか、分かる?」
乙女
「おおかた、痛いから早く解放して欲しいと
言った所だろう」
レオ
「いや正解は乙女さんの唇のはしっこに
ついているきな粉が気になる」
乙女
「くっ……このっ、寝技かけてやるっ!」
レオ
「うわーっ、注意してあげたのに!!」
姉の暴力の前では弟はかくも無力なのかっ!
休み時間――。
豆花
「鉄先輩が、盗撮未遂の人間壊したて本当カ?」
レオ
「いや、正確には自転車を壊したんだが」
エリカ
「ふーむ……ねぇ、そこの面白い顔の人」
イガグリ 無音
「?(きょろきょろ)」
エリカ 共通
「あんたよあんた」
レオ
「同じクラスなんだから名前覚えてあげなよ……」
つうか、このシーン既視感が。
レオ
「イガグリって言うんだ」
イガグリ 共通
「それ、本名じゃねーべ」
エリカ
「ねぇ、あんたは今の乙女センパイの噂知ってる?」
イガグリ
「オイラ達の野球部じゃ目撃者もいたし、
鉄の風紀委員の恐怖がさらに知れわたったって
感じになってるべ」
エリカ
「ふーん。既に学校中の噂になってると
考えていいわね」
豆花
「カコいいネ。抱かれてもいいネ」
真名
「そこいらの男より全然ええな」
エリカ
「へぇ……これは使えるかもしれないわ」
今日も今日とて生徒会執行部。
乙女
「生徒会執行部のポスターだと?」
エリカ
「そ。人員補強も兼ねて」
良美
「でも人数は揃ってるよ?」
エリカ
「予備の人間いたってOKでしょ?」
良美
「まぁそうだけど。エリーにしては珍しい行動だね」
エリカ
「て、わけでご協力願ったのがこちら
広報委員会カメラマンの西崎さん
竜鳴館きってのカメラマンらしいので」
紀子
「よ、よろしく」
きぬ
「どんなポスターにすんの?」
エリカ
「それについては構想できてるのよね
ちょっと図書館棟まで移動するわよ
あそこにいい階段があるのよ」
エリカ
「なごみんも協力してね?」
なごみ
「気が進みませんね……でも、人材募集を
呼びかけるポスターなら協力します」
なごみ
「あたしの代わりが見つかるかもしれませんし」
あ、そうか椰子は代役なんだっけ。
乙女
「で、どんなものにするんだ?」
エリカ
「んー。最近はカッコイイ女性が
評価されてる時代ですよね」
エリカ
「だから私達のポスターもそれっぽく
撮影しようと思ってるんで
乙女センパイも協力お願いします」
乙女
「ふん、協力か……あまりミーハーなのは
感心しないな」
乙女
「まぁ、私に出来る事といったら」
乙女
「これぐらいしか協力できないぞ?」
エリカ
「わぁ、ノリノリだぁー」
良美
「やる気がみなぎってるね」
レオ
「その衣装どっから……」
乙女
「演劇部だ」
エリカ
「じゃあ私達も華麗に着替えるわよ」
なごみ
「冗談じゃないです」
エリカ
「へー、じゃあ代役いらないんだ
ここにずっといたいってコトね」
なごみ
「……ちぃ」
椰子がしぶしぶ納得した。
きぬ
「あれボクは? ボク、グラサンかけたい」
レオ
「お前は当然待機だ。雰囲気壊すな」
レオ
「ほら、ヒトデの形したビスケットやるから」
………………
エリカ
「こんな感じでどうかしら?」
紀子
「くー!(さいこーっす)」
西崎さんがビシッ! と親指をあげる。
姫もすかさず親指を立てた。
レオ
「うーん、なんつービジュアル集団だ」
良美
「うん……10点満点だよ。エリーかっこいい」
きぬ
「10点満点? じゃあこれにボクが
加わってしまったら、一体どうなっちまうんだ?」
レオ
「8点」
きぬ
「おーい何で減ってるんだコラ、どういう事だ」
紀子
「ひ、ひだりの……ひと」
なごみ 無音
「……(ギロッ!)」
紀子
「はぅ」
レオ
「おい椰子ガンつけるな、写真撮る人が
恐がってるだろ」
紀子
「か、かめら……めせん……で」
レオ
「しっかりカメラ見ろよ椰子。そっぽ向くなよ」
椰子にいちいち注文つけるのも嫌だが
円滑に撮影してもらうためには仕方ない。
西崎さんがカメラを調節する。
なごみ
「まだですか」
紀子
「も、もうちょっと……」
紀子
「ご、ごめんね」
レオ
「焦らせるなって、落ちつけ」
なごみ
「チ……」
椰子が舌打ちする。
ったく態度悪いヤツだな。
紀子
「それ、じゃ……と、とります……」
パシャリ、とフラッシュが焚かれた。
………………
エリカ
「はい、お疲れー」
乙女
「あんな感じで良かったのか」
エリカ
「もうバッチリ、でしょ」
紀子
「うん!」
なごみ 無音
「……」
レオ
「なんだよ」
椰子にガンつけられた。
そして無言で去っていく。
ったく、ヤンキー娘にも困ったもんだ。
紀子
「あ……の」
レオ
「ん?」
紀子
「きょ……きょーりょく……してくれ、て」
紀子
「あり……がと」
レオ
「あー、いやいやそんな大した事してないし」
きぬ
「ほんとだよね、ほとんど何もしてねーじゃん」
レオ
「写真、楽しみにしてるから」
紀子
「うん」
………………
エリカ
「それじゃ今日はこれまでって事で」
きぬ
「終わった終わった。精一杯頑張った」
なごみ
「お前は後半寝てただけだろ……」
レオ
「それじゃあ片付けて帰ろうか」
………………
あらかた片付け終わった。
乙女
「ん、忘れ物も片付け忘れも無いな?」
乙女さんが入念にチェックする。
エリカ
「乙女センパイはしっかり者よねー」
乙女
「おい、姫。パソコンがつけっぱなしだぞ」
エリカ
「あ、電源落としといてくれます?」
レオ
「え、大丈夫かな、俺がやろうか」
エリカ
「あのね、シャットダウンするだけよ?」
乙女
「そうだ、いくら何でもお前私を舐めすぎだ」
乙女さんが怒ってしまった。
レオ
「それは失敬」
乙女
「こんなもの簡単だ」
乙女さんがパソコンのコンセントを引っこ抜いた。
ブツン、と画面が落ちる。
乙女
「ほらな」
……乙女さんは得意そうだったとさ。
――――帰り道。
エリカ
「いやぁ、まさか電源コードを引っこ抜く
暴挙に出るとはね」
良美
「ぱ、パソコン大丈夫かなぁ」
乙女
「……?」
乙女さんはなんとなく疎外感を味わっていた。
新一
「写真撮るときはカッコ良かったのになぁ」
きぬ
「でも、親しみがもててよくね?」
なごみ 無音
「……?」
椰子に近づく。
露骨に嫌そうな顔をされたのはムカツクが
教えてやる。
レオ
「椰子、パソコンってのはああいう風に電気
落としたらダメなんだ」
なごみ
「……あぁ、なるほど」
やっぱこいつも分かってなかった。
……………………
夜。
今日は誰も来ないので、暇だから
ボトルシップを作成していた。
やはりこれをやっていると落ちつく。
乙女
「レオ、ちょっと入るぞ」
レオ
「あいどうぞ」
乙女
「今日は蟹沢達はいないんだな
ほら、茶菓子を持ってきたぞ」
……なんだ?
乙女
「ところで、私が今日帰り道何か
言われてたようだが」
乙女
「ひょっとしたらあのパソコンの
落とし方はまずかったのか?」
レオ
「……まぁね……」
乙女
「……そうだったのか。機械は苦手だ」
乙女
「とはいえ、一般常識程度は使えないとな。
いつまでも苦手と逃げてていいわけがない」
乙女
「私にパソコンを教えてくれないか?」
レオ
「いいけど……」
乙女
「姫が露骨に私を馬鹿にしているようでな
見返してやるんだ」
やっぱりこの人も負けん気が強い。
乙女
「では、頼む」
レオ
「いや、気合いをいれるため? に
ハチマキしなくていいから」
乙女さんからハチマキをとりあげる。
(今は俺が教える側だからな)
破敵、と書いてあった。
破壊されても困るしなぁ。
レオ
「それじゃ軽くやってみようか」
乙女
「うん」
レオ
「今、電源が落ちている状態なんで
起動したいと思います」
レオ
「そこのスイッチを押して下さい
……優しくね」
乙女
「それ!」
……だから何でわざわざ掛け声を。
ブイーン、とパソコンが音を立てる。
レオ
「はい、これで立ちあがります。
これは簡単でしょ?」
乙女
「そうだな、覚えたぞ。青いボタンを押す……と」
レオ
「あ、いやボタンの色で覚えないで。
電源ボタンを押すと認識して」
乙女 無音
「(こくこく)」
乙女さんが殊勝に俺の言う事を聞いている。
なんだか得もしれぬ優越感。
レオ
「で、乙女さんはどこまで出来るように
なりたいのかな?」
乙女
「あぁ、あれだ……なんと言ったか、そう
断地体賓愚というものを覚えたいな」
レオ
「何その超カッコ良さそうな技」
乙女
「姫や佐藤が時々やっているじゃないか」
ピアノを弾くような指使いをする乙女さん。
レオ
「……あぁ、もしかしてタッチタイピングか」
乙女
「レオは出来るのか?」
レオ
「ていや」
カコカコカコカコカコッ! と文章を入力する。
乙女
「おぉっ……凄いな」
あぁ、何だろうこのこそばゆい優越感。
……小学生相手にサッカーの技術を見せて
スゲーとか言われてる気分。
レオ
「フカヒレとかは片手打ちするけど、まぁ
主流はこっちかな」
乙女
「文字はどうやって?
確かローマ字読みで入力するんだよな」
レオ
「キーボードをよく見て打ってみるといい」
乙女
「お前、キーボード全然見てなかったじゃないか
私もそうやりたいんだが」
レオ
「楽に強くなれる方法はない、
鍛錬による賜物、というのが乙女さん理論でしょ」
レオ
「これも一瞬で出来るほど甘くは無いんだよ?
タイピングソフトとかで少しは訓練しないとね」
乙女
「そ、そうか。まずは慣れと言う事だな」
レオ
「ん、とにかく覚えるにしてもパソコンに
慣れないと」
レオ
「じゃあ自分の名前を打ってみるといい」
レオ
「ゆっくりでいいから」
乙女
「くろがね……く……Kは……どこだ」
キーボードを親の仇のように見る乙女さん。
レオ
「そ、そんな気合いれなくていいから」
慎重に文字を打っていく乙女さん。
乙女 無音
「……」
レオ
「どうしたの」
乙女
「いや……なんでもない」
レオ
「顔色悪いよ?」
いつもは血色良くて活き活きしてるのに。
乙女
「デジタル酔い……した」
レオ
「エー。まだ“くろが”までしか打ってないのに?」
レオ
「乗り物酔いとかは?」
乙女
「いたって平気なんだが……」
レオ
「じゃあデジタル関係のみに反応しちゃうんだね」
そりゃ携帯も持ってないはずだよな。
このIT時代になんて不便な人なんだ。
レオ
「と、とにかく酔ったならもうやめよう
体に悪いからさ」
乙女
「いや、せめて自分の名前ぐらいは……
やりかけたことだ……」
乙女さんが気合でキーを動かす。
頑張れ乙女さん。
“鉄 乙女”
乙女
「……できたぞ」
レオ
「やったね! 自分の名前が打てたね!」
喜び合う姉弟。
決してバカにしているわけではないんです。
図書館棟へ足を伸ばす。
一応パソコンの教え方の勉強しておくか。
乙女さんは昨日で懲りたと思うけど一応。
“武士でも出来るパソコン術〜打撃・走塁編〜”
うむ、これでも借りておこう。
………………
洋平
「陸上部との合同ランニング……
これがなかなかに、ハードだっ……」
スバル
「どうしたよ拳法部。息が上がってるぜ」
洋平
「根っからの走り屋と一緒にしないでもらおうか」
紀子 無音
「(カシャカシャ)」
洋平
「西崎……あいつ何で写真撮ってるんだ?」
スバル
「会報か何かに載せるんだろ。
部長から撮影許可もらってるから問題はないぜ」
洋平
「こっちばかり写しすぎだ」
スバル
「自意識過剰って言葉知ってるか? 集中力集中力」
洋平
「……ふん、分かっているさ」
紀子 無音
「(パシャッ、パシャッ)」
洋平
「いや自意識過剰じゃない、あいつは
あきらかにこっちを撮影している」
スバル
「いいじゃん、愛されてるじゃん?」
周囲から村田に“やるぅ、洋平ちゃん!” と
いうヤジが飛んでいく。
洋平
「く、くそっ」
紀子に駆けていく洋平。
紀子
「くー♪(←挨拶)」
洋平
「挨拶はいい、西崎どういうつもりだ」
紀子 無音
「?」
洋平
「僕ばっかり写す事も無いだろ」
紀子
「あ……で、でも……」
紀子
「がん、ばってる、よーへー、えに、なるから……」
洋平
「こっちは気が散っていい迷惑だ」
紀子
「う……ごめん……ね」
とぼとぼ……。
スバル
「おいおい、何だよその反応は!?
皆にからかわれたからって
子供すぎるぞ洋平ちゃん」
洋平
「ふん、あいつはこれぐらいじゃこたえないさ
事実、僕は気が散るんだ」
………………
レオ
「だんだんと微妙な天気になってきたな」
部活やっていたメンバーも執行部にやってきて
ティータイムになっていた。
姫や乙女さんは綺麗な姿勢で優雅に飲んでいる。
この2人は黙ってると本当絵になるよな。
なにげに椰子もピシッと様になってるから
驚きだよ。
一方、カニは今日出た漫画を読みながら
サクサクとクッキーを食べていた。
レオ
「あぁ、もう。私こんなマナー悪い子に
育てた覚えはないわよ」
レオ
「こら妖怪カニ坊主。もっとマナー良くなさい」
きぬ
「うるせー馬鹿。死ね」
レオ
「まぁ、死ねなんて言葉を気軽に使うなんて……」
レオ
「ちょっとおとーさん、あの子の行儀の悪さったら…
あたしもう恥ずかしくて」
スバル
「教育についてはお前に任せるといったはずだ」
レオ
「そんな事言っても反抗期であのコ
私の言う事をちっとも聞かないんですよ」
レオ
「ちょっとちょっと佐藤さんはどう思います?」
良美
「えっと……別にそんな形式ばったものじゃないから
楽しければ問題ないんじゃないかな」
きぬ
「ほうわほうわ(そうだそうだ!)」
レオ
「いやぁ、もう口にモノをいれたまま喋らないでぇ」
なごみ
「センパイ、その言葉遣いキモイですから
やめて下さい」
レオ
「いや、椰子はよく知らないだろうがな
まさに俺はカニの親代わりみたいなもんなんだよ」
なごみ
「だからってそんなキモイ言葉使わないで下さい」
レオ
「……お前もギャグってものが分からないな」
なごみ
「ふん、くだらない」
エリカ
「なごみん、そうカリカリしてるような
歯ざわりだと美容に悪いわよ」
なごみ
「別に……美容なんてそこまで気にしてませんので」
本格的に曇ってきた。
きぬ
「傘持ってきて良かった。おいココナッツ
入れてくださいと頼めば10秒だけ入れてやるぞ」
カニが外を見ながらつぶやく。
なごみ
「折り畳みは持っている」
乙女
「どうだレオ、私の言うとおりしっかり
折り畳みもってきて良かったろ」
レオ
「まぁね」
雷がゴロゴロと鳴った。
きぬ
「だんだん近付いてきたねーカミナリ」
乙女 無音
「……」
レオ
「?」
乙女さんが黙ってしまった。
ピカッ!
きぬ
「おっ、ボクの未来のごとく光ったよ」
なごみ
「一瞬でまた暗くなったけどな」
ピシャーン!!!
ひどく近くで雷の爆音が鳴った。
レオ
「近いな」
新一
「っていうかさ……普通雷が鳴ったら
キャッ! っとかいって誰か男に
しがみついてこないのかな?」
レオ
「んー、ここにいる人達にそーいうの
期待しちゃいけないんじゃね」
エリカ
「今の稲光綺麗だったわね。また光らないかしら」
きぬ
「なー雷に当たったら頭がアフロみてーになんのかな
ココナッツ、オメーちょっと打たれてこいよ
日頃悪い事してっから落ちてくるだろ」
なごみ
「お前が言ってこいカニミソ」
レオ
「……こんなんだもん」
乙女さんは無言でお茶をすすってるし。
余裕だなぁ。
レオ
「そういうのが似合いそうな佐藤さんは……」
良美
「停電した時のために、懐中電灯を……と」
レオ
「割と余裕だぞ」
新一
「嘆かわしい。こういう時ぐらい男を頼ってくれ」
ピシャーーン!!!
新一
「うわぁっ、びびったぁ!」
レオ
「お前が一番情けないな」
……………………
夜になると、天気はすっかり元に戻っていた。
“今夜は早く寝るから集まるならカニの部屋”
メールを幼馴染達に送っておく。
レオ
「それじゃはじめようか乙女さん」
乙女
「あぁ、今日も宜しく頼む」
レオ
「しかし根性あるね。昨日あれだけ顔色
悪くしていたのに」
乙女
「苦手だからと逃げていては弟のお前、
何より私自身にしめしがつかない」
乙女
「とはいえ、こうしてお前に毎夜頼るのも
微妙だ」
乙女
「だから、電源のつけ方と切り方だけを
教えてくれないか?」
乙女
「後は自分でいろいろ動いて見る」
レオ
「分かった。じゃあとりあえず電源ONで」
乙女 共通
「それ!」
カチッ……ブィーン。
レオ
「ここまで問題ないな」
乙女
「で、どうすればいいんだ? コンセントを
抜くと支障が出るのか?」
レオ
「まぁ、電源落とす前に抜いたらダメだよね」
レオ
「画面の一番左下の所に注目してくれ」
乙女 共通
「うん」
レオ
「そこをクリックだ!」
乙女さんにマウスを持たせる。
乙女
「力をいれたら砕けてしまうな」
レオ
「いや、力まないでいいから」
レオ
「マウスは鷲づかみするんじゃなくて……
手でかぶせるようにする」
乙女
「む? む?」
あぁ、早くも混乱してきた。
レオ
「ん、ちょっと手を握るよ」
乙女さんに密着する。
シャンプーの匂いがした。
レオ
「こうして」
乙女さんの手を掴む。
別に乙女さんは嫌がる素振りは見せない。
レオ
「こう持つ」
乙女
「ん。なるほど。
こうやって教えてもらったほうが分かりやすいな」
乙女さんがこっちを向く。
距離がほぼゼロ距離。
姫のアップも反則だけどこの人もなかなか
照れるぜ。
乙女
「で、ここからどうするんだ?」
レオ
「画面の矢印を、このまま左下にもってって
重ねたら左側のボタンを押す」
乙女
「左側のボタン……こうか」
レオ
「そしたらこの終了っていうのを……」
………………
乙女さんから離れる。
長時間握っていたせいで乙女さんの
手が汗ばんでしまった。
レオ
「だ、だいぶ長い時間かかったけど
繰り返しやってわかったかな?」
乙女
「うん、分かったぞ」
レオ
「じゃ最初から1人でやってみて」
乙女
「まず、スイッチ。はっ!」
乙女 共通
「ふっ」
乙女
「たぁっ!!」
レオ
「……乙女さん、掛け声はいらないんだ」
また姫に馬鹿にされてしまう。
乙女
「……む、そうだな
執行部でも声を出してやっている人間はいないな」
乙女
「電源を切る……と。どうだ」
レオ
「お見事」
レオ
「執行部のパソコンもこれと同じタイプで
今主流のやつだから同じようにできるよ」
乙女
「……あれから3時間か。すまん飲み込みが悪くて」
レオ
「でも、苦手なものってそれくらいかかるし」
レオ
「何はともあれ、良かったね」
乙女
「お前がグチひとつ言わずに付き合ってくれた事が
私は嬉しい、ありがとうレオ」
頭を撫でられる。
レオ
「そんな大袈裟な」
乙女
「いや、私はいい弟を持った」
ニコッと笑う。
レオ
「――!」
その笑顔にドキリと胸が高鳴る。
鉄の風紀委員とは思えないその笑み。
――とても可愛かった。
でも言うと怒りそうなのでやめた。
乙女
「さて、それでは日課のトレーニングだな」
う、やっぱり。
乙女
「それが終わったら買っておいた
アイスがある。私と2人で食べよう」
レオ
「う、うん」
ちょっとした優しさが身に染みる人だなぁ。
生徒会執行部。
エリカ
「さて、今日の業務もこれまで。
帰りましょうか」
乙女 無音
「!」
乙女さんの瞳がキュピーン! と光る。
乙女
「それでは、パソコンの電源を落とすぞ私が」
倒置法を使うとは消す気満点だな。
良美
「あ、それは私がやりま……」
乙女 無音
「ギラリ(←いいから私にやらせろ光線)」
良美
「はうっ!?」
乙女
「左下にもっていって……クリックして
終了を選択する」
無事、終了できた……良かった。
乙女
「ほら、出来たぞ」
俺の安堵の表情をしっかりと
チェックしていた人がいた。
エリカ 無音
「……」
エリカ
「さ、さすが乙女センパイ。正直
機械は苦手だと思っていましたが敬服しました」
乙女
「これぐらい私にとってはたやすい事だ」
乙女さんは本気で喜んでいた。
エリカ
「すごいんでちゅねー。1人で
消せるようになったんでちゅかー」
良美
「あわわ! え、エリー!」
乙女
「ふふっ」
姫が嫌味を言ってるのに気付いてない。
真っ直ぐで純粋なんだな。
曲がった俺から見ればそれの何と眩しい事か。
勝手な話だが、乙女さんにはずっと今の
ままでいて欲しいと思った。
……………………
乙女
「姫の鼻も見事に明かしたしな」
レオ
「……(大人なのでノーコメント)」
乙女
「お返しに、これからはもっとお前に
目をかけるからな」
またグリグリと頭を撫でられる。
俺と乙女さんは20センチ近く差があるので
彼女が手を伸ばす格好になるわけだが。
乙女さんが手を伸ばすと、頭を撫でられる証と
喜ぶ俺がいる。
……シスコン?
新しい朝が来た。
乙女 共通
「おい、起きろ」
レオ
「ぬぅぅ……」
目を開ける。
レオ
「朝の8時?」
レオ
「冗談じゃない。まだ寝るっちゅーに」
乙女
「外はいい天気だぞ」
無理やり布団を引っぺがされた。
レオ
「休みの日ぐらいゆっくり寝かさせてくれ」
乙女
「1日を無駄にするな」
お姫様ダッコでかつぎあげられた。
レオ
「わ、分かった起きるから!」
レオ
「ったくなんて強引な……」
乙女
「12時には寝たから8時間は寝ているだろう?
睡眠時間は充分とれてるはずだ。
ほら、さっさと着替えろ」
レオ
「ちっ、分かったよ」
乙女
「さりげなく目上に乱暴な言葉遣いはするな!」
ビシッ! とローキックをかまされた。
乙女
「早く服を脱げ、洗濯するんだからな」
乙女さんがクルッと後ろを向く。
この状態で服を着替えるのは辛い。
乙女
「あと10数える間に着替えろ。
10、9、8、7、6」
レオ
「ちょっと待ってってば!」
全く張り切りすぎだっての。
朝飯を食べる。
乙女
「午前中は買出しに行くぞ」
乙女
「正午からは勉強だ」
乙女
「夕方はみっちりトレーニングだぞ」
乙女
「そして夜は期末に備えて勉強だな!」
乙女さんつきっきりデイ。
疲れ果てた俺の口からはエクトプラズム
みたいのが出ていた。
乙女
「うん、今日は頑張ったな」
乙女
「明日も8時起床だ。忘れずにな。おやすみ」
乙女さんが去っていく。
明日もこんな日になるのか?
彼女は確かこんな事を言っていた。
乙女 共通
「お返しに、これからはもっとお前に
目をかけるからな」
乙女さん……。
目をかけてくれるのはいいけど……辛いっす。
筋肉痛で体が軋んでいる。
くそ、せっかくの休日なのになんでこんな
憂鬱な気分にならないといけないんだ。
乙女 共通
「おはよう」
今日もやたら張り切っている。
乙女
「さっそく今日の日課をはじめよう」
レオ
「乙女さん、俺は今日は……」
乙女
「何だ、予定でも入っているのか?」
レオ
「いやそういうわけじゃないんだけど」
乙女
「ならばいい。だらしないお前を
規則正しくきっちり指導してやるからな」
レオ
「筋肉痛なんですが」
乙女
「いいからこい」
ズルズルズル……
乙女
「午前中は家の掃除や洗濯だ」
レオ
「くっ……まぁ、これは普通に生活して
いくうえで確かに仕方ない……かな」
乙女
「ほら、磨くならもっと腰に力を
いれて徹底的に磨け」
乙女
「見ろ、汚れが残ってるじゃないか」
が、我慢我慢。
乙女 共通
「正午からは勉強だ」
レオ
「まぁ期末も近いし……くそ仕方ないか
学生の本分は勉強だしな」
乙女
「私も隣で勉強する。2人ともいい点とろうな」
お、俺の為にやってくれる事なんだ。
乙女 共通
「夕方はみっちりトレーニングだぞ」
レオ
「トレーニング……って」
これは筋肉痛なんだからやる必要ないとみた。
乙女
「その筋肉痛を耐える事が、鍛えるということ
だるくてもしっかりやるんだぞ」
乙女
「まずは、ダッシュ10本!」
乙女
「夜はまた勉強だな」
レオ
「……乙女さん、俺はもう疲れたから
寝たいんですが」
乙女
「ダメだダメだ、根性無しが!」
レオ
「む」
乙女
「ほら、さっさと席につけ」
レオ
「ヤダ」
乙女
「やだ、じゃないだろう。お前のためを
思ってやっているんだぞ」
レオ
「それが余計なお世話だっての!」
乙女
「な、余計なお世話だと」
乙女
「私が言わないとお前自発的に
やらないじゃないか」
レオ
「あぁ、あんまり勉強する方じゃないけどね
それでも平均点はキープして楽しくやってた」
乙女
「平均点で満足するのか? もっと
自分を高めないとダメだろう。鍛えるんだ!」
レオ
「土日をまるまる潰してまで鍛えようと思わない」
乙女
「それがお前のためなんだ」
レオ
「だから余計なお世話!」
レオ
「全然楽しくないよ」
乙女
「もう根をあげたとは……呆れた根性無しだな
寺で修行を受けさせたい気分だ」
レオ
「根性無しで結構だね」
乙女
「ふん、卑屈な。さぁ文句を言う暇あったら座れ」
レオ
「俺はやらない」
乙女
「ちっ、子供かお前は。見損なったぞ」
レオ
「もう俺には構わず自分の部屋に行ってくれ」
乙女
「それで私がはいそうですか、と
引き下がると思うな」
乙女
「ご両親から頼まれているからな
手を出しても構わないからよく教育してくれ、と」
乙女さんがニヤリと笑う。
レオ
「ふん、力に訴えるのは乙女さんのお家芸だよね」
乙女
「何だと?」
レオ
「制裁したきゃ、してくれ」
ドカッ!!!
レオ
「ぐぅ……ナイスキック」
そうだった、こう言えばマジで蹴ってくる人だ。
レオ
「鬼め」
乙女
「鬼だよ」
乙女
「さぁ、また蹴られるのは嫌だろ?
大人しく座るんだ」
レオ
「でも俺はもう言う事聞かないぜ」
乙女
「何故そうまで意地になる」
レオ
「ここでずっとイエスマンになったら俺の
土日がことごとく潰されるからね
必死で抵抗するよ」
乙女
「甘ったれた事を……」
乙女
「だったら私も意地でも勉強させてやる」
レオ
「……そうだ、そうだよな乙女さんって
昔からそうだった」
乙女 無音
「?」
レオ
「頭ごなしにあれやれ、これやれ
辛かったらそれに打ち勝て……
これはお前のためだ」
レオ
「そんでひたすら説教して……
ほんっと押し付けがましいぜ」
乙女
「……だからお前のためなんだ」
レオ
「やだね、俺は意地でも勉強しない!
自由人であるために」
レオ
「そう、例えここから逃げても」
乙女
「おい、待てこの馬鹿!」
乙女さんの静止を聞かず、俺は家を飛び出した。
途端、天地が反転する。
乙女
「この私から走りで逃げられると思うのか?」
レオ
「ぐっ……しつこいなぁ」
乙女
「もはや理屈は不要。ビシバシしごいてやる」
レオ
「……分かったよ」
物分りが良くなったフリをする。
乙女
「初めからそうすればいい」
乙女さんがスタスタと前を歩く。
そして家の中に入った。
……やはり人を信じすぎるぜ乙女さん。
俺は自由を求めて逃げ出した。
乙女
「おーい何やってるんだ、入って来い」
乙女
「……ふ、そうか。気まずくて家に入れないのか。
可愛い所あるじゃないか」
乙女
「さっきまでの発言はなかった事に
してやるから、ほら」
無人。
犬の遠吠えが聞こえる。
乙女
「……な、なんだあいつは、結局逃げたというのか?
分かったって言ったじゃないか」
乙女
「くっ、腹立たしい」
乙女
「ふん、どうせ家を飛び出したといっても
30分くらいで帰ってくるさ
根性無しは所詮その程度だ」
――30分経過。
乙女
「そろそろか。帰ってきたら
根性無しにきついお灸をすえてやらなくては」
――60分経過。
乙女
「……なんだ結構粘るな。根性無しのくせに」
――120分経過。
乙女 無音
「(そわそわ)」
――180分経過。
乙女
「い、いくら何でも遅すぎる!!」
乙女
「レオの携帯番号は……確かメモが
あったこれか……090の……」
トゥルルル
乙女
「ええい、やきもきさせるな早く出ろ」
ガチャッ
乙女
「ほっ……」
乙女
「おい、レオ! いつまでもつまらない
意地を張るな、さっさと帰って来い
たっぷり叱ってやるからな」
“お掛けになった番号は、電源が切れているか
電波が届かない場所に……”
乙女
「何だと……」
乙女
「どうしたんだあいつ、まさか事故に
巻き込まれたりしてるんじゃないだろうな」
乙女
「それとも、もうこんな夜遅くだから
何かよからぬ輩にからまれているのか」
乙女
「くそ、世話のやける奴だな!
明日は学校があるんだぞ」
………………………
レオ
「そういうわけで俺は自由を求めて
旅に出たわけよ」
レオ
「それがなんでこんなカレー屋にいるわけ?」
きぬ
「自分で言うなよな。そっちが入ってきたんだろ!」
店長
「もうそろそろ“カンバン”デース」
きぬ
「つまり今日の営業はもう終わりってことだ。
ボクが部屋でレオを罵倒してやっから帰ろうぜ」
レオ
「やだ、カニの部屋なんかにいたら一発で見つかる」
レオ
「これは乙女さんと俺との聖戦なんだ」
きぬ
「いや、そこにボク達カレー部隊を巻き込むなよ」
レオ
「とにかく、カンバンにするならしてくれ。
俺にはかまわないでいいから」
店長
「きっと“オネーサン”心配してますヨー?」
レオ
「ふん、どうせ寝てるさ」
きぬ
「でもオメー、ボクが家出したらどーするよ」
レオ
「放置しておく。帰巣本能にしたがって
帰ってくるだろ」
きぬ
「そんな事言いながら結局レオは
探すタイプだからね」
レオ
「……それは俺が優しいからだ」
レオ
「乙女さんは、そりゃ優しい所もあるけど
どうせガミガミ言うだけにきまってるぜ」
乙女
「レオ……どこだ……どこにいるんだ!」
乙女
「むっ!?」
男A
「ははっ、それがこれくらいあってさー」
乙女
「おい制服着てる人間がタバコを吸うな
社会の常識を考えろ!」
男A
「はぁ何だよお前、うるせーな」
男B
「うわぁ、すっげぇ美人じゃんかYO!」
乙女
「人に迷惑をかける行為はやめろ」
男A
「はは、ヤナコッタ」
乙女
「ならば痛みを知れ、たわけが」
男A
「ギャア!!」
男B
「い、いきなり蹴るのも社会の常識的に
どうなんだYO」
乙女
「こういう輩がいるからな。夜の街は危険が一杯だ」
男A
「あ、あんたが一番……危ないぜ」
………………
乙女
「レオ、どこだっ!」
なごみ
「……な……」
乙女
「椰子、お前こんな時間帯に何やってるんだ」
なごみ
「あたしは別に……」
乙女
「なんだか危なっかしいな」
なごみ
「親と待ち合わせしてるんで」
乙女
「む、そうなのか。ならば大丈夫か」
乙女
「レオを見なかったか?」
なごみ
「いえ見てません」
乙女
「そうか分かった、気をつけてな」
なごみ
「単純な人だ」
なごみ
「いや、一応信じてくれたと考えるべきか」
………………
乙女
「……くっ、どこにもいない」
乙女
「……はぁっっ……」
乙女
「……レオのためと思いビシバシした
つもりだが……行き過ぎたか
これじゃ昔と同じじゃないか」
乙女
「またやってしまったのか……私は未熟だ……」
レオ
「ノンビリしてたら日付変わっちまったな」
きぬ
「ったく、こっちはいい迷惑だっての」
レオ
「でも、いくアテもない俺が真っ先に思いついた
人間が……」
きぬ
「まー、幼馴染だからな! そーかそーか
だからオアシス(カレー屋)に来たんだな」
レオ
「あのテンチョーだったんだ」
きぬ
「そっちかよ!」
レオ
「まぁそれは冗談として受け入れてくれてサンキュ」
きぬ
「へん、礼を言われるほどでもねーや
テンチョーに言っときな」
家の前に来る。
レオ
「よーし、後はこっそり忍び込んでと」
乙女
「あっ、レオ!」
ぎぇ! 家の前に立っていた。
レオ
「いつもは寝てる時間なのにっ」
乙女さんが駆け寄ってくる。
きぬ
「ま、後はオメーが謝れば?」
カニはカニだけに横方向へカサカサと逃げ出した。
乙女
「レオ、お前という奴は」
バッ! と乙女さんが手を上げる。
なんだ、殴るってのか、でもこっちだって
そう簡単には殴られないぞ。
そのまま頬を撫でられる。
……って、え?
乙女
「ったく……あまり心配させるな」
乙女
「蟹沢と一緒にいたという事は
あいつのバイト先にいたのか?」
レオ
「うん、まーね」
乙女
「そうか……特に危ない目には
会わなかったわけだな」
ほーっ、と乙女さんが安堵の息をはく。
レオ
「え……? あれ?」
レオ
「そんなに心配してくれたの?」
乙女
「当たり前だ。夜中に家を飛び出して
3時間も帰ってこなかったら
普通心配するだろうが」
レオ
「でも俺もう学生なんだし」
乙女
「それでも心配なものは心配だ。
この心が分からないとは……
姉の心弟知らずというか……」
乙女さん……。
自分で思ってたより、大切に
されてたのかもしれない。
乙女
「レオのご両親から信頼され任されたのに
これでは情けなくてな」
いや、大切にされているというより責任感か。
それでも――
頬を撫でている手はとても優しかった。
乙女
「とにかく、無事を確認したところで」
レオ
「へ」
脳天にチョップされた。
乙女
「この馬鹿が! 1度分かったといいながら
わざわざまた居なくなって!」
乙女
「さぁ、こっちへ来い」
レオ
「うぉぉぉ、全然根本的解決になってない!」
レオ
「弁護士を呼んでくれ」
乙女
「別に裁こうとしているわけじゃない。
まぁ、茶でも飲め」
レオ
「……ありがと」
乙女
「私なりに今日のいきさつを考えた」
レオ
「うん」
乙女
「嘘をついて飛び出したのはレオが悪い
連絡をいれないのも悪い」
レオ
「……」
乙女
「だが、そうさせたのは私のやり方が
間違っていた所もあるだろう」
乙女
「お前の為と思い、口を出しすぎてしまったな」
乙女
「パソコンの事も教えてくれたし、お前は
日頃から結構優しいから、その分
私もお前の為に頑張ろうと思ったんだ」
乙女
「だが、確かに私からの命令で土日を
完全に潰したのは行き過ぎだったな」
乙女
「許せ」
レオ
「あ、あぁ……分かってくれれば」
レオ
「でも、随分物分りがいいというか」
乙女
「私の弟……琢磨いるだろ」
レオ
「うん」
乙女
「あいつにも昔、お前と同じ事を言われたんだ」
乙女
「お姉ちゃんは、俺のため俺のためと
言って、とにかくガミガミ叱ってきて……
まるでテレビに出てくる教育ママみたいだと」
乙女
「ショックだった」
乙女
「ここで鍛えておけば将来必ず琢磨にとって
有益になると思い、いろいろ厳しく言ったが……
結果、思い切り嫌われてしまった」
乙女
「私は自分を鍛えるのが好きだ。
だからつい同じ感覚で他人に当たってしまう
自分と他人は違うのにな」
レオ
「でも琢磨とは仲直りしたんでしょ」
乙女
「あぁ……あいつ、手品や隠し芸が好きでな
コミュニケーションをとるために私は
それらを覚えて見せてやったんだ」
乙女
「拙い芸だったけど、喜んでくれたよ
それで仲直りできたんだ」
乙女
「以後口を出しすぎないように……けれど厳しく。
褒めるところはきっちり褒めて。遊ぶときは遊び。
姉として琢磨を導いてこれたつもりだ」
乙女
「それで、私は学んだと思ったのに
またやってしまったんだ……1度悔いたのに」
レオ
「……」
レオ
「1度反省して、以後全てこなせるようじゃ
ほんと完全な人間になっちまうよ」
乙女
「うん……だけど頑張ろうと思ったんだ」
レオ
「その意志があれば、多分大丈夫」
レオ
「俺も……別に嫌ったわけじゃない。
ただ反抗しただけだから」
乙女 無音
「……」
レオ
「それに琢磨が喜んだのって
乙女さんの芸というよりも」
レオ
「乙女さんが自分の為に芸を覚えてくれたのが
嬉しかったんじゃないかな」
乙女
「そうなのか?」
レオ
「うん……俺も探してもらって嬉しかったし……
乙女さんは正直あんまりこたえない人だと
思ったから」
レオ
「そこまで気にしてたとは思わなかったよ」
レオ
「それに、普段ガミガミ言われてるから
自分がそんなに大切にされてるとは
思ってなかったんだと思う」
乙女
「これでも私は愛情深く、結構繊細なんだ……」
レオ
「くっ……くははっ」
乙女
「今のは笑うところではない」
レオ
「ぐほっ、だからこれのどこが繊細だと!」
この人、手先だけじゃなくて色々と
不器用なんだな。
乙女
「とにかく、ビシビシ言い過ぎたのは謝る。
いくらお前の為とはいえ、やりすぎた
これからは気をつけよう」
レオ
「ん、俺も無意味に反抗しすぎた、ごめん」
歩み合う。
この人とは喧嘩したくない。
乙女
「仲直りだな」
乙女さんがニコッと笑う。
レオ
「うん」
乙女さんがパンッ! と自分の頬を叩いた。
乙女
「よし、今日も学校があるんだ。寝れるだけ寝よう」
レオ
「そうだね」
乙女
「宵っ張りしたからとて、遅刻は許されないからな」
グリグリと頭を撫でられる。
レオ
「分かってるさ」
乙女さんは、“らしさ”を全く失っていなかった。
多分、今回の土日ほどではないが、
これからも厳しくしつけられるだろう。
それも俺の為を思ってくれれば、か。
レオ
「それにしても」
俺なんて自分で大人びたつもりだけど、
今日の行動なんてガキ丸出し……恥ずかしい。
乙女さんは、1度やってしまった事を
2度やってしまったと悔いていた。
俺も、もうああいう事は絶対しないぞ。
こんな風に互いに傷つけあいながら、
それを反省し、だんだんと大人になるのかな。
などと悟ったような事を思う
自分に浸る難しい年頃です、ハイ。
乙女
「おーい、さっさと寝ろよー」
レオ
「はーい」
エリカ
「ねー、乙女センパイ。今ここにいるのは
女子だけってことで浮ついた質問いい?」
乙女
「今、仕事中だ」
エリカ
「(無視)最近対馬クンと仲が良いみたいだケド
2人の間には、姉弟以外のものが……
例えば恋愛感情とか、生まれましたか?」
乙女
「いいや、そんなものはないぞ」
乙女
「なんで私がレオに恋愛感情なぞ持つのだ」
エリカ
「真面目な乙女センパイがケロッというとは
こりゃ真実かな、何も無いのかぁ」
エリカ
「乙女センパイ、一緒に暮らすうちに
情がうつるかなって」
乙女
「確かに情はうつっているさ。あいつは優しいしな」
乙女
「しかし、弟と男は別物だ。
私は優しいだけの軟弱な男は好かない」
乙女
「レオは根性無しだからな」
良美 無音
「……」
きぬ 無音
「……」
エリカ
「じゃあ男はやめて私なんてどう?」
乙女
「姫は逆に優しく無さそうだから嫌だな」
きぬ
「あはは、普通にフられてやんのー」
なごみ
「くっくっく、形無し」
エリカ
「ここぞとばかりに笑ってくるわねー
乙女センパイは、強いタイプなら
それでOKだと思ってたわ」
乙女
「失礼だな……私は名前の通り乙女だぞ」
乙女
「可憐な乙女心だって持っているんだ」
エリカ
「……っ、ぐっ!」
なごみ
「……?」
良美
「笑いを必死にこらえてるんだと思うよ」
祈
「あら私の携帯……もしもし、はいはい」
祈
「鉄さん、図書館棟で揉め事だそうですわ」
乙女
「了解した」
乙女
「変身!」
乙女
「風紀委員として速やかに解決してこよう」
バタン!
エリカ
「あー、危うく爆笑しそうになったわ。
日本刀を持って飛び出す乙女……か
いい人よねぇ、乙女センパイ」
祈
「純粋って美しいですわねー」
エリカ
「なごみんは、うわついた話ないの」
なごみ
「興味ないですし」
エリカ
「恋を知ったなごみんってキャラ変わりそーっ」
なごみ
「あたしは基本的に他人が嫌いですし。
疲れると思います、そういうのは」
きぬ
「オメーの今の発言、社会不適格者の素質
バッチリだったぜ!」
なごみ
「うるさい。漁師に獲られて死ね」
きぬ
「オメーが現地人に収穫されて死ね!」
……………………
グラウンドでスバル達とくっちゃべってると……。
乙女さんが凄い勢いで図書館棟の方へ走っていく。
スバル
「何か揉め事か? 相変わらず働き者だなあの人は」
紀子 無音
「……」
スバル
「ん、洋平ちゃんかい?」
紀子 無音
「(こくこく)」
スバル
「道場にいなかったって事は……
このグラウンドにいるかな?」
スバル
「あー、あれだ」
紀子 共通
「あり……がと」
レオ
「A組の西崎さんだっけ」
スバル
「なんか洋平ちゃんに懐いてる
みたいだけどよ、カワイソーに
洋平ちゃんが照れてるのか、つれないんだわ」
洋平
「だから、練習中は声をかけないでくれ!」
紀子
「……ぅ、ごめん。けんぽう、やるまえ……
ならいいかなって」
スバル
「あーあ。また言われちまってる」
レオ
「ずっとあんな感じなのか?」
スバル
「そうだなー。きっかけは小さいことだったと
思うんだがなー。あの娘は仲直りしたいようだが
周りが洋平ちゃん冷やかすから悪循環だ」
レオ
「ふーん」
スバル
「もっと話してたいが、そろそろ練習戻るぜ」
レオ
「なに、また家で話せばいいさ」
レオ
「さて……俺も竜宮へ戻るかな。それとも
乙女さんの行った方に行くか……」
ふと、猫の鳴き声がしたので振り向いてみる。
猫が木の上で鳴いていた。
レオ
「ニャー」
社交派で知られている俺は挨拶を返した。
レオ
「それじゃな」
猫が何かいいたげに鳴いてる。
レオ
「かまってほしかったら降りてこいっての」
紀子 無音
「(とぼとぼ……)」
あ、さっきの娘だ。
紀子
「あ……ねこ」
その娘も猫を発見した。
カメラを構える。
そうか、広報委員会とか言ってたな。
2,3枚シャッターをきると彼女は首をかしげた。
ねこ
「にゃー」
紀子
「もし……かして……おり……れない?」
ねこ
「にゃ」
紀子
「う……ん、まってて」
いきなり女の子が木に登り始めた。
おいおい、そうまでして遊びたいか?
しかし運動神経いいのか慣れてるのか
スイスイと木を登っていく。
というか俺が近くにいるのに、スカート
抑えずに木に登ったら見えちゃうって。
というか既にブルーのパンツ丸見えだって。
そんな事全然気にしてないらしい。
木の上まで登った女の子は何か
猫に話しかけている。
……? あれ、まさかあの猫
下に降りられなくなった、アホな猫なのか。
可哀想なことをした、援護しなくては。
俺がいなくても女の子は無事に
猫を抱き上げていたけど。
レオ
「猫を抱えてるとなると、ちょっと下りは
危なっかしいな」
俺もなるべく女の子の下着を見ないように
木の上に登る。
いや、俺も男だし正直下着はみたいけどさ。
俺がデレデレと下着を観察してる所を誰かに
見られても、困るわけだしね。
猫の受け渡しなんかしたら猫が危ない。
俺に出来ることといえば……。
レオ
「おりられる?」
紀子
「!」
ようやく女の子が俺の存在に気づいた。
レオ
「俺がフォローするから安心しておりていいよ」
最後は西崎さんが降りやすいように、
下から手で背中を支えてあげた。
紀子 共通
「あり……がと」
レオ
「いや」
レオ
「情けねー事に途中までこの猫の
SOSサインに気が付かなくてさ」
レオ
「だから、お礼を言われるほどじゃないよ」
女の子が猫を放すと、猫は自動車の下に
一直線に逃げていった。
レオ
「しかし……」
強気っ娘達に囲まれたドタバタな
日々を送っていると、こういう娘のふとした
優しさが微笑ましいなぁ。
紀子
「……くー」
レオ
「ん、どうしたの」
レオ
「うわ……猫め、恩を仇で返しやがって」
抱かれてる途中に暴れたのだろう、
女の子の腕が引っ掻かれていた。
レオ
「大丈夫?」
紀子
「へーき、へーき」
レオ
「消毒だけでもしといた方がいいよ」
紀子
「だい、じょぶ」
レオ
「はいはい、そんな事言う人ほど後から
化膿するんだから。消毒はしないとめーなの」
カニに言い聞かすような口調になってしまった。
紀子 共通
「う、うん……」
素直な娘だった。
レオ
「でも保健室遠いよな。無駄にデカイ学校だし」
レオ
「執行部に消毒薬があったから、
それつけてりゃOKかな」
佐藤さんにやってもらえばいいかな。
………………
なんで……こういう時に限って誰もいないんだ。
紀子 無音
「(きょろきょろ) (←ものめずらしい)」
仕方ない自分で消毒してもらおう。
レオ
「はいこれ消毒液とガーゼ
保健室にあるものよりも、遥かに上物だったり
するから、効果覿面」
俺はお茶でもいれておこう。
紀子 無音
「……」
レオ
「ん、どうしたの?」
紀子
「これ、しみ……る?」
レオ
「まぁそりゃあね」
紀子
「くー、しみるの……こわ、い」
レオ
「化膿する方がもっと怖いでしょ」
紀子 無音
「……」
消毒液とにらめっこしている。
なんだか煮え切らない娘だな。
レオ
「ダイジョーブ、ダイジョーブ、ほらこんなものは
チョンチョン、と」
女の子の腕をさっと消毒してあげた。
紀子
「う、しみる……」
レオ
「はは。子供の頃注射とか怖かったタイプ?」
レオ
「でも、思ったほど痛くはないでしょ」
紀子
「うん……いま、すーっとする」
レオ
「こういうのはさっさとやっちゃった方が
いいんだって」
紀子
「あり……がと、ね」
ニコッと笑う。
レオ
「えーと、名前は確か……」
紀子
「にしざき、のりこ」
レオ
「西崎さんか……うん」
覚えていた名前と一致した。
紀子
「そっち、は?」
レオ
「俺? 俺は対馬、対馬レオ。2年C組」
紀子
「つしま……れお」
紀子
「つしまれお」
反芻しているようだ。
レオ
「そう」
紀子
「おぼえた♪」
レオ
「ん」
紀子
「あの……あの」
レオ
「別にゆっくりしゃべっていいって
気にしないで」
伊達にカニと幼馴染をやってるわけじゃない。
あいつのワガママと日々戦ってるおかげで
器は広いと自負している。
あっちがこっちに話しかけるという事は
少しはまったりしていく気ありとみた。
レオ
「はい、どうぞ」
麦茶と茶菓子を出す。
紀子
「あり、がと」
紀子
「つしまくんは……よーへーとはなし、てるよね?」
よーへー……?
記憶を検索、彼女の2−Aと当てはめる。
レオ
「あぁ、村田洋平のことか、まぁ少しはね」
紀子
「よーへー、なにか、わたしの、こと、いってた?」
レオ
「いいや全然。頻繁に話すわけじゃないしね」
紀子
「そう……」
レオ
「喧嘩してるんだって?」
紀子
「ううん……なんでか、しらない、けど……」
紀子
「よーへーがおこってて、わたし、あやまろうと、
したらよけいおこって……」
紀子
「だから、もっとあやまろーとしたら
もっと、おこって」
紀子 共通
「……くー……」
彼女はしょんぼりとしてしまった。
レオ
「村田……洋平だっけ?」
レオ
「あいつは気性が激しそうだけど、
別に怒ってるわけじゃないと思うよ」
レオ
「ただ、なんとなく恥ずかしいだけだと
思うから」
レオ
「今度は2人きりの時を狙って
話しかけてみるといいよ」
紀子
「う……うん」
レオ
「仲直り、できるといいね」
紀子
「うんっ」
素直でいい娘じゃないか……。
テンションのままに行動している。
俺も昔頑張ったなぁ。
クラスでいじめられる女の子助けて。
で、ついたあだ名がハッスル君だろ。
結果、女の子はもっとひやかされて。
俺も、ひやかされて。
何かしようとするたびに、気まずくなっていく。
そのあたりから、世界の矛盾に気が付いた。
周囲と同調すると言う事の大切さ。
慣れてしまうと、心地よいぬるま湯。
テンションにさえ身を任せなければ
適度に面白おかしくやっていける。
そう学んだんだ。
しかし同時に何かが失われていく。
この娘が俺みたいにひん曲がっちゃいけない。
乙女さんみたいに強気じゃない。危ういんだ。
西崎さんが執行部を後にした。
レオ
「長話してしまったな……」
エリカ
「あ、対馬クンがいたんだ」
乙女
「既に業務をはじめているとは感心だな」
エリカ
「お茶だして、お茶」
乙女
「熱くしてな」
エリカ
「あ、私はぬるくね」
レオ
「どないせいっちゅーんじゃ」
普通の女のコには普通に話せるんだが……。
この2人相手限定で、苦手だよ。
乙女
「熱くないな、中途半端だ」
エリカ
「ぬるくないわねー」
この状況でも腹を立てない俺ってすごい。
日本人に必要な忍耐は充分備わってると見た。
………………
今日は平凡に終わったな。
いつもこうであって欲しいものだが。
A組の女子達が通った。
手にはクッキーを持っている。
あぁ、今日はA組調理実習か。
この前はウチが実習で、カニのクッキー
無理やり食わされそうになって危なかった。
紀子
「〜♪」
あ、あれは西崎さん。
キョロキョロしている。
仲直りとして村田ってやつにクッキーあげるのか。
果報者じゃないかあいつも。
洋平 無音
「……」
噂をすれば村田が廊下を歩いている。
今なら一人きり、チャンスだぞ西崎さん、
紀子
「よーへー」
洋平
「ん、西崎」
A組男子
「洋平ちゃーん。今日部活休みなら帰り
ゲーセンよってかね」
紀子
「あっ……」
うーん、話しかけてから第三者が現れるとは
タイミングが悪いな。
紀子
「あ、あの、よーへー、これ……あげる」
A組男子
「あっ、いいなー洋平ちゃん」
洋平
「くっ……!」
西崎さんは勇気を出して言った。
……って、これ以上は完全に覗き見だよな俺。
マナー悪いから去ろう。
どうぞ上手くいきますように。
洋平
「いらないと言ってる!」
レオ
「?」
村田の怒声が聞こえる。
気になったので戻ってみた。
紀子 無音
「……」
洋平
「だいたい僕達の関係はクラスメートだろ
何で少し嫌われたぐらいでいちいち媚を売る!」
媚を売る……だと。
違う、ただ友好を示してるだけじゃないか。
なんでそう下卑たほうに考える。
洋平
「僕だって……別に怒ってるわけじゃない。
だからもういいだろ」
紀子
「こ……れ……」
洋平
「だからいらないと言ってる」
洋平がバッと手を振りほどいた。
その弾みで、クッキーが袋から
飛び出て散らばってしまう。
洋平
「あ……」
紀子
「ぅ……」
洋平
「い、行くぞ」
A組男子
「お、おい洋平ちゃんいいのかよ?」
洋平
「いいんだ、あ、甘やかすな」
レオ
「あの野郎っ……!」
瞬間的に飛び出しそうになった。
しかし待て! 他クラスの事じゃないか。
心がブレーキをかける。
テンションに流されるな、また
ハッスル君と言われるぞ、と警告してくる。
でも、西崎さんはうつむいていたわけで。
少し涙ぐんでいたわけで。
――許せないものがある。
黙ってる事なんて出来ない。
レオ
「おい、村越!」
洋平
「誰だ! 村田だ!」
洋平
「……ふん何だ、対馬か」
レオ
「謝れ、そして拾うのを手伝ってやれ」
洋平
「難儀なマネはしない。気になるなら
お前が手伝ってやればいい」
レオ
「はっ、最低だな」
洋平
「なんだと?」
洋平
「だいたい誰のせいで僕の機嫌が悪くなってると
思ってるんだ」
レオ
「はぁ? お前の事情なんて知るかよ。
西崎さんに謝れ!」
洋平
「ふん、ここで僕が謝ったらまるで僕が
負けたみたいで難儀じゃないか」
レオ
「小学生みたいなこというな!」
レオ
「とにかく謝れよ」
村田に手を伸ばす。
洋平
「何をするんだ」
ヒュン! と何かが飛んできた。
それはパンチ。
気付いた瞬間には拳が顔にめりこんでいた。
早すぎて避ける暇が無かった。
レオ
「……ぐ?」
洋平
「あぁ、これはすまない」
洋平
「牽制程度に放ったつもりだが
モヤシの対馬君には避けられなかったかな」
レオ
「……てめぇ! 人をモヤシ呼ばわりしやがったな」
がしっ、と腕をつかまれる。
レオ
「?」
紀子 無音
「(ふるふる)」
俺の腕を掴んだ西崎さんが顔を振っていた。
レオ
「西崎さん」
そっか、これ以上俺が問題をややこしくしても
仕方が無いよな。
洋平
「なんだ西崎? 対馬と仲良くなったのか?」
洋平
「ふん、クッキーも対馬の入れ知恵か安い手段だな」
紀子
「……ち、ちがう……よ」
レオ
「てめぇは! 何ひねくれてやがる!」
洋平
「うるさいやつだな。拳法部の僕に
お前が勝てるわけが無いだろうがモヤシ」
レオ
「ぐぁっ……!」
こいつ、今もパンチを……っ。
洋平
「ほら、難儀な事に避けられないだろ」
レオ
「な……!?」
拳がマシンガンのように飛んできた。
凄い勢いで殴られる。
レオ
「ぐっ……うっ……あっ」
洋平
「お前がピコピコとゲームやってる間に
僕は鉄の拳を作ってきたんだ」
レオ
「くそ……お前……いい気になりやがって」
殴ってやる。
だが、足に力が入らない。
畜生っ、その辺のやつらになら
喧嘩も負けないのに。
こいつは明らかに“その辺のやつら”の
レベルじゃあない。
洋平
「どうやら僕に一発入れたいらしいが
出来ないみたいだな」
紀子
「だい、じょうぶ?」
洋平
「……そして挙句に女に心配される」
洋平
「西崎の為に怒ったのに西崎に心配される。
無力なやつだ。無力は罪だ、見ててイラツク」
紀子
「うー、よーへー!」
洋平
「な、何だよ西崎」
紀子
「そんな、いじけた、よーへー、きらい」
洋平
「ぐっ……!? ふ、ふんっ、別にお前に
好かれる為に生きているわけじゃない」
スバル
「おい、レオ大丈夫かよ、おい」
レオ
「あぁ、スバルか……ザマぁねぇや」
スバル
「……随分と殴られたな……痛かったろうに」
スバル
「見てろ。今すぐ顔面整形外科送りにしてやる」
洋平
「おい、何で伊達が出てくる! 僕はお前と
喧嘩する気は毛頭ないぞ!」
スバル
「そっちになくてもこっちにはあるんだわ」
スバル
「レオを殴る奴はオレが殺す!」
洋平
「くそっ、難儀だな。なんでこうなるっ!」
洋平
「伊達、お前対馬のために何で
そこまで怒る、ちょっとおかしいぞ」
スバル
「くくっ、うらやましいかよ洋平ちゃん」
洋平
「何っ」
スバル
「オマエにはこんな事言うダチいねーんだろ」
洋平
「くっ……伊達、僕はお前を殴りたくなってきたぞ」
スバル
「そうかいそりゃ結構」
乙女
「そこまでだ、2人ともやめておけ」
レオ
「乙女さん」
乙女
「緊急出動要請があったと思えばお前達とはな。
元気あるのは良い事だが、やんちゃはいけないぞ」
スバル
「行くぞっ」
洋平
「こっちこそ!」
あ、だめだ2人とも切れてる。
乙女
「暴力はやめろ!」
……なにか矛盾を感じるが、乙女さんの蹴りは
問答無用の破壊力。
制裁の一撃が2人をとらえる。
スバル
「ぐあっ」
洋平
「ぐはっ」
2人とも仲良く壁にたたきつけられた。
乙女
「ふぅ、まったく血の気の多い奴等だ。ふふ……」
乙女
「伊達、思ったよりひどい怪我だ……誰にやられた」
スバル
「お、乙女さん……イテェ」
乙女
「村田も一発もらってるな。誰にやられた」
洋平
「く……鉄先輩」
乙女
「ふむ、まぁそれは良しとして」
ギャラリーが増えてくる。
乙女
「とにかく、双方退け! 話は明日改めて聞こう」
乙女
「レオ、立てるか?」
レオ
「ん……」
紀子
「だい……じょうぶ?」
レオ
「あはは、ごめんね。話をややこしくして」
紀子 無音
「(ふるふる)」
紀子
「あんなよーへー、きら、い……」
溝が深くなってしまった。
……だが、こっちにも切実な問題がある。
俺達は職員室に呼ばれた。
祈
「まぁ、対馬さんも村田さんも
普段はわりと真面目な方ですからね
今回の喧嘩については多めにみますわ」
レオ
「……どうも」
洋平 無音
「……」
祈
「お互いに煮え切らないようですわね」
祈
「そういう場合はスポーツで発散させなさいな
おあつらえむき来週は体育武道祭がありますわよ」
祈
「そこの格闘トーナメントでなら
堂々と、観衆の前で白黒つけれますわ」
洋平
「大江山先生、賢い対馬君が公衆の面前で
わざわざ恥をさらすまねはしないと思いますよ」
洋平
「まぁ僕はエントリーしているから
自虐プレーが好きならいつでも来てくれ」
洋平
「それでは僕はこれで失礼します」
レオ
「……あの野郎」
祈
「対馬さん、やられっぱなしでいいんですか?」
レオ
「……よくありません」
祈
「ですわね、そんな顔してますわ」
………………
レオ
「畜生っ!」
レオ
「村田に手も足も出なかった……」
レオ
「それが悔しい、忘れられない」
乙女
「それでずっと塞ぎこんでいたわけか
悪い癖だな」
乙女
「で、どうするんだ」
レオ
「体育武道祭の格闘トーナメントで、
あいつに勝ちたい」
レオ
「姉代わりの乙女さんや憧れてる姫ならともかく、
他人にあそこまでコケにされて黙ってられない!」
乙女
「体育武道祭まで後1週間しかないぞ」
乙女
「村田は拳法部でコツコツと積み上げてきた男だ
それにお前が勝つと本気で言ってるのか?」
レオ
「このままじゃ気がすまないんだよ」
レオ
「必ず殴ってやる」
乙女
「それが、昨日から悩んで出した結論か」
レオ
「あぁ! このまま引き下がれるか」
乙女
「伊達に仇を討ってもらえばいいじゃないか」
レオ
「俺自身の問題だ」
乙女
「よし、良く言った!」
レオ
「は?」
乙女
「お前のやる気を試してみたんだ。
その心意気が本物ならば私はお前に力を貸そう!」
乙女
「私がお前を男にしてやるぞ、任せろ」
レオ
「え」
乙女
「早速特訓だ!」
乙女
「特訓……うん、実にいい響きだな。
こう、心に燃え上がるものがある」
乙女
「1つ確認したい。勝ちたいなら勝てる確率が
出るところまでは鍛えてやる」
乙女
「だが、その場合厳しい特訓になるぞ
根をあげずについてこれるか?
この前の休みのときの厳しさの比じゃないぞ」
レオ
「あぁ!」
あいつを倒せるなら、いくらでも。
だいたい俺は、自分が傷つきたくないから
テンションに流されないよう努力してたのに。
俺の誇りを傷つけた代価は敗北で償ってもらうぞ。
レオ
「で、具体的には何を」
都合のいい事に、明日は創立記念日で3連休だ。
乙女
「特訓といえば……山篭りが基本に決まっている」
俺と乙女さんは松笠公園にいた。
乙女
「さて、山篭りというよりか島篭りに行くぞ」
乙女
「目的地はここから見えるあそこの烏賊島だ」
レオ
「……何でわざわざ?」
乙女
「世俗を離れて訓練するには丁度いい
あそこに身を置いて文明から遠ざかるのだ」
レオ
「どうやっていくの」
乙女
「泳いでいく以外に何か方法があるのか?」
レオ
「すでに発想が文明から遠ざかってますが」
レオ
「肉眼では目に見えるけど、遠いんですけどあの島」
レオ
「“オビレ”でも無い限りきついような」
乙女
「根性という名のオビレでいくんだ」
レオ
「マジでか」
乙女
「やめるのか?」
レオ
「……いや、やる!」
レオ
「でも荷物はどうしよう」
乙女
「そこで協力者の出番というわけだ」
平蔵
「うむ。儂が協力してやろう」
なんかややこしい人が出てきた。
乙女
「入島許可を申請したら、いたく館長が
お前の心意気に感動してな」
平蔵
「うむ、力量が上の相手を倒さんとする
決意はたいしたものだ
竜鳴館の生徒はそうでなくてはいかん」
平蔵
「クルーザーで荷物を運んでやるぐらいは
手助けしても
依怙贔屓(えこひいき)ではなかろう」
ぽんぽん、と肩を叩かれる。
乙女
「それと彼女もだ、出てきて良いぞ佐藤」
レオ
「え?」
良美
「おはよう、対馬君」
レオ
「佐藤さんが何で?」
乙女
「レオは来週、ひたすら疲労し
教室でも常にグロッキー気味だろうからな」
乙女
「クラス委員長が事情を理解してくれた方が
過ごしやすいだろうと思ってな。あらかじめ
根回しして連絡したら、来たいと言い出したんだ」
良美
「ちょうど暇だったしね」
良美
「エリーと遊ぶ予定だったんだけど、
急に仕事が入ったとかで韓国行っちゃってさ」
レオ
「でも、遊びに行くわけじゃないのに」
良美
「料理する人とか必要でしょ」
レオ
「う、それはそうだけど」
レオ
「何でわざわざ俺にそこまで付き合ってくれるの?」
良美
「そ、それはそのぅ」
佐藤さんが顔を赤くしてうつむいてしまった。
上目遣いでこっちをチラチラと見てくる。
レオ
「?」
まさか俺に気があるとか?
いや……この人誰にでも優しいからな
勘違いは危険だから気をつけないと。
良美
「私ほら寒がりだから少しでも
暖かい所に行きたいなって」
レオ
「渡り鳥じゃないんだから……しかも6月だし」
平蔵
「良かったではないか、男冥利につきるではないか」
レオ
「でも」
平蔵
「さぁ出発だ。佐藤は儂とクルーザーへ乗り込め」
良美
「はい」
乗り込んじゃったよ。いいのかなぁ。
乙女
「よし、私達はさっそく着水するぞ」
乙女さんが制服にグッ、と手をかける。
バッ!
乙女
「軽く準備運動をしてからな」
やっぱり乙女さんは色んな意味で半端じゃないぜ。
俺も頑張らねば。
乙女さんが準備体操しながら話しかけてくる。
乙女
「クルーザーが常に並走する。浮き輪もあるので
命の心配はしないでいい。
だが、船にあがった時点でお前は失格だ」
乙女
「さぁ行くぞ。私についてきて見ろ」
ザブーン!
レオ
「迷ってるほうがアホらしいか」
…………………………
良美
「対馬君頑張ってー!」
平蔵
「というか生きとるかー?」
レオ
「はぁっ、はぁっ、な、なんとかーっ」
既にクロールで泳ぐのは辛い。
平泳ぎで行かなくては。
乙女
「ぷはっ、おいグズグズやってると日が暮れるぞ」
レオ
「そっちは元気だね、さっきから水の中
潜りまくってるでしょ」
乙女
「辛いからって私に掴まっても失格だからな」
レオ
「へん、まだまだいけるっていうの」
乙女
「そうか、じゃあ私はしばらく海底を散歩してくる」
乙女さんは再び海底に潜っていった(←素もぐり)
良美
「鉄先輩、潜るたびに大丈夫か心配になりますね」
平蔵
「あいつは心配ない、それにいざとなれば儂がいる」
後ろを振り返ってみる。
レオ
「くっ、り、陸地が遠い……」
レオ
「そして、島も、ま、まだ遠い」
良美
「対馬君ーっ! ファイトーーっ!」
佐藤さんがマラソン選手を応援する路上の人
みたいな感じでパタパタと小さい旗を振っている。
というか、この海からの角度だと、グリーンの
パンツ丸見えだった。
それを見ると少し元気になる俺も安直だぜ。
とにかく泳ぎきってやる。
あいつに勝つ為に必要なことは、何だってやるさ。
平蔵
「うむ。目がギラつきを放っている。
あれなら大丈夫かのう」
良美
「本当ですか。良かったぁ!」
平蔵
「それはそうとどうだ、
暇つぶしに儂の昔話でも聞くか?」
良美
「フレーッ、フレーッ、つ、し、ま!」
平蔵
「儂を無視するとは……恋する女子は強いのぅ」
………………
レオ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
乙女
「島まで泳ぎきったな。やればできるじゃないか」
レオ
「な、波が穏やかだったのが幸いだった。今何時?」
良美
「えーと午後2時だよ、対馬君」
レオ
「5時間以上ずっと海水の中にいたのか……」
陸地にあがると、一気に体が気だるくなった。
レオ
「自分を本気で褒めてあげたい気分だね」
乙女
「それでいいんだ、これをやり遂げた事は
きっと自信につながるはずだ」
良美
「はい、対馬君タオル」
レオ
「ありがと。こんなとこまでホント悪いね」
良美
「マネージャーみたいなものだと思っていいよ」
レオ
「船の上からいっぱい応援してくれたから
頑張れたよ、サンキュー」
平蔵
「盛り上がってる所を悪いが、儂は帰るぞ
また日曜日にな」
クルーザーが遠ざかっていく。
完全放置プレイか……望むところだ。
乙女
「食料は現地調達だが他は一通り揃ってるな……
今は無人だがさすが更生施設として
機能しているだけはある」
乙女
「よし、一休みしたら本格的な特訓をはじめるぞ」
……………………
照りつける太陽の下、砂浜で乙女さんの
ボクシング解説がはじまった。
レオ
「佐藤さん暑くないの?」
良美
「私は寒がりだからこれぐらいで丁度いいんだよ」
乙女
「こら、しっかり話を聞け」
レオ
「ごめん。続けて続けて」
乙女
「本来ならお前が村田に勝つのはまず
不可能だということを断っておこう」
良美
「村田君は拳法部だと鉄先輩の次に
強いんじゃないかな」
乙女
「あいつは、今はそう見えないが小学生の頃は
いじめられてたらしくてな。
悔しさをバネに強くなったタイプだ」
レオ
「なるほどね、だから弱さは罪とか言ってたのか」
乙女
「本来なら昔から積み上げてきた村田に
レオが勝てる確率はゼロに近い。気合だけでは
乗り越えられない壁もある」
乙女
「だが体育武道祭の格闘トーナメントの種目は
公平を期す為に、うちには部活として存在しない
ボクシングで行われる、そこがチャンスだ」
乙女
「ボクシングでは当然蹴りは禁止される。
そして村田はその蹴りをメインに使う武道家。
つまり必殺の動きはできないというわけだな」
レオ
「なるほど、そこが狙い目か」
乙女
「お前は村田の拳の連射をくらったと言ったな」
レオ
「うん、近づけなかった」
乙女
「拳の速射砲――あいつはガトリングガンと
呼んでいるがそれをどうにかしない限り
お前に勝ち目は無い」
乙女
「だが、逆にあれを攻略できれば
相手はお前を見くびっているだろうし
つけこむチャンスは充分にある」
乙女
「拳法の試合で、村田は主にガトリングガンは
体力の“削り”と間合いの調整に使用している
あいつの必殺はハイキックだからな」
ち、俺は削り用の技にやられたのかよ。
乙女
「村田の攻撃は速くて鋭く硬いが、
ただそれだけだ。
あの速度を見極められるかが鍵だな」
乙女
「見極めた後は至近距離から、あいつの
致命的弱点でもあるアゴ先に左フックをいれる。
上手くいけばこれで勝てる」
良美
「左フックって左のパンチの事だよね?
でも、対馬君は……」
レオ
「確かに俺は右利きではあるけど
左も結構使えるし、大丈夫だとは思う」
乙女
「右ストレートだと敵もガトリングガンを
使うのに丁度いい間合いになってしまうんだ」
レオ
「なるほど」
敵の拳をかいくぐり弱点であるアゴに左フック。
分かりやすい作戦ではある。
良美
「で、でもそれって完全に村田君の対策だよね?
トーナメントなんだから
村田君以外の人と当たったら……」
乙女
「そこは気合だ、気合でくじを引け」
良美
「そ、それこそ気合では何ともならないと思うけど」
レオ
「ま、それについては策があるんだ。
でも、今はそれは関係ない。特訓をやるだけさ」
乙女
「まずはこのオモリを四肢につけてもらう」
レオ
「重いな……ひとつ4キロで合計16キロかよ。
……よし!」
良美
「な、なんかノリがスポ根ものだね」
乙女
「佐藤は木の陰から見守る役だな」
レオ
「馬鹿な事言ってないでやろうぜ」
……………
乙女
「まずは左フックを的確に覚えてもらうぞ
腰から上半身全体を回転、遠心力を利用して打て」
レオ
「こう?」
腕を振ってみる。
乙女
「全然だめだ! そんなパンチじゃあいつの
顎どころか豆腐も砕けないぞ。ワキをしめていけ」
レオ
「こうかっ!」
乙女
「当てた所で腕をとめるな。そのまま
振りぬくような勢いでやれ」
レオ
「こんな感じ?」
乙女
「打つ前から左ヒジがあがっている、
それと、ワキは閉めろ! 何度も言わせるな」
レオ
「こ、こうかっ!」
乙女
「違う! 腕の力じゃない、遠心力を使うんだ!
そして村田のイメージをしっかり頭で再現しろ!」
レオ
「ん!」
レオ
「……ねぇ、乙女さん。ただの左フックじゃ
寂しいからなんか名前を考えていい?」
乙女
「ふむ……名前か。重要な要素ではあるな」
乙女
「よし、それは私が考えておいてやる。
今は技を磨く事に頭を使え」
………………
乙女
「フックは毎日続けるとして次の修行は実戦訓練だ」
乙女
「私が村田の技を再現してやるから
お前はそれを回避して、私の目の前まで来てみろ」
ぐるん、ぐるんと腕を回転させる乙女さん。
レオ
「再現って……乙女さんに出来るの?」
乙女
「村田と私では、そもそもレベルが違うんだ。
あんな技はこうして……こうだろ?」
レオ
「!」
反応もできずに吹っ飛ばされた。
拳が雨のように降り注いでくる……。
レオ
「はぐっ、な。なるほど。村田と同じ技だ」
殴られた所がズキズキと痛む。
これは、まさに銃弾の中の敵陣に
突っ込むようなものだ。
乙女
「本番行くぞ。そらっ!」
こりゃ、しんどい!
ガードしても、体が痺れて次の動作に
移れねぇ!
後退を余儀なくされる拳の弾幕。
レオ
「くそ……」
乙女
「後ろに下がる事を考えるな!
ロープを背負うと確実に負けるぞ」
く、そうだボクシングはリングがあるんだ。
逃げ回っているわけにはいかない。
ビビれば負け、恐れればやられる。
なら、前に行くしかない。
乙女
「そうだ! かいくぐって見せろ」
レオ
「く……」
ダメだ、数が多すぎて対応できないっ。
鈍い衝撃とともに再びふっ飛ばされる。
ぐは、……辛い。
乙女
「辛いか? 痛いか? ならやめるか?」
レオ
「いや、やめない」
乙女
「ふふ……その意気だ、さぁ来い!」
………………
夕飯――。
佐藤さんが美味しそうな鍋を作っていた。
良美
「鍋や調味料は置いてあるし、唯一置いてない
肝心の食料は鉄先輩が獲ってくれるから
豪勢なのができたよ、対馬君」
乙女
「うん、とても美味しそうだな。見事な海鮮鍋だ」
良美
「食材いっぱいあったから作りすぎちゃったけど、
食べれるかな」
乙女
「全然問題ない。私とレオがいるからな」
乙女さん1人でも充分な量かもしれない。
良美
「はい対馬君の分、いっぱい食べて栄養つけてね」
レオ
「うん、ありがと……」
良美
「手が震えてるけど大丈夫?」
レオ
「なんとか」
海老の香ばしい匂いが、ツンと鼻にくる。
レオ
「……うぷ」
うぉぉ、体が気だるくて気持ち悪い。
乙女
「うん、この貝が美味しいな」
良美
「我ながらダシもよくでてるよ」
せ、せっかく佐藤さんが作ってくれた
夕飯が喉を通りそうにない。
乙女
「どうしたレオ。無理にでも食べないと、
明日の練習に差し支えるぞ」
そんな事をしゃべりながらも、あのパンチを
放てるだけあって凄まじい速度で料理を
次から次へと口の中に運んでいく乙女さん。
レオ
「く……分かったよ、食べるよ」
良美
「対馬君、辛いなら食べさせてあげようか?」
乙女
「佐藤、甘やかすな」
レオ
「く……」
根性で食べてやる。
こんな美味しそうな物を食べるのに
根性を使わないといけないなんて。
特訓はカコクだぜ。
乙女
「少々食い足りないが、美味しかったぞ」
佐藤さんが驚愕の表情で乙女さんを見ている。
山盛り鍋を食べたのにその余裕だからな。
………………
食事の後は、男女別で時間をずらして
湧いている温泉に入った。
レオ
「あの温泉はいいスポットだね。
中で寝るところだったよ」
乙女
「あそこで体を癒して、マッサージを
しっかり行えば明日への疲労が少なくてすむ」
良美
「んしょ、んしょ」
佐藤さんが丹念にマッサージしてくれている。
背中から、足から、腕から、あらゆるところを
嫌がらずに一生懸命揉んだり押したりしてくれる。
あまりに気持ちよすぎて、もう寝ちゃいそうだ。
レオ
「ありがとね佐藤さん、何から何まで」
良美
「んしょ、しょ……何言ってるのマネージャーが
マッサージしないとね……んしょ」
良美
「対馬君は今日一日頑張ったんだから
余計な事は考えずに今はリラックス」
頭まで撫でられる。
なんて行き届いたマッサージなんだろう
眠くなってきた。
乙女
「佐藤どいてみろ。いいマッサージだが
少々手ぬるい」
乙女
「マッサージっていうのはこうするもんだ」
乙女さんに関節技をかけられた。
ギリギリギリギリ!!
レオ
「あ痛痛痛痛痛!!!」
骨という骨が軋みをあげる。
乙女
「よし、この後はひたすら寝ろ」
……ハードだ。
やべぇ……体が重い。
動かそうとすると軋みやがる。
そういう時は、相手の顔を思い出す。
――あの野郎。
よし、必ず倒してやる。
レオ
「さぁ、今日も1日特訓をはじめるぞ」
良美
「対馬君、おはよう」
ぽんっ、と肩を叩かれた。
レオ
「アオッ!」
体にズンッ! と響く。
レオ
「い、痛い……いや、痛くない」
良美
「だ、大丈夫?」
レオ
「うん、なんとかなる」
良美
「対馬君……拳法部の人に負けるなんて
当たり前なんだからそんなにムキに
ならなくても」
レオ
「女のコには分からないさ、この気持ちは」
レオ
「ごめん、今の台詞は言ってみたかっただけ」
良美
「うん、私も笑いをこらえるのに必死だったよ」
あ、何気にキツイ切り替えし。
良美
「対馬君、洗濯物出して。洗濯するから」
洗濯物……って下着とかか?
レオ
「いや、いいよいいよ自分でやるよ」
良美
「私、そういうのやるためについてきたんだから
気にしないでよ」
レオ
「いや、恥ずかしいというか」
良美
「出すまで動かない〜」
レオ
「きっついなぁ」
俺は観念して昨日着てた
パンツやらシャツやらを佐藤さんに預けた。
良美
「それじゃ私は洗濯してくるね」
よし、今日も特訓特訓。
まずは島内のロードワークだ。
最終日。
今日も特訓は続いていた。
レオ
「少しずつだけど、見える!」
受け止めずに、受け流すように拳を
かいくぐる。
乙女
「そうだ。必要最小限の動きで避けろ」
レオ
「ぐっ……」
顔面に鈍い衝撃が走る。
レオ
「……だめだ、拳の動きが分かっても
肉体の方が反応しきれない」
乙女
「それはお前の体に重りをつけているからだろう
疲れもあるだろうしな」
乙女
「逆に、その状態で見切れるようになれば
勝算はグッとあがるだろう」
乙女
「前に向かってくるだけいい傾向だぞ。
拳をかいくぐって私の元にたどり着いたら
褒美に抱きしめてやろう」
レオ
「へへ、乙女さんに抱かれるのは嬉しいねぇ。
そ、それじゃあ、もっとやらなくちゃな」
レオ
「さぁ来い!」
乙女
「うん、いい姿勢だ。遠慮なくいくぞ」
平蔵
「ほほう、やっとるな」
乙女
「館長、着くのは夕方のはずでは?」
平蔵
「こいつらを運んできたからな」
エリカ
「ハーイ♪」
良美
「エリー、それに皆も」
レオ
「まさか……皆、俺の応援に」
エリカ
「ふふっ」
姫はニコッと笑うとこっちに近付いてきた。
エリカ
「勘違いしない事ね、対馬クン」
ポン、と肩に手を置かれる。
レオ
「へ?」
新一
「俺達は生徒会執行部の強化合宿……もとい
遠足でここに来てるだけなんだよな」
スバル
「ま、陣中見舞いも兼ねてるが、メインは遊びだな」
きぬ
「だいたいボクを置いていくような
水くせーやつを追いかけるわけないもんね」
なごみ 無音
「(我関せず)」
祈
「もともと、執行部の皆さんは今月中にどこかに
合宿に行くスケジュールだったので、
お2人の島篭りは丁度良い機会と思いまして」
祈
「邪魔しても悪いので最終日だけ来た、
というわけですわ」
エリカ
「もう、よっぴーったら乙女センパイ達と
楽しそうな事やっててずるいなー」
良美
「エリーが仕事いれたから暇になったんだけど」
エリカ
「乙女センパイの胸見た?」
良美
「聞くと思った……」
きぬ
「おーし、そいじゃ泳ごうぜ」
皆はゾロゾロと浜辺に向かった。
レオ
「……本当に泳ぎに来ただけなのね」
乙女
「下手に邪魔されるよりよっぽどいい」
乙女
「それよりも今は拳を見切ることに神経を費やせ」
レオ
「来た来た……このド迫力!」
………………
きぬ
「どう? レオ大丈夫そー?」
スバル
「かなりヤバそうだ、殴られまくってる」
きぬ
「マジ? どれどれ」
きぬ
「うわ、スッゲ! 乙女さんのサンドバックじゃん」
きぬ
「どうする? 助けてやろっか?」
スバル
「レオの目を見る限り今、久しぶりの
熱血モードに入ってるからな……
余計なマネするとこっちが怒られるぞ」
きぬ
「そっか……まぁ通常のへたれモードじゃなくて
熱血モードなら大丈夫かな」
スバル
「ま、好きにやらせてやろうぜ」
きぬ 無音
「……」
スバル
「心配なのは分かるけどよぉ、男には
譲れないモノがあるわけだ、な?」
きぬ
「だ、誰も心配してないもんね!」
………………
夜。
家に帰る前に、姫達が持ってきた
花火で遊ぶ事にした。
特訓のメニューを終えた俺達も合流する。
エリカ
「はいはい、ちゃんと2人の分まで考えて
買ってきてあるから」
レオ
「何やる、乙女さん」
乙女
「私は特大の打ち上げ花火が好きなのだが」
レオ
「それは最後の仕上げでしょう」
きぬ
「くらえ、ココナッツ。ロケットミサイル!」
なごみ
「ロケット花火を人に向けるとは……最悪だな」
乙女
「おい、花火はもっと風情を楽しめ」
乙女
「まったく、粋が分からない奴等だな……
私達は落ち着いたものでいくか」
乙女
「しかし、なかなかやるじゃないか」
レオ
「え?」
乙女
「この3日の合宿できっちり私についてきたろ」
レオ
「確固たる目的があればこんなものさ」
乙女
「この調子で残り数日、やれるだけの事はやるぞ」
レオ
「うん」
満天の星空を見上げる。
あ、流れ星だ。
乙女
「ちょうどいい、レオ神頼みもしておけ
これも“やるだけの事だ”」
レオ
「りょーかい」
レオ
「村田を倒せますように、と」
レオ
「いや違うな」
乙女 無音
「?」
レオ
「あいつは俺の力で倒す。他のお願いにする」
レオ
「コンディション万全で戦いに臨めますように、と」
乙女
「ふふ。熱い心は持ったままだったか。
再会した時はすっかり腑抜けたかと思ったぞ」
レオ
「腑抜けた、じゃなく上手に社会で
生きていけるようになったと言って欲しいな」
レオ
「でも、それでもやっぱり
譲れないものはあるね」
乙女
「いい顔をするじゃないか」
レオ
「顔ボッコボコだけど」
乙女
「瞳が輝いていれば綺麗に見えるものだ」
きぬ
「おーい、乙女さーん!
でけー花火打ち上げるから手伝ってくれー」
乙女
「よし、遊ぶ時は遊ぶぞ」
レオ
「おうっ!」
体中ズキズキと痛かったけど。
この夜やった花火の光は、いつまでも
胸に焼き付いている。
レオ
「どう、詩人っぽくない?」
乙女
「打ち上げ花火はしっかり固定しないとな」
聞いてなかった。
乙女
「気分はどうだ?」
レオ
「疲労が抜け切ってなくて気だるい」
乙女
「だろうな、あれだけ体を動かせば
いくらマッサージをしても追いつかない」
乙女
「だから、朝は左フックの練習だけにしよう。
授業をサボるわけにはいかないからな」
レオ
「うん」
乙女
「制服を着れば、その重りも隠せるだろう」
これをつけたまま生活してると、段々
慣れてくるんだよな……。
……………………
真名
「なんや? その面白い顔、ボコボコやん
ドメスティックバイオレンス?」
レオ
「これはトレーニングの成果だ」
イガグリ
「何だ鍛えたりして。野球に興味あるのか?」
レオ
「俺は今週末の格闘トーナメントに
出るから、それに向けて鍛えてるんだ」
イガグリ
「帰宅部の出る幕じゃないと思うべ」
レオ
「それでもやらなきゃいけない時がある」
そうだ、負けてたまるか。
……………………
授業中は体を休息させつつイメージトレーニング。
あの村田の野郎をただ倒すだけを考える!
……………………
――昼休み。
乙女
「昼休みの時も特訓だ。動体視力を
鍛えてもらうぞ」
乙女
「ガトリングだけがパンチではない。
速いスピードに目を慣らさないとな」
乙女
「それに、おおっぴらにガトリング避けを
学校で練習していたらバレるしな」
乙女
「椰子、少し騒がしくなるが」
なごみ
「センパイが殴られるんですか」
レオ
「まぁ、そうならないように努力するが」
なごみ
「だったら見物していきます
島では遊んでて特訓とやらを見てないんで」
こいつも趣味悪いな。
乙女
「行くぞ、この動きを見切って見せろ」
乙女さんが様々な角度から
パンチを繰り出してくる。
ぐ、対応しきれない。
乙女
「腹がガラ空きだ!」
ボディにすごいのをもらってしまった。
レオ
「ぐ……あ、ごほっ」
乙女
「膝をついている暇はないぞ、立て」
レオ
「言われなくても……」
乙女
「ダメージを引きずっていくと、あっという間に
サンドバックだぞ」
なごみ
「センパイ、ボコボコ」
レオ
「けっ、笑いたきゃ笑え」
なごみ
「熱血馬鹿ですね」
なごみ
「まぁただの馬鹿よりはいいんじゃないでしょうか」
……………………
洋平
「ううーむ対馬はどうでもいいとして、
西崎にはキツクあたりすぎたか。
謝るべきか? 難儀な悩みだな、これは」
洋平
「くそ……後から罪悪感に悩まされるなど
難儀な……僕は小さな男だな。こういう時に
鉄先輩や姫の強さに憧れる」
レオ
「お、村田じゃないか! 仇敵発見!」
洋平
「なんだ対馬、顔がボコボコじゃないか。
僕以外の人間にもイジメられたのか?
そんな顔じゃ妹は紹介してやれないな」
レオ
「誰がお前の妹を紹介しろと言ったフザケンナ」
レオ
「たった今体育武道祭の
格闘トーナントにエントリーしてきた所だ」
洋平
「なんだお前、本気で僕とやりあう気なのか?」
レオ
「だからこそこんなアザだらけになってるんだよ」
洋平
「ふん、なら公衆の面前で大恥をかかせてやるさ」
レオ
「その台詞そっくり返すぜ!」
レオ
「テンションに流されず生きて行こうと思ったのに。
お前のせいでまた流されちまってる」
レオ
「責任はとってもらうからな」
……これでもう待ったなしだぜ。
夕方になった。
さぁ、家に帰って乙女さんと特訓だ。
くいくい。
袖をひかれた感触で振り返ってみると。
紀子
「こん……にちわ」
レオ
「西崎さん、こんちわ」
紀子
「よーへーと、たたかうん、だって?」
レオ
「そう、俺もトーナメント出るから」
紀子
「……もしかして、わたしの、せい?」
レオ
「ううん。俺自身のせい」
レオ
「だからそっちは気にする必要は無し」
レオ
「そっちは村田がKOされる瞬間の写真でも
一面にデカデカと載せてやってくれ」
紀子
「よーへー、つよいよ?」
レオ
「確かに俺は1回ボコボコにやられたよ……」
レオ
「だからこそ、西崎さんも今度の試合は見ててよ。
俺がモヤシじゃない事を証明するからさ」
紀子
「そ、そんなに、きに、してたの」
レオ
「してるさ、大問題よ」
レオ
「俺、喧嘩には結構自信あるんだ」
レオ
「だから俺絶対勝ってやる、と思って」
紀子
「……くすくす」
レオ
「えー、わ、笑われても困るな」
紀子
「かわいい……から」
レオ
「可愛いって俺が? 今の意見のどこが可愛いのさ」
レオ
「そこはカッコイイとか思ってくれ」
紀子
「くすくす……」
紀子
「いまのも、かわいい」
変な娘だな。
こんなボコボコの俺のどこが可愛いってのか。
レオ
「じゃ、俺特訓があるから帰るよ」
紀子
「うん……バイバイ」
………………
レオ
「ふぅ……」
エリカ
「あ、対馬クンだ」
姫が佐藤さんとクレープを食べていた。
良美
「対馬君、帰ったら特訓?」
レオ
「うん、もう試合は今週だからね」
エリカ
「レッツスポ根ね」
良美
「頑張ってね、対馬君」
エリカ
「クラスの方針で、2人がぶつかった場合
トトカルチョで対馬クンにお金つぎこんで
儲けたお金で祝勝会なんてプランも出来てるから」
エリカ
「負けたらクラス一同容赦しないからそのつもりで」
レオ
「な、なんか勝つ意欲がさらにグングン湧いて来た」
さすが姫、プレッシャーのかけ方も半端じゃない。
エリカ
「それじゃ、私とよっぴーはこれから甘いもの
めぐりだから」
レオ
「太るのだけは勘弁ね?」
エリカ
「ありえないわね」
良美
「気をつけてるから大丈夫だよ」
エリカ
「じゃあ次はあんみつに行くわよ」
女の子ってのはどうしてそう甘いものをバクバク
食べれるのかね。
………………
レオ
「ねぇ、乙女さん。俺って可愛いと思う?」
乙女
「いきなり変な質問だな」
レオ
「女の子にそう言われた」
乙女
「そうだな、可愛いと思うぞ」
レオ
「そうだったのか……俺そういう系統だったのか」
乙女
「馬鹿な弟ほど可愛いというからな」
あぁ、そういう意味ね。
乙女
「今日は特訓最終日だ。体につけた
重りをとっていいぞ」
レオ
「ようやくこれともオサラバか」
レオ
「あ、なんかフワッと体が軽い」
トン、トンと飛び跳ねる。
乙女
「合計して10キロ以上の重りが
ついていたわけだからな」
乙女
「さぁ撃つぞ。かいくぐって見せろ」
レオ
「よし来い」
ドバッ!!!
レオ
「来たっ」
体が軽い!
拳の軌跡が見える!
思考に体がピッタリついてきた。
心が落ち着いている。
慌てる事無く、避けて、捌いて……近付く。
レオ
「見切った!」
乙女さんと密着の距離まで近付いた。
乙女
「うん、見事だ」
乙女
「後は攻撃を磨くべきだな……ってどうした?」
レオ
「かいくぐると抱きしめてくれるんじゃないの?」
乙女
「お前……そんなロクでもない事覚えていたのか
あれは戦意高揚を狙って言っただけなんだが」
レオ
「へぇ、乙女さんが嘘つくの?」
乙女
「むっ! そんなに抱きしめて欲しいなら、
望みどおりにしてやる」
乙女さんが俺の腰に手をまわして
グイッ! と自分の下に引き寄せる。
乙女
「お姉ちゃんの熱い抱擁を味わうといいぞ」
ギュウーーッ!
レオ
「あががが、と、とびでる、いろんな穴から
中身が飛び出そう!」
乙女
「お前が抱きしめて欲しいと言ったんだろ」
レオ
「そ、それはサバオリというんだっ!」
ドサッ!
乙女
「ふん。左フックが残ってるのに浮かれてるからな
約束を守りつつ罰を与えてやったぞ」
レオ
「別に、浮かれてなんかいないさ」
レオ
「さぁやろう」
………………
レオ
「ふんっ!」
ブン! という風を斬る音がする。
乙女
「うん、これだけしかやってない事もあって
モーションは覚えたな」
乙女
「これで今、持てる力を最大限に使っての
パンチが撃てるはずだ」
レオ
「で、乙女さん。この左フックの名前」
乙女
「あぁ、それなら私が72個ほど考えてみた」
ノートを取り出す。
……こういうノリ好きなのかな。
乙女
「これなんかどうだ」
レオ
「二十二式・風乙女(かぜおとめ)?」
レオ
「んー、今いち」
乙女 無音
「……」
乙女 共通
「これなんかどうだ」
レオ
「乙女真拳奥義、不動明王拳?」
レオ
「乙女さんって……ネーミングセンスないね」
乙女 無音
「!!」
しまった、まさか怒られる?
乙女
「そうか……一生懸命考えたのだがな……
ネーミングセンス……無いか」
あ、怒るを通り越して拗ねた。
相当ショックだったらしい。
乙女
「寝る間も惜しんで考えたんぞ」
寝る間も惜しんで……“乙女爆裂拳”とか
そんな名前はちょっとどうなんだろう。
うーん、この人に考えさせたのは失敗だったか。
乙女
「72個もあるんだからどれか気に入らないか?」
レオ
「ってか何で全部技名に“乙女”が入ってるの?」
乙女
「私が教えたからな」
レオ
「そ、そう……」
さすが強気というか強引というか……
意外と目立ちたがりなタイプかもしれない。
乙女
「お前は何か自分でいい技名があるというのか?」
レオ
「……うーん」
全く考えてなかった。
レオ
「ナパームナックルとか」
うわ、自分って言って微妙。
乙女
「お前、言うだけあってなかなかセンスあるな」
褒められた……。
レオ
「んー、他に何かないかな」
レオ
「……腰の回転を使ってうつから……」
レオ
「きりもみパンチとかどう?」
乙女
「きりもみ……か。ふむ。それもいいな」
レオ
「じゃあそれで」
乙女
「きりもみ乙女パンチ」
レオ
「いや乙女つかないから」
……………………
乙女
「よし、特訓はここまでだ」
レオ
「オス!」
乙女
「明日は体力を温存しておけよ」
レオ
「うん。乙女さん……
お礼は勝利してから言う事にするよ」
乙女
「そうだな。私にここまで時間を割かせたんだ。
勝ってみせろ」
ボス! と乙女さんにお腹を軽く叩かれる。
乙女
「とはいえ、体育武道祭では東軍と西軍に
別れるから敵に塩を送る気分だが」
レオ
「そっか、乙女さんと俺は敵同士だっけ」
乙女
「ま、どうせ塩送るなら盛大に送ってやるさ、はは」
ニコッ、と笑う。
小気味好い人だなぁ。
――――体育武道祭、開幕。
今日と明日の2日間、竜鳴館はお祭り騒ぎだ。
それぞれ東軍、西軍、北軍、南軍の4軍に
分かれて対決するシステムになっている。
勝負事を重視する竜鳴館にとってはビッグ
イベントといえる。
しかも、運動が苦手な連中も討論、という
舌戦などがあるので活躍の場があるのだ。
大掛かりな行事なので、ローカルだが
テレビ中継もされる、名物行事。
だから、皆も張り切る。
レオ
「A組は全部東軍、つまり2−Aも東軍」
エリカ
「東軍には負けられないってわけね。私達西軍は」
平蔵
「3年女子バレー優勝は3−A! 東軍!」
乙女
「よし、1000億ポイントもらったな」
数字も豪快だ。
次々と戦果をあげていく乙女さん。
夏の日差しにあいまって、輝いて見える。
スバル
「乙女さんさすがだな」
きぬ
「つーか、あの人がアタックすると球に
龍のイメージがダブって見えるよね」
スバル
「実際、レシーブしようとした勇敢な
レシーバーは病院送り出しな」
身内だけでなくギャラリーも乙女さんを見て騒ぐ。
へへん、そのカッコイイおねーさんは
俺の姉も同然なんだぜ。
そんな誇らしい気分にさせてくれる人なんだ。
レオ
「……う」
となると、乙女さんの方はどうなのだろうか。
俺が出ても、そんなに活躍するわけじゃないし。
“あれが私の弟だ”なんて自慢できるわけもない。
……それは申し訳ないことかも。
乙女さんの弟としても、明日は勝たねば。
体育武道祭、2日目――。
いよいよ格闘トーナメントの日である。
昨日は練習もしてないから体力もだいぶ回復した。
コンディションは良好といえよう。
さて、格闘トーナメントだが……
正直、村田を倒すのが精一杯で
優勝なんてとても無理だろう。
と、なると組み合わせはとても重要な事なんだ。
レオ
「どう、祈先生?」
祈
「クジ箱の中に土永さんを潜伏させておきましたわ」
祈
「鳥目とはいえ丁度クジ穴に太陽光が入ってますから
これで、クジはこちらの意のままに操れますわ」
レオ
「さすが祈先生と土永さん」
俺は勝つ為には結構いろんな手段を使う男だぜ。
祈
「いえいえ戦いは既にはじまっているのですからね」
平蔵
「出場選手15名、全員揃ったな」
平蔵
「それでは全員、そこに設置されている箱から
クジを引くが良い。トーナメントなので
1人はシードで一回戦不戦勝になる」
洋平
「なんかクジ箱揺れていないか?」
レオ
「さぁ、誰から引く?」
新一
「よっしゃ、まずは俺がひくぜ」
レオ
「つうかお前までトーナメントに出てるとはな」
新一
「女の子にもてる早道って言ったらこれだからな」
新一
「最近俺の株が落ちているからさ……
ハーレムを作るためにも頑張ろうと思うわけよ」
分かりやすい奴……。
新一
「よっぴーあたり、俺に惚れそうだよな」
佐藤さんに結構こだわるなぁ。
スバル
「オレはオマエとはあたりたくねーな」
レオ
「それは余計な心配だぜスバル。見てな」
新一
「それじゃ、早速ひきまーす」
レオ
「フカヒレは適当でいいから、細工なしで」
祈
「了解しましたわ」
ピッ、と祈先生がクジ箱の中の土永さんに
携帯で合図を送る。
これでクジを操作してしまうのだ。
新一
「1番がでました!」
平蔵
「鮫氷新一、一回戦第一試合、と」
以後、知らない選手が続く。
こいつらは適当でいい。
洋平
「それじゃ、次は僕がひこう」
ついに来たなあいつ。
洋平
「2番だ」
新一
「む!」
スバル
「おいフカヒレ。優勝候補の洋平ちゃんが相手だぜ」
新一
「悪いなレオ。お前の宿敵、俺が倒しちゃうからよ」
レオ
「その自信はどっから出て来るんだよ」
スバル
「レオみたいに鍛えていたワケでもねーのになぁ」
新一
「気の毒だな。いきなり消えるとは」
洋平
「その台詞そのまま返そう」
レオ
「じゃ、次は俺が行こう」
レオ
「まだ出ていない3番でお願い。で、4番は誰にも
引かせないで俺をシードにして下さい」
祈
「はいはい、抜け目ないですわね」
ピッ
レオ
「3番」
平蔵
「対馬レオ、一回戦第ニ試合、と」
勝率は少しでもあげておいたほうがいい。
1回戦の相手に村田の体力を削ってもらい
俺が2回戦で倒す予定だが……。
フカヒレになるとはな、村田の相手も
操作してもらった方が良かったか。
スバル
「んじゃ、次はオレが」
レオ
「スバルは8番で頼む」
ピッ
これで村田に勝った俺は
相手がスバルってことになる。
どちみち対策を立ててない奴らに
勝てるほど甘くはないんだ。
それならスバルを勝たせてやりたいからな。
………………
新一
「よぉ、村田」
洋平
「なんだ?」
新一
「美味しい話がある」
洋平 無音
「?」
新一
「まぁ、ジュースでも飲みながら話そうや。
ミネラルウォーターとソーダどっちがいい?」
新一 無音
「(こいつはソーダ好きだと分かってるんだよ
ソーダにだけ特製下剤が
しこまれてるって寸法さ)」
洋平
「じゃ、ミネラルウォーターで」
新一
「は?」
洋平
「試合前にソーダなんて飲まないだろ」
新一
「あ……いや、はい、どうぞ」
洋平
「ん? どうにも怪しいな」
洋平
「……お前、そのソーダ飲んでみろ」
新一
「さよならっ」
洋平
「ったく、僕に一服盛る気だったのかよ
2−Cはロクな手を使わないな」
………………
新一
「ちっ、失敗しちまった、俺の完璧な作戦が!」
レオ
「その台詞も既にかませ犬気質まんまんだな」
レオ
「というか、お前俺と当たったら
俺にも一服盛るつもりだったのかよ!」
なんてえげつない奴だ。
洋平
「ほんと、よくそんな奴と友達をやっているな対馬
色々難儀じゃないのか?」
レオ
「村田」
洋平
「一服盛ってでも勝ちを拾おうとするとは。
そこまでヘタレ化が進むと、もう
道化師のレベルだな、フカヒレ」
洋平
「…さぁ、試合が始まるぞ。手の内が明かされた以上
どうせお前は棄権だろうがな」
村田は、ハッと肩をすくめて去っていった。
新一
「あいつめ……ピエロとかヘタレとか
ほざきやがって……」
レオ
「ああ、本当の事を言いやがって許せないな」
新一
「そこはちょっとぐらい否定するのが
友人の優しさだろ!」
レオ
「だってお前俺に一服盛る気だったんだろ」
新一
「ちっ……確かに一服盛ろうとしたよ。
特にレオには強力な奴を」
レオ
「なんでわざわざ強力なモン盛るんだよ!」
新一
「だって中途半端だとお前我慢しそうなんだもん
せめてもの優しさだよ」
新一
「確かに目先の栄光に目がくらんだのは謝るよ…」
新一
「せめてものワビに、あいつの手の内だけは
見てきてやる」
レオ
「や、それは無理すんな棄権しろ」
新一
「そういうわけにはいかないさ
あいつ、俺をヘタレやらピエロ扱いしやがって」
新一
「お前は馬鹿にされたから怒った。
俺も馬鹿にされたから怒った」
レオ
「怒るポイントが今いち分からない奴だな」
新一
「だいたいヘタレは平常時のレオにこそ
似合ってる言葉だよなー。カニは良く
お前に使ってるじゃん」
レオ
「お前自分が言われて嫌な事他人に言うなよ」
新一
「とにかく、やってやる!」
きぬ
「皆さーん、大変長らくお待たせしました。
体育武道祭のメイン行事、最強の戦士を決める
格闘技戦・ドラゴンカップを行います」
きぬ
「優勝者の軍にはドカンと三千億ポイントが
加算されまーす。細かい事はいいませーん
派手に戦(や)ってくださーい!」
きぬ
「なおアナウンスはボクこと
竜鳴館のマスコットであり
2−Cの精神的支柱・蟹沢――」
スバル
「あいつマスコットなのか」
良美
「は、初耳だね……」
レオ
「勝手に言ってるだけだろ」
きぬ
「解説は、拳法に詳しい
鉄乙女先輩にお願いしてまーす」
乙女
「よろしく頼む」
きぬ
「それじゃゲスト兼コメンテーターとして
竜鳴館を束ねる霧夜エリカ生徒会長、
何か一言お願いします」
エリカ
「戦う男の人って素敵。頑張って!」
姫のサービス精神旺盛な激励。
ウォォォォォォォォォ!!!!
戦士達が咆哮する。
きぬ
「なお、審判は生まれるのが遅すぎた竜、
竜鳴館館長・橘平蔵!」
平蔵
「この場で長く語るは無粋!
漢(おとこ)ならば――」
平蔵
「拳で語れ!」
きぬ
「おぉーーっと! ヘリから投下された
鉄鋼を拳で砕くという予算の無駄遣い極まりない
パフォーマンス! 破片は誰が片付けるのかぁ?」
きぬ
「しかし現代日本で平気でこんなことをやってのける
アナクロな精神力! そこにシビれるアコがれる!
男は皆橘平蔵のような戦士になりたがっている!」
スバル
「なりたがってねーよ」
きぬ
「テレビカメラが回ってます、雑誌のカメラマンも
多数おります。いい所見せれば見返りにもてるかも
しれません。太陽よりも熱く燃え上がれ戦士達!」
きぬ
「さーて、それでは1回戦第1試合から
行ってみようか! いきなり優勝候補が
登場だ! 2−Aの理性を持った狼、村田洋平!」
会場から歓声があがる。
トトカルチョで村田に賭けてる奴が多いのだろう。
村田のオッズは3.2倍。手堅い上にそこそこだ。
……ちなみに俺は88倍、大穴扱いである。
洋平 共通
「僕が優勝して、最強を証明してやる!」
きぬ
「そして対戦相手は2−Cの隠し球・鮫氷新一!」
洋平
「おいおい、フカヒレが隠し球って難儀なギャグだな
お笑いバトルじゃないんだぞ?」
レオ
「フカヒレ、無茶すんな」
新一
「うるせーな、意地をみせてやるぜ」
スバル
「あいつにも譲れないものがあったんだなぁ」
レオ
「すぐ決壊しそうな気もするが」
きぬ
「試合形式は2分4R! さぁ第1R、ゴングを
ボクが発します」
エリカ
「館長が試しにゴング叩いたら壊れちゃってねー」
きぬ
「カーン!」
平蔵
「ファイッ!」
きぬ
「さぁ、第1Rがはじまりました。
一体フカヒレ選手は何秒持つんでしょうか
ボクは30秒だと思います」
エリカ
「20秒」
新一
「……実況まで馬鹿にしてくれるよなぁ」
洋平
「いや、5秒だ」
新一
「ごえっ!」
村田の右ストレートがフカヒレに命中した。
きぬ
「いきなりダウーン! せめて回避動作ぐらい
行って欲しいぞーっ!」
平蔵
「……1、2、3、4」
会場内からドッ! と笑いが起こる。
新一
「ちきしょう……こっちだって
好きにおどけてるわけじゃねぇ
好きに一服盛ってるワケでもねぇ」
新一
「これが俺のっ……鮫氷新一の処世術なんだ」
新一
「喧嘩が強いワケでもなく、頭が良いわけでもない」
新一
「だから、こうやって色んな手段を使って
世の中渡ってきたし、これからも同じだ」
新一
「お前達、スポーツのできる奴や
勉強が出来る奴には分からないだろうよ」
新一
「俺は普通だ、ヘタレじゃねぇ」
きぬ
「おーっとフカヒレ立ち上がったぁ! ナイス闘志」
新一
「さぁ村田。お前の必殺技を撃ってみろ!」
洋平
「自惚れるな。お前を倒すのに僕の手の内を
見せる必要がどこにある?」
村田のコンビネーションがフカヒレに炸裂する。
パンチが的確に決まっており、とても
痛そうだった。
新一
「ぐあっ……」
きぬ
「フカヒレ、またまたダウーン!」
洋平
「お前ごときに僕の必殺技は使わないってことだ」
イガグリ
「よくやったべ、フカヒレーっ」
豆花
「大したもんネ!」
平蔵
「5、6、7……」
新一
「ま……まだまだ」
きぬ
「お、ふ、フカヒレが……また立ち上がったーっ!」
洋平
「ふん、大人しく寝てればいいじゃないか」
新一
「うるせーっ、ヘタレは取り消せ」
洋平
「ちっ、大人しく寝ていろ」
村田のアッパーが炸裂する。
さらに、その後右ストレート。
フカヒレがヨロヨロと後退する。
だが、そこで踏みとどまった。
新一
「へ……へへ……」
洋平
「しつこいやつだ、そんなに見たいなら見せてやる」
村田が拳をグルンと回す。
それはまさしく回転式拳銃に弾を
リロードしている感じだった。
洋平
「そらっ!」
これが村田のガトリングガン。
第三者として見るのは初めてだ。
う、乙女さんより腕が長い分
射程が長くなってる。
これは危ないポイントだ
あらかじめ見れて良かった。
フカヒレは防御する事すら出来ず。
ただ、拳をボコボコに食らい続けた。
平蔵
「それまで! 勝者、村田」
途中で館長が止めに入るぐらい、
村田の攻撃は苛烈だった。
全弾被弾したフカヒレは声も無く崩れ去った。
会場からドッ、と歓声が起こる。
………………
レオ
「あーあ、お前ボコボコじゃないか」
新一
「へへっ、ざまあねえや」
新一
「俺は無理だ……遊んでたからよ
そりゃ、勝てるわけもねぇやな」
新一
「でも、手の内を出すことはさせたぜ
……意地は見せたぜ!」
洋平
「ふん、ヘタレにかわりはないだろが」
レオ
「村田!」
新一
「レオ、これでちったあ戦いやすくなったか?」
レオ
「あぁ。助かったぞ」
レオ
「フカヒレ……後は俺に任せておけ」
そっ、とフカヒレの目を手のひらで
閉じさせてやる。
良美
「し、死んでるわけじゃないと思うけど」
レオ
「……乙女さん」
乙女 無音
「?」
レオ
「……友達が馬鹿にされるのって……
自分が馬鹿にされるのより遥かにムカつくよ」
乙女
「……うん、お前はそういう奴だろうな」
レオ
「待ってろフカヒレ。あいつの首級(しるし)を
お前の墓前に供えてやる」
祈
「死亡確認」
良美
「だから死んでないってば」
………………
きぬ
「トイレ行ったか? カレー食ったか?
そろそろ2回戦第一試合
はじめるぞテメェら!」
会場から怒号が巻き起こる。
きぬ
「友の仇は討てるのか? 2−Cの
影の実力者とも言われる
ライオン・ハート! 対馬レオ!」
きぬ
「行けレオ! 誰かが立たねばならぬ時だ!」
エリカ
「対馬クン、侠(おとこ)になれーっ!」
洋平
「ち、腹立たしい限りだな」
きぬ
「おーっと、対戦相手の糸目が出てきたぞ」
平蔵
「おい、実況者達ひいきしちゃいかんぞ」
A組男子
「洋平ちゃん頑張れよーっ!」
洋平
「あぁ、僕が負けるものか」
良美
「対馬君……頑張って……」
紀子
「ほんとなら、よーへー、おうえんするけど
いまの、よーへーきらい」
紀子
「つしまくん、がんばって!」
レオ
「これがリングの上か」
不思議な高揚感がある。
洋平
「公衆の面前でサンドバックにされるとは
可哀想にな、対馬」
レオ
「恥かくのはお前だ」
きぬ
「おーっと、早くも両者がリング上で
睨み合ってるぞ!」
平蔵
「お互い、なにやら遺恨があるようだな」
平蔵
「互いに全力で戦いそれを
吹き飛ばすといいだろう、ファイッ!」
きぬ 共通
「カーン!」
洋平
「お前は30秒でKOしてやるよ」
レオ
「へぇ、30秒ね」
きぬ
「おーっと、30秒でKO宣言だ、
ふざけんなレオ、試合なら合法だ
遠慮なく殺してしまえ!」
乙女
「おい実況、だからレオをひいきしすぎだぞ」
乙女
「それにしても村田め……相手を侮るのは悪い癖だ」
洋平
「ほら、行くぞ」
村田が軽やかにジャブを放ってくる。
鋭く、そして早い。
それを弾いたグラブがじぃんと痺れる。
レオ
「(拳が乙女さんのより硬いじゃねぇか)」
洋平
「そら、そら」
次々と軽めのジャブを出される。
間合いを保ちつつ、それらを捌く。
洋平
「これならどうだ?」
相手の拳の速さがさらにあがる。
ガードしている腕を痛めつけるような攻撃。
きぬ
「20秒経過ぁ! 村田がひたすらに
攻めているだけだ、どうしたレオ!」
エリカ
「対馬クン……まだ手を出してない」
洋平
「ちっ、所詮こんなものか。がっかりだ、沈め」
大振りの右アッパーが来る。
いくら何でもモーションでか過ぎだ。
上体を逸らして、村田から顔を遠ざけ
アッパーを回避した。
乙女
「うん、相手をよく見ているな」
ブゥン、と空を斬る音が凄い。
さすが拳法家、適当に放った拳でこれか。
洋平
「ちょこまかと……ならばくらえ」
レオ
「!」
打ち出される拳の速射砲。
だが、乙女さんの比べると、まるで遅いし
数も足りないぞ。
こっちを舐めてるな。
フカヒレのおかげで射程も理解している。
ヒザを曲げて腰を思い切り落とす。
そして、素早くもぐりこむ。
洋平
「何!?」
フカヒレ、見てるか!?
レオ
「らぁっ!」
洋平
「ぐあっ!?」
ドォン!!!
村田がド派手に転倒する。
平蔵
「ダウーン!」
レオ
「30秒で沈むのはお前だったな」
静まり返った会場が、一気に騒ぎ出す。
豆花
「す、凄いネ! あれが対馬君カ!?」
真名
「なんや、あんな牙持ってたんかいな!」
きぬ
「そりゃまぁ……」
乙女
「私の弟だからな!」
きぬ
「あぁ! ボクの幼馴染というセリフとられた!」
エリカ
「やるわねー、やっぱり生徒会の一員である限り
これくらいは見せてくれないと」
洋平
「くっ……うっ、き、効いたな」
平蔵 共通
「5、6、7……」
洋平
「やれます……やるに決まっている」
村田がフラリと立ち上がった。
乙女
「村田にはいい薬だったろう……
相当のダメージを与えたはずだ。
ここからが本番だぞ」
アゴに当てた手ごたえはあったが……。
むしろリングに倒れた時についたアザの方が
目立っているな。
やっぱり、もう一発殴らないとダメか。
洋平
「……1週間前を覚えてるか?
お前は、僕に一発も当てれなかった」
レオ
「お前が俺を本気にさせたからだ」
レオ
「礼は拳で言ったぜ?」
洋平
「なるほど。伊達が友達と認めているわけが
少しは分かった。付き合いが長いだけじゃ
ないんだな。……弱い、といったのは訂正するよ」
洋平
「行くぞ!」
レオ
「!?」
凄い勢いで右ストレートが飛んできた。
とっさにガードする。
レオ
「ぐっ!?」
きぬ
「レオのガードを吹っ飛ばしたぁ!」
乙女
「これは完全に本気だな」
レオ
「ちっ、ガードしてもダメなのか」
村田は次々と攻撃を繰り出してくる。
防ぐのが精一杯。
しかもガードの上から体力が削られていく感じだ。
こっちから攻めないと。
洋平
「ふっ!」
矢のようなストレートが飛んでくる。
レオ
「ぐ……アブね!」
だめだ、生半可に攻撃しようとすると
そこをカウンターで返されちまう。
これが拳法部の実力か!
きぬ
「かんかんかーん!」
平蔵
「第1R、終了だ」
きぬ
「うーん、出だしはレオ有利だったけど」
エリカ
「対馬クン、急に動きが悪くなったわね」
乙女
「村田が本気で攻撃してるんだ、
防ぐだけで精一杯なのさ」
きぬ
「油断してるうちに倒せなかったから
レオの負けだと?」
乙女
「勝機はある。厳しいのは事実だがな」
きぬ
「第2Rは注目ってことで……カーン!」
村田がその場で足踏みし始めた。
軽やかにトーン、トーンと跳ねている。
きぬ
「おーっと、これは足を使って
仕留めてくる気だぞーっ!」
ち、こいつ……。
まずは見極めないと。
きぬ
「レオがガードを固める!」
乙女
「違うぞレオ……そうじゃない、気づけ」
洋平
「ふっ! はっ! ふっ」
レオ
「く……そっ! 重いっ!」
きぬ
「村田選手の足をからめた攻撃が続く!
そしてレオはガードの上から体力を削られる!」
エリカ
「攻撃を捌くのに一生懸命になりすぎてるわ」
洋平
「それ以上、後ろは無いぞ?」
気が付けば背後はロープだった。
きぬ
「あーっと! レオが追い詰められた!」
洋平
「食らえ!」
きぬ
「また出たァーーッ! やっちまえレオ!」
そうだ、この技は完全に対応できる、
かいくぐって攻撃してやる!
洋平
「本気だと言ったろ!」
な!!
数が増えっ……!?
頭にガツーンと火花が走る。
やべっ……! 食らった。
た、立て直さないと……。
そう思った瞬間に、腹に一撃をいれられる。
下がらないと……!
下がれない、ロープがある。
きぬ
「マジー! つかまったぁ!
3発、4発5発6発! とまらなーい!」
良美
「つ、対馬君っ!!! いやぁぁっ!!!」
紀子
「やっぱり、よーへー、つよい……」
や、べぇ……意識が……。
レオ
「ぐっ……あっ、は!」
平蔵
「ダウンッ!」
きぬ
「思わずレオが尻餅をついたーっ!
攻撃に耐え切れなかったのかーっ!」
洋平
「僕の勝ちだな」
ダウンしちまってるのか。
情けねぇ、体が耐え切れなかった。
立たないと……
体が軋むように痛い。
でも、ここで勝たないと俺は……。
平蔵 共通
「5、6、7……」
レオ
「……」
ファイティングポーズをとる。
きぬ
「おーっとレオ根性で立ったー!
さすが熱血している時は一味違うぜーっ!」
洋平
「立ったのは見事だが……苦しむ時間が
長くなるだけだぞ」
レオ
「馬鹿言っちゃいけねぇ」
平蔵 共通
「ファイッ!」
くっ……体が重い。
きぬ
「あーっと、レオの動きに全然精彩が無い!」
洋平
「楽にしてやるよっ」
くそ、体が動かないっ。
ここで負けるわけにゃいかねーんだ。
洋平 共通
「ふっ!」
肝臓に鈍い痛みが走った。
レオ
「ぐ……あ」
村田の攻撃が的確に肝臓を狙ってきている。
ガードしなくちゃ。
エリカ
「あちゃー、顔のガード下げちゃった」
洋平
「らぁっ!」
豆花
「あいや!!!」
視界が真っ暗になる。
なんだ……ガードをあけた瞬間、顔面を
殴られた?
きぬ
「右ストレートが顔面に直撃!
こ、これは効いたぁーっ」
きぬ
「このラウンドで2度目のダウンだーっ!」
視界が戻れば、空が見える。
……あぁ、またダウンしてるのかよ。
乙女
「竜鳴館のルールでは1ラウンドに3度、
一試合に4度のダウンでリミットだぞ
……もう追い詰められている」
紀子
「よーへーには、かて……ない?」
良美
「つ、対馬くぅん……」
スバル
「はっ、大丈夫だって」
スバル
「熱くなったレオはな……
ここからが半端じゃねーんだよ」
きぬ
「さー、村田が勝ち誇ってる! だがレオは
ここからが半端じゃねーぞ!」
良美
「じ、実況しているカニっちも同じ事言ったね」
スバル
「普段使ってない根性ここで使うからなアイツ」
平蔵
「6、7、8……」
レオ
「まだ……やれる」
きぬ
「レオが立った!」
洋平
「やれやれ……館長、レフリーとして
止めてあげた方が良いのでは?」
平蔵
「対馬、目を見せてみろ」
レオ
「……」
平蔵 共通
「ファイッ!」
きぬ
「試合再開だーっ!」
洋平
「やれやれだ、わざわざ難儀な事を」
エリカ
「やるじゃない。盛り上がってきたわね」
洋平
「ならばお前は銃殺刑だ!
最後を決めるにはやはり僕の得意技が」
洋平
「相応しいーっ!」
きぬ
「またまたラッシュがはじまったー
レオは両の腕と拳で顔面への被弾を防いでいるっ」
乱撃が俺に襲い掛かる。
それは、一撃ごとに確実に俺の体力を奪っていく。
だが不思議に怖くはなかった。
何故なら、ここで負けるほうがよっぽど怖いから。
豆花
「頑張るネ!」
だから耐えねばならない。
エリカ
「執行部魂よ、対馬クン!」
今は体力が持たない。
スバル
「レオーっ、数秒後でこのラウンド終わるぜ!」
よし、なんとしても耐え切るんだ。
良美
「対馬君、頑張ってーっ!」
しかし、これ声援もマジ力になるな。
洋平
「ち、こいつ倒れないなっ」
きぬ 共通
「かんかんかーん!」
平蔵
「第2R、終了だ。村田さがれ」
洋平
「ゴングに救われたな」
レオ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
乙女
「ガトリングガンは牽制と削り用の技だ。
フィニッシュブローとしては
相応しくない。そこに救われたな」
エリカ
「この少ないインターバルでどれだけ
持ち直せるか、ねー」
レオ
「……はーっ、はーっ、はーっ」
腕が痺れる。
足も笑ってやがる。
これは……マジでシャレにならん。
良美
「つ、対馬君。もうやめようよ」
レオ
「いやいや、まだまだ」
レオ
「負けないと誓ったんだ」
良美
「だ、誰に? 鮫氷君の事だったらもう充分だって」
レオ
「フカヒレの借りは第1Rで返したさ」
レオ
「これは俺……自身に誓ったんだ」
レオ
「誰のためでもない、自分のために勝つと」
特訓した。それこそ本気で死に物狂いで。
なのに、負けるのは納得できない。
自分の誇りの問題だ。
良美
「でも、次の第3R、満足に戦えるの?」
レオ
「なぁに、たかだか2分」
レオ
「男なら、余裕で我慢できるぜ」
平蔵
「大丈夫なのか、対馬」
レオ
「はいっ!」
洋平
「ならば僕もやるだけだ」
そうだ、特訓だ。
俺は特訓で攻撃を習った。
ガトリングガンをかいくぐり近付く方法は
習ったが、ガードテクニックなんて全然習ってない。
第2Rは、防御にまわったからああなったんだ。
俺は挑戦者。なら、ひたすら攻めなきゃ。
特訓の成果を活かすにはそれが一番!
きぬ
「よし行け! 骨は拾ってやる! カーン!」
レオ
「おおおっ!」
きぬ
「おーっと、レオいきなり突っ込んだ」
乙女
「レオのダメージからみて、まさか
ダッシュするとは村田も思わなかっただろう」
乙女
「攻撃あるのみと良く気付いた。それでいい」
洋平
「くっ」
牽制用のジャブ。
こんなものは必要最小限の動きで避けられる。
レオ
「もぐったぞ!」
きぬ
「接近戦、レオの間合いだぁ!」
レオ
「くらえ!」
洋平
「また左フック! 馬鹿の1つ覚えが」
村田がとっさにアゴを腕でガードする。
その分、ボディはがら空きだった。
レオ
「でやっ」
顔ではなくボディに左をうちこむ。
洋平
「ぐぉっ……」
レオ
「もう一撃!」
洋平
「ちいっ」
村田が反射的に顔をガードする。
再び空になったボディに攻撃!
洋平
「あぐっ……こ、こいつ!」
きぬ
「レオのラッシュが続く!」
乙女
「村田は第1Rの先制攻撃がよほど
こたえていると見える、これは
フェイントが特に有効だぞ」
洋平
「調子に、乗るなぁっ」
きぬ
「あーっと、村田が再び距離をとってしまった」
洋平
「僕が勝つ!」
きぬ
「出たァーッ! ここがまさしく正念場!」
減ってる……!
第2Rの時より明らかに手数が減ってる。
さっきの特攻は無駄じゃなった。
これなら……
乙女さんと特訓した時と、ほぼ同じぐらいだっ!
あの特訓を思いだせ!
体が最後の力を振り絞ってくれているのが分かる。
血液がつま先まで通っているクリアな感覚。
アドレナリンが凄い!
少しずつ、多少は被弾しながらも足を進めていく。
洋平
「くっ……!?」
傷つく事を恐れずに踏み込む
踏み込むだけ距離は縮まっているのだから。
臆して退けば負けるぜ!
洋平
「さっさと倒れろよお前ぇ!」
村田が焦って出した大振り。
それを紙一重のところで交わし。
一気に間合いをつめる。
洋平
「ち、こいつ」
牽制程度のジャブがペチペチと当たる。
レオ
「おぁあぁああああああーーーーーっ!」
そんな程度じゃ、止まらない!
狙うは、アゴ!
レオ
「らあっ!」
洋平
「ぐはぁっ!」
きぬ
「ついに殴ったぁーーっ!
村田のアゴに強烈な一撃だぁっ!」
ドサァッ
平蔵 共通
「ダウーン!」
きぬ
「村田2度目のダウンだーっ!」
乙女
「今のは私が伝授した技でな。
きりもみ乙女パンチという」
違う、乙女さん技名改ざんしないでくれ。
きぬ
「ネーミングセンスは最悪に等しいが
これは決まったか? 村田ピクリとも動かないぞ」
バッ! と拳を上げる。
平蔵
「む、これはカウント数える事も無意味だな」
平蔵
「勝者! 対馬!」
手の平をパーの形から、グッ! と握りこむ。
乙女
「見直したぞレオ。本当に勝つところまで
こぎつけるとはな」
紀子
「す……すご、い、すごいっ!」
レオ
「これで……俺自身の借りも返したぜ」
やれやれ、プライドを守るのも大変だ。
燃え尽きたとは良くいったもんだ。
気が緩んだ瞬間、地震が起きた。
いやフラついているのは、俺……か。
ドサァッ!
きぬ
「やっぱり効いていた! レオもダウーン!」
あぁ、カニの実況が遠く聞こえるよ。
へへ、ここまでハッスルすると逆に気持ちいいぜ。
良美
「つ、対馬君大丈夫? 保健室に行こうね」
紀子
「くーっ!(大丈夫?)」
良美
「同じクラスなんだから村田君の
心配をしてあげた方がいいんじゃないのかな?
今、保健室にかつぎこまれていったよ?」
紀子
「こっちの、ほーがしんぱい」
紀子
「ほけんしつ……」
良美
「あ、私が連れていくから大丈夫だよ」
紀子
「わた、しもてつだう、う」
エリカ
「どーでもいいけどさっさと連れて行ってあげたら」
乙女
「いや、ここは姉である私が連れて行こう」
良美
「あ……」
紀子
「く……」
……………………
レオ
「……ぅ……おと、めさん?」
乙女
「何だレオ休んでて良いぞ。保健室に行くからな」
おんぶされてるらしい。
レオ
「……がむしゃらだったけど、一応勝てたよ」
乙女
「あぁ。見事だったぞ」
男G
「あいつさっき戦ってた奴だ」
男F
「ボロボロだな。学校の行事ごときで
何を一生懸命になってんだか」
はは、あいつらの言うとおりかもな。
テンションに流されると、冷めた後の
押し寄せる後悔がなぁ。
乙女
「私は、一生懸命な人間が好きだ!」
男達が慌てて逃げ出す。
レオ
「乙女さん……」
乙女
「ああいう輩は気にするな」
レオ
「ん……」
乙女
「しかし、お前の秘めたる力は大したものだ。
宝石の原石といった感じがするぞ」
乙女
「ふふ、これからもどんどん研磨してやるからな」
………………
A組男子
「平気かよ、洋平ちゃん」
洋平
「あぁ……一瞬無様にも気絶してしまったがな」
A組男子
「ったく、あの対馬ってやつも体育祭に
ここまでムキになってなぁ、洋平ちゃん
遊び半分だったんだろ?」
洋平
「いや、僕もムキになってたさ」
洋平
「遊び半分だったと言って負けを
誤魔化すような真似はしない」
洋平
「しかしいくら得意の蹴りが
使えなかったとはいえ拳法部の顔丸つぶれだ。
この屈辱は、今度は僕が晴らす番だな」
………………
レオ
「そうか……結局、格闘トーナメントは
スバルの優勝か」
スバル
「準決勝が不戦勝だったからな、体力温存して
決勝で勝ちを拾えたぜ」
きぬ
「その結果、ドカンとポイントが入って
西軍は東軍に逆転優勝したからね
あのトーナメントはでかかったよ」
スバル
「フカヒレは5日間入院だってよ」
レオ
「素で病院沙汰だからなぁ……さすが
竜鳴館の荒行事だよ」
レオ
「俺にいたっては、体中痛くて満足に動けねーや」
きぬ
「じゃあレオは今イジメほーだいなワケだ」
レオ
「うわやめろ、勝利の英雄に何をする」
きぬ
「日頃の恨み、必殺蟹挟み!」
レオ
「痛い痛い、やめろバカ。助けろスバル」
スバル
「英雄の最後ってのはたいてい悲しいもんだ」
レオ
「ち、ちくしょう……」
乙女
「そこまでにしておけ」
レオ
「あ、乙女さん」
乙女
「レオは疲れてるんだ、今日ぐらいは
ゆっくり寝かせてやれ」
きぬ
「ちぇっ……ここぞとばかりに
いじめようと思ったのに」
なんて容赦無い奴なんだ。
カニとスバルが2階からアクロバットに出て行く。
乙女
「やはり体は痛むか」
レオ
「情けない話……動けない」
レオ
「シャワー浴びて、夕飯食ったあたりから
マジで動くのがしんどくなってきた」
乙女
「村田の硬い拳をああも食らえばそうなるさ
鮫氷の入院が分かりやすい例だ」
レオ
「まぁ……勝てたからいいや」
乙女
「とはいえ、お前トイレやら何やら
いけないんじゃないか」
レオ
「そうなるね」
レオ
「あと、大地震が来たらマジやばい。逃げれない」
乙女
「確かに最近、日本列島は地震続きだからな……
新潟、北九州。いつ関東がそうなるかもわからん」
乙女
「今夜に限り私が面倒見てやろう」
レオ
「え」
乙女
「夕飯食べた後、歯磨きとか
就寝準備は終えているか?」
レオ
「うん、なんとかね。後は寝るだけ」
乙女
「私も今日は疲れた。寝るとしよう」
レオ
「おやすみ」
乙女
「いや、その挨拶はまだだ」
乙女さんは1階に下りてしまった。
レオ
「?」
そしてまた2階にあがってくる。
何故か手に枕を持っていた。
乙女
「電気消すぞ」
レオ
「乙女さん?」
電気を消された。
乙女
「おい、もう少し端に詰めてくれ。
私が寝られないじゃないか」
乙女さんがグイグイとベッドに
あがりこんできた。
レオ
「え、え、え」
乙女
「添い寝してやるというんだ」
レオ
「えええ!?」
レオ
「いや、別にそこまでしなくても」
乙女
「じゃあトイレとかどうするんだ」
レオ
「いや、気合で何とか」
乙女
「お前は今日頑張ったんだ
そこまで気合入れることもないだろう」
レオ
「乙女さん」
乙女さんがベッドの中に入り込む。
乙女
「私がついているから安心して休め」
レオ
「……」
乙女
「トイレとか行きたくなったら言うんだぞ」
レオ
「……うん、ありがと……」
レオ
「……」
乙女
「どうした?」
レオ
「あの厳しい乙女さんがこんな事してくれるなんて」
乙女
「なに、特訓だから仕方ないとはいえ
お前に辛く当たってしまったからな」
乙女
「これぐらい、お姉ちゃんとしては当然だ」
レオ
「それでも、添い寝はしないと思ってたよ
嫌じゃないの、俺と一緒で?」
乙女
「ふふ、小さい時はこうして一緒に寝ていたしな」
レオ
「俺に何かされる、とか思わない?」
冗談半分で聞いてみる。
乙女
「何かするのか?」
レオ
「いや、何もしないけど」
乙女
「だろ? その体で何かできるならやってみろ」
レオ
「う……」
乙女
「ふふ、逆を言えば私がお前を襲えるんだ」
レオ
「な」
乙女
「むろん、そんな真似はしないがな」
レオ
「なんだ……」
乙女
「年上のお姉さんをからかおうとすると、
逆にこう言い返されるんだからな、覚えとけ」
レオ
「うん。覚えとく」
乙女 無音
「……」
レオ
「……」
見つめあう。
恥ずかしかった。
乙女
「眠らないのか?」
レオ
「乙女さんは?」
乙女
「私は、レオが寝てから寝ようと思ってた。
枕が違うと眠りにくいが
同じ枕ならその気になれば3秒で眠れるからな」
レオ
「3秒は大袈裟だよ」
乙女
「それじゃ見せてやる。1……2……」
乙女
「……Zzz」
レオ
「え、本当に寝たよこの人」
乙女
「Zzz」
なんつー無防備な。
ま、俺が動けないからだろうけど。
それでも俺の為に一緒に寝てくれるとは
優しいな、乙女さん。
乙女さんの安らかな寝息が聞こえる。
足などは、所々がくっついているぐらい近い距離。
なんだか少し恥ずかしい。
俺も寝よう。
……………………
深夜1時。
レオ
「……うっ」
尿意が俺に攻撃をしかけてきた。
どうしよう、我慢できるかな。
乙女
「Zzz……おにぎり……」
……ダメっぽいな。尿意はいつだって本気だ。
体は……動かない、全身がダルい。
乙女さんは。
乙女
「ZZz……あんみつ……」
なんか幸せそうな夢見てそうで起こしづらい。
しかし、このままでは城が持たない。
尿意に攻め落とされたら大変だ。
レオ
「乙女さん。乙女さん」
乙女
「……ん……んん……」
乙女
「なんだレオ。どうした」
レオ
「あの、その、トイレに」
乙女
「そうか。いいぞ」
乙女さんに優しく抱き上げられて、
トイレに向かう。
……っていうかこれお姫様ダッコ?
うわ、すげ恥ずかしい。
レオ
「ズ、ズボンお、おろすのはさすがに
自分でできるから」
乙女
「あぁ、外にいるからな」
なんか昨日の試合で取り戻した俺自身が死んだ。
レオ
「終わりました」
乙女
「よし……」
レオ
「……」
乙女
「照れる事は無いだろう。可愛いやつだな」
また運ばれる。
乙女
「寝なおしだな」
レオ
「うん、起こしてごめんね」
乙女
「そんな事気にするな」
乙女
「いいか、無理せず私を起こせよ?
何の為にここで一緒に寝てると思っている」
頭を撫でられる。
レオ
「うん」
乙女
「それでは私は寝る……Zzz」
なんて一連の動きがスムーズな人なんだ。
俺も寝よう。
………………
午前4時。
レオ
「うっ」
尿意が再び夜襲を仕掛けてきた。
この時間は朝駆けというのか。
ちぃ……この尿意はすでに悪意になりつつある。
まずい、またトイレなんて。
やたら熱血したせいか、喉が渇いて
水をがぶ飲みしたのがまずかった。
乙女さん呆れるだろうな。
乙女
「す――……す――……」
安らかな寝息。
あ、腕がちょっと動かせる。
乙女さんの顔に手を伸ばす。
乙女
「す――……(ピタッ)」
乙女 無音
「……」
手が乙女さんに近付くと、寝息を立てるのを
やめている。
なにこれ、無意識に体が警戒しているってこと?
さすが武人というか、頼もしいな。
レオ
「お、乙女さん……」
乙女
「……ん、どうしたんだ?」
レオ
「ごめん、またトイレ」
乙女
「そんな申し訳なさそうに言うな」
というわけで、行ってまた戻ってくる。
乙女
「今度謝ったら私が怒るからな」
レオ
「うん」
乙女
「……ん、足が冷えてるじゃないか。
7月の頭とはいえ、朝は意外と涼しいんだぞ」
乙女さんが、俺の足に、すっと自分の
足をからませてくる。
レオ
「乙女さん……」
乙女
「これで暖まったろう」
乙女
「それじゃ、おやすみ」
数秒で安らかに眠る乙女さん。
……この人、優しい時は本当に優しいな。
俺を思いやってくれて。
2度も起こされたのに嫌な顔1つしない。
普段はメチャクチャ厳しいけど。
こっちがどうしようもない時は、惜しみなく
尽くしてくれる。
なんだか愛を感じた。
乙女
「昨日、ゆっくり休んで体も回復したみたいだな」
レオ
「そうだね、日常生活に支障は無いよ」
腕をグルグルまわす。
机の角に指がガキッ、と当たった。
レオ
「……痛っっ……」
乙女
「何をやっているんだか……」
乙女
「特訓のせいで期末対策がおろそかになったからな
少しずつそっちもやっていこう」
レオ
「期末……そういえばあったね、そんなものが」
レオ
「それじゃ、明日あたりから」
乙女
「駄目だ、今日からでも少しずつ」
添い寝してくれて少し甘くなったかと思えば違う。
やっぱり本質的にはビシビシ来る人だ。
ちぇ、それで優しい時はあんなに優しいなんて
ある意味ずるいよなぁ。
……とはいえ、オレの体が回復したのもあるが
やはり添い寝は土曜日の夜一回きりだった。
乙女
「今週も学校だ。体育武道祭から
気持ちを切り替えるようにな」
レオ
「ん」
乙女
「ハンカチとチリ紙は持ったな?」
レオ
「ダイジョブ、ヘーキ」
乙女
「エリ首のところ、しっかり整えろ」
レオ
「だ、大丈夫だって」
………………
HRの時間なのに、担任がこない。
土永さん
「駅前ではバナナの叩き売りをやっていてな……
我輩もよく落札したものだ」
変なオウムがいつも通りアナクロな
台詞を言ってるし。
祈先生、今日も元気に遅刻か。
乙女
「……遅刻理由は?」
祈
「何を聞かれても喋るなと弁護士が」
乙女
「弁護士? なぜそんな事のためにわざわざ」
祈
「……今のは冗談でしたので流してくださいな」
乙女
「祈先生、もう少し教師としての自覚を
持たれた方が宜しいかと思いますが」
祈
「はい、以後猛省し、遅刻しない事を善処しますわ」
乙女
「そう言って何度目の遅刻ですか。教師たるもの
生徒の模範でなければなりません」
乙女
「年下である私が先生にこういう風にクドクド
言うのが好ましくない事、良く分かってます。
しかしですね、これでは示しが……」
豆花
「あいや、もういないネ」
乙女
「…くっ、いつの間に…掴みどころがない」
豆花
「生徒が先生に怒るの、ココの名物ネ
故郷ではなかた事だから見てて面白いネ」
乙女
「無駄口はいい。遅刻者は生徒手帳を提示しろ」
乙女
「2年C組、楊豆花(ヤン・トンファー)……か
留学生といえ、遅刻は遅刻だからな。
以後気をつけるように」
乙女
「何か不便な事があったら相談に
乗るから、いつでも言ってこい」
乙女
「はい、次の遅刻者!」
イガグリ 無音
「……」
乙女
「2−Cばっかりではないか! あのクラスは
どうなってるんだまったく……」
………………
時間は午後3時を回っていた。
気ままな放課後である。
土永さん
「命と引き換えに金を要求するのは強盗
では、その両方を請求するのは?」
レオ
「女」
名言だね。
土永さん
「よし、通れ小僧」
土永さんが廊下で歩哨をしているということは。
豆花
「――てな事が今朝あたネ、困た事あれば
相談に乗る言われたネ。鉄先輩かこいいネ」
お菓子をつまみながらくっちゃべってる女子。
祈
「でも厳しすぎますわ。大目に見てくだされば
魚心あれば水心といいますのに」
それにナチュラルにくわわっている先生。
外を土永さんに警戒させてるわけだ。
きぬ
「あ、そこスターでんよ、スター」
そして、その祈先生の目の前で
携帯ゲームで遊んでいる姫とカニ。
いつもながらに風紀が乱れまくってる。
良美
「んしょ、んしょ……」
佐藤さんは黒板を消したり、花の水を
入れ替えたりしていた。
レオ
「携帯……ああ、入院しているフカヒレからか」
レオ
「もしもし、あん、誰か寂しがってないかって?
みんなお前がいなくても何事も無かった
ように学校生活を送っているぞ」
レオ
「え、実は俺のお見舞いに来る計画が
持ち上がってないかって? いや
今のところはないな」
今後も多分無いと思う。
レオ
「え? 佐藤さんは俺の事を心配してるはずだって?
千羽鶴? そんなもん折ってねーよ
もっとよく見てみろ、って?」
良美
「んーと、どこへやったかな〜」
レオ
「……ピンクだ」
……………………
さて、誰か来てるかな。
もうすぐ日が暮れるし、期末も近いから
誰もいないかもしれない。
執行部に立体パズルがあった。
レオ
「誰のだろ?」
ちょっとやってみる。
カチカチカチ……
レオ
「な、なかなか上手くいかない」
乙女
「いるのはレオだけか」
乙女
「少し髪はねてるぞ。身だしなみはきちんとな」
さっ、と手櫛でなおしてくれる。
乙女
「また懐かしいものをやってるな」
レオ
「意外と難しい」
乙女
「くだらん」
レオ
「こういうの乙女さんには無理だと思うよ」
乙女
「んー? 年上を敬わないのは、この口か」
アゴを片手でグイッとつかまれた。
レオ
「痛い、痛い、じゃ、じゃあやってみてよ」
乙女
「いい度胸してるな、貸してみろ。
私ができたら今日の風呂掃除代わってもらおう」
レオ
「ついでにゴミ出しも代わろうか?」
乙女さんがキューブをいじくりはじめる。
……カチ。
……カチカチカチ。
乙女
「ぬ……く?」
レオ
「まさか腹いせに手で砕いたりしないよね」
乙女
「当たり前だ、お前私をバカにするなよ」
……カチカチカチカチ。
乙女
「ん……あれが……こうなって」
カチカチカチカチ。
やはり苦戦していた。
単純一途な乙女さんには難しいと思った。
スバル
「おい、何か知らねぇが洋平ちゃんが呼んでるぜ」
レオ
「なんだぁ? まさか負けた遺恨を引きずって
俺を取り囲んでフクロにする気じゃないだろうな」
スバル
「その場合に備えてオレも横にいてやるから」
レオ
「そりゃ安心だ、悪いな」
レオ
「乙女さん、悪いけど席を外すよ」
乙女 無音
「……」
カチカチカチ。
ひたすらに熱中しているな。
きぬ
「お、きたきた」
カニも教室で遊んでたと思ったら
今度は校庭か……遊びには忙しい奴だ。
レオ
「何だよ村田」
洋平
「次は負けん。また僕と勝負してもらおうか」
レオ
「疲れるし痛いから嫌です」
洋平
「な……何だと」
きぬ
「ほーら言った通りだろ。
熱血モードが終われば、ただのヘタレだからねー」
レオ
「んじゃ、そう言う事で」
そう何度も熱くなってられないぜ。
スバル
「つーか、洋平ちゃん西崎さんと仲直りしたの?」
洋平
「西崎は関係ないだろうが」
きぬ
「噂をすれば本人だぜー」
レオ
「あ、西崎さん」
紀子
「つしま、くん!」
たったったっ……
小走りに駆け寄ってきてくれる。
紀子
「けがは、もうへいき?」
レオ
「まぁね。節々は痛むけどね」
レオ
「日常生活に支障は無いよ」
髪をさらっとかきあげる。
健在っぷりをアピールしたつもりだが。
紀子
「よかった」
何か西崎さん少し頬赤くなってない?
レオ
「心配してくれたの? ありがとね」
紀子
「くー♪(どうしたしまして)」
そのまま並んで俺と歩き出す。
きぬ
「な……何じゃありゃ! 何がくー♪ だ
ミソつけて食うぞ! オイ、オールバック!
しっかりしつけといてくれよな」
洋平
「僕には関係ないっ」
きぬ
「この糸目が! 偉そうでいて役に立たねーな!」
洋平
「……なんて礼儀知らずのやつなんだ
これだから2−Cは困る」
スバル
「やれやれ」
………………
執行部へ帰還。
乙女
「レオ見てくれ」
レオ
「お」
キューブの絵柄がピタリと揃っていた。
乙女
「できたぞ……2面だけな」
手で隠されていた部分はダメダメだった。
レオ
「乙女さん、これは完成とは言えないよ」
乙女
「……分かっている……」
レオ
「そんなに落ち込まなくても」
エリカ
「ウィース」
エリカ
「ん、何このオモチャ」
姫は両手でキューブをグリッと回した。
そして、キューブを置く。
見事に全面揃っていた。
レオ
「すごいね姫は、頭いいね」
エリカ
「べっつに? コレ頭とはあんまり
関係無い気もするけど。ま、
こんなのにてこずるのは小学生レベルでしょ」
乙女 無音
「……」
あーあ、余計な事言ってくれちゃって。
………………
レオ
「まぁ、その何」
レオ
「乙女さん推薦狙えるぐらい
頭がいいならいいじゃん」
乙女
「別に気にしてなど、いないぞ」
レオ
「……じゃあ何でさっきからクルミを
握っては潰してるの?」
乙女
「ふん、別になんでもないさ」
いじけてる。なんか微笑ましいな。
キュピーン!
乙女
「今、笑ったろ」
レオ
「笑ってないよ」
乙女
「いーや、笑った」
乙女さんがガタッと席を立ち上がる。
レオ
「俺、宿題するんでそれじゃ」
スタスタ。
レオ
「な、なんでついてくるのさ!」
乙女
「宿題する前にお姉さんと遊ぼう」
レオ
「いや、いいや」
乙女
「体育武道祭の疲れがまだとれないだろ?
マッサージしてやる」
レオ
「人の話を聞いてくれ」
乙女
「まぁそこに寝ろ」
押し倒された。
乙女さんが俺に馬乗りになる。
そして、指圧をするように親指を立てた。
っていうか、実際の指圧?
乙女
「体が軽くなるぞ……痛いけどな」
レオ
「あがががががが!!!!」
乙女
「ふぅ、レオと一緒に遊んだら気が晴れたぞ」
レオ
「……こ、これは……イジメと言うと……思う」
自分が馬鹿にされたからって、それで
俺に難癖つけていじめるなんてひどいっ!
今まではこんな事しなかったのに。
祈
「おはようございます」
乙女
「おはようございます、祈先生」
祈
「今日は余裕で間に合いましたわ」
乙女 無音
「……」
祈
「ほほほ」
乙女
「いや、偉そうにされてもそれが当然」
レオ
「おはよーございまーす」
乙女
「おい、待て待て待て」
レオ
「今日はシャツもネクタイもビシッとしてるけど?」
乙女
「甘いな、靴紐が片方解けている」
レオ
「う」
しゃがんで直してくれる乙女さん。
靴紐をギュッ! と縛る感覚が
力強くていかにも彼女らしかった。
乙女 共通
「ピシッとしろ」
レオ
「朝は慌しくてね……ありがと」
なんか、口うるさいと言うわけじゃないんだけど
前より俺への口出しが細かくなってきてる気が……。
それでも昨日マッサージされたからか
体の調子はすこぶる良かった。
…………………
放課後になった。
なんだか人が集まってる。
レオ
「ん? なんだなんだ、何を見てるんだ」
真名
「あのポスター見てみぃや」
レオ
「うぉ、これもう出来てたんだ」
真名
「あっちこっちに貼られとるみたいやで」
“へぇ、人材募集中だってー”
“私行ってみようかなー”
“皆で行こうか”
レオ
「皆の評判も上々みたいだな……」
生徒会長を差し置いて、真ん中で
堂々と写っているのが乙女さんらしいよな。
しかしこれがあちこちに貼られているという事は。
椰子あたりは相当恥ずかしい
思いをしてるんじゃないだろうか。
――1年生の廊下。
“ほら、あの人じゃない?”
“1−Bの椰子さんだって”
“雰囲気あるよねー”
なごみ
「……ち!」
きぬ
「へへーん、なんだココナッツ。
注目されて恥ずかしいのか?
(↑わざわざ1年生のトコまでからかいにきた)」
なごみ
「恥ずかしいんじゃない、ウザイんだ」
きぬ
「だったらさっさと引きこもって、
いつものようにベランダに飛び込んできた
死にかけのセミの羽をむしって遊んでろよ」
なごみ
「そんな事するか……うざったい奴」
きぬ
「オイオイ、派手なパフォーマンスしていいのか?
みんなが注目してるぜ? 1年B組椰子さん」
なごみ
「ちぃっ」
………………
レオ
「あ、有名人だ」
乙女
「ポスターのことか? まったく姫は
派手に営業してくれる」
乙女
「丁度いい。今日は執行部も無いから、帰ろう」
レオ
「拳法部はいいの?」
乙女
「うん。もうすぐテストだからな。
練習量はおさえてあるんだ」
乙女
「鞄を持ってくるから待っててくれ」
レオ
「あい」
レオ
「乙女さんと一緒に帰るのはなにげに
久しぶりだな」
あっちから帰ろうと言ったのはじめてかも。
……しかし今日は風が強い日だな。
時々女子がスカートを押さえている。
俺も見ないよう心がける……けど目がつい
行ってしまうのは悲しい習性だろうか。
洋平
「おい、対馬」
レオ
「勝負ならもうしないし、
お前の12人の妹も紹介されたくない」
洋平
「僕は勝負に負けっぱなしなんて納得できない。
ライバルと認定してやってるんだぞ」
なんて迷惑な。
エリカ
「それじゃね。シーユートゥモロー」
良美
「さよならー」
レオ
「さよならー」
仲良しコンビも帰宅か。
また突風が吹く。
姫はスカートを押さえず悠然と立っていた。
スカートはめくれながらも、見えそうでいて
ギリギリ見えないラインを保っている。
絶対防衛領域、というお嬢様が使える技らしい。
良美
「わ、わ、わっ!」
佐藤さんのは見えてしまった。
なんか俺……1日1回は佐藤さんの
パンツ見てる気がする。
申し訳ないやら嬉しいやら。
洋平
「ふぅ……危うく失礼な真似をする所だった。
風の強い日は難儀だな」
目をつぶっていた村田。
こいつ、意外とそういう所は紳士なのね……。
村田も帰宅。
紀子
「つしま、くん」
レオ
「西崎さん、帰り?」
紀子 無音
「(くいくい)」
レオ
「え、俺も一緒に帰ろうって?」
紀子 無音
「(こくこく)」
可愛い女の子からのお誘いとは男冥利につきる。
紀子
「おみせ、で、プリンたべてく」
レオ
「いいね甘いもの」
う、でも乙女さん待ってるんだった!
レオ
「……西崎さん。俺、やっぱり用事が」
紀子
「……だめ?」
レオ
「上目遣いで見ないでくれ」
それは反則だぞ、俺以外の男は
テンションに流され一緒に行ってしまうに違いない。
まぁ、俺はあくまで冷静に西崎さんと
一緒に行くとしよう。(結局行く)
乙女さんには後で事情を話せばいいかな。
乙女
「おい、どこへいくんだ」
レオ
「乙女さん」
乙女
「西崎。ポスターを撮影する折は世話になったな
よく写ってるじゃないか」
紀子
「あり、がとうござい、ます」
レオ
「乙女さんもいかない?
甘い物食べにいかないかって誘われてるんだけど」
乙女
「……寄り道して遊ぶのを悪いと言うほど
頭が固いわけではないが、今はテスト
1週間前だ、放課後遊ぶのはやめておけ」
それでも充分カターイ気がする。
乙女
「西崎も、テストが終わったらたっぷり遊べ」
乙女
「さぁ、帰るぞレオ」
レオ
「あーい」
レオ
「ごめんね、西崎さん」
紀子
「え……と、いっしょ、に、すんでるんだっけ?」
噂が広まるの速いよな……。
レオ
「いとこ同士だからね。実質、いとこというより
姉みたいなものだけど」
レオ
「それじゃ、テスト終わったら遊ぼうね」
紀子
「ばい、ばい……」
………………
乙女
「まったくお前はフラフラしているな。
待っていろと言ったのに
連れて行かれそうになってどうする」
レオ
「珍しいお誘いだったからさー」
信号が、歩行者に対して赤を示す。
車も人影も無いので、本来はシカトして
渡る所だが、乙女さんはしっかり信号を
守っているので無視したら説教されてしまう。
ほんと真面目な人だな。
乙女
「西崎とは親しいのか?」
レオ
「最近結構話す」
レオ
「口下手だけどさ、一生懸命
頑張っててなかなか好感持てるよね」
乙女 共通
「……そうか」
乙女
「寄り道を断った私を恨んでいるのか?」
レオ
「まぁ正論ってのもあったしね、別に恨んでないよ」
レオ
「やっぱりお姉様のいうことには逆らえませんわ」
乙女
「……ならいいんだが」
乙女
「そこのスーパーで日曜生活品を買い足して行くぞ」
レオ
「そうだね、そろそろ補給せんと」
乙女
「おにぎりを作るために必要な米を
たんまり買うからな。持たせてやるから
鍛錬の一環にすることだな」
レオ
「げ……」
乙女
「その代わり、お姉ちゃんが家で食べる
アイスぐらいなら買ってやるからな?」
レオ
「なんだか慎ましくて素敵だよお姉ちゃん」
乙女
「学生は慎ましくだろう」
………………
レオ
「あれ、お前入院5日間じゃないの?
まだ金曜から数えて4日目だぞ」
新一
「皆、口には出さないけど俺に
会いたがってるだろうからさ」
本当は忘れられたくないだけと見た。
乙女
「ん、上の階が騒がしいな……また
あいつらが来てるのか」
乙女
「期末前ぐらい勉強してもらわないとな、
注意しに行くか」
スバル
「他のクラスの奴らから、オレ達
メチャ羨ましがられてるらしいぜ」
レオ
「なんでさ」
新一
「そりゃ生徒会が美人揃いだからだよ。
学年で一番美人といわれてるのが
1,2,3年と揃ってるんだぞ」
レオ
「貼り出したポスターの効果がデカイみたいだな」
新一
「そういうの、なんか優越感に浸っちゃうよね」
きぬ
「安っぽい奴だなぁ。ボクなんか
カリカリ君ソーダ味でアタリが
出るぐらいじゃないと優越感にはひたらねーぜ?」
レオ
「それも充分安っぽい」
新一
「で。レオとスバル。お前たちぶっちゃけ
しばらく一緒に行動してみた結論として
生徒会の中で誰が一番好み?」
レオ
「そういうお前は?」
新一
「俺は、女は男に尽くすべきだと考えてるから
やっぱりよっぴーだね! 外せないね」
新一
「なにげに椰子もなかなか……」
レオ
「あいつなんかお前的に超ダウトなんじゃねーの?
すげーキツイ性格じゃない」
新一
「まぁそうなんだけどね。落とせば
なついてきそうだから。で、レオは?」
きぬ
「おいオメー達、照れずにボクって
言っていいんだぞコラ」
レオ
「あ、いたの?」
きぬ
「おーい、どういう冗談だコラ
ボクがこの部屋のむさいフェロモンをフローラルに
中和してやってる事に気が付かねーのかコラ」
スバル
「分かった分かった、じゃあオレはお前だカニ」
きぬ
「哀れみはいらねー! 傷ついたからカレー奢れ!」
乙女
「……結局レオは誰なんだ? やはり姫か?」
乙女
「と、何を立ち聞きしているのだ私は…はしたない」
レオ
「まずい、遅刻寸前だ!」
きぬ
「滑り込み人生だね」
レオ
「誰のせいだと思ってるんだ!」
乙女
「閉門1分前ーっ 歩いている奴は走れーーっ!」
レオ
「げっ、この声は乙女さん」
相変わらず仕事熱心なことで。
きぬ
「よっしゃ急げ! 4倍だぁーーっ!」
レオ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ、セーフ」
乙女
「……シャツがはみ出て、ボタンは外れて……
はぁ、だらしないの極みだな。情けない」
乙女
「私が直してやらねば、あのままではないか」
乙女
「おい、レオ……」
紀子
「おは、よう。つしまくん」
紀子
「ふく、みだれてる」
西崎さんが直してくれた。
レオ
「あ、ありがとう」
レオ
「走ってきたからさ……悪いね、ありがとう」
紀子
「どー、いたしまして」
乙女 無音
「……」
キーンコーンカーンコーン
新一
「げ、めっさチャイム鳴ってるじゃん。遅刻かよ」
乙女
「……ち」
新一
「乙女さんが背中を見せてる……今なら
通り抜けられるか……っ!?」
乙女 無音
「!」
乙女 共通
「制裁!」
新一 共通
「ありがとうございますっ!」
乙女
「何故ズルしようとする、根性無しが。
立て! その性根一から鍛えなおしてやる」
新一
「何で今日はそんなに厳しいんですかっ!?」
乙女
「やかましいっ(ふみっ、ふみっ)」
………………
……
放課後。
今日も生徒会執行部は休みだ。
後は帰るだけなのだが。
レオ
「なんか執行部の方に女の子がぞろぞろと
集まってるな」
おかしい、姫の事前連絡だと確かに
休みだったはず。
ちょっと様子を見てみよう。
満員の生徒会室。
エリカ
「この生徒会室が溢れそうなぐらいの
人数が集まってくれて、嬉しいわ。
ポスターの効果は抜群ね」
乙女
「一点に人が集まる気配アリと
思ったらそういう事だったのか」
レオ
「乙女さん」
乙女
「しっ、とりあえず成り行きを見守るぞ」
エリカ
「まず、執行部に入るには健康診断を
受ける必要があります。といっても
簡単。心音を計るだけだから」
いきなり雲行きが怪しくなってきた。
エリカ
「触診法、といって直接手で触って計るけど、
それをするのは私。同じ女の子同士だから
心配はしないでねーっ」
レオ
「つまり、姫はあのポスターを利用し、
憧れてやってくる女の子達に審査を名目に
いろいろやってしまおうと考えているわけか」
社会だったら普通に訴えられそうなレベルだ。
エリカ
「それじゃ、1番初めの人元気良く返事して
上着をまくってねー」
乙女
「はーい」
エリカ 無音
「……」
エリカ
「えーと。今日は中止にしまーす」
……………………
乙女
「まさか、ポスターがあんな不純な動機で
使われようとしていたとはな。集ってきた
女子達に検査の名の元セクハラするのが目的とは」
エリカ
「おっぱいは不純じゃないですー、聖域ですー」
乙女
「お前いじけてるがな。本来私が
もっと怒るところなんだぞ」
乙女
「だいたい姫には1年生に可愛い取り巻きが
何人かいたじゃないか」
エリカ
「揉み飽きた。もっといろんな人の胸を揉みたい」
なんつー欲望にストレートな人だ。
乙女
「胸好きを否定はしないが、行き過ぎると迷惑だぞ。
今日はたっぷり説教してやる必要がありそうだな」
エリカ
「これから親の仕事を手伝う予定が入ってるから」
乙女
「む、そうなのか? ならば仕方ないな」
乙女さん簡単に騙されすぎ。
しかし姫がこうやって逃げるしかできないとは。
やっぱり流石は乙女さんだな。
……………………
レオ
「なんかフカヒレ病院に逆戻りだって」
乙女
「治りきってない状態で無理に来るからだ」
乙女さんと夕食を食べながら
今日の学校での出来事などについて会話していた。
レオ
「そういえば朝、西崎さんに会ったんだけどさ」
乙女
「……で?」
レオ
「あの娘、ああ見えて運動神経あってさ
100m13秒ジャストぐらいで走れるって」
乙女
「私は流して11秒出せるがな」
レオ
「口下手だけど、文系は得意でいつも点数は
80〜90点近いらしいってさ」
乙女
「私も文系は得意だから100点近くいつも
とってたがな。だから推薦も狙える」
レオ
「? 乙女さん?」
乙女
「あ……いや……いちいち話の腰を折ってすまない」
乙女
「何故か口を挟みたくなってしまった……」
乙女
「そういえば今日は微妙に食欲も湧かない」
ペットボトルのお茶をごくごく飲む乙女さん。
いや、おにぎりいっぱい食べてるじゃん。
乙女さんが手についた米をペロ、と舐める。
食べ終わった後のクセだ。
これ行儀良くないと思うけどな。
なんだか微笑ましいので注意するのはやめよう。
――昼休み。
レオ
「今日は良く晴れてるなー」
風も爽やかだ。
こんな時は学食で海を見ながら食うに限るぜ。
レオ
「よし、ダッシュだ」
レオ
「ちょっぴり……疲労した……」
スバル
「せっかく体育武道際で鍛えたんだ。
引き続き鍛錬しろよな」
レオ
「前向きに検討します」
政治家発言してみる。
ま、本当は継続的に鍛えてるけどね。
スバル
「席、丁度いい感じに1つ空いてるな。あそこだ」
レオ
「奥にも空いてるじゃない」
スバル
「あそこは生徒会長の専用座席だろ。
不用意に座るとお姫サマにどやされるぜ」
レオ
「そうだった。……ったく、一番見晴らしの
良い場所をきっちり確保しておくとは」
弁当のほかに、パンを補強しておく。
………………
一面青い世界を見ながらのメシは実に美味い。
スバル
「……おい、後ろ。レオ後ろ」
レオ
「ん?」
レオ
「あ、西崎さん」
レオ
「声かけてくれればいいのに」
スバル
「オマエが連続で口に食べ物突っ込んでるから
話しかけにくいんだろ」
レオ
「そんな紳士的な対応しなくても」
食べてる物を飲み込み、口元をハンカチでぬぐう。
スバル
「なーにカッコつけてんだ」
スバルがケラケラ笑ってるが無視。
レオ
「で、何?」
紀子
「おにぎり、ばっかり。すきなんだ?」
レオ
「あぁ。お弁当ね」
レオ
「いや、というかおにぎりしか作ってもらえない」
レオ
「具はバリエーションあるんだけどねー
コーンの粒入れたりニンニク入れたりも
するんだよ」
レオ
「たまには違うの食べたいといえば食べたいけど」
紀子 無音
「!」
紀子 無音
「(どんどん)」
西崎さんが任せなさい、とばかり自分の胸を叩く。
レオ
「はい?」
西崎さんが弁当箱を指差してから、自分を指差す。
そして、その指は最後俺へ。
飾り気が無いが、すらっとして綺麗な指だった。
紀子
「つくってあげる」
レオ
「西崎さんが、俺に?」
紀子 共通
「うん」
レオ
「へぇ、そりゃあ楽しみだな」
……………………
西崎さんは教室へ戻っていった。
スバル
「分かりやすいアタックされたな。妬けるぜ色男」
スバル
「……何にも考えずにOKしてたけどよ」
レオ
「――え、アタック?」
スバル
「多分に善意もあると思うけどな。
オレみたいなヒネた人間にゃそうとしか見えねぇ」
そういや、俺を見かけたら積極的に
話しかけてくるもんなぁ。
まぁ人懐っこい程度にしか思ってなかった。
スバル
「オマエって優しげな外見してるからか
ノーマルタイプっぽい女の子に好かれるよな。
で、どうすんだ? 対馬レオさんとしては」
レオ
「……西崎さんは、好意は持ってるけど
女として好きかと言われれば別だよ」
レオ
「スバルは考え過ぎだって、西崎さんは
いい人だから善意100%だよ」
レオ
「とりあえず、弁当は普通に楽しみだ」
スバル
「美味しいからってコロっと落ちちまいそうだ……
お兄さんとしては心配だ」
レオ
「誰がお兄さんだ」
………………
帰宅する。
中庭に竹が置いてあった。
そうか、今日は七夕だから取ってきたのか。
またでかい竹を取ってきたもんだ。
すでに短冊が飾ってある。
レオ
「どれ」
“無病息災 乙女”
あの人らしいぜ。
“レオも無病息災 乙女”
……乙女さん。
……………………
夕食が終わって、まったり話続けていた。
乙女
「テレビに映ってる屋久島な。私とお前ふくめ
家族ぐるみで昔行ったのを覚えてるか?」
レオ
「うーん、飛行機に乗った記憶はおぼろげながら」
乙女
「本当に昔の事はあんまり覚えてないんだな」
レオ
「乙女さんが記憶力ありすぎ」
あ、そうだ弁当の事話しておかないと。
レオ
「そういえば乙女さん、西崎さんが」
乙女
「……はいはい、話はこれぐらいだ
期末考査の勉強をしてもらうぞ」
レオ
「あ、いや」
乙女
「いいから、このままじゃキリが無く
話し続けるだろ。気持ちを切り替えろ」
レオ
「……へーい」
なーんか問答無用で感じ悪いの。
でも歯向かうとプロレス技食らうから我慢しよ。
乙女
「……ちょっと強引過ぎたか……」
乙女
「……笑顔で西崎の話をされると
胸が正体不明の苦しみに襲われる……」
乙女
「見える攻撃ならガードできるんだが
なかなか難しいな、こういうのは」
乙女
「昨日は、きつく言ってしまった分
弁当を奮発してやるか」
乙女
「おにぎりを10個ぐらい握ってやろう!」
乙女
「バリエーションはなるべく飽きないように
してやらないとな」
………………
乙女
「ん、そろそろ起こしてやる時間か」
レオ
「ふぁー、おはよーございます」
乙女
「自分で起きれたのか、偉いな」
レオ
「乙女さんに伝えとくことあって」
乙女 無音
「?」
レオ
「今日は、西崎さんに弁当作ってもらうことに
なってるから、お弁当いらない」
乙女
「……何だと?」
乙女
「ここで何故西崎の名前が出てくる」
レオ
「うん、毎日おにぎりも飽きるんで
違うものつくってくれるってさ」
乙女 無音
「……」
レオ
「ちょっと顔洗ってくる」
……洗顔中……
レオ
「ふぅっ……頭がクリアになったぜ」
台所へ行く。
乙女さんが大量のおにぎりを食べていた。
レオ
「そ、それ朝飯?」
乙女
「誰かさんが私の弁当が食べれないというからな
自分で処理してるんだ」
レオ
「俺?」
乙女
「他の奴には弁当など作らない」
レオ
「そっか、すでに作っちゃってたか……ごめん」
乙女
「なに、構わない」
乙女
「お前もおにぎりばかりでは飽きるだろうからな」
乙女
「あぁ、どうせ私はこれぐらいしか握れないさ」
レオ
「そ、そんなに怒る事ないじゃない」
乙女
「怒ってないだろ。私は平常だ」
レオ
「じゃあ何で台所のスプーンがあんな曲がってるの」
乙女
「隠し芸の練習だ」
レオ
「まな板が叩き割られてるのも?」
乙女
「その通り」
乙女
「西崎に弁当を作ってもらうんだろ?
なら、そうしろ。これからもずっとな」
レオ
「ちょっと……」
乙女
「ネグセがあるぞ、西崎に直してもらえ」
バタン!!!!
乙女さんはおにぎり全部食べてから
さっさと学校へ行ってしまった。
レオ
「……」
なんで、こうまで言われなきゃならないんだ。
朝からすげぇ憂鬱なんですけど。
怒ったんなら鉄拳飛ばせばいいのに。
そっちの方がよっぽど乙女さんらしい。
いや、怒ってるなら必ず攻撃されるはずだ。
ということは、今の状態は怒りではなく……
なんなんだろう。
俺の今朝起きてからの台詞をリピートしてみる。
レオ
「うん、毎日おにぎりも飽きるんで
違うものつくってくれるってさ」
“毎日おにぎりも飽きるんで”
……多分、これだ。
怒らせるというより、
傷つけてしまったのかもしれない。
という事は、乙女さん今は
“いじけてる”のかな?
………………
――休み時間。
きぬ
「なんだオメー、やたらと元気ねぇな」
レオ
「……いや」
思い出した。
小さい時も、乙女さん時々口聞いてくれない時が
あったんだよな。
あれはビシビシ叩かれるよりもよっぽど辛かった。
……そして今も辛い。
謝っちまおう。
イガグリ
「悩み深き青年って感じだべ」
豆花
「ボクシングでは格好良かたのにネ」
きぬ
「基本的にこいつはヘタレと赤血球で
形成されてるからね」
レオ
「他にもいろいろあるわい。さっき
授業で出た単語を知っている風に使うな」
………………
昼休み。
学食で西崎さんと待ち合わせ。
西崎さんはどんなお弁当なんだろう。
善意だろうからきっと平均的なものなんだろう。
――ところが。
紀子
「はい、これ」
レオ
「ありがとう」
箱を開けてみる。
レオ
「!!」
な、なんか丹精込めて作りました
オーラが滲みでている!?
やべ、超美味そう。
特にこのタコさんのウィンナーなんて
俺漫画でしか見たことないね。
なんてバラエティ豊かなんだ。
――食べてみる。
う、思ったより普通だ!
でも一生懸命さが味を上乗せしている。
なんというか食べていて腹が膨れるより
幸せになれる弁当というか。
作ってくれた西崎さんに感謝しながら食べる。
レオ
「……ごちそうさま」
レオ
「美味かった。というか嬉しかった、ありがとう」
紀子 共通
「どー、いたしまして」
紀子
「あの……こ、……」
紀子
「これからも、つくって、こようか……?」
レオ
「……」
レオ
「ごめん」
レオ
「俺は、乙女さんにお弁当作ってもらってるから」
レオ
「確かに、毎日おにぎりだけどさ」
レオ
「なんか知らないけど、それになれちゃって」
紀子
「……そうなんだ」
西崎さんは、ほんの一瞬だけ残念そうな顔をした。
でもすぐに笑顔で。
紀子
「また、たべたかったら、いつでもいって」
レオ
「うん……ありがと」
……………………
レオ
「ただいま」
乙女
「……お帰り」
レオ
「乙女さんさ、来週から……といっても
来週は期末か」
レオ
「ま、とにかくまたお弁当ある時は
乙女さん作ってよ」
乙女
「……西崎の食べたんだろ」
レオ
「うん、でももう断った」
乙女
「何でだ? 不味かったのか?」
レオ
「まさか。美味しかったよ」
乙女
「じゃあ何で断る」
レオ
「乙女さんの方がいいんだ」
乙女
「理屈がわからん」
レオ
「ほら、あれだ……えーと」
レオ
「君のいない天国よりも
君のいる地獄を選ぶ! っていうじゃん」
乙女
「そ、それは……愛の告白みたいなものだぞ」
レオ
「えっ!? あ、あぁそうか、違うな」
乙女
「……んん?」
乙女
「って! 私の料理が地獄とでも言うのか!」
レオ
「痛ーーっ! だ、だから物の例え間違ったって!」
レオ
「なんつうか。贅沢言っちゃったけど
俺やっぱり乙女さんに弁当作ってもらいたいんだ」
乙女
「……そ、そうか? 可愛い事を言う奴だな」
レオ
「ほんと自分でもそう思うよ」
いつの間にやら、魂というか精神まで乙女さんの
尻に敷かれてるのかもしれない……。
乙女
「そう言うならまた作ってやるが……いいのか?」
レオ
「何が」
乙女
「いや、私に気を使って西崎のを断ったとしたら」
レオ
「確かにそれもあるけど」
レオ
「でも自分で考えた事だから。
西崎さんにもきっぱり言ったから」
乙女
「……レオ、お前……」
なでなで。
乙女さんに頭を撫でられる。
レオ
「な、何!?」
乙女
「分からないが、無性に撫でたくなった」
なでりなでり。
レオ
「なんだかずっと撫でられると照れるんスけど」
乙女
「うん、まぁじっとしてろ。命令だ」
やめないんかい。
なでなで。
て、照れくさい。
レオ
「あー……ところで、何の本読んでたの?」
乙女
「あ、こら」
“猪でも出来る料理教室”
レオ 無音
「……」
乙女
「……私は誇りがあるんだ。
ああ言われて黙っていられるか」
さすが乙女さんと言うか。
いじけながらもしっかり対抗してる。
乙女
「1度は諦めたが必ずおにぎり以外も作ってみせる」
レオ
「も、燃えてるなあ」
レオ
「でも、とりあえず乙女さんもさ、
明日からのテストに備えなよ」
レオ
「推薦、狙ってるならいい点とらないと」
乙女
「うん、そうだな……確かに明日の
テストも重要だ。分かった」
乙女
「何をやるにもテストが終わってからだ」
レオ
「お−っ!」
テスト前日のため勉強!
乙女
「レオ……期末考査が終わったら、どこか
私と遊びに行くか」
レオ
「?」
乙女
「考えてみれば、私が越してから何かと
慌しかったからな……」
乙女
「期末考査の鬱憤を晴らすのを兼ねて行かないか?」
レオ
「うん、いいね」
乙女
「よし。それではエスコートは私に任せてもらおう」
レオ
「うん、年上のお姉さんに任せる」
俺が考えると言っても、テスト前に余計な事を
考えるな、とかつっこまれそうだからね。
乙女
「どこへ行こうか……健康的な場所がいいな」
俺の顔を見ながら考える乙女さん。
……とにかく俺は集中あるのみだ。
祈
「皆さん、いよいよ期末考査です。
死力を尽して戦ってくださいまし」
祈
「……もしも、成績が振るわなかった場合……」
祈
「あぁ恐ろしい、私の口からは言えませんわ」
土永さん
「ま、夏休み無しは避けられねぇな。
もちろんそれに逆らえば退学だ」
祈 共通
「……と、土永さんが言ってますわ」
こんな風に担任に散々脅かされまくってから――
――期末考査、開始。
赤点とかそういうのは無いだろう。
平均点はとりたいところだぜ。
新一
「久々にガッコ来たと思ったら期末考査かよ……
おかしいなぁ。俺の人生バッドエンドに
進んでる気がするよ。何を間違えたんだろ」
きぬ
「まず顔が間違ってんな」
新一
「そんなどうしようもない事言うなよ!」
……悲惨な奴。
――試験全日程終了。
ただ試験しかしていないから、あっという間に
時間が経った気がする。
きぬ
「つか、試験中ふと前を見るとよっぴーの
暑苦しい後頭部が目に入るわけですよ」
きぬ
「なんかよっぴーの髪をじっと見てると
エビ天食いたくなってきてさぁ」
レオ
「あ、その気持ち良く分かるかも」
良美
「ええ、そ、そうかなぁ」
きぬ
「試験中、そのせいでお腹空いて力がでなかった。
だからテストの点数が悪かったらよっぴーのせい」
良美
「カニっちなんか名前からしてお腹空くのにぃ」
なごみ
「海老だの蟹だの鮫だの海鮮類の多い事で」
レオ
「そう言うお前は単子葉植物じゃないか」
なごみ
「(プイ)で、お姫様はテスト終了日になんで
召集かけたんですか?
まったりするだけなら帰りたいんですが」
きぬ
「家が恋しいか? 帰ったらいつもみたいに
ナメクジ探してはジワジワと塩かけてんのか」
なごみ
「お前の目ん玉の中に塩をかけてやろうか?」
きぬ
「へっ、ヤンキーは考える事が殺伐としてるぜ」
エリカ
「パーッとカラオケでも行かないかなーと思って」
きぬ
「おーっ! いいねぇ。ストレス発散したいもんね」
乙女
「カラオケか……歓迎できる行為ではないんだが
まぁ、試験後だし。それもいいだろう」
なごみ
「あたしは帰ります。歌うのは好きじゃないんで」
良美
「私もあんまり得意じゃないんだよねぇ」
良美
「椰子さん、良かったら一緒に歌おうか?」
なごみ
「佐藤先輩と? 嫌ですね」
レオ
「じゃあ俺と歌ってみる?」
なごみ
「キモいからいいです」
きぬ
「デュエットを嫌がる姿勢の方がキモいと
思うんだけどねーボクは」
なごみ
「うるさい、お前は歌いすぎて脳の血管切れて死ね」
バタン!
良美
「うぅ……なんか私嫌われてるっぽい?」
レオ
「俺の方がさらに嫌われてるから安心していいよ」
そしてカニは普通に死ねと言われてるレベルだし。
さらにそれを気にしてないカニも凄い。
気が強いって何かとお得な気がしてきた。
エリカ
「私がなごみんを引っ張ってもいいけどね
まぁ、ネクラっぽいから力づくも可哀想でしょ」
乙女
「私も人前で歌うのは、あまりな……
たいして上手いわけじゃないからな」
エリカ
「なんだかんだ言いながら結局来るでしょう。
あーいうタイプがマイク握ると凄いんだからね」
レオ
「だねぇ、いるよねそういう人」
乙女
「聞こえてるぞ。私はお前達がハメを
外し過ぎないようにお目付け役として行くのも
兼ねているんだからな」
スバル
「オレは部活の練習あるから。フカヒレは
補習くらってる、レオが男代表で行ってこい」
レオ
「なんだ、久々にお前の歌聴けると思ったのに」
スバルはグラウンドに行ってしまった。
エリカ
「30分後に出発。各自雑務を終わらせておいて」
…………
紀子
「こん、にちわ」
良美
「こんにちは。西崎さんだよね。執行部に用事?」
紀子
「つしま、くんいますか?」
良美
「あぁ、対馬君ね」
良美
「これから遊びに行く事になっちゃったんだ」
紀子 無音
「……」
良美
「生徒会執行部の皆でね。ごめんね、それじゃあ」
良美
「表の掃除終わったよー」
エリカ
「誰も来客来なかったわね? テスト後に
陳情持ってくるケースも多いからねー」
良美
「ううん、別に何も無かったよ」
エリカ
「そ。じゃあ遠慮なく遊びにいきましょうか」
乙女
「やる事はやったんだ。遊ぶ事も大切だな。
ただし、酒は注文するなよ」
……………………
カラオケは盛り上がっていた。
カニが洋楽なのは分かるが姫もそっちかぁ。
そして乙女さんは、普通に演歌とか入れてるし。
普通の! 俺のように普通のJポップの
歌い手はいないのか。
カニが洋楽に飽きてアニソンに来れば
俺もはじけやすいんだが。
次の曲のイントロが流れる。
エリカ
「おっと、これも私だ。エアロ最高」
乙女
「おい2曲続けていれるな!」
レオ
「姫も普通に上手いな……声が綺麗な人は得だぜ」
乙女
「私も歌うぞ。……佐藤、“水の国の女”
いれてくれ(↑自分でいれられない)」
良美
「はいはい。えーと……」
俺と佐藤さんは盛り上がるやつらをよそに
細々とやっていた。
良美
「やっぱりカニっちは歌上手いねぇ」
レオ
「あいつはカラオケの場数が違うからね」
レオ
「頭が悪い分こういうのは得意なんだよ」
良美
「あ、次私の番だ」
やっとJポップ来た、さすが佐藤さん。
あーでも普通に上手いでやんの。
乙女
「おい、恥ずかしがってないで歌えレオ」
体育会系が何か言ってる。
乙女
「よし、私がデュエットしてやろう」
エリカ
「あらあら、優しいお姉ちゃんだこと」
……………………
レオ
「楽しかったけど疲れたよママン」
ママンは外国だけどさ。
今、ギリシャにいるんだっけ?
いやトルコか?
ともかく地図で言うと左の方だ(超アバウト)
風呂でも入るか。
あ、乙女さんが先か。
さすがにそう何度も入るほど馬鹿ではない。
レオ
「……ん?」
乙女
「♪湖畔の影から、誰かが見てる あいつの影」
まーだ歌ってるよ。
元気な人だな。
乙女 共通
「♪湖畔の影から、誰かが見てる あいつの影」
つうか一人で輪唱してるよ。
プロだな。
………………
乙女
「よし、私は寝るぞ。お前も寝ろ」
レオ
「って、乙女さんまだ21時だぜ? 小学生だって
起きてると思う」
乙女
「明日は私と出かけるだろ? 朝5時起床だ」
レオ
「早!」
どこへ連れて行くつもりなんだ。
いきなり冷水をぶっかけられた。
レオ
「な、なんだ!?」
目が覚めるとそこは洗面所。
乙女
「いつまでも起きないから抱き上げて
運んできた」
恐ろしい。
気付かない俺も無用心だが、そんな俺を
軽々と運べる乙女さんもやはり恐ろしい。
乙女
「ぐずぐずしている暇はないからな
早く行かないと終わってしまうぞ?」
レオ
「5時ジャスト……」
てっきり釣りかな? とか思ったけど。
終わってしまうって何だろう。
レオ
「こんな朝早くに何がやってるって言うのさ」
乙女
「いいからさっさと顔を洗え、タオル持って
待機していてやる」
レオ
「……ん」
乙女
「ぐずぐずしていると私が服を脱がせて
着替えさせるぞ」
レオ
「お願いします」
乙女
「む? では覚悟しろ。剥いてやる」
レオ
「じょ、冗談だってばさ」
乙女
「照れるぐらいなら、言わなければいいのにな」
………………
レオ
「なるほど……こう来たか」
乙女
「朝の市場というのは賑わっていて実にいい
私はこういう所が好きなんだ」
乙女
「どうだ、周囲に活気があると自分も
元気になるだろう」
レオ
「そうだね。いつもは寝てるから
こういう所実際に来たのは初めてだよ」
乙女
「社会勉強にもなったか。それは何よりだ」
確かに健康的だよな。
朝の空気は気持ちが良いし。
乙女
「後、このとれたての野菜や海の幸を
色々見て買うのも好きだな。美味しいんだぞ」
乙女
「食べたいものがあれば、好きなのを買うといい」
乙女
「誘ったのは私だ。お姉ちゃんがおごってやるぞ」
レオ
「蟹を買い占めよう」
乙女
「学生らしい買い物をしろ!」
やっぱり怒られた。
乙女
「私の実家では活きのいいのを父様に
料理してもらうのが格別でな」
ん、料理?
レオ
「……ところで」
レオ
「乙女さんが実家にいた頃は、叔父さんが
料理してくれたわけだよね」
乙女
「母様は洒落にならないくらい料理ヘタだからな」
それはあなたを見てれば分かります。
レオ
「……この買ったもんはどうするの?」
乙女
「当然、料理して美味しく食べる
それこそが志半ばで散って行ったこの
蟹へのせめてもの礼儀だ」
レオ
「その蟹がどんな志を抱いていたかは
置いといて……」
レオ
「誰が料理すんの?」
乙女
「……あ」
乙女
「し、しまった。私ともあろうものが」
乙女
「すまない根本的なミスを……実家とは違うんだな」
レオ
「あ、いや。そんなしょんぼりしなくても」
レオ
「まぁ料理の方は心当たりがあるしOKだよ」
乙女
「……あの男に頼むのか」
レオ
「そう。クールでイナセなあの男」
レオ
「だから気にせず、もう少し奥の方まで
行ってみようよ」
乙女
「そうだな」
……………………
レオ
「という事で助けてディアマイフレンド!」
スバル
「で、料理が出来るオレが呼ばれたわけか。
ま、いいけどな。オマエの頼みなら」
スバル
「食材もいいもの揃ってるしな。
腕を揮って美味いもん作ってやるぜ」
レオ
「さすが。俺も出来るだけ手伝う」
スバル
「んで、朝市の後はどこへ行ったんだ?」
レオ
「果樹園」
スバル
「それそれは。とんでもなく健康的だな
さすが乙女さんエスコート」
レオ
「俺は乙女さんの食い意地を見た気がするよ」
レオ
「もぎたての果実食い放題だからなぁ」
レオ
「……後、その果樹園、奥の方では
コーチンって言うんだっけ? 鶏飼育しててさ」
レオ
「その時、すごく怖い事があった」
………………
なにやら鶏が100羽ぐらいいるぞ。
乙女
「さて、ここではある事を体験できるんだ」
レオ
「……ある事?」
鶏を目の前にしてやる事はなんだろう。
乙女
「生きている上でこういう事は体験しておくに
越した事は無いからな」
レオ
「はぁ」
乙女
「自分が他の生き物達の犠牲の上で
生きていると言う事を知らなければならない」
レオ
「それって、まさか」
乙女
「好きな鶏を選べ」
レオ
「いやちょっと待って」
乙女
「心が痛むだろうが、その痛みは知っておけ」
レオ
「い、命をとるんだよね?」
乙女
「結果的にそういうことになるな。
だがそれを私達が食べる、食物連鎖だ」
鶏を見る。
つぶらな瞳をしていた。
レオ
「それはちょっと、出来ないというか」
乙女
「ならば手本を見せてやろう」
レオ
「……乙女さん」
乙女
「すまんな」
乙女さんが鶏に謝りながら手を伸ばす。
そして、そのまま鶏をスルー。
……ってあれ?
その下に置いてある卵を手にとった。
乙女
「もらうぞ」
……な、なんだ、卵をとるのか。
レオ
「そ、そっちかぁ……」
乙女 無音
「?」
レオ
「てっきり鶏そのものを殺れ、と
言われるのかと思った」
乙女
「やってみるというなら話してみるが……
私はそういうの、お前が嫌がるものだと思ったぞ」
レオ
「あ、うん、だから卵だけでいいから、ね?」
……………………
レオ
「で、コツコツ卵取りを経験してきた」
スバル
「微笑ましいねぇ。で、それで終わりか?」
レオ
「最後に2人乗りのカートに乗って遊んできた」
スバル
「ようやく食い物に関係ない場所が出たな。
しかしカート場でシめとは……乙女さんらしい」
レオ
「あぁ、バリバリのアウトドアだ」
……………………
乙女
「やはり伊達が作ってくれていたのか」
スバル
「海の幸を中心としたメニューに仕上がったぜ」
スバル
「そんじゃあな」
レオ
「っておい、お前も食っていけよ」
乙女
「そうしろ。大勢で食べた方が美味しいものだ」
スバル
「あー、悪ぃ。予定入ってるんだわ。
もう時間いっぱいでね」
レオ
「そうなのか? ならもっと早く言ってくれよ」
スバル
「じゃあな」
あーあ、帰っちゃった。
乙女
「伊達も用事があるというのなら仕方ないが
なんだか申し訳がないな」
レオ
「うん」
乙女
「いつか借りは返そう。今はこの料理を
冷めないうちに食べる事が礼儀だ」
レオ
「確かに」
――食事タイム。
乙女
「うん、美味いな」
レオ
「素材も料理人の腕もいいからね」
乙女
「ところでレオ」
レオ
「? どうしたの乙女さん改まって」
乙女
「今日1日はどうだった?」
レオ
「うん。ハラハラしたりもしたけど」
レオ
「楽しかったよ」
乙女
「――そうか、楽しかったか」
レオ
「なんでそんなホッとしてるのさ」
乙女
「私は頭が固いと言われてるからな。
一緒にいてつまらないかと思って心配してたんだ」
レオ
「そ、そんな弱気な心配、乙女さんらしくない」
乙女
「はは。実際に真面目すぎてつまらない、とは
言われる事はあるしな」
レオ
「……」
乙女
「だからって私は自分を変える事は無い。
他人がどう言おうが、これが貫いてきた
自分自身なんだからな」
乙女
「でもな、何故かお前にだけは……
つまらないと言われたくはなかった」
乙女
「だから、楽しかったと言われて心底良かった」
乙女
「私もレオと遊んで楽しかったぞ」
乙女
「また、遊ぼうな」
レオ
「う……」
レオ
「うん」
この人……心中を素直に話すなぁ。
その真っ直ぐな目で見られるとドキリと来る。
でも本当今日は楽しかった。
また、どこかへ行こう。
なにやら硝煙の匂いがするな。
レオ
「うわ、煙ってるよ……何やってるの」
乙女
「見て分からないか、料理だ」
レオ
「な、なるほど……」
なにやら黒焦げになっている物体がある。
これが料理なんだろう。
乙女
「実戦あるのみと思いやってもな……
どうにも上手くいかん」
乙女
「伊達に教わるのは、年上の誇りが許さないしな」
レオ
「料理に関してはキャリア下なんだしいいじゃん」
乙女
「いやだ」
……ここらへんが頭固いというか。
乙女
「包丁捌きは自信あるんだがな」
大根を真っ二つする乙女さん。
その大根が、また元通りにピタッとくっつく。
乙女
「すごいだろ」
レオ
「いや、鮮やかだけどそれは包丁捌きと違うから」
乙女
「だったらこれを切り刻めばいいだけだろう」
ガガガガガガガ!!!!
レオ
「おぉぉ、すげぇ早い」
乙女
「どうだ」
レオ
「完璧だ」
まな板も一緒に切れている事を除けばだけど。
レオ
「だいたいどんな味なんだろう」
無防備に黒いものを口にいれてみた。
レオ
「――うっ!」
これは不味い!
乙女 無音
「……(じーっ)」
しかし乙女さんにそれをハッキリ言うのは
可哀想な気もする。
とはいえこれを美味いと言うのは、世の中の
美食に対して失礼でもある。
レオ
「う、美味い?」
乙女
「疑問文で私に聞かれてもな」
乙女
「美味いのか?」
レオ
「うぅ……う、うん」
乙女
「ふふ、じゃあこれを毎日作っていいんだな?」
レオ
「あぅ」
乙女
「はは、冗談だ。意地悪しただけだ。
お前が無理しているのは分かったからな」
乙女
「何、料理はそう簡単にマスターできるもの
じゃないのは良く分かっている。
これからコツコツやっていくさ」
レオ
「うん」
乙女
「それにしても、優しいなお前は。
いちいち私に気を使ってくれて」
乙女
「だが、それも嘘は嘘だ。こういう場合でも
正直に言ってくれ」
レオ
「分かった」
レオ
「……ところでこれ何作ろうとしたの」
乙女
「ラ、ラーメン?」
レオ
「疑問文で俺に言われてもな」
このカチカチの固形物は麺だったのか。
先は恐ろしく長そうだ。
今日からはテスト返却期間だ。
祈
「それでは英語を返却しますわ、70点以下の人は
もっと頑張りましょう。40点以下の人は
南国の島へご招待ですわ」
うわ、怖。
祈
「対馬さん、体育武道祭での活躍は見事でしたけど
学問がおろそかになってはいけませんわ」
レオ
「う、すいません。……ちぃ、68点か」
土永さん
「我輩が試しにやってみたら70点だったぞ」
オウムに負けた……。
……………………
新一
「さぁ帰ろうぜーっ。ってあれ、レオは?」
スバル
「いねーな。学食かもな。オレのレオセンサーが
そう言っているぜ」
期末の点数が微妙だったので
海を見ながらアフタヌーンティー。
午前授業だから人が少なくて快適だぜ。
たまには1人で海を見て黄昏るのもいいものだ。
将来の事とかを潮風に当たりながら考えよう。
――7分後。
レオ
「そろそろ1人でいるのに飽きてきた……」
パシャッ!
レオ
「ん?」
紀子
「こん、にちは」
レオ
「ああ、西崎さん」
レオ
「いきなり激写は勘弁してくれよ、
俺マヌケな顔してなかった?」
紀子
「ううん。かっこよかった」
レオ
「物憂げな顔似合ってるのかも……」
我ながらおだてられると弱い。
紀子
「す、すわって……いい?」
レオ
「ああ、どうぞ」
西崎さんは学食のトレイにプリンを載せてる。
3個も。
レオ
「好きなんだ、プリン」
紀子
「おいしい♪」
紀子
「きまつ、どうだった?」
レオ
「む……」
触れられたくない話題を。
レオ
「お嬢さん、人にモノを尋ねるときは
まず自分から、と言わないかい?」
紀子
「うん……いまいち」
レオ
「あ、ほんと?」
俺の顔が輝きだす。
そうだよなぁ、こんな事言ったら失礼だけど
この娘それほど秀才には見えないもん。
レオ
「歴史とか返ってきた?」
紀子
「うん……」
あ、しょんぼりしてるぞ、こりゃ勝てるかも。
レオ
「差し支えなければ何点台かだけ」
西崎さんが指を4つ立てる。
レオ
「よ、44点なんだ……。でも大丈夫
次はいい点とれるよ」
ちなみに俺は70ジャスト。
紀子
「ちがう、たすの」
ん、足す? えーと片手ずつそれぞれ4だから……
レオ
「は、80点?」
紀子
「いつもは、もっといくんだけど」
レオ
「それで悪いなんて贅沢というか物が豊かになった、
ユビキタス社会(←なんとなく使ってみたかった)
に向けての弊害というか……」
紀子
「すうが、くとかは……ぜんぜんできないけど」
あー、計算とかすっごく苦手そう。
レオ
「よし、24+37は?」
紀子
「うぅ……え、と。4+7……いち、に……」
レオ
「あ、いやそんな涙目になって指折り数えなくても」
なんだか俺がイジメてるみたいじゃないか。
海から涼しげな風が吹いてくる。
レオ
「んー。いい風、そしていい天気だよね――……」
レオ
「雄大な空を見てると期末の微妙な
点数が吹き飛ぶようだよねぇ」
乙女
「それは現実逃避というんだ、馬鹿者が」
コン、と刀で頭を叩かれる。
レオ
「乙女さん」
乙女
「ここ、座るぞ」
レオ
「どうぞ」
紀子 無音
「(こくこく)」
乙女
「それ、もらうぞ」
レオ
「だめ」
乙女
「見回りでお腹が減っててな。今日は手持ちが
少ないので助かった」
あぁ、俺の楽しみに取っていたハムサンド!
レオ
「…だめって言ったのに人のサンドイッチ強奪した」
レオ
「風紀委員が……人のサンドイッチ……強奪した」
乙女
「他のやつにはやらないさ。お前だからやるんだ」
ここらへんがお姉ちゃん気質たっぷりな人だ。
乙女
「西崎は期末良かったようだな、偉いぞ」
紀子
「えへへ」
乙女
「お前はイマイチだったようだな」
レオ
「イマイチだった所か、イマサンだった」
乙女
「やれやれだな。夏休みは、帰郷しようとも
思ったが私はこっちに残ろう」
乙女
「私が勉強その他いろいろ教えてやるぞ」
紀子 無音
「……」
レオ
「はは。嬉しいのか辛いのか」
乙女
「西崎、プリン食べないなら私が処理しようか?」
紀子
「あ、ううん、た、たべます」
人のプリンまで食べようとした……。
さすがに奪ってはいないけど。
乙女
「西崎は村田と仲良いんじゃなかったのか?」
紀子
「よーへー……もうくちきいてない」
紀子
「たぶん、あっち……わたしのこときらってる」
スバル
「――……とか言ってるぜ」
洋平
「たいした聴力だな」
スバル
「なんだよ洋平ちゃん。まーだグダグダ
引きずってんのかぁ?」
洋平
「あぁ。すっかり気まずくなってしまってな
タイミング逃した」
洋平
「女は長引くから難儀だよ。
その点伊達など、1度揉めそうになったけど
すぐにこう話せるから気楽だよ」
スバル
「レオを殴ったことか? あぁ、ありゃ
レオ自身でケジメつけて終わった事だからな」
スバル
「こっちがいつまでもグタグタ言うコタぁねぇ」
スバル
「とにかくあの娘には謝りな、謝ったもん勝ちだぜ
オレにしちゃ珍しく仲間以外に助言してるんだ
素直に聞いときなさいってな」
紀子 無音
「(ぱくぱく)」
乙女
「幸せそうに食べるやつだな」
レオ
「そんなに美味しかったっけ。学食のプリン」
紀子
「たべて、みる?」
西崎さんが、スプーンでプリンをすくって
俺に差し出す。
乙女 無音
「……」
……これを俺に食えと?
多分、思惑とかそういうの何にもなく
親切に食べろ、と言ってくれてるのだろうが……。
乙女 無音
「(はむ)」
レオ
「あっ」
紀子
「あっ」
乙女
「はは、レオが迷ってたみたいなので横取り
させてもらった」
レオ
「なんて強引な」
乙女
「体育会系を甘く見るからだ」
紀子 無音
「……」
スバル
「……あーあ、グズグズしてるからあーなるんだぜ」
洋平
「ふん。対馬のどこがいいのか理解に苦しむ」
スバル
「そーいうコト、言わない所じゃねーの?」
洋平 無音
「……」
エリカ
「あ、対馬クン達だ。何やら面白そうな場面じゃない
ほら、来て良かったでしょなごみん」
なごみ
「別に」
良美
「対馬クン達、ここでお昼?」
なごみ 無音
「(……あそこに切り込むのか。この人も
頑張るというか……)」
レオ
「佐藤さん達も来てたんだ」
紀子
「ふたり、なかいいんですね」
乙女
「幼い頃からの付き合いだからな。だよな、レオ」
レオ
「ん、あぁまぁね」
いや、ついこの間まで俺が記憶を
封印してたんだけど。
紀子 無音
「……」
それにしても乙女さん、随分今日ハイだなぁ。
良美
「うぅ……話しかける隙間が無いよぅ」
エリカ
「ふむ。対馬クン武道祭では男を見せたから
少し人気出てきたわね」
エリカ
「なごみんはどう、センパイが彼氏とか」
なごみ
「全く興味が無いですね」
エリカ
「1人で夏を過ごすんだ。寂しいね、なごみん」
なごみ
「別に? 寂しい寂しくないはあたしが
決める事だと思いますし」
エリカ
「ふふ、その通り。そして実は寂しがってる」
なごみ
「お姫様は人にあーだこーだ言うより
自分の事どうにかしたらどうですか?」
エリカ
「ま、確かに私もボーイフレンドいないけどね
よっぴーがいるし。それで充分満ち足りてるわ」
なごみ
「じゃあ佐藤先輩とお幸せに」
エリカ
「なごみん、暇なら私の家に来る?
綺麗な着物着れて、白いご飯を沢山食べれるわよ」
なごみ
「昔の人さらいみたいな言い方しないで下さい
身の危険を感じるので辞退します」
エリカ
「ふふ……私はいつでも歓迎するからね
可愛い後輩だもん」
なごみ
「露骨に胸を見て話さないで下さい」
紀子
「あ、61だ!」
レオ
「え、今頃になって!?」
……ふぅ、今日のテストも今イチだったな。
別に悪くはないが良くも無い。
次はもっと頑張ろう。
エリカ
「あ、対馬クン。いたいた
ちょっとこっち来なさいよ」
なんか命令形。
期末試験も全科目満点という才媛に
腕を引っ張られる。
レオ
「なんでいきなり俺を?」
エリカ
「面白いものが見れそうだからね
当事者にも見せてあげようかなって」
レオ
「ん?」
エリカ
「急いでるから飛ぶわよ」
レオ
「っておい、ここ2階だぞ!」
姫はザッ! と窓から飛び降りた。
レオ
「ちっ」
とんだ武道派のお姫様だ。
なんだか知らないが行くっきゃねぇ。
俺も続いて飛び降りる。
足にずん! と衝撃が走った。
レオ
「あ痛……」
エリカ
「ほら、こっちこっち」
スカートをギリギリの位置でヒラつかせながら
ステップしてる姫。
レオ
「なんなんだ一体……」
エリカ
「ここから気配と足音を消して歩いてね」
レオ
「サラリと難しい要求しないでくれ」
エリカ
「風下は……こっちか……まわりこむわよ」
レオ
「……?」
茂みにかくれる俺と姫。
レオ
「ここで一体何が?」
エリカ
「声が大きいって! これからは
あれよ、潜入捜査の軍人っぽくいくわよ
私将軍(ジェネラル)、対馬クン大尉ね」
レオ
「よく分からないけど」
エリカ
「いいから分かっとくのよ、殺すわよ大尉」
厳しい軍隊だな……。
というか、姫と肩を並べて密着してて
結構幸せな気分。
顔の距離も近いし。
レオ
「……? 将軍、誰か来たのであります」
エリカ
「それが今回の作戦……コードネーム
“ピーピング・ア・ゴーゴー”の目的ってね」
レオ
「将軍もネーミングセンス微妙ですね」
レオ
「グフッ! しまった、つい声に出してしまった」
紀子 無音
「……」
乙女 無音
「……」
レオ
「乙女さんと西崎さん」
エリカ
「さっき2人でこっちに歩いてくるの見えたのよね。
なんか修羅場な雰囲気が予想されるでしょ」
レオ
「将軍殿は結構暇人なのでありますか?」
エリカ
「時間を割く価値はあるのよ。乙女センパイの
弱みを握れるかもしれないでしょ」
レオ
「つうか弱みを握ってどうするのさ?」
エリカ
「1度とことんイジメてみたいからね。
乙女センパイとなごみんは」
ケロッとこの人も凄いこというよな。
いわゆるサディストなんだろう。
レオ
「そーいや修羅場……って?」
エリカ
「んー。私も全然気付かなかったけどね。
昨日なごみんがそんな事言ってた」
なごみ
「対馬センパイをめぐって2人で修羅場って
感じですね。滑稽だ」
エリカ
「私もそーいうの鈍い方らしくて
良くは分からないんだけどね」
エリカ
「とにかく、楽しそうだから」
乙女
「ん――……相変わらず海風が心地よいなここは」
紀子
「とり」
乙女
「あぁ、あれはカモメだな」
カシャカシャ
西崎さんが素早くシャッターを押している。
紀子
「えへ、ここらへんどーぶつおおいから」
乙女
「写真の撮り甲斐がある、か」
紀子 共通
「うん」
乙女
「松笠の海は、神奈川の中では
抜群に綺麗だからな……市長も保護に
力を入れているという」
エリカ
「……なんか世間話みたいね」
レオ
「将軍、こんな所でチョコレート食わないで下さい」
甘ったるい匂いが……。
エリカ
「暑くて溶けちゃいそうでさ……
あ、面白くなりそうよ」
乙女
「で、なんだ西崎。話とは?」
紀子
「くろがねせんぱいは……」
乙女
「はは。ゆっくり話して大丈夫だぞ。私が?」
紀子
「つしまくんを、すきなんですか?」
乙女 無音
「っ?」
レオ
「な……」
周囲に人はいない。
蝉の声も止んでいる静けさの中、船の警笛が鳴る。
西崎さんのセリフに乙女さんがわずか
ばかり動揺しているように見えた。
もちろん、俺も動揺している。
エリカ
「え? あれ? これホント危険な
雰囲気じゃない? こんなトコ見れるなんて」
当事者でもない姫が勝手に一番動揺していた。
というか、はしゃいでいると言うべきか。
乙女
「レオは……可愛い弟とも思ってるが」
紀子 無音
「(ふるふる)」
紀子
「おとこのこ、として、すきなんですか?」
乙女
「……! う……」
乙女
「いや、私は……」
拳法で全国優勝するぐらい強い乙女さんが、
ただ1つの質問にタジタジになっていた。
乙女
「……む、疑問文を疑問文で返して悪いが。
それと……西崎と、関係があるのか?」
紀子
「わたし、すきになりそうだから、つしまくん」
乙女
「なっ……!」
レオ
「え、マジで!?」
エリカ
「ヒュー、やるじゃん」
紀子
「でも、くろがねせんぱいが、つしまくん
……すきなら……あきらめますから」
紀子
「けんかするの、ぜったいやだから……」
レオ
「なんて健気な……」
レオ
「ゴトリ」
エリカ
「今の音なに?」
レオ
「俺の心が揺れ動いた音」
エリカ
「本当に好きなら奪い取るもんだと思うけどね
諦める? フツー」
レオ
「そんな人ばっかりじゃ世の中疲れるよ」
エリカ
「だからこそ面白いんじゃない」
乙女
「そうか……真剣なようだな」
紀子
「はい、もちろん」
レオ
「ゴトゴト」
エリカ
「揺れてる揺れてる」
レオ
「……なんてふざけてるけど俺、西崎さんの事は
好きかと言われれば……別にそれほど」
エリカ
「しっ、乙女さんが話すターンよ」
乙女
「その真面目な気持ちには私も
真面目な態度で答えねばならないな」
乙女
「……私は……」
乙女 無音
「……」
乙女
「……すまん、よくわからないんだ」
乙女
「でも、こんな曖昧な態度は良くないと思う」
乙女
「だから、事実を話す。お前とレオが話してると
腹が立ったのは確かだ」
乙女
「レオは私が面倒を見るんだ……と思ってしまった」
乙女
「レオに触るなとも思ってしまった」
乙女
「そしてお前に張り合ってしまった」
エリカ
「ブラコンか、好きかの2択のような
気がしないでもないわね」
レオ
「……」
乙女
「私も……す、好きになりかけというのが
正直な所だと思う」
乙女
「……ま、まぁこんな所だな」
紀子
「それじゃわたし、やっぱりあきらめます」
乙女
「おい。いいのか、そんな簡単に」
紀子
「そんなこと、ききかえしたら、だめです」
乙女
「うっ……!」
紀子
「くろがねせんぱいも、つしまくん、も
やさしくていいひと……」
紀子
「なかよくしてください」
紀子
「それじゃ」
乙女
「西崎……!」
乙女
「……なんだ……私はやな奴だな」
乙女
「今喜んでしまった。レオは私のものだ、と」
乙女
「なんて暗い考えだっ! 情けない!!」
レオ
「なんか頭を抱えて悩んでるぞ……」
エリカ
「にしても対馬クン愛されてるわねー。私びっくり」
レオ
「俺もびっくりだよ」
レオ
「実は姫も俺の事、好きとかない?」
エリカ
「舞い上がるなバカモノ。んなわきゃーない」
レオ
「……ど、どうすりゃいい? 将軍」
エリカ
「いったん退くわよ大尉」
レオ
「そうだね。了解」
俺と姫が見つからないよう前かがみで立ち上がる。
エリカ
「なんてね。当事者も参加しなさい」
レオ
「は?」
エリカ
「レバー前入れ+強K、お嬢様キック!」
レオ
「それヤクザキックだ!」
姫に吹っ飛ばされた。
レオ
「あててて……」
乙女
「レオ……お前……」
姫め、本人の目の前に蹴りこみやがった。
乙女
「き、聞いていたのか……」
乙女
「場の雰囲気に呑まれ気配に気付かないとはな」
レオ
「あ、あの、俺……」
乙女
「とりあえず盗み聴きしていた制裁だ!」
レオ
「ありがとうございますっ!」
レオ
「ぐふ……ぐ……それ、で……乙女さん……
その……さっき」
乙女
「あぁ……」
乙女
「ん、ごほんっ」
なにやら咳払いした。
乙女
「すーはー」
そして深呼吸。
乙女
「……聞いての通りだ……私はお前の事が
好きかもしれない……驚きだろ」
乙女
「お前は、……その……私の事をどう思うんだ」
乙女
「というか、お前だけ聴いていたのは不公平だ
聞かせろ、お姉さん命令だ」
レオ
「う、うん」
レオ
「乙女さんのことは」
乙女 無音
「……」
レオ
「お姉ちゃんとしては大好きだ」
レオ
「女の子としては、なんていうか……
今まで無意識にブレーキかけてたと思う」
乙女
「ブレーキ?」
レオ
「うん。一応姉代わりなんだし……あんまり
好きになると、その、まずいかなって」
レオ
「でも、別に従姉弟同士はいけないわけじゃないし
乙女さんが俺のことそう言ってくれるなら……」
乙女
「なんかずるい言い方だな……」
レオ
「そ、そう?」
レオ
「でも、正直西崎さんか乙女さんかって
言われたら俺は乙女さんを選んでた」
レオ
「西崎さんはいい娘だと思うけど
それはそれ、これはこれだもん」
乙女
「ん……そうか」
乙女
「レオも私の事を満更でもないのか」
レオ
「うん」
乙女
「それは……あは、嬉しいな」
乙女
「お互いこういう気持ちだと分かると、こう
胸の奥があったかいな」
レオ
「乙女さん……」
エリカ
「乙女センパイの照れた顔。絶対撮影しとかないと」
パチリ
乙女
「んん? 今の音は」
ズカズカと姫が隠れている方に歩き出す乙女さん。
エリカ
「まずっ、バレた!」
だっ! と姫がダッシュする。
テレビで見た狩りの時のチーターみたいな
敏捷さで姫はアッと言う間に消えていった。
乙女
「蟹沢かと思えば……手に負えない姫君だな」
乙女さんがステップしながら足を慣らす。
乙女
「おい待て!」
凄いスピードで追っていく乙女さん。
レオ
「……」
1人取り残された。
こんなテンションで1人残されても。
姫に邪魔された……。
乙女 共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「……眠い」
乙女
「誰だって眠い。起きろ、ほら」
ゆさゆさゆさ。
レオ
「う〜〜分かった起きるよ」
乙女
「起こしてやってるのにそんな
拗ねた声を出されてもな」
レオ
「……ふぅー」
洗顔終了。
乙女 共通
「タオルだ」
レオ
「はい」
乙女
「着替えはアイロンかけて出しておいたからな」
レオ
「ウィース」
乙女
「朝飯はそこに置いたぞ」
サッ! と学校へ行ってしまった乙女さん。
うーん、昨日の松笠公園での
プチ告白大会からずっとこんな調子だ。
そのわりに、朝飯はいつもより量が多いし。
ティッシュもハンカチも用意されてるし。
靴もパリッと磨かれている。
レオ
「うーん」
せっかくだからもっと話したいのに。
微妙に乙女さんに避けられているというか。
でも乙女さんが怒ってるワケじゃないんだよな、
この周りの状況から察するに。
………………
校門の所で乙女さんと話してみようかな。
レオ
「お前先行っててくれ。乙女さんと話がある」
きぬ
「サンフランシスコン」
レオ
「ねぇカニ。今微妙に俺を侮辱しなかった?」
きぬ
「ボクはオーストラリアの地名言っただけだもんね」
レオ
「お前って喋るたびにアホさが露呈していくな」
乙女 無音
「……」
いたいた。
相変わらずキリリとした目つきで門番をしている。
レオ
「乙女さん」
乙女 無音
「! ……」
乙女
「何か特別な用でもあるのか?」
レオ
「あ、いや、別に」
乙女
「ならさっさと教室へ行け。私も仕事が忙しい」
ぷいっと横を向いてしまう。
なんだかなぁ。
とはいえ突っかかってお仕事の邪魔を
するほど俺は青くない。
レオ
「分かった、それじゃ」
乙女さんに背中を向け教室の方に向かおうとする。
サッ! と何かに撫でられた感触はあった。
レオ
「ん? 今のは……?」
振り返ってみる。
乙女
「寝癖があったので直しておいた」
レオ
「あ、うん。ありがと」
いつもみたいに正面から直してくれればいいのに。
優しいんだか冷たいんだか。
……………………
さて、悩みを話してみたいけど。
いつもいつもスバルを頼るのも悪いよな。
自分で考えて行動してみよう。
エリカ
「さて、今日明日と生徒会は夏休み前の
雑務をこなします。夕方まで悪いけど付き合って」
きぬ
「別に悪い、なんて思ってねーくせに!」
エリカ
「あはは、まーねぇ。一応ノリとして
言ってみたって感じ?」
きぬ
「つか姫、よく見ると体に生傷多いぜ」
エリカ
「ポン刀持った風紀委員に追い回されてねー」
――――そして、あっという間に夕方。
きぬ
「帰るべーよ」
レオ
「もう少し上品に言いなさい…ってのはまぁいいや」
レオ
「俺、少し残っていくから先帰っといて」
文句を言うカニ達を先に帰宅させる。
俺は乙女さん待ちだ。
ふと、前を見る。
1年生のカップルだろうか。
手を繋いで帰っていた。
レオ
「うーん……いいなぁああいうの」
乙女
「……悩ましいな……」
来た、都合のいい事に1人だ。
レオ
「乙女さん」
乙女
「レオ。帰ったんじゃないのか」
レオ
「お姉ちゃんと帰ろうと思って待ってた」
乙女
「……ぅ……お前可愛い事言うなぁ」
乙女さん相手には、遠まわしに言わず
感情をストレートに伝えた方がいい気がする。
レオ
「っていうか乙女さん、なんか俺を避けてるもん」
乙女 無音
「……」
レオ
「昨日の後じゃ、やっぱり落ち着かないよ」
乙女
「うん。それは分かってるんだがな」
レオ
「じゃあ何で避けるようなまねを」
レオ
「何があったのかと心配しちゃったよ」
乙女
「心配させてしまったか、それはすまない」
乙女
「いや……何というか」
乙女
「こういう場合お前にどう接していいか分からない」
レオ
「え?」
乙女
「言ったろ。お互いの気持ちが同じだと
胸が温かいものだ、と」
レオ
「うん」
乙女
「それはいいんだが、その後がな」
乙女
「こういう時、どうするかが本当分からないんだ」
レオ
「乙女さん」
乙女
「情けない話だ……ルールを守りきっちり
生きてきたとはいえ、こういう事態には
全く備えられない」
レオ
「そ、そんな事だったのか」
レオ
「俺だって似たようなもんなんだから
気にしなくていいのに」
乙女
「お前、一応私は年上だぞ。それがお前に
リードされたら立つ瀬が無いじゃないか」
姉としての尊厳は揺ぎ無いものにしたいらしい。
乙女
「信頼できる友達に話したら大笑いされて、
したいようにすればなんて言われた」
乙女
「だから、それが良く分からないというのにな」
レオ
「はは」
レオ
「嬉しいよ、そこまで真面目に考えてくれて」
乙女
「私はいつだって真面目だ」
レオ
「……」
乙女 無音
「……」
い、いかん会話が途切れると何か気まずい。
レオ
「とりあえず行こうか」
乙女
「あぁ、そうだな」
レオ
「……」
歩き出す。
レオ
「……その……」
レオ
「俺も何していいか分からないけど」
レオ
「手でも繋いで見る?」
乙女
「て、手を繋ぐ?」
さっき、1年生達のカップルが手を繋いでいるのを
見て羨ましいと思ってしまった。
我ながら熱血もしてないのにアグレッシブな提案。
乙女さんはお姉ちゃんでもあるわけで。
身近だから、気軽に言えるのかもしれない。
これなら、しょっちゅう意識しないでやってるし。
(俺がグイグイ引っ張られてるだけだけど)
乙女
「……いや、やめておく」
レオ
「え」
乙女さんなら、仕方ないやつめ、とか
言ってくれると思ったのに。
レオ
「い、いいじゃない、手ぐらい」
乙女
「やめておく」
ぷいっ、と横を向いてしまう乙女さん。
レオ
「学校帰りに男女が手を繋ぐのは間違ってると?」
乙女
「いくらなんでもそこまで頭は固くない。
いつの時代の人間だそれは……」
レオ
「俺と手を繋ぐのが恥ずかしいの?」
乙女
「ん……まぁそれもあるが」
レオ
「何か他に理由があるの?」
乙女
「嫌なものは嫌なんだ」
レオ
「乙女さん、そんな……嫌なんて言う事ないじゃん」
乙女
「予定変更だ」
レオ
「はい?」
乙女
「私は拳法部で練習を見てくる事にした。
お前は先に家へ帰っていろ」
レオ
「ちょっと乙女さん!?」
……逃げられた。
なんなんだ一体あの人は。
………………
とはいえ、同じ家にいれば嫌でも
顔を合わせるわけで。
乙女 無音
「……」
レオ
「……」
俺と乙女さんは、なんだかギクシャクしてた。
理由は夕方の一件だ。
なんだか、はっきり答えてくれなくてもどかしい。
レオ
「ねぇ乙女さん。今日なんであれほど手を繋ぐのを」
乙女
「急がないと蟹沢の誕生会に遅れるぞ」
レオ
「う、うん。今日はあいつの誕生日だからね。
説明台詞っぽく言うと」
あー、また微妙にはぐらかされた。
生徒会長のお言葉を皆でありがたく聞く。
今日は終業式だ。
一学期も終わりと言う事で皆の気分はウキウキ。
だが俺はそう簡単には浮かれられないぞ。
夏休み前にはっきりさせたい事がある。
…………………
終業式の夕方なので、校門前にも
人影がなかった。
こんな日に残ってるのは部活に熱心な連中と。
もしくは真面目な生徒会関係の人物だけだ。
乙女 無音
「……」
レオ
「乙女さん」
乙女
「レオ……お前、皆と遊びに
行くんじゃなかったのか?」
レオ
「断って乙女さん待ってた」
レオ
「おかげでシスコンの烙印を押されたさ」
レオ
「でも、いいんだ。どうせあいつらアホだから
夏休み明けたら忘れてるでしょう」
レオ
「昨日のリベンジと思ってさ」
俺が手を差し出す。
レオ
「一緒に帰ろう」
乙女
「……リベンジ、か、お前結構負けず嫌いだな
ボクシングの時といい」
レオ
「負けず嫌いってわけじゃないよ。
ただ、譲れないものもあるってこと」
レオ
「せっかく乙女さんがこっちに残っての
夏休みになるっていうのに今のままじゃ
全然すっきりしないからさぁ」
乙女 無音
「…………」
レオ
「はは、なんせシスコン言われたからね。
もう怖いもんないよ」
レオ
「今日は終業式だったし人目は無いよ乙女さん」
乙女
「ん?」
レオ
「俺なりに考えた結論」
レオ
「やっぱり乙女さんは人目が恥ずかしいと見た」
レオ
「さぁ、一緒に帰ろう」
手を伸ばす。
……恥ずかしいなこれ。
ほんと相手が乙女さんっていう甘えがなきゃ
ここまで出来ないぞ。
乙女
「……ふふ……ふふ」
乙女
「ここまでされては、どっちみち年上の威厳は
ある程度削がれてしまったな」
レオ
「?」
乙女
「私の負けだ、理由を話す。
言っとくが人目を気にしたんじゃない」
乙女
「私が気にしてたのはお前だ」
レオ
「え、俺?」
乙女
「最近、剣の修行がおろそかになりがちだったので
重点的にやるべく素振りしていたんが」
レオ
「日曜日の午後にやってたね。熱心に」
レオ
「でもそれと何の関係が?」
乙女
「熱が入りすぎてしまってな」
レオ
「うん」
乙女さんがギュッと自分の手を握る。
乙女
「……手に豆が出来てしまった」
レオ
「……」
レオ
「はい?」
乙女
「だから、それで手が繋げないと言ってるだろ!」
レオ
「それだけ? それだけの理由なの!?」
レオ
「乙女さん今までその手で何回も俺を叩いてるのに」
乙女
「叩くときと……握るときは別だ」
乙女
「言っただろう、私は名前の通り乙女なんだ」
乙女
「……名前でキャラが立っているんだ」
レオ
「クッ……あははは」
乙女
「笑うなーーっ!」
レオ
「痛ーーっ!」
レオ
「ほら蹴ってるじゃん! 平気で人蹴ってるじゃん」
レオ
「そんな体育会系の手に何かできても
何とも思わないっつーの!」
乙女
「うるさい!」
レオ
「そ、そうやってすぐ暴力に訴えるのは
ダメだと思います」
乙女
「暴力ではない、気合を注入しているんだ」
うわ、さすが体育会系。
だ、だったらこっちも……。
レオ
「えい」
乙女
「あっ」
ギュッ! と乙女さんの手を握る。
乙女
「お前、強引だな……振りほどくぞ」
レオ
「やってみなよ。そう簡単には離さないから」
かと言って本当にやられたらマジ困る。
乙女 無音
「……」
ふぅ、振りほどく動作はしないようだ。
レオ
「だいたい乙女さん、いつもはそういうの自分で
気にしたらダメだぞ、とか言ってるのにずるい」
レオ
「体に傷があっても、それは自分の一部なんだから
堂々としろ、とか言ってたじゃない」
乙女
「う、うるさい!」
レオ
「なんで蹴るんだよぅ!」
加減されてるけど、衝撃は結構なものだった。
乙女
「昔、剣を会得するために、素振りしすぎて
豆が潰れて、手の皮が剥け骨が見えたときも、
私は堂々としていたんだぞ」
乙女
「それがレオの前では豆の1つや2つでこのザマだ」
レオ
「大丈夫。俺は気にしないよ」
ぎゅっと手を強く握る。
乙女
「……レオ……」
乙女さんが手を握り返してくる。
レオ
「多分さぁ」
乙女 共通
「ん?」
レオ
「乙女さんが思ってるより、俺……
乙女さんの事好きだと思うから
……弟的な立場としてもさ」
レオ
「だから、そういうのは気にしないでいいよ」
レオ
「俺も気にしないようにするから」
乙女
「……私だって、多分お前が思ってるよりは
お前の事を気にかけていると思うぞ?」
乙女
「姉としてもな」
レオ
「……そう? でも俺達の場合
姉を思いやる弟パワーの方が強いよ、多分」
乙女
「いや、それは絶対に違うな。
弟を思いやる姉の方が上だな」
レオ
「俺が上」
乙女
「私が上だな」
乙女
「だいたいお前は私の事を忘れてたじゃないか」
レオ
「……う、それは恐怖を忘れようとする
人間の防衛本能であって」
乙女
「んー? 恐怖が、なんだって?」
レオ
「なんでもないです」
乙女
「ふふ、根性無しが」
乙女
「あ、ところでお前、成績表どうだったんだ?」
レオ
「皆のところへ急ごうっと!」
がしっ!
乙女
「こら! 簡単には離さないとか
言っておいてそれか!」
逆に手をキャッチされた。
乙女
「そういうのはお姉ちゃん的にもどうかと思うぞ?」
ぎゅぅっ、と握られてしまう。
乙女
「1度言った事は最後までやり遂げろ」
レオ
「さ、最後まで?」
乙女
「一緒に帰るんだろ?」
乙女
「だったら、このまま家までだな」
乙女
「堅苦しい話はそれまで勘弁してやろう」
レオ
「うん……」
乙女
「……では堅苦しくない話……そうだな」
乙女さんがいつものペースを取り戻していく。
乙女
「……お前の家に来てから
終業式まであっという間だったな」
レオ
「そうだね」
レオ
「駆け抜けている気持ちだよ」
レオ
「この調子で行くと、乙女さんあっという
間に卒業しちゃいそう」
乙女
「ん。なんだかそう考えると寂しいな
この学校には愛着あるからな」
レオ
「……」
乙女 無音
「……」
お互い無言になってしまった。
この夕焼けの赤い色が人をナーバスにさせる。
乙女
「そう言えば、成績表で連想したが
スイカを買って帰ろうか」
レオ
「どういう脳をしてるんですか」
乙女
「成績表→夏休み→スイカ」
レオ
「……なるほどね」
思わず笑ってしまう。
そうだよな、夏休みもずっと一緒なんだよな。
――夏休み突入。
昨日は家についてから着替えて
みんなの所へ行ったあたり、俺の社交性の
高さが伺える。
乙女
「しかし、いきなり雨とは憂鬱だな」
乙女
「まぁせっかくの休みだ。遊ぶか」
乙女さんが俺にこう言ってくるだけでも
珍しい。
流石は夏休みパワー。
レオ
「ん。何して遊ぼうか?」
乙女
「何かないのか? 流行っているものとか」
レオ
「いや、その親が子供と遊ぶような
物言いはどうかと……」
レオ
「乙女さんは普段何して遊んでるの?」
乙女
「室内の遊びはあんまり知らないな。
腕立て伏せ回数競いゲームとかどうだ」
レオ
「トレーニングは遊びとは違うしなー」
レオ
「乙女さんゲームとかできないでしょう」
乙女
「ひたすら連打するものは出来たんだが……
友達のコントローラーのボタンを壊してしまい
怒られてしまったからな……」
電脳的な事にはとことん不憫な人だな。
レオ
「……そういや、乙女さん、両目の視力って
いくつなの?」
乙女
「両方とも2.5だ」
でも、健康優良児ってことは羨ましい。
レオ
「ふーむ、それじゃ……」
レオ
「DVDでも借りてきて映画観ようか?」
乙女
「うん、それいいな」
雨の中おでかけ。
………………
ここの商店街は雨の日でも関係ないから助かるね。
乙女 無音
「……」
レオ
「乙女さん、どうしたの?」
乙女
「いや、このスポーツシューズ。
新しいのだがいいな、と思ってな」
お値段3万円ちょい。
乙女
「私が使っているのも愛着あるのだが
さすがに古くなってきてな……」
アクセサリーよりは、こういう方に
興味があるのが乙女さんらしいよ。
レオ
「……乙女さんが指輪つけたらメリケンサック
代わりで攻撃力が上がりそうだよな」
乙女
「? 今、私を馬鹿にしなかったか?」
レオ
「滅相も無い」
乙女
「そうか? ならいいんだが……」
あっさり人を信じるのはこの人の美徳だ。
…………
レオ
「さーて、何を見ようかな」
乙女
「これなんてどうだ? 勧められて
少し気になっていたんだが……」
“ローマンの休日”
レオ
「乙女さん、これは恋愛ものだよ」
乙女
「いや、だから」
レオ
「ほら乙女さんはこっちでしょ?」
“ドラゴンへの遥かなる道 続・死亡遊戯”
乙女
「……まぁ、嫌いではないが。いやむしろ好きだが」
乙女
「私より姫の方が喜ぶぞ、そういうのは」
レオ
「え、そうなの?」
乙女
「あいつはアクションとカンフーマニアだからな」
さすがアメリカンハーフ。
乙女
「こっちはどうだ?」
“風とともに俺も去りぬ”
レオ
「だから、それも古い恋愛モノだって」
レオ
「よし、ずばりこれだ!」
“超任侠伝説・能登の花嫁”
乙女
「うん、そっちも好きなんだけどな」
やっぱり。
乙女
「今はこういうのを見たい心境なんだ
私も見るのははじめてなんだが」
古きよき恋愛映画かぁ。
乙女
「レオはこういうの見ないのか?」
レオ
「前にスバルと似たようなの見た時は寝ちったよ」
乙女
「そうか。まぁ数点借りていこう。時間はあるんだ」
レオ
「そうだね」
……………………
で、早速閲覧開始。
まずは“ドラゴンへの遥かなる道 続・死亡遊戯”
作品中で豪快な関節技が決まった。
乙女
「……ほぅ……」
何故か嫌な予感がした。
…………放映終了。
乙女
「熱くて面白かったな」
ビシ! と乙女さんが空中に拳を繰り出す。
乙女
「作品中、拳で壁を砕いていたが、あれは
近所迷惑というか犯罪行為だから真似するなよ」
レオ
「乙女さんじゃなきゃ真似したくても真似できない」
やっぱり映画でもそういうのは許せないのね。
真面目な人だ。
乙女
「ところで作品中で面白い関節技が決まっていたな」
レオ
「さーてちょっと飲み物でも買って……」
乙女
「確か、こうして……」
がしっ、と掴まれた。
乙女
「こうかな?」
レオ
「痛い痛い痛い痛い!! 俺で実践しないでくれ」
乙女
「はは、また1つ技が増えたな」
次に“超任侠伝説・能登の花嫁”
熱い任侠モノだった。
昼飯インターバル。
乙女
「やはり義侠心は見ていて気持ちが良い」
乙女
「この心意気は好きだが、極道は絶対にいけないぞ
映画の中だから許されるのだからな」
レオ
「分かってるって」
で、午後は乙女さん希望の恋愛ものを見る。
以前は似たようなものを見て寝ちまったが、
今回はしっかり見れるな。
――鑑賞終了。
なかなか感動的なエンディングだった。
だがこんな泣かそう、泣かそうとする
見え見えの展開に俺はひっかからなかった。
乙女 無音
「……」
乙女さんが立ち上がる。
レオ
「乙女さん?」
無言で洗面所の方へ行ってしまった。
そして顔を洗ってる。
……ちょっと泣いてしまったのかな?
やっぱり素直な人だなぁ。
………………
乙女
「さぁ、昼間は遊んだから、夕方から
勉強とトレーニングだな」
レオ
「ええ!?」
乙女
「夏休みだからとて気を抜くな。
毎日コツコツ積み重ねて行く重要性を知れ」
……言ってる事は正論なんだよな。
親密になった気はするが、
やはり乙女さんは乙女さん、真面目だった。
乙女
「私も一緒にやるから。2人でやれば楽しいだろ?」
ってなわけで、トレーニング開始。
レオ
「87……88……89……」
乙女
「腹筋を鍛えておけば、余計な脂肪は
付きづらいからな」
乙女
「男のお前の場合なんか、腹筋が割れれば
あれだ。セクシーというやつで
海とかでモテるかもしれないぞ」
乙女
「そう考えると、腹筋も楽しいだろ」
俺の足を押さえくれてる乙女さんが
そんな事を言っている。
レオ
「92…乙女さんは……93……俺が
モテテいいの? 94……なーんて」
乙女
「む、それは嫌だな」
レオ
「どわ、急に手を放さないで」
乙女
「あ。スマン」
再びグッ! と足を押さえられる。
レオ
「95……96……97っ……」
レオ
「98……遠雷か……」
1日中天気が悪かったと思えば、
ついに雷の音まで聞こえてきた。
乙女 無音
「……」
ぱっ
レオ
「どわ、また手を放した!」
乙女 無音
「……」
レオ
「どうしたの乙女さん?」
乙女
「いや、なんでもない。お前は続きをやってろ」
乙女さんはフラフラと部屋を出て行ってしまった。
レオ
「なんだなんだ?」
生理かな……?
女の子は大変だな。
今日も雨だ。
夏の太平洋側はこれだからなぁ……。
ふとしたきっかけでトランプを
やっている俺と乙女さん。
こういうの弱そうだよね、とか言ったら
ムキになってしまった。
ということで、遊びに来たスバルを入れて
3人でババ抜きだ。
スバル
「はい、これでオレあがりぃ」
乙女
「ち、また伊達は一位か。やるな」
レオ
「俺も後1枚であがりなわけよ乙女さん」
乙女
「ふん、直接対決だな。右か左好きなほうを選べ」
乙女さんが持っているのは2枚のカード。
どっちかがババで、どっちかがあがりのカード。
右のカードに手をかけてみる。
乙女 無音
「……」
左のカードに手をかけてみる。
乙女 無音
「……」
右のカードを引いた。
乙女
「何故だ!?」
レオ
「クラスでもこういうの弱いほうじゃない」
乙女
「あぁ……勝てないんだ」
レオ
「……いや、正直なのはいい事だよ、うん」
素直すぎ。
乙女
「もう1ゲームだ」
レオ
「え、またやるの?」
乙女
「もう1ゲーム」
レオ
「わ、分かったってば」
ムキになっていた。
スバル 無音
「(適当な所で負けるのが優しさじゃねェか?)」
レオ 無音
「(いや、こういう時は手を
抜いた方が乙女さん怒る)」
スバル 無音
「(やれやれ……)」
アイコンタクトで会話する俺とスバル。
そして、風物詩である夏の雷。
乙女 無音
「……」
レオ
「乙女さん?」
乙女
「いや、なんでもない。私は部屋に戻る
お前達で遊んでいてくれ」
レオ
「???」
スバルもさあ、と肩をすくめる。
あんなに俺達に勝とうと息巻いてたのに。
レオ
「……って感じでこの3日ほどを過ごしていた」
幼馴染の馬鹿達が円陣を組む。
新一
「……シスコン……なっちまった……」
スバル
「幸せそうだから……いーんじゃね?」
きぬ
「ボク達で真っ当な道に……更正させないと」
レオ
「おい3バカ。何を話しているか知らないが」
レオ
「俺の悪口はいいが乙女さんの悪口はやめろよ」
きぬ
「俺の悪口はいいがぁ、乙女おねーちゃんのぉ、
悪口は言うなよぉーっ」
レオ
「それは俺の真似かテメー!」
スバル
「まぁいいじゃねーか。だいたいあってるだろ。
それより明日なんだけどよ。晴れそうだし
4人で渋谷の方に遊びにいかねーか?」
きぬ
「たまには東京の方でもどんな服とか
出てるのかチェックしてーし」
新一
「えー、秋葉原でいいじゃん。俺アソコに行くと
なんだかホッとしてさらにワクワクしてくんだよ」
レオ
「あ、悪いな。明日は乙女さんと
海に行く約束があるんだ」
きぬ 無音
「……」
レオ
「あれ、何この微妙な雰囲気」
………………
――また雨だよ。
8月は晴れの日が続くらしいが
そうであって欲しいものだ。
台所でおやつ調達。
……ん?
壁の隅の方で黒くうごめくあいつはゴキ?
畜生、ここ4、5年ほど見ないと思ったら
ついに出現しやがったな。
清潔にしても、台所とか出るときは出るんだよな。
レオ
「……あぁ、こういうの倒すの
生理的にキモイっていうか」
乙女
「何をブツブツ言っているんだ、お前」
新聞紙でスパーン! とゴキを仕留める乙女さん。
カサカサ移動中のものをすんなり仕留める
あたりはさすがというか。
乙女
「真面目に掃除しているのに、腹立たしいな……」
レオ
「乙女さん、虫とかそーいうの平気なんだね」
乙女 共通
「そんなことでいちいちキャアキャア
言っていられるかアホらしい」
たくましい人だな。
レオ
「そういや、生徒会の皆は虫とかどうなんだろう」
乙女
「姫は平気だが、自分では何もせず他人に処理させる
タイプだ。佐藤はキャーキャー言いながらも
きっちり倒しているタイプか」
レオ
「最近の女性は強いねー。俺は生理的にキモくて」
ん? キモイ?
俺が椰子にいつも言われている台詞。
と言う事は俺、ゴキみたいに思われてるって事?
椰子め……。
………………
乙女
「漫画を読みながらコーラを飲んで
寝っころがる……か。休みを満喫しているな」
乙女
「だが、そろそろトレーニングをはじめる時間だぞ」
レオ
「気分が乗らない」
乙女
「売れはじめて勘違いしている
漫画家みたいな台詞を言うな」
乙女
「そんなグダグダしている弟で、私は
情けないぞ。さぁ……」
また雷が鳴った。
最近多いよなぁ。
乙女 無音
「……」
レオ
「どうしたの乙女さん?」
乙女
「いやなんでもない。お前ははじめていろ」
乙女さんが出て行く。
なんか最近、こういうの多いぞ。
法則的には……。
雷が鳴っている時か?
なんか気になるな。
乙女さんの様子を見るために、1階へ。
レオ
「乙女さん?」
……いないな。
いくら元気だからって流石に外にもいないな。
となると、あの人の部屋か?
部屋をノックする。
レオ
「……乙女さん?」
乙女 無音
「…………」
返事が無いけど、いるのか?
人の気配はある。
レオ
「入るよ?」
中は真っ暗だった。
レオ
「……うわ、何でこんなに」
乙女
「レオ!? 何やってるんだお前早く出て……」
ピシャーン! という落雷音。
レオ
「うお、今のは近い。稲光と同時にきやがった」
乙女 無音
「……!」
レオ
「乙女さん?」
目を凝らす。
乙女 無音
「……」
部屋の隅にうずくまっていた。
あの気丈な乙女さんが見る影も無く、
うずくまっている。
レオ
「……どうしたの?」
雷がまた落ちる。
乙女
「……くっ」
レオ
「怖いの? 雷が?」
乙女
「……情けない……お前に見られるとは……
なんで来たんだ馬鹿……」
レオ
「様子がおかしいから心配だったんだよ」
レオ
「乙女さんが雷を怖がるとは……」
乙女
「幼い頃は平気だったんだ」
レオ
「じゃあ何故?」
乙女
「……あれは、私が7歳か8歳あたりの時」
……………………
鉄家。
今日は曇天が雷が鳴り響いていた。
琢磨
「ね、姉ちゃん。雷恐い……」
乙女
「何も恐くない。空が鳴ってるだけだろう」
乙女
「いつまでも甘ったれた事を言うんじゃない」
琢磨
「うぅ。こっちのカミナリも恐い」
陣内
「かーーーーっ! タクマ! このジャリめ!
あんなゴロゴロ言ってるだけのもんに
びびってどうするか!」
乙女
「爺(じじ)様……」
陣内
「見とれタクマ。あんなもん恐くないと
ワシが証明してやるわい」
陣内はフライパンを持ってくると、外に出て
それを天にかざした。
乙女
「爺様、それは何のポーズ?」
陣内
「日頃の行いがよけりゃ、天災なんぞ恐くないと
証明してやるわい」
乙女
「それは、いくら何でも危ないと……」
ゴロゴロ……
ピシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
陣内
「エレクトリック!!!」
乙女
「じ、爺様ーーーっ!?」
琢磨
「うわーん、カミナリが爺に直撃したよう!」
乙女
「だ、大丈夫か爺様? しっかりしてくれ!」
陣内
「ら、らめぇ! 電気! 電気きちゃいましゅ!
電気ビビビビビって通ってるのぉ!」
………………
乙女
「という事があったんだ」
この一族って……。
レオ
「……陣内さん、どうなったの? 今普通に
生きてたよね? だってお葬式なんて無かったし」
乙女
「全治2週間、大怪我だ」
レオ
「(ど、どうつっこんでいいんだ)」
乙女
「あの無敵の爺様――私にとっては強さの具現
みたいな人物が、雷の一撃にはかくも無力だった」
レオ
「雷くらって平然としてたら既に人間じゃないよ」
乙女
「そうだとしてもだ。誰にも負けなかった爺様を
初めて負かした雷……あの時の衝撃は
脳裏に焼きついて離れない」
乙女
「だから、私は雷が怖い……情けない話だろ」
乙女
「偉そうな事をいつも言っておいて、
天の声とも言われる雷ひとつにこのザマだ」
レオ
「そんな自虐的にならなくても……」
稲光が煌く。
乙女
「――怖くない!」
激しい雷鳴。
乙女
「……目をつぶってしまった。根性なしだ」
乙女
「次は……耐える……」
レオ
「お、乙女さん」
レオ
「そんな一人で雷と戦ってないでさ」
レオ
「その、こんな言い方は古いかも知れないけど」
乙女 無音
「……?」
レオ
「俺を頼っていいよ」
レオ
「その……こういう時は抱きしめて
あげるのが作法だと思うんだ」
レオ
「弟としてもね」
乙女
「何を言ってる。そういうわけにはいかないだろ」
レオ
「な、なんで? 俺そんな頼りにならない?」
乙女
「違う、そうじゃない」
乙女
「お前に甘えては、雷を克服できない」
乙女
「いつか、私は脳裏に焼きついたこのイメージを
消し去るんだ」
乙女
「だから、これは私が自分でケリをつけないと
いけない問題なんだ。甘えていては前に進めない」
レオ
「……乙女さん」
乙女
「さぁお前は自分の部屋へ戻れ」
乙女
「昔は雷鳴ったら布団かぶってたがな、
今では結構耐えれるようになったんだ」
乙女
「見てろ、いつかこの調子で克服して
雷雨の中でブレイクダンスをしてやるからな」
レオ
「いや、それはしなくてもいいけど」
乙女さんに背を向ける。
また稲光が煌く。
乙女
「……怖くない」
乙女
「いや、怖い」
乙女
「でも負けるか……負けてたまるか」
レオ
「乙女さん……」
あくまで人には頼らず。
家族の目にも触れないようにして。
自分1人で克服しようと努力し続けている。
苦手だから、“苦手なんです”と
開き直らない、しっかり克服しようと努力している。
真面目な人だな。
俺として出来るのは……。
これぐらいかな。
乙女
「……何だ。お前には頼らないと言ったろ」
レオ
「分かってる。これ以上は何もしないし
何も言わないよ」
レオ
「でも、傍にいるだけならいいよね?」
レオ
「俺はこうしているだけだから」
乙女
「私としては情けない姿を見られたくないんだがな」
レオ
「克服しようと頑張ってるじゃない」
レオ
「情けなくなんかないさ」
レオ
「年上の……お姉ちゃんの鏡だよ乙女さん」
乙女
「持ち上げすぎだ」
レオ
「でも、俺がそう思ってるんだから」
意外と弱点多いんだな、乙女さん。
不器用、機械オンチ、雷怖い、か。
一緒に暮らすと分かる人間臭さ、という
奴だろうか。
でも俺としてはちょっと嬉しいなぁ。
何でも出来る、何も恐れないスーパーマンじゃ
弟してフォローし甲斐が無いからな。
雷が鳴る。
乙女
「……不思議だ、恐怖心が和らいだぞ」
乙女
「お前の手が暖かいから……かな
それで少し強くなった気がする」
乙女
「結局、頼っているのではないだろうか」
レオ
「傍にいるぐらいの行為さえ拒否されたら
俺は怒るけどね」
レオ
「何の為に一緒に暮らしている家族なんだか」
乙女
「……ん」
乙女さんは困ったように笑った。
レオ
「……はぁ、はぁ」
ロードワーク終了。
自己鍛錬がクセになってきた。
今日はめちゃくちゃ暑いなぁ、頭が
クラクラするよ。
さっさとシャワー浴びて汗を流してしまおう。
ガチャッ
乙女
「♪――っておい!」
レオ
「! おわ! ごめんなさい」
しまった、最近気を付けていた
アクシデントなのにまたやっちまった――。
俺は、観念してギュッと目を閉じた。
さぁ、殺すなら殺せ。
……あれ、鉄拳が飛んでこない。
乙女
「……何をしている」
レオ
「え」
乙女
「さっさとドア閉めて、失せろ」
レオ
「え、あの」
制裁の一撃は?
乙女
「早く!」
レオ
「は、はい!」
あれ、何もやられなかった。
珍しい事もあるもんだ。
今日は “まつかさ開国祭”2日目。
平たく言えば、市をあげてのお祭りの日。
夏休みの一大イベントだ。
乙女
「いいか、いくら楽しい夜店にいくからって
はしゃぎすぎるなよ?」
そんな事乙女さん言っていたのに。
………………
乙女
「あはははははっ!」
自分がはしゃぎまくってるじゃん。
乙女
「レオ、元気が無くないか?」
すっごく楽しそうな目をしている乙女さん。
レオ
「俺は充分楽しんでるけどね」
レオ
「俺的には、乙女さんは規則重視派だからさ」
レオ
「こういう夜店で売ってるものは食べちゃ
ダメ、とか言うタイプかと思った」
乙女
「それは規則正しいと言うよりもただの潔癖症だ」
乙女
「ここでの楽しみ方は食べて、飲んで、遊ぶ事」
とりあえず手持ちのお好み焼きを食べる。
うむ、ソースまで美味い。
乙女
「焼きそば2つ」
レオ
「ああっ、もう次のものを」
乙女
「遠慮なく食べろ。お姉ちゃんのおごりだぞー」
よし、リミッター解除だ。
うむ。この焼きソバも美味い。
乙女
「りんご飴2つ」
レオ
「……」
目を離すと何か食べ物を買っている。
乙女
「金魚は全てすくってしまったら
店を出している人に申し訳ないからな」
レオ
「ねぇ、乙女さん。あのうろちょろしている
子供って……」
乙女
「ン。……あぁ、おそらく迷子だなあれは」
1人ぼっちの子供は既に泣きまで入っていた。
乙女さんが子供に駆け寄る。
面倒見の良い人だなぁ。
しゃがんで、子供と同じ目線で
会話している乙女さん。
俺に待ってろと手で合図してから
子供を引っ張っていなくなってしまった。
……5分後。
乙女
「待たせてすまないな」
レオ
「あの子、親見つかった?」
乙女
「持ち物から名前や住所は分かったからな
祭の実行委員本部にお願いしてきたぞ」
レオ
「さすが、キビキビ動いているというか」
それなら大丈夫だろう。
しかし、この人も大した世話焼きだな。
レオ
「ん、今度は何だ?」
酔っ払った客達が喧嘩をしている。
いるんだよな、ああいう迷惑な人が。
そして、止めに入るのが乙女さんだ。
ああいうの放っておけばいいのに。
乙女
「おい、こういう場所で喧嘩は無粋だぞ」
男A
「はぁ何だよお前、うるせーな」
酔っ払った男がビールをバッ! と乙女さんに
ふりかける。
当然、それを紙一重に避ける乙女さん。
乙女
「何をするかお前」
ゴッ! という強烈な蹴り上げ。
すぐに祭りの役員達が駆けつけてくる。
それに男達を引き渡す乙女さん。
男C
「あれだ、あの女!」
レオ
「おいおい新手かよ」
レオ
「なんでこいつらはつるむかね。
ま、つるんでるからこそ強気なんだろうけど」
乙女
「全員倒してもいいが、ここでこれ以上
騒ぐと皆の迷惑になってしまうな」
レオ
「確かにね、子供連れも多いし
あんまり血は見せない方がいいかも」
乙女
「この場から移った方が良さそうだな」
俺と乙女さんは速やかに撤退した。
……………………
結局、ここまで撤退した俺達。
夜店から追ってきた男達は、人通りが
少なくなったところで乙女さんが全員倒したけど。
また戻ったら騒ぎになりそうなので
結局は家に戻ってきてしまったのだ。
乙女
「ああいう無粋な連中は困るな……せっかくの
浴衣に泥がついてしまったではないか」
レオ
「あ、着替えたんだ」
レオ
「でも乙女さんが浴衣持ってるとは驚き」
乙女
「浴衣は毎年替えてるぞ、私は。
親が楽しみにしているのでな」
遠くでドォン、という音がする。
レオ
「あ、花火はじまった」
開国祭を締めくくる最大のイベントだ。
レオ
「庭で見ようよ乙女さん」
乙女
「うん、そうだな」
レオ
「おお、こっからでも良く見えるな」
乙女
「……すまないな、レオ」
レオ
「ん?」
乙女
「いや、楽しい夏祭りだったはずだが
慌しく帰る羽目になってしまって」
乙女
「だが、私はああいう連中を見ると
つい注意してしまうんだ」
レオ
「それが性分なんだろうね」
レオ
「でもさ、そういうの含めて俺」
レオ
「乙女さんの事が好きだから」
乙女 無音
「――」
あ、サラッと言った。
この自然な流れに自分でもビックリ。
変に意識しない。
乙女
「ん……先に言われてしまったな」
そもそも一緒に手を繋いで帰ったあの日から
気持ちは分かってたし。
その前にも、お互いが好きになりかけだってのは
告白しあってるから。
乙女
「では、私も」
後は、もう切っ掛けだけになっていたと思う。
そして祭りと花火というのはその切っ掛けとしては
充分過ぎたわけで。
乙女さんの顔が火照っている。
俺の目をしっかりと見て。
乙女
「私も……レオが好きだ」
――そう言ってくれた。
俺の手をガシッ! と握る乙女さん。
乙女
「よもや弟分に惚れるとは思ってなかったぞ。
お前は……年上殺しだ」
レオ
「乙女さん……」
乙女 無音
「……」
鳴り響いているはずの花火が聞こえなくなった。
さらに、蚊に刺されている事も気付かずに。
乙女
「ん…………」
――俺達は、軽く唇を合わせた。
乙女
「……ファーストキス……というやつだな」
レオ
「うん、俺も」
乙女
「なるほど。これは確かに……甘い」
乙女さんはジーン、とキスの余韻に浸っていた。
乙女 共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「ん――……」
乙女
「ほら、外はこんなにもいい天気だぞ」
カーテンが開かれる。
レオ
「おお……眩しい」
レオ
「ううーん」
乙女
「布団を引っかぶってどうする」
レオ
「乙女さんがキスしてくれたら起きる」
乙女
「何をふざけた事を言ってるんだお前」
げしげしげし!!!
レオ
「痛い痛い痛い!」
乙女
「ようやく起きたな」
レオ
「……好きあってる相手を蹴った!」
乙女
「お前の姉代わりであるという事実もまた
揺るがないからな」
レオ
「ちぇ。相変わらず厳しいな」
乙女
「だいたい朝からキスなど不健全だ」
レオ
「いや! 俺にとっては健全だね!」
レオ
「ガソリンスタンドってあるじゃん!
車ガソリン無いと動かないじゃん」
レオ
「だから、俺にも命のガソリンを
入れると思ってさ」
乙女
「……んん? 何だか理屈が良く分からないが」
レオ
「とにかくキスしてごらん?
びっくりする事が起きるよ」
乙女
「ったく……仕方の無いやつめ。目をつぶれ」
乙女
「んっ……」
だいたい、唇をあわせて約20秒。
柔らかい感触が離れる。
レオ
「……っしゃ! 元気100倍」
乙女
「本当に元気になるとは……」
レオ
「顔洗ってきまーす!」
乙女
「ふふ、私のキス1つで
ああまでなるか。現金なやつだな」
よし、これで朝いつもキスしてくれると見た!
我ながら策士だぜ。
まぁキスしてくれて嬉しいのは本当だけどね。
乙女
「朝飯だ」
まぁおにぎりなのは、いつもの事として。
レオ
「あれ、台所がなんか雑然としているというか」
乙女
「あぁ、料理の修行中だからな」
レオ
「へぇ、努力してるんだ。それは楽しみだ」
乙女
「ん。いろんな料理開発中だぞ」
レオ
「楽しみにしてる」
朝飯を食べる。
乙女
「さて、私は学校に行ってくる、合宿には顔を
出さなかったからな。こっちに残ってる限り
稽古も見てやらないとな」
レオ
「えー、寂しい」
乙女
「夕方には帰るさ」
レオ
「行ってらっしゃい……」
乙女
「ん……行ってくるぞ」
バタン。
レオ
「んー若妻の気分だ」
とりあえず幼馴染ズには乙女さんと
カップルになった事を教えておこう。
フカヒレはきっと、羨ましがるに違いない。
………………
新一
「いいなっ、いいなぁっ、すっごくいいなぁっ!」
レオ
「お前パターン分かりやすいなぁ」
きぬ
「シスコン! 姉魂とかいてシスコンと読むのか」
レオ
「なんとでもいえ」
きぬ
「シスコンシスコンシスコンシスコンシスコン
シスコンシスコンシスコンシスコンシスコン」
レオ
「何度でも言えとは言ってないだろ!
古典的なボケを」
新一
「でも、よく考えたら姉ちゃん相手の恋愛かぁ。
俺なら怖くてできないよ。だって姉ちゃんって
弟の指にささくれが出来たら指で剥がすんだぜ」
レオ
「だからそれはお前の姉ちゃんだけじゃないのか?」
………………
夜も遅く。
乙女
「そろそろ寝るとしよう。
夏休みだからってあまり夜更かししても
駄目だからな」
レオ
「はーい」
レオ
「……乙女さん、ここで寝る?」
乙女
「いいや、お誘いは嬉しいが私は私の部屋で寝る」
真面目だ。
レオ
「それじゃあ、おやすみのキス」
乙女
「分かってる、こっちへこい」
乙女さんが手を広げる。
レオ
「お姉様っ」
ふざけて飛び込んでみる。
乙女
「ふふ、可愛い奴だなっ、この」
ギュッと抱きしめられる。
乙女さんもノリノリだった。
乙女
「ン…」
レオ
「ん……」
切ない。
レオ
「乙女さんっ……」
背中に手を回し、撫でまわした。
乙女
「こらこら」
ぺしっ、と手をはたかれた。
乙女
「ここから先は、結婚するまで駄目だ」
レオ
「……う」
レオ
「でも」
乙女 共通
「んっ……」
あ、唇を塞がれた。
台詞が言えなかった。
ジーン、と痺れるような甘みが広がっていく。
乙女
「おやすみな、また明日」
乙女さんはツヤツヤした顔で去っていった。
キスだけで充分らしい。
さすが、鉄の貞操観念だ。
古いと言えば相当古いが、乙女さんを
好きになった場合、おあずけは覚悟すべき事。
俺が我慢しないと……。
っていうか、何で男って好きになった相手の
体をこうも欲しがるようになるのか。
女の子はキスだけで我慢できるのかな、凄いな。
やりたい盛りと言われれば、確かに
その年齢だから仕方ないけどさ。
理性でもって押さえ込まないと。
乙女 共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「ん――……もう朝か」
乙女 共通
「ほら、外はこんなにもいい天気だぞ」
カシャ! とカーテンが開かれる。
……なんか昨日も同じやりとりをしたような。
レオ
「おはよう、乙女さん」
レオ
「……」
無言で乙女さんを認める。
乙女
「しょうがないな。ったく不健全なやつだ」
俺の首の後ろに、スッと乙女さんの手が回された。
乙女
「こら、目を閉じろ。恥ずかしいだろ」
乙女
「そうだ……ン」
優しいキス。
温かい愛情表現だと思う。
乙女
「うーん、朝からこんなぽわっとした気分だと
生活がたるんでしまいそうだ」
なるほど、乙女さん戸惑ってるのかも。
レオ
「でも俺は元気一杯!」
生活に張りが出てくるのは確かだ。
………………
フカヒレ達と横浜で遊んで
帰ってきたら、もう夕方だった。
レオ
「そろそろ乙女さんも帰ってくるな」
レオ
「よし喜ぶ事をしてあげよう」
乙女
「ただいま」
レオ
「お帰り乙女さん」
まずお帰りのキスということで。
乙女
「ン――」
乙女
「いきなり熱烈な歓迎だな」
レオ
「練習疲れたでしょう。お風呂沸いてるよ。
それともご飯にする? 横浜遊びにいった時
お土産で買ってきたんだ」
乙女
「気が利くな。学校でシャワーは
浴びてきたから、それならご飯にしようか」
レオ
「OK」
なんか夫婦逆転してる……。
……しかしまぁ。
俺は歯磨き中。
乙女さんは入浴中。(ほんと風呂好きな人だ)
乙女 共通
「〜〜♪」
乙女さんのスラリとしたシルエットが見える。
同じ家にずっといて、それでいて
キスまででおあずけというのは。
割と俺のような若者男子にはホントきついですな。
昼飯を食べながら、テレビを見る。
アナウンサー
「ここ、ニュージーランドでは日本からの
トレッキングツアーの客が多数訪れており」
レオ
「……あの金髪は姫じゃないの?」
乙女
「そして横にいるのは佐藤だな」
カメラも絵になるのかこの2人の美少女を
重点的に追ってるし。
そうか、8月入ってからニュージーランド
行ってるのかあの2人。
元気だなぁ。
レオ
「しっかしさすが姫だね。
金髪さんの中に混じってもなお光り輝いている」
レオ
「やっぱり綺麗だ」
乙女
「ごほん!!!」
レオ
「あ、いや、俺はもう乙女さん一途だけどね」
乙女
「慌てて言うな、軽く聞こえるぞ」
気をつけようぜ。
乙女
「学校に稽古つけに行ってくる」
レオ
「それじゃ、行ってらっしゃいのキスを……」
乙女
「何かにつけてすぐそれだ」
口ではそう言いながら、目を閉じる乙女さん。
もうだいぶ、キスも回数をこなすのはなれてきた。
そろそろ、次のステップへ。
唇を開いて、舌を伸ばしてみる。
乙女 無音
「――!」
乙女さんの唇と歯が、口内への侵入を
きっちりと防いでくる。
乙女
「――コラ。舌をいれようとしたな」
乙女さんの息がかかる。
レオ
「ダメ?」
乙女
「歯止めが利かなくなりそうだからな」
レオ
「じゃあ、こういうのは?」
乙女
「? ……ん」
キスしてから、舌で乙女さんの
柔らかい唇を舐める。
せいぜいリップクリームどまりの
唇に、口紅を塗るように舌を這わせる。
乙女
「……ん……ん……」
そして、自分の唇で乙女さんの唇を
はむりと噛んでしまう。
レオ
「……どう?」
乙女
「い、いってくるぞ」
レオ
「あ、逃げた!」
乙女
「……かなり気持ち良かった……危なかったな」
朝起きたらいきなり唇を奪われていた。
乙女
「お前、こうでもしないと起きないからな」
朝からキスして起こしてもらうのは
幸せな事だった。
レオ
「ご返杯って知ってる?」
乙女 共通
「何かにつけてすぐそれだ」
乙女
「昨日、寝る前はそうやって5回ぐらい
キスのラリーしたじゃないか」
乙女
「最後はお姉様……とか言って甘えてきてずるいぞ」
レオ
「うん、その時の乙女さん可愛かった」
乙女
「何を生意気なっ!」
でし、とチョップされる。
レオ
「あ痛」
そして腰をグイッ! と引き寄せられる。
乙女
「んッ――」
強めにキスされた。
そのまま勢いをつけて押し倒される。
俺の唇を愛でるように、自分の口で
甘噛みしてくる乙女さん。
レオ
「あぅ……」
その勢いに思わず、トロンとなってしまった。
俺の頬を、姉代わりの人の手が優しく撫でる。
乙女
「可愛いというのは、こういう事を言うんだ」
さっ、と手鏡で俺の顔を写す乙女さん。
そこには赤くなった俺の顔がクッキリと……
レオ
「うわ、恥ずかしい」
乙女さんは俺の反応を見て、満足そうに
笑ってから部屋を出て行った。
レオ
「んー負けず嫌いというか……」
甘えたり、生意気な事を言うとこんな風に
可愛がってもらえる。
乙女さん顔が凛々しいから可愛がられる事に
こっちも抵抗が無いというか……。
やばい、毎日が甘ったるくて楽しい。
カレンダーを見ると8月8日。
まだまだ、夏休みは始まったばかりだ。
ただ1つ問題が。
さっき乙女さんに押し倒されてから
俺のペニスは凛然と立ったままなのだ。
はぁ……我慢しきれるのかな。
今日は外、シャレにならないくらい暑い。
そりゃテレビで明日から怪談特集やるわな。
俺は、クーラーをガンガンかけた自室で
乙女さんにパソコンを教えていた。
今度はインターネットに挑戦している。
乙女
「珍しいおにぎりの具なども
ネットならすぐに取り寄せられるらしいからな」
という、分かりやすい修行理由。
まぁ確かに今のご時世、インターネットでの
買い物の仕方を覚えておいて損は無い。
乙女
「ふーん。ではブックマークとやらに
登録すれば一瞬でそのサイトにいけるわけだな」
レオ
「そうそう」
乙女
「……うん……だいたい覚えた」
乙女さんがこっちを向く。
目と目が合う。
レオ
「乙女さん……」
引き寄せる。
乙女
「こら、がっつくな」
レオ
「あ、ごめん……」
レオ
「俺、つい……」
乙女
「そんな顔するな、怒ってはいない」
レオ
「じゃあ。もう1回キス」
乙女
「うん……んむ……」
レオ
「んー」
再び唇を合わせる。
そして、唇を離す。
乙女
「大好きだぞ」
優しく頬擦りされた。
レオ
「俺だって……大好きだ」
そうだ、だからプラトニックで
行かなくちゃいけないのに。
乙女
「ご飯の用意、してくるからな」
レオ
「うん」
乙女さんが部屋を出て行く。
レオ 無音
「……」
………………
乙女さんが台所に入っていくのを
確認してから自分の部屋へ戻る。
部屋には、乙女さんの甘い匂いが
わずかに残っていた。
だめだ……自慰しないとおさまりそうにない。
自分が情けなくなる。
こんなことまでしないと、我慢できないなんて。
乙女さんを好きなればなるほど、こうなるんだから
まるで泥沼だ。
乙女
「早く普通の料理も習得してやりたいものだ」
………………
レオ
「ううっ……乙女さんっ……」
ムラムラしてしまうのが情けない。
こうやってマメに欲望を処理するしかない。
男は辛いよ。
今日からテレビはホラー大特集だ。
乙女さんと一緒に見る。
乙女
「なんだかくだらないな……私は雷の方が
よっぽど苦手だ」
案の定、乙女さんは幽霊とかホラーとか
そっち方面は全く平気だった。
レオ
「あ、CMの次は怪奇! 人語を自由に操るオウムと
それを飼う美人女教師の正体は、だってさ」
レオ
「ん、これってもしかして」
土永さん
「我輩は、自分が特別だとはちっとも思っていない」
もしかした。
素でテレビに出てる連中が多いんだからビックリ。
……………………
いつものように、寝る前にキスを交わす。
柔らかい胸が、俺の胸にくっついている。
レオ
「……乙女さん」
その胸に手を伸ばす。
乙女 共通
「こら、がっつくな」
レオ
「はう!」
また言われてしまった。
うぅ、なんか解決策ないかな。
このままでは、あまりにも情けないぞ。
……そうだ、こう悶々とするのはエネルギーが
無駄にたまっている証拠。
なら派手に発散させればいい。
さらに、プラスのメリットもある。
よし、早速作戦開始だ。
俺は電話を手に取った。
乙女 共通
「起きろ、朝だぞ」
レオ
「Zzz」
きぬ 共通
「Zzz」
乙女
「ん……?」
乙女
「何で……蟹沢がレオの腕枕で寝ているんだ?」
乙女 無音
「(ごしごし)」
乙女
「夢ではないな。……ど、どういう事だ」
乙女
「おい! 起きろ!」
レオ
「ん? んん?」
怒声に慌てて目を覚ます。
レオ
「あ、乙女さんオハヨ」
レオ
「……って」
なんで朝からこんなとんでもない
殺気を放っているんだこの人。
目が覚めたらいきなり大ピンチとは……。
乙女
「何故、蟹沢がお前と同衾(どうきん)している」
レオ
「はい?」
隣を見る。
横でカニがすやすやと寝ていた。
レオ
「おわっ、こいつまたかよ!」
乙女
「また? またとはなんだ また? とは!」
胸倉をつかまれる。
レオ
「ぐふっ、苦しい……お。おおかた、
昨日のホラー番組の特集でも見たんでしょ」
レオ
「このカニは、そういうホラー系
全然だめで、1人で寝れなくなる時がある」
レオ
「まー、本人はそんなんで怖がってねーよとか
否定するけどさ」
レオ
「そんで夜もぐりこんでくるわけ」
乙女
「だからといって、普通お前のベッドに来るか?
親とかいるだろうに」
レオ
「こいつ親に出涸らし、といってじゃまっけに
されてるからなぁ……」
乙女 無音
「……」
レオ
「あ、乙女さんヤキモチ?」
乙女
「あのな」
乙女
「私に男の幼馴染がいると仮定してだ。もしそいつが
ホラー番組が駄目で、時々それを理由に私の
布団にもぐりこんでいたとしたら、お前どう思う」
レオ
「殺す! そいつ殺す!」
乙女
「だろう! そうだろう!」
乙女
「なんだか寝取られた気分だぞ……」
レオ
「じゃあ寝取り返して」
決死のギャグをかます俺。
乙女 無音
「(ニコ)」
レオ
「あ、受けた」
乙女
「なんて笑うと思ったのか!」
ドカーン!
レオ
「ぐはー! やっぱりこうなるのか」
………………
乙女さんは機嫌悪いまま学校に行ってしまった。
今日の拳法部は練習厳しそうだな、ナンマイダブ。
よし、こっちは昨日考えた作戦を展開するぞ。
朝も早くから電話が鳴っている。
乙女
「はい、対馬です。……あぁ、佐藤か。
ん、レオか? ちょっと待ってろ」
乙女
「佐藤から電話だ」
レオ
「はいはい、ちょっと待って」
レオ
「あぁ、もしもし、はいこんにちは。
自宅に電話なんてどうしたの?」
レオ
「――なるほど、今ニュージーランドからなんだ
あはは、お土産リクエスト聞いてくれるの?
そりゃあありがたい」
レオ
「ところで、姫は元気にしてる?」
レオ
「あ……姫? 日本のテレビに映ってたよ」
レオ
「相変わらず元気だなぁ……あははは」
受話器を置く。
国際電話なのに長話してしまった。
……あれ乙女さんは?
しまった、もう学校に行ってしまったのか。
うぅ、キスは出来なかったがまぁいい。
作戦実行2日目って事で行動開始だ!
………………
乙女
「もう夕方だ。部室の掃除も終わったな」
乙女
「では今日は解散とする!」
洋平
「押忍! ご指導ありがとうございました」
乙女
「……ふぅ」
乙女
「今朝の電話といい、蟹沢の件といい。
レオは意外ともてるんだな……」
3年女生徒 共通
「てっちゃん。チィース」
乙女
「あぁ、そっちも部活か……」
3年女生徒
「鉄ちゃん夏休み前に相談してきた弟さんの件どう?
解決して仲良くなったのは電話で聞いたけど……」
乙女
「うん、上手くやってる」
3年女生徒
「それなのに何で元気無さそうなの?」
乙女
「いや、意外と他の女からも人気があってな」
3年女生徒
「うわ、てっちゃんの悩み可愛い〜
恋する乙女はか弱いわね」
3年女生徒
「でも心配ないよ、てっちゃんが
身も心もとろけさせてるんでしょ?」
乙女
「うん、結婚するまで深い仲になるのは
もちろんお預けだが」
乙女
「……まぁ、その、なんだ。キスぐらいは…な…」
3年女生徒
「へ、Hな事してないの? 一緒に住んでるのに?
うわー、そりゃ弟さんかわいそ。
他の女にリビドーを暴走させちゃうんじゃない」
乙女
「だからといって、軽々しく出来る事じゃないだろ」
3年女生徒
「うん、別にてっちゃんの考えに口を
出す気は無いけどさ」
3年女生徒
「弟さん意外とモテるんでしょ? 人類の約
2分の1は女だよん。そしてこの世はサバイバル」
3年女生徒
「勿体つけてとられないようにねー」
乙女 無音
「……」
………………
レオ
「ただいまー」
乙女
「お前、どこ行ってたんだ?」
レオ
「うん、ちょっと遊びにね
あ、俺、汗とかすごいからシャワーで流してくる」
乙女
「レオ? なんか慌しいというか」
3年女生徒 共通
「勿体つけてとられないようにねー」
乙女
「……ありえん。考えすぎだ」
洋平
「鉄先輩、今日は稽古後に館長が
寿司を差し入れに持ってきてくれるらしいですよ」
乙女
「ああ、そういえばその時期だったな。
拳法部夏の名物の1つだ」
乙女
「よし村田。部員達を連れてランニングに
行ってこい。外周回りだ。文句を言う
後輩がいたら気合をいれてやれ」
洋平
「はい、それでは早速」
乙女
「走りに参加する前にレオに電話かけて
帰りが遅くなる事を言っておくか」
TELLLLLLL
乙女
「……出ないな」
2時間後
TELLLLLLL
乙女 共通
「……出ないな」
また2時間後
TELLLLLLL
乙女
「……携帯にかけているのに何故出ない?」
…………………
乙女 共通
「ただいま」
レオ
「お帰り乙女さん」
乙女
「お前の顔を見るとホッとするな」
乙女
「ところで今日は5回ぐらい学校から
電話かけてたんだが
何故電話に出なかったんだ?」
レオ
「あぁ、あの番号学校のか。履歴見て
誰かと思ってたけど」
レオ
「外で遊んでたんだよ、鳴ってる時は
気が付かなかった。ゴメン」
乙女
「体が少し日に焼けてるな」
レオ
「うん、まぁね」
レオ
「それじゃあ」
おやすみのキスをする。
乙女
「あ……おい」
乙女
「なんだ、そっけないな」
乙女
「……後3回ぐらいしても、いいだろうに」
あと1日なんだ、バレてたまるか。
今日も引き続きアルバイトに精を出す俺。
はい、実は3日前からはじめてたんです。
男A
「イカ焼き2つ」
レオ
「はい、ありがとうございますっ」
お客さんにイカ焼きを渡す。
今の俺は、海の家の男。
隣のトウモロコシの屋台に話しかける。
レオ
「今日はこれで売り上げ40人目だぞオラァ」
スバル
「甘いな、オレは既に48人目だコラァ」
レオ
「ちっ、やるなぁ」
レオ
「さらに隣のフランクフルトの兄ちゃんはどうだろ」
レオ
「…よし、あの人はまだ30人行ってねぇ。勝った」
スバル
「おーおー、なんか張り切ってるねオマエ」
レオ
「ああ。海の家の屋台で1日8000円とは
いいバイトだぜスバル、ナイス紹介」
スバル
「夜のバイトに比べたら効率悪いがね。
お日様の下で働く気分は悪くねぇ
部活が盆休みに入った今が稼ぎ時なのよ」
レオ
「今日でバイトも最終日か……」
働いてエネルギー使ってるせいで
モンモンとしたものはいくらか解消できるし。
やっぱり太陽の下ってのは健全だわ。
スバル
「つうかよ、あそこに1人でぽつんといるの
フカヒレじゃねぇか?」
レオ
「あ、本当だ。あいつ海に何しに来てるんだ?」
スバル
「……なんだなんだ1人で肌を焼いてるぞ」
レオ
「連れとかいないな。何やってんだろ」
乙女さんは今頃何をやってる事やら。
……………………
乙女
「全員ランニングやめ。休憩っ!」
洋平
「はぁっ、はあっ、こんな暑い日に
海までランニングとは……さすが厳しいな」
乙女
「さて、根性なしの部員達に
何か飲み物でも奢ってやるか」
レオ
「む、なんか乙女さんみたいな美人を発見」
スバル
「お、本当だ。すげぇレベル高いな」
レオ
「よし、イカ焼きの香ばしい匂いを送ってやるぜ」
ウチワでバタバタと香ばしい香りを、
美人に送り込む。
乙女
「む……いい匂いだな」
スバル
「っていうかよ、あれやっぱ本人じゃねぇか」
レオ
「またまたご冗談を、あの人は今部活だろ
あんな真面目の化身が部活をさぼって
海に来るなんてありえない」
乙女
「値段はいくらだろうか……」
レオ
「うわ、本物だ!」
乙女
「……レオ! こんな所で何をしているんだお前」
レオ
「レオ? なんかハンサムで優しそうで、かつ
ウイットに富んでそうな雰囲気を想起させる男
だけど、俺は明日虎っていう名前。人違いです」
乙女
「あ、そうなんですか? これは失礼しました」
よし、騙されている。
乙女
「――なんて言うと思ったか?」
乙女
「惚れた相手を間違えるか、たわけが」
レオ
「ぎゃー! 素で見つかった!」
スバル
「この時期に活動している上にまさか、
海にランニングに来るとはね
さすが熱血で知られる竜鳴館空手部」
……………………
夕方。
俺は乙女さんの帰宅を待っている形になった。
とりあえず部活が終わったら帰ってきて
俺を問い詰めるらしいから。
うーん、もっとスマートに渡したかったのになぁ。
途中でバレてしまうあたり、俺は三枚目なのかも。
乙女 共通
「ただいま」
あ、帰ってきた。
よし、じゃあ出迎えるか。
だだだだだだ!!!
乙女
「さぁ、説明してもらおうか」
レオ
「早!」
………………
レオ
「……というわけです」
乙女
「お前が伊達とバイトしてるのは分かった。
しかし何故それを私に黙っている」
乙女
「反対するとでも思ったのか? 校則で長期休暇中の
アルバイトは許可されてるんだ、反対はしないぞ」
レオ
「違うんだ、そうじゃない」
乙女
「じゃあ一体何だというんだ」
乙女
「お前がしっかり喋ってくれないから、私は
ここ2、3日微妙な気持ちで過ごしてきたんだ」
レオ
「ん……そんなに心配させたのはゴメン」
レオ
「やっぱり漫画やドラマみたいにバレずに
スムーズにってわけにはいかないのかね」
乙女
「何を言ってるんだ?」
レオ
「はいこれ、プレゼント」
乙女 無音
「?」
レオ
「開けてみるです」
乙女
「なんだ……? 何が入っている?」
乙女さんが袋をあけた。
乙女
「……これは、あの靴じゃないか」
レオ
「うん、乙女さんが夏休み入りたての時に見てた靴」
レオ
「サイズはこっそり家の靴見させてもらったから」
乙女
「別に私は誕生日でもなんでもないぞ」
レオ
「日頃お世話になってるお礼さ」
レオ
「本当は指輪かな、とも思ったんだけどね。
まぁそれは今度と言う事で」
乙女
「これを買う為にバイトしてたのか……」
乙女
「だったら早くそう言えばいいのに」
レオ
「びっくりさせたかったんだ」
乙女
「変な真似をするやつだな」
レオ
「いや、びっくりさせようと思う人多いはずだよ」
乙女
「しかし私を驚かす為に一生懸命バイトしてたのに
バレてしまうのというのも、なんだか間抜けだな」
レオ
「ちぇ」
乙女
「ふふ、そんな落ち込むな。安心しろ、
これでも充分びっくりしているんだ」
乙女
「私は一生懸命な人が好きだ、と言ったろ。
この気持ちだけでも充分嬉しいものだ」
乙女
「私もお返しをあげないとな……」
レオ
「別にいいよ。日頃の感謝の証なんだから」
乙女
「……本当に健気な奴だな」
俺の腰に、乙女さんの腕がまわされる。
そしてぐいっ! と引き寄せられた。
乙女
「――んっ」
レオ
「……ん」
俺の方が唇を奪われてしまった。
唇を唇で愛撫される。
レオ
「乙女さん……情熱的、だね」
乙女
「もう……この想いは……モラルじゃ
押さえつけられない……お前が悪いんだぞ」
乙女
「私だって結構我慢してたんだ……それを
じらしてこんな事されたらたまらないじゃないか」
レオ
「乙女さん……」
再び抱き寄せてキス。
自分の舌が乙女さんの唇を舐める。
乙女さんは、閉じていた口をあけてくれた。
そこに、舌を侵入させる。
乙女
「んン、ん――――」
ついに、お互いの舌が絡まってしまった。
レオ
「ん……」
乙女
「んっ……ん」
乙女
「ぷはっ……はぁっ、はぁっ、レオ……」
レオ
「乙女さん……」
お互いを求め、抱きしめる。
もう、とまりそうにない……
…………………………
乙女
「ん……んン、ちゅ……」
レオ
「んあ……ん……」
乙女
「ぷは……好きだ……好きなんだ……んむっ、ん」
乙女さんの舌が俺の舌に絡み付いてくる。
レオ
「ちゅ……ちゅぱ、俺だって……ん」
乙女
「れろ……ん、んん……ぷは」
乙女
「私の脚、筋肉でカチカチじゃないか……?」
乙女さんのスラリと伸びている脚。
筋肉というより、しなやかに引き締まり、
それでいて女の子の柔らかさもあわせもっている。
足首はキュッと引き締まっていて、格好いい。
レオ
「引き締まってて綺麗だよ。いつまでも触ってたい」
乙女
「それならよかった……んっ、んむ……ンッ」
レオ
「乙女さん……ちゅぱ」
乙女さんに、唾液を流し込む。
乙女
「ん、ちゅっ、ちゅうっ、ごくっ……ぷは、
おまえのは甘いな」
乙女
「私からもお返しだ……んっ……じゅっ、ちゅる」
レオ
「ん、あ……あ」
乙女さんからトロトロと
濃密な唾液を流しこまれる。
なんて情熱的な人なんだ。
乙女
「好きだ……ンン……れろ……れろ」
レオ
「ん、んん……」
お互い、唾液にまみれた舌を熱心に絡ませる。
乙女
「ン……ジュッ……ちゅる……ん……」
レオ
「ん」
乙女さんに舌を吸い取られた。
乙女
「ふふ……ちゅく……ちゅく……れろ……」
そこで乙女さんにたっぷりと舐めまわされ、
可愛がられてしまう。
だから俺も、指をより強く動かす。
乙女
「れろ……れろ……ぷは、はぁっ、はぁっ、はぁ…」
お互いの息が獣のように荒い。
むしゃぶりつくような濃厚なキスのおかげで、既に
乙女さんははっきりと分かるぐらい濡れていた。
レオ
「乙女さん、ほら、これ見てよ」
俺の指がテカテカに濡れている。
レオ
「ほら、こんな」
乙女
「ば、馬鹿、見せるな……恥ずかしいだろ」
真っ赤になってうつむく乙女さん。
レオ
「乙女さん、自分でしてる事とかないの……」
耳たぶを甘くかみながら尋ねる。
乙女
「あぅ……あ、あぁ、無い」
レオ
「初めてだよね?」
乙女
「あぁ、もちろん初めてだ」
乙女
「お前はどうなんだ」
レオ
「初めて」
乙女
「そっか、じゃあ一緒だな……ん、ん……」
レオ
「……ん……んん、ぷは、うん、一緒」
乙女
「学校でシャワーを浴びてきた……」
レオ
「俺も今シャワー浴びてたから……」
レオ
「あ、でも……」
レオ
「こ、コンドームがない」
乙女
「そんなものは、いらない」
乙女
「お互い初めてだ、病気の心配はないだろ」
レオ
「ひょっとしたら赤ちゃんができるかも」
乙女
「構わない。それぐらいの相手でなければ
この体、抱かせはしない」
レオ
「乙女さん……」
乙女
「……私がリードしてやる、心配はするな」
乙女
「ふ、服を脱ごう」
レオ
「どうぞ」
乙女
「あっちを向いてるんだ」
レオ
「勢いに任せて脱がないの?」
乙女
「そんな恥ずかしい真似できない……」
あぁ、乙女さんがさらに赤くなっていく。
後ろを向いておくことにした。
パサ、と衣擦れの音がする。
レオ
「……」
乙女
「なんで振り向く、あ、あっちを向けと
言ってるだろうが」
レオ
「あ、いや……なんとなく」
怒らせても悪いので、再び後ろを向く。
シュルシュル、というサラシを解く音が生々しい。
うぅ……緊張してきた。
あ、そうだ。俺も脱がなくちゃ。
レオ
「(うわ……こりゃ相当恥ずかしい)」
男の俺が、裸を見せるのがこれだけ
恥ずかしいという事は、乙女さんはもっと
恥ずかしいんだろうな。
乙女
「……私がしっかりリードしてやるから緊張するな」
レオ
「乙女さんこそ、声が震えてるよ」
乙女
「そ、そんなことはない……」
乙女さんが俺の股間を見る。
乙女
「う……すごいな……その、平均というのを
知らないが……たくましいものだ」
レオ
「ま、まぁね」
乙女
「お前のも……その……濡れているのか?」
視力2,5はさすがというか、わずかに尿道口から
滲んでいる先走りもしっかり発見していた。
レオ
「うん……」
乙女
「だったらもういいな…そこに寝て楽にしていいぞ」
乙女さんにグイ、と押し倒される。
乙女
「……お姉ちゃんに任せておけ……」
乙女さんが俺のペニスに手を伸ばす。
少しためらってから、優しく握ってくれた。
レオ
「う」
乙女
「ん、キツかったか?」
レオ
「あ。いや大丈夫」
童貞のペニスが、指先のわずかな刺激にも
敏感に反応している。
これで乙女さんの中に
入ってしまったらどうなるんだ。
乙女
「凄く熱いな……」
多分俺が動くと言っても聞かないだろう。
リードしたがりなんだから。
レオ
「俺、いつも乙女さんに乗られっぱなしだ」
幼い頃も。
――そして今も。
乙女
「私に任せてればいいんだ……」
レオ
「乙女さん、この眺め、すごくエッチだよ」
乙女
「そ、そういう事は言うな、……照れる……」
レオ
「でも乙女さん、綺麗だ」
乙女
「だ、だから言うなというのに」
大迫力のアングルだった。
うっすらと生えている陰毛が
可愛らしい。
レオ
「乙女さん、胸を触っていい?」
乙女
「ん……今触られると集中できなくなる……」
レオ
「乳首がたってて、すごくいやらしいんだもん」
乙女
「ど、どうしてそんな恥ずかしい事
ばっかり言うんだお前は……」
花弁に添えられたペニス。
乙女さんとセックスすると思うと、
俺のペニスはますます硬さを増していた。
後は乙女さんが腰を落としてくるだけで
2人は同時に男と女になってしまう。
乙女
「優しくしてやるからな……」
それは俺の台詞だと思う。
乙女さんは、ボクシングの試合で
俺を漢にしてくれて、今また男にして
くれてようとしている。
乙女
「……ン……」
くちゅ、という音とともに乙女さんが
腰を下ろしてきた。
乙女
「レオ……好きだ」
レオ
「俺も、乙女さんの事が好きだ」
また、シンプルな告白の応酬。
こっちも乙女さんに痛い思いはさせないように
しなきゃ。
ディ−プキスで充分愛液に潤った乙女さんの秘裂は
俺の猛り狂うペニスの先端を受け入れてくれている。
乙女
「本当に……熱い……な」
これは、手で持っているのではなく、
秘裂で感じ取っているペニスの感想だろう。
まだ膣の中に入っていない。
入り口のところにピタリと密着している感じ。
乙女さんは熱いと言うが、こっちの感想は
生温かい。
乙女
「ん……いくぞ」
ずぶ、という感覚。
乙女
「あうっ」
乙女さんが可愛い声をあげる。
その声に反応して、ビクンと
蠢く俺のペニス。
亀頭が膣口に入ってから、乙女さんの
反応が変わった。
乙女
「だ、大丈夫……か?」
レオ
「うん、俺は平気だよ」
俺を気遣う乙女さん。
こんな時でも凛とした美しさは損なわれてない。
乙女
「……はぁ……はぁ……」
レオ
「乙女さんこそ、大丈夫?」
乙女
「あぁ……ん……」
また腰を落とそうとした時。
乙女
「ふあ……………っ!」
乙女さんの体がビクン! と反応した。
乙女
「……く、ぅ」
レオ
「い、痛いの乙女さん?」
乙女
「だ、大丈夫だ」
でも今、歯を食いしばってなかった?
乙女
「ん――くぅ」
乙女さんが苦しんでいる理由はわかった。
キツすぎて、手応えがありすぎて入らないんだ。
亀頭の先っぽがわずかにはいっているが、
それだけで圧迫が凄い。
レオ
「ごくっ……」
乙女さんの唾液が混じった唾をゴクリと
飲みこむ。
乙女
「くっ……んっ……んく」
乙女さんが苦労しながらも、少しずつ
本当に少しずつ挿れてくれている。
乙女
「お、お前の……大きいから、
ちょっと……待っていてくれ」
レオ
「乙女さんの中がキツすぎるんだよ……
これ、誉めてるんだからね」
そう、確かに濡れているのに、中の襞が
生き物のように反応して、異物を
押し返そうとしてくるのだ。
乙女
「……あ、ぁ……」
体をピクピクと反応させながら
腰を落としてくる乙女さん。
俺のペニスは最大限まで膨れ上がり、
清らかな乙女さんの膣口を広げていく。
乙女
「あ……く、れ、レオ……」
レオ
「乙女さん……」
乙女さんの声が俺を求める
入り口は生温かいのに、亀頭の先が
体験している膣の火照り具合は凄い。
乙女
「熱いぞ……」
レオ
「こっちも……」
お互いの顔を見つめあう。
愛液で濡れた乙女さんの性器と
先走りで濡れた俺のペニスの先端が擦れ合う。
そうして、少しずつ埋め込まれて行く。
乙女
「あっ、あ……」
ずぶ……
乙女
「あぁぁっ……」
ずぶ……
乙女さんの顔が少し辛そうだ。
汚れを知らない粘膜を擦られるのは
痛いにきまってる。
男の俺でさえ、痛みというか圧迫感を
覚えてるのだから。
乙女
「……ん……う」
乙女さんの動きが止まる。
先端部分が、処女の証である部分に当たっている。
この先端で引っかく事ができそうな
弾力が、処女膜なのか……。
少女の乙女さんを女にするための印を
自分で出来るのは、やはり幸せだった。
乙女
「レオ……っ、ん、いく……ぞ」
レオ
「うん、大好き乙女さん」
乙女
「私も好きだ……」
乙女さんが、一気に腰を下ろした。
ぷちっ、ぷちぷちっ…!
乙女
「あぁっ……あぁぁあああっ!!!」
びくん、と動く乙女さんの体。
乙女
「くあっ……あぁぁっ……っ……!」
ぷるん、と瑞々しい胸が揺れる。
乙女
「はぁっ、あぁぁッ……あ……」
後はスムーズに入っていく。
ずぶっ、ズブブッ………。
貫くというより、はがすような感触だった
処女膜。
乙女
「はぁっ、はぁっ……はぁっ……!」
乙女
「は……入ったぞ……レオ……はぁ……はぁ」
俺のペニスが乙女さんの中深くはめこまれている。
乙女
「はぁ………はぁ……はぁ」
レオ
「あ……血」
乙女さんの中からタラリと流れ出る破瓜の血。
乙女
「……くぅ、だ、大丈夫……か?」
乙女
「んあ……い、痛くはないか……?」
レオ
「うん、俺は大丈夫だよ」
乙女
「よ、良かった……」
レオ
「お、乙女さんこそ血が出ちゃってるよ
そんな辛い時にしゃべらなくてもいいって」
乙女
「だ、大丈夫だ、んっ、これぐらい……」
乙女
「1つになってる……それが嬉しい」
乙女
「私にだって、ちゃんとできた……」
乙女
「知識とか、ないから不安だったんだっ……」
レオ
「乙女さん……」
ビクン、と俺のペニスが中で脈打つ。
乙女
「あ、熱い……焼けるようだっ……」
レオ
「こっちも……融けそうだよ」
ぎゅうううううっ……
レオ
「!? あぁぁ」
乙女さんの膣壁がピクリと痙攣したかと思えば、
ぎゅうっと俺のペニスを締めつけてきた。
レオ
「お、乙女さぁんっ」
乙女
「レオのが……中でブルブル震えているぞ……」
熱い膣が、たっぷり愛液で濡れており
それが全包囲から一斉に締めつけてきては
たまらない。
レオ
「乙女さん、乙女さんっ」
乙女さんの感触を味わう余裕なんてない。
グッ、と力をいれて射精をこらえようとするが
無理だった。
レオ
「ごめ、俺、全然動いてないのにっ」
生の粘膜同士の触れ合いがここまで凶悪な
快楽をもたらすとは。
一番深い所にペニスを埋めたまま、
俺は絶頂を迎えた。
尿道を、熱い精液がほとばしっていく。
ドピュッ! ドピュッ!
乙女
「……あっ!?」
ビュクッ、ビュルッ、ドクッ……
乙女
「ンッ……んっ」
乙女さんの体がブルブルと震える。
乙女
「れ、レオのが……中……いっぱいに」
どくん、どくん、と続く射精。
乙女
「あぁぁっ……レオっ……」
熱い精液が、一番深いところから乙女さんの
子宮へと送りこまれていくと
レオ
「乙女さん……」
愛しい思いで、胸が満たされる。
身も心もこんなに気持ちよくなれるなんて。
乙女
「……はぁ、はぁ、はぁ」
レオ
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
部屋に響く俺達2人の吐息。
結合部を見れば、俺の精液があふれ出ていた。
このまま乙女さんとひとつになっていたい。
乙女さんもスッ、と整った長い睫毛を閉ざし、
一体感に浸っている。
……でも、俺は自分で思ったよりも
ずっと元気だったようだ。
乙女
「……あれ?……ん………また、
私の中で大きくなってる」
乙女さんの中で、あっという間に回復して
しまった俺のペニスが、再びギチギチに硬直してる。
乙女
「げ、元気だな、レオ」
レオ
「乙女さんの中……気持ち良すぎて」
レオ
「乙女さんは、もう1回、大丈夫?」
乙女
「うん……は、はしたない話だが……
まだまだ……大丈夫だぞ」
乙女さんが顔を赤くしながらそんな事を言った。
さすが普段鍛えているだけあって、
体力的にはまだまだいけるらしい。
乙女
「レオは……大丈夫なのか……」
乙女さんの濡れた瞳。
あらためて淫靡な眺めだと思った。
レオ
「うん、大丈夫」
乙女
「なら、動いて……みるからな」
乙女さんが少しずつ腰を浮かす。
ズリズリと膣襞をひっかいている感触。
乙女
「くっ……ん」
レオ
「う……あ」
初めての粘膜の擦れ合いに、互いに
敏感に反応しあう。
乙女
「っ! く!」
レオ
「乙女さん?」
乙女
「だ、大丈夫っ……」
自分に言い聞かせるようにそんな事を言う。
破瓜の傷口に触れて痛んだのだろうか。
乙女
「ん……くっ……」
痛そうな声をあげる乙女さん。
ずぶずぶと音を立てて腰を沈めてくる。
乙女
「………あッ、ああっ!」
1回目と違い驚くほどスムーズに中に入っていく。
乙女
「ん……こんなに深く、入った……」
柔らかい肉襞がヒクヒクと生き物のように
動いては、俺のペニスにからみついてきた。
レオ
「く……うぅ」
まるで搾り出されるかのような強烈な
締めつけ。
時々エロ本とかで、締めつけをキュッキュッとか
表現してた気がするが、これは違う。
ギュウッ、という熱烈な抱擁だ。
乙女
「れ、レオ……つ、辛そうな顔をしているが、んあっ
私を、ンッ、感じてくれているか?」
レオ
「う、うんっ……これでもかってぐらい」
乙女
「あぁ……火傷しそうだ」
そう言いながら、再び腰を浮かす乙女さん。
この時の亀頭をゾリゾリと刺激する摩擦感が
とにかく甘美だった。
レオ
「乙女さん、俺も……動いていい?」
乙女
「あぁ、受けとめてやる」
レオ
「……ん……」
自分も腰を突き上げる。
乙女
「あぁッ!」
突かれた刺激にガクンと乙女さんの体がはねる。
美しい形の乳房がぷるっと揺れた。
レオ
「乙女さん……乙女さんっ」
切なくなって、夢中に腰を動かす。
乙女
「………んあっ、あっ、あッ……レオ……レオ」
俺に突かれる度に、乙女さんの胸が
揺れ動いている。
レオ
「乙女さん……綺麗だよ」
乙女
「うぁぁ……」
照れた声。
乙女さんの膣壁が応えるように、ギュウッと
俺のペニスを締めつけてきた。
レオ
「あっ……乙女さん……反応わかり、やす過ぎ」
乙女
「レオ……お前のも、たくましいぞ」
粘膜が収縮し、さらに俺のペニスを
ギチギチと刺激してくる。
レオ
「く……あっ」
2回目の射精。
ドクン、と発射される。
レオ
「乙女さん……っ」
射精しながら、腰を動かし続ける。
ペニスが精液を流しながら動いている為
乙女さんの膣襞に、まんべんなく
ふりかかっていく俺の精液。
綺麗だった膣内は、既に俺の精液と
同じ匂いになってしまっているだろう。
それでも俺は腰を動かし続ける。
乙女
「……ん、あぁ、あっ、レオ……」
射精を終えたかと、思えば
瞬時にムクムクと復活してしまう。
初めてのセックスで、今までためこんでいた
性欲を全て吐き出そうとする、貪欲な動き。
乙女
「……あ……あッ、な、なんだか、
頭が、ボーッとしてきた」
レオ
「乙女さん……」
普段は怜悧な光を放つ瞳が
ウルウルと濡れている。
乙女
「あぁっ……体全部が……熱いっ」
ちゅぶっ、じゅぶっ……
卑猥な音も気にせず、俺は腰を動かし続ける。
テクニックなんてない。
乙女
「ふぁっ……あっ……ンッ」
ただ、ギンギンに猛るペニスが
乙女さんの中で暴れまわる。
切り揃えられた美しい髪が、ハラリと
顔にかかっている。
それは、もう女の顔そのものだった。
腰の動きをさらに早めていく。
乙女
「……レオ、レオぉ、私、情けない……
脚が、震えてるっ」
レオ
「乙女さん、も、もう、2回も出しちゃったけど
また、中で、出していい?」
乙女
「あぁ、いいぞっ、こい、レオ、く、あっ……」
レオ
「乙女さんッ!」
俺は最後の力で、深々と腰を打ち込んだ。
乙女
「あっ、アッ、あぁぁーーーっ!!!!」
みずみずしい裸身が跳ねる。
コツン、子宮の入り口をペニスが叩いた瞬間。
それにあわせて、俺も3回目の射精を迎えた。
ドクン、と勢いよく精液が吹き出る。
乙女さんの膣がビクッ、ピクッと震えている。
乙女
「……あ……あ……ぁ」
いや、どこか放心している乙女さんの体
自体がピクン、ピクンと痙攣していた。
3回目とは思えない程、長い射精。
1滴残らず乙女さんの中に入っていく。
乙女
「あ……まだ……出てるな」
レオ
「うん……」
乙女
「いっぱいになっていく……」
レオ
「うん……」
やがて放出が終わった。
だが、しばらくの時間が過ぎ去っても、
俺達は結合したままだった。
性欲を爆発させきっても、こうしていたい。
そして、乙女さんの体からうっすら滲む汗を見て。
部屋の電気を消してない事にようやく気付いた。
………………
乙女 無音
「……」
レオ
「……」
乙女
「……やはり、照れるな」
レオ
「じーっ」
乙女
「あんまり見つめるな」
レオ
「そういう乙女さんだって俺の事じっと見てる」
乙女
「……なんだか愛しくてな」
レオ
「そ、そっちの台詞の方が100倍恥ずかしい!」
乙女
「そ、そうか?」
レオ
「そうですとも」
下半身が心地よい気だるさに包まれている。
乙女
「もっと喋っていたいが……眠くなってきた」
レオ
「別に今日で最後じゃないんだし」
レオ
「その喋りたい事は、明日、明後日にでも
とっておこうよ」
乙女 共通
「うん、そうだな」
乙女
「これからは、ずっとここで寝かせてもらうぞ」
レオ
「大歓迎です」
レオ
「冬は足とか冷えるから、暖めて欲しいな」
甘えてみる。
乙女
「それは可哀想にな。その時は脚をからませて
暖めてやる」
素で返された。
その眼差しは、なんというか恋人というより
肉親の情に近いような気がする。
乙女
「ん……眠……い」
乙女さんは、そっと目を閉じた。
無音。
ただクーラーの音だけが部屋に響く。
乙女 無音
「……」
乙女
「なんだか視線を感じるんだが」
レオ
「見つめてるから」
乙女
「恥ずかしいだろ。お前も、もう寝ろ」
レオ
「うん……」
俺は目を閉じた。
乙女
「私も目を閉じるからな」
………………
目を開ける。
乙女 無音
「……」
乙女さんはスヤスヤと眠っていた。
ごめん、乙女さん。嘘をつく気は無いんだけど
すぐには眠れなくて。
乙女さんの寝顔を見ていれば、そのうち
勝手に俺も寝てしまうだろう。
乙女 共通
「Zzz」
綺麗な寝顔だなぁ……。
なんだかすごい幸せそう。
この人とさっきまで3回もやっていたとは
信じられない。
でも。これからは毎日のように出来る。
そう思うと明日からが本当に楽しみになってきた。
寝覚めは爽やかだった。
気のせいか肌もすこぶる血色がいい。
これがホルモンを吸ったというやつなのだろうか。
レオ
「ふぁー、おはよう乙女さん」
乙女
「おはよう。自力で起きれたのか。偉いぞ」
レオ
「つっても、もう朝8時30分でしょう」
レオ
「乙女さんがこの時間に朝ごはんを
作ってるなんてスローリーじゃない?」
乙女
「ふふ、朝起きてからお前の寝顔を観察
させてもらったからな。時間が遅れた」
レオ
「う」
乙女
「可愛かったぞ、お前の寝顔は。ふふ」
レオ
「……まぁ、こっちも夕べ乙女さんの寝顔
観察してたんだけどね」
乙女
「何……?」
レオ
「俺の名前寝言で言ってて可愛かったなぁ」
乙女
「な……なっ」
顔が赤くなっていく乙女さん。
乙女
「お前、な、生意気だ!」
ビシ、ビシと何故かはたかれる。
いつもと違って痛くないけど。
どうやら乙女さん的にはここで
弟をからかいたかったんだろうけど……
逆にやり返されて悔しいらしい。
レオ
「乙女さん……」
チョップを食らいながらも乙女さんを引き寄せる。
乙女
「あ、おい……ンッ」
レオ
「ん……」
乙女
「ンンっ……」
いざとなれば唇をふさいでしまえ、とは
良く言ったものだ。
乙女さんの体から力が抜けていく。
俺は後ろに回した手を、さりげなく
乙女さんのお尻にもっていった。
乙女
「ぷはっ、こ、こら……」
服の上から、肉付きのよいお尻を撫でる。
乙女
「あ、朝からそんな事はだめだろっ……」
ぐいっ、と引き離された。
乙女
「まさしく顔洗って出直して来い、というやつだ」
ぷい、とそっぽを向いてしまう乙女さん。
照れてる乙女さんの反応がいちいち可愛いわけで。
………………
乙女
「それでは学校へ行ってくるぞ」
乙女さんが生徒手帳をいじっている。
レオ
「生徒手帳に何をしてるの?」
乙女
「お前の写真いれてるんだ、ほら」
……う、そういう事されると嬉しいな。
しかも満面の笑顔だし。
レオ
「予定いつ空けれるか、調べておいてね」
乙女
「あぁ、分かっている。多分今週の途中
ぐらいからだと思うが」
レオ
「(そうしたら、昼間からいっぱいできるな)」
乙女
「そうしたら、2人で遊びにいけるからな」
乙女
「くっ……レオめ、ピンピンしているな」
乙女
「こっちは時々ズキッとくるのに……不公平だな」
乙女
「まぁ根性でカバーできる範囲だな、むっ!」
……………………
乙女 共通
「ただいま」
レオ
「お帰り、乙女さん」
新婚さんのように、お帰りのキスする。
レオ
「ご飯にする、お風呂にする、それとも俺?」
乙女
「ご飯かな」
レオ
「素直じゃないなぁ、乙女さん」
乙女
「あのなぁ……」
レオ
「まぁいいやバイト代のあまりで買っておいたんだ」
レオ
「はい、うなぎご飯と生卵ととろろ山掛けご飯」
乙女
「……おい、レオ」
レオ
「いただきまーす!」
乙女
「まったく……いただきます」
乙女
「あ、結構いけるなこれ」
レオ
「そういえば俺があげた靴履き心地どう?」
乙女
「まだ試してないんだ」
乙女
「なんだか土をつけるのが勿体無くてな。
履いてこそのシューズだとは分かっているんだが」
レオ
「またいくらでも買うからさ、ガンガン履いてよ」
…………………
新一
「なんだかなー。レオの部屋カーテン引いてあるから
遊びにいけねーじゃねーか(カーテンを閉めてると
忙しいからよほどの時以外は来るなという合図)」
新一
「まぁいいや俺は今日コミフェスで購入した
同人誌で恍惚の世界にひたろうっと。
へへへ、幸せだなぁ」
…………………
乙女
「おい、レオ…まだ着替えてすらいないんだぞ…んっ
れろ、……ン……ん」
レオ
「ん……ぷは、歯なら磨いたでしょう」
レオ
「それとも、昨日の所が痛い?」
乙女
「んっ……昼間ちょっと痛かったが…もう大丈夫だ」
レオ
「じゃあ……いいね……ん、れろ……ちゅっ」
乙女さんの歯茎や歯そのものを、舌で丹念に
愛撫していく。
乙女
「ん、ン、あ……」
今日は乙女さんをもっと気持ちよくさせて見せる。
そう誓った。
………………
誓ったから出来るかといえば違うわけで。
レオ
「……こ、志半ばにして散ってしまった……」
乙女さんの中が気持ち良すぎる。
締め付け具合が尋常じゃない、おそらく
脚を鍛えていることも関係しているんだろうけど。
まるで乙女さん本人のように情熱的で力強いのだ。
乙女
「そんな焦る事ないじゃないか……」
レオ
「でも、俺は乙女さんが好きだから」
レオ
「乙女さんにもっと気持ちよくなって欲しいから」
乙女
「レオ……」
だから、明日もやろう。
レオ
「おはよう、乙女さん」
乙女
「ン……おはよう」
キスが挨拶習慣。
レオ
「あれ、その格好は学校?」
乙女
「あぁ、今日は練習試合があるからな。
見届けないと」
レオ
「ふーん」
ぴら、と制服のスカートをめくる。
乙女
「な”っ!?」
レオ
「あ、今日はしましまで可愛い」
乙女
「何をするか、このスケベがーっ!」
レオ
「あ、痛……」
レオ
「い、今のはまずかった?」
乙女
「当たり前だ! いくら何でもいきなり過ぎるぞ」
レオ
「いつもはそんな感じで鉄壁の
乙女さんだからこそ、見たいんだよ」
レオ
「……いやなの?」
乙女
「う、上目遣いで見るな。嫌なわけないだろ」
乙女
「ただ……いきなりとか……そういうのは
恥ずかしいんだ」
レオ
「乙女さん」
乙女
「それに、何度も言うが朝からなんてさすがに
不健全というか純ではないというか……
分かるか、ただけじめを……んむっ」
また唇を奪う。
レオ
「ん……れろ……」
乙女
「……ぷは、ひ、人の話を聞けぇ、ずるいぞ、
私が何か言おうとするたびにこんな……」
乙女
「……っ、もう時間か、学校に行く」
乙女
「続きはまた帰ってからだ」
レオ
「うん、帰ったら続きしようね」
乙女
「はぁ……違うと言うのに……説教の続きだ」
ぴら
乙女
「だからスカートを勝手にめくるな!」
………………
乙女さんが帰ってくるのを全裸で待機中。
でもこの全裸って結構きついぞ。
……風邪引きそうなのでやめた。
……………
乙女 共通
「ただいま」
レオ
「乙女さーん♪」
乙女
「今日は、シャワー浴びてないから
何をするにも、まずシャワー浴びてからだ」
レオ
「え、俺いいのに」
乙女
「私の方が恥ずかしいんだ!」
乙女さんはお風呂に行ってしまった。
レオ
「あ、そうだ」
俺も一緒に入ればいいじゃないか。
乙女 共通
「〜〜♪」
乙女さんはお風呂場でリラックスしているようだ。
俺も行くぜ。
すっ裸になる。
レオ
「お邪魔しまーす」
乙女
「おい、入浴中だ! 何回間違えたら気が済むんだ」
レオ
「じーっ」
乙女
「コラ! 見るな、さっさと出て行け」
乙女さんの裸体を見る。
それだけで充分エレクトだ。
股間がムクムクと勃起していく。
乙女
「な……なななな?」
乙女
「こ、こんな所でそこを膨らましてどうするんだ」
レオ
「俺も入る」
レオ
「乙女さんの背中を流してあげるよ」
乙女
「……お前何かスケベな事をするだろう」
レオ
「うん……多分いろいろやっちゃうと思う」
乙女
「風呂は体を洗って、歌を歌うところだ」
レオ
「いや……後半はどうなんだろう」
乙女
「そんなに一緒に入りたいなら私がお前の
体を洗ってやる。それならいいぞ」
レオ
「あ、じゃあお願い」
乙女
「うん、なら座れ」
大事な所を隠しながら、俺を椅子に
座らせる乙女さん。
自分が洗ってあげる=リードできる立場なら
OKらしい。
とことん姉御肌というか……。
レオ
「俺の言うとおりに洗ってくれる?」
乙女
「なんか洗い方とかあるのか?」
レオ
「うん」
乙女
「ん、言ってみろ」
レオ
「まずは体を俺にくっつけて……」
……………
乙女
「お前ってやつは……どこまでスケベなんだ」
乙女さんに後ろから抱きつかれている格好。
胸が背中に思いっきり押しつけられて気持ちいい。
しかも手には優しくペニスを握ってもらってる。
レオ
「……やだ?」
乙女
「お前が動かないというならな」
レオ
「うん……お姉様に任す」
乙女
「まったく、そうやって甘えていれば
許されると思えば大間違いだからな」
そう言いながら、柔らかい乳房を
擦り付けてくる。
レオ
「おお……」
女体を使って体を洗われるのが
こんなにも気持ちいいとは。
レオ
「乙女さん、上手」
乙女
「そうやってお世辞を言えば私が
優しくなると思っているのか?」
むにむに。
優しくなってるじゃん。
背中にたっぷりと胸を押し付けてくれている。
ペニスにからめた指が、動き始める。
きゅっ、というちょっと荒っぽい握り方。
レオ
「お姉様……ちょいきつい」
乙女
「すまんな、暴れん坊にはこれぐらいが
丁度いいかとも思ったんだが」
力を緩めてくれる。
レオ
「そのまま手は上下に動かして」
乙女
「ん……こうか」
ぬるぬる……
泡で滑りが良くなっているので
とても気持ちが良かった。
レオ
「胸も同時に動かして」
乙女
「む、難しい事を言うな」
乙女さんが体を動かす。
瑞々しい乳房で、俺の背中が
磨かれていく。
……あれ、なんか尖った感じがするぞ。
乙女
「……ぅ……ぁ」
レオ
「?」
乙女
「……ん……」
背中で感じる2つの固い突起。
乙女さんの乳首がピン、と立ってしまったらしい。
レオ
「乙女さん、感じてない?」
乙女
「う、い、いや……その……」
嘘がつけない人なので、返答に困ってるようだ。
乙女
「う……先っぽが……当たってその」
レオ
「気持ちいいんだ?」
乙女
「あ……あぁ……なんだか、擦れて……」
本当、正直な人だ。
レオ
「そのまま擦り続けて……乙女さんも
気持ちいいなら、こっちも嬉しい」
乙女
「そ……そっちの方はどうなんだ」
レオ
「うん、すっごく気持ちいいよ」
レオ
「乙女さん、持っている指で○をつくってみてよ」
乙女
「こうか?」
くびれた部分に、乙女さんの指が全方位から
触れる。
レオ
「ん……そう。それで指を動かしてみて」
乙女
「こんな……感じか?」
レオ
「くっ、それ強すぎ。もっとゆるやかに」
乙女 共通
「ん……こうか」
レオ
「ん、そうそう」
……乙女さん、不器用だからいきなり
手コキが上手い、というわけではなさそうだ。
それでも、一生懸命やってくれれば
まだまだ性体験が薄い俺は充分感じる。
レオ
「ん……あ」
我慢なんてすることもない。
乙女
「あ、今ビクッ……って」
甘く痺れる感覚の中で、俺は射精した。
乙女さんの手のひらに精子がドプッ、と着弾する。
乙女
「出たみたいだな……お前の痙攣しているぞ」
レオ
「擦り続けて……」
乙女
「ん、こうか?」
射精しながらも、甘い手の刺激。
尿道口に残る最後の一滴まで、気持ちよく
搾り出せた。
乙女
「……あ……だんだん……小さくなってくぞ」
レオ
「それでもやめないで」
乙女
「? ……あ、おい。なんかまた
大きくなってるんだが」
レオ
「うん、2回目お願い」
乙女
「……本当にしょうの無いやつだな」
そう言いながらもシコシコと手を
動かしてくれる乙女さんは、いい人だと思う。
………………
一戦交えた後の添い寝は心地よい。
乙女
「明日、明後日と私が予定空いているんだが
丹沢の渓流の方へ遊びにいかないか?」
レオ
「うん、いいね」
乙女
「水も澄んでて、天然のイワナやヤマメとかが
泳いでるから、釣りも楽しいぞ。
景色も綺麗で……一緒に見たいと思ってな」
レオ
「楽しみだ」
乙女
「そうか。じゃあ今日は明日に備えて
もう寝ような」
レオ
「ん、おやすみ」
乙女
「おやすみ……」
外は無慈悲にも雨だった。
乙女
「雨か……」
乙女
「せっかく2人で外で遊べると思ったのにな」
残念そうな乙女さん。
レオ
「まぁまぁ、乙女さん。インドアでも
できるものがあるさ」
乙女
「そうだな。どうする? ボーリングとか
行ってみるか? カラオケでもいいぞ」
レオ
「体を動かすものがいいの?」
乙女
「ああ。それで、お前も楽しめるのが1番だな」
レオ
「それならいいのを1つ知ってるさ」
乙女
「なんだ? あは、楽しみだなぁ」
………………
乙女
「あッ……あぁぁ、あ……」
レオ
「体動かして、楽しいでしょ?」
乙女
「こ……れは……くっ、な、何か、あッ、
違う気がするぞ……」
レオ
「乙女さんの中、こんなに締めつけてくれるのに」
雨の中、元気なカップルがする事といったら
こんな気がする。
レオ
「あーあ、今日も雨だ」
乙女さん、休みなのにガックリしてるだろう。
昨日より強い雨だしな。
本当、夏の太平洋側はなぁ。
ゴロゴロ、と雷が鳴っている。
ん、雷?
あの人はまた怖がってるんじゃなかろうか。
レオ
「乙女さん、大丈夫?」
乙女
「ノック! ノックを忘れるな!」
レオ
「あれ、雷鳴ってるけど……?」
乙女
「なんとか耐えれる……」
レオ
「無理しないで」
乙女
「……なんだか今は雷よりもお前の視線の方が
不気味なんだが」
レオ
「だって、乙女さん既に下着だし」
引き締まった、健康的な肢体の前に
すでに俺は臨戦態勢。
レオ
「乙女さんっ!」
乙女
「おいっ……時間とかをわきまえろと
何度言えば分かるんだ」
レオ
「俺のこと嫌い?」
乙女
「そんなわけあるか、好きだ!」
乙女
「でも……それとこれとは……あッ」
レオ
「乙女さん……乙女さん……」
乙女
「ばっ……やめ……あ、あぁっ……」
鏡で自分の体を見る。
うーん、なんとも肌の艶がいい。
乙女さんを抱いてから体も絶好調だ。
……しかし天気は絶不調。
今日もインドアになってしまうのか。
だったら乙女さんとまた愛し合うのがいい。
若い2人はやりまくり、とか言われるが
今の自分はまさにそれだな。
射精をこらえられるように、ほんの少しだけど
なってるし。
この調子で頑張るのだ。
乙女 共通
「ただいま」
レオ
「お帰り乙女さん。今日は部活じゃなくて
風紀委員の夏季登校日だったっけ?」
乙女
「うん。雨のせいで少し濡れた」
レオ
「はいタオル」
拭いてあげよう。
ごしごし。
乙女
「い、いい。自分で拭ける」
乙女
「私がお前を拭くのはいいが、お前が私を
拭くのは絵にならないだろう」
レオ
「いや、別にいいような気もするけど」
乙女
「いや、全然違う」
こだわるね。
乙女
「まったく天気が悪い日が続くと気も滅入るな」
レオ
「だったら楽しい事をしようか」
乙女
「ん、なんだチェスでもして遊ぶか?」
レオ
「チェスじゃない、キス」
その唇をふさぐ。
乙女
「……ンっ」
さらに、制服ごしに柔らかい胸を揉む。
乙女
「ぷは、なあ、ま、待て……ここ2、3日こんなもの
ばっかりで話らしい話をしてないじゃないか」
乙女
「たまにはゆっくり2人で過ごそう、な?
流れを本来のものに戻そう」
レオ
「乙女さん……」
乙女
「そんな目で見るなというのに……」
乙女
「ほら、花が綺麗に咲いているだろ?
この花の名前知ってるか?
こっちがゼラニウムでこっちが」
レオ
「乙女さん……部屋に来て」
乙女 無音
「(ぶんぶん)」
レオ
「好きなんだ」
乙女
「ずるいぞ……その言葉使われたら、胸が
熱くなって、反対できないじゃないか……」
レオ
「んっ……んっ……ん」
乙女さんの口の中を、くまなく舌で
磨き上げる。
虫歯した事すらないという健康な白い歯を
一本一本舐めていく。
乙女
「んむ……ンッ、あ……んっ」
体をポクつかせながら、こっちの愛撫を
受け止めている乙女さん。
携帯が鳴った。
おそらくフカヒレからだ、今日は
新しいギャルゲーが出るとか言ってたからな。
携帯は無視しておく。
レオ
「ん……ん、じゅるっ……」
こっちの唾液を乙女さんに流し込む。
乙女
「んく、ん……ごくっ……ごくっ」
白い喉がごくりと鳴っている。
こっちが送ったものをしっかり
飲んでくれているんだ。
乙女
「んく、ぷは、待て……私も、お前のを舐める」
乙女
「口を開けろ……んっ……れろっ」
口の中に、侵入してくる乙女さんの舌。
乙女
「んむ……ん……ん〜〜」
俺を歯茎を、ぎこちなく、でも丹念に
優しく愛撫してくれている。
思わず、その舌を絡めとってしまう。
乙女
「!? ……ん……あん……あっ」
その舌をこっちで吸い取るように舐め尽くす。
乙女
「ぷはぁっ……はぁっ……はぁっ。ち、違う。
今は私が舐めている番だろ……ンンッッ」
さらにこっちからキス。
乙女さんが抗議するように体を動かす。
乙女
「ん……あむ……んっ、あっ、んんっ……」
だんだん抵抗が弱まってくる。
乙女
「ン……ん…………ンッ……」
乙女さんの目がトロンとしてきた。
レオ
「乙女さん……力抜いてて」
オヤジくさいかもしれないが、制服を
脱がせる、という行為が楽しい。
乙女さんをだんだん裸にしていく。
特にサラシはシュルリと剥ぎ取る感覚がなんとも。
レオ
「(この下着は俺がもらっておこうっと)」
レオ
「乙女さん。いつも見つめあってる
格好でやってるけど、今回は違う感じで
してみない?」
乙女
「私が上か……?」
レオ
「いや、違う。うつぶせになってみて」
レオ
「それで、そのままお尻をあげる」
乙女
「こっ、このままするのか!?」
ツンと引き締まったお尻が丸見えの構図。
見ているだけでどんどんHな気分になる。
乙女
「こ、これではお前が一方的じゃないか!」
乙女さんにとって相当屈辱的なポーズなんだろう。
目の前に突き出されたお尻を愛しむように
撫でさする。
乙女
「き、聞いているのか、おい?
これでは最中に口付けもできないじゃないか」
レオ
「お尻撫でられて気持ち良くない?」
乙女
「う……肉体的に悪いわけではない
精神的な問題だっ」
指と指の間に尻肉をはさむようにして
感触を楽しむ。
レオ
「あ……」
乙女
「な、なんだ? 何か……変なのか?」
レオ
「あ、変とかそういうんじゃないんだ」
レオ
「綺麗だよ、乙女さんのは」
ただ、こうして乙女さんのお尻の穴まで
くっきり見るのは初めてかもしれない。
乙女
「な、なんか気付いたがこの格好犬みたいだな……
やっぱり嫌だ、私が上に……」
レオ
「でも、お尻撫でられて濡れてるよ?」
乙女さんの頬がぼっ、と赤くなる。
乙女
「違うっ、それはさっきの口付けの奴だ」
綺麗なヒップラインから秘裂までが丸見えの
格好だから、こっちも見るにことかかない。
その白いお尻に頬擦りするように顔を動かす。
乙女
「お、おいっ……」
乙女さんの股間に顔が近くなった分、
女の子の匂いが鼻をついた。
今度は、両手をパーにして乙女さんの
お尻の肉にピッタリと密着させる。
乙女
「くっ……私ばっかり触られて……」
お尻の割れ目の内側に2本の親指を添える。
乙女
「な、なんだ? おい、変な事はやめろ」
そのまま親指で。お尻の谷間をむっちりと
割り開く。
乙女
「え? え?」
乙女さんはどういう事をされるか
良く分かってないらしい。
くっきりと見える乙女さんの後ろの穴。
ピンクで綺麗だった。
そこに舌を伸ばす。
乙女さんの体は、あらかた舐めたけど
ここはまだだ。
軽くキスするように舐めてみる。
乙女
「あッ!? あっ……あぁっ……そこは、違う」
思ったより、お尻の穴は何の味もしなかった。
少し舌に刺激があっただけ。
レオ
「え? 何か言った」
乙女
「ま、間違えるな、そこは違うだろ……」
乙女さんが頬を真っ赤に染めながら抗議してくる。
でも俺は狙ってやってるんだけどね。
乙女
「仕方ないやつめ、私も経験未熟ながら
教えてやるからお前が下になっ……あッ!?」
唾液でぬめった舌をとがらせて、
くすぐるように尻穴を愛撫する。
乙女
「ん……やめろ、くすぐったい……んっ」
舐めていると、乙女さんの体がくすぐったさに
震えているのが良く分かった
しばらく舐めてから、口を離す。
可愛い後ろの穴は唾液にぬめって、ヒクヒクと
痙攣していた。
レオ
「ちょっとは気持ちよくなかった?」
乙女
「う……変な感じだった」
筋肉がつきながらも、すらりとしている乙女さんの
太ももを撫で回す。
乙女
「ん……ん、今度は脚か」
鍛えているせいか、ところどころ
小さな擦り傷はあるが、ムダ毛などは一切ない脚。
肌は吸い付いてくるようだ。
乙女
「……く、う……わ、私が……手持ち無沙汰だ……」
ぎゅっとシーツを握りながら何か抗議している
乙女さん。
後ろから、というのが抵抗あるんだろう。
足の指の間を丹念に舐める。
そして、形のいい爪を甘噛みしてあげた。
レオ
「(……そろそろいいかな?)」
指で乙女さんの秘唇を開いてみる。
乙女
「う……」
そこは既にしっとりと濡れていた。
レオ
「乙女さん、いくよ」
その言葉と同時に行動を開始していた。
乙女さんの腰を掴みさらにお尻を高くあげさせる。
乙女
「この格好で本当にするのか……?
恥ずかしすぎる……」
答えは行為で示す。
勃起しているペニスを掴み乙女さんの性器へ導く。
もう膣口の位置は覚えた。
ちゅく、と卑猥な音をたてて亀頭が膣口に触れる。
乙女
「んん……」
性器同士の触れ合いに乙女さんが、わずかに喘ぐ。
俺は乙女さんのお尻を抱えるようにして、
ゆっくりと腰を前に突き出した。
乙女
「ん……あ、あああああ……」
乙女さんが滑らかな背中を反らせる。
中は相変わらずきついが、初めての時に
比べれば、幾分スムーズに埋まる。
レオ
「ん……」
柔らかく、しっとりと濡れた粘膜。
いつもながらこれが俺を狂わせる。
後ろからするのは初めてだったので、なんだか
いつもと膣内の締め付けが違う風に感じる。
乙女
「ん、んんっ………!」
乙女さんの声に、痛みらしきものはない。
だったら、こっちも遠慮はいらない。
ズズッ……
さらに、奥へ奥へと押し入れる。
乙女
「熱、い……」
ある程度スムーズに入るのに、隙間なくぴっちりと
乙女さんの襞は俺にからみついてくる。
ペニスを前に動かすたびに粘膜同士が擦れて
じーんと甘い痺れをもたらしてくる。
乙女
「く……あ、やっぱり後ろからなんて」
特に、敏感な亀頭の裏側部分にギュッとあたる
膣襞の感触が凄く気持ちよい。
乙女
「なんだか、ん、恥ずかしく、て……ンッ」
ズブリと、一番奥へペニスを突き進めた。
乙女
「んぁっ…………」
初々しい乙女さんの反応が、いちいち可愛い。
レオ
「乙女さん、俺今度こそ乙女さんを思いっきり
感じさせて見せる」
そう、乙女さんは軽いエクスタシーには到達
したかもしれないが、いわゆる、イッた事なんて
まだ1度も無いはず。
男として責任もって気持ちよくしなくては。
乙女
「か、感じる事よりも、私……く……私は……」
乙女
「お前と1つになるのが好きなんだ……」
そんな健気な事を言ってくれる。
さらに、この後ろから乙女さんを
襲っているような快感が俺の欲望を加熱させる。
レオ
「動くよ」
乙女さんの汗ばんだお尻を撫でてから、
腰を動かしはじめた。
乙女
「あ………んんっ……!」
抜き差しを開始すると、乙女さんが声をあげた。
ぬちゃ、という卑猥な音が結合部分から聞こえる。
乙女さんの中でさらに愛液が多くなった気がした。
乙女
「うっ……あっ……あ、レオ……」
普段気丈な乙女さんが、切ない声をあげている。
俺はたまらなくなって、濡れた膣壁を
こすりたてるように腰を動かした。
乙女
「あっ……く、レオ……」
俺の腰の動きにあわせて、ぷるぷると
揺れる胸。
その眺めだけでもHだけど。
普段ピンとしている乙女さんの
背中がくねる姿も、とても色っぽい。
強烈な締め付けの粘膜で、俺は早くも
こみあげるものを感じた。
だけど、我慢しなくちゃ。
歯を食いしばるようにして、乙女さんに
腰を突き立てる。
乙女
「んんっ……んあっ……!」
乙女さんが、声を押し殺した。
あられもない声が出そうになって
我慢している感じだった。
腰の動きを早める。
ぱんっ、という肉と肉がぶつかりあう音。
俺の下腹部が、乙女さんのお尻にぶつかった音。
その一撃に、乙女さんの白い体がゆれる。
そして、俺のものをきつく締め付けてくる。
体中の熱があつまったような温度で、
きつくうねるように締め付けてくる膣壁。
結合部分が溶けてなくなりそうだった。
寸前まで抜いて……また突き入れる。
その反復運動。
ぱん、ぱんと響く肉がぶつかり合う音。
乙女
「くっ……あっ」
乙女さんも、どんどん感じてきたのか
露骨に声を出すようになってきた。
ペニスの張りだしたエラの部分が肉襞を
ズリズリと擦っているのが分かる。
レオ
「ん、く」
我慢しながら、ひたすら腰を送り込む。
乙女
「ん……はあっ……ああっ……レオ!」
レオ
「乙女さん……」
お互いの名前を呼び合う。
シーツをギュッと掴んでいる乙女さん。
奥にペニスが突き入れるたびに
乙女さんのくびれた腰がよじれる。
俺の動きは更に早くなり、ベッドが
ギシギシと軋みだした。
突き入れるたびに、濡れた襞が
みっちりと絡みついてくる
乙女
「あっ……あぁっ……だめだ……また、
ぼーっとしてきた……っ」
力強く、けれどどこまでも柔らかく締め付ける。
乙女
「んんあっ、あぁっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
うっすらと汗をかいた乙女さんの白い肌は、
とても綺麗に見える。
――もう限界が近いようだ。
熱烈な締め付けによくここまで持ったと思う。
乙女
「んくっ……くっ……レオ…………」
歯をカチカチと鳴らして喘ぐ乙女さん。
形のいいお尻が悩ましく揺れている。
レオ
「おと……め……さんっ」
力をこめて、最後に1回腰を突き入れた。
乙女
「っっ………!」
その衝撃にびくん、と乙女さんが反り返る。
乙女
「んああぁあ――――っっっ!」
熱いものがこみあげてくる。
俺はグッと乙女さんのくびれたウェストを
引き寄せた。
ドクンッ!
放出が始まる。
乙女さんの膣内遥か奥、子宮口へと向けて射精。
乙女
「あ……あ……凄く……熱い……」
精液が、乙女さんの中を焦がした。
ドクン、ドクン、と精を送り込む。
乙女さんの膣もピクピクと痙攣しながらも
それを受け止めてくれていた。
最後の一滴まで出しきってから、俺はペニスを
引き抜いた。
抜いた部分から、精液がトロリと滴り落ちている。
レオ
「拭いてあげるね」
あらかじめ近くにおいてあった
ティッシュを3枚ほどとって重ねる。
乙女
「あっ、いい、自分で拭ける!」
レオ
「いいからいいから」
しかしティッシュって偉大だよな何にでも使える。
ぐっ、と秘裂にティッシュを押し付ける。
乙女
「んぁっ……!?」
乙女さんの体がビクンと震えた。
レオ
「ごめん、ちょっと力入れすぎた」
優しく優しく。
乙女
「ん……いいというのに……ん」
優しく拭かれている感触に乙女さんが
甘い声をあげた。
レオ
「しかし我ながらすごい量だ」
ティッシュを丸めて、次のを取り出す。
再度拭き拭き。
乙女
「…………ん……ん……」
乙女さんはちょっとだけ気持ち良さそうだった。
優しく拭いてる甲斐がある。
中からドロドロと精液が流れ出てくる。
ええい、次のティッシュだ。
今度は濡れて、肌にくっついている
淡い陰毛も拭いてあげた。
乙女
「も、もういいだろ……」
レオ
「いや、初めにやると言ったことはやり遂げる」
水分を吸ったティッシュを丸める。
うわ、なんか俺たちの周りティッシュだらけ。
乙女
「スケベというか……お前は変態だ」
レオ
「これぐらいで変態なんて、それは違うよ」
レオ
「本当の変態というのは」
指で、最後にトロッと膣内から
出てきた俺の精液を掬い取る。
その濡れた指で乙女さんのお尻をいじってあげた。
レオ
「こういう事をいうんだ」
乙女
「っ、またそんな所を、やめっ……」
お尻の穴に、ぐ、と軽く指をいれてみた。
乙女
「っく……! あっ、お前……そんな」
俺の指が乙女さんのお尻を犯している。
わずかだけど、確かに挿入していた。
少しだけ、さらにぐっ、と中にいれてみる。
乙女
「あぅっ……く……ぅぅ……やめろ」
乙女さんの苦しそうな声。
そして、引き戻す。
乙女
「ん……くうっ……だ、だめだっ」
浅い、わずかな抜き挿し。
擬似的なアナルセックスみたいなものだ。
俺にお尻の穴を見られたどころか
指までいれられてしまい、乙女さんは
もうありえないぐらい顔を真っ赤にしていた。
それがまた可愛い。
乙女
「んあ……もう、それを外せ!」
もっとも恥ずかしい穴に入れられた指を
乙女さんが抜こうとしている。
結果、そのお尻を振る形になる。
それがまた官能的だった。
中にいれた指を動かしてみる。
乙女
「あぁっ! ……き、気持ち悪いだろ」
乙女
「もうやめろっ!」
レオ
「痛っ!!!」
ボカッと蹴り上げられる。
ついにキレたのか、乙女さんが馬のような
蹴りを放ってきた。
その拍子に、指がお尻の穴からヌッと外れた。
乙女
「んあっ……」
レオ
「痛い痛い、アゴ割れた!」
乙女
「じ、自業自得だ、スケベ……」
乙女さんは、力ない声でそういうと、
フラフラと部屋を出ていってしまった。
なんだか今日も嫌な天気だな。
すごい荒れ模様だ。
こんな日はセックスだな。
レオ
「乙女さん、ちょっといい?」
部屋に入る。
乙女 無音
「……」
レオ
「どうしたの、雷鳴ってないよ?」
乙女
「考えていた事があるんだ」
レオ
「?」
乙女
「お前にとって……私は何だ」
レオ
「何言ってるのさ」
レオ
「大好きなお姉ちゃんであり……」
レオ
「大切な人だと思ってる」
レオ
「違うの?」
乙女
「うん……そうだよな」
レオ
「だから、またしようよ」
乙女
「待て。レオ……聞いてくれ。
もう嫌なんだ。昼間から毎日毎日……
お前がリードしてばっかりで……」
レオ
「俺は乙女さんの事好きだから」
レオ
「好きだから、抱きたい」
乙女さんを押し倒す。
乙女さんは、好きと言えば抵抗を緩めてくれる。
乙女
「レオ…………私はもう、分からない」
今日は1日、乙女さんが友達と
遊びに外に行っていた。
だから俺も幼馴染3バカと遊ぶ事にした。
……………………
乙女
「よし、友達と話したら元気が出た」
乙女
「早く元のペースに戻らねばな」
乙女
「もう大分夜遅いが、まずは料理の特訓の続きだ!」
……………………
レオ
「ふう、カニのお守りは疲れたぜ」
レオ
「あれ、下から物音が……って事は
乙女さんも帰ってきたのかな」
もうだいぶ夜も更けている。
何やってるんだ。
レオ
「乙女さん、帰ってきたんだ」
乙女
「ああ。今度の料理は大分上手くできたんだぞ」
乙女
「ちょっと味見してみないか? ほら」
レオ
「……どうせ味見するなら俺は乙女さんがいいな」
その手を掴む。
乙女
「違う。そうじゃなくて」
レオ
「うん。火はしっかり止めないとね」
乙女
「レオ聞け」
レオ
「好きだよ乙女さん」
乙女 無音
「……!」
乙女さんをグイグイと部屋に引っ張っていく。
今回は、乙女さんが服を脱がないので
俺が“好きだ……”と囁きながら
優しく脱がしてあげる。
レオ
「今日は試してもらいたい事があるんだ」
乙女
「なんだ……それは」
レオ
「ホラこれ」
乙女
「……こ、これをどうするんだ」
レオ
「乙女さんが舐めて」
乙女
「私が、口で……これを、舐めるのか?」
レオ
「うん」
乙女 無音
「…………」
乙女
「……やだ、そんなの……」
乙女
「私には……できない」
レオ
「戸惑うのも可愛いよ」
レオ
「ホラ、舐めてみてよ」
髪の毛を優しく撫でてあげる。
サラサラしてて触り心地の良い髪だった。
乙女
「いやだ、舐めたくない」
レオ
「乙女さん……ほら。俺の事好きでしょ?」
顔を少し調整してあげる。
乙女 共通
「う……」
レオ
「乙女さんに舐めて欲しくて動いてるでしょ」
レオ
「可愛いと思わない?」
乙女
「ひどいぞ……」
レオ
「あっ……吐息がかかっただけでも気持ちいい」
グイグイと頭を動かす。
乙女
「なんでこんないじめるんだ」
レオ
「え?」
乙女
「私は……お前のオモチャじゃないっ!」
レオ
「乙女さん!?」
乙女
「私は……レオの事が本当に好きだ!」
レオ
「俺だってそうだって」
乙女
「お前は私で遊んでいるだけだろっ!」
レオ
「え……?」
乙女
「私はお前の姉で名前の通り乙女だって
言ってるのに……」
乙女
「この、バカぁっ……!!」
ガキィ!
レオ
「かはっ!」
村田のパンチなんて愛しく思えるぐらいの
強烈な拳だった。
至近距離での回避不能な右ストレート。
宇宙が見えた。
それぐらいまで吹っ飛ぶ意識。
……最近の乙女は強い……。
俺は一瞬で気絶した。
レオ
「……はっ!」
意識が回復する。
恐ろしい、土星あたりまで飛ばされた気がする。
時計を見る。
0時30分。
殴られて約45分間、気絶していたわけか。
……乙女さんに謝らないと。
立ち上がる。
頬がズキリと痛んだ。
……大丈夫。きっと許してくれるさ。
レオ
「乙女さーん」
レオ
「乙女さん?」
寝てるのかな。
レオ
「乙女さん……」
いないよ?
居間のテーブルに何かが置いてあった。
レオ
「……これは、乙女さんに預けてた
ウチの合鍵じゃないか」
なんでこんなものが置いてあるんだ。
ん、これは、手紙?
律儀に筆で書いてあるぞ。
えーと、なになに。
“実家に 帰らせてもらう 乙女”
レオ
「なっ……」
交際して一ヶ月と経たずに実家に帰られた……?
そ……そんな。
ようやく事態の深刻さに気付く俺。
レオ
「そ、そんな……俺、浮気も酒も
ギャンブルもしてないのに……」
がっくりと膝を突く。
その時に、殴られた頬がズキリと痛んだ。
レオ
「……あ」
“私は……お前のオモチャじゃないっ!”
……そうか。
まるで玩具を使うような
感じで乙女さんとやっていた。
そう言われても否定は出来ない。
もちろん乙女さんの事が大好きだ。
でも、相手の気持ち考えてなかった……。
レオ
「……くぅ」
そうだ、そりゃそうだよな。
いくら俺の事を大好きだといっても
今まで自慰もしないで生きてきた乙女さん。
それが、いきなり1週間で昼夜区別なく
セックスして、お尻まで責められて
フェラチオまで強要されたら、どうよ?
……そりゃあ普通いやがるよな。
なんでこんな簡単な事気付かなかったんだろ。
俺の事を大好きなはずだから、そんなもの
関係なく何でもやってくれると思ってしまった。
浅ましい思い上がり。
好きだからって何でもやってくれるわけじゃない。
乙女さんには今まで築き上げてきた物があるんだ。
殴られて、ようやく頭が冷めた。
レオ
「もう、こんなんばっかしだな、俺は」
これも、一種のテンションに身を任す、だよなぁ
性欲に流されちまって。
レオ
「くそっ!」
悔しさを壁にぶつけてやる。
拳を握り、思いっきり殴った。
レオ
「……痛え……」
中指にゴリッとした衝撃。
強く殴りすぎたために、拳を痛めてしまった。
……なんだか、しょぼいなぁ俺。
台所を見る。
乙女さんが一生懸命、作ってくれていた料理。
練習中だったもの。
それを口にいれてみる。
すっかり冷めたものの味が口に広がる。
レオ
「……やっぱり、まずい」
でも、今までに比べれば格段に上達していた。
胸が熱くなる。
俺の為にやってくれてるのに。
俺の為を思ってくれてるのに。
それを俺は……無理やりベッドにつれこんで
しゃぶらせようなんて……く……く。
あの綺麗な顔を、俺の精液で汚したいなんて
心の底で妄想してた。
それで満足しようとしてた俺が情けない……。
ふと、時計を見る。
もう午前1時……
乙女さんが家を飛び出した時刻はおそらく0時
ちょい過ぎだろう。
レオ
「あれ? 0時過ぎ?」
レオ
「……って事は終電、行っちまってるじゃん」
乙女さんはまだこの街にいる?
駅で立ち往生しているんじゃ。
レオ
「なら、まだ間に合う!」
火がついた心。
その炎が体中に伝わっていく感じ。
考える余地なんてない。
即断即決。家を飛び出した。
……………………
乙女
「終電が行ってしまってるのか」
乙女
「困ったな。こんな時間に駅前で立ち往生など
学生の本分に外れる……」
乙女
「かといってレオの家に戻る気はさらさらないしな
どうしたものか」
乙女
「ん、あれは……」
乙女
「椰子、丁度いい所であった」
なごみ
「……鉄先輩。また注意ですか?」
乙女
「注意したいのはやまやまだが、こっちも同じ時間に
外でフラフラしている時点で……説得力は無いな」
なごみ
「珍しくネガティブですね」
乙女
「頼みがあるんだが」
なごみ 無音
「?」
乙女
「お前の家に、私を一晩とめてくれないか?
明日の始発まででいい」
なごみ 無音
「……」
乙女
「嫌な気持ちは分かる。そこを曲げて頼めないか」
なごみ
「真面目な鉄先輩らしくもない意見ですね」
なごみ
「まぁ、何か事情があるようですし。
そこまで言うなら別にいいですけど」
乙女
「そうか、助かる。やはりお前はいい奴だな、椰子」
なごみ
「別にこれぐらいで」
……………………
レオ
「乙女さん?」
くっ……駅前にいない。
とっくに終電は過ぎているというのに。
まさか終電に乗れたのかな?
いや、日曜日の時刻表のはずだから
終電はいつもより早いわけだ。
乗れてるわけが無い。
レオ
「乙女さーん」
いないな。
どうやって朝まで過ごすつもりだ。
公園で新聞紙にくるまる乙女さんの姿を想像した。
レオ
「いやいやいや、そんなわけがない」
それじゃ野良犬みたい。
でも、あの人結構犬チック
(犬といってもドーベルマン)な所あるしなぁ。
公園のベンチとかで、うずくまってるのかも
知れない。
レオ
「ち……こういう時に携帯を持ってない
不便さが露骨に出るよなぁ」
家に戻ったら携帯持ってもらおう。
……家には戻ってないみたいだな。
は、まさか走って帰ってるんじゃ……。
あり得る。
でも乙女さん凹んでる時はとことん
凹むからな。そんな力は出ていないかもしれない。
レオ
「乙女さん!」
ここにはいないか。
は、まさか夜の学校ではあるまいな?
警備システムに気付かれないように潜入する。
レオ
「いないな」
よく考えればあの真面目な乙女さんが
そんな事をするわけないか。
レオ
「ちくしょう、どこ行ったんだ」
いまや夜の2時だぜ。
あの人だったら悪者にからまれても
全然平気だろうケド。
それでも心配だ。
心当たり全部探してやる。
…………………
午前5時。
どこにもいない。
やべぇ、そろそろ始発が出る。
駅で待っていた方がいいな。
……………………
なごみ
「別に掃除とか手伝ってくれなくても
良かったんですが」
乙女
「いや、一泊の恩があるからな」
乙女
「とにかく助かった。ありがとう」
なごみ
「いえ、別に」
乙女
「では、また2学期に会おう」
………………
駅に到着。
レオ
「乙女さん来るかな?」
そうそう世の中上手く出来てないかな。
レオ
「いや、そう捨てたもんじゃないな」
終電逃した人は始発に乗る…ありえる話だからな。
乙女
「柴又までは、乗り換えでいくらだっけかな」
千円札を投入しようとした乙女さんの手をとる。
レオ
「乙女さん!」
乙女
「なっ……なんでお前がここにいる」
レオ
「一晩中ずっと探してた。やっとあえた」
乙女
「……何しにきた」
レオ
「実家に帰る、とか言って出てった女の子を
男が追いかける理由は1つ」
そう。謝るためだ。
レオ
「俺が悪かった!」
レオ
「戻ってきて下さい」
乙女
「……で、またスケベな事をするのか。
お前が好きに動くのか」
レオ
「そこを悪いと反省しています」
乙女 無音
「……」
レオ
「ちょっと、ツカツカとどこ行くの」
乙女
「駅にお前がいるなら、歩いて帰る。
始発を待たずにはじめから
こうしておけばよかったな」
レオ
「ま、待つです!」
乙女
「聞く耳もたん」
レオ
「だめ、待つの!」
乙女 共通
「うるさい!」
乙女さんが歩を早める。
く、なんて早歩きなんだ。
レオ
「聞いて乙女さん」
乙女
「ふん、お前そう言った私の言葉を
何回聞かなかったんだ」
レオ
「う」
乙女
「13回だ」
レオ
「だからごめん」
レオ
「とにかく話を聞いてくれ」
乙女
「しつこい奴だな」
乙女さんはダっ、と駆け出した。
レオ
「……速! 荷物持ってるのに速!」
俺も追いかける。
…………うわ、なんて速い!
荷物持ってるのに、俺の全速力と互角かよ。
乙女さんと並んで走る。
早朝の街をひたすら駆ける。
レオ
「……はぁっ、はぁっ……」
乙女
「根性無しが。もう息があがっているのか」
ケロリとした顔で走る乙女さん。
レオ
「くっ……」
息が詰まりそうだ。
とはいえ立ち止まれば乙女さんは行ってしまう。
体を鍛えてないと、逃げる女1人掴まえられない。
シビアな世の中だぜ。
レオ
「乙女さんっ」
手を伸ばしてもパシッ! と払われてしまう。
レオ
「だ、だったら、走りながらでいいから聞いてくれ」
乙女 無音
「……」
レオ
「お、俺甘えてたんだっ……」
レオ
「乙女さん、相手なら、何しても、
許してくれるだろうって……」
レオ
「あ、姉の情ってやつ? それに甘えて……っ!」
舌噛んだ。
レオ
「や、やりすぎて、乙女心を傷つけちゃった」
レオ
「ごめん、本当に!」
レオ
「だから、戻って、きて」
乙女 無音
「……」
ぴたり、と乙女さんの動きがとまる。
え、いきなり急停止?
分かってくれたのか?
俺も立ち止まる。
レオ
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
急には止まれず、ヨロヨロと歩いてしまう。
全く、走らせて、くれるよ。
乙女
「馬鹿! 危ない!!」
レオ
「え……」
トラックのようなものが俺の目前に迫る。
というか、トラック?
乙女さんが止まったのは信号が赤だから?
俺が飛び出してしまったのか――。
乙女
「くっ、どけ!」
どん! と蹴りで押された。
レオ
「乙女さんっ」
乙女
「……ちぃっ!」
凄まじい勢いで横っ飛びをする乙女さん。
間一髪で、トラックとすれ違う。
レオ
「……ほーっ、よ、良かった」
前回り受け身をして立ち上がる。
乙女
「今のはさすがにやばかったな」
ぱん、ぱんと体の汚れを払っている。
トラックの運ちゃんは俺達が無傷だと確認すると
行ってしまった。
レオ
「……乙女さん、怪我ない?」
乙女
「ほんのちょっとすりむいたな。我ながら少し
なまっているようだ」
レオ
「乙女さん……良かった、ありがとう」
乙女
「ふん、私がお前を助けないはずないだろ
好きだという気持ちに変わりは無い」
レオ
「そ、そんな嬉しい事言うなら戻ってきてよ」
乙女 無音
「……」
乙女さんは、抗議めいた眼差しで俺を見ている。
レオ
「もう、合意なしで強引な事はしないから」
レオ
「そ、それにするのは週一とかにするから!」
乙女
「……別に週一でなくてもそれは構わないんだが」
レオ
「え?」
乙女
「合意なしで強引な事をしないのは当たり前だ」
レオ
「う」
乙女
「誓うのはそれだけか? 重要な事を忘れてるぞ」
乙女
「一番大事なことだ!」
レオ
「え、え?」
乙女
「私はお前の姉だ。分かるか?
お姉ちゃんなんだぞ」
乙女
「それで、お前が主導権を持っているのが
気に入らない」
レオ
「――」
え、別に毎日とかはいいんだ?
というか、主にそこなんだ。
自分が一方的に色々やられるのは我慢ならない。
……なんとも乙女さんらしいというか。
子供じみた負けず嫌いさだ。
レオ
「うん、そうだったね」
レオ
「それも誓うよ、乙女さん」
乙女 無音
「……」
乙女さんにジロジロと見られてる。
うーん、警戒されてしまってる。
乙女
「ってお前、この中指……すごく腫れてるぞ。
どうした」
レオ
「……うん。ちょっとヒビいってるかも」
乙女
「合意なしで強引な事をしない、という
証明のために……わざわざ指一本砕いたのか?」
レオ
「いや、これは自分のふがいなさを嘆いて
壁を叩いたら、勝手に砕けた」
乙女
「……なんだ、根性無しだな」
レオ
「あはは、乙女さんに手を出さない証明として
砕いたって方が任侠ぽくて良かったかな?」
乙女
「そうだな。分かりやすくて嫌いではない」
レオ
「でも、それは嘘だから」
レオ
「乙女さんに嘘つくなって言われたしね」
レオ
「俺。メリハリつけるよ。これからは
乙女さんの気持ちももっと考える」
レオ
「だから、帰ってきてくれ」
乙女
「……食事、奢ってもらうぞ」
レオ
「そんなんでよければいくらでも」
乙女
「後、お前病院行け」
レオ
「うん」
それは言われなくても。
レオ
「乙女さんも。トラックにかすったんだし」
乙女
「そうだな。念のため行っておこう。2人で行くか」
レオ
「う……うんっ」
乙女
「泣きそうな顔だったのがもう笑ってる。
現金なやつだ」
レオ
「そ、そりゃあ乙女さんが出て行った時は
悲しかったし戻る事になった今は嬉しいもん」
乙女
「ふふ……必死という奴だな」
レオ
「う」
乙女
「照れる事は無い。お前の気持ちは良く分かった」
乙女
「では、家に帰るか」
レオ
「――うん!」
病院で見てもらった所、俺は軽い打撲。
乙女さんは回復力の速さで無傷同然だった。
………………
レオ
「……」
乙女
「元気無いな……別に落ち込む必要は無いぞ」
乙女さんが俺の顔を覗き込む。
レオ
「うん。まぁでも自戒しているわけで」
乙女
「ふふ。そこまでしょげなくても
分かればいいんだ分かれば」
乙女
「だから別にこれぐらいは」
ちゅっ、と突然のキス。
乙女
「全然構わないぞ」
レオ
「うん……ありがと」
………………
乙女
「それじゃ、寝るか」
レオ
「え、いいの?」
乙女
「お前がいきなり変な事をしない限りはな」
レオ
「うん」
もうぎこちなさは完全に無い。
いつもの俺達に戻った。
乙女
「おい、この部屋もパーッと掃除するぞ」
レオ
「あ、いい、俺1人で出来るから」
乙女
「なんだ、見られるとマズイものでも
転がってるのか」
レオ
「いや、まぁ年頃というか……ねぇ?」
乙女
「ふん、どうせスケベな本でも転がっているんだろ」
う、だいたいあってる。
乙女
「まぁいい。お前の顔を立てよう
様子を見に来たとき遊んでたら
強制的に私も手伝うからな」
レオ
「うーす」
乙女
「うん……そうだ」
レオ
「?」
乙女
「やはりこうでなくてはな、私とお前は」
乙女さんはえらく満足そうだった。
乙女さんと2人で釣り糸を垂れる。
乙女
「こうして釣りをするには最適の陽気だな」
じりじりと地面に太陽が照りつける。
レオ
「むしろ暑いぐらいだけどね」
陽の光の眩しさに目を細めた。
海から吹き込んでくる涼しい風の
おかげで、多少は涼しいけど。
乙女
「まぁ、釣りよりは素もぐりが好きなんだが
釣りだとこうして、まったりと話せるからな」
2人でキラキラと輝く水面を見ていた。
レオ
「そういえばさ」
ちりん、とラムネ売りの
おっちゃんの自転車が通る。
乙女
「あれを買わない手は無いだろ」
タイミング外された。
相変わらず食べ物や飲みものに目が無い人だ。
ラムネを渡される。
乙女
「乾杯だ」
レオ
「何に?」
乙女
「2人の未来に、かな」
レオ
「それギャグ?」
乙女
「いいや、いたって真剣だが?」
んー、あなどれない人だ。
おごってもらったラムネを喉に流し込む。
蝉の声をBGMにまったりモード。
オーシンツクツクと鳴いてるやつが
出てきたら夏の終わりも近いんだよな。
レオ
「そういえばさ」
乙女 無音
「?」
レオ
「乙女さん、小さい頃に俺と何か
約束をした、とか言ってたじゃない」
乙女
「あぁ、あれか。うん、言ったぞ」
レオ
「また呆れられるかも知れないけど
俺、思い出せないんだよ」
乙女
「そうか、思い出せないか」
レオ
「重要なこと……そんな気がするんだ」
乙女
「初めは全然重要ではないと思っていたが
今では重要だな」
レオ
「……思い出せない」
乙女
「だったら教えてやろうか? あれは――」
レオ
「いや、いい、ごめん」
レオ
「やっぱり自分で思い出す。そっちの方が
いいから」
乙女
「ん、まぁ時間はいっぱいあるしな」
乙女
「っておい、おい引いてるぞ」
レオ
「ぬお、手ごたえが大きい」
乙女
「この位置でそれほど大きいものがかかるかな?
手伝ってやろう」
乙女さんに支えられて、釣り糸を引っ張る。
レオ
「……あっ、ちくしょう逃げられた」
乙女
「ふふ、それを気にしては釣りはやってられないぞ。
時間はいっぱいあるんだ」
そうだ、時間はいっぱいあるんだ。
その言葉にすごく安心できた。
乙女 共通
「おはよう」
カシャッ! とカーテンを引かれる。
レオ
「ん……今日もいい天気だね」
寝起きはさわやか。
夏休みも後残りわずか。
乙女さんが後ろを向いてしまう。
乙女
「……朝からすごく元気だな」
照れながらそんな事を言う。
レオ
「あ、いや、これは生理現象! マジで!
これを否定されたら俺は」
乙女
「いや大丈夫。分かっているが……
そういえばここ一週間ぐらい……無しだな」
レオ
「え、じゃあ今晩あたりどう?」
乙女 無音
「……」
はっ! しまった!
乙女
「……こういう時の返答は照れるな」
乙女さんはそんな事を言いながら出て行った。
えーともし嫌な場合は蹴りが飛んでくるわけだし。
OK……なんだよなぁ。
……………………
レオ
「あ、俺のベッドシーツ干してある」
つい2日前に洗ったばかりの気もするが。
乙女
「トレーニングするぞ」
レオ
「はい」
乙女さんは、今夜の事を意識してないのかな?
乙女
「集中集中!」
そうか、これ集中力の差か!
武道で鍛えた集中力には適わないな。
乙女
「おい、ちょっと身が入ってないぞ」
う、見抜かれた。
乙女
「今はこれで我慢しろ」
優しくキスされる。
レオ
「ぎゃ、逆効果な気もする」
それでも、ここは我慢だ!
その分夜頑張るぞ!
はぅ! そう思うとまたムラムラと。
我ながらさかってるな……。
……………………
今日は乙女さんお風呂長いな。
俺も風呂に入る。
念入りに洗ってたらいつもより
長風呂になってしまった。
部屋に戻る。
乙女さんはパジャマ姿で、
ベッドに腰掛けて足をブラブラさせていた。
んー、こ、この空気は恥ずかしい。
いつも天真爛漫に挑んでたからなぁ。
またエアコンの音だけが響く。
乙女
「……緊張しているのか?」
レオ
「うん……ちょっとはね」
乙女
「なんだ。先週までは獣だったのにな」
レオ
「反省してます」
乙女
「うん……なら、私に任せておけ」
立った乙女さんが、ベッドに座っている
俺に近付いてくる。
クイ、と指でアゴをあげられた。
そして、そのまま唇を重ねる。
レオ
「ん……」
昼間の軽いキスとは違う、
ねっとりして情熱的なキス。
乙女
「ぷは。私はな、この行為自体に怒っていた
わけじゃないんだ」
レオ
「……うん」
乙女
「お前の事が大好きなのに変わりないんだ。
心構えさえあれば何だってしてやる」
乙女
「……例えば」
………………
乙女
「……こ、これをして欲しかったんだろ」
乙女さんの手が、そっと俺のペニスに添えられる。
レオ
「い、いいの?」
乙女
「うん。私がしてあげるんだ」
乙女
「前はお前に連れてこられて、いきなり
頭押さえられて舐めろでは納得できなかったがな」
レオ
「うぅ……ごめん」
聞けば聞くほど自分が鬼畜に思える。
乙女
「しょ、正直恥ずかしいが……」
乙女さんが喋るたびに、吐息がペニスにあたる。
乙女
「心の準備もできている。私がしてやる」
レオ
「乙女さん」
乙女
「可愛がってやるから……力は抜いておけ」
レオ
「ん……」
言われたとおり体の緊張を解く。
乙女さんがしてくれるなら、任せよう。
乙女
「……さっきから私がしゃべるたびに
ピクピク反応しているんだが」
レオ
「息が当たってそれが微妙な刺激になって」
乙女
「そうか……敏感なんだな」
乙女さんが、指を軽く動かした。
レオ
「んんっ……」
乙女
「まだ舐めてないぞ?」
レオ
「指だけでもきもちいい」
乙女
「ん……こんな感じか?」
ペニスに食い込んでいる指がぎこちなく動く。
じんわりとした甘みが広がってきた。
レオ
「うん……それ気持ちいい」
乙女
「ますます熱くなっていくな」
レオ
「刺激が心地良くて」
乙女
「それに堅さも増している気がするぞ」
レオ
「(……しかし、改めてこの光景を見ると)」
乙女さんが俺のペニスを握って、
しかもしごいてくれるなんて……。
前にお風呂場でもやってもらったけど
顔が見えている分、興奮度はこっちの方が上だ。
乙女
「そうビクビク震えるな……よしよし」
レオ
「あっ…」
子供の頭を撫でるような優しさで、
先端部分を刺激された。
乙女
「痛くは無いな? 痛ければ我慢せず言うんだぞ」
レオ
「うん……」
乙女
「擦っていると……摩擦しているせいか
ますます熱くなっていくな」
乙女
「ん、なんかここだけ手触りが違うというか……」
乙女さんが、ペニスの裏側をのぞきこんだ。
スジの部分などをじっくりと見られる。
乙女
「ふぅん……ここはこうなっているのか……
ここの出っ張った所が、私のをひっかいてくる
やつだな……」
ぬぉ、乙女さんにペニスの生態を観察されている。
乙女
「その顔を見ると……結構気持ち良さそうだな」
レオ
「うん」
乙女
「そうか、不器用だから不安だったんだが
それなら良かった……」
乙女
「じゃあもう少し強く刺激してやろうな」
ペニスを握る力が強くなる。
レオ
「ん……く」
乙女
「あ、キツかったか? すまん加減が分からなくて」
今度は、もう少し優しくペニスに
触れてきた。
レオ
「う、うん……それぐらいが気持ちいい」
乙女さんのしなやかな指先が強弱をつけて
動くたびに、ペニスが反応してしまう。
乙女
「……と、こうか?」
亀頭部分が敏感だと気付いたのか、
そこを集中的に触るようになってきた。
指の腹で優しく、丹念にすりあげる。
乙女
「ん、ここのスジみたいな部分気持ち
いいようだな」
レオ
「や、優しくね」
乙女
「分かっている」
裏筋を優しくなぞる乙女さん。
レオ
「(乙女さん……一生懸命だ)」
照れながら、しっかり手でしてくれている
あたりに愛を感じる。
乙女
「どうした? なんで目を閉じている」
レオ
「すっごい気持ちいいよ、乙女さんの手
だからつい、うっとりと」
乙女
「ん……不器用な手だが、そう言ってもらえると
こっちもやり甲斐がある」
手の動きが早くなってきた。
しゅっ、しゅっ、という速度。
レオ
「あ……まずい、これ……クセになりそう」
乙女
「スケベめ……もっと強くしてやる」
こすこす、と上下する指の動き。
自慰と同じようなスピードなのに
こっちの方が圧倒的に気持ちよい。
先端からは、先走りの透明な汁が出ていた。
乙女
「あ、透明なのが出てきたぞ……」
レオ
「うん。乙女さんの手が気持ちいい証拠だよ」
乙女
「続けて大丈夫だよな?」
レオ
「うん、むしろ遠慮なく……う……そうそう」
先走りを気にせず、手を動かし続ける乙女さん。
レオ
「あ、ぁ、……ぁ」
乙女
「可愛いなお前……」
コンコン。
レオ
「(ノックの音!?)」
乙女 無音
「……!」
レオ
「だ、誰だ?」
きぬ
「ボクだよボク。最近カーテンばっかりで
つれねーじゃん。中に入れてよ」
カニのシルエットがカーテンごしに見える。
レオ
「今、忙しい。また今度な」
きぬ
「ちぇ……なんだよつまんねーなぁ」
カニのシルエットが消えた。
レオ
「ふう……びっくりしたぁ」
乙女
「……まだいるぞ。気配で分かる」
レオ
「えっ?」
何もせず待機。
だいたい10秒後。
きぬ
「あ、そういえば聞き忘れてたんだけどさぁ」
レオ
「な、なんだよ」
きぬ
「……いや、やっぱりいいや。じゃあね」
乙女
「……気配が消えた。行った様だな……」
レオ
「あー、ドキドキした」
乙女
「なんだか後ろめたさがあるが……窓を
開けて歓迎、というわけには行かないしな」
そう言いながら、手の動きを再開させる
乙女さん。
指が先走りに濡れてヌルリと滑るせいか
勢いはさらに増している。
乙女
「お前、蟹沢にしっかりフォローいれておけよ
友達は大切にな」
先端から根元まで。
乙女さんの指がシゴきを繰り返す。
レオ
「お、乙女さん……は、俺とカニが、んっ、
仲良くしていいの?」
乙女
「友達なんだ。仲良くするのは当たり前だろう」
レオ
「2人っきりで、え、映画とかに行ってもいい?」
乙女
「なんだか、それを考えると嫌な気分になった……」
レオ
「うん、そ、そっちの方が……んっ、嬉しい。
意地悪な事聞いてごめんね」
レオ
「……く、乙女さん、そんな事言ってる間に
俺もう……」
乙女
「我慢せずに出せ」
レオ
「あっ……」
ビュッ、ビュ、ビュッ……
乙女さんの顔にはかけたくなかったのに。
容赦なく射精してしまった。
我慢する暇も無く、勢い良く飛び出た精液が
乙女さんの凛々しい顔や、床を汚した。
レオ
「あ、あぁぁ……あ、ごめん」
乙女
「謝る事は無い、私の手で感じたのなら何よりだ」
乙女さんの整った鼻に付着している精液。
赤みがかった頬まで汚してしまっている。
乙女
「ヒクヒク震えているぞ、お前の」
乙女さんが赤い舌をペニスに伸ばした。
レオ
「え」
乙女
「ん……ぺろ」
レオ
「あぅっ」
射精後の敏感になっている亀頭を舐められた。
ゾクリとした快感が背中をかけのぼる。
乙女
「……れろっ……ペロ…んっ」
レオ
「あっ、お、乙女さん……出した後を
舐めるなんて」
乙女
「こら、暴れるな。……ん、ぺろ、れろ」
ヌルヌルした舌の感触は強烈だ。
ただ亀頭を軽く舐めあげられているだけなのに
こんなに気持ちいいなんて。
乙女
「ちゅっ……んっ…ぴちゃ………チュッ…」
レオ
「あ……あ」
まずい、乙女さんに舐められる事自体が
気持ちいいのに、これは……。
麻薬のような快楽だ。
乙女
「ん…気持ち良さそうだな……ちゅ……ん…
ん………ちゅっ……」
乙女
「出したばっかりなのにな、ぺちゅ、
くちゅ………ぺろ、もうこんなに固くなってる」
乙女
「んっ……ちゅ…はぁ」
亀頭の部分だけを磨くように舐める乙女さん。
乙女
「んっ…ちゅ、………ちゅぷ……ん
また濡れてきたぞお前……」
単調な、けれど熱心な舌の動き。
乙女
「ぺろ…ん、ちゅ……苦いな」
裏筋を刺激されるたびに、ゾクゾクしてくる。
レオ
「俺、ここまでしてもらって嬉しい……」
乙女
「ん、そうだろ、私は優しいからな……
れろ、ぺろ……」
乙女
「ん、れろ……ぺろ、大人しくしてれば、
もっとしてやるさ」
乙女さん、やっぱ自分でいっぱい
動くのが好きなんだ。
こっちが好き放題やるのは我慢ならないらしい。
攻撃力が高くて防御力が低いというか。
乙女
「ん、いちいち反応して可愛いな、ここ
れろ、れろ、れろ……」
裏筋の部分を舌でこそげとるように、
たっぷりと舐められた。
乙女
「ん…ちゅっ……ぺろ……どんどん濡れてきてるぞ」
レオ
「というか、乙女さん……」
乙女
「ん……ちゅ…んむ、ん?」
レオ
「俺、もうダメっぽい」
射精した後の亀頭をペロペロ舐められるのが
これほど甘い刺激だとは。
乙女
「ぺろ、ぺろ……我慢する事は無いぞ」
乙女
「んン…うぅん…あむ、くちゅ…
まだ続くんだからな……」
レオ
「くっ……乙女さんっ……!」
びゅょっと、自分でも驚くほどの
勢いで精液が飛び出た。
また床を汚してしまう。
乙女
「すごい勢いだな……」
乙女さんが感心しながら俺の射精を
観察していた。
……本当は口で受け止めて欲しかったけど。
いきなり精液を飲むなんてよほど豪気な
人物じゃないと無理だろう。
乙女さんは“乙女”なんだから。
無理はさせない。
近くにあったティッシュを渡して
顔を拭いてもらった。
俺の精液がかかった乙女さんの顔は
確かにエッチだけど。
やっぱり素の表情が一番美しい。
乙女
「レオ……疲れているか?」
乙女さんがサラシを解いている。
レオ
「ううん、余裕」
目の前で裸になっていく乙女さんを見て
勃起しないわけがない。
…………ズブッ……ずずっ……
乙女
「くっ……ンッ……はぁぁぁっ……」
乙女さんが羞恥に頬を染めながら、
少しずつ腰を沈ませる。
凛然とそそりたったペニス、その亀頭が
膣内に飲み込まれていく。
乙女
「んっ、2回出したけど、元気だなっ……」
乙女さんが、ピクンと反応して
胸を揺すりながら挿入行為を続けた。
根元まで中に埋没する。
乙女
「んっ……んんっ……」
白い裸体をゆっくりと動かしていく。
レオ
「お、乙女さん、俺も動いていい?」
乙女
「もちろんだ。ん、……くっ」
俺も乙女さんの動きにあわせて、腰を突き上げる。
乙女
「んくっ……アッ」
乙女さんの上体がのけぞった。
その弾みで、胸がぷるんと揺れる。
レオ
「(相変わらず……この眺め、エッチだ)」
乙女
「ん……レオ……遠慮、ん、しなくていいぞ。
もっと……動いても」
乙女さんが短くそろえた髪を揺らしながら、
少しずつ動くペースをあげていく。
凛とした瞳が、ウルウルになっていた、
見つめあいながら、動きをさらに早めていく。
乙女
「んっ……レオ……」
じゅく、じゅぷっ、という卑猥な水音を
気にせず、2人で腰を振る。
乙女さんは濡れた粘膜をキュッと収縮させ、
さらにペニスを締め付けてくる。
レオ
「乙女さん……綺麗だよ」
2人で1つになっている感覚。
俺はたまらず、乙女さんの中に精を放った。
乙女
「んっ……あっ……んっ……3回目なのに……また
……いっぱいでてるな……」
レオ
「乙女さん……」
乙女
「レオ……私はまだまだ求めたり無い」
レオ
「え」
乙女
「はしたないと思うな、お前の顔を
見るとたまらなくなる」
がばっ!
乙女さんがそのまま覆いかぶさってきた。
乙女
「ん……ちゅっ」
首筋にキスをされる。
そのまま唇が滑り、鎖骨あたりで
またちゅぅっ、と吸われる。
それは熱烈な愛撫だった。
舌で、指で。
乙女さんは俺の全身をくまなく愛してくれる。
自由に動ける場合の乙女さんが
ここまで大胆なんて……
指と指の間まで丹念に舐められる。
そこで、再び勃起してくる俺のペニス。
乙女
「うん……まだまだ大丈夫そうだな」
乙女さんはそう言うと、再び乗りかかってきた。
……………………
乙女
「すやすや」
レオ
「ウ……ウ」
乙女さん、なんて満ち足りた顔で寝てるんだ。
熟睡している。
こっちはもう、出せるだけ出した感じ。
自分が積極的に動けるとこうも熱烈なんて。
というか、何回したよ? 4回ぐらいまで
数えてたけど。
乙女さんに体の全てを触られキスされた気がする。
深い愛を感じた。
……でも、俺の体力不足も感じた。
レオ
「オ……オォ……オ」
やべぇ体がだるい。
頭はスッキリしているのに、
腰が甘い気だるさを感じている。
スバル
「いよお、久しぶり。オレに会えなくて寂しか……」
レオ
「ヤァ、スバル……」
スバル
「……オマエ。体中キスマークだらけだぞ」
レオ
「エッ マジデ」
…… (体力回復中) ……
レオ
「ふぅ」
レオ
「お前のスタミナ手料理食ってようやく元に戻った」
スバル
「そりゃあ何よりだな」
レオ
「危うくカタカナしか喋れんキャラになる所だったぜ
主役がそれじゃ読みづらくて辛いだろうからね」
スバル
「何、相手はお姉様?」
レオ
「そう、乙女さん」
レオ
「なんというか……たっぷり可愛がられたって感じ」
レオ
「すげぇよ、あの人……立場が変わっただけで
ああも違うとは」
スバル
「顔真っ赤だぞ」
スバル
「別にオマエだって嫌じゃないだろ」
レオ
「ええ、もう嫌どころか……」
レオ
「ただ体力つけとかないと……マジで死ぬ」
卵を割って流し込む俺。
スバル
「ま、お幸せにな。この事はフカヒレ達には
超遠回りに話しておいてやるよ」
スバルは半ば呆れながら去っていった。
乙女
「しかし強く口づけすると、ああも痕跡が
残ってしまうものなんだな」
レオ
「うん……俺もびっくり」
乙女
「なんせ明日から学校が始るからな。
これから首筋とかは気をつけよう」
レオ
「う、うん」
レオ
「あのさ、乙女さんと付き合ってる事
皆に言ってもいいのかな」
乙女
「私達は同居生活しているわけだからな」
レオ
「そうなんだよねー」
乙女
「示しがつくか、と言われれば微妙だからな」
乙女
「親しい者達以外には、黙っておくのがいいだろう
だが、別に隠す気はないけどな」
乙女
「どちらかというと、自慢してまわりたいぐらいだ」
レオ
「乙女さん……」
乙女
「とはいえ」
乙女
「言っておくが、いくら私の弟で恋人だからとて
特別扱いはしないからな」
レオ
「うん、分かってる」
レオ
「……じゃあさ」
乙女 共通
「ん?」
レオ
「その分、今甘えていい?」
乙女
「……仕方の無い奴だな」
乙女
「こい、抱っこしてやる」
レオ
「ん……」
乙女
「……明日は早いぞ、このまま休め」
レオ
「うん……」
乙女さんに抱きしめられ、包まれている。
この圧倒的安心感は何だろうか。
俺は安らかに眠りについた。
今日から新学期だ。
気合を引き締めて頑張るぞ。
乙女
「おっ、自分で起きれたか、偉いぞ」
乙女
「こい、抱きしめてやる」
乙女
「ご褒美だ……ンッ……ちゅ」
乙女
「あらためて、おはようレオ」
レオ
「……おは……よう」
……気合を……引き締める……ハズなのに。
乙女
「よし、朝ごはんだ」
甘い気分が一瞬で、いつもの慌しい朝に。
乙女さんって何でこうテキパキしてるんだろ。
朝飯は、乙女さんが料理の修業中なので
おにぎりだ。
乙女
「ところで、蟹沢の件について話があるんだが」
レオ
「カニの?」
……………………
レオ
「おらカニ起きろ」
乙女
「おい、明日からは私が蟹沢を起こすからな」
レオ
「そうなるの?」
乙女
「当たり前だ。下着丸見えではないか!」
レオ
「あぁ、そう言う事。でも大丈夫だよ俺と
この甲殻類は幼馴染」
レオ
「変な感情はないさ」
乙女
「今はなくても、後で芽生えたらどうするのだ」
レオ
「それはないって」
乙女
「とにかく、蟹沢はこれから私が起こそう」
乙女
「それとも毎朝下着を見ないと気がすまない
タイプなのか」
レオ
「い、いやそんな事は」
乙女
「お前がキチンとお願いすれば」
乙女
「……その……私のは……見せてやる」
レオ
「だから下着にこだわってるわけじゃないって!」
レオ
「……まぁ朝の手間が減るのは歓迎だけど」
なんか寂しいのは何故だろう。
乙女さんと付き合い初めて。
少しずつ、周囲が変化していく。
レオ
「カニと学校行くのもダメなの?」
乙女
「何故そうなる。それは許容するさ」
乙女
「だがこれは明らかに何か違うだろ!」
レオ
「言われて見れば確かに」
……………………
きぬ
「うー、ちくしょう、蹴り起こすとは
乙女さんも油断できねー」
レオ
「体育会系は容赦ないってわけだ」
きぬ
「へん、お姉ちゃんっ娘のくせに
まさか1つ屋根の下にいるからって
自分の姉代わりにコロッと落ちるとはねぇ」
レオ
「なんだよ、つっかかるなぁ……」
2学期にはいって、初めての通学路。
真名
「ちーす、久しぶり」
きぬ
「こんがり焼けたなオメー」
真名
「もとからやろ。
ちゅーか、対馬の雰囲気が、なんやろ?」
豆花
「あかぬけた、というのが一番いい例えネ」
真名
「そう、それや」
レオ
「……留学生に日本語の意味を教えてもらうなよ」
豆花
「ガールフレンド、できたのかネ?」
レオ
「……んーまぁ」
きぬ
「けっ、こいつ自分の姉代わりである乙女さんに
惚れてるんだぜ」
真名
「ありゃ。カニっち的にはそれでええんかいな」
エリカ
「ハロハロー」
レオ
「あ、姫久しぶりー」
エリカ
「あれ、対馬クンなんだか少し顔が
大人っぽくなってない?」
レオ
「え、そう?」
エリカ
「んん。ひと夏で脱皮を遂げた奴が何人いたかと
思えば対馬クンもその一人かぁ」
校門が見えてくる。
レオ
「みんな俺ばっかいじってるけど」
レオ
「なんか皆は全然かわってないね」
ピシッ
……あれ、何この空気。
俺へんな事言っちゃったかな?
真名
「出会い! 出会いがなかったんや!」
豆花
「禁句をさらりと言てくれるネ」
きぬ
「オメー、よくもヌケヌケと!」
エリカ
「面白そうだから私も攻撃しておこうっと!」
レオ
「ちょっ、待って、うわ、ごめん」
乙女
「そこ、何をやってるか!」
きぬ
「何はぐぅぅぅぅぅぅ!!!」
乙女さんが瞬間的に助けに来てくれた。
カニ達がボカーンとふっとばされた。
レオ
「乙女さん」
女の子相手に蹴りは出さないのでは。
今、普通に足で姫まで蹴っ飛ばしてたけど。
とはいえさすがに姫は、しっかりガードして
いたようで、着地と同時にポーズを決めていた。
乙女
「どんな事情があるか知らないが、1人を
複数人で襲うのは恥としれ」
乙女
「レオ、大丈夫か?」
レオ
「うん全然平気」
乙女
「ん、少しズボンが汚れてるぞ、ほら」
乙女
「ネクタイ直して……と」
乙女
「シャツの乱れを直して……うんっ」
乙女
「これで良しだ、はは」
ぽん、ぽんと頭を撫でられる。
……特別扱いしないとか言いながら。
かなり特別扱いしてないか?
しかも今気付いたけど、俺嬉しそうに笑ってる。
この俺たちの光景を見ている、蹴られた女性達。
エリカ
「対馬君 ー A = 0
このAに入る値を求めなさい」
きぬ
「はい、A=シスコンです!」
レオ
「0になるなんてひどいっ!」
真名
「シスコンやなぁ……ほんまびっくりや」
イガグリ
「フカヒレ……あれ、うらやましいべ」
新一
「まぁ、俺も夏は楽しんだけどね」
イガグリ
「そういえばお前、家で遊ぶタイプなのに
日に焼けてるべ。どうしてだ?」
新一
「ははは、夏のとある日に、ネットの
オフ会で女の子達と遊んだからね」
イガグリ
「いいなぁ、フカヒレもうらやましいべ」
あぁ、始業式前に早くも目立ってしまった。
学校2日目。
今日までは午前一杯だ。
乙女
「やっ、レオ!」
ぐっ、と手を握ってくる。
レオ
「乙女さん、巡回中?」
乙女
「あぁ、仕事だからな。今のところ特に
異常はないが」
乙女
「お前、ここで何をしてるんだ」
レオ
「うん、一緒に帰ろうと思って」
乙女
「お前、お姉ちゃんっ子だな……」
乙女
「クラスメートとのコミュニケーションはいいのか」
レオ
「うん、あいつらとは昨日、学校終わってからも
焼肉行ったりしてはしゃいだからね」
乙女
「ん、分かった。仕事を切り上げたいが、
そういうわけにもいかない
終わるまでまっていてくれ」
レオ
「うん」
周囲を見る。
人気は無い。
なんか乙女さんを見てると変な気分になるな。
ぶんぶんと首を振る。
い、いかん。場所をわきまえろ。
レオ
「……え?」
乙女
「ンッ……ちゅっ」
レオ
「ん?!」
……今のキス?
乙女
「お前が可愛い事をいうものだから
……ついな」
まぁキスをするなという校則はないから、
モラルの問題なんだろうけど。
それを乙女さんが……驚きだ。
レオ
「な、なんかずるい」
人目がないのは確かだけどさ。
乙女
「ふふ、年上の特権だな」
こ、この人はこっちがやりすぎると
いじけるくせに、自分優位の時はえっへん! って
感じだなぁ。
分かりやすくて、思わず微笑んでしまった。
乙女
「続きは……家でな」
ぞくりとした。
乙女
「……料理が一向に上達しないのは何故だ」
レオ
「そう簡単に上手くなったらシェフさん達
飯の食い上げでしょ」
レオ
「しかも、俺から見れば何を作りたいのか
分かってきただけでも大した進歩だと思う」
レオ
「それはずばりマーボー豆腐!」
乙女
「失礼だな、シチューだ!」
なにぃ、前までは何を作りたいか
分かる所までは行ったのに。
レオ
「……もっと簡単なものから覚えなよ」
乙女
「ん、ちょっと味見してみろ」
ちび、と口に含んでみる。
レオ
「あ、見てくれはともかく、味は進化してるっぽい」
乙女
「何、本当か!」
レオ
「うん、道はまだまだ長そうだけど
上達していると思うよ」
レオ
「ただ……味が向上しているのに
今度は見てくれが」
本当に道はまだまだ長いけど。
乙女さんはくじけない。
俺も見習わなくては。
乙女
「しかし、お前の為に一生懸命
頑張る私、まさに乙女だと思わないか」
レオ
「ま、まぁね」
乙女
「よし! 日々精進!」
乙女はよし! なんて気合い
いれるポーズするかなぁ。
今日から午後の授業も始まる。
夏休み気分も吹っ飛んだね。
エリカ
「それじゃ、皆揃った所で2学期初の
執行部ミーティングと行きましょうか。
議題は、学園祭と修学旅行時の……」
………………
エリカ
「……以上で一通りの確認事項は終わりね」
さすが姫、キビキビとしている。
エリカ
「あと1つ重要なこと。乙女センパイと対馬クンの
交際関係はぶっちゃけどうなのかということ」
レオ
「……重要?」
エリカ
「そりゃあね。うわっついた話があるの
そこのエリアだけなんだもん」
乙女
「ぶっちゃけるも何も事実だ
レオは私と付き合っている」
乙女
「文句がある奴はかかってくるといい」
俺の前に立ち、ドンと刀を地面に立てる乙女さん。
エリカ
「いやそうきっぱりと断言されると、こっちとしては
おちょくり甲斐が無いと言うか……」
なごみ
「やれやれ」
椰子がつきあいきれないという感じで席を立った。
祈
「鉄さん、そんなに威嚇しなくても誰も
対馬さんには手出ししませんわよ」
エリカ
「そうそう、頼まれたって手を出さないから
安心しなさい」
良美 無音
「……」
新一
「ちぇ、レオめ……すっかり庇護されてるなぁ
うらやましいけどうらやましくないって言っとこ」
レオ
「本音が口に出ているぞ」
レオ
「ちーす」
エリカ
「あ、対馬クンだけだ、やっほ」
嫌な予感がした。
レオ
「書道のレッスンがあるんでそれじゃ」
良美
「対馬君、そういわずちょっと待ってよぅ」
佐藤さんに腕を絡められる。
乙女さんよりおっきい胸がムニュと当たって
気持ちいいけどそれどころではない。
エリカ
「まぁまぁ、いいからいいから」
……つかまった。
………………
エリカ
「対馬クン500円持ってる?」
レオ
「あるけど……」
何故か500円を徴収された。
エリカ
「よっぴー、これでよろしく」
良美
「エリーって形から入るの好きだねぇ」
佐藤さんがテテテッと部室を出て行く。
そして7分後戻ってきた。
レオ
「なにこれ」
エリカ
「カツレツどんぶり。ぶっちゃけカツ丼ね
取り調べには必要でしょう」
レオ
「俺の自費なんだ」
エリカ
「実際の取り調べでも、あれ自費みたいよ。
コーヒーぐらいなら普通に出るらしいけど」
良美
「っていうことで、はいお茶」
レオ
「ありがと」
レオ
「で、取り調べって何!」
エリカ
「単刀直入に。乙女センパイとどこまで行ったの?」
これだから女子校生は……。
レオ
「気になる?」
エリカ
「うん、だって姉弟のような間柄で
でも恋人で、かつひとつ屋根の下でしょ
もしかしたら目も当てられない桃色世界かも……」
エリカ
「ってよっぴーが言ってた」
良美
「い、言ってないよぅ!」
レオ
「はぁっ」
俺は溜息をついた。
レオ
「いくら姫でも、そういうのは言えないな」
当たり前だろ、さすがに。
エリカ
「つまり、言えないような事までしてるんだー」
レオ
「う!? や、いや、その」
エリカ
「赤く染まってきた。こりゃビンゴだったわね」
良美 無音
「……」
なんだか感情の読めない視線が痛い。
なごみ 無音
「……」
椰子はどうでもいいといった感じだ。
エリカ
「で……どこまで行ったの? 乙女センパイの
胸みれた? どうなの、ねぇ」
姫がげんこつで俺の頬をグリグリする。
エリカ
「言えば楽になるわよ、このシスコン野郎」
今、まさしく俺はスーパー・ピンチ。
昔からピンチの時に来るのは必ず……。
乙女 共通
「レオ、大丈夫か?」
レオ
「乙女さん!」
乙女
「お、カツ丼だな。私の好物の1つだ」
乙女
「それはともかく、姫。そういうのは良くないぞ」
乙女さんがポニーテールをぐいっと引っ張る。
エリカ
「あ痛たたたたたたたたっ! 抜ける! 外れる!」
レオ
「え、そういうモノだったの?」
乙女
「こんな綺麗な色は飾りでは出せないさ」
エリカ
「そうそうわかってるじゃない」
意外と余裕あるなこの人も。
レオ
「っていうか何で俺のピンチが分かったの?」
乙女
「なんとなくそう感じた。これが絆というやつか」
エリカ
「んなアホな。そういうの私信じないタイプ」
乙女
「おい、いいか? レオを必要以上にいじめるな」
ぐいっ!
エリカ
「あいたたたたっ! 私に命令できるのは私だけ」
乙女
「やれやれ……じゃあ気をつけろ、姫」
エリカ
「あーもう、痛いなぁ……乙女センパイじゃなきゃ
殺してたわよコレ」
なんかこの2人って殺伐としながらも
微笑ましいというか……。
姉弟みたいだった。
その分、容赦ないけど。
乙女
「ところでこれ(カツ丼)食べてもいいのか?」
………………
レオ
「……ふぅ」
風呂は心が落ち着く。
今日も姫にいじめられたなぁ。
乙女
「おい、湯加減はどうだ」
レオ
「いい感じでーす」
乙女
「ならば私も入ろう」
今なんと?
……………………
レオ
「うぅ……」
乙女
「おい、なんで緊張しているんだ
前にそっちからリクエストした事だろ」
レオ
「うん、気持ちいいんだけど……」
ノリノリの乙女さんにペニスを握られると
畏敬の念が湧いてくる。
乙女
「心配するな、痛くはしないさほら」
いい子、いい子と亀頭を優しく撫でられた。
ぷるんとした胸が背中に押し付けられている。
乙女
「ふふ、こうやってお前が少し緊張してるぐらいが
丁度良い。こっちも年上として頑張り甲斐がある」
ぺろ、と首筋を舐められた。
乙女
「ところで今日、お前姫にいじめられていたが」
レオ
「う、うん」
乙女
「なんだか迫害されているというのに、お前は
少し楽しそうだったな」
レオ
「……」
乙女
「……今でも、やはり姫に憧れているのか」
レオ
「うん」
乙女 無音
「……」
乙女さんが、俺の体をぎゅっと抱きしめた。
乙女
「人を尊敬するのはいい事だが……
お前と姫を見ていると
なんだか、私は切ないぞ……」
密着した部分から、乙女さんの
心臓の鼓動が伝わってくる。
レオ
「でも、姫に対して抱いているのはさ」
レオ
「“なんだかこの人には勝てないなぁ”って
いう感じのものだから」
レオ
「女の子として好き、とかそーいうのはないよ?」
乙女
「……そうか……」
レオ
「うん、俺が好きなのは乙女さんだけ」
レオ
「今なら姫が告白してきても、ふる」
乙女
「!!」
乙女
「レオぉぉっ!!」
ぎゅうーーーっ!
レオ
「い、痛い痛い、愛が痛いよ乙女さん」
乙女
「あ、すまん嬉しくてついな」
乙女
「いちいち、問いただすような事を
してすまないな」
乙女
「こっちもそんな事で腹を
立てるのは狭量だと分かってるんだけどな」
乙女
「それでも胸が痛かったんだ……」
レオ
「うん……ありがとう」
乙女
「礼を言うのはこっちだと思うんだが」
レオ
「そこまで想ってもらえてうれしいから」
乙女
「そこまで? 限定されてはこまるな
私のお前に対する愛は無限だ」
レオ
「え、じゃ、このままお互い向き合いながら
洗いっこなんて余裕なんだ」
乙女
「……さりげなく要求するとは、さすが
スケベだなお前……」
乙女
「いいだろう、お互いに洗いっこだな」
至福……とはこの事を言うのだと思った。
洋平
「対馬、お前シスコンなんだってな。難儀なヤツめ」
レオ
「違うっつーに」
洋平
「気持ちは分かる。僕にも12人の妹がいるからな」
なんだか、とても嫌な気分がする同情だった。
洋平
「ふん……憧れの的である鉄先輩に恋人が出来た事で
拳法部の男全員激しく憤慨している」
……もうそこまで知れ渡っているのね。
洋平
「で、どうなんだ? 付き合ってるんだろ」
レオ
「まぁな」
洋平
「ち、事実か。もしお前がただのシスコンだったら
12人の妹の誰かを紹介してやろうと思ったのに」
レオ
「ごめんこうむる」
紀子
「こん……にちは」
レオ
「あ、西崎さんこんにちは」
洋平 無音
「!」
紀子 無音
「!」
紀子
「そ……それじゃあ、ね」
レオ
「うん……」
去っていく西崎さん。
洋平
「ふぅっ」
ため息なんかつきやがった。
レオ
「君達、ひと夏はさんだのに、まだ喧嘩してるの?」
洋平
「それは……お互い謝ったので解決したんだが」
レオ
「だが?」
洋平
「今度はどう話していいか、微妙な空白が
あった分……距離感というか……」
うわ、なんか初々しいぞこいつら。
…………
レオ
「ん……ちゅっ……」
特に本番まではいかず、お互い軽い
愛撫でちちくり合っていた。
乙女さんの胸を、制服の上から遠慮なく
さわりまくる。
レオ
「そういや、今日HRで修学旅行の
話が出てたよ。そろそろ行き先を決めないと」
行き先はイギリス、重慶(じゅうけい)、
スウェーデン、アパラチア山脈のどれかを選択。
パスポートは既にとらされてるからいいとして
場所決めは重要だよな。
乙女
「ん、ちゅっ……ぷは、そうか、もう修学旅行の
季節なんだな……
お前はどこに行く事にするんだ?」
レオ
「佐藤さんとかはスウェーデンに行きたがってて
執行部のメンバーはそこになりそう」
乙女さんはアパラチア山脈だったらしいが。
(拳法部は強制的)
乙女
「楽しんで来い……と言いたい所だが
事故が起こらないかどうか不安になってしまうな
んー、ちゅっ……れろっ……」
レオ
「ぷは、大丈夫でしょ」
乙女さんの下着を強く刺激してあげた。
乙女
「んっ……よく効くという、神社の
お守りを、んっ……持たせてやる」
乙女
「それと向こうから夜に
1度くらい電話して欲しいぞ」
レオ
「うん、分かってる」
乙女
「んちゅっ……ぷはっ……私もレオと
旅行に行きたいな」
……この人は目を見て要望をストレートに
伝えてくるから分かりやすい。
レオ
「行くとしたら冬休みかな」
レオ
「幼馴染の3バカとはいつもスノーボードに
行ってるんだけどね」
レオ
「それに乙女さんも来る?」
乙女
「うん。楽しそうだな、スポーツもそうだが
温泉もあるんだろ。食べ物も美味しいよな?」
いや、ほんと分かりやすい。
乙女
「でも、2人っきりでも行きたいな……ちゅっ」
乙女さん……。
乙女
「ん、ぺろ、んん……、紅葉シーズンに
一緒に山に行かないか? 秋の山はいいぞ」
乙女
「紅葉を2人で眺めて……ボートに乗って
一緒に山の頂上に登るんだ」
乙女
「あはは、考えただけでも楽しみだな」
下着はすでにじんわりと濡れていた。
レオ
「楽しみだけど、俺金持つかな」
乙女
「誘ったのは私だ。おごってやるさ」
任せとけ、と胸を叩く乙女さん。
うーむ、女心と男気を併せ持った人だ。
放課後。
A組女生徒
「紀子、学食からの眺めが綺麗だったわよ
無人島に虹がかかって。シャッターチャンスかも」
紀子
「ありがと!」
俺達は学食で午後のお茶をしていた。
丁度今は空いている時間なので俺達以外に
人はいない。
良美
「対馬君、虹が綺麗だねー」
レオ
「……」
エリカ
「なぁに対馬クン。巡回中のお姉ちゃんが
そんな気になる?」
レオ
「ち、違う!」
実はそうだけど。
恋すると、ふとした時にその人のコトを
考えるというが、まさしく今がそれだ。
ズコー、とカニが行儀悪く音を立てながら
メロンソーダを飲んでいる。
スバル 無音
「……」
くそ、姫にまたいじられてたまるか。
よし、話題を変えてくれるわ。
レオ
「そういや、2−Aの村田に昨日会ってさ」
………………
レオ
「ってことで、あいつまだ西崎さんと
初々しくやってるらしいんだよ」
レオ
「仲直りしたのに、どんな口
聞いていいか分からない、なんてねぇ」
新一
「はは、結局、村田は口が先行してっからな」
レオ
「それに負けたお前はどうなの」
きぬ
「まぁねー。あいつ威勢がいいのは
買うけどさぁ、空回り多いよね」
レオ
「姫はどう思う?」
エリカ
「っていうかさー。村田って誰?」
紀子 無音
「……!」
良美
「うわー。本気で言ってるよ……
一応2−Aの委員長なんだよ?」
スバル
「はは、ひでぇなぁ、姫は」
新一
「その程度なんだって
負けず嫌いもああなると見苦しいよなぁ」
こいつ負けたからって怨みがつのってるな。
ダッ……
レオ
「あ、西崎さん」
紀子
「うー、よーへーのこと……」
紀子
「わるく、いうな!」
がしっ! とフカヒレが胸倉を掴まれる。
新一
「おぉ、なんだなんだ、何怒ってる?」
紀子
「たんきだけど、よーへーは……!」
きぬ
「落ち着きなってクー」
西崎さんが怒っている。
喧嘩はしてたけど西崎さんにとって洋平は
クラスメートであり仲間。
仲間を侮辱された時に腹が立つのは
俺も痛いほどよく分かる。
エリカ
「西崎さん? あー……A組の!」
エリカ
「何? ひょっとして村岡君のことバカにされたから
怒ってるの?」
紀子
「む、ら、た!」
西崎さんは、姫の手を掴んで抗議しようとした。
――しかし
エリカ
「ちょっと気安く触らないでくれる?」
姫は西崎さんの手を軽く引いて、
そのまま投げ飛ばした。
紀子
「あぅっ!」
レオ
「合気道……?」
エリカ
「馬鹿ねー。相手見て喧嘩売りなさい」
紀子
「うっ……うぅぅ……」
レオ
「えっ、おい……泣いちゃったよ」
村田の事を悪く言われたのが
そんなに悔しかったのか……。
レオ
「ご、ごめん西崎さ……」
きぬ
「おやおや、泣いてしまいましたよこの娘」
エリカ
「泣いてすむと思うと大間違いなのよねー
私にたてついた罪、どうしようっかなー」
レオ
「え、あの本気で泣いてると思うんだけど」
エリカ
「だから何?」
どうやら同性には涙の効果が全然ないらしい。
新一
「で、でもどうするんスかこれ?
こんな場面を普通の人に見られたら
俺のイメージダウンにもつながるし」
フカヒレが小者っぽくキョロキョロした。
レオ
「お前はもう下がりようが無いから平気だ」
姫が西崎さんの顔をじーっと見る。
エリカ
「……西崎さんって……かーわいー
それに胸もおっきそうね」
何故か舌なめずりしていた。
エリカ
「さらいましょうか、執行部で」
きぬ
「よし来た。ネーチャン、ちょっと事務所行こうか」
紀子
「ぅ……?」
エリカ
「ほら、もたもたしないで」
新一
「今は周囲に誰もいないっすよー」
卑屈なフカヒレは見張りをしていた。
きぬ
「確保終了。さらい時日本列島」
ズルズルと引きずられていく西崎さん。
紀子
「あ、だ、だれ……か、たすけ……て」
レオ
「いいのかなぁ、こんなことして」
スバル
「さてねぇ……」
こうして西崎さんは生徒会室に
運び込まれてしまった。
紀子
「くー! なわ、ほどいて」
きぬ
「つーか、椅子に縄でしばりつけて
どうするのさ。さすがにこれ以上は
ただの弱いものイジメだと思うんだよ」
エリカ
「西崎さんは、えーと、なんだっけ、
そう、村田君の事が好きなの?」
紀子
「う……すき、とかはわからないけど
……ば、ばかにするのは、ゆるさない」
エリカ
「はいはい。要するにかなり好きなのね」
エリカ
「ということで、ここは執行部が一肌
脱いであげましょう」
エリカ
「要するに、ここに西崎さんが捕まってるぞって事を
村なんとか君に教えてあげるわけ」
エリカ
「で、助けにきた村なんとか君と西崎さんは
そのムードから一気に仲が進展ってわけ」
レオ
「……ふーん」
なごみ 共通
「くだらない」
ま、椰子の言う通りなんだけど。
祈 無音
「Zzz」
祈先生は寝てるし、乙女さんはいない、か。
エリカ
「じゃ、まずは西崎さんを捕虜っぽく見せないとね」
レオ
「この格好だけでも充分だと思うけど。
椅子に縛り付けられてるんだよ?」
良美
「か、顔にビニールの紙袋をかぶせる……とか?」
エリカ
「採用」
きぬ
「よっ……と。てるてる坊主みたいだね」
エリカ
「うん、かなり衝撃的。あともう一押し欲しいかな」
良美
「め、メス豚って書いた紙を制服に貼っておくとか」
レオ
「佐藤……さん……?」
名前が疑問系になっていた。
良美
「ち、違うよぉ、そういうのがテレビで
やってたから、よ、良く分からないけど……」
レオ
「あ、なーんだ」
テレビも危険な放送をするなぁ。
きぬ
「これでどうよ。立派な捕虜の出来上がりだね」
レオ
「っていうか壮絶なイジメにしか見えないんですが」
紀子
「うー! くー!」
エリカ
「我慢してね、西崎さんのためだから」
エリカ
「はい、それじゃ皆総出で村田君を探してきて
この事実を伝えて。これで助けにくれば
ハッピーエンドよ」
なごみ 無音
「……」
エリカ
「はいはい、めんどくさそうな顔しないで
行って来る、なごみんも。会長命令よ」
かくして、寝ている祈先生以外、全員が
村田の捜索に出た。
スバル
「? ここにゃいねーな、2−Aか?」
……しかし姫にしては、なんか慈善事業みたいな
マネをするよな。
なんでこんなメンドくさいまねを。
……ん、待てよ。実質、今生徒会室は
姫と縛られた西崎さんが2人きりだよな。
……まさか。
俺は1人で生徒会室に慌てて引き返した。
………………
執行部の部屋の前で耳をすませてみる。
エリカ
「んー、いい揉み心地」
紀子
「あぅぅ……やめ……て……あッ」
エリカ
「チチモミはほんと楽しいわ」
捕虜を凌辱していた。
胸をダイレクトに揉んでいる。
レオ
「ちょっと……姫!」
エリカ
「はっ……ぬかった。鍵を締め忘れた。
対馬クン、見ーたーなー」
レオ
「見たよ」
エリカ
「ちっ、冷めた反応を。つまんない男」
レオ
「姫、村田と西崎さんのために一肌
脱ぐって言ったのに」
エリカ
「あのねー、私達頭にお花畑できてる
めでたい仲良しクラブじゃないでしょうが
他人の為にそんな七面倒臭いコトできないわよ」
レオ
「ま、そういうよな、姫は」
つまりさっきのは嘘で、要するに
西崎さんと2人になってイタズラしたかっただけだ。
西崎さんにセクハラするためにここまでするとは。
エリカ
「というわけで、対馬クン
ちょっと外出ててくれない? 20分でいいから」
レオ
「それはさすがに西崎さんが可哀想だよ」
いくら姫の趣味だからって、彼女は
明らかにいやがってるだろう。
エリカ
「ならば仕方ないわね、まず対馬クンを
眠らせてから楽しみますか」
レオ
「え、ちょっと……」
ずんずんと近付いてくる姫。
ただでさえ姫には憧れている弱みがある。
このままでは確実に攻撃され
気絶させられてしまう。
じり、と後退して間合いをとった。
レオ
「く、最後の切り札を使わせてもらう……
俺のプライドにも関わるんだが仕方ない」
エリカ
「へぇ、私と今の怒ってないノーマル状態の
ヘボ対馬クンじゃ、戦力差は歴然。何で埋めるの」
レオ
「愛かね」
レオ
「乙女さーん!」
エリカ
「は? ちょっとほんとプライドないの?
何そのふざけたSOS」
エリカ
「だいたいそんなコールで来るわけが……」
乙女
「レオ、無事か!?」
エリカ
「この姉にしてこの弟ありというか……
ブラコン&シスコンか……」
西崎さんの縄を切る乙女さん。
乙女
「レオ、事情を説明しろ」
レオ
「実は姫が……」
乙女
「姫、ちょっと奥の部屋に来い
説教する事がある」
乙女
「って! 既にいないではないか」
あの人、逃げ足も速いよな……。
乙女さんは追撃に向かった。
レオ
「ご、ごめんね西崎さん。生徒会長、
ちょっと女性の胸に対して病的なんだ」
紀子
「それ、は……べつにもう、いいけど」
レオ
「あ、西崎さん。村田が来るまで
待たなくていいの?」
紀子
「わたしがつかまってたって……よーへー、
くるか、わからないし」
バン!
洋平
「おい、西崎無事か!? ……っ、
着衣の乱れ…染まった頬。お前西崎に何をした!」
レオ
「こいつも結構熱いヤツだな」
紀子
「! よーへー!」
紀子
「あ、だめ!」
気がつけば俺の顔の横に
村田の脚が来ていた。
これがこいつの必殺技といわれる
ハイキックか……まったく見えなかった。
紀子
「ち、ちがうよ、よーへー」
洋平 無音
「?」
………(紀子、事情説明中)………
洋平
「なるほどそういう事か。
相変わらず迷惑騒ぎばかり起こすな……まぁ
鉄先輩が追撃してるなら、処置は任せよう」
紀子 無音
「……」
洋平
「僕は帰る」
くるっ、と背を向ける村田。
紀子
「あ………」
洋平
「……ほ、ほら行こうぜ西崎」
紀子
「う、うん!」
レオ
「ははっ、あいつ照れて後ろ向きながら
言ってやんの」
洋平
「うるさいぞお前」
レオ
「まぁ、今のはそれでいいとして重要な事の場合は、
ちゃんと相手の目を見て言えよ」
レオ
「大切な事だぜ」
洋平
「偉そうに……言われなくても分かっている」
紀子 無音
「(ペコリ)」
2人は執行部を出ていった。
レオ
「俺、最後ちょっとカッコよくなかったですか
いつのまにか起きていた祈先生?」
祈
「カッコ良い……ってどこがですか?」
レオ
「いや、……笑顔でそう聞かれても」
祈先生は厳しいなぁ。
しかしあの村田のハイキックは危険だな。
あいつが途中で止めなかったらまともに
食らってたぜ。
拳法部の本領ってとこか……
ボクシングでは勝てたけど、喧嘩じゃ勝てないな。
……俺もさらに自分を鍛えるか。
レオ
「……ん?」
テーブルの下に何か落っこちてるぞ。
これは、パンティーというやつでは?
西崎さんのだ。
1学期に彼女が木に登った時、
確かにこれを履いていた
(↑くっきり覚えている)
姫、さすがだな。すでに下着脱がせていたとは。
きっとじわじわ脱がせていったんだろうな。
とんだセクハラ生徒会長だな。
俺はこの温もりが残る下着を……
西崎さんに返す
もらっておく
レオ
「一応、本人のだしな」
追いかけよう。
レオ
「西崎さーん」
紀子 無音
「?」
レオ
「こ、これ忘れ物」
紀子 無音
「!」
ボッ、と顔が赤くなる。
洋平
「なんだなんだ、何をこそこそ話している」
レオ
「秘密」
レオ
「それじゃあなー」
洋平
「ち……対馬め。好きになれんやつだ」
……しかし、今さら返されても
それは恥ずかしいだけなのでは?
そうだよな、パンツを渡しに
追いかけていくなんてバツが悪い。
祈先生は、またコクリコクリと寝ている。
レオ
「よし、この下着は俺が預かっておこう」
解決した。
………………
乙女
「まったく、いくら叱っても反省の色がない
姫もこまったものだ」
レオ
「らしいと言えばらしいけどね」
レオ
「でも、俺が呼んだらすぐに
駆け付けてくれるなんて嬉しいよ」
乙女
「当然だろう……」
優しく髪を撫でてくれた。
レオ
「お、乙女さん……」
彼女を求める。
乙女
「ン、待てレオ……明日学校があるのに
今からではまずい」
乙女
「……明日の夜は、……金曜日だし、な?」
レオ
「……うん。土曜は学校休みだもんね」
そうだな、今ガッツかないで明日の夜に
とっておこう。
し、しかしそう思うと逆に眠れない気もするが。
乙女 無音
「……」
乙女さんも同じみたいだ。
結局、お互いモジモジしてなかなか眠れなかった。
乙女
「今日のご飯は外で買ってきたものだが」
乙女
「うなぎの蒲焼、生卵、山芋ご飯、
そして実家から送らせたマムシの血だ」
レオ
「あはは」
乙女
「おかわりもあるからな」
……今日はお風呂でよく体を洗っておこう。
レオ
「ねぇ、乙女さん」
乙女
「なんだ? 今度は私に何をして欲しい?」
レオ
「うん……」
レオ
「例えば体操服を着てする……とかNG?」
乙女 無音
「(じーっ)」
レオ
「そうさ、スケベさ!」
乙女
「セリフを先取りされたか。……しかし体操服は
洗って学校に持って行ったばかりだぞ。今は無い」
レオ
「そっか」
乙女
「何でそれだけで、この世の終わりのような
顔をするのか分からないんだが……」
乙女
「他には、胴着ならあるが」
レオ
「うん、それがいいね!」
乙女
「私が胴着を着たまま……その、する、のか?
それで楽しいのか?」
レオ
「うん」
乙女
「……変態だな」
そう言いながらも胴着を取りに行く乙女さん。
………………
レオ
「カッコいいよ乙女さん」
レオ
「本当ならその格好で道場でするのが
最高だったかも」
乙女
「それはできない」
乙女
「あそこは神聖な場所だ。皆が一生懸命
修行しているんだ。そこで、そういう行為は
できない。分かってくれレオ」
レオ
「う、うん」
乙女
「本当はこの格好でするのもかなり
抵抗があるが……可愛いお前のためだ……」
乙女さんはそう言うと、胴着姿で優しく
キスしてくれた。
………………
ごく、と喉が鳴った。
乙女
「大人しくしてろよ……今日も私がして
やるんだからな」
主導権を強調してから、胴着姿のまま
膝をつく乙女さん。
乙女
「ジッパーも、私がおろしてやる」
ジジジ、と下げられていく。
そして乙女さんは完全に勃起しきってない
俺のモノをくいっと指で持ち上げた。
なんか知らないが、まずは
しゃぶってもらう事が通例になりそうだ。
乙女
「ふぅー……っ」
股間に吐きかけられる乙女さんの熱い息。
乙女
「ふふ、反応してるな。今日も可愛がってやる」
乙女
「んっ……ちゅ」
挨拶とばかりに、亀頭に軽いキスをしてくれる。
ぬめった舌が亀頭を1回ペロリと舐めただけ。
それだけで俺のペニスは一気に臨戦態勢になった。
乙女
「ん、ちゅっ……ん……気持ちいいみたいだな」
レオ
「あ、相変わらず最高です」
飴玉を舐めるように、乙女さんの舌がゆっくりと
亀頭を1周するように愛撫する。
乙女
「ぺちゃ……ちゅ……ん……もう、勃っているのか」
レオ
「乙女さん、素質ある」
乙女
「ぺろ……れろ……違う。愛だ、姉として、
また乙女としての愛」
乙女
「それにしても自己主張が激しいな、お前のここ
ちゅっ……んっ……ちゅっ……」
レオ
「元気さがとりえな子供なので」
乙女
「ん、暴れないように今度は口の中で……はむっ」
乙女さんの唇が、亀頭をはむっと呑み込んだ。
乙女
「ちゅ……く、んっ……ん、ん」
敏感な尿道口をレロレロ、と舌がなぞってきた。
しっとりとした舌を絡ませてくる。
乙女
「んむ……んっ、んむっ……んっ……」
膨らんだ亀頭を丹念に舐めてくる乙女さんの舌。
先走りの汁が、乙女さんの口内で漏れだした。
乙女
「んっ……じゅっ……ごくっ、こくっ……れろ」
にじみ出ている我慢汁を飲んでいる音。
敏感な尿道口を刺激しながら、
舐めてくれているんだ。
乙女
「ちゅぷ……ちゅぱ……ぺろ、ぷは、ん、
というか、何でお前制服着てるんだ?」
レオ
「乙女さんに、コスチュームの破壊力の意味を
知ってもらいたくて……」
レオ
「制服姿の俺ってなんかそそらない?」
レオ
「ほら、このネクタイのライン2本でしょ?
いたいけな下級生のを舐めてるって事でなんか
こう、こみあげてこない?」
乙女
「あんまり分からないな。
それはおそらく私がスケベじゃないからだ
……はむっ、んっ……んっ……」
カリの膨らんでいる部分を舐めてくれる。
レオ
「その台詞の後、すぐ舐めたら
説得力無いですよ乙女さん」
乙女
「はむ……はむっ……」
レオ
「あっ、ごめんなさいお姉様、歯を立てないで!
恐ろしい……力加減を習得しつつある。
しかし、この全国一位の武道家に舐められるという
構図がまた、なんとも……。
乙女
「ここ舐めるといっぱい出てくるな……ちゅ……
ぺろ……れろ、ん」
コツをつかんだ乙女さんが裏筋を
たっぷりと舐めてくる。
乙女
「んっ……ちゅっ……ずずっ……ずっ……」
ちゅっ、ちゅっ、と先走りを
飲み込んでくれた。
乙女
「どんどん出てくるぞ……はむ……ずっ……じゅっ」
亀頭から溢れた先走りと、乙女さんの
唾液が彼女の口内で混ざり1つになっている。
それを喉を鳴らして飲んでいく。
乙女
「ちゅ、あ………んっ、くちゅ、んむ……
じゅ……ずっ……じゅっ……」
音をたてて尿道を吸い上げる。
レオ
「ん……あ、そんな吸われたら、俺もう……」
乙女
「ん、ちゅっ……ずっ、んっ……れろ……
れろ……ちゅうっ、ずずっ……」
乙女さんが目で出してもいいぞ、と
合図をくれた。
すっ、すっ、とサオの部分を指で
擦ってくる乙女さん。
レオ
「くあっ……」
俺はたまらなくなって、射精してしまった。
乙女さんの口内でビクンと弾けるペニス。
乙女
「ん! ……んむっ……ごくっ……」
の、飲んでるよね……これ。
乙女
「ン……ごく……ん、ごくんっ、ごく……んっ」
乙女さんが飲んでくれるにも関わらず
とめどなく出される精液。
乙女
「ん……ごく、んくっ……んくっ……」
それでも受け止めてくれている。
レオ
「乙女さん……」
俺の欲望を受け止めてくれる彼女が
たまらなく愛しくなって、髪を撫でてあげる。
乙女
「ん…………ん……」
やがて、最後の放出が終わった。
乙女
「ん……ごくっ……ぷはっ……はぁっ……はぁっ」
乙女
「凄い量だな……咳き込むかと思った」
レオ
「ま、不味くなかった?」
乙女
「マズイというか苦いというか……」
ティッシュで口元を拭う乙女さん
乙女
「ベッドに寝転べ……もっと愛でてやる」
レオ
「乙女さん、たまには俺が動きたい」
乙女
「ん、そうかそうだな。たまにはお前の
男も立てないとな。いいぞ」
乙女
「1つだけ条件がある」
う、なんだろう。
乙女
「見つめあえない格好は禁止……な」
乙女
「やっぱりお互い目をみてしたいじゃないか」
レオ
「乙女さん……可愛い」
乙女
「馬鹿。からかうな」
……………………
乙女
「なぁ……レオ、んっ……これにっ、あ、
何か、い、意味があるのか?」
サラシで乙女さんの腕を後ろ手で固定している。
レオ
「うん」
別にきつく縛っているわけではない
(きつく縛ったらおそらく乙女さんが怒る)
あくまで見た目そう見えるだけだ。
それなのに、俺の興奮具合は一気に高まった。
レオ
「乙女さん……綺麗だ」
俺はゆっくりと腰を突き出して、膣口から
さらに奥へとペニスを進めていった。
乙女 無音
「っ……!」
反応すれば、胴着の裾から出ている双乳が揺れる。
ズブッ……ズッ……
ゆっくり入っていく。
相変わらず乙女さんの膣内はせまかった。
湧き出してきた愛液の助けをかりて、
少しずつ中に装入していく。
レオ
「乙女さん、中、すごく熱い」
乙女
「あ……くっ、レ、レオのも熱い……」
火照った肉壁が、ペニスをグイグイと
締め付けてきた。
結合部分から、水音を立てて愛液が溢れてしまう。
乙女
「あッ、ああ……す、ごいな、まだ……入ってくる」
一番奥、限界まで挿入すると
俺はいったん動きをとめた。
熱くキツく濡れており……
相変わらず乙女さんの中はいい。
組み敷いている乙女さんをじっくりと見つめる。
胴着姿の気高い姿を貫いている俺のペニス。
胸に、カァッと熱いものがこみ上げてくる。
それと同時に、埋め込んだペニスが
せかすようにビクン、ビクンと反応した。
レオ
「ん……動くよ。乙女さん」
乙女
「あっ……あぁ、こい……ンっ」
いきなり射精しないよう、歯を食いしばって
ゆっくりと腰を後ろに引いていく。
姉である乙女さんの唾液を吸ったペニスが、
今度は愛液を吸っている。
抜けそうな所まで引き抜いたら、また中へ。
精を絞りとろうとする、膣壁の生き物めいた動き。
乙女
「………く、あっ、あっ、あっ……レオ……」
レオ
「乙女さんっ……気持ちいいいよ……」
乙女さんと、情熱的なセックスをしている。
俺が腰を動かすたびに、乙女さんの胸が
ぷるん、と揺れる。
それが楽しくてズンズン、とリズムにのって
乙女さんのぬめった粘膜を貫いていく。
乙女
「んんっ……あっ……れ、レオ……」
乙女さんの瞳を見て、少しだけ
冷静さを取り戻した。
あんまり自分本位になっちゃだめだ。
乙女さんの熱い吐息にあわせるようなテンポで
膣内を貫いてあげる。
乙女
「あっ……ふぁ、あぁぁっ、レオ……レオ」
俺の名を呼びかける声。
レオ
「乙女さん……」
それに応える様に、腰を動かす。
レオ
「乙女さん……大好き……」
乙女
「! レオぉ……」
レオ
「!?」
ペニスをギュウッ、と締め上げてきた。
分かりやすすぎる反応。
というか、これは……すごい。
ググググ、と本当に搾り取られるような襞の動き。
次々と溢れる愛液が溢れてくる。
たった一言で、こんなも反応してくれるなんて。
膣襞の奥の奥までペニスを突き入れる。
レオ
「あっ……あぁっ……乙女さんっ」
乙女
「んっ……あぁぁっ……あ!!!!」
とくん…、とくん…、とくん…。
熱い精液を姉の乙女さんへ放出させた。
乙女
「んっ……いっぱい……出てる……な」
体で俺の精液を感じてくれる乙女さん。
結合部分から精液があふれ出してくる。
放出が終わると、萎え始める俺のペニス。
……だけど、本当にそれは一瞬の事だった。
乙女
「……? ……あ、また大きく……本当に元気だな」
レオ
「それだけ乙女さんが魅力的なんだ」
乙女さんの中が強烈な分、こっちはどうしても
早くなってしまう。
だったらせめて回数でフォローしないと。
膨らんだクリトリスを指で軽くいじった。
乙女
「んあっ……んっ……そこ、触られると……ん」
乙女さんの体がビクンと跳ねた。
レオ
「もう1回、いい?」
指の腹で肉芽を転がしながら尋ねる。
乙女
「ん……あぁ……まだまだ、んっ、いけるぞ…」
……やっぱり頼もしい。
俺の指にたっぷりいじられたクリトリスが
ツンと尖っている。
レオ
「うん、俺も大丈夫! ……じゃあ続けるよ」
抜かないまま、腰を再び動かし始めた。
乙女
「ん……お、音が、大きいな」
放った精液をかき混ぜるような行為なので
1回目よりも水音が目立つ。
レオ
「いいじゃん……すごい興奮する」
乙女
「スケベだな、ほんとに……んっ……」
柔らかい肉に抱きしめられる心地よさ。
俺のペニスは嬉しくて叫ぶように、
粘膜の中で脈打った。
乙女
「んっ……はぁっ……くっ、んっ……はぁっ……」
やはり抜かないで2回目は乙女さんの
息もかなり荒くなってきた。
さっきクリトリスをいっぱいいじったからか
かなり性感が高まってるみたいだ。
乙女
「んっ、あ――、ふぁ、あ……!」
艶かしい声が、段々と高くなっていく気がする。
甘い女の体臭と、熱い吐息。
ギシギシと軋むベッド。
自分の部屋が、こんな乙女さんとの
愛の巣になろうとは思いもしなかった。
乙女
「あっ、……くっ、んっ」
さっきより俺は余裕を持っていた。
膣内の襞の部分が、突き入れるたびに
ペニスを摩擦してくる感じを楽しむ。
乙女
「くっ……中で、暴れるように……んっ」
とくに亀頭の裏側への刺激は、
じーんと痺れる気持ち良さだ。
汗が彼女の全身にうっすらと滲んでいる。
はずむ胸に顔を近づけ、乙女さんの汗を
舌で舐め取る。
レオ
「乙女さん、汗まで美味しい」
乙女
「んっ……くっ……こ、のスケベ、あぅっ」
幾重もの肉襞が、ペニスをさらに奥へと
誘いこむような動きさえみせる。
そして、突くたびに溢れる愛液が
チュプッ……と湿った音を立てる。
自分でも驚くほど今回は持続している。
乙女
「ん……あっ! あっ……あっ、あ!」
その分、乙女さんの余裕がないみたいだ。
乙女
「ああぁっ!」
プシュッ……、と熱い何かが乙女さんの
中からはじけた。
おしっこじゃない。
え、じゃこれが潮吹きってやつ……?
乙女
「あッ、あぁっ……あ……」
そんな気持ちよかったんだ乙女さん。
やんわりと乳房を揉んであげる。
乙女
「レ……レオっ……な……なんだか、私は……」
乙女さんの胸は柔らかさと同時に、鍛えた
筋肉で持ち上げられた張りがあった。
弾力は俺の手のひらを押し返してくる。
手触りも最高で、吸い付いてくるようだ。
乙女
「くうっ……ンっ……」
乳首をつままれて、乙女さんが切ない声をあげる。
もうグチュグチュになっている秘裂。
ひたすらに、ズンズンと犯していく。
乙女
「あ……あっ……レオ、私、おかしくなりそうだ」
レオ
「お。乙女さん、もしかして、イッちゃうの……」
乙女
「あっ……レオ、レオ……っ」
絶頂を迎えようとする乙女さん。
その感覚に初々しく戸惑っている。
レオ
「乙女さん……可愛いよ」
乙女さんの膣壁はキュッと収縮して、
徐々にヒクヒクと痙攣を始めている。
俺も、もうダメだ。
最後のスパートと、ガクガクと腰を振った。
さらなる強烈な刺激に乙女さんが声をあげる。
乙女
「あっ! ああっ! あああっ!」
乙女さんの声は全く余裕がない。
レオ
「……く、はっ……」
動物的な動きで腰を送り込んでいく。
乙女
「あっ、あッ、あっ、あッ、あっ、あぁぁぁっ…」
レオ
「あっ!」
最後の力をこめて、乙女さんの体を突き上げた。
乙女
「あああッ! ああああああっ!」
ジュブッ! というひときわ大きい水音。
子宮の入り口にコツンと当たる。
ドクッ……と熱いものがこみあげてくる。
ピュッ、ドピュウ! どくん、どくん……。
乙女
「ぁ……レ、オ……」
乙女さんが……あの乙女さんが絶頂に達した。
それを見ながら、彼女の中に体液を射精していく。
勢いよく出ているので、子宮に
注ぎ込まれているはずだ。
乙女
「はぁ……はぁ……凄かった……な」
それを受け止めながら、乙女さんはだらりと
体の力を抜いた。
汗が浮かぶ裸体を、ピクピクと痙攣させている。
綺麗で、艶かしかった。
目をウルウルさせながら、手を
伸ばしてくる乙女さん。
レオ
「何?」
優しく聞く。
乙女
「レオ……今度は……私が……上だ」
レオ
「……あの、ちょっと……俺、体力が」
乙女
「ん……お前は動かなくていいぞ……私がしてやる」
レオ
「な、なんか乙女さん目がトロンとして……」
レオ
「あーーーーーーーーーーッ!!」
うーむ……乙女さんとの日々は
なんと充実し楽しい事か。
夜の営みだって、思い出すだけで
射精しそうなほど充実してる。
夜。
俺は幼馴染軍団に愛の素晴らしさを説いてやった。
レオ
「……って事で乙女さんがさぁ」
きぬ 無音
「……!」
新一
「お前、わざわざノロケ聞かせるために
俺達を集めたのかよ!」
レオ
「最近付き合いが悪いから
部屋を開放しろって言ったのはお前じゃん」
新一
「くそっ……なぁ、乙女さん俺に
友達紹介してくれたりしないかな?」
レオ
「さー、それはどうだかねぇ」
きぬ
「……帰る」
レオ
「あん、どうしたんだカニ」
きぬ
「べっつに!」
カニはピシャン! と窓を閉めて
出て行ってしまった。
レオ
「なんだあれ? 態度悪いな」
スバル 無音
「……」
スバル
「ちょっとオレも外行ってくるわ」
レオ
「なんだよまた夜のバイトか?」
スバル
「ま、修学旅行とかで何かとモノ入りなんでな」
………………
店長
「カニさーん。お酒飲むのは良くないヨー
しかもラッパ飲みデスカー」
きぬ
「うっせー! 飲まずにはいられないっての!」
スバル
「お、ようやく見つけた……携帯とらないから
何時間も探したぜ……ここにいたか」
店長
「カニさんのお友達デスネー。カニさんが
荒れちゃって手につけられなくて困ってマシター」
スバル
「そいつは迷惑おかけしました。
引き取りますんで」
店長
「お願いしマース、お金はカニさんの
給料から引いてるので大丈夫デース」
きぬ
「おっ、そこにいるのはスバル?
オメーも飲め飲め」
スバル
「けーるぞ」
きぬ
「うわぁ、何をする、飲みたりねーだろ」
スバル
「ヤケ酒する年じゃねーだろ。バーカ」
きぬ
「うぉぉ……世界がまわるぜー」
スバル
「ったく、飲み過ぎだ。つうかラッパ飲みは
もうやめろよ? 吐くか死ぬかの2択だぜ」
きぬ
「へん、飲まずにはいられねー!」
スバル
「……レオの事?」
きぬ
「…………ふん、全然ちげーよ!」
きぬ
「あいつ、普段はヘタレでさ!」
きぬ
「服のセンスとか悪いからボクが選んで
やってるし!」
きぬ
「部屋とかだらしないし」
きぬ
「ニヒルぶっててガキくせーし!」
きぬ
「ほんと、やなとこばっかだぜ!!」
スバル
「……そうだな」
きぬ
「………………でも」
きぬ
「それでも…………やなとこばっか
ガンガン思いあがるけど……それでもボク」
きぬ
「気付いたんだ、乙女さんとレオが仲良くなってから
ボク自身の気持ちに……」
スバル
「カニ……」
きぬ
「ち、ちくしょーーー!!!」
スバル
「おい吼えるな近所迷惑だ」
きぬ
「もういっそ男だったら良かったぜ!」
スバル
「……そうするとオレが困る」
きぬ
「はぁー? 何でよ?」
スバル
「さぁて、何ででしょ?」
レオ
「はー、今日の授業も終わった終わった」
祈
「対馬さん、放課後に職員室に来てくださいな」
レオ
「え? 何でですか?」
土永さん
「教師に命令されたのなら、返事は
全てハイだろうが小僧」
レオ
「うぐ……了解しました」
教室がザワザワと騒ぎ出す。
うーん、俺何かしたのかな。
………………
祈
「対馬さん、呼ばれた理由に心当たりは?」
レオ
「それが分からないんです」
土永さん
「鳥みたいに頭悪いなお前」
レオ
「……」
祈
「ではずばり、明日館長室に出頭命令が出てますわよ
あなたと鉄さんが」
レオ
「俺と乙女さん……何で?」
土永さん
「若いカップルが1つ屋根の下……そりゃあ
問題になるだろ小僧?」
レオ
「う!」
しまった、こんな所まで話が及んでいたのか。
レオ
「それは……」
祈
「余計な事は言わないほうがいいですわ対馬さん」
レオ
「え」
祈
「明日までにしっかり答弁を考えておきなさい」
祈
「時間を与えているのは私なりの思いやりですわ」
祈
「しっかりと逃げ口を見つけないと……」
祈
「鉄さんと一緒に過ごせなくなるかも
しれませんわよ」
レオ
「……」
………………
レオ
「……乙女さんと一緒に過ごせなくなる、か」
それは嫌だ。
なんとか切り抜けなくては。
………………
レオ
「乙女さん、なかなか切り出しずらかったんだけど」
乙女
「明日、館長室に呼び出される事か?
私も祈先生から今日聞いたぞ」
レオ
「そうなんだ、それにしては元気だね」
レオ
「どうしようか?」
乙女
「お前はどうすればいいと思う?」
レオ
「とりあえず、案は2つほどあるんだ」
乙女
「色々考えてるんだな、1つは?」
レオ
「この国を支えてくれている人達のやり取りを
参考にさせてもらう」
レオ
「やってみよっか? 乙女さん質問してみて」
乙女
「恋人関係という話を聞いたが、本当か?」
レオ
「そのような事実は確認されておりません」
乙女
「校門前でいちゃついていたという話もあるが」
レオ
「そういう事もあったとは思いますが
あくまで注意レベルのものと認識しております
距離が近かったのは姉弟の間柄だからです」
乙女
「生徒達の間で噂が広がっているが、
これをどうする気だ?」
レオ
「前向きに検討し、善処していこうと思います」
必殺、本当の事ははっきり口に出さない大人作戦。
乙女
「……館長にそういうことを言ったら
100%怒られるぞ」
レオ
「あ、やっぱり?」
レオ
「じゃあ残る1つは正直に言う、ってのがあるけど」
乙女
「うん。それに賛成だな」
レオ
「でも、大丈夫かな」
乙女
「私に任せておけばいい」
レオ
「それだけだと情けない」
レオ
「俺も頑張るよ!」
乙女
「そうだな、2人で」
レオ
「うん、2人で」
今日はスバルの誕生日。
気持ちよく祝ってやるためにも、今日の
学校での問答はきっちりかいくぐらなくては。
………………
呼び出されたのは館長室ではなく、道場だった。
平蔵
「こっちの方が、心穏やかに話し合えるかと
思ってのう」
乙女
「はい」
平蔵
「呼び出された理由は分かっているか?
お前達が、カップルなのに同じ家に住んでいるのが
不健全ではないか、という話が来ている」
乙女
「学校であるなら、それは当然でしょうね」
レオ
「館長もお役目ご苦労様です」
平蔵
「うむ。儂としてはやる事をきちっとやってれば
文句ないのだ。まぁそれが難しいのだがな」
平蔵
「それで鉄。お前が風紀委員、だと
いうことが問題なのだ
示しがつかないのではないか、とな」
乙女
「私達は親類同士です。両親の許可も得ています
それでも何か問題が?」
平蔵
「鉄は成績優秀だし、拳法部で多大な功績を
残してくれたからのー」
レオ
「それに俺達は、学校で目の毒になるような
行為をおこなっていませんよ」
まぁキスしたけどさ。
別に見つからなきゃ問題ないわけで。
平蔵
「うむ。日頃の行いがいいと
こういう時に有利に働くのぅ」
乙女
「それに私達は遊びではありません
いたって真剣です」
平蔵
「真剣、か」
乙女
「はい。私はレオを愛しています」
レオ
「!」
レオ
「俺も。乙女さんを愛してます」
平蔵
「若いのう。真っ直ぐだのう」
平蔵
「……こんな事ズバッと言ってくれる
女の子、そうはいないぞ」
レオ
「そう思います」
平蔵
「まぁ、お前達が公然といちゃついていない事、
鉄の成績が優秀である事が救いだな」
平蔵
「お前達は親類同士であるし、
お互いこれからも気をつけるのであれば
許可しようではないか」
平蔵
「それと、成績を今より下げない事だ」
乙女
「むろん、言われなくても」
平蔵
「これは問題を裁くのではなく
そうならないための注意と思ってくれ」
乙女
「ありがとうございます」
乙女さんが、俺をチラと見る。
レオ
「ありがとうございますっ」
平蔵
「うむ。これからも仲良くな」
レオ
「失礼しますっ」
……………………
乙女
「……言ってるそばから手を繋いでるしな私達」
レオ
「今時の学生に手を繋ぐ事まで禁止したら
全員から猛反対が来るさ」
乙女
「そうだな。ここらへんがボーダーラインだろう」
レオ
「……人の気配は?」
乙女
「問題ないがどうした?」
レオ
「いや、もう学校でのキスはまずいかなって」
乙女
「私もなんとか、一生懸命我慢するから
お前も我慢しろ……つらいけどな」
レオ
「分かった」
レオ
「これより先は、家でその分たっぷりと
いちゃつこうね」
乙女
「そ、そういう台詞が不穏当だというんだ」
レオ
「いいじゃん、人いないんだから」
レオ
「今晩……ね?」
乙女
「だ、だからそういう事をここで言うなっ……」
乙女
「いちいち言わなくても、こういう時は
手をギュッと握ってくれればいい」
レオ
「うん……」
レオ
「でもさ、その……もし乙女さんに赤ちゃん
できちゃったら……さすがに学校側も
許してくれないと思うんだ」
乙女
「退学だろうな」
レオ
「そ、それはさすがにマズイよね?
だからこれからは避妊を――」
乙女
「別に気にしないでいいぞ。お前の子なら
私は誇りに思うからな」
レオ
「でも……」
乙女
「学校の校則も重要だが、私は何より私の決めた
自分自身の規則を守る」
乙女
「誰でもない、自分の人生なんだからな」
レオ
「乙女さん」
レオ
「……決めた……そうか」
乙女 無音
「?」
レオ
「俺、約束を思い出したよ」
乙女
「おまえの、コンジョーナシはなおりそうにないな」
乙女
「これだけ めをかけてやってるのに、
こまっただば(駄馬)だ」
乙女
「よし、それなら……」
乙女
「きめた!」
レオ
「え?」
乙女
「おまえはだれかがめんどうをみてあげないと
だめなタイプとみた」
乙女
「だからわたしがめとってやる……いいな?」
レオ
「? ?」
乙女
「ど、どーなんだ!」
レオ
「(よくいみがわからないけど、こわいから
うんっ、ていっておこう)」
レオ
「う、うん」
乙女
「よーし、わすれるなよー!」
………………
レオ
「……じゃない?」
乙女
「……う……よく思い出したな」
レオ
「決めた! っていう台詞でね」
乙女
「私としては、別にお前とこうなるまでは
ただ漠然と覚えていただけで、こっちも
約束を守る気は特になかったんだが……」
乙女
「結果的にこうなってしまったな」
レオ
「うん、めでたしめでたしだよ」
レオ
「という事で娶って下さいな」
乙女
「か、からかうな。意味が逆じゃないか」
レオ
「だってこれ乙女さんがそう言ったんだぜ」
乙女
「うるさい、根性無しが!」
レオ
「うわ、またそれか!」
都合が悪くなると暴力ですよ。
レオ
「くそ、逃げてやる」
乙女
「いーや、逃がさないぞ」
エリカ
「夕暮れの中、いい歳こいてはしゃぎあう影二つ」
エリカ
「あんな純粋なはしゃぎ方してたんじゃ
学校側もバカらしくて裁かないってワケね」
なごみ
「こうやって見てると、恋人っていうより」
乙女
「ほーら、掴まえた」
レオ
「わぷっ」
なごみ
「仲の良い姉弟みたいですね」
レオ
「は、離すです!」
乙女
「いーや、離さないぞ」
乙女
「ずっとな」
レオ
「何ぃ、今度はブルマドロだぁ?」
最近はほんと変態多いな。
確かにこの学校は数少ない
ブルマの生き残り学校だからな。
気持ちは分からないでもないが許せねぇ。
レオ
「で、そいつはどこへ」
洋平
「発見されて校門の方に逃げてるらしい。追うぞ」
レオ
「ちっ、逃がすか」
洋平
「というか何でお前傷だらけなんだ」
レオ
「椰子と姫にフライング・クロスチョップ
決めたらボコられた」
洋平 無音
「???」
急発進する自動車があった。
レオ
「あ、今度は自動車かよ、用意のいいやつだな」
乙女
「ふん。今度は迷彩服を使って潜入か
手が込んできている!」
レオ
「乙女さん!」
乙女 共通
「平和な生活を乱す奴は断じて許すわけにいかない」
乙女さんが走り出す。
土永さん
「よぉ、鉄! 騒ぎを聞いた館長からの伝言を
持ってきたぜ」
乙女
「抜刀許可が降りたのか?」
土永さん
「まぁな。ただし条件を出してきたぜ」
条件?
土永さん
「派手にやってくれ。
見せしめに火の手があがるくらいがいいってよ」
乙女
「了解。制裁、許可」
乙女
「レオ、危ないから下がっていろ。
派手に行くからな」
乙女さんは加速して走り出した。
獣のような俊敏さで自動車を追い抜いてしまう。
なんてしなやかな走りをするんだろう。
自転車はおろか自動車クラスの走りとは。
危ないから下がってろ、言われても。
乙女さんが上がりすぎだ。
彼女は追いぬいた自動車の進路にまわりこんだ。
乙女
「下着を盗むとは、おろかな歪みだ根性無しが!」
乙女
「もっと、真っ当に生きるがいい」
ブルマニア
「なんだ、チクショウ! 進路にいたら
轢いてしまうじゃねぇかファーオ!」
ブルマニア
「冗談じゃねぇぜ、ブルマは好きだが傷害沙汰は
おこさねぇのが信条よ! ファーオ!」
自動車が乙女さんを回避しようとした時――。
乙女
「万物、悉く切り刻め!」
乙女
「地獄蝶々!」
刀が解放された。
鉄(くろがね)一族。
古書にいわく――
彼等が戦場でふるう剣はその名の通り、鉄で
出来た鎧すら容易く両断したという。
その力、まさしく一騎当千なり。
すれ違い様に斬られた自動車が炎上した。
あの剣。なかなか抜かないと思ったら、
乙女さんは居合い抜きのタイプだったのね。
乙女
「館長、処理しました。中の人間は
生きています。……気絶していますが」
平蔵
「うむ、地獄蝶々(ソレ)もたまには
モノ斬らんとなまるからの」
レオ
「無茶苦茶するね……」
乙女
「後の処理は警察にゆだねよう」
警察もさぞやびっくりするだろう。
真名
「さすがは先輩や!」
豆花
「かこいいね!」
大勢のギャラリーも拍手を送っている。
性別に関係なく、人気のある乙女さんだったとさ。
…………
乙女
「……どうした?」
レオ
「なんか今日、あの活躍もあってか下駄箱の
ラブレター凄くなかった?
まるで漫画みたいに」
乙女
「あぁ、全部読むのが大変だったぞ」
レオ
「……」
乙女
「ふっ、妬いているのか?」
乙女
「仕方のない……でも可愛いやつだ」
グイッ、と乙女さんに抱き寄せられる。
乙女
「私は前からお前一筋だと言ってるだろ」
頭を撫でられる。
レオ
「うん」
乙女
「今日のお前は鍛錬も良く頑張ったし、偉いぞ。
後はぐっすり寝るだけだ」
乙女
「安心して眠れ、私の胸で」
あくまで厳しく、そして優しく。
また、明日――。