† 6 †
耳もとで奏でられるカウベルの音に、シリカはゆっくりと瞼を開けた。彼女にだけ聞こえる起床アラームだ。設定時刻は午前七時。
毛布の上掛けを剥いで上体を起こす。いつも朝は苦手なのだが、今日は常になく心地よい目覚めだった。深く、たっぷりとした睡眠のおかげで、頭の中がきれいに洗われたような爽快感がある。
大きく一つ伸びをして、ベッドから降りようとしたところで、シリカはぎょっとして凍りついた。
窓から差し込む朝の光の中で、床に座り込み、ベッドに上体をもたれさせて眠りこけている人物がいた。侵入者かと思い、大声で悲鳴を上げようと口を開いてから、ようやく昨夜自分がどこで寝てしまったのかを思い出す。
(あ、あたし、キリトさんの部屋で……)
それを認識して、シリカはこれ以上ないほど真っ赤になった。感情表現がオーバー気味なSAOのことだから、本当に頭から湯気のひとつも出ているかもしれない。どうやらキリトはシリカをベッドでそのまま寝かせ、自分は床での睡眠に甘んじたようだった。恥ずかしいやら申し訳ないやらで、シリカは両手で顔を覆って身悶える。
数十秒かけてどうにか思考を落ち着けると、シリカはそっとベッドから出て床に降り立った。音を立てないようにキリトの前にまわり、顔を覗き込む。
黒衣の剣士の寝顔は、思いがけずあどけないもので、シリカは思わず微笑した。起きている時は剣呑な眼光のせいでかなり年上に見えていたが、こうしてみると案外自分とそれほど違わないかもしれないとも思う。
いつまでも寝顔を見ていたかったがそういうわけにもいかず、シリカはそっと剣士の肩をつつきながら呼びかけた。
「キリトさん、朝ですよー」
その途端、キリトはぱちりと目を開けると、まばたきを繰り返しながらシリカの顔を数秒間見つめた。すぐに慌てたような表情を浮べ、
「あ……。ご、ごめん!」
いきなり謝りだす。
「起こそうかと思ったんだけど、よく寝てたし……君の部屋に運ぼうにも、ドアは開かないし、それで……」
プレイヤーが借りた宿屋の部屋は絶対不可侵領域で、どのような手段を用いようとも侵入することはできない。シリカも慌てて手を振ると、言った。
「い、いえ、あたしこそ、ごめんなさい! ベッド占領しちゃって……」
「いやあ、ここじゃあどんな格好で寝ても筋肉痛とかないしね」
立ち上がったキリトは、言葉とは裏腹に首をぽきぽき曲げながら、両手を上げて伸びをした。思い出したようにシリカを見下ろし、口を開く。
「……とりあえず、おはよう」
「あ、おはようございます」
二人は顔を見合わせて笑った。
一階に下りて簡単な朝食を摂り、表の通りに出ると、すでに明るい陽光が街を包んでいた。攻略に出かけるプレイヤーと、逆に深夜の冒険から戻ってきた夜型プレイヤーが対照的な表情で行き交っている。
宿屋の隣の道具屋でポーション類の補充を済ませ、二人はゲート広場へと向かった。幸い、昨日の勧誘組には出会わずに転移門へと到着することができた。青く光る転送空間に飛び込もうとして、シリカははたと足を止める。
「あ……。あたし、47層の街の名前、知らないや……」
あわててマップを呼び出して確認しようとすると、キリトが右手を差し出してきた。
「いいよ、俺が指定するから」
恐縮しながらその手を握る。
「転移! フローリア!」
キリトの声と同時にまばゆい閃光が広がり、二人を覆い包んだ。
一瞬の転送感覚のあと、ゆっくり目をあけたその途端、シリカの視界には様々な色彩の乱舞が飛び込んできた。
「うわあ……!」
思わず歓声を上げる。
47層主街区ゲート広場は、無数の花々で溢れかえっていた。円形の広場を細い通路が十字に貫き、それ以外の場所は煉瓦で囲まれた花壇となっていて、名も知れぬ草花が今が盛りと咲き誇っている。
「すごい……」
「47層は通称フラワーガーデンって呼ばれてて、街だけじゃなくてフロア全体が花だらけなんだ。時間があったら、北の端にある『巨大花の森』にも行けるんだけどな」
「それはまたのお楽しみにします」
キリトに笑いかけ、シリカは花壇の前にしゃがみこんだ。薄青い、矢車草に似た花に顔を近づけ、そっと香りを吸い込む。
花は、細かい筋の走った五枚の花弁から、白いおしべ、薄緑の茎に至るまで、驚くほどの精細さで造り込まれていた。
もちろん、この花壇に咲く全ての花を含む、アインクラッド全体に存在する植物や建築物が、常時これだけの精緻なオブジェクトとして存在しているわけではない。そんなことをすれば、いかにSAOメインフレームが高性能であろうともたちまちメモリの容量を使い果たしてしまう。
それを回避しつつプレイヤーに現実世界並みのリアルな環境を提供するために、SAOでは『ディティール・フォーカシング・システム』という仕組みが採用されている。プレイヤーがあるオブジェクトに興味を示し、視線を凝らした瞬間、その対象物にのみリアルなディティールを与えるのである。
そのシステムの話を聞いて以来、シリカは次々と色々なものに興味を向ける行為はシステムに余分な負担をかけているような強迫観念にとらわれて気が引けていたのだが、今だけは気持ちを抑えることができず次々と花壇を移動しては花を愛で続けた。
心ゆくまで香りを楽しみ、ようやく立ち上がるとシリカはあらためて周囲を見回した。
花の間の小道を歩く人影は、よくよく見るとほとんどが男女の二人連れだ。皆しっかりと手を繋ぎ、あるいは腕を組んで楽しげに談笑しながら歩いている。どうやらこの場所はそういうスポットになっているらしい。シリカは傍らに所在なさそうに立つキリトをそっと見上げた。
(あたしたちも、そう見えてるのかな……?)
急に火照ってきた頬を誤魔化すように笑うと、シリカは思い切ってキリトの右腕に腕を絡ませてみた。
「さ、フィールドにいきましょう!」
「あ……、う、うん」
キリトもやや照れた様子だったが、腕をほどくことはせず、ゆっくりと歩き出した。
ゲート広場を出ても、街のメインストリートは同じように花に埋め尽くされていた。その中を歩きながら、シリカは昨日キリトと出会った時のことを思い出していた。あれからまだ一日も経っていないのだということが信じられない。それほど、キリトの存在は自分の中で大きいものになってしまっている。
(キリトさんは、どうなのかな……)
黒衣の剣士には相変わらず謎めいたところがあり、その内心を察することはできない。シリカはしばらく躊躇したあと、思い切って口を開いた。
「あの……キリトさん。妹さんのこと、聞いていいですか……?」
「ど、どうしたんだい急に」
「あたしに似てる、って言ったじゃないですか。それで、気になっちゃって……」
アインクラッドでは、現実世界の話を持ち出すのは最大のタブーだ。理由はいろいろあるが、「この世界は仮想のものだ」という認識が心に根付いてしまうと、SAOにおける「死」を現実のものとして受け止めることができなくなってしまうからだ。
それでもなお、シリカは自分に似ているというキリトの妹のことを聞いてみたかった。例え妹としてでも、キリトが自分に対して求めているものがあるのかないのか、それを知りたかった。
「……仲は、あんまりよくなかったな……」
やがて、キリトはぽつりぽつりと話しはじめた。
「というより、接点がなかった。共通の話題なんか、何にもなくて……家で顔を合わせるのすら避けていた……。俺はそうなってしまったことを、長い間後悔していたんだ……」
かすかな嘆息。
「……じいさんが厳しくてね。俺と妹は、俺が六歳の時に強制的に近所の剣道場に通わされたんだけど、俺はどうにも馴染めなくて二年でやめちまったんだ。じいさんにそりゃあ殴られて……。そしたら妹が、大泣きしながら、自分が二人分頑張るから、叩かないで、って俺を庇ってね。俺はそれからパソコンにどっぷりになっちゃったんだけど、妹は本当に剣道に打ち込んで、じいさんが死ぬちょっと前には全国でいいとこまで行くようになってた。じいさんも満足だったろうな……。だから、俺はずっと妹に引け目を感じていたんだ。本当はあいつにも他にやりたいことがあったんじゃないか、俺を恨んでるんじゃないかってな。そう思うと、つい会話も避けちゃって……そのまま、ここに来てしまったんだ」
キリトは言葉を止めると、そっとシリカの顔を見下ろした。
「だから、君を助けたくなったのは、俺の勝手な自己満足なのかもしれない。妹への罪滅ぼしをしてる気になってるのかもしれないな。御免な」
シリカは一人っ子だった。だからキリトの言う事は完全には理解できなかったが、しかしなぜかキリトの妹の気持ちはわかるような気がした。
「きっと……妹さん、恨んでなんかいなかったと思います。キリトさんが好きなことする手助けができて嬉しかったんだと思います。じゃなきゃ、そんなに頑張れませんよ」
一生懸命言葉を探しながらシリカが言うと、キリトはにこりと笑った。
「君には慰められてばっかりだな。……そうかな……。そうだといいな」
シリカは、胸の奥に暖かいものが広がるのを感じていた。キリトが心のうちを話してくれたことが嬉しかった。
いつの間にか、二人は街の南門まで歩いてきていた。銀色の細い棒を組み上げて作られた巨大なアーチに、つる性の植物が這い回って無数の白い花を咲かせている。メインストリートはその下を抜け、緑の丘に挟まれた街道となって春霞の向こうに消えている。
「さて……いよいよ冒険開始なわけだけど……」
「はい」
シリカはキリトの腕から離れ、表情を引き締めて頷いた。
「君のレベルとその装備なら、ここのモンスターは決して倒せない敵じゃない。でも……」
喋りながらキリトはベルトにつけた小さなポーチを探り、中から水色の結晶体を二つ掴み出した。それをシリカの手の中に落しこむ。転移結晶だ。
「フィールドでは何が起きるかわからない。いいかい、もし予想外の事態が起きて、俺が『離脱しろ』って言ったら、必ずその結晶でどこの街でもいいから跳ぶんだ。俺のことは心配しなくていい」
「で、でも……」
「約束してくれ。俺は……一度パーティーを全滅させてるんだ。二度と同じ間違いは繰り返したくない」
キリトの表情はあまりにも真剣で、シリカは頷くしかなかった。キリトは約束だよ、と繰り返すと、にっと笑い、言った。
「じゃあ、行こう!」
「はい!」
腰に装備した短剣の感触を確かめながら、シリカは心の中で決意していた。少なくとも、昨日みたいにパニックに陥るような真似だけはしない、自分に出せる全力で戦うんだ――と。
† 7 †
――しかし。
「ぎゃ、ぎゃあああああ!? なにこれ――――!? き、気持ちワルイ――――!!」
47層のフィールドを南に向かって歩きだして数分後。早速最初のモンスターとエンカウントしたのだが。
「や、やあああああ!! こないで――――」
背の高い草むらをかきわけて出現したソレは、シリカの思いもよらぬ姿をしていた。一言で表現すれば歩く花、だ。濃い緑色の茎は人間の腕ほども太く、根元で複数に枝分かれしてしっかりと地面を踏みしめている。茎もしくは胴のてっぺんにはヒマワリに似た黄色い、大きな花が乗っており、花弁に囲まれたその中央には牙を生やした口がぱっくりと開いて毒々しい真っ赤な色の内部をさらけ出している。
茎の中ほどからは二本の流線型の葉が伸び、刃状に鋭くなったその縁が武器になっているらしい。人食い花は大きな口にニタニタした笑いを浮べ、葉っぱを振り回してシリカに飛び掛ってきた。なまじ花が好きなため、醜悪にカリカチュアライズされたそのモンスターの姿はシリカに激しい生理的嫌悪を催させた。
「やだってば――――」
シリカはほとんど目をつぶって短剣をぶんぶん振り回す。傍らに立つキリトが呆れたような声で言った。
「だ、だいじょうぶだって。そいつは凄く弱いから。花のすぐ下の、ちょっと白っぽくなってるとこを狙えば簡単に――」
「だ、だって、気持ち悪いんですうううう―――」
「そいつで気持ち悪がってたら、この先に進んだら大変だぞー。花がいくつもついてる奴や、食虫植物みたいなのや、ぬるぬるの触手がいっぱい生えた奴まで……」
「キエ――――!!」
キリトの言葉に鳥肌が立って、悲鳴を上げながら一際大きく短剣を振ると、その刀身が運良く人食い花の首部分を捉えた。サクリという音とともに太い茎が断ち割られ、コロリと頭が地面に転がる。
甲高い声で絶叫した直後、花と胴体は破砕音を上げて消滅した。
「あ……よ、よわっちいや」
「だろう」
ホッと一息ついてシリカは短剣を鞘に収めた。キリトのほうに向き直り、恐る恐る尋ねる。
「あの……ひょっとして、この層のモンスターって……」
「うん、九割あんなやつだよ」
ニヤニヤしながら答えるキリトの前で、シリカはがっくりと肩を落とした。
それでも、十回ほども戦闘をこなすとようやくモンスターの姿に慣れることができ、二人は快調に行程を消化していった。一度ウツボカズラに似たモンスターの、粘液まみれの触手に胴体をぐるぐるまきにされた時は気絶するかと思ったが。
キリトは基本的には戦闘に手を出さず、シリカが危なくなると剣で攻撃を弾くだけのアシスト役に徹していた。パーティープレイでは、モンスターにダメージを与えた量に比例して経験値が分配される。高レベルモンスターを次々に倒すことで、普段の何倍ものスピードで数字が増加してゆきたちまちレベルが一つ上がってしまった。
赤レンガの街道をどんどん進むと小川にかかった小さな橋があり、その向こうに一際小高い丘が見えてきた。道はその丘を巻いて頂上まで続いているようだ。
「あれが『思い出の丘』だよ」
「見たとこ、一本道みたいですね?」
「ああ。ただ登るだけだから道に迷う心配はないけど、モンスターの量は相当らしいな。気を引き締めて行こう」
「はい!」
もうすぐ、もうすぐピナを生き返らせられる。そう思うと自然と歩みが速くなる。
色とりどりの花が咲き乱れるのぼり道に踏み込むと、キリトの言葉通りエンカウントが激しくなった。花モンスターの図体も大きくなるが、シリカの持つ黒い短剣の威力は想像以上に大きく、連続技のワンセットで大概の敵は倒すことができる。
想像以上と言えば、キリトの実力も底が知れないものがあった。
ドランクエイプ二匹を一撃で四散させるのを見たときから、かなりのハイレベル剣士だろうとは予想していたが、あそこから12層も上に来ているのにすこしも余裕を失う様子はない。モンスターが複数現れても一匹を除いてたちまち撃破し、シリカの手助けをしてくれる。
しかし、そうであればあるほど、そんなハイレベルのプレイヤーが35層あたりで何をしていたのかという疑問が頭をもたげてくる。何か目的があって迷いの森にいたような口ぶりだったが、あそこには特にレアアイテムやレアモンスターが出現するというような話はない。
この冒険が終わったら聞いてみよう、そう思いながらシリカが短剣を振るううち、弧を描く小道のループはどんどん急になっていった。激しさを増すモンスターの攻撃を退け退け、一際高く繁った木立の連なりをくぐると――そこが丘の頂上だった。
「うわあ……!」
シリカは思わず数歩駆け寄り、歓声を上げた。
空中の花畑、そんな形容が相応しい場所だった。周囲をぐるりと木立に取り囲まれ、ぽっかりと開けた空間一面に美しい花々が咲き誇っている。
「とうとう着いたな」
背後から歩み寄ってきたキリトが、剣を背中の鞘に収めながら言った。
「ここに……その、花が……?」
「ああ。真中あたりに岩があって、そのてっぺんに……」
キリトの言葉が終わらないうちに、シリカは走り出していた。確かに花畑の中央に白く輝く大きな岩が見える。息を切らせながら、シリカの胸ほどまでの高さがある岩に駆け寄り、おそるおそるその上を覗き込む。
「え……」
しかし、そこには何もなかった。くぼんだ岩の上には糸のような短い草が生え揃っているだけで、花らしきものはかけらも見えない。
「ない……ないよ、キリトさん!」
シリカは追いついてきたキリトを振り返り、叫んだ。抑えようもなく涙がにじんでくる。
「そんなはずは……。――いや、ほら、見てごらん」
キリトの視線に促され、シリカは再び岩の上に視線を戻した。すると――
「あ……」
柔らかそうな草の間に、今まさに一本の芽が伸びようとしているところだった。二枚の真っ白い、小さな葉が貝のように開き、その中央から細く尖った茎がするすると伸びていく。
昔理科の時間に見た早回しのフィルムのように、その芽はたちまち高く、太く成長していき、やがて先端に大きなつぼみを結んだ。純白に輝くその涙滴型のふくらみは、錯覚でなく内部から真珠色の光を放っている。
息を詰めてシリカとキリトが見守るなか、徐々にその先端がほころんで――しゃらん、と鈴の音を鳴らしてつぼみが開いた。光の粒が宙を舞った。
二人はしばらく身動きもせずに、小さな奇跡のように咲く白い花を見つめていた。七枚の細い花弁が星の光のように伸び、その中央からふわり、ふわりと光がこぼれては宙に溶けていく。
とてもこれに手を触れることなどできないような気がして、シリカはそっとキリトを見上げた。キリトは優しい笑顔を浮かべながらゆっくり頷いた。
頷き返し、シリカは花にそっと右手を伸ばした。絹糸のように細い茎に触れた途端、それは氷のように中ほどから砕け、シリカの手の中には光る花だけが残った。息を詰め、そっとその表面を指で触れてみる。ネームウインドウが音もなく開く。『プネウマの花』――。
「これで……ピナを生き返らせられるんですね……』
「ああ。心アイテムに、その花の中に溜まっている雫を振り掛ければいい。だがここは強いモンスターが多いから、街に帰ってからのほうがいいだろうな。もうちょっと我慢して、急いで戻ろう」
「はい!」
シリカは頷くと、メインウインドウを開き、花をそこに乗せた。アイテム欄に格納されたのを確認し、それを閉じる。
正直に言えば転移結晶で一気に帰還してしまいたかったが、シリカはぐっと我慢して歩き始めた。とてつもなく高価なクリスタルは本当に危険なぎりぎりの状況でのみ使うべきものなのだ。
幸い、帰り道ではほとんどモンスターと出くわすことはなかった。ほとんど駆け下りるように道を進み、麓に到達する。
あとは街道を一時間歩くだけ、それでまたピナに会える――。弾む胸を抑えながら、小川にかかる橋を渡ろうとしたとき。
不意に後ろからキリトの手が肩にかけられた。きょとんとして立ち止まる。振り返ると、キリトは厳しい顔で橋の向こう、道の両脇に繁る木立のほうを睨み据えていた。その口が開く。
「――そこに隠れてる奴、出てこいよ」
† 8 †
シリカは慌てて木立に目を凝らした。だが人影は見えない。緊迫した数秒が過ぎたあと、不意にがさりと木の葉が動いた。プレイヤーを示すカーソルが表示される。色はグリーン、犯罪者ではない。
短い橋の向こうに現れたのは、シリカの知っている顔だった。
炎のように真っ赤な髪、同じく赤い唇、エナメル状に輝く黒いレザーアーマーを装備し、片手には細身の十字槍を携えている。
「ろ……ロザリアさん……!? なんでこんなところに……!?」
驚愕するシリカの問いには答えず、ロザリアは唇の片側を吊り上げて笑うと言った。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、剣士サン。あなどってたかしら?」
そこでようやくシリカに視線を移す。
「その様子だと、首尾よく『プネウマの花』をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」
ロザリアの真意がつかめず、シリカは数歩あとずさった。何とは言えないが嫌な気配を感じる。すると、その直感を裏切らないロザリアの言葉が続き、シリカを絶句させた。
「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
「……!? な……何を言ってるの……」
その時、今まで無言だったキリトが進み出て、口を開いた。
「そうは行かないな、ロザリアさん。いや――犯罪者(オレンジ)ギルド『タイタンズハンド』のリーダーさん、と言ったほうがいいかな」
ロザリアの眉がぴくりと跳ね上がり、唇から笑いが消えた。シリカは何度目かの驚愕に捕らわれ、呆然とキリトを見上げた。
「え……でも……だって……ロザリアさんは、グリーン……」
「オレンジギルドと言っても、全員が犯罪者カラーじゃない場合も多いんだ。グリーンのメンバーが街で獲物をみつくろい、パーティーに紛れ込んで、待ち伏せポイントに誘導する。昨夜俺たちの話を盗聴してたのもあいつの仲間だよ」
「そ……そんな……」
シリカは愕然としながらロザリアの顔を見やる。
「じゃ……じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは……」
ロザリアは再び毒々しい笑みを浮べ、言った。
「そうよォ。冒険でたっぷりオカネが貯まって、おいしくなるのを待ってたの。本当ならあのパーティーは今日ヤッちゃう予定だったんだけどー」
シリカの顔を見つめながら、ちろりと舌で唇を舐める。
「一番楽しみな獲物だったあんたが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。その『プネウマの花』、今が旬のレアだから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねえー」
そこで言葉を切り、キリトに視線を向けて肩をすくめた。
「でもそこの剣士サン、そこまでわかってながらノコノコその子に付き合うなんて、バカ? それとも本当に体でたらしこまれちゃったの?」
ロザリアの下衆な侮辱に、シリカは視界が赤くなるほどの憤りを覚えた。剣を抜こうと腕を動かしかけたところで、肩をぐっと掴まれる。
「いいや、どっちでもないよ」
あくまで冷静なキリトの声。
「俺もあんたを探してたのさ、ロザリアさん」
「――どういうことかしら?」
「あんた、十日前に、38層で『シルバーフラグス』っていうギルドを襲ったな。メンバー七人が皆殺しにされて、リーダーだけが脱出した」
「……ああ、あの貧乏な連中ね」
興味のなさそうな顔でロザリアが頷く。
「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、ゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ」
キリトの声を、ゾクリとするような冷気が包んだ。硬く研ぎ上げた氷の刃にも似た、触れるものすべてを断ち切る響き。
「でもその男は、依頼を引き受けた俺に向かって、あんたらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ。――あんたに、奴の気持ちがわかるか? ――わかるか!!」
「わかんないわよ」
面倒そうにロザリアは答えた。
「何よ、マジになっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬかどうかわかんないじゃない。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけがないわよ。だいたい戻れるかどうかもわかんないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」
ロザリアの目が凶暴そうな光を帯びる。
「で、アンタ、その死にぞこないの言う事真に受けて、アタシらを探してたわけだ。ヒマな人だねー。大体さぁ、一人でどうにかなるとでも思ってんの……?」
不意に口をつぐみ、やや不安そうにきょろきょろとあたりを見回した。
「まさか、アンタも仲間を隠して……」
「いいや、俺とこの子だけさ。だから安心して、そこに隠してる手下を出したらどうだ」
キリトの言葉に再びニヤリと笑うと、ロザリアは片手を上げた。
「じゃ、お言葉にあまえてそうさせてもらうわね」
すると、橋の両脇の木立が激しく揺れ、次々と人影を吐き出した。シリカの視界に連続していくつものカーソルが表示される。ほとんどが禍々しいオレンジ色だ。その数、十。一つだけロザリア以外にグリーンのカーソルがある。針山のように尖った髪型は、間違いなく昨夜宿屋の廊下を逃げていった男のものだ。
新たに出現した十人の盗賊は、皆派手な格好をした男性プレイヤーだった。こぞって髪型を下品にカスタマイズし、銀のアクセサリやサブ装備をじゃらじゃらと身に纏っている。男たちはにやにやと笑いを浮かべながら、シリカの体に粘つくような視線を投げかけてきた。
激しい嫌悪を感じて、シリカはキリトのコートの陰に姿を隠した。小声で囁きかける。
「き、キリトさん……人数が多すぎます、脱出しないと……!」
「だいじょうぶ。俺が逃げろ、と言うまでは、結晶を用意してそこで見てればいいよ」
穏やかな声で答えると、キリトはシリカの頭にぽん、と手を置き、そのまますたすたと橋に向かって歩き出した。シリカは呆然と立ち尽くす。いくらなんでも無茶だ、そう思って、再び大声で呼びかけた。
「キリトさん……!」
その声がフィールドに響いた途端――。
「キリト……?」
不意に、盗賊の一人が呟いた。笑いを消して眉をしかめ、記憶を探るように視線を宙にさまよわせる。
「その格好……盾無しの片手剣……。――『黒の剣士』……?」
急激に顔を蒼白にしながら、男は数歩後ずさった。
「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ……ビーターの、こ、攻略組だ……」
男の言葉を聞いた残りのメンバーの顔が、一様にこわばった。驚愕したのはシリカも同じだった。あっけにとられて、前に立つキリトの大きいとは言えない背中を見つめる。
今までの戦いぶりから、相当な高レベルプレイヤーだろうとは予想していた。しかしよもや、最前線で未踏破の迷宮に挑み、ボスモンスターをすら次々と屠りつづける『攻略組』、真のトップ剣士の一人だとは夢にも思わなかった。彼らの力はSAO攻略にのみ注がれ、中層フロアに降りてくることすら滅多にないと聞いていたのに――。
ロザリアも、たっぷり数秒間口をぽかんと開けてから、不意に我に返ったように喚いた。
「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしてるわけないだろ! どうせ、名前をカタってアタシらをびびらせようってコスプレ野郎に決まってる。それに――もし本当に『黒の剣士』だとしても、この人数でかかってたった一人が殺れないわけないじゃんよ!」
その声に勢いづいたように、オレンジプレイヤーの先頭に立つ大男の両手剣士も叫んだ。
「そ、そうだ! 攻略組なら、すげえ金とかアイテムとか持ってんぜ! オイシイ獲物だっつうの!」
口々に同意の言葉を喚きながら、盗賊たちは一斉に抜刀した。無数の金属がぎらりと凶悪な光を放つ。
「キリトさん……逃げて! 逃げてよ!!」
シリカはクリスタルを握り締め、必死に叫んだ。ロザリア達の言うとおり、いくらキリトが強くてもあの人数相手に勝ち目はないと思えた。だがキリトは動かない。武器を抜きすらしない。
そのキリトの様子を諦めと取ったか、ロザリアともう一人のグリーンを除く九人の男たちは武器を構えると、猛り立ったような笑みを浮かべ我先にと走り出した。短い橋をドカドカと駆け抜け――
「ウオラァァァ!!」
「死ねやァァァ!!」
うつむいて立ち尽くすキリトを半円形に取り囲むと、剣や槍の切っ先を次々にキリトの体へと叩き込んだ。同時に九発もの斬撃を受け、キリトの体がぐらぐらと揺れた。
「いやあああああああ!!」
シリカは両手で顔を覆いながら絶叫した。
「やめて!! やめてよおおお!! キリトさんが、死んじゃうよおお!!」
だが男たちは無論耳を貸すはずもなく。
「ゲハハハハハ!!」
「オラァ!! クソがぁ!!」
暴力に酔ったように、ある者は哄笑しながら、ある者は罵り声を上げながら、手を休めることなくキリトに向かって武器を叩き込み続ける。橋の中ほどに立ったロザリアも、顔に抑えきれない興奮の色を浮かべ、右手の指を舐めながら食い入るように惨劇を見つめている。
シリカはぐいと涙をぬぐい、短剣の柄を握った。自分が飛び込んでも何の助けにもならないとわかってはいたが、これ以上見ていることはできなかった。キリトに駆け寄ろうと、一歩踏み出したところで――シリカはあることに気付き、動きを止めた。
キリトのHPバーが減っていない。
いや、正確には、絶え間ない攻撃を受けることでほんの数ドットずつわずかに減少するのだが、数秒経つと急激に右端まで回復してしまうのである。
やがて、男たちも目の前の黒衣の剣士が一向に倒れる様子が無い事に気付き、戸惑いの表情を浮かべた。
「あんたら何やってんだ!! さっさと殺しな!!」
苛立ちを含んだロザリアの命令に、再び数秒間にわたって斬撃が雨のように降り注ぐが、やはり状況は変わらない。
「お……おい、どうなってんだよコイツ……」
一人が、異常なものを見るように顔を歪めながら、腕を止めて数歩後ずさった。それが呼び水になったように、残りの八人も攻撃を中止し、距離を取る。
しんとした沈黙が周囲を覆った。その中、ゆっくりとキリトが顔を上げた。静かな声が流れた。
「――十秒あたり400、ってとこか。それがあんたら九人が俺に与えるダメージの総量だ。俺のレベルは78、ヒットポイントは14600……さらに戦闘時回復スキルによる自動ヒールが十秒で600ポイントある。何時間攻撃しても俺は倒せないよ」
男たちは愕然としたように口を開け、立ち尽くした。やがて、サブリーダーらしき両手剣士がかすれた声で言った。
「そんなの……そんなのアリかよ……。ムチャクチャじゃねえかよ……」
「そうだ」
吐き捨てるようなキリトの返答。
「たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶な差がつくんだ! それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ!!」
キリトの、抑えがたい何かをはらんだ声に威圧されたように、男たちは後ずさった。その顔に張り付いた驚愕が恐怖へと変わっていく。
「チッ」
不意にロザリアが舌打ちすると、腰から転移結晶を掴み出した。宙に掲げ、口を開く。
「転移――」
だが、その言葉が終わらないうちに――ぶん、と空気が震える音がしたと思ったとたん、ロザリアのすぐ前にキリトが立っていた。
「ヒ―――」
体を強張らせるロザリアの手からクリスタルを奪い、そのまま襟首を掴むと、ずるずると橋のこちらがわに引き摺ってくる。
「は……放せよ!! どうする気だよ畜生!!」
無言のまま、棒立ちの男たちの中央にロザリアの体を投げ出すと、キリトは腰のポーチを探った。取り出されたのは青い結晶体だった。だが転移結晶よりも色が格段に濃い。
「これは、俺に依頼した男が全財産をはたいて買った回廊結晶だ。黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してある。あんたら全員これでジェイルに跳んでもらう。あとは『軍』の連中が面倒見てくれるさ」
地面に座り込んだまま唇を噛んだロザリアは、数秒押し黙ったあと、赤い唇に強気な笑いを浮かべ、言った。
「――もし、嫌だと言ったら?」
「全員殺す」
簡潔なキリトの答えに、その笑みが消える。
「と、言いたいとこだけどな……仕方ない、その場合はこれを使うさ」
キリトがコートの内側から取り出したのは、小さな短剣だった。その刀身をよく見ると、薄緑の粘液に濡れているようだ。
「麻痺毒だよ。レベル五の毒だから十分は苦しむぞ」
もう、誰も強がりを言う者はいなかった。キリトは短剣を仕舞うと、濃紺の結晶を掲げ、叫んだ。
「コリドー・オープン!」
瞬時に結晶が砕け散り、その前の空間に青い光の渦が出現する。
「畜生……」
長身の両手剣士が、肩を落としながら最初にその中に飛び込んだ。残りのオレンジプレイヤー達も、ある者は毒づきながら、ある者は無言で光の中に消えていく。盗聴役のグリーンプレイヤーもそれに続き、ロザリア一人が残るだけとなった。
赤髪の女盗賊は、仲間が全員回廊に消えても、強気に動こうとしなかった。地面にあぐらをかき、挑戦的な視線でキリトを見上げている。
「……やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷をつけたら、今度はあんたがオレンジに……キャッ!!」
言葉が終わらないうちに、キリトが再びロザリアの襟首を掴みあげ、高くぶら下げたまま回廊へ向かって歩きだした。ロザリアが手足をばたばたさせて抗う。
「ちょっと、やめて、やめてよ! 許してよ! ねえ! ……そ、そうだ、アンタ、アタシと組まない? もし欲しければ、アタシを――」
台詞は最後まで続かなかった。キリトは力任せにロザリアを頭からコリドーに放り込み、その姿が掻き消えた直後、回廊そのものも一瞬まばゆく光って消滅した。
静寂が訪れた。
小鳥のさえずりと小川のせせらぎだけが聞こえるうららかな春の野原は、再びキリトとシリカだけの世界になっていた。
シリカは動けなかった。キリトの正体に対する驚き、犯罪者たちが消えた安堵、色々な感情がいっぺんにこみ上げてきて、口を開くこともできない。
キリトは首を傾けると、立ち尽くすシリカをしばらく無言で見つめ、やがてささやくように言った。
「……ごめんな、シリカ。君を囮にするようなことになっちゃって。俺のこと、言おうと――思ったんだけど、君に怖がられると思って、言えなかった」
シリカは、必死に首を振ることしかできなかった。心の中にたくさんの気持ちがぐるぐると渦巻いている。
「街まで、送るよ」
キリトはそう言って歩き出そうとした。その背中に向かって、どうにか声をかける。
「あ――足が、動かないんです」
振り向いたキリトは軽く笑って右手を差し出してきた。シリカはその手をぎゅっと握った。やっと、シリカも少しだけ笑うことができた。
† 9 †
35層の風見鶏亭に到着するまで、二人はほとんど無言だった。言いたいことは沢山あるはずなのに、シリカののどは小石が詰まったように言葉を発することができない。
二階に上がり、キリトの部屋に入ると、窓からはすでに赤い夕陽が差し込んでいた。その光の中、黒いシルエットとなってたたずむキリトに向かって、シリカはようやく震える声で言った。
「キリトさん……行っちゃうんですか……?」
しばしの沈黙。シルエットがゆっくり頷いた。
「ああ……。五日も前線から離れちゃったからな。すぐに、攻略に戻らないと……」
「やだ!!」
一声叫んで、シリカはキリトの胸に飛び込んだ。両手で必死にすがりつき、泣き声混じりに言う。
「お別れなんて、やだよ! キリトさん……あたしも、あたしも……」
連れていって、と言いたかった。
しかし、言えなかった。
キリトのレベルは78。自分のレベルは45。その差33――。残酷なまでに明確な、キリトとシリカを隔てる距離だ。キリトの戦場についていっても、シリカなど一瞬でモンスターに殺されてしまうだろう。同じゲームにログインしていながら、現実世界以上に高く分厚い壁が二人の世界を遠ざけている。
「うっ……うっ……」
シリカは体を震わせ、溢れようとする気持ちを必死にこらえた。それは涙に姿を変え、次々と湧き出してくる。
今ここで、好きなんです、と言えば、キリトはもうしばらくシリカのそばに留まってくれるかもしれなかった。でもそれはキリトの優しさにつけこむ行為に思えたし、何より最前線には彼を待っているもっと多くの人たちがいるはずだった。だからシリカは唇を噛み締め、キリトの胸に顔を押し当てて懸命に耐えた。
不意に、ふわりとキリトの両腕が肩を包むのを感じた。耳もとで、低く穏やかなささやき声がした。
「レベルなんてただの数字だよ。この世界での強さは単なる幻想にすぎない。そんなものよりもっと大事なものがある。だから、次は現実世界で会おう。そうしたら、今度は本当の友達になれるよ」
本当はキスしてほしかった。恋人になれる、と言ってほしかった。でも、張り裂けそうな心の奥に、キリトの言葉が暖かさとなって沁みこむのを感じながら、これ以上は望むまい――そう思って、シリカはそっと目を閉じ、つぶやいた。
「はい。きっと――きっと」
体を離し、キリトの顔を見上げると、シリカはようやく心からの笑顔を浮かべることができた。キリトも微笑み、言った。
「さ、ピナを呼び戻してあげよう」
「はい!」
頷き、シリカは左手を振ってメインウインドウを呼び出した。アイテム欄をスクロールし、「ピナのこころ」を実体化させる。
ウインドウ表面に浮かび上がった水色の羽根をそっと円いティーテーブルに横たえると、次に「プネウマの花」も呼び出す。
真珠色に光る花を手に取り、ウインドウを消すと、シリカはキリトを見上げた。
「その花の中に溜まっている雫を、羽根に振りかけるんだ。それでピナは生き返る」
「わかりました……」
水色の長い羽根を見つめながら、シリカは心の中でささやきかけた。
(ピナ……いっぱい、いっぱいお話してあげるからね。今日いちにちにあったすごい冒険の話を……ピナを助けてくれた、あたしが、生まれてはじめて恋した人の話を)
両目に涙を浮かべながら、シリカは右手の花をそっと羽根にむかって傾けた。
(ソードアート・オンライン外伝1 黒の剣士   終)